大隅ニラヤアポカリプス(作者 秋月きり)
#天正大戦国
#島津の苛政は虎よりも猛し
#大隅国
#島津
⊕
改竄世界史天正大戦国、大隅国。
九州南東部に位置するこの場所には、今やさながら黙示録の世界――地獄とさして変わらぬ光景が広がっていた。
「ちっ。ここも駄目でごわす。全く、役に立たない農民共でごわすよ」
一際体躯の良いアヴァタール級天魔武者『日野長光』の言葉に、配下のトループス級天魔武者『赤母衣衆・対地攻撃装備』達はクックックと忍び笑いを漏らす。たかだかこの程度の圧政で、死に絶えるとは情けない。島津の、薩摩の民ならばこの程度、苦ともしないだろう。全く、同じ九州男児として恥ずべき光景だと思わないか、野郎共。
そんな笑いに、しかし、日野長光は「ふん」と鼻息を荒らげる。愚民共を馬鹿にするのは構わない。だが、それだけで完結することも出来ない。彼には彼なりの使命がある故に。
「いいか。生きている人間がいれば、殺さずに連れて来るでごわすよ? ゴミ共でも生きていないと困ると言う事でごわす」
「へいへい。大将。それじゃ、次の村に行ってみましょうか。生きているゴミがいると良いですねぇ」
トループス級の上げた揶揄じみた声に、再度、どっと笑いが吹き上がった。
そして、処変わって最終人類史新宿島新宿駅ターミナル。
到着したパラドクストレインを背景に、ふんすと、美少女台無しな荒い鼻息を着く時先案内人の姿があった。シルシュ・エヌマエリシュ(ドラゴニアンのガジェッティア・g03182)である。
「皆様の活躍で、島津氏の支配地域である九州南部へのパラドクストレインが現れた様です」
そして、彼女の怒りは、その先に向いていた。
「ええ。九州南部の人々は島津氏の圧政により、まさに死に瀕しているようなのです」
歴史侵略者、天魔武者達の敷く圧政は確かに問題だが、島津の其れはそれ以上に苛烈だ。薩摩の民が耐えられたから、と言う理由で冥海機ヤ・ウマトの一般人に過酷な圧政を敷いたのは記憶に新しいが、同じ改竄世界史、天正大戦国内でもそれは変わらないらしい。そして、此度、それを向けられた大隅国の人々はまさしく窮地に陥っている、とのこと。
その上、この瀕死の人々を襲って連れ去ろうとする天魔武者もいるようなのだ。普段温厚な彼女が怒りを露わにするのも当然であった。
「そんなわけで、皆様にはその一般人を救援した上で、天魔武者の撃破を行って頂きたいのです」
救出した一般人から情報を聞き出せれば、九州方面の今後の動きを考える上で、参考に出来るだろう。
「さて、先程は『大隅国』と申しましたが、事件の起きている箇所は島津氏が支配する『薩摩国』の一部になります」
コホンと空咳を行い、静かに説明するシルシュ。だが、その謎かけのような言葉に、復讐者達ははてなの表情を浮かべるしか無かった。
「つまり、旧来、『大隅国』と呼ばれていた場所が、薩摩国の一部とされているのです。――どうして薩摩国の一部とされたのか、そして周囲の大名の状況など判れば、良い情報になるでしょう」
この情報を生かすも殺すも復讐者次第、と言った所だろうか。
「それと、村の救援についてですね。村やその周辺地域は荒れていますが、嘗ては畑などありましたし、残留効果【土壌改良】等を行えば、再び暮らせる村に戻すのは難しくありません」
だが、それは人狩りの天魔武者達に目を付けられる場所を作るのと同義だ。
彼奴らの襲撃から被害を出さない為、当面は隠れ里を用意し、其処に住んで貰うことが妥当となるだろう。
「皆様がこの地域を制圧すれば、人々は村に戻ることも可能です」
よって、まず行うべきは、其れまでの生活が可能な隠れ里を準備すると言う事になる。
「島津の苛政は史実でも有名だったようです。それにしても、あの人達の圧政はやり過ぎです」
天魔武者は圧政からエネルギーを得る歴史侵略者だ。だが、殺してしまっては意味が無い。それを彼奴らは理解しているのか否か。もしかしたら、殺してもしまっても補充すれば問題無い、くらいに考えているのかもしれない。
まあ、島津だしなぁ……と呟くシルシュは、否、と声を上げる。
「ともあれ、圧政そのものも許せる物ではありませんが、島津の圧政はそれ以上に許せません。皆様のお力で島津を追い返して下さい」
そして、此度の救援活動を成功させた暁には、島津の本拠地である薩摩国へと向かうことになるだろう。情報によっては、他の選択肢も出てくるかもしれない。その場合は攻略旅団で相談して欲しいとシルシュは告げる。
「皆様の御武運をお祈りしています」
斯くして、復讐者達はパラドクストレインへと向かう。
少女は瞳に、信頼と祈りを込め、復讐者達の背を見送るのであった。
「腹が……減った……」
呻き声と共に目を覚ます。どうやら気絶していたらしい。どのくらい倒れていたのだろう? と周りを見渡せば、ぷぅんと饐えた臭いが鼻に着いた。
「起きろ。おい。起きろよ……」
傍らで自身と同じくひっくり返っていた友人の肩を揺らす。だが、そこに何も反応は無い。ただ、だらりと力なく地面に伏せているだけだった。
開いた目はうつろで、指は苦しみのためか、地面を掻き毟っている。無理矢理腹に詰めようとしたのか。口元は泥で汚れていた。
「……お前も、逝っちまったのか」
瞼を下ろし、そのまま地面に横たえる。せめて筵でも敷いてやりたいが、この薩州にも冬は来る。敷物は、防寒に使えそうな道具は、生者が優先だ。彼は冷たい地面に寝て貰う他、無かった。
「……ああ、腹減ったなぁ」
最早自分たちには何も残って居ない。村にいる弱い者は死に、働き盛りだった筈の自分たちももう瀕死だ。
地獄、との言葉がぴったりだとただ、自虐的に笑うほか無かった。
「くそっ。島津のクソッタレ共めっ!」
悪態を吐き、立ち上がる。まずは水。それから、畑を起こして、種を撒いて、来年に備えて、喰う物を探しに森に行って、そして……。
そして、その先、どうする?
