リプレイ
アンゼリカ・レンブラント
最愛のユーフェミア(g09068)と
なんて濃密な一年だったことか
最も戦ってきたドラゴン勢力と1週前に決着がつき
遡れば夏に越えたのは七曜の戦
そして今年の始まりは
今手を繋ぎイルミネーションで彩られた
街を共にかける最愛の人との再会!
クリスマスを歩ける幸せをめいっぱい味わうよ
本当に町は綺麗だよね
金色に輝く星に手を伸ばし
でも今日手に取り心に響きあった星は、
氷を思わせる蒼き輝きの星
私の本当の色
私は新宿島のアンゼリカとして生きることを決めている
でも。もうかつての私も、認められる自分がいるよ
かつて抱えた甘い憧憬も夢も、今の私を作っているもの
胸を張って生きていくよ、「あり得た私」
ミアの選んだ星を見ては、綺麗だよ、と
星の光も、ミアもと
どうしてこう、真っ赤になって言葉もうまく言えないんだろう
でも、この時間が心地いい
互いが選んだ星を一緒に連れ
食べ歩きを堪能しよう
濃厚なチョコラータカルダ!最高っ
賑やかな街を歩き、ふと2人きりになった頃合い
あぁ星よ、どうか今年一番の勇気を私に
優しく距離を寄せ、愛する人の頬に口づけを
ユーフェミア・フロンティア
大切なアンゼリカ(g02672)と一緒に。
今年一年、ほんとにいろんなことがあったよね。
私は、アンゼリカ達に助けられて、そして覚醒してからの時間だけど、その前からずっと戦ってきたんだよね。
まずはお疲れ様。頑張ったね。
そういって手を握ります。
言葉よりぬくもりで伝えてみますね。
綺麗な町並、そして、すごく素敵な星たちの共演だね。
へぇ、アンゼリカは青い星なんだ。
そっか、あの時の自分と一緒にいるために、か。
私が選ぶのは、黄色のお星様。
意味は…。言わなくてもわかるかな?
少し悪戯っぽく微笑んでみますね。
顔が赤くなったアンゼリカを見て、微笑み返してみますね。
言葉は無理に出さなくてもいいんだよ?こうやって伝わる思いもあるから。
そういって、再度手を繋いで歩いていきます。
お星様を連れて、町並を歩けばおいしそうな匂いが。
一緒にチョコラータカルダを食べて歩いていきますね。
頬に口づけをされたら少しびっくりしちゃうけど…。
すっごく勇気を出したんだね。
口づけのあとはぎゅっと優しく、アンゼリカを抱きしめます。
私も大好きだよ
シル・ウィンディア
キングアーサーでの戦いも終わったし、今は戦うことは忘れて、全力全開クリスマスを楽しんで過ごすよーっ♪
クリスマスの街並みをのんびり歩いて街の空気を満喫。
星たちの共演って感じでとっても素敵だよね。
気になる星があれば、そっと手を伸ばしてみるよ。
気になる子(星)は…。天色の子。きれいな青で、空に連れて行ってくれそうな、そんな思いがするんだ、この子。
あ、クレメンティアさんだー。楽しんでる?
ねね、どんな子(星)に惹かれたの?わたしはこの子だよーっといって星を見せるね。
ね、せっかくだから、クリスマスマーケットに一緒に行かない?
そう言って雑貨屋さんへお誘いをしてみるよ。
わぁ、すごく素敵なものが沢山だね。
色々手に取ってみるけど気になるのは青のフォトフレーム。
ん-、フォトフレームが気になったのは。
新しい想い出をこのフレームに収めたいんだ。
自然や好きなもの…。そういったものをね。
それが、わたしの新しい目標かな?
戦うだけじゃない、新しい自分を始めたいって思ったからだね。
いつか、全部を取り戻したときのためにもね。
織乃・紬
新宿で眺める、聖夜より
うつくしく想えてしまうのは
俺が浮かれているからか
『まほろば』の隣だからか
あア、何方もだ!――しッかし
煌めき笑う天使の子に隠れて
燥げるのは大人の特権だわな?
引く手を口実に、彼方此方
然程馴染みのない異国の彩りに
ほうほうほう、と聖人染みた感嘆
ア!ランブルスコ、見ッけたあ!
天使ちゃん~ハイソコ止まッて~
君はチョコラータカルダを御呑み?
嬉々と回ッて零さないようにね
諫めつ、己の酔いは回すように
美食のほうも頂けるかな、店主サマ
そうして上機嫌な足音と羽音で
眺めるあかりのいろどりたちは
微酔う眸にも鮮やかなもので
とりどりな願い映す星ッてのは
こンな色をしてたりすンのかな
土産と求める花色混じる星灯に
よぎる俺の今の願いと云や――
成程、星の導は頼りになるモンだ
御機嫌よう、クレメンティア嬢!
とびきりにあたたかい経験に
良き景、良き縁をくれた君に
今年最後の礼が言いたくてさ
袋に詰めたカネストレッリの花は
俺からのレガロ・ディ・ナターレ!
笑い、嬢に花を贈って
色足すように再度星に願おう
『良き聖夜を!』ッてね
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
クレメンティアさんに行き逢えば、クリスマスのご挨拶を
冬の夜に燈るあかりに、懐かしい心地になるのは
重ねてきたクリスマスを覚えているからだろう
翠の地に青の躍る星のあかりを手に、夜に連れ出そう
星あかりの模様は、出会うごとに新たな物語に触れるよう
脳裏に過るのは壁画を描いた学校の子供たちや、狡猾にも街を豊かにする事業を展開した好人物
星のあかりを追って、プレゼピオを眺め、屋台を眺め歩いていこう
パルマの街に靴下入りの贈り物を配った夜を思い浮かべる
今年は……贈り物を届けることはできないが
彼らが幸福な歩みを全うしたことを祈ろう
チョコラータカルダを求めたら、彷徨う星にも卓上の安息を
俺にはチョコラータカルダの安らぎを
夜の瞬き、星あかり
人工の光が夜を彩るのを見つめる
フィレンツェに、パルマに、イタリアの夜に燈が灯る日を、瞬きに重ねる
……取り戻せますように
連綿と受け継がれてきた、人の営みを
色彩を、芸術を愛する心をもった文化を、歴史を、人々を
夜に祈る
――Buon Natale
色葉・しゃら
ソレイユさま(g06482)と
まーけっと!きらきらでございます!
己にとっては異世界のようで不思議ですが
ソレイユさまの穏やかな雰囲気に
そんな緊張もとけまする
ちょ!ちょこれーとの飲み物にバニラアイスが乗せられると!?
一体どれほどの美味になってしまうのか(戦慄)
…(ごくり)
美味しゅうございますー!(歓喜)
ソレイユさまのお口にもぜひ入れたい
取引に否やのあろうはずもなく
ふわふわくりーむにまた恍惚
鼻の頭を拭われれば目を瞬き
…天使、は、きっと私の目の前に
おりますると呟きかけて我に返り
洗ってお返しします!と大慌てで
手拭いを預かりまする
気を取り直して足取り連ね
星探しに参りましょうぞ!
ソレイユさまはやはり青がお似合いです
私は明るい紅葉色の灯火を
波紋が狐の尾のように見えました
それと、いま、私の胸に寄せる喜びや楽しさ
きらきらした心の波を表したら
こんな風でしょう
ソレイユさまの故郷の味をいただいて
お母上の話にまた心温まり、たくさん頷く
私も、もしソレイユさまが兄上でしたら
毎日お褒めして…おやつもご一緒しとうございます
ソレイユ・クラーヴィア
しゃら(g07788)と
今年のクリスマスはパルマから遠き地というのに
不思議と帰ってきたかの様
行きましょうか、としゃらを誘います
お供のチョコラータカルダにはたっぷり生クリームを乗せ
バニラアイスを乗せたしゃらの歓喜の声を聞けば
一口、シェアしませんか?
と秘密の取引を持ちかけ
冷たいアイスと熱いショコラを一口頂き
視線を上げれば、生クリームを鼻先に付けたしゃらの姿
可愛らしさに思わず頬が緩んで
失礼、天使の羽が落ちてきたようです
と囁き、ハンカチでさっと撫で
律儀に仕舞う様子に
気にしなくても良いですよ、と微笑んで
甘いもので弾む心の儘に星探しに出かけましょう
ブルーアワーを思わせる色彩の星に目が止まり
流れ星を一つ持ち帰りましょうか
しゃらの星は美しく煌めき
見ているだけで心も温かく照らされる心地
トッローネを見かけたら、2つ求めしゃらにもお裾分け
私の母がたまに作ってくれていたんです
演奏の練習を頑張ったご褒美に、って
懐かしくも手の届かぬ過去が心を過るけれど
そうですね、しゃらのような弟がいたら
沢山甘やかしてしまいそうです
ノスリ・アスターゼイン
クレメンティアと過ごしたい
ランブルスコにパッシート
乾杯の度に零れる笑みも吐息も甘やかに
生ハムや肉料理
野菜、果実と合わせた料理達を
ふたりでたっぷり味わいたいな
行こう、ティア
差し出す手には猛禽の腕輪
いざ星の航路へ
ころころ転がる橙めいたマーブル模様のランプ
ひゃあっとしているティアみたい、と肩を揺らし
連れ帰る星決定!
プレゼピオの箱ごとに
やんちゃに育ちそう
気難し屋かな
きっとマイペース
なんて
個性豊かな赤子の人形に笑みが弾けたり
ティアの寝顔も見てみたいね
悪戯に笑んで
揶揄の詫びに差し出すチョコラータカルダ
ドライオレンジを乗せたオランジェット風
パルマの夜にも
ティアを思い描いたんだ
だから今日は一緒に過ごせてとびきり嬉しい
ジャンマリオの愛しき狡猾さも
懐いてくれた子供達の名も忘れない
彼らの子孫にいつか出会えたら良いな
金時計を撫で
星が輝くクリスマスソングを口遊んでみれば
いつの間にか
マーブル職人サン達も加わってくれたり
今夜の企画、ありがとう
礼を告げたらまた皆で歌おうか
遥か時空を超えて届けと願う
レガロ・ディ・ナターレ
シャルロット・アミ
クレメンティアさん、お久しぶり
秘密を聞いていただいたクリスマスから一年
あの時、クレメンティアさんに告げてもらった言葉を
ずっと胸に抱いて…
一年経ってね、全部愛してるって抱きしめられるようになった気がするの
クレメンティアさんのおかげよ
今日は、この一年を振り返りながら
モラさんとこの素敵な景色を巡るつもり!
本当に、本当にありがとう
(叶うことならクレメンティアさんをぎゅうってしたい!)
さあ、モラさん
今日は一人と一匹で秘密のお楽しみよ?「もきゅっ」
極上のチョコラータカルダをモラさんとはんぶんこして
私たちの星を探してみたいの
何度見ても綺麗なマーブル紙たち
水面を揺らす色彩は、どれひとつとして同じものはなくて
それは…まるで私たちみたいだから
だから、心に決めた色を手に取るの
今の最愛の人のイメージ
椿の花の紅色泳ぐ星あかり
「もきゅ!」ふふ、モラさんも気に入ってくれた?
星あかりを手に【飛翔】でふわり
去年見たオーベルジュのツリーを少しでも見たくて
あのときの私より
少しでも成長していますように
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と参加
マーケットの賑やかで暖かな空気を楽しみながら歩く
耳を傾ける思い出話には知らないものも多く
彼のしてきた冒険が目に浮かんで面白い
いい経験ができたね
こんなに美味しかったり綺麗な文化を守ってくれて
チョコラータカルダを味わい、オレからも礼を言っておこう
あの灯りも綺麗だなぁ
と、目をとめたのは同じランプ
えぇ、キミのにしちゃうの?
唇を尖らせるけれど
しかたないなぁ譲ってあげるの台詞まで勿論冗談まじり
かわいい子はいっぱいいるもんね
そのそばの小花が沢山咲き乱れてみえるランプを選ぼう
春が近くなった気がするな
漏れる暖かな色の光に暫し魅入る
職人同士のやり取りが白熱してる隙にそろりと
近くのテントで彼へのプレゼント選びといこう
とりどりの薔薇で彩られた来年の手帳
捲るごとに蕾から開花まで
ステキな予定でびっしり
花咲くように…ってね
しれっと合流したものの先行されるサプライズ
いつ買ったのやら
…やられたなぁ
もちろん。ありがとう
渡された扇子を早速開き、仰ぎ
似合う?
と、聞かずともわかる答えを求め笑おうか
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
星探しと
密かにクリスマスプレゼント選びをしたいな
チョコラータカルダを手にすれば
パルマの日々が温かく蘇るから
思い出を語りながらマーケットを廻ろう
プレゼント選びを気取らせない狡猾な策略です
(作戦名:オペレーションジャンマリオ)
ひときわ目を奪われた燈は
雑貨屋の軒先
蜜色に蕩けてなお鮮やかな薔薇色を咲かせる星
花弁が幾重にも開いたかの模様
僕の星
見つけました
迷いも無く手に取って
優しい明りに
頬を寄せる
素敵ですね
お花みたいな柄が沢山
店先で笑む職人さんへ御礼
沢山の人に作品を手にして欲しい望みと
一期一会だからこそ誰にも渡したくない内心のせめぎ合い、
そんな職人同士のジレンマも
つい白熱して語り合ったりして
プレゼントは扇子
ハロウィンの時にもお持ちだったから
然り気無く扇子コレクションに誘導、なんて
白と金を基調に
八重梔子が咲いたかの意匠
僕の好きな花
自分を想わせる品を贈るのは
重いのではないかと悩んでしまうけど
でもきっと
笑ってくれると思うから
レガロ・ディ・ナターレの言葉と共に
貰って、くれますか?
竜城・陸
いつかは人々にクリスマスを齎す側だったけれど
同じような風情のクリスマスを、今度は純粋に楽しむ側に回るというのも
なんだか不思議な巡り合わせで、ちょっと運命的にも感じるよ
海を思わす紺青の星をひとつ、今夜の伴に求めて
チョコラーダカルダにはふわふわのホイップを目一杯乗せて
ゆっくり屋台を巡ろう
馴染みの方々も祭りの雑踏の中にいるだろうから
行き会ったなら杯を交わし合うのもいいな
レガロ・ディ・ナターレ、と言葉を交わし合うのも
なんだか心が浮き立つ
クレメンティアとも杯を交わして
是非お勧めの食事を聞いてみたいかも
俺はね、食べ歩いてきた中だとブルスケッタがお気に入り
カポナータの彩りが目も楽しませてくれて素敵だよね
街並みは異なっていても、華やぐ聖夜の雰囲気は
一年前のクリスマスを思い出すね
親愛なる狡猾な紳士殿の声が、今にも聞こえてきそうな懐かしさ
あの子達は立派に成長して、夢を叶えられたろうか
彼らの学び舎がずっと、幸せと希望とに満ち溢れていたのならいいな
何処かで歌が聴こえてきたのなら
声を合わせて共に歌おうか
●Buon Natale!
――優しい夜だった。
――愛おしい夜だった。
京の都が迎える聖夜は硝子の宝石箱から数多の光の煌きと夢の物語が解き放たれたよう。極上の黒瑪瑙のごとく澄みきった夜闇の底はさながら凍れる湖の底、然れど凛と凍てる冬の夜闇に鏤められた光の宝石達は落葉して美しい樹形をあらわにした壮麗なケヤキ並木を彩るクリスマスイルミネーション、幻想的な光で装う樹々のもとには暖かみのある木材で組まれた小さな山小屋めく屋台が数えきれないほど軒を連ねて、今夜限りのクリスマスヴィレッジを創り出していた。
クリスマスの村――イタリア語ならヴィラッジオ・ディ・ナターレと呼ぶのだろう光の世界へと足を踏み入れたならまるで物語の世界へ迷い込んだ心地。京の都に創り出されたイタリアのクリスマスマーケット、メルカティーノ・ディ・ナターレは凍てる冬に聖夜の夢を花開かせて、シャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)の心を浮き立たせたけれど、今夜何よりも先に新緑の瞳が探し求めるものは幻想的なイルミネーションに夢幻の彩りを添えるマーブリングの星でもなく、聖書の奇跡を箱庭に花開かせるプレゼピオでもなく、オレンジとショコラの彩。
澄み渡る夜空には数多の星々が煌いて、星空めざして聳える樹々には宝石めいたイルミネーションと麗しきマーブリングの星々が光を鏤めて、数多軒を連ねる屋台にも幾つもの星が吊るされて、馬小屋を再現した小さなプレゼピオからベツレヘムの街までも再現した豪奢なプレゼピオなど、メルカティーノ・ディ・ナターレを彩るすべてが暖かで煌びやかな光に照らされているけれど、艶やかな漆黒の髪を躍らせクリスマスヴィレッジの石畳を駆けたシャルロットは、光の合間へ見出した相手に何より輝く笑みを花開かせた。
秘密の罪を明かした昨年の聖夜、
――以上とか、以下とかは、言いっこなしで。
――どうぞどうぞ、あなた自身が、あなたを愛してあげて。
金糸雀の娘の胸に、そんな言の葉を燈してくれたひと。
「クレメンティアさん、お久しぶり!」
「ひゃあああ! シャルロット様に逢えた!!」
響きそのものさえも透きとおって煌くような歓びの声音も咲かせたなら、振り返ったショコラの瞳にシャルロットを映したクレメンティア・オランジュリー(オランジェット・g03616)にも飛びきり嬉しげな笑みが咲く。
罪深き恋だと己を責めていた昨年の聖夜は贖罪の鎖や断罪の鎖に絡めとられて、凍てる湖の底で赦しを希って藻掻くような心地で秘密の罪を明かしたけれど、あの夜に彼女がくれた言葉をずっと胸に抱いてひととせの日々を重ねた今は、
「一年経ってね、全部愛してるって抱きしめられるようになった気がするの。クレメンティアさんのおかげよ」
魂の芯から咲くあたたかなひかりが指の先まで満ちている気がするから、己の過去の恋も現在の恋も、己自身も未来さえも全部抱きしめられるようになった気がするから。本当に、本当にありがとう、と胸から万感の想い溢れるまま抱きしめるのは今眼の前にいる相手。あたたかくてうれしくて、新緑の瞳の奥にも熱が燈るようで。
思いきりぎゅうっと抱きしめればシャルロットをぎゅうっと抱き返したクレメンティアにぽふぽふ背を撫でられて、
「ね、シャルロット様。今は去年より、もっと幸せ?」
「ええ、とっても!!」
『もきゅっ!!』
満開の笑みで応えれば背からもきゅっと顔を出したモーラット・コミュも自信満々にそう鳴くから、弾けるよう笑いあえば悪戯っぽくショコラの瞳を煌かせた彼女に手を引かれて招かれた先は熱い林檎の香りが甘酸っぱく溢れ出す屋台。
「ね、何処かでモラさん様は林檎がお好きと聴いたのですけれど、今夜はこれなんてどうかしら!?」
「そうなの、モラさんてば林檎が大好きで! わあ、美味しそう
……!!」
『もきゅ! もっきゅもきゅ~!!』
真白な粉砂糖の雪を降らせた焼きたての菓子がざくり切り分けられれば、幾重にも巻かれた薄い生地の裡から溢れだすのは熱くシナモンも香らす林檎とレーズン艶めくフィリング。焼きたて小麦生地の香りにそれらの香りも混じる懐かしさに思わず笑みを綻ばせたのは偶然通りかかった蒼穹の天使で、
「アプフェルシュトゥルーデルか……懐かしいな」
「まあ! エトヴァさんにも逢えるなんて!!」
「ひゃあああ! タイミングばっちり! エトヴァ様もストゥルーデルおひとつどうぞ!!」
微笑とともに言の葉も零した天使は、輝く笑みを咲かせた乙女達に迎えられた。
ドイツ語でシュトゥルーデルと発音するこの菓子は、イタリア語では同じ綴りでストゥルーデル。
オスマン帝国からハンガリーへと伝わったバクラヴァがオーストリアでシュトゥルーデルとなって定着し、林檎の産地たる南チロルへも広がり北イタリアでも郷土菓子として定着した流れを想えば、世界の繋がりや連綿と紡がれてきた人類の歴史を胸の裡で改めて辿る心地。仲間達との歴史がまたひとつ重ねられるこの聖夜に、
「シャルロットさんにもモラさんにも、クレメンティアさんにもこんばんはだ。いや、今夜の挨拶ならやはりここは――」
――Buon Natale!!
三人の声音が綺麗に揃って、モーラットの声音がもきゅっと跳ねれば、
幻想的な光に彩られた夜闇に弾けた三人の笑みが花開いて咲き誇った。
冷たいカスタード思わすアングレーズソースをたっぷりかけた菓子を頬張ったなら、幾層も重ねられた薄い生地がぱりぱり香ばしく弾けるなかから熱い林檎やレーズンが溢れ、熱で鮮やかに花開いた果実の酸味がひんやりまろやかなカスタードめく甘味と絡みあっていく幸せが咲く。焼きたてを思うさま堪能したならそれぞれ『佳い夜を!』と笑顔で手を振り合って、
「さあ、モラさん。次は一人と一匹で秘密のお楽しみよ?」
『もきゅもきゅ……きゅもっ!!』
悪戯な瞳と内緒話めかした声音を交わせばこの後のシャルロットは、ふわもふな相棒と秘密のクリスマスデート!!
