リプレイ
ルキウス・ドゥラメンテ
戦地に立つのは久々だ
尤も、ここまで醜怪な敵は生前にもお目にかかったことはないが
…俺の主君が見たら卒倒しそうだ
あまり多数を相手取りたくはないな
愛馬に騎乗して疾駆
「こっちに異常ありだ」
わざわざ教えてやるなんて親切だろう?
挑発しながら駆け回って敵を撹乱し、分断を狙いたい
出来れば背面か側面に回り込み、機を見てパラドクス使用
刀も矢も受け付けない鎧か…羨ましいよ
俺の愛馬の蹄はどうかな
要は受け止めさせねば良いのだろう
エスカミーリョの蹄による貫通撃を狙い、重ねる様に剣を振り抜く
…嗚呼、まだ本調子には程遠いな
ミシェル・ラークリーズ
盟友の朔夜(g09155)と参加
最近盟友になった朔夜を三国志の世界に連れてきたよ。うん、ここは色んな国が勢力を持ってる。まあ、いきなりこんな敵を目の前にすると流石の朔夜も仰天するよね。僕も全く同じ気持ち。
とにかく頑丈みたいだから、【高速詠唱】で蛍雪の火を発動。なかなか倒れないらしいけど、【連撃】で何度も火を撃ち込み続ける。あ、焼いている最中にも攻撃はくるだろうから【残像】で致命傷は避けるね。
うん、とにかくこの世界は大量の兵士を投入してくるんだよね。やたらに連携取れてたり本当に厄介。あ、朔夜的には燃える場面なんだ。頼もしいなあ。これからも一緒に頑張って行こう。
九条・朔夜
盟友のミシェル(g03431)と参加
ここが古代中国の世界か。堅牢な砦、濃厚な戦場の匂い。うん、大変そうな事はすぐわかったぜ。この世界はこういう敵が一杯いるのか?朔夜も目を丸くしてるのを見ると変わった類みたいだ。
とても頑丈そうだな。とにかく攻撃を打ち込む必要がありそうだ。【高速詠唱】で攻性式結界を発動。敵群の動きを封じた上で式神達に攻撃させる。
なかなか倒れないそうなので攻撃してる間にも攻撃は来そうだな。【残像】で致命傷だけは避ける。
まあ、手強い敵軍だからこそ、情熱を持ってぶっ飛ばさないとな!!燃えるぜ!!ああ、未熟者のオレにはミシェルの存在がとても頼もしい。これから宜しく頼むぜ!!
喩・嘉
※連携アドリブ歓迎
こう、脚がワサワサとしていたり、やたらと細い感じなのも気持ち悪いが
お前らみたいな、どこかブニブニしている感じの蟲も気持ち悪いな……
さっさとやっつけよう
地形を利用して身を顰め、様子を観察
警備の藤甲熊兵が所定の場所までやってきたら、
羽扇を振るい「炎馬騎行」を使用。炎の体を持つ騎馬を召喚し
囲い込むように突撃させる
奇襲だ
一匹たりとも逃さず一網打尽にしてやれ
次から次へと敵はやってくるからな
手早く倒していくぞ
ソレイユ・クラーヴィア
連携アドリブ歓迎
警備部隊を林に引き込めば良いのですね
何か良い案を考えましょう
林に隠れ、敵の動きを観察します
程よい所におびき寄せたいですから
一部の者には見つかりそうな位置で、ついうっかり、を装いつつ
わざと姿を晒し、反転し林の影に隠れます
追いかけて来る者から順に攻撃して撃破していきましょう
宙に展開した鍵盤で「白の舞踏」を演奏
骨を鳴らして嗤う死神を喚び、地中へと引きずり込んで攻撃します
仲間の囲い込み攻撃に合わせて泥濘の地も発動し
攻撃対象を揃えて一気に畳み掛けられれば僥倖
出来るだけ速攻を意識して、一体ずつ確実に仕留めていきましょう
さて、蜂の巣は突きました
蜂狩りと行きましょうか
守都・幸児
※連携アドリブ歓迎
うお…でかいな
あとなんかぶにぶにしてる
あいつらと真正面からやり合うのは文字通り骨が折れそうだ
俺が使う技は「暗」
紙符の式をくらげの姿に変えて
警備兵の前をふよふよ飛ばし、敵の注意を引くぞ
パラドクスの効果で周囲もちょいと薄暗くなるはずだ
そのまま視界の悪い林の中に誘導して
誘い込んだところでくらげの式をぶわっと敵の顔面に覆い被せて攻撃だ
敵は強靭な鎧と生命力が自慢みてえだが
こうやって包み締め付けられるのはどうだ
暴れてもくらげの触手は離れやしねえぞ
連中よりもっと柔らかくて手応えもねえからなあ
そうやって敵を一体ずつ分断させて孤立させ
皆と連携しながら各個撃破する
さあ、敵の守りに穴を開けてやろう
伏見・萬
(連携アドリブ歓迎・残留効果はできるだけ活用)
こいつはまた、喰い応えのありそうなデカブツだなァ
周囲の仲間と声を掛け合い連携・情報共有
「偵察に来たがひとまず撤退」という風を装い
姿を隠したりわざと見せたりしながら敵を林に誘導し仕留める
多めに釣れたら、連携されねぇように動き回るぜ
あんなデカブツにみっちり並んで迫られるのとか、好みじゃねェしな
【追跡不能の捕食者】で攻撃
鎧が丈夫ったって、隙間や継ぎ目はあるだろう。なければ口にでもぶち込んでやる
小さな傷でも負わせれば、そこから呪詛を流し込んで内側から喰らう、そういう技だ
倒せそうな敵から確実に手早く落とす、を目標に
自分の負傷は然程気にせず、敵の殲滅を優先
●誘引
「戦地に立つのは久々だ。尤も、ああまで醜怪な敵は生前にもお目にかかったことはないが」
青鹿毛の無双馬(エスカミーリョ)に騎乗するのは、銀髪を風にそよがせる騎士――ルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)だ。研ぎ澄まされた刃のように鋭いその眼光が射抜くのは、隊伍を組んで警備に当たっている藤甲熊兵の群れである。
その醜さたるや――。
「……俺の主君が見たら卒倒しそうだ」
見るものに生理的嫌悪感を与えるであろう蟲将の姿から、主君に思いを馳せたのも束の間。ルキウスは群れをなす敵に、敢えて声を放った。
「こっちに異常ありだ」
「なにっ!」
「ぶぐぅ! 如何にも怪しいやつ!」
「かかれ、叩き潰すのだ!」
――わざわざ教えてやるなんて親切だろう?
