リプレイ
ライラ・ロスクヴァ
ただあたりまえに生きていたい
己の本当に愛する人と一緒に居たい
その小さく当たり前の願いを叶えるために参りましょう
新宿から持ち込むのはとりどりの色のガーベラ
無垢な白も、愛らしいピンクも、フィオナ様の髪と同じ色の黄色も
どれも素敵で選べなかったのです
可能であれば、フィオナ様のお好きな色をお渡ししたく
わたくし達は、貴女の幸せを願う者です
どうか、お話を聞いてくださいませ
わたくしたちと入れ替わり、ドラゴンとの結婚を無かった事にいたします
ここでは入れ替わらず、早朝に攻撃をしかけますので
その混乱に乗じて、入れ替わりを
怖い事が起こると思われます
でも必ずお護りいたします
どうか、悲しい思いをする人がもう出ませんように
四葩・ショウ
竜の花嫁、花冠のフィオナ様へ
花冠用の花をお持ちしました
両手いっぱい抱え持つ
蓮華草に、桜のひと枝
湛える朝露ごと見せたかった本物の紫陽花を
さぁ、フィオナ様
ご覧になったことはありますか?
蓮華草と桜と
折り紙の紫陽花の花冠を
思い出してくれたなら
人払いを頼んで
皆、同じ気持ちの仲間だよ
貴女の力になりにきたんだ
その為にフィオナさんの
協力が必要なの
貴女がこれからも、生きていけるように
朝霧に紛れて
花嫁行列の騎士団が襲われるけど
貴女も
護衛や人足のひとも絶対傷付かない、安心して待ってて
偽物と入れ替わって
全部終わったら元に戻すから
ドラゴン様が襲われた、って証言してほしい
大丈夫
運命を変えよう、一緒に
待つひとの元へ帰る為に
竜城・陸
外套を纏い
種族の特徴である角や翼、尾が目立たぬよう
深海色のデルフィニウムに
春から初夏の彩と、勿忘草を携えて
竜の花嫁となられる花冠の君へ花を献上したく罷り越しました
じきに輿入れとのことですが
どうかその前に、一目お目通り願えませんか?
親族達が傍にいる間は演技を忘れず
フィオナが中途で気づいても声を上げぬように合図
周囲の人々が捌けてから改めてお話ししよう
お久しぶり、フィオナ
――あなたの願い、必ず繋ぐとお約束したね
その誓いを果たしにきたよ
皆と共に一連の流れをご説明し
彼女の命を必ず守ること
彼女の大切な人々や故郷に決して累の及ばぬよう計らうことを
確りとお約束する
君の望んだ一番の幸福を導くよう
尽力させて戴くよ
シル・ウィンディア
フィオナさん、元気かな?思い出してくれたらうれしいけど…。
用意するお花は、ブルースターの小花と桜の花
どちらも、わたしが花冠を作った時に使ったお花だね。小さい花だけど、でも、大きなお花に負けない存在感があるの。
お屋敷についたら、花嫁様にお花を献上しに来ましたと、まっすぐに伝えるね。
フィオナさんに会ったら、こんにちわとあいさつ
そしてお花を差し出してこう言うよ。
…あなたを、望んだ未来の光景に連れていくために、わたし達は来たよ。
あとは作戦を伝えないとね。
わたし達は、明日の朝に馬車を襲うよ。
護衛の竜麟兵たちだけを倒した後に
フィオナさんと入れ替わって、ドラゴンの元に行くから…
伝えたらまた明日にねって言うよ
ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ連携歓迎
青いトルコキキョウに橙色のバラと淡桃のガーベラに霞草を束ねて
花冠作りの花の献上に
色とりどりの花達は花嫁の花冠には勿論
ドラゴン様へ捧げても恥ずかしくないものばかり
どうぞ花嫁手ずから選定を
首尾よく会えたなら微笑み、挨拶して
またお会いできて嬉しいです、フィオナ
貴方の色褪せぬ景色を、未来を護るために来ました
私達の作戦に協力してください
霧の濃い朝、私達が行列を襲撃します
襲撃と言っても一般人の方を傷つけたりはしません
騎士団だけ排除して貴方と入れ替わりドラゴンの許へと向かいます
後の事は心配しないで
貴方は被害者を装えば良いだけですから
入れ替わりを手早く行える様
馬車の中で準備をお願いできますか?
ノスリ・アスターゼイン
ヒューとルーに再会の挨拶
尽力したいと告げたこと
俺達の再訪が
彼への励ましにもなると良い
花冠の花嫁へとびきりの花を献上しに、と
フィオナの許へ
コンテストで用いたテーマと同じだけれど
夜明け色だと目を奪われたトルコ桔梗を
紫、薄紅、白など
色調を変えたグラデで携えて
添えた白のカラーは
花芯が真っ直ぐ伸びていて
清々しい気持ちになったから
…単純に、俺がこの子(花)達に惹かれたってだけなんだけど
とは素直な本音
花束の向こうから顔を覗かせ
思い出してくれたなら
笑んでハイタッチ
誓いを果たしに来たよ
作戦の流れを皆で説明
手土産として持参した
明星めく杏やオレンジのドライフルーツで
蜂蜜茶でも飲みつつ
大芝居に向けて
息抜きも大事ってね
永辿・ヤコウ
以前御覧に入れたものと同様に
八重も一重も織り交ぜた
薔薇の花束を抱えて
花冠作りのお花を献上しに参りました
フィオナ様は四季の移ろいに
どんな花々を思い浮かべますか
遊び心の問いも添えたなら
わくわく駆けつけてくださるでしょうか
思い出してくださった後
再会のご挨拶
入れ替わり作戦の一連の説明を
フィオナさん御本人は勿論のこと
御家族や御友人、そして雲雀の彼も牧羊犬も
愛しい方々がどなたも傷つかない未来を
生きる為に
心のまま羽搏く為に
切り拓きに参りましょう
僕たちの手で、と気合充填
刺蜂も恐れぬ果敢な花冠の花嫁のこと
希望の光が瞳に燈ると信じております
折角ですから
フィオナさんの花冠作りの手際を習いながら
お話し出来たら嬉しいな
標葉・萱
フィオナ様へと捧げる花をと
恭しい一礼でもって
望まぬ婚礼の装束を染めるべくとりどりに
いつかお見せした冠の花たちは
私のかわいい人へ贈るものだから、ご容赦を
陽だまりの色した木香薔薇に光塗した金糸梅
グラデーションを描くようなダリアは
色を変える空のようだったから
贈り物を選ぶのはいつでも楽しいもの
お好きな花はありましたか
尋ねながらの挨拶に
思い出していただけるでしょうか
足りなければ、摘みに行きましょう
その指先が望むまま、選ぶ自由はあるのだから
その手伝いのために、訪れたのですから
作戦をお伝えしたなら
内緒話の提案は、真剣だけれど
すこしだけ悪戯めいて
きっと皆々、お得意でしょう
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
アドリブ連携歓迎
現地の衣装を纏い館へ
花冠の花を献上しに参りました
フィオナさんに接触
花は紫と白のライラック
優美な小花の房は鮮やかな紫とたおやかな白
明るい緑の葉、紅葉、枯れ枝を共に
見本代わりに、贈り物にと小さな花冠を持参
馴染んだ街角に咲く花の、春夏秋冬の姿
編めば、四季の廻りを思わせる冠になるだろう
結婚は始まり
廻るひととせ、廻る幾年も
ヒューさんが貴女の傍にいるよう願って
……俺も花冠を編むんだ
力になりたい
信あらば説明を
野営の翌朝、朝霧に紛れて空から花嫁行列を襲う
騎士団以外に危害は加えないので、落ち着いて
その間に仲間と入れ替わってくれ
竜を倒したら、再度入れ替わり、被害者のフリをしてほしい
貴女の安全の為だ
アンゼリカ・レンブラント
まずは雲雀のヒューに逢いに
今が彼女を救う時と
力を尽くすと気合入れフィオナの許へ
花冠作りのための花を持参
竜の花嫁に献上するために来ましたと
華やかに飾った白のアングレカム持ち
真っすぐに伝えるね
同じ花を持ちご挨拶――フィオナも思い出してくれるかな
こころに刻まれた絆に、永遠に続くものはある
貴女の『いつまでも』はけして竜に捧げられるものじゃない
私はひとときも忘れなかったよ
生きて、いきたいと口にした貴女のことを!
その貴女の願いに私達は応えたい
春の緑のような色の瞳を真っすぐ見て
今回の作戦内容の説明するね
花嫁行列襲撃時はどうか慌てないで
私達の指示に従ってと伝えるね
大丈夫、必ず上手く行かせるよ
本当の幸福を貴女に
●雲雀の花冠
紺碧の湖の耀きに蜜色の双眸を細め、夏草に変わりつつある緑の丘へ視線を転じれば。
瑞々しい緑に光の波を描く風を追うよう翔けあがった眼差しが夏の青を迎えつつある空を、真白に輝く雲を映す。緑の丘のあちこちには雲にも負けない毛刈り間近のふわもこ羊達、その合間で牧羊犬が小首を傾げたと見えた次の瞬間。両耳をぴんと立てたその犬がノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)めざしてまっすぐに駆けてきた。
「今日も大歓迎だなんて嬉しいね。逢いに来たよ、ルー。そして勿論、雲雀のヒューにも」
「あっ、ルーだ! そう、また逢いに来たよ。遂に『そのとき』が来たんだ!!」
排斥力は動物に影響しないのか、はたまた犬の鋭敏な嗅覚が即座に記憶を甦らせたのか。一直線に駆けてきた牧羊犬の姿に破顔したノスリが屈んで迎えれば、はむっと口許に狼の御挨拶で触れてきた牧羊犬が甘えるように彼の肩へと顎を乗せ、背を撫でられる牧羊犬の嬉しげな様子を見たアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)が満開の笑みを咲かせたなら、尻尾大回転の牧羊犬がわふっと彼女の許へも跳び込んでくる。
牧羊犬の首を飾るのは不器用に編まれた歪な花冠、黄とオレンジの花々が描く環に二人が顔を見合わせた、そのとき。
遠くから聴こえてきたのは何時かと同じ言葉、うちのルーがすまない、と駆けてきた榛色の髪と瞳を持った青年の記憶を、過日のそれと良く似た状況が呼び覚ましたのだろう。
「あんた達は――
……!!」
双眸を瞠った雲雀のヒューは、二度と逢えぬと思っていた友に再会したかのごとく、泣き出しそうな顔で笑った。
牧羊犬の花冠に気づかれたと察すれば、これはルーがあいつの花冠を恋しがるから、と言いかけて、
「いや、あんた達に言い訳する必要なんてなかったな……。あいつ以外にはあんた達だけだ、俺が本音を口にできたのは」
掠れた声音と苦笑で続けた彼の肩へ、己の存在が現実のものだと証すようにノスリが手を置いてやる。
忘れるものか。あの嘆きを、その嘆きを覆すために、再び時空を超えて来た。
「覚えてる? あんたが絆を諦めずに居られるように、俺達が尽力したいって言ったこと」
「今こそ彼女を救う時! 力を尽くしに来たよ、私達に任せて!!」
揺るぎない意志を不敵な笑みに乗せて告げるノスリの言葉に力強く頷いて、アンゼリカも迷いない笑みを咲かせてみせる。榛色の瞳に希望が燈ったのは、竜の花嫁が命を捧げる絶対の理が覆される時が、空と湖が入れ替わる時がやってきたのだと、理屈ではなく感覚で悟ったからだろう。
「あいつを、フィオナを、頼む――!!」
何をどうやってとは一切訊かず、唯まっすぐにヒューから託された信頼を、勿論、と二人は声を揃えて受けとった。
雲雀が溢れる未練のままに編んだのだろう花冠の黄はフィカリアの花、そして夕陽めくオレンジは、羊飼いの天気予報草と呼ばれ、現代ではスカーレット・ピンパーネルの名でも知られる花。彼がその花を摘んだのは単なる偶然だろうけど、
――たとえ、この改竄世界史がドラゴン達に支配されていようとも。
――この世界の空が、大地が、朝霧という天候を織り成して、自分達に味方してくれる。
朝靄が訪れるそのときに、絶対の理を覆す戦いが幕を開ける。
竜の花嫁こと花冠のフィオナにそれを告げるべくライラ・ロスクヴァ(セレーネ・g00843)が歩むのは、湖水地方にいくつも存在する竜の花嫁の湖、そのうちのひとつの湖畔に栄える街。夕暮れ時とはまた違った美しさに輝く昼間の街は、竜の花嫁の旅立ちを前に更なる歓喜と祝福の華やぎに満ちていた。
然れど。
――命を捧げたりせずに……生きて、いきたい。
