ディジョン拠点化作戦

 攻略旅団の方針により、ジェネラル級キマイラ・ウィッチ『ニコラ・フラメル』を撃破して解放した『ディジョン』の防衛態勢を整え、ディジョン再制圧部隊を迎え撃ちます。
 ですがニコラ・フラメル配下の大天使達はディジョンの人々の救い手として振る舞っていたため、人々は大天使を追い払ったディアボロスに対する不信感を抱いています。まずは不信感の払拭が必要になるでしょう。
 敵増援に対しては、先手を取ってディジョンの街へ向かう敵を分断、撃破する作戦が提案されています。

!特殊ルール!
 ディジョンは周囲を敵勢力圏に囲まれており、ディジョンを再制圧しようとする敵の増援部隊が続々と送られて来ます。
 その為、毎月1日に、このシナリオタイプの必要成功数が「3」増加します。
 ディジョンの防衛が困難だと判断した場合は、攻略中断の提案などを行ってください。

※現在の必要成功数
 8(初期値)+3(11月1日の増加分)=11

リベラシオン(作者 藍鳶カナン
7


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●アントラーヴ
 ――秋を彩る麗しき黄金、
 ――美しく黄葉した葡萄の葉が秋晴れの日に黄金に輝く様は誰もの心を豊かにするけれど、

 秋の夜闇を引き裂いた黄金の輝きは、多くのディジョン市民の不安を掻き立てた。

 西暦1434年。
 火刑戦旗ラ・ピュセルのブルゴーニュ地方に位置する都市『ディジョン』の夜空を厚い雲が覆ったある秋の夜、深い夜闇を引き裂いた黄金の輝きは、誰の意図も関与しない、単なる自然現象以外の何物でもない落雷だった。
 然れど、夜が明けてみればディジョンのひとびとが目にしたのは小さな教会の尖塔が昨夜の落雷で損壊した姿。
 嘗てジェネラル級キマイラウィッチ『ニコラ・フラメル』が拠点としていたノートルダム・ド・ディジョン教会のみならずブルゴーニュ地方の中核都市たるディジョンには幾つもの教会が存在している。そのうちのひとつである小さな教会の尖塔が落雷で損壊した姿を振り仰ぎ、ディジョンのひとびとは不安に背筋を震わせた。
 特別な名も持たぬ小さな教会の尖塔が損壊したのみ。他に市街の被害は無く、人的被害も無かったのだが、
「何と不吉な……」
「大天使様がいなくなってしまったばかりでなく、もっと良くないことが起こるんじゃないか……?」
 憂いと不安に顔を曇らせたひとびとの口からは心細げな言葉が零れ落ちる。
 大天使達が自分達の救い手であり庇護者であったと信じているディジョン市民は、大天使達を追い払ったディアボロス達も自分達を食糧援助などで支援しキマイラウィッチ達から護ろうとしてくれていることは少しずつ理解しはじめているのだが、まだディアボロスへの不信感すべてが拭われたわけではない。ゆえに半信半疑でいる者も多く、
「そう言えば、みんな聞いた!? ディジョンにキマイラウィッチの軍勢が攻めて来るって話!!」
「ああ、恐ろしや恐ろしや……! 大天使様が儂らを庇護してくださっていた頃はそんなことなかったのに……!!」
 若い娘が無意識のうちに声高になったのも、老爺の声音と杖持つ手が震えたのも、募る不安ゆえ。
 これまでに幾人ものディアボロスがディジョン市民に演説、あるいは交流を持つことで、ひとびとから信頼を得られるよう努めてきたが、直接ディアボロスと接した者はまだ決して多いとは言えない。多くのひとびとから支持され信頼され、彼らの心から確と不安を取り除くには至っていないのだ。
「自分達がキマイラウィッチを倒すってディアボロスがはっきり言ってくれた、って話も聴いたけれど……」
 大丈夫かしら、と眼差しを揺らした婦人がぽつりと呟いた。
 火刑戦旗ラ・ピュセルの特徴のひとつが、基準時間軸の一般人達が現地のディアボロスの存在を認識していることだ。
 無論『最終人類史のディアボロス』に関する記憶は拝斥力の影響を受けるのだが、『過去における現地のディアボロス』に関する記憶は現状では拝斥力の影響を受けていないらしい。リヨン方面への威力偵察の際に行われた『ディアボロスに関するイメージアップ作戦』にて、現地のディアボロスは『シャルル7世が率いる王の軍勢』として知られ、ひとびとは次のように推測しているようだということが判っている。
「王様といっしょにたたかったディアボロスは、キマイラウィッチ達にまけちゃったんだよね……?」
 恐怖にか、大人達の不安を感じ取ってか、涙目で見上げて来る小さな子供。
 その子供をまっすぐ見つめ返してやれる者はいなかった。
「きっとそうだろう……って話だよな?」
「そうかもしれないけど、このディジョンに来ているディアボロスは大天使様達を追い払うくらい強いってことだから……」
「でも、キマイラウィッチ達の軍勢はどんどん増えていってるって言うし……!」
 不安が不安を呼び、皆の心に圧し掛かっていく。
 大天使様達はこのディジョンからキマイラウィッチの脅威を退けてくれた。
 一旦は平穏を得たがゆえに、迫り来る脅威がなおさら恐ろしい。元より自分達では全く太刀打ちできない相手なのだ。
 尖塔が損壊した小さな教会の前で、ひとびとは不安げに眼差しを交わした。

 ――ディアボロス達もキマイラウィッチの脅威を退けてくれるだろうか。
 ――いざとなったらディジョンを見捨てて、いなくなってしまったりしないだろうか。

●時先の導
 ――秋を彩る麗しき黄金、
 ――美しく黄葉した葡萄の葉が秋晴れの日に黄金に輝く様は誰もの心を豊かにするけれど、

 火刑戦旗ラ・ピュセルの都市『ディジョン』。古くからワインの産地であったブルゴーニュ地方の中核都市であるこの街のひとびとは、本来ならば秋の恵みに輝かせていただろう顔を不安に曇らせる日々を送っている。
「というわけで! ディジョン防衛のお仕事と、ディジョンのひとびとに笑顔を取り戻すお仕事のお時間ですっ!!」
 新宿駅グランドターミナルにてディアボロス達を出迎えたクレメンティア・オランジュリー(オランジェット・g03616)が勢い込んで語るのは、先立ってジェネラル級キマイラウィッチ『ニコラ・フラメル』を撃破し、その配下であった大天使達を一掃した都市『ディジョン』を拠点化するという攻略旅団からの提案に基づく作戦について。
 敵の勢力圏まっただなかにありながら、現時点では敵の影響下から解放された都市。
 そのディジョンを確固たるディアボロスの拠点と成すのは敵の喉元に刃を突きつけるのにも等しいことだ。
「当然あちらもそれを看過するつもりはなく、敵は『ディジョン奪還軍』を称する再制圧部隊を次々送り込んできています! 時が経つほど敵軍は増加しますし、これを重点的に撃破し一時的にでも完全に敵を追い払わなければ拠点化は叶いません!」
 めざすはディジョンの拠点化。
 勿論ディジョンに住まうひとびとの心を無視してのそれでは意味がないから、不安に顔を曇らせるひとびとに笑顔を。
 そして、迫り来るディジョン再制圧部隊の撃破を。
「皆様にお願いいたします! どうかどうか、ディジョンの防衛を! ディジョンのひとびとに笑顔を!!」

 今回の撃破目標は、アヴァタール級キマイラウィッチ『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』が率いる再制圧部隊。
 彼を指揮官とし数多のトループス級キマイラウィッチ『翼ある聖歌隊』で構成されたこの部隊との戦端を開く前に、
「まずは皆様にお願いしたいことが二つあります! ひとつは、攻略旅団から提唱されている敵の分断ですっ!!」
 先行した再制圧部隊は後続の増援部隊の合流を待ってディジョンへ攻め込むつもりであるから、この増援部隊に遅滞戦術を仕掛けて合流を遅らせ、合流前に数を減らそうというわけだ。今回の増援部隊の進軍路の傍には誰もいない廃村があるため、
「皆様で『重要なクロノ・オブジェクトをディジョンへ運ぶ途中で敵に見つかり、慌てて近くの廃村に逃げ込んだ』みたいな感じで一芝居打って増援部隊を誘い込むのはどうかしら!?」
 廃村にも小さな教会があり、そこへ隠した重要なクロノ・オブジェクト(偽)を護るために必死に戦う――といった様子を演じて見せれば、増援部隊のキマイラウィッチ達も合流より皆様への攻撃を優先するはずです、とクレメンティアは語る。
 思いきりハッタリを効かせ、
『これはディジョン防衛のための秘密兵器! 絶対に護り抜くぞ!!』
『儀式を行ってこのクロノ・オブジェクトをディジョンに配備すれば、あなた達なんて一瞬で殲滅できるんだから!!』
 といった感じで『自分達が護っているのは非常に重要なクロノ・オブジェクトなのだ』とアピールするのもおすすめだ。
 ディアボロス達の秘密兵器を破壊したという功績を得るのみならず、ディアボロス達が必死に護ろうとするものを破壊することで復讐を果たす好機となれば、キマイラウィッチ達はこれが遅滞戦術だとは気づかず夢中になって攻撃してくるはず。
 増援部隊の数をある程度減らしたところで『重要なクロノ・オブジェクトを護るのを諦めての敗走』を演じて撤退すれば、重要なクロノ・オブジェクト(偽)について増援部隊が再制圧部隊について報告することで、本番の戦いで何か此方に有利に働くことがあるかもしれない。

「そして本番の戦いの前にお願いしたいことがもうひとつ! ディジョンのひとびとに笑顔を取り戻してあげてください!」
 たとえひとときでも、ディジョンのひとびとの心を覆う暗雲を晴らして、
 心の奥まで光を届けてあげてください――と、ショコラの瞳に真摯な光を湛えてクレメンティアは願う。
 表向きはディジョンのひとびとの救い手かつ庇護者として振舞っていた大天使達への信仰は市民から失われておらず、物資援助などで支援してくれているディアボロスに対して半信半疑である者もまだ多い。加えて、大天使達がいた頃は無縁だったキマイラウィッチの侵攻で迫り来ることへの不安が募っている状態だ。
 これを放置すれば不安は不満をも募らせ、ひとびとの暴動などに発展する可能性がある。
 起爆剤になるのは不安や不満そのものでなく、それによって蓄積したストレスの爆発だと思うのです、と続け、
「なので今回は、ディジョンのひとびとの不安やストレスを和らげてあげることをメインにお願いしますっ! まずは落雷で損壊した教会の尖塔を【建物復元】で元どおりにしてあげるところから!! この効果をただ使用するだけでもディジョンのひとびとには奇跡に見えると思いますが、皆様で協力して、歌や音楽、見た目が華やかなパラドクスや【勝利の凱歌】などでいい感じに演出できれば、ひとびとの心にいっそう良い影響があるはずですっ!!」
 クレメンティアは熱くそう力説した。
 自分達ディアボロスも大天使達と同じ、あるいはそれ以上の奇跡的な力を持つのだと、示すことができるばかりではない。
 華やかな祭のごとき奇跡の光景は――ひとびとが心に抱えるストレスを晴らしてくれるはずだ。
「たとえひとときでもディジョンのひとびとの顔に晴れやかさが戻ったなら、秋も深まってきましたし、何かあたたかい物を振舞うのはどうかしら!? 組み立て式のアウトドアキッチンを持ち込めますので、その場で作ってあげてくださいな!」
 たとえばヴァン・ショー、すなわちホットワインを。
 たとえばレ・ショー、すなわちホットミルクを。
 ディジョンはこの時代にはもうマスタードの産地でもあったから、マスタードを使った料理を持ち込んで振舞うのもよし、古くからの伝統菓子でディジョンの名物でもあるパン・デピスを振舞うのもよし。何か他にディジョンのひとびとに楽しんでもらいたい美味があるなら勿論そちらでも!!
「そしてどうぞどうぞ、皆様も御一緒に! 美味しいものを一緒に楽しめば、お互いの心の距離も縮まりますものね!!」
 あたたかいものを、美味しいものを、一緒に楽しんで笑い合うことができたなら、ディジョンのひとびとが心に抱く不安を和らげてあげて欲しいとクレメンティアは願う。
 ――泣いている子供がいれば抱っこしてあげてくださいな。
 ――震えているお年寄りがいれば手を握ってあげてくださいな。
 勿論、不安がっているのは子供や老人ばかりではないから、多くのひとびとの不安を和らげてあげたいところ。
 たとえば『自分達がキマイラウィッチを倒す』と語るのは同じでも、美味しいものを一緒に楽しんで親しくなった相手から語られる言葉ならいっそうひとびとの心に深く、あたたかく響くことだろう。きっとより大きな安心感を齎すはず。
 ――魔法と呼ばれるものは数多存在するけれど、ひとの名前こそは最も根源的にして誰もが使える特別な魔法。
 ――できればこれも、御心に留めておいてくださいね。
 クレメンティアはそう微笑んで、あとは再制圧部隊の撃破・殲滅あるのみです、と告げた。

 一朝一夕には叶わぬことがある。
 ディジョンのひとびとからディアボロスへの不信感すべてを払拭すること、
 ディジョンのひとびとの不安や不満すべてを払拭し、ディアボロスへの全面的な支持や信頼を得ることがそれだ。
「皆様が言葉を、心を尽くしても、ディジョンへ迫るキマイラウィッチの軍勢という外的要因がある以上、不安とストレスが募ること自体を防ぐことは叶いません。少なくとも、今回襲い来る再制圧部隊すべてを撃退してディジョン防衛を成功させるまでは、ディジョンのひとびとの心を慰撫するような活動を続けていく必要があると思います」
 仮に暴動が発生すれば、その矛先は通常攻撃が効かないディアボロスではなく、
 ディアボロスを信頼し、支持してくれるようになったひとびとへ向かうかもしれないのだ。
「そうならないためにも、ディジョンの拠点化を成功させるためにも、そして、ディジョンのひとびとが不安から完全に解き放たれる日を迎えるためにも、ディジョンの防衛を! たとえひとときでも、ディジョンのひとびとに笑顔を!!」
 真摯な眼差しで仲間達を見回して、クレメンティアは話を結んだ。
 ――どうぞどうぞ、よろしくね!!

●ヴァンジャンス
 ――秋を彩る麗しき黄金、
 ――美しく黄葉した葡萄の葉が秋晴れの日に黄金に輝く様は誰もの心を豊かにするけれど、

『ああ、ああ! ディアボロスと戦えるなんて、なんと喜ばしいことでしょう!!』
『私達の復讐でディアボロス達が苦しむ姿を想像するだけで、この胸が高鳴りますわ……!!』
 華やかな黄金に輝く葡萄畑の丘の斜面をなぞるように翔けるトループス級キマイラウィッチ『翼ある聖歌隊』達、先行する再制圧部隊に合流すべく進軍する増援部隊の魔女達の心はディアボロスへ復讐する機会を得た悦びに満ち充ちていた。
 合流を急ぐのも一刻でも早くディアボロスへ復讐の刃を、槍を、歌を突き立てんがため。
 聖歌隊という清らかな名を持ちはしても、
 彼女達は獲物との邂逅を前に舌なめずりをする獣のごとき獰猛さを持ち合わせていた。

 ああ、ああ。
 一刻でも早く、この身に復讐の悦びを。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
3
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【罪縛りの鎖】
1
周囲に生き物のように動く「鎖つきの枷」が多数出現する。枷はディアボロスが命じれば指定した通常の生物を捕らえ、「効果LV×2時間」の間、移動と行動を封じる。
【勝利の凱歌】
1
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【避難勧告】
1
周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める。効果LVが高い程、避難が素早く完了する。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【隔離眼】
1
ディアボロスが、目視した「効果LV×100kg」までの物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)を安全な異空間に隔離可能になる。解除すると、物品は元の場所に戻る。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【断末魔動画】
1
原型の残った死体の周囲に、死ぬ直前の「効果LV×1分」に死者が見た情景が動画として表示される世界になる。この映像はディアボロスだけに見える。
【口福の伝道者】
2
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【おいしくなあれ】
1
周囲の食べ物の味が向上する。栄養などはそのまま。効果LVが高いほど美味しくなる。
【パラドクス通信】
3
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【建物復元】
1
周囲が破壊を拒む世界となり、ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の建造物が破壊されにくくなり、「効果LV日」以内に破壊された建物は家財なども含め破壊される前の状態に戻る。
【アイテムポケット】
3
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。
【寒冷適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が、摂氏マイナス80度までの寒さならば快適に過ごせる世界に変わる。
【水中適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が水中で呼吸でき、水温や水圧の影響を受けずに会話や活動を行える世界に変わる。
【防空体制】
1
周囲が、飛行する存在を察知しやすい世界に変わる。ディアボロスが屋外を飛行中の敵を発見するまでに必要な時間が、「効果LVごとに半減」する。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【命中アップ】LV3 / 【ダメージアップ】LV6 / 【ガードアップ】LV2 / 【凌駕率アップ】LV1 / 【反撃アップ】LV3 / 【先行率アップ】LV1 / 【アヴォイド】LV1 / 【ダブル】LV1 / 【ロストエナジー】LV1 / 【グロリアス】LV4

●マスターより

藍鳶カナン
 こんにちは、藍鳶カナンです。
 ディジョンの防衛を! ディジョンのひとびとに笑顔を!!
 OPとマスターよりをがっつり確認の上で御参加いただければ幸いです。

 ※当シナリオでは調査・情報収集は行えません。

 ※相談所で『【建物復元】持っていくね!』といった発言をしておいていただけると、参加を検討中の方の参考になると思います。

●運営予定
 選択肢1&2(同時募集)→3→4の順にリプレイ執筆予定。
 進行状況についてはマスターページも合わせてご確認いただければ幸いです。

 ※選択肢1と2は同時募集です。片方のみでも両方参加でもお好みでどうぞ!

 継続参加は勿論、途中参加や一点のみのスポット参加も大歓迎。
 いずれの選択肢も、判定・タイミング・状況次第では採用できない場合がある旨、ご了承いただければ幸いです。
 また、すべて『纏めて採用・纏めてリプレイ』となります。この点を御理解いただいていると判断できるプレイングを優先的に採用させていただきます。

●選択肢1:増援部隊を相手に一芝居打とう会(遅滞戦術)
 リプレイは『誰もいない廃村の小さな教会に重要クロノ・オブジェクトを隠し、それを護るために必死に戦う』場面からスタートします。
(『重要なクロノ・オブジェクトをディジョンへ運ぶ途中で敵に見つかり、慌てて近くの廃村に逃げ込んだ』芝居で敵増援部隊を誘引するのは自動成功で、この場面はリプレイでは割愛しますので【誘引のプレイングは不要】です)

 重要クロノ・オブジェクト(偽)は何もなければクレメンティアが楽しそうなものを用意しますが、皆様で、
『俺は敵を殲滅するビームが出る(という設定の)鼻メガネ持ってきた!!』
『私は巨大化して敵軍を蹂躙する(という設定の)うさちゃんぬいぐるみ持ってきた1!』
 みたいに(クロノ・オブジェクトではない普通の品物を)持ち寄るのも楽しいと思います!!
 偽物だから好きなだけトンデモ設定つくっていいよ!!
 なお、敗走を装っての撤退も自動成功します。

 ※この選択肢で戦う増援部隊もトループス級キマイラウィッチ『翼ある聖歌隊』で構成されています。
 彼女達は飛翔できるので【泥濘の地】は無効である旨、あらかじめ御留意ください。

●選択肢2:ディジョンのひとびとに笑顔を(群衆への演説)
 今回で最も重要なのは『ディジョンのひとびとの不安やストレスを和らげてあげること』です。
 前夜の落雷で尖塔が損壊した教会への【建物復元】の使用が必須。1LVあればばっちり元通りになります!
 あたたかいものや美味しいものを一緒に楽しむのもおすすめです! おすすめです!!
 後はOPを参考に、ディジョンのひとびとにしてあげたいことを、どうぞどうぞ皆様の御心のままに!!

 ※全面的に禁煙でお願いします。お酒は実年齢と見た目が20歳以上の方のみOK。

●選択肢3:👾ディジョン奪還軍のトループス級『翼ある聖歌隊』
 選択肢1&2リプレイの後に追加リプレイを公開しますので、そちらをご確認の上で挑んでいただければ幸いです。
 敵の容姿やパラドクスについては選択肢の説明を参照してください。
 がっつり撃破・殲滅をお願いします。

 ※彼女達は飛翔できるので【泥濘の地】は無効である旨、あらかじめ御留意ください。

 ※選択肢1をクリアしていない場合、判定が一段階悪化します。

●選択肢4:👿アヴァタール級との決戦『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』
 敵の容姿やパラドクスについては選択肢の説明を参照してください。
 がっつり撃破をお願いします。

 ※彼は飛翔できるので【泥濘の地】は無効である旨、あらかじめ御留意ください。

 それでは、皆様の御参加をお待ちしております。
142

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


ネリリ・ラヴラン
全土をすぐに取り返すのができない以上
皆が安全に暮らせる場所の確保はなにより大事になるからね
ディジョンにはけして手出しさせないよっ

意気込んでみたものの
まずは合流を遅らせないといけないので
倒すのより引き付けるのを重視して動くね

廃村の傍で身を隠しながら待機
通り過ぎてゆかれる際にわざと見つかって
追いかけさせるのが一歩目かな

高速詠唱で呼び出した蝙蝠達は
真正面から飛ばさずに廃村内の建物裏などを通し迂回させて
別方向からぶつけて起爆させるよ
警戒方向を惑わせながら、廃村内を走り回って逃げ撃ちね

貴方たちに渡す物なんてもうここにはないんだよ!
(教会をちらちら気にしながら)

必死なお顔で言っておけばよいかな
探されたら隠してる物なんて無いってすぐばれるとは思うので
既に持ち出して逃げている線も残しておきたいお気持ちだよ

ある程度引き付けて戦ったら
仲間いればお互いに会話・単独ならトランシーバ等で通信してる風に
ここはもう駄目…!いったん引いた方がいいわっ
と、そんな感じのノリで逃げようね

アドリブや連携は歓迎だよ


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
雑兵から、ジェネラルまで相手に芝居を打って来たが
この度は痛快な事になりそうだな
ディジョン防衛に役立つなら、喜んで乗ろう

仲間とはある程度手筈を合わせておこう
廃村の小さな教会の前に立ち
敵に相対し、戦闘態勢
焦った様子で教会を気にかけつつ

アレを守らないと……大変な事になってしまう
ディアボロスの秘中の秘……
アレを失う訳には行かないッ……

劣勢に動揺した様子で、仲間達と目配せを交わし

隠したのは……ブルゴーニュワインの年代物を一本
貴重なもののほうが、緊張感も乗るだろう
その傍に、複製画も一枚置いておこう

聖なる秘跡を記した絵と
飲むと攻撃を無効化する酒を生み出すオブジェクトの瓶だ

とにかく近づくものから攻撃し、防衛目的に見せ
窮地にならぬように程よく狙いを合わせ、敵を倒し
壁際に追い詰められていく演技
PDの演奏で炎を操り戦い
敵の聖歌には、己の演奏に集中しつつ、耳のピアスの囁きを聴いて
意識を保とう

こんな連中に渡すくらいなら……いっそ……
破壊して逃げるか
……いや、時間がないか……!
機を合わせ、離脱しよう


シル・ウィンディア
ディジョンの人達に信用されるにはまだまだ頑張らないとだね。
その為にも、確実に一つずつクリアーしていかないとね。

持ち込み物は銀色に輝く大型剣。
なんか神聖な雰囲気が出るように新宿島で作ってもらった模造剣。
まぁ、武装博物館の館長ですし?他にそれらしいものが思いつかなかったとかないんだからね。

設定は一振りで山を一刀両断!にできる力を持っているもの。
これがあればキマイラウィッチなんて…!

だから、この剣とかいろいろは、あなた達に渡すわけにはいかないからっ!!
…普通に綺麗だし(ぼそ)

攻撃対象は教会に近づこうとする敵を中心に倒さないように注意しつつ攻撃だね。
ついでに世界樹の翼type.Bの誘導弾で地面を撃って牽制も行っていくよ。
通常なら牽制は無駄になるけど、こういう時にはもってこいだよね。

じりじり防戦を行って…。
う、これ以上はさすがに…。
みんな、もう限界だよ、撤退しようっ!
とかなんとか言って、地面に誘導弾を連射して土煙を上げて目くらましにしてから離脱かな。


