リプレイ
●戦舞の祭典
――祭典が始まる。
誰もが息を潜め、けれども胸には期待を募らせ鼓動を逸らせながら振り仰ぐ星の空。秋の夜の静謐がパルマの市街も人々も抱きすくめ、冷たい夜気が凛と張りつめた、刹那。
遥か時空を超え、新宿島から持ち込まれた花火がパルマ公国の夜空に上がった。
祝砲めいて連続で打ち上げられた花雷が盛大な音ともに眩い光で星空を真昼の輝きに染めた次の瞬間、金の芯から紅き光が咲き溢れて枝垂れる冠菊とその周囲を彩る桃と紫の千輪菊が夜空に咲き乱れ、市街には皆の笑顔と歓声が咲き誇る。
和火と洋火という言葉があるとおり、花火は東洋と西洋でそれぞれに発展を遂げてきた。
この地イタリアこそが――西洋における花火発祥の地だ。
遥か東洋、中国で誕生した火薬がシルクロードの終着点たるローマへと辿りつき、十三世紀中頃にはヴェネツィアで花火が登場、十四世紀にはフィレンツェで観賞用の花火が生まれ。以降も西欧における花火の主要な生産地はイタリアであった。
当然、このパルマ公国でも打ち上げ花火を観た経験がある者は多いだろう。けれど、それでも。
断頭革命グランダルメの時代より二百年以上も先をゆく最終人類史の花火は東洋と西洋の美が融合し結晶して、途轍もなく美しい彩りと輝きを咲き誇らせるもの。花火の色としては極めて新しい、二十世紀終盤に生み出された明るいスカイブルーと鮮やかなエメラルドグリーンが大輪の菊花火を咲かせ、更には数多の花弁の先端を鳥の足のごとく花開かせるクロセットへと繋げばひときわ大きな歓声が湧きあがり、
二十世紀最後の年に生まれた華やかなオレンジに輝く型物花火が光のアルファベットを夜空に描けば、
Possa prosperare il Parma!!
――パルマに栄あれ!!
綴られた言葉にいっそう人々の歓声が『湧き』あがって『沸き』あがる。
地上から眩く迸って乱舞する光条はこちらも新宿島から小型発電機とともに持ち込まれた投光器からのもの。光と彩が咲く夜空へディアボロス達が翔けたなら、さあ、戦舞の祭典の始まりだ。
星よ、星よ。
流れ来る星のごとく空を翔け、
燃え盛る星のごとく熱く輝いて、
絢爛たる戦舞を、勇猛たる演武を、壮烈たる武威を、パルマ公国の夜空へと!!
来栖・禊
神樂(g03059)ちゃんと
黒コートにガスマスク
地味な姿は神樂ちゃんと幻影を目立たせるため
僕は鳥じゃないから、空の楽しみ方がわからない
それに、今日使う能力は初めてのもの
加減ができないかもしれないけど──でも、君なら大丈夫でしょ?
殺陣のようなイメージで兵に指示を飛ばす
悪戯心が擽られれば、意地悪なアドリブも混ぜちゃおう
腹ペコな鳥に銃弾をたっぷりご馳走しよう
ほら頑張って!
油断したら、あっという間に蜂の巣だよ!
盛り上がりがピークに達したら、それぞれの技を上手く組み合わせて連続して爆発を起こしたように試みよう
散りゆく花火のように表現できれば良し
神樂ちゃんなら、その後もきっと上手く利用してくれるでしょ
咲樂・神樂
★禊/g01033と
翼を無くしてから飛ぶ事なんて諦めていたけれど
やっぱり心地いいものね
禊もそう思わない?
勿論!大丈夫
あなたが兵を喚ぶならば
あたしもあたしの伴をよぶ
指先遊ぶ光の鳥達が羽ばたく黄金の鳥達を
無軌道に飛び回る黄金の鳥を指揮するように笛をふく
そう、いつもこうやって遊んでた
兵士たちと躍るよう戯れておいで
禊こそ、食べられないように気をつけて?
この子達はいつも腹ぺこなの
銃弾に撃たれれば鳥は花火のように光を撒き散らして弾けて消えるのよ
無尽蔵に生まれてくるから問題ないけど
禊の生み出す効果に合わせて
盛大に咲かせましょう
その時々で遊び心も織り交ぜて
あなたこそ、あたしが自由に飛んでも許してくれるでしょ?
アンゼリカ・レンブラント
相棒のシル(g01415)と
パルマ公国の人々を勇気付けられるならら全力さ
やるからには本気!
夜空を飛翔し、大剣をシルの剣に叩きつけては
顔を覗き込みにこりと笑む
一撃離脱し間合いを離しては
裁きの光纏いし星形状のパラドクスを放出
【照明】と合わせ派手に空に華を咲かせよう
倒すための戦いでなく、魅せるための戦い
相手が無二の友
なんて心躍る状況だろう
その歓喜を躍動する身へのエネルギーとして
まるで語り合うように剣を振るい、
時にはその間合いを潜って拳を合わせる
体には叩き込まず基本寸止め
でも、そこから至近距離でパラドクス
本気だもんね!
人々の心に燻る闇を
私達が光となり、夜明けとなれますように
そう願いを込め、技を振るうよ
雪定・千草
夜乃さん(g04477)と
人に魅せる戦いを空で…
翼は持たない身、少し緊張しますが
カッコ良くて頼もしい夜乃さんとなら出来る気がします
彼の翼に続き
空中で銀製の小振りのマチェット『pals』を構え、いざ
この戦いで、貴方の事をより知れたら嬉しい
だから遠慮なしで挑発に乗りパラドクスを発動
派手な炎でも振るいましょう
体格も、空中の利もあちらにあると見て
此方はフェイントや小回りで攻めます
空中戦に慣れてきたら余裕も出てきて
…楽しい
怒りや憎しみも無く、思いっきり刃を振るい
お互いの力をぶつけ合う
こんなに楽しかったんですね
いつもは薄い感情表現も
今日ばかりは声を上げたり、少し笑う事も出来そう
どんどんいきますよ、夜乃さん
夜乃・零
千草(g03137)と
アドリブ歓迎
・
千草、準備は良いか?
俺が空まで導いてやるから
びびってんじゃねえよ!
おまえなら魅せる動きも出来るだろう
隣の彼に目配せして、ふ、と笑う
黒い翼を広げ、そのまま天高く空へ
青龍偃月刀に名付けた『赫焉』
抜刀して身構える
青く、赤く、輝く刀身
空中で、くるくる回して
おまえと手合わせするのは初めてだな
遠慮はしなくても良いんだろう?
空を飛ぶのは慣れているから
利を生かした戦いを吹っ掛ける
ほら、かかってこいよ
まるで誘うように手で挑発を
言葉通り無遠慮に
幾度も、千草へとぶつかっていく
宙を舞うように、踊るように
楽しくて楽しくて笑みが溢れる
さあ、まだまだ遊んでくれよ!
シル・ウィンディア
アンゼリカさん(g02672)と一緒に!
ふふふ、空を飛んで魅せるって、いいよね。素敵だよねっ!!
さぁ、それじゃ、アンゼリカさん、一緒に舞おうかっ!!
飛翔の効果で上空へ移動。
止まって、世界樹の翼を構えてっと…
戦闘開始の合図とともに、type.Bにモードを変えて、誘導弾を連射っ!
せっかくの模擬戦だし、カラフルな弾を撃ちだそうか。そう、わたしらしく、属性を付与したものを撃ちだすよ。
撃ちつつ、ドッグファイトに移動していくよ。空中で創世の光剣に持ち替えて近接戦闘。もちろん相手の方が上手なのはわかってるけど、挑まないわけにはっ!!
フィナーレは
高速詠唱の七芒星精霊収束砲!
差ぁ、派手に花火を打ち上げるよっ!!
テクトラム・ギベリオ
【ヒラール】
夜空を駆ける戦舞…確かにこんな機会めったにない。
ふふ、ナディアは随分張り切っているな。
彼女が夜空へ駆け上がるのに合わせて、自身も【飛翔】で空へ。
重視すべきは「魅せる」事だ。勝敗にこだわりはない。
好戦的な彼女はどう思っているか微妙だが…。
両手に曲刀を持ち、ナディアの動きに合わせ舞うような動きを意識して攻撃に対応する。
なんだが一撃が重く感じる…段々本気を出していないか?
曲刀から杖に持ち直しサーヴァントの毛玉を喚ぶ。
戦法を変えるのも魅せる内と言う事で。
毛玉【幻天招殞】、この夜空に流れ星の様な火球と雹を招け。
仲良しだからとすんなり捕まるサーヴァントに頭を抱えつつ、戦舞後は観客の反応を伺う。
ナディア・ベズヴィルド
【ヒラール】
ふふ、夜空と言う舞台で戦うなんて素敵な催し
これは楽しみですね、テクトラムさん
またとない機会ですもの、いやでも気持ちが高揚してしまいますわ
手合わせ宜しくお願いします
くるりと杖を構えて【飛翔】を使い早速空に
武器を構えれば真剣勝負の始まりだ
二人の武器が絡み合い、弾き合い、いつしか舞のように滑らかな動きに
ストールを靡かせ、夜空を彩り乍ら
相手に一撃を与えるタイミングを計り、パラドクスを使用
人々を楽しませるように派手に魅せましょう
轟くは天の怒り
黄金色の雄叫びよ
光劈くなる槌(いかづち)なりて天を突け
どっちが勝つかなんて些末な事
視線を下に向けて皆の笑顔が見られれば幸いに
最後に毛玉ちゃんをキャッチ
ルクス・アクアボトル
陸(g01002)と
ふふ。ただの戦いならともかく、観客を魅せる舞いなら……貴方にも遅れは取れないわね。
両手に握るのは、いつかのような二刀の曲刀
「海賊の踊り子」だった母の流麗な剣舞を思い描くように
自由に空を舞うことには、さほど慣れていないけれど……波も風も同じこと
誘って惑わす剣の舞い
快く、楽しく、惹きつけられる視線を糧とするサキュバスの本能のままに
打ち据えることが目的ではないけれど……陸
貴方も、忘れないでね?
こういうのは、命の上で踊るから美しいのだもの
見惚れていたら、胸を貫いてしまうから
――ふふ。
時間と観客を、忘れてしまわないように
気を付けるのは、それくらいね
竜城・陸
ルクス(g00274)と
君ほどに、魅せる動きに自信があるわけではないけれど
“戦”舞なら後れを取るわけにはいかないね
では、ひとさしお相手願えるかな
彼女の二刀を、氷と光の二振りで迎え撃つ
風と共に踊るようなその動きに逆らうことなく
誘われるままに打ち込んで、切り結んで
押し返して距離が開いたなら、こちらの手番
俺は剣士でも踊り手でもなく、術者であり奏者だ
生み出した氷剣も光剣も、自在に空を泳ぐように飛翔する
離れたところで退屈はさせないとも
……そうだね、君に見惚れていたいのは山々だけれど
それで終わりにしてしまうのは勿体ないだろう?
いつまでだってこうしていたいくらい――
このひと時が快く、愉しくて堪らないのだから
レジーナ・ネイサン
【CANVAS】
お相手宜しく頼むよ、ギィース
戦闘技術じゃ敵わないのは解ってるが
胸を借りる良い機会だ
嘘つけ
今まで何度共闘したと思ってる
飛翔で空中へ
白兵戦に持ち込まれたら即終了だろうし距離をとって
はは、ソレ自分で言う?
夜空に夕陽の絵具を溶かしこみ
最大サイズの絵を描く
人々に魅せる為なのは分かってるけど
今は目前の彼に集中
此方が絵具なら其方は魅了の風か
夕陽色と桃色が混ざるうつくしさに
一瞬気をとられると
え?うわ!
慌てて指示通りに避けて
教えられてもその通り動けるとは限らないんだよ!
脚?
視界から消えたと思えば
背には馴染みの温度
はは
私達はやはりこの立ち位置が落ち着く
背を預けたこの位置が
だが、まだまだ!
嗚呼楽しい
ギィース・エレクレ
【CANVAS】
戦舞の祭典ってかっこ良いね!
参加出来るの?
ん?任せなさーい!なーんて
俺そんなに戦闘的に凄くないけど頑張るね!
バレたかとふふっと笑って
レジーナちゃんにかっこ良い所魅せないと!
白兵戦になったらアウトだから頑張ろう!
空へと飛んで
わぁー!綺麗な風景!その中で戦えるなんて楽しみ!
サキュバスミストで魅了を
その方が合わせやすいかなぁって!
俺が腕や脚で攻撃するから避けてね?
順番は腕、脚、それまた腕
小声で教えてつつ避けられる感じにでも観てる人には戦ってる感じに
そのまま脚を上げてて
脚に両手でぽんとついてくるりと後ろに回り背中合わせに
そうだね!まだまだ続くよ
レジーナちゃんの絵は綺麗だし戦闘も楽しいな
ミシェル・ロメ
🎵メタルと聖歌
あ、あの……よろしくお願いします(ぺこり)
その、どうかお手柔らかに
天使の翼をはためかせ、大空へと飛翔
雷羅さんの駆るバイクは荒馬のようなものすごい迫力で
たとえディアボロスでも撥ね飛ばされたらひとたまりもないだろうけど
でも僕だって負けてはいない
今もフランス全土で続くクロノヴェーダの支配から、人々を解放すると決めたんだ
この程度で怖気づいてなんかいられない
祈りと共に解き放つ浄化の光
これは戦う力であると同時に、人々を導く希望の光
流星の如く夜空を駆け
わだかまる不安の闇を切り裂いて未来への希望を指し示す
たとえこれが、一夜の夢の如く忘却の彼方に去るとしても
人々の心に「希望の翼」が残るならば
鳴神・雷羅
🎵メタルと聖歌
あんたかい?あたいの対戦相手は
見た目は細っこいお坊ちゃんだが、いい面構えをしているな
瞳を見れば「絶対に悪には屈しない」という鋼の意志が伝わってくる
あんたとはいい試合が出来そうだ
「魅せる」演武というからには、思いっきりド派手な技がいいんだよな?
いくぜ!【砕駆龍・號】!
召喚した大型バイクに搭乗してバールのようなものを振り回し
ミシェルの放つ数多の光をかわしながら猛スピードて突撃する
オラオラオラァッ!!
……バイクで空飛ぶなんて経験、あたいも初めてだぜ
「鋼鉄の馬」を駆る蛮族と光の天使の大立ち回りなんて、そうそう見れるもんじゃねえだろ
もし敵がどこかで見てたって、きっとビビって逃げちまうぜ?
●戦花の祭典
軽やかに石畳の地を蹴って、舞い上がるよう翔け上がる。
星々が瞬く夜闇に地上からの光が乱舞する空へ、空へ!!
――『あのとき』から、飛ぶことなんて諦めていたけれど、
大地から解き放たれれば夜風を従える心地で咲樂・神樂(離一匁・g03059)は一気に【飛翔】して、鮮やかな赤に黒と白が踊り桜花を咲かせる振袖と和袴を高揚のままに翻しながら来栖・禊(error・g01033)を振り返った。
「やっぱり飛ぶのは心地いいものね。禊もそう思わない?」
「僕は鳥じゃないから、空の楽しみ方はまだよくわからないかな。何せ今夜のこの技も初めて揮うものでね」
逢魔が時の双眸を挑むように笑ませる神樂に応える禊の表情は黒きガスマスクに覆われ窺い知れず、然れど夜闇に沈むかの如き黒コートは何処か楽しげに夜風を孕んではためいて。相手の姿と術をより映えさせる黒き装いの裡で、生命狩りたる禊のガジェットが機銃へと姿を変える。夜風に遊ぶ声音にこちらも挑むような響きが燈ったなら、
「加減ができないかもしれないけど――でも、君なら大丈夫でしょ」
「勿論! 大丈夫よ、あなたが兵を喚ぶならば、あたしもあたしの伴をよぶ!!」
星空へ花開いた銀色の牡丹花火に仕込まれた、桃色の光の粒を無数に爆ぜさせる霞草花火が光の桜吹雪めいた煌きで夜闇を彩った。途端に仕掛けたのはリヒトホーフェンサーカスを揮う禊のほう、瞬時に顕現した黒き航空突撃兵の幻影達と共に光の桜吹雪へ闇が乱舞する軌跡を描けば、彼の手で機銃が唄った刹那に笑みを深めた神樂の指先が夜風に遊んで、
光の桜吹雪を蕩かすように逢魔が時の狭間の彩が夜空を染め、金色に輝く幻鳥が――黄金の金翅鳥の群れが眩い残照の光を散乱させるかのごとく一斉に羽ばたいた。神樂の胸に熱く溢れくるのは遠い記憶の懐かしさ。
空恐ろしいほどの絶佳だった。妖艶に輝く金色の鳥達が夜空に広がり禊の視界いっぱいに煌いて。
然れど輝ける美しき鳥達が万物を喰い尽くし蹂躙する鳥葬の宴を齎すものであることを禊は痛いほどによく識っている。だが華麗に夜空を翔ける幻影達、航空突撃兵の編隊と金翅鳥の群れが激突し交錯する様に地上から歓声が湧けばガスマスクの裡で口の端擡げて一気に幻影達の只中へと飛び込んで、
「ほら頑張って! 油断してたら、あっという間に蜂の巣になっちゃうよ!!」
「禊こそ食べられないように気をつけて? この子達はいつも腹ぺこなんだから!!」
迷わず全方位へ轟かせる機銃の掃射、たちまち幾多の金翅鳥が千輪菊の花火めく光になって散華してゆくけれど、愉しげに神樂が笑み返すのは術を重ねれば幾らでも無尽蔵に鳥達を喚ぶことが叶うから。鏡の欠片を煌かせ、冷たき花唇に寄せた銀の横笛が澄んだ音色を夜空に踊らせれば、宙を翔ける神樂の足元から光が溢れ新たな金翅鳥の群れとなって湧き立ち羽ばたいて。
壮麗な輝きに笑む。戦舞の高揚に酔う。
銀笛の音が舞うまま夜闇に輝き翔ける鳥達が腹ぺこだというなら禊からもたっぷり銃弾を御見舞いするだけのこと。瞬時に高みへ翔け反転しての急降下と共に禊が烈しい銃火と弾丸の嵐を浴びせれば眩い金の輝きに爆ぜる鳥達の散華が千輪花火より華やかにあでやかに彩って、視界を染め抜く輝きに紛れさせた航空突撃兵の幻影に神樂の背後から不意を衝かせれば、
当然のようにふわり飛んで躱して、宙返りのごとく夜空に振袖と和袴が雅を描くけれど、逢魔が時の双眸が映したのは真っ向から神樂を捉えた禊の銃口、手加減なしで撃ち込まれる連射の銃声と即時召喚で翔けた鳥達の羽ばたきで言の葉を交わす。
――神樂ちゃんなら、きっと上手く利用してくれるでしょ?
――あなたこそ、あたしが自由に飛んでも許してくれるでしょ?
夜空に輝ける未来が咲き誇った。
未来花とも万華鏡とも呼ばれる花火が自由そのものを思わす七色の花弁を夜闇へ大きく広げたなら、眩くも清らな白に煌く葉落が溢れだした。光の葉が舞うかのごとき仕掛け花火は白い羽毛が舞う様にも似て、地上から射す照明の光に白き光の羽が融けゆく中へ己が純白の翼を大きく羽ばたかせた天使の少年が【飛翔】すれば、人々の歓声もが羽ばたくように湧きあがる。
歓喜の響きがひときわ鮮やかだと思えるのはきっと、この天使の少年――ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)があの決戦の日パルマ大聖堂前で自分達のために聖歌を歌い上げてくれた姿を多くの人々がその胸に甦らせたから。それはこの純真で優しげな少年が皆のために力を尽くした証そのものだから、
「あんたの瞳に『絶対に悪には屈しない』という鋼の意志を感じたあたいは間違っちゃいなかったみたいだな」
「はい。僕は人々のために、これからも戦い続けるつもりです!」
鬼の角と同じ紅き双眸に対戦相手を映し、牙剥くように笑った鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)も迷わず夜空へと翔けあがる。求められているのが『魅せる』演武であるというのなら遠慮なくド派手な技をぶちかましてみせるまで。
眩い金の芯から鮮烈な紅を咲かせる菊花火が爆ぜた瞬間、
「いくぜ! 砕駆龍・號(サイクロン・ゴー)!!」
「望むところです……!!」
輝きの芯から爆ぜる勢いで夜空へ跳び出したのは一瞬で雷羅が顕現させた近未来型フォルムの大型バイク。パラドクスにて具現化された洗練されながらも武骨なそれは鋼鉄の暴れ馬、パルマ公国の誰も見たことの無い豪快な荒馬に搭乗し、排気音で吼え猛るそれを雷羅が夜空に駆る迫力は地上から見上げる人々も真っ向から挑むミシェルも息を呑むほどのものなれど、
――僕だって負けてはいない!
――故郷フランスだけでなく、すべての人々をクロノヴェーダの支配から解放するって決めたんだ!!
胸元に躍るロザリオが清冽な銀に煌いた刹那、彼の祈りが満天に解き放たれたかのごとき光が生まれ、眩いほどに清らなる浄化の輝きが流星のごとく夜闇を翔けて降りそそぐ。これは敵を討つ力にして人々を導く希望の光、
この地の人々の胸に蟠る不安の闇を斬り裂き、未来への希望を指し示す輝き。
純粋なる祈りの輝きと苛烈なる鋼鉄の荒馬が激突すれば爆ぜる力と力、凶悪な紅にぎらり輝く鉄梃で猛然と光を薙ぎ払い、浄化の光にも地上からの照明にも硬質な光沢を奔らす愛機で夜風を突き抜け掻き混ぜて、雷羅は天翔ける馬賊さながらに再びミシェルめざして駆ける。高く高く星空へと翔けあがった天使の少年めがけて翔けあがる。
「これで終わりじゃないぜ、今以上に本気でやれるだろ!? オラオラオラァッ!!」
「ええ、顔合わせの時の言葉は撤回します! ここで怖気づいてはいられませんから!!」
――もしも敵が何処かで見てたって、ビビって逃げちまうくらいにな!!
