リプレイ
クリスタ・コルトハード
住民たちを危険に晒すわけにはいけませんし……ここは俺が囮になりましょう
ボロ布をつぎはぎした衣装に着替えて、貧民街を歩きます
髪も少し汚しておきましょう
白い髪に汚れが目立つのは、より貧しく見えるでしょうから
できれば薄暗い裏道が良いでしょうか
ただ立っているよりは積極的に動いた方が良さそうですね
ならず者たちに直接声をかけましょう
病気の弟が家で寝込んでいるのです
パンのひとかけらでもかまいません
どうか、どうかお恵みをください
上賀茂・頼人
おれはみんなを生きた痕跡ごと理不尽に奪ったクロノヴェーダが憎い
今すぐにでもこの手で滅ぼしてやりたい
でも、その復讐に罪のない人たちを巻き込むのだけはごめんだ
葵は召喚解除
おれは自分を偽ったり隠すことには慣れてるから、汚れたボロ布を纏って武器を隠し、貧民街の反抗的な住民になりすます
装備しているシャツを覗かせれば疑いは持たれないはず
そして「みんなを返せ!」と素手で暴れてならず者に傷を負わせたら、反撃を受けて気絶したフリをする
おれみたいな活きの良い子供が目当てなんだろ?
なんなら騒ぎに乗じて他の子が逃げてくれたらいいんだけど……
抵抗に面喰らって、逃げ出した子供は追わずディアボロスたちだけ連れていかないかな
●第一の囮と誘拐事件
風が吹き抜け、砂埃が空に舞う。
表の賑やかな雰囲気の街並みとは違って、貧民街には暗い空気が満ちていた。
「これが件の場所ですね」
パラドクストレインから降り立ったクリスタ・コルトハード(森羅番長・g00039)は辺りを見渡す。貧しい者達でも命に貴賎はなく、どんな住民も危険に晒すわけにはいかない。
「……ここは俺が囮になりましょう」
普段のメイドの装いとは違って、今のクリスタはボロ布をつぎはぎした衣装に着替えていた。貧民街に馴染む服に加え、彼女は地面の土をつけて髪を汚している。
「これで変装もばっちりですね」
そうして、クリスタは薄暗い道に進む。明らかに治安の悪そうな場所だが、彼女は迷わず路地裏に向かった。
(「ただ立っているよりは積極的に動いた方が良さそうですね」)
待っているのも悪くないが声をかける方が早い。
空腹で弱ったふりをしたクリスタは、路地裏に屯していたならず者達に悲痛そうな声で話しかけた。
「すみません……」
「何だ?」
「お恵みを……。病気の弟が家で寝込んでいるのです」
「お、カモがきた……じゃなかった。そうか、それでどうした?」
すると兄貴分の方がニヤニヤとした笑みを浮かべた。どうやらクリスタをいい獲物だと判断したらしい。
「パンのひとかけらでもかまいません。どうか、どうかお恵みをください」
「良かったっスね、俺達はちょうど機嫌がいいんスよ」
「ほらよ、菓子だ」
男達は笑みを浮かべたまま、クリスタに特別製のビスケットを渡した。おそらくこれがドクトル・マシーネから渡されている睡眠薬入りの菓子なのだろう。
「ありがとうございます。これで弟に……」
「……面倒だな。お前、すぐにそれを食っちまえよ」
クリスタが頭を下げると、兄貴分の男が呼びかけてきた。こちらとしても架空の弟に会わせることは出来ない。千載一遇のチャンスだと感じたクリスタは受け取ったビスケットを口元まで持ち上げた。
「ええ、わかりました」
いただきますと言葉にしたクリスタは菓子を齧るふりをして、眠気が襲ってきた演技を行っていく。
「なんだか急に、眠くなってきました……」
「いいんスか兄貴。この子、弟がいるって話っスよ」
「いいや、貧しいガキはああいう嘘で施しを受けようとするんだ。俺も昔……いや、いいから攫っちまうぞ」
「なるほど、さすが兄貴!」
「とりあえず中継地点の小屋に置いとくか」
「いつも通り、あと数人くらい集めたら纏めて運ぶんスね」
男に担ぎ上げられ、粗末な麻袋に詰められたクリスタは眠っているふりをしながら男達の会話に耳を傾けた。
(「囮作戦、成功でしょうか」)
袋の中は窮屈で男達の運び方は雑だ。しかし、もう暫し我慢していれば件の改造工場に連れ込まれるはず。
こうして、本日一件目の誘拐時間が進行していく。
●奪われしもの
過去を壊し、世界を改竄した者達。
本来あるべき時間を奪い取った歴史侵略者を思うと、胸の奥が痛む。
上賀茂・頼人(梨の礫・g01455)の胸裏にはあの村の人々のことが浮かんでいた。みんな、確かに存在していた。しかし彼らはもう自分の記憶の中にしか残っていない。
「待ってて、おれは……」
独り言ちた頼人の黒い尾が静かに揺れた。生まれてはじめて大切だと感じたみんなを、生きた痕跡ごと理不尽に奪い去ったクロノヴェーダが憎くて仕方がない。本当は今すぐにでもこの手で滅ぼしてやりたかった。
「でも、おれの復讐に罪のない人たちを巻き込むのだけはごめんだ」
頼人は荒ぶりそうな気持ちを裡に沈めた。
決意を抱いた頼人は時空列車から機械化ドイツ帝国に降り立った。淀んだ空気が満ちているように思えるのは、遠くに黒い煙を吐き出す工場群が見えるからだろうか。
現在の頼人は汚れた布を纏い、そこに自動拳銃やナイフを隠している。
(「よし、これくらいでいいかな。自分を偽ることくらい、もう慣れっこだ」)
嘗て、凶兆の証だとして忌み嫌われていた記憶が少年の中に巡った。
あの頃を思えば、この程度の偽装は軽いものでしかない。それに彼が着ているシャツは貧民街内でも違和感がないほどに着古されている本物だ。
世界のすべてを憎むような眼差しで先を見据える少年は、どこからどう見ても貧民街の住民に思えた。
頼人は薄暗い路地を歩きながら、件のならず者を探す。するとすぐ近くから男達の話し声が聞こえてきた。
「兄貴ィ、今日は早々にターゲットが見つかってよかったっスね!」
「ああ、この調子でいくぞ」
「……みつけた」
あの二人組が目的の相手だ。
そう察した頼人は一気に地面を蹴り、ならず者に飛びかかっていった。
「――返せ!」
「うわ、なんスかこのガキ!?」
「姉ちゃんを、兄ちゃんを、あの子達を……みんなを返せ!」
「俺らがやってたことを知っているのか?」
男達は焦り始めた。これまでの誘拐場面を見た頼人が憤り、歯向かってきたと判断したのだろう。勿論そう思わせるための演技でもあったが、頼人の言葉には本音も混じっていた。
改竄された過去のみんなを。今も胸を衝く思いを込め、返せ、と叫んだ言葉は本気だった。
「おい、引っ掻きやがったぞ!」
「兄貴を傷付けるなんてふてぇ野郎っス!」
「てめえ、邪魔するなら許さねえぞ!」
「――!」
怒った兄貴分は容赦なく拳を振り下ろした。真正面から一撃を受けて吹き飛ばされた頼人は派手に路地裏の壁にぶつかり、それに乗じて気絶したふりをする。
「焦らせやがって。丁度いい、コイツを連れてくことにするか」
「それがいいっスね。はあ、一時はどうなることかと思ったっス」
男は頼人の首根っこを乱雑に掴み、麻袋の中に放り込んだ。少し痛みが走ったが、この程度は想定内だ。
(「それでいい。おれみたいな活きの良い子供が目当てなんだろ?」)
身を丸め、尾を腕の中に抱え込んだ頼人はじっとしていた。後はこのまま秘密工場まで大人しく運ばれていけばいい。
過去を取り戻す。
これはそのための第一歩だと感じながら、少年は静かに目を閉じた。
成功🔵🔵🔵🔵🔴🔴
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
六識・綜
外から侵入するよりは、中から手引きした方が早い
ぼくが、……いや。
おれが成り代われるとしたら、同い年の弱り切っている人
あるいは、無気力で、生気のない人か
まずはそういう人をさがして、成り代わる
ぼろぼろの服を纏って、土で服を汚し
髪はぼさぼさ、顔も多少砂で汚して土気色に
言葉は出来るだけ粗野なものに
準備が出来たら貧民街で横たわる
まともに口が利けないほど衰弱しているふりを装って誘拐を待つ
興味を持ってくれなければ、誘拐犯の足首でも掴んで物乞いを
誘拐されるときは抵抗はせずに大袈裟に痛みを訴える
嗚呼、痛い、痛い、やめてくれ
……まあ、多少大根役者でも良いか
●歴史を綴る為に
貧民街から遠くに見える、黒い煙が立ち昇る工場群。
あのどれかの内部に連れ去られて囚われた者達がいる。六識・綜(史家・g00749)は貧民街から工場の方角を見つめ、今も閉じ込められているであろう人々を思った。
罪のない住民を全て助けるには、外から侵入するよりは中から手引きをした方が早い。
「ぼくが、……いや。おれが成り代われるとしたら――」
考え込む綜の口調が静かに変わっていく。
同い年の弱り切っている人。或いは無気力で生気のない人だと結論を出した綜は、貧民街内を探索した。そうして見つけた青年に小綺麗な上着を貸し与え、代わりに彼が纏っていたボロ布を入手する。
「これでよし、と」
綜は破れた布を纏い、衣服に土をつけた。
髪はぼさぼさに乱しており、ついでに顔も多少の砂で汚して土気色に変えていた。
(「言葉遣いも出来るだけ粗野なもので……きっと出来ま、いいや、出来るよな」)
準備は万端だとして、綜は貧民街の路地裏に横たわる。
双眸を力なく細めた彼は暫し辺りの様子を眺めていた。満足な食事ができていないのか痩せこけている子供。傷だらけの裸足で駆けていく少女と少年。表の街に買い物に行って貰ったあの青年のように虚ろな目をした者も多い。
綜は心を痛めながら、まともに口が利けないほど衰弱している様子を装う。こうしていれば、ならず者が誘拐のターゲットとして認識してくれるだろう。
そうして、暫し後。
「兄貴、アイツなんてどうっスか?」
「今にも死にそうじゃねえか。いいな、攫っちまおうぜ」
何やら怪しい雰囲気の二人組が綜に近付いてきた。どうやら此方の品定めをしているらしい。綜は訝しがられないように僅かに顔を上げた。すると男達は懐からビスケットを取り出してくる。
「おい、兄さん」
「嗚呼……食べ物……」
「こいつが欲しいっスか? いくらでもやるっスよ」
綜は菓子に反応したふりをして手を伸ばす。誘拐犯である男の足首を掴んだ綜の、物乞いとしての演技は上々だ。少しばかり大根役者気味なことはさておき、男達は何も疑っていない。
「ほら、食え」
「……痛い」
兄貴分であろう男はぐいっと此方の胸元を掴むと、無理矢理にビスケットを押し込んできた。睡眠薬入りだとは分かっていたが抵抗するわけにはいかない。綜は菓子を飲み込みながら、か弱い貧民を演じ続ける。
「痛い、痛い、やめてくれ」
大袈裟に痛みを訴える綜は二人の男に抱え上げられた。そんな中、次第に眠気が襲ってくる。
「今日はこれで三人目っスね、兄貴」
「そうだな、ドクトル・マシーネ様も報酬を弾んでくれるだろ」
「違いないっス!」
意識が朦朧としているせいか、男達が会話する声が遠くなっていく。
今の綜は大事な改造実験台だ。おそらくこれ以上は傷付けられることもないだろう。
(「このまま、工場まで運ばれればいい。そうすれば……」)
当初の目的である内部からの手引きが行える。
ちいさな安堵を抱いた綜は意識を手放した。次に目を覚ました時は、きっと――秘密工場の牢の中だ。
成功🔵🔵🔴
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
三苫・麻緒
絡みアドリブ等歓迎
うへぇ、悪趣味極まりないねー…
わざわざ繋がりのある二人組を選ぶあたりが最低
私が身代わりになれるというならかわってあげる
だって、その方が黒幕の顔面を殴りに行きやすそうだし?
貧民街に相応しい服を着たうえで、髪もポニーテールも解いてぼっさぼさに
更にダメ押しで近場にあるゴミ箱をひっくり返して、頭からゴミを被っとくね!
あとはならず者が来そうな場所で、空にしたゴミ箱を漁りながら待っていようかな
見つけたら「ねえ、食べ物は!?何か持ってないの!?」って叫びながら突撃
何なら胸倉を掴んで揺さぶるぐらいはしたいところ
さぁ、『飢えのあまり喧しく騒ぐ女』の完成だよ
特別製のお菓子も渡しやすいんじゃない?