●アティレ
 ――火刑戦旗ラ・ピュセルを一挙に全土奪還!! なんて、現時点では到底叶わないことは百も承知。
 ――だからこそ、自分達がディジョンを確固たる拠点と成すことでひとびとが安全に暮らせる場所をも確保できるなら。
 ディジョン再制圧だなんて、絶対にさせないんだから!!
「来ないで! 来ないでったら!!」
 秋晴れの陽射しに美しく輝く黄金、鮮やかに黄葉した葡萄畑をなぞるように翔けていた『翼ある聖歌隊』達、先行している再制圧部隊へ合流せんとする増援部隊であるトループス級キマイラウィッチ達に仲間達と一緒にわざと見つかって、魔女達を廃村へ誘い込んだネリリ・ラヴラン(★クソザコちゃーむ★・g04086)は村人の気配が絶えて久しい集落を懸命な様子で逃げ回って見せる。ディジョン防衛への決意は胸の奥に秘め、蘇芳色の瞳には怯えの光をよぎらせて、
「……っ!! そう簡単に追いつかれたりしないんだから!!」
 狭い路地から広場へ跳び出せば『しまった!』と言うように動揺して見せ、意を決した表情で振り返れば嬉々として追って来る数多の翼ある聖歌隊を見据えて指先で描き出すのは宙に花咲く魔法陣。全ディアボロス中でもトップクラスの技量を誇る高速詠唱を一瞬で完成させれば即座に魔法陣から解き放つのは敵へ飛び掛からせて起爆する魔法の蝙蝠達、
 蝙蝠達が真っ向から襲い来ることなく明後日の方角へ舞う様を聖歌隊の魔女達は面白がって嘲笑したが、
『何処を狙っていらっしゃるのかしら? って、きゃあっ!?』
『やってくれますわね、これは甚振り甲斐がありそうですわ! 存分に復讐して差し上げます……!!』
 誰も水を汲まなくなった井戸、何年も火を焚かれることなく冷えたままの共同パン焼き窯、左右へ展開しそれらを迂回した魔法の蝙蝠達が翼ある聖歌隊達の死角から彼女達に飛び掛かると同時にネリリが起爆。盛大なる爆発で魔女二体を呑んだのは蝙蝠達の飛行経路を指示する術式を織り込んだ星なき夜の交響曲(ルナティック・シェル)、精鋭ディアボロスたるネリリの術は苛烈な威力で敵勢に強打を与えたが、それも窮鼠猫を噛むようなものだからこその威力だと彼女達は思ったのだろう。
 体感ではタイムラグがあるように思えてもそれは時空の歪みゆえ、逆説連鎖戦では攻撃と反撃は同時に発生する。
 ゆえに逃げながら一方的に攻撃するという意味での逃げ撃ちが不可能であるのはネリリも承知の上、
 怯えて逃げ回るネリリの演技ですっかり調子に乗った魔女達は血塗れになりつつも反撃の邪悪なる聖歌を浴びせて、狂気と殺意に満ちた歌が精神を苛むのを堪えてネリリは広場の先の通りに跳び込んではまた駆ける。当然ながら追手は次々と増えていくがそれこそが敵を惹きつけんとする彼女の狙い、秋晴れの陽射しで銀にも煌く灰の髪と紫のリボンを靡かせて、
「貴方たちに渡す物なんてもうここにはないんだよ!!」
 廃屋の庭に残る果樹を、嘗て鶏達が飼われていただろう小屋を鋭い軌跡で回り込ませた魔法の蝙蝠達を敵の横合いや背後で思いきり爆発させ、それでも追って来るキマイラウィッチ達に必死な表情でそう言い募りながら蘇芳色の眼差しをちらちらと教会に奔らせて見せれば、聖歌隊達の顔には獰猛な悦びの笑みが広がって。
『あらあら、そんなに必死になって、可愛いこと』
『私達を欺こうとしても無駄ですわ、あちらに大切なものがあるって、貴女の瞳が教えてくれていますもの……!!』
 演技下手な自覚があるネリリだったが防衛の固い決意が必死さの演出に役立ったのだろう、彼女が必死に誤魔化そうとした『重要なクロノ・オブジェクト』の隠し場所を自分達が看破したと思い込んだ魔女達はいっそう調子づいて、いかにも『この中に大事なものを隠してきました』といった風情の少女と青年が扉から出て来た教会めがけて一気に翔けた。
 ――ネリリさん、ナイス視線!!
 思いきりそうサムズアップしたい気持ちを青空の眼差しと蒼穹の眼差しだけで伝えつつ、
「わわっ! この教会にアレを隠したの、もうバレちゃった!?」
「アレを護らないと……大変なことになってしまう。ディアボロスの秘中の秘――アレを失う訳には行かないッ……!!」
 表情と声音にはめいっぱいの動揺を咲かせたシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)が慌てた素振りで構えた白銀の杖が長銃へと変じれば、一瞬で蒼白になって見せたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)も切迫した声音に焦燥と決死の覚悟を滲ませ、扉を護るよう蒼穹の翼を広げ魔楽器たるヴァイオリンを構えて敵勢に相対する。
 翻ったのは白銀の銃口と渡り鳥たるヴァイオリンを情熱的に歌わせる弓、
「それでも絶対に! わたし達はあのクロノ・オブジェクトをディジョンに届けるんだからっ!!」
「ああ、俺達が運んできたアレこそがディジョンの希望、防衛の要(かなめ)!! 何としても届けてみせる――!!」
 青空の瞳が強気に煌けば幾重にも銃口から爆ぜる光と音とともにシルが教会正面へと弾幕を張るよう地面めがけて誘導弾を連射して、蒼穹の瞳に銀の煌きがよぎれば熱く激しくエトヴァが奏で上げた舞曲が煌く炎を生み、猛る火焔の嵐を迸らせて。
『ふふ、そこにありますのね? 貴女が華奢な腕で大事に抱えて運んでいた、荘厳な銀の大剣……!!』
『まあ! 秘中の秘で防衛の要だなんて、嬉しくなってしまいますわ! あの絵画を切り刻んでワインを割れば……!!』
『ああ、ああ!! 貴方達ディアボロスはどんなに素敵な絶望の表情を見せてくれることでしょう……!!』
「そんなこと、させない……っ!!」
 飛翔できる魔女達相手に地面狙いのパラドクスならぬ牽制射撃は意味を成さなかったが、彼女達には窮地に追い詰められた獲物の必死の足掻きと見えたのだろう。常に目蓋を伏せがちな『翼ある聖歌隊』達も今や確と目蓋を開き爛々と瞳を輝かせ、己の髪も肌も激しく焼き焦がして猛る火焔の嵐を突き抜けて、翼で舞うとともに浴びせかけるのは邪悪なる聖歌。
 なれど続けざまの高速詠唱とともに己が背に光の翼を咲かせたシルが火焔を突き抜けてきた魔女達の只中で凍てつく吹雪を巻き起こした。猛る火焔に邪な聖歌に荒ぶ吹雪、激突する幾重もの力が爆ぜて三体の聖歌隊が散り果てるが、ディアボロスへ復讐する好機とあって、魔女達は同胞達が斃れるのにも構わず嬉々として教会へと襲い来る。
 だが唐突に派手な爆発で新手の魔女達を呑んだのは、あらぬ方向から飛び掛かってきた魔法の蝙蝠達。
「シルちゃん!! エトヴァさん!! こうなったらわたしも……!!」
「うんっ! ネリリさんもこっちで一緒にっ!!」
「ああ、ここで何とか凌ぎきるしか無さそうだ……!!」
 己とシルが燈した二重の【飛翔】の速度を活かし、低空飛翔で幾つもの民家を回り込んできたネリリが『教会が隠し場所であることを誤魔化そうとしたが、失敗した』と敵には見えるだろう切迫した表情でシルとエトヴァに合流、皆で揃って教会を護るのだと主張するようその正面に立って見せれば、
『あらあら、本当に皆様、一生懸命ですこと! 余程素晴らしいクロノ・オブジェクトなのでしょうね……!!』
『あの銀の大剣を砕いて、あの絵画を切り刻んで、あのワインを叩き割るその瞬間がこの上なく楽しみですわ……!!』
 眼前のディアボロス達を嬲り殺すだけでなく、そのディアボロス達が必死に護ろうとしている大切なものも破壊するという二重の復讐の機会、滅多にない御馳走をぶらさげられたキマイラウィッチ達は再制圧部隊への合流より何よりも今はこちらが最優先とばかりにいっそうの歓喜もあらわに夢中になって術を繰り出してきた。
 それもこれも青き精霊術師と蒼穹の天使がそれぞれ用意した『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』を敵にわざと見つかりこの廃村に逃げ込むまでチラ見せを装って確りと見せ、教会に隠したそれの重要性を思いきりアピールしているがゆえ。
 重要クロノ・オブジェクトを運んでいるように見せかけるけれど、実際には何も運んでいない――そういう作戦だと思っていたネリリだが、実のところ初めから、誰かがそれらしい物品を持ち込むか時先案内人が用意するという作戦だった。情報の確認は大事よねと改めて胸に刻んで、銀の指輪を煌かせつつ描く魔法陣から強大な魔力を秘めた蝙蝠達を解き放つ。
 秋晴れの空から舞い降り様に魔女達が一閃する大鎌、彼女達の祈りとともに天上から降り注ぐ閃光の槍、
 翼で翔けつつ歌い上げる狂気と殺意に満ちた邪悪な聖歌、数多の『翼ある聖歌隊』達の猛攻を凌ぎつつ、
「流石にやるね、あなた達!! だけどあの大剣をディジョンへ届けたならわたし達の完全勝利は決まりだよ!!」
 必死の防戦を演じて見せるシルが思い浮かべるのは後背の教会に隠した銀の大剣。
 聖別されたかのごとく清らな銀に輝く大型剣は新宿島で作ってもらった模造剣だけれど、突貫作業で作成されたとは思えぬ程に荘厳な装飾に彩られた大剣は合成宝石だからこそ青く深く一切の不純物なく煌くブルークリスタルを嵌め込まれて、秋の陽射しに掲げてみれば飛びきり神聖な雰囲気で輝いてシルの心を躍らせたから、めいっぱい設定も盛ってみた!!
「あの銀の大剣が儀式で力を得たら、たとえキマイラウィッチがどんな大軍で来ようと目じゃないんだからっ!!」
 そう!!
 護るべき地の中心であの銀の大剣を天に掲げれば、天から降り注いだ虹の光が青水晶を虹水晶へと変え、
 銀の大剣は一振りで山をも一刀両断し、たとえ数十万の大軍であろうと一瞬で殲滅する力を得るという(設定)……!!
『まあ! まあ!! そこまで聞いたらなおさら見逃すわけにはいきませんわ!!』
『ええ! ええ!! 儀式なんてさせやしませんわ!! ディジョンへ届けさせてなんかあげるものですか……!!』
 強大な魔力を聖歌隊達に見せた青き精霊術師、魔術知識に長けたシルが堂々と『わたしがかんがえたさいきょうのくろの・おぶじぇくと』の能力を語れば魔女達はまったく疑うことなく素直に信じてひときわ喜色満面。なお大剣は儀式で力を得ると強調したのは『そんなに強力なクロノ・オブジェクトなら今すぐ使えばいいんじゃ?』と不審に思わせないためである。
 ――流石はシルちゃん、とっても幻想武装博物館の館長さんらしい『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』ね!!
 ――ま、まあね! 剣の他にそれらしいものが思いつかなかったとかそんなんじゃないんだからねっ!!
 眼差しだけでネリリとそう言い交わしたシルはいっそう強い決意に煌く青空の瞳で敵勢を見据え、
「というわけで!! あの銀の大剣も絵画もワインも!! あなた達には絶対に渡さないんだからねっ!!」
 だって銀の大剣は綺麗だし絵画は壮麗だし、お酒のことはよく分からないけどワインはとっても高そうだったから!!
 なんて続けた呟きを巧みな高速詠唱に紛らせて、宙に咲かせた精霊魔法陣越しに白銀の銃口から撃ち放つのは光と水と風の精霊魔法を融合させた魔力の結晶。欣喜雀躍して我先に襲い来る『翼ある聖歌隊』達のまっただなかで炸裂したのは、強大な竜の息吹のごとく激しく猛り荒ぶ苛烈な吹雪、凛冽な煌きと凍てる雪花が轟と渦巻く、
 ――竜雪光風撃(ドラゴナイト・ブリザード)!!

●ヴァンジャンス
 ――雑兵からジェネラル級まで様々な敵を相手に芝居を打って来たが、
 ――この度は痛快なことになりそうだな。
 連綿と紡がれてきた人類の歴史を勝手に切り取り大地とともに強奪したのは自分達でありながら、ディジョン奪還軍などと名乗って侵攻してくるキマイラウィッチ達に一泡吹かせてやれるなら、ディジョン防衛に最も熱心なディアボロスのひとりと間違いなく言えるエトヴァも歓んで一口乗ろうというものだ。夏のニコラ・フラメル撃破からディジョン解放、そして今回のディジョン拠点化作戦まで一連の提案を攻略旅団に挙げた身として、提案を支持してくれた皆や作戦実行に赴いてくれた皆の心を無にしないためにも、そして、ディジョンのひとびとに魔女達の脅威を及ぼさないためにも。
 必ずやディジョンを護り抜くと心に燈した情熱を、迫真の演技へと昇華する――!!
 廃村とはいえ嘗ては村人達がミサに集っただろう教会の前で魔女達の邪悪な聖歌を聴く羽目になろうとはな、なんて苦笑は胸の裡にとどめて、狂気と殺意に満ちた歌声が数多の油彩絵具をぐにゃりと掻き混ぜるように意識を混濁させて捻じ伏せんと襲い来る様には古色艶めくヴァイオリンの弦を押さえる指と弦に踊らす弓持つ手に意識を凝らせ自身の演奏に集中することで堪え、狂気に濁る歌声のなかでも清冽に響く涙型のセレストグラスのピアスの囁きに耳を澄ませて心も澄ませ、
「何という恐ろしい歌だ……! だが、アレさえディジョンへ届ければ、俺達は儀式で無敵の力を得ることになる……!!」
 己の術を冴え渡らす技能のみならず敵の術の冴えを相殺する技能も磨きあげてきたエトヴァは聖歌の威をあっさり半減!
 然れども聖歌が精神攻撃であるのをいいことに桁外れの演技技能を活かした苦悶の表情と声音で大きな痛手を負ったように見せかけつつ、何としても『アレ』を護るのだという情熱を迸らせるよう奏で上げたTango Flama(タンゴ・フラマ)が激しい律動そのままに猛らせる火焔を痛烈な反撃の嵐と成して魔女達を呑み込んで、
 情熱的に奏で続ける舞曲を巧みな技能で僅かに抑えつつ、歌唱に長けた声音でさりげなく朗々と響き渡らせるのは己がさも大切そうに見せつつ運んで来た『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』の偉大なる素晴らしさ。
 最後の晩餐に由来する聖体の秘跡――祭壇へと捧げられて聖別されたパンとワインをキリストの体と血として拝領する様を描いた絵画(の複製画)とともに教会内に隠したのは、短時間で奇跡的に探し当てられた年代物のブルゴーニュワイン。
 流石に有名ドメーヌやグラン・クリュのワインを用意することはできなかったが、それでも『最高の年』と絶賛されているグレートヴィンテージのひとつ、1978年物のブルゴーニュワインを持ち込むことが叶ったから、
 ――ねね、エトヴァさん。もしかしてあのワイン、ものすごーく貴重なものだったりしない?
 ――ああ、シルさんの仰るとおり、ものすごーく貴重な品だ。そのほうが演技に真実味ある緊張感が乗せられるかと……!
 自身は呑めずとも彼のワイン好きを識るシルが気遣わしげな眼差しのみで訊ねるのに微かな頷きのみでそう応え、聖歌隊に向けて語るのは勿論運んで来た品の正体ではなく、強力な秘密兵器としての設定のほう。飛びきり貴重な品であるのは真実であるがゆえ、それを奪わんとする敵を見据える蒼穹の眼差しはひときわ緊迫感を帯びて冴え渡り、グレートヴィンテージ物のブルゴーニュワインへの純粋な賛嘆を『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』の力を語る表情と声音に隠すことなく表せば、蒼穹の天使が紡ぎ出す言の葉に完全無欠の説得力が花開く――!!
「ディジョンへ攻め寄せんとする軍勢はじきに思い知ることになるはずだ、あの秘密兵器の聖なる秘跡の力を……!!」
 そう!!
 あの絵画をノートルダム・ド・ディジョン教会の祭壇に掲げれば、薔薇窓から降り注ぐ光がワインボトルに満たすのは、
 呑めばあらゆる敵の攻撃を、たとえ断片の王からの攻撃であろうと完全に無効化できる神の酒だという(設定)……!!
「教会の儀式でディジョンの仲間達とともに神の酒を呑めば、断片の王ジャンヌ・ダルクだとて俺達の敵ではない――!!」
 嗚呼、『俺のかんがえたさいきょうのくろの・おぶじぇくと』の設定を敵に向け堂々と、朗々と語るのがちょっぴり気持ち良かったのはここだけの秘密! 1978年という表記に注目されるのはありがたくないかもと思って、ワインのエチケット――即ちラベルをひっそりコレクションして、絵画に合わせた自作ラベルに変えておいたのもここだけの秘密だ!!
『『な、なんですって……!!??』』
 途端に『翼ある聖歌隊』達の間を雷に打たれたかのごとき衝撃が駆け抜ける!!
『くっ!! ジャンヌ様の攻撃さえ無効化するなんて秘密兵器がディアボロス達にあったなんて……!!』
『それほどの秘密兵器を幾つも作り出せるはずがありませんわ! ならば私達が破壊して差し上げたなら……!!』
『ええ、ええ!! ディアボロス達を絶望の底へ叩き落とせること間違いなしですわ!! さあ、復讐を! 復讐を!!』
「俺達の希望の光に、そう簡単に触れさせると思うなよ……!!」
 こうまで完全に信じ込んでくれるといっそ清々しい。何やら達成感のようなものも感じたけれど勿論それは胸の裡に秘め、必死の抵抗を演じるエトヴァが復讐の悦びに沸き立つ魔女達の声音を掻き消すように鮮烈なグリッサンドをヴァイオリンから響き渡らせたなら、鋭いスタッカートで刻む律動から湧きあがる情熱と躍動の旋律が生み出す壮絶な灼熱に輝く炎が猛然たる火焔の嵐となって、一気に呑み込んだキマイラウィッチ達三体をその命と反撃ごと焼き尽くした。
 同時に蒼穹の天使の裡で花開くのは、ネリリとシルが燈してくれていた二重の【グロリアス】の大きな癒し。
 ――倒すのより惹きつけるのを重視して動くつもりのネリリだったが、
 ――倒さないように注意しつつ攻撃するつもりのシルだったが、
 蒼穹の眼差しで二人へ目配せするエトヴァが確と把握しているとおり、この増援部隊の合流を遅らせた上で『ある程度その数を減らす』のも今回の任務での遅滞戦術の目的だ。トループス級と言えども相手はなかなかの手練れ、頭数が揃ったままの増援部隊を再制圧部隊に合流させてしまえば本番で苦戦を強いられることになるのは目に見えている。
 それならば、
「ここで出し惜しみをするわけにはいかないわ!!」
「だね!! ディジョンでみんなが待ってるんだもん、ここで躓いてなんかいられないっ!!」
 死中に活を求める決意を固めた演技でネリリが蘇芳色の眼差しで毅然と魔女達を見据え、絶対に希望は失わないとばかりに強気な光を青空の瞳に燈したシルがそれらしい台詞で決めれば、乙女達が咲かせた魔法陣から解き放たれたのは魔法の蝙蝠と凍てる吹雪。鮮烈な爆発と苛烈な吹雪に凶悪な聖歌が小さな教会の前で激しく荒び交錯し、数多の魔女の羽毛も吹雪のごとく散るなか更に二体の聖歌隊が大地に散るが、
『ああ、ああ! 死に物狂いで抵抗するほど重要なクロノ・オブジェクトというわけですわね……!!』
『ええ、ええ! それなら、復讐の志半ばで斃れた同胞達の犠牲、決して無駄にはしませんわ……!!』
 眼の前の獲物達が必死に護ろうとする品々が仲間達を犠牲にしてでも奪う価値のあるクロノ・オブジェクトだと思い込んだ魔女達は更に爛々と瞳を輝かせ、復讐の悦楽と高揚のままにいっそう猛然たる勢いで襲い来るが、対するディアボロス三人は揃って限界まで己を高めた精鋭中の精鋭だ。エトヴァが燈した反撃強化の加護で敵攻撃の威を鈍らせ、ネリリとシルが燈した【グロリアス】で痛手を癒す三人の継戦能力は残留効果がさほど積み重ねられていないこの段階にしてはかなり高い。
 だが、
 獲物の首を狙う大鎌、獲物を貫く閃光の槍といった物理的な攻撃もあれど、三人が最も数多く受けた術は敵攻撃のみならず自分達の攻撃への反撃として幾度も幾度も響き渡った邪悪な聖歌。物理的な傷は癒えても精神攻撃たる聖歌で精神的な深手を負っているかのごとく見せかけて、苦悶の表情を浮かべ、肩で息をしつつ、魔女達の猛攻に押されて徐々に劣勢となっていく様を演じるのは難しくはなくて。
 毒々しいサイケデリックな色彩を脳内で渦巻かせるような狂気の聖歌が幾重にも響き渡る戦場で、輝ける光の翼を張り詰め続けていたシルが苦痛に顔を歪める演技で弱々しく翼を震わせ、
「う、これ以上はさすがにもたないかも……!!」
 邪悪な聖歌が狂気と殺意の色彩を叩きつけ、此方の意識を塗り潰さんとする悍ましさに歯を喰いしばって見せたエトヴァが如何にも無念そうに後背の教会へ蒼穹の眼差しをちらりと奔らせて、
「こんな連中に渡すくらいなら……いっそ、俺達の手で破壊すべきか……!!」
「流石にその余裕もないと思うよ! ここは今すぐ退いたほうがいいわっ!!」
「うん、もう限界ギリギリだよね! 悔しいけど、悔しいけど……撤退しよう、みんなっ!!」
 護り切ることができず慙愧に堪えない――といった態で口走って見せれば、咄嗟に合わせたネリリが切迫した声音で仲間に呼びかけると同時に完成させる高速詠唱。魔法陣から羽ばたいた蝙蝠達が一瞬の旋回で敵勢の只中へ飛び込んで派手に爆発、続け様に白銀の銃から地面めがけてシルが連射した誘導弾が目眩しとばかりに盛大な土煙を上げれば、
「ああ、こうなったら仕方がない……!!」
 苦渋に満ちた声音とともにエトヴァが迸らせたヴァイオリンの音色から湧きあがる激しい焔が灼熱の輝きとともに土煙を更に舞い上げて、反撃の聖歌が響けど防御より撤退を優先した三人は二重の【飛翔】の全速で一気に廃村を離脱した。
 複製画とは言え己が筆による絵画を、1978年物のブルゴーニュワインを敵の手に渡らせることになるのかと思えば真実断腸の思いであったから、『限界まで力を尽くしたが、護り切れなかった』という無念と、それほどまで重要な品を残したと魔女達に思わせる蒼穹の天使の演技は完璧なものであった。
 硝子そのものの歴史は紀元前まで遡るが、硝子瓶がワインの容器として一般的になるのは火刑戦旗ラ・ピュセルの時代より数世紀は先の話。それでもあのボトルが魔女達に酒の容器と認識されたことに安堵しながら、今頃嬉々として突入した教会で『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』を探しているだろう聖歌隊達の様子を想像しつつエトヴァは微笑する。
 彼女達がその場で『ディアボロス達が必死に護ろうとした重要な秘密兵器』を破壊して、
 存分に復讐してやったと思い込んでくれるならその復讐心を弱めることになるし、あるいは――。
「いずれにせよ、御二人の【グロリアス】のおかげで予想以上に粘れて増援部隊の数も減らせたし、大戦果を挙げられたな」
「そっか、そもそもエトヴァさんの提案が増援に遅滞と分断を仕掛けて撃破だったものね。それならばっちりだわ!」
「だねっ! それじゃあこのまま、ディジョンまで急いでいくよっ!! あっちでも頑張っちゃうからね!!」
 作戦を把握しきれていなかった自分ひとりでは善戦はできても作戦の成功まではいかなかっただろうと思いつつ、仲間達と挙げた大戦果に声音を弾ませたネリリが安堵の笑みを咲かせれば、溌剌たる笑みを花開かせたシルが青空の眼差しをまっすぐディジョンへと向けた。今の戦いで負った痛手も、市街での任務を終えて本番の戦いを迎えるまでには完全に回復する。
 ――不安と不信を抱いているディジョンのひとびと全員の心を一気に変えられるなんて思っていない。
 ――だからこそ、今できることを確実に、ひとつずつ。
 
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV2が発生!
【水中適応】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV2が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!

空木・朱士
アドリブ連携OK

裏に企みのあった天使だったとしても守られていた安心感を失くした後だと
やっぱり不安にも疑心暗鬼にもなるよな。
拠点化出来たら良いだろうけど、何よりも先ずはここの人達が安心して暮らせるようになるのが一番良い。

いつものスカジャンだと威厳とかないかー。
折角だからこの時代の服装にマントを合わせたら雰囲気出るかな。

仲間の演奏や歌の演出の中、街の人達の視線をしっかり引き寄せ教会の前で恭しく一礼をしてみせてから尖塔を【建物復元】

皆が作ってくれた料理の配膳を手伝ったり【口福の伝道者】で増やしたり。
小さい子供達に囲まれてじっと見られてると…た、食べにくいな。

仲間が心を込めて作ってくれた料理は温かいだけじゃなくて安心する味がするから沢山の人に食べてもらいたい。

ここまで来られなさそうなお年寄りとかにはこっちからお届けに行っちゃおう。
それから、ゆうるり手を擦りながら大丈夫だよ、って。

俺達ディアボロスは誰も見捨てたりしない。
皆に笑顔になって欲しいんだって。
すぐには無理でも、分かってもらえたら良いな。


シル・ウィンディア
アイテムポケットに、携帯コンロ、大きなお鍋、お野菜にハムを用意。さらに竪琴も持参するよ。

現地についたら、まずはお料理の準備からかな。
鼻歌混じりにポトフを作っていくよ。
やっぱり、温まれる食べ物はとっても大切。
お野菜たくさんのスープなら食べやすいと思うしね。

出来たら、マジカル・アリア・デバイスも使って呼びかけるよ。
ご飯できたよー。よかったら取りに来てくださいなー。
あとは、ディジョンの人達に配っていくよ。
熱いから気を付けてね?

美味しいものを食べたあとは…。
竪琴を弾いていくよ。
合せられるなら、みんなと一緒の合わせて演奏していこうかな。

演奏しながら、歌いながら…。
最初は戸惑うと思うけどね。
でも、みんな、声出して歌ってみようか。
不安もあるかもしれないけど、歌って声出して…。
それだけでも、少しは晴れるものが出てくると思うから。

上手い下手なんて関係ないよ。
みんなで楽しく、心のままに歌えば大丈夫っ!

歌い終わったら、子供達に声をかけてみるね。
歌ってみてどうだった?少しは楽しめたかな?


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ◎

耳目を誘うよう、Wandervogelを演奏
序幕は雷の如く
其れは甘美な旋律を描き、奇蹟と成る

雷は神罰の如く恐れられたものだが
それは、奇蹟の序章なのだと告げるように

飛翔して屋根の上で演奏
尖塔の建物復元に合わせて
羽搏き、籠一杯に持込んだ花を、祝福と降らせよう

口福の伝道者を共有
住民達へ食事を増やし配り、共に親しもう

秋も深まり、温かいものが沁みるな
パン・デピスは懐かしい香りのを持ち込み
食べ比べを楽しんでもらおう

ショコラ・ショーを作れば
魔法の飲み物に映るかも
強すぎず、甘くして子供たちにも振舞おう
乾燥果実を浸しても美味いんだ
きっとパン・デピスにも合うよ

落ち着いたら
一人一人の名を尋ねよう
呼びかけて、話を聞こう
不安でも、日常事でも、今何を感じるかを……

同じ目線であろうと思う
信頼が生まれるなら
魔女達を倒す、の言葉も自ずと届く

安心して。俺達は強いよ
でもそれだけじゃない…
俺達は、ここに、人としてある
日々の暮らしの尊さを知っている

この街を守る
そして、この国の空を憂いなく晴らす……
そのために来たんだ


伊吹・祈
此れより降臨する奇跡へ導くべく
テノールの聲で披露する救済のアンセム
召喚したアバターの小鳥達を指揮し行うは、教会への視線誘導
重なる四葩くんの旋律を合図とし【勝利の凱歌】を、この大地へ
次なる演出と奇跡へ託しましょう

久しぶりですね。肩を並べてキッチンに立つのも
あなたにとっては幾分前になるのだったか
持参し切分けるはグエロン(Gouéron)の名の林檎ケーキ
四葩くん、味を見てくれるかい
返る聲には口角のみ僅か上げるいつもの笑みにて

手掛け切分けた菓子で子供等に笑顔が戻る事を願い乍
不安を照らす光に成れずとも
恐怖を覆う翼には成れずとも
隣人の話を聞く事は出来ますから
あなた方が感じ得た物。惑い、不安、懼れを――僕は識りたい
伊吹を名乗り脅える手を握る。願わくばどうかあなたの名と、その胸に渦巻く不安を背負わせて下さい
魔女に脅える老人の奥底には大切な方を奪われた経緯が根付くのやも知れない
話し難いのであれば無理強いはせずに

僕も奇跡によって救われました。次は僕が救済の御手を差伸べる番だ
魔女から護ると――己が存在に誓おう


四葩・ショウ
無意識の不安を擁く乙女へと
跪いて手を伸べて
――可憐なレディ、教えてくれないかな
貴女の心が曇る、その理由を

だいじょうぶ
わたし達が奇跡のちからで直してみせるよ
だって――わたしは、ディアボロスのショウ

せんせい(伊吹さん/g10846)の聖歌を追いかけて
ハーモニーを重ねるワンフレーズ
あと奇跡のフィナーレをひかりの花火で彩れたら

アウトドアキッチンを組み立てて
ホットミルクを作って振る舞おう
仕上げのひとさじは
ハニージンジャー?オレンジジャム?
今日の皆のこころ次第!

