【ラ・ピュセル奪還戦】シャトールーの地にて（作者 baron）

1

リプレイ

●
「気味の悪い動きをしているな。時が許せば、童話の魔女グリムを直接攻めたかったものだ」
　エトヴァ・ヒンメルグリッツァ（韜晦のヘレーティカ・g05705）は敵の動きに瞠目した。何しろ復讐こそが生きる目的であるはずの魔女が、逃げ伸びることを目標にしているのだ。注目しない筈もない。
「とりあえず敵を減らしていきましょう」
「ああ。今は、好機に繋ぐために削ぎ落とす。後の禍根を断ち、一体でも多くの魔女を狩るために」
　ルチル・クォンタム（加護の外に出た守り人・g10515）の言葉にエトヴァは頷いた。何かしらの陰謀があるのかもしれないし、冥海機のように逃げるだけかもしれない。だが、今はその時ではないのだ。今は悩むよりも、敵を確実に倒すべきであろう。
「どれ程苦しい戦いでも僕らも強くなっている。だから、問題はないです。最後まで戦い抜くだけですから！」
　ルチルも戦い抜く決意を固め、簡単には引かないという覚悟と、同時に無茶をする前に撤退を優先する覚悟を決めたのだった。

　やがて二人は地形に隠れて接近し、可能な限り倒し易い敵を狙った。
　ジェネラル級との邂逅を狙わないならその方が確実だし、今回の敵は出て来ない可能性が高いので問題はない。
「先制して撹乱する。確実に倒せそうな奴から倒していくぞ」
　エトヴァは迷彩コートを着て隠れていたが、双眼鏡で敵を選別するとパラドクス通信でそう伝えた。
「了解で鵜。可能な限り視覚から仕留めましょう」
　ルチルの方で光学迷彩を用意しており、二人は敵に対して奇襲戦を敢行。逆連鎖戦では倒しても反撃されるのであまり意味がないが、それでも命中精度などに大きな差が出るだろう。
「――絢爛と、咲き誇れ」
　エトヴァは煙幕弾と閃光弾を二丁拳銃で放った。
　その弾はそれぞれが魔法の絵の具で出来ており、炸裂と同時に光の華を描き、匂いをまき散らして花畑を演出する。
『あら。花をくれるの？　お返しに殺してあげるわ！』
「それは勘弁願いたいな」
　敵が乗🅂場して来る蛇の体や、そこから射出される刃をエトヴァはタワーシールドで受けた。そして精神を集中させ、呪いに対して対抗。その上で当たるかもしれない部分は、強化した防刃コートに頼って置く。
「攻防一体の妙技お見せいたします！　反射する針《リフレクト・ニードル》！！　いっけー！」
　ルチルは大鎌を振り抜くと、その衝撃波を無数の針へと変えた。それは攻撃を多段階にして密度を上げる為であり、また切り返して再度鎌を振る事で、相手の攻撃を反射するための動きである。
『ほほほ。素敵な装身具をありがとう。お返しに貴女にもあげるわ！　私の体を通してね！』
「締め付けられるって事は距離近づく事だから……その首、跳ね飛ばしてあげる！」
　ルチルが切り返した刃で、急接近する敵の体を跳ね飛ばした。
　だがその衝撃は全てを相殺しきれず、魔力障壁でダメージを減らし、態勢を立て直すと再攻撃の機会を伺った。
「敵をある程度倒したら機を見て撤退しようか。最後の無理は本番で。って奴だね」
「了解した。ただ、このラミア達とも随分長くやりあってきたが、異国に流したくはないな。やれるだけ、仕留め切ろう」
　ルチルの提案をもっともだと思いつつも、キマイラウイッチたちとの重苦しい戦いを思い出してエトヴァは出来るだけ倒したいという思いに囚われるのであった。それだけ胃痛のしそうな陰謀と向き合ってきたのだろう。




