高野山・八葉の峰攻略戦

 大和国掃討作戦を成功させ、大和国の天魔武者勢力を一掃したディアボロスは、攻略旅団の方針に従い、紀伊国の『高野山』の攻略を開始します。
 しかし、高野山はジェネラル級天魔武者『天海』が設置した特殊な結界に阻まれており、すぐに攻略を開始するという訳にはいかないようです。
 高野山を中心に『蓮の花』の形に配置された、『今来峰・宝珠峰・鉢伏山・弁天岳・姑射山・転軸山・楊柳山・摩尼山』という、八葉の峰を全て攻略しなければ、高野山への侵入は不可能なのです。
 高野山攻略の為、この八葉の峰の攻略を行ってください。

天海

八葉・天水・雰虹(作者 七凪臣
10


#天正大戦国  #高野山・八葉の峰攻略戦  #紀伊国  #高野山  #天海 


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#天正大戦国
🔒
#高野山・八葉の峰攻略戦
🔒
#紀伊国
🔒
#高野山
🔒
#天海


0



●『天海』
 結跏趺坐を組んだクロノヴェーダが重々しく口を開く。
「大和の松永殿が滅ぼされたのは間違いない」
 場所は高野山。金剛峰寺の大広間。
「つまり、大和を制した敵が、この高野山に向かって来るやもしれぬという事だ」
 配下を前に語ることが出来るのは、ジェネラル級天魔武者『天海』だ。
「八葉の結界に守られた高野は絶対不可侵ではある――が、万が一という事もある。八葉の峰の護りを固めておきなさい」
「敵は、八葉の結界の要を知らぬとは言え、偶然という事もありえます、備えは必要となるでしょう」
 絶対不可侵を信じながらも、警戒を怠らない天海は、優れた先導者と言えるだろう。
 例え『敵』が、実際には八葉の結界の要について識っていたとしてもだ。

●八葉
 ディアボロス達は大和国のクロノヴェーダ勢力掃討を成した。
 これに伴い、攻略旅団は『紀伊国の高野山』の攻略を、新たな方針とした。
 松永久秀が逃げ込もうとした高野山が、敵の重要拠点であるのは疑いようもない。
 また、高野山のクロノヴェーダらが使用した、国境を護る結界などは、興味深い技術でもある。
「大和国との国境付近まではパラドクストレインで赴ける。あとは徒歩となるが、攻略に向かって欲しい」

 事のおおよそを語った浅野・紅葉(鬼狩人・g03177)がさらに継ぐのは、今回の策の概略だ。
 まず、前提条件として。高野山は蓮の花の形をした特殊な結界に守られている。
 この結界を構成しているのは『今来峰・宝珠峰・鉢伏山・弁天岳・姑射山・転軸山・楊柳山・摩尼山』という八つの峰――つまり八葉だ。
「八葉それぞれに、要の堂が建てられていて、これを守っているのが高野山の『坊官衆』だな」
 ディアボロス達が本格的に高野山へ乗り込む為には、八葉の堂の破壊が必須。
「ちなみにこの堂の守りに、高野山から派遣された天魔武者が加わっているのが分かっている」
 『坊官衆』は『形代兵』にて堂を守る。
 そこへ新たに参じているのが、アヴァタール級天魔武者『本多忠勝』に率いられた『銀閃鬼兵』だ。
 『形代兵』も『銀閃鬼兵』も、級はトループス。とはいえ、形代兵は飛翔し、銀閃鬼兵は徒党を組んでの遠距離攻撃を得手とするのが厄介だ。
「本多忠勝に関しては――まぁ、強敵だな」
 五十七回の合戦に出ながら、かすり傷ひとつ負わなかったという逸話の通り、天魔武者の本多忠勝へは非常にダメージを与えにくい。
 けれど紅葉は絶望感などどこ吹く風で言う。
「与えにくいだけだ、倒せないわけじゃない。皆ならどうにか出来るだろう?」

●天水
 折しも、辿り着くのは雨と雨の境。
 足元は幾らか悪いが、高野山の道中では、だからこその景色を楽しむことが出来る。
「個人的に、この時期は滴を見るのが好きなんだ」
 柔らかな若葉を幾らか過ぎて、濃く色付きゆく瑞々しい葉の上に結ぶ滴は、きれいに天地を逆さに映す。
 日差しがあれば、滴の中に小さな虹をみつけることも出来るかもしれない。
「枝から滴り落ちるのを受け止めるのも、ちょっと楽しいよな」

 思い出した童心に、ふと表情を和らげていた紅葉は、そのまま気負いなくディアボロス達に向き合った。
「晴れ間は登山の間だけ。堂に辿り着く頃には雨が降り出しているだろうが、八葉の一画を崩してくてくれ」

●雰虹
「万が一、ディアボロスがここに来たとしても、自分達が撃破する」
 火縄銃を手にした銀閃鬼兵を引き連れ堂へ辿り着いた本多忠勝は、坊官衆へ力強く告げた。
 朱色の柱に、白い壁。二重の塔の守りを任された坊官衆は、信に足る相手の言葉に、口々に歓待を伸べる。
「これはありがたい」
「百人力とはまさにこのことで御座いますな!」
 だが気を浮つかせた風もなく、本多忠勝は坊官衆へ命を下す。
「世辞は不要。お前達はお堂の防衛に専念せよ」


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【水源】
1
周囲に、清らかな川の流れを出現させる。この川からは、10秒間に「効果LVトン」の飲用可能な水をくみ上げる事が出来る。
【飛翔】
7
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
1
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果は特記なき限り併用できない)。
【一刀両断】
1
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【フライトドローン】
2
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【神速反応】
2
周囲が、ディアボロスの反応速度が上昇する世界に変わる。他の行動を行わず集中している間、反応に必要な時間が「効果LVごとに半減」する。
【託されし願い】
1
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【エアライド】
3
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【トラップ生成】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の空間を、非殺傷性の罠が隠された罠地帯に変化させる。罠の種類は、自由に指定できる。
【光学迷彩】
1
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【断末魔動画】
1
原型の残った死体の周囲に、死ぬ直前の「効果LV×1分」に死者が見た情景が動画として表示される世界になる。この映像はディアボロスだけに見える。
【活性治癒】
2
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【液体錬成】
1
周囲の通常の液体が、ディアボロスが望めば、8時間冷暗所で安置すると「効果LV×10倍」の量に増殖するようになる。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【建物復元】
1
周囲が破壊を拒む世界となり、ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の建造物が破壊されにくくなり、「効果LV日」以内に破壊された建物は家財なども含め破壊される前の状態に戻る。
【アイテムポケット】
1
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。
【寒冷適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が、摂氏マイナス80度までの寒さならば快適に過ごせる世界に変わる。
【防衛ライン】
9
戦場が、ディアボロスが地面や床に幅10cm、長さ「効果LV×10m」の白い直線を出現させられる世界に変わる。敵はこの直線を突破できず、上空を飛び越える場合、最低「効果LV」分を要する。直線は戦場で最初に出現した1本のみ有効。

効果2

【命中アップ】LV5(最大) / 【ダメージアップ】LV7 / 【ガードアップ】LV5 / 【フィニッシュ】LV1 / 【反撃アップ】LV1 / 【先行率アップ】LV1 / 【ドレイン】LV3 / 【アヴォイド】LV4 / 【ダブル】LV5 / 【ロストエナジー】LV1 / 【グロリアス】LV2

●マスターより

七凪臣
 お世話になります、七凪臣です。
 今回は『高野山・八葉の峰攻略』を皆様にお願いしに参りました。

●シナリオ展開
 選択肢①→③→②=④の順で概ね進行いたします。
 状況により断章の追記があるかもしれませんが、展開はOPならびに随時公開されるリプレイで分かると思いますので、必ずしも断章をご確認頂かなくても大丈夫かと思います。
 なお選択肢①用の断章はございません。

●採用人数
 日常章となる選択肢①は、ご希望があればいつもより多めに。
 それ以外の章は👑達成に必要人数(+αが若干名)になります。
 挑戦人数によっては、プレイングに問題はなくともお返しする可能性があります。
 予めご了承ください。

 シナリオ進行状況等はMSページでもお知らせしております。
 合わせてご確認頂けますと幸いです。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております!
 よろしくお願い致します。
153

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


ミカエラ・ドゥラメンテ
ルキウス(g07728)と

わたし、ハイキングに来たかったのよ
わたしひとりではとても来られる気がしないから、貴方がさしてくれる日傘の下で
貴方がわたしの足元に注意を払ってくれる環境で

腕を絡めて傍らを歩きながら、貴方は随分と歩調を落としてくれている気がする
歩きやすい靴で来たけれど、それでも貴方が歩くのよりは遅い筈
わたしの考えていることがわかるのかしら、不思議な気分

新緑もいろんな草木も、よくありそうな光景なのに目に映るものすべて素敵で特別に思えるわ
あのね
わたし、貴方の隣にいるだけですごく、すごく幸せ
なんて言葉に出すのは恥ずかしいから、一層近く寄り添うだけだけれども


ルキウス・ドゥラメンテ
ミカエラ(g07684)と

貴女の希望は何だって叶えたいと思っている
貴女一人では叶わぬことなら尚の事
故に、貴女一人では難しそうな山歩きなど正に願ったり叶ったりだ

ミカエラの手を引いてその足元に注意を払いながら、出来るだけ楽な道を選ぼう
歩む歩調を落として貴女に合わせつつ

貴女の肌を陽が焦がさぬように日傘を傾けながら、目に止まる草木や綺麗な景色があれば足を止めて共に眺める
俺には目新しいものには思えないが、何やら感動しているらしい彼女の表情を眺めているだけで満足なので

ミカエラ、暑くなる前にまたあちこち出かけよう


●青葉の円舞曲
 雨上がりの山中は、泥濘んで足元が悪い。
 急な斜面であるならなおのことだ。故によく訓練された愛馬――無双馬のエスカミーリョに途上の歩みを任せていたルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)は、ほどよく視界が開けたところで馬を下り、馬上の貴婦人へ両手を伸べた。
「ミカエラ」
「ありがとう、ルキウス」
 抱き上げられるようにして馬から降ろされたミカエラ・ドゥラメンテ(純血の黒薔薇・g07684)は、色素の薄い膚にほのかな薔薇色を乗せて笑む。
「わたし、ハイキングに来たかったのよ」
 上品な口振りで、幼子のようにミカエラは言う。
「けれど、わたしひとりではとても来られる気がしなかったの。だってわたしが来たかったのは、貴方がさしてくれる日傘の下で、貴方がわたしの足元に注意を払ってくれるピクニックなのだもの」
 囀るような調べで、されど高慢ともとれることをミカエラは口にする。
 ミカエラ自身に他意はない。おそらく、記憶を失くそうとも、血により継がれた『生まれ』の顕れだ。そして他でもないルキウスが、ミカエラに望まれることを希んでいる。
「貴女の願いは何であろうと叶えよう」
 ミカエラの夜の空めく紫眼の中に、生まれたばかりの綺羅星たちをみつけたルキウスの口調は、常よりも柔らかい。そして騎士の恭しさでルキウスは雨上がりの木漏れ陽を遮る日傘を差し、泥をまとった小石を遠退けるために足を払い、エスコートの為の腕を伸べた。
「いい季節だな」
「そうね、なんだか世界がとっても眩しいわ」
 いつもよりヒールは低いが、それでもミカエラの歩みは覚束ない。だからルキウスは細心の注意を払って道行きを択び、歩調も弛める。
「――どうした?」
 てっきり周囲の新緑に見入っていると思っていたミカエラの目が、自分へ向けられていたのに、ルキウスはゆっくりと瞬く。
「いいえ、なんでもないわ」
(「貴方はもっと早く歩けるはずなのに。どうしてわたしの考えていることがわかるのかしら?」)
 望むまでもなく叶えられた『自分のペース』にミカエラは不思議な感銘を味わい、慌てて視線を四方へ広げた。
 瑞々しい新緑も、力強く茂る草木も、この季節ならではの景色ではあっても見慣れぬものではないはずなのに。今日に限っては、何もかもが真新しくて、素敵で、特別なものにミカエラの瞳に映る。
 ――あのね。
 ――わたし、貴方の隣にいるだけで、すごく幸せ。
「ねえ、ルキウス。わたし、もっと色んなところへ行ってみたいわ」
 先ほどせっかく秘したのに、勝手に溢れそうになる言葉を新たな願いに挿げ替えて、ミカエラは気恥ずかしさを誤魔化す。
 そうして言わぬ代わりに、ルキウスへいっそう寄り添い、身を預ける。その重みは、ルキウスにとっては愛おしいばかりのもの。
「もちろんだ、ミカエラ。暑くなる前にまた、あちこち出かけよう」
 どうしてだかくるくる変わるミカエラの表情に魅入っていたルキウスは、この上ない喜びを噛み締めるよう口角を上げ、次なる願いを叶えるべく思案を始める。

 穏やかに山を分け入るルキウスとミカエラの歩みは、ワルツのリズムで。
 そっと従うエスカミーリョは、青々と命を漲らせる草で腹をくちくさせながら、廻る出番に控えた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【断末魔動画】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

守都・幸児
喩嘉(g01517)と一緒に山登りするぞー

新緑の元気な山を喩嘉に見せられて嬉しいぞ
俺は山育ちだから山の歩き方はよく知ってる
安全な道を選びながら、喩嘉を案内するように登ってくぞ
あの草はちょいと苦いが食べられるぞ
この枝は棘があるから気をつけてくれな
お、あそこに熊の爪痕があるっ
そんなことを話しながら
喩嘉の衣がなるべく濡れないように
虫にも気をつけさりげなく迂回したりしながら
でこぼこ道では喩嘉の手を引いて歩く
「ああ、任せとけ、俺が喩嘉を守るぞっ」
俺に水滴が落ちてきたらぷるぷる頭を振って笑う

一緒に景色を楽しみながら
雨上がりの山の、緑の匂いを胸いっぱいに吸い込むんだ
山の元気をいっぱいもらおうっ
気持ちいいなあ


喩・嘉
幸児(g03876)と一緒に山登りする

ああ、本当に。緑が美しいな
若葉が生き生きとしている
案内されるままに、幸児に従って歩く
家に篭り切りになっていることが多いから、こういうところは新鮮だ
足場の悪い場所は幸児に手を借りて、慎重に進む
「獣はいいが、虫がいたら近づく前に教えてくれ」と言いながら

