ベルリン地下迷宮の探索

 攻略旅団の調査・探索提案により、ベルリンの地下鉄が敵の拠点の一つである可能性が浮上しました。
 史実では、1902年に開業したベルリンの地下鉄は、クロノヴェーダの改竄により広大なベルリン地下迷宮となり、悪の組織や秘密結社などの非合法な活動の拠点とされているようです。
 ベルリン市内には、このベルリン地下迷宮への秘密の出入り口が多数あるようです。
 これらの秘密の入り口を見つけ出し、ベルリン地下迷宮の探索を行ってください。
 ベルリン地下迷宮は広大ですが、複数の秘密の出入り口から探索した探索結果を分析する事で、ベルリン地下迷宮の全貌にメスを入れる事が出来るでしょう。

アルテビューネの光と影(作者 月夜野サクラ
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#機械化ドイツ帝国  #ベルリン地下迷宮の探索  #ベルリン  #悪の組織 


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 トトト……トトトト……。
 青黒い宵に沈んだ街角を、小さな影が一つ、二つ――否、もっと。
「オイ、早クシロ」
 くるみ割り人形を思わせる兵隊が一体、来た道を振り返って言った。劇場や高級ブティックが立ち並ぶ大通りの一角は昼間こそ大勢の人々で賑わうが、夜半ともなれば水を打ったように静まり返る。ぞろぞろと列を成す兵隊達が担いだ袋には辺りの店のショーウィンドウから盗みだされた宝石や貴金属が一杯に詰まっているのだが、その姿を見咎める者も今はいない。
「早ク、早ク」
 葉の落ちかけた菩提樹の下を、人形達は駆け抜ける。その行く手に堂々と聳えるのは、石造りの劇場だった。通気口から建物の中へ潜り込み、楽屋裏から舞台袖へ――人形達は淀みなく、慣れた様子で暗い通路を突き進む。そして誰もいない舞台の上までやってきて、後ろを振り返った。
「誰モ遅レテイナイナ? ……ヨシ」
 こほんと小さく咳払いして、リーダーらしい一体が声を張った。
「『喝采セヨ! 光ナキ奈落ノ怪物ヨ!』」
 真っ暗な舞台の幕裏で、重たいものが動き出し、そして元に戻る気配がした。後に残るのは無人の大ホールと、針を落とす音さえ聞こえそうな静寂のみである。

●ACHTUNG
「ベルリンの地下に巨大迷宮が広がってることが分かった」
 十二月も終わりに近づいたある日のことである。ハルトヴィヒ・レーヴェンブルク(殲滅のカノーネ・g03211)は、集まったディアボロス達を前に単刀直入に切り出した。年の瀬も迫る中、新宿駅グランドターミナルには今日も多くのパラドクストレインと、それに乗り込むディアボロス達が忙しなく出入りしている。
「この地下迷宮の先には、帝国にとって重要な拠点が隠されてるはずだ。意味もなく地下迷宮なんか作るはずないからな。そういうわけで、今回お前らにはこの迷宮の探索に向かってもらいたい」
 場所はここ――鉄の籠手をはめた指で広げた地図の一点を指し、少年は続けた。

「ミッテ地区にある古い歌劇場だ。それほど大きくはないが、もう随分昔からある。迷宮の入り口は舞台上の奈落――普段はただの舞台装置だけど、上に立って『合言葉』を言うと迷宮への入り口が開くようになってるらしい」
「合言葉?」
「ああ。喝采せよ――とかなんとか、それらしい言葉を聞き取れたんで、ここに書いておいた。試してみてくれ」
 そう言って、ハルトヴィヒは軍服のポケットから四つに畳んだ紙片を取り出すと復讐者達へ手渡した。
「秘密の扉はクロノ・オブジェクトだからな。『無鍵空間』を使ったって簡単に開けられるものじゃないし、無理に壊して敵に気づかれるのもまずい。どのタイミングで、どうやって潜入するかは任せるが、それだけ注意してくれ」
 場所が場所だけに、開場前はそもそも中に入ることができないし、開場後は人の出入りも多い。いわんや舞台の上演中に奈落に近づくことは不可能である。以上を踏まえると、観客として客席内に入り込み、夜中に人がいなくなるまで隠れているのが一番手っ取り早いだろう。

 地下迷宮は広大で、一度の調査では凡そその全貌を掴むことはできない。だが、ディアボロス達の探索によって得られた複数地点のデータを解析することで、その秘密に迫ることはできるかもしれない。
「このベルリン地下迷宮が、何らかの形で帝国の中枢につながってることは間違いない。だけど、何のためのものなのか――今はまだ情報が足りなすぎる。迷宮の全容を解き明かすためには、お前らの探索だけが頼みだ」
 迷宮の規模、構造、目的――それらすべてを明らかにし、一足飛びに敵の懐中に切り込むため。頼むと手短に結んで、少年は復讐者達を送り出した。

●EINLEITUNG
 開演を報せるベルが鳴る。
 ロビーに屯す紳士淑女は開いた扉へ足早に駆け込み、三階席までずらりと並ぶ天鵞絨の椅子を埋め尽くす。
 今宵の舞台を飾るのは、創作オペラ『トゥルペの剣』。堅い絆で結ばれた姫と騎士の冒険と、許されぬ恋の物語。
 ありとあらゆる楽器と奏で手が一斉に動き出し、天井画を描いた遥かなドームがその音圧に震え出す。 幕が上がり、歌が響く。色とりどりの光の中で、さまざまな衣装を纏った演者達が動き出す。その煌めきを浴びたなら、誰もが物語の中に迷い込む。
 嗚呼、けれども彼らは知らぬのだ。
 高らかに歌い上げるヒロインも、喝采を送る観客達も、誰も知らない。
 絢爛豪華な舞台の下に、暗く冷たい影の迷宮が続いているだなんて――。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
3
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【飛翔】
6
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
3
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果は特記なき限り併用できない)。
【悲劇感知】
1
「効果LV×1時間」以内に悲劇が発生する場合、発生する場所に、ディアボロスだけに聞こえる悲劇の内容を示唆する悲しみの歌が流れるようになる。
【未来予測】
1
周囲が、ディアボロスが通常の視界に加えて「効果LV×1秒」先までの未来を同時に見ることのできる世界に変わる。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【現の夢】
6
周囲に眠りを誘う歌声が流れ、通常の生物は全て夢現の状態となり、直近の「効果LV×1時間」までの現実に起きた現実を夢だと思い込む。
【フライトドローン】
2
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【神速反応】
1
周囲が、ディアボロスの反応速度が上昇する世界に変わる。他の行動を行わず集中している間、反応に必要な時間が「効果LVごとに半減」する。
【腐食】
1
周囲が腐食の霧に包まれる。霧はディアボロスが指定した「効果LV×10kg」の物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)だけを急激に腐食させていく。
【託されし願い】
1
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【避難勧告】
1
周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める。効果LVが高い程、避難が素早く完了する。
【プラチナチケット】
4
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【光学迷彩】
5
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【モブオーラ】
1
ディアボロスの行動が周囲の耳目を集めないという世界法則を発生させる。注目されたり話しかけられる確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【壁歩き】
2
周囲が、ディアボロスが平らな壁や天井を地上と変わらない速度で歩行できる世界に変わる。手をつないだ「効果LV×1人」までの対象にも効果を及ぼせる。
【エイティーン】
1
周囲が、ディアボロスが18歳から「効果LV×6+18」歳までの、任意の年齢の姿に変身出来る世界に変わる。
【過去視の道案内】
3
移動時、目的地へ向かう影が出現しディアボロスを案内してくれる世界となる。「効果LV×1日以内」に、現在地から目的に移動した人がいなければ影は発生しない。
【無鍵空間】
2
周囲が、ディアボロスが鍵やパスワードなどを「60÷効果LV」分をかければ自由に解除できる世界に変わる。
【完全視界】
3
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【活性治癒】
4
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【植物活性】
2
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【土壌改良】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の地面を、植物が育ちやすい土壌に変える。この変化はディアボロスが去った後も継続する。
【液体錬成】
1
周囲の通常の液体が、ディアボロスが望めば、8時間冷暗所で安置すると「効果LV×10倍」の量に増殖するようになる。
【操作会得】
3
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【ハウスキーパー】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【アイテムポケット】
2
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV10(最大) / 【命中アップ】LV5(最大) / 【ダメージアップ】LV10(最大) / 【ガードアップ】LV7 / 【フィニッシュ】LV2 / 【反撃アップ】LV2 / 【先行率アップ】LV2 / 【ドレイン】LV4 / 【アヴォイド】LV3 / 【ダブル】LV3 / 【ロストエナジー】LV8

●マスターより

月夜野サクラ
お世話になります、月夜野です。
以下シナリオの補足となります。
==================
●選択肢について
 すべての選択肢に参加者がいらっしゃった場合、リプレイは以下の順番で執筆する予定です。
 ②→①&④→③&⑤

 秘密の入り口の位置・合言葉は分かっていますので、②の観劇後、劇場内に残って深夜まで身を潜めれば問題なく潜入できます。

●②観劇について
演目は三時間ほどの創作オペラです。フルオーケストラの演奏と美しい歌、荘厳な劇場設備などをお楽しみ下さい。
(※劇中劇は、実存するオペラや演劇とは関係ありません。)

●それ以降について
①&④は探索パートです。地下迷宮に潜入後、徘徊する『アイゼンヴォルフ』を倒しながら探索を行ってください。これを踏破することで、③&⑤(アヴァタール級+取り巻き『くるみ割り機械人形』戦)へ移行します。

==================
●時間帯と場所
 時間帯は、観劇が夕方〜夜。探索&戦闘は深夜。
 舞台はベルリン市内の大通りに面した小さくとも歴史ある歌劇場とその地下です。なお劇場内での飲食はご遠慮ください。

==================
●諸注意
・②のみ、参加人数に制限はございません。頂いたプレイングは出来る限り採用させていただきますので、お気軽にどうぞ。
・それ以外の選択肢は、🔵が必要成功数を大幅に上回る場合、プレイングの内容に問題がなくても採用できない場合がございます。何卒ご容赦ください。
・プレイングの採用は、先着順ではありません。受付状況については選択肢ごとにご案内いたしますので、MSページも合わせてご確認ください。
・基本的に「選択肢ごとにまとめて採用、まとめてリプレイ」です。特定の同行者以外の方との絡みがNGの場合は、お手数でもプレイング中でお知らせ下さい。なお、人数が多い場合や行動がばらつく場合、どの選択肢であっても分割リプレイになる可能性があります。
==================

それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


長月・夜永
『トゥルペの剣』
堅い絆で結ばれた姫と騎士の冒険と、許されぬ恋の物語かぁ
なかなかロマンチックな演目だね
まぁボクも、一応女の子だし、素敵な騎士様とか憧れちゃうところもあるよね

郷に入っては郷に従え、今回はちょっと背伸び
(知り合いには馬子にも衣裳とか言われそうだけど…)
失礼がないように淑女として白いパーティードレスを着こみ
入口で渡されたパンフレットを片手に指定された客席に腰を下ろします

舞台を眺めながら
アソコがああで、アレが、、、
あの人達は同業者かな?
建物の構造や人の動きを癖で確認している自分に気づいて
ちょっと苦笑い

まぁたまには楽しまないとね
観察&確認は必要最低限、気分を変えて純粋に舞台を楽しみ始めます


鐘堂・棕櫚
【KB】5人で

客席もまるごと舞台みたいですね、ここ
天井画の見事さに、感動でつい口開けて惚けてしまいます
俺と骰さんだけ浮いてませんか、なんて
造詣深そうな三人と見比べて思わず零しますけど
背筋が伸びるこの空気は好ましく
フーベートさんの記憶の呼び水にもなるといいですねえ

どう楽しむものなんです?と視線で問えば頼もしいアドバイス
なるほど、気負わず気楽に…シネマ鑑賞のつもりで…寝ないように
アロイスさんが一見気難しげなのは芸術家肌だからですか
凄い納得しました今
衣装にも目を配るのは、普段から装いが華やかなサキソメさんらしいですね

オペラの世界へずぶずぶ呑まれる予感に心踊らせ
後で感想会ですねと笑って、椅子に沈みます


鬼歯・骰
【KB】

楽しみではあるんだが
観劇なんて経験無いから落ち着かねぇ
態度にはなるべく出さないようにしつつも眉間には皺
…ツリガネ間抜け面になってるぞ
場違いすぎて後ろに座る奴の邪魔んなってそうだが
縮めねぇから勘弁願っとこう

寝ないようにが一番難しそうな座り心地の椅子に
マイクもないのに声が届くのかと思う高い天井
フーベートとアロイスの分かりやすい説明に安心するような、しないような
気楽にが難しそうなんだが、まだ驚くことあんのか
サキソメは見るところがらしいな、てか衣装も凄いんだなオペラ
見どころの多さにハマる奴が多そうなのも納得だ
そういやアロイスはこういう大きいとこでやる曲作ったりしねぇの?

感想会は手加減宜しく


アロイス・ヴァリアント
【KB】

見事な歌劇場ですね…こういう雰囲気は僕も久しぶりです
観劇前のざわめきも、それがベルで静まり返る瞬間もいいもの
始まればきっと舞台が呑み込んでくれますから
気負わず慣れない場所を楽しむのもいいと思います

フーベートさんも馴染があるんですね、説明が上手い
僕が言うまでもなさそうですが
慣れると案外心地良いので寝ないように、ですかね

ああ、僕は元作曲家で今は作家です
作曲家だったのは随分前なので、鬼歯さんの言うようなのは書けません
変人が多い界隈ですしね、店長も仲間入りできそうですよ
サキソメさんの気に入った衣装、後で教えて下さい
…感想会も楽しみになる

始まりますね
音楽が好きだったことを思い出す心地で耳を傾けて


アー・フーベート
【KB】

歌劇場の荘厳な空気感には憶えがある
…ような気がする
棕櫚に倣って天井画見上げ、見惚れ
なんか思い出すキッカケにってのはもちろんだが
きょうは劇を愉しむのを第一にするよ
おっと骰、ここまで声届くのかって思うでしょ
開演したら驚くぜ

落ち着かなそうなデカい大人たちに笑う
シネマだと思って気楽に観んのがいいぜ
最後までピンと来なくても気にすることない
私も雰囲気で愉しんでるんで
芸術をお仕事にしてたアロイスの助言、心に留めとこ

私は演奏と歌唱を中心に耳で愉しむのが好きだが
サキソメは衣装に注目するんだね
私も気ィ配って見てみよっと

開演直前はちょっとばかし緊張するね
背すじ伸ばして
終わったあとの感想会もたのしみだなー


咲初・るる
【KB】

敷居の高い芸術こそ気軽に楽しんでゆけ、と家の人が言ってたなあ
音とステージがあって、人が演じる。他の舞台と大差は無いんだって
骰さんも店長も観終わったらオペラの魅力にずぶずぶだったりして

わあ……!
やっぱり実際のものと映像などでは迫力が違うね
天井もこんなにたかーい!ひろーい!
初めての歌劇場に興味深いね、とそわそわワクワク

耳で愉しむのは勿論好きだけど
ボクは衣装を見るのが好きだよ、フーベート
歌と共にフリルが揺れる姿につい見惚れてしまうんだ
好みのものがあったらアロイスさんにも教えるね?
皆も余裕があったらそんな所にも注目してみておくれよ

観劇後の語らいにも胸躍らせ
さあ、目一杯楽しもうじゃないか


標葉・萱
秘密の言葉一つ手に
観劇だなんてそれこそ劇のよう
冬の羽織を翻し、煌びやかな劇場へだなんて
この時期とっておきのチケットを
手に臨んだいつかの、楽しみのよう

開演前にざわつく、落ち着かなさも
始まればしんと静まり返る、幕があがるまでの一瞬も
そうして鳴り出す舞台の上を
心待ちにするその瞬間だけは変わらない
冷えたはずの指先でさえ熱をもつような心地
余り表に出るでもないけれど、
少し逸る心ばかりは嘘もつかない

幕が上がれば広がる世界へ飛び込むように
ライトで囲った舞台の上へ夢中になる
そうして過ごす時間の後に
物語について語る隣がいないのだけが
……いいや、観終えるまでは夢中のままで


●開演
 降り積もる雪の白が、街灯の暖かな灯をちらちらと照り返す夜だった。多くの靴跡が残る石畳を踏んで、ギリシアの神殿を思わせる飾り柱が並ぶ正面玄関へ――芝居のロゴと開演日時が印刷されたチケットを片手に、標葉・萱(儘言・g01730)はぶらり歩く。
(「秘密の言葉ひとつ、この手にしまって観劇なんて」)
 それこそ、芝居の導入のよう。とっておきのチケットを手に劇場へ臨んだいつかの冬、遠くない未来にこんな日が――世界が覆る日が来るなんて、あの時はまるで思ってもみなかった。
 雪化粧の外套を翻し、ボールパーテーションに沿って進んでいくと、建物の入り口が近づくにつれて暖かい空気が流れてくる。赤いカーペットと豪奢なシャンデリアに飾られた玄関ホールは、大勢の人で賑わっていた。
「ようこそお越しくださいました」
 チケットの半券と共に二つ折りにした紙を差し出して、係員の女性が恭しく一礼する。長月・夜永(は普通の女のコである・g03735)はありがとうと軽く笑顔を見せて、受け取った紙片を開いた。
「『トゥルペの剣』……姫と騎士の冒険と、許されぬ恋の物語かぁ」
 昔々、ある小国に美しい姫君が在った。
 その父である国王は、厚い信頼を置く一人の騎士に、彼女の護衛を申しつける。
 日々を共に過ごすうち、姫君と騎士は守る者と守られる者の立場を越えて想い合うようになるのだが、それが国王の怒りを買ってしまい――。
「なかなかロマンチックな演目だね」
 あらすじはそこで途絶えている。
 紙片を元の形に戻してポケットにしまい込み、夜永は厚手のコートを脱いだ。白を基調にした華やかなパーティドレスは浅葱色の艶やかな髪と相まって清楚な印象を与え、うら若き娘をいつもより少し大人に魅せる。鏡張りの柱に自らを映してくるりと一回り、夜永は少しだけ気恥ずかしげに唇を尖らせた。
(「知り合いに見られたら、馬子にも衣裳とか言われそうだな……」)
 自虐的な思考が一瞬頭を過ったが、郷に入っては郷に従えだ――本場欧州の歌劇場でオペラ観劇と洒落込むからには、多少の背伸びは許されたい。戦場を離れれば彼女とて、自分だけの素敵な騎士にほのかな憧憬を向ける年頃の少女なのだから。
 白く淡いシフォンの裾をふわりと浮かせ、夜永は人込みを分けていく。客席へと続く両開きの扉は、別世界の入り口のように見えた。
「わあ……!」
 扉をくぐれば、高い天井。開ける視界に、舞台へ向かって緩やかに下っていく客席の並び。いつかテレビやスクリーンの中で見たのと同じ、けれどもまったく異なる本物の歌劇場の光景に、咲初・るる(春ノ境・g00894)は感嘆の声を上げた。菫の瞳に金の髪をした繊細な少女はまるで人形のような装いで、すれ違う人々の視線を引き付ける。
「天井がたかーい! ひろーい! やっぱり実際に見るのと映像とでは迫力が違うね?」
「ええ、見事な歌劇場ですね。こういう雰囲気は僕も久しぶりです」
 初めての歌劇場に高揚を隠しきれないその様子を微笑ましく見つめて、アロイス・ヴァリアント(muet・g01110)は応じた。しかし何もかもが物珍しいのはどうも、るるだけではないようで。
 遥かな天井に描かれた絵を呆然と見上げて、鐘堂・棕櫚(七十五日後・g00541)は呟くように言った。
「客席もまるごと舞台みたいですね、ここ」
 すべてが優美な曲線で象られる劇場は、座席の造り一つとっても現代日本のそれとは別物だ。首を痛めそうな姿勢で固まった棕櫚の姿に、鬼歯・骰(狂乱索餌・g00299)は呆れたように眉をひそめる。
「ツリガネ。間抜け面になってるぞ」
「骰さんこそ。眉間に皺、寄ってますよ?」
 相変わらず、ああ言えばこう言う。しかしそれはどうやら事実のようで、男は眉根を揉み解した。白状すれば、観劇などこれまではとんと縁がない人生だったのだ――だから今から始まることが楽しみではあるのだが、故にこそ落ち着かない。
 概ねどこでも自然体の二人が珍しく気圧されているのを感じたのだろう、アロイスは涼しげに、けれど少し悪戯な笑みで言った。
「そう気負わなくとも大丈夫ですよ。始まれば舞台が呑み込んでくれますから、今は慣れない場所を楽しむのもいいと思います」
「……この荘厳な空気感には、俺も憶えがある――ような気がする」
 天使達が舞うドーム状の天井を仰いで、アー・フーベート(あらぞめの剣士・g01578)はぽつりと言った。彼には、新宿島に辿り着く前の記憶がない。生まれ育った場所さえ分からないがゆえに、何を喪ったのかも定かではない。ただこの美しい建築には、淡い懐かしさのようなものが感じられた。
「案外、気のせいじゃないのかもしれませんよ。ここへ来たことが、フーベートさんの記憶の呼び水にもなるといいですねえ」
「そうだな。でも、今日は劇を愉しむのを第一にするよ」
 何かを思い出すきっかけが掴めれば僥倖だが、それを目的に来たわけでもない。笑う青年の口ぶりはさっぱりとして好ましく、棕櫚はにこやかに睫毛を伏せた。――それにしてもだ。
「なんか、俺と骰さんだけ浮いてませんかね」
「浮いてまずいなら入口で門前払いに遭ってるだろ」
 気にするな、と言いつつ、骰はちらりと後ろの席を振り返った。体格に恵まれた、と言えば聞こえはいいが、長身というのも便利なことばかりではない――特に映画館や劇場では、それなりに居心地の悪い思いをすることもある。なるべく浅く椅子に掛け直して、骰は続けた。
「それにしても、マイクもないのに三階席まで声が届くのかね」
「そりゃあ、そういう造りと声だからな。開演したら驚くぜ」
「結局のところ、どう楽しむものなんです?」
 からかうような含みを持ったアーの言葉に、棕櫚が興味津々の様子で首を傾げる。そうだなと指を頬に添えて、るるはぐるりとホール全体に視線を巡らせた。
「敷居の高い芸術こそ気軽に楽しんでゆけ、と家の人が言ってたなあ。音とステージがあって、人が演じる。他の舞台と大差はないんだって」
「シネマだと思って気楽に観んのがいいぜ。最後までピンと来なくても、別に気にすることない」
 雰囲気で愉しめれば十分だと、アーも笑った。要はどこを見て、何を感じるかは受け手次第ということだ。
 上手いことを言うものだと感心したように頷いて、アロイスは加えた。
「僕が言うまでもなさそうですが、あとは、慣れると案外心地良いので寝ないように……ですかね」
「なるほど。気負わず気楽に……シネマ鑑賞のつもりで…………寝ないように」
「最後のが一番難しそうだな、この椅子じゃ」
 頼もしい説明に、安心したような――しないような。一抹の不安を覚えつつ、棕櫚と骰は顔を見合わせた。しかし落ち着かない様子の二人を脇に置いて、るるとアーとは楽しげに舞台談議に花を咲かせている。
「敢えて言えば、私は演奏と歌唱を中心に、耳で愉しむのが好きだが……」
「耳で愉しむのは勿論だけど、ボクは衣装を見るのも好きだよ。歌と共にフリルが揺れる姿につい見惚れてしまうんだ」
 そう言ってくすりと笑み零するるの袖で、白いフリルが揺れる。なるほどそこに目を配るのは、平素より身だしなみに気を遣う彼女らしい。そういう見方もあるかと手を打って、アーは舞台に視線を戻した。
「私も気ィ配って見てみよっと」
「ああ、いいと思うよ。皆も余裕があったら、注目してみておくれ」
 歌に演奏、衣装に美術。総合芸術と呼ばれるオペラの見どころは数え上げればきりがない。観終わる頃にはオペラの魅力にずぶずぶだったりして――と冗談めかしてるるは言ったが、あながちそれも大袈裟な物言いではないのかもしれない。
 そういえば、とふと思い立ち、骰は右隣に座るアロイスへ目を向けた。
「アロイスはこういう大きいとこでやる曲作ったりしねぇの?」
「僕は作家ですよ。作曲家だったのはもう随分前のことなので、鬼歯さんの言うようなのは書けません」
 二つ折りのパンフレットを眺めながら、アロイスはあっさりと応じた。こともなげな口ぶりだが、作曲家から作家への転身というのはなかなか珍しい経歴だ。なるほど、と大きく頷いて両手を腹の前に組み、棕櫚は骰の横顔越しにアロイスへ視線を送る。
「アロイスさんが一見気難しげなのは芸術家肌だからですか。凄い納得しました」
「変人が多い界隈ですしね。店長も仲間入りできそうですよ」
「ははは、それほどでも」
「いや、褒められてねえぞ?」
 変人でいいならいいがと小さく吐息して、骰は唇を結んだ。刹那――ジリリリとけたたましいベルの音が、ホール全体に響き渡る。
「開演直前はちょっとばかし緊張するね」
 栗色の長い髪を白い翼の背に流して、アーは居住まいを正した。アロイスもまた、手中のパンフレットを鞄にしまい込み、心を澄ませて舞台の方へ向き直る。一期一会の舞台は、音楽を愛したかつての気持ちを思い出させてくれるだろうか?
 一瞬、感傷に浸りかけて、青年は緩く首を振った。あれこれ考えなくとも、始まれば舞台が呑み込んでくれる。そう、自分で言った通りだ。力を抜いて椅子に背を委ねれば、呼吸と共に自分が、客席の一部に融けていくような感覚に陥る。
 期待にわくわくと瞳を輝かせながら、るるは背筋を伸ばした。
「さあ、目一杯楽しもうじゃないか」
 ベルが鳴る前の期待に溢れたざわめきから、呼吸さえ聞こえそうな静寂へ。移りゆくこの瞬間には、何にも代えがたい魅力がある。照明がゆっくりと落ちていくのに気づいて、夜永ははっと視線を上げた。
(「暗くなっちゃった……まあ、いいか」)
 一階から三階まで続く客席、そこから見下ろす舞台の構造、同業者らしき人の動き――大体のことは、把握できた。肝心の『迫り』は客席からではどうなっているのかよく分からないが、芝居が始まり、実際に舞台装置が動けば、大まかな位置はすぐに特定できるだろう。
(「たまには素直に楽しまないとね」)
 いつからこんな、ワーカホリックになったのだか――思わず苦笑いを浮かべて、少女はゆっくりと瞬きした。仕事のことを考えるのは、一旦やめだ。向こう三時間は気持ちを切り替えて、純粋に舞台を楽しむとしよう。
 ゆっくりと照度を落としていく明りはやがて完全に消え、千人を超える観客達は沈黙と闇に包まれる。息を詰めるような緊張が一瞬走ったかと思うと、幾重にも折り重なった管楽器と弦楽器の音が客席の下方から一斉に噴き出した。
 緞帳の隙間から溢れる光閃が次第に強く大きく輝きだすさまを、萱は固唾を呑んで見つめていた。世界がどれほど変わっても、幕が上がり、鳴り出す舞台を心待ちにするこの瞬間は変わらない。痛いほどに冷えていたはずの指先は穏やかな熱を持ち、涼やかに見つめる瞳の奥で心は密かに躍り出す。そして幕が上がり切ったその時、光に切り取られた舞台という箱庭に、物語の世界が浮かび上がる。
(「……でも、こうなると」)
 魔法の時間を終えた時、それを振り返り、語り合える誰かが隣にいないのは――少しばかり惜しい。けれどまあいいやと口元を和らげて、青年は全身を包む光と音に身を委ねた。
(「観終えるまでは、夢中のままで」)
 緞帳の向こうには、奇抜な兵器も戦士も存在しない中世の欧州が広がっていた。復讐者達が見つめる中、躍動するオーケストラの音色と共に物語は動き出す。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【飛翔】LV2が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【能力値アップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【命中アップ】LV1が発生!