エリル・ウィスタリア
※自身にそっくりな等身大の少年の人形を連れ歩いています。
なんて惨い…。私たちが身代わりになる事で救われる命があるなら喜んで囮になりましょう。ね?「弟」
絆の強い兄弟が狙われるのでしょう?でしたら私たちは完璧だわ。
…その弟、人形だろうとか突っ込みはなしよ。
ボロをまとって貧民街の姉弟のように見えるように偽装もしましょう。
そうね。念には念を入れて弱りきっている女の子の演技でもしようかしら。「弟」は私を庇うように操縦するわ。
姉を庇う無口で健気な弟の完成ね。うん。
路地で弱々しくすがる演技をして「弟」の後ろに隠れます。
「私たちにおめぐみを。もう何日も食べていません」
「こほ、私はいいのでこの子に、どうか」
●仲良し姉弟と空腹少女
機械化ドイツ帝国内、或る街の片隅にある貧民街にて。
時空移動列車、パラドクストレインから降り立った三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)とエリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)は辺りの様子を確かめる。
貧しい身なりをした人々が通りを歩いている姿が見えた。彼らも懸命に生きているというのに、秘密工場のクロノヴェーダは命の尊厳を踏み躙るような実験と改造を行っているという。
「うへぇ、悪趣味極まりないねー」
「なんて惨い……」
麻緒とエリルは今回の敵であるゾルダートの所業を思い、其々の思いを言葉にした。
「わざわざ繋がりのある二人組を選ぶあたりが最低だよね」
「私たちが身代わりになる事で救われる命があるなら喜んで囮になりましょう。ね?」
エリルに「弟」と呼ばれたのは彼女にそっくりな等身大の少年の人形だ。エリルの言う通りだとして、同意を示した麻緒も囮作戦へのやる気は充分。
「私が身代わりになれるならかわってあげなきゃ。それに、こうした方が黒幕の顔面を殴りに行きやすそうだし?」
エリルと麻緒は頷きを交わし、各々の意気込みを見せた。
「ええ、特に絆の強い兄弟が狙われるのでしょう? でしたら私たちは完璧だわ」
「それじゃあ手分けして、誘拐犯に接触しよっか」
「そうしましょうか。……その弟、人形だろうとかいう突っ込みはなしよ」
「あはは、仲良しさんに見えるから大丈夫だよー」
そうしてエリルと弟、麻緒の二手に分かれてのならず者との接触作戦が始まっていく。
エリルは貧民街の住民に見えるよう、弟と共にボロを纏った。
弟にはフード付きのローブを被せることで一見は人形に見えぬようにする。エリル自身は逆によく顔が見えるように汚れた上着だけを羽織り、ならず者の目に留まりやすいようにした。
「そうね。念には念を入れましょう」
エリルは弱りきっている少女の演技をしようと決める。まずは試しにふらふらとよろめきながら歩いてみた。同時に弟はエリルに寄り添い、庇うような動作をして貰う。
これで傍から見れば、姉を庇う無口で健気な弟の完成だ。
そうして暫し後。
「それで兄貴ィ、この後はどうしやす?」
「あと二、三人ってとこだな。お、兄妹っぽいヤツ発見」
「姉弟かもしれないっスよ」
例のならず者達が路地裏に訪れ、エリルと弟に目をつけた。これは好機だと感じたエリルは弱々しい少女を演じ続ける。潤んだ瞳で男達を見上げると、彼らはニヤニヤしつつ近付いてきた。
「よお、嬢ちゃんに坊っちゃん」
「腹減ってないっスか。特別な物資があるんスよ」
向こうからそのように声を掛けてきたことはかなりのチャンスだ。弟にこくりと頷かせたエリルは、その後ろに隠れながらもおずおずと申し出る。
「私たちにおめぐみを。もう何日も食べていません」
「ほらよ」
「こほ、私はいいのでこの子に、どうか」
「お嬢ちゃんも遠慮しなくていいっス。一口食べれば夢心地、というか睡眠薬で眠っ……」
「余計なことは言うんじゃねえ!」
「あいてっ! すみませんっス、兄貴」
そんな遣り取りがありつつもエリルは男達からビスケットを受け取った。普通ならば男達は気前が良すぎて怪しまれるのだろうが、エリルにとっては都合がいい。後は菓子を食べたふりをして眠りに落ちた演技をすればいいだけだ。
そうして、ならず者達がエリルを捕らえた少し後。
麻緒も彼らに攫われる作戦を考えて実行していた。彼女は貧民街に相応しい汚れた服を着たうえで、チョコレート色を思わせるポニーテールを解いていた。わざとぼさぼさにした髪が風に吹かれて揺れている。
ミント色の瞳を幾度か瞬いた麻緒は、意を決して近くにあったゴミ箱をひっくり返した。
「ここまでやれば大丈夫だよね、うん」
頭からゴミを被った麻緒の努力はとても素晴らしい。帰ったら絶対にめいっぱいお風呂に入ろうと決めた麻緒は囮作戦への思いを抱き、ぎゅっと掌を握る。
それから彼女はならず者が通りそうな場所でゴミ漁りをしている体を装って待ち伏せていた。其処にちょうど、男達の話し声が聞こえてくる。
「いやー、今日は何だか楽勝っスね!」
「この勢いでもう一人くらいやっちまうか?」
彼らの背には大きな麻袋が背負われていた。エリル達が上手く攫われたのだと分かった麻緒はそっと頷く。そして、男達がまだ攫う相手を探していることを察した彼女は自分なりの作戦に出る。
男達を睨みつけるようにして視線を向けた麻緒は、ゴミ箱から離れて一気に駆け出した。
「ねえ、食べ物は!? 何か持ってないの!?」
「うわ!?」
「何だコイツ、強盗か何かかよ!」
勢いよく突撃してきた麻緒に驚き、男達が後ずさる。どうせやるならとことん突き詰める方が良い。麻緒は兄貴分の方の男の胸倉を掴んで揺さぶり、更に叫ぶ。
「何か食べ物をちょうだい! はやく!」
そう、これこそ飢えのあまり喧しく騒ぐ子供。つまりはクロノヴェーダが求める元気な実験体候補だ。これならば特別製の睡眠薬入り菓子も渡しやすいだろう。
「離せ、このガキ……そんなに何か食いたいならこれでも食ってろ!」
「んむ……っ」
すると男は麻緒の口にビスケットを詰め込んだ。思わず飲み込んでしまったが、この菓子には改造に関する怪しいものは入っていないはずだ。麻緒は男から手を離し、その場に力なく座り込む。
(「あれ……本当に眠くなって――」)
意識が遠退く中で、ならず者達の声が聞こえた。早く運んでしまおうだとか、三人も運ぶと重いだとかの会話だ。眠りに落ちていく麻緒はひとまずの安堵を覚える。エリル達と一緒に運ばれるのならば大成功だ。
(「大丈夫、工場に運ばれるまでの我慢よ」)
エリルは麻緒が麻袋に詰められる様を隙間からそっと窺う。
万が一、何かあれば麻緒を守る。確かな決意を抱きながら、彼女達は作戦通りに誘拐されていく。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【エイティーン】LV1が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
枸橘・蕙
勝手にどっかつれていくのもムカつくけど、それで変なの作ろうとかもっとムカつく!
おれ、ちょっとあっちの方(工場)いって、やいやい言ってくるぜ!
んーと、作戦は……ひとりっきりでもイキがよさそーにしてたら目立てそうじゃん?
ってことで羽衣とか羽織はしまって、ペイントツール使ってスラムの壁にでっかい『あーと』作るぜ!
こんな暗い所でも、明るく元気にがんばってるところ、見せてやる!
人さらいが来ておっかけてくるなら、ほどほどに逃げて隠れるフリ。しっぽ丸出しにして隠れるつもりだぜ
おれのこと無視するよーだったら絵の具なげつけてやろーっと
くらーい顔してるから明るくしただけじゃん?ほらっ、ほめろほめろ!
●未来を描く少年
貧民街の誘拐事件は次々と巡っていく。
今の状況を確かめた枸橘・蕙(そらを描く・g02980)は大きく頷いた。既に何人かのディアボロスがならず者の男達に攫われており、作戦は上手くいっている。
しかし、蕙の心の裡には怒りが燃えていた。
「勝手にどっかつれていくのもムカつくけど、それで変なの作ろうとかもっとムカつく!」
この機械化ドイツ帝国では、クロノヴェーダが機械兵士を作り出している。その材料が人の身体や命そのものだと聞いて黙っていられるはずがない。
「おれ、絶対にあっちの方にいって、やいやい言ってやるんだ!」
蕙が見据えたのは郊外の工場群の方角。悪いやつを絶対に倒すと決め、蕙は貧民街に踏み出す。
路地裏にはゴミを漁る薄汚れた少年や、力なく座っている青年、裸足のままの兄弟などの姿が見えた。敵が活きの良い実験体を求めているというのならば、蕙が彼らよりも目立てばいい。
「よーし、この壁がいいな!」
蕙が取り出したのはペイントツール。
スラムとの壁は薄汚れているので雰囲気も良くなかった。ならば此処を蕙のキャンバスにすればいい。
元気よく、勢いのままに壁にペイントを行っていく蕙の瞳はきらきらと輝いていた。
「こんな暗い所だからこそ、明るいあーとがいいよな。おれもがんばって戦うから、ここのみんなもがんばれっ!」
そんな気持ちを込めた蕙は壁を色彩で飾っていく。
そうしていると、路地裏をぶらついていた人攫いの男達が此方に歩いてきた。
「兄貴ィ、アイツはどうっスか?」
「悪かねえな。あのガキを攫って、今日の仕事は終わりにするぞ」
(「人さらいが来た
……!」)
蕙は尻尾を逆立て、警戒している様子を男達に見せた。無抵抗で捕まるよりもほどほどに逃げて隠れた方が活きの良さをアピールできるだろう。そして、蕙は思いきり走り出した。
「あっ! 逃げたっス!」
「追いかけるぞ!」
「変な兄ちゃんたち、こっちだよーっだ。えいっ!」
男が追ってきたことを確かめた蕙は絵の具を投げつけた。悪い誘拐犯へのささやかな罰代わりだ。
「うわっ!」
「いきなり何しやがる!」
「くらーい顔してるから明るくしただけじゃん? ほらっ、ほめろほめろ!」
「確かにあの絵はなかなかだったが……!」
「それとこれとは話が別っス!」
少年と男達の逃走劇は暫し続いた。
やがて、蕙は程よい所で男達にわざと捕まり――最後の囮としての役目を果たした。
大成功🔵🔵🔵
効果1【液体錬成】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
●次の舞台へ
ディアボロス達がならず者に連れて行かれた、暫し後。
この貧民街の人々は路地裏の壁に描かれた色彩を目にすることになる。
その絵はとても印象的な、様々なそらいろの絵の具が壁一面に広げられている蕙によるアートだ。
「何だろ、この絵」
「すごいな、見てると元気が湧いてくる」
「えへへ、お兄ちゃんが久しぶりに笑ってる!」
「好きだな……これ」
住民達の間には笑みが巡っていた。
彼や彼女達は、本来なら誘拐されていたはずだった貧民街の住民だ。
クリスタが攫われたことでひとりの女性の命が助かった。頼人が派手に動くことで、路地裏に隠れていた幼い少女がならず者から遠ざかることが出来た。綜は自らが上着を与えたあの青年、麻緒はとある元気な少女、エリルと蕙もいずれ誘拐されそうだった姉弟や少年の身代わりになれた。
復讐者達がその住民達に直接会うことは殆どなかったが――この囮作戦は、人知れず多くの者を救うことになった。
そうして、攫われた者達は秘密工場内の牢獄に運ばれた。
敵に誘拐される囮作戦はこれで無事に完了。復讐者の反撃と侵撃は、此処から始まっていく。
クリスタ・コルトハード
わざと捕まることで潜入できましたし、内側から囚われている人たちの逃亡の手引をしましょう
俺は人々に怪我をしている見て回ります
いざ逃げるときに動けないと困りますから、【活性治癒】の効果で回復を早めながら止血と補強をしましょう
清潔な布があれば良いのですけれど、支える程度ならボロ布でもなんとか……
大丈夫、もう少しの辛抱ですよ
みんなが助けに来てくれますから
俺たち復讐者にかかれば、あっという間です!
他の方が現れたら、協力して避難誘導をしましょう
小さな子どもや弱りきっている子は抱えていきますから、俺にお任せください
六識・綜
どうにも、頭がまわらないな
必要だったとはいえ、睡眠薬は、おれには相性が良くないらしい
この状態で、できることをするしかないか
残留効果は、便利かもしれないな
【フライトドローン】を使い
どの辺りに囚われた人がいるか
どの辺りに敵がいるか、脱出し易いルートは何処か
確認・整理しておきたい
他の囚われたディアボロスにも共有すれば、動き易くなる
脱出のタイミングは、少し考えた方がいいか
確認が終わったら牢を回って鍵を壊して行き
その間も脱出路の状況はドローンで確認して
他のディアボロスが入口の敵を排除したら脱出開始
うごけない人は、おれが背負うか
ドローンも、使えそうなら使う
運悪く敵とばったり会った時は、
――殺すしか、ないな
●牢獄と脱出準備
非道な改造手術が行われている秘密工場。
工場群の何処が敵の拠点であるのかはこれまで不明だったが、囮となって誘拐された者達のお陰で場所が判明した。
秘密工場の奥に作られた牢の中。
其処には、貧民街から攫われた者達が放り込まれている。
広い牢屋に様々な者が一緒くたにされている状態だが、今から脱出を図るには都合がいい。
「どうにも、頭がまわらないな」
六識・綜(史家・g00749)は額を片手で抑え、漸く眠気が収まってきたことを確かめる。攫われるのに必要だったとはいえ、睡眠薬入りのビスケットを口にしてしまった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何とか。あれは、おれには相性が良くないらしい」
心配してくれたクリスタ・コルトハード(森羅番長・g00039)に対して、綜は何とか平気そうだと告げる。あの菓子に眠らせる以外に効果がなかったのは不幸中の幸い。徐々に調子も戻ってきている今、綜はこの状態で出来ることをしたいと語った。きっと外の方でも脱出に手を貸す準備が整えられているはずだ。
「では、内側からも逃亡の手引をしましょう」
「そうだな、まずは偵察だ」
「檻を壊す手はずはもう整いましたから、俺はその間に皆さんの様子を見ておきます」
綜はフライトドローンを起動する。
そうして、クリスタは牢に捕まっている一般人達が怪我をしていないか確かめていく。
この時点で檻を壊してしまうことは容易だが、二人は敢えてそうしない。脱出経路の確認は大切なこと。それに実際の逃走時になったとき、動けない人がいると困るからだ。
綜が調べたのは他に牢屋はあるかどうか。どの辺りに敵がいるか。脱出し易いルートは何処か。それらを識っておけば、内外のディアボロスへの情報共有も可能になる。
「脱出のタイミングは、その子の手当てが終わったらにしよう」
綜は牢内を見遣る。
其処には姉と弟同士らしき子供たちを優しく手当てしていくクリスタの姿があった。誘拐の際に姉の方が弟を庇って足を痛めていたらしく、クリスタが脚部の具合を触って確かめている。
「……いたっ」
「清潔な布があれば良いのですけれど、支える程度ならボロ布でもなんとか……」
「お姉ちゃんのケガ、なおる?」
少女が痛みを訴えたことから捻挫だろうと判断したクリスタは、そっと頷いてみせた。もっと酷い怪我をした人もいるかもしれないと考えていたので安堵の方が大きい。
「ひどい怪我ではないので大丈夫です。それに、もう少しの辛抱ですよ」
「僕たち助かるの?」
「ええ、みんなが助けに来てくれますから。俺たち復讐者にかかれば、あっという間です!」
「ありがとうございます、皆さん。わたしたちはもう終わりだと思っていました」
クリスタの手当てを受けた少女はちいさな笑みを見せてくれた。まだ不安はあるだろうが、彼女なりに精一杯に微笑んでくれたことが分かった。
その間に、綜はある程度の偵察を終えていた。
牢はもうひとつあり、そちらにも数人が囚われているようだ。どちらの牢屋も壊す必要があると認識した綜は、クリスタにそのことを伝えた。
「もう少し経ったら作戦決行ですね」
「そうしよう。合図は……戦闘の音が聞こえはじめたらだ」
クリスタと綜は周囲の音に耳を澄ませる。
間もなくすれば工場の場所を察知した他の仲間が駆け付けてくるだろう。脱出路に続く路を改めて確認していく綜は決意を固め、クリスタも避難への思いを強めた。
そのとき、先程の少年がとても不安そうな呟きを落とす。
「僕とお姉ちゃん、ちゃんと走れるかな」
「もしあなたが走れなくなっても抱えていきますから、俺にお任せください」
「お姉さんのほうは、おれが背負う」
「……ごめんなさい。でも、どうかよろしくお願いします」
クリスタは少年に微笑みかけ、綜は姉の方に心配するなと話した。他に捕まっていた一般人もいるが、この二人以外は懸念はなく、しっかり逃げてくれそうだ。万が一のことがあってもフライトドローンが人々を運んでくれるだろう。
「後は待つだけですね」
「ああ。ことが始まったら、この檻を壊そう」
クリスタと綜は囚われの者達に目配せを送り、そのときを待つ。
これ以上の怖い思いをさせないように、出来る限り少年と少女達には改造された下級ゾルダートとは会わせたくない。しかし、もし運悪く敵とばったり会ったときは。
(「――殺すしか、ないな」)
この工場の中にいる獣型のゾルダートもまた、誰かが改造されたモノだ。それでも容赦は出来ない。
静かな決意を抱いた綜達は牢の向こう側を見据えた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【フライトドローン】がLV2になった!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【先行率アップ】がLV2になった!