凍てる夜闇と幻想的なイルミネーションをあたたかに煙らす柔い湯気、熱く華やぐショコラの香りをそこに感じたなら早速買い求めたのは極上のチョコラータカルダ、最終人類史ゆえの【寒冷適応】が真冬の夜の冷たさからも護ってくれるけれど、それでも熱を湛えたカップに指先を温められながら一人と一匹で額を寄せ合って、飛びきり甘い香りと飛びきり濃厚に蕩けるチョコラータカルダを分かち合ったなら、あたたかなしあわせはまるで倍になったよう。
「モラさんったら、今日もチョコラータのおひげつけちゃって!」
『もきゅっ!!』
熱々とろとろチョコラータを堪能した証、艶々ショコラ色の立派なおひげをつけたモーラットの姿に吹き出したなら、昨冬断頭革命のパルマ公国で子供達におひげを誉められた相棒はもきゅっと胸を張って得意顔。今夜は特別ねと笑っておひげ姿の相棒と続いて踏み出すのは星のあかりを探す旅。
星の導きによって三賢者が馬小屋の洞窟を訪れるプレゼピオの上には金彩と銀彩が流星雨を描くようなマーブリングの星、宝石めいたドライフルーツを菓子の断面からたっぷり覗かせるスポンガータの屋台には華やかな薔薇と杏色の花吹雪が春風に舞うようなマーブリングの星、美しい色彩が舞って羽ばたく様を織り上げた星達は裡に閉じ込めたLEDキャンドルライトの本物の炎のごとくに揺らめく蜂蜜色のあたたかなひかりを透かし、
聖なる夜を優しく彩りながら、唯ひとりとの出逢いを待っている。
瞬間の美、一期一会の芸術。
涼しい海で育まれた海藻を煮込んだ溶液の水面に艶やかな色彩を舞わせて羽ばたかせ、水面に踊る一瞬の美を切り取るよう写し取ったマーブリング、たとえ同じ染料を同じように舞わせても決して同じ模様を創り出すことの叶わないそれらから創り出された星のあかりは、誰もがひとりひとり異なるひかりを燈して輝く、自分達みたいだと思えたから。
幻想的なイルミネーションと夢幻の星のきらめきの世界を弾む足取りで辿ったシャルロットは、星のあかりを探す旅の涯に出逢った、雪のような白銀に煌くイルミネーションを纏ったケヤキの梢であたたかにひかる紅の星へと手を伸べた。
雪白の輝きの合間でシャルロットの瞳を惹きつけずにはおれぬ彩は、雪中に咲く椿のごとく鮮やかな紅が游ぐ星あかり。
両手で掬うように手に取ったなら、裡からあたたかなひかりを透かした椿の花色が冬の夜に溢れて、流れるような紅の彩に抱きすくめられるかのごとき心地になれたから、今、誰よりも愛するひとのぬくもりを感じた気持ちで笑みを咲き綻ばせ、
『もきゅもきゅ、もきゅ!!』
「ふふ、モラさんも気に入ってくれた?」
絶対これがいい! と主張するようもきゅもきゅ弾む相棒の姿にいっそう幸せな心地で笑み崩れたなら、世界で唯ひとつ、シャルロットだけの星あかりを夜空へと連れていく。軽やかに石畳を蹴れば金糸雀の娘の髪には藤花の簪が煌き、手には紅椿の彩游ぐ星あかりが揺れる。地上に鏤められた星々から夜空へ鏤められた星々をめざすような【飛翔】で舞い上がり、
澄んだ夜空の高みまでふわり翔ければ、
京都の洛外、残留効果を活かした美しい雪に彩られた山に聳える、大きなホワイトクリスマスツリーが見えるだろうか。
遥か高空で祈るように見霽かした新緑の瞳が遠い彼方に純白のツリーの煌きを捉えれば、胸の芯から眩く花開いた熱が瞳の奥から溢れて零れ落ちそうになった。ああ、どうか、
――あのときの私より、
――少しでも成長していますように。
断頭革命グランダルメのパルマ公国からは時間も空間も大きく隔てているはずなのに、
まるで昨冬のパルマのナターレへと帰ってきたかのような心地。
幻想的なクリスマスイルミネーションに彩られたケヤキ並木は彼の地のイタリアポプラの並木をも想わせて、
黄金の生地に宝石めくドライフルーツをたっぷり鏤めたパネトーネ、甘やかな香辛料をしっかり利かせながら宝物みたいな果実や木の実を溢れさせるスポンガータ、クリスマスの幸せを味わいつつ様々なトッピングに彩られたチョコラータカルダを手にするひとびとが聖夜に幾つもの笑顔を咲かせていく様がソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の胸にもあたたかなひかりを咲かせていく。
「これがくりすますまーけっと……めるかてぃーの・でぃ・なたーれ! きらきらでございますね
……!!」
「クリスマスそのものが初体験なら色々見て回らねばなりませんね。行きましょうか、しゃら」
眩い白銀に輝く雪結晶、青い流星雨めいて煌くレインライト、金銀に艶めきつつ澄んだ音色で歌うクリスマスベル、聖夜を幻想的に彩るイルミネーションや、宝箱や玩具箱、あるいは物語の世界へ跳び込むような心地にさせてくれるクリスマス村を思わす数多の屋台が織り成す光景に色葉・しゃら(言の葉あつめ・g07788)が瞳を輝かせる様に笑みを深め、柔らかな声音でいざなえば仔狐の少年のふわふわ尻尾がぴんと立った。
この春に新宿島へ流れ着いたしゃらにとっては初めての最終人類史のクリスマス、然れどキリストの生誕を箱庭で再現した幾つものプレゼピオを見て回りながら、断頭革命グランダルメに生まれ敬虔なカトリック教徒として育ったソレイユが聖書の物語をやさしい言の葉で語り聞かせれば仔狐の少年もたちまちクリスマスの由縁を理解して、ふむふむほうほうと頷くうちに見知らぬ異世界へ迷い込んだような心地でいたしゃらの胸裡でも聖夜の夢幻が現実の幸福となって鮮やかに花開き、
「そうそう、私達もチョコラータカルダをいただきましょうか。バニラアイスもトッピングできるそうですよ」
「ちょ! ちょこれーとの飲み物にバニラアイスが乗せられると!?」
甘く濃厚なショコラの香りがあたたかに揺蕩ってくる屋台でふと足をとめて、蒼穹と黄昏の眼差しを緩めたソレイユにそう提案されたなら、突然の天啓のごとき至高の美味の予感に仔狐の少年の背筋を戦慄が翔け昇る。
熱く蕩けたショコラの海、
濃厚なチョコラータカルダの波間に優しい鳥の子色したひんやりまぁるいバニラアイスを浮かべたなら、縁から融けだした柔らかな乳脂色の波がチョコレートの波ととろり融けあって、鮮やかなカカオと甘いバニラの香りもあたたかに融けあう様に胸を高鳴らせつつ意を決したしゃらがひとくち味わえば、
「……!! 美味しゅうございますー!!」
冷たいバニラアイスの波の下から押し寄せてきたのは圧倒的に濃厚で熱く鮮やかに花開くカカオの風味。
熱々とろとろのチョコラータカルダが冷たいバニラアイスの香りもひときわ華やかに咲かせる様にふわふわ尻尾をぱたぱた躍らせれば、純白ふわもこの生クリームホイップをショコラの海にたっぷり浮かべたソレイユと眼が合って、
「一口、シェアしませんか?」
「おことわりする理由など見当たりませぬ
……!!」
優しい微笑みとともに秘密の取引を持ち掛けられたなら、ひときわ眩い歓喜が胸の奥から弾けるよう。
純白ふわもこ生クリームホイップが柔らかながら豊かなコクで濃厚なショコラの味わいを際立たせるチョコラータカルダ、己のそれをひとくち味わった少年のもふもふ狐耳が至福の恍惚にふるふるする様に眦を緩めたソレイユは、ほわぁ、と幸せな吐息を溢れさせたしゃらが純白ふわもこをちょこんと鼻先につけた可愛らしさに頬も緩めて、
「――失礼、天使の羽が落ちてきたようです」
紳士な微笑みとともに懐からさらりと取り出したハンカチで少年の鼻先を拭ってやれば、ひとつ瞬いた仔狐の灰色の双眸に夢見るような憧れの光が燈る。
幻想的なクリスマスイルミネーションにいっそう優しく輝く天の彩の翼はその身に悪魔を取り込んだ証であるというのに、
――私の眼の前にいる方こそが、
――きっと天使にございまする……!
思わずそう口にしかけた言の葉をしゃらは慌てて呑み込んで、
「洗ってお返しします!」
「ふふ。大丈夫、しゃらに手間はかけさせませんよ。何しろここは最終人類史ですから……ほら、ね?」
「なんと! 残留効果とは本当にすばらしきものにございますね!!」
今しがた己の鼻を優しく拭ってくれたソレイユのハンカチを預かろうとしたけれども、憧れの先達たる少年演奏家が悪戯に黄昏の片目を瞑ってみせればたちまち花開いた【クリーニング】の力でハンカチは綺麗さっぱり元通り。
最終人類史のクリスマス、幻想的な光の世界に満ちるしあわせを曇らせるものなど何ひとつないのだと改めて実感したなら仔狐の少年は輝く笑みを満面に咲かせ、
「それでは早速、星探しに参りましょうぞ!」
「ええ、弾む心のまま星探しに出かけましょうか」
今度は己から誘えばソレイユから返るのも楽しげな微笑みで、心のままに足取りも弾ませ美しい光と賑やかな人波の波間を歩めば、華やかな香りと気泡弾けるランブルスコを振舞う屋台で輝く深紅と薔薇色の星、淡い金色に甘酸っぱい香りが跳ねる白葡萄のスカッシュを振舞う屋台で輝く花萌黄に金銀の煌きが踊る星、ひとつとして同じもののない幾つものマーブリングの星あかりが二人の眼差しを誘うけれど、
ひときわ優しい表情の聖母マリアが生まれたばかりのイエスを抱くプレゼピオ、羊やロバ達もが家族を見守る箱庭に緩めたソレイユの眼差しが捉えたのは、プレゼピオに淡い金色の星々を降らせるようなイルミネーションを纏ったケヤキの枝先で、美しい青に輝く星あかり。
深く澄んだ青に微かな銀の煌きが流れるそれは、極上の青、冴える青のブルーキュラソーに溺れるがごときブルーアワー、夜明け前の美しい青のひとときに朝露が躍ったようにも星が流れるようにも見えて、
「私はこの流れ星をひとつ、持ち帰るとしましょうか」
「ソレイユさまはやはり青がお似合いにございますね……!」
幻想竜域の湖水地方で出逢った夜明けに想い馳せつつ世界に唯ひとつの星を手に取れば、満開の笑みでそう語ったしゃらの視界の端でもひときわ明るい輝きが少年の心を惹いた。甘い香りを溢れさせる屋台に並ぶ菓子を眼にするよりも先に灰の瞳が映したのは、軒先で明るい紅葉色にひかる星あかり。裡から透かすあかりの揺らめきが紅葉色の波紋を躍らせるかに見えれば自身の狐尻尾が楽しげに躍ったようにも見えて、
「ふふ、見ているだけで心も温かく照らされるような星で……まるでしゃらの心の煌きそのものみたいですね」
「はい! いま、私の胸に寄せる喜びや楽しさ、きらきらした心の波を表したら、こんな彩になるように思えまする……!」
美しい紅葉色のマーブリングに笑みを深めたソレイユの言葉に弾む声音で応えれば、ここは最終人類史と己に言い聞かせた仔狐の少年はふわり【浮遊】で浮かび上がり、軒先にひかる星あかりを小さなその手に取った。幸せな心地でふふりと笑みを零せば何時の間にか憧れのひとが屋台の店主から紙袋を受け取っていて、瞬きをすればしゃらの眼の前に差し出されたのは、雪めく白に木の実の宝石がたっぷり鏤められたクリスマス菓子、この屋台に数多並べられていたトッローネ。
「この菓子、私の母がたまに作ってくれていたんです。演奏の練習を頑張ったご褒美に、って」
「ソレイユさまのお母上……! さぞやお優しい方なのでしょうね
……!!」
昨冬のナターレにもパルマの子供達に振舞った幼き日の想い出の菓子、この聖夜にも小さな掌に家族との幸せな記憶の味を乗せてあげれば見上げてくるしゃらの瞳があの日の子供達以上に輝いて、チョコラータカルダのとき以上に胸を高鳴らせつつ頬張った仔狐の少年の口内では、卵白の優しさと蜂蜜の甘さの裡から胡桃やピスタチオにヘーゼルナッツ、数多の木の実達の香ばしい風味と楽しい触感が跳ねて躍って幸せな美味を咲き誇らせる。
楽しい音楽みたいでございますね、と頬を押さえつつ笑み崩れ、
「私も、もしソレイユさまが兄上でしたら、毎日お褒めして……おやつもご一緒しとうございます」
「そうですね、しゃらのような弟がいたら、沢山甘やかしてしまいそうです」
両親やきょうだいと過ごした日々を憧れのひとが語ってくれるのに何度も頷きながらしゃらがそう口にすれば、懐かしくも手の届かぬ過去を想ってちりりと胸裡に奔った何かを仔狐の少年のふわふわ尻尾が柔く撫でてくれた気がして、少年演奏家はあたたかな紅葉色の髪に彩られた小さな後輩の頭をふわりと撫でた。
幼い仔狐の尻尾がぴゃっと嬉しげに跳ねる様に目許を和ませたのは蒼穹の天使も同じ。
「ソレイユさんもしゃらさんも、楽しく過ごしておられるようで何よりだ」
「ふふ、エトヴァも満喫しているみたいですね。素敵な星との出逢いもあったようで」
「御無沙汰しておりまする、エトヴァさま!!」
幻想的なクリスマスイルミネーションと夢幻の星あかりに彩られたメルカティーノ・ディ・ナターレをめぐれば仲間達とも行き合えるのが楽しくて、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が語りかければ少年演奏家からは翠に青が躍る星あかりに気づいたらしい微笑みが、仔狐の少年からは彼らしく礼儀正しい言の葉と笑顔が返って、
――Buon Natale!!
幸福のトッローネをお裾分けしてくれた二人と挨拶を交わせば、蒼穹の天使は再び光の波間へと足を踏み出した。
星あかりの裡から美しくマーブリングを透かすあたたかな蜂蜜色のひかりは、キャンドルのそれにも優しい陽のひかりにも似て、柔らかに揺らめくあかりで明るい翠に蒼穹の青が躍るエトヴァだけの星をひときわ愛おしく輝かせる。夜の風に躍った白狐の毛束のチャームが肌を撫でてくれる様に眦を緩めれば、輝くイルミネーションも光る星あかりもひときわ美しい煌きをエトヴァに見せてくれるかのよう。
青空へ数多の白き羽根が舞い上がるかのような星あかり、深い森の緑に柔らかな木漏れ日が揺れる様を思わせる星あかり、雪解け水が迸るような透明感のある淡い青に春花が舞うかのごとき星あかり、歩みのたびに出逢う星あかりはひとつひとつが物語を抱いているかのよう。出逢いのたびに新たな物語に触れる心地になれば、
胸の裡へ鮮やかに甦ったのは断頭革命グランダルメのパルマ公国で描いた神々のフレスコ画と、己の壁画に彩られた学校に花開いた子供達の笑顔、そして、子供達がディアボロス=ジャンマリオ記念学園と名付けたその学校をはじめ、狡猾にも街を豊かにする事業を展開した好人物たる恰幅の良い商人の面影。
自ずと笑みが深まるのを感じながら聖夜を夢幻のひかりで彩る星あかりを追って、馬小屋の洞窟で羊やロバ達が飼い葉桶に眠るイエスを見守る牧歌的なプレゼピオから、篝火のあかりが星々のごとく煌く夜のベツレヘムの街そのものまでも再現した豪奢なプレゼピオなど様々に個性的な箱庭に創作意欲を掻き立てられつつ眺め歩けば、甘い宝石めく数々のクリスマス菓子に彩られた屋台の光景に、大切なひとと一緒に雪とともに夜空からパルマの街へ舞い降りて、ひとびとに暖かな色合いの新しい靴下へ紙袋に入れた菓子を詰めた贈り物を配った昨冬のナターレを思い起こした。
――今冬のナターレに贈り物を届けることはできないが、
――願わくば、彼らが幸福な歩みを全うしたことを。
祈りの詞をそっと紡げばふうわり白く霞んだ呼気を甘やかに香る湯気が優しくひかりに融かしてくれる。
蒼穹の眼差しをめぐらせればチョコラータカルダの屋台の陽気な売り子と眼が合ったから、
「とても温まりそうだな、一杯いただけるだろうか」
「熱々とろとろ、甘々なんよ! シナモン振ってく? 青空色のおにーさん!!」
甘く濃厚なショコラの香りをひときわ豊かに彩ってくれるシナモンの魔法もおまけしてもらったチョコラータカルダを手にテーブル席へと腰を下ろしたエトヴァは、卓上にもそっと己の星あかりを下ろした。柔らかに揺れる、翠と青のひかり。
彷徨う星にも卓上の安息を、俺にはチョコラータカルダの安らぎを、
穏やかにそう綻ばせた口許へマグカップを運べば、甘やかなシナモンの香に彩られた濃厚なショコラの波が甘くあたたかな安らぎをエトヴァのこころへからだへ届けてくれる。昨冬に燈った鮮やかな幸せもが甦れば吐息で笑んで、ストゥルーデルと同じようにオーストリアのスプリッツァが北イタリアへと伝わって定着した、スプリッツを傾けながらの夕餉もいいな――とテーブル席から再びゆうるりメルカティーノ・ディ・ナターレを見渡して、蒼穹の双眸を柔く細めた。
遥か夜空で輝く冬の星々も美しいけれど、ひとの手で地上に燈された光が今夜はことさらに美しい。
昨年の秋に自分達の【液体錬成】でパルマの夜に甦らせた街灯のあかり、あたたかなオイルランプの光の祝福。あの輝きが象徴するように、ひとの手で地上に燈される光は連綿と受け継がれてきた営みの、文明の、歴史の証だから。
幻想的なクリスマスイルミネーションが、夢幻の色彩の羽ばたきを纏った星あかりが、凛と澄みきった冬の夜闇を彩る様を蒼穹の瞳へと映しとり、そっと瞬きをする眼裏に、最終人類史への奪還は為れどもいまだひとびとの帰還は為らぬパルマの、奪還の手がまだ届かぬフィレンツェの、イタリア全土の夜に、現代のあかりが燈される日を重ね視て。
……取り戻せますように。
連綿と受け継がれてきた、ひとの営みを、
色彩を、芸術を愛する心をもった文化を、歴史を、ひとびとを。
聖なる夜にエトヴァは心からの祈りを燈した。
イタリア語でクリスマスを指すナターレは、ラテン語で誕生を意味する『ナターリス』に起源を持つ。
魂に祈りを、そして新たに生まれ変わらせる心地で誓いを燈すよう口にする、
――Buon Natale.
●Villaggio di Natale!
新宿島に流れ着いた二年前の夏の日から、ずっとずっと翔け続けてきた。
常に最前線へと飛び込んでいく心地で休むことなく戦いの日々を翔けぬけて、終に皆と掴み獲った幻想竜域キングアーサー奪還戦の勝利。相棒と並んで誰よりも多くの任務に力を尽くしてきた軌跡の先に掴んだ希望の未来、嵐を越えた先に雲間から眩く射し込めた光が胸に満ちる心地になれば、シル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)は心にふわりと羽化した妖精の翅を背から咲かせるような気持ちで聖なる夜へ解き放たれた。
何時の時代であろうと何処の空間であろうと、歴史侵略者達が齎す悲劇を打ち砕いてみせるという誓いは変わらないから、己の戦いの日々はこれからも続いていくけれど、
――今は戦うことは忘れて、
――全力全開でクリスマスを楽しんで過ごすよっ♪
大きな大きなひとくぎり、肩の荷を、魂の錘をひとつおろした今なら何処までだって飛んでいけそうな気さえするけれど、この聖なる夜は幻想的なクリスマスイルミネーションが煌き、夢幻の色彩の羽ばたき纏った星あかりが光る、優しい美しさに満ち溢れたメルカティーノ・ディ・ナターレをゆうるり歩んでのんびりめぐる。
振り仰ぐ夜空にも星々は煌いて、振り返る地上にも星々が輝いて、まるで星達の共演みたいで素敵だね、と笑みを咲かせて軽やかな足取りで、艶めく石畳に妖精の空靴を唄わせながら今夜限りのヴィラッジオ・ディ・ナターレ、クリスマスの村めくメルカティーノを歩んでいけば小さな山小屋めく屋台の連なりとあちこちに飾られたキリスト生誕のプレゼピオも相俟って、まるで絵本の頁を捲っていくかのよう。
海の青が美しい波紋を描くマーブル紙で装丁された書物を誰かがぱたりと開けば、風景写真集らしいその裡から現れたのは神秘的な彩を湛えた青の洞窟の絶景。だが洞窟の外に眩く輝く陽のひかりに誘われた気がしてシルが誰かの手元の写真集から青空の眼差しを上向けたなら、
「わ、きれい……!」
溌剌ときらめく瞳に映ったのは、明るく澄み渡った青空の彩――天色にふうわり優しくひかりを透かす白が舞い上がる星。
両手で包み込むよう大切に手に取ればふうわり舞い上がる風とともに空へ連れていってくれそうな星あかり、ひときわ心が解き放たれるような想いで笑みを咲き綻ばせたなら、視界の片隅でオレンジとショコラの彩が揺れた気がして、
「あ、クレメンティアさんだー。楽しんでる? ねね、どんな子に惹かれたの? わたしはこの子だよーっ!」
「ひゃあああ! とってもとってもシル様っぽい綺麗な子! 私の星はね、星はね、この子です!!」
青空の眼差しをめぐらせて見つけた相手に天色の星あかりを掲げて見せつつ手を振れば、輝くように嬉しげな笑みを燈したクレメンティアもあたたかにひかる星あかりを片手に駆けてきた。彼女が秘密を明かすよう見せてくれた星は裡から蜂蜜色のあかりを透かす金に深い琥珀の彩が羽ばたいて、思わずふふっと笑みを零したシルが、無敵だね、と内緒話めかして囁けば、めざせ無敵! です!! と相手の声音も弾む。
「ね、せっかくだから、一緒にメルカティーノ・ディ・ナターレをめぐってみない?」
「歓んでおともしますとも、可愛い風の妖精さん!! ね、シル様シル様、まずは今夜も熱々とろとろをどうかしら!?」
「何なに? 美味しいもの!? 勿論食べちゃうよっ!!」
いっそう心も弾む想いで満開に笑みを咲かせて手を伸べれば、楽しげに笑み返してシルの手を取ったクレメンティアからのお誘いはこんがり狐色の焼き目が波打つパニーニ達が色とりどりの美味を覗かせている屋台。パニーニは複数形でパニーノが単数形、蟹のほぐし身たっぷりなパニーノをふたつに切り分けてもらえば、艶やかな紅白の蟹のほぐし身の下から眩い陽色に輝く半熟とろとろのチーズオムレツがとろり。
美味しそうっ! と飛びきり弾む声音をも咲かせたシルがクレメンティアと半分こしたパニーノを頬張ったなら、焼き目の香ばしいパンの間から蟹の甘味が溢れて熱々とろとろ半熟チーズオムレツと絡み、グラナ・パダーノと呼ばれるチーズが熱く蕩ける旨味が花開く。ほわっと甘く香るハーブはチーズオムレツを彩るエストラゴン、瑞々しくしゃきしゃきと唄うのは蟹と半熟チーズオムレツを受けとめる京水菜のベビーリーフで、
「ふわあ……こないだの湯葉まんも美味しかったけど、これも美味しいっ! って、あれ? もしかしてわたしも……?」
「えへへ、実はシル様の餌付けも狙ってます! だって美味しそうに召し上がるシル様がとっても可愛いから!!」
瞳も笑みも輝かせたシルが歓声を咲かせれば、クレメンティアから返るのは悪戯っぽい笑みと声音。
今夜も美味を分かち合って二人で笑いあったなら、指先までも手を綺麗にしてシルが彼女をいざなうのは美しい色彩の舞と羽ばたきが幾重にも広がる屋台。艶やかなマーブリングに彩られた数多の雑貨が並べられた店は真実、宝箱を覗き込む心地にさせてくれたから、
「わぁ、すごく素敵なものが沢山だね!」
「ねね、シル様シル様、今度はどんな子に惹かれるかしら!?」
華やかにめくるめく色彩の世界へ自身も羽ばたく気持ちであれこれと手に取ってみるのは、春めく桜色と朱華がふうわりと舞い上がる栞や、爽やかな新緑の彩に木漏れ日めいた透明な金色の煌き躍るブックカバー。けれどもどうしても眼が離せなくなって、いちばん惹かれるのはこの子かな、と青空の双眸を細めてシルが選びとったのは、
美しい青に何処までも吸い込まれていきそうに思えたフォトフレーム。
何処までも心が吸い込まれそうで、だからこそ写真を飾れば想い出をひときわ鮮やかに浮かびあがらせてくれる気がして。
「うん、星あかりと一緒にこの子を連れて帰るっ! そして新しい想い出をこのフレームに収めていきたいなって」
心を決めれば満開に花咲く笑み。瑞々しく輝く自然を、胸を躍らせてくれる好きなもの達を、心に明るい光を燈してくれる想い出達を、日替わりでこのフォトフレームを彩れるように、たくさん、たくさん集めて。
戦いの日々はこれからも続いていくけれど、戦うばかりじゃない、新しい自分を始めていきたくなったから。
いつかすべてを取り戻し、戦いの日々の先へ歩いていく未来を迎えたときのためにも。
「それが、わたしの新しい目標かな?」
「ね、それじゃ早速フレームに収める候補をひとつ作らせてくださいな!」
新たに心へ芽吹いた目標を花唇から言の葉にしてみたなら、クレメンティアの手にスマホがきらり。
偶々その瞬間に竜城・陸(蒼海番長・g01002)が通りかかったのもきっと花冠が咲かせる絆ゆえで、
「ふふ。良ければ俺に任せてくれる? 御二人の笑顔をしっかり撮ってみせるよ」
「わわ、それじゃあばっちりお任せします! 陸さんっ!!」
「ひゃあああ! 陸様にお願いできれば間違いなし! ですものね!!」
持ち前の察しの良さで状況を把握した蒼海の竜がさらりと面倒見の良さも発揮すれば、乙女達に輝く笑みが花開いて。
合図代わりに三人で唱和する、
――Buon Natale!!