苛烈にして凶暴なその威力を誇示するかのごとく猛る大型バイク、肉も骨も抉りとらんばかりに振りかざされる鉄梃、その全てに雷羅が込めた意志を確実に受け取って、どうかお手柔らかに――と先程口にした己の言葉を振り切る勢いでミシェルも翔けた。輝ける祈りの流星で幾度も幾度も夜闇を斬り裂いて。
自分達が帰還すれば人々には忘れられてしまう光。なれどミシェルが再びこの地を訪れたならば、彼らの胸には今夜星空を翔けた希望の輝きが再び甦る。先程多くの人々が決戦の日にミシェルが聖歌を歌った姿を思い出してくれたように。ならば今夜の祭典がひととき忘却の彼方に去るのだとしても、
――この熱と光がきっと、パルマの人々の心に消えない希望の翼を呼び覚ますはずだから。
星々と夜闇の空に一瞬の真昼の太陽を生みだすような花雷。
連続で夜空を彩る眩い輝きに雷さながらに爆ぜる音、幾度も弾ける光を逆光にしながら影の軌跡を夜空に描き、
「俺そんなに戦闘的に凄くないけど頑張るね!」
「嘘つけ。今まで何度共闘したと思ってる」
花雷の光も音も夜風も斬り裂いて【飛翔】するギィース・エレクレ(誘惑の道化師・g02447)の戯言をさくっと切り捨て、レジーナ・ネイサン(灰色キャンバス・g00801)は容赦なしの全速飛翔で間合いを取りつつ絵筆を持つ手を夜風に撓らせた。ディアボロスとしての総合的な戦闘能力ならばレジーナが勝るが、覚醒前より『身体を使う闇稼業』に手を染めていたらしいギィースの体術が侮れないものであるのは百も承知。
「白兵戦になったらアウトだから頑張ろうね、レジーナちゃん!」
「はは、ソレ自分で言うのギィース?」
数多の連発で夜空を輝かせる花雷、その最後の一発が爆ぜれば雷めいた音に互いの言葉を紛らせて、一気にレジーナが宙へ絵筆を奔らせれば真昼の太陽めいた花雷の輝きから鮮やかな夕陽の色彩が溢れだす。今夜は星空と夜闇に数多の花火の名残の煙が彼女のキャンバス、壁を彩るペイントローラーでなく絵筆で数多の色彩を花火の煙に滲ませるステイニングを活かし、
輝くトパーズ眩いクロムイエローに、狂おしいほど鮮麗なスカーレット、夕陽の光が気紛れに天穹へ描き出す劇的な光景で夜空を彩って『魅せれば』、わぁ綺麗と遮光眼鏡越しに翠の瞳を輝かせたギィースが解き放つのはサキュバスミスト。南国の楽園に咲くブーゲンビリアの花の彩をそのまま融かしたような魅了の風が翔けたなら、鮮やかな黄と紅が劇的に躍る夕暮れに甘やかな桃色が奔って滲んで光を孕みながら柔らかに融け合って。
地上の観客達の眼を奪い心からの感嘆の吐息を誘えば、
――戦舞の祭典って格好いい響きだね!
胸裡で愉しげにそう呟いた刹那、宙を蹴ったギィースは一瞬で彼我の距離を殺した。
「隙ありだよ、レジーナちゃん!!」
「え? うわ!!」
鮮麗な夕映えに桃色の彩が融け合う様に思わず気を取られた隙に迫り来た真紅の疾風、次々と襲い来る鋭い脚や腕の攻撃を反射的に絵筆でレジーナは受けとめる。最初は己の攻撃を小声で伝えて彼女に避けてもらうつもりだったギィースだが、他の仲間達が本気の戦舞を展開している以上、自分達も本気で挑まねば祭典の熱を醒ましてしまうだけ。
また、彼の胸を借りるつもりでいたレジーナだが、ディアボロスとしての練度でも身体能力でも上回るのは己のほう。特にスピードでは、数多の装備品に能力を底上げされていることもあって倍以上も自分のほうが高い。白兵戦というより肉弾戦となれば圧倒されてしまうかと思っていたが、
――これなら、手加減されなくてもいける!
拳の打撃を受けとめ脚の蹴撃を絵筆で弾いて、自分からも打って出んと回し蹴りを放てば、悪戯な笑みを覗かすギィースがぽんとレジーナの脚に手をついて夜空で披露する華麗な一回転。くるり星空に躍って降り立つのは二人背中合わせの、敵との実戦ではお馴染みの立ち位置で、背中に感じる温度が無条件に齎す安心感に思わずレジーナは笑みを零したけれど、
「だが、まだまだ!」
「そうだね! まだまだ続くよ!!」
互いに弾かれるように間合いを取っては再び夜空に解き放つ彩と彩、力と力。鮮やかに世界を染め変え華やかに戦舞を飾る彩りの先で不敵に燈る互いの笑みめがけて翔ければ魂の芯から眩い愉悦が爆ぜて溢れて迸るから、今夜ばかりは。
常に背を預け合う相手と真っ向から挑み合う高揚に身を任せ、
――光と彩の戦場に、舞う。
紅に青に変化する千輪が咲き乱れたのに続き、金の尾を引く昇り竜が紫輝く大輪の牡丹を咲かせたのが次なる戦舞の合図。
翼が背にあれば唯それだけで空を飛べるわけではない。
竜の翼持つドラゴニアンもディアボロスに覚醒して竜翼翔破を揮えるようになって初めて【飛翔】の力を手に入れるのだ。ゆえにパラドクス効果あるいは残留効果の【飛翔】をもってして夜空を翔けるという点において夜乃・零(常闇・g04477)と雪定・千草(霞籠・g03137)の間に優劣は存在せず、
「それでも俺の方に一日の長があるだろうがな、けどおまえなら魅せる動きも出来るだろう? 千草!」
「俺ひとりじゃ難しいでしょうが、夜乃さんと一緒なら、きっと」
なれど不敵に口の端を擡げて常闇の竜翼を広げた零が一気に夜天へ舞い上がれば、翼持たぬ身なれど迷わず石畳を蹴って、夜風に白き髪と濃紺のハリントンジャケットを躍らせた千草も星空めがけて翔けあがる。藍の双眸を凪がせたままの彼の手に閃くのは銀のマチェット、その凛冽な煌きに紅の双眸を細めた零の手で青龍偃月刀が唸りをあげて夜風を裂く。黎明の青から紅炎の赤に煌く刀身を夜闇にくるり踊らせて、
「ほら、かかってこいよ」
「ええ、挑ませてもらいます」
――この戦いで、貴方のことをより知れたら嬉しいから。
煽るように手招いた零が挑発すれば躊躇いなく乗った千草が全速で翔けた。銀の刃へと一瞬で燃え上がったのは楔のごとき炎、熱く熱く鋭く輝いた炎が焔の斬撃となって迫り来る様に零は咄嗟に愛刀を揮ったが、不意に空中で身を沈めた千草は青龍偃月刀の柄も刃も潜って零の至近から焔で斬りあげる。
灼熱の楔が己の纏う黒と赤と、胸元の傷跡を熱く裂いて行く様に零の背筋を翔けあがるのは躍動する高揚感、
翼の有無はディアボロス同士の戦いに優劣を生まず、空中戦の技能を持たぬのも互いに同じ。だがフェイントと戦闘知識で零を上回り、体格の差による不利を自覚して攻め込む千草は決して侮れぬ相手だ。如何にして戦舞の幕を開けるかを重視した己に対し、幕を開けた戦舞で如何にして動くかを重視した彼のほうが立ち回りに優れるのも当然のことで、
「ハ、こりゃ遠慮無用って感じだなぁ!!」
「勿論です。遠慮なんて、夜乃さんらしくないですよ」
知らず慢心していたらしい己を戒めるよう苦笑した零も即座に己の凶暴性を露わにした。左右からも上下からも攻め込んで来る千草の銀閃を赫焉たる己が愛刀で豪快に弾き飛ばし、笛めく音を連れて天へ翔ける金の昇り竜とともに高々と跳躍し、
鮮烈な紅の冠菊が咲くと同時に零は、全速の急降下で降り落ちる猛撃を叩き込む。
天から火球が墜ちるがごとき猛攻と激突するのは灼熱の楔を燃え上がらせた千草の刃、大輪の冠菊から振りまかれる金銀の光露をいっそう煌かせ、地上から射す光もが乱舞する夜空で打ち合う剣戟。刃と刃で、力と力で、技と技でぶつかり合うたび胸の奥で跳ねて弾んで乱舞する光が眩い歓喜となって咲き誇る。
ああ。怒りも憎しみも無く、ただ思いきり刃を揮い、互いの力をぶつけ合うということは。
こんなに楽しかったんですね、と呟けば常日頃は感情表現の薄い千草の口許にも燈る笑み。今なら声を張り上げることすら叶いそうだと思えば、猛然と青龍偃月刀を打ち込んで来る零の貌には楽しくて楽しくて堪らないと言いたげな笑み。それならいっそ互いに精根尽き果てるまで、
――さあ、まだまだ遊んでくれよ!!
――どんどんいきますよ、夜乃さん!!
凛と夜闇が澄んだ瞬間に連発された花火が、鮮やかな緑の光の芯から金の輝きを椰子の葉のごとく咲き誇らせた。続け様に花開いた連珠椰子が瑞々しいライトブルーの細波を振りまく様は、観客ばかりでなく砂漠に生まれ育った者の胸も打つ。
「こんな夜空を翔けての戦舞とは……実に素晴らしいな」
「またとない機会ですもの、いやでも気持ちが高揚してしまいますわ」
魂をも潤す水飛沫が星々となって夜空に鏤められたかのごとき絶佳にテクトラム・ギベリオ(砂漠の少数民族・g01318)が見惚れた一瞬で先に夜空へ舞い上がったのは艶やかに微笑したナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)のほう、地上からの光に夜明け色の髪も狐耳も尾も踊らす彼女を追ってテクトラムも夜空へと翔ければ、眩い輝きと華麗な音で爆ぜる花雷が咲いた途端に夜空の光へ影絵を描いた二人の影が交錯した。
弾む水晶の朝露、青尖晶石が咲かせる竜胆の花。
遥か天穹の星々を振り落とすよう打ち込まれたナディアの杖は破天を詠い水の恵みを宿す杖、花火の光露を水飛沫のごとく煌かす一撃を交差させた両手の曲刀で受けとめ、守護者と戦導者の双刀を花開かせるように杖を払い除けたテクトラムがその勢いのまま身を翻して剣舞めいた挙動で攻め込めば、巧みに杖でいなしたナディアが刹那の間隙を見逃さずに奔らす突き。
間一髪で後方へ跳んで躱したかに思えた瞬間、
「その一瞬が命取りですわ!」
「……っ!! 段々本気になってきていないか!?」
「段々も何も、元より真剣勝負のつもりですもの!」
優美な一跳躍で即座にテクトラムを追った妖狐が月色の双眸を煌かせ、夜風を裂く杖で鋭く彼を薙いだ。脾腹を打たれる寸前で受けとめた杖撃の重さに奪われたはずの彼の感情が一瞬めざめれば挑むような眼差しでナディアが花の笑みを綻ばす。魅せることを重視し勝敗には拘らぬつもりでいたテクトラムなれど、彼女がそのつもりであるならば是非もない。
天高く打ち上げられて咲き誇る錦の柳花火、幾条もの黄金の輝きが滝のごとく流れる夜空を翔け、降りそそぐ光を掬うよう縫うように舞って踊って翻る二人の杖と双刀。鮮烈にして優美に描き出されてゆく戦舞に地上から湧く歓声、夜風でなくその熱気に煽られるよう華やかに夜天に舞った紺碧の紗が星空へ更なる星空を重ねた刹那、二重の星空から杖を打ち込んで、
――轟くは天の怒り、
――黄金色の雄叫びよ、
――光劈くなる槌(いかづち)なりて天を突け!
一瞬の高速詠唱と同時に夜天に蒼穹が見えたと思えた途端、ナディアが冴ゆる蒼を眩い黄金で引き裂く雷光をも天から打ち下ろせば、くるり回した双刀を腰に収めたテクトラムの手に収まったのは月桂樹の杖。美しい杢目に光沢が渡った瞬間、
「毛玉『幻天招殞』、この夜空に流れ星の様な火球と雹を招け」
ぽふん、と彼の傍らに顕現したまんまるふわっふわな真っ白スフィンクスが主の揮う杖に合わせ、顔を洗う仕草で夜空から招来したのは灼熱に輝く火球と凛冽に煌く雹。誰もの目を眩ますほど強く瞬き閃く稲妻に轟と燃え盛る火球や凍て荒ぶ雹が荒々しい天地開闢を思わす絶佳を展開するが、
『にゃあん!』
「っ、毛玉……!!」
天地を圧倒する絶対の緊迫を破ったのは甘えるような真っ白にゃんこの声。大好き! と言わんばかりに一声鳴いた翼猫は主たるテクトラムではなくぽーんとナディアの胸に飛び込んでいって、あらあらと笑み崩れた妖狐は今度は片手ににゃんこを抱きつつ破天の杖を翻す。思わず頭を抱えた蘇生者の男も地上から楽しげな笑声が湧けばまあいいかと口許に笑みを刷いて、再び閃かせるのは二振りの曲刀。良く似た彩の眼差しが絡めば唯それだけで意を交わし、夜天に舞う。
――真剣勝負と言えども、真に望むのは勝利ではなく。
――地上に咲き溢れる、パルマ公国のひとびとの笑顔。
深い紺碧、明るい青。
夜空の満天に咲き誇るがごとき大輪の菊花火が紺碧の芯から青の輝きを花開かせたなら、星屑よりも華やかに煌き涼やかに光の飛沫を振りまく細波が溢れて夜風に踊って波打って。夜空にも風があるのだと、波があるのだと、潮騒の娘を誘うから、
「ふふ。ただの戦いならともかく、観客を魅せる舞いなら……貴方にも遅れは取れないわね」
「君ほどに、魅せる動きに自信があるわけではないけれど……『戦』舞なら後れを取るわけにはいかないね」
自由に空を舞うのは不慣れだと自覚すれどもルクス・アクアボトル(片翼の白鯨・g00274)は蠱惑の笑みを咲かせ、一片の憂いもなく夜空へ【飛翔】で舞い上がる。楽しげな微笑で応えて竜城・陸(蒼海番長・g01002)も翔け上がる星の空、花火が咲かせた銀の細波の余韻が消えぬうちに二人の掌中へそれぞれパラドクスの双剣の煌きが咲いたなら、
潮流にも似た天津風に海の娘が身を躍らせた。
艶やかに撓やかに翻る長い銀の髪で己でも夜空に波を描きながら、双子の月のごとく両手に反る曲刀を優美に舞わせ躍らせ鮮烈な軌跡を引きつつルクスが斬り込めば、二振りの月を受けとめるのは眩い輝き、澄んだ響き。
「何度も見ているでしょう? 私が『海賊の踊り子』だった母から受け継いだ、この剣舞!」
「勿論よく識っているとも、観るたびに異なる魅力を咲かせる、誘惑の剣舞だってこともね」
灼熱の光剣、凛冽な氷剣で双子の月の斬撃を受けたなら陸は熱く冷たい双剣の輝き越しに彼女の眼差しと己が黎明の眼差し絡め、刃も絡め合ったけれど、鍔迫り合いともなればルクスの藍と紅の双眸に甘い煌きが覗いた刹那、夜風に涼やかな鈴蘭が香るのは無意識のものかそれとも計算尽くのものか。然れど、
――どちらであろうと、俺が香りに気を取られたら彼女がその隙を見逃すはずもない。
誘うように僅か引いて見せる彼女の誘いに敢えて乗り、花の香りごと押し返すよう打ち込む光と氷。灼熱が白金に、凛冽が蒼銀に双子の月を輝かせる剣戟で夜空を彩って、互いに菫色の夢魔の翼と深藍の竜の翼を夜空に踊らせ切り結んで、空中戦に不慣れなルクスの力が緩んだ一瞬に眩い力を凝らせ押し返す。
透徹に冴え渡る氷刃の凍気が奔る一閃に重ねられたのは純粋な力そのもので圧倒する光刃の灼熱、苛烈なその威をルクスはふわり後方へ跳ぶことで減じて受け流すけれど、
「離れたところで退屈はさせないとも」
「ええ、そうこなくっちゃね」
笑みを深めた刹那、陸の掌中から霧散した氷と光が星空に結晶した。
剣戟も剣舞もそつなくこなす彼なれど、剣士でも踊り手でもなく術者であり奏者でもあるのがより陸らしい姿。黎明の竜が微笑すればその魔力の余波に青き髪が夜空へ舞い、彼の望むままに星空を翔けた氷刃と光刃が潮騒の娘に戦舞を挑む。至近で乱舞する凍気と光輝は風雨と稲妻が荒ぶ嵐にも似るから、
それなら船上でもお馴染みよ、と挑むように笑んでルクスは双子の月で迎え撃ってなめらかに刃を滑らせて、斬り払って灼熱と凛冽の煌きを散らし。刃ばかりでなく甘いキャラメル色に艶めく肢体でも存分に蠱惑を描いて夢魔の性そのままに皆の視線を惹きつけて、光と氷と睦み合うように背を反らして魅せた。その、刹那。
舞踏に熟達するがゆえの身体の発条を活かした一瞬の跳躍で彼我の距離を殺し、
「貴方も、忘れないでね? こういうのは、命の上で踊るから美しいのだもの」
――見惚れていたら、胸を貫いてしまうから。
「……そうだね、君に見惚れていたいのは山々だけれど」
――それで終わりにしてしまうのは勿体ないだろう?
鋭く夜空に爪痕を遺す月そのままに胸を狙い来たルクスの曲刀を、瞬時に掌中へ顕現させた光剣と氷剣で陸が受けとめる。斬られて灼かれて凍てついた互いの銀と青の髪が幾筋かはらりはらりと夜風に舞う、紙一重の攻防。死線の戦舞。
然れどそれが齎すものは紛うことなき愉悦と高揚。今このひとときが愉しくて堪らないのだと互いの眼差しの煌きにそれを見て取ったなら、弾かれるよう一旦間合いを取った次の瞬間に潮騒の娘と黎明の竜は互いをめがけて翔けた。
いつまでもこうしていたいとさえ思うけれど、
時間と観客を、忘れてしまうことのないように。
地上から花のごとく咲いた幾条もの光も届かぬ夜空の高みへ、白銀の尾を引く昇り竜の光が翔け、爆ぜる花火は鮮麗な青の光が数多煌き舞い遊ぶ妖精に、妖精花火の輝きの裡から眩い黄金の光が星の花のごとく咲き乱れるクロセット。
星空に青と金の輝きが鏤められた瞬間に地上から夜空へ翔けたのも青と金の乙女達、迷わぬシル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)と力強いアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)の【飛翔】が夜空を彩れば、
「「ルーチェ・ソラーレ!!」」
地上から一斉に花開いたのはあの決戦の日の記憶を胸に甦らせたパルマの人々の声。明日を照らす太陽の光、未来を歌った自分達のことを一瞬で思い出してくれたのだと思えば胸の奥からも瞳の奥からも熱いものが込み上げて来るけれど、
「そうだよ、ただいま! 今夜もまたみんなを勇気づけに来たんだ!!」
「うんっ! 今夜は歌やダンスじゃないけど、全力で戦舞を披露するから、見ててね、みんなっ!!」
溌剌たる笑みを咲かせた二人、アンゼリカとシルは満開の笑顔で地上の人々に手を振って、互いに相対したならその瞬間に戦舞の幕を開けた。合図の声も目配せさえも要らぬ、相棒同士だからこその呼吸と呼吸。
「それじゃアンゼリカさん、一緒に舞おうかっ!!」
「やるからには全力全開の本気で! だよねっ!!」
風翼の装飾はそのままに白銀の長杖が一瞬で銃へ変じたなら、楽しげに笑んだシルが連射と連続魔法の技能が冴えるままに撃ち放つのは数多の精霊の属性の彩を纏った誘導弾。炎の紅、水の青、風の緑、色とりどりに翔ける魔力の流星なれど、それがパラドクスでないなら勿論アンゼリカの勢いを削ぐものでなく、高空から数多の輝きを撃ち込んで来る精霊術師めがけて黄金誓姫はまっすぐに翔けあがる。
時に黄金の大剣で流星を薙ぎ払い、時に魔力障壁で流星を弾いて散らして、一瞬で躍りあがった相棒の頭上から輝ける光の獅子とともに大剣を叩き込めば爆ぜる火花は黄金と白銀、散る煌き越しにアンゼリカがにこりと笑いかければ、ふふっと笑み返したシルは右手の白銀で相棒の大剣を受けたまま、力負けする寸前に左手の淡碧を閃かせた。
淡碧の煌きが描く聖剣の軌跡を届かせることなく跳び退ったのは相棒に勝るアンゼリカの一撃離脱の技あればこそ、然れど即座に解き放つ裁きの光纏う数多の星が千輪花火より華やかに苛烈に爆ぜる夜空を、全く怯むことなく青き影が翔けてくる。
天輪輝星(テンリンキセイ)――己のパラドクスたるそれ、ディアボロス相手でも確実に痛手を齎すその威力を識りつつも迷わず突き抜けて来る相棒の姿に、アンゼリカの魂の芯から歓喜と高揚が爆ぜるように咲き誇った。
大型砲撃魔法を最も得手とするシルに対し、近接格闘戦を最も得手とするアンゼリカ。互いの手の内は百も承知で、
「それでも挑んでくるのがシルだよね! 勿論こっちも手加減なしで受けて立つよっ!!」
「近接ならアンゼリカさんが上手に決まってるけど、今夜は挑まないわけにはいかないからっ!!」
空中戦の技能を活かして斬り込んでくる淡碧の剣閃に黄金の刀身を咬ませ跳ね除けて、互いの死角を獲り合うように夜空を舞いながら翔けあがって切り結び、淡碧と黄金の煌きが爆ぜるたび挑むように笑み交わす。倒すためでなく魅せるために戦う相手は無二の友、これで心が躍らぬわけがない!
夜空を両断せんばかりの勢いで振り落とした黄金の大剣を淡碧の聖剣で僅かに逸らされたなら、その拍子に傾いだ己自身の体勢をも活かしてアンゼリカが打ち込む拳の強打。だが猛然たる勢いのそれが寸止めに終わった刹那、一瞬とまどったシルの至近で黄金誓姫が裁きの星を解き放った。輝きを咲かせるのは彼女の勇気が結晶した数多の星々。
眩い光に視界も意識も染めあげられ、数百発の花火さえ凌駕しそうな輝きが咲き誇り、更にアンゼリカの【照明】が夜空に真昼の輝きを齎せば、あたかも一瞬でこの夜が明けたかのような光景に地上から歓声が湧く。
「今のは完全に不意を衝けたかな? 今夜は最初から最後まで本気全開だもんねっ!!」
「うん、今のは全然読めなかった……! 流石は私の相棒さんっ!!」
相棒なら凌ぎきるはずと己に慢心することなく確信したアンゼリカが笑みを咲かせれば、屈託のない笑みを咲かせて応えた精霊術師が瞬時に精霊魔法陣をも咲き誇らせた。
言葉よりも笑顔で、剣と剣で、力と力で、魂を触れ合わせるように語り合う。
星が流れるよりも短い一瞬での高速詠唱でシルが迸らせるのは、六属性の精霊の力に時の力をも重ね、鮮麗な七色の輝きを撃ち放つ七芒星精霊収束砲(ヘプタクロノス・エレメンタル・ブラスト)、人々の心に燻る闇すらも払うようにアンゼリカが齎した夜明けに、シルが闇をも影をも撃ち抜く虹の光を描き出せば、二人の胸に、そして爆ぜるような歓声を沸かせた地上の観客達の胸に、あの日二人が仲間達とともに歌った希望がいっそう眩く花開く。
――太陽も飛び起きるほど声を上げて、
――見たことのない朝を奏でるよ!!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV3が発生!