●第一幕『姫君と騎士』
 ♪緑深き川の畔
 白鷲の城に姫君ひとり
 トネリコの王は剣を取り
 彼の騎士に言いました

 ♪親愛なる君 まことの騎士よ
 其方に剣を授けよう
 我が愛しきトゥルペの花を
 援け導く守りの剣を
 
 ――物語は、トネリコの国の王に見出された騎士が王の一人娘たる姫君の護衛に抜擢されるところから始まる。
 守る者と守られる者として長い時間を共有するうちに、二人は主従の関係を越えて惹かれ合い、王の目を盗んで愛し合うようになるのだが、やがて二人の関係を知った王は激怒して、騎士を牢へ入れてしまうのだった。
朔・璃央
双子の妹のレオ(g01286)と

異国の地でオペラ観劇とは…
二人でだけとなると初めてで緊張しますね
しかし私がしゃんとしていないと
周囲がレオを見る目もよろしくない
背筋を伸ばして普段通りに努めましょうか

建物すらも御洒落だなぁなんてぼんやり思っていたけれど
始まってしまえば目を覚ましたかのように魅入ってしまう

あれが人の身体から出る音の強さなのか
と思えば美しい調べに変わって驚いて
オーケストラから放たれる音の圧と層の深さに圧倒されたり
そこにストーリーまで乗せられてしまっては
感動が止まるはずもない

幕間になってやっと一息
これはすごいね、なんて
ありきたりな言葉に込めて

続きはまだかなぁ、なんて
年相応な言葉に込めて


朔・麗央
双子の兄リオちゃん(g00493)と

あれ?リオちゃん、珍しく緊張してる?
でも分かるよ、オペラって格式高い感じがするもんね
2人だけでって思うと私もちょっと緊張してきちゃったかも

豪華で荘厳な劇場は、それだけでも別世界って感じがしちゃうね
この客席に座っていると物語の世界に連れていってくれるんだって思うと
始まる前はなんだかそわそわしちゃう

始まると一気に物語の世界に引き込まれて
異国の歌でも復讐者ならすんなり入ってくるのがいいよね
物語が素晴らしいのは勿論なんだけれど
歌声のパワーに圧倒されちゃう
涙が出そうな位に感動

一幕目が終わって幕間に思わずリオちゃんの方を見たら
目があっちゃった
思っていることは同じみたい


ナタリア・ピネハス
店主さま(紬/g01055)と
天使さまと揃いの花を髪に挿しおめかし
ありがとう、ふたりともとってもお似合いよ

ひとが綴り、紡いだもの
何人もの演者、奏者が物語にいのちを吹き込んで行く
それが歌劇なんだわ

『あい』はただ
包み込むような温もりを齎すものだと思っていたけれど
『こい』は違うのね
命を焦がし尽くすような……嵐のようだわ
おふたりは、身を焦がすような恋はご存知?
……まあ、いじわるね!

ねえね、店主さま
店主さまは、つむぎさまって仰るのね
領収書!お名前、書いてらしたでしょう?

舞台女優を真似て、とんと爪先踊らせて
歌劇の姫君思い浮かべながら

わたくしはナタリア、ピネハスの末娘よ
……うふふ!どう?上手に出来たかしら!


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
アドリブ歓迎
交流可

正装に身を包み
プラチナチケットで違和感なく観客となり観劇
振る舞いは慣れたもの、劇場には良い思い出ばかり

開演の調べは春風のように胸を擽る
ドームに響く歌声に、音色に耳を澄まし
舞台上の物語へ見入っている

迷宮探査然り、今は冒険が日常になっているようなものだが
ロマンあふれる冒険はいいな、純粋に心躍るだろう

許されぬ恋……か
壁を作るのは人だ、多くは因習でしかない
誰かが壊せばいい……そんなことを思い
結末は喜劇となるか、悲劇となるか……
俺が期するのはいつも喜劇なのだな
叶うといいな、と思いながら

美しい独唱、或いは重唱が聴けたなら
素晴らしい時間となるだろう
カーテンコールまで、ずっと拍手を送っている


織乃・紬
嬢ちゃん(ナタリア/g00014)と

懐事情も格式張る服も苦しいが
花咲くふたりには和らぐもので
嬢ちゃんも天使ちゃんも完璧ね
ソチラこそ、実に御似合いよ?

何千本もの糸を織り込ンで
綺麗な一枚を作るみてエだ
あア、御業だな、歌劇ッてのは

然し、許されぬと冠しちゃいるが
俺にゃ眩い程の『恋』の形だなア
嵐の揺れも揺籠のソレのよう
ン~、――此度は秘密ッてコトで
恋バナは、双方揃わなきゃアね
嬢ちゃんが恋したら教えてあげる

ン?あア、名乗ッちゃいなかッたか
そうそう、店主サマは紬ッていうの

貸衣装の領収書で静かに遠退く目も
華麗な演技に留められては、笑って

素晴らしい女優振りだ、ナタリア嬢
拍手喝采を送るのが俺だけじゃ惜しい程にな


篝・ニイナ
【白花】

娯楽はいい
雑念は消えて、愉しい気分で満たされるから
壮大な音楽や心揺れる演技
どれもその道を嗜む者には刺激的だ

横目で彼の様子を伺えば
食い入るように劇に夢中で
ああ、来て良かったなと
心の底から思いながら

幕が閉じ、どうだったかと聞かずとも
興奮冷めやらぬ顔を見せるのだと思っていたら
予想外にも綺麗な橄欖色は少し曇り
悩んでいる様子と零れた言葉に
なるほど、無垢な少年らしい苦悩だと

今は今で、今のラルムクンにしか謡えない唄があるんじゃないの
俺は好きだけど、ラルムクンの唄
…それに、強烈な恋をしたら謡う余裕なんてなくなるかもよ?

そう冗談混じりでいたら
返ってきた強い眼差しと声
…なんだ、立派に吟遊詩人してるじゃん


ラルム・グリシーヌ
【白花】

募る戀と燈りゆく愛
姫と騎士が紡ぐ言の葉に重なる音

歌と旋律に聴き惚れ
煌めき躍る物語に沈んで溺れる
終幕を迎えても
華やぐ残響が身に沁み入るようで

隣の優しい鬼に
呼気と共にぽつりと零す
…俺が奏でる唄にも恋物語があるんだ

けれど愛慕の情を識らぬ音には
自分の色が乗らなくて
姫と騎士の互いに想う心を美しいと思えど
愛しさや切なさが解らなくて

……いつか、恋を識れば
俺の唄を彩る自分だけの色に変わるのかな?

今の俺だから謡える唄が好きだと
彼の唇が紡ぐ
あたたかな言葉の音色と纏う麝香の甘さに
心まで擽られた気がして
瞬きも呼吸も忘れそうになるけど

ありがとう…でも、大丈夫だよ
恋が俺の心を奪えても
この聲は、唄は、奪えない


●幕間
 引き裂かれた二人の嘆きの歌を聞き届け、会場は割れんばかりの拍手に包まれていた。正装の背に空色の翼を畳んで、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)はスポットライトを浴びる演者に惜しみのない拍手を贈る。
 振り返ってみれば、劇場というものには良い思い出しかなかったように想う。贅を極めた絢爛な歌劇場、森の底に横たわる野外劇場、地下の酒場に併設された猥雑な小劇場でさえも、そこには非日常の物語があり、その夜限りの輝きがある。もっとも――復讐者の力に目覚めて以来、これまでの日常は非日常に、非日常は日常にすり替わってしまった。迷宮探査も然り、冒険は今となっては反って身近な存在だ。ただ残念なことに、現実の冒険は必ずしも、血沸き肉躍る興奮や、美しい景色と共にあるわけではないのだけれど。
(「ロマンあふれる冒険はいいな」)
 春風のように胸をくすぐる開演の調べに、天井ドームに響き渡る力強い歌声。胸躍る心地よいハーモニーに心を澄まし、耳を傾けて物語に見入る――こんな時間は久しぶりだ。
(「……許されぬ恋か」)
 壁を作るのは人であり、多くの場合それは因習でしかない。因習ならば、誰かが壊せばいいのだが――。
(「だがこの場合、二人を許さぬのは父君のようだからな」)
 慈しみ守るべき姫君と通じた騎士を、たとえ民草が赦したとても父である王は許せないのだろう。結末は喜劇となるか、悲劇となるか――無名のオペラの結末はまだ、この場の誰にも分からない。
(「俺が期待するのは、いつも喜劇なのだが」)
 続く物語に想いを馳せながら、待つ時間もまた楽しい。そして結末がどうあろうとも、美しい独唱と重唱を耳に音の世界へ身を委ねるこの時間は、間違いなく素晴らしいものとなるだろう。
 やがて照明が落ち、深紅の緞帳が緩やかに下りていく。客席の肘掛けに頬杖をつき、篝・ニイナ(篝火・g01085)は古い街並みが幕の向こうに消えていくのを見つめていた。
(「娯楽はいい」)
 演劇は勿論、音楽、小説。或いはもっと世俗的なものだって構わない。娯楽はよくも悪くも、目の前の現実を忘れさせてくれる。この舞台も例外ではなかった。高い天井に鳴り響く壮大な音楽と、大仰で、しかし真に迫った心揺れる演技を前にすれば、あらゆる雑念は消え果て、心は愉しみの一色で満たされていく。こと、その道を嗜む者にとっては実に刺激的な体験だろう。
(「その道を嗜む、といえば」)
 燃える焔を照り返すような黒髪の向こう、紅い視線だけを右隣の席へ向けると、白く大きな仔犬のような少年――ラルム・グリシーヌ(ラメント・g01224)は幕が下りてなお、食い入るように舞台を見つめていた。多分、彼の中ではまだ一幕が続いているのだろう。目に見えず、声が聞こえずとも受け手に続きを想像させることができる――二人がたった今目にしたものは、そんな舞台であったから。
(「まだ、音が聴こえてる気がする」)
 ゆっくりと瞼を閉じて、ラルムは大きく息を吐いた。休憩時間を迎えて客席は俄かにざわめき出したにもかかわらず、華やかな旋律と力強い歌声が今もなお、耳の奥に残っているようだった。
 募る恋と、それをきっかけにして燈りゆく愛。その形は、純真無垢な少年にはまだ少し難しい。けれども姫と騎士が紡ぐ言の葉とそこに重なる旋律の溺れるほどの煌めきは、燃え上がるような二人の想いを理屈とは違った形で教えてくれる。ただ――。
「ラールムクン」
「!」
 呼ぶ声に振り返ると、待ち構えていた鬼人の人差し指に白い頬がずむりと刺さった。何するの、とラルムは一瞬むくれてみせたが、その表情は長くは続かない。お、と意外そうに焔の瞳を見開いて、ニイナは言った。
「もっとはしゃいで興奮するかと思ったけど」
 どうだった、とは聞かずとも分かる。微かに曇った双眸が内包するのは、唄を織る者としての彼の苦悩だ。優しげな鬼の眼差しに戸惑いを露わにして、少年は俯いた。
「……俺が奏でる唄にも、恋物語があるんだ」
 けれど恋を歌いながら、少年は愛慕の情を識らない。
 ゆえに奏でる音には、彼の色が乗ることもない。
 物語の姫と騎士が互いを想う心は確かに美しいと思えるけれど、そこにある愛しさや切なさの本質を、彼はまだ理解できないのだ。
「いつか、恋を識れば――俺の唄も、俺だけの色に変わるのかな?」
 変われないことへの不安と、変わっていくことへの不安。その二つが同居した、少年らしい悩みだ。なるほどねと笑って、ニイナは言った。
「そんなに思い詰めなくても、なるようにしかならないでしょ。それに今は今で、今のラルムクンにしか謡えない唄があるんじゃないの」
「今の俺にしか……?」
 恋の痛み、喜びは不可逆だ。いくらそれが温かく愛おしいものだとしても、知ってしまえばもう元には戻れない。言い換えれば、それを知らぬがゆえの音色というものが今の彼にはあるのだろう。
「俺は好きだけど、ラルムクンの唄」
 瞬きも、呼吸さえも忘れて見つめる橄欖石の瞳の中で、鬼人は優美に微笑った。口元を隠した袖口から香る麝香は甘く温かく、不安にささくれた心を宥めてくれる。
「それに、いつか強烈な恋をしたら、その時は謡う余裕なんてなくなるかもよ?」
「……ありがとう。でも、大丈夫だよ」
 譬え恋に心を奪われても、この聲と唄だけは何者にも奪えない。
 そう言って、ラルムはようやく口元を綻ばせる。告げる声は先程とは打って変わって力強く、ニイナはただ穏やかに頷いた。一人前の詩人のような口ぶりは頼もしいと同時に、刻一刻と移ろってゆく少年期の儚さを想わせる。
「……すごい……」
 二階席の最前列に兄と二人で隣り合い、朔・麗央(白鉄の鉤・g01286)は花色の瞳を潤ませ、幕の下りた舞台を半ば呆然と眺めていた。
 豪華で荘厳な歌劇場は、日本に生まれ育った兄妹にとってはそれだけでも別世界だ。そこへ美しい音楽と歌声が重なれば、心は易々と物語の中に引き込まれてしまう。始まる前は慣れない劇場の雰囲気も相まってどこか落ち着かない気さえしていたのに、いざ一幕を終えてみると身体は縫い付けられたように座席から動けずにいる。
 何の気なしに隣の席へ目を向けると丁度、兄――朔・璃央(黄鉄の鴉・g00493)と目が合った。どうやら今日も二人が考えていることは、概ね同じであるらしい。
 ふう、と長く大きく息をついて、璃央は言った。
「これは……すごいね」
 我ながらありきたりな言葉だとは、思う。けれどもそれ以外に、今目にした一連の舞台をどう表現していいのか分からなかった。マイクもなしに響かせる力強い歌声、高い天井をびりびりと震わせるあの音が、生身の人の身体から出ているというだけでも驚きなのに、滑らかなメロディと、フルオーケストラが織り成す深くて分厚い音楽を全身に浴びせられて、ただただ圧倒されるしかなかった。その上さらにドラマチックな物語を重ねられたら、感動をするなと言われても無理な話だ。
 気付けばいつの間にか、見入っていた――素直な心境を吐露すればうんうんと大きく頷いて、麗央が応じる。
「知らない国の言葉でも、すんなり入ってくるのがいいよね」
 復讐者の力を得るに至った経緯を思えば手放しに喜べはしないが、お蔭で歌詞を理解するのに苦労はなかった。もし二人が何の力も持たない子どものままであったなら、歌と音楽に圧倒されることはあっても、話の中身は恐らく半分も理解できなかっただろう。そう考えると、少しだけ得をしたような気分にならなくもない。
 ざわめき立つ客席の賑わいにようやく肩の力が抜けたらしい兄の様子にくすりと笑み、麗央は言った。
「ね、リオちゃん。さっき、緊張してたでしょ」
「え?」
 兄らしからぬ呆けた声が隣の席から上がった。ちゃんと分かってるんだから、というように悪戯な笑みを浮かべて、妹は続ける。
「さっき。ロビーに入った時」
「それは、まあ――仮にも外国で、それも二人だけでオペラ観劇なんて、初めて尽くしだからね」
「分かるよ。オペラって格式高い感じがするもんね」
 どきどきしちゃった、とあどけなく笑う少女はそこまで意識していないかもしれないが、歌劇場は社交の場でもある。目に入れても痛くないほど可愛い実妹に、自分の振舞い一つで惨めな思いをさせるわけにはいかないと気負っていた部分も、璃央にはあったかもしれない。だから開演前は背筋を伸ばして、肩肘も気も張り詰めていたけれど――ひとたび始まってしまえば、そんなことを考えている余裕はなかった。目の前で繰り広げられる物語とそれを彩る歌、音楽には、それだけの力があったのだ。
 第一幕は、姫と騎士の秘密の関係に怒った父王が、騎士を牢へ閉じ込めるところで終わっている。そこからどう物語が動くのかは、今はまだ知る由もない。時計を探してホールをぐるりと一望し、けれど目当てのものは見つけられずに、璃央は遥かな天井を仰いだ。
「続きはまだかなぁ」
 先が気になれば気になるほど、幕間の時間が長い。零れた言葉は素直な期待と高揚に満ちて、大人びた少年の横顔をいつもより少しだけ幼く見せている。
「これが歌劇、なのね」
 一階席の最後列からは、舞台のすべてが見通せる。立ち上がって前の席の背もたれにそっと白い手を置き、ナタリア・ピネハス(Hitbodedut・g00014)はぽつりと言った。隣の席には織乃・紬(翌る紐・g01055)とそのサーヴァントたる小さな天使が並んで、今にも舞台に吸い込まれてしまいそうな少女の横顔を見つめている。
「ひとが綴り、紡いだものに、何人もの演者、奏者がいのちを吹き込んで行く……」
「あア――何千本もの糸を織り込ンで、綺麗な一枚を作るみてエだ。……御業だな、歌劇ッてのは」
 詰めたシャツの襟首を二本の指で寛げて、紬は言った。格式張った服は苦手だ――だが、貸衣装でまで着飾った姫君二人の隣に並ぶのに、くたびれた普段着では宜しくない。ポケットの中で丸めた領収書は少々懐に痛いけれども、同じ色のドレスと揃いの花の髪飾りでめかしこんだ二人の姉妹のような姿を前にすれば、まあ、いいかという気にもなる。
「本当にお似合いね」
 並んで座る紬と天使の姿は歌劇場の荘厳に溶け込むようで、ナタリアは微笑った。そうして再び舞台へ目を戻し、想うのは騎士と姫との恋の行方である。
「『あい』はただ、包み込むような温もりを齎すものだと思っていたけれど――『こい』は違うのね」
 燃え上がる情愛がいつかその身を滅ぼすかもしれないと、知っていてもどうすることもできないもの。命を焦がし尽くすような烈しさは、どこから来て、どこへ行くのかも分からぬ嵐のようだとナタリアは想う。
「おふたりは、身を焦がすような恋はご存知?」
「ン~……」
 きらきらと、茫洋と。光る金色の双眸に見入られて、紬はぐるりと視線を巡らせる。守る者と守られる者、立場を超えた許されぬ恋。そう冠してはいるが、舞台の上で織り上げられる恋の形は、男には少々眩しすぎた。嵐に翻弄されるというよりは、揺籠にゆらゆらと揺られているようなものだ――そんな本音で語ったところで、彼女の期待には応えられるまい。人差し指を唇に添え、紬は悪戯げに片目を瞑った。
「此度は秘密ッてコトで」
「まあ!」
「恋バナは、双方揃わなきゃアね。嬢ちゃんが恋したら、その時は教えてあげる」
 いじわるね、とナタリアは唇を尖らせたが、自らの恋を持ち出されては引き下がるしかない。けれど陶器のような白い頬を膨らせたのも束の間、そうだと思い出したように宵色の娘は男の顔を覗き込む。
「ねえね、店主さま」
「ン?」
「店主さまは、つむぎさまって仰るのね。領収書にお名前、書いてらしたでしょう?」
「あア――」
 そういえば、付き合いを持ってしばらく立つが、未だ名乗ったことはなかったと思い出す。紅い条の入り混じる襟足を無造作に掻き上げて、男は言った。
「そうそう。店主サマは紬ッていうの」
「つむぎさま――つむぎさま」
 確かめるようにその名を呼んで、ナタリアは背筋を伸ばした。そして椅子に座った男の方へ向き直ると、恭しくイヴニングドレスの胸に手を添える。
「ではつむぎさま、お見知りおきを。わたくしはナタリア――ピネハスの末娘よ」
 舞台女優のそれのような尖った爪先が、しゃなりとカーペットの床を踏む。姫君の立ち姿を真似たものか、柔らかなスカートの裾をちょんと摘まんで一礼すると、娘は嬉しそうに一笑した。
「うふふ、どう? 上手にできたかしら!」
「……素晴らしい女優振りだ、ナタリア嬢」
 ゼロの一つ多い貸衣装の領収書も、この可憐な笑顔のためと思えば悪くない。喝采を送るのは彼一人であろうとも、美しいその所作は行き交う名士達の目にも確かに留まったことだろう。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
【飛翔】がLV3になった!
【現の夢】LV1が発生!
【プラチナチケット】がLV2になった!
【植物活性】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【活性治癒】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】がLV3になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【ドレイン】がLV2になった!