絶望がのし掛かる。絶望が膝を折る。そう。彼は知っていた。この先に救いはない。この先に希望はない。ここがドン詰まりである事を。
「誰か、助けてくれ……」
祈りはしかし、何処にも届く筈も無かった。
リプレイ
陳・修賢
(トレインチケット)
藤原・東子
(トレインチケット)
鴉羽・イト
(トレインチケット)
天正大戦国、大隅国。
薩摩国の隣国にして、正史では肝付氏によって支配されていた地域である。最終人類史では鹿児島県の一部ともされている。
その大隅国に降り立った復讐者達は――共に力を合わせ、隠れ里を作っていた。
「この一帯なら安全かな?」
人里離れた山奥。場所としては日向国寄りになる場所に、このような開けた場所が合ったのは幸いだったと、ファジュン・ウィステリア(花宮に学ぶ神算軍師・g03194)は頷く。流石は戦国時代。まだ、人の手が入っていない場所は多そうだった。
「そうだな。まさかこんな山中に一般人が逃れているなど、お釈迦様でも思うまいて」
これは、陳・修賢(人間の特級厨師・g03221)の台詞である。成る程。周囲には人が行き交いできる様な大きな街道は無い。おそらく天魔武者達の目を誤魔化す事が出来るだろう。
「新宿島から持ち込んだご飯は集めておきましたわ」
藤原・東子(水鏡に語られし・g08398)が持ち込んだそれらは、未改良の米と、諸々の保存食である。中央に大根――もとい、沢庵がでんと鎮座しているのは、それが有効な保存食だからだろうか。
無論、米や沢庵だけでは人は生きていけない。故に、高菜等の葉物は人参等の根菜の漬物も持参してある。天正大戦国と言う過去の時代だろうとも間違いなく存在したこれらはきっと、復讐者達が去った後でも、人々の飢えを満たしてくれるに違いない。
「周囲には、獣の爪痕もあった。……食べるかどうかは判らないけど、獣が生きているってことは、何らかの食糧が見つかる……かも」
隠れ里周辺を偵察していたのか。
戻ってきた鴉羽・イト(さかしまフェアリーテイル・g10184)がその文言を仲間へ伝える。
天正大戦国――即ち天正の頃合い、過去に伝来した仏教の影響で、日本は肉食を禁じていた。一部、山鯨や薬食いの隠語で食していたらしいとの見解もあるが、一般的には害獣は食していない、と言う説が強い。
「まあ、でも、この辺りは一応、九州地方だしなぁ」
「ですね。肉食文化はあったみたいですし」
たとえば北の豊後藩。宣教師によって牛肉料理が振る舞われたと言う記録が残っている。この天正大戦国に南蛮文化が訪れたかどうかは定かでは無いが、何らかのつじつま合わせに近しい事象は起きていても不思議は無いだろう。
そしてたとえば薩摩藩。琉球文化の影響からか、豚肉を食していたと言う記録も残されている。また、伝統料理の中にはえのころ飯という文言も残されているのだ。肉食は余所ほど禁忌というわけではないだろう。
「――京を背景とするわたくしには到底信じられませんが」
そもそも東子の認識では、九州は流刑地だ。政争に敗北した者達の行き着く場所。それがこの地方であり、この令制国周辺でもある。
故に、そのような野蛮食が広まっていても不思議は無いかな、とも思う。
「イト達はそれでも生きるために必要だと知識がある。それを伝えて、それが皆の生きる糧になるなら、それで良いと思う」
それが真意だろうか。
イトの言葉に是と頷いた。
少し時間が経過すれば、隠れ里には幾つもの小屋が鎮座していた。
四人とも決して玄人と言うわけでは無いが、相応の知識と道具を新宿島から持ち込んでいる。それらを駆使し、数日の時間を費やせば、立派とは言わずとも、雨風凌げる小屋くらいは作ることが可能なのだ。