弾けるように笑った乙女達を撮って、勿論三人での姿も撮って、
乾杯と掲げあうマグカップには熱く蕩けるチョコラータカルダが甘やかに香る。
二人が覗いていた雑貨屋に満ちる美しい色彩に黎明の眼差しを緩め、今夜は素敵なものも美味しいものもいっぱいだね、と微笑みながら陸が語るのは、
「何かおすすめはあるかな? 俺はね、食べ歩いてきたなかだと京野菜のカポナータを乗せたブルスケッタがお気に入り」
「それも美味しそうっ! わたしからはさっき食べた蟹とチーズオムレツのパニーノがおすすめかなっ!」
「ですよね! 他には他には、ムール貝のマリナーラソースとかどうかしら!!」
賀茂茄子を筆頭に万願寺とうがらしや鹿ヶ谷かぼちゃに金時にんじんといった彩り豊かな京野菜がイタリアントマトと共に甘酸っぱく煮込まれたカポナータをたっぷり乗せたブルスケッタ。いにしえからの風味を色濃く残す京野菜の旨味が鮮やかで華やかなイタリアントマトの旨味と融け合うカポナータが大蒜の利いたカリッと香ばしいバゲットと美味を花開かせるそれは眼にも舌にも楽しい幸せを齎してくれる絶品で、
青空の瞳を輝かせたシルが語るパニーノも、ショコラの瞳を煌かせたクレメンティアおすすめのムール貝も、見つけたなら是非とも食べてみるね、と微笑みつつ乙女達と手を振り合ったなら、純白ふわもこの生クリームホイップをめいっぱい乗せたチョコラータカルダを片手に陸は再び光の波間をめぐる旅へと漕ぎ出した。
もう片手に揺れるのは今夜の連れ合いたる、海を思わす紺青の星あかり。
懐に弾む紺碧の鯨を意識すれば生クリームホイップの柔らかで豊かなコクを熱々とろとろのショコラの波間に蕩かしながら味わうチョコラータカルダが極上の甘さで蒼海の竜のこころもからだも満たしてくれるのはきっと気のせいではなくて、眦を緩めつつめぐる幻想的なクリスマスイルミネーションの世界はひときわ眩くて美しい。
断頭革命グランダルメのパルマ公国、昨冬に彼の地のひとびとへ雪降るナターレの幸せを贈ったけれど、あのときには皆の笑顔を咲かせる側だった自分達が今、彼の地の風情も燈されたナターレを純粋に楽しむ側に回ることが叶っている。京都市とフィレンツェが姉妹都市であるという縁に齎された今冬の聖なる夜の幸せに不思議で運命的なめぐりあわせをおぼえたなら、胸の裡からは深い感慨がゆうるりと溢れきて。
熱々とろとろのチョコラータカルダの熱を感じるたびに、親愛なる狡猾な紳士殿の声が今にも聴こえてきそうな心地がして笑みを零さずにいられない。内緒だよと言い交して贈ったホワイトチョレートに子供達が咲かせた輝く笑みが胸に甦るたびに目許を和ませずにはいられない。
――あの子達は立派に成長して、夢を叶えられたろうか。
――彼らの学び舎がずっと、幸せと希望とに満ち溢れていたのならいいな。
皆が正しい歴史へ還った、そのあとにも、そのさきにも。
遥か彼方へ想いを馳せつつチョコラータカルダの杯を綺麗に乾したなら、黎明の眼差しがふと捉えたのは花開くムール貝があたたかなイタリアントマトの彩りを纏った一品を振舞う屋台。マリナーラソース、すなわち完熟トマトにオリーブオイルで香りを立たせた大蒜を利かせバジルやオレガノなどの香草なども合わせたそれで煮込まれたムール貝を味わってみたならば、ふっくらぷりぷりの身がぷつり弾けて溢れ出させる潮の香りと海の滋味が濃厚なトマトと大蒜の旨味と混然一体となっていく様が絶品で。貝の身を思うさま堪能したなら紅き美味残る貝殻に茹でたてのファルファッレ、蝶のかたちのショートパスタを迎えて、貝の旨味をたっぷり含んだソースを絡めたパスタを味わうのもまた楽しい。
マリナーラは『漁師の』と訳されることもあるけれど、クレメンティアが自分に勧めてくれたなら『船乗りの』という訳を採るところだろう、間違いなく。そう思えば開いて立ったムール貝の殻も船の帆みたいに見えてくるな――なんて陸が口許を綻ばせれば、光の波間から耳へと届いたのは聴き慣れた仲間達の声音、
「あっ! 貝とパスタ、とっても美味しそうですね、陸さんっ!!」
「ほんとだ、すっごく美味しそう! おなかすいちゃう匂いだねっ!!」
「ミアとアンゼリカもどう? 美味しいよ、クレメンティアのおすすめだしね」
寧ろムール貝そのものが船なのかもなんて笑みを深めつつ蒼海の竜が勧めれば、
それじゃあ食べていこっか、と料理好きの輝きを紅樺色の瞳へ燈したユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)の嬉しげな笑みにアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が否やを唱えるはずもなく、揃って味わう美味に笑みも話の花も咲かせたなら、
――Buon Natale!!
明るい声音で陸とそう言い交わして、恋人達は再びメルカティーノ・ディ・ナターレへと駆け出した。
幻想的なクリスマスイルミネーションの煌きと夢幻の色彩の羽ばたき纏った星あかりの輝きに彩られた世界は乙女達の胸を高鳴らせずにはいられない美しさ。京都市内に本社を構える大手企業の敷地は広大で、だからこそ壮麗なケヤキ並木が広がり大地を石畳が彩る広場のごとき贅沢な空間に、暖かみのある木材で組まれた小さな山小屋めいた屋台が数えきれないほど軒を連ねる絵本の光景を思わす今夜限りのクリスマスヴィレッジが創り出されている。
夢のような現の世界を歩めば、二年前の夏には遠い夢のようだった幻想竜域キングアーサー全土の奪還をつい先日皆と成し遂げたのだという実感が改めてアンゼリカの魂の芯から溢れて指の先までをも満たしていった。
壮大なクライマックスを迎えたこの一年は、なんと濃密なひととせであったことだろう。
相棒と並んで誰よりも多くの任務に力を尽くしてきた軌跡の先、ドラゴン勢との決着を盛大な勝利で飾った奪還戦に、
激動と激戦の七日間を皆で乗り越えた《七曜の戦》、そして今年のはじまりは、
――眩い歓喜を、輝く約束を、一度は喪われたそれらを時空を超えて取り戻し、
――今は比翼の鳥となって希望の未来へ一緒に翔けてくれるひとと『また明日!』の続きを新たに始めて幕を開けた。
美しい光の波間をともに駆けてくれる恋人を見つめれば、天の光映すアンゼリカの眼差しに気づいたユーフェミアが優しく微笑み返してくれる。勿論、ユーフェミアにとっても自分に寄生していたクロノス級アークデーモンをアンゼリカと仲間達が斃してくれ、己自身もディアボロスへの覚醒を迎えることで幕を開けたこの一年は波乱と激動の一年であったけれど、今では恋人となったアンゼリカが自分よりもずっと長く戦いの日々を翔け続けてきたことを識っているから、
「まずはお疲れ様。頑張ったね」
「えへへ、ミアだって
……!!」
愛おしさも込めて、すっかり大剣に馴染んだ頼もしい彼女の手をユーフェミアは大切に両手で包み込んだ。
言の葉そのものは短くても、胸に迫る万感の想いはきっと、ぬくもりとともにアンゼリカへ伝わるはずだから。
目許に甘い熱をほんのり燈しながらアンゼリカは、敗北の過去を覆して再会した大切なひと、親友から恋人となった最愛のひとの手を大切に包み返して、美しい光の波間をともに駆けられるように繋ぎなおす。
この聖夜を一緒に楽しめる幸せをめいっぱい味わいたくて、行こうミア、と溌剌たる笑みで再び足を踏み出す光の波間。
幻想的なイルミネーションに夢幻の彩りを添えるマーブリングの星あかり達はいずれもあたたかに揺らめくひかりを透かし美しい色彩の舞や羽ばたきで少女達の眼差しを誘う。薄桃のライラックの花房が揺れる彩でひかる星、秋の紅葉があたたかな陽射しを透かす彩でひかる星、聖夜を彩る数多の星あかりをめぐって、夜空から雪を降らせるように煌くイルミネーションの頂で迷いなど何ひとつように輝く金の星を見出せばアンゼリカは眩しげに双眸を細めて、銀の靴はふわり【飛翔】で大地から離れかけたけれど、ふと視界の端に揺れた彩が己の心と深く響き合ったから、銀の靴の踵をかつりと石畳に唄わせて、そっと差し伸べた手で氷めいた蒼に輝く星を掬いとった。裡からキャンドルライトのあたたかなあかりを透かすのに、冴える、蒼。
私の、本当の色。
新宿島のアンゼリカとして生きることを決めたときには英雄に夢と憧憬を抱いていた過去の己を切り捨てるような気持ちになったりもしたけれど、今は嘗ての己を、城壁迷宮の極光の世界で出逢った、もうひとりの自分をも認められるから。
嘗て抱いた甘い夢も憧憬も、間違いなく今の私を形作っているものだと迷いなく言えるから、
「胸を張って生きていくよ、陽菜。『あり得た私』」
「……そっか、あのときの自分と一緒にいるために、なんだね」
両手に掬った蒼き星を天の光映す瞳の前に掲げてアンゼリカが誓いを口にすれば、紅樺色の眼差しを緩めたユーフェミアがふわり踊らせた指先が触れたのは、明るい陽の輝きを燈したような、黄色の星あかり。
悪戯っぽく微笑みかける彼女の、
「このお星様を選んだ意味は……言わなくてもわかるかな?」
「――! ええと、その、綺麗だよ。……星の光も、ミアも」
紅樺色の瞳に映った今のアンゼリカは瞳も髪も陽の輝きの彩。ユーフェミアが手にした星は明るくあたたかな陽色の輝きで聖女の名を授けらし少女をひときわ柔らかに照らし、その優艶さを際立たせるけれど、何とか言葉を絞り出したアンゼリカはどうしてもっと上手く言えないんだろうとその先に声を詰まらせてしまう。だけど、
鮮やかな薔薇色を燈した恋人の頬をふうわり撫でて、
「言葉は無理に出さなくてもいいんだよ? こうやって伝わる思いもあるから」
「……うん、ありがと、ミア」
その手でユーフェミアは改めてアンゼリカの手を取り、頷いた彼女と手を繋ぎなおせば光の波間へといざなって。
私って不甲斐ないなと思いつつも最愛のひとがこうして導いてくれるのも心地よくて、アンゼリカは柔い笑みを綻ばせた。
恋心ゆえに胸を詰まらせる一幕はあれども熱々とろとろのチョコラータカルダを手にすればたちまち曇りない笑みが互いに咲くのは年頃の少女ならでは。何処までも濃厚でとびきり蠱惑的な甘さとほろ苦さに溺れる心地になれば、
「美味しい……! やっぱり最高っ!!」
「ココアとかショコラショーとかより断然濃厚なんだね、びっくりな美味しさ
……!!」
顔を見合わせ弾けるように笑って、干し無花果やレーズンに林檎の蜂蜜煮の甘い幸せぎゅうっと詰め込んだスポンガータも一緒に頬張りながら、幻想的なイルミネーションと夢幻のひかりを燈す星あかりの世界を軽やかな足取りで辿って。
熱々もちもち、鈴カステラみたいにまあるい揚げパン・コッコリを、爽やかな酸味のあるチーズと合わせて薔薇色が透けるプロシュット・ディ・パルマに包んで頬張って、淡い金色に爽やかな気泡がしゅわりと弾ける白葡萄スカッシュでたっぷりと清涼感も堪能したなら、小さな山小屋めいた数えきれないほどの屋台が織り成す十字路の角の先でひとびとの歓声がわあっと咲いて、楽しげな賑わいに興味を惹かれたひとびとが次々に角を曲がっていって。
ふと気づけば雪降るようなイルミネーションと銀色がふうわり蜂蜜色のひかりを透かす星あかりのもとで二人きり。
今ここには、私と、ミアだけ。
世界に唯ふたりだけになったような心地がすればたちまちアンゼリカの鼓動が跳ねたけれど、
あぁ星よ、
どうか今年一番の勇気を私に――!!
蒼き星掲げ持つ手に光を握り込む心地で意を決して、柔らかな紗を潜るよう優しく、誰よりも彼女の傍に身を寄せたなら、アンゼリカは最愛のひとの頬に、大切に、大切に口づけた。なめらかな肌に触れる、花唇。
甘やかで柔らかな、何処までも優しい熱が頬に触れればユーフェミアは大きく双眸を瞠ったけれども、恋人の花唇が微かに震えていることに気づけば、その眦が緩んだ。すっごく勇気を出したんだね、吐息の笑みでそう紡げば、耳まで熱い薔薇色に染めたアンゼリカに微笑みかけて、聖女の名を授けられし少女は、私の英雄、私の騎士様とも想う恋人を、
優しく包み込むように、けれど想いとぬくもりを確り伝えるように、抱きしめた。
――私も大好きだよ、アンゼリカ。
●Regalo di Natale!
古来から媚薬めいた効果も囁かれてきたカカオは、最終人類史の現代においてもなお魔法を孕んでいるのに違いない。
明るい金に薔薇色を蕩かしたように煌く銅製のミルクパン、美しい小鍋からマグカップへとろり注がれる濃厚なショコラは深く艶めいて波打って、熱々とろとろのショコラの海からは抗いようもないほどに甘やかな香りが柔らかな白にけぶる湯気の優しい熱を連れて溢れて、凛と澄んだ夜闇の冷たさをふうわり融かしていく。
何処までも濃厚なショコラの波間に薔薇の蕾めくフリーズドライの苺が鏤められる罪深い美しさに知らず息を吞み、期待と好奇心を存分に募らせたラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)が極上のチョコラータカルダを己が口へと運んだなら、
蕩けたショコラの波が押し寄せて、魂までも呑まれてしまいそうな心地になった。
熱くて濃厚で甘くてほろ苦い、蠱惑の魔法が意識の芯までも眩ませていくかのよう。たっぷり熱を蓄えた熱々とろとろ感の秘密はコーンスターチ、然れどミルクも生クリームもたっぷりのはずなのに、それらは何ひとつチョコラータの風味を弱めることなく、濃厚なコクでカカオの風味を支えていっそう鮮やかに咲き誇らせる。
「!!?? オレが、オレが今まで飲んでたココアやホットチョコレートって、一体何だったの
……!!??」
「ですよねですよね、そう思ってしまう衝撃の美味しさですよね
……!!」
銀の双眸を瞠ったラヴィデが予想を遥かに超える蠱惑的な美味に竜翼を震わせる様に、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の豊かな狐尻尾も飛びきり嬉しげに大きくぱたり。断頭革命グランダルメのパルマ公国で味わったチョコラータカルダの記憶が己が胸へ鮮やかに甦る様に目許を和ませ、薔薇の蕾めくフリーズドライの苺を嚙みしめればぎゅっと凝縮された甘酸っぱさが溢れて濃厚なカカオそのものの華やかな酸味をも花開かせる、新たな幸福に蕩けるような心地でヤコウは笑み崩れて、
「これ、リキュールを落とすといっそう美味ですよ。果実系もいいけど、胡桃のリキュールという手も――」
「わぁ、何それ美味しそう……! ホイップ山盛りにしてシロップみたいにかけてみたいなぁ、胡桃のリキュール!」
然れどそれでもやはり、心は遥か遠く時空を隔てた懐かしきパルマを愛おしむ。
街で出逢った愛すべきひとびとの話には紫闇の竜人の眦も緩み、黒銀の妖狐が農村で出逢ったアヒルとニワトリ達の家禽と言うよりもはや猛禽と呼びたい勇姿を語れば弾けるような笑みが咲いて。色々な冒険してきたんだなぁと笑うラヴィデの銀の双眸は幻想的なイルミネーションの美しさに素直な感嘆の光を浮かべるのと同じに、艶やかな色彩が羽ばたくマーブリングの美しさにもヤコウが語る想い出を重ね視るような光を燈すから。
傍らの竜人はきっと、想い出を愛しく辿る妖狐が実は彼への贈り物を虎視眈々と探し求めているとは気づいていまい。
――これはプレゼント選びを気取らせない狡猾な策略……!!
――そう、作戦名:オペレーションジャンマリオなのです!!
必ずや作戦を成功させてみせると誓うよう凛と澄みきった冬の夜空を振り仰いだなら、煌く星々の合間に恰幅の良い商人が狡猾笑顔でサムズアップしている姿が見えた、気がした。
今ヤコウ君、懐かしくも親愛なるひと達を思い浮かべているんだろうなぁ、なんて傍らの妖狐の胸中をある意味では正しく読み取りながら、いい経験ができたね、と心からの言葉をラヴィデは口にした。農村でアグリツーリズムしてきたかと思えば学園開校に尽力したり街のひとびとにナターレを贈ったり、春花に彩られた街道で野盗達を懲らしめたりと、聴くほどに心が躍る冒険譚。しかもそのわくわくするような冒険のすべてがパルマ公国を支援するためのものなのだから、
「ありがとう……って、オレからも言わせてね」
「ええ、皆さんと一緒に、やり遂げてきました」
あたたかな杯を掲げて柔らかな笑みで告げれば、あたたかな杯を掲げ返す、誇らしげな笑みが返った。
何時の時代であれ何処の大地であれ、華やかな賑わいが溢れるなかに楽しげなひとびとの笑顔がいくつも咲き溢れる光景は心を浮き立たせてくれるもの。最終人類史ならではの【寒冷適応】が真冬の夜の冷たさから護ってくれるからばかりではない暖かさが世界や自身の胸の裡に燈る様を感じながら二人でめぐるメルカティーノ・ディ・ナターレで、
深い濃藍の夜闇に金銀の星々がスタートレイルを描くような星あかり、春空へと明るい陽色のミモザアカシアが咲き溢れる様を思わす星あかり、艶やかなカプリブルーから透明感のあるアクアマリンの滴が弾けるような星あかり、様々な色彩の舞や羽ばたきが眼を楽しませてくれる華やぎの世界を游ぐうち、
鮮やかな薔薇色を咲かせる星あかりに銀色と宵紫の眼差しが惹きつけられたのはほぼ同時。だったのだけれど、
「――僕の星、見つけました」
「えぇ、キミのにしちゃうの?」
星の裡から蜂蜜色のあかりを透かしてなお鮮やかな薔薇の彩に愛おしげに宵紫を細め、裡に秘められたひかりの揺らめきが薔薇の花弁を幾重にも咲かせていく様を見せるような星あかりを己が連れとしたのは、迷いなく手を伸ばしたヤコウのほう。だが拗ねたようにラヴィデが唇を尖らせるのも、しかたないなぁ譲ってあげると続ける台詞も勿論冗談まじりだ。
彼が幸せな子守唄を聴いた子供みたいな笑顔で星あかりに頬を寄せる姿を見れば、
その子もキミの手にあるほうが幸せだろうしねと自然に思えてしまうというもの。
幸いなことに薔薇色の星あかりと出逢ったのはマーブリングの雑貨を扱う屋台の軒先、華やかな色彩の羽ばたき達は店にも軒先にもまだまだ数多妍を競っているから、ひときわ優しくあたたかなひかりに惹かれてラヴィデは春色の星へ手を伸ばす。
明るくも優しい春の陽射しにふうわりとけて霞むような萌黄の彩、
「この子だって可愛いもんね。ふふ、春が近くなった気がするな」
「そちらの星も素敵ですね。優しく咲き綻ぶお花みたいな柄が、たくさん」
あたたかで柔らかな萌黄の合間から優しい薄桃色や菜の花色が覗いて、春風に花々が舞うよう色彩が羽ばたく星あかりから零れるひかりに魅入る彼。その横顔もあたたかに和らぐ様にヤコウも笑みを深めて、
「おっ、気に入ってくれた? どっちもねぇ、マーブリングを写した紙を引き上げたときにビビッと来たやつさ!」
「ええ、本当に素晴らしいです。連れ帰って、大切にさせていただきますね。ありがとうございます」
不意に耳に届いてティアボロスの自動翻訳能力で難なく聴き取れたイタリア語に狐耳をぴんと立てた。
相手はひとめでフィレンツェから来たマーブル紙職人だと識れる男性で、
「瞬間の美、一期一会の芸術……沢山のひとに作品を手にして欲しいとも、一期一会だからこそ誰にも渡したくないとも」
「まあ思うよね! 自分の作品に自信も矜持もある職人なら当然さ!!」
俄然その瞳に職人魂を燃え上がらせた繕い屋たる妖狐と意気投合したマーブル紙職人ががっちり握手する様に、これは職人同士の語らいが白熱しそうだなぁと笑ってラヴィデはそうっと足音忍ばせ別の屋台を覗きにいくけれど、巧い具合にいっそう話に熱が入った様子のヤコウには気づかれていない。萌黄と春花のひかり咲かせる星あかりを連れてふわりメルカティーノへ踏み出せば、銀色の眼差しは朝靄の裡から瑞々しい薄桃や淡紫の春薔薇を咲かせるような星あかりに惹かれ、
軽やかさを増した足取りのままひょいと覗いた店先で、ひとめで気に入った来年の手帳を手に取った。
互いが互いへの贈り物をこっそり選んでいることなど気づかぬまま、妖狐へ贈るべく竜人が選びとったのは可憐な薄桃から優美な紫まで数多の薔薇が咲き溢れるように色彩を舞わせたマーブリング。薔薇の花園を覗き見るようはらりはらりと捲り、
「いいなぁこれ、予定をひとつひとつ書き込むたびに気持ちが花開いていきそうでさ」
「でしょう? これで書き込んだなら更に気分があがること間違いなし!」
蕾がふっくら膨らみ綻んで、薔薇が幾重にも花開いていくよう、数多の頁に素敵な予定がびっしり書き込まれていくようと想いを込めるよう呟けば、満面に笑みを咲かす売り子の女性が勧めてきたのはよく似た色合いのマーブリングで軸を彩られた万年筆やボールペンで。確かに、と思ってしまえば、商売上手だなぁなんて相好を崩さずにはいられない。
芸術に近しい工芸品を手掛けるからこその葛藤。
職人同士で語らうジレンマの話が白熱するからこそ、作品を次から次へ手に取って聴き入る作成秘話。涼しい海で育まれる海藻を煮出した溶液に、色彩を艶めかせて自在に舞わせるための牛の胆汁(オックスゴール)を加えた染料を落とし、尖筆で舞わせて大きな櫛で梳いて羽ばたかせる技法は19世紀初頭のパルマのものと変わりなくて、だからこその『伝統』工芸、と得心しつつヤコウは、真珠めいた艶を孕む扇子に瞳をとめる。
嵐山でのハロウィンの夜、彼が魔法のように取り出した京扇子を思い起こせば零れる笑みのまま、
開けば眼前に広がったのは、純白と金を基調としたマーブリングが八重の梔子を咲かせるがごとき色彩の舞。
僕の、好きな花。
素晴らしい作品が手許から巣立っていくのが惜しいと思わないでもないけれど、
――けど、それで構わないのさ。
――次に俺が創り出すマーブリングこそが最高傑作だ! って、何時だって思っているからね!!
創り出すマーブリングそのまま艶やかに輝くような職人の笑顔と矜持も胸に抱いて、再びヤコウもメルカティーノへと足を踏み出せば、竜の尾を御機嫌に揺らしながら歩いてくるラヴィデと眼が合った。互いに相手への贈り物を腕に抱けども、先に意を決したのは此度も妖狐のほう。自分を想わせる品を贈るのは重いだろうかと胸の裡にふと迷いが過ぎりもしたけれど、
でもきっと、笑ってくれると思うから。
真珠めいた艶を孕む扇子を、心からの笑顔とともに贈る。
「僕からあなたへのレガロ・ディ・ナターレ――貰って、くれますか?」
「もちろん、ありがとう。……似合う?」
紫闇の竜人の手で扇子がしゃらりと唄えば、純白と金が八重の梔子めいた色彩の舞を花開かせて、
眩しげに銀の双眸が細めたなら、嬉しげに眦を緩めたラヴィデは瞳に楽しげな煌き燈して、梔子の花を香らすように扇子を扇ぎ寄せて見せ、とてもお似合いです、と返るに決まっている答えを求めて笑いかけた。然れどまだわからぬのは、己が腕に数多咲く薔薇を贈ったときに、黒銀の妖狐がどんな反応を見せてくれるのか。歓んでくれるのはきっと間違いないけれど、
――数多の薔薇が咲き溢れる贈り物に、
――どれほど艶やかな、瑞々しい笑みが花開くだろうか。
夜空の星々を地上の宝石のごとく鏤めるような、
硝子の宝石箱から数多の光の煌きと夢の物語が解き放たれたるような、凛と澄みきった夜闇を幻想的なイルミネーションが彩る聖なる夜は決して初めて見るものではないけれど、新宿島で見る聖夜の彩りよりひときわうつくしく己の眸に映るのは、果たして俺が浮かれているからか、この古都がよりいにしえの古都たる『まほろば』の隣だからか、なんて、
「あア、何方ともに決まッてる! ッてね、天使ちゃん!!」
眩い煌き降らせる幻想的なクリスマスイルミネーション、夢幻の色彩の羽ばたきを纏ってひかるマーブリングの星あかり、双眸を細めればいっそう眩くきらめく世界の美しさに織乃・紬(翌る紐・g01055)が陽気な笑声を弾けさせれば、早く早くと彼を急かすように紬の手を引くのは愛らしい朱華色を真白なファーで縁取る外套をふわり翻すオラトリオ。
己の幼い娘にも見えるだろう少女天使、辺りを彩るひかりよりも煌く笑顔を振りまく彼女と一緒なら大人がはしゃいだって何ひとつ不思議はない。これぞ特権と胸を張り、愛らしい天使に手を引かれるのを口実にあちこち見て回れば眼を惹いたのは特に異国情緒を感じさせるプレゼピオ、赤子のイエスにマリアとヨセフが寄り添う小さな箱庭から、羊やロバが家族を見守る牧歌的なもの、美しい星空を背景に三賢者の訪れを再現した箱庭や、ベツレヘムの街までをも再現した豪奢なプレゼピオに、果ては三賢者がヘロデ王に謁見する場面を表したプレゼピオまでと、この聖なる夜にはよりどりみどり。
特段の知識はなくともあれこれ見比べるのは興味深くて、ほうほうほう、と頷きと感嘆を洩らせば何となく己が真白な髭をたくわえたサンタクロースのような気分になってきたけれど、今夜は紬達が京都のひとびとから、刻逆前にフィレンツェから来日したままのマーブル紙職人達からのクリスマスプレゼント――レガロ・ディ・ナターレを受け取るほう!
ならば存分に、と思えば紬の足取りも少女天使の羽ばたきもいっそう軽やかに跳ねて弾んで。
何時でもまほろばを己の裡に甦らせてくれる大和橘のクラフトジンは今も懐にあるのだけれど、この聖夜にはやっぱり、
「ア! ランブルスコ、見ッけたあ!! 天使ちゃん~ハイソコ止まッて~!!」
美食の都パルマを含む北イタリアはエミリア・ロマーニャ州特産、天然微発泡の赤ワイン・ランブルスコを堪能したい!
