リプレイ
シアン・キャンベル
パラドクスを使わずに行動する、難しい柵だが
兎も角、その通りに沿って魅せようか
転入者を装って侵入を試みる。服装を現地のものにすれば『余計に』違和感を与えにくい筈だ。そうだな、私の設定としては身体の弱い女としよう。司祭様のお力、黄金郷の聖水をいただきにやってきた
そ、それで、司祭様は今日、何方にいらっしゃるのですか。昨日から動くのもやっとな状態でして。あの聖水だけが望みなのですよ……
ご、ごめんなさい。すこし眩暈がして……え? あの聖水は実はただの『綺麗な水』ですって? そんな噂が? 如何いう事ですか……
くわしく教えてくれませんか。もし、お噂が本当であるなら、私、もう、何をすれば良いのか……
●麗しき娘が申すには
黄金郷を名乗る町中は、賑わいに包まれていた。街の玄関口から石畳が続き、広場には店が立ち並ぶ。小さなカフェや、食堂の類いは見ることができた。
(「パラドクスを使わずに行動する、難しい策だが、兎も角、その通りに沿って魅せようか」)
ほう、とシアン・キャンベル(ルログ・g01143)は息を零す。ほっそりとした白い指先で、壁に触れる。教会を見上げたそのまま、くらり、と身を揺らした。
「あらまぁ、お嬢さん大丈夫かい?」
「そ、それで、司祭様は今日、何方にいらっしゃるのですか。昨日から動くのもやっとな状態でして。あの聖水だけが望みなのですよ……」
零す息は細く、僅かに瞳を伏せた娘の姿は儚くあった。周りの人々が思わず足を止める程に。
「お嬢さんも黄金郷の聖水を求めて来たんだね。ほら、まずは座るんだ。体を大切にしないと聖水だって……」
「は、聖水なんぞただの綺麗な水だろう」
慌てた町の女がシアンに椅子を用意したのと、吐き捨てるような男の言葉が響いたのは同時であった。
「ご、ごめんなさい。すこし眩暈がして……え? あの聖水は実はただの『綺麗な水』ですって? そんな噂が? 如何いう事ですか……」
あぁ、とシアンは息を零す。椅子に手をかけたまま、座るのもやっととでも言うように手をかけたまま崩れおちる。
「くわしく教えてくれませんか。もし、お噂が本当であるなら、私、もう、何をすれば良いのか……」
ひと言、言うだけで去るつもりだったらしい男はシアンの姿を見て息を吐いた。
「体が悪いんなら余計にやめておけ。あんなもん、どうせ教会が汲んだ湧き水に過ぎない。お袋の病気は治りやしなかったからな。叔父さんの言ってた通り、普通に死んだやつも……」
「ジャックおよし! ドラゴン様のお力とお教会をひどく言うのは!」
女の声が鋭く響くとジャックと呼ばれた男は舌打ちと共に広場を去って行った。
「すまないねぇ。あの子は、母親を亡くしたばかりで参ってるのさ。本当はあんな不信心な子じゃないんだよ」
ただ選ばれなかったものだからね、と女は息をついた。
「選ばれる……ですか」
「あぁ。お嬢さんのようにこの教区には沢山の人々が聖水を求めてやってきていてね。どうしたって司祭様も一日にお話をできる人数も限られてくる。一度、無理をされて倒れそうになった時は大変だったのさ。聖水の為に祈りを捧げていてね。今は、選ばれた者が先に会えるようになっているのさ」
誰かを優先すれば、それで争いが起きてしまう。それはドラゴン様も司祭様も望むところではなくてね、と女は言った。
「その結果ジャックの母親はね……。間に合わなかったこと司祭様も悔いてらっしゃったさ。ジャックの叔父が町の最後の医者だった分、今は哀しさから色々と言ってしまうんだろう。ドラゴン様の加護は、医者のいないこの町の救いだって言うのにねぇ」
とにかく、と女はそっとシアンの肩に手を添えた。
「私も聖水でよくなったからね。お嬢さんも気を強く持って、体を休めたら教会に行くんだよ。日によってお会い出来る人数も少ない時はあるが……ドラゴン様の加護と司祭様がいらっしゃれば、すぐに良くなる」
「……はい」
都合の良い言葉だ。選びも、間に合わなかったという言葉も。その違和に、多くの人々が気が付いていないのは、信じていたいからか。
「ありがとうございます」
小さく頷きながらシアンは肩に置かれた細い手と、金色に輝く教会を見上げた。町の何処からでも見えるのだと女はいった。何処からでも見上げることができるのだと。
——黄金郷の聖水は教会の誰かが汲んだ湧き水に過ぎないという悪い噂がある〈黄金郷の聖水について①〉を入手
——聖水を貰うには、選ばれる必要がある。多くの人が教区を訪れるのが理由であり、その結果『間に合わなかった』者がいるのを市民も知っており、不思議には思っていない。〈黄金郷の聖水について②〉を入手
——教区には医者はいない〈教区について①〉を入手。
大成功🔵🔵🔵
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アイネリス・レナリィ
アドリブ絡み歓迎
転入者として潜入し、衣装は周囲に合わせ、極力目立たないように振る舞いましょう
聖水に興味があるという体で商店や広場など、人の多い所へ向かい聞き込みを行います
怪しまれないよう世間話を交えつつ
・治った病や傷の内容、どの程度で治ったのか
・選ばれるための条件、また選ばれた者は居るのか
・聖樹から聖水が造られる所を見た事はあるか
この辺りを聞いてみましょう
現状、聖水とやらに疑問を抱いている者は少ないようですし
ただの水である事を隠しているために生じる不自然な点を見つけておきたいですね
●魔女は囁く
石畳の通りを抜けた先に、広場があった。賑やかな町中でも、ここが多く人が集まる場所なのだろう。
「どんな病が治ったか、かい? あんたも聖水を求めて来たってことか」
「えぇ。興味がありまして。どんな傷が治ったのか、どの程度で治ったのですか?」
「この黄金郷への転入者となれば、そりゃぁ気になるか。あんたも、大切な人がいるのかい? いやぁ、何聞いてみただけさ。俺は、家族を助けていただいたのさ」
アイネリス・レナリィ(黒鉄の魔女・g01781)の話に乗ってきたのは、この教区で働く労働者の男だった。家は広場を抜けた先にあると行った男は一度教会を仰ぎ見ると瞳を細めた。
「妻が体が弱くてな。医者なんてもんはこの町にはもういない。病がちとなれば嫌がって近づかないもんだが、司祭様は違った。聖水で妻を治してくれたのさ。長引く咳も治まったし、今じゃ穏やかに暮らしてる。司祭様は根気強く見てくれてなぁ」
「ありがたいことさ。うちの息子が怪我したときも聖水の御陰で熱を出すこともなくてねぇ。全ては献身と仰るが……司祭様のお体も私としちゃぁ心配だよ。だから、選ばれたもんがお会いできるってのも当たり前の話さ」
男と共に話に乗ってきたのは、広場でカフェを営む女であった。
「その為の道だって、金の装飾を巻き上げた金だとかいう不信心ものもいるけどねぇ。あれは、この町の人間が自ら司祭様に感謝としてお贈りしたものさ」
そしてドラゴン様に捧ぐものでもある。
そう言うと店主は微笑んだ。
「選ばれた者はあの道を歩んで教会に行けるんだから、幸せなものさ」
「選ばれる為の条件などはあるのですか?」
興味深そうにひとつ、言葉を切ったアイネリスに店主はゆるりと首を振った。
「運さ。くじ引きだからねぇ。そこにも幸運を掴んだもんはいるけどね」
店主がそう言って示したのは先に男だ。男は小さく笑った。
「はは、運を使い果たしたかもなぁ。寄進もしたしな。ドラゴン様は見ていてくださる……その加護を感じたよ」
「そうですか……」
くじ引きに寄進。2つ並べば見事に怪しくはなるが——ドラゴンが見ていると、加護だと言ってしまえば幸運が転がりこんできたと彼らが思うのも不思議は無い。
(「現状、聖水とやらに疑問を抱いている者は少ないようですし。ただの水である事を隠しているために生じる不自然な点を見つけておきたいですね」)
先の病も怪我も新鮮な水があれば悪化はしないだろう。この町に医者がいなく、孤立しがちな病人に献身的に触れたとなれば彼らも司祭と彼の持ち込んだ聖水を信じるだろう。
(「すぐ治った訳ではないのは分かっているようですし」)