クロエ・マイネリーヴェ
…相も変わらず、悍ましいほどの機械群だ。
こんなものが誇り高きドイツ帝国であるものか。
「正しに来たぞ、変わり果てた私の故郷よ。」
誘拐多発地域からならず者たちを見つけ、後をつけ工場を見つけ出す。【追跡】
誘拐された人々は…後だ、優先すべきは彼らの脱出の為の安全確保。
施設を徘徊するトループス級の番犬共を蹴散らす。
愛犬のフランツを一旦物影に待機させ、私のみで奇襲をかける。
炎の剣で焼き斬ったとして、他の番犬も集まってくるだろう。【火炎使い】
その前に一体ずつ確実に。
私を囮として注意を惹き、犬笛で合図しフランツの砲で仕留めさせる。
機械の犬も忠実さは見事だが、本来の犬は人の友さ。
「いい子だ、フランツ」
本郷・夏深
では、片付けるとしましょうか
胸糞悪いのは流石の私も気分最悪になりますし
雑魚の相手をしてあげるのも恵まれし者の責務ですからね
敵の攻撃は射線上に立たぬようにして躱したり
開いた鉄扇で攻撃を弾いて凌ぎながら接敵します
そして関節部位や継ぎ目を主に、時に切り裂き、時に貫き
そのご立派な装甲をバラバラにして差し上げますよ
誘導弾を放ってくる前には動きを止めるのですか
それはそれは、タイミングを読み易くて有難いですねえ
敵が誘導弾を放ったらギリギリまで引き付けながら壁へ向かって走り
その壁を蹴って宙返りで反転する事で誘導弾を壁へ激突させつつ回避します
翼があるのでバク宙も一発本番で楽々です!
やはりカフカは恵まれてますね!
●敵兵掃討戦・外部
一方その頃、秘密工場の前にて。
誘拐が多発する地域から、ならず者達を追跡したディアボロス達は工場を見上げていた。
空には黒い煙が立ち昇っている。
機械が犇めく工場群の最中で、クロエ・マイネリーヴェ(帝都のクロエ・g03850)は薄青の双眸を鋭く細めた。
「相も変わらず、悍ましいほどの機械群だ」
「なかなかに圧倒的ですね」
本郷・夏深(逢魔が夏・g00583)は片手を庇代わりにして、工場の煙突を振り仰ぐ。
重圧感すら覚えさせる出で立ちの建物は、さも当然のように存在している。だが、本来のドイツはこのような様子ではなかった。嘗ての面影がある場所が存在しないわけではないものの、歴史そのものが改竄されているからだ。
こんなものが誇り高きドイツ帝国であるはずがない。
正史を識り、本来の在り方を覚えているクロエは掌を握り締めた。
「正しに来たぞ、変わり果てた私の故郷よ」
クロエは決意の言葉を紡ぐ。
誘拐された人々の保護や誘導は、囮として潜入した者達が担ってくれるだろう。外部から攻め込む作戦を選んだクロエ達が優先すべきは、彼らが脱出する為の安全確保。
即ち、この工場を警備するトループス級のゾルダートを排除することだ。
夏深も過去に学んだ歴史から、この国がこういった様子であるわけがないと理解している。非情な歴史が此処から紡がれていくのだとしたら、止めてみせるのが力を持つ者の役目だ。
「では、片付けるとしましょうか」
夏深は鉄扇を構え、準備が整っていることを示す。
人間が機械兵に改造されるという胸糞が悪くなるような未来は避けたい。流石の私も気分が最悪になりますし、と言葉にした夏深は工場のゲートを見つめる。
其処に丁度、敷地内を巡回しているらしき獣型のゾルダートが通りかかった。
「雑魚の相手をしてあげるのも恵まれし者の責務ですからね」
「ああ、突撃するぞ」
頷いたクロエは敵に察知される前に動く。地を蹴って駆けた彼女に続き、夏深も門の方を目指す。
二人の背を追うようにして二匹のパンツァーハウンド、フランツとえだまめが走っていく。そして、直剣を振り上げたクロエが門を一気に切り裂く。間髪いれずに夏深が動き、揺らいだ鉄扉を蹴り破った。
物音に反応したアイゼンヴォルフが戦闘態勢を取る。
「ほら、こっちですよ」
「まずはお前からだ。来い、機械番犬」
侵入者だと判断された二人と二匹は、迫ってくる敵を引き付けた。振るわれるクロエの刃と夏深の鉄扇は敵を貫き、その動きを見事に止める。
上々な滑り出しだと感じた二人はそのまま工場の入口を抜け、通路に進んでいった。
「ひとまず気配が多そうな向こうにいってみましょうか」
「そうしようか。私達としては敵が見つかればそれでいいからな」
内部は入り組んでいるようだが、奇襲を掛けるには好都合だ。クロエはフランツを物影に待機させ、通路の奥の様子を窺った。夏深も身を潜め、彼女と共に敵の前に向かう算段を立てていく。
そして、一瞬後。
数体のアイゼンヴォルフが曲がり角を通ってきた刹那、二人はひといきに駆けた。
「ご覧ください。カフカの舞を見られるあなたは恵まれてますよ」
貪欲の名を冠する扇を広げた夏深は鋭い一閃を見舞う。体勢を崩した敵を蹴り上げた夏深が空中に飛んだ瞬間、クロエが炎を纏わせた剣で標的を焼き斬る。
「来い、フランツ」
「えだまめ、援護に入ってください」
犬笛を吹いたクロエの呼び掛けに応えるようにして、フランツが残りの敵に砲を向ける。夏深もえだまめに願い、アイゼンヴォルフを穿たせていった。
砲撃の音が響く中、戦闘の気配を察した他の機械番犬達も集まってくる。
「着実に、各個撃破する作戦が良いな」
「わかりました。惹きつける役目はこのカフカに任せてください」
敵は増えていくだろうが、慌てずに一体ずつ確実に屠っていく方がいい。クロエに同意を示した夏深は華麗な動きで以て敵を翻弄していった。
開いた鉄扇で攻撃を弾いて凌ぎ、反撃に入る夏深は敵の関節部位や継ぎ目を狙う。
「そのご立派な装甲をバラバラにして差し上げますよ」
時に切り裂き、時に貫いて穿つ。其処にえだまめの援護が入っていった。
クロエも己を囮代わりにして立ち回り、犬笛で合図を送ることでフランツに砲撃を行わせていく。そうして、一体ずつを仕留めていく二人は機械獣を葬り続ける。
「いい子だ、フランツ」
機械の番犬の忠実さも見事なものだが、本来の犬は人の友。クロエは相棒にそっと微笑みを向ける。
敵も砲撃を放つ準備をしているが、そのためには動きを固定しなければならないらしい。実にタイミングが読み易くて有難いと感じたクロエと夏深は視線を交わしあう。
敢えて踏み込まなかった夏深は、敵が誘導弾を放った瞬間に行動した。
寸前まで弾を引き付け、壁へ向かって走った夏深は天井近くまで駆け上がる。壁を蹴った勢いと背の翼を用いて、宙返りで以て身体を反転させた夏深は素早く弾を回避した。
壁に激突した砲弾が工場の一部を破壊する中、夏深は翼を閉じる。
「やはりカフカは恵まれてますね!」
「見事なものだな。この調子で進んでいこうか」
自信満々な笑みを浮かべた夏深に感心を抱き、クロエは先を指差す。敵の気配はまだ多いようだが、二人は臆することなどない。自分達が目立てば目立つほど後続の仲間が突入する機や脱出の手はずが整う。
再び頷きを重ねたクロエと夏深は、通路の奥を目指して駆け出した。
成功🔵🔵🔵🔵🔴🔴
効果1【動物の友】LV1が発生!
【強運の加護】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
【アヴォイド】がLV2になった!
奉利・聖
まずは露払いから済ませておくのがベストでしょう!脱出するときにゴミが落ちていたら危ないですからね!
向こうは射撃するのにしっかりとした姿勢制御が必要な様子!
であれば!先に動ける余地はあるでしょう!
『掃除に必要なのは身一つのみ』です
【強運の加護】というのもりますしね!
射撃態勢に入った瞬間動きます!
周囲には色々使えるものがあるでしょう?無ければ掃除用があります!エネルギーが満ちる砲口に向かって投擲し、行き場を塞いでやりましょう!
どうなるかはお分かりですね!
暴発するはずなので、すかさず距離を詰めて破壊しにかかります!
ついでに武装を剥ぎ取っておきましょうか!これでもう一体に攻撃すればよろしいのです!
観月・遙
機械には詳しくありませんが
先ずは攻撃時の挙動やパターンを読み取りましょう
おや、いいんです?そんな単調な弾道で
敵の目から隠すよう、急所の位置は尾で覆い
銃口の狙い定まらぬよう駆け、ときに敵を盾とできる位置も取り
私はちょっと的が大きいので
狙い易しと見做されて注意を引けるなら幸い
共闘する方がいらっしゃれば、攻撃できる隙を作るのも良いでしょう
技の軌道に複数体の敵が重なるポイントへ到達するや否や
刀の射程外と見せかけて
凍雨
強大な妖を封じた妖刀『玖月』
刀の魔性に魅入られぬよう最低限の時間で
その強大な力を最大限利用すべく
技として用いるは、抜刀は一瞬の居合術
まだ居るのなら、おいでなさい
一匹たりと逃がしませんから
●敵兵掃討戦・後続
先陣を切って駆けた者達に続き、蹴破られた門を潜る。
既に戦いの音が響き始めている工場を駆け抜けていくのは、同じくして外部からの工場突入を選んだ者達。奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)と観月・遙(須臾・g00126)の二人だ。
秘密工場の場所を突き止めた今、事を成すのは一刻も早い方がいい。第二陣となった聖と遙は視線を交わし、戦闘音が聞こえない方角に進んだ。
「此方が手薄なようですね」
遙が示した先には、下級兵とされているアイゼンヴォルフ達の姿が見えた。反対側の方にいる敵は第一陣の仲間が相手取ってくれているので心配ないという考えだ。
頷きを返した聖は身構え、清掃活動の開始を宣言する。
「ええ、行きましょうか。まずは露払いから済ませておくのがベストでしょうから! 脱出するときにゴミが落ちていたら危ないですからね!」
彼らが駆けてくる音に気が付いたのか、数体のアイゼンヴォルフが戦闘態勢を取った。
敵は砲撃のために動きを止め、四肢で体を固定しはじめる。その様子を見遣った聖は双眸を鋭く細めた。
「なるほど、向こうは射撃するのにしっかりとした姿勢制御が必要な様子!」
「機械には詳しくありませんが……そういう仕組みですか」
彼の言葉を聞き、遙は納得する。
刹那、敵の砲から誘導弾が解き放たれた。当たればひとたまりもないが、二人は素早く散開することで砲撃の軌道を惑わせた。聖と遙は敢えて互いに距離を詰めていき、一気に交差する。
そうすることで二発の砲撃が衝突しあって爆発した。弾道から逸れつつ自爆を誘った二人は、やりましたね、という意味合いを籠めた視線を重ねた。されど敵も新たな砲撃を行ってくる。
「おや、いいんです? そんな単調な弾道で」
遙はふわりとした九尾を靡かせ、身を翻した。攻撃時の挙動や誘導弾の発射のタイミングは既に読めたも同然。
次の砲撃よりは先に動けると踏んだ聖は床を強く蹴った。
そのままの勢いで壁を駆け上がり、手を伸ばしたのは細い鉄のパイプだ。それは先程の砲撃爆発のせいで崩れ、天井から垂れ下がってきた工場部品だった。
すぐに得物が見つからないという状況にならなかったのは、強運の加護のお陰だろうか。
鉄パイプを両手で掴んで振り上げた聖は、ひといきに敵に肉薄した。相手は姿勢を固定しているので狙いは付けやすい。後は砲撃が行われる前に思いきり打ち貫くだけ。
「場外ホームランでも決めてやりましょうか!」
冗談めかしつつも聖は全力で腕を振るった。その一撃はアイゼンヴォルフを大きく跳ね飛ばすことになる。
遠くの壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられた機械兵はそのまま地に伏す。一体目を倒したことを確認した聖は、すぐさま遙に目配せを送った。
「今です、追撃をお願いします!」
「この調子で片付けていきましょう」
遙は次の砲撃に気を付けながら、己の急所を敵の目から隠すように尾を広げる。
尾の揺らぎで銃口の狙いが定まらせぬように狙いながら、遙は通路を駆けた。その最中に放つのは――玖月逸刀流・氷結抜刀術。妖刀の鯉口を切った遙は、氷結の妖術を巡らせた。瞬く間に玖月の刀身に霜が張り付き、冴え冴えとした一閃がアイゼンヴォルフに振り下ろされる。
断ち斬られた機械兵は凍結していき、立ち上がることを阻まれた。玖月に宿る魔性に魅入られぬよう、刃を鞘に収めた遙はときに敵の後ろに回り込み、ときに敵ごと盾として巻き込める位置取りで立ち回る。
そうすることで多くの敵の注目が遙に向いた。
「いいですね、これなら楽勝ですよ!」
聖は彼の見事な動きを見て、明るく笑ってみせる。曲がってしまった鉄パイプがそろそろ使えなくなる判断した聖は、自前のデッキブラシに持ち替える。射撃態勢に入った敵を穿っていく彼は、遠い位置にいる個体にも目を向けた。そして、エネルギーが満ちていく砲口に向かって鉄パイプを投擲する。
「ほら、これなら――あとはどうなるかはお分かりですね!」
行き場を失い、塞がれた砲がその場で爆発した。爆風が収まりきらぬ内に距離を詰めた聖は、その個体を鋭く穿つ。其処へ、再び刃を抜いた遙が凍雨の一閃を解き放った。
抜刀と同時に一瞬で繰り出される居合術は更なる敵を打ち倒していく。
やがて、二人が陣取った通路にいた敵はすべて倒された。
首尾はなかなかに上々だ。聖はバラバラになった敵の一部を拾いあげながら、小さく笑む。
「ついでにこの武装を剥ぎ取っておきましょうか! さあ、まだまだ行きますよ!」
「まだ居るのなら、おいでなさい。一匹たりと逃がしませんから」
この場の敵を倒したとて奥にはまだ巡回兵がいる。
警戒を強めながらも先導してくれている聖の後に続き、遙も通路の奥を目指していった。
そうして、清掃活動――もとい殲滅戦は此処からも続いていく。
成功🔵🔵🔵🔵🔴🔴
効果1【強運の加護】がLV3になった!
