リプレイ
伊吹・祈
奇跡とは何か問われるならば
僕が此処に存在する其れこそ
奇跡の結実と呼ぶのでしょう
魔晶剣の響動に触れる。脈打ち、響き、重なるその正体は
「目覚めなさい――アダム」
初撃は機を合わせ鮮烈に
他のディアボロスと連携して戦い、前線往く仲間を援護し突立てる
標的揃え、僕が屠れる>深手負う少女を狙い
底の浅い己の体力に応じ
積極的に絶命させ世界の祝福をこの手に
観察を以て戦況把握に努めつぶさに伝達
草原へ視線滑らせ敵影捜し、蕾は総て余さず殲滅を
僕が不得手とする能力値は何れも
嵩めば致命的に成り兼ねない
開戦から意識し魔晶剣や守護の籠手で致命傷を防ぐ
肉薄を赦す事も儘あれど
紅玉の一振りが打ち砕かれる事は想定の範囲外? ――いいえ
其れこそが反撃のパラドクス
慈しむ指先で温度無き頬を撫ぜるのは一拍
「蕾の儘永劫を愛でる――そんな甘美も悪くありませんが」
蕾のオートマタに開花する花一華
贖う血を地に咲かせたとて
腕の中を赦す少女は唯一人
慟哭の絶望に光が差した
だから今も祈り續けている
奇跡は、この手が起すもの
その為にも――軌跡を断って差上げる
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
一つひとつの、数多の歩みの積み重ねを知っている
不確かなものをこそ、確かにしてきた軌跡だ
だが、そこに織りなされた紋様は、やはり奇蹟のようなのだな……
黄水仙の気配は届くだろうか
春草に合わせた迷彩コートを纏い草原に紛れつつ待ち伏せし、明け方の草原で迎え撃つ
双眼鏡で敵部隊の到達を確認し、態勢を整える前に先制攻撃を仕掛ける
PD通信で仲間とタイミングを共有し接敵
初手は煙幕弾を交えPD攻撃、敵部隊の行軍を分断し
敵群を攪乱しつつ、統率の乱れた隙を看破し突く
戦況を偵察、観察しつつ把握
序盤は大群に囲まれぬように、味方の側で陣を維持して立ち回り
味方と互いに死角を減らし、補いあう位置に立ち戦う
仲間と狙い合わせ着実に数を減らす
一撃で倒せる>より消耗した敵を目安に
味方に集中攻撃の素振りや、連携の要となる動きの個体を看破し優先
声を掛け合い連携を
消耗の激しい味方を優先しディフェンス、大群相手に陣を堅く維持
敵を観察し、剣の動きや攻撃動作を看破しつつ
魔力障壁で波動を凌ぎ、剣の斬撃はタワーシールドで受け流す
シル・ウィンディア
奇跡は自分で動かないとつかめないから。
動いた先にあるものだしね。
違う時代出身のわたし達が力を合わせて立ち向かうのも奇跡だよね。
さぁ、みんな、奪還戦という奇跡の花を咲かせにいこうかっ!
スイスに向かうところを悪いけど、ここでわたし達と踊ってもらうからね。
スイスにはいかせないから!
草原で迎え撃っていくよ。
敵を視認したら高速詠唱からの時空精霊収束砲。
事前に味方が攻撃を行っているなら、その対象に向けて攻撃を重ねるよ。
わたしの攻撃が初撃になるのならば、手近な所の敵を撃っていくね。
ターゲットを重ねて、殲滅スピードを上げていくよっ!
敵パラドクスは、左手の創世の光剣で切り払いつつダメージを抑えるよ。
痛いけど、耐えられないものでもないからね。
ディフェンスは積極的に。
但し、消耗が激しい状態ならディフェンスは控えるよ。
ここで躓いている場合じゃないしね。体力の温存も大切な戦術!
飛翔が可能なら飛びすぎないように空中からしっかり観察して
逃げそうな敵がいればみんなに伝達していくよ。
あ、そこ逃げそう!
ユーフェミア・フロンティア
奇跡といえば、私がこうしてディアボロスとして覚醒できたのも奇跡なのですよね。ほんと、皆さんが来てくれたので、ここでこうして立っているのですから。
思う所は色々ありますが、まずは合流させないように、しっかりと敵を倒していきましょう。
予知で教えていただいた草原で解体少女達を迎え撃ちます。
敵を視認した瞬間に初撃の神火鏡撃砲で攻撃を行いますね。
今回のパラドクスは対象数が少なくて攻撃ダメージが高いものですから
自身の体力が余裕のある時は、敢えて無傷やダメージの少ない敵を狙っていきますね。
私の攻撃で敵を倒す起点になればいいですしね。
初撃後は足は止めずに移動を行いながら
パラドクスを使用していきます。
ディフェンスはWIZで積極的に行いますね。
私の反撃は少し痛いですからね。
ディフェンスなどで体力が減って危ない時は、積極的にダメージが重なっている敵へ攻撃していきます。
倒してグロリアスで体力の回復を図りますよ。
逃げそうな敵がいればそちらを優先して攻撃していきます。
逃がさないですからね?
一人も通しませんから。
ノスリ・アスターゼイン
夜明けにいっそう澄んで香る、瑞々しい緑野に黄水仙
深呼吸をすれば心ごと開けていくような感覚に
意識が冴え渡る
香水についてよく知らないのだけども
蕾の彼女達は
いわばトップノートってやつかな?
華奢で可憐な身形ながら大剣を振るう様は
蕾から花弁が綻んでいくようで
開花を見る心地
華々しくて良いね
死出の路を照らす花あかりになるように
眩い陽彩の水仙を目に焼き付けて逝くと良い
時に高度を上げ過ぎずの低空飛翔を交え
解体少女たちの間を縫い、翻弄
眼前へ迫る陽動も
地を擦り翔けるのも
もはや馴染みの撹乱法
次々に花々を咲かせていく春告げの使者か
悪戯な春風にでもなった気もして
笑みが浮かぶ
戦況全体をよく見て把握
皆と声を掛け合い
死角を補い
孤立する者が無いよう立ち回る
体力残の少ない面子から優先してディフェンス
ナイフや魔力障壁でダメージ軽減も試み
常に連携を意識しながら
魔弾で一体残らず殲滅
さぁ、くるり踊って
もっと咲いて見せて
軌跡のひとつを摘み取って
フレグ・ラストの――やがてはナポレオンが結晶せんとする奇跡を
朝露みたいに弾き飛ばしてあげる!
アンゼリカ・レンブラント
奇跡といえば
思うことはあるね
さて、戦いは数
迫る奪還戦を前に、きっちり倒していかないと!
明け方、世界が目を醒ます頃合いに
クレメンティアが案内してくれた、開けた草原で
解体少女を迎え撃ち殲滅を図ろう
仲間と示し合わせ攻撃開始っ
雷剣を叩き込み、反撃を盾で凌いだら
同じ場所に留まらず囲まれるのを避け消耗の多い個体から狙う!
解体少女達は士気も高いという
断片の王のナポレオンへの忠誠心も高いのだろう
分かり合えない相手なれど、それは美しいと言えるかもね
けれど彼女達は目に留めるだろうか
眩い陽色の黄水仙が咲き誇る美しさを
愛する人と良く香るこんな草原で過ごす
そんなひと時を想像したことはあるかな
――美しい夜明けを迎え
花を愛で、人々を愛する
そんな当たり前の日常は
奪われた今奇跡の積み重ねだったと知ったよ
今だからこそ尊いと言えるあの日々を、奇跡とも呼べる時を取り戻す
けして貴女達には負けないから
数が減っていくのに合わせ、仲間と包囲を作るよう動く
戦線離脱を計る個体がいないとしても確実に倒しきる
《雷剣閃波》よ、輝きて敵を倒せッ!
色葉・しゃら
何とかぐわしく、美しい野でしょうか
ここを戦場とし、少女の姿をした敵と相見えると…
いえ、余計なことは考えませぬ
折しも、彼は誰時にございます
姿形など関係なく、互いに一兵として刃を交えましょうぞ!
大筆を携え、皆さまと共に攻撃を仕掛けます
詠むのは『氷香』
今の私が、最も自信を持てる技
強敵では無いとの情報ですが
私も決して、強い復讐者ではございませぬ
1体1体確実に狙い定め
放たれる殺気には、勇気で応えて向き合いまする
広く戦況を把握する余裕が無いときも
飛翔する仲間の姿なら分かりやすい筈
敵の波の中で孤立せぬよう、心して追いましょう
特に、最も共に居る時間の長い先達――
ソレイユさまの姿などは、すぐに見つけられましょうから!
ソレイユさまと、皆さまと
励まし合い共に戦えること、私も嬉しく思います!
集中攻撃、各個撃破、一撃離脱
黄水仙の香りに、1つ1つ氷の花の香りを足し
守られれば礼を言い、次の一手を練り
己に出来ることを、1つ1つ重ねてゆけば
きっと、勝利をたぐり寄せられるはずです
その先で必ず、平和な景色を取り戻しましょうぞ
ソレイユ・クラーヴィア
悲願である奪還戦を万全の状態で迎える為、誰一人としてベルンの地へ向かわせはしません
貴方達の望みの蕾を開花を待たず摘み取ってしまう事、どうかお許しください
明け方の草原に潜み、森から出来てた所を
仲間と声を掛け合い一斉攻撃をしかけます
宙に展開した鍵盤で「月虹」を演奏
猫の姿にも似た月の化身を喚び、じゃれ付くように解体少女に飛びかかれと指揮します
仲間と連携し、体力の低い相手から各個撃破
周囲の人形を鼓舞し指揮する個体がいれば、優先して狙います
水仙を戦に巻き込まぬよう、低空で飛翔しつつ仲間と包囲するように動きましょう
反撃には魔力障壁を展開して凌ぎます
仲間のW技にはディフェンス
特に、戦場に慣れていない方に負担が重くならぬよう注意を払います
しゃらと視線を交わし
気合い充分な様子に、安堵の息を吐く
共に戦えることを嬉しく思いますよ
最後まで気を抜かずに行きましょう
もし、しゃらの危険を感じれば迷わずディフェンス
斬撃は直撃を避け、グロリアスで回復しつつ
爽やかな朝を彩る調べとなるよう、心が翔ける儘に指を動かしましょう
永辿・ヤコウ
深い森を抜けた後なら尚更
明け方の黄水仙は鮮やかに瞳に映えているでしょうか
それとも
下命に心躍るばかりに
目に映りさえしていないでしょうか
この香気を纏っていく道のりは
あなた方の指揮官殿もお喜びになると思いますよ
きっとよく似合います
尤も
解体少女たちとフレグ・ラストが向かう先は
スイスではなく再びの夜の底
黄泉路への餞に、と多く語らずも
笑みに真意を乗せて
広く戦場を見渡し
声を掛け合って情報共有
死角と隙を作らぬよう
フォローとカバー
殲滅の為にも
自身のみならず味方の体力残にも留意
ディフェンスや回復の機を逃さない
蕾は無垢で
無垢故に振るう得物に迷いなく
指揮官殿も揃えば成程、脅威になっただろうと思う士気の高さ
決して侮りはしないけれど
揺るがぬ瞳の強さを見るのは
凛然と咲く花のよう
風に揺らいでもすっくと立つ
黄水仙みたいに鮮やか
敵としても快くあって
長針で大剣を弾く手応えの強さに
微笑んでしまったりも
緑の大地を褥に眠る心地良さを
ご存知ないと思うから
春野に縫い付けて差し上げましょう
黄水仙の香りを連れて
どうぞ永遠にお休みくださいな
竜城・陸
来るべき決戦に向けて、万全の状況を作っておくべきだ
今回の作戦も無事に終わらせるとしよう
眩くて美しい野は
まるで太陽が地に咲いているみたいだね
この光景だって、まるで奇跡みたいだ――なんて思いも浮かぶ
地に咲く陽色に負けじと研ぎ澄ませる光槍は
低空飛翔を交えた近接での立ち回りと
遠間から味方に合わせた援護狙撃と
臨機応変に使い分けて立ち回る
練度が低いとは言えども士気の高い相手だ
灯してくださった【パラドクス通信】も利用し
油断せず声を掛け合いながら連携を密に
死角も隙も作らぬよう立ち回る
ディフェンスも積極的に行うよ
特に攻撃対象が多く、反撃を受けやすい方の様子は気にかけておく
多数の敵を屠れる分、負傷する機会も多いということだから
魔力障壁の展開と共に、己が槍で直撃を逸らし
反撃の機も巧く掴み取れるよう努めよう
奇跡というのが、歩んできた軌跡の結晶であるというのなら
この戦いもまた、世界奪還という皆の歩みの結晶に繋がる軌跡のひとつだ
決して油断することなく、確実に遂行するとしよう
●ジョンキィユ
――太陽が地に咲いているみたいだね。
――この光景だって、まるで奇跡みたいだ。
凛と冴える紺青の宝石めいた夜闇が青く透きとおり、世界が薔薇色や杏色の耀きに彩られていく。暁光とも曙光とも呼べる光に撫でられた丘の斜面には眩い陽色の黄水仙が咲き群れ、丘の頂から柔らかに吹き降ろす風に透きとおる香りを踊らせた。
明け空へ眩い陽色の花々が咲き上がっていく丘の斜面を黎明の眼差しでなぞった竜城・陸(蒼海番長・g01002)が、
「いいね、この黄水仙の花も、この丘の風も。奇跡の光景を背に、奇跡の香りを追い風に、挑むとしようか」
「あっは、陸にそう言われるといっそう気合が入るもの、ってね! そういう意味でも最高の迎撃ポイントじゃないの」
微笑とともに口にした言の葉に屈託なく笑ってノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は丘から草原へ蜜色の眼差しをめぐらせる。眩い陽色の黄水仙咲き群れる丘の麓からは春草の緑野が大きく開け、透明な朝露を鏤めた萌黄の草原は明け方の光に数多の滴を煌かせていた。
世界すべてが鮮やかに澄み渡るような夜明けに満ちるのは、冷たい朝露を含んだ瑞々しい春草の匂いと、透きとおる甘さに気品高い華やかさを覗かせる黄水仙の花の香り。深呼吸すれば胸の裡にも澄みきったひかりが燈る心地、光が花開くとともに心ごと開けていくような感覚に星斑の猛禽は意識も眼差しも油断なく冴え渡らせて、
今日も世界がめざめたね、とアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)も溌剌と咲かせた笑みに気合を乗せる。
「戦いは数だっていうのは真理だしね、奪還戦前に倒せる分はきっちり倒していかないと! 敵勢もそろそろ来るかな?」
「俺達はいつだって全力を尽くして奪還戦に臨み、勝利を掴み獲ってきたものな。――アンゼリカさんの読み通り、来る」
天の光映す少女の瞳が見据えるのは草原の先に広がる深い森、春風のごとき軽量さが身上のコートを彩る草原迷彩で春草の野に融け込むエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が双眼鏡越しに捉える森の中の光景は事前情報通り明け方を迎えてなお暗い闇に彩られていたが、自陣最高の観察技能を備えた蒼穹の眼差しは僅かなあかりのみで暗き森を踏破してくる敵軍勢を決して見逃しはしない。既にインカム状の通信機を皆の許に顕現させている【パラドクス通信】越しに蒼穹の天使の言の葉が届けば誰もが完全に臨戦態勢を整えて、
――絢爛と、咲き誇れ。
先陣を切る加護を齎す風を掴んだ彼の詠唱が、戦端を開く合図となった。
深く暗き森から大群の少女人形、即ち『解体少女』の軍勢が一斉に姿を現す様はさながら闇の森から黄金と真紅の花吹雪が爆ぜるかのよう。だが即座に草原へと響き渡ったエトヴァの銃声が蕾のまま花吹雪のごとく草原へ躍り出てきた解体少女達のただなかに咲かせるのは眩い陽色と鮮やかな草緑に彩られた煙の花霞、
「さぁみんな! 奪還戦という奇跡の花を咲かせにいこうかっ!!」
「奇跡の花をより美しく咲かせるために、あなた達を斃させていただきますっ!!」
閃光弾や煙幕弾での攪乱をもパラドクスに織り込んだエトヴァのWunderfarber-β(ヴンダーファルバー・ベータ)が眩い黄水仙咲き乱れるがごとき煙幕と痛撃で敵勢に楔を打ち込んだ刹那、シル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)が高速詠唱で咲き誇らせた精霊魔法陣から撃ち放たれた三条の砲撃魔法が煙幕で分断された敵勢へ襲いかかり、曙光を眩く弾く神鏡が解体少女の周囲へと顕現した途端、ユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)が迸らせた神火が神鏡に反射し死角から少女人形を強襲する。敵勢に状況把握のいとまさえ与えぬ全員一斉の猛攻勢はさながら鮮烈な花嵐、
森から溢れ出した蕾の少女達の花吹雪、その一角を皆の先制攻撃が瞬く間に散らしていく猛攻の波に乗り遅れることなく、伊吹・祈(アンヘル・g10846)も一切の躊躇いなく己が力を解き放った。
――奇跡とは何かと問われるならば、
――僕が此処に存在する其れこそ、奇跡の結実と呼ぶのでしょう。
掌握する柄に絡みつく黄金の棘が白き手から血を啜れば、澄んだルビーの刃が赫を深める魔晶剣から脈打つ響動は嘗て祈に巣食っていた大天使のもの、己が『堕ちた』ことが、堕ちた己が救われたことが、夢ではなく現なのだと証すその結晶へ、
「目覚めなさい――アダム」
冴ゆる声音で一言命ずれば、明け空に鮮烈な紅玉の軌跡を描いた魔晶剣が紅き天雷のごとく少女人形を刺し貫く。
完全に先手を獲ったディアボロス達の強襲に数多の解体少女達が為すすべもなく屠られ反撃のことごとくを捻じ伏せられ、
『敵襲、敵襲!!』
『ディアボロスの奇襲を受けたものと、推定。応戦、します!!』
相手が何者か辛うじて推測はできたものの練度の低さゆえに陣形も隊列も整えられぬ敵勢へ、更なる猛攻が襲いかかる。
「ええ、お察しのとおり僕達はディアボロス、あなた方の道行きに春の香気を添えさせていただきますね」
「旅路を急いでいるところを申し訳ないけれど、スイスでまみえるよりも先に、ここでお手合わせ願うよ」
確実に殲滅するなら時先案内人が『相手がディアボロスとなれば戦線離脱を図ることなく果敢に立ち向かって来る』と敵を評した構図を体現すべきだと断ずれば、艶やかな微笑とともに凛然と告げた永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は少女人形達が巨大な鋸刃と真紅のリボンに彩られた大剣を構えるより速く紅葉の飾りを翻し、身の丈ほどもある銀針を振り下ろすとともに丘から吹き降ろす風が連れた黄水仙の香りを巻き込む数多の衝撃波を迸らせた。透きとおる春告げの花の香りを孕む衝撃波を追って明け方の世界を貫くのは陸が撃ち放った神威の曙光、輝ける光槍が衝撃波に裂かれた三体のうち一体を仕留めれば、
『敵を確認、ディアボロス!』
『応戦、交戦! 陛下の御為に、ディアボロス達を解体、します!!』
「その士気の高さ、まっすぐな忠誠、嫌いじゃないよ! けれどだからこそ、全力で殲滅させてもらう!!」
獅子の夜明けたる大剣に咆哮めく雷を凝らせたアンゼリカが一切の怯みなく立ち向かって来る少女人形達へ雷光と衝撃波を迸らせる斬撃を放つ。手負いの二体を反撃ごと屠った黄金の輝きが更なる敵二体を呑み込んで、額ごと己を断ち割らんとした解体少女達の反撃を光彩誓騎が恐竜の紋章に彩られた盾で肩へ逸らした瞬間、
明け方の世界に花開いていた光の鍵盤が奏でる旋律とともに敵勢へ閃いた月光の輝きが人形二体の首を落とした。
「貴方達の望みの蕾を開花を待たず摘み取ってしまうこと、どうかお許しください」
「可憐な少女の御姿であろうと侮りはいたしませぬ、互いに一兵として刃を交えましょうぞ!」
冴え冴えとした月光の一閃と見えたのは、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の演奏が招来した月光の化身たる光の猫の爪撃。これまで相対してきた解体少女達の鋸剣は常に褪せた血痕と鮮やかな血潮に彩られていたが、この夜明けに相対した少女人形達の鋸剣はいずれも血の汚れひとつ刃毀れひとつ見えず、彼女達が実戦はおろかひとびとへの残虐行為にもいまだ手を染めていない、真実蕾たる存在なのだと察せられたけれど、
断頭革命グランダルメ出身たる身に奪還戦は悲願中の悲願、それを万全の態勢で迎えるために決して指をとめはしない。
透きとおる甘さに気品高い華やかさを覗かす黄水仙の香りを孕む丘からの風、花の香纏う追い風とともに駆ける朝露を抱く春草の緑野で少女の姿をした敵と相見える状況に色葉・しゃら(言の葉あつめ・g07788)の胸も微かな疼きを訴えたけれど、憧れの先達たる少年演奏家の胸裡を掬えば仔狐の少年も開戦と同時に雑念を振り捨て、皆と勝利をめざす一心で大筆を揮う。
己が身の丈に匹敵する大筆の軌跡から迸るのは氷菓のごとく華やかな彩きらめく凍てる氷雪、月光の爪撃に頽れた人形達の奥に捉えた標的へと翔ける氷雪が反撃の波動と激突して双方に痛手を齎した刹那には解体少女を幾つもの輝きが取り囲み、
『其方にも、反撃、を……!!』
「させはしませんっ! 実戦経験を積む前に浄化させてもらいますからっ!!」
神鏡を配すると同時にユーフェミアが撃ち込んだ神火の砲撃が幾重にも鏡面に反射し、少女人形をその反撃ごと浄化の炎で葬り去れば、聖女の名を授けられし少女は更なる敵を捉えるべく足をとめずに春草の緑野へ躍った。
眩い陽色の黄水仙がなだらかな斜面に咲き群れる丘、その麓から広がる春草の草原が此度の戦場、
春告げの花々を踏み荒らす恐れがないことに安堵しつつ【飛翔】で低空を翔けるソレイユの指が光の鍵盤に力強く躍れば、月が司る荒々しい狂気の一面を露わにした旋律が解体少女の鋸剣から放たれる悍ましい波動と激突し、己が術のみならず敵がその術に活かす技能も研ぎ澄ませることで完全に力量で圧倒した少年演奏家が彼女達の反撃も次撃も捻じ伏せると同時、懐の花冠から飛び出すよう躍りかかった月光の猫が少女人形二体を屠る。
「皆で敵勢を包囲できれば、と思いますが……流石にこの段階での包囲はまだ難しいでしょうか」
「敵の数が圧倒的に勝るうちは得策ではないだろうな。無理に包囲しようとすれば散開しすぎて其々が孤立しかねない」
「だよね! 今は数を減らすのが最優先っ!! 包囲は敵の数が減ってきてからのほうがいいと思うよっ!!」
然れど練度は低くとも敵勢の数はいまだ圧倒的、大軍ならぬ大群であろうと寡兵で包囲せんとすればエトヴァの言うとおり孤立を招くほどの散開は必至。僅かなりとも纏まりかけて見えた敵勢の一角へと的確に撃ち込まれた彼の銃撃がパラドクスの煙幕と春花の彩を咲かせたなら、序盤のうちは手堅く陣を維持せんとする蒼穹の天使の意を汲んだアンゼリカが煙幕で感覚を一瞬惑わされた少女人形達めがけて一閃した斬撃の雷光と衝撃波が煙幕ごと彼女達の命を散らす。
仲間と包囲するように動く――タイミングの違いこそあれソレイユとアンゼリカはそのつもりでいたが、戦場で如何に立ち回るかを決めるのは当人自身であり、現場で唐突に包囲を提案しても受け容れられるとは限らない。揺るぎなく信頼し合える顔触れが多い今回ならば最終的には合わせてくれるだろうが、包囲のように仲間の協力を必要とする策はパラドクストレイン乗車中など現場到着前に提案しておくのが最善なのだと改めて胸に刻み込む。
「寧ろこっちが包囲される可能性があるよね。幸いまだ蕾な人形サン達はそこまで思い至ってないみたいだケド」
「うん、遮二無二応戦してるって感じだよね!! けど何か動きに変化があればすぐみんなに報せるからっ!!」
逆説連鎖戦の攻防において距離や位置の概念は意味を無くすが、純然たる機動で考えれば天翔けるすべ持たぬ解体少女達が既に【飛翔】を燈したディアボロス達を完全に包囲することは不可能、なれど大群に呑まれるよう囲まれる事態など避けるに越したことはないのは理の当然。ゆえにインカム越しに軽快な声音でそう告げたのは特に策なく自然と翼を開くよう広がった敵勢を蜜色の眼差しで認めたノスリ、彼女達がいらぬことを思いつく前にと一気に春草すれすれの低空を翔けた星斑の猛禽が朝露を舞い上げる勢いの急上昇と同時に撃ち込んだ双翼魔弾が完璧な軌跡で少女二体の喉ごとその命を喰い破れば、
彼が翔けあがったのと逆方向の明け空に舞っていたシルが花開かせるのは青白い魔力の翼と輝ける精霊魔法陣、
己が燈した命中強化の加護を得た青き精霊術師が撃ちおろす魔力砲撃の光が反撃もろともに解体少女三体を叩き伏せた。
透きとおる甘さに気品高い華やかさを咲かせる黄水仙の香り、明るさと清らさを想起させる花の香りを孕んだ丘からの風を天使の翼に受けて戦場を馳せる祈は、己へ斬り込んでくる少女人形を翼の仮面めく電脳ゴーグル越しに青玉の眼差しで捉えた刹那に紅玉の大剣を奔らせる。解体少女の鋸剣から迸る悍ましき波動は黄金の魔力を結晶させたガントレットで散らすように軽減し、巨大な鋸刃の威を鈍らす赫き紅玉のツヴァイハンダーは仲間が燈した反撃強化と祈自身が研ぎ澄ませた技能で冴え渡る痛烈なる反撃を見舞い、元より手負いであった相手を屠るが、
頽れる人形の後背から新たな敵影が祈めがけて大きく跳躍する。
然れど金色きらめく髪も巨大な鋸剣も、真紅の衣装もリボンも明け空へ盛大に躍らせた強撃に星斑の猛禽が喰らいつき、
――蕾から花弁が綻ぶような華々しい開花、
――華奢で可憐な出で立ちから仲間へ揮われる強撃を、見逃すはずがないじゃないの。
硝子玉めく少女人形の紅眼を間近で覗いて不敵に笑むノスリが鋸刃に己がナイフを咬ませ橘の実を思わす陽色の魔力障壁を咲かせて易々と強撃の威を半減したのは、彼もまた己の技の冴えを増し敵のそれを相殺する技能を研ぎ澄ませているがゆえ。痛烈な反撃の魔弾を至近で叩き込めば硬質な人形の破片とともに爆ぜるのは彼女達の行軍してきた道程を示すような、夜露に濡れた森と咲き初めの菫の花の香り。
「香水のことはあまりよく識らないんだけどさ、この蕾の彼女達は言わばトップノートってやつかな?」
「言い得て妙ですね。だが当然、淫魔『フレグ・ラスト』という名のラストノートと融かし合わせは、しない」
間髪を容れずに奔った鮮烈なルビーの軌跡、攻勢に出る隙を与えず少女人形を屠った祈の手並みに口笛を吹きたい心地にもなりつつノスリは迷わず加速して、敵勢へ鋭く斬り込む軌跡で解体少女達の合間を縫う急旋回で人形達の背後を獲った刹那に叩き込むのは獲物達の命を容赦なく喰い破るための双翼魔弾。彼女達の紅眼は丘の春花を映しただろうか。
死出の路を照らす花あかりになるように、
眩い陽彩の水仙を目に焼き付けて逝くと良い。
●ブルジェオン
――世界を司る四界の精霊達よ、時を刻みし精霊の力よ、
――混じりて力となり、全てを撃ち抜きし光となれ!!
