リプレイ
標葉・萱
市井の様子を伺いに
聞いた伝手の、景色を頼りに
陰陽師たちが都の拠点よりやってくるまでの
道の把握にもなるでしょうから
文字通りの井戸端会議にでも、混ざれるならば
最近鬼の噂をよく聞くもので
この辺りでも、よく現れますか
穏やかに、怯えるではなく、退治する者の話を聞くなら頷いて
いくつか事例を聞いて、現れる頃合いや場所の目星でもつけられたら良いけれど
なければ陰陽師たちの評判を直に聞くくらいはできるでしょうか
でも、逃げ出してしまってその場で調伏はしないのでしょう?
きちんと滅するのを見たくは、ないですか
鎌夜・神月
情報収集、事前の仕込み
私こういうのあまり得意ではないんですよねぇ
先ずは鬼が現れる正確な位置を調べます
西から都に侵入
道行く人々に
人を探している事
その人は老婆で井戸の近くに生った赤い実をよく取っている事
を問いましょう
近くに赤い実の生る井戸が数か所あったりすると困りますしね
何故と問い返されたら
以前飢えた時
その老婆がくれた実で命を繋いだので礼をしに来た
と返します
これで漠然と場所を問うより確実性が上がると良いのですが
井戸に着いたら復興支援の真似事を
老婆を利用した手前力仕事位はやっておきます
柄ではないですし趣味でもないですが
後々陰陽師の代わりに正義の味方をするなら
多少は一般人の心証の良い方が良いでしょう?
●嵐の前、赤い実のなる場所
「きれいなおめめね」
年のころは十に少し足りないくらいか。見上げてくる幼い少女の口からまろび出た素直な称賛に、標葉・萱(儘言・g01730)は琥珀色の瞳をゆっくりと瞬かせた。
「もう、この子ったら。ごめんなさい」
「いいえ、こちらこそ。ありがとうございました」
大人の話に割って入った娘の不肖を詫びる母へ、萱は折り目正しく腰を折る。
調べ物は、人に尋ねるのが一番だ。ならばと萱が足を向けたのは、都の西に立てられた市。日用品や食料を商う露店が連なるそこは、大通りからも把握しやすい。
つまりここを起点に動けば、陰陽師たちが辿るだろう道順も把握が容易になる。
さよなら、と笑顔で言う少女へニコリと会釈し、萱は雑踏の物陰へ踵を返した。
「もう少し南へ下った方に、条件に合う井戸が幾つかあるようです」
「やはり複数ありましたか」
生まれ持った凶相ゆえ、多人数との接触を萱に託した鎌夜・神月(慇懃無礼千万・g01128)は、もたらされた報に短く悩む。
正直に言うと、情報収取や事前準備を得手だと思っていない神月だ。とはいえ、『鬼』が現れる正確な位置を知る為には、そうも言ってはいられない。
ゆるゆると市を後にしながら、神月は意識して表情筋を緩め、女子供を一瞥で射竦めてしまいそうな眼差しの険を削ぐ。
幸い、凡その区域は萱が絞ってくれた。それに話題と相手さえ選べば、神月の凶相も役に立つ。
「申し訳ありません、少し宜しいでしょうか?」
声をかけたのは、線の細い中年の男。丁寧に呼び掛けると、男は振り向き――ひくりと口元を強張らせた。
「な、なんだい?」
怯えられるだろうことは百も承知。だから神月はこれみよがしに声のトーンを弱める。
「人を、探しているのです。赤い実をよく採っているお年を召したご婦人なのですが――いえ、以前飢えて野垂れ死ぬのを待つばかりだった時、彼女が分けてくれた実で命を繋いだもので。そのお礼を……」
「なるほど! そういうことかい!」
恐れから不審へ移ろった男の顔は、不意に得心の笑顔に切り替わる。神月も意図せぬことではあったが、実は赤い実には腹下しの効果があるのだ。それを空腹の慰めに食べたということは、状況がかなり逼迫していたということ。そんな経験をしたなら、人相だって歪みもする――というのが男の解釈。
「それなら壱(いつ)って婆さんだろう。あの婆さん、打ち身に効くとかいって、赤い実を集めてんだ」
***
「たくさん実を集めていると耳にしましたので、お手伝いさせて頂こうと思いまして」
辿り着いた壱の家。扉を叩いた神月を、人の好さの塊めいた老婆は歓待した。
「ありがたい。今日はもうちょっとしたら二つ向こうの井戸まで出かけようと思ってたんだ」
仕度を急ごうとする老婆を、神月は「ゆっくりで良いですよ」と宥める。
壱の予定が変わってしまえば、『鬼』とすれ違ってしまうかもしれない。それに壱を労わるのは本心だ。
柄でもないし、趣味でもないが、彼女を利用した手前、力仕事くらいは請け負う。
(「後々陰陽師の代わりに正義の味方をするなら、多少は一般人の心証の良い方が良いでしょう?」)
思惑は交錯する。
壱と新月に付き添い、『目的地』に到着した萱も、ただ夢のように微笑んでいるわけではない。
「皆さんがご無事で何よりです」
何気なさを装い、文字通りの井戸端会議に加わって。いつの時代も賑やかでもあり逞しくもある女たちと、萱は会話に花を咲かす。
「あはは、心配してくれてありがとうねぇ」
「でもあたしはまだ鬼を見たことないのよ」
「私もないね。けど、話は聞くよ。でも大丈夫さ、陰陽師さまがいてくれるんだ」
女たちに陰陽師を不審に思う素振りはない。それだけ陰陽師たちが上手く立ち回っているということか。だが――。
「でも、逃げ出してしまってその場で調伏はしないのでしょう?」
萱は言葉の刃をすらりと抜いた。
潜むものに気付かぬ女たちは、「そうだねぇ」とか顔を見合わせている。そこへ萱はもう一太刀。
「せっかくです――きちんと滅するのを見たくは、ないですか?」
「景気のいい話だね。そんなん見れたら、あたし達ももっと安心して暮らせるってもんさ!」
女たちは夏の忘れ物のような快哉を上げ、夢物語に触れた幼子のように顔を輝かせた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【壁歩き】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
乂八・南
人々を騙して、正義を偽る――
普通に考えたら、許されることじゃない
でも、彼らにも何か理由があるんじゃないか?
ううん、きっとあるって信じたい
懐く畏れがあるなら
それを取り除いてあげたいと思う
そうじゃなくても、話を聞いてみたい
よしと息を呑み
陰陽師様――!
お疲れ様です
いつもありがとうございます!
用意してきた甘味を手渡す
俺、憧れているんです
いつかあなた方みたいになれたらって
一体どんな風にして、修行をしているんですか?
どうして、恐ろしい鬼に立ち向かえるんですか?