「あとは、人々を迎え入れるだけだね」
ファジュンの言葉にこくりと頷く。
近くには沢があり、水の入手も困らない。山奥であるが故、到着には難儀するだろうが、まあ、それは天魔武者も同じだ。彼奴らから身を隠す意味では大切な天然要害だ。其処は我慢して貰うしか無い。いざとなれば、復讐者で手分けして運ぶ、と言う手段だって取れるのだから。
衣も食も住も全て揃えた。此処で暮らす準備は整っている。一時凌ぎの隠れ里であるが、難だったらこのままここに住み続けて貰っても構わない。その意気込みで整備したのだ。
「……とは言え、皆様、郷里を捨てるほど強くはないでしょうね」
「それが人だから……」
彼らの帰るべき場所は大隅国にある彼らの村で在り、今の彼らの住まいだ。そして、正しい歴史の鹿児島県――或いは九州地方だ。ここは一時、身を隠すだけの場所にしか過ぎない。
「取り戻すぞ。絶対に」
それは大隅国のことだろうか、それとも改竄世界史の無い世界、最終人類史を当たり前とした世界のことだろうか。
修賢の発した言葉は強く、そして重く響き渡っていた。
善戦🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【水源】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
文月・雪人
※アドリブ連携歓迎
九州は修羅の国だ、なんて戯言もあるけれど、まさかここまでとは。
令制国を守れとは言われても、攻めるなと言われていないのならば、
攻めて勝ち取るのが島津の流儀……だとでもいうのだろうかね。
ディアボロスを名乗り、背負子に満載の食料持参で救援に来た事を伝えよう。
例え怪しまれても背に腹は代えられない状況、追い返されはしないだろう。
急いで【活性治癒】を使用して、繋げる命を一人でも多く繋ぎたい。
そして勿論、十分な量の食べ物も用意するよ。
極度の飢餓状態、食べて貰うのは消化に良いものの方が良さそうだ。
持ってきた食材を使って、大鍋に温かいお粥とお味噌汁を用意したら、
安全な食べ物であると示す風にして自分も食べて、【口福の伝道者】でお椀ごと増やして渡していこう。
大丈夫、沢山あるのでゆっくり食べて下さいね。
村人達が落ち着いてきたら、隠れ里の事も話しつつ情報収集を進めていこう。
ここは大隅国の筈なのに、島津の天魔武者が我が物顔で人狩りをしている。
もしやこの地の大名は島津に討ち取られてしまったのですか?
冰室・冷桜
薩摩の民だろうと同じ一般人でしょ……むしろ、これと同じ状況で大丈夫な薩摩国で暮らしている人どうなってんのよと気になるところではあるけれど
まず目の前で困ってる人らが先か
下準備は他の人らが上手く済ませてくれてるみてーですし、こっちは直に助けに動くとしましょう
【アイテムポケット】を発動して、多めに支援物資を持ち込んでいきましょう
とりあえず腹を膨らませるためにおにぎりとかの食料に水、あとは布の類を優先してって感じかしらね
こんだけ極限状態ってー感じですし、怪しくてもーって気はするけど、こう、近くの国からこの惨状を聞きつけてーみたいな、そんな感じでいきましょう
支援物資は手渡して配っていきましょう、こーゆー時は人の温もり?的なのも大事な気もするし
動く元気がある人には手伝いもお願いしつつー……もう一つの目的、と
話には聞いていましたが、ここの状況がここまで酷いなんて
島津の好き放題にさせるなんて、ここの大名や部下は何をしていたんですか?
まさか、民も見捨てて真っ先に降伏したり、逃げだしたとか?