薔薇色に彩られた天穹に杏色と桃色の光が融け、刷毛で奔らせたような薄雲が金に輝く明けの空と、曙光に眩い陽色に照り映える黄水仙が咲き群れる丘を背に天翔ける青き精霊術師が咲かせるのは青く白く輝く光が描く精霊魔法陣。その外縁に燈る火と水と風と土の魔力を収束させ、時を司る精霊の力を重ねてシルが撃ちおろした魔力砲撃が反撃の波動と交差しつつも少女人形三体を撃ち抜けば、僅かな隙を逃さず長大な銀針を揮ったヤコウが迸らせる幾重もの衝撃波がたちどころに三体を屠るが、
頽れる同胞達には眼もくれず、その鋸剣を足掛かりに跳躍した解体少女が時空を歪めて空中のシルへと一気に迫る。
『我らの身命すべて、陛下の御為に――!!』
「無垢で一途なあなた方の士気と忠誠には、確かに好ましさすら覚えますね」
だが精霊術師の少女を解体すべく揮われた高速振動する鋸刃と咬み合い、派手な火花を散らしたのは全速の【飛翔】で躍り込んだ黒銀の妖狐が打ち込んだ銀の長針。自動人形ゆえの無機質な無表情が敢えて感傷の甘さを切り捨てる少女の潔癖さにも見えれば硝子玉めいて揺るがぬ眼差しの強さも相俟って、その在りようが風に揺らいでもすっくと立ち凛然と咲く黄水仙をも思わす鮮やかなものとも思えてくる。
可憐な見目にそぐわぬ膂力を大剣と銀針越しに感じて思わず微笑んでしまったのは決して相手を侮ったからではなく、快い好敵手と出逢えた心地になればこそ。気を抜けば四肢を生き別れにしてくれそうな猛撃の威力を苦も無く半減したのは勿論、ヤコウもまた己の技の冴えを増し敵のそれを相殺する技能を研ぎ澄ませているから。巨大な鋸剣ごと振り下ろす銀針の鋩から迸らせる痛烈な反撃に重ねる攻勢の衝撃波で空中へ攻め込んできた少女人形を撃墜したなら、更に翔ける衝撃波が斬り裂いた地上の敵勢めがけ追撃の精霊魔法陣を咲かせんとするシルの背を言の葉で押した。
積極的にディフェンスを狙う気概はあれどやや控えめと感じられるのは、敵三体を狙う術を揮うがゆえに三体からの反撃を浴びる消耗を彼女が意識してのものと察せられたから、倒れるほどの無茶は論外ですが、と前置いて、
「今回は指揮官に挑む前に全回復が可能なはずですから、連戦の任務ほど体力温存を意識する必要もないと思いますよ」
「そっか! それならディフェンスも迷わずいっちゃっていいよねっ!!」
黒銀の妖狐がインカム越しに語りかければ途端に輝きを咲かせたのはシルの笑顔と精霊魔法陣。
皆の初撃で燈された三重の【グロリアス】とその癒しをも高める攻撃強化、それに防御強化の恩恵を享ける身なれば大群と言えど練度の低いトループス級にそう易々と倒されはしまい。ならば仲間を護る守勢のみならず反撃という攻め手を掴み獲る攻勢としてのディフェンスで敵の殲滅を更に加速させていくのが得策と、
吹っ切れた心地でいっそう自由に明け空を翔けるシルは少女人形の鋸剣が仲間めがけて迸らせる波動へ一気に飛び込み、
「あなたがその剣を揮うのも今日限りっ! 決戦では揮わせやしないからっ!!」
「あなた達の誰ひとりとして、決戦の地へ辿りつかせはしませんよ!!」
先程の御礼とばかりにヤコウの盾となれば悍ましき波動もそれに続く斬撃も左手に淡碧きらめかす聖剣で斬り払って威力を軽減し、一手で敵二体を捉える処刑者の剣、解体少女が揮う波動と斬撃をノスリに代わって引き受けたユーフェミアとともに正面左右から精霊魔法と神なる焔の魔力砲撃で反撃を浴びせれば少女達の宣言通りまた一体の人形が草原に潰えて。
「シルもミアも、いっそうキレが増した感じじゃないの!」
快哉めく明朗な声音を弾けさせれば、ノスリも明け方の世界に光も影も耀く魄翼でいっそう鮮やかな軌跡を描いて翔けた。春草から朝露を弾けさせる緑野を擦るがごとき飛翔も刹那の不意を衝いて敵の眼前に躍り込む陽動も星斑の猛禽にはすっかり馴染みの攪乱手段、自陣最高の空中戦と攪乱技能を存分に活かせば練度の低い敵勢は常よりもなお鮮やかに翻弄され、丘から追い風のごとく吹き寄せる風が孕む黄水仙の香りの華やかで透明な甘さ、解体少女達が森から連れてきた菫の香りの初々しい甘さを掻き混ぜる心地になれば、次々に花々を咲かせていく春告げの使者か悪戯な春風にでもなった気もして笑みが浮かぶ。
さぁ、くるり踊って、
もっと咲いて見せて。
翔けぬけ様に舞い上げた少女人形達の真紅のリボン、彼女達の背丈を優に超えて翻るそれらに紛らせ撃ち込んだ双翼魔弾が解体少女達の鳩尾を喰い破ればその衝撃と携える巨大な鋸剣の重みでくるり舞うよう傾いだ敵勢めがけ、
「彼女達が人間であれば、ともに花を愛でる道もあったのだろうけどね」
「ええ、今はまだ無垢と見えますが。いずれ確実にひとびとへ害為す存在とあれば、たとえ蕾であれ摘み取るまで」
好機を逃さず迸った眩い二条は神威の光槍と赫焉の断罪。
丘に咲く黄水仙の眩い陽色に負けじと研ぎ澄ませた曙光の鋩を撃ち込んだ陸が、明け空を斬り裂くよう舞わせた紅玉の鋩を撃ち下ろした祈が魔弾に喰い破られた少女人形達を確実に仕留めれば、戦場を翔ける風が一気に加速した。
――少女人形達の大群に呑まれ、敵も味方も混沌と入り乱れる乱戦になるかと思っておりましたが、
――この皆さまと一緒に挑む戦いでは、無用な心配にございました……!!
敵の波に呑まれれば孤立せぬよう、飛翔する仲間を目当てに駆けねば――そう心していた仔狐の少年は頼もしき先達たちの手腕に感嘆せずにはいられない。無策であれば当然高確率で乱戦に陥っただろうが、自陣の堅固に努める蒼穹の天使と仲間の孤立を防ぐよう立ち回る星斑の猛禽、敵勢の攪乱をも心掛ける二人が決して誰をも少女人形達の大群に呑ませず、
『皆、狙いを合わ』
「そういうことを口にできる存在は見逃せないな」
連携を牽引できそうな敵を見出したなら即座にエトヴァが銃口を翻す。合わせて、と皆まで言うことさえ許さず銃声を響き渡らせれば炸裂するのは春花の彩咲かせて一気に敵三体の感覚を惑わす煙幕弾と苛烈な銃撃、
蕾たるこの解体少女達にも分隊長と思しき存在が何体かいるようだが、精鋭部隊に比すればその指揮能力は稚拙なもの。
「だが僅かでも戦力を高める可能性があるなら、最優先で撃破しておきたいところだ」
「ええ、未熟でも統率できる個体に纏められれば化ける可能性がありますしね。確実性を取りましょう」
「承知いたしました、私もそのように努めまする……!!」
冴える意識と眼差しでそう見定めるエトヴァの言葉、彼同様味方を鼓舞し指揮する個体の存在を気にかけていたソレイユも彼の論に異を唱えるはずもなく、即座に拍を奔らせた幻想ソナタの旋律のままに躍りかかった月光の猫が銃撃を浴びた三体のうち二体を葬れば、もう一体を確と見定めたしゃらの大筆の軌跡から咲かせる色とりどりの氷雪が少女人形を永遠の眠りへといざなった。
強敵ではないと事前に告げられはすれど、己もいまだ強きディアボロスとは言えぬ。
ならば決して心を緩ませず、今の己が最も自信を持てる技を全身全霊で揮って挑むとの気概に満ちた仔狐の様子を見れば、少年演奏家に花開くのは安堵の微笑み。戦いにおいて最も重要なのは強さではなく己の力量を的確に見定めることだから、
「ともに戦えることを嬉しく思いますよ、しゃら。最後まで気を抜かずに行きましょう」
「はい! ソレイユさまと、皆さまと、励まし合いともに戦えること、私も嬉しく思います!!」
一切の驕りも慢心もない彼の気概を頼もしく思いつつ、明け方の世界に力ある旋律を絶え間なく響き渡らせる。
圧倒的な大群であった解体少女達の軍勢が加速度的にその数を減らしていく。精鋭が大半を占めるディアボロス勢が練度の低い敵と侮ることなく初手から全力で挑めば戦況の終始優勢は約束されたようなもの、
「私達が押してるけど逃げ出す敵はいないかな? それならこのまま殲滅をめざそうね!」
「うん、いないね! どんどん削っていくよっ!!」
だからとて誰ひとりとして決して攻め手を緩めはしない。新たな標的を紅樺色の瞳で瞬時に見定めれば曙光を強く弾くのはユーフェミアが操る神の鏡、聖なる杖が戴く紅玉を輝かせて迷わず迸らせる神火が幾つもの神鏡に反射しつつ少女人形に襲い掛かれば、恋人とインカム越しに言の葉交わした刹那には大剣に雷光を纏わせていたアンゼリカの斬撃が輝きと衝撃波を咲き誇らせ、浄化の炎に撃ち抜かれた一体を仕留めて更に三体を薙ぎ払う。続けざまに追い打ちをかけるのは丘からの風が孕む黄水仙の花香を巻き込むよう揮ったヤコウの銀針が迸らせる数多の衝撃波、
「この香気を纏っていく道程は、指揮官殿もお喜びになると思いますよ。蕾たるあなた方にも春告げの香りはよく似合う」
『――……!!』
透明で清らかな甘さと華やかな気品を咲かせる春告げの花香は可憐な見目と蕾の初々しさを併せ持つ解体少女達に似合う、黒銀の妖狐がそう感じたのは本心なれど、少女人形達と淫魔『フレグ・ラスト』を送り出す先は勿論スイスではなく明けない夜の底。黄泉路への餞にとの真意を乗せた凄艶な笑みから機微を読み取る機能を蕾たる人形達が持ち得るのはかは判らねど、
解体少女達は反駁も反撃も叶わぬままに、糸の切れた操り人形そのままに春草の緑野に頽れた。
力尽き頽れていく同胞達を彼女らが一顧だにせぬのは相変わらず、
『陛下の敵、断頭革命グランダルメの脅威を、排除、します……!!』
「その士気と忠誠、感服いたしますが、私も屈するわけにはまいりませぬ!!」
だが愚直とも潔いまっすぐさとも感じられる士気を翳らすことなく明け方の世界に舞う少女人形が解き放つ悍ましき波動、それを冴え渡らせる殺気を感じれば仔狐の少年は己が勇気で応えて向き合わんとするが、心を奮い立たせて耐えるというなら決して無意味ではないものの、殺気の技能で冴え増す敵の術を確実に鈍らせるなら此方も殺気の技能を高めるのが最適解。
「ここは私が引き受けます、しゃら!!」
「ありがとうございまする、ソレイユさま!!」
彼も己も呑まんとする波動もそれに続く斬撃も一身に担うべく敵前へ躍り込んだソレイユは華やかな重音ともに一気に魔力障壁を花開かせ、少女人形を凌駕する技能の冴えも活かして波動と斬撃を鈍らせた。威力を半減した斬撃を敢えて真っ向から受けたのは胸を裂かせて腕と手指を護りぬくため、一切の澱みなく少年演奏家の心のままに光の鍵盤に奔った十指がひときわ冴える音色で旋律を織り成せば、
明け方の空に描き出されるのは皓々たる月が輝く暁月夜。
滴る月光が改めて猫の姿に結晶すれば二撃を引き受けたゆえの二連の痛烈な反撃が眼前の敵を屠り三重の【グロリアス】の癒しを齎して、光の軌跡を描いて跳躍した小さな獣の荒々しい爪撃が更なる少女人形達へ躍りかかる。月光の一閃が敵二体を引き裂けば、次の瞬間に迸った氷雪と紅刃が確実に彼女らを仕留めてのけた。
心通わすしゃらの連携に笑み、迷いなき祈の連携にソレイユは心からの感嘆を口にする。
「御見事、素晴らしい呼吸の合わせぶりですね」
「あなたはきっと僕を御存知ないでしょう。だが僕はあなた方のことを、人伝てに、報告書伝てにであれど、知っている」
返るのは意識せねば気づかぬほどの微かな笑み、然れどもそこに滲むこれまでの軌跡を織り成してきたディアボロス達への敬意を感じ、知るがゆえに旧知の仲のごとき連携も叶うのだと察すれば、少年演奏家の笑みが深まった。年末に覚醒し先日に初陣を経たばかりと聴いて、戦場に慣れぬ仲間の負担が重くならぬよう気にかけていたが、体力や火力こそ精鋭陣には届かぬものの、己が術の冴えを増す技能のみならず敵が有する技能すべてを研ぎ澄ませた祈の攻撃の精度は精鋭陣にも匹敵する。
高確率で解体少女の反撃を捻じ伏せ、ショコラの瞳の時先案内人からの依頼ならばともに戦場を翔ける仲間の誰かが確実に【グロリアス】を燈してくれる、そこまで織り込み済みで積極的に敵の撃破を狙い、己の体力の心許なさを補っていく彼の戦いぶりは、逆説連鎖戦を、ディアボロス達の戦いを十分に理解した者のそれだ。
燕の乙女がディアボロスとして翔けてきた軌跡、
報告書でそれを辿れば幾度となく出逢った顔触れとともに馳せる戦場は祈にとっても驚くほど戦いやすく、悍ましき波動を連れて躍り込んできた敵の斬撃を魔晶剣で受ければルビーの刀身が砕け散ったかに見えたが、
煌く魔晶剣を分裂させるのも祈が揮うlament(ラメント)の術の裡、
「蕾のまま永劫を愛でる――そんな甘美も悪くありませんが」
硬質な無機質さを持ちぬくもりを持たぬ少女人形の頬を白き指先が慈しみをもって撫ぜたのは一瞬のこと、砕け散る勢いで分裂した幾重ものルビーのきらめきが解体少女に重なれば、蕾の自動人形(オートマタ)に開花する花一華。
痛烈な反撃が少女人形が持ち得ぬ熱き血潮の代わりとばかりに咲かせたのは硬い人形の体躯さえ裂く鮮烈なルビーの花弁のアネモネの花、鉱石花を愛でることさえもせず間髪を容れぬ攻勢で解体少女を屠ったのは、
己がこの腕のなかを赦すのは、
唯ひとりの少女であるがゆえ。
●トラジェクトワール
――この解体少女達の士気の高さも、まっすぐな忠誠も、決して嫌いじゃない。
――絶対に分かり合えぬ相手とは言え、それらを美しいとも想いはするけれど。
少女人形達が春の夜明けの美しさを意識して眼に留めることはきっとないのだろう。
なだらかな丘の斜面に眩い陽色の黄水仙が咲き群れる美しさを、丘を柔らかに吹き降りてくる風がその麓から広がる緑野へ春告げの花の香りを連れてきて、春花と春草の香りに彩られた草原で愛するひととすごすひとときへ想いを馳せることも。
美しい夜明けを迎え、
花を愛で、ひとびとを愛する。
歴史侵略者によって一度は奪われた日常が、当たり前のように見えてその実奇跡の積み重ねであったと今のアンゼリカには痛いほどに解るから、今だからこそ尊いと言える日々を、奇跡とも呼べるときを己のみならず世界中のひとびとすべてに取り戻すため、眼前の少女人形達ばかりでなく、
貴女達クロノヴェーダには、決して負けない。
「クレメンティアが言ったとおり戦線離脱を図る敵はいないみたいだけど、それでも念のために包囲していこうっ!!」
「了解っ! 確実に、一体残らず殲滅するよっ!!」
「万にひとつも取りこぼすわけにはいかないもんね、私も了解だよ、アンゼリカ!!」
大群の人形達が眼に見えてその数を減らしてくれば迷わず翔ける敵の側面、全力で振り抜く獅子の大剣が扇状に花開かせる雷光と衝撃波で押し込む勢いで解体少女達を薙ぎ払ったなら、アンゼリカの左右に展開する形で敵勢の包囲にかかったシルとユーフェミアも高火力を咲き誇らせる魔力砲撃を叩き込む。反撃を捻じ伏せられながらも即座に攻勢に出た少女人形の波動と斬撃を右手の淡碧きらめく聖剣で鈍らせれば、青き精霊術師の手首でしゃらりと鳴った銀の腕輪に青きオパールが揺れた。
幻想竜域キングアーサーの基準時間軸よりも過去の時空へと翔けて、宿縁を断ち切った奇跡のひとときと両親への想いを、そして、いのちがめぶく空での新たな誓いを燈すいのちのきらめき。ああ、これは奇跡の想い出だけど、奇跡はこれだけではなくて。
歴史侵略者の理不尽に断ち切られることなく両親の許で幸せに暮らしていれば決して出逢うことのなかった相棒や仲間達、本来なら交わることのなかった時空に生きる自分達がこうして力を合わせて敵に立ち向かっていることも奇跡だから。奇跡は自ら動かなければ掴めないものだと、動いた先にこそ輝くものだと思うから、迷わない立ち止まらない。
「あなた達をスイスへいかせてはあげられない。ここで最期まで、わたし達と踊ってね――!!」
瞬時に花開いた精霊魔法陣からシルが迸らせる凄絶な輝きは眼前の敵を屠る痛烈な反撃、
誓いを貫くための、ひかり。
奇跡について想い馳せれば、聖女の名を授けられし少女の花唇かせは尽きぬ言の葉が溢れだしてきそう。
だって本来ならばクロノス級アークデーモンに魂を打ち砕かれその身もその裡に秘めた膨大な魔力も完全に悪魔に奪われていたはずのユーフェミアが今ここに立っていることこそ、一度は悪魔に敗れて死したアンゼリカが隔絶されていたあの時空に仲間達とともに翔けて宿縁を覆し、眩い歓喜と輝く約束、希望の未来を取り戻す奇跡と、悪魔の撃破後にユーフェミア自身がディアボロスに覚醒するという奇跡の結晶に他ならないからだ。
稀なる奇跡、然れど力と心を尽くして織り成す軌跡の先にそれが結晶すると疑いなく信じられるから、
「私は奇跡を咲かせ続けるために軌跡を描いて翔け続けていきます! すべてのひとびとのために!!」
「奇跡に救われた身なれば、更なる奇跡を咲かせるべく力を尽くしましょう。それが彼女達の軌跡を断つことだとしても」
可憐な姿の解体少女、無垢な蕾の少女人形達が頽れ砕け散る様に己が胸が微かに痛んでも、ユーフェミアは彼女達すべてを斃しきるまで神鏡を輝かせ続ける、神火を迸らせ続ける。隔絶された時空とは言えど祈もまたTOKYOエゼキエル戦争の過去の時空でクロノス級大天使に巣食われていた身であったから、報告書で身の上を識る紅玉の聖杖を揮う少女にあえかな親近感を覚えつつ二つの歴史を生の侶伴に歩む彼も包囲を援護すべく紅玉の大剣を揮う。
――慟哭の絶望に光が射した、だから今も祈り續けている。
――奇跡は、この手が起すもの。そのためにも、
蕾の少女達の軌跡を、断って差し上げる。
鮮麗に煌きながらも鋭い軌跡を描いて解体少女の軌跡も命も断つ赫焉の断罪、輝けるルビーの軌跡を蒼穹の眼差しの片隅に捉えつつ、瞬時に戦況を見定めつつエトヴァが復讐の華と復讐の炎を花開かせる二挺の銃撃がこの明け方へと咲かせるのは、万一にも少女人形達が包囲の突破を図ることなどないよう彼女らを惑わす煙の花霞。的確に研ぎ澄ませた技能に裏打ちされた銃撃は敵の反撃の大半を捻じ伏せ、辛うじて繰り出されてきた反撃も蒼穹の天使に深手を刻むには至らない。
輝ける黄金の荊は悍ましい波動を鈍らす魔力障壁、持ち手を腕に通して翳す銀の煌きは斬撃を鈍らす盾、練度の低い敵勢が揮う技の挙措もとうに看破済み、戦いの流れが加速するなかでも着実に敵を削り戦いの軌跡を織り成して。
ひとつひとつの、数多の歩みの積み重ねを識っている。
不確かなものをこそ確かにしてきた軌跡、その先に結晶する光を、花開く輝きを奇跡と呼ぶのは些か安直に思えたけれど、
「だが、そこに織り成された紋様は、やはり奇跡のようなのだな……」
「ええ、そう呼びたくなるものが確かにあるのですよね」
夥しい鮮血をからだのみならずこころからも流す軌跡とて己自身で歩んできた。然れど歩む道程に織り成されてきた、涙が零れるほどに眩い幸福な軌跡をも振り返れば、それが織り成し咲かせる紋様はエトヴァにも奇跡のようと思える花のごとし。彼の銃撃が少女人形達を確実に屠る様を視界に捉え、インカム越しに聴こえた言の葉に微笑んだヤコウが明け空から春の野へ振り下ろす銀の鋩から解き放たれる衝撃波が更なる敵勢へと翔ける。
涙が零れるほど眩い歓喜も、輝く幸福も識らぬだろう蕾の人形達は、緑の大地を褥に眠る心地良さも識らぬだろうから、
鮮やかな宵紫を曙光が春菫に染める眼差しを和らげ、春野に縫い付けて差し上げましょうと黒銀の妖狐は笑みを深めた。
――黄水仙の香りを連れて、
――どうぞ永遠にお休みくださいな。
「今こそ包囲にございますね、ソレイユさま!!」
「ええ、お願いしますね、しゃら!!」
丘からの風が運ぶ黄水仙の香りにひとつひとつ氷の花の香りを足して、
己のできることをひとつひとつ重ねていけば、必ずや勝利を手繰り寄せられると迷わず確信できるから、
憧れの先達を追うことを強く意識していた仔狐の少年もこの局面に至れば彼の望みを叶えるために明け方の世界を馳せる。華やかに色づく冷気を穂先に含んで宙に奔らす大筆の軌跡は包囲の外と内をはっきりと示すよう奔り、彩豊かな氷雪が包囲の裡なる敵を呑めば、悲願たる奪還戦へ向けて翔けんとする心のままにソレイユの指先が踊らす幻想ソナタが明けゆく朝を翔け鮮烈な月光の爪撃が解体少女達を命ごと斬り裂いて。
確実に狭められていく包囲を主導するのが彼とアンゼリカであることは練度の低い蕾の人形達にとて察せられたのだろう。二人めがけて悍ましき波動が迸れば蒼き影が迷わず波動の真っ向へと躍り込んだ。この術への対処を不得手とする光彩誓騎を蒼海の竜が確実にその背に護れたのは、陸が多数の敵を狙う技を揮うがゆえに多数の反撃を浴びる仲間の消耗を強く意識していたためだ。一気に花開かせた魔力障壁で波動を鈍らせ、
瞬時に結晶させた光から咲かせた神威の光槍に反撃強化の加護も得て、斬り結ぶ勢いで巨大な鋸剣の威力を半減すれば、
「君達ももはや俺達ディアボロスを侮りはしないだろう。俺達も決して、君達クロノヴェーダを侮りはしない」
『はい、流石です、ディアボロス。陛下を、断頭革命グランダルメを脅かす者達』
黎明の瞳で人形の紅眼を陸が凛然と見据え、言の葉を交わした刹那に痛烈な反撃の曙光が鋸剣ごと人形の喉を貫いた。
己が故郷たる幻想竜域の完全奪還を成し遂げたからこそ、より研ぎ澄まされた誓いとともに断頭革命グランダルメ奪還戦へ臨むことが叶うから。この時空と大地を故郷とする友のため、すべてのひとびとのために、より良い態勢で開戦のそのときを迎えられるよう力も心も尽くすことを、惜しまない。
「そういうこと! 全身全霊で奪還戦に挑むためにも、雷剣閃波(ライトニングフラッシュ)よ、輝きて敵を倒せッ!!」
この明け方の戦いが終幕を迎えるのを紛うことなく感じながらも渾身の力でアンゼリカが揮う獅子の大剣、斬撃から百獣の王の咆哮めいて迸る雷光と衝撃波が春草の朝露も人形の破片も弾けさせつつ一切勢い緩めぬ威力で解体少女達を薙ぎ払えば、大きく体勢を崩されてなお士気と忠誠を支えに蕾の少女達は鋸剣を構えるが、
『陛下の、御為に……!』
『ひとりでも多くの、ディアボロスを、解体、します!!』
包囲の突破というよりあくまで皇帝の脅威たる存在の排除のために満身創痍の人形達は稼働しつづける。
愚直なまでに翳らぬ士気も潔いほどまっすぐな忠誠も清冽に弾ける朝露と同じくらい好ましいけれど、だからこそ彼女達に鋸剣を揮ういとまも与えずノスリは一瞬の全速飛翔で彼我の距離を殺す。人形達の眼前に跳び込んだのは己が今から摘み取る蕾達の軌跡を記憶にとどめておくため、然れど僅かな刹那も迷わず耀ける魔弾を結晶させる。
軌跡のひとつを、あんた達の軌跡を摘み取って、
「フレグ・ラストの――やがてはナポレオンが結晶せんとする奇跡を、この朝露みたいに弾き飛ばしてあげる!」
「奇跡というものが歩んできた軌跡の結晶であるというのなら、君達の軌跡の先の結晶を赦すわけにはいかない」
己の飛翔で弾けた朝露が大地に還るより速く星斑の猛禽が撃ち込む双翼魔弾が蕾達の軌跡も命も喰い破れば、次の瞬間には陸が掌に結晶させた曙光が輝ける槍を咲かせて更なる蕾の命ごとその軌跡を断った。
この戦いもまた、世界奪還という皆の歩みの結晶に繋がる軌跡のひとつ。それをこそ確実に先へと繋げていくために蒼海の竜が奔らせた曙光の鋩の先、この明け方にまみえた最後の解体少女を捉えたのはエトヴァの銃口。閃光や煙幕のみならず彼の意のままに様々な色彩の花々を咲かせる銃撃は、眩い陽色の黄水仙を数多咲き誇らせた裡から青空色のライラックを咲かせ、最後の解体少女の最期を彩った。
第二の故郷たるウィーンを彩る春の花、薄紫の彩がまず胸裡に咲くライラックを青空色で咲かせたのは、
蒼穹の天使の瞳が、明けゆく朝が春の青空を連れてくる様をその視界の片隅に映したから。
「この断頭革命グランダルメそのものも、じきに奪還という春の夜明けを迎えるだろうからな」
明け方の戦いを終わらせ、皆で改めて見霽かす朝の世界は、美しい光と彩に満ちていた。
澄んだ朝露を結ぶ春草の瑞々しい匂いに、透きとおった甘さに華やかな気品を覗かす、春告げの花の香りが舞う。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
【飛翔】LV2が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【アイスクラフト】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【グロリアス】LV3が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
●プランタン
眩い陽色に咲き群れる黄水仙が、軽やかな朝風に透きとおる朝風を踊らせる。
丘のなだらかな斜面を彩る春告げの花々、眩い陽色の黄水仙達が薔薇色の明け空へ咲き上がっていく光景も美しかったが、綺麗に明けた春の青空へ咲き上がっていく光景は誰もが思わず笑顔になるほどの明るさ美しさ。
明るい春そのものを思わす世界の彩を見せてくれる丘を越えたところにあるという村をめざし、丘の頂へと至れば、林檎の花々に抱かれる村の風景を一望できた。
優しい彩だった。
暖かな彩だった。
純白と薄桃と桜にも似た可憐な姿で咲き溢れるのは早咲きの林檎の花々、数多の林檎の花々にうずもれるような村の家屋は暖かな杏色の屋根と明るいビスケット色の壁を持ち、ココアブラウンの木枠で縁取られたその窓辺は早咲きのスイートピーやセンティフォリアローズ、16世紀末の伝来以降ヨーロッパ各地で愛されてきたゼラニウムなど、香りの好い花々で華やかに彩られていた。
芳香宮とも呼ばれたベルサイユ宮殿、
麝香(ムスク)を好んだポンパドゥール夫人や龍涎香(アンバー)を好んだデュ・バリー夫人などの影響で動物性の香りが流行していたフランス宮廷に植物性の香りの流行を花開かせたのが、花々を好む王妃マリー・アントワネットそのひとだ。
このあたりが香料となる花々や香草の栽培が盛んな土地であるというのもその史実によるものなのだろう。
村を訪れるのは、明日の花祭りに向けて村人総出で祭りの準備が行われているというそこへ、村の先の山間にある修道院を根城とする淫魔『フレグ・ラスト』が魔性の香水で誑かして隷属させている多数の修道女達を誘い出すため。
時先案内人いわく、
祭りのためのパンや菓子を焼いたりなどは勿論だが、香料となる花々や香草の栽培が盛んな土地であるためか、香りの好い花々で村中を飾りつけたりするのが最も重要な準備。修道院の修道女達も手伝いに来るのが通例らしいが、
「皆様が村へ『村のひとびとが初めて見る、香りの好い花々』を持ち込んで、『修道院の方々にも是非お目にかけたい』って申し出れば、村の方が修道女の方々を呼んできてくださるはずです! 間違いなく修道女全員が出てくると思います!!」
今まで見たこともない香りの好い花と聴けば、淫魔『フレグ・ラスト』に盲目的に隷属している修道女達はこぞって彼女へ献上するために花を求めに来るだろうし、淫魔も嬉々として修道女達を送り出すだろう。
「村へ持ち込む花は、丁度よい季節ですし、ミモザアカシアを推しますねっ!!」
現代でこそ広くフランスで愛されるミモザだが、この花がフランスへ到来するのは19世紀も終盤近くになってから。
断頭革命グランダルメの基準時間軸・西暦1805年を生きる村人達には未知の花であるし、フランスのひとびとの好みに合うことも間違いない花だ。おひさまの雫めいた可愛らしい花々を咲き溢れさせるミモザ――フサアカシアを最終人類史から皆でたっぷり抱えて持ち込めば、村のひとびとの飛びきりの笑顔を見ることだって叶うはず。
――とのことだから、何よりもまず必要なのは可愛らしい花々を咲かせたミモザの花枝をたっぷりと。
既に燈されている【アイテムポケット】も活かせば両手をいっぱいにするほどのミモザを皆が持ち込むことだって可能だ。
他にも色々と持ち込むことができると思えば更にあれこれと思いついたことだろう。
さあ、何を用意してきただろうか?
