平安鬼妖地獄変奪還戦　第7ターン結果

（→開始時の状況）

●⑳安倍晴明
　平城京の最奥たる、太極殿。
　その太極殿に向け、イロハ・アプリルシェルツ（神聖ならざる銀・g05555）を先頭としたディアボロスは全力を挙げて攻めよせていた。
　かつては、絢爛豪華に飾られていた奥宮も、戦靴に踏み荒らされ、わずか数刻の戦いで廃墟のような様相になり果てている。

　残存する敵は少ないが、抵抗は決して弱くは無い。
「さぁ、クロノヴェーダは悔い改める時間だね。悔い改めても倒すのだけど」
　イロハは、残存敵を排除しつつ、仲間を晴明の元へと送り届けるべく戦い続ける。
　諸悪の根源、安倍晴明、かの断片の王を断罪する時が、刻一刻と近づいていた。

　太極殿の奥へと続く道は、そこここに血だまりが広がり、死体として残った鬼や妖怪の死体が積み重なっているのが、戦いの激しさを表していた。
　そして、その死体を踏み越えて、守都・幸児（祥雲・g03876）が、遂に、安倍晴明をその射程に捕らえる。

「安倍晴明、てめえは許さねえ。この世界の民と陰陽師たち 鬼妖どもまで弄びやがって！」
　その怒りと共に幸児の両腕が止みを纏って、藍鬼拐を掴むと勢いをつけて振り回し、そして闇の力でぶん殴った。
　その一撃は、晴明の尻尾の一つに止められたが、それでも大きなダメージを与える。
「この一撃は、挨拶代わりだぜ」
　反撃で体力の半分近くを失った幸児は、だが、血を流しつつもそう嘯いた。

「その挨拶、受け取りました。そして、良くここまで私を追い詰めました、褒めてあげましょう。ディアボロス」
　安倍晴明は、自軍の劣勢を悟っているであろうに、笑みすら浮かべて幸児達に語り掛けた。
「あの空飛ぶ馬車に、振るう武器。そして、服飾や扱う道具……。そして、この私『安倍晴明』の改竄前の姿を知っているかの言動……」
　晴明は、優しく微笑むように指を折り、そして、ディアボロスの真実を言い当てて見せた。
「これらから導かれる解答は、貴方達の歴史が『本来辿った筈の未来の日ノ本』であるという事です。そして、おそらく、その歴史にクロノヴェーダは存在しない……」

　そこまで言い当てられた幸児は、一瞬たじろぐが、動揺を抑えて、晴明に相対する。
「ふん、今更そんな推理ごっこしても意味はねぇよ」
　幸児はそう言って更に攻撃を加えていくが、晴明も負けてはいない。

「それは認めるという事ですね。更に言えば『あなた達の文明の進歩具合を考えれば、あなた達の歴史は今より２千年ほど先の滅びの未来。そして、貴方達は、滅びの未来の生き残り』そうでは無いのですか？」

　今度の推測には、ディアボロスたちは別の意味でたじろいだ。
（「自信満々に推測して間違った？」）
（「ちょっと格好悪いかも……」）
　そのディアボロスの反応に、晴明は狐耳をヘコンとさせたようだった。

「うふふ、残念ながら外れですわ」
　嘲るような笑みと共にエレオノーラ・アーベントロート（Strasen Fraulein・g05259）が前に出た。
　創作としては面白かったですわと続けたエレオノーラに、晴明は、あぁそうですかと頷いた。
　いつのまにか、狐耳も元に戻っている。

「つまり、当たらずも遠からずという所なのでしょう。
　間違っているのは年代でしょうか？　どちらにせよ、それは些末事です。
　重要なのは、ディアボロスの歴史にクロノヴェーダが存在しないという事。
　そうであるのならば、私達は協力関係を結べるのでは無いかと愚行するのです。
　ご存じのように、私は、天正大戦国への降伏を申し入れた身。つまり、皆さんとディヴィジョンの領有を巡って争う事は決してありません」
　晴明は、そう言うと、エレオノーラに丁寧に腰を折った。

「私は、貴方達にこう願います。どうぞ、私の降伏をお認めください……と」

　ディアボロス達に、今度は大きな衝撃が走る。
　断片の王の降伏、そんなものが認められるのであろうか？

「あなた、バカですの？　私は、あなたをブチ殺しに参りましたの。クロノヴェーダとディアボロスは不倶戴天の間柄、降伏など認める事はありえないですわ！」
「なるほど、ごもっとも。しかし、私は普通のクロノヴェーダとは一線を画しておりますれば、一考の余地はあるのでは無いでしょうか。それに、降伏を認めるのは、私一人だけです。他のクロノヴェーダは、存分に滅ぼしてしまって全く構いませんよ」
　そう言い切る晴明に、エレオノーラは明確な怒りを禁じえなかった。