過日、花冠のフィオナが洗脳めいた状態から解き放ってくれたディアボロス達に吐露した願い。ひととしてあたりまえの、そして、愛するひととともに人生を歩んでいきたいという当然の願いを叶えるために、ライラは明るい希望そのものを大輪に咲かせるガーベラの花々とともに確たる決意を胸に抱く。
ふと傍らから聴こえたのは、偶々行き合ったエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)の声音。
「……難しいな、初めて訪れる街というのは。だが、とても興味深い」
「独特な雰囲気のある街ですよね。ですが、その装い、良くお似合いですし、街にも馴染んでいるのではないでしょうか」
虹色の双眸を細めた彼女の言葉に、ありがとう、と微笑して、エトヴァは改めて己の装いを見下ろした。一般人に違和感を抱かれにくいディアボロスたる身には必須でないが、その地に相応しい装いをと考えるのは習い性のようなもの。
現地の衣装を纏って――とは思えど完全なる手工業の時代では仕立て上がった衣服の即時入手は困難だ。正史の文化風俗を思えば、市井レベルではローマの影響が色濃いなかにケルト風への回帰とアングロサクソンの流入が交錯する頃合だろうが、新宿島でそれらしいレプリカを求めるのも難しい。
それでなくともここは改竄世界史、しかも正史にない発展と繁栄を享受する街だ。各地から人々が訪れることもあり新たな流行が次々と生まれていったのだろう、様々な装いの人々を見かけたが、それゆえに、敢えて正確な時代考証に拘らなかったエトヴァの装いもこの街にしっくりと馴染んだ。
新緑を光にとかしたような淡い緑に金糸の刺繍を施すチュニックは丈短めの上着として仕立てられたレプリカ、軽い薄手の革のズボンを合わせ、剣帯に実用的な剣を佩けば彼も品の良い旅人のひとり。鮮やかな紫と嫋やかな白を咲かすライラックを抱いて歩むのは、湖水地方の伝統として知られる粘板岩(スレート)のミルフィーユめいた外壁ではなく、陽光を受けて輝く石灰岩でつくられた街並みだ。
街一番の大通りの中心に通された水路の両岸には眩い黄のカウスリップに代わって淡桃や淡紫のタイムの小花が咲き群れ、煌く水路の船着き場には瀟洒な舟が、と見れば、こちらに気づいた金の髪の少年が片手をあげて呼びかけてくる。
「御二人とも、花嫁の館へ行かれるなら御一緒しませんか?」
「ソレイユさんか。ありがたい、彼と一緒なら話が早そうだ」
「ええ、ぜひ御一緒させていただきたいです」
壮麗なステンドグラスを連想させる色とりどりの花々を抱くソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)、過日に花冠のフィオナと深く関わった彼と同行するなら竜の花嫁の信も得易くなるだろう。瀟洒な舟が煌く水面へ滑り出せば、水辺の涼風が誰もの髪を、頬を撫でていく。
この水路は竜の花嫁の館までまっすぐに続いているんです、と靑と金の眼差しで彼方の館を示しながら、ソレイユは街中で耳にした噂を思い起こす。竜の花嫁は『ドラゴン様のもとでの日々を、両親や従姉妹達が選んでくれた嫁入り道具に囲まれて過ごしたい』と願って家族や親族に嫁入り道具の選定と任せたという話だが、
――排斥力で私達との時間を忘れはしても、恐らくフィオナは。
――あのとき芽吹いた拒否感を、今は無意識のままに胸の奥で息づかせているのでしょうね。
予知で語られた光景からしてもそう考えるのが自然だった。なら早々にこちらのことも思い出してくれるだろう。
明るく透きとおった青の水面、煌く水路の彼方でソレイユ達のひとつ先をゆく舟からひらり軽やかに降り立って、鮮やかな空色の星を咲かせるブルースターと淡い桃色に息づく桜の花を抱いたシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)は、あの日と同じく館の扉を潜り、溌剌たる笑みを咲かせてみせた。
「花嫁様に、お花を献上しに来ました!」
「竜の花嫁となられる花冠の君へ、花を献上したく罷り越しました。どうか御輿入れの前に、一目お目通り願えませんか?」
柔和な微笑で頷き、自分も同様だと告げたのは、己の竜角や翼と尾を外套で目立たなくした竜城・陸(蒼海番長・g01002)。人間もドラゴニアンも平和に暮らすこの街で種族を隠す必要はないが、己の外見を知られにくくしておくに越したことはないだろう。深いマリンブルーを咲かせるデルフィニウムを初めとする花々が、陸の言上が嘘偽りでないことを証立てる。
二人の申し出は効果覿面。花嫁の門出への準備で忙しなく行き交っていた使用人達が顔を綻ばせて、丁重に案内してくれた先は――鮮やかな青空を映しとる紺青の湖と、その彼方の丘や山々を一望できるテラス。解放感あふれるそこに、
蜂蜜色の髪と春緑の瞳を持つ、花冠のフィオナがいた。
今すぐ駆け寄り花々を差し出して、真実の目的を明かしたかった。だけどシルは密やかな陸の目配せに頷いて立ち止まる。あたりには館の使用人達の姿、だが一足先にここへ案内されていたらしい四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)の落ち着いた様子に、彼女がこの状況を予め想定していたことを理解する。
両手いっぱいにショウが抱えた花々の、春の彩は蓮華草と桜の一枝。
然れど最も見せたかったのは初夏の彩、透きとおる朝露を湛えたままに持ち込んだ、本物の紫陽花の花々だ。
「さぁ、フィオナ様。ご覧になったことはありますか?」
――蓮華草と桜と、
――折り紙の紫陽花の花冠を。
花々を手渡された花嫁は自然と春と初夏の彩を抱き、涼しげな青と紫と白の花々を飾る朝露に瞳を輝かせ、ショウの言葉に誘われるよう、何故かそうしなければならない気がした、といった風情で瞳をとじた。胸には記憶が甦ったろうか。水と緑の香りが満ちたろうか。果たして――。
「ええ、ええ! この胸に『また』咲いたもの
……!!」
瞼が開かれれば春緑の瞳には明らかに、再会の歓喜が輝いていた。
眼の前で微笑むショウばかりでなく、胸を高鳴らせつつ見守っていたシル、秘めやかに人差し指を口許へと触れさせた陸、そして続いて案内されてきたソレイユの姿に次々と花冠のフィオナに輝く笑みが咲く。彼女とは初対面のライラとエトヴァの姿を認めれば素早くショウは「皆、同じ気持ちの仲間だよ」と囁いて、更なる小声で人払いを求めた。
この時点で花冠が思い出したのは再会できた面々との記憶のみだったろう。
だが彼女はショウの意を過たずに汲み取って、
「皆さんとゆっくり花の話をしたいの。『飛びっきり綺麗な花々を持って来られた方』以外は、ここに通さないで……!」
花々を贈られた歓びを満面に咲かせる様を装う振舞いで、望まれた舞台を調えてみせた。
冴える青のトルコキキョウも夢見るような橙色の薔薇も、春らしい淡桃のガーベラも光の滴めいた霞草で彩って、あの日と変わらぬ己の夢を、そして花冠の夢を叶えたいという願いごと花に託してソレイユは、微笑みとともに希望を贈る。
「またお会いできて嬉しいです、フィオナ。貴方の色褪せぬ景色を、未来を護るために来ました」
「――!! そんなこと、出来るの……?」
出来るよ、と迷わぬ声音を花々に添えて、深い青のデルフィニウムの海をプリムローズと紫菫が彩る春から初夏を、淡紫と淡紅の勿忘草が燈す明け空を、この日再び陸は花冠の瞳と胸に映してみせた。己は愛おしい故郷に戻れずとも、
「お久しぶり、フィオナ。――あなたの願い、必ず繋ぐとお約束したね。その誓いを果たしにきたよ」
「繋ぐ、繋いでもらえる。私、終わらなくていいのね……」
あなたは、必ず。
彼の心ごと受けとるよう花々を抱いて、その言葉を噛みしめるように繰り返したフィオナの眦に涙が滲む。明るい陽射しに満ちるテラス、その白木のテーブルにも花が満ちていくけれど、勿論これで終わりではなくて。
輝くような真白、清らな純白。
甘やかで涼やかで、官能的な香りをも織り成した過日の花冠。あの花々は私のかわいい人へ贈るものだから、ご容赦を、と柔い笑みで紡ぐ標葉・萱(儘言・g01730)は自分達のみが通れる人払いが為されている様に感嘆しつつ、この日は新たな花々を花冠のフィオナへ贈る。
陽だまり色の木香薔薇に光を抱くような金糸梅、深紅から薄桃へのグラデーションを咲かせるダリアは明けの光射す空にも似て。どんな花でもお好きと街の人々にも知られる彼女に、お好きな花はありましたかと訊ねる必要はないけれど、
「足りなければ、摘みに行きましょう。その指先が望むまま、選ぶ自由はあるのだから」
「ええ、ええ。これからもそれが叶うならどんなにか……!」
――そのために、私達は訪れたのですから。
敢えて訊ねつつそう続ければ、眦に涙を滲ませたまま曇らぬ笑みが咲いた。排斥力の縛めが解かれたのだろう、最早彼女は再会した途端に相手のことを思い出す。憂いなく再会を歓べるのだと想えば永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の笑みも綻んで、遊び心の問いも添えつつ手渡すのは、愛おしい日々を結晶させたような数多の薔薇。
萌す春、輝く夏、燈る秋、そして、清らな冬。
「僕からも、お花を献上しに。フィオナ様、いえ、フィオナさんは四季の移ろいに、どんな花々を思い浮かべますか?」
「色々あるけれど……晩夏にゲンティアナやヒースが咲いて、秋が来たら、きっと揚げたての熱々が恋しくなるわ!」
瞳が合えば返るのは茶目っ気たっぷりの笑み。弾けるように笑い合った。憂いも曇りも吹き飛ばすように明るい皆の笑声が聴こえてきたならノスリの足取りも自然と早まって、花と光に満ちたテラスへ踏み出したなら、夜明けの彩を燈す花々も彼の腕の中で光を抱く。
匂やかな淡紫を、甘やかな薄紅を、清らかな白を融け合わせるように携えたトルコキキョウ達に、純白の花苞に抱かれた花芯がまっすぐ伸びる様が清々しいカラーの花。過日とは異なる花を選んだのは、
「……単純に、俺がこの子達に惹かれたってだけなんだけど」
「ええ、ええ、あなたが惹かれた子達をもっとよく見せて!」
飾らぬ本音とともに花束の向こうからノスリが顔を覗かせれば、瞬時に咲く再会の笑み。弾けるようなハイタッチの音を響かせれば互いの笑みも弾けて、二人のその様子にアンゼリカも胸に輝く熱と光を燈した。
あの日からきっと、花冠のフィオナは孤独な日々を過ごしてきたのだろう。
記憶は失われ、なのに竜の花嫁となることへの拒否感は無意識のうちに息づいて、誰にそれを明かすことも叶わない。
だけど彼女はもうひとりじゃない。だって今、自分達がここにいる。
こころに刻まれた絆に、永遠に続くものはある――今まさに皆が証した絆をアンゼリカ自身でも証すべく、桜色のリボンで華やかに彩ったアングレカムを、純白の大輪が星を咲かせる花を抱いて進み出た。まっすぐに伝えるのはあの日に続く言葉。
貴女の『いつまでも』は決して竜に捧げられるものじゃない。
「私はひとときも忘れなかったよ。生きて、いきたいと口にした貴女のことを!」
鮮やかな青が小花ながらも確かな存在感で誰もの目を惹きつけるブルースター、空色の星に桜の花を鏤めて、シルも花々と心からの想いを贈る。己が愛するひとの花嫁となる光景を夢見るように、花冠のフィオナも本当に愛するひとの花嫁となる光景を、未来を望んでいるはずだから。
「そうだよ! あなたを、望んだ未来の光景に連れていくために、わたし達は来たんだよ
……!!」
幾度も瞬きをした彼女の眦から涙が零れ落ちた。
感極まった様に声を詰まらせ、けれどくしゃりと泣き笑いを咲かせ、フィオナは花々ごとアンゼリカとシルを抱きしめる。今このときに駆けつけてくれた皆へ、花冠は迷わずこう告げた。
――大好きよ、あなた達!!