仲間達に隠れ里の準備を任せ、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)と冰室・冷桜(ヒートビート・g00730)の二名は南へと下っていく。
道なき道を踏破したその先で辿り着いたのは、圧政に苦しみ、崩壊しかけた村落であった。
「薩摩の民だろうと同じ一般人でしょ……むしろ、これと同じ状況で大丈夫な薩摩国で暮らしている人どうなってんのよと気になるところではあるけれど」
死屍累々との言葉が相応しい惨状に、冷桜は頭を抱える。時先案内人の予知が正であれば、島津の圧政は、薩摩国では一般的で、だが、大隅国の住人にとっては苛酷すぎるモノと言う。島津の常識も難だが、薩摩国の住人もどうなっているの? と叫びたくもなってくる。
「九州は修羅の国だ、なんて戯言もあるけれど」
それこそ戯言のような文言を口にした雪人はしかし、それで一括りに出来ないと首を振る。
さて、その文言が生まれたのはいつの頃か。そしてその矛先は薩摩では無く筑前筑後の方では無かったか。だが生憎、その場にそれを言及できる人間はいなかった。
(「令制国を守れとは言われても、攻めるなと言われていないのならば、攻めて勝ち取るのが島津の流儀……だとでも言うのだろうかね」)
過去に対峙したジェネラル級天魔武者『天海』の言を信じるならば、天正大戦国は《七曜の戦》に対し、大物見の方針を決めていた。対して島津は《七曜の戦》直前に冥海機ヤ・ウマトへ侵攻。《七曜の戦》の間、派手な動きは無かったモノの、その終結後、即座に琉球を奪おうとする動きを見せていた。
行動そのものは、(《七曜の戦》のみに絞れば、との但し書きが着くが)確かに命令に反していないだろう。だが、天海の怒気を鑑みるに、おそらくそれは断片の王の、織田信長の提唱した方針では無かった筈だ。
(「《七曜の戦》と言い、今回と言い、命令の裏を突くのが得意のようだなぁ」)
内心嘆息し、しかしと頭を振る。
あくまでここまでは雪人の想像だ。大隅国に何があったのか。島津は何をしているのか。その情報収集も兼ねたのが、此度の救援支援である。ならば、まずはそれを全うするのみであった。
「ディアボロスです。皆様の支援に着ました」
為すべき事を定めれば、行動が早いのが復讐者達の美徳だ。雪人は村の中心を定めると其処に二種類の大鍋を用意する。一つは粥。もう一つは味噌汁だ。
目に見える村人は十数人から二十を超える程度だろう。視野外にいても、三十を上回る事は無さそうだ。自身の用意分で足りる目算はあるし、いざとなれば【口福の伝道者】の残留効果もある。
「おお、であ……ディアボロス様……?」
地獄に仏とは正にこのこと。
縋り寄る村人達に、にこりと微笑み掛ける冷桜は、「これも足しになれば」とおにぎりや水、果ては木綿の衣服などを渡していく。
「ありがたやありがたや……」
「もしかして、日向国か肥後国からお助けに来てくれて……?」
「ま、まあ、そんなところですよーっと」
流石に新宿島からやって来たとは言えない。取り敢えずと言葉を濁し、冷桜は人々へ、雪人の粥と味噌汁を配っていく。
「ああ、不思議なことに、ディアボロス様が来て下さったら、随分楽になった気がします」
「それは良かったです。やはり、食は明日への糧ですからね。ああ、慌てて食べないで下さい。急ぎ食べると身体に毒です。味噌汁も合わせてゆっくり飲んで下さい」
飢餓状態から急に栄養を取ると身体を壊し、最悪死に至る。その状態を観測したのは、この世界でも有名な豊臣秀吉だったか。そんな事を思いながら、雪人は老人の背をさすりながら、食にがっつく村人達を制していく。自身の施す【活性治癒】が幾分か、彼らの手助けになれば良い。そんな事を漠然と考えていた。
「……話には聞いていましたが、ここの状況がここまで酷いなんて」
ここぞとばかりに嘆きの言葉を発したのは、冷桜であった。同調する様に頷く雪人に、村人達が零したのはとても深い嘆息であった。
「肝付の殿様の時代も確かに酷くはありました。ですが、これ程迄はありませんでした……」
「少なくとも、生きていけましたからのぅ……」
成る程、と復讐者二人は内心で唸る。当初考えた通り、圧政には質があり、島津のそれは通常の圧政よりも苛烈苛酷のようだ。冷桜の想像通り、薩摩の民以外は耐えられない程に。
「薩摩の客人が来るので臨時で税を出せと言ってきた後、殿様が死んだとか、これからは、この大隅国も薩摩国だとか言われて、この有様です」
「――?!」
村人の一人が零した言葉に、雪人と冷桜は息を飲む。
言葉通り受け止めれば、肝付氏が没し、その統治を島津が任されたが故、大隅国が薩摩国に吸収されたと言う話だろう。だが、実際の戦国時代であれば兎も角、断片の王に支配された改竄世界史の内情で、そのような国盗りがあり得るのか。
二人の想像は、次の村人が零した台詞によって、一つの結論に達していた。
「肝付城も、破壊されて残っていないという噂です」
気力を取り戻した村人達に食糧の配布を任せ、雪人と冷桜は距離を取る。
