招き猫で福をあなたに（作者 凪未宇）

20

リプレイ

●新年に招福猫児
　にゃにゃーんにゃー。
　スラリとした尾を伸ばし、黒猫が参拝の列に並ぶ。
「あぁなるほど。あの招き猫のお寺ってここなんだ。小判持ってない分普通の猫っぽくてかわいいな」
　招き猫が大量に並ぶ写真や映像は知ってたけどと、御守・樹（諦念の珪化木・g05753）は並ぶ黒猫を１人分ちゃんと開けて、続くフィーナ・ユグドラシア（望郷の探求者・g02439）も同じようにする。
　それは黒猫が猫変身した無堂・理央（現代の騎兵？娘・g00846）だと分かっているからではなく、参拝しようと並ぶ猫はきっとディアボロスが変身したものだろうから。
「そういえば、初詣のみをするのは今回が初めてでしたか？　以前は、どこかに行く前に立ち寄ることが多かった気がしますし、ゆっくりするには良い機会ですね」
　そう言うフィーナは敢えて振袖ではなく、水色の小紋を着ている。
　折角ですし、猫さん達と触れ合えるかも知れませんと、長い袖を避けたのだ。
　これなら、しゃがむ時も着物が汚れる心配が無い。
　大きな木々の間を歩き山門を潜れば、何だか空気が変わったような気にさえなる。
　そのまま石畳を進めば、右手に鐘楼が左手側には三重塔が。
「豪徳寺は猫好きさん達の間で有名だそうですが、緑が多いですね」
　世田谷区と言う都会の街という印象が強いが、ここはそんな街から切り取られたような場所だ。
　こういう場所であれば、自然と猫も集まってくるのかもしれない。
　本殿へと向かっていく間も、寺に置かれた設備にも小判を持たず右手を上げた招き猫の姿が描かれている。
　招福猫児は、人を招いて『縁』をもたらすが、福そのものを与えてくれるわけではない。
　人との大切な『縁』を生かせるかどうかは、その人次第。報恩感謝の気持ちがあれば、自然とその人のもとに福が訪れるという。
（「招福猫児は良縁を招くけど福は招かず自分で福を掴みに行けって面白いよね～」）
　にゃーと鳴きながら猫変身した理央が、何やら語っている。
（「『ねだるな勝ち取れさすれば与えられん』ってアニメの格言に通ずるんじゃない？　アニメの格言も元は聖書の一節から引用したっぽいし、信仰と親和性が高いかも？」）
　――求めよ、さらば与えられん。探せよ、さらば見つからん。叩けよ、さらば開かれん。
　必要としなければ、得たいものは手に入らない。
「ふむ、縁をもたらすけど生かせるかはその人次第って事か。いいな、そういうの好き」
　招福猫児はきっかけに過ぎないという所に、樹が共感していると拝殿の前に。
「寺社の場合は、神社と違って、確か合掌と一礼のみ、でしたか」
　フィーナの言うように、基本的に寺社の参拝は拍手が無く、合掌しながら一礼して願いを念じた後、再度一礼。
（「願うこと……『日々平穏』とか『いつか世界が元に戻りますように』とかでしょうか」）
　知人達と過ごす穏やかな時間を、元の世界をとフィーナは願う。
（「願うのはいつか地元に帰る事。まだ奪還してない地域だし、強く取り戻したいと願うほどではないとしても知人友人もいる。でもなにより。俺が捨てられた場所を一番に取り戻したい」）
　お寺で願うのは違和感あるけどと、樹が思うのは故郷のこと。
（「悲しい寂しいってしか思えないとこだけど、でも俺のはじまりの場所だから。
何もかも失くした俺が始まった場所だから」）
　それぞれが願ったところで、猫変身したまま参拝した理央は、本殿の傍らに座りビシッと右手をあげポーズ。
（「ディアボロス招き猫による縁招きだにゃ♪」）
　普通の猫から逸脱した行動を取らないようにと理央は振舞っているが、参拝する猫は普通はいないだろう。だがその辺りは、一般の人達も承知している。
　演技がいいね。可愛いねと笑顔で訪れて、手を振ってくれている。
（「少なくとも人寄せにはなるかな？」）
　人が集まる気配に、もう暫く招き猫をと理央は猫変身のまま訪れる人達を出迎えた。
　参拝が終われば後はのんびりと。
「うし、おまたせわらび。せっかくだし招き猫買ってこうぜ」
　そう樹がフードの中に声をかければ、待ってましたとアクアスライム『わらび』がポヨンと顔を覗かせる。
　何だかフードが重そうだと思えば、ずっとそこででおとなしく待っていたようだ。
「招き猫や猫さんのお守りなどあるようですし、可愛い物があれば購入しましょうか」
　招福猫児と言うんですっけと、但し書きの文字を確認し社務所へと足を向ける。
「どれがいいかなぁ？」
　御守り状のものから、小さな豆サイズの招き猫から尺程のものまで様々。
「微妙に表情が違う気がして迷うな。な、わらびはどれがいいと思う？」
　大きさは掌に握り込めるぐらいでと、樹は奪還したい地域との縁結びを願い、並ぶ招き猫をわらびと眺めた。
　小さな御守りを購入したフィーナは、招福殿に並ぶ沢山の招福猫児を眺めていればにゃーんと天然の猫が近付いてくる。
　猫変身した理央も天然招福猫児と出会えるかなと散策し、日向ぼっこしてるかなとこちらは三重塔の上でご対面。
「にゃーん」
　こんにちはと猫変身した理央が声をかけ、動物の友で話しかければ天然招福猫児もにゃーっと返してくる。
　にゃーんにゃーと、楽しそうに猫とおしゃべりしている猫変身した理央の姿を見れば、微笑ましく。フィーナの足元に寄ってくる猫に手を伸ばし撫でれば、嬉しそうに喉を鳴らし喜んでくれる。
「この後、甘酒を頂くのも良さそうですね。それから甘味も」
　甘いぜんざいを楽しむのもいいだろう。束の間の新年の時を楽しみ、ゆっくりと過ごすのであった。














●日記の綴し縁
　桜色の春色の振袖に美しいガーベラの花が咲き、良く見ればイチゴも散りばめられた着物を桜・姫恋（苺姫・g03043）は身に纏い、白水・蛍（鼓舞する詩歌・g01398）は黒の振袖に蓮の花と紫帯と大人っぽい装いだ。
「新年明けたわね！　皆あけましておめでとう！」
「ほほぉ、招き猫神社とは面白い場所もありますねぇ
あ、皆さん明けましておめでとうございます♬」
　こちらはどちらも青色の振袖姿だ。
　ソラ・フルーリア（歌って踊れる銀の星・g00896）は明るい透き通った空色の振袖。
　アオイ・ダイアログ（響き合う言霊の繰り手・g02687）は青地に赤い椿の花柄の振袖。
　ふと傍らを見れば、既に猫変身したナイン・スカーレット（ねこの隣人・g07595）が、安藤・優（名も無き誰かの代表者・g00472）の肩に乗って前足を上げて挨拶していた。
「ナインさんは、早速にゃいんさんになってますね」
「猫が沢山いる神社で初詣かあ……お参り……どんな内容にしようかな？」
　折角の招き猫神社ですしと、猫コーデで纏めたアルマニア・シングリッド（魔術センスは未だに壊滅的な元一般人兼空想召喚師・g00802）の姿に、メーラーデーモン『サフェル』が何か言いたげな視線を向けている。
　猫耳ニット帽に猫なマフラー。ダウンジャケットも長袖スウェットも猫デザインがされており、更には肉球デザインレギンスパンツに可愛い猫フェイス型の肩掛け鞄も持てば完璧っ！
「……サフェル、白けた目で見ないでよ。可愛いでしょっ！？」
「みんなは猫になんの？　いいね。アタシはいつも通りの格好だけど……」
　天夜・理星（復讐の王・g02264）の言葉にハッとアルマニアが周りを見れば振袖か普段着ばかりだ。
「なんでっ！？」
　ナインは猫の格好というか猫になっているから別として、何だか浮かれているように見えなくもない。
　いや、辺りを見回せば同じような服装で、猫との時間を楽しみに来ている人も居るようだ。
「あら、アルマニアは猫尽くしね！　可愛いわ！」
　いいじゃない猫尽くしとソラが微笑み、鞄やマフラーの猫を見せてと覗き込む。
　賑やかな様子に、通りがかりの天然招福猫児と猫変身したナインが、何やら話し合っていたようだがそこは猫の言葉、猫のみぞ知る。
「ねこさんいっぱいですねえ。素敵なところです。皆で連れ立ってお参りしましょうか」
　中に並んでいるであろう招福猫児の数もさることながら、集まる猫の数もそこそこ多い。
　彼らのおススメスポットでも聞いていたのかもしれない。
　猫も気になるが、まずは参拝から。
　初詣に、日記帳友の会がお出ましだぜと山門の前で一礼し、仲良く連れだって敷地の中へ。
「猫がたくさんの神社って珍しい気がするわね？」
「猫がたくさんいますね。かーわいっ」
　寒いせいか見かける猫は丸々と身体を寄せ合い、猫変身したナインの魅惑のボディにも負けていないふっくら感だ。
「仲良くなれますかね？　近くから微笑ましく見てたいですねー♬」
　猫が集まっているとこにそっと近付くと、アオイは着物を汚さないようしゃがみそっと眺める。
「ねこの集会は癒しスポットですね……！」
　そんな風に和んでいれば、いつの間にか猫変身したナインが混ざり込んだ。
