宇宙へ~『ヴェーダ・クロニクル』の謎に迫る

 攻略旅団の提案で行われた『マヌ法典』の調査では、絶滅人類史に関する重要な情報を得る事が出来ました。
 攻略旅団では、この結果も踏まえ、『マヌ法典』に匹敵する謎の書物である『ヴェーダ・クロニクル』の調査を排斥力の無い『宇宙』で行う事を決定しました。
 シメオン・グランツと『ヴェーダ・クロニクル』と共に、特別なパラドクストレインに乗って、国際宇宙ステーションに向かい、『ヴェーダ・クロニクル』の調査を行ってください。

宇宙へ~『ヴェーダ・クロニクル』の謎に迫る(作者 一本三三七
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 新宿島グランドターミナル。
 その新しく完成した、特別なプラットホームの前に立った綿抜・カスミ(サイボーグのサウンドソルジャー・g01177)が、ディアボロス達を出迎える。
 彼女の後ろには、城髭を長く伸ばして蓄えた長身の老人の姿。その手に怪しげな魔導書『ヴェーダ・クロニクル』を持つ彼は、シメオン・グランツ(人間のレジェンドウィザード・g01467)に間違いない。

「皆様、お忙しい中、来ていただいてありがとうございます」
 カスミは、今回の依頼の為に出現した特別なパラドクストレイン……宇宙に向けて羽ばたくように伸びる線路と、その線路に停車する蒸気機関車を指し示し、慎ましやかな胸を張って元気よくそう挨拶した。
「それにしても、蒸気機関車には浪漫を感じますね。シロクニ型に近いシルエットですから、まさに、宇宙を旅行するのに相応しいって感じがします」
 カスミは、うんうんと嬉しそうに頷くと、集まったディアボロス達に今回の依頼の説明を開始した。

「実は攻略旅団から、ここに来ているシメオンさんと、シメオンさんが持っている魔導書型クロノ・オブジェクト『ヴェーダ・クロニクル』を国際宇宙ステーションに運ぶ提案が来ています。
 国際宇宙ステーションにいけば、排斥力の影響が無くなる為、何か新しい情報が得られるかもしれない……というのが、目的ですね。
『ヴェーダ・クロニクル』は、攻略を開始した直後のディヴィジョンや戦争で交戦する前のクロノヴェーダの情報が自動的に記載されたり、ディアボロスが予兆で垣間見たジェネラル級や断片の王の一部の外見情報が記録されたりする、情報媒体系のクロノ・オブジェクトです。
 得られる情報は限られており、実質的な効果はあまり高いとは言えません。
 ですが、他に例のない特殊な能力である事は間違いありません。
 前回調査した『マヌ法典』ほどの情報は得られないかもしれませんが、期待は出来るのではないでしょうか」
 カスミがそう言うと、シメオンも口を開き、重々しい口調で語る。
「私はレジェンドウィザードのディアボロスとして新宿島に漂着したが、過去の知識と記憶を失っている。
 これまでの長い戦いでも、思い出せたことは何もなかった。
 だが、『ヴェーダ・クロニクル』は歴史の奪還戦などで私が戦闘不能になってもついて来る。私個人と紐付いているのは、間違いないようだ。
 ワイルド・カードの貴重な提案を使わせてしまってすまないが……宇宙に行く事で、何か思い出せるのならば、是非、挑戦してみたいと思っている。面倒をかけるが、宜しくお願いしたい」
 そう頼まれれば、集まったディアボロス達に、断る理由は無い。
 口々に協力を申し出ると、カスミは笑顔でそれに応え、作戦の詳細の説明を行ってくれた。

「最初にする事は、準備となります。何か持ち込みたいものがあれば、予めここまで運んできてください。
 最終人類史で保管しているクロノ・オブジェクト等の利用も可能です。
 ただ、残念ながら、宇宙に向かえるのは、この蒸気機関車型パラドクストレインだけで、貨物車両型のパラドクストレイン程の積載量はありません。
 基地となるISSも、あまり広い場所ではありませんし、下手に重量バランスを変えると後が大変ですので、一応注意してください。
 あとは、シメオンさんに準備して欲しい事や、国際宇宙ステーションについてから気を付けて欲しい事、やって欲しい事があれば、事前に要望を伝えておいてください。
 シメオンさんもディアボロスですから最低限の自衛は可能ですが、『ヴェーダ・クロニクル』に何か異常が発生した場合などの方針は決めておく必要があるかもしれません」
 カスミがそう説明すると、シメオンも頭を下げる。
「老いては子に従えともいう、私は、お前達の指示に従わせてもらうので、宜しく頼む」
「勿論、宇宙に出ても、特に何も変化が無いという可能性は充分にあると思います。期待し過ぎずに、宇宙の旅も楽しんできてくださいね」
 ペコリと頭を下げるカスミにうなずき、ディアボロス達は『ヴェーダ・クロニクル』の謎を解明する準備を始めるのだった。