無論、意見をすりあわせる為である。
「もしかしたらここの殿様は民を見捨て、逃げ出したのでは? とか想像していたのですがねぇ」
「よもや、島津に滅ぼされていた……って事か」
配下に収まったのならば、城を破壊する理由は無い。噂話で確定では無いが、その噂が立つこと自体、二人の想像を肯定しているように思えた。
「他の情報収集結果と合わせ、もう少し精査したいところだけど……ともあれ、今は別のことを考えなきゃ、ね」
「そーですね。此処が活気を取り戻せば、人狩りの天魔武者達がやって来ますよ?」
雪人の言葉に、冷桜は今後の予定を問う。
だが、復讐者達の肚は決まっていた。この問いは、その確認に過ぎなかった。
「村人達は隠れ里に向かって貰おう。この村で島津の天魔武者を討ち取る。――それしかないね」
「ですよね」
二人の復讐者は共に頷き合い、そして、各々の行動へと移っていった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
八重垣・千尋
(トレインチケット)

白尾・真狐
(トレインチケット)
復讐者達が村落に訪れて数刻後。
再び、村落に影が差す。
それは、人の形を為していない存在であった。
――否。正確に言えば人の形を、人を模した形をしている存在である。だが、その身体は人とは似ても似つかない。鉄甲冑を纏ったように見えるその外見は、それこそが彼らの容姿そのものであった。
彼奴らは天魔武者。この改竄世界史天正大戦国を闊歩する歴史侵略者である。
その名をアヴァタール級天魔武者『日野長光』、そしてトループス級天魔武者『赤母衣衆・対地攻撃装備』と言った。
「ほう。煮炊きの跡はあるが、村には何も無かった……で、ごわすか」
配下の報告を聞いた日野長光はむむっと唸る。赤母衣衆の言葉を借りれば、ほぼ廃村と言って間違いないだろう。遠目に湯気を確認して見に来たが、よもや無駄足だったとは。
実の処、既に村落の住民等が復讐者達の用意した隠れ里へ移動済みなだけなのだが、日野長光は露とも知らない。
そして、彼らが気付いていないことはもう一つあった。
「仕方ないでごわす。次の場所を探――」
言葉は最後まで言いきれなかった。
「喰らえ必殺真狐ちゃんビーーーーーーム!!」
物陰から放たれたパラドクスが赤母衣衆の数体を直撃したからだ。
何者?! と誰何の声にしかし返ってきた言葉は。
「宴は始まったばかりですよ〜」
別方面から投擲された箱状の何かから溢れ出た靄が、更に多数の赤母衣衆を包み込んでいく。ダメージを受け、踏鞴を踏む者はまだしも、中には戦意を喪失し、夢見心地で呆然と座り込む者まで現れていた。
「奇襲でごわす! 狙われているでごわすぞ!」
パタパタと倒れ、或いは反撃に転じるトループス級達の最中、日野長光の警戒の声が響き渡った。
「てててて。……でも、ここまでは上出来かな」
反撃の爆弾投擲を受け、その衝撃波で痣が見え隠れする腕を押さえながら、八重垣・千尋(悪食わんこ・g09408)がにふりと笑う。
人狩りに来てよもや自分たちが狩られる等、夢にも思っていなかったのだろう。天魔武者達の慌てっぷりに笑いが込み上げてくるのは致し方ない、と笑う彼女に、合流した白尾・真狐(まったり狐娘・g05562)もふふりと笑う。
こちらも逆説連鎖戦の反撃にあったのか、衣服や髪問わず焦げのようなモノが見えたが、命には別状は無さそうだった。
「そうだね。僕らの強襲で結構な数を削げたと思う」
そしてそれは副次的なモノだ、と真狐は言う。彼女達の真意は其処では無い。
いや、敵を削ることは大切なことではあるが、とは言え、狙いは他にあるのだ。
「お膳立ては整えたよ!」
「さあ、暴れちゃって。――聖イシュトヴァンの剣よ!」
猛々しく誇らしげに、二人はその名を叫ぶ。
それが、彼奴らを穿つ仲間の二つ名であった――。
善戦🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【防空体制】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
毎度ながら赤母衣衆航空隊は対地攻撃型ばかり。
護衛機も付けずに攻撃機を飛ばすだなんて、もう制空権を取れているつもりか、それとも私達の介入を想定していないのか……。
傲慢か油断か……どちらであろうとも、代償は高くつくわよ。
●行動
※攻撃行為は全てパラドクスです。
【飛翔】し空対空戦闘。
【戦闘知識】から敵侵攻ルートを予測し、【地形の利用】で山の稜線を遮蔽物として探知を避けながら速力を活かして敵編隊後方へ回り込む。
地上走査の為に敵の眼が下に向いているなら好都合よ。
周辺地形から上昇気流を読んで瞬時に高度を取り、ベルケの格言通りに太陽を背に急降下しダイブアンドズームで奇襲を仕掛ける。
攻撃後は【空中戦】技能でドッグファイトに持ち込み敵機を爆撃コースに入らせない様に撹乱。
編隊を切り崩し友軍が各個撃破しやすい様に飛び回る。