おすすめのミモザなら間違いないが、他にも『村のひとびとが初めて見る、香りの好い花々』を思いついただろうか?
あるいは、中世の頃から使われている村の共同のパン焼き窯で明日の春祭りのためパンや菓子を焼いているという村人達と一緒に彼らにあまり馴染みのないパンや菓子を焼き、村人達に『修道院の方々にも味見していただきたい』と伝えておけば、村へやってきた修道女達の足止めの一助になるだろうから、そんなパンや菓子の材料などを持ち込んだだろうか?
突飛なものでなくとも、豪華なものでなくともきっといい。
ミモザの花々があるならトルタミモザを用意してみるのも一興だ。
それとも、村の飾りつけを手伝うための品々を持ち込んだだろうか?
花冠を編むのに長けた者も多いから、子供達と花冠を編んで『修道院の方々にも見てもらおう』なんて提案したり、花々で彩ったブランコを林檎の樹に作りつけたり、村の広場を花々のアーチで飾りつけたりして、『修道院の方々が来たら案内してあげて』なんて提案したりするのも修道女達の足止めの一助になるだろう。
もちろん、他にも良い策を思いついたなら、想いのままに、こころのままに。
――さあ、村ではどのように動こうか。
淫魔『フレグ・ラスト』は元より修道女達に『村人達にはこれまでどおりに接するように』と命じているようだから、村で子供達や村人達からあれこれ勧められたり誘われたりすれば無下にはすまい。村から修道院までは徒歩ならそれなりに時間がかかるが、幸いにも既に【飛翔】が燈されている現状ならディアボロス達の移動時間はごく僅か。
簡単な足止めで十分、淫魔『フレグ・ラスト』を撃破するまでの時間を稼ぐことができるだろう。
無論、相手が油断ならない実力の持ち主であるからには、こちらも全力全開で挑むことが前提だ。
先程の解体少女戦では誰ひとりとして深手を負うことなき勝利を掴み獲り、軽微な負傷も痛手も、この村での作戦に必要な品々を持ち込むべくパラドクストレインで新宿島と往復する合間の休憩で綺麗に消え去った。
淫魔『フレグ・ラスト』には全員が万全の状態で戦いを挑むことが叶う。
修道女を巻き込んでしまう危険性を排除すれば、修道院の聖堂を改装した彼女の工房へ攻め込むタイミングは想いのまま。
朝のうちに村での動きを終えてしまうのでもいいし、
祭りの準備を手伝ってくれたとなれば村人達はきっと素朴ながら美味な昼食を振舞ってくれるだろうから、それもたっぷり楽しんでから、ミモザの花々について『修道院の方々にも是非お目にかけたい』と切り出すのでもいい。
淫魔『フレグ・ラスト』へ戦いを仕掛けるイニシアチブは完全にディアボロス達のもの。
ただ、陽が傾く頃には流石に淫魔『フレグ・ラスト』も『解体少女達の到着が遅すぎる』と状況を訝しむだろうから、陽が高いうちに仕掛けるべきという点には留意して、
村でそれぞれがどのように動くか、どのようなタイミングで仕掛けるかは、あらかじめ皆で擦り合わせておくのが最善だ。
――アクアミラビリス。奇跡の水。
――奇跡の水と称する香水を操る淫魔『フレグ・ラスト』に、万全の、最善の状況で挑むために。
ノスリ・アスターゼイン
やぁドウモ
陽の雫を集めてきたよ
祭りの彩りにとびきりの香りは如何?
ミモザを両腕いっぱいに
陽彩の笑顔で手伝いを申し出よう
名乗りも、村人の名を聞くのも、心弾む魔法のひとつ
力仕事が必要ならお任せあれ
高所へ飾りつけたいちびっこ達へ肩車も!
祭り前の昂揚で心のまま歌い踊りたくなった村人へ朗らかに笑い
レディのみならず陽気な親父サンの手も取ってダンス、くるり
楽しい気持ちは
どうしたって止められないものだから
花々を飾り付けたブランコを樹に括りつければ
大人心だって擽るに違いない
修道女サマ達にも見せたいな
案内してあげてね
誘い文句は
心から楽し気
昼食の振舞いは諸手で歓迎
トルタミモザも食ってみたいなぁ
口どけの柔らかさに
子供達と顔を見合わせて「!」マークが頭上に浮かぶ
食事も交流も堪能
皆が修道女達を敬愛する様も会話のうちで知れるから
ミモザ、見て貰いたいね
きっと喜んでくれるよ
浮かべた笑みは
先刻同様楽し気に、嬉し気に
ミドルノートめく豊かな時間を咲かせた後は
修道院へ呼びに行って貰って
皆と共に飛翔
陽の高いうちに
いざ
最後の香りの許へ
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ◎
アイテムポケットで花や材料、調理器具を持込
花はミモザアカシアと青と紫のライラック
食用のローズ、パンジー等
村の人達と一緒に、トルタミモザ作りをしたいなと思う
……特大サイズで!
子供たちにも手伝って頂ければ幸い
生地を泡立て仕上げたら、特大リング型へ
窯の火加減はよく見ておこう
レモン風味のカスタードにホイップ合わせ、オレンジリキュールにパイナップルを刻んだクリームを作り
スポンジが焼き上がったら、中に挟んで、外側にも塗って
仕上げに、秘密の瓶を取り出そう
スポンジのダイスを一杯に飾り、瓶のライラックの砂糖漬けを添え
春の陽に似た花姿に、紫、青、紅の食用花弁をちりばめて、金箔を
見た目にも訪れる春は
春の野に群れ飛ぶ蝶々かな
修道女さんにも見てもらいたいな。香りもいいんだよ
と食卓に花を飾り付け
食事は口福の伝道者で増やし
味見もどうぞ、と手伝いの御礼に
後で、修道女さん達にも味見してもらおうか
残りはアイスクラフトの氷を板に切って並べた即席保冷庫へ
修道女を呼んでもらうのは昼食後
村への到着確認し、飛翔で出立だ
アンゼリカ・レンブラント
意気込みたっぷりに春を祝う祭りの彩りの1つに
私たちの花も添えてもらおうかな
ミモザアカシア、私の大好きな花の白のアングレカム
【アイテムポケット】を駆使し両手を
いっぱいにするほど持参できるといいね
一輪でもきっと素敵な花
でも、集うとより幸せを広げてくれる
素敵に飾れば、飛び切りの笑顔がみんなから見られるかも!
えへへ、華やかな春祭りを準備してるんでしょう?
私たちにもどうか、手伝わせてね!
村の広場を彩るはたくさんの花々
作ったアーチをくぐったら
美しさと素敵な香りに心踊っちゃうよね
子ども達に見せるは【希望の明星】
こんな花冠、ぜひ作りたくない?
私もここまで美しいものは作れないけど、
美しさをぜいたくに収めた一品、みんなで作っちゃおうよ!
作りながら口ずさむは「約束の比翼」
空の彼方へ翼広げ飛び立っていくよ…♪
みんなの作った花冠、修道院の方にも是非みてもらってね
しっかり、どこを工夫したか話すんだよっ
(出来るだけ足止め。時間を稼げるように)
昼食後、日の高いうちに
修道女達の到着を確認して
低空飛翔し修道院へ、ごー、だね
ソレイユ・クラーヴィア
春の祭りは歓びの祭典
香り華やぐ花々で彩り、修道女達は勿論
村の皆さんも幸せになって欲しいですね
アイテムポケットでミモザアカシアと、白と紫の花弁に凛とした貴婦人の姿を感じさせるカトレアを持ち込みます
新宿島で交配された甘い香りのカトレアは、きっと乙女の心に響く筈
持ち込まれた花々に纏わる話に興味深く聞き入り
良ければ、しゃらの可憐な梅花と合わせてコサージュを作りませんか?
大輪のカトレア、可憐な梅花、それらを彩るミモザ
衣装でも髪でも、身につけた方を貴婦人の如く美しく魅せるコサージュになるでしょう
未来の貴婦人達の髪に差して、ちょっとおしゃまに村を歩けば
甘い香りと満開の笑顔が村を満たす事、間違い無しです
コサージュ作りのお供には、温かい紅茶は如何でしょうか
梅花から採取された蜂蜜を一匙添え、一層華やかに
しゃらのエスコート姿に笑みは花の様に溢れ
昼食も楽しく頂いたら、修道院の方にも是非差し上げてくださいね
と、コサージュの籠に蜂蜜瓶もつけて子供達に託し
修道女達の到着を確認次第、低空飛翔
いざ修道院へ、参りましょうか
永辿・ヤコウ
おはようございます
僕はヤコウ
春の使者です
ウィンクで告げる茶目っ気も
抱えたミモザから漂う陽だまりの香りに花綻ぶ
どうぞと差し出す花房
頬を寄せてみたくなるふわふわの魅力
ほら
皆の笑みも太陽みたい
明るい彩りに心が華やぐ大好きな花だから
花々を愛おしむ村人さん達にもお見せしたくて
綺麗だね、と喜んで貰えたら僕も嬉しい
会場を彩る他に
花冠やコサージュ作りも如何でしょう
あなただけの花飾りを、と
アイテムポケットで数多持参したリボンで纏め
興味津々に手元を覗き込んでくれる子の髪に飾れば
春風に翻る布地が
いっそう柔らかく香りを遊ばせるでしょうか
好きな人の瞳色のリボンで纏めたミニブーケもときめきますよ
告白する勇気を持てるかも
なんて
春の使者らしく恋の背中を押すのも素敵
昼食も有難く頂きたいな
配膳の準備も手伝いましょう
鮮やかな花を眺めながらの食事は
きっとお話しも弾むから
修道院の方々にも
ミモザをご覧頂きたいですね
陽の耀ううちに是非
この穏やかな春を護り抜きたい
胸に燈す誓いは
フレグ・ラストの許へ向かう眼差しも
飛翔の風も
凛と冴えらせる
色葉・しゃら
花々に囲まれた愛らしい住まいの数々
風が運ぶ花の香と…焼きたての菓子の香り!
私もう、この村が愛おしくなってございます!
ご用意したのは
クレメンティアさまおすすめ「みもざあかしあ」と
紅白の梅の枝にございます
私の故郷では春告草や匂草とも呼ばれ
香りを嗅ぐと「ああ春が来る」と喜び沸く花
先駆けて咲く蝋梅も添えて
気品のある香りでしょう
修道院の皆さまにも、ぜひ届けとうございます
花冠やこさーじゅ作りも楽しそうです
花を持ち寄り、教え教わり編んで
僭越ながら、と、未来の貴婦人たる乙女の髪へ
とても雅でございますよ
身支度を調えたら、とるたみもざに逸る気持ちを抑え
ソレイユさまを見習って茶を注ぎ振る舞いまする
本日は皆さまの「えすこおと」に努めましょう!
…もちろん、その後でいただきますけれども
たるとたたんにまどれーぬ
とりどりの菓子も、修道女さまに届けとうございますね
昼食も美味しく頂いて
修道院の方々の到着を見届け、飛翔
作戦のつもり、でしたが
私の方が幸せを頂いた気がいたします
温かな気持ちと勝利の決意を胸に
修道院へ向かいまする!
ユーフェミア・フロンティア
せっかくのお祭りですし、少し気合を入れてお料理してみましょうか。
ええと、パンの窯があるのなら、ちょっとしたお菓子やパンを作ってみましょうか。
作るスイーツはマドレーヌ。
普通のマドレーヌもいいですが、少し手を加えたものも用意しましょうか。
まずは、マドレーヌ用の生地を作って、半分を普通のバターたっぷりのものにしていきます。
もう半分は…。抹茶粉を入れて少しほろ苦い味のものを。
緑色だから少し珍しく見えると思いますしね。
皆さん、お疲れ様です。
少し休憩しませんか?といって、試食してもらいますね。
お口に合うでしょうか…。
うまく行ったら、もう少し作っておきたいですね。
沢山作って、修道院の方がいらっしゃったときに食べていただければと思いますしね。
焼き上がったものは、大きなお皿にのせていきますよ。
お祭りの時にたくさん堪能してくださいね。
しっかりとおもてなしの準備が終わったら、今度はフレグ・ラストへおもてなしを行わないといけませんね。
修道院の方が来られるのを見届けたら、飛翔で修道院へ向かいますよ。
シル・ウィンディア
アイテムポケットに、ミモザアカシアとフリージアのお花と、色合い的なアクセントで白のアングレカム、淡いピンクの桜も持ち込み。
花冠用の資材や道具も持ち込み。
飾り付けで余ったお花があれば、村の人達に交渉して譲ってもらうようにお願い。
このあと、子供達と一緒に花冠を作りたいから少し頂けないかな?
ね、みんな花冠を作ってみない?
そういって、身に着けている【花冠の贈り物】を見せてみるよ。
こういう感じのものを作るけど一緒にやってみる?
そう言って子供達を誘うよ。
アイテムポケットから持ち込んだお花たちとこの村で分けていただいたお花を使って、花冠の作成教室開催っ♪
まずはお手本として、ゆっくりわかりやすく作っていくね。
わからないことがある子がいれば、そちらのフォローを。
歌いながら、みんなで楽しく作っていくよ。
出来たら…。
ね、みんな。修道院の方達にも見てもらおうか?
こんな素敵なものが出来たんだもん。
きっと喜んでくれるよっ♪
昼食後に修道院の人達がこちらに来たのを確認したら。
そっと離れて、飛翔で一気に修道院へ向かうよ。
伊吹・祈
僕はミモザと沈丁花の花枝と共に
春祭りと聞及び、遠方より訪ねました
手伝いをしても構わないでしょうか
愛想ない分、礼法と真心で接し
村人の製菓を手伝い乍
マドレーヌに紅茶浸す語源宛ら
擽るグルマンのフレーバー
焼上がる瞬間が最も好ましい訳は
――……ほら
歓ぶあなたが笑む記憶がまなうらに蘇る
鼻唄程度に讃美歌を捧げ修道院の話題を誘う
修道女様がいるのですか?姿は見かけなかったが
【アイテムポケット】で材料と調理器具を持込み
味見を手伝ってくれますか?
ほろ苦く薫るタルト・タタン
薔薇描いた林檎の出来映えは如何に
焼立てスポンジケーキを千切り織成すトライフル
さて、仕上げは薄切り苺の花?
其れとも砂糖漬け菫と食用花の花園? そう、子供達へ尋ね
修道女様が訪れたら是非食べて貰って
約束ですよと口角だけの笑み
午餐を終えた後、ミモザを修道女に見て欲しい旨の申し出を
ええ、先程話を伺ったもので
トライフルは日持ちしない故
是非とも今日召し上がって頂きたいのです
輝石の如く
胸を彩る経験だったから
ミモザの花が薫る程
魂は歓びと共にこの日へ還るのだろう
竜城・陸
両手いっぱいのミモザアカシアと
陽色のハリエニシダも共に携えて
皆と共に村へ
春を祝うためのお祭り
宜しければ手伝わせていただけないかな
子供たちと一緒に広場の飾り付けをするね
アーチを綺麗に飾り付けていこう
広場だけでなく皆の家々の軒にも飾れたらいいな
高いところに手が届かないなら
抱き上げてあげるから心配しないで
この黄色い花は飲み物に使うんだ
飾るにはちょっと棘が多いからね
とても不思議な、甘い香りでしょう?
よかったら飲み物も一緒に作ってみるかい
簡単だよ、砂糖や果実を煮詰めたシロップに
花びらを漬けて待つだけ
昼食の時、うまくできたか試し飲みしてみようか
広場を中心に村々を飾り付けて
折角のお祭りの準備、修道女様にも見せてあげて
案内してあげたら喜ぶよ、お飲み物も勧めてあげてほしいな
そう、内緒話みたいに子供たちに告げて
昼食時もご一緒できたら嬉しい
言葉を交わして、笑顔を交わして
穏やかな時間を過ごせたら
修道女たちの到着を待って
皆と共に【飛翔】で修道院へ
暖かな彼らの幸せがずっと続くよう
この軌跡をさらに先へ繋げないとね
●フルリ
春を腕いっぱいに抱いて、春いっぱいの村へ飛び込んでいくような心地がした。
夜明けという今日この日のめざめを迎えて、眩い陽色の春告げの花々、黄水仙が咲き群れる丘の頂へと至ったなら、眼下に見霽かすのは数多の花々が咲き溢れる春という季節のめざめ。純白と薄桃と桜にも似た可憐な姿で無数に咲き溢れる早咲きの林檎の花々にうずもれるような村の家屋達は暖かな杏色の屋根と明るいビスケット色の壁をそなえ、ココアブラウンの木枠で縁取られたその窓辺も香りの好い花々で華やかに彩られていて。
春の祭りは歓びの祭典――胸に萌した言の葉を声の音にしてみれば丘の麓に広がる村の光景を映した蒼穹と黄昏の眼差しは自ずと和らいで、頂から丘を下り始めたソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の足取りも一歩ごとに軽やかな拍を刻んでいく。両手に抱えるのは【アイテムポケット】にもたっぷり満たしてきたミモザアカシア、幾つものその品種のうち香料たる精油が採れるフサアカシアの花枝と、気品高い白と紫を咲かせるカトレアの花々。
春祭りの準備にひとびとが勤しむ村へ向かうのは、あの村の更なる先の修道院を根城としている淫魔『フレグ・ラスト』に魔法の香水で誑かされている修道女達を村へと誘い出すため。淫魔を斃せば元に戻るという彼女達ばかりでなく、
「修道女達は勿論、村の皆さんも幸せになって欲しいですね」
「はい! 私もう、あの村が愛おしくなってございます!!」
憧れの眼差しで見上げる相手にそんな言の葉とともに微笑みかけられれば色葉・しゃら(言の葉あつめ・g07788)も心から笑み返し、ぽふぽふ弾む狐尻尾とともに声音も足取りも弾ませた。仔狐の少年の腕のなかで弾むのは陽の雫めいて咲き溢れるミモザと華やかに淑やかに咲き誇る紅梅に白梅、そして陽の色の花弁が光そのままに透ける蝋梅の花々。優しい曇り空の瞳が飛びきり輝くのは皆で向かう花々に彩られた愛らしい家並みの村が西洋の絵物語に飛び込む心地にさせてくれるからで。
近づくほどに村から感じる花々の香り、焼きたてのパンや菓子の匂い。
「ああ、見るからに素敵な村だ。こう言ってはなんだが、建ち並ぶ家々までも美味しそうに見えてくるな」
「あっは、確かに美味そ! けどこれからエトヴァ達が更に美味しいもので彩ってくれるんデショ?」
春を香らせる陽色のミモザに柔らかな青や紫を咲かせるライラックが歩みのたびに腕のなかで弾み、行く手の村から感じる幸せの気配とともに香りの交響曲を奏でる様にエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)も蒼穹の瞳を緩めたなら、林檎の花々にうずもれる杏色の屋根とビスケット色の壁の家々がいっそうお菓子の家めいて見えてくる。蜜色の瞳を輝かせたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)が更なる期待の煌き乗せた眼差しをめぐらせれば、御期待あれ、と返るのは料理技能を磨きに磨いた蒼穹の天使の頼もしき笑み。
花々に満ちた村だった。
華やぎ溢れる村だった。
丘の麓へと辿りつけば広がるのは早咲きの林檎の花々に抱かれるような村、薄桃の蕾から純白を咲かせる桜にも似た花々は春風に林檎らしい甘酸っぱい花の香りを含ませ、振り仰げば春の青空に緑の葉とともに優しく映えた。春の彩を幾つも腕から溢れさせるよう、数多の花々を抱いて忙しなく村を行き交うひとびとの顔はその忙しなさも楽しむような歓びに満ちていて、絶え間なく弾ける笑声が村人達の心持ちを何よりも雄弁に物語る。
村の外からの客人の気配に振り返った村人が、
「旅のひとかな? 春祭りは明日だよ……って、わあ!? 何これ見たことない花!!」
「おはようございます、僕はヤコウ。ええ、日取りは存じています。僕達は祭りに先んじた春の使者です、なんて」
眩い陽光が数多の雫になってふわり溢れだしたかのようなミモザの花々に大きく目を瞠って感嘆の声をあげれば、心からの微笑み咲かせて腕いっぱいに抱えたミモザの奥から顔を覗かせたのは永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)。片目を瞑って告げた言の葉の茶目っ気も優しい甘さと春の陽だまり思わすパウダリーな花の香りとともに綻んで、
瞳を輝かせて駆け寄ってきた子供達に、さあどうぞ、と差し出せば、
「お花ふわふわ!」
「いいにおい!!」
陽光の珠めくミモザの花々と緑の羽根めくミモザの葉に彩られた花枝を抱いて頬を寄せた子供達にも次々咲く笑みの花。
新しい春を連れてきてくれたの? なんて弾む声音も咲けば、こちらも両腕いっぱいのミモザの奥から、
「そういうこと! 春祭りの準備だって聴いて、陽の雫を集めてきたよ。春祭りの彩りにとびきりの香りは如何?」
「このお花、おひさまのしずくなの!?」
「すごいすごーい! すてきな香り!!」
春の陽そのものの朗らかな笑みを覗かせたノスリが明るい声音で語れば子供達の笑みも声音もいっそう弾み、無垢な笑みが弾ける様に大人達も次々集まってくれば竜城・陸(蒼海番長・g01002)と伊吹・祈(アンヘル・g10846)が眼差し交わし、
「春を祝うためのお祭りなら飛びきり盛大に飾りたいだろうから、宜しければ準備を手伝わせていただけないかな」
「ええ、素敵な春祭りと聞き及び、遠方より訪ねてまいりました。僕達も皆さんの手伝いができればとても嬉しく」
柔らかな微笑みと物腰で申し出る陸も、袖口の黄金の羽根と青玉のカフリンクスを柔く煌かせて礼法どおりに一礼する祈も両腕いっぱいにミモザを抱いて、陽光の雫めいたミモザの合間からそれぞれに咲き零れさせる花々は、これもまた眩い陽色を咲き誇らせる針金雀児(ハリエニシダ)と、紅紫の裡から純白を咲き溢れさせる沈丁花。
「わー! アジョンの花だ!!」
「ダフネも持ってきてくれたの!?」
「いいねいいね、香料用の栽培はしてないからここらじゃあまり見ないし、祭りに使わせてもらえるなら嬉しいよ!!」
英名ではゴース、仏名ではアジョンと呼ばれる針金雀児は西ヨーロッパに広く自生しており、沈丁花は中国原産だが近縁の西洋沈丁花はダフネの名で親しまれ、この時代の樹木誌にも現代まで残る銅版画が添えられている、フランスのひとびとにも馴染みの花。ゆえにこの時代にはまだフランスに伝来していなかったミモザほどのインパクトはなかったものの、バニラともココナツとも思える飛びきり甘い香りを溢れさせる陸の針金雀枝にも、気品のある甘さと爽やかさを千里香の二つ名どおりに香り高く花開かせる祈の沈丁花にも、たちまち村の皆が歓声をあげるから、
「えへへ、華やかな春祭りになるといいよね! 私達にもめいっぱいお手伝い頑張らせて欲しいな!!」
私達の花もお祭りの彩りにしてね、と胸の奥からも光の花が咲く心地でアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が溌剌たる笑みとともに披露したのは両手いっぱいのミモザと純白の大輪を咲かせるアングレカム。
「真白なお星様のお花……!」
「これも見たことない花だ! いいのかい!? 準備の手があればあるほどありがたいからね、勿論大歓迎だよ!!」
18世紀末にマダガスカルで発見され、その報告が為されたのが1822年と伝えられる、甘やかで清涼感ある香りを持つこの花は当然この村のひとびとが初めて出逢う花で、気づけばあっと言う間にディアボロス達を取り囲むひとだかり。誰もが興味と好奇心いっぱいに瞳を輝かせ、屈託も物怖じもない笑顔を向けてくれる様に胸が弾むから、
「ねえねえ、お花とお兄ちゃん、なんて呼べばいいの?」
「この花はミモザ、そして俺はノスリだよ。皆の名前も教えてくれる?」
おひさまの雫めいた花々とそれを両腕いっぱいに抱えてきた旅人に興味津々な様子の女の子にくいくいと袖を引かれれば、ひときわ楽しげな笑みを咲かせたノスリは花ごと彼女を抱き上げて、花に包まれた苺色の髪の少女が『あたしコラリー!』と飛びきり無邪気な笑みを花開かせれば、次々と競うように子供達からも村人達からも名乗りが上がる。
幾つもの笑顔がそれぞれの名とともに胸に咲く様に心が躍る。
何時だって、何処だって、ひとの名前こそは最も根源的にして誰もが使える特別な魔法だ。
瞳を見交わす相手の名が胸に燈ればたちまち心の距離も縮まるもの、最初に名乗った黒銀の妖狐やたった今名乗った星斑の猛禽に倣って皆も名乗れば元よりおおらかな気質らしい村人達はいっそうの笑顔でディアボロス達を歓迎し、近隣の村々での持ち回りゆえに数年ぶりとなる春祭りの準備の様子を得意気に披露してくれた。
春の青空に純白や薄桃の花々が映える林檎の樹々ばかりでなく、
村の通りに、家々に、早咲きのスイートピーやセンティフォリアローズの花々が溢れて、窓辺には薔薇咲きのゼラニウムが鮮やかな真紅と華やかな香りを咲き誇らせている。窓と窓をふんわりと繋ぐ花々のリボンと見える飾りも薄桃や淡紫に陽色と春の彩り咲き誇らせる本物のスイートピーの花々や蔓葉を編んだもので、
「わわ、すごーいっ! 綺麗だね、可愛いね……!!」
「見た目だけじゃなく香りも最高っ! ますます心が躍っちゃうよね!!」
青空の瞳を輝かせたシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)も満面に笑みを咲かせ、春風が舞うたびに次々と大気に花開く瑞々しい香りにアンゼリカも天の光映す双眸を細めれば、輝くような赤や橙を咲かせるカーネーションで彩られ始めた村の広場が見えてくる。広場の奥に建つのが村の共同パン焼き窯の小屋だと一目で解ったのは勿論あたたかに溢れくる焼きたてのパンや菓子の香りゆえ、