【冷気の支配者】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】がLV3になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
上賀茂・頼人
……げほ
黒煙の嫌な臭いが強くなったってことは上手く潜り込めたみたいだ
忍び込んだ仲間は他にもいるみたいだし、入口の方も騒がしくなってきた
ならおれがやるべきは牢獄近くを巡回する警備を片付けて内側からの退路の確保だ
……初めての実戦だけど、きっと上手くいく
モブオーラと忍び足でなるべく少数の機械兵たちに死角から近づいたら、装備している放電手榴弾を投げて強襲・撹乱
機械っていうのは強い電気に弱いって聞いた
混乱しているところに手持ちの捕縛布を投擲して、背中の物騒な砲塔が動かないよう固定するんだ
そして急所に雷の銃弾を撃ち込んで麻痺したところに追加の銃弾と火雷大神を突き立てて一気に壊して、復讐の狼煙を上げてやる!
枸橘・蕙
ふふーん、ほめられた!ゲージュツがわかるヤツもいるじゃんか。ここにはいなさそーだけど……
よっし!みんなでとっとと逃げるぜー!
で、ウロウロしてるヤツら、逃げるのに邪魔になりそーだよな
リアライズペイントで見回ってる敵を描いて、けしかけて戦わせるぜ
逃げてく人が勘違いして怖い気分になるのはヤだし、そっくりにするのはやめて、明るめの色とかで描いて『あんぜんだぜ』っていうアピールもしときたいなあ
かみついてくるってなら、おれの描いた『こいつら』に守ってもらう
おれは【壁歩き】も使って今度は全力で逃げるから、描いたヤツはこわれちゃうかもしれないけど……おれの手が動くならいくらでも描いてやるぜー!
●敵兵掃討作戦・内部
人攫いにわざと捕まり、牢獄内に運ばれたディアボロス達。
彼らもまた、内部からのトループス級ゾルダート殲滅の手はずを整えていた。数名の一般人が閉じ込められていた牢の扉は既に鍵ごと壊されており、いつでも脱出できる状態だ。
しかし、まだ工場内に敵は多い。
ひとまず戦える自分達が先に行くと告げた復讐者達は、牢から続く通路を駆けていた。そんな中で枸橘・蕙(そらを描く・g02980)は上機嫌に、連れられて来る前の出来事を思い出している。
「ふふーん、ほめられた! ゲージュツがわかるヤツもいたじゃんか」
経緯は別として、あのならず者達は蕙の絵が悪くないと言っていた。本当は牢にも何か描いてやりたかったが、そんな時間と余裕がないことも蕙には分かっている。
「よっし! 敵をかたづけたらみんなでとっとと逃げるぜー!」
意気込む蕙の隣では、上賀茂・頼人(梨の礫・g01455)が走っている。だが、頼人の調子はあまり良くないようだ。
「……げほ」
「わ、大丈夫か?」
「平気だ、ちょっと気分が悪かっただけ。黒い煙がすごく嫌な臭いだからだな」
咳き込んだ頼人に気付き、蕙が驚いた様子を見せる。首を横に振った頼人は心配しないでいいと告げてから、狐耳をぴんと立てた。蕙も彼に倣って耳を動かしていき、少年達は内部の音を探った。
既に門や入口の方では戦いが始まっているらしい。
外部からの攻撃があれば内部からの働きかけも効果的になるはず。他に忍び込んだ仲間や、増援の仲間の気配を確かめた頼人と蕙はしっかりと頷きあった。
「入口の方も騒がしくなってきたな」
「派手にやってるみたいだ! で、あっちをウロウロしてるヤツら、逃げるのに邪魔になりそーだよな」
「おれたちで倒しに行こう」
「おー!」
少年たちは近くにある敵の気配と察知し、牢獄近くを巡回する警備兵を狙っていくことに決めた。彼らのすべきことは獣機兵を片付け、内側からの退路を着実に確保すること。
(「……初めての実戦だけど、きっと上手くいく」)
「大丈夫! ぜったいに成功するぜ!」
頼人が不安な気持ちを押し隠す中、蕙は明るく笑ってみせる。頼人の内心には気付いていないようだが、蕙は偶然にも心を励ます言葉を向けてくれた。
双眸を緩めた頼人は緊張が解けていく感覚をおぼえる。
息を潜めた二人はゆっくりとアイゼンヴォルフに近寄っていった。決まった通路を巡回しているらしき機械兵は。まだ此方に気が付いていない。
「おれはあっちから不意打ちでいく」
「わかった、それじゃあおれはあいつらを描いてけしかける!」
小声で作戦を告げあった少年達は、其処から一気に左右に分かれた。
まず動いたのは頼人だ。死角から接近した彼は纏っていたボロ布から、隠していた放電手榴弾を取り出した。そのまま敵に向けて手榴弾を投げ放った頼人は素早く身を翻す。
次の瞬間、炸裂音と共に周囲に強い電撃が広がっていった。強襲と撹乱を兼ね備える一撃が巡った直後、ペイントツールを掲げた蕙が空中に絵を描いていく。
「いけーっ! 機械のわんこたち!」
蕙が描き記したのは線で構成されたアイゼンヴォルフ達。
敵の姿を写し取ったものは主である蕙の声に従い、敵兵に飛び掛かっていく。何とか対応しようとするアイゼンヴォルフ達だが、頼人の一撃がまだ効いているようだ。
「なんだかあいつらの動きがにぶいな」
「機械っていうのは強い電気に弱いって聞いた」
「すごい! おれたちが組めばさいきょうかもな!」
蕙が嬉しそうに両手を上げると、頼人もこくりと頷いた。そうして、敵群が混乱しているところを狙った頼人は更に捕縛布を投擲してゆく。
「つぎは何を狙ってるんだ?」
「あの背中にある物騒な砲塔が動かないよう固定するんだ」
「だったら、こっちはもっとあいつらを混乱させてやる!」
頼人の捕縛布が戦場に舞う中、蕙は筆を動かした。次に描くのは明るい色で彩られたアイゼンヴォルフ達。避難誘導は他の仲間に任せているが、いつこの場に囚われていた人達が通りかかるかわからない。
それゆえに蕙は誰にも怖がられないような色使いとタッチで、敵の偽物を描いていった。
その心遣いは頼人にも伝わっている。かわいいな、と蕙の描いたものへの感想を告げた頼人は拳銃を構えた。
「――終わりだ」
そして、頼人は敵に雷の銃弾を撃ち込んでいく。強い力を帯びた銃弾が敵の動きを麻痺させたところへ、頼人は追加の銃弾を重ねた。頼人が見事な止めを刺したことで蕙はぐっと拳を握る。だが――。
「一匹め、たいじ……っと、うわっ! こいつら、かみついてくる!」
蕙を狙ったアイゼンヴォルフが機械牙を突き立てようと狙ってきた。蕙は急いでペイントの機械獣達に願い、反撃を行って貰った。その間に壁に駆け登った蕙は敵との距離をあける。
その間にも動かされていた絵筆は壁に明るい色彩を宿していった。そう、これはこれから脱出する人々への道標代わりだ。
「いこう! おれの手が動くならいくらでも描いてやるぜー!」
蕙は前を見据え、巡る戦いへの思いを強める。頼人も弱っている個体を見極め、火雷大神を突き立てることで一気に壊しにかかった。
「そうだ、ここから……おれたちの復讐の狼煙を上げてやる!」
頼人の声は暗い工場内に凛と響き渡った。
それはたとえるならば、闇の中に光を灯していくような――幽かながらも、確かな決意の証だ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【光学迷彩】LV1が発生!
【液体錬成】がLV2になった!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!
クリスタ・コルトハード
脱出の手は打ちましたから、今度は警備であるアイゼンヴォルフの相手を致しましょう
あの火気全てに狙われては俺でもひとたまりもありませんし、一体ずつ暗殺することにします
人を乗せてない【フライングドローン】を囮にしながら肉薄します
【モブオーラ】でアイゼンヴォルフの注意から逃れていきましょう
背後を取って砲門の回らない角度まで入れば、飛びついて首の関節部に武器を差し込むのです
回路を断ったら、一度姿を隠して次のアイゼンヴォルフへ向かいます
潜入に使ったボロ布の服でも、万年筆くらいの小さな武器なら隠して持ち込めますね
メイド服でないと気分が乗りませんが……いいでしょう
さあ、お仕事の時間ですよ
エリル・ウィスタリア
さて、無事に内部に入り込めたわね。「弟」も一緒。周囲を【呪詛】で覆って一緒に運ばれてきた人の安全を確保した後に行動を起こすわ。
内部で救出してる人たちの助けになるように、見回っている敵の数を極力減らすの。出来る限り派手に暴れまわって注意をこちらに引き付けるわ。
走り回りながら安全に戦える【地形の利用】して戦う。
不意打ちでダンスマカブルを打ち込んではまた走り回る。【壁歩き】も使えばどこからでも攻撃出来るわね。
さぁさぁ、友達にも手酷い扱いをしてくれたお礼よ!遠慮なく貰っておきなさいな。
相手の攻撃は「弟」に庇って貰ったり盾にしたり、壁を使って回避したりするわ。
…この子を殴ったら3倍、いいえ、4倍返しね。
六識・綜
ここまでは順調に来れたか
とはいえ、このまま脱出する訳にもいかないな
敵が残っていれば、脱出する時に万が一も有り得る
出入口までの経路は安全を確保しておきたい
不用意に目立たないように
【モブオーラ】と【強運の加護】を駆使して
囚われとなった人たちより
先行して脱出路を確保しに向かい
敵と遭遇したら手持ちのリボルバー銃で交戦
いよいよ、殺すしかないか
元が人とはいえ、もう戻れやしない
なら、おれが躊躇う必要はない
施設の外側から来る味方と挟み込むように立ち回り
味方が動き易いように援護や牽制射撃を行う
囚われとなった人たちに危険が及ばない事を第一に意識
手ごわい敵や数の多い敵には【心象】
……あまり、この感覚に慣れたくないな
●機械獣達の最期
秘密工場内部と外部。
両方から同時に攻略されていく戦局は復讐者達の優勢だ。
牢屋に囚えられていた貧民街の者達はひとり残らず助け出され、敵が掃討された通路を進んで貰っている。怪我をしていたり、弱っている者もいたりしたが、彼らのことはフライトドローンが運んでくれていた。
誘導を担ってくれている仲間もいるので脱出作戦は心配ない。
そして、現在。
工場内部の中央ルートには、囮として潜り込んだディアボロス達が集っていた。
「さて、無事に皆も揃ったことだし……安全を確保しなきゃね」
エリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)は少年人形、通称「弟」と共に周囲を警戒している。脱出準備は充分だが、まだ内部通路に機械兵が残っていることを察知したからだ。
弟と一緒にエリルが周囲を呪詛の力で覆う中、クリスタ・コルトハード(森羅番長・g00039)と六識・綜(史家・g00749)も強く身構える。
「脱出の手は打ちましたから、あとはあの警備兵――アイゼンヴォルフの相手を致しましょう」
「ここまでは順調に来れたが、このまま脱出する訳にもいかないからな」
一行が見据える先にはかなり多くの機械獣兵が闊歩している。今は皆が息を潜めているが、此方に気付く個体も現れるだろう。戦いが始まるのは時間の問題だ。
たった一体であっても、敵が残っていれば脱出する時に万が一の事が起こり得るかもしれない。
少しでも危険があるならば排除して、万全を尽くすのみ。
不用意に目立たぬように此処まで来たお陰で、脱出路の道筋は随分とひらけている。綜が先行して様子を見た後、クリスタも突入の意思を固めた。
「あの火気全てに狙われては俺でもひとたまりもありませんし、一体ずつ暗殺することにします」
行きます、と告げたクリスタは先陣を切る。
まずは人を乗せてないフライトドローンを囮として解き放ったクリスタは敵の気を引いた。ドローンの動きを察知したアイゼンヴォルフ達は一斉に此方に振り向く。
敵の視線は頭上に向かっていた。それこそが狙いだったクリスタは素早く相手の死角に回り込んだ。
同時にエリルが一気にアイゼンヴォルフ達の前に進む。
クリスタが死角を取るなら、と考えたエリルと弟は敢えて目立つ策を選んだ。脱出を試みている仲間や人々が見つからないためにも、出来る限り派手に暴れ回っていく方がいいと判断してのことだ。
「注意をこちらに引き付けるわ。今の内に攻撃をお願い!」
十指に結んだ糸を引いたエリルは弟と共に敵陣に躍り出る。華麗なステップを踏み、雪のように静かで華やかな舞踏を刻んでいく二人は、敵を翻弄していった。
其処から繰り出される一撃ずつがアイゼンヴォルフにダメージを与え、装甲を削っていく。
「ああ、任せてくれ」
エリルの呼び掛けに応えた綜はリボルバー銃を静かに構えた。既にクリスタは素早く立ち回り、肉薄した敵の背後を取っている。其処から砲門の回らない角度まで入り込んだ彼女は鋭い一閃を放った。
飛びつくことで敵の意表を突き、武器として持ち込んだ万年筆を首の関節部に差し込む。そうすれば最小限の動きで敵の回路を断つことが出来た。
「どうですか、これだって立派な武器なんですよ」
それは顔無き者の仕事。
見事な一撃で以て一体目を伏せさせたクリスタは次の標的に向かっていく。流れるようなクリスタの動作を見ていた綜もまた、敵を引き付けながら立ち回っていた。
全火器を解放するアイゼンヴォルフの反撃は激しい。それでも綜は果敢に立ち向かい続けていた。
「いよいよ、殺すしかないか」
自分にしか聞こえない声で呟いた綜は銃爪に指をかける。みな割り切って戦っているが、綜の中にはまだ少しの戸惑いが残っていた。どうしても頭から離れないのは、目の前の機械兵達が元は人間だったということ。
だが――元が人とはいえ、もう戻れやしない。
此処で手加減をしたとしても、倒さないという慈悲を向けたとしても誰も救われず、報われもしない。
「なら、おれが躊躇う必要はない」
己に言い聞かせるような言葉を落とした綜は凩の銃口を標的に差し向けた。
呼吸を止め、気配を断ち、狙いを絞る。
血を対価にして絶命の呪いを施した弾丸は、戦場を疾く翔けていった。撃ち抜かれた機械獣が地に伏す。その姿を一瞥するだけに留めた綜は、クリスタやエリルが動き易くなるようにと考え、援護としての牽制射撃を巡らせた。
何よりも、囚われていた人々に危険が及ばないことを第一に。
施設の外側から来る味方もいる現状、アイゼンヴォルフに押し負けるようなことはないだろう。
銃撃がかなりの援護になってくれていることを感じ取りながら、エリルも弟と一緒に戦場を駆ける。エリルは壁を利用して縦横無尽に走り回り、追ってきた敵や背を向けている敵に不意打ちで一閃を解き放っていく。
「さぁさぁ、友達にも手酷い扱いをしてくれたお礼よ!」
遠慮なく貰っておきなさいな、という声と同時に更なる連撃がアイゼンヴォルフを穿っていった。
クリスタも上手く物陰に身を隠しながら、敢えて目立ってくれているエリルの影から奇襲していく。彼女が扱う得物は万年筆のままではあるが、問題はない。
たとえメイド服姿ではなくとも、武器がちいさなものであってもメイドは何だって出来る。つまりはそう、メイド・オブ・オールワーク!