　馴染み過ぎて身に付けている物がなかったら、とっくにナインの姿を見失っていただろう。普段から猫変身して過ごしているだけはある。
「へえ、招き猫が沢山居るのね！　面白いわ！」
　後で見に行こうと話しながら、おっと、初詣に来たんだからお願いごとをしないととソラは本殿へ向かう石畳に戻ってく。
　置いてきぼりにならないようにと、アオイや猫変身したナインも続き。
　寒いけど、神社と同じように手水舎で手をお清めし、香閣で全身に煙を浴びて体を清め本殿に。
「二礼二拍手一礼でしたか。神社での参拝は心得ありますよ！」
「神社はそうだね。でもお寺は拍手しなくていいんだよ」
　アオイの言葉に、理星がアタシからも教えるかねえ。その方が初めての人にも馴染むはずだと説明する。
「拍手しないの？」
　てっきりそうだと思っていた姫恋も驚いたように、寺社参拝の作法に耳を傾ける。
　まずは１礼し賽銭を賽銭箱へ。鰐口（銅鑼のような仏具）や鈴があれば、ここで静かに1度鳴らし、手を合わせお願いを。終わったら最後に深く１礼。
　初めて知った者もいるようで、神社と寺社は違うんだと感心しながら作法にのっとって参拝を。
「真剣にお願い事を行うから一旦猫は忘れて考えよう、ねこねこ……」
　手を合わせる優の肩にのっそりと、同じように祈る猫……ナインの姿があって、どうやっても猫が離れない。
　いやでもお願いは真剣に――結局思い付いたのは無難なものだけだなぁ……。
「昨年はお姉ちゃんを救えましたし、今度はお父さんも助けて家族を取り戻すんです！」
「全ての歴史と大地を無事に取り戻せますように」
　アオイの言葉に、やっぱり優もディアボロスとしての願いが真っ先に浮かぶ。後は何だろう。
「アタシはもちろん、商売繁盛！　銀プロがさらに発展して飛躍の年になりますように！」
　シルバースカイ・プロダクションを新宿島で経営しているソラは、会社の飛躍と所属タレントの活躍を。
「私の願いは相変わらず、今年も無事に過ごせますように」
　アルマニアは軽く手を合わせ、周りを振り返る。
（「……欲張ってもう1つ願うなら、皆の笑顔が溢れる1年になりますように」）
　これは内緒と、密かに微笑み。みんなでこれて良かったと嬉しそうに願う。
「願うのは……ひーちゃんとのこととか、それから友達のこととか。今年もたくさんの友達が作れたらいい」
　手を合わせ願いながら、チラッと理星は隣の姫恋を伺う。
　彼女は、恋人とのことや健康などこれからのことを願うのだとか。
（「そして……ひーちゃんとは、たくさん色んなことして、一緒に歩んで行けたらいいなって思うね」）
　願い事が終わったのか顔をあげた姫恋と目が合い、どちらともなく自然と微笑みがこぼれる。
　きっと穏やかな時間が２人の間には流れ、また次の年も周りは賑やかになるだろう。
　そういえば。招福殿に向かいながら、アルマニアが思い出したように口にする。
「此処、前にテレビ番組で見たことがありますね。確か、彦根にも所縁があったりしたんでしたっけ」
　だから彦根のマスコットも猫なのか。
　いや世田谷が、彦根藩の領地だった時代があるらしい。
「わぁ、見て見て！　奉納所に沢山招き猫がいるわ！皆が奉納していったのね！」
　ずらっと並ぶ圧巻の光景に、ソラが皆を招く。
「招き猫がたくさん！」
「実際に来てみると圧巻の光景ですね」
　並ぶ招福猫児の顔が良く見れば色々違うと、アルマニアは眺め尺程ある招福猫児と並べばその大きさに驚き。豆サイズの招福猫児は、可愛いと覗き込む。
　白い毛並みのせいか猫変身したナインが、招福猫児と混ざれば今度こそその姿を見失うほどだ。
「あ、せっかくだし皆でお守りでも買っていかない？」
「折角なら招き猫も買いたいかも？」
「お、御守りもある。招き猫もか……何にするかちょっと迷うけど……いい御守りが有れば買ってみよう」
「お守りか……いいわね。何買おうかな……」
　仲良く肩を並べ、様々な御守を眺め、手にしたのは揃いの招福猫児の根付を。
　心なしか少しお互いに似た猫を選んだのは、偶然かもしれないが。
「豪徳寺さんは、招福猫の御守が有名なようですね。それを買いましょう」
　蛍が選んでいれば、にゃーんとナインも選ぶと猫姿のまま器用に売り場を覗き込んでくる。
「ナインさんも御守にしますか？　可愛いですものね。猫可愛いですわ」
「私もお守りをお願いするわ」
　そうアルマニアも、猫の描かれた御守を。
「アタシは……これ！　小さい招き猫の入ったお守り！」
「私はストラップ付きの招福猫児ですね。ちんまりしたお猫様がかわいいですもん♬」
　小さな招福猫児をソラとアオイは揺らし。
　後で、お寺の近くで売られてるグッズも見て帰ろうかと盛り上がる。
「ふふ、これで今年も一年、いい年になりそうね！」
　最後におみくじも。
「今年はどうなるかな？　悪かったら縛れば良いんだっけ？」
　そう言って優が引いたのは、小吉。
　夢を大きく膨らますより、今は堅実に――。
「初詣とかで、運試しにやるのが私の中では恒例行事なんですよね。あ、サフェルもおみくじ引く？」
　サフェルとアルマニアが引いたおみくじは、末吉。
　身体に気を付け、周りの口車に乗せられあらぬ噂を立てられないよう気を付けて――。
　あまり良くなかったわねと、サフェルの手元を見ればこちらは吉。
　周りから愛されるよう心掛ければ運気は次第に上がります――。
　何だかサーヴァントの方がいい気がすると、不思議そうにアルマニアは結果を覗き込んだ。
「おみくじ！アタシもやるやる！　ま、アタシに限って悪い運勢が出るなんてことは……」
　勢いよくソラが引いたのは吉。うっ、微妙と何とも言えない表情を浮かべる。
　考えすぎて空回りするとがあります。才走ったりすると失敗を招くので、立ち止まり周りの声を聞きましょう――。
　きっと、これはここから上がっていくのねと前向きに。
「私もー♬　一年の計は元旦にあり！　どうだ！」
　悪ければ結べばヨシと言っていたが、アオイが引いたのは大吉。
　お人よし過ぎるところもありますが、意志を強くもてば大幸運を授かることでしょう――。
　蛍が引いたのは、小吉で。
　騙せば必ず報復となって身にふりかかるてしょう。何事も誠意を持って尽くすことで必ずあなたに返ってくるでしょう――。
「吉なら嬉しい、大吉ならもっと嬉しい」
「初詣といえばおみくじもだよね！　何が出るかな？　凶だけは嫌ね」
「凶が出たとしても、自分の力で変えにいくくらい、今年はたくさん世界救いに頑張るくらいの気持ちを持ちたいね」
　そんなことを言いながら引いた、理星と姫恋はどちらも中吉。
　あなたの運気はこれから上昇し、今までの苦しみが解放されます。そしてあなたの幸せを周りも祝福するでしょう――と、理星に。
　素直で優しい心の持ち主で多くの人から愛されます。決断に迷い好機を逃す恐れがあるので、はっきりと意志を持ち進みましょう――と、姫恋に。
　そして、そっと猫変身したナインが引いたおみくじは大吉で。
　心を清らかにあまりおしゃべりせず、控えめにすることでいい方向に進んでいきます。暫くは謙虚でいることが大事でしょう――。
　猫に変身していれば、あまりおしゃべりしないような。そんな風に首を傾げながら、おみくじの言葉を受け止めて、広い敷地の日溜りへと駆け出していく。
　きっと寒いから日当たりのいい場所に集まっているはずと、ナインが思った通り。
　先客の天然の招福猫児こと猫達に合流。
「折角なので集まってる猫ちゃんたちと遊びたいわね。猫変身で猫になったら仲良くなれるかしら？」
「天然の招福猫児にもお参りしてみようかな、特に意味はないけど猫の手も借りたいって言うし」
　姫恋が見守る中、優がお参りしてれば、何だか猫達がおしゃべりしているようで、顔を付け合わせ耳を揺らしてにゃーごにゃーにゃーヒソヒソ話。
「……皆さん色々しゃべってるんですかね。動物の友で何話してるのか聞いてみようかなー……？」
　好奇心もくすぐられ蛍は、彼らの会話に耳を傾ける。
　鐘の音がうるさかっただの、どこからこの大量の人間はやって来たんだろうなとか。蕎麦屋にいくと海老のおかしらが貰えるぞとか。
　他愛もない話ばかり。
　そこに当然のように混ざってナインが、本当にそうだよねぇと相槌をうっているのだから、思わず笑みもこぼれよう。
「この1年もきっと、楽しくなりそうだ……♪」
　友人達の姿に嬉しそうに目を細め、気が付けばそっと増えていた変身した誰かの猫姿に理星は口元を緩ませ。
　また一緒に。賑やかな時間を凄そうと、温かな気持になるのであった。


●日記の綴し縁、追記
　友の会のみんなと一緒に境内を散策しながら、安藤・優（名も無き誰かの代表者・g00472）は天然招福猫児を探そうとしていた。
　日記帳という交流の場がきっかけで、待ち合わせ初詣に来たのだが、周りはお姉さんばかり。と、既に猫変身したナイン。
　すっかり慣れ親しんでしまっているが、不思議と同じ歳ぐらいの男の子と過ごすより、こういった光景が多い気がする。