鬼を退治できる力に対して揺さぶりをかけながら
その想いの在処を探ろうとしっかりと見つめ
得られた言葉が、先で彼らを引き戻すきっかけになればいい、と
御森・白露
鬼と通ずる陰陽師などとは、全く度し難い者共よの。
さて、民草の話を聞いて回るのも悪くは無いが、ちと欲を出してみようかの。
大元を直接叩くことは出来ずとも、枝葉にならば手は届きそうじゃ。
先ずは【オーラ操作】で陰陽師の居場所を探ってみようか。
被害を抑える必要があるのだから、都にも補助役の陰陽師は何人かおるであろうな。
そういった者に声を掛けよう。
無論、陰陽師の皆々様には常々感謝しておりますと敬う気持ちは忘れず、丁寧に持ち上げねばな。気持ち良く話をできれば、些細な事なら口からこぼれ出るやもしれぬ。
ついでに音に聞く陰陽師様の活躍を一目でも見てみたいものだとでも言ってみようかの、何か聞ければ尚よしじゃな。
●琴線
(「鬼と通ずる陰陽師などとは、全く度し難い者共よの」)
怒りを通り越し、呆れるばかりの陰陽寮の腐敗ぶりに、御森・白露(放浪する転寝狐・g05193)は狐尾をふさりと揺らして空を振り仰いだ。
平安の世にあっても季節は秋。遥か高みにある青は澄み、注ぐ穏やかな陽光は眠気を誘う。午睡にうってつけな日和に、白露の心はむずむずと疼く――が、請け負った任を軽々に放り出すほど白露は常識に欠けていない。
ちらほらと目に留まるようになった直衣姿に、白露は「ふぅ」と短く息を吐く。
常人とは異なる力を有す者らをオーラで探った結果、どうやら陰陽寮ちかくまで来てしまったようだ。
(「仕方ないかの。まぁ、ちょうど良いと言えば、ちょうど良い」)
気配で『此れ』とはっきり分かるくらいの人間は、そうそう居るものではない――ごろごろ居られても困るといえば困る――が、『陰陽師』と分かれば十分。それに下手に力を持つ者をひっかけてしまうのも厄介に違いない。
今はまだ大元に踏み込む時に非ず、枝葉に手が届くだけで御の字だ。
「もうし、そこの御仁。もしや陰陽師でいらっしゃる?」
顔を出しそうになる人見知り具合をぐっと捻じ伏せ、白露は呆っと佇んでいた若人へ声をかける。
「……そうだが?」
「ああ、矢張り! 常々お世話になっております陰陽師の皆々様へ、一言御礼申し上げようと思いお声がけさせて頂きました」
おそらく下っ端なのだろう。『面倒くさい』と満面に張り付けていた若人陰陽師は、白露の敬う態度に分り易く気を好くする。
「それは良い心がけだ」
「貴方様もさぞお力のある陰陽師であるのでしょう。凛とした佇まい、実にお美しい」
慣れぬ口調に白露の舌はもつれそうだ。だが微に入り細を穿って持ち上げられた若人陰陽師は、ひっくり返りそうなほど胸を張り、如何に自分たちが都の安寧に尽くしているかを語りだす。
内容に、目を見張るようなものはない。現在進行形で都は鬼らの脅威にさらされているのに、だ。
「さすが陰陽師様。叶うなら、そのご活躍を一目拝ませて頂きたいものです」
謀る思惑は露も滲ませず、白露はカマをかける。すると若人陰陽師はつるりと吐いた。
「今日ならば、桐様たちが西の市方面へ警邏で出向いておられる。覗いてみるのも良いであろう」
――単純に、現在進行形で現場に出ている同僚の情報を教えてくれただけかもしれない。故に若人陰陽師の口調に白露が察した自信は、気のせいかはたまた――。
「陰陽師様――!」
民衆の中では明らかに浮く一団目掛け、乂八・南(WONDERFUL LIFE・g00139)はまっしぐらに駆けた。
「お疲れ様です、いつもありがとうございます!」
処は都の西に立てられて市。それを見回る風の直衣姿に南は追いつき、屈託のない笑顔で懐から包みを取り出す。
「宜しければ召し上がって下さい」
差し出したのは、餡子がたっぷりつまった饅頭だ。甘い物は疲れによく効く。
「おおこれはありがたい」
気の利いた献上品に、年嵩を重ねた女陰陽師が大きく目を開く。その黒曜の瞳に映る自分の真紅の右眼が、期待と感謝に輝いていることを南は知る――内心とは乖離しきっているけれど。
人々を騙して正義を偽るなぞ、人の警護を請け負う南にしてみれば、とんでもない悪行だ。いや、南でなくとも許しはしまい。
だからこそ、南は信じたかった。彼らにも何かそうせざるを得ない理由があるのだと。
しかし。
「俺、陰陽師の皆さんに憧れているんです。いつかあなた方みたいになれたらって」
「それは実に良い心がけですね」
志紀殿、と女の名を呼び下がらせ、歩み寄って来た『いかにも』な男に南はごくりと喉を鳴らす。
どろりと溶けた蜜めく笑顔の男には、酷く油断ならなさを感じる。おそらくこの男が、この一団を率いる長だ。
けれどそんなことはおくびにも出さず、南は高揚しきった子供のように矢継ぎ早に質問を重ねる。
「一体どんな風にして、修行をしているんですか? どうして、恐ろしい鬼に立ち向かえるんですか?」
「君のような都の人々のお役にたちたい、その一心ですよ」
陰陽師――桐の貌に不審が欠片もないのは、南の問いに嘘がないからだ。でなければ、用心深い狐は欺けない。
(「この人は、……無理かな。あの人と向こうの人も、きっと」)
懐く畏れがあるなら、それを取り除いてあげたいと思う南だが、年長の三人には取りつく島がないのを悟る。
だが若い四人は? 或いは、一人だけでも――。
「凄いですね! 俺は志はあっても、すぐ気持ちが負けてしまいそうになります」
真摯な思いで南は陰陽師たちに揺さぶりをかける。
誰か覚えるかもしれぬ『恥じらい』が、先で彼らを引き戻すきっかけになれば良いと祈りながら。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【狐変身】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
結島・詩葉芭
「きり、てる、しき、あずさ、いく、おとはち、ぎん、いずみ……合っていますね。多分」
件の陰陽師達を友人達にも話したいと
都の人に格好いい活躍を聞いて回っている少女を演じます
「こんにちは。おしごと、おつかれさまです。この辺りでかつやくする、おんみょうじさんたちの、カッコイイおはなしをあつめています。少々おじかんいただけますか?」
目当ての役人を見つけるか
詳しい人を紹介してもらい辿り着きます
「そういえば、みやこの外には"おにがりびと"という人たちがいるとききました。かれらとおんみょうじさんたちは、おしごとなかまですか?」
管轄が違うのか、有志の組織なのか
分かるように訊ねます
金刺・鞆
もし、そこのお役人さま。
と、役人に、声をかけましょう。胸を張って、物怖じせぬよう、堂々と。それなりの家のものに見えるように。
貴族の子弟や、それらにお仕えする家の子とでも思っていただければ、僥倖。陰陽師や役人を労い、讃えるような世間話を交えながら、鬼狩人を御伽噺かなにかのように語って感触を見ましょう。
京の外では鬼狩人なるものが語られておりますが、かような者共、いるのでしょうか?
わたくしが思うに、地方を納められる国造さまや、その臣たる腕自慢の活躍がねじ曲がって伝わっているのではないでしょうか。鬼を討つのは陰陽師さまがたの大切な御役目ですものね。お役人さまは、鬼狩人なる噂話、どのようにお考えですか?
風間・響
鬼狩人……鬼を狩るのを仕事にしているやつらだったよな。
俺も鬼の血を引くっつう鬼人だし、無視できない存在なんだよなー、実は。
『鬼狩人の起源』
どこから来たのか。どういった人たちが最初の鬼狩人だったのか。
どうやって鬼を倒していたのか。組織?個人?
やっぱこういう話を聞くなら、じいちゃんばあちゃんがいいんかね。
もしくは、屋台で飯を買うついでに世間話とか?