●花冠の結婚
美しいばかりでなく、豊かな花冠だった。
優美な花房と香りを溢れさせるライラックは鮮やかな紫と嫋やかな白を咲かせ、明るい夏緑の葉と薔薇色とも葡萄酒色とも思える紅葉、そして落ち着いた枯れ枝で環を描く。フィオナへ贈るそれらで予めエトヴァが見本にと編んできた花冠は、愛する芸術の都を、その春夏秋冬を想って作りあげたもの。
「豊かな心をも育んでくれる街……そんな感じ?」
「ああ、その通りだ。貴女は花冠に編み込まれた心を感じ取ってくださるのだったな」
四季のめぐりに触れつつ辿る彼女に訊かれれば、自然と蒼穹の眼差しが緩んだ。
結婚ははじまり。廻るひととせ、廻る幾年も、花冠と雲雀がともにあれるよう。
そのために自分も力になりたい――という彼の心も間違いなく伝わっただろう。エトヴァなら単身の訪問でも花冠の信頼を得ることができたに違いない。
己が胸に大切に抱く光景を花冠に編んで、語る。
それは、過日に仲間達が花冠のフィオナを洗脳めいた状態から解き放ったのと、同じ手立てだから。
花冠のフィオナにとっては久方振りの楽しいひとときなのだろう。無意識の拒否感が己が自ら抱いたものだと明確になり、傍には一片の迷いもなくそれを肯定してくれる人達がいる。エトヴァさんともコンテストで競ってみたかったな、とヤコウも楽しげに笑みを零し、
「折角ですから、フィオナさんの花冠作りの手際を習いながらお話し出来たら嬉しいな。なんて」
「コンテスト優勝者がそれ言うの!?」
「いいんじゃない? 皆もあんたがどう編むか興味あるだろうし。俺からはほら、大事の前の息抜きに……ってね」
「!! これ、今日は食べていいの
……!?」
彼が続けた言葉に花冠からも楽しげな声が弾け、あの日に花冠を彩った明星を、煌く杏とオレンジの干果をノスリが取り出して見せれば春緑の瞳が輝いた。合わせて持参した蜂蜜は、止める間もなく駆けだしていった彼女が厨房で確保してきたらしいネトルのハーブティーをこのテーブルで皆に淹れて、そこに落として。
花冠のフィオナは輿入れ準備に追われることなく、ゆっくり花冠を編むことが叶う時間を過ごせている――予知の情報からそう推測したヤコウの読みは正しかった。花冠は無意識の拒否感から嫁入り道具の選定を家族や親族に任せ、周りの者も彼女の変化には気づくことなく、唯、最後までゆっくりと過ごせるよう取り計らったのだろう。
輝くフィカリアの花々がフィオナの心のまま魔法みたいに編まれていく様は、彼女の心が溢れだしていくかのよう。皆から贈られた花々は冠を編む前に水を含ませた麻布の小片と羊毛で丁寧に保水され、
「これほど穏やかなひとときを過ごせるとは思わなかったな……」
「ええ。フィオナ様はこんなにも、皆様に心を開いていらっしゃるのですね」
現代ならワイヤーを使うところを蔓草や麻糸、極細の柳の枝を駆使していく様に興味深く見入りながらエトヴァが呟けば、自身が贈った明るい黄のガーベラに麻布で潤いを添えつつライラも目許を和ませた。お好きなお色をと差し出したガーベラを過日の報告書の情報通り『どんな色の花も好き!』とすべて受け取った花冠は、再会したディアボロス達とは一度逢ったきりだと思えないほどに、再び逢えた歓びを溢れさせている。
「俺達は――自分自身の心に抱く大切な光を携えて、直接フィオナの心の奥に触れにいったようなものだから」
「そうだね。わたし達はそれぞれほんとうに、フィオナさんの心の奥の泉まで降りていった……そんな気がしてる」
極薄のヴェールで覆うことさえせずに、己の大切な光を剥きだしのまま携えていった。干し草を思わす香りを今は緑茶にも似てると思えるネトルの香草茶を手にした陸がそう黎明の双眸を細めれば、指先で摘んだ杏の煌きを花の色の眼差しに映してショウも柔く微笑んだ。剣も魔法も揮わず、舌戦ですらなかったというのに、あれは確かに戦いだった。
花冠にとって陸やショウ達は、心で心に触れてくれた相手。
水面の奥底へと沈められた真実の幸福が浮かび上がれるように導いてくれて、竜の花嫁たる身には絶対の禁忌でしなかない『命を捧げたりせずに……生きて、いきたい』という言葉を受けとめ、まるごと肯定してくれた人達だ。
戦いのさなかに心で触れ合い、禁忌を共有してくれた相手に、絆を感じるのも当然のこと。
それに、忘れちゃいけない――と幻想竜域に生まれ育った陸が密やかな声音で念を押す。
自分達にとってドラゴンを斃すことは絶対悪を斃すこと。なれど花冠のフィオナにとっては違うはずだ。
幻想竜域のグレートブリテン島に生きる人々にとって、竜殺しは、神殺しにも等しいこと。
本題に入る前にこうやってワンクッション置くのもひとつの手だと思う、と続いた陸の言葉に、確かに、と得心して、萱も香草茶を口に運んだ。他愛ない悪戯に協力を求めるのとは訳が違うのだと、香草茶のぬくもりとともに改めて心に燈す。
この訪問の目的を、誰も忘れてはいない。
「――でね、フィカリアの花を摘もうとしたら葉陰にいた蛇に触っちゃって、吃驚して思わず湖にぶん投げちゃったの」
「ぶん投げたっ!?」
「豪快ですね、フィオナ」
「わかる! それ虫だったらわたし全力でぶっぱなしてるもん
……!!」
花冠のフィオナに純白の星の花を手渡していたアンゼリカの声音が今日も跳ねて、ゆうるりとネトルの香りを楽しんでいたソレイユが相好を崩し、魔法をという言葉は呑み込んだシルが力強く頷いて。
「悪気はなかったの! で、落ちた湖面から顔出した蛇と、目と目で通じ合う感じになってね……」
蛇のつぶらな瞳と見つめ合い『今のは酷くね?』『ご、ごめんなさい……!』と語り合った気がする、と花冠が続ければ、
「蜜蜂の群れは平気なのに?」
「蜂の針にも怯まぬ御方、と伺いましたよ」
「だって蜜蜂達はふわもこで可愛いもの
……!!」
蜂蜜を木匙で掬いながら、あるいは薔薇の花に潤いを添えながら、悪戯に眼差し交わしたノスリとヤコウの連携に、今度は花冠の声音が跳ね――そろそろ頃合でしょうかと琥珀の眼差しで皆に確認した萱が、穏やかな声音で本題の糸口を紡ぎ出す。
「私達なら蛇でも獅子でも御相手しましょう。たとえ相手がドラゴンだとて、怯みはしません」
「――!!」
花冠の春緑が瞠られた。
だが、これは改竄世界史に抗い、歴史侵略者と戦う、復讐者達の物語。
その主役はいつだってディアボロスたち自身。花冠を主役に『してはならない』と直感し、ソレイユは敢えてこう語る。
「貴方の色褪せぬ景色を、未来を護りたいと願う『私達のために』、協力してください。フィオナ」
竜の花嫁としての洗脳が解けたとて、ドラゴンを神のごとく畏怖する心まで失われたわけではないはずだ。
己の延命のためドラゴンを屠ることを『願った』となれば、たとえ自分達が帰還して排斥力が彼女の記憶を消すまでの短い間だとしても、竜の花嫁の心に想像を絶する負担、重荷を強いることになる。別の花嫁の輿入れ先でドラゴンを撃破した折にそれを痛感したからこそ、ソレイユは自分達を主体にして協力を求めた。
逸早く同調したのは恐らくこの場の誰より『竜の花嫁』という幻想竜域のしきたりに憤りを抱く陸。
「俺からもお願いするよ。あなたの願いを繋ぐのが『俺達の望み』だから」
「その為にフィオナさんの協力が必要なの。貴女がこれからも、生きていけるように」
無意識にぎゅっと握り込まれた花冠の拳にそっと手を重ね、優しい雨にも似た声音でショウが願えば、
「――ええ、ええ。やってみる。あなた達は何をするの? 私は、何をすればいいの?」
詰めていた息をほどくように応え、フィオナは改めてディアボロス達を見回した。
春緑を虹色の眼差しで真摯に見返し、わたくし達は貴女の幸せを願っていますと改めて告げたライラが、
「わたくし達の誰かがフィオナ様と入れ替わり、ドラゴンとの結婚を完全な破談に、無かったことにいたします」
「花嫁行列は道中で野営すると伺っている。その翌朝、朝靄に紛れて空から襲撃するから――」
「空から!?」
落ち着いた声音でエトヴァが語れば、再び春緑が瞠られる。だが彼は安心させるよう微笑み返し、
「聖ティラミサ騎士団のみと戦うためだ。一般の護衛や人足の方々を戦いに巻き込んだり、傷つけるつもりはない」
「うん、それは絶対に約束する。一般の人達も、貴女も、絶対に傷ついたりしないから、安心して待ってて」
言を継いだショウもひときわ柔らかな笑みを添えた。
「でね、戦いの後の混乱に乗じてわたし達の誰かがフィオナさんと入れ替わって、ドラゴンの元に行くから」
「……!! それじゃ、あなた達で棘鞭飛竜エリギュラス様を
……!?」
ここが一番肝心なところ、と小さく拳を握ってシルが語った言葉にももちろん驚愕の声が上がるから、
「――斃すつもりだ。必ず」
誰もが明言を避けた最大の要をエトヴァが断言する。彼女の重荷を、引き受ける。
もしかすると彼女は再会時に、ディアボロス達がドラゴンと交渉でもしてくれるのかと思っていたのかもしれない。
葛藤はあったろう。だが、彼らへの信頼が、改めて抱きしめた真実の幸福が、花冠のフィオナの裡で葛藤を凌駕した。
「私が命を捧げるか、エリギュラス様に彼岸に去っていただくかしかないのなら、私は……私は、それでも」
生きて、いきたい。
涙とともに零れた願いを叶えたくて、エトヴァだけに重荷を背負わせるわけにはいかなくて、己が心を確かに伝えるように花冠の手を握り、春緑の瞳を黄金の瞳でまっすぐ見つめたアンゼリカも迷わず言いきった。
「うん、話し合いの余地はないんだ。でも大丈夫、必ずドラゴンを斃して、全部上手く行かせてみせるから!!」
花嫁を娶るのを諦めて欲しい――なんて願ってもドラゴン達が一顧だにしないだろうことは、やはり別の花嫁の輿入れ先で何度も彼らと激戦を繰り広げてきたアンゼリカやシルには感覚的に確信できる。斃す以外に、道はないのだ。
彼女が落ち着くのを待って、ソレイユが続きを引き取れば、
「入れ替わりを手早く行えるよう、馬車の中で準備をお願いできますか?」
「ええ、ええ。入れ替わるひとには私の花嫁衣裳を着てもらうのがいいのよね? そして、その他に……」
――大輪の花で、花冠を編んでおいたほうが、いい?
当人からそう提案された。顔を隠しやすくするためだろう。
花冠のフィオナの瞳に決意と希望が燈る様を見れば、是非、と笑顔でヤコウも意気込んだ。
「その後は必ず、僕達の手で、すべてを果たしてきます」
「竜を倒したら、再度入れ替わり、被害者のフリをしてほしい。貴女の安全の為だ」
「全部終わったら元に戻すから、ドラゴン様が襲われた、って証言してくれるかな」
「――わかった。やってみる」
念のためにエトヴァとショウが言い添えた言葉にも確かな決意でフィオナは応えた。タイミングによっては『あちら側』に保護される前に排斥力が働くかもしれないが、ディアボロス達との記憶が失われても彼女は『花嫁行列が何者かに襲撃され、何がなんだか判らないうちにドラゴン様まで殺されていた』と語るしかないはずだ。
もう二度と、己の心を殺して竜の花嫁を見送ることはしない。絶対に。
己が掌に固く決意を握りしめ、それでも敢えて柔らかな微笑みのままで、陸は新たな約束を紡ぐ。
君の望んだ一番の幸福を導けるよう、尽力させていただくよ。
「あなたの命は無論、あなたの大切な人々や故郷に決して累の及ばぬように計らうね。こちらも、必ず」
「ええ。フィオナさんも、御家族や御友人、そして雲雀の彼も牧羊犬も、愛しい方々がどなたも傷つかない未来を」
必ず、と迷わずヤコウも請け合った。あの日意気投合した織物工房の娘、花冠のフィオナの友人だという彼女とフィオナが再び手を取り合って笑い合える未来を、ヤコウ自身も望んでいるから。聴いてる、と彼女が涙ぐんだ。優勝した花冠のモデルが友人であったことを人伝に聴いたのだろう。
雲雀の嘆きを覆すために時空を超えてきた。そして、
あの日、花冠が取り戻した真実の幸福の光を、
「決して翳らせない為に、俺達は此処に居る。あのとき花冠の明星に掛けたとおりに」
――誓いを果たしに来たよ。
新しい明日へ、自由な空へいざなうような笑みで告げたノスリが、杏とオレンジの明星を彼女の手に握らせてやれば、
「これ、少し持っていっても、いい? 花嫁行列の道中、心細くなったら食べたいの。そうして――」
希望の明星が、みんなが来るのを、待ってる。
幾度目かに零れた涙はそのままに花冠が微笑み返すから、もらい泣きしそうになるのを堪えてシルが満開の笑みを咲かせてみせる。先程抱きしめてもらったぬくもりを贈り返すように、アンゼリカがフィオナを抱きしめる。
「うん! 待っててね、霧の出る朝に必ずいくからっ!!」
「絶対にいくよ! 私達みんな、フィオナに本当の幸福を抱きしめて欲しいって願ってるから、それを叶えに!!」
仲間達のまっすぐな言葉に宵紫の双眸を細めたヤコウも改めて、愛しい方々がどなたも傷つかない未来を、と口にして、
「生きる為に、心のまま羽ばたく為に、切り拓きに参りましょう」
「大丈夫。運命を変えよう、一緒に」
繋いだ絆を離さないと証すよう、ショウは明星を握る花冠の手に再び己のそれを重ねた。運命を、変えにいく。
――待つひとの許へ、
――誰よりも傍にいたいひとの許へ、帰るために。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV6が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【冷気の支配者】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV2が発生!
