リプレイ
新堂・亜唯
今回は出かける前に初詣に行く時間がもらえるんだなぁ……
とはいえ、ワイワイ屋台でご飯食べる感じでもないか
ってことで、俺は渋谷区にある宮代神社にお参りに行こうかな
赤十字医療センターの中にあるんだってさ
本で読んだけど、ここには戦時中の看護師さんとかが祀られてるんだって
俺は医療の勉強中だから、クロノヴェーダとの戦いの前にお参りに来るには良いかなって
ここに眠る人たちがいた歴史も、俺たちの世界に帰ってきたってことを確かめながら
「人の命を助けるため」に立ち上がった人達に想いを馳せて
これからの戦いの決意を固めたいんだ
クロノヴェーダは許せないけど
俺は歴史と、そこに居た人々を助けるために戦うんだ、って
瀧夜盛・五月姫
怨霊に憑かれています。
アドリブ、連携、歓迎ぞ。
新宿は鎧神社にやってきたぞ。
これの祭神は変わっておってな。
なんと“あの”平将門を祀っておるというのだ。
不可思議よ。
平安京《たいらのみやこ》と新宿島が繋がりよった故に、新皇たる吾が、祟神に貶められたる将門に、参拝などとは。
嗚呼、奇々怪々ぞ。滑稽と云わずして何とする!
ハハ、ハハハハハハッ……諸行無常よな……。
それはさておいても、他にも祭神はおる。
そいつらには、挨拶くらいせんとな。
迷惑な同居人のことはどうでも良い。
だが同じ社の誼として、娘を護ってやれん、かの?
吾はいつまで呪詛として在れるか、なんて。
何者にも、或いは神にも、わからんのだからな。
十六夜・ブルーノ
初詣か
新たな年の始まりに神社ってなんかいいよね
気持ちが改まる感じがする
ちゃりんとしてからお願い…いや宣言するのは歴史の奪還
歴史侵略者から失われたものを取り返すため全力
そう神様に誓おう
天は自ら助くる者をって言うし
何より俺達復讐者の役目だ
新宿島の皆も応援してくれている
猶更頑張れちゃうよ
厳かな雰囲気を味わいながら境内を散策
ご神木をみて歴史の重みを感じたり
邪魔にならなければ心のまま
静かにブズーキを奏でよう
新宿島の皆の願いも込めて
神様への奉納にもなる、かな?
たとえ今は絶望に飲み込まれている人々も
希望があればきっと前へ進める
そう信じる
さあ、行こう、ドゥー
神代・朔夜
初詣は元いた時代でも行ったことはありましたが、こうして一人で来るのは初めてなので少し楽しみです。
この明治神宮は毎年多くの人が初詣に来るぐらい有名な神社だと聞きました。
ですがやはりこんな状況なので人は少なそうですね。
また大勢の方が集まれるようになれたら来たいものです。
ところで参拝の時の作法は現代でも同じなのでしょうか?
周りの人を見つつ順番が来たらお賽銭を入れて「二礼二拍手一礼」でお参りをしましょう。
来る前に少し調べたのですがここは運気上昇や縁結びのご利益があるそうなので、この一年も良き縁が結べるようにと願います。
マルケト・キサウェ
大田区の磐井神社へ参りましょう。
ここの御祭神にはかつての天皇や皇后だった方々が多いご様子ですね。大己貴命も祀られている辺り、国を守護するぞ!という気概のようなものが感じられます。(気のせいかも知れませんが)
武蔵国八幡総社に位置付けられる神社だそうなので、武力向上を祈願したい所。
わたくしは敵が油断した隙を突くような戦法を取ることが多く、真正面から戦うのには力不足な感がありまして。
もちろん自分自身が頑張らないことには駄目ですけどね!もっと鍛えないと!気持ちが大事です!
気持ちが大事と言えば、この後向かう先の人々は生きる気力を失っているそうで……
何処まで力になれるかは分かりませんが、頑張りたいですね。
●序幕
大薙刀を携えた白髪の少女が石造りの鳥居をくぐり抜けた。
くぐもった笑い声を漏らしながら。
「くくくくく……」
その神社は閑散としていた。かつては境内に保育園が併設されていたのだが、数年前に閉園されたため、子供たちの元気な声が聞こえてくることもない。いや、保育園が健在だったとしても、現状では子供を預かる余裕などないだろうが。
なんにせよ、それは幸いなことだ。
もし、ここに子供たちがいたら――
「くくくくく……」
――少女が漂わせている不気味な空気に怯えていたに違いない。
●瀧夜盛・五月姫(無自覚な復讐鬼・g00544)
これが笑わずにいられようか?
聞いたところによると、この神社で祀られている奴らのうちの一柱は平将門公なのだとか。いや、『公』を付けるのはなにやら気恥ずかしいというか馬鹿馬鹿しいが。
平安京と新宿島が繋がった故に、新皇たる吾が、祟神に貶められたるマサカドに参拝することになるとは……奇々怪々にして滑稽千万。
「はははははははっ!」
声を抑えるのも馬鹿らしくなったので、吾は呵呵大笑した。
一頻り笑い終えると、胸の内が晴れ晴れと……するわけもないわ。去来するのは虚しさのみよ。
「諸行無常よな」
挑戦者にして敗残者たる板東の虎(奇しくも今年は寅年か)にはそう語りかけるにとどめておいた。
しかし、他の奴らには挨拶くらいしておこう。マサカド以外に祀られているのは日本武命に大己貴命に少彦名命。境内摂社(珍奇な狛犬が目を引く)には祟り神の先達の菅原道真までもが鎮座しておる。当代風に謳うなら、『オールスター』といったところか? これだけいるのだから、少しばかり加護を期待してもいいだろう。
吾ではなく、この体の本当の持ち主――娘への加護を。
「娘を護ってやってくれ」
もっとも、己が娘に取り憑く怨霊の願いなど聞き入れてもらえぬかもしれぬがのう……。
●幕間
その小さな神社は大きな病院の敷地の一角に設けられていた。
傍には保育園もあるが、五月姫が参拝した神社がそうであったように子供たちの姿はない。
ただ一人、中性的な容貌をした十歳前後の少年を除いて。
「ここで合ってる……よな?」
神社の歴史が記されたパネルに少年は近付いた。
年齢からも判るように彼は保育園の園児ではない。また、病院の関係者でもない。
しかし、この病院に大きな影響を及ぼした者の一人であることは間違いないだろう。
「この神社が見送ってきた人々の歴史も――」
パネルを読み終えると、少年は感慨深げに呟いた。
「――帰ってきたんだな。俺たちの世界に」
そう、ここは渋谷区。
つい最近まで別のディヴィジョンに属していた場所。
少年を含むディアボロスたちが取り戻した場所。
●新堂・亜唯(ドロップダスト・g00208)
俺は赤い鳥居をくぐり、ちっちゃな社を拝んだ。
パネルに書いてあったけど、この神社は昔からここにあったわけじゃないんだってさ。最初は看護婦の学校みたいなところに建てられていて、その学校を卒業した従軍看護婦さんたちが戦地に派遣される前にお詣りをしていたのだとか。医療を勉強中の俺にはうってつけの神社だよな。
「あなたたちは人の命を助けるために行動していたんですよね」
この神社から戦場へと旅立っていった『先輩』たちに俺は語りかけた。先輩の多くは別の神社(その区域も奪還済みだぜ)で祀られているらしいけど、声は届いているはず。
「俺もそうありたいと思います。クロノヴェーダは許せないけど、憎しみで戦ってるわけじゃない。失われた歴史と、そこにいた人々を助けるために戦っているんだって……」
そう、助けるために戦おう。戦い続けよう。
俺は刻逆が起きる前から天涯孤独の身だったから、この戦いに勝つことができたとしても、なにも取り戻すことはできない。
でも、構わないんだ。
なにも取り戻せなくても、別のなにかを新たに得ることはできるはずだから。
●幕間
千五百年ほどの歴史を有するというその神社はビル街の狭間にあった。
現代においては珍しくないとはいえ、神社とビル街の組み合わせはやはりミスマッチに見える。
しかし、ビル街が見えないように境内だけに視点を絞っても、印象はさして変わらないだろう。
参道の端を行くたった一人の参詣客もまたミスマッチな存在だったのだから。
天使の翼を背に生やした、金髪の少女である。
「ここの御祭神にはかつての天皇や皇后だった方々が多いと聞きました」
瞳を好奇心に輝かせて、天使の少女は境内を見回した。
「大己貴命も祀られているあたり、『国を守護するぞ!』という気概のようなものが感じられますね。わたくしの気のせいかもしれませんけど」
おそらく、気のせいだ。
しかし、ディアボロスであるこの少女自身が気概に燃えていることは間違いない。
『世界を取り戻したい!』という気概に。
●マルケト・キサウェ(docta ignorantia・g03412)
あら? ここの神社の狛犬さん、可愛いですねえ。何匹もの子犬たちが親犬にしがみついたり、体をすり寄せたりしてますよ。
しかし、見た目は可愛いくとも、いざ戦いとなれば、猛々しく牙を剥き、荒々しく爪を立てるのでしょう。この神社は武闘派寄りだそうですから。なんでも、かつては武蔵国の総社八幡宮だったとか。
武運の神たる八幡神が祀られているのであれば、わたくしとしても武力向上を祈願したいところ。
(「わたくし、敵が油断した隙を突くような戦法を取ることが多く、真正面から戦うのには力不足な感がありまして……何卒! 何卒!」)
社殿を拝して心中で訴えかけること数十秒。熱い想いはなんとか伝わったのではないでしょうか。
とはいえ、神様だけに頼るつもりはありませんよ。そう、まずは自分自身が頑張ること! もっともっと鍛えないと! そういう気持ちが大事です!
気持ちが大事と言えば……今回の任務地の人々は生きる気力を失っているそうで……。
どこまで力になれるかは判りませんが、この件でも頑張りたいですね。
●幕間
第一次東京奪還戦の前から新宿島に属していた某神社にもミスマッチな参詣客が訪れていた。
ターバンを巻き、ブズーキ型の魔楽器を携えた少年。
いや、彼一人ならば、大きな違和感は生じない。
ミスマッチに見えるのは同伴者のせいだ。
「刻逆の後でも健在かどうか知らないけど、虎の仮面を被った名物おじさんが新宿にいたんだって」
頭上を行く同伴者に少年は語りかけていた。
何故に頭上かというと、その同伴者が有翼だからだ。
「ここはその人と縁のある神社だそうだよ。寅年の初詣にはぴったりだと思わないかい、ドゥー?」
「めえー」
と、『ドゥー』と呼ばれた同伴者――郵便ラッパを持った黒いメーラーデーモンが鳴いた。
その声はどこか不満げだ。
十二支に山羊が含まれていないことが気に食わないのかもしれない。
●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
新たな年の始まりに神社に詣るって、なんかいいよね。気持ちが改まる感じがする。
可愛い子持ちの狛犬に挟まれて、お賽銭をちゃりーん♪
そして、人類の歴史を奪還できますように……と、お願いしたいところだけど、やめておいた。
その代わり――
(「人類の歴史を必ず奪還するぞ!」)
――心の中で叫んだ。
これは宣言。そして、神様たちへの誓い。天は自ら助くる者を云々って言うし、なにより歴史の奪還は俺たちディアボロスの役目なんだから。天命を待つのは、しっかりと人事を尽くした後だ。
まあ、たとえ神様たちに見限られても大丈夫さ。神様と同じくらい頼りになる人たち――新宿島の皆が応援してくれているから。
「めぇー!」
誓いを終えて頭を上げると、ドゥーが鳴いた。さっきまでと違って、なにやら楽しそうな声だ。
ドゥーがいるのは、賽銭箱に向かって右側にある大きな瓶の傍。地面から突き出た竹筒の先端に片方の耳を押し当ててる。どうやら、なにかの音がそこから聞こえてくるみたいだね。
俺も聞いてみたくなったけど、それは後でいい。今は聴く側じゃなくて聴かせる側になろう。愛用のアイリッシュブズーキ『ブリギッド』の出番。
俺は社の前の石段に座り、『ブリギッド』を奏でた。
新宿島に生きる人たちの願いを込めた曲だけど、神様たちへの奉納にもなる……かな? さっきのお賽銭よりも気に入ってもらえるかもね。
●幕間
菊の紋章が付いた鳥居を着物姿の娘がくぐった。
鳥居の先にまっすぐ伸びる道は参道であると同時に林道でもあった。左右に木々が生い茂り、白いトンネルを構成している。雪化粧が施されていなければ、緑のトンネルなのだろうが。
雪面に足跡を刻みつけ、娘はゆっくりとトンネルを進んでいく。
彼女は別の時代から漂着したディアボロスだが、着物姿ということもあって、情景との組み合わせはミスマッチではなかった。二つの要素――前髪の隙間から伸びる角と袖から覗く硬質の手を無視すれば。
「ここは毎年多くの人が初詣に来るぐらい有名な神社だと聞きましたが……やはり、こんな状況なので、人は少ないですね」
鬼人の娘は白い息とともに呟きを吐き出した。
「また大勢のかたが集まれるようになれたら――」
足を止めて目を閉じる。
人混みの中を行く自分の姿を思い描いているのだろう。
「――改めて来たいものです」
娘は再び目を開き、歩き出した。
彼女以外には誰もいない参道を。
●神代・朔夜(桜花爛漫・g00582)
新宿島に漂着する前にも初詣に行ったことはありますが、こうして一人で来るのは初めてですね。
この神社に訪れるのも初めてです。私が生きていた時代にはまだ創建されていませんでしたから。
歴史は百年ほどしかない神社だそうですが、品格に満ち満ちているような気がしますね。しかし、なによりも特筆すべきは……この広さ! 参道を歩いて歩いて歩いて歩いて、入り口にあったのと合わせて三つの鳥居をくぐり、ようやくにして本殿に到着しました。ふう。
さて、参拝しましょう。私が生きていた時代の作法と同じでも構わないのかもれしませんが……念のため、この時代で一般的になっている(参拝の作法にも流行り廃りがあるようですね)という「二礼二拍手一礼」でお詣りしましょう。
来る前に少し調べたところ、ここは運気上昇や縁結びのご利益があるのだとか。
なので――
(「この一年も良き縁が結べますように」)
――と、お願いしておきましょう。
そう、漂着後に結ぶことができた縁と同じくらい良き縁を……。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
枸橘・蕙
【ミント】
はつもーでっ!はつもーでっ!へへ、みんなで行くのがいっちばんたのしーよな!