後は、とアイネリスは思う。教区の人間は誰も聖樹から聖水が造られる様を見たことは無かった。不信心だと流石に怒られる可能性も踏んでいたが——彼らの反応は違った。
『俺らみたいな町の人間が神秘を暴いちゃいけないさ。目が潰れちまう。不信心な奴らが聖水を独占しようと教会に入り込んだ時なんか大変だったのさ』
神秘を暴くのも、穢すのも罪深いことだ、と彼らは言った。その輝きは一般人では目を焼かれてしまう、と。
「それほどに隠された聖水。不信心な方達は何か見れたのか、そもそも今は……」
彼らは生きているのか。
教会へ続く列を見ながらアイネリスは、ひとつ息をついた。
——黄金郷の聖水と共に司祭は病人に献身的に寄り添っているらしい。聖水でもすぐに治らない病気があることに人々は納得しているらしい〈黄金郷の聖水と司祭について①〉
——選ばれるにはくじを引き、当たる必要がある。くじ引きを採用したのは聖水を求める人が多かったからだという〈黄金郷の聖水について②〉
——寄進をした結果『選ばれた』者がいる。選ばれた者は金色の装飾をされた道を通って教会に行く。金は教会への感謝や寄付だが、中には巻き上げた金で作ったという悪い噂もある
〈黄金郷の聖水について③〉
——聖樹が聖水を作る様を見た者はいない。聖水を独占しようとして教会に入り込んだ者はいたらしい〈教会と聖水について①〉
——教区には医者はいない〈教区について①〉を入手。
大成功🔵🔵🔵
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ラヴィデ・ローズ
この時代の医療なんてそれこそ迷信だらけだ。縋る人間が多くとも無理はない
『散歩』しながら久しぶりに景色でも楽しもうか
……うんざりしてくるがね
ばらけて調査範囲を広げ
命の危機がない限りパラドクスは使用しない
選ばれた者がいるということは
選ばれなかった者がいるのか
金ピカ教会を横目に思うは
……貧民からの方が興味深い話を聞けそうかな
襤褸を纏い、表通りを外れる
聖水には相当な布施が必要だったり
その金が民の為でなく司祭の私欲に費やされていたり
火のない所に煙は立たぬ筈
藁にも縋る思いでやってきたってのに、酷い話だよな
聖水だって、本当はどこで汲んだものやら……なぁ?
流れの貧者の体で、被害者へ同調的に接す中で話を引き出す
●影を踏む
(「この時代の医療なんてそれこそ迷信だらけだ。縋る人間が多くとも無理はない」)
石畳にカツン、と落ちた足音ひとつ、ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は広場に集まった人々を見た。彼らの多くは坂上にあるという教会に向かうのだろう。
「『散歩』しながら久しぶりに景色でも楽しもうか」
唇にひとつ、ラヴィデは笑みを浮かべる。人受けの良い、優しい男の笑みを日向に向け——一歩踏みだした先で影を踏む。
「……うんざりしてくるがね」
頬をなでた影が隠した表情は、誰にも見えぬまま。広場の賑わいに紛れるようにして、ラヴィデは路地へと足を進めた。
(「……貧民からの方が興味深い話を聞けそうかな」)
選ばれた者がいるということは、選ばれなかった者がいるのか。路地裏に差し掛かる前に襤褸を纏うと、ラヴィデはゆるりと辺りを見渡した。
(「聖水には相当な布施が必要だったり、その金が民の為でなく司祭の私欲に費やされていたり。火のない所に煙は立たぬ筈」)
襤褸を纏いながら、ゆっくりと路地裏を進んでいく。教会がある場所は随分と高いのか、路地裏でもその煌めきを見ることができた。
「……」
一度、足を止める。ほう、と落とした息ひとつ、ここまで歩いて人に出会うことは無かった。それ自体は然程不思議でも無い。教区の全てを歩いた訳ではなく、その為の『散歩』だ。誰に場所を聞いた訳でも無いのだ。
(「けれど、ここまで気配もしないのは……警戒しているか、隠れているのかな」)
教区の者は皆、司祭や教会、ドラゴンを信奉している。このまま歩き回っても良いが——……。
(「ひとつ、動いてみようかねぇ」)
ふ、と息を落とす。吸う息でラヴィデは己を鎧い、吐き捨てるように低い声を出した。
「藁にも縋る思いでやってきたってのに、酷い話だよな」
そう言って、路地裏から教会を見上げる。
「聖水だって、本当はどこで汲んだものやら……」
「……あんたも、選ばれなかった口か。新顔みたいだな」
やがて擦れるような声がラヴィデの耳に届いた。薄闇を引き摺るようにして痩せ細った男が姿を見せる。
「あまりデカい声で言ってると、教会の奴らに『救われる』ぞ。やめておけ」
「救われるって……、選ばれなかったのにかよ」
「あぁ、選ばれるのとは全く別の方法でな。……平等の為にクジにしてるとかいってるけどな。寄付を積んでる奴の方が選ばれてるって俺は知ってんのさ」
その寄付を誰もおかしいとは思わないように出来てるんだ、と男は言った。
「金が無ければ貴金属を、宝飾品のひとつを。教会への感謝で置いているだけなんだといってな。司祭が慈悲深い男だっていうなら、どうして俺には会わなかったんだ!」
あんた言っただろう、と男は薄く笑った。
「聖水がどこから汲んだのかって。あんな水に拘るのはやめとけ。助かりゃしねぇんだよ、結局。本当に助かるなら水を盗んだやつが死ぬ訳無かったんだからな」
「……盗んだ」
盗みに入れた者がいるのか。男は盗みの詳細は知らないようだが、愚痴のようにラヴィデにひとつ言った。
——次に見にいった奴らなんか、帰っても来なかったからな、と。
——教会否定派の路地裏の住民は隠れている。姿がばれると教会に「救われる」という〈①路地裏の住民の噂〉
——選ばれるにはくじを引く必要がある。選ばれた者は寄付をしていたという。〈黄金郷の聖水について②〉
——聖水は一度盗まれている。盗人に「聖水」の効果は無く死亡した。次に聖水を確認しに教会に潜り込んだ者達は帰ってきていない〈教会と聖水について②〉
成功🔵🔵🔴
効果1【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
●黄金郷というもの
教区の一際目立つその場所に、金色の教会は建っていた。金を用いた装飾が黄金郷の由来か、或いは——教会を、司祭をドラゴンを信奉する人々にしてみればこの教区は黄金郷たり得るのか。
教区に潜入したディアボロス達が得た情報によれば、黄金郷の聖水を貰うには選ばれる必要があるという。くじ引きという手法は、多くの人々が司祭を訪ね聖水を求めてやってくるから生まれた手法なのだという。
『どうしたって司祭様も一日にお話をできる人数も限られてくる。一度、無理をされて倒れそうになった時は大変だったのさ。聖水の為に祈りを捧げていてね。今は、選ばれた者が先に会えるようになっているのさ。
誰かを優先すれば、それで争いが起きてしまう。それはドラゴン様も司祭様も望むところではなくてね』
「理由付けとしては十分な話か。尤もらしい理由と共に『黄金郷の聖水』を担う司祭を失いかけたとなれば、その加護を求めてやってくる者も、その恩恵を受けて暮らす者も、失うことを恐れる」
そして、と娘は漆黒の瞳を細めた。
「そして、己の中で理由づけて納得する。だが、加護も恩恵を受けていない者にとってみれば、違和は残る。それがあの、湧き水に過ぎないという話だろうな」
新鮮な水であること自体は事実のようだが、教区に医者がいない以上、その水で治った者は事実いるかもしれないが、その水だけで治った者は恐らくは——……。
「選ばれることも、選ばれないことも理解した上で、納得はしているようだが……実際どこまで納得できているのだろうな」
ふ、と娘は艶やかに笑う。広場に続く通りから数本離れたその場所に人気は少ない。転入者として潜入しているのもあるのだろう。教区の人々にそう不思議がられることも無かった。
「くじ引きには『選ばれた』方の話によれば、金色の道を通って教会に出向くそうです。聖水を貰える場所に行くのでしょう」
全ては寄付や寄進という話でしたが、と黒髪の娘は、眼鏡をかけなおした。