せんせいの言葉に
マドレーヌの香りが広がる気がした
ふふ、そうですね
あの頃のわたしは
みているだけでしたけど
なんて花笑みを向けて
! その役目は譲れませんっ

王様が率いるディアボロスはね
一度は魔女に囚われてしまった
でも、
わたし達とリヨンを脱出したの
王様達が
勇気を出して信じてくれたから

だいじょうぶ、不安な時は
わたし達を、呼んで

たすけてショウ――って

神様でも
ディアボロスでもなくて
その胸にいちばんひかる、名前を
どんなことがあっても
わたし達はいなくならないから


ソレイユ・クラーヴィア
人々の心が少しでも軽くなるよう、出来るだけのことをしたい

保存食や冬に備えての暖かい服などの支援品と共に
牛肉のワイン煮込みとパンデビスを持ち込みましょう
温かい食事は何よりお腹と心を温めてくれます
不安はあれど、お腹が空くのが人間ですからね

私はディアボロスのソレイユ
皆さんの支援とこの街の守護をすべく参りました
良ければ皆さんに温かい食事を振舞いたいのですが
十分な広い場所はあるでしょうか?
もし良ければ配膳を手伝って頂けませんか、と声をかけ
人々との交流の切っ掛けになれば幸い

口福の伝道者で増やした食事にバケットを添えて配りましょう
共に支度し、共に食す
私達ディアボロスは皆さんと共にあります

食事が落ち着けば、鍵盤を出して讃美歌を奏でましょう
彼らの生活は祈りと共にある
その祈りの先が大天使ではなく、正しき信仰に向くように

私はディアボロスではありますが、元はただの音楽家です
戦う力を得たのはきっと、皆さんのような魔女に虐げられる人々を助けよという啓示なのだと思うのです
だから私は皆さんを決して見捨てたりはしませんよ


アヴィシア・ローゼンハイム
塔が壊れてしまったのね……でも、大丈夫、さあ、彼方を見て?
不安に怯えている人々に、優しく声を掛けて
目線を誘うように指をさし
今から行われるのは奇蹟の御業
建物の修復と仲間に合わせてハープを演奏
成された奇蹟を幻想的に飾りつけ
ほら、大丈夫だったでしょう?なんて、軽くウィンクしながら微笑みかけて

修復が終われば、人々の楽しみのためにヴァン・ショーを作りましょう
小鍋にワインにハチミツを入れたら弱火でことこと
シナモンとかレモン、オレンジは入れる?貴方の好みも知りたいわ
作っている最中も、安心させるよう、世間話等をして交流を

もう一つ、楽しみになればと持ち込んだパンデピスも差し上げて
クルミにオレンジなんかが入った、ちょっとリッチな物
甘いものがあれば、きっと心も上向きになれるから

沢山のことが立て続けに起こって不安でしょう
どんなことでもいい。その不安を、よかったら私たちに話して貰えないかしら
不安をすぐに解消することはできないけれど、話すことで、少しでも気持ちが晴れることがあると思うから


●エクレール
 ――美しい街だった。整然たる街並みだった。
 ――だからこそ、昨夜の落雷で尖塔が損壊した教会の痛々しい姿がいっそう際立っていた。
 教会のような公共性の高い建物は石造りの物が多いと思えたが、民家や商店といったディジョンの街並みを構成する多くの建物は美しい木材の骨組み(フレーム)を外壁に露出させたハーフティンバー様式、フランス語でならコロンバージュ様式と呼ばれる造りのもの。濃い色合いの木材が純白の漆喰壁に映える骨組み(フレーム)は秋晴れの陽射しにセピアやブラウンというよりもバーガンディの彩に艶めいて、
「これぞブルゴーニュ、これぞディジョン――だな」
 葡萄酒に由来する名前を持つ色彩のうちでも際立って深みのある、紫味を帯びた暗色の赤、ブルゴーニュの英名で呼ばれる色彩を蒼穹の瞳に映して市街を歩んできたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、尖塔が無残に損壊した教会の前へと辿り着けば、祈りの場の痛ましい姿を振り仰いで瞳に憂いの銀の煌きをよぎらせた。
 だがそれも一瞬のこと。仲間が燈してくれる効果で教会が元の姿を取り戻す未来は確定しているから、その光景に一人でも多くのディジョンのひとびとに立ち会って貰えるようにと構えるのは古色艶めくヴァイオリン。渡り鳥たるこの愛器も今日はバーガンディの彩に艶めいて見えるだろうかと思いながら、秋風を斬り裂くように奏でるのは、
 ――アントニオ・ヴィヴァルディの『四季』、
 ――第一番の『春』で奏でられる雷鳴に着想を得た、激しい雷の轟きを思わす音色。
 蒼穹の天使の意を察すればソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)も『まずは落雷で損壊した教会の尖塔を【建物復元】で元どおりにしてあげるところから』と時先案内人が語った言葉を思い起こし、夜空で手甲を覆うような指ぬきグローブ型のVR楽器を調整すると同時に秋風へ光の鍵盤を花開かせた。VR楽器ゆえに調整次第で音色は自在、
 弦楽器の多重奏で音色を咲かす光の鍵盤に幻想ピアニストの十指が奔れば春雷の轟きめく多重奏が響き渡り、眼差しのみで彼と意を交わした蒼穹の天使はヴァイオリンの独奏で表現される稲妻の閃きを弦に鋭く躍らす指と弓で鮮烈に奏で上げた。
 着想の元となった協奏曲は火刑戦旗ラ・ピュセルの時代にはまだ存在していない曲。原曲を識らないからこそひとびとは、桁外れの演奏技能を備えたエトヴァとソレイユが奏でた音色により鮮やかな稲妻と雷鳴を感じ取って、
「え!? ディアボロス!?」
「これ……雷の音楽!!??」
「なんだなんだ!? 一体何が始まるんだ……!?」
 元より教会の前につどっていたひとびとも新たに集まってきたひとびとも不安げに言葉や眼差しを交わし始めれば、教会の前には更に続々とディジョンの市民達が増えていく。数多のひとびとのうち、より教会の近くで蒼褪めて立ち竦んでいる己と同年代らしき乙女が予知の光景で語られていた『若い娘』だと察せられたのはきっと、
 四葩・ショウ(After the Rain・g00878)の左耳を彩るピアスがサファイア・ブルーに煌かせる幸運の賜物だ。
「――可憐なレディ、教えてくれないかな。貴女の心が曇る、その理由を」
 凛と背筋を伸ばし、颯爽たる足取りで歩み寄った中性的な美貌のショウが己の眼の前で跪き、心から気遣わしげな花の色の眼差しで自分を見上げて来る様に青灰色の瞳の娘は僅かに眼差しを揺らしたものの、瞳を逸らしきることは叶わずに。
「……っ!! だって昨夜の雷が、尖塔を壊した雷が、大天使様達が追い払われたことへの神様のお怒りに思え、て……」
 思わずといった態で吐露したのはきっと、彼女が胸の奥に押し込めていただろう本当の気持ち。
 不安な日々を送るなかで偶然起こった自然現象。それが神の怒りであるのかもとふと思い至った途端、キマイラウィッチの襲来も神罰であるかのように思えてきたのだろう。聖書に語られる、神がエジプトに齎した蝗害のように。
 幼い頃から聖歌に親しみ、聖書に語られる教えや逸話にも親しんできたショウには眼前の乙女の不安も怯えも手に取る様に理解できたから、真実彼女の手を取るべく己のそれを伸べたなら、秋風にふわりと舞ったのは透きとおるアクアノートに春を咲かせる淡く初々しい、甘く優しいマグノリアの香り。知らぬ花の香りにも春を感じたらしい娘が青灰色の双眸を瞬けば、
 ――だいじょうぶ。神様はお怒りじゃないってこと、見せてあげる。
 ――わたし達が奇跡のちからで、あの尖塔を直してみせるよ。
 花の色の眼差しを和らげながらも揺るがぬ意志を込めた笑みでそう告げて、
 歌唱に長けた、凛と通る声音で名乗る。
「だって――わたしは、ディアボロスのショウ」
「ディアボロスの……ショウ」
 魔法と呼ばれるものは数多存在するけれど、ひとの名前こそは最も根源的にして誰もが使える特別な魔法だ。
 ただ『ディアボロス』として認識していた相手を『ディアボロスのショウ』と認識するだけで、たちまち彼女の胸の裡には颯爽たる王子様然とした振舞いで心から親身に気遣ってくれるディアボロスの『ショウ』が鮮やかな輪郭を持って息づいて。私はアンジェリーヌ、と名乗った乙女がその手を取ったなら、ひときわ優しい微笑みを花開かせたショウがアンジェリーヌの手を恭しく取ったまま立ち上がる。
 絵画や歌劇のごとき光景に双眸を細めればエトヴァの蒼穹の瞳に躍るのは歓びの銀の煌き。
 期せずしてショウが纏う香りが春を告げたとおり、ディジョンのひとびとの多くが口には出さずとも神罰だと恐れただろう雷が奇蹟の序章であったのだと告げるよう、雷鳴と稲妻を奏でたヴァイオリンの旋律から今度は光溢れる春の絢爛を、歓喜を甘美に歌い上げる旋律を花開かせた。仲間達の一挙手一投足が偶然のめぐりあわせも含めて噛み合っていく様も奇蹟のようと秋風のなかに春を見た心地でソレイユも微笑して、光の鍵盤に十指を躍らせ響き渡らせる弦楽器の多重奏の音色で心浮き立つ明るい光のごとき旋律で世界を満たしていく。
 元よりの楽才を桁外れの演奏技能でいっそう鮮やかに咲き誇らせる音楽家達の演奏、
 状況に戸惑いながらも耳を傾けずにはいられぬ様子のディジョンにひとびとに、優しく、然れど良く通る声音で、
「雷が落ちたときには、壊れてしまった尖塔を見たときにはさぞや驚いたでしょうね。不安な気持ちになったでしょうね」
 出来るだけ多くの不安に怯えるひとびとに届くようにアヴィシア・ローゼンハイム(Blue・Roses・g09882)は語りかけ、
「――でも、大丈夫。ショウが言ったとおり、私達の奇跡の力で尖塔は直るわ。さあ、彼方を見て?」
「うんっ! 大丈夫なんだって、まずはみんな自身の眼で見て、心で感じてみてっ!!」
 光を燈すように白い青薔薇の魔女の指先がディジョンのひとびとの眼差しを秋晴れの空へ掬い上げるがごとく教会の頂を、損壊した尖塔を指し示せば、次いでその腕に竪琴を抱いたアヴィシアの菫青石の瞳と青空の瞳で眼差し交わして力強く頷いたシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)も竪琴を抱いて明るい声音を咲かせた。
 まずは料理をと思っていたけれども、雷で尖塔が損壊したことを『大天使様達が追い払われたことへの神様のお怒り』だと感じているひとは決して先程のアンジェリーヌひとりではないだろうから。ひとびとが『神様のお怒り』と感じている損壊をそのままにした状態では、どんなに心を籠めたあたたかい料理でもその美味もぬくもりもきっとまともに感じられないから。
 だからこそ『まずは落雷で損壊した教会の尖塔を【建物復元】で元どおりにしてあげるところから』なんだねと理解して、青き精霊術師が竪琴の弦に指を躍らせれば、笑みを深めた青薔薇の魔女も己が指先で銀の弦を震わせ唄わせ、煌く光のごとき音色を世界に鏤めて。
 喉の調子を確かめるかのように首元に滑らせていた手を軽く翻し、
 眼鏡のブリッジを長い指先でついと押し上げた伊吹・祈(アンヘル・g10846)が度の無いレンズ越しに僅かに彩りを変えた青の双眸で教会の尖塔を仰ぎ見たなら、形の良い口唇から世界へと解き放たれるのは深く豊かで、それでいて凛と芯の通ったテノールの聲で紡ぎ出される――救済のアンセム。
 大地へ豊かに広がりひとびとのこころを掬いあげるとともに救い上げて、
 皆の心を大いなる羽ばたきで青空へと連れていくような聖歌とともにinvidia(インヴィーディア)の力を花開かせれば、
 電脳世界から祈の許へ召喚された数多のアバター、輝くような白い鳩の群れが一気に大地から秋晴れの青空へ、教会の尖塔めがけて飛び立った。わあっとひとびとから湧くのは驚き交じりの歓声、昨夜の雷は決して神罰ではないのだと証す一助にと祈がアバターを白い鳩の姿で召喚したのだと察すれば、いっそう晴れやかな心地で笑みを深めたエトヴァは、
 蒼穹の天使の翼を大きく広げ、
 悠然たる羽ばたきで秋風を抱いて掬い上げ、輝くような白い鳩達とともに――【飛翔】する。
「……!! 空を、飛んで……!?」
「大天使様達だけじゃない、ディアボロスのひと達も空を飛べるのか……!!」
 改竄世界史の一般人に違和感を抱かれにくいのがディアボロスの能力のひとつ。それゆえにエトヴァの天使の翼そのものがディジョンのひとびとに特別な印象を齎すことはなかったが、大地から解き放たれて【飛翔】する姿は勿論、超常の特別な、奇跡の力を、その光景を見たディジョンのひとびとの誰しもに想起させた。
「ショウ……!!」
「うん、奇跡のちからは尖塔にも咲くから――その瞬間を、見逃さないで」
 不安でなく高揚に上擦るアンジェリーヌの声音、反射的に此方を向いた彼女の瞳に期待の輝きが燈っている様に笑み返し、青灰色の眼差しを花の色の眼差しへ再び尖塔へと誘ったショウは己が胸の芯にも光が咲く心地を覚えながら、幼い頃から他の誰のそれよりも馴染んだ『せんせい』の歌声、祈が秋晴れの空へ羽ばたかせる聖歌を追いかけて歌声を咲き誇らせる。
 僅かな狂いもなく己と歌声と響き合って、美しく羽ばたくハーモニーを咲かせる教え子の歌声、
 燕の乙女のそれを合図に祈が先程世界に燈した【勝利の凱歌】の力を開花させたなら、教会の前のみならず周囲の市街へも響き渡るのは勇気を奮い起こす歌声だ。なれど、今このとき重要なのは、凱歌が勇気とともに皆の心に湧きあがらせる希望のほう。凱歌に惹かれ、不意に湧き上がった希望を胸に、雷を恐れてそれが落ちたという教会を見に来ることすらできなかったひとびとまでもが集まってくる様に、空木・朱士(Lost heart・g03720)も晴れやかな笑みを咲かせた。
 改めて教会を振り仰ぐ。教会という存在が示す事実を心に刻む。
 火刑戦旗ラ・ピュセル。
 西暦1434年のフランス中央部から南部にかけての世界は、正史ではキリスト教が唯一絶対の宗教であった世界だ。
 神社と仏閣がある光景が当たり前、大きな都市なら神社仏閣のみならず同じ街にキリスト教の教会もイスラム教のモスクも存在する現代日本の感覚で考えるわけにはいかない。常識も価値観も、生き方さえもキリスト教の教えを基(もとい)とし、教皇からの破門が社会的な抹殺にも等しかった世界なのだ。今この眼の前にも教会が存在して、大天使達がひとびとから篤い信仰を受けていたことを思えば、一般人の宗教観は火刑戦旗ラ・ピュセルでも改竄されず正史のままであるのだろう。
 大天使を騙るクロノヴェーダ達はゼロから信仰を獲得したのではない。
 食糧や物資の援助だけで、キマイラウィッチの脅威を退けただけで、信仰を獲得したのではない。
 元よりキリスト教徒として大天使に畏敬の念を抱く住民達の信仰に、大天使を騙るクロノヴェーダ達がタダ乗りしたのだ。
 たとえば彼らが天空から舞い降りてきたのなら、
 その光景を見ただけでディジョンのひとびとは『自分達の信じる神の、御使いが降臨した』と感じたに違いない。
 最初から底上げされている信仰。大天使を騙るクロノヴェーダ達は裏事情を完璧に隠し通し、ディジョンのひとびとからの信仰に『キマイラウィッチの脅威から完全にひとびとを護り、生活を支援する』というかたちで応え、ひとびとからの信仰を更に強めていたのだろうから、彼らを『追い払った』ディアボロス達に不信感を抱くのは無理もないこと。
 大天使達がいた頃には皆無だったキマイラウィッチの侵攻、それが迫る様に不安を覚えるのも当然のことだ。
 誰の意図も関与しない、単なる自然現象以外の何物でもない落雷にさえも、それが偶々教会の尖塔を損壊したことでただの不安のみならず『神様がお怒りなのだ』と感じるひとがいるのなら、
 ――やっぱりここは真っ先に、
 ――尖塔を綺麗さっぱり元通りにして見せなきゃな!!
 仲間達の手腕に朱士は改めて感嘆する。
 類稀な演奏を咲かせたエトヴァとソレイユが、雷は神罰ではなく奇蹟の序章であるのかもと皆に感じさせてくれたから、
 類稀な歌唱を咲かせた祈とショウが、ディアボロス達は神の敵ではないのかもと聖歌により皆に感じさせてくれたから、
 祈が召喚した数多の白い鳩と輝くような白い鳩達とともに【飛翔】したエトヴァが、皆に更なる奇跡を予感させたから、
 威風堂々と響き渡る【勝利の凱歌】によって更に集まってきたひとびとも含め、大勢のディジョン市民達に向かって朱士は大振りな所作で恭しく一礼して見せた。服装によってディアボロスが改竄世界史の一般人達に違和感を与えることはまずないだろうが、それでも普段どおりのスカジャンだと威厳に欠けるかと纏ってきたのは、
 鮮やかな色彩が流行していたというこの時代のブルゴーニュに合わせた己の瞳と同じ紅のプールポアンに、ズボンの役割を持つようになった黒のショース。そしてバーガンディの彩が波打つマントを堂々と翻して高々と腕を尖塔へと差し伸べれば、肩から腰に掛けた金色のサッシュが堂々と輝いて。
 大地から祈とショウが聖なる救済を唄う歌声が、明るい光を咲かせるようなソレイユの演奏が秋晴れの青空へ花開き、蒼穹の翼を羽ばたかせての【飛翔】で教会の屋根の上へと至ったエトヴァの演奏がひとびとの心と眼差しを迎えて、
 煌く蝶の羽ばたき、煌く妖精の羽ばたきを世界に鏤めるようにアヴィシアとシルが奏でる竪琴が、大地から青空へと流れて花開く流星雨のごとき音色を咲かせたなら、
「さあ、みんな見てくれ! 俺達の奇跡の力を――!!」
 皆の不安を吹き飛ばすように明るい笑顔で、自信に満ちた声音で告げるとともに朱士が花開かせるのは【建物復元】の力。
 誰もの眼に映ったのは、奇蹟としか思えぬ光景。
 落雷で無残に損壊していた尖塔がたちまちのうちに甦る。元通りになっていく。
 あたかも尖塔を護るように施されていた荘厳で精緻な彫像までもひとかけらとて取り零すことなく元の姿を取り戻していく様を誰より間近で蒼穹の瞳に映して微笑んで、天をめざすべく造られた尖塔が再び秋晴れの空へ向け堂々と聳え立ったなら、蒼穹の翼を羽ばたかせるとともにエトヴァが仲間の燈した【アイテムポケット】から舞い降らす祝福の花吹雪は、新宿島から持ち込んだロサ・ダマスケナ。嘗て十字軍が欧州に齎したダマスクローズ。
 落雷で損壊した尖塔がたちまちのうちに甦る奇蹟、明るい桃色と高貴な香りを咲かせる薔薇の花吹雪が舞い降る祝福。
 わあっとひとびとから歓声が花開いたなら、掌に光の魔力で咲かせたダリアの聖花を握りしめたショウがぎゅっと凝らせた光の結晶を投げ上げて――懐に花冠が咲かせる明星の絆そのままに、投擲の技能を活かして放たれた光の結晶が昼間の明星のごとく青空に煌いた刹那、燕の乙女の指先がさししめすままに天には満開の花火が咲き誇った。
 Alice(アリス)。パラドクスの魔法であるからこそ、秋晴れの青空にも眩く色鮮やかに輝く光の華。
 幾重にも幾重にも花弁重なるデコラ咲き、大輪の八重に咲く花の女王ダリアを光で天頂いっぱいに咲かせるがごとき花火。
「ショウ、ショウ!! すごい、すごいわ……!!」
「おお、神よ……!! このディジョンに、奇跡が……!!」
「触れてさえもいないのに尖塔が……!! 奇蹟だ、本当にディアボロスが奇蹟の力を……!!」
 高揚が一気に花開いたようなアンジェリーヌの歓声を皮切りに、ひとびとから一斉に爆ぜたのは天をも揺るがさんばかりに盛大な歓声、喝采。弾けんばかりに輝く笑顔が次々と咲くなか、驚きのあまり呼吸も瞬きも、時間の流れさえも忘れたように空と尖塔を仰ぎ見たままのひとびとがいるのに気づけば、青薔薇の魔女は彼らを我に返らせるべく明るい声音を弾ませて、
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
 ハッとした様子の彼らに軽く片目を瞑って見せたアヴィシアがそう微笑みかけたなら、
「ほ、ほんとだ……」
「本当に、大丈夫だった……!!」
 悪い夢から醒めたかのように瞬いた彼らからもわあっと歓声が咲いて、一足先に歓声を花開かせていたひとびとからも再び爆発的な歓声と喝采が湧き上がった。誰も彼もが輝く笑顔を咲かせて、頬に伝う煌きも歓びの涙に他ならなくて。
 己の胸にも眩い歓喜が溢れんばかりに花開く様にショウが感極まったなら、その傍らで懐の歴史書をふと意識した祈が青き双眸を微かに細め、脳裏に萌した歴史知識を言の葉にする。
「確か観賞用の花火の歴史は、14世紀のフィレンツェでキリスト教の祝祭のために始まったのでしたか。――成程」
「そうなんですか!? それは知りませんでした……!! あ、でも」
 奇跡のフィナーレを彩るためにと携えて来たパラドクスが期せずして神の祝福をもひとびとに感じさせることにもなったと気づけばショウは花の色の双眸を瞬かせ、次いで胸の奥で硝子の煌きのように弾んだ想い出に笑みを咲き綻ばせた。
 幼い頃に『せんせい』が聴かせてくれた話が、伝承知識となって花開く。
「日本で言うハレの日のハレって、日頃の精神的重圧や気疲れ……ストレスを『晴らす』って意味もあるんですよね?」
「良く覚えていましたね、四葩くん。季節行事や祭りのような『非日常の特別な日』にその効果があるのは確かだろう」
 教え子の言葉にほんの僅かばかり双眸を瞠り、それを隠すよう眼鏡のブリッジに指先で触れれば祈の袖口に煌くのは黄金の羽根と青玉をあしらったカフリンクス。己が裡にも息づく伝承知識のまま頷いて、それに、と言を継いだ彼が、
 如何なる時代の、如何なる大地でも、それは同じはず――と続ければ、
 二人のやりとりが耳に届いていた朱士が、いっそう晴れ晴れと笑った。
「ああ、そっか、そうだよな! お祭りって皆がぱあっと晴れやかな気分になるし、気晴らしって言葉もあるもんな!!」
 飛びきり劇的に、飛びきり華々しく彩られた『奇蹟』。
 これが時先案内人の言っていた『華やかな祭のごとき奇跡の光景』でなくて何だと言うのだ。
 祈が今言った『非日常の特別な日』でなくて何だと言うのだ。
 間違いなく時先案内人の想像を遥かに飛び越える華々しさで咲き誇った劇的な奇蹟、晴れやかなその光景に爆発的な歓声を咲かせると同時に、今この場につどっているひとびとは日々募らせてきたストレスを一気に吹き飛ばしたことだろう。
 誰も彼もの笑顔が輝いている光景が眩しい。
 秋晴れの青空から舞い降りて来るエトヴァを、彼が降らせた薔薇の祝福を享けた諸手を挙げたひとびとが歓喜と歓声と共に迎える光景がひときわ眩しくて、心から笑みを深めて朱士は目許を和ませた。
 ――予想以上に皆のストレスを和らげることができたみたいだから、この調子で不安も和らげてあげられるといい。
 ――拠点化が叶えばいいとも思うけれど、何よりまず、ここの皆が安心して暮らせるようになるのが一番いいと思うから。