ルキウスは馬上で口角を上げた。
敵は数の上で、こちらより勝っている。
出来れば側面や背面から仕掛けたいが、平地で単騎ともなれば、そう簡単ではない。
故に藤甲熊兵が攻め寄せてくる直前、ルキウスは馬首を返し、エスカミーリョの腹を軽く蹴って疾駆させていた。速度を上げながら林に飛び込み、襲歩で木々の間を駆け抜けていく。
敵と見れば本能的に追いかける――少なくとも今回の藤甲熊兵はその通りだった。
「ひとまず上手く行ったか」
ディアボロスたちが待ち構える地点に向けて、ルキウスはエスカミーリョを駆けさせる。
あとは分断し、人馬一体のパラドクスにより仕留めるだけだ。
●迎撃
「ここが古代中国の世界か」
乾いた冬の風が常緑樹の葉を擦らせ、少年の黒い短髪をさやさやと揺らして去っていく。
林の中である。
大戦乱群蟲三国志の空気を吸い込んだ九条・朔夜(赫灼のスフィーダ・g09155)は、木々の間に見える彼方の虎牢関要塞を見ていた。
「うん、大変そうな事はすぐわかったぜ」
あれほどの大要塞を攻めるのは、ディアボロスでも簡単ではない。こつこつと準備を重ねて、ようやく勝利を掴むことができるのだろう。だからこそ、この戦いが重要なのだ。
と、朔夜の瞳が次に映したのは、無双馬を駆るルキウスと、それを追ってくる不気味なクロノヴェーダたちの姿だった。
蟲将――藤甲熊兵である。
「この世界はああいう敵が一杯いるのか?」
盾や鎧を装備した蟲将は、ぶよぶよしていて、ちょっと動きにくそうである。幾つかある太った腕の一つに、冗談のように小さい斧を手にしていた。いや、巨体との対比で、小さく見えるのだろう。
「とにかくこの世界は大量の兵士を投入してくるんだよね。やたらに連携取れてたり、本当に厄介」
人間を使って、恐ろしい方法で増殖するのが蟲将である。最近盟友になったという朔夜の疑問に、ミシェル・ラークリーズ(彩光のグレイス・g03431)は答えていた。
「まあ、いきなりあんな敵を目の前にすると流石の朔夜も仰天するよね。僕も全く同じ気持ち」
口元を押さえるようにして、ふわりと笑う。
数多の戦場を駆け抜けてきたミシェルだが、その瞳にも、藤甲熊兵の姿は格別に奇妙に映っていた。
如何にも重そうな体をしているが、そうした外見が戦闘に悪影響を与えないことは承知している。
油断は禁物――思い、小さく頷いたミシェルは朔夜と連携して攻撃を開始した。
「ぶぐう! こっちにもいたぞ!」
藤甲熊兵たちが突進してくるのを見て、朔夜はミシェルと呼吸を合わせる。
「頑丈そうだな。とにかく攻撃を打ち込む必要がありそうだ」
なかなかの数だ。混乱させるに越したことはない。
「ぶぎ、なんだこれは!?」
「我らの邪魔をするか!」
数体の蟲将たちが、攻性式神結界に閉じ込められて左右を見回した。だが朔夜に反撃するより先に、結界内を飛び回る式神の猛攻を受けて防御を余儀なくされる。
「ぐむ、これでも喰らえい!」
攻撃を耐えきった蟲将たちが、手斧で朔夜に襲いかかってきた。
「そう簡単に当たるかっ!」
残像を生じさせつつ動き回り、致命傷を避けていく朔夜。
「……っ、丈夫なのは確かだな。なかなか倒れそうにない」
結界内を飛ぶように駆け回る式神を、藤甲熊兵は盾で防いでいたのだ。ダメージは通っているが、まだ倒れる様子はない。
「とにかく頑丈みたいだから、鎧ごと燃やしてみようか」
言ってミシェルが発動したのは、蛍雪の火――鮮やかな蛍火がミシェルの周囲に浮かび上がったかと思うと、手を伸ばした動きに呼応して、さながら火矢のように藤甲熊兵に殺到した。
「ぶぐっ!?」
「なんだこれは!?」
「火、火だ!」
その肥大しきった体を護る藤甲が、蛍火の直撃を受けてたちまち燃え上がった。派手に火だるまと化す藤甲熊兵たち。
「ぶぐぐぐぐ! やってくれたなぁ!」
「押しつぶしてくれるぞ!」
だが案の定、恐るべき蟲将たちは、火に巻かれながらも突っ込んできた。
「やっぱり来たね。流石に火にも強いみたいだ」
ミシェルが反撃を予期していない筈はない。
振り回される盾の一撃に吹っ飛ばされたが、インパクトの直前に飛び退いていたのだろう。大したダメージではない。
「ミシェル!」
「このくらい大丈夫」
問題ないとミシェルは言い、朔夜は安堵すると共に気合を入れ直した。
「手強い敵軍だからこそ、情熱を持ってぶっ飛ばさないとな!! 燃えるぜ!!」
「む、無念……」
炎に巻かれた藤甲熊兵たちが、仕留められなかったことを嘆きながら息絶える。
「朔夜的には燃える場面なんだ。頼もしいなあ」
「ぶぐぅ……圧されているだと!?」
数で勝る藤甲熊兵も、連携する二人のディアボロスに次第に圧倒されていった。
結界が展開し、式神が飛び、蛍火が鮮やかに敵を燃え上がらせ――そうして周囲にいた最後の蟲将が倒れる。
「これからも一緒に頑張って行こう」
戦いを終え、同い年の盟友にミシェルは言った。
晴れ晴れした朔夜の笑顔が返ってくる。
「ああ、未熟者のオレにはミシェルの存在がとても頼もしい。これから宜しく頼むぜ!!」
●偽退計
「警備部隊を林に引き込めば良いのですね」
何か良い案を考えましょう――そう言って仲間と共に一計を案じたソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)は、木々の間に立ち、敵の動向を注視していた。
分断された敵が突っ込んでくる。
「このあたりにおびき寄せることが出来れば……」
「ぐぶう! 見つけたぞ!」
「一体何人いるというのだ!」
「ぶぐぐ! こうなれば一人ずつ仕留めるぞ!」
当初一つに纏まっていた藤甲熊兵たちは、いつの間にか分断され、複数体が混乱しつつもソレイユめがけ突進してきた。
「――と、見つかってしまいましたか」
肥大した体を揺すって突っ込んでくる蟲将ども。
敢えて敵の進行方向に出て発見された振りをしたソレイユは、即座に木の影にその身を滑り込ませた。
すっかり翻弄されてしまっていた藤甲熊兵たちが次に見たのは、腰を落として睨む伏見・萬(錆びた鉄格子・g07071)の姿だ。
「こいつはまた、喰い応えのありそうなデカブツだなァ」
「ぬぅっ! またしても!」
「ぶぐ! 捨て置けぬ、押しつぶせ!」
「来いよ。追いつけるモンならなァ」
萬は挑発すると踵を返し、葉擦れの音を鳴らしながら林を駆ける。ソレイユと共に、蟲将の前に敢えて姿を現して、誘導する作戦だった。
藤甲熊兵たちがその重たげな体からは信じられない速さで、萬を狙って突進してくる。
偵察に出たが、見つかってしまい撤退する――ソレイユや萬のそれは、言わば偽退計であり、この先に待つ喩・嘉(瑞鳳・g01517)であれば、それが如何に難しいことかを知っているはずだ。
もし捕まりでもしたら大変である。
(「あんなデカブツにみっちり囲まれるのとか、好みじゃねェしな」)
林を駆ける萬の俊敏さは、流石のものだった。
敵を引き付け、頃合いを見計らい――パラドクスを発動する。
闇色をした呪詛の靄が萬の体を包み込み、姿と気配を隠した。
「見失っただと!」
「ぶぐ! そんなはずがあるものか! 探せ、探せい!」
言いざま、ぶすりと、ぶよぶよした蟲将の肉にナイフが突き刺さった。
――鎧が丈夫ったって、隙間や継ぎ目はあるだろう。
「……!?」
ナイフを突き立てられた藤甲熊兵が、傷口から侵食してくる靄に内側から破壊されたようにびくりと震え、そのまま倒れて痙攣を始める。すぐに動かなくなった。
死角からの攻撃、それも分断され動揺しているとなれば、さしもの盾も藤甲鎧も効果がなかった。
「ええい、潰せ、押し潰――ぐぎぇぇぇぇッ!」
盾を振り回す蟲将の口にもナイフが突き立つ。
「僅かでも傷を入れられりゃそれで充分だ。確実に手早く行くか」
萬に翻弄され、次々に蟲将たちが仕留められていく。
●各個撃破
「ぶぎぃ! 気をつけろ! 敵は一人や二人ではないぞ!」
「ぐぶぶぶ! ならば一人残らず潰してくれる!」
藤甲熊兵たちが、醜い声を発しながら林を駆けていた。
それを目にして整った眉をひそめたのは、喩嘉である。
事前に林の中に身を潜め、様子を窺っていたのだ。敵軍を計略に陥れるには、入念な準備と観察が必要である。
仲間を信じて待っていると、ソレイユが敵をこちらに誘導してきた。
「今のところ順調ですね」
「ああ。それにしても、ここまで上手くやってのけるとはな」
「……しかしでかいなぁ。あとなんかぶにぶにしてる」
隣で同じく待機していた守都・幸児(祥雲・g03876)は、藤甲熊兵たちが突っ込んでくるのを見てそんな感想を口にしていた。生理的嫌悪感という点でそれはもう色々なパターンがある蟲将だが、突撃してくる藤甲熊兵たちもそれはそれで――なんというか、喩嘉が苦手そうである。
「こう、脚がワサワサとしていたり、やたらと細い感じなのも気持ち悪いが」
ちらと見れば本当に嫌そうな顔をしていた。
敵がどすどすと地を踏みしめてやってくるのを見て、喩嘉はため息を一つ。
「あいつらみたいな、どこかブニブニしている感じの蟲も気持ち悪いな……」
「それに真正面からやり合うのは骨が折れそうだ」
ぶよぶよした体は、鉄骨とかでぶん殴ってもその衝撃を吸収してしまいそうだ。
だから突進してくる藤甲熊兵を、幸児は別の方法で迎え撃つこととした。
――暗げ、揺らげ、ゆらゆらと。
握りしめた紙符をばさりと投げると、それらがふわりと舞い、符は瞬く間に海月(クラゲ)に変じた。その身から滲んだ暗気は墨で空間を染め上げるように闇を広げていき――海月はゆらりゆらりと暗闇を泳ぐ。
突っ込んできた藤甲熊兵たちは突然の闇に阻まれた。
「ぐぶぅ!?」