いずれにせよ、ちょっとでも情報を得たいところだな。
●『源氏』
焼きたての栗を放り込んだ片頬を膨らませながら、風間・響(一から万屋・g00059)はぱちぱちと爆ぜる火の番に勤しむ。
栗といえば日頃は御貴族様への献上品らしいが、あまりに沢山採れたので、市にも並ぶことになったらしい。で、響はその仕度に汗をかいていた老爺の手伝いをすることにしたのだ。
「なぁ、じいちゃん。鬼狩人って知ってるか?」
硬化した己が腕を眺め、響は世間話の延長線上に尋ねを置く。
響自身、鬼の血を引くらしい鬼人であるし、鬼狩人の力も有す。さらに『鬼を狩るのが仕事』と来れば、鬼狩人は無視しがたい存在なのだ。
なかでも興味があるのは、彼らの起源。
(「どこから来たんだ? どういった人たちが最初の鬼狩人だったんだ?」)
だから響は目につくなかで一番年嵩のいった老爺に話を聞こうと思ったのだ。
「なんだぁ、坊主。お前、鬼狩人に憧れてんのか?」
「まぁな! だって都の外の鬼を退治してるって話だろ。かっこいいと思わないか?」
「ははは、坊主は武者に憧れるクチかぁ。ま、俺も坊主の事は笑えないけどな」
「え? じいちゃんも憧れてたのか!」
「まぁナ。噂話に踊らされる若い頃の話さ」
核心に迫るような情報ではない。だが響は砂利の中から耀く黒曜石を拾い上げた心地を味わう。
『鬼狩人の活躍』はここ最近で始まったものではない。話の取っ掛かりとしては、十分だった。
響と老爺の会話を耳にした結島・詩葉芭(インセクティアの神算軍師・g02796)は人波を掻き分け歩き、見つけた目当ての女の袖をきゅっと引く。
「こんにちは。おしごと、おつかれさまです」
「あら、迷子?」
幼い詩葉芭を目に留め、女はことりと首を傾げた。そこで詩葉芭は「いいえ、いいえ」と首を振る。
「きりさん、てるさん、しきさん。それから、あずささんにいくさん、おとはちさん、ぎんさん、いずみさん」
詩葉芭が丁寧にひとりひとり挙げる名に、女の眼が丸くなった。何故ならそれは、彼女が付き従う陰陽師たちの名前だったのだ。
「この辺りでかつやくする、おんみょうじさんたちの、カッコイイおはなしをあつめています。少々おじかんいただけますか?」
「まぁ! まぁ! まぁ!!」
詩葉芭の礼儀正しさと純粋な好奇心、そして陰陽師たちに寄せる想いに、女――役人だ――の目が楽し気に輝く。詩葉芭に『思惑』があるとは気付きもせずに。
女役人の懐にすっかり入り込んだ詩葉芭は、陰陽師たちが如何に都の為に尽くしているかを聞かされる。
しかし詩葉芭の真意はそこには無い。
「そういえば、みやこの外には“おにかりうど”という人たちがいるとききました。かれらとおんみょうじさんたちは、おしごとなかまですか?」
――極めて自然な流れで、詩葉芭は踏み込む。
そう、詩葉芭が知りたいのは鬼狩人の管轄が陰陽師たちと異なるのか否か。有志の集まりなのか、組織なのか。
「そうねぇ。鬼を退治する、という意味なら、お仕事仲間っていえるのかしら」
けれど詩葉芭が子供だからか、それともそれが女役人の認識力の限界なのか。回答に冴えはない。だが詩葉芭は落胆しなかった。
「そうなのですね」
表情の乏しい貌に、翅のように薄い笑みを刷く。『いえるのかしら』という曖昧さが、鍵だ。つまり、この女役人の解釈としては、陰陽師と鬼狩人は異なる組織だということ。
と、そこへ。
「もし、そこのお役人さま」
鈴を転がすような可憐な声が、凛と響いた。
「――あら」
一呼吸の後、女役人が居住まいを正す。見止めた声の主を、貴族に縁のある子どもだと認識したのだ。
名も改めぬ以前の判断は、早計やもしれぬ。にもかかわらず女役人の意識が引き締まったのは、それだけの威厳を子ども――金刺・鞆(虚氏の仔・g03964)が醸していたせい。
「鬼狩人なる輩、本当にいるのでしょうか? わたくしが思うに、地方を納められる国造さまや、その臣たる腕自慢の活躍がねじ曲がって伝わっているのではないですか?」
胸を張り、顔を上げ。鞆は学の足らない大人なら裸足で逃げ出すだろう弁を振るう。それでいて高圧的にならないのは、鞆が腕に抱いたモーラット・コミュのおかげ。
無意識に白い毛並を撫ぜる鞆の手に、強張りかけた女役人の目元が和む。その上で女役人は、長い前髪からかすかに覗く鞆の瞳の色が詩葉芭のそれと同じであったことから、勝手な推論を成立させた。
「お二人は姉妹でいらっしゃるのね」
「「……」」
詩葉芭と鞆は互いを見遣り、無言のまま僅かに頷き合う。鬼狩人に興味を示す貴族の子女、或いはそれに類する立場の子どもという誤解は、二人にとって利しかない。わざわざ否定するのは愚の骨頂だ。
「ええと、そう。鬼狩人の話だったわね。姫君の推察には深く感銘を受けたけれど、ねじ曲がってはいないかしら。だって鬼狩人は源氏の武士が任じられることが多かったという話だし、棟梁も源氏から出ているはずだもの」
――詩葉芭も鞆も、息を飲んでしまうのを堪える。
女役人の言葉運びは不確かさを含むが、『源氏』という名詞ばかりはその限りではない。
「そうなのですね。けれどもやはり、鬼を討つといえば陰陽師さま。陰陽師さまがいてこその、都の平穏はあるのでしょう?」
深入りを避け、鞆は話を陰陽師の礼賛へと切り替えた。この流れなら『陰陽師を敬愛する子どもが『鬼狩人』なる者たちの噂話に否やを唱えたかった』と女役人に思わせることが出来るからだ。
それにこの会話が陰陽師たちの耳に届いていたとしても、不審がられる心配はなくなる。
「そうね、都は陰陽師さま方が守って下さっている。だから私たちも、姫君たちも安心して暮らしてゆけるのです。これからも、ずっと」
誇らしげに語る女役人の目は、秋空の如く澄む。
彼女は心底、陰陽師たちを信じているし、その陰陽師たちに付き従うことに疑問を持ってはいない。
「おはなし、ありがとうございました」
「新たな知識を得られましたこと、感謝致します」
女役人へ一礼する少女二人の鼓動は跳ねる。
鬼狩人の情報を得ると共に、善良なる人々の心がクロノヴェーダの狙い通りであることを、鞆と詩葉芭は目の当たりにした心地だった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【命中アップ】がLV2になった!
【ドレイン】LV1が発生!
八栄・玄才
お役人さんをつけて、人気のないところで襲撃
……ああ、もちろん本当に殴ったりはしないよ
適当に周囲の物を殴りつけて【粉砕】して驚かすだけさ
やあやあ、我こそは鬼狩人と名乗りをあげ、都の者を皆殺しに参ったと宣告をしてみよう
きっと、なぜそのようなことをと驚くだろうし、そこでこちらからも質問をしてみる
鬼狩人が人を襲ったらおかしいかい?
この時代にいたらおかしいかい?
都にいたらおかしいかい?
相手が鬼狩人について知っていたら、なにか答えてくれるかも
話が済んだら、鬼狩人なんて嘘だよと白状し、もうじき本物の鬼の脅威が現れるからそれを倒すことで詫びとさせてと謝る
これでオレら復讐者の鬼退治の注目度が上がったら儲けものだ
虹空・アヤ
陰陽師さまにお会いしたくて都へ来た体で
休憩中など手の空いてそうな役人に声を掛ける
努めて愛想よく、無知無害なフリで
もしやお役人さま方は陰陽寮の関係の方で?
