リプレイ
一蝶・信志
革命淫魔の結末を見届けられなかったのが心残りだったのだけど
またグランダルメに行けるなんて、幸運ね
これがワタシにとってのグランダルメの幕引きよ
――彼の心を、なんとしても救いたい
革命期の歪みを一身に背負わざるを得なかった、パリの処刑人を
話のジャマになりそうな自動人形たちは先に一掃しましょう
極右王党派を騙る部隊を率いているのは、彼の深層心理の影響かしら
それとも誰かの皮肉?
王家を支持する一派にこんな役目を敢えて押し付けているのだとしたら、相当な悪趣味ね
…ファッション・レジティミストみたいだけど
思想には思想で対抗しましょ
新たな時代の到来から目を背けて旧い権益にしがみつくユルトラの皆さん、ボンソワール
あなた方は何と戦っているの?
真に倒すべきは、諸外国を敵に回して祖国を窮地に陥れた革命派と、革命の混乱に乗じて王権を簒奪したナポレオンではなくて?
なぜ彼らの犬に成り下がっているのかしら!
さあ、目を覚ましなさい
言葉にPDを乗せて敵軍の同士討ちを誘うわ
※
魔法少女シンディの装い
言動は完全に女性的
旗楽・嘉内
御先祖から、武者修行がてら友人を手伝ってこいとの指示が出た。
その友人のキャラが何と言うか濃い気はするが、それは置いておいて。
確か、ムッシュ・ド・パリってルイ16世やマリーアントワネットを処刑したんだったよな。
その下に正統主義者が付いているとか、もうわけがわからねえな。
ともあれ、御先祖の友人はムッシュ・ド・パリと対話し、その心を救うのをお望みのようだ。
新人復讐者のオレには、それが果たして可能なのかどうかはわからない。
ただ、御先祖の友人がそうしたいと望むのなら、オレはその邪魔をするコイツ等を一掃するまで。
緑翠蝗で、奴等を攻撃だ。
災厄の蝗は、相手がどんな思想を持っていようが関係なく食い尽くし、滅びをもたらす。
正統主義だろうが何だろうが、言葉が災厄の蝗に通じると思うな!
敵の反撃は、マジックシールドや翠緑天鎧でダメージを軽減するぞ。
あと、さすがに応援に来てその対象がやられたなんて事になったら、御先祖に顔向け出来なくなるからな。
余計なお世話かも知れないが、御先祖の友人にはディフェンスを入れておくぜ。
マティアス・シュトローマー
ここが歴史改変中のグランダルメ
現代のフランス共和国でも無い、フランス王国の空気が残る場所かあ
世襲である以上、処刑人という役割から逃れられなかったムッシュ・ド・パリ――シンディはこの時代で覚醒した彼にどんな言葉を掛けるんだろう?
そんな興味から首を突っ込んだ事件だけど、力になりたい気持ちは本物
まずは露払いから
仕事熱心なのもいいけど、俺と少し遊んで行かない?
現場に駆け付け、パラドクスを発動。毒を含んだ熱砂のトラップを展開し、敵を地中に引き込みながらその表皮を焼いてダメージを与える。もちろん【泥濘の地】の効果で足止めするのも忘れずに
さらに効率よく複数の敵を巻き込めるようポジション取りにも注意を払おう
ちょっとした悪戯さ
寛大な心と愛で許して欲しいな
君達クロノヴェーダの侵略こそ正統派に仇をなすものなんじゃ?
胸に手を当ててよく考えてみなよ
押し潰そうと向かってくる幻影はライオットシールドで往なし、受けるダメージの軽減を試みる
致命傷さえ負わなければ、能力値アップの効果で戦いが長引くほど有利になるからね
●序幕
時と所は新世紀前夜のパリ。
この場合の『新世紀』とは十九世紀である。極東の異国から『花の都』という雅称を与えられるのはずっと先のこと。
花咲く前の蕾どころか芽すら生じていないその都の一角に、JR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「断頭革命グランダルメに来るのは久方ぶりだわ」
車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、華美なドレスを着込んだ長身の美女が降り立った。
いや、遠目には美女に見えるが、実は違う。
彼女ならぬ彼の正体は、『魔法少女シンディ』なる存在になりきった一蝶・信志(シンディ・g04443)なのだ。
「久方ぶりというか……ある意味、初めてだよね」
信志に続いて降車したのは、自信に溢れた顔をしたオレンジ色の髪の少年。
機械化ドイツ帝国出身のマティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)である。
「本来の歴史のフランスじゃないけれど、まだ完全にディヴィジョン化もしていない、歴史改変中の世界なんだから」
マティアスは興味深げに視線を巡らせた。十八世紀末の情景から浮いているのはパラドクストレインだけなのだが、それを視界から除いても、奇妙かつ不快な違和感が拭えない。歴史がゆっくりと浸食されてゆく――その過程で生じた違和感。
「今この時も刻逆が進行中だと思うと、良い気分はしませんね」
エメラルド色の甲冑を纏った中年の男が車両から降り、マティアスと同じように周囲を見回した。
元引きこもりして三人のうちの最年長――旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・g11216)だ。
「とはいえ、この世界が正常な形にリセットされることは確定しているんですよね。我々は断頭革命グランダルメ奪還戦に勝利したのですから」
「ワタシは勝利の場に居合わせることができなかったし、革命淫魔の結末を見届けることもできなかったよねえ」
信志が方頬に手をあて、残念そうに溜息をついた。
しかし、その後に続いた言葉は前向きなものだった。
「だから、今回の任務はワタシにとっての断頭革命グランダルメの幕引き。そういう心積もりで臨ませてもらうわ」
●マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)
皆と一緒に町の広場まで移動すると、そこでは猫の集会よろしくクロノヴェーダたちが雁首を揃えていた。
中央に設けられた処刑台を取り囲んでいるのは、右手に鵞ペンを持って左手に杖を携えた隻脚の自動人形たち。普通の自動人形よりも人間らしい姿をしているけれど、全員が同じ顔をしているから、なんだかキモチ悪い。
処刑台の上では長髪の淫魔が一席ぶっていた。『沢山の下っ端たちを見下ろしての演説』というシチュエーションともなれば、ナルシストの気がなくても自己陶酔にどっぷり浸かってしまいそうなものだけど、その淫魔の語り口は淡々としている。表情も虚無的。まるで、自動人形だ。
「あの澄まし顔の美男子さんがムッシュ・ド・パリね」
物陰から様子を伺いながら、信志が呟いた。いや、信志じゃなくて、シンディか。本人は正体を隠し通せていると思ってるみたいだから(すごい自信だ)、俺も彼を彼女として扱おう。空気は読まないとねー。
そうこうしているうちにムッシュ・ド・パリは――
「では、清掃人たちよ。罪人という名のゴミを集めてこい」
――と、トループス級たちに命じる形で話を終えた。
「『ゴミ』呼ばわりはひどい」
と、嘉内がマジメなことを口にした。
「しかし、嫌悪や憎悪は感じられませんね」
「それ以外のものも感じられないけどね。すごくフラットな印象だ」
俺がそう言うと、シンディも意見を述べた。
「最初に清掃人に例えたから、『ゴミ』と言っただけじゃないかしら。花屋さんに例えていたら、『花』と言っていたでしょうし、魚屋さんだったら、『魚』と言っていたでしょうね」
「つまり、なんでもいい……いや、どうでもいいってことか」
だとしたら、ムッシュ・ド・パリ自身にとって一番しっくり来る表現は『路傍の石』ってところかな? 人間様を石っころ扱いできるような者でなければ、処刑人というハードな職業は務まらないのかも。あるいは処刑人を務めているうちに石っころと見做すようになったのか。それとも……今もまだ必死に石っころだと思い込もうとしている最中だったりして。
まあ、そういったことを考えるのは後にしよう。今はやるべきことをやらないと。
俺は物陰から出て、処刑台のほうへと進んだ。もちろん、シンディと嘉内も一緒だ。
『ゴミ』を収集するために散開しようとしていた自動人形たちが動きを止めて、俺たちを見た。ムッシュ・ド・パリもじっと凝視してきたけれど、あいかわらずの無表情。
「新たな時代の到来から目を背けて、旧い権益にしがみつくユルトラの皆さん!」
シンディが慣れた調子でカーテシーを決めた。
「ボンソワール!」
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
この世界/時代での刻逆の浸食の度合いは知らない。もしかしたら、クロノヴェーダと戦ったという過去のディアボロスたちもまだ存在していないのかもしれない。
でも、ムッシュ・ド・パリは本能的にワタシたちを敵だと判断したらしく――
「やれ」
――と、簡潔に命令した。眉一つ動かさずにね。
自動人形たちは瞬時に反応。杖をカツカツと鳴らして、ワタシたちに迫ってきた。
「えーっと……こいつら、『レジティミスト・ドール』っていうんだっけ?」
グランドターミナルで伝えられた情報をマティアスがおさらいした。手をぐっぱぐっぱして強者の余裕感を出しながら。
「確か、ムッシュ・ド・パリってのは――」
鮮やかな翠の鎧をガチャガチャ言わせて、嘉内が前に出た。
「――ルイ十六世やマリー・アントワネットを処刑したんだよな。その下についてる連中が『レジティミスト』を名乗ってるなんて、もうわけが判らねえよ」
あらあら。口調が荒っぽくなってるわね。嘉内ってば、血が滾るとキャラが豹変しちゃうタイプ?