【グロリアス】LV2が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
●黎明の朝霧
美しい夜明けだった。
深く澄んだ夜闇が山々の彼方、空の涯に萌しはじめる光に透きとおってゆく頃合に、そろりと、ゆうるりと揺蕩いはじめた朝霧が、夏草の草原を、空までをも抱きすくめてゆく。
夜闇が群青に透きとおる頃合には朝霧も柔らかにけぶる群青に染まり、東の涯から輝きを覗かせた朝陽が明け空に甘やかな薄桃や薔薇色を燈す頃合には、薄群青に染まる朝霧にも、ひとすじ、ふたすじと柔い薔薇色が射した。
あたかも、それを合図としたかのように。
あるいは、それを花嫁の吉兆と見たかのように。
野営して一夜を明かした花嫁行列が、山々へ向けて出立する。
花嫁行列がめざすは北東、進む街道は草原から山間へと入ってゆく。山間を抜ければその彼方に、海辺にあるという砦――竜の花嫁こと花冠のフィオナの輿入れ先である、棘鞭飛竜エリギュラスの砦が見えてくるのだろうか。
既に世界に燈された【飛翔】は最高時速300kmでの移動を可能とし、朝霧も【完全視界】で見通せる。
早朝の奇襲に申し分ない力を、ディアボロス達は手にしている。
朝霧に紛れて奇襲し、空中戦を仕掛けて聖ティラミサ騎士団を撃破するのなら、花嫁行列の出発直前か直後、いずれにせよ花嫁行列が草原にいる間に襲撃するのが良策と思われた。
だが勿論、山間に入ってから襲撃するほうがより良い結果を得られる作戦があるなら、そちらを決行することもできる。
可能であるならば、何時、何処で仕掛けるか、あらかじめ皆で擦り合わせておくに越したことはない。何しろ相手取るのは聖ティラミサ騎士団だ。
――聖ティラミサ騎士団。
その最大の特徴は、優美な姿でも勇猛さや清廉さでもなく、味方との連携に長けた戦法にある。
彼女達に挑み、殲滅するならば、こちらも仲間との連携は欠かせないだろう。誰かが連携してくれるなら、という受動的な気構えで臨むのではなく、自ら積極的に連携を図る能動的な戦術で臨むほうが優勢に戦えるはずだ。
改竄世界史に抗い、歴史侵略者と戦う、復讐者達の物語。
新たなその一頁が、朝霧の世界で開かれる。
四葩・ショウ
嵐を、おこそう
とびきり大きな大きな、風を!
【完全視界】で視野確保
草原で出発直後、合図に合わせ
上空から【飛翔】し『LaMer』
一撃離脱のヒット&アウェイ
渡り鳥みたいに列へかえり空中戦へ誘導
余裕なくても彼女達の戦い方を観察
格好いいね、貴女達
でも
絶対にゆずらない
狙いを揃え、孤立しない・させない
撹乱するよに加減速調整
少しでも捉えにくく
集中攻撃で狙われるひとはディフェンス
まかせて
攻撃するひとの傍へ翔て背後をカバー
フォローして貰えたら任せて思うまま駆けよう
騎士団を倒したなら
だめだ、これ以上は……!
声をはりあげ、一般人にきこえるように
ふらふら満身創痍の演技で撤退
誰かに与えられる運命なんて
もう、うんざりなんだ
ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ連携歓迎
強敵であろうとも、先へ繋げる為に打ち払わせて頂きます
これでも、即興演奏には多少の覚えがありますから
光学迷彩で霧に紛れ
完全視界と飛翔にて奇襲
狙うは行列の出発直後の草原
初撃は全員で全方向からパラドクス通信でタイミングを揃え一撃
私は前方から
宙に展開した鍵盤で「月虹」を演奏
月の化身を喚び出し攻撃を命じます
奇襲後は即反転
霧に紛れバラバラに上空へ飛ぶと見せかけ全員で一箇所に集結
飛んで来た順に迎え撃ちます
視界内には常に仲間を置き
集中攻撃を受けている仲間にはディフェンス
突破力が足りぬと感じたら加勢に入ります
体力の低いものを集中攻撃し
数を減らすことを第一に
撃破完了したら負傷を装い戦場を離脱します
シル・ウィンディア
約束を果たすためにっ!
朝日より煌めく未来を勝ち取りに行くよっ!
草原で出発直後を狙って…
朝霧に紛れて飛翔で強襲だね!
朝霧に紛れて移動し、敵を発見したら念の為パラドクス通信を使って連絡だね。
みんなとタイミングを合わせて雷電衝撃破!
攻撃後、敵の目がこちらに向いたらみんなより先行して飛翔で敵陣に突撃。
突撃時は、残像を生み出した攪乱機動で動いていくね
敵陣深くに入り込みすぎずに連携しながら攪乱
攪乱しつつ、倒せそうな敵に向けて高速詠唱の雷電衝撃破っ!
攪乱時は孤立しないように死角をカバーして動くね。
同じく攪乱に行く人にはディフェンスをして防御するよ
殲滅後は、パラドクス通信で連絡を入れて一旦離脱するよ
永辿・ヤコウ
朝霧のように曖昧にされた僕達の歴史
視界を晴らす為
未来を切り拓く為
僕に今できることを
全力で
草原
出発直後
飛翔し萌黄襲にて急襲
空に還って空中戦へ誘う
皆に力及ばずとも
庇うこと叶わずとも
完全視界にて周囲警戒を主体に
皆様の目となれるよう心掛ける
敵の動きや攻撃・反撃のタイミングを良く観察し集中攻撃
相手に連携を取らせないよう萌黄襲で牽制・妨害
また
孤立防止に皆が二人一組以上になれるよう戦況を把握
背を護る為のフォローに入ったり
死角を補うよう声掛けしあうなど
僕達の連携も確りと図りたい
統制の取れた動きは流石騎士団
けれど見惚れはしない
僕が見据えるのは
あなた達では無いから
殲滅後
撤退の声に同意を述べて
一度引くのも作戦のうち
ノスリ・アスターゼイン
未来という名の花冠を掲げる大舞台
一幕目のファンファーレの準備はOK?
完全視界で見通す霧の向こう
軽口と笑みは浮かべれど
眼差しには油断も慢心も無く
さぁ、幕開けだ
出発直後の草原
列背後から飛翔で強襲
皆と認識や機を合わせ
ホルス&離脱
空中戦へ招く
軌道を読ませぬよう空を翔け
濃霧の中に誘って
視界や死角を奪おうか
飛び回りつつも戦況把握に努めたい
声掛け連携
孤立しないよう心掛け
仲間の背面カバーや
攻撃補助などのフォロー
ディフェンスも
敵の連携を分断させる為にも集中攻撃
霧に紛れて背後から、或いは不意に眼前に接敵し
猛禽の爪めくナイフで斬り薙ぐホルス
仲間と攻撃を繋いで行こう
殲滅後は
苦戦を装い撤退
入れ替わりは幕間に
秘めやかにね
竜城・陸
この夜明けが寿ぐのは
望まぬ婚礼ではなく、彼女が心から笑える未来であるよう
力を尽くそう
朝霧に紛れ移動
草原にて出発直後を狙うよ
奇襲時も単独行動避けるよう留意し
気付かれる危惧あれば全方向に拘らず
逐次【パラドクス通信】で意思疎通し調整
機を合わせて奇襲し
直後、挑発交えて空へ逃れ空中戦に誘う
戦時は後方から光の槍を差し向け攻撃
ヤコウさんと共、周囲警戒厳とし
包囲・孤立に追い込まれぬよう声掛け合う
皆と息合わせ標的集中
但し周囲の状況には常に目を配り
必要に応じ攻撃動作・庇う動きの阻害等も
集中・苛烈化する攻撃への《ディフェンス》も可能な限り行い
被弾が偏らぬよう留意しつつ
相手の連携の思惑を乱せるよう
殲滅後は皆と共に撤退
アンゼリカ・レンブラント
美しい夜明けだね
そう、明けない夜はない
フィオナを覆う闇も、私たちが今晴らす
相談通り出発直後に、「草原」で奇襲
完全視界で突撃タイミングを計って…
朝霧に紛れ
仲間と動きを合わせて飛翔の最大スピードで騎士団を襲撃だ
攻撃後、敵の目がこちらに向いたら先行して敵陣に突撃して空中戦!
突撃後は敵陣を攪乱しつつ
速攻を心掛けるね
騎士団が混乱から収まる前に1人1人確実に倒す
倒せそうな相手や、仲間と狙いを合わせられる敵を優先に攻撃
攪乱時は孤立しないように死角をカバー!
同じ役割の仲間とはディフェンスし合う
万が一にも一般人に被害が出ないよう注意
囲まれる気配があれば一時退いて体勢を立て直しつつ
《光剣収束斬》で倒していくよっ!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎
完全視界使用
※仮
撹乱かダメージ役かは調整に
外套で所属を曖昧に
光学迷彩、【飛翔】で上空遠方で待機
双眼鏡と完全視界で、可能な範囲で騎士団の配置を偵察、観察し情報収集
奇襲方向の分担確認
P通信で情報共有
声を掛け合い連携
場所は草原、行列の出発直後
合図で
朝霧に紛れて上空の全方向から全員で急速接近し強襲、一撃離脱
高度を上げ騎士団を誘いだし空中戦
変則ロッテ
二人以上の編隊でフォローに入る
戦場を偵察、敵味方の布陣の把握に努め
連携の素振りに牽制をかけ
弱った敵に攻撃集中
味方をディフェンスし連携を阻害
変則軌道で飛び回り、的を絞らせず撹乱
氷盾を撒いて、攻撃動作を阻害
反撃には魔力障壁を展開、最高速度で回避
●花冠の明星
――嵐を、おこそう。
――とびきり大きな大きな、風を!
