リプレイ
白臼・早苗
さて、この絵画の中ではアラビア風な世界を楽しんだ方がお得
流石に羽目を外し過ぎるのは不味いけど、どうせならとことん楽しんじゃおうか
まずは衣装、ベリーダンスのひらひらが付いた踊り子衣装を購入しよう、きっと潜入するときも役に立つ、かな?
幻想の世界だし、着替えも一瞬で済んじゃうね
どうせなら煌びやかなアクセサリも買っちゃって、思いっきり着飾っちゃおう
次は食べ物、甘くておいしいマーモウルを食べよう
クレメンティアさんにオススメされたアラビアコーヒーとも、このバター風味は絶対マッチするはず
幸いというかなんというか、楽しむ時間はまだまだあるだろうし、沢山食べ歩きたいね
アヌシュカ・ヴァルシュミーデ
【アドリブ歓迎】
「アラビアってさぁ…浪漫あるよね…。」
ずっと写真とかで見て憧れてたんだぁ。全力で楽しむ所存だよ。
こっちのお酒も水煙草もみんなやってみたいんだけど、1番はガラス細工を見たくてね。
優しいランプの明かりと、それを含めた夜道を歩いて雰囲気に浸りたいのさ。
あとは物語に出てくるみたいな絨毯とか、とにかく綺麗なものを沢山見たいんだ。あ、空飛ぶ絨毯があっても最高だね。無いかなぁ。探し回って歩いてみたい。
食べ物もいける…ということは、何処かに本場のフムスもあるのかな?ピタパンにひよこ豆のクリームを塗って食べるめちゃウマグルメ…。あれ大好きなんだよねぇ。
「食べ歩きして、綺麗なもの見て…最高…」
ソレイユ・クラーヴィア
ルーブル宮の美術館でオリエントの夜を楽しむ機会に恵まれるとは
東の帝国の話は復讐者となる前から聞き及んでいたので
驚きは勿論、心が躍るのも無理もなく
カフタンにシャルワールとラピスラズリ色のベストを羽織って
モザイクで彩られたバザールへ
見るもの全てが目新しく
落ち着こうかと入ったテラス席でミントティーを傾ければ
夜風と共に流れてくるのはサントゥールの音色
ピアノのルーツとも言われるその楽器に
是非とも触れてみたいと
音に誘われるまま奏者の元へ
エネルギッシュで繊細で
どこか物悲しい
心揺さぶられる音色に酔いしれて
ああ、私もこんな演奏をしてみたい
などと、思ってしまう
…楽器のバザールもあるのだろうかと
時間が許す限り散策を
シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・絡み歓迎
新宿島で絵本で見た世界が。淫魔は好きになれないけど、すごいなぁ。
現地風の煌びやかな衣装をまず楽しむ。現実だと腕のことで難しいけど、今は気にせず楽しめるから。
妖精達も呼ぼう。指輪とかで全身飾ったり、甘いものに飛んで行ったりするだろうね。
お茶やコーヒーをデーツやお菓子と味わったり、色んなお店を覗いて歩こう。
せっかくだし硝子の品や宝飾品も見て回る。
最近聞いた、えーと……ラピスラズリやアイオライトサンストーン、シンシャって石、あるかな?
そうだ、ランプ。
絵本だと、こすると色々出てくるっけ。大きめのを買おう。
妖精が入るかな、それとも呪具の宝玉を入れて、中から呪詛の『手』を出してみようか。
ベアトリス・リュウフワ
素敵な場所ですわね。
無論、楽しまないという選択肢はございませんわ。
わたくし、公爵令嬢として、フランスの芸術に多少の心得がございまして。
そういった観点から、異国の装飾には非常に興味がございますわ。
色硝子や香水瓶などの硝子細工の類を見て目の保養といたしましょう。
そちらの観光を楽しみつつ、もう一つ楽しむべきものはやはり『食べ物』でしょうか。
甘味とコーヒーには目がございません。
フランスや新宿で様々なコーヒーを味わいましたが、アラビアコーヒーは未だ飲んだことがございませんわ。
これは、飲まないわけにはいかないでしょう。
ふふ、至福の時間ですわね。
ウルリク・ノルドクヴィスト
耀く世界の
煌る何もかもが鏡のようだ
屈託なく其の身を照らす品々に
瞳が、心があるとしたら
俺の姿はどう映るのだろう
目に、口にするものすべてが
瀟洒に絢爛
血腥い戦地ばかりを知る自分は
不相応だと己を恥じたくなる程に
其れでも――だからこそか
幻想、ならば
手を伸ばしても罰は降らぬ気がした
暗い卑屈は零す癖に
ひかりを追うのも辞められない
我ながら思惑が愚図で嫌になる、が
…惹かれたって仕方無いだろう
こんなに、綺麗な世界なんだ
幾何学細工の施されたイブリークから
注がれる珈琲の宵色眺め、其の香りを楽しんで
ゆっくりと味わう
似合わぬ此の身でも
好き、の思いを馳せたなら
少しは此処に染まることが出来るかもしれないと
胸に秘めて
ノスリ・アスターゼイン
見渡す風景は
懐かしいとも
初めましてとも
失くした記憶を辿っても
得られるものは未だ希薄だけれど
砂の国はきっと馴染みで
だからこそ
市場を渡るのは新鮮な心地
こんな風に自由に外を歩くことは
恐らく無かったのだろう
見下ろす砂海を
見上げる空を
遥か航る鳥を
ただ眺めるばかりの朋として
ふと吐息めいた笑み
同時に薫る水煙草の桃とジャスミン
モザイクランプが誘う街並みを逍遥した先刻
美しい真珠
馨しい珈琲
甘く蕩ける菓子の数々
夜市で贖った耳飾りは
似合いだと勧められるままに
耳朶を擽る瀟洒な響き
揺らしたのは女の繊い指
なんて
傍らに麗しの美女が侍るのも乙なものじゃない?
同じ香りを纏って
秘めやかな声無き時を交わして
そんな幻に游ぶのも悪くない
アンゼリカ・レンブラント
クレメンティアが堪能できないのは残念だけど、
思い出話を持って行ってあげようね
私の装いも世界に合わせた格好で参加できるいいかな
背も伸びてきたし、髪を後ろで縛りターバンをつけた
あらびあん男装風で
まずは食事!
濃いシロップを贅沢にかけて食べるバクラヴァの
美味しいこと~!
甘さ以外にもどこか品のあるチャイと
合わせて味わうと時間を忘れて食べるのに夢中になるかも
そしてやっぱり飲みたいのはこーひー!
甘い菓子を供に極上のアラビアコーヒーを堪能すれば
英気ふる・ちゃーじ!
おなかが満たされたら装身具を買って纏い
歩く度に音が鳴るのを楽しみ
輝くランプを手に取れば、何かが出るやらと撫でてみたりと
とっても楽しい夜を堪能するね!
ベロニカ・バーゲスト
クーガ/g05079と一緒
全部わすれて、なにも覚えてないのに
なんでだろ、ここはちょっとなつかしい
くーも?
故郷ってこんな匂いだったのかな
くー、あそこ美味しそうな匂いがする!
薄いのがいっぱい重なってるの、美味しそ
宝石みたいなのたべられるのかな
うん、全部たべる!
軽く砂蹴って
気になるもの全部へ
バクラヴァとロクム頬張って
ふくふくしあわせ顔
ホントだ、星灯りがならんでる
きらきら色とりどりに煌いて
あんな綺麗なもの見たことない
いこう、くー
つれてかえる星、選びに
かなえたいもの
からっぽになってから、わかんなくなった
でも、くー
私、ほしいものならある
ランプの隣
星みたいにきれいな香水瓶
少しなつかしい気がするの
これ欲しいな
クーガ・ゾハル
同行/g06414
ドレイには見た事も
ふれた事もないモノばかり
でも
この匂いと砂のいろ、少しだけ
ドーキョーのニカ
おまえも、なつかしいか
じゃあ
しらないやつぜんぶ、たべてみよう
あまい匂いによせられてヒトの波
ゆめの中の足どりであっちこっち
右手にロクム
左手にミントティー
からっぽにしたら
ひとやすみの階段のさき
ニカ、星
とおい道しるべににた、きんいろの
ゆらめく火をとじこめたガラス
ひとつ、つれてかえりたい
ニカはしってるか
ぜんぶ、かなわなくても
のぞんでいいのが、自由――らしい
おまえにも、かなえたいモノ、あるか
そうか
からっぽなら、たくさんはいるな
おれには、まだわからない自由のひとつめ
これをくれ、と星のランプをかかげる
四葩・ショウ
アレクサンドライト
昼夜の光で彩を変える、それみたく
昼は護衛の少年に
夜は姫君に 煌めいて生きる
……なーんて、ロマンなぞって
夜を旅するなら
ラクス・シャルキー(ベリーダンス)の衣装
ローズマダー色のバラージ・ドレス纏う
わたしは踊れないけど
一度くらい、ね?
歩き、駆ける
誰でもない自由を謳歌する
ここが絵画の中で
全部一夜の夢なんて、嘘みたいだ
アラビアンコーヒーとチャイは欠かせない
並ぶ雑貨に揺れる心
選ぶのはひとつ
一目惚れの出逢いと運命に委ね
硬貨とひきかえに選ぶのはーー
(※お任せ)
たとえ幻でも
この目でみて、感じて
匂いも、味も
わたしが触れたもの全部
わたしのもので、現実だ
いつだって
そうしてわたし達は
いきていくのだから
竜城・陸
ルクス(g00274)と
……と言っても「後で」と言い残して彼女は姿を消してしまって
海の色を基調にした異国の衣装に身を包んで、彼女を待つ間
視線は、煌びやかな通りを彷徨う
こういう異国の情緒は彼女によく合う気がして
彼女に似合うものは、なんて考えながら――
耳慣れた音に通りを振り返れば
視線という視線の中心に、彼女の姿
――声を掛けるのも忘れて
惚けたように見詰めていた
……手を差し出されるまで、ずっと
「――綺麗だ」
何を言うより先にそんな言葉が出て、思わず咳払い
笑顔を見返すのも面映ゆくて
でも、目を離し難くて
まるで熱に浮かされたみたいだ――なんて思いながら
彼女の手を取って
「……俺で、よければ」
言葉少なに、頷いた
ルクス・アクアボトル
陸(g01002)と
……でも、いきなり「じゃ、後で会いましょ?」なんてウィンク一つ、一方的に姿を消して
(覚えている。拾われて、育ちは海賊船の上)
(でも……踊り子の義母。私の憧れたひとのルーツは、この空気)
もう一度現れた時には、大胆なアラビア風の踊り子衣装姿
貴方もよく知る私の魔楽器、貝を連ねた鞭が地面を叩く音
そう、――大通りの真ん中で、踊りましょ
道行く人の目を、耳を愉しませて、集める快の精神エネルギー
これが私の、サキュバスとしての――
……あら。
少しだけ、驚いたように目を見開いて、くすりと笑い
「それじゃあ、」
フェースベール越しに艶やかに笑って、『貴方』に手を差し出して、
「一緒にいかが?」
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と
黒に赤、紫を差した上質な絹布を緩く重ね纏い
ガウンの刺繍は装身具と揃いの黄金
衣装店で熱砂の国の王様風に粧し込んだなら
夜風色のストールを靡かせゆったり、そぞろ歩き
まさに夢心地
ランプに照る何もかもが煌めき誘う
色付きくゆる煙の帯も甘やかで、
んっ
今の煙……おいしい!
覗いていい? 我が物顔で美貌の踊り子を連れ回す
選んだ水煙草はスペアミント×マスカットの清涼な甘さ
初の喫煙。つい咽てしまうのも笑い合い、気付く
そっちもおいしそう
パイプを差し向け、交換に貰う一口は混ざり
あは、トロピカルになった
これ好きだ
ねぇ、じゃあ次はと揺れる尾に金環を鳴らし
夢幻の夜にも確かな君と
溺れるならば骨の髄まで
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
足首に付けた鈴の音が
夜の賑わいへ
益々華を添えるよう
豪奢で凛々しい王の傍らを往く僕も
今宵は
ラヴィデ王ただ一人の為の踊り子姿
なんて澄まし顔は
直ぐに弾ける笑みに変わって
存分に幻夜に浸りましょうか
軽やかな衣装に
自然と心も翼めくから
ぐい、王の腕を引いては
彼方の天幕
此方のお店
興味津々に飛び廻り
羽織った揃いのストールを風に靡かせる
バザール自体がモザイクランプみたいですね
漂う香気に誘われるまま
勿論、二つ返事
桃とオレンジの水煙草
初体験の一服目
思わず咽て
楽し気に零す笑み
吐息に互いの果実が香る
交換したなら
やがて
おんなじ色に染まるだろうか
王様のお望みとあらば
千夜だって
波間で踊って差し上げる
フィーナ・ユグドラシア
※アドリブ、絡みok
絵の中、しかも淫魔が想像するアラビア世界ですか。
時代差もあるでしょうが、現実と想像とでどれほど差異があるか比較するのも面白そうですね。
何はともあれ、絵の世界のルールに則る必要があるので、青色基調のアバヤとヒジャブを着用してバザールを見物です。
バザールでは主に露店を回って、アクセサリーや骨董品を見てみましょう。
アラビア風の装飾品というのも興味はありますし、現実世界で現地の品を買う時の参考にもなりそうですしね。
一通りバザールを見たら、食事処、踊り子さんや歌い手さんが居る所があればそこで、お菓子とミントティーを頂きましょう。
現地の音楽も聞ければ良いですが、この世界で聞けますかね?
夜茨・こころ
夢のような絢爛たる夜
昔読んだ砂の国の物語を思い返して
合言葉は、開けゴマやっけ?
星降る夜の街の凡てが、秘密の財宝のようやなぁ
纏うのはスマルト基調としたガラベーヤ
背の翼と同じ、金色のアクセサリーで飾る
街に降りた夜の精みたい?――なんてね
夜闇の星々に砂礫混じる風
大人たちが遊ぶ仄かな果実と花の霞
光に照らされ踊る色硝子の彩り
薫りだけで蕩ける甘さと珈琲
綺麗、素敵、美しい―――自然と言葉が溢れる
言葉では足りんくらい、凡てに夢中で惹かれて
嗚呼、けど、迷子にはならんよに気ぃつけんと
煌めく街を彷徨って
最も心惹かれたのは、街を飾る灯りそのもの
幻想の宵闇を照らす光、一番星を手に取って
貴方をこの可惜夜のお友達にしようか
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ大歓迎
絵画の中の世界を歩きたいと、何度も考えたものだが
……不思議なものだ
いつまでも異邦人の恰好をしている訳にもいくまい
衣裳はバザールで見繕ってもらおう
色彩は任せる、白でも色でも構わない
金と硝子はとても好みだ……装飾品にも凝りたいな
衣裳を纏ったら、幻想の市を愉しもう
幾夜廻る物語の世界
……夜には親しみを覚える
何が潜んでいても寛容だ
内緒話に似たモザイクランプの光の下
甘いミント茶も好ましいが
アラビアコーヒー一択だな
底の粉を起こさぬようにゆったりと
バクラヴァを共に
風景を眺め、夜の気配、人の賑わいを味わい過ごそう
セレスさん(g06011)と合流できれば
買い物などの話を聞きながら、相席を願おうか
セレスティン・ウィンディア
普段はエルフで日本文化の染まっている私だけれども、今回の絵はアラビアン
となると、めいいっぱい楽しむには…
熱砂の物語に似合うそれ相当の煌びやかな衣装を!
物語のお姫様みたいな上品さを保ちつつ、ちょっと遊び心も入れてセクシーに
やりたいことは上記の衣装選びとアクセサリー系のショッピングよ
うんうん、細かなデザインはもちろんだけれども、普段は選ばない大きな石系も興味があるわ
金の装飾は普段だと重たく感じちゃうけれども、衣装も揃えて世界観を揃えると一気にムードが上がるわね
幻想だとしても思い出は確かに持ち替える
ショッピングを楽しんだらエトヴァさん(g05705)と合流してお茶を楽しみながら思い出話をしましょう
シル・ウィンディア
アラビアンナイトってなんだろ?でも、とっても幻想的で素敵な光景なんだろうな~。
不謹慎だけど…。目いっぱい楽しむよっ♪
衣装もいつもと違ってアラビアンっ♪
青を基調にしたアラビアンダンサー風な衣装だね
マントがないとちょっと寂しいけど、でもこれもきれいだよねっ♪
バザールってすごく活気があるんだね。
せっかくだから、この服に似合うアクセサリーを探してみようかな?
ん-、首飾りとかいいかも?キラキラの金のネックレス、いいなー♪
…ふふ、似合うかな?どうだろ?
お買い物をした後は、のんびりティータイム。せっかくだからミントティーを頂こうかな。
ふぅ、落ち着くなぁ~。これが絵の中だなんてね?
…さぁ、気合十分で行こうっ!
レジーナ・ネイサン
リュヌ(g01655)と
初顔合わせ
黒の踊り子風衣装を纏いバザールをふらり
彩豊かな布やランプにモザイク模様
これが絵画の中とは!
折角の幻想世界
楽しみを共有出来る相手が居ればなあ
ランプを眺めていると
眼前をさらと流れる金に
好奇心に輝く瞳
や、あなたもディアボロス?
…女性かと思いきや少年だった、というのは心に秘め
そうだよ
私はレジーナ、宜しくね
斯うして顔合わせたのも何かの縁
何処か気になる所があればご一緒しない?
お、此処はアラビアコーヒーっていうのがあるのだそう
いってみようか
店で提供された一杯
見知ったものとは大分違う
苦い、けどスパイスの良い香り
これは好いな
リュヌは如何?
砂糖?やってみよう
ん!これもおいしいね
リュヌ・ドゥートランキルテ
レジーナさん(g00801)と
初顔合わせ!
アラビアンな雰囲気の布の外套を羽織り、これでオレもお仲間だ!
シンプルな所かと思ったけど、キラキラ色鮮やかで素敵な場所だ〜!
此処が絵の中だなんて忘れそうな世界、輝き一つ一つに目を奪われて
綺麗な人がそこにいた
それこそ、絵に描かれたものかと
オレとはまた違う、白く、輝く、美しい髪
こんにちはーっ
てことは、君もそうなの?
最近な、コーヒーが気になってるんだ〜!
…本当はカフェオレしか飲めないの、秘密だぜ
むむむっ、これは…!
お、オレは大丈夫だけど…砂糖を入れた方が良いって聞くし…
苦味が強く濃い目の味だったが
たくさん砂糖を入れたらマイルドになった
これなら飲めそうだ!
咲初・るる
絵画の主も美しい幻想を描くのだねえ
センスは好きだけど敵なだけに複雑
…まあ大いに楽しむ心算なのだけど!
郷に入れば郷に従え
まずは、身なりから?
んふふ、夜空に星を散りばめたベールなら
復讐者なんて存在も隠してくれると思わないかい?
宵の幕を手に取り
羽織ったのなら夜のバザールへ足を踏み出す
硝子細工に甘味に宝石
くるくると廻り変る景色は宛ら万華鏡
灯りが欲しいね
花弁を硝子に閉じ込めたような色合いの
この幻を照らしてくれそうな
…何色が似合うと思う?
問いの答えはきっと返ってこないけど
もし声が聞こえたならそれはきっと素敵な縁
次は、そうだね
チャイでも味わいに行こうか
千夜一夜の頁を手繰るような時間に浸っていよう
時が来るまで
咲花・姫芽
夜色のスカートタイプの踊り子衣装
絵画でしか見たこと無かった世界
感性が刺激されて
全て絵に残したくなるけれど…
今はぐぐっと堪えてバザールを楽しむわ
綺麗な香水瓶…は私にはちょっと早い気が
悩んでいたらモザイクランプの美しさに心惹かれる
沢山の色…綺麗ね…
あら、メロどうしたの?
美味しそうな匂い…?
あ、本当
甘くて華やかな香りは…ロクム?
沢山の色が綺麗ね
私は…チョコにしようかしら
メロは何?この緑のメロンが欲しい?
あとミントティーが欲しいわ
すっきりとした味わいが、甘いお菓子によく合って美味しい
でも、メロには刺激が強いわね
あまーいチャイはどうかしら?
アラビアコーヒーはね
もう少し大人になってから誰かと楽しみたいわ
標葉・萱
星の瞬くような市に目移りすれど
幻の金貨で買うのなら夢のように消える水烟を
それから現の道標にミントティーを一杯
色硝子から散る光を塗したなら
染まらぬ黒い外套も今ばかりは同じ色
泳ぐように、潜るように、
沈んでいくのは透き徹る
海にも似た碧がかる夜の底
纏った花の香を上書きするのは茉莉花
吐き出す烟が散って消えるのを見送って
一口毎にもっと、深くまで
目瞬く間にいくつの夜が過ぎたろうかと
数えるのも無粋な甘い夢
刻々と変わる夢幻は同じ形を作りはしないから
千の夜を越しても飽きず溺れて、しまいそう
織乃・紬
絵本でしか知れないよな
歩む市の煌めきと来たら
己の幻想にも重なるよう
女の部屋で捲り眺めたアレが
『千夜一夜物語』だッたかな
千の夜伽を羨ましく思うより
明日の我が身を思ッたモンだ
口辯で縋り、命を拾う
俺の生き方そのものでしょ
自虐か、冗句か、故にこそ
装うならば盗賊めくもので
で~も、此度は違うンだなア
話以外で口を塞ぎたいトコで
酒を、僅か、控える為にも
口寂しさを忘れるものがいい
そンで、水煙草を選ぶてエのが
俺の駄目人間たる証拠なンだが
薔薇に金を施す華美な意匠
満たし燻らす、花香の煙
どれをとっても、魅惑的で
健康云々指摘されたッて
煙に巻いちまえばいいさ
その為の口辯、でもある
喉で笑い、丁重と抱え
幻と消えないと良いけども
●幻想真珠
砂漠の幻想、砂海の真珠――。
濃密な珈琲色の夜闇の底、砂海の波間に落とされた蜜色真珠、蜂蜜色の光の繭から羽化するのは秘密の夢か、極上の幻か。薔薇の蜂蜜に溺れるように甘い眩暈に呑まれたと思えば絵画の前にいたはずの夜茨・こころ(La nuit étoilée・g06390)は一瞬にして絵画の幻想世界のなか。金砂の星きらめく夜闇も砂塵まじりの夜風も原初の力に満ちて、なのに眼前の街は絢爛たる輝きに彩られ、こころの胸をどうしようもなく躍らせる。
胸の裡で捲られる頁はいつか読んだ砂の国の物語、
「合言葉は、開けゴマやっけ?」
「いいねえ、お約束は大事だとも!」
飴玉めいて煌く双眸を細めて口にすれば、返った声音は偶々傍にいた咲初・るる(春ノ境・g00894)のもの、乙女同士悪戯に笑みを交わせば声を揃えて、
――開け、ゴマ!!