「まあ、どんな思想を持っていようが、こいつらには関係ねえ。ただの餌だ!」
叫ぶと同時に腕を一振りすると、彼が言うところの『こいつら』がどこからともなく現れた。
何百か何千かっていうイナゴの群れよ。
嘉内の鎧と同色のそれらが乱舞する様はダイナミックにしてビューティフル! 月光を照り返して吹き荒れるエメラルド・ハリケーン! ……なんて煽り文句を悠長に並べることができるのは、外から見てる人間だけ。標的となった自動人形たちのほうはたまったもんじゃない。全身イナゴまみれになって、そこかしこをガジガジと囓られてるわ。エントモフォビアな人が見たら、卒倒しちゃいそうな光景ね。
だけど、囓られてる当人(当機?)たちは卒倒することなく、杖の石突きで地面をガンガンと叩き出した。
すると、嘉内の鎧のあちこちに小さな亀裂が生じて、その内側から血が流れ出した。まるで、見えない虫の群れに囓られてるみたい……あ? これって、相手から受けたダメージをそのまんまお返しする感じのパラドクス?
自動人形たちは調子に乗って、更に攻撃を仕掛けようとしたみたいだけど――
「いやー、君らは仕事熱心なタイプみたいだね」
――マティアスが割り込んだ。
もう、ぐっぱぐっぱはしてない。自動人形たちに突き出された手は五指を広げてパーになってる。掌は下向き。
「でも、俺と少し遊んでいかない?」
月光に手を翳すことによって生じた影が染みみたいに広がり、自動人形たちの足に触れた。
途端に彼らは姿勢を崩した。地面がいきなり軟化して、足がずぶずぶと沈み込んじゃったからよ。おまけに、沈んだところから何筋もの煙が上がってる。しゅうしゅうと音をたてながらね。土の中で灼かれてるのかしら?
「ちょっとした悪戯さ」
足を通り越して腰の辺りまで沈んでしまった自動人形たちに向かって、マティアスは笑ってみせた。
「寛大な心と愛で許してほしいな」
いぃ~い笑顔だこと。ワタシなら、許しちゃうかも💖
●旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・g11216)
マティアスの蟻地獄めいたパラドクスに嵌まった自動人形は四体。うち三体(イナゴたちに囓られてた奴らだ)は完全に停止したが、残りの一体はなんとか蟻地獄から這い出て、鵞ペンの先をマティアスへと向けた。
俺が使った『緑翠蝗(エメラルド・グラスホッパー)』と同様、それは召喚系のパラドクスだったらしく――
「我らが戴くのはブルボンの血筋のみ!」
「アンシャン・レジームよ、再び!」
「古い酒こそ新しい酒袋に!」
――ぎゃあぎゃあと喚き立てる集団が出現し、タックルを仕掛けるラガーさながらに次々とマティアスに突進した。
「いや、胸に手を当てて、よく考えてみなよ。君たちクロノヴェーダの侵略こそ――」
腕に装着した盾で以てタックルをさばきつつ、悠々と語りかけるマティアス。
「――正統主義に仇をなすものなんじゃないの?」
一頻りタックルを決めた後、集団は消え去った。マティアスに反論できずに退散したとかじゃなくて、パラドクスで召喚された一時的な存在だからだろう。
しかし、すぐにまた新たな暴徒の一団が出現した。さっきとは別の自動人形がパラドクスを発動させたんだ。
「王、政、復、古!」
スローガンをがなり立てながら、猛突進する暴徒たち。その先にいたのはシンディこと信志だ。
しかし、彼/彼女がタックルの荒波を浴びることはなかった。
俺が暴徒たちの前に飛び出し、楯になったからな。
「ありがとう、嘉内」
「なあに、レディーファーストってやつだ」
いや、レディーじゃねえだろがい……と、心の中でセルフツッコミしている間に、シンディの攻撃が始まった。ただし、物理的な攻撃じゃない。
「ホントにもう! あなたたち、なに考えてるの? 『レジティミスト』と名乗りながら、どうして人形皇帝ナポレオンなんかの犬に成り下がってるのよ?」
自動人形のうちの一体に説教してるんだ。
「真に倒すべきは、諸外国を敵に回して祖国を窮地に陥れた革命派と、革命の混乱に乗じて王権を簒奪したナポレオンではなくて?」
普通なら、そんな理屈はクロノヴェーダに通じないだろうが、シンディが発動させたのは『熱愛の契約』だったらしい。大淫婦バビロニアをルーツとするパラドクスだっけか?