俺ばかり気にしている幸児の頭が濡れていることに気づいたら、
持ってきた手拭いで拭ってやろう

深呼吸すると、複雑な香りがする
作られたものではない、ここにしかない、いい匂いだ
気持ちがいいな

山の中で生き生きしている幸児を見られるのも、嬉しい


●ふたりゆえ
 青金石めく両腕で茂みを掻き分けた守都・幸児(祥雲・g03876)は、濃い緑の香に浅く息を吸って、吐いた。
 元々は京の山で獣のように暮らしていた幸児だ。山歩きは得手中の得手だし、道なき道の案内人となるのにも自信がある。何より――。
「新緑の元気な山を喩嘉に見せられて嬉しいぞ」
 きっと大人の男の顔に、無邪気な笑みを浮かべているのだろう。
 先を行くが故に背中しか見えないが、そう想像するのに難しくない幸児の弾んだ口振りに、踏み締められた土の上を歩きながら喩・嘉(瑞鳳・g01517)も頬を緩める。
「ああ、本当に。緑が美しいな」
 初夏の山は、漲る命を実感するにはもってこいだ。
 幸児の歓びに同意するためだけではなく、生き生きとした若葉を間近に喩嘉の心も浮き立っている。
 喩嘉も山を楽しんでいることは、やはり声音で幸児に筒抜け。だから幸児はますます張り切る。
「だろ! あ、あの草はちょいと苦いが食べられるぞ」
「ふふ、そうなのか」
 喩嘉の長衣が裾さえも汚れぬよう、細心の注意をさり気なく払いながら、幸児は馴染みが見える度に声を上げ、指し示す。
「おっと、あっちの枝には棘があるから気を付けてくれな」
「ああ、ありがとう」
 幸児の密な報せに、喩嘉も都度、是の応えを送る。
 どれもこれも、山歩きを堪能する豆知識だ。が、聞き逃せない警鐘に喩嘉の眦がピクリと上がる。
「お、あそこに熊の爪痕があるっ」
「――獣はいいが、虫がいたら近付く前に教えてくれ」
 ジャコウアゲハのインセクティアとなった喩嘉ではあるが、潔癖症に近い程の綺麗好きで、虫を嫌っているのは周知の事実。もちろんそのことを幸児もよくよく知っているので、先ほどから虫だけは念入りに気をつけているのだが、それは言わぬが花である。
「任せとけ――ほら」
 喩嘉に悟られないよう緑に紛れた虫を追いやった幸児は、そこで振り返り、手を差し出す。
「ちょっと急だから」
 事実、樹の根が大きく隆起した斜面だ。だがどちらかと言えば、遠ざけたばかりの虫との邂逅を回避するための心遣いに、そうとは知らぬまま喩嘉はすんなりと手を重ねる。
「気を付けて――っ、わ」
 伸びる葉先から滴る水にも喩嘉が濡れぬよう、幸児は気を遣った。逆を返せば、自分のことは無頓着になるのは必然。
 知らぬ間に、低く張り出した枝に幸児の角が触れていた。途端、幸児は水冠を被ることになる。
 いかにもな山の洗礼に、ぶるぶると頭を振って笑う幸児の髪へ、今度は喩嘉が手拭いを伸べた。
「まったく、俺ばかり気にしているからだ」
「ありがとう」
 飛ばし損ねた滴を拭われる感触に、幸児は目を細める。
「やっぱり山は気持ちがいいなあ」
 雨上がりの特有の、瑞々しい匂いを幸児は胸一杯に吸い込む。そうすると内側まで新鮮な命に満たされるよう。
「喩嘉も山に元気をもらっておくといい」
「そうさせてもらう」
 文字通りの弾ける笑顔を目の当たりに、喩嘉も幸児に深呼吸を倣った。
 元より家にこもりがちな喩嘉にとっては、未開の自然そのものが目新しい。
「いい匂いだ……気持ちがいいな」
「だろ!」
 水気を多分に含んだ空気の複雑な香りを、喩嘉は嗅覚で楽しみ、まるで我が事のように誇らしげな幸児には視覚を嬉しむ。
 それは、一人ではなく、二人で来たからこその充足感。
 雨の合間の一時を、幸児と喩嘉は心ゆくまで共に感受する。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【防衛ライン】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV2が発生!

湯上・雪華
絡み、アドリブ等完全受け入れ

ハイキングですね
前はみんなとでしたし、今回は一人で行きましょうか
春の景色を眺めるのもまた楽しみですもんね

穏やかな山も季節が変われば表情を変えるともいいますからね……
春の表情は穏やかなんですね
お堂を壊すときは環境破壊にならないように気をつけないと
自然を壊すともとに戻るまで時間がかかると言いますから
正史に戻るとしてもまだですからね、ここでの暮らしがあるからこその配慮を、です


冰室・冷桜
お仕事とはいえ、こうやってのんびりできるのも悪くはねーわね
のんびりして終わりといかんところが辛いところではありますが

雨に降られてる間はあれですが、風景や風情を楽しむ分には雨も乙なもんですなー
山道を登りながら道中の景色や雫を垂らす草花をスマホのカメラでぱしゃり
こゆー楽しみな役得も偶にはあっていいでしょ

お。イイ感じの日差し……で、シャッターチャンス、と
滴の中に見つけた虹をカメラに収めたことに少しばかり上機嫌になりながら、山を登っていきましょう


水蓮寺・颯
真言宗として、やはり高野山を登るとなると心踊りますね!
あ、えっと、目的は忘れてませんよ、大丈夫です……!

結界を解き、敬愛する弘法大師様に代わって座す天海なる方がどういう者なのか……この目で見定めなくては。

忘れてはいない、いないが……いざ紀伊山地に降り立てばすっかりその風景の虜に。
あっちへうろうろ、こっちへふらふら、蛇行しながら危なっかしい足取りで踏み固められた山道を進んでいく。

これがかの有名な参詣道…!
真っ直ぐ伸びる檜と苔むした石畳
……弘法大師様もここを歩いたんでしょうか…!

――帰命頂礼遍照尊……。
檜に切り取られた空を仰ぎ、弘法大師和讃を諳んじながら思いを馳せて。


(アドリブ・絡み 歓迎です)


文月・雪人
※アドリブ連携大歓迎

八葉の峰の結界か
蓮華座の上の浄土に見立てた立地であると聞いた事はあるけれど
その結界の中に何が在るのか、益々気になる所だね

さて、戦国の地の山登りも何度目か
クダ吉と一緒にお喋りしながら
ゆるゆるっとマイペースに登っていくよ

清らかな山の空気を感じながらの深呼吸
成程、晴れた日の景色もいいけれど
露置く緑もまた綺麗なものだね
映りこむ景色に虹を探して…
そうだ、スマホで写真も撮っておこうか
帰ったら友達にも見せたいしね

そしてお待ちかねのもぐもぐタイム!
今日のお弁当はおにぎりと、蓮根のはさみ揚げだよ
はいはい、クダ吉の分もあるからね
水筒のお茶は魔法みたいに冷たくて
これぞ魔法瓶、文明の利器様様だよ♪


ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に

霊峰、か。仏教の聖地というだけあって、神秘的でわくわくするね!
ふふ、冒険者としても心躍るかんじだし

松永が向かおうとしたお山であり天海が構える地
ここまで守りの厚いところ、何が秘められているのやら

そんな心象も景観を見れば山の天気めいて様変わり
滴を通し幻想の高野山を見れば、進む足取りも踊るようで
ヒールの長さだけに天狗になった気分

足元にだけは気を付けないとだね
心配性かもだけど、転ぶ人が出ないよう気を配っておきませんと
おっと、大丈夫?

雨間に見える空
広がる風景はまるで僕たちを受け入れるように見え
諸行無常……しゃんとしないとね
クロノヴェーダから再び人類の手へ取り戻せるように
気を引き締める


●高野を目指し
 滴を結んだ葉は、陽光を受けて眩しく輝く。
 初夏は山が最も艶めく時期だ。漂う香りに鼻を鳴らすだけで、体の内側までもが洗われる心地を味わえる。
「この景色を眺められるのもまた、楽しみですもんね」
 荒事の前の穏やかな一時。
 湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)は自然と親しむ山歩きに、青白い肌をほのかに華やげる。

 水蓮寺・颯(灼がて白く・g08972)にとって、未開の高野山を登りゆくのは二度目のことだ。
 とはいえ、颯は真言宗の行者。幾度目だろうと、心は躍り、足も弾む。
(「ここが参詣道になるのかもしれません……!」)
 高野参詣道といえば、最終人類史にも名高い聖地への路だ。今はただの野山とはいえ、“いずれ”の可能性は誰にも否定できないし、捨てられもしない。
(「もしかすると弘法大師様もここを歩まれたりされたのでしょうか……っ!!」)
 膨らむ想像に、颯の足は、あっちへうろうろ、こっちへうろうろと蛇行してしまう。これで一応、何が目的で山を登っているかは覚えているのだが、本能的な感動は、容易く理性を凌駕するのだ。
「何て立派な檜でしょう。この大きさなら、お堂の建材としても十分――っ、は」
 ふらら、ふららとしていても、颯なりに足元には気をつけていたつもりだ。しかし雨上がりの山道は、おそろしく滑る。
 なれどぬかるみに足を取られた颯が、転ぶことはなかった。
「おっと、大丈夫?」
「まあ! ロキシアさん」
 あわやの惨事から救われた颯は、振り返って見た顔に驚きを口にする。颯が転ばぬよう支えてくれたのは、先ごろ戦いを共にしたロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)だったのだ。
「ありがとうございます」
「ううん、僕も気持ちは分かるから」
 十九の颯に対し、ロキシアは十一。齢は颯が上だが、クラシカルなゴシックワンピースを着こなす少年は、ヒルコである颯よりも十分に上背があり、頼もしい。
「仏教の聖地というだけあって、神秘的でわくわくするよね!」
 恐縮しきりの颯へ、ロキシアは真夏の太陽のように笑む。
 ただのハイキングとしても十分に楽しい時間だ。けれど、この地は松永久秀が向かおうとした御山であり、彼の天海が構える地。
(「ここまで守りの厚いとくれば、――」)
 くふりと喉を鳴らしたい気分を静かなる闘志へ切り替え、ロキシアは颯を危うげない地へ誘うと、洒落たヒールで柔らかな大地を深く穿つ。
「この霊峰に、いったい何が秘められているのやら」
 天狗も斯くやの高い踵でロキシアは一帯を一望する。
 先ほどまではただ目新しいばかりであったが、意識した邂逅に、景観は山の天気のように一変していた。
「さあ、頂上を目指して頑張ろう!」
 転がり落ちる滴に視得た逆さ山を丸呑みする気色で、ロキシアはリズミカルに歩を進める。

 雨に降られるのは、決して好ましくはない。
 衣服や髪が濡れるのが嫌なのは勿論だが、冰室・冷桜(ヒートビート・g00730)の場合は眼鏡に水滴がつくのが邪魔なのだ。
 されど、合間ならば話は変わる。ぽとりと落ちてきた雫が目端を虹色に煌めかす風情に、冷桜はくふりと含み笑った。
「こーゆー楽しみ方なら、雨も乙なもんですなー」
 仕事とはいえ、こうやってのんびり過ごせるのは悪くない――のんびりで終わってくれないのは、正直残念極まりない。だからといって、先を憂いて今を楽しまないのは損だ。
「たまにはこーゆー役得があっていいでしょ」
 現役の中学生らしいアグレッシブさで冷桜はスマートフォンを構えると、灰色の都会にはない緑の景色や、名も知らぬ花、そして細い葉先を縁どる滴にカメラのフォーカスを当てると、カシャリと軽快な電子音を響かせる。
 と、その時。雲間から差した陽光に、冷桜は「お」と声を跳ねさせると、大きな葉へ歩み寄った。
 昔語りで傘にも用いられそうな葉の上には、幾つもの滴がころころと結んでいる。それらを冷桜はひとつひとつ見分すると、見つけた一粒に口角を上げる。
「シャッターチャンス、いただき……よし!」
 息で滴を震わせないよう留意して、見定めた角度でシャッターを切った。そうして閉じ込めた一瞬には、虹を抱いた滴が輝いている。
「綺麗な写真だね」
 すかさず覗き込んできた文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)に、冷桜は「でしょー」と自慢げに手元を拡大してみせた。
「すごいね。クダ吉もそう思うだろう?」
 感嘆を洩らしつつ、雪人は山道のツレでもあるクダギツネへ同意を求める。
 雪人もまた、友人たちへの土産がてら虹を探してスマートフォンを片手に山を登っていたのだ。
「よかったら、写真みせてもらえる?」
「俺のかい? どうぞ」
 興味深げな冷桜に、雪人もアルバムを開いてみせる。
 戦国の地の山登りは幾度目かになる雪人の写真も、なかなかのものだ。とは言え、アプリケーション知識は冷桜に軍配があがる。
「帰ったらこっちのアプリ入れるといいかも。盛れるエフェクトもあるし、倍率が選べるのがおススメ」
「へえ、そうなんだ」
 平安生まれでありながら、すっかり現代に馴染んだ雪人は、冷桜に見せられたアイコンを記憶に焼き付けながら、改めて清らかな山の空気を肺に満たす。
 そうすると、露置く緑の美しさが身に沁みる。確かにこれは、青天の下では出会えぬ景色だ。
 そして目を楽しませたら、次は腹を満たす番である。
「お弁当、作って来たんだ。よかったら食べるかい?」
 とっておきの一枚を見せてくれたことと、おススメのお礼に雪人は冷桜を誘い、
「え、いいの?」
「もちろん。良かったら、そっちの二人もどうぞー」
 ついでとばかりに、追いついてきたロキシアと颯もランチに手招く。

「冷たいお茶、生き返るわー」
「だよね。文明の利器様様だよ♪」
 魔法瓶から注いだ茶に喉を潤す冷桜に、雪人は得心を頷きながら、蓮根のはさみ揚げをクダ吉の口元へと運ぶ。
「僕たちもご相伴に与って良かったのでしょうか」
「山登りには適宜、補給が大事だからね」
 申し訳なさげな颯へ雪人は笑みかけ、彼女の装具に目を留める。
 長い数珠に、五条袈裟。いずれもこれから先を暗示するものだ。
「八葉の峰の結界か……」
 蓮華座の上の浄土に見立てた立地であるのは、既知の事実。
「結界の中に何が在るのか、気になる所だね」
「ですよね」
 是を頷く颯の気持ちは早くも、クロノヴェーダらの謀へ飛ぶ。
(「結界を解き、敬愛する弘法大師様に代わって座す天海なる方がどういう者なのか……この目で見定めなくては」)
「――帰命頂礼遍照尊……」
「諸行無常って言うんだっけ? しゃんとしないとね」
 瞳を閉じ、暫し手を合わせ。弘法大師和讃を諳んじる颯を横目に、雪人手製のお弁当に舌鼓を打っていたロキシアも気を引き締める。
 雨間に見える空も、刹那の陽射しに輝きを増したかに見える山も。まるでディアボロス達の到来を待ち侘びるようであった。

 休憩中と思しき賑わいを木々の向こうに、雪華は堅実に歩みを進めてゆく。
 お伊勢参りの時は、旅団の皆と一緒であったが、今日の道中は『ひとり』の気分であったのだ。
 でも、だからこそ。聞える声と景色に、雪華は山の穏やかさをしみじみと感じ入る。
 季節の移ろいに合わせ、時に人を拒み、時に人を歓待するのが山というものだ。
 その山も、一朝一夕では成らない。緑豊かに育つには、相応の時間を要する。
「お堂を壊すときは、環境破壊にならないよう気を付けないといけないね」
 もしも天正大戦国の奪還が叶えば――必ず成し遂げると思ってはいるが――、ここでの全ては露と消える儚い泡沫だ。なれど現在進行形で此処には此処での暮らしがあり、だからこその配慮が必要だと雪華は思っている。
 それはもしかすると、死に戻った雪華だからこそ強く感じる、再生の困難さかもしれないが。
 緩く波打つ髪に遊ぶ滴を指で梳き落し、雪華は金色の眼で空を仰ぐ。
 今は和やかに凪ぐ雲は、隠し切れない不穏を孕み一面を覆っていた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【防衛ライン】がLV5になった!
【液体錬成】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV3が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!