華やかに弾ける笑声を二人で咲かせれば、跳び込む先は砂漠の不夜城めいた幻想のバザール。薔薇に檸檬に甘橙、それこそ飴のかけらを鏤めたように鮮やかで甘やかなモザイクランプの彩りと輝きが踊る夜の街のバザールは魅惑的な迷宮にも似て、雑多に立ち並ぶ天幕の間にとろりと落ちる闇すらも蠱惑的。
絵画の主も美しい幻想を描くのだねえと感嘆の吐息まじりに呟けば、好みの感性を備えた相手が敵であるという事実が些か複雑な想いを齎しもしたけれど、
「んふふ、夜空に星を鏤めたベールなら、ボクらの真なる姿も隠してくれると思わないかい?」
「思いきり馴染んでもうたら勝ちやんね。こっちは街に降りた夜の精みたい? ――なんてね」
艶やかに透ける宵色に金の星々きらめく紗を纏えば、るるの藤色の双眸には今を大いに楽しみ尽くす気満々の光がきらり。美しい花紺青、古代オリエントの息吹を今に伝える深きスマルトの青に染まるガラベーヤをこころがふわり翻せば、背に煌く彗星の翼と合わせて輝く、極細の金糸で編んだレースのように華やかな胸飾りが光を弾いて揺れた。
佳い夜を、と軽く手を鳴らせば其々に泳ぎだす幻想の夜。天穹を仰げば金砂の星々が瞬いて、地上を見霽かせば万華鏡めく数多の彩も星々のごとく煌いて、こころを何処までも深く誘い込む。
――星降る夜の街のすべてが、秘密の財宝のようやなぁ。
先程までは確かにルーブル美術館の展示室に立っていたはずなのに、気づけば砂海に落とされた蜜色真珠の光のなか。甘い輝きの只中に至ればそこは夏空の青に夏葉の緑、夏宵の紫と、世界のあらゆる彩を異国の硝子が煌かせる万華の夢。
「ルーブル宮殿の美術館で、オリエントの夜を楽しむ機会に恵まれるとは……!」
驚嘆と感動を抱いて砂漠の幻想めくバザールに泳ぎだせば、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の眼前に広がるのは鮮やかな赤のパプリカパウダー、黄のターメリック、薄緑色したタイムのパウダーといった、香辛料を量り売りする店先に連なるカラフルな砂丘。垂れ幕代わりに使われている綴織のキリムを幾枚も潜れば、星の紋様から竜の紋様へ渡った先、眩い金銀宝石の輝きにめぐり逢う。
指輪に首飾りに耳飾りといった装身具のみならず、水差しや香炉に書皮、果ては馬具や燧石銃までもが煌びやかに彩られた宝物庫のごとき店先でソレイユの眼を惹いたのは、艶消しの金に硝子釉のエマーユで青き睡蓮を咲かせた一振りの短剣。
冬空色のカフタンの下には同色のシャルワール、上には冴ゆる瑠璃色のベストを纏った身で砂の国らしい曲線を描く美しい短剣を手に取れば、覚醒前、失われた日々にも聞き及んでいた、
――彼の帝国の、皇帝(スルタン)になったかのごとき心地。
眩い煌きに瞳をめぐらせた白臼・早苗(深潭のアムネジェ・g00188)は、
「この世界を楽しんだ方がお得……って話だし、どうせなら羽目を外しすぎない程度にとことん楽しんじゃおうか」
「それがいいでしょうね。お互い楽しい夜になりますように」
偶々視線が重なったソレイユとそう言い交わし、アラビアの幻想に馴染む彼の装いに倣うべく衣装屋を覗けば、白き掌上に幻想の金貨銀貨がたっぷりと。
ラクス・シャルキー。
この絵画世界ではベリーダンスと呼ぶよりそちらで呼ぶほうが馴染むだろう舞いの装束を幻想の金貨銀貨で購えば、衣装も幻想であるからか、ふわり魔法めく煙が湧いたかと思った瞬間に早苗は艶めかしい踊り子姿に早変わり。蕩けるような乳白の肌を露わにしつつ引き立てる深藍の衣装は豊かな胸と腰を覆い、幾重もの紗がほのかに脚を透かしながら地まで流れて。
華やかな金細工を煌く青玉藍玉が彩る首飾りに腕飾りを身に着け、そして明るい金色のコインを連ねた軽やかな黄銅細工で腰を彩って、くるり回れば煌きと音色が早苗とともにきらりしゃらりと舞った。
絵画の中は砂漠の幻想、砂海の真珠。
殺された人々の魂を捕えて更なる堕落を齎す、甘美なる牢獄――。
時先案内人の言葉を思い起こせばこの世界の幻想を堪能することが後ろめたくも思えたけれど、楽しむことが後々の敵との戦いを有利にするとなれば、シル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)も肚をくくってめいっぱい満喫する所存。
千夜一夜物語、アラビアンナイト――記憶を喪った身にはどちらも馴染みなき響きなれど、砂の国に馴染む踊り子の衣装を纏えば心が躍る。鮮やかな瞳や髪と同じ青で彩って、いつもの風妖精の外套の代わりに薄く透ける紗をストールのごとく腕に絡めて夜風を掬い、金細工の煌きに惹かれて天幕を覗けば、よく識ったひとの姿。
「わわ、セレスティンさんすっごく綺麗! お姫様みたい……!!」
「ふふ。そう言うシルさんも、とっても可愛らしい踊り子さんね?」
偶然の邂逅に笑みを咲かせたのはセレスティン・ウィンディア(蒼穹のステラ・g06011)も同じ。
新月旗とも三日月旗とも呼ばれる旗を掲げる彼の帝国の皇女の衣装はあまり肌を見せぬもの。なれど物語のお姫様を思わす上品さを保ちつつ、ちょっぴり遊び心を感じさせる艶っぽさを求めて出逢った装いは、成程アラビアの幻想世界の姫君らしさ溢れる品。
程好く胸元の開いた上着は七分袖でありながら丈は胸下までの、アラビアより更に東方、インドのチョリを思わせる衣装。明るいターコイズブルーを縁取る金刺繍が美しく、綺麗に臍を見せつつ腰から地までは同色の絹の紗がふわり優美に軽やかに流れて踊る。頭から背まで流れるベールを押さえるのは、ティアラとも額飾りとも見える金細工。
幻想が夢のごとく消えるとしても、想い出は確かに持ち帰る。
「金の装飾は普段だと重たく感じちゃうけれども、この幻想世界なら豪奢なのが似合いよね」
「うんっ! 飛びきり煌びやかにいってみたい気分っ♪」
弾む心のままに笑み深め、セレスティンが掌に掬ったのは金細工が胸元に幾重もの波を描く首飾りと揃いの耳飾り。優しく輝く天青石をあしらった品も素敵だけれど、折角なら深く鮮やかに煌く大きな青玉――サファイアにも挑んでみたい。宝石もいいなぁと瞳を輝かせつつも、シルが心惹かれたのは桜めいたアーモンドの花を金細工が幾つも咲かせて連ねた首飾り。
翔けるたびにきっと、胸元に光の春が咲く。
現実世界ならば後宮(ハレム)でのみ花開くだろう、玉の肌も露わな踊り子装束の女性達。街中を、それも夜のバザールを彼女達が一切の気後れなく、美しい熱帯魚のごとく泳ぐ姿が、
――この絵画世界が現実のイスラム世界ではなく、アラビアの幻想……アラビアンファンタジーである、何よりの証。
なのでしょうね、と微笑んだフィーナ・ユグドラシア(望郷の探求者・g02439)の口許は、目許のみを覗かせ顔も髪も覆った朝空色のヒジャブの裡。均整のとれた肢体を包むのは肌どころか身体のラインすら見せぬ青空色のアバヤで、千夜一夜物語の世界よりも今この時代――断頭革命グランダルメが座する時代のイスラム世界に近いと思われる絵画世界にとけこみながら、フィーナも淫魔ル・シャヴォーヌの想像が創り出した幻想の夜を回遊する。
時代を先取りしたかのごとき品々は彼女の豊かな想像力に生み出された偶然の産物だろうけれど、今この時代の、あるいはこの時代に歴史として伝わる時代のものらしき品々は、相当に本物らしく忠実に再現された幻想と思われた。
黄金細工の手鏡に鮮やかなターコイズと華やかなルビーを交互に鏤める色彩感覚、
遥か東方、清朝から齎されたと見ゆる青磁の水差しに金細工や銀細工を加えずには居られぬ美意識。
「まさに絢爛たる異国情緒……といったところですわね」
己を公爵令嬢と自己認識するベアトリス・リュウフワ(強欲と傲慢のミルフィーユ・g04591)は夜色の双眸を軽く瞠り、その異国の色彩感覚や美意識がひときわ麗しく開花したであろう硝子細工を求めて幻想の波間をゆく。
西欧芸術に造詣ある身としては、ローマングラスの源流のひとつとも言えるエジプシャングラスは是非とも見てみたい。
菫色の硝子には涼やかな銀の星霧が煌いて、
薔薇色硝子には華やかな金の蔓薔薇が踊る。
美しい香水瓶の森を逍遥すれば光の加減で緑とも赤とも見ゆる硝子に出逢い、四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)はその神秘的な煌きに己を映して、アレキサンドライトみたいだ、と微笑した。
昼夜の光で彩を変える宝石のように、昼は護衛の少年、夜は姫君として、二つの煌きを織り成して生きる――なーんて、と浪漫をなぞって口遊み、中性的な美貌に仄かな妖艶と女性らしさを添えるローズマダーの絹の紗を翻す。
「ラクス・シャルキー……東方の踊り、か」
唇に乗せれば響きの心地好さに花の色の双眸を細め、伝統を幻想に昇華した近現代の踊り手達に倣って、撓やかなこの身を彩る衣装を踊り子装束ではなくバラージ・ドレスと呼んで。舞踊の嗜みは持たぬ身なれど、一度くらい、ね? と硝子に映る自分に片目を瞑って、再び幻想の夜へと踏み出した。
柔らかな夢幻に絡めとられるようで、誰でもない自由へと解き放たれていくようで。
世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプの煌き、珈琲に菓子に香辛料に水煙草の匂い、眩いほど鮮やかな幻想を歩いて泳いで駆け出せば、乾いているのに艶めかしい、砂の国の夜風がショウの魂をも吹き抜けていく心地。
――ここが絵画の中で、全部一夜の夢なんて、嘘みたいだ。
「じゃ、後で会いましょ?」
「……え?」
絢爛たる幻想のバザール、旅商人達に言葉は無いのに確かな賑わいで活気づく砂の国の夜の人波に、それこそ夢幻のようにルクス・アクアボトル(片翼の白鯨・g00274)が姿を消したから、竜城・陸(蒼海番長・g01002)は夢か現か確かめるよう黎明の双眸を瞬いた。彼女が悪戯に瞑った片目は藍であったか赤であったか、それさえも夢の霞にふうわり呑まれる心地。
幻想竜域の海より青く思える、地中海の青に染まるカフタンに身を包み、万華の煌きに満ちる夜に視線を彷徨わせたなら、眼差しは自然と美しい品々へ向かう。陽光めく金細工に月光めく銀細工、深き瑠璃に甘き紅玉、螺鈿に象嵌に――ここで己はエトランゼなのだと陸に意識させる異国情緒はルクスにしっくり馴染む気がして、いつしか彼の眼差しは、彼女に似合う品を探して幻想の夜を渡る。
幻想の夜と人の波間を航るルクスは宛ら、風も波もするりするりと捉える小さな舟。
――覚えている。拾われて、育った故郷は海賊船の上。
――でも……踊り子の義母。私の憧れたひとのルーツは、この砂の国の空気。
煌びやかな紗に心惹かれれば掌に生まれくるのは幻想の金貨に銀貨。砂塵まじりの風を帆に受けて航るは紅海か地中海か。それとも、ジブラルタルを越えて――。
「アラビアってさぁ……浪漫あるよね……」
禁酒の戒律が息づくからこそ、酒精がなくとも人を酔わせて虜にする品々が数多あるのがイスラム世界。
豪華な宮殿、優美な聖堂、鮮やかに艶めく陶器の小片さえ宝石めいて、絢爛たる幾何学模様を咲かせる華麗な異国。ずっと憧れてたんだぁとまさしく夢見心地でゆうるり笑んで、アヌシュカ・ヴァルシュミーデ(水葬に揺蕩うモノ・g00153)も心ゆくまでこの幻想に揺蕩ってみる。
魔法の媚薬めいた珈琲、蕩けるように甘い菓子、柔らかな香りと煙をくゆらす水煙草。惹かれはすれどそれらを喫するより美しい色硝子に金彩銀彩が舞う水煙草のボトルや、数多の彩光を鏤めたモザイクランプといった硝子細工を観たいと望む心が勝る。
地中海の青に銀の波躍る水煙草、夕陽の輝きに金の風翔ける香水瓶、めくるめく硝子細工の煌きに誘われるまま次から次へ天幕を渡れば迷宮めくバザールの奥で出逢ったのは、生命の木と鳥の紋様を織り出したキリム。色彩も紋様も鮮やかなそれは今にも命を得てふわりと夜風に乗りそうで、アヌシュカの翡翠の瞳がいっそう緩んだ。
これってもしかして、空飛ぶ絨毯だったりしないかなぁ。
――もしもそうなら、最高の夜になるのだけど。
●幻想舞曲
星影と砂塵と戯れるような夜風は軽やかで気紛れで。
砂海に風紋の波を描いたかと思えば夜のバザールを彩るモザイクランプを揺らして、砂ざらしの白漆喰と日干し煉瓦の街に鮮やかで甘やかな光と彩の飛沫を振り撒いていく。
砂除けの外套が馴染む旅商人達、色とりどりのスパイス砂丘に干果や乾燥豆の山々、金銀宝石に硝子細工の煌き達。見渡す風景は懐かしいとも初めましてとも思え、ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は軽い吐息の笑みを挨拶代わりに砂漠の夜風へ融かした。
失くした記憶を辿れど手繰れるものは未だに希薄。
なれど砂の国は記憶を確かめるまでもなくこの身に魂に馴染み、だからこそ、バザールを渡るのは新鮮な心地。
――こんな風に自由に外を歩くことは、きっと、無かった。
雑多ながらも華やかな活気の坩堝、その只中からふと見上げれば丘の頂に座する麗しき宮殿の端の、尖塔がノスリの蜜色の双眸に映る。あんな処からなら、胸の裡に燈るものと似たものが見えるだろうか。希薄な記憶の、遠い日々。
見下ろす砂海を、見上げる空を、
遥か航る鳥を――ただ眺めるばかりの朋として。
「幻想だからかな、この夜は限りなく自由な気がしない?」
「その気になれば、だろうか。だが、ああ、幻想だからこそ……か」
偶々行き合った猛禽めく知己に槍の騎士はそう応え、世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプが煌く夜を歩む。耀く世界で煌る何もかもがウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)にとっては鏡のよう。
黄金の鐙に、白銀の茶器に、薔薇色の硝子に、心があるのなら。眩い輝きに見え隠れするキリムの幾何学的な目の紋様が、魔除けの目の硝子細工が、真実、瞳であるのなら。
……俺の姿は、どう映るのだろう。
黄金に翠玉を鏤めた書皮で彩られた詩集の前を通りすぎ、夕陽の光に砂塵を閉じ込めたようなロクムを食めば、甘酸っぱい柑橘の風味に弾ける香ばしさに、砂塵がヘーゼルナッツのパウダーであると識る。目にするもの口にするもの全てが絢爛で、目蓋を伏せれば眼裏に甦る光景が血腥い戦地ばかりな己には不相応だと自身を恥じたくなるほどに。
それでも――いや、だからこそ。
幻想ならば、手を伸ばしても罰は降らぬ気が、赦されるような気が、した。
流麗な銀細工が葡萄の蔓葉を透かし彫る香炉に、柘榴の滴を宝石にしたかのごときロクム。金に薔薇色をとかしたみたいな銅細工の小鍋からとろり注がれる珈琲、黄金の鞘にダイアモンドを鏤め、柄に大粒の翠玉をあしらった短剣ときたら、なんと柄尻に時計が潜む。
洞の眼窩を埋めた光学素子に映るのは『ドレイ』であった頃には見たことも触れたこともない品ばかり。だが砂塵まじりの夜風の匂い、色とりどりのスパイス砂丘から香るクミンにカルダモン、何処かで焚かれているらしい乳香に誘われてめぐらすクーガ・ゾハル(墓守・g05079)の眼差しが捉える、砂ざらしの白漆喰や日干し煉瓦の街の彩は少しだけ、
「ニカ。おまえも、なつかしいか」
「くーも? 故郷ってこんな匂いだったのかな」
傍らで幻想の夜を見渡す『ドーキョー』のベロニカ・バーゲスト(迷い香・g06414)に訊いたなら、いつも気怠げな赫の瞳が嬉しげに輝いた。砂嵐(シムーン)の後のように記憶すべて何もかも失って、なのにこの砂漠の幻想はベロニカの胸に微かな懐かしさを燈す。ひときわ胸を高鳴らせたのは甘い香り、
あそこ美味しそうな匂いがする! と思わず声を弾ませれば、
「じゃあ、しらないやつぜんぶ、たべてみよう」
「うん、全部たべる!」
幻想の人波へと先に足を踏み出したのはクーガのほう、一歩で追いつき肩を並べてベロニカも、夢幻の夜を歩む。
高く高く掲げられた銀製のポットから注がれる、遥かな東洋の緑茶の香りも孕んだ熱くて甘いミントティー、柘榴と葡萄の宝石めくロクムを齧ればもっちりした生地の裡から鮮やかな果実の風味が咲いて、熱いバターの香りが堪らないバクラヴァを頬張れば、幾層にも重ねられた極薄フィロ生地から熱々シロップが溢れ、ピスタチオの風味が女王然と花開いた。
――極上の、しあわせ。
空色翡翠から削り出され磨き上げられた指輪は春空の夢、黄金の煌きを宝石に凝らせたようなトパーズの薔薇は初夏の幻、完熟した赤林檎の艶めきを閉じ込めたロクムは秋夜の滴、透明な水晶に金の針めいた煌きが舞うルチルクォーツは冬朝の光。くるくると廻り変わる光と彩の景色は確かに万華鏡めいて、るるはいっそう上機嫌に幻想の夜に遊ぶ。
纏う宵空と星々のベールに柔く風を孕ませて、求めるものは花弁を硝子に閉じ込めたような色合いの灯り。数多の彩の煌きめくるめく硝子細工を揃えた天幕を覗き、天蓋から星々のごとく吊り下げられたランプの合間を泳いで、僅かに首を傾いで。返答を期待せぬ、ひとりごとめいた問いを花唇に乗せる。
この幻を照らしてくれそうな灯りなら、
「……何色が似合うと思う?」
「そうね、これなんてどうかしら? 短い夏夜を迎える宵の菫色、柔いアイリス、ラベンダー、それとも――」
貴女の、瞳の色かしら?
思わぬ応えに瞬いたるるの藤色の双眸に映ったのは、世界の色彩すべてへの興味と愛情に煌く翠の双眸。ミントグリーンの眼差しの煌きそのままに笑んだ咲花・姫芽(チョコ・ミントの時間・g01473)が紡ぐ言の葉も実にるるの好みで、素敵な御縁に感謝だと笑み返せば、灯りを購うための幻想の金貨銀貨が掌上に現れた。
――次はチャイでも味わいに行こうか。
――時が来るまで、千夜一夜の頁を手繰るような時間に浸りに。
またね、と手を振って、歌うようにそう紡いだ彼女を、またの御縁があると嬉しいわ、と見送って、姫芽も再び幻想の光と彩の波間へ泳ぎ出す。嫋やかに翻る幾重もの夜色の紗は、少女を砂の国の踊り子に変える衣装。
絵画でしか見たことがなかった光景を泳げば胸の裡で感性の煌きが跳ねる。無意識に絵筆を手に取りそうになるのを堪え、瑞々しい翠硝子に銀彩のジンニーヤ遊ぶ香水瓶を見れば、私にはまだ早いかしら、なんて悩むのも楽しみながら。
世界の綺麗な彩すべて鏤めたような、モザイクランプの煌き躍る夜を、何処までも。
砂漠の幻想、砂海の真珠。
蜂蜜色の真珠とも光の繭とも思える柔く甘やかな光に包まれた幻想の足を踏み入れたなら、眼の前に広がるのは美しい光と彩を数多鏤めた、リュヌ・ドゥートランキルテ(天使のガジェッティア・g01655)が想像していた以上に色鮮やかな世界。
瞳と髪の彩に合わせ、橄欖石めいた緑に金刺繍が生命の木の紋様を綴るカフタンを纏い、好奇心に瞳を煌かせた少年も皆と同様に煌きの波間をゆく。銀細工と真珠で装丁された詩集開けば鮮やかな瑠璃の顔料と金彩の飾り枠に目を奪われ、白翡翠の柄に紫水晶がサフランの花を咲かせる短剣に見惚れて、心の赴くままに歩めば、あでやかな光と彩の波間にひときわリュヌを惹きつける女性の姿。
なめらかな肌が良く映える黒の踊り子衣装、曇り空を思わす髪は光の加減で神秘的な銀に煌いて。
――あのひとも、絵画の幻想?
華やかな茜色に黄金で竜の紋様を織り出すキリム、宝石にも劣らぬ鮮やかな色彩艶めく陶器の小片が描き出す幾何学模様、虹の七彩を越える煌きを鏤めたモザイクランプ。レジーナ・ネイサン(灰色キャンバス・g00801)は絵画の中とは思えぬ現実感満ちる世界の鮮やかさに心を躍らせて、この楽しみを共有できる相手がいればなぁと無い物ねだりを胸に燈せば、ふと視界にさらり流れた金髪の彩。
好奇心に輝く瞳と眼差しが重なれば、
「や、あなたもディアボロス?」
「てことは、君もそうなの?」
幻想じゃなかったんだ! と笑みも輝かせた相手は大変可愛らしかったけれど。
……女性かと思いきや少年だった。なんて驚きは胸に秘めてレジーナは、幻想の夜に出逢ったリュヌと互いに名乗り合う。こうして顔を合わせたのも何かの縁。
――何処か気になる所があればご一緒しない?
――オレ、珈琲が気になってるんだ~!
濃密な珈琲色の夜空に煌く金砂の星々も何処か甘やかで。
砂海に蜂蜜色の真珠か光の繭を織り成す街の煌きは、甘さも華やかさも更に豊かな夢幻の星彩。数多の彩り鏤めた色硝子の光の滴をまぶせば昏き夜闇思わす外套も今ばかりは同じ彩。この夜のすべてが魅力的だと思いつつ標葉・萱(儘言・g01730)が幻想の金貨銀貨で購いたいと望むのは、夢の霞と消える水烟と、現の道標になってくれそうなミントティー。
然れど、弾丸めいた緑茶とたっぷりのフレッシュミントと砂糖で淹れるそれは。
淹れたての熱さも緑茶とミントの苦味も鮮やかで、蕩けるような砂糖の甘さも飛びっきり。それでいながらエキゾチックな風味のハーモニーが癖になりそうで、熱とともにすうっと抜けるのは間違いなくミントの清涼感のはずなのに、甘い酩酊にも似た感覚に心が眩むよう。
「これは――現の道標というより、更なる夢の深みへの扉を開くような」
「だよねっ! 一服したら落ち着くどころか、時間を忘れちゃいそう……!!」
同じ天幕で異国情緒たっぷりのそれを味わったシルも、予想だにしなかった感覚に青き双眸を大きく瞬いた。この不思議な飲み物が現代ではモロッコ風ミントティーと呼ばれるものだと識るのは、少女が最終人類史に帰還した後のこと。
街を見下ろす丘の頂に座する宮殿を天幕から振り仰ぎ、虹色の精霊術士は今しばしの憩いを己に許す。
――あの宮殿に向かう時が来たら、気合満開で攻め込んであげるからっ!!