思った途端に出逢った麗しの美酒、はしゃぐ紬の声音がひときわ楽しげに弾ければ、
いそいそと舞い戻ってきたオラトリオには甘く蕩けるチョコラータカルダを手渡しつつ、嬉々と回ッて零さないようにね、なんて諫めながらも紬自身は硝子杯に躍る深紅の煌きに笑みを零して、杯をくるり回しては薔薇や菫を思わせる香りが花開く様に黒き双眸を細め、薔薇色の極小の宝石粒めいてしゅわり湧き立つ気泡に悪戯な猫のようににんまり笑みを深めて。
軽く呷れば口中に躍ったのは軽快で繊細な微発泡の刺激、柔らかな口当たりとともに瑞々しい果実感が溢れ、辛口のキレの良さとともに喉を滑り落ちていく様は心地よく、
「いいねエいいねエ、呑みやすい上に美味ときたモンだ! 美食のほうもいただけるかな、店主サマ!」
「お任せでええならどんどん持ってくるから、これ摘まみつつ期待を膨らましとってな! 腹は膨らましすぎん程度に!」
機嫌が上向くまま声をかければ最初に饗された美しい薔薇色は世界三大生ハムの一角を成すプロシュット・ディ・パルマ。
芳醇な熟成香に鼻腔を擽られればそのまま食べても美味間違いなしと確信できたけれど、一緒に饗された鈴カステラめいた狐色のまあるい揚げパン、揚げたて熱々のコッコリの香りだって無視できない。真白なフレッシュチーズ、ストラッキーノも一緒に薔薇色透ける生ハムに巻いて頬張ってみれば、
「……!! 何これヤバい、永久運動になッちまう
……!!」
最早それは罠だった。
揚げたて熱々のコッコリの熱に脂を融かされたプロシュット・ディ・パルマは脂身の甘味も赤身の旨味もいっそう鮮やかに花開かせて、生ハムの美味の裡で熱い揚げパンの食感がもちもち弾む。軽く塩を利かせたコッコリは真白なストラッキーノの風味をも際立たせ、フレッシュチーズならではのヨーグルトめいた酸味が爽やかに溢れて熱い肉と小麦の旨味と絡めば、紬の手はもうとまらない。ランブルスコもプロシュット・ディ・パルマも、何もかもがあっというまに消えてしまいそう。
京野菜のカポナータが彩るブルスケッタも飛びきり心を弾ませてくれるし、鶏もも肉で無花果を巻いてバターで焼き上げ、バルサミコのソースを踊らせた芳醇なインヴォルティーニも存分にランブルスコの楽しみを広げてくれる。
何もかもが素晴らしい美味だが、ことに猪肉のラグーが圧巻だった。
猪の挽肉に叩いた塊肉も加えたそれは食べ応えもばっちり、たっぷりの香味野菜をじっくり炒めて完熟イタリアントマトと確りコトコトと煮込んだそれはリボンめいてひらり踊る平打ちパスタ、タリアテッレと思うさま絡んで、猪肉の旨味も野菜の旨味も、強いコシともちもち感が楽しいタリアテッレの美味もあますところなく紬の口中で咲き誇らせてくれる。
幻想的なイルミネーションと夢幻の星あかりに艶めかしい光沢を見せるランブルスコの瓶、ひとつがあっさり空になるのは当然で、結局のところ紬がどれだけ呑んだか識るのは当人と店主と、にこにこ笑いながら彼を見ていた少女天使だけ。
再び光の波間へ游ぎだす頃には紬の足取りも少女天使の羽ばたきもひときわ御機嫌で、
柔らかな若菜色に優しい朱華の彩が咲き零れる星あかり、冬空めいた淡青に艶やかな翡翠色が孔雀の羽根のごとく羽ばたく星あかり、透きとおるような勿忘草の青に柔らかに春めく桜色の波紋が舞う星あかり、眺めやる星々の彩りもあかりも微酔の心地よい熱を帯びた眸にはいっそう眩く優しく、それでいて鮮やかに映るから、
――とりどりな願い映す星ッてのは、
――こンな色をしてたりすンのかな。
知らず己にも柔らかな笑みが燈るままに少女天使の髪に咲く朝顔の花を柔く撫でて、自身の土産にと手を伸ばす星あかりは明け空を思わす薄桃色に花色が重なり融けあうような彩。裡から曙光をも思わす蜂蜜色のひかりをほんのり透かす星を掲げ、さて俺の今の願いと云や、と思いつつ十字路の角を曲がれば、紬の眼差しが捉えたのはオレンジとショコラの彩、
――成程、星の導は頼りになるモンだ!!
美酒と美味に彩られたテーブル席に着く目当ての相手を見つければ破顔して、
「御機嫌よう、クレメンティア嬢! と思ったら! あれま、大きな猛禽がちゃッかり捕まえてやがる!!」
「ひゃあああ! 紬様にも御機嫌よう、天使ちゃん様には初めまして、かしら!?」
「あっは、そりゃあもう確りね。あんたならもうランブルスコは呑んでるデショ? パッシートも呑んでいかない?」
その傍らによく識った猛禽を見つければ相好を崩し、紬との邂逅にクレメンティアが楽しげな笑みと歓声を咲かせたなら、彼女の隣で頬杖ついたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)が面白がるよう笑ってもう片手で紬を手招きする。気心の知れた朋と更なる美酒を楽しめるとなれば勿論紬にも否やはなくて、麗しき蜂蜜色に煌く美酒がそれぞれの硝子杯に躍れば、
この聖なる夜、乾杯代わりに唱和するのは、
――Buon Natale!!
極上の美酒だった。
秘密の宝物めく甘味とコクは背筋をぞくりと官能が奔るほど魅惑的、なのに確かな酸味が何処か気紛れな軽快さを添える。酸味は喉を擽る悪戯な刺激とキレの良い喉越しを齎して、天の美禄が喉を滑り落ちたあとに花開いた余韻が、芳醇な熟成感を華やかに解き放つ。こいつも飛びッきりだ、と白葡萄スカッシュを味わって翼をぱたぱたさせる少女天使と笑い合い、
飛びッきりあたたかい経験を、良き景、良き縁をくれた君に、と笑顔で紬が贈り物を差し出す相手はクレメンティア。
「今年最後の礼が言いたくてさ。俺からのレガロ・ディ・ナターレ!」
ふわり紐解く包みから甘いバターの香りとともに咲いたのは愛らしい花のかたちの焼き菓子、カネストレッリで、
「ひゃあああ! ありがとうございます紬様! ひとあし早く春を贈ってもらえた気持ち!!」
「なるほどかわいい。こりゃ乙女心も鷲掴みだ」
甘い花の贈り物にショコラの瞳を輝かせた時先案内人の笑みも満開に咲けば、花の愛らしさにノスリの笑みも深まって。
良かったらこれどうぞ!! と彼女から手渡された包みの中身は林檎たっぷりのストゥルーデル、帰ッたら食べよッか、と遠慮なく紬が受け取ったそれ覗き込む少女天使に男は片目を瞑ってやって、
――良き聖夜を!!
願いを掛けるよう星あかりを掲げて朗らかにそう告げたなら、二人にひらり手を振った紬は再び少女天使と光の波間。
彼らを見送ったなら、美酒と美味に彩られたテーブルの硝子杯に今度は深紅のランブルスコが躍る。
花開く香りは薔薇やカシスを思わせる、辛口のランブルスコより親しみやすいもので、
「ティアと呑むなら辛口のセッコよりは、やや甘口のアマービレかなって」
「ひゃあああ! 確かに私にはまだ辛口は敷居が高そうな予感! 少しずつ覚えさせてくださいね……!」
唇に乗せれば官能的にも響くアマービレ、選んでやった美酒にクレメンティアの笑みが幸せそうに花開く様にノスリが柔く蜜色の眼差し緩めれば、テーブルを彩る彼女が連れてきた星あかりのひかりが甘さを増すかのよう。裡から蜂蜜色のあかりを透かす金に深い琥珀の彩が羽ばたく星を見れば背中が擽ったい心地もして、光も影も耀く魄翼を上機嫌に揺らす。
改めての乾杯に響き合わせる言の葉も、
――Buon Natale!!
繊細な気泡がしゅわりと唄うアマービレ、甘いベリーをそのまま頬張るような風味の裡から確りと葡萄酒の酒気も覗かせる美酒に幸せな吐息の笑みを交わし、銀色のランタンにも似たチーズグレーターでたっぷり擂り下ろすのはグラナ・パダーノ。
朝摘みの緑と白が美しい旬のフィノッキオと瑞々しいオレンジのサラダを柔らかな乳脂色のチーズの雪で彩り、爽やかさと甘酸っぱさを二人で堪能したところでノスリが悪戯っぽく瞳を煌かせ、クレメンティアの口許へ運んでやったのは、生ハムの王ことクラテッロ。薔薇色ともルビー色とも思えるそれに無塩の発酵バターを包み込んだ逸品を食ませてやれば、あまりにも罪深い美味に彼女がふるりと震えたから、
「――今年も共犯者になってくれる?」
「ひゃあああ! もうなってる、なっちゃってますから
……!!」
甘やかな囁きとともに、双方の脂が渾然一体となったところでランブルスコを傾ける極上の快感も教え込む。
蒼海の竜の一推しだという京野菜のカポナータが彩るブルスケッタに、クレメンティアお気に入りのパニーノやムール貝のマリナーラソース、あの狡猾な商人おすすめのサルティンボッカと心も笑みも弾むまま一緒に次々と味わって、
「ね、助けて助けてノスリさま! ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが食べたいのですけれど――」
「御注文は1kg以上から? あははぁ、俺がいるから全然問題ないよ。食べたいもの全部頼んじゃおう!」
袖をついついと引いて願う彼女の眼差しの先、メニューボードに躍る文字に笑って星斑の猛禽が請け合ったなら、堂々たる肉料理がテーブルに御目見えした。T字の骨が抱く肉はテンダーロインとサーロイン、指三本はありそうな厚みを見ればもうその食べ応えは窺えて、戦舞の祭典の夜に朋が『最高だ』と評したのと同じ香りにノスリはひときわ笑みを綻ばせた。
炭火でなく薪火で焼き上げられた香ばしさこそが肉の何よりの調味料、軽い塩胡椒のみで仕上げられた肉を切り分けたならまずはそのまま頬張って、確り焼かれた表面の強い香ばしさに内側の赤身がしっとり馴染んで旨味たっぷりほどけていく様に蜜色とショコラの瞳を見交わし二人で笑み崩れたなら、次はクレメンティアが食べたがった洋梨とマスカットのモスタルダ、艶めく果実の甘さの裡からマスタードの刺激がピリッと咲く逸品と極上の赤身肉の旨味が絡み合うハーモニーを堪能して。
猛禽さんが一緒ならと瞳を期待にきらきら煌かせる彼女が秘めやかに耳打ちしてきたメニューに思わず吹き出して、勿論頼むともと愉しげに笑ってノスリが追加でオーダーすれば、堂々たる姿を現したのは、
燦然と輝くようなパルミジャーノ・レッジャーノ!!
恐らく25Kgはあるだろう堂々たるホールサイズのそれをくりぬいて、大きなホールチーズの器で直接チーズリゾットを仕上げる豪快なパフォーマンスが始まればたちまち溢れ出す豊かで濃厚なチーズの香り。何時だって腹ぺこの大きな猛禽ならこのたっぷり豪快なチーズリゾットも綺麗に平らげられる気もしたけれど、
次々と周囲のひとびとから歓声が上がる様に相好を崩せば、
「折角だしね、皆で賑やかに楽しもうじゃないの!!」
「ひゃあああ! そんなの絶対楽しいに決まってる!」
大勢のひとびとを巻き込んで、飛びきりシンプルなのに飛びきり贅沢なチーズリゾットに皆と笑顔で舌鼓を打って。
消化促進のため、なんて大義名分をくれる琥珀色のグラッパを小さなチューリップめいた専用グラスで乾杯して、初めての蒸留酒にひゃあああと彼女の声音が跳ねる様に蜜色の眼差しを和ませたなら、食後の珈琲も忘れずに。
深く薫り立つエスプレッソに落としたのは絵本の世界みたいなパルマ郊外の農村で出逢った胡桃のリキュールで、懐かしい香りに口許綻ばせたノスリが語るのはクレメンティアにおねだりされた、村の傍の森でレスキューした愛らしい仔ブタの話。嬉しげに瞳を輝かせて聴き入る彼女へちいさないのちを存分に語って食休みのひとときをすごせば、
――ね、ノスリさま、
――あんなにいっぱい召し上がったの、一体どこに消えちゃったの……!?
改めて見つめてきたクレメンティアが不思議そうに訊いてくるのに、秘密、と片目を瞑って立ち上がったノスリが手を差し出せば、その手首を彩る腕輪に華やかな煌きが踊る。パルマの旅立ちの夜に手にした、明け空の彩に染まる革地に金の煌きが猛禽の紋様を羽ばたかせるクオイドーロ。ショコラの双眸が瞠られる様に笑み返す。
宮廷劇場での歌劇や祝宴、星空の草原で子供達と過ごした夜の話も、光の波間をめぐりながら話してあげるから、
いざ、星の航路へ。
「行こう、ティア」
「あなたと一緒なら、何処までも!」
明朗な笑みで星斑の猛禽が誘えば、飛びきり幸せそうな笑みを咲かせたクレメンティアが迷いなくその手を取った。
薔薇色の明け空に金の曙光が溶け出すような星あかり、濃藍の夜空に白銀の雪結晶が舞うかのごとき星あかり、春空の青に薄桃のアーモンドの花々が舞う様を思わせる星あかり。夢幻の色彩の羽ばたきが燈す星あかり達を幾つも辿った先にノスリが出逢ったのは、裡に秘められたキャンドルライトのあかりが揺れるたびに橙の彩がころころ転がるように見える星あかり、
「いいねこれ、ひゃあっとしているティアみたい」
「ひゃああああ!? そうなのそうなの
!!??」
彼女の様子に、ほらやっぱり、と心弾むままに笑って、連れ帰る星決定! と掌で掬えば、淡い金に華やかな橙をころころ転がすような星が彼の手元にころりと収まりふわりとひかる。星の航路の導きにと二人で星あかりを手許に燈して歩む先には絵本の頁を捲るように次から次へとプレゼピオが現れて、素朴な箱庭を覗いては微笑み合い、豪奢な箱庭を見渡しては揃って感嘆の声を上げて、赤子に逢いに来た羊飼いの人形を見れば自分達の朋たる雲雀を思い起こして目許を和ませた。
生まれたばかりの赤子ならきっとどれも似通っているかと思えば飼い葉桶に眠る赤子のイエスはそれぞれ意外に個性的で、やんちゃに育ちそう、眉間の皺が気難しそう、三賢者に贈られた黄金や乳香や没薬に埋もれても動じないところが大物っぽいなんて語り合っては弾けるような笑みを咲かせて、
「あははぁ、どの赤子の寝顔も可愛いけれど、ティアの寝顔も見てみたいね」
「ひゃあああ!? ノスリさま狡い、不意打ちでどきどきさせるのほんと狡い
……!!」
悪戯に笑んで顔を覗き込んだならクレメンティアの声音が跳ね、目許に燈る熱を見せまいとしてかノスリの翼に隠れようとするから、熱く甘いショコラの香りで誘惑して招いた屋台で今夜はこれがドルチェの代わり、と詫びも兼ねて渡してやるのは橙色の宝石めいたドライオレンジを乗せたオランジェット風のチョコラータカルダ。
雪降る昨冬のナターレの夜に、
「ティアを思い描いてこれを味わったからさ、今日は一緒に過ごせてとびきり嬉しい」
「――ね、私ね、私ね、どうしようもなく、幸せです。あのね、あのね、ノスリさま」
思い描いたひとときが今夜のナターレに結実した、その歓びを愛おしむ心地で柔らかに笑んで胸の裡を明かせば、ひかりに蕩けるよう笑んで、ふわり【浮遊】で浮かび上がったクレメンティアが柔い熱の燈った頬をそっと寄せ、耳許で囁いた四つの響きがノスリの胸の奥で優しくひかる。己だけが識る光を瞳に満たす彼女を今度は自身の意思と翼で隠してやったなら、
やがて溌剌たる笑みを咲かせたクレメンティアが屋台に駆けて、持ち帰ってノスリに差し出したのは、
「ね、私からも彩り贈らせてくださいな!」
「……!! あっは、とびきり狡猾そうじゃないの!!」
純白の生クリームホイップを平らに均した上にオレンジシロップで狡猾な似顔絵が描かれたチョコラータカルダ。
直接の面識はなくとも彼女も予知で何度も狡猾なるパルマの名士、ジャンマリオの姿を視ているのだと思い起こし、彼女と共有しているパルマの記憶もあるのだと思い至れば、胸の芯から熱いものが込み上げてくる心地になった。
ジャンマリオの愛しき狡猾さも、好奇心旺盛なパルミロや人見知りだけど歌手を夢見るミリアム達、懐いてくれた子供達の名前も、パルマで出逢ったひとびとの笑顔だって、決して忘れたりするものか。彼らとの想い出を改めて己の裡へ燈す心地でチョコラータカルダを味わって、星の航路の先へ想いを馳せる。
彼らの子孫にいつか出会えたら良いなと眦緩め、星斑の猛禽が掌に包み込んだのは明け星を戴く金の星時計。
職人さん直伝の使い方を、私にも教えてくださいな――なんて、何時の間にか柑橘めく意匠の星時計を手にしていた彼女が望むから、ティアのおねだりなら幾らだって叶えるよと笑み返した。北天の星空が美しく見えるところで一緒に星時計を翳すひとときもきっと楽しいだろうと思えば、ごく自然にノスリは題名に星が輝くクリスマスソングを口遊んでいて、
幻想的なイルミネーションと夢幻の色彩が羽ばたく星あかりに彩られた聖なる夜、
光に満ちたメルカティーノ・ディ・ナターレに、昨冬に断頭革命グランダルメのパルマ公国で歌った、現代のイタリアでも愛されているクリスマスソングが響けば、あちこちから嬉しげな笑みで顔を出したフィレンツェのマーブル紙職人達も一緒に歌い始めるものだから、流石はイタリア人、と破顔して。
「今夜の企画、ありがとう」
「どういたしまして! 君達ディアボロスの皆に、京都のひとびとに歓んでもらえたなら何よりだ!」
「そういうこと! このうえなく有意義な時間だったよ、皆へのレガロ・ディ・ナターレを作るひとときはね!」
心からの礼をノスリが告げれば彼らから返るのは、飛びきり晴れやかな曇りなき笑顔。
弾けるように笑い合って再び歌い出せば、星斑の猛禽に寄り添ったクレメンティアもはにかみながらそっと歌声を重ねた。現代でも愛されている歌ゆえに新宿島でも聴ける曲だ。パルマの報告書を綴りながら聴いていたのだろうかと思えばひときわ嬉しさも増して、より深くノスリが歌声を響かせれば、皆の声が響き合って夜空へも届いたのだろう。
星空を翔けてきたシャルロットが皆の許へと舞い降りて、片目を瞑って愛器たるバイオリンを構え、あの夜と同じく飴色に輝く星が尾を引くような音色で伴奏を響き合わせてくれる。ゆったりとした足取りで通りの先から姿を現した陸も、あの夜と同じく柔らかな笑みをノスリと交わして、ひとの手で燈すからこそ美しい光に満ちた聖なる夜へ己が歌声を花開かせた。
天から、星から降りてきた神が大いなる愛を齎してくれることへの感動を謳う歌だ。
然れど今夜は、ひとがひとへと齎す、眩く輝ける愛への歓びを謳おうか。
仲間達と笑みを交わせば、胸には同じ想いが咲いているのだと識れた。仲間達とともにこの聖夜に響かせる歌は、
――遥か時空を超えて届けと願う、
――レガロ・ディ・ナターレ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV3が発生!
【クリーニング】LV2が発生!
【植物活性】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【完全視界】LV2が発生!
【迷宮化】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV3が発生!
【ドレイン】LV3が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【グロリアス】LV2が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
色葉・しゃら
ソレイユさま(g06482)と
まーけっとでのひとときが楽しすぎて
そのまま手を引き、おーべるじゅへ
ソレイユさまと共に、「かくてる」を頼み
軽食に舌鼓を打ちながら申し上げます
私もくりすますのことがたくさん知れました
噂に聞いた、「さんた」なる存在も興味深いですが…
私は未熟ながらも復讐者の末席
子どもではありませぬ故、無関係
(カクテルはもちろん甘々ノンアル)
今宵は大人として、さんた殿を労いましょうぞ
枕元に靴下を用意し、じんじゃーぶれっど殿を詰めて
「さんた殿へ」と書き記し就寝
目覚めれば
ソレイユさま
ソレイユさま!!
さんたくろーす殿が贈り物を下さいました!
興奮冷めやらぬまま朝食の席へ
極上のふれんちとーすと
それを全力で味わうため、甘みなしで口に運ぶ、温かな抹茶ラテ
この美しい朝食が、どれだけ美味であるかや
靴下に入っていた、もこもこ狐耳の帽子の温かさを
何度も何度もソレイユさまにご報告
あ!ソレイユさまは大人でおられるから
さんた殿の代わりに、しゃらが何か選びまする!
くりすますは、こんなにも素晴らしき日なのですから!
ソレイユ・クラーヴィア
しゃら(g07788)と
特別なクリスマスの夜は、もう少しだけ夜ふかしを
揺れる狐尾に眦を緩めて
オーベルジュへ向かいましょう
故郷では馴染み深かった暖炉の火を懐かしげに眺め
ノンアルカクテルを頂きます
ここでも生ハムやチーズを摘めるなら
美食の余韻に浸りたい所
背伸びするしゃらの様子が微笑ましく
甘口のお摘みも無いか聞いてみましょうか
白銀のツリーを眺めながら、サンタの話には楽しげに頷く
サンタの存在を知ったのは新宿島に漂着してからですが
笑顔を配る聖人に感謝を届けようとするしゃらの優しさに
細やかな贈り物をしたいな、と思いつき
寝静まった後、こっそりと靴下に滑り込ませたのは
狐耳がすっぽり入る白銀のふかふわ帽子
代わりにクッキーを頂いても聖人は許して下さるでしょう
朝、フレンチトーストを前に燥ぐしゃらには素知らぬ顔で
しゃらが良い子だからですよ
なんて、大人ぶりつつ
ほうじ茶ラテのカップを口元に運び
しゃらが選んで下さるなら、しゃらサンタですね
なんて微笑んで
こうして笑い合える幸せな時間が、何よりのクリスマスプレゼントです
シル・ウィンディア
ん-、いい朝だねー。
とっても素敵な夜だったなぁ…。
とりあえず、まずはご飯だね。
フレンチトーストがわたしを呼んでいるっ!!(ぐぐっ)
甘いフレンチトーストだから、ちょっと酸味のあるオレンジをトッピングだね。
ドリンクはホットのほうじ茶ラテをっ!
オレンジといえば、クレメンティアさんっ!
今日は餌付けされ…そうな気もするけど、大丈夫っ!おいしく頂きますっ!
昨日は一緒に写真に付き合ってくれてありがとー♪
あの後、フォトフレームに第一号の写真を飾ってにこにこしてたけど、庭園のクリスマスツリーも気になったからツリーを見に行ったよ。
いま、ここで見るのも素敵だけど、間近で見たらもっとすごかったよ。
そして、ついつい写真を撮っちゃったっ♪
こうやって、いろいろ思い出を増やしていけたらいいなーってね。
そういって、フレンチトーストを一口。
甘いものはやっぱり正義だね~。
なんだか、昨日を過ごしたら、ほんとに新しい自分が生まれた感じ。
これが、過去を乗り越えたってことなのかな?
うん、きっとそうなんだと思うの。
アンゼリカ・レンブラント
最愛のユーフェミア(g09068)と
二人で過ごす最初のクリスマス
手を繋ぎ歩く時は何を話したのか記憶もあやふや
でも愛しいミアの抱擁も笑顔も、きっときっと忘れることはない
オーベルジュへ着いたらクリスマスツリーに歓声を上げ
先ほどまでの照れくささをかき消すように、飲み物を頼むよ
ジュースじゃなくノンアルカクテル!とするとちょっと大人の感じ
今年を振り返って!ミアと会うまでの、記憶を失っていた私のこと
不思議。あれだけ言葉が出なかったのにオーベルジュで
飲み物を口にするとすらすら言葉が出てくるのは、どうしてかな
ミアからのお話も聞いて、夜も更けていく中、
きっと言葉にも出していたね。
――愛してるよ、ミア。
翌朝は極上のフレンチトーストをいただきつつ、
やっぱりミアの顔を見るとゆうべのことを思い出して赤面
照れが溢れる時は隠すようにトーストを食べないとだ
甘々のトーストをあたたかい柚子茶とで堪能するよ!