「ぶはぁ!? な、なんだこれは!?」
「こうやって包み締め付けられるのはどうだ? これじゃ自慢の鎧も生命力もアテにないだろ」
「みぎぃ!?」
「ぎゃっ!?」
ぐさり、ぐさりと。
クラゲの触手から飛び出した毒針がぶよぶよした藤甲熊兵たちの体に突き刺さる。
「暴れてもくらげの触手は離れやしねえぞ。お前たちよりもっと柔らかくて手応えもねえからなあ」
大きな体を震わせて、ドウと倒れ込む藤甲熊兵たち。後は断末魔の痙攣を残すのみで、幸児への反撃は遂に出来なかった。
「さあ、この調子で敵の守りに穴を開けてやろうぜ」
「ぶぐぐ! 我々を侮るな!」
「……鳴き声なのか、それは」
さらっと突っ込みを入れつつ喩嘉が羽扇を振るう。その動きに合わせて、炎の体を持つ駿馬が次々に召喚され、ゴウと藤甲熊兵どもに攻めかかった。
木々で騎馬の動きが阻害されるなどというのはこの場合、当てはまらない。延焼を案ずる必要もなく、巧みな用兵術で指揮された炎の騎馬たちは藤甲熊兵を瞬く間に取り囲んでしまう。
「一匹たりとも逃さず一網打尽にしてやれ」
「ひっ……!」
「ぎえぇぇぇ!?」
炎の駿馬の突撃を受けた蟲将どもが、その鎧を燃え上がらせて悲鳴を上げた。
だが恐るべき藤甲熊兵、火だるまになりながらも喩嘉をその盾で潰そうと跳躍してきた。
「寄るな、気持ち悪い」
めちゃくちゃ辛辣な言葉を口にして避ける喩嘉。翻弄された藤甲熊兵は、流石に狙いが定まらなかったと見える。
「次から次へと敵はやってくるからな。手早く倒していくぞ」
炎の体を持つ駿馬たちに藤甲熊兵を追い込ませ、喩嘉が言った。
「ど、どうなっているのだ!」
林の中で見事に部隊を裂かれてしまった藤甲熊兵は明らかに慌てふためいていた。
「お前たちは分断されてるんだよ」
各所で撃破され、統制を失った蟲将たちにここぞと襲いかかったのは、後背を取ったルキウスだ。
「ぶぎぃ! 後ろから!?」
「む、迎え撃て!」
「刀も矢も受け付けない鎧か……羨ましいよ。俺の愛馬の蹄はどうかな」
凄まじき戦騎疾駆。
敵群に突っ込み、吹き飛ばし、倒れたものを踏みつけて。
ルキウスの振るった剣――黒き茨纏う剣が閃く。
「ぶぎぃ!?」
醜い声を発して息絶えていく蟲将たち。
「さて、残りは任せるしかないか」
周囲の藤甲熊兵を倒してしまうと、手綱を握りながら、ルキウスは吐息した。
「……嗚呼、まだ本調子には程遠いな」
「ぶぎ
……!?」
藤甲熊兵の太い足が、泥濘と化した地に沈み込む。
そして次の瞬間、その肥大した体を包み込んだのは、一定のテンポを持つワルツであった。
木を背にしたソレイユが宙に展開した鍵盤で奏でるのは、幻想独奏曲「白の舞踏」(ダンス・マカブル)。
「なっ!」
「なんだ……?」
「ぶぐ、何かいるぞ
……!?」
木から木へと飛び移る影は、ソレイユ――ではない。
カタリ、カタカタカタカタ!
流石の藤甲熊兵たちも、これには酷く狼狽えた。
円を描くように舞っていたのは、骨を鳴らして嗤う死神だったのだ……!
「ど、何処に……!」
見失った――そう思った直後、死神が、泥濘の地から顔を出して藤甲熊兵を地の底へと引きずり込む。
「ひっ
……!?」
おどろおどろしいワルツに合わせて、地獄のような情景が立ち現れたかと思うと、蟲将たちの命を呑み込んで消えた。
最後の一音を奏でたソレイユが、一息。
「さて、蜂の巣は突きました。蜂狩りと行きましょうか」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【スーパーGPS】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【寒冷適応】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV2が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
●白波将、進軍
「この林にいるはずだ! 野郎ども、探せ! 探して皆殺しにしろ!」
大勢の黄巾党残党を率いた白波将・楊奉が、荒々しく声を上げた。
ディアボロスがそこらに潜んでいるかも知れないのに、大声を出してしまうあたり、余り知恵が回るタイプではないかも知れない。
「……ったく、しゃーねぇなぁ」
ついていく黄巾党残党も苦労しているようで、そんな風にボヤいていた。
しかし蟲将の数は、全滅した藤甲熊兵を上回るもの。
白波将率いる軍勢が、ディアボロスたちを捻り潰さんと攻め寄せる。
ルキウス・ドゥラメンテ
随分と賑やかだな
軽率な上司を持つ部下というのは気の毒だ
引き続き愛馬に騎乗
パラドクスを使用しては退く一撃離脱の繰り返し
吹き飛ばした敵が他の行く手を妨げる位置となる様に図ったり、地形や木々等の遮蔽物も利用して立ち回る
白兵相手に騎乗の非礼は詫びておこう
加えてあちらは残留効果で足元も悪いと見た
しかし残念ながら正々堂々戦える程今の俺には余裕がなくてな
お前たちの信念は聞き届けるが、それだけだ
【活性治癒】の恩恵も無論遺憾なく借りるとも
俺が怪我をすると泣いてしまう女がいるのでね
戦局には注意を払って、撤退の機は見誤らない
だが、それまでは存分に付き合ってやろうとも
喩・嘉
※アドリブ、連携歓迎
わさわさと集まってきたな
敵がいるとわかっている見通しの悪い場所に自ら大群で乗り組んでくるとは
倒してくれと言っているようなもの
愚かの極みだ
戦場を生かす罠を張ってやろうか
林の中に極細の糸を張り巡らせ「斬糸結界」を使用
敵を待ち構え、糸に触れた敵を切り裂いていく
ついでに
【トラップ生成】で糸に鈴をつけたものも周囲に展開し
仲間が敵の接近を音で感知できるようにしておく
蜘蛛の巣を利用するのは蜘蛛だけではないということだ
ソレイユ・クラーヴィア
連携アドリブ歓迎
出てきたのは、蜂ではなく蝗でしたか
数で獲物を狩るタイプの様ですね…
数を誇る相手に正面から当たるのはジリ貧となりかねませんから
どうにかして分散撃破していきたい所です
敵から発見されるまでは光学迷彩で林の影に隠れ
仲間の攻撃開始か、罠にかかった動きがあれば
時を同じく奇襲をかけ混乱と分散を狙います
宙に展開した鍵盤で「月虹」を演奏
月の化身を喚び、敵軍勢から逸れたもの、もしくは仲間が攻撃したものを優先的に攻撃し、戦力を確実に削っていきます
反撃の羽音は耳が良い分、少々きついものがありますね…
自分の演奏に意識を集中して何とか乗り切ります
私が言うのも妙な話ですが
上司があれでは、部下も大変ですね…
守都・幸児
※アドリブ、連携歓迎
おー、たくさん来たなあ
だが、動きにくい林の中に無闇やたらと突っ込んで来るもんじゃねえぞ
俺の使う技は「執」
紙符の式を鳥の群れに変えて敵を襲わせる
木々の中を飛び回ることに長けた鳥がいい
連中は樹木に動きを阻害されるが
鳥は軽々すり抜けるぞ
敵軍の号令の声を囀りでかき消して、イナゴ出す技使われたら啄んでやれ
俺自身は樹木の陰に隠れて式を放ちながら駆け回り
敵群を分断させたり
喩嘉の設置した罠に誘導したりするぞ
にしても
敵兵の技も敵指揮官の声もずいぶん騒がしい
戦場にしちまったこの林に本当に住んでる獣や鳥にはちょいと申し訳ねえぞ
ごめんな、あと少しで終わらせるからよ
さあ、とっとと片付けちまうとするか
伏見・萬
(連携アドリブ歓迎・残留効果はできるだけ活用)
おう、出てきやがったなァ
林の中で敵を迎え撃つ
仲間との連携を重視。敵と戦況の情報は、可能な限り仲間と共有
見通しの悪い場所、罠に不意打ち狙い撃ち…嫌いじゃねェぜ
奴らは随分騒がしい、声や音に紛れて動こう
まるで獣の狩りだなァ。存分に喰わせて貰おうか
仲間が張った罠は、敵の位置把握に活用させて貰う
うっかり自分がかからないように注意する
【光学迷彩】で身を隠し、【完全視界】で視界を確保して
敵を分断・撹乱し、【捕食者の追跡】で攻撃
得物はナイフと鋼糸メインで、なるべく音を立てずに確実に仕留めていく
あっちが怖がったり慌てたりしてくれりゃァ、更にやりやすい
ミシェル・ラークリーズ
盟友の朔夜(g09155)と参加
残留効果活用
朔夜が苦笑いしてるよ。戦闘集団で軍師していて今も現役の朔夜には死地に配下を突っ込ませる大将は思わず苦笑いだろうね。でも油断する余地はない。
【光学迷彩】で姿を隠し、【観察】で敵の動きを見る。朔夜の情報収集の力も借りて集まってきた所に【高速詠唱】でアヌビスウィスプ!!ジャッカルに一杯食べて貰うよ。
敵は大群で押し寄せてくるから反撃は【残像】の急所外しと【結界術】の防御壁で倒れないようにするね。
朔夜、軍勢の勢いに呑まれたりしてない?まあ、心配は無用だったね。最後の大将を倒せば今回の任務は終わりだよ。気を引き締めて行こう。
九条・朔夜
相棒のミシェル(g03431)と参加
残留効果活用
敵の軍勢や戦場の様子も把握せず配下を突っ込ませる大将の下にいる配下がむしろ哀れに思うな。でも軍勢の恐ろしさは良くわかったので手を抜く理由は皆無だ。
【光学迷彩】で姿を隠し、朔夜の傍で【戦闘知識】【観察】【情報収集】で敵軍の動きを観察。敵が仕込んだトラップに引っ掛り、纏めて攻撃できる状況になったら朔夜に合図して一緒に鮮烈の刃!!仕損じないようにしっかり狙うぜ。
纏まって勢いのある軍勢の攻撃力は侮れないからな。反撃に備えて【残像】の急所外しと【結界術】の防御壁と防御の備えは万全に。
杏・紅花
アドリブ、連携歓迎っ
飛んで火に入る夏の虫〜ってやつだねえ
林や森には何がいるか分からないのに
平気で入ってこれるのは、ちょっとすごいかも?