酒精はないのに胸に高揚を招き、人を虜にしてしまいそうなのはアラビアコーヒーも同じこと。
明るい金に煌く黄銅製の、あるいは金に薔薇色をとかしたような銅製の、柄杓めいた小鍋で煮出す珈琲は、17世紀後半にオスマン帝国からフランスに遣わされた大使が帝国宮廷風の豪奢なサロンで神秘的な東洋の磁器とともに饗し、一気にパリやベルサイユの人々を魅了したもの。
浸出式に主流が移り、ドリップ式の原型が生まれるのはそれから百年近く経った後のことだから、
「偉大なる世紀(グラン・シエクル)のベルサイユでは、この珈琲が飲まれていたのですわね……」
改めて言の葉にすればベアトリスの胸の裡には深い感慨が満ち、銀細工に白磁を重ねた美しくも華奢なカップに口をつけ、深い感動とともに味わうとろり濃密なアラビアコーヒーは、何物にも濾過されぬ原初の味わいをより深く豊かに引き出した、原初の夜そのものを思わす魅惑的で官能的な味わいで、ほう、と紅唇から零れたベアトリスの吐息も知らず艶めいた。
極上にして、至福のひととき。
厳しい戒律から解放されつつある現代ならばまだしも、この時代の現実のイスラム世界では街中での女性の肌の露出は厳に慎まねばならぬもの。然れど、肌も露わな踊り子姿の女性達が鳥籠など縁もない小鳥のように自由に砂の国の夜を行き交えるのは、
「こればかりは、絵画の世界を創り出した相手に感謝だね」
淫魔が己の趣味のままに織り上げた、アラビアンファンタジーの世界であるからこそ。
決して淫魔に好意を持ちはしないけれど、シエルシーシャ・クリスタ(鬼人の妖精騎士・g01847)は現実ならば意識せずにはおれぬ辰砂の結晶を纏うがごとき硬質な両腕を砂塵まじりの夜風に晒して、薔薇色の踊り子装束に金の装身具を胸にも腰にも煌かせながら、幻想世界に遊ぶ。
妖精ではなく水妖の呪詛しか喚べぬ今の己の在りようを些か残念に思いつつも、柔らかな食感に黒糖めいた甘味が後を引く深い琥珀色のデーツや濃密な夜を湛えた魅惑のアラビアコーヒーに舌鼓。鮮やかな深紅に艶めく香水瓶に出逢えば燃ゆる焔にも似た金彩にシエルシーシャの胸の裡の憧憬が煽られて、
辰砂の妖精騎士は、硝子と宝石の煌きをめぐる旅に出た。
絵画の中の世界を歩きたい――。
幾度も思い描いた夢を叶えてくれたのが神ならぬ淫魔であるという不思議な成り行きに微笑し、蒼穹の天使は砂海の真珠へ融け込んでいく。
色彩を操る身なればフェニキア紫にも惹かれたけれども、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が纏ったのは、言葉はなくとも幻想の商人が熱心に勧めてきた、彼が宿した蒼穹よりも明るい空色を金刺繍が縁取るカフタン。蒼穹の髪を一房垂らし、白きターバンを頭に巻いたのは、豪奢な簪を思わすターバン飾りで装う特権を得るためだ。
黄金のそれに鏤められたのは、現代ならスリーピングピューティーと呼ばれるだろう、殊のほか美しい彩のターコイズ。
絵画の世界に融け込んで、幾夜も廻る物語の世界をエトヴァもゆうるり廻る。
夜に親しみを覚えるのは、何が潜んでいても寛容であるがゆえ。
――濃密な珈琲めいた、原初の闇が息づく夜なら、なおのこと。
黒檀を夢見る様な光沢の真珠貝が螺鈿で彩る書見台はラフレという名も優美で、黒檀の銃床を流れるようなペルシア文字の金象嵌が彩り鋼の銃身を抱く燧石銃は華麗。同じ品々に眼をとめた相手が誰なのか気づけばフィーナはその身に纏うアバヤと同じ青空色の双眸を和ませて、
「現地の音楽も聴ければ良いですが、この世界で聴けますかね?」
「興味深いな……探してみるのも一興だろうか」
朝空色のヒジャブから覗いた目許と紡がれた声音で彼女だと察したエトヴァと何気なく言の葉を交わしたそのとき、不意に聴こえてきたのは、千夜一夜の彼方から響いてくるかのごとき、異国の神秘の音色。
――幻想の夜に溺れ、夢の中でまた夢を見たのかと思った。
蕩ける甘さと鮮やかな熱さと苦さ、すうっと昇るように去る熱とミントの清涼に快い眩暈を覚えたときにソレイユのもとへ夜風と流れて来たのは、己が手に何より馴染むピアノの源流のひとつとされるサントゥールの音色。
胸を震わす音色の流れを遡れば、至る天幕では深く艶めく胡桃材に金属弦が流れる楽器が奏でられていた。
黄銅の弦に鋼鉄の弦に玩具の火掻き棒めいた華奢な撥が躍り、躍動的で繊細で、何処か物悲しくも切ない余韻を引く音色が織り成す旋律の奔流に呑まれて酔いしれて、
「ああ、私もこんな演奏をしてみたい……」
覚えず胸の裡を吐露すれば、ソレイユの手に華奢な撥が差し出された。
この幻想の夜は時間の概念も曖昧で、楽を愛する心のままサントゥール演奏の修練にのめりこんでも瞬ぎの間ほどのこと。存分に己が手に馴染んだと想えたソレイユが魂の奥の泉から湧き出す旋律のままに異国の楽器を奏で始めたなら、その音色に惹かれてきたフィーナとエトヴァが眼差しを交わす。
百花繚乱の夜を思い起こした二人がその天幕でそれぞれ手に取ったのは、美しく磨き込まれたシダーウッドの響板を持つ、この世界ではリュラーと呼ぶのが相応しい竪琴と、こちらも艶やかな胡桃材の胴に銀の弦が煌くウード。思わぬ即興の協奏にソレイユも笑みを零したなら、更なる眼差しを感じて三人が瞳を向けたその先で、
――私も乗らせて、ね?
少女サキュバスの踊り子が甘く片目を瞑る所作でその意を伝えてくる。
快く笑み返してくれた三人が艶やかな舞曲を奏でてくれたなら、大胆に露出した肌でより光を享けるよう身を翻し、優美に右腕を撓らせたルクスは夜風に白き貝を連ねた鞭を躍らせた。涼やかな音色で風を切って、華やかな音色で地を打つそれは、彼女の魔楽器、スクィーズ・スカージ。
仲間達が奏でる幻想の楽器の音色と旋律、砂漠の夜に舞う蝶の群れめく数多の白き貝とその音色、幾つもの華やぎを纏って踊れば風に手を伸べるたび地に足を滑らすたび、ルクスの舞が艶冶を増してゆく。幻想の商人達から得られるかは判らねど、人々の目を愉しませ、悦びの力を求めるサキュバスの性(さが)のまま昇りつめるように舞えば、
「――綺麗だ」
「……あら、」
この上なく聴き覚えのあるスクィーズ・スカージの音色に振り返ったその刹那から時間も呼吸も忘れて見惚れていた蒼海の竜人が、先程不意に姿を消した連れに呼びかけることさえ忘れて無意識にそう呟いたのと、彼の眼差しに気づいた彼女が少しばかりの驚きに眼を見開いたのは、果たしてどちらが先だったのか。
思わずといった風情で咳払いをした陸を可愛いと想ったのはまだ内緒のままで、夜風を擽るような笑みを零したルクスが、それじゃあ、と蠱惑的に透けるフェイスベールの裡で艶めく笑みを咲かせて手を差し伸べたなら、彼が再び呼吸を忘れたのも一瞬のこと。笑み返すのが面映いと思うのに目が離せない。
甘やかでなめらかな彼女のキャラメル色の肌を引き立てる衣装が、春薔薇の彩なのか乙女椿の彩なのかも判らない。まるで熱に浮かされたみたいだ、なんて思いつつ、
「一緒にいかが?」
「……俺で、よければ」
これだけは確かな鈴蘭の香りを辿るようにルクスの手を取って、陸は自然と浮かび上がった言の葉とともに、頷いた。
一瞬の幻で千夜の夢をも織り上げてしまえそうな楽の音が、幻想の夜に響いて流れてゆく。
●幻想茶話
黄金の鳥籠で羽を休める小夜啼鳥が、夜明けを告げる時は来るのか来ないのか――。
偶々覗いた天幕で見かけた美しい鳥籠と愛らしい小鳥の姿に戯れな議論を交わすけれど、紫闇の竜人と夜色の妖狐の本音はその実、寸分違わず一致していた。永遠に来なくても構わない。
「って、王様らしく小夜啼鳥に命じちゃってもいいかなぁ?」
「ええ、どうぞ。叶わずとも存分に、幻夜に浸りましょうか」
極上の絹を黒に赤、紫を差す彩で遊ぶよう纏い、金刺繍が優雅なカフタン纏えばラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は熱砂の国の王様気分、首許も手首も竜の尾も黄金の環で装ったなら、夜風色の紗をストールめかして靡かせて、絢爛たる幻想をゆうるり漫ろ歩き。
彼の歩調にも幻想の夜にも華やぎを添えるのは、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の足首で金色の煌きと音色を弾ませる鈴。夜色真珠めいた光沢を孕む踊り子衣装を纏えば興が乗り、今宵は豪奢で凛々しき王ただひとりの為に舞いましょう――なんて澄まし顔で告げるもすぐに笑みが弾け、揃いの紗を翼よろしく翻し、王と踊り子は天幕から天幕へ露店から露店へ。
菫色のサファイアよりも妖艶に煌く紫硝子の香水瓶に二人して瞳を輝かせ、深紅の絹糸で薔薇を咲かせた、オヤと呼ばれる可憐な伝統工芸のレース、それを編む針にひときわ興味津々にヤコウの瞳が輝く様を微笑ましく見遣れば、ラヴィデの視界の片隅で柔らかにたなびく煙の霞。
幾夜もの夢を鏤めたようなモザイクランプの煌きに甘く色づく煙が、真実甘やかな香りをくゆらせれば、今度はラヴィデの瞳が思いきり煌く番、
「今の煙……おいしい! 覗いていい?」
「勿論、ラヴィデ王のお望みのままに」
美貌の踊り子を我が物顔で連れ回すような磊落な王の振舞いに微笑して、ヤコウが返したのは迷いなき二つ返事。バザールそのものがモザイクランプみたいな幻想の夜、続けて二人で溺れゆくのは水煙草の夢幻。
――嘗てひととき、彼の地では酒と同様に珈琲が禁じられた時代があったという。
それも無理からぬことだと柔くウルリクが零した苦笑には知らず自嘲も滲む。丁寧に煮出されるアラビアコーヒーは小さな炎の熱が高まるまま蠱惑的に香り、それだけでも心に不思議な高揚を招く。天幕を照らすモザイクランプの煌きを享ければ、イブリック――珈琲のための小鍋に刻まれた幾何学模様にあえかな虹色の煌きが踊って、その裡にこの幻想の美しさすべてが凝縮されていく心地さえ覚えて。
どうしようもなくこの世界に惹かれているのだと自覚したがゆえの自嘲。
暗い卑屈は零すくせに、ひかりを追うのも辞めらない。我ながら思惑が愚図だと嫌気が差しもするけれど、
「……惹かれたって仕方無いだろう。こんなに、綺麗な世界なんだ」
胸の裡に留めきれずに呟いたそのとき、美しいイブリックからウルリクのための珈琲が、銀細工と白磁の杯へ注がれた。
細やかに蕩ける泡を潰してしまわぬようにゆうるりと、濃密な夜闇がとろりと杯を満たせば、珈琲の奥深さすべてを緩やかに花開かせる香りで騎士は胸を満たして、一瞬を千夜に変える心地で杯に口をつける。
原初の夜そのもののごときアラビアコーヒーは苦味さえも芳醇で華やかで蠱惑的、魔法の媚薬とも思えるのも気のせいではないのだと、一口ごとに深まる想いに今度は自嘲なき笑みを燈した。
此の身は似合わぬとの想いは変わらずとも、好き、の想いを馳せたなら、少しは此処に染まることができるだろうかとの、
ほのかな期待は、胸に秘めたまま。
鮮やかな光と彩を可憐な木洩れ日のごとくきらきらと躍らせるモザイクランプの煌きは、楽しい内緒話を思わせて。天幕に顔を覗かせ、ぱっと笑み咲かせたセレスティンを手招けば、エトヴァの裡で煌きと内緒話の連想がより鮮明に息づいた。
期せずしてお揃いめく彩を纏った互いの姿に笑い合って、よく似た色合いのキリムが敷かれた一角で腰をおろせば、短くも流麗な脚付きの、黄銅細工のトレイが珈琲テーブルの役目を担う。
「新宿島に流れ着いてからは日本文化にすっかり染まっていた私だけれど……こういったアラビア風も素敵ね」
「何か特別に眼を惹いた品や、印象に残った光景はあっただろうか? 俺のほうでは――」
夢見るような吐息に続けて蒼穹のエルフが紡げば、目許を和ませた蒼穹の天使が胡桃と銀のウードと即興の協奏を語って、私も聴きたかった……!! とセレスティンの声音が跳ねれば、菓子と珈琲が運ばれてきた。珈琲とバクラヴァを、と頼んだエトヴァの手許では、ピスタチオではなく胡桃が熱いシロップに煌いて。
濃密に蕩ける夜の底で眠るような粉を起こさぬよう、ゆったり味わうアラビアコーヒーとともに、憩いのひとときを。
幻想の夜を旅して辿りついた天幕から跳ねて響いた誰かの声に、美味しくて楽しいひとときになりそうだと破顔して、
「ここで英気ふる・ちゃーじ! させてもらうよ!!」
期待も意気込みも新たに天幕へ足を踏み入れたのはアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)。
この幻想の夜に少女は生成りのトーブを颯爽と着こなし、眩い黄金の髪を纏めて薄紅のターバンを着けた男装で融け込み、己の背丈の成長を確認するよう背筋を伸ばせば、髪に劣らず輝く黄金のターバン飾りが強く煌いた。だが勇ましきアラビアン男子も、熱くて濃厚なシュガーシロップたっぷりのバクラヴァを頬張れば、たちまちふにゃっと笑み崩れてしまう。
菓子が溺れると思えるほど贅沢に甘露を注いだ菓子は、アンゼリカの口中で熱くじゅわりとシロップを溢れさせ、幾層もの極薄シュロ生地を噛みしめるほどに熱く咲き誇るバターのこくに小麦の甘味にピスタチオの風味の美味しいこと、
美味しいこと……!!
幾度もリフレインしながら菓子とともに味わうのは、現実ならば味わえなかったかもしれない琥珀色に透きとおるチャイ。敢えて砂糖を控え目にした紅茶の異国情緒と品の良さも楽しめば時を忘れて夢中になってしまいそう。
だけど此方も忘れずに、と頼んだ極上のアラビアコーヒーを口に運べば、
「成程、格別だ~! クレメンティアが堪能できないのは残念だけど、思い出話を持って行ってあげようね!!」
「そうだね、珈琲の話を伝えれば、クレメンティアさんも少しでも味わった気分になれるかな?」
屈託ない笑みを咲かせたアンゼリカに柔くそう笑み返し、早苗が濃密な夜闇めくアラビアコーヒー片手に手を伸ばすのは、銀の器に甘き山を成す焼き菓子、マーモウル。
食めばざくり崩れるクッキーめいた生地から溢れる芳醇なバターの風味もデーツの甘味も胡桃の香ばしさも、原初の力強さ豊かな珈琲の味わいと融け合えば早苗の口中で飛びきりエキゾチックな美味を咲かす。他の菓子だとどんな風になるのかなと想い馳せれば再びアンゼリカと瞳が合って、
――まずはマーモウルひとつとバクラヴァひときれ、お互いにお裾分け。
この上なく優しい夕空の輝きを纏わせたような、美しい銅製のイブリック。その裡でふわり沸き立つ濃密な珈琲が銀細工と白磁のカップに注がれていく初めての光景にレジーナは胸を躍らせて、別の意味で鼓動が逸るリュヌは、
……本当はカフェオレしか飲めないの、秘密だぜ。
なんて心をひっそりと呑み込んで、いざ二人とも手に取る極上のアラビアコーヒー。
口許に運べば奥深くも艶やかに花開く珈琲の香りの裡、華やかに香るカルダモンを感じたレジーナは眦を緩め、芳醇にして蠱惑的な原初の夜を味わって、
「苦い、けど良い香り。これは好いな……リュヌはどう?」
「むむむっ、これは……! お、オレは大丈夫だけど、砂糖を入れた方が良いって聴いた……ような」
傍らに眼差し向ければ愛らしき天使の眉間には皺が寄る、
十二歳には些か大人すぎたらしい魔法の媚薬、なれど煮出した粉ごとカップに注いで、底に粉を眠らせたまま上澄みを飲む珈琲は掻き混ぜ厳禁、すなわち砂糖の後入れ不可能。それはこの幻想世界でも同じらしく、ならと杯の小ささを幸いに少年はひとまず珈琲を制覇して、
「つまり、珈琲の粉と同時に砂糖を入れてもらって、煮出しながら溶かしてもらえばいいんだよな!」
「みたいだね、お願いしてみよう!」
改めて挑んだ極上のアラビアコーヒーは。
芳醇にして蠱惑的な苦味に砂糖の甘さがまろやかに花開く、何処か楽しげな魅力を添えた美味。
――美味しそうな匂い!!
絢爛たる幻想の夜に、そう言わんばかりにぽむっと跳ねたモーラット・コミュを追いかけて、姫芽が潜った天幕にて花開く甘い煌きは、彩も香りも華やぐ菓子の宝石、数多のロクム。
薔薇に柘榴に檸檬に葡萄、粉雪めいた砂糖を纏ってさえも華やかに煌く色彩達に目移りするけれど、姫芽が選びとったのは艶めくチョレートが煌きを覆った品で、
「メロは何? この緑のメロンが欲しい?」
『もきゅっ!!』
ミントグリーンの瞳をまっすぐ見返して力強く頷くふわもふの友に笑み返し、揃って其々の宝石を味わえば、姫芽の宝石は魅惑のチョコレートの裡から更なる甘さと何処か懐かしい、ヘーゼルナッツの香ばしさを咲かせた。
熱さ苦さも鮮やかで蕩ける甘さのミントティーは、すうっと昇るように去る熱がミントの清涼を連れるけれど、すっきりと言うよりも不思議な浮遊感に心が眩むよう。快い眩暈は癖になってしまいそうで、
「メロには刺激が強いかもね。あまーいチャイはどうかしら?」
『きゅ~?』
何か問いたげにころりモーラットがまぁるいからだを傾げれば、姫芽は意を汲んで悪戯に微笑んで。
――アラビアコーヒーはね、
――もう少し大人になってから、誰かと楽しみたいわ。
黎明の菫硝子にかかる銀彩の月、豊穣の月を思わす黄金の杯に実る柘榴石の果実。
幾つもの綺麗な煌きがアヌシュカの胸を弾ませたけれど、橄欖石そのものを思わす滴の煌きが何より彼の心を躍らせる。
黄緑の煌きを燈す金色のオリーブオイル、香り立つそれが回しかけられるのは淡いビスケット色したなめらかなペースト、ひよこ豆のフムス。現実でも大好物たるそれを幻想で味わったなら、それこそきっと天にも昇る心地。
ちょっぴりのパプリカパウダーで装うフムスを焼きたてのピタパンで掬って頬張れば、練り胡麻とひよこ豆の豊かな滋味が大蒜によって劇的な旨味となってアヌシュカの口中で満開に花開く。青さ香るオリーブオイルと絡み小麦生地の甘さ香ばしさ弾けるピタパンの味わいと跳ねて。
軽く檸檬を絞ればまた異なる美味の花が咲く。
「食べ歩きして、綺麗なもの見て……もうこれ最高……何処までも最高……」
辿りつくのは現実でも幻想でも何より確かな、世界の真理。
砂漠の幻想、砂海の真珠。
絢爛の浪漫に溺れる淫魔が創り出した幻想の夜ときたら、とろり濃密な夜闇を甘い眩さで蕩かすよう煌いて、己の幻想にも重なるような不思議な心地で織乃・紬(翌る紐・g01055)は光と彩が躍るバザールに遊ぶ。
何時か何処かで眺めた絵本の煌き。
今も紬の胸奥の片隅を微かに擽る指先の女の部屋で頁を繰ったのが千夜一夜物語だったはず。千の夜伽に羨望を覚えるより明日は我が身と背筋を震わせた記憶を掘り起こせば、忍び笑いに軽く肩を揺らして。
――口辯で縋り、命を拾う。
――だッてそれ、俺の生き方そのものでしょ。
自虐か冗句か、自嘲か戯言か。ゆえにこそ思い浮かんだのは盗賊のなり。
盗賊を装うなら誇り高き砂漠の民の蒼きターバンでなく、絵本に倣って砂色がかった生成りのそれで口許を覆うべきか。
「で~も、此度は違うンだなア。話以外で口を塞ぎたいトコで」
酒精の存在せぬ幻想ならば、口寂しさを忘れさせてくれる別の何かがいい。
なんてけらり笑って紬が足を向けた、先は。
美しい真珠、馨しい珈琲。
甘やかなロクムにバクラヴァ、マーモウル。そして、バニラ香らす小麦と胡麻の砂岩めいた菓子にドライフルーツの宝石を秘めた、ハルヴァ。あの煌きもモザイクランプのそれに似てた、なんて、先程心ゆくまで堪能した逍遥を思い起こして笑みを洩らせば、ノスリの吐息は柔らかにくゆる桃とジャスミンを薫らせる。
水煙草の硝子の裡に優しくこもる、水の音。
それにしゃらりと重なり彼の耳朶を擽る響きは、美女の繊手、たおやかな指先が揺らす耳飾りの音色。商人に勧めらるまま購ったそれは、洒落た金細工が鮮やかな夕陽の宝石を抱く逸品。夕陽の輝きに金の砂が舞うようなサンストーン、その煌きが傍らに侍る麗しの美女の夜色の瞳に映り込む様に、お返しとばかりに彼女の耳許に唇寄せて笑み返す。
纏う同じ香りが融け合っていく、秘めやかなひととき。
言葉も声音も交わさず、時のみを交わす理由など識れたこと。
――こんな幻に游ぶのも、悪くない。
●幻想千夜
深い夜の瑠璃色に銀糸めく灰色で織り出された紋様の名は、狼の口。
邪視除けのはずのそれに喰われそうな心地を覚えつつ垂れ幕代わりのキリムを潜った先で紬が選びとったのは、
――酒精の存在せぬ幻想ならば、口寂しさを忘れさせてくれる別の何かがいい。
「なアんて言いつつ水煙草を選ぶてエのが、俺の駄目人間たる証拠なンだが」
独り言のそれが何処か言い訳めたい響きを孕むのは、幻想の夜に対してか、あるいは自分自身に対してか。
然れど、明るいようで深く鮮やかな煌きを秘める薔薇色硝子に金彩が咲く華やかな美しさ、薔薇に睡蓮にジャスミンに、と選りどりみどりの花の香りに悩めるひとときも魅惑的で、やッぱここは薔薇かなアと笑った時には言い訳の必要も綺麗さっぱりと忘れて、ひととき満たしてくゆらす、極上の夢霞。
――健康云々指摘されたッて、煙に巻いちまえばいいさ。
――その為の口辯、でもあるンだから。
愉しげにくつくつと喉を鳴らして紬は、絢爛たる幻想のひとかけら殊のほか丁重に抱えて。
幻と消えないと良いけども、なんて、軽やかに希う。
狼の口を潜って再び絢爛たる夜のバザールへ泳ぎ出してゆく知己の背を、言の葉も眼差しも交わすことなく見送ったのは、僅かなりとも交わせば互いの幻想が儚く砕けるような気がしたから。
彼方もきっと同じ感覚を抱いていたはずと柔い繭に確信を包んで萱は、また一夜ジャスミンの、茉莉花の水烟が、水煙草が齎す夢に沈む。繰り返し、繰り返し。
紅海ではなく、きっと地中海。
美しい色硝子の煌きと花の香を求め、泳ぐように潜るように沈んでゆくのは、何処までも透きとおる海を思わす、碧がかる海の底。限りなく優しい水音をこもらす硝子のなかの海を透過するように、甘やかな茉莉花が己を満たして、元より纏う花の香を魂の芯から匂い立つように上書きしていく心地。
ふわり吸い口を離して吐き出す烟が散って消える先も幻想の夜。
不思議な心地で見送れば、趣の異なる幾重もの紗にも似た夢に、次から次へと溺れていくかのよう。柔く笑んだなら琥珀の瞳にも燈る甘い煌き、視界が優しく霞むのは煙のゆえか、萱が夢幻に酔いしれるがゆえか。
どちらでも構わない。
一口毎にもっと、深くまで。
瞬く間に幾つの、幾十の、幾百の夜が過ぎたろうかと数えるのも無粋な甘い夢。
刻々と変わる夢幻は万華鏡と同じ。先のものと同じかたちを作りはしないから。
――千の夜を越しても飽きず溺れて、しまいそう。
桃とオレンジの香味を融け合わせれば、蕩ける瑞々しさなんて、不思議な言の葉の連なりが胸に浮かんで。
白葡萄とスペアミントの香味を融け合わせたなら、清涼な甘さが木洩れ日めいて煌く感覚に双眸を細めて。
続けて美貌の踊り子と豪奢で凛々しき王は、初めて喫する水煙草に思わずむせてそれさえも楽しく笑い合ったなら、互いの吐息に果実が香る様に瞬いたのは、ヤコウとラヴィデ、ほぼ同時のこと。
「そっちもおいしそう!!」
「甘くて甘酸っぱいですよ」
瞳を輝かせる王に悪戯めいた言の葉で踊り子が応えれば、水の瓶から艶めかしい曲線を描く管を絡めるよう吸い口交わし、一口、夢幻の交換を。あは、トロピカルになった、と相好を崩すラヴィデにヤコウは微笑み返して、次の夢幻も、その次も、交換していったなら、やがておんなじ色に染まるだろうかと心を馳せる。
苺とバニラならケーキみたいになるのかな、薔薇と蜂蜜も試してみたいと膨らむ期待のままラヴィデが語ったなら、
夏夜にゆったり王へ涼風を贈る扇のごとく狐の尾が揺れて、上機嫌に応えるよう揺れる竜の尾で金環が鳴った。
――王様のお望みとあらば千夜だって、波間で踊って差し上げる。
――夢幻の夜にも確かな君と、溺れるならば骨の髄まで。
賢者の石という二つ名を抱く辰砂。
神秘的に蠱惑的に煌くその鉱石は、孕む性質を思えば肌に直接触れる装身具にあしらうのは悩ましいところなれど。
絢爛たる幻想のバザールでは創造主の欲しいものへの躊躇いのなさゆえか、華やかな紅の煌き取り揃えてシエルシーシャの眼前で夢幻の辰砂達が妍を競う。金細工とともに花咲く髪飾り、銀細工とともに花咲く首飾り。
たっぷりと眺めて回れば、続いて瞳にとまったのは、深い藍に輝く夜空に金銀のアベンチュレッセンスが煌き渦巻く銀河の宝石、アイオライトサンストーンを黄銅細工が幾何学模様を編む額に収めた、芸術品のごとき鉱石標本。
――もしかして、ここ、何でも叶っちゃったりするのかな?