今はクリスマスだけど――ミアといると、毎日がそうみたい
ね、出会ってくれてありがとう
同じ時を歩んでくれて、ありがとうだよ
ユーフェミア・フロンティア
最愛のアンゼリカ(g02672)と一緒に
いつもはかっこいい素敵な貴女だけど、今日はほんとに乙女な感じだよね。
恋するって、ここまで違う一面が出ちゃうんだね。
でも、それも全部ひっくるめての貴女だから。
クリスマスツリーを見上げては、息を吐いて見惚れちゃいそうですね。
こんなにすごいツリーがあるなんて…。ほんとすごいよね。
あれ?アンゼリカ、カクテルってまた大人っぽいものをするんだね。
それじゃ、私もご一緒しちゃおうかな?
私の一年は、助けてもらってからの一年だけど…。
でも、ほんといろんな人に助けられた一年だったね。
お友達、戦友、そして貴女…。
かけがえない人達のおかげで、私はここにいるからね。
…愛してるの言葉を受け取ったら、そっと頭を撫でます。
私もだよ、アンゼリカ。
翌朝はフレンチトーストをおいしく頂きます。
あらら、アンゼリカまた顔が赤くなっちゃってる…。
結構照れ屋さんなんだね。意外だよね。
これからの毎日、貴女と一緒に彩っていくからね。
だから…。
もっと色々な所に行こうね。
せっかく一緒の時間にいるのだから
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
共に過ごす三度目の聖夜に
乾杯
ホワイトツリーへ
ジャックローズを掲げれば
罪を託した林檎飾りを思い出す
どんな想いも愛しく思うと心に向き合った今は
アップルブランデーの甘い香りが
より華やかに感じられて
あなたに教えて頂いたお酒の味は
僕の楽しみのひとつになっています
どんどん世界が広がっているんですよ
湖の青に薔薇色に
色とりどりのカクテルを味わう毎に
酔いは深まるのだけれど
染まる頬は酒精の所為ばかりでなく
クレメンティアさんや友と挨拶を交わしたり
昨年のラヴィデさんの罪(限定品…)を思い出してしまったり
「嬉しい」も「楽しい」も盛沢山のひと時だったから
百人一首リベンジ大会、しますか
腕を磨いたと豪語する彼へ
賞賛と不敵の笑みを返し
ぜったいに 勝つ と、凛
僕も一年間
磨きに磨いて来たことを証してみせます
朝食の席で思い起こす昨夜の遊興
柚子スカッシュに眠気と酔い覚ましを頼みつつ
フレンチトーストを前に忽ち覚醒
浮かぶ涙が星燈に煌いた贈り物の手帳へ
綴る最初の幸せは
心蕩かす聖夜の、罪深き朝の、愛しい思い出
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と
揺らすブルーラグーン
きれいだなぁとなんとなくのような選択も
彼と対になるもの、分かち合いたいものを自然選んでいる
乾杯
ふふ、もうから三度目の夏が待ち遠しくなる色じゃない?
昔は酒なんか飲めればなんでもよかったのにね
オレこそキミのおかげだよ
世界が色付くのは
未来を思えるのは
――今年はすこし秘密(心)をあかして
三度目、に至るまでの思い出話を語らいながら
四季を愛でるように多彩な味を色を楽しんで
もともと宴の空気で酔える性質だから
楽しげな人々の姿もハッピーにしてくれたんだよね
酒宴を楽しんだあとは?
――わかってるだろう?
そう、百人一首大会だよ!
師匠たち(地域の老人会)にしごかれたからねぇ
どこからでもかかっておいでよ
にやり、と
それはもう夜通し……
……くぅ
紅茶に映り込む顔が波紋でぐにゃぁ
椅子にもたれて寝ぼけまなこでぐんにゃ……
そんな激戦の爪痕もフレンチトーストの登場まで
んわぁ、お日様でキラキラしてる! まぶしっ
前のめりに腰かけ直したなら
迷いなく君と、今年も罪を重ねてしまおう
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
アドリブ歓迎、絡みOK
夜は他の予定のあとでオーベルジュへ
夜中にバーで一杯、二杯
静かな庭園に佇むツリーを眺めて過ごそう
暖炉の炎が見える場所で温かい酒を手に
手元にマーブル紙の星明かりをのせ、その細工を間近に眺めて味わう美酒に
(灯りはつけなくてもOK)
暖炉の炎の揺らめきに、グラスと美酒の輝きを見る
静かなものだ
夜の景色に見入り、静けさに混じる音色に耳を傾ける
手に触れるチャームを確かめて
白を纏うツリーに、異国の雪景色が重なるだろうか
バーテンダーさんがいらっしゃれば、席を移して言葉を交わそう
予定のある方のお邪魔はしないが、どなたかと言葉を交わすも良い
……そんな夜を回想しながら
朝食を頂こう
パネトーネのフレンチトーストは初めてだ
熱い珈琲と共に食めば、至福の味わいだろう
宝石の果実との出会いに、バターの香りがなんとも贅沢だ
早朝に眺めるツリーも良いだろう
ホワイトクリスマスツリーにはやはり雪の降る景色を想う
静謐な朝は祈りに相応しい佇まいを感じる
今日の予定を想いながら
今は目の前のご馳走とともに、贅沢な朝を過ごそう
シャルロット・アミ
まるで夢みたいな光の中
いただいたストゥルーデルやチョコラータカルダ
かけてもらった優しい言葉の数々
そしてパルマを思い出させる歌と音楽
ちょっぴり興奮したままオーベルジュへ
ドキドキが収まらないまま寝ようとすれば
…モラさん?
「もきゅ!」(枕元に真剣な顔をして靴下を置いて寝るモラさん)
え、待って
いつ誰があなたにサンタクロースのお話を
いえ、それよりも今はプレゼントを
大事で大好きなこの子を裏切るわけには…!
そうっと部屋を抜け出して飛び切り美しいバーへ
ああ、こんなにもホワイトクリスマスツリーは綺麗なのに
それを楽しむ余裕もないわ
運良くクレメンティアさんを見つけたならば
事情を話して
一番大事な子のためのプレゼントを忘れていたことを反省して
オーベルジュのキッチンからりんごを1つ分けてもらえないか
お願いしてみるわ
ぴかぴかのつやつやの輝くばかりのりんご
明日の朝のモラさんの表情を思い描いて
一緒にパネトーネもいただきましょうね、モラさん
(翌朝、りんごとパネトーネに目を輝かせるモラさん)
ノスリ・アスターゼイン
※クレメンティアと
オーベルジュのオーナーへ
挨拶と感謝の後
語らい乍ら重ねる杯
ミモザにガリバルディ、シャンディガフ
テンダーも遊んでみない?
酌み交わすのも
皆でカードや遊戯盤に耽るのも
談笑に満ちた楽しいひと時
夜明を迎えるのが惜しい程
眠る刻には寝室まで送るよ
おやすみを言う特権は俺に頂戴
でもまだ起きていたいと願うなら
…共犯者になってくれる?
なんて
昨夜の思い出話も
おはようを交わす喜びも
手にした黒蜜黄粉みたいに温か
朝のホワイトツリーには
ふたりで密かに部屋で作った掌大の箱飾り達
陽光弾いてきらきら
皆へのサンタからの贈り物
宝石めく飴玉入り
黒豆や餡も合いそうなバターたっぷりフレンチトースト
頬張る幸せ
分かち合う感動
ティアのお勧めはいつも幸せの味
好きなものが増えていくよ
勿論ティアのことも
どんな姿も目を離せない
瞬間の美は生命もまた、と思わせる君の耀き
四文字の言葉
何度でも聞きたい、贈りたい
囁く声
額を合わせて笑い合う時間
星燈のように柔らかに
朝陽のように世界を煌かせる
レガロ・ディ・ナターレは、この想いの名
愛しい、という響き
織乃・紬
雪化粧のオーベルジュにて
酒精の香の漂う場には
連れて行く訳にゃいかないと
恒ならば留守番の流れだが
聖夜ばかりは、特別御招待
背伸びした場にそわそわ
モクテルの彩にきらきら
そンな天使ちゃんを肴に
酒精を頂く俺はにこにこ
ふたり並んで過ごした夜は
とびきり御機嫌であッたのに!
――未だ御機嫌斜め?
酔いで気持ちよく眠れば
起きるのも億劫になる
故に寝坊、故に至らなかった
天使ちゃんの朝の髪結い
かろく纏めたそれでは御不満と
頬を膨らませる天使に目逸らし
聖夜のおめかしだけじゃダメ?
麗しのチェネレントラだッてえ
舞踏会を終えたら灰を被るぜ?
大人の言い訳では解決に至らず
せめてもの償いのフレンチトースト
とりどりのベリーを添えて
己のぶんもひときれ捧げば漸く笑顔
ヨシ!頬は美味で膨らませにゃね
モクテルは美味しかッた?
初めてのバーは楽しめた?
ひととせ先も遊ぼッか!
アレコレ問う毎に増す首肯の数に
いっとう大きな首肯の嬉しいこと
俺もね、凄い楽しい夜だッたよ
星あかりは明け空に融けれども
年甲斐もなく次の聖夜を願おう
とびきりの贈り物を、また来年も
●Albero di Natale!
凛然と澄みきった夜闇に聳え立つホワイトクリスマスツリーは荘厳に輝いていて、
透徹に澄みきった早朝に聳え立つホワイトクリスマスツリーは清冽に煌いていた。
聖なる夜が明けた朝に京都の洛外で迎えたのは、凍てるような冬の大気がひときわ透きとおらせた光に出逢う朝。
雪化粧に彩られた山に構えられたオーベルジュ、その庭園に塔のごとく聳え立つ巨大な純白のクリスマスツリーを柔らかな暖気に満ちたカフェから硝子越しに眺め、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は淡く残る眠気を朝の光に洗われる心地で蒼穹の双眸を細めた。
透徹に澄みきった光に満たされた早朝のめざめ、意識が光に開けていく感覚をより鮮やかにしてくれる熱い珈琲の杯を手に取れば、昨夜訪れた、暖炉に揺れる炎が美しく映えるバーで最初に手に取ったのも珈琲だったな、と穏やかに微笑する。
聖なる夜が深まっていくひとときに――、
雪景色へ存分に蒼穹の翼を羽ばたかせてきた身には温かい酒が恋しく、然れど今年のクリスマスが幻想竜域キングアーサー奪還戦の勝利を祝う意味も兼ねていると改めて思えば、暖炉のあたたかさに満ちた空間の居心地好さに眦を緩めたエトヴァが自然と口にした望みは馴染み深いグリューワインではなく、
「そうだな……ブリテンかアイルランドに纏わるホットカクテルをいただけるだろうか」
「畏まりました。それではまず定番中の定番から、お客様の羽休めに」
奪還した歴史を、大地をあたたかに実感させてくれる杯だった。
暖炉にあたためられる夜の安らぎそのもののごとき声音で応えてくれたバーテンダーが最初に饗してくれたのが、とろりと柔らかに浮かべられた生クリームと深い夜色の珈琲が美しい専用グラスで層を成すアイリッシュ・コーヒー。
欧米間を翔ける飛行機が給油のため頻繁にアイルランドの飛行場へと寄港していた時代、寒さのなかで給油を待つ乗客達に是非とも温かいものを――と望んだ飛行場のパブのシェフが考案した、こころもからだもあたためてくれるこのカクテルは、メルカティーノ・ディ・ナターレのあと他の会場をめぐってからこのオーベルジュを訪れた己にも確かな羽休めをくれる。
冷たく柔らかな七分立ての生クリーム、ひんやりとろりとなめらかなクリームの奥から温かなアイリッシュ・ウイスキーと深煎り珈琲の香りが溢れたかと思えば、珈琲の熱で芳醇な香りを花開かせたウイスキーが珈琲の奥深い味わいを際立たせて、何処か懐かしいブラウンシュガーの甘さが心をほっと寛がせてくれて。
暖炉のあかりに頬を撫でられる心地になりつつ手許を見遣れば、明るい翠に蒼穹の青が躍るエトヴァだけの星は落ち着いた控えめな照明のなかで暖炉の炎の輝きを受けてひときわマーブリングの艶を増し、炎が創りだす光と影の柔らかな揺らめきが真実、美しい色彩達を羽ばたかせるよう。
――静かなものだ。
――雪の夜が数多の音を吸い込んで、あたたかで心地好い音だけを残してくれている、
自然とそんな言の葉が胸に萌したのは、暖炉で静かに薪が爆ぜる音が優しく耳に踊り、他の客達が語らう声音が遠い潮騒の穏やかさで胸に寄せ来るから。アイリッシュ・コーヒーをゆうるり味わい、あたたかな幸福感をこころにからだに満たせば、やがてエトヴァの手許に饗された杯は、美しい黄金に輝くホット・ラスティ・ネイル。
本来は氷入りのグラスにステュアート王家秘伝の酒であったというドランブイとウイスキーを注いでステアするカクテル、ラスティ・ネイルの氷の代わりに熱湯を使った熱燈る美酒は耐熱グラスの裡で熱い黄金の煌きを柔らかに躍らせ、暖炉の炎の揺らめきにいっそう華やかな輝きを帯びた。熱が花開かせていくのは香草やブリテンの荒野に咲くヒースの蜂蜜、そして、北ハイランドのモルトウイスキーの香り。こちらも杯を傾ければ甘さとほろ苦さが熱く咲き誇る酒。
味と香りを引き締めたくなったらきゅっと絞ってください、と添えられたレモンピールも美しく、何かを囁きかけるようにふわり手を擽った白狐の毛束のチャームと一緒に眺める心地で硝子壁越しへと眼差しを向ければ、極上の黒瑪瑙めいた夜闇に雪のごとき純白のホワイトクリスマスツリーが幻想的に輝く様に重ね視る光景は、
――きっと、
――皆それぞれに異なるものなのだろうな。
遠い異国の雪景色であったけれども、黒銀の妖狐と紫闇の竜人が乾杯するカクテルの薔薇めく真紅と、南国の海とも湖とも思える鮮やかな青が視界の片隅で煌く様に、ふとそんな気がして吐息で笑んだ。
愛しき四季のめぐり、二人でともに過ごす三度目の聖夜に、
――乾杯!!
暖炉であたたかに揺れる炎のあかりを透かせばグラスに薔薇そのものを溶かし込んだようなジャック・ローズも、グラスに明るい陽射しを透かす珊瑚礁の海の青を掬いあげたようなブルー・ラグーンも、秘密の情熱を孕むように煌いた。
硝子壁越しに望む雪のごとき白を纏って輝くホワイトクリスマスツリーは二度目の聖夜に罪を託した相手。
雪のような純白に染まる幻想的なホワイトクリスマスツリーは、ある意味それそのものが数多煌く罪の宝石箱だった。
昨年同様に愛おしい心地で振り仰ぐ純白のクリスマスツリーへ薔薇の酒杯を掲げれば永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)が思い起こすのは苛烈な執着も独占欲も口づけひとつでそっと秘めてツリーへと託した林檎のオーナメント。然れど幻想竜域の城壁迷宮でもうひとりの己との対峙を経た今は、
――どんな想いも愛しく思うと己が心に向き合えた今は、
――薔薇の彩きらめくカクテルから甘く薫り立つ林檎の蒸留酒の香りがいっそう華やかに感じられるよう。
己の心境の変化のみならず、この杯にアップルジャックではなく林檎の果実まるごとがカルヴァドスの瓶に閉じ込められたポム・プリゾニエールが使われているからだとも気づけば、とりこのりんごが蒸留酒に齎した瑞々しい香りにひときわ艶めく笑みを綻ばせた。昨年託した罪を愛しく鮮やかに取り戻した心地。
御機嫌だねぇ、と傍らの妖狐の様子に相好を崩せば竜人の手で楽園の煌き躍らせるブルー・ラグーンが常夏の陽射しに滴を弾ませるように光を跳ねさせて、常に愛嬌を湛えた眦をラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は更に緩ませる。
明るい楽園の青は、いつか雑誌で見た色合いがきれいだったなぁ、となんとなく選んだもの――と思っていたけれど、己が理詰めでなく唯こころが感じるままに、薔薇の彩を選んだヤコウと対になるものを、彼と分かち合いたいものを選んでいたと気づけば愉しげにくつくつと喉が鳴って、
彼の竜の尾だって御機嫌に揺れているから、ふわりとヤコウも笑み崩れた。
「あなたに教えて頂いたお酒の味は、僕の楽しみのひとつになっています」
どんどん世界が広がっているんですよ、と杯を掲げれば薔薇の煌き映した彼の瞳があでやかな紅紫を燈して、
「昔は酒なんか飲めればなんでもよかったのにね。それが今や……なんて変化したのは、オレこそキミのおかげだよ」
楽園の青、礁湖(ラグーン)の青を映せばラヴィデの瞳には、明るく煌く水飛沫が跳ねるよう。
傷だらけの旅行雑誌だけを抱えていた心は今、真新しい旅行雑誌をも一緒に抱いている。
「ふふ、もう今から三度目の夏が待ち遠しくなる色じゃない?」
「ええ、今年も眩くきらめく夏が、今から見えるかのようです」
硝子越しに望む凛然たる夜闇に聳える純白のツリーの煌き、居心地好い空間をあたたかに照らす暖炉の炎の輝き、それらを抱いてなお明るく鮮やかに煌く楽園の青は、めぐりくる夏のしあわせを先取りするかのよう。傾けたならブルーキュラソーの甘味に檸檬の爽やかさが弾け、ウォッカのまっすぐな酒精が芯に届いて。瑞々しくも深い林檎の蒸留酒の芳香と風味に柘榴とライムが甘酸っぱさを咲かせる薔薇の杯を傾けた妖狐の狐耳がその美味にぴんと立つ様に、竜人はいっそう目許を和ませた。
世界が色付くのは、
未来を思えるのは、キミがいてくれるからこそ、なんて。
――今年はすこしだけ、
――秘密(心)をあかして。
幻想的なイルミネーションと夢幻の色彩の羽ばたき纏った星あかりに彩られたメルカティーノ・ディ・ナターレの一角で、雪降るようなイルミネーションと銀色がふうわり蜂蜜色のひかりを透かす星あかりのもと、世界に唯二人きりになったようなひとときを思い起こせば、ユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)に燈るのは柔らかであたたかな笑み。
いつもはかっこいい素敵な貴女だけど、今日はほんとに乙女な感じだよね。
ふふ、と零れた吐息の笑みに続けてそう声音にすれば、途端にアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)の頬へまた薔薇の彩が咲いたから、最愛のひとに燈る熱を愛おしむようにその頬を撫で、
「恋するって、ここまで違う一面が出ちゃうんだね」
「だって、考えてみれば二人で過ごす最初のクリスマスだし、それに
……!!」
愛するひとのぬくもりであの二人きりのひとときが甦れば、愛おしく触れ合ったぬくもりもが甘やかにアンゼリカへ甦る。相手を恋人と呼ぶようになって初めてのクリスマス、二人手を繋ぎメルカティーノをめぐっていた間に何を話したかはすべて甘い熱に融かされてしまった気さえするのに、勇気を振り絞って口づけたユーフェミアの頬のなめらかさ、愛しさを咲かせる彼女の微笑み、優しく包み込むように、それでいて想いとぬくもりを確りと伝えてくれた抱擁。あのひとときの、
――眩い歓喜を、輝く幸福を、
――きっときっと、忘れることはない。
眩さと輝きを溢れんばかりに己に満たして夜闇に輝くホワイトクリスマスツリーを振り仰げば、翼のオーナメントを飾った昨年の聖夜を思い起こしてアンゼリカの胸には万感の想いが込み上げた。暖炉の炎があたたかに揺れるオーベルジュのバーで肩を並べ、一緒にツリーを眺めてくれるユーフェミアが今年はともに在る。
美しい雪景色のなかで幻想物語の塔のごとく聳え、華やかな煌きを纏って輝くホワイトクリスマスツリー。
こんなにすごいツリーがあるなんて、ほんとすごいよね。
思わず見惚れたまま感嘆の吐息で紡がれた彼女の言の葉を誰よりも傍で聴けるのも嬉しくて、
「今のひとときにも杯を掲げたい気分! ジュースじゃなくて、ノンアルコールカクテルで!!」
「ふふ。カクテルだなんて大人っぽいね、アンゼリカ。それじゃ、私もご一緒しちゃおうかな?」
先程までの照れを誤魔化すよう、胸に込み上げる万感の想いを咲かせるようアンゼリカが飛びきりの笑みを花開かせれば、年下の恋人がまたひとつ大人びていく瞬間を感じた気がしてユーフェミアにも慈しみと愛おしみの笑みが咲いて。
凛と銀色きらめくシェーカーを躍らせたバーテンダーが乙女達には大人の特権にも見えるシャンパングラス、優美に広がるソーサー型の硝子杯へとそそぐのは南国の果実の煌き、オレンジとレモンに華やかなパイナップルが光あふれるトロピカルな魔法をかける、大人の階段を昇ってみたい少女達のためのシンデレラ。微細な果実が宝石めいて煌く、定番ゆえに美味しさも間違いなしの杯を掲げて、
――乾杯!!
暖炉の炎があたたかに揺れて柔らかに照らし出す、誰もが愛おしいと感じるぬくもりに満ちた空間。
凍てるような冬の大気がひときわ透きとおらせた光に出逢う朝を迎え、皆が優しく暖かな幸福とともに思い返す聖なる夜のひとときを硝子壁越しに見守ってくれているようだった庭園のホワイトクリスマスツリーは夜闇に観た荘厳さとはまた違った清冽な美しさ。だが元よりツリーに飾られていたクリスマスオーナメント達の彩りが増したように見えて、
「ん-、いい朝だねー……って、あれ? 昨夜とは何かツリーが違うような……」
昨夜のしあわせをめいっぱい抱きしめて、あたたかな客室のベッドでぐっすり眠って飛びきり心地好い朝のめざめを迎えたシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)は、大きく伸びをしてから足を踏み入れたカフェで硝子壁越しに見えた庭園のホワイトクリスマスツリーの様子に青空の双眸を瞬いた。手許のスマホの液晶画面にととんと指先を躍らせれば現れる煌きは昨夜に撮ったツリーの写真、見比べてみれば昨夜と今朝の違いは一目瞭然で、
「あっ! やっぱり!! ツリーの飾りが増えてるっ!?」
澄んだ透明感を湛えた淡い青が広がる冬の朝の空、雪景色の山肌から朝の晴天めざして聳えるホワイトクリスマスツリーに何時の間にか、美しい色彩が舞うマーブル紙で作られた握り拳サイズのプレゼントボックスが幾つも幾つも鏤められていた。
明るい金色のリボンも艶やかなマーブリングの色彩も朝の光をきらきらと楽しげに弾いて躍らせて、わあ、と思わずシルが彩り豊かな煌きに歓声を咲かせたなら、彼女の声音の響きに悪戯っぽい眼差しを交わしたのは蜜色とショコラの彩。
楽しい秘密の悪戯をやり遂げた共犯者の笑みも交わして、
「あははぁ、あれはきっと皆へのサンタからの贈り物――ってね! 後で皆で取りにいかない? 絶対楽しいからさ」
「ね! 開けたらきっときらきらの幸せと御対面! みたいな感じなんじゃないかしら!!」
明朗快活な笑顔を皆へ向ければ陽気な声音も響かせ片目を瞑ってみせるのはノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)、弾む声音と笑み咲かせたクレメンティア・オランジュリー(オランジェット・g03616)が星斑の猛禽の言を継ぐ。朝の光にも純白のホワイトクリスマスツリーにも映える綺麗な綺麗な箱飾りの中身は甘やかな宝石めいて煌くキャンディ達。
暖炉の炎があたたかに揺れるバーでの、楽しく愛おしいひとときのぬくもりを連れて引き上げた部屋で、二人して密やかに鋏を奔らせたのはメルカティーノ・ディ・ナターレでたっぷり買い込んで【アイテムポケット】に秘めてきたマーブル紙達、美しい色彩の羽ばたきを小さなプレゼントボックスに仕立て、橙と琥珀の星あかりにひときわ優しく煌くキャンディを秘めて明るい金色のリボンを結んでは秘密を分かち合う笑みを交わすひとときは飛びきり楽しくて。
おまけに彼女が、
――ね、ノスリさま。夜更かししちゃうならいっそのこと、
――明けの明星が観られるまで! なんてどうかしら!?