あたしも林に潜んで【光学迷彩】で景色に紛れる
あえて敵が林へ入り込むのを待ってから、後ろから一匹ずつ襲ってくぞお
敵将のでっかい声も、あたしには好都合
お口を塞いでさっくりさようなら!
んーふふ
静かに数が減ってくのって、新宿島で見たホラー映画ってやつみたい!
仲間の攻撃も始まればあとは地の利を活かして、「綾の綻」で敵の視界を惑わせながら鉤爪で切り裂いていく
●迎撃態勢
「わさわさと集まってきたな」
林の中で、喩・嘉(瑞鳳・g01517)を始めとするディアボロスたちが黄巾党残党の大群を待ち受けていた。
「出てきたのは蜂ではなく蝗でしたか。数で獲物を狩るタイプの様ですね」
突撃してくる黄巾党残党の鬨の声を、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が耳にして言う。
騒がしく突き進んでくる敵軍の有様は、まさに雲霞の如く押し寄せて穀物を食い荒らす飛蝗を思わせるものだった。
「飛んで火に入る夏の虫〜ってやつだねえ」
戦いが起こる前の、ほんの僅かの間である。
話し合うディアボロスたちに混ざって、杏・紅花(金蚕蠱・g00365)がふわりと歌うように言った。今は冬だとか(無粋な)突っ込みを入れる者は流石にいない。まさにこの状況にぴったりのことわざである。
「林や森には何がいるか分からないのに、平気で入ってこれるなんて。ちょっとすごいかも?」
喩嘉やソレイユの言葉にうんうんと頷いていた紅花は、小首を傾げて疑問符を浮かべた。
「確かに、その着眼点は面白いな」
少し笑みを含みながら喩嘉が言い、ソレイユも小さく頷いていた。
如何に勇猛な将軍に指揮されているとは言え、こう一致団結して突撃してくるあたり――或いは、残党たちは文句を言いつつも、白波将たる楊奉を信頼しているのかも知れない。だとしても駄目な組織に酷使されているみたいではあるが……。
「数を誇る相手に正面から当たるのは、ジリ貧となりかねません。どうにかして分散撃破していきたい所ですね」
奇策を弄してくるような相手ではなさそうが、まともにぶつかり合えば、予期せぬ痛手を負いかねない。
「ああ、俺もそう考えていた」
ソレイユの言葉に、喩嘉が頷く。
そのすぐ隣で、もうひとりの優れた軍師――九条・朔夜(赫灼のスフィーダ・g09155)が、同じく進軍してくる蟲将たちに注意を払っていた。
「こっちの戦力や戦場の様子も把握せず配下を突っ込ませるか……」
黄巾党残党は文字通り猪突猛進しているようだ。
「笑っちゃうよね」
ミシェル・ラークリーズ(彩光のグレイス・g03431)が、朔夜の様子を横目にくすりと笑った。戦闘集団で軍師をしていたと言う朔夜は、神算鬼謀の限りを尽くして戦いを勝利に導く者。突き進んでくる蟲将がどれほどの数を誇ろうとも、それに呑み込まれるような朔夜でも、またミシェルでもない。
「もう少しこう、部隊の動かし方もあるだろうにな」
何か他に思惑があるのだろうかと勘繰りたくなるほどの、敵の猪突猛進振りである。朔夜にも、白波将が黄巾党残党の数と突破力に物を言わせていることがよく分かった。
「私が言うのも妙な話ですが、上司があれでは、部下も大変ですね……」
呆れたような、憐れむような声でソレイユが言うと、朔夜もぽつりと呟いた。
「纏まって勢いのある軍勢の攻撃力は確かに侮れないが、これじゃあな……大将の下にいる配下がむしろ哀れだ」
「油断する余地はないけど、本当にそうだよね」
朔夜の言葉にミシェルは同意を示す。
木々の間を蝗害さながらに押し寄せてくる蝗型蟲将の突破力は、決して馬鹿にできないものがある。戦いは数。そうした側面も、確かにあるだろう。
けれど数を覆すのが、策なのだ。
「紅花の言う通り、敵がいるとわかっている林だ。それも見通しの悪い場所に自ら大群で乗り組んでくるとは、倒してくれと言っているようなもの。つまりは――」
白波将の指揮を看破して、喩嘉は断じた。
「愚かの極みだ」
●正面、側面、そして背後から
「やってきたねえ。ぜんぜん気付かれてないみたい」
早速散開し、光学迷彩で林の景色に紛れた紅花は、早くも攻撃の機を窺っていた。既に林のあちこちにディアボロスが散っており、仕掛け方によっては、敵に大きな混乱を与えることができると思われた。
(「よおし、いっくぞー」)
黄巾党残党軍が通り過ぎるのを待ち、音もなく飛び出して後方から襲いかかる!
「!」
蟲将が不意に、背後から口を塞がれた。
振り返ることも出来ないまま、妖美に笑んだ紅花の切裂花――その鋭い爪に斬り裂かれて物言わず息絶える。
瞬間、信者の蝗が草陰から飛び出して紅花を瞬く間に喰らい尽くした。
否。
違う。
それは絹糸を瞬間的に紡いだ、偽物に過ぎない――!