そうではないと識りつつそう想えばシエルシーシャの心も足取りも弾んで、ふと思い至って幻想の金貨銀貨で購ったのは、物語ゆえに照明のランプよりも魔法のランプとして名高い、誰もが脳裏に思い描けるだろう品。
呪詛を帯びた宝玉を中に秘め、ランプを擦ればシエルシーシャのパラドクスに導かれるまま溢れだすのは、何処までも長い異形の『手』。
「わ、びっくりした! 凄いねそれ……!!」
「あ、驚かせてごめん、敵以外には悪さはしない、はずだから」
驚嘆も感嘆も同時に笑みと声音に咲かせたのはアンゼリカ、顔を見合わせシエルシーシャと笑い合ったなら、黄金誓姫改めアラビアン男子もいそいそと魔法のランプっぽい同じ品を幻想の金貨銀貨で購った。
胸を高鳴らせつつ金の輝きを撫でてみて、
――私も真似っこして、光剣閃波(セイバーフラッシュ)! ってランプから出したらやっぱり割れるかな……!?
なんて思って鼓動を跳ねさせたりもしたけれど。
もしも持ち帰ることが叶って、アンゼリカの装備品に、つまりクロノ・オブジェクトにすることができたなら――?
正確に言えば熱くて苦くて飛びきり甘かったミントティー。
新たな夢の扉開くようなそれの杯をクーガが空っぽにして、柘榴と葡萄の宝石めくロクムは二人で、熱くて甘くて堪らなく美味だったバクラヴァの器をベロニカが空っぽにしたなら、ひとときのしあわせにひとやすみした路地の階段、何とはなしに振り返ったなら、緩く昇るきざはしの先、
「――ニカ、星」
「ホントだ、星灯りがならんでる」
世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプの煌きの波間で、宛ら闇夜に見出した唯ひとつの星のごとくシンプルに輝く光がクーガの胸の裡にあかりを燈し、数多の光と彩がベロニカの胸の裡で虹色に煌く星々となって楽しげに弾む。
「いこう、くー。つれてかえる星、選びに」
「おれはもう、選んだ。ニカはしってるか。ぜんぶ、かなわなくても、のぞんでいいのが、自由――らしい」
叶えたいものは自分が空っぽになってしまったならベロニカには分からなくなってしまって、けれど空っぽなら沢山入ると思ったままをクーガが口にして。そうして語りつつ階段を昇れば二人の足取りも弾んで跳ねて翔けだして、あっという間に辿りつく硝子の星空のもと。
透きとおる硝子に金色ゆらめく炎を閉じ込めたような、遠い道しるべにも似た星、これをくれ、と掲げれば、クーガの掌に現れる幻想の金貨銀貨。
それで購うのは、まだ彼の識らぬ、自由のひとつめ。
叶えたいものは分からずとも欲しいものは何故だか確かだから、瑠璃色硝子に銀彩の星が煌く香水瓶にそっと触れて、柔く感じる懐かしさにベロニカは、朧月を思わす笑みを燈す。口にするのは己なりの自由を購う幻想の金貨銀貨を招く言の葉。
――これ、欲しいな。
砂漠の幻想、砂海の真珠。
流れ星を連れてそこへ舞い降りた夜の精になった心地で彷徨った、秘密の財宝みたいな夢幻の絢爛は、こころを何処までも惹き込む極上の迷宮でもあった。
大人達がゆうるり遊ぶ甘やかな霞は花の香と果実の風味を柔らかに蕩かし、霞にいっそうの夢を燈す色硝子の煌きは砂色の街並みにも数多の彩鏤めて。原初の夜を極上の夢と成すアラビアコーヒー、甘くバニラ香る菓子の砂岩からドライフルーツの宝石探す楽しみもくれたハルヴァと次々に幻想を泳げば、
綺麗、素敵、美しい。
こころ自身の胸にも幸せな光を燈す言葉達が自然と溢れだすけれど、すぐに言葉では足りなくなってしまうくらいすべてに夢中になって何処までも惹かれて翔けて。
――嗚呼、けど、迷子にはならんよに気ぃつけんと。
方向音痴の自覚が夢のように消えてしまわなかったことが不思議なくらい光と彩に溺れて遊んでめいっぱい満喫したなら、最も心惹かれたのは、夢幻の街を飾るあかりそのもの。
幻想の宵闇を照らす光、ひときわ明るく優しく輝く一番星。
心にそう決めたランプを手に取って、
「貴方をこの可惜夜のお友達にしようか」
飴玉めいて煌く瞳を更に甘く和らげ微笑みかけたなら、こころの一番星が嬉しげにきらりと煌いた。
凛と銀彩きらめくチャイグラスに注がれた紅茶には心のままに角砂糖を踊らせて。
苦味さえも芳醇で華やかで蠱惑的、と誰かに聴いたアラビアコーヒーは、原初の魔法の媚薬そのままを楽しんで。
己に燈したローズマダー色の浪漫そのままに幻想の夜を旅したショウの眼差しが辿った煌きは、透明な水晶の裡に細い細い金のレイピアが舞うようなルチルクォーツ、黒檀と真珠貝の蝶が羽ばたくさまを思わせる書見台。可愛らしいチューリップを織り出す手頃な大きさのキリムには、この花が元はアナトリアの花だと聴いた話を思い出す。
数多の幻想にたっぷり心は揺れたけれど、ふと出逢った途端のひとめぼれを、幻想の金貨銀貨で購った。選びとった品は、優しい春色の絹糸が咲かせるレースの花。
可憐なそれはオヤと呼ばれる伝統工芸で、淡桃色に薄紫色に、乳白色の春彩の絹糸が小さな菫の花を幾つもふんわり纏めて咲かせる様は、ショウが最も馴染む四葩の花を思わせて、優しい幸福が花の色の眼差しにも燈った。
細いリボンをあしらえば栞になるだろう。軽い留め具をあしらえばちょっとしたアクセサリーになるだろう。
たとえ、絢爛たる夢の涯に、幻のまま消えてしまっても。
この目でみて、感じて、わたしが触れたもの全部、わたしのもので、現実だ。
――いつだって、そうしてわたし達は、いきていくのだから。
目蓋を伏せる。深呼吸をする。
眩くて鮮やかで華やかで甘やかな、この上なく美しい光と彩が煌き遊ぶ胸の裡に、凛と張り詰める凪を招いたなら。
砂海の真珠たる街から振り仰ぐ麗しき宮殿は淫魔達の居城。
殺された人々の魂を捕えて更なる堕落を齎す、甘美なる牢獄の、核。
――時が至る。
――今こそ鮮やかに速やかに、猛然たる勢いで、麗しき宮殿へ攻め込む時。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【現の夢】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV3が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
【神速反応】LV2が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【土壌改良】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【飛翔】LV4が発生!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV5が発生!
【ダメージアップ】LV7が発生!
【命中アップ】LV5(最大)が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV3が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【アヴォイド】LV2が発生!
シエルシーシャ・クリスタ
――ああ、楽しかった。
囚われた人たちが堕落し切ったのもまあ、仕方ないよね。
でも、だから終わらせないと。居心地の良すぎる牢獄はタチが悪い。
バザールを歩いた装いのまま宮殿へ。
武器は……道中で見た曲刀に近くしておこうか。
残念ながら舞曲の心得は無いから、洒落たお誘いはできないしね。
剣舞団の攻めは巧みだし、正面から斬り合わずに避けと受けに集中しよう。
こちらの攻めはほら、宝玉を入れたままのランプをひと擦り――する必要は本当はないんだけど――して、呪詛の手を伸ばせば事足りるし、避けられてもこびり付いた呪詛は少しずつ命を蝕んでいくから。
具体的には【ロストエナジー】で。
もちろん突ける隙があれば曲刀は振るうけど。
シル・ウィンディア
えへへ、首飾り綺麗だね。
せっかくの踊り子さんの衣装だから、雰囲気出していこうかなっ♪
左にて創世の小剣をもって動いていくよ
いつもは飛ぶけど、今日は踊る方を重視して動くね
アラビアン風な踊り…
ええと、足の裁きとか、体の動かし方にも気を付けて…
ストールとかの小物も使って、少し色気が出るように頑張って踊るっ!
踊りながらも、相手の動きには気を付けて…
敵の攻撃は、左手の剣で受け止めるようにして、剣舞をするように動いていくよ
真剣だけど、楽しむことも忘れずにいくね
ここぞという所で、高速詠唱してからの光精瞬殺剣っ!
一気に動の動作で切り付けていくよ
…これぞ、精霊剣舞っ!じっくり味わってねっ♪
ノスリ・アスターゼイン
俺とも一曲如何
差し出すのは
掌ではなくナイフ一振り
共に踊るなら
戦場よりも褥が良かったね
双剣じゃあ手も繋げないでしょ
繰り出される刃をナイフで払って流しつつ
艶笑浮かべて囁く戯言
弾ける剣戟の火花さえ昂揚となるなら
相性も悪くないと思うのに――あぁ、でも、
間近で覗き込んだ顔立ちが
先刻戯れた香薫の美女にそっくり
いや
あちらの方が麗しかったな、と
あっけらかんと続けた評価
女心には何方が失礼だろう
なんて悪戯な思惑に
此処が永眠する場だと
怒りで優雅な足裁きを忘れてくれたなら、
良いね
余裕を失くすくらいの情熱で
惑い踊れよ
砂のヴェールに包まれ飲まれ
踊り明かした命の涯てに
預言者の首の代わり泡の女王の首を贈ってあげる、と
餞の約束
フィーナ・ユグドラシア
※アドリブ、連携ok
世界のルールに則って、引き続き青色基調のアバヤとヒジャブを着用。
戦闘に魂達を巻き込む訳にいきません。広間で大立ち回りして、本丸に御来場頂きましょうか。
まぁ、私は歌唄い。歌声を響かせられれば大立ち回りも要りません。
戦闘では『凱歌』を歌って味方を鼓舞しつつ、敵の戦意を殺ぎましょう。
この世界に合う感じの旋律を、敢えて相手の踊りのテンポを崩す感じで歌いましょう。リズムを崩しても踊れますか?
もし動きの止まった敵が居れば、逆に此方が細剣で一刺しです。
踊って荒ぶっている所申し訳ありませんが、大人しくして下さいね?
後は孤立する味方が出ないように、また、相手に連携させないように位置取ります。
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
僕はラヴィデ王の為の踊り子だから
麗しの娘達と舞うことは無いけれど
…残念ですか?
戯れを零しつつ
くるり構える長針
翻弄されぬよう足裁き等の動きをよく見
神速反応で敵技を回避したり
間合いや好機を逃さず
皆と声を掛け合いながら連携を
運針にもね
リズムがあるのです
足首の鈴の音を鳴らして
軽やかに踏み込み神蝕呪刃
刺突の波縫い
剣先を躱すバックステップは
ほら
まるで返し縫い
スルタンの懐に入り込もうとする不届き者には
ちらり覗く獣の本性
牙を剥くように冷酷に胸を穿って
引き抜く針に連れて寄る身があれば
耳元でそっと囁く
汚らわしい手で触れるな
血飛沫の一滴たりと
王の身に触れさせやしない
勿論、泡のひとつだって
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と
美しい場所だ!
時が時なら探検したのに。残念
『レゼル(長剣)』も夢幻の影響か
シャムシール風曲刀へ蠢いて
笑っちゃうな、ご機嫌みたいで
さすが華麗な踏み込みだねぇ
だが、火傷するのはどちらかな
オレの間合いでもある。一挙一動に精神を研ぎ澄ませ
緩い構えからの『不意打ち』の【神速反応】
シナブルへ招く
オーラが齎す『火炎使い・結界術』で
炎を呑み呑まれ、斬り結ぶ
やはり優雅な高みの見物より
身を粉に働く方が性に合う
第一
おっと、今宵は暴君気分なんでね
所有物ならぬ我が踊り子へ伸びた手へは刃で報いを
火の粉を払いたいのはお互い様
疲弊した敵や攻撃され怯んだ敵を
見逃さず畳み掛ける等
皆と連携して殲滅したい
アンゼリカ・レンブラント
とても楽しいひと時だったね
菓子の甘さ、胡桃等の香ばしさも素敵
けれどこの甘美なる牢獄、砕かせてもらうよ
引き続きアラビアン男子の装いで
光の刀士としてお相手しよう
勇気全開で光のパラドクスに身を包み攻撃を行う
ダッシュで近づき斬撃で攻撃するのは変わらないけど
いつものパワフルな直線の攻撃よりも
舞い踊るような円の動きを意識して切り刻もう
囲まれないよう、ヒットアンドアウェイを意識
仲間と攻撃を合わせられれば合わせるよ
相手からの剣は足の動きをよく見て
致命の一撃を受けないよう注意
身を滑らせるように避けつつ懐に潜り
残念ですがお姉さま方
今宵の舞踏は是迄です
男子らしい言葉かな?を囁き
《光輝勇突撃》を叩き込み決着をつけよう
咲初・るる
舞踏のご相伴に与ろうと思えど
心得は無いのでね
どうかお手柔らかに頼むよ
宵色は纏ったまま一礼
揺れるベールに夜星瞬く
魅惑秘めた舞は美しく
見惚れてばかりじゃいけないね
一斉に襲い来る刃
【神速反応】或いは【飛翔】で
ステップ踏むよう軽やかに羽ばたき避けたなら
鐘の音鳴らして力を
再現するのは
仲間の一手か
仇なす踊娘の惑わす剣か
…ああ駄目だよ
ボクばかり見ていたら
不意を突かれて食べられてしまうよ?
懐に入り込み
そっと指先で触れるは彼女の唇
それが合図と再現した片刃刀で一閃
敵を裂く
倒すべき人でなければ
この壮麗な場で
キミ達の踊りを飽きる事無く
ずっと見ていられるのに
千の夜を終わらせよう
泡沫の夢はいつか覚めるものだから
四葩・ショウ
この夜を、あまいあまい夢を
終わらせにきたんだ
夜を游いだバラージ・ドレスのまま
宮殿へ、救援機動力が呼ぶ方へ
ーーあの子はどこ? かえして!
と"演技"含めて言い放つ
ああ
加護を授かるための演技の筈、
だったのに
思い描いたのは、奪われた妹のーー
解き放つ、『復讐の刃』
すべてとり戻すという強い意志は、シャムシールへと形を変え
そのまま手に取って繰り出す"斬撃"と"フェイント"
時に少年の眼差しで"誘惑"し
或いはとびこみ、"撹乱"して
投げつけるまで、握りしめ
踊るような乱戦なら仲間の動きを気にかけ
孤立や突出があれば加勢に
護衛の彼女たちはひとり残さず
広場の舞台に上がって貰おうか
とらわれた魂を巻き込むのは、絶対にさせない
ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ・連携歓迎
名残惜しくもありますが
幻想の夜に魂を捕らえられてしまう前に
魔法を解きに行きましょう
カフタンとシャルワールの衣装のまま宮殿へ
私は旅の楽師
一曲、如何ですか?
と、剣舞団に微笑みかけ
今夜はピアノ代わりにサントゥールにて演奏を
VR楽器の出力を変えてサントゥールの音色が出るように調整します
なにせこれは「音楽の泉」を冠すもの
湧き上がる音色は底なしですから
ヒロイックシンフォニーもアラビア風アレンジで
戦場をより美しく彩る様な
激しく、心躍り、余韻を効かせた音色に仕上げましょう
仲間と協力して一人ずつ仕留め
剣舞団の連携を断つように動く
逆に仲間が孤立している場合は支援できるよう戦場は広く見ておきます
ウルリク・ノルドクヴィスト
敵は一体ずつ
着実に『貫通撃』を狙い
攻撃は得物で受け止め、流し
或いは回避試みて
君達も護衛、護る者、ならば
主君の為には
『殺気』を無視は出来まいと
見据えた相手は、逃がさない
夜の市が華やかならば、当然、宮殿も其の筈で
隅から隅まで豪奢に感じられる其処は
力に任せて戦うばかりの俺では、
不意に、何処も彼処も
割って、毀して、しまいそうだ
敵の塒であろうと
自分を受け容れてくれた
美しい幻想の中だから、なのか
振るう槍で、夢を引き裂くのは
何処か口惜しく思われた
刃を鈍らせては槍騎の名折れ
捕われた魂を穿つ羽目になる、など御免だ
此の世界は甘美でも、牢獄、ならば
無粋な自分を悔いたとしても、攻め入ることは躊躇うな
言い聞かせて駆ける
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ大歓迎
良い夢を見て、夢の世界の続きは……
バザールで勧められた空色のカフタンに、ターバンと宝石飾りの出で立ちで歩もう
……衣裳で気分も変わるものだ。御伽噺の登場人物になったようで
存分に絵画世界を味方につけよう
胡桃材に銀の弦のウードを演奏
(またはチェロのピチカートで似せる)
弦なら多少馴染みはあるのでな。先程の、協奏の続きを
奏でるは舞曲
呼び出す英雄は、千一夜の登場人物達
剣舞団と存分に戦い、舞わせよう
アラブの音色は情感に訴えるものがある
流麗な旋律、深みのある響き
一呼吸、
指先の動きに躍り出す音色
伴奏に掛け声交え
敵の舞踏には情熱で対抗し演奏に集中
魔力障壁で防御し
相手の舞台に呑まれぬよう心しよう
夜茨・こころ
甘い眩暈の先の夜
明けてしまうのは惜しい気ぃもするけど
先の暁天もきっと壮麗やろうから、大丈夫
夜は終わりがあってこそ、明けるのが惜しいもの
どんなに綺麗な夜でも、永遠なんて、つまらんよ
彗星の尾の翼で【飛翔】し
惑星宿す杖と夜を揺蕩い、翼翻し舞う
踊子が此方を狙って刃振るうなら、
悪戯っ気のある精霊如く翻弄するように避け翔ぶ
砂海の夜を背に、魔法の弾丸で応戦
弾丸を避けられたとしても、
足元崩されたら、舞うのも難しいんちゃう?
此処で大人しく眠ってええんよ?ねぇ、踊り子さん方
高い視点を活かし、広く戦況を捉えるように
仲間には適宜声かけ、互いに目を配り、気を配る
ルクス・アクアボトル
陸(g01002)と
暴れるのが好き、というわけでなし
順当に援護に回る――と、普段なら、そう言うのだけどね
今日は踊り子の日――それに、「ご同業」相手じゃね
悪いけど、このまま目立たせてもらうわ
踊り子衣装のまま、二刀を手に前に出る
ママが一番得意だったのも、剣の舞い
視線を惹き付け、惑わし、何物にも囚われない潮騒のように
淫魔達の間に飛び込み、共に踊るように、ステージ上で切り結ぶ
ふふ、貴女たちもなかなかね
でも、ごめんなさい。今日の楽士は、私の味方みたい
見守り、背中を押すような旋律に、目を細め
綺麗ね、と、小さく呟いて。
ええ、――きっとこれなら、私。
有象無象の手の届かない、高嶺の花の踊り子のままでいられるわ?