　ソラとアオイは、それぞれのイメージカラーの振袖に。姫恋も蛍も、良く似合った振袖を着ている。
　いつもと変わらない理星も彼女らしく、猫コーデで決めてきたアルマニアもとてもらしい。
　みんなと視線を合わせるかのように、優や他の人に上り愛嬌を振るうナインの猫姿は、すっかり見慣れたのではないだろうか。
　場所につられるように猫集会へと行ってしまいそうなナインの後に着いて、優も少し脱線するがまずはお参りを。
　気になることは、やる事をやってからでも遅くない。
　招福殿に並ぶ招福猫児を眺め、少しだけ……。
　三重塔へと近づけは、十二支に混ざって猫が刻まれている。
「ネズミの隣に猫が居る」
　そうなんですよーと着いてきてたナインが、したり顔でにゃーと鳴いた。
　するとその声に呼んだと答えるように、屋根の上や飾りの合間から天然招福猫児が顔を見せる。
「探さないでもいっぱい居るね」
　本当だねと言いた気に、ナインがにゃぁと相槌をうった。
　戻れば、すっかり御守の購入とおみくじタイム。
　何が出るかなとガサゴソ引いたおみくじは、小吉。
　うん、堅実に行こう。
　そして、大吉を引いたのはアオイとナイン……。
　もうナインが天然招福猫児でもいいんじゃないだろうか。
　猫の集会を再び目ざとく見付ければ、やっぱりナインが混じり。
　猫の手も借りたいと言うしと優がお参りしてみれば、ヒソヒソ話してた猫達がドヤッと右手を上げてポーズをとってくる。
「何か教えたでしょ？」
　問い詰めても今のナインは猫。猫は自由気まぐれ、知らないフリ。
　気がつけば更に猫変身仲間が増えて賑やかに。
　ふと、強い視線を感じ優が振り返れば、真っ白な猫が彼らを見送るように塔の上から見つめていた。
「あそこにも、猫が……」
　そう仲間に声をかけた時には猫の姿は無く。
　小さく過ぎ去る鳴き声だけが、風に消えていくのであった。




●兎と猫の合縁奇縁
　夜のような紺色に、桜の花びらが鮮やかに舞い。彼の名を示すように兎が満月を見上げ跳び跳ねる。
　そんな着物姿に天ヶ瀬・月兎（鬼狩兎・g09722）に着付けてもらったユヴィ・レリオ（幸せを壊さないで・g09587）は、転びそうになり月兎に手を取り支えて貰う。
「着物のときは慣れへんのに走ったら転ぶからな足元気をつけるんやで？」
　ありがとうと微笑めば、そこにはユヴィが手編みしたマフラーを巻いて眩しそうにみつめる月兎と目が合う。
「似合うてるよ」
　記念やからと気合い入れて着付けをしたが、やはり妻は何を着ても良く似合うと、その姿に嬉しくなる。
　どうしたのとユヴィが問いかければ、何でもないと月兎か微笑む。
「一応、マナー在るし真似たらええ」
　そっと足元を気遣うよう隣に寄り添って、月兎はしっかりユヴィと手を繋ぐと山門へとエスコートしてく。
　先ずは静かに合掌し、一礼して山門を潜って。
　緑豊かな石畳の道を進めば、思わず駆け出しそうな歓声をユヴィがあげる。
「んにゃぁ～💕　猫が沢山。仲間に居れて貰おうかにゃぁ？」
　と、今日はお参り。しかも隣には彼が居る。
「んー……でも、月兎と久しぶりのデートだしにゃ……可愛い着物着せて貰ったからまた今度遊びにくるにゃぁ～✨」
　そう猫達とお別れし、ユヴィはしっかりと月兎の腕に掴まった。
　それに……。
（「天然の招福児ココに住んでる猫たちにゃね🎵　ココならそんなに遠くないからまた遊びにくるのにゃ」）
　今住んでる場所からもあまり遠くない。なにせ帰還した地域だ。来たいと思えばいつでも行けよう。
　手水舎で手と口を清め、境内を歩き先に招福殿へ。
　生きた猫に変わって、今度は沢山の招福猫児の間を通る。
「……噂は聞いてたけど、ほんまいっぱい在るなぁ」
　並ぶ招福猫児は数知れず。大きさも様々、顔も様々。
　間をスルリと移動する天然招福猫児の姿をユヴィは見逃さず、何だかあちこちに視線を巡らせる。
　良く見知った招き猫だと、ガッチリ小判を抱えているのだが、右手だけをあげる招き猫を珍しそうに月兎は眺めた。
「人を招いて『縁』をもたらす招福猫児かぁ」
　招くものは願いの数だけある。果たして彼らに招かれるのは何だろうか。
　本殿につけば、おいのりを。
　お賽銭を入れ願うユヴィは、見るからに物凄く一生懸命で。何だか長くお願いしていた。
「月兎お待たせにゃ～♪　お願いスッゴい真面目にしたのにゃ！」
「ユヴィ？　真剣にお願いしとったな」
　なんて聞いてみれば、はにかみながら彼女は答える。
「月兎とずっと一緒に居れて、元気な子が産まれます様に……」
　家内安全でいいのかにゃと気が付いたようだが、月兎はそれ以上に自分との幸せを願ってくれる妻の姿に嬉しさがこみあげる。
「大丈夫や、きっと叶うよ」
「それとにゃ美味しいお魚イッパイ食べたいにゃ、美味しくお酒も飲めます様ににゃぁ。叶うとイイにゃぁ～♪」
　いつもの調子の彼女を優しく包み、叶えてみせると胸が熱くなる。
「あ。あそこに可愛い招き猫の置物売ってるにゃぁ！　買って帰ろ？　並べて飾るのにゃぁ♡♡」
　家内安全、夫婦円満を並べて願い。どの大きさの招福猫児にするか悩んで、後は出店を巡ってのんびりと。
　寒くないようにと温かな甘酒を一緒に飲んで、鮎の塩焼きの出店を見付ければ、その香ばしい味に舌鼓をうって。
　ゆっくりとお正月デートを楽しむのであった。












●ここでも猫の集会
　さて、いざゆかん初詣へ。
　そう盛り上がった所でグリブイユ・ノラ（マヌケな・g08943）は、折角だからと提案する。
　日本の初詣に行くのだから、着物を着ていこうというのだ。
　イスカンダル出身のグリブイユは、黒地の着物袴姿に。
「新宿島に流れ着いた時に保護して貰った人に……着付けて貰った着物を着ていきます……寒いからとマフラーも巻いてもらいました」
　そう軽く顔を埋めるマフラーは、ほんのり優しい香り。
「着物？　私初めてなんだ！　コレどーやって着ればいいの？」
「ボクお着物初めて！　知り合いのおばあちゃんにお着物貸してもらったよー」
　エレイア・カラー（ウェアキャットのジン契約者・g10646）も、名波・海音（孤高の猫・g10378）も、ちゃんとした着物は初めて。
　なるほどと、それを聞いた斑夜・黒白（華面影・g08472）は全力で手伝うぞと腕をまくる。
　そういう黒白は明るい色の菊華和柄の振り袖姿。
「着付けを手伝うのは久々でな。腕の見せどころであろう、これくらいお安いご用だ」
「うん。お着物初めてだから、当然着付けなんて無理。黒白ちゃんに、お願いしようかなぁ」
　エレイアは、青味がかったグラデーション生地に白と赤の牡丹が咲く着物。
　海音は、赤い花の染められた着物姿に。
「赤い色のお花が染めてあるお着物で、とっても綺麗だよね。後はこのもこもこのショールを巻けばあったかいよね」
「海音殿の着物は、鮮やかで美しいぞ」
「海音の赤いお花は鮮やかで、エレイアもキラキラの髪と目に似合ってる！」
　僕のも見て見てと、ピナル・セミル（猫は祟るもの・g10306）もお披露目。
「キレイなオウギとお花の模様がたくさん！　寒いからってもこもこのケープも貸してくれたんだよー」
　レンタル着物店で、こちらは着せてもらってきたようだ。
「赤いお花、それからオウギとお正月らしくて綺麗ですね」
　海音とピナルの姿へと、ゆっくり視線を動かしグリブイユは微笑む。
「今年は辰年、ドラゴンイヤーと聞きましたので。カッコイイ龍のお着物を着てきたのです！」
　ニーニ・ニニ（雪陽の子猫・g08923）は、黄金の鱗輝く昇り龍の描かれた着物。
「我は天正大戦国に居た頃から、日常的に着物を着ている故、特段驚く事は無いが……皆の着物姿は新鮮だな」
　そうかなとそれぞれ耳を尻尾を揺らし、互いの着物姿を見せあいっこ。
「……迫力ある龍の柄は今年の干支ですね。格好いいです……」
「あっ、ニーニの龍もカッコいい！　そっか、今年はドラゴンの年！　日本の龍は神様なんだって、すごいよね！」
　干支の龍も着こなしちゃうなんて凄いと、ピナルも目をキラキラさせて。
「わあー、グリブイユの黒い着物とハカマかっこいい！」
「ニーニ殿とグリブイユ殿は、非常に格好良いな」
「ありがとうございます……黒白の見覚えのある着物は……ディアコレで着ていませんでしたか……？」
　褒められグリブイユの尻尾も機嫌よく、軽く揺れ。
「黒白のふんわりした着物もキレイ！」
「エレイア殿とピナル殿は愛らしい姿だ。皆、よく似合っているぞ」
「うん。皆のお着物姿も、とっても素敵なのですよ」
「みんなと一緒にたくさんの色と模様で歩くの、きっとキレイだよね。写真撮っていいかな？」
　そうだとピナルの提案で山門前で、１枚パシャリ。
「あぅ、なんか走りにくい……」
　つい、いつもの調子でエレイアが駆け出そうとすれば、当然着物が上手くさばけずよたよたと。
「動きにくいのは……わかります。コツがいるのか、慣れるまで難しいですよね……」