咲樂・祇伐
🌸樂祇

足場が……わわっ!
転びそうな所を冷たい手に掴まれて
ありがとう、お兄様
お兄様が手を結んで歩いてくれるから大丈夫と安堵する
草木のささめきも香りだって、あなたが笑うから
より美しく感じるの

葉の上にのってる雫は、天から降りてきた四季の宝石みたい
映る彩は、巡りくる夏かしら
私もよ、お兄様
こんなにも美しい世界を守りた……ひゃ!
零れた雫に頬を濡らせばあなたが優しく拭き取ってくれる
近くなる距離にドキリとする間もなく
お、お兄様っー!
悪戯に降るのは、宝石の如き雫雨

もうっ…あ、
虹です!綺麗な──
遊ぶように零れる雫の中の七彩に歓声をあげれば──さかしまに映った、あなたの優しい表情に

高鳴る胸の鼓動に知らんぷりをする


咲樂・神樂
⚰️樂祇

祇伐、足元に気をつけて

かぁいい君の手を握り歩むから、雨雫に濡れる若葉に
萌える緑も一層に美しく感じるのかしら
湿った土の香りも
さかさまの世界を映す葉の上の雫もこれから芽吹く季節を感じるわ
祇伐と共にいきる四季

あら、素敵なことを言うわね
小さな世界の欠片みたい
こういうふうに、雫をまじまじ見た事はなかったけど……また世界の美しいものを見つけた

ぴちゃりと妹の頬を濡らした雫を拭き取ってあげる
つやつやと、桜の厄彩が漂う角も美しくて

そうだ、と
木々を揺らして雫を降らせてやるわ!
ほら、雫雨!雫の中に虹のひとつだってこうしたら
見つかるかも、なんて思って

みつけた?
私も見つけた
虹ではなくて
晴れ時に咲く、愛しい笑顔を


●君と知る世界
 するりと葉の上を滑った滴が、先端で躊躇うのは一瞬の出来事だ。
 けれどその眩い一瞬に気を取られていた咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)は、不意の覚束なさに短く声を上げる。
「……わ、わわっ」
 もっと間近で見ようと、無意識に進めた歩が、ぬかるみを踏んだのだ。けれど祇伐が大きくバランスを崩すより早く、体温に乏しい手が華奢な腕を掴んで支える。
「ん、もう。気持ちは分かるけど、足元には気をつけてちょうだいな?」
 腕を放し、こつんと額を小突く咲樂・神樂(離一匁・g03059)へ、祇伐は花咲くように笑む。
「ありがとう、お兄様」
 自分の不用意を悔いる気持ちが、祇伐の中にないではないのだ。
 だが可愛らしいお仕置きの後、結ばれた手にどうしたって祇伐は安堵してしまうし、歓びを覚えてしまう。
 そも、草木のささめきも、緑の香りも。傍らで神樂が笑ってくれているから、祇伐はよりいっそう美しいと感じられるのだ。
「見て、お兄様!」
「ちょっ、祇伐」
 促した端から手を引く祇伐に、神樂は声を閊えさせる。けれど祇伐が指差した先、大振りの葉にころころ実った滴に目を見張った。
「ねえお兄様。雫って、天から降りてきた四季の宝石みたいね」
 映す彩は夏かしら、と続く祇伐の言葉を終いまで待たず、神樂は深く是を頷く。
「祇伐ったら、いいことを言うわね。成る程、祇伐と共に生きる四季――ええ、素敵。とても素敵!」
(「かぁいい君の手を握り歩むから、雨雫に濡れる若葉も、萌える緑も、いっそう美しく感じるのね……」)
 温かな熱を指に絡めたままで、神樂はそっと腰を折る。
 鼻先を擽る、湿った土の匂い。そして葉上には天地をさかさに映す雫。いずれも芽吹きの季節を感じさせる、命の予兆。
「小さな世界の欠片みたいね」
 確かにこれはかけがえのない宝石だ。今まで気に留めることもなかった雫から受ける感銘に、神樂はまたひとつ扉を開いた心地を味わう。
「祇伐のおかげで、また世界の美しいものをみつけられたわ」
 ――ありがとう。
 繋ぐつもりの神樂の謝意を、今度は祇伐が遮る番。
「私もよ、お兄様。こんなにも美しい世界はきっと守り……ひゃ!」
 尊き志の交感の場面だ。が、またも祇伐は皆まで言えず。そして神樂は、祇伐の頬へ悪戯を仕掛けた滴に逢魔が時の空色を細めた。
「本当に目が離せないわね」
 触れた途端、熱を増した気がする祇伐の頬を、神樂は柔らかく握り込んだ袖で拭う。
 その近さに祇伐の胸は高鳴る――も、祇伐のつやめく花珀の角が映した景に、神樂は閃いてしまう。
「……お兄、様?」
「えい!」
 ぴたりと動きを止めた神樂に、祇伐が疑問を瞬いた直後。神樂は頬に触れていた手を高く伸ばし、頭上の木枝をばさりと揺らす。
 たっぷりと雨を受けた後の木枝だ。当然、跳ねる滴は無数。それこそ雨のように、降って、降る。
「祇伐、雫雨よ! よく見てご覧なさい、虹がみつかるかもしれないわよ」
「もうっ、お兄様ったら――ぁ、」
 神樂の企みは、半ば冗句の延長線だ。でも数の多さは奇跡をもたらす。
「見つけた?」
「はい、……綺麗、な」
 目を円くしたかと思えば、貌を蕩けさせた祇伐の様子に、神樂は思い付きが功を奏したことを知り、「私もよ」と囁くように言う。
 しかし神樂が魅入られたのは、滴の中の虹ではなくて、世界の何より輝かしい祇伐の笑顔。
 そして祇伐が見つけたのも、ただの虹ではなかった。
(「――」)
 とくん。
 先ほどよりも大きく感じる鼓動に、祇伐はさらに頬を赤らめる。だって虹と一緒に、滴の中に神樂の笑顔を見てしまったのだ。
 逆さであっても、神樂の貌には優しさに溢れていて。それが他でもない祇伐だけに向けられていうのだから――。
(「お兄様……」)
「ひどいです、お兄様ったら!」
 勝手に走りたがる胸の裡を、祇伐は雫雨を降らせ返すのに紛らせ、知らんぷりを決め込む。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV1が発生!
【神速反応】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【命中アップ】がLV3になった!

朔・璃央
双子の妹のレオ(g01286)と

山登りなんて何年ぶりだろうね
新宿島に来てからは初めてになるのかな
冷えるだろうから気を付けていこうね

雨で濡れた草木の独特な香りを大きく吸い込んで
月並みだけれどやっぱり空気が美味しいよね
自然に囲まれてるっていうのも勿論だけれど
そもそもまだ車もない時代だものね
見下ろす風景も今じゃ見れないものばっかりだ

幾らか山道にも慣れてきて
ふと思い出した滴の話
折角だから見てみようと頷き合って
逆さの世界に感嘆の声を漏らしてみたり
虹なんて見れたら最高だね

写真に残しちゃうのは野暮かなぁ
こうして見て、触れて、体験して
そうしてお互いの記憶に残しておくのが一番だよね


朔・麗央
双子の兄リオちゃん(g00493)と

確かに新宿島は都会の中の都会だもんね
都会の中の新緑も美しいけど
やっぱり自然の中の緑はすっごくいいね
リオちゃんも気をつけて行こうね

プラシーボというか気のせいかもだけど
なんとなくやっぱり霊験あらたかな感じがするなぁ
なんて呑気に深呼吸
肺いっぱいに新緑の中の空気を吸い込んだらなんだか気持ち良い

兄に釣られる様に見下ろせば
生まれ育った時代のものとは別の
人工物があまり見えない景色に感心

露に濡れた草木を眺めていたところに滴の話
うんうん、虹が見れたら最高だな
見れたらいいな、なんて感想を述べながら
逆さまの世界に魅入っちゃう

そうだね
写真よりもちゃんと脳裏に焼き付けておきたいよね


●一期一会
「ひゃっ」
 傍らで双生の妹――朔・麗央(瑞鏡・g01286)が発した上擦った声に、朔・璃央(昊鏡・g00493)は声をしのばせて笑う。
 悪戯な梢が滴を降らせたのだろう。「びっくりした」と言いつつも、首筋を払う麗央の目元は弛んでいる。
 とはいえ、五月の山中にはひんやりとした空気が漂う。緑が多いせいか、それとも時代のせいかは区別はつかないが、新宿島と比べると気温が低く感じる。
「レオ、寒くない?」
「ううん、ぜんぜん。大丈夫だよ」
 いつだって顔を出す妹の身を案じる兄心に、だが振り向いた麗央はやはり楽しそうだ。
「都会の中の新緑も美しいけど、やっぱり自然の中の緑はすっごくいいね」
 笑う麗央が、うんっと背伸びをして手近な枝を軽く揺する。途端、パラパラと降り出した滴の雨が、璃央にも注ぐ。
 感触はやはり冷たい。しかし確かに寒くはなかった。むしろ滴が落ちたところから、じんわり温かくなっていく気さえする。
「山登りなんて何年ぶりだろうね。新宿島に来てからは初めてになるよね?」
 自然の包容力に不可思議な感慨を覚えながら璃央が尋ねると、麗央から「そうだね」と短い応えが返された。
 ――新宿島に来てから。
 その言葉に、兄妹揃って同じ光景を脳裏に描いたのだろう。
 押し寄せて来るのは感傷に似た何か。けれどいつか必ず跳ね返すし、取り戻すと決めているから、璃央は意識を緑の山へ戻し、両腕と背の翼を広げた。
 身体を開いて、肺の中身を入れ替える。所謂、深呼吸だ。
「月並みだけれど、やっぱり空気が美味し――」
 雨に濡れた草木の独特な香りも楽しんでいた璃央の背に、唐突に大量の雨が降る。畳もうとした翼が、滴をふんだんに結んでいた枝にひっかかったのだ。
「リオちゃんこそ、気をつけてね」
 珍しい兄のしくじりに、妹は声を弾けさせて笑い、幾らか視界が開けた斜面へ足を向ける。
 濡れたのは翼ばかりだ。数度の羽搏きで乾くだろう。その様子に、ぶるぶると身を震わせて水を飛ばす犬たちの仕草を彷彿してしまうかもしれないが。
「でも、ここの空気は気持ちいいよね。あとなんとなく霊験あらたかな感じがする」
 プラシーボ効果か、はたまたここが高野山という思い込みのせいかもしれないが――と、前置いた麗央も深呼吸で肺一杯に瑞々しい酸素を取り込む。
「自然に囲まれてるっていうのも勿論だけれど、そもそもまだ車もない時代だものね」
 一度、二度、と。かつては持ち得なかった白翼を薄い晴れ間の陽射しに晒した璃央は、麗央と並んで眼下を見遣る。
 何もない。いや、全く何もないわけではないが、ほとんど緑ばかりだ。点在する集落も、灰色の都会からは程遠く、違和感なく自然と一体化している。
「なんだか全然違うね」
 兄に釣られて見晴るかした麗央も、生まれ育った時代との乖離に目を円くし、感嘆を零す。
 けれどもっと驚き、感動できるものは身近にあった。
「レオ」
「どうしたの、リオちゃん――わあ!」
 自分の右側から、左側へ「おいでおいで」と手招く兄に従い、立ち位置を変えた妹は、璃央の足元から伸びた大きな草葉が乗せた滴に、頬を紅潮させる。
「リオちゃんが逆さまに見える!」
 麗央がそろりとしゃがみこむと、璃央もゆっくりと膝を折って目線の高さを揃えた。
「こっちからはレオが逆さまに見えるよ」
 逆さまに見えるのは、互いの姿だけではない。空も、地面も、名も知らぬ花までもが小さな滴に逆さに抱かれている。
「綺麗だね」
「そうだね……っ、て。リオちゃん、こっちこっち」
 感動を分かち合う妹の声が途中から内緒話の音量になったのは、僅かの振動も滴に与えたくなかったからだ。何だろう、と促されるままそろりと璃央の真後ろへと移動した璃央は、すぐに麗央の高揚の意味を知る。
「虹だね」
「そう、虹」
 双生たちは揃って声をひそめ、見つけた奇跡にじっと見入った。
 翠玉と淡紅の眸を介し、璃央と麗央は初夏の美しさを脳裏に焼き付ける。
 写真には敢えて残さない。だってこの瞬間を、語らうべき二人で共有しているから。そして見せたい誰かを取り戻したなら、一緒に山に登れば良いのだ――。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
【飛翔】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!

三苫・麻緒
莱くん(g04625)と

暴れる前に山登りターイムッ!やっぱ気分上がるね!
普段は莱くんに教えることが多いけれど、こういう山道に関しては莱くんの方が実は慣れているんだよね
…ふふ、私の心配なんかしちゃってさ
後ろにいるから尻尾が揺れちゃっているの、見えてるよー?
元居た場所と何か似たようなものを感じてるのかな?
けだまは相変わらずお転婆さんだね

それにしても、ここはクロノヴェーダにはもったいないね
空気はおいしいし緑は鮮やか
世界が逆さまに映っているのもおもしろーい
…土砂降りみたいな嫌なことがあっても、こういう景色が待っているなら踏ん張れるよね
なんて、あ、中に虹発見!
スマホで撮って、帰ったらみんなに見せようっ!


葉古森・莱
麻緒さん(g01206)と参加

空気が違うのは多分結界のせいじゃなくて、元々こういう場所なんだろうね
新宿島みたいな整備はされていない道な上にぬかるんでいるから少しあぶないかも
ぼくは山道に慣れているけど、麻緒さんは足元気をつけてね
…うぅ、せいいっぱいの背伸びくらい許してよぉ…!
あっ、けだま、葉っぱに突撃したらずぶ濡れに…なっちゃったね…

それにしても、本当に自然が豊かな場所だね…
この雨が降った後の独特な匂いもひさしぶりな気がする
見上げたら日差しを受けた露できらきらな光景が目いっぱいに
…進めばこの先にこわいことはある
でも、やっぱりこの景色を取り返したいよ
ふぇっ、麻緒さん、それぼくも見たい!どこぉ!?