竜城・陸
ルクス(g00274)と
前へ出たその背を見遣って、僅か目を瞠って
けれど意を察したなら追うことはせず
その場で術式を励起する
生み出した氷晶の奏でる、微かな響き
連ねて、重ねて、再現するのは
先程聴いた、異国の旋律に似せたもの
歌を編む術なら心得ている
……魔術を編む心得も同じくね
耳で聴いた旋律を基礎に、別の旋律を織り交ぜながら呪歌を編み上げ
前で戦うルクスを援護する術式を織り交ぜていく
この旋律は、今ひととき彼女の為だけのもの
敵の足を鈍らせて、その統率を乱すと同時
その切っ先がより研ぎ澄まされるように後押しを
十全の力を以て援護するよ
軽やかに踊る彼女は、自由であってほしいし
何よりも、誰にも傷つけさせたくはないから
標葉・萱
夢は名残の香が尾を曳いて
千と越えてもまだ、酔えそうだけれど
うつくしく翻る裾も、掲げられるのは血濡れの剣では
踏み鳴らされる足元に敷かれるのが、無辜の魂ではね
そんな歪は、夢でもご免でしょう
集う彼女たちの突出してくる綻びがあるならそちらから
数で一人を狙うのはどちらも同じでしょうか
なるべく彼女らを分断するように
同胞が孤立してしまわぬように
呑まれることなく、把握と連携を心掛け
手を引くのは朽ちた指先
旋律も演舞も断ち切るように
上書きするようにダンスマカブルを
どうか今一度、私のために踊って
焔も剣も、呼び出すならば盛大に散らして
溺れたとて目的は元より一つなのだから
とうに帳は上がっているから
どうぞ出ていらして
●幻想宮殿
砂漠の幻想、砂海の真珠――。
濃密な珈琲色の夜闇の底、砂海の波間に落とされた蜜色真珠、蜂蜜色の光の繭から羽化するのは秘密の夢か、極上の幻か。
甘い眩暈のまま夢幻の絢爛の底まで溺れても、きっと底無しの蜂蜜のごとき光が迎えてくれる。そう想えばこの幻想は正に可惜夜、然れど心の水面に甘い煌き躍れど夜茨・こころ(La nuit étoilée・g06390)の魂の芯には真理が燈る。
夜は終わりがあってこそ、明けるのが惜しいもの。
「どんなに綺麗な夜でも、永遠なんて、つまらんよ」
深く澄んだ花紺青、美しきスマルトの彩に染まるガラベーヤの背に咲く彗星の尾の翼から煌く未練の滴を振り散らすよう、迷わずこころは【飛翔】で絢爛たる夜のバザールから舞い上がった。砂塵まじりの夜風を翔けてめざすは麗しき宮殿、
甘美なる牢獄を打ち砕き――この夜の涯てに、壮麗な暁を羽化させるため。
世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプ達の煌き、珈琲に菓子に香辛料に水煙草の匂い、熱々のバターの香りに糖蜜の煌き融け合わせたバクラヴァや熱く香ばしくまろやかに香るアーモンドスープの誘惑振り切って駆けだせば、たちまち数多の彩がシエルシーシャ・クリスタ(鬼人の妖精騎士・g01847)の視界の両端を豪奢な流星雨のごとく流れていく。
――ああ、楽しかった……!!
顔には表れずとも胸の裡をひとときその想い一色に染め、捕われた魂達が堕落したのも仕方ないよねと得心したなら、
「でも、だから終わらせないと。居心地の良すぎる牢獄はタチが悪い」
「ええ、同感です。名残惜しくもありますが、この幻想の夜の魔法を解きに行きましょう」
辰砂の結晶を纏うかのごとき鬼人の手が携えた流動する呪詛の煌きが流麗な曲刀のかたちを描きだし、もう一方の手は胸に魔法のランプを抱く。冬空色のカフタンを夜風に踊らすソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の手にも今宵は幻想の黄銅の弦と鋼鉄の弦の音色で歌う魔楽器、煌きの奔流のごときバザールを越えて辿りついたのは、
美しい青と金に彩られた、麗しき白亜の宮殿だ。
純白の白漆喰も白大理石も砂埃など一度も浴びたことがないと言わんばかりに輝いて、幻想世界を抱く光の繭の輝きに照り映え甘やかな蜂蜜色を燈す。優美なる城壁の正面中央には深く輝くラピスラズリと煌びやかな金象嵌で彩られた四芯アーチの城門、そこで門衛よろしく待ち受ける敵二人を見出して、
「佳い夜ですね。私は旅の楽師、皆様の無聊を慰める飛びきりの一曲は如何でしょうか?」
芝居がかった台詞とともに微笑みかければ、
『あら素敵、一曲と言わず一晩中お願いしたいところ』
『――なぁんて、言うとでも思った? あなたの正体はお見通しよ、ディアボロス!!』
幻想でも魂でもない彼が何者かを一目で看破した淫魔の剣舞団が一気に気色ばんだが、勿論ソレイユとて彼女達を欺くのが目的ではなく、絵画世界の理を味方につけるべく振舞っただけのこと。彼の手が夜風を撫でれば一瞬にしてに展開された光の階(きざはし)はグローブ型VR楽器の起動とともに現れたピアノの鍵盤、迷わぬ指先が躍れば躍動感に満ちたサントゥールの音色が尽きぬ泉のごとく溢れくる。
劇的に躍る旋律が情熱的な余韻を引いて迸れば顕現するのは楽曲に創造された幻影の英雄、幻影越しに術者まで届く反撃の剣舞で迎え撃つはアラビアの踊り子めく淫魔達、彼女らと激しく切り結ぶ幻影は、イスラム世界へ攻め込む十字軍の英雄たる獅子心王か、あるいは十字軍を破ったイスラム側の英雄サラディンか――。
英雄の剣閃が淫魔達を斬り裂いた刹那、眩い黄金の輝きが円弧を描き、騎士槍の矛先が鋭く奔った。
「幻想の夜は宮殿の中でも続きそうだね。けれどこの甘美なる牢獄、砕かせてもらうよ」
「君達の主君が織り上げた幻想の美しさは驚嘆に値するものだが――その首級、俺達で挙げさせてもらおう」
踊り子めいた淫魔の門衛達、英雄の刃を受けた二人に引導を渡したのは、黄金の光輝を纏った一瞬の踏み込みと同時に舞を翻すよう光剣を揮ったアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)と、疾く奔らせた矛先で真っ向から淫魔の胸を貫いたウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)。
唯ひとりを標的とするからこそ威力の高い両者の一撃、相手の反撃の機ごとその命を奪い尽くした剣と槍が城門での初戦を圧勝で飾れば、飛翔で城門を越えて突入したこころの眼下には薔薇の庭園が広がった。
幻想の夜にも芳醇に官能的に香る薔薇、庭園中央の噴水は神秘的なターコイズブルーに光り輝く水を噴き上げて、大理石の噴水台を足掛かりに大きく跳躍した淫魔の双剣には炎が噴き上がる。
『敵襲! ディアボロスの襲撃よ、奥まで通しちゃダメ――!!』
「出迎え御苦労様。歓待してくれるんは嬉しいけど、奥まで通らせてもらうんよ!!」
悪戯な精霊のごとく翼を翻せども躱しきれぬと気づけば、迎え撃つこころが惑星連なる杖を揮って解き放つのは双翼魔弾、流星めいて翔ける魔弾と炎の剣閃が交錯する夜空のもとでは、四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)が仲間達とともに薔薇の庭園を馳せる。
「――あの子はどこ? かえして!!」
『あなたの弟? それとも妹? ここにいる魂達はみんなル・シャヴォーヌ様とお楽しみ中よ!!』
「……っ!!」
悪しきジンニーヤに攫われた大切な者を取り戻しにゆく物語、そんなアラビアンファンタジーに己を馴染ませる為の演技に返った淫魔の言葉が、ショウの胸に刻逆で奪われた妹の面影を過ぎらせて――。
ゆるさない。
わたしの家族を奪ったものも、誰かの家族を穢したものも。
夜風から掴み取るのは復讐の刃、全て取り戻すと誓った強く輝く意志は美しく反る刃を備えたシャムシールとして顕現し、幻想の夜へ鮮烈に舞う。深く香る薔薇の茂みも光り輝く噴水も色鮮やかなタイルが美しいモザイク画を描く庭園の地も舞台に変える剣舞の彼方には対成す獅子の彫像が護る第二の門、その陰から新手の淫魔達が庭園へ躍り込んできたが、
「合流はさせませんよ。どうぞ一曲、お相手を」
「ええ。踊るならどうぞ私達と、ダンスマカブル――死の舞踏を」
至近からショウが投擲した刃に腹部を貫かれた淫魔もろともに、新手の淫魔達へとソレイユの楽曲から顕現した英雄が剣を揮って、庭園の地を彩る楽園のモザイク画に焼けた靴の踵を躍らせた白き花嫁が、標葉・萱(儘言・g01730)の十指が導くまま連撃を見舞う。
濃密に夜を染める薔薇の香りにあえかなジャスミンの香りが混じる。淫魔達が香油でも纏っているのか、或いは何処か別の庭園で咲いているのか。それとも、先程萱が沈んだ水烟の夢の名残が曳く澪が香るのか。
千の夜を越えてもまだ酔えそうな香りに呑まれまいと微笑し、今は人形として添う花嫁の、朽ちた指先に願いを伝える。
――どうか今一度、私のために踊って。
薔薇の庭園を制した勢いのまま獅子が護る第二の門から宮殿内部へ突入すれば、広がるのは明るい金色に輝く黄銅と虹色の煌きを振りまく硝子のシャンデリアに照らされた空間。大理石の床にはこちらもターコイズブルーに光り輝く水を湛えた池が設えられており、夜咲睡蓮咲く水面を飛翔で越えれば、駆けつけてきた更なる新手と激突する。
『叩き落としてあげるわ、ディアボロス!!』
壁龕や列柱を足掛かりにした跳躍さえも舞踏と成して、淫魔達が剣舞のパラドクスを織り上げる。
己の周辺時空を歪め、敵味方ともに時間も空間も世界法則の理も書き換えながら戦う逆説連鎖戦。
如何に力を高めようと、如何に有利な状況に持ち込もうと、相手のパラドクス攻撃を完全に回避することは叶わないという逆説連鎖戦の絶対の真理は幻想の世界においても変わらない。急所への直撃を逸らすなり防御で衝撃を軽減するなりで優勢な反撃の機へ繋ぐことは可能でも、味方からのディフェンス以外に敵のパラドクス攻撃を無傷で凌ぐすべは存在しないのだ。
「けど――逆を言えば初陣から日の浅いうちでも、パラドクスの攻撃は絶対に当てられるってことやんね!」
「勿論だとも! そして此方の攻撃が完璧かそれに準ずるくらい巧く決まれば、相手の反撃を潰せるというわけさ!」
揮われるのは炎の斬撃、まともに浴びれば骨まで炎が達するだろうそれを花紺青のガラベーヤと彗星の翼を躍らせる飛翔と既に燈されている護りの加護の恩恵でこころは浅手に食い止めて、反撃に攻撃を繋げた魔力の弾丸の連射で逆に淫魔達を叩き落とせば、間髪を容れず舞い降りるのは咲初・るる(春ノ境・g00894)、
「舞踏の心得は無いのでね、どうかお手柔らかに頼むよ」
一斉に襲い来る刃を軽やかに避けて――なんて戦いがそれこそ幻想であるのなら、敵に先手を許す必要もない。宵色の紗を纏ったまま一礼すれば金の星々が煌いて、明るい金に艶めく黄銅、真鍮のベルが星のひかり降るような音色を響かせたなら、時間に干渉する神術が淫魔達と同じ黒と金の双剣としてるるの掌中に花開いた。
華麗なイズニックタイルで縁取られた壁龕、流麗な漆喰彫刻のアーチで繋がる大理石の列柱、それらを翔けつつ星空の紗を躍らせ剣舞団の舞いを再現しながら、先のこころの魔弾を受けた二人をその反撃ごと葬り去って、るるは更なる敵二人を刃に捉えて幻想の宮殿に舞う。
命中精度を高める加護は絢爛たるバザールで既に、攻撃の威力を強める加護も開戦早々に最大限まで積み重ねられている。そこへ絵画世界の理をも味方につけたなら、自陣の消耗を最小限に抑えながらの快進撃とて叶うはず。
絢爛の坩堝のごときバザールよりも更なる豪華絢爛の煌き満ちる淫魔達の居城、麗しの宮殿に吹き荒れる瘴気。
これもまたバザールの折から幾重にも燈されてきた【ロストエナジー】、淫魔達が攻勢に出るたびその命を削る呪いだ。
大理石の列柱が落とす影、黄銅と硝子のシャンデリアが降らせる光、鮮やかな光と影のみならず瘴気とも舞うような淫魔の剣技はシエルシーシャの予想通り巧みなものなれど、
「呪詛に命を蝕まれる感覚はどうかな? 君達ならそれも快感だったりするの?」
『っ!! なんて小癪な……!!』
真紅の鉱石のごとき硬質な腕を更に覆う桃花色の結晶、拳甲と呼ぶより籠手に近しい煌きで敵の刃を受けて威を鈍らせて、本来なら意識するだけで召喚できる術をあえてシエルシーシャは魔法のランプを一擦りする所作でアラビアの魔法と成す。
魔法のランプに秘められた宝玉から溢るる呪詛が異形の手を成し矢よりも速く猛禽よりも鋭く淫魔の喉元へ喰らいつけば、反撃のみならず攻撃の呪詛も躍る。麗しの宮殿に巣食う淫魔達を蝕む瘴気をいっそう色濃くすれば、あたかも影の濃さが光の眩さを強調するかのごとく、宮殿の煌びやかさがひときわ華やぎを増したかのよう。
瑠璃に緋に翠にと華やかに彩色されたイズニック、釉薬の結晶とも宝石とも思える陶片を組み合わせたゼリージュ。
壁面のタイル装飾だけでもめくるめく程のあでやかさだというのに、華麗なレースを幾重にも立体的に編み上げたかの様な漆喰彫刻ときたら、壁や床に落とす影さえも息を呑む程に美しく艶めかしい。
淫魔ル・シャヴォーヌがありとあらゆるイスラム世界の幻想を結晶させたのだろう宮殿は隅から隅まで何もかもが豪奢で、
――力に任せて戦うばかりの俺では、
――不意に、何処も彼処も、割って、毀して、しまいそうだ。
数多の淫魔達が巣食う魔窟でありながら、華やかで甘やかな光と彩に満ちた絢爛たる幻想。己を受け容れてくれた美しい夢は優しい光の繭でもあったから、この手で揮う槍で幻想を引き裂く様を思えばウルリクの胸は僅かに軋んだけれど、
攻め手を緩めれば、捕われた魂を穿つ羽目になる。
ここで刃を鈍らせては槍騎の名折れ。
絢爛たるこの幻想が甘美なる牢獄であるのなら、無粋な自分を悔いたとしても、攻め入ることは躊躇うな――!!
己を叱咤した槍騎が馳せる世界は瑠璃に孔雀石に金銀にと、鮮麗な色彩が壁面に幾何学模様を織り成す回廊。鋭くも苛烈な殺気を解き放つよう露わにすれば、
『狙いはル・シャヴォーヌ様ってわけね! 皆! 私達で撃退するわよ!!』
「そうだ、それでいい。君達も護る者なら、主君のために此方を無視はできまい」
双剣を手に次々と姿を現す淫魔達、紅き眼差しで見据えたその刹那、何処までも研ぎ澄まされた槍撃が疾風よりも速く鋭く敵の鳩尾を穿ち貫いた。その次の瞬間、ウルリクの左右にふわりと舞い込んだのは純白と薔薇の彩、
「勿論あなたには一番槍がお似合いですが――」
「孤立や突出は危険、ですよ?」
淫魔達を死の舞踏に誘う花嫁とともに馳せる萱、ローズマダーのバラージ・ドレスと曲刀で戦場に舞うショウ、常に同胞の様子を気にかけつつ戦う二人に微笑みかけられれば、
「確かに、君達の言う通りだな」
数多の敵を擁する宮殿に攻め込むのが如何なることであるのか、騎士たる己より萱やショウのほうが理解しているらしいと淡く眦を緩めて笑み返す。独りで呑まれるよりも仲間と馳せる高揚とともに駆け抜けるほうがきっといい。
この幻想の夜の、絢爛たる夢幻の、最果てまで。
●幻想庭園
佳き夜、佳き夢の、絢爛たる幻想の続き。
四方に光り輝く噴水を据えたその空間は高く吹き抜ける天井を流麗な漆喰彫刻で彩り、豪奢なシャンデリアの輝きを受けて煌く床には麝香撫子の花を咲かせるモザイクタイル。
宮殿に攻め込むと呼ぶには優雅な足取りでエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)がその空間へ足を踏み入れる様は、明るい空色を金刺繍が縁取るカフタンに白きターバンと豪奢なターバン飾りの装い、そしてその背に広がる蒼穹の翼も相俟って、
満を持しての皇帝(スルタン)親征か、このアラビア風の宮殿の真なる主の凱旋か――といった壮麗さ。
「ああ、素敵ですね。私も旅の楽師でなく、皇帝(スルタン)お抱えの楽師といきましょうか」
「そういった芝居も面白そうだ。なら俺のカフタンは帝王紫……フェニキア紫でもよかったな」
偶然ここで合流したソレイユにそう応えるけれど、今の装いも中々お気に入り。双剣も紗も煌かせつつ淫魔達が躍り込んで来たなら眼差し交わし、光の鍵盤が導くサントゥールの音色と艶めく胡桃材に銀の弦が煌くウードの音色で奏でる楽曲で迎え撃った。言の葉を交わすまでもなく響き合わせるのは熱を孕んだアラビアの旋律、翔ける舞曲からエトヴァが創造した幻影が宮殿を馳せる。
例えばアラジン、例えばアリババ、例えばシンドバット。彼らの物語は原典には存在しなかったというけれど。
千夜一夜物語では生と死は紙一重、美男美女の煌びやかさも流れる血の臭いも鮮やかで、武芸に優れ戦で華々しく活躍する勇ましき王子は寝所であっさり寝首をかかれ、奸智とも呼ぶべき機転を利かせて苦難を切り抜ける王子のほうが幸せな生涯を送ったりするのも御約束。
「それなら原典から英雄を求めるより、名高き彼らに戦ってもらおうか」
「私も合わせます、これぞアラビアンファンタジーですね……!」
艶やかな炎のごとくうねるエトヴァとソレイユの旋律に乗って淫魔達へと攻め寄せる名高き幻影達、炎の波濤で呑むように圧倒的な勢いで彼らが剣舞団の反撃も捻じ伏せ斬り伏せたなら、
「俺は唯一の主に忠誠を誓った身だが、今夜ばかりは皇帝(スルタン)の許でマムルークの百騎長を務めるとしようか」
この世界らしく振舞うほど戦いが有利になると察したウルリクが、芝居がかった振舞いへの照れを押し隠して床を蹴った。
「百騎長! 格好いい響きだ~!! なら私は百騎長の少年従者! って感じでどうかな!?」
「二人ともいい感じじゃない? それじゃ遊撃は俺に任せてよ、百騎長サン」
欠けた記憶の裡にも谺する主君の断末魔、然れど喪失の孤独を今は仲間達とともに馳せる高揚が埋める。絢爛たる光も影も淫魔も真っ向から貫く疾風となったウルリクの横合いを駆けるのは薄紅のターバンと生成りのトーブを纏って男装したままのアンゼリカ、輝きに身を包めば光の剣を片刃剣と成し、黄金誓姫が勇ましき少年刀士として淫魔へ斬りかかれば、
悪戯な笑みひとつ残したノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)が麝香撫子の床を金象嵌に縁取られた壁龕をも蹴って宙を翔け、水晶の刃を手に新たな淫魔達を強襲する。彼の刃が猛禽の嘴なら魔法のランプからシエルシーシャの意のまま躍る呪詛の手は猛禽の爪、淫魔の腹部を喰らった呪詛の手が明るいターコイズブルーに煌く噴水とへ彼女を叩き込めば、薔薇色の踊り子装束を靡かせ一瞬で距離を殺し、シエルシーシャも曲刀を一閃したけれど、
「っと、アラビアっぽくしてもこっちはダメみたいだね」
流動する煌きの刃は、黒と金の曲刀で完璧に受け止められた。
『ふふ。この刀も呪詛みたいだけど、こっちはパラドクスじゃないのね?』
「それでも――隙あり、ですよ! お姉さま!!」
幻想の世界でもパラドクスの乗らぬ攻撃がクロノヴェーダに傷を負わせることは無いという真理は変わらない。然れど曲刀同士が咬みあった一瞬の隙に、悪戯な踊り子を窘める少年刀士の台詞を創ったアンゼリカが輝く剣閃で優美な弧を描く。
黄金の光を凝らせた片刃剣で水平に円弧を描いた一閃、淫魔を屠った挙措のまま瞬時に間合いを取らんとするも、
『あら身軽ね』
『だけど逃がさないわよ、可愛い少年刀士さん!』
更に駆けつけてきた淫魔達が壁龕も噴水も足掛かりに跳ねて躍ってアンゼリカを追う。
「そっか、地の利は向こうにある上に、地形の利用も巧いんだっけ、この淫魔達!!」
「みたいだね、お手伝いするよ! アンゼリカさんっ!!」
ならば迎え撃たんとしたその刹那、青空に咲く光の春が躍り込んだ。
鮮やかな瞳や髪と同じ青で華奢な肢体を彩る踊り子装束、その胸元に桜めくアーモンドの花咲く金細工の首飾りを煌かせ、シル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)が淡碧煌く小剣を左手に携えて舞う。青き紗の裾を花開かせるよう回れば胸を逸らし腰を撓らせ震わせて、色香に自信はなくとも掟や戒律から解き放たれていくかのごときアラビアの舞踏は自由に空翔ける心を持つシルと好相性、胸を腹を狙いくる黒金の刃は淡碧の刃で逸らし腕や脇腹を掠めさせるにとどめて、
「まだまだっ! わたしの剣舞はここからが本番だからねっ!!」
『やるじゃない、ディアボロス!』
淫魔がばっさり少女を斬り捨てたかと思えば撫で斬りにされたのはシルの残像、ふわり舞い降りた敵の横合いから揮うのは己と刃に光の精霊の力を燈した反撃の剣閃。絵画世界の理を活かす友に負けじとアンゼリカも怯まず淫魔達と切り結んだ。
鍔競り合えば官能的に鼻先を擽るのは彼女達の香油の花香、なれど濃密な珈琲や甘い菓子、香ばしい胡桃の香りの方がまだ恋を知らぬ少年刀士には好ましいから、不意に強気に笑んで跳び退り、首を刎ねんとする刃に頬だけ斬らせて、アンゼリカは眩い光輝そのもののごとく淫魔の懐へ滑り込む。
「残念ですがお姉さま方、今宵の舞踏はこれまでです」
「そういうこと! 此処で大人しく眠ってええんよ? 踊り子さん方」
凛々しき少年の声色を作って囁いて。
光り輝く片刃剣で右腰から左肩へ、左腹から右腹へ、剣閃の弧でなめらかな十字を描いたアンゼリカが淫魔の命を断てば、振りまかれるシャンデリアの光でいっそう神秘的に煌く惑星直列の杖を揮って、こころが中空から残る淫魔達へ流星めく双翼魔弾を降りそそがせた。
豪奢なシャンデリアと流麗な漆喰彫刻が天蓋を彩る空間、そこへ集った敵勢を一掃して翔けたなら、回廊から吹きあがった夜風に乗って再び夜空へ舞い上がったこころが出た場所は花に満ちる広大な中庭。宮殿のあかりに白く瞬くようなジャスミンの花が咲き群れ、柘榴の樹々は夜目にも鮮やかな緋色の花を咲き誇らせて、
「っ!! 尖塔から新手が来るんよ!!」
甘き黎明と黄昏の眼差しをめぐらせたなら、夜空を貫くような尖塔から壁面を窓枠を足掛かりにやはり舞うような足取りで躍り込んでくる淫魔達。即座に皆へと呼びかけたこころが夜闇を裂く火炎の双剣を流星の魔弾で迎え撃てば、舞い散る柘榴の花弁とともにジャスミンの茂みの合間へ降り立った別の淫魔をノスリが舞踏へと誘う。
――俺とも一曲如何?
艶めく笑みを覗かせ伸べるは掌でなく水晶の刃、
「共に踊るなら戦場よりも褥が良かったね。双剣じゃあ手も繋げないでしょ」
『あら。あなたが望むなら、私達ばかりでなくル・シャヴォーヌ様とだって褥をともにできるのに――』
そうしたら大人しく殺されて、堕落した魂になってくれる?