……すいにーちゃん、なんか背中がすすけて見えるけど……
迷子にならないよーに、ちゃんと手はつないでいくぜ
にーちゃんとらいのマネっ子して、お賽銭入れて手をぱんぱんしてお祈り
いきなり全部なくなって、大変だった去年だけど……今年は楽しい『大変』がたっくさんきますよーに!
……あと、すいにーちゃんの背中がすすける回数が減りますよーに
なあなあ、おれおみくじ引いていい?
はつもーでって言ったら、やっぱこれだよなー!
五百雀・翠
【ミント】
弟分の2人と初詣。迷子にならないように手を繋いで行こうか。
平和だなぁ…クリスマスは大変だった。
あ、大丈夫だぞ?こういうのは慣れてるから。でもありがとうな。
お手水で手を清めた後は参拝へ。
お賽銭入れて、手をパンパンと叩いて、何を祈ろうか。
友人たちが健やかに過ごせますように。
それと暴走特急な人形使いの娘がもう少し大人しくなりますように。頼むから。切実に。
さて、この後どうしよう?おみくじ引いていくならそれもありか。
良い結果だったら大事に持って帰って、悪い結果ならそこに結ぶとこがあるからそこで結んでお別れだぞ?
すっかり冷えたか。帰りに甘酒でも飲んで帰るか。他の連中には内緒で。背徳の味かぁ。
葉古森・莱
【ミント】
今年は家族とじゃなくて、だけど家族みたいに温かい二人と神様に新年のごあいさつかぁ
手を繋いでお参り、うん、こういうのいいかも
…翠さん、ぼくいい子にするから、元気出して?
けだまも一緒に二礼二拍手一礼…練習したもんね?
まねしてる蕙くん、ちょっと弟みたいでかわいいかも
えぇと、みんながけがをしませんように
…あと、翠さんの胃の負担が少しでも軽くなりますように
…そのあとでいいので、今年は女の子の格好をしなくて済みますように…!(ふるふる)
お、おみくじ…!ぼくも引きたいなぁ…
ふぇ、内緒の甘酒まで…!
内緒は本当はよくないけど、ほんの少しなら、いいよね…?
こういうのも『はいとくのあじ』になるのかな…?
●幕間
朱色の鳥居の前に三人の妖狐が横一列に並んでいた。
二十歳前後の青年一人に十代前後の少年二人という取り合わせ。中央に青年が立ち、左右に並ぶ少年たちと手を繋いでいる。
三人は揃って一礼すると、広い境内に足を踏み入れ、社殿に向かって歩き出す……かと思われたが、青年の左側にいた少年が三歩も進まぬうちに立ち止まり、声をあげた。
「あ? おさむらいさんがいる!」
左手で少年と繋がっていた青年も(当然、右手で繋がっているほうの少年も)立ち止まることを余儀なくされたが、不満そうな顔を見せたりはせず、また少年を急かしたりもせず、『おさむらいさん』とやらに目をやった。
それは、髷を結って帯刀した壮年の男の彫像だった。歩いている姿を切り取ったものらしく、片足は前に、反対の足は後ろにある。
「侍じゃないみたいだよ。よく判らないけど……」
右手で青年に繋がっていた少年が遠慮がちに意見を述べた。
「ふーん。そういえば、手にもってるのも刀や槍じゃないもんな」
左手の少年は、彫像が持っている道具――方位磁石がついた杖を眺めた。
「しょーがつそーそー、おもしろいものが見れたなー。絵をかくためのいんすぴれいしょんがわいてきそう」
「『いんすぴれいしょん』って、なんなの?」
右手の少年が問いかけると、左手の少年はなんのてらいもなく大声で答えた。
「おれにもよくわからない!」
「判らないのかよ」
右手の少年に代わって、青年がツッコミを入れた。
優しく苦笑しながら。
●葉古森・莱(迷わし鳥・g04625)
「ちょんまげ爺さんの鑑賞は終わったか? じゃあ、お手水に行くぞー」
翠さんにうながされて、ぼくたちはまた歩き出した。もちろん、手を繋いだまま。
「はつもーでっ! はつもーでっ!」
蕙くんは、翠さんと繋いだ手をぶんぶんと勢いよく振っている。見なくても判るよ。振動がこっちまで伝わってくるから。
振動は頭からも伝わってくる。なぜかというと――
「もっきゅもきゅ! もっきゅもきゅ!」
――頭に乗ってるモーラット・コミュのけだまが蕙くんの声に合わせて体を揺らしてるから。
「へへっ。こうやってみんなでお出かけするのがいっちばんたのしーよな!」
と、翠さん越しに蕙くんが話しかけてきた。
「……うん」
「もきゅ!」
ぼくとけだまは同時に答えた。ぼくの小さな声はけだまの大きな声にかき消されたかもしれない。でも、楽しいと思っているのは本当だよ。去年までのように家族と一緒に来れなかったのは悲しいし、寂しいけれど……家族と同じくらいあったかい二人と手を繋いでのお詣りというのも悪くない。うん、悪くない。
「ん?」
返事のなかった翠さんを蕙くんが見上げた。
「すいにーちゃん、なんか背中がすすけて見えるけど……」
そう言われてみれば、なんだか元気がないような……新年早々、ぼくたちの相手をさせられているから、ちょっと疲れてるのかな?
「翠さん……ぼく、いい子にするから、元気出して」
ぼくがそう言うと、翠さんはきょとんとした顔を見せた。
「いや、大丈夫だぞ? 全然、元気だし」
そして、今度は笑顔を見せた。
「でも、ありがとな」
●枸橘・蕙(そらを描く・g02980)
おさむらいさん(じゃないらしいけど)のいるところから『おちょーず』とかいうことする場所へ。
そこには金色の鳥がいた。もちろん、本物じゃなくて置物だけどな。その鳥のくちばしには管が付いていて、おれたちが近づくと、その管の先っぽから水がちょろちょろと流れ出した。おっもしれーな! またまた、いんすぴれいしょんがしげきされそう!
「よく見とけよ」
すいにーちゃんはおれたちから手をはなしてヒシャクを取り、それで水を受けて、うがいみたいなことをしたり、手をあらったりした。なるほど、なるほど。これが『おちょーず』かー。
おれとらいは、すいにーちゃんのマネをして『おちょーず』した。けだまもマネしたけど……ちょっと上手くいかなくて、体ぜんたいがびしょぬれになっちゃった。サーヴァント用の小さいヒシャクもあったらよかったのに。
「もきゅもきゅ!」
びしょぬれの体をぶるぶるさせて、けだまは水しぶきを飛ばした。
そのぶるぶるが済むまで待ったあと、おれたちは『ほんでん』とかいうところに移動した。
お賽銭箱がでーんと置かれたその場所でも、すいにーちゃんのやることを見てマネっこするぞ。ふむふむ。お賽銭をなげて、おじぎして、もう一回おじぎして、ぱんぱんと手をうって、またおじぎ……よし、おぼえた。
お賽銭、おじぎを二回、ぱんぱん! ……で、締めのおじぎ。
(「いきなり全部なくなって大変だった去年だけど……今年は楽しい『大変』がたっくさんきますよーに!」)
あ? これもお願いしておかないとな。
(「すいにーちゃんの背中がすすける回数がへりますよーに」)
●五百雀・翠(天つ風・g03977)
現在、二人の弟分と一緒に『とみおかナンタラ』とかいう神社に初詣中。いやあ、平和だねえ。
しかし、俺も子守り役が板についてきたもんだ。この時代ではこういうのは『育メン』とか呼ばれてもてはやされてるらしいけど。
さて、神さんへのお願いは、と……。
(「友人たちが健やかに過ごせますように」)
こんなところかな?
いや、もう一つ付け加えておこう。
(「暴走特急な人形使いの娘がもう少し大人しくなりますように」)
ホント、これは切実な願い。年末にその暴走娘の御守りをしたんだけど、あれは今日と違って、とても『平和』と呼べるような一時じゃなかったから。
神さんへのお願いを済ませて弟分たちを見てみた。二人とも、ちゃんと二礼二拍手一礼とやらができているようだ。感心、感心。あと、けだまも同じことをやってる。丸っこい体をしてるもんだから、一礼しても姿勢はあんまり変わらないけどね。
莱が顔を上げ――
「ちゃんと練習したんだよ。けだまと一緒に……」
――はにかむように笑った。
「えらいな。ところで、莱はなにをお願いしたんだ?」
「うん。まあ、いろいろ……」
照れたような困ったような顔して口を濁した莱だったが、『いろいろ』のうちの一つだけは教えてくれた。
「翠さんの胃の負担が少しでも軽くなりますようにって……」
そりゃどーも。その思いやりの何十分の一でもいいから、俺の胃をガリガリ削ってくる暴走娘に分けてやってくれ。
「なあなあ!」
と、蕙が服を引っ張ってきった。
「おれ、おみくじ引いていい?」
それを聞いて、莱が目をちょっとキラキラさせた。
「……お、おみくじ! ぼくも引きたいなぁ……」
「だよなー? やっぱ、はつもーでって言ったら、おみくじだしー!」
「はいはい」
せっかくの正月だ。おみくじ以外もサービスしとこう。
「寒くなってきたから、帰りに甘酒でも飲んでいくか。他の連中には内緒でな」
「あまざけ!」
莱の目のキラキラ度が増した。
「内緒は本当はよくないけど……でも、ほんの少しなら、いいよね? こういうのも、『はいとくのあじ』って言うのかな?」
「はいとく、はいとくぅ!」
「もきゅ、もきゅー!」
蕙とけだまもはしゃいでる。どっちも『背徳』の意味は判ってないだろうけど。
おみくじは小吉だった。
『対人:気苦労を厭うな。辛は幸に通ずる』だってさ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
【託されし願い】がLV2になった!
【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
喩・嘉
幸児と共に
都心の中の自然に溢れる愛宕神社へ
事件に向かう前に初詣を済ませよう
「出世の石段」という急な石段を一歩一歩踏みしめるように上って
新宿島の信仰はよくは知らないが
静かな境内は身が引き締まる思いがする
標高が高いからなのか、空気も違うように感じられるな
幸児にとっては神社は親しみ深いところだろうか
詣でる礼儀があるなら教えてもらいたい
教えてもらったことを忠実に真似て異国の文化のしきたりを尊ぶ
二礼二拍手一礼を一緒に
一年の幸と
戦の無事を願って
幸児にもなと、笑い合う
守都・幸児
喩嘉と一緒に
愛宕神社に行く
初詣だーっ
この時代にも神社はちゃんとあるんだな、嬉しいぞっ
自然が多いのもすごくいい
上機嫌に石段を登るぞ
ああ、時代が変わっても
神域の空気は気持ちいいもんだなあ
興味津々に周りを観察
へえ、今の時代の参拝はこうなってるのか
賽銭箱は俺の時代では馴染みのねえもんだから驚く
柏手打ったりするのは玉串拝礼に近えんだな
喩嘉に作法を聞かれたら
まずは水で手を清めるんだ、って
手水舎で一緒に手を清めて
それからちょいと考える
参拝は合掌するだけでもいいんだが
せっかくだから新宿島の作法でやってみるか、って提案して
一緒に二礼二拍手一礼するぞ
あ、何願おう
じゃあ
幸の多い一年になりますように
喩嘉と、皆にもなっ
●幕間
山中の石段をインセクティアの美丈夫と鬼人の偉丈夫が登っていた。
「急勾配だな」
額に浮かぶ汗を優雅な所作で拭いながら、インセクティアが言った。
「おまけに一段一段が高くて登りづらい。しかし、この階段を馬で駆け上がった猛者の故事があるのだとか……」
「すげえな」
と、鬼人が無邪気に笑った。
「でも、無双馬持ちのディアボロスなら、同じことができるかもしれねえぞ」
「向こう見ずなディアボロスも少なくないから、いずれ誰かが挑戦するかもしれんな」
「案外、既に挑戦してたりして」
言葉を交わしつつ、一歩一歩踏みしめるように石段を登り続ける二人。示し合わせたわけでもないのに呼吸のリズムや足の動きが同調している。
やがて――
「着いたな」
「おう」
――九十段近くある石段を登り切った二人を鳥居が出迎えた。
「けっこうキツかったな」
鬼人がまた笑った。言葉に反して息は乱れていないし、インセクティアと違って汗もかいていない。
「さっき、馬で駆け上がった奴のことを凄いって言ったけどよ。そいつじゃなくて馬のほうが凄かったのかもな」
●喩・嘉(瑞鳳・g01517)
この神社は山頂にある。最終人類史の単位で表すと、標高は二十五メートルほど。新宿島にある(いや、今ではここも新宿島の一部だが)四十メートル超の箱根山よりも低いが、あちらは築山。対して、この山は自然の産物だ。
高所であるせいか、なにやら空気が違うように感じられる。それでなくても静かな境内というのは身が引き締まる思いがするがな。
ともに来た幸児はといえば――
「ああ! 時代が変わっても、神域の空気は気持ちいいもんだなあ」
――晴れ晴れとした顔で深呼吸している。平安の世の生まれだから、このような場所は親しみ深いものなのだろう。夜色の角が帯びている光も少しばかり輝きを増しているような……いや、それはさすがに気のせいか?
「参拝の作法があるなら、教えてくれないか」
「任せとけ」
幸児は俺を境内の一角へと案内した。
そこに設けられていたのは、水が湛えられた大きな石の器。龍を象った吐水口が上部にあり、側面には『洗心』という字が彫られている。
「まずは水で手を清めるんだ」
器の上に並べられていた柄杓の一つを幸児は手に取り、水を汲み、空いているほうの手に注いだ。手が硬質化しているので(俺もそうだが)、水は体表に弾かれて綺麗に流れ落ちていく。次いで柄杓を持ち替え、今度は反対の手を……。
見様見真似で俺もやってみた。
「ふむ……手を清めているだけなのに心までもが洗われているような気がするな。『洗心』とはよく言ったものだ」
「手だけじゃなくて、口もすすがなくちゃいけないんだぜ。こういう風にな」
幸児は柄杓の水を掌に受け、それを口に含んだ。
硬質化している手は角と同じような色をしているので、異形ながらも優美な青黒い杯を傾けているように見えるな。
●守都・幸児(迷子鬼・g03876)
この時代にも神社はちゃんとあるんだな。俺が生きていた頃から千年以上も経っているのに……なんだか嬉しくなってくる。
しかも、神社の数は一つや二つじゃないと来たもんだ。ぜーんぶ数えたわけじゃないが、新宿島にある分だけでも百社を軽く超えてるんじゃないか。
で、沢山ある中からこの神社を選んで来たわけだが……けっこう、気に入ったぜ。自然が多いのがいいよな。山にある神社というよりも神社のある山って感じだ。
「手と口を清めたら、いよいよ参拝だぜ」
俺と喩嘉は朱色の門を抜け、社殿の前に行った。
神様と対面しているわけだから神妙に振る舞わなくちゃいけないんだけど、ついきょろきょろと見回してしまう。俺が生きていた頃に比べると、色々と様変わりしているもんで。とくに目を引くのは、あの賽銭箱ってやつだな。あんなものを目にする機会は滅多になかった。だいたい、銭そのものが珍しかったし。
「手を合わせればいいのか?」
「うん。それで充分なんだけども……」
ちょっと調べてみたところ、この時代では『二礼二拍手一礼が正しい』みたいな風潮になっているらしい。なぜだか知らないけど。
「郷に入っては郷に従えってヤツだ。現代式の二礼二拍手一礼でやってみるか」
「判った」
喩嘉と一緒に二礼二拍手一礼。お互い手が硬質化してるから、柏手の音が独特だな。
後退りするようにして社殿から離れ、朱色の門の外を出たところで俺たちはくるりと反転した。
「幸児はなにを願った?」
「幸の多い一年になりますようにって。もちろん、喩嘉と皆にもな」
そう答えた後、俺は同じ問いを返した。
「喩嘉はなにを願ったんだ?」
「一年の幸と戦の無事を願った。もちろん――」
喩嘉はにっこりと笑い、付け加えた。
「――幸児にもな」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV2になった!