「共同パン焼き窯の小屋までこんなに可愛いなんて……本当に素敵ですねっ! ますます気合が入っちゃいます!!」
「これは色々と焼き甲斐がありそうですね。フロンティアくんは何を?」
こちらの小屋もまた杏色の屋根にビスケット色の壁を持ち、ぽってりとした煙突がいっそう童話の世界めいた装いを見せる様にユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)が紅樺色の瞳も笑みも輝かせれば、腕まくりせんばかりの少女の意気込みに祈は淡く眦を緩め、
「マドレーヌを焼くつもりですっ! スタンダードなものと、抹茶風味のものを焼いてみようかと!」
「ああ、いいですね。とても素敵だ」
「この村の方々に抹茶は初めての味だろうし、春らしさも相俟ってきっと歓ばれるだろうな」
穏やかな問いかけに弾む笑みで応えが返れば、鷹揚に祈が頷いて、エトヴァが笑みを綻ばせた。
三人揃って小屋を覗いてみれば、明るいビスケット色の石組みが使い込まれて煤けた大きな石窯には煌々たる橙色の輝きが満ちて、船の櫂そのものの長いパドルで焼きたてのブリオッシュ達が取り出されたところ。卵とバターをたっぷり惜しみなく使ったそれはこの村ではきっと春祭りの御馳走のひとつ、薪の匂いとともに熱く芳醇なバターと小麦の香りが溢れだしたなら誰も彼もが満面に笑みを綻ばせ、焼き菓子をも思わすあたたかで甘やかな香りに祈の口唇からは吐息の笑みが零れて融ける。
紅茶に浸したマドレーヌを口に運んだ時の香りが幼き日々の記憶を呼び覚ますきっかけとなる小説の一場面、香りが特定の記憶と結びつくプルースト効果の語源となった20世紀の長編小説――フランス文学の最高傑作とも称されるその物語をふと祈が思い起こしたのは、あたたかに甘やかに鼻腔を擽ったグルマンノートが胸の裡に花を咲き綻ばせたがゆえ。
焼きたての菓子の香りに咲いた想い出は、無垢で幼い少女が、まだ雛であった頃の燕の乙女が咲かせた歓喜。
――……目蓋を閉じれば、ほら、
――歓ぶあなたが笑む記憶が、まなうらに蘇る。
●プレパラシオン
丘のなだらかな斜面を彩っていた眩い陽色の黄水仙、陽光の雫めいて両手いっぱいに咲き零れるミモザ。
陽の輝きを地に咲かせるようなそれらに負けず劣らず鮮やかな陽色を咲かせる針金雀児は、その輝くような黄金の彩ゆえにケルト神話では太陽神の象徴とされている。故郷たる幻想竜域にも数多咲き溢れていた花、槍の名手として知られる光の神の象徴たる花の扱いは陸にとっては慣れたもの、針金雀児の名のとおり鋭い棘持つそれらは飾りつけには不向きだろうから、
「皆がアジョンって呼んでるこの花、飲み物にしてみるね。飲んだことあるかな?」
「ええ!? 飲んだことない!!」
「飲みたい飲みたいー!!」
村の子供達が摘んできた野苺を綺麗に洗って砂糖と清水と一緒に煮込んだシロップに、棘の合間から丁寧に摘み取った眩い陽色の蝶を思わす花々をこれまた綺麗に洗ってたっぷり降りそそがせた。一晩漬け込むのが理想だけれど、今の朝のうちから漬け込んでおけばきっと昼には飛びきり甘い花の香りと野苺の甘酸っぱさ融け合うコーディアルとして使えるはず。
「そんな使い方もあるんだ? 好いねぇ、昼の楽しみが増えた!」
「冷たい水で割ると最高だよ、皆歓んでくれるといいな」
甘酸っぱく香るシロップに飛びきり甘い花の雨を降らせてはしゃいでいた子供達、知らない飲み物へ弾けんばかりの期待を募らせていた小さな友人達と一緒にノスリの笑みも弾ければ、黎明の眼差しをひときわ緩めた陸の笑みも深まるばかり。眩い陽色に輝く針金雀児の彩と香りは嘗て花冠のフィオナを奪還する前に訪れた夏緑の森をも思い起こさせた。
何処かへ還りたいと思うのに、帰るところがない――。
あの頃には星斑の猛禽の胸を焦がすようだった望郷はやさしいぬくもりに融けたから、蒼海の竜のコーディアルの仕込みが一段落すれば憂いひとつなく磊落に笑ってノスリが陸と子供達をいざなうのは村の飾りつけ。
「力仕事が必要ならお任せあれ、コラリー達が高いところに花を飾りたいなら肩車もしてあげる!」
「肩車ー! いちばんにコラリーを肩車してね、ノスリお兄ちゃん!!」
「まずは広場に花々のアーチを作ろうか、それから皆の家々の軒先も飾って。必要な留め具とかもすぐ作れると思うから」
「えっ、何このリク兄ちゃんの道具、かっこいい!!」
村人達に気さくに声をかけ子供達に悪戯っぽく片目を瞑って見せれば苺色の髪のコラリーが真っ先に飛びついてきて、柔く微笑みながら陸が手に馴染んだ工具を取り出せば、ユベールと名乗った少年や子供達ばかりでなくノスリも軽く目を瞠る。
この身がレジェンドウィザードであることは以前も今も変わりないものの、
「それらしい技をお見せしたことはなかったけれど、初めてノスリさん達と縁を結んだ頃、俺は戦闘工兵でもあってね」
「――言われてみれば! あははぁ、まさしく昔取った杵柄ってやつだ!」
改めて己の軌跡を陸が言の葉で辿れば返るのは闊達に弾ける笑み。
戦闘工兵としての力を手放した今でも『学園』の農作業などでこの手の作業は蒼海の竜の日常の一部、ゆえに手先の器用な星斑の猛禽と協力すれば村の広場の入口に堂々たるアーチの骨組みが御目見えするのもあっという間のことで、
「沈丁花も飾りに使ってもらえればと思いましたが……そう言えば沈丁花には毒性があるのだったか」
「枝はこのリボンでくるんでしまって、念のために子供達には触らないでもらう――といった感じなら大丈夫でしょうか」
堂々として、それでいて優美なアーチが薔薇やスイートピーで飾られていく様に青玉の双眸を細めた祈がぽつりと零せば、陽光の雫めくミモザの明るさを映して春菫の彩を燈す眼差しを和らげたヤコウが取り出して見せたのは、様々な彩に柔らかく煌くシルクリボン。いいですね、と微かに口角を上げた祈は彼とともに手早く小分けにした沈丁花を丁寧にリボンでくるみ、飾りつけを担う蒼海の竜と星斑の猛禽へと託した。
庭木として人気のある花木なれども、樹液などに触れれば皮膚炎を起こす可能性もあることを失念してしまっていたのは、己がパラドクス以外には害されぬディアボロスとして覚醒し、その在りかたに馴染みつつあるからか。子供達が傷つく危険を排除すれば安堵の吐息を零し、この上は飛びきりの菓子で挽回を、と静かに意気込む祈の様子に微笑んだなら、その微笑みをひときわあでやかに花開かせたヤコウが呼びかけるのは村の少女達や娘達、
「会場を彩る他に、花冠やコサージュ作りも如何でしょう?」
「ええっ!? そんなのありなのヤコウ!? ぜひぜひ!!」
途端にきゃあと女性陣の歓声が上がれば、すかさず子供達を手招きしたのはシルとアンゼリカ。
春の陽射し降る広場に据えた作業テーブルは村の花々と新宿島から持ち込んだ花々でたっぷり彩って、
「ね、こういう感じの花冠を作るけど、一緒にやってみる?」
「美しさを贅沢に収めた一品、みんなで作っちゃおうよ!!」
「わあ! 綺麗……!!」
「作る作る! 教えてシルお姉ちゃん、アンゼリカお姉ちゃん!!」
相棒同士で顔を見合わせ、同時に取り出して見せたのは花冠作りの腕前ゆえにその名で呼ばれた花冠のフィオナが仲間達に編んでくれた明星の絆を咲かせる花冠。薔薇とトルコキキョウとアングレカムとブルースターで編まれた花冠は今も瑞々しく色鮮やかで、子供達の眼を一斉に惹きつけ、興味津々に弾む声音を咲き誇らせた。
村の花々とともにテーブルに咲き溢れるのは皆で新宿島から持ち込んだ陽色のミモザに、アンゼリカが携えてきた純白の星咲くアングレカム、そしてシルが携えてきたフリージア。正史にて南アフリカでこの花の原種が発見されるのはまだ数十年も先のこと、原種に近く特に香りの好い白や黄、見目が華やかな赤や紫の花々をテーブルに咲かせれば初めて見る花々に皆からひときわ大きな歓声が咲けばシルの胸にも歓びの光が花開くから、
――花冠の作成教室、はじまりはじまり!
「ふふ。美しさを贅沢に収めた一品とは、アンゼリカも粋な言い回しをしますね」
「確かに、飛びきりの贅沢にございますね……!!」
こちらも正史ではまだ欧州には知られていないカトレア、それも現代で品種改良され凛とした貴婦人のごとき白と紫の気品高い花姿に甘く豊かな芳香を咲かせる花々で乙女達の眼差しを惹きつけるソレイユが彼女達に勧めるコサージュ作りもきっと美しさを贅沢に収めた一品を創りだすはず。力いっぱい頷いたしゃらが持ち込んだ紅白の梅花に陽の輝きを透かす蝋梅も勿論この村のひとびとにとっては初めて出逢う花々で、
「私の故郷では春告草や匂草とも呼ばれ、香りを嗅ぐと『ああ春が来る』と喜びが湧く花なのでございます」
「わあ、初めての香りだけど何だかわかる……早春! って感じの香り!!」
冬と春のあわいの風にひんやり清らな甘さを含ませるような東洋の春告げ、百花のさきがけを仔狐の少年が語れば、目蓋を閉じて梅の香りを胸いっぱいに満たしていた少女、ニノンが輝くような笑みをぱっと咲かせ、
「梅の花には美しい異名が幾つもあるのですね」
「洋蘭の女王――カトレアの二つ名も極上の美称ですよね」
この断頭革命グランダルメを出自とするゆえに今も古き日本の文化にはまだ造詣の浅いソレイユも興味深く相槌を打てば、柔らかに笑みを綻ばせたヤコウが気高き貴婦人のごときカトレアをすいと掲げて笑みを深めてみせたから、
「なんと! そんなにぴったりな別称が……!!」
「あはは、いいわねとってもロマンティック!!」
思わずしゃらは目を瞠り、金の髪を躍らせたフラヴィという娘がはしゃぐように手を叩く。
話に花が咲けば数多の花々で手許に花冠やコサージュを咲かせていく作業も皆で笑みの花を咲かせながら進んでいくもの、華やかな歓声と賑やかな笑声が花々のテーブルから林檎の花々に彩られた春の青空へ咲きゆく様を聴きながら、先程仕込んだタルト生地を寝かせる間に祈が飛びきり甘酸っぱい香りを咲かせるのは砂糖とバターで煮詰める林檎。
美しい櫛型に切り揃えた林檎を決して型崩れせぬよう煮詰めていきながら、軽い鼻歌でなぞってみせるのは中世の時代から現代まで連綿と歌い継がれてきた聖歌の一節、母親がブリオッシュを焼くのを手伝っていたそばかすの少年ケヴィンが、
「あっ、聖歌だ! 僕も歌えるよ、修道女様が教えてくれたから!」
「修道女様がいらっしゃるのですか? この村では姿を見かけなかった気がするが……」
嬉しげに声を弾ませる様に軽く青玉の双眸を瞠って祈が不思議がってみせたのは、修道女の話題を自然に繋ぐため。
「村から少し離れた山間に修道院があるんだよ。この村が春祭りの会場になる時には手伝いに来てくださるんだけど……」
今回はまだ来てくださってないねぇ、と少年ケヴィンの母親が応えれば、
「来てくださるといいですね、修道女の方々! 私のマドレーヌも味見していただけたらと思いますし!」
「この緑ので焼くマドレーヌ? ユーフェミアさんのこの緑のって何なの??」
「抹茶って言います。簡単に説明すると、特別な緑茶を挽いて粉にしたものですよっ!」
仲間達が花冠やコサージュ作りに励むテーブルにも届くよう軽く声を弾ませたのはユーフェミア。
この村の普段の生活では使われない、ハレの日ならではの真白な小麦粉と抹茶を合わせればユーフェミアの手許に咲くのは優しい春緑の彩、綺麗に溶きほぐして蜂蜜や砂糖を合わせた卵に春緑の粉を加えたなら抹茶の緑は鮮やかに艶めいて、黄金に煌く溶かしバターを注げば熱いバターの香りとともに抹茶の香りも花開く。
西洋に初めて伝来した茶は緑茶であったが広まることなく紅茶文化が花開いたため、抹茶の味は当然この時代のフランス、それも都市から離れた村のひとびとにとっては未知のもの。パン焼き窯の余熱で焼くらしいキッシュを量産している同年代の少女セリーヌに訊かれれば東洋の神秘を簡単に明かし、この時代には既に存在するオーソドックスなマドレーヌ生地と、村のひとびとには未知の風味を加えた抹茶マドレーヌ生地を其々の型に注いでいく。焼き上げるのは暫く生地を休ませてから。
「そうか、修道女の方々がいらっしゃるなら俺の菓子も味見していただきたいな」
「絶対びっくりするよ! 修道女様達!!」
「こんなおっきなケーキ、初めてに決まってるもん!!」
ふわふわに泡立てたたっぷりの全卵(更に卵黄追加)には既に砂糖も小麦粉も溶かしバターを加えられ、エトヴァの手から巨大なリングケーキ型に注がれるのを待つばかり。業務用特大サイズのリングケーキ型は村人達の度肝を抜くほど大きくて、それゆえにトルタミモザのスポンジ生地を作るだけでも大仕事。勿論充電式ハンドブレンダーを持ち込むという手もあったが敢えて普通の泡立て器での生地作りに挑んだのは、手が疲れるから交代で手伝って欲しい――という建前で村人達や子供達と一緒に菓子作りを楽しみたかったから。
おかげで泡立てを手伝ってくれた村人達や子供達は生地を注がれた特大リング型の行く末を期待いっぱいに見守っている。
改めて共同パン焼き窯を覗けば、薪が爆ぜる心地好い音とともに燃える炎が眩い橙色の輝きで窯の裡を満たしていて、
「これは……炎の火力を調整するというより、ケーキ型の位置を調整していくべきかな」
「それがいいでしょうね。家電のオーブンは勿論、薪ストーブのオーブンなどとも随分と使い勝手が違う」
大きな石窯で数多のパンや菓子が一緒に焼かれる様を観察すればこの場の誰より優れた料理技能でエトヴァは即座に要領を掴み、日頃から製菓に親しんでいる祈もすぐに得心して頷いた。これだけ大きな窯となると、型を置く位置を変えつつ受ける熱を調整していくほうが火力そのものを変化させるより簡単に調整が利きそうだ。
型に飴めく煮汁を注げば艶やかに仕上げた林檎を花咲くよう美しく隙間なく型に敷き詰めて、
「あれ? 祈兄ちゃんタルト逆にしちゃってない!?」
「大丈夫です。こうすることで林檎の菓子の最高峰とも呼ばれる、極上の品が焼き上がる」
綺麗に伸ばしたタルト生地を重ねれば、そばかすの少年ケヴィンが目を丸くしたけれど、問題ないと祈が揺るぎなく少年に請け合ったのは、彼が焼き上げる菓子が正史ではまだこの時代には生まれていない品であるがゆえ。
この時空よりも少し未来、19世紀後半に誕生するタルト・タタンを――この村のひとびとへの春の贈り物に。
村の共同のパン焼き窯からひときわ美味しそうな香りが溢れだしてきたなら、誰もの心が更に浮き立っていくかのよう。
眩く愛らしいおひさまの雫、ミモザの花々に触れるたび皆が優しい笑みを綻ばせるから、ひとびとの笑みに春の陽だまりを見る想いでヤコウの笑みも綻んでいくばかり。薄桃色が咲き溢れるスイートピーの花々をふうわり縁取るよう陽色のミモザで彩り、萌黄色のリボンで纏めて。瞬きも忘れてヤコウの手許に見入っていた萌黄色の瞳の女の子の髪へ飾れば、ほら、
あなただけの、特別な花飾り。
「春風にリボンが翻るたびにきっと、花々の香りをいっそうやわらかく遊ばせてくれますよ」
「わあ、ありがとう! ヤコウお兄ちゃん!!」
優しく広場に躍った春風が萌黄色のリボンを躍らせ瞳を輝かせ、眩いくらい嬉しげな笑みを繕い屋の妖狐へ見せてくれる。
軽やかに跳ねるような足取りで春風の妖精みたい広場へ駆け出した女の子を見れば、
「美しいりぼんが春風に翻る様も華やかでございますね……!」
「ええ、こうなるとある程度の長さが欲しいですよね。私達にも使わせてもらえますか? ヤコウ」
「今日も綺麗だよねヤコウさんが持ってきたリボン! こっちにも欲しいっ!!」
「だよね! 折角だもん、みんなに飛びきりの花冠を作って欲しいから!!」
春風と戯れるようなリボンの軌跡にしゃらが狐尻尾をぴょこり弾ませ、翻るリボンにも弾む尻尾にも頬を緩めたソレイユが訊いてみたなら、満面に笑みを咲かせたシルが大きく手を振って、柔らかな桃色の八重を咲かせるセンティフォリアローズと真紅の薔薇咲きゼラニウムに純白のアングレカムを合わせ、陽色のミモザを鏤めた花冠を掲げたアンゼリカも声を弾ませれば返る応えは、勿論ですとも、と飛びきり楽しげに綻ぶ笑みで。
透明な甘さをひんやり香らせる様が高雅な薄桃の紅梅を手に取った仔狐の少年が、
「気品のある香りでしょう。修道院の皆さまにも、ぜひ楽しんでいただきとうございます」
修道女の話をさりげなく口にしながら合わせるのは白と紫が気品高く香るカトレアの花々、高貴な貴婦人を可憐な姫君達が慕うよう仕立てたコサージュを真珠色のリボンで纏めたなら、僭越ながら、と飾るのは明るい栗色に艶めく少女ニノンの髪。
「とても雅でございますよ」
「そんなの初めて言われた! ありがとう、しゃら!!」
柔らかなしゃらの微笑みも言の葉も心からのもの、瑞々しい笑みが少女ニノンに咲く様にソレイユも笑みを綻ばせ、どうぞ皆さんに見せてらしてください、と言い添えれば、うん、と声を弾ませた少女も軽やかに跳ねるような足取りで駆けていく。胸でも髪でも少女達を貴婦人のごとく美しく魅せるコサージュが次々と生まれていく様に心を躍らせつつ、ソレイユも貴婦人めいて凛と咲く白と紫のカトレアを手にすれば眩い陽色のミモザと清楚で可憐な白梅で彩って、鮮やかな薔薇色のリボンで纏めればそっと挿すのは艶やかな黒髪を持つ少女のこめかみ。
「さあどうぞ、アネット。貴女が大人になって素敵な貴婦人になる様が今から見えるようですよ」
「わああ、まっすぐ言われると照れちゃう! ありがとうね、ソレイユお兄ちゃん!!」
歓び輝く笑みを咲かせれば皆に見せてくると少女アネットの爪先も弾んで、
おしゃまな未来の貴婦人達が足取り軽やかに村を歩めば、きっと村のあちこちに甘い香りと満開の笑顔が満ちるはず。
皆で語り合うたび笑い合うたび胸にも花の香りがいっぱいになっていく。
たっぷりテーブルに咲かせたこの村の花々と新宿島から持ち込んだ花々で編む花冠は、子供達でも扱い易いようワイヤーでなく麻糸を使うもの。春の青空色のフリージアに輝く純白のアングレカムを合わせて、一緒に持ち込んだ薄桃色の桜と陽色のミモザの花々を軽やかに鏤めていくよう編み込んでいけば、シルの手許にゆっくりと、明るく華やかな春が咲いていく。
「みんな、わからないことがあればすぐ訊いてね! 慣れればどんどん編めちゃうからっ♪」
「うん! みんなならきっとすぐ上手くなるよ、大丈夫っ!!」
「はーい! この薔薇どうすれば上手く編めるの? シルお姉ちゃん!」
「ねえねえアンゼリカお姉ちゃん、このスイートピーの蔓、そのまま使っていい?」
敢えてシルがゆっくりと編んで見せたのは皆にお手本代わりの作業を見せるため。不安げに見上げてくる少女ロゼールにはミモザの細枝を通して花冠に挿し込むといいよとアドバイスして、空色に咲くスイートピーの蔓の巧い使い方を見出した少女ソフィアはナイスアイディアだよと満開に笑みを咲かせたアンゼリカが頭を撫でて。
皆の手つきが淀みなく流れるよう花々を編めるようになったなら、アンゼリカは純白の星を咲かせるアングレカムを改めて手に取った。己にとっては眩い歓喜、輝く約束、希望の未来を象徴する花。眼にするたびに、触れるたびに、香るたびに心が躍らずにはいられないから、
――空の彼方へどこまでも、
――この翼広げて飛び立っていくよ。
花冠を編みながら自然と口遊むのは、希望の未来を拓いて生まれた歌、約束の比翼。
良く識る歌が耳に届けば、ふふっ、と笑みを零したシルの歌声が重なって、二人で一曲歌い終えたなら眼差しが向かうのは陽光の雫めいたミモザの花々と、春の青空。今度も二人重ねて咲き誇る歌声が織り成す曲は、
――太陽も飛び起きるほど声を上げて、
――見たことのない朝を奏でるよ♪
希望の輝きを歌い上げる、ルーチェ・ソラーレ!!
明るい春色の薔薇やスイートピー達で彩ったアーチにはおひさまの雫めいたミモザも編み込んで、クリスマスのガーランド宜しく連ねて整えたミモザを家々の軒先へと飾っていく際には、ノスリに肩車された幼いコラリー達や、陸に抱き上げられた少年ユベール達が大はしゃぎで大活躍。千里香の二つ名どおり遠くまで香る沈丁花は宿屋や村長の館の屋根など子供達がそう簡単に触れられないところを彩って、陸とノスリで二つ割りに加工したワイン樽をプランターがわりに甘くスパイシーに香る鮮やかな赤や橙を咲かせるカーネーションを植え込んだなら、洒落たカーネーションのプランターで広場を縁取り終えたそのときに、仲間達の歌声が咲いた。
「わあ! お歌きれいね、楽しいね!」
「あっは、踊りとかお歌とか、好き?」
「ふふ、みんな訊くまでもないみたいだよ。ね?」
「「だいすきー!!」」
肩車されたままだったコラリーが手足をぱたぱたさせてはしゃぐ様に相好を崩したノスリの言葉に応えたのはひときわ柔く微笑んだ陸、だってユベールは勿論、子供達みんながうずうずしている。春祭りのためにあらかじめ準備されていたのだろう楽器が大人達の手で幾つも広場へ運び出されてくる様に、
「ヴィエル・ア・ルですか……!!」
「いわゆるハーディ・ガーディ、ドレーライアーか……!!」
花々のコサージュ作りが一段落したソレイユが輝く笑み咲かせ、焼き上げたケーキが冷めるのを待っていたエトヴァも興味津々に双眸を瞠った。現れた楽器達はギターやリュートを思わせるぽってりとした胴に張られた弦をハンドル操作する木製のホイールで奏でる、機械仕掛けのヴァイオリンとも呼べる弦楽器。
それぞれ識る名で楽器を呼んだ音楽家達は勿論持ち前の楽才や演奏技能を活かすべく奏者を申し出で、手に馴染む愛器とは全く異なる手応えの、それでいて楽しい楽器をシルたちの歌声に合わせて歌わせて。何処か懐かしく楽しげな弦楽器の音色が広場へ流れだしたなら、
「お膳立てはばっちりじゃないの! それじゃあ一緒に踊ってくれる? コラリー、みんなも!!」
「うん! ノスリお兄ちゃん、みんなも!!」
飛びきり明るい笑みと声音で星斑の猛禽が伸べた手に飛びついてくる小さな女の子、幼いレディばかりではなく、子供達も大人達もみんな笑顔で音色に乗って、手に手をとれば、さあくるり! 花冠やコサージュで色とりどりのリボンや花の香りを舞わせる少女や乙女達は勿論、彼女達の手を取る男性達も、長年連れ添った夫婦達も、老いも若きもこの村で暮らすみんなが楽しげに踊りだすものだから、
「うわー! 歌いたいけど踊りたいっ! どうしようミア!!」
「どっちもやっちゃおうよ、アンゼリカ!!」
限りなくうずうずしつつも一瞬躊躇ったアンゼリカの背を欲張りプランで思いきっりユーフェミアが背を押して、軽やかに駆け出していく少女達を眩しげに見遣りつつ、
「僕も一緒に歌わせてもらえますか? ウィンディアくん」
「もう覚えてくれたの!? うん、勿論大歓迎っ!!」
「俺も歌わせてもらおうかな、この楽器も楽しそうだけど」
桁違いの歌唱技能を備えた祈が申し出たなら満開の笑みで応えたシルがいっそう明るく輝くような声音で太陽と希望の歌を咲き誇らせて、タンブランと呼ばれる飛びきり胴の深いフィールドドラムで軽くリズムを取りつつ陸も、二人の歌声や仲間の音色に響き合わせるよう歌声を花開かせて、
歌声も旋律も春の青空へと咲き誇れば、惜しむよう微笑んだヤコウが年若い同族を促した。
「これは僕達も見逃すわけにはいきませんね。ある意味これが本番の春祭りとも言えますから」
「……!! はい、本番の春祭りでございますね……!!」
自分達の帰還によって、拝斥力で消えてしまうものがある。だからこそある意味では今こそが本番だ。
皆へ贈ったものが消えてしまうとしても、皆が自分達のことを忘れてしまうとしても、それでも楽しい気持ちは皆の胸裡に咲き続けるから。今自分が楽しいと想う気持ちも記憶も、自分達は確りと抱いていくから。こちらを見て笑みを咲かせた少女ニノンとともに輪に加わるべく、笑顔でしゃらも駆け出した。
仲間達の歌声も演奏も皆の笑顔と踊りの輪もいっそう明るく楽しく花開く様にノスリはますます上機嫌に笑って、無邪気な子供達や可憐なレディ達のみならず、立派な太鼓腹をゆすって陽気に笑う村長のガストンの手もとり、春の花々とその香りに彩られた広場のまんなかでひときわ大きくくるり。立派な太鼓腹に振り回されるようにしながらも村長が華麗にくるりと回る様に皆から飛びきり楽しげな歓声と笑声が咲けば、彼と顔を見合わせ弾けるように笑い合い、まだまだめぐる輪のなかへ!