　そういう意味では、袴はまだ楽な方だろう。
「動き辛いか？　だが、そのうち慣れると思うぞ」
　どうしても走りたければ着物の前身頃、正面の辺りを右手で掴み重なった布の間に空気を入れると動きやすくなる。ただ皺が出来てしまうので、必要とならない限りあまりすることはないだろう。
　走るコツは、歩幅を小さく少し内股に動かすのがいいだろう。
　とはいえ、彼らには慣れない動きなので、今しばらく素早く動くのは難しそうだが。
「可愛い招き猫さんがたくさんいるんだって！　ボクも猫だから、可愛い招き猫さんはとっても気になる」
「招き猫が有名だと聞けば、行かなきゃ……ですよね」
「福を招いてくれる、ふくふくな招き猫さんと出会えますように！」
　招き猫さんの神社と聞いて、山門を潜ったニーニはワクワクしてお耳もぴょこぴょこ、木の上からにゃあと声を掛けられ尻尾もユラユラ。
「招き猫で有名とは初耳であったが、猫好きとしては一度訪れてみなければな」
　賑やかにおしゃべりしながら、緑豊かな石畳の道を歩き、まずは招福猫児とご対面。
　ズラッと右前足をあげお出迎えする沢山の猫、ねこ、招福猫児。
「わあ、招き猫がいっぱい！　何匹いるのかな？」
「うわーいっぱいいる！　白いのとか黒いのとか……金色だー！　みんなに似た子は居ないかなぁ？　いたらつれて帰りたかも！」
　大はしゃぎのエレイアに、ここに並んでるのは役目を終えて奉納された招き猫だから後でお迎えする子は社務所に寄ろうと提案しながら、圧巻の招福猫児を見ていく。
　これだけの招福猫児が、誰かにご縁を招いたと思うと感慨深い。
　さてお招きする招福猫児だが……。
「……む、むむむ。おめめがまんまるな子も可愛いですが、おてての上げ方はこっちの子の方が綺麗なので悩みますね」
　ニーニが睨めっこし、並んでいる招福猫児は、尺大の大きさから豆サイズまで。
「どの招福猫児も、連れて帰りたくなる程の魅力に溢れているな」
「ここの猫さん達は良い縁を招いてくれるみたいですが……僕には…… ちょっと言葉が難しくて……」
　日本の言葉は慣れないとそう感じるかもしれないが、ここでは縁を呼び寄せる物。
　意味を尋ねながら探そうと気負っていたが、もっと気楽に選んで良さそうだ。
「迷いに迷うが、手に乗る大きさの真っ白な子と、それから御守りを購入しようか」
　こう収まるくらいが愛らしいと黒白は。
「この子可愛い！」
「むむ！　この子のふくふく加減が素敵なので、この子に決めたですよ！」
「手のあげっぷりがとっても尊いんだよー！」
　そんな風にお出迎えの招福猫児も選んで、手も身体も清めたらお参りを。
　拍手はしないで１礼し手を合わせお願い事を祈る。
　さて皆が願うのはと、グリブイユは友人達を振り返った。
「あ、そうだ。お願い事を真剣に考えないとなんだよね」
「僕のお願いはみんなが元気でいること！　なんだって元気じゃないと大変だもんね！　招き猫がみんなの元気を招いてくれますように！」
　それと元気がたくさんありそうな招き猫をみんなの分買ったんだと、ピナルが耳を揺らす。
「並べてみんなが元気でありますようにってお願いするんだ！」
「願い事は……そうだな。今後も健康で皆と共に楽しく過ごせる様に『無病息災』と『縁結び』を祈っておこうか」
「うーん。そうだなぁ。縁結びかな。良いご縁を結んでくれるといいんだよー」
　ついでに海音は、お守りにも同じことを願い。
　お願い事、お願い事は……と悩んでいたニーニもふんわり笑顔に。
「ぼくも縁結びで。新しいご縁はもちろん、今ある皆とのご縁も、ぎゅぅっと結んでもらえたら嬉しいですよ」
　こんな風に楽しい時間を一緒に過ごせるように。
「それから、それから。大好きな皆が、にこにこ笑顔で、元気でいられますように！　今年もニーニと、いっぱいいっぱい遊んでくれますように！」
「お願いごとは『みんな仲良し！』みんな無事で一緒に美味しいもの食べたり、遊んだりできますように！」
　そうだねとエレイアも願う。
「これだけの可愛い招き猫さんがいるんだから、きっといい結果をもたらせてくれると思う！　楽しみだね！」
「……ちょっと欲張り過ぎて色々お願いしちゃましたが。招福猫児さん、よろしくお願いします！」
「こうして初詣として皆と共に参れた事、誠に嬉しく思う。来年もその先も、この縁が続いていく様に」
　最後に深々と１礼し、出店や他の賑わっている場所へと足を向け。
「少し境内を散策してみませんか？　招福猫児さんをお探ししてみたいですよ！」
「天然の招福猫児に会えるかもしれない……って、言ってましたね……」
　ニーニの言葉に、案内を思い出すようにグリブイユは目を細める。
　もう既に何匹か出会っているが、どうせなら招福猫児に良く似てる子を見つけてみたい。
「招き猫さんを見て回りながら探すんだよー。福を招く猫さん達だからとっても楽しみ」
　そう海音が言って、賛成だと黒白が微笑む。
「新年最初の招福猫児探しと参ろうぞ」
　そして招福猫児と沢山の猫に新年のご挨拶を。
　日当たりのいい場所に集まっているだろうか、それとも屋根の上で休んでいるだろうか。
　猫達の好きな場所は、とっても良く知っているからきっと見つけられるはずだ。
　皆と猫と楽しいひとときを凄し、いつの間にか猫の集会は天然招福猫児も集まる賑やかさになるのであった。




●共に新たな年へ
　新年になって気持ちも新たに。そう、文字通り。
　長年付けていた面を外し、雑賀・黒詠（雑賀衆の末裔・g07640）は荒田・誠司（雑草・g00115）と共にお参りに。
　こうして素顔で歩けるのは、一緒に歩いてくれる彼がいるから。
　黒詠を蝕んでいた傷は、ゆっくりと癒えようとしている。
　こうして折角ならと黒詠が選んだ小紋は落ち着いた藍生地ながらも、縁起のいい熨斗柄が華やかに彩り艶やかだ。
　振袖は少し可愛らしすぎるしねと言っていたが、きっと良く似合う柄があるだろう。いつか袖を通すか分からないが。
　対して誠司は書生を思わせる落ち着いた着物姿に、紺羽織で落ち着いた雰囲気に。
　初詣の姿としていいか気になると言っていたが、そこは縁起の悪い服装で無ければ問題ない。何より羽織１つ足せば十分立派な和の装いだ。
　歩く途中も招福猫児を見かけたが、招福殿へと辿り着けば、ズラッと並ぶ招福猫児が出迎えてくれる。
「招き猫が有名と聞いたが、本当にたくさんいるんだなぁ」
「しかし圧巻だ。正しく猫の社。お猫様は愛らしいからね、私も好きだ」
　興味深そうに招福猫児を眺め楽しそうな黒詠の姿に、誠司は笑顔を浮かべる。
「謂れとかを調べてきたが、ここの招き猫は小判を持っていないそうだ。人の縁を招くことで福をもたらしているんだな」
　その縁を活かすも手放すも、後は当人次第。
　成る程と頷き聞きながら、黒詠は誰かに似てないかと招福猫児を指差すので誠司も見れば、確かに見覚えがあるような。
「しかし招き猫と言えど姿形に表情、すべてが違う様だ」
「猫と一口に言っても、表情にも少しずつ違いが出るというのは面白いし可愛いな」
　描いた者の繊細な筆のタッチなのか、意図してそんな表情になったかは分からないが。
「愛らしいものもあれば少し凛々しかったり、ちょっとお間抜けな顔もあるな。それらも踏まえて可愛らしいものだ」
　こっちは何だか困り顔にも見える。そう、招福猫児達の、個性豊かな姿を眺め。
「折角だし、私達もお猫様を迎えようか」
「それならお参りを終えたら、見ていこう」
　願うのは共に歩く未来、そして彼女の自由。新たな気持ちと共に彼女と一緒に歩いていくから。
　隣の彼女を見れば、彼女も熱心にお願いをしていた。
　後で何を願ったか聞いてみようかと和みながら、御守選び。
「さて、どう言ったのがいいかな......」
「万屋やっているから、商売繁盛と家内安全を買おう」
「……仕事の為に商売繁盛は必須。後は......家内安全かな。私と、もう一人と」
　招福猫児もお迎えするかどうしようか。選んだものを交換し合うのもありかもしれないと、悩み物色したら後はのんびりと散策に。
「ゆっくりと見て回ろうか」
　そう誠司が手を差し出せば、はにかむように黒詠が手を重ね繋ぎ合う。
「本当の猫もいるらしいし、見つけてみたい」
　今はどこに居るだろうか。
「居ないかもしれないけれど、三重の塔から見てみよう」
　どんな招福猫児があるのか、天然招福猫児は訪れてるのか楽しみに。
「境内にいる招き猫の数を数えながら行こうか？」
「あぁ。さぁ、行ってみよう」
　互いの歩幅と速さを合わせ、ゆっくりと。
　繋いだ手に確かな温かさを感じながら、足並みを揃え２人は歩いていく。
　そんな彼らの姿を、三重塔の屋根の上から天然招福猫児達が見守っているのであった。










●賽は投げられた
　レンタル着物店は、新年から大忙しである。
　それでも去年の難題をやり遂げたことに比べれば大した事無い。