 


→クリア済み選択肢の詳細を見る


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 『ヴェーダ・クロニクル』の調査をを終了して地球に帰還します。
 この選択肢は、『ヴェーダ・クロニクル』の調査 に有効なプレイングが無い場合のみ執筆されます。
 可能性として、宇宙にいっても地上と全く変化が無いという事もあり得るので、これ以上の調査は無意味だと思った時点で、調査は終了する事になるでしょう。
 詳しくは、オープニングやリプレイを確認してください。



特殊ルール 【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、安全に撤退でき、シナリオは成功で完結する(作戦目的は一部未達成となる)。
👑2

●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【託されし願い】
1
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【熱波の支配者】
1
ディアボロスが熱波を自在に操る世界になり、「効果LV×1.4km半径内」の気温を、「効果LV×14度」まで上昇可能になる。解除すると気温は元に戻る。
【完全視界】
1
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。
【通信障害】
2
ディアボロスから「効果LV×1,800m半径内」が、ディアボロスの望まない通信(送受信)及びアルタン・ウルク個体間の遠距離情報伝達が不可能な世界に変わる。
【宇宙適応】
3
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が宇宙空間の物理的・環境的制約や肉体的・精神的負荷を受けず、地球の重力下と同様に活動を行える世界に変わる。

効果2

【命中アップ】LV2 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV1 / 【フィニッシュ】LV1 / 【反撃アップ】LV3 / 【先行率アップ】LV1 / 【ロストエナジー】LV1 / 【グロリアス】LV1

●マスターより

一本三三七
 シナリオでは、お久しぶりです。トミーウォーカーの一本です。
 今回は、ワイルドカードの提案による、『シメオンと行く国際宇宙ステーションの旅』シナリオを担当する事になりました。
 蒸気機関車で宇宙に行くのは、やっぱりロマンですね。

 プレイングの締切タイミングなどは、選択肢に記載していますので、プレイングを掛ける際は、確認をお願いします!

 それでは、良い、宇宙の旅を楽しみましょう♪
105

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


イロハ・アプリルシェルツ
列車で旅立つのに必要なもの…其れはずばり駅弁だね。
シメオン翁のお茶と弁当も新宿駅で購入していざ宇宙へと出発だよ。
でもってISSへの道中にシメオン翁に話し掛けよう。

謎のクロノオブジェクトを携えた記憶喪失の大魔導師。
そんな存在のシメオン翁に記憶が無いのは、実は排斥力を避ける為に敢えて自分自身で消したのかなと思って調査提案に賛同したんだよ。
もっと踏み込んで言えば絶滅人類史側の復讐者だったのかなとも推測したんだ。
流石にその可能性は低そうだけど、前回のマヌ法典で得られ無かった情報をヴェーダ・クロニクルでも調べるのは有意義だろうしね。

シメオン翁に宇宙で気を付けて貰いたいのが幾つか。
もし記憶を取り戻した場合も今まで共に戦った復讐者の一員であると言う思いを忘れない事。
そしてヴェーダ・クロニクルが勝手に作動し『コーサノストラ』にハッキングされたり『永遠存在』が認識して『刻逆』の進行が早まる可能性。
いずれにせよ、シメオン翁自身が所有者だと強く認識し、制御しようとする心構えを持っててね。


一里塚・燐寧
ヴェーダ・クロニクルは『そういうもの』って納得してたけど、言われてみると謎だらけだねぇ
絶滅人類史で作られたものだとしたら、じゃーなんで新宿島に流れ着いたシメオンさんが持ってるのぉ?ってなるしぃ……
決戦直前の貴重な時間を割いてでも、調べてみる価値はあるかもぉ?