【腐食】LV1が発生!
【照明】LV1が発生!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【スーパーGPS】LV2が発生!
【クリーニング】LV1が発生!
【士気高揚】LV2が発生!
【現の夢】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV6が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【反撃アップ】LV3が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
ゼキ・レヴニ
オズワルド(g06743)と
此度は再戦
お互い手の内もある程度知れてるなら
魅せる戦いもちっとはやりやすいか
マ、お手柔らかに頼むな
【飛翔】を借りて空へ
一番槍は戦の華ってんだ、初手から派手に行くぜ
『躯』を槍の形状に変じ、勢いつけ突撃
お前さんみたいな立派な翼はないが、空中戦も幾度目かで慣れてんだ
一撃突き入れては間合い取り、棒術の様に扱い剣を弾いたり
空を広く使って打ち合ってく
前ん時は魔術に苦しめられたが
ハッ、剣技の方も達者だとはなァ
直に得物を打ち合うのは純粋に愉しく
何より人々を楽しませる為だけに『躯』を使える事が嬉しく
火花散らす程、戦舞にも一層熱が入る
そんじゃ追い越されねえ様腕を磨いとくか
負けやしねえさ
オズワルド・ヴァレンティ
ゼキ(g04279)と
初対面が殴り合いだったこともあり
こういった催しは好都合だな
存分に盛り上げようじゃないか
獅子の紋様刻まれた片手剣にて
剣術メインで戦舞としよう
先ずは空中戦の慣れ具合を相手で様子見しつつ
初手の一番槍は前にも見たな、と
改めての再戦の機会に気分が躍る
何度か打ち合ったあとには
積極的な攻める剣戟に転じて
火花散る様を魅せるのも、
熱い闘いではないかね
開いた間合い、広々とした空には
華も必要だろうと魔術による炎の矢でも応戦して
派手に魅せるのは魔術師の十八番だが
こうして直に得物を打ち合うのも悪くはないな
此度は勝敗を重んじるものではないが…
ふふ、いずれは勝ち越してもみせるさ
咲樂・祇伐
千景/g01765と
飛翔と共に翼をはためかせ
ふふ
ひらり開くは戦扇の喰桜
千景さんの剣にはいつも助けられておりますが、対峙するの初めてね
宵に酔いしれる桜の蠱惑を咲かせましょ
纏うは桜花
舞うは蠱惑
宵の穹に桜花咲かせて蝶のように舞い踊る
剣舞と扇舞の織り成す彩をご覧あれ
春嵐は優しき春風に
扇と刀触れれば、春が咲く
光を乱反射する翼はためかせ
身を翻しいなして、鈴音と共に打ち合えば散る桜
けれど桜花絢爛、再び咲き誇る
あなたが宵に桜を描くなら
その花々の上
蝶のように舞ってみせる
千景さん
名を呼べば伝わる
自然咲くのは笑顔と、こころ
……嘗て、父上に習った龍の神楽
魅せて咲かせて
どうか
皆の心の裡にも
絢爛のさくらを咲かせられるよう
紫空・千景
祇伐/g00791と
飛翔で夜空へ
祇伐と交えるのは初めてだな
あの太刀は扇の形を取ったのか
抜くは夜明け色の刃、暁
道化師の剣気よ今宵は眠れ
美しき夜を彩る為に
ふわり、ゆらり
扇舞と剣舞の共演
春の響宴
刀を筆とし描くは桜
破砕を抑え
連撃で沢山の桜を舞う様に描きて
剣舞は鮮やかに艶やかに
さくら
さくら
刀と扇が重なり甲高い音に一度散れども
互いに滑らせる軌跡に
路が如く桜が咲いて朽ちはせぬ
何かを壊したとて復元の桜を描き
再生の薄紅咲きて
ほら、元通り
うつくしく舞う拠り所の桜に見惚れて
されど自らもまたいざない
告げる音はひとつだけ
――祇伐
私の唯一の桜の名
約束した響きは鮮明に
満開絢爛の桜宴を御覧在れ
夢心地と共に
見せて、魅せての夢桜
朔・冥夜
ケペシュ(g06831)と
……良い夜だ
空中戦なら、俺の方が少し有利か?なんてな
どうせだから本気で闘り合って魅せようぜ
お前となら心が躍る
得物は赫き刀身の月鱗を抜き
何か賭けでもするか、張り合いがあるし
より観客を湧かせられた方に
お前に欲しいものをくれてやる
約束していた刀か、良いよ
俺は……そうだな、お前のものを何か頂戴?
ふふ、じゃあ遠慮なく
薄紅の翼を生かして飛翔でひらり動きを翻し軽やかに
夜空に桜が舞うように、華を魅せよう
一方は不意打ち、もうひとつ生み出した刃で
お前の名の美しい一対の刃と重ねて
……これで俺も二本
彼の刃は真っ向から受け止めて鍔迫り合いを
噫、愉しいよ、遠慮の無いお前と交わす刃は最高だ
ケペシュ・ナージャ
冥夜殿(g06409)と
ええ、こんな夜にはきっと良い打ち合いが出来る
俺の剣も貴方との勝負を待ち焦がれています
一対のケペシュを携えて貴方と対峙する
俺の欲しいものは変わりません
勝ったら貴方の刀をください
貴方が勝ったら…
いいですよ、それじゃあ欲しいものを考えておいてください
高く跳躍すれば、そのまま【飛翔】で空中に留まります
身軽さを活かして素早く飛び回り撹乱しましょうか
得物に猛毒を宿し、死角から捨て身の突進を繰り出したなら
火花散る程の鍔迫り合いを
はは、やっぱり戦いってのはこうでなくちゃ
まだ終わりませんよね
もっと刃を交え、魅せ合いましょう
貴方との戦いはなんて愉しいんだ
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
飛翔し
長針をくるり一回転
針先をぴたり
躊躇いもブレもせず
彼へと向けて
僕以外へ余所見したと考えれば
惑うことなく貫けますね
冗談を笑みに乗せ
招くのは春野の香
一斉に萌す草花の幻を空に咲かせよう
花火と共に華やかに煌き
次々と芽吹く、命の慶賀
時に優しく頬を撫でる風も
爆ぜるかに咲き乱れる花々も
全て幻の宴だけれど
人々の眼前に
心に
花を咲かせるよう朗と謳いあげる
極いっときの眠りの隙も
穿つように見逃さず
針を振るって武器を弾いて
存分に
否
思う以上に
打ち交わす此の時が楽しいものだから
知らず浮かぶ笑みは鮮やか
あなたの焔に焼かれるのも
悪くはないと思うけれど
どうせなら二人でもっと熱く
燃え上がりましょうよ
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)
飛翔
おっかないなぁ
いつも通り仲良くやろうよ。ねえ?
悠々と嘯きながらも
撫でる『レゼル(長剣)』はギラギラと輝いた
前に戦場でも目にした春の野
綺麗な幻だ。ついた息が咲かす薔薇達も一時ばかり佳景の仲間入り
散り始めと同時、飛び出して振るう剣
太刀風に、火の粉も花弁も地に落つ前に舞い踊る
さながら再生、再誕
――祝福を
おっと、
切り結ぶこと数度。瞬きの隙に払われ、伸ばす逆の手
突き出される針持つ腕を掴み取るのは、舞踏の演出めいた
引き寄せ、吐息の届く間近で湧く花吹雪
このまま二人、燃え尽きるのも悪くないが
そうも上手に誘われちゃあね?
――、一笑
花焔を切り裂く刃と刃で強く弾きあう
もう少し遊ぼうか
リディエッタ・ジーベル
シャルロットさん(g00467)と
戦う女性は魅力的なことをここでアピールするのだわ
シャルロットさん、準備はいい?
ナハティガルの手甲同士を突き合わせれば準備は万端
小さく息を吐き出して一気に肉薄
シャルロットさん、全力で止めて、全力で打ち返してね
ほら、モラさんも!
飛翔で空を駆り、近づいては離れてのヒットアンドアウェイ
歌には歌を
演奏にはフリューゲルの演奏を
物理には物理を!
ぶつかり合う音はいつか素敵な共鳴となるの
楽しいのだわ
さ、とっておきの音楽を奏でましょう
パラドクスを発動
海の奇跡はあなたに何を齎すかしら
あなたの旋律もどうか聴かせて?
上がった息のまま彼女と共に一礼を
うふふ、わたし達かっこよかったかしら
シャルロット・アミ
リディさん(g06710)とご一緒に
ふふ、そうね、戦う女性は魅力的
それに私たちには魅せるものがあるわ
音の力
いきましょう、リディさん
肉薄してくるリディさんから避けるように
楽器ケースで応戦
モラさんはそこで待機してて
大事な用事があるのよ
歌には歌を
物理には物理を
そして
リディさんが離れた瞬間
楽器ケースから愛用のバイオリンを取り出して
ケースはモラさんに投げるわ
モラさんのキャッチを目の端に捉えて
奏でるは、リディさんに似合う穏やかな曲
演奏には演奏を!
出よ、竜!
空中を滑空する巨大な竜
リディさんの海の奇跡と重なって
竜の羽ばたきは海を波立たせる
それは美しい景色と旋律を彩るでしょう
楽曲が終われば、優雅に一礼を
ノスリ・アスターゼイン
八千代/g00584
えー、なに
聞こえなーい
彼の呟く声は
風切る翼の音に掻き消えて
でも引き攣る表情を見れば
快活に笑い
八千代の眼前までくるりと旋回
楽しんだ者勝ちって言うデショ
覗き込んで告げたのも束の間
即座に後方へ飛び
腕に纏わせて放つのはReshepの雷撃
ほーら
開戦の火蓋は
地を蹴った時に切られているんだから
油断禁物だよ
点々と飛び回る様子へ
雨も要る?
と悪戯に笑んで
次々に撃ち放とうか
あっは
クールダウンなんて御免だなぁ
もっともっと
欲しがってくれなくてはね
雪の結晶
雷
花火
眩い閃華で大空を煌き彩る
そう、
祭典を見上げる人々の笑顔と幸福がさ
あんたも
もっと欲しいだろう?
鳴り止まぬ拍手喝采は
まるで花火と雷の輝きみたいだね
四十万・八千代
ノスリ(g01118)と
俺って遠距離サポートタイプなんだが
あんなガタイのいい肉弾戦タイプと戦えと……
地上からこの引き攣った表情が見えなくて良かった
できる限り距離を取りたいが
逃げて戦う姿じゃ勇気与えられないか
狙いを定め難い様に上下左右に移動しつつ退かずに前へ
楽しそうに雷放つとか容赦ない
モロに喰らったら意識刈り取られるぞこれ
直撃は避けるように高速移動を続け
ツールを起動
祭りと言えど熱くなりすぎ、クールダウンしようぜ
とフィールド全体に光る雪の結晶を降らせる
雨は結晶に触れれば氷の弾丸となって降り注ぐぞ
照明が当たって花火みたいではあるが
皆が喜んでる様子俺も見たいが
俺は終わるまで外野見る余裕がなさそうだ……
●戦歌の祭典
満天に星々煌く夜空に更なる星々を鏤めるように、金銀の霞草花火が幾つも煌きを咲かせれば、続け様に爆ぜるのは妖艶な紫から鮮麗な紅へと輝きを花開かせて咲き乱れる千輪変化牡丹、然れども光の花々が咲き誇る夜空へと【飛翔】すれば夜風に香るのは花のそれでなく、闘争本能を煽るがごとき火薬の匂い。新宿島に流れ着くまで識らなかったその匂いが己の魂までも沸き立たせるのが興味深くて、
愉しげに細めたラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)の銀の双眸が捉えた何より強い煌きは、
「僕以外へ余所見したと考えれば、惑うことなく貫けますね」
「もしかして今の花火のこと? おっかないなぁ、いつも通り仲良くやろうよ。ねえ」
悪戯な宵菫の煌きにちらり本心を覗かせた永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の双眸か、あるいはその手でくるり一回転した彼の背丈をも超える鋭い長針がぴたりと己に向けた鋩か。言葉では宥めながらも声音で悠々と嘯くラヴィデのどちらが本心であるのかは、撫ぜる長剣に揺らめく紫黒の呪炎がぎらりと輝く様で窺い知れた。
眩い輝きと雷の轟き、花雷が鮮烈なそれらを夜空に咲かせた瞬間に先手を獲ったのはヤコウのほう、地上から射す光も空に咲いた花火の煙をも味方につけて、長針の鋩を夜風に滑らせれば秋の夜空へと一斉に萌す春花と春草の幻。光と煙を柔らかな春霞へと変え、火薬の匂いさえも春の香りに塗り替えれば、夜空に爆ぜた桃色の牡丹花火から溢れる葉落も桜吹雪めいて、
天地から萌して咲き溢れる花々が、次々と芽吹く命の慶賀を謳い上げる。
誰もの目を奪い地上の人々の心までも奪う佳景から戦意だけは護り抜けば、綺麗だ、と竜人がついた感嘆の吐息も赤薔薇の花吹雪を咲かせて春野の幻に舞って、虚を衝くよう一斉に紫黒の炎を噴き上げたなら、春野に呪炎の吹雪が荒ぶ夜空を瞬時にラヴィデが突き抜けた。
此方を貫かんとする銀針を弾いた勢いのまま斬りあげれば唸る太刀風が散り落つ寸前の花弁も火の粉も舞い上げ再び夜空へ躍らせる。紫刃を掠め滑らせるようその軌跡を反らした銀針を操る妖狐が艶めく笑みを覗かせれば、その足元から萌す春野の幻が柔らかな萌黄も甘やかな薄桃も夜空へ広げて、
――描き出されるのはさながら炎と春の再生、再誕。
祝福の戦舞を奉納する心地でラヴィデは遠慮も容赦もなく、剥きだしの己そのもののごとき紫刃をヤコウへと叩き込んだ。此方も愉しげに笑んだ妖狐は水平に翳して斬撃を受けた銀針をそのままくるりとめぐらせて、瞬時に更なる幻を爆ぜるように溢れさせ、
幻でありながらも春陽の優しさ暖かさを孕んだ風がふわり竜人の頬を撫で、星の瞬きよりも短い一瞬の眠りを誘った刹那、極限まで研ぎ澄まされた苛烈な刺突を奔らせて――。
「おっと! まったく、空恐ろしいってのはこのことだなぁ」
「……惜しかったですね。怖がってもらえたならまあ良しとしますが」
一片の躊躇いもなく心の臓を穿ちにきた銀閃を左腕と胴の間に通したラヴィデは魂を冷たく貫く戦慄をも愉悦に昇華して、そのままヤコウの腕を捉えて引き寄せれば夜空に描かれた二人の影は舞踏のごとく踊る。然れど吐息さえ触れ合う至近の間に湧き立つのは赤薔薇の花吹雪、紫黒の炎を燃え上がらせるそれにヤコウの背筋をぞくりと撫でたのは戦慄か高揚か。
このまま二人で花焔に呑まれて灼かれて、燃え尽きるのも悪くない。
ふと互いの胸裡を焦がした衝動は酷く甘やかで、蠱惑的でもあったけれど、
「どうせなら二人でもっと熱く燃え上がりましょうよ」
「そうも上手に誘われちゃあね?」
菫と銀の眼差しが間近で絡めば、ふ、と互いの唇から零れたのは吐息の笑み。
花焔の誘惑よりも今夜は戦舞の愉悦が勝るから、吐息を触れ合わせるよりも銀針と紫刃を打ち合わせるひとときを選んで、花火にも負けぬ火花が爆ぜる勢いで打ち合い切り結び、弾かれたように間合いを取っては夜風を裂いて翔けて躍って。
地上から咲く歓声にも胸を躍らせ、銀針と紫刃を、愉悦の笑みを交わし合う。
――思いのほか愉しいこのひとときを、
――もう少し堪能しながら、遊ぼうか。
眩く鮮烈な輝きと夜空の鼓動めいた音を爆ぜて咲かせる花雷は祭典を華やがせるものなれど、夜空へ【飛翔】した己自身が火薬の匂いに呑み込まれるかのごとき感覚が光よりも音よりもゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)の血を滾らせた。
初夏の出逢いは何処ぞの地下であったのか野原であったのか。いずれにせよ確かなのは、初対面が殴り合いであったこと。互いが大地から解き放たれる前にオズワルド・ヴァレンティ(砂塵の・g06743)が不敵な笑みを覗かせれば、
「再戦を期すならこういった催しは好都合だな。存分に盛り上げようじゃないか」
「前ん時である程度お互いの手の内は知れてるしな、魅せる戦いもちっとはやりやすいか」
――マ、お手柔らかに頼むな。
機械の四肢を持つ男はそう口の端を擡げたけれど、お手柔らかになど本気でゼキが望んじゃいないことなど魔術師の翠眼に映った相手の掌中の金属塊が言葉よりも雄弁に物語る。竜翼で風を捉えて一気に舞い上がった夜空が戦舞の舞台、翼の有無はディアボロス同士の戦いに優劣を生まず、空中戦の技能も互いに持たぬとあれば、物を言うのは経験と、空中戦以外の要素だ。
天高くで爆ぜて咲き誇った紅の霞草花火が血飛沫のようだと感じたのは戦舞の幕を開けた二人ともに同じこと、瞬時に宙に散った金属片が鋭い疾風めいた武器を形作れば、槍という『躯』を得た仲間の記憶とともにゼキは一気に夜風を翔けた。
「派手にいかせてもらうぜ、一番槍は戦の華ってな!!」
「ああ、前にも見たが、存分に華って奴を見せてくれ!」
槍を両の手で握れば嘗てけして一番槍を譲らなかった少年兵の記憶とともに己自身もが疾風の鋩となった心地、一気呵成の全力加速は突撃の技に後押しされて勢いを増し、時空の理をも超え弾丸めいた速度でオズワルドへ襲いかかる。再戦の実感に高揚するまま迎え撃つ彼の手に閃くのは獅子の紋様に彩られた片手剣、
純粋な剣術と槍術ならともかく相手の槍がパラドクスである以上は此方に分が悪いが、それを承知で打ち込んだ刃が鳩尾を穿つはずだった鋩を脇腹へと逸らして、弾かれるよう即座に相手が間合いを取れば夜空をより広く高く戦舞の舞台と成すべく大きく竜翼で羽ばたいて翔け、再度襲い来た一閃を此度は下段から払い除けんと剣技で挑む。
相手の空中戦の力量を見極めるための守勢は数合、確かな感触を掴めば瞬時に攻勢へと転じて、軽い一跳躍でゼキの頭上を獲ったオズワルドは迷わず片手剣を打ち下ろした。鋭く響き渡る金属音、眩く弾けて散る火花、咄嗟に両手を滑らせ持ち手を組み替えたゼキは棒術の要領で斬撃を受けたが、間髪を容れずに襲い来る刃は隙あらば此方の喉を肩を貫かんと煌いて、
「前ん時は随分魔術で翻弄してくれたが……ハッ、剣技の方も達者だとはなァ!」
「剣技の型もある種の魔術に通じるものなのでね――と、ここは嘯いておこうか」
そういやコイツ、魔術師のくせに頭の竜角を活かすために頭突きも辞さない奴だったな、と苦笑しながらも渾身の力で叩き込むのは回し打ち。僅かにオズワルドの力が緩めば瞬時にゼキは鋩を奔らせて、彼の頬を掠めたそれが血飛沫を躍らせた刹那、爆ぜる勢いで互いに間合いを取れば、
夜闇に咲いた紅の牡丹花火の輝きが金に変化すると同時、天高く掲げたオズワルドの指先で紅色の鉱石が砕け散った。
焔の瞳たる名の宝石から解き放たれた時空の理を超える魔力はたちまち灼熱へと結晶し、紅炎輝く矢となって奔って翔けて降り注ぐ。こういった華も必要だろうからな、と微笑する彼に上等だと咬みつくよう笑み返し、己が槍で紅炎ごと貫く勢いでゼキも翔けた。紅炎に灼かれながらも迫る相手の懐、再び閃いた片手剣と打ち合い一瞬の隙に貫いて。
純粋な愉しさに笑う。
唯ひとびとを楽しませる為だけに『躯』を揮うたび、胸裡に燈る『あいつ』の面影が年相応の笑顔を見せる気がして。
彼の槍相手に剣での守勢は不利だと改めて確信したオズワルドも高揚が口許を笑ませるままに傷を厭わず斬り込んでいく。相手に棒術の構えを取らせるまでに追い込めたらしめたものとばかりに、乱舞のごとき剣閃を重ねて攻め立て、地上から咲く歓声に翠の双眸を細めた。此度の勝敗がどうなろうとも、
「ふふ、いずれは勝ち越してもみせるさ」
「やれるもんならやってみろ、こっちもきっちり腕は磨いておくからな」
――戦舞の相手が互いであるなら、楽しみ尽くせることだけは間違いない。
星々が瞬き煌く夜空に、更なる星が光を咲き誇らせる。
花火玉に数多詰められた球状火薬に冠された名こそが星、華やかに爆ぜて光と彩を花開かせて、時に光の露を瞬かせ、時に流星雨のごとく降りそそがせて。青と紫の花弁を大きく咲かせる未来花が夜天に輝いた瞬間、薄紅の天使の翼を羽ばたかせた朔・冥夜(星朧・g06409)が光咲く空へ舞い上がった。
良い夜だと微笑する冥夜を追うのはケペシュ・ナージャ(砂蠍・g06831)、空中戦の勝敗を左右するのは翼の有無ではなく互いの技量、なればこそ、
「どうせだから本気で闘り合って魅せようぜ。お前となら心が躍る」
「ええ、俺の剣も貴方との勝負を待ち焦がれています」
愉しげに笑んで赫き呪刀をすらりと冥夜が抜いたなら、夜空に禍き月のごとく煌く彼の刀身に青き双眸を細め、ケペシュも両の手に鈎型の刀身を備えた一対の剣を握った。今夜の勝敗を決するのは傷の深浅ではなく如何に観客を沸かせたか。勝者が得るものは、
――俺の欲しいものは変わりません。勝ったら貴方の刀をください。
――俺は……そうだな、お前のものを何か頂戴?