【平穏結界】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!
【ガードアップ】がLV2になった!
ラウム・マルファス
ソラ(g00968)と
和装で、新宿島西部(近所)の神社へ
悪魔と天使が神社って何か面白いネ
「だってソラ、似合いそうだシ。ボク、お揃いにしたかったシ」
ご近所さんに凄く見られたけどネ
何か変だったカナ?
全知の魔法書で正しい所作とか調べながらお参りするヨ
お賽銭は電子マネーってわけにいかないよネ
Rewriterの物質変換能力で、空気をフルーツ缶に変換
神社の人に渡しておこウ
(ソラが今年も無事であります様に。あと、今年もボクは、沢山殺すだろうカラ。その人たちが、せめて苦しまないように)
「ソラ、お神酒買おウ。ネ?」
の、飲まないヨ?我慢するヨ
ボクもお御籤引こウ
ん、満喫しタ。準備して、依頼に行こうカ。
ソラス・マルファス
兄貴(g00862)と
和装で、拠点にしている薬品店近くの神社へ。
「兄貴が和装を着たがるなんてな。なんかあったのか?」
俺に着せるためかよ……似合ってるかねぇ?自分じゃわからねぇが。まぁ近所のヤツラの反応は好評っぽかったな、俺より兄貴の方が。
兄貴に倣ってお参りするぜ。
(兄貴や……苦しんでいる人たちを、護れるだけの力が欲しい)
願うってよりは誓いのつもりで。兄貴のことだ、碌でもねぇこと1人で背負い込んでやがるだろうしな。共に背負えるくらいには、身も心も強くなってやるさ
「ネ、って……いいけどよ、この後依頼行くんだろう。飲むのは無事帰ってからだぜ。あぁ、御籤もあるな。引いてみるか」
さぁ1回帰って、駅行くか
●幕間
「この神社、昔のお祭りとかの力くらべで使われてた石が残ってるんだっテ。持ち上げられるかどうか試してみル?」
「いや、そういうのは勝手にいじっちゃダメなやつだろ」
松の巨木を従えた鳥居の前で二人の男が言葉を交わしていた。
両者ともに着物姿。日本の正月らしい光景と言えよう。しかし、刻逆が起こる前には絶対に見られなかった光景でもある。
男の一人はデーモンであり、もう一人は天使なのだから。
「それにしても――」
野性的な顔立ちをした天使は眉根を寄せ、飄々とした雰囲気のデーモンをまじまじと眺めた。
「――なんで和装なんだよ?」
「だって、ソラとお揃いにしたかったシ」
「いや、だから、なんで和装で揃えたんだって話だよ」
「だって、ソラに似合うと思ったシ」
「はあ? そんなに似合ってるかねえ?」
天使は自分の着物を見下ろした。
「自分じゃあ、よく判らねえが……しかし、まあ、近所の奴らにはある意味ウケてたよな。主に兄貴のほうがさ」
「ウケてたのかナ? なんか、ちょっとヘンな目で見られてたような気がするんだけド」
「だから、『ある意味』だってばよ。もっとも、兄貴がヘンな目で見られるのはこれが初めてってわけでもないけどな」
「嗚呼、いつの世も天才というのは凡俗の徒から白眼視されるものなのカ……」
と、芝居がかった調子で嘆く兄のデーモンを残して、弟の天使は鳥居をくぐった。
「ほら、行くぞ」
「待ってヨー」
●ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)
俺が境内に入ると、兄貴もスキップするような足取りでついてきた。
「悪魔と天使が揃って神社に行くって、なんかおもしろいネー」
「日本の神様たちはなんでもアリなところがあるから、悪魔だろうが天使だろうが受け入れてくれるだろうさ」
「とはいえ、最低限の礼儀は必要だと思うヨ」
おやおや。露悪趣味に走りがちな(でも、本当は良い奴なんだぜ)兄貴らしからぬ、まっとうな意見だな。
「だから、お詣りの正しい所作とかを調べないとネ」
兄貴の前面に一冊の本が浮かび上がり、ページが自動的にパラパラとめくられた。
「ふむふム」
わざとらしく眼鏡をずりあげてから、兄貴は本に顔を近づけた。
「なるほど、なるほド。お詣りの仕方、だいたい把握できたヨ。さあ、いってみヨー!」
兄貴がきびきびと移動した先は手水舎だ。
そこで手を清め始めたので、俺もそれに倣った。
「あ? この狛犬、ひどいネー。子犬の頭を踏んづけてるヨ。児童虐待、児童虐待!」
「踏んづけてるんじゃなくて撫でてんじゃねえの?」
「そうかナー?」
二匹の狛犬の間を通り、何段かの石段を登り、社殿の前に到着。
「お賽銭は電子マネーってわけにいかないよネ」
木の柵に囲まれた賽銭箱に兄貴は硬貨(今の新宿島では賽銭以外に使い道のない代物だ)を投げ入れ、頭を二度下げ、手を二回叩き、また頭を下げた。
先程と同じように俺もその動作に倣った。
そして、心の中で――
(「兄貴や……苦しんでいる人たちを守れるだけの力が欲しい」)
――神様に願った。
いや、願いというよりも誓いかな? 兄貴のことだから、今年もまたロクでもねえことを一人で背負い込んだりするだろうし……ともに背負えるくらいには身も心も強くならないとな。
●ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)
ボクの願い事は二つだヨ。
一つめはこれ。
(「ソラが今年も無事でありますように」)
そして、二つめはこれ。
(「今年もボクはたっくさん殺すだろうけど、その人たちがせめて苦しみませんように」)
神様に頼ったりせずに自分で気をつけるべきなんだろうけど、いざ戦いとなったら、殺す相手のことを慮る余裕なんかないからネ。その戦いにソラの命がかかっていたりしたら、尚更だヨ。
(「……というわけだから、そこんところよろしくネ」)
と、ボクは神様に念を押した。デーモンのお願いを聞いてくれるかどうかは判らないけど、審査もせずに却下したりはしないよネ? ちゃんとお賽銭をあげたんだかラ。
「さて、参拝も終わったことだシ――」
腕をぐりぐり回しつつ(参拝なんて慣れないことしたもんだから、一瞬にして凝っちゃったヨ)、ボクはソラに提案しタ。
「――お神酒、買おウ。ネ?」
「いや、『ネ』って……」
ソラはちょこっと呆れ顔。プラス、ジト目。
「まあ、いいけどよ。仕事が控えてるんだから、飲むのは無事に帰ってからだぜ」
「わ、判ってるヨ! 買ってすぐに飲んだりしないヨ! ボク、我慢できるヨー!」
「へいへい」
投げやりな感じで頷いた後、親愛なる弟は社務所のほうを指さしタ。
「ついでにおみくじも引いておくか?」
「イイネ!」
おみくじは小吉だっタ。
『仕事:絆を以て当たれ。近親者の恩を忘れるべからず』とのこと……って、一度たりとも忘れたことはないヨ!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【建造物分解】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
平良・明
鳩森八幡社内、浅間神社、目当ては最古の富士塚
小さいですが不尽の名を持つ富士山の見立てです
いつも通り日も明けきらぬ早朝に、冷えた空気を感じながら
高さなど比べ物にもなりませんが、だからこそ、一歩一歩
一合目、二合目、三合目……と、今を想い登りましょう
この道は、どこまで行けるのだろう
思いつつも迷いなく、たぶんそれでいい
願いは、明日も同じようにしっかり世界を歩けること
自分と明神、浅間の神が知っていればいい願いです
今は遠くの地のひとの幸尽きぬことを祈り
奥宮に、二礼二拍手一礼
朝早いですし、お参りが済めば、おにぎり食べましょう
紅花さんも食べますか?本当に珍しい時間に逢いました
しっかり食べたら、仕事の時間です
杏・紅花
珍しく早起きして電車に乗った
明サンみっけ!ついてく!
フジヤマ、聞いたことあるよお
今は遠くにあるけど、いつかホンモノも登ってみたい
うひゃあ
そんなに長くない道だけど、登ってみるとけっこー急だな!?
一歩に集中して歩いてたら、考えごとしちゃうよね
…生きたいと思ってない人を説得するの、実はちょっとだけ、気が重くて
その人たちの気持ち、先のこと
あたしは代わってあげられないから
でも登りきれば、きっと清々しいから
目の前に立ったとき、自分が信じたこと、しよ
明サンの見よう見まねで、
ぺこぺこ、ぱんぱん、ぺこ
早く強くなれますように
あ、あとご飯いっぱい食べたいです
えっおにぎりあるの!?
食べる!!!
早起きして良かったあ
●幕間
「ふわぁ~……」
曲がりくねった石段の途中で立ち止まり、インセクティアの少女が大きな欠伸をした。
「珍しく早起きしたんだけど、頭の中はまだ半分くらい寝てるかもぉ」
「がんばってください」
前を歩いていた作業帽姿の青年が足をとめて振り返り、少女をはげました。
「頂上に着けば、きっと残りの半分も目を覚ましますよ」
「うん」
二人は再び歩き始めた。富士の山頂を目指して。
もっとも、細くて急な石段が巡るこの小さな山は本物の富士山ではない。富士山に見立てた人工の山――所謂『富士塚』である。
「この富士塚は都内では最古のものなんだそうですよ」
「じゃあ、日本一古いってことだね。今は都外なんて存在しないんだから」
青年の蘊蓄に冗談を返すと、少女は腰を屈めて石段をそっと撫で、日本最古(暫定)の富士塚に語りかけた。
「いずれ、あたしたちはクロノヴェーダから世界を取り戻すよ。つまり、君を日本一の座から引きずりおろしちゃうってこと。でも、怒んないでね?」
●平良・明(時折の旅行者・g03461)
あっという間に三合目に到達しました。
そこから、ほんの数歩で四合目。
そして、五合目。
不尽の名を持つ本家本元とは比ぶべくもない高さではありますが……しかし、だからこそ、今を思う心を一歩一歩にしっかり託して登りましょう。
私の行く道はどこに続いているのか? 私はどこでまで行けるのか? 一歩に託した心にはそんな疑問も含まれているものの、それによって歩みが滞ることはありません。多くを思いながらも迷いなく、前へ、前へ……たぶん、それでいい。それでいい。
気が付けば、八合目。ちなみにこの富士塚は非常に親切設計でして、一合毎に『○合目』と記された立て札があるのです。合目ばかりでなく、奇岩名石などの見所を示すプレートも設けられていますよ。至れり尽くせりですね。
もっとも、紅花さんにはちょっと不評な模様。
「あっちこっちにいろんな札があるから、ゴチャゴチャして目にうるさいね」
困惑気味の声が後方から聞こえてきました。
「ゴチャゴチャしてしまうのは仕方ありませんよ。富士山をギュッと凝縮したのですから、どうしても情報量の密度は高くなってしまいます」
「フジヤマかぁ」
声に含まれている感情が変わりました。困惑から憧憬へ。
立ち止まって振り返ると、紅花さんもまた足を止め、キラキラと輝く目で空を見上げていました。
「名前は聞いたことあるけど、本物を生で見たことはないんだよねえ。当然、登ったこともないし」
「では、本物の富士山を奪還できた暁には――」
「――登ってみたいね! 今日みたいに!」
紅花さんは元気よく後を引き取ると、再び歩き出しました。
●杏・紅花(金蚕蠱・g00365)
明サンを追い抜いて、ずんどこずんどこ歩いてこー。
すっごく急な道だけど、本物のフジヤマはこんなもんじゃないんだろうなあ。本物に挑むのがより楽しみになってきぞー……と、はしゃぐ気持ちに全振りしたいところなんだけど、この後のお仕事のことが頭の端っこにずっと引っかかってるんだよね。生きたいと思ってない人を説得するのはちょっと気が重い。その人たちの気持ちが完全に判ってあげられるわけじゃないし、あたしが代わってあげられるわけでもないし。
……なんてことを考えている間に頂上に着いちゃった。
周りのビルに比べたら、なーんてことのない高さだけれども、それなりに見晴らしは良い。心なしか空気も澄んでるような気がする。そして、心なしとかじゃなくて本当に朝日が綺麗。うん、綺麗。
朝日を眺めているうちに心がちょっぴり軽くなったかな。説得すべき人たちのことでぐじぐじうじうじと悩むのはもうやめ。その人たちの前に立った時、自分が信じたことをしよ。
「これが奥宮ですね」
ちょっと遅れて到着した明サンさんがちっちゃな祠みたいなものの前に立った。このチビフジヤマの麓にも神社や鳥居があったんだけど、明サンの前にある祠(オクミヤって言うんだね)もその神社の一部ってことなのかしらん? ちなみにチビヤフジヤマはもっと大きな神社の境内の中にあって、しかも境内には他にもいくつかの小さな神社が間借りしてるんだよ。新宿島神社多すぎ問題。
「では……」
明サンはぺこぺこと頭を下げて、ぱんぱんと手を叩き、ぺこっとまた頭を下げた。とっても真面目な顔をしている。大切なことを神様にお願いしたんだろうね。
私も真似して……ぺこぺこ、ぱんぱん、ぺこっ!
(「はやく強くなれますように……あ? あと、ご飯いっぱい食べたいです。いぃ~っぱい食べたいです」)
しっかりお願いしてから、頭をあげると――
「朝食用のおにぎりを持ってきたんですよ」
――真面目な顔を優しい笑顔に変えて、明サンがそう言った。
「麓に降りて、一緒に食べませんか?」
「食べるー!」
二つ目のお願いがさっそく叶っちゃったよ! ありがとー、チビフジヤマ! ありがとー、明サン!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】がLV2になった!