「巻き上げたお金で作ったという悪い噂もあるそうです。『選ばれた』方に話を聞いたところ、偶然、寄付をした方ばかりだった、と」
聖樹が聖水を作る様を見た者は無く、神秘を暴いてはいけない、と教区の者は思っているようだった。神秘を暴くのも、穢すのも罪深いことだ、と。
「信仰の中でそのような感情が生まれるのは、不思議では無いのでしょう。ですが、聖水を独占しようとして教会に入り込んだ人達がいたそうです」
「その話はこっちでも聞いたねぇ。聖水は盗まれたってね。けれど、その聖水を呑んでも盗んだ者は癒えなかったそうだ」
そして次に教会に潜り込んだ者は帰って来ない、という。
「それと、教会を否定している者は、みんな隠れて過ごしているみたいでね。彼らは教会に見つかるのを恐れているよ」
教会に見つかれば救われてしまう、と。
決して良い意味では無いんだろうねぇ、と男はひとつ息を吐く。
教会について、聖水について、司祭についての話は得た。ならば、次は信仰を打ち砕くために準備を進める必要があるだろう。
——さぁ、どう動く。
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マスターより
ご参加頂きありがとうございます。
秋月諒です。
②信仰を打ち砕く準備
各種情報は共有している前提でOKです。
それでは皆様、御武運を。
シアン・キャンベル
転入者として紛れ込んだのは正解だろうが、さて、もしも――寄付をするとして、私のような『ぽっと出』が黄金を持っているなんてオカシナ話か?
おそらく――先の諸々で虚弱な女が聖水を求めていると噂される可能性が高い。それを活かすとしようか。たとえば――そうだな。代々大切にされてきた【黄金の蜂蜜】つまり首飾りを餌にしてみるか
嗚呼――私がドラゴン様に、貴方様に、主に捧げられるものとしたら、これしかありません。この、代々、家に伝わる黄金色を、如何か、お受け取りください
首飾りを重々しく手放し、狂ったように祈りを捧げてみる。元々、私は神の遣い故、こういう行為は得意なのだよ
祈りを終えて腰をあげる
ダメ押しの立ちくらみ
●開幕のベルが鳴る
教区の賑わいとシアン・キャンベル(ルログ・g01143)は教会へと向かっていた。
(「転入者として紛れ込んだのは正解だろうが、さて、もしも――寄付をするとして、私のような『ぽっと出』が黄金を持っているなんてオカシナ話か?」)
教区間の住民の移動も司祭の許可が必要な状況下で、やってきた娘が『偶然黄金を持っている』いる事実は偶然になり得るか——違和を生むか。
「……あぁ」
そうだな、とシアンは舌の上に言の葉を溶かす。偶然も違和感も、相応の理由が『転入者』という形に落としこむことができる。
(「おそらく――先の諸々で虚弱な女が聖水を求めていると噂される可能性が高い。それを活かすとしようか」)
教会を、見上げるその場所でシアンは足を止める。皆が聖水を求め行く道からは少しばかり離れたその場所で、己が胸に手を置いた。
「嗚呼――私がドラゴン様に、貴方様に、主に捧げられるものとしたら、これしかありません」
艶やかな黒髪を揺らし、カツン、と落ちた一歩さえ揺れる。それは、シアンを虚弱な女として見せていた。か細く震えるような声で、蜂蜜酒の如き琥珀のネックレスへと手をかける。
「この、代々、家に伝わる黄金色を、如何か、お受け取りください」
首飾りを重々しく手放し、シアンは狂ったように祈りを捧げる。ドラゴンを賛辞し、崩れおちるように両膝をついた女は一心に祈りを捧ぐ。
(「元々、私は神の遣い故、こういう行為は得意なのだよ」)
祈りを口に歌うようにシアンは狂信を見せる。掲げた琥珀のネックレスが、きらり、と光り静寂に女は唇を噛む。嗚呼、と声をひとつ、零れ落ちた涙と共に紡いで見せたのは——背後にひとつ気配を感じていたからだ。
「ドラゴン様……」
「君の祈りは本当のようだね。ほら、ゆっくり立ちなさい。立ちくらみを起こしているじゃないか」
そう言って、姿を見せたのは年若い青年であった。
「貴方は……」
「教会の助祭だよ。司祭様のお手伝いをさせてもらっているに過ぎない身だが……。ドラゴン様に君の祈りが届き、司祭様に天啓がおりたんだ。祈りを捧げている娘がいる、とね。そこで私が探しにきたんだ。君の祈りが本物であったこそ……それは、寄付かい?」
「はい。如何か、この黄金色をお受け取りください。嗚呼、ドラゴン様に私の声が……」
「あぁ、ほら。、君は体が弱いのだろう? 寄付は、確かに受け取ったよ。その献身は届いた。君はくじに当たったんだ。司祭様がお会いになる。そして、ドラゴン様の加護を、聖水を受け取りなさい」
礼拝堂の中へ、とシアンの案内するように助祭は教会の奥へと向かう道へ誘った。
——シアンは〈聖水〉を受け取った。
大成功🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】がLV2になった!
効果2【アクティベイト】がLV2になった!
神坂・樟葉
(サポート)
怪我とか苦戦とか気にしないので、こういうのにおすすめ
・数がいればなんでもいいやつ
・もう片付けたいやつ
●黄金郷の癒やしの聖水
「ほぅ……人の噂に乗るのは早いものじゃの」
コツン、と神坂・樟葉(自称超特級厨陰陽師・g03706)は足を止める。広場の賑わいが、ひとつ色を変えていた。
「くじの結果が出たそうよ」
「まぁ、司祭様がお会いになる方達が決まったのね」
「聖水を求めて色んな人が来るからなぁ、そりゃ昔みたいに誰でも彼でも司祭様にお会いして、聖水を頂くことなんてできやしないさ。司祭様もドラゴン様の為に献身の道をって言うが……倒れちゃぁ溜まったもんじゃないだろう」
「……」
ドラゴンの加護に癒やしを齎す聖水。
黄金郷を自称する教区は、教会を見上げるように作られていた。
(「礼拝堂への道が、常に教会が見えるようになっているのは参道みたいなものと思えば不思議はないのじゃろうが……、あれは、崇拝の為じゃろう」)
金ぴかな教会。大袈裟なまでに目立つ姿は司祭の趣味もあるだろうが——分かりやすい畏怖の対象だ。そんな教会には、ドラゴンの加護を受けた聖水なるものがあって、傷や病を癒やすという。
「それを信じてるのは幸せな話じゃのぅ」
誰もが、と言う訳でも無いだろうが——信じなくなる切っ掛けがなければ疑うことは無いだろう。ひとは、その必要が無いものは疑わない。
「ふむふむ。やはり、この教区には『無い』のじゃな」
町中、人の多い広場から住宅街まで樟葉は見て回ったが、この教区に医者はいない。教会に医療品の類いはあるようだが——治療施設ほどのものは無い。
(「ドラゴン様の加護と聖水があるからとは言いものじゃのぅ」)
医者はこの教区からいなくなった、という。無くなったのか、他の教区に移動させられたのかは詳しい者に聞かなければ分からないだろうが——医者がいない今、人々はよりドラゴンに祈り司祭に、教会に依存する。
「ちょっとした怪我が治ったことさえ、治りの良さが偶然でもドラゴンに祈りを捧げるのだから上手くできてるの」
ゆるり、と尾を揺らして樟葉は教会を見上げた。教区のどこにあっても目に付くそれは人々の信仰心に繋がる。
「こうなってくると、司祭が聖水の数を絞り出したタイミングも意味があるのじゃろうか?」
この地の目的は、様々な方法でドラゴンへの信仰を高めることだ。上手く物事を繋げてはいるのだろう。
「さて、次はどうするかじゃのう」
賑わいへと戻るように樟葉は歩き出す。広場では聖水を得た人々の話で盛りあがっていた。
成功🔵🔵🔴
効果1【隔離眼】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
アイネリス・レナリィ
アドリブ絡み歓迎
司祭の不正を暴くだけでは少し足りないかも知れませんね。
奇跡への疑念はあるようですし、その辺りを突いてみましょうか。
聖水や奇跡を否定する言動は避け、世間話のついでという体で市民たちと会話
直ぐに治らない病気があり、お金を巻き上げているという噂もあるので医者も居た方が良いのでは?
