リプレイ

　獣神王朝エジプト北東部――ギザ・メンフィス。絢爛なる神殿より現れたトループス級『獣神祭儀官』の軍勢は、遠目にも黄金に輝いている。
「黄金のマスクとか、そんなものに力を頼っている時点でダメな気がするけど……それが忠誠の証なら仕方がない……のかな？」
　一ノ瀬・綾音（星影の描き手・g00868）の呟きに、鷹群・煉時（鷹群家当主・g03830）は眉根を寄せる。
（「頭が、こんがらがりそうだ」）
　此度の戦争は敵が多く、戦況も複雑。ついでに、敵のやり口も色々だ。
　とはいえ、煉時がやるべき事は、常と変わらない。
「敵を屠り、戦力を削る。それだけだ！」
「頑張ろうね。綾音ちゃんは面子の少なそうな所を狙ってみるよ」
　無双馬の『紅蓮』に騎乗する煉時を見上げ、純白の魔法杖を手に軽く砂地を蹴る綾音。
　――――！
　軍勢目掛けて、戦騎が疾駆する。煉時の馬上槍『蒼黒』が唸りを上げ、左右の獣神祭儀官を薙ぎ倒した。
「この氷の刃に耐えられるかなっ！」
　身構えた獣神祭儀官目掛けて、綾音が間髪入れず輝く氷の連斬撃を放つ。すかさず、空へ離脱する暇こそあれ。
「天空へ祈りの言葉を！」
「黄金の力を賜いし我らに調伏の縄を！」
　天空へ捧ぐ祝詞が幾千もの光の矢を喚ばい、向かい合った獣神祭儀官が聖なる荒縄を創造する。
　――――！！
　上空の煌めきに、煉時が騎馬の速度を上げるも――次の瞬間。光の矢が雨あられと降り注いだ。
「……ぐっ！？」
　回避は、間に合わない。咄嗟に馬上槍を頭上に翳したが、流石に防ぎ切るのは厳しい。無双馬のみならず、煉時の戦装束を光矢が何本も貫いていく。
「キャァッ！？」
　そして、調伏の縄の方も、飛翔で回避を試みた綾音を容赦なく捕縛していた。元より、逆説連鎖戦のパラドクスの応酬に彼我の距離は関係ない。更に、遮蔽物の少ない所を飛翔すれば、否応も無くよく目立つのだ。
　直近では、地対空訓練に於いても明言されている。敵が多数いる戦場での『飛翔』は、明確に悪手だ。
　――――！！
　結果、綾音に敵の攻撃が集中する。『獣神祭儀官』の黄金のマスクを狙う余裕もない。
（「こうなったら！」）
　それでも、綾音は必死に足掻く。或いは単身特攻であれば、為す術なく撃墜されただろう。だが、今しも、地上では煉時が縦横無尽に駆け回っている。彼女の戦騎疾駆が、1体でも敵を仕留められるよう、綾音自身も輝く氷の連斬撃を連発する。
「……っ」
　勝利の栄光に僅かなりとも癒されながら、歯を食い縛って戦う事暫し――逆説連鎖戦のパラドクスの応酬は自動的だ。喩え、綾音が敵の攻撃の矢面に立ったとして、煉時も無傷ではいられない。
「撤退する！」
「了解……決め時っ！」
　引き際を見計らった煉時の叫びに、綾音も輝く氷の連斬撃を最後に放ち、急旋回。
　最後まで撃墜されずに撤退出来たのは綾音の実力もあっただろうが、非常に大きな幸運であった。
（「そのマスク、次に来るときはズタズタにしてあげるからね？」）