黒と金と水晶の煌きと火花を散らしつつ、剣戟で踊って戯言を囁き合ったなら、短剣で弾いた彼女の曲刀が己が喉ではなく肩を裂いていく様さえ愛撫のようとノスリは笑み深め、甘く深く眩むほどにジャスミン香る戦庭へ、砂礫の雨を、砂塵の刃を降らしめた。繰り返し、繰り返し。
花の香りと砂塵まじりの夜風が、どうしようもなく融け合ってしまうまで。
●幻想舞踏
柘榴とジャスミンの花々咲き溢れる庭園の先には薔薇色と白と金に彩られた第三の門、突破されまいと門前に淫魔達が集う様に嫣然と笑み、夜風に鈴蘭の香りを引いて敵中へ躍り込むのはルクス・アクアボトル(片翼の白鯨・g00274)。
攻勢の主力となって暴れ回るよりも援護が性に合う身なれど、甘やかな春花色の紗で彩る踊り子として幻想を航るこの夜に邂逅する敵が御同業となれば舞台に上がらずにはいられない。
ジル――フィンガーシンバルの音色を自在に操りつつ舞えるようになってこそ一流の踊り子とも聴くけれど、
「あなた達の得手は剣舞よね? 私のママが一番得意だったのも、剣の舞いなの」
挑戦的でありながらも甘い煌き眼差しに燈せばルクスの両手に顕現するのは二振りの曲刀。淫魔達をも凌駕する誘惑を乗せ砂海へ潮騒を招くよう舞えば、響き合うのは氷晶が鳴らす音色、敵中へ躍り込んだ彼女の姿に竜城・陸(蒼海番長・g01002)は僅かに眼を瞠るも微笑とともに黎明の双眸を細めて、
「君がそのつもりなら、俺のこの旋律は、今ひととき君のためだけのもの」
己が裡から励起したのは氷晶の微かな音色を重ねて旋律を織り成す術式。歌を編む術も魔術を編む術も呼吸のごとく自然に心得た陸なれば、凛冽な氷の煌きと涼やかに澄んだ音色は連なり重なり響き合い、先程絢爛たる夜のバザールでルクスの舞を彩った艶やかな舞曲を甦らせて――。
幻想の夜にも艶やかな緑を茂らす柘榴の樹、その枝から鮮やかな緋の花がほとり落ちた時には、第三の門が開かれていた。
潮騒の踊り子と氷晶の舞曲とともに門前の淫魔達を散らしたのは逆巻く呪炎と長大な縫い針めいた妖刀、第一と第二の門に比べればひときわ優美なそこを抜ければ、程無く広がったのは格段に華麗な空間だった。
鮮やかさと眩さに息を呑むほどの青と金、幻想だからこそ吸い込まれてしまいそうに青く精緻なイズニックのタイル装飾に明るく甘く輝き躍る金象嵌が余すところなく彩る空間の奥、涼やかに煌く噴水を両脇に備えた煌びやかな天蓋のもとに、豪奢な螺鈿細工に天鵞絨張りの玉座が見える。
「ここはまた飛びっきりだね! ああ、時が時なら探検したのに。残念無念って感じ」
「……残念無念、ですか? あれが玉座なら、きっとここが謁見の間なのでしょうね」
思わずラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)が無邪気な声をあげればその手の紫黒の呪炎を纏う不可思議な長剣が更に楽しげに刃を反らせてシャムシールを気取り、王もその愛刀も御機嫌な様子に微笑した永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の背後で夜色の狐尻尾が揺れるけれど、
『そのとおりよ! 不埒者が勝手に踏み入っていい処じゃないわ!!』
「――って、言われても。今夜のオレも王様(スルタン)だけどね?」
「ええ。僕達はこの宮殿の侵略者ですが、真なる不埒者は果たしてどちらか、教えて差し上げましょう」
数多の淫魔達が雪崩れ込んでくれば一瞬にも満たぬ刹那で豪奢な王と美貌の踊り子の意識は切り替わる。既に幾重にも積み上げられた【神速反応】を意識すれば反応速度は当然加速する。明るいターコイズブルー輝く噴水の水を思いきり蹴り上げ、強く煌く水飛沫を目眩ましに躍り込んでくる敵勢の一挙一動を見逃しはしないけれど、
反応とは即ち、刺激や働きかけに応じて起こる動き。此方から能動的に仕掛ける攻撃で【神速反応】が活かせるのは極めて特殊な状況に限られる上に、たとえこの効果が最大の威力を発揮しようと敵のパラドクス攻撃の完全回避は不可能という逆説連鎖戦の絶対の真理も揺るがない。だが――、
「ああ、ここで活かせばいいんだ。この効果」
「成程、道理ですね」
淫魔が黒と金の刃を揮うと見えた刹那の神速反応。
極限まで研ぎ澄ませた精神集中をも重ね合わせたラヴィデの反撃は敵が刃を一閃するよりも速く突風のごとく奔って斬撃と共に呪炎を逆巻かせ、燃え上がる竜の幻像となって襲いかかる。敵攻撃の完全回避が不可能なればとヤコウも爪先を滑らせ、一気に相手の懐へ潜り込めば同時を紙一重で凌駕した速度で淫魔の腹部を反撃の針で貫いた。
彼の足首の鈴の音が、りん、と鳴ったのは、その後のこと。
時間も空間も書き換えながら戦う逆説連鎖戦、時間を書き換えられた敵の攻撃が甘くなったのもむべなるかな。勿論、常にこれほど劇的に決まるはずもないけれど、絵画世界の理を味方につけた恩恵もあるのならと笑って、二人は豪奢な王と美貌の踊り子のまま一気呵成の攻勢に出た。
紅蓮の火炎と紫黒の呪炎が、黒金の刃と銀の長針が苛烈に激突し交錯し、時には光り輝く噴水の水を派手に爆ぜさせ盛大な飛沫の煌きを振りまいて、
「屋内で噴水なり流水なりで水音を響かせるのは、中での会話を外から聴かれにくくするためでもあるそうですね」
「涼しくするだけじゃなくて、そういう実用性もあるんだ……!」
「だが、ここでの戦いの音は是非とも広く外へ響かせなければな」
幻想から現実の伝承知識を手繰ったフィーナ・ユグドラシア(望郷の探求者・g02439)が朝空色のヒジャブの裡から語れば、水飛沫の煌きを潜り抜け淡碧の小剣に精霊の光を宿したシルがひとつ瞬いて剣舞団の合間へ躍り込み、フィーナの意を汲んだエトヴァが改めてウードを抱く。主を護らんとする淫魔の剣舞団達を浴場(ハマム)前の広間に集結させて殲滅することで、この絵画世界の主たるル・シャヴォーヌをハマムから誘い出しての決戦が叶うのだ。
それが叶わねば捕われた魂達を戦いに巻き込むことになる。
なら、より情熱的に――と淡く笑んだエトヴァの片手が指板の弦に触れ、もう片手が鷲の羽軸で作られた撥(リーシャ)を銀の弦に躍らせた。濃密なアラビアコーヒーが原初の闇そのものなら、情感溢れるアラビアの音色は人の芯に眠る原初の熱を呼び覚ます炎。深みと艶めかしさを増した音色が情熱とともに躍りあがれば、謁見の間へと舞うのは夜空のごとき髪を翻した幻影のシェヘラザード、
「それなら私の凱歌も、千夜一夜を……!!」
自身と仲間を鼓舞し敵勢の戦意を削ぐ平和を願う凱歌を、幻影のシェヘラザードが紡ぐ物語を歌い上げる心地でフィーナが花唇に乗せれば、朝空色のヒジャブの裡からでも高らかに響く歌声がエトヴァの旋律と共鳴するよう翔けて空間を満たして淫魔達へ襲いかかった。
淫魔達のリズムを乱して剣舞をも乱すという狙いは臨機応変に長けた彼女達相手では叶わなかったが、幾重もの残留効果と絵画世界の理の恩恵と精鋭たる実力を重ね合わせたフィーナの凱歌とエトヴァの英雄の楽曲は、範囲攻撃でありつつかなりの確率で一撃必殺が叶う域に達している。
小細工なしで翔ける凱歌の歌声が、熱く流麗な音色に呼び覚まされる幻影が、真っ向から淫魔達を捻じ伏せ蹂躙すれば、
『ダメ!! 謁見の間はもう無理、浴場(ハマム)前の広間を固めて!! 皆であそこを死守するのよ――!!』
「その先が広間ですね、教えてくださってありがとうございます。行きましょう皆さん、大立ち回りをお願いします!」
凱歌に戦意を削がれたからでもあるのか、堪らずといった風情で淫魔達が謁見の間の奥へと退いていく。だがそれも一時のこと、広間が最終防衛線であるなら、主を護るため淫魔の剣舞団は最期まで抗いぬくはずだ。青空色のアバヤを躍らせ迷わず追うフィーナが、私は思いきり歌いますから、と続ければ、
「了解。王様(スルタン)になることって中々ないしね、暴君気分で暴れてみるよ」
「御大には間違いなく、広間へお越し願わねばなりませんからね」
磊落に笑ったラヴィデが黒に赤、紫の彩を遊ばせるカフタンを迷わず翻せば、夜風色の揃いの紗と夜色真珠の踊り子装束を舞わせたヤコウも王に続く。
「派手に大立ち回りすればいいんだよね、任せて! そういうのならわたしも得意だよっ!!」
溌剌たる笑みを咲かせて謁見の間を飛び出し一気に回廊を駆け抜けたなら、シルは瞬時の高速詠唱とともに『跳んだ』。
――光の精霊よ……、我が身に宿りて、すべてを斬り裂けっ!!
短距離の瞬間移動、時空を超えて広間へ現れたなら息つく間もなく精霊の光を宿した淡碧の小剣で淫魔達を斬り裂いて。
虹色の精霊術士が魅せる精霊剣舞が、眩い光輝で最後の広間を満たす。
●幻想剣舞
この夜を、あまいあまい夢を、終わらせにきたんだ。
淫魔の剣舞団を集結させるように、追い込むようにして跳び込んだ最後の広間は、絢爛たる夜のバザールへ戻ってきたかと錯覚しそうな煌きに満ちていた。高く高く漆喰彫刻が織り成すドーム状の天井から吊り下げられるは、世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプそのものを数多組み合わせたシャンデリア、なれど床にはキリムではなく豪奢なペルシャ絨毯が敷かれていて。
ここが幻想の、夜の涯。
夢の終焉を意識すれば全てを取り戻す誓いから織り上げたシャムシールが己が手に収まるから、足をとめずに馳せる。
「もう、皆この舞台に上がってくれた――かな?」
「ええ。恐らくは」
中性的な美貌を活かした王子様然とした眼差しの誘惑もフェンシング選手ならではの身のこなしを活かしたフェイントも、技能では淫魔達のほうが一枚上手。それでも甘い煌きにローズマダーの絹の紗躍らせればショウの技は冴え渡り、彼女の刃で捉えきれぬ敵達の眼前には萱の指先が伝えるまま彼のために舞う花嫁が躍り込む。
焼けた靴の踵が躍り、純白の裾が翻る絨毯に織り出されているのは、これもまた桜めいた花を咲き零れさせるプラムの樹、
「これも生命の木の紋様の一種でしょうか、魂を捕える宮殿を飾るものとしては随分な皮肉ですね……!」
昂る感情をも乗せればフィーナの歌声は更に高く透明感を増して、響き渡る凱歌は圧倒的な威力で淫魔達の舞も命をも捻じ伏せて、辛うじて意識を繋いだ淫魔も反撃の機を奪われたまま高速の斬撃と逆巻く呪炎に果てた。突風めいて奔るラヴィデの斬撃が一度の軌跡で捉える獲物は二人、更なる呪炎と幻の竜に呑まれた淫魔をヤコウの長針がその命の鼓動ごと縫いとめて、獲物一人では足りぬとばかりに針先は宙に躍る。踊り子と王とで次なる一人を屠れば、新たな獲物を見定めて。
花咲くプラムの上を馳せて渡って、踊る。
「ラヴィデ王は御存知ですか? 運針にもね、リズムがあるのです」
「ああ、だから踊り子でお針子なわけだ! そんな共通項があるとはねぇ」
澄んだ鈴の音を連れて踏み込めばヤコウが披露するのは神蝕呪刃、身の丈超える長針で刺突の波縫い、淫魔達の反撃さえも綺麗に縫い合わせてバックステップの返し縫いまで見せれば、破顔した王が紫黒の呪炎を纏って優美に反る愛刀を揮った。呪炎が紫黒から夕暮れの茜へ燃え上がったと見えたのは、幻の竜の顕現ゆえか、あるいは、
『そこまでよ、ティアボロス!!』
新手の敵が、火炎の斬撃を繰り出してきたからか。
反撃は叶わずとも衝撃を殺すために斬り結ぶ。火炎使いの技を競うよう己が紫黒の呪炎を燃え上がらせたなら、炎を呑んで呑まれる熱さがラヴィデの高揚を煽るよう。やっぱり王様(スルタン)らしい高みの見物よりもこっちが性に合う、と笑みを深めた刹那、視界の端で鋭い銀が煌いた。
彼から淫魔を剥ぎとる勢いで刺突を喰らわせたのは勿論ヤコウ、一瞬垣間見せた獣の本性そのまま、牙を剥くように獲物を貫いた長針を引き抜けば、
「汚らわしい手で、汚らわしい剣で、触れるな」
「オレもね。我が踊り子へのお触りは許さないよ」
密やかに淫魔に囁いた言の葉が聴こえたらしいラヴィデが目許を和ませた。立場が逆なら彼とて同じことをする。
血飛沫の一滴たりと触れさせやしない――と強く誓えど、復讐者として歩む以上、それが見果てぬ夢だと識りながら。
見果てぬ夢だからこそ、より強く眩く光る。
淫魔ル・シャヴォーヌが創造した絵画の中の幻想世界、数多の淫魔を擁する麗しの宮殿。そこへ攻め込んだ以上、傷ひとつ負うことなく戦い抜くことはまず叶わないと陸も理解してはいるけれど、それでも強気な笑みを覗かせ淫魔達と同じ舞台へと上がるルクスを追おうとは思わない。
世界の綺麗な彩すべて鏤めたようなモザイクランプの煌きが躍るのは先程のバザールと同じ、だけれど二振りの曲刀を手に砂海の潮騒を連れて舞うルクスはあのときよりいっそう軽やかでいっそう自由で、いっそう、綺麗で。
何処までも自由に舞って欲しいと思うから、
「今は十全の力を以て、君を援護するよ」
氷晶を舞わせ震わせ透きとおる音色を重ねて連ねて、絢爛たるバザールでの舞曲を甦らせて、陸自身の旋律と響き合わせて呪歌を編み上げていく。織り込む術式は敵の足を鈍らせ乱して、ルクスが舞わせる刃をより研ぎ澄ませるためのもの。
なれど、流れる呪歌は勇ましさよりも優しさで背を押してくれるかのよう。
華麗に苛烈に斬り結んでいたはずの相手は反撃も次撃の機をもやわらかに奪い去られて、ルクスは翼のように軽やかな帆を心に張られた心地、陸の纏うカフタンの青そのまま、地中海の風も潮の流れも連れて波間を航る。
綺麗ね、と彼の旋律に藍と紅の双眸を細めて、
「ごめんなさいね。今日の楽士は、私の味方みたい」
呪歌に命を削られた淫魔に見舞うは二振りの剣の舞、帆船の甲板の剣戟で舳先へ相手を追い詰めるよう命ごと斬り捨てて、呪歌に乗る想いを受けとめた。誰にも傷つけさせたくはない、なんて、見果てぬ夢ではあるのだけど。
――ええ。きっとこれなら、私。
――有象無象の手の届かない、高嶺の花の踊り子のままでいられるわ?
柘榴とジャスミンの花咲く庭園での剣戟も昂揚を燈したけれど、光の彩が百花繚乱と煌くモザイクランプのシャンデリアの許での剣戟も昂揚を招く。熱く眩く火花を煌かせて、己が肌に奔った傷さえも甘い熱を持つ気がするのはきっと、ノスリが今相対する淫魔がジャスミンを香らせているからだ。
覗き込めば先刻のバザールで戯れた幻想の美女と同じ夜色の瞳、
――夜の街で一緒にすごした相手と、そっくりだ。
――何処まで同じか、試してみる?
顔立ちさえもよく似た淫魔に囁きかければ、甘やかな声音が返ったけれど、
「いや、あちらの方が麗しかったな」
『!! 意地悪なひとね!!』
あっけらかんと嘯けば、頬に朱を昇らせた淫魔の声音が大きく跳ねた。良いねと蜜色の双眸を細め、余裕を失くすくらいの情熱で惑い踊れよと淫魔を煽って、一瞬防御を忘れた相手を捕える砂礫の雨、砂塵の刃。砂のヴェールの裡。
抱きすくめるような砂嵐に呑まれて踊り明かした命の涯てに、
「預言者の首の代わりに、泡の女王の首を贈ってあげる」
『――!! そんなの許さない!! 皆、ル・シャヴォーヌ様を護っ……!!』
餞の約束を贈れば我に返った淫魔が叫んだけれど、皆まで言わせず何もかも、すべて砂へと還して。
預言者ヨハネの霊廟は、シリアのダマスカスにあるという。
偶然耳に届いた言の葉を呼び水に、ショウの伝承知識に浮かび上がったのはのは――ダマスカス鋼のシャムシール。
連綿と紡がれてきた最終人類史、その最後の砦で正しき歴史の担い手たる『人間』のまま覚醒した身であるからこそ、嘗て人類史に存在したあらゆる武器を手に取ることが叶う。流麗な細波、美しい縞模様の鋼の刀身を持ったシャムシールを復讐の刃として両手に顕現させれば、ショウは瞬時に最後の淫魔達の許へ跳び込んだ。
この夢の終焉に相応しい刃のような気がした。
淫魔ル・シャヴォーヌをこの広間へと招くべく、捕われの魂達を戦いに巻き込むことを避けるべく、世界の綺麗な彩すべて鏤めたモザイクランプの煌きを弾く刃を乱舞させて攪乱し、狙い澄ました投擲で淫魔達の喉を貫いて。
「ああ、なんて美しい剣舞なんだ! 麗しきキミのその刃を、ボクのリピートベインで借り受けても構わないかい?」
「勿論、幾らでも!!」
甘い煌き躍る広間にミルクティー色の髪を舞わせて、るるが躍り込む先も淫魔の懐。壁龕や列柱を足掛かりにした跳躍をも舞踏に変える彼女達の剣舞の見応えは飛びっきり。
「戦う運命でなければ、キミ達の踊りを飽きること無くずっと見ていられるのに」
『――!!』
黒鞘の短刀を懐に秘めたままのるるは丸腰とも見えただろう。一瞬虚を衝かれた淫魔の眼差しと己が藤色を絡めた瞬間に、そっと指先で触れるのは彼女の唇。秘密を分かち合うようるるが笑んだなら、途端にその手元へ流麗な細波、美しい縞模様の鋼が顕現した。剣舞をなぞる軌跡のまま刃を手放す投擲で、次々と淫魔達を貫き斬り裂いてゆく。
「千の夜を終わらせよう。泡沫の夢は、いつか覚めるものだから」
「泡沫の夢――。ええ、確かに、確かにその通りですね」
鮮やかな血に濡れたペルシャ絨毯も、淫魔ル・シャヴォーヌが望めばたちどころに一滴の血の染みもない美しい絨毯として甦るのだろうか。彼女に望めば永遠の幻想を夢見ていられそうな気もするけれど、淫魔達が掲げる血塗れの剣を識れば、この幻想が堕落させられた魂達の牢獄であると識れば、
そんな歪は、夢でもご免でしょう――と微笑も苦笑も綯い交ぜにして、萱は糸で繋がる花嫁ともに淫魔の剣舞団へ最後の死の舞踏を贈る。舞の涯は夢の涯の扉にすぎないから、広間の奥へと琥珀の眼差しを向けた。
――とうに帳は上がっているから、
――どうぞ出ていらして。この幻想の世界の、夢幻の絢爛の、女王様。
桜めいた花を咲き零れさせるプラムの樹、生命の木の紋様を織り出したペルシャ絨毯の先。
薔薇色真珠と金象嵌に縁取られた白き大扉がゆうるり開く。現れた女は官能的な肢体に真珠めいた泡を纏っていた。
浴場の蒸気をも纏う、なめらかな白磁にほんのり桜色を落としたような肌を、淡い薔薇色に上気させた。
浴場の熱ゆえでなく、官能の熱ゆえでなく、純粋な怒りゆえに。
『わたくしの可愛い剣舞団が……』
一目で状況を把握したらしい淫魔ル・シャヴォーヌが、今この広間にいる、命ある者達を睥睨した。
『死ねば終わりだなんて思わないことね、おまえ達。殺し尽くして、魂をいたぶり尽くしてあげるわ』
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【罪縛りの鎖】がLV2になった!
【神速反応】がLV5になった!
【プラチナチケット】がLV7になった!
【腐食】がLV2になった!
【託されし願い】がLV3になった!
【過去視の道案内】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【飛翔】がLV5になった!
【士気高揚】LV1が発生!
【壁歩き】がLV2になった!
効果2【ロストエナジー】がLV6になった!
【ダメージアップ】がLV10(最大)になった!
【能力値アップ】がLV2になった!
シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ絡み歓迎
アラビアの知識は新宿の現代を知る中で少し触れただけだったけど、戻ったらもう少し色々見てみようか、と思うくらいにはいい趣味だったよ。
『趣味の布教』が出来て良かったね?
安心して死んでいいよ。
同じ呪いを重ね続けてもいいんだけれど、演目として見れば芸がないよね。
なら、仕草は同じだけれどこちらで行こう。
暴れん坊を呼び出すよ。巻き込まれないよう気を付けて。そうだね、さしずめシャイターンかな?
……この情景で泡で滑るのは情けないし、抜けてくる衝撃はともかく泡は呪力体の中でやり過ごせないかなーとはちょっぴり思ってる。衣装も汚れるしね。
あ、【泥濘の地】で相手の足も滑らせられないかな。流石に無理か。
アンゼリカ・レンブラント
最後まで少年刀士の装いで臨む
夢幻の絢爛の女王様、宴は終わりにしようか
貴女の熱、光の刀にてお相手いたします
パラドクスの光剣を手に挑むよ
地の利はやはり向こうにある、
【飛翔】も駆使し地面の影響を受けないように斬撃で攻撃
反撃で魅了されないよう注意
心に灯した勇気と共に、出会った人々。
彼らを救うんだという使命と共にオーラ障壁を張り、
爪での攻撃を凌いで距離を取るね
仲間と攻撃タイミングを合わせ攻撃
時にピンチの仲間をフォローし
少しずつ敵を消耗させていく
何度目かの打ち込みの後で
装備品のランプから光使いを駆使した残像を飛ばし、
隙を作ることも試みる
本命はこちらです、女王様――
全力の《光剣収束斬》で甘美なる牢獄に終焉を
シル・ウィンディア
引き続き踊り子さんモードっ♪
さて、せっかくだからダンスのお相手をお願いしようかな?
ただし、お代は高いからねっ
ステップを踏んで、ダンスの動作をしっかり取り入れていくよ
左手の創世の小剣で接近してから、踊るように斬撃を繰り出すね
攻撃時には、フェイントも仕掛けて、出来るだけ惑わせるように…
味方の邪魔にならないように立ち回りは注意して…
離脱時は、エアライドの2段ジャンプで後方へ移動だね
後退するときは、大きく羽ばたくように跳んでいくね
後退したら、世界樹の翼type.Aに持ち替えてから…
高速詠唱で隙を減らしてから…
味方が敵から離れたタイミングを狙って、全力魔法の六芒星精霊収束砲!