標的となった自動人形は忽ちのうちにシンディの言葉に惑わされ――
「そうだ! コルシカのチビはお呼びじゃない!」
――くるりと反転して、仲間の自動人形たちに殴りかかった。『コルシカのチビ』ってのは人形皇帝ナポレオンじゃなくて本物のほうなんだろうけど、この時代の本物は一軍人に過ぎないわけで……やっぱり、わけが判らん。関ヶ原の戦いに倒幕の志士が乱入してくるかのごとき時空の乱れ振り。
「さっき、嘉内も言ってたけど」
と、シンディが声をかけてきた。
「ムッシュ・ド・パリの下にレジティミストがついてるなんて、本当にわけ判らないわよね。彼の深層心理が影響して、そういう布陣になったのかしら?」
処刑台に立つムッシュ・ド・パリへと目を向けるシンディ。
その眼差しはクロノス級への憎悪に燃えて……って感じじゃない。そこにあるのは憐れみと慈しみ。
「それとも、誰かの皮肉? だとしたら、この皮肉を仕込んだ奴はかなり悪趣味ね」
シンディが言い終えた直後、『熱愛の契約』で惑わされた自動人形は死んだ。かつての仲間たちに毛ほどの傷も与えることもできず、返り討ちにされたんだ。
こちらからすれば、敵が減ったことに変わりないけどな。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【傀儡】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
●幕間
自動人形たちは次々と力尽きていった。
ある者は灼熱の蟻地獄に嵌まり込み、ある者は同士討ちの果てに、ある者はイナゴに貪り食われて。
そして、最後の一体も――
「正統なる王権! 正統なる国家! 正統なる支配!」
――支離滅裂な絶叫を残して地に倒れた。
彼らの残骸が撒き散らされたことによって、広場はスクラップ置き場の様相を呈している。ゴミを処理するはずだった者たちがゴミとなった――その皮肉な結果を前にしても、処刑台の上のムッシュ・ド・パリは無表情だった。人の命と同様、自動人形の命のこともなんとも思っていないのかもしれない。
「おまえたちの目は――」
ムッシュ・ド・パリはゆっくりと見回した。
広場に立つディアボロスたちを。
「――恐れを知らぬ者の目だな。あるいは、恐れを克服する術を心得ている者の目か」
それは賞賛の言葉ではない。
彼はこう付け加えたのだから。
「つまり、罪人の目だ。そう、勇気とは罪に他ならない」
ディアボロスたちがその意を問うより先に処刑人は自説を述懐した。
「毅然と刑場に臨む死刑囚、真っ先に死地へと飛び込む兵士、己が命よりも信念を優先する殉教者――皆、大罪人だ。彼らや彼女らの愚行によって『死』は美化され、尊ばれ、讃えられ、悲劇や英雄譚として昇華され……その結果、後人たちもまた命を軽んじるようになってしまうのだから。時には自己犠牲への憧憬で、時には無言の同調圧力で、時には狂気じみた理想論で……」
キリキリキリキリ……と、ムッシュ・ド・パリが手にしている斬首用の剣から金属音が聞こえてきた。
その切先なき刀身にはスリットが設けられており、いくつもの歯車が覗いている。それらが回り始めたのだ。
「おまえたちは私に処刑される。その運命は変わらない。しかし、覚悟を決めるな。胸を張るな。矜持を示すな。見苦しく足掻き、泣き喚き、命乞いをして、偽りの尊厳を『死』から剥ぎ取れ。それが死にゆく者の義務だ」
よく見ると、彼の衣服のそこかしこにも歯車の意匠が散りばめられていた。
我が魂も歯車仕掛けである――そう主張しているかのように。
一蝶・信志
「流言飛語計」でムッシューと一緒にダンス()とトーク()を楽しむわ
(…ホントはダンス苦手なんだけど!)(昔、お店でよく叱られたのよね…)
今すぐ目の前まで行きたいから、処刑台の上までジャンプしましょ✨
頸をまっすぐに狙ってくる太刀筋は淀みないお辞儀で
機動力を奪いにくる下段への攻撃は装甲ブーツで
内臓の機能を止める隙を伺う殺気は『肢に絡む』で
躱して受け止めて流すの
ちょっとくらいしくじったって構やしないわ
<彼>の魂に安らぎを
これがワタシの今の願いだもの
レバーをたったひとつ、動かすだけ――
優れた剣技も肉と骨を断つ覚悟も不要なはずのギロチンの
その操作ですら、常人には耐えきれぬことが証明されているわね?
あなたもそれを目にしたはず。覚えているはず。
本当に平等だったかしら。本当に合理的だったのかしら。
王を弑することは、本当に自由への解放だったかしら――
歪んだ伝統にメスを入れようとした聡明な陛下の首を落としたときから、
あなたの心にはヒビが入ってしまっていたのではない?
※引き続きシンディ
苦戦、負傷描写歓迎💖
ツキシロ・フェルドスパー
アドリブその他諸々お任せ!
……やーなこった。何処までも誇り高く生きる。
何処までも矜持を。騎士やないけど騎士やもん。
その為の力やからね!
魂は此処にある!
パラドクス発動!
「霊銀の水羽衣」を構えて突撃!
全部全部切り裂く。そこに恐れはないし怖くもない。
だって、後には仲間がいる。だから怖くない。
見苦しく足掻くけどそれは生きる為だ。死ぬためなんかやないのだから!
敵のパラドクスで呼ばれた敵も全部全部薙ぎ払うで!
ノイン・クリーガー
尊厳なき死こそ死にゆく者の義務というわけか。
それはたいへん結構。つまり俺の戦友達は皆義務を果たしたわけだ。
……だが臆病者ではなかった。
そして俺は厄介な頑固者だ。
「泣き喚け。己の命を証明せよ。」には「己の弱さを認めるのはよし!だが勇気もまた大事だ!」と言う。
「世界に、平等な死を。」に対しては「殺しに何も思わないのはもはや罪人と変わらん!」と言う。
「つみびとの献身に、祈りを捧げよ」に対しては、「お前らが勝手に血を流して人の繁栄を阻んでるだけだろ!」と言う。
そして敢えて言う。「奮起!適応!貫徹!」
そして右手にP218を持ち、左手にカランビットを持ち、離れては銃で、寄らばカランビットと格闘で戦う。
●幕間(承前)
「おまえたちは私に処刑される。その運命は変わらない。しかし、覚悟を決めるな。胸を張るな。矜持を示すな。見苦しく足掻き、泣き喚き、命乞いをして、偽りの尊厳を『死』から剥ぎ取れ。それが死にゆく者の義務だ」
厳然と命じたムッシュ・ド・パリに対して――
「やぁーなこった!」
――即座に反応したのは金髪碧眼のデーモンの青年。
ツキシロ・フェルドスパー(非日常に迷い込んだ漂流者・g04892)である。
「俺も御免だな」
黒いフードにガスマスクという出で立ちの男も拒絶の意を示した。
サイボーグのノイン・クリーガー(ゴースト・g00915)。静かながらも威圧的な佇まいは死神を連想させるが、それは非日常的な風体のせいだけではないだろう。
しかし、ムッシュ・ド・パリに気圧された様子はなかった。死神には慣れているのかもしれない。淫魔として覚醒する前の彼もまた死神扱いされることが多かったのだから。
「たぶん、『見苦しく足掻く』って点だけはクリアできるんじゃないかしら」
と、一蝶・信志(シンディ・g04443)が言った。
「ワタシを含め、ディアボロスっていうのは諦めの悪い人ばっかりだから」
●ノイン・クリーガー(ゴースト・g00915)
処刑台から俺たちを見下ろすムッシュ・ド・パリ。
地面からムッシュ・ド・パリを見上げる俺たち。
高低差のある状態で対峙していると、舞台上の役者を眺めてる観客のような気分になってくるな。奴の後方に聳えるギロチンは書割か大道具か。あるいは台詞のない共演者か。
とはいえ、俺は観客で終わるつもりはない。
ツキシロも同じ思いであるらしく――
「泣き喚いたりせえへんし、命乞いもせえへん」
――と、改めてムッシュ・ド・パリに宣言した。