●背伸びの季節
 空気がめちゃくちゃ気持ちいい。少しひんやりしているのも最高だ。
「暴れる前に山登りターイムッ! やっぱ気分上がるね!」
 「やっほー!」と隣の峰へ叫びたい気持ちをぐっと堪えた――クロノヴェーダに存在を気付かれてしまう可能性があるからだ――三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)は、四肢をうんと伸ばして瑞々しい緑の気配を全身で感受する。
 けれど途端に前から放られたのは、注意喚起の声。
「麻緒さん、ここは新宿島みたいに整備されてない道な上に、ぬかるんでるから足元には気を付けてね」
 割合としては、戒めが1.0で、心配が8.5。残る0.5に“がんばり”を感じた麻緒は、「はーい」と右手挙手で是を唱えた。
 すると安心したとおぼしき葉古森・莱(迷わし鳥・g04625)は、また前を向いて、えっちらおっちらと麻緒の前を進んで往く。
 日頃は、時を超え新宿島に流れ着いた妖狐の少年へ、麻緒が教えることが多い。しかし都会から遠く離れた自然には、麻緒より莱の方が慣れている。つまり年下の少年の言いつけを守ることは、麻緒にとって吝かではない。
 ――の、だが。
(「……ふふ、私の心配なんかしちゃってさ」)
 くるん、くるん。どれだけ顔は真面目にしていても、莱の見事な毛並の尻尾は、先ほどからご機嫌に踊っている。
 もしかすると、原野に等しい景色が、莱にとっては懐かしいものなのかもしれない。と、推察はすれど、可愛らしいものは可愛らしい。
「――」
「なぁに、麻緒さん」
「……なんでもないよー?」
「……うぅせいいっぱいの背伸びくらい許してよぉ……!」
 懸命に誤魔化したつもりの麻緒だったが、漏れたしのび笑いは莱まで届いてしまったようだ。今度は頬を膨らませて振り返った莱に、麻緒はついに吹き出す。
「ごめんごめん、あははは、ごめんって」
「それもあやまってるのか、笑ってるのかわかんないよっ……って、けだま、けだま、葉っぱに突撃しちゃだめだって――」
 拗ねて手に力が入ったのかもしれない。それまで大人しく莱に抱かれていたモーラット・コミュがぽんっと飛び出したかと思うと、茂みへダイブするまでは一瞬だった。
「……あー……」
「あはは、けだまは相変わらずお転婆さんだね」
 けだまの名の通り、元々が莱に負けず劣らずなもふもふのモーラット・コミュだ。飾る藤まで濡れそぼり、ちょっぴりサイズダウンした姿に、ついに麻緒は腹を抱える。
 そうして笑い尽くすこと一頻り。許された解放感が、じんわりと心に染む。
「ここはクロノヴェーダにはもったいないね」
 緑の鮮やかさは勿論、食欲を刺激しそうな空気の美味しさに麻緒が目を細めると、腕に戻したけだまの滴をおおよそ拭った莱も、ことさらゆっくりと言葉を舌に乗せる。
「……進めばこの先にこわいことはある。でも、やっぱり。この景色を取り返したいよ」
 豊かな自然も、久々に嗅いだ雨上がりの匂いも。
 雲間から射す陽光に、露をきらきらさせる光景も。
 何一つ譲れないものを目の当たりに、莱は唇をきゅっと噛む。その莱の、成長途中の拳がぎゅっと握り締められたことに気付いた麻緒は、意図的に声を華やげた。
「見て見て、莱くん。滴に世界が逆さまに映ってるのおもしろいよー」
 怖いもの知らずの自分と違い――麻緒は『恐怖心』を失くしてしまったから――、莱には気負うものがあるのだろう。
「土砂降りみたいな嫌なことがあっても、こういう景色が待っているなら、いつだって踏ん張れるよね」
 だから今日の麻緒はいつもよりお姉さんの顔をして、莱の気持ちを解きほぐすのだ。何割かは、本気で楽しんでいるのも本当だけれど。
「あ、虹発見!!」
「ふぇっ、どこどこぉ!? 麻緒さん、それぼくも見たい!!」
「こっち、こっち。葉っぱを揺らさないよう、気を付けてね」
「わ、あ!」
 鼻先に奇跡を見つめ、青い瞳を大きく瞠る莱に、麻緒は今度こそ悟られないよう内心だけで笑み、それから満を持した仕草でスマートフォンを取り出す。
「ね、せっかくだし撮って帰ろう。そしてみんなにも見せちゃおう!」
「いいね、いいね。あ、麻緒さん。こっちにも虹があったよ」
 命の気配の濃い緑の中で、笑い合い、戯れる。そうして心を山へ根差し、崩すべき一角を、麻緒と莱は未来に見据える。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【フライトドローン】がLV2になった!
【トラップ生成】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV4になった!
【ガードアップ】がLV2になった!

永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)

土や草木の香りも、色も、
雨上がりはいっそう濃く深く鮮やか

視界の端で跳ねる蛙につられて
ぴょんと水溜りを飛び超えてみれば
着地であわや
泥濘に滑りかけ

わ、

転ばぬように咄嗟に掴んだ木から
今度は雫がどさっと

目を瞬き
耐えきれず吹き出して
濡れ鼠ならぬ濡れ狐になった頭を
わんこみたいにふるふる振りながら水滴を払う
飛沫く雫も陽にキラキラ
タオルの温かさと擽ったさに笑み綻ぶ

囀りを耳に頭上を見遣れば
樹々に囲まれた青空を羽搏く鳥影が横切って
まるで絵画のよう

山の大気を胸いっぱいに深呼吸
もう幾度目か
身の裡から清められていくかのようで
思考もすっきり晴れていく

吉兆の彩雲を目に鮮やかに映し
えぇ
参りましょう


ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)

空が高く感じる
流れる雲を目で追った先、霧と緑の切間
復興最中の村々が遠く望めるようだ
暫し足を止め物思いに耽っていたら
彼が足を滑らせたところ
あっ……
夏の風物詩わんこスプリンクラーだ!
とは、彼のプライドの為にも内心はしゃぐだけだけれど
つい笑ってはしまうよね
大丈夫?
なにか面白いものを見つけたかな
ばっさり、わしゃわしゃ、タオルを被せてやって

澄んだ空気は美味しくて
実際、惹かれるものが沢山あるから仕方ないのかも
雨滴は葉や花の色が映る天然の宝石
ふふ
空にもステキがあるよ
ほらと促す先に彩雲がぷかり
縁起がいいんだってさ
赴く戦いに、天からも背を押してもらえる心地がする
さて、もう少し
行こうか


●吉兆
 雨上がりの山は、古書店に通じるものがある気がする。
 独特な土や草木の濃い香りは、紙とインクの匂い。艶めく緑は、日に焼けた背表紙の色。
 出逢った瞬間は目新しく新鮮でありながら、どうしてだか懐かしさも運んでくる。その懐かしさにあてられたのか、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は視界の端でうずくまっている蛙に童心を擽られた。
 なめらかな緑の肌は、暫く前まで降っていただろう雨に、つやつやと耀いている。きょろきょろと忙しなく動く眼は、タイミングを計っている証拠だ。
 そして――。
「、わ」
 蛙が跳ねた動きに合わせ、つい水たまりを飛び越えたヤコウは、短い聲を喉から発す。
 手本にした蛙は上手に着地したのに、身体の大きなヤコウはぬかるみに足を取られたのだ。
「――、く」
 慌てて尻尾でバランスを取ろうとするも、一族らしい九ではなく、たった一のそれでは微妙に目的は叶わず。むしろ後ろに大きく傾ぎかけたヤコウは、反射的に適当な木枝へ手を伸ばす。
「……あ」
 掴んで、転倒を回避できたところまでは良かった。けれど、雨上がりである。大いに茂った木の葉が抱えた滴は、数知れず。
 気付けばヤコウは局所的に降った大雨に、濡れ鼠ならぬ濡れ狐になっていた。
「――は、はは」
 こうなってしまえば、もう笑うしかない。然して盛大に吹き出したヤコウは、全身をぶるぶると震わせた。

 ――空が高く感じる。
 ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は掲げた右手の指と指の間に流れゆく雲を見た。
 速さはそれなりにあるのだろう。追いかけるうちに視線は、山裾へと攫われる。そうして霧と緑の切れ間に、ラヴィデは眼差しを遠くした。
 どこまでも澄み渡る晴れ日和なら、復興に活気づく村々をも望めたかもしれない。
(「ううん、大丈夫。視得なくても、きっとみんな頑張っている」)
 縁を結んだ人々の顔を思い出すと、ラヴィデの口角は自然と上がる。そんな時だ、少し前を歩くヤコウが足を滑らせたのは。
「あっ……」
 咄嗟に、天に伸べていた手を前へと突き出す。だが届かず、ラヴィデの掌は宙を掴んだ。
 しまった――とは思わなかった。というより、思うより早く、目にした予想外の景色に、ラヴィデはぐっと腹筋に力を入れた。
(「あ、あれはっ! 夏の風物詩わんこスプリンクラーだ!」)
 全身を使って滴を払うヤコウの仕草は、どこからどう見ても犬たちのそれだ。とは言え、口にしてしまえばヤコウの――狐もイヌ科であるとはいえ――プライドに障るのは必定。
 だからはしゃぐ心地は必死に内心に留め、ラヴィデは荷物の中からふわふわタオルを取り出した。
「ほら、ちゃんと拭かないと」
「あはは、ありがとうございます」
 タオルを頭から被せられた途端、柔らかな手つきでわしゃわしゃともみくちゃにされ、ヤコウはますます笑い声を高らかにする。失態をラヴィデに目撃された恥ずかしさが無いではないが、そのラヴィデの口調も笑っているし、包まれたタオルの温かさと擽ったさが堪らないのだ。
 いつもよりヤコウは幼く見える。が、それも当然のことだとラヴィデも納得する。
 澄んだ空気は美味しいし、枝先や葉の上に実った滴は、空や花を映して天然の宝石も斯くやと輝く。
 先ほどヤコウが四方に散らした滴なぞ、ラヴィデの目にも金剛石の欠片のように映ったもののだ。
 しかも惹かれるものは地上だけに留まらない。
「ほら、空にもステキがあるよ」
「……わ、あ」
 ラヴィデの視線を追ったヤコウは、紫の目を丸め、言葉を失う。
 木々の囲いを額縁に、切り取られた空に囀る鳥が飛び。さらにその向こうには、虹色に色付く美しい雲があった。
「彩雲だよ。縁起がいいんだってさ」
 絵画めく景色と、耳元に落とされたラヴィデの聲と。胸を満たすに余りあるそれらにヤコウはほろりと息を吐き、空いた肺の隙間に山の大気をめいっぱいに詰め込む。
 そうすると、身の裡から清められるようで。覚えのある感覚に、ヤコウの思考までもが晴れ渡る。
「さて、行こうか」
 赴く戦に、天からも背を押された気分でラヴィデが促すと、ヤコウは目元も涼やかに是を頷く。
「えぇ、参りましょう」

 ラヴィデとヤコウ、今度は並んで歩き出す。
 目指す高みまではもう少し。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV3になった!
【防衛ライン】がLV6になった!
効果2【グロリアス】がLV2になった!
【ダブル】がLV4になった!

御守・樹
雨のあとの山道は結構滑りやすいから気を付けて登ろう。
雨よけ雫よけにマウンテンパーカー着てきたけど首筋に入り込まないから正解だったな。
このディヴィジョンだと違いが分かりにくいけど、それでも雨上がりの空気は綺麗な気がする。あと綺麗だからか遠くまで見通せるような。

雨のあとだから休憩でゆっくり座る事は難しい。けど、やっぱり山登りは海とは違うテンションになるなぁ。
海は物珍しさからテンション上がるけど、山は落ち着くっていうか。
ゆっくり息を整えながら見やる景色、遠目の山にかかる雲の端に虹が彩雲が見えるような気がするのは気のせいだろうか。

さて休憩は終わりにしてもうひと頑張りするか。


●薫風
 余人との関わり合いを出来るだけ避けるように、御守・樹(諦念の珪化木・g05753)はひとり山を往く。
 剥き出しの山肌や、うっそうと茂る木々の合間は、人が分け入ることを想定していない大自然だ。時には足場の確保にも窮する。しかも雨が降った後ときた。
「――っ、と」
 滑りかけた足を、スニーカーの底に力を入れて踏ん張り耐えた樹は、かすかな振動にも木々の葉が落とす滴を顔に受け、自分の選択が正しかったことを認識する。
「マウンテンパーカーを着て来て正解だったな」
 濡れたのは、頬だけだ。しかし撥水性に富んだ生地の上を、水の玉がつるつると転げおちている。しっかりフードを被っていなければ、今ごろ襟首から入り込んだ滴が、背中を伝っていたに違いない。
 だが、ずっと守りを固めているのも息が詰まる。
「……少し休憩するか」
 目指す頂を視認して、樹は最短距離から外れると、見晴らしの良い斜面でフードを肩へと落とした。
 途端、首筋を風が撫でていく。物珍しさにテンションが上がる海風ではなく、落ち着きを促す薫風だ。
「やっぱり、いいな」
 漠然とした感想を呟きながら、樹は赤い双眸を細める。
 雨上がりの澄んだ空気は、様々なものの輪郭線をいつもより際立たせてくれていた。おかげで、いつもより視界もいい気がする。
 折角の機会だ、長閑なひと時を満喫するのもありだろう。けれどどこもかしこも濡れていては、おちおち座ってもいられない。
「仕方ないか――、あ」
 地面から空へ視線を遣ったのは、成り行きがてらの偶然だ。
 なれど僅かに虹色を輝かす雲を見止めて、樹は息を飲む。
「彩雲だ……」
 透ける日差しに華やかな彩を帯びたそれは、美しいばかりではなく、いわゆる縁起物。
「――よし、もうひと頑張りするか」
 稀有なる出逢いに背中を押され、樹はまた山を登り出す。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【防衛ライン】がLV7になった!
効果2【ダブル】がLV5になった!