「メイド服でないと気分が乗りませんが……いいでしょう、最後の一体までお相手して差し上げます」
クリスタが華麗なメイドの技を振るう中、エリルは集中砲火を受けていた。
されどエリルへの砲撃は弟が庇い、盾になることで防いでいる。綜も銃撃で以て砲撃の斜線を逸らすなどの行動で、実に上手く連携を行っていた。
エリルは仲間の存在を頼もしく思いながらも、敵への怒りを燃やしはじめていた。致し方ないこととはいえど徐々に弟が傷付いている。そのことを看過することは出来ず、エリルはアイゼンヴォルフ達に宣言していく。
「覚悟しなさい……この子を殴ったのだから三倍、いいえ、四倍返しね」
工場内の様子から推察するに、この場に集っている機械兵が最後の敵だ。すべてを倒すまで止まらないと心に決めたエリルは、ダンスの続きを踊るようにして攻撃を仕掛けていった。
綜も連続射撃を行うことで次々とアイゼンヴォルフを屠っていく。たとえ思いは届かなくとも、斃すことで洗脳兵士としての役目から解放できるように願って――。
「けれども……あまり、この感覚に慣れたくないな」
再び落とされた呟きは激しい戦闘音に混ざって、静かに消えていった。
そして、幾度も攻防が巡った後。
工場の巡回兵はすべて倒された。綜は古銃をそっと下ろし、エリルと弟は終演の挨拶めいたお辞儀をしてみせる。クリスタは万年筆を手の中でくるりと回し、戦いに終わりが訪れたことを確かめた。
囚われていた人々も今頃は工場の出入り口近くまで抜けていることだろう。
しかし、これで終幕ではない。
「さあ、お仕事の時間はまだ終わりませんよ」
クリスタは工場の中央に続く通路を真っ直ぐに見つめた。
その先にあるのは改造研究室。或いは実験室とも呼ばれている場所。此度の首魁が控えているのもあの部屋だ。復讐者達は最後の戦いが始まる予感を覚えながら、それぞれの決意や思いを胸に抱いた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【モブオーラ】がLV2になった!
【壁歩き】がLV2になった!
【フライトドローン】がLV3になった!
効果2【フィニッシュ】がLV2になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【先行率アップ】がLV3になった!
エンデ・トロイメライ
改造かー、まあアタシはこんな体でもあんまり気にしてないんだけど……普通は嫌だもんね。そんじゃ、サクッと助けますか!
ここは空からスピードを活かして一気に突撃!出来るだけ最短ルートで牢屋を目指すよ。
牢屋に着いたら早速脱出!子どもやお年寄りから優先で、重力操作でみんなを宙に浮かせて飛ぶよ!
敵は出来るだけ振り切って避ける!アタシあんまり強くないしね?
助けられたら万々歳!やっぱり善いコトするとキモチイイね!!
奉利・聖
さてさて、こちらも出来る限りの支援をしたいところですね
既に皆さんが様々なケアをなさっているようですし…
確実な脱出の為、より正確なクリアニングをしておきましょう
勿論、小さなゴミの排除も忘れませんとも
──『影気功』
脱出ルートの先行偵察を行います 向こうも焦るでしょうから、新しい兵力を送り込んで来る可能性もあるでしょう
もしゴミが居るなら<暗殺>でさくっと消しておきます
安全を確保出来たら…小さい金属音で合図でもしておきましょう
トラップの残りなんかも気を付けておかなければなりませんね
兵士を倒してるなら装備を貰いましょう 手札は多めに、です
決して死者は出しません!掃除屋の誇りにかけて!
必ず、絶対です!!
●脱出作戦・完
駆ける、駆ける。ただひたすらに駆けていく。
薄暗くて重い雰囲気が満ちている工場内を走っていくのは囚われていた人々。
「さあ、みんな! あと少しだからね!」
エンデ・トロイメライ(エピローグ・g00705)は助け出された住民達に呼び掛け、出入り口に続いている通路を進む。
こうして皆を先導しているエンデは早い段階で内部に突入していた。
そして、最短ルートを辿って牢屋に辿り着いていたのだ。
囮として捕まっていたディアボロス達と協力して、牢を破ったエンデは皆の脱出を懸命に手伝った。
最初は姉弟揃って改造されるという未来が感知されていた。だが、復讐者達の活躍のお陰で、件の二人にはもうそのような運命は訪れない。
子どもやお年寄り、怪我をした者を優先して様子を見たエンデは、まずは自分が通ってきた道を辿っていく。
はやく走れない者はエンデが持つ重力操作の力によって運ばれていた。
「お姉さん、すごい力を持ってるんだね!」
「まあ改造されてるからねー」
敵がいる通路を避けながら、様子を窺っている最中にひとりの少年がエンデに話しかけてきた。彼なりに褒めてくれたのだと感じたエンデはそっと頷く。すると少年が不思議そうな顔をした。
「改造って、こわいものじゃないの……?」
「アタシはこんな体でもあんまり気にしてないんだけど……普通は嫌だもんね」
自分にとってはもう怖いものじゃないよ、と告げたエンデは少年を安堵させるように笑ってみせた。
他のディアボロス達は今、工場内を巡回する獣機兵を掃討しに向かっている。
住民を導く役目はエンデが相応しいと判断してくれたからだ。
事実、飛行ユニットを用いての救出に特化しているエンデならば、万が一のことがあっても住民を運べる。
その期待に応えたいと思っているエンデが抱く脱出への決意はとても強かった。そうして、物陰から通路の様子を確かめたエンデは、別の仲間が訪れていることに気付く。
「お待たせしました。ここから先のゴミはみんな掃除して来ましたよ!」
元気で爽やかな声と共に手を振っているのは、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)。彼もアイゼンヴォルフの掃討に加わっていたらしく、こうして状況を知らせるために駆け付けてきたようだ。
状況がかなり良いことにほっとしたエンデは、ひらひらと手を振り返す。
「そんじゃ、サクッと脱出しますか!」
「さてさて、後は外に出るだけでゴミもいないのですが……」
「敵がいないなら良かった! ちょっと気負ってたんだ。アタシあんまり強くないしね? って、どうしたの?」
聖が少しばかり表情を曇らせたので、エンデは首を傾げた。
下級兵のアイゼンヴォルフは倒されたが、首魁がまだ残っている状態だ。聖曰く、この工場の主――ドクトル・マシーネに今の状況が気付かれているらしい。
どうにも何処かで見られているような感覚がするという。
もしかすればマシーネ本人が工場内をモニタリングしている可能性もある。そんな懸念があるからこそ、聖は慎重に出口まで向かいたいと考えていた。
「一応は大丈夫だと思います。けれども確実な脱出の為、より正確なクリアニングをしておきたくて」
「つまり、どういうコト?」
「偵察をしてから進んだ方がいいということです!」
「それなら任せて! キミが偵察して安全を確かめてくれたら、アタシが全力でみんなを運ぶから!」
「助かります。不安だとか懸念っていう、小さなゴミの排除も大切ですからね!」
エンデと聖は頷きあい、作戦を決行していく。
住民達には物陰に隠れて貰い、聖は己の力を巡らせていった。
――発動、影気功。
聖は纏った気功の力で存在感を極限まで希薄にしていく。発する音までも薄まるので偵察には最適だ。いっとドクトル・マシーネとて焦っているはず。新しい兵力を送り込んで来る可能性もあるので、聖の警戒は正しかった。
(「ゴミはいない、と……」)
聖は安堵を抱く。どうやら掃討班がかなり頑張ってくれたようだ。
少しずつ、着実に安全を確認していった聖は足元に視線を向ける。敵の装備していた砲の残骸や先程に放り投げた鉄パイプがあったので、それを壁にコツコツと叩きつけることでエンデへの合図とした。
「この装備も貰っておきましょう。手札は多めに、です。さて、出口はもうすぐそこですよ」
「もう大丈夫? それじゃあ行くよ!」
新たな武器候補を拾った聖は力を解除していき、工場の門に続く一本道を示す。其処に訪れたエンデと住民達もまた、安心した様子を見せていた。
エンデの高速飛行に連れられた一行は一気に工場の外に向かっていく。後はもう全力で翔け抜けるだけだ。
「決して死者は出しません! 掃除屋の誇りにかけて!」
「勿論だよ、このまま突破しよう!」
「必ず、絶対です!!」
そして――聖達の決意の言葉が紡がれた、次の瞬間。
誰にも何の被害もなく、ひとりも取り零すことなく、囚われていた全員が工場を脱出できた。追ってくる機械兵も居らず、貧民街の住民達も涙を流したり、抱き合いながら現状を喜んだ。
「やったね、万々歳!」
「さあ皆さん! 超速で街までお送りしますので健やかにお過ごしください!」
「やっぱり善いコトするとキモチイイね!!」
成功を祝する二人の元気な声が工場街の空の下で紡がれる。
どんよりと立ち込める黒い煙に反して、その声は何処までも前向きに、明るく響き渡っていった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【フライトドローン】がLV4になった!
【光学迷彩】がLV2になった!
効果2【先行率アップ】がLV4になった!
【アヴォイド】がLV4になった!
👿 🛠 👿 🛠 👿
●怒りのドクトル・マシーネ
ディアボロス達が其々の作戦を終えたすぐ後。
工場中央にある研究室に響き渡ったのは、ドクトル・マシーネの怒声だった。
「――応じなさい。答えなさい、アイゼンヴォルフ達!!」
当然、工場を警備させていた兵士達から応答はない。何故なら、この工場に訪れた復讐者達が戦いを繰り広げ、すべての兵を破壊していたからだ。
広く作られた研究室には紙が散らばっている。どうやら彼は改造研究資料を纏めていたらしい。怒りのあまり破いてしまったのか、その文字はもう読むことが出来ない。
「私が資料に没頭していた間に何が……」
ドクトル・マシーネはわなわなと震え、工場内の様子を確かめた。
牢屋はもぬけの殻。兵力はゼロ。
その代わりに侵入者は多数。
「絶対に許せません。不届き者が我が工場を滅茶苦茶に荒らしていたとは……!」
焦りを押し隠し、怒りに変えたドクトル・マシーネは多腕を蠢かせた。彼の怒りに応じてメスやノコギリが動き、手術用のライトが明滅を繰り返している。そのとき、ドクトル・マシーネは別のことに気が付いた。
「おや、なるほど。この研究室にヤツらが向かってきているのですね」
気を取り直し、不敵な笑みを浮かべた彼はこれまでとは逆に堂々とした態度を取り始める。おそらくディアボロス達を『活きの良い実験対象』だと捉えたようだ。
「いいでしょう、寛大な私はお前達を待っていてあげますよ。フフ……」
怪しい笑みを浮かべたドクトル・マシーネは手術用アームを煩く鳴らし、ディアボロス達を待ち受ける。
彼は少し自棄にもなっていた。たとえ自分が負けたとしても工場は爆発する。憎き相手を道連れにできるので勝算がなくとも問題がないのだろう。されど、そのような魂胆はディアボロス達にはお見通しだ。
いよいよ、秘密工場に君臨する首魁との戦いが始まる。
この工場で散っていった元は人間だった機械兵に報いるためにも、此処でこれ以上の非道を行わせてはいけない。
さあ、今こそ復讐者としての力を揮うときだ。
改竄された歴史を取り戻す、第一歩目を刻むために――!