くじ引きで選ばれなかったら医者に掛かれば良い、その方が助かる人も多いだろう
と冗談交じりに話してみましょう
声に出さずとも、心にある疑念が大きくなれば十分ですね。
あとは爆発する時を待つのみです。
●奇蹟の影に
教会でのくじ引きの結果は、広場にも伝わってきていた。噂が広まるのが早いのか——或いは、誰もが聖水の行方を気になっているのか。
賑わう広場をゆるり、とアイネリス・レナリィ(黒鉄の魔女・g01781)は見渡した。
(「司祭の不正を暴くだけでは少し足りないかも知れませんね。奇跡への疑念はあるようですし、その辺りを突いてみましょうか」)
聖水を得た人々へ祝福ではなく、その幸運を告げる人々の話の輪に入るようにアイネリスは椅子に腰を下ろした。
「直ぐに治らない病気があるのでしょう、お金を巻き上げているという噂もあるのなら、医者も居た方が良いのではありませんか?」
世間話のついでのようにアイネリスはそう言った。
「そうすれば変な噂も無くなるでしょう」
「この黄金郷には聖水があるっていうのに、医者が必要かい?」
「その医者がいれば、司祭様に妙なことを言うやつも居なくなるだろうって嬢ちゃんは言ってるのさ」
そうだろう? と視線を向けてきた男に、アイネリスは軽く肩を竦めるように頷いて見せた。
「えぇ。くじ引きで選ばれなかったら医者に掛かれば良いでしょう。その方が助かる人も多いでしょう」
冗談交じりに——聖水や奇跡を否定するような言動は避けて唇に言葉を乗せる。聖水が本物と信じていれば『助かる』と言われたところで、彼らは不思議には思わないはずだ。
何れ、順番が回ってくる。
何れ、くじが当たる。司祭様は見ていてくださる、と。ただ、その選ばれなかったのが自分であれば——……。
「この教区には医者はいないのさ。嬢ちゃん。最後にいたやつが亡くなってな、それから余計に司祭様がお忙しくなってな。そりゃぁ、みんな何から何まで司祭様に、聖水を頼むようになったからな」
「でも確かに、医者がいれば司祭様の手も空くだろうに、どうして他の教区から新しい医者が来たりしないんだろうな? あいつも元気な頃は司祭様を手伝っていて、手伝いが必要だって言ってたのに」
「そりゃぁ、見つからないんだろ。司祭様がいるから大丈夫さ。例え病になっても黄金郷の聖水があれば大丈夫だろう?」
例え、と口にした男の前、聖水があれば医者は必要かい? とまで言っていた青年の反応が一拍、遅れる。
「……いや、そう。そうだな。聖水があれば、選ばれれば……」
大丈夫だ、と続く言葉はアイネリスの耳に届くことは無いまま。
(「声に出さずとも、心にある疑念が大きくなれば十分ですね。あとは爆発する時を待つのみです」)
ドラゴン様の加護があれば、とくり返す言葉だけが賑やかな広場に響いていた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
ラヴィデ・ローズ
隠れざるを得ぬ状況に否定派を追い込み
噂の蔓延を防いだんだろうが
自分や愛する者の死を座して待つだけでいいのか?
オレはこの腐った聖水信仰をぶち壊してやる
同じ死ぬんなら司祭の鼻を明かしてからだ
先の男についていった先
貧民達へ共にと強制こそしないが発破をかける
数は力だ
表へ出る、訴えると彼らが多少でも動けば
それだけ他の復讐者の試みも効果を増す筈
人通り多い表、教会近くへ
情報のうち司祭に都合の悪い話を声を大に
聞きつけ教会関係者が出てくれば我先に歩み出よう
『救う』ってか?
ハッ、やってみろ。今ここで、いつもみたく
馬鹿な話ってなら、行方知れずの奴らを五体満足で返してくれよ
出せないモノは証明に繋がる
さて、どうなるかな
●救済の在処
(「隠れざるを得ぬ状況に否定派を追い込み、噂の蔓延を防いだんだろうが」)
教区の中心街に残っているのは教会や聖水を信奉する人々と、その聖水を求めてこの教区にやってくる人々だ。
「自分や愛する者の死を座して待つだけでいいのか?」
隠れておく場所が無いのなら、と先に出会った男がラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)を連れてきたのは、他の否定派達のいる小さな家の中であった。古びた家の倉庫を使うように身を寄せ合っていた彼らに、ラヴィデは顔を上げた。
「オレはこの腐った聖水信仰をぶち壊してやる」
「お、おい。あんた。いきなり何言ってるんだ!?」
「別に。同じ死ぬんなら司祭の鼻を明かしてからだってだけだ」
ラヴィデの言葉に先に出会った男が慌てるように声を上げた。おい、と響く言葉に構わずにラヴィデが告げる。
「表へ出る」
「おい!」
「——……いや、そいつの言う通りだな。このままじゃ聖水に振り回され続けて死ぬのは御免だ」
「ジャック……」
ジャック、と言われて姿を見せたのは男よりは若い男であった。青年、というには年を重ねていたか。
「聖水を盗みに教会に行くんじゃない。一発、やってやるさ。本当に救えるんなら見せてもらおうじゃねぇか、奇跡を」
行こう、とジャックは告げる。真っ直ぐに一度ラヴィデを見た彼は、駆け出した仲間を見ながら一度だけ拳を握った。
「……転入者だろう。本当にやばいと思ったらあんたはちゃんと逃げろよ」
表に出るというラヴィデの言葉は、否定派にとって長く口に出来ずにいた言葉だったのだろう。
(「だから「ありがとう」か」)
走り出す背が告げた言葉を思う。人通りの多い表へと向かえば、人々のざわめきが耳に届く。聖水を得た人々の、その幸運を告げる言葉では無い——突然のことへの驚きに近かった。
「司祭は寄付をした者に聖水を与えている。金や貴金属を教会に寄付した者以外が選ばれたことはあったか? くじ引きの結果が平等に知らされたことも」
加護も祈りも関係無い。司祭は自分の都合で結果を選んでいる、そう声を大にしてラヴィデは言った。教会の前、大声でそれを告げれば分かりやすく教会の者達が姿を見せる。
「君たち何をしてるんだ!」
「なんて不信心なことを言って! 君たちのようなものでも、司祭様は救おうと祈りを……」
「『救う』ってか? ハッ、やってみろ。今ここで、いつもみたく」
我先にラヴィデは歩み出てる。大きくなるざわめきに、君たちのような、とこちらを知った顔をしてみせた助祭にラヴィデは口の端を上げるようにして告げた。
「馬鹿な話ってなら、行方知れずの奴らを五体満足で返してくれよ」
「君たちの友人らが何処に行ったかは知らないが、他の教区にでも行って……」
「はは、何言ってんだよ! あいつらは教会に入っていったんぜ」
そう声を上げたのは最初に路地裏で出会った男だった。
「知ってんだろう?」
「お前達、教会に盗みに入った不届き者だな。聖水を穢そうと……!」
「聖水、聖水な! そうさ、あんな水で治りゃしなかったから、あいつは死んだ。知ってんじゃねぇか」
男の言葉に助祭は唇を噛む。
「お前が、お前達が不信心者だからだ。司祭様が日々祈りを捧げているというのに、このようなことを言って……」
「は、俺らが不信心なやつだって言うなら、そいつで司祭様の祈りも聖水も効果を無くすっていうなら大したもんじゃねぇか!」
男は狂ったように笑う。ひゅ、と喉を鳴らした助祭を前に、顔を上げたのはジャックだった。