「なんだ、どうした
……!?」
「何処から
……!?」
(「んーふふ。静かに数が減ってくのって、新宿島で見たホラー映画ってやつみたい!」)
再び木の影に身を隠した紅花が、袖で口元を覆うようにして悪戯っぽく笑う。
「突き進め!」
「見つけ次第殺せ!」
先頭を行く黄巾党残党は、未だ紅花の襲撃には気付かず、鬨の声を響かせて林の中を突き進んでいた。
猛将の下に弱卒なしとの言葉通り、楊奉の勇猛さと苛烈さが、部下の蟲将たちの士気を高めているのだろう。けれど将たる者の短慮さもまた、悪しき影響を与えているとなれば――これは少々哀れである。
「随分と賑やかだな。軽率な上司を持つ部下というのは気の毒だ」
林の中を進撃してくる大勢の蟲将。
それを、愛馬エスカミーリョに騎乗したルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)が待ち構えていた。
眼光鋭く、それでいて自信に満ちた表情は、敵から見れば酷薄そうにさえ映るかも知れない。実のところ、いまルキウスは憫笑していた。ディアボロスが待ち受ける死地に敢えて総出で突撃する蟲将は、まるで使い捨ての手駒のようだ――。
「ひと当てしてみるか」
エスカミーリョが、主人の言葉に呼応して駆け始めた。
速度を上げるにつれ、左右の木々が恐ろしい勢いで後ろへ流れていく。
「おー、たくさん来たなあ」
大声をあげながら林の中を進軍してくる黄巾党残党――そのある種の壮観に、守都・幸児(祥雲・g03876)は感嘆めいた声を口にしていた。虎牢関から出動してきた軍勢だけあり、その勢いは、恐ろしいものがある。個々の力はそれほどでもないが――殲滅の為に必要な戦力は、アヴァタール級の討伐にさえ匹敵しよう。それほどの数だった。
「だが、動きにくい林の中だ。無闇やたらと突っ込んで来るもんじゃねえぞ」
先の戦いで見事な勝利を収めたこともあって、位置取りは、初手からディアボロスたちが有利だった。
後はその優勢を如何に活かすか、である。
連携ということを幸児は考えて動き、既に黄巾党残党の側面から攻撃を仕掛けようとしていた。
優秀な軍師が罠を張り巡らしているのだ。
そこに大軍を追い込んで殲滅するなど、如何にも三国志の世界らしいではないか。
――鳥の手執りて、獲ってこい。
幸児が放った紙符の式が、ばさばさと舞い上がり、見事に群れをなした。
「こいつらなら自在に動き回れるはずだ」
それらがまるで本物の鳥のように木々の中を翔け、そして急降下をかけて黄巾党残党軍を側面から突いた。それが出来るタイミングで、幸児は仕掛けたのである。
「な、なんだこれは……!」
「チッ、迎え撃て!」
「あいつらには木が邪魔だろうが、鳥は軽々すり抜けるぞ」
「黄天當立! 信徒ども、襲撃者を屠れ!」
パラドクスにより信徒の蝗が召喚され、幸児を追いかけてくる。だが一つところに留まっている筈もなく、幸児は軍勢を掻き乱して死地へと追い込もうと林地を走っていた。
「いたぞ!」
「おいおい、こっちに突っ込んでくるじゃねえか!」
「黄天當立! 我々の正義を証明してやれ!」
幸児が仕掛けるのに合わせて、ルキウスは蟲将の軍勢の正面に突撃をかけていた。
共にこの戦場で戦うディアボロスがもたらした残留効果で、黄巾党残党の足元は泥でぬかるんでいる。意気高く槍を掲げたは良いが――愛馬を駆って猛烈な勢いで突っ込んでくる騎士を、どうして止められようか。
「白兵相手に騎乗の非礼は詫びておこう」
まだ本調子ではない。思いながら愛馬を駆けさせる。
(「残念ながら正々堂々戦える程、今の俺には余裕がなくてな」)
横倒しの倒木があった。
嘶いたエスカミーリョが、ルキウスを乗せて跳んだ。
「おいおい……こいつぁ……」
見上げた黄巾党残党が逃げることもできずに立ち尽くす。
次の瞬間、天地を鳴動させるような一撃が蟲将どもを纏めて吹き飛ばした。
「やれ! 囲め!」
「数で攻めろ!」
瞬く間に取り囲んで槍による刺突を仕掛けてくる蟲将たち。その一撃一撃を、黒き茨纏う剣で切り払って受傷を最小限に留める。奮闘しながら少しも冷静さを失わずに、ルキウスはエスカミーリョを疾駆させた。
「なにやってんだ! おめぇらの力はそんなもんじゃねぇだろうが!」
遠くから白波将・楊奉の督戦する声が聞こえる。
もしこれが開けた平地のぶつかり合いであったならば、蟲将の軍勢は恐るべき力を示したに違いあるまい。
けれど――その手に乗るディアボロスたちではなかったのだ。
「騒がしいな。敵兵の技も指揮官の声も」
林を部隊にした戦いは今のところ優勢だったが、鳥を始め周囲の動物たちが怯えているのが山育ちの幸児にはよく分かり、申し訳ない気持ちになっていた。手早く片付けて、ここでの戦いを終わらせたいところだ。
「ごめんな、あと少しで終わらせるからよ」
「どうやら上手く行ったらしいな」
幸児が側撃し、紅花が後方から脅かして。
ルキウスは敵軍に打撃を加え、退き、味方とも連携して敵軍を林の奥深くにまで引き寄せていった。
活性治癒の効果も活かしつつ、馬上のルキウスは一息つく。
もうひと押ししようという思いが頭をかすめたが、振り払った。
決して無茶はしない。そう、決めている。
過酷な戦いに我が身を晒そうとも――愛する女を泣かせるわけにはいかないのだ。
●混乱の坩堝
「くそっ! 進め、足を止めるんじゃあねえ!」
「おう、出てきやがったなァ」
灌木に潜んで鋭く敵軍を見据えつつ伏見・萬(錆びた鉄格子・g07071)が言った。大量の獲物が一度に狩り場へと踏み入ってきた――状況としてはそれに近い。先程の藤甲熊兵たちとはまた別の意味で『喰い甲斐』のありそうな軍勢だ。
「見通しの悪い場所、罠に不意打ち狙い撃ち……嫌いじゃねェぜ」
「進め、進みながら態勢を立て直せ!」
「皆殺しにすりゃそれで終わりだ!」
指揮する蟲将の影響か、凄まじい勢いで突き進んでくる黄巾党残党。潜んでいる敵を恐れさせようというのか、大声を発し、喚きながら進撃するその様子からは、しかし――確かな混乱が見て取れた。
「随分騒がしい奴らだ」
蟲将どものやり方は、やはり下策だった。既に四方八方からその命を狙われ、死地へと誘導されつつあるのだ。
敵があの調子では、音や気配に気付かれることもないだろう。
恐れ、乱れ始めている――。
「まるで獣の狩りだなァ。存分に喰わせて貰おうか」
この状況下で隠れ潜めば、光学迷彩の効果は十分に発揮され、完全視界のお陰か視界も悪くない。
きらと僅かに光ったのは、木と木の間に張られた罠だ。
「敵は我々より寡勢の筈」
「囲んで殺せ!」
確かに進軍してきた黄巾党残党の数は、ディアボロスたちを大きく上回っていると言って良かった。戦は数であるというのは一般論だが、それを打ち破るために策がある。
「来たな」
突撃してきた蟲将どもが、あちこちで木と木の間に伸びていた糸にかかって音を鳴らした。
鈴の音である。
――鈴で敵の進軍経路や位置が分かるだろう。後は各個に撃破すればいい。
そう言って喩嘉が展開していたトラップ生成の罠であった。
林のあちこちで鈴の音が鳴り響き、黄巾党残党は、ディアボロスたちに居場所を知られてしまったのだ。
「獲物がかかったなァ……逃げられると思うなよ」
低く唸るように言うと、萬は茂みから飛び出した。
その俊敏さは恐るべきものだ。
黄巾党残党たちは、味方がばたばたと倒れたことでようやくその襲撃に気付いた程だった。
捕食者の追跡(プレデター・トラッキング)。
これという特徴のないコンバットナイフがしかし蟲将の首筋を斬って、逃げようとした者には鋼糸が絡みつく。まるで見えざる捕食者に襲われているかのように、蟲将どもは大混乱に陥った。
鋼の糸がきらめき、しゅるしゅると巻き取られる。
「チッ、信徒ども、いでよ!」
「今更仲間喚んだって手遅れなんじゃねえかァ?」
満足な反撃さえ出来ぬまま黄巾党残党が仕留められていく。
●連携の力
「朔夜、軍勢の勢いに呑まれたりしてない?」
「大丈夫、ここまで状況が整ってるんだ。あとは落ち着いて仕留めていくだけだな」
光学迷彩で木の陰に隠れたミシェルは、朔夜と共に、敵が罠にかかるのをじっと待っていた。大勢を仕留めるためには、味方と連携し、タイミングを見計らうのも重要である。
演奏が段々と盛り上がりを見せるように、音楽家たるミシェルは戦意を高めていく。
「最後の大将を倒せば今回の任務は終わりだよ。気を引き締めて行こう」
「ああ、手を抜く理由は皆無だ」
戦闘知識と確かな観察眼を以て情報収集する朔夜の眼差しは、鋭く研ぎ澄まされている。
と、場違いなほどに涼やかな鈴の音が、林の中に鳴り響いた。
蟲将どもが罠にかかったのだ。
追い込まれ、混乱しながら敵がなだれこんできたのは、林の中にできた、比較的開けた地点。
そこに来るのを、二人は見越していた。
「行くぞ、ミシェル」
合図とともに朔夜が放ったのは、鮮烈の刃!
必ず仕留める――その揺るぎなき信念に研がれた鋭利なる刃は、黄巾党残党に容赦なく降り注いで斬撃を加える。
「ぐっ……信徒どもよ! 来たれ!」
「来たりて敵を食い尽くせ!」
パラドクスにより何処からともなく呼び出された信徒の蝗たちを、朔夜は結界術も駆使しながら残像を引いて避ける。受けたダメージは大きくない。地の利はこちらにあるのだ。
「今だ」
ミシェルが高速で詠唱し解き放ったパラドクスは、アヌビスウィスプ。
「なんだ!?」
「おい、こいつぁまさか……」
林の中の開けた地点に踏み込んでしまった黄巾党残党は、そこを抜けることもできず、足止めを余儀なくされた。
がさり、がさり。
落ち葉を踏む音を響かせて。
霊的エネルギーで形作られた輝くジャッカルの群れが、蟲将どもを取り囲んだのだ――!