【能力値アップ】LV1が発生!
●幕間
もはや『庭園』とは呼べぬほどに荒れ果てた庭園に、JR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、それらからディアボロスたちが降り立った。
彼らや彼女らが向かった先は、庭園の中央にある平屋建ての屋敷。庭園と同様に『屋敷』とは呼べぬほどに老朽化しているが、それ故に容易に壁を破壊して侵入することができるだろう。
いや、破壊するまでもない。正面の戸口から堂々と入ることもできる。新宿駅で令震が言ったように衛兵の類はいないし、アヴァタール級の妖怪もまだ姿を現していないのだから。
「……あ?」
屋敷から声がした。
見ると、格子窓の向こうから男児が顔を覗かせている。
「ねえねえ! 誰か来たよ! 誰か来たよー!」
男児は好奇心に声を弾ませ、屋敷の中にいるだろう人々にディアボロスの来訪を告げた。
しかし、それに対する返答は聞こえてこなかった。
男児以外の者たちにはもう好奇心など残っていないらしい。
十六夜・ブルーノ
鬼や妖怪達が跳梁闊歩する世界だ
絶望も当然かも
けれど希望があれば前へ進める
希望の灯を心に燈そう、ドゥー
優し気にブズーキを弾きながら
屋敷を訪問
君たちを助けに来た
儀式を受けたら君たちは鬼に変えられてしまう
今の生活も大変と思うけど
人でなくなってしまうのはきっと死ぬよりも辛い
もう二度と人としては生きらないんだ
自分の未来を奪っちゃダメだ
勿論子供の未来なら猶更だ
これまでの人生で
嬉しかったり笑顔になった時もあったでしょ?
きっといつかまたそんな時がくるよ
村祭りで多分歌っていたような
この時代っぽいお祭の拍子を演奏
村人たちが歌い出したら
それに旋律を合わせて俺も合唱
これは【勝利の凱歌】だ
あと脱出時は少人数に分かれてね
ラウム・マルファス
ソラ(g00862)と
「大人数が入れる場所じゃないだろうし、手分けしよっカ」
ボクが先に対応するヨ
新宿島から食べ物持っていこウ
暖かいおかゆとかがいーカナ
受け取ってはくれないなら目の前に置くヨ
「好きに食べていーヨ、時間たつと冷めちゃうけどネ」
「先のこと考えるとサ、辛いし、怖いよネ。でもさ、死なない方がいーと思うんダ」
「妖怪、見たことあるでショ?あれさ、死んだ人がああなるんだヨ。餓鬼とかになると辛いヨ?今なら食べればお腹ふくれるケド、餓鬼はお腹膨れないらしいカラ」
「それに……気づいてないだけで、君を想ってる人がいるかもよ。死にたいなんて顔されたらさ、すっごい、悲しくて苦しいんだよ?」
新堂・亜唯
さーて、ここからが仕事だな
なるべく少人数ずつで脱出すべきってことらしいし、俺も手分けして村人を連れに行こう
パラドクスの力で、友好的に言葉を聞いてもらえるよう補助もする
けれど何より伝えるべきは、あの人たちに生きてほしいと思う真心でしょ
だったら、言葉に意思を乗せて届けなきゃ
俺は父さんも母さんも弟も、皆死んじまった
身寄りがなくて、ひもじさに山で木の根を食んで暮らしたこともあったさ
それでも、俺は人間として生きることをやめなかったから
家族のいた――人間としての幸せな記憶と、これからの希望を信じられる
大切な人の顔、水の潤い、夜空の美しさ
何か一つでも人間としての幸せを思い出したら……
どうか、助けさせてほしい
守都・幸児
俺は、口減らしで山に捨てられた
だから頑張ってもどうにも出来ねえもんがあるって
少しだが…知ってるつもりだ
あんたらは
ずっと頑張ってきたんだよな
ここに居たら、よくねえことが起きる
本当はわかってるんだろ
あんたらが頑張って生きてきたことが
無かったことにされちまう
俺はそれが我慢がならねえ
だから一緒に逃げてくれ
説得に応じてくれた民は少人数に分けて脱出させる
応じてくれねえ民がいたら
隣に座ってぎりぎりまで待ってみる
俺にはもう帰る村はねえが
あんたらには、まだあるんだろう
朽ちる場所は
ここじゃなくてもいいんじゃねえか
今じゃなくても
もう一日だけでも
…頼む
最後の一団が脱出するときは
【平穏結界】を使いながら一緒に脱出するぞ
●新堂・亜唯(ライトニングハート・g00208)
さーて、ここからが仕事だ……と、意気込んで入った建物の中は襖だの障子といった仕切りが取っ払われていて、全体が大きな部屋みたいになっていた。床には藁が敷き詰められていて、見た目も匂いも家畜小屋のようだ。実際、そこかしこにいる人々――追儺の鬼の候補にされてしまった村人たちは家畜同然の扱いを受けてきたんだろうけど。
友達催眠の効果を持つパラドクスを俺や喩嘉さんが使ったからか、誰も敵対的な行動を取ったりはしなかった。だからといって、ものすごく友好的ってわけでもない。なにも尋ねようともせず、生気のない目で俺たちをただじっと見つめてる。ただ一人、窓から覗いてた男の子だけは好奇心に目を輝かせてるけど。それはもうキラキラと。
「君たちを助けに来たんだ」
ブルーノさんが村人たちに語りかけた。リュートみたいな魔楽器で優しい曲を奏でながら。メーラーデーモンのドゥーも輪っか状のラッパで伴奏してる。
「でも、助ける前に腹ごしらえといこうカ。おなか空いてるト、やる気が出ないシー」
魔楽器の調べが流れる中、ラウムさんが何人かの村人に皿を渡して回った。中身はおかゆ。たぶん、レトルトのやつ。
「好きに食べていーヨ。パラドクストレインで移動している間にちょっと冷めちゃったけドネ」
村人全員に行き渡るほどの量はなかったけど、問題なし。明さんもおむすびを配ったからな。
突然の施しに戸惑いの表情を見せつつも、村人たちはそれらを食べ始めた。
その様子を見ながら、幸児さんが呟いた。
「白い米ってのは、余程のことがない限り食うことができない御馳走だったんだけどな。俺たちにとっては……」
村人たちと自分を『俺たち』と一括りにしたのは、彼もこのディヴィジョンの出身者だからだろう。
●守都・幸児(迷子鬼・g03876)
そう、この時代の農民にとって、白い米は御馳走なんだ(米を作ってる当人なのにな)。
だけど、あの元気な男の子以外の面々は驚きの声をあげたり、嬉しそうな顔を見せたりしなかった。美味しさを感じる余裕なんてないらしく、ただ飢えを満たすためだけにがつがつと貪ってる。獣みたいに。昔の俺みたいに……。
それでも飯を食うことで人心地つけることはできたらしく――
「助けに来た……そう言ったな?」
――指についた米を舐め取りながら、頭分っぽい年嵩の男がようやく言葉を発した。
「うん」
と、ブルーノが頷いた。
「どんな話を聞いてここに集められたのかは知らないけど、それは嘘っぱちだよ。追儺の儀式がおこなわれたら、君たちは鬼に変えられてしまうんだ」
「鬼だと?」
「そう、鬼だ。今の生活も大変だろうと思うけど、鬼になってしまうのはきっと死ぬよりも辛い。もう二度と人としては生きらないんだから」
「だからと言っテ、死んだほうが楽だなんて思わないほうがいいヨ」
ラウムが話に加わった。
「妖怪、見たことあるでショ? あれさ、死んだ人がああなるんだヨ。餓鬼とかになると辛いヨ? 人間はなにか食べればおなか膨れるケド、餓鬼はおなか膨れないらしいカラ。永遠におなか空きっぱなしだヨー」
「にわかには信じがたい話だが、それが本当だとしたら――」
年嵩の男は初めて笑みを浮かべた。運命に見放された自分を嘲るかのように。俺たちが見たいのはそういう笑顔じゃねえんだけどな。
「――俺ァ、喜んで鬼になるぞ。死んで餓鬼になるよりはマシだからな」
「いやいやいやいや! 死んだら必ず妖怪になるってわけじゃないカラ!」
ラウムは慌てて訂正したけども、男の顔から虚しい笑みが消えることはなかった。
「まあ、とにかく、死なないほうがいーと思うんダ。先のこと考えると、色々と辛かったり、怖かったりするだろうけどサ……もし、君たちが死んじゃったら、残された人たちがきっと悲しむヨー」
「俺が死んだところで誰も悲しんだりしねえよ」
「なんで、そう言い切れるのカナ? どこかにいるかもしれないヨ。君たちのことを想っている人がネ」
『かもしれない』じゃなくて、本当にいるぞ。
この件にかかわったディアボロス――そう、俺たちだ。
●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
「ラウムさんが言う通り、生きていたほうがいいに決まってる。もちろん、鬼ではなく、人間としてだ」
流れを変えようとするラウムさんを助けるように亜唯が語り出した。
「あんたたちほどじゃないけど、俺が辿ってきた道だってとても平坦と言えるもんじゃない。父さんも母さんも弟もみんな死んじまって……他に頼れる身内もいないから、一人で生きてきた。木の根を囓ってひもじさに耐えたりとかして、本当に大変だったよ」
リーダー格らしき男の顔から諦観めいた薄笑いが消えた。でも、別の表情が現れたわけじゃない。鬼や妖怪が跳梁跋扈する世界に生きる者にとっては、この手の苦労話は珍しいものじゃないんだろうね。ドゥーは亜唯の身の上に同情したらしく、郵便ラッパを吹くのをやめて、目をウルウルさせてるけど。
「それでも、俺は人間として生きることはやめなかった。やめなかったからこそ、家族がいた頃の……そう、人間としての幸せな記憶を忘れずにいられるし、この先の希望も信じられるんだ」
「生憎だな。俺たちにゃあ、幸せな記憶なんて一つもありしゃねえんだよ」
男は吐き捨てるように言った。無表情のままだけど、悲しそうに見える。
「そんなわけないよ」
俺は男の言葉を否定した。
「多くはないかもしれないけど、一つもないはずはない。これまでの人生の中で嬉しかったことや笑顔になったこともあったでしょ」
『ブリギット』による楽曲を優しいものから少しばかり楽しいものへと変えると、おむすびを美味しそうに貪ってた男の子がわいわいきゃっきゃっと楽しげに踊り出した。いや、とても踊りには見えないヘニャヘニャした動きなんだけども、本人は踊ってるつもりなんだろう。
●ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)
「そう、幸せな記憶が一つもないわけがないんだ」
と、亜唯がブルーノに同意しタ。
そして、むっつり顔のリーダーに訴えかけたヨ。
「誰にでも、なにかあるはずだよ。ほら、思い出してみて。大切な人の顔とか、水の潤いとか、夜空の美しさとか……」
「……」
リーダーはなにも言わなかっタ。でも、むっつり状態じゃなくなっテ、なにやら悲しそうというか悔しそうというか辛そうに見えル。亜唯やブルーノが言うように、この村人たちにも幸せな記憶はきっとあるんだろウ。それを思い出しテ、現状のみじめさを改めて痛感したんだろうケド……でも、それは悪いことじゃナイ。みじめな運命を無抵抗に受け入れるよりはずっと良イ。
「仮に、幸せだったことが一度もなかったのだとしても……」
と、幸児が口を開いタ。
「今日ここにあんたたちがいるのは、あたりまえのことだけど、今日まで生きてきたからだ。頑張って生きてきたからだ」
「どんなに頑張ってもよぉ……」
と、リーダーが反駁しようとしたけレド、幸児はそれを制して話し続けタ。
「いや、頑張ってもどうにもできねえもんがあるってことは判るよ。俺の人生もひどいもんだったからな。口減らしで山に捨てられて、獣みてえに生きて……縁に恵まれなかったら、そのまま獣みたいにくたばってただろうな」
なにかヘンな音がすると思ったラ、ドゥーがしゃくりあげてるヨ。幸児の話にもらい泣キ。見るに見かねて亜唯が鼻紙を差し出し、チーンしてあげタ。
「だからこそ、あんたたちが頑張って生きてきたってことも判るんだよ。でも、ここで死んじまったら、その積み上げてきた頑張りがなかったことになっちまうじゃねえか! 生きてきた証しがなんにも残らねえじゃねえか! 俺はそれが我慢ならねえ! だから、逃げてくれ! 生きてくれ!」
声を張り上げているにもかかわラズ、幸児の叫びは少しくぐもって聞こえタ。なぜなラ、深々と頭を垂れて下を向いているカラ。
「俺にはもう帰る村はねえが、あんたらにはまだあるんだろう? 朽ちる場所はここじゃなくてもいいし、終わる時も今じゃなくていいじゃねえか。どうか、頼む。もう一日だけでも……」
「たった一日だけだとしても、それは未来なんだよ」
ブルーノが演奏を止めて、頭を下げたままの幸児の横に並び、村人たちにそう言っタ。
「自分の未来を奪っちゃダメだ。もちろん――」
と、指し示した相手はあの男の子。音楽が消えても、まだ踊り続けてるヨ。
「――子供の未来なら、猶更だ」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
【友達催眠】がLV2になった!
【平穏結界】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV4になった!
【命中アップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!
マルケト・キサウェ
逃走の補佐をするべく、先んじて攻撃しに行きましょうか。
牢付近で警戒し、敵が来たら【飛翔】でかっ飛んでいって《聴け聴け犬が吠えている》を使用。追尾する球電と共に銃で攻撃します。〈時間稼ぎ〉が主目的なので、防御ではなく回避に注力し続けて貰いたい所です。
牢から逃げる方々がこちらに来ないよう、【パラドクス通信】で他の方への連絡も忘れずに。
……あの鏡。術式の道理は解りませんが、もしかすると失った記憶を取り戻す手掛かりに──いや、そんな場合じゃないですね。そもそも単なるまやかしかもですし。
力無き人々に助力するのが、今ここに立つわたくしの存在意義。今日の勝利も明るい未来も、自分自身の手で勝ち取るものですっ!
●幕間
銅鏡を携えた少女が郊外の小路をしずしずと歩いていた。
その小さな体を包む衣装から判断する限りでは上流階級の者のようだが、牛車にも輿にも乗らず、供を一人も連れていない。
少女以外の通行人がいない点も奇妙だった。ここは普段から人通りが少ないのか? あるいは、彼女の身に漂う妖気が自然と人を遠ざけてしまうのか?