――楽しい気持ちは、
――どうしたって止められないものだから。
●コパン
眩い歓喜、輝く幸福。
花々に彩られた広場で明るく華やかに咲き誇った歌声と演奏に皆の笑声、踊りの輪。
誰もの胸を飛びきり弾ませたそれが一段落ついても、村には明るく弾けるような歓声と笑声が溢れていた。
春の青空に映える純白と薄桃を咲かせる大きな林檎の樹には今にも蝶となって羽ばたきそうな色とりどりのスイートピーに彩られたブランコが、皆を空の旅へ御招待とばかりに大きく揺れる。ノスリと陸が設えたブランコは大人気で、
「どう? 気に入ってくれた?」
「たのしいー! うれしいー! すっごいしあわせー1!」
優しく背を押してもらいつつ自分でも張り切ってブランコを漕ぐコラリーの笑声が林檎の花々越しに青空へ咲き誇り、
「修道女サマ達にも見せたいな、村に来たら案内してあげてね。大人達だって絶対楽しいから」
「きっと歓ぶよ。そろそろ俺の飲み物もできあがるから、お勧めしてあげてね」
「はーい! しっかり案内する!!」
「うん、一緒に飲みたい!!」
心から楽しげな笑みで誘い文句を口にしたノスリにも、内緒の宝物を見せてあげてと言うように語った陸にも、子供達から返るのは屈託のないまっすぐ明るい笑顔と応え。改めて弾ける笑声が咲いた林檎の樹下の様子にくすくすと笑みを零して、
金の髪のフラヴィが、隣村に好きなひとがいるの、と黒銀の妖狐にそっと秘密を明かす。
「髪の色は違うけど、あなたと同じ色の瞳なの、ヤコウ。明日の春祭りできっと逢えると思うんだけど……」
「それじゃあ、好きなひとの瞳の色のリボンで纏めたミニブーケを作ってみますか? ときめきも、御利益もあるかも」
――告白する勇気を持てるかも、なんて。
花々に彩られたテーブルの上で額を寄せ合っての内緒話、茶目っ気を覗かせつつも真摯な心持ちで、先程己で称したとおり春の使者らしく恋する乙女の背を押してやったなら、真剣な顔つきで頷き返す乙女が明るい桃色のセンティフォリアローズを手に取った。早咲きの春薔薇達を、柔らかな春の夜明けを咲かせるスイートピー達をまあるく束ねて、春菫の彩りのリボンで丁寧に束ねて、ありがとう、と花開いた、恥じらいながらも明日の幸せを予感させる笑み。
恋バナの予感を察知すれば己も恋する乙女たるユーフェミアもそわそわしてしまうけれど、今為すべきことはパン焼き窯で完成のときを迎えたマドレーヌ達を青空のもとへ連れ出してあげること!!
「さあ、私のマドレーヌも焼き上がりましたよっ! 皆さんも味見してくださいねっ!!」
「美しい緑が咲きましたね。僕のほうにはほら、林檎の薔薇がこのとおり」
船の櫂そのもののパドルで窯から引き出した焼き型にはこんがり、狐色のマドレーヌ達と濃い春緑のマドレーヌ達が綺麗に焼き上がり、熱く甘く溢れる香りと彼女の菓子の出来栄えに微かに笑んだ祈は、確りと冷えた己の型の周りを軽く湯で温め、大皿に空けてみた。現れたのは勿論、林檎の果皮由来の薔薇色に明るい琥珀色を重ねたようなキャラメリゼに彩られ、林檎が見事に美しい薔薇の花を咲き誇らせた大輪のタルト・タタン!!
然れど村のひとびとに歓声を湧かせた林檎菓子の最高峰だけでは終わらずに、別途焼いておいたスポンジケーキを千切って織り成していくのは、ケーキやカスタードにフルーツなどで美味なる楽園の層を描き出すトライフル。
「さて、仕上げは薄切り苺の花にしましょうか? 其れとも砂糖漬け菫とエディブルフラワーの花園?」
「「どっちもー!!」」
子供達へ訊ねれば返るのは当然と言えば当然の応え、春らしい薄桃や空色のスイートアリッサムや砂糖結晶がきらめく菫の花園に瑞々しい苺をスライスして花開かせれば、口角を上げるだけの笑みで祈がそっと告げるのは。
――修道女様が訪れたら是非食べてもらって、約束ですよ。
大切な大切な、約束の言の葉。
とても大切な約束だよなと密やかに微笑して、エトヴァが仕上げにかかるのは勿論、特大のトルタミモザ。
ふんわり焼き上がった大きな大きなリングケーキを彩るのは、檸檬風味のカスタードに軽やかにホイップした生クリームを合わせ、念のため加熱して酒精を飛ばしたオレンジリキュールと陽色の宝石めいて煌くパイナップルを刻んで混ぜた飛びきり風味豊かで甘酸っぱいクリーム。水平にスライスしたケーキの間にたっぷり挟み、外側にもたっぷりと彩って、
最後に取り出したのは春をめいっぱい詰め込んだ秘密の硝子瓶。
陽色のミモザの花々を思わすのはふわふわスポンジケーキの細かいダイスカット、たっぷりと降らせればたちまちケーキは春色のミモザの花々に包み込まれたように彩られ、次いで硝子瓶から現れる煌きは、フランスでも馴染みの花、ライラックの砂糖漬け。華やかな赤の薔薇の花弁、艶やかな紫と爽やかな青のパンジーの花弁と桁違いのアート技能が心に咲かせるままにエディブル―フラワーを鏤めて、軽やかに金箔を散らせば、
さながら、陽光きらめくミモザの野に蝶々が群れ飛ぶよう。
美しいリングケーキのトルタミモザはまるでミモザ咲く春そのものを花冠にしたかのようで、光が花開くような仕上がりに皆から湧きあがった歓声も明るい光が爆ぜるかのごとし。心からの笑みが綻ぶままにエトヴァがナイフを手に取って、
「手伝いの御礼に、皆さんで味見をしていただけるだろうか」
「「待って……!!」」
飛びきり大きな花冠のトルタミモザを切り分けんとすれば、村のひとびとから一斉に上がったのは待ったの声。
瞳を見交わすひとびとの顔には『こんなに素敵なケーキの味見を春祭り準備の合間に済ませちゃうのはもったいない!』と書かれていて、村人達を代表するように村長のガストンが朗らかな笑顔で申し出る。
「折角ですし、皆様も昼餉を御一緒にいかがですかな? 菓子の味見は食後のデセールとして楽しませていただければ」
――こんなに手伝ってくれたんだから、
――是非とも皆にお昼を御馳走させて!!
村長の言葉に大きく頷いた村人達が昼餉を振舞ってくれるというのなら、勿論こちらも諸手をあげて大歓迎!!
明るく晴れ渡る春の青空のもと、
皆で和気藹々と準備に勤しむのはなんて楽しいひとときなのだろう。
春祭りの準備は勿論、それが昼餉の準備でも!!
村でもひときわ大きな林檎の樹が咲かせる花々に彩られた村長の館の庭に突如現れた冷たい煌きは、【アイスクラフト】でエトヴァが出現させた巨大な氷の立方体。館の地下にあるワインカーブの一角を皆へ振舞った後のトルタミモザを入れておく即席保冷庫にさせてもらうために用意したそれを、
「今こそ両断の技能が活きるときっ! 板みたいに切ればいいんだよね、エトヴァ!?」
「アンゼリカさんならお手の物だよな、運びやすい大きさにお願いできるだろうか」
「それじゃあそのあと、氷を削らせてもらうね。昼餉の席で飛びきり冷たいコーディアルの水割りを振舞わせてもらうよ」
黄金に彩られた大剣を手に思いきり跳躍したアンゼリカが高みまで究めた両断の技能が冴え渡るままに両断したなら、氷が出現した際にも魔法としか思えぬ光景に歓声を咲かせた村人達や子供達が更なる歓声をあげて、自らも黒き刀身に魔力の光が奔る高周波ブレードで滑らかに氷を切り出していたエトヴァが顔を綻ばせれば、錫製の水差しを抱いた陸も魔術文字きらめく銀の短剣を手にして穏やかな笑みで巨大な氷の立方体を振り仰いだ。春の陽射しを眩く弾く、冷たいきらめき。
即席冷蔵庫を設えてもまだまだ余るだろうそれを、ただ溶けるままにしておくのはもったいない。
聴こえてくる歓声や笑声に眦を緩めつつ、パン焼き窯の小屋と広場のテーブルをヤコウは何度も往復。折角村共同の大きなパン焼き窯に火を入れるのだから、と窯の熱は徹底的に利用され、仔羊肉のロティなどの焼き料理ばかりでなく、窯の隅へと置かれた鍋ではスープなども窯の熱でじっくりコトコト煮込まれていて、
「どれもこれも美味しそうで、とても楽しみですね……!」
「ほんとだよねっ♪ そのお鍋もとっても美味しそうな匂い……!!」
「あはは、街のひとやお貴族様が食べるような豪華な料理はないけど、なかなかのものよ、うちの村のごはんも!」
厚手の鍋つかみを借りてヤコウが運ぶ大鍋から溢れるのはあたたかに食欲を誘う春の香り。旬のグリーンピースがふっくら香るのは甘く炒めた新たまねぎと燻製の香り豊かな塩漬け豚肉と一緒に煮込まれた素朴ながらも飛びきりの美味を予感させるそのスープを覗き、皿運びを手伝うシルがあたたかな香りで胸いっぱいにして笑みを咲かせれば、金髪のフラヴィも嬉しげに笑みと声音を弾ませる。
揃って向かうのは先程まで花冠の作成教室でコサージュの作成教室だった広場のテーブル達。
春の陽射しが明るく跳ねる真白なリネンのテーブルクロスで覆われた食卓には即席冷蔵庫の準備を手早く終えたエトヴァが眩い陽色を咲き溢れさせるミモザの花々を飾り付けていて、
「修道女さんにも見てもらいたいな。この花も香りも、初めてのものだろうから」
「だよね! きっと歓ぶよ、こんな素敵な春の花に出逢えるなんて……ってね!」
蒼穹の天使がさりげなく口にした言葉に子供達も口々に声を弾ませ、
「ふふ、目に浮かぶようです。おひさまの雫みたいな花々だから、陽の耀ううちに是非ご覧いただきたいですね」
「それがいっとう綺麗だろうしねぇ、うん、お昼を食べたら若いもんに修道院まで呼びにいってもらうとするよ」
ごく自然にヤコウが話を振れば、彼がテーブルに乗せた鍋から早速あたたかな春のスープを皿によそい始めた農婦が大いに納得した面持ちで確りと頷いた。ほっと安堵の響きを滲ませた声音で言を継いだのは、新宿島から持ち込んだ、この時代では到底庶民の手は届かない透明な硝子の器に美しい層を描いたトライフルを運んでいた祈。
「ええ、そうしていただけると嬉しいですね。このトライフルを召し上がっていただきたいが、日持ちしないものだから」
「林檎のは結構保ちそうだけど、こっちのは確かにそんな感じだよね……!」
彼を手伝っていた少年ケヴィンが宝物をそうするようにトライフルを陽に翳しつつ応えれば、
「たるとたたんにまどれーぬ、とるたみもざも召し上がっていただきとうございますね……!」
「どれもきっと素晴らしい味わいでしょうからね。私達が用意してきたものも味わっていただけると良いのですが」
仲間達が作り上げた菓子達に瞳を輝かせていたしゃらが意気込んで、仔狐の少年の心を示すようにぱたぱた揺れる狐尻尾に目許を和ませつつソレイユは彼とともに新宿島から持ち込んだティーセットの準備を調えた。
珈琲の一般層への普及こそあれよあれよと言う間だったフランスだが、紅茶はこの時代もまだまだ上流層や都市層以外にはなかなか手の届かない品。ゆえに茶葉とともに持ち込んだティーセットで振舞う紅茶はコサージュ作りのおともにとも思っていたけれど、素晴らしき菓子があるならやはり一緒に味わいたいところ。
紅茶に添えるとっておきの逸品の出番も、そのときに。
眩い陽色を咲かせるミモザの花々で飾られた食卓が色とりどりの料理でも次々と彩られていったなら、
「観て楽しむミモザがあるなら――ということで、食べて楽しむミモザも用意してみましたっ!」
「好いねぇ、卵のミモザ。こっちも飛びきり春らしいじゃないの!」
春を更に花開かせるようにユーフェミアが運んできたのは大皿に盛られた春野菜のエチュベ。
採れたてのアスパラガスと蕪はバターと少量の水で蒸し煮にされて鮮やかな春緑と優しく透ける白の色合いを咲かせ、村のひとびとが作ったその彩りを見て持ち前の料理技能でふと閃いたユーフェミアが、茹で卵をみじんぎりにして春らしい陽色をエチュベに乗せて咲かせたのが、食べて楽しむ卵のミモザ。ローズビネガーで中までも淡い薔薇色に染まったラディッシュのピクルスが添える彩も華やかで、いっそう上機嫌に笑ったノスリが運んで来た大きな籠に山盛りされたものもユーフェミアがマドレーヌと一緒に焼きあげたクッペ、即ち、ぽってりとしたフォルムの小さなバタールのごときパンだ。
昼餉の食卓に皆も料理も揃ったなら、錫製の水差しから皆の杯へと踊るのは明るい色合いの薔薇を透かした陽光を思わせる彩を抱いた冷たい煌き。バニラやココナツを思わす飛びきり甘やかな花の香りに野苺の甘酸っぱい香りを覗かすそれは、朝に蒼海の竜が仕込んだ針金雀児と野苺のコーディアルを【アイスクラフト】の氷を活かした冷水で割った逸品で。
喉も心も間違いなく潤してくれる杯が行き渡れば自然と皆の眼差しが集まったから、微笑みとともに陸は杯を掲げた。
「それじゃあ、僭越ながら俺が音頭を取らせてもらうね。今日の出逢いに、そして、明日の春祭りに」
――乾杯!!
林檎の花々に彩られた春の青空に、春の花々とその香りに彩られた村の広場に、
皆の笑顔と唱和と、甘やかに香り涼やかに煌くしずくが弾けて咲いた。
飛びきり冷たい水で割った春花と春果実の杯を呷れば、澄みきった冷水に野苺の甘酸っぱさと砂糖の甘さが透きとおるよう爽やかに咲いて、南国的な甘さをも思わす針金雀児の花の香りが鮮やかに花開く。冷たい清涼感をたっぷり楽しみつつ喉へと落とせば甘い花の香りが野苺の甘酸っぱさも連れて身の芯から咲き誇るようで、
「うわ……! こんなの初めて! すっごく美味しいよリク兄ちゃん……!!」
「ふふ、歓んでもらえてよかった。沢山仕込んでおいたから、明日の春祭りでもたっぷり楽しんで」
一段と瞳を輝かせた少年ユベールが歓喜と感激の面持ちで見上げてくるものだから、ひときわ柔らかに微笑み返しつつ陸も自身で作り出した春花と春果実のしずくで喉も心も潤していく。朝のひとときを思い返すような涼やかな春の朝風が身も心も吹き抜けていく心地。甘い花の香りが鮮やかに咲き誇れば、焼きたてのクッペに手を伸ばして。
割ればあたたかな湯気がふわり溢れるパンへと乗せるのは爽やかに香るセージを細かく刻んでたっぷり練り込んだバター、一口齧りつけば香ばしくパリッと弾けるクラストの裡からふんわりとクラムが花開くパンの熱がセージバターの香りも風味も華やかに咲き誇らせ、同時にそれらがパンの小麦の滋味も甘味も際立たせていく。
ほんのりと、けれど華やかに甘く香るエストラゴンを効かせた酸味の爽やかなヴィネグレットソースでしっとりさせた卵のミモザでおめかしした春野菜のエチュベも美味だったけれど、先程大鍋から溢れるあたたかな春の香りで胸をいっぱいにした時かから気になっていたグリーンピースたっぷりのスープを匙で口に運べば、途端にシルの青空の瞳がめいっぱい輝いた。
「ふわあ……! すごいね、春のしあわせって感じ!!」
「ああ、美味しいな。春の大地の恵みの味だ」
春の恵みたっぷり湛えたあたたかなスープは素朴ながら予想以上に飛びきりの美味、甘く炒められた新たまねぎや香ばしく炒められた豚の燻製肉が弾ける様も美味しいけれど、何よりも食むたびに極上の旨味で弾ける旬のグリーンピースならではの春の甘味がほんのり香るローズマリーのほろ苦さでくっきりと鮮やかさを増す様がたまらなくて、この春の幸せにエトヴァも笑みを深めずにはいられない。
次いで手を伸ばすのは仔羊肉のロティ。
新宿島のひとびとに最も馴染み易いだろう呼び方をするならラムチョップのローストは、赤ワインとオレンジ果汁、そして柑橘めいて香るコリアンダーシードでマリネされた仔羊肉に塩を振って、ローズマリーを乗せてパン焼き窯で焼き上げられた逸品で、かぶりつけば焼き目の香ばしさの裡から鮮やかに咲いたローズマリーの芳香と塩気の奥から赤ワインと柑橘の香りと風味に旨味を引き出された仔羊肉がしっとりと弾けて口中に弾む。
塩とオリーブオイルを振って一緒にローストされたマッシュルームがぷりっと熱く弾ける様も楽しくて、
「折角の春の御馳走だ、魔法で増やさせてもらうな」
叶うならば明日の春祭りに訪れるひとびとにも味わってもらえるように、と蒼穹の双眸を細めたエトヴァが花開かせる力は勿論【口福の伝道者】。何しろ村長の館の地下ワインカーブに即席保冷庫も作成済み、【アイスクラフト】の氷もあそこなら明日まで問題なく保つだろう。
次々と料理が増えていく様に村のひとびとから大きく湧きあがったのは驚嘆の声、
皆の顔に歓喜も咲く様に微笑みつつ黒銀の妖狐は仔羊肉のロティに舌鼓を打ち、春野菜のエチュベに華やかな彩りを添える薔薇色のラディッシュのピクルスを食んだなら、白ワインビネガーに薔薇を漬けたと思しきローズビネガーの香とまろやかな酸味が瑞々しいラディッシュの風味とともに花開く。
品種改良された現代のものに比べれば野性味の残るラディッシュは瑞々しさと辛味の裡に苦さも孕んでいたが、それさえも春のめざめを促す自然の恵みと思えてヤコウは春菫の彩燈す双眸を瞠った。
「これは素敵ですね……! 香ばしい肉料理にも好く合って、飛びきり美味しい」
「でしょ? こっちも食べて食べて! 蒸してパン焼き窯で焼いたアルティショー、簡単なのに絶品なんだから!」
この国の春野菜の代表格のひとつたるアルティショー、即ちアーティチョークを勧める金髪のフラヴィに笑み返せば迷わず春の蕾野菜を手に取りひとひら剥いて、大蒜とエシャロットの利いたヴィネグレットソースをつけて口へ運べば、香味野菜が引き立てる蕾野菜は空豆めいた春らしい風味とサツマイモにも似たほくほくの食感をヤコウの裡に花開かせる。
数々の春野菜は素朴ながらも飛びきり滋味豊か、
なれど、増やせるなら遠慮なく食べ放題だよねっ! と天の光映す瞳をひときわ輝かせたアンゼリカは、仔羊肉のロティに鶏肉の檸檬クリーム煮と次々手を伸ばす肉料理に夢中になっていて、そんな恋人の様子に気づかぬはずもないユーフェミアは明るく咲かせた春の彩を程好い大きさに切り分け、匙でひとすくい。満面に花開かせた優しい笑みとともに、
「私が卵のミモザを咲かせた春野菜のエチュベもいっぱい食べてね、アンゼリカ」
「わ! 勿論だよ! 流石だよね、ミアのセンスは……!!」
匙を差し出せば、鮮やかなアスパラガスの緑と優しい蕪の白を卵のミモザが陽色で彩るエチュベを眼にしたアンゼリカが、迷わず花唇を開いた。村人達が作った春野菜のエチュベにひと手間加えさせてもらったのはこの狙いもあればこそ、
今日もユーフェミアのお野菜食べさせ作戦が炸裂する……!!
塩とバターが柔らかに、然れど濃厚に甘味を引き出した春野菜達はそれだけでも美味だが、華やかな甘さをほんのり香らすエストラゴンの利いたヴィネグレットソースをしっとり孕んだ卵のミモザと一緒に味わうエチュベは、美味しさも食べ応えも一段と増した絶品。一匙食べさせてもらったならアンゼリカはたちまち嬉しげに笑み崩れ、
幸せそうな恋人達の様子に、今日もミアの作戦は絶好調ですねと目許を和ませたソレイユは、パン焼き窯の余熱でじっくり加熱され強い甘味を花開かせたポロ葱に濃厚なブルーチーズの旨味と塩気が絡むキッシュを堪能しつつ、ふと傍らのしゃらの様子に気づいて瞬きひとつ。仔狐の少年が戸惑いの眼差しで見つめているのは、
ブーダンノワール――即ち、ブラッドソーセージだ。
彼が慣れ親しむ食文化では獣の血を食することがほぼ無いのだと察すれば蒼穹と黄昏の眼差しを優しく和らげて、
「大丈夫ですよ。一見とても癖のある風味のものに見えるでしょうが、意外にまろやかで上品な味わいのものですから」
「そうでございましたか……! ソレイユさまにはお馴染みの食材なのでしたら、私も美味しくいただきまする……!」
この村のものは特に、と己が先程味わったそれの感想を言い添えれば、憧れのひとをまっすぐ信頼するしゃらは意を決して此方もパン焼き窯でローストされたブーダンノワールを切り分けて口へ運ぶ。豚の血と脂の腸詰めの味わいや如何に……! そう気負いつつ食んでみれば、意外や意外。
最初に思い描いていたような強い癖や野趣を感じることはなく、しっとりとしたクリーミィさすら感じさせるそれは細かく刻まれた香味野菜に臭みを消され、甘く香るアニスシードやコリアンダーシードといった香辛料の風味も相俟って、さながら甘さ控えめで旨味濃厚なガナッシュを食べているかのよう。添えられている林檎のソテーと合わせて味わったなら、
「驚きの美味にございますね……!!」
仔狐の少年に咲くのは満開の笑み。
どれほど良質な品でも口に合わない者はとことん合わないのが獣血料理だが、幸いこの村のブーダンノワールは彼の口にも美味を花開かせてくれたらしい。優しい紅葉色の狐尻尾が嬉しげに弾む様にソレイユが笑みを深めれば、少女達が互いに顔を見合わせ擽ったそうに笑みを咲かせた。自分達の村のものを誉められて嬉しくないはずがない。
「ね、このパンそのまま食べるのも美味しいけど、スープに浸すともっと美味しいの!」
「しゃらもソレイユお兄ちゃんも試してみて!!」
梅花とカトレア咲くコサージュを髪に飾った少女達、ニノンとアネットが二人に勧めるのはユーフェミアお手製のクッペと村人達が作ったグリーンピースのスープのマリアージュ。丁寧に割ったパンをあたたかな春の幸せたっぷりなスープに浸し、美しい春緑のグリーンピースも掬って味わって、口中いっぱいに広がる素朴ながらも飛びきりの美味に皆で笑い合ったなら、自然とソレイユの胸の裡に言の葉が萌す。
「フランス語で友達や恋人を指すコパンやコピーヌの語源は、『パンを分かち合うひと』なのですよ」
「そんな由来がある言葉なのでございますね……!」
己が今まさしく体感しているままの言の葉に仔狐の少年のもふもふ狐耳がぴこんと立ち、香ばしいクッペに自前のナイフで入れた切れ目に料理を挟んでカスクートを仕立てていた星斑の猛禽は、いっそう綻ぶ笑みで手許のそれをさくり。
「あははぁ、それじゃあこれでいっそう仲良しのお友達、ってね!」
「仲良しね! あたしもこれノスリお兄ちゃんに一口あげるー!!」
仔羊肉のロティを挟んだカスクートを一口切り分け、幼いコラリーに差し出してやったなら、ノスリを真似てパンに鶏肉の檸檬クリーム煮を挟んでいた少女も自作のカスクートを差し出してくれたから、そちらも一口さくり。パン焼き窯で焼かれた香ばしさも赤ワインとオレンジ果汁でマリネされたしっとり感も好ましいラムチョップはそのまま齧りつくのも美味なれど、骨から切り離した肉をパンに挟み込んで食むのも心躍る美味。
焼きたてのあたたかなパンの切れ目に熱で蕩けるセージバターを馴染ませて、村の傍の清流で子供達が摘んできたばかりの瑞々しいクレソンと村人達が作った春にんじんのキャロットラペに、そして仔羊肉のロティを挟んだカスクートを頬張れば、口中に弾むのは熱いセージバターが絡むパンの小麦の甘味に爽やかなクレソンの香りと辛味、そして、檸檬果汁が引き立てる春にんじんの甘味に香ばしさの裡からしっとり花開く仔羊肉の旨味!