「さあ、遠慮はいらないよ。美味しいかは分からないけどね」
指揮棒を振るうようなミシェルの手の動きに合わせて、ジャッカルたちが一斉に飛びかかった。
「くそがっ!」
「消し飛ばせ! 早くしろ!」
危機に陥った蟲将たちが必死になって羽を鳴らし、衝撃波さえ生じるほどの羽音を響かせた。音楽家たるミシェルからすれば、それは聞くに堪えない雑音である。
残像を引くほどの速さで逃げようにも、音は追いついてくる――それをミシェルは判っていた。だから倒れぬよう、持てる技量を総動員して受け、地に足を踏み締める。
揺るがない。倒れない――!
二人の息の合った連携で、黄巾党残党が次々に討ち斃されていく。
●殲滅
「罠にかかりましたね。畳み掛けましょう」
林のあちこちで鳴り響く鈴の音を聴いて、ソレイユは敵を迎え撃つ。
耳の良い彼のこと、迫ってくる敵軍勢の鬨の声が、先程より明らかに弱まっているのも同時に聴き取っていた。ディアボロスたちの攻撃を受け、相当な被害が出ているのだ。
「殺せ!」
「突き殺――」
羽音を鳴らしながら突っ込んできた蟲将どもが、賽の目切りにされていく。
追い込まれたのは死地――即ち斬糸結界の中である。
「ガッ
……!?」
「ち、畜生……」
「いま学んだところでもう手遅れだろうが――」
トラップ生成の効果は周囲に非殺傷性の罠を伏せさせるものである。それを近接戦闘などで使おうとする者もいるが、クロノヴェーダ相手にパラドクスで攻撃し合う状況にあっては、大きな意味がないことの方が多い。
その点、喩嘉が巡らした今回の鈴の罠は、効果的と言えただろう。
死にゆく黄巾党残党を見下ろして、羽扇を手にした喩嘉が言った。
「蜘蛛の巣を利用するのは、蜘蛛だけではないということだ」
「逃しはしません。これで終わりにしましょう」
残敵を掃討すべく、ソレイユが鍵盤を宙に展開する。
奏でるのは幻想ソナタ『月虹』。
――月の調べ、光の加護よ。
月は狂気の象徴でもあるという。
喚び寄せられた月の化身は、辛くも惨禍を免れていた黄巾党残党を無慈悲な狂乱に陥れた。
まるで捕われた蟲のように羽を唸らせて抵抗しようとする蟲将ども。
ソレイユの整った顔が苦痛に歪むが、如何なる妨害があろうとも、最後まで演奏を続けるのが奏者というものである。
(「手を止めるわけには
……!」)
雑音はやがて美しくも狂気を孕んだ調べにかき消され――旋律が終わりを迎えた頃には、既にソレイユの周りに立っている敵は存在しなかった。
あれほどの数を誇っていた白波将の手勢が、尽く蹂躙され、全滅を遂げたのだ。
策を練った者、敵を追い込み蹂躙した者、そして一体も逃さず撃破した者。ディアボロスたちの連携が光る戦いであった。
残るは敵将――楊奉のみである。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【避難勧告】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【断末魔動画】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV3になった!
効果2【ダメージアップ】がLV6になった!
【グロリアス】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV2になった!
【リザレクション】LV1が発生!
【アヴォイド】がLV2になった!
●白波将、突入
「おいおい、やられちまったってのか?」
ざり、と地を踏んで楊奉が周囲を見回した。
「チッ、妙な策を考えやがる。あれだけいたってのによ」
風切る音を立てて大斧を軽々と振り回し、構える。
その体から発せられているのは、怒気だ。
「虎牢関を狙ってんだかなんだか知らねえがな。ここで皆殺しにしてやらァ!」
手勢の尽くを失った楊奉が、ディアボロスたちに牙を剥く!
ルキウス・ドゥラメンテ
お前も将ならば、演技でだって配下を悼むフリくらいしてやったらどうだ
お前の命令に殉じたんだ
…彼らは勇敢だったよ
残留効果の力はどれも出来る限り活用し、他の復讐者とは適宜連携
どうやら力自慢と見える
僭越ながら手合わせ願おうか
【飛翔】して接敵し、剣で斬り掛かると見せかけながらパラドクス使用
「失礼、足癖が悪くてな」
出来る限り【吹き飛ばし】て反撃への時間を稼ぎたい
反撃の斧はその場に残った魔力の茨を操って妨げ、躱すことを試みつ、駄目なら真正面から【捨て身の一撃】を叩き込む
退かないよ
もしもお前ですらも敵わない相手なら、先に散った彼らも諦めがつくだろう?
喩・嘉
※アドリブ、連携歓迎
「あれだけいた」配下を自分が使い潰したっていう自覚はあるんだろうか
戦術のわからぬ猛将は、大人しく先鋒だけ努めておれば良いものを
この戦い、技を、俺たちのこれからの力に変えてやろう
斧の間合いに入らないように気をつけながら、
「ベディヴィアスノウ」を使用する
天候を操り羽扇を振るい、淡雪の混じる冷気を送り込む
この技は即効性は薄いが、仲間との連携の間に入れていくことで皆の力を一層引き出してくれるだろう
ミシェル・ラークリーズ
相棒の朔夜(g09155)と参加
朔夜が怒ってる。戦闘集団にいた朔夜にとって無謀な策で配下を死なせ、自分の過ちにも気づかずに振る舞う。嫌悪感しか抱かないだろうね。
最初に朔夜と【飛翔】で空へ。敵の攻撃の性質から空からの方が【観察】で動きもわかりやすいし。朔夜の知恵も借りる。
でも、敵の攻撃はどこからでも届くんだよね。【残像】で急所だけは外す。
さあ、敵の動きの隙を【看破】したら朔夜とタイミングを合わせて【高速詠
唱】で死天使の月!!敵に怒りの一撃を加えにいく朔夜を援護。危ない様ならすぐ忠告するよ。
さあ、死んでいった配下の苦しみを存分に受けていくといいよ。行き先はきっと煉獄だろうけど!!
九条・朔夜
相棒のミシェル(g03431)と参加
ふざけんじゃねえ。貴様の無謀な策でも配下は最後まで戦ったんだぜ。戦闘集団にいたオレにとって自分の愚策で配下を失ってもそれを気にも留めない奴は吐き気がするほど大嫌いだ。
敵の攻撃の性質から上空にいた方が動きを見やすい。【飛翔】で空へ。敵の攻撃は届くらしいから【残像】で急所は外す。
【戦闘知識】【看破】【観察】と敵の動きを見る。勢いに任せた攻撃は必ず隙ができるからな。
隙を見つけたら朔夜の援護で旋風の舞で太刀で直接【怪力無双】で殴りにいく。未熟者のオレには無謀な行動だが、一発食らわしてやらないと気が済まない。
戦場ってのは状況を良く見極めないと破綻する。まさにそうだな。
ソレイユ・クラーヴィア
連携アドリブ歓迎
皆殺しにしてやる、ですか
つい先程、己の愚策で配下を皆殺しにされた指揮官の言葉とは思えませんね
その視野の狭さが、命取りですよ
宙に展開した鍵盤で「嵐」を演奏
嵐を喚び、周囲の砂礫を巻き上げて相手へと叩きつけてやります
飛蝗は嵐であろうと構わず突き進むのだと聞きますが、貴方はどうですか?