さぁ、フィナーレ行こうかっ!
ノスリ・アスターゼイン
良いね
露わな感情
嫌いじゃないよ
掌から生じる水晶の刃
翔け飛び眼前へ
柔き肉を裂く魔骸連刃
鮮血が真白の肌によく似合う
けれど、
片眉を上げ肩を竦めるのは
刃で反撃を抑えがてら
褥を共にと聞いたのに
泡が邪魔で肢体を眺めることも出来ないじゃないの
堕とされるなら
口付けを貰う方が良かったなぁ
嬲られる趣味無いし
壁歩きやエアライド、飛翔を織り交ぜ軌道を読ませず翻弄
魔法の絨毯を駆使している気分
仲間の動きもよく見
声掛け連携
首を贈るとの餞の約束
踊り娘達の許へ葬送しよう
首の代わり
漂う真珠の泡へ
甘い吐息を吹きかけたなら
ぱちんと弾けて醒める幻
蕩ける夜だったと
名残惜しむのは本音
でも
日常は幾重も鮮やかだから
確かな現へ、眩い朝へ帰ろうか
ラヴィデ・ローズ
ヤコウくん(g04118)と
魂なんか閉じ込めなきゃな
イイ趣味してたのに、やるせないね
振りかぶるレゼルは放り捨てるまま
本命のパラドクスはこちらも爪、
異形化する竜爪で繰り出す
甘い匂いの誘惑に抗う、戦いへの精神集中の術は忍耐力と
『Sweetie』の守護(呪詛)の花香
悪いけど、酷い死臭だよ
それに……
もしものときはヤコウビンタで正気に戻してもらおっと!
炎の帯で目晦まし
回避以外でも飛翔を織り交ぜ殴り潰すように強襲
皆と間断なく機を繋いでいきたい
やっぱり王は譲ろう、ル・シャヴォーヌ
願いを叶える魔物。こっちの役の方が断然やり甲斐があるんでね
囚われし魂の解放の為
幻はここでおしまい
夜のつづきは――
もちろん。キミと
フィーナ・ユグドラシア
※アドリブ、連携ok
世界のルールに則って、引き続き青色基調のアバヤとヒジャブを着用。
さて、貴方を倒せばこの世界も終わり全てが元通り、ですね。
夢はいつか終わる、それが今というだけの話です。
戦闘の基本方針は距離を取って『聖槍』で射撃戦。
自分から接近する必要もないので、前衛の動きを援護しつつ、隙あらば私からも射撃していきます。その際、味方に誤射しないよう注意しましょう。
敵の吹き付ける泡などに対しては、此方に届く前に『聖槍』で相殺します。
何かに当たって爆発するなら、此方に来る前に迎撃すれば良いだけです。
ただ、爆発が他の味方を巻き込まないように注意しましょう。
後は孤立する味方が出ないように位置取ります。
永辿・ヤコウ
ラヴィデさん(g00694)
駆け行く勇ましき王の衣装も
軈て消えてしまうと思えば
鼻腔を擽るのは
甘やかな水煙草の記憶
…女王に心奪われたら
一生根に持ちますよ
可愛げない悋気で二人の間に針を突き出し
もしくは拳(ビンタ?甘いですね…)で頬を殴ってでも
毒婦の誘惑から彼を護りますとも
攻撃は武器で弾くか
エアライドと飛翔で躱し軽減
素敵な幻のお礼に
果てなき春野へ
詠いあげる萌黄襲
この世界では
瑞々しいオアシスの幻になるだろうか
原初の姿で楽園を歩む心地は華々しいことだろう
そんな思考に耽る一瞬の
眠りに堕ちる隙を生じさせたなら
皆へ声を掛け
好機を繋ぐ
薔薇の魔物殿
僕の願いも叶えて頂戴な
幻から醒めても
あなたと語り合う千夜をください
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ大歓迎
繰り返す物語は
ここでおしまい
物語は、人を楽しませ、時に諭し、伝えゆくもの
苦しめるためのものではないと
……俺は思う
引き続きカフタンの衣裳を纏い
銀弦のウードを演奏し相対
奏でるのは、知る曲のアレンジ
アラビア音階、マカームの眩惑の音を孕みながら
差し込む光が暗雲を晴らすように、一陣の風が駆けるように
風呂好みの淫魔が帯びた、欲も澱みも吹き飛ばすだろう
反撃は神速反応で羽搏き飛翔、強運の加護も得て回避
爆発は魔力障壁で軽減を
音色は翔けて、光差す、晴れやかな幕引きを
幾夜廻る物語にも、朝は来るのだから
……この音色は手放すのは惜しいな
そう思いながら
外に出たら絵画を破壊
帰ったらアラビア珈琲をもう一杯と
四葩・ショウ
ひらりとローズマダーを翻し
【飛翔】し解き放つ、『Lilium』
どこまでも追いかけてくるのなら、逃げるものか
距離をとって投擲し
少しでも泡の攻撃に備える
誰の命も
誰の魂も
もう、貴女のすきには、させない
動けないなら手を伸ばして
踊るように、めくるめく戦いの中で
爪か、泡の一撃を
肩代り出来うる仲間のひとりを見極めたなら
ディフェンスしよう
反撃に翻るその刃が、一番深く 突き立つように
すてきな夢だったよ、女王さま
でもね
夜は、あけるものだから
奪われた大地をとりもどす、この戦いだって
ーーきっと、いつか
このやり方しか知らないんだ
胸の前で、十字の祈り
春彩のオヤを 握り
ああ、どうか 魂の彼らに安息を
春のめざめが、あるように
ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ・絡み歓迎
漸くこの宮殿の主とご対面ですね
貴方の夢は甘美な誘惑に満ちて素晴らしかった
しかし明けぬ夜はありません
夢は泡沫と消え、囚われの魂たちに温かな目覚めを
剣舞団から引き続き、サントゥールの楽師として戦います
奏でるは凱歌
宵闇の帳を取り払う旭を呼ばんとする
躍動感溢れる舞踏曲を演奏しましょう
暁を阻む泡雲へ嚆矢を放つが如く
馬を駆り突き進むはアラビアの騎士
共に戦う仲間の動きに合わせて
戦いを引き立て彩る様に音を紡ぎます
反撃の爆破は受け身を取り
楽器と奏でる指さえ無事なら、それは無傷と変わらぬと嘯く
泡沫の女王が最期に視る夢は
敵であろうが安らかでありますようにと
そっと夜想曲を手向けましょう
ウルリク・ノルドクヴィスト
皇帝へ勝利を、彼の女王の首を捧げるならば
百騎長たる此の俺が――
…本来なら柄にもない壮語だな
今は良いんだ、此処に染まることを優先に
狙うは淫魔ひとり
世界の長を貫くのなら
見据える目に宿すものは
此処でも『殺気』でなければならない
それと、淫魔の命を穿つことは躊躇わないが
演ずる上ではああ言えど
首を獲る役は当然、誰に巡れど預けるのが道理
女王の甘い誘惑の香には
息を止めて――が現実的でないのなら
魅了は甘んじて受けようとも
切り裂く爪へは、叶うならば神速反応で対抗を
好い夢を有難う
だが其れも
君も、此処で終いだ
歌や舞踊は如何なるものも美しく
けれど舞台の主役を飾るのは
君よりも、此方で共に駆ける彼らが相応しいと
俺は思うから
夜茨・こころ
貴方の怒りが彼方に眠って、
夜闇の底が曙色に染まるその時を
夢の刻の終わりを皆と迎えるために
引き続き【飛翔】し、
女王様の意識を散漫させ、
攻撃に対しても翻しなるべく急所は避けるよう
魅了されたって、迷子にはならへん
目的地は、ひとつなんやから
広く視野とり、
孤立、魅了・弱体化等で
上手く動けない人がいないかも目を配る
声かけつつも、間に合い有効そうならディフェンスを
掌の中、広げた魔法
蝋燭の火を消すように、
真紅の星の広がる花弁を放つ
綺麗な招待のお礼に、
貴方にも、幻想をあげる
夜が明けるのは
随分と前から寂しく惜しいけれど
新しい一つのはじまりやから
閉じろゴマ、閉じろゴマ
常闇で苦しむ魂が明日を迎えられるように
ルクス・アクアボトル
陸(g01002)と
――うん、満足した。陸、前お願い。
しれ、と、笑って後ろに下がり、剣を鞭の魔楽器へ持ち替えて。
あら。珍しいような、絵になるようなセリフ回しに、目を丸くして
「それじゃあ。ちゃんと守ってね、異国の王子様?」
甘やかに、微笑んで
常ならば、援護に奏でるのは氷の曲
でも、今日は炎
巻き起こす炎の波で、香りの魔力を押し返し、陸の戦いを彩り引き立てるように
激しく地を叩く音を束ねた情熱の熱風が、この絵の中には相応しい
……それに、ええ、そうね
家族を想いながらの剣舞も、楽しかったけれど
私が、貴方を見ながら、貴方を引き立てる曲を奏でたって、構わないでしょう?
竜城・陸
ルクス(g00274)と
――ん、わかったよ
任せてくれて構わない
これ以上君の肌に瑕がつくのもしのびないし……いや
――姫君を守る栄誉を賜れて光栄です
なんてほうが、この世界らしいか
光から編むのは片刃の曲刀
載せるは“炎の剣”と謳われた、とある神の剣の伝承
彼女の奏でる調べに合わせ
その調べが導く炎の波と、熱を孕んだ風を
乗りこなすようにその火勢をも利用して切り結ぶ
此方を追跡する泡の塊は、自身へ届く前に
魔力を帯びた斬撃で誘爆させられるよう試す
少しでも隙を晒すことは避け
返す刃でも確実にダメージを与えていくよ
煌びやかな夜も悪くないけれど
それがひとを堕すのなら、ここで断ち切るまで
囚われた魂へ夜明けを齎すためにも、ね
標葉・萱
お召替えの間くらいはお待ちしたのに
なんて、先ずは、誘い出せたのなら何より
けれど、千夜を築いた女王相手ならば
気を緩めるわけにもいかないでしょう
軽やかな見目に油断しないように
甘い香りも演舞にも溺れる時間はないので心して
――相手がいるもので、とは冗談だけれど
挙動の合間に立ち入る隙を狙って差し込みましょう
体勢を崩すならそのフォローへと
風呂も洗濯もまだ遠慮したい
軌道は読み難いけれど泡だらけは避けたい、ところ
焦がれるほどの夜をも覆ってしまうのは
確実に、囚われた魂を覚ますために
夢の向こうに描いた場所へと、還れるように
幻想のむこうに迎える夜明けも
きっと夢見るように美しいから
咲初・るる
おや、女王様のご登場だ
キミの描く幻想は好みではあったけれど
そろそろお終いにしようじゃないか
夢は見るものであって
囚われるものでは決して無いのだから
先程は剣舞の真似事に興じてみたけど
実際のところ近距離戦は得意じゃなくてね
泡の軌道をよく観察しながら
【飛翔】し
必要なら【エアライド】も駆使して回避を試みよう
爆発に巻き込まれる時があれば
可能なら仲間から距離をとって
纏い慣れてきた夜星ベールを揺らめかせ
天高く鳴らすは、春告げの鐘の音
降り注ぐ六弁花
同胞には力を
仇なす者には呪いを
真珠の泡を、身体を
次第に侵し蝕まれていくような痛みを与えて
甘やかな夢は泡と溶けて
幕は閉じる
どうか皆にとって穏やかな目覚めでありますように
●幻想世界
砂漠の幻想、砂海の真珠――。
濃密な珈琲色の夜闇の底、砂海の波間に落とされた蜜色真珠、蜂蜜色の光の繭のごとき幻想の世界に君臨する麗しき宮殿の最後の広間にて、絢爛たる幻想の夜が最後の幕を開ける。
薔薇色真珠と金象嵌に縁取られた白き大扉の奥から広間へ出座したのはこの絵画世界の主、淫魔ル・シャヴォーヌ。彼女が織り上げたのはあくまで夢幻、時間の概念さえも曖昧にする絢爛たる幻想ではあるけれど、夢幻に眩んで幻想に溺れて誰もが千夜を超える物語の迷宮に堕ちてゆく心地になるのなら。
「繰り返す物語はここでおしまいだ。ル・シャヴォーヌ」
桜めいた花を咲き零れさせるプラムの樹、生命の木の紋様を織り出した豪奢なペルシャ絨毯の上にて明るい空色を金刺繍が縁取るカフタンの裾を引き、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が幻想の創造主と相対すれば、
『おしまい? いいえ、はじまりよ。おまえ達への永遠の責め苦のね――!!』
双眸に更なる怒りを燃え上がらせたル・シャヴォーヌが泡纏う腕で広間の大気を一閃した。
初戦の主導権を獲った絵画世界の女王は僅かな一挙手さえも妖艶な舞、瞬時に溢れだした真珠めく泡が流動する虹の煌きの波濤となって襲いくる。泡ながらも凄まじい力に満ちた波濤は何もかもを捻じ伏せんとしたが、
「お召し替えの間くらいはお待ちしたのに――なんて申し上げてみたいところでしたが」
其方の準備が調う前にお招きできたことを歓ぶべきところでしょうね、と微笑した標葉・萱(儘言・g01730)が反撃を強める加護とともに掴み取るのは硝子のカード。一瞬映ったのは濃密な珈琲色の夜空かはたまた壮麗な漆喰彫刻の天蓋か、泡で滑る指の合間から硝子が逃げるよりも速く冷たく砕いたなら、溢れ来るのは艶めかしさとは無縁な暁の淵にして星なき夜。
凍てる幽冥が檻のごとく泡沫の女王を呑めば、衝撃は殺せずとも瞬時に黄金の荊が織り成した魔力障壁で泡を弾き飛ばしたエトヴァが手にする鷲羽根の撥(リーシャ)が銀の弦に踊り、
「物語は、人を楽しませ、時に諭し、伝えゆくもの。苦しめるためのものではないと……俺は思う」
「ならば百騎長たる此の俺が、皇帝(スルタン)へ勝利と物語の終焉を、彼の女王の首を捧げよう」
艶めく胡桃材のウードが魔法の音階とも呼ばれるアラビア音階、マカームの旋法を織り交ぜ奏でるのは反撃ではなく攻勢の旋律、眩い光風めいて翔ける音色へと乗る心地で絨毯の床を蹴って馳せるのは絵画世界の理を味方につけるべく敢えて壮語を口にしたウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)。柄にもない台詞だと思いはすれど、その双眸に燈す鮮血めいた殺気は一切の澱みなくこの世界の創造主を射抜き、
誓約を燈して耀く犀利な鋩が、泡沫の女王の腹を攻勢の一撃で貫いた。
途端に二人へ迸るのは爆ぜる泡と甘い香りの反撃、絢爛たる幻想の夜の最奥での皇帝と女王の会合は、ソロモン王とシバの女王、あるいは、スレイマン王とサバアの女王の謁見のごとき平和な結末はありえない。派手な爆発の衝撃を緩和せんとする羽ばたき、香りに乗せた爪撃に抗わんと揮われる騎士槍、溢れて噴き出し迸って交錯する泡と甘い香りを綯い交ぜにした虹の爆煙を目眩ましに一瞬で翔け飛んで、
瞬きの間も与えず女王へ肉薄したノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)が揮うは掌より生じた水晶の刃。
淡い薔薇色に上気した柔き肌も柔き肉も裂いて躍る魔骸連刃が玉の肌を更なる鮮血で彩った刹那、怒りの薔薇色をいっそう鮮やかにした女王の玉体から幾重もの花の香りが咲き溢れた。
薔薇に茉莉花、橙花に夜咲睡蓮。砂海の宮殿の後宮(ハレム)にめくるめくような香りは鮮烈な怒りも孕み、露わな感情、嫌いじゃないよ、と愉しげにノスリは笑んでみせ、
「望めば褥をともにできるって聴いたのに、泡が邪魔で肢体を眺めることも出来ないじゃないの」
『手順が違っていてよ、おまえ。初めから床に額突きわたくしの足に口づけ愛を請うていれば、泡などすぐ消えたものを』
蜜色の双眸を迷わず狙った爪に水晶の刃を咬ませて掌を貫かせたなら、今は花より何よりあんたの血の匂いが恋しいね、と嘯き爪を払いがてらに跳び退る。次の瞬間、
「貴方の夢は甘美な誘惑に満ちて素晴らしかった。しかし、明けぬ夜はありません」
今こそ消えよ泡沫の夢、囚われの魂たちに暖かなめざめを――と宙に展開した光の鍵盤に両手の指を躍らせ黄銅と鋼の弦の音色を導いたソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)が織り上げるのは英雄の楽曲ならぬ勝利の凱歌。
個対個では自分達とは圧倒的な力の差があるアヴァタール級、しかも歌唱も伝承知識も追跡の技能でも勝る相手に挑むには絵画世界の理の恩恵を加味しても不利な術であったが、
「それでも――暁を阻む泡雲へ、一条の嚆矢を!!」
『洒落た物言いをする子だこと、魂になってもそうやって囀っているといいわ――!!』
仲間達が幾重にも重ねてくれた命中精度と能力を高める加護が彼のVR楽器から溢るるサントゥールの音色に熱と光を燈してくれる。熱く躍動する舞踏曲に乗って駆けるは獅子心王でもサラディンでもなくソレイユのみが生み出せる幻想のアラビアの騎士、馬を駆る騎士と反撃の泡が激突し拮抗し、双方に衝撃を齎す光と爆発を齎した。
――強い。
艶めかしい歌声が響くたび官能的な肢体が舞うたび、甘やかな花の香りや真珠めいた泡が溢れて噴き出し振り撒かれ、虹の煌きを乱舞させては派手に爆ぜて泡まじりの煙を生む。幻想世界の創造主たる淫魔ル・シャヴォーヌは純粋に強大で、もしも自分達が絢爛たるバザールを素通りしてしまっていたならこの人数でも苦戦は必至だったろうと思われた。
然れど彼女が織り上げた絵画世界の理はディアボロス達にも恩恵を齎している。
「現状の戦況は互角でしょうか、でも膠着状態などありえませんよね。圧倒しましょう、皆さん! 私が援護します!!」
朝空色のヒジャブの裡から凛と変わらぬ声を響かせて、布地のたっぷりとした青空色のアバヤを苦もなく翻したフィーナ・ユグドラシア(望郷の探求者・g02439)が撃ち放ったのは鮮烈な光輝、広大な空間を端から端まで一瞬で貫く光の槍が奔れば砲撃めいて迎え撃つ泡と激突した瞬間に甚大な爆発が巻き起こり、
「こんな強力な援護射撃もなかなかないんじゃない?」
「同感だな。何とも頼もしいことだ」
大理石の柱も爆煙も足掛かりに【エアライド】で遥か天蓋近くの高みまで翔けあがったノスリが幾重もの【飛翔】の速度を重ねた急降下で獲物へ襲いかかれば、光槍との一瞬の時間差攻撃とばかりに疾駆したウルリクの槍撃が深々と淫魔を穿つ。
『忌々しいこと……!!』
「わたしもダンスのお相手させてもらうね、ただし、お代は飛びっきりだから!!」
水晶の刃と騎士槍に反撃を潰され間合いを取らんと跳び退ったル・シャヴォーヌを逃さずその懐へと滑り込んだのは小柄で華奢な身体を活かしたシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)、青き紗も光の春も舞に咲かせ、左手で閃かせる淡碧煌く小剣を相手が鋭く伸ばした爪で受けとめた瞬間、
「お相手ありがとっ! それじゃ、お代をいただくよっ!」
「了解っ! ――夢幻の絢爛の女王様、宴は終わりにしようか。貴女の熱、光の刀にて頂戴いたします……!!」
純粋なる斬撃、パラドクスなきシルの刃を咄嗟に受けて一瞬の隙を晒した女王めがけ、高々と【飛翔】で舞い上がっていた少年刀士ことアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)が眩い輝きを打ち下ろした。
黄金の光で構築された片刃剣、女王の頭上から揮われた絶大な光輝が彼女の反撃も次撃も斬り伏せれば、機を逃さず指先に魔力を凝らせた萱が幾枚めかの硝子を砕く。薄氷のかけらめいて舞う煌きから溢れてル・シャヴォーヌを呑み込む星なき夜。
「千夜の幻想を築いた女王を更なる夜で呑むというのも、何やら皮肉めいているでしょうか」
白手袋に覆われた手を握りしめれば、夜の檻がそうされたかのごとく中の獲物ごと圧し潰され、
「何も問題はないだろう? 幾度も夜が廻り、幾度も夜が明ける。それが正しい世界の姿というものだ」
「ええ。この世界では時間の概念も曖昧だというのなら、私達で時間を進めるのみです――!!」
彼の言の葉に微笑で応えたエトヴァが砂海に波打つ砂丘の稜線をなぞり、その頂から夜空を暁へ染め変えていくかのごとき旋律を奏でれば、毅然と女王を見据えたフィーナが夜闇の先を貫き拓くような眩い光を迸らせた。
彼女の魔力を糧に輝く光の槍、その名を『暁光の聖槍』という――。
●幻想星夜
世界の綺麗な彩すべて鏤めたみたいなモザイクランプ、数多のそれらを互い違いの立体的に吊るしたシャンデリアが煌きを振りまく空間を翔けたなら、まるで甘い飴の星々煌く空をも飛ぶ心地。繊細なレースを高く織り重ねたかのごとき漆喰彫刻の天蓋はさながら夜空の涯を彩る透かし織の雲。
次から次へと溢れくる真珠のごとき泡が虹色の煌きを躍らせ爆ぜて、時に女王当人から匂い立つ薔薇や茉莉花、橙花に夜咲睡蓮の香りが浴場(ハマム)からの蒸気とともにくゆる様は広場を更なる夢幻の坩堝と成すかのようで、
「蒸留で精油を採る時に生まれるフローラルウォーターに溺れる気分やね。けれど、この夢の中で迷子にはならへんから!」
「この期に及んでまだ手札があるとは流石だね、女王様。これも好みではあるけれど、そろそろお終いにしようじゃないか」
甘い光の煌き甘い花の香り、それらが胸も心も満たしていく中で強気な笑み咲かせ、泡沫の女王の意識を乱すよう飛翔する夜茨・こころ(La nuit étoilée・g06390)が掌中に咲かせる魔法は薔薇星雲の輝き。宮殿内に夜風を招いて散らせば散り逝く真紅の花弁のごとく煌いて、女王の心を蝕みにかかる少女の魔法に重ね、咲初・るる(春ノ境・g00894)が遥か天蓋の高みで春告げの鐘の音を鳴らせば流星めいて降り注ぐ花はベツレヘムの星。
純粋にして潔白な真白き六弁花もまた女王を蝕むために幻想の宮殿に降りしきれば、少女達に向け放たれるのは反撃の泡。追跡と誘導弾の技量に優れた彼女の術の結晶たるそれは直撃を躱して衝撃を軽減することさえも困難で、
「どこまでも追いかけてくるのなら――逃げない」
続け様の爆発音に唇を引き結びながらも四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)はローズマダーの紗を翻し、飛翔で絶好の間合いを掴めば茜の薔薇色に彩られた胸に清らな光の白百合を咲かせた。
輝きから引き抜いたのは白きスピア、一条の光のごとき槍を撃ち込めば女王の肩を貫くと同時にショウをめがけて迸るのは反撃の泡、然れど敵の力の特性を確と解して身構えれば、胸元に煌く硝子のいばら、ガーディアンローズが花芯を赤く染めて護りを咲かせて。
抱きしめるよう衝撃を鈍らされた爆発のもとを潜り抜け、シエルシーシャ・クリスタ(鬼人の妖精騎士・g01847)が躍り出るのは彼我の力がめくるめく戦場でひとときぽっかり開いた空間の中心、
「暴れん坊を呼び出すよ、巻き込まれないよう気をつけて。――出でよシャイターン! ってとこかな?」
皆へ一声張れば一擦りするのは魔法のランプ、ゆらり溢れくる呪詛はたちまちシエルシーシャを裡に取り込み、奇怪で歪な巨大な人馬として具現化した。狂瀾怒濤の勢いで敵を蹂躙するシャイターンの真の名はナックラヴィー、ブリテンの水妖だ。
――ああ、懐かしい御伽噺に触れた気分だ。
砂海の千夜一夜にひととき故郷の息吹が混じった心地で竜城・陸(蒼海番長・g01002)は微笑し、己が言の葉で更なる砂海の御伽噺を織り上げる。夢のごとく消えた双剣の代わりに魔楽器を躍らせたルクス・アクアボトル(片翼の白鯨・g00274)と入れ替わるよう前線へ躍り出れば、これ以上君の肌に瑕がつくのも忍びない――なんて本音を物語でくるみこむよう彩って、
「姫君を守る栄誉を賜れて、光栄です」
「それじゃあ。ちゃんと守ってね、異国の王子様?」
掌中に咲かせた光から陸が一瞬で編むのは美しく刃を反らせた片刃剣。神の剣にして炎の剣たる伝承を織り込めば鮮やかな焔が燃え上がり、珍しい彼の台詞回しと焔の輝きに藍と紅の双眸を軽く瞠ったルクスは、甘やかな微笑みと、白き貝を連ねた鞭状の魔楽器が巻き起こす情熱の熱風で陸を送り出した。波打つ炎は彼の剣閃とともに淫魔を灼くもの。
攻撃と反撃は常に対成すもの、敵へパラドクスを揮うなら戦場の何処にいたとて反撃に見舞われるのは必定なれど、それを承知の上で今のルクスは――異国の王子様に護られる、砂海の姫君として踊る。
華麗な火炎と熱風の競演に自身も昂揚を煽られる心地で駆けるはラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)、
「ル・シャヴォーヌも魂なんか閉じ込めなきゃな。イイ趣味してたのに、やるせないね」
「……なんて言いつつ女王に心奪われたら、一生根に持ちますよ」
鼓膜ではなく背筋に響くかのごとき永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)の声音に大丈夫と笑って殺すのは女王との彼我の距離、シャムシールを気取る愛刀を振りかぶると見せかけ放り捨てた刹那、裡から顕現する呪詛がラヴィデの腕を紫黒の竜鱗で鎧い、絶大な膂力を乗せた竜爪が泡沫の女王を強襲した。
熟れた果実が弾けるように裂けた肌と肉、溢れる鮮血とその臭いを圧倒する濃密な花の香りが竜人を呑み、
「悪いけど、酷い死臭だよ」
『おや。おまえは一体どこまでそんな戯言を口にしていられるかしらね?』
彼のガーディアンローズが対抗するように仄甘いダマスク・モダンの薫りを咲かせるも、淫魔の囁きが艶めかしい歌声へと変わる。官能的な肢体が舞の所作で絡みつく。精神集中と忍耐力で堪えんとするが背を抉られる感触があるのに痛くない。
「……、……! 大丈夫、いざって時にはヤコウくんがビンタで正気に戻してくれるはず!」
「ビンタ? 甘いですね」
「えぇ!?」
その瞬間、綺麗に決まったのは平手ではなく、可愛げない悋気を固く握りしめたヤコウの拳。
勿論、仲間からのものであってもパラドクスならぬ攻撃は無効化できる。が、これは防いだり躱したりした方が後で絶対に怖いやつ……!!