極上のハーモニーにますますノスリの機嫌は上々、鶏肉の檸檬クリーム煮と春野菜のエチュベをパンに挟んだコラリー作のカスクートも勿論とびきりの美味しさで、大きな猛禽と小さな少女が楽しげに笑い合ったなら、その様子に蒼海の竜が細めた黎明の双眸がふと捉えたのは村人達が卵もバターもたっぷり使って焼き上げたブリオッシュ。
「ノスリさん達みたいにアレンジするのもいいね。それなら俺は、こうしてみようかな」
「うわ! これも絶対美味しいやつ……!!」
こんがり香ばしい狐色の裡から金色の生地を覗かせるそれは当然そのままでも美味しいけれど、ふふ、と笑みを零しながら陸が加える創意工夫は、水で割らずにそのままブリオッシュに注ぐ春花と春果実のコーディアル。甘やかに香る春のしずくをたっぷり含んだブリオッシュは見るだけでもその贅沢な味わいを感じさせ、思いきり声を弾ませた少年ユベールと分け合って口に運べば、なめらかにしっとりと舌の上で崩れるブリオッシュの風味と野苺の甘酸っぱさ、そして針金雀児の甘い花の香が渾然一体となって花開く様に心までも眩むよう。
「成程、アルコールなしのサヴァランといったところでしょうか。僕も是非試してみたいところだ」
「あ! 僕も僕も! 一緒に食べてみたい……!!」
竜城くん、僕にもコーディアルをそのままもらえますか? と祈が望めば、勿論、と返る声音。
真っ先にラム酒やキルシュを使う菓子を思い浮かべた祈もブリオッシュに春花と春果実のコーディアルを回しかけ、傍らで興味津々に瞳を輝かせた少年ケヴィンにも半分切り分けてやったそれを味わってみれば、現代のサヴァランにも劣らぬ贅沢で濃厚な美味に軽く青玉の双眸を瞠った。製菓を趣味としながらも甘いものが苦手な祈も感じ入らずにはおれぬ味わいは、成程『酒精があるのがリキュールで、酒精がないのがコーディアル』とはよく言ったもの。冷水で割った爽やかなコーディアルの風味の豊かさも改めて実感しつつ、
蕩けるセージバターでクッペも味わったなら、鶏肉の檸檬クリーム煮にも舌鼓。
柔らかな陽色を融かしたようなクリームを纏った鶏肉は春にんじんの明るい橙色やサヤエンドウの優しい春緑にも彩られ、檸檬とタイムも柔らかに爽やかに香る逸品を食んでみれば、檸檬の酸味が軽やかに効いたあたたかなクリームのまろやかさの裡から鶏肉の滋味と旨味が溢れ、春野菜達の甘さと絡んで口中に弾む美味が愛おしい幸福感を招いてくれる。
素朴ながらも美味な昼餉、
素朴ながらも贅沢な昼餉。
春の青空を彩る林檎の花々が春風に柔らかに波打つ村で、香りの好い春の花々で華やかに飾られた広場で、皆で昼餉を囲むひとときに咲く話の花も笑みの花も尽きることはなく。胸に燈るあたたかさのままヤコウが大きな狐尻尾をふわり揺らして、
「本当に素敵なひとときですよね。春の歓び、春の幸せが満ちて溢れるようで」
「心から同意するよ。そろそろデセールのタイミングかな、俺のトルタミモザも歓びと幸せを咲かせられるといいのだが」
柔らかな笑みとともに彼が春風に乗せた言の葉に微笑したエトヴァが皆に菓子を振舞うべく席を立ったなら、満開に咲くに決まっていますよ、と黒銀の妖狐が心からのものとわかる声音で言ってくれるものだから、蒼穹の天使はひときわ晴れやかに笑み返した。
改めて披露された美しい菓子に皆の歓声が花開く。
優しい陽色のミモザの花々に見立てたふわふわスポンジケーキの細かいダイスカットと春の花々で大きな花冠を咲かせるがごときエトヴァのトルタミモザ、薔薇色に明るい琥珀色を重ねたようなキャラメリゼに彩られた林檎が大輪の薔薇を咲かせる祈のタルト・タタン。食卓に掛けられた真白なテーブルクロスはそれらをいっそう映えさせて、
「切っちゃうのがもったいない! でも切らなきゃ食べられない……!! ねね、どっちも切る前に一枚撮らせて!!」
「勿論だ、シルさん。一枚と言わず、何枚でも」
「ええ、こちらもお望みのままに撮ってください」
我慢できずにスマホを取り出したシルが願えば勿論彼らに否やはなく。
花冠のトルタミモザと薔薇のタルト・タタンが青き精霊術師の掌中のきらめきとなっていく様に微笑んで、
「さあ、私達も素敵なデセールの演出に一役買いましょうか」
「はい! 私も皆さまの『えすこおと』に努めまする……!」
紅茶の香りを馥郁とあたたかに溢れさせる白磁のティーポットを手にしたソレイユが言の葉とともに眼差しを向けたなら、梅花とカトレアのコサージュを己の胸元に飾ったしゃらがぴんと背筋を伸ばす。先程まで仲間達お手製の菓子にそわそわしていた仔狐の少年が頑張って気持ちを切り替える様が微笑ましく、皆の白磁のティーカップへと華やかに透きとおる紅の煌きを注いでいくソレイユに倣ってしゃらも香り高い紅茶を注ぎ、
「この蜂蜜は、梅花から採れたものにございます」
「わ、ほんとだ、ほんのり花の香りがする……!」
甘やかに煌く蜂蜜を一匙添えて少女ニノンへ一礼する様には、ソレイユの笑みも大きく花開かずにはいられない。
「紅茶に溶かすのではなく、蜂蜜を少し舌に乗せつつ紅茶を飲むのがおすすめですよ」
「うん、やってみる……!!」
穏やかな声音も添えつつ少女アネットにそう勧めれば、返るのは華やぎを増す紅茶への期待に弾む声。
蜂蜜を混ぜれば紅茶の色が変わってしまうことが多いが、これならば紅茶の美しい彩もそのままに蜂蜜とのマリアージュを楽しむことが叶う。蜂蜜特有の香りに梅花の香りをほんのり覗かせ、濃厚な甘味の奥に甘酸っぱさをも秘めた甘露はいっそう紅茶を幸せに彩ってくれるはず。紅茶と梅花の蜂蜜、美味しそう! と輝く笑みを咲かせたアンゼリカが、
「そして! ミアのお手製マドレーヌ……! これは絶対見逃せないっ!!」
「よね!! さっきからずっと食べてみたかったの、この緑のマドレーヌ!」
「いっぱい焼いておきましたからね、好きなだけ食べてください! アンゼリカもセリーヌさんも、皆さんも!!」
香ばしい狐色と落ち着いた抹茶緑に彩られた二種のマドレーヌに力一杯意気込めば、期待に頬を紅潮させた少女セリーヌの声音も嬉しげに弾けたから、気合を入れて腕を揮ったユーフェミアにも明るく華やぐ笑みが満開に咲いて。愛らしい貝殻型に焼き上げられた卵もバターもたっぷりな狐色のマドレーヌを頬張れば、ふわり口中に花開くのは卵の優しい風味とあたたかなバターの香りとコクが小麦の甘さをも咲かせる間違いのない焼き菓子の美味しさ。
抹茶の緑が雅やかなもう一種のマドレーヌを齧ってみれば、芳醇なバターと卵の風味を抱きすくめるようにして深い抹茶の香りと上品な甘さと苦さが花開く様に、初めて抹茶を味わう村のひとびとが目を瞠り、
「わわ、プレーンなほうのマドレーヌは紅茶にぴったりだけど、こっちはミルクと合わせたい……!」
「「それだ!!」」
今にもほっぺが落ちそうな満面笑顔でアンゼリカが熱く語れば、皆の声音が揃って笑みも弾けて咲いて。
抹茶とミルクは相性抜群ですからね、と軽く頷きつつ祈が切り分けて振舞うのは林檎が薔薇を咲かせるタルト・タタン。
薔薇色に明るい琥珀色を重ねて透きとおるキャラメリゼは食めばカリッと弾けて奥深いほろ苦さを咲かせて、蕩けるようでいながら瑞々しい触感をも残し、ぎゅっと凝縮された甘酸っぱさを鮮やかに花開かせる林檎がキャラメリゼの香ばしさとほろ苦さを纏ってサクサクのタルト生地とともに口中で弾む豊かな美味は、まさしく林檎菓子の最高峰。
「こんな味になるんだ……! 何だか大人の味って感じで、美味しい!!」
「ええ、本当に奥深い美味ですね。これでもか、というくらい林檎の魅力が引き出されていて」
「有難うございます。歓んでもらえたなら何よりだ」
たちまち感激の笑みを咲かせた少年ケヴィンが歓声をあげ、紅茶とともに味わったソレイユが心からの笑みと感嘆の吐息を溢す。林檎も梅もバラ科であるからか、梅花の蜂蜜を添えた紅茶とのマリアージュは至福の一言に尽きて、少年演奏家の瞳に満ち足りた光がよぎる様に祈の目許も微かに和んだ。
右目の下に燈るほくろに淡い甘さも添えられたように感じられたのは気のせいか否か。
胸も笑みも声音も弾ませつつシルは続けてトライフルへ手を伸ばし、
「あっ! そうだこっちも食べる前に撮らせてもらわなきゃっ!!」
「ふふ、わかります。こちらもとても綺麗ですものね、繊細で美しくて」
硝子の器に美しい層を描きだす菓子が、砂糖漬けの菫やスイートアリッサムの花々と苺のスライスが咲かせる花でひときわ華やかな春景色を咲かせる様に青空の双眸を大きく瞬いて、早速こちらも祈の許可をもらってスマホへと収めるシルの様子に微笑みながらヤコウは硝子の器に重ねられた甘い楽園を匙で掬った。瑞々しく甘酸っぱく弾ける苺、砂糖結晶の裡からは菫の芳香が咲いて、甘やかに香るスイートアリッサムの小花達を弾ませつつ柔らかなスポンジケーキと生クリームやカスタードが口中で渾然一体となっていく美味はいっそう楽しく胸を弾ませて、
数多の食卓の隅々にまで春が広がっていくようだ、と微笑したエトヴァがいよいよ花冠のトルタミモザにナイフを入れればそれだけでわあっと歓声が湧きあがった。何せ美しさのみならず特大のサイズも相俟って、特別なイベント感も満載なのだ。
春そのものを咲かせる飛びきり大きな花冠のひときれを受け取れば、仔狐の少年は宝物を手にしたような心地。
星斑の猛禽も童心に返ったように蜜色の瞳を輝かせて、しゃらやコラリーに子供達と眼差しを交わせば皆で一斉にミモザや春の花々の花冠のごときケーキにかぶりついた。陽色のミモザの花々めくふわふわスポンジ、砂糖結晶きらめくライラックや華やかな彩を舞わせる薔薇やパンジーの花弁、軽やかな煌きを躍らす金箔。
明るい春に飛び込む心地になれば裡から溢れ出したのは、檸檬の爽やかさと酒精を飛ばしながらも奥深い風味はそのままに咲くオレンジリキュールの華やぎを孕むカスタード。軽やかにホイップされた生クリームを合わせたその口どけは飛びっきり優しくて、だからこそ刻んで混ぜこまれたパイナップルの食感と弾ける甘酸っぱさが鮮やかな咲き誇るから、
「「……!!」」
思わずノスリが大きく目を瞠れば周りの子供達も大人達も誰も彼もが同じ顔をしていて、
顔を見合わせたなら、皆で揃って笑み崩れた。
「これは……! 感動の美味にございますね……!!」
「あっは! 誰だって笑顔になっちゃうよね、こんなとびっきりの花冠!!」
「ねー!! 綺麗で美味しくて、すっごく嬉しいー!!」
狐耳も狐尻尾もふるふると震わせたしゃらがそう口にしたなら、溌剌と弾ける笑みでノスリは小さなコラリーと頷き合い、眩い歓喜を皆と分かち合う。特に村のひとびとの興味を惹きつけたのはパイナップルの甘酸っぱさ。
太陽王ルイ14世の時代から宮廷の饗宴を彩っていたパイナップルなれど、この時代になっても一介の村人達にはまだまだ縁遠い『王の果実』だ。春そのものの花冠のごときケーキが抱く美味なるクリームを彩る、南国の宝石。
美しい菓子が皆に歓喜を咲かせていく様に黎明の眼差しを緩めつつ、陸も花冠のトルタミモザに舌鼓。
「見た目は勿論、味わいもとても華やかだよね。流石はエトヴァさん、素晴らしい芸術作品だ」
「そう言ってもらえると光栄だな。芸術家冥利に尽きるよ」
惜しみない賛辞を贈れば、ひときわ柔らかにエトヴァの笑みが咲き綻んだ。
胸の芯から花開いた光が指先まで満ちて溢れるような心地で蒼穹の天使が零すのは、至福の吐息。
絵画であれ音楽であれ料理であれ、己が織り成した芸術で皆に笑顔が咲く様は、何時だって限りない歓びをくれるから。
美味な料理に美味な菓子。
笑顔と幸福に溢れたひとときを皆で満喫したなら、
「それじゃ、修道院に行ってくるよ」
「修道女さん達、呼んでくるな」
朗らかにそう笑って立ち上がったのは数人の青年達。ふと思い立ったように彼らを呼びとめたエトヴァは、
先程披露した俺達の魔法は――と口にして、
「修道女の方々を呼びにいくときは秘密でお願いするな。村に来てからびっくりしていただきたい」
無論、タイミングの関係で実際に修道女達へ残留効果を披露することはないのだけれど、敢えてそう語る。
魔法で小屋ほどの大きさがある氷を出現させたり食事を増やしたりするひと達が来ている、と修道院で触れ回られては当然淫魔『フレグ・ラスト』の耳にも入ってしまうに違いない。流石にこの期に及んでそれがディアボロスの力であると気づかぬ相手ではないだろう。
了解、と屈託なく応えた青年達が村の先の山間へ向かっていく姿を見送って、
「このコサージュと蜂蜜、修道院の方々にも是非差し上げてくださいね」
「うん! きっととっても歓んでくれると思う!」
貴婦人めいたカトレアと可憐な梅花に愛らしいミモザで作ったコサージュを幾つも抱いた籠に蜂蜜の瓶を添えたソレイユが大切にそれらを託せば少女アネットは張り切って頷いて、花冠作りに励んだ子供達へと改めて笑いかけたシルは、それぞれの花冠を優しく撫でて頭に飾ってやる。
「ね、みんな。修道院の方達にも見てもらおうか? こんな素敵なものが出来たんだもん。きっと喜んでくれるよっ♪」
「うんうん、みんなの作った花冠、修道院の方々にも是非見てもらってね。しっかり、どこを工夫したか話すんだよっ」
相棒と一緒に子供達の花冠を撫でて頭に飾ってやりつつアンゼリカもそう語るのは、より確実に修道女達を足止めし時間を稼ぐためだけれど、聖女に対するような憧れを修道女達に抱いているらしい少女ロゼールやソフィアが、
「わあ……! 修道女様達、誉めてくれるかな!?」
「シルお姉ちゃんやアンゼリカお姉ちゃんに教えてもらったこととかもお話しする……!!」
心から嬉しげに笑みを咲かせる様には光彩誓騎の目許もひときわ和んで、子供達が次々と自分も修道女様達にお話しすると競うように声音を弾ませれば星斑の猛禽もいっそう笑みを深めて。
「あははぁ、みんな修道女サマ達が大好きなんだ」
「うん! うちのおばあちゃんもね、お膝が痛いのをラベンダーやカモミールの香りがするので良くしてもらったの!」
「儂らばかりじゃなく、この近辺の村の皆が修道女様がたには良くしていただいているからなぁ」
語りかければ瞳を輝かせたコラリーが誇らしげにそう応えて、ラベンダーの鎮痛作用やカモミールの抗炎症作用を活かした精油でのマッサージかなと植物知識が脳裏に花開くままに当たりをつければ、深く頷いた村長のガストンがこれ呑んでみなと杯に注いでくれたのは、修道院で造られているハーブリキュール。
消化促進に効くというそれは明るい金色に煌いて、呷ればほのかな蜂蜜の甘さとともに幾重にも香草の風味が咲いた。
竜胆――ジャンシアヌの根を主体に、ジンジャー、クラリセージ、カモミール、と次々に香草が思い浮かぶけれど、数十はあるだろう香草の風味が複雑に絡み合うレシピは神秘のヴェールに包まれていて、だからこそその奥深さに笑う。
「これは効きそう! 癖も強いけどやみつきになっちゃいそうな美味さだね」
「そうそう、確り効いてくれる上に美味いんだこれが!!」
これで明日の春祭りも羽目を外せるってもんだと豪快に笑み返すガストンは勿論、村人達みなが修道女達を敬愛していると会話の端々から識れるから、食卓に飾られた陽色の花々を改めて見遣ればノスリのかんばせに浮かぶのは、心から楽しげな、嬉しげな笑み。緑の羽根めく葉にも彩られた枝から咲き溢れる陽のしずくを掌でふわり掬って、
「ミモザ、見てもらいたいね。修道女サマ達、きっと喜んでくれるよ」
「うん! あたしもそう思うー!!」
柔らかな笑みのままそう語れば、小さな手をミモザに伸ばした幼いコラリーも弾けるように笑った。
村の青年達が修道女達とともに村へ戻ってきたのは、輝く春陽がまだ青空の頂近くにとどまっている頃合いのこと。
誰もが歓迎の笑みを咲かせ競うよう修道女達を出迎えに向かう様を見遣れば、自分達だけが残った広場でディアボロス達は眼差し交わし、一気に空へ翔け上がった。低空飛翔すべきかとも思ったが、五重に【飛翔】が燈された現状ならば地上からは自分達の姿が判別できない高空へ至るのは一瞬のこと。ならばこちらのほうが村人達に気づかれずに済むだろう。
そして、今この地にいる敵はもう、修道院の聖堂内にいる淫魔『フレグ・ラスト』唯ひとりだ。
――花々の香りもひとびとの笑顔も幾重にも咲く、ミドルノートのごとき豊かなひとときを胸に仕舞い込んだなら、
――いざ、最後の香りの許へ。
朝から昼にかけての、ほんのひととき。
然れど村のひとびとの笑顔とともにあったそのひとときは輝石のごとく祈の胸を彩っているから、
――春がめぐるたび、ミモザの花が薫るたび、
――魂は歓びとともにこの日へ還るのだろう。
柔らかな春陽の輝きが広がる青空の高みを翔けつつそう思わずにはいられない。
先のひとときを煌く宝物のように胸に抱くのはしゃらも同じで、
「修道女の方々の足止めのために村の皆さまに歓んでいただく作戦でしたが……私の方が幸せを頂いた気がいたします」
「ですよね! けれど修道女さん達のおもてなしの準備はばっちりですから、次はフレグ・ラストのおもてなしを!!」
丘の頂から村を見渡したときに仔狐の少年が抱いた愛おしさは、村で過ごしたひとときでますますあたたかに募ったから、深い感慨の響きで彼が言の葉を紡げば、紅樺色の眼差しと毅然とした声音に鮮やかな決意を咲かせたユーフェミアの言の葉が返ったから、必ずや勝利を、と決意の光を改めて胸に燈したしゃらも面持ちを引き締めて。
天津風を突き抜けた先の眼下に修道院が見えてくれば、
黒銀の妖狐と蒼海の竜は春菫と黎明の眼差しをどちらからともなく交わした。
――この穏やかな春を護り抜きたい、と。
――暖かな彼らの幸せがずっと続くよう、と。
胸に萌さずにはおれぬ想いがあるけれど、当然ながらヤコウも陸も理性では確と理解している。
間近に迫る奪還戦に勝利し、この断頭革命グランダルメを最終人類史に奪還することが叶えば、あの村のひとびとも正しい歴史へと還ることを。そして、正史にあってもこの時代の欧州は、激動と戦火に彩られていることを。
然れどそれは、あくまで人類が織り成すものであらねばならない。
歴史侵略者達の理不尽に晒されることさえなければきっと、あの村のひとびとは激動の時代にも笑顔を失うことなく歩んでいけるはずだから。全てを取り戻す誓いを改めて胸に燈せば、眼差しも空翔ける飛翔の風も凛と冴え渡っていく。
瑞々しい春の息吹と深い緑に彩られた山間めがけて一気に降下すれば、修道院の全景がより鮮明に見えてきた。
仲間達の多くには予想以上に敷地が広いと感じられただろうが、嘗て一時期を修道院で過ごしたソレイユは一切の戸惑いも無く、あちらです、と皆の許にインカム状の通信機を顕現させた【パラドクス通信】越しに呼びかける。徒歩で門から入ったなら林檎の果樹園や葡萄畑に薬草園、幾つもの建物や回廊を通り抜けて聖堂へと向かう必要があっただろうが、空からならば聖堂の前に直接降り立つことが可能だ。
この修道院を根城とし修道女達を隷属させた淫魔『フレグ・ラスト』は、それこそ己の城とばかりに振舞っているだろう。
改装して香水工房と成した聖堂の扉にも鍵などかけてはいまい。
相手が異変に気づいていない現状なら、扉から突入するのでも他の手段を採るのでも、戦端を開く主導権はこちらのもの。
――如何にして決戦の幕を開けるにしろ、
――淫魔『フレグ・ラスト』という名のラストノートを霧散させに、さあいこう。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【建物復元】LV2が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【アイテムポケット】がLV2になった!
【飛翔】がLV5になった!
【アイスクラフト】がLV2になった!
【クリーニング】LV1が発生!
【勝利の凱歌】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【ガードアップ】がLV5になった!
【反撃アップ】がLV3になった!
【ダブル】がLV2になった!
【ドレイン】LV1が発生!
【命中アップ】がLV2になった!
色葉・しゃら
決戦を前に疾っていた心が
神聖な空気に触れ、厳かに鎮まる
私のよく知る神殿とはまるで違うのに
不思議でございますね
胸に手を当て
温かな記憶が新たな力となったのを感じる
仲間を信じ 呼吸を合わせ
扉が開くと同時、飛び込んで一斉攻撃を仕掛けまする
いざ!神の御前に恥じぬ戦いをいたしましょうぞ!
相手は強敵
私を穴と見て突いてくるやも知れませぬ
だが、万全とは言えぬまでも戦支度は整えた
そう簡単には怯みま…せぬ!
機を逃さず、反撃を打ち込み
庇われた恩には戦果で応えられるよう
一層己を奮い立たせ
敵を封じるため、包囲に加わりましょうぞ
フレグ・ラスト
今お前を囲むは我らだけにあらず
この地に生きる人々も共にあると知れ!
全力を、それ以上を出せるよう
必死に歌い、詠んで
浄化の光で『花冠』を編む
戦いが終わった後
空から皆さまに御礼を祝福が届けられるなら
素晴らしきこと!
聖堂と神殿、香水と薫物
形は違えど相通ずるものがある不思議
記憶が残らなくとも
生きる時も場所も違っても
私たちの…ひとの心は…きっとどこかで繋がっていると
そんな奇跡を、私は信じます
伊吹・祈
手筈通りに
扉開くと共にパラドクスを放つ
逆説連鎖戦で変容する敵味方の動きをこの眼で追い乍
【パラドクス通信】で連携図り
共に包囲する立ち位置で挑む
彼女の向かう先を意識し、指先で示し《希う楽園》へ誘う
初手は《黎明の黄水仙の野》を
次手は《ミモザ揺れ、子供達の咲う春陽》を
あなたの眼に
退路に施すは【防衛ライン】
突破を赦す様な面々では無いでしょうとも
攻防の最中に隙を生めば上々か
己の体力に余力のある内のみ、負担を分散すべく一声かけ
WIZ攻撃のディフェンスを行う
甘く苦く焦がれるビターキャラメル
重く苦く濡れそぼる雨を想起するベチバー
高揚感、万能感
取り戻した尊厳が揺らぐ
降り頻る雨の夜が甦る
……流石はあなたのアクアミラビリスだ
苦く吐き捨てる賞賛は甘く嘯く蛇の言の葉
されど僕が慾して止まないのは還らない過日のアクアノートだけ
僕で在る事を手放しては叱られる
何より……二度とは、僕が僕を赦せない
成れ果ての僕――響動伝う大天使が滅ぼした過去の時代の復讐者
あなた方が託した想いが無ければ抑、あの夜の奇跡は起こらなかったのだと
ソレイユ・クラーヴィア
聖堂を利用するなど、淫魔の不埒さを今更指摘するまでもありませんが
元はこの地の人々の祈りの拠り所
出来れば建物への被害は少なく立ち回りたい所です
…いずれ、近くない未来に消滅するとしても
心温かい人々と、彼らから慕われた修道女達が居たという記憶は、私の裡に残り続けるのですから
扉の前に揃えば、仲間と機を合わせ
開けると同時に総攻撃を仕掛けます
宙に展開した鍵盤で「福音」を演奏
鐘の音が導く聖堂へ差し込む光を剣と束ね、目標を違えることなく淫魔へと飛ばしましょう
貴方が愛し育てた香水が、人形皇帝の許へ参ずることはありません
全て打ち破るのみです
工房の設備を挟むように立ち回り
仲間の攻撃とタイミングを揃え挟撃を狙います
反撃には魔力障壁を展開
仲間へのW攻撃にも積極的にディフェンス
特にしゃらへ手出しはさせません
香りは己を彩る術の一つだとは思いますが
確固たるものがあってこその彩り
それに私を彩るのは、やはり音楽の方が相応しい
戦闘後、可能なら村の皆さんに昼餉の礼を兼ねて
フラワーシャワーの贈り物を
さようなら、同郷の友人達
シル・ウィンディア
英気は養えた。
楽しいお祭りも堪能した。
それじゃ、あとはディアボロスのお仕事を頑張りますか。
一緒に行きたかったアンゼリカさんのためにも、全力の限界突破でっ!
みんなとタイミングを合わせて、扉からお邪魔しますっ!
扉を開けると同時に高速詠唱からの七芒星精霊収束砲を撃つよっ!
攻めの魔砲だから、ちょっぴり過激に行っちゃいそうかな。
フレグ・ラスト、あなたに終わりを届けに来たよ。
ナポレオンの元には行かせないからっ!!
聖堂の中だからさすがに飛びまわるわけにはいかないよね。
でも、逃げられないように包囲を行っていくけど、それにはこだわらずに行動だね。
敵の動きをしっかり見て、逃がさないようするからっ!
逃げそうなそぶりを見せたら、パラドクス通信で情報共有。そして、逃走阻止に動くよ。
ディフェンスは積極的に行くよっ!
今回はアンゼリカさんの想いも持っているんだっ!
敵が弱ってきたら、全力魔法で七芒星精霊収束砲。
わたし達の全力、遠慮せずにもってけーっ!
戦闘後は飛翔でフラワーシャワー。
お祭りのいい思い出になりますように。
ユーフェミア・フロンティア
お祭りの準備は素敵なひと時でしたね。
あの暖かい空気、何時までも大切にしたいものです。
修道女さん達のいない間に、クロノヴェーダを倒してしまいましょうっ。
扉前に皆さんとそろって、扉を開けると同時に一斉攻撃ですっ!
使うパラドクスは、初めてですが神焔収束砲。
アマテラスを構えて、焔で撃ち抜いて見せますっ!
聖堂の中に移動して、私は、最初は扉前で立ちふさがるようにして行動を行います。
逃がさないという意思表示ですね。
ナポレオンの元に行きたいのなら、私達を倒してからにしてくださいね。
香水の香りは魅力的ですが
でも、香水は着ける人も合わせて初めて効果が出るって聞いたことがありますからっ!
ディフェンスは獲りに行く勢い行います。
簡単に攻撃は通させないですから。
フレグ・ラスト、聖なる焔に抱かれて眠りなさい。
戦闘が終わったら、まだ帰るまでには時間がありますよね?
飛翔の最大速度で村に戻ってミモザのお花のフラワーシャワーをプレゼント。
素敵な時間を頂いた分のプレゼントです。
…それでは、行ってきますね。
取り戻す為の戦いへ
ノスリ・アスターゼイン
建物復元もばっちり燈し
扉を開けて直ぐの総攻撃
百花繚乱に花が咲き誇るかの華やかさ
満ちる香りの強さに
酩酊する感覚だ
秘めやかに薫るくらいが好みだけど
酔えるのは楽しいな
戦意を失うどころか心弾むね
勿論
油断なく
僅かの隙も見逃さない
飛翔も駆使し
天井や壁を足場に軌道を変えたり
低空を翔けて眼前へ迫りつつ
急上昇で背後を獲ろう
包囲を狙うよ
戦況全体をよく見て把握
負傷具合や体力残の少ない面子を優先してディフェンス
ナイフや魔力障壁で弾いてダメージ軽減
常に連携を意識し
声を掛け合おう
身を翻す度
近接する度
幽かながら俺達から香るのはミモザか
散り際
フレグラストがミモザの香りへ笑んだ気がしたのは
香水への真の求道心からかと思えば
此方も笑みが浮かんで
ラストノートまで存分に堪能した心地
ドウゾお休み、と最期を見送ろう
戦闘後
聖堂へ騒ぎの詫びに黙礼
可能なら
皆を誘って村へ再飛来
催眠の解けた修道女達への祝福に
コラリー達へのサプライズに
陽の雫たるミモザの花を降らせたいな
こんな『奇跡の水』を作り出すのも楽しいデショ
心潤す軌跡をこの先も描いて行こう
永辿・ヤコウ
開扉し奇襲
皆さんと呼吸を合わせて一斉攻撃
黄水仙の丘で逢った蕾達は
可憐に踊って咲いてくれましたが
あなたも如何?