陰陽師さまの噂は外の村にも広まってる事
都の外にまで鬼退治に出向いて下さる陰陽師さまの事など
どんな方達なのか、姿は見れるかと心酔するかの様子で話してみよう
そういえば途中、鬼狩人なるものの話も聞きまして
大変強くて謙虚な武士さまだとか
あれも陰陽寮関係の方なんでしょうか
やはり仲が宜しいンでしょうねぇ
だって人々の為身を挺して戦う、同士のようなモノじゃねぇですか
等と関係者であると信じて疑わない様子で勝手に盛り上がり
関係やどれ程の認識かを探ろうか
●『頼光』
鬼が出現する地点は既に知れている。
ならばそこから陰陽師たちへ知らせに走る役人がいるはずだ。
(「ビンゴ!」)
物陰から一人の役人の様子を眺め、八栄・玄才(井の中の雷魔・g00563)は自信たっぷりに口の端を吊り上げる。
役人は比較的、若い男だ。歳は玄才とそう離れていないだろう。そしてすれ違う人々と挨拶を交わす姿から、裏のある悪人には見えなかった。
きっとこの界隈の見回りを陰陽師たちに任されただけの青年だ。しかも根はすこぶる真面目に違いない。
(「実に脅かし甲斐があるね」)
青年が一つの通りを端まで辿り終え、次の通りへ道を曲がった刹那。玄才はしなやかに地を蹴り、音もなく青年へ襲い掛かった。
「っ!?」
突然の轟音に振り向いた青年は、割れた自身の足元と、地面に拳を叩きつけたまま笑う玄才の姿に息を飲む。
「なんだ、おま――」
「やあやあ、我こそは鬼狩人」
青年の詰問に玄才は己が名乗りを重ね、青年の声を断つ。人目のない場所を選びはしたが、ここは都の内。人を呼ばれてしまっては、せっかくの機会が台無しになる。
すっくと立ち上がった玄才の長身に気圧され、青年がへたりと尻もちをつく。
「都の者を皆殺しに参った」
「――ひっ」
「はい、そこまで」
玄才の物騒な文句に青年の顔が青ざめた瞬間、やけに愛想のよい声が緊張感を突き崩す。
「驚かせてしまい申し訳ありません。鬼狩人なる武士の方々の話を聞いて、つい真似をしたくなったのです」
「な、な、な、な」
はくはくと水面の金魚のように口の開閉を繰り返す青年へ、玄才の背後から顔を出した虹空・アヤ(彩・g00879)は出来る限りのめいっぱいな朗らかさで笑みかける。
「お見受けするにお役人さま、陰陽寮関係の方でしょう?」
執事の真似事を上回る自身の取り繕いぶりを、内心でアヤは嗤う。けれども『お上品』と『無知無害』のフリをアヤは貫く。
青年の心臓は、胸を突き破らんばかりに跳ねているだろう。つまり冷静でいられない今は、多少の違和感も捻じ伏せて『喋らせる』絶好の好機なのだ。
「近頃の陰陽師さま方は都の外にまで気を配って下さっているとのこと。そのご活躍ぶりを聞きまわっているうちに、鬼狩人なる武士さまの話も耳にしたのですよ」
未だ目を白黒させている青年の頭へ、アヤは人を和ませるには最適の毛玉をひょいと乗せる。使われたモーラット・コミュは頗る不満げに見えたが、アイコンタクトでどうにか宥める。
(「手毬、あとで言うこと聞いてやるから」)
「大変強くて謙虚な武士さまだとか。鬼を狩るのです、やはり陰陽師の皆様が従える方々なのでしょう? 流石は都の要、陰陽師さまでいらっしゃる!」
つらつらとアヤはおべっかを垂れ流す。
言うならば、玄才が鞭でアヤは飴だ。理性を欠かして、持ち上げて。それから思い込みを耳に吹き込む。持つ情報に齟齬があったならば、思わずそれを口にさせてしまう為に。
「あ、いや。鬼狩人たちを束ねるのは、源頼光殿だという話だ」
青年が、言う。直後、ふう、と二つの溜め息が重なった。それらは驚嘆を表に出すまいとする、玄才とアヤのものだ。
「あはは、びっくりさせて悪かったよ」
意識を素早く切り替え、生来の気の好さを満面に描き、玄才は座り込んだままの青年へ手を伸べる。
「ちょっと格好つけたくなったんだよ。でもオレが強いのは嘘じゃない。なんなら、鬼を倒すとこみせてやるよ。驚かせた詫びにさ」
頭に手毬を乗せたまま、玄才に手を引かれた青年が立ち上がった。
「またまた、そんな。もう騙されないぞ」
まだ顔は少しばかり引き攣ってはいるものの、青年はいつもの自分を取り戻し、玄才の台詞を冗談と受け止め笑う。
だが――。
(「生憎と、冗談じゃナイんだよ」)
くつり。青年に気取られることなく、アヤは喉を鳴らす。
仕込みも仕入れも上々。あとは仕上げの時を待つばかりだ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【飛翔】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【アヴォイド】がLV2になった!
花鶴・景臣
こんな茶番でも
陰陽師を救世主と思う奴はごまんといる
…放置するなんぞ寝覚めが悪い
会いたいのは「梓」とかいう陰陽師
先ず人の動きや会話から何処に居るか探る
この悪運も多少は助けになんだろ
後は警戒されないよう襟を正して
…こほん――陰陽師殿
この度も都の民を救って頂き、有難うございます
都の外では鬼に蹂躙され、全滅した村もあるとか
貴人方のお陰で我々は安心して生活出来ます
…大した物ではありませんが
と、差し出すのは笹百合の花束
妹が好きだった花です…実は
先程の村は、僕の故郷なのです
今では家族からの文すら…どうか、どうか
憎い鬼共を根絶やしにして下さい
そう真摯に訴える――演技からの、観察
…さて、奴はどんな顔をするかね?
●楔(くさび)
疼く短気を咳払いひとつでいなし、花鶴・景臣(灰に帰すまで・g04686)は背筋を凛と伸ばしたまま、礼儀正しく腰を折った。
「――陰陽師殿。この度も都の民を救って頂き、有難うございます」
「……いえ、私は」
言い淀む青年は、景臣より少しばかり年上といった風貌だが、西に立つ市の界隈に居る陰陽師たちの中では年少に見える――いや、『青い』と評するのが妥当かもしれない。
「ご謙遜なさらないで下さい。事実、都は皆様の手のよって守られているではないですか。外では鬼に蹂躙され、全滅した村もあるとか。貴人方のお陰で我々は安心して生活出来ているのです」
「……それは、そう……ですが」
どうにも歯切れの悪い青年だが、景臣は十五という齢に見合わぬ視点で、彼のその部分を好ましく思う。
彼が『梓』なのは、陰陽師たちが呼び合う名から分かっている。立ち振る舞いなどから、見込みがあると景臣が感じた人物だ。
「私なぞ、まだまだ……です」
褒めそやせば褒めそやすほど、梓は萎縮する。まるでその賛辞を受け取る資格が無いかのように。
(「まぁ、実際。資格はないんだろうぜ」)
都での鬼と陰陽師の攻防は、仕組まれた茶番劇。だというのに市井の人らは、陰陽師を救世主だと信じている。
(「……放置するなんぞ、寝覚めが悪いにも程がある」)
唾棄すべき企みへの苛立ちは胸裡で殺し、景臣は慕わしさだけを貌に描いて、すっと一輪の花を梓へ差し出した。
「これは笹百合ですね。この時期に、珍しい」
淡い紅がかる花に梓の纏う気が緩む――そこへ景臣は言葉の刃で斬り込む。
「是非お納めください。妹が好きだった花です……もうこの世にはいないやもしれませんが」
「――え」
「鬼です! 鬼が出ました!!」
それは梓の眼が衝撃に見開いた瞬間だった。肩で息をする役人の言葉に、陰陽師たちが一斉に立ち上がる。
「陰陽師殿っ!」
笹百合を梓に押しつけ、景臣は縋るように叫んだ。滅びたのは故郷だと、今では家族から文さえ届かないのだと。
「どうか、どうか。憎い鬼共を根絶やしにして下さい!!」
全ては演技だ。だが動揺と緊張に苛まれる梓には見破れようはずもない。
「……最善を、尽くします」
景臣は見た。
握り込まされた一輪を振り捨てることなく走り出した梓が、今にも泣き出しそうだったのを――。
大成功🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】がLV2になった!