　だから、完全に油断していた。彼らが来るまでは……。
　いらっしゃいませと、にこやかに賽の河原から来た一行を出迎えた店員が一瞬固まる。
　蘇るのは去年の難題。
　いや、あれ以上の難問などそうあるはずがない。大丈夫だろうと、順番に声を掛け着物選びの対応を始めた。
「濃色の着物を。紋付じゃなくて着流しでお願いしようかな」　
　夏候・錬晏（隻腕武人・g05657）の言葉に、深い濃紺に銀糸の昇龍が施された物に、瞳と同じ琥珀色の帯。
　落ち着いたデザインで遠目には雲和柄としか見えない。
「ソレイユも同じ形にする？」
「ええ、私も着流しをお願いしてみましょう。黒と青の色柄のものを」
　錬晏の仕上がりを見て、同じスタイルを選んだソレイユ・クラーヴィア（幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482）には、大きめの市松模様をベースに同系色で七宝柄に小さく龍を合わせ描いた物を。
　モダン着物だが主張は抑えめで、青黒と青の織りなす市松模様も大人っぽい。
　帯は明るく髪色に合わせ、山吹と金糸で織りなしたものとなった。
「みんな着物着るんだ？　へぇほう……ボク様も」
　そう並ぶ着物を眺めアリア・パーハーツ（狂騒・g00278）は綺麗な青のグラデーション生地の訪問着に一目惚れ。
　手に取れば流れる熨斗柄に桜や菊の雪輪が流れ、明るい色から濃い色へと染まる生地の上に散りばめられていた。
「これにしようっと」
　選びチラリと見れば、一・百（気まぐれな狐・g04201）が振袖は卒業したのでと店員に相談している。
「落ち着いた……着物を？」
　そう言いながら、奥を何だか気にしているようだ。
　そんな彼に用意されたのは、ブルーグレーに鳳凰扇文が裾に入る訪問着。
　春を告げる花と共に華やかに描かれているが、全体ではなく足元の方に柄が集まってるので、顔周りがスッキリして見える。
　最後はシャムス・ライラ（極夜・g04075）
なのだが、店員は目の前に差し出されたお面に悩んでいた。
「去年は太陽の仮面を着用しましたが『派手！』というご意見もあり今年はこれを！」
　そう自慢気に店員に彼が差し出したのは、『こあら仮面』。
　ナイトブレイドでも顔出し禁止とか、いやいやそういう問題ではなく……。
「この仮面に合うものをお願いします」
　店員はそっと奥に引き下がり、心の底で「コアラー！？」と言ってたらしい。
　昨年のは何とか演技良くまとめられたが、今年のはどうやっても仮装に。いや、何とか初詣らしくするしかない。
　そうして着替え終わったコアラ仮面……シャムスが皆の前に出てきた姿は、ユーカリの葉を矢絣風にアレンジされた明るいグリーンの着流しに唐茶色の帯に青味がかった雲海模様の銀鼠色の長羽織。
　去年を思い出し、思わず錬晏は笑みを零す。
「今年はそこまで派手じゃないな」
「この大自然に馴染む穏やかな眼差しで、今年も目立たずひっそりと」
「……シャムスさん？？？　……どの口が目立たないと……」
　思わずコアラ仮面の下をアリアが覗き込もうとすると、素早くシャムスは回避し羽織を翻し、「えっ、この口ですよ」とコアラ仮面の愛嬌のある口を示す。
　するとその背中には羽織り全面に広がるエアーズロックとオーストラリアの大地が描かれ、日の出の輝きが雲海と大地を照らしている。
　どうしたのと振り返れば、コアラの仮面と羽織の柄がマッチし、１つの作品のように見えるので不思議だ。
　尚、この羽織はオーストラリアからの観光客向けに仕立てられていた品らしい。
「シャムスは今年もステキだな！　コアラの仮面ともバッチリ！」
「シャムスはこあら仮面にばっちり似合った着物が素敵です。大樹を抱きしめ、遠き未来まで見通すかのような眼差しを思わせる……もしかしてこれは、新年こあらでしょうか……！？」
「そう、新年こあら！」
　ソレイユの強化されたコアラ愛に錬晏は更に微笑んで。
「選んでもらった着物、カッコいいよな。敏腕店員だ。今年はアリア殿がツッコミ役だな」
　そうかなと首を傾げるが、確かに今回は彼女にその役目が多く回ってきそうだ。
「貴女も色んな恰好を着こなすよな。綺麗だ」
「お、ソレイユさんも錬晏さんも着流し？　イケメンが着ると爽やかで格好いいな」
　店員さんのセンスが光るねぇと見れば、百が着物をお披露目する。
「俺のはどう？」
　クルンと回り着物を見せる百の姿に、女物を着てるという疑問は不思議と起こらず。
「百、上品な佇まいの中にも愛らしさが……」
　愛しい人の姿にシャムスは嬉しそうに。
「可愛いね、ふふ、似合うのが凄い」
　性別の壁を超える彼の姿にアリアは頷き、本人が着て楽しいのが一番ですとソレイユも微笑む。
「百とアリアの着物も美しいですね。華やかな色柄の着物は眺めているだけで、場が華やぎます」
　本当にその通りだと、百とシャムスもアリアを絶賛する。
「アリアは華やか！　柄のセンスがいいな……」
「アリア殿、華やかですね。錬晏は着流し姿もイケメンだ」
「錬晏はカッコイイ！　中華風じゃなくてもやっぱり着物姿がしまるし、ソレイユも落ち着いた感じで和装も馴染んできたな！」
　新宿島歴を考えると、異国出身の彼らもこちらの文化に慣れてきたのかもしれない。
　作法は反復というが神社と寺社は少し違う。　
「去年の初詣から、もう一年なんですね」
　異国の文化に少しは慣れたとはいえ、まだまだ物珍しさは耐えない。
　興味津々とあたりに視線を巡らせながら、ソレイユは山門の前で一礼。
「正しい作法は調べて来たけど、慣れてないと直ぐにできないからね」
　どこで礼を何をして挨拶するか、そういった作法が決まってるし。新宿島の文化は、意味を知ると奥深いよねとアリアが。
「新宿島に来た時はわからないことだらけでしたが、変わるものだな」
　敷居を踏まないように中へ、石畳を進めばまずは手水舎が。そして香閣では煙で全身を清め本殿に。
　神社では二拝二拍手一拝だったかと思い起こしながら、ここは寺社なので拍手はしないように。
　まずは一礼し、お賽銭をお賽銭箱へ。合掌しながら仏さまに挨拶し、願い事を。
「笑顔で過ごせますように」
　とアリアが願い、大変な事も辛い事もきっとあるけれど、笑顔で終われるような日々であればいいと思うと笑顔を見せる。
「昨年を無事かけがえのない友らと過ごせたことに御礼を」
　錬晏が感謝を告げ、そして仲間の良縁と幸せが続くようにと願い。困難なことがあっても友らと共に戦い続けると誓う。
「そうですね。大きな戦いが続きますが、今年も皆が無事で困難も乗り越えて行けますように」
　そう願い振り返った先では、見様見真似で真剣に何やらお願いする百の姿が。
　そして願いの成就は自分の努力でが信条ですからと、ソレイユが願ったのは。
「ここにお参りされた皆さんの願いが叶いますように」
　と、彼らしく。彼の姿勢と願いにふわりとシャムスは笑みを浮かべ、彼にもと代わりに願って。
　最後に深く一礼し、後はここの有名な招福猫児の元へ。
「ねこーねこー、招き猫？　いっぱい……」
「『まねきねこ』が有名とは聞いてたけど、こんなに沢山とは」
「いっ……多くない？」
　ずらっと招福殿に並ぶ招福猫児の数は千体以上。
　その数に負けるものかと百は黒狐に狐変身し、招福猫児の合間に。
　ここの招福猫児は主に白で小判を持たず右前足をあげているのだが、黒狐なのにこれなら紛れても見つからないだろうと自信満々に、百は紛れ込んだ。
「あ、可愛い招き猫！　色んな子がいるー」
「ふふっ、表情に味があって可愛らしいですね」
　そう眺めながら、シャムスは目敏く招福猫児ポーズをとってる黒狐を抱き上げる。
「ん　？この黒い狐さんが一番可愛いかな」
　勿論、この招き狐はお持ち帰りだろう。
「……ん？　白のなかに黒？　ああ、一殿か。ふふ、さすがシャムス」
「……おや、狐が紛れてる、ふふ」
「ユーモラスな顔つきの招き猫に、黒狐も混ざっていますね」
　見つかったことに不思議そうに「なんでー？」と首を傾げながらも、嬉しそうに黒狐の百はシャムスの肩に襟巻のようにおさまり。
　彼らの微笑ましいやり取りを眺めながら、御守りはどうしようかとシャムスとアリアは社務所に並ぶ招福猫児の元へ。
「福を招く猫がいっぱいですね。お守りは家内安全か心願成就あたりを」
「商売繁盛、フェオにお土産しようかな。恋人は新年も忙しそうだし……」
　可愛らしい招福猫児にも願いを込めつつ。
　三重の塔へ向かおうとすれば、仲睦まじく腕を組み初詣デートするナディアとテクトラムの姿が。
　こういう時は、こちらからは声をかけず、そっと会釈でご挨拶。
　友人のアリアは手を振り応えるも、すれ違い振り返ったナディアがシャムスの装いに２度見してくるので、思わず苦笑をこぼす。
「天然の招福猫児もいるんですよね」
　猫の姿を探すソレイユは塔の屋根や、陽当りのいい場所、狭い場所へと視線を向け。
「招福殿だけじゃなくって、三重塔にも猫がいて……天然？」