「……あら?」
少女の足が止まった。
前方の地面が少しばかり暗くなっている。空を飛ぶ何者かの影が映っているのだ。鳥のそれにしては大きすぎる影が。
少女は視線を上げ、影の主を見た。
白い翼と金の髪と緑の瞳を有した娘。
それは天使だった。
そして、悪魔(ディアボロス)でもあった。
●マルケト・キサウェ(docta ignorantia・g03412)
わたくし、他の方々が囚われの皆様を逃がしている間にアヴァタール級の妖怪を攻撃することにしたのです。もちろん、一人で勝てるなんて思っていませんわ。逃走のための時間稼ぎができれば、それでいいのです。
「なにかごようでしょうか?」
眼下に立つ女の子――銅鏡を抱えた妖怪(女の子の姿をしていますが、一目で妖怪と判るほど怪しげな雰囲気を漂わせています)は首をかしげて、そう尋ねてきました。
わたくしは礼を以て、それに応え――
「追い回せっ!」
――たりせず、いくつかの球電を放ちました。先手必勝です。
球電たちはバチバチと火花を散らしながら、急降下して妖怪に襲いかかりました。
しかし、敵もさるもの。重い着物を身に着けているとは思えぬほどの素早さで飛び退り、攻撃を回避しました。
しかし、しかし、球電たちも更にさるもの。地面にぶつかる寸前に軌道を変え、わたくしが指示したとおりに妖怪を追い回し……数秒後に命中!
大きなダメージは与えられなかったようですが、べつに構いません。先述したようにわたくしの目的は時間稼ぎですから。
「なるほど……追儺の儀式を阻むために来られたのですね」
攻撃で乱れた衣服を直しながら、妖怪はそう言いました。察しのいいことです。
「ええ。阻ませていただきます」
反撃に備えつつ、わたくしは声を張り上げました。
「力なき人々のために尽力するのが今ここにいるわたくしの存在意義ですから!」
大成功🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV3になった!
ソラス・マルファス
兄貴(g00862)と
「手分けか、まぁいいけどよ、無茶しねぇでくれよ」
ぐるっと周囲を警戒してから部屋に戻って兄貴と交代だ
「ちょっと昔話を聞いてくれ。俺は以前、妻と子供が居たんだ。両方、殺されちまったがね」
「兄貴が手を引いて、一緒に逃げてくれたんだが……その間俺はずっと、『俺を置いて逃げてくれ』って兄貴に懇願してた」
「そのたびに、馬鹿なこと言わないでくれって言われてよ、それが今でも引っかかってる」
「今は、生きてて良かったって思ってるぜ。こうしてアンタ達を助けに来れたしな」
「俺達は妖怪から、全部取り戻すために戦ってるんだ。長岡京にも、戦ってる人たちがいる。希望はあるんだ。どうか、死なねぇでくれ」
平良・明
朝のはお握りでしたが、昼飯はお結び。言葉が違います
幸せの前にまず生き抜く事が必要
無気力に死を思う事はクソ贅沢で
どいつもこいつも生を噛みしめていない甘えん坊で
約全員、殴りたい
……がまん
とりあえず、お結びを食わせて
口福の伝道者は使わず
少人数で分けあわせ
不尽の食は幸せを嚙みしめるには足りますが
命の熱を噛みしめるには足りません
これが旨いと思うなら
私は知っています
この白飯がいくらでも食える
いずれそんな世がやってくる
子のまたその子の畑を守れ
わからないなら殴る、甘えるな
それは私には出来ない戦いで、尊いものです
わかれば邪を除け開けた道に向かい、飯を分け合った皆で助け合う
この契りが今日のお結びです
杏・紅花
あたしはあの子だけでも、助ける
動かないおとなたちへ
死ぬ気なら、腹が決まってるなら、別に止めない
勇ましく戦って、足掻くだけ足掻いて、未練もないなら
自分の命が無駄だと思わないなら
でも、できる事が未だあるのに動かないなら、……ふざけんな
この子は助ける
死ぬ気は無いから
あたしは苦しみを代わってあげられないけれど
この子の先を、おとなが断つ権利はない
おとなの絶望に、巻き込まないで
あたしは人の痛みに優しくしてやれない
親の都合で命を捨てたり拾われたり
そんな勝手、ゆるしたくない
でもいつか、あなたたちの痛みに共感しても
自ら死は選ばない
足がわるいひとがいるなら、背負っていく
あたしの手に乗る限り、行きたいひとは助ける
神代・朔夜
まぁ、何という体たらく。
未来を不安に思う気持ちも、死が目の前に迫り絶望に打ちひしがれる気持ちも分かります。
ですが、子供から希望を奪うのは違うでしょう。
この子は絶望していますか?死を願っていますか?
生きたいと願っている者に向かって死を選べ、だなんて残酷過ぎるとは思いませんの?
それこそ『鬼』のやる事と何が違うのでしょうか。
さて、貴方達は『人』として生きていたいですか?
それともこのまま何もせず『鬼』へと堕ちますか?
生きたいと願ってくれる方が手を挙げてくれるなら可能な限り手助けします。
もし動けない人がいるなら【怪力無双】で安全な場所まで抱き上げて連れて行きます。
喩・嘉
説得の間、「馥郁香計」で香りを放つ
旧き友人のように感じる者の言葉なら
聞く耳を持ってくれるだろう
お前達がここに居るのは、本当に自分の意思か?
きっと、なにか言われただろう
自分で選んだように感じているかもしれないが、その者に影響されてないと言い切れるか
自分を利用しようと企んでいる者の言葉に惑わされるな
俺は、そしてここにいる仲間たちは皆
お前達を助けたいと思いここへ集い、そして、心からの言葉を尽くしている
もっともらしく塗り固められた悪意の言葉との違いを
お前達は感じ取れるはずだ
年長の者がいれば敬意を表し
屋敷から脱出する手助けを
「いずれそんな世がやってくる」
明のその言葉
正直、俺にもすごく響いた
なんて
●平良・明(時折の旅行者・g03461)
私が村人たちに配ったおむすびの数はさして多くありません。人数よりちょっと少ない程度でしょうか(とはいえ、ラウムさんが用意してくれたおかゆもありますから、なにも食べられなかった村人はいないはず)。パラドクス効果の『口福の伝道者』はあえて使いませんでした。不尽の食は幸せを噛みしめるには足りますが、命の熱を噛みしめるには足りませんからね。
ちなみに言っておくと、紅花さんと一緒に神社で食べたのは『お握り』であり、村人たちに食べてもらったのは『お結び』です。言葉が違うのです……というようなことをパラドクストレイン内で力説したのですが、他の方々のリアクションはいまひとつでした。苦笑を返されたり、ぽかんとした顔をされたり……。
おむすびを食べた村人たちのリアクションもいまひとつ。『命の熱を噛みしめ』ることができなかったようです。例の男の子だけは喜んで食べてくれましたけど。
彼らや彼女らの無気力振りを見ていると、腹が立ってきました。どいつもこいつも(いえ、あの男の子は除きますが)無気力に死を思うというクソ贅沢に溺れてる甘えん坊じゃないですか。同情すべき存在であることはよく判っていますが……殴りたい! でも、我慢します。ええ、我慢しますとも。
「なんという体たらく……」
呆れたような声で朔夜さんが呟きました。いえ、呆れているだけでなく、私と同様に怒っているのでしょう。柳眉を逆立て……とまではいきませんが、眉がほんの少しだけ吊り上がっています。
それに紅花さんも御立腹の模様。なにも言葉は発していませんが、その顔付きの険しさは、おにぎりを美味しそうに頬張っていた姿からは想像もできないほど。いえ、おにぎりの美味しさ――命の熱を知っているからこそ、怒っているのかもしれません。
そんな女性陣と対照的なのはソラスさん。村人たちに向けられた眼差しは優しげであり、悲しげでもありました。
眼差しだけでなく――
「ちょっと昔話を聞いてくれ」
――その声も。
●神代・朔夜(桜花爛漫・g00582)
「俺には妻と子供がいたんだが……両方、殺されちまった」
何者に殺されたのかをソラスさんは明言しませんでしたが、察しはつきますわ。間違いなく、ディアボロスでしょう。
「俺が殺されずに済んだのは、兄貴が手を引いて一緒に逃げてくれたからだが――」
空になった皿を回収しているラウムさんに向けて、ソラスさんは顎をしゃくりました。
「――その間、俺はずっと『俺を置いて逃げてくれ』って懇願してた。でも、当然のことながら、兄貴は置いてったりしなかった。俺がどれだけ頼んでも『馬鹿なこと言わないでくれ』としか返さず、決して手を離さずに……」
紅花さんが携えている竹筒からクダギツネの天さんが出てきて、ソラスさんの脚に体を擦りつけました。慰めているつもりなのかもしれません。メーラーデーモンのドゥーさんはまたもらい泣きしていますわ。
腰を屈めて天さんを撫でながら、ソラスさんは語り続けました。
「状況は違うが、死を望んだという意味では俺もアンタたちも同じってわけだ。でもな……今は生きてて良かったと思ってるぜ。こうしてアンタたちを助けに来れたんだから」
「本当に助けに来てくれたのなら、感謝のしようもない」
と、村人たちの代表者的な立場であろう年嵩の男性が言いました。言葉に反して、感謝の念は感じられません。『本当に』の部分を強調しているのも気になりますね。
「だけど、さっきも言ったけどよぉ。あんたらの話は突拍子もなさすぎて、にわかには信じられないんだ」
「では、おまえたちをここに集めた者の話は信じられるというのか?」
喩嘉さんがそう尋ねました。
それは詰問するような口調ではありませんでしたが――
「……」
――叱られた子供のごとく、男性は決まり悪げに押し黙りました。
●杏・紅花(金蚕蠱・g00365)
「この状況を選んだのは自分だと思っている者もいるかもしれないが、それは大間違いだぞ」
黙り込んだオジサンに喩嘉サンはぐいぐい攻め込んでいった。
「おまえたちは選んだのではなく、選ばされたんだ。鬼だか妖怪だか人間の為政者や権力者だか……とにかく、おまえたちを利用しようと企んでいる輩どもの言葉に惑わされてな」
あの男の子はいつの間にか踊るのをやめて、オジサンをきょとんと見つめている。大人たちがなにを話してるか理解できてないんだろうね。
オジサンは黙ったまんま。口だけじゃなくて、目もぎゅっと閉じちゃってる。他の村人たちも似たりよったり。でも、現実逃避を決め込むつもりはないみたい。耳までは塞いでないから。
「その輩どもの言葉が信じられるのか?」
塞がれてない耳に向かって、喩嘉サンはさっきと同じ質問を繰り返した。
そして、返事を待たずに付け加えた。
「おまえたちを助けたいと思い、ここに来た仲間たち――ソラスさんや亜唯やラウムさんや幸児やブルーノが心から尽くした言葉よりも?」
「……」
オジサンはあいかわらずなにも言わなかったけど、目をゆっくり開いた。他の村人たちもね。
それを返事と受け取ったのか、喩嘉サンは頷いてみせた。
「そう、おまえたちは判っているはずだ。もっともらしい嘘で塗り固められた悪意の言葉と、この仲間たちの真摯な言葉との違いを……」
喩嘉サンが言うとおり、オジサンたちはきっと判ってる。『にわかには信じられない』とかいうのも嘘。本当はあたしたちの言葉を信じてるはず(友達催眠も効いてるしね)。
ただ、明るい未来ってのが信じられないだけ。
だから、なにもかも諦めて放り出そうとしている……。
まあ、死ぬ気なら、腹が決まってるなら、べつに止めたりしないよ。勇ましく戦って、あがくだけあがいて、未練もなにもないなら。そう、自分の命が無駄だと思わないならね。
でも、できることがまだあるのに動かないのなら……正直、『ふざけんな!』って感じ。
そんなムカムカした思いが爆発しそうになったけど――
「これだけ言っても、まだ動かないつもりですか?」
――朔夜ちゃんのほうが先に爆発させちゃった。
●ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)
「これだけ言っても、まだ動かないつもりですか?」
どうにも腰が重い村人たち(とはいえ、俺たちの言葉が心にまったく響いてないわけじゃないと思う)を朔夜は睨みつけた。
べつに怒鳴り散らしたわけじゃないし、鬼のような形相をしているわけでもない。
それでも怒りは十二分に伝わってきた。
この鬼人の娘は天使の俺よりも天使っぽい雰囲気を漂わせているんだが(御面相だけなら、俺のほうがよっぽど鬼人らしいぜ)、だからこそ却って怒りの激しさが感じられる。もっとも、本物の天使のように無慈悲な神さんの理不尽な怒りを代弁してるわけじゃない。人間的な怒りに突き動かされているんだろう。
「未来を不安に思う気持ちは判りますし、死が目の前に迫り、絶望に打ちひしがれる気持ちも判ります。ですが、子供から希望を奪うのは違うでしょう」
あの男の子(まだ、きょとんとしている)を朔夜は指さした。
「この子は絶望していますか? 死を願っていますか? 生きたいと願っている者に向かって『死を選べ』だなんて、残酷すぎるとは思いませんの? それこそ、鬼のやることとなにが違うのでしょうか」
「なにも違わないですね」
と、明が言った。怒鳴ってるわけでもないし、厳めしい表情をしているわけでもない。朔夜と同じく。だが、本当は怒っているんだろう。朔夜と同じく。
「追儺の儀式に参加するまでもない。あなたたちは自らの選択によって、鬼と化してしまうわけです」
「あるいは選択を放棄することによって……しかし、放棄なんてさせませんよ。しっかりと選んでいただきます」
朔夜はずいと前に出ると、宣言通りに選択を迫った。
鬼になりかけている村人たちへ。
「このまま、なにもせずに鬼へと堕ちますか? それとも、人として生きますか?」
村人たちはそれに答えなかった。
いや、答える暇がなかったんだ。
紅花が先に口を開いたからな。
「あなたちがどんな道を選ぼうとも――」
さっきの朔夜と同じように紅花はあの男の子を指さした。
「――この子だけは絶対に助けるからね!」
●喩・嘉(瑞鳳・g01517)
「あたしは人の痛みに優しくしてやれない。親の都合で命を捨てたり、拾われたり……そんな勝手、ゆるしたくない」
『痛みに優しくしてやれない』などと言いながらも、紅花は痛ましげな表情をした。その視線の先にいるのは村人たちではなく、口減らしのために山に捨てられたという幸児だったが。
すぐに視線を村人たちに戻し、表情も怒りのそれに戻して、紅花は言葉を続けた。
「もしかしたら……いつの日か、あなたたちの痛みに共感することもあるかもしれない。だとしても、自ら死を選んだりはしない」
例の男児は先程まではきょとんとしていたが、今は泣きそうな顔をしておろおろと大人たちを見回している。自分のせいで場が荒れていると思っているのかもしれない。
天がそれを察したらしく、男児のもとに駆け寄り、気持ちを和ませるために愛らしくじゃれつき始めた。
紅花はその様子をちらりと見やり――
「あたしはあの子だけでも助ける」
――改めてまた宣言した。
「絶対に助けるからね。この子の未来をあなたたちが断つ権利はない! おとなの絶望に子供を巻き込ま……」
「もういい!」
悲痛な叫びが紅花の言葉を遮った。
声の主はあの年嵩の男だ。
「もういい……判った。生きてやるよ……あんたたちのためでなく、俺たちのためでもなく……子供たちのために……」
男がゆらりと立ち上がると、他の村人も次々と腰を上げた……と言うと、なにやら希望に満ちた光景を想像してしまうかもしれないが、彼らや彼女らの中に明るい表情をしている者は一人もいない。皆、見るからに疲れ切っている。新たな苦役へと向かう労奴のように。
結局のところ、彼らや彼女らは子孫を生かすという義務感(あるいは後ろめたさのようなものか?)に従っているだけであり、絶望から解放されたわけではないのだろう。
「俺たちは、妖怪からすべてを取り戻すために戦ってるんだ」
倦み疲れた村人たちをソラスさんが励ました
「それに長岡京でも戦ってる人たちがいる。希望はあるんだ」
「その希望の先にあるものを私は知ってます」
と、明も村人たちに語りかけた。
「さっきのおむすびやおかゆは美味しかったでしょう? ああいうものがいくらでも食べられる――そんな世がいずれやってくるんですよ。あなたたちが生きることを諦めず、子のまたその子の畑を守っていけば……」
このディヴィジョンの住人にとっては、明の話は夢物語に聞こえるだろう。
だが、俺はそれが本当のことだと知っている。
新宿島に漂着し、未来の一端を目にしたのだから。
令震の指示通り、俺たちは村人を少人数に分けて別々に脱出させた。あの男児は天を気に入ったらしく、別れる時にちょっと駄々をこねたりしたが、それ以外はとくに問題もなく終了。
そして、すぐに次の段階が始まった。
「マルケトさんから連絡がありました」
パラドクス通信機を手にして、明が皆に報告した。
「アヴァタール級の妖怪がこちらに向かっているそうです」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【士気高揚】LV1が発生!