　クロノヴェーダは敵だ。
　敵は当然滅ぼす、慈悲は無い。
　しかし、これまで戦った多くの鬼や妖怪は、平安鬼妖地獄変の為、断片の王たる安倍晴明の為に、命を惜しまず戦っていた。
　その全てを裏切るような晴明の行動は、ディアボロス達にとって、とても醜悪に映っていた。

「なるほど、どうやら、貴方たちは、理論的な思考は苦手であるようですね。
　ですが、私は、本気です。
　私が己を初めて認識した時、私は『断片の王』として、『存在理由』を抱いて存在していました」

　晴明は、天を仰ぎ見るようにそう言うと、言葉を続けた。

「ディヴィジョンを守護せよ、配下を強化せよ、他の全ての断片の王と戦い勝利せよ。
　最初の大きな戦いは《七曜の戦》。7日間にわたり、全てのディヴィジョンが争う大決戦……」
　唄うようにそう続けた晴明は、エレオノーラを始めとしたディアボロスの反応を探るように息を継いだ。

「しかし私は、この『存在理由』を拒否しました。おそらく、これを拒否できた断片の王は、私の他にはいないでしょう。
　私自身、何故、拒否できたのかはわからないのですから。
　他の王の中には、また別の認識を持つ者もいるかもしれませんが……。
　そして、私は考えました。この断片の王同士の戦いの中で、どうすれば自分が生き延びることが出来るかと」
　晴明は、そう言うと、自嘲するように口角を上げた。

「与えられたディヴィジョンは、世界に比べれば猫の額のような小領。更に、配下は鬼や妖怪などで力不足、更に私の真意も危機感を全く理解しない無能ばかり……。それでも、懸命に生き足掻いたのですよ」
　そうのたまう晴明に、エレオノーラが強く反駁する。
「うふふ、戯言はそれでおしまいかしら？　あなたが人々に与えた苦痛と苦しみ、奪った命……理由があれば許されるとでもいうのかしら？　いいえ、絶対許せない。あなたは絶対ブチ殺します！」
　このエレオノーラ言葉に、今度は晴明が、たじろいだ。

「あなたは、何を言っているのですか？　私が降服するか殺されれば、どうせ消滅する一般人に、なんの価値があるというのです。
　そもそも、あなた方は私を殺しに来たという事は、全ての一般人を廃棄するのを認めたという事ではないのですか？」
　晴明は、自明の理のようにそう言うと、助けを求めるように他のディアボロスを見やった。
「どうやら、この者は正常な判断を失っているようです。誰か、別の話の出来る方をお願いしたいのですが」
　だが、その晴明の要請に従うものはいなかった。

「安倍晴明、確かに、お前は普通のクロノヴェーダでは無いみたいだな。
　だが、それがどうした。俺は、お前を悪だと断罪する。
　今まで散々仲間を使い潰しといて、自分だけ降伏して生き延びようなんて、許せるわけねーんだよ！」
　南雲・葵（お気楽姉弟の弟の方。・g03227）は、そう断じると、周囲のディアボロス達も大きくうなずいた。
　安倍晴明は絶対に倒す。それが、その場のディアボロスの総意となった。

　晴明の言動には多少の筋は通っているかもしれない。
　しかし、やっている事は、自分一人が生き延びる為に、多くの人間の命を犠牲にする事。
　さらには、自分の配下である筈のクロノヴェーダ達を裏切る事。
　このような存在の降伏を認めるなど、ディアボロス達に出来るはずが無いのだ。

「ならば、これからは、一般人の命を奪わないように致しましょう。そもそも、天正大戦国の脅威が無ければ、私とて、無意味に一般人を苦しめる事など……」
　更に言い募り、責任を天正大戦国の存在に押し付けようとする晴明に、葵は断じて否を叩きつけた。

「問答無用だ！　さぁ、正々堂々勝負しろやー!　最後の勝負だ、姉貴、力を貸してくれ！」
　その葵の言葉に、異論のある者はおらず、断片の王安倍晴明と決着をつける戦いが始まった。
　晴明は、なんとか弁明を試みるが、それが不可能とみると、なんとか脱出する隙を伺おうとする。
　だが、それを許すディアボロスでは無かった。

『Sit tibi terra levis ――』
「ぶっ潰れるのは俺か、お前か、試してみよう」
　十野・樞が晴明に復讐の刃を突き立てると、続く菱神・桐梧が晴明の九尾の壁に飛び込み、その反撃をかわす。
　同時に、闘気を一点に集中した拳を叩き込むと、
「おっと、もう一発だっ！」
　更にもう一撃を喰らわせた。
『接続、起動。幻光閃撃…！』
『壊し癒す、廻りの刃』
　更に、相原・相真と紫空・千景が攻撃を畳みかけ、ディアボロスたちは、次々と晴明への攻撃を積み重ねていく。
　反撃により倒れるディアボロスも多かったが、着実に、晴明はダメージを負っていく……。
　そして、
『【惨劇】解放――』
　エレオノーラが放った電磁レールガンは、晴明の尾を複数一度に貫いて見せたのだ。