「っていうか、その針じゃないだけ優しいよね?」
「ふふ。嘘ついたら針千本――の針がそれなら、きっと無敵になるのだろうね」
「成程、それはいいことを聴きました」
「ちょ、怖い入れ知恵しないで……!」
妖狐が手にする背丈を超えるほどの長針、それが幻想竜域で竜腕魔術士二人を串刺しにする様子を目の当たりにしたシルがこてりと首を傾げて呟けば、悪戯に笑んだるるが彼らの頭上高くへ舞い上がる。迷わず女王の許へ躍り込んだシルが一閃する淡碧の刃が牽制であると正しく汲み取れば、藤色の双眸を細めたるるは明るい金色きらめく黄銅のハンドベルを掲げ高らかに春告げの鐘を鳴らした。
宵空に金の星々きらめくベールを花舞う風に踊らせて、春を彩る六弁の星花を降らせ、女王を蝕む呪いとともにその反撃を抑え込めば、流れるように機を掴んだヤコウもまた果てなき春景色を詠いあげる。瑞々しい煌きを含んだ光風にそよぐ萌黄の春草、いっときの眠りに誘う彼の術に淫魔が呑まれた刹那、軽やかに後方へ宙返りを打つよう間合いを取ったシルが構えるは白銀の長杖。天頂に戴く藍鉱石の蕾を咲かせ、
――闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ。
背には青白き魔力の翼を咲かせて、高速詠唱で圧縮された魔力が六芒星の魔法陣となって花開けば、
「それじゃあ、フィナーレめざして景気よくいっちゃうよ! 六芒星に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!!」
満開の笑顔も咲き誇ると同時、自陣最高火力の六芒星精霊収束砲が大きな広間すべてを輝きで染めぬく勢いで迸った。
●幻想花香
鮮烈な暁光の輝きが、真珠めいた泡に虹色の煌きを躍らせる。
眩い光槍と煌く泡沫が激突すれば盛大な爆発が花開き、爆風の衝撃は淫魔とフィーナの双方を呑み込んだ。此方に届く前に迎撃すればと思えど、パラドクス攻撃の完全回避がありえないように相殺もありえぬもの。なれど幾らかでも威を削げたなら上々と気丈に笑み、空色に身を包んだ少女は反撃の光槍に続けて攻勢の暁光を迸らせる。
終わりなき攻防と思えてもこの戦いにも必ず終幕が訪れる。
泡沫の女王を討ち果たせば、甘美なる牢獄たるこの幻想世界も壊れて消える。
「夢はいつか終わる、それが今というだけの話です」
「ああ、だけど、この牢獄を夢と呼ぶのもなんだね。夢は見るものであって、囚われるものでは決して無いのだから」
空色翡翠の指輪にトパーズの薔薇、赤林檎のロクムに金の針を秘めたルチルクォーツに、藤色の煌きが咲くランプ。美しい幻想達で胸を満たしながら、世界の綺麗な彩りすべて鏤めたみたいなモザイクランプの煌きの世界をるるは翔けめぐる。
幾度も春告げの鐘を鳴らし、幾重にも六弁花を降らせ、招くものは幻想が泡となってとける、春の雪解けめいた終焉。
なれど白磁の肌を鮮血の色に、真珠めく泡を血まじりの薔薇色に染めてもなお淫魔ル・シャヴォーヌは斃れない。それは、
「既に数多の魂から夥しい力を得ているがゆえ、ということでしょうか」
『さあ、どうかしら。おまえも魂になれば永遠の責め苦の中で識れること』
「御冗談を。決まった相手がいるもので、他の女性に囲われるわけにはいきません――なんて」
一気に襲いくる真珠と虹色の泡沫の波濤、泡は避けられずとも妖艶な舞に呑まれはすまいと冷たき玻璃をしゃらりと砕き、萱は戯言とも本音ともつかぬ言の葉ごと封じるように女王を星なき夜へ呑み込んでいく。
茉莉花の水烟とともに沈んだ、碧がかる海の底。
千夜を越えても飽きぬと想えた、焦がれるほどの夜をも覆うのは、囚われの魂達を夢から覚まし、確実に還すため。
――幻想のむこうに迎える夜明けも、
――きっと夢見るように美しいから。
珈琲に菓子に香辛料に水煙草の匂い、熱々のバターの香りに糖蜜の煌き融け合わせたバクラヴァや熱く香ばしくまろやかに香るアーモンドスープ、絢爛たる夜のバザールに溢れていた幻想はシエルシーシャにとっても魅力的で、魔法のランプは特にお気に入り。新宿島に戻った後ももう少し色々見てみたいと思えるほどにこのアラビアの夢は楽しくて、
「『趣味の布教』が出来て良かったね? 安心して死んでいいよ」
「どうぞ安らかにお休みくださいませ。貴女の幻想に見事魅了された私も、ほら、御覧のとおり」
凝縮された呪詛で具現化した歪にして巨大な人馬で獲物を蹂躙し、爆ぜる勢いで呪詛の半物質化が解ければ、同時に解けた星なき夜の檻の前でアンゼリカが自身の魔法のランプから光を溢れさせた。眩い黄金の輝きの裡で少年刀士が薄紅のターバンの端を躍らせたのは一瞬のこと、光の片刃剣を手にする残像を残し、
「本命はこちらです、女王様――」
『おまえ……!!』
瞬時の飛翔で彼女の背面上方を獲ったアンゼリカは女王が振り返るよりも速く全力全開の光の刃を打ち下ろした。意識まで灼き尽くしそうな黄金の光輝は初手と同じく女王の反撃も次撃も斬り伏せて、好機を掴んだルクスの手で魔楽器スクィーズ・スカージが躍る。
憧れた義母の艶姿へ手を伸べるがごとき剣舞も楽しかったけれど、
「私が、貴方を見ながら、貴方を引き立てる曲を奏でたって、構わないでしょう?」
「勿論。俺に合わせて俺を鼓舞してくれてなお、君の旋律はどこまでも自由だから」
返った言の葉に、言ってくれるじゃない、と艶めく笑みを覗かせて、ルクスが奏でるのは激しい焔の旋律。
豪奢ながら数多の血に濡れたペルシャ絨毯の上でも白き貝の連なりは曇らぬ音色で唄い、翻るうねりとともに巻き起こった火炎と熱風が翔ける。反撃の花の香りさえも押し返す勢いの焔と熱が、薔薇と茉莉花、橙花と夜咲睡蓮の香りをいっそう濃く花開かせる中に蒼の髪を躍らせ、焔躍る波と熱孕む風を乗りこなした陸が躍り込むのは泡沫の女王の懐。
瞬時に長さも鋭さも増した淫魔の爪と焔輝く剣で斬り結び、その肌身に深い裂傷と焔を刻めば、返る反撃の泡を薙ぎ払う。幾許かではあっても爆発の威を殺し、黎明の眼差しが見据えるのは、泡沫の女王と――彼女を倒した先に迎える、夜明け。
煌びやかな夜も悪くないけれど、それがひとを堕すのなら、ここで断ち切るまでだ。
狂瀾怒濤の蹂躙に返る反撃は誰もを滑らす泡の波濤、衝撃は殺せずとも泡は暴れん坊のシャイターンことナックラヴィーの裡でやりすごしたシエルシーシャが、人馬の具現化が解けるとともに、
「【泥濘の地】であっちも足を滑らせたり……しない、かな?」
そう呟いた途端、絨毯が淫魔の足元で波打った。広間の床が泥濘に変わる。
限界まで高められた【飛翔】の速度とてそれだけで戦闘を有利にすることがないように、【泥濘の地】で相手の移動速度を落としても、己の周辺時空を歪め、敵味方ともに時間も空間も世界法則の理も書き換えながら戦う逆説連鎖戦に、それのみで影響を及ぼすことはない。勿論シエルシーシャも然して期待はしていなかった――が、
『わたくしの麗しき宮殿を、よくも泥濘などに……!!』
「あ、それはごめん。そういう意味ではほんとにごめん」
全く別の意味で淫魔ル・シャヴォーヌの逆鱗に触れてしまった。
桜めいた花を咲き零れさせるプラムの樹、生命の木の紋様を織り出した豪奢なペルシャ絨毯に覆われた床が、艶やかに磨き込まれた白大理石であったのか、生命の木の樹下に花々が咲き溢れる、天国の庭と呼ばれる光景を描き出した鮮麗なモザイクタイルであったのか。それを明かすこともないまま激昂した女王の意識が一気にシエルシーシャへ集中する。
叩きつける勢いで解き放つのは凄絶な威力で爆ぜる泡、標的たる少女の最も不得手とする能力に拠る術だと察すれば、
「っ!! させません、女王様――!!」
「うちが盾になるんよ!!」
迷わす跳んだアンゼリカが光剣で女王に斬りかかるも、敵のパラドクス攻撃から仲間を無傷で護る手段は唯ひとつ。
一瞬で泡とシエルシーシャの間に割って入ったこころが身を挺したとおり、味方からのディフェンスのみだ。
剣舞団との戦いで得た教訓を活かしきった少女は仲間を護る気概と幾重もの残留効果の加護で優勢な反撃の機を掴み獲り、夜色の手袋に包まれた両の掌の裡に咲かせる魔法は薔薇星雲。彗星の煌きを連れた翼をそっと震わせ、蝋燭の炎を消すよう、真紅にきらめく星の広がる花弁を解き放てば、
「綺麗な夜への招待のお礼に、貴方にも、幻想をあげる」
真紅に揺蕩う虹を孕んだ夢のごとき煌きが、心を蝕む幻想の涯、夢の海淵へと女王をいざなってゆく。
夜が優しいほど、夜が美しいほど、夜明けを迎えるのが惜しくて寂しくて。
こころの胸に切なさが募るのはこの幻想の夜に限らないことだけれど、もう随分と前から識っているから。
夜が明けるのは、新しいひとつのはじまりやから。
――閉じろゴマ、閉じろゴマ。
――終わりなき夜に堕ちた魂が明日を迎えられるように。
●幻想終幕
焔躍る波と熱孕む風、仲間の音色から翔けるそれらが幻想と夢幻の彩を濃くしてゆく。
燃え立ち輝く焔は世界の綺麗な彩すべて鏤めた数多のモザイクランプ達をいっそう甘く煌かせて、優美で繊細な漆喰彫刻の天蓋に艶めかしい光と影を踊らせる。泡沫の女王から匂い立つ薔薇に茉莉花、橙花に夜咲睡蓮、魔力が消えた後も残る花々の香りは熱き風に煽られ天蓋へ昇って降りて、己の裡に波のごとく躍る高揚を惜しみつつもソレイユは、光の鍵盤に指を躍らせ絢爛たる幻想の夜の涯をめざしてサントゥールの音色に反撃を唄わせた。
馬を駆る騎士が馳せると同時に爆ぜる女王の泡、咄嗟に受け身を取ってグローブ型のVR楽器と己が手を護り抜き、
「楽器と奏でる指さえ無事なら、それは無傷と変わりませんよ」
「ああ、そうだな。俺達音楽家は間違いなくそういう生き物だ」
無数に血を滲ませながらも強気な笑みで嘯く若き同胞の頼もしさに双眸を細めて、苛烈な反撃に臆することなくエトヴァも鷲羽根の撥(リーシャ)で銀の弦の音色を紡ぎあげていく。
何処までもこちらを追尾する泡が相手なれば、距離を取るより魔力障壁での防御の方が現実的。黒と金の指環からいつでも黄金の荊の障壁を展開できるよう備えつつ、魔法の音階たるマカームを操れば、戦いの最中にコツを掴んだらしいソレイユが悪戯な笑みを覗かせるとともに旋律を重ねて、
熱くうねり、躍動して波打って、渦巻く暗雲から射す光の輝きを得た音色が翔ける。晴れやかな終幕をめざす。幻想世界に眩惑の光と音色を添える旋律に乗るよう、跳躍も飛翔も戯れに織り交ぜ翔ければノスリは、魔法の絨毯を自在に駆る心地。
戦闘や飛翔の余波に揺れるモザイクランプ達が甘い煌きを振りまく世界で蜜色と銀色の眼差しが絡めば不敵な笑み交わし、猛禽と竜人は左右上方から女王を強襲した。
「泡の女王の首を贈ってあげるって、あんたの可愛い踊り娘に餞の約束をしたんでね」
掌から生じる水晶の刃を葬送の刃と成すべくノスリが首を狙えば、
「王は譲るよ、ル・シャヴォーヌ。願いを叶える魔物。こっちの役の方が断然やり甲斐があるんでね」
一閃で描いた紫黒の呪炎の帯を目眩しに竜爪で心の臓を狙うはラヴィデ。
対する女王は間一髪で撓らせ揮った両の腕を犠牲に二人の強襲を凌ぎ、
『僭上にも程があってよ、おまえ達――!!』
迸る声音さえも艶めかしい歌声と成して、幾重もの花の香りを溢れさせた。然れど、
「僭上、僭越……毒婦の分際で、良くもまあ言えたものですね」
溢るる香りも閃く爪撃も抑え込まんぱかりの勢いでヤコウが詠いあげる果てなき春景色。砂海の真珠たるこの幻想の世界に重ねられる春の幻は、明るく澄んだ水を湛えたオアシスに春花が咲き溢れる、そんな光景になるだろうか。
黒に赤、紫を差す彩で遊ぶ、金刺繍の優雅なラヴィデ王のカフタン。玉座を捨てずともこの幻もやがては消えると想えば、甘やかに香りを絡めた水煙草の記憶が胸に沁みるけれど、畳みかける好機は迷わず仲間へと繋ぐ。
繋がれ掴んだ好機を騎士槍の柄ごと握りしめ、幾たび敵を穿てど決して鋭さ鈍らぬ鋩を揮うはウルリク、果たすべき誓約の在処がいずこであれど彼の槍撃は瞬時に研ぎ澄まされ、討つべき者を逃さず捉えてまっすぐに貫いて。
たとえ息をとめようとも鼻腔から脳髄を犯しにくるだろう淫魔の香りの魔力、その反撃をも貫いた手応えを感じれば、柔くほどけるような吐息を洩らし、
「……好い夢を有難う。だが其れも君も、此処で終いだ」
『いいえ、まだよ――!!』
言の葉を紡げばその刹那、女王が騎士槍を力尽くで引き抜く勢いで跳び退る。反撃の機は潰えたものの、それならと即座に掴み獲る攻勢の機、途端に掌上に溢れさせた泡を彼女が撃ち放てば、
「ウルリクさん! ここは、わたしが――!!」
花色の眼差しで彼も女王もまっすぐ捉えて、爆ぜる泡の射線へショウが跳び込んで来た。
誰の命も、
誰の魂も。
もう、貴女のすきには、させない。
激しい爆発を硝子のいばらとともに抱きしめれば、その胸に血飛沫の中でも眩いほどに白く清らな光の百合が咲く。
――ああ、そうか。
――機は、彼女に廻ったのか。
皇帝(スルタン)への誓約を口にすれど、百騎長としても騎士としても拘るつもりは彼になく。ウルリクは眩しげに双眸を細め、女王の首を獲る機を彼女へ託す。淫魔ル・シャヴォーヌが創造した幻想世界といえど、この舞台の主役はやはり、この夜をともに駆けた仲間達こそが相応しいと笑む。
己が身を挺するディフェンスは、仲間を護る手段にして、痛手と引き換えに反撃という己の手数を増す手段。
魂に輝く純然たる希い(ねがい)そのものを顕すように、ショウは清らな光一輪から白きスピアを引き抜いて、翻して放つ反撃の白で女王の心の臓をあやまたずに貫いた。気を緩めれば泣き出してしまう気がして、柔い微笑みを燈して告げる。
「すてきな夢だったよ、女王さま。でもね、夜は、あけるものだから」
奪われたすべてを取り戻すまで続く、これからの戦いだって。
――きっと、いつか。
夢の涯に至る。夜の涯に至る。
淫魔ル・シャヴォーヌの命は尽き果て、その身体は力無く頽れる。
薔薇色真珠と金象嵌に縁取られた白き大扉を見遣り、その奥に囚われていただろう魂達を想ってショウは、優しい春彩を咲かせるオヤを握る。世界の崩壊とともに消えるか残るかまだ判らぬ絹糸の花、それを手にしたまま十字を切って祈りを捧げ、
――ああ、どうか 魂の彼らに安息を。
――春のめざめが、あるように。
「ごめんね、このやり方しか知らないんだ」
「大丈夫ですよ。この世界がアラビアの幻想でも、囚われていた魂達は断頭革命グランダルメの人々なんですから」
少し困ったように眉尻を下げたなら、同じ世界に生まれたソレイユが柔らかな声音で応えて微笑んだ。
この世界の主は確かに強敵であったが、他の改竄世界史の魂を捕えて来るような力は流石にあるまい。
光の鍵盤に指を躍らせてソレイユが奏でるのは夜想曲、泡沫の女王が見る夢も安らかでありますようと手向けられた曲だと気づけばノスリも柔く微笑して、ふうわり辺りに漂う真珠めいた泡を掌で掬うようにして、首に口づける代わりに甘い吐息を吹きかけたなら、虹色の煌きをくるり躍らせた泡がぱちんと弾けた。
「ああ、蕩ける夜だったよ」
微細な煌きのかけらがきらきら散って消えゆく様に、名残を惜しむ本音を贈れば――世界が、ほどけはじめてゆく。
宮殿のすべてが蜂蜜色の光の粒子に変わっていく。天蓋が光の霧のごとく変じて柔らかにとけて、宮殿の屋根も同じく光の霧めいて柔く煌き散り消えていく。流れ込む砂塵まじりの夜風に半ばとけて浚われた薔薇色真珠と金象嵌に縁取られた白き大扉の奥から、地上から天上へと翔ける流星のごとき光が幾つも飛翔していく様に、魂達が解き放たれていく安堵を覚えた誰もが笑みを燈して。床もまた光の粒子に変わってほどけはじめたのを機に、皆で夜空へ飛び立った。
砂漠の幻想、砂海の真珠――。
夜空の星々より美しい光に満ちていた街もゆうるり光の粒子に変わり、砂漠さえも同じ道程を辿る。濃密な珈琲色の夜闇を湛えていた空は何時の間にか、薔薇の花の、柘榴の花の、美しい暁の彩を透かす光に満たされていた。
それが真実、暁であるかは判らなかったけれど、きっと真実を求める意味はない。
幻想であるがゆえか世界が消えゆくさなかだからか、高度の概念も曖昧なまま、暁の空を何処までも昇っていく。蜂蜜色の曙光が射しはじめた世界の眩さに眦を緩めたヤコウが、玉座を捨て薔薇の魔物となったラヴィデに微笑みかけた。
僕の願いも叶えて頂戴な。
――幻から醒めても、あなたと語り合う千夜をください。
――幻が終わりを迎えても、夜のつづきは勿論、キミと。
二人の邪魔にはならぬよう、密やかな羽ばたきでエトヴァは上昇を加速させる。この音色を手放すのは惜しいなと思えど、銀弦のウードが絵画の外へ戻ったときにも己が手にあるかは判らない。だが、この手に残ったとしても残らなかったとしても、務めは果たそう。ルーブル美術館の展示室に戻った時に、この絵画が形骸を残しているようであれば間違いなく破壊して。
帰還したなら、再び味わうのだ。
――アラビアコーヒーをもう一杯、心ゆくまでゆっくりと。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【スーパーGPS】LV1が発生!
【エイティーン】LV1が発生!
【クリーニング】LV1が発生!
【活性治癒】がLV4になった!
【飛翔】がLV6になった!
【完全視界】LV1が発生!
【照明】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
【託されし願い】がLV4になった!
【現の夢】がLV3になった!
【熱波の支配者】がLV2になった!
【狐変身】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】がLV3になった!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【リザレクション】LV1が発生!
【ドレイン】がLV5(最大)になった!
【ロストエナジー】がLV10(最大)になった!
【ガードアップ】がLV2になった!
【凌駕率アップ】LV1が発生!