他の残留効果は調査の開始時点で使うとして、最低限【宇宙適応】は必須だねぇ
エネルギーが必要な場合に備えて、巨大神像の心臓一個と、可能ならバックアップとしてミナスジェライスで入手したお宝も持ち込もう
あれ確かまだ使ってなかったよねぇ?何エネルギー分ぐらいになるのかなぁ?

そういえば、あたし達ってヴェーダ・クロニクルのこと全然知らないなぁ
シメオンさんに詳しい話を聞いておこっか。例えばこんな話題
・どんな様子で、どれぐらい時間をかけて宿敵の姿が描かれるのか
・ページ数と残りの白紙部分はどれぐらいか
・魔導書らしいが宿敵図鑑以外の機能はあるのか

他にシメオンさん自身から言いたいことがないかも尋ねる
現物の挙動を把握しとけば、後で起きることへの備えになるでしょ


八栄・玄才
オッス、爺さん
ちとお喋りしようぜ
今の内に訊いておきたいことが2つあるんだよ

1つは、アンタはどのくらい記憶を取り戻したいか? ってことだ
『ヴェーダ・クロニクル』はアンタと強く紐付いてるみたいだからよ〜、無理ないじくり方してブッ壊しちゃったらアンタにも深刻なダメージが……とかもあり得るかもしれねぇ
どのくらいリスク覚悟でチャレンジグに実験していくかの線引きを先に決めて、皆で共有しとこうと思ってな
アンタが是が非でも記憶を取り戻したいならガンガンやってくし、そこまででもねぇなら変に危ない話を渡る必要もねぇだろう

そんでもう1つ
これは"質問"っていうより"確認"だけども……、万が一、記憶を取り戻したアンタの正体が人類の敵だった場合、オレはアンタを討つ
それを承知しておいてくれってことだ
まっ、確率は低いと思ってるけどな

アンタにも、その本にも、オレは感謝している
なんたって毎度これから闘う敵にはこんなヤバそうなヤツ等がいるのかって、ワクワクさせてくれたからな
だから、この宇宙旅行でイイ記憶が戻ることを祈ってるぜ


●ホームでの一幕
 新宿グランドターミナル、ISS国際宇宙ステーション行きのパラドクストレインのホームには、多くのディアボロスが集まり、喧騒をなしていた。
 新宿駅構内で購入できるお弁当を持ったディアボロスや、様々な機材や荷物を持ち込むディアボロス……。
 多少の緊張と、多くの期待と楽しみの気持ちが合わさった、ちょっとしたお祭り気分が周囲を明るく見せているようだ。

「オッス、爺さん。ちとお喋りしようぜ」
 そんな喧騒を好々爺のように眺めていた、シメオン・グランツ(人間のレジェンドウィザード・g01467)に、八栄・玄才(実戦拳術最前線・g00563)が、声をかけた。
 シメオンは、声をかけて来た玄才に向き直り、「勿論良いとも」と頷いて見せる。

「アンタ、記憶喪失なんだろ? 宇宙に出りゃ、記憶が戻るかもしれない。
 だが、過去の記憶を取り戻す事で、記憶を失っていた間の記憶を失うって話も聞いたことがある。
 無条件に記憶が戻ればいいってことは無いだろう。
 敢えて聞くぜ、アンタ、どのくらい記憶を取り戻したいんだ?」
 ぶっきら棒な、玄才の言葉。
 だが、そこには、シメオン本人の意向を尊重するという、人間的な優しさが見え隠れしていた。

「さて、どう答えたものだろうな。
 とにかく、お前が良い若者だというのは良く理解できた。
 だが、私は最終人類史での科学的測定によれば、100歳をとうに越えているようだ。
 この年になれば、もはや、多少の記憶などで、人が変わるという事は無いものだよ。
 全ての記憶を失っても、私が私であったように、ここ最近の5年間の記憶を失ったとしても、私は私であり続けるだろう」
 シメオンは、鋭い眼光の中に感謝を込めて、玄才に答える。

「つまりだ、年寄りを気にすることはない。ガンガンやってくれ」

 と。
 それを聞いて、玄才はにかっと笑うと、右手でシメオンの手を握ると、左手でその背中をバシバシと叩く。
「わかった、ガンガンやらせてもらうぜ、爺さんもしっかりついて来いよ」
 頼もしい微笑みを見せる玄才はしかし、
(「だが、記憶を取り戻したアンタが……だったのなら、俺は……」)
 と、静かに覚悟を決めていた。