●タンドレス
 ――ひとびとの心が少しでも軽くなるよう、叶う限り力を尽くそう、心を尽くそう。
 ――精神的重圧を、ストレスを晴らしてあげられたのなら、次はその源となる不安が、少しでも和らぐように。
 仲間達が燈してくれた【アイテムポケット】も確り活用させてもらってたっぷりと持ち込んだのは、保存食や冬に備えての暖かい衣服といった援助物資と、新宿島であらかじめ仕上げてきた牛肉の赤ワイン煮込みに、バゲットとパン・デピス。
 落雷で損壊した教会の尖塔をそのままにした状態でも、ひとびとは援助物資を受け取ってくれただろう。あたたかな食事を振舞えば口へ運んでくれただろう。然れど、
「私はディアボロスのソレイユ。皆さんの支援と、この街の守護をすべく参りました」
「ほんとだ! おひさまのひかりみたいな髪だね、ソレイユお兄ちゃん!!」
「巧いこと言うなぁ! 確かに陽光みたいだよな、ソレイユさんの髪!!」
 太陽を意味する己の名乗りにこれほど無邪気な子供の笑みが、屈託ない大人達の笑みが返るのは、仲間達と共にまず劇的な尖塔の『奇蹟』をひとびとに披露したからこそだ。確と護りきってくれるかどうかはまだ半信半疑だろうが、日々重く苦しく心に圧し掛かっていたストレスが晴れた今、支援への感謝とディアボロス達への興味に多くのひとびとが瞳を輝かせている。
 尖塔の修復を最優先に動いてくれた仲間達、極上の華々しさで『奇蹟』を彩ってくれた仲間達に心から感謝しつつ、
「皆さんに温かい食事を振舞いたいのですが、もし良ければ配膳を手伝っていただけませんか?」
「わあ! 手伝うよう、だから大盛りにしてね!!」
「子供はちゃっかりしてんなぁ! 俺も手伝おう、どんどん任せな、ソレイユさん!!」
 蒼穹と黄昏の眼差しをひときわ緩めて住民達に微笑みかければ、打てば響くように明るい笑顔と声音が花開いた。
 ソレイユとしてはもっと大きな広場で振舞うのが理想だったが、この教会の正面も小規模の広場になっているし、何よりもふとした拍子に尖塔を振り仰げばひとびとが先の『奇蹟』を追体験できるだろうこの場所で交流を深める利点は大きいはず。尖塔の修復がなければ食事の準備が調うまで遠巻きにされていた可能性もあるし、交流自体が難しかったかもしれないのだ。
 温かい食事という言葉でひとびとの顔がいっそう明るくなる様に青き精霊術師も溌剌たる笑み咲かせ、
「うんうん、やっぱり温まれる食べ物はとっても大切だもんねっ♪」
 自身とショウとで燈した【アイテムポケット】に皆の笑顔を咲かせるための美味しい幸せをたっぷり詰め込んできたシルは意気込みたっぷりに腕まくり! コトコト煮込むならハムよりこっちかなと選んだ塩漬け豚肉に野菜たっぷり、流石にここで一から作る時間は無さそうなので新宿島で下拵えと仕込みを済ませてきたのは、中世にまで歴史を遡る料理の王様こと、
「さあ、あったかポトフの仕上げにかかるよっ! ――と、豚肉を使うのはポテって言うんだっけ?」
「ええ。豚肉を使うなら、あるいは豚肉とキャベツを使うなら、ポテですね」
 ボトフ!! というかポテ!!!!
 こてりと首を傾げれば断頭革命グランダルメ出身のソレイユがそう請け合ってくれたから、
 改めて勇んだシルが携帯コンロを取り出せば、それを眼にした燕の乙女から明るい声音が花開いた。
「あっ、ポトフ? ポテ? ならシルさんもアウトドアキッチンのコンロはどうかな? 大きな鍋で煮込むよね?」
「こちらならより安定しているバーナーが使えますからね。ポテなら煮込むほど美味しくなるはずだ。是非どうぞ」
「わわっ! アウトドアキッチンかっこいい……!! 火力も強そうだし、それじゃあ遠慮なくっ!!」
「手伝いを申し出る隙もないほど素晴らしい手際の組み立てでしたね……! 私も使わせていただいてよいでしょうか?」
 自分だけでなくシルも【アイテムポケット】を燈してくれていたから、展開して組み立てる前の畳んだ状態ならばっちりと【アイテムポケット】に収まるアウトドアキッチンは折角だから2セット持ち込んでみた。あっという間に二人で組み立てたアウトドアキッチンの前でショウがシルを手招きしたなら、教え子とともに機能性に満ちたアウトドアキッチンを手際良く完成させた祈が頷き、ソレイユに向けても、勿論、と片腕を広げて歓迎の意を示す。
 艶やかな黒のスチールで組み上げられたアウトドアキッチンに据えられたツーバーナーは家庭用ガステーブルと遜色なく、大きな鍋をどっしりと乗せてもばっちりの安定度で、必要とあらば携帯用コンロより更に強い火力も使えそう。楽しげな鼻歌交じりでシルが火を点ける様にアヴィシアは秋風を擽るような笑みを零して、
「ふふ、それならシルの携帯コンロは私が使わせてもらってもいいかしら? ヴァン・ショーだから携帯用で十分だもの」
「はーいっ♪ お役に立てたら嬉しいっ!!」
「秋も深まってきたし、温かいものが沁みるよな。皆の料理も飲み物もとても美味しそうだ」
「だよなー! エトヴァも何か作るんだろ? 料理? 飲み物?」
 嫋やかな両手で赤ワインと小鍋を掲げて見せた青薔薇の魔女が願えば青き精霊術師から返るのも打てば響くような快諾で。
 仲間達の楽しそうな様子に、ディジョンのひとびとが初めて見るアウトドアキッチンばかりではなく、ディアボロス達から振舞われるという美味に興味津々で瞳を輝かせてくれる好意的な様子に、思っていた以上に胸が弾む心地でエトヴァが声音も弾ませたなら耳に届いたのはこちらも楽しげに弾んだ朱士の声音。
 先の『奇蹟』を眼にしたひとびとに中に宿屋の亭主がいて、彼が申し出てくれたテーブルや椅子の提供をありがたく受けた朱士がそれらを運んでくる様にエトヴァもいっそう笑みを深め、テーブルと椅子が使えるのはありがたいなと語って、
「俺はディジョンのひと達に魔法の飲み物を振舞ってみようかと。御期待あれ――というやつだ」
「うわ! 皆めっちゃ歓びそう! 俺もめっちゃ楽しみ!!」
 悪戯っぽくそう続けてみれば朱士が弾けるように笑う。
 テーブルを運ぶ大人達に交じって椅子を運んできた子供達も、魔法! 魔法! と飛びきりの期待とともに唱和する様に、極上の魔法を御馳走するな、と蒼穹の天使が曇りなき笑みで応えたから。彼が振舞う飲み物がノンアルコールのものと察した青薔薇の魔女はそれなら大人の楽しみは私の受け持ちね、と微笑んで、
 鮮やかなルビーの煌きをそのままワインにしたかのようなブルゴーニュの赤を小鍋に躍らせた。
 ヴァン・ショーなら高級なものより気取らぬものをと選んだお手頃価格のものなれど、それでも香り高い赤ワインに蜂蜜の煌きを注いでテーブルに置いた携帯コンロの火にかけたなら、たちまちこれからの時季のディジョンのひとびとが恋しくなる華やかであたたかな香りが溢れ出す。香りに気づいてこちらへ瞳を向けたひとびとを笑顔で招いて、
「美味しい料理が来るまでヴァン・ショーで温まるのはどう? スパイスやフルーツは入れる? 皆の好みも知りたいわ」
「俺は林檎を入れるのが好みだな」
「私はカシスの蜂蜜シロップが好き!!」
 ヴァン・ショーと言えばシナモンやレモンにオレンジ――と思い浮かべていたアヴィシアは皆の言葉に大きく瞬きをした。
 この時代の欧州でのシナモンは、インドやスリランカ、中国や東南アジアから、イスラム商人を仲介して入って来る品だ。それならフランスの中部から南部にかけてを領域として切り取っている火刑戦旗ラ・ピュセルには流入経路自体が存在せず、改竄により一般人達もシナモンを知らない可能性が高い。栽培限界が北緯四十度であるためフランスでは露地栽培が不可能な柑橘類とて恐らく同じだろう。柑橘のための温室、オランジュリーが造られるようになるのは数世紀ほど未来の話だ。
 林檎は持ってきたし、カシスの蜂蜜シロップは思いつかずともカシスリキュールは持ってきたから、今聴いた好みのままに仕上げたヴァン・ショーを振舞いながら、ふと思いついたままに青薔薇の魔女は秘密めかして微笑んでみた。
「ね、もし良ければ太陽みたいに煌く甘酸っぱい果実と、甘い香りをつける香木の樹皮のスティックを使ってみない?」
「お、なんだそれ美味しそうだな……!」
「使う使う、使ってみる……!!」
 ひときわ瞳を輝かせたひとびとと秘密を共有するように交わす、内緒の笑み。
 然れど秋風にふわりと乗って届いたアヴィシア達のやりとりに『あっ!』と燕の乙女が小さく声を上げる。
 折角だからと持ち込んだ牛乳を温めるための片手鍋、可愛らしいミルクパン。真白な琺瑯で彩られたそれにミルクを注いで温めて皆に振舞うつもりのレ・ショー、すなわちホットミルクに加える仕上げのひとさじは皆それぞれの好きなものを――と考えていたのだけれど。柑橘についてはアヴィシアが気づいたとおりで、ジンジャーもきっとシナモンと似たような運命だと思い至れば、皆に選んでもらおうと携えてきたハニージンジャーとオレンジジャムを花の色で数秒見つめて。
 閃きに花の色の双眸を瞬かせたショウはアウトドアキッチンの向かいでわくわく覗き込んでいたアンジェリーヌに、最後の仕上げにひとさじ加えられるんだけれど、と悪戯っぽく微笑みかけながら、
「ちょっぴりピリッと辛くて身体がぽかぽかしてくる蜂蜜と、太陽みたいに煌く甘酸っぱい果実のジャム、どっちにする?」
「何それ!? えええ、迷っちゃうわ、選ばなきゃダメ? ねえショウ、どっちも!! なんてのはダメかしら!?」
「ふふ、ダメじゃないよ。アンジェリーヌのお望みのままに!!」
 なんて訊いてみたらたちまち身を乗り出した彼女が欲張ってくれるから、満開の笑みで応えて仕上げのふたさじを!!
 蜂蜜は勿論オレンジとジンジャーも元より相性ばっちり。あたたかなミルクにふたさじを落とせば淡い淡いオレンジの彩に色づいて、懐かしくて幸せな優しい香りを溢れさせるホットミルクを二人で揃って味わえば、あたたかでまろやかなミルクの豊かさの裡から、ジンジャーの爽やかな香りと刺激を包み込んだ蜂蜜の甘味と甘酸っぱいオレンジの風味とフルーティーさがふわりと花開く。
「「美味しい……!!」」
 花の色と青灰色の瞳を見交わせば弾けるように咲くのは笑みと歓声で。
 あたたかなしあわせ満たしたカップを皆へと配るのはアンジェリーヌが引き受けてくれたから、合間にショウが作ったのはアウトドアキッチンのバーナーの傍らのキッチンテーブルで作業する祈のための一杯。菓子を作るのが趣味なのに甘いものが苦手な彼のために作った、
「はい、せんせいもどうぞ。カモミールの香りだけつけた、甘味なしのホットミルクです」
「ああ、良い香りですね。ありがたくいただこう」
 林檎めいて香る花のティーバッグで香りをふんわり移した、カモミールミルク。
 あたたかな春をほんのり融かしたようなそれを味わって、再び祈が向き合うのはあらかじめ焼き上げてきた林檎ケーキ。
「久しぶりですね。肩を並べてキッチンに立つのも、あなたにとっては幾分前になるのだったか」
「ふふ、そうですね。あの頃のわたしは、みているだけでしたけど」
 刻逆と数奇な運命と、そして確固たる宿縁によって再会してみれば、互いの間に生まれていたのは時間の流れの違い。
 然れどもふと思い出したように祈が呟けば、オーブンから溢れ来るマドレーヌの香りが広がった気がして、背伸びして彼の手許を覗き込もうとしていた頃の記憶がいとも鮮やかにショウの胸の裡に甦る。自然に咲いた花笑みを向ければ、同じ記憶を胸に咲かせた祈は教え子に頷き返し、己が焼き上げてきたブルゴーニュの郷土菓子を切り分けた。
 Gouéron(グエロン)――古語で『歓ぶ』を意味する言葉を語源とする、元は祭りのためのものだったという林檎ケーキ。
 子供達の笑顔のためにと準備してきた菓子のひときれを、現代でよく使われるキャラメルソースではなく、
 念のために拝斥力を意識して、黒砂糖めいた風味を持つ蕎麦の蜂蜜で彩って、
「四葩くん、味を見てくれるかい」
「!! その役目は譲れませんっ!!」
 勧めてみれば、大人になりつつある燕の乙女があの頃と変わらぬ笑みと、
 あの頃よりも更に華やぐ聲を咲かせる様に、いつものとおり口角だけを上げて笑んだ。
 あたたかなミルクの香りと林檎やキャラメルの香りがひとつのアウトドアキッチンからふうわり溢れ出したなら、
 もうひとつのアウトドアキッチンからはあたたかな料理の香りが溢れ出す。
 熟成した塩漬け豚肉は下拵えの塩抜きなども完璧、煮込むと甘くなる冬キャベツと玉葱に人参、蕪にセロリと一緒に大鍋でローリエも加えてじっくりコトコト煮込むところまでを新宿島で仕込んで、このディジョンでシルは仕上げにローズマリーの香りを加えるべく緑鮮やかな香草を一枝、二枝、はらり。
 花嫁修業中のシルの料理の腕前はもうかなりのもの、ふつふつと唄う鍋から飛びきり美味しそうな香りが溢れてきたなら、
「ご飯できたよー。よかったら取りに来てくださいなー!!」
「ええ、私のほうも程好く温めて仕上げておきました。皆さん、どうぞ」
 明るい声音をいっそう花開かせるインカム型の魔楽器、マジカル・アリア・デバイスでひとびとに呼びかけ、歌唱に長けた声音を活かしてソレイユもひとびとへと呼びかけた。持ち込んだ牛肉の赤ワイン煮込み、
 牛肉のブルゴーニュ風ことブッフ・ブルギニョン――この料理が文献に登場するのは19世紀になってからと聴くけれど、たっぷりの赤ワインで牛肉や玉葱に人参などをじっくり煮込むこの料理はこの時代のディジョンのひとびとにも馴染みの食材ばかり、ゆえに問題なく皆の口にも合うはずだ。
 あたたかな湯気と美味しそうな香りが溢れる様に顔を輝かせるひとびとへと『熱いから気を付けてね?』と語りかけつつ熱々のポテをたっぷり満たした器をシルが配り始めれば、思っていた以上に美味しそうだなと顔を綻ばせたエトヴァと、配膳の手伝いに手を上げてくれたひとびとへと温かな煮込みを確りよそった器を手渡すソレイユ、世界に【口福の伝道者】を燈した二人が思案気な眼差しと言の葉を交わす。
「【口福の伝道者】で増やして、出来るだけ多くのひとびとと食事をともにしたいが……時間差があるほうがいいかな?」
「そうですね、温かいうちに増やすのを私達でリレーしていく感じで増やせれば良さそうですが……」
 皆揃って一緒にが理想だけれど、先程の『奇蹟』の演出が予想以上に多くのひとびとをあつめ、尖塔の『奇蹟』そのものも飛びきりの大成功を収めたがゆえに全員が一緒に食事するのはまず叶わない。それならば『あたたかい食事をディアボロスと一緒に楽しむ』機会そのものを増やすのがいいかもしれないと蒼穹の天使と幻奏ピアニストが頷き合えば、
 料理や菓子や飲み物作ってくれた皆には出来るだけ沢山のひとと一緒に楽しんで欲しいからさ、と朱士が紅の瞳を煌かせ、
「まずは俺が増やそうか? 熱々のうちに増やすから、どーんと任せてくれ!!」
 一番手に名乗りを上げれば、飛びきり食欲をそそる香りと湯気を溢れさせる食事が彼の手許に御目見え!!
 今から奇跡の力で増やすからなと笑いかければ、ほんと!? と思いきり瞳を輝かせた子供達が期待の眼差しで大注目してくれるからちょっぴり食べにくい心地もしたけれど、熱々のうちに食べるのが今の朱士の使命だ!!
 現代日本に生まれ育った身にはビーフシチューとも思える牛肉の赤ワイン煮込み、
 見た目はシンプルながらもぎゅぎゅっと濃縮された大地の滋味を確り予感させるポテ、
「――!! うわ!! すげー美味い……!!」
「わあ、わあ、『すげー美味い』のがいっぱい増えたー!!」
 ばっちり味わいながらも熱々のうちに!! と固い決意でまず一口ずつ味わった朱士が心からの満面の笑みで歓声をあげ、嘘偽りなく夢中になって食べ進めればたちまち器ごと増えていく美味に子供達は勿論、大人達からも歓声が湧きあがる。
 美味も笑顔も絶えない、誰にとっても楽しい食事になった。
 こちらもどうぞ、と牛肉の赤ワイン煮込みに食べやすく切り分けたバゲットをソレイユが添えていけば、この時代にはまだ存在しないものではあるが一目でそれが上質なパンであると理解したひとびとが歓んで口に運び、牛肉の赤ワイン煮込みにもポテにもいっそう舌鼓を打っては嬉しげな笑みを次から次へと花開かせる。
 厚切りの塩漬け豚肉が程好い噛み応えで柔らかにほぐれていく様も、コトコト煮込まれて甘くなった野菜達が豚肉の旨味をたっぷり吸って蕩ける様も飛びっきりな美味を口中に咲かせるポテにシルの父親くらいの年頃の男性が笑み崩れ、
「確かにこりゃ『すげー美味い』な! やるじゃねぇか、ディアボロスの嬢ちゃん!!」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいっ♪ みんな、いっぱい食べてね!!」
 手放しで絶賛してくれるのに満開の笑みで応えて続ければ、周りの子供達から『はーい!!』と歓びいっぱいの声音が返り、赤ワインにじっくりと抱きすくめられて柔らかに煮込まれた牛肉は、口中でとろっとろに蕩けて濃厚な旨味をジューシィに溢れさせる。牛肉の赤ワイン煮込みが奏でる美味にふるり身を震わせた、ソレイユの母親と同年代と思しき女性が、
「本当に美味しいわ……! あの、もし差し支えなければ、作り方を伺っても……?」
「ええ、勿論お教えしますよ。貴女ならきっと更に美味しく作れるでしょうね、シャンタル」
 ひっそりと訊ねてくるのに穏やかに微笑み返して続ければ、耳聡く聴きつけたひとびとが我も我もと手を挙げて。
「大人気だな……! 仲間が作るものなら間違いないと思っていたけど、ここの皆に楽しんでもらえて俺もとても嬉しいよ」
「だって本当に美味しいし、さっきの『奇蹟』で心も晴れやかになったし、一緒に楽しく食べられるならそりゃあもう!!」
 青き精霊術師のポテに幻奏ピアニストの牛肉の赤ワイン煮込みに、絶えることなき笑みのまま舌鼓を打っていたエトヴァが心からの言の葉を溢れさせれば隣の同年代の男性がすっかり打ち解けた様子でばしばし肩を叩いてくる。先程自身が口にしたとおり、秋晴れの青空のもと、冷涼な秋風を感じながら味わうあたたかな料理は身体の芯まで沁みて、指先にまでもじんわりあたたかなしあわせを満たしてくれる。そのしあわせを仲間達だけでなく、ディジョンのひとびとと分かち合えるのが、
 同じテーブルを囲むひとびとと一緒に『美味しいな』と笑い合えるのが、同じテーブルばかりでなく、隣のテーブル後ろのテーブル、斜向かいにその向こうのテーブルのひとびととも瞳が合えば杯を掲げて笑い合えるのが、心から楽しくて。
 食後のデセールにと祈が饗したグエロン――林檎のケーキにひとびとの顔に歓びそのものの笑みが咲いた。
「どうぞ、召し上がってください。皆の口に合うといいのだが」
「飛びっきり美味しいよ、食べてみて!」
 たっぷりの卵とバターが使われたふわふわしっとりの生地にぎゅうっと詰められたのは、バターで炒めた林檎。白ワインを回しかけて強火で酒精を飛ばしてその風味を抱きしめた林檎がふんわり焼き上げられた生地の中、表面を彩った蕎麦の蜂蜜の黒砂糖めいた濃厚な甘味と噛みしめるほどに甘酸っぱく絡んでいく様がまさに『歓び』で。
 この場の誰よりも優れた料理技能を有する祈が焼いたケーキは極上の美味。
 味見させてもらったから保証するね、と、あたたかなホットミルクを配るショウが心からの笑みでケーキを勧める様に、
「ほんと、飛びっきりね……!!」
「すごいね、おいしいね……!!」
「こういうの、とびっきり、っていうんだね!!」
「皆の笑みも飛びっきり、です。歓んでもらえて何よりだ」
 一番乗りとばかりに味わったアンジェリーヌが満面の笑みに歓喜を花開かせれば、彼女に倣って次々手を伸ばした子供達に次々と無邪気な笑みが咲いたから、ほんの僅かばかり眩しげに双眸を細め、祈は口角のみながらも心から笑み返す。
 飛びきりの『歓び』が饗され増やされ皆に行き渡ったなら、
 お次は三種揃い踏みのパン・デピスの食べ比べ!!
 青薔薇の魔女が用意した胡桃とオレンジ入りのパン・デピス、
 幻奏ピアニストが用意した基本的なスパイスがたっぷりのパン・デピス、
 蒼穹の天使が『懐かしい香りのものを』と探して辿り着いた、小麦と蜂蜜と卵黄とアニスのみを使ったパン・デピス。
「ふふ、こうやって皆でわいわい感想を語らいながら食べるのも楽しいわね」
「だよねぇ、ヴァン・ショーも楽しいし!!」
 菫青石の眼差しを緩めてゆったり微笑みつつアヴィシアがテーブルの中央に盛り付けられたパン・デピスに手を伸ばせば、彼女に勧められるままヴァン・ショーに太陽みたいなオレンジスライスを浮かべ、シナモンスティックでくるりくるりと掻き混ぜる青年が弾む声音で笑う。生地はいずれもしっとり濃厚な美味しさで、
 胡桃の香ばしさと煌くようなオレンジの甘酸っぱさが華やぐアヴィシアのパン・デピスは子供や女性に人気、
 確りとした奥深いスパイシー感ゆえいささか甘さ控えめと感じられるソレイユのパン・デピスは男性に人気、
 そして、皆が手を伸ばすがゆえに最も減りが早かったのが、恐らくディジョンのそれの原型だろうレシピのパン・デピス。
 遥かいにしえにカール大帝が各地で栽培を命じたアニスはブルゴーニュでも栽培されて、ブルゴーニュのフラヴィニー村で16世紀に生まれたアニス・ド・フラヴィニーというキャンディが現代でも作られ続けているほどこの地方に馴染んだから、素朴ながらも懐かしい味わいにディジョンのひとびとはついつい手がとまらなくなったのだろう。
 勿論どのパン・デピスも美味であったから、あれが美味しいこれが美味しいと皆で白熱した議論になるのも楽しくて、
 食べ比べも楽しいイベントのひとつになったなと提案者たるエトヴァが眦を緩めつつ作るのは、
 魔法の飲み物こと――ショコラ・ショー。
 欧州のひとびとがまだカカオを識らない時代だ。ディジョンのひとびとすべてにとって初めての飲み物に決まっている。
 最終人類史のビターチョコレートを丁寧に刻み、初体験のひとびとにカカオの刺激が障ることがないよう、チョコレートの美味しさを損なわない限界までミルクをたっぷり使って、砂糖でも確りと甘味を足して。
 仕上がったのはあたたかで優しいミルクの香りに、甘くて蠱惑的でエキゾチックな香りをやんわり咲かせる逸品。
「今だけの、特別なお楽しみだ。さあ、どうぞ」
 拝斥力に影響されないのは自分達がここにいる間だけ、ゆえに真実の期間限定で特別な杯を皆に振舞ったなら、
「……!! 初めての香り……!!」
「!! 甘いね、とろとろだね、ちょっぴり苦い、けど、美味しいね……!!」
「うん! お代わり欲しい……!!」
 初めての、然れど蠱惑的な香りに抗えずに次々と口に運んだひとびとが、初めて体験するショコラの美味しさに大きく眼を瞠って、一気に満開の笑みを咲き誇らせていく。新たな歓喜が胸の裡に花開くのを感じながら、
「乾燥果実を浸しても美味いんだ。きっとパン・デピスにも合うよ」
 煌く宝石を手渡すようにエトヴァが皆へと振舞うオレンジピールも、このひとときだけの特別な魔法。
 勧められるままに果実の宝石を浸して味わって、パン・デピスとも一緒に味わったなら、
 杯が空になる頃には誰も彼もの唇から至福の吐息が零れて咲いた。
 ――仲間達が心を込めて作ってくれた料理や菓子や飲み物は、温かいだけじゃなくて、
 ――ほっと安心する味がするから、沢山のひとに食べてもらいたいな。
 春の暖かさに誘われた種が芽吹くように自然と朱士はそう思ったから、皆の【口福の伝道者】で増えた美味しい幸せを先程テーブルと椅子を提供してくれた宿屋の亭主に託した。後からここへやって来るひとびともいるだろう。だが、足腰が弱ったお年寄りなどにはこちらから届けてあげたい。本当なら自分自身で届けたいのだけれど、
 尖塔の『奇蹟』を目の当たりにした、今ここにいるひとびと以外は、まだディアボロスに大きな不信を抱いている者がいるかもしれない。そんな住民達の自宅へディアボロスたる自分がいきなり押しかけるのは逆効果に違いないから、
「頼むな、大将!!」
「ああ、任せろ。来てないやつらにばっちり届けてやるさ!!」
 職業柄慣れているのだろう、大量の器や皿や杯をひょいひょいと手にした彼の頼もしい背中を朱士は見送って。
 魔法の飲み物ことショコラ・ショーに至福の吐息を誰もが零したこの場に、落ち着いた、穏やかな空気が満ちるのを感じたエトヴァが、蒼穹の眼差しをゆるりとめぐらせた。ひとりひとりと眼を合わせ、名を訊ねて、覚えた名で呼びかけて。
 不安はあるだろうか、日々をどのようにすごしているだろうか、話を聴きたいと真摯に願う。
「今どんなことを感じておられるだろうか、ヴァレリーさん」
「……いっぱいびっくりして感動して、いっぱい美味しくて、いっぱい笑ったなぁって。こんな日がずっと、ずっと」
 ずうっと続けばいいのになぁ、と零れる声音。
 まだディアボロスのことはよくわからないけど、今日来てくれたエトヴァ達のことは好きになったよ、と、
 はにかみつつではあるが心からの笑みと言葉だとわかるヴァレリーの応えに蒼穹の天使も心から笑み返す。
 ――不安をすぐに解消することはできないけれど、
 ――話すことで、少しでも気持ちが晴れることがあると思うから、
「沢山のことが立て続けに起こって不安でしょう。どんなことでもいい。その不安を、よかったら私たちに――」
 話して貰えないかしら、と柔らかにアヴィシアが微笑んだなら、
「ん……。色々怖かったり不安だったりするけどさ、何がなんだかよくわからないってのも、不安なんだよな……」
 先程楽しげにシナモンスティックをくるくるしていた青年がほろりとそう吐露して。
 それはそうよね、と彼の不安に寄り添うようにアヴィシアは頷いて、零れ来る彼の言葉を大切に掬いとっていく。
 然れど真実すべてをディジョンのひとびとに告げるのは現段階では難しいだろう。自分達がキマイラウィッチを斃して皆を護るという真実の決意は積極的に語るべきだろうけれど、
 大天使達はキマイラウィッチと結託していたのだ――という真実は、ディアボロスに強い不信感を持つひとびとには『己の力不足でキマイラウィッチ達の侵攻を防ぎきれないのを誤魔化すために、大天使様を誹謗中傷しているんだろう』と受け取る者だっているかもしれない。この点はやはり難しいところですね、と改めて実感しつつ、祈は杖持つ老爺に向き合った。
 不安を照らす光に成れずとも、
 恐怖を覆う翼には成れずとも、
「隣人の話を聞く事は出来ますから、あなた方が感じ得た物。惑い、不安、懼れを――僕は識りたい」
 杖持つ手に支えを添えるよう、両手で老爺の手をそっと握って、眼を合わせて名乗れば、
「僕は伊吹――イブキとお呼びください。願わくばどうかあなたの名と、その胸に渦巻く不安を背負わせてください」
「儂は、サミュエル。儂は怖くてならんのだよ、イブキさん。遠方に嫁いだ姪が、魔女に火炙りにされたと聴いて……!」
 懼れと不安の塊を溢れさせるような吐露に、ああ、と祈は思う。
 大切な者を喪った者が、また喪うのかもと思うのは、己自身の死の恐怖よりも強く大きな懼れに決まっている。
 ならばその懼れの源を、キマイラウィッチどもを必ずや斃して来よう。
「僕も奇跡によって救われました。次は僕が救済の御手を差し伸べる番だ」
「イブキさん……」
 祈が辿った数奇な運命を、宿縁による奇跡を、サミュエルが知る由もない。理解が困難だろうそれを語る必要もない。
 だが彼が嘗てディアボロス達の奇跡に救われ、彼も今ディアボロスとして奇跡を揮うのだと、先の『奇蹟』もあってそれは確りと理解したサミュエルが、縋るような眼差しで祈を見返して、固く手を握り返すから。
 彼らを、彼らの大切なひとびとを、魔女から護ると――己が存在に誓おう。
 二人の様子で何かを思い立ったらしい小さな男の子がつんつんと袖を引いてきたから、
 優しくエトヴァが微笑み返して促せば、
「何かな? ロジェさんも話を聴かせてくれるのかな?」
「えっとね、話したいっていうか、訊きたいんだ」
 遠慮がちながらも思い切った様子でロジェが口を開く。
「……王様といっしょにたたかったディアボロスは、キマイラウィッチ達にまけちゃったんだよね……?」
 当たり前の疑問だった。
 大天使達はキマイラウィッチの脅威を退けてくれた。その大天使達をディアボロス達は追い払ったから、ディアボロス達は大天使達より強いのだろうとは思うけれど、キマイラウィッチ達には相性か何かの問題でまた負けてしまうのでは、と胸裡で不安が頭を擡げてしまうのだろう。
 まだディアボロスは『大天使達と同様に、ディジョンからキマイラウィッチの脅威を退けた』という域には達していない。
 眼差しが揺れそうになるのを必死で堪えて訊ねてくるロジェの頭を撫で、
 振り返った彼に目線を合わせて応えたのはショウだった。勿論、嘘なんて口にしない。
「王様が率いるディアボロスはね、一度は魔女に囚われてしまった」
 小さな少年がびくりと身を震わせた。けれど、もちろん続きがあるよと柔らかに笑みを咲かせて、
「でも、わたし達とリヨンを脱出したの。王様達が、勇気を出して信じてくれたから」
「ほんと……!!??」
 あの日あの時、己自身でリヨンに駆けつけたからこそ語る言葉に揺るがぬ真実味が宿る。
 途端にロジェばかりでなく大勢のひとびとが瞳を輝かせたから、
「ああ、ほんとうだとも。シャルル7世陛下も率いる皆と一緒に俺達と一緒に脱出して、今も戦い続けておられる」
「ええ。以前とは異なるかたちをとられることが多いですが、私達と一緒に、魔女達と戦ってくださっていますよ」
 同じくリヨンに駆けつけたからこそ己自身の言の葉でエトヴァとソレイユが力強く肯定すれば、ひとびとから一斉に盛大な歓声が咲いた。ロジェがくしゃくしゃな顔で笑って、
「よかった、よかったよう……!!」
「ショウ、ショウ……!! ほんとうにすごいのね、あなた達!!」
 感極まったアンジェリーヌが輝く笑顔でショウに抱きついて。彼女を抱き返し、小さな少年に微笑みかけて、
「だいじょうぶ、不安な時は、わたし達を、呼んで」
 今ここにいるひとびと皆に呼びかける。不安な時には、どうか呼んで。
 たすけてショウ――って。
 神様でもディアボロスでもなくて、その胸にいちばんひかる、名前を。
 どんなことがあっても、わたし達はいなくならないから。
「呼ぶ! 呼ぶよ!!」
「呼ぶから来てね、待ってるから……!!」
 湧き上がる歓呼の声音が、幾重もの波紋のように広がって、秋晴れの青空へ咲き上がっていく。
 先の【勝利の凱歌】と尖塔の『奇蹟』がディジョンのひとびとに咲かせた希望が、いっそう確かな輝きとともに咲き誇る。
 この希望の光を潰えさせるわけにはいかない。
 たとえ自分達の帰還後に拝斥力が働くのだとしても、より強く輝けば輝くほど、ひかりは胸に残り続けるはずだから。
 今なら『突然あらわれたディアボロスの言葉』でなく『親しくなった相手からの確かな約束』として皆の耳に届くはずだと確信して、おいで、と招けばぴょこんと跳び込んできたロジェを片腕で抱き上げ、エトヴァはひとびとへ語りかけた。
「俺達が必ずや、キマイラウィッチ達を斃してこよう。安心して。俺達は強いよ。でもそれだけじゃない……」
 名前を教えてくれたひとびとを見回して、ひとりひとりの眼を確かに見つめて。
 ディジョンのすべてではなくとも、今ここにいてくれるひとびと皆のこころの奥にある泉の水面を震わせるよう、
 やさしく、あたたかく、されど力強く震わせて、泉の底にまで光を届けるよう、
「俺達は、ここに、人としてある。日々の暮らしの尊さを知っている」
「エトヴァ……」
「エトヴァお兄ちゃん……」
 穏やかで暖かな、それでいて確かな芯を感じさせる声音でエトヴァが語る言の葉は、心からのもの。
 何時だってそうだった。然れど『奇蹟』で厚い雲のごとく心を覆っていたストレスを綺麗に晴らされて、あたたかな美味を一緒に楽しんで笑い合ったディジョンのひとびとは心の垣根を開け放って、今日来てくれたエトヴァ達を新たな友人として、新たな隣人として受け容れてくれたから。同じ目線で同じ時間をすごしてくれる相手だと、受け容れてくれたから。