なんて星斑の猛禽が逃すはずもない誘いをくれるものだから、結局のところ二人とも明け方にひとねむりしただけになったけれども、眠るのさえ惜しいひとときだったから、胸には眩い歓喜と輝く幸福が満ちている。
数多の綺麗な綺麗な箱飾りは、
勿論仲間達ばかりでなく、このオーベルジュに関わるひとびと、訪れるひとびと皆への贈り物。
「ふふ、枕元だけじゃなく、ツリーにもプレゼントがあるなんて素敵だわ。後でもらいにいきましょうね、モラさん!」
『もっきゅもきゅー!!』
聖なる夜も深まる頃に突発的に発生したとあるミッションを無事やり遂げたシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)も数多の贈り物で装って朝の光に輝くホワイトクリスマスツリーの美しさに新緑の双眸を細め、今朝めざめたとき枕元の靴下をころり膨らませていたつやつやぴかぴかの林檎を手に大はしゃぎのモーラット・コミュに微笑みかければ、ふわもふの相棒はひときわ嬉しげにもふもふ弾む。
サンタクロースからのプレゼントを自慢するよう皆に靴下と林檎を見せて回るモーラットの姿、そして、クレメンティアのミニハットに揺れるショコラリボンの端できらり煌いたマーブル紙のかけらをそっと摘まみとってやるノスリの姿に、
――聖なる夜にはどうやら何人も、
――このオーベルジュにサンタクロースが訪れたようですね。
蒼穹と黄昏の眼差しをソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が微笑ましげに緩めたのは、彼もまた秘密裏にサンタクロースを務めるミッションをやり遂げたから。ぱたぱたと聴こえてくる子供らしく弾む足音に頬も緩めて、歓びいっぱいに頬を紅潮させてカフェへ駆け込んできた色葉・しゃら(言の葉あつめ・g07788)を迎えて、
「ソレイユさま! ソレイユさま!! さんたくろーす殿が贈り物を下さいました!!」
「良かったですね、しゃら。しゃらが良い子であること、サンタクロースにはお見通しだったのでしょう」
仔狐の少年が大切に抱えていた白銀のふかふわ帽子、彼のもふもふ狐耳もすっぽり入るデザインの白銀の幸せをきらきらと瞳を輝かせながら見せてくれる、無垢な笑顔に相好を崩す。しゃらが寝静まったあとに帽子をこっそり靴下に忍ばせたとき、仔狐の少年がサンタクロースの労いに靴下へ詰めていたジンジャーブレッドを頂戴したのはソレイユだったけれど、
可愛らしい字で『さんた殿へ』と綴られた宛名つきの菓子をソレイユが受け取っても、
勿論、聖なる夜に世界をめぐると聴く聖人は、朗らかに笑って許してくれるに違いない。
ぽふんと仔狐の少年のもとへ飛んでいったモーラットが彼とプレゼントを見せ合ってはしゃぐ様にシャルロットもひときわ安堵と歓びの笑みを花開かせて、相棒が離れた隙にそっと皆へ見せるスマホには突発事態発生の瞬間を撮った動画が映る。
「プレゼントを歓んでもらえると嬉しいわよね。昨夜は本当に焦ったわ、見て見てこのモラさん!!」
「わわ、すっごく期待いっぱい! サンタさんが来てくれるって1ミリも疑ってない瞳だね
……!!」
「あア、こんなに期待されちゃア贈り物を用意しないわけにゃいかないよねエ! 俺も用意すりゃア良かッた
……!!」
液晶画面の世界では昨夜ドヤ顔で靴下を取り出して見せたモーラットが真剣な顔つきで枕元にぽふぽふと靴下を置き、
『もきゅ!!』
準備ばっちり!! と言いたげに輝く瞳でスマホを、つまりそれを手にしたシャルロットを振り返っている。
一片の曇りもないきらきらの瞳だった。純真無垢な、限りなくピュアな瞳だった。
主と揃いの新緑の瞳、つぶらできらきらなモーラットのそれに画面越しに胸を射抜かれる心地でシルがこくり頷いたなら、今朝に靴下に詰められた林檎を見つけたモーラットがいっそう瞳を輝かせて、大はしゃぎで『もきゅー!!』とベッドの上を跳ねまわる様子を撮った動画も眼にした織乃・紬(翌る紐・g01055)が額に手をやりつつ天を仰いだ。
彼の肩越しにシャルロットのスマホを覗いていた己の愛らしいオラトリオをちらり見遣れば、紬の眼差しに気づいた途端に少女天使はぷうと頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く。昨夜はあんなに御機嫌だった彼女が今朝はこんなに不機嫌な理由は明々白々、愛らしいレディをエスコートして足を踏み入れた暖炉の炎があたたかに揺れるバー、背伸びした雰囲気にそわそわする少女天使とモクテルとカクテルで乾杯したひとときの楽しさに紬が上機嫌で酒杯を重ねた結果、
酔いの心地好さのままに寝過ごして、彼女の髪を綺麗に結ってあげられなかったからである。
「――未だ御機嫌斜め? 聖夜のおめかしだけじゃダメ?」
ぷいぷいっ。
少女天使の顔を覗き込もうとすれば、更にそっぽ向いた姫君の朝顔とともに揺れるのは軽く纏めただけの髪。
「麗しのチェネレントラだッてえ、舞踏会を終えたら灰を被るぜ?」
ぷいぷいぷいっ。
聖なる夜のためにと昨夜はひときわ手間暇かけて愛らしく結い上げていただけに、少女天使の今朝の御不満はひとしおで。
仔狐の少年やモーラットがプレゼントをもらった姿を目撃してしまったがために御機嫌は更に斜め下に傾いていくばかり。何とか言い訳を試みようとする紬の様子に、愛らしいサーヴァントに翻弄されちゃうのは彼も同じなのね、とシャルロットは悩ましげな吐息を洩らした。そう、昨夜は本当に、シャルロットも相棒のあまりの愛らしさに翻弄されてしまったから。
雪化粧に彩られた山々と、凛と澄みきった星空。
美しい夜を見渡せるオーベルジュの客室へ昨夜シャルロットが足を踏み入れたときにはもう部屋は優しく暖められていて、ほっと息をつけば胸にめいっぱい詰め込んできたメルカティーノ・ディ・ナターレの歓びや幸せが溢れて再び煌くよう。熱く林檎やシナモンが香るストゥルーデル、甘く濃厚にショコラが香る熱々とろとろチョコラータカルダ、この夜あらためて胸に燈った優しい言の葉達に、思いがけず聴こえてきたパルマでの想い出いっぱいの歌、星空から舞い降りて奏でたバイオリンの音色をあの歌に添わせて響き渡らせることの叶った、歓喜――!!
思い返せば胸が再び高鳴ったから、自身でもあの歌を口遊みながらシャワーを浴びて寝支度を調えて、どきどきしちゃって眠れないかも、なんて思いつつナイトテーブルに置いたのは椿の花めく紅が游ぐ星あかり。いつもとは異なるオーベルジュの客室、旅先の非日常を楽しむようにベッドではしゃぐモーラットが可愛くて、いそいそと相棒の様子を撮っていたら、
『もきゅ!!』
枕元に靴下を置いて輝く瞳で振り返ってくるモーラット!!
「え、待って、いつ誰があなたにサンタクロースのお話を……って、ああそうだわ! 私よね
……!!」
『きゅもっ!!』
一瞬混乱してしまったけれど、事の始まりを思い起こせば相棒からは力強い頷きが返る。
いつも楽しい蘊蓄を聴かせてくれる最愛のひと、思えば彼が『何故クリスマスプレゼントを靴下に入れるのか、その起源はサンタクロースのモデルたる聖ニコラウスの逸話にありまして――』と聴かせてくれた後に『今日はクリスマスプレゼントの話を教えてもらったの!』と嬉々としてサンタクロースの話をモーラットに語ったのはシャルロット自身だった。
いそいそとベッドに潜り込んで物凄くいい笑顔でスヤァと眠りについた相棒の様子に、シャルロットも拳に決意を握る。
――私ったらどうしてプレゼントを用意してこなかったのかしら、なんて反省は後回し!
――大事で大好きなこの子の期待を裏切るわけには、いかない……!!
●Notte di Natale!
明るく澄み渡った青空の彩、天色にふうわり優しくひかりを透かす白が舞い上がる星あかり。
優しくあたためられたオーベルジュの客室のナイトテーブルに今宵メルカティーノ・ディ・ナターレで出逢ったシルだけの星をそっと燈して、綺麗に整えられたベッドへぽふんとダイブすれば、両手に取って眺めるのは、美しい青に何処までも吸い込まれていきそうに思えたフォトフレーム。限りなく美しい青の世界へシルの魂をいざなうマーブリング、
然れどだからこそ、深き青のフレームに写真を収めれば、大切な想い出がひときわ鮮やかに浮かび上がった。
「えへへ、新しいわたしの想い出第一号! だねっ!!」
美しい青が波紋を描くようにも羽ばたくようにも思えるマーブリングに縁取られ、フォトフレームに眩く浮かび上がるのは先程メルカティーノ・ディ・ナターレの光の波間にて撮ってもらった飛びきり輝く笑顔の一幕。シル自身とクレメンティアの歓びと幸せがめいっぱい弾けるような一瞬を蒼海の竜がしっかり捉えてくれた一枚はずっと眺めていても飽きなくて、シルの笑みも明るさ嬉しさをにこにこと増していくばかり。
眦が緩めば視界に映る光も眩さを増して、ころり寝返りを打てば窓の外に輝くホワイトクリスマスツリーもひときわ煌いて見えたから、間近で観てこようかな、と思い立てばスマホを手に窓から凛然たる夜闇へふわり【飛翔】で飛び立った。自然に舞い上がった夜空の高みから見下ろしたホワイトクリスマスツリーは大地から湧き上がるような光にライトアップされる様が夜空のシルにまで聖なる夜の煌きを届けてくれるようで、頂で輝くベツレヘムの星に軽く触れてツリーの梢を掠めるように滑空すれば、青き精霊術師が生み出した風に揺れたクリスマスベルが澄んだ音色で歌う。
軽やかに降り立った真白な雪の上、凛然と澄みきった夜闇の底から改めてホワイトクリスマスツリーを振り仰げば、
「ふわあ、すっごくきれい
……!!」
純白の塔のごときクリスマスツリーが大地からの光で夜空に映える美しさに圧倒された。
昨年の聖夜に頂で輝くベツレヘムの星の傍へ懐中時計型のオーナメントを据えた、罪の宝石箱みたいなクリスマスツリーは幻想竜域キングアーサーすべての奪還を成し遂げた今年の聖夜に振り仰げばその美しさがひときわ胸に迫るよう。大切に胸に抱いている願いごと結晶させる想いで夜空へ聳え立つ輝きを液晶画面に切り取って、
ほっと息をつけば真白に霞んだそれが夜風に流れるままに眼差しをめぐらせて、硝子壁越しに見えた暖炉の炎があたたかに揺れる空間で仲間達が穏やかなひとときを過ごしている様子を青空の瞳に映せば、シルも暖かな心地で目許を和ませた。
あったかいなぁ、昨夜は確かにそう思ったのに、
「昨夜は紬さんと天使ちゃん、すっごくらぶらぶっぽかったのにね……」
「ね、とっても仲睦まじい様子でいらしたのですけれども……!」
透きとおる朝の光が雪景色もホワイトクリスマスツリーをも清冽に煌かせる光景を硝子壁越しに望めるカフェで、昨夜とは一変した紬と少女天使の様子にシルはクレメンティアと額を寄せ合いそう囁き合う。きっとすぐ仲直りするのだろうけれど。
今朝は御機嫌斜めな天使の姫君は昨夜、それはそれは上機嫌でいらしたのだ。
恒の紬ならば酒精の香り漂う場には連れて行く訳にゃいかないと姫君に留守番を願うところだけれども、
聖夜ばかりは特別に御招待、と恭しく少女天使をエスコートして足を踏み入れたのは落ち着いた控えめな照明が暖炉の炎をひときわ美しく見せるオーベルジュのバー。大人の空間をフィルムに覆われた眼差しで見渡し、そわそわ嬉しげに純白の翼を震わせる愛らしい姫君とともにカウンター席へ腰を落ち着けたなら、
「まずは有名どころからいッてみよッか、天使ちゃん!」
朗らかな声音でそう呼びかけた紬に返ったのは純真無垢なるまさしく天使の笑顔、磨きぬかれたカクテルグラスに宝石めく氷達と柘榴の真紅が鮮やかに煌くグレナデンシロップが躍り、続けて気泡が煌くジンジャーエールで満たされたなら、まるで宝石を贈られたみたいに少女天使の笑顔からも歓びの煌きがぱあっと咲き誇るようで。
愛らしいシャーリー・テンプルを愛らしく掲げてみせる姫君の様子に紬は眦も頬も緩めて自身の酒杯を掲げ返して、
――乾杯!!
満開の笑みを咲かせ合うのは定番中の定番、少女天使の杯としゅわり唄う気泡が響き合いそうなジン・トニック。
但しカクテルこそ定番なれど使われているのは京都のクラフトジン、端然とした硝子のタンブラーで氷に数多の煌き添える炭酸がクラフトジンの柚子と山椒の香りを花開かせ、ライムでなく柚子の果実が燈す三日月が瑞々しい香りで紬を誘惑する。笑みに口許を綻ばせたまま傾ければ吞み慣れたジン・トニックが咲かせる和の風味が黒き双眸を嬉しい驚きに瞠らせた。
暖炉の炎があたたかに揺れる光に撫でられ、姫君にぴったりのモクテル達はいっそう華やかに煌いて、
華やかなオレンジとレモンへと南国の陽射しを添えるパイナップルがトロピカルな魔法をかけるシンデレラ、甘酸っぱさが少女らしいパイナップルとオレンジに柘榴の蠱惑的な甘さを密かに添え、生クリームとシェイクして可憐なデザートのように仕上げたアリス、彩りも味わいも名前の響きも愛らしいモクテル達に少女天使の笑顔はきらきらと輝きを増すばかり。
一口味わうたび花唇が咲き初める愛らしさ、姫君の笑顔を肴に螺旋を描く檸檬ピールで彩られたヴェスパー・マティーニや南欧の夕暮れ思わす明るい琥珀色に透きとおるアンダルシアなど辛口寄りの杯を傾けていた紬もふと飛びきり甘いカクテルを味わってみたくなって、
頼んでみたのはクレーム・ド・カカオに生クリームを浮かべ、真紅の艶々チェリーを飾ったエンジェル・キッス。
「こいつはきっと、今の俺と天使ちゃんのひとときみたいに甘いぜ?」
黒き眸を悪戯っぽく煌かせ、秘密めかしてカクテルの名を教えてやれば、
この夜いちばんの笑みを咲かせた少女天使が紬の頬に贈ってくれたのは、何よりも甘やかなキスひとつ。
――眩い歓喜と輝く幸福に満ち溢れた聖なる夜、
――特別なクリスマスの夜には、もう少しだけ夜更かしもいいでしょう。
この夜が日常の夜ならばソレイユも仔狐の少年に就寝を勧めていただろうけれど、年に一度の聖なる夜ともなれば無邪気な狐尻尾が弾む様も愛らしいしゃらに手を引かれるまま笑顔で暖炉の炎があたたかに揺れるバーへの扉を潜る。新宿島へと流れ着いてからは滅多に見ることのなくなった暖炉の炎、煉瓦で設えられたマントルピースに抱擁されて暖かな赤橙の熱と輝きを躍らせる炎を見れば懐かしさに眦が緩むけれど、
大人の空間に瞳を輝かせるしゃらが傍らにいる今は、懐郷の念に胸を締めつけられることもない。
最初に手許にやってきたのはグリューワイン風、すなわちヴァン・ショー風のあたたかなノンアルコールカクテル。硝子をティーカップのごとく花開かせた耐熱グラスに揺れる深い濃紅は、葡萄のみならず林檎やブルーベリーなど数種のフルーツと紫にんじんやビーツにセロリなど数種の野菜が使われた濃厚な果実と野菜のジュースに少量の水を加えて、砂糖やクローブに檸檬果汁も合わせて小鍋で熱したもの。
あたたかな湯気をくゆらせる深い濃紅にシナモンスティックとオレンジスライスが浮かぶ様はまさしくヴァン・ショー風、乾杯して味わってみれば、単純に葡萄ジュースで作った子供向けヴァン・ショーよりも奥深い、大人も充分に唸らせるだろう飲み応えを感じる逸品で、
「これは嬉しいですね
……!!」
「たいへん美味しゅうございますー!!」
思わぬ豊かな味わいにソレイユが相好を崩せば、もふもふ狐耳をぴんと立たせたしゃらにも輝く笑み。
一緒に摘まむ軽食は暖炉の炎のあかりにひときわ薔薇色が艶めくプロシュット・ディ・パルマと真白なフレッシュチーズ、ストラッキーノ。揚げたて熱々のコッコリは流石に難しく、代わりに熱々のガーリックトーストが饗されたけれども、これに熱で脂身の甘味と赤身の旨味を咲かせていくプロシュットと爽やかな酸味が心地好いストラッキーノを乗せて頬張るのだって飛びきりの美味だ。京野菜とイタリアントマトのカポナータではなくラタトゥイユをガーリックトーストに乗せて食べるのもまた楽しくて、隠し味に白味噌が使われたラタトゥイユはソレイユには目新しく、しゃらには馴染みやすい味。
先程のメルカティーノ・ディ・ナターレの美食の余韻に舌鼓を打つひとときに笑顔が絶えることはなく、
「初めてのくりすます、とても楽しゅうございました
……!!」
「それは良かった。私もしゃらと一緒に過ごせて、とても楽しかったですよ」
好奇心も知識欲も旺盛な仔狐の少年にとっては聖なる夜に見るもの聴くものすべてが新たに出逢った宝物、出発前に学んで来たクリスマス知識と一緒に存分に吸収して、得たものすべてを明かすように声音を弾ませ憧れのひとへと語る。中でも灰の瞳をひときわ輝かせてしゃらが語るのは『さんたくろーす』なる存在の話。
「私の生まれ育った時代には馴染みがありませんでしたが、子供達に笑顔を配る聖人だと聴きますね」
「私は未熟ながらも復讐者の末席、子供ではありませぬゆえ、無関係にございますが――興味深い存在にございます!」
硝子越しに望む純白のホワイトクリスマスツリー、昨年の聖夜には暖かみのある家をかたどったオルゴールオーナメントを梢に結わえて、家族を想って祈りを捧げたそれも、今年のソレイユは昨年よりも穏やかな心地で眺めることができる。甘さは控えめ薫りは豊かなキャラメルシロップをウイスキーの代わりにしたアイリッシュ・コーヒー風のノンアルコールカクテルを口に運びつつ、少年演奏家は心から楽しげな笑みでしゃらの話に聴き入って、
子供ではありませぬゆえ――と背伸びする仔狐の少年の手に可愛らしいデンファレの花とパイナップルが飾られた、蕩ける甘さのバージン・ピニャコラーダがある微笑ましさに笑みを深めた。ラム酒とココナツミルクとパイナップルジュース、元のピニャコラーダのラム酒をバニラシロップに置き換えた飛びきり甘くてトロピカルなノンアルコールカクテルを傾けて甘くて白いおひげを作りつつ、今宵は大人として『さんた殿』を労いましょうぞ、と意気揚々でしゃらは胸を張る。
「こちら! 新宿島からお連れした、じんじゃーぶれっど殿にございます!!」
「ふふ。優しい心遣いですね、しゃら」
枕元の靴下にはこれを入れてサンタクロースに贈るのだと笑顔が可愛い人型クッキーを掲げてみせる仔狐の少年へと微笑み返すソレイユの胸に萌したのはふとした思いつき。己からのクリスマスプレゼントとして用意してきた白銀のふかふわ帽子、あれをこっそりとサンタクロースからの贈り物にしてみたら――なんて秘密のミッションの成果は、
透きとおる光に出逢えた今朝の、仔狐の少年のはしゃぎぶりのとおり。
――Buon Natale!!
――メリークリスマス!!
今夜の京都では両方飛び交っていただろう二つの挨拶、お互い両方口にしてから星斑の猛禽が今年もありがとうと偽りない感謝を伝えれば、今年も来てくれて嬉しいよ、とオーベルジュのオーナーが親しみをこめてノスリの肩をぽふりと叩いた。
彼が飛びきりあたたかに相好を崩したのは、昨年の聖夜にノスリがこのオーベルジュでのクリスマスパーティーに関わったひとびとへ【浮遊】でのホワイトクリスマスツリー鑑賞ツアーを贈ってくれたことを覚えていたからに他ならない。
「私ね、私ね、猛禽さんのそういうところも、とても、とても好き」
「感謝の気持ちを確り伝えたいってのもあるけどさ、やっぱり間近で観たいじゃないの、皆の歓ぶ顔をね」
歓びいっぱいなショコラの瞳は暖炉の炎のあたたかな輝きでいっそう甘やかに煌くよう、己の蜜色の瞳も同じかなと笑みを綻ばせて、花梨材の艶やかな杢目が美しいカウンターテーブルへゆったりノスリが頬杖をつけばクレメンティアがくすくすと柔らかに笑うから、まずは擽るように悪戯な気泡が数多しゅわりと咲く明るい金色のシャンディ・ガフで乾杯を。
この秋あらたに抱いたまほろばを思い起こさせるシャンディ・ガフ、
光を孕むように明るいオレンジの彩を輝かせ、繊細なシャンパンの気泡で擽りながら贅沢な美味を咲かせるミモザ、
語らいとともに杯を重ねるたびに幸せを燈すカクテルをノスリが選んでいるから、一口味わうたびに、話題をひとつ重ねるたびにクレメンティアと二人で眩い歓喜の花を十重(とえ)に二十重(はたえ)に咲かせていく心地。ひときわ嬉しげに煌く瞳で覗き込んできた彼女が一緒にオレンジ・サキニーを呑みたいと望めば当然ノスリに否やはなくて、
銀のホルダーに抱かれた耐熱グラスに明るいオレンジの彩を咲かせるあたたかな杯に目許を和ませた。
熱でいっそう花開く甘やかでフルーティーな香りはオレンジのみならず、純米吟醸酒の吟醸香。燗をつけた吟醸酒と温めたオレンジジュースを耐熱グラスに注ぎ、砂糖を加えてビルドしたホットカクテルを傾けたなら、甘やかに華やかに花開くのは熱燗吟醸のまろやかさと甘酸っぱさがまるみを帯びたオレンジの幸せ。己が蜜色の瞳にもあたたかな幸せの光が燈ったことを感じつつクレメンティアの瞳を覗き返せば、幸せな柔い薔薇色を目許に燈した笑みが花開く。
「好いねぇ、甘くてあったかくてまろやかで、オレンジが華やかで。これ、ティアが好きなの?」
「私も今夜呑むのが初めてです! ね、ノスリさま、これってね――」
幸せ満ちる響きで耳許へ囁かれた秘密に星斑の猛禽もいっそう柔らかに相好を崩した。カクテル言葉にも色々あるものだ。
明るいオレンジに華麗なスカーレットの彩燈るカクテルが饗されれば鮮やかな色合いに彼女の瞳が興味津々に輝いたから、呑んでみてと眼差しだけで促して見守れば、一口味わった途端に楽しげな笑みが弾けるように咲く。
「ひゃあああ! 甘酸っぱくてほろ苦い
……!!」
「あっは、言うと思った!」
お酒の経験がまだまだ浅いクレメンティアもミモザの美味は想像できたようだったが、オレンジの甘酸っぱさにカンパリのほろ苦さが絶妙に調和するガリバルディ、即ちカンパリ・オレンジにはショコラの双眸が何度も瞬いて。美味しい、と零れる笑みにノスリも朗らかに笑えば、宜しければこちらもどうぞ、とバーテンダーが焼き菓子を勧めてくれた。
「こちらも『ガリバルディ』です。素朴な味わいですが、だからこそ飽きない美味しさですよ」
たっぷりの干し葡萄を挟み込んだ薄いビスケット菓子も、オレンジとカンパリが華やかに咲くカクテルも、イタリアの英雄ジュゼッペ・ガリバルディが名前の由来。焼き菓子を食めばざくり弾けるビスケットの裡から紅茶に漬け込まれた干し葡萄の濃厚な甘さが花開き、バーテンダーの言葉通りの美味しさに二人で顔を見合わせ笑みを咲かせたなら、
「美味しそうですね、こちらにもいただけますか? 丁度甘いものが欲しくなってきたところなので」
「焼き菓子にございますか!? そちらも美味しそうにございますね
……!!」
先程焼き上がったばかりと思しき菓子の香りと二人の様子に眦をめたソレイユが食べるほうのガリバルディをオーダーし、狐耳をぴこりとカウンターのほうへ向けたしゃらの尻尾が嬉しげにぱたり。背伸びしたいしゃらの気持ちを尊重して『自分が甘いものを欲しい』とソレイユが口にしたのだと察すればノスリも微笑ましい心地で目許を和ませて、
「ソレイユもしゃらも絶対気に入ると思うよ、飽きない美味しさ!」
「ですよね! 紅茶に漬け込まれた干し葡萄がとってもいい感じ!」
気取らぬ笑みとともに振り返ってそう請け合い、言を継ぐクレメンティアの声音も弾んだ、丁度そのときだった。突発的なミッション発生に戦慄し、そうっと部屋を抜け出したシャルロットが暖炉の炎があたたかに揺れるバーの扉を開いたのは。
新緑の瞳が真っ先に映したのは硝子越しの夜闇に輝くホワイトクリスマスツリーでも、誰もに安らぎを齎してくれる暖炉の炎でもなく、オレンジとショコラの彩。クレメンティアの姿を見つければ金糸雀の娘はたちまち安堵に顔を綻ばせて、彼女がバーテンダーからもらってくれたあたたかなカモミールティーを味わってほっと一息ついたけれども、カモミールの林檎めく香りで再び花のかんばせに緊張を奔らせた。
そう、林檎だ。この緊急事態にはどうしても林檎が必要なのだ……!!