くるり回れば
よりいっそう香りも咲くでしょう
なんて
ダンスに誘うかの言葉とは裏腹に
影を縫い留めるヤビの牙
踏み込み穿つ長針
纏わりつく淫魔と香りを軽減するためのバックステップ
足取りはステッチの運針の如く軽やか
見慣れぬ大きな蒸留釜にも興味を惹かれる
香りへの美学や、僕に似合いの調合について
戦いながら聞けたら
心も弾みそう
繰り出す針も殊更怜悧に冴えるに違いない
戦場を見渡し
声を掛け合って
死角と隙を作らぬよう
フォローとカバーを心掛ける
敵を包囲
積極的なディフェンスで攻撃の手も増やす気概
美しいものも馨しいものも艶めかしいものも好きだけれど
しどけない淫魔に一切の惑いもときめきも覚えないのは
心に咲く薔薇のひとが
何よりも僕の心を捕らえているから
薔薇の香りはお好きですか
満開に咲く茨
花だけでなく
棘の甘い痛みに
高雅な香りの檻に
鎖される心地がするでしょうか
戦闘後は再び村へ飛翔
花の雨を降らせたいな
きっと
奇跡の贈り物になる
竜城・陸
扉を開けると同時
皆と合わせ一斉に攻撃を
差し向ける光は手慣れた槍を象り
春の丘に咲く黄水仙より、山野を飾る針金雀児よりなお眩く研ぎ澄ませて放つ
初撃は皆と息を合わせるよう投擲で
以降は味方の動きと配置に応じ
近接しての槍撃と遠隔からの投擲を使い分けてゆく
包囲するよう動いてゆくのならば
皆の動きに確りと合わせて綻びなきよう
相手の動きから目を離さず
読み取り得る相手の狙いや思惑は
判る限り皆へと共有
一分の隙なく臨みたいね
ディフェンスも迷いなく行う
特に自身の得手とする相手の攻勢からは
積極的に皆を庇ってゆく
美しい香りに心を奪われることはないよ
それよりも美しい思い出を
先刻この胸いっぱいに燈したばかりだから
無論、それでも侮れない威力であろうけれど
反撃の機を巧く掴めるよう尽力しよう
戦後は叶うなら
皆と共に村の方々へ花の雨を贈ろう
世界が在るべき姿を取り戻した暁にも
繋いだ軌跡が齎したものは
きっと何処かに残って
それがいつか僅かでも彼らの糧になると
そんな奇跡もあるのだと――信じているから
奪還の戦へ臨む想いも揺ぎ無く
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
仲間とはPD通信で連携を
扉から仲間とタイミングを合わせて突入
戦場をざっと観察し把握
駆けるか、ごく低空飛翔で仲間の斜線を邪魔せぬよう半包囲の位置取りへ移動
ステンドグラスや蒸留釜や道具をなるべく壊さぬように(復元を見越すので、支障ない範囲で)
PDの攻撃はクロスボウで確実に狙い当てていく
記憶にある、修道院のリキュールを思うな
香りの研究とは興味深いのだが
用途がよろしくないようだ
戦況を観察し敵の動きを把握
味方との攻防の隙に、他方向から狙い撃ち、仲間側へ隙を作りだそう
好機には過たず射貫く
敵の攻撃には、己の纏う香りを確かめて、好みや記憶を思いだそう
香りはどれだけ似せても、真似できることはないから……
依存することなく影響を跳ね返そう
WIZはディフェンス
香りも薬も、正しく使ってこそ
誰かの幸福や癒しのための香りが作られますように
修道女さん達に、あとは任せておくといい
戦闘後は、建物復元の修復とクリーニング、散らかりは片づけ
村に翔け戻るなら、仲間の趣向に付き合おう
アイテムポケットに花を詰めて
●アジール
荘厳と静謐。
世俗から離れた山間の地を抱きすくめる大きな修道院の敷地の奥へ空から降り立ったなら、改めて大地から振り仰ぐ聖堂の威容に色葉・しゃら(言の葉あつめ・g07788)の背筋が自然と伸びた。凛と張り詰めるような静謐に満ちた山間に建つ聖堂は厳めしくも壮麗なゴシック様式、決戦を前に逸っていた心も聖性の静謐に厳かに鎮まって、
「私のよく知る神社仏閣とはまるで違うのに……不思議でございますね」
「神域や聖域、祈りの場というものは、何処(いずこ)も同質の気配に満ちるものなのかもしれませんね」
己が裡に芽吹いた新たな力を確かめるよう胸に手を当てる仔狐の少年の姿に淡く微笑んで、蒼穹と黄昏の眼差しで己もまた聖堂を仰ぎ見れば、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の眦は胸の裡へ静かな波のごとく寄せ来る想いに微かに震えた。神の家を根城とする淫魔の不埒さに晒されてなお仔狐の少年に聖性を感じさせるこの修道院は、
断頭革命グランダルメというディヴィジョンが消滅する際にひとびとは正しい歴史へ還るけれども、この修道院そのものはどうなのだろう。大地の奪還というからにはこの地に存在するものすべてが正しい歴史へと還るのか、あるいは正しい歴史の世界には淫魔に穢されることのなかった修道院があり、今ここで淫魔の根城とされた修道院は消滅してしまうのか――。
たとえ遠くない未来に淫魔の痕跡もこれから幕を開ける戦いの痕跡も最初からなかったことになるのだとしても、
「出来れば建物への被害は少なく立ち回りたいところですね。ここは元々、この地のひとびとの祈りの拠り所なのですから」
「何事も過信は禁物ってのがお約束だけど、俺だけじゃなくアンゼリカの分も燈った【建物復元】に期待しようじゃないの」
断頭革命グランダルメに生まれ育った彼の胸裡には言い尽くせぬ想いがあるのだろうとは訊くまでもなく察せられたから、敢えて軽くその肩を叩いてノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は、春祭りの準備の際に燈した力を花開かせた。
最初こそは名前のとおり破壊された建物や家財を元の状態に戻すのみだった【建物復元】は、昨年の強化を経て『建造物が破壊されにくくなる』という力も得た。戦闘の余波くらいなら聖堂が傷つくこともあるまい。幸いなことに今から戦いを挑む敵が揮う術は分類するなら精神系、淫魔『フレグ・ラスト』の術が戦場に物理的な影響を及ぼすこともないはずだ。
春の香り溢れる花々、春の幸せ溢れる笑顔。
村のひとびとや仲間とともに過ごしたひとときは修道女達をここから遠ざけるという目的を果たしたばかりではなく、胸に春陽の如く輝く英気を満たしてくれたから、溌剌たる意気込みと共にシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)が相棒から贈られた聖剣を握りしめれば、絶大な魔力の高まりとともに淡い碧の刀身が眩いほどに輝いて。
「だねっ! 一緒に挑みたかっただろうアンゼリカさんのためにも、ここは全力の限界突破でいくよっ!!」
――そういうわけだから、いざ正面突入!
――扉からお邪魔しますっ!!
幾重もの尖頭アーチに彩られた正面ファサードの扉が開け放たれた刹那、
聖堂内の淫魔『フレグ・ラスト』めがけて百花繚乱の一斉攻撃が叩き込まれた。
薔薇窓と壁面の大窓を彩る壮麗なステンドグラス、それらを透かした陽射しが美しい彩の光で満たす聖堂に眩い七色に輝く砲撃魔法が迸り、数多の宝石めく硝子の煌きが虹色の砲撃にいっそう輝くなかを鐘の音に導かれた幾条もの光が剣を成すよう降り注げば日の神の銘冠する弓から神火の矢が翔け、己の裡から花開く光を槍に結晶させた竜城・陸(蒼海番長・g01002)がその鋩を春の丘に咲く黄水仙よりも山野を飾る針金雀児よりもなお眩く研ぎ澄ませたなら、
「敢えてこう言わせてもらおうか。光あれ――とね」
「あんたの命のラストノートを、百花繚乱で彩りに来たよ」
『……っ!! まさか、ディアボロス!?』
鋩を二重の命中強化でいっそう強く煌かせて蒼海の竜が奔らせた光槍が淫魔『フレグ・ラスト』の胸を貫くと同時、数多の彩の煌きで光も影もひときわ耀く魄翼で翔けた星斑の猛禽が嘴爪めく刃で獲物の胸元を喰い破る。陸の光槍とノスリの嘴爪が淫魔の反撃も初撃も捻じ伏せた途端に飛来するのは青き光の羽根が舞う残像をその軌跡に残して翔ける魔力の矢。
輝ける青き矢の連射に穿たれた淫魔の四肢を鎖した蔓棘が鮮やかな薔薇を繚乱と咲かせれば、彼女の足元に編み上げられた光の花冠が浄化の輝きを噴き上げ、賛歌(アンセム)とともに光の空間へ黎明の丘に黄水仙が咲く春曙の楽園が構築された。
現実世界を改竄(ハッキング)する伊吹・祈(アンヘル・g10846)のEDEN(エデン)が花開かせた光景に微笑すると同時に永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は先手を獲る加護を齎す風を掴み、
「ええ。仰るとおり、ディアボロスです。黄水仙の丘で逢った蕾達は可憐に踊って咲いてくれましたが、あなたも如何?」
「フレグ・ラスト! あなたに『も』終わりを届けに来たよ! ナポレオンの許には行かせないからっ!!」
黒毛八尾のクダギツネとともに跳び込む先は攻撃の機を奪われた淫魔の横合い、獣牙が彼女の影を穿つと同時に奔らす己が背丈を超える銀の縫い針が初撃に続いて蔓棘の糸に薔薇を咲き誇らせれば、先程の星斑の猛禽の【飛翔】を見るや迷わず己も舞い上がったシルが背に咲く魔力の翼を張り詰めながら、限界突破の超高出力型砲撃魔法を叩き込む。
淫魔の直上から降り落ちたのは、自陣最高火力の七芒星精霊収束砲(ヘプタクロノス・エレメンタル・ブラスト)!!
然れど一斉突入と同時の総攻撃こそ為すすべもなく受けるしかなかった『フレグ・ラスト』も強力なアヴァタール級、
『解体少女達も殲滅してきたってわけね。新兵同然だけど数は相当だったはずなのに、どんな奇跡を起こしたの?』
艶やかな繚乱を咲き誇らせる薔薇の宴、絶大な魔力を眩い虹の輝きと成して叩き込まれた魔力砲撃、それらへ一気に香水の香りを咲き誇らせた反撃が揮われるけれど、相手が強敵であることは誰もが承知の上だ。純白の法衣を凛然と翻し、
「今から存分にお見せできると思いますよ! ナポレオンの許に行きたいのなら、私達を倒してからにしてくださいね!」
『あたしが陛下の許へ向かうのまで、邪魔させてなるものですか――!!』
ここから逃しはしないと示すよう扉の前に立ちはだかって見せるのはユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)。紅樺色の双眸を鮮やかに輝かせたのは、その手の日と炎の祝福を受けた弓に神火を収束させた灼熱の矢が番えられたからで、輝ける焔が射ち放たれれば淫魔の手から妖艶なオペラピンクに煌く香水が宙に広がり躍って神火と激突したが、
双方に痛手を齎す焔の輝きと熱でいっそう花開く香りの中で淫魔の眼差しが後方へ翻ったのを、鋭い観察眼を備えた蜜色と蒼穹の眼差しが見逃さない。一瞬で聖堂の空間を翔けるのは琥珀と蒼穹の翼、
「あははぁ、そっちに脱出路があったりするわけだ?」
「だとしたら尚更、好きに動いてもらうわけにはいかないな」
建築物に高さを持たせるのが難しかったロマネスク様式の後に台頭したゴシック様式は天へ向かって高く伸びる教会建築を望んだ聖職者達の願いを叶えた建築様式、戦うのに支障のない広さを持つ空間という事前情報のとおり聖堂内は【飛翔】にも問題ない高さの空間を有し、パラドクスではなく本物の華麗な花々の香りや清涼な香草の香りにも満ちた戦場を翔けた星斑の猛禽とエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、ゴシック建築ならではの壮麗さと重厚さで大きな聖堂の左右に建ち並ぶ柱を蹴りつけた瞬間、素早く身を翻して聖堂の奥へ駆け出した淫魔の眼前に降り立った。
『……っ!!』
途端に鮮烈な軌跡を描いて奔るノスリの嘴爪と蒼穹の天使がクロスボウから連射した青き光矢が淫魔の肌身へと鮮血の華を咲かせるが、爆ぜるような勢いで反撃の香水を溢れさせると同時に強引な突破を図った彼女が床を蹴らんとした瞬間、一気に花開いて淫魔の意識を一瞬眩ませたのは聖堂の祭壇を背に黄金の双翼を広げた祈が構築した楽園の光景。
「ここにいる皆さんはあなたを逃すような方々ではありません。だが念には念を入れさせてもらおう」
次の瞬間には祭壇前に祈とエトヴァが重ねた【防衛ライン】が突破を阻む力を奔らせ、
「神の御前に恥じぬ戦いをさせていただきまする! フレグ・ラストよ、ここで果てる覚悟をせよ!!」
「そう。しゃらの言葉どおりここが君の最期の地で、ノスリさんの言葉どおりこの戦いで揮う香りが君のラストノートだ」
強敵相手とて怯みは致しませぬ、と己を奮い立たせて包囲を固めんと跳び込むしゃらが淫魔の足元へ光で編み上げた花冠が浄化の輝きを噴き上げたなら、同じく包囲強化のために踏み込んだ陸が夜闇を薙ぎ払う暁光そのままに揮った光槍が、咄嗟の防御に淫魔が躍らせた青き鎖めく尻尾ごと彼女の腹部を薙いだ。
現場到着前に仲間と意志を共有した上での包囲は、敵が唯ひとりであることもあってこんなにもスムーズだ。
中世の頃にはこの修道院も避難所(アジール)だったのでしょうね、と蒼穹と黄昏の双眸を細めつつソレイユが、突入時の初撃の際にはもう手許へ咲かせていた光の鍵盤へ更に十指を奔らせたなら輪舞曲の旋律が聖堂内に招くのは福音のごとき鐘の音色。いかなる犯罪者であれ逃げ込めば世俗の権力から庇護されたというアジールなれども、権力者が強硬手段に出ることが皆無だったわけでもないから、
「万一の際に避難者達を逃がすための隠し通路が、元から祭壇の陰に存在していた――といったところですか?」
『……!! どうあっても逃がすつもりはないってことね、それならさっき言われたとおりあなた達を斃していくまでよ』
今は懐に秘めた青と金の煌きから伝承知識が花開くままに告げれば、鳴り響く鐘の音が聖なる光に変じて数多の剣のごとき鋭さで淫魔へと降り注ぐ。覚悟を決めた青き瞳が挑むように煌けば、強大な力を秘めた香水が解き放たれた。
強行突破は不可能だと察した淫魔『フレグ・ラスト』が揮う香水にはより深く魔力が凝って、香水瓶から振り撒かれるたび爆ぜるように溢れるたびに猛威を揮う。時先案内人が語っていたとおり、精神的な作用だけではなく純粋な攻撃力そのものも侮れない。祭壇後方の天井近くに輝く薔薇窓と壁面のステンドグラスを透かした陽射しが数多の彩を煌かせるなか、ひときわ妖艶に煌いたオペラピンクの香水が星斑の猛禽めがけて躍った瞬間、迷わず青き精霊術師が跳び込んだ。
元より如何なるジェネラル級にも断片の王にさえも怯まぬシルだが、限界を超えてなお蹂躙戦記の断片の王に挑んで深手を負った相棒の分まで気概を抱いて挑む此度は、常よりもなお眩く輝く勇気が華奢な身体の裡から溢れるようで、
「思いっきりディフェンスしていくよ! 今回はアンゼリカさんの想いも持っているんだからねっ!!」
「あっは、そりゃもう間違いなく鉄壁の護りじゃないの!」
西洋杜松と麝香が深める夜がヘリオトロープの夜明けを迎え、乾いた風めくパピルスの香りの先に明星めいて煌くセドラ。
魔法で生成するがゆえに彼女の香水は変幻自在、これがフレグ・ラストがノスリさんに合わせた香りなんだと思うけれど、彼のための香水でもその香りはシルの心を圧倒するように眩ませて、然れど五重に燈された防御強化で堪えたなら高速詠唱で花開かせた精霊魔法陣から迸らせるのは反撃の虹の輝き。
「負ける、もんかーっ!!」
「好いねぇ、その意気!!」
薔薇窓やステンドグラスから聖堂の外まで輝きが溢れ出しそうなほど眩い魔力砲撃が淫魔を直撃、青き精霊術師の気概にも聖堂が絶大な砲撃の余波から【建物復元】の効果で護られている様にも快哉めいた声音を咲かせ、虹の光の奔流を目眩ましに一瞬で淫魔の背後を獲ったノスリの嘴爪が青き翼と白き背を喰い破れば、
「絶対に逃がしませんし、絶対に負けません! フレグ・ラスト、これがあなたの葬送の焔です!!」
凛と通る声音を張ったユーフェミアの懐で恋人たるアンゼリカから贈られたアミュレット、いにしえの騎士から血脈と共に受け継ぎ、彼女が心と守護の魔力を籠めてくれたそれが熱を帯びた。聖堂が【建物復元】で護られて、淫魔に隷属させられた修道女達を巻き込む恐れもないとなれば何処までも全力を咲き誇らせるまで。
深淵の闇さえ輝かせんばかりに眩い神威の焔を矢と成し神名の弓へと番えたなら、
灼熱の輝きととも奔らせた一撃が、淫魔『フレグ・ラスト』の胸を深々と貫いた。
●パルファム
光の聖書とも呼ばれる美しいステンドグラスの彩光とともに、華麗な花々の香りや清涼な香草の香りが満ちていた。
淫魔『フレグ・ラスト』が揮うパラドクスの香水が咲かせる香りを感じられるのはあくまで攻防の瞬間のみ。パラドクスの香水もその香りも攻防の瞬間ごとに霧散するが、彼女が香水工房へと改装しディアボロス達が突入する瞬間まで香りの研究に没頭していた聖堂には彼我の力が幾重にも激突する攻防のさなかにあっても薄れぬ本物の花々や香草の香りが溢れ、
天使のハーブことアンゼリカやシナモンの香りにふと気づけば蒼穹の天使の胸裡へと花開いたのは、常に手許にある太陽と月の薬草系リキュールではなく、17世紀から修道院で製法が受け継がれていると言われ、現代でも『リキュールの女王』と称され愛されている銘酒の記憶。地球と十字架をシンボルに掲げるあのリキュールが示すとおり修道院と香草は元より近しい存在、ゆえにここならそれらの精油や芳香蒸留水を労せずに入手できるだろうという理屈は解るのだが。
「香りの研究とは興味深いのだが、用途がよろしくないようだ」
「ある意味では戦いのための鍛錬とも言えるのだろうけど、ね」
「ええ。香りへの美学など聴かせていただきたいところですが、研究は途絶させていただかなければ」
実に淫魔らしい精神作用を齎す香水を究めんとするフレグ・ラスト、あらゆる方向から仲間達の猛攻を受けつつも然したる消耗も見せず応戦するその様は流石のものだが、頭上から撃ち込まれた虹色の砲撃魔法へと彼女が反撃の香水を放った刹那、一瞬の隙を逃さず捉えた蒼穹と黎明の眼差しが其々の力の煌きをも映す。刹那の精神集中でエトヴァが放つクロスボウからの精密連射、幾重にも奔ったその青き光矢と、瞬時に掌中へ咲かせた光を輝ける鋩へと花開かせた陸が繰り出す槍撃が左右から淫魔の翼ごとその背を深々と穿って反撃を捻じ伏せたが、
攻勢の機会だけは死守したフレグ・ラストは、ふわり振り返って嫣然と笑んだ瞬間に音も無く床を蹴った。
嫋やかに伸びる柔らかな腕、撓やかに翻る優美な脚、標的の理性を奪わんとする攻撃だと看破した瞬間にヤコウが仲間達の盾となって己が身に引き受けたパラドクスは一手で三体を狙えるブロッサム・キャプチュード。柔らかな肢体からは甘美なる夜の王様ことジャスミンの香りが花開き、深く甘くスモーキーなラブダナムがより蠱惑的に香らすそれをシトロンが軽やかに咲かせて、強大な魔力で黒銀の妖狐の心を縛めにかかる。
「一度に三人を相手取ろうだなんて、流石は淫魔ですねと称賛するところでしょうか」
『お褒めにあずかり光栄だけど、それなら独り占めなんてしなくていいのに』
淫魔が艶めかしく絡めてくる四肢と香り立つパルファムの誘惑の威、それを多少なりともバックステップで緩和できればと思いはすれど、陸とエトヴァを庇う位置で彼らの分まで攻撃を引き受けた現状では後方へ跳ぶわけにもいかず。然れど彼女の術の冴えを増す技能すべてでフレグ・ラストを凌駕し、中でも誘惑の技能は倍以上に高めたヤコウは宵紫の眼差しで涼やかに淫魔を見返して、
「あなたの香りも興味深いけれど、僕に似合いの香りも聴いてみたいですね。なんて」
『――!! そうね、月下香あたりを主役に考えてみようかしら……!!』
妖狐ならではの美貌を最大限に際立たせる艶やかな笑みを覗かせれば己と仲間とで四重にまで跳ね上げた反撃強化の加護も得て淫魔の誘惑の威力を半減。影へ打ち込まれる小さな相棒の牙も彼女自身へと迷わず奔らせる銀針の鋩も何処までも鋭利に獲物を穿ち縫い留めて、四肢を鎖す蔓棘がひときわ豪奢に繚乱の薔薇を咲かせたのは、それが三連の反撃であるがゆえ。
痛烈な反撃の薔薇に呑まれた淫魔は鮮血を溢れさせつつも強引に蔓棘を引き裂いて縛めから逃れたが、軽やかなステッチの運針のごとき足取りで彼我の距離を殺せば銀針が再び閃くとともに咲き誇るのは攻勢の薔薇の宴。一瞬で彼女の反撃も次撃も捻じ伏せたなら、五重の攻撃強化に威力を高められた【ドレイン】の癒しがヤコウの裡で四重に花開き、
明るい薔薇の彩を黄金に融かしたように美しく煌く大きな銅製の蒸留釜、優美な曲線を描くその表面にも妖狐の薔薇が映り込むと同時、蒸留釜をいっそう華やかに煌かせたのは輪舞曲に躍る鐘の音とともに淫魔へ撃ち込まれる数多の光。この相手が強敵であると理解しているからこそ、妖狐と真っ向から向き合っていた彼女の背後を獲っての攻撃も厭わない。
「あなたなら背後からお誘いしても麗しいダンスを披露してくれるでしょう?」
「其方が脅威であるがゆえに、全力を、それ以上をもって挑むのみ!」
『やってくれるじゃない……!!』
華麗に奔らす己自身の旋律が心高鳴らせるまま咲かせた太陽のごとき紋章を輝かす魔力障壁でソレイユが反撃の香水を全て弾き飛ばせば、彼や仲間達に倣って技能を研ぎ澄ませて戦支度を調えて来たしゃらも、己自身が纏う沙羅の花の香り、柑橘や茉莉花を思わせ甘く爽やかに花開くそれを意識して心から芽吹く光で一気に編み上げた花冠から浄化の輝きを咲かせて淫魔の反撃を圧倒して消し飛ばす。強敵相手でも怯みませぬ、と心を奮い立たせて挑んだ仔狐の少年自身が己の戦果に目を瞠る。
――精鋭の皆様には及ばぬまでも、
――確と戦支度を調えて挑めば、私でもここまで敵と渡り合えるのでございますね……!!
輝きが踊る、香りが躍る。
彩光と芳香が満ちておどる聖堂での戦いの天秤はディアボロス側に傾きつつあったけれど、纏う傷を増やしながらもいまだ淫魔『フレグ・ラスト』の青き瞳に輝く戦意は色褪せない。軍勢は率いていけずともせめてあたしのアクアミラビリスだけは陛下のお役に、と彼女が生成し揮い続けるアクアミラビリス、奇跡の水の香りも褪せることなく鮮やかさを増すばかり。
魔法で生成される彼女の香水は変幻自在、それゆえ揮われる香水も千差万別の香りを咲かせるけれど。
「あなたの香水は魅力的ですが、でも、香水は着ける人も合わせて初めて効果が出るって聞いたことがありますからっ!」
眼前の敵が揮う香水はパラドクスゆえに必中であることも、彼女が敵を香りに依存させるパラドクスに用いるのが『相手に合わせた香水』であることも識りつつユーフェミアが毅然と声を張って神火の輝き番えた神名の弓を引き絞ったなら、
あらあら、と瞬いたフレグ・ラストが双眸を細めて覗かせるのは余裕の笑み。
――淫魔に向かって可愛いことを言うのね、お嬢さん。
――確かに香水は着けた当人の肌の匂いと融け合ってこそ最終的な完成を見るものだけれど、
『数えきれない程の相手と肌を合わせて来たあたしがそれを理解していないだなんて……本当にそう思っているの?』
事前情報によれば香りの研究に耽っていた淫魔だ。研究者をその専門分野で論破せんとするのは流石に分が悪い。
艶やかな唇が笑んだままに告げた瞬間、淫魔が振り撒いた香水と聖女の名を授けられし少女が射ち込んだ神火が激突して、神威の焔を圧倒してその威を半減した妖艶なオペラピンクの香水が痛烈な反撃でユーフェミアを呑み込んだ。強大なる魔力を五重の防御強化が鈍らせてくれるが、それでも眩みそうになる心を必死で叱咤する。
甘美に花開くジャスミンの香りと瑞々しくフルーティーな甘さを咲かせるスイートピーの香りとが融け合って、甘酸っぱい爽やかさをオレンジが添えれば軽やかにユーフェミアの肌で跳ねたピンクペッパーの香りが彼女自身の可憐さを引き立たせ、何時までもこの香りを纏っていたいと思ってしまうけれど、
続けざまに攻勢を仕掛けた淫魔が解き放った香水の霧が少女へ襲いかかるよりも速く大きな鳥影が翔けた。
濃密なオペラピンクの霧は淫靡に煌き、濃密な香りは官能をぞくりと撫で上げる。ヒトフェロモンそのものは無臭であると聴くけれど、甘い華やかさをエキゾチックに花開かせるプルメリアの奥から夜に咲くジャスミンの甘美さが媚薬めいて香れば麝香が更にそれを豊かに深めていく様は成程『強烈なフェロモンのような』と言えそうにも思えたが、
一手で二人を呑み込む霧からユーフェミアとシルを護りきった星斑の猛禽は蜜色の瞳を不敵に煌かせ、酩酊にも似た感覚を齎してくれた香水の霧を大気をも断つ神名のナイフで斬り裂いて、光も影も耀く翼から咲かせた魔力障壁と共に霧を突き抜け香水の威を半減したなら、フレグ・ラストの眼前でノスリが覗かせたのは悪戯な笑み。
「秘めやかに薫るくらいが好みだけど、酔えるのは楽しいな。戦意を失うどころか心弾むね」
『――……!! いいわ、次はもっと官能的な香りであなたの戦意を捻じ伏せてあげる!!』
至近で鮮烈に閃く嘴爪のごとき刃が柔肌も血肉も喰い破る痛烈な反撃は少女二人の盾となったがゆえの二連撃、淫魔が香水の霧を踊らすための風の扱いは勿論、彼女が有する技能のすべてで己が勝るから。倍以上で圧倒する誘惑で淫魔のそれを軽くあしらって、倍以上の鋭さで冴える解体の技を披露するがごとく揮う攻勢の刃で彼女の反撃も次撃も捻じ伏せて、
己と仲間で四重に跳ね上げた【ドレイン】の癒しが身の裡に花開く感覚と、気丈に言い返すフレグ・ラストの言葉に一段と愉しげにノスリは笑んだ。命懸けの戦いのさなかにあっても己の香水を更に高めんとするその気概は嫌いじゃない。
「あらゆる意味であんたは香りの求道者ってわけだ。本職なら一家言あるのもそりゃ当然――ってね!」
「脳構造の関係上、香りは記憶と密接に結びつく物ですからね。感情も揺さぶる物と思えば、淫魔が利用するのも頷ける」
彼女の反撃の霧を捻じ伏せて散らした瞬間に星斑の猛禽からふわり幽かに躍ったのは、先程まで彼も皆も存分に触れていた陽のしずくを思わせて咲くミモザの香り。先程の楽園めくひとときを象徴する香りに神の理知めく度無しレンズ越しの青玉の双眸を細めたなら、口遊むアンセムとともに祈がすいとめぐらす指先から花開く楽園は彼自身が纏っていたタルト・タタンの残り香をも重ねた春のひかり満ちる光景。二重の命中強化にも導かれて構築された楽園は、
明るく眩い陽のしずくが咲き零れるミモザが春風に揺れ、
村の子供たちが花々にも勝る明るさで咲う、春陽のひととき――。
淫魔が有する技能の冴えを相殺し、楽園のトライフルの彩を添えれば祈自身の技能で冴え渡る改竄(ハッキング)が淫魔の瞳に映る光景を作り変えてその精神を侵食し、彼女の反撃を捻じ伏せて。
魔法で数多生成される淫魔の香水、反撃を捻じ伏せられ調香の甲斐なく香水を霧散させられようとも、次から次へと新たな香りを創造していくフレグ・ラスト。その意識が祈の楽園に一瞬呑まれた隙に青き光矢を彼女へ射ち込みながら、エトヴァが胸の裡に甦らせたのは何時かの夏の記憶。確かに香りは記憶と密接に結びつく物らしい。
思えば西暦1793年のパリ大学で、夢幻のごとき夏夜のひとときに香水を調香してくれたのも革命淫魔の調香師だった。
「香水を香りの交響曲と表現するように、元より音楽と香水は親和性のあるものだしな」
「香りも芸術のひとつ、って話だったしね!」
音楽に親しむ者が多い淫魔が香水の探究に興味を向けるのもある意味自然なことなのだろうと改めて実感すれば、青き光の羽根が舞うかのごとき残像を連射の軌跡に散らして翔ける光矢と妖艶な煌きを躍らせるオペラピンクの香水が交差した刹那に鮮やかな光が爆ぜた。溢れる反撃の香りは空色を思わすライラックの優しい甘さに、菫の花のみならず葉茎も合わせてふわり乾いた甘さを香らせるヴァイオレットリーフが融け込んで、柔らかな爽快感を添えるスペアミントが軽やかな風のように香るもの、見事に調和する香りは青空へと翔けて花開く美しい和音の響きまで聴こえてくるような心地を覚えさせて、
俺に合わせた香水なら好みを見抜いてそれに寄せて来るかと思ったが、そう来たか――と微笑しながら強く意識するのは、己が纏う香り。ほのかなそれを手繰れば檸檬めいて清々しく香るバーベナの裡から瑞々しい鋭さと果実の華やかさを咲かせるベルガモットが花開いて、青と金に彩られたエジプトガラスの香水瓶に秘めた香りや太陽と月の薬草系リキュールへも想いを馳せればそれらへ燈る技能も相俟って、淫魔の反撃はエトヴァへ痛手を与えることなく霧散する。
輝ける青き矢の連射に穿たれた淫魔めがけて続けざまに迸ったのは青き精霊術師が撃ち放った虹色の砲撃、淫魔の愛らしい香水瓶から溢れ出した妖艶なオペラピンクと激突すれば眩い七色の輝きのなかに香りの飛沫が躍って、
大きく花開く香りでシルを呑み込んだ反撃は、虹の名前を冠するアイリスが優雅なフローラル感と柔らかなパウダリー感を香らせる裡から、華やかな薔薇や瑞々しいスイートピーに甘く爽やかなオレンジブロッサム、そして春の森の優しさ咲かせるブルーベルや気品あるヒヤシンスの香りを花開かせていくそれこそ花々で虹を咲かせるような香水。これが標的を依存させるための術だと理解してはいても、
――これがわたしの七芒星精霊収束砲からインスピレーションを得て作った香りだっていうなら、
――ちょっとだけ、ちょっとだけ、嬉しいかもっ!