 ――この街を護る。そして、この国の空を憂いなく晴らす……。
 ――そのために、俺達は来たんだ。

 だからこそ、今ここで語る言の葉が皆のこころにより深く、よりあたたかく響いて届く。こころの芯を震わせる。
 一緒にあたたかでたのしいひとときを過ごしたからこそ、この街を護ると言ってくれる声音がより親しみのある、慕わしい言の葉として、新たな友人の、新たな隣人の言の葉として、より確かな現実味をともなって皆のこころに届いたから。
 秋晴れの青空に、この日一番の盛大な歓声が爆発的に咲き誇った。
 ディジョンのひとびとの、不安とストレスを和らげる――。
 今回の市街における任務で最優先すべきことがそれであったから、皆の笑顔が曇りなく輝く様に微笑んで、
「私達ディアボロスは、皆さんとともにあります」
 いっそう皆を安心させるように微笑んだソレイユは、秋風に光の鍵盤を花開かせた。
 改竄世界史の一般人にディアボロスの装備に違和感を与えることはないが、格好いい武器に子供達が瞳を輝かせるように、秋の陽射しを淡い青に透かすような光の鍵盤の美しさそのものが、先程の尖塔の『奇蹟』の折にもそれを眼にしたひとびとの眼を惹いて。期待の眼差しに応えるよう笑みを深めて鍵盤に躍らせる十指で奏でる神を讃える歌は、
 この時代のひとびとの心に確実に届く、グレゴリオ聖歌。
 思えばソレイユがディジョンの一般人達と直に接するのは、ジェネラル級キマイラウィッチ『ニコラ・フラメル』に決戦を挑むべくディジョンに潜入して以来のこと。
 ――彼らの生活は祈りとともにある。
 ――その祈りの先が大天使ではなく、正しき信仰に向くように。
 今日ここに来るまではそう思っていたのだけれど、ディジョンのひとびとは神を棄てたわけではない。
 異教に改宗したわけではない。
 彼らが元々持っている信仰に、大天使を騙るクロノヴェーダ達がタダ乗りしたのだ。
 元から存在する信仰という台に乗った上で、驚異の排除や物資の援助で、更なる信仰を得て来たのだ。
 ディジョンに現れた大天使達は本物の大天使ではなく、その存在を騙る紛い物なのだ――間違いない真実を皆へ語っても、それを信じてもらうのがどれほど困難であるのか、それを証明するのがどれほどに困難であるのかは、獣神王朝エジプトでの例からしても明らかだ。宗教革命や英国国教教会設立などを経て宗教の絶対性が薄れた断頭革命グランダルメの時代よりも、更にキリスト教が絶対的なこの時代と、この大地。
 現存する既知のディヴィジョンにおいては、火刑戦旗ラ・ピュセルこそが最も大天使と相性の良いディヴィジョンだろう。
 先の解放作戦で感じたその認識、そして、この街のひとびとが大天使を騙るクロノヴェーダへ抱く信仰を現時点で覆すのは難しいという認識を改めて確かなものにする。だからこそ、今奏でる聖歌はひとびとの信仰をどうこうするものではなくて、皆に先程の尖塔の『奇蹟』を思い起こしてもらうためのもの。
 瞳を見交わして頷き合った祈とショウ、そしてエトヴァ、聖歌に馴染んだ三人も幻奏ピアニストの演奏に乗せてその歌声で聖歌を花開かせれば、ソレイユ自身も歌声を花開かせるとともに、ひとびとの間からも歌声が次々と咲いていく。満ちていく旋律と歌声にひとびとの表情にいっそうの安堵を見て取れば、
「私はディアボロスではありますが、元はただの音楽家です」
 皆へと向けてそう語り出した。
「戦う力を得たのはきっと、皆さんのような魔女に虐げられるひとびとを助けよという啓示なのだと思うのです」
 先程の尖塔の『奇蹟』をひとびとが目の当たりにしたからこそ、仲間がシャルル7世とその軍勢に希望の路が開けたことを語ってくれたからこそ、この言葉が『ディアボロスがキマイラウィッチ達を斃してくれる』という現実感とともにひとびとの胸に届く。それらがなければ『その戦う力で、本当にキマイラウィッチに勝てるの?』と思われてしまったかもしれない。
 何者からの啓示なのかは敢えて口にはしなかった。
 然れど、それでも己が、『この街にいた大天使達』はともかく、キリスト教の敵ではないと思ってもらえただろう。
「だから私は、私達は――皆さんを、この街を決して見捨てたりはしませんよ」
 穏やかな微笑みで、それでいてはっきりとソレイユが断言すれば、おお、と感動の声音がひとびとから湧きあがる。
 傍らにいた老婆が状況を理解しきれていない様子であたりを見回すのに気づけば朱士は、大丈夫だよ、ばーちゃんと彼女の前で屈んで取った手を、重ねた時を皺と老斑が表す手をゆうるり擦って、
「俺達ディアボロスは必ずキマイラウィッチ達を斃すし、この街も、この街の誰も見捨てたりしない」
「ああ、それなら、それなら、ほんとうにありがたいねぇ……」
 ――だって今日みたいに、
 ――皆に笑顔になって欲しいって、俺達ディアボロスは思っているから。
 ゆっくりと、はっきりと、己と仲間達の心からの想いを伝えれば、老婆も嬉しげにくしゃりと笑み崩れた。
 勿論、今あたたかに心を通い合わせられたのは今この場にいるひとびとだけ。ディジョンの全市民ではない。
 不安もストレスも予想より遥かに大きく和らげてあげることはできたけれど、魔女達のディジョン奪還軍が迫り来る限り、ひとびとの心には不安もストレスも日々あらたに募っていくことだろう。今日ですべてが解決したわけではない。
 だからこそ、
「ねね、聖歌だけでなく、みんなが今日はじめて聴く、新しい歌も歌ってみない?」
 元気いっぱいに溌剌たる笑顔を咲かせて、竪琴を抱いたシルが皆に呼びかけた。
 巧く言語化できない不安もあるだろうけど、ただ声を出して歌うだけで晴れていくものだって、きっとあるから。
「上手い下手なんて関係ないよ。みんなで楽しく、心のままに歌えば大丈夫っ!!」
 秋風に煌くような竪琴の音色を響かせれば、それだけで彼女が次の瞬間に咲かせる歌が察せられたから、迷わずソレイユが光の鍵盤に十指を躍らせ、今日ばかりはバーガンディに艶めくヴァイオリンを構えたエトヴァも己が指と弓で秋風へと旋律を咲かせたなら、満面に花開く笑顔のままでシルが歌い出したのは、
 希望の明日を招く歌、ルーチェ・ソラーレ(ルーチェ・ソラーレ)!!
 パラドクスとしての力も花開かせれば、世界を取り戻すというシルの願いも乗せた歌声が、秋晴れの青空へ、ディジョンの市外へと響き渡っていく。きっと日毎に不安が募る日々はまだ続くだろう。けれど必ず不安の雲は晴れて、光が射すから。
 ――太陽も飛び起きるほど声を上げて、
 ――見たことのない朝を奏でるよ♪
 飛びきり晴れやかな笑顔のシルに合わせ曇りなき笑顔でショウも花唇から歌声を咲かせ、度の無い硝子の奥でほんの僅かに青の双眸を細めた祈も歌声を響き合わせていく。皆がすぐ覚えてくれるようにとシルが最も輝けるフレーズを繰り返せば眩いその歌にアヴィシアも少女のように笑って、竪琴から煌く音色を、花唇から歌声を咲かせて、数度の繰り返しで覚えた朱士も朗らかな笑顔で一緒に歌ってみた。だってもう、ディジョンのひとびとだってみんな歌っているから恥ずかしくない。
 大地から、ディジョンの市街の石畳から、明るい光が花開くように、秋晴れの青空へ向けて皆の歌声が咲き誇る。
 綺麗に晴れた心にもまた不安が忍び寄り、ストレスが重く圧し掛かってくる日々が続くだろうけれど、
 たとえ拝斥力が詳細を忘れさせたとしても、綺麗にストレスを晴らされ大きく不安を和らげてもらったこの開放感、解放感の晴れやかさはきっとディジョンのひとびとの心に残り続けるに違いない。希望の光そのものは、きっと残り続けるから。
 ――きっと日毎に不安が募る日々はまだ続くだろう。
 ――けれど必ず不安の雲は晴れて、光が射すからと、その感覚だけは抱いていてもらえると信じて。
 さあ、約束を、果たしにいこうか。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【建物復元】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV2が発生!
【口福の伝道者】LV2が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV2が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【グロリアス】がLV3になった!

●ショワ・シュプレーム
 ――秋を彩る麗しき黄金、
 ――美しく黄葉した葡萄の葉が秋晴れの日に黄金に輝く様は誰もの心を豊かにするけれど、

 勿論それは天地の恵みに感謝して生きる『ひと』のみの特権であり、キマイラウィッチ達には無縁なものだ。
 麗しき葡萄の黄葉が秋晴れの陽射しを享けて黄金に輝く丘陵も、ディジョン奪還軍を称する魔女達の再制圧部隊のひとつ、指揮官たるアヴァタール級キマイラウィッチ『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』が数多のトループス級キマイラウィッチ『翼ある聖歌隊』を率いる部隊にとっては増援部隊との合流地点の目印でしかなかった。
 黄金に輝く丘陵の麓、合流地点に予定より大幅に遅れて到着した増援部隊はその数をも大幅に減じていて、
『貴様ら、この失態は何事だ!? 遅参の理由と部隊員の大量脱落の理由を報告せよ!!』
 激昂した『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』はその手の鉄槌を傍らの柵の杭に叩きつけた。
 軍勢の指揮官というより異端と見做した者を審問するがごとき様相は彼の本体であるクロノス級が名を奪った存在ゆえか。然れど異端審問官の名を持つこのキマイラウィッチが神と崇めるのは断片の王ジャンヌ・ダルクだ。
『事と次第によってはジャンヌ様への反逆と見做す! 偽りなく詳細を伸べよ!!』
『ほ、報告いたします。私達は驚嘆すべき事態に遭遇したのですわ、ハインリヒ様……!!』
 断片の王への反逆という言葉にとんでもないと身を震わせつつ、廃村でディアボロス達と交戦した『翼ある聖歌隊』が己が見たまま、聴いたままを語る。その内容は『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』にとっても驚嘆すべきものだった。
 増援部隊が発見したディアボロスは秘密兵器たる重要なクロノ・オブジェクトをディジョンへ運ぶところであったという。
『その秘密兵器というのが実に凄まじい力を備えたものだったのですわ……!!』
 繰り広げた激闘の攻防と、秘密兵器を護らんとしたディアボロス三人の必死の様相を己が身で味わった『翼ある聖歌隊』が迫力も臨場感もたっぷりにその仔細を指揮官へと報告する。
 ひとつは荘厳な銀の大型剣。
 護るべき地の中心でその銀の大剣を天に掲げれば、天から降り注いだ虹の光が青水晶を虹水晶へと変え、
 銀の大剣は一振りで山をも一刀両断し、たとえ数十万の大軍であろうと一瞬で殲滅する力を得るという……!!
『なん、だと……!?』
 驚愕に眼を瞠る『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』!!
 ふたつめは聖なる秘跡を描いた絵画と、この時代には稀なる硝子のワインボトル。
 その絵画をノートルダム・ド・ディジョン教会の祭壇に掲げれば、薔薇窓から降り注ぐ光がワインボトルに満たすのは、
 呑めばあらゆる敵の攻撃を、たとえ断片の王からの攻撃であろうと完全に無効化できる神の酒だという……!!
『ジャンヌ様の攻撃をも無効化とは、何たる不遜の極み……!!』
 衝撃によろめく『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』!!
 ディアボロス達の迫真の演技ですっかり秘密兵器を信じ込んだ『翼ある聖歌隊』が己が叱責されるのを逃れるために必死で説明するがゆえに彼女達の報告も真実味を帯び、この場のキマイラウィッチすべてがその秘密兵器の力と存在を信じ込んだ。それらが『わたしの/俺のかんがえたさいきょうのくろの・おぶじぇくと』『という設定』だとは誰も気づかない!!
『ディアボロスどもの眼前で破壊できればと思いましたが、絶対絶命となった奴らが秘密兵器を諦めて撤退しましたので』
『これほど重要な品ならハインリヒ様の判断を仰ぐべきかと思い、回収して参りましたの……!!』
 あまりにも凄まじい力を持つ秘密兵器(という設定)であるがゆえ、復讐の高揚に猛っていた『翼ある聖歌隊』達も獲物が眼前から消えれば理性を取り戻したらしい。彼女達にとってはディアボロスの眼の前で秘密兵器を破壊して、絶望の底に叩き落とした獲物を嬲り殺すことこそが最高の復讐であっただろうから。
 激戦の死闘(と自分達には感じられた)を経て入手した秘密兵器を『翼ある聖歌隊』が差し出したなら、秘密兵器どころかそもそもクロノ・オブジェクトとも感じられぬ品々の様子に『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』は眼を眇めたが、
『……成程。儀式で力を得るまではその能力が完璧に封じ込まれているということか。『秘密』兵器というだけはある』
『流石の慧眼でございますわ、ハインリヒ様……!!』
 何ひとつ疑うことなくばっちり信じ込んだ『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』!!
『フハハハ!! なんと素晴らしい……!! 増援部隊の損耗を補って余りある手柄であるぞ、貴様ら!!』
『光栄至極に存じます……!!』
 激昂から一転、上機嫌で大笑した『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』は増援部隊の生き残りたる『翼ある聖歌隊』達を褒め称え、自ら率いる再制圧部隊の『翼ある聖歌隊』達にも合わせて進軍の号令を下す。
『秘密兵器を喪ったことは逃走したディアボロスどもからディジョンに伝わっているに違いない!!』
 秘密兵器の到着を今か今かと待ち構えていたディジョンのディアボロス達は意気消沈して絶望の底に沈んでいるだろう。
『今こそ羽ばたき、空よりディジョンへ攻め込むのだ!! そして彼奴等の眼の前で秘密兵器を破壊してやるのだ!!』
『『ハインリヒ様の仰せのままに!!』』
 圧倒的なる優勢を確信した『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』は今頃ディジョンで絶望に打ちひしがれている(予想)ディアボロス達を空よりの強襲で威圧しつつ、彼らの眼前で秘密兵器を破壊した上で嬲り殺すという、最高の復讐を果たして都市ディジョンの再制圧を為し遂げるという策を選択した。
 黄金に輝く丘陵の麓からキマイラウィッチ達が一斉に羽ばたき、全速でディジョンをめざす――!!

 対するディアボロス側が採れる策は二択だろうか。
 ひとつは、再制圧部隊がディジョンに近づく前にこちらからも【飛翔】の全速で向かって迎撃し、
 魔女達が『秘密兵器』を破壊せんとするのに必死で抗う演技をしつつ敢えて破壊させ、大いに悲嘆し絶望してみせることでキマイラウィッチ達の復讐心を弱めるという策。こちらは演技とはいえ『ディアボロスが悲嘆し絶望する姿』をディジョンのひとびとに見せるわけにはいかないから、都市から離れた場所で迎撃する必要がある。
 ふたつめは、再制圧部隊がディジョンに近づいたところでこちらも【飛翔】して迎撃し、
 魔女達が驕り高ぶった様子で『秘密兵器』を破壊したところでそれが偽物であることを明かして、敵勢が動揺したところで猛攻を掛けるという策。こちらは『都市に被害は及ばないが、都市のひとびとが眼にすることのできるあたり』を戦場とすることで、ディジョンのひとびとに『ディアボロス達がキマイラウィッチの軍勢を斃す』ところを見せることができる。

 いずれの策にも利点がある。
 注意すべきは、ふたつめの策を採るなら確りした戦力を揃える必要があるという点だろうか。
 そして、言うまでもなく、いずれの策で挑むのかを意思統一しておく必要があるという点だ。
 然るべき場所で、相応しき場所で相談の上で意思統一をして臨むのが最善だろう。勿論、前述のふたつ以外に良策があれば其方を採るのもよし、選択した策の中で実行したい戦術があれば提案してみるのもよし。
 自分達ディアボロスに上下は無く、指揮官も存在しないことを忘れてはならない。
 敵を包囲するなどの『自分ひとりでは不可能な戦術』はあらかじめ仲間達に協力を願っておくべきだろう。
 現場で唐突に提案しても受け容れられるとは限らないし、自分では優れた戦法だと思えても実際にそうである保証はない。事前に仲間達に相談すれば現場での連携もよりスムーズになるはずだし、提案に問題があれば仲間が気づいてくれることとてあるだろう。
 ――戦場の選択はディアボロス達に委ねられている。策の選択も然り。
 ――さあ、如何なる策を採り、如何なる地点でキマイラウィッチ達を迎え撃とうか。
 
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎

飛翔し街に被害なき近くで迎撃
品々の破壊からの動揺を誘った所で空中戦へ

あーなんと勿体ないことを……
血も涙もないが、何の変哲もないスペシャルなワインもなくなってしまった
それは大地と人々の汗と涙の結晶
連綿と受け継がれてきたものなんだよ
それを壊して嬉しいかい、魔女殿

でも、そっちの絵は本物(の複製画)だ
壊す前に感想を聞いてみたかったなぁ

PD通信で声を掛けあい仲間と連携
戦況を観察しつつ、敵味方の動きを把握
両手の銃でPD攻撃
一撃で倒せる敵>消耗した敵の順に攻撃し、着実に撃破
羽の舞うように緩急つけた不規則軌道を取り
間合いを乱し、視野に捉えづらく攪乱
敵数が多い間は自陣を維持し、突出せず、味方の死角を補うよう立ち回り、危険を報せ
敵数の減少とともに立体的包囲へ移り、挟撃を取る仲間の穴を埋めるよう囲う

集中的に狙われる味方や負傷の深い方を優先し得意能力でディフェンス
相手の狙いとペースを崩していこう
敵の攻撃には、魔力障壁で影響を軽減、ピアスの音を意識し人々の顔を思い出し耐え
物理にはコートと障壁で防御


ソレイユ・クラーヴィア
人々の見える範囲で迎撃

約束しましたからね
キマイラウィッチの脅威にディアボロスは対抗できるのだと証明します

飛翔して、都市に影響が出ない空中にて迎撃
秘密兵器云々については、軽く笑い
魔女も意外と気性は素直なのですね
なんとも可愛らしいことです

宙に展開した鍵盤でヒロイックシンフォニーを演奏
鎧姿に剣を携えた有翼の英雄を喚び、魔女を蹴散らせと指揮します
魔女に抗うのは輝ける英雄の姿が相応しいでしょう

どんなに魔女が押し寄せてこようとも、ディジョンはディアボロスが護ります
絶対に手出しはさせません

仲間と声を掛け合い、状況が許せば挟撃するように位置取り
体力の低い者から集中撃破
都市へ飛ぼうとする個体は優先的に狙います

ディアボロスは此方ですよ
復讐は、したくないのですか?

反撃には魔力障壁を展開して凌ぎます
魔女の聖歌より、先に歌った皆さんとの聖歌の方が心震える旋律でしたよ
故に負けてやる謂れはありません
W技へのディフェンスは積極的に動き
傷つこうと邪悪には決して負けないと、戦意で示します

お待たせしました、次は貴方の番ですよ


ネリリ・ラヴラン
戦場はもちろん住民さん達に見て貰えるところだよ
魔女達を倒すのなんて目的の二番目だもの
ディジョンの皆、強いてはこの世界の皆に、希望を届けるのが第一だわ

なんて酷いことをするの
それはディアボロスの大事なっ
大事な… なんだったかしら、そう、あれ!すごく強い設定の品々!
これは許されないわー(棒読み)

先行していたのもあって現場で突然耳にしただけだからね
細かい設定は覚えてなかったりするし
絶望してあげる理由がないよね

【飛翔】を使ってお空で迎撃
煽ってあげていれば狙いはディアボロスになりそうだけれど
万が一もあるので私は村を背に戦う感じでいたいね

固定砲台にはなってしまうけれど、私の魔法は変幻自在
ここからでも皆にしっかり合わせてゆくために
今回放つ魔法は星屑の嵐

【高速詠唱】で空遥かへ放ち
敵群の頭上から魔力の矢を降らせて全体を削るよ
いつでも上を抑えられるって示して
大きな移動をせずに囲い込みに協力したいお気持ちね

(避難勧告は抜けられてしまいそうな時に使用するよ)

アドリブや連携は歓迎だよ


四葩・ショウ
いってくるねと花笑んで
【防空体制】で見渡す黄金の丘陵
近づく影を【飛翔】で迎え撃つ

秘密兵器を破壊されたって
――残念だったね
それはクロノ・オブジェクトじゃない

絶望なんて、しないよ
微笑んで明かして
動揺が漣みたいにひろがったなら、
まよわず空中戦でしかける白焔のダンス
復讐で高鳴るそのむねへ
突き立ててあげる

【パラドクス通信】で連携を図って
動揺中&基本は
仲間と同じ敵を狙って
いちばん深く傷つくレディを巻き込む
大群の形を保っている間は
フリーの敵を自由にさせないよう遊撃に回るね
突出や孤立に気をつけつつ
ヒットアンドアウェイの羽搏きで攪乱したい

槍には魔力の雨降らせるレガリアと
白のペリースで急所を護りつつ
胸に突き立てるなら
白焔を咲かせ、幻影達と熾烈に攻めよう

仲間をディフェンスする
負担は大きいから、
積極的にとどめを狙って回復するね
でも、消耗がハイペースなら
ディフェンスを止めて立て直すよ

敵の数が減ったら
挟み込むよな位置取りを意識

とりもどすなんて
笑わせないで

だいじょうぶ
アンジェリーヌさんや皆には
歌声ひとつ、届かせない


空木・朱士
取り敢えず着替えた!
やっぱいつものスカジャンの方が落ち着くし、俺にとっての戦闘服なんだよな。

【飛翔】して街に被害が及ばない辺りで待ち受ける。

今頃見てくれているだろう良くしてくれた宿屋の大将や笑顔をくれたばーちゃんの前でカッコ悪い姿は見せらんないからな。
気合い入れていくぜ。

シルやエトヴァ達の言葉に敵が動揺してる隙に青鷺舞わせサクッと攻撃。

そんな便利な秘密兵器あったら俺らも苦労しないっつーの。
此処から先へは行かせないぜ。
約束したからな、キマイラウィッチは必ず倒す。
街へは一歩だって入れないってな。

【パラドクス通信】で敵味方の位置や戦況なんかの情報を常に共有し合いながら仲間と連携。

敵の攻撃優先度は手負いなどの倒せそうな敵、それから味方の攻撃した敵に重ねるように攻撃。
街に行こうとする素振りを見せた場合も迷わず攻撃。

突出し過ぎたりしないように気を付けつつ上下左右自在に動き回り
仲間へのディフェンスにも積極的に入ってく。
敵の数が減ってきたら挟み込むように攻撃したり。

反撃には籠手で防御し対応。


シル・ウィンディア
希望をおすそ分けしたからには、しっかりと脅威から守る力があることを示さないとね。

ディジョンに向ってきた制圧部隊を飛翔で迎え撃つよ。
ここから先は通行止めだよ。

あ、そういえば…。
あの剣だけどね、あれ、ただの摸造剣だから。
まぁ、ちょっとお財布のダメージはでかいけど…。

さて、動揺してくれているうちに…。
高速詠唱で隙を減らしてからの時空精霊収束砲!
わたしからのプレゼント、受け取ってねっ!!

撃った後は、飛翔の効果で空中機動を行うよ。
特に上下に揺さぶっての撹乱を中心に、前後左右、急加減速も取り入れて気を惹いていくよ。
他の人に意識が行くなら、遠慮せずに撃ち抜くだけっ!

攻撃対象は
倒せそうな敵がいれば、その敵を中心にねらっていくよ。
いなければ、味方の攻撃した敵から狙いっていくね。

パラドクス通信で連絡を取り合って、敵の状況や状態を共有するよ。
あ、そこ、弱っているからねらい目だよっ!

ディフェンスはしっかりと獲りに行くよ。
人が多いけど、ダメージを与えるチャンスはしっかりと押さえないとね。

魔女さん、次はあなたの番!


伊吹・祈
【飛翔】で羽撃きディジョン目指す奪還軍を迎撃
交戦は都市に影響なく目視可能な地点にて

「それが、どうしたというのですか?」最高の復讐を果たした気でいる聖歌隊へ塩対応にて嘘明かし
再び白鳩のあなたを召喚し、秋空へ天泣の光を降注がせる
騙されたと復讐燃やす間も与えまい

都市を背に空中戦を。戦場見渡す観察にて魔女達の動向挙動を警戒
特に敵へ攻入る戦い方をする仲間の助けとなるべく支援攻撃を
殲滅が進んだならば仲間と共に前後左右に挟撃を試みる
黄金の双翼で覆隠す仲間へのディフェンスは体力に余力のある限りのみ、自身の負傷が嵩めば控える
想起するはサミュエル殿の握返す手。歌声。子供達の笑顔。それを害すると仰るならば
よろしい。相応しい報いを与えよう

確りと聲を上げ、残留効果用い連携
照準は撃破可能>仲間が攻撃(最も負傷が嵩む敵を最優先)
常に体力維持を念頭に置き傷嵩む前に撃破の【グロリアス】狙い、邪悪なる『聖歌』には怒りと街の方との交流を、生徒の声を寄る辺に抗う姿勢を
レッスンの必要があるようですね――それが聖歌だと?


アヴィシア・ローゼンハイム
飛翔で羽ばたき、街に被害が及ばない、かつ人々が戦況が見える場所で向かい撃つわ

街の皆、子供たちに約束したもの
人々の心に希望の花を咲かせるためにも、情けない姿は見せられない

絶望なんてしないわ……だって、嘘だもの
仲間たちがついた、とびっきりの、真っ赤な嘘

秘密兵器の嘘に動揺したのならば、微笑みつつも気は緩めず、その隙を逃さず攻撃を

飛翔で飛び込み、複数敵を巻き込むように大鎌を振う
くるりくるりと、回る様に、踊る様に、時には切り抜けるように切り裂いて
3次元的に攻撃を重ねていくわ
私のステップについて来れるようならついてきなさい、なんてね

敵の聖歌は防御は困難かもしれないけれど
あの時、街の皆と歌った、あの綺麗な歌を思い出せば
きっと耐えられるから
そんな邪悪な歌で止まると思ったら大間違い
さあ、冥府へと旅立ちなさい

【パラドクス通信】で仲間たちの位置や状況は把握
すぐ倒せそうな敵は優先、仲間の劣勢時には防御に入る様に心がけるわ

さて、最後は鉄槌の魔女さん、貴方だけ
冥府への旅路の準備はできたかしら?