互いが持つものだと決めたなら、両者の【飛翔】が夜空への乱舞へと変わった。軽やかに空を翔けて相手を翻弄せんとする戦術は双方同じ、なれど薄紅の翼を翻し夜空に桜が舞うがごとき華を魅せんとする冥夜のほうが死角が大きく、髪も肌も夜闇に馴染むケペシュの姿が不意に視界から消える。
刹那、彼の翼の影に沈んだケペシュは下方から突き上げる勢いで冥夜を急襲した。
「そうきたか……!!」
「地上の戦いではまず無理ですから、不意を衝けるかと」
観客達から湧きあがる歓声とともに躍りあがるがごとき突撃、鈎型の刀身に蠍の猛毒を宿した双剣の一方を赫き呪刀に抑え込まれながら繰り出すもう一閃が、冥夜の翼から薄紅の羽を花めいて散らす。灼けつくような猛毒の痛みに目許を歪めつつも強気な笑みを覗かせた冥夜が、一旦刃を引くと見せかけて鋭く切り返した一刀は双剣に受けとめられたが、
「これで俺も、二振りだ」
「……!! ええ、貴方にはその手がありましたね」
空の片手を翻せば瞬時にそこに顕現するのは魔骸連刃、咄嗟に双剣を開いたケペシュの二振りに呪刀と魔刃で挑んで烈しく打ち合って、軋むように刃を唸らす鍔迫り合いで至近に燈る互いの笑みを紫昏と青の双眸に映した。
呪刀と魔刃と咬み合う双剣の刃は鈎とも鎌型とも見え、ブルーロータスの花弁を刃に研ぎあげたかごとき青を宿す。美しい剣の名をそのまま与えられた青年を見据えて笑み深め、冥夜は軋む刃で彼を圧して、一瞬の挙動で強く刃を打ち付け反動を活かすように大きく間合いを取った。
来いよと笑う彼は両手に刃を携えるが、相手がその気になれば手であれ足であれ刃を顕現させることが叶うのはケペシュも承知で、なればこそ、魔骸連刃の一撃は喰らう覚悟の捨て身の攻勢で挑む。夜空に千輪牡丹が爆ぜれば咲き誇る光と彩と影、眩い明滅に身を躍らせ斬り込めば、猛毒の飛沫が散るのにも構わぬ冥夜に真っ向から受けとめられて、
「はは、やっぱり戦いってのはこうでなくちゃ! まだ終わりませんよね。もっと刃を交え、魅せ合いましょう」
「噫、愉しいよ、遠慮の無いお前と交わす刃は最高だ」
弾けるように笑って挑み合う。斬り合い鬩ぎ合い鍔迫り合って、
地上に咲かせる歓声で勝敗が決するまで、思いのままに。
星空が鼓動を打った。
夜闇にひときわ大きく爆ぜて咲き誇るのは大輪の冠菊、鮮麗な桃色の菊花から金の輝きが滝のごとく溢れだせば、続け様に連発された花雷が強い輝きで金の滝を真昼の輝きに呑み込んで、夜空に【飛翔】した二人を影絵のごとく映し出す。
「俺って遠距離サポートタイプなんだが、あんなガタイのいい肉弾戦タイプと戦えと……」
「えー、なに、聞こえなーい」
眩さに藍色の双眸を細めた四十万・八千代(悪食ハッカー・g00584)も決して背丈が低いほうではないのだが、今夜の対戦相手ときたら八千代よりも頭ひとつは背丈で上回るうえに、体格でも圧倒的に勝る。広い背中を更に大きく見せる魔力の翼が夜風を切る様に思わず顔を引きつらせれば、
花雷の音に呑まれたのか己の翼が風切る音が掻き消したのか、ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は聴き取りきれなかった八千代の言葉を確かめるよう振り返り、彼の表情が引きつる様に磊落に笑ってその眼前まで旋回して、
――こういうのはさ、楽しんだ者勝ちって言うデショ。
藍色を覗き込んだ蜜色で悪戯に笑んでそう告げた刹那、瞬時に後方へ飛んだノスリは腕に稲妻を絡ませ、鮮やかに迸らせた迅雷で八千代を強襲した。轟く雷鳴、翔ける黄金、
「ほーら、開戦の火蓋は地を蹴った時に切られているんだから、油断禁物だよ!」
「――!! 楽しそうに雷放つとか容赦ない、モロに喰らったら意識刈り取られるぞこれ……!!」
胸を撃ち抜くはずだったそれを腕を犠牲に直撃を免れて、然れど今夜の戦舞の趣旨を想えばただ逃げ回る訳にはいかないと一瞬で覚悟を決めた八千代も夜風を翔けた。一直線の飛翔など言語道断、狙いを定め難いよう夜風を不規則に斬り裂く心地で上下左右に大きく振りながら、地上の観客達を勇気づけるよう、前へ、前へ!
華麗な紅に青に桃に緑の千輪牡丹が咲く夜空を光の花々の合間を縫うよう翔ける友の姿に愉しげに笑み深め、自身も夜風と光と影を千々に斬り裂くように翔けつつノスリは、雨も要る? なんて蜜色の双眸を煌かせた途端、雷撃のみならず驟雨をも撃ち放つ。今夜の戦舞を彩る彼の技は雷撃と驟雨こそが本来の姿、
然れど、
「祭りと言えど熱くなりすぎ、クールダウンしようぜ」
「あっは、クールダウンなんて御免だなぁ」
黒き手套に覆われた八千代の手許でハッキングツールに光が踊ったなら、戦舞の舞台は一瞬で八千代の思うがまま。極寒に染められた夜空へ凛冽に煌く雪の結晶が降れば、ノスリが招来した驟雨さえ結晶に触れられ氷の弾丸に変じて彼に降り注ぐ。地上から射す光に跳ねる数多の白銀の煌き、負けじとノスリが眩い迅雷を迸らせれば金銀の輝きが夜空に散乱して、地上から大きな歓声をも咲き誇らせた。
花雷を打ち上げる必要もないほど輝く数多の閃光、雷鳴。夜空へと虹色の未来花が咲き誇れば極寒の世界に舞う雪の結晶も一斉に七色に煌き躍り、氷の弾丸もプリズムめいた虹を撒く中を眩い迅雷もひときわ鮮やかに翔けぬける、満天の閃華。
――もっともっと、欲しがってくれなくてはね。
「そう、祭典を見上げる人々の笑顔と幸福がさ。あんたももっと欲しいだろう?」
「欲しくないとは言わんが、俺には地上を見る余裕もないんだが……!!」
凍てる夜空でなおも愉悦の熱を孕むノスリの眼差しと声音に八千代はそう応えるのがやっとのこと、だが数多の雪の結晶の紗と氷の弾幕で彼の雷撃へと挑んで夜空いっぱいに氷雪と黄金の煌きを躍らせて。大丈夫だよ見てみなよ、なんて促しながら奔らせてくる稲妻の直撃を躱すために飛ぶ。
なれど、地上に眼差しを向ける余裕はなくとも、地上から湧きあがる歓声と喝采がひとびとの笑顔と幸福の証そのもの。
地上にはきっと、それこそ数多の花雷を咲かせたように輝く笑顔が幾つも幾つも生まれているはずだ。
真白く輝く霧を咲かせるかのごとき霞草。
夜空を数多彩る霞草花火はまるで白桜が満天に咲くかのようで、その優しい煌きの合間に桜色と紫色の蝶花火が舞う様に、咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)と紫空・千景(暁の切り札・g01765)は眼差しを重ねて微笑み合った。
美しい花火なれど、花火の美しさだけではこの祭典には足りぬから、乙女達は夜空ばかりではなく人々の心をも彩るために舞い上がる。桜水晶きらめく竜翼を翻した祇伐の手許に咲くのは喰桜の本質を受け継いだ戦扇、
「千景さんの剣にはいつも助けられておりますが、対峙するのは初めてね」
「祇伐と交えるのは初めてだな。そうか、あの太刀は扇の形を取ったのか」
淡くはにかむように、然れど嬉しげに笑む彼女に目許を和ませながら笑み返して、千景も星を鏤めた鞘から夜明け色の刃を抜いた。道化師の剣気よ今宵は眠れ、と秘めやかに囁きかけて、赫で高く結い上げた紫鴉の髪を艶やかに夜空へ躍らせる。
挑み合う乙女達の戦舞は、桜花爛漫を招く春の饗宴。
桜花纏う竜の娘が扇を蝶の翅と成すよう舞う春の祝福、桜の蠱惑に挑むのは暁の剣士の剣舞、淡い菫から薔薇へ明けてゆく刃は筆となり、連撃の剣閃が次から次へと夜空へ桜の花を描きだして。咲き溢れる桜花爛漫を蝶のごとくに舞った祇伐が春を掬いあげる扇、桜花を連れて春風を生む千景の刃の一閃が打ち合えば、凛と跳ねる鈴の音と高く響いた金属音とともに桜花が舞い散るけれど、
「大丈夫だよな」
「ええ、大丈夫」
一瞬で言の葉と眼差しを交わした二人が滑らす扇と刃の軌跡に再び桜が花開いていく。身を翻しては重ね合う扇舞と剣舞、柔い春の光を水晶の角に翼に散乱させて舞う相手に千景はひととき見惚れもするけれど、閃く扇を受けていなして、夜闇を斬り拓く刃の軌跡を扇が滑らせ受け流せば、そのたびに咲く桜に笑みを綻ばせ、桜の迷宮を創り出すよう連撃を重ねて。
二人で夜空へ描き出す桜花爛漫、桜花絢爛。地上の人々の目も心も奪う春のなかで、
――祇伐、
――千景さん。
数多の桜咲く世界にも唯一の桜の名を千景が紅唇に咲かせれば、ふわり自然と笑みもこころも咲かせた祇伐の花唇が大切にたったひとりの名を呼び返す。約束の響きは鮮明に、胸に燈る願いも光を増して。互いの願いを掬い合う。願いは幾つもあるけれど、今夜何よりも叶えたい願いは、この地上の、パルマの人々の心の裡にも絢爛の桜を咲かせること。
桃にプラムにアーモンド、この地でも桜に近しい種類の果樹が桜によく似た姿の花を咲かせることはあるのだろうけれど、この地の人々の中に極東の桜を観たことがある者はきっといまい。
だからこその夢桜、だからこその夢心地。
扇舞と剣舞を重ね、魅せて咲かせて、皆の心の裡にまで――。
眩い花雷、鮮麗な菊、華やかな千輪牡丹。
光と彩が絶え間なく夜空に咲き誇れば物理と音楽で戦う乙女達も気合は満点で、
「戦う女性は魅力的なことをここでアピールするのだわ。シャルロットさん、準備はいい?」
「ふふ、そうね、戦う女性は魅力的。それに私たちには魅せるものがあるわ、音の力がね!」
澄んだ空色の双眸に挑戦的な煌き湛えたリディエッタ・ジーベル(半壊歌うたい・g06710)は小夜啼鳥の名を冠した手甲を突き合わせた瞬間に迷わず夜空へと翔けあがり、強きに笑み返したシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)も新緑の瞳に熱意を煌かせて一気に翔けた、瞬間。
「シャルロット、全力で止めて、全力で打ち返してね! ほら、モラさんも!」
「リディさん早っ! モラさんはそこで待機してて、大事な用事があるの!!」
『もきゅっ!!』
高空から一瞬で躍り込んだリディエッタの渾身の拳が叩きこまれた。その強打の威力は咄嗟に翳した楽器ケースで減じて、思う様身体を捻ったシャルロットが遠心力も乗せた楽器ケースの殴打を見舞えば両手の手甲を交差させた友に防がれ、夜空を翔けモーラット・コミュに応援されながら乙女達が物理と物理で繰り広げる戦舞。
然れど、不意に咲き綻んだリディエッタの花唇から聖堂に射す光を思わす歌声が夜空へ響けば、少女の祈りの歌が地上から花開いた光とともに夜空へ海の奇跡を呼び覚ます。穏やかに柔らかに、けれど幾重にも重なる細波が鋭い水流に変じて迸れば、
「物理には物理を! 歌には歌を!!」
「望むところなのだわ!!」
大きく振り回すように楽器ケースを揮いつつ真っ向から水流に挑むシャルロットの花唇からも歌声が咲き誇った。心の泉を凛と震わすように澄んだ声音が、穏やかに心へ寄せくるようなリディエッタの声音と響き合っていく様に、地上からはひときわ鮮やかな歓声が湧きあがる。
淫魔宰相『夜奏のルドヴィカ』との決戦の日ばかりでなく、それまでにもディアボロスの歌声や楽器が奏でる音楽に救われ勇気づけられてきた人々がいる。パルマ公国の多くの人々にとって、ディアボロス達の音楽は今も大切な心の拠り所のひとつであるのだろう。それを察すれば空色と新緑の眼差しを交わした乙女達は笑って頷き合って、
妙なる優しさ透明感で眩いほどに響き合う二人の歌声が、歌曲の涯てへと辿りついたなら、
「物理には物理を、歌には歌を、そして――」
「演奏には、演奏を!!」
穏やかな銀とも金とも思える光沢を抱くフリューゲルホルンをリディエッタが手に取って、中身を取り出した楽器ケースをシャルロットが夜空に舞わせればモーラット・コミュが確りキャッチ! 彼女自身は琥珀色艶めくヴァイオリンに弓を添え、溢れだす二人の音色は甘美で豊麗な響きで夜空からパルマの市街も人々も穏やかに抱きすくめて、
「海の奇跡はあなたに何を齎すかしら。あなたの旋律もどうか聴かせて?」
「勿論それはもう飛びっきりの奇跡よ。出でよ、竜!!」
眼差しでリディエッタが訊ねれば、迷わぬ笑みがシャルロットに咲いた。穏やかな深みを持つ音色を秋の空のごとく豊かに響かせるフリューゲルホルンの旋律が夜空に描きだす海の奇跡は、蒼海からの潮波が大河を遡っていく雄大な海嘯、愛おしい余韻を引きながら華やかに踊るヴァイオリンの音色が織り上げる魔法は、パルマの夜空に巨大な竜を招来する。
大輪の冠菊、幾つもの柳花火、鮮やかな青から銀の細波を溢れさせながら光の滝を生む花火が夜空に爆ぜて輝いて、海嘯の上空に舞う巨大な竜の羽ばたきに波飛沫めいた煌きを躍らせたなら、地上からは熱狂的な歓声が沸きあがった。
楽曲の涯てまで奏で終えた乙女達が優雅に一礼してみせるのはもう少し先のこと。
そのときには、きっと――。
星よ、星よ。
流れ来る星のごとく空を翔け、
燃え盛る星のごとく熱く輝いて、
絢爛たる戦舞を、勇猛たる演武を、壮烈たる武威を、パルマ公国の夜空へと!!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【壁歩き】LV1が発生!
【熱波の支配者】がLV3になった!
【活性治癒】LV2が発生!
【建物復元】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【避難勧告】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
【冷気の支配者】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV4になった!
【ドレイン】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV9になった!
【ロストエナジー】がLV5になった!
【グロリアス】LV1が発生!
咲樂・神樂
禊/g01033と
息もぴったりだったわ
そ!あたしと禊は仲良し
私の鳥達をみて歓ばれたのも嬉しい
禊のおかげ
これはあたしからのお礼
祈りを貰ったから
楽しい祝宴になる様に食糧を
美味しいもの食べられるのは嬉しい
禊は工芸に興味があるのね
香水なら
禊は爽やかでミステリアスな香りはどう
あたしは甘く優しく安らぐ春花と…オリエンタルの?いいわね
そんなイメージでお願いしよ
可愛い手帳ね!
きっと喜ぶわ!予定も楽しみになるわ
マーブル紙なら春暁の空
紫から桜にうつろうものを
あたしはこの紙にする
後で香水の箱や小物入れにして妹に贈るの
なんて楽しい宵だろう
仲良く一緒に笑い駆けて
禊、何か面白いもの見つけた?
こういう時間を倖というのだろう
来栖・禊
神樂ちゃん/g03059
僕と神樂ちゃんは、とっても仲良し
さっきの歓声を聞いたでしょ?
相性だって、ぴったりなんだ
美味しいご飯もいいけど
僕からの贈り物も受け取って
伝統工芸には興味があったんだ
僕はミステリアス
神樂ちゃんに合う香水は何だろう?
フローラル系の、甘さが絶妙なオリエンタル要素がある香水なんてどう?
美しいマーブル紙からの誘いにのれば
自分に便箋
妹へのお土産に手帳を購入
神樂ちゃんは手先が器用だから、立派な小物入れを作るだろう
それは、彼から妹へ、愛を込めたプレゼント
楽しいものを見つければ、駆け出して
面白いことをしようと、一緒に笑い声をあげる
夜は短く、急がないと終わっちゃう
もっと、もっと、まだ足りない
リディエッタ・ジーベル
シャルロットさん(g00467)と
まだお酒は飲めないけれど独特の雰囲気に興味津々
洋梨のスカッシュでしゅわしゅわっと乾杯したい
ええ、乾杯!
充足感と渇いた喉に炭酸がとっても心地良いのだわ
ねえ、シャルロットさん
わたし香水にちょっぴり憧れていて
……その、故郷ではそういったものと無縁だったから。一緒に作ってみない?
甘くて、でも強すぎなくて
そんなお花の香りをベースにした香水をお願いしたいのだわ
シャルロットさんと調香師さんを交互にこっそり窺い見ながら頼むことになりそう
出来上がった香水はふたりで楽しみたいのだわ
どきどきしちゃう――わ、素敵な香り
シャルロットさんもその香りはとっても似合う
ふふ、戦舞のご褒美ね!
シャルロット・アミ
リディさん(g06710)とご一緒に
不思議ね この雰囲気、なんだか懐かしいの
お酒は飲めないから私も柑橘のスカッシュで
モラさんも同じのでいい?
じゃあ、しゅわしゅわっと乾杯しましょう!
戦舞の成功と、パルマの復興に!
香水に憧れちゃう気持ち、よくわかるわ
私も香水をつけるとちょっぴり自信がつくの
大人びた…というか、綺麗になったような、自信
リディさんの希望の香り、作ってもらいましょう?
私もフローラル系の香水、ほしいな
つけるとロマンティックな気分になるような、そんな香り
うーん、ローズがメインだと、嬉しい、かな
作っていただいた香水をリディさんと嗅いでみて
パルマの調香師さんの腕前に感服するの
シル・ウィンディア
演武、楽しかったけどやっぱり疲れたぁ~。
疲れた体には、やっぱりおいしいものが必要だねっ♪
とはいえ、そんなにがっつり量の多いものは食べられないから、いろんな種類を少しずつ食べて行こっと。
まずは、職人さんの切り立て生ハムっ!塩気が体に染み渡るのー。
続いては、暖かいものがいいかな?ん-、お肉系の煮込み物とかあるかな?それと、やっぱり、果物というかスイーツも欲しいねっ!
食べた後は、香水は興味があるし見てみようかな?
やっぱり大人の世界の一歩って印象だしね
ん-、でもせっかくだから調香してもらいたいかなー。
イメージは、爽やかで透き通った風のイメージ…
そんなイメージでも大丈夫かな?
中々伝えるのが難しいの…
四十万・八千代
g01118/ノスリ
ボッリートミストサルティンボッカビステッカ
ブルスケッタタリアテッレ……
イタリア料理に精通してないから呪文の様
だが未知の食事との出会い以上に喜ばしいことがあるだろうか
口福の伝道者でどれも皆で食べ放題
料理の皿が並べば瞳輝かせ
乾杯終えれば早速食べ始めよう
復興支援だ、ほら君の底なし胃袋の出番だぞ
既に現地に溶け込んだ連れの男にそう声をかける
……相変わらずのコミュ力お化けめ
自分は一歩引いた所で見ていたが
呼ばれ問いかけられれば「これだね」と
食べ応え抜群ビステッカの皿を掲げ、増やす
マーブル紙や香水もいいが
俺にとってはこの食事の
食欲唆る香りと彩りが何より……
なんて言ったら技術者に怒られるかな
咲樂・祇伐
千景/g01765と
心に咲いたあえかな桜はそのままに
咲き誇る笑みをたたえたままに
あなたのあたたかな手を絆ぐ
綺麗なマニキュア!
千景さんは器用ですもの
指先に彩が咲けば心も華やぐもの
私の爪も彩って下さるの?
あなたが咲かせてくれる桜が夜明けが
指先が
瞬く間に宝物と変わるのよ
これがマーブル紙
不思議…夢のように混じりあい織り成す彩の美しさ
職人技です!
彼らが困らぬよう
文化が栄え花開くよう
素材を増やして贈るわ
千景さん、この紙はどうかしら?
春の宵明けての暁の、そんな彩に染まっているわ
扇へと魔法のように変えてもらうの
交換こ!いいですね
開けば現れる桜と鴉に
綻ぶ咲みは隠せず
だってあなたの手のうちで
私の彩が咲いているから
紫空・千景
祇伐/g00791と
夢心地は余韻として
鮮やかな記憶として
ふたつの舞で魅せた熱は手を絆いで重ねて
そうだ…と気づき
マニキュアで辺りを液体錬成をしながら歩く
描くは桜、彩は夜明け
恵みとなれ
幸せとなれ
ふふ、祇伐の爪も塗ろうか?
とびきり綺麗に彩るぞ
マーブル紙…綺麗だな
違う夢心地が色鮮やかで
つい魅入られる
職人とは凄いものだ
彼らにも必要な素材を贈らねば
名を呼ばれて振り向けば
祇伐の髪で揺れる春暁
私の夜明けを合わせた様な彩
噫、これに魔法を掛けて貰おう
秘密が如く描き足したのは――
扇を広げた時羽ばたく鴉がさくら纏う姿
祇伐、交換しないか?