リリーベル・カンパネラ
雨に濡れた山を歩くのは初めてだから、ワクワクしちゃう
お祖父様ったら、屋敷の敷地から外にはあんまり出してくれなかったんだもの

雨雫に濡れた植物さんたちに、「こんにちは」ってご挨拶しなきゃ!
スギでしょ、カタクリに……って植物の名前を当てながら散策よ
ヤマユリさんを見つけたら、しゃがみ込んでお話しするわ
可憐な天使さん、初めまして。出逢えて嬉しいわ
私の名前、あなたが由来の一つになってるの
私もあなたと同じリリィだから、親しみを感じるわ

そう言えば、雨に濡れると透明になる不思議なお花があるのよね?
涼しい山地に自生しているって聞いたけど、逢えるかしら
サンカヨウのお花さん、逢えると良いなぁ


●咲う
「あなたヤマシャクヤクさんね!」
 見つけた白い花に、リリーベル・カンパネラ(Carillon of Aurōra・g09480)はハーバリウムめく可憐な靴が泥に汚れるのも厭わず、小走りで駆け寄った。
「こんにちは、綺麗に咲いていてくれてありがとう」
 柔らかいミルクティー色の髪を甘く揺らし、リリーベルはふわりと花へ笑みかけると、今度は木々の群れの中へ歩みゆく。
「こっちはスギで、あっちはコウヤマキ……あら、モミも生えているのね」
 少女らしいまろい手のひらをひとつひとつへ当て、リリーベルは植物たちの名前を唇に乗せる。
 生後間もなく両親と死別したリリーベルを、祖父は屋敷の敷地から外へはなかなか出してはくれなかった。数多を失った今でも、立ち振る舞いに“令嬢”らしさが現れる生まれゆえ、当然かもしれない。
 だから初めての雨に濡れた山歩きに、自然をこよなく愛するリリーベルの鼓動はずっと高鳴っている。
 なかでも可憐な天使のようなヤマユリとの邂逅には、高揚を抑えきれなかった。
 ――初めまして、出逢えて嬉しいわ。私の名前、あなたが由来の一つになっているの。
 膝を折り、目線を合わせ、香りを交わし、語らった。
 ――私もあなたと同じリリィなのよ。仲良くして頂戴ね。
 花期には幾らか早いこの時期での出逢いは、まさに奇跡。でも、奇跡は次の奇跡を呼び込むもの。
「次の春にはたくさん花を咲かせるのでしょう、……ね?」
 青々としたカタクリの葉の上に結んだ滴を見入っていたリリーベルは、左右で色を違える瞳をぱちりと瞬かせる。
 小さな逆さまの世界に、硝子のような花を見た気がしたのだ。
「もしか、して……」
 息をすることさえ忘れ、リリーベルは周りを見渡す。逢えるといいな、と思ってはいた。でも、逢える可能性が低いこともわかっていた。
 光を受けて白く咲く花。雨に満たされた時だけ、透明になるという花。
「――サンカヨウ、さん?」
 壊れ物を扱うみたいにそっと呟いたリリーベルは、見つけた小さな花に満面の笑みを咲かせた。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV4になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!

野本・裕樹
八つの峰で構成された結界、まさしく八葉蓮華ですね。
堅い守りです、大和国の『松永久秀』も逃げる先に選ぶのも頷けます。
しかしそれだけに令制国の支配者の城でもない場所がこれだけ強固なのか疑問でもあります。
この先へと進めばそれもわかるのでしょうか。
まずは目的地に向かって登っていきましょう。

雨上がりの景色は何故こんなにも綺麗なのでしょうね。
キラキラと輝いて……心なしかまるで空気まで綺麗になったように感じます、本当に綺麗になっているのかも。
目に見える景色、雨上がりの独特の空気、決戦前だという事を忘れてしまいそうです。

転ばないようにだけ気を付けて、この清々しい気持ちのまま決戦へと挑みたいですね。


●征く路
「あれはニリンソウ――花言葉はたしか、友情とか、協力だったでしょうか」
 新宿島に流れ着いてから好ましく思うようになったものの一つを諳んじて、野本・裕樹(刀を識ろうとする者・g06226)は雨上がりの空気に全身を浸す。
 平安鬼妖地獄変に生まれた裕樹にとっては、馴染み深いものだ。とはいえ、その瑞々しさはいつだって裕樹に感動をくれる。
「何故、こんなにも綺麗なのでしょうね……」
 夜空の星たちにも似た滴の煌めきに、裕樹は素直な感嘆を呟く。
 さざめく木の葉も、伸びやかな枝も、日陰に生した苔たちも。目に映る全てがささやかな陽光を謳歌し、命の力に満ち溢れている。
 だがここは高野山。クロノヴェーダの巣食う場所。
「八つの峰で構成された結界、まさしく八葉蓮華ですね」
 堅牢な守りは、大和国の『松永久秀』が逃亡先に選ぶに相応しいと、裕樹も納得のものだ。
 なれど、だからこその疑問が裕樹にはある。
(「令制国の支配者の城でもない場所が、どうしてこれだけ強固に守られているのでしょう?」)
 理由を推し量るには、情報が足りない。全ては、八葉の結界を破ってからだ。
 前へ進むしかない状況に、裕樹はふ、と吐息を洩らし、伸ばした指先に滴を遊ばせる。木漏れ日に翳せば、天然の爪飾りだ。
「このまま……という訳には参りませんものね」
 ともすれば決戦前であるのを忘れそうになる自分を、仮初の彩を拭うのと同時に捨て去って、裕樹は視線を高みへ向ける。
 晴れ間はわずかだ。迫る雨の気配に、裕樹はお気に入りの着物の裾を軽やかに捌く。
「転ばないよう気を付けて、あと少し頑張りましょう」
 途上の憩いはこれにて終い。
 余韻の清々しさを供に連れ、裕樹はいざや決戦の地を目指す。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【防衛ライン】がLV8になった!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!

ノスリ・アスターゼイン
故国の記憶は遠い彼方に失くしたけれど
乾いた砂嵐に洗われる日々を
身は意識下で覚えているのか
潤う大地にはいつも
新鮮な心地と驚きを覚える

時折足を取られる雨後の泥濘でさえ
底無しに呑まれるかの砂と違って
『大地を歩いている』感覚だ
靴先が湿ることも、泥に汚れることも不快ではない

知らず淡い笑みを浮かべたまま
何せ、と独り言ち
双眸を細めて見上げるのは木々の天蓋

結び葉の瑞々しい緑が
弾けるひかりの眩さが
こんなにも、うつくしいものだから

葉から落ちた雫が頬で跳ねるのに笑って
ついでに開けた口で
再び恵みを味わうのも
『童心』という奴かもしれない
虹の欠片を食ったみたい、と肩を揺らして

まるで
心ごと潤してくれる
とびきり極上の飴のよう


●甘露
 踏み締め損ねた踵が、ずるりと滑る。だのに深く埋もれていかないことにノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は蜜色の瞳に差す陽を明るげ――両眉を上げた。
 底なし沼でもあるまいに、泥濘に取られた足が地に沈まないのは当然のことだ。
 だのにどうしてだか、ノスリはその“当然”を真新しい経験として味わったのだ。
 理屈の通らぬ心緒の出処を探るべく、ノスリはもう一歩を試みる。
 今度は足全体を押し込むよう、勢いを足して強く踏む。途端、びしゃりと跳ねた泥の飛沫に、ノスリはぷは、と声を上げた。
 森だけではなく、ノスリの肌や髪までをも潤す大気が新鮮だ。吹く風に皮膚がヒリつかないのも不思議な気がする。
 どうして自分がそう思うのか、ノスリ自身も分からない。それこそ足元の覚束ない砂の荒野へ記憶を置き忘れてきた心地だが、ノスリは今、大地をしっかと踏んでいる。
「――何せ」
 知らず口元に淡い笑みを浮かべ、ノスリは両手を翳し、緑の天蓋を振り仰ぐ。枝葉に結んだ雫が、光となって指と指の隙間から降る。それらを宿す結葉たちの、なんと瑞々しいことか。
(「世界は、こんなにも、うつくしいものだから」)
 言葉にすると陳腐になってしまいそうな感嘆を胸裡で噛み締めたノスリは、不意に迫り来たひかりに目を閉じた。
 直後、頬で何かが跳ねる。悪戯な雫の仕業だ。そうと理解するや否や、擽られた童心に、ノスリは両手を下ろし、木々を見上げたまま口を開ける。
 餌を強請る雛にでもなったようだ。己が戯れに、ノスリは堪らず肩を揺らす。しかし転がり込んできた水の玉に、ノスリは目を瞠り――甘く細める。
(「虹の欠片を食ったみたい」)
 たった一滴。
 なれど心ごと潤す天水は、とびきり極上の飴のようであった。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!

朔・彗藍
木々の間から差し込む光が
色づいた緑と共に柔らかく
見上げた一時の晴れ間、深呼吸を

厳かで、静謐で、落ち着きます、不思議……
故郷の山に、似ているからでしょうか
余り外を知らずに、こうして自然の中だけをよく散歩したから
露に濡れた葉を指先でつついて
まだ残る雨の匂い、植物が生きるための恵みの滴、虹彩
いのちの力を少し分けて貰えるみたいで、好きです

囀る鳥の聲、思わず振り向いて
あれは、何という鳥だったでしょうか
けれど、応えてくれていた傍らの父は、母は、居ないから

ふるりと頭を振り
今はただ、眸に灼きつけて
――帰ったら、皆に聞いてみましょう

堂に辿り着く前に、胸に抱くのはそんな些細な
泥濘に足を取られぬように一歩ずつ前へ


●アオイトリ
 全身から余計な力を抜く。
 腰から生える小ぶりな天使の翼もゆるやかに折り、ただし背筋だけは伸ばして。
 そうして胸一杯に吸った森の大気に、朔・彗藍(ベガ・g00192)はちらちらと降る木漏れ日を仰ぎ、息を細く震わせた。
「不思議……」
 余人の聲の聞えない山中は、厳かであり、静謐であるのに、圧倒されるより落ち着く心地がする。
 もしかすると、故郷の山に似ているからかもしれない――そう思い至った途端、彗藍は口元に晴れやかな笑みが浮かべ、軽やかに踏み出した。
 足元はぬかるんでいるが、彗藍の歩みが掬われることはない。あまり“外”を知らずに育ち、自然の中だけをよく散歩していたからだ。
 気紛れに、緑の台座に結んだ露を指先でつつく。葉脈を辿るよう滴は滑り落ちるが、彗藍の爪に雨の名残が宿る。
 かすかな匂いと、植物が活きる為の恵み、日に翳すと現れる虹の彩。
 その何れもが、まるで命の力を分け与えてくれているようで、彗藍はたまらなく好きだ。
 と、その時。
 高く美しい囀りに、彗藍は首を巡らす。
 そして星降るような緑の天蓋を成す一枝に、目も覚めるような瑠璃色を見た。
「ねえ、あれは――」
 スズメより幾らか小さく、ふっくらとした白い腹を持つ小鳥を見つめ、彗藍は何気なく尋ねかけ――きゅ、と唇を引き結ぶ。
 彗藍が問えば、父や母は応えてくれた。けれどその幸福なる安寧は既に過去。彗藍の傍らは、空いたまま。
「――」
 ふるり。薄氷に色付く髪を揺らし、彗藍は首を振る。
 今は感傷に縋るのではなく、稀有な出逢いへの歓びを。
 斯くて俯きたがる睫毛を上向かせ、彗藍は大きく開いた透ける紫の眸に、鮮やかな瑠璃色を灼きつけた。
「帰ったら、皆に聞いてみましょう」
 思い浮かんだ顔に、再び表情を和らげた彗藍は、澄んだ歌声を口真似て、些細で――しかし心を温める光を胸に灯し、確かな足取りで一歩ずつ、一歩ずつ前へと進む。
 至るべき堂までは、あとわずか。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV5になった!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!

●風雲急を告げる
 ぽつりぽつりと降り出した涙雨が、地面を叩く天の号泣に変わるまではあっという間だった。
「やはり来たか、ディアボロスめ」
 青い全身鎧を大粒の雨に打たれる天魔武者が、忌々し気に言い放ち、槍を構える。
「坊官衆は堂を死守しろ、銀閃鬼兵は援護を!」
 雷鳴にもひけをとらない大音声に、坊官衆らは形代兵を展開しつつ後ろへ下がり、火縄銃を構えたトループス級は一帯の茂みに身を潜ませた。
「来い、ディアボロスども。相手してやる」

 辿り着いた峰の頂。白壁に朱色の柱の二重塔を前に、ディアボロスたちは本多忠勝に行く手を阻まれる。
 「徳川四天王」、あるいは「徳川三傑」、はたまた「徳川十六神将」。
 最終人類史において、その何れにも名を連ねる彼の勇猛ぶりは疑うべくもない。だからこそ、守護を任ぜられた『堂』の破壊を防ぐために自ら最前線へ躍り出たのだ。
 ディアボロス達の最優先は、八葉の結界の一端を担う『堂』の破壊であることは言うまでもない。
 が、本多忠勝が自由であれば、それはままならない。とはいえ、本多忠勝の排除に注力すれば、形代兵による堂の防衛ラインは厚みを増して、打ち破れなくなるだろう。
 つまり、本多忠勝を抑えつつ、形代兵を片付け、堂を破壊せねばならないということだ。
 もちろん、銀閃鬼兵らも無視は出来ない。
 個々の思考を連結し、最適解を導き出すのを得手とする狙撃手だ。手を割かずにおけば、背後から狙い撃たれるのは目に見えている。

 正面に本多忠勝。
 開けた一帯の奥に堂は建ち、形代兵が空を飛ぶ。周囲に茂る木々からは、銀閃鬼兵が狙いを定めている。
 ――どうするか。
 考える間にも、雨音は激しさを増してゆく。
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)

勇猛の威圧に怯む気も引く気も一切ないのは
きっと隣のあなたも同じ

視線を交わさなくても分かる信頼
針先をぶれることなく敵将へ向けている己と共に
あなたの眼差しも凛と冴えているに違いない

嘆きの雨が地を潤す浄化の涙となるように、
クロノヴェータを討って憂いを晴らす為に、
慈雨に変えて差し上げましょう

刺突は僕も得手なんです、と
敵の眼前に銀の閃きを咲かせつつ
葵襲で招く針の雨
身を打つ天の号泣と重なって
本多を地に縫い留める

泥濘に楔を打つ時間は僅かでも
ラヴィデさんや仲間達が
攻撃を繋いでくださると信じているから
僕も
皆から継いだ好機を決して逃したりしない

豪雨をも断つ一閃で
勝利への道を拓いてみせる


ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と

歴史に名高き猛将
その、クロノヴェータか
覇気が伝わってくるが、向ける背はない
隣の君もきっと同じ眼差しをしていると
信を置いて踏み出せる

出迎えどうも。退屈はさせないよ

パラドクスは『レゼル』にて
大数珠型飛翔体へは主に炎剣、飛刃で迎撃しつつ
レゼル本体を手に攻防、敵に喰らい付いていきたい
堂破壊という主目的もある
連撃の狙いは、ダメージ以上に注意を引き続けること
攻防の後隙を繋ぐ、突くことを常に意識
ヤコウくんや居合わせた仲間と補い合い、勝利を目指そう
それに、ヤコウくんへのディフェンスも
許すと思ったかい?
反撃に繋げられれば