●ヴェリテ
 ――世界に咲かせるのは【防空体制】の効果、
 ――ディジョンのひとびとに咲かせて見せるのは、希望の光そのもののごとき乙女の花笑み。
 いってくるね、と四葩・ショウ(After the Rain・g00878)が光の花咲くような笑みで皆に戦いへの出立を告げたなら、
 是非ともショウ達の武運を祈らせて、と確かな信頼を籠めた青灰色の瞳でまっすぐ見つめ返したアンジェリーヌをはじめ、ひとびとから次々と声援があがったから、
「勿論! すっごく心強いよ、ありがとう!!」
「だねっ! みんなが応援してくれるなら百人力っ! 見ててね、必ず魔女達を斃すから! 希望の光は必ず射すから!!」
 燕の乙女とともに満開の笑みで応えてシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)は、純白の裏へと夜明けの彩が翻る清麗なペリースを羽ばたかせるよう飛び立つショウに続き、揚羽蝶の翅めく煌きを覗かす風妖精の外套を秋風に舞わせてふわり【飛翔】で石畳に彩られた大地から解き放たれた。
 乙女達が飛び立つ美しき光景もまたひとびとにとっては『奇跡』のひとつ。皆の瞳にいっそうの期待が輝く様に、今ここにいるひとびととは確かに心を通わせられたのだと改めて実感する歓びのまま暖かに微笑んで、
「大丈夫、俺達は必ず約束を果たすよ。キマイラウィッチ達を斃して、ディジョンのひとびとと街を絶対に護るから」
「ええ。私達ディアボロスがキマイラウィッチの脅威に対抗できるのだと、皆さん自身の眼で確と御覧になってください」
 屈んで目線を合わせた小さなロジェの頭を柔く撫でたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、眩いほど屈託ない笑みで『エトヴァお兄ちゃん、がんばって』と送り出してくれる幼子に頷き、エトヴァ達みんなに武運をと祈ってくれるヴァレリーと肩を抱き合い、ひとびと皆へと向けて再度の誓いを告げる。
 先程聖歌を奏でるために花開かせた光の鍵盤はソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の音楽を敵と戦い刻逆に抗う力へと変える武器であるから閉じることなくそのまま咲かせ、蒼穹と黄昏の眼差しでディジョンのひとびとを穏やかに見回しながらも、皆をより安心させるべく歌唱に長けた声音に揺るぎない自信の響きを乗せて明瞭な言の葉を皆へと贈って――蒼穹の天使の翼を花開かせたエトヴァに続き天の彩映す魔力の翼を咲かせてソレイユも秋晴れの空へ飛び立てば、街中の小さな教会前につどった数多のひとびとの誰もが笑顔と歓声で送り出してくれた。
 言葉にこそ出さずとも、大天使と敵対するディアボロス達をキリスト教そのものと敵対する存在だと認識していた者もいるだろう。住民達が予想もしていなかっただろうディアボロスの力による教会の尖塔の修復を為し遂げ、それを『奇蹟』として晴れやかに演出してくれた仲間達の尽力あってこそ、今日出逢えたひとびとは先程の己の『啓示』という言葉を善なるもの、神なる存在からのものとして受けとめてくれたのだ。ひとびとのその心を、期待を、決して裏切りはすまい。
 この都市にいた大天使達、大天使を騙るクロノヴェーダについての真実を住民達に語るのはまだ難しくとも、
 大天使様達がいなくても、ディアボロス達がいてくれれば大丈夫――と、住民達に確たる安心感を齎すことができるよう。
 地上からでは距離的に見霽かせなかっただろう黄金の丘陵、
 敵軍の合流地点だというそれを、秋晴れの空からなら大地の彼方に望むことができた。
 澄んだ青空との境界に葡萄畑の黄葉が描き出す黄金の稜線、秋の陽射しを受けたその煌きに本来なら紛れてしまっただろう敵影を極めて小さなうちに花の色の眼差しが捉えられたのはショウ自身が燈した【防空体制】の効果ゆえ。来たよ、と報せる声音は朗と張り上げるまでもなく、仲間達の【パラドクス通信】によって顕現したインカム状の通信機越しに皆へと届く。
 後々のことを考えれば都市から離れた地点で迎撃し、魔女達の復讐心を満足させてそれを弱める策も捨て難かったけれど、
「この世界の皆にというのはまだ難しくても、今はディジョンのひとびとに希望を届けるのが第一よねっ!」
「そういうことっ! というわけで!!」
 華やかに煌く蘇芳の瞳で敵影を見据えたネリリ・ラヴラン(★クソザコちゃーむ★・g04086)が強気な笑みを咲かせれば、溌剌たる笑みで応えつつ翔けていたシルが減速したのは、都市のひとびとが戦いの様子を見ることが叶い、それでいて戦闘の余波が都市には届かぬあたり。こちらに気づいたらしい『翼ある聖歌隊』達が遠目にも嬉々として迫り来れば、
「そこまでだよ、魔女さん達っ! ここから先は通行止め!!」
 藍色煌く鉱石の蕾を戴く白銀の長杖を構えたシルが彼女達の視界を遮るよう躍り込んで凛然と杖を突きつけたが、
『あらあら! またお逢いしましたわね、先程尻尾を巻いてお逃げになったディアボロス達!!』
『ディジョンのお仲間に助けを求めたというわけですのね、改めて絶望を見せつけられることになるとも知らず……!!』
 増援部隊の生き残りらしき魔女達には虚勢を張っていると見えたのだろう。
 廃村で戦った三人と初見のディアボロス達を見渡した『翼ある聖歌隊』達は高らかに嘲笑を響き渡らせ、
『絶望するディアボロスの数が多ければ多いほど私達には好都合ですわ! さあ、御覧なさい!!』
『ディアボロスの秘中の秘にしてディジョン防衛の要だという、秘密兵器が無残に打ち砕かれるところを……!!』
 勝ち誇ったように堂々と掲げて見せるのは廃村の教会に隠されていた『重要なクロノ・オブジェクト(偽)』。
 聖なる秘跡を描いた絵画が、貴重な美酒を秘めたワインボトルが、荘厳に輝く銀の大剣が青空に投げ上げられた次の瞬間、
 秋晴れの青空に高々と舞った魔女が降下とともに揮った大鎌が絵画とワインボトルをまっぷたつに切り裂き、天上から数多降りそそいだ眩い閃光の槍がまっぷたつになった絵画とワインボトル諸共に銀の大剣を粉々に打ち砕いた。秋晴れの陽射しに無残に舞い散るのは数多の色彩を鏤めた絵画の破片と、砕け散った硝子片に、深い色合いのルビーが残照を孕んだように煌く古酒の飛沫、一足はやい雪花のごとき白銀に煌く銀の大剣の破片に、深く青く煌くブルークリスタルの欠片……!!
 爛熟したカシスやブラックベリーめいて、気品のある紅茶をも思わす古酒の香りが大きく花開いて秋風に浚われて、
「なんて酷いことをするの! それはディアボロスの大事なっ!!」
『ふふふ、あはは! そうですわねそうですわね、貴女達のとても大事な――!!』
 真っ先に花唇から悲痛な叫びを迸らせたのはネリリ。
 彼女の叫びに魔女達は復讐の高揚のままに高笑いを響き渡らせようとしたけれど、
「大事な……何だったかしら、そう、あれ! すごく強い設定の品々! これは許されないわー、ごくあくひどうだわー」
『なっ、設定ってどういうことですの!?』
『あれだけ必死に護ろうとしてらしたのに、何ですのその投げやりな棒読み……!!』
 唐突に小首を傾げたネリリが笑顔でぱんと手を打てば途端にその花唇からは完全に棒読みな台詞が紡がれ、ディアボロスの秘密兵器を破壊し絶望させてやったと沸き立つはずだった聖歌隊達が冷や水を浴びせられたように身を震わせる。続けて、
「ディアボロスの秘中の秘にしてディジョン防衛の要――でしたか。それが? 本当に?」
「ふふ、嘆いてあげられなくてごめんなさいね? だってその話……仲間達がついた、とびっきりの、真っ赤な嘘だもの」
 指先でついと押し上げた眼鏡、冷ややかに煌くそれよりなお凍てる声音の塩対応で伊吹・祈(アンヘル・g10846)が一片の容赦もない言の葉の刃をキマイラウィッチ達の心へ突き入れたなら、菫青石の瞳を悪戯っぽく煌かせ、頬に白き繊手を添えたアヴィシア・ローゼンハイム(Blue・Roses・g09882)がとっておきの秘密を明かすような笑みで滴らせる真実のしずく。
『う、そ……?』
『嘘、ですって……!?』
 青薔薇の魔女の一言は、さながらキマイラウィッチ達の悦楽の泉に落とされたニガヨモギの雫のごとし。
「そそ、あの剣だけどね、あれ、ただの摸造剣だから。急ぎで作ってもらった摸造剣で、何の力もないものだからっ♪」
「ああ、何の罪も何の力も、何の変哲もないスペシャルなワインをただ散らして歓ぶなんて、魔女殿は血も涙もないな」
 お財布的には大ダメージだったけれど現役アイドルはそれでも笑顔!!
 元気いっぱいに晴れやかな笑みを満開に咲かせたシルが何もない右手をひらひら振ってみせれば、あれは大地とひとびとの汗と涙の結晶、連綿と受け継がれてきたものなんだよ、と言い諭す口振りでエトヴァが語るのは、件のワインが神の天意ではなく大地とそこに生きるひとびとによって創り出されたものだという、
 当たり前すぎるほどに当たり前で、だからこそ揺るぎなく尊い厳然たる事実。
『何の力もないですって……!? あれほど荘厳な大剣を、あれほど必死に護ろうとしていたのに……!?』
『儀式の秘跡とは何の関係もないワインとボトルだったってことですの!? 絵画だって、あんなに厳かで……!!』
『深淵の如く空間を彩る影の昏さと、眩く射し込む光が照らす秘跡の光景の神々しさの対比が圧巻の絶美でしたのに!?』
 動揺する聖歌隊の口から零れるのはエトヴァ自身の筆による絵画(の複製画)を絶賛する言葉、掛け値なしの本音だろうと思えば一瞬ほっこりしてしまったけれど、当然ながら蒼穹の天使に魔女達を殲滅することへの躊躇いがあろうはずもない。
 漣めいて広がる魔女達の動揺、花の色の眼差しでそれを見て取ったなら優艶に微笑んで見せて、
「――わたし達を絶望させられなくて残念だったね。それは秘密兵器じゃないし、クロノ・オブジェクトでさえもない」
「疑いもせず信じ込んでしまうとは、魔女も意外と気性は素直なのですね。なんとも可愛らしいことです」
「だよな、そんな便利な秘密兵器があったら俺らも苦労しないっつーの! 此処から先へは行かせないからな!!」
 一口にクロノ・オブジェクトと言っても新宿島大結界のように巨大で強力なものからディアボロス達の個人装備まで様々なものが存在するが、戦局を一変させる凄まじい力を持つ秘密兵器どころか、そもそもクロノ・オブジェクトですらないのだと明かせばショウが途端に己が魂のほとりから迸るのは復讐の白焔、幻影の乙女達とともに秋晴れの空に舞った彼女が敵勢へと躍り込むと同時、聖歌隊に向け軽やかに冷ややかに笑んだソレイユの十指が光の鍵盤を翔ければ懐の画集から羽ばたくように顕現した輝ける英雄も雄々しき旋律に乗って魔女達に斬り込んで、空木・朱士(Lost heart・g03720)が不敵な笑みとともに奔らせた蒼白い炎を纏う青鷺が魔女達の胸を貫き燃え上がらせて、
「あなた達の侵攻も、あなた達の人生もここで通行止め! わたしからのプレゼント、受け取ってねっ!!」
「それとも、キマイラウィッチ生とでも言うべきかしら? どっちにせよ進ませてはあげられないからね!」
 瞬時に高速詠唱を完成させたシルとネリリが咲き誇らせるのは輝ける精霊魔法陣と魔力を結晶させた黒色一対の弓矢、眩く苛烈な輝きを迸らせる砲撃魔法が真っ向から敵勢に爆ぜれば遥か空高く射ち放たれた黒矢が無数に分裂して流星雨のごとくに降り注ぎ、光の砲撃と矢の流星雨に蹂躪される敵陣に鮮やかな瑠璃色の三日月めく大鎌を舞わせたアヴィシアが斬り込めば、二つの銃口を唄わせたエトヴァが撃ち込む青き弾丸が凍てる魔力とともに魔女達へ襲いかかる。
『そんな……!!』
『それじゃあ、私達の同胞は、増援部隊の大半は無駄死にしてしまったということですの――!?』
 迸る聖歌隊の叫びを冷たい静謐に呑み込むよう宣告するのは祈、
「御愁傷様です――と言っておこうか。だが、あなた方が辿るのも同じ道程だ」
 深く冴ゆる青と幻惑するがごとき遊色を秘めた青、僅かに彩を違えた双眸を細めればその手許に舞い降りるは電脳世界から再び召喚された輝くように白い鳩。羽ばたきが黄金に輝けば白鳩は黄金の竪琴めいた大弓へ変じ、同じ色に輝く背の翼から引き抜く羽根を番えて天涯へと射ち放てば、数多の光の嚆矢が秋晴れの空から天泣のごとく降り注いだ。
 圧倒する。
 蹂躪する。
 緩急で魅せる舞台劇のごとく一瞬で開幕した戦いの序盤からディアボロス達が魔女達を圧倒する様に街から歓声が咲いて、
 遅滞戦術での仕込みを活かし『翼ある聖歌隊』達を動揺させた隙をついての猛攻は魔女達の反撃のことごとくを捻じ伏せ、再制圧部隊も増援部隊の生き残りも綯い交ぜにして瞬く間に二十体近い聖歌隊を撃墜、更には敵勢が態勢を立て直すよりも速く青き精霊術師が秋晴れの青空へ解き放たれた。澄み渡る青に鮮やかな青の軌跡を舞わせ、
「どんどん撃ち込んでいっちゃうよ! そう簡単に立て直させてはあげないからっ!!」
 天頂めざして全速で急上昇したかと思えば一瞬で敵陣にダイブするかのごとき急降下へ転じ、突き抜けた魔女達の下方から突き上げるように放つは高速詠唱で花開かせた精霊魔法陣から迸る時空精霊収束砲(クロノ・エレメンタル・ブラスト)!! 鮮烈な輝きを咲き誇らせるシルの魔力砲撃と邪悪な聖歌の反撃が激突した刹那、上下に意識を揺さぶられた聖歌隊達へと更に斬り込んでいくのは青薔薇の魔女、夜色の翼の羽ばたきとともに花開くは奇跡の青薔薇、敵を斬り裂く刃が瑠璃色の三日月を描く大鎌と揮って聖歌隊を刃で強引に誘い込むのは死の円舞曲。反撃の聖歌に意識を蝕まれても微笑みは絶やさずに、秋空に舞って踊って【飛翔】も【エアライド】も活かして秋風の階(きざはし)を軽快なステップで昇るよう斬り上げて。
「私のステップについて来れるようならついてきなさい、なんてね」
 遅滞戦術の報告書に『手練れ』と記された増援部隊と同様、この再制圧部隊もトループス級としては精鋭であるのだろう。自身もまた精鋭の域にまで己を高めたアヴィシアであれど、術に活かす誘惑技能であちらが勝っていることもあり、素のまま戦えば五割以上の確率で拮抗、悪くすれば反撃側優勢を獲ってくる相手だ。
 それでも己が圧倒的強者であるかのごとく振舞って見せるのは決して慢心ゆえではなく、
 ――街の皆に、子供達に約束したもの。
 ――ひとびとの心に希望の花を咲かせるためにも、情けない姿は見せられない!
 瑠璃色の大鎌の柄とともに握り込む約束のため、仲間と積み上げた幾重もの加護が己の力を底上げしてくれているがゆえ。そして、敵勢を動揺させた隙を突いた猛攻で自分達が掴み獲った優勢を加速させるため、更には、
「援護します、ローゼンハイムくん。だが、どうか無理なく」
「ああ、俺も皆の死角を補うつもりだが、無理なきよう。戦況は俺達が優勢だが、数ではまだまだ敵が圧倒しているからな」
「ありがとう、頼らせてもらうわね! 祈!! エトヴァ!!」
 頼もしい声音がインカム越しに聴こえてきたとおり、己が術の冴えを増す技能のみならず『翼ある聖歌隊』達の術の冴えを相殺する九種の技能も磨き上げてきた祈やエトヴァが優れた観察眼で戦況全体を把握し、鋭い援護射撃を撃ち込んでくれるがゆえだ。敵味方の位置まで【パラドクス通信】で把握できると考えている者もいるが、音声のみの情報共有は決して万能ではなく、己が眼での状況把握を怠れば致命的な事態を招きかねない。
 だからこそ黄金の天使と蒼穹の天使は研ぎ澄ませた観察技能を備えた眼差しで常に戦場を見渡して、それぞれの術を的確に撃ち込んでいく。事前情報を十全に活かしきり、抜かりなく技能を研ぎ澄ませてきた祈は自陣で最も経験が浅い身なれども、火力こそ僅かに劣れど攻撃の精度は精鋭陣に匹敵する。自身とシルが燈した命中強化の加護を得た羽根の一射は光の天泣へと変じてその反撃ごと聖歌隊四体を貫いて、こちらもまた聖歌隊と有利に戦うたるの技能すべてを研ぎ澄ませてきたエトヴァが両手の銃を翻せば即座に放たれた銃撃がアヴィシアめがけて舞い上がらんとする魔女達を凍てつかせ、連射される弾丸が敵の反撃ごとその命を打ち砕いていく。
 敵数が多い間は自陣を維持して――と考えていたが、突出を厭わない仲間がいるならその死角を補う立ち回りを優先すると判断したのは一瞬のこと、蒼穹の翼を大きく羽ばたかせたエトヴァもまた秋晴れの青空へと解き放たれたなら、天空へ気侭に絵筆を躍らせるかのごとき軌跡を描いて秋風とともに翔けるは聖歌隊達の魔女達と踊る秋空の戦場。
 先刻廃村でやりあった増援部隊、此方の攻撃に晒された魔女達の翼や身体の痛手は自分達同様に回復しているだろうが、
「頭巾(ウィンプル)が焼け焦げている敵は増援部隊の生き残りだな。より動揺が大きそうだから積極的に狙っていこうか」
「先にエトヴァ達がやりあった奴らだよな? 了解、俺の青鷺火の痕とごっちゃにならないうちに撃墜していこうぜ!」
「ええ、狩りやすい敵から落としていくのは定石ですからね。早急に頭数を減らしていきたいところです」
「さっきのエトヴァさんの焔とわたしの蝙蝠の爆発がいい感じに目印をつけたってことだよね、一石二鳥!!」
 濃灰に緋が翻る頭巾(ウィンプル)に黒々とした焦げ跡が覗く様に目敏くそれを察すれば、態勢を立て直しつつある敵勢をいっそう効率よく削っていくべくエトヴァが青き魔弾を連射し、反撃ごと魔女達が凍てついた一瞬の隙を逃さず翔けた朱士が敵勢の横合いから撃ち込む青鷺、冷たく見えて壮絶な灼熱に燃え上がる蒼白い炎を纏った鳥なれど魔女達が氷から逃れる暇さえ与えることなくその吶喊が彼女達を撃墜して。蒼穹と黄昏の眼差しを敵勢へ奔らせたソレイユが秋晴れの青空へ響き渡らせる華々しくも勇壮な楽曲が、翼も剣も鎧も輝ける幻想の英雄を邪悪なる魔女達へ斬り込ませていく。
「私は固定砲台になってしまうけれど、私の魔法は変幻自在だからね!」
 秋晴れの陽射しに銀にも煌く豊かな灰の髪と夢魔の翼を広げ、ディジョンへの最終防衛線となるべく位置取るのはネリリ、正史ではブルゴーニュ公国の首都であり、火刑戦旗ラ・ピュセルにおいてもブルゴーニュ地方の中核都市であるこの街を自分ひとりの背で覆いきれるとは勿論思っていないけれども、万一に備えてひとびとを逃がすための【避難勧告】の準備も万全、それにこの仲間達となら魔女達を一体たりとも逃すことなく殲滅させられるはずだから。
 攻撃は最大の防御とばかりに解き放つ魔法は――星屑の嵐(デヴァーリング・マリス)!!
 何処までも高く澄みきった蒼穹の天頂めがけて放つは魔力の結晶たる黒矢、瞬時に無数の鏃に変じたそれが流星雨のごとく敵勢に降り注ぎ魔女達を貫いていく。敵軍全体を削る気概で揮う魔法なれど現状では少なくともディアボロス達が戦場の敵勢すべてを攻撃するパラドクスを持ち得ていないのはネリリも承知、狂気と殺意に満ちた反撃の聖歌を堪え、それでもこちらが何時でも上を抑えられるのだと示すよう更に魔力を凝らせるけれど、
 鏃と鋩という違いこそあれ、天上から閃光の槍を降らせるパラドクスを揮い、制圧射撃と気絶攻撃でネリリの優に倍以上の技量を備えた『翼ある聖歌隊』達にとっては上空から制圧されるほどの脅威とは成り得ない。反撃の聖歌に続け一気に高空へ舞い上がった魔女が邪な力を宿してぎらつく大鎌を翻し、
『こちらも上空から参りますわ!!』
『ジャンヌ様! 私達に復讐のための、力を!!』
 急降下とともに首を狙えば続け様に祈りを捧げた別の魔女が天上から閃光の槍を招来するが、
 高空から襲い来る幾つもの輝きに喰らいついたのは紅蓮と白焔の軌跡、
「そうはいくかよ!!」
「貴女の祈りを断ち切らせてもらうよ、レディ」
 禍々しい大鎌のぎらつきと猛然たる勢いにも怯まず一気に上空へ翔けた朱士が真紅の籠手に彩られた拳を打ち込めば大鎌の刃との間に鮮烈な火花が弾けて、仲間と己で重ねた三重の反撃強化で更に威を鈍らされた刃が肩を抉るが、街でのひとときで仲間が燈してくれた防御強化がいっそうの護りとなってくれるから。己が身を挺して閃光の槍を受けたなら、途端にショウの胸から溢れ出したのは純白の灼熱に燃え上がる復讐の焔、花開く硝子のレガリアが降らせる魔力の雨に鋩を鈍らされ、迷わず翻した白きペリースが胸から片腕へと逸らした閃光の槍の威を祈りと光使いと制圧射撃の技量で聖歌隊の魔女達を上回る燕の乙女が半減するのは容易くて、
 気炎を吐くよう笑った朱士と凛々しく笑んだショウが放つ反撃は至近から魔女の胸を貫く青鷺と咲き溢れる白焔から花開く幻影の乙女達とともに揮う白焔と硝子のレイピア。ネリリの盾となった二人の反撃が彼女の魔法で痛手を負っていた魔女達を仕留めれば朱士とショウの裡に眩く咲き誇るのは、一気に四重に高められた攻撃強化に強められた、三重の【グロリアス】の強大なる癒し。更なる魔女が二人めがけて舞えば邪悪なる聖歌が響き渡るけれど、
 一撃で獲物四体を呑む響きへ迷わず跳び込んで、朱士とショウの意識を刈らんとした歌声を引き受けたのは青き精霊術師。二重の反撃強化で邪悪なる聖歌を堪えて精霊魔法陣を花開かせれば、解き放つ反撃は二人への攻撃を引き受けた分の二連撃、当然これに耐えられるはずもなく凄まじい魔力砲撃の連打でシルの眼前の魔女が文字通り散華すれば、
『……っ!! どういうことですの!? 貴方達、廃村でやりあった時よりずっと強いじゃありませんの……!!』
「さっきはわざと『窮地に陥って限界がきた』ってふりをして見せたっていうのもあるけどね、それだけじゃないよ!!」
 増援部隊の生き残りがシル達に悲鳴じみた絶叫を迸らせたけれど、
「わたし達ディアボロスは、仲間達と一緒に敵に立ち向かうほど強くなるんだからっ!!」
 強気に笑み返した青き精霊術師は彼女めがけて一気に加速しつつ己が魔力を凝縮させた。
 常に幾つものディヴィジョンで最前線を翔け限界まで己が練度を磨き上げた精鋭中の精鋭にして、数多のジェネラル級達に引導を渡してきたシルであるが、彼女の代名詞とも言える高速機動と大型砲撃魔法をも上回る最大の強みが、勝利は己のみで掴めるものではなく、仲間達とともに織り上げ積み重ねた軌跡の先に結晶させるものだと揺るぎなく理解していること。
 ――世界を司る四界の精霊達よ、時を刻みし精霊の力よ、
 ――混じりて力となり、全てを撃ち抜きし光となれ!!
 瞬時の高速詠唱で花開く精霊魔法陣から己と仲間で燈した二重の命中強化の光が翔ける。
 遅滞戦術の折に仲間と燈して、街でのひとときに皆で積み重ね、この戦いで皆と更に跳ね上げた残留効果が追い風になる。
 世界に燈された能力を高める祝福でいっそう花開く己が力を惜しみなく注ぎ込み、四重に跳ね上げられた攻撃強化の恩恵で威力を増した砲撃魔法を撃ち放てば、秋晴れの青空へと完璧な軌跡を描いて迸った光の奔流が『翼ある聖歌隊』三体を一気に霧散させ、三重の【グロリアス】が聖歌による痛手を払拭してあまりあるほど強大な癒しをシルの裡に咲き誇らせた。
 街からも大きく花開くのは、ディアボロス達の勇姿に沸き立つひとびとの大歓声。