クリスタ・コルトハード
囚われていた人々は逃しましたし
警備のアイゼンヴォルフももう居ません
それでは幕引きといきましょう、ドクトル
ここまできたら、あとは正面突破です
ドクトル・マシーネの研究室へまっすぐに、ハインツ様の火砲支援の中を突っ切ります
砲弾の雨、飛び散る瓦礫……滾りますね
復讐者の身体にご興味があるようですし、徒手にてお相手してさしあげましょう
高密度に練り上げたこの身体はきっと、研究のし甲斐があるでしょうね
実験にお付き合いしますよ、そのアームで、俺の力を抑えられれば、の話ですか
罪なき人々の尊厳を蹂躙してきた報いを受けるときですよ、ドクトル
俺がきちんと地獄へとご案内します
ハインツ・ゼーベック
連携・アドリブ可
貧民であろうとなかろうと自国の民を拐かして実験とは嘆かわしい。
よろしい。元とはいえ軍人の責務を果たさせてもらう。
直接戦闘は苦手なため【光学迷彩】にて距離を取って潜伏。
砲兵火力による蹂躙を発動。【フライトドローン】による観測射撃で直接火力支援の精度を上昇させる。
屋内にいるならば他の復讐者に先んじて砲撃を行い、建物を崩してあぶり出そう。
「正面で敵を受け止めているディアボロスに如何に活躍させうるかが私の責務だな。――砲撃は止めるな。そして正確に行え。間違ってもディアボロスに当てるなよ!」
敵からの反撃は味方砲兵を身代わりにして回避する。
「実在する兵士ではない影法師であればこそ、だな」
●開戦
囚われの人々はもう此処にはいない。
脱出した住人達は既に住処に送り届けられており、工場内を巡回していたアイゼンヴォルフもすべて破壊されている。
「それでは幕引きといきましょう、ドクトル」
クリスタ・コルトハード(森羅番長・g00039)は研究室を見据えながら、此度の首魁であるクロノヴェーダの名を言葉にした。その傍らにはハインツ・ゼーベック(好奇心は猫を殺す・g00405)も立っている。
藍色の瞳を差し向ける彼は一見、穏やかに見えた。
だが、その眼差しには悪の所業を許さぬ強い意志が秘められている。この場所では非道な改造手術が行われてきた。本人が望んだのならば兎も角、同意のない改造手術など言語道断。
「嘆かわしい」
「ええ、赦せない所業です」
ハインツが静かな呟きを落としたことで、クリスタも同意を示した。
命に貴賤はなく、貧民であろうとなかろうと自国の民を拐かして行う実験に何の価値があろうか。ハインツは至極冷静に状況を見据え、研究所の扉を瞳に映した。
「よろしい。元とはいえ軍人の責務を果たさせてもらう」
「ここまできたら、あとは正面突破です。行きましょう」
此処から巡るのは首魁との戦い。先陣を切ることになったハインツとクリスタは一度だけ視線を交わし、頷きを重ねた。そして、まず動いたのはハインツだ。
彼はパラドクスの力を巡らせ、砲兵を呼び出した。
其処に出現した砲兵隊は其々に身構え、装備している大口径火砲による一撃を扉に叩き込む。ハインツ自身は身を隠し、距離を取っての火力支援だ。
こうして初手を派手に行うことで、後続の仲間の士気を高揚させる狙いもある。
それに合わせてクリスタが一気に駆け出した。彼女はドクトル・マシーネの研究室へ、火砲支援の中を真っ直ぐに突っ切ることで首魁に強襲する。
「砲弾の雨、飛び散る瓦礫……滾りますね」
片目を眇めた彼女はひといきにドクトル・マシーネの前に陣取った。
復讐者の到来を察知していた敵は両腕と共に他の腕を広げ、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「おやおや、無粋な訪問者ですね。まぁ、私の実験台になりにきてくれたのですからとやかくはいいませんがね!」
「お出迎えありがとうございます。どうやら復讐者の身体にもご興味があるようですね」
ドクトル・マシーネが皮肉を混ぜた言葉で迎えたので、クリスタも同じように返す。双方の視線が激しく重なったとき、後方にハインツも突入してきた。
彼がフライトドローンをクロノヴェーダに向かわせた瞬間、クリスタも床を蹴り上げて跳躍する。
「徒手にてお相手してさしあげましょう」
撓る撥条の如く、勢いに乗せて振るった拳がドクトル・マシーネに迫る。これはクリスタの生まれ持った力。高密度に練り上げた身体はきっと、研究のし甲斐があるはずだ。
「クク……これは面白い!」
「実験にお付き合いしますよ。そのアームで、俺の力を抑えられれば、の話ですが」
対する敵は背中から伸びる手術用腕でクリスタを迎え撃った。拳がぶつかり、注射針が接合された腕がクリスタを掠めたかと思うと、続けて鋭いメス付きの腕が振るわれる。
敵からの一撃を蹴撃で受け止めていなしたクリスタは身を翻した。
そうした理由は、ハインツが再び幻影の砲兵隊に攻撃指示を出したからだ。ああしてクリスタが陣頭に出てくれている今、ハインツの役目は支援射撃に徹すること。
正面で敵を受け止めているディアボロスに如何に活躍させうるか。
「これが私の責務だ」
退役した今も、参謀として軍に属していた時の勘と経験則は衰えていない。大口径火砲による更なる攻撃が行われていく中、ハインツは兵達を指揮する。
「――砲撃は止めるな。そして正確に行え。間違ってもディアボロスに当てるなよ!」
幻影兵達はハインツの言葉通りに砲撃を続けていった。
その勢いがドクトル・マシーネの腕を穿った瞬間、クリスタが追撃を与えに走る。ノコギリめいた部位のアームが砲撃を弾き、クリスタに振り下ろされた。だが、彼女は怯みなどしない。
「罪なき人々の尊厳を蹂躙してきた報いを受けるときですよ、ドクトル」
刹那、振るわれた拳が首魁の身を穿つ。
「ぐああッ!?」
その一撃はドクトル・マシーネの身体を一気に吹き飛ばすほどの力となっていた。彼女の細腕のどこに、それほどの力があるのか。答えは重さにあった。
クロノヴェーダはぎりぎりと奥歯を噛み締め、クリスタ達を忌々しげに見つめる。
「小癪な……さっさと私の実験台になればいいものを!」
「頷けない案件だ」
ドクトル・マシーネが手術用のライトを激しく明滅させる中、ハインツは首を横に振った。敵は解体手術をせんとしてアームを蠢かせたが、ハインツは味方砲兵を身代わりにするように動く。
このようなことが出来るのも、実在する兵士ではない影法師であればこそ。
「さて、ここからも容赦なくいくとするか」
ハインツが新たな砲撃を兵達に願い、頷いたクリスタも拳を強く握り締めた。この事件の首魁であるドクトル・マシーネが倒れるまで、二人は決して攻撃を止めない気概でいる。
クリスタは真正面からクロノヴェーダを見つめ、勝利に向けての宣言を言葉にする。
「俺が……いえ、俺達がきちんと地獄へとご案内します」
「見せてやろうではないか。――火力とは、こういうものを言うのだとね」
駆けるクリスタ。砲撃を放つハインツ。
ディアボロス達の戦いは此処から、更に激しく続いていく。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV3になった!
三苫・麻緒
ふえーん、寝過ごしたー!
あの睡眠薬、おいしくてそれなりに近くでドンパチしてても爆睡できるくらい効果抜群とか聞いてないんだけどー!?
なんか悔しいし、最初からそのつもりだったしいいよね
全力で一発入れてやるんだからー!
相手が会心の一撃を放てない状況を作りにいきたいな
それなりに間合いをとって、腕の可動部や腕についた装置付近を狙っていくね
何度でも何度でも、小刃が作れなくなるまでぐっさぐっさいっちゃおう
ブレスレットに魔力は蓄えてあるから、弾切れの心配は無用だよ
動き回って的にならないように気を付けつつ、回避しきれない小刃は≪誘導弾≫≪高速詠唱≫で迎撃!
多少は我慢するけど、致命傷だけは避けないとねー
エリル・ウィスタリア
あらあら。あなたがドクトル・マシーネさん?
…少々おいたが過ぎたようね。
罪なき人々の尊厳を踏みにじったその報い、受けて貰うわ。
正面から行きましょう。
ねえ、私あなたみたいな人、大嫌いなの。
私たちに好き勝手してくれた人を思い出しちゃうから。
だから、容赦しなくて、いいよね?あなたの返事は聞いていない。
「地形の利用」ので少しでも有利な位置取りを狙いましょう。攻撃は弟人形に庇ってもらうか、避け切れないのであればいっそ反撃に転じましょう。
攻撃は最大の防御とも言うものね。
出来るだけ全力で攻めて、遠くから攻撃する人たちが戦いやすいように動くわよ。その場に釘付けに出来るならなお良しね。
さぁ、私たちと踊りましょう?
枸橘・蕙
ゆるせないのはこっちの方だ、人さらいの親玉!
人さらってカイゾーとか『自分じゃまともなのが作れませーん』って言ってるよーなもんじゃんか
大砲でドカンドカンしてもらってるし、おれもつっこんでくる!
【リアライズペイント】で人さらい書いて、ぶつけてやるんだ
自分のことは自分でおかたづけするって、教えてやるぜー!
でも完成までこっそりしときたいし、描いてる時は『光学迷彩』で隠れとこ。逃げながら描きたい時は、『フライトドローン』に乗っかるんだ
おれが描いた方は長くがんばらせたいし、やばそーな攻撃とか来ないかって観察もしとく
おれたちに向いた攻撃じゃなくても、「なんだかやばいぞ」ってみんなに教えたりもできるもんな
●重ねる意志
「ふえーん、寝過ごしたー!」
三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)は大いに嘆いていた。
その理由は睡眠薬入りのビスケットの効果があまりにも凄かったからだ。良くも悪くも、眠りを誘う菓子と麻緒の相性が抜群だったということ。とても悔しそうな彼女の傍には、エリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)と枸橘・蕙(そらを描く・g02980)がついている。
「大丈夫よ、そのお陰で捕まっていた人達が逃げられたんだから」
「そうだ、わるいことばかりじゃなかったぜ!」
二人は麻緒も立派に役に立っていたと話す。
麻緒が牢に残っていてくれたお陰で、囚われた人々が逃げ出したことに暫し気付かれなかった。つまり麻緒は最後の最後まで敵の目を引き付ける囮としての役目を見事に果たしたのだ。
「ビスケット、妙においしかったから悔しい! でも最初からそのつもりだったしいいよね」
それにしっかりと休んでいたお陰で体調は万全。
首魁を斃す戦いに麻緒と共に挑めることも、エリルと蕙にとっては頼もしいと思えることだ。
「終わりよければ全てよし、とも言うわ。行きましょうか」
「うん! 全力で一発入れてやるんだからー!」
「ゆるせないのはこっちの方だからな。ぜったいに勝とう!」
其々の意気込みを抱いたエリルと麻緒、蕙。
三人は陣頭に立って突入した復讐者に続き、ドクトル・マシーネの研究室に突入した。此方を一瞥したクロノヴェーダは眸を鋭く細め、ニヤリと笑う。
「おや、新たな実験台が来てくれたようですね。どれも活きが良さそうで助かります」
「あらあら。あなたがドクトル・マシーネさん?」
視線を返したエリルが問うと、敵は不敵な笑みを崩さぬまま答えた。
「ええ、私の名前を調べてきたとは良い心掛けですね」
「残念だけど、誰も実験台になんてならないよ!」
「そうだ! 人さらいの親玉め! 人さらってカイゾーするとか『自分じゃまともなのが作れませーん』って言ってるよーなもんじゃんか」
続けて麻緒と蕙が否定と抗議の言葉を向けると、ドクトル・マシーネは可笑しそうに笑った。その背では手術用のアームが蠢いており、今にも蕙達に襲いかかってきそうだ。
「私の崇高な改造手術の価値がわからないとは、哀れなヒト達ですね」
此方を見下し、憐れむような視線が向けられている。
エリルは頭を振り、相手と自分達では根本的な考えが違いすぎるのだと実感した。人々の命を弄ぶことの何が崇高であるのか、理解できないし分かりたくもない。
「……少々おいたが過ぎたようね。罪なき人々の尊厳を踏みにじったその報い、受けて貰うわ」
凛と言い放ったエリルが床を蹴り上げ、風華の太刀を抜き放った。氷のように透き通った刃がドクトル・マシーネに向けられた瞬間、雪の結晶が舞い散り始める。
呪刃が敵に振り下ろされ、鋭い斬撃となって巡った。ドクトル・マシーネは改造手術糸を解き放つことでエリルに対抗してくる。真正面からぶつかりあった力が激しい火花を散らせた。
「くく、報いなど必要ありません」
「そう……。ねえ、私あなたみたいな人、大嫌いなの」
「私達は初対面ですが、随分な言い様ですね」
「だって私たちに好き勝手してくれた人を思い出しちゃうから。だから、容赦しなくて、いいよね?」
「何を――」
「あなたの返事は聞いてない」
エリルは容赦のない一閃をドクトル・マシーネに放ち、大きなダメージを与えた。それによって敵の体勢が揺らいだことに気付き、蕙が一気に攻勢に出る。
「これ以上、誰かをカイゾーなんてさせるか!」
蕙は他の仲間達が放っている攻撃に合わせ、勢いよくペイントツールを振り上げた。
其処に描くのは敵の姿。本物と比べるとかなり愛らしいタッチで記された偽のドクトル・マシーネが空中に現れ、線で描かれた機械腕を何本も蠢かせた。
「自分のことは自分でおかたづけするって、教えてやるぜー!」
名を付けるならばペイント・マシーネだろうか。ペイントは敵が反撃として放ってきたレーザーメスを真似ていき、光の小刃を解き放ち返していく。
其処へすかさず麻緒が魔力の翼の一部を伸ばした。
「妙な手術はお断りだよ!」
レーザーメスが麻緒にも迫ってきたが、充分に間合いを取っていたので受け止めていなすことは容易だ。麻緒はドクトル・マシーネの腕を狙い、可動部や手術装置を狙っていく。
その狙いは相手が致命的な一撃を放てない状況を作りにいくこと。
エリルが果敢に斬り込み、蕙がペイント・マシーネと共に攻撃を放っていく。傍に二人がついてくれているだけではなく、援護をしてくれる仲間だって此処にはたくさんいる。
麻緒はドクトル・マシーネを強く見据え、穿つ鎖を更に解き放った。
「ちくっとするくらいじゃ済ませないからね。改造された人達はもっと痛い思いをしただろうから……!」
何度も、何度でも。
あの光の小刃が作れなくなるまで力を揮い続けるだけ。決して手を緩めないことを決めた麻緒は、翼を経由して電流めいた魔力を流し込んでいく。
全力で向かい続けても、金緑石と銀のブレスレットに蓄えた魔力があるので弾切れの心配は無用。
「このままやっつけちゃおうぜ!」
「ええ。私達の力を合わせましょう」
蕙はフライトドローンに乗り、素早く移動しながら新たな絵を描いていく。頷いたエリルは銀糸を操ることで弟に自分を庇って貰い、麻緒も致命傷を受けることを避けていった。
「痛いのだって我慢していくよ!」
麻緒は耐えず動き回り、自分だけが的にならないように立ち回る。しかし、エリルや蕙にも傷付いて欲しくはないので、自らレーザーを引き付けることも忘れていない。
「おれだってみんなの力になりたい!」
蕙も麻緒と一緒に戦場を翔けていき、ドクトル・マシーネを翻弄していく。
「ぐぬぬ……人の真似ばかりして厄介な子供ですね!」
「へへーんだ!」
ペイント・マシーネを睨みつけた敵は忌々しげな言葉を返す。蕙はわざと笑ってみせ、ドローンから敵の様子を窺う。もし危なそうな兆候が見えたなら皆に報告するためだ。
しっかりと観察をしてくれている蕙に警戒を任せ、エリルは弟と共に前に出た。
攻撃は最大の防御ともよく云われる。エリルはちょうど横に訪れた麻緒と視線を交わし、次の一撃の準備を整えた。麻緒は頼もしさを抱きながら、再び魔翼を広げた。
「今だよ、一気に行こう!」
「さぁ、私たちと踊りましょう?」
「おれもやってやるぜー!」
ミントグリーンに煌めく魔力と穿つ鎖の一閃。雪華と躍るような透き通った剣閃。そして、ペイント・マシーネが放つ鋭いメスの攻撃。それらがひといきにドクトル・マシーネを深く穿った。
「おのれ……なかなか、やりますね……!」
相手はよろめきながら呟く。こうして敵の視線を此方に釘付けに出来たならば、あとは――。
全力で攻めて攻めて、攻め続けて、勝利を得るだけ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【液体錬成】がLV3になった!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV3になった!