反撃で現れた賊徒には、受け流す事を心がけ
飛翔で周囲の木から木へ飛び回りながら、負傷を出来るだけ軽減できれば幸い
仲間の攻撃に合わせて連続で攻撃を叩き込む事を意識
指揮官には向かぬ気質とはいえ、アヴァタール級ですから侮りはせず
徐々に包囲網を狭め、確実に追い詰めていきましょう
伏見・萬
(連携アドリブ歓迎・残留効果をできるだけ有効活用する)
さて、皆殺しになる寸前なのはてめェの方だが…随分威勢がイイなァ
(相手の雑な攻め方に少し苛立っているが、理由は自分でもよくわからない)
仲間と声を掛け合い連携、敵の動きを観察し情報を共有
仲間の隙や死角を塞ぐように立ち位置を調整する
敵に声をかけて挑発・できるだけ動き回って撹乱し、隙をついて攻撃
攻撃時は【魔骸連刃】使用
蟲の甲殻のような刃を腕から生やし、敵に叩き込む
負傷は気にせず【ドレイン】で耐え、動ける限りは攻撃を続ける
てめェが雑に突っ込ませた手下はこうなった
俺がどうこう言う事じゃねェが
うるせェその口さっさと閉じて、喰われて、こいつらと同じになれよ
守都・幸児
※アドリブ、連携歓迎
あの兵たちも災難だな
大将に恵まれなかったか
ここまでは隠密に仕掛けてたが
そろそろ正面から戦いたくなった
小回りが利くように武器は藍鬼拐を選ぶ
俺の使う技は「瞑」
武器の打撃をそのままパラドクスに変換して敵と直接やり合うぞ
あの斧の衝撃派は厄介だな
拐を交差させて両腕でその刃を受け止めてやる
衝撃はかなり体に響くだろうが、それでも
大地を割られるのはちょいと困るんだ
てめえらを林に呼んじまったのは俺たちだからな
これ以上獣たちに迷惑かけたくねえし
騒がしいから早いとこ黙らせてえんだが
一応、これだけ聞いておく
命をかけて戦った兵たちに、何か言うことはねえのか
その答えを聞いてから、思い切り拐で殴りつける
●木立の決戦
「皆殺しにしてやる、ですか。つい先程、己の愚策で配下を皆殺しにされた指揮官の言葉とは思えませんね」
白波将・楊奉が発した激語にソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)は吐息していた。指揮する者の在り方次第で良くも悪くもなるという点においては、戦もまた音楽と似たところがあろうか――。
「テメェら残らずブチ殺せばそれでいいんだよ。斃れた奴らもそれで満足するってもんだ」
「その視野の狭さが、命取りですよ」
猛進し、ディアボロスたちに迎え撃たれることとなった蟲将は、やはり己の失敗を顧みることがないようだ。
「『あれだけいた』配下を自分が使い潰したっていう自覚はあるんだろうか」
自らを正当化する白波将・楊奉に、喩・嘉(瑞鳳・g01517)は小さく溜息をついた。
兵が将に忠実でも、将が兵を上手く用いることが出来なければ、宝の持ち腐れというもの。
故に軍には往々にして軍師が必要とされる。
武勇に長けた者が必ずしも優秀な兵法家とは限らないからだ。
「戦術のわからぬ猛将は、大人しく先鋒だけ努めていれば良いものを」
「ああ……あの兵たちも災難だったな。大将に恵まれなかったか」
一方、守都・幸児(祥雲・g03876)は地を踏みしめて楊奉の前に立っていた。
大斧を軽々と振り回す楊奉は、歯を剥き出しにして獣のように笑って見せる。
「俺の前に立つか。なかなか骨のありそうな奴じゃねえか」
「そろそろ正面から戦いたくなったからな。そう簡単にはやられねえぞ?」
隠密行動に徹して敵を屠ってきた幸児であったが、もとより強敵との格闘戦も得意とするところ。鬼の膂力で振るっても折れぬ藍鬼拐を握りしめ、回転させるように舞わすと風が唸りを上げた。
「ハッ、お前みたいな奴ァ嫌いじゃねえな」
楊奉が言いながらも視線を移す。
慣れた所作で馬から降りたディアボロスを見やったのだ。
「お前も将ならば、演技でだって配下を悼むフリくらいしてやったらどうだ」
黒き茨纏う剣を提げたルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)が蟲将に言葉を投げる。将たる者に使い捨ての手駒として扱われれば、兵はどうなる――? 黄巾党残党は曲がりなりにも命を捨てて戦ったのだ。
「お前の命令に殉じたんだ……彼らは勇敢だったよ」
「それがどうした! あいつらが命がけで戦うのは当然だろうが!」
ああ――この期に及んでは、何をか言わんやだ。
ルキウスは残留効果の恩恵を得つつ、眼前の蟲将に刃を突きつけた。
「どうやら力自慢と見える。僭越ながら手合わせ願おうか」
●奮闘
「さて、皆殺しになる寸前なのはてめェの方だが……随分威勢がイイなァ」
白波将・楊奉を前に、伏見・萬(錆びた鉄格子・g07071)は低く腰を落としてコンバットナイフを構えていた。雑な攻め方で配下を全滅させてしまった蟲将――孤立無援の中で追い込まれている『獲物』を、萬は髪に隠れた目で睨む。
少し、苛立っていた。
それが何故なのか、何処から来るのか――濃い霧に阻まれでもしているようにその理由は判然としない、けれど。
墨絵の獣が滲み出る。
不明瞭な感情を綯い交ぜにして、揺らめく黒き靄が萬を包み始める。
「テメェもやる気だな? いいぜ、大事なお仲間の前に死体を転がしてやる」
「随分無駄口叩くじゃねェか。喋ってねェで来い」
「言われなくてもやってやらァ!」
萬の挑発に激した楊奉が斧を手に襲いかかってくる。直情径行なところがある蟲将である。挑発して自身のペースに引き込むという萬のそのやり方は、どうやら効果的であったらしい。
突っ込んでくる楊奉。
振り回される斧に対し、萬はナイフを軽く当てるようにして逸しつつ退がる。
(「こっちの体勢を崩そうってわけか」)
楊奉はまるで薄刃の剣でも扱うように軽々と斧を振り回していた。立て続けに繰り出される連撃は、パラドクスに繋げるためのものに違いない。体勢を崩したところへ、全力の一撃を見舞う。それを狙っているのだ。
(「まともに喰らうわけにはいかねェな」)
思ったその時、援護が来た。
「この戦い、技を、俺たちのこれからの力に変えてやろう」
喩嘉が羽扇を振るい、蟲将に突きつける。
空が、轟々と唸りを上げていた。
曇り空となっていた中天からは、雪でも降りそうで――瞬間、羽扇の先端から舞い散った淡雪が、楊奉を包み込んだ。さながら歴戦の軍師が羽扇を振るって呼び寄せるように、勝利の栄光(グロリアス)が生じる。
(「この技は即効性は薄いが……今後の為にも使っておくべきだろうな」)
「チッ……妙な真似を! 野郎ども! 奴を押し包んで殺せ! 引き裂いてやれ!」
声に呼応して、黄河の流れの如くに現れ出た大勢の賊徒が、喊声を轟かせて喩嘉に襲いかかってきた。
「喩嘉!」
凄まじい数の賊徒のために喩嘉の姿が見えなくなる。
名を呼んだ幸児が、突っ込んできた楊奉の斧を藍鬼拐で受け止めた。
「余所見してんじゃねえ!」
(「っ……落ち着け。あんなのでやられるわけがねえんだ」)
「おいおいそんなもんかよ! 少しは楽しませてみろや!」
楊奉が放つ斧の連撃を、幸児は両の藍鬼拐で弾き続ける。
●赦されざる敵
「ふざけんじゃねえ」
九条・朔夜(赫灼のスフィーダ・g09155)の瞳が怒りに燃えていた。放たれる言葉は、それそのものが剣の切っ先にも似て――盟友とともに空を飛び蟲将を見下ろす少年は、怒りに身を震わせていたのだ。
「貴様の無謀な策でも、配下は最後まで戦ったんだぞ」
「だからなんだ! 最後まで戦うのが奴らの存在意義! それ以外にはねえ!」
「……!」
ギリ、と朔夜は奥歯を噛みしめ、赤色の鞘から抜き払った大太刀の柄を強く強く握りしめた。
「自分の愚策で配下を失っても、それを気にも留めない……そういう奴は」
ディアボロスの原動力たる怒りが燃え上がる。
「吐き気がするほど大嫌いだ」
「ハッ、言ってくれるじゃねえか。なら殺しに来いよ! その首、逆に斬り落としてやらァ!」
怒鳴りながらも楊奉は斧を振るい、幸児や萬、そしてルキウスたちと烈しく打ち合っていた。
(「朔夜が怒ってる」)
ミシェル・ラークリーズ(彩光のグレイス・g03431)は飛翔しながら、朔夜に視線を向けた。怒気――滾るその感情が、赫灼の闘気となって、朔夜の体から立ち昇っている。
(「自分の過ちにも気づかずに振る舞う、なんて」)
無謀な策で配下を死なせたとなれば、戦闘集団にいたと云う朔夜はどう思うか。そんなこと、最初からはっきりしていた。
「嫌悪感しか抱かないだろうね」
「ちょこまか動き回りやがって! そんなもんが俺に通用するとでも思ってんのか!?」
大斧を振り回してディアボロスたちと打ち合い、火花を散らせる白波将・楊奉。その勇猛さは圧倒的でさえある。
だがこちらも残留効果が重なっている。
「飛んでいても攻撃は届くんだよね。直撃は避けないと」
常軌を逸した逆説連鎖戦の恐ろしさを、ミシェルは分かっていた。空を飛んでいようが、離れていようが、必ずしも安全とは言えないのだ。
「連携して攻めれば勝てるはず。朔夜、何か考えはある?」
「勢いに任せた攻撃は必ず隙ができる。そこを突こう」
「なるほど、確かに大振りだもんね。よし、それで行こう」
敵がディアボロスとの肉弾戦に集中している間に小声で素早く意思を疎通し、頷きあう。
楊奉は卓越した戦闘技術を誇っているものの、こちらもディアボロスである。敵が見せる僅かな隙を突いて、共に攻撃を仕掛ける――朔夜とミシェルは散開すると、蟲将の周囲を旋回するように飛んだ。
●連鎖
「ハッ、軽い! 笑っちまうほど軽いな! そんなもので――」
「お喋りが過ぎるぞ」
ルキウスが飛翔して蟲将に迫り、その美麗な剣で斬りかかる。
「まだやんのかよ。尻尾巻いて逃げるんなら今のうちだぜ」
「退かないよ。もしもお前ですらも敵わない相手なら――先に散った彼らも諦めがつくだろう?」
斧で剣を受け止め続ける楊奉がにかりと笑ったものの、それは長くは続かなかった。蹴撃が斧を側面から叩いて逸らしたかと思うと、目にも留まらぬ蹴りの連続が蟲将を直撃したのだ。黒蹄の円舞曲(ワルツ・カヴァリーノ・ランパンテ)。そして金剛石も砕けよと放たれた旋脚が楊奉の側頭部を捉える!