●アヴァンセ
 ――懼れと不安の塊を溢れさせるように祈へ吐露したサミュエルが固く握り返してくれた手のぬくもり、
 ――歓びの菓子グエロンに子供達が咲かせた無邪気な笑顔、己や仲間達とともにひとびとが空へ花開かせた聖歌の歌声。
 魔女達がそれらを害するというのなら、否、それらを僅かなりとも曇らせんとするのなら、
「僕達に阻まれることも覚悟の上でしょう。よろしい、相応しい報いを与えよう」
 天から祈が降らしめるのはひとびとの生への祝福にして魔女達への死の祝福。
 騙されたと新たな復讐心を燃え上がらせる間もなく増援部隊の生き残り達は殲滅され、辛うじて態勢を立て直した本隊――再制圧部隊も増援部隊の生き残り達とともに加速度的にその数を減じて、圧倒的なディアボロス優勢に傾く戦況を覆すことも叶わず我武者羅に足掻くのみ。然れど数だけ見ればまだ敵勢が勝る現状なれば、仲間を援護しつつ確実に魔女達を撃墜せんと祈が眼差しをめぐらせたのは一瞬のこと、黄金の竪琴めく大弓で澄んだ弦音を奏でれば天涯へ射ち放たれた黄金の羽根が数多輝く光の矢の天泣を降らせて『翼ある聖歌隊』の喉を項を胸を背を貫いて。
 命中強化を得た輝ける天泣が反撃ごと二体の魔女を屠り、辛うじて二体の魔女が反撃の聖歌を迸らせるが、
 魔女達の歌声が狂乱の色彩をサイケデリックに胸の裡へ渦巻かせんとするのを、街のひとびとの、教え子の歌声を想起することで己が心を澄み渡らせ、重ねての攻勢で襲い来る邪悪なる聖歌を朱士の分まで引き受けたなら、
「レッスンの必要があるようですね――それが聖歌だと?」
「うわめっちゃ厳しそうなレッスン!! ありがたく受講して冥土でおさらいしろよ、お前達!!」
 聖歌という言の葉そのものを穢すがごとき歌への怒りと反撃強化で一気にその威を半減、射ち放った黄金の羽根はひときわ峻烈に輝いて、銀箭ならぬ金箭となって痛烈な反撃で魔女を屠っていく。最大数の四体を狙える術を揮うがゆえ反撃を浴びる可能性も高い祈だが、己の術を冴え渡らす技能のみならず敵の技能九種すべてで魔女達を凌駕し、反撃の半数近くを捻じ伏せ積極的に撃破を狙って【グロリアス】の強大な癒しを得ている彼に隙はない。
 ――俺もいっそう気合いれていくか!!
 ――宿屋の大将や笑顔をくれたばーちゃんにカッコ悪い姿は見せらんないからな!!
 大きく花開いて己の盾となってくれた黄金の翼、祈の天使の翼を目眩しにさせてもらったなら一気に秋晴れの空の高みへと翔けた朱士は最も己が身に馴染んだスカジャンを青空へ翻した。こっちこそが俺の戦闘服だからと先程尖塔修復の『奇蹟』を際立たせるために纏ったプールポアンもマントも脱ぎ去ったけれど、必ずキマイラウィッチ達を斃すと告げた約束はしっかり握りしめたまま。苛烈な祈の金箭に続いて上空から撃ちおろすのは己の蒼く白く輝く焔、
 蒼白き灼熱を纏った青鷺がその鋭い嘴で敵を貫き焼き滅ぼす青鷺火(アオサギノヒ)、天から地まで貫かんばかりの蒼焔の一閃が魔女三体を貫いて一体を散華させ、朱士が真紅の籠手で覆った両の拳で反撃の大鎌二振りと派手な金属音に火花を空に弾けさせた刹那、銃声とともに飛来した青き弾丸が朱士の籠手と大鎌の刃で迫り合う魔女達を撃墜、更に彼の傍らを翔け抜け後方からその頭上を獲らんとしていた魔女の胸を撃ち抜きその裡からキマイラウィッチを凍てつかせていく。
 無論、標的を凍てつかせるパラドクスとて相手がクロノヴェーダであるならそれも一瞬のことにすぎぬとは蒼穹の天使とて百も承知。だからこそ、凍てついた敵を間断なき銃撃の連射で打ち砕くところまでがエトヴァのパラドクス、
 ――Wunderfarber-γ(ヴンダーファルバー・ガンマ)だ。
 自陣最高の観察眼で的確に戦況を捉えて魔女達を仕留めつつ、青空に羽ばたく蒼穹の翼が描き出す軌跡は空中に舞う羽根が秋風と戯れるがごとし。桁外れの空中戦技能を遺憾なく発揮した不規則軌道と二重の【飛翔】の全速も活かした緩急で敵勢を攪乱するエトヴァは決して戦場の主導権を『翼ある聖歌隊』達に渡しはしない。
 空中戦技能も攪乱技能も磨き上げたエトヴァとシルにショウが明確に攪乱を狙って秋晴れの空を翔けめぐれば大いに意識も視線も散らされ乱された魔女達が統制の取れた行動を取るのは困難で、彼女ら再制圧部隊が万全の状態の増援部隊との合流を前提に侵攻するつもりであったがゆえに想定通りの攻勢も叶わずにいると看破すれば蒼穹の天使は一気に加速した。
 自陣で最も傷が嵩んでいるのは最大数の四体を狙えるパラドクスを揮うがゆえに反撃を浴びる可能性も高く、魔女達からの反撃にも攻撃にも無頓着なネリリ、大鎌や閃光の槍ならともかく、自陣で最も魔術の素養に優れた彼女を素のままで邪悪なる聖歌から庇える者はいないが、僅差の能力を備え技能を高めて底上げし、敵の術の冴えを相殺するエトヴァとソレイユのみが狂気と殺意に満ちた聖歌からネリリの盾となることを可能にする。
 秋風を劈くような歌声が直撃する寸前で一気に花開いた魔力障壁は黄金の荊と太陽のごとき紋章を秋晴れの空へと輝かせ、
「聴くに堪えない歌声を響かせるクロノヴェーダは他にもいたが、魔女のそれとなれば不快感も格別だな」
「心から同意しますよ、エトヴァ。ですが、街の皆さんと歌った聖歌のほうが心震える旋律でしたからね」
 魔女の歌声など、なんてことはありません――と微笑んだ幻奏ピアニストの言葉に、俺も心から同意するよと蒼穹の天使も微笑んで、鮮烈で毒々しい色彩を心へ直接捻じ込むかのごとき邪悪な聖歌の響きを耳許で繊細に唄うセレストグラスの音色を意識し街のひとびとの顔を思い起こすことで堪えたエトヴァはソレイユとともに聖歌の威を確と半減、二人がそれぞれ痛烈な反撃で己の心を穢さんとした魔女達を散華させれば、
 街から盛大に湧き上がった歓声がグレゴリオ聖歌に変わる。聖なる旋律が自分達の背を押してくれる。
 ――大天使達を『追い払った』ディアボロス達を、
 ――今も大天使達への信仰を失っていないディジョンのひとびとが、聖歌で応援してくれる。
 大天使達と明確に敵対した自分達ディアボロスへ聖歌が応援になるのだと、たとえディジョンの全市民ではなくとも、この都市のひとびとが思ってくれたことがどれほどのことであるのか、それが解らぬ二人ではないから。
 幾度目かの眩い歓喜が魂の芯から咲き誇ると同時、一瞬でVR楽器の音色を調整したソレイユが、
「どんなに魔女達が押し寄せてこようとも、ディジョンはディアボロスが護ります。絶対に手出しはさせません――!!」
「死した魔女の復讐心がジャンヌの許へ還るなら、断片の王に伝えるがいい。ディジョン奪還軍など、無駄なことだとな」
 街のひとびとへも届けとばかりに朗と響き渡らせた声音に続けて光の鍵盤に十指を躍らせれば、秋晴れの青空へ力強く響き渡るは荘厳なパイプオルガンの音色。雄々しく勇壮に幻想の英雄を翔けさせるヒロイックシンフォニーの旋律に聖歌のそれを即興で織り込み奏で上げたなら、いっそう眩く清冽な輝きを帯びて秋風を突き抜けた英雄が魔女三体をその反撃と次撃諸共に斬り伏せて撃墜し、戦場に復讐の炎を閃かせる神聖模様煌く銃も、水中にあっても自在な銃撃を可能にする黒鳥の魔法銃も、このときばかりは晴れやかな祝砲のごとき銃声を秋晴れの空へ花開かせて、蒼穹の眼差しが捉えた魔女三体をめがけて完璧な青の軌跡を描いて撃ち込まれたエトヴァの弾丸が彼女達の胸へと咲かせるのは凍てる氷の花、凛冽に煌く花ごと邪悪なる命を散華させんと重ねた銃撃が聖歌隊達の反撃と次撃ごと、そのすべてを秋晴れの空に華々しく散らした。
 晴れ渡る空へと爆ぜるひとびとの歓声、幾重にも沸き上がって追い風になってくれるかのごとき皆の歌声。
「これって、なんだか――」
「うん、イル・ソル・レヴァンテのときみたいだよね」
 皆で笑顔になって一緒に歌って、美味しいものを一緒に楽しみながら笑い合って。
 嘗て蹂躙戦記イスカンダルに強奪された南イタリアでひとびとを護るべく戦ったときにも、こんな風に皆がその歌声で背を押してくれた。思い起こせば何時だって笑顔になれる記憶が胸の裡へと咲けばインカム越しに笑みを交わした青き精霊術師と燕の乙女も一気に加速して秋風を突き抜ける。
 蒼穹の天使が燈してくれた先手を獲る加護を齎す風を掴めばショウはまさしく燕さながらに秋晴れの青空を鋭く旋回して、遊撃を担って飛び込むのはこちらの横合いへ回り込まんとしていた魔女達のもと、魂のほとりから咲く白焔から次々踊り出る幻影の乙女達と熾烈に攻め込めば聖歌隊達は幾重にも繰り出される白焔のレイピアを必死に大鎌で捌かんとするけれど、無論本命はショウ自身が繰り出す硝子のレイピア。空中戦技能のみならず対空戦技能さえも磨き上げてきた元フェンシング選手は秋晴れの青空にあっても競技台と変わらぬ流麗な体捌きで舞って、
 僅かな狂いもなく胸の真芯を貫いた誓いの結晶たるフルーレで魔女二体を葬り、更なる魔女二体の躯をその反撃ごと貫き、流れるような金刺繍で魔法が編み込まれた白きペリースを軽やかに羽ばたかせるかのごとく翻して、一瞬でショウは魔女達の眼前からふわり飛び退る。距離の概念が意味を無くす逆説連鎖戦においてヒットアンドアウェイが攻防そのものに有利を齎す局面は極めて少ないけれど、これは己個人が攻防の有利を得るためでなく、敵勢を攪乱するためのもの。
「さあ、わたしの焔の白を、このペリースの白を、その瞳に灼きつけて。聖歌隊のレディ達」
「ええ、そうしたら――青薔薇を餞に死出の旅路へ送り出してあげるわ」
 清麗な白が秋風に大きく翻った刹那、秋晴れの空の高みから瞬時に舞い降りたのは鮮麗な青。
 燕の乙女が魔女の意識も眼差しも惹きつけた隙を突いて瑠璃色の大鎌ととも高空から躍り込んだのは青薔薇の魔女、飛翔と跳躍で翔けあがった高空から一気に敵勢を強襲したアヴィシアは嫋やかな腕で揮う大鎌を容赦なく振り下ろし、反撃の聖歌も斬り裂く勢いで舞わせる刃で次々とキマイラウィッチ達に血の花を咲かせていく。然れど今ここで最も鮮やかに咲き誇るのはアヴィシアの髪にも翼にも衣にも刃にも花開く奇跡の青薔薇。
 狂気と殺意満ちる歌が禍々しい色彩を胸へ捻じ込んでくるけれど、街から聴こえてくるひとびとの聖歌が、あのひとびとと一緒に歌った希望の明日を招く歌を思い返せばその眩い響きが、微笑みを絶やさず耐え抜く力をくれるから。
「そんな邪悪な歌で止まると思ったら大間違い。さあ、冥府へと旅立ちなさい」
 確実に手負いの敵二体を屠ったアヴィシアは、その身に三重の【グロリアス】の癒しを大きく花開かせた。
 真っ向から敵勢に吶喊すると見せかけ、何処かの誰かのように唐突な自由落下で聖歌隊の眼前から掻き消えたシルは、
「ネリリさん! 敵のとどめを狙って、思いっきり【グロリアス】で回復するのがおすすめっ!!」
「了解だよ! ここでの戦いにはまだ続きがあるものね、万全を期すわっ!!」
 友へインカム越しに呼びかけると同時、敵陣の直下からの魔女達へ向けて輝ける精霊魔法陣を咲き誇らせる。そのまま撃ち放てば華奢な身体が大地へ叩きつけられるだろう高出力型砲撃魔法の反動を抑えるのはシルの背に展開する青白い魔力の翼、思う様光の奔流を撃ち上げれば、反撃ごと撃ち抜かれた聖歌隊達の意識が一気に青き精霊術師へ向かうと同時、魔術精錬銀の指輪を煌かせた瞬間に高速詠唱を完成させたネリリが天頂へ射ち放った黒矢が峻烈な星屑の驟雨となって手負いの魔女達へと襲いかかり、二重の命中強化の加護とともに反撃ごと聖歌隊達を屠ってネリリの身体の芯から三重の【グロリアス】の強大な癒しを咲かせ、嵩んでいた痛手を大きく癒して。
 数でこちらを圧倒していた『翼ある聖歌隊』達を次々と撃墜していくほどに戦場を翔ける風は加速する。
『復讐を! 復讐を!!』
『このまま斃されてなるものですか、せめて一矢なりとも報いさせてもらいますの……!!』
 いよいよ追い詰められた魔女達は口々にそう叫んで、破れかぶれの攻勢にすべてを賭けて猛然と襲い来たけれど、
 秋晴れの青空に黒き三日月をぎらつかせ、全速急降下で己の首を刈りに来た邪悪な大鎌を瞬時に翻った瑠璃色の大鎌が確と受けとめる。鋭く秋風を裂いた鮮烈な金属音とともに眩い火花が弾けるが、瑠璃色の大鎌を振り抜いたアヴィシアが聖歌隊の大鎌を完全にいなせたのは、パラドクス攻撃は必中であるという逆説連鎖戦の絶対の理も覆す【アヴォイド】が、尖塔修復の『奇蹟』を華々しく演出したショウの花火が燈した凄まじい幸運が、青薔薇の魔女のもとに花開いたがゆえ。
「おっ、格好いいなアヴィシア!」
「ふふ。私のはショウのおかげだけど、あなたも頼もしいわ、朱士」
「ええ、助かりました、朱士」
 一撃で標的二体を狙える聖歌隊の大鎌、青薔薇の魔女のみならず幻奏ピアニストの首をも刈らんとした猛然たる薙ぎ払いを真紅の籠手を纏う拳で殴りつける勢いで阻んだ朱士は喉を深々と裂くはずだった一閃を浅く胸を裂かせるのみに留め、三重の反撃強化が齎す恩恵のまま至近から放つ青鷺で逆に聖歌隊の首を貫いて。余勢を駆って続け様の攻勢に出る彼とアヴィシアが秋風に咲かせる青と青、青白い炎を纏って翔ける青鷺と青薔薇とともに舞う瑠璃色の大鎌、
 瞬時の全速【飛翔】でそれらと敵勢を挟撃できる位置へ回り込んだソレイユは光の鍵盤へ奔らす十指にいっそう力を込め、
「復讐こそが貴方がたキマイラウィッチの本分でしょう、ならば存分にどうぞ。勿論、返り討ちにさせていただきますが」
『ええ、ええ!!』
『勿論そうさせてもらいますわ、簡単に返り討ちにされるとは思わないでくださいませ……!!』
 鮮烈なフォルティッシモの音色とともに毅然と響き渡らせた声音で魔女達を挑発して、間違っても彼女らの意識が市街へと向かわぬようにしながら奏でる旋律で輝ける幻想の英雄を敵勢へと駆けさせる。聖歌の旋律をも織り込んだ交響曲が高らかに響き渡らせるのは邪悪なる魔女達には絶対に負けぬという敢然たる決意。
 今この場で自陣最高火力を誇るソレイユのヒロイックシンフォニーで翔ける英雄が確実に魔女達を斬り捨てたなら、
「これはもう一気に畳みかけていけるんじゃないかしら!?」
「ああ、最後まで気を抜かず全力で、一気呵成に殲滅させてもらうとしよう」
「うんっ! 最後まで全力全開でいっちゃうよっ!!」
 何時でも【避難勧告】の効果を解放できるよう備えていたネリリも蘇芳の瞳を挑むがごとく煌かせて、艶めく紫に聖銀の糸煌くリボンが秋風に翻った刹那、星屑の嵐を生み出す黒き矢を解き放てば、インカム越しに応えたエトヴァが大きな山なりの軌跡を描いて翔けた。街から聴こえる皆の聖歌が追い風になってくれれば何処までも翔けていける気がしたから、心のままに秋晴れの青空に解き放たれ、天から降り注ぐ流星雨のごとく魔女達へ襲いかかるネリリの魔法の頂をも超えてからの急降下で飛び込むのは敵勢を挟撃した仲間達の位置取りを補完し立体的な包囲を狙える場所。
 流星雨へと呑まれる敵勢へ鋭く撃ち込む青き魔弾の連射で秋風と魔女達を蒼く白い凍気の煌きで彩って、更なる銃撃でその命を砕きにかかれば、直感的に蒼穹の天使の対角線上に飛び込んでいたシルが花開かせた輝ける精霊魔法陣から強大な魔力を秘めた光の砲撃が迸る。仲間達の攻撃が次々と聖歌隊達を撃墜していく光景にも決して気を緩めることなく、冴え冴えとした眼差しで残る敵影を捉えた祈も瞬時に己が魔力を研ぎ澄ませた刹那、黄金の大弓で己が羽根を撃ち放った。
 自身の術では魔女達を仕留めきれぬのは想定済み、ゆえにインカム越しに呼びかければ、
「行きなさい、四葩くん。聖歌を穢す魔女達に引導を」
「はい、せんせい!!」
 既に最後の魔女達の直下に飛び込んでいたショウが一気に急上昇へ転じて翔ける。
 聖歌の師弟として結ばれた縁、一度は途切れたそれを数奇な運命と宿縁で結び直した今、眩い絆のままに翔けた燕の乙女は恩師が降らせる銀箭ならぬ金箭、光の驟雨と天地から挟撃するよう魂のほとりから白焔を花開かせた。幻影の乙女達とともに舞い上がって揮う硝子のレイピアで次々と魔女達の胸を命を貫いて散華させ、
「ディジョン奪還軍だなんて、ディジョンをとりもどすだなんて――笑わせないで」
『……!!』
 真実、最後のひとりとなった魔女の瞳をまっすぐ覗き込んで凛然と告げたなら、そのまま相手の胸の芯を刺し貫いて。
 命尽きた魔女がレイピアに貫いたまま霧散していく光景に、淡い吐息をついた。
 ――だいじょうぶ。
 ――アンジェリーヌさんや皆には、魔女達の歌声ひとつ、届かせやしないから。
 胸の裡にあたたかなひかりとともに燈した言の葉、
 まるでそれが聴こえたかのごとく、街のひとびとの歌声がグレゴリオ聖歌から希望の明日を招く歌へと変わる。
 青き精霊術師が歌った、ルーチェ・ソラーレ。
 地上から光を咲かせるような歌声にシルが胸から溢れ来る眩い歓喜のままに満開の笑みを咲かせれば、純真な少女のごとくアヴィシアも嬉しげな笑みを咲き綻ばせて、目許を和ませつつソレイユも微笑んだけれど、勿論、次なる敵を捉えれば誰もの眼差しが鋭く冴え渡った。
 高みの見物を決め込んでいたらしい『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』が激昂するが、
『おのれおのれ、聖歌隊ども! 貴様らはそれでもディジョン奪還軍に選抜された精鋭か!!』
「精鋭であったろうさ、俺達が彼女達を上回っただけのことだ。覚悟は宜しいか、魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー殿」
「そうね、冥府への旅路の準備はできたかしら? 鉄槌の魔女さん」
 街のひとびとの歓声や歌声が胸を満たすから、エトヴァは配下を貶す敵指揮官に苦笑を返す気にもならず強気な笑みでそう告げて、嫣然と微笑んだアヴィシアがゆるりと翻した瑠璃色の大鎌を魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマーへ突きつける。
「お待たせしてしまったなら申し訳ありません、次は貴方の番ですよ」
「そういうことっ! それじゃあ始めましょうか、魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマーさんっ!!」
 礼節をもって語りかけつつも油断なく敵を見据えたソレイユが宣告すれば、両手でシルが構えた白銀の長杖の頂で藍色煌く鉱石の蕾が高まる魔力に応えて花開いていく。純白の翼を広げ、魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマーも戦意を研ぎ澄ませた。
『良かろう! 我が力で、我が鉄槌で以て、貴様らディアボロスどもへ存分に復讐を果たしてくれる!!』
 ――秋晴れの空という舞台で、
 ――最後の戦いが幕を開ける。
 
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【パラドクス通信】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【避難勧告】LV1が発生!
【防空体制】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV4になった!
【反撃アップ】がLV3になった!
【命中アップ】LV2が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!

伊吹・祈
黄金の羽撃き、十字切る祈りの所作
瞑目し――開眼する青彩のオッドアイ

くつと喉奥で響く笑声
黄金の御使いにして
天使さえ喰む“蛇(ぼく)”の片鱗
良かった
仮に目前で害されでもすれば
僕の小鳥さえ、丸呑みにしてしまうかもしれませんから

黄金の棘樹で敵を搦め取り
開いた五指を掌握する動作と結付け、締上げる

立入らせはしない
双翼で庇うが如く都市を背に飛翔し
連携意識し、敵の挙動を観察し乍
群舞成す先輩方に続き攻立てよう
ディフェンスは空木くんに対象絞り
自身の被弾は飛来する魔晶剣を翳し盾とし
同時に黄金の魔力盾を出現させ最小限を狙う

愛する者を奪い続けてきた罪深き、あなた方
為れば、為ればこそ――お仕置きが必要な様だ。『特別』な、ね

楽園の味は口に合ったかな?

世界は残酷だと
悲哀と苦痛に満ちた時代を嘆き、病が蝕む天命を憂い
嘗て逸らした瞳が再び世界と対峙する
背の歌声にテノール重ね、雨降頻る心の雲の切間
解き放たれた心地がしたのは恐らく僕の方

――導きましょう。秋晴れの黄金の歓びを、あなた方へと
鳥籠から『  』を解き放った、あの朝の様に


空木・朱士
アドリブ連携歓迎

ーー歌が聴こえる。
頑張れ、って鼓舞してくれる声達。
今、この街の人達と一緒に戦ってる。
そう思うと胸の裡から溢れる歓びと高揚と一層の士気と。

さあ、あんたの為に歌ってくれる者はもういないぜ?

飛翔に更にスピードを上乗せして空駆ける。
縦横無尽に翻弄するかに無軌道に動いているように見せながら
引き続き連携を意識して心掛け、太陽の名を持つ鳥を撃ち出し自身でも攻撃はドンドン仕掛けてくけど
仲間とタイミングを合わせた攻撃をしたり挟撃をするように位置取りしたり。
視野が狭くならないようには気を付けるけどエトヴァ達程の観察眼は持ち合わせてないので声掛けには即座に反応出来るようにはする。

反撃に対しては防御するより此方から籠手の拳でもって鉄槌を撃ち返す心意気で。

仲間へのPOW攻撃へのディフェンスは積極的に貰うぜ!

多少のダメージは気合いと根性、こんなもん何でもねぇよと不敵に笑い飛ばす。
全然効いてねぇな、とむしろ挑発。

お前はディジョンへは辿り着けずにここで終わる。
俺達は見たことのない新しい朝を奏でるんだ!


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎

驚いたな
何という追い風を受けるものだろう
各地の出来事を重ねずにはいられなかった
今は戦いの時だが、きっと幸運となるだろう

引き続き、飛翔し空中戦
バイザーで保護し、視野を広く取りつつ
敵の動きは捕捉したまま戦況を観察し把握

仲間とはパラドクス通信で敵の動きや死角の危険、攻撃タイミングなどを情報共有し
留まらずに緩急と曲線を交えた変則軌道を描きつつ、PD攻撃
死角を取れればよし、基本は包囲の穴を埋めるように立ち回る
弾丸を連射し、身に十字を刻もう

後背を取れれば翼の付け根を照準に据え姿勢を崩させ
機動力を削りたい所
死角狙いが多ければ、攻撃を交え引き付けを

WIZディフェンスを行い
敵の一撃も重ければ、庇える中で負傷の嵩んだ味方を優先に

ハインリヒの攻撃には、著書からの射線の直撃を避けるよう跳ね
サイキックオーラで緩衝し、コートで身を護る

復讐に眩んだその目で、見えるかい?

空、光、大地
人々の営みはいつであれ、変わることなくこの大地にある

戦闘を終え
もしディジョンの人たちが見えたなら、凱旋の代わりに手を振ろう


ソレイユ・クラーヴィア
お待たせした分、盛大に持て成して差し上げねばなりませんね
ええ、見せて下さい
貴方の復讐の鉄槌とやらを

復讐に滾り、私達だけしか見えなくなるのなら
それは好都合というもの
飛翔で地表へと流れ弾が当たらない程に引きはがし迎え撃ちます

宙に展開した鍵盤で「福音」を演奏
聖なる光を束ねて剣と成し、鉄槌の魔女を貫けと指揮します

仲間と挟撃になるように位置取り、敵の死角から攻撃を撃てるよう立体的に飛び
此方に気を取られれば、仲間の攻撃の機を掴みやすいように動けたら幸い

魔女の復讐も大天使の偽りの信仰も、ディジョンには必要ありません
人々が穏やかな祈りと細やかな幸せを享受できる、当たり前の日々を過ごせる場所を護るためなら
私は何度でも魔女の攻撃に堪えてみせましょう

魔力障壁を展開して反撃を凌ぎ
仲間へのW攻撃へもディフェンスに飛びます
負傷しようと、にこりを笑ってやる余裕を見せ、更なる力を込めて演奏に心を注ぎましょう

戦闘後に時間があれば
聖歌を歌って応援してくださった人達へ、もう一度聖歌の演奏を返したい
皆さんに祝福があらんことを


シル・ウィンディア
鉄槌、ね…。
復讐っていうけど、果たしてそれが果たされるのかな?
わたしはね…。
それを越えてここにいるんだからっ!

引き続き、飛翔で空中戦を挑んでいくよ。
トループス級より強いのは承知の上っ!
その為に、この魔法、この残留効果を選んだんだからっ!

飛翔で前後左右、急加減速、そして、急降下に急上昇と撹乱行動を行いつつ、高速詠唱を行うよ。
使うは、十芒星精霊収束砲!
わたしの全力を遠慮せずに持って行ってねっ!

敵攻撃は、パラドクス発動時に現れる光の翼で体を覆って防御態勢をとるよ。
…普通にしてたらかなり痛いんだろうけどね。
攻撃一辺倒って思われたら心外かな?

例え疲労が強くても、こんなところで弱音は吐けないよね。
見てくれる人がいる。信じてくれる人たちがいる。
それだけで力になるんだっ!

ディフェンスはWIZで獲りに行くよ。
ふふ、せっかくの攻撃チャンス、しっかりと活かさせてもらうから!!


敵が弱ってきたら畳みかけるように…
全力魔法の十芒星精霊収束砲だよ!
虹の煌きが希望を繋いで見せるからっ!

これでディジョンも一歩進むかな。


ネリリ・ラヴラン
大団円までもう一歩!
恨みだけで振るわれる力が、どれほど無意味か教えてあげなくてはねっ
(お怪我も少々ありそうだけれど今回は特に堂々と振舞っておきたいね)

注視する相手がお一人になったので
突破を心配するより、積極的に動いて陽動した方が良いかな
【飛翔】は継続しつつ
常に裏手へと回り込もうと動いて的を絞らせないようにしたいね

それでも自分を含めて、誰かしらに狙いは定められると思うので
自分なら、空間を【エアライド】で蹴り
一瞬の加減速でタイミングをずらし回避しやすくしてみる

仲間が狙われるなら
距離が近くWIZディフェンスが狙える時は守りに入った上で
反撃をしっかりと狙いたいね

逆に、狙い先と私が遠いなら、死角に入れると判断
迷っていては機を逃してしまうし、特技を生かすなら小細工より勢い!
対角になるようエアライドで動きながら
超高速の詠唱で”月灯りの標”を紡ぎあげ、全力で射抜いてあげるわ

折角灯した希望の種火だもの、一度たりとも消させはしないっ
完全勝利をお土産にして帰らせて貰うよ!