余力があれば【一撃離脱】から反復攻撃を実施し、一機でも多く撃墜してやりたいものだわ。
周囲の風景を後方に置き去りにして、身体が空を駆け抜ける。
それは航空突撃兵であるエリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)にとって当たり前の光景で、そして、全てだった。
重力から解放された身体は何処までも突き抜け、敵を穿つ。
ともすれば遮蔽物の無い空。敵の集中砲火を受けそうな懸念もあったが、そこは大丈夫だ。先に戦場に飛び込んだ二人が敵陣を撹乱。それを忌避したトループス級赤母衣衆らが、ゾクゾクと空に舞い上がってくる。
そこに、エリザベータが待ち受けているなど、夢にも思っていないのだろう。
「傲慢か油断か……どちらであろうとも、代償は高くつくわよ」
フライトユニットを傾け、風を切る。猛禽の如き鋭い瞳は、既に敵影を全て、捉えきっていた。
「ば、馬鹿なっ。我らが、空でっ!」
燃料に引火したのか。黒い煙と局所爆発を繰り返しながら、赤母衣衆らの一体が地面へと落ちていく。悲鳴の直後、しかし、既にエリザベータは離脱した後だった。墜落していくそれを見送る事も無く、彼女は次の一体へと取り付き、破壊のパラドクスを叩き込んでいく。
まさに、その戦法は一撃必中離脱。蝶の様に舞い蜂の様に刺す戦いは、まさに航空突撃兵の本領発揮であった。
(「攻撃を仕掛ける前に優勢を確保するように心掛けよ。可能であれば太陽を背にせよ、ね」)
ベルケの空戦八箇条――ドイツ空軍オズヴァルト・ベルケが残したと言われる格言の一つを想起し、再び急上昇。言葉通りに太陽を背負った彼女は更なる強襲を赤母衣衆らへと叩き込んでいく。
「お、おのれっ!!」
返す刀で放たれる機関銃も何の其の。
超高速で回避し、或いはフライトデバイスの鋼体で弾くと、その機体に爆撃槌の一撃を叩き込み、甲冑を破砕していく。
「対地攻撃用の装備が仇になったわね! 制空権は貴方達だけのものじゃないのよ?」
挑発と共に、にふりと笑う。都度放たれる機銃乱射と一撃離脱戦法が赤母衣衆らを梳り、そして、撃墜していった。
今や空の主は赤母衣衆ではない。エリザベータだった。
その事実を誇示するよう、彼女は縦横無尽に空を駆け、トループス級達を吹き飛ばしていく。
「――さて、期待には応えられたかしら?」
地上で手を振る仲間に微笑し、そしてエリザベータもまた、彼女らと合流すべく大地へと向かっていった。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV2になった!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
あれは……相撲取りか?
日本の国技たる相撲はいつか観たいと思っていたけど、まさか自分がこんな形で『取組』をする事になるなんてね。
●行動
とは言ったものの敵の土俵でがっぷり四つに組むのは明らかに不利。
ここは小兵力士の様に機動力で撹乱し、懐に大技を打ち込む必要があると見た。
あの重装甲を抜くのは骨が折れそうだけど、それならこちらにもお誂え向きのカードがあるわ。
【飛翔】は継続。
最大戦速を維持したまま【地形の利用】と【空中戦】を併用した匍匐飛行を実施。
木々の幹や周辺地形を蹴って鋭角的に機動を変える変則マニューバーに加え、[チャフ/フレアグレネード]での『猫騙し』も併用。
兎に角掴まれない様に飛び回りつつ、目標指示レーザーを照射。どんな装甲だろうと、大型地表貫通爆弾の爆撃には耐えられまい。
もし組み付かれても終末誘導だけは最後まで貫徹する。
どうしても振り切れないなら、自分ごと撃ち抜くくらいのつもりで。
『決まり手』はバンカーバスター……とは無粋だったかしらね。
「見事! 見事でごわす。生まれさえ異なれば、真っ当なおごじょと言っても差し支えはなかろう!」
地表すれすれを飛ぶエリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)に投げ掛けられたそれは、意外にも賞賛の言葉であった。
流石は薩摩隼人。賞賛すべき物は賞賛すべきと考えているのかもしれない。
アヴァタール級天魔武者『日野長光』が薩摩隼人かとりあえず、さておくことにする。ともあれ、今や島津の手先であることは間違いないし、そう評しても大丈夫だろう、と結論付ける。
(「相撲取りか……」)
武士とは違い、素手での戦いに特化したグラップラー。それが相撲取りだ。そして、無手が不利の理由にならないことをエリザベータは知っている。敵は歴史侵略者で自身等は復讐者。どちらも超常存在だ。飛び道具が近接武器に対して必勝とならないのと同様、無手もまた、超常の戦いの中では恐るべき殺人兵器と化す。
故に、と言うべきか。それとも当然と言うべきか。
エリザベータの戦いは変わらない。空からの強襲、そして大質量による爆撃。敵が最大級の得物である徒手空拳を振り回すならば、己もまた自身における最大の攻撃を繰り出す。
それが彼女の選んだ戦い方だった。