●魔導書『ヴェーダ・クロニクル』
「シメオンさん、少し、時間を貰えるかなぁ?」
 玄才と別れた後のシメオンに話しかけたのは、一里塚・燐寧(粉骨砕身リビングデッド・g04979)。
 彼女は、今回の調査の主軸となる『ヴェーダ・クロニクル』について、事前に確認しておきたいことがあるようだった。
「ヴェーダ・クロニクルは『そういうもの』だと思考停止で納得していたけど、もっと早く疑問に思っても良かったかもしれないねぇ。
 聞いた話だと、新しいディヴィジョンの攻略開始直後に、そのディヴィジョンのクロノヴェーダの情報が現れたり、ディアボロス・ウォー直前に、断片の王の情報が現れるんだよねぇ?
 その力の由来が、なんなのか……とても興味があるよねぇ」
 自身の疑問を晴らすべく、シメオンに確認を求める燐寧。
 これはワイルド・カードの方針にも適合している為、シメオンも、真面目な表情で頷いて了承を示した。

「じゃぁ、早速。ヴェーダ・クロニクルは、どんな様子で、どれぐらい時間をかけて宿敵の姿が描かれるのか教えてくれるぅ?」
「本を閉じ、そして、新たに開いた時に、新たな記述が追加される場合があるという形だな。
 いつ現れるかは全く不明だ。そのため、私は1日に1度は開いて中を確認するようにしている」
 燐寧の質問に、シメオンはそう答える。
「そうなると、本を閉じている間に、何らかの情報源通信してデータを更新している可能性があるのかなぁ?
 でも、本を閉じる事で『観察されない状態になった』ヴェーダ・クロニクルの歴史が改竄されて情報量の多い本に変化している可能性も否定でき無いよねぇ」)と、推測を幾つか考えつつ、更に質問を重ねる。

「『ヴェーダ・クロニクル』だけど、ページ数と残りの白紙部分はどれくらいあるのぉ?」
「先ほどの質問で、先に見せておくべきだったか」
 燐寧の問いに、シメオンは、ヴェーダ・クロニクルの裏表紙を開いて見せる。
 裏表紙をめくると、そこに現れるのは『トーマス・エジソン』の姿が記録された部分だ。
 その一つ前には『アルタン・ウルク人馬形態』が記録されている。
「……残りページとか、もしかして無いのぉ?」
「うむ、敵の情報は、ページと共に新たに出現する形だな。最初はもっとページ数は少なかった」
「クロノ・オブジェクトだし、ページが増え過ぎて破綻しないような仕掛けがあるのかなぁ」
 現代の書籍にくらべて、一枚一枚の紙が厚い。燐寧は、試しに、その頁に触らせてもらう。
「ちょっと、不思議な感触だよねぇ」
 一般的な紙よりも、少しざらざらして、厚みがあり、そして、しっとりとした頁。
 クロノ・オブジェクトでもあるためか、これまでにシメオンが個人的に行った調査でも、材質を特定する事は出来なかったようだ。

「ヴェーダ・クロニクルは『魔導書』のようですが『宿敵図鑑』以外の機能はあるのぉ?」
 続いての質問に対して、シメオンは、表紙を撫でながら答えた。
「私自身、戦闘時にパラドクスを使う際の集中の助けとして使っているので普通の魔導書ではある。
 他にも、汚れや破損は修復する機能はあるようだ。
 昆布茶を零してしまった後、汚れが無くなったからな。
 また、長い時間、手元から離していると、私の手元に戻って来るぞ。
 最終人類史の科学者に解析をお願いした時は、解析していた学者の方々が、ヴェーダ・クロニクルが消えたと騒ぎになってしまった。
 あとはそうだな、枕にして眠ると意外に良く眠れるのだが……」
「……貴重な情報ありがとうねぇ」
 シメオンは想像以上に『ヴェーダ・クロニクル』を雑に扱っていたらしく、燐寧は内心で呆れた。
 彼自身も、色々と調べていた過程でのことではあろうが……。