アドリブや連携は歓迎だよ


●アンクラジュマン
 ――鮮血を滴らせたかに見えて、秋の陽射しを透かして透きとおる。
 ――極上の鮮やかさで澄み渡るルビーの魔晶剣がどくりと脈打つような響動で空間を震わせて、
 秋晴れの青空にて黄金の翼を大きく羽ばたかせた伊吹・祈(アンヘル・g10846)が極めて自然な祈りの所作で十字を切り、瞑目していた青彩のオッドアイを開眼すれば、左眼がいっそう深いブラックオパールの遊色を煌かせたのは光の加減か否か。
 嘗て己の心身を我が物としていたクロノス級の大天使、宿縁により時空を超えた燕の乙女が魔晶剣に封じた黄金の御使いの響動との共鳴で己の深層に眠る力を覚醒させるパラドクスを解放すれば、喉の奥でくつりと笑声を響かせた。頭を擡げる力は天使さえ喰む『蛇(ぼく)』の片鱗、燕の乙女の気配が消えた戦場でこの力を揮える現状に安堵を覚えつつ、
「仮に目前で害されでもすれば僕の小鳥さえ、丸呑みにしてしまうかもしれませんから」
 先陣を切る加護を齎す風を掴めば眼前の敵、アヴァタール級キマイラウィッチ『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』から双翼で都市ディジョンを庇うがごとく真っ向から祈が迸らせた魔力が一瞬で芽吹かせたのは歴史的論文を著した異端審問官の名を騙る魔女を搦め取る黄金の棘樹、眩い黄金の輝きと激突し交錯して撃ち込まれてきた反撃の極光を斬り裂くよう魔晶剣を躍らせ、常時には守護の籠手として結晶させている黄金の魔力を盾と成して痛手を緩和した刹那、
 大きく開いた五指を祈が掌握した途端に、黄金の棘樹も鋭き棘に彩られた数多の枝で握り潰すよう魔女を締め上げる。
 然れどそれでディジョン奪還軍の一翼たる軍勢の指揮官を任じられた強敵を押し留めきれぬことはディアボロス達の誰もが承知、黄金の縛めが裡から爆ぜれば秋晴れの青空に閃くのは『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』が広げた白鳥の翼、
『我が復讐をそれで阻めると思うでないぞ、ディアボロスども――!!』
「そっちこそ! そんな鉄槌ごときで俺達を斃せると思うなよ!!」
 天高く舞い上がると同時の急降下突撃、黄金の雷纏う鉄槌を祈に叩きつけんとする高速にして猛然たるハインリヒの強襲に臆さず吶喊する勢いで仲間の盾となった空木・朱士(Lost heart・g03720)が真紅の籠手で覆われた己が拳で鉄槌を撃ち返す気概で殴りつければ、盛大な衝撃音とともに爆ぜるは黄金の雷と真紅の火花。威を削いでなお重い衝撃と雷の痛手が己の裡を奔り抜けるが構わず不敵に笑み返し、至近で反撃の焔の鳥を撃ち込めばこちらも雷に劣らぬ眩い白と黄金の灼熱で爆ぜて、
 敵の雷霆すら呑み込んで福音と成すがごとき鐘の音を招く幻想ロンドが秋晴れの青空へと響き渡った。
「一撃で貴方を斃せるとは思っておりませんよ。どうぞ存分に貴方の復讐の鉄槌とやらを見せてください」
「でもね、復讐っていうけど、果たしてそれが遂げられるかな? わたしはね……それを越えてここにいるんだからっ!」
『ならば存分に喰らえ! 冥府でその大言壮語を後悔せよ!! ジャンヌ様に楯突く異端者ども!!』
 お待たせした分、盛大に持て成して差し上げます――と挑発的な響きでもってソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が続けたのは先の『翼ある聖歌隊』達のみならず『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』の意識も都市でなく自分達ディアボロスへ惹きつけんとせんがため。秋の陽射しを青く透かす光の鍵盤に躍らす十指が奏でる軽やかな音の跳躍は魔女への雷雨、ひとびとへの慈雨のごとき鐘の音を招来し、福音めいて降り注ぐそれを聖なる光と変えて太陽のごとき眩さで爆ぜた朱士の反撃の余韻が消えるより速く迸らせたなら、
 敵を都市から押し返すがごとくに聖光がハインリヒを貫いた瞬間、高空から降る凄絶な虹色の砲撃が魔女を呑み込んだ。
 一瞬の急上昇で高空へ舞い上がった瞬間に身を翻し高速詠唱で精霊魔法陣を咲かせたのはシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)、並の敵なら反応さえ叶わぬタイミングでの超火力砲撃魔法であったけれど、幻想ピアニストからも青き精霊術師からも強打を浴びつつ両者に反撃を喰らわせてくる強敵との激戦になるのは承知の上。
 ゆえに撃ち放った砲撃は防御強化を高めるための――十芒星精霊収束砲(ペルフェクト・エレメンタル・ブラスト)!!
 聖なる光と虹の輝きと激突したのは冷たい焔のごとき翠や青に紫の輝きを躍らせる極光であるのに灼熱を孕む裁きの熱線、虹の輝きを突き抜けて来る極光を砲撃魔法の反動を抑えるために展開した光の翼で己を覆って堪えて、強気な笑みを咲かせてシルは一気に秋風を貫いた。時空を超えて宿縁を覆したのは二年前のこと、本来なら故郷を滅ぼし家族や己自身を殺していた宿敵を討ち果たしてなお、惨劇そのものを覆してなお、両親の愛情に包まれて暮らしていく幸福を自ら手放して、
 わたしは戦っている。
 歴史侵略者が齎す悲劇そのものを覆すために、戦い続けていくんだから――!!
 新たな誓いを結晶させるかのごとく刃を輝かせる精霊剣、先程魔法陣を描き出したそれとともに凄まじい速度で急降下する青き精霊術師を誰が無視できるだろう。その速度ゆえに敵の眼差しがシルを捉えたのは一瞬、然れども限りなく純粋な戦意で斬りつける勢いで高空から吹き降ろした青き疾風がハインリヒの意識すべて惹きつけその眼前を突き抜けた刹那、
 華やかな声音が響き渡ったのは彼の背後から。
「復讐劇にはさせないわ、大団円までもう一歩! 恨みだけで揮われる力がどれほど無意味か教えてあげなくてはねっ!」
『……!! おのれおのれ、おのれディアボロス、戯言をほざくな――!!』
 高らかに宣言した時には既にネリリ・ラヴラン(★クソザコちゃーむ★・g04086)の高速詠唱も完成済み、全速【飛翔】で敵の背後へ飛び込んでいたネリリの手には三日月型の弓が煌々と輝いて引き絞られる弓弦とともに満月を描いて、友が創った好機を逃さず射ち込んだ光の矢が魔女の翼ごとその背から心臓を貫いて鮮烈な痛撃で反撃を捻じ伏せた。己の姿を映し盗り、心を折って命をも奪ったクロノス級アークデーモンを仲間達とともに時空を超え討ち果たした今も、魂から血を滴らせる傷をそのままにネリリも翔け続けていくから、歴史侵略者達が齎す悲劇や理不尽と戦い続けていくから。
 蘇芳の瞳を煌かせた強気な笑顔で秋晴れの青空に舞って、強大なる魔女へと臆さず挑む。
 無傷とはいかずとも【グロリアス】の癒しが浅手で先の戦いを翔け抜けさせてくれたから、指揮官との決戦もディジョンのひとびとに更なる希望を咲かせられるよう、強気な姿勢で最後まで翔け抜けていくのみ――!!
 輝ける弓と矢、二種の魔法を一瞬で完成させたネリリの複合魔法が敵の心の臓から光輝を溢れさせた瞬間を逃すことなく、
「増援部隊を削り、再制圧部隊を殲滅し、ここで貴方を撃破する。そちらの侵攻作戦は悉く打ち砕かせてもらおう、魔女殿」
「そういうこと! あんたの為に歌ってくれる聖歌隊はもういないぜ? 精々お前も部下達を追っていってやるんだな!!」
 歪な信念を抱く異端審問官の左右から襲いかかったのはエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)の銃撃と朱士が撃ち込んだ太陽の化身の名を戴く焔の鳥。闇に復讐の華を咲かせ復讐の炎を閃かせるべく鍛造されたエトヴァの両手のリボルバーが秋晴れの青空に響き渡らせる銃声はこの決戦においても祝砲のごとき晴れやかさを帯びて魔女の腕を翼を頭蓋を肩を腰を弾丸で撃ち抜き十字の血華を咲かせ、完璧なタイミングで挟撃した焔の鳥とともに敵の反撃を捻じ伏せて。
 蒼穹の翼の軌跡に青き輝きを描いて、己が裡の動力炉の焔をいっそう燃え上がらせて、蒼穹の天使も紅蓮の青年も秋晴れの青空での【飛翔】を一気に加速させた。だって都市から聴こえてくるから、ディジョンのひとびとがいっそう歌声を花開かせ自分達を鼓舞してくれるから、激励を贈ってくれるから、
「街の人達も一緒に戦ってくれるんだ、これで士気高揚しないわけないよな!!」
「ああ、これほどの追い風をいただけるとは望外の歓びだ。皆が一緒に戦ってくれるのならなおさら、華々しき勝利を!!」
 紅蓮の瞳を戦意に輝かせる朱士の強気な笑みは虚勢などではなくいっそうの気概と自信を花開かせたもの、蒼穹の眼差しは絶えず冴え渡らせながらもエトヴァが微笑するのはディジョンのひとびとの心が齎してくれた驚きと歓びのゆえ。数多翔けた改竄世界史で、幾つもの街や村のひとびとと心を通わせ願いを託され声援を贈られてきたけれど、
 都市の住民の一部とは言え、今朝までディアボロス達への不信感を募らせていたひとびとと親愛を通わせ合えたこと、
 彼らが自分達をただ魔女の脅威から護ってくれる者としてでなく、新たな友、新たな隣人として応援してくれること。
 一緒に歌ったグレゴリオ聖歌の、ルーチェ・ソラーレの歌声へと親愛も信頼も昇華して戦場の追い風と成してくれることが魂を震わせ幾重もの歓喜の波紋を胸に満たして溢れさせてくれるから、溢れる歓喜そのままに輝く青き光輝をいっそう翼から強く迸らせ、大地の重力から完全に解き放たれた蒼穹の天使は秋晴れの青空へ変幻自在の航跡を描いて戦局をも加速させる。
 天罰と称する雷纏う鉄槌を、異端と見做した者を打ち据え爆破する鉄槌を、
 列聖された乙女の名を穢す断片の王を神と崇めて異端者を裁く灼熱の極光を駆使するハインリヒ・クラーマーは激高で以て己が復讐心をいっそう苛烈に燃え上がらせるけれど、
『我が信仰を、ジャンヌ様の教えたる復讐を否定する異端者よ! 我が裁きの光で焼き尽くしてくれる!!』
「貴方おひとりでも十分にわたし達と渡り合えるのは判ってるわ、だからこそ侮らない! 全力で射抜いてあげるわ!!」
「魔女の復讐に屈するディアボロスなどここにはいませんからね。捻じ伏せられるものなら捻じ伏せてもらいましょうか」
 咆哮のごとき大音声の断罪とともに繰り出される凄まじい猛攻を苦痛の表情ひとつ見せずに凌いで誰もが反撃にも攻撃にも全身全霊を注ぎ込み、歪な異端審問官の命を吹き飛ばす勢いで削り取っていく。秋風に羽ばたくよう頁を躍らす著書から撃ち放たれる裁きの極光、こちらからの強撃で敵の反撃を無にすることは可能でもパラドクス攻撃の完全回避は【アヴォイド】の発動という現状1%の幸運が無ければ不可能、それゆえ心臓への直撃を避けるためのみに【エアライド】で跳躍したネリリは己が胸に風穴を開けるはずだった熱線が脇腹を抉る痛手を二重に高められた防御強化と三重の反撃強化の恩恵で更に軽減し、強気な笑みも声音もそのままに射ち放つ反撃は月灯りの道標(フォービドゥン・ラプソディ)!!
 膨大な魔力を結晶させた光の矢が断罪を吼える魔女の喉を貫くと同時に、華麗な重音で幾重にも鳴り響く鐘の音を招来した幻想ロンドの旋律でソレイユが奔らせたのは輝ける刃のごとき聖光、秋風に陽光のごとき金の髪もそれを夜空で彩るがごとき髪唯紐も躍らせる急旋回で敵の背後を獲った彼が荘厳なパイプオルガンの音色を再現したままで咲き誇らせた聖なる光が魔女の項を貫きその反撃をも捻じ伏せたなら、市街のひとびとの歌声の裡から盛大な歓声も沸き上がった。
 復讐こそが信仰、神と崇める断片の王ジャンヌ・ダルクに楯突き復讐たる信仰を否定する者をより苛烈に異端と断じるのは恐らく実際に異端審問官ハインリヒ・クラーマーの存在を奪ったオリジナルであるクロノス級の根幹を成す性質なのだろう。だが電撃作戦でジェネラル級キマイラウィッチ『ニコラ・フラメル』を撃破したディアボロス達を甘く見るはずもない敵勢が派遣したディジョン奪還軍、その一翼を担う部隊の指揮官に任じられた『この』ハインリヒ・クラーマーは増援部隊の損耗が無ければ『軍勢』と呼べただろう大部隊を預けられるほどに優秀な指揮官であったはずだ。
 然れど増援部隊が合流前に大打撃を受けるという予想外の事態と、復讐の種としてあまりにも魅力的なディアボロスの秘密兵器という存在が彼の判断を狂わせた。そして指揮すべき部隊を殲滅されて唯ひとりの復讐鬼となった『この』ハインリヒ・クラーマーは、
「物理的にも精神的にも視野狭窄に陥っているようだな。皆の戦い方が確実に刺さるはずだ、このまま畳みかけていこう」
「僕もそう見ました。ヒンメルグリッツァくんも同じ結論なら間違いないはず、存分にそれを衝かせてもらうとしようか」
「うんうん! ばっちり嵌まって決まるの、気持ちいいよねっ♪」
 秋晴れの青空を変則的な軌道で翔け、敵の虚を衝くための急加減速による緩急で時にブレかねない視界をバイザーで完璧に確保したエトヴァと度無しの眼鏡越しに魔女の挙動を注視しつづける祈がそれぞれの観察眼で見抜いて【パラドクス通信】のインカム越しに皆へ伝えたとおり、死角や挟撃を狙う今の自分達の戦法がひときわ決まりやすい状態にあるらしい。
『貴様ら全員、我が復讐の鉄槌と灼熱で滅ぼしてくれるわ――!!』
 己を鼓舞するよう吼えた『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』が復讐の獲物を見定めんと一瞬で奔らせる眼差しの合間を縫うがごとき軌道で翔けた蒼穹の天使が敵の後背を獲ると同時に翻した二挺拳銃の銃口が狙い澄ましたのは白鳥の翼の付け根なれど、たとえ翼の付け根に大きな損傷を与えようと敵の飛翔能力を鈍らせ機動力を削ぐことにはならないのは百も承知。
 敵に特別な弱点が存在するなど、部位狙いが戦況に大きな変化を齎す場合には通常の戦闘作戦とは別個に部位狙いのための作戦が発動されるもの、逆を言えば専用の作戦に拠らない部位狙いが敵に持続的な弱体化を齎すことは無いのだが、
 ――結束を力と成せ。
「僅かなりとも体勢を崩して、一瞬でも隙を作れたなら上々だ」
「その一瞬の隙を撃ち抜くっ!! それがわたし達の戦い方だからねっ!!」
『……っ!! おのれおのれ!! 異端の羽虫どもがちょこまかと――!!』
 銃撃の連射を魔女の翼の付け根に集中させるのは自陣最高火力を誇る、Sternenkreuz(シュテルネンクロイツ)!!
 己自身と幻想ピアニストのパラドクスがこの決戦で六重にまで跳ね上げた攻撃強化でいっそう高められた火力でエトヴァが撃ち込んだ弾丸が反撃ごと砕く勢いで背の骨肉ごと翼の付け根を大きく抉る痛打を喰らわせれば、凄まじい衝撃に耐えきれず大きく仰け反ったハインリヒの視界を眩い虹色の輝きが呑み込んだ。
 魔女の直上、高空から全速急降下するとともに一瞬で花開かせた精霊魔法陣から絶大な魔力砲撃を迸らせたのは勿論シル、至近から叩き込む凄絶な虹色の光の奔流が敵の視界のみならず全身を呑み込みその反撃をも撃ち抜いた瞬間に青き精霊術師が秋晴れの青空へ【エアライド】も活かして描く大きな宙返りで飛び退れば、
「異端の羽虫……その言葉、そっくりお返ししましょう。歪な信念を、復讐という異端の信仰を抱く異端審問官殿」
 ――贖え。
 凍てつくように冴ゆる言葉と詠唱を口唇に乗せた祈が迸らせた魔力がたちまち黄金の棘樹でキマイラウィッチの全身を確と捕えた。頸に纏繞する銀と青が己の原罪を証すれど、それを断罪するのは眼前の魔女にあらず。自身の術を極め相手が有する技能すべてを相殺する祈の魔力は朱士が三重に高めた命中強化の恩恵も享け、黄金の棘樹でハインリヒ・クラーマーの反撃も次撃も完璧に握り潰した勢いそのままに彼の命をも大きく握り潰す。
 世界は残酷だと、
 悲哀と苦痛に満ちた時代を嘆き、病が蝕む天命を憂い、嘗て一度は逸らした瞳が再び世界と対峙する。
 都市と其処に住まうひとびとの楯となる決意を示すよう大きく咲かせた黄金の双翼に届く追い風はディジョンのひとびとの歓声と歌声、祈もまた己がテノールの歌声を重ねれば、雨が降頻る心を覆う鉛色の雲の切れ間から澄んだ光が射したから、
 解き放たれた心地がしたのは恐らく僕のほう。
 ――導きましょう。秋晴れの黄金の歓びを、あなた方へと。
 ――鳥籠から『  』を解き放った、あの朝のように。

●リベラシオン
 ――わたし達を見てくれているひとびとがいる、わたし達を信じてくれているひとびとがいる。
 ――それだけで絶えず力が湧き上がってくるから、どれだけ魔力や体力を消耗しようと、弱音なんか吐くもんかっ!!
 唯ひとりでその麾下にあった部隊の総力を上回る戦力を有する『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』。遅滞戦術でもって増援部隊を削りその生き残りも再制圧部隊をも殲滅し、皆の戦法と連携に数多積み重ねた残留効果で圧倒してもなお誰ひとりこの敵を侮るディアボロスはいない。劣勢に追い込まれようとも狂信に彩られた彼の一撃はいずれも重く、
 十時方向から魔女めがけて撃ち上げられた虹色の魔力砲撃と四時方向から魔女めがけて撃ち下ろされた聖なる光が反撃たる灼熱の極光と激突して秋晴れの青空に眩い千紫万紅を孕んだ壮絶な輝きで爆ぜるが、
「これしきの反撃じゃ挫けないよ!! わたしの全力、遠慮せずに持って行ってねっ!!」
「ええ、全く無益なものです。魔女の復讐も大天使を騙るクロノヴェーダへの信仰も、ディジョンには必要ありません」
『貴様らが決めることではないわ、異端者ども! ディジョンなど貴様らに復讐を果たせば何とでもなるものぞ――!!』
 二重の防御強化が敵から齎される痛手すべてを鈍らせ、
 襲い来る極光を蕾のごとく閉じる魔力の翼で耐え凌ぎつつシルは精霊魔法陣の中心へと突き立てた精霊剣から更なる魔力を注ぎ込み、太陽のごとき紋章を咲かせる魔力障壁で威力を削いでなお苛烈な灼熱にも涼やかな余裕の笑みを見せたソレイユが幻想ロンドへグレゴリオ聖歌の旋律を織り込めば、激突で爆ぜた輝きを突き抜けた虹色の光の奔流と輝ける刃のごとき聖光が魔女を撃ち抜き刺し貫いて。双方向からの猛撃にハインリヒ・クラーマーが思わず息を詰まらせた刹那、
 天頂から太陽が堕ちるがごとき光輝と灼熱が歪な異端審問官を強襲した。
「ならこっちも改めて言わせてもらうぜ! ディジョンに侵攻するなら俺達を斃してからにするんだな――ってな!!」
『当然のことである!! 我が復讐を刮目して受けるが良い、ディアボロスども!!』
 彼の直上へ翔け上がっていた朱士が眩い白とも黄金とも見ゆる灼熱に燃え上がらせて撃ち下ろした金烏(キンウ)が反撃の鉄槌さえも抑え込んで魔女の全身を燃え上がらせるが、捻じ伏せられた反撃を捨てて攻勢に出た敵が右手の鉄槌でなく左手の著書で秋風を薙げば、迸るのは冷たい焔のごとき彩に凄絶な灼熱を孕む裁きの極光。
 然れど一瞬で翔けた黄金の輝きが灼熱の極光から紅蓮の青年を護り切る。
 麾下にあった部隊の総力を上回る戦力を有する強力なアヴァタール級といえども攻勢の手数だけを見るなら圧倒的な少数、極光へのディフェンスに備えていた者は多いが、敵の『攻撃』にのみ発動するディフェンスの機会そのものが先程の『翼ある聖歌隊』達との戦いよりも格段に少ない。此度その機会を掴んだのは対象を朱士のみに絞ることでディフェンスの成功確率を上げた祈、冷たき焔のごとき極光を鮮やかな紅に煌くルビーの魔晶剣が迎え撃ち、
「愛する者を奪い続けてきた罪深き、あなた方。為れば、為ればこそ――お仕置きが必要なようだ。『特別』な、ね」
 守護の籠手として結晶していた黄金の魔力が一瞬の剝落で盾を織り上げ、三重の反撃強化の加護も得て苛烈な灼熱の威力を確と半減した『天使』は眼鏡のブリッジをついと押し上げ痛烈な反撃の魔力を解き放つ。普段は救恤のガントレットとして結晶する黄金の魔力が嘗て祈の裡から覚醒した『大天使』の腕を模していると一体どれほどの者が識るだろう。
 解き放たれるパラドクス、BABEL(バベル)は、
 断罪と審判の黒き光、侵略者を搦め取る黄金の棘樹、侵略者を唆して苦痛で支配する偽りの楽園のいずれかを齎すもの。
 ――ほら、あなたの裁きの光で、
 ――これより遥か未来に列聖されるはずの乙女の名を穢した魔女が燃え上がる。
『…………!!!!』
 楽園の蛇の甘言には抗えぬ。歪な異端審問官が傲岸な哄笑とともに放った灼熱の極光は断片の王ジャンヌ・ダルクを火刑に処し、滅びよ異端者と偽りの楽園でハインリヒ・クラーマーが誇らしげに笑って本来の彼自身の魂を壮絶な苦痛で苛んで、
「いかがでしょう。楽園の味は口に合ったかな?」
『貴様、貴様……!! 決して赦しはせぬぞ、最大限の復讐で以て報いてくれるわ――!!』
「さて。その最大限の復讐とやらを揮う機会が、本当にめぐってくると思うのかい?」
『当然ではないか!! 復讐こそが我が信仰……ッ!!』
 氷の刃のごとき祈の言葉で幻覚から醒めた魔女が更なる激高とともに吼えるが、冷静な声音と祝砲めいた銃声でそれを掻き消す勢いでエトヴァが撃ち込んだ弾丸が激高に激高を重ねるハインリヒ本人だけが気づいていない満身創痍の体躯から新たな鮮血を噴出させ、迸る反撃の極光を瞬時に凝縮させた青きサイキックオーラで緩衝、それでも襲い来る灼熱から繊維も織地も強化した黒きコートで身を護りつつ蒼穹の天使が間断なく連射する銃撃が本命の一弾を撃ち込んだ瞬間、
 秋晴れの青空に顕現した三日月が満月に変じて鮮烈な光の矢を射ち放った。
「折角ディジョンのひとびとに灯した希望の種火だもの、一度たりとも消させはしないっ!!」
『――!! 異端の小娘が!! やってくれるではないか……!!』
 一瞬の迷いすらなくエトヴァの対角線上へと飛び込んでいたネリリは全ディアボロス中でもトップクラスの技量を誇る高速詠唱で弓と矢の魔法を完成させれば三日月の弓で引き絞る弦で満月を描いた刹那に光の矢で秋風も反撃の極光も貫き敵の肩を貫いて、灼熱の極光が腕を抉るのにも構わず花唇から強気な声音を咲き誇らせる。
 一瞬たりとも自分達が魔女に気圧されるところをディジョンのひとびとに見せるわけにはいかない。
 万が一にだって自分達の誰かが魔女に斃されるところをあの都市のひとびとに見せるわけにはいかないから、
「これで終わると思ったら大間違いなんだから!! 完全勝利をお土産にして帰らせてもらうよ!!」
 思考するよりも速く秋晴れの青空へ花開く再度の高速詠唱、白き指に魔術精錬銀の環が煌くのみならず白くなめらかな両の手の甲には簡易魔法陣が浮かびあがり、懐に秘めた勝負札が優しくも力強い輝きでネリリの魔力を底上げしたなら、光り輝く三日月型の弓と光の矢が顕現した。
 時の流れを急加速させたのはネリリ自身が燈した効果、1%の確率で連続攻撃を叶えた――【ダブル】!!
 高速詠唱のみならず氷雪使いやブレスの技量もトップクラス、封印の技量も桁違いの域まで極めた己の特技全てを活かした月灯りの道標(フォービドゥン・ラプソディ)が完璧な軌跡で射ち込む光矢がハインリヒ・クラーマーの反撃と次撃ごとその首を射抜けば、凄まじく鋭い一射が敵を捻じ伏せた好機に一気呵成の猛攻勢が歪な異端審問官へ襲いかかった。
 ――ひとびとが穏やかな祈りと細やかな幸せを享受できる、
 ――当たり前の日々を過ごせる場所を護るためなら、
「どれほどの灼熱だとて私は耐え抜いてみせましょう。先に耐え切れなくなった、貴方の敗北です。どうぞ御覚悟を」
 光あれ、恵みあれ、幸いあれ。
 流麗に光の鍵盤を翔ける十指はソレイユの胸に咲き誇るままの音色を秋晴れの青空へ響き渡らせ、聖歌の旋律を織り込んだ輪舞曲で華々しく打ち鳴らす鐘の音はひとびとへの福音にして魔女への弔鐘。相手の後背から一気に奔らせるのは聖なる光、蒼穹の天使のSternenkreuz(シュテルネンクロイツ)に次ぐ火力を孕む幻想ロンド「福音」(ラ・カンパネッラ)が織り成す聖光の刃が振り返る暇も反撃の機も赦さずハインリヒの背から胸を貫いたなら、
「お前はディジョンへは辿り着けずにここで終わる! 俺達は必ず、シルの歌のとおりにして見せるんだからな!!」
「みんなが見てくれてるから、信じてくれるから!! 虹の煌きで希望を繋いで、見たことのない朝を奏でるよ!!」
 間髪を容れず魔女の直下から全速急上昇で強襲した朱士が反撃の鉄槌ごと敵の顎を打ち砕く勢いで真紅の籠手纏う拳を突き上げると同時に真夏の太陽のごとく燃え盛る焔の鳥を叩き込んで、魔女の直上からはシルが誰もの眼を眩まさんばかりに眩い七彩の輝きが花開く。
 ――太陽も飛び起きるほど声を上げて、
 ――見たことのない朝を奏でるよ♪ 明日を歌おうっ♪
 ディジョンの市街から聴こえてくるひとびとの歌声が花開かせるのは希望の明日を招く歌、ルーチェ・ソラーレ。
 嘗て断頭革命グランダルメのパルマ公国で淫魔宰相『夜奏のルドヴィカ』との決戦に挑む際、仲間達とともにひとびとへと勇気と希望を燈すために咲き誇らせた歌にして、シル自身が相棒と二人で担ったパートの歌詞と最後のフレーズを詠唱としてパラドクスへ、現役アイドルたる己のシングル・バージョンとして昇華した歌だ。
 あのときのように、この歌がディジョンのひとびとにも希望を燈すちからのひとつとなれたのなら、
「世界を司る六界の精霊達よ、宇宙に集いし天体の守護者達よ、過去と未来を繋ぐ時よ」
 ――集いて力となり、全てを撃ち抜きし虹光となれっ!!
 華奢なシルの裡から普段以上に膨大な魔力が溢れ出してくる心地がするから、
 全身全霊を注ぎ込んだ魔力砲撃を撃ち下ろす。苛烈で鮮烈な虹色に輝く光の瀑布をハインリヒ・クラーマーへと叩き込む。
 太陽の霊鳥と虹色の砲撃が魔女に直撃して爆ぜた凄まじい輝きが消えるよりも速く青く輝ける軌跡を描いて彼と真っ向から相対したのはエトヴァ、仲間達と立体的な包囲を織り成せる位置を確保して、彼は、
「復讐に眩んだその目で、見えるかい?」
 雷めいたぎらつきを過ぎらす『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』の瞳を蒼穹の眼差しでまっすぐ見据えて語りかけた。
「空、光、大地。ひとびとの営みはいつであれ、変わることなくこの大地にある」
『ハッ! それを蹂躙すれば貴様らへのより効果的な復讐になるとでも言いたいのか、ディアボロスよ!!』
「――……そうか」
 憐れな答えだと思った。
 たとえ見えたとしても、
 大地とそこに生きるひとびとによって創り出される営みの、当たり前であるからこその尊さを感じることもないのだろう。
 嘗て『内乱の罠』の折に見たように、一般人から造り変えられたキマイラウィッチ達がいるのなら、復讐に心を染められた彼らもまた、元は自分達のものであったひとびとの営みの尊さを忘れてしまうのだろうかと思えば胸が軋んだ。然れどそれを堪えて二挺拳銃に復讐の華でも炎でもなく、この世界の大地に生きるひとびとへの祝砲のごとき銃声を唄わせる。
 大型のクロスボウを空へ向けるエトヴァの姿を、十字架を掲げるようだと、
 あなたにとって戦いは祈りのかたちのひとつなのかしらと、いつか誰かが語った言葉を思い起こす。
 確かにそうなのだろうと微笑した。だって眼前のキマイラウィッチへ撃ち込む銃撃の連射もその体躯へ十字を描き出す。
「嬉しくはないかもしれないが……俺からの祈りを抱いて、眠れ」
『――――』
 研ぎ澄ませた技能はいかなる戦場でもエトヴァを裏切らない。
 己の術の精度を高め、敵の術の冴えを相殺して、『魔女の鉄槌ハインリヒ・クラーマー』の両肩を、鳩尾を、頭を、心臓を撃ち抜いて、反撃も次撃も何もかも、彼の命の最後のひとしずくごと撃ち抜いた。墜落していくその体躯が中空で霧散して、
 街から、ひとびとから、天をも震わさんばかりの絶大な歓声が爆ぜる。
 歓呼の声とともに湧きあがるのは希望の明日を招く歌、ルーチェ・ソラーレ。
 今はディジョンのひとびとの一部であっても、あの爆発的な歓声は、盛大に咲き誇る歌声は、他の市民達にも聴こえているだろう。自分達に親愛と信頼を寄せてくれたひとびとが他の市民達にも今日の出来事をきっと伝えてくれるだろう。
「ディジョンの皆さんに、祝福があらんことを――……!!」
 秋晴れの青空から蒼穹と黄昏の眼差しで見霽かすディジョンの光景がどうしようもなく嬉しくて、歌唱に長けた声音で皆へ呼びかけたソレイユがルーチェ・ソラーレの旋律にグレゴリオ聖歌の旋律を織り交ぜて、荘厳なパイプオルガンの音色で奏で上げればいっそうの歓声が湧き立って、ひとびととともに希望の明日を招くルーチェ・ソラーレを歌い上げたエトヴァが凱旋代わりにと手を振って、
「ありがとう、みんな……!!」
「これでディジョンも一歩進むよねっ! ほらほらエトヴァさん、ここで伝えるだけじゃなくて、ちゃんと凱旋しよっ♪」
 朗と声を張ればひとびとからも次々と『ありがとう』の唱和が返るけれど、蒼穹の天使とともにルーチェ・ソラーレを歌い上げたシルが彼の背を押し、仲間達を地上へと促した。何しろ三重の【飛翔】の速度があるならばパラドクストレインの発着地点への移動時間が短縮できる分、帰還までに少しばかり時間の余裕があるのだから。
 ディジョンのひとびとと歓びを分かち合いにいこう、抱擁を交わしにいこう。
 そうしていっそうひとびとの希望を明るく輝かせて、皆で明日を、歌うのだ。
 
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【隔離眼】LV1が発生!
【飛翔】がLV3になった!
【パラドクス通信】がLV3になった!
【アイテムポケット】がLV3になった!
【断末魔動画】LV1が発生!
【寒冷適応】LV1が発生!
効果2【グロリアス】がLV4になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV6になった!
【ガードアップ】がLV2になった!
【ダブル】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2024年11月30日