何時ももきゅもきゅ愛らしく、林檎が大好きな相棒のサンタクロースへの夢を壊したくないから、
「そんなわけで、プレゼントのためにキッチンで林檎をひとつ分けてもらえたらって思ったのだけれど……」
必死の想いで相談してみたなら、
「大丈夫ですとも! レストランのキッチンに行くまでもないんじゃないかしら、ですよね!?」
「はい。林檎を使うカクテルもお作りするので、切らさず常備しておりますよ。宜しければこちらをお持ちください」
シャルロットを安心させるよう屈託なく笑ってみせたクレメンティアがカウンターを振り返ればあっさり解決。
物柔らかな微笑みとともにバーテンダーが差し出してくれた真紅の林檎を両手で受け取れば、今度こそシャルロットは深い深い、飛びきり深い安堵の息をついた。ちょっとお借りしていいかしら、と手を伸べたのはクレメンティア、
「どうぞどうぞ、私にもモラさん様のために磨かせてくださいな! 林檎を磨くの大好き!!」
「あははぁ、プレゼントってことならこれもドウゾ。林檎に直接リボン結んじゃうのも可愛くない?」
「わ、クレメンティアさんもノスリさんも、本当にありがとう
……!!」
真新しいクロスも借りた彼女がきゅきゅっと林檎を磨いている間に、懐の【アイテムポケット】から明るい金色のリボンをひらり取り出して見せたノスリが自前のナイフで金の煌きを程好い長さにぷつり。真紅のつやつやぴかぴか林檎に金色の煌きくるりと踊らせたシャルロットが可愛らしくリボンを結び終えれば、
「良かった、これでモラさんも大喜び間違いなしよ
……!!」
鮮やかに艶めく真紅を明るい金色が彩る、まるで宝物みたいな飛びきりのプレゼントのできあがり!!
緊急事態が解決したと見れば、お疲れさまだ、シャルロットさん、と微笑みかけたエトヴァが、
「林檎を使ったホットカクテルをお願いできるだろうか。皆で一緒に味わえたら楽しそうだ」
「ええ、それでは、酒精ありのものとノンアルコールの両方でお作り致しましょうか」
蒼穹の眼差しをバーテンダーへ向けて願えば、カウンターの裡からはたちまちあたたかな林檎の香りが溢れ出した。
林檎ジュースとともに鍋へ躍ったのはシナモンスティックとスターアニスにクローブ、三種のスパイスを抱いた林檎果汁が沸騰すれば暫く蒸らしたところへ蜂蜜が落とされ、大人のためにウイスキー、子供のためには檸檬ジュースを合わせたなら、擂り下ろしたオレンジピールをぱらり。綺麗なリーフカットにされた林檎が飾られる様も魔法のようで、
酒精ありでもなしでも楽しめるアップルサイダー・ホット・トディが皆の手に行き渡ったなら、
――乾杯!!
熱い林檎の香りを胸に満たせばそれだけで先程までの緊張がとけていく心地。蜂蜜とスパイスに檸檬も香らすそれは柑橘が爽やかに香る様も心地好く、一口味わえば芳醇で奥深い林檎と柑橘の風味を孕む熱がこころとからだの芯からシャルロットをあたためてくれる。まだミッション中ゆえに今夜は酒精を控え、ウイスキーを使ったほうはもっと芳醇な味わいなのかしらと思いつつもそれはまたいつかのお楽しみにして、
「ありがとう、皆さん。おやすみなさい!」
綺麗に杯を乾せば翌朝に相棒が歓ぶ姿を楽しみに、早速シャルロットはサンタクロースの任務完遂へと向かった。
無事に一件落着と笑み交わし、愉しげに瞳を煌かせたノスリが続けた言葉に、
「ね、まだ眠くないなら『テンダー』で遊んでみない?」
「ひゃあああ!? 遊びます遊びたい、是非とも遊んでくださいな!!」
この夜いちばんの輝きがクレメンティアの瞳に燈れば、たちまち暖炉の前のテーブルに広げられたのは盤上遊戯。
竜翼に抱かれた盤上に森や荒野、平原や山地などの様々なフィールドが描かれたウッドプレートを鏤める遊戯盤の世界には木彫り細工の鳥や獣が息づいて、狩人となったプレイヤーは美しいフローライトの駒で世界を駆ける盤上遊戯『テンダー』。新たな世界を生み出すのはノスリ自身の盤上遊戯一式と彼がクレメンティアに贈った一式で、
「今! 今『てんだー』と聴こえたのでございますが!!」
「まさか二組も入手していたとは……! 流石は御大尽ですね、ノスリ!!」
「よもや再び『テンダー』で遊べる機会があろうとは……これは嬉しいサプライズだな」
「思えばロンドンでは僕達同士での対戦はしたことがありませんでしたよね、わくわくしてきました
……!!」
狐耳も尻尾も大きく弾ませたしゃら自身もぴょこんと弾んで、俄然ソレイユの蒼穹と黄昏の瞳も歓びに輝いて、思わず顔を綻ばせたエトヴァも胸を躍らせる。大きな狐尻尾をぱったんぱったん揺らすヤコウの言葉どおり、幻想竜域キングアーサーのロンドンで盤上遊戯『テンダー』に関わった任務では現地のひとびととの対戦が必要かつ重要であったから、ディアボロス達同士で対戦する機会はほぼ皆無だったのだ。
白翡翠で作られたダイスを手にすれば華やかな高揚が一気に背筋を翔け昇る心地。
皆で高らかに唱和する『聖句』は勿論ソレイユがロンドンで流行させた、
――魂よ、世界を翔けよ!!
どうしようもなく心弾むひとときだった。
どうしようもなく胸躍るひとときだった。
美しい宝石の駒を盤上に置いた途端、魂は鮮やかないのちが息づく盤上世界を翔ける。
夜明けのブルーアワーが彩る青き世界を駆け、空と海の狭間を翔けくる巨大な雲、モーニング・グローリーに圧倒されて、深い古き森、木洩れ日さえも透明な翠に色づく聖域で狼を友として、泣きたくなるほど美しい夕暮れの空を飛翔する灰色雁を狩り、対戦相手の領域へ進撃する、遊撃する、あるいは迎撃して互いの領域を喰い破っていく。
何もかもが鮮やかな盤上世界で気心知れた仲間と対戦相手として邂逅する高揚は想像以上で、互いの策や技量に感嘆し舌を巻き全力で激突しては弾けるように笑い合い、世界の涯まで翔けぬけて。対戦者同士ばかりでなく観戦しているだけでもこの美しい世界を実際に翔けているプレイヤー達の姿が見える心地になれるのがこの盤上遊戯の魅力のひとつ、誰もが手に汗握り思うさま耽溺したなら、
十歳のしゃらは流石に眠ったほうが良さそうな頃合いになったから、仔狐の少年とソレイユが客室へと引き上げたのを機に今度は多人数で遊ぶならとバーテンダーが提供してくれたカードゲームで、いざ勝負!!
だが、これは罠だった。
宝石めいて美しく煌くリキュールやフルーツをはじめ、数多の酒や割り材にグラスなどのカードを集めて揃えて時には駆け引きしてトレードし、あるいは奪い合ってカクテルを作り上げて競うこのゲーム、自分がカードで作ったカクテルをついつい実際に注文してみたくなってしまうのだ。
皆が楽しく盛り上がる雰囲気にひときわキラキラ笑顔な少女天使にカードを引かせてあげて、
「んふふ、このカクテル名前が艶ッぽくていいよねえ、ビトウィーン・ザ・シーツ!!」
見事カードを揃えたカクテルの実物を暖炉の炎に翳した紬は、明るい琥珀色の美酒が艶やかな金色に輝く様に御満悦。
深くて昏い血の彩思わす美酒が光を透かし妖艶に煌くエル・ディアブロ、偶然の天の采配でカードが完成したそれを実際に頼んでみたエトヴァは紬の言葉に己の杯を改めて見つめ、ふと鼻先を擽った甘い香りに目許を和ませた。
「確かにカクテルは意味深な名前のものも多いな……。ラヴィデさんのは、アレキサンダー、だろうか?」
「当たり! これさっきのチョコラータカルダとはまた違う、上品なチョコレートケーキみたいな美味しさだねぇ」
英国のエドワード7世とデンマークのアレクサンドラ王女の結婚を記念して生まれたカクテルの名の由来は平和だったが、味わいが不穏だった。黒き狐耳がぴんと跳ねたかと思えば、宵紫の瞳が恨めしげに竜人を見遣る。
「いいですね、去年独り占めした数量限定スイーツとどちらのほうが美味しいですか?」
「まだ覚えてるの!? あのあとちゃんとキミの分も買ったのに!?」
「ね、ヤコウ様! 罪は贖えても記憶は消せない、そんな感じですよね!?」
「ええ、そんな感じです。きっと忘れません」
何やら解り合った様子で妖狐はクレメンティアと頷き交わし、カクテルグラスに春咲くチェリー・ブロッサムを手に尻尾をひっそり御機嫌に揺らした。恨めしげな眼差しを向けてみたりもしたけれど、何だかんだで彼に例の罪を告白されたのだってこれまでに重ねてきた聖なる夜の楽しい想い出のひとつ。チェリーブランデーを使うレシピでなく、ドライジンにラズベリーシロップとオレンジビターズ、更には卵白を合わせてシェイクするレシピの春咲くカクテルはヤコウの掌中に桜の花霞めいた春色を咲かせ、傾ければふんわり優しい春の幸せ。
常夏の夕陽をグラスに融かしたようなシンガポール・スリングで乾杯、クレーム・ド・カカオをマロンリキュールに変えた秋薫るアレキサンダーは独り占めにして、砂糖結晶のスノースタイルへとホワイトキュラソーとウォッカにライムジュースを合わせてシェイクした雪を降らせ、ミントチェリーを沈めた雪国で再び乾杯を。
四季をめぐるよう、愛でるように杯を重ねながら妖狐と竜人が語らうのは、宝石めいた果実達が游ぶサングリアにはじまる聖なる夜の軌跡。三度めぐった聖なる夜の想い出語りを次なるめぐりへ羽ばたかせるような杯で締めくくり、
「酒宴を楽しんだあとはどうするのかって? ――わかってるだろう?」
「勿論ですとも。僕だって昨年の、あの熱い夜のひとときを忘れたことなんて……ありませんから」
熱燈る眼差しと艶めく吐息の笑みを交わし合ったなら、
聖なる夜のこのあとのひとときを如何にして過ごすかなんて、答えは唯ひとつに決まっている。
「そう、百人一首大会だよ!!」
「ええ、百人一首リベンジ大会、しますか!!」
今夜もまた、熱き闘いの幕が切って落とされる――!!
昨年の聖夜には百人一首のひの字も識らず、凄まじいアウェー感のなかで激烈な死闘に呑まれたラヴィデだったが、今年の彼は一味どころか百味も違う。師匠達(御近所の老人会の皆様)にしごかれてきたからねぇ、と銀の双眸を挑戦的に煌かせる紫闇の竜人は百首すべての暗記は勿論、一字決まりの『むすめふさほせ』から六字決まりまですべて網羅済み、
決め手は泣く子も黙る、精神集中技能LV145!!(あと残像LV139で札をぱしーんと取るときに残像とか残せたら格好いいなとか思っているのは秘密!!)
「どこからでもかかっておいでよ。今年はオレが胸を貸すほうになるかもよ?」
「言いましたね? 一字決まりから六字決まりまで、僕は去年の時点で既に網羅していましたよ」
掌を上向け長い指を躍らせて、にやりと不敵に笑って招けば、対する宵紫の双眸にも強い負けん気の煌きがきらり。傍から見れば馴れ馴れしいと思える気安さで懐に踏み込んでくる若者を大いに可愛がるお年寄りというのは何時の時代にだっているものだ。これは老人会の皆様に秘技とか伝授されていたりするのかも、と冷静にヤコウは今年の彼の力量を推し測る。
定石を会得し技巧を磨いた精神集中LV145は相当な強敵だ。けれど、それでも、
――それでも僕が、
――ぜったいに 勝つ !!
黒銀の妖狐は凛と冴える眼差しで射抜くようラヴィデを見据え、狐耳もぴんと立たせてきっぱり宣言してみせた。
「僕も一年間、腕を磨きに磨いて来たことを証してみせます」
「おお怖、なんてオレが肩を竦めると思ったら、今夜ばかりは大間違いだからね!」
決して退かぬ笑みを互いに交わせば、最早熱き闘いの炎が燃え上がるのを止めるものなど何もない。
聴こえてきた遣り取りに肩を揺らせば、星斑の猛禽の掌中ではカクテルグラスの青空も揺れた。
熾烈なるカードの駆け引きの先に作り上げたのはブルーキュラソーの青さをホワイトラムとライムジュースの光がいっそう透きとおらせた美酒。何処までも明るく澄みきった青空そのもののスカイ・ダイビングをノスリは傍らのクレメンティアにも一口呑ませ、己でも味わったなら、甘さ苦さをライムが清々しく透きとおらせる爽快感がまさしく青空を翔ける心地。一緒に子供みたいに笑い合えばふと彼女の耳許へ唇を寄せ、
「眠る刻には寝室まで送るよ。おやすみを言う特権は俺に頂戴」
「ひゃあああ!? 特権って、特権って
……!!」
思ったとおりに声音に目許を和ませ、でもまだ起きていたいと願うなら、と言を継いで、
皆への贈り物なんて秘密の悪戯を明かせ、ば途端に飛びきり楽しげに煌くショコラの瞳。
続ける言の葉に返る答えなんて聴くまでもないけれど、二人して弾けるような笑みで囁き交わした。
――ね、共犯者になってくれる?
――あなたと一緒なら、どんな罪だって!!
眩い歓喜を、輝く約束を取り戻し、
時空を超えて手を取り合って、拓かれた希望の未来へともに歩み始めることで二人の一年は幕を開けた。
凛と澄みきった早朝の大気を胸に満たした春日大社での初詣に始まり、数多の戦場を駆けアイドルとしてもデビューして、公私ともに手を携えた少女達は激動の《七曜の戦》をも越え、幻想竜域キングアーサー奪還戦も駆け抜けた。
「また『テンダー』で遊べる日が来るなんてびっくりだったよね!!」
「ほんとにびっくり! 楽しかったね!!」
幻想竜域のロンドンで盤上遊戯に励んだ任務もアンゼリカとユーフェミアが共有する想い出のひとつ。この聖なる夜に盤上世界の森を荒野を草原を駆け、獅子の大剣と日と炎の祝福を受けた弓を携え進撃し迎撃する二人での対戦も楽しくて、嘗ての盤上遊戯の日々をも含む今年の軌跡を二人の語らいで辿っていくひとときも二人の大切な軌跡となっていく。
二人で翔けたこのひととせがあまりにも濃密で、故郷たる過去の時空で一度はクロノス級アークデーモンに敗れて新宿島へ流れ着き、大切なユーフェミアの記憶さえも失っていた頃を想えば不思議な感覚にもなるけれど、真っ白な記憶の彼方に眩い歓喜を、輝く約束を置いてきてしまったことだけは決して忘れたことはなくて、だからこそ、記憶も歓喜も約束も取り戻した今がアンゼリカにとっては限りなく尊いもの。
彼女の胸裡を掬って、私は今ここにいるからね、と己が手をそっとアンゼリカのそれに重ねてユーフェミアが微笑んだ。
「思えばほんと、色んなひとに助けられた一年だったね」
「うん、これ以上なく皆との縁に感謝して始まった一年だったし、たくさんの縁のおかげで越えられた一年だったね」
友達、戦友、そして、親友から恋人になった貴女。
掛け替えのないひと達に救われ手を差し伸べられ、聖女の名を授けられし少女も覚醒してからの一年を駆け抜けてきた。
このひととせだけでも語り尽くせない想い出を重ねてきたけれど、互いの手に明るい紅の煌きが躍る様を改めて瞳に映せば二人はその紅に気泡躍るノンアルコールカクテルの甘酸っぱさのまま笑みを零し合う。鮮やかな柘榴、グレナデンシロップの赤がシュガーシロップとライムジュースを染めて、注がれたソーダが気泡の煌きを添える、
サマー・ディライト。
夏の歓び。
語り尽くせない想い出達のなかでも飛びきり大切な想い出のひとつ。二人が生まれ育った東京都北区、夏の《七曜の戦》で奪還した故郷でひとびとの帰還のための凱歌を響かせた日に、恋心を明かして互いの想いをかさねた眩い歓喜、輝く幸福。
先程のメルカティーノ・ディ・ナターレでは言葉に詰まってしまったのに、暖炉の炎のあたたかな輝きにひときわ眩く煌く『夏の歓び』を口にすれば不思議とアンゼリカの花唇は幾つもの言の葉をなめらかに紡ぎ出していた。
「今でもね、あのときのことを思い出すと心臓が暴れそうになっちゃうよ」
「めいっぱい勇気を出してくれたんだよね、あの日も、今夜も」
愛しく辿る二人の想い出、眩い『夏の歓び』を口にするたびにユーフェミアの胸にも輝く幸福が咲くから、私の唯ひとりの英雄さん、と呼ぶ相手の頬を撫でれば、先程メルカティーノの光のもとで己が頬に口づけしたことも思い出したアンゼリカに甘い熱が咲いたけれども、このひとときは彼女が言葉に詰まることはなくて。
透きとおった光に出逢う朝に、昨夜自然と口にしていた言の葉を、言の葉を受け取って頭を撫でた愛しさを思い返す。
この先もきっと、何度でも、何度でも。
――愛してるよ、ミア。
――私もだよ、アンゼリカ。
●Regalo di Natale!
暖炉の炎のあたたかな輝きに満ちたバーで過ごしたのは、思いがけないほど豊かな夜だった。
居心地好いあたたかな幸せに満ちたバーで過ごしたのは、思いがけないほど楽しい夜だった。
静かな夜のひとときを過ごすつもりだったエトヴァも仲間達との語らいや盤上遊戯にカードゲームの誘惑には抗えなくて、思い返すたび熱い珈琲を運ぶ口許には笑みが綻んでいく。凍てるような冬の大気がひときわ透きとおらせた朝の光に煌くのは雪化粧に彩られた庭園に聳え立つホワイトクリスマスツリー。言われてみれば確かにツリーには昨夜はなかった美しい色彩が羽ばたくマーブル紙のプレゼントボックスが幾つも煌いていて、
あのプレゼントボックスそのものも宝石のようだと蒼穹の眼差しを緩めたなら、柔らかな暖気に満ちたカフェでもひときわあたたかく感じる熱いバターの香りに鼻先を擽られ、テーブルに饗された柔らかな黄金色と香ばしい狐色に破顔した。
「――ああ、ここにも宝石がいっぱいだな」
「ほんと! ドライフルーツいっぱいだねっ!!」
元より卵も砂糖もバターもたっぷりなパネトーネはその黄金の生地へ更に卵とミルク、生クリームと砂糖をたっぷり含み、これまた惜しみなくたっぷりなバターで焼き上げられて、深みと艶を増して煌くドライフルーツ達とともにエトヴァとシルを誘惑する。勿論、極上と聴いたこのパネトーネのフレンチトーストの誘惑に抗う気なんて今ここにいる誰にもない。
昨夜のしあわせをめいっぱい抱きしめて、あたたかな客室のベッドでぐっすり眠って迎えた朝のめざめ。
とっても素敵な夜だったなぁ、と暖かな褥と幸福に埋もれつつ思い返せばシルはふにゃりと蕩けそうになったけれど、
――フレンチトーストがわたしを呼んでいるっ!!
元気いっぱいにそう跳ね起きた青き精霊術師に隙はない。甘く優しく香るほうじ茶ラテも確りとスタンバイさせて、きっと飛びきり甘いのだろうパネトーネのフレンチトーストには酸味を添えてくれるオレンジをトッピングして、
いざ朝ごはん!!
熱いバターの香りと香ばしい狐色の焼き目に彩られたパネトーネは指三本分の厚み、何しろ元よりふわふわ生地であるため薄く切ればカスタード液のなかであっさり溶けてしまうというからこの厚みも然もありなん。銀に煌くナイフを入れれば溢れ来るのは飛びきり甘いカスタードの香りと優しい甘さの小麦の香り、そして熱で花開いたドライフルーツの香りに、
まさしくカスタードプリンめいて蕩ける金色ふわふわのパネトーネ生地!!
「ふわあ……! 融ける、融けちゃうよこれ
……!!」
「素晴らしいな……。生地の美味しさは勿論だが、特にドライフルーツとのハーモニーが」
狐色の焼き目に彩られた表面はざっくり香ばしく、切り分けて頬張れば元より甘くてふわふわしっとりなパネトーネ生地は羽毛にも勝ると思える軽やかさでふわりとろりとシルの口中で融けていく。然れどすべて融けてしまうのでなく確りと生地を噛みしめることもできるのはその厚みゆえ、軽やかなのに卵とミルク、生クリームと砂糖の甘味も風味もコクも豊かで、
更には熱でいっそう深く豊かに花開いたドライフルーツの香りと味わいが溢れだすのだ。
十代のシルに饗されたフレンチトーストのパネトーネは通常のドライフルーツを使ったもの、だがエトヴァに饗されたのはラム酒漬けのドライフルーツが練り込まれたパネトーネで、熱いラム酒の香りを連れて花開くレモンやオレンジピールなどの柑橘の香りに、天日で凝縮された干し葡萄の風味が蕩ける極上フレンチトーストの美味へ解き放たれていく様は、
――パネトーネのフレンチトーストは初めてだが、
――これほどまでに罪深い美味だったのか……!!
蒼穹の翼も思わず震えるほどの幸福で、奥深い豊かな苦みを秘めた熱い深煎り珈琲とともに味わえばまさに至福。
あたたかなミルクの優しさとほうじ茶の香ばしさが調和する甘さ控えめほうじ茶ラテを味わったなら、続けてシルが挑むはトッピングしたオレンジでの味変わり! 夏陽のごとく鮮やかで瑞々しいオレンジとともにパネトーネのフレンチトーストを頬張ったなら、極上の蕩ける甘さを胸にきゅんとくるようなオレンジの酸味が彩ってくれる。元より柑橘とカスタードは相性抜群、間違いのない美味に輝く笑み咲かせ、
「オレンジといえば、クレメンティアさんっ!!」
「はいっ! 今朝もシル様餌付け作戦スタンバイ済み!! ね、シル様、このオレンジもどうぞどうぞ、召し上がれ!!」
期待の眼差しを向ければ飛びきり楽しげな笑みが返った。
シルの注文でトッピングされたのはこの国でお馴染みのネーブルオレンジ、なれどクレメンティアの手には蜜柑より二回りほど小さなまあるいオレンジがころり。小さくとも見た目はオレンジ、だが蜜柑と同じく手で簡単に皮が剥けるそれは、
「マンダリンの最小種にして最も甘いオレンジと謳われる、クレメンタインですっ!!」
「クレメンタインっ
!!??」
「クレメンティアさんの御名前は、英名だとクレメンタインなのだよな」
あーんしてくださいな、と彼女に願われるまま素直に花唇を開いたシルが迎えた果実を食んだなら、ぷつりと弾けた小さな果実から迸るのはオレンジの美味をぎゅっと凝縮したように強い甘味。然れど程好い酸味も感じるそれはフレンチトーストと一緒に食めば、くっきりした柑橘の甘さでパネトーネの美味をまた新たに花開かせる。エトヴァ様もおひとつどうぞと小さな果実を勧められれば蒼穹の天使も自身の皿に迎えて、微笑ましい気持ちを覚えつつ最も甘いオレンジに舌鼓。
甘いものはやっぱり正義だね~と幸せいっぱいに頬を緩めれば、ふとシルの裡に甦るのは昨夜の幸せ。
「そうだ、昨日は一緒に写真に付き合ってくれてありがとー♪」
「私のほうこそ! ありがとうございました、シル様!!」
美しい青に何処までも吸い込まれていきそうに思えたフォトフレーム、そこに収めた二人の歓びと幸せ弾ける飛びっきりの一瞬は新たに描きだしていくシルの軌跡の宝物第一号で、これも飾ろうかなっとクレメンティアに見せたのは、昨夜に撮ったホワイトクリスマスツリーの写真。昨夜もすっごく綺麗だったけど、と声を弾ませながら硝子越しに朝の世界を見遣り、
「ふふっ、あんな綺麗なプレゼントボックスが増えてるなら、また写真撮らなきゃねっ♪」
美しい純白の煌きに楽しい彩り増やしたツリーの姿に笑みを咲かせ、是非是非! と熱く勧めてくるクレメンティアに、こうやって色々思い出を増やしていくつもりっ! と胸を張る。雪化粧に彩られた庭園へと出て、透きとおった朝の大気と光を胸に満たしてホワイトクリスマスツリーを振り仰げば、まっさらな気持ちで、まっさらな光景が観られる気がして。
今からもう清々しさが胸に満ちる心地で、自然と背筋が伸びた。
「なんだか、昨日を過ごしたら、ほんとに新しい自分が生まれた感じ。これが、過去を乗り越えたってことなのかな?」
「私にはね、過去のとまりぎから羽ばたいていくように見えます! 以前よりもっとシル様、自由な感じ!!」
屈託ない笑顔で返る言葉が擽ったくて、ふふっと再び零す笑み。それならきっと、自分は、
――新しく生まれて、
――新しい羽や翼を咲かせて、更なる未来へ羽ばたいていくのだろう。
解る気がするな、と熱い珈琲を改めて運んだ口許を綻ばせ、エトヴァは己の裡なる想いをめぐるように淡く目蓋を伏せた。自身の出自たる機械化ドイツ帝国をはじめ、改竄世界史を奪還するたびに心の何処かが解き放たれていくような心地がする。雪化粧に彩られた庭園に出たなら、雪が音を吸い込んでくれる朝の静謐の中で祈りに相応しいひとときを得られるだろうか。振り仰ぐホワイトクリスマスツリーに懐かしい雪景色を想うだろうか。
然れどそれは勿論、この朝食を終えた後のこと。
このオーベルジュを発つときにでも、と思えば自然とエトヴァの思考は今日の予定を辿る。
何も予定のない休日の解放感も幸せをくれるが、確りと予定があるからこその幸せも間違いなく存在する。
――この日も佳い一日になるようと想いながら、
――今は目の前のご馳走とともに、贅沢な朝を過ごそう。
硝子越しに射し込む清冽に透きとおった朝の光、透明な光に淡い金の煌きが弾けて躍る。
柑橘のなかでもひときわ清らな香りを抱く柚子、その柚子の爽やかな香りがしゅわりと弾ける柚子スカッシュを捧げても、紬が幾ら大人の言い訳を連ねてみても、彼の可愛い少女天使の御機嫌はついぞなおりやしない。
天使ちゃんがカードを揃えてくれたカクテルだから、と胸弾む想いでうきうき頼んだビトウィーン・ザ・シーツをうっかり気に入って何杯も重ねてしまったのが運の尽き、名前のわりには心地好い酸味と甘みで飲み口もすっきり、なれど酒精は確り強めのそれは楽しいひとときをすごした幸福感とともに紬を涯てなき眠りの波間へ攫ってしまったがゆえの悲劇。
柔らかな黄金色と香ばしい狐色に彩られた生地に宝石めいたドライフルーツが鏤められた朝餉が饗されても、
「ほら天使ちゃん、俺からのせめてもの償い! フレンチトーストの御目見え!!」
ぷいぷいぷいっ。
愛らしく頬を膨らませた姫君は相変わらずそっぽを向いておかんむり。だったけれども、
「ほら天使ちゃん、きらきらべりーいっぱいトッピングしちゃうよオ!」
ぷいぷい、ぷい?