願わくば
揺らぐこころの安寧にと
貰った扇は大切そうに胸に抱く
あんたの彩が咲いてるから
ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ歓迎
戦舞に参加された皆さんはお疲れ様でした
と、葡萄の果実水で乾杯を
口福の伝道者を使用
パルマの美食を心ゆくまで堪能させて頂きます
やはりチーズと生ハムは外せません
初めて食べるモスタルダと合わせれば
塩味、甘味、辛味が混ざり合い
複雑かつ美味な協奏曲が広がるかのよう
ラグーパスタの上にも摩り下ろしたパルミジャーノをたっぷりかけて
間違いない味わいに舌鼓
食事を楽しみつつ、パルマの人々に最近の話も聞ければ幸い
これから冬にかけて、心配に思う事は無いでしょうか
聞ければ次回の支援にも繋がりますし
すぐには思いつかないなら、結構なことだと眦を下げます
オーストリアもこんな風に復興できれば良いなと、未来に夢を描いて
ノスリ・アスターゼイン
g00584/八千代
料理名の呪文をつらつら唱えたら
お疲れの八千代も
元気になるかな
一杯翔けたから尚更
底無しだし
天井知らずだよ
パルマの人々と肩を組んで乾杯
お勧めを教えて貰ったり
皆で最高のマリアージュを見つけたり
ランブルスコも
グラッパも
料理に合わせて存分に楽しみたい
八千代の気に入りの一皿は?
然り気無く輪に呼ぼう
皆の喜ぶ姿も堪能しようじゃないの
更に口福が増すよ
マーブル紙や調香のことも
街の人と語り合いたいな
俺に似合いの香りってどんなだろ、とか
俺達の戦舞をイメージしたマーブルはどう?とか
興味津々
和気藹々
話の種が尽きやしない
寄って来た少年達とは果実水で乾杯
格好良かった?
なんて片目を瞑れば
きっと笑顔の花が咲く
シャムス・ライラ
百(g04201)と
演舞、素晴らしかったね
顔見知りが繰り広げた空中戦を思い出し
口福の伝道者と液体錬成を使用し食事を楽しむ
此方の地方の食べ物に詳しい訳ではないけれど
この生ハムは
「ぷろしゅっと」というのかな
旨味が凝縮している感じ
こっちは
「くらてっろ」?
しっとりして甘みがある
百も食べる?
と彼に勧めつつ
いつも食の細い彼だから
こんな時にかこつけて色々食べさせたい気持ち
ハムに野菜を巻いたり、果物を併せたり
尾と耳の動きににっこり
復興のためと言いつつも自分達も楽しんでしまおう
ん、何か飲む?
飲みすぎないようにね
勿論、連れて帰るつもりだけど
ふふ、酔っ払いの狐さん
甘えてすり寄る小さな体を抱き上げて
アドリブ等歓迎
一・百
シャムス(g04075)と
空中戦にも興味がわいたよ
知り合いの戦闘姿とかあまり見る機会なかったしな
旨味と甘味?王様か…
食べてみないと分からないよな
ハムの食べ比べ?
進められる嬉しさについつい食べてしまう
調理が苦手なので一人でいると食事はサボりがち
珍しい食べ物に目を輝かせおいしいと尾や耳が嬉しさで忙しく
こんなに美味しくて復興できるなんて素晴らしい
いい場所だな
これ何か飲みたくなる…
「ぐらっぱ」って何だろう気になる
普段見ないお酒に浮かれて
飲みすぎないよ…それに連れて帰ってくれるだろ?
楽しそうに覗き込み
お酒は強くないので少しだけ
ほろ酔いほわほわしたまま狐変身
そっとすり寄って軽く甘えるかな
※アドリブなど歓迎
テクトラム・ギベリオ
【ヒラール】
戦舞お疲れ様だったナディア。あの雷光は見事だった。
…意図せず笑いもとれてなにより。(毛玉の頬をむにゅっと摘む)
さぁパルマの雰囲気を楽しみながらトラットリアで美味い酒でも飲もう。
あの店なんか良さそうだ。
と、選んだものの見慣れんメニューが多いが…ランブルスコをいただこう。ぶどうを使った酒だと聞いた。
ナディアはどうする?つまめそうな物も一緒に頼んでしまおう。
酒に強いと聞いているが君は酔うとどうなるんだ?
ほう…抱き付き魔か。ふふ…なるほど大変興味深い。
店主、彼女に60度のグラッパを。
知ってはいたが、空になるグラスに少し驚く。
楽しい時間を忘れるわけにはいかん。適度に果実水をはさんで楽しもう。
ナディア・ベズヴィルド
【ヒラール】
空の戦舞はとても楽しかったわね
テクトラムさんも火球と雹が素晴らしかったし
それに毛玉ちゃんの可愛いらしさを皆に見て貰えたし…って
抓んだら可哀そうよ
見た事の無い物ばかり…分からなくとも美味しいに違いありません
最初は同じお酒で乾杯しましょう
灯りの下で真紅が入ったグラスを揺らめかせ、澄んだ音を立てて乾杯を
私が酔ったら?(そっと耳打ち
恥ずかしいからあまり大きな声では言えませんが…抱き着き魔に…
やっぱり聞かなかったことにしてっ!今の発言忘れて貰いますよ
たくさんお酒を飲ませないと
そういう貴方はどうなのです?
(グラッパを平然と飲み干す)
お互いに聞き合い、笑い、美味しい料理に舌鼓を打ち乍ら楽しい夜を
ギィース・エレクレ
レジーナ(g00801)と
レジーナちゃんもお疲れ様!
とってもカッコ良かったよ!本当に戦いになったらどうなるかな?
芸術の街だね、俺は芸術は詳しくはよくわからないけどレジーナちゃんは芸術家だもの
うん、レジーナちゃんが行きたい所は何処までも
そうだね、環境が悪いからこそ味のあるモノが出来たりするだろうけど
充実してるって事はいい事だよね
どれも素敵だね!俺が選ぶの?
それならこっちかな?
わぁ!とっても綺麗な扇だ!いいの?
わぁーい、ありがとう!
トトにも!トトも嬉しそうにきゅうと鳴いて肉球をあげる
レジーナちゃんには蒼と金が混ざった紙の小さな丸スタンド
更に小さなスタンド、これはブラシちゃんに、どうぞ
ふふっ良かった
レジーナ・ネイサン
ギィース(g02447)と
お疲れ様!そちらもね
はは、本当に戦うのは勘弁願いたいなァ
次は芸術を楽しむ番
芸術は生業にした人や詳しい人だけのモノじゃないさ
ね、付き合って貰える?
マーブル紙のスタンドが気になって
限られた環境で育まれる芸術もあるとは思うけれど
染料不足で好きに
思う様描けないなんて辛かったろう
店を覗けば
綾なす鮮やかな彩に目を奪われ…選べない!
ギィースはこのふたつ、何方が好み?
指した方の白紙ノートを己に
紅色、黒、僅かな緑が差し色の
何処か彼に似た色合いの扇をギィースに
良ければ
付き合ってくれた礼さ
同じ色合いの飾り箱はトトへ
オヤツ入れて貰って?
此方にもありがとう……ああ、いい色だね
ブラシも嬉しそうだ
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
絡み、アドリブ歓迎
マーブル紙のスタンドを訪ねる
マーブル紙作りの実演があれば、ぜひ見せてもらいたいな
色彩が混ざり揺らめき形を成し、写し取られていく様は、いつまでも見ていられるだろうから……
品々も美しいものが沢山だ
白紙の書籍を、手にとって眺めたい
いつか、大切な想いを綴りたい……
そう願いながら、気に入った一冊を求めよう
それから、お土産に……もう一冊
どんな柄がいいかな……と眺めて回り
孔雀の羽みたいなのもいいな
色彩の綾を堪能しよう
胸躍るひとときだ
パルマの芸術の再興と……
ウィーンの復興を願わずにはいられない
二つの街が日常と交流を取り戻せるように、願って
今は戦いの日々……
その頁の合間に、華と彩を鏤めていこう
アンゼリカ・レンブラント
演武はたくさん動いたね
お相手に感謝してから、さーたくさん食べるぞっ
大食いらしく空腹を満たすときは喜びが強い
特に『生ハムの王』を口にできるなら心躍るよね!
チーズと合わせて楽しませてもらおうかな
肉だけじゃなく、タリアテッレもね!
細長いリボンみたいな麺はなんだか掬うのも心地よく
ラグーたっぷりでこれもおいしー♪
戦う意思を託してくれた騎士の影響で礼儀作法も少しはできる
お行儀よく食事を堪能するよ
食事が終わったら特別な香水を調香してもらおうかな
やっぱり私は柑橘系がいいかも
でも、似合いそう香りがあるなら調香師にお任せしたいよ
パルマに続き、ウィーンも開放できた
達成感を胸に、夜を楽しんでいくね
これからも、必ず――
朔・彗藍
ケペシュ/g06831と
星空の戦舞、お疲れ様でした
兄様とばかり楽しそうでずるいから
今は私と一緒にと手を引いて
……はい、そうです
香水、いつかの二人だけの舞踏会で
貴方から馨る甘いバニラの様な……あれが一番好き
自分の芍薬と薔薇の香りも溶け合っていく心地で
……!調香して貰いましょう
忘れません、ずうっと
香りがなくたって
マーブル紙はいつも使えるブックカバーをお願いして
ケペシュのは栞?良いですね、やっぱり青が素敵です
もうひとつ、彼の選んだ彩模様と同じものを
職人さんへ耳打ちしてお願いします
用意して貰った便箋と封筒
口許を隠しながら紅く
文字を綴って貴方宛に贈りたくて
……ね、たまにこういうのも良いかなって
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
僕はいつでも
あなたに本気ですよ
ランブルスコで乾杯
天然微発泡の柔らかな口当たりが
モスタルダを艶めく甘さに感じさせる
けれど
グラッパも宝石めいて美しいものだから
『生ハムの王』との謁見は
どのお酒を献上すべきか――
いっそ
現地の皆様に尋ねるまで!
…何れの提案も素敵過ぎて迷ってしまう
クラテッロを見れば
今宵幾度目かの歓声
綺麗…!
薄く切り盛られた様が
薔薇に似て美しい
だって
僕にお酒を教えてくださったのは
あなただもの
『好き』が増すばかりですとも
マーブル紙も
香水も
職人技が光る逸品に違いありませんね
ラヴィデさんのお好きな香りは?
調香師さんは彼にどんな彩りを見るだろう
食後は芸術を楽しみましょう
ケペシュ・ナージャ
彗藍/g00192と
有難うございます
とても楽しい戦いを演じることが出来ました
ふふ、ヤキモチですか?
なんて揶揄いながら
はぐれぬよう手を繋いで歩きます
あの時の香りをまだ覚えてくれているんですね
確か使われていたのはアニスとサフラン、スパイダーリリー……異国情緒溢れる香り
ならあの時の香りを再現して貰いましょうか
そうしたらこれからも俺のことを忘れずにいてくれますか?
ブックカバーですか、彗らしい
俺も最近本を読み始めていて
ちょうど欲しいと思っていた栞を作って貰おうと思います
選んだのは青の鮮やかなマーブル紙
手紙ですか
良いですね、面と向かって伝えられないことも手紙ならきっと
届くのを楽しみにしています
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と
ヤコウくん本気でくるんだもんー、おいしいもので癒されなきゃやってらんないよぉ
美酒で喉を潤せど焼き付いた戦舞の熱は
心地好く、くすくす
……。揺れる尾は食への期待か
存じ上げてますの意か、両方か
酒の話題に興味深く耳を傾けつつ食事
あたたかなボッリートミストは
家庭の味っぽくもありほっと休まる
知らなかった国の食べ物なのに不思議だ
ハムの方は……
おっほんと。綺麗
さながら花弁を食む絵面の美しさに
なんだか此方の食まで味わいが増した心地
ふふ、すっかり酒の楽しみ方を知っちゃったね?
ね、と同調
うーん、今は甘くてスパイシーな気分かな?
現地ならではの香料
現地ならではの料理……
ときめく出逢いに浸る夜
鳴神・雷羅
🎵メタルと聖歌
ミシェルと一緒に現地の料理に舌鼓
本場の生ハムとチーズを肴に、ワインやカクテルを堪能するぜ
あんたの戦いぶり、見事だったぜ。少年。
気に入った。さ、遠慮しないでたーんと食え!
男たるもの、筋肉つけて逞しく成長しないとな!
へえ、香水を作ってもらえるのか
あたいはこういうの疎くてな
化粧だって男ウケとかそういうんじゃなくて
どっちかっていうと眉とかアイラインとかがっちり引いて
何というかこう……昔のスケバン、みたいな?
出来上がった香水は
ああ……これは歌舞伎町の匂いだ
夜の街を煌々と照らすネオンのように
猥雑で欲望がギラギラしてて
それでも、あたいの生まれ育った故郷だ
…ちっ、柄にもなく泣けてきやがったぜ
ミシェル・ロメ
🎵メタルと聖歌
雷羅さんと食事を一緒に
一杯動いたらお腹も減っちゃって
僕はまだお酒は飲めないから、代わりにレモネードをいただきます
調香師さんが香水を作ってくれるそうですよ
行ってみませんか?
それってもしかして「戦化粧」というのでは……?
雷羅さんにとって、お化粧は自分が強くあるためのものなんですね
雷羅さんならペパーミントのようなキリッとしたイメージかな
ミント系の鋭さの中に、夜の帳を思わせるイランイランを忍ばせて
僕の香水は……お花のような香りがいいな
優しい白薔薇に、バニラに似た甘い香りのヘリオトロープ
懐かしい教会の庭を思い出す
大丈夫。寂しくなんかない
思い出はいつも、この胸の中にあるから
ルクス・アクアボトル
陸(g01002)と、香水を選びに
この時代の香水文化……か
ふふ。そうなれば、変に持ち込むより、そのまま店主のおすすめを楽しみたいところね
「ねえ。私を見て、合いそうな香りはある?」
選んでもらったら、試しに少し、付けてみて
へぇ……という顔。内心評価を決めるけれど、口にする前に
どう、陸。合っている?
――あら、もっと顔を寄せないと分からないでしょう?
「あら。あれだってお気に入りだけど。女の違いを楽しめなきゃ、困ってしまうわよ? ――この先のデートでね」
なんて、悪戯ぽく、つんとつついて
これ、いただくわね。それと、彼にも幾つか選んでもらえる?
候補が出たら……してもらったことは、お返ししないとね
竜城・陸
ルクス(g00274)と香水選びを
そうだね、この頃の文化はここにしかないものだから
折角ならそれを心ゆくまで楽しんでいかないと
ルクスが香水を選んでもらっているのを、横で待ちながら
少しそわそわしてしまうのは、さっきの戦舞を思い出してしまうから
――え
どうって、ええと
なんて、不意打ちの問いに言葉を探すうち
距離が近づけば、自分の鼓動が跳ねたのがわかって
うん、合っていると思うよ
……なんて答えた顔が妙に熱い
俺が贈ったのより、と言うのはちょっと悔しいけど……って
……ずるいなあ、そういうところ
折角だから、俺も選んでもらおうかな
お勧めのものを、二つ三つ店の方に選んで貰って
……ね、ルクス
きみは、どの香りが好き?
●Buon vino fa buon sangue!
艶めく夜闇、輝ける満天の星。
星空のもとで深い濃藍に澄んだ夜闇に、美しい蜂蜜色に輝くパルマ大聖堂の姿が浮かびあがったなら、祭典に湧いた人々の歓声が再び大きく沸きあがった。
現代の新宿島から時空を超えて、西暦1803年のパルマ公国の夜を彩った花火や照明の輝きは戦舞の祭典の閉幕とともに役目を終えたけれど、最終人類史に匹敵するほど高められた【液体錬成】がこの街の夜に光の祝福を約束してくれる。
夜闇を暖かな蜜色のあかりで優しく融かすのは優美な鋳鉄製の街灯達、点灯夫が火を燈していくそれらはオイルランプで、潤沢に油があるなら闇夜にも暖かな輝きでパルマの人々を見守ってくれるはず。現代も同じだがこの時代ではなおいっそう、夜の街にあかりがあるか否かで治安の良し悪しが劇的に変わると聴くから、
――飢えない、渇かないというだけではない、こんな安心感を人々に齎せるのなら、ほんとうに。
紅葉を舞わせる己の術でこの効果を燈して本当に良かった、と永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)が甘く目許を和ませ吐息で笑んだなら、おかげで美酒もたっぷりだ、とラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)の紫黒の竜尾が御機嫌に揺れる。靴音軽やかに石畳へ唄わせて、二人誘い込まれる先は樫の木の扉からこちらも蜜色のあかりが溢れるトラットリア。
潤沢な油が齎すオイルランプの輝きは店内にも満ちて、硝子の縁に蜜の煌きを滑らすグラスには深紅の紅玉と黄昏の琥珀を思わすランブルスコとグラッパが華やかな煌きを躍らせて、
――乾杯!!
そう笑みと杯を唄わせれば、甘い煌きが真白なテーブルクロスにも鏤められた。
薔薇や菫を思わせ華やかに香る天然微発泡のランブルスコは柔らかな口当たりでヤコウの口腔を擽って、瑞々しい果実感はそのままにキレ良く喉を滑り落ちる辛口仕立て。濃厚に熟成された葡萄の香りに何処か香ばしい木樽とバニラめく甘い香りを覗かせるグラッパは撓やかな滑らかさでラヴィデの舌も喉も撫で、熱のごとき強い酒気を胃の腑で咲き誇らせる。
美酒が齎す熱は先の戦舞で灼きついたままの熱も心地好く煽るから、
「ヤコウくん本気でくるんだもんー、おいしいもので癒されなきゃやってらんないよぉ」
「それはもう、僕はいつでもあなたに本気ですからね」
花焔の揺らめき思わす声音にまろい笑み燈せば、微かに狐耳を立てた妖狐の宵紫の眼差しに覗く煌き。竜人の緒がゆうらり揺れる様は美食への期待を表すようで、存じ上げてますと秘密の睦言めかして伝えるかのようで。秋の豊穣そのままコトコト煮込んだようなカポナータで彩るブルスケッタを頬張って、香ばしいスティック状に焼き上げられたグリッシーニにくるりと生ハムを、プロシュット・ディ・パルマを巻きつけ、洋梨と無花果のモスタルダを掬ってカリッとグリッシーニを齧れば、
噛めば溢れる生ハムの旨味と脂の甘味に塩気、それに艶めく洋梨と無花果の甘味が絡んで――ピリッと利いたマスタードの辛味を連れ、香ばしく素朴なグリッシーニの小麦の風味と遊ぶ様に楽しげに瞬いた眼差し交わし、二人で改めて零す笑み。
仲間達が幾重にも燈した【口福の伝道者】を活かせるとあらば美味を楽しむのに遠慮は無用で、新宿島から持ち込んだ支援物資も仲間の【アイテムポケット】により数多の同胞達がそれぞれ携えたポケットから街の倉庫へと山積みにして。
戦舞の祭典で歓喜と高揚を咲かせたパルマの人々には紛うことなき感謝も咲くから、いよいよ『生ハムの王』と謁見の時が来たならヤコウは賑やかに祝宴を楽しむ人々へ空のグラスを掲げてみせ、
「皆様にお訊ねします。『生ハムの王』クラテッロ陛下には、如何なる酒を献上すべきでしょうか!?」
「「ランブルスコ・アマービレ!!」」
朗と芝居がかって通る声音で訊けば、揃って響いた答えに誰もの笑声がどっと弾けて更なる賑わいが咲いた。
合わない料理のほうが少ないとさえ言われるランブルスコ、その辛口たるセッコは濃厚な味わいの料理により良く合うし、現地の人々にとってグラッパは食後酒として楽しむのが最も馴染み深い。クラテッロをそのまま味わうならばランブルスコの甘口たるドルチェか、やや甘口のアマービレを、といったところか。
硝子杯に躍った深紅から咲いた香りは薔薇やカシスを思わせて、甘いベリーをそのまま頬張るような風味にも確かに感じる葡萄酒の味わいに繊細な気泡がしゅわりと唄う。
「こちらも素敵ですね。美味しくて、心地好くて――」
「うん。いいよねぇ、アマービレって響きがまた官能的で」
優しい、愛らしいという意味の言の葉も葡萄酒を彩れば深みを増すように感じられ、毛並みも表情も豊かな狐尻尾が幸福に揺れれば、ヤコウのそれを一口味見させてもらいつつ、ラヴィデは辛口を伴にあたたかな湯気をくゆらすボッリートミストを頬張って相好を崩した。
暖炉の前で寛ぐように心がほどけるあたたかな味わいは、家族で囲む秋冬の御馳走そのもの。粗挽きの豚の旨味や脂が熱く弾けるコテキーノに林檎とオレンジのモスタルダが遊ぶ様も、赤味の旨味濃厚な鹿すね肉がじっくり煮込まれとろりほろりと解れるところにイタリアンパセリの彩も香りも大蒜の風味も豊かなサルサヴェルデを合わせて頬張るのも、幻想竜域に生きた頃には知らなかったものなのに、ほっと安らがせてくれるしあわせの味で、
――綺麗……!!