●第二幕『旅立ち』
 騎士が投獄されて一年が経った冬の日、変転は突然にやってきた。父王に仕える家臣の一人が野心を抱き、反乱を起こしたのだ。
 王は暗殺され、城は裏切り者の手に落ちた。動乱に紛れて牢を抜け出した騎士は混乱の城内で姫君を助け出し、夜の森を抜けて逃げ延びる。そして二人は後ろ盾を求め、亡き王の兄が治める北の国をめざして旅に出る。

 ♪白鷲の城は血に染まり
 いつかの園は火に沈む

 ♪ああ我が王よ 今こそは
 花守の剣を捧げましょう
 あなたの愛しきトゥルペの花に
 私のすべてを捧げましょう
ノイン・クリーガー
俺もそれなりに歳を重ねたが、オペラを観るのはこれが初めてだな。
オペラなんてガラでもないが、これも一つの経験か。

それなりの服装をして観客を装い、着席して終わるのを待とう。

…3時間あるのか。
しかし若い頃より待つのが苦ではなくなってきたな……

…そんなことより役者は凄いな。
あんなに沢山のセリフを憶えて……

…姫と騎士の許されざる恋か。
思えば愛やら恋やらとは無縁の人生だったが、よしとする……


咲樂・祇伐
【黒華】

歌で紡がれる圧巻の舞台に
高鳴る鼓動抑えて魅入る

千景さん
私も舞台の上でとうさんが歌っているのをみました
泡沫の桜霞のような朧気な記憶


千景さんもお父上と一緒に?
私も
心に刻まれた大切な一時の思い出なのですね
柔く微笑み眸をあわせ頷く

失われてしまった過去
だから
ひとりで舞台を見ることなんてできない
胸が痛くて潰えてしまいそうになるから

あなたがいてくれてよかったと心から思う

倖と不幸を重ねくるくると
廻り歩み人の路を生きるのね

結ばれた掌を優しく握り返す
私だって離したくないわ
後悔なんてしたくない
赦しなどいらないわ

姫と騎士
守り守られ─噫
誠に守られていたのは何方か

絆ぐ手があたたかくて
離して欲しくないと
密やかに冀う


咲樂・祝或
🎶弐祝

ふふー、どういたしまして!

オペラかぁ…
わたし、好きだよオペラ
とうさんがすっごい歌が上手でさ
舞台の上でよく歌ってたの
だから嬉しいよ

天井?キミは細かい所まで意識がよく行くね

姫と騎士の冒険と、禁じられた恋の物語か…
わたしも好きだよ
愚かで美しくて

共にある事で通じ合い絆が芽生えて
軈ては叶わないと知っていながら、戀の病に至り堕ちる
戀の病は心を殺し、また救うものなんだろう
だから
こんなにも胸が裂けるように傷むのかな
愛に、恋とは
面白く興味深い

響く歌声に淡く微笑む

わたしだって歌えると張り合いたくなるのは性だろうか

ふふーどうかな
戀を知らなければ歌えない歌があるように
しらなければ描けない絵も、あるんじゃない?


紫空・千景
【黒華】

舞台上の世界
展開される物語
裡を震わせる奏でに聲と熱量

噫、祇伐の父は舞台の上に…
其れは素敵な景色だったろうな

私が居た世界に舞台施設など無かった筈なのに
幼き頃、父と行った記憶だけが有る
夢だとも思った、だが鮮明で忘れられない
息も出来ないくらいの、あの熱が

だから祇伐と見たかったと眸交えて

噫、今回の物語も浴びる様に世界を辿るのだろう
聲無く隣と掌を重ねれば
ぬくもりに安堵し存分に浸れる
…あたたかいなと音無き聲

絆で結ばれた姫と騎士、か
騎士は身を姫は心を護っていたのかもな
ふっ、私なら許されずとも離しはしないが
絆ぐ手に力込め咲う

共に居る事が叶わなくなった時でさえ
己も手を離したくないのだと
言の葉は喉元の秘密


灯楼・弐珀
🖼弐祝

今日はご一緒してくれてありがとねぇ、祝或くん
依然教えてくれたお礼も兼ねてお誘いした訳だけれども

創作オペラ、との事だけれど、祝或くんは此の手の物語は好きなのかな?
お兄さんは内容問わず、物語の類は好きな部類ではあるけれど

それに歌劇場自体も一種の創作物でもあり、大変に…素晴らしい…!
天井画を描いた方も知りたいが…っと、始まったかな?

迎えてくれる楽器と奏で手、演者たち
素晴らしさの極みであった

恋知らぬ僕だけれど、それでも心震える物語ではあったよ
祝或くんはどうだった?

恋は絵を描く上でも大事な想いの一つだろうけど、知ればより楽しめるのかな?

…なら、もし知れた時はその心のままに一度描いてもいいかもねぇ


ウルリク・ノルドクヴィスト
音楽も舞台も
芸術の類には今まで縁が無かったな
慣れぬ場でも
佇まいは人目に障らぬように努めよう

本来の時代に生きていた自分なら
こんな機会には一生巡り合えなかったかも知れない
しかしあのまま元の世界に暮らしていれば
戦地で武器を振るうことだけを考えていれば
見知らぬ物事に、感じたことのなかった思いに
戸惑うことも、己を見失うことも少なかった筈で

…良いのか、悪いのか
演劇の美しさを目の当たりにしている今は
少なくとも前者に傾くものの

目の前の事に気を取られる単純さも
いちいち悩む難儀さも
自分の性格がつくづく嫌になる
…今は観劇に集中、だな

活劇は兎も角
恋物語に触れたことはなかったが
演者や演出、歌、
全てが輝かしく見える


●幕間
 喝采を浴びて、落ちた緞帳が舞台の上にわだかまる。ふうと長い息をつき、ノイン・クリーガー(ゴースト・g00915)は長い脚を組み替えた。そこかしこに傷の走る厳めしい顔貌は絢爛豪華な歌劇場の中で浮いて見えるかと思いきや、背筋の伸びた佇まいと撫でつけた白髪、設えた夜会服は、余暇を謳歌する退役軍人そのものに見える。とはいえこうした場所へ足を運ぶのは、それなりに長いノインの人生の中でも初めての経験であるのだが。
(「オペラなんてガラでもないがな」)
 復讐者の力に目覚めたことといい、人生というのは何が起きるか分からないものだ。慣れない歌劇場の椅子に背を預けているこの瞬間もまた、小説よりも奇なる人生の一頁に過ぎないのだろう。長い台詞を淀みなく吐き続ける役者に感嘆し、煌びやかに移ろう舞台照明の光に目を眩ませて、この世界のどこにも存在しない誰かの恋に、何とはなしに思い馳せる――この時間もまた。
(「姫と騎士の許されざる恋か」)
 銃と戦場にその身を捧げた兵士の人生において、愛だの恋だのといった響きは無縁であり、無用だった。それを振り返って悔やむことは、この先も恐らくないだろう。ただ――それゆえに目の前に組み上げられた虚構の物語は、少し眩しい。
(「……あと一時間か」)
 開演から二時間、長く続いた物語も後は第三幕を残すのみ。待つのは然したる苦でもなしと、男は遥かな天井画をその目に焼き付けて、ゆっくりと瞼を閉じた。
「圧巻の舞台……ですね」
 幕間の休憩は、紳士淑女の社交場だともいう。けれど席を立つ気にはなれずに、咲樂・祇伐(櫻禍ノ巫・g00791)はじっと幕の降りた舞台を見つめていた。同じ気持ちでいるのだろうか、隣の席では紫空・千景(暁の切り札・g01765)もまた、ただ前を見据えて動かずにいる。
 燃える城から逃げ延びる二人を、追い立てるような太鼓の響き。
 暗く冷たい森の小道の静謐を映す、ささやかな鐘と琴の音色。
 燃える想いを色鮮やかに描いて、情熱的に響き合う管弦のシンフォニー。
 次から次へと押し寄せる奏でと聲のドラマチックな音景に、胸は未だに高鳴っている。呼吸を一つ調えてから、祇伐は懐かしむような声色で言った。
「私も舞台の上でとうさんが歌っているのをみました」
 それは幼い春の日の、吹けば飛びそうな桜霞にも似た淡い記憶。ほう、と意外そうに
夜明け色の瞳を瞠って、千景は応じた。
「祇伐の父は舞台の上に立っていたのか。其れは素敵な景色だったろうな」
「ええ――とても」
 言葉少なに返す声には、少なからぬ含みがあった。こうして舞台に臨む時、胸に過る想い出はいつも、どれもが、もはや帰らぬ過去のものだ。
 少女の眼差しの先にあるものを察したのか、千景は微かに眉を寄せ、口を開いた。
「私が居た世界に、舞台施設などなかった筈なのだが。……幼き頃、父と行った記憶だけが有る」
「千景さんも、お父上と一緒に?」
「夢だとも思った。だが、鮮明で忘れられない」
 溢れんばかりの光と喝采に包まれる、息もできないほどのあの熱。煌びやかで、眩しくて、終わった後もどこかふわふわとして現実と虚構の狭間にいるような――不思議な感覚。辿るように見つめる手のひらには、つないだ誰かの手の温もりが微かに残っているような気さえする。
 いつもよりどこか柔らかな表情にやんわりと口許を笑みの形にして、祇伐は言った。
「心に刻まれた大切な一時の思い出なのですね」
「噫。だから、祇伐と見たかった」
 二対の視線がゆっくりと交わり、そしてまた舞台の幕へ移る。もう戻らない過去の、優しい記憶――だからこそ、それを抱いたまま独り眺める物語には痛みが伴った。けれど胸を圧し潰すような不安も、今は肘掛けの上に重ねた掌の熱が拭ってくれる――今日、この夜に隣り合う彼女がいてくれることを、心から幸いに想う。二人きりで夜の森を抜ける騎士と姫も、或いはそんな気持ちでいただろうか?
「姫と騎士。誠に守られていたのは、何方なのでしょうね」
「どうだろう。……騎士は身を、姫は心を護っていたのかもしれない」
 呟く祇伐にただ、と重ねて、千景は続けた。
「私なら許されずとも離しはしないがな」
「……私だって、離したくないわ」
 倖と不幸を織り重ねて、くるくると廻り惑って歩くのが人の路。どうせ平坦でないのなら、せめて後悔はしたくない。
「赦しなんて、なくても――」
 確かなのは、絆ぎ、握り返す手の温かさだけ。いつか共に歩めなくなる日が来たとしても、指の先の確かな熱は、踏み出すための力をくれる。だからせめて今、この時は、ここにある温もりを離さずにいたい――切なる想いは声や言葉に乗せなくとも、交わす視線が告げている。
「今日はご一緒してくれてありがとねぇ、祝或くん」
 幕が下り、隣り合う席へ視線を投げて、灯楼・弐珀(絵師お兄さん・g00011)は僅かに目を瞠った。どういたしまして、と微笑む咲樂・祝或(『忘却の匣舟』・g00552)の純白の装いは天の御使いに似て、舞台の上の女優達よりも華やかに映る。
「わたし、好きだよオペラ。とうさんがすっごい歌が上手でさ――舞台の上でよく歌ってたの」
 だからここへ来られて嬉しいと、少女は花色の瞳を細める。愛おしむような眼差しは未だ下りた幕の向こう側を見ているようで、弐珀もそれに倣い、舞台の方へ目を向ける。
「祝或くんは此の手の物語は好きなのかな?」
 物語の類は、内容を問わず好きな部類だと自負している。けれどそれを抜きにしても、一流の演者と奏で手によって織り上げられる舞台は素晴らしさの極みであった。特に、滅びゆく国を見送る悲哀、それゆえに二人を妨げるものは何もないという皮肉に恋の歓びを織り交ぜた姫君の演技には、胸に迫るものがあった。それは、恋を知らぬ弐珀の胸をすらも震わせるほどの熱だ。
 どうだった、と問われれば、祝或は視線を廻らせ、言葉を選びながら言った。
「姫と騎士の冒険と、禁じられた恋の物語。ありがちなモチーフだけど、わたしも好きだよ――愚かで、美しくて」
 共にあることで通じ合い、絆が芽生えて、やがては叶わないと知りながらそれでも恋の病に至り、堕ちる。恋は千変万化の幻で、優しく甘やかに囁いたかと思えば、次の日には張り裂けんばかりの痛みをもたらしたりもする。心を殺すこともあれば、救うこともある――だから、愛に恋とはまこと面白く、興味深い。
「恋。恋か。絵を描く上でも、大事な想いの一つだろうけど……」
 愛しい人の今を切り取り残そうと、描かれた絵は数知れず。世界中の画家達が、そうして彼らだけの恋をキャンバスの上に残してきた。ふむ、と小首を傾げて、弐珀は呟くように言った。
「知れば、より楽しめるのかな?」
「ふふ、どうかな」
 それはキミ次第と笑って、祝或はほんの少し、細めた瞳に悪戯げな色を揺らした。
「でも――恋を知らなければ歌えない歌があるように、知らなければ描けない絵も、あるんじゃない?」
「そういうものかな。……なら、知れた時はその心のままに描いてみてもいいかもねぇ」
 何気なく仰ぎ見た天井には、天使達の白い翼が舞っていた。壁や通路の隅々までもを精緻な絵や装飾で彩られた歌劇場は、それ自体が一種の創作物と言ってもいい。
「あの絵は、誰が描いたんだろう」
「……キミは細かいところまで、意識がよく行くね」
 ジリリとけたたましいベルの音が、客席中に鳴り渡る。休憩時間が終わったら、あの歌声は再び、高い天井をこれでもかと震わすだろう。唇に淡い笑みを刷き、祝或は肘掛けにもたれかかる。
(「わたしだって、歌えるのだけど」)
 つい張り合いたくなってしまうのは、性分だろうか。子どもじみた戯言は胸にしまって、娘は舞台へ目をやった。通路を行き交う人々の動きは俄かに慌ただしくなり、客席に人が戻ってくる。間もなく、第三幕の始まりだ。
 客席を照らす明りが、次第に暗く落ちていく。第一幕、二幕を終え、ひしめく観衆の中に溶け込むように務めながらも、ウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)はどこか、周囲から切り離されたような感覚を拭えずにいた。
(「芸術の類には、今まで縁がなかったな」)
 音楽も、舞台も。ウルリクという騎士の人生において、それらは恐らく、遠い世界の御伽噺のようなものだった。血風吹き荒ぶ戦場と、その手に馴染む一本の馬上槍――記憶はあくまで断片だが、その日常は決して、貴族のように優雅なものではなかったに違いない。奇縁在って今でこそ未来に交わってはいるが、あのまま本来の時代に生きていたならば、こんな機会に巡り合うことは生涯なかったかもしれない。戦地で武器を振るうことだけを考えていたならば――見知らぬ物事や、これまでに感じたことのない思いに戸惑い、迷うことも、今ほど多くはなかっただろう。
(「それが良いのか、悪いのか――」)
 やがて照明は完全に落ち、緞帳が音もなく上がっていく。幕の向こうには目にも鮮やかな夕焼け空が広がっていた。帰る場所を失くした二人は、辿り着いた北の国で何を望むのだろう?
(「いや、やめよう」)
 早くも物語の続きに気を取られている自分に気付いて、ウルリクは緩く首を振った。いちいち思い悩むのは、悪い癖だ――あれこれ考えたところで心は既に舞台の上に移っているのだし、それならば素直に観劇に集中する方がいい。それに素晴らしい歌と音楽、役者達の熱のこもった演技を見せつけられている今、これが無駄な回り道だとは凡そ思えまい。
(「恋物語に触れたことはなかったが……」)
 さて――騎士と姫君の運命や、如何に。
 高らかに歌い上げるソプラノに誘われるまま、今を生きる騎士は一人、眩いばかりの舞台の輝きに心を委ねた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
【現の夢】がLV3になった!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【飛翔】がLV4になった!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
【ロストエナジー】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
【反撃アップ】LV2が発生!

●第三幕『花と葉』
 北の国の王の助力を得て、騎士と姫君は国を取り戻すべく立ち上がる。戦の果てに騎士は裏切り者を討ち果たし、トネリコの国を取り戻してかつての主君への忠義を果たすのだが、その後、姫君との婚礼の席で何者かに毒を盛られ、命を落としてしまうのだった。
 残された姫君は騎士の剣を取り、自らの首を刎ねるよう、家来の一人に言いつけた。

 ♪傍にありて触れられず
 それが花と葉のさだめなら
 花は頸を落としましょう
 わたしはトゥルペ あなたの花
 あなたはトゥルペ わたしの葉

 斯くして戴く主をなくした国は瓦解し、後には美しい廃城と緑の山野だけが残ったという。
エルマー・クライネルト
年の瀬に折角帰郷したと言うのに、やる事は地下に潜って鼠退治とは…ディアボロスはかくも世知辛い
その分演劇は楽しませてもらうがね

周りに合わせて身なりを整え会場へ、席は遠すぎなければ特に拘らない
内容は創作オペラだと聞いた。聞き慣れない物語は新鮮で面白いな、演者も素晴らしい
騎士と姫の旅の行方は如何なるものか、許されざる恋の結末はと物語に聞き入る
(…許されざる恋か。私は伝える事さえしなかったが、それでいい。
物語のようにはきっといかないから)

気づけば閉幕か、3時間があっという間に感じられた。ああ、面白かったよ

舞台袖に隠れて人がいなくなるのを待つ
我々の舞台の幕開けだ。奈落の怪物とやらを拝みに行こうではないか


ノスリ・アスターゼイン
g01241/実

拍手喝采の周囲の熱の中
傍らから
はっしと掴まれた腕
見遣れば
舞台を見詰める感激に潤んだ眼差し

…興奮冷めやらぬって奴、

快哉を叫ぶよりずっと雄弁に
耀く瞳が物語っている

オペラ歌手たちの歌声は勿論、
奥行きを感じる生演奏は
身体の芯にまで響き渡るほど重厚で圧巻だったから
音楽に傾倒する彼女が
圧倒されるのもよく分かる
…けれど、

痛い、痛い

くつくつ笑いながら
掴まれた腕をとんと示す
爪痕が付くくらい夢中になるなんて
勇ましい姫君だこと

ドレス姿も
纏め髪も
染まる頬も
姫君みたいに可憐だけれど
音楽を尊び共に在る姿はたいそう気高いから
もし実がヒロインだったのなら
許されぬ恋の行方も
自ら剣を振るって掴み取ったに違いないね


七森・実
g01118/ノスリくんと

荘厳な旋律の余韻に
感嘆の溜息、絶賛の拍手

ノスリくんノスリくん、あのオーケストラね
1stヴァイオリンの鳴りが素晴らしくて
あとね第二幕の姫君のソロの、
オケの完璧な盛り上げ方!

きらきらと溢れ来る想いの儘
ついうっかりと握り締めてしまった腕を
ごめんねと慌てて離し

改めて見上げる盛装の人は
舞台上の騎士様よりも美しく
輝かしい音を聴いた時のように
心臓が震える、気配がする

──そうね、もしも私がヒロインならば
決して運命に引き渡したりしない
剣でもヴァイオリンでも振り回して戦うし
ええ、ええ、筋肉痛にも負けないわ

悪戯に笑ってもう一度あなたの腕を取る
姫君らしく淑やかに
けれど、揺るぎない力で


●終演、そして
 荘厳な旋律の余韻が、ホール全体を浸していた。カーテンコールが終わっても、割れるような拍手と歓声は止む気配がない。
 喝采の熱の中、ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は演者達が緞帳の向こうに消えていくのを惜しみない拍手で見送った。深く吐息する気配に隣の席を見やれば、七森・実(F・g01241)は息を詰め、幕の下りた舞台の上を今もなお見つめている。
 身体の芯まで震わせるオーケストラの重厚な生演奏と、演者達の魂に訴えるような歌。細部まで手抜きの見えない精緻なセットと、物語の世界に観客を引きずり込む大胆な演出。正に圧巻の舞台だった。さほど造詣の深くない人間ですら胸を打たれるのだから、音楽に傾倒する娘が圧倒されるのは無理もない話だ。深い感嘆をすぐには言葉にできない様子の実をまじまじと見つめていると――。
「ノスリくん、ねえ、分かった?」
 夜会服の柔らかな袖から伸びる手が、男の腕をはっしと掴んだ。高い天井から降る光のためばかりではない――甘い琥珀色の瞳は感激に潤んで、快哉を叫ぶよりもなお雄弁に、弾む心を物語っている。
「あのオーケストラね、ファーストヴァイオリンの鳴りが素晴らしくて――あとね、姫君のソロの、オケの完璧な盛り上げ方! それに――」
 興奮冷めやらぬとは、正にこのこと。至高の歌と音楽がくれた煌めきは胸にきらきらと降り積もり、そして舞台がはねた今になって、一気に溢れ、流れ出る。腕を掴む指の力が段々強くなるのにくつくつと喉を鳴らして、ノスリは言った。
「痛い、痛い」
「! ごめんね」
 自分では気づきもしなかったのだろう。掴まれた腕を反対の手でとんとんと叩いて示すと、実は握り締める手を慌てて離し、白い頬をほんのりと薔薇に染めた。見上げる男の盛装は、普段の彼とは少し違う――異国の空を舞う猛禽のような鋭い野生もそれは魅力であるけれど、歌劇場に合わせた装いは舞台の上の騎士よりもなお美しく、透き通った弦楽の輝きを聴くのと同じように、心臓がどきりと震える気配がする。
「爪痕が付くくらい夢中になるなんて、勇ましい姫君だこと」
 からかうように笑って、ノスリは言った。拗ねたように尖らせた唇に染まる頬、花の咲くように結い上げた焦茶色のまとめ髪。上目遣いに見上げる娘はどこをとっても、姫君のように可憐で濁りない。けれど彼女は、ただ愛らしいだけの娘ではなかった――音を尊び、共にあろうとする姿は、彼女の中に確かにある誇りと矜持を表している。その気高さが、彼女の強さなのだろう。
「実がヒロインだったのなら、許されぬ恋も――自ら剣を振るって、掴み取ったに違いないね」
 心からの賞賛を込めて片目を瞑れば、娘はぱちりと一つ瞬きして、そしてやんわりと口許を微笑ませた。
「そう──そうね。もしも私がヒロインなら、運命に引き渡したりなんてしない」
 守られるばかりの姫君は御免だ。仇敵も、災害も、死神さえも跳ねのけて、愛する人と自分の道は、自分の手で切り開く。
「そのためなら、ええ。剣でもヴァイオリンでも振り回して戦うし、筋肉痛にも負けないわ」
「それはちょっと力強過ぎるな」
 けれども、それが好ましい。
 悪戯に笑って再び腕を取る指先は淑やかでありながら揺るぎなく、ノスリは微笑ましげに瞳を細めた。
 幕が下り、煌々と明りが灯れば、今度こそ舞台は終演を迎える。歓談する者と足早に立ち去る者、動き出した観客達でざわめきを取り戻したホールの底で、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)は座席に掛けたまま、白いシャツの襟元を飾るタイを緩めた。無名の劇作家の創作オペラというだけあって筋書には粗削りな面も目立ったが、それでも知らない物語を見聞きするのはいつでも新鮮な刺激だ。それに、演者とオーケストラの演奏には素晴らしいものがあった。鼠退治の前金にしては、それなりに上々の報酬だろう。
(「許されざる恋、か」)
 愛し、慕う者の手で引き裂かれ、流転し、やっとのことで幸せを掴んだその矢先の破滅。物語の筋としてはよくある悲劇のパターンだ。ただ――少なくとも騎士と姫君は、二人で共に在ることを諦めようとはしなかった。命を投げ打つことも厭わぬその愛が結局、悲劇的な終わりを招いたのだとしても、少なくとも二人の人生の終わりに、後悔の念はなかったのだろう。
(「私は伝えることさえしなかった――が」)
 けれど、きっとそれでよかった。
 吐息一つ、エルマーは席を立つと、ホールの天井を見上げた。
(「悲劇だって、物語のうちだからな」)
 現実は残酷だ。始まりは突然で味気なく、終わりもまた淡々として呆気ない。そこにドラマチックな展開を期待したところで、何も望めないのは見えている。悲劇にさえならない――彼が抱いたのは、きっとそんな恋だったのだから。
「まあ、面白かったよ」
 呟くように言って、エルマーは人込みに紛れて通路をゆく。開演から、少し押して三時間半。気付けば閉幕まで、あっという間の時間だった。ロビーは帰路に就く観客達でごった返し、人の流れに逆らって建物の奥を目指しても、誰に見咎められることもない。
(「さて――奈落の怪物とやらを拝みに行こうではないか?」)
 ここからは、新たな舞台の幕開けだ。
 客も歌劇の担い手も、誰もが去ったこの場所で、復讐者達は地下に潜る。時計の針が深夜零時を回る頃、無人の舞台には高らかな声が響くだろう。
 喝采せよ――光なき奈落の怪物よ、と。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【完全視界】がLV2になった!
【神速反応】LV1が発生!
【プラチナチケット】がLV3になった!
効果2【能力値アップ】がLV4になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV4になった!