「ガッ――!? て、テメェ
……!!」
口の端から溢れた血を拭って楊奉が睨んできた。
「失礼、足癖が悪くてな」
「なら斬り飛ばしてやるよ! 両方ともな!」
大振りの斧の一撃は、そうとは思えないほどに疾い。
白波割断。振り下ろされたパラドクスの一撃がルキウスを襲う。
魔力の残滓たる薔薇咲き誇る黒き茨が、冗談のように容易く両断される。
後方でエスカミーリョは主の戦いを見ていた。
信じるように、激戦をその瞳に映して――。
「チッ……冗談じゃねえ……避けやがったな。紙一重で、俺の一撃を」
楊奉が震える声で言う。
その眼前に降り立ったルキウスが、憐れむかのように笑んでいた。
と、怒れる蟲将めがけ、飛翔しながら突っ込んできた者がある。
朔夜だ。
「これは無謀かも知れない。分かってる。それでも……!」
未熟だろうが、危険だろうが、関係ない。
この蟲将には、一発食らわせてやらないと気が済まない――!
「捉えたぞ! 受け止められるか!?」
朔夜が風を纏い、速度を上げ、飛び回りながら攻撃する。ただの飛翔のそれではない。パラドクスたる旋風の舞は、楊奉をも翻弄し、大斧は虚空を斬るのみで朔夜を捉えることができない。
月の名を冠する修験者風の装束を翻し、光華の太刀を手に飛びながら戦うその姿はまるで天狗の如しだ。
連撃の果てに風を喚んで放った一撃が、遂に楊奉を斬り裂きながら吹き飛ばした!
「ミシェル!」
「準備できてるよ、朔夜!」
楊奉が見上げれば、そこに満月を思わせる巨大な魔力塊が出現していた。死天使の月の名が示す通り、死を告げる魔力が驟雨となって蟲将に襲いかかる!
「さあ、死んでいった配下の苦しみを存分に受けていくといいよ。行き先はきっと煉獄だろうけど!!」
「くそがッ……!」
両腕でガードして耐えつつも、パラドクスの力を解放した楊奉は、飛び上がってミシェルに斧と拳による連撃を加える。
「おらおらおらおらァ!」
体勢を崩されたら終わりだ。
まともに喰らえば重い怪我だって負いかねない。
懸命に避けつつ、ミシェルはここぞと声を張った。
「今だよ! 一気に行こう!」
●決着
「敵も消耗してきましたね。押し切りましょう」
戦場を舞台(ステージ)として奏でてきたソレイユの楽曲の中でも、それはとりわけ鮮烈であった。宙に展開した鍵盤に触れるその指の動きは止まることなく、激しい中に精確さを秘めて奏でられる音色は、まさにあらゆるものを吹き飛ばす颶風そのものを表現する。
喚び出されたのは紛うことなき嵐であった。
「チッ、なんだってんだ」
斧を手にしたまま腕で顔を隠すようにガードする楊奉。超常的な猛威に取り巻かれても動揺しないのは、流石の胆力の持ち主であると言えるが、その自慢の斧は暴風に阻まれてソレイユに届かない。
「飛蝗は嵐であろうと構わず突き進むのだと聞きますが、貴方はどうですか?」
「こんなものどうってたぁねえ! 野郎ども、のしちまえ!」
大勢の賊徒が呼び声に応じて木立を埋め尽くすように出現し、ソレイユに怒涛の如き攻撃を仕掛けてきた。
「そう容易くは捕まりませんよ」
飛翔し木々の間を飛ぶ彼に賊徒が投石するが、未だ猛威を振るっていた嵐に巻き込まれてやはり攻撃は届かない。
何事もなかったように嵐が去り、賊徒が消え、後には無傷のソレイユと満身創痍の楊奉が残った。
木一本倒れてはいない。
まさに時空を歪めたパラドクスとパラドクスのぶつかり合いだ。
「仕掛けましょう。ここで――!」
連携することを忘れず、ソレイユは味方に声かける。
眼前の白波将とは違う。
共に戦い、そして力を合わせるのがディアボロスの強みだ。
「最早、負け戦だ。それを承知で戦っているとなれば、敗軍の将と言うしかないな」
「テメェ……まだ」
楊奉が睨みつけていたのは、木々の間に立ち、涼しい顔で羽扇を扇ぐ喩嘉だった。
「余所見すんな、だろ?」
不敵に笑んだ幸児の振るう藍鬼拐が、虚空を貫いて楊奉に襲いかかる。
斧でそれを軽々と弾いた蟲将は、全力で得物を振り被った。
「残念だったな、仕留めたぜ! これで終わりだ――!」
渾身の白波割断が幸児を脳天から両断しようと振り下ろされる!
「させねえ!」
けれど藍鬼拐を交差させた幸児は、それをガギリと受け止めていた。波を断ち、大地を割るほどの一撃を、である。
「大地を割られるのはちょいと困るんだ。てめえらを林に呼んじまったのは俺たちだからな」
歯噛みし、耐える。
(「これ以上獣たちに迷惑かけたくねえ」)
思いながら、幸児は斧に力を込める楊奉に問う。
「命をかけて戦った兵たちに……何か言うことはねえのか」
「ねえな! 奴らはやることをやっただけだ!」
「そうか……そうかよ!」
全力を込めた幸児が斧を弾き、藍鬼拐の連撃を叩き込む!
「ガッ……ハ……テメェ……」
後ろへよろめいた蟲将に立て直す隙を与えず、萬が攻める。
「てめェが雑に突っ込ませた手下はこうなった。俺がどうこう言う事じゃねェが」
周囲にはまだ残党の屍が転がっていた。
「だからなんだってんだ! テメェも転がしてやる」
苛立ちの理由など分かりはしない。記憶を失った萬には、まるで冥き水面に浮かんでは消える泡のようで――。
「うるせェその口さっさと閉じて、喰われて、こいつらと同じになれよ」
「抜かせ!」
振り被った斧を全力で振り下ろす。
波を断ち、大地を割るほどの一撃は楊奉が自らの道を切り開く大斬撃となる――はずだった。
「ガッ
……!?」
蟲の甲殻のように見える刃が伸びて、楊奉の胸をぐざと刺し貫く。
「あ、あァ……」
ぐらりと蟲将が倒れゆく。
「負けちまったか……不甲斐ね、え……」
仰向けに倒れ、そして動かなくなった。
「終わったね、朔夜」
「ああ、何とかなったな」
戦いを終え、着地したミシェルと朔夜が互いに労をねぎらっていた。
「潮時だな」
「ええ、すぐに撤退しましょう。増援が来たら大変ですからね」
萬の言葉にソレイユが頷き、周囲のディアボロスたちに言った。敵が押し寄せてくる前に帰還する必要がある。
「ああ、帰るとしよう」
ルキウスがエスカミーリョの馬首を軽く叩きながら言った。
「次に活きる戦いに出来ただろうか」
「ああ。強化、上手くいくといいなあ」
先の先を見据える喩嘉に幸児が笑みを見せた。
パラドクスによりもたらされたグロリアスの効果は、この戦いだけではなく、今後にも繋がっていくに違いない。
虎牢関の陽動作戦が、また一つ成功した。
増援がやって来る前に撤退するディアボロスたち。
戦場となった林には、鳥の囀りが響き始めていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】がLV2になった!
【飛翔】がLV5になった!
【腐食】LV1が発生!
【活性治癒】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV7になった!
【グロリアス】がLV2になった!
【命中アップ】LV2が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!