「行方不明になったのは聖水を盗みに入った奴だけじゃない。俺の叔父も、この教区の医者も行方が知れない。亡くなったと言われているが、俺はその死にも立ち会っていないんだ」
最後に教会に行ったきり、とジャックは告げる。
「司祭様は誰を、何を救っている?」
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV3になった!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
一里塚・燐寧
(サポート)
口調は「のんびりマイペース(あたし、~くん、~ちゃん、だねぇ、だよ、だよねぇ、なのかい?)」
二人称代名詞は「きみ」
昼行燈じみた暢気な振る舞いの少女ですが、戦いでは巨大鎖鋸剣≪テンペスト・レイザー≫を手に最前線で暴れます。痛みを全く恐れず、巨大な得物を振るう身体が軋むのも構わず、多少の反撃は意に介さない狂戦士の如き戦いを得意とします
一般人には原則的に親身ですが、必要と判断すれば、生命を脅かさない程度に恐怖を与えたりハッタリで騙すことも躊躇しません。クロノヴェーダには特徴や性格をおちょくる物言いが目立ち、些か残忍です
他の復讐者の妨害はせず、公序良俗にも反しないことを前提に後はお任せします!
●偶然というもの
「体が弱くてこの教区に救いを求めてやってきた子が聖水を受け取る事が出来たのね。幸運なことじゃない」
聖水を得た娘の話で通りは賑わいを見せていた。川のせせらぎを聞きながら一里塚・燐寧(粉骨砕身リビングデッド・g04979)は小さな店の一つに腰を下ろした。
「賑わってるねぇ。まぁくじ引きの結果が出た時とかってこんな感じだよねぇ」
くじ引きの一般的なイメージを思えば『聖水』なんてものが、それが当たるというのは罰当たりとでも言えそうなものだというのにこの教区の人々はそれで平等だという。
「誰もが救いを求めてやってくるから、ふびょーどーにならないように司祭様が採用した方法、ねぇ」
納得はしているのだろう、と燐寧は思う。だが少しばかり言い聞かせるようにも見えるのも事実だ。
「聖水を貰えない時に、貰えたひとがラッキーなだけっていうのは随分無茶がある感じだよねぇ」
どう思う? と燐寧は足元でくわ、と眠そうに口を開いたミニドラゴン・チェーンソーザウ太を見た。ゆるり、と尾を揺らして、また眠そうな顔をしながら足元で丸くなった姿を視界に、ふ、と燐寧は息をつく。
「まぁ、自分が幸運じゃなかったって思うよりは良いのかもねぇ」
でも、と燐寧は一つ言葉を切る。
「ここが突き所だよね」
くじ引きの結果なんていじれるものじゃあるのだが教会がそんなことをするとは思いもしないのだろう。
『今回、くじが当たった子はドラゴン様に熱心に祈りを捧げていたんでしょう? 司祭様はドラゴン様から啓示を受けたって話じゃない』
『信心深い娘がいるから助けてあげなさいって言われたって!』
『あぁ、やっぱり私も教会にもっと寄付をしようかしら』
『でも、司祭様は無理はするなって話だったじゃない。みんなの生活があるんだからって……』
——でも、とあの時言った教区の人間の言葉を燐寧は覚えている。
「転入者が寄進しているなら自分達もしなきゃ、って話だもんねぇ」
選ばれたいから、と彼女達は言っていたいざという時に、手になければ困ると思うからこそ、寄進に積極的で——同時に、寄進すればある可能性を何処かで理解もしてる。
「聖水が限定品なのは、ばらまいて効果が微妙だった時の良いわけが立たないからだよねぇ」
燐寧は顔を上げる。突けばきっと、人々はきっと自覚する。その時が、ドラゴンによるこの実験を打ち崩す一手になる。
「違和感なく、ひとの流れと心によって」
信仰は揺らぐ。
成功🔵🔵🔴
効果1【飛翔】がLV4になった!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
最上・奨
(サポート)
気さくなお兄さん
誰にでも明るく声を掛け、手助けを惜しまない
同行者と状況次第で前衛後衛使い分ける
基本的には他の仲間のフォローに回る事を好む
口調は今どきの若者
チャラい様だが本人は真面目で正義漢
敵に対して挑発じみた台詞を吐く事も多々
味方には気を配り、檄を飛ばしたり心配して声を掛けたり
それなりに知識も教養もあるので考察や解説役も可能
パラドクスは指定した物をどれでも使用
多少の怪我は厭わず積極的に行動
戦いは無茶をするが、一般人相手には慎重を期す
●灰の教区
「くじ引きの結果が出たそうよ」
「広場で見たあの子、聖水を貰えたみたい」
広場は聖水を得た人々の幸運を羨み、讃える声に満ちていた。コツン、と足音ひとつ響かせ、最上・奨(止奏の羽・g03230)は賑わいの中に声を投げた。
「マジか。くじ引きの結果ってもう出てんだな」
明るく気さくな青年の姿に娘は瞳をぱちくりとさせた後に笑ってみせた。
「貴方も聖水を求めて来たの? 今日のくじ引きはもう終わってしまったのよ」
「あー一足遅かったみたいだな。明日の予約とか……は無いよな?」
緩く首を傾げて見せた奨に娘は笑みを見せた。
「ふふ。そういうのは無いのよ。くじ引きだって、ただ機会が平等になるようにって司祭様が考えてくださっただけの話だから」
「平等に、か。ありがたい話だな」
「でしょう?」
「あぁ」
——全く、ぶっとんだ平等だな。
浮かびあがったその言葉を舌の上に溶かす。は、と落とした息は娘の哀れみを誘ったのか「前はね、違ったのよ」と彼女は口を開いた。
「機会も多かったのだけれど。この教区にはもうお医者様もいなくて、司祭様と聖水だけが頼りなの。けれど、悪用しようとした人も出てね」
教会に忍び込んだ不信心な者もいたのよ、と娘は言った。
「司祭様もご無理をされることが多くて。今の数になったの。でも聖水はくじ引きだもの。いずれ、ドラゴン様の加護が貴方にも訪れるわ」
それと。と娘は微笑みながら告げた。
「教会に寄進するのも手よ。教会を支えたい心を示せば、ドラゴン様に届くわ。司祭さまが啓示を受けるのだから」
「教えてくれてありがとな」
そう言うと、奨は会話に加わってきた男と入れ違いになるように賑わいの輪を抜けた。
(「ったく、上手くできてるもんだな。普通に考えりゃ、あっちこっちおかしいぜ?」)
聖水はどうして司祭の手を介して渡されなければいけないのか。聖水なんて大層な名前がついているのにこっちの都合で数を絞ることなどできるのか。
(「作ってますって感じだな。綺麗な水が貴重ってのはあるけどな」)
だが、全ての病や傷を癒やす効果までは生まれ得ない。
「数は、ばら撒いたら効果が無いのもバレからって話だろうな。医者がいないってのもきな臭いぜ」
聖水の効果を確かめる客観的な目は無い、ということだ。
信仰を崩すには聖水の真実を突くか、平等の筈の司祭が寄進のタイミングで啓示を受けるのを突くか。
「さて、どうする?」
成功🔵🔵🔴
効果1【強運の加護】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
ブロス・ブラッドハート
教会の外で道ゆく人にも聞こえるよーに誰かに声をかけてみるぜ
ここの人は聖水と司祭さんのおかげで病気知らずで幸せなんだってな
おれの家族も一族も、みーんなお世話になれないかと思ってさ!