霧に抱かれる地で育まれた麗しの『生ハムの王』が薔薇色に花開く美しさにヤコウが歓声を咲かせれば、ほんとだと心からの感嘆を笑みに燈す。プロシュットよりも色濃いそれは薔薇色ともルビー色とも思え、それこそ薔薇のごとく咲いて。
葡萄酒に濡れた唇で食む王の薔薇。プロシュットを蕩ける柔らかさとするならば、クラテッロは蕩けて消える柔らかさで、なのに脂はしっとり、赤身はねっとりと確かな存在感を示すそれを芳醇な熟成香とともに噛みしめれば、強く長く余韻を引く甘味と旨味がヤコウの口腔を満たすよう。
酒精が脂を咲かせる恍惚と、クロテッロのまろやかな塩気とランブルスコの甘さの交錯が永久運動へ誘う心地さえして、
「ふふ、すっかり酒の楽しみ方を知っちゃったね?」
「だって、僕にお酒を教えてくださったのはあなただもの」
陶然と笑む彼の様、見ているだけで此方の料理の味わいが奥行きを増す気さえする姿を思わず頬杖ついて眺めたラヴィデが悪戯な響きで言の葉を向ければ、それを掬うようにグラスをくるり回した妖狐が再びアマービレで己の身も心も潤した。
二人で時を重ね、ともに季節をめぐるほど――『好き』が増すばかり。
黄昏の琥珀、こちらも宝石めいたグラッパを食後に味わったなら、芸術の『好き』を重ねられるひとときが待っている。
夏夜にこの街の郊外でヤコウが仰いだ星空、夜闇を澄んだ青紫に、瑠璃に、紺青に光で透かす星の河が輝く遥けき美しさを思い起こせるような、今傍にいる彼とも分かち合えるような、そんなマーブル紙に出逢えるだろうか。そして、
「ラヴィデさんのお好きな香りは?」
「うーん、今は甘くてスパイシーな気分かな?」
水を向けられればラヴィデも、夜の街へ迷い込みめぐりあう出逢いへの期待で胸に高揚を燈した。
調香師の手で魔法のごとく創り出される香りはきっと、薔薇の華やかさにラブダナム――ロックローズの強く重厚な甘さを秘め、刺激的なジンジャーで遊びながらも引き締める、蠱惑の滴。
淫魔宰相『夜奏のルドヴィカ』の居城となっていたコロルノ宮殿。
パルマ中心部から少し離れたあの宮殿は正史でも名高い名所だが、パルマ中心部にもピロッタ宮殿やドゥカーレ宮殿など歴史ある宮殿が存在している。秋の夜闇に【液体錬成】が齎した光の祝福、オイルに燈すあかりで街の夜を彩る街灯の輝きが美しい街並みを夜闇に浮かびあがらせる様にナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)は柔らかに微笑し、街を流れるパルマ川を渡る風が含む水の潤いに金の眼差しを緩めるテクトラム・ギベリオ(砂漠の少数民族・g01318)と語り合うのは先程熱と高揚を咲かせた戦舞のこと。
「戦舞お疲れ様だったなナディア、あの雷光は見事だった」
「とても楽しかったわね。テクトラムさんも火球と雹が素晴らしかったし、毛玉ちゃんの可愛いらしさを皆に見て貰えたし」
戦舞でめざめた感情がそのまま息づくようにテクトラムは機嫌も上々、なれども艶やかなナディアの声音がそう紡げば己のまんまるスフィンクスがにゃふんと胸を張るのが鼻につき、
「……意図せず笑いもとれて何より。何よりだったよな、毛玉」
『ぶ、ぶみゃあ~ん!』
「あらあら、可哀想に。こっちへいらっしゃい、毛玉ちゃん」
ふにふにほっぺをむにゅっとしてやれば、短いおててをじたばたさせた翼猫は救いの手を差し伸べてくれたナディアの胸へまたもや飛び込んでいく。やっぱりか、と苦笑はしたけれど、夜風にもっふり揺れた真白な猫尻尾の先に小振りなワイン樽を看板代わりに掲げるトラットリアを見出したなら、テクトラムの口許には再び上機嫌な笑み。
扉を開けば溢れる蜜色のあかり、楽しげな人々の賑わいに二人で笑み交わしつつ、着いた席で眺める御品書きには見知らぬ名前ばかりが並ぶけれど、
――どんなものかは分からなくとも美味しいに違いありません、最初は同じお酒で乾杯しましょう。
――同感だな。ランブルスコをいただこうか、葡萄を使った酒だと聴いた。
葡萄はオアシス農業の代表的な作物のひとつだ。葡萄の栽培はその恵みを長く活かせるワインの醸造にも繋がるが、砂漠の民といえど己が部族が葡萄に馴染みのなかったテクトラムにとってはワインも新宿島に流れ着いて初めて識ったもの。然れど硝子杯に透きとおる深紅に微発泡の煌き秘めたランブルスコが躍れば彼の胸も期待に弾む。
蜜色のあかりを透かせば深紅が真紅に輝く煌き、二人で澄んだ硝子の音を唄わせれば、気泡とともに咲く薔薇とカシスめく香りがナディアにひときわ輝く笑みを咲かせ――甘く華やぎ弾ける微発泡とフルーティーな味わいに秘められた酒気に心を解き放つ。
純白のモッツァレラに薄紅のプロシュットと濃緑のルッコラを巻き込んだ一品は断面に美しい彩を花開かせ、黄緑がかった金色のオリーブオイルを纏ったそれを食めば油が咲き誇らせるミルクと生ハムの旨味にルッコラのほろ苦さ、
熱々の揚げパン、トルタフリッタに完熟の甘さ蕩ける無花果とゴルゴンゾーラめくブルーチーズを合わせて頬張ったなら、溢れくるのは罪深いとさえ思えるほどに背徳的な美味で、数々の料理を心赴くままに摘まめば当然酒も進み、
幾杯目かも判らぬランブルスコを幸せそうに乾す彼女の姿にテクトラムは瞬きひとつ。
「酒に強いとは聞いているが――君は酔うとどうなるんだ?」
「私が酔ったら? あまり大声では言えませんが……その……どうやら、抱きつき魔になってしまうらしく……」
好奇心が頭を擡げるままに訊ねれば、祝宴の心地好さのままにそっと耳打ちしてきたナディアがはたと我に返り、やっぱり聞かなかったことにしてっ! と頬を薔薇色に染めて言い募るものだから、成程興味深いと面白がるよう呟いた男の双眸には悪戯な煌きが閃いた。
「店主、彼女にこの店で一番強いグラッパを」
「そうきますか!?」
正史での化学者ゲイ=リュサックの経歴から考えれば、アルコール分を度数で表す概念が広まるのはまだ少し先のことだ。ゆえにテクトラムがそう告げればナディアの前に饗されたのは、無色透明に澄みきったグラッパ・ビアンカ。
同じ度数でも木樽で熟成されたものは強い酒気も角がとれまろやかな味わいを醸すが、瑞々しくも若々しい味わいのそれは強い酒精も荒々しく、恐らく度数は60度にも届き――慣れぬ者が呷れば喉が灼けつくどころか痛みを覚えて咽せ返るだろう蒸留酒を、女は撓やかな喉を反らしてこともなげに乾して見せた。
揺らぎもしない、月の眼差し。
「貴方のほうこそ、酔うとどうなるのです? こうなったらとことん呑んでいただきますからね!」
あでやかに笑んだナディアが、店主さん、彼にも同じグラッパを、と望めば心得ておりますとばかりに即座にテクトラムの前にも饗されるグラッパ・ビアンカ。沢山呑んで全部忘れてもらいますから、と挑むような笑みが彼女に燈れば、
「私がどうなるかは君自身の眼で確かめてみるといい。だが、楽しい時間を忘れるわけにはいかないからな」
受けて立とうとばかりに笑み返しながら、男はチェイサーよろしく洋梨の果実水を店主に求めた。
戦舞の高揚も祝宴の愉悦も、酒精の熱に呑まれてしまうには惜しい夜だから。
華やかな高揚と熱気をパルマの夜空に咲かせた戦舞の祭典を己自身の眼で直に観ることが叶ったのは、祭典の主役となって夜空を彩ったディアボロス達と彼らに魅せられたパルマの人々、そして仮に様子を窺っている敵がいたなら、その敵のみだ。
祭典のためのパラドクストレインに乗車しパルマに降り立った面々以外のディアボロスは当然祭典の場に居合わせることは叶わなかった。祭典に参加していないということはその時空に介入していないということ。つまり観戦は不可能だったが、
報告書を紐解けば皆の戦舞が鮮やかに、良く識る仲間のそれならひときわ鮮明に脳裏に思い描けたから、
「戦舞、素晴らしかったね。直接観られたら熱さも肌で味わえたのだろうけど」
「うん、だけど読むだけでも格好良かった……空中戦にも興味がわいたな」
暖かな蜜色のあかりのもとで笑み交わし、シャムス・ライラ(極夜・g04075)と一・百(気まぐれな狐・g04201)は一先ず檸檬と蜂蜜の香りが華やぐレモネードで乾杯を。トラットリアの店内ばかりでなく夜の街をも彩る光の祝福も、あかりと似た色合いの蜂蜜が齎す甘味の歓びも、仲間達の【液体錬成】の賜物だ。
百から贈られた術で燈した己の【口福の伝道者】も存分に活かすべく、シャムスも早速美食の街の夕餉に舌鼓。
美しい薄紅を花開かせる薄切りの生ハムを食めば、口中で蕩ける脂に豊かに絡む肉の旨味が嚥下するのが惜しくなる余韻を齎して、他のものを一切交えぬ味わいを確かめたなら、
「これが『ぷろしゅっと』かな? 何だか『ぺるしゅう』って呼んでるひともいるみたいだけど」
「地元のひとが呼ぶ愛称みたいなものかな? それだけ親しまれてる故郷の味ってことなのかも」
諜報員ならではの耳が何気なく拾った周りの賑わいの声に思わず零した疑問ひとつ。言われて耳を澄ました百はその響きの優しさに自然と己が口にしていた言葉で俄然興味が湧き、抜かりなくそれを見抜いたシャムスに差し出されたプロシュットを頬張って、初めての美味に銀の双眸を瞠る。
食べ比べてみる? と訊かれれば一も二もなく頷いて、続けて挑むのは『生ハムの王』ことクラテッロ。
「……うわ……こっちもまた、すごいね」
「香りからもう違うんだね。甘味と旨味の余韻が強くて……美味しい」
風通しの良さと乾燥した気候を活かしたプロシュットとは異なり、霧に抱かれて育まれ、時には貯蔵庫に白葡萄酒を撒いて湿度を調整するともいうクラテッロの熟成香は何処か極上のブルーチーズをも思わせ、切り分けられた断面の薔薇色も甘味も旨味もいっそう色濃く印象強い。瞳を輝かせた百の狐耳と尻尾がぱたぱた弾めば天色の眼差し緩めたシャムスがいそいそと用意するのはクラテッロに杏と花梨のモスタルダを添えた小皿、
甘酸っぱさの裡からピリッとマスタードの刺激が咲くそれがいっそうクラテッロの味わいを引き立てる様に狐尻尾がぴんと立てば、ここぞとばかりにシャムスが次から次へと美味を繰り出して、常日頃は食事を億劫がる百に食の楽しみを教え込む。
秋野菜のカポナータは甘酸っぱく煮込まれた茄子や玉葱が蕩ける中に栗や人参のほっくりした甘さと松の実やアーモンドの食感が躍る様が癖になりそうで、紫キャベツめいた彩りのチコリを思わせるラディッキオ、小さな舟みたいなその葉に香りも旨味も豊かなポルチーニ茸のリゾットを乗せて頬張るのも初めての楽しさと美味しさを百にくれるから、
「こんなに美味しい思いをしながら支援できるなんて、なんて素晴らしいんだ……ほんといい場所だな」
「そうそう、支援のためだからね。パルマの人々にも美味しい思いをしてもらうためにも、まずは私達が楽しまなければ」
新たな味わいを識るたびにぴっこぴこな彼の狐耳や尻尾にシャムスの頬も眦も緩むばかり。【口福の伝道者】には是非とも本領を発揮してもらわねばと幸せな夕餉にしっかりと勤しんで。
傍のテーブルへ運ばれていく、蜂蜜に黄昏の影を融かしたような琥珀色の酒を知らず百の双眸と狐耳が追うのに気づけば、こちらにも、とシャムスが注文したのはグラッパ・ストラヴェッキア。長き木樽の眠りで美しい琥珀色とまろやかに円熟した香りや風味を孕んだ蒸留酒にそわそわする百に微笑して、
あまり飲みすぎないようにね、と気遣えば、
「飲みすぎないよ……それに連れて帰ってくれるだろ?」
「勿論、連れて帰るつもりだけど」
天色の瞳を覗き込んで楽しげに煌く銀色の瞳。言葉どおり百はシャムスの杯からひとくち、ふたくちと味わうのみに留めたけれども、強い酒精とフルーティーながらも濃厚な香り、そして秘めやかにショコラを思わす風味を感じればそれだけでもうほろ酔い心地。癖のようにほわっと【狐変身】したなら、当たり前のように彼に甘えて狐の毛並みをすり寄せて、
――ふふ、酔っ払いの狐さん。
吐息めいた彼の囁きを夢見心地で聴いたなら、誰よりも優しく暖かな腕のなか。
歓喜が胸を満たして光になって、眩く溢れだしてきそうな心地になった。
深い濃藍に澄んだ夜闇に輝くよう浮かび上がるのは、皆の【液体錬成】が齎した光の祝福に照らし出されたパルマ大聖堂。自身も重ねたその恩恵が街灯のあかりとなって蜂蜜色に輝かせるその大聖堂の前で、是非にと請われて歌い上げたのは、
あの決戦の日にミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)が同じ場所でパルマの人々に贈った聖歌。
「戦舞でいっぱい動いた上に、歌わせてもらったらもうとってもお腹が減っちゃって……!!」
「歌もいいが、あんたの戦いぶり、実に見事で気に入ったぜ! さ、遠慮しないでたーんと食え! 少年!!」
拍手に包まれ送り出されて、扉を潜ったトラットリアで光を注いだようなレモネードの杯を手にした彼と大人の深紅と気泡煌く辛口のランブルスコで乾杯した鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)は、筋肉つけて逞しく成長しないとな、と豪快に笑って少年の背をばしばし叩き、彼のために数多の料理を求めてテーブルを飾る。
秋野菜のカポナータが彩るブルスケッタに、鶏もも肉で無花果を巻いてバターで焼き上げ、バルサミコのソースを踊らせた芳醇なインヴォルティーニ。自身は旨味の結晶がシャリッと唄う濃厚なコクのパルミジャーノや、薄紅の彩も脂の甘味も赤身の旨味も花開くプロシュットを深紅のランブルスコ片手に摘まむけれど、炭火でなく薪火で骨付き牛肉を焼きあげたビステッカも雷羅の性に合う。
夜の酒場ならカクテルを、と雷羅がつい思ってしまうのも性だけど、
ヴィン・ブリュレ――ホットワインのようなものならこの時代にもあるが、雷羅が21世紀の夜の街で馴染んでいた冷たいカクテルが誕生するのはこの断頭革命の時代より更に先のこと。だが珈琲豆を浮かべたグラッパに火を燈す、現代ならばリキュールを使ったサンブーカ・コン・モスカのごとき一杯は、青い炎が燃える見た目の楽しさと熱さが気に入った。
熱で花開く蒸留酒の香りに珈琲の香りが融け込む様を鼻だけで楽しませてもらい、
「いい香りですね……! そうだ、調香師さんが香水を作ってくれるそうですから、行ってみませんか?」
「へえ、あたいはそういうの疎いんだが、面白そうだな」
柔らかに笑みを綻ばせたミシェルが誘えば、琥珀色に艶めくまろやかに熟成された蒸留酒に珈琲豆の苦味がアクセントを添える酒杯を傾けていた鬼人の女の双眸が楽しげに煌いた。それならこの後はまた夜の街へ。
夜風に遊ぶ純白の天使の翼に光の祝福の煌きを淡く踊らせて、ふわり石畳の通りを歩むミシェルと並び、あたいにとっちゃ化粧ってのは、男ウケとかそういうのを考えるモンじゃなくて――と雷羅が先程の続きを語れば、
「眉とかアイラインとかがっちり引いてくぜ! って感じの、何というかこう……昔のスケバン、みたいな?」
「それってもしかして『戦化粧』というのでは……?」
雷羅さんにとって、お化粧は自分が強くあるためのものなんですね、と深く納得しながらミシェルは青空の双眸を細めた。豪快で義に篤い彼女らしいと言えばらしくて。
己なら彼女にはペパーミントの香りのような鋭さに、夜の帳めいて香るイランイランを忍ばせる香水を調香するだろうか。自分のためなら懐かしい教会で迎える朝を思わせる、花の香り。
光を通さぬ深いセピアの硝子瓶。
数多の香料の瓶が数段の棚に整然と並ぶ調香師のスタンドに向かえば、優しい白薔薇や夜明け色のヘリオトロープの香りを望む。天使そのものの姿のミシェルが教会育ちだと明かせば調香師も得心した面持ちで、そうして創りだされた香水は。
天使のハーブたるアンジェリカの淡い香りの裡から朝露を纏った白薔薇を思わす清らな香りが咲き、甘くバニラを思わせるヘリオトロープが優しくパウダリーな香りを覗かせ、懐かしい教会の庭をミシェルの胸の裡に甦らせて。
天使のトップノートから花のミドルノートを咲かせたその香りが、夜も深まる頃にラストの乳香――教会の礼拝でお馴染みのフランキンセンスをほんのり香らせれば、胸の裡にあたたかな光が燈された心地になった。
――大丈夫。寂しくなんかない。
――思い出はいつも、この胸の中にあるから。
「あんたの故郷ってこんな感じなのか、少年」
「はい。雷羅さんの香水も、雷羅さんの生まれ育った街を思わせる香りでしょうか」
懐かしさに切なさを忍ばせつつも優しく微笑むミシェルの様子に紅の眼差しを緩め、あたいのもそんな感じだな、と雷羅も口許に笑みを刻む。香水はつけてすぐにその真価を発揮するものではない。時間をかけて香りを咲かせていくものだ。
鋭いライムの刺激が閃いたかと思えば花開く月下香にイランイラン、夜に香る官能の甘さを煙草の渋味が抑えて華やかさを際立たせ、やがて夜も深まる頃に、誰かが新宿島から持ち込んだ合成香料のブランデーやレザーノートが香れば、雷羅の胸を懐かしさで詰まらせる。柄じゃないと思いつつ、込み上げる熱が涙になって滲むのを堪えることもできなくて。
――夜の街を煌々と照らすネオンのように猥雑で、欲望がギラギラしてて、
――それでも、この香りはあの街の、あたいの生まれ育った故郷の街の匂いだ。
楽しい夜だった。
華やかな夜だった。
夜闇を光の祝福に彩られた街を弾む足取りで歩み、楽器にも向きそうな楓材の扉を開けば溢れだしたのは蜜色のあかりと、戦舞の祭典のラストを飾った少女達の姿を見つけた人々の歓声。是非一曲! と笑顔の皆に声を揃えて請われれば、
「ねえリディさん、ここで応えなきゃ……」
「勿論、乙女がすたるってものなのだわ!」
楽しげに笑み交わしたシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)とリディエッタ・ジーベル(半壊歌うたい・g06710)を迎えたトラットリアの一角がたちまち乙女達のステージに変わる。暖かなオイルランプの蜜色のあかりに満ちた店内に更なる眩い輝きを燈すよう響き合う二人の歌声が花開いて咲き溢れて、
「戦舞の成功と、パルマの未来に!」
「ええ、乾杯!」
鮮やかな橙色に気泡きらめくオレンジスカッシュを手にしたシャルロットと、優しい金色に気泡きらめく洋梨スカッシュを手にしたリディエッタが杯を掲げれば、居合わせた人々も揃って唱和した。
朝靄に包まれたように見通せなくなった過去の記憶はおぼろげで、けれど今夜のこの雰囲気は何故だか懐かしい気がして、甘酸っぱさがしゅわりと唄うスカッシュが喉を滑り落ちていけばシャルロットの胸もいっそう弾む心地。主とお揃いのしゅわしゅわグラスにはしゃぐモーラット・コミュの愛らしさに小さく笑み、リディエッタも洋梨スカッシュを口中に躍らせる。
お酒の楽しみにはまだ手が届かない年頃で、だけど人々が皆笑顔で歓迎してくれているからか店の雰囲気も居心地も幸せをめいっぱいくれるかのよう。蕩ける甘さも爽やかさもしゅわっと弾けるスカッシュは渇いた喉にも充足感に満ちたこころにも飛びきり心地好くて、そっと明かす乙女の憧れ。
「ねえ、シャルロットさん。わたし香水にちょっぴり憧れていて……」
「わかる! 私も香水をつけるとちょっぴり自信がつくもの、大人びたというか、綺麗になったような、自信?」
だから憧れちゃう気持ちもよく分かるわ、と友が応えてくれるから、憧れに胸が高鳴るままにリディエッタは言を継いだ。機械化ドイツ帝国の辺鄙な村、隠れ里めくそこではお洒落より何よりもまず心身に叩き込まねばならぬものがあったから、
――その、故郷ではそういったものと無縁だったから。一緒に作ってみない?
――ええ、リディさんの憧れそのままの香り、作ってもらいにいきましょう!
凛と澄んだ夜風に再び二人で靴音唄わせて、期待に煌く空色と新緑の瞳を見交わしたのは、淡やかな虹色に煌く硝子細工のジャスミンの花を咲かせたスタンドを見つけたとき。
宝物みたいに大切に使っている香水もあるけれど、それとはまた違った、
「私もフローラル系の香水、ほしいな。つけるとロマンティックな気分になるような、そんな香りの」
「わたしは、甘くて、でも強すぎなくて、そんなお花の香りをベースにした香水をお願いしたいのだわ」
薔薇がメインだと嬉しい、と調香師に願うシャルロットの様子を見倣うように窺いながら、リディエッタもほのかな緊張を覚えつつ願えば、御二人にお似合いの香りを奏でてみせましょう、と勿論乙女達の戦舞を観ていたらしい調香師が請け合ってくれた言葉に、改めて瞳を見交わした二人は飛びきりの笑みを咲かせた。
香りの交響曲と香水が呼ばれることがあるように、
香調という意味で『ノート』という音楽用語が用いられるように、
断頭革命の時代よりも後、19世紀後半に香りを音階に当てはめる『香階』が考案されたように、
調香と音楽は極めて親和性の高いもの。本能的にそれを察したなら、物理でも歌声でも音楽でも戦う乙女達の胸はいっそう高鳴るばかり。創りだされた香水はさながら乙女の憧れと浪漫を純粋に抽出したような魔法のエッセンス。
然れど香水はそれ自体の香りを嗅ぐだけではその真価はわからない。軽く手首に一吹きしてみるのもいいけれど、
「折角だもの、もっとロマンティックにいってみましょうか」
「ロマンティックに? 何だかどきどきしちゃう……!」
楽しげに片目を瞑ってみせたシャルロットは、自分だけのために生まれたばかりの香水を夜空へと一吹き。軽やかに咲いた香りのミストが降るなかでふわり回れば、飛びきり軽く纏った香りが乙女を彩る。
眩い黄金のミラベルがフルーティーな香りを弾ませたと思えば、柔らかに花開く薔薇の香りの華やかさ。その裡からきらりきらりと光の小花が咲き零れるように甘美なジャスミンの花の香りが覗き――。
さあリディさんも、と友に促されるまま夜空に香りの星を鏤める心地で、リディエッタも自分だけのために生まれた香りを夜空へ一吹きした。ふうわり心地好く降る香りのミストをほんのりと軽やかに纏ったなら、
林檎めいた香りのカモミールがそうっと花開いて、純白のオレンジブロッサムの甘やかで爽やかな花の香りを連れてくる。微風のように淡いレモンバーベナの香りをほのかに感じるのも心地好く――。
「リディさんの、甘いのに軽やかで、綺麗な香り……!」
「シャルロットさんのは華やかでロマンティックで、愛らしさもあって……!」
とっても似合う、と二人で笑み咲かせ、戦舞のご褒美ね、と弾む声の花も咲かせ合う。
夜も深まる頃にそうっと、気づくか気づかないか程度にほんのり残るラストノート、
優しく柔らかな白檀――サンダルウッドが二人おそろいであることに乙女達が気づくのは、もう少しあとになってから。
●Dopo la tempesta viene il sereno!