「どこまでも誇り高く生きし、どこまでも矜持を貫いたる。騎士やないけど、騎士やもん」
「騎士を気取ったところで、おまえたちが罪人であることに変わりはない」
いくつもの歯車が仕込まれた剣をムッシュ・ド・パリは掲げた。この場で唯一の純粋な観客である満月に捧げるかのように。
「科されるべき罰も変わらない。この刃は法と秩序と正義に基づいて振るわれる。故に騎士も市民も聖職者も区別しないのだ」
淡々と述べた後、覚醒間もない淫魔は――
「もちろん、王族も……」
――と、付け加えた。
「まあ、何者にも忖度しないっちゅうポリシーは立派と言えなくもないかな。最終人類史のお役人さんたちにも見習ってほしいわ」
聞きようによっては冗談とも受け取れる言葉を真顔で返しつつ、ツキシロは右手を上衣の懐に差し入れた。
その動きに反応して……なのかどうかは判らないが、ムッシュ・ド・パリが剣を振り下ろした。近接武器が届く間合いではないが、それが攻撃のための動作であることはすぐに判った。同時に、攻撃の手段が召喚系パラドクスであることも判った。
いくつもの不気味な機械がツキシロの前に出現したからだ。いや、『不気味』の一言で済ませられるような代物じゃない。
「あらあら。随分と悪趣味なものを召喚してくれたわね」
シンディこと信志も眉をひそめている。もっとも、すぐに肯定的(?)な評価を付け加えたが。
「だけど、機能美みたいなものが感じられなくはないわね。それでいてシュールというところがミスマッチで面白いかも」
確かにそれらは悪趣味でありながらも機能美を備えており、そして、シュールだった。もう少し具体的に言うと……小振りなギロチンだの、背もたれの上に金属の輪が取り付けられた椅子だの、拘束具が備わった大きな車輪だの、そういった禍々しいものを組み合わせたオブジェから多関節の手足が何本も生えたような形状の機械だ。人型であることを放棄した自動人形のようにも見える。
それらが一斉にツキシロへと襲いかかった。
「おーっと!?」
驚きの声をあげるツキシロ。
そして、『こりゃ敵わんわ!』とばかりに後退り……したかと思ったが、それは勢いをつけるための予備動作に過ぎなかったらしい。一拍の間を置いてダッシュし、機械の群れの中に飛び込んだ。
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
奇っ怪な機械たち(ベタなシャレでごめんなさいね)は体についてる刃だの刺だの歯車だので以て、ツキシロに猛攻を加えた。
でも、ツキシロはダメージをものともせずに走り続け――
「こんなもん、怖ないで! 頼れる仲間が後ろにおるからな!」
――嬉しくなっちゃう言葉を吐きつつ、懐に入れていた右手を一気に引き抜いた。
現れ出たのは、銀色を帯びた半透明の幅広の刃……に見えるけど、その正体は不明。なんであれ、服の内ポケットに収まるようなサイズじゃないから、パラドクス効果の『アイテムポケット』を利用したのかもしれない。だとしたら、発動させたパラドクスは『クイックアサルト』かしら?
ツキシロはその謎の武器を横薙ぎに払って機械たちを退け、更に逃げ損なった一機を踏み台にしてジャンプ!
そして、処刑台のムッシュ・ド・パリに反撃の一太刀を浴びせた。いえ、斬撃ではあるものの、『一太刀』という表現は正しくないかも。今になって判ったけど、その武器は天女の羽衣めいた綺麗かつ不可思議な着物だった。
「見苦しく足掻かせてもらうで!」
ツキシロは処刑台の縁を蹴って後に跳び、数秒前まで機械たちがいた(ツキシロがジャンプした時くらいに消えちゃった)場所に着地した。
「生きるためにな!」
「それは重畳」
ムッシュ・ド・パリが頷いた。『重畳』という言葉とは裏腹に表情はむっつりしたまま。胸には真一文字の傷が刻まれて血が流れ落ちているけれど、痛みはちっとも感じていないみたい。
「生きるため、死から逃れるため、見苦しく足掻く。つまり、私の言った義務を果たすということだな。いいぞ、もっと足掻け。そして、死ね」
その非情な死刑宣告に対してツキシロはなにか言い返そうとしたようだけど、ノインが先に口を開いた。
「尊厳なき死こそが、死にゆく者の義務か……たいへん結構。俺の亡き戦友たちは皆、ちゃんと義務を果たしたというわけだ。だが、あいつらの中に臆病者はいなかった。ただの一人もな」
流れるような所作で彼は二つの武器を構えた。右手に消音器付きのピストル。左手に三日月型のナイフ。ナイフのほうは逆手持ち。
「あいつらに比べれば、俺は臆病者の類に入るかもしれないが、おまえさんが望むような足掻き方はできそうにない。自分で言うのもナンだが、厄介な頑固者なんでな」
自称『厄介な頑固者』さんはピストルをムッシュ・ド・パリへと向けて――
「奮起! 適応! 貫徹!」
――三つの言葉をいきなり叫んだ。それぞれの言葉の後には『プシュッ!』という音のオマケつき。消音器越しの銃声よ。
ムッシュ・ド・パリのお腹に三つの黒い弾痕が生じて、そこから赤い染みが広がっていく。それでも鉄仮面みたいな表情をキープして、呻き声一つ漏らさない。
「叫喚は感情の発露。死の運び手には決して許されぬことだ」
ムッシュ・ド・パリが剣を振った。それは反撃のパラドクス。さっきと同じように奇っ怪な機械たちが現れ、潤沢な予算で制作されたフルアニメさながらの滑らかかつキモい動きでノインに群がった。
その間もムッシュ・ド・パリは抑揚のない声で語り続けている。
「死は世界で唯一、すべての命に平等な事象。しかし、死をもたらす者が感情を差し挟めば、そこに不均等が生じてしまう」
ふーん。だから、こうやってヘンな機械を召喚してるし、自分自身も感情のない機械みたいに振る舞ってるいるの?
●ツキシロ・フェルドスパー(非日常に迷い込んだ漂流者・g04892)
ムッシュ・ド・パリの理想の体現者であろう機械軍団の攻撃をナイフでさばいたり、銃身で受け止めたりしながら、ノインがまた叫んだ。
「殺しになにも思わないのはもはや罪人と変わらん!」
「いや、思いの有無にかかわらず、罪人だ。私欲や怨恨を動機とする個人的な殺人ならばな。私が語っているのは、法の厳守/秩序の維持/正義の執行のための機能としての殺人だ」
ムッシュ・ド・パリが司法の徒らしい(?)見解を述べてる間に機械軍団は消え去り、ノインの体に傷だけが残った(すべての攻撃をさばく/受け止めることができたわけやないからね)。
「これじゃあ、どっちが頑固者だか判らないわね」
と、溜息をついたのは信志……じゃなくて、シンディや。
「まあ、いいわ。あっちの頑固者さんとダンス&トークを楽しませてもらいましょうか」
処刑台に向かって歩き出すシンディ。その後ろ姿は力強くて頼もしい(本人としては『可憐で美しい』と言うてほしいんやろうけどね)。
もっとも――
「ホントはダンスは苦手なんだけど……昔、お店でよく叱られたのよね……」
――ちょっと心細げな呟きも聞こえてきたけども。
その呟きなどなかったかのようにシンディは颯爽とジャンプして処刑台に登壇し、ムッシュ・ド・パリと向かい合った。
「感情を持たず、すべてを平等に扱い、合理的にことを進める――そんな機械にアナタは全幅の信頼を寄せているようね、ムッシュー。だけど、それって過大評価じゃないかしら?」
ミュージカルさながらの大仰な動作でギロチンを指し示す。
「レバーをたった一つ動かすだけ――優れた剣技も肉と骨を断つ覚悟も不要なはずのギロチンのその操作ですら、常人には耐え切れないことが証明されているわ。あなたもそれを目にしたはず。覚えているはず」
「……」
「本当に平等だったのかしら? 本当に合理的だったのかしら? 王を弑することは、本当に自由への解放だったかしら?」
踊るような動きと歌うような問い……からの強烈なキック!