　彫られた招福猫児を見上げてた錬晏が首を傾げれば、にゃぁと鳴き声と共に格子の合間から猫が顔を覗かせる。
「あ、本当だ」
　白く豊かな毛並みの天然招福猫児の姿に、ソレイユは頬を緩ませる。
「お近づきになれるでしょうか」
　動物の友を使いながら新年のご挨拶をすれば、近くへと天然招福猫児が降りてきてくれる。
「触ってもいいでしょうか？」
　問えばどうぞと大人しく、ソレイユにふわふわ柔らかな毛並みを触れさせ、軽く頭を振るう。
「俺も撫でられるかな」
　驚かせないよう小さくなって錬晏が手を伸ばせば、どうぞと猫の方が小さな頭を擦り寄せてくれる。
　一時、戯れていればいつの間にか猫の集会の中に。
　にーにー可愛い姿を、一行に見せてくれるのだった。
「折角なので、お御籤も引いていこうか」
　シャムスの言葉に、今年を祈願と意気込んで手を伸ばし黒狐の百が引いたのは中吉。
　常に新しさを求め、繊細な神経をもっていますが、それだけに脆さがあります。
　ストレスを解消し爽やかな心で生活すれば必ず幸福が訪れます。挫けずに何事も精進努力せよ――。
「折角だしチャレンジだ」
　そう言ってアリアの引いたおみくじは、中吉。
　相手を認め寛容する心が大事。争いを避け平和に処理することが運勢を安定させるでしょう。毎日を明るく相手を思いやる気持ちを忘れずに。結婚も好機を失わず早目に決断し、互いを信じあうように――。
　先行きを占い錬晏が引いたのは、中吉。
　平穏な人生こそが倖せであると感じましょう。しかし、時には平穏が退屈になってしまったりします。そんな時は新しいものに目を向けると良いでしょう。情熱を燃やさねば愛も成功しません――。
　そしてソレイユの結果も、中吉。
　他人を羨んだり嫉妬の炎を燃やしてはなりません。心を冷静に保ち運命と向き合いましょう。愛は和やかに告げ、友との縁も信じなさい。そうして日々を明るく送ることができるでしょう――。
　揃いの結果と思っていれば、コアラ仮面ことシャムスは大吉。
　希望に満ち溢れた麗らかな春のような日々が訪れます。くれぐれも体を大切に努力するのを忘れずに。愛は穏やかに進み、病は真心が通じ治るだろう――。
　それぞれの結果を見せ合い受け止め、今年も良い年になりますようにと願うのであった。




●三日月尻尾の示す方
　手毬牡丹の振袖姿で華やかなナディア・ベズヴィルド（黄昏のグランデヴィナ・g00246）の隣に、準礼服の紋付袴姿のテクトラム・ギベリオ（砂漠の少数民族・g01318）が並ぶ。
　どちらも新年からウキウキしてるのは、この場所と隣に大切な人が居るからだろう。
　ﾈｯｺﾁｬﾝ！！
「たくさんの猫アイテムがあるなんて素敵な！　私達の心臓鷲掴みを狙っているでしょ！」
　ﾈｯｺﾁｬﾝ。
「楽しみだな。ああ、すでに鷲掴みだ」
　ナディアの楽しそうな声色が耳に心地良いと、テクトラムが目を細めていれば、呼ばれたと言いたげにスフィンクス『毛玉』が身を乗り出す。
「今年は毛玉も正装だ」
　ポンチョ型正装を着こなす毛玉も加わり、昨年を思い返しながら家族デート。
「去年の初詣からもう一年、あっという間だったわね」
「昨年はまだ恋人ではなかったが、今はしっかり恋人だからな」
　きっと日が経つのが早く感じられたのは、隣に最愛の人がいるからだろう。
　ナディアが隣を窺えば、神々に自慢したくなるとテクトラムが微笑み返す。
「さあ手を繋いで散策だ。足元に気をつけて」
「あ、待ってテクト」
　手を引かれ楽しげに山門の中へ。
「ふむ。予想していたより広い。そして良い意味で静かだ」
　大きな木々の作る石畳の参道を歩いていれば、ちらほらと描かれた招福猫児の姿も目に付く。
「良い所ね……」
「ふふ、猫が好みそうな場所だな」
　先に招福殿へと足を伸ばせば待っているのは沢山の招福猫児。
「お、招き猫」
「此処の招き猫は何で小判を持っていないのかしら……？」
「ふむふむ。確かに小判を持ってないな」
　寺社の説明によれば、招福猫児は『人を招いて「縁」をもたらしてくれるが、福そのものを与えてくれるわけではありません。人との大切な「縁」を生かせるかどうかは、その人次第』
　彼女との縁を繋いでいくように、彼女と指を絡め。
「ナディア、向こうにもあるぞ見に行こう」
　白い息を吐き、ほんのり興奮気味に彼女の手を引けば、はにかむように笑顔が溢れる。
「あっちの三重塔ね。本当にあちこちに猫がいるわ、可愛い」
「有名らしい。ネズミと一緒に猫が……ここの干支は皆仲良しのようだな」
　見上げた先では、塔を囲うように十二支が飾られ鼠に挟まれるようにして、白い招福猫児が一緒に居る。
「本当だわ、鼠とも仲良しなのね」
　並ぶ姿にほっこりと和みながら、お参りへ。
　寄り添うように腕を絡め歩いていれば、一見すると賑やかな初詣の一団とすれ違う。
「ん、あのド派手な仮面は……」
　見覚えのある空気感というか、仮面というか……コアラ。
　やっぱり賽の河原の一団だと、妙に納得。ナディアは友人のアリアの姿に手を振り。
「ん、あそこに居るのは……」
　知り合いの姿にテクトラムも、コアラの仮面を気にかけながらも会釈。
　他の見知ったメンバーが居なければ、気が付かなかったかもしれない。
　何だかコアラに後光がさしてるような後ろ姿に、思わず２度見してしまったが仕方ない。
　あれで地味だと言うなら、教えて欲しいものだ。
　ご挨拶と手と全身をお清めし、本殿の前に並び、お参りを。
　一礼し挨拶し、手を合わせ願い事を。
　去年の今頃はまだ結ばれていなかったと、ナディアは思い起こし。願いが叶い縁が結ばれたと報告しながら今年のお願いをする。
（「……この先も彼と共に歩めるように」）
　昨年神に願った事は叶った……いや、叶えた。
　そうテクトラムは、今年は……と願い事を念入りに。
　真剣に何やらお参りをし願った後は、深く一礼し頼むぞと近くの招福猫児をひと撫で。
「なにか真剣に手を合わせていたわね。何を願っていたのかしら？」
　そうナディアが問えば、テクトラムは軽く口元を緩めるだけで目で応え。
「ナディアは何を願ったのかな？」
「私は……内緒、ふふ」
　口元に指を当て、こちらも願い事は秘密に。
　きっと物事の始まりを意味する三日月に導かれるように、新しい年を始めこれからを２人で共に幸運に恵まれ掴み取れるように。
　この後は、周囲の出店を巡り猫グッズを堪能するのもいいだろう。
　その前に、冷えた身体を温めるように。
「甘酒を頂きましょう」
　赤い毛氈のかけられた縁台にナディアが腰掛ければ、正装した毛玉がちょこんと膝抱っこに。
「良いな甘酒。ほっとする」
　米麹で作られた甘味ある独特な味が、舌を楽しませ身体を温めてくれる。
「今日の毛玉はやけに大人しいな？」
「此処では大人しくするって分かっているのね、いい子ね」
　ナディアが額を撫で、テクトラムが優しく喉をかいてあげれば嬉しそうに鳴らし軽く右前足をあげた。
　縁を呼ぶという招福猫児。そういえば、既に招き毛玉が居たと２人共表情を緩ませ幸せそうな空気に包まれるのであった。




●福を結んで
　舞う桜華に戯れる猫柄の振袖姿の咲樂・祇伐（花祇ノ櫻禍・g00791）に並ぶのは、黒猫と桜仕様の和袴姿の咲樂・神樂（離一匁・g03059）だ。
（「かっこいいな」）
　心内で呟きながら、これは内緒と微笑みを浮かべ祇伐は神樂を手招く。
　明けたる新年を祝う初詣。
「今日の祇伐は桜招き猫の振袖。実にかぁいらしくてそれだけでもお正月に感謝したいくらい！　あたしもこの日ばかりはと、和袴を着てみたの！」
　とってもお似合いですと、祇伐は心の中で拳を握る。
　親しい人と、はたまた縁を深めたい人と、連れだって訪れて。
　招福殿にずらりと並ぶ招福猫児に祝福されながら、仲良く歩いていく。
「あらあら！　かぁいい猫ちゃんがたくさん招いてくれてるわね！」
　あなたの着物も素敵よと神樂に見つめられれば、祇伐は桜色に紅潮した頬を隠すようパッと顔を背けて。視界に入って来た招福猫児と視線を合わす。
（「やだ、かぁいい。照れてる」）
　なんて神樂は笑みを深め、素直じゃない愛しい番の背を見つめそっと近寄る。
「……この子は、何かを言いたげな表情をしていますね。なんだか心の裡を見抜かれてしまったような気が……」
　招福猫児もニッコリ見守るように祇伐を見返し、そんな事無いと言いたげにつぶらな瞳を向けてくる。
「小判を持っていないのも独特──ッニャ！」
「そんないじらしい性格もかぁいいけど、お顔を招福猫児にばかり向けてちゃうなんて」
　妬けるわと悪戯に笑み、暖かくて優しい手で包むように繋ぎ傍らへ寄り添って。
　指先から伝わる熱に、高まる熱が昇っていく。
「お、お兄様！？」
　招福猫児を眺めていた祇伐は胸の鼓動が伝わりそうなほどドキドキと。だけどこの結ばれた手のひらが嬉しくて離せられなくて。
「小判を持っていないのは……招福猫児は人を招いて『縁』を齎す存在だからだそう」