【口福の伝道者】がLV2になった!
【避難勧告】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【友達催眠】がLV3になった!
効果2【能力値アップ】がLV3になった!
【凌駕率アップ】がLV3(最大)になった!
【ダメージアップ】がLV6になった!
【アクティベイト】LV1が発生!
●幕間
もぬけの殻となった屋敷を背にして、庭園(とは呼べぬほどに荒れ果てた庭園)に並ぶディアボロスたち。
その前に現れたのは――
「ここにいた人たちを解き放ってしまったのですね」
――少女の姿をした妖怪である。負傷しているのは、ここに来るまでの間にマルケトと小競り合いを繰り広げたからだろう。
「善行をなしたと思っているのなら、考えを改めたほうがいいですよ。あの人たちは皆、鬼となったほうが……あるいは死んだほうが幸せだったでしょう。にもかかわらず、あなたがたは彼らや彼女らの俗世の荒波にまた突き落としたのです。嗚呼、なんと残酷な……」
少女の周囲に人魂のようなものが一つまた一つと浮かび上がり、鏡へと変化していく。パラドクスに用いるであろう照魔鏡。
「強者たるあなたがたには弱者の悲哀など理解できないのでしょうね。しかし――」
何十枚となく現れ出た照魔鏡は少女の周りをぐるぐると回り始めた。
少女を守るように。
あるいはディアボロスたちを挑発するかのように。
「――本当はあなたがたも弱者なのです。その心の中に潜む弱さを我が鏡で照らし出し、露わにしてさしあげましょう」
面識もない相手を強者と決めつけて糾弾したかと思えば、舌の根も乾かぬうちに弱者扱い。悪意に満ちた言動ではあるが、少女の声音からは怒りや憎しみは感じられない。
それどころか、彼女は楽しそうだった。
きっと、遊びに興じているつもりなのだろう。
ディアボロスという見慣れぬ玩具を弄んだ末に叩き壊すという残酷な遊び。
ベアトリス・リュウフワ
口を慎みなさい。
わたくしが『そうあれ』と望んだことは、全て真から成る『正道』の事象。
つまり、そんなわたくしと対等な、他のディアボロスの皆様方も、同じく『正道』。
いま朽ちるべき存在は、邪道を走る”お前”のみ。
(映し出されるは、かつてベアトリスの父親を葬った自動人形。ベアトリスを庇い、事切れる父の死体。崩落する屋敷)
……あら、嬉しい。
”それ”を反芻させて頂けるなんて。
その自動人形は、憎き仇敵。
わたくしが剣を振るい続ける理由であり、【情熱】そのもの。
取り乱しはしませんわ。あれを滅することは、すでに『決意』しております。
ところで――ディアボロスの原動力を、ご存知で?
お前は今、”わたし”を『怒らせた』。
アデレード・バーンスタイン
そうですわね…。あなた様の仰る通り、ここで生を終えたり人間を辞めた方が楽といった方も中にはいたかもしれませんわ。
ですが、わたくし達はただ善意のために来たわけでなくここに捕らえられた方々を勇気付け明日への希望を持てるようにと思いきたのですわ。
人や人の心を玩具のようにしかとらえてないあなた様の好きにはさせませんわ…。
精神攻撃を得意とする相手に長期戦は禁物…術中にはまる前に速攻で打ちのめさせていただきますわ!
エルフの弓で木の矢を連射して鏡を破壊、あるいはこちらに向けないように牽制しつつ接近します。
接近した後は【グラップル】で組み伏せて素手に【デストロイスマッシュ】を載せて相手に叩き込み破壊します。
新堂・亜唯
強者とか弱者とか言ってくれるが、自分が弱いことなんて、こっちは重々承知なんだ
でも、大事なのは、今が強いか弱いか、幸せか不幸かじゃない
強くなろうという思い、幸せを掴もうとする生き方、それ自体が人間なんだよ
だからよ、人を勝手に憐れんで、手前勝手なやり方で救った気になる
そういう物言いをするやつを、俺は絶対赦さない
鏡にはきっと、俺の父さん、母さん、弟が生きていたころの記憶
彼らがテロに巻き込まれて殺された記憶、そういうものが映ると思う
でもな、そんな記憶、そんな悪夢、こっちは見飽きるほど見てきたよ
俺の幸福も俺の不幸も全部俺のもんだ、変わらずこの胸にある
奴が見せる虚像なんて、その鏡ごと拳で叩き壊してやる
ソラス・マルファス
兄貴(g00862)と
強さなんざ人によるだろうよ。少なくとも、全てを覚悟してここから一歩踏み出したアイツらは強いさ。それにたとえ理解できずとも、寄り添うくらいはしてやれる。
兄貴の援護を信じて一直線に戦場を駆け抜けるぜ。正面に鏡。映るは幸せな過去。微笑む妻と、はしゃぐ息子の姿。
あぁ、そうだ。この景色を取り戻すため、俺は戦っている。同じ境遇のヤツを悲しませないために、戦っている。なら止まれねぇ。鏡像ごときに惑わされるかよ。
「想いを弄ぶクソ野郎が、他人の心を語ってんじゃねぇ!」
呪詛を纏った大剣で、鏡ごと横なぎに切り捨てる。
ラウム・マルファス
ソラ(g00968)と
ボク、弱っちーヨ?
まぁ、あの人たちの気持ちが分かるなんて言わないけどサ
辿ってきた道も思いも境遇も違うでショ
早業で、小さなカラス型ドローンに、粘性のある着色料(薬品)を搭載
ソラと並走させながら、進路を妨げる鏡に吹き付けて何も映らなくさせよウ
数が多ければ追加で魔導ナイフを飛ばして割るヨ
敵に近づいたら先行させて、着色料で目つぶしするヨ
鏡見てるヒマとか無いケド、見えちゃったらソラに殺されるボクが映るんだろうネ
ソラに恨まれて殺されるのがボクの理想で、ボクの絶望
心は乱れないよ、いつも思い描いているカラ
ソラにはまだ内緒サ
ソラがそーいう罵り方するの、珍しいネ
帰ったら一杯褒めてあげよウ
瀧夜盛・五月姫
ああ、そんな……。
そんなこと、してくれるんだ。
あり得ざる現在。
それは、姫にとって、夜叉たらず、普通の唯人としての、人生。
父や妹たち、家族たちと、普通にご飯を食べ、笑いあえた、はずの、日常。
でも、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな。
壊したのは、あなたたち、クロノヴェーダ、だよ?
その人たち、本当に死ぬしかない?
否、また、あなたたちが、道を、無くそうとしてる。
何なら、疫も飢饉も、あなたたちのせい、だったり、して?
まあ、それはこれから、姫たちが、調べること。
答えは聞かない。
鏡ごと、貴女を、貫くまで。
鏡が映す、像を“虚像”って、科学? では、云う、らしい?
紛い物の理想と共に、滅んで……ね?
●ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)
「その心の中に潜む弱さを我が鏡で照らし出し、露わにしてさしあげましょう」
「照らし出すまでもないでショ。ボク、フツーに弱っちーヨ」
何十枚もの鏡を操る妖怪(俺たちの弱さより先に自分の悪意を露わにしてるじゃねえか)を前にして、兄貴のラウムは肩をすくめてみせた。本気でそう言ってるのか? それとも、ふざけて相手を挑発しているつもりなのか? そこんところは身内の俺にも判らん。
それに比べて、亜唯は――
「強者とか弱者とか言ってくれるが、自分が弱いことなんて、こっちは重々承知なんだ!」
――良い意味で判りやすいな。憤りをストレートにぶちまけてる。
「でも、大事なのは、今が強いか弱いとかか幸せか不幸かとかじゃない。強くなろうという思い、幸せを掴もうとする生き方――それ自体が人間なんだ。だからよ、人を勝手に憐れんで、手前勝手なやり方で救った気になる……そういう奴を俺は絶対に許さない!」
「ふふっ……」
手にした銅鏡で口元を隠して、妖怪は笑った。
「よくもまあ、そんなことが言えたものですね。あの哀れな人たちを『手前勝手なやり方で救った気』でいるのは、あなたがたのほうでしょう?」
「口を慎みなさい」
と、豪奢かつ廃頽的な黒いドレスを着込んだ娘――ベアトリスがぴしゃりと言った。腰に吊した剣を物々しい所作で抜き放ちながら。
「あなたに責められる謂われなどありません。わたくしが『そうあれ』と望んだことは、すべて真から成る正道の事象。つまり、そんなわたくしと対等な、他のディアボロスの皆様方も同じく正道なのです」
「いや、ボクは正道から程遠いところにいるケド?」
「お黙りなさい」
「ごめんなサーイ」
兄貴よぉ……。
「今ここで朽ちるべき存在は――」
ベアトリスは剣の切っ先を妖怪に向けた。
「――邪道を走るおまえのみ!」
「ふふっ……」
妖怪はまた笑いやがった。『あなた』から『おまえ』に格下げされたってのに気を悪くしてないらしい。
「何度も同じことを言わせないでくださいな。私ではなく、あなたたちのほうなのですよ。邪道を歩んでいるのも、そして、ここで朽ちるのも……」
ほざいてんじゃねえよ。
●ベアトリス・リュウフワ(強欲と傲慢のミルフィーユ・g04591)
この妖怪……見た目は人形のように愛らしいのに(わたくし、嫌いな相手の長所を認めぬほど狭量じゃありませんのよ)、言動は本当に不愉快ですわね。わたくしを苛立たせるために殊更に憎たらしく振る舞っているのだとしたら、その狙いはほぼ成功していると言っていいでしょう。
「あなた様の仰るとおり――」
と、妖怪に語りかけたのはアデレードさん。その声はとても静かで穏やか。わたくしと違って、妖怪に怒りは抱いていないようです。
「――この屋敷に囚われていた人たちの中には、ここで生を終えたり、人間をやめたほうが楽だったかたもいたかもしれません」
アデレードさんは武器を手に取りました。エルフである彼女によく似合う、銀色の弦が張られた弓です。
「しかし、だからといって、その人たちの心や命を玩具のように扱っていいわけでありません」
「私があの人たちを玩具と見做しているとでも?」
妖怪が白々しく問いかけましたが、アデレードさんは返事をせず、弓に矢を番えました。前言を撤回したほうがよさそうですね。彼女も怒っているようです。もしかしたら、わたくしよりも激しく……。
「あの人たちに、残された道は……死ぬか、鬼になるか、本当にその二つしかなかった?」
無言のアデレードさんに代わって、五月姫さんが口を開きました。もっとも、先程の妖怪の問いに答えたわけではありません。逆に問い返したのです。
いえ、問い返したというわけでもないようですね。
妖怪の返事を聞くより先に――
「否、あなたたちのようなクロノヴェーダが、他の道を、断ち切っただけ」
――と、御自身で答えを出したのですから。
「そもそも、あの人たちを、苦しめている、疫病や飢饉も、あなたたちのせい、だったりして? まあ、それはこれから、姫たちが、調べること……今は、鏡ごと、あなたを、貫くまで」
五月姫さんは薙刀を構えられました。彼女の身の丈の二倍近くの長さを有した大薙刀です。
「『鏡ごと』と仰いますが――」
妖怪の周囲を回る何十枚もの鏡が輝きました。陽光を照り返したのではありません。それ自体が怪しげな光を放ったのです。
「――どの鏡のことですか?」
●アデレード・バーンスタイン(エルフのデストロイヤー・g05838)
「どの鏡を、貫くのかは……そっちが、決めれば、いいよ」
光りを放つ鏡の群れに怯む様子も見せず、五月姫様は妖怪に向かって駆け出しました。
「では、この鏡で――」
鏡の一枚が輝きを増しました。
「――あなたの失われた現在の姿をご覧ください」
「ん?」
鏡の光を顔に当てられて、五月姫様は立ち止まりました。それはただの光ではなく、妖怪が言うところの『あなたの失われた現在の姿』とやらを見せる魔性の技なのでしょう。
「ああ……姫も、ああいう風に、父さんや妹たちと、一緒に、ご飯を食べたり、笑い合ったりして、普通に生きることが、できたかもしれないんだね……」
鏡によって見せられているであろう幻のことをぶつぶつと呟きながら、五月姫様は薙刀を地に落とし――
「でもね。『失われた』とか言ったけど、失ってしまったのは、あなたたちが奪ったから、だよね?」
――などということはなく、再び走り出しました。
「そう、みんなみんなみんなみんなみんなみんな、あなたたちクロノヴェーダが、壊したんだよ?」
五月姫様の声に、風を切る音が重なりました。薙刀が突き出されたのです。
次に聞こえたのは、冷たい印象を受ける破砕音。幻を見せていた鏡が粉砕されたのです。
「……う゛っ!?」
連奏の締めは妖怪の苦鳴。鏡を打ち砕いた後も薙刀は真っ直ぐに進み続け、妖怪の胸を抉り抜いたのです。
「競技なぎなたでは胴めがけて突きを繰り出すのは反則だと聞いたが……まあ、これはスポーツじゃないから、問題ないか」
「そもそも、クロノヴェーダという存在そのものが反則みたいなもんだし」
ソラス様と亜唯様が言葉を交わしている間に五月姫は薙刀を旋回させ、石突きで斜め前方の地を叩くようにして飛び退りました。
代わって前に出た人影が一つ。
「さすが、五月姫さん。宣言通り、鏡ごと貫きましたわね」
ベアトリス様です。
●瀧夜盛・五月姫(無自覚な復讐鬼・g00544)
「ご無体な……」
妖怪の、周りを回っていた、鏡が、前のほうに集まって、上下左右に並んで、壁を、築いた。もっとも、どの鏡も、丸い形をしてるから、隙間なくびっしりと、並ぶことは、できなかったけど。
「御自身の過去を鑑みて、虐げられる弱者の痛みを知ってくださいな」
隙間だらけの、壁の、向こうで、妖怪が、そう言った。
「笑止千万ですわ!」
ベアトリスさんが、叫んだ。
「最終人類史では、そのような発言は『ブーメラン』と呼ばれますのよ! クロノヴェーダこそ、弱者を虐げている無体な存在でしょう!」
「……」
妖怪の、返事は、なし。
その代わり、壁を構成している、鏡の一つが光り、ベアトリスさんの、顔を、照らした。
さっき、姫に攻撃した時と、同じように、鏡のパラドクスを、使ったのかな?