んぇっ、くじで選ばれた人だけ!?なんで~!
司祭さんが無理をしすぎて倒れそうになっちった?でもそれっておかしーじゃんか
聖水は傷や病も癒してくれるんだろ、司祭さんが一口でも飲めば倒れることなんてないはずだぜ
聖水の効果が嘘なんてことねーよな…?頼めばきっと司祭さんはおれ達の話も聞いてくれるだろーし、みんなで確かめにいってみよーぜ!
へへ、ネタバラシの場にこれだけの人がいりゃ準備もバッチリかな
アドリブ・連携歓迎
●司祭と聖水
「ここの人は聖水と司祭さんのおかげで病気知らずで幸せなんだってな」
教区の一角、教会を見上げる通りでブロス・ブラッドハート(竜孺子・g03342)はそう教区の人間の声をかけた。
「あぁ、そうさ。全ては司祭様とそして何よりドラゴン様のおかげだ。君も、聖水を求めてやってきたのかい?」
人の良さそうな男の言葉に、ブロスは無邪気に頷いて見せた。
「おれの家族も一族も、みーんなお世話になれないかと思ってさ!」
「そうだったのか。とはいえなぁ今はその機会を平等にするために、くじ引きになってるんだ」
「んぇっ、くじで選ばれた人だけ!? なんで~!」
ぱ、と顔を上げたブロスに男は苦笑して告げた。
「前にな、聖水を独り占めしようって奴がでて、教会に泥棒に入ったんだよ。司祭様も大層心を痛めてな……、全ての者に会って渡したいとそう思われていたんだが、聖水を求める者は後を絶たない。司祭様も一度倒れそうになってな、それで、みんなくじ引きで良いって話になったのさ」
「んー……でもさ」
むむむ、と眉を寄せて、ブロスは顔を上げた。
「司祭さんが無理をしすぎて倒れそうになっちった? でもそれっておかしーじゃんか。聖水は傷や病も癒してくれるんだろ、司祭さんが一口でも飲めば倒れることなんてないはずだぜ」
司祭さんも体調崩すんなら心配だぜ、とブロスは呟く。
「聖水の効果が嘘なんてことねーよな……?」
「不思議なことを言うなぁ、君は。司祭様は、皆のために自分では聖水を飲まないんだよ。それがドラゴン様への献身と言ってね」
とはいえ、と男は息をついた。
「君はこの教区に来たばっかりだし判りにくいだろう。俺も、他の教区の司祭様がどのような方か俺は知らないが。
それにうちの司祭様に健康でいていただきたいのは事実だ。聖水を自ら飲んで頂ければ良いんだが……」
「頼めばきっと司祭さんはおれ達の話も聞いてくれるだろーし、みんなで聞きにいってみよーぜ!」
な? とブロスは遠巻きに話を聞いていた人々にも告げていく
司祭が聖水を自ら口にしないこと自体は、彼らにとって不思議では無いらしいが——心配はしているのだろう。ブロスの提案に、一人二人と頷いていく。
(「へへ、ネタバラシの場にこれだけの人がいりゃ準備もバッチリかな」)
それに、とブロスは思う。聖水の効果を口にした時、最初の男は不思議そうな顔をしたが——1人、2人だが顔が凍り付いた者もいた。
教会の方で、声が上がる。賑わいとは違うそれにブロスが誘った人々も気が付きだしていた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【未来予測】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
●黄金郷奇譚
ドラゴンの加護を受けた聖樹。その樹は金色の花を咲かせ、尊き生命の残滓——その命が宿りし水が、この『黄金郷』を癒やす。
「恩寵を」
「ドラゴンの恩寵を」
「我らが黄金郷の癒やしを」
「聖水を——我らを癒やしたまえ」
この教区を。
落ちる声ひとつ、司祭は声を上げる。駆ける助祭の声が男の耳に届いたのは、それからすぐのことであった。
●黄金と灰
「司祭は寄付をした者に聖水を与えている。金や貴金属を教会に寄付した者以外が選ばれたことはあったか? くじ引きの結果が平等に知らされたことも」
男の声が響く。貧民街に潜んでいた人々と共にディアボロスのひとりが教会の前で声を上げていた。
「『救う』ってか? ハッ、やってみろ。今ここで、いつもみたく。馬鹿な話ってなら、行方知れずの奴らを五体満足で返してくれよ」
ざわめきが、戸惑いが人々の間に広がる。教会を信じ、司祭を信じている人々は否定と困惑の声を上げ——だが、集まった貧民街の者達は聖水を得られなかった事実より、聖水を得た者の事実を告げる。
「……始まったようですね」
疑念をひとつ、人々に植え付けた娘は教会の前で足を止める。
『直ぐに治らない病気があるのでしょう、お金を巻き上げているという噂もあるのなら、医者も居た方が良いのではありませんか?』
『くじ引きで選ばれなかったら医者に掛かれば良いでしょう。その方が助かる人も多いでしょう』
あの時、告げた言葉があるのだろう。司祭と教会を讃えていた人々は教会の騒ぎを前に否の言葉を言えないでいる。
「……」
ひとり、聖水を得たディアボロスは教会の中。司祭と共にいる。人々を連れた少年が教会の前の騒ぎに気が付いたように「わぁ」と声を上げる。
——さぁ、舞台は出来た。
人々は揃い、後は、その嘘を暴くだけ。
●マスターより
ご参加いただきありがとうございます。秋月諒です。
謎解きターンとなります。
●リプレイについて
教会前、中に全員が集まった状態
聖水を得ている場合教会の中、司祭と共にスタートするのも可能です。
過去の章の結果から、道中で出会った人々は友好的です。
●プレイングについて
4月11日頃からチェックしますが、ゆっくりめです。
それでは皆様御武運を。
シアン・キャンベル
し、司祭様――も、申し訳ないのですが
少しだけ、聖水をいただく前に、花を摘みに行きたいのです
もう、感極まり、今にも心がはち切れそうでして
お時間いただけないでしょうか
(うつむき、涙をこぼす)
お手洗いについたら声をあげて泣くとしよう
さて……隣人よ、オラトリオよ
遠慮はいらない。私を回してくれないか
何、ダメ押しと謂うものだ
これで私の体調は文字通り最悪となったワケだが
聖水とやらは治してくれるのか、否か
し、司祭様……ドラゴン様……た、たすけて、ください
もう、私は限界です、は、はやく、聖水を……お願い
隣人が他の復讐者に『今だ』と合図を出してくれたならば
聖水を口にし、飲み干してみようか
数秒、数分我慢
皆の前で吐く
●その果てにあるもの
教会の外で、音がした。聖句を唇に乗せた男が僅かに足を止めて、僅かに首を傾ぐ。お客さんかな、と呟く男にとって、人々が押し寄せるような足音自体はさほど珍しくは無いのか。首を傾げるに終えた男がこちらを振り返る。
「それじゃぁ、君に祝福を……」
「し、司祭様――も、申し訳ないのですが。少しだけ、聖水をいただく前に、花を摘みに行きたいのです」
司祭の言葉に、身体の弱い娘は震える声でそう言った。唯一の救いと、願い求めてやってきて——それが叶う僥倖に声を震わせた。
「もう、感極まり、今にも心がはち切れそうでして。お時間いただけないでしょうか」
俯き、涙を零す娘に司祭はゆっくりと頷いた。
「あぁ。大丈夫だとも。ドラゴン様の加護は君と共にある。シスター達がついていなくて大丈夫かい?」