勿論、だからといって全力の限界突破で挑み続ける攻め手を緩める気なんて、ひとかけらもないけれど。
最初の突入時の一斉攻撃を星斑の猛禽が百花繚乱と呼んだように、皆の力が数多咲き誇ってフレグ・ラストが創り出す変幻自在の香りと幾重にも激突して繰り広げられる攻防は華やかの一語に尽きた。戦いのさなかにも変わらずに美しい彩と煌きを鏤めて聖堂内に射し込める光は西洋にほとんど馴染みのないしゃらにも聖性を感じさせて、満ちる本物の花々や香草の芳香はともすれば陶然となってしまいそう。
聖堂と伽藍、香水と薫物。
形は違えど相通ずるものがあるように思えば仔狐の少年は不思議な心地にもなるけれど、
この淫魔『フレグ・ラスト』が健在である以上、この聖堂は神の家ではなく、淫魔の香水工房なのだと改めて意識したなら姫沙羅の意匠が咲く薙刀を確と握り直す。淫魔の青き瞳と眼差しが重なれば即座に妖しくも優美な桃色の香水が煌き躍る様に思わず曇り空の双眸を瞠ったけれど、次の瞬間しゃらの視界に広がったのは太陽の輝き。
「依存性のあるものを与えるのは御遠慮願いましょうか。しゃらへ手出しはさせません」
「ありがとうございます、ソレイユさま! 私もいっそう励みまする……!!」
華やかな重音を光の鍵盤で響かせれば彼を背に護ったソレイユが花開かせるのは陽光めく輝きが紋章を織りなす魔力障壁、初々しい仔狐の成長ぶりを頼もしく思うけれど、まだ子供と言える年頃の少年に淫魔の魔手が伸びる様は看過できず、然れど淫魔が彼に合わせて創り出した香水――仔狐の少年が慣れ親しんだ文化では天上世界の象徴である蓮の花と邪気を祓うという桃の瑞々しい甘さを微かなジンジャーがぴりりと引き締めて、穏やかな落ち着きを感じさせる白檀の気品を花開かせる香りを淫魔とはいえ趣味は悪くないですね、と微笑してその威を半減する。
その上で、ですが、と揺るがぬ眼差しで相手を見据えて、
「貴方が愛し育てた香水が、人形皇帝の許へ参ずることはありません」
「正史のナポレオンが愛用したオーデコロンはアクアミラビリスの処方を継承したものと聴くけれど、人形皇帝には――」
――君のアクアミラビリスを自身のために役立てることは、諦めてもらおうか。
光の鍵盤にソレイユが十指を躍らせればひときわ絢爛たる音色で躍動する輪舞曲と鐘の音色、眩い光輝がステンドグラスの彩も孕みつつ幾重にも鋭く淫魔へ降り注ぐ少年演奏家の痛烈な反撃に重ねて、脳裏に花開いた歴史知識が咲かせる『学園』で得た知識を蒼海の竜もまた微笑とともに淫魔『フレグ・ラスト』へと告げたなら、その言の葉と同時に奔らせるのは陸の本質そのものの光を結晶させた輝ける槍。
海の雫たるローズマリーの強く透きとおるような爽やかさが睡蓮とレモンの瑞々しさ、弾ける水滴を思わす『水らしさ』を引き出して、淡い香草と花と果実の香りの心地好さも残しながら龍涎香(アンバーグリス)の穏やかさでくるみこむことで、鯨が悠然と泳ぐ大海を思わせ潮香るその波飛沫を想起させる香水――彼女の反撃を美しい香りだと素直に思ったけれど、
心を奪われることはないよ、と笑みを深めて陸は五重の防御強化とともに香水の魔力を凌ぎきった。
――この香りよりも美しい思い出を、
――先刻この胸いっぱいに燈したばかりだから。
●アクアミラビリス
銀盃花の爽やかでフルーティーな香りがペパーミントの涼感に揺れたかと思えば、
途端に雨の滴を連想したのは、梢から滴る香りが湿った森を思わせるオークモスの香りに跳ねたから。
深い森の緑陰から甘く苦く焦がれるよう長い余韻を引くビターキャラメルの香りが溢れれば森ではなく街の夜が祈の胸裡を覆って、重く苦く濡れそぼる雨がけぶる様を想起させるベチバーが奥深い香りを広げたなら、降りしきる雨の夜が甦る。
重く奥深い香りの裡に銀盃花やペパーミントの香りが淡く小さくきらめく様はさながら雨越しに見るイルミネーション。
思わず瞬きすれば青玉のはずの左眸が赤き光を孕むブラックオパールに変じた心地がして、背に咲く翼が黄金のみではなく鉛と黄金の双翼へと『還った』と錯覚すれば、その刹那に祈の魂の芯から爆ぜるように溢れ来たのは、
高揚感、万能感。
潰えた祈りの果てに、潰えた希いが萌芽するよう、己の裡から大天使が覚醒した夜。
淫魔の香水瓶から溢れて祈を呑んだ香りが呼び覚ます記憶は取り戻した己の尊厳を揺らがせるものと理性は認識するのに、強大なる力で世界を己が希うままに世界を改竄できるはずだった大天使としての感覚が、今の祈の感情を抗いがたい高揚感と万能感の輝きで覆い尽くしていくかのよう。
『気に入ってくれた? いいのよ、そのまま溺れてしまって』
「……流石はあなたのアクアミラビリスだ」
甘く滴るかのごとき淫魔『フレグ・ラスト』の言の葉が胸に響けば、纏わりつくようなその甘さを吐き出す心地で苦く吐き捨てる祈の称賛も甘言を嘯く蛇の言の葉。然れども降りしきる雨の香りの裡から光を掴み獲るよう透きとおるアクアノートを見出したなら、苦笑しながらももうその香りを手放さない。慾してやまぬのは還らない過日のアクアノートだけ。
知らぬまに燕の乙女が纏うようになっていた透きとおるアクアノートは、
あの雨の夜に祈自身の魂へ呼び水のように届いた彼女の聖歌で、
何処までも透きとおる硝子のような彼女の魂そのものだとも思えるから。
「僕で在る事を手放しては叱られる。何より……二度とは、僕が僕を赦せない」
たとえ甦った記憶のなかだけであっても大天使として力を揮う万能感に呑まれるわけにはいかないと握りしめるのは澄んだ紅玉のきらめきそのものを刃と成したかのごときツヴァイハンダー。指先代わりにルビーの鋩を淫魔へ突きつけたなら、己が袖口のカフリンクスがサファイアを煌かせると同時、淫魔への反撃たる楽園の光景が展開される。
現実世界を改竄(ハッキング)して構築されるのは祈が希う楽園。
淫魔が見たのは黎明に黄水仙咲く丘か、ミモザが咲き零れ子供達の笑みも咲き溢れる春陽のひとときか、
あるいは、雨の夜に幸福の王子を演じる燕が翔け来る様か。
――握りしめればルビーの魔晶剣から伝わる大天使の響動。
――成れの果てに大天使となった僕が本来からば滅ぼしていたはずの、過去の時代のディアボロス達。
あなた方が時を超えて燕の乙女を託してくれた思いが花開かせてくれたあの夜の奇跡を、僕は決して無にはしない。
奇跡の水に奇跡の記憶で祈が痛烈な反撃を返せば、然しもの淫魔『フレグ・ラスト』も加速度的に積み重なっていく消耗が堪えがたくなったのか思わず膝を崩しかけた。無論誰もがそれを見逃すはずもなく全員の猛攻勢が彼女を襲うが、
『奇跡というのはね、自らの手で創り出すものなの。まだよ、まだあたしはアクアミラビリスを創り出せるんだから!!』
気丈に己を奮い立たせて幾多の反撃を揮うフレグ・ラストが反撃の香水に紛らせ攻撃の香水を解き放ったと察すれば、その瞬間に跳躍した蒼海の竜は、妖艶なオペラピンクに煌くアクアミラビリスを大きく広げた深藍の竜翼とともに受けとめた。
春宵を思わせる菫の花の穏やかな甘さの裡から花開いたのは夜の女王たる月下香の甘やかにして妖艶な香り、夜の王様たる甘美なジャスミンの香りも融け合えばエキゾチックな南国の夏夜に迷い込む心地がして、ナツメグの刺激が柔らかな安らぎを齎す安息香(ベンゾイン)の香りを誘えば、優しい夢に溺れていけそうな気さえするけれど、
これは陸のために創られた香りではなく、
「どう? この香り、ヤコウさんは気に入った?」
「ええ、好い香りだと思います。――が、依存したいとは思わない」
彼が竜翼で庇った黒銀の妖狐のために創られた香り。
四重の反撃強化の加護を得た蒼海の竜が香水の威を半減し、何処までも眩く研ぎ澄まされた輝ける槍の反撃で淫魔の鳩尾を穿ち貫けば、一瞬の隙を逃さずフレグ・ラストの横合いへと跳んだヤコウは小さな相棒が彼女の影へ躍り込むと同時に長大な銀針を繰り出した。主従一体となって獲物を縛め薔薇の宴を花開かせる薔薇襲(ソウビノカサネ)、揮う黒銀の妖狐の胸にも小指にも愛おしい薔薇が咲く。
美しいものも馨しいものも艶めかしいものも好きだけれど、
淫魔のしどけない振舞いに一切の惑いもときめきも覚えないのは、
――心に咲く薔薇のひとが、
――何よりも僕の心を捕らえているから。
鮮やかな不意打ちで淫魔を貫いた銀針が蔓棘の糸でその四肢を縫い留め、絢爛にして繚乱の薔薇を咲き誇らせれば、反撃を捻じ伏せるほどの痛撃とは裏腹に柔らかな笑みを覗かせた。月下香(チューベローズ)という名の響きも好ましいけれども、事前に聴いたとおり聖堂に満ちるセンティフォリアローズことロサ・ケンティフォリアの香りも好ましいけれども。
「薔薇の香り――ロサ・ケンティフォリアばかりでなく、ロサ・ダマスケナの香りはお好きですか?」
『好きじゃない調香師なんて、いると思う?』
個人的な香りの好みだけを語ったのではないのだろう。香料として栽培されている二種の薔薇はいずれも華麗に気高く香るばかりではなく、他のあらゆる香料とも相性の好い、調香師にとっては至高にして万能の切り札とも呼べる存在なのだ。
棘が齎す甘い痛みと高雅な香りの檻が彼女を鎖すのも一瞬の間のことなれど。
僅か一グラムを得るために二千五百の花を必要とする香りの宝石、薔薇の精油を、美しいステンドグラスの彩光に華やかに煌く大きな銅製の蒸留釜でフレグ・ラストと香りについて語らいながら作り出す――僅か一瞬の間だけ、妖狐はそんな夢想に心を馳せた。
無論、淫魔が蔓棘から逃れるまでの一瞬の間に仲間達の猛攻が彼女へ叩き込まれないはずもない。
「純粋な芸術作品としての側面だけ見るなら、貴女が創る香りが潰えるのも惜しくはあるのだが」
「それでも! あなたの香水の『奇跡』は見逃せないからっ! わたし達の全力、遠慮せずにもってけーっ!!」
好機を看破した蒼穹の瞳に銀の煌きが躍ればエトヴァが淫魔めがけて翻したクロスボウから連射されるのは極限まで狙いを研ぎ澄まされた青き光の矢、宝石めいたステンドグラスを透かした陽射しに青き光の羽根の残像を散らしながら翔けて標的を穿つそれらが背からフレグ・ラストへ襲いかかるなら、彼女の頭上から撃ち込まれるのはシルが己の限界を突破して更に膨れ上がらせた魔力すべてを注ぎ込んだ砲撃魔法、
――六芒星に集いし世界を司る6人の精霊達よ、過去と未来を繋ぎし時よ……。
――七芒星に集いて虹の輝きとなり、すべてを撃ち抜きし光となれっ!!
即時の高速詠唱が輝ける精霊魔法陣を咲き誇らせるのは白銀の長杖の先ではなく、淡碧にきらめく聖剣の鋩の先。
壮絶な虹色の輝きの奔流が淫魔を呑み込めば、七色の光は勿論、青き光の羽根の残像が消えるよりも速くソレイユが奔らす旋律が幾条もの光を撃ち込んで、輝きの裡から花開く反撃の香りに少年演奏家は蒼穹と黄昏の眼差しを微かに緩めた。
海の雫というラテン語からその名が生まれたローズマリー、然れど現代でもなお聖母マリアの薔薇の意だという説が根強く息づく香草の透きとおる清々しさが穏やかなラベンダーの芳香を爽やかに咲かせて、甘く煙るような没薬(ミルラ)の香りと落ち着いた気品を柔らかに広げる乳香(フランキンセンス)の香りが花開けば、満ちるステンドグラスの彩光も相俟って胸に教会でのミサの記憶が甦る。
修道院での香草の精油やリキュールなどの製造は宗教色よりも民間医療の意味合いが強いものだが、よりキリスト教に深い関わりのある香りといえば香草よりも樹脂の香、この乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)だろう。
教会のミサでは乳香を焚いたりもするのですよ、と後で仔狐の少年に語ってみようかと微笑しつつも眩い輝きとともに咲き誇らせる魔力障壁で淫魔の反撃を捻じ伏せて、ひときわ華やかに響かせる輪舞曲で鐘の音色と光を容赦なく叩き込む。
淫魔の不埒を、歴史侵略者の所業を赦すつもりは毛頭ないが、その用途はともかく香水の探究者としてのフレグ・ラストの情熱を否定するのはソレイユ自身の矜持が許さなかった。己もまた、音楽の途を探究するものだから。
唯、彼女の香りは自分には必要ないというだけの話。
「香りは己を彩る術のひとつだとは思いますが――私を彩るのは、やはり音楽の方が相応しい」
香調を意味するノートも香りの調和を意味するアコードも、どちらも音楽用語から香水用語に採り入れられた言葉だ。19世紀後半には様々な香りを音階に当てはめた香階も考案されたように、音楽と香りは元より馴染みやすいものなれども、少年演奏家がその演奏で香水を綺麗に霧散させたなら、間髪を容れずに仔狐の少年が己が心を詠み、光を編み上げる。
――春祭り 陽と人集う 踊りの輪
――喜び連ね 花笑みや咲く
村のひとびとにとっては春祭りの準備であったひとときは、自分達にとっては春祭り本番そのものだったから。
あたたかな春の想い出がこころに芽吹かせてくれた新たな力でしゃらは淫魔を包む光の結界を花冠と成して編み上げる。
「フレグ・ラスト! 今お前を囲むは我らだけにあらず! この地に生きるひとびともともにあると知れ!!」
「そう、もうあなたは何処にも行けませんから! フレグ・ラスト、聖なる焔に抱かれて眠りなさい――!!」
村のひとびととの想い出の象徴たる春の花々の花冠たる光が浄化の輝きを噴き上げる中に射ち込まれるのはユーフェミアが神名の弓から解き放った神威の焔。灼熱の一矢が淫魔を射抜けば不意に少女の鼻先を擽ったのは天使のハーブの香り、
――アンゼリカ……!!
聖女の名を授けられし少女が胸裡に響かせたのは香草の名であったのか恋人の名であったのか。いずれにせよ途端に彼女の時間が急加速したのは三重にまで高められた【ダブル】の効果が発揮されたがゆえ、己のものだけではない力も神火に重ねる心地で続けざまに放った灼熱の一矢が淫魔の胸を貫けば、次の瞬間には星斑の猛禽が彼女の懐に飛び込んでいた。
陽と月の影ならぬ美しいステンドグラスの彩光でフレグ・ラストを眩ませて、迷わず振り下ろした嘴爪の刃で彼女の柔肌も血肉も命も喰い破れば、その拍子に砂色混じりの真珠とも猛禽の羽毛とも見ゆる彩を燈すノスリの髪から、ふわりと陽の雫が淫魔の眼前に零れて舞う。
肩車をしてやった際に幼いコラリーが可愛らしい悪戯をしてくれたのか、髪の奥に秘められていたおひさまのしずくめいた愛らしい花は春の香りを柔らかに溢れさせて、
『さっきから、時々香りがしてたの……この、花?』
「そう、ミモザ。このディヴィジョンの一般人の皆サンには初めての花だったけど、あんたなら知ってる?」
頽れる彼女を床に横たえてやりつつ訊かれた言葉にノスリが応えたなら、
『あたしも、初めて。……可愛い花、優しい香り、ね。スイートピーやゼラニウムの香りと合わせれば、きっと――』
最期に笑んだ花唇でそう紡いで、淫魔『フレグ・ラスト』は息絶えた。
香水への真の求道心に触れた心地になれば、薄紫のスイートピーや真紅のゼラニウムの花の彩に染まる明け空に、ミモザの彩の陽光が咲く春の夜明けとその香りを体感したような心地さえ覚え、ラストノートまで存分に堪能させてもらったから、と星斑の猛禽は懐の【アイテムポケット】から取り出したミモザの花枝をひとつだけ、遺骸が消えるまでの間だけでもと彼女の胸に抱かせてやる。
――ドウゾお休み、フレグ・ラスト。
美しいステンドグラスの彩光が照らす床にはやがて、ミモザの花枝がふうわり落ちた。
この花枝も自分達の帰還とともに消えるのだろう。元に戻った修道女達が神の家に帰ってくるよりも、先に。
強化によって【建物復元】に付加された『建造物が破壊されにくくなる』効果は、聖堂を確り護りぬいてくれたから、
「なら……これだけで良さそうだな」
「あっ! そういえば燈してましたね、【クリーニング】!!」
蒼穹の瞳を緩めて穏やかに微笑んだエトヴァが花開かせた【クリーニング】の効果が、淫魔が流した鮮血も何もかも綺麗に浄めていく光景にユーフェミアが紅樺色の双眸を大きく瞬いた。薔薇の彩を黄金の輝きに融かしたように煌く銅製の蒸留釜も改めて磨き上げられたかのごとくひときわ光り輝いて、美しいステンドグラスの彩光もいっそう壮麗に煌いた。
清浄な聖性を取り戻した聖堂でノスリが騒ぎの詫びにと黙礼すれば皆も彼に倣って、
あとは修道女さん達に任せよう、と皆にエトヴァが出立を促した。
――香りも薬も、正しく使ってこそ。
――今後はここで、誰かの幸福や癒しのための香りが作られていきますように。
陽がまだ高い春の青空を【飛翔】で翔ければ、改めて空から見霽かす村の美しさが皆の胸を詰まらせた。
林檎の花々にうずもれるような村は春祭りの準備にディアボロス達が関わったことでいっそう華やかな彩を咲かせて、村のひとびとの笑声も楽しげに咲いて空にまで響き渡る。陽の雫たるミモザの花々を降らせていこうとノスリが誘えば仲間達にも否やはなくて、皆が【アイテムポケット】からたっぷり掬いとった明るい陽色の花々をせーので村の広場へ降らせれば、
春の青空から舞い降るのは、
おひさまのしずくの花の雨。
こんな『奇跡の水』を作り出すのも楽しいデショ、と星斑の猛禽が皆に片目を瞑って見せれば、
「空からミモザのお花……!! って、わああ! ノスリお兄ちゃん達がお空とんでるー!!」
「おお!? 本当だノスリ達じゃないか、あんたがたそんなことまで出来るのか!!??」
「あははぁ、びっくりした!?」
陽色の花の雨にわあっと村のひとびとの歓声が花開くなか、空を振り仰いで真っ先に声を張り上げた幼いコラリーが大きく双眸を見開いて、すっかり口調が砕けた村長のガストンも目をまんまるにした次の瞬間には相好を崩す。
先程【アイスクラフト】や【口福の伝道者】で驚いた分ディアボロス達が不思議な力を使うことは皆すんなり納得したが、
「待ってヤコウ、あなた達もしかして……本当に春の使者だったの!!??」
「ええ。実はそうだったんです。僕たち春の使者から、奇跡を贈らせていただきますね」
空を振り仰いだ金髪のフラヴィがそんなことを言い出すから、茶目っけたっぷりに微笑み返して黒銀の妖狐は仲間達と共にいっそう華やかにミモザの花々を降らせていく。何せ全速の【飛翔】で移動時間を短縮できる分、帰還のパラドクストレイン発車までに余裕はあるが、流石に諸々を説明している暇はない。素直な驚きの表情でこちらを見上げている修道女達も陽色のミモザの花の雨に笑顔を咲かせる様を見れば淫魔の影響も完全に消えたと確信できたが、彼女達が自分達に起きたことを村のひとびとに明かすこともあるまい。村のひとびとが屈託なく笑っていてくれるなら、それでいい。
村のひとびとへのサプライズに、淫魔から解き放たれた修道女達への祝福に、と両の腕いっぱいに抱えた陽の雫をいっそう高くノスリが舞い上げれば、澄んだ青空に輝く春の陽から本当にそのひかりのしずくが村へ降り注いでいくかのよう。
「素敵な時間をいただいた分のプレゼントですっ!」
「楽しい想い出をありがとうっ! 明日の春祭りでもみんなに楽しい想い出いっぱいできますようにっ!!」
溌剌たる笑みを咲かせた少女達、ユーフェミアとシルが陽の雫めいたミモザの花々を思いきり春空へと舞いあげて降らせる様はさながら春の妖精のようで、少女達の姿に柔く微笑した陸は、子供達がもっととねだるのに応えて祈がたっぷりと陽色の花々を降らせる様にも笑みを深めて、自身も花の雨を村のひとびとへと贈る。心からの笑みを綻ばせてエトヴァも春の青空に思うさま陽色の花々を舞い上げ、優しく香るミモザが村へ降り注いでいく光景を蒼穹の眼差しで追えば、
平和な村というキャンバスに、春の奇跡を描き出す心地。
皆様に御礼と祝福をと張り切るしゃらが両腕いっぱいに抱えたミモザを少女ニノンの頭上を中心に振り撒く様に微笑んで、たっぷりと【アイテムポケット】から掬い上げた陽の雫を降らせたなら、村のひとびとから幸せそうな歓声が湧きあがる様に万感迫る胸の裡でソレイユは秘めやかに、短いひとときを過ごしただけでも愛おしさが尽きぬひとびとへ、別れを告げた。
――さようなら、同郷の友人達。
心潤す軌跡を、この先も描いて行こう。
眩しげに蜜色の双眸を細めてノスリが仲間達へそう呼びかけたなら、今度こそそれが皆で帰路につく合図。
全てを取り戻すための戦いへ、行ってきますね。ふんわり【アイテムポケット】に満ちていたミモザを最後のひとひらまで村のひとびとに贈ったユーフェミアも胸の裡だけでそう告げて、皆とともに春の青空を翔けていく。
最後にもう一度だけ村を振り返ったソレイユも、そっと名残を振り切るように加速した。
正確に言うならば、ソレイユが本当に還りたい故郷はこの基準時間軸の断頭革命グランダルメではなく、
基準時間軸よりも過去の時代、彼が命も愛する家族との日々も断たれた断頭革命グランダルメだ。
来たる奪還戦に勝利し断頭革命グランダルメのすべてを最終人類史に奪還することが叶って、基準時間軸のディヴィジョンそのものが消滅しても、ソレイユが生まれ育った過去の時空は、『あの男』、月影めく髪から翠玉の瞳を覗かすクロノス級の彼を滅ぼすまでは存在し続けるのだけれども――それでも、理屈ではなく感情が、脳ではなく魂が、今自身が翔けているこの空も、この大地も、どうしようもなく愛おしい故郷だと叫ぶから。
いずれにせよ、正しい歴史で生を全うするだろうひとびとと再会が叶うことはないのだろうと思えば胸裡には切なさが募る一方だけれども。自分達の帰還による拝斥力の影響だけではなく、正史へ還ることでも彼らは自分達のことを忘れてしまうのだろうけど、それでも。
「心温かいひとびとと、彼らから慕われた修道女達が居たという記憶は、私の裡に残り続けるのですから」
「私は……、私達の――私達だけでなく、ひとの心は、きっとどこかで繋がっていると、そんな奇跡を、信じます」
たとえ記憶が残らなくとも、生きる時も場所も違っても。
憧れのひとが寂しげに微笑するから、仔狐の少年が己の心のままを素直に語れば、俺もしゃらと同意見、と常よりいっそう穏やかに陸が微笑んだ。だって、揺るぎなく信じている。
世界が在るべき姿を取り戻した暁にも、繋いだ軌跡が齎したものはきっと何処かに残って、
「それがいつか僅かでも彼らの糧になると、そんな奇跡もあるのだと――信じているから」
ひとびとが還る先の正しい歴史もまた激動と戦乱に彩られているのだとしても、信じているから、迷わない。
だからこそ黎明の眼差しはまっすぐに前を向く。
見据えるのは来たる断頭革命グランダルメ奪還戦のみならず、その先にも続く、
世界のすべてに在るべき姿を取り戻すために翔け続けていく、ディアボロス達の『きせき』。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】がLV2になった!
【防衛ライン】LV2が発生!
【アイテムポケット】がLV3になった!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【植物活性】LV1が発生!
【活性治癒】LV2が発生!
【傀儡】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!
【ドレイン】がLV4になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!
【ダブル】がLV3になった!
【反撃アップ】がLV4になった!
【アヴォイド】LV1が発生!