瞬間の美、一期一会の芸術。
紺青が躍る、花紫が踊る、翡翠が舞い、花緑青が翻って。
桃花が流れて、解き放たれる。指揮棒めいた尖筆が色彩の水面に自由な波紋を描き、大きな櫛が波紋を梳けば、数多の彩が羽ばたいて――羽根よりも軽やかに色彩を抱擁した紙が夢幻の羽ばたきを写しとり、
蒼穹の双眸を瞬きもさせずに見入っていたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)の眼前で、彼や皆の【液体錬成】によって息を吹き返した伝統工芸、マーブリングの粋を、精髄を咲き誇らせた。
いつまでも飽くことなく見ていられると思える色彩の舞い、その瞬間の美を写し取って生まれくる一期一会の芸術。たとえ同じ彩の染料を同じように舞わせて羽ばたかせても、全く同じ模様を再び創りだすことは叶わない。
素晴らしいな、と心からの賛嘆を深い声音に響かせて、
「人の手で生み出される芸術は皆こうなのだよな。音楽だって同じ曲を同じ楽器で奏でても、同じ演奏には決してならない」
「そうなんですよね! あの日も素晴らしかったけれど、僕は今夜の貴方の歌と演奏を、以前のときよりも好きになったよ」
歓喜とともに湧きあがってきた想いをそのまま言の葉にすれば、職人の顔には満面の笑み。祭の出店のごときスタンドでは調香はともかくマーブリングの実演は観られなかったけれども、決戦の日にエトヴァの革命歌と伴奏のチェロを聴いたという彼に、一曲聴かせて! と望まれ、拍手喝采とともに彼の工房に招かれたという次第だ。
偶々同じタイミングでスタンドを訪れた同胞を眼にすればエトヴァは職人と頷き合って、
「御二方も良ければ一緒にどうだろうか。この方の工房でマーブリングの実演を観せていただけることになったのだが」
「えっ! いいの!? 是非ぜひ観たい!! うわすっごく嬉しい!!」
「わぁ! 良かったねレジーナちゃん、ほんとすっごくラッキーだ!!」
降って湧いた思わぬ幸運にレジーナ・ネイサン(灰色キャンバス・g00801)が灰の瞳を輝かせれば、弾むように手を打ったギィース・エレクレ(誘惑の道化師・g02447)も御機嫌に笑って、紙やら染料やら道具類やらで決して広いとは言えない工房で肩を並べて瞬間の美に見入った。
常なら『こんな美形レジーナちゃんに近づけてなるものか』と毛を逆立てる獣よろしく威嚇しそうなギィースもエトヴァの手に煌く蒼穹の指環を見れば彼に決まった相手がいるのだと察して大人しく、連れのそんな胸の裡には気づかずレジーナは、色彩の舞いが織り成した綾に心ゆくまで見惚れて。
――限られた環境で育まれる芸術もあるとは思うけれど、
――染料不足で好きに思う様描けないなんて、本当に辛かったろうな。
定型詩のように縛りがあるからこそ洗練される芸術もあるが、それとこれとは話が違う。絵具に牛の胆汁を加える染料も、海藻を煮込んで作るという、染料を浮かべるための溶液も、周辺各地からの物資が途絶えれば不足して当然のもの。色彩達と遊べなければ自分なら心が死ぬ。だからこそ自分達が燈した【液体錬成】が役立てた歓びに笑みを咲かせつつ、
「スタンドのほうに戻るって! 行こう、レジーナちゃん!」
「うんわかった、お店の品揃えも楽しみだな」
ぽふんっと傍らに黒いクダギツネを喚びながらのギィースの声に応えて、自身の傍らにはもきゅっとモーラット・コミュを弾ませ広場のスタンドまで戻ったなら、そこには工房よりもいっそう鮮やかに華やかに咲き溢れる色彩の花の園。
萌黄と朱華と淡黄が揺らめく波紋、瑠璃や碧緑に菫色の宝石を鏤めたような星空に、と数多の色彩に次々魅了され、
――選べない……!
幸せな眩暈に呑まれそうになりながらも何とか筆記帳二冊にまで絞り込む。
「ギィースはこのふたつ、何方が好み?」
「こっち! ほら、さっきの戦舞のときの色彩みたいじゃない?」
遮光眼鏡は先程から懐に仕舞い込んだままのギィースが迷わず指さしたのは、それこそマーブリングのごとく戦舞の祭典の夜空を彩った、劇的な夕暮れの黄と紅に甘やかな桃と良く似た色彩が美しく翻る品。
――とってもカッコ良かったよ! 本当に戦いになったらどうなるかな?
――はは、本当に戦うのは勘弁願いたいなァ。
なんて言い交わしつつ彼が選んでくれた品を己への土産にして、次いでレジーナが手に取ったのは、鮮やかに艶めく紅色と黒が蠱惑的な夢のごとく揺らめき、強くきらめく翠が僅かに舞う――まるでギィースを彩る色達を写しとったような扇。
「良ければこれを贈らせてほしいな、付き合ってくれた礼に。こっちはトトにね、オヤツ入れてもらって?」
「わぁーい、ありがとう! トトにまで!!」
『きゅう!』
瞬間の美、一期一会の芸術。同じ模様はありえぬ、大判のマーブル紙一枚から作られたらしい扇と飾り箱を差し出されれば途端にギィースの顔にも輝く笑み。黒きクダギツネも肉球のおててを上げて感謝と歓びを伝え、
「それじゃあ俺からもレジーナちゃんに贈り物! こっちはブラシちゃんにどうぞ!」
「此方にもありがとう……ああ、いい色だね。良かったね、ブラシ!」
『もきゅ!』
歓びのままにギィースが選び取るのは、冴える蒼と華やかな金が優美で自由に羽ばたく小振りでまぁるい紙スタンド。更に小振りな品をも一緒に手渡せば、目許を和ませたレジーナが笑みを深め、モーラット・コミュが嬉しげにくるくる回る。
「何方も素晴らしいな。良い出逢いに恵まれて何よりだ」
「うん! そちらにも良い出逢いがありますように!!」
「あるに決まってるよね、素敵なものいっぱいだから!」
笑顔も声音も弾ませ夜の街並みへと足を向ける二人と二匹を微笑ましく見送って、エトヴァは色彩の舞いの美しさを存分に活かした品々に存分に耽溺する。扇を開けば途端に溢れだす桃色真珠の彩と透明感のある薄群青、優しい楽園の海に蒼穹の眼差しを細め、現代でも定番の、孔雀の羽めく模様もいいなと心を浮き立たせ。次いで初夏の青空にライラックの花々が舞って融けていくような色彩の綾に胸を躍らせながら書籍を開けば、
現れたのは白紙の頁、繰れども繰れどもすべて白紙で、
「手帳にしては大きいし、書籍でも筆記帳でもないこれは……」
「ああそれはですね、日記とかしたためるのにいいかなって!」
ふとした呟きに返った職人の言葉にいっそう顔を綻ばせ、
――いつか、大切な想いを綴りたい……。
胸にそんな想いが萌せば、知らず蒼穹の双眸には柔らかな銀の煌きが燈った。
己のために一冊、お土産にもう一冊、と二冊買い求めることを心に決め、美しい彩り満ちた千紫万紅の楽園をめぐるような心地で色彩の綾を思うさま堪能する。夢幻のごとき色彩を艶めかせるのは【液体錬成】がパルマの夜に齎した光の祝福。
街灯にあかりを燈すことすらままならぬ日々であったろうが、潤沢な油がオイルランプ戴く優美な街灯に光を取り戻した。この街で夏に冷暗所として利用できたのは地下のワインカーブくらいであったが、これから冬にかけて寒くなっていくほどに冷暗所として利用できる場所も増えていくはずだ。今後いっそう【液体錬成】での支援が捗るだろうと思えば喜ばしくて、
誓いが光を増すよう、改めて胸に想うのは。
パルマの芸術の更なる再興と、たとえ時は異なれど、己が第二の故郷と想うウィーンの復興。二つの街が日常と交流を取り戻せるよう心から願いつつ、蒼穹の天使は強く心惹かれる綾を纏った品へ手を伸ばした。
――今はまだ、戦場で感じた想いを綴る日もあるだろう。
――然れどその頁の合間に、華と彩を鏤めていこう。
夏夜にパルマ郊外で飛翔した、星空散歩で薄紫華の瞳に映した夜空も美しかったけれど、深い濃藍に澄んだ秋の夜闇に光の祝福が燈るパルマ市街から振り仰ぐ星空も、一等星の魔女の胸に優しい煌きを燈してくれた。
自身や皆の【液体錬成】が齎した光の祝福の夜をともに過ごしたいと望む相手を見上げ、
「星空の戦舞、お疲れ様でした。今は兄様でなく、私と一緒に」
「有難うございます、とても楽しい戦舞でしたよ。――ふふ、ヤキモチですか?」
兄様とばかり楽しそうでずるい、なんて言の葉は呑み込んだままで朔・彗藍(ベガ・g00192)は微笑んだけれど、祭典では鋭く煌いていただろう青き双眸を和らげつつも、ケペシュ・ナージャ(砂蠍・g06831)は彗藍の本音を鋭く見抜く。
優しくも甘い揶揄いに一瞬声を詰まらせつつも、……はい、そうです、と素直に応えた彼女の頬には淡い薔薇の彩、暖かに笑みを深めてケペシュは、私と一緒にと己が手を引く彼女の繊手を大切に握り返した。
調香と聴けば思い返すのは、夢幻の夏夜に革命淫魔の調香師が創りだしてくれた香水のこと。
華やかな異国情緒を香らすアニスとサフランにもときめくけれど、南洋の月下に不思議な花を咲かせるスパイダーリリーが甘いバニラのごとき香りで彼を彩る様に胸をときめかせ、彗藍自身を彩る薔薇と芍薬の香りがこちらもバニラめいたヘリオトロープの香りを咲かせ、二人きりの舞踏会で円舞曲の間にとけあっていくような心地になった幸せなひとときは、
薔薇窓から月光が射す礼拝堂での、二人だけの秘密の想い出。
「なら、あの時の香りを再現して貰いましょうか」
「……! 調香して貰いましょう!」
彼女が覚えてくれたのだと思えばあのときの陶然とした感覚がケペシュの裡にも甦ってくるかのよう。
――そうしたらこれからも、俺のことを忘れずにいてくれますか?
――忘れません、ずうっと。香りが薄れて消えて、時の果てに去っていったとしても。
秘めやかに囁き合ってめざすは調香師のもと、香水は数十から数百の香りを調香するもので、二人が感じた香りのみでなくそれらを引き立てたり調和させたりするための香りなども合わせられているはずだが、あの香水の処方箋(フォーミュラ)が無くてもきっと、と期待を募らせ、黄銅細工の林檎を実らせたスタンドを見つけて微笑み合う。
夢幻の夏夜の香りをどれだけ再現してもらえたのかは、光の祝福燈る秋夜の、二人だけの秘密の話。
澄んだ夜風に甘やかな香りを踊らせたなら、次いで彗藍がケペシュの手を引きいざなうのは、夜闇を照らす蜜色のあかりに数多の美しい色彩が艶めききらめくようなマーブル紙の楽園、
「ふふ。読書の秋ですし、普段使いできるブックカバーをお願いしたくて」
「成程、彗らしい。俺も最近本を読み始めていているので……栞をお願いしてみましょうか」
紫水晶の夜と朱瑪瑙の朝が揺らめきとけあうような彩に星めく金色鏤められたマーブリングを選んだ彗藍が職人に細工を願う傍らで、色彩の波間を揺蕩っていたケペシュの眼差しがふととまったのは、透明感のある薄群青や水色が柔い波紋のごとくに揺らぐマーブリングに、鮮やかに冴える青の光が射すようにも花開くようにも見える綾。
彼がそれに惹かれたのだと気づけば、あちらと同じ模様のものを、と彗藍はひそやかな耳打ちで職人に願うけれど、これは瞬間の美、一期一会の芸術。同じ色彩を使っても同じ模様は二度と創り出せぬマーブル紙でその望みを叶えることは叶わない。
然れど、彼が手にしたマーブリングの、その続きの夢を写しとったかのようなマーブル紙で作られた便箋と封筒をそうっと受け取ることができたなら、その瞬間にケペシュと瞳が合ってしまって思わず彗藍は作り立てのレターセットで口許を隠す。それでも耳まで染まってしまった薔薇色は隠せなかったのだけれど。
「手紙を綴って貴方宛に贈りたくて……ね、たまにこういうのも良いかなって」
「良いですね。面と向かって伝えられないことも、手紙ならきっと」
美しい青の波間からそっと薄紫華の眼差しを覗かせる彼女の愛らしさにいっそう柔らかな笑みを綻ばせ、ケペシュはいつかこの手で開くのだろう、彼女の心がこめられた手紙に想いを馳せた。
――届くのを、楽しみにしています。
瑞々しく香る花やフルーツからは必ず天然香料が抽出できるようにも思えるけれど、実のところそれは夢物語だ。
たとえばダフネ、たとえばガーデニア。たとえば林檎、たとえばラズベリー。
精油の抽出が困難あるいは不可能なため、フレグランスとして用いるには現代の合成香料が必要になる香りは意外に多い。それでも新宿島からの持ち込みなしで楽しみたいところねと花唇に蠱惑の笑み咲かせ、秋の夜風にふわりと銀の髪を遊ばせたルクス・アクアボトル(片翼の白鯨・g00274)は、この時代の香水文化を心ゆくまで楽しんでいこうかと柔和な微笑で応える竜城・陸(蒼海番長・g01002)に、銀細工に真珠色のエマーユで鈴蘭の花を咲かせたスタンドを眼差しで示してみせた。
相手は商売人でなく調香師、既成の香水を購入するのでは『長くその才を眠らせてきた彼らに存分に腕を揮ってもらう』という歓びを齎すことは叶わないから、既製品から選んでもらうよりは調香を依頼するべきだろう。
「ねえ。私を見て、合いそうな香りは調香できる?」
「素晴らしい戦舞で『魅せて』くださった方々ですからね、創ってみせましょうとも。よければ御二方ともに」
夢魔らしいルクスの笑みは大抵の男性なら魅了してしまえるものなれど、官能的な娼婦も貴婦人も、もしかするとかつては淫魔の女性達も顧客に持っていただろう相手は流石に百戦錬磨だ。動じることなく微笑み返されたけれど、色事でなく芸術を求める相手ならそれくらいで丁度いい。
ありがとう、と微笑んで、陸も自分のための調香を願った。仲間達だけでなく己も重ねた【液体錬成】が確かに芸術の街を救ったのだと、自分だけの香りで実感してみたかったから。
識らないままなら、香水はおとぎばなしの魔法のようにふんわり感覚的に調香するものと思っていたかもしれない。
だが間近で調香の様子を見れば、夢と空想だけに見えたおとぎばなしの魔法が、実は学術的に体系立てられた魔術理論だと気づかされるような、新たな視界が開かれて冴え渡るかのごとき感覚を齎されて。
「あら、興味ある?」
「うん、魔術を操る者としては、かなり興味深い」
香水の作り方がレシピでなく処方箋(フォーミュラ)と呼ばれるのも納得の光景に思わず見入れば隣からルクスの楽しげな藍と紅の眼差しに覗き込まれ、先の戦舞の際に感じた香りと高揚が一気に陸の裡に甦って黎明の眼差しを動揺させたけれど、幸いなことにルクスの香水が仕上がったのはそのときのこと。
最初から最後まで香りの変わらぬシングルノートのものではやはり香水文化を確とは楽しめないだろう。
付けてすぐに香り立つトップからミドルへ、そしてラストノートへ、己自身の香りと馴染みながら変化していく香りこそが香水を芸術たらしめるものだから。
軽く首筋に触れさせれば微細な波飛沫のようにぱっと弾けたのは品よく華やかなベルガモット。陸の香水が調香される間に清らで優美なアイリスの香りの裡から甘美なジャスミンがエキゾチックな香りを覗かせ、
「どう、陸。合っている?」
「――え。どうって……ええと」
こうなるのね、と瞬きひとつしたルクスが悪戯な笑み咲かせ、不意打ちとばかりに話を振れば、咄嗟に言葉を探しあぐねた陸が応えに詰まる。その僅かな間にふわり耳許へ囁くべく潮騒の娘は黎明の竜に身を寄せた。
――こうして、もっと顔を寄せないと分からないでしょう?
甘やかな吐息の囁き。至近で感じる香りと熱に大きく鼓動が跳ねた途端に彼は、己の顔にも熱が昇ったのを自覚する。
「うん、合っていると思うよ」
気力で動揺を抑えて何とか応えれば幾らか落ち着いたけれど、
「俺が贈ったのより、と言うのはちょっと悔しいけど」
「あら。あれだってお気に入りだけど。女の違いを楽しめなきゃ、困ってしまうわよ? ――この先のデートでね」
柔く笑み返せばふわり身を翻した彼女の指先につんと胸をつつかれて、
……ずるいなあ、そういうところ。
眦を和らげつつ苦笑した。こうして翻弄されるのも悪くないと思わせるところも本当にずるい。
戯れのごとく語らう間に生まれ来た陸のための香水は、ルクスが示すまま彼の首筋に触れればこちらも微細な波飛沫めいてぱっと弾けたのは、清しく爽やかで、意識をクリアにしてくれるようなローズマリーの香り。
海の雫という名を持つ香草の香りに知らず陸が笑んだなら、するりと腕に撓やかな手が絡められ、
「……と、ルクス?」
「ふふ。香水の感想でお返しするには、こうして傍にいないとね?」
跳ねる鼓動を呑み込むように訊けば、ひときわ悪戯に見上げてくる蠱惑の笑み。トップノートだけで感想を求めるわけにもいかないから、なんて言い訳を得て、調香師に感謝と代価を贈ったなら、夜闇に光の祝福を燈すパルマの街並みをゆうるりと揺蕩って。
やがて花開いたのは涼やかな青さもある水仙の花の香りと、落ち着いた甘さの菫の花の香り。
「早春の香りね、陸に合ってると思うわ」
「良かった。君にそう言ってもらえると嬉しいよ」
自然に咲いた笑みで彼女に告げられれば、陸も自然に笑み返せたけれど、やがて己の香りがほんの微かに、けれど気品あるフランキンセンスを覗かせるよりも先に、ルクスの香りがあえかなバニラを甘く咲かせたときに、今夜で一番の動揺を覚えることになる。
微かにバニラを香らす彼女の、キャラメル色に艶めく肢体を抱き寄せれば、もっと甘い香りがするような、気がして。
ああ確かに香水は芸術で、計算され尽くした魔法なのだ――。
花火と照明が輝きを添えた戦舞の祭典が終われば、パルマの街は深い濃藍に澄んだ夜闇に沈むはずだった。
然れど最終人類史に匹敵するほど高められた【液体錬成】が齎した光の祝福が夜闇に輝きを燈す。潤沢な油がオイルランプ戴く街灯に蜜色のあかりを輝かせて、中世の姿を残す街並みが暖かなあかりに彩られる様が、歴史が息づく建造物が蜂蜜色に輝くように夜闇へ浮かび上がる様が、紫空・千景(暁の切り札・g01765)の夜明けの眼差しをいっそう和ませた。
「――祇伐。今夜私達が甦らせることができたのは、芸術だけではなかったんだな」
「はい! 良かった、夜の街にあかりがあるとやっぱり安心ですものね、千景さん」
夜明けを燈す眼差しと桜に柘榴を燈す眼差しを交わせば、千景の胸にも咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)の胸にも先程の戦舞で咲かせた桜が更に爛漫と咲き誇る心地。優しい熱を互いに分かち合うよう、燈し合うよう手を絆いで、逢瀬めく心地でピロッタ宮殿の中庭を抜ければ、二人の頬を水辺の風がすうっと撫でていく。
夜闇に沈む水面に、街灯の光の祝福をきらきら躍らせつつ流れるパルマ川。
ここに桜を描いたら美しかろう、と千景の紅唇が笑みを深めるけれど、リアライズペイントで描き出せるのは視界内の敵。ならばこの術で桜を描き出すには――、
「ひとときだけ、戦舞の続きといこうか。今ひとたび私の敵として咲き誇ってくれ、祇伐」
「千景さんったら! ええ、あなたが望んでくださるなら、歓んで」
唯一の桜の名を呼べば歓喜の輝きを増して咲き誇る祇伐の笑み、勿論先程のように剣舞と扇舞を交わす必要はない。ただ、意識だけは今ひとたび互いを敵として捉えて、深い濃藍に澄んだ夜闇と光の祝福に千景が踊らす絵筆は夜明けの彩を煌かせるマニキュアのもの、紫から紅へ、真珠めいた艶をほんのり孕んで移ろう彩が桜龍の娘を描き出したなら、
夜明けの彩に煌きながら実体を得て、夜の水面へふうわり降り立つ映し絵の祇伐、千景の桜。
――恵みとなれ、
――幸せとなれ。
瞬間の美、一期一会の芸術。なんて綺麗、と祇伐がひとときの夢幻を宝物として胸に抱けば、
「ふふ、祇伐の爪も塗ろうか? とびきり綺麗に彩るぞ」
「私の爪も彩ってくださるの? 指先まで宝物にしてくださるのね!」
玉肌香膩の繊手を大切に取った千景が、桜の爪にも父譲りの才を発揮する。咲き初める桜、美しい夜明け。改めて二人手を絆ぎ合ったなら、橋を渡って向かう先は数多の色彩の舞いから生まれる瞬間の美、一期一会の芸術のもと。
戦舞の余韻を夢心地と抱く胸に、新たな夢心地が鮮やかな紗のごとく重ねられた。
勿忘草の空色に舞う薄桃と淡紫が空色を抱いて揺らめき翻り、宝石めく孔雀の緑と青が微細な銀の滴を孕んで羽ばたいて、数多の妙なる色彩の綾が、瞬間の美、一期一会の芸術を写しとったマーブル紙が二人の眼前で百花繚乱と咲き誇る。
この芸術を【液体錬成】が救ったのだと改めて実感すれば、二人の胸にはやはり幸せの彩が幾重にも花開いた。
ああ今夜は本当に、胸の裡に咲き溢れる花が尽きぬ夜。
これからの日々にもいっそうパルマが栄えて芸術が花開いていくよう、と祈りをこめて、そっと祇伐が手にしたのは、
「千景さん、この紙はどうかしら?」
深く艶めく夜闇が桜色の春暁の光を孕み、澄んだ紫に空を透きとおらせていくような、春宵から春暁へ至る彩の揺らめきを写しとったような夢幻。名を呼ぶ桜の声に振り返れば己の夜明けと彼女の春暁を合わせたような夢の彩が咲いていたから、
「噫、これに魔法を掛けてもらおう」
夢を手許に置いておくことが叶うよう、千景は扇の魔法を望む祇伐に頷いた。
職人の手は確かに魔法の手、興味と期待に胸を高鳴らせつつ見入れば時が経つのも忘れて、魔法が夢の彩を扇として二人の手許に結晶させれば、笑みばかりではなく歓声までもが爛漫と咲き溢れて。傍らの祇伐が扇に見惚れている間に、ひそやかに千景が己の手許の扇に奔らす筆が描いたのは――。
秘密が無事に乾けば扇をぱちりと閉じて、
「祇伐、交換しないか?」
「交換こ! いいですね」
互いの手に結晶した魔法を贈り合ったなら、扇を開いた途端に春暁の空に羽ばたいた鴉がさくらを纏う姿に、切ないほどの愛おしさが祇伐の眦を緩ませ幾重にも笑みを綻ばせ、その彼女の様子をもそっと扇の彩に重ねて愛おしむように、千景は扇を大切に己が胸へと抱いた。
瞬間の美、一期一会の芸術を。
夢の彩の宝物にして、互いに抱いていけたなら。
●Chi trova un amico trova un tesoro!