「歪んだ伝統にメスを入れようとした聡明な陛下の首を落とした時から、アナタの心にはヒビが入ってしまっていたのではなくて?」
シンディの装甲ブーツ(とは名ばかりで実際は『装飾ブーツ』って感じの代物やけど)の靴底が相手の鳩尾にめり込んだ。
それでもムッシュ・ド・パリはあいかわらず無表情……だけども、ちょっと動揺してるようにも見える。とはいえ、それはシンディの言葉に心を揺さぶられたわけやなくて、たんにパラドクス(たぶん、シンディが使ったのは『流言飛語計』や)の作用やろうね。
それが証拠に――
「ヒビなど入っているものか」
――首斬り用の剣を振るい、反撃を繰り出した。機械みたいに無駄のない的確な動きで。実際、さっきの機械軍団の戦い振りを見て色々と学習したのかもしれへん。
シンディは上段の薙ぎ払いをお辞儀するように躱し、足下を狙った斬撃を装甲ブーツで受け止め……といった具合に華麗な回避行動を取ったものの、ノインと同じくすべての攻撃を避けることはできず、傷だらけになってもうた。
「ヒビなど入っているものか」
シンディの返り血を浴びながら、処刑人は同じ言葉を繰り返した。
「枝を剪定する度に心を痛めるような庭師などいないと知れ」
「いえ、いるわ」
シンディは否定した。
ちょっと苦しげで悲しげな顔をしとるように見えるけども、それはダメージのせいやないと思う。
「死神扱いされていた優しい庭師さんの心が壊れちゃったからこそ、パラドクストレインはワタシたちをここに導いてくれたのよ」
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
【先行率アップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】LV1が発生!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
彼が救われるなら、俺は止められなかったろうが
どうやら『彼』は望んでは、いないらしい
歴史は繰り返さず
その上に成り立っている
時代を生きた人は、ただの人であったのだ
なるほど、ゴミには汚れも高貴もないのだろう
だが、等しく愛さず、等しく憎まずは――心を砕くことと、同義ではない
命は軽んじてよいものでない……同意する
だが、それは「罪」ではない
人に「罪」と名指されたときに見せる、人の反応だ
罪を定義したのが人であるなら、人として反抗することは許されるだろう
彼らから矜持を奪うな、尊厳を奪うな
死は個人のものだ
彼らの死に様を愛せよ
愛せぬのなら憎め
父君は、貴方に人であれと言ったのだ
その教えが、あなたの心を砕く仕打ちであったとしても
唯一、貴方だけが、父君の言葉を理解できるのだ
天が与えた命に、人が使命を与えた
その是非は測れないが
死刑執行の時代の潮流の狭間で、溺れぬよう必死に生きたものが人なのだ
その証を刻む、最後の有り様を、見届けられるのが貴方だ
復讐者として、貴方に伝えよう
未来のこの国は
今もなお、理想を叫んでいるだろう
一蝶・信志
時には罪、なのかもしれないわ
ワタシでさえ、死に臨んでどう在りたいかは折々考えてしまう
誰かの記憶の中にいるワタシは、ワタシが在りたいワタシの姿でいるかしら?って
…だから、どんなに怖くても、みっともない姿ではいられないって思っちゃう
ワタシの国にもブシドーってやつがあるのよ
勇猛さと従順さに価値があった旧時代の遺物
時代が進んで戦いの在り方に変化があっても(ギロチンを示しつつ)
価値観のアップデートを怠ればたくさんの人が死ぬの
取り戻した歴史は決して正義なわけじゃない
忌まわしい歴史を塗り替えることができたなら、……。
……そう思ってしまうこともあるわ
でもムッシュー、聞いて!
遠い未来、このフランスから処刑という悪夢は消えてなくなる!
あなたの悪夢はいつか必ず終わる
すべての人が幸せに暮らす理想には未だ程遠いけれど
人々が手を差し伸べあおうとする日は少しずつやってくる
それは、夢を諦めずに信念を貫いた人たち、
あなたたちの想いをワタシたちが確かに受け取ったからよ
懸命に生きた命のきらめきを愛おしいと思うからよ
※シンディ
●幕間
一蝶・信志(シンディ・g04443)とムッシュ・ド・パリ。
自身の血と相手の返り血にまみれた二人が対峙する処刑台の上に新たなディアボロスが降り立った。蒼天の一部を剥ぎ取ったかのような青い翼をはためかせて。
何人目かの闖入者である彼――天使のエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)をムッシュ・ド・パリはじっと見つめた。
推し量るような眼差しで。
実際、推し量っているのだろう。
罪の重さを。
ややあって、ムッシュ・ド・パリは静かに断じた。
「おまえの目も罪人の目だ」
●ムッシュ・ド・パリ
「死を恐れぬことは罪。死の恐れを知った上でそれを乗り越えることも罪」
新たに現れた有翼の罪人に私は告げた。
しかし、説いて聞かせても無駄だということはよく判っている。こういう手合いは何十人と見てきた。勇気を抱いて『死』に臨み、矜持を以て『死』に虚飾を施す者たち。
彼らや彼女らの多くは罪に対して自覚的ではなかったが――
「アナタの言うとおり、罪……なのかもしれないわ。時にはね」
――私に蹴りを浴びせたドレス姿の罪人はそうでもないらしい。
この罪人は女の格好をしているが、骨格からして男であることは明白。革命以前ならば、本当の意味で(そう、私の信条による基準ではなく、王家が定めた厳然たる法において)罪人になっていたかもしれない。異性装や同性愛は罪とされていたのだから。後者に至っては死罪だ。幸いなことに実際に処刑された者は少数だが。
……今、私は『幸いなこと』と思ったのか? 馬鹿な。私ではない。死刑廃止論を唱えていた〈私〉の記憶と思考が干渉しただけだ。罰が正しく科されないことが『幸いなこと』であるものか。〈私〉がなんと言おうと、私は断じて認めない。
「ワタシでさえ、死に臨んでどう在りたいかは折々考えてしまうわ。誰かの記憶の中にいるワタシは、ワタシが在りたいワタシの姿でいるかしら? ……ってね」
自分が在りたい姿について考えを巡らせられるのは幸せなことだ。私の場合、考えても望んでも願っても無駄。血の通わぬ自動人形たらんと欲したところで、肉体が機械に変化するわけではない。
「だから……どんなに怖くても、みっともない姿ではいられないって思っちゃう」
「みっともない姿を晒さずに死ねれば、当人は満足だろうな。その姿に触発されて後生の人々が死の淵へと飛び込んでいくということも知らずに逝けるのだから尚更だ」
いけない。つい皮肉を口にしてしまった。機械的な精神を持つべき処刑人に相応しからぬ態度だ。そして、なによりも失礼だ。堂々と首を差し出してきた過去の『当人』たちに対して。お許しください、陛下……。
黙れ、〈私〉。私の心に介入するな。
「そうかもしれない」
罪人は寂しそうに笑った。
「でも、ワタシは……いえ、ワタシだけでなく、アナタが言うところの『罪人』の多くは決して自分の命を軽んじたわけじゃないわ。もちろん、後生の人々の命もね」
「それがどうした? 意図的でなかったとしても、罪は罪だ」
「確かに命というものは軽んじてよいものではない。だが――」
と、翼の罪人が口を挟んできた。
「――それは罪ではない。他者から『罪』と指摘されたときに見せる、人の反応だ」
翼と同じ色の目をまっすぐに私へと向けて、罪人は言葉を続けた。
「罪を定義したのが人であるなら、人として反抗することは許されるだろう」
「許されるものか」
よし。即答できた。間をあけるわけにはいかない。迷いがあると思われるから。機械は迷わない。決して迷わない。
だが、私の返答など無視して――
「死は個人のものだ」
――翼の罪人は畳みかけてきた。
「彼らや彼女らの死に様を愛せよ」
愛せるわけがない。
「愛せぬのなら、憎め」
憎めるわけがない。憎めるわけが……いっそ、憎むことができたら、どんなに楽だろう! いや、楽になることを望むなど、おこがましい! 罪を背負って生き続けるしかない! それが我が一族の使命にして宿命!