エンデ・トロイメライ
あとは敵を倒すだけ。……正直気乗りしないけど、奴は気に入らないし。それじゃ、コロそうか。
SCHATTENで声を変え全身を隠し別人として潜入。コロしの時に顔見せるのもね。
正直アタシ強くないからさ……ヒトはともかくクロノヴェーダと戦うのほぼ初めてだから。
だから使えるものは使う。残留効果【光学迷彩、先行率アップ】を適応。
ギリギリまで静かに近づき強襲。GRAUSAMを再構成して作ったナイフで目を狙い隙を作る。
その流れで即座に脚払い、腹に蹴り、首にナイフを突き立て反撃の隙を与えない。
最後は突き立てたナイフを爆弾に再構成して爆破。
(思い出すのは刻逆前、暗殺者だった頃)
やっぱ普通に人助けする方が気分良いや。
ヘルガ・ブラッドウォーデン
嗚呼、――なんて不愉快
こんなものが「在る」なんて、私は1秒だって耐えられない
戦争だ、なんて言ってあげない。これは一方的な“殲滅”だ
ディガーパックのアームとブッチャーピートの巨大な刃で研究所の壁面をぶち抜いてそのまま奇襲
気づかれたって構うものか。突撃、突撃、突撃
敵の攻撃は防壁とか手甲とか、あとはディガーパックで瓦礫をぶん投げたりして防御。身体の傷の十や二十は安い安い
可能ならほぼ回避しようがない密着距離がいい
奴の胸倉でも片腕でも捕まえて、そのどてっぱらに『嘆きの一撃』をぶち込む
その一撃で足りないなら一緒に拳も叩き込む
たかが解体された程度で止まると思っているなら、甘く見過ぎだよ
砕け散れ
●屠る為の力
人間を機械兵に改造する部屋、通称研究室と呼ばれる場所からは血の匂いがした。
工場に訪れたヘルガ・ブラッドウォーデン(死銀の硬貨・g00717)は、ディガーパックのアームとブッチャーピートの巨大な刃を展開する。その勢いのままに研究室の壁面をぶち抜いたヘルガは一気に奇襲を仕掛けた。
「おっと!」
この事件の首魁であるドクトル・マシーネはヘルガの一撃を手術アームの一本で受け止める。察知されはしたが、ある程度の衝撃を与えられたことを確かめたヘルガは眉を顰めた。
「嗚呼、――なんて不愉快」
手術台に医療器具、様々な機械部品。血の痕や余った部位。嫌がる人々を無理矢理に改造したであろう痕跡が、部屋のそこかしこに見えていた。
「こんなものが『在る』なんて、私は一秒だって耐えられない」
「……そうだね」
ヘルガと同時にこの場に訪れたエンデ・トロイメライ(エピローグ・g00705)も、同じ思いを抱いていた。
しかし、あとは敵を倒すだけ。
「正直気乗りしないけど、奴は気に入らないし」
「戦争だ、なんて言ってあげない。これは一方的な“殲滅”だ」
「――それじゃ、コロそうか」
目的と意思を同じくしたエンデとヘルガは標的に目を向ける。対するドクトル・マシーネはヘルガを一瞥すると、卑しい笑みを浮かべた。
「どれだけ来ようとも、返り討ちにしてやりますよ」
「……そう」
相手の言葉を軽くあしらったヘルガは敢えて目立つ位置取りで動いていく。
協力しようと決めたエンデが、目立つ強襲よりも静かな奇襲を行うと察していたからだ。
エンデはボイスチェンジャー付きの黒仮面とフード付きのマントを装着しており、普段とは違う姿になっている。これは任務を遂行するときの特別な装いだ。
(「コロしの時に顔見せるのもね」)
正直を言えば、エンデは自分が強くないと思っていた。ヒトはともかく、あのようなクロノヴェーダと戦うのはほぼ初めてとも言える。それゆえに使えるものは使うだけだ。
物陰に身を潜め、敵の目から逃れたエンデはヘルガの様子を見遣る。彼女は極厚の刃を持った大剣で以て、ドクトル・マシーネを穿ちに掛かっていた。
敵がそちらに気を取られている間にエンデは察知されるギリギリの位置まで静かに近付いていく。その際に自身の身体を構成するナノマシンを再構成していき、ナイフを作っていった。
そして――エンデは敵の目を狙い、刃を投擲する。
当たれば大成功。そうでなくとも隙を作ることが出来れば僥倖。ヘルガの援護としても投げられたナイフは一直線にドクトル・マシーネに飛んでいった。
「……!」
ち、と敵から舌打ちが聞こえる。目元を掠めたナイフは直撃こそしなかったものの、散った血によって相手の視界を一瞬だけ奪った。たった一瞬であっても隙は隙。
すかさず打って出たヘルガは、ドクトル・マシーネの手術用アームを避けながら吶喊する。
大振りであっても、気付かれていても構わない。
「喰らえ――!」
突撃、突撃、突撃。
ブッチャー・ピートによる斬撃。それに加えて己のアームで以て、突入と同時に出来た瓦礫を掴んで投げる。
「この、小娘が……!」
体勢を立て直したドクトル・マシーネのアームがヘルガの身を引き裂いた。されど、ヘルガにとっては身体の傷など気にする事柄ではない。十や二十ならば安いと感じる程度のものだ。
(「……今だ」)
その間に更に距離を詰めたエンデが敵に脚払いを仕掛けた。敵はアームで体勢を整えたが、エンデは構うことなくその腹に蹴りを入れ、首にナイフを突き立てる。
そうして、エンデはヘルガに視線で合図を送った。
刹那、跳躍した二人はドクトル・マシーネからかなりの距離を取った。後はエンデが突き立てた刃を爆弾に再構成してから爆破させるだけで――。次の瞬間、爆音が響いた。
「何……ッ! お前達、最初からこうすることを狙っていたのですか!?」
エンデの爆弾をまともに受けた敵はよろめく。
二人の見事な連携に翻弄されたドクトル・マシーネはまだ動ける体力を保っているようだが、爆発によって一本のアームを失っていた。しかし、復讐者の攻撃はそれで終わりではない。
再び距離を詰めたヘルガはほぼ回避しようがないほどに敵と密着する。その勢いで胸倉を掴んだヘルガは、敵の腹に激しい一撃を叩き込んだ。
「嘆きの叫びよ、大地を呪え」
魔剣から打ち込まれていく悪性情報はドクトル・マシーネの身を深く穿った。
「う、ぐ……まだまだですよ!」
対する敵もヘルガを解体しようと狙ってくる。だが、たかがその程度で止まるヘルガではない。
「そのくらいで良いと思っているなら、甘く見過ぎだよ」
「アタシ達の攻撃だってまだ終わらないよ」
相手がまだ倒れないならば、その力がすべて失われるまで相対するのみ。
ヘルガとエンデはドクトル・マシーネを睨みつけ、此処からも全力で戦い抜くことを宣言した。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV2になった!
クロエ・マイネリーヴェ
弱気を弄り、人を人とも思わんその所業。
気に食わん、気に食わんぞ。その過ぎた思い上がりは。
―――我らが『怒り』を受けるがいい。
すでに研究室に拘束されていた人間がいれば、フランツに任せる。
奴の相手は、私がする。
奴の間合いに入る前に軽機関銃の弾幕で牽制。
帯電させた銃弾で機械の故障、また目眩ましを狙う。【電撃使い】
手術用アームの間合いに入る瞬間、全速力で背後の壁へ【ダッシュ】
逃げ場を無くしたと思うか?
【壁歩き】で壁を足場に、天井へ飛ぶ。天井すらも足場となる。
手が何本あろうと貴様の目は二つだろう。真上、取ったぞ。
火の粉を撒き散らし頭上から叩き斬る。
私の『怒り』を存分に焼べろ。
「灯せ、“ブレンホルズ”」
上賀茂・頼人
許せない……? それはこっちの台詞だ
程度が低いだのなんだの見下して、勝手な理由で人を測りやがって
おれはお前みたいなやつが一番嫌いだ
おれを見た目で貧民街の出だと判断して、蔑んで攻撃してくるんだろう
手術糸は甘んじて受ける
心も体も痛みに耐え忍ぶのは慣れてるから
でも針が刺さった瞬間にカウンターで、金属製の糸を通して気絶するくらいの電撃を全力で流してやる
背中の機械ごと痺れちまえ
動きが鈍ったら別雷神を構えてとっておきの一撃だ
もし電撃の余波で工場の自爆システムまでおかしくなったら焦るかな
今更後悔したってもう遅い。弄ばれた命は戻ってこない
だから、お前が直接行って謝ってこい
誰からも許してもらえないと思うけどな!
奉利・聖
さぁ、最後のゴミ掃除といきましょうか
最早残されたものはありませんよ
我々の憂いも消え失せ、他のゴミは全て処理されました
最後に、容赦なく、躊躇なく、咎めなく
──お掃除を完遂させて頂きます
【エイティーン】で肉体を成長させて強化
【壁歩き】があるので三次元的な動きも可能でしょう
雑多な攻撃は狙いを<看破>し、機動力で回避しまし
手術用アームの一撃が本命…それに合わせましょう
『衝気功』
浸透する気功打を準備します
伸びて来るアームと打ち合うように、強烈な一撃を繰り出します
浸透する衝撃…手術用アームを伝い、その身体へと染み渡るはず
そこで気が破裂すれば…甚大なダメージは免れませんね
さぁ、破壊し尽くしてやりますよ
●怒りの焔
絶対に許せない。
ドクトル・マシーネは先程、そのような言葉を口にしていた。工場の機械兵達を壊され、囚えていた人々を復讐者達が脱出させたことに対しての怒りの言葉なのだろう。だが、その憤りも所業も道理に合わない。
「許せない……? それはこっちの台詞だ」
上賀茂・頼人(梨の礫・g01455)はドクトル・マシーネを睨み付けた。
研究室と呼ばれている部屋では既に戦いが巡っている。クロノヴェーダの手術用アームから繰り出されるレーザーメスや解体の為の攻撃は鋭いものだ。
クロエ・マイネリーヴェ(帝都のクロエ・g03850)は攻防を繰り広げながら、改めて敵を見据える。
「弱気を弄り、人を人とも思わんその所業。気に食わん、気に食わんぞ」
過ぎた思い上がりも、これまでに彼が行ってきたことも、クロエ達にとっては――特に本来のドイツを知っている者にすれば、冒涜そのもの。ゆえに怒りを燃やすのは此方だ。
奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)は頼人とクロエの中にある感情を感じ取り、そっと同調する。
ディアボロスの根源は怒り。
表現の仕方の違いや度合いはあれど、此処に集った皆が同じ思いを抱いている。
「さぁ、最後のゴミ掃除といきましょうか」
聖は復讐者としての力を巡らせ、己の身体を成長させていた。先程の戦場で拾った機械兵用の砲を構えた聖は真っ直ぐにドクトル・マシーネを見据えている。
最早、この工場に残されたものは何もない。
復讐者達の憂いも消え失せ、内部に闊歩していた他のゴミも全て処理してきた。
「最後に、容赦なく、躊躇なく、咎めなく――お掃除を完遂させて頂きます」
「――我らが『怒り』を受けるがいい」
聖が攻撃を躱すために動いた刹那、クロエもパンツァーハウンドのフランツと共に素早く立ち回っていく。
既に研究室に誰かが捕まっていたら、と考えていたが此処には首魁しかいない。もう少しばかり復讐者の行動が遅れていたらならば、一般人の誰かが実験台になっていたのだろうか。だが、そうはなっていない現状は完璧に事が進んだ結果を示すものだ。
「ははは! 雑魚どもが徒党を組んだとして何が出来るのです?」
手術用アームで対抗するドクトル・マシーネは笑っているが、徐々に復讐者に押されているのは明白だ。それでも余裕を保っているように見せているのだろう。
彼の言葉の端々には貧民や弱者を見下す思想が見えている。
程度が低い、価値がない、蔑まれて当然。そういった意思を感じ取った頼人は唇を噛み締めた。
「勝手な理由で人を測りやがって。おれはお前みたいなやつが一番嫌いだ」
つい思い返しそうになった過去の出来事を振り払い、頼人は己の身に雷を纏わせる。疾く駆け、敵が放ってくる改造手術糸を避け、時には受けて痛みを受け止めた。
鋭い痛みが走ったが、警戒をしすぎて敵に近付けなくなるのは本末転倒だ。甘んじて受ける頼人は痛みなど感じていないように振る舞い、別雷神の銃口を向け続けた。
心も体も痛みに耐え忍ぶのは慣れている。だが、今だけはひとりぼっちではない。
頼人の傍にはメーラーデーモンの葵がついていた。それにクロエと聖、他の仲間達が援護に入り、頼人自身も彼女達の補助に回っていく連携が行われている。
「無理をするな。奴の相手は、私がする」
クロエも同じ怒りを持つ者として、頼人の気持ちを慮った。
彼の邪魔をしない絶妙な間合いを保って立ち回るクロエはドクトル・マシーネの間合いに入りながら、軽機関銃の弾幕を解き放つ。牽制となった銃弾の雨はクロノヴェーダを鋭く穿っていった。
そして、クロエは帯電させた銃弾で周囲の機器やドクトル・マシーネの身体の故障を狙っていく。
「くく……それが私に通じるとでも?」
「通じなくともいい。無理にでも通すだけだ」
敵から嘲笑が向けられたが、クロエは目眩ましを狙った電撃を放っていった。そうして手術用アームの間合いに入った瞬間、クロエは全速力で背後の壁に駆ける。それを追ったドクトル・マシーネが注射器のアームを伸ばしてきた。
「ちょこまかと厄介な娘ですねえ!」
「私が逃げ場を無くしたと思ったか?」
行き止まりに思えても、此処には復讐者の力が満ちている。壁を足場にしたクロエは高く跳び、天井すらも足場として縦横無尽に駆け巡った。
アームに捕らわれぬよう、常に動き回っているのは聖も同じ。
的確な砲撃を与え、弾がなくなったところで素早く砲を放り投げた聖は身構え直す。壁や天井への移動を繰り返し、相手を翻弄するように動く聖は上手く立ち回っている。
「ほら、こっちですよ!」
「そちらの若者も邪魔で仕方ありませんね」
クロノヴェーダの意識を自分に向けさせながら、聖は手術アームを避けた。ノコギリめいた腕で切り裂かれればひとたまりもないが、聖は致命傷を見事に躱している。
「手術用アームの一撃が本命……なら、それに合わせましょう」
「おれもいっしょにやる。同時にいけば、おれの力が効くかも」
「ああ、私も同じことを思っていた」
小声で呟いた聖の隣に、戦場を駆け巡っていた頼人とクロエが降り立った。敵に聞こえないように言葉を交わした三人は視線を重ね、一気に散開する。
クロエは左側壁へ、聖は逆側の壁に。頼人は真正面へ。
「分散したって無駄ですよ! 私の腕はお前ら全員を貫きますからねえ!」
ドクトル・マシーネはアームを蠢かせ、それぞれの方向に刃や注射器、メスを向けた。だが、頼人はそんなものには怯んだりしない。向けられた針を避けることはせず、敢えて受けた。
「……!」
「さあ、動けなくなっておしまいなさい!」
「いやだ。背中の機械ごと痺れちまえ」
頼人は自分に針が刺さった瞬間を狙い、手を伸ばして金属糸に触れる。其処から少年が巡らせたのは、常人ならば一瞬で気絶してしまうほどの全力の電撃。
苦しげな呻き声がドクトル・マシーネから零れ落ちた瞬間、頼人は別雷神によるとっておきの一撃を放った。
雷鳴が如き音と共に銃口から放たれる亜光速の一閃が轟く。だが、敵の攻撃を受けたことと、反動を受けた頼人の身体が大きく吹き飛ばされた。
「フランツ、少年を頼む」
クロエは即座に危機を察知し、パンツァーハウンドに彼の補助に回るよう願った。駆けたフランツと同時に葵が頼人の背に回り込み、倒れそうだった身体を支える。
同様にドクトル・マシーネの体勢も揺らいでいた。
聖はすかさず衝気功を叩き込みに駆ける。体内エネルギーに外界から取り込んだ自然エネルギーを混ぜ合わせたその力は、全てに浸透する一閃となってゆく。
「これでもくらって、大人しくしていてください!」
聖は自分に伸びて来るアームと打ち合うようにして、拳を繰り出す。一撃ずつが強烈な打撃はアームの一部を圧し折り、注射器やメスを使い物にならなくしていく。
それにこの衝撃は手術用アームを伝って、ドクトル・マシーネの身体そのものに染み渡るはずだ。
「こ、これは……!」
「僕が送った気が破裂したらどうなるか。それはご自分の身でお確かめください!」
「!?」
ドクトル・マシーネは聖の攻撃の意味に気付いたらしいが、時既に遅し。甚大なダメージは免れられないと知った時にはもう、敵の身にかなりの衝撃が走っていた。
其処に駆けたのはクロエだ。
ドクトル・マシーネの機械腕は今も反撃に入ろうと蠢いているが――。
「手が何本あろうと貴様の目は二つだろう」
真上は取った。
駆け上がった天井を蹴ったクロエは、火の粉を撒き散らしながら一気に降下する。その狙いは敵の頭上から攻め込み、アームや身体を叩き斬ること。
「私の『怒り』を存分に焼べろ。――灯せ、“ブレンホルズ”」
弾ける音を立てて燃えるのは薪の剣。飛び散った火の粉は瞬時に大火と化し、戦火の如く迸った。頼人も更なる雷撃弾を撃ち込みながら、敵を瞳に映す。
ドクトル・マシーネに残された道は完膚なきまでに壊される未来のみ。
「今更後悔したってもう遅い。弄ばれた命は戻ってこない。だから、これは報いなんだ」
「さぁ、破壊し尽くしてやりますよ」
頼人と聖は強く言い放ち、更なる攻撃に入る為に身構え直した。
この戦いの終わりが訪れる時もあと僅か。復讐者達は怒りを燃やし、己の力を揮い続けていく。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【エイティーン】がLV2になった!