　彼女のそんな動悸も染まった頬にも気付いているけど、平静に神樂は説明する。
　そんな彼の真剣な横顔に見蕩れ……てない！
　見とれてないですからと一人百面相しながら、努めて視線を招福猫児達へ。
「縁とは福ではない」
「……縁とは福ではない」
　彼の言葉を繰り返し、自分の中に落とし込んで噛み締めるように頷いて。
「招かれた縁を受け取るも切るも、結ばれた人との大切な『縁』を福にするか厄にするかどうかもその人次第」
「私も結ばれた縁を大切に福にして、いきたい」
　そう祇伐が振り返れば吐息かかる程の距離に神樂の顔が。
　互いの瞳に映るのは、お互いの姿だけ。
「私は──祇伐と結ばれた大切な縁を至福にしていくよ。かけがえの無い私にとって奇跡のような縁だから」
　この結んだ指先だけでなく、互いの心も重ねるように。
「私にとっては……他にも沢山の人との縁を招いてくれた祇伐が招き猫……招き龍か」
　逸らせない眼差しを受け止めて花咲む。
　あなたは私も福にしてくれたのね――。
　――これからもずっと。この縁が結ばれているように願おう。
　共に手にしお迎えした揃いの招福猫児の御守を揺らし、揺れども揺るがぬ願いの証に、自然と頬も緩む。
　今年もこれからもよろしくと願えば、真っ白いお猫様が２人の前に。
「あ！　招福猫児……！」
「おやあれは、本物の招福猫児？」
　そういえばここは天然の招福猫児こと、猫達も多く訪れる場所であった。
　にゃーんと小さく鳴き声を残し、立ち去っていく姿にいつの間にかドキドキも忘れ嬉しそうに祇伐は猫と神樂を交互に見付け嬉しそうに花のような笑顔を溢す。
　そうね――いや絶対。
　招いてもらった大切な縁を……然りと福に結ぼう。
　密やかで確かな想いを心に決めて、願うわ。
　――今年もよろしくお願いします。
　今年も良い縁が訪れそうだ――。




●初めての初詣
　初めてというのは何であれ緊張するものだ。
　彼をイメージしたかのような、水色に雪結晶模様の着物に純香・朧（主大好き忠犬・g10505）は包まれて、大切な恋人の九条・雪（白の吸血鬼・g07380）と初詣デートだ。
　朧の首には留め具が銀雪結晶の形をした白い首輪〈❄雪の証❄〉をはめ、紺色の和服に袖を通し、腕には長針には犬が短針には雪結晶模様が施された〈＊spend your time together＊〉を身に付けている。
　ウルフな朧だが、沢山の招福猫児が見れると聞いて、ウキウキと尾が揺れる。
　いや、デートだから気持も高ぶるか。
「色んな招き猫さんがいるの……可愛い♪」
　招福殿に並ぶ招福猫児に、朧の尻尾はますますウキウキ足取りも軽く。
「招き猫って、ここだと招福猫児って呼ぶんだぁ……」
　初めて知ったねと楽しそうに振り返る彼女の姿を見て、思わず笑みを零しながら雪も一緒に歩いていく。
　社務所に並ぶ招福猫児は尺サイズから豆まで、御守も多種多様。
「……あ！　雪、雪。縁結びだって♡」
　目ざとく見つけた朧は駆け寄り、雪を呼ぶ。
「金運の招き猫は見かけたけど、縁結びの招き猫は珍しいね……」
　ここの招福猫児は、人を招き縁をもたらしてくれるもの。そのもたらす縁というのは、人それぞれ。
　訪れた縁を活かすかも、その人次第。
「朧……お揃いで持ちたいなぁ？」
「うん、僕もこれは欲しいなって思ったし、帰りに一緒に買って帰ろうか」
「参拝したら帰りに選ぼ？」
　と振り返った耳が近付く気配にピクリと跳ねる。
　どの子が良いかなと雪が視線を巡らせていると、朧の歓声が響く。
「わふっ♡……あっちこっちに猫がいるね。あの猫、模様キレイなの！」
　寺社に住み集まる天然招福猫児の姿に、朧ははしゃぎすっかり夢中に。今にも後をつけていってしまいそうだ。
　そんな朧の姿に、考えるのは後でいいかなと苦笑を漏らしはぐれないようちゃんと雪は朧の後を追いかけた。
　天然招福猫児こと猫達との散策は終わり、お参りを。
　寺社の参拝の仕方はと、雪がまずはお手本を丁寧に見せ教えてあげる。
　まずは１礼挨拶をしたら、参拝に来たことを告げるように優しく丁寧に鈴を鳴らし、お賽銭をそっと入れる。
　次は手を合わせお願いをするのだが、そこは一緒にと朧を促す。
「お賽銭入れてコノのベルを鳴らせばいいんだよね？　お祈りのしきたりみたいなのがあるんだね？」
　先程、雪に見せて貰ったように丁寧に真似て参拝を。
　そしてお願いは２人同時に合掌して。
（「ちゃんと雪のお嫁さんになれます様に……雪が何時でも元気で居れますに……」）
（「大事な朧と、この先も、ずっと先も一緒にいられますように。朧が元気で居られますように」）
　お互いにお互いのことを思う願い事を。
（「ついでに……雪が朧の事を沢山構ってくれますように……ぁ……最後のは我が儘だから……出来たら……でお願いしますなの！」）
　追加で朧の言ったお願いは、きっと優しく隣で見守る彼にも伝わっているはず。
　前より一緒に、もっと近くに。
　今年はいっぱい思い出を作ろうねと視線が合わされば、自然と幸せな笑みが浮かぶ。
　お迎えする招福猫児を選ぶ前に、ホッと一息。
「甘酒やお茶が飲めるって雪飲む？」
　朧が示した甘酒は米麹から作るノンアルコール。酒と名前がついているが、未成年でも飲めるもの。
「そうだね。ちょうど寒さで手がかじかんできたし」
　ありがたく手を暖めながら口にした甘酒は、トロリとあったかく身体の中からも温めてくれる。
　いつか失われたあらゆる記憶が戻って来る日もあるかもしれないが、今の時を大切に。
　お揃いで選んだ縁結び招福猫児は可愛らく、どことなくお互いに似ているような恋人同士のような猫を家にお招き。
「これからも、ずっと宜しくね、朧♪」
　雪の言葉に、こちらこそと嬉しそうに朧は尾を揺らし。２人仲良く並んで帰路へと向かうのであった。
















●今年もよろしく
　豪徳寺の山門前に、トレーラーハウスの面々が集まる。
「明けましておめでとうございます！」
「新年あけましておめでとう！　みんな今年もよろしくな〜」
「皆、明けましておめでとう！　今年もよろしくな」
　南雲・葵（バールの人・g03227）とゴウト・カスリメティ（狼とスパイス・g10381）、空木・朱士（Lost heart・g03720）が明るく挨拶すると、丁寧に一騎塚・喜一（一騎刀閃・g04498）とフウガ・ミヤビ（風来楽師・g06359）が挨拶を返した。
「明けましておめでとうございます。初詣に素敵なお誘いをありがとうございます」
「ルゥルゥラナさん、ご案内をありがとうございます。そして、あけましておめでとうございます」
　お誘いと案内といえばと、入れ違うルゥルゥラナにシャルロット・アミ（金糸雀の夢・g00467）が声をかけた。
　色々と楽しんできたようで、ルゥルゥラナの着物のあちこちに猫の毛がついている。
　きっと本人としては本望なのだろう。
「しんこー！　私は神様とかよくわかってないのでありますが、皆さんが幸せになれるならお願い事をしてみても良いかもしれないでありますな！」
　人生初の初詣のためベアトリクス・スコル（太陽に焦がれる金狼・g10386）は、興味津々キョロキョロと辺りを見回し、ミレイ・ドリムータ（新宿島で暮らすもの・g01550）に教えて貰っている。
「信仰エネルギーを蓄えることは勿論ですが、新しい年を気持ちよく迎えるためにも初詣はピッタリですね」
「信仰エネルギー集めるとか思うと堅苦しくなりそうだけど、正月だから初詣って感じで気楽に皆で初お出掛けを楽しもうぜ」
　朱士に言われ、そうですねと喜一もにこやかに微笑む。
「今年は皆様とご一緒なので、より楽しくお参りできそうです」
「まずは初詣！　お寺の参拝方法は神社とちょっと違うから」
　もし知らない人が居たらレクチャーするよと葵が振り返る。
「え？　神社とお寺はお参りの方法が違うの？」
「俺、寺にちゃんと参拝に来るのって初めてだぜ。お参りにも作法があるのか？」
　そういえば鳥居が無いとシャルロットはキョロキョロし、ゴウトは教えてと近付いてくる。
　まずは寺社の敷地の中へ入る前に一礼。
　ぞろぞろと石畳を歩いて行けば、三重塔と鐘楼が見えてくる。
「招き猫……じゃなくて招福猫児？」
「へー、ここでは招福猫児って書いて招き猫って読むんだ、面白いなー」
　豪徳寺の説明を確認していた葵の言葉に、朱士は覗き込む。
「招き猫というのも聞き慣れないのだけれども、招福猫児と書くとなんだか途端に縁起良さが上がる感じがするわね」
　シャルロットも首を傾げモーラット・コミュ『モラさん』を見れば、同意するようにつぶらな瞳で頷き返してくる。
　招福殿に並ぶのは千体以上もの招福猫児。
「色んな招福猫児様がいらっしゃいますね。あっ、あんなところにも……！」
　お堂の屋根にと喜一が指さしたのは三重塔の十二支と一緒に並ぶ招福猫児。