効果2【アヴォイド】がLV3になった!
●鬼と陰陽師と復讐者と
下がってください――と、腰を抜かしかけた老婆へ誰かが言った。
老婆を心配して若い男が飛び出してくることもない。
何故なら、既に老婆は守られているから。
「お、おい。あんた。大丈夫なのかい……?」
本来なら、腰が抜けて動けなくなるはずだった老婆は、怯えながらも己の足で後退る。
既に『状況』の変化は始まっていた。
三々五々逃げ出すはずだった長屋の人々も、何が起きたのか遠巻きに見守っている。
『……なんだ、お前らは』
襤褸を脱ぎ捨て大太刀を構えた鬼が訝しむ。
何かがおかしい、計画とは違うと察したようだ。
斬り込むならば今が好機。周囲の人々に累が及ばぬよう、そして派手に鬼を叩きのめせば、市井の人々の心は憂いなく晴れ渡るだろう。
ただし人々に累が及んでは全てが水の泡。誰一人、鬼に傷付けさせてはいけない。
「なんだか面倒な気配がするな」
先頭を走る桐は、首を傾げて桐を振り返る。
計画通りなら、逃げ惑う人々を掻き分け、颯爽と現場に到着する予定だったのだ。
だのに現実はそうではない。何かに慄いている気配はあるが、怯えが足りない。まるでもう誰かが『鬼』と戦い、人々を守っているような――そんな高揚感が漂っている。
「余計なことを誰かがしているのかもしれませんね。ならばその者らを、妖怪の一味に仕立てましょう。仲間割れだとでも私たちが言えば、都の人々が信じるのは私たちです」
ふん、と鼻を鳴らす桐には迷いはない。
事態は自分の思惑通りになると信じている。いや、それは桐だけではない。人々を救いに駆け付ける風を装う、陰陽師たちはほぼ同じ腹づもりだ。
ただ一人、笹百合の花を胸に抱く梓の顔には逡巡が浮かぶ。
パラドクストレインは時間を渡るもの。
ディアボロス達は何れも陰陽師たちより先に、鬼が現れた都の西の一角に到着することが出来る。
人々を救うべく、鬼と対峙する者は当然必要だ。
けれど後から駆けつけてくる陰陽師たちへ対処する必要もある。
陰陽師たちはディアボロスたちを言葉巧みに妖怪の一味に仕立てるつもりだ。それを許せば、鬼を斃したとしても都の人らは陰陽師の弁を信じてしまうだろう。
とはいえ、陰陽師たちの力はディアボロスの足元にも及ばない。力づくで追い払うのは容易なはず。
だが、もしかすると。撃退せずとも、退かせる術はあるかもしれない。その為の楔は、既に打たれている。
人々の心を鷲掴みにするためには、鬼との戦いには全力を投じねばならぬ。鬼はアヴァーリャタール級、一体とは言え『ながら』で仕留められるほど弱くはない。
鬼を制すか、心に鬼を飼う人を制すか。
――差配の妙が勝敗を分かつ。
鎌夜・神月
さぁ、殺し合おうぜクロノヴェーダ
殺し合いに邪魔が入るのはごめんだからな
鬼の意識が婆さんや他の一般人共に逸れる前に最速で接敵
大太刀の一刀両断が迫ろうが関係ねぇ
元より腕一本ぶった切られるくらいの負傷は織り込み済みだ
殺す為の部位が残りゃそれでいい
大太刀の間合いの内に割り込んで鬼からの殺意を独占して【怨技・惨月】で殺し合うぜ
毛筋の一本に至るまでバラバラに破壊してやるよ
それでも殺し合ってる俺から目を逸らして一般人や他のお仲間に目移りするってんなら
そのツラも視線も殺意も
念動力でグラップルして俺に固定してやる
大太刀に両断されて血達磨になろうと止まらねぇ
止まっちまうなら念動力で自分の体を動かしてでも殺し合うさ
八栄・玄才
お役人の兄さんは見に来てくれているか?
さあ、本当の鬼狩りを見せてやろうじゃないか!
人々の注目を集め、鬼の注意も引くために、《飛翔》からの【突撃】で派手に登場
ワード・ブレイカーを纏った拳で先制【強打】を決めてやる
敵の残撃はワード・ブレイカーの甲でガード
でも、あんな馬鹿デカい太刀で斬りつけられたら切断されなくてもフッ飛ばされそうだなぁ
こ・れ・が、鬼かぁ~~~~っ
骨格は人に近いけど、筋肉の質か、膂力が桁違いだ
やられながらでも隙を見て、短刀・鳴牙を敵に投げて刺す
浅くても良い、突き刺さりさえすれば
道は通った、大太刀の間合いの外からでも力が走る道が!