「はい」
零れる涙を拭い、顔を上げる。震える足を叱咤するようにして辿りついた手洗いで、娘は声を上げて——泣いた。
「ぁ……ッぁあ、ああ……ッ」
震える声は、感謝と歓喜と。司祭と、聖水への祈りを唇に乗せ——そうして人の気配が無くなったところで、シアン・キャンベル(ルログ・g01143)は顔を上げる。
「……」
そこに身体の弱い娘の姿は無い。頬を伝い落ちた涙を他人事のように見送って、シアンは一つ息を落とす。
「さて……隣人よ、オラトリオよ。遠慮はいらない。私を回してくれないか」
囁くようにシアンはその名を呼ぶ。緩く首を傾げたシアンの隣人に、ふ、と笑う。
「何、ダメ押しと謂うものだ」
『……』
分かった、とこくりと頷いたのか。とん、と触れた隣人の手が、くるくるとシアンを回す。くらりと揺れた視界の中、両の脚でどうにか立つ。
「これで私の体調は文字通り最悪となったワケだが聖水とやらは治してくれるのか、否か」
——さぁ、最後の幕が開く。
開演の時は過ぎ、観客は押し寄せ、役者は揃った。
「あぁ、戻ったか。君。これから君に儀式の説明を……」
「し、司祭様……ドラゴン様……た、たすけて、ください」
カツン、カツ、と進む足が揺らぐ。一歩、一歩が侭ならない。礼拝堂の椅子に体をぶつけ、は、は、と浅く息を零すシアンに慌てて司祭が駆け寄る。
「君、大丈夫かい!?」
「もう、私は限界です、は、はやく、聖水を……お願い」
「あ、あぁ。分かった。……、さぁ、これが聖水だゆっくり、ゆっくり飲むんだよ……」
竜の飾りが施された美しい硝子瓶の蓋が開く。オラトリオに合図を頼む手も考えたが——流石に二度目は勘づかれる可能性は高くなる。合図は出せないが——だが、近くまで来ているのであれば、大丈夫だ。
「は、い……」
浅く、浅く、息をしながらシアンは聖水を飲み干す。あぁ、と安堵するように、呼吸を正せば司祭がほっと息をつく。
「さぁ、まずはゆっくりと体を休め……」
「——ッぁ」
噎せ込むようにシアンは喉を鳴らす。ひゅ、と息を飲んだ司祭を前に教会の扉が開く——開かれる。
「司祭様! 司祭様!」
「な、君たち。今は彼女が聖水を……」
恩寵を受けて、と言うつもりだったか。続く筈の言葉は、膝をついたシアンの姿に消える。
「司祭さ……」
擦れた声は消え、唇から聖水が零れる。ごぽりという音と共に、シアンは吐いた。吐瀉物が床を汚す。カラン、と聖水の瓶が床を叩いた。
癒やしを齎す筈の、聖水が。
成功🔵🔵🔴
効果1【友達催眠】がLV3になった!
効果2【アクティベイト】がLV3(最大)になった!
アイネリス・レナリィ
アドリブ絡み歓迎
では、行きましょう。
奇跡が存在するのか否か、自らの目で確かめる必要がありますから。
タイミングを見計らい、集まった者たちを連れ立って教会の中へ
聖水の効能が無い事を見せた上で、医者の不在や聖水でも治りにくい病気、寄付した者が選ばれる不自然さをもう一度指摘
ただ盲信するべきではないと説き
聖水がただの水であること、それが露見しないための工作ではないか?と問いかけてみましょう
これまでの疑念もありますし、自ずと答えは出る筈です
無事解決出来るようであれば、司祭には無用な寄付金の返却と人命を守るため、医者の招聘をお願いしておきましょう
ラヴィデ・ローズ
よしよし
騒動に乗じ貧民らと教会に雪崩れ込む
万一
教会側の者が彼らを害そうとしたものなら
腕を掴み阻止
素性がバレぬよう力は使わず荒事もしない
ただ、見つめる(殺気)のみ
まだ罪を重ね足りないのか?
とね
聖水タネ明かしは信じて任せ
教会内で希望者やジャックと探す
・行方不明者や暴行の痕跡
・教会関係者用の医薬品備蓄(物資の仲介してた為)
動かぬ証拠でダメ押しだ
なにより……まだ救える命があれば救いたい
演じぬ本心
薬は貧富の別なく
急を要する者から分配、医者来訪までの繋ぎに
ここで貧富に拘れば司祭と同じだぞ
皆、生きたいんだ
生きる権利がある
……わかってくれるね?
さて
後の沙汰はこの地に生きる者に任せよう
――気分がいいな、まったく
ブロス・ブラッドハート
司祭さん!疑ってる人たちの前で聖水を飲んで奇跡を見せてください
って村人さん達とお願いして、💀がついてる薬瓶(ただの水)をさっと渡してみよっかな~。にしし、なんだって思いかた考えかた一つってな♪
聖水が本物ならドラゴン信仰だってすげーけどさ、そーじゃないなら正直に言った方がいいぜ
あと落ち込んでる人とはちょこっとお話したいなぁ
聖水が嘘なら、この町の賑わいは聖水のおかげじゃなくって、ここに住むみんなの力なんだよな
大切に信じてたものが一つなくなっちったかもしれねーけど
ドラゴン様とか聖水がなくても自分達の足だけで立って生きてるって、もっと大切ですごいことなんじゃねーかなっておれは思うぜ
アドリブ・連携歓迎
●仮初めの奇跡
「な、君たち。今は彼女が聖水を……」
「司祭さ……」
開かれた大扉の向こうでは、娘が膝をついて崩れおちていた。
「なんで……彼女は、倒れて」
「聖水を頂いたんだろう。なのにどうして……、司祭様!」
「——ッわ、私は、これは……」
これは、と司祭が、先を紡ぐより先に、アイネリス・レナリィ(黒鉄の魔女・g01781)はカツン、と靴音を鳴らした。
「聖水の効能がないようですね。彼女は、苦しみ続けている」
否定の言葉は紡がない。ただ相手より先にアイネリスは事実を重ねて行く。
(「では、行きましょう。
奇跡が存在するのか否か、自らの目で確かめる必要がありますから」)
聖水を飲み、倒れているのは仲間のディアボロスだ。苦しそうに息を零す青い顔はまず健康な者には見えない。
「この教区には医者がいないまま、聖水はドラゴン様の加護を受けたものだというのに、治らない病があると司祭様も認めているなど」
ふいに水を向けられた司祭に、集まった人々の目が向く。反射的に足を引いた司祭が、唇を噛んだ。
「私がドラゴン様の恩寵を信じていないと? 彼女だって、まだ少ししか聖水に触れて……」
「触れてないのに、その状況ですか?」
「——それ、は」
「今回も偶然、寄付した者が聖水を得ることができたそうですね。こんな偶然が何度も続くものでしょうか」
私は、とアイネリスは言葉を切る。驚きと戸惑いの中にいる人々へと視線を向けた。
「ただ盲信するべきではありません」
「俺達は……」
「そう、その人の言う通りだ。何も考えずに言われるまま信じているだけじゃ俺達は変わらない。真実にも辿り着けずに死ぬだけだ」
戸惑う教区の人間に、言葉を続けたのはラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)と共に教会の前まで来た青年・ジャックであった。声を上げた彼に教会の助祭が苛立ったように声を上げた。
「不信者め!」
荒々しく踏み込んだ助祭の手が、ぐ、とジャックへと伸びる。だが、その手は届くことは無かった。
「——! 離……ッ」
ラヴィデが助祭の腕を掴んだのだ。離せ、と言おうとのだろう。だがラヴィデの視線に、見つめるその瞳に、気圧される。