ただ、姫の場合は、ありえなかった現在の幻を、見せたけど、今回は、過去の幻を、見せたのかも、しれない。妖怪は、『過去を鑑みて』云々と、言ってたから。
で、その幻に対する、ベアトリスさんの、反応は……。
「あら、嬉しい」
ん? 笑ってる?
「それを見せていただけるなんて……そう、お父様の命を奪ったあの憎き自動人形の記憶を反芻させていただけるなんて!」
ベアトリスさんは、一気に踏み込み、剣を振った。素早く、三回。
一回目の、斬撃で、光っていたのを含む、何枚もの鏡が、割れた。
二回目では、もっと沢山の鏡が、割れた。
そして、三回目。そこらじゅうに舞い散る、無数の鏡の破片に、どす黒い血飛沫が、混じった。妖怪の血……。
「ディアボロスの原動力をご存知?」
剣を一振りして、刀身についた血を払い、ベアトリスさんは、妖怪に、問いかけた。
でも、返答を待たずに(そもそも、答る余裕なんて、妖怪に、なかったかもしれないけど)、その『原動力』というのを、口にした。
「おまえは……わたしを怒らせた」
その言葉に、呼応するかのように、キリキリキリという音が、横から、聞こえてきた。
見ると、アデレードさんが、弓を、引き絞っていた。
●新堂・亜唯(ライトニングハート・g00208)
ベアトリスさんの斬撃で何枚もの鏡が割れたけど、まだ無傷のやつが山ほど残ってる。それらが身を寄せ合うようにして、また新たな防壁を築いた。
でも、次の瞬間、『ヒュッ!』と小気味よい音がして、鏡の一枚が『パリーン!』と割れた。
アデレードさんが矢を放ったんだ。
当然、一枚で終わらなかった。ヒュッ! パリーン! ヒュッ! パリーン! ヒュッ! パリーン! ……と、途切れることなく矢が飛び、鏡が割られていく。
「あなた様の好きにはさせませんわ。人の心を玩具のようにしかとらえてないあなた様の好きには……」
文字通り矢継ぎ早に攻撃を繰り出しながら、アデレードさんは妖怪に言った。戦う前に投げかけられた白々しい問いへの返答を兼ねた言葉なのかな?
とはいえ、その攻撃はパラドクスによるものじゃないらしく、妖怪そのものはノーダメージっぽい(もっとも、クロノ・オブジェクトの弓矢じゃなかったら、鏡を割ることさえできなかったかもしれないけど)。
アデレードさんもそれは判っているんだろう。弓を投げて(傍にいた五月姫さんがキャッチした)、妖怪に向かって駆け出した。
妖怪は瞬時に反応。鏡の配置を改めてまた防壁を作り、そのうちの一枚を怪しく輝かせた……が、その『瞬時』ってのはアデレードさんのそれには及ばなかった。
「好きにはさせないと言ったはずです!」
アデレードさんは鏡の光を避けて更に間合いを詰めた。
そして、拳の一撃を見舞った。たぶん、ただ殴ったわけじゃなくて、念動力を拳に乗せたデストロイスマッシュを放ったんだろう。
小さな白い拳が鏡を打ち砕き、妖怪の鳩尾に叩き込まれた。
「……!?」
声をあげることもできずに(なにぜ、鳩尾だもんな)妖怪は後ろに吹き飛んだ。
それに合わせて鏡の防壁も後退。主人についていく様は忠犬を思わせるな。
だけど、妖怪の後を追ったのは忠犬だけじゃない。
猟犬も牙を剥いて突進した。
その猟犬の名は――
「オマエ、弱者がどうこうとか抜かしてたけどよ。弱さだの強さだのは人によるだろうが」
――ソラスさんだ。
「少なくとも……すべてを覚悟してここから一歩踏み出したアイツらは強い!」
村人たちのことを語るソラスさんに小さな黒い影が伴走……いや、伴飛行した。
ラウムさんが召喚したカラス型のドローンだよ。
●ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)
「オマエが言うところの『弱者の悲哀』とやらは理解できねえかもしれねえが、アイツらに寄り添うくらいはしてやれるぜ」
ソラは熱く語ってるケド、ボクはもうちょっとドライに捉えてたりしテ。
確かに寄り添うくらいのことはできるかもしれなイ。でも、気持ちを完全に判ってあげるのはやっぱ無理だよネー。辿ってきた道も思いも境遇もぜっんぜん違うわけだシ。
気持ちはドライだけドモ、戦い方はウェットな感じでいくヨ。ソラと並走させてるドローンから、ネチョネチョした塗料を勢いよく噴射! 壁状に並んだ鏡を塗り潰し……たかったけド、さすがにすべての鏡にぶっかけることはできなかっタ。
そしテ、塗り潰されなかった鏡のうちの一枚がピカリと光り、ボクに幻を見せタ。間髪容れず、別の一枚もピカリ! そっちの標的はソラのようダ。
ボクの眼前に繰り広げられたのは……ボクが切望する未来の光景。だけど、心は一ミリも掻き乱されないヨ。何度も思い描いタ光景だからネ。
ソラが見せられた幻も想像がつク。間違いなく、過去の光景――奥さんや息子(つまり、ボクの甥っ子)が生きている姿ダ。
ゆえにボクと同じク――
「惑わされるかよ!」
――心を掻き乱されたりしナイ。
「この景色を取り戻すため、俺は戦っているんだ! 同じ境遇のヤツを悲しませないために戦っているんだ! だから、止まれねえ!」
その言葉の通リ、ソラは止まらなかッタ。塗料で斑になった鏡の壁に突進シテ、愛用の大剣を一薙ギ。戦覇横掃とかいう技だッケ?
禍々しいデザインの刀身が唸りをあげて走り、軌道上にあった鏡が続けざまに割レタ。もちろん、鏡の向こうにいた妖怪にも命中。また吹き飛ばされちゃっタヨ。さっきは後ろだったけド、今度は真横にネ。
「想いを弄ぶクソ野郎が他人の心を語ってんじゃねえ!」
おうおう。ソラがソラがこういう風な罵り方するのは珍しいネー。帰ったら、一杯ほめてあげよウ。でモ、ボクが見た幻……ボクがなによりも望む未来のことは教えてあげなイ。
今はまだネ。
●幕間
「アデレード……これ、使う?」
五月姫が弓を差し出した。アデレードが投げた弓である。
「ありがとうございます。でも――」
アデレードは弓を受け取ったが、新たな矢は番えなかった。
「――使う必要はなさそうです」
「あのかたも、わたくしに負けず劣らず強い『原動力』をお持ちのようですからね」
ベアトリスの言う『あのかた』とは亜唯だ。
彼は、ソラスの一太刀を受けて吹き飛ばされた妖怪の側面に回り込み、追撃を加えようとしていた。
「自分が弱いことは重々承知……あなたはそう仰っていましたね?」
苦しげに身を震わせながらも、妖怪は体勢を直した。
「その弱さを証明していただきましょう」
鏡の一つが妖光を放ち、亜唯に幻を見せた。
ソラスが見せられた幻と同じく、それは家族の姿だった。テロに巻き込まれて死んだ父と母と弟。
だが、亜唯の反応もまたソラスと同じだった。
動じることなく、突き進んだのだ。
「そんな幻、こっちは見飽きるほど見てきたんだよ! 何度も何度も何度も何度も何度も! 夢の中で皆と再会して……そして、目覚めて夢だと知り、同じ夢を見たくて泣いたことだってある!」
逆に妖怪のほうが動じた。
それほどまでに亜唯の剣幕は激しかった。
「俺の幸福も! 俺の不幸も! 全部、俺のもんだ! 変わらず、この胸にある! そのふざけた鏡の中じゃなくてな!」
『原動力』を託された拳によって、鏡がまた割られ、妖怪の傷がまた増えた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】がLV2になった!
【建造物分解】がLV2になった!
【怪力無双】がLV2になった!
【士気高揚】がLV2になった!
【フライトドローン】がLV2になった!
【腐食】がLV2になった!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV8になった!
【能力値アップ】がLV5になった!
【命中アップ】がLV4になった!
平良・明
食物は天与にして人の業、いつか誰かが言っていました
どうでもいい事かもしれませんが、ようやく
何度も時代を行き来して、ようやく腑に落ちて身に沁みました
未来は決まっていて、選ぶのは人、そうなんでしょう
それが鏡ならば、映るのは自分しかいない
触れようとすれば入れ替わるよう
しゃらくせぇ顔してるので、こいつは嫌いです
何かを嫌う事、切る力は選ぶ力
そんな未来、そんな過去、そんな今を切り捨てる
捩れた時間の縄を、解きほぐし、ときむすび
拳の開かれた、この手に受け燃える
帆上ぐ結縄のとける火、順風に帆を揚げて
切り結び結いなおす、どちらをするのも私の手
今は鏡の中の自分に左様なら、また逢いましょう
喩・嘉
この世のすべてのものには天命がある
「死んだ方が幸せだった」などということをお前が口にする資格はねぇんだよ
お前の本体はその鏡か?
雲外鏡が技を繰り出そうとした時に、技を妨害するように
「付和雷計」で雷を落とし直撃させる
全ての鏡を叩き割ってやりたい
人に限らず、
この世を生きることなんて辛いことだらけだ
それでもより良く生きるために藻掻くのだ
楽をするために生まれてきた命なんか、ない
杏・紅花
生きる気ないのもムカつくけど、あの人たちの幸せを勝手に決めつけるのもムカつく
弱者弱者、うっさいなあ〜知ってるわ!だから強くなりたいって頑張るんでしょお
【飛翔】してくるり回転
空中で「功夫」練って強化して
足裏に取り付けた「金蹄」で
鏡の後ろの敵を蹴っとばす
過去の姿をありがとう
大好きな姐姐たちも、たったひとりの妹も
久しぶりに会えてうれしい
でも、みんななら
あたしがへこたれてたら、ばーかって叱ってくれるはずだから
あたしは、負けない
絶対強くなって、ミライを取り戻すから
この足掻きも、ミライに繋げるから
守都・幸児
子供の姿をした妖ってのはやり辛えが
んなこと気にしてられねえ程度には怒ってるぞ
どうせその姿も奪ったもんなんだろう
現在も未来も生きるのに必死で見えやしねえよ
もし敵に見せられるなら過去だろうな
俺を拾ってくれた陰陽師たちと
家族みてえに一緒に暮らしてたあの頃だ
その陰陽師たちが大事にしてた追儺の儀式を
てめえらは利用した
民のために行われるはずの追儺を
民を苦しめる儀式に変えた
だから俺は怒ってる
てめえが見せたもんは逆効果だったな
礫を浴びるのは
てめえだ
鏡を向けられても【捨て身の一撃】
「満」の闇の礫を敵に向けて放ち
喩嘉の雷と連携して【弾幕】にする
全部の鏡を叩き割るの、俺も手伝わせてもらうぞ
一枚残らず【粉砕】してやる
十六夜・ブルーノ
歴史侵略者が勝手なことを言ってくれる
生きていれば
苦しいことや嫌なことも
きっとあるだろう
そして生きていればこそ
沢山の笑顔や幸せも紡いでいける
そうして未来へ歩んで行くのが
人間の、その歴史なんだ
決着をつけるよ、ドゥー
ふうむ
これが俺の過去か
記憶がないから
そうかも知れないし
そうでないかも知れないし
って感じかな
種はわかっているからね
惑わされやしない
ブズーキをじゃん
青白き霊気が目に宿る
【完全視界】で陳腐な幻はまるっとお見通しだ
序でに照魔鏡の守りが薄い所も丸わかり
村人から【託されし願い】をこめた
【勝利の凱歌】の演奏を高らかに
葬送の旋律で
照魔鏡ごと雲外鏡くんをこの世界から消し去る
死出の旅路の餞の一曲だ
安らかにね
神代・朔夜
私たちが弱者ですか。ええ、分かっていますとも。だから"貴方達"に奪われた。
確かにあの方々からしてみれば私達のした事はきっと善行などではないのでしょう。
ですが貴女にそう言われる筋合いはなくてよ。
厳しくも色々なことを学ばせてくれたお父様
優しく私を見守ってくれたお母様
身の回りの世話を手伝ってくれた侍女達
皆がいてくれたから、今私はここにいる。だから今度は私が皆のために頑張らねばならないのです。
鏡の幻覚に惑わされないように「香炉」の香りを吸って落ち着き、
花弁と『忍び足』で相手の死角へと回り込んだ後、鏡を一気に叩き割って『破壊』します。
●守都・幸児(迷子鬼・g03876)
子供の姿をした妖怪ってのは、どうにもやりづれえ。皆に殴られまくって、見るも無惨な姿になってるなら、尚更だ。
……なんてことを思っちまうんだろうな。こんなに怒ってなけりゃよ。
もっとも、怒ってるのは妖怪のほうも同じらしい。眉を吊り上げて、メラメラと燃えるような目でこっちを睨んでやがる。最初の頃は俺たちをいたぶって楽しんでいたようだが、手痛い反撃を何度も食らったもんで、そんな余裕はなくなったんだろう。
「暴力を以て己が主張を文字通りぶつける……強者を気取る弱者らしいなさりようですね」
「弱者弱者、うっさいなぁ! 自分が弱いってことくらい、知ってるわ!」
憎まれ口を叩く妖怪に紅花が怒鳴り声を叩き返した。
「亜唯くんの言い様じゃないけど、弱者という自覚があるからこそ、『強くなりたい』って頑張るんでしょうが!」
妖怪がそれに反論するより先に朔夜が口を開いた。
「そう、私たちは間違いなく弱者です」
声だけを聞いてると、落ち着いているように思える。目を閉じたその表情も穏やかなもんだ。
でも、きっと腹の中は――
「弱者だから、あなたたちに奪われたのです」
――煮えくり返ってるんだろうな。
「そして、私たちのしたことが善行でないというのも事実。あなたの言うことはいちいち尤もです。しかし――」
朔夜は目を開き、妖怪を見据えた。心の底から『見ている相手が俺じゃなくてよかった』と思えるような眼差しで。
「――どれもこれも、あなたに言われる筋合いはなくてよ」
「筋合いはない……まさしく、その通りだ」
喩嘉が小さく頷いた。
「俺たちだけでなく、あの村人たちに対する言葉についても同様だ。この世のすべてのものには天命がある。死んだほうが幸せだったのなんだのということをおまえが口にする資格はねえんだよ」
「あなたたちにも資格はないでしょう」
と、妖怪は忌々しげに言った。
「そう、あの虫ケラどもを助けてやる資格など……」
『虫ケラ』呼ばわりかよ。地が出てきたな。
●喩・嘉(瑞鳳・g01517)
『私があの人たちを玩具と見做しているとでも?』
あの妖怪はアデレードにそう問いかけたことがあったが、玩具どころか虫ケラと見做していたわけだ。無邪気に虫をなぶり殺す子供と同じような心持ちで今回の件に加担しているのかもしれんな。俺も虫は嫌いだが(なんの因果でインセクティアなんぞになってしまったのやら)、それを殺して楽しむような趣味は持ち合わせていないので、微塵も共感はできない。
「人様を虫ケラと呼ぶのは感心しませんね」
明が諭すように言ったが、妖怪は態度を改めなかった。
それどころか、開き直ってみせた。
「どのように呼ぼうが、あの人たちが虫ケラのように生き、虫ケラのように死んでいくことに変わりはないでしょう。艱難辛苦に満ち、努力や苦労の報いを得ることもない――そんな無為な人生です。あなたたちは偽りの希望を餌にして、それを無理に引き延ばしたのですよ」
「クロノヴェーダが勝手なことを言ってくれる」
と、声を荒げたのはブルーノだ。
「無為なんかじゃない。そりゃあ、生きていれば、苦しいことや嫌なこともきっとあるだろう。でも、生きていればこそ、沢山の笑顔や幸せも紡いでいけるんだ」
「『沢山の笑顔や幸せ』とやらを紡いでいけると本気で信じているのですか? あの疲れ切った虫ケラたちの姿を目の当たりにしてもまだ……だとしたら、あなたたちは人の心を持ち合わせていないのでしょう。どちらが妖怪だか判りませんね」
言ってくれるじゃねえか。
だが、『人の心を持ち合わせていない』者を怒らせたからにはタダでは済まないぞ。それくらいは判ってるよな?