パラドクス発動
【電撃使い】の力で突き刺した鳴牙に雷を放つ
●大演武
「ひいい、――」
お助けを、と続くはずだった壱の悲鳴は、あんぐり開いた口の中へと吸い込まれた。
「え、あ……あんた……?」
驚愕に丸めた眼に壱は鎌夜・神月(慇懃無礼千万・g01128)の背中を映す。
襤褸を纏った男へ声をかけた。襤褸を脱ぎ捨てた男。顕わになった鬼の姿。だが壱が恐怖に腰を抜かすより早く、神月が二者の間に割って入ったのだ。
しかし凶相をますます研がせた神月の意識に、既に壱の存在は薄い。
(「殺し合いに邪魔が入るのはごめんだからな」)
ようやく得手ではない下拵えから解放されたのだ。思う存分、壊し尽くせるメインディッシュを前に目を逸らす暇はない。
ふ、と吐いた息をハッと吸い、同時に念動力で五体に潜む力を限界まで呼び覚ます。そのまま陽炎が如き黒き闘気を帯びた拳を、神月が鬼の横っ面へ叩きつける。
手応えはあった。が、赤く耀く目を訝し気に潜めた鬼は足を踏ん張り、無理な姿勢からも大太刀を振り被る。
低く唸った剣閃を神月は壊鷲と滅隼――二の腕に纏う籠手で受け止めた。とはいえ、殺しきれない衝撃に神月の躰は後方へ吹き飛ぶ。
「、ッ」
咄嗟に踵を地面に引っ掛け、神月は仰向けに倒れ伏す。そうせねば、壱を巻き込む恐れがあったのだ。代償は、減衰ゼロの衝撃を背中から貰うこと。
痛烈さに目の前に星が散った。だが元より腕一本損なうくらいは覚悟の上。四肢が無事なら上等だ。
(「殺す為に身体が動くなら、それでいい」)
全ては想定の範囲内。けれど予想外がひとつ。
「ちょっ、大丈夫かい!?」
神月を案じた壱が駆け寄ろうとする。鬼の間合いに入ってしまうのも恐れずに。
「来るなっ!」
慇懃無礼を忘れた素で神月は身を起こしながら吼える。なれど壱は止まらない――そこへ。
「はい、そこまで」
上空から飛び来た八栄・玄才(井の中の雷魔・g00563)が壱の腕を引いた。老いてはいても、女性は女性。
「おばーちゃんは危ないから下がっててね」
玄才は愛想よく笑んで壱を人垣へ押し遣り、反転から地を這う低空飛行へすぐさま移る。
「一切破砕──、利器砕きッ!!」
鬼の懐へするり滑り込んだ玄才は、固く握った拳を下から上へと突き上げた。
インパクトの刹那、雷が爆ぜる。ぱっと散った金色の光に、遠巻きに眺める人々の眼差しにも明るい色が差す。
(「お役人の兄さんも見に来てくれているか?」)
派手な登場と派手な一撃で玄才は人目を引いて、さらに人心をも惹き付けた。それはただ鬼を斃すことよりも、この都内にあっては大きな意味を持つ。
――人の目を、意識する。
――その目を、好意的に釘付けにする。
「こ・れ・が、鬼かぁ~~~~っ」
神月同様、鬼の斬撃を籠手に受け、数メートルの距離を『上』へ吹き飛ばされた玄才は、磊落に笑う。
(「骨格は人に近いけど、筋肉の質か、膂力が桁違いだ」)
上空までは追って来れない敵を、暴れる視界で観察し、その能力には素直に感嘆する。とは言え、ここまでの流れは玄才の思惑通り。
カチあげられた錐もみ回転の最中、玄才は懐から短刀を抜く。鳴牙の銘を持つ其れは、電気を流すと黒い刀身が蒼白く光るのだ。それが空から降ったなら、まさに稲妻。
一条の光が、鋭く走る。辿り着くのは、鬼の肩。
「よし、視得――」
短刀が描いた軌跡は、次に繋がる道筋。しかしそこを玄才が辿ろうとした瞬間、思わぬ影が割り込んだ。
「悪いですね?」
微塵も悪いと思っていない貌で、高く跳ねた神月が玄才を見返る。そうしてそのまま神月は鬼めがけて降る。
「そのツラも視線も殺意も、俺に寄越しやがれ」
余所見を許さぬ傲慢を神月は嘯き、両の手を鬼へと伸ばす。
「脆いんだよォ!」
鬼の左右の肩を掴んだ腕を、神月は力任せに大の字に広げる。みしり、と何かが裂ける音がして、鬼の顔に苦痛が浮かんだ。
「毛筋の一本に至るまでバラバラに破壊してやるよ」
『お前達、何者だ……?』
両肩の皮膚を裂かれ、肉を剥き出しにされた鬼が訝しみを口にする。その声に、先ほどの返礼とばかりに神月を目くらましに鬼の背後をとった玄才は、してやったりと喉を鳴らす。
「さぁ、誰だろうねぇ?」
無防備な後背は、殴るに容易過ぎて面白味には欠けるが、決定打を呉れやすくもある。
「さあ、本当の鬼狩りを見せてやろうじゃないか!」
そう高らかに宣誓し、玄才は問答無用の一撃を、鬼の心臓を突き上げるように拳を打った。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【建造物分解】がLV2になった!
【怪力無双】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
御森・白露
随分と軟な空気じゃ。戦場に征く者の顔ではないのう。
陰陽師らに真正面から立ちふさがろうかの。
刀には手を掛けるだけで抜く気配は見せぬ。
主ら、何をしに行くのかのう?鬼を誅するのか……それとも物見遊山かの?
この地の民草は皆主らを慕っておったのう、陰陽師の皆様のお蔭で安心して暮らしてゆけるのだと。
陰陽師共を強い気迫で睨みつける。我を納得させぬ限りこの先には通さぬと言わんばかりにのう。
畳みかけるように大きな声で問いかける。
――答えよ。主らの行いは、民草に胸を張って誇れるものか?それは、本心から『正しい』と言えるものか?
重ねて問う、それは『陰陽師』の名に恥じぬ行いなのか?
回答や、如何に!
金刺・鞆
先程の振舞いのまま、身分ある子女を装いましょう。騒ぎを聞きつけ、憧れの陰陽師の活躍をひと目見ようと駆け付けた。そんな無謀で傲慢な幼姫の真似事を。
あの者どもも化性だというのなら、どうか諸共、完膚なきまでに滅してくださいませ!
……などと陰陽師らへ声援を送りながら、さり気なく鬼の攻撃を誘いたく。必要ならば、いぬにこっそりと雷撃も使わせましょう。
御同輩の援護あらば、妖怪という言へ違和感を与えられるはず。陰陽師のいずれかが庇うようなら、【活性治癒】で癒やしながら、行動を封じられるかと画策する、ですよ。
陰陽師は、鬼を斃すものではないのですか? よもや、結託してわたくしどもを騙していたのでございますか……?
乂八・南
時計を見て、南に陣取る
攻撃を仕掛けてくるのなら警棒で受け止め
諭すような声色で
――騙していて、ごめん
でも、志紀くんは言ってた
都の人の役に立ちたいって、その一心だって
気持ちが負けちゃいそうになるなんて、本当は嘘だ
俺は、俺であることにちゃんと誇りを持ってる
(誰にも恥じない、自分を
自分っていう存在が幸せであったって
胸を張って生きるって決めたんだ)
左眼に触れ、すぅと息を吸い込んで
あんたらを信じている人たちがいる
あんたらが、一番知ってるだろ
俺も、信じたい
騙して、それだけ良いなんて
本当は思ってないよな?
その言葉が重荷になっても
そんなのは今更
今までしてきたことの分、取り返せよと
果てにある正義の手を、引けたなら
花鶴・景臣
陰陽師共が俺達を敵だの嘯くなら
お止め下さい――鬼を恨み、屠りたいと願う気持ちは
貴人方も変わらぬのではないのですか?
問答無用で攻撃してくるなら
攻撃の意思を見せぬべく鞘で受け、必要なら庇う
そろそろ猫を被るのはやめだ…おい梓
この状況を見て尚、てめえ等こそ正義と胸を張って言えるか?
俺の話が作り物だったとして
実際、滅ぼされた村は幾らでもある
…それに全部が嘘って訳じゃねえ
俺達は鬼に――或いは鬼に似た何かに
大切な物を奪われて、此処にいる
鬼はいつか気紛れに民を殺すかも知れねえ
その時、てめえは民を守れるか?
甘い汁を吸ってきたてめえに守る資格はあるか?