涼やかに世界を抱きすくめる朝霧の裡で凛と通った四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)の声は決して大きなものでなく、然れど既にインカム状の機器として効果を現している【パラドクス通信】が仲間達へ想いを繋げてくれる。
世界に燈された【飛翔】はこの夜明けで更に重ねられ、最大に近い効果の発揮が可能。淡い薄群青にけぶる朝霧、爽涼たる天然のミストシャワーを高空を飛翔しながら突き抜ける感覚は爽快で、
「聖ティラミサ騎士団は花嫁行列を囲むように展開。全周を警戒しているが、対空警戒の様子は皆無だな」
「警戒対象は獣や賊なのでしょうね。それなら、予定通りに」
柔い薔薇色がひとすじ、ふたすじ、と射す彼方の朝霧、その地表付近の様子を【完全視界】と完全防水かつ曇り止め仕様の双眼鏡で捉えたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が皆に確と情報共有すれば、最良のかたちで奇襲が叶うと確信したソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が微笑した。
花嫁行列の出立直後を狙った空中からの奇襲、それが全方向からの一斉攻撃で叶うならば最高の成果を掴めるはず。
未来という名の花冠を掲げる大舞台。その開幕のベルを鳴らすために地表の聖ティラミサ騎士団さえも全く警戒していない高空を全速飛翔しつつ「一幕目のファンファーレの準備はOK?」なんてインカム越しに軽口を叩きつつ笑みを浮かべるも、獲物を見据えるノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)の蜜色の双眸には油断も慢心も皆無。
時先案内人の言葉どおり、この朝霧はいざ戦端が開かれればクロノヴェーダの視界を阻害するほどのものではない。
だが、最初の一撃を奇襲で叩き込み、一般人の目を欺き続けるには十分すぎるほどのものだ。
一瞬でそれを再確認し、高空から散開した全員が完璧な位置を掴んだ瞬間に告げた。
「――さぁ、幕開けだ」
壮観だった。
圧倒的だった。
美しい彩に染まる霧に抱かれた夜明け、その空から八つの明星が一斉に降り落ちた、刹那。
朝霧の中にも鮮烈に輝く光が刃が、銃撃が雷撃が、幻想が光槍が、花嫁行列を護送する聖ティラミサ騎士団を蹂躙した。
神々しくも禍々しく輝く月の化身がソレイユの奏でる調べとともに前方上空から急襲すれば、曙光よりも眩い輝きで騎士を斬り伏せるのはアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)の巨大な光剣、騎士達のみを狙い撃つシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)の雷撃が敵陣に輝き翔けぬけて。
前方と左方からの強襲と同時に後方上空から翔けたエトヴァが両手の二挺で銃撃を躍らせるなかへ一気に急降下したのは、銀の波濤を連れたショウと水晶の刃を閃かせるノスリ、幾多の竜鱗を硝子が貫き水晶が裂けば、初夏の草原へと瞬時に春花を甦らせる永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の幻想が右方から押し寄せる。
純白の盾での防御さえ許さず、神の雷めいた光槍で竜城・陸(蒼海番長・g01002)が貫いた相手が、奇しくもこの護送隊の指揮官であった。
「聖ティラミサ騎士団の御高名はかねがね伺っていたけれど……どうやら過大評価だったみたいだ」
――こんなにあっさりと奇襲を許すようでは、ね?
いっそ鮮やかなまでに明確な挑発の言葉、そして微笑を残して陸が空へ身を翻せば、
『おのれ不遜な賊どもが! 逃がすな! 聖ティラミサ騎士団の名にかけて、賊どもを殲滅せよ――!!』
完全に想定外であった上空からの襲撃に騒然とする一般人達を地上に残して、空賊と化したディアボロス達と聖ティラミサ騎士団の戦いは一気に空中戦へと展開する。
涼やかに霧が香る空から一瞬で瑞々しい夏草が香る地上へ翔け、燕や隼さながらに鋭く素早く空へと還る疾風めいた奇襲。
襲撃目標の反撃も次撃もことごとく潰してみせた強襲の成果は最上、麗しき竜の騎士達は花嫁を護れと言い残すことさえも忘れて猛然と飛翔してくるが、
「斬り込み勝負なら負けないよっ! 突撃だーっ!!」
「意識も隊列も存分に乱してあげるから、覚悟してねっ!!」
初撃で甚大な被害を受けた敵勢よりも当然アンゼリカとシルが速い。朝霧も輝かせる巨大な光剣で黄金誓姫が斬り込めば、相棒の光と朝霧に数多の残像を映した虹色の精霊術士が騎士達の合間を高速飛翔で翔けめぐる。精霊術士の詠唱もまた高速、
――空と大地を繋ぎし雷よ……。我が手に集いて、障害を撃ち抜けっ!!
白銀の風翼が、藍鉱石の蕾がシルの杖に咲いた瞬間、幾条にも花開いた鮮烈な雷撃が三人の騎士を貫き翔けぬけた。
朝霧も霧散させんばかりの火球、純白と桃色の疾風めいた空襲、全速全力で攪乱にかかる二人と時空を歪める反撃が激しく交錯するが、宵紫の双眸ですべてを見極めんとするヤコウの観察眼は決して戦況を見誤らない。
朝霧のように曖昧にされた僕達の歴史。
曖昧模糊たる視界を晴らし、未来を切り拓くためにも、
「狙い目は角が折れた騎士と翼が破れた騎士達です。角折れは僕が抑え――いえ、仕留めます!!」
「「了解!!」」
深手の敵を見定めればインカム越しに交わす言葉も頼もしく、精鋭揃いの仲間達に確たる信を置きつつヤコウも即座に術を織り上げた。朝霧の空に萌黄の春野を一気に展開する幻想、苛烈に赤熱する反撃の火球さえも呑み込む幻が騎士を永遠の眠りに堕として撃墜した刹那、天空から清らな滴が落ちる。
――逃がさない。
天の涙と見えた純粋な煌きは硝子のレイピアを携えたショウ、高空からまっすぐに降り落ちれば朝霧の空中には銀の波紋が水平に広がって、波濤を越えて揮われる刃が騎士二人を一気に貫けば、辛うじて命を繋いだ騎士の首を猛禽の爪が斬り裂いた。
一瞬で掻き消えるかのごとき急降下で死角を獲ったノスリが下方から揮った水晶の刃、彼の爪で絶命する瞬間の一閃でその胸に浅い反撃の裂傷を刻んだ騎士の矜持に、やるね、と餞代わりの笑みを向け、琥珀の魄翼で強く朝霧を打った猛禽は一気に高空へと翔け上がる。
空を支配するのは、此方の側だ。
●朝霧の夏嵐
圧巻だった。
絶対的だった。
朝霧の空を翔ける襲撃者達は飛燕にして猛禽、決して相手に制空権を許さず、波濤のごとき連携で獲物を狩りにかかる。
勇名を馳せる聖ティラミサ騎士団は本来、統制の取れた連携戦法で清廉かつ勇猛な戦舞を空に描きだす騎士団であったが、奇襲による甚大な被害で隊そのものを大きく乱された彼女達は、態勢を整える隙すら得られずに翻弄され続けていた。
所属を曖昧にせんと外套を纏っていてさえ蒼穹の翼は輝く軌跡を朝霧に煌かせ、
「ここは牽制、いや、制圧させてもらおうか」
「そして私が全力で叩き落とすからねっ!!」
――Sei frei.
端的な詠唱とともに黒鋼と金の誓いを閃かせた刹那にエトヴァが躍らす銃撃の舞、彼自身も自在に空を翔けながらのそれが騎士達を蹂躙すれば、輝きが乱舞するさなかへ迷わぬ全速飛翔で飛び込んだアンゼリカが眩い払暁の光を思わす剣閃で深手の騎士を撃墜し、
「背後から、いくね」
「それじゃ、俺はこっちから」
「うんっ! 後は任せてっ!」
インカム越しの最小限の言葉で通じる心地好さに笑みを綻ばせ、絶妙な加減速と飛燕の鋭さを重ねた飛翔で騎士達の後背を獲ったショウが朝霧に生まれた銀の波濤を滑るように翔ける。桃色の竜翼二対へ閃く硝子のレイピア、朝霧に血がしぶいた刹那に騎士の真っ向へ舞い降りたノスリが刃でその胸元を喰い破れば、交差するよう二人が翔けぬけた瞬間に、加勢に飛び込んできた騎士もろともにシルの雷撃が打ち据えた。
朝霧の底へ墜ちていくのは竜の騎士達ばかり、
『怯むな! 同輩とともに立ち向かえ!!』
『この地はグレートブリテン島、その空に賊の存在を許すな――!!』
なれど決して心折れる様子を見せぬ辺りが流石は騎士か。桃色の竜翼で翔ける彼女達は統制を取りつつの散開でなく一気に集結する構えを見せたが、
「騎士団としては俺達を包囲殲滅したいところだろうけど、まあ、無理な話だよね」
「ええ、相手の包囲を許すような油断をする者なんて、こちらにはいませんからね」
縦横無尽の機動を可能とする空中戦、その戦場を見渡すなら後方よりも高所を獲るのが得策と察して高空を翔けていた陸とヤコウが、賊を包囲するのではなく隊で一丸となって立ち向かうことを選んだらしい騎士達へ光槍を奔らせ幻想を展開すれば、彼女達の意識が一斉に二人へ向いた。
美しかった。
鮮やかに燃え立つ火球が幾つも翔けあがる瞬間に数多の騎士達が輝きを追って飛翔する。純白の盾を押し並べて桃色の翼で朝霧も風も切り裂いて、同輩の反撃に攻勢を重ねる波状攻撃で一気呵成に攻め落とさんとするが、
「悪いけど、本領発揮してもらうわけにはいかなくてね」
「格好いいね、貴女達。でも」
――絶対に、ゆずらない。
連携の波濤を断ち割らんとするディフェンスで飛び込んだのは二つの影。
白銀の剣を水晶の刃で受け、衝撃を半減させたノスリが女竜の間近で不敵な笑みを覗かせ、硝子のレイピアを奔らせ火球を爆散させたショウが頬を焦がされつつも花の色の眼差しでまっすぐ騎士を見据えたなら、二人が反撃に転じると同時にシルとアンゼリカが騎士達の後方から彼女達の只中へ突撃して攪乱を狙う。
戦況は圧倒的にこちらが優勢だった。
僅かな瑕瑾すら確実な連携と【パラドクス通信】を活かす完璧な情報共有で潰したディアボロス達は、聖ティラミサ騎士団最大の長所さえも潰して彼女達を撃墜していく。
数多燈る戦場の加護で最も劇的な効果を発揮しているのは、最大近くまで重ねられた【グロリアス】。多数の敵を相手取る時にこそ輝くこの加護は攻撃力を高める加護と相俟って、敵を撃墜するたびディアボロスを癒して継戦能力を高めてくれる。
ゆえに幾度も敵勢へと突撃していくアンゼリカやシルも傷は浅く、遊撃を担う形で翔けるショウとノスリも同様、高空から全体の状況把握に努める陸とヤコウも多少の集中攻撃では落とされはしまい。瞬時にそれを見て取ったエトヴァは二人以上で組んで翔けるロッテ戦術がほぼ確実化されている様に蒼穹の双眸を細め、
「それなら、俺達は援護寄りの遊撃を担おうか」
「ええ。これでも、即興演奏には多少の覚えがありますから」
強気な微笑みで応じたソレイユが朝霧を撫でれば宙に展開される光の鍵盤、この朝にも迷わず奔る指先が奏でる旋律が輝く月光の化身を騎士へ向かわせれば、皓々たるその輝きに己が輝きの軌跡を重ねてエトヴァも翔けた。
月光と栄光の輝き、そして銃撃と交錯するのは騎士達の攻防一体の反撃。黒き指環に黄金の神聖語を奔らせた刹那、思う様叩き込まれた剣の威力を咄嗟に展開した荊の魔力障壁で減じれば、
『これほどの手練れとなれば、貴殿らが只の賊とは思えません。貴殿らは何者なのですか、何が目的なのですか――!?』
「礼を尽くされたなら応じたい気持ちにもなるが、答えるつもりはない」
騎士が口調を改めて問いかけてくるも当然応じるはずもなく、エトヴァは外套の裡から数多の氷片を解き放つ。鏡のごとく煌くそれらは敵の勢いを削ぐ氷の盾、純白の盾を翳した騎士の突撃の威を半減すると同時に左右二挺の銃口を翻し、
『!! やはり貴殿らは、ディ
……!!』
幾多の銃声で彼女の言葉を掻き消し、撃墜した。
然れど、それでも。騎士達は自らの長所を花開かせんと足掻く。
一瞬で純白と桃色の花を咲かせるように散開したと見えた刹那の即時反転で狙う集中攻撃、連携によって苛烈な勢いを得るその技は範囲攻撃なれど、真なる狙いがアンゼリカだと察すれば迷わず急降下した陸と身を翻したシルが彼女の盾となり、
「……! ちょ~っと、痛いのいくからねっ!」
「こちらも。ただ護るだけでは芸がないからね」
間髪容れず弾けて迸るのはシルが放つ雷の反撃、額を割るはずだった一撃を光の盾で肩へ逸らした陸も、その刹那に槍へと変じさせた光で眼前の敵を貫いた。なれどそれでは終わらぬ、彼の本質そのものである光は朝霧を煌かせながら瞬く間にその手に集い、続け様の攻勢を可能にする。
眼前の相手が初撃で貫いた相手だと気づけば柔く笑み、
「先程は失礼したね。本意ではなかったと言わせてもらおう」
『ええ。見事な挑発でしたと、こちらも言わせていただきましょう』
逆説連鎖戦なれば言の葉も剣と槍も交わすのは一瞬、黎明の眼差しに強い煌きが覗くと同時に奔らせた光槍は純白の盾ごと騎士の心の臓を貫いて、反撃が陸に届くことさえ許さず絶命させた。
朝霧の底へ敵の指揮官が墜ちていく。
射し始めた曙光が朝霧を金に染めていく。
――この夜明けが寿ぐのは、
――望まぬ婚礼ではなく、彼女が心から笑える未来であるよう。
●約束の到来
鮮烈だった。
決定的だった。
空襲での攪乱を得意技のひとつとし、技能としての空中戦にも日々磨きをかけているだろう聖ティラミサ騎士団だったが、襲撃者達はその半数以上が彼女達を上回る空中戦の技量を備えていた。中でもノスリの技量は、もはや次元が異なるレベル。
一気に降り落ちる、一気に迫り上がる。
朝霧も曙光も斬り裂いて翔ける琥珀の魄翼が描く軌跡は敵の捕捉を許さず、騎士達の連携を断っては水晶の刃がその血肉を喰い破る。指揮官が撃破されても敵にはそれによる直接的な混乱はなく、指揮権は速やかに次席の騎士へ移ったようだが、
「きっちり連携されるとやっぱり厄介だしね、これ以上はさせたくないところ」
「同感だな。最後まで油断なく仕留めるとしよう」
「うん、彼女達にもゆずれないものはあるだろうけど、わたし達だって、ゆずれないから」
交わす言葉はインカム越しなれど其々の眼差しが捉える標的は間違いなく同じ、こちらも変則軌道を描く飛翔で攪乱を図るエトヴァが援護射撃も兼ねて敵勢に銃撃を躍らせれば、肩を撃ち抜かれた騎士の背後を獲ったノスリの刃が心の臓に届けよとばかりに深く斬り薙いで、緩急自在の飛翔で騎士達のもとへ飛び込んだショウがその喉を胸を次々と貫いていく。
淡い薄群青も柔い薔薇色も薄らいで、朝霧を染める金が眩さを増していく。
明けない夜はないから。彼女にだって、この先何度も夜明けを迎えて欲しいから。
――フィオナを覆う闇は、私達が必ず晴らしてみせる!