●DER ABGRUND
「喝采せよ――光なき奈落の怪物よ!」
 朗々と響く声に応えるように、足元でがこんと何かが動く気配がした。復讐者達を載せた舞台のセリは埃を舞い上げながら、始めはゆっくり、そして次第にスピードを上げて、地下深くへ潜っていく。
「セリというか、ただのエレベーターだな」
 U1、U2――最小限の照明に照らされて、階層を示す表示が暗闇の中に一瞬浮かび、すぐさま上方へ飛び去って行く。床はぐんぐんと降下を続け、やがて暗く無機質な通路に辿り着いた。視界に困るほどの暗さではないが、暖房が一切入っていないのだろう空間は凍えるほどに冷たく、それだけで侵入者を拒んでいるかのようだ。
「……ここが『奈落』か……」
 この通路の先に何があるのかは、未だ誰にも分からない。慎重に踏み出す復讐者達の耳には、遠く、鉄の獣の歩き回る不気味な足音が聴こえつつあった。
ベアストリア・ヴァイゼンホルン
バカンスを……逃してしまったわ……。

さて、探索……ということだけど、【フライトドローン】を各グループよりも先行させて偵察するね。
【パラドクス通信】と『情報収集』を使って、各々の情報を統合して探索範囲が被らないようにサポートするよ。
また、重要施設がある地点をある程度『看破』出来るように努力もしようかな。

手持ちの……パソコンとスマホを……フル稼働することに……なりそうだね……。

記録をパソコンフル稼働で行って、出来る限り詳細な地図を作成して今後に役立てようね……。
手元に残っている数少ないフライトドローンは、巡回させて敵の接近を事前に察知できる様にしなきゃ……。

連携、アドリブは歓迎するよ……。


瀧夜盛・五月姫
連携、アドリブ、歓迎、だよ。

ベルリン地下鉄、否、大迷宮、か。
隠し通路があるかな、なんて思ってたけど……まさか、ここまで広大、とは……。

さて姫は、【完全視界】【過去視の道案内】、展開、するよ。
頻繁に出入り、しているならば、きっとクロノヴェーダの跡、追うことができる、はず?
見つからなければ……地にはいつくばって、目を凝らして、足跡や削れた跡。
それらから、進む先を【看破】、進むしかない、かな。

あとは、【パラドクス通信】で、地図作成者に、逐次連絡。
クロノヴェーダの気配、察知したら【光学迷彩】、やり過ごそう。

はてさて、進んだ先、鬼が出る? 或いは蛇が出る?
ふ、ドイツに、どっちもいなかったね。


ノイン・クリーガー
オペラ面白かったな。
機会があればまた観賞してみるか。
……任務に集中しよう。

暗いようであれば【完全視界】で視界を確保する。
あまり目立つのもよくないだろうから【忍び足】で気配を進む。
そして【パラドクス通信】で味方と連絡をとり合い、まだ未探索の部分をWTCを起動してマッピングを行いながら調査する。ベアストリアがパソコンで地図を作成するようなので、こちらが集めたマッピングデータを送信する。
周囲をよく【観察】しながら移動の痕跡などがないか探しつつ拠点への入り口を捜索する。


「ベルリン地下鉄……否、大迷宮、か」
 殺風景にして思いのほか高い天井を見上げ、瀧夜盛・五月姫(無自覚な復讐鬼・g00544)はぽつりと言った。市内を文字通り網目状に走る地下道は、思っていたよりも広大らしい。隠し通路くらいはあるかもしれないと思っていたが、この規模は予想外であった。とはいえ頻繁にクロノヴェーダが出入りしているのだとしたら、その足跡を追うこともできるかもしれない。
「さて、いこ……」
 いざ探索――顔に出ないなりに意気込んで背後を振り返り、五月姫はぱちりと淡いブルーの瞳を瞬かせる。見つめる先ではベアストリア・ヴァイゼンホルン(ジャンカー系眼鏡女子・g04239)ががっくりと、紅いレースの肩を落としていた。
「どうか、した?」
「舞台を……見損なったのよ……」
 ベアストリアが乗ったパラドクストレインが現場周辺に到着したのは、今から凡そ数時間前、オペラの第三幕が始まった頃だった。急ぎ歌劇場へ駆けつけてはみたものの途中で客席に出入りすることもできずに、指をくわえて待っていた――というわけである。退場する観客達に紛れて劇場の中に潜り込むのは然したる苦ではなかったが、少々惜しい。ふむ、と顎に手を当てて先程の舞台を脳裏に思い描き、ノイン・クリーガー(ゴースト・g00915)は独りごとのように言った。
「俺には縁遠いものだと思っていたが、存外面白かったな。機会があればまた観賞してみたいものだ」
「ぐさ」
 特に悪気のない感想が、誰かに刺さる音がした。というより、声がした。気まずい雰囲気を払拭するように、ベアストリアはぶんぶんと頭を振り、手荷物から一台のノートパソコンを引っ張り出す。先行して露払いを担うディアボロス達の後について進み、歌劇場を中心とした迷宮のマッピングを行う――それが彼女達の任務だ。
「大丈夫……探索……探索、でしょ。準備は……してあるわ……」
 パラドクス通信のハブとして各班をナビゲートしつつ、情報端末を組み合わせて詳細な地図の作成を試み、敵の接近があれば先行させるドローンで探知――心なしかまだ引きずっているような気配はあるが、これでも準備は万端だ。
「足跡や……削れたみたいな跡があったら、注意して、進む先を決めよう。どこまで続いてるかは、分からないけど……あと、クロノヴェーダの気配、察知したら、姫達は、光学迷彩でやり過ごす。……おーけー?」
「OKだ。……任務に集中しよう」
 肌に馴染んだ漆黒のガスマスクを無造作に被って、ノインは言った。絢爛豪華なオペラの時間はもう終わり――ここから先は、仕事の時間だ。
 舞台と迷宮をつなぐエレベーターを擁し、比較的開けたこの空間をエレベーターホールと仮称すると、迷宮に続く通路は全部で五本、ホールを中心として放射状に続いている。どの通路も見た目は似たようなもので、先が見通せないことから、進んで程なく左右に折れ曲がっていると想像がつく。特別にどこかが頻繁に使用されているという気配もないため、手分けをして進むより他になさそうだ。着替えた戦闘服の腕に装着した小型の装置――因みに周辺の地形を読み取り、自動でマッピングを行う優れものである――を慣れた手つきで起動して、ノインは続ける。
「定期的に、こちらのマッピングデータを送る。何かあれば通信で呼び出してくれ」
「了解……まかせて」
 ぐ、と両手の親指を立てて、ベアストリアは言った。そして、ある者は中央へ――またある者はその隣へ、復讐者達は五本の道から一本を選び取り、進んでいく。
「はて、さて。この先、鬼が出るか、蛇が出るか――」
 ノインと二人、中央の通路へ歩みを進めながら五月姫は独りごちる。
「ふ……ドイツに、どっちもいなかったね」
「いや、蛇はいるんじゃないか」
「…………アナコンダ、みたいなやつの話」
 他意のない男の突っ込みに淡々と補足して、少女は一振りの薙刀を手に歩き出した。地下迷宮の探索は、まだ始まったばかりだ。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
【過去視の道案内】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!
【アヴォイド】LV1が発生!

ノスリ・アスターゼイン
身分や立場で許されなかった恋であり
国より愛を取ったこと自体が
臣民からすれば許せない恋でもあったろう

傍からは悲劇だが
姫と騎士にとっては
ハッピーエンドって奴になるんだろうか

己の心を偽らず
真っ直ぐ見据えられるのは
気高くもあるね

なんて
寒さを忘れる為に想い起してみれど
いや、

寒い
さーむい!
働きたくなくなっちゃうじゃない

肩を竦めて見せるも
警備犬の足音や姿を認めれば
口元に笑みを刷いて

ナイフをくるりと構え
野を擦るかの如く翔けて接敵
機械の継ぎ目に刃を突き入れ解体

壁歩きも使って跳ね
襲撃点を予想させず翻弄

援護も攻撃も
声掛け連携

運動で随分温まったけど
やっぱり
熱い酒も恋しいなぁ

仕事中でお預けの今は
悲劇か喜劇か、どっちだろ


ウルリク・ノルドクヴィスト
身を窶すような恋をした者達は
死の前に分かたれて
だが自らの首を刎ねろと命ずる姫君の歌に
其の終わりざまは、…恋破れたと言うべきなのか
解らずのまま『奈落』に至る

思いに耽る暇は、今は無いか
鉄の群れを相手とするなら
槍で敵陣を薙ぎ払い
攻撃、次いでに仲間の手番のための隙を作る

そんな情には覚えが無い、とも言わないが
燃え上がるような恋は縁遠いことだ
同じ駆け引きなら
命を遣り取りする方がずっと得意だな

情緒の無い輩で済まないが
…そういうことで言えば
君達も同じだろう?
人が為の舞台に、こうして潜むなど
詰まらないことをする

俺には手荒い幕引きしか出来ないが
君達の結末には
あの歌劇とは違う
きわめて、明確な、「敗北」を告げよう


 エレベーターを降り、幾筋にも枝分かれした通路に散開してしばらく経つが、道の突き当たりはまだ見えない。
 扉もない、目立つものがあるわけでもない地下通路の道行きは、行く手を阻む者がなければ極めて単調だ。変わったところがないかと視線を巡らせ、何もないのだと確かめれば半ば必然的に、輝くばかりの舞台が脳裏に蘇る。
「さっきの話だけどさ」
 硬い靴音が反響する無機質な天井を見上げて、ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は口を開いた。
「そもそもは、身分や立場のために許されなかった恋だ。彼女が国より愛を取ったこと自体、臣民からすれば許せない恋でもあったろうね」
「……愛を取った、か」
 呟きを耳に止め、ウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)は同道する青年を肩越しに見やった。
「身を窶すような恋をしながら、結局は死の前に分かたれて――自分の首を刎ねろと姫君は歌ったが、あの終わりざまは、恋破れたと言うべきなのか」
「どうかな、傍からは悲劇だけど。姫と騎士にとっては、ハッピーエンドって奴になるのかも」
 愛しい人を喪って、独りこの世に生きることが堪えられなかったのか。
 それとも自分だけが生き延びて、愛しい人を孤独にすることが赦せなかったのか。
 歌詞からは姫君の本心を測ることはできないが、取りようによっては確かに、あれが二人にとっての究極のハッピーエンドだったと言えないこともない。なるほど、と感心したように頷いて、ウルリクは再び道の先に視線を戻した。変わらずその一歩後を歩きながら、ノスリは首の後ろに手を組み、続ける。
「己の心を偽らず見据えられるのは、気高くもあるね。……なんて」
 色々、思い巡らせてみたけれど――実は今、それ以上に気を揉んでいることが一つだけある。零した溜息は白く凍って、青年は堪らずに吐き出した。
「いや、寒い。さーむい! こんなところで誰かホントに働いてるの?」
 俺なら御免だ、とぼやくのも無理はない。地上でさえ凍えるような冬なのに、ここはいっそう冷たい土の底だ。さてと応じて道の左右を見渡し、ウルリクははたと足を止める。
「……ようやくお出ましだ」
「…………」
 金属の棒で引っ掻くような、耳障りな足音には覚えがあった。研ぎ澄ました水晶のナイフを掌の上でくるりと回して握り直し、ノスリは道の先に目を向ける。足音は一つではない――二つ。否、ともするともう一つ。息を殺して見つめていると、暗がりの中に光点が六つ、赤々と燃え上がった。
「行けるか」
「勿論」
 そのために来たのだからと笑って、二人同時に床を蹴る。怒りとも嘆きともつかない咆哮を上げて襲い来る狼達を、ウルリクは暗闇の槍で迎え撃つ。まずは一閃、敵が動きを止め、砲門を開いたところで薙ぎ払えば、均衡を崩した一体の関節をノスリのナイフが捩じり切る。所詮は巡視用のトループス級――数多の世界で戦場を駆ける復讐者達の敵ではない。
 撃ち出される誘導弾の直撃を槍の先で器用に逸らしながら、ウルリクは呼吸を調える。
(「そういう情に覚えがない、とも言わないが――」)
 情緒がない奴だと言われるかもしれないが、同じ駆け引きなら燃えるような恋よりも、命の遣り取りの方が余程やり易い。なおも火を噴かんとする狼の頭を掴んで至近距離に向かい合い、男は短く、そして冷ややかに言った。
「君達の結末には、『敗北』を告げよう」
 渾身の力で薙ぎ払えば、吹き飛び、叩きつけられた鉄の躯体は壁に生々しい跡を残して動かなくなる。
「……人が為の舞台に潜むなど、つまらないことをする」
 それは解釈の分かれようもない、手荒くシンプルな幕引きだった。残る一体の息の根をあっさりと止めて、ノスリは仕事を終えたナイフを鞘に納める。
「だいぶ温まったけど、熱い酒も恋しいなぁ」
 今宵の舞台を共にした何も知らない観客達は、温かい暖炉の前でナイトキャップに舌鼓を打っている頃だろうか。わびしいな、とぼやきながら、復讐者達は暗い通路のさらに奥へと進んでいく。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】がLV3になった!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV5になった!

紫空・千景
【黒華】

劇場の下に地下迷宮
不謹慎?まさか
冒険にも舞台裏にも心は踊るものだろう

迷宮には番人が付き物かと鋼の犬を見遣る
なあ、祇伐
姫と騎士もこうして色んな物と対峙したんだろうか?
けれど祇伐は守られるだけの姫ではない

任せたと光学迷彩を使いエアライドで空を蹴り、隣の壁を蹴り
虚閃一刀の奇襲
呪詛と殺気を乗せた一閃
見切れる物なら躱してみせろ
祇伐の夢に落ちた個体は屠り散らし
私への誘導弾は斬撃で薙ぎ払い
一部は結界術にて被弾軽減

奇襲後は祇伐を背に
騎士もこんな気持ちだったんだろうか
後ろを信じて前を向いたか?
護りたい
其れはあんたからも伝わるから

私は――進める
何が相手でも
此れが私達の在り方
心で編んだ途之く物語
篤と見て行け


咲樂・祇伐
【黒華】

まさか劇場の下に迷宮があるなんて!
まさに舞台裏──少しわくわくしてしまうのは不謹慎でしょうか?

番人が居るということは守るべき何かがあるということでしょう
ええ、千景さん
きっとそうです
守るべきものを守るために、対峙を重ねて来たのでしょう
…私達だってそうよ

だから、と前を見る
恐れることは無い
千景さんの背は私が守るのです

迷彩で駆けたあなたを支援するように、焔と氷雪の魔法を交互に連続で放ち氷雪で凍らせ捕縛する

桜蜜ノ夢幻
偽りの現をみせましょう

私達の情報を探るというならば
逆にハッキングし惑わしと偽を刻んであげる
…私達を喰らう夢を見ながら仲間を喰らってしまいなさい

千景さんを信じています
だから私も
進めるの


「凄い……」
 一歩前に踏み出せば、足音は幾重にも反響して冷たい通路の先へ渡っていく。背後に立つ人をくるりと振り返って、咲樂・祇伐(櫻禍ノ巫・g00791)は柘榴色の瞳を輝かせる。
「まさか劇場の下にこんな迷宮があるなんて! これが本当の、舞台裏――」
 胸の前に両手を握ってやや興奮気味にまくし立ててから、少女ははっと口を噤んだ。すみませんと頬を染めれば、行き場をなくした両手が揺れる衣をくしゃりと掴む。
「ちょっとわくわくしてしまって――お仕事なのに、不謹慎ですよね」
「不謹慎? ……まさか」
 百面相の娘にくすりと口角を上げて、紫空・千景(暁の切り札・g01765)は当然のように言った。
「冒険にも舞台裏にも、心は踊るものだろう」
 柄の深紅が鮮やかな日本刀をすらりと抜いて、千景は暗い通路の先へ進んでいく。彼女の辞書に、物怖じという言葉はないらしい。小走りに追いかけてくる祇伐をすいと伸ばした左手で制し、美しい剣士は前方の通路を睨んで足を止めた。
「迷宮には番人が付き物らしいな」
 一匹、二匹。カシュカシュと金属質な足音を鳴らして現れたのは、今や見慣れた鉄の狗。この道がどこへ続いているのかは分からないが、こんなものを放っているということは、侵入者を警戒していることには違いないのだろう。
 背後ではっと息を詰める気配がして、冷えた通路に緊張が走る。けれども千景は、振り返らぬままで続けた。
「なあ、祇伐。あの姫と騎士も、こうして色んな物と対峙したんだろうか?」
 夜の森。風の谷。北の国へ辿り着いても、二人の戦いは終わらない。最期の安寧を得るまでに、二人は多くのものと相対してきたのだろう。守りたいと、真に願い想うものを守るために。
「きっとそうです。……私達だって、そうよ。でも――」
 私は、守られるばかりの姫じゃない。
 通路の先を鋭く睨み、竜の娘は凛として言った。
「千景さんの背は私が守るのです」
 二人ここに並んでいるのなら、恐れることは何もない。任せた、と短く告げて、千景は光の迷彩を纏い、宙を蹴り、壁を蹴り、鉄狼の眼前へ一気に躍り出る。その背を押すように吹き込むのは、季節外れの桜風だ。
「偽りの現を、みせましょう」
 ひらり、ひらり。祇伐の魅せる桜花は次第に数を増し、蜜色の幻で狼達を包んでいく。夢の中、侵入者の喉笛を食い破ったつもりでいるのだろうか? 尖った口を開いたままぼんやりと動きを止めた狼達は、復讐者達の良い的でしかない。天井近くまで跳躍して迷彩をほどき、千景は手にした刀の刃を返した。
「見切れる物なら躱してみせろ」
 怜悧な横顔が一瞬、刺すような殺気を纏った。呪詛を載せた一閃は空間ごと、敵を斬り裂き虚空へと葬る。
 交錯、そして着地。呆気なく崩れ落ちた鉄塊には目もくれず、千景は守るべき少女を背に立ち上がる。
(「あの騎士も、こんな気持ちだったんだろうか。……だったのだろうな」)
 背にしたものを信じているから、前を向いていられる。守りたいと願うのは自分だけではないのだと、識っているから強くなれる――進んでいける。
「千景さん」
「ああ」
 余計な言葉は必要なかった。そこにあるのは進むべき道と、互いへの絶対的な信頼だけ。長い黒髪を背になびかせて、千景は堂々と風を切り、歩いていく。
(「これが、私達の在り方だ」)
 この先に何が立ちはだかろうとも、変わることはない。同じ歩幅で並びゆく少女達はその生き様で、無二の絆を語るだろう。あるべき世界へと至る長い道の果ては、未だ遠く、見えずとも。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【光学迷彩】がLV3になった!
【現の夢】がLV4になった!
効果2【ダブル】がLV2になった!
【ロストエナジー】がLV4になった!

エルマー・クライネルト
さて、良いものを観せて貰った分は働こうではないか
今日の私はそれなりに、大分やる気だ

仲間が露払いをしてくれている間に鼠共の巣穴を暴いてやるとしよう
【完全視界】で視界を確保し天井から床まで見落とさないよう慎重に【情報収集】を行う
床の擦り減り方からどの通路が主に使われているのか
使用されていない道の先には何があるのか、罠の有無辺りを重点的に調査
大きめの紙に十〜二十歩刻みでマッピングを行いながら進む

……分かってはいたが面倒な作業だ
こういう時、新宿島の電子機器が使えれば幾らか楽なのだろうか

調べた情報は【パラドクス通信】を使用して仲間に共有し
より精密に地図を作成している者がいれば早めにマップ情報を渡しておく


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎

姫君が選んだものは、国でなく愛か……
そんな愛を知れたら、幸福だろうか
瞬き一つ、切り替えて任務へ

情報収集しながら移動、正確なマッピングを

パラドクス通信で手短に連絡を取り合い
効率良く手分けし情報共有

道の長さ、曲がり角を基準にした角度、分岐、特異点、方位磁石がきけば方角を確認し、端的に線や記号で書き込む
完全視界で見通し、よく観察
アートの慣れで正確な線を引き、わかりやすい印で表現
トラップなどないか注意し、あれば記入

光学迷彩と忍び足を用い、地形を利用しなるべく身を隠しながら移動
巡回は足音や物音を先手で察知し、可能なら潜んでやり過ごす

足場が悪いか、移動困難な場所は目立たぬよう飛翔か壁歩き


「姫君が選んだものは、国でなく愛か……」
 悲しいかな、『彼女』には立場があった。愛する人に先立たれても、そこには彼女の国が在り、家臣がいて、民がいた。けれどそのすべてに背を向けて、彼女は愛のために死ぬことを選んだのだ。
 無機質な天井を視線でなぞりながら、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は言った。
「そんな愛を知れたら、幸福だろうか」
 そこまでの烈しい感情を、エトヴァは識らない。だからそれが良いことなのか、悪いことなのかはさておき、ただ純粋に疑問だった。
「どうだろうな。得難い感情ではあるんだろうが」
 呟く天使のその隣に並んで歩きながら、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)はぶっきらぼうに応じた。死をも厭わぬ愛を知ったことが、彼女にとって幸いであったのか、それとも不運であったのか。本当のところ、それは彼女が決めることで、彼女にとって何が真実であったのかということは、受け手にはただ想像することしかできないのだ。
 とはいえ――そこに思いを馳せる時間は、嫌いではない。
 踏み出す足にいつもより活力が満ちている気がするのは、久方ぶりに観た舞台の目も眩むような輝きゆえか。まあいい、と微かに笑ってエルマーは言った。
「とかく良いものを観せて貰った分は、働かねばな」
 エレベーターホールを出て、歩くことしばらく。特筆すべきことの多くない殺風景な地下通路を数歩ごとにマッピングしながら進むのは、分かってはいたが骨の折れる作業だった。開いた紙に幾つめかの誘導灯の印を書き入れながら、エルマーは小さく息をついた。
「こういう時、新宿島の電子機器が使えれば幾らか楽なのだろうがね」
「そうだな。俺もあまり馴染みはないが、使いこなせると便利そうだ」
 エレベーターホールでは、一部の復讐者達が通信のハブとして各班からの情報をまとめている。パラドクス通信を使えば、こうして別行動をしていても情報共有は容易だ。広大で道標もない迷宮を歩き回るのは生半な仕事ではないが、先行する仲間達が露払いをしてくれているお蔭もあってか、今のところ敵影も見当たらない。
「ここまで分岐らしい分岐はなし。方角は……ちょっと定まらないな」
 掌に載せた方位磁石を見つめて、エトヴァは呟く。通路とはいえ、機械化ドイツ帝国の粋を集めた迷宮に何もないとも思えない。電動機一つでも磁界が生じることを考慮すると、磁石が今一つ役に立たないのも無理はないだろう。
 頼りになるのは、五感で捉える光と音ばかり。仕方ない、と磁石を黒いコートのポケットにしまい込んで、エトヴァは言った。
「それなら、この目で見定めるまで」
 絵を描くことは、視ることに等しい。角度、比率を見定めて、柄と染みとを描き分ける。絵筆を取ったあの日から今日まで、多くを見てきた蒼穹の瞳に曇りはない。幸い蓄積した残留効果もあり、視界は暗くとも極めてクリアだ。一見何もなさそうな床や壁でも、見るべきところは必ずある。
 違いないと退廃的な笑みを浮かべて、エルマーは応じた。
「鼠どもの巣穴を暴いてやろうではないか」
 奈落の底に潜む者達は、何を企み蠢くのか。その糸口を求めて、復讐者達は光の迷彩を身に纏い、暗がりへ分け入っていく。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【悲劇感知】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV4になった!
効果2【ロストエナジー】がLV5になった!
【アヴォイド】がLV2になった!