銀のナイフを入れて甘く蕩ける香りを溢れさせた柔らかな黄金色に真っ赤な苺や夜色ブルーベリー、深紅のラズベリー達、瑞々しい色とりどりのベリーをきらきらたっぷり降らせてみれば純白の天使の翼がそわそわ、ぱたり。
「そんじゃこいつでとどめ! 俺の分もひときれ捧げるからさア、天使ちゃん!!」
縋るように懇願するように言いつつ自身のパネトーネを切り分け、艶々のベリーもたっぷり乗せたひときれを差し出せば、愛らしい花唇を開いた姫君が迷わずはむり。あたたかに蕩ける極上フレンチトーストの甘さに熱で花開いたドライフルーツの濃厚な風味、そこに瑞々しいベリーが冷たい甘酸っぱさを弾ませるとなれば――それはもう!!
拗ねてむくれていた花のかんばせにはたちまち輝く笑みが咲いて、
純白の翼がぱたぱたするたびに光のきらめきが舞い散るかのよう。
「ヨシ! やっぱり頬は美味で膨らませにゃね!!」
漸く少女天使の御機嫌がなおれば紬にも満面の笑み、光が射した心も昨夜以上に浮き立って、
――モクテルは美味しかッた?
――初めてのバーは楽しめた?
飛びきり幸せで楽しかった昨夜を思い返す問いのたび、姫君がきらきら笑顔でこくこく頷く様の可愛いこと可愛いこと。
「ひととせ先も遊ぼッか!」
浮き立つ心が楽しく弾けるままに紬がそう続ければ、いっとう大きな首肯がこくりと返る嬉しさも飛びっきり!!
あたたかに眦を緩めて手を伸ばせば姫君も身を乗り出してくれるから、
「俺もね、凄い楽しい夜だッたよ」
優しく少女天使の頭を撫でて柔らかな髪とそこに咲く朝顔を慈しみ、満ちる幸せのままに笑い合う。
明け空を思わす薄桃色に花色が重なり融けあうような星あかり、その裡へと秘められたキャンドルライトのあかりは清冽な朝のひかりに融けて、まるで星あかりそのものも夜の星が朝に消えるかのごとく消えてしまった心地にもなるけれど、たとえ年甲斐もないと言われようとも願おうか。
――次の聖夜を、
――とびきりの贈り物を、また来年も。
硝子壁越しに望むのは透きとおった朝の光を受けて清冽に煌くホワイトクリスマスツリー。
眩く清らな白銀の煌きよりもひときわきらきらと輝く笑顔で紬と笑み交わすオラトリオの様子を見れば、危うく己の可愛い相棒をしょんぼりさせてしまうところだったシャルロットにもほっとあたたかに咲き綻ぶ安堵の笑み。
「良かった、仲直りできたみたいね。モラさん」
『もきゅ!!』
一緒にどきどきしながら見守っていたモーラット・コミュも嬉しげに弾む。そのふわっふわの胸には明るい金色のリボンを結ばれた真紅のつやつやぴかぴかの林檎が抱きしめられたまま。大喜びしてくれたクリスマスプレゼント、きっとおうちまで持ち帰りたいのだろうと思ったから、
「さあモラさん、それじゃあ一緒にパネトーネをいただきましょうね! トッピングはもちろん林檎!!」
『もきゅもきゅ! もきゅー!!』
極上のフレンチトーストに焼き上げられたパネトーネに添えてもらったのは新しい別の林檎。熱いバターの香りと柔らかな黄金色を彩る狐色の焼き目が飛びきりの美味を予感させるパネトーネのフレンチトースト、その傍らに添えられたうさぎさん林檎に相棒がいっそう瞳を輝かせる様にシャルロットは眦を緩め、自身の皿に添えられた美しいリーフカットの林檎に昨夜のアップルサイダー・ホット・トディを思い起こして更なる笑みを咲き綻ばせた。昨夜の一杯もあたたかな美味だったけれど、この朝にもあたたかな美味がシャルロットを待っている。
突発的に発生した緊急事態に焦ってしまったけれど、昨夜はあたたかな幸せで締めくくられたから、
――これから始まる一日にもきっと、あたたかな幸せが待っている。
――暖炉の炎のあたたかな輝きにひときわ眩く煌くサマー・ディライト、
あの甘酸っぱい『夏の歓び』を口にすれば甘い熱が燈っても言葉に詰まることはなかったのに。
透きとおる朝の光の中で昨夜のことを思い起こせば頬に熱が咲くばかりか再び言葉に詰まってしまいそうで、アンゼリカは頬の甘い熱ごと呑み込んでしまう心地であたたかな柚子茶を飲んだ。甘酸っぱい熱が芯から指先までも広がってしまいそうで逆効果な気もしたけれど、そう思った途端に頬がいっそう熱を燈した気もするけれど!!
「あらら、アンゼリカまた顔が赤くなっちゃってる……。結構照れ屋さんなんだね。意外だよね」
「ミアが強い……私は昨夜は暖炉の炎かサマー・ディライトの魔法にかかっていたみたいな気持ちだよ。でもでも!!」
私の騎士様、唯ひとりの英雄さん、と想う恋人がたちまち頬から耳まで薔薇色に染めていく様を見遣れば、ユーフェミアは彼女が年下であることを思い出して擽ったい心地になった。格好よくて頼もしくて、その上で可愛らしくて。ふふ、と笑みを零しつつ口に運ぶパネトーネのフレンチトーストは極上の甘さで蕩けて、その熱でレモンやオレンジピールの柑橘の香りを、甘酸っぱい乙女の恋を思わせる香りを花開かせる。
今は照れて上手く言えないけれど、昨夜は魔法にでもかかっていたみたいな心地だけれども、それでも自然と口にしていた言の葉は心からの真実だからと伝えたくて、溢れる照れを押し戻すような心地でアンゼリカはフレンチトーストにも雄々しく挑んだ。元より甘くてふわふわなパネトーネは卵とミルク、生クリームと砂糖の魔法をたっぷり抱き込んで焼き上げられて、頬張ればふわふわとろり、ふわふわぷるりと口中で融けていく。熱とともにふうわりと咲き誇ったレモンとオレンジの香りは甘酸っぱく切なく胸を締めつけるようで、あたたかに滲んで溢れくる干し葡萄の風味が懐かしさを呼ぶ。
眩い歓喜を、輝く約束を取り戻し、
時空を超えて手を取り合って、拓かれた希望の未来へともに歩み始めた。
それを奇跡と呼ばずして、なんと呼ぶのだろう。
皆とともに自分達が奇跡を掴み獲ったのだと改めて思えば、眼の前でユーフェミアが微笑んでいてくれているという事実が限りなく尊く思えて、気づけば心からの言の葉はするりとアンゼリカの花唇から紡ぎだされていた。
「今はクリスマスだけど――ミアといると、毎日がそうみたい」
「ふふ、それじゃあ毎日がクリスマスだね。これからの毎日、貴女と一緒に彩っていくから」
ごく自然に紡がれた彼女の言の葉にユーフェミアはいっそう柔らかに笑みを花開かせて、アンゼリカのぬくもりを確かめるようにそり金の髪から薔薇色に染まった頬をゆうるり撫でた。一度は隔たれてしまった二人の時の流れ。それでも二人で手を取り合い、今は比翼となって同じ時を翔けていけることが、真実、皆とともに掴み獲った奇跡なのだと、ユーフェミアだって確りと理解しているから。だから、と願いを口にする。
もっと色々な所に行こうね。折角一緒の時間にいるのだから。
耳に届いた言の葉が嬉しくて、うん、と微笑み返してアンゼリカは、己を撫でてくれた恋人の手を大切に包み込んだ。
――ね、出会ってくれてありがとう。
――同じ時を歩んでくれて、ありがとうだよ。
どうしようもなく楽しい夜だった。
どうしようもなく激しい夜だった。
暖炉の炎のあたたかな輝きにひときわ美しく煌くカクテル達、想い出を愛しみながら杯を幾つも重ねて最後の締めくくりに乾杯した美酒は透明感のあるグリーンとミントの爽快感が大空へ飛び立つ心地にもさせてくれるアラウンド・ザ・ワールド。空の世界一周航路開港記念のコンクール優勝作品と『言われている』というそれはもはや伝説の域にあるのかと思えば冒険心を掻き立てられ、ドライジンとミントリキュールに南国のトロピカルな香りを添えるパイナップルジュースがめぐりくる夏への期待を膨らませてくれて。
この締めくくりにまで重ねた杯が昨夜はヤコウの酔いを深めてくれたけれど、きっと柔い薔薇色に紅潮していただろう己の頬は酒精による熱ばかりでなく、皆との語らいや盤上遊戯にカードゲームで花開いた楽しさや、そして幾つもの想い出を辿る歓びや幸せもが熱を燈していたに違いない。ああ、なんと盛りだくさんな夜であったことか!
ああそして、そのあとの夜通しの百人一首大会は、なんと凄まじい死闘であったことか……!!
飛びきり爽やかな香りと炭酸の刺激弾ける柚子スカッシュで酔い覚ましと眠気覚ましを試みる気力があるヤコウはまだいいほうで、元よりの疲れやすさもあってかラヴィデはカフェのソファー席の背もたれにてぐんにゃり撃沈中。先程紅茶に映った己の顔が波紋でぐにゃあとなったところでもう力尽きた。
宴の雰囲気だけでも酔える性質(たち)だから楽しげなひとびとの様子を眺めるだけでも幸せになれるというのに、昨夜のバーでのひとときはとにかく楽しすぎた。カードゲームのせいで予想以上にカクテルも呑んでしまった。そのうえで決行した百人一首大会の苛烈さ熾烈さ激烈さときたら、
「……くぅ……、ふふ、あはは、あははは!!」
「ふ、ふふ。ふふふ、あはは、あはははは!!」
それはもう、ヤコウと眼が合うだけで互いに笑い転げてしまうほど凄まじいものだった。
あまりにも壮絶すぎて最早笑うしかないほどの死闘であった。
思いきり笑えば再び二人して力尽きてしまったけれども、熱いバターの香りに鼻腔を擽られれば竜の尾も狐の尾もぴこりと跳ねる。それが自分達のテーブルへと饗される絶対の幸福だと気づけば竜人も妖狐も勢いよく跳ね起きた。銀の瞳も紫の瞳も俄然光を取り戻し、柔らかな黄金色と香ばしい狐色をそれぞれの瞳に映せばめいっぱい笑みを咲かせ、
「んわぁ、お日様でキラキラしてる! まぶしっ!!」
「ええ、これは間違いなく極上の輝きですね
……!!」
硝子壁越しに射し込める透きとおった朝の光、清冽な朝陽の輝きにパネトーネの宝石めいたドライフルーツ達も、ふわふわぷるりとカスタードプリンめいて艶めくフレンチトーストの生地も狐色の焼き目さえも煌くから、まぶしっ!! と言いつつ素早く銀のカトラリーを手にしたラヴィデは確りと腰かけなおしたソファー席から前のめり。
「さあ、今年も罪を重ねなきゃね」
「ええ、望むところですとも」
楽しげに笑ってラヴィデが極上の罪に銀のナイフを入れるから、微笑み返してヤコウも迷わず罪深さに溺れにいく。
微笑めば緩む視界に映る朝の光はいっそう眩さを増して、昨夜彼からの贈り物を受け取ったときに観た光景が胸に甦った。勿論いま瞳に映るものと同じ光景ではなくて、同じなのはそのとき己が手にしていた星あかりのひかりが眩さを増したこと。視界を潤ます涙が星あかりに煌くのがヤコウ自身にも分かった、薔薇の彩が咲く贈り物。
贈られた手帳に綴る最初の幸せは、
――心蕩かす聖夜の、罪深き朝の、
――愛しい思い出。
柔らかな黄金色と香ばしい狐色の生地に宝石めいたドライフルーツ達を鏤めたパネトーネのフレンチトーストはその厚みを見るだけで極上の贅沢と罪深さを予感させた。狐色の焼き目をざくりと唄わせ銀のナイフで切り分けたなら、柔らかに蕩ける甘やかな金の彩、頬張れば元より甘くてふわふわしっとりパネトーネ生地がいっそう罪深い卵とミルク、生クリームと砂糖の魔法を抱いて、ふわふわとろり、ふわふわぷるり。世にはパンプティングというものも存在するけれど、パンがパネトーネであるというだけで空恐ろしいほどの美味が誕生する。
「……! ……!! 昨夜いただいたものもすべて美味しゅうございましたが、これはまた格別にございますね
……!!」
「ええ、これは戦慄すべき美味ですね
……!!」
狐の耳も尻尾もぷるぷる震わせるしゃらに頷いて、ソレイユも天の彩の翼を戦慄に震わせた。
極上フレンチトースト、卵とミルク、生クリームと砂糖の無敵の魔法の裡から熱でドライフルーツの香りと風味がひときわ花開くのが途轍もなく狡い。熱でふわり解き放たれるレモンとオレンジの風味は愛しさと切なさを募らせるような柑橘特有の魅力に満ち、溢れ来る干し葡萄の風味はどうしようもなく懐かしさを募らせる。
あたたかなミルクの優しさとほうじ茶の香ばしさが調和するほうじ茶ラテで少年演奏家は心を落ち着かせ、
「色々と美味しいものに出逢ってきましたが、破壊力が段違いですね。これは心してかからねば」
「甘みなしの抹茶ラテにして正解でございました! 全力でぱねとーねのふれんちとーすとを堪能する所存!!」
ちょっぴり背伸びした甘みなし、然れど抹茶の苦みをあたたかなミルクがまろやかにしてくれる抹茶ラテを一口味わって、仔狐の少年は真剣な眼差しでそう宣言した。極上フレンチトーストを一口味わってはその美味と感動を興奮気味に伝えてくるしゃらの言葉に目許を和ませつつソレイユも罪深い美味に舌鼓。
ふわふわぷるり、ふわふわとろりの生地とともにきゅっとレモンピールを噛みしめれば仔狐の耳がぴんと立ち、
「これもふわふわにございますが、さんた殿が下さった帽子もふわふわなのです! そしてとても暖かくて
……!!」
「素敵ですね。それを被っていればきっと、この冬ずっとあたたかくすごせること間違いなしですよ」
是非とも御報告せねば! と背筋を伸ばしたしゃらが白銀のふかふわ帽子がいかに素敵な被り心地なのか、今朝靴下の中に入っていたそれを見つけたときにどれほど感動したかを嬉々として語り、
「靴下に詰めておいたじんじゃーぶれっど殿がいなくなっていたのですが……さんた殿は受け取ってくださったでしょうか」
「それはもう、歓んで受け取ってくださったに決まっていますよ。しゃらの気持ちはきちんと伝わっていますからね」
ふと不安になったらしい仔狐の耳がへにょっと垂れればソレイユは、微笑みながらしれっと、けれどきっぱりと断言した。何せ受け取ったのは自分なのだから絶対確実である。じんじゃーぶれっど殿はあとで大切にいただく所存である。
憧れのひとにそう言われたしゃらの狐耳はたちまちぴんと元気を取り戻して、仔狐の少年は『くりすますとは、こんなにも素晴らしき日なのでございますね!!』と満面に笑みを咲かせた。贈り物をもらったのが自分だけだと思えばほんの少しだけ後ろめたい気持ちにもなったけれど、
「あ! ソレイユさまは大人でおられるから、さんた殿の代わりに、しゃらが何か選びまする!!」
「しゃらが選んでくださるなら、しゃらサンタですね」
この天使のようにお優しい方はもう大人でいらっしゃる!! と思い至ればサンタクロースからの贈り物がないのも道理と即座に納得、それなら自分が贈り物をと思えばしゃらの胸は誇らしさでいっぱいになった。さんた殿から贈り物をもらったということはまだ自分が子供だということだけれど、それでも、自分だって憧れのひとに贈り物をすることはできるのだから。
瞳きらきら、狐耳ぴこぴこ、狐尻尾ぱたぱた。そんな様子で仔狐の少年の気持ちは手に取るようにわかるから、
今朝も胸の裡を仔狐の尻尾で優しく、あたたかに擽られる心地で、穏やかな微笑みでソレイユはこう口にした。
――こうして笑い合える幸せな時間が、
――何よりのクリスマスプレゼントです。
聖なる夜から今朝にかけての想い出話は幾ら語らっても尽きそうになかった。
盤上遊戯『テンダー』での対戦だけでも門前の小僧習わぬ経を読むの理論で初心者のわりにはクレメンティアがなかなかの腕前なものだから濃密で、多少天候予測の心得があるからか嵐の荒野やモーニング・グローリーといったフィールドで大胆に仕掛けてくる彼女との対戦は幻想竜域のロンドンで最強の司祭を下したノスリにとっても純粋に楽しいもの。
翠と緑の光と影が畏怖すら覚えるほど美しい森で狼のロルフに逢わせてやれたことも、
――私、本気のノスリさまに圧倒されてみたい、です。
なんて口にした願いを叶えてあげる、とばかりに天空の青を間近に感じる山地の頂でクレメンティアを圧倒して勝利して、一緒に飛びきり楽しく弾ける笑みを咲かせたことだって、きっと二人で何度繰り返したって飽きない想い出話。美しい色彩が羽ばたくマーブル紙で皆への贈り物を作る間も、ホワイトクリスマスツリーに【飛翔】して、幾つものプレゼントボックスを純白のツリーに飾りながら明けの明星を待つ間も、ずっとその話をしていた心地。
凛然と澄みきった夜闇の彼方に明けの明星を見つけたあとに初めて、別の話をした気がする。
「ティア、髪飾りが増えてる」
「ひゃあああ!? って、ノスリさまにも髪飾り!!」
純白に輝くホワイトクリスマスツリーの樹上から明けの明星の輝きを眺めているうち迎えた美しいブルーアワーと鮮やかなマジックアワー、純白のツリーも淡く澄んだ青や優しい薔薇色に染まればふと互いの髪にマーブル紙のかけらが幾つもついていることに気づいたから、摘まみとって【アイテムポケット】に仕舞い込んで。
ね、なんだか羽繕いしてるみたい、と光にとけるような笑みを咲かせた彼女はそのまま、
――ね、
――ノスリ、
「って呼び捨てで呼んでくれたのに、なんで『さま』つきに戻っちゃったの?」
「ひゃあああ!? だってだってさっきのは、雰囲気に流されたから
……!!」
朝の光と罪深い美味に彩られたテーブル席で悪戯っぽく笑ってノスリが訊けば、今朝もクレメンティアの声音が跳ねた。
明けの明星から魔法のひとときまで樹上にいたから、そのあと特権を活かしておやすみを交わしておはようを交わすまでの時間はとても短くなってしまったけれど、胸には今この手にある黒蜜きなこミルクみたいにあたたかな歓びが満ちている。
懐かしさを呼ぶ黒蜜の甘さに優しいきなこの香ばしさをあたたかなミルクへ溶け込ませた杯を連れて臨む今朝の罪は勿論、極上のフレンチトーストへ焼き上げられたパネトーネ。このトッピングの発想はなかった……! と彼女がふるふるする様にいっそう口許綻ばせ、切り分けたフレンチトーストと合わせてノスリが頬張ったトッピングは、まず餡子、続いて黒豆。
「――……最高じゃない?」
「ひゃあああ! びっくりな好相性じゃないかしら!?」
狐色の焼き目を艶めかせて熱く香るたっぷりバター、これからしてもう餡子や黒豆と合いそうだと思っていたけれど、予想以上の好相性。卵とミルク、生クリームと砂糖の魔法をたっぷりと溢れさせてあたたかに融けていくパネトーネと餡子が渾然一体となる様は、黒蜜きなこミルクを合わせたノスリにもほうじ茶ラテを合わせたクレメンティアにも絶妙な調和を齎して、
餡子より風味が確り際立つ黒豆は、噛みしめるほどに極上フレンチトーストの美味をも際立たせた。
ふわふわぷるり、ふわふわとろり、と融けていく生地よりも確り噛みしめられる生地と好相性なのも魅力的。熱で花開いた柑橘や干し葡萄の香りや風味とも意外に合うのも楽しくて、歓びに輝く瞳を見合わせては二人で笑み崩れ、
「ね、ノスリさまノスリさま! これも試してくださいな!!」
「あははぁ、勿論試すとも。ティアのお勧めはいつも幸せの味だからね」
飛びきり弾む声音で彼女がすすめてきた小さくてまんまるな最も甘いオレンジ、クレメンタインだって、オレンジの美味をぎゅっと凝縮したように強い甘味と程好い酸味が小さくてもたっぷりな果汁とともに弾けて極上フレンチトーストの美味しさいっそう花開かせる様を楽しんで、小さな果実に負けじと自分達でも弾けるように笑い合う。
極上の甘さで卵とミルク、生クリームの魔法が蕩けて、熱いレモンやオレンジピールの風味が切ないほどに後を引く罪深いパネトーネのフレンチトーストに、小さくてまんまるな最も甘いオレンジ、好きなものが増えていくよ、と吐息で笑んで、
「勿論、ティアのこともね」
「ひゃあああ! また不意打ちされた……! もうもうノスリさま、ノスリさま!!」
楽しげに煌く蜜色の眼差しを流してそう続ければ、たちまち彼女の目許にぱっと薔薇色の熱が咲いた。
跳ねて転がるオレンジを思わすこの姿も、他のどんな姿だって目を離せない。
瞬間の美を写し取るのがマーブリングなら、瞬間の美が軌跡を描いていくのがいのちなのだろうと、
――君の耀きが、
――そう思わせるから。
幸せ燈す笑みと声音で耳許に囁かれる四つの響きにノスリはひときわ柔らかな笑み咲かせ、囁き返すのは同じ四つの響き。何度でも聴きたくて、何度でも贈りたくて、繰り返しては額をこつりと合わせてこころがあふれるままに笑い合う。
星あかりのように柔らかに、明星のように煌いて、
朝陽のように世界を耀かせる、この胸に自然と贈られていたレガロ・ディ・ナターレは、
――この想いを呼ぶ名前、
――愛しい、という響き。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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