「だから……ここで怯んでなんか、いられないんだっ!!」
「だよねっ! ここはまだ、通過点だから!」
視界すべてを染める勢いで襲い来るのは爛熟した夕陽のごとくに輝き燃え盛る火球、けれど何時だって勇気がアンゼリカを前に進ませるから。背に護ったシルの分まで灼熱を引き受けた黄金誓姫は眩い曙光そのものを掌中から噴き上げたかのごとき巨大光剣で火球を突き破ってその威を半減させ、全く勢いを緩めることなく竜の騎士へ叩き込んだ反撃で彼女を撃墜。
反撃直後のアンゼリカを狙わんとした騎士達へシルの雷撃が迸れば、
「そういうわけですので、最後の御一方まで打ち払わせていただきます」
「あなた達の戦舞も美しかったけれど、何度も見せていただくわけにはいきませんから」
流れる旋律はソレイユが月虹を奏でるソナタ、顕現した月の化身が彼の意のままに騎士達を強襲し、去りゆく春を甦らせた萌黄の幻想を解き放ったヤコウが、醒めない眠りへと騎士をいざなう。
たとえ再び、純白と桃色の花を咲かせるような連携を見せられようと、見惚れはしない。
僕が見据えるのは、あなた達では無いから。
さぁ、通過点を越えていこう。
花嫁行列を護送していた聖ティラミサ騎士団の騎士達もあとわずか。速攻で仕留めるべく眩い金に輝く朝霧を翔けるシルの眼前で陸の光槍がまた一人撃墜する。反射的に青の眼差しを其方に向ければ不意に、【完全視界】で見通す朝霧の底に豪奢な馬車が見えた。乗っているのは当然、花冠のフィオナだ。
――霧の出る朝に必ずいくって、約束したから。
――あの約束を、果たしに来たよ。
「そしてわたし達は、朝日より煌く未来を勝ち取りにいくんだからっ!!」
柔く笑んだ眼差しを翻せば敵を捉えた双眸には強い決意が煌いて。
一瞬の高速詠唱をもって迸らせるのは雷電衝撃破(サンダー・ブラスト)。
朝霧をいっそう眩く輝かせながら翔けぬけて、精霊魔法の雷撃は最後の騎士を仕留めてのけた。
誰かに与えられる運命なんて、
もう、うんざりなんだ。
だから次なる舞台の幕を己と仲間の手で開くため、ショウが朝の草原に響き渡らせたのは切羽詰まった声。
「だめだ、これ以上は……!」
「ええ、こちらの被害が大きすぎます! 襲撃は中止、撤退しましょう!!」
確かな演技力に裏打ちされた彼女の台詞が地上の一般人達に届いたと見れば即座にヤコウも声を張って補足。甚大な被害を蒙った風を装って撤退すれば、朝霧の底のどよめきがやがて聖ティラミサ騎士団を讃える歓声に変わる。
多大な犠牲を払いながらも、騎士団が賊を撃退してくれた――と歓喜に沸く彼らが、実のところ騎士団は殲滅されたのだと気づくまでには今少し時間がかかるだろう。
――朝霧はまだ草原を抱いたまま。
――花嫁との入れ替わりは、世界が味方してくれているうちに、秘めやかに。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【水面歩行】LV1が発生!
【飛翔】がLV9になった!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【完全視界】がLV2になった!
【活性治癒】LV1が発生!
【エイティーン】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【グロリアス】がLV4になった!
【ダブル】LV1が発生!
【ロストエナジー】がLV2になった!
【アヴォイド】がLV2になった!
【ドレイン】LV1が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
アンゼリカ・レンブラント
世界が味方しているうちだね
フィオナと入れ替わる
抱擁し約束するのは未来を拓く事
君の生きたいという想いと共に戦う
【託されし願い】はいつだって私達の力だから!
ドレスの色はフィオナと同じ
仲間の助けも借り可愛く綺麗に着飾ろう
ヴェールで顔を隠し視線を落とし
海辺の砦に着くまでは演技を続け
棘鞭飛竜と見えたら一礼を
アザミの花、お好きなのですよね
葉や総苞の棘は、まるで王を守る騎士の如き力強さ
貴方もそのような強き方なのでしょう
されど貴方の強さとは
生を願うただ1つの心さえ守れぬもの
竜が示す名誉と幸福はそんなもの
だから、それを打ち砕きに来たよ!
もし花冠が所望であるならば
貴方自身の血の花冠を捧げよう
お覚悟を、エリギュラス
●黄金の花嫁
荒々しい海風と波濤が、断崖に噛みつくかのようだった。
蒼海に臨む断崖上の砦に花嫁行列が辿りついたのは陽がまだ頂には届かぬ頃合のこと。騎士団全滅の報に蒼褪めつつ一行を迎え入れた砦は慌ただしく嫁入り道具の運び入れにかかったが、竜の花嫁は丁重に『砦の正面』へ案内された。
街道に面しているのは砦の裏側。
蒼海に臨む側こそが砦の正面にして、主たる棘鞭飛竜エリギュラスを迎える場所。
主は間もなく空からお戻りになります――と恭しく一礼した使用人たちが下がったなら、荒々しく吹きつける海風に純白の花嫁衣裳とヴェールを煽られながら、アンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)は辺りを見渡した。
巨大な砦の正面に開けた雄大な空間は、蒼穹と蒼海を一望できる断崖の上。成程ドラゴンが悠々と翼を広げて飛び立つには相応しい場所かもね、と笑むのは、瑞々しくもほんのり優しい桜色の艶めきで仲間が彩ってくれた花の唇。
――君の未来を、必ず拓いてくるから!!
――絶対に、絶対に、あなたの笑顔をまた見せてね……!!
世界が朝霧で草原を抱いてくれている間の入れ替わり、馬車の中で竜の花嫁こと花冠のフィオナを抱きしめてアンゼリカが誓えば、未来を望む願いを黄金誓姫に託した彼女はアンゼリカを抱き返し、再会を望む形で武運を祈ってくれた。
あなたの護りになるように、とヴェールに重ねてくれたのは。
甘やかな薄紅のトルコキキョウに、夏陽のごとき黄と夢見るような橙色の薔薇、そして純白の星を咲かせるアングレカムの花冠。大輪の花々で編まれたそれと、結い上げるのではなくふんわりと巻いてもらった黄金の髪と、そしてヴェールで巧みに【パラドクス通信】のインカムを隠して待てば、やがて空に巨大な竜影が現れる。
胸が高鳴った。
強敵と対峙する高揚に。
頭上より降るのは、遠く轟く雷鳴のごとき声音。
『歓迎しよう。我が花嫁――花冠のフィオナよ』
「アザミの花がお好きだと伺いました、棘鞭飛竜エリギュラス様」
悠然と竜翼を広げて空から見下ろすドラゴンは、一礼するアンゼリカが偽りの花嫁だとはまだ気づかない。だが、
「葉や総苞の棘は、まるで王を守る騎士の如き力強さ。貴方もそのような強き方なのでしょう」
『――
……!!』
己に巨大な影を落とす頭上の気配が変わったと察した瞬間、
「されど貴方の強さとは、生を願うただひとつの心さえ守れぬもの。竜が示す名誉と幸福はそんなもの」
『其のほう、花冠のフィオナではあるまい!!』
「そう、貴方達ドラゴンが示す名誉と幸福を、打ち砕きに来たよ!!」
激しい雷鳴のごとき竜の声音と凛然と勇ましく響き渡ったアンゼリカの声音、そして鮮烈に煌く両者の眼差しが交差する。刹那、凄まじい衝撃が断崖のみならず蒼穹も蒼海も揺るがした。
青緑の竜翼で急降下したエリギュラスが揮った棘鞭と眩い光輝を纏ったアンゼリカが揺るがぬ勇気と共に叩き込んだ光剣はどちらが攻撃であったのか反撃であったのか。確かなのは青緑の竜鱗を叩き割った光剣が竜の血潮をしぶかせたことと、
本来ならアンゼリカの胸に撃ち込まれていただろう棘鞭が、不意の強風に舞い上げられた花冠を散らすに留まったこと。
瞳の奥が熱くなった。
仲間の【アヴォイド】と、花冠が護ってくれたと思えて。
――独りじゃない。
――私は皆の想いと、フィオナの願いと一緒にここにいる!!
「もし花冠が所望であるならば、貴方自身の血の花冠を捧げよう。お覚悟を、エリギュラス!!」
迷わない。独りじゃない。皆が即座に駆けつけてくれる。
断崖上に散った花々を踏みたくなくてアンゼリカは【飛翔】した。偶然胸元に舞い降りた花は衣裳にたくし込み、いっそう輝きを増す光と勇気を纏って強大なる敵に挑む。
君の生きたいという想いと共に戦うよ、フィオナ。
――【託されし願い】はいつだって、私達の力だから!!
大成功🔵🔵🔵
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
完全視界使用、通信で連携を取る
【飛翔】し空から『砦の正面』へ速やかに合流
強引にでも割り込み、アンゼリカさんから注意を逸らす
無事で何より、と一先ずの労いを
【飛翔】し空中戦
戦場を偵察、観察し敵味方の動きを把握
死角に入り上空から巨体を包囲
竜の動きに合わせて位置取りを変えライフルで狙撃
自由に羽搏かせぬよう動きの牽制と
隙を看破し狙い澄ました一撃を
自身も飛び回り居場所を掴ませず
氷盾を撒いて触手の軌道を阻害し
反撃には魔力障壁を展開しつつ軌道を観察、最高速度で回避
戦闘後
状況が可能なら
空からフィオナさんへ祝福の花を降らせよう
ブルーベル
花と四季を愛する娘が
羊飼いの青年と結ばれ、幸せに歩く未来を祈る
ノスリ・アスターゼイン
飛竜の眼前に疾く飛翔
アンゼリカと擦れ違いざま
「お疲れ様」の労いを
竜の威容に
どうも、と笑みを深める凪は一瞬
腕より生じさせた刃を揮う
空を統べるなんて大言壮語
嘯きでも語りやしないさ
誰のものでもない、心のまま羽搏ける此の空を
飛べることが何より嬉しい
一撃離脱などさせないよ
エアライドで即座に空を蹴り
翔け迫る
戦況をよく見て仲間と連携
ディフェンスや死角を補い合う声掛けも
眼下の花々の美しいこと
棘で鎧う姿は竜も薊もよく似ている
どんな花でも愛しむフィオナを花嫁に選んだのは慧眼だね
餞代わりに
刃で終焉を贈ろうか
あんたが散り逝く様を、俺も愛してあげる
花嫁の未来は咲かせてこそ、だろう
去り際
明星の果を降らせて
フィオナへ祝福を
永辿・ヤコウ
飛翔し
アンゼリカさんの許へ
お見事でした、と労いと御礼
謳いあげるのは春野の幻影
夏に掛かる今
刻が遡ったようで困惑するのも
眠りのうち
夢のうち
その景色の中に花嫁の姿はないのでしょう
廻る季節を共に迎えぬことに
悲しみも違和感も覚えないのなら
あなたもまた新たな季を迎えずに果てるという正夢ですよ
僅かの眠りから叩き起こすのは
頼もしき仲間達の技
皆様と声を掛け合い
誘眠と攻撃とで
間断なき連鎖を編みましょう
お休みなさい、なんて甘やかな言葉を
人間から貰うのは
誇り高い竜には屈辱でしょうか
ならいっそう
贈りたくなるというもの
目覚めぬ永劫の眠りへ堕ちるように
お休みなさい、エリギュラス
入れ替わり後
薔薇の花弁を風に乗せて
未来を彩ろう
四葩・ショウ
アンゼリカさんの無事な姿に笑んで
最高速度の【飛翔】で
かけつけざまに『Hortensia』放ち一撃離脱
なにが、幸福だ
もうすぐ結婚してたはずの
ふたりを振り回しておいて!