「まだ罪を重ね足りないのか?」
「……ッ」
腰を抜かした助祭を置いてラヴィデはジャックと共に教会の奥へと向かった。あの分であれば、謎解きはアイネリス達がしてくれる。
「ジャック、教会を調べよう」
軽くアイネリスに目配せをすると、ラヴィデは貧民街から共に出てきた人々と共に礼拝堂の奥へと入った。
「待て、君、勝手に……!」
「司祭さん!」
にっこりと笑った少年——ブロス・ブラッドハート(竜孺子・g03342)であった。
「司祭さん! 疑ってる人たちの前で聖水を飲んで奇跡を見せてください」
これ、と子供らしい無邪気さと、聖水を、奇跡を信じるきらきらとした瞳でブロスは言った。
その手に、怪しい瓶を持ちながら。
●仮初めの奇跡
礼拝堂の奥は司祭や助祭たちの居住エリアとなっていた。図書館に、工房。ラヴィデ達が探していたのは「地下」に向かう為の道だった。
「前に盗みに入ったやつが、地上に出てくるまでって話をしてたんだ」
「それで、下に向かう道、か。確かに何かを隠すには良いだろうね」
そう言いながらラヴィデは辿りついた司祭の部屋を探る。
(「この信仰の仕掛け、司祭が託されているなら、決定的なものは自分の手元で管理するはずだな」)
特に一度、盗みに入られているのであれば尚更だ。
「……あぁ、ここだよ」
本棚の中、並べられた聖書のひとつを動かす。組み替えれば地下に続く階段が現れた。
「ジャック! ……だ、あいつが生きてる! 他の仲間達もだ!」
先に地下に降りたジャックの仲間達が告げる。手酷い暴行を受けたのだろう。ひどい傷だが、今のところは命に別状は無い。このまま地下に居続ければ危なかっただろうが。
「今なら、助けられる。せめて何か薬や薬草でもあれば……」
「それじゃぁ探してみないかい?」
ジャックの言葉にラヴィデはそう言った。聖水の加護が、偽りだということを司祭は知っている。その司祭が、教区毎に配られている物資の中に存在するだろう医療品を——この時代風に言えば薬草の類いを教会の外に出すとは思えなかった。
●黄金と砂と
ラヴィデがジャック達と共に教会内を捜索している頃、礼拝堂ではブロスが人々の視線を集めていた。司祭に差し出したのは髑髏マークがついた瓶——所謂毒薬だ。
「司祭さん!」
「わ、私は……」
たぷん、と差し出した瓶が、揺れる。
(「ま、中身はふつーの水なんだけどな。にしし、なんだって思いかた考えかた一つってな♪」)
聖水が数多の病と傷を治す、という既に崩れつつある。集まった人々を納得させるには、毒を飲むしか無いが——真実を知っている司祭は、飲むことができないだろう。
「聖水が本物ならドラゴン信仰だってすげーけどさ、そーじゃないなら正直に言った方がいいぜ」
「な、君……ッ何を言って……!」
じ、と真っ直ぐにブロスは司祭を見た。
「司祭さん」
「わ、私は……ちが、私は……ッ」
「一連ことは、聖水がただの水であること、それが露見しないための工作ではないでしょうか?」
アイネリスの言葉に司祭がひゅ、と息を飲む。反論の言葉が一拍遅れれば、集まった人々の中にあった疑念がひとつの形となって零れ落ちた。
「聖水は……ただの水なのか」
「癒やしの奇跡じゃなくて? だって、治った子だっていたのよ。嘘よ、そんな
……!?」
「嘘じゃ無い。嘘だったら、教会を否定した人々を閉じ込める必要も無かった。彼らは聖水で治らなかったことを知っていたんだよ」
カツン、と響く足音と共に姿を見せたのはラヴィデと彼が助けた人々だった。
「それと教会の隠し倉庫には『これ』があったよ。聖水が本物であれば、これは必要無いよねぇ」
「それ、は……?」
首を傾げる人々に「薬草だ」とジャックが告げた。
「薬だよ。医者だった叔父の所で見たことがある」
「なんで、それを……ッ君たちは、こ、こんなことが……!」
「——間違い無く、今が岐路だ」
静かにラヴィデは告げた。集めた薬はきっとこの教区の人々の役に立つ。何よりまだ救える命があれば救いたい。それは演じぬ本心であった。
(「彼らに手をかけさせるのも……」)
それを選ぶのであれば、その覚悟を容易く否というのは違うけれど。
「薬は、まだあるのかな」
「あなたの言葉次第です」
「司祭さん」
ラヴィデの問いに、アイネリスの言葉に、ブロスの視線に——人々の視線に、言葉に、司祭は観念するように言った。
「……、ある。鐘楼に。教区に届いたものだ。皆で使う分はある」
聖水は、と震える声が教会に落ちる。
「教会の湧き水だ。癒やしの奇跡じゃない」
「司祭様!」
「——、事実だ。事実なんだよ」
助祭の止めるような言葉に司祭は首を振った。全てを覚悟するように、顔を上げディアボロス達を、崩れおちたままの娘を、人々を見た。
「癒やしの奇跡では、ないんだ。あ、あれは綺麗な湧き水だ。何にでも使える。だから、後は——……」
「好きにしてくれって? アンタを殴ってやりたい気持ちはあるがな、ここで投げ出されて次のやつに1から説明しないといけなくなるのは面倒だ」
ジャックの言葉が静かに落ちる。奇跡は突然崩れた。裏切りへの怒りもあるが——ただそれだけになりきることができないのだろう。
生きて償うことを、人々は司祭に求めた。
「まずは、あなたには無用な寄付金を返却していただきましょう。それと人命を守るため、医者の招聘を」
「わ、分かった……!」
アイネリスの言葉に、司祭は頷く。薬の分配はラヴィデが手伝いを行っていた。医者来訪までの繋ぎになるだろう。
「ここで貧富に拘れば司祭と同じだぞ。皆、生きたいんだ」
「……ぁ」
貧民街の人々を良い目で見ていない者がいるのも分かっている。だからこそ、ラヴィデは告げた。
「生きる権利がある。……わかってくれるね?」
一方で、ブロスは落ち込んでいる人々に声をかけていた。今まで信じていた奇跡や信仰、多くものが崩れ去ったのだ。
「聖水が嘘なら、この町の賑わいは聖水のおかげじゃなくって、ここに住むみんなの力なんだよな」
「……え?」
驚いたように瞬いた瞳に、青年にブロスは笑顔を見せた。
「大切に信じてたものが一つなくなっちったかもしれねーけど、ドラゴン様とか聖水がなくても自分達の足だけで立って生きてるって、もっと大切ですごいことなんじゃねーかなっておれは思うぜ」
この教区は今日まで賑やかな町として生きてきたのだ。その賑わいも人も、嘘では無い。
「そうか……そっか。そうかもな」
青年がふ、と笑うようにして頷く。つられるように年嵩の男が笑った。教会は、まだ暫く何かと騒がしいままなのだろう。だがそれも、この地を生きる人々の選択の結果だ。
「――気分がいいな、まったく」
ひとり教会の外に先に出たラヴィデは呟く。人々の賑わいを背に見た教区は、最初とは大分印象を変えていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【熱波の支配者】LV2が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【命中アップ】がLV2になった!