●
「ここはシャトールーの中でも他とは違うみたいだね。防衛線がある」
「本当ね。ここはしっかりと防衛線が敷かれている。だったらここを何とかしておかないと……いざって時に面倒になるわ」
　鴻・刃音（夢現・g06022）の言葉に鴻・御伽（ナサリーティル・g11725）が頷いた。城壁の外というだけではなく、ちゃんと組織だって守ろうとしている。今までのキマイラウイッチたちとは一線を画していた。
「と言うことは只削ればいいって訳でもない。計画的に行動しないければならないね。上手に事を運ばなければ余計に手を掛けてしまうことになる。よく考えて動こう」
　刃音は敵が築いている『防衛ライン』という点に着目した。
　良く出て来る単語であるが、『トループス防衛ライン』というのは、陣地を築いて連携したり地形防御を有効的に使って戦うのだ。
「防衛線と言う事ならば考え無しに真正面から行っては針の筵。いたずらに戦力を消耗してしまう。だからここは連携と行こう。どれだけ敵の数が居ようとも、本能的に動かざるを得ないだろうから」
　ちゃんと工夫すれば何とでもが、逆に無策で突っ込むと痛い目に合う事を知って居た。相手の復讐心に付け込むだけではなく、その先を見据えて動かねばならないのだ。これも逆説的に言うと、作戦的な前置きを用意しておけば、何とでもなるのがキマイラウイッチたちであるとも言えるが。
「それにしても……グリムの性格が伺えるわね。臆病とも言えるけれど、逆を言えば慎重とも。厄介さが伝わって来るわ。真正面からの突撃なんて愚の骨頂。策を講じましょう」
　御伽はこれだけの防衛線を作り上げておきながら、それでも逃げるつもりのグリムの頭脳に目を向ける。ここで重要なのは、狡猾さでも臆病さでもなく、『断片の王と同じ判断が出来る』ということだ。王の左右に侍る将と、双璧を謳われるのも当然だろう。ここで逃がすと危険であり、だからと言って、ただ突撃すれば良いわけではないという厄介さに注目する。

　やがて二人は別れて移動し、仲間の用意してくれたパラドクス通信や光学迷彩を利用して接近する。
「蛇……特性が有効かどうか、試してみよう」
　刃音は防衛線を回り込むと、ギリギリの場所から炎を放った。
　それは蛇が持つというピット器官……人間で言う、赤外線探知を利用しようと『試して』みたのだ。
（「背負った怨嗟……この劫火は未来ある者たちの叫び！」）
『痛いわね！　お返しに貴女の体を切裂き、血をすすってあげるわ！』
　刃音は印を組み、詠唱の声を抑えて奇襲をかけた。
　果たして敵は即座に反応したが、それはピット器官だったのか、それとも逆連鎖戦ゆえに反撃に出たのか。
『ああ、やっぱり串刺しよ！　獣諸共に死になさい！』
　刃音が失われてしまった若者たちの命を炎として呼び起こし、獣の形で敵を焼き払いに掛かった。それを貫くように敵の髪の毛が蛇と化して迫り、牙が刃として飛んでくる！　それは黒焔を貫いて刃音に迫るが、炎だけにそれで崩れたりはしない。ラミアたちを劫火で焼き払っていく。
（「どちらか判らないけど……こちらに向かってくれたのは助かる。そのままついて来なさい」）
　なお、刃音の動き意味があるかどう変わらない器官を試すだけではない。あからさまな動きをする事で、御伽ｋら目をそらせようとしたのだ。光学迷彩は姿を隠さないと意味が無いし、また敵の数が多いと視られる可能性がある。その可能性を減らす為なのだ。こういうと何だが、　単に挟撃を掛けただけだと意味がない。姿を隠し、囮になり、様々な工夫を積み上げてこそ敵を圧倒できるのだ。
（「準備は良いよね。じゃあ、行きましょうか」）
　御伽はその様子を見てなお、一呼吸置いた。
　即座に攻撃しては、相手にバレるかもしれない。
　また、相手の視線を惹き付ける為にも、一手遅らせる方が有効なのだ。焦って攻撃するよりも、その方が有意義であろう。もちろん刃音の方でもその事は承知しており、一人しかいないからと囲まれるような位置にはいないでいる筈だ。
（「さあ、喰らいなさい！」）
　そして声も無く御伽はパラドクスを展開した。
　彼女の周囲に幾多の光の刃が出現。
　目にもとまらぬ速度で戦場を駆け抜けたのだ。
『っ！？　こちらにも！　良いじゃない！　血祭りにあげてあげるわ！』
「血祭り？　ならこちらは光の雨よ！」
　敵が延ばして来る蛇の髪から、御伽に対して刃が放たれる。
　御伽はソレを可能な限りガードし、そして光の刃を間断なく撃ち続けた。
　牙で作られた刃と、光で作られた刃の応酬！　お互いに消耗戦になるが、可能な限り奇襲し、かつ挟み撃ちにした分だけ二人の方が優位だ。やがて敵の小部隊を殲滅したところで、二人は撤収していったのである。

最終結果:成功
完成日	2025年04月13日