無数の爆撃が飛び交う。
それが、エリザベータと日野長光の戦場であった。
エリザベータの投下するありったけの爆雷を受け、しかし、日野長光は悠然と突き進んでいる。――否、悠然と、は言い過ぎだった。一部装甲は破壊され、零れた赤黒いに躯体を染めながら、しかし、日野長光はズリズリとエリザベータの元へと向かっている。飛翔状態の彼女は距離を取ろうと空を駆けるが、しかし、その空隙も刹那に詰められてしまう。
流石はアヴァタール級と言った処。その頑強さは、トループス級と比べるまでも無い。むしろ、少し引きそうだった。
「戦場で出会えば、女子供とて容赦はせん、でごわす! 喰らえ、我が渾身の鯖折り――!」
「――くっ?!」
飛翔斯くやの跳躍と共に、相撲取りの両腕が広げられる。
それに掴まれば一巻の終わりと言う予感はあった。故に、エリザベータは己の纏ったグレネードを彼奴に叩き付ける。チャフやフレアの類い――敢えて相撲の技名で言うならば、猫騙しと言った処か。
彼女の敷いた目眩ましに、日野長光はその動きを一瞬だけ停止させる。
その隙にその腕を蹴飛ばし、宙へと脱出。更なる爆撃を投下し、日野長光を地面へと叩き落としていく。
「ふむ。そっぷ型としての素質もあるでごわすね。面白い!」
「そりゃどうも」
これだけの爆撃を叩き付けられ、それでも平然と笑うのは強者の証しか。それとも鈍すぎてダメージを感じていないのか。
エリザベータには推し量れない。ただ。
(「やはり、あの重装甲を抜くのは骨ね……」)
呵々と笑う日野長光の頑強さに、内心で強く嘆息する。
決まり手ならず、双方痛み分け。
そんな文言が、エリザベータの脳裏に過っていた。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV3になった!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!

淡闇之・春椿
(トレインチケット)
古鷹・絢鸞
(トレインチケット)
(「ぐぬぬ。やはり最近のディアボロスは強敵でごわす――」)
戦場に乱れ咲くパラドクスを一身に受け、日野長光はぐぬぬと唸る。
「認めねばならぬようでごわすな。貴様らディアボロスを!」
勿体ぶった口調は、賞賛の表れだった。
彼の配下、赤母衣衆はディアボロスに手も足も出なかった。そして、そのパラドクスは武人たる日野長光を砕き、傷つけている。ここに来て彼奴らを敗北者などと侮るまい。彼奴らを討ち取る事こそ自身の誉れと、日野長光はドシリとした四股を踏んだ。
「行くでごわすよ!」
アヴァタール級天魔武者『日野長光』。
相撲という武芸を纏う武人は、ここに来て油断無しと力強い宣言を放つ――。
「いやいやいやいや。油断してくれたままで良かったから!」
開き直った武人は厄介この上無いと淡闇之・春椿(天駆ける筆の魔女・g05484)が首を振る。宙で絵筆を走らせ、ありったけの画力――もとい、パラドクスを日野長光に叩き付けるが、しかし、それでその躯体が止まることは無かった。頭突きにも似た体当たりが春椿を捉え、鬼人の身体を空へと吹き飛ばす。
だが、その身体には更なる追撃も、そして、地面への衝突も繰り出されない。彼女の身体を受け止め、パラドクスで日野長光を牽制する者がいたからだ。
「むむ。肉体労働は苦手なのだけどねぇ!」
古鷹・絢鸞(自由と文化を愛する道楽者・g07624)であった。
空で春椿を受け止めた彼は、そのまま美麗な絵画を描くと、その情熱を、そして質量を日野長光へと叩き付ける。如何なる原理か、刹那に迸った極彩色の光柱が日野長光を多い、その躯体に衝撃を走らせていた。
「いやはや。助かったよ。絢鸞さん! 私のような天才がここでクロノヴェーダに敗北するなど、人類の損失だからね!」
「ま、まあ、そうだね」
腕の中で強がる春椿に、如何にもと言った絢鸞の軽薄な笑みが重なる。妙に噛み合った二人の会話に、若干の距離を置いた日野長光はふむと唸るのみであった。
「流石はディアボロス! 意志の疎通は完璧! 故に連携もまた! と言う奴でごわすな!」
良く判らないが、彼の中では『ディアボロス凄ぇ』となってしまったようだ。それを否定しても意味は無いと、絢鸞と春椿は宙に浮いたまま、再度、絵筆を走らせた。
「あ、ああ。そんな感じだ!」
「これをこうしてこう! 私達の連携の前に倒れなさい。天魔武者!」
二者が行使するそれは、奇しくも似たようなパラドクスだ。刹那に描かれた相撲取りの絵が日野長光に降り注ぎ、それが光と化して彼を焼いていく。
「ならば某もまた、己が全てで立ち向かうでごわす。我が相撲技の神髄を見よ、でごわす!」
身体を焼かれ、しかし、無数のパラドクスを掻い潜りながら、その掌底が二人を強襲。更なる空へと弾き飛ばしていく。
瞬間。日野長光の身体に穿たれた傷が、ぴしりと鋭い音を響かせていた。
善戦🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【液体錬成】LV2が発生!