朔・璃央
双子の妹のレオ(g01286)と

はぁ…圧巻だったなぁと
冷めやらぬ気持ちが渦巻いてうずうずと
早く片付けてお茶でもしながら感想会と洒落込もうか
今日は夜更かしも已む無しだろうしね

地下に潜む悪の結社かぁ
そういうの負けるのがお決まりだし丁度いいかもね

鉄の足音が聞こえてきたら物陰などに身を潜め
レオと息を合わせての奇襲といこうか
ハッキングで止まった敵の殴り飛ばして
また次の敵を探して確実に減らしていこう

今日の拳には気持ちがよく乗ってるのを感じがする
騎士と姫のあり様を思い返せばこそ
いざこの腕も騎士の剣のように、
すべてを捧げて打ち砕いていこうか

勿論、結末はハッピーエンドにしないとだけどね


朔・麗央
双子の兄リオちゃん(g00493)と

観劇後、人が捌けた劇場は不思議な感じがするね
本当なら、すぐにでも感想を語り合いたいんだけどね
早くお仕事済ませて語り合おうね、リオちゃん
そうだね、長い夜になりそうね

それにしても劇場の地下に潜んでいるなんて
悪の結社ぽいね

身を潜め進んで敵の足音がすれば敵から死角になるように隠れるよ
敵はリオちゃんとせーの!で合わせて攻撃
ハッキングして壊しちゃうね
そして敵が進んできた方向へ進んでいくよ
そうやって警備を減らしていくね

戦いながらも脳裏に先程見た物語が浮かんじゃう
君ありてこそ……、結ばれないこその悲しくて美しい物語かぁ
とにかく復讐者が進む道は悲しいだけの物語にはしたくないね


「はぁ……圧巻だったなぁ」
 見上げる天井は、広く豪奢なホールのそれとは打って変わって無機質で面白みがない。けれどその分、劇場の喧騒と輝きを投影するにはうってつけで、朔・璃央(黄鉄の鴉・g00493)は溜息交じりに感嘆した。盛大な拍手の中で幕を下ろした初めてのオペラの熱は未だ冷めやらず、印象に残ったシーンが次から次へ去来して、殺風景な地下通路の探索にささやかな楽しみを燈してくれる。
「帰ったら感想会と洒落込もうか」
「本当なら、すぐにでも語り合いたいんだけどね!」
 うんうんと頷いて、朔・麗央(白鉄の鉤・g01286)はとびきりの笑顔で応じた。観劇というのは幕が下りて終わりではないと言うけれど、実際その通りだ。話したくてうずうずするこの気持ちは、吐き出さないことには昇華できそうにない。けれども何よりそのためには、目の前の仕事を片付けてしまわなければ。
 青ずんだ照明が冷たい印象を与える通路は、実際に冷たく、そしてどこまでも続いている。滑らかで取っ掛かりのないメタリックな壁と床をきょろきょろと見回して、麗央は言った。
「それにしても劇場の地下に潜んでるなんて、いかにも悪の結社ぽいね」
 客席を埋め尽くした大勢の観客が去り、空っぽになった夜の劇場も不思議だったが、この場所はもっと不思議な――というよりも、奇妙な印象があった。中世の面影を色濃く残す歴史的な歌劇場の地下には似つかわしくない、言うなれば近未来的な通路は、機械化ドイツ帝国ならではの光景と言えるのかもしれない。
 確かに、と応じて璃央は言った。
「悪の結社は負けるのがお決まりだし、丁度いいかもね」
 映画に演劇、漫画にゲーム。きょうび、身の回りにはありとあらゆる物語が溢れているけれども、『悪の結社』などという枕詞のついた組織がまともに栄えた試しはない。今夜ばかりは夜更かしもやむなし――不気味な機械達はさくっとやっつけて、良い匂いのする紅茶でも飲みながらあの結末について語り明かそう。そんなことを話し合っていると――遠く通路の向こうから、カシュカシュと床を擦るような金属音が聴こえてくる。
「……レオ」
「うん、リオちゃん」
 言葉少なに頷き合って素早く周囲を観察し、枝分かれした通路の陰に身を潜める。冷たい足音が近づき、黒光りする金属の背中が一つのそのそと視界を横切ったのを確かめ――そして。
「せーのっ!」
 麗央の掛け声にあわせて、双子は通路へ躍り出る。少女の指先から迸るハッキングコードが獣を脚から捉え、内側へ潜り込んで拘束した。動きを止めたその背中に、璃央が素早く飛び掛かる。
(「憐れみを――」)
 内包する憎き天使と悪魔の力を集めてゆけば、少年の右腕はパキパキと澄んだ音を立て、さながら騎士の剣の如く変質していく。短い呼吸と共に突き入れた純白の拳は狼の横腹の一点を射抜き、その身体を鉄屑に還した。
 やった、と朗らかに手を叩いて、麗央が言った。
「調子いいね、リオちゃん」
「そう? ……そうかな」
 妹からの思いがけない言葉に璃央は一瞬、きょとんとして瞳を瞬かせたが、恐らく気のせいではないのだろう。今日の拳には気持ちが乗っているのを、自分でも感じる――見る者の心を打つ物語の騎士と姫の在り方が、自分の中で尾を引いているからだろうか。
「さっきのお話は、悲しい終わり方だったけど……」
 きっとまた、同じことを考えている。円く華やかな花色の瞳で頼もしげに兄を見つめて、麗央は微笑した。
「私達の進む道は、悲しいだけの物語にはしたくないね」
「……ああ、勿論」
 そうだねと笑み返して、璃央は妹と揃いの黒い外套を翻す。すべてを取り戻すためならば、傷つくことは厭わない。けれど必死で走り続けたその先には、一粒の希望があって欲しいと――願うことは、決して我侭ではないはずだ。
「物語の騎士のように、すべてを捧げて打ち砕いていこうか」
 結末は、やはりハッピーエンドがいい。そこのところ、後でじっくり話し合おうね――そう、どちらからとなく言い合って、天使と悪魔の兄妹は鉄骸を背に進んでいく。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV7になった!

鐘堂・棕櫚
サキソメさん(g00894)とペア

ファントムの隠れ家というより
ミノタウロスの迷宮が規模的に近いでしょうか
俺はアリアドネ役でもいいですね
糸をどうぞ勇者様と戯れて
寒がる彼女に手持ちのマフラーを巻いてみましょう

【完全視界】で周囲を観察し
物音は極力殺して静かに地下の調査を
重要な拠点周りは警戒が厳重でしょうし
交戦ポイントや見張りの位置は迂回しつつ
【パラドクス通信】で皆と共有を
マッピングは相棒にお任せしますね

盗んだ宝飾品などが運び込まれるようですし
拠点辿る手掛かりになればと淡い期待を胸に
その類の落とし物が無いかも見て回ります

どの辺怪しいと思います?と問えば頼もしい答え
サキソメさんは名探偵にもなれそうですね


咲初・るる
店長(g00541)と一緒

此処がラビリントスなら
ボク達はミノタウロス退治に赴いたテセウスってわけだ
それにしても、此処寒くない!?
糸改めマフラーにされるがまま
店長、準備がいい。ありがとう~
この子の導きがあれば帰りも安心だ、なんてね

【完全視界】で異変にも気づけるように
敵の気配がしたら【光学迷彩】でやり過ごそうね
抜き足差し足忍び足ってね

店長、他の人との共有はお任せしていい?
ボクは記録係に専念しよう

定番だけど
壁や床に隠し通路への入り口とか
ボタンがないか期待してしまうよねえ
継ぎ目とか床の汚れとか…
少しでも違うとこがあればよいのだけど

【過去視の道案内】も試してみよう
人形の行く先が辿れるかもしれない


「これはなんとも、息苦しいですね……」
 窓のない通路と滞留した空気。気味の悪いほどきちんと、一定の間隔で設置された青みがかった照明。何より――鐘堂・棕櫚(七十五日後・g00541)にとって何より居心地がよくないのは、少々低めの天井だ。普通に歩いていて頭をぶつけるほどではないが、それでも若干の窮屈さは禁じ得ない。その点、傍らを行く咲初・るる(春ノ境・g00894)は身軽そうで――つい、じっと眺めていると、藤色の瞳は見透かしたように微笑って男を見た。
「どうかしたかい?」
「いえ、なんでも。しかし――ファントムの隠れ家というより、規模的にはミノタウロスの迷宮の方が近いですかね」
 歌劇場の地下という場所柄、著名なサスペンス小説の舞台のような世界をイメージしていたのだが、実際訪れてみるとどうもそれどころではないらしい。何気ない呟きは博識な娘の興味を大いに引いたようで、るるは表情を輝かせ、言った。
「此処がラビリントスなら、ボク達はミノタウロス退治に赴いたテセウスってわけだ」
「俺はアリアドネ役でもいいですね。はい、糸をどうぞ、勇者様」
 居住区でないことだけは確かな地下通路は暖房もなく、雪降る地上以上に冷え切っていた。導きの糸に見立てたマフラーを巻いてやると、少女は嬉しそうにその端を取り上げる。
「店長さすが、準備がいい。ありがとう~」
「どういたしまして。お役に立てて何よりです」
 茶目っ気たっぷりに片目を瞑る姿は、何かと世話好きな棕櫚らしい。さて、とスマートフォンを取り出してスリープを解除し、るるは言った。
「店長、他の人との共有はお任せしていい?」
「ええ、勿論」
 任せてくださいと応じて、棕櫚は掌に呼び寄せた通信端末を見せる。巡回するクロノヴェーダ達の位置や交戦中のポイントについては、別行動中の仲間達と随時連絡を取り合う手筈だ。ぬかりないねと頼もしげに頷いて、るるはカメラを起動した。
「それなら、ボクは記録係に専念しよう」
 先行する復讐者達が露払いをしてくれているとはいえ、入り組んだ通路の中だ。気付いたら後ろを取られていた、ということが、絶対にないとは言えない。だから極力気取られぬように、抜き足、差し足、忍び足――警戒度を上げ、細心の注意を払いながら、二人は細い通路を進んでいく。
「盗んだ宝飾品を運び込んでいるんですよね。その手の落とし物でもあればいいんですが……」
「そうだね。過去視の力で何か見えれば、もっと話が早いんだけどな……」
 復讐者達の操るパラドクスには過去にその道を通った人間の影を視ることができるものがあるが、残念ながらクロノヴェーダは人に含まれないらしい。だめでしたか、と残念そうに口にして、棕櫚は周囲に目を配る。
「サキソメさんはどの辺が怪しいと思います?」
「うーん、そうだな……定番だけど、壁や床に隠し通路への入り口とか、ボタンがないか期待してしまうよねえ」
 床を覆う金属板の継ぎ目や、不自然に途切れた汚れなどがないか。少しでも他と違う場所を探して、下を向いて歩いていると。
「……おや?」
 数歩先の床の上に、何かがきらりと光るのが見えた。小走りに駆け寄ってしゃがみ込み、るるは小さな輝きに手を伸ばす。
「これは……」
「……指環?」
 どちらからとなく視線を合わせ、にんまりと笑む。つまり――宝飾品を盗んだ人形型のクロノヴェーダ達は、この道を通ったということだ。
「迷宮探索もいよいよ本番、というわけですね」
 帰り道が分からなくならなければよいのですが、とおどける棕櫚に、るるは自信たっぷりに胸を叩いた。
「大丈夫。なんと言っても、この子の導きがあるからね」
 白く細い首筋を温めるアリアドネの糸があれば、恐れることは何もない。頼もしい限りと笑って、棕櫚は通信機に向かって呼び掛けた。迷宮探索を開始して約一時間、復讐者達は着実に迷宮の最深部へ近付いている。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【モブオーラ】LV1が発生!
【過去視の道案内】がLV2になった!
効果2【フィニッシュ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV6になった!

ナタリア・ピネハス
つむぎさま(g01055)と
奈落――ああ、あの水底よりもつめたいものなんて、

つむぎさま
わたくし、暗いところがすこうし苦手で
だから、……『大丈夫』って、言って欲しいの
まあ!エスコートに慣れていらっしゃるのね

鉄の傀儡を見れば視線を交わし
騒ぎが大きくなるまえに、眠って頂かなくちゃ

瞬きさえも忘れたまま
やさしいゆめをご覧になって
つむぎさまが彼らの四肢を絡め取る間に
【冀】の夜霧で彼らを満たす
取り囲まれるよりも早く、【現の夢】に溺れて
天使さまに導かれて、お眠りなさい

秘めたままにしたい事が、おありになって?
でも。……それは、わたくしも。ふふ!

ヴィンデの花も。わたくし、とってもすきよ
さ、騎士さま。参りましょう!


織乃・紬
ナタリアちゃん(g00014)と

華やかな舞台から、一転して
奈落行きとは物語染みてンな
現実は小説より奇なりッてか?

願いに、『大丈夫』と返して
日陰者にゃ寧ろ馴染みの場よ
力に成れたら俺も胸を張れるわ
何なら、御手を引きましょうか?

戯れを潔く噤めば、交わす眸
随分物騒なのが御出なすッたな
折角の素敵な衣裳でもあるしねエ
願わくば、穏便に俊敏に――で!

秘密を暴かれちゃ参るなア
天使に声掛け、四肢を絡めとり
行動妨害で噛み付きを回避
共に、攻撃通す隙を作り出す
甘い夢は曙光にて醒めるもの
その先は、永遠の眠りだがね

そりゃアもう沢山、だが
乙女の秘密程に価値はないわ、へへ

御気に召したなら幸いだ、御姫サマ
足許には気を付けて頂戴な


「……つめたい」
 歌劇場の底の底。風も吹かない地下通路に滞った空気はまるで、深く冷たい水底のようだ。白い手に息を吹きかけながら、ナタリア・ピネハス(Hitbodedut・g00014)は隣を行く男をちらりと見た。
「つむぎさま」
 か細い声に呼ばれて、織乃・紬(翌る紐・g01055)は視線を下げる。夢魔の美しい巻き角の下で、少女は少しだけ不安げに、そして気恥ずかしそうに言った。
「わたくし、暗いところがすこうし苦手で。だから、……『大丈夫』って、言って欲しいの」
「……なアンだ」
 そんなことと笑って、紬は少しだけ背を屈めると、請われた言葉を囁いた。事実、日陰者には馴染みの場所だ――見るものすべてが煌びやかなホールより、反って落ち着くと言ってもいい。胸を張って彼女の隣を歩けるのなら、言葉一つ安いものである。
「何なら、御手を引きましょうか?」
「まあ! エスコートに慣れていらっしゃるのね」
 では、と手に手を重ねれば、ナタリアは少しだけ安心したようだった。けれどもどこまでも続く通路は魔物の臓腑に迷い込んだかのようで、紬は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「華やかな舞台から一転、奈落行きとは。……物語染みてンな」
 事実は小説より奇なり――現実は時に、物語以上のものを見せてくれる。もっともそれを言い出したらば、新宿以外のすべてを奪ったあの夏の日の出来事以上に、奇なるものなど何もあるまいが。
 重ねた手の中で、細く小さな指がぴくりと震えた。甘く、少し眠たげな琥珀色の瞳が見つめる先、薄暗い通路の向こうからそれはやってくる。
 四本の脚で床を踏む鉄の狼が、一匹――否、二匹。近づくたびに届く耳障りな擦過音に眉をひそめて、紬は言った。
「随分物騒なのが御出なすッたな」
「ええ。……ええ。騒ぎが大きくなるまえに、眠って頂かなくちゃ」
 口を噤み、視線を交わせばそれ以上の言葉は必要ない。二人の姿を認めるなり、狼達は紅い瞳を光らせ、走り出した。
「折角の衣裳でもあるしねエ。穏便に……と言いたいとこだが」
 どうやら、あちらとしてはそうもいかないらしい。ならばせめて俊敏に、この場を収めて先に進むまで。傍らに浮かぶ天使に一声かけて、紬はナタリアの前に進み出る。大口を開いた鉄狼の牙は、噛みつくことで相手の秘密を奪い取るというが――。
「秘密を暴かれちゃ参るなア」
 小さな天使の祈りと共に、鮮やかな若葉色の蔦がするすると床を這い、狼の四肢を絡め取った。鉄の牙は男の喉へ届く寸前で空を噛み、拘束から逃れようともがく身体が軋んだ音を立てる。
 苦しいのね、と囁く声に微かな憐憫を載せて、ナタリアは言った。
「せめて、やさしいゆめをご覧になって」
 胸の前で祈るように手を組めば、広げる翼と同じ夜色の霧が甘く優しく、鉄の獣を包んでいく。彼らも元は人間――この歪な帝国が生み出した、犠牲者の一人なのだ。
 敵の動きが明らかに鈍るのを確かめて、紬は再び、傍らの天使に目配せした。小さな翼がひときわ強い輝きを放ち、絡まる蔦に命が満ちていく。咲く花は青に紫の混じる、大輪の朝顔である。
「甘い夢は曙光にて醒めるもの」
 醒めたところでその先は、永遠の眠りだけれども。
 おやすみ、と感情の読めない微笑みを向けて紬は言った。蔦に抱かれた狼達が崩れ落ちるのを眺めていると、ナタリアの大きな巻き角がひょこりと視界に紛れ込む。
「秘めたままにしたいことが、おありになって?」
「ン?」
「さっき。秘密を暴かれたら、困るとおっしゃったわ」
「……そりゃアもう」
 一難去って人心地。へへ、と鼻の先を擦って、男は続けた。
「だが、乙女の秘密ほどに価値はないわ」
 飄々と告げる言葉がどこまで本音なのかは、恐らく誰にも分からない。わたくしも、といとけなく応じて、ナタリアは紬の手を取った。
「ヴィンデの花も、わたくし、とってもすきよ」
「御気に召したなら幸いだ、御姫サマ」
 迷宮は深く、道の先はまだ見えない。けれども重ねた手の先で微笑む娘は、朝露を浴びた紫紺のヴィンデの如く晴れやかであった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【現の夢】がLV5になった!
【植物活性】がLV2になった!
効果2【ロストエナジー】がLV6になった!
【ガードアップ】がLV5になった!

ラヴィデ・ローズ
思い返す歌劇
お伽噺の中でくらい幸せな結末であってほしい筈が
確かな美しさをも感じてしまうのは、本物の愛が謳われていたからだろうか

……オレなら真似できないなぁ
(喪おうと生きていく。あなたの分もだとか、きっと尤もな理由をつけて)

――此処は冷えるね
暖を取ろうか、キミたちで

完全視界の効果および『精神集中』により瞬間の隙を捉えた機獣へ
『呪詛・火炎使い』で形成した呪炎の矢を『レゼル(長弓)』で放つ
機械っぽいしなぁ。中枢を破壊か、燃え溶かすか、何かしらで成果を得られれば

回避時はエアライドで照準をぶれさせる&遮蔽物へのルート最適化
共に戦う仲間がいれば敵を追い立てる形で援護射撃に回ろう
早くもお日様が恋しくなるねぇ


クーガ・ゾハル
キレイなうたと服、知らないものがたり
その下の、くらい石のまよいみち
ん。それならたぶん――おれは、こっちの方が向いてる

いくぞ、ちゃんとついてこい
なれないままだがベンリなキカイの右目に命じれば
応えるように体のなかを伝ってくるソレに
合わせて、うるさい剣をつよく掴む
はじける火花と鉄のにおい、でんきの目、飼いイヌ
あれとおれ、もしかしたら似たようなモノかもしれないが
まあ、別にどうでもいい

さっさと、いなくなれ

ケガならほとんどいたくはない
石の天井やカベをつかって、けって、はねて
迷いなく振り下ろし、振りぬく
ばらばらになるカケラをつま先でころがして
また斬りさく

おまえたちは、うるさい
とおくで眠ってるヒトがこまるんだ


「なんとも複雑な終わり方だったねぇ」
 死は誰に対しても平等で、その先にあるのは黒洞洞たる無でしかない。それを表現するかのように、姫君の死の瞬間、すべての照明がすとんと落ちた。射抜かれたような感覚を胸の内で反芻しながら、ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は呟くように言った。そう思わない、と前を行く背中に呼び掛けると、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)は琥珀の片目をちらりと振り向けて、『わからない』とだけ返した。同道者のそっけない答えに肩を竦めた主人の自嘲気味な笑みを、黒い小竜の澄んだ眼差しが見つめている。
 現実の無情さが分からないほど純ではない。だからお伽噺の中でくらい、愛し合う二人の結末は幸せなものであって欲しいというのがラヴィデの持論だ。けれどそれでも確かに美しいと思ってしまったのは、困難の果てにやっとのことで取り戻した国を投げ捨ててでも共に在りたいと願った姫君の姿に、本物の愛を感じたからだろうか。
「あんな終わり方、オレなら真似できないなぁ」
 あなたの分まで生きるだとか、そんな尤もらしい理由をつけて――どれだけ喪おうと、きっと生きていく。それがいいか悪いかは別にしても、死をも厭わぬ愛を見つけた姫君の生き様は、ほんの少しだけ羨ましい。
 呟く竜の声を背中に聞きながら、クーガは左目を細めた。
(「たぶん――おれは、こっちの方が向いてる」)
 拍手と、喝采。
 煌びやかな衣裳を身に纏い、知らない物語を謳う人々の空まで届きそうな声。
 客席の片隅から見上げた舞台は眩しくて、けれどそれ以上の感慨はなかった。墓守の青年には光溢れる舞台よりも、その下に広がる冷たい迷い路の方が肌に合っているらしい。それは不気味な足音と共に暗がりを徘徊する、あの獣達のように。
 足を止めたクーガの見つめる先で、鉄の狼が二頭、角を折れてくる。遮るもののない通路に並び立つ侵入者達は、すぐさま彼らの目に留まったのだろう。紅い瞳を禍々しく燃やして、慣れの果ての兵士達は猛然と床を蹴り、飛び掛かってきた。
「此処は冷えるね」
 暗く、無機質な地の底は、実際の温度以上に寒々しい。柔らかく語り掛けるような声色でラヴィデは言った。
「暖を取ろうか――キミたちで」
 黒褐色の膚を飾る竜鱗が、誘導灯の下できらりと光った。弓を引く指先に編み上げる生命力は、冷えた鏃に紫紺の焔を灯す。弓柄の左右に並ぶ目玉がぎょろりと蠢いたのと同時、解き放たれた呪炎の矢は暗闇に一条の軌跡を描いて、鉄狼の胸を貫いた。
 どろり融けていく鉄塊を一瞥し、クーガは長大なチェーンソーを重たげもなく持ち上げる。
「いくぞ、ちゃんとついてこい」
 呼び掛けるのは指先で触れた眼帯の下、機械化された右の瞳。眼窩の奥で生じる雷が身体の中を駆け抜ける感覚には未だ慣れないが、便利は便利だ。電流を浴びて唸りを上げる剣をしっかりと掴み、クーガは鉄の獣に躍り掛かる。鉄錆の匂いを纏い、身動きの度に火花を散らす、作り物の瞳の飼い犬――その姿はまるで、鏡の中の誰かを見ているように思えなくもないけれど。
(「まあ、別に、どうでもいい」)
 滑らかな金属の床に着地して、鉄の獣が身構える。背中の砲身が火を噴いて、撃ち出される誘導弾が手足を貫いても、耐え慣れた身体はほとんど痛みを感じない。
「さっさと、いなくなれ」
 踏み込みから高々と跳躍し、壁を蹴って軌道を変えて。不規則な動きで敵の反応を振り切ったら、それが好機だ。
 迷いなく振り下ろした刃は激しい金属音を立てて獣の身体を削り切る。断ち落とされた欠片をこともなげに蹴飛ばして、クーガは唸る剣のスイッチを落とした。
「おまえたちは、うるさいんだ」
 刹那の交戦を終えて、通路には再び静寂が戻る。長弓を握る手をゆっくりと下ろして、ラヴィデは冷えた天井を仰いだ。
「早くもお日様が恋しくなるねぇ」
 すべてを終えて地上に戻ったら、晴れやかな朝日を拝めるだろうか。せめてそうであれと願いながら、進みゆく道は未だ長く、そして深い。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【完全視界】がLV3になった!
【避難勧告】LV1が発生!
効果2【フィニッシュ】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV7になった!