天まで晴れよと切り裂いて
この地を照らす、雨後に差し込む光が見たい


●号砲
 降りしきる雨の中、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)とラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は瞬時に駆け出した。
 本多忠勝までは数メートル。距離は幾らもないが、竜翼で大気を叩ける分だけラヴィデが僅かに早い。
 一瞬、淡い薔薇色に色付く髪がヤコウの視界に入る。顏は見えない。けれどヤコウは、視得ぬラヴィデの眼差しを知る。
(「きっとあなたも同じ」)
 繕い屋の名に相応しい長大な針――銘は藤襲――の切先を、猛き威圧の主へ向けるヤコウに、怯えも、引く気も、いっさい無い。
 相手が誰であろうと、何もぶれない。それこそ、研ぎ澄まされた針先のように。
 そしてヤコウが思い描いた通り、ラヴィデは凛と冴えた双眸に青を映す。
「歴史に名高き猛将――その、クロノヴェーダか」
 伝い落ちる滴を唇に、ラヴィデは迫り征く相手の認識を確とする。
 放たれる覇気は、向かい風と感じるほどだ。不可視の棘に膚を穿たれる心地がする。だが、背を向けるつもりはない。向けるはずがない。
(「君もきっと同じだから。だからオレは踏み出せる!」)
 狐の性を持つからだろうか。自分のものより軽やかに聞こえるヤコウの足音を傍らに、ラヴィデは力強く地を蹴った。
 信を交わすのに、視線を交わす必要はない。共に在る――そのたった一つの事実だけで、ヤコウもラヴィデも剛くなれる。
「出迎えどうも。退屈はさせないよ」
 ――見頃は過ぎたよ。
 脈打つが如き異容の長剣を、ラヴィデは上段から繰り出す。
 まずは一閃。続けて真横へ薙いで、勢いは殺さず下段からの突き上げに繋げる。
「大きく出たではないか!」
 目にも留まらない連撃でありながら、重さのある一撃一撃に敵将――本多忠勝が語尾を跳ねさせ、大槍を至近距離で大胆に振るう。
 真正面での力勝負は、ラヴィデも慣れたものだ。歯を食いしばり、長剣で槍刃を受け止める。
 二者の周囲で、ラヴィデが舞い散らす呪炎と、本多忠勝がまとう大数珠が、文字通り火花を散らす。
 さながら炎の雨が降るようだ。或いは、曇天に抗う光の目覚めか。その鮮やかな激突に、ヤコウは割って入る。
「刺突は僕も得手なんです」
 鍔競り合う本多忠勝とラヴィデの狭間を縫い、ヤコウは視線の窺い知れぬ青い兜の鼻先へ銀の閃きを咲かす。
「――これしき」
 躱すつもりのない本多忠勝が、首を振って藤襲に硬い額を当ててくる。が、生じた力の弛みにラヴィデは間合いを取り直す。そこへヤコウは本命を仕掛ける。
「葵襲」
 表薄青、裏紫。夏を告げるかさね色目は、針の雨を呼ぶもの。
(「嘆きの雨が地を潤す浄化の涙となるように――」)
「この雨を、クロノヴェータを討って憂いを晴らす慈雨に変えて差し上げましょうっ」
 片手に藤襲を、空いた片手を空に、ヤコウは本多忠勝へ細く鋭い雨を降らせた――しかしそれらの殆どが自在に飛ぶ大数珠たちに阻まれる。
(「なるほど、史実通り――ね?」)
 ヤコウの針雨にもダメージを負った風でない本多忠勝の様子に、されどラヴィデは口の端を上げる。
 最終人類史に伝わる過去の武人の逸話の真偽は定かでないが、クロノヴェーダの本多忠勝は傷つかないわけではない。被るべき損傷を、得物に置き換えているのだ。
 実際、二つの大数珠が地に墜ちている。
「これしきの雨、物の数ではない!」
(「それは、どうかな?」)
 本多忠勝が大槍をヤコウへ突き出す。その矛先へラヴィデは羽ばたいて飛び込む。
「オレがいるのに、ヤコウくんへの攻撃を許すはずないじゃない?」
 穿つ突撃へ左掌を呉れ、ラヴィデは痛みごと槍の行先を我が身に引き寄せた。
 ヤコウに怪我をさせたくない、という想いはラヴィデの裡に在る。でも今ばかりは、その感情に任せた庇護ではない。
 目的を達するには、ラヴィデよりヤコウの方が適任なのだ。
「ねえ、ヤコウくん。オレは、雨後に差し込む光が見たいなぁ」
 ――共にこの地を光で照らそう。
 いつも通りの口振りでのラヴィデの求めに、ヤコウも否やがあろうはずがない。
 本多忠勝の動きは、ラヴィデが完全に封じている。大数珠は変らずあるが、減った分だけ空隙はあるはずだ。
(「泥濘に楔を打つ時間は一瞬でも――」)
 ラヴィデが作った好機を、ヤコウは逃さない。幻の痛み――ラヴィデが代わってくれたもの――に、針を研ぎ。雨で縒った糸を銀の身にまとわせて。
「勝利への道を、拓いてみせます!」
 疾く繰り放つのは、豪雨を断つ閃き。
 本多忠勝の足元へと狙いを定めたそれは、濃紺の脛当を貫き、地へ切先を埋めた。
「今です!」
「今だよ!」
 ヤコウとラヴィデの重なる聲は、ディアボロス達にとっての号砲として雨間に響く。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV6になった!
【建物復元】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!

ノスリ・アスターゼイン
エアライドや地を擦るかの飛翔で
敵陣を惑わして混乱させつつ
弾丸対決と行こうじゃないの

翻す双翼
閃く魔弾
何処までも追い掛けて食らいつく

銀閃鬼兵の攻撃は命中寸前まで認知できないとのことだけど
逆に言えば寸前には察知できるってことだからね
魔力障壁や刃で弾いてダメージ軽減も試みる

常に戦況把握に努め
パラドクス通信も活用して皆と声を掛けあい
死角を補い合っていくよ

反撃もまた攻撃の一手となるから
積極的にディフェンスを狙って
身を顰める狙撃手を発見し
銃身も其の身も砕きに翔ける

――見ぃつけた、なんてね

この遊び、何て言うのだったかな
隠れ鬼だっけ
いいや、鬼が隠れているのか、この場合

楽し気に笑むも
眼差しは獲物へひたと向けたまま


咲樂・祇伐
🌸樂祇

雨が強くなりましたね…お兄様、足元にお気をつけて
案じる以上に私もと、唇を引き結ぶ
足でまといになんて絶対なりたくないもの
お兄様だって、風邪ひいたりしないでね

喰桜を開き構え全力魔法に風魔法を加え乗せて放つは、桜の蠱惑
驟雨の如き銃弾だって吹き飛ばすつもりでいきますよ!
周囲の状況をよく観察し死角がないように補い助け合いましょう
信じて守りあえることはきっと……ひとの強さです!
私だって守るの!

こんなにも、心強いのだもの
ディフェンスだって任せて!
お兄様が狙った敵に攻撃を重ねて確実に数を減らしていくわ
蠱惑の風に結界を重ね、銃弾の勢いを殺していき即座に反撃へと繋ぎ

守りましょう
大切な場所を、美しい景色も皆


咲樂・神樂
⚰️樂祇

すっかり雨空ね
あたしは兎も角
祇伐が濡れて風邪でも拗らせたら大変!

油断はなく集中し
抜き放ち薙ぐのは窕の斬撃
神速反応にて勢いつけて穿つは、銀閃鬼兵
ゾロゾロわらわら来られちゃ邪魔なの

囲まれないように気をつけて
連携を意識して臨機応変に立ち回り庇うことだって躊躇わない
其れが人の強さなんでしょ?
祇伐はあたしが守るわ

連携を意識して死角を補い合えば重なる信の心に笑みが灯る
確実に仕留めて防衛を切り崩していくわ
斬撃と共に呪詛を込めた衝撃波で薙ぎ払い両断し
返る弾丸が何処から来ても斬ってしまえるように集中
結界と重ね放つ窕の斬撃にて和らげ反撃へ

鬼を斬るのもまた一興
この美しい世界に、あなたは少し
似合わないのだもの


文月・雪人
※アドリブ連携歓迎

さて、降りだす雨は何方の味方であるか
相手は指揮も士気も高く、厄介な敵であるのは間違いない
だが連携なら此方も負けはしないさ
【パラドクス通信】で仲間と情報共有しつつ
連携・分担して事に当たろう

伏兵に狙い撃ちなどさせないさ
本多忠勝や形代兵達の配置から、狙撃手の潜伏場所を素早く推測し
『虚実潜霊』で隠密性に優れた妖達を茂みへ放ち、銀閃鬼兵達を襲撃する

妖怪達が使うのは雷撃の力
雷は陰陽五行でいえば木に属するものだ
水生木で【ダメージアップ】
雨の中で雷撃は威力を増すだろう

勿論反撃も来る筈だが
跳弾を重ねる弾丸もその軌道を読み切って
弾丸を刀で斬り落として【ガードアップ】
油断なく攻撃重ねて倒していこう


●当意即妙
「すっかり雨空ね」
「そうですね」
 視界も暗む雨模様に、ふわりと花が香る。春を告げる、桜の薫りだ。連れるのは、咲樂・神樂(離一匁・g03059)と咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)の二人。
「あたしは兎も角、祇伐が濡れて風邪でも拗らせたら大変だわ!」
「お兄様だって、風邪をひいたりしないでね」
 調子よく声を弾ます神樂へ、祇伐も笑みを返す。
 交わす戯れはいつもの通りだ。なれど疾き駆けで二人は本多忠勝のすぐ傍らを走り抜ける。
 すれ違いざまに触れた覇気に、神樂は死を知る白膚を粟立てた。
 強者と切り結びたい欲が、ないではない。されど神樂にとって優先すべきは、祇伐を恙無く帰すことと、祇伐が顔を曇らせない未来をつくること。
(「かぁいい祇伐は、誰かが死んだら泣いちゃうでしょう――?」)
「咲かぬなら、咲かせてみようか」
 ――踊れ踊れ、我が子らよ。
 ――裂いて咲かせろ花宴。
 置き去りにした背中は過去に、雨にけぶる茂みだけを見据え、神樂は御神楽を舞うよう光剣を繰る。
 美しき金翅鳥が変じた刃が描く軌跡は、未来を知るが如き自在さで宙を翔き、光の乱舞となって鬱蒼とした木々をもざわめかす。
 そこへ重なるのは、洗練された真の花神楽。
「さくら、さくら、花盛り。咲けども散って、散れども咲いて──決して、朽ちはしない」
 神樂の手にある龍牙が剣ならば、祇伐の手にある龍牙は雅な神扇。す、と開いたそれを凛と閃かせた祇伐は雨舞台に立ち、春の蝶もかくやと袖で、裾で、指先で、髪で拍を刻み、光刃を花嵐の風に乗せる。
 祇伐もまた、後ろは振り返らない。
 本多忠勝の追撃は無いと、信じているから。
(「信じて守りあえることはきっと……ひとの強さ」)
「私だって、守ってみせます!」
 祇伐の気勢は、神樂のみならず、雨の中に立つディアボロス達の胸に消せない火を灯す。

『どう、見つけた?』
 パラドクス通信を経て届いたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)の尋ねに、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は「もちろんだよ」と軽快に返す。
 見た目に華やかな神樂と祇伐の連舞に潜ませて、雪人は素早さと隠密性に優れた妖たちを茂みへ放っていた。
 偵察もこなす妖たちだ。神樂と祇伐に煽られ、二人へ狙いを定める銀閃鬼兵を見つけ出すのは、そう難しいことではない。
 雪人の頭の中には、本多忠勝の位置も、形代兵を繰る坊官衆らの位置も入っている。何れも銀閃鬼兵が護るべきものだ。つまり、ディアボロスとそれら全てを視認できる場所に狙撃手は居なければならない。
(「伏兵に狙い撃ちなどさせないさ」)
 元からあたりをつけて往かせた妖たちの動きに迷いがないことを、操者として知る雪人は、仲間たちと策と智見を分かち合う。
 本多忠勝の指揮の雄も、率いられるクロノヴェーダらの士気の高さも解している。
(「厄介な敵であるのは認めるよ――だが連携なら此方も負けはしないさ」)
「よく視ていて」

『よく視ていて』
「これは分かり易い合図だね」
 嘯くように口元を綻ばせ、ノスリは広げていた魔力翼を重ねて畳む。そうすれば空に在ったノスリの身体は、重力に引かれるままに真っ逆さまだ。
 だがノスリは地面へ叩きつけられるばかりの雨粒とは違う。感覚だけで瀬戸際を見極め、墜落の紙一重から空を蹴り、再び空へと戻り――双翼を翻す。
 撃った魔弾は、敵と認識した相手をどこまでも追うもの。その目印は雪人が弾けさせた雷だ。
 光に乏しい雨の木立に、眩い稲妻は、大小構わずよく映えた。おかげで銃口の定まりを遅らせるべく変則的に動いたノスリでも、銀閃鬼兵が潜む場所を見失うことはなく。
「職務に忠実なのはいいけど、堅物過ぎるって言われない?」
 魔弾が爆ぜた音は、間違いなく敵を捕らえたものだ。にも関わらず、呻きを洩らすどころか、未だ茂みから姿を現すつもりがないらしい狙撃手に、ノスリは遠慮なく両肩を竦めてみせ――その肩を捻るように捩る。
 直後、ノスリの心の臓を穿つはずだった二発の弾丸が、魔力翼によって掃われた。
「「――な!!」」
 次元の壁を超えた攻撃の、あり得ない結末に、ついに二つの声が響く。
「そんなに驚くことないのに」
 千里の距離をものともしないという銀閃鬼兵の銃撃も、認識できないのは命中の直前まで。返して言うと、間際では捉えられる。しかも潜伏場所は知れているのだ。
「――見ぃつけた」
「ひぃっ」
 なんてね、と付け加えられたノスリの遊び心を、銀閃鬼兵が理解する暇はない。何故なら、空に居たはずの“的”が目の前に降り立ったからだ。
「この遊び、何て言うのだったかな?」
 衝撃を被った翼は、すぐに復元することはない。しかし形なき空を足場に換えたノスリは自由を失わず、猛禽類の眼差しで獲物をひたと見据える。
「ああ、そう。隠れ鬼だっけ――いいや、鬼がかくれているのか、この場合」
 じゃあ鬼隠れかな、などと詮無きこと口遊み、ノスリは欠けた翼をまずは一閃、続けざまにもう一閃。
 放った魔力弾は、正面と真後ろで息を殺していた銀閃鬼兵の頭を吹き飛ばす。

「!」
 雨に紛れて跳ね踊る弾丸に足を掠められた雪人は、短く息を飲む。
 躱し得ぬはずの跳弾が、雪人を傷付けることはなかった。つまり思考の連結が徒となり、ノスリが崩した一角が、敵全体の意識へ派生し、タイムラグが生じたのだ。
「全部あぶり出すよ!」
 続いた跳弾を白銀の刀で切り伏せ、雪人は気勢を叫ぶ。
「虚を裂き咲きて、潜みしモノよ実を結べ」
 残るは数えて三。それらへ雪人は妖たちを走らせて、雨に威力を増す雷撃を見舞わせる。
「ぐ、っ」
「がっ、あ」
「――!!」
 二丁構えの火縄銃を火吹かせたばかりの銀閃鬼兵が、等しく痺れて悶えた。その聲に身を挺して祇伐を守った神樂は艶やかに笑む。
「祇伐、一気に仕留めるわよ」
「……はい、お兄様!」
 祇伐が傷つくことを神樂がよしとせぬように、祇伐もまた神樂が傷つくことをよしとしない。されど防壁となった神樂が、背から血を流すことに祇伐は取り乱さない。
(「信じているもの」)
 神樂が無防備に隙を晒すわけがないのだ。被弾したとて、ダメージは最小限に決まっている――本当は、それさえ口惜しくはあるのだけれど。
「守りましょう。大切な場所を、美しい景色も皆」
 背筋を伸ばし、いっそう輝かしく祇伐は舞い。蠱惑の風で茂みを浚い、銀閃鬼兵を光の刃で斬り刻む。
「まずは一体」
 祇伐が作った青い屍をひとつ跨ぎ越え、神樂は雷撃に身動きのままならない狙撃手を睥睨する。
「ねえ、あなた。さっき祇伐を撃とうとしたでしょう?」
 祇伐を背面に、神樂は赤い眼を爛々と燃す。
「――っ」
「そんなに怯えないで? この美しい世界に、あなたは少し似合わないと思っただけだもの」
 笑みはうっそりと。殺意は轟々と。
 鬼を斬るのもまた一興と、神樂は眼前の一体を光の剣の露に替えた。

 残る一体の銀閃鬼兵に注ぐ視線はよっつ。無論、掻い潜れようはずもなく。
「申し訳ありません、本多様……っ!」
 主命を何一つ果たせないまま、全ての狙撃手たちは息絶える。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV7になった!
【活性治癒】LV1が発生!
【神速反応】がLV2になった!
【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV6になった!
【ドレイン】がLV2になった!
【命中アップ】がLV5(最大)になった!
【先行率アップ】LV1が発生!