星空へ咲き誇った銀色の牡丹花火に光の桜吹雪めいて煌いた霞草花火。
彩り咲き溢れた夜空を逢魔が時の狭間の彩が染め、一斉に羽ばたいた金色に輝く幻鳥達が銃火と弾丸の嵐で無数に華やかにあでやかに煌きながら散華して皆の眼を奪った戦舞の祭典を思い起こせば、胸に甦るのは楽しい高揚ばかり。
「さっきの歓声を聞いたでしょ? 僕達は相性ぴったりなんだよ!」
「そ! あたしと禊は仲良し! 相性も息もぴったりだったもの!」
戦舞のひとときでいっそう仲良くなれた心地がするものだから、暖かな蜜色のあかりが満ちるトラットリアで悪戯に気泡が弾ける柘榴のスカッシュの杯を掲げて、来栖・禊(error・g01033)と咲樂・神樂(離一匁・g03059)は澄んだ硝子の音色を高らかに響かせた。
麗しき金翅鳥達の姿を皆に歓んでもらえた神樂はことさら御機嫌で、
――祈りをもらったから、
――パルマの人達にも楽しい祝宴になるように!
鴨肉のパテを琥珀色きらめくオニオンジャムが彩るクロスティーニに、豚肉のラグーを包んだ生地をくるりと指輪状にしてこっくり温かなクリームソースと絡めたトルテッリーニ、仔牛肉と緑鮮やかなセージの葉をプロシュットで抱いて焼き上げたサルティンボッカ! 楽しく語らいながら数多の美味を味わう夕餉で【口福の伝道者】を確りと活かせば、勿論人々の歓声が再び湧きあがる。
跳ねる美酒の煌き、弾ける誰もの笑顔。
皆が笑顔になるのは禊にとっても歓びで、けれど祭典は終われど祝宴の夜はまだ始まったばかりだから、
「さあ次にいこう神樂ちゃん、僕からの贈り物も受け取って!」
「あら、素敵ね! あたしだって禊に贈っちゃうんだから!!」
深い濃藍に澄んだ夜闇に【液体錬成】が齎した光の祝福燈る街へ二人駆け出せば、辿りついた紅水晶の薔薇咲くスタンドでお互いに香りの魔法を、調香してもらう香水の夢を贈り合う。
――神樂ちゃんにはフローラル系の、甘さが絶妙なオリエンタル要素がある香水なんてどう?
――いいわね! 禊は爽やかでミステリアスな香りなんてどうかしら?
美しい香水瓶に魔法の滴が満ちれば、それぞれそうっとお試しを。
春林檎のように優しいカモミールの花の香りが咲けば、次いで春空にほんのりと虹がかかるような心地がした。神樂の胸に虹を燈したのは甘やかに柔らかに、ふんわりパウダリーに香るアイリスで、藤花の甘さも秘めながら、ゆうるり東方の香りへ向かう。
夜色の西洋杜松――ジュニパーベリーが鋭くきりりと香れば、より深い夜の甘さを秘めたカシスの香りが紗のごとく柔らかに花開き、朝露を纏ったように清々しいローズマリーの香りの爽やかさが禊を夜の森から朝の森へといざなっていく心地。
最後に辿りつくラストノートはお互いこの先のお楽しみにしつつ、駆けだす夢の先は瞬間の美、一期一会の芸術の、数多の色彩が咲き溢れるマーブリングの楽園で。朱華に珊瑚に牡丹色、華やぐ桃色達が羽ばたく様に、瑞々しい新緑から滴り落ちた透明感のある淡水色の雫が描く波紋、鮮やかに艶めいて咲き誇る伝統工芸の粋に眦を緩めた禊は、小さな花火の煌きを幾つも鏤めたような便箋を手に取った。これは自分自身のために、
そして、瞬間の美であるがゆえにお揃いではないけれど、よく似たマーブリングで装丁された手帳は、
「可愛い手帳ね! きっと歓んでもらえるわ、書き込む予定もいっそう楽しみになるでしょうね!」
「あれ。妹へのお土産だってわかっちゃった? いや、わかるよね。何たって神樂ちゃんだもの!」
誰のための品か神樂に一目で看破されて禊は破顔した。何せ互いの最大の共通点といえばやはり妹を溺愛しているところ。神樂ちゃんもお土産用意するでしょ、と水を向けたなら、そりゃあ勿論、と逢魔が時の双眸を細めた相手の指先が春暁の彩を愛おしげに撫でた。
ほのかに春霞を重ねたような紫の空が桜の彩へとうつろうような、春暁のひととき。
「このマーブル紙から自分に香水の箱を作って、かあいい小物入れも作って、妹に贈るの」
「自作するんだ? 神樂ちゃんは手先が器用だもんね、素敵な小物入れが出来上がるのは間違いなしだ!」
神樂が思い描く二つなら、一枚のマーブル紙から作り出すことも叶うはず。さぞかし暖かな愛が込められた贈り物になるのだろうと思えば何だか我がことのように嬉しくて、さあ次の楽しみを探しにいこうと禊は弾む声音で友を誘う。
深い濃藍に澄んだ夜闇へ蜂蜜色に輝くように浮かび上がるパルマ大聖堂は内部も蜜色のあかりに満ち、壮麗な天井画を仰ぎ見ることは叶うだろうか。ピロッタ宮殿内にある欧州最古の劇場のひとつ、ファルネーゼ劇場の、正史では第二次世界大戦で損傷してしまう前の姿を覗いてみることはできるだろうか。
「禊、何か面白いもの見つけた?」
「わかんない! けど、わかんないから――行って確かめてみよう!」
彼が何やら楽しげなことを思いついた気配を察すれば神樂の胸も声音もますます弾むばかり、二人で弾けるように笑い声をあげて駆けだして。やがて夜が深まる頃に神樂の香水が落ち着いた沈香の、禊の香水が霧深い森を思わすオークモスの香りを覗かせるようになっても構わずに、この夜を楽しみ尽くすまで、何処までも。
――もっと、もっと、まだ足りない。
――なんて楽しい、なんて幸せな夜だろう。
美しい夜だった。
愛おしい夜だった。
何処までも豊かに深まるはずの夜闇は【液体錬成】の恩恵で光の祝福に彩られ、黄金の眼差しを細めれば光の繭がパルマの街を抱くかのよう。皆がアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)の【アイテムポケット】を活かして持ち込んだ支援物資が街の倉庫に山と積まれる様も心まで満たされる気持ちにさせてくれたから、黄金誓姫は足取り軽く石畳の通りを歩む。
黄銅細工の月桂樹の冠、優しい金色の太陽みたいにも見えるそれを飾ったスタンドでシル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)と行き合ったなら、
「あ! シルも調香してもらうんだ!?」
「うんっ! それじゃ大人の世界にまた一歩、いってみよっか!」
相棒同士で輝く笑み咲かせ、二人が望むのは魔法の滴、香りの交響曲。本当はどちらも夕餉のあとにと思っていたけれど、確りと最後のラストノートまで楽しむならきっと今調香してもらったほうがいい。
あれこれ惹かれる香りはあるけれど、
「やっぱり私は柑橘系がいいかも! 他にも似合いそうな香りがあるならって思うけど……」
「うんうん、わたしは爽やかで透きとおった風のイメージでいければいいなって気持ちなんだけど……」
調香してもらうのは初めてではないものの、アンゼリカもシルもまだまだ香水の世界にはほんのちょっと爪先を差し入れたくらいの心地。揃って不安気に眼差しを向ければ、腕を揮ってみましょうか、と楽しげに調香師が微笑んで。
特別な、彼女達だけの魔法の滴が生まれくる。
試してみるのはほんのひとしずく、食事の邪魔にならない程度に優しく香らせれば、
甘く爽やかで柑橘の中でもひときわ『美味しい』香りのタンジェリン、柑橘にふわり馴染む爽やかさと蜂蜜めいた軽やかな甘さを咲かせるハニーサックルの花の香りに、きらきら跳ねる光のように遊ぶアニスの刺激がアンゼリカの心を躍らせて。
瑞々しいレモングラスの香りが朝露のように弾けたかと思えば、清らかな透明感に満ちたスズランの花の香りに浚われて、微かにローズマリーの清涼感が掠めていく様が、朝の風が春の草原を翔けていく光景をシルに見せてくれるかのよう。
わあ、と感嘆を咲かせて顔を見合わせれば互いの瞳には飛びきりの煌き。
それなら次は、と向かう先は蜜色のあかりと楽しげな音色が零れてくるトラットリア!
――ボッリートミストサルティンボッカビステッカ、
――ブルスケッタタリアテッレ……。
祭典の高揚を抱いたままの人々で賑わうトラットリアは活気に満ちて、行き交う料理の数々に期待を募らせながらも同時に四十万・八千代(悪食ハッカー・g00584)は馴染みの薄い料理の名前を呪文のごとく呟いていたのだけど、
「気づけば呪文というより歌みたいになってた……どうしてなんだ」
「そりゃ腕のいい奏者がいるからね。面白いことするね、ソレイユ!」
「ふふ。何だかリズミカルで楽しそうだったので、つい」
途中から密かに、けれど楽しげに重ねられたチェンバロの音色に八千代の呪文が引っ張られる様を蜜色の双眸を煌かせつつ聴いていたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)が呼びかければ、店の奥に置かれたチェンバロを触らせて貰っていたソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が椅子から立ち上がって軽く一礼してみせる。
弾むドアベルの音色とともに扉が開かれれば、新たにやって来たのはシルとアンゼリカ、
「ふふっ、なんだかとっても――」
「楽しそう! だよね!!」
蜜色のあかりと弾むような雰囲気に満ちた店内の様子に二人の笑みも勿論弾んで、テーブルについた彼女達にも皆にも杯が行き渡ったと見れば、瑞々しくも豊かに秋が香る葡萄の果実水をソレイユが掲げて、
「それでは、僭越ながら……戦舞に参加された皆さんはお疲れ様でした!」
――乾杯!!
彼方此方で楽しげに硝子が唄えば、酒の滴も果実の滴も軽やかに跳ねて煌き踊る。
深紅の煌きに気泡弾けるグラス、そこに酒精香るランブルスコのみならず葡萄スカッシュの杯も確りと頼んでいたノスリが、戦舞を観戦していたらしい少年達と葡萄スカッシュで乾杯し、
「俺達の戦舞、格好良かった?」
「「ものすごく!!」」
弾ける笑顔も歓声も咲かせる様を、相変わらずのコミュ力お化けめ、と見遣っていた八千代も、数多の料理が己の前を彩り始めればたちまち藍色の双眸を輝かせ、
「これも支援だ、ほら君の底なし胃袋の出番だぞ」
「勿論! めいっぱい翔けたから底無しだし、天井知らずだよ」
連れに呼びかけ早速勤しむのは【口福の伝道者】を活かしての皆で食べ放題大作戦。
秋野菜のカポナータが彩るブルスケッタで秋の恵みを存分に味わったなら、これから旬を迎えるロマネスコを卵とチーズが滑らかに抱擁するスフォルマートが優しく温かな味わいで口中にふわりと崩れる様に頬を緩め。家庭の御馳走感たっぷりなボッリートミストの羊肉を頬張れば添えた林檎とプラムのモスタルダの甘酸っぱさが羊の癖を濃い旨味に変え、マスタードの刺激が跳ねる様に軽く八千代は眼を瞠る。
瑞々しい果実感にキレの良さを秘めた辛口のセッコも、熟れたベリーを頬張るような甘さにも葡萄の酒気を確り感じるやや甘口のアマービレも、合わない料理のほうが少ないというランブルスコはいずれの料理の美味も更に花開かせてくれるけど、
おすすめ教えてよ、と肩を組んで乾杯したマーブル紙職人にノスリがねだれば、生ハムの王ことクラテッロの薔薇色が柔く抱き込むのは無塩の発酵バター。そのまま食めば発酵バターの香りとクラテッロの熟成香が一気に大輪を咲かせ、双方の脂が渾然一体となったところでランブルスコを傾けたなら、酒精が脂の旨味をいっそう花開かせて、軽やかに気泡が弾ける極上の快感を齎してくれた。
旨味の結晶きらめくパルミジャーノをとろりとバルサミコが彩る見るからに罪深い美味も、己や皆の【液体錬成】が齎した絶品だと思えば機嫌は更に上々で、
「八千代のおすすめも教えてよ、どれが一番お気に入り?」
「これだね、食べ応え抜群なところが最高だ」
一歩引いてしまいがちな己を連れがさりげなく輪に招いてくれているのだと気づけば、口の端擡げて八千代が掲げる一品は骨付き牛肉のビステッカ。炭火でなく薪火で焼き上げられた香ばしさこそが肉の何よりの調味料、切り分けて頬張れば表面の強い香ばしさに内部のレアな赤身がしっとり馴染んで旨味たっぷりにほどけていくのが堪らない。
存分に【口福の伝道者】を活かせることもいっそう満足感を高めてくれるから、
「マーブル紙や香水もいいが、俺にとってはこの食事の食欲そそる香りと彩りが何よりだ……」
口許が綻ぶまま至福の心地でそう呟けば、職人や調香師達は怒るだろうかと思ったけれど、彼らは怒った様子もなく、
「なあ青年、芸術を楽しむ心を忘れちゃ、人生が色褪せちまうぞ」
「ねえ青年、香水のひとつも使いこなせないようじゃ、恋だって楽しめないわよ」
めっちゃ真剣に心配してくれてる。
めっちゃ親身になって心配してくれてる。ああパルマの人々もやっぱりイタリア人だ。
「あっは、確かにそりゃ大ごとだ!」
「そりゃそっちはそうだろうけど! このコミュ力お化けが!!」
茶化すノスリにそう言い返しながらも、気づけば釣られて八千代も笑っていた。
声をあげて笑って手に取る酒杯は甘やかに煌く琥珀色、秋にグラッパで摘まむならこれが一番、と調香師達が推すほっくり甘い焼き栗を時折ぽんっと口に投げ入れつつ、濃厚でまろやかな風味も酒気も豊かな蒸留酒を傾けて、俺に似合いの香りってどんなだろ、なんてノスリが調香師達に聴いてみれば、
柑橘の中でも個性的に香るセドラに、甘さを孕みつつも苦味を秘めてスモーキーに香るミルラ、夏夜に革命淫魔の調香師も選んだ香りが次々と挙がるけれど、
「荒野に咲くヒース。優しい蜂蜜みたいな香りがするからね、スパイシーかスモーキーな香りを強めに重ねてみたいかな」
「――いいね、それ」
琴線に触れたのはそんな言の葉。晩夏にブリテンの荒野を一斉に赤紫に染めるという花の話を、時空の彼方の誰かに訊ねてみる機会を得ることが叶うなら、と想いを馳せる。
涼やかに気泡を唄わせるライムスカッシュが、こころにからだに爽快感を染み渡らせていく。
相棒との戦舞は想像していたより遥かに楽しくて、夢中になってしまった分だけ心地好い疲労感も得たから、
「疲れた体には、やっぱりおいしいものが必要だねっ♪」
「改めてお疲れ様! めいっぱい動いたもんね、さーたくさん食べるぞっ!」
お互いの健闘を称えつつシルとアンゼリカも美味に挑む。美しい薄紅を覗かすプロシュット、薔薇色を覗かすクラテッロ、花めく彩そのままに皿上で花開くそれらがお目見えすれば歓声を咲かせ、
瑞々しいといいたくなる切り立てのしっとり感となめらかな口当たりを楽しみつつ頬張れば、滲み出て溢れだす脂の甘味に肉の旨味、それらと融け合うプロシュットの塩気がシルの生命力そのものを甦らせてくれるよう。
「チーズもいいけど、バター! 発酵バターやってみたい!」
「成程、それは本当に合いそうですね……!」
麗しき生ハムの王ことクラテッロが纏う熟成香は極上のブルーチーズをも思わせるもの、発酵バターの香りとの相性も当然間違いなくて、満面の笑みでアンゼリカが頬張れば、噛むほどにクラテッロのしっとりとた脂とねっとりした赤身が発酵バターと絡んで弾むように旨味を滲ませ、怖いくらいの幸福感で心まで満たしてくれる。
途轍もなく美味しい! と瞳を輝かせる彼女の様子に破顔して、私も次はそちらを、と思いながらソレイユが口に運ぶのはプロシュットとパルミジャーノ、そして洋梨と無花果のモスタルダを重ねた幸せのミルフィーユ。
今夜初めて出逢ったモスタルダは、生ハムとチーズの塩気と旨味を果実感あふれる甘さで強めて、ピリッと辛味を躍らせる楽しさに胸が弾む心地さえする味わいで、複雑で玄妙な奥行きを覗かせる美味が奏でる協奏曲を味覚と嗅覚で堪能する。
「うう、わたしも色々食べたいけど量が入らない……! シェアお願いアンゼリカさんっ!!」
「勿論! どんと来いだよー!! 私は幾らでも食べられそうだからっ!!」
熱く蕩けてぎゅっと旨味が凝縮されたトマトや玉葱を纏う鶏肉の煮込み、カチャトーラ。ほっこりあったかなそれも絶対にシルに幸せを運んでくれるだろうけど、アンゼリカやソレイユのもとへ兎や猪肉のラグーたっぷりなタリアテッレが運ばれて来る様を見ればやっぱりそちらも気になってしまうもの。
「ここはパルミジャーノをたっぷり摩り下ろしてかけたいところですが、御二人はどうされます?」
「「かけるー!!」」
ですよね、と微笑んでソレイユがチーズグレーターを手に取って。
華やかな香りを咲かせながら降り積もるパルミジャーノの雪、紅いトマトに彩り添えるそれごとカチャトーラを頬張れば、温かにぷつり弾けた鶏肉の滋味がトマトや玉葱にパルミジャーノの濃厚な旨味に跳ねて絡んで、兎や猪肉の旨味も肉汁も確りたっぷり、じっくり炒められた香味野菜の甘味もたっぷりなラグーはパルミジャーノの雪を纏ってなおジューシィに、リボンめいてひらりひらりと重なるタリアテッレに存分に絡んで、もちもち食感のタリアテッレそのものの美味しさをも心ゆくまで楽しませてくれる。
舌鼓を打つのが自分達ばかりではなくて、周りの人々皆が笑顔で美味を楽しんでいることが嬉しくて。
最近はどういった感じでしょうかと語りかけるのは調査や情報収集のためでなく、あくまでパルマの人々との交流のため。ゆえに彼らから聴ける言葉もその範囲でのこと、と承知の上でソレイユが訊いたなら、
「これから冬にかけて、心配に思うことは無いでしょうか」
「いやぁ、ディアボロスさん達が支援に来てくれるおかげでね、冬を越すことはできそうな感じ!」
「そうそう。とてもありがたいし、とっても心強いわ」
傍のテーブルにいる人々が次々と顔を綻ばせていく様が胸にあたたかな光を燈してくれる。
あとは立派な領主様に来ていただければ、安心して暮らせるんだがなぁ、と語る市民の願いが自分達に支援できるものかは判らないけれど、
「細々とだけど、北部との交流も復活してきているんだよね。いい感じになってきてる、のかな?」
「…………!!」
柔い眼差しで北を見遣るよう微笑んだ市民の言葉に、ソレイユとシル、そしてアンゼリカは思わず顔を見合わせた。勿論、パルマの人々はその理由や詳細を知ってはいないだろう。だが、此の地より北方のオーストリア、ウィーンでの情勢の変動に関わった三人の胸には、もしかして――と燈る想いがある。
言葉にせぬままそっと笑みを交わせば、人々の間から、そうだ、と声が上がる。
「以前君のチェンバロを聴いたよ、今夜もまた聴かせてくれる?」
「ルーチェ・ソラーレの二人の歌も!!」
決戦の日の記憶を胸に咲かせた人々が笑顔も咲かせて望んでくれるから、三人の答えはぴったり揃った。
――勿論、歓んで!!
華やかな音色が溢れだす。
胸に燈った想いのままに、あたたかさのままにソレイユの十指が鍵盤に躍れば確と応えるチェンバロの音色が蜜色のあかり満ちるトラットリアに希望の旋律をも満たし、心から光を溢れさせるよう笑みを咲かせたシルとアンゼリカが元気いっぱい、溌剌たる歌声を花開かせる。
明るく翔けだしていく旋律に重なるように、瑞々しく澄みきった透明なアクアノートをシルは感じて、眩い太陽の色や光を思わすサフランの香りをアンゼリカは感じとる。瞳を見交わし笑み崩れ、それでも歌い上げて。
達成感がアンゼリカの胸に咲くなら、ソレイユの胸には未来への夢が咲き溢れた。自分達は、確実に進んでいるから。
――これからのパルマは勿論、そして、パルマばかりでなく、
――オーストリアにもこんな希望の光を咲かせることができるよう、未来へ向けて、歩いていこう。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】LV9が発生!
【液体錬成】LV10が発生!
【パラドクス通信】がLV3になった!
【狐変身】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
【照明】がLV2になった!
【士気高揚】がLV3になった!
効果2【能力値アップ】がLV5になった!
【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【ダメージアップ】がLV10(最大)になった!
【凌駕率アップ】LV3(最大)が発生!
【フィニッシュ】LV3(最大)が発生!
【ガードアップ】がLV3になった!
【命中アップ】LV1が発生!