鬼歯・骰
フーベート(g01578)と

…上より無駄に広いな
迷子になったら出れなくなりそうだ
こっちは悲劇にならねぇようにやっていこう

パラドクス通信で他の奴らとも情報交換しながら
調べる範囲は手分けして効率よく行きてぇな

俺図形とか描くのあんま得意じゃねぇんだよな
フーベート頼んでいいか?
代わりに周りを警戒しつつ先行しとく
壁歩きとエアライドで地形を利用し移動
完全視界を使って暗がりにある道や扉も、足跡等の痕跡も見逃さぬように

進んで欲しくねぇってなると巡回してる敵が多い方になんのかね
隠れてやり過ごすか迂回か、どちらにせよ他の奴らに任せて進むの優先に

不審なものは触らぬ神に祟りなしって事で情報共有だけして無視しとく


アー・フーベート
骰(g00299)と

暗く冷たい地下の空気に
演目にうっとりしてた頭もすぐ冴えてくる
こっからはお仕事がんばりましょう

よーし、んじゃ地図は任せな
壁に片手をつきながら進んで
歩数をかぞえつつ曲がり角ごとに記してこう
紙とペンで古典的かつ堅実に
ほかの仲間とも【パラドクス通信】で共有するよ

視界は【完全視界】で確保
骰の後ろ姿はまっくろで暗闇だと紛れちまいそうだが
これで逸れる心配もねェな

進まれたくねェとこに巡回が多いってのは尤もだ
敵は【光学迷彩】でやり過ごし
おおよそ数、足音の多寡を記録しとく
あんまり多いようならべつの道行こうぜ

妙な罠とか仕掛けられてねェか
私も四方に気を配って観察
へんなもんあっても、いまはほっとこう


 地中深くの静まり返った空間は、深い湖の底に似ている。流れがなく滞って、そして冷たい。白く凍った息を吐いて、鬼歯・骰(狂乱索餌・g00299)は視線を上向けた。
「上より無駄に広いな」
 骰にせよ、隣を行くアー・フーベート(あらぞめの剣士・g01578)にせよ、長身の二人には少し圧迫感のある空間だ。高さはそれほどないくせに、道はところどころ枝分かれしながら延々と続いている。
「迷子になったら出れなくなりそうだ。……こっちは悲劇にならねぇように進まねえとな」
「ああ、こっから先はお仕事の時間だ。気合を入れ直して行こうぜ」
 ぼやく骰に応じて、アーは紙とペンを取り出した。煌めきの降る舞台の余韻も、こうも寒くて暗い通路の中では醒めるというものだ。迷宮に赴いたまま、二人は二度と帰らなかった――などという面白くもない結末に終わらぬように、自分達の位置は常に把握し、仲間達との通信は保っておかなければならない。
 地下へ潜った復讐者達は、エレベーターホールを中心に放射状に延びる通路ごとに担当を決め、警備のゾルダートに対処する先遣隊とマッピング担当で距離を取りながら進んでいた。あまり長居をしたい場所でもなし、手分けをしてでも探索はできるだけ効率よく済ませたいところだ。転ばぬ先の杖ではないが、万が一敵に出くわしても反応できるよう鋸刃を右手に携えて、骰は一歩前へ進み出る。
「図形とか描くのはあんま得意じゃねぇんだ。そっちは頼んでいいか? その代わり――」
「分かってる、地図は任せな」
 この手の仕事は適材適所が肝心だ。頼もしい答えに頷いて、骰は歩き出した。黒髪に黒いスーツの後姿はともすれば闇に紛れてしまいそうだが、ここへ至るまでに重ねた残留効果もあって、視界はクリアに保たれている。この分なら、逸れる心配もないだろう。
 壁に片手をつきながら袋小路の度に行ったり来たり、歩数を数え、曲がり角ごとに記録する。足を止めては手元の紙に何事か書き込んでいるアーを待ちながら、骰は言った。
「古典的だな」
「でも、堅実だろ?」
 先行する仲間達がしっかりと露払いをしてくれているのだろう、敵の現れる気配こそないが、地味な割に骨の折れる作業だ。やがて行き着いた丁字路の突き当たり、細やかな仕事ぶりに感心しつつ左右の道の先を眺めていると――遠くで、重たげな音がした。
「……どっかでやり合ってんな」
「そうらしい」
 鉄塊のぶつかり合うような烈しい音は、恐らく誰かが交戦しているのだろう。不測の事態でなければよいが――。
「……終わった、かな」
 しばし様子を伺っていると、遠い撃音はやがて途絶え、耳の痛くなるような静寂が戻ってくる。ほっと小さく息をついて、アーは手元の紙片を覗き込んだ。ちょっとした袋小路を除けば通路はここまでのところ一本道で、罠らしい罠もない平坦な道のりだったが、ここから先は左右どちらかの道を選んで進まなければならない。道の左右を見比べて、骰は右手の道を指差した。
「音がしたのは、あっちだったな」
「そう。ってことは、先遣隊はあっちだ」
「あちらさんとしちゃ、部外者を先に進ませたくねえんだろ。だとすると――巡回の連中が多い方が、正解ってことになんのかね?」
「なるほど。言われてみりゃ、尤もだな」
 冴えてるなと笑って、アーは右手の通路へ向き直る。青みがかった照明が照らす薄暗い通路の中で、その背の翼ばかりが煌々と白い。
「んじゃ、こっちへ行ってみますか――」
 踏み出そうとしたその時、骰の手元の通信機がピロンと小さな音を立てた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【飛翔】がLV5になった!
効果2【アヴォイド】がLV3になった!
【ガードアップ】がLV6になった!

長月・夜永
とりあえず『忍法・影渡り』の「影の中の異空間」にドレスを仕舞い
探索用の装備に着替えます

ふぅ準備完了
(しゃがんで利用の痕跡や罠を「看破」で探りながら、ぽそりと呟き)
迷宮が広大であればあるほど、
なんらかの迷わない手段があると思うんだよね
ソレが見つかれば探索も楽になるんだけど…

響く戦闘音に派手にやってるなぁと苦笑い
敵のパーツから「ハッキング」して情報吸い出せないかな?
とか考えつつ
今の内にと「忍び足」+「偵察」で探査スタート
移動が難しい場所などは、「光使い」+『忍法・影渡り』のコンボで
ショートカットして進み
「記憶術」で踏破場所を記憶しながら「情報収集」で精査して行きます


 迷宮探索にあたる復讐者達にエレベーターホールの中継点から通信が入ったのは、ほとんど同時だった。役目を終えた通信機を着替えた服の中にしまい込んで、長月・夜永(は普通の女のコである・g03735)は駆ける足を速める。オペラ鑑賞のために着込んだドレスを脱ぐのは少々惜しい気もしたが、潜入・探索は忍びの末裔たる彼女の本分だ。任務に際してはやはり、動きやすい格好の方がしっくり来る。
(「迷宮が広ければ広いほど、目印なんかがあると思うんだよね」)
 恐らく、その感覚は正しい。何らかの目的を持って作られた構造体であるならば、そこには必ず利用者が存在するはずだ。けれど――。
(「でも、それにしてはこの通路、『何もなさすぎる』」)
 多数の復讐者達の緻密な探索によって導き出された結論は一つ。距離の長短に差はあれど、エレベーターホールから続く五本の通路はすべて同じ場所へつながっている、ということだった。入り組んだ通路は侵入者を迷わせ追い詰めるための狩場であり、それ以上の意味を持たないのだ。
 等間隔に並んだ誘導灯の影から影へ、潜り、飛び出るのを繰り返すことしばらく。通路は、先程のエレベーターホールよりもさらに開けた空間へ辿り着く。何本もの太い柱で支えらえた天井は高く、来た道とは別の四つの出入口の付近には、行動を別にしていた仲間達の姿もある。そしてその奥には、線路のようなものが覗いていた。
「今日のところはここまでか……」
 線路の見える辺りまで進み出て、夜永は悔しげに奥歯を噛んだ。復讐者達は見事、歌劇場の地下迷宮を踏破したが、道中に重要施設や資材の類は見当たらなかった。迷宮に持ち込まれた盗品の類は、恐らくここからどこか別の場所へ運ばれていったのだろう。
「あの……すみません」
 復讐者達の背中で柔らかな声が鳴ったのは、その時だった。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!

「こんな時間に、どうされました?」
 それは、一見するとあどけない少年のように見えた。年の頃は十二、三。カーキ色のハンチング帽、煤で汚れたスカーフに、長柄のブラシという出で立ちは掃除夫そのものだが――。
「ここは関係者以外立ち入り禁止です。時々ね、上の劇場から迷い込んでくる人もいるんですけど、こんなに大勢、一度にいらっしゃるのは初めてです」
 ブーンという機械音と共に、沈む直前の夕日のような昏いオレンジの瞳が光り出す。手にしたブラシは見る間に変形して異形の刃となり、背中から突き出したパイプが灰色の煙を噴き上げる――そして。
「そういう迷子さん達をお掃除するのが、僕のお仕事なんですよ」
 にっこりと人好きのする笑顔で、少年は言った。その背にはいつの間にか、玩具のようなくるみ割り人形達が整然と並んでいる。
長月・夜永
ありゃ、この位置は不味い?
ボク一番近いんじゃない?

コレは危ないなぁ
一瞥して【情報収集】で、敵戦力や状況を瞬時に【記憶術】で把握

流れるような動作で【光使い】の応用を発動

パンッ!!
と猫だましで閃光目潰し★☆★

一瞬通路を照らす激しい閃光で敵の背後に強制的に影を作り
【忍法・影渡り】で連続移動
次々3体の背後を取って『吟吹雪』の氷の刃で一瞬で切り裂きます
よっととと、、、ふぅ、バックアタック成功♪
進軍で前しか見てないなら
急に背後を取られたら一瞬、スキが出来るよね♪
一瞬さえあればボクは見逃さないよー
そんじゃね♪
敵の反撃のタイミングを【看破】で見切り、影移動で離れた位置に移動
味方の射線から外れます


クーガ・ゾハル
光の下でうたわれた、ヒメとキシのせかい
あそこにだって、いたんだろうな
うたわれも語られもしない、光の外で生きるやつら

だからどうって事はない
くらいブタイだって、おどれないわけじゃないからな
たとえば、へんな人形が相手でも
――こっちだ、のろま

うるさい剣をたてにして
くるりと向きをかえて人形をとびこえ、もどって、かく乱
ばたばたしてるうちに、ほかのやつがスキをつけるよう
おれは、守るのはうまくないから

眼帯をむしりとって
…やれ、キカイ
にぶったやつや、固まってるやつらをさびつかせる
ものがたりは、ここでおわりだ

手をたたく音もなければ
くらいままの天井をみあげても
あの大きな布だって
おりてはこないみたいだけどな


標葉・萱
先に踏破された地図を追って
迷い込んだねずみに迎え撃つのはくるみ割り人形
これでは勝ち目がなくなるだろうか、などと
けれど物語は舞台の上でするものだから
今は頁の向こう側

素敵なお芝居の後ですからきちんと片す手伝いをしましょう
然るべき幕を下ろすために
数がいるなら手薄な箇所へ
隙間を縫うように立ち回りに
手を引くのは手足が刃のお人形
花のワルツは贈れないから、ダンスマカブルでお相手を
刃で奏でる喝采と、破砕で鳴らす拍子を
踏み込んで裂くよりも、引き込んで迎え撃ちに

幕が降りて喝采の声も通り過ぎ
干戈の音さえ止むのなら
部隊へ上がれなかった人形たちへ
おやすみ、次はきっと、物語の内側で


「ありゃ。これはちょっと」
 マズいかな? と小首を傾げ、長月・夜永(は普通の女のコである・g03735)は言った。にこやかに佇む少年のクロノヴェーダの背後には、くるみ割りの兵隊達が十人、二十人――もしかしたら、もっと。しかもそれだけではない。右からも左からも、開けた空洞につながる通路からは兵隊達がわらわらと溢れ出してくる。
 カカレ、と叫ぶ半ば機械じみた音声に呼応して猛然と走り出す兵隊達を見据え、夜永は頬を掻いた。
「ボク、一番近いんじゃない? 危ないなぁ」
 呟く声にはしかし、言葉ほどの危機感はない。ぱん、と目の前で手を打ち合わせて、少女は浅葱色の残像を残し、自らの影に潜りこむ。目の前の標的を見失って人形達が急ブレーキを掛けるのを見て、標葉・萱(儘言・g01730)が動き出す。
(「迷い込んだネズミに、迎え撃つのはくるみ割り人形」)
 不格好なくるみ割り人形が一人の少女に見いだされ、ねずみの王様をやっつけて、彼女を連れて人形の国へ――そんな御伽噺を識っている。復讐者達がネズミなら、赤い軍服にサーベルを携えた人形の軍勢は、些か分の悪い相手だろうか。
 一瞬そんなことを考えて、萱は緩く首を振った。
(「けれど今は、頁の向こう側」)
 物語は舞台の上で紡ぐもの。そして舞台は、とうに跳ねた。無銘の、けれども心震わせる素晴らしい芝居だったのだ――然るべき幕を下ろすために、後片付けが必要ならば担わねばなるまい。
「進メ!」
 リーダーらしき人形が、剣を掲げて一声叫んだ。出鼻は挫かれたがそこは敵も然る者、隊列を整え再び進撃するその足並みには乱れがない。
 空洞のそちこちに点在する味方の手が薄い場所を見定めて、萱は胸の前に交わした両手をゆっくりと開いた。十の指からつながる細く白い糸が、誘導灯の光を受けてきらりと光る。その先では、端正な顔立ちに白い花を飾った一体のマリオネットが、お辞儀の姿勢で冷たい床を見つめている。
「さあ、行こうか」
 花のワルツの代わりに贈るのは、夜に煌めくダンス・マカブル。剃刀の如き刃の手足で喝采を奏でながら、人形は踊るようにくるみ割りの兵士達の間を駆け抜ける。かち合う刃のリズムに乗せて、振り向きざまに一撃――背後から斬りかかってくる兵士のスピードを、逆手に取っては切り裂いて。侵略者に同情する気は露ほどもないけれど、断たれ、崩れていくくるみ割り人形の姿は、使い捨ての兵士の哀れを思わせる。
 その姿を横目に見ながら、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)は手にした剣に力を込めた。
(「あそこにだって、いたんだろうな」)
 高い天井から降り注ぐ光の下で、高らかに紡がれた姫君と騎士の世界。その光の外には謳われることも、語られることもなかった数多の命があったはずだ。
 だが、光の中でなければ踊れないということもない。たとえば――こんな暗く冷たい地の底で、奇妙な人形が相手でも。
 小柄な人形の斬撃を唸る剣で受け止めれば、折れて弾けた刃が石敷きの床に突き刺さる。何が起きたのかと左右に目を配る人形の頭上を軽やかに飛び越えて、クーガは言った。
「こっちだ、のろま」
 機敏な青年の動きは、高性能とは言い難い人形達を翻弄する。誘導灯の光に落ちた影をちらりと見て、クーガは言った。
「――いま」
「よしきた!」
 どこからともなく朗らかな声が響いた。小さな軍靴の踵が引きずる青ずんだ影から、夜永が勢いよく躍り出る。影から影へ飛び移ること一体、二体――続けざまに三体。ナイフのような氷の刃で人形の背を斬りつけて、忍びは後転跳びの要領でアクロバティックに距離を取る。一瞬よろけてたたらを踏みながらも、忍びはにんまりと笑って見せた。
「よっ、ととと……ふふん、バックアタック大成功♪」
 突き進むしか能のない人形達の背を取るのは、然したる苦でもない。そして前しか見ていない状態で背後を取られれば、当然隙も生まれよう。その瞬間を、彼女は見逃さない。
 悔しさからかギロチンのような歯をガチガチと鳴らして、くるみ割り人形はサーベルを振り回す。
「斬レ! 斬レェイ!」
「そんな簡単に斬られてなんかあげないよ」
 じゃね、と悪戯に片目を瞑って、夜永は再び自身の影に身を沈める。標的を喪い空を切った刃の持ち主を冷めた瞳で見下ろして、クーガは隠された右目に指を触れた。
「やれ――キカイ」
 無造作にむしり取った眼帯の下、暗い眼窩に秘められた光学素子が輝いた。そこから放たれる黒い閃光は、肉を腐らせ、鉄を錆びつかせる滅びの光だ。
「おまえたちのものがたりは、ここでおわりだ」
 ひとたび怯めば、一巻の終わり。足元から錆びついていく人形達を見つめて、クーガは小さく息をつく。彼らの物語が終わっても、そこには手を叩く音もなければ、落ちてくるビロードの幕もないけれど。
 ひゅ、と風を切る音と共に、踊る刃が人形の錆びた脚を打ち砕いた。
「おやすみなさい」
 長い糸の先、ひと舞い終えた操り人形を手元へ呼び戻して、萱は囁くように告げる。崩れ行く人形達も、元はと言えば人間だ――こんなことにさえならなければ、彼らには彼らだけの舞台と、物語があっただろうに。
(「次はきっと、物語の内側で」)
 その時が来るまで、今しばらくの眠りを。部隊へ上がれなかった人形達に捧げよう。
 干戈の音は未だ鳴り止まず、復讐者達は押し寄せる兵隊達に向き直る。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【アイテムポケット】がLV2になった!
【腐食】LV1が発生!
【壁歩き】がLV2になった!
効果2【先行率アップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV8になった!
【命中アップ】がLV5(最大)になった!

ノスリ・アスターゼイン
g01241/実

玩具を出しっぱなしですよ、っと
代わりに掃除してあげようじゃないの

兵隊達を楽し気に見遣って
一歩二歩
実の前へ立つ足取りは
ステップ踏んで軽やかに

騎士って柄じゃあないが
庇う盾ぐらいにはなれるだろうさ
音楽を奏でる指先を
怪我させる訳にはいかないしね

好みは、さぁねぇ
どちらだろ
笑顔になれる喜劇が良いな

度肝を抜いたアドリブで
結末を変えてやりたいところ
悲劇に向かう終焉を壊してしまおう

そうな
瞳を閉じていては
クライマックスを見逃してしまうから勿体ない

笑い返しつ
巻き起こす砂嵐

エアライドに飛翔を駆使し翻弄
兵隊達の足並みを崩してやろうか

くるくる回るには最高の舞台でしょ
踊り明かしてよ
カーテンコールまで存分に!


七森・実
g01118/ノスリくんと

早くも次の演目の始まりか
或いは姫君と騎士を追ってきた兵隊たちか
ねえノスリくん、どちらがお好み?

淡く笑って構えた弓で奏でるのは
組曲から借りてきた可憐なワルツ
さあ、武器など捨てて踊ってみせて

くるりくるり、舞台上の役者が回る
これが戦だなんてことも
掠める血の匂いも
知らんふりで音楽だけ出来たら良かった

でも、

隣にあなたがいるのなら
瞼閉ざしてるわけにはいかないじゃない?

見開いた目に映る戦場は怖いけど
彼に襲い掛かる敵、一際弱った敵、
視線逸らさずに弾いてゆくワルツ

私を守り、美しく砂塵を舞う翼は
脇役にしておくには勿体ないから

今日の舞台の主役は
私達が貰うわ、
──ほら、斃れるまで良く聴いて


「玩具を出しっぱなしですよ、っと。しょうがないから、代わりに掃除してあげようじゃないの」
 並み居る人形の群れを見渡して、ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)はどこか愉しむような口振りで言った。生憎と『上』の舞台ほどには輝かないステージだけれども、軽やかに床を踏めばひらり尾を引く金刺繍の肩布は、砂漠の王子か盗賊か――端正な横顔に琥珀の瞳を光らせるその立ち姿は、役者よりも役者らしい。
「早くも次の演目の始まりか、それともこれは、姫君と騎士を追ってきた兵隊達かしら」
 青年の肩越しに兵隊達の姿を覗き、七森・実(F・g01241)はぽつりと言った。
「ねえノスリくん、ノスリくんはどちらがお好み?」
「さぁねぇ、……どちらだろ」
 多分、どちらでもないのだとノスリは思う。単に好みを言うのなら、誰もが笑顔になってしまうような、そんな喜劇の方がいい。だからと笑って、男は言った。
「度肝を抜くようなアドリブで行こう」
 結末が気に入らないのなら、この手で変えてやればいい。悲劇に向かう終焉は、跡形もなく壊してしまおう――その力を得たからこそ、彼らは復讐者足りうるのだ。
 いいわとたおやかに微笑んで、実は一挺のヴァイオリンを構える。細く滑らかな頤を顎当てに乗せて一呼吸、心を静めて右手を引けば、緩すぎず硬すぎず締めた弓が四本の弦の上で踊り出す。
「さあ、武器など捨てて踊ってみせて?」
 奏でる可憐なワルツに誘われて、現れるのはこの世ならざる英雄達の影。ある者は剣で、またある者は長槍で、躍り掛かる幻は人形達を散らしていく。視線の先、淀みなく弦を滑る弓を見つめて、実は言った。
「全部知らんふりで、音楽だけできたらよかったけど」
 初めてヴァイオリンを手に取った日、弦を押さえる左手の先には、優しく温かな光があったことを憶えている。愛する家族と大好きな音に包まれて日々を謳歌する、どこにでもいる女の子――だったはずの彼女が思い描いた未来は、あの日、ふつりと消えてしまった。復讐者の力を得たからといって彼女の本質が変わるわけではなく、今でも怖いものは怖いと思う。戦場に立つこと一つを取っても、そうだ。
(「でも、」)
 だからといって目を瞑っても、鼻先を掠める血の匂いは消えない。それに慣れようとも、慣れたいとも思わないけれど。
 唇に淡い笑みを浮かべて、実は言った。
「隣にあなたがいるのなら、瞼閉ざしてるわけにはいかないじゃない?」
 独り、目を背ける後ろめたさから言うのではない。ただその勇姿は、見ずに終わるには些か惜しい。
 そうなと応じて、ノスリは長い腕を広げた。
「瞳を閉じていては、勿体ないよ」
 それは勿論、生きていれば、思わず顔を背けたくなるような場面に出くわすこともあるだろうけれど。両手に渦巻く砂塵を纏わせて、男は凄絶に笑った。
「折角のクライマックスを、見逃してしまうから」
 巻き起こす砂嵐と、玩具の軍勢が交差する。数体の人形が吹き飛ばされる一方で、嵐を突き抜けたサーベルは男の腕を裂き、散る紅が砂に混じって舞い上がる。
「ノスリくん――」
「大丈夫」
 案ずる声にはただ笑って、ノスリは応じた。
「騎士って柄じゃあないが、庇う盾ぐらいにはなれるだろうさ」
 それに何よりその指が奏でる音を、今しばらく聞いていたい。怪我させるわけにはいかないでしょ、などと微笑まれたら――たとえ広がる光景がどんなに陰惨な戦場でも、目を逸らしてはいられない。
「……本当に、ずるいんだから」
 襲い来る敵。弱り、崩れ行く敵。すべてをその目で見極めて、実はワルツを奏で続ける。兵士達の足並みを乱し翻弄する猛禽の翼の輝きは、脇役にしておくには眩し過ぎるから。
(「今日の舞台の主役は、私達が貰うわね?」)
 まるでそれ以外のすべてを忘れたように、くるくる回ってこの夜を踊り明かす――戦場というこの箱で。葬る花の代わりにせめてこの音を、死の刹那まで届けよう。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【土壌改良】LV1が発生!
【プラチナチケット】がLV4になった!
効果2【ロストエナジー】がLV7になった!
【ダメージアップ】がLV9になった!