いいかげんにしろ、〈私〉よ。黙れと言ったはずだぞ。
「叫喚は感情の発露。死の運び手には決して許されぬことだ」
〈私〉を抑えつけるため、心中でクレドを唱えた……つもりだったのだが、また声に出てしまった。
しかし、翼の罪人は突然の独白に対して困惑する素振りも見せない。
それどころか、心得顔をして――
「父君は〈あなた〉に人であれと言ったのだ」
――〈私〉の父のことを持ち出した。レジテミィスト・ドールたちに語った話を彼も聞いていたらしい。
「その教えが〈あなた〉の心を砕く仕打ちであったとしても、ただ一人〈あなた〉だけが父君の言葉を理解できるのだ」
「……」
黙るな。即答しろ。間をあけるわけにはいかない。迷いがあると思われるから。機械に迷いはない。私に迷いはない。
「天が与えた命に、人が使命を与えた。その是非は測れないが、死刑執行の時代の潮流の狭間で溺れぬよう必死に生きた者が人なのだ。その証を刻む最後の有り様を見届けられるのが〈あなた〉だ」
翼の罪人は静かに語り続け、最後に――
「〈あなた〉だ」
――同じ言葉を繰り返した。
「父は……間違っていたのだ」
よし。今度は即答できた。しかも、完璧な返答だ。ああ、完璧だとも。実際、父は間違っていた。間違っていたのだ。そうだろう、〈私〉よ?
気まずい沈黙が降りた。あるいは気まずい思いをしているのは私だけか?
翼の罪人との対峙に耐えられなくなったから……というわけではないが、私はドレスの罪人に視線を移した。こちらに返ってきたのは優しい眼差し。〈私〉の母もあんな眼差しをしていたような気がする。
「ワタシの国にも『ブシドー』ってやつがあるのよ」
声までもが母に似ているように思えてきたが、それはさすがに錯覚だろう。
「勇猛さと従順さに価値があった旧時代の遺物ね。時代が進んで、戦いの在り方に変化があっても――」
私に蹴りを浴びせた時を再現するかのように、ドレスの罪人はギロチンを指し示した。
「――価値観のアップデートを怠れば、沢山の人が死ぬの」
……おかしい。この罪人の言葉にはどうにも違和感がある。まるで……。
「ワタシたちが取り戻した歴史は決して正義なわけじゃない。ぶっちゃけ、目を背けたくなる物のほうが多いくらいよ。そういう忌まわしい歴史を塗り替えることができたなら……そう思ってしまうこともあるわ」
……まるで、未来を知っているかのような物言いではないか。
「でもね! ムッシュー、聞いて! 遠い未来、このフランスから死刑という悪夢は消えてなくなるわ! アナタの悪夢はいつか必ず終わるのよ!」
なんということだ。『まるで』でも『ような』でもなかった。彼は罪人であると同時に狂人だ。『自分が未来から来た』という妄想を抱いている。しかも、その未来像の荒唐無稽なこと。死刑がなくなるだと? 絶対にあり得ない。あってはならない。
私は翼の罪人へと視線を戻した。
すると、彼は言った。
「ディアボロスとして、あなたに伝えよう。未来のこの国は今もなお、理想を叫んでいる、と……」
どうやら、彼も同類らしい。世迷い言もいいところ。時間を超えることができるのはクロノヴェーダだけだ。
だが、彼らの言っていることが事実だとしたら?
惑わされるな、〈私〉よ。事実であるはずがない。
事実ではなかったとしても、未来は確かにあるはず。それがより良き未来である可能性も……黙れ! 黙れ! 黙れ!
お願いだから、黙ってくれ……。
🎖️🎖️🎖️🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
マティアス・シュトローマー
君の基準に照らし合わせれば、俺達は罪人なのかもしれない
けど、死にゆく者では無いからその義務を果たす必要は無いよね?
さあ、クライマックスのダンスシーンだ
華々しく盛り上げていきたいね
シンディを援護するように銃を構え、パラドクスを発動。放たれた七つの弾丸が狙うのは、敵の四肢や剣を持つ手元。ダメージアップの効果も乗せ、確実に消耗させていきたい
頭を掠めるのは自分を庇って倒れた、あの日の親友達の姿。彼らの最期を目の当たりにした自分はどうだ? 命を軽んじているだろうか?
『死』は一生消えない心の傷にも、一瞬で消費される物語にもなり得る
君にとっての『死』はどんなものだった?
前者だからこそ、高尚な理由を持たせたくない
違う?