　良く見れば、看板の中や敷地内の色んな場所に招福猫児が潜んでいる。寺社に来るまでの街中も溢れていたので、かなりの数の招福猫児が居ることだろう。
「招福猫児が色んな場所に隠れていますね」
　フウガと喜一は色んな場所へと視線を向け、招福猫児を探していれば天然招福猫児が目の前を駆けていき、思わず表情を綻ばす。
「ついつい探すのに夢中になってしまいそうです」
「わぁ、招き猫が沢山！　これは物凄くご利益ありそう。色々見て回りたいけど、まずは参拝かな」
「はっ、まずは初詣でしたね。信仰エネルギーのお役に立てるように、皆様の健康とディビジョン奪還についてお祈りしましょう」
　忘れてはいけないとミレイの言葉でフウガも気持を切り替え、手と全身のお清めから。
　そして本殿に一礼し、拍手はせず、合掌してお願いを。
「よし、信仰パワーを貯めるためにも気合を入れて願掛けしとくか！」
「参拝の仕方はよく知らないのであります！　教えて欲しい！」
　葵と並んで無病息災を祈願するオラトリオ『梓』をゴウトとベアトリクスは真似る。
「今年もいろんな料理と出会って、料理人の腕がみがけますように！　その腕でもって、この世界を取り戻す助けができますように！」
「願い事は……やっぱりディビジョン奪還と苦しい思いをしている人の助けに少しでもなれますように、かな」
「今年の願い……やっぱり一番は地域の奪還！　奪還そのものはアタシ達ディアボロスの手で行います。ただ奪還の為のきっかけをお招きください」
　ミレイの言葉に、そうだなと朱士は思い更に手を合わす。
（「……本当に叶えたい事は、神様頼みじゃなくて自分の手で掴まなゃ意味ねぇから」）
　そうねとシャルロットは微笑み願う。
「誰もが笑える世界になりますように。そのために、力をご縁をお貸しください」
　お参りは縁をもたらしてくれる招福猫児に因んでと、喜一はこれまでに紡がれた縁の感謝を伝え。
「縁を大切にしながら一年を。皆様にも素敵な縁がいっぱい招かれますように」
　そんなお願いを聞きながら、ベアトリクスはウルフの耳を大きく揺らし同じようにお願いを。だけど……。
「ついでに、私もちゃんと怠惰に過ごすことができれば御の字であります！」
　怠惰とはいっても、誰かが泣いたりすることがなくなり、憂うことなく皆で怠惰に過ごしたいのだとか。
（「あっ、あと素敵な縁とかもどんどん結びたいでありますな！」）
　どんな縁を結べるかは、その人次第ではあるが。
　招福殿へと向かえばズラッと並ぶ招福猫児がお出迎え。その数は招福殿だけで千体以上。
「それにしても、凄い数だな。ちょっとずつ顔や雰囲気が違うから見てるだけでも楽しいね」
「うーわ、すっげぇ招き猫の数！　聞いてはいたけど、実際に見ると圧巻だな」
「豪徳寺って招き猫発祥の場所って言われてるんだな。ひえー、本当にどこもかしこも白い猫ちゃんだらけだぜ〜」
　ずらっと並ばれると迫力あるよな〜と、朱士の隣でゴウトが身を乗り出す。
「ああ、こんなにたくさんの招福猫児が……!」
　白いボディに愛嬌のある顔は、招福猫児の特徴だ。
「こんなに素敵な場所を知らなかったなんて、勿体ない事をしていました。真っ白なお肌に赤い耳が素敵ですね。とても愛らしい……」
　そんな事を話しながら盛り上がっていると、何かに気付いたようにゴウトはじっと一体を凝視する。
「よく見ると微妙に顔が違う気がするし。俺たちに似た招福猫児探しなんかしてみても面白いんじゃないか？　ほら、この二匹なんか、ちょっと喜一とフウガに似てないか？」
　そうですかと、フウガと喜一が並んで招福猫児を覗き見る。
「あ、この招福猫児様、目元が喜一君に似ていますね！」
「ん、私と目元が似てますか？」
　ちょっと照れますねとはにかみながら、喜一も可愛らしい一体に気付く。
「こちらの招福猫児様は表情が穏やかでフウガさんに似ているかも？」
「ふふ、ボクにも似ていますか？　こんなに愛らしい招福猫児様に似てるなんて嬉しいです」
　これだけいれば招福猫児の顔も様々。
「一騎塚さんとフウガさんに似ている招福猫児は、しっかり写真に収めなくちゃ」
　本当に似てるとシャルロットがカメラを向けていれば、別の似ている招福猫児の姿が目に入ってくる。
「ほら、こっちのはベアトリクスさんに似てるわ」
「ほんとだ、こっちはベアトリクスみたいだぜ！」
「確かにこの招福猫児、ベアトリクスに似てるね」
「そうでありますか？」
　ウルフだけどいいのでしょうかと首を傾げ、ベアトリクスも楽しそうに尾を揺らす。
「そちらの溌剌とした招福猫児様はカスリメティさんっぽい！　キリッとしている雰囲気の招福猫児様は空木さんとそっくり！」
「ん？ 　似てる招き猫？　この仲良さそうに並んでる猫はなんか葵とミレイに似てる気がする。んで、両脇の一回り小さいのは梓とデュークだな！
　そんな風に言われ、葵とミレイは少し気恥ずかしそうに笑い。
「シャルロットとモラさんに似てる招福猫児もいるかな？」
　そう思わないと、ミレイがスフィンクス『デューク』を振り返れば居るはずの彼の姿は無く。　
　探して視線を巡らせれば、招福猫児に紛れて天然招福猫児と楽しそうに猫会議中。
「デューク、ここの猫さんと遊んでもらったの？　早速良いことあったね」
　そんなデュークの姿に頬を緩ませミレイが近付けば、天然招福猫児達もにゃーんと声を揃え挨拶してくる。
　愛らしい姿と何だか新年からいいことがありそうな気配に、自然とみんなの頬が緩む。
「そうだ。皆、招き猫ポーズで写真撮ろう！　ほら、デュークも並んで」
　天然招福猫児達も並んでくれるかなと期待してみれば、そこはデュークが招いてくれてそっと隅っこに。
「なになに、猫ポーズで写真撮るの？　掛け声はやっぱ、ニャー、かな？」
　どうせ撮るなら招福猫児と同じポーズで。
「猫変身もできる私に隙はないわ」
「写真？　撮ろう撮ろう！　招き猫ポーズ……こ、こうかにゃー？」
　シャルロットとモラさんはノリノリで、朱士は少し戸惑いながら。
「招き猫ポーズ？」
「猫のポーズで写真……こんな感じですか？」
「こ、こんな感じでしょうか……？」
　喜一とフウガは互いにポーズを確認し、ぎこちなく右手を招くように上げて。
「……ちょっと恥ずかしいですね」
「み、皆で同じポーズですから！恥ずかしくにゃいはず……！」
　色々確認に手間取ってる間に、写真のタイマーはバッチリ。
「いくよー、いち足すいちはー?」
「ニャー！」
「にゃー！！」
「もきゅ！」
「わふっ！」
　いくつもの「にゃー」の声が重なりみんないい笑顔に。
「うん、良い写真が撮れた。待ち受けにしたらいいご利益ありそう！」
　後で皆にも配ろうと出来栄えに、ミレイは満足そうだ。
　お参りで信仰エネルギー集めの手伝いに来たけど、本命は招福猫児の置物なんだよねと、葵の提案で社務所や売店へ。
　そこにも招福猫児がいっぱい。大きな尺程ある招福猫児から小さなものまで。御守と一緒にお出迎え。
「あ、見て下さい。絵馬にもしっかり猫が描かれていますね！」
　喜一の声に見れば、絵馬の種類も様々。
　招福猫児だけの物もあれば、仏様や干支と一緒に描かれているものもあり、やはりどれも可愛らしい。
「お守りにもちっちゃい招福猫児様が！　可愛い～！これは連れて帰りたくなっちゃいますね」
　どれかお迎えしようかなと喜一とフウガも御守などと睨めっこ。
「棚に飾れる小振りな物がいいな」
　そう葵は手頃な大きさの招福猫児を。
「御朱印帳もあるし、エコバッグもある！　うーん、迷っちゃうけど交通安全のお守りかな。アタシ自転車乗るし」
　そうミレイは御守をお迎えし。
「こういうトコで飲む甘酒って特別旨い気がするのは何でだろな」
「甘酒も美味しいよな〜あー冷えた体にしみるぅー」
　冷えた身体をあっためようと甘酒を飲んでた朱士とゴウトも、何があるのと覗き込んでくる。
「うーん、むむむ。どの子もみんな可愛らしい子ばかりね……お家につれて帰る招福猫児さんは……」
　シャルロットは迷っているようで、モラさんにもご相談。
「んー、御守りや置物も気になるけど……お、エコバッグなんてあるんだ？」
　そういえば周りでも色んなグッズがあったなと思いながら朱士は、買っちゃおと手を伸ばし。
「よーし、お前に決めた。いっぱい福を招いてくれよ！」
　手乗りサイズの招福猫児がかわいいしなとゴウトが決断すれば、モラさんがシャルロットを促すように「もきゅー！」と一体の招福猫児を示す。
「モラさんはこの子が気に入ったの？」
　それはモラさんとほぼ同じサイズの招福猫児で、白いせいかなんだかお友達と並んでるようにも見える。
「ふふ、この子にしようね」
　両手で抱えるようにして、無事にシャルロットも招福猫児をお迎え。
　吹き抜ける風は冷たくとも、彼らを包む空気は温かに。
　きっと素敵な縁が、皆におとずれますように。
　楽しそうに歩いて行く一同を、招福猫児が三重塔の上より静かに見守り見送っているのであった。

最終結果:成功
完成日	2024年01月08日