紫空・千景
【黒華】

此れが物語だとするならば
私達は未だ歩みの途中
終わりたくないと抱いた気持ちは裡に
親玉は他の復讐者に任せよう
…ふむ、玩具も群れれば軍と成るか
ならば私達の相手は此方だな

綴るぞ、祇伐
無二の物語が魅せる一頁を

結界術を盾にし、正面から駆ける
あんたは背で私を護るだろう?
ならば私が見せるは変わらず背だ
此処に居る
此処に在る
凛と語れ、言の葉より雄弁に
エアライドで空を蹴り
斬撃技術を乗せた薙ぎ払い――薙勇一刀
どんな数も捌いてみせるさ

何時だって切り開く
途を、視界を、世界を
あんたに見せたい
あんたと見たい
何方も欲張りながら

――祇伐、
意思疎通は互いの名でいい
其処に居るのなら
噫、負ける理由も歩みを止める理由も無いのだと


咲樂・祇伐
【黒華】

ひとつの物語を結ぶのではなくまだ歩み唄うことを続けたいと願う気持ちは同じ
終わらせたくないという余韻に浸ることを赦してくれる?

くるみ割り人形
あの歯でなんでも砕いてしまうのですね
…けど
私達の紲を碎くなんてことはできません
微笑み鍵杖を構える

紡ぎましょう千景さん
今日という日を確かに刻んだ私達の物語

勿論
あなたの背は私が守ります
前を見ていて

桜蜜ノ夢幻
お人形さん、此方へおいでませ

甘やかな夢馨と共に機械の「こころ」をハッキングして精神攻撃
同士討ちさせるように惑わせて
相手を観察し臨機応変に氷雪魔法と共に衝撃波を放ち動きを絡めるわ

千景さん
世界をみたいわ
世界を知りたい
…一緒に
私達の歩みはこんな所で
とまらない


「ふむ。玩具も群れれば軍と成るか」
 角ばった軍帽に詰襟の軍服。鼻の下に蓄えた髭と、よくある形のサーベル。その姿はどこからどう見ても童歌に歌われる玩具の兵隊のようであり――けれど赤錆びた血に染めて、禍々しい。ひしめくくるみ割り人形達の群れを見渡して、紫空・千景(暁の切り札・g01765)は言った。
「ならば私達の相手は此方だな」
 親玉は、他の復讐者に任せよう――ちらりと視線を向ければ、咲樂・祇伐(櫻禍ノ巫・g00791)が視界の端で頷いた。頼もしげに口角を上げて、千景は星彩煌めく黒い鞘から暁の剣を抜き放つ。
「綴るぞ、祇伐」
「ええ」
 今宵この場所に並び立っているのが物語の一幕だとするならば、二人は未だ歩みの途中。終わりたくないと抱いた気持ちは裡に秘めて――無二の物語が魅せる一頁を織っていこう。今日という日を確かに刻んだ二人の物語を、結ぶのではなく、まだ歩み唄い続けるために。
「あの歯はなんでも砕いてしまうのでしょうけど――私達の紲を砕くなんてことは、できません」
 微笑みを浮かべて両手に桜の鍵杖を構え、祇伐は言った。
「あなたは、前を見ていて」
 その背中は、何があっても守るから。
 ごうごうと地下鉄の駆ける音がして、高く結い上げた黒髪がふわりと浮いた。言外に含めた言葉をしかと受け止めて、千景は背にした娘を振り返ることなく、応じる。
「識っているとも」
 敢えて言葉に載せなくたって、識っている。
 たとえ群れ成す敵の只中にたった一人で飛び込んでも、甘く舞い散る桜の花は彼女を守るだろう。ならば彼女が見せるのは、ただその背中であればいい。
 此処に居る。此処に在るということを、凛と伸ばした背筋は言の葉よりも雄弁に語り、示すから。
 敵が目の前にいるならば、搦め手の作戦は必要ない。刀を下段に構えたまま、千景は真正面から敵の群れへ飛び込んでいく。多少数を減らしたくらいでは平然と隊列を組み換えて向かってくる、その統率力は敵ながら大したものだが、それだけでは話にならない。一斉に斬り上げるサーベルを空を蹴ってかわすと、千景は宙で刃を返した。
「どんな数も捌いてみせるさ」
 有象無象の人形どもなど敵ではない。薙勇一刀、一息に敵を払う斬撃で、進むべき道も、曇った視界も、あるべき世界も切り拓いてみせる。その先に在るものを見せたい、分かち合いたいと願う人が背中にいる限り、貪欲に。そしてその想いは、彼女を見つめる祇伐にとっても同じだ。
「お人形さん、此方へおいでませ」
 ふわり漂う蠱惑の桜は、夢心地のような色と馨で現を蕩かし、視る者を幻惑の蜜獄へ閉じ込める。花に惑い、紅い目をぐるぐると回してぶつかり合う人形達を透かして、柘榴の瞳は敵の群れの只中に舞う少女を見つめている。
(「私も、見たいわ」)
 世界を見て、世界を知りたい。一人でではなく、他でもない彼女と、歩幅を合わせて歩きたい。そのためには、こんなところで足止めを食っているわけにはいかないのだ。
「千景さん」
「――祇伐」
 何をすべきか。どこへ行くのか。すべては、その唇の呼ぶ名が教えてくれる。その声さえ届くのなら、負ける理由は何もない。呼吸を揃えて背に背を添わせ、二人の少女は戦場に花を飾っていく。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【士気高揚】がLV2になった!
【現の夢】がLV6になった!
効果2【能力値アップ】がLV8になった!
【ロストエナジー】がLV8になった!

篝・ニイナ
【白花】

さあ興が冷める前に
望まれない演者には
さっさと御退場願おうか

纏う炎は橄欖の風を受けて
文字通りの追風に昂るまま刀を振るう
けれど油断はしない
あっけない悲劇はごめんだね

舞いながら、そして背を預けながら交わす会話は
まるで舞台上の役者のようだ
少なくともハッピーエンドではなかった
そう返せば識る彼の思考に
そういうもんかね、と
言葉では軽く、けれど心の中では渦巻いて

熱の花弁が見せる幻の中
聴こえる聲は俺の好きな唄だ
情報共有しながら
回避は飛翔等を駆使しつつ

たとえば、正史と偽りの歴史
正された時に復讐者が悲劇の別れを迎えたとして
その時に俺は、幸せだったと言えるだろうか
…ラルムクンは俺に出逢えて良かった?


ラルム・グリシーヌ
【白花】

綺羅めき溢れる良き場所に
君達は相応しくないからね
早々に退場して貰うよ

翠葩を奏で生まれる勁く奔放な花嵐は
風の葬刃で敵の命脈を穿ち
鬼人が纏う炎を風で煽り鮮やかに燃え立たせる

ねえ、ニイナはあの物語を悲劇だと感じた?
俺は…姫と騎士は
死出の旅路の先で笑うと思うんだ
心を、魂をも捧げられる愛を
与え与えられた二人は
その出逢いを幸せだったと

彼が描く刃の軌跡をなぞるように
聲を重ね音を聯ねる
風は、燃え滾る焔からも生まれるから

靭く翔けた風で連携を崩し
弱った敵を狙い確実に数を減らしていくよ
回避にはエアライドや飛翔

彼の問いに柔く笑む
もし、二度と逢えない明日が来ても
ニイナの声が聴こえなくなっても
君との出逢いは──


「こうも無粋な真似をされると、興が冷めるな」
 重なる軍靴の足音が、威圧的に響く。人と同じほどの頭部に小さな身体をつけた人形の成り立ちを思えばいっそう嫌悪感は増して、篝・ニイナ(篝火・g01085)は顔をしかめた。
「望まれない演者には、さっさと御退場願おうか」
「そうだね。君達は――この場所に相応しくない」
 不快を露わにする青年の隣で、ラルム・グリシーヌ(ラメント・g01224)はこくりと頷いた。宝石箱をひっくり返したような煌めきと輝きに溢れる世界の下には、兵隊も剣も必要ない。紅玉に橄欖、二対の瞳で頷き合ってニイナが地を蹴ると、その背後でラルムは白花を飾った竪琴を撫でる。睨み据える兵士達は未だ数多く、復讐者達を囲んでいる。
「さあ、奏でよう」
 少年と青年の狭間にある深く滑らかな声色で、詠じるのは古い叙唱。物語の語り部のように紡ぐ詩は透徹の花の刃を生み、吹き渡る碧の風に乗せて敵の群れへと吹き付ける。
 その調べを背に受けて、ニイナは妖刀を引き抜いた。軽やかな鞘走りとともに鯉口より零れた火花は、熱の花弁となって暗がりに緋く燃え上がり、敵対者達を焔の蜃気楼に閉じ込める。
(「ああ――これは」)
 熱の花弁が魅せる幻の中で、聴こえるのは彼の好きな唄。涼やかに吹く風は羽織の背を押す追風となって、握る手を灼く刀の熱さえも今は心地よい。
 歌声に胸の昂るまま、一閃、二閃――返す刀が煌めくたびに、四肢を断たれた兵士達が崩れていく。緋と碧、鮮やかな二色の饗宴の中で背に背を合わせる二人の姿は、まるで舞台の上の演者のようだ。
 わずかに上がった呼吸を調えながら、ラルムが言った。
「ねえ、ニイナはあの物語を悲劇だと感じた?」
「……そうだな」
 乱れた隊列を懲りもせず組み直す人形達の動向を見つめたまま、ニイナは少し考えてから応じた。
「少なくとも、ハッピーエンドではなかった」
 ああよかったと、誰もが胸を撫で下ろすような終わりではなかった。苦難の果てに手に入れた平穏な暮らしを目の前にして、余りにも呆気なく訪れた終わり――騎士の無念はいかほどであろうし、残された姫君は愛する人を悼んで、自ら死を願ったのだから。
 でも、と遠慮がちに続けてラルムは言った。
「俺は……姫と騎士は、死出の旅路の先で笑うと思うんだ」
 自分の魂を賭してでも守りたい、添い遂げたいと想える誰かに出逢えたなら、それをこそ人は幸せと呼ぶのだろう。ならばそんな愛を与え、与えられた二人は、その出逢いを幸せだったと――思うはず。
「……そういうもんかね」
 吐き出すように紡ぐ声音に言葉では軽く返しながら、鬼人の胸中には如何とも表しがたい感情が渦を巻いていた。
 先のことは分からない。けれどもし、偽りの歴史が正された時、共に歩んだ復讐者達が悲しい別れを迎えたとして――自分はその時、『幸せだった』と笑えるだろうか?
「……ラルムクンは、俺に出逢えて良かった?」
 問えば少年は一瞬、きょとんとした表情を見せ、そして柔らかな笑みを浮かべた。
「もし、二度と逢えない明日が来ても――ニイナの声が、聴こえなくなっても」
 たとえ、どこへ還っても。
 分かち合った時間の輝きが失われることは決してない。出逢わなければよかったなんて、この先想うことはないだろう。
 そうか、と笑みを交えて応じ、鬼人は言った。
「だったら尚更、今を大事にしないとな」
 吹く風が炎を煽り、空焦がす熱が風を起こす。きっと、そんな関係なのだ――どちらが先かは関係なく、ただ互いに高め合うもの。嬉しそうに微笑して、ラルムは再び竪琴の弦に指を掛けた。
「行こう、ニイナ」
 明日のことが分からなくても、今はただ行けるところまで。言葉少なに頷く鬼人の舞うような剣閃をなぞるように、若き詩人は声の限り、唄を、音色を重ねていく。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【光学迷彩】がLV5になった!
【エイティーン】LV1が発生!
効果2【ダブル】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV9になった!

アー・フーベート
骰(g00299)と

鉄臭くていけねェや
完璧に掃除してやろうぜ
塵ひとつ残してなるもんかよ

剣を抜いて胸に、呼吸を整え精神集中
騎士らしいかい? 光栄だね
ともにあるのが姫君でなくとも
望むなら喜んで忠実な守りの剣となりますよ
毒盛られて死にたかねェが…

…よそうぜ、劇を思い返すと泣けちまう

靭く、疾く、まっすぐに――
骰とおんなじ個体狙って斬り込むよ
的が分散すりゃ統率も乱れるでしょ
バラし易いように凹ませときますね、っと

回避は【飛翔】し上へ
柱や天井を蹴って急降下し貫通撃に繋ぐ
ついでに呪詛もくれてやる
これが痛み
これが怒りだ、覚えとけ!

私も現実には大団円と喝采を願うよ
悲劇と退廃は物語だからこそ美しいんだ


鬼歯・骰
フーベート(g01578)と

地下で好き放題のさばってんのはそっちだろ
今回は俺らが全部掃除してやるよ

フーベートは剣持ってると騎士っぽさ増してんな
でも守られんのは柄じゃねぇから勘弁だ
まぁアンタは人柄的に毒を盛られる事はなさそうだが
…はは、振り返りは仕事終わらせた後でゆっくりするか

悪い人形は鱶で解体してく
フーベートが凹ませたやつ狙って一匹ずつ確実に破壊
攻撃はエアライドで跳んで躱すか、武器で受け流そう
統率取れてる相手に囲まれんのは嫌だから
動きながら確実に数減らしてぇな
なるべく敵の意識を自分に引きつけて
急降下するフーベートが仕留めやすくなりゃいい

現実なら全部「めでたしめでたし」になってくれる方が良いな


「あーあ、ここは鉄臭くていけねェや」
 すらりと抜き放つ長剣が、青い光を浴びてきらりと光る。垂直に立てた剣を胸の前に構えて、アー・フーベート(あらぞめの剣士・g01578)は言った。その姿は舞台の上の騎士にも似て、鬼歯・骰(狂乱索餌・g00299)は感心したように口を開く。
「剣持ってっと騎士っぽさ増してんな、フーベート」
「おっと、そいつは光栄だね。ともにあるのが姫君でなくとも、望むなら喜んで忠実な守りの剣となりますよ? ……毒盛られて死にたかねェが」
 血の滲む思いで剣を振るい、守り抜いた姫君とその安寧の日々を目の前に残して逝った騎士は、死の間際に何を想っただろう。我が身の不遇を呪ったのか、遺される人の幸せを願ったのか、それは言明されることはなかったけれど――。
 左手で目頭を抑えながら、アーは緩く首を振った。
「……よそうぜ、劇を思い返すと泣けちまう」
「まぁ、アンタは人柄的に毒を盛られることはねえだろ。大体、守られんのは柄じゃねぇから勘弁だ」
 潜入に探索。思えば今日は随分と長い間裏方に徹したものだ。やっと出番とばかりに光る刃は手に馴染んで、骰は不敵な笑みを浮かべた。ごもっともと目元を拭い、アーもまた携えた剣の刃を返す。
 向かってくる敵の数を、いちいち数えるのはやめだ。いけすかない掃除夫の懐に斬り込むためには、横道から湧き出すくるみ割りの兵士達を一匹残らず討たねばならない。
「芝居の振り返りは、仕事終わらせた後でゆっくりするか」
「ああ。今は完璧に掃除してやろうぜ」
 都市の地下深く、我が物顔でのさばる侵略者達を、塵ひとつ残さず確実に。交わした視線で頷き合って、二人は同時に床を蹴る。
(「靭く、疾く、まっすぐに――」)
 呼吸法は運動の要だ。剣術においてもそれは変わらない。頭はあの日より先のことを何も思い出してはくれないのに、剣の振り方だけは身体が憶えている。
 ピンクブラウンの長い髪を甲冑の背に靡かせて、アーは両翼で大きく宙を打った。白い翼は銀の矢の如く暗がりを裂き、小柄な人形達が宙を舞う。鋸歯の腹でそれを一旦受け止めてから、骰は刃を振り被った。
「悪い人形はここらでバラしておかねえとな」
 彼らが何を企んでいるのかは知らないが、放っておいてもどうせろくなことにはなるまい。一息に振り下ろせば獰猛な鮫の歯は軍帽の頭をかち割って、その骸から命を吸い上げる。けれどたかが一体屠っても、大勢に影響はない――側溝に潜む鼠のように、玩具のような兵隊達は次から次へと湧いて出る。宙を踏み、斬り上げるサーベルを垂直にかわして、骰は小さく舌打ちした。
「ガラクタみてえな成りでも、統率は取れてるってのがな」
 囲まれないよう場所を選んで着地し、その手の刃を一閃、すぐさまその場を離脱する。吹き飛ばされた一体が放物線を描くのを眺めて、お見事、とアーは笑った。
「的が分散すりゃ統率も乱れるでしょ」
 そのためには、一所に留まらないのが一番。大きく羽ばたいて天井付近まで舞い上がり、石壁を蹴って急降下――体重を乗せて突き下ろす長剣は、一体の敵を冷たい床に縫い留める。そして、
「これが痛み。これが怒りだ。覚えとけ!」
 気付いた時には、そう口走っていた。その瞬間に胸を満たした明確な殺意と憤激がどこから来たものなのか、アーには分からない。ただ、発した言葉は動かなくなった人形の虚ろな瞳に反射して、何も識らない自分に返ってくるような気がした。
「フーベート?」
 呼ぶ声にはっと我に返る。大丈夫かと問われて頷けば、芝居の終わりを引きずっているとでも思われただろうか――刃の先に残った人形の破片を無造作に振り払いながら、骰は言った。
「現実なら全部、『めでたしめでたし』の方が良いよな」
「……ああ、そうだな」
 俄かに乱れた呼吸を調えて、呟くように天使は応じた。
「私も現実には、大団円と喝采を願うよ」
 悲劇と退廃は、物語だからこそ美しい。それが現実だったなら、きっと、ただ痛むだけだ。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【士気高揚】がLV3になった!
【活性治癒】がLV4になった!
効果2【能力値アップ】がLV10(最大)になった!
【ドレイン】がLV4になった!

鐘堂・棕櫚
サキソメさん(g00894)とペア

サーベルの汚れ具合からして
割るのが得意なのは胡桃じゃなくて人間ですか?

サキソメさんの綺麗な服を汚されると
折角のオペラの余韻が台無しですから
盾役を賜れると嬉しいですよ、お姫様
…と呼ぶには勇ましく頼り甲斐がありすぎる彼女の前へ

復讐の刃で呼び出すのは柄の長い刃物あれこれ
多数が相手ならまとめて当てやすそうですしね
進軍も斬撃も、無駄に大きくこの身と長柄で阻んでみせましょう
【活性治癒】を用いれば多少は耐久力上がりますかね

関節ごとのパーツに戻すんです?
はは、俺らに似合うのは恋の歌よりも破壊音かもしれませんね!

喝采代わりは金属の不協和音
悪事を蔓延らせる地下迷宮にはお似合いかと


咲初・るる
店長(g00541)と

なんとも物騒な身なりじゃないかキミたち!
お口もこんなに真っ赤にしちゃって
胡桃以外のものにも手を出すなんて悪食にも程があるよ

…おや、前に出てくれるのかい店長?
まるでトゥルペの剣の騎士さまみたいじゃないか
だけど、お姫様のように守られてばかりは嫌だから
ボクも応えないといけないね
自身の胸元に手を当てながら口開く
まことの騎士よ、どうか後ろから守らせておくれ

ハンドベルをひとつ鳴らせば
現れた光の輪を敵へ放って
とりあえず関節狙っておけば動けなくなると思うのだけど。どうだろう?

照明も小物も無い
華やかさには遥か遠い舞台だけど
この戦場なら許されると思わないかい?
さあ、斬撃の音色を共に奏でよう!


「その汚れ。割るのが得意なのはもしかして、クルミじゃなくて人間ですか?」
 軍服に軍帽、サーベルの鞘からブーツまで。赤と黒に揃えた出で立ちでは分かりにくいが、白髪と白い髭には赤錆びた血の色がよく目立つ。御伽噺の人形というには余りに物騒でグロテスクなその外見に、鐘堂・棕櫚(七十五日後・g00541)は辟易したように言った。うんうんと大きく頷いて、咲初・るる(春ノ境・g00894)も眉をひそめる。
「お口もこんなに真っ赤にしちゃって、まったく悪食にも程があるよ――うん?」
 誘導灯の僅かな明りの中でも、視界が翳るのが分かった。見上げれば照明を遮って立つ棕櫚の広い背中がそこにあり、るるはおや、と声を上げる。
「前に出てくれるのかい、店長?」
「勿論。サキソメさんの綺麗な服を汚されると、折角のオペラの余韻が台無しですから」
 これくらいはねと笑って、棕櫚は翳した手に復讐の刃を編み上げる。長柄の斧は天井から落ちる青い光を受けて、冬の夜空の星に似た銀の輝きをきらりと返した。
「盾役を賜れると嬉しいですよ、お姫様」
「勇ましいね。まるでトゥルペの剣の騎士さまみたいじゃないか」
 だけどと加えて、るるは言った。
「ボクは、お姫様のように守られてばかりは嫌だから――」
 彼が守ると口にしたのなら、その言葉に彼女は応えなければならない。白く細い指先を桜咲く衣の胸に重ねて、天使は柔らかく、けれど力強く笑んだ。
「まことの騎士よ、どうか私にもその背中を守らせておくれ」
「――そう仰ると思いました」
 ふわふわとした栗毛の下、やっぱりというように眉を下げて、棕櫚は応じた。姫君と呼ぶにはこの少女は、些か勇ましく頼りがいがありすぎる。欧州の神話に喩えるならばそれは姫というよりも、翼持ち空を翔ける、ヴァルキューレと呼ぶ方が相応しい。肩幅ほどに開いた脚で冷たい床を踏み締めて、るるは右手に摘まんだ真鍮のハンドベルを揺らした。
「さあ、覚悟はいいかい、キミたち!」
 リンと鳴る音は澄み切って、けれど柔らかい。プリズムのように表情を変える鐘の音に誘われて、掌ほどの光環がるるを取り巻き、回り出す。浅葱の袖を一振りすれば光の刃はそれぞれに不規則な軌道を描きながら、くるみ割り人形の群れへ殺到する。
「とりあえず関節狙っておけば動けなくなると思うのだけど、どうだろう?」
「つまり、関節ごとのパーツに戻すんです?」
 平たく言うと、ばらばらに。
 はは、と喉の奥で笑って、棕櫚は言った。
「俺らに似合うのは恋の歌よりも、破壊音かもしれませんね!」
 けれどそれでいいと、二人は想う。仲間達と過ごす時間は優しく、変わってしまったこの世界にも愛すべきものがあるのだと教えてくれるけれど、笑顔の奥でいつもちりちりと胸を焦がす復讐心を忘れることはできないから――だから、今は復讐者の二人でいい。
「店長」
「はいはい」
 アドリブの掛け合いは舞台の醍醐味だ。そこに緻密な打ち合わせは必要ない。押し寄せる兵士達の振りかざす剣が膚を裂いても怯むことなく、棕櫚は人形達へ斧槍を放ち、それを避けんと跳び上がった個体をるるの光環が切り裂いていく。軽やかに敵を討つその勇姿は、舞台の上の姫君と騎士にも劣らない。
 さあ、と細い両手と共に広げた翼から白い羽根を舞わせて、るるは高らかに謳い上げる。
「斬撃の音色を、共に奏でよう!」
 スポットライトもなければ豪華な衣裳も小物もない。地の底の舞台は華やかさとは程遠く、喝采の代わりに響くのは、かち合う鉄が紡ぐ不協和音でしかないけれど。
「悪事を蔓延らせる地下迷宮にはお似合いかと」
 皮肉めいた口ぶりで、棕櫚はその手の刃を放つ。何度でも繰り返し、侵略者達の息が絶えるまで。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【操作会得】がLV2になった!
【飛翔】がLV6になった!
効果2【ガードアップ】がLV7になった!

瀧夜盛・五月姫
アドリブ、連携、歓迎、だよ。

よしよし、地下迷宮の地図、少しは残せた、かな。
これを、持ち帰る、その、前、に……あなたは倒していく、よ?