反撃として召喚された機械達の攻撃は、ライオットシールドを盾に往なすか、銃で迎撃する事で対処。近接攻撃には前者を、遠距離からの攻撃には後者を選択し、臨機応変に
本来の歴史を取り戻し、その積み重ねの先に素晴らしい未来を描けるように
ムッシュ・ド・パリ――クロノヴェーダとして覚醒した君をここで倒すよ
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
罪なき人がいるのか、俺にはわからないが……
無論、煽動は好まないが、個人の有様くらい好きにさせてくれ
己が職分を選べなかった時代、そこには矜持もあっただろう
その重責を一人に課すのは、惨い事だと俺は感じてしまうのだが………
理不尽極まる歴史に向き合ってきた人々は、時に驚くほどの強さを秘めている
血で綴られた頁を重ねて、歴史があるのならば
そこには、数多の人の有様があったのだろう
確かに、そこに在ったのだ
ムッシュ・ド・パリ、貴方の存在も、名を持つ人格も
侵略者などに奪わせはしない
仲間とPD通信を併用し連携
敵の動きを観察、仲間に合わせ位置取り
Seraphimを演奏し続けPD攻撃
光と浄化で動きを鈍らせ援護、侵略者を祓う
シンディさんの動きをサポート、可能なら止めは彼女へ
相手の攻撃には、魔力障壁で剣を凌ぎ、腕のタワーシールドで受け流し軽減を
血塗られた歴史が存在すること、痛ましく思う……忘れてはならない事だ
だが、血の海にさせない努力は進歩であると
時代は前に進むためにある
願わくは、それを繰り返さぬ事を
一蝶・信志
ディアボロスの原動力は「怒り」
ワタシにはいまいちピンと来てなかった
何に怒ればいいの?と思っていた
クソみたいな過去なんて更地にして作り直せばいいって
…今、わかった気がするわ
とっておきの鞭で応戦
正義の剣に両断されないように太刀筋をちゃんと見るわ
関節などの急所を狙って強打
狙い打つのに邪魔なお帽子や外套は脱ぎましょうね♡
この鞭で手伝ってあげる
間合いを詰められたら鞭の柄で突く
ピンヒールで踏まれる方がお好みなら応えてあげないこともないわ
ええ。死にたくないとワタシは叫ぶ
嗚咽とともに、喜んでワタシの弱さを吐き出しましょう
心を殺されたままで生きていたくない!
ワタシはワタシでいるために全力で足掻くわ
シャルル・アンリ・サンソン!
だからお前も叫ぶのよ
「殺したくない」と!!
お前が叫ばなくて誰ができるというの
さあ!
剣を握る利き腕を狙って攻撃
できれば剣を弾き飛ばしてへし折っちゃいたいわね
だってお前が振るうべき剣はそれではないのだもの
※ネメシス化
『ワタシの王はワタシ自身』
女王様スタイルではあるが然程フェミニンではない
●エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)
シンディこと信志さんや俺の言葉を聞いても、ムッシュ・ド・パリは動じなかった。
少なくとも外見上はそう見えた。
実は内なるところで葛藤や苦悩が渦巻いているのかもしれないが、表情筋は完全に職務を放棄している。あるいは『どんなに動揺しても微動だにしない』という職務を貫徹しているのか。
「叫喚は感情の発露。死の運び手には決して許されぬことだ」
表情なき処刑人が呟いた。その言葉を口にするのはこれで三度目。一度目はともかく、二度目と今回は誰も叫喚などしていないのだが……。
なんにせよ、俺たちと対話をする気はもうないらしい。彼は剣を構え直した。標的として定めた相手はシンディさんか?
「そう言わずにハツロしちゃいなさいな。ぜーんぶ受け止めてあげるわよ」
戦意を向けられたことを察したのか、シンディさんが科をつくるように身構えた。
しかし、それに応じてムッシュ・ド・パリが動くより先に――
「まあ、君の基準に照らし合わせれば、俺たちは確かに罪人なのかもしれないね」
――誰かが処刑台の外から声をかけてきた。舞台に野次を飛ばす観客さながらに。
シンディさんを庇うという意図があった上での行為だとしたら、成功と言えるかもしれない。ムッシュ・ド・パリは視線を移したのだから。シンディさんから声の主へ。
すなわち、マティアスさんへ。
「だけど、べつに『死にゆく者』じゃないんだから――」
マティアスさんの手には黒い自動式拳銃が握られていた。もちろん、銃口はムッシュ・ド・パリに向けられている。
「――その義務を果たす必要はないよね?」
七発分の銃声が響いた。排莢の度に拳銃の上後部の機構が尺取り虫のように身をくねらせる。その動作は奇妙だったが、銃口から飛び出した銃弾の動きはもっと奇妙なものだった。
物理法則を完全に無視して、曲線の軌道を描いたのだ。
しかし、わがまま気ままにカーブを切りながらも、七発の銃弾は自分たちの使命を忘れてはいないらしい。どこか遠くに飛び去ったりせず、標的たるムッシュ・ド・パリへと集束した。各々が別方向から。各々が別角度で。
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
七発の銃弾がムッシュ・ド・パリの手足に命中した。
四肢に七つもの弾痕を穿たれたら、普通は立ってられないし、手に持っていた武器も落としちゃうわよね。でも、我らが処刑人が普通であるはずもなし。例によって例のごとく、無表情を貫いたまま――
「いや、おまえたちは死にゆく者だ」
――反撃に転じて、剣を一振りした。
あの奇っ怪な機械たち(度々ごめんなさいね)が広場に再々出現。わらわらとマティアスを取り囲み、襲いかかっていく。
だけど、普通じゃないのはマティアスも同じ。焦る様子を一ミリも見せず、ピストルの弾倉を素早く交換してバンバン撃ちまくり、迫り来る機械たちの凶器を弾き返した。
「死は、一生消えない心の傷にも、一瞬で消費される物語にもなり得る。君にとっての死はどんなものだった?」
マティアスはそう問いかけたけど、相手の答えは待たなかった。
「前者だからこそ、高尚な理由を持たせたくない――違う?」
今度は答えを待った。というか、待つまでもなかった。
ムッシュ・ド・パリは即答したから。
「心の傷などない。そもそも、傷つくような心など持ち合わせていない」
ホント、即答も即答。あまりにも速すぎて不自然な感じ。実は『なにを訊かれても否定する』って決め打ちしてるんじゃないの? それって、ある種の自己防衛? でも、傷つくような心を本当に持ってないのなら、なにも防衛する必要なくない?
……と、イジ悪くツッコミをいれようとした矢先、弦楽器のものらしき旋律が聞こえてきた。それもすんごく綺麗なやつ! まさに妙なる調べ!
音を目で辿っていくと、エトヴァの姿が見えた。いつの間にか処刑台から地面に降りて、艶やかな光沢を帯びたチェロを弾いているわ。
「血で綴られたページを重ねて歴史があるのならば、そこには数多の人の有様があったのだろう」
青い宝石で飾られた弓を操りながら、天使のチェリストはムッシュ・ド・パリに宣戦を布告した。
「そう、確かにそこにあったのだ。ムッシュ・ド・パリ――貴方の存在も、名を持つ人格も、侵略者などに奪わせはしない」
あるいは救済の布告?
●マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)
「Da ist Musik drin♪」
エトヴァが歌い出した。
母国語による歌(エトヴァは俺と同じく機械化ドイツ帝国の生まれだ)を聴いていると、柄にもなく郷愁にかられてしまう。脳裏に浮かぶのは、今は亡き友達たちの姿。ムッシュ・ド・パリに言わせれば、俺を庇って倒れた彼らも命を軽んじたということになるのだろうか?
機械化ドイツ帝国の奪還は成されて歴史は修正されたのだから、皆の死もなかったことになっているのかもしれない。でも、だからといって、俺の記憶までもが修正されたわけじゃない。彼らの最期を目の当たりにして、その犠牲の上に今を生きているこの俺もやっぱり命を軽んじているということになるのだろうか?