　そして遂に、戦いの決着がつく時が訪れる。
　決着の一撃を放ったのは、
『場外まで吹っ飛びな!!』
　花吹雪を散らす『梓』の応援を背にした葵であった。
　バールのようなものでフルスイングされた晴明は、力尽き倒れ伏す。
「バカな、そんなバカな！　私が、こんなバカな攻撃で倒されるのか？」

　安倍晴明は、まるで怨霊のような絶望のうめき声をあげる。
「呪われるがいい、ディアボロス。この私を殺したお前達の未来は、無明の闇に飲み込まれるだろう。たとえ、全てのクロノヴェーダを屠ったとしても、お前達に本当の未来は来ぬわ！」
　最後の足掻きで呪いの言葉を吐きちらし、平安鬼妖地獄変の断片の王『安倍晴明』は塵となって消えてゆく。
　そして、王を失った平安鬼妖地獄変の大地は、その全てがほのかに発光を始めた。
　やがて光は、ディヴィジョンの全て、そして戦場に残ったディアボロス達と長岡京の上空の新宿島をも呑み込んでいく。

●⑭豊臣秀吉
「しゃぁない、これで店じまいや。退散や退散」
　菅原道真公の怨霊が巣食っていた『離宮八幡宮』からほど近く、無数の天魔武者が犇めく陣幕で、ジェネラル級天魔武者『豊臣秀吉』は、さしたる感慨も無く、配下に撤退を命じていた。

「ですが、今からでも我が軍を押し出せば、勝利できるのではありますまいか」
　配下の天魔武者の一体が、撤退を命じる秀吉に異論を唱えれば、秀吉は大仰に手を振って、それを否定した。
「お前はバカか？　あの空飛ぶ巨大な城を見てみぃ」
　そう言って、新宿島を指し示す秀吉。
「ありゃぁ、珍しもの好きの信長様が絶対に欲しがること間違いなしや。無理攻めして、あの城を壊してしもうたら、信長様はカンカンや」
　同じく新宿島を見やり、胡乱げに頷く武将達。

「それにな。この戦、儂らには良いことずくめや。信雄様が、いい具合に失敗して逃げ出されて、宗全殿に至っては討ち死にじゃ。更に有象無象の妖怪どもも配下に加えたときとる」
　そういうと、秀吉は機械の面を歪ませて愉快そうに笑みを造った。

「つまり、この戦は勝ち戦ということや。皆、引き上げる時は勝鬨をあげるんやな。本当の勝者が誰か、ディアボロス共に判らせる為にな。そりゃ、えいえいおーっ」
　おどけるように秀吉がそう言うと、配下達も遠慮気に勝鬨を上げる。
　次第に、その勝鬨が大きくなり、最後には、撤退する軍全てが勝鬨を上げ、まるで勝者のように撤退を開始したのだった。
「京の都は、暫くおまえさんがたに預けとくで。返してもらう時の利息は、あの空飛ぶ城でええからな」
　そう不敵に言って、士気旺盛な軍勢と共に、秀吉はディヴィジョンの境界にわだかまる霧の中へと消えていった。

●最終人類史への帰還
　やがて光が収まると共に、ディアボロス達は空気が変わったのを感じた。
　新宿島は本来の位置に戻り、そして周囲の光景は、21世紀の奈良県のものへと変わっている。

「これは、現代の奈良の街並み！！」
「平安鬼妖地獄変の奪還、成功だ！！！」
　喜びの声をあげるディアボロス達。

　奪還した平安鬼妖地獄変の領域に住まう人口は400万人弱。
　この人数ならば、現在のディアボロスの残留効果でも支える事は難しくない。
　さらに、新宿島や既に奪還した地域から、海路での物資輸送も可能だ。
　奪還した地域の帰還事業も速やかに行う事が出来るだろう。

　一方で、最終人類史への歴史と大地の奪還は、ディアボロスと共にクロノヴェーダに抗った陰陽師をはじめとする人々との別れも意味していた。
　歴史は正され、ディヴィジョンに生きた人々の歴史は、本来の人類史における、あるべきかたちに戻る。
　それは確かな救いであるはずだった。
「それに、もしかすると……」
『奪還時に改竄世界史の奪還地域にいた人』で、最終人類史では既に死んでいる、あるいは元々存在しない者は、『帰還』の際に最終人類史にそのままの姿で出現することがある。
　ほのかな再会の予感を抱きつつ、ディアボロス達は新宿島へと帰還していく。

　最終人類史の人々を満たす祝福の中、勝利をもたらしたディアボロスは、互いの健闘を称え合うのだった。

---

→有力敵一覧
→⑭豊臣秀吉（有力敵HP4000000→3968280 / 敵残存率100%→97%）
→⑲松永久秀（有力敵HP2369874→1771086 / 敵残存率73%→11%）
→⑳断片の王『安倍晴明』（有力敵HP2585671→0 / 制圧完了！）
→重傷復活者一覧