守都・幸児
※アドリブ、連携歓迎

降ってきたか
こいつは吉兆ってことでいいよな
山にとっちゃ雨は恵みだ
でも喩嘉が体冷やさねえようにこっそり【寒冷適応】は使っておく

俺の技は「暗」
くらげの姿をした式神を放つ技だ
飛行する形代兵どもの前に、くらげの群れを放ってやる
回転すればするほど
雨の中を自在に泳ぐ柔らかいくらげが形代兵に絡みつき
軌道を乱した連中が堂に衝突するように仕向けてやるぞ

戦闘しながら俺も武器の鉄骨と【怪力無双】でお堂を破壊する
くらげたちにも堂を攻撃させるぞ

あんまり山を騒がせたくねえから、とっとと終わせねえとだ
獣や鳥が怖がらせたくねえしな
山は静かなほうがいい

ああ、喩嘉
この雨を天魔武者どもにとっての凶兆にしてやろう


喩・嘉
※アドリブ、連携歓迎

天は常に俺の味方だ
いや
天さえも指揮してこその神算軍師よ

散っている複数体の敵に、物理的な攻撃は手数が必要になる
だが、これならば位置は関係ない

降り始めた空を見上げて羽扇を振るい、『雲行雨計』を使用
指揮した雨音で形代兵の精神機能を阻害
正常な判断能力を失えば、あとはどうとでもなるだろう
なぁ、幸児

堂の破壊は、麒麟蹄を履いた蹴りで行う
建物の構造をよく観察して把握すれば、解体における弱点も把握しやすいだろう
闇雲にやるのは、性に合わないんでね


御守・樹
何度かこのトループスと戦った事あるけど毎回めんどかった感想しか覚えてねぇぐらいめんどくさいんだよ。
こういう時高火力一掃タイプの技があると便利そうだよなぁ。

エアライドはもちろんダッシュを使ったりして動きに緩急をつけて攻撃の隙を待ち、その時が来たら破軍衝で攻撃。なるべく衝撃波を貫通させるような感じで、倒しきれなくても動きに支障が出るようなダメージを与えたい。
紙垂の追撃はAtroposを投擲し当てる事で、追尾能力のキャンセルというか達成させたという誤認させる事が出来ないか試してみるか。出来たら儲けもんだしできなくっても多少追跡の遅延が出来れば回避しやすくもなる。


朔・璃央
双子の妹のレオ(g01286)と

確かに真っ白で生気とかも感じられないねアレ
無機物感がすごいっていうか
でもレオの気を悪くさせるのはよろしくないね

しかしさっきまでは良い天気だったんだけどなぁ…
でも吉兆の雨だとか言うよね
髪が濡れちゃうのはちょっと煩わしいけれど
その分の憂さ晴らしも兼ねまして
雨も露も綺麗に払っちゃいたいところだね

飛んでる敵は落とすのが一番だよね
まずは一匹ずつ確実にと狙いを定めてレオと目配せ
飛んでくる斬撃は向かってくるのが判ってるなら
それごと纏めて吹っ飛ばしちゃおう
握った拳を撃ち付けて、衝撃波をお見舞いだ

しかしこいつらてるてる坊主にも見えるよね
これで上手い事いい天気に出来ないかなぁ


朔・麗央
双子の兄リオちゃん(g00493)と

ヒトガタみたいなフォルムの敵
なんだかとても不気味な感じがするよ
ただでさえ天魔武者は人の温かさとかそういうのがないのに
余計にそういうのが感じられない気がして

雨の冷たさも相まってますますヤダヤダ
素早くお仕事したいところよね
って思ったけど、吉兆の雨と聞いて
そんなのもあるんだね!じゃあ幸運も味方につけたいね

リオちゃんと息を合わせて同じ敵から狙うね
そうやって確実に敵数を減らしていきたいよ
追尾してきてくれるなら逆に好都合かな
追ってきたやつをレーザーで牽制するように攻撃しつつ
確実に一体ずつ倒していくね

兄のてるてる坊主という言葉には思わず笑っちゃう
そうだね
お天気になーれ、と


●幸いの雨
 本多忠勝は抑えられている。厄介な銀閃鬼兵らも余力はなさそうだ。そう判断するや否や、御守・樹(諦念の珪化木・g05753)は雨除けのフードを肩へと払い落とし、空へと一気に翔けた。
「させぬ!」
 地上から怒声が聞える。しかし攻撃が樹へ届くことはない。そのことに安堵するというより、信を託す思いで、樹はひらひらと飛ぶ真白との距離を詰める。
(「形代兵、だっけか?」)
 幾度か戦ったことのある相手だ。
(「毎回、めんどかった感想しか覚えてねぇぐらいめんどくさいんだよ」)
 多彩な攻撃手段を持ちながら、数でも仕掛けてくる手合を、樹は思わずうんざりとした目で見てしまう。
 だが同時に、経験は財産だ。
 目立つ飛翔で形代兵らの気を引いた樹は、紙垂型の刃がしなった刹那、空を蹴った。
 タン、タン、タンッ。
 視得ぬ足場を三度踏み、幾何学模様めく軌跡を空へ残した樹は、攻撃モーションに入っていた形代兵の背後を取る。
「――砕けろ」
 形代兵へ反転の猶予は与えず、樹は直球の拳を打ち出す。狙いは美しい球体である頭部。果たしてそれは打撃に続いた衝撃波に砕けた。
「まずは一体……っく」
 完全停止した形代兵が地に堕ちて逝くのを見送る暇もなく、紙飛行機めくしなやかさで襲い来た新手に、樹は片眉を上げながら身を捻る。
(「こういう時、高火力一掃タイプの技があると便利そうだよなぁ」)
 内心でないものねだりをしつつ、樹は宙を軽やかに踏むステップで、執拗に追い縋る斬撃を躱す。さてどこで反撃に繋げるか――樹がそう思案した瞬間。
「雨よ、天帝の加護ぞあれ」
「――は?」
 聞こえた詞に雨が激しさを増した途端、形代兵の挙動が乱れた。何が起きたか分からず樹は地上を見る。そこでは喩・嘉(瑞鳳・g01517)は悠々と天を指していた。
「、喩嘉っ」
 錯乱したとしか考えられない形代兵が放った光線の二つが、喩嘉に届きかけるところで守都・幸児(祥雲・g03876)が己が身を盾と差し出す。
 的と定めた相手を追う光線であったが、形代兵がまともに狙いを定められる状態ではなかったのが幸いした。重ねられたガードアップの効果もあって、二射は幸児の硬化した左腕を浅く焼いて散り消える。
「助かった、幸児」
 礼を述べるも、窮地に陥った風などいっさいない喩嘉の泰然自若な声音に、幸児の身体から緊張の強張りがきれいさっぱり抜け落ちた。
「なぁ、幸児」
「ん?」
「散っている複数の敵を効率的に減らす方法を知っているか?」
 唐突な喩嘉からの出題に、幸児は口の端を上げる。
「……あぁ」
 教えられずとも、幸児は既に目の当たりにしたばかりだ。雨に雨を紛らせた喩嘉は、雨音を自身を取り囲む敵群の声として形代兵に誤認させ、極度の錯乱状態へと陥らせたのだ。
「正常な判断能力を失えば、あとはどうとでもなるだろう」
「それでも一応、反撃は来るがな」
「その前に、片付ければ問題あるまい?」
「――暗げ、揺らげ、ゆらゆらと」
 喩嘉の云わんとすることを察した幸児は、見様見真似の仕草で紙符を繰ると、式をクラゲの姿へ転じさせて空へ放つ。
 ゆらり。暗気をはらみ揺らぐくらげが形代兵へまとわりつく。くらげは海月、闇をもたらし真白の兵の軌道を惑わす。そも“まともではない”形代兵だ。さらに失ったコントロールに自滅を誘われる。数の多さが災いした同士討ちが発生したのだ。
「まさに吉兆の雨だな。山にとっちゃ恵みだし、クロノヴェーダには喩嘉が降らせる雨と区別がつかない」
 喩嘉が体を冷やさぬよう、さり気なく寒冷適応の効果を発動させた幸児は、場違いだと思いながらも笑いに喉を震わせる。
 まさに喩嘉にうってつけの戦場だ。肝心の喩嘉も、さも当然と涼し気な貌をしている。
「天は常に俺の味方だ。いや、天さえも指揮してこその神算軍師よ――走れ、幸児」
 二度目の雨で、堂への道が開けた。当て所ない光線が乱れる道だが、先をいった喩嘉を追い越すように幸児も走る。
 力任せに拳を白壁に叩きつければ、二重の塔がぎしりとたわむ。
「あんまり山を騒がせたくねえから、とっとと終わらせねえとだ」
 獣や鳥たちが健やかに暮らせるよう、山は静かである方がよい。慈しむ心で気を急かせ、幸児は続けざまに拳を見舞う。なれど結界の要である堂は存外に頑丈で、軋みはするが崩れる様子がない。
「幸児、柱だ。如何な堅牢な建物であろうと、支柱を失えば建ってはいられまい」
 言うが早いか――否、むしろ言うより早く、喩嘉は甲殻化した足に合わせた金の沓の踵を、遠心力に物を言わせて朱色の柱へめり込ませる。
 ぎしり、みしり。
 僅かに傾いた柱に、堂そのものが啼いた。
「なるほど、そうか!」
「弱点把握の把握が有用なのは、戦いに於いてだけではないということだ」
 喜色を浮かべた幸児が、すぐさま柱を殴りつける様に喩嘉は満足を頷く。
「ああ、喩嘉。この雨を天魔武者どもにとっての凶兆にしてやろう」
 壁を打つより確かな手応えに、幸児は藍色の眸に雨上がりの虹を予見する。八葉の結界の一画は必ず崩れる――その未来を信じられた。
 しかし駆逐されたわけではない坊官衆も指を咥えて眺めるばかりではない。
「去ね、ディアボロス共よ!!!」
 展開された形代兵の全てが、幸児と喩嘉を目指す。堂の守りを任ぜられた坊官衆たちにとっては、当然の選択だ。が、形代兵の中には直前で狙いを変えられたものもいる。
「追いかけっこは、鬼を交代するまで逃げたらダメなんだよ!!」
 寸でのところで仕掛ける対象が変わる、ということは、仕掛けられるはずだった相手が自由を得るということ。そして許された自由に朔・麗央(瑞鏡・g01286)が羽搏かないわけがない。
「行かせないんだから!」
 気勢を吐きつつ、麗央は視線だけを傍らへ遣る。もちろんそこに居るのは双生の兄、朔・璃央(昊鏡・g00493)だ。
「飛んでる敵は墜とすのが一番だよね」
 麗央が作った気流に乗った璃央の加速は、吹く風より疾く。雨さえ追い越し、璃央は天使翼で形代兵へ肉薄する。その接敵の間際――。
「つ・か・ま・え・た!」
 麗央が支配下に置いた光が、形代兵を背から貫く。
 クロノヴェーダが衝撃の主を探るために振り返ることはない。何故なら、僅かな隙さえ与えず璃央が渾身の拳を叩き込んだからだ。
「空は請け負います」
 麗央の二射目にきっちり拳を合わせた璃央は、幸児と喩嘉に堂の破壊を託すと、またしても注ぎ来た魔力の光線に拳を重ねる。
「リオちゃん!」
「続けて、レオ!」
 麗央と璃央、悪魔と天使の力を継いだ――刻逆により望まぬうちに継がされた――二人に、言葉で意を通じさせる必要はない。
 雨が煩わしいなと思った璃央が髪をはらえば、麗央も鬱陶しがるように水に濡れた髪をきゅっとまとめる。
 先ほどまでは寒さに不機嫌そうだった麗央の横顔に、璃央は高揚の薄紅を見た。
(「寒冷適応、かな?」)
 妹が風邪をひく心配がなくなったのに、兄はひそかに胸を撫で下ろし、ついでとばかりに声を張る。
「レオ、雨は縁起が良いって言うんだよ」
 また一体、麗央のペネトレイト・レーザーに灼かれた形代兵を拳で沈めた璃央のそれは、家族の内の日常会話だ。
 戦闘には関係ない。だが麗央のテンションを上げるには効果覿面。
「そうなの? じゃあ幸運も味方につけて頑張っちゃおう!」
 声を弾ませた麗央は、威勢よく光を意の侭に操る。

 引き付けた形代兵が撓らせた紙垂へ、樹はAtropos――投擲用ナイフを当てていく。視認性を下げた暗器は、ぶつかる振動で形代兵の感覚を誤魔化す。
 捕えた、と認識した形代兵の追撃動作が止まる。喩嘉の雨により、正しく事態を飲み込めない形代兵だったのも幸いした。
「器用な技もあったもんだぜ」
 羨むように言いながら、樹は反撃を逃した形代兵の頭部を遠慮なく割り砕く。
 自己評価が低い樹だ。大勢を決めたのは、喩嘉だと思っている。しかし喩嘉であろうと一人で堂を壊すことは能わず。また、堂の破壊に幸児共々注力するには形代兵に無防備にならざるをえない。
 そんな二人を守ったのが、双子と樹だ。
 堂の柱が折れる音を聞きながら、樹は数に終わりが見えて来た形代兵を打ち砕く。残りは五。放っておいても喩嘉と幸児に群がろうとするから、待ち構えて討てば事は足りる。
 それに。
「私、それ嫌いなの」
「ひぃっ」
 新たな形代兵を放とうとしている坊官衆の前には麗央が立ち塞がっていた。
「まだ出すつもりなら、遠慮はしないよ?」
 ヒトガタめくフォルムは、禍つ気配に背中を寒くさせる。元より天魔武者は、人の温もりを感じさせない鋼の肉体を持っているのに、だ。
「確かに無機物感がすごいよね。真っ白で生気を感じさせないし」
 麗央に寄り添うように降り立った璃央は、ことさら穏やかに微笑む。
「あと、レオの気を悪くさせるのはよろしくないね」
「ひいいいっ」
 場にそぐわぬ笑顔に威圧され、形代兵頼みであった坊官衆は一目散に逃げ出す。
 その背中を璃央も麗央も追わない。責任を放棄した輩の命運は知れているから。
「けど、こいつ。よくみたらてるてる坊主っぽくない?」
「え?」
 地に堕ちた形代兵を喩える兄の言葉に、妹はゆっくりと瞬く。
「白くて頭が丸いところは、そっくりだと思うんだよね」
「言われてみれば、そうかも」
 思い出してしまった不機嫌を吹き飛ばし、そして麗央は祈るように声を上げる。
「明日天気になーれ!」

「明日天気になーれ、か」
 少女の快哉に倣って呟いた樹は、最後の最期までひらひらと不規則に飛んだ形代兵を力でねじ伏せ、拳で仕留め終えた。
 堂の方も最早、原型は留めておらず。
「おのれ、ディアボロスどもめ!!!」
 幸いの雨の内。峰々に響くのは、本多忠勝の怒声のみであった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【寒冷適応】LV1が発生!
【水源】LV1が発生!
【エアライド】がLV3になった!
【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV5になった!
【アヴォイド】がLV3になった!