効果2【反撃アップ】がLV3になった!
音無・サカハ
アドリブ・連携歓迎
なるほど、大相撲か、正面突破しかない競技、見た事はないけど聞いた事があるぜ、せっかくだから、勝負しようぜ
一発勝負だ、君が俺を掴むのか、それとも俺のパラドクスが君を直撃するのか、勝負しようじゃないか
まずは周りをよくチェックして、仲間のディアボロスの作戦を邪魔したらまずいしな
確認完了、ヨシ!それでは行くぞ!
「はっけよい~のこった!」
ディープクリムゾンに乗て全速前進だ、そして一番近い距離パラドクス起動!さぁラッシュ比べだ、どっちが早いか勝負だ!この【武器改造】の連打、受けてみるといい!
太刀!大剣!十文字槍!ドリル!パイルバンカー!
そして最後はーー蒼炎の、竜の剣だぁぁ!
「成る程。これが大相撲か」
仲間との大立ち回りを見送った音無・サカハ(過去を探す旅人・g10149)は、感嘆の声を上げた。
なお、過去の記憶を失っているサカハに、相撲そのものを見たそれは存在し無い。もしかしたら見たことあるかも知れないが、記憶が無い以上、初見と変わらないのは事実。
だが、彼は相撲を知っている。ならば、その戦いを繰り出す相撲取りを前にして、好奇の笑みを零さずには居られなかった。
「折角だから、勝負しようぜ」
揃えた指でくいくいと日野長光を挑発する。
「よかでごわす。この日野長光。敢えてその挑発に乗ってやる、でごわすよ!」
斯くして、ここにアヴァタール級天魔武者『日野長光』とディアボロス『音無・サカハ』の一番勝負が開催されることとなったのだった。
「それでは行くぞ! はっけよい~のこった!」
宣言と同時に、動いたのはサカハであった。己のありったけの武具やアクセサリー――即ち、己がアイテムを取り出すと、日野長光に繰り出し、叩き付け、或いは投擲する。
現代の相撲を知る我らには、取り組みとは言い難い猛攻撃に、しかし。
「卑怯とは言わないよね?」
「当然でごわす! 相撲とは本来、何でもありの格闘技! そして、真に鍛え上げた肉体には!」
大太刀の一刀をくぐり抜け、大剣の打ちおろしも、十字槍の一突きも、何ならばドリルやパイルバンカーの攻勢にすら耐えきりながら、日野長光はサカハへの距離を詰めていく。
幾多の刃で天魔武者の機体を傷つけながらも、それでも彼は、サカハへと肉薄していた。
「効きもはん!」
繰り出された両腕はサカハの身体を捉え、胸に抱く。背に回された腕は、獣の顎宜しく、彼の身体を捉えていた。
ビキッと破砕音が響き渡った。悲鳴が零れたのはサカハの口――ではなく、その身体。主として背骨と肋骨からであった。
「某の腕の中で眠れ、ディアボロス!」
「――遠慮しておく!」
曲がりなりにもパラドクスである鯖折りを受けながら、しかし、サカハから零れたのは苦悶の呻きではなく、不敵な笑みであった。
腕を回し、身体を密着させるほどの至近距離。それは双方に取って逃げ場のない零距離である事も指し示している。ならば、其処は日野長光の独壇場ではない。
「悠久を刻む魂よ、その瞬きと共に切なる命、叫びを胸に、今、吾は明日を繋ぐ剣と化す! 汝ら、闇に属するものに住まう場所なし!」
詠唱と共に召喚されたのは、蒼炎で構成された竜の剣だった。帯びる炎は日野長光どころか、サカハの身体すら焼くが、それは無視。火傷は全て【活性治癒】に任せる。そう決めたのだ。
「喰らえ! これが俺の全力だ!」
「うおおおおおおっ!!」
蒼炎が、気魄が、そして全身全霊の全てが衝突する。
その衝突に破砕音が響き渡っていた。それは、日野長光の装甲が砕ける音か、サカハの骨が砕ける音か、或いはその双方か。
漢の零す裂帛の気合いは辺りに木霊し、そして――。
「み、見事……」
その言葉を残し、どぅっと巨体が地面へと崩れ落ちていった。砕けた装甲はそのまま、無数の粒子と化して消失していく。それがアヴァタール級天魔武者『日野長光』の終焉であった。
「あんたの戦いも、な」
肩で荒い息を吐き、サカハは消え行く身体を見送る。全てを出し切り、そして戦いを制した男が浮かべるそれは、何処か寂しげにも思える表情であった。
「――これで、ちっとは変わると良いが」
大隅国。地獄のような黙示録のような世界と化したこの令制国を思ってか、サカハは勝利を噛みしめるような嘆息を零していた。
成功🔵🔵🔵🔴
効果1【未来予測】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV2になった!