……なんてことをムッシュ・ド・パリに問いかけたくなったけど、やめておいた。どうせ、けんもほろろなリアクションだろうからね(ところで『ほろろ』ってなに?)。
いや、それ以前に答える余裕がなさそうだ。彼はあきらかにダメージを受けていた。耳から、目から、鼻から、口の端から血がだらだらと滴り落ちている。エトヴァの歌はパラドクスだったらしい。
「私は誰の名も奪っていない」
顔中の血を拭いもせずにムッシュ・ド・パリは地面へと飛び降り――
「名乗るに値する者が名乗っているのだ。ムッシュ・ド・パリ、と……」
――エトヴァの脳天めがけて剣を振り下ろした。
次の瞬間、エトヴァは地に倒れた……ように見えたけど、倒れたのはチェロだけ。本人は咄嗟に飛び退ってる。
ムッシュ・ド・パリは間を置かずに踏み込み、剣を振るった。喉や心臓などの急所を的確に狙った斬撃だ。
だけど、エトヴァの防御も的確。左右の手にはめた指輪から茨みたいな魔力障壁を展開して、すべての斬撃を防いだ。
それにしても……P08を撃った時にも感じたのだけれど、ムッシュ・ド・パリの動きは少し鈍くなってるような気がする。エトヴァやシンディの言葉が影響してるのかな? だとしたら、おなじみの無表情から受けるイメージも変わってくるね。新たなイメージは『泣き出すのを必死に堪えている子供』だ。
そんな子供をあやすためか、あるいは叱るためか、長身の影がエトヴァとムッシュ・ド・パリの間に降り立った。
その影の正体がシンディだと判るまでにちょっとタイムラグが生じた。彼/彼女は文字通り様変わりしていたから。ネメシス形態に変身したらしい。
「怒りこそがディアボロスの原動力らしいけど、ワタシはいまいちピンと来なかったのよね」
ネメシス形態のシンディは長い鞭を手にして、ぴっちりした黒革の衣装を着込み、裾を引きずるほど大きなマントを羽織っていた。その姿は凛々しくも退廃的で、清艶ながらも毒々しい。
「ずっと、『なにに怒ればいいの?』って思ってた。『クソみたいな過去なんて更地にして作り直せばいいじゃない』ともね。でも――」
鞭がビシリと鳴った。
「――今、判った気がするわ」
●ムッシュ・ド・パリ
「はい、狙い打つのに邪魔なお帽子や外套は脱ぎましょうね。この鞭で手伝ってあげるわ」
強靱な筋力(と、相手の言葉が真実ならば、怒りの力)で以て繰り出される鞭の殴打。トリコーヌが弾き飛ばされ、ジュストコールが引き裂かれ、そして、手首をしたたかに打たれた。
だが、私は剣を落としたりしなかった。
鞭の罪人に反撃すべく、懐へと飛び込む。すると、奴はこちらの鳩尾を鞭の柄で強く突き、押し返すようにして間合いを広げた。本来ならば、その程度のことで攻撃を躱されたりしないのだが……どうにも思ったように動けない。もちろん、肉体の損傷のせいだ。決して精神的起因ではない。
「そろそろ、フィナーレだ。どうあっても君には退場してもらうよ、ムッシュ・ド・パリ」
そう言いながら、銃を手にした罪人がまたもや七発の銃弾を撃ち込んできた。
「本来の歴史を取り戻し、その積み重ねの先に素晴らしい未来を描けるようにね」
「血塗られた歴史が存在すること、痛ましく思う……それは忘れてはならないことだろう」
と、翼の罪人も語りかけてきた。
「だが、忘れないのはその歴史を二度と繰り返さないためなのだ。時代は前に進むためにある」
話にならんな。私にとっての『本来の歴史』とは、刻逆によって修正された美しい歴史だ。二度と繰り返してはいけないのは、〈私〉が属していた醜い歴史だ。そう、歴史はこのままでいい。世界はこのままでいい。
私は力を振り絞り、剣を振り上げた(認めねばなるまい。力を振り絞らなくては剣も振り上げられない状態であることを)。
そして、最も近くにいた罪人に斬りかかった。
「泣き喚け。己の命を証明せよ」
「ええ、泣き喚いてやるわ!」
と、その罪人は応じた。静かな嗚咽と激しい慟哭が入り混じったような声で。
「ワタシは死にたくない! 心を殺されたままで生きていたくない! ワタシはワタシでいるために全力で足掻くわ! だから――」
鞭の強烈な一撃を受け、剣がへし折れた。
砕けた刀身からいくつもの歯車がこぼれ落ちていく。正直、羨望を覚えずにいられない。私の体が破壊されても、美しい歯車が覗くことはないだろう。汚れた血が流れ落ちるだけだ。
いや、何者の血も汚れてなどいない。父上にまた叱られるぞ、私よ。
「――おまえも叫ぶのよ、シャルル・アンリ・サンソン! 『殺したくない』と!」
叫ぶものか。
叫ぶものか。
……叫ぶものか!
「叫喚は感情の発露! 死の運び手には決して許されぬことだ!」
〈私〉よ、嗤うがいい。
私もまた罪人なのだ。
●終幕
唸りをあげて放たれた鞭の一薙ぎはギロチンもかくやという切れ味を見せ、処刑人の首を体から分断した。
その瞬間、改変されかけていた世界が溶け崩れ――
――〈彼〉は目を覚ました。
白日の下で立ったまま微睡んでいた時間はほんの数秒。しかし、とても長い夢を見ていたような気がする。
夢の印象が急速に薄れゆくのを感じながら、〈彼〉は広場を見回した。
無数の眼差しが返ってくる。荷馬車にすし詰めにされた刑徒たちから。処刑の見物に来た市民たちから。刑徒の逃亡や市民の暴動を警戒している兵士たちから。
「ねえ、旦那」
傍らでギロチンの調子を見ていた助手が声をかけてきた。
「お疲れなのは判りますが、もうちょっとシャンとしてくれませんかねえ。本日の『お客様』は大物ばっかりなんですぜ。しかも、質だけじゃなくて量もたっぷり。なんと二十人超えと来たもんだ。あーぁ、この稼業が歩合給なら、俺は今頃はお大尽だぜ……」
助手の愚痴を聞き流しながら、〈彼〉は『お客様』の一人を注視した。大物ぞろいの刑徒たちの中でも一番の大物だ。〈彼〉はよく覚えている。誰よりも恐れられたその人物が、かつては(〈彼〉と同じように)死刑廃止論者だったことを。
やり切れぬ思いに押し潰されそうになった時、不思議な言葉が脳裏に走った。
『その証を刻む最後の有り様を見届けられるのが〈あなた〉だ』
誰から聞いたのか思い出せない。
『アナタの悪夢はいつか必ず終わるのよ!』
誰が言ったのかは思い出せない。
〈彼〉は鉛のように重い心身に鞭打ち、感情を削ぎ落とした声で助手に告げた。
「始めるぞ」
一七九四年。
ロベスピエールとその一派はギロチンの露と消え、フランス革命期の恐怖政治は一応の終わりを告げた。
しかし、激動の時代は終わらない。フランスのみならず周辺国家をも巻き込む大きな嵐の萌芽が既に生まれていた。
その嵐の中心にいるのはナポレオン。
クロノヴェーダの人形皇帝ではなく、一個の人間たるナポレオン・ボナパルトである。
かくして、人類史は紡がれる。ディアボロスたちが生きる現在へと。
かくして、人類史は進み行く。更にその先の未来へと。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【託されし願い】がLV2になった!
【照明】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
最終結果:成功 |
完成日 | 2024年06月25日 |
宿敵 |
『ムッシュ・ド・パリ』を撃破!
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