水蓮寺・颯
雨が……。
袖が重く濡れそぼり、視界は煙る。ぶるりと身震いをひとつ。
相対するのは二度目。なのに寒さよりもずっと、目前の威容に脚が震える。

否。
僕は僕の信を通すために、此処を引くわけにはいかないんです!
『其は――!』
読み上げるにつれ姿を現すのは、弓幹も弦も真白の弓。
弦を引き絞り、高く鳴らす。
此処から先へは、絶対に行かせません!

っ…!!
目の前で光弾が結界を穿っても、すぐに次の弓音を鳴らす。
指先が破れ、滴ととともに血が腕を伝っても、次の姿無き矢を番える。
あは、は。僕、我慢するのは結構…得意なんですよ……!
『射返せ、土岐田弎十郎』!


……二度も守っていただいたお返し、できたかな。


(アドリブ・連携 歓迎です)


三苫・麻緒
莱くん(g04625)と

結構激しく降ってきたね…
大怪我は勿論、風邪引いて帰ってきたらマスターたちに怒られちゃうから気合いれてかからないとだね
…簡単にできる相手だとは思わないけど、背中、預けたよ

さーて、長物は懐に入られると弱いらしいし、ここは思いっきり前に出てしまおうかな
簡単にはいれるとは思わないけど、≪戦闘知識≫を活用してうまく潜り込みたいところ
そのためなら多少の怪我は覚悟の上だよ
あとは莱くんとけだまの方に意識を向けさせないよう引き付けることを重視して攻撃し続けるよ!

反撃は≪ダッシュ≫で逃げ回るしかなさそう!
でもただじゃやられてあげない
突撃してきた飛翔体は落として、少しでも余裕を作りたいね


葉古森・莱
麻緒さん(g01206)と

天気もひどいけど、この嫌な感じは雨のせいだけじゃなさそう
…かぜも大けがもすごく怒られそうだもんね
麻緒さんも無理はしないでね

麻緒さんが前に出てくれるなら、ぼくとけだまは後ろから援護だね
≪地形の利用≫で忠勝と麻緒さんの動きを観察しやすい場所を探してそこへ移動するよ
そこから麻緒さんや他の人に当てないよう気を付けながら…けだま、お願い!
すごく目立つ一撃を警戒して麻緒さんたちが動きやすくなるだけでも役割としては十分
ぼくは弱い、けど、無視はさせないよ…!

反撃の突撃は槿食ですりあげながら左右に体をさばいて対応したいかな
全部はかわせなくても、動けなくなるくらいにならなければ大丈夫


ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に

髪先から雫を滴らせ
――ッ
真っ直ぐ、忠勝の下へ
あれが脅威なのはそう、でも別の理由が出来ちゃってね

伝承開放はなるべくジェネラル級以上との戦にしか使わない、
つもりだったんだけど……僕も子供だね
折角気持ち良く皆で登って来たんだ。どうせなら
Moon-Childを外骨格化させ、仲間のディフェンスを試みて
誰かが満身創痍とかじゃあなくて、皆で気分良く勝ちたいのさ
多少の血化粧はいつものこと。漆黒刀の柄に手を掛ける

武人相手なら、普段は名乗りを上げるところ
伝承、開放
居合の構え、渾身の踏み込みを以て
放ちで運動エネルギーを切断、有無を言わさぬ静止を加え
返しで躯体を断つ、神速の十文字

此度は、これで勘弁


●快
 蟻が這うような感触を額に残した雨が、濡れそぼって頬に張り付いた髪の先から、朱色を帯びて滴り落ちる。
「――ふぅ」
 外骨格化させたMoon-Child――様々に変異するナノマシン流動体だ――で先陣を切った大人二人を守るロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)は、深い呼吸で軋む全身を宥めた。
 どこにどれくらいの傷を負ったかは、確認していない。まだ立ち向かえている、という事実だけで十分だ。
「まあ、血化粧くらいいつものことだし。血色よく見えるなら悪くないよね」
 ことさら可愛らしく笑み、ロキシアは顔にかかる髪を耳にかける。すっきりした首筋を洗う雨が心地よい。
(「……僕も子供だね」)
 鞘に納めた日本刀を携えるロキシアの内心にあるのは、見目とはうらはらな自重めく笑みだ。
 黒い刀身を持つそれは、伝承開放――ジェネラル級以上との戦いにしか使わないつもりのとっておきだ――の発動のための鍵。それをこの山頂で手にした訳は、本多忠勝の脅威のみではない。むしろもう一つの理由の方が、ロキシアの裡のおおよそを占める。
「せっかく気持ち良く皆で登って来たんだ――どうせなら、皆で気分良く勝ちたいのさ!」
 わらう。ロキシアは、咲う。
「させぬ!」
「だから、行かせないって! 君の相手は僕たちだろう」
 結界の要たる堂を目指した一団を追おうとする本多忠勝めがけ、ロキシアは真っ直ぐに走る。
 誰の満身創痍も許さない。心を託してくれた背への攻撃を許すなんて、以ての外だ。
「伝承、開放」
 身を低くして敵正面へ滑り込み、ぬかるみに耐えて居合の構えを取る。
「七天の黒は切断の極北」
 武人と相対す時は、名乗りを上げるがロキシアの礼儀。けれど今日ばかりは「これで勘弁」と一刀に渾身と全霊を注ぐ。
「同じ技、見切ってくれる!」
 切り結ぶのは幾度目かだ。本多忠勝もロキシアの一瞬に合わせようと突撃を繰り出す。だがロキシアの覚悟が勝る。
「遍く現象、時空、概念、逆説も、我が手で斬れぬ理趣なし」
 渾身の踏み込み。
「――ッ」
 放ち、で運動エネルギーという概念を断ち、本多忠勝の動きを止めて。返し、で青い躯体を断つ。
「っ、まさ、か!?」
 神の領域へと至った十文字に、残されていた大数珠が堕ち、本多忠勝自身の鎧にも疵が走る。得物に転化し得るダメージ量が、ついに限界を超えたのだ。
「ならば貴様の首を貰い受けるっ!」
「其は――」
 間に合え、間に合え、間に合え、間に合え。
 縺れそうになる舌を叱咤して、水蓮寺・颯(灼がて白く・g08972)は息を継ぐのも忘れて『九十九奉納物詳録』八頁五項を読み上げる。
 駆けながら故、目を、唇を雨が叩く。されど颯は足を緩めず、徐々に形を成してゆく真白の弓をしっかと握った。そして――。
「その御業を成し給え!」
 終いを唱えるに合わせ、ロキシアと本多忠勝の間に割り入った颯は、眩いほどに白い弦を引き絞り、高く謳わせた。
 澄んだ弦音が鋭き穂先を弾く。否、音が形成した結界が、本多忠勝の攻撃に競り勝ったのだ。
「此処から先へは、絶対に行かせません!」
 ――ピィィィン。
 間髪入れず、颯は波打つ音色を響かせる。雨を多分に含んだ袖が重い。視界も霧のように煙ったままだ。
「小癪な、ならば貫くのみっ」
 ――ピィイイン。
 いつの間にか寒さは遠退いていたが、失った大数珠の代わりに力で推し切ろうとする武者の威容に、颯の足は小刻みに震えるのを止められない。
 颯が本多忠勝と対峙するのは、これで二度目だ。とは言え、慣れはない。知っているからこその畏怖の方が勝る気がする。
 それでも颯は顔を上げ、指先の皮膚が破けるくらいの力強さで弓を引く。
(「二度も、守って頂いたのです」)
「あは、は。僕、我慢するのは結構……得意、なんです、よ……!」
(「今度は僕が守る番です」)
「『射返せ、土岐田弎十郎』!!!」
「――な!?」
 どうせ弾くばかりの結界だと思っていたろう本多忠勝が息を飲む。何故なら護りの繭の内から、姿なき矢が射かけられたからだ。
「百鬼を退けたとされる御業に、将の一人を退けられぬわけがありませんっ」
「ッ、小娘どもが!!」
 虚勢に等しい気迫を吐いた颯に、額を割られた本多忠勝がいきり立つ。攻撃に力を割いた分、結界にも隙がある。だのに颯は「ねえ、小娘に僕も入ってるのかな?」というロキシアの嘯きに、くすと笑った。
 だってミントグリーンの風が吹いていたから!
「させないんだからっ!」
 雨を抜き去り、三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)は本多忠勝との間合いを空から詰める。
 魔力翼の展開は、いつもより大きめを心がけた。距離感の誤認も誘ってのことだ。
(「長物は懐に入られると弱いらしいし」)
 刹那を見極める為に、麻緒は全神経を研ぎ澄ます。本多忠勝が天下三名槍と称されるうちの一本、蜻蛉切の使い手であるのを麻緒は識る。
 生半可な踏み込みでは、見切られるのが関の山だ。だからこそ空路を択び、機を選んだ。
(「――ここ!」)
 迎撃のために本多忠勝の手首が返る。そこに合わせて、麻緒は羽搏きに宙を蹴る加速を加え、青の腕の内へ身を躍り入らせた。
 襲い来た切っ先に、頬から右腕にかけて薄く裂かれはしたが、麻緒は気にも留めない。元より多少の怪我は覚悟の上だ。そも、無傷で優位を取れる相手ではない。
「時より速く、刃より鋭く」
 チョコレート色の髪を翻し、上体を起こし。踵を地面へ付けて、麻緒は翼と同じ彩に塗った爪を伸ばす。
「食べ頃は一瞬だからね!」
 刃と化した爪は、麻緒の意の侭。鞭のようにしならせ、眼前の首に巻き付け、一息に引く。
「っ、敵ながら年端もゆかぬ娘どもがこれほど果敢であるのに、貴様らは!!!」
 ぎ、と鋼の首を軋ませた本多忠勝が怒りを吼えた。
 それはディアボロスへ向けられたものではなく、責務を放棄した同胞へのもの。放たれた覇気に、復讐者でない者が二人、転げ斃れる。
 しかしそんなことは、それこそ麻緒も、颯も、ロキシアも“知った事ではない”。
「こうなれば、我が身ひとつで護り抜くまでよ!」
「しつこい男は嫌われるって、知らないのかい?」
 態勢を整えたロキシアが、蹴りを見舞う。
「絶対に行かせないと、申し上げましたでしょうっ」
 弦音を鳴らし、颯は守りを厚くした。
「余所見はさせないんだよ!」
 爪を振り解かれた麻緒は、威嚇するよう翼を大きく大きく広げる――。

『大怪我はもちろん、風邪をひいて帰ったらマスターたちに怒られちゃうから。気合、入れてかからないとだね』
「……麻緒さん」
 降りしきる雨の中で聞いた聲を、葉古森・莱(迷わし鳥・g04625)はひとり反芻する。
『……簡単にできる相手だとは思わないけど、背中、預けたよ』
 きっと本当は怖いのだろう。それでも莱は、ごくりと喉を鳴らした麻緒へ、『無理はしないでね』と言うしかなかった。
 息苦しさを覚える攻防を、莱はけだま――モーラット・コミュ――をぎゅっと抱き締め、じっと見守る。
 麻緒の挙措のひとつひとつが派手なのは、莱の存在を隠す為でもあるのだ。
 なれど敵は歴史に名を残す猛将。おそらく戦場に居る全てのディアボロスを認識してはいる。それで莱が見逃されているのは、麻緒に守られる若輩者だと思われているからだ。
「ぼくは弱い、――」
 細く呟き、莱は肩を心許なげに揺らす。
 分かっている。知っている。否定はしない。だが莱は、麻緒に背中を託された“自分”の意味を知る。
「弱い、けど。ちゃんと、こたえる」
 麻緒らの猛攻が、本多忠勝の意識から莱を消す。そのタイミングを莱は見計らう。

「明日天気になーれ」

 誰かの声が聞えた。

「おのれ、ディアボロスどもめ!!!」

 堂が崩れる音に、本多忠勝が天をも衝く怒声を上げる。そこへ莱は“一瞬”を完璧に重ねた。
「けだま、今だよ」

 ――もきゅーっ!!

 反撃が来る可能性を思考の隅へ追いやった莱が掲げたけだまは、目一杯に開けた口からミント色の光線を放つ。
 麻緒と揃いの彩だ。けれど一直線に伸びる極太の光線は、爽風というより、荒れる木々を映した嵐。
「  」
 視覚外から迫る、予想外の一途な光に、本多忠勝は身構えることさえ能わない。
 然して既に数多の傷を負っていた武者は、鮮やかな光に飲まれ、断末魔ひとつ残せぬままに灼かれ逝く。

 まるであつらえたようなタイミングで雨が上がる。
 雲の遠退きぶりから、空はやがて綺麗な茜に染まり、そのまま星々をさざめかせるに違いない。
 斯くして八葉の一角を崩したディアボロスたちは、一人も欠くことなく揚々と高野山を下り往く。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【防衛ライン】がLV9になった!
【活性治癒】がLV2になった!
【託されし願い】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】がLV4になった!
【ドレイン】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV7になった!

最終結果:成功

完成日2023年05月31日