佐野埜之子の場合4
佐野・埜之子 1月14日00時
その1(設定羅列)
https://tw7.t-walker.jp/club/thread?thread_id=12838
その2(過去纏めSS)
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その3(過去補足と宿敵)
https://tw7.t-walker.jp/club/thread?thread_id=54226
おまけ(後述三名の情報あり)
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『とりとめのない散文』
●当人
切っ掛けは些細で拙い理由だった。単に、肯定されて嬉しかった。ただそれだけ。
望みで欲で夢。自分の求めるそれが一般的には余り肯定されにくい事である事は知っていた。何せ初手から母親に否定されたのだから当たり前だ。最愛の弟も、優しい級友も、否定こそしなかったし、手を貸し続けてくれていた事は肯定の一種ではあったのだけど。でもそれは彼女自身に対する厚意故の受容であって、その望みの内容そのものに肯定的な感想を持っている訳では無かったし、自分自身その欲そのものが良い物だと思っている訳では無かったのでそれは当然だろうと薄々気付いても居た。だから、弟ですら『その夢そのもの』を好意を持って認めてくれていた訳では無かった。
だから初めてだったのだ。それそのものをあんなに褒められ、それそのものに好意を向けられたのは。
それがあんまりに嬉しくて、奇跡の様に感じれて、それで、だから、欲しくなった。欲しがられたくも、なった。
●級友
百合とかそう言うのか。いや、そう言う傾向は一切無かったと思うぞ。
そりゃ学生特有のノリと言うか何と言うか、クラスにはちょっとだけそれっぽい態度の奴も居たよ。けど埜之子はそうじゃなかったな。と言うか、それこそ無意識にだろうけど、男子に対しての態度は……その、多分父親が突然家からいなくなった影響と、弟を基準にしていたせいだろうな。寧ろちょっとだけ甘える様な傾向が合った位だ。
結局、それだけ衝撃だったんだろう。誰にも理解されない、肯定されない、恐らくは嫌悪される。あいつが夢を諦めないなら、最後に縋れるのはそんな道で。その道をまさか肯定される何て思って無かったんだ。そりゃ性別何て二の次になるのも無理はない。
……そもそも今、あいつに性差の認識がどれ位あるんだろうな。知識はある筈だし、情緒も昔からは比べ物にならない程育ってる筈だけどさ……でも、なあ。ぶっちゃけその辺は深く考えて無いんじゃ無いか? あいつ。
●詐欺師
物は一度持ち上げてから落とした方が良く壊れます。心もそう、と言う理屈ですね。
でもこれはまあ、精神的に深みに嵌らせる為の手法の一つでもありまして、その場合は壊し切るといけないのです。洗脳したり依存させたりなら、一歩手前で手を差し伸べなければ行けないんですけど……そこは今はどうでも良くて。つまり『壊す』以外にも使えると言う事が大事なんです。『やり過ぎると壊れる程の衝撃を与える事が出来る』と言うのがその本質ですね。
そして心に及ぼされる衝撃の事を言い換えると感動となります。
埜之子さんが求めているのはそう言う衝撃や感動の類で、それを絵に昇華する為に、そう言う経験を欲しているんだと、私は推察しているんですよ。
だから、ねえ。本当は様々な形が在り得るのです。ただ彼女が知って居るのがそれだけ。愛する弟がその身を以て示してくれた、大切な物が踏み躙られ取り返しの付かない事になる。そう言う形だけと言うだけです。
●元官憲
受動的にそう言う状況を期待するだけなら……道義上、倫理上はそれも相当駄目なんだが。少なくとも法律的には問題がない。けれど能動的にそれを求めようとした場合、それはどうしても犯罪に手を出す事になる。そして僕の見立てでは、正直、埜之子君はそこで躊躇できるほどの社会性を未だ身に着けている様には思えない。まして今の新宿島の状況は非日常状況にも程があるからね。箍は外れやすく、抑止はされ難い。
少なくとも犯罪行為は防ぎたい。オーナーに頼まれたからと言うだけでなく、そこは出来るだけ対応するつもりだよ。年単位の付き合いをしているんだ、それ位には彼女への情は湧いているとも。
……ふむ、情あるなら彼女の夢を尊重してはと言うのかね? いや、良い。責める気はない。そう言う感情が生じ得る事も理解はする。認めはしないが、理解はできるとも。
だが、それでもそれは埜之子君の為にはならないよ。だってその場合、彼女は殺されるのだから。
●元教授
別に心理学がどうとか偉そうな事を言わずとも、何事に置いても『対象以外の人間が周囲に居る』事は勘案せねばならん。
儂は正直なあ、埜之子の嬢ちゃんの方はそこまで心配しとらん。外道に落ちるとかひとでなしになるとか、そう言うのが問題なのはその通りじゃがな、儂に言わせれば『そうなったから』とて全て終わり等と言う事はない。そう成り果てたとして、結局儂に言わせれば人間じゃよ。少なくとも復讐者じゃ。何も変わらんさ。ま、交友関係はズタズタになるかも知れんが、ならんかも知れん。その程度と思うておるよ。
問題は寧ろもう一人の嬢ちゃんじゃわな。あの子は恋人である弟君との約束に固執して居る。と言うかあの子ぶっちゃけヤンデレっちゅう奴じゃわ。怖い。
何でじゃと? さっき犬束の小僧が言うたろ、場合によって埜之子君を殺すからじゃよ。
理由? さっき言ったぞ。『豊太(恋人)の姉の面倒を一生見る』と言う約束に固執しとるからじゃ。
●オーナー
まあ、はい。そうでしょうね。
口にはしません。聞いても誤魔化すでしょう。けれど彼女は明らかに準備している。
あの子『ひとでなしの方』を選んだ埜之子君を『人』とは認めません。かつて外界にほぼ興味の無かった埜之子君と唯一繋がって居た、弟君が死んだ今となってはかつての彼女と唯一心が近しかった身として。『埜之子に取って自分が大事な人間であるなら、その自分が人間と認めない埜之子は人間ではない』と、そう決めている。『それはもう豊太の姉ではない』と、『なら姉だったものを処分する事が、自分に出来る最後の『面倒を見る』と言う事だ』と。
ああいや、彼女は心底から嫌がっていますよ。多分、一生苦しむ位には嫌でしょうね。彼女に取っても埜之君は掛け替えの無い存在です。亡き恋人の姉で、今も友達だと認めなかった事を後悔して居る位には心を許している相手だ。
でも、するんでしょうね。彼女には、その約束は死んだ恋人との絆なのですから。
●とある第三者
いや、別に視野に入れて準備だけは万端にしてるってだけで『絶対殺す』って程じゃないと思うけどなー。話した感じ相当ウジウジした子だよ。そんなスパっと突っ走れ……無い、と思うけどまあ、確かにちょっとだけ不安かもね。
でもさあ、これって話は凄い簡単じゃない?
だって、要するにその埜之子って子に夢を諦めさせたら全部解決じゃん! だよね? 違う? そうでしょ? 寧ろ何でそんな差し障りのある願いを勘弁して上げてるの?
……あは、ゴメン。意地悪言ったね。でも、本当の事だよ? 最終手段としてはさ、ちゃんと考えて置かなきゃ駄目だと思うな。
ただ、聞いた限り、その子が諦めても、寧ろ諦めた事で、結果的にその子の望みを叶える事は結局起こる可能性、ある様な気がする。だってそうでしょ、その先生? 憧れの人? って言うの。話聞く限りさ、良い結末に行く気がしないもん。
そうなった時、その埜之子ちゃんが喜ぶのかは……流石にちょっと分かんないけどさ。
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