……と、覚悟を問いただすより早く、朔夜が動いた。
「御託はもう沢山です。後は拳で語りましょう」
いつの間にやら、朔夜の腕は着物の袖を破らんばかりに膨れ上がり、異形と化していた。鬼神変を使ったらしい。
●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
朔夜が立っているところから不思議な香りが漂ってきた。アロマの類かな?
「ん?」
妖怪が不審げに首を傾げた。この香りは彼女の鼻にも届いているらしい。
でも、すぐに気を取り直したらしく――
「私は拳で語り合うつもりなどありません。記憶の繭の中で過去の自分自身と語り合ってくださいな」
――鏡の一枚を怪しく光らせた。
その光が照らした相手は朔夜……と、思いきや、朔夜から少し離れた場所にいた紅花だった。妖怪が香りに気を取られている間に攻撃を仕掛けようとしていたのかもしれない。
「……ああ!」
紅花は足を止め、声をあげた。嬉しそうとも悲しそうとも寂しそうとも取れる声。たぶん、過去の幻を見せられているんだろう。亜唯やソラスさんやベアトリスの時と同じように。
「こーん!」
天が後ろ足だけで立って紅花の服の裾を引っ張り、心配げに鳴いた。
「大丈夫だよ。ありがと、天」
紅花は天の頭を軽く撫でると、改めて妖怪に向き直った。
そして、ぺこりと一礼。
「過去を見せてくれて、ありがとう。大好きな姐姐たちやたった一人の妹に久しぶりに会えて嬉しかった」
どうやら、皮肉を言ってるわけじゃなく、本当に感謝しているみたいだ。
「でも、それはそれとして、あなたは倒させてもらうよ」
頭を上げる紅花。朔夜の腕がそうであったように、紅花の背中の翅も大きくなってる。これ、前にも見たことがあるぞ。翅を巨大化(というか、元のサイズが小さすぎるんだけど)させて飛翔するパラドクスだ。
「なにがあっても、あたしは戦い続ける。そして、負けない。へこたれるようなことがあっても、あなたが見せてくれた人たちが……そう、妹や姐姐たちやたった一人の妹たちが『ばーか』って叱ってくれるはずだから」
何倍もの大きさになった翅を広げて紅花は空に舞い上がった。
「絶対に強くなって、ミライを取り戻してみせる! この足掻きも――」
くるりと回転して、妖怪の脳天に踵を打ち込む。
「――ミライに繋げるから!」
それは『足掻き』と呼ぶには強烈すぎる一撃だった。ただでさえインセクティアの足は硬質化してるっていうのに、紅花は足の裏に金属板を装着してるんだから。
●杏・紅花(金蚕蠱・g00365)
踵落としを決めて、華麗に着地!
妖怪のほうは両手と両膝を地面につけてる。額から血が流れ落ちて、白かった顔も今は真っ赤っか。これが新宿島で見たアニメだのゲームだのだったら、頭の周りをヒヨコがぴよぴよと飛び回ってるだろうね。
もう一発お見舞いして、ヒヨコの数を増やしちゃおー……と、思ったけど、やめといた。
べつに敵に同情したわけじゃないよ。追撃する必要がなくなっただけ。
だって、新たな攻撃を仕掛けるべく、明サンが妖怪にずんずん迫ってるんだから。
「何度も時代を行き来して、ようやく腑に落ちて身に沁みました。未来は決まっていて、選ぶのは人――そうなんでしょう?」
「は?」
顔をべっとりと濡らしている血を拭いつつ、妖怪は眉根を寄せた。
「なにを言ってるんですか?」
正直、あたしもよく判んない。
だけど、相手の戸惑いなんてお構いなしに明サンはずんずん進み続けていく。
妖怪は慌てて立ち上がり、鏡をまた光らせた。
その光が明サンに見せたのは過去の幻か? 現在の幻か? 未来の幻か?
そこんところは不明だけれども、明サンは躊躇う様子も見せず――
「こいつは嫌いです。しゃらくせえ顔してますから」
――手刀で鏡をスパッと切断した。そう、叩き割ったんじゃなくて、綺麗に切断したの。そこに映っているであろう『しゃらくせえ顔』もろとも。
更に鏡の後ろにいた妖怪もスパッ!
「……ぐあっ!?」
袈裟斬りにされて、妖怪は大きくのけぞった。
その背後に迫る影。それは誰あろう朔夜ちゃん。明サンが戦ってる間に後ろに回り込んでいたんだね。
妖怪は朔夜ちゃんの接近に気付いたらしく、のけぞった勢いで振り返り、鏡を光らせた。
朔夜ちゃんの動きが止まった。
でも、それは一秒にも満たない時間。
そして、鬼神変で異形化した拳の一撃が炸裂!
光っていた鏡が粉々になった。妖怪のほうはさすがに粉々にはならなかったけど、また吹き飛ばされたよ。
●神代・朔夜(桜花爛漫・g00582)
鏡が映し出したのは過去の私でした。
厳しくも色々なことを学ばせてくれたお父様、優しく私を見守ってくれたお母様、身の回りの世話を手伝ってくれた侍女たち――彼らや彼女らに囲まれた過去の私。
それを見ても取り乱さなかったのは、事前に香を焚いて心を落ち着かせていたからでしょうか。
鏡を砕いた瞬間に幻は視界から消えましたが、脳裏にはしっかりと刻まれました。しかし、皮肉なことに幻の残滓は私に力を与えてくれました。お父様、お母様、侍女たち……皆がいてくれたから、私はここにいる。だから、今度は私が皆のために頑張らなくてはならないのです。紅花さんと同じですね。いえ、紅花さんだけでなく、他の多くのディアボロスと……。
「今度は俺に見せてもらおうか」
ブルーノさんが妖怪に声をかけました。屋敷の中で弾いていたあの魔楽器を前面に構えて。
妖怪は私に殴り飛ばされて地に這っていたのですが――
「……」
――ブルーノさんの言葉を聞くと、無言で立ち上がりました。
彼女の周囲に浮かぶ鏡(何度も攻撃を受けたので、随分と数が減っています)のうちの一枚がおなじみの妖光を放ちました。結果はもう見えているような気がしますが。
「ふむ」
ブルーノさんは興味深げに頷きました。やはり、惑わされていないようです。
「めぇー?」
ブルーノさんの傍らではドゥーくんが首をかしげています。主人と同じ幻を見ているのか。あるいは、なにも見えていないのか。
「これが俺の過去か。記憶がないから、そうかも知れないし、そうでないかも知れないし……って感じかな」
そう言って、ブルーノさんは魔楽器の弦を一掻き。
ジャン! ……と、軽快な音が響き、青白い霧のようなものが彼の体から立ちのぼりました。
「冥界の扉が開く。さあ、失われた歴史の復讐の始まりだ」
本格的な演奏が始まりました。その旋律は、最初に鳴らした音のように軽快なものではありません。本当に冥界の扉が開き、その奥から亡者たちの声が聞こえてきたかのよう。パラドクス効果の『勝利の凱歌』が流れて禍々しい印象が薄まっているのがせめてもの救いでしょうか。
もっとも、妖怪にとってはなんの救いにもなっていないらしく、苦しげに身をよじっています。
そして、ついにはブルーノさんに背を向けて走り出そうとしましたが――
「逃がしゃしねえよ」
――幸児さんが行く手を塞ぎました。
●平良・明(時折の旅行者・g03461)
「なんで俺が怒ってるか判るか?」
硬質化した両腕を幸児さんは突き出しました。ブルーノさんの葬送曲めいた楽曲に合わせるかのようにゆっくりと。朔夜さんのように鬼神変を用いて腕を大きくしているわけではないのですが、不気味な迫力が感じられます。
妖怪は幸児さんの問いに答えることなく、鏡の妖光を浴びせました。
しかし――
「あー、やっぱりな……」
――幸児さんは動揺や当惑を見せず、どこか寂しげな微笑を浮かべました。
「てめえが見せてくるのは過去の幻だろうと思っていたよ。そう、俺を拾ってくれた陰陽師たちと家族みてえに一緒に暮らしてたあの頃の……」
微笑が消え去り、憤怒の表情が現れました。憤怒といっても、微笑がそうであったようにどこか寂しげではありますが。
「その陰陽師たちが大事にしてた追儺の儀式をてめえらは利用した! 民のためにおこなわれるはずの追儺を、民を苦しめる儀式に変えた! だから、俺は怒ってんだ!」
「わ、私たちの儀式で民は苦しんだりしません」
激しい怒りに気圧されながらも、妖怪は反論しました。
「それどころか、鬼となって楽に生きることができるのですよ。なぜ、それが判らないのですか?」
この期に及んでもまだ正当化しようとしていますよ。まあ、自分たちが正しいと本気で信じているわけではなく、『ムカつくこと言われたから、取りあえず言い返しとけ』みたいなノリなんでしょうけどね。
「楽に生きることができる?」
と、聞き返したのは喩嘉さんです。
「楽をするために生まれてきた命なんかない。人であれ、虫ケラであれ、この世を生きることなんて辛いことだらけだ。それでも……いや、だからこそ、より良く生きるために足掻くのだ」
『足掻きを未来に繋げる』と宣言した紅花さんを一瞥した後、喩嘉さんは幸児さんの横に並び、冷たい視線を妖怪に突き刺しました。
「天命を蔑ろにしたおまえは――」
ゆっくりと片手を上げる喩嘉さん。
その指先が天を指した瞬間、ブルーノさんが演奏をピタリと止めました。
「――天の威光に打たれるがいい」
雷鳴が轟き、『天の威光』たる白い稲妻が妖怪を直撃しました。
続けて、幸児さんもパラドクスを発動。突き出されていた両腕に亀裂が走り、闇が滲み出てきました。腕が黒いガスに昇華したようにも見えます。
ガスのごとき闇は瞬く間に拡散……するかと思いきや、凝華して無数の礫に変わり、妖怪に向かって飛んでいきました。
「追儺の礫を浴びるのはてめえのほうだ!」
礫の群れは鏡を次々と打ち砕き、それらの主である妖怪も容赦なく打ち据えました。
鏡の破片と闇色の礫と妖怪の血飛沫が稲妻の残光に照らされて舞い散る様はまるで万華鏡のよう。いささか不謹慎な感想ではありますが、実に美しいです。
血塗れになって倒れてしまった妖怪には、その美しさを堪能する余裕などないでしょうが。
●終幕
「あなたたちが去れば、排斥力が働いて……あの虫ケラたちはあなたたちを……忘れてしまうでしょう」
鏡の破片が散乱する地面に倒れ伏し、生気のない目(あの村人たちと同じような目だ)で天を仰ぎながら、妖怪は言葉を吐き出した。
「しかし……もし、最期の時に今日の出来事を思い出したら……きっと、あなたたちのことを恨みながら……死んでいくはず……死という解放を許さず、人生という苦役を背負わせた、あなたたちのことを……必ず……」
声は徐々にか細くなり、やがて、完全に消えた。
周囲にある鏡の破片はまだキラキラと饒舌に輝き続けていたが。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【クリーニング】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【飛翔】がLV3になった!
【水面歩行】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【怪力無双】がLV3になった!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV6になった!