効果2【ロストエナジー】がLV2になった!
【先行率アップ】がLV5になった!
【リザレクション】LV1が発生!
本郷・夏深
まさかディアボロスも実験対象として見るなんて
身の程知らずも度を超えると実に愉快なものですねえ!
そのおめでたい頭も、見方を変えれば恵まれていると言えるかもですね
【双翼魔弾】に「命中アップ」「アヴォイド」
敵のアームは飛翔して躱したり引き付けたりしながら
閉じた扇で差した部位へと魔力の弾丸を撃ち放ちます
他の方へと向かうアームへも弾丸を放って妨害して差し上げたく
かと言って遠巻きに撃っているだけでは物足りませんので
不意を狙って、翼と扇を大きく広げて急降下・急接近
そんなに沢山腕があるのですから、別に一本くらい失ったって構わないでしょう?
私に直々に斬り落としてもらえるという幸運に恵まれて本当に良かったですね!
六識・綜
お前を守る兵隊も、お前が欲していたものも
何一つ、残されていない
あとは、この世界の歴史のごみ箱に行くだけだ
ドクトル・マシーネ
おれは、お前の趣味の悪い遊びに付き合う気はない
フライトドローンを囮に使いながら
ドクトルマシーネの死角や研究室の遮蔽から撃つ
厄介そうな手術用アームや腕の装置を【命中アップ】の効果を得た
リボルバーで優先的に狙い撃ち
手術糸に絡まれた場合はナイフで断ち切る
お得意の手術が出来なければ、もうドクトルですらない
武装を破壊出来た後は、頭部を狙って【心象】
この感覚に、慣れたいとは思わないが
……いつか、慣れるだろうな
これからも、戦いが続くなら
終わった後は、素早く脱出路へ
まだ、やる事は多い
●決着への道筋
これまで、多くの人々の改造手術が行われていた工場の研究室。
其処に響き渡る轟音は、この場所で行われている戦いの激しさを表すものだ。繰り広げられる戦いに身を投じている本郷・夏深(逢魔が夏・g00583)と、六識・綜(史家・g00749)は果敢に力を揮い続けている。
対するドクトル・マシーネは何本かのアームを折られており、かなり追い詰められていた。
「おのれ、おのれ! 実験台のくせに……!」
抵抗する敵は忌々しげに復讐者達を睨んでいる。その視線を受け止め、肩を竦めることで返答とした夏深は、貪欲の名を冠する扇で自分を仰いだ。
「まさかディアボロスも実験対象として見るなんて、身の程知らずも度を超えると実に愉快なものですねえ!」
そのうえ、この状況であっても此方を改造できると思っているらしい。
そのめでたい頭も、見方を変えれば恵まれていると言えるかもしれない。辛辣ながらも相手をある意味で認めている夏深は翼を広げた。
其処から放たれた魔弾はドクトル・マシーネの身体を容赦なく貫いていく。
綜も攻撃の機を合わせて発砲しながら、リボルバーの銃口を敵に差し向け続けた。あの身体が崩れ落ちるのも時間の問題だが、ドクトル・マシーネは尚も抵抗を続けている。
「お前を守る兵隊も、お前が欲していたものも、何一つ、残されていない」
「だから何だと言うのです! この腕があればまた造り直せるでしょう」
「いいや」
反論する敵に対し、綜は否定の意思を示した。
囮に使ったフライトドローンは既に撃ち落とされているが、綜は攻撃を仕掛け続ける。仲間によって工場の壁が壊されたことで出来た瓦礫や、改造材料が積み上げられた死角に回り、ただひたすらに銃弾を打ち込んでいく綜。彼は、ドクトル・マシーネ、とクロノヴェーダの名を呼ぶ。
「あとは、この世界の歴史のごみ箱に行くだけだ。おれは、お前の趣味の悪い遊びに付き合う気はない」
「その通りです。このカフカだって、そろそろ飽き飽きしてきたところですよ」
綜の静かながらも凛とした声に頷き、夏深は閉じた扇を敵に差し向ける。耐久力があってしぶといことは分かったが、ドクトル・マシーネとの戦いもいい加減に終わらせるときだ。
魔力と銃の弾丸を撃ち込み続ける二人は、決して射撃を外すことなく確実に敵を貫いていった。
厄介なことに手術用アームは見る間に崩れ落ち、仲間への攻撃は防がれていく。それでも巡らされていく手術糸は、瞬く間に綜に絡みつく。
だが、彼は素早く取り出したナイフで糸を断ち切った。まだドクトル・マシーネに繋がっている方の糸を強く引けば相手の体勢が大きく崩れる。
綜が作ってくれた隙を逃さず、夏深は素早く翔けた。
振り回されるアームの間を擦り抜け、飛んだ夏深は翼と扇を大きく広げて天井近くまで上昇した。鋭い降下からの急接近を狙い、夏深は扇の先を敵に差し向ける。
「そんなに沢山腕があるのですから、別に一本くらい失ったって構わないでしょう?」
「く、う……一本どころか殆ど奪っていったというのに、まだ私から取る気ですか!」
夏深の魔弾が至近距離からクロノヴェーダを穿った。
彼の言葉通り、復讐者達はアームを折り、穿つことで敵を追い詰めていた。されど相手はそうされても致し方ない程の悪事に手を染めてきた者だ。
これが当然の報いだとして、綜も追撃に入っていく。
「お得意の手術が出来なければ、もうドクトルですらない」
頭部を狙い、銃弾に絶命の呪いを施した綜は銃爪を引いた。刹那の間に銃弾が解き放たれ、敵の頭を見事に貫く。
やはり、この感覚に慣れたいとは思わない。
だが――。
(「……いつか、慣れるだろうな。これからも、戦いが続くなら」)
痛む心を抑え込んだ綜は一度だけ瞼を閉じ、気持ちを落ち着ける。そして、瞼をひらいた綜は夏深に視線を送った。ドクトル・マシーネのアームや身体、半機械の頭部は崩れかけている。
後はこの場に集う全員で、あのクロノヴェーダに終わりを与えるだけ。
最期を齎す猛攻。その先陣を切った夏深はひといきにドクトル・マシーネに肉薄した。視線と視線が間近で衝突しあう程の距離で、夏深は貪欲の扇を鋭くひらく。
「私に直々に斬り落としてもらえるという幸運に恵まれて本当に良かったですね!」
次の瞬間、最後に残っていた手術用アームが床に落下した。
舞踊が紡がれていくかのように、華麗に身を翻した夏深はドクトル・マシーネから距離を取る。それは、これから追撃を重ねていく仲間達の斜線をあけるためで――。
●秘密工場の終わり
「何故……! どうしてこの私が敗北を喫しなければならぬのですか!」
ドクトル・マシーネの声が響き渡る中、麻緒とエリルがそれぞれの力を叩き込みに駆ける。
「悪いことをしたからに決まってるでしょー!」
「この期に及んでまだ抵抗するのかしら?」
魔力の翼が伸ばされ、敵を縛って穿つ鎖の如く迸った。電流が走ったかのような衝撃が敵に与えられたかと思うと、弟がドクトル・マシーネを蹴りあげ、エリルが振り下ろした神蝕の呪刃が繰り出される。
「――砕け散れ」
更に其処に続いたのはヘルガだ。
魔剣の力に一本の槍に変え、投げ放つ音速超過の一撃は、猛毒の如く巡っていった。エンデもナノマシンを変異させることでヘルガの一撃を更に後押しする。
その際にエンデがふと思い出したのは己の過去。暗殺者として生きていた頃の記憶だ。
「やっぱ普通に人助けする方が気分良いや」
ぽつりと零したエンデの言葉は、激しい戦いの音に紛れていった。そして、よろめくドクトル・マシーネに向けてハインツが砲兵火力を轟かせ、綜が銃撃の援護を行う。
「終わらせようか」
「ああ……」
「ドカンドカンして、ガンガンやっちゃおうぜ!」
砲兵隊による蹂躙と綜の一撃に合わせ、蕙がペイントツールを高く掲げた。改めて描かれたマシーネの姿をした絵は鋭いメスを振るいながら、クロノヴェーダの身を貫いてゆく。
「さあ、潔く終わると良いですよ!」
「幕引きだ」
夏深がもう一閃を繰り出す最中、クロエの怒りが再び燃え上がる。
灯せ、という言葉と共にぱちぱちと弾ける音が響き渡り、熱き力となって戦場に広がった。クロエ達の斬撃と火がクロノヴェーダを包み込む様を見遣り、聖も気を練っていく。
「では、最後まで遠慮なく参ります!」
衝気功の一閃がドクトル・マシーネの胸に叩き込まれた。この浸透打撃は堅牢なゴミも片付けられる。これで楽々お掃除です、と語った聖の言葉にくすりと笑み、クリスタも徒手による連撃を浴びせかけに向かう。
クリスタの表情は一瞬で真剣なものに変わり、次の瞬間には鋭い打撃がクロノヴェーダを穿った。
「たくさんの方々を散々弄んだ罰です」
「もう生きられない人たちに、お前が直接行って謝ってこい。誰からも許してもらえないと思うけどな!」
そして、頼人が放った銃撃が雷鳴めいた音を轟かせた。
何もかも壊れてしまえばいい。空間を物理法則ごと捻じ曲げた雷弾は真っ直ぐに、クロノヴェーダを討ち貫いた。
「く、くく、はははは!」
仰向けに床へ倒れ込んだドクトル・マシーネは甲高い笑い声をあげる。
敗北を確信したのだろうが、彼にはまだ奥の手があった。四肢を切り落とされ、身体すら崩されたドクトル・マシーネはディアボロス達を見上げながら嗤う。
「残念でしたね! 私が死ねばこの工場が爆発して――」
「ああ、知っているとも」
しかし、その言葉が紡がれ終わる前にハインツが幻影兵に命じ、工場の壁を跡形もなく崩した。爆発機能のことは既に分かっているので、復讐者達は早々に駆け出す。クロエのフランツが先導する形で外への道を駆け、麻緒も走り出した皆を呼びながら外を目指した。
「みんなー! 脱出だよー!」
「急いで行きましょう!」
「こんな爆発に巻き込まれる義理も必要もありませんからね!」
聖と夏深が頷き、その後に全員が続いていった。取り残されたドクトル・マシーネは、ディアボロスを巻き込めずに自分だけが自爆していくのだと理解する。
「そんな……私の、道連れ計画が……――」
哀れなクロノヴェーダの言葉を聞く者はもう、この工場内にはただのひとりもいなかった。
やがて、秘密工場は轟音と共に爆発する。
内部だけを破壊する威力に抑えられていたのか、その工場だけが崩れ落ちていた。綜を始めとしたディアボロスは消え去ったクロノヴェーダと秘密工場の残骸を見つめ、事件の終わりが訪れたことを悟る。
「まだ、やる事は多いな」
黒い煙と灰が舞い上がっていく空を振り仰ぎ、綜は静かに呟いた。
こうしてひとつの戦いに幕が降ろされても何処かで新たな戦いの幕が上がる。本当の未来を取り戻すまで、歴史を奪還する為の戦いは長く続いていくのだろう。
しかし、案ずることはない。
復讐者達が燃やす怒りの炎と意志は、きっと――この先の道を照らす光となっていくはずだ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
【フライトドローン】がLV5になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【先行率アップ】がLV6になった!