フェイント交えた軌跡と
旋回と滑空する空中戦で
孤立させないよう寄り添い翔る
背を預け、声をかけ
ピンチの仲間をディフェンスする
貴方達は
彼女たち(花嫁)の心ごと
改竄し(変え)てしまった
なによりそれが、ゆるせないから
雨雫跳ねる、光の一撃を
破談にし終わったなら
【平穏結界】使い
フィオナさんを迎えにいこう
撤退に【飛翔】した空から
フィオナさん
ヒューさんとどうか、お幸せに……!
フラワーシャワーめいた祝福
わたしからは
いっとうあまく薫る、ガーデニアの花弁を
アンゼリカ・レンブラント
独りじゃない。離れていても、1つ
そして、駆けつけて顔が見えたなら
それはもう心に最大の花が咲く
言葉をもらえば笑顔を浮かべ
さぁみんなと一緒にこの結婚を破談にするよ!
飛翔の効果を受け高速で移動し
光剣で切り付けていく
連携を意識、突出を避け
時に小回りを生かしたかく乱に終始
同じ近接戦の仲間とディフェンスし合う
彼女がどんな想いで花冠を編んできたか
分からない者にフィオナは勿体ない!
彼女の【託されし願い】は私達と共にあるっ
だから私たちは負けない!
竜の消耗に合わせ、呼吸を整えた全力の
《光剣収束斬》で仕留めるね!
去り際に、祝福のアングレカムをフィオナに降らせたいな
好きな人と一緒にいる当たり前の幸せが
どうかいつまでも
シル・ウィンディア
アンゼリカさん、大丈夫っ!
って、大丈夫って信じてたけどね。
…さぁ、役者はそろったよ。
始めましょうか、ドラゴンさんっ!!
飛翔で高速接近してから、左手に創世の光剣を抜いて斬撃をしつつ…
本命は、六芒星精霊収束砲っ!
斬撃後、油断したところにズドンっていっちゃうよっ!!
そのまま、残像を生み出しつつ飛翔をして、攪乱も行っていくよ
撹乱しつつ、タイミングを見て都度パラドクス砲撃を撃っていくね
近くの仲間で庇える人がいればディフェンスでカバーに入るよ
ドラゴンの消耗が激しくなったら…
全力魔法の六芒星精霊収束砲!
さぁ、めいっぱいもってけーーっ!
去り際は、ブルースターのお花を降らせるね
…輝く未来を、あなたに。
ソレイユ・クラーヴィア
飛翔にて即座に駆けつけます
アンゼリカには大役お疲れ様
と声をかけ
彼女から注意を逸らすよう
そのまま攻撃へ
飛翔で宙を舞いながら「凱歌」を演奏し
空走る馬上の騎士を喚び
ドラゴンの翼を狙った突撃を命じます
先程の騎士団戦の連携を貴方にも見せてあげましょう
仲間と連携を重視
死角のカバーとディフェンスを心がけ
五月雨の如く畳み掛けます
花嫁の幸福は、笑顔で手を繋いで歩む人と作り上げるもの
与えるだなどと、おごがましい
フィオナには既に大切な人が居るのですから
静かに身を引くのが良い男というものでしょう
戦いが終わればフィオナを迎え
私達の為に、ご協力をありがとうございました
どうか、お幸せに
と、薔薇のフラワーシャワーでお別れを
●花冠の破談
――迷わない。独りじゃない。ひととき離れはしても、
――未来を拓くための想いはみんなの想いとひとつの光になって、ここで強く輝いているから!!
荒ぶ海風と波濤が激しく噛みつく断崖の上、蒼穹に巨大な竜翼を広げる棘鞭飛竜エリギュラスの威容にも怯まず【飛翔】で挑んだのは竜の花嫁と入れ替わったアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)唯ひとり。然れど、その刹那、
「アンゼリカさん、大丈夫っ!? って、勿論大丈夫だって信じてたけどね!!」
最初の一声こそ【パラドクス通信】のインカム越しだったシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)の明るい声音が即座に肉声として響き渡った。振り返った途端にアンゼリカの顔には満開の笑みが、心には最大の花が咲き誇る。
「みんな
……!!」
巨大な竜が棲み処とする砦、岩山にも等しい規模を誇るその頂をも超える高空から、猛然たる速度で降り落ちてくる幾多の流星こそが花冠の未来を拓くべく駆けつけたディアボロス達。彼らも迷わない、怯まない。誰ひとり臆さず翔けて、
花冠こそ散ってしまったものの、己が化粧を手伝った仲間の無事な姿を花の色の双眸に映して笑んだ刹那、先陣を切る風の加護を掴み獲った四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は棘鞭飛竜エリギュラスめがけて『跳んだ』。
瞬間移動と見えるほどの時空の圧縮、
「なにが、幸福だ。もうすぐ結婚してたはずのふたりを振り回しておいて!!」
『其のほう、花冠のフィオナの縁者か!?』
凛然と相手を見据えた刹那の刺突は硝子のレイピアからプリズムめいて光を透かす紫陽花の花々を溢れさせ、雨雫に七彩の煌きを躍らせながら竜の眉間を穿つ。弾ける血飛沫と煌き、反撃の棘の雨、即時離脱を図るもショウと竜の一撃離脱の技量は互角。そう容易く逃れさせてくれる相手ではなかったが、
「どうも。答えるつもりはないけれど、挨拶だけはさせてもらうよ」
『小癪な――!!』
擦れ違い様「お疲れ様」とアンゼリカを労った次の瞬間にはノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)がエリギュラスへ肉薄、真っ向から笑みを深めてみせれば速攻で閃かせるのはその腕より生じた輝く刃、一瞬で交錯する猛禽の爪と竜の棘鞭が青緑の竜鱗と陽に灼けた肌を互いに喰い破った途端、銃声と凱歌の協奏が蒼穹に響き渡った。
「無事で何より」
「大役お疲れ様」
其々にアンゼリカへ声を掛けると同時に竜の意識を彼女から逸らすべく最前線へ飛び込んだエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)と宙に光の鍵盤を展開したソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)、この場だけは精度より竜の気を惹くことを優先したライフルの銃撃と凱歌に乗って蒼穹へ騎馬を駆る幻想の騎士が棘鞭飛竜を強襲すれば、
「お見事でした」
御礼も労いもその一言へ込めてアンゼリカへ贈るとともに、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)が巨竜をも春の微睡みへ誘う幻を織り上げる。幾重もの残像を描いて彼らへ襲いかかる反撃の棘鞭、その間隙を突き抜けて、
「さぁ、役者はそろったよ。あなたの命の終幕、覚悟してもらうからね! ドラゴンさんっ!!」
「みんなと一緒なら万にひとつだって負けはないっ! 力尽くで、この結婚を破談にさせてもらうよっ!!」
高速飛翔でエリギュラスに吶喊したシルが揮うは左手の聖剣、時空を超える力なき斬撃は竜牙に喰いとめられるが、途端に淡緑の刃の先端から六芒星の精霊魔法陣が花開く。迸るのは誰もの眼を眩まさんばかりの魔力砲撃、それに負けじと輝く光を噴き上げ、眩く咲き誇った巨大光剣と一体となる心地で突撃したアンゼリカの猛攻が、相棒の砲撃とともに巨大な竜を一気に断崖上の空から蒼海上の空へと叩き出した。
激戦の幕が上がる。
朝に霧は出るものの、天気は良好。予知の光景で竜の花嫁こと花冠のフィオナがそう語っていたとおり蒼穹は晴天、なれど海風は荒び波濤は猛り、荒々しい光景を織り成していたが、それ以上に激しい棘鞭飛竜とディアボロス達の力の激突が蒼穹も蒼海も揺るがし震わせる。
唯、純粋な戦闘能力のみに拠って挑むのなら、精鋭ディアボロスの攻撃とて五割以上の確率で拮抗以下に抑え込まれる――それがトループス級とは比較にならぬ強敵、アヴァール級クロノヴェーダとの戦いだ。
然れど、仲間達と積み上げた残留効果を力に上乗せし、弛まぬ連携で互いの攻撃精度を高め合うことで、ディアボロス達は強大なる棘鞭飛竜エリギュラスと対等以上に渡り合う。唯ひとりで巨大な竜と対峙する危険な任務に臨んだ仲間、誰もがその無事を歓び一丸となって強敵に牙を剥く。だからこそ結び合った絆が連携をより確かなものにする。無論、それで圧勝できる相手でもないが、
苛烈なる竜の攻勢にも、怯みはしない。
凄まじい豪雨のごとく降り注ぐ棘の雨、時に急降下とともに絶大な威で叩き込まれ、時に残像を伴う高速で揮われる棘鞭、いずれもが侮れぬ技なれど、誰ひとり撃墜されはしない。この最終幕で最大に達した【飛翔】の全速で翔け、
夏色濃い蒼穹と蒼海の狭間にヤコウが謳い上げるは春野の幻影、柔らかな光風に春草そよぐ幻は竜へ刻を遡ったかのごとき錯覚を齎すだろうか。その困惑も眠りのうち夢のうちと微笑し、その景色の中に花嫁の姿はないのでしょうと続ければ、
「廻る季節を共に迎えぬことに悲しみも違和感も覚えないのなら、あなたも新たな季節を迎えず果てるという正夢ですよ」
『戯言を。竜と人間を同列に語って何とする――!!』
微睡みを打ち破らんと咆哮した相手から迸る反撃の棘鞭、続け様に攻勢の機を掴んだ飛竜が無数の棘を撃ち出すが、自陣の過半を呑まんとする苛烈な雨に白金と黄金の髪を躍らす少女達が果敢に跳び込んだ。
「同列じゃないなんて、竜がこの地の支配者だなんて、それこそ改竄じゃないか」
「認めない、赦さないよ。貴方達――お前達の存在そのものを、絶対にねっ!!」
硬い岩の断崖をも容易く突き崩すだろう棘の驟雨、ヤコウの分までそれを引き受けたショウと、咄嗟の跳躍でシルを護ったアンゼリカ、総身を穿つ痛みよりも竜への憤りが勝るから、一気に棘の雨を突き抜けて閃かす硝子のレイピアと巨大な光剣の反撃。棘の雨も竜鱗をも貫き断ち割った二人の鮮烈な軌跡に続けて皆の猛攻勢がエリギュラスへ喰らいつくが、それで斃せる相手だとは勿論誰も思ってはいない。
先の聖ティラミサ騎士団の総力よりも棘鞭飛竜エリギュラス一体の戦力が勝る。それは初めから解っていたことだ。
彼我ともに蒼穹と蒼海の狭間を翔ける空中戦、苛烈さを増してゆく激戦は僅かにディアボロス側が優勢なれどいまだ予断は許さず、戦いの天秤を更に傾けんと一気に全速飛翔したシルが残像での攪乱にかかったが、
『それしきの残像で我を惑わせると思ったか!』
「っ!! 流石だね
……!!」
幾重もの青き残像もその技能で少女を上回る飛竜に見透かされ、同じく残像を描いて奔る数多の棘鞭が過たずにシルを狙い撃つ。両肩を抉られつつも反撃と防御強化の加護を掴み、胸を穿つはずだった棘鞭を淡緑の聖剣で打ち払った途端、棘鞭ごと灼き尽くす勢いで魔力砲撃を迸らせれば、
「シルさん。もう少しだけ、竜の意識を惹きつけられるだろうか」
「うん! やってみるっ!!」
「いいね、その心意気」
一瞬でインカム越しに交わした言葉に強気な笑みが咲く。既に全力を放っている砲撃を結界術で更に収束させて、光使いの技で輝きを強めて威力を高めるとシルが『見せかけた』刹那、
蒼穹の翼の羽ばたきひとつでエリギュラスの頭上を超える遥か高みを獲っていたエトヴァが構えたライフルの銃口が一点を狙い澄ました。初撃で彼自身が世界に燈した命中強化の加護も重ねて、海風を貫いた銃弾が撃ち抜いたのは対成す竜角の間、エリギュラスの頭蓋。顎下へ突き抜けた弾丸と交差するよう彼我の距離を殺したノスリの刃が竜の喉を斬り裂けば、