　喩えレプリカであろうと、『獣神祭儀官』が被る黄金のマスクこそが信仰の証であれば。士気の向上という点でも侮れぬ。
「信仰がもたらす力の恐ろしさを改めて感じるよ。死さえ栄誉に変わるなんて」
「フン……つまらぬ相手だ」
　一角・實生（深潭鷲・g00995）の呟きに、リューロボロス・リンドラゴ（ただ一匹の竜・g00654）は鼻を鳴らす。
「借り物の力、付け焼き刃でこれ程までに思い上がれるとは」
　喜んで死に殉ずる態度も気に食わない。
「奪うだけ奪い、満足して死ぬなど、腹立たしいことこの上ないわ……いっそ、神殿を攻撃する方が誘き出せるか？」
　だが、神殿まで相当の距離がある。寡兵による強行突破は、流石に無理がある。
「なら、力を得て勢い付いた所で、出端を挫いてやるとしようか」
　神殿には近付けぬとも、砂漠の只中と違い、地上であれば、待伏せに身を潜められる場所も無きにしも非ず。
　そうして、少数で突出した部隊に狙いを付ける2人。
　――天地万有凍結せよ。吹雪を呼ぶは竜である。
　リューロボロスの幼い身体には不釣り合いであり、龍の巨躯には相応しい、吹雪の羽撃き。炎天下に凍り付かせるべく暴風雪が吹き荒れる。
「避けるだけ無駄だよ」
　そして、グラナトゥム――大口径のセミオート式狙撃銃を構えた實生は、呪いの銃弾を撃つ。
　――――！！
　呪いに塗れた黒き銃弾は、トループス級1体を射抜くと同時に、周囲を巻き込んで爆発した。
　同時――遥か上空に幾千もの煌めきが奔る。
「ククッ、天より竜を射抜かんとするか」
　不敵に唇を歪めるリューロボロス。實生はフライトドローンを展開しようとして――先んじて光の矢が降りしきる！
「……っ」
　逆説連鎖戦に、彼我の距離は無関係だ。瞬時のパラドクスの応酬であれば、最も有効な対抗手段は、残留効果『2』発動だ。『先行率アップ』を重ねた事で、確と先手を打てた2人だが、防御の面の優位は薄い。
「墜ちぬよ。その程度で竜は墜ちぬ」
　だが、リューロボロスの意気軒昂は変わらない。
「一騎当千、数多を薙ぎ払ってこそのドラゴンよ！」
（「隙を、作らないと」）
　リューロボロスのブリザード荒れ狂う中、實生は逡巡する。
　敵の気を引くだけなら簡単だ。数多のフライトドローンを足場に宙を舞えば良い。だが、目立った直後の集中砲火は想像に難くない。
　トループス級であろうと、戦争を目前とした数は大いなる暴威だ。単身で立ち向かうにも限度がある。
　――――！！
　故に、實生は今しもリューロボロスへパラドクスを放たんとした一角へ、呪われし銃弾を撃ち込む。
「囲まれないよう、気を付けて！」
「囲まれたなら囲まれたで、ちょうどよいわ！」
　徹頭徹尾、強気な態度を崩さぬリューロボロスだが、引き際を見誤る気はない。
（「プスセンネス……おらぬか」）
　内心で舌打ちしつつも、包囲網が狭まる前に、少女はフライトドローンを飛び石代わりに、素早く離脱を果たす。
　リューロボロスの撤退を確認して、實生はも又、身を翻す。
「黄金のマスクを撃ち抜く日が楽しみだ」




「さあて、戦争という事だし少しは仕事をしないとね」
「然様でござりまするか」
　伊神・紡（『解明』の装鍵使い/Agaliarept・g01740）の言葉に、藤原・東子（水鏡に語られし・g08398）の反応は至って素っ気ない。
　尤も、本当にやる気が無ければ、そもそもパラドクストレインに乗車していないだろう。
　故に、紡は頓着せず戦況を確認する。
　先陣を切ったディアボロス2名は正面から、続く2名は各個撃破を。各々、撤退の機を見誤らず、最前線から離脱している。
　問題は、追撃を振り切れていない。そろそろ、援護が必要だろう。
（「エジプトの事はよく分からないからね……連中と相対する事で、何か得れる物があるといいけど」）
「黒耀鳥、照準は任せるよ」
　黒鳥を模したドローンに声を掛け、身構える紡。靴裏に仕込まれた紫の結晶の力を、黒耀鳥を通して圧縮する。
　Stoke――.
　射手の動きをトレースした瞬間、光の矢が奔る。狙いは、ディアボロスを追う先頭の獣神祭儀官2体だ。
「さてさてどうかな、これ以上、遠距離の攻撃手段がないのが辛い所だね」
　――――♪
　同時、神を讃える歌が響き渡る。その実、逆説連鎖戦で飛び交うパラドクスに『間合い』という概念は、精々『戦い易い距離感』であり、極端な話、飛翔する敵に近接戦のパラドクスを命中させる事すら可能だ。
「おっと……」
　俄かに倦怠感に襲われ、紡は顔を顰める。
　獣神祭儀官のパラドクス「獣神の巫歌」は神の讃歌を以て敵にダメージを与え、亡骸が残る同胞を蘇生する。
（「まずい、皆が折角削ったのに」）
「……」
　それまで、ジッと戦況を見据えていた東子は、徐に両手を組んで祈る。
　――稲妻来れ。
　今しも、蘇生したばかりの獣神祭儀官の上空に雷雲を呼び寄せるや、急転直下の雷撃を叩き込んだ。
「天より落つるは、めぐみの光……まやかしの黄金より、余程眩い輝きでございます」
　閃光に敵軍が二の足を踏む間に、撤退するディアボロスは速度を上げる。
「黒耀鳥、ありがとう……じゃあ、僕達も退却といこうか」
　援護射撃の末、いよいよ、２人も身を翻す。ダメ押しの一射と雷撃を放ち、駆け出した。

　黄金のマスクを被る神官団の行軍は止まらない。だが、その一角を、ディアボロスの武威が崩したのは確かだ。
　次に相見えるのは、決戦の刻――。

最終結果:成功
完成日	2022年12月14日