辛そうな顔をするくらいなら
いい加減自分に嘘を吐くのはやめときな
●種と棘
八人の陰陽師たちを瞬く間に追い越した御森・白露(放浪する転寝狐・g05193)は、彼ら彼女らの行方を阻むよう真正面に立ち塞がった。
「随分と軟な空気じゃ。戦場に征く者の顔ではないのう」
白に爽やかな青が差す狩衣の裾の翻りが収まる間もなく、白露は腰に佩いた太刀に手を添わす。それでいて指をぶらりと遊ばせるのは、軽々に抜くつもりはないという意思の顕れ。
「主ら、何をしに行くのかのう? 鬼を誅するのか……それとも物見遊山かの?」
複数の狐尾を扇のようにはたりはたりと揺らめかせ、白露は陰陽師たちの顔を一人一人眺め、すっと目を眇める。
白露の試す眼差しに、桐が一歩分だけ前へ出た。
「はて、何をおっしゃっておいでなのでしょう?」
とぼける貌は、笑顔のまま。なれど明らかな仮面に、白露は小さく鼻を鳴らす。
「この地の民草は皆主らを慕っておったのう、陰陽師の皆様のお蔭で安心して暮らしてゆけるのだと」
その信を裏切るのか、という暗に含んだ白露の弁に、桐は機嫌よく「そうでしょうとも」と頷くばかり。
埒が明かない、と白露は感じ取る。故に、ディアボロスとしての闘志を解放する。
「――答えよ」
白露は言の葉に裂帛の気合を乗せた。
己を納得させねば、この先へは通さぬと気迫で示す。
「主らの行いは、民草に胸を張って誇れるものか? それは、本心から『正しい』と言えるものか?」
「へぇ……物知りサン?」
「……貴様、何を知っておる?」
桐の両脇を固めるよう、照と志紀が進み出て、白露へとにじり寄る。
奇妙な静寂が、陰陽師たちと白露の間に落ちた。おかげで少し離れた所の喧騒までもが、よく聞える。
ああ、鬼との戦いが始まっているのじゃな――と白露は思う。そして不穏な気配を察したのか、此方にも人だかりができ始めていた。
(「よい頃合いかの」)
「重ねて問う、それは『陰陽師』の名に恥じぬ行いなのか? 回答や、如何に!!」
群衆の皆々迄へも届くよう、白露は腹の底から声を張る。途端、桐が嗤い出した。
「成る程! 貴様ら鬼の仲間か!!」
予想に違わぬ展開であった。むしろ絵に描いたような展開だとも言える。しかし白露の後ろから身を乗り出す乂八・南(WONDERFUL LIFE・g00139)は、心底義憤に駆られていた。
「違う! 俺たちは鬼の仲間なんじゃなない!!」
清廉潔白を示すよう、南は一切の武装を解いている。その姿に見覚えのあった志紀は「ほぅ」と目を細めた。
「我らを謀っておったのか、小童めが」
齢を重ねた女の、演技めかした科白に南は言葉に詰まる。
「――騙したのは……申し訳なかったと思う。ごめん」
項垂れた南は素直に頭を垂れて謝し、だが再び顔を上げた時には惑いの一切を捨て去っていた。
「けど、桐くん言っていたじゃないか。都の人の役に立ちたいって。その一心だって」
「ええ、申し上げましたとも。ですから私は鬼の仲間であるお前達を祓うのです」
志紀を目線で制した桐が、南へ向き直って一瞥する。身長は南より桐の方が高い。容赦なく睥睨してくる眼に、南は奥歯を噛み締め、同じ強さの視線を返す。
「気持ちが負けちゃいそうになるなんて、本当は嘘だ。俺は、俺であることにちゃんと誇りを持ってる」
(「誰にも恥じない、自分を」)
桐に気圧されぬよう背筋を伸ばし、南は拳を固く握る。
(「自分っていう存在が幸せであったって」)
左の拳だけ解き、そっと自身の左眼に掌を当てた。ひんやりとした冷たさは、鋼のそれ。けれどその機械仕掛けの眼にこそ、南は誓ったのだ。
(「胸を張って生きるって決めたんだ」)
息を吸う。一度止めて、一気に吐き出す。
「あんたらを信じている人たちがいる。あんたらが、一番知ってるだろ。俺も、信じたい。騙して、それだけ良いなんて――本当は思ってないよな?」
訴えの通り、南は陰陽師たちの善性を信じたかった。汚泥に沈む彼らを、正しき道へ引き戻したかった。
――でも。
(「顔色一つ変えない、か」)
桐、照、志紀の様子を窺い、花鶴・景臣(灰に帰すまで・g04686)は内心で肩を竦める。
正道へ叛き、邪道へ落ちたと理解しつつも、彼ら彼女らの目に揺らぎがないのは、この生き方を既に選んでいるからだ。それに幾らかの犠牲に目を瞑りさえすれば、その他大勢は安寧の時を過ごせている。
(「宗旨替えは簡単じゃない……でも、悪くない」)
桐たちの後方へ目を遣れば、そこには肩を震わす梓がいた。他にも二人ほど、ばつの悪そうな顔をしている若い陰陽師がいる。
南が撒いた種は、今日この日では芽吹かない。が、永遠に種のままであるとは限らない。
良い兆候だと景臣は思った。周囲の人々も、不思議と固唾を飲んで成り行きを見守っている。事態の収束には、もう一石を投じる必要がありそうだった。そしてその石は、可憐な少女の姿をしている。
「陰陽師さま、何をなさっておいでなのですか!」
人の輪を掻き分けたのは、貴族の姫君――を演じるままの金刺・鞆(虚氏の仔・g03964)。
幼さを武器に鞆は聞き分けのない子供の我が儘を振り翳す。
「あの者どもも化性だというのなら、どうか諸共、完膚なきまでに滅してくださいませ!!」
癇癪を起したように頬を血色に染めて、鞆は分り易く金切り声を張り上げる。
「 」
「 」
刹那、陰陽師に期待を寄せる少女と、推移を見守る青年の視線が交わった。そここそ、膠着状態を打破する突破口。
「お止め下さい――鬼を恨み、屠りたいと願う気持ちは、貴人方も変わらぬのではないのですか?」
景臣は桐らの間をすり抜け、眉根を寄せていた青年陰陽師に縋りついた。
「えっ、な、う、うるさいっ」
不意の出来事に、元より挙動不審気味であった青年陰陽師は盛大に焦り、景臣を振り払う為に勢いよく腕を薙いだ。
その時、
「きゃあっ」
電撃に打たれて、鞆が尻もちをつく。
人々は見た。青年陰陽師の方から、火花が散ったのを。そして気付かない。その電撃が鞆が伴うモーラット・コミュが密やかに放ったものであることに。
「……そ、んな、まさ……か。陰陽師は、鬼を斃すものではない、のですか? よもや、結託してわたくしどもを騙していたのでございますか……?」
前髪に隠れる瞳に涙をいっぱいに溜め、鞆は声を掠れさせる。
「音八、お前っ!」
「ちがいます、俺じゃありませんっ」
照の叱責に、景臣に絡まれた青年陰陽師が否定を紡ぐ。しかし聴衆は目撃した唯一の『暴力』に気持ちを傾ける。
周囲がざわめく。人々の陰陽師を見る眼に、冷たい秋風が混ざる。
「……おい梓。この状況を見て尚、てめえ等こそ正義と胸を張って言えるか?」
「っ!?」
いつの間にか自分の傍らに居たのか。景臣が耳に忍ばせた小声に、梓が息を飲む。
「俺の話が作り物だったとして。実際、滅ぼされた村は幾らでもある……それに全部が嘘って訳じゃねえ」
梓の手が、己の胸に押し当てられた。そこに何があるのかを、贈った景臣はよく知っている。
「俺達は鬼に――或いは鬼に似た何かに、大切な物を奪われて、此処にいる大切な物を奪われて、此処にいる」
被った猫をかなぐり捨てて、景臣は真実だけを梓に沁み込ませた。
景臣はディアボロス。家族を奪われ、最後の大地に流れ着きし者。
「鬼はいつか気紛れに民を殺すかも知れねえ」
――その時、てめえは民を守れるか?
――甘い汁を吸ってきたてめえに守る資格はあるか?