蒼海に爆ぜる波飛沫と海風に爆ぜる血飛沫、それらを華麗な重音で彩るようにソレイユの指先が光の鍵盤に躍る。
「先程の騎士団戦での連携を、貴方にも見せてあげましょう」
圧倒的な勝利を収めた騎士団戦の立役者は相談を重ねて策を織り上げ、連携を繋いでくれた仲間達。皆を讃える想いでそう告げた時にはもう、彼の意のままに馳せた幻想の騎士が攻撃強化の加護を重ねた馬上槍で竜に痛撃を喰らわせていた。
だがしかし、幾つもの深手を負ってなお棘鞭飛竜は衰えを覗かせない。
『自ら罪を明かしてそれを誇るか、ディアボロス』
遠い雷鳴のごとき声音で応えた竜は既にこちらの正体を察していたのだろうが、砦に帰還したばかりの身にはいまだ騎士団全滅の報は届いていなかった。
『聖ティラミサ騎士団を破って花嫁を拐かしたか。ならばその罪、其のほうらの命で贖ってもらおう――!!』
然れど、事態を察するにはソレイユの言葉で十分であったらしい。蒼穹も蒼海も至近で轟く雷鳴めいた大音声で震わせて、棘鞭飛竜エリギュラスはその竜翼で力強く海風を打つ。
激しい風巻が生じ、そして――。
●祝福の花雨
蒼穹の高みを竜翼が斬り裂いたのは一瞬だった。なれど猛禽の翼が疾風と化したのも一瞬のこと。
空を統べるなんて大言壮語は嘯きを好むこの身でさえも語りはしない。誰のものでもない、心のまま羽ばたける空を自在に翔ける歓びが口許に笑みを刻むまま、迷わず全速飛翔したノスリはソレイユを狙った竜の高速急降下を迎え撃った。
棘鞭に左腕を貫かれるも、一撃離脱に空中戦に戦闘知識、竜がこのパラドクスに活かす技能すべてで己が勝るから、
「一撃離脱などさせないよ」
『……!!』
海風を蹴る【エアライド】で弾みをつけた刹那の加速、即座の反転急上昇で逃れんとする飛竜の懐へと瞬きよりも速く翔け迫って一閃するのは反撃の刃。竜の胸から迸った鮮血の軌跡を竜自身の眼差しが追った瞬間、
――“其処”だ。
蒼穹の頂をめざす太陽の輝きに己を滑り込ませたエトヴァが逆光を味方につけ、殺気に感づいた竜眼が銃口の煌きをそれと認識するよりも速く、その片割れを、竜の右目を撃ち抜いた。魔力障壁を展開する必要さえもなく敵の反撃を捻じ伏せたその一撃が天に轟かせたのは、竜の憤怒の咆哮ではなく苦悶の絶叫。
敵を包囲できれば最善だと思いはするが、それは身ひとつでは不可能だ。
たとえ仲間の連携があれど、空を自在に翔ける巨大なドラゴン相手の包囲なぞ容易く叶うものではない。包囲を為すに足る策もない唐突な現場での発案が奏功するはずもないが――そもそも、棘鞭飛竜すらをも凌ぐ空中戦技能を仲間の過半が備え、機動力を活かした戦いを得手とする者も多いこの顔ぶれならば、
「包囲するまでもない、ということだな」
「そういうこと! 俺達なら確実に」
「うん。この竜から、完全な自由を奪ってしまえる」
一瞬ごとに最適な狙撃点を求めるエトヴァ自身も高速で空を翔け、続け様の攻勢に出たノスリの刃が竜の腹を喰い破れば、真っ向からの刺突が竜の横面を掠めて翔けぬけると見せかけたショウが急旋回、竜をも凌ぐフェイントの技量で相手を欺き、硝子とプリズムめいた紫陽花の煌きでエリギュラスのうなじを刺し貫いたなら、
「お前が好き勝手できるのも今日限りだ、エリギュラス!!」
即座に隙を掴み獲ったアンゼリカが叩き込む巨大な光剣の輝きが棘鞭飛竜の鼻先に爆ぜ、その反撃も次撃も捻じ伏せた。
たちまち戦場の追い風が加速する。
追い風を受けるというより追い風を連れる心地で翔けたのはヤコウ、宵紫の双眸を細め、
「僕が仕掛ける幻で堕とせる眠りは一瞬でしょうが、皆さんなら」
「ええ。今こそ彼の翼を穿ってみせましょう」
「いいね、それ。なら、わたしも――」
秘めやかな声音をインカム越しに仲間と交わした途端、蒼穹と蒼海の狭間に妖狐が展開するは一斉に春が萌す麗しき幻影。光風が春草を撫でれば生まれる光の波が微睡みの優しさで巨大な竜を呑めば、ソレイユが光の鍵盤で奏でる凱歌が熱を孕み、硝子のレイピアを携えたショウが旋回する。
花嫁の幸福は、笑顔で手を繋いで歩むひとと作り上げるもの。与えるだなどとは、烏滸がましいにもほどがある。蒼穹と黄昏の双眸を眇めたソレイユが竜を見据え、
「フィオナには既に大切な人が居るのですから、静かに身を引くのが良い男というものでしょう」
諭すような言の葉を口にした瞬間、熱い凱歌に乗って海風を馳せた幻想の騎士が竜の左翼を突き抜けて。
「貴方達は、彼女たち(花嫁)の心ごと、改竄し(変え)てしまった。なによりそれが、ゆるせないから――!!」
何処までも純粋な怒りをショウが硝子のレイピアへと凝らせれば、透きとおる鋒から咲き溢れるのは紫陽花の花々、雨雫が跳ねて煌いた光か祈りより清く眩く竜の右翼を刺し貫いたなら、
『ディアボロス風情が世迷言を! 我らのために命を捧げることこそ、花嫁に選ばれし娘の正しき幸』
「花嫁の命を捧げさせたりなんかしないっ! その代わりに、わたしの全力全開! めいっぱいもってけーーっ!!」
正しき幸福、などと言わせる間も与えずに、瞬時の高速詠唱で精霊魔法陣を花開かせたシルが、背に咲く二対の青白き翼も全開にして己が魔力のすべてを注ぎ込んだ凄まじい輝きを撃ち放った。自陣最高火力の魔力砲撃、それが竜の右翼をまるごと吹き飛ばせば、飛翔能力そのものは失われずとも青緑の巨躯が大きく傾ぐ。機を逃さずアンゼリカが海風を翔けあがる。
強く柄を握りしめた巨大光剣が眩さを増した。
「彼女がどんな想いで花冠を編んできたか分からないお前などに、フィオナは勿体ない!!」
一気に獲った棘鞭飛竜の上方から叩き込む強打、棘の雨の反撃が爆ぜても怯まずに、
「彼女からの【託されし願い】は私達と共にある! だから――私達は絶対に、負けたりなんかしないんだっ!!」
蒼穹に咲かせた映像がディアボロス達の無事を祈る花冠のフィオナの姿を映し出せば、アンゼリカが巨大光剣の柄とともに握りしめたのは【ダブル】の恩恵。本当はあんな顔させたくないから、曇りなき笑顔で幸せになって欲しいから、迷わず全身全霊の力を己が手の輝きに乗せる。
大上段から打ち下ろした絶大な光が、棘鞭飛竜エリギュラスを蒼海に叩き落とした。
『其のほうら、花冠のフィオナの心を――!!』
花嫁の翻心、否、花嫁が真なる幸福を取り戻したことを竜が識ったのはこのときであったろう。盛大に爆ぜた水飛沫の音が雷鳴のごときその声音の続きを掻き消すが、片目と片翼を失いながらも棘鞭飛竜は蒼海から蒼穹めがけて舞い上がる。
然れど、花嫁が如何にして真実を取り戻したのか思索をめぐらす隙など与えはしない。
妖狐らしい艶めく笑みを覗かせて、ヤコウが夏香る海風を撫でれば、春が香る。春が萌す。柔らかな眠りのかいなに抱き、お休みなさい、なんて甘やかな言葉を贈れば、誇り高き竜は屈辱を覚えるだろうか。
ならいっそう、と笑み深め、春野の幻影で抱きすくめた竜へ語りかけた。
「目覚めぬ永劫の眠りへ堕ちるように――お休みなさい、エリギュラス」
嗚呼、と笑って翔けたのはノスリ。
棘鞭に散らされた花冠の花々は断崖上に零れてもなお美しく、この海辺の何処かにて咲き群れているというアザミの花々も美しいのだろうと思えば、棘で鎧う姿はアザミも眼前の竜もよく似ている気がしたから。
どんな花でも愛しむフィオナを花嫁に選んだのは慧眼だね、と蜜色の双眸を細め、餞代わりに刃で終焉を贈る。
「あんたが散り逝く様を、俺も愛してあげる」
右腕から生じる鋭い輝きは刃にして猛禽の爪、一片の躊躇いもなく竜の喉笛を深々と喰い破れば、派手な血飛沫が咲いた。命の終焉に、それこそ鮮紅のアザミの花を咲き誇らせるがごとく。
迸る鮮血で大輪の花を咲かせて、棘鞭飛竜エリギュラスは再び蒼海へと墜ちていった。
――花嫁の未来は咲かせてこそ、だろう?
断崖から遥か眼下を望めば、荒波に打ち寄せられる青緑の巨竜の骸が見えた。
花冠のフィオナにそれを確認させたのは、棘鞭飛竜エリギュラスの死を砦の人々に報せてもらうためのみならず、ある意味儀式のようなものでもあった。もはや、竜の花嫁として支配されることも、未来を閉ざされることもないのだと、彼女自身が実感するための。
穏やかに辺りを抱きすくめるのはショウが織り上げた【平穏結界】、外から把握されにくい空間を活かしてこの場に迎えた花冠のフィオナが、微かに身を震わせつつも、深い、深い安堵の吐息を洩らす様に眦を緩めて、
「私達の為に、ご協力をありがとうございました」
「――……!! 私こそありがとう、よかった、よかった、無事なみんなにまた逢えて
……!!」
彼女に重荷を背負わせぬよう、すかさずソレイユが微笑みとともに告げれば、感極まった花冠の双眸から涙が溢れだした。皆の手をフィオナが取りたがるから、皆を思いきり抱きしめたがるから、どうしても離れがたくなってしまうけれど。
名残惜しくなってしまうけれど、帰還の時が迫っているから。
軽やかな【飛翔】で浮かびあがったショウがふわりと身を翻し、蒼穹から輝く純白を溢れさせるように舞い降らせるのは、夏をいっとう甘い香りで彩るガーデニアの花弁、結婚式のフラワーシャワーめいた祝福を贈れば、
「フィオナさん、ヒューさんとどうか、お幸せに……!」
「ええ。どうか、お幸せに」
夢見るような橙色の薔薇を同じく空からソレイユが舞い降らせ、僕からも祝福を、と眦を緩めたヤコウが溢れさせた四季を彩る薔薇が、海風に乗って未来を描きだすよう踊ったなら、明星の祝福もねと片目を瞑ったノスリが、杏とオレンジの干果の煌きを降らせて花々に鏤めて。
好きな人と一緒にいる当たり前の幸せが、
「どうか、どうかいつまでも、フィオナとヒューに……!」
「うんっ! わたしからも……輝く未来を、あなたに」
蒼穹へと一度大きく解き放つようにして、純白の大輪が星を咲かせるアングレカムの花々を舞い降らせるのはアンゼリカ、鮮やかな空色の星々を瞬かせるように、煌かせるように、輝かせるようにシルが舞い降らせるのはブルースターの花々で。
俺からも祝福させて欲しい、と柔く笑んだエトヴァが蒼穹から舞い降らせるのは、冴ゆる青を咲かせるブルーベル。心から彼もこう祈る。
――花と四季を愛する娘が、
――羊飼いの青年と結ばれ、幸せに歩く未来を。
幻想竜域に存在しない花は自分達の帰還後に消えるのだろう。消えぬ花は竜が襲われた際に花冠が散ったものと思われるのだろう。恐らく花冠のフィオナの記憶も再び消えてしまうのだろうけれど。
振り仰いだ空に誰がいたのかも忘れてしまうのだろうけれど。
――大好きな誰か達が、心からの祝福を降らせてくれた幸せは、きっとずっと、花冠の胸に輝き続けているから。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【寒冷適応】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【飛翔】がLV10になった!
【強運の加護】LV1が発生!
【エイティーン】がLV2になった!
【クリーニング】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV4になった!
【グロリアス】がLV5(最大)になった!
【リザレクション】がLV2になった!
【ドレイン】がLV2になった!