気をつけながら、【ダッシュ】で接近。
向かってくる、砲弾は、【フライトドローン】を身代わりに、それでも、難しい、なら、薙刀を振るって【衝撃波】で、弾こう。
【観察】して、隙がみつかれば、そこにパラドクス。
胴を半分に、分かたんと、薙刀を叩き込む。

カーテンコールは、いらないよ。
姫たちにとって、この戦いは、まだまだ、序曲に過ぎない、のだから。
だから端役さんは、ここで、眠ってて。
ね?


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎

街の地下に陰謀の巣窟とは、悪役好みの筋書きだな
巨大な地下通路は、抜け穴も多そうだ

開けた場所のようなので【飛翔】し立体的戦闘
黒煙と暗所対策に完全視界、強運の加護と共に
パラドクス通信も併用、仲間と連携し戦う

飛び回りながら銃撃を加え、仲間一人に標的を絞らせぬよう撹乱
相手の癖や動きを観察
隙を看破し、死角や背からクロスボウの貫通撃を撃ち込む
魔力障壁を展開
一ヶ所に留まらず、柱など地形も利用し回避

聞いて答えるものでもなかろうが、水を向けてみよう
あなたも盗人か?
盗まれたものを返してもらいに来たんだ
帝国の警邏には通報しないでおくから、ここで返してくれないか

……それとも国家ぐるみの陰謀なのかな?


朔・璃央
双子の妹のレオ(g01286)と

迷子のお掃除を担当されてる方ですか
それはそれは、汚れ役を担当とはご愁傷様です
あまり気持ちのいい役どころでもないでしょう
降りるのを手伝って差し上げましょう
叩き落とす以外の方法は知りませんが

一息に前へと踏み出し接敵を
まだまだ冷めやらぬ熱気で滾っている腕を固め
灼けつく武器を受け止め根競べといきましょう
こんなものでレオの柔肌に染みでも出来たらコトですからね
ハッキングで揺らいで隙が出来たら
お返しとばかりにぶっ飛ばしてやりましょう

華やかさの裏には汚い部分があるとは聞くけれど
これをあの素晴らしいオペラの裏側だとは思いたくないね
潜んで潜んで
そのまま消えてなくなって欲しいものだよ


朔・麗央
双子の兄リオちゃん(g00493)と

アナタは迷子のお掃除が仕事なの?
そう、じゃあ見当違いだよ
だって私達は迷い込んだ訳じゃないんだから
誰もが人生の舞台で役割を演じるだなんて言われるよね
それがアナタの「役割」ならここで降ろしてあげるね?
その可愛い笑顔には騙されないんだから

リオちゃんが接敵するのに合わせて
イグジストハッキングで攻撃するね
金色の弾丸の軌道だってずらしちゃえ
リオちゃんに攻撃するっていうなら
そのプログラムを狂わせてあげるね

華やかな舞台の地下にあったこの迷宮は
悪が息を潜めてまるで世界から切り取られた様なところだったね
まさに「舞台裏」って感じ
世界の目の触れない所で力を付けさせる訳にはいかないね


エルマー・クライネルト
……此処に来て一番見たくない面が現れるとは、実に度し難い
人のことをゴミのように言ってくれるものだ
身の程を弁えろよクソガキ

パラドクスを発動し、人形を武器に再構築
この舞台の幕引きに相応しいものを与えてくれたまえ

振るわれる灼熱武器の攻撃に【強打】【連撃】を合わせて威力を相殺
顔に傷を増やされないよう全力で防御しよう

何度も打ち合う中に一瞬の隙を見極め
【フェイント】をかけて奴の懐に潜り込み【捨て身の一撃】を与える
お前は舞台の役者にはなれん
此処で誰にも知られず消えるのが似合いだとも

然して迷宮の全貌は未だ見えず、か
もう少し調べておきたいが致し方ない、我等の舞台は次の幕へと言った所だな
……少々格好を付けすぎか?


ナタリア・ピネハス
つむぎさま(g01055)と
……彼にとっては、千切れた半券を掃くのと変わらないのね

【現の夢】で境目を曖昧にしたなら
つむぎさまの、みなの助けにもなりましょう

ねえ、つむぎさま
わたくしは未だ『こい』をしらないわ
でも……『愛せよ』と、望まれたのよ
わたくし。守られるだけのお姫さまはいやなの

【未来予測】で爪先を、あかいいとを踊らせて
撃ち出された弾丸を躱し夜霧に紛れ【咎】を紡ぐ

傍にありて触れられず――それでも
わたくしは踏み出すの

あなたは知らなければならないわ
いのちを手折る痛みを。己が苦しみを、その重責を

幕引きに硝煙は無粋よ
舞台を降りるその瞬間まで、優雅に振る舞わなくてはね

……わたくし。ちゃんと、できていた?


織乃・紬
ナタリアちゃん(g00014)と

アンタの仕事振りも大した事ねエな
俺等の眼前に塵がありますけど~?

使えるモンは使わせて頂くわ
《神速反応/早業》を活かし
嬢や仲間に被害の及ばないよう
敵より先に動いて妨害を試みる

君と誰かの、何方の望みもイイね
強かな御姫サマの方が俺も好みよ
何せ俺は騎士としちゃ致命的な程
手厚~く、護られたい方なンで

煙が放たれど《完全視界》で見据え
距離を保ちながら、短刃を《投擲》
妨害時は動き、それ以外は首
確と狙いゆけば、軽く笑って

そうだぞ、掃除夫
劇場下で働くなら感受性を磨いとけ
如何かな、地這う塵の気分は?

身を以て学べぬなら残念なこと
最高の舞台を魅せられてンのにさ

せめて、空く手で盛大な拍手を


ウルリク・ノルドクヴィスト
迷宮を潜って此処まで来たものを
其れでも迷子、と呼ぶのだな
…余裕があるのか暢気なのか

得物の槍で狙い定め
一手、貫くまでは
少年兵から目を離さぬように
『突撃』の勢いで『貫通撃』を

此の手で片を付けたいと抱く気概なら譲らない
ただし俺の一撃だけで斃すことは敵わなくとも
共に戦う者が腕を揮う為の布石となれば良い
黒煙の及ぶ前に攻撃が届けば幸い、なれど
多少の毒なら構わず駆け抜けよう

奈落とはいえ
此処を舞台として見るのなら
君の出る幕は無い、とでも言えば
俺にでも落ちを付けられるかな

…迷宮に闖入したのは此方だが、
そも、此の劇場に、あるいは此の世界に
割って入ったのは君達ゾルダートの方だ
掃除される「迷子」は君の方なのでは?



「……おやあ」
 円かな双眸をぱちりと瞬かせて、掃除夫の少年は驚いたような声を上げた。二十は下らぬくるみ割り人形の軍勢は既に半数以上が動きを止め、冷えた床に転がっている。
「お強いんですね、迷子さん達。ちょっとびっくりしてしまいました」
「いやア、それほどでも。しかし、アンタの仕事振りも大した事ねエな~?」
 こんなに散らかってますけど――と煽って、織乃・紬(翌る紐・g01055)は尖った爪先で人形達の残骸を小突く。すると少年は意外にも、素直に『すみません』と頭を下げた。
「すぐにお掃除しておきますね」
 にこやかに笑って、手にしたブラシのようなもので壊れた人形達を――文字通り、掃いて捨てる。その口ぶりには然したる焦りも見えず、幼げな外見とのギャップがいっそう不気味さを掻き立てるようだ。
「……あなたにとっては、千切れた半券を掃くのと変わらないのね」
 甘い琥珀の瞳に微かな憐憫を込めて、ナタリア・ピネハス(Hitbodedut・g00014)は言った。仲間意識も、罪悪感もない。他の兵士達よりもよほど人らしい成りをしているくせに、その言動は自動人形の如く無機質に思われる。
 白い手袋が軋るほどに両手を握り込み、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)は努めてゆっくりと口を開いた。
「よくもまあ、人のことをゴミのように言ってくれたものだな。……此処に来て、一番見たくない面が現れるとは」
 実に度し難い。眉間に深い溝を穿って睨みつければ、あれ、と小首を傾げて少年は微笑った。
「僕、あなたとお会いしたことありましたっけ?」
 無邪気に首を傾げる彼が、『あれ』の影法師に過ぎないことは理解している。けれどその顔貌は直視に堪えなくて――痛いほどに奥歯を噛み、エルマーは足元に浮かぶ呪い人形を掌へ吸い寄せた。
(「願わくは、この舞台の幕引きに相応しいものを――」)
 触れればたちまち蒼い光を帯びる人形は、バキバキと音を立てて形を変えていく。それがいったい何を象るのか、エルマー自身には選ぶことができないが、この不気味な人形がいつもその瞬間に必要なものをくれるということだけは、確かだ。
 祈るその手に与えられたのは、異形の剣。燐光を帯びた禍々しい刀身は物語の騎士が佩く銀の剣ほどに美しくはないが、無価値な自分にはそれが似合いだ。
 自嘲気味な笑みを浮かべて、エルマーは少年を睨んだ。
「身の程を弁えろよ、クソガキ」
 右頬の傷跡が、ずきりと疼く。一足飛びに距離を詰めて振り下ろせば、剣はブラシを模したハルバードに阻まれて跳ね返る。困ったように眉尻を下げて、少年は言った。
「いきなり、失礼な人ですね」
「――ちっ」
 人ならぬ怪力で振り抜いた刃が、反射的に逸らした上体を掠める。聴こえるほどに舌打ちして、エルマーは距離を取り直した。たかが影――とはいえ、一筋縄で行く相手ではなさそうだ。
「やれやれ。街の地下に陰謀の巣窟とは、いかにも悪役好みの筋書きだな」
「そう、だね。でも、迷宮の地図、持ち帰る……その、前に」
 少々陳腐に過ぎやしないかと、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が肩を竦める。その隣で頷いて、瀧夜盛・五月姫(無自覚な復讐鬼・g00544)は広いホールの奥に独り立つ、少年の姿のゾルダートを見やった。
 くるみ割り人形の軍勢は放っておいても、仲間達が抑えてくれている。横槍を入れられる心配はなさそうだが、それを抜きにしても易々と下せる相手でない。したためた地図を巫女服の懐へ大事にしまい込んで、五月姫は飾り気のない薙刀を握った。
「あの子は、倒していく――よ?」
 勿論、と応じるエトヴァが蒼い翼を羽ばたかせるのと同時、五月姫は駆けるスピードを速める。それに気付いた少年兵が右腕を掲げると、白い皮膚――装甲、と呼ぶべきなのかもしれないが――がぱっくり割れて、無骨な機銃に変形した。撃ち出される黄金の弾丸を薙刀の穂先で器用に弾きながら、夜叉姫は白いお下げを背に引いて、一気に暗い空間を突き抜ける。
「やあっ!」
 力強い踏み込みから繰り出すのは、神速の一閃。足元から掬うように斬り上げる刃は撃音とともに、掃除夫の横腹を確かに捉える――けれど。
「……痛いなあ。いきなり、あんまりじゃないですか」
 胴を両断するつもりで喰らわせた一撃だった。しかし裂けたジャケットの隙間から機械化された皮膚を覗かせて、少年はにこりと笑み、腹に食い込んだ刃を押しのける。流石に一撃でとはいかないか――咄嗟に床を蹴り後退する五月姫に向けて、少年は再び機銃を掲げた。その銃口が火を噴くよりも早く、朔・麗央(白鉄の鉤・g01286)が呼び掛ける。
「アナタは迷子のお掃除が仕事なの?」
「そうですよ?」
 それが、彼がここにいる理由。光差さない地下迷宮で、訪れる誰かを待つ理由。
 茫洋と笑う少年に、そう、と唇を尖らせて麗央は言った。
「じゃあ見当違いだよ。だって私達は、迷い込んだわけじゃないんだから」
「迷子じゃない? ああ――つまり、この辺にお住まいのドブネズミってことですね?」
「むっ」
 聞き捨てならない言葉に、少女の白い頬がぷくりと膨らんだ。何よと息まくその背中を叩いて、朔・璃央(黄鉄の鴉・g00493)は咳払いする。
「まあまあ。鼠と迷子のお掃除なんて汚れ役、ご愁傷様じゃないですか。あまり気持ちのいい役どころではないでしょうに、お気の毒です。……ですから」
 途端に刺々しく言葉を切って、璃央は両手を掲げた。パキパキと凍えるような音を立て、その指先は白く鋭く硬質化していく。
「降りるのを手伝って差し上げましょう。……もっとも」
 ひゅ、と風を切る音と、天使の少年が姿を消したのとは同時だった。次の瞬間、視界の外から降ってきた鉄拳が掃除夫の横面を殴り飛ばす。勢いのまま壁に激突した兵士を怒りの形相で見下ろして、璃央は言った。
「叩き落とす以外の方法は知りませんが?」
 最愛の妹をドブネズミ呼ばわりした、彼の罪は重い。しかし兄の激憤が自分のためだとは露知らず、麗央は大きく頷いた。
「そうだね。それがアナタの『役割』なら、ここで降ろしてあげなくちゃ!」
 人は誰もが人生という舞台の上で、与えられた役割を演じるという。けれど光差さない街の底で、誰かを狩ることだけが彼の生まれた理由なのだとしたら、それは哀し過ぎるから。
 しかし――。
「……そういうの、余計なお世話って言うんですよ?」
 瓦礫の中に身体を起こした兵士の冷えた心には、少女の想いは届かない。気に留める様子もなく立ち上がって、掃除夫は掌から噴き出した火炎を左手の斧に纏わせる。
「レオ」
「リオちゃん」
 素早く声を掛け合って、双子の天使と悪魔は動いた。璃央は再び距離を詰め、振り下ろされる灼熱の刃を白く固めた腕で受け止める。好戦的に口角を上げて、少年は言った。
「根競べといきましょう」
 切り結ぶのは、自分だけでいい。万に一つもこの刃が妹の膚に消えない傷でもつけようものならば、きっと一生、自分で自分を許せないだろうから。
 互いに一歩も引かず――至近距離で睨み合う二人の均衡を、麗央の放つハッキングコードが崩した。機銃から放たれる弾丸は本来の軌道を逸れて、空洞を照らす誘導灯の一つを粉砕する。
 内側から書き換えられていくような不快感に初めて表情を歪め、掃除夫の少年は後退した。けれど復讐者達の布陣に隙はなく、その背後には、ウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)が詰めている。
「迷宮を潜って此処まで来たものを、其れでも迷子と呼ぶのだな」
 余裕があるのか、暢気なのか。常識外の侵略者が考えることは分からないが、ただ、いとけない見た目ほどに甘い相手でないことは、間違いない。使い慣れた騎士槍を手の中でくるりと回して握り直し、男はその鋭い穂先を異形の少年兵に向ける。
「迷宮に闖入したのは此方だが、そも、此の劇場に――あるいは此の世界に、割って入ったのは君達ゾルダートの方だ。掃除される『迷子』は君の方なのでは?」
「お兄さん、面白いこと言いますね。僕達はずっと、ここにいましたよ?」
 少年の背から伸びるダクトが、黒い煙を吐き出した。怯むことなく床を蹴り、ウルリクはその手の槍を黒いジャケットの胸へ突き立てる。しかし黒煙に紛れた少年は直撃を辛くも避けて、槍の間合いから離脱した。そこへすかさず、エトヴァが洋弓銃の先端を向けると、少年はぴたりと動きを止める。
「あなたも盗人か?」
「……盗人?」
「あなたの兵隊達が、宝石や貴金属を盗んでいっただろう。俺達は、それを返してもらいに来た」
 帝国の警邏には通報しないでおくから、ここで返してくれないか――見つめる掃除夫の緋い瞳を覗き込んで、空色の天使は問う。
「それとも国家ぐるみの陰謀なのかな?」
「……なんのことだか分かりませんけど」
 再び、その口許に笑みを戻して、少年は応じた。
「きらきらしたものは、好きだよ。だってほら、『この上』の舞台みたいでしょう?」
 腕の機銃が再び火を噴いた。蒼い翼をはためかせ、暗がりをくるくると不規則に旋回して弾丸の雨をかわしながら、エトヴァは小さく嘆息した。
 元より期待はしていない――彼は末端の駒に過ぎないのであろうし、たとえ盗んだ宝石の行方を知っていたとしても、素直に答えるものではないだろう。ならば――これ以上の問答は、無用だ。
「咲け」
 魔法の鏃を一射、二射と重ねてゆけば、巻き散らした魔力が焔を帯び、さながら黄金の薔薇の咲むが如くに燃え上がる。取り巻く炎の花の中で、人懐こそうな少年の笑顔は音もなく消えていた。


 高い天井に剣戟が渡る。鉄と鉄とがぶつかる度に、弾ける火花がちかちかと光る。五月姫の薙刀とエトヴァの鏃、璃央の拳とウルリクの槍――次第に連携の取れてきた復讐者達に囲まれて、少年兵はなおも立っていた。ただその表情に、出会い頭ほどの余裕はない。
 切り結ぶ仲間達の動きに合わせて指先の糸を手繰りながら、ナタリアは言った。
「ねえ、つむぎさま」
「ン?」
 背中合わせに寄り添って、なに、と紬が応じる。乱れた呼吸を調えるだけの、わずかな時間。すうと息を吸い込んで、夜色の娘は訥々と紡いだ。
「わたくしは、未だ『こい』をしらないわ。でも――『愛せよ』と望まれた」
 肩越しに視線を投げて見ると、潤んだ琥珀がきらりと光る。黙って先を促せば、続く言葉は思いの外に力強く響いた。
「わたくし。守られるだけのお姫さまはいやなの」
 傍にありて触れられず。それが花と葉の定めでも、背に庇われているだけの理由にはならない。
 差し出した指の先には、機械仕掛けと継ぎ接ぎの二体の人形がつながっている。赤い糸に導かれて踊る人形達と共に、哀歌を紡ぐ唇でナタリアは言った。
「わたくしは、踏み出すの」
 撃ち出された黄金の流れ弾が、霧に紛れる。凛と告げる声色に『イイね』と喉を鳴らして、紬は応じた。
「強かな御姫サマの方が俺も好みよ。何せ俺は騎士としちゃ致命的な程、手厚~く、護られたい方なンで」
 痛い思いは御免だと嘯きながら、飄々と前を見る瞳は笑ってはいない。黒錆の短刀を素早く握り直して、紬は腕をひと振りする。飛来する刃の鋭い冷気に気付いてか、飛び退いた兵士の背中からは再び黒い煙が吹き上がったが、その煙は、彼らの視界を妨げるには足りない。白い喉元に突き刺さった刃を見下ろして、掃除夫の少年は唇を噛んだ。
「――迷子のくせに」
「小癪な、とでも?」
 そりゃどうも、とへらり笑って見せて、一転。底の知れない瞳で少年を見据え、紬は言った。
「せっかく最高の舞台を魅せられてンだ。劇場下で働くなら、感受性くらい磨いときな」
 身を以て学ぶことができないのだとしたら、それは大いに嘆かわしい。これまでどれほどの人間が、ここへ迷い込み、排除されたのかは知る由もないけれど――。
 そうよと同意を示して、ナタリアは歌を止め、諭すように告げる。
「あなたは、知らなければならないわ」
 命を手折るその痛みを、重責を、己が受ける苦しみを以て学ばねばならない。
 追い詰められているという事実は最早無視できず、少年は奥歯を軋らせた。けれど皮膚が砕け、手斧の刃が毀れても、彼の任務には変わりない。目の前の塵を排除もせず、退くことなどできるわけもなかった。
「邪魔を、しないで」
 噴き出した黒煙には先程までとは少し違う、焦げたような臭気が混じっていた。恐らく彼の身体の中では、壊れかけた内臓が火を噴いているのだろう。終わりは近いと悟って、ウルリクは言った。
「悪いが、こちらも引き下がるわけにはいかないのでな」
 この奈落の舞台にも、彼の出る幕はない。大きく息を吸い込んで、男は騎士槍を構えた。気道を犯す毒に思わず咳き込みそうになるのを堪え、立ち止まることなく黒煙を突き抜ける。もっと鋭く、もっと疾く――ただそれだけを突き詰めた槍の先は、見事少年の身体を壁に縫いつける。
「ッ――この……!」
 胸にめり込んだ先端を外そうと、少年の両手が槍を掴んだ。胸を貫いても殺し切れないのは、流石に機械化兵といったところか。ともすれば跳ねのけられかねない腕力には素直に感嘆しつつ、ウルリクは槍持つ腕にいっそうの力を込める。
(「此の手で片を付けたいところだが」)
 たとえこの槍が届かずとも、そのひと振りが共に戦う仲間達の礎となればいい。それにどうやらこの場には、とどめを預かるべき人間がいるようだ。
「――やれ」
 短く告げる声が誰に向けられたものかは、皆が理解していた。答えることも頷くことも忘れて、エルマーは走り出す。そしてウルリクがその場を飛び退いたわずかな間隙を目掛け――異形の剣を振り抜いた。
「…………あ」
 五月姫が初手で穿った横腹の傷口を、呪怨の刃がしっかりと捉える。そこから割り開くように力を籠めれば、限界を迎えた機体は真っ二つに裂けて、そのままずるりとずれ落ちた。あーあ、と残念そうに発した声を最後に、掃除夫姿のクロノヴェーダは機能を停止する。
「お前は舞台の役者にはなれん。……此処で誰にも知られず消えるのが似合いだとも」
 崩れた少年を見下ろして、エルマーは吐き捨てるように言った。ごろりと転げた残骸は噴き出した炎に包まれて、徐々に形を喪っていく。
「……幕引きに硝煙は無粋ね」
「あア――そうだな」
 操り人形達を手元へ呼び戻して、ナタリアが言った。その傍らで、紬はぱちぱちと気だるげに手を打ち、含みを以て嗤う。掃除夫が自ら地を這う塵になるなんて、これ以上ない皮肉だ。どんな気分か訊いてみたいところだが、この期に及んで追い討つまでもないだろう。傍らの令嬢の言を借りれば、役者は舞台を降りる瞬間まで優雅に振る舞うもの、だ。
 静まり返った空洞には、微かな物音さえもよく響く。ほうと安堵の息をついて、五月姫は薙刀の穂先を下ろした。
「でも、これで……地図、持って、帰れる」
 取り出し、広げた地図には復讐者達の探索の結果が凝集されている。役に立つかなと首を傾げる娘に、大丈夫と笑ってエトヴァは言った。
「何しろ巨大な迷宮だからな。抜け穴も多いだろうが、他のエリアの探索結果と合わせれば、いずれ全容は見えてくるだろう」
 華やかな舞台の地下に悪が息を潜める、蟻の巣が如き迷宮。その全容が見えるまで、後どれほどの探索が必要かは分からないが。
 複雑そうに眉を寄せて、麗央は言った。
「なんていうか……ここは本当に、『舞台裏』って感じの場所だったね」
 外の世界から隔絶されて、粛々と悪を育む薄暗がり。華やかさの裏には汚い部分があるとは聞くけれど、その差が開けば開くほど、底から見上げる光の世界は眩しい。
「これをあの、素晴らしいオペラの裏側だとは思いたくないね」
 澄ました表情に隠しきれない嫌悪を滲ませて、璃央は手袋の埃を払った。
「潜んで、潜んで――そのまま消えてなくなって欲しいものだよ」
 斯くして人知れず育つ悪の芽を摘み、復讐の舞台は次の幕へ移る。
 来た道を引き返していく仲間達を追いながら、人形達の残骸をちらりと振り返り、五月姫は言った。
「カーテンコールは、要らないよ」
 世界を取り戻さんとする彼女達にとって、この戦いは序曲に過ぎない。出番を終えた端役達を無音の墓所に眠らせて、復讐者達は地下迷宮を後にするのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【過去視の道案内】がLV3になった!
【フライトドローン】がLV2になった!
【怪力無双】がLV3になった!
【無鍵空間】がLV2になった!
【未来予測】LV1が発生!
【操作会得】がLV3になった!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV10(最大)になった!

最終結果:成功

完成日2022年01月16日