「……」
おそらく梓は、景臣が語った内容を正確には把握できていない。なれどそこに嘘がないことだけは理解した。
「辛そうな顔をするくらいなら、いい加減自分に嘘を吐くのはやめときな」
故に景臣の呆れと非難と同情が綯い交ぜになった『次』へと促す台詞に、ぎっと唇を噛み締め――。
「桐様、陰陽寮へ戻りましょう!」
――これが今の梓の精一杯。
「鬼は別の者が退治してくれている様子。我等の出番は御座いません」
ただの忠言だ。しかし一般民衆の面前であることを考えれば、敗北宣言にも等しい。
「我等はそちらの娘御を傷付けた責をいち早く負わねばなりません」
「梓、お前っ……いえ、そうですね」
非を認めた梓に対し、怒気を膨らませた桐は余人の目を慮り、素早く意識を切り替える。
「皆様、お騒がせして大変申し訳ございませんでした」
陰陽師たちは撤収した。
空気が悪くなっている以上、長居は無用と判断したのだ。
負った汚名はまだ小さい。如何様にでも誤魔化せると信じて。
なお治療を申し出られた鞆は、「家の者が迎えに来るから」と不信感をあらわに伸べられた手から目を反らした。
人々の心には、野ばらの棘が穿たれた。
ここから何かが変わるのか、そうでないかは未だ知れぬ。
ただディアボロスたちは見たのだ、深々と頭を垂れてから去る梓の姿を。そこに希望を見い出したのは、きっと南だけではあるまい。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【士気高揚】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【強運の加護】がLV3になった!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【命中アップ】がLV3になった!
【アヴォイド】がLV4になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
虹空・アヤ
予定と違うっつう面だなぁ、オイ
確と目に焼き付けろよ、テメェを倒すモンの顔をな
派手に惹きつけてやれ、手鞠
手鞠に*光と*電撃を纏わせ
仲間と敢えて時機ずらし飛び掛からせ鬼の注意力を削ごう
同時に手鞠と逆側から接敵
*戦闘知識で太刀筋や挙動を予測
【骸喰】で腕から五指を棘生やす鞭へと変え、隙狙い振るい締め上げる
反撃は【飛翔】で*空中戦に持ち込み鬼の膂力を活かしにくい様立ち回ろうか
傷を負っても見ぬフリ
鞭を掴まれようと逆にその反動利用し跳び、次の攻撃へ繋げる
住民、陰陽師も積極的にディフェンス
さあ陰陽師さまのお出ましだ、逃がして下さいと乞うか?
それともオレらに首を狩られるか、選べよ
と、現れたら煽って留まらせようか
標葉・萱
安心を、尊敬を、偽りで手に入れて
その実何ももたらさないなど
どうして、看過出来ましょう。
けれど事情は存じませんからせめて、
私が正しいと思うことをしましょう
繰る人形には白無垢を、踊る一歩に手を出したら
怖ろしいとは、言葉ばかりの涼しい顔で
共に向かう方の援護を兼ね
ダンスマカブルで繰る人形は間隙を縫って切り込みに
前衛として向かう方が懐へ飛び込む一手のために
突進の標的を定められようと、次の手があるなら隙にもなるでしょう
逃がしなどはしない
告げた言葉を偽らぬために
鬼退治と行きましょう
●大団円
ふるふるふると身を震わせた手毬から、光の粒がチラチラと散る。
静電気ほどの電撃に攻撃力は無い――が、バチンと弾けるそれはどうしたって気持ちを攫う。
『……ッチ』
血を滴り落とす肩口で生じた衝撃に、大太刀の鬼が舌を打つ。焦燥と動揺が明らかな様子に、虹空・アヤ(彩・g00879)はにやりと片頬だけで嗤う。
「予定と違うっつう面だなぁ、オイ」
囁きめいたアヤの嘯きに、鬼の赤ら顔が渋面と化す。その苛立ちの矛先は手毬へと向けられた。
『痴れ者共め――!?』
ぽふりと跳ねる手毬目掛けた唸った刃が、寸でのところで第三者によって防がれる。成したのは、清廉なる白を纏った花嫁だ。
す、と。白無垢の裾と袖が風を切り、鬼の挙動をいなす。
鬼にとってはままならないことばかりだ。腹に据えかね、鬼が燃える視線で花嫁をねめつける。なれど綿帽子が影を落とす顔(かんばせ)は涼しいまま。
それもそのはず。白無垢姿の舞い人は、標葉・萱(儘言・g01730)が十指に結わえた糸で繰る人形なのだ。
「今です」
退く足取りで人形へ鬼の突進を引き付けた萱の一声に、アヤは素早く右腕を撓らせる。
途端、五指が茨の鞭に代わり鬼の身をきつく戒めた。
『この程度でっ!!』
棘に食い破られた皮膚から新たな赤を滲ませながらも、膂力まかせで鬼は茨を引き千切り。空へと逃げたアヤを追って跳ねた。
『二度も同じ手は喰わぬわ』
上へと躱されるのは既に経験済み。それならと鬼は大地を蹴ってアヤへと迫る。
とは言え所詮、付け焼刃だ。不安定な体勢で無理やり薙いだ大太刀は、僅かにアヤを掠めるに終わる。
「滑稽だな」
茶番の演者に過ぎない鬼を、空を自在に駆るアヤは目を細めて見た。
きっと鬼は自分の置かれた状況を理解出来てはいないだろう。適当に人を襲い、適当に陰陽師にあしらわれ、適当に逃げ出す算段でいたはずなのだ。
「陰陽師連中は来ねぇよ、オレ達の方が強いからな」
鬼へ自らは都の陰陽師に類する者ではないと知らしめるアヤの台詞に、観衆の口から上がる疑問を萱の耳は拾う。とは言え、その数は少ない。ほとんどの人々が、鬼が懲らしめられている『今』に熱狂している。
力のない人々にとって鬼は脅威だ。それを排してくれるから、陰陽師を信じるし、敬いもする。
(「安心を、尊敬を、偽りで手に入れて。その実、陰陽師たちは何の善もたらしていない」)
そんな悪事を、どうして看過できようか。
陰陽師たちにも事情はあるかもしれない。しかしよしんば事情があったとして、それは萱の知るところではない。
(「故に、私は私が正しいと思うことをするまでです」)
――きちんと滅するのを見たくは、ないですか?
――そんなん見れたら、あたし達ももっと安心して暮らせるってもんさ!
「逃がしなどはしない」
井戸端で交わした会話をなぞらえて、萱は鬼へ宣誓する。
告げた言葉は偽らない。これから行われるのは、一片の曇りもない『鬼退治』だ。
「兄ちゃんたち、頼んだぜ!」
「鬼をやっつけてちょうだい!!」
喝采を背に、萱は白無垢を優雅に躍らせる。人間の駆動域を易々と超える人形の所作は、先を読むのが難しく、鬼を惑わせるのに容易い。懐に飛び込むのは、造作もなかった――いや、先行した二人の攻勢も合わせ、ディアボロスがクロノヴェーダを凌駕した結果だ。
「手毬!」
『そう何度も引っ掛かるかっ』
「いいえ、引っ掛かっています」
反射でまとわりついたモーラット・コミュを払い落とそうとした鬼の両肩を、萱は人形に捉えさせる。
白無垢に、鬼が滴らせる赤が移った。なれど僅かに紅花が咲いた程度。これより全身を染め抜く赤を思えば、さしたる量ではない。
「確と目に焼き付けろよ」
再び転じさせた茨の鞭をアヤは撓らせ、身動ぎ出来ない鬼の首へ絡めた。あとはくいと引くだけ。
「テメェを倒すモンの顔をな」
首を落とす間際、アヤはこれみよがしの笑顔を鬼へと手向けた。
「とんでもなく強い連中だったな」
「陰陽師さまは追っ払うだけだったってのにな」
京の都の西に位置する一区画。
大捕り物を目の当たりにした人々は、口々に鬼を斃した者たちを褒め讃える。その中には、陰陽師に付き従っていた役人の姿もあった。
「すごいね、すごいね」
「あんな人らが居るんだ。これで俺らの暮らしも安泰だな」
歓喜に湧く人々を咎める者はいない。
だって強き者たちが為したのは、『悪しき鬼』の退治だったのだから。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】がLV2になった!
【壁歩き】がLV2になった!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【命中アップ】がLV4になった!