「まぁ、汚れが消えるのは、クロノ・オブジェクトとしては珍しい機能じゃ無いのかなぁ?
 手元に戻って来るのも、そういう武器もあるし別におかしなことでも無いだろうけど……。
 ただ、少なくとも、『ヴェーダ・クロニクル』がシメオンさんと何らかの繋がりがあるのは間違いなさそうだねぇ。漂着時に偶然手に持っていた訳では無いんだろうし」
 燐寧が、得られた情報をメモ書きしていると、今度はお弁当を持った、イロハ・アプリルシェルツ(神聖ならざる銀・g05555)が、シメオンの元にやってきた。

「難しい話は終わったのかな? それじゃぁ、シメオン翁、そろそろパラドクストレインに乗ろうか。
 席はイロハの隣の席が空いているよ」
 そう言ってイロハは、シメオンの手をとって、蒸気機関車型のパラドクストレインへと導く。
 他のディアボロスも、2人の後に続いた。
 列車の内部も、普段のパラドクストレインよりもレトロな雰囲気で、古き良き国鉄の香りが漂ってくる。
 イロハは、さっそく4人用のボックス席にシメオンと隣掛けで座る。通路を挟んで反対側の席は、ディアボロスが持ち込んだ資材の置き場になっているようだ。

「はい、お弁当とお茶をどうぞ。鶏五目おこわと緑茶でいいかな?
 最近、新宿駅グランドターミナルのお弁当屋さんもバラエティ豊かだよね」
 シメオンは、イロハに手渡されたお弁当を受け取り、箸を割るが、「むぅ」っと顔を顰めた。
「ありゃ、片割れっちゃったんだね」
 イロハがクスクス笑いながら、予備の箸を割ってシメオンに渡す。
「いや、あのままでも食べる分には問題は無かったのだが」
 と、シメオンは言いつつも、有難く新しい箸を受け取ったようだ。
 そして、お弁当タイム。
 お弁当を食べながら、イロハは、
「えっと、イロハはね、シメオン翁に記憶が無いのは、実は排斥力を避ける為に敢えて自分自身で消したのかなと思ったんだよ。だから、調査提案に賛同したんだ」
 と、今回の作戦に対する自分の気持ちを語った。
 イロハは、シメオンも『絶滅人類史のディアボロス』なのかもしれないという可能性を考えていた。
 だが、もしそうならば、南極で会った絶滅人類史のディアボロスが何か言っていただろう。
 そもそも、『ヴェーダ・クロニクル』の情報が『絶滅人類史の人達が知っている情報では無い』事から、現状ではその可能性は低いだろうと考えていた。

●宇宙への到着
 やがて客車の扉が自然に閉まり、蒸気機関車型パラドクストレインは新宿駅を出発する。
 車内でディアボロス達が他愛の無い話をするうち、パラドクストレインは無事にISS国際宇宙ステーションへと到着する。
 窓外に広がる宇宙、そして地球を見下ろす光景は、初めて宇宙に出るほとんどのディアボロスにとって、何らかの感慨を覚えさせるものだった。

 国際宇宙ステーション内は『帰還』が行われていない為、人の気配が無く、機能も停止している。
 だが最終人類史でもあり、宇宙唯一の拠点として、環境は各種パラドクス効果を用い、ディアボロスにとって快適に保たれている。
「それじゃ、降りようか」
 イロハは、そう言って席を立つと、最後に、シメオンにこう訴えかけた。

「シメオン翁には、宇宙出たあとに気を付けて貰いたいのが幾つかあるんだ。
 もし記憶を取り戻した場合も今まで共に戦った復讐者の一員であると言う思いを忘れないでほしい。
 そして、ヴェーダ・クロニクルが勝手に作動し『コーサノストラ』にハッキングされたり、『永遠存在(イデアロゴス)』が認識して『刻逆』の進行が早まったりするかもしれない。
 けれど、シメオン翁自身が所有者だと強く認識し、制御しようとする心構えを持って欲しいってこと。
 イロハとの約束だよ」
「うむ、心がけよう」
 シメオンは、その言葉に深く頷くと、パラドクストレインから降りる。

 異変が起きたのは、シメオンの靴が、ISS国際宇宙ステーションの床に最初の一歩を踏んだ瞬間だった。

●『抱神者』
 強烈な閃光は、『ヴェーダ・クロニクル』が放つものだった。
『ヴェーダ・クロニクル』の末尾に新たに何枚ものページが生じ、そのページが本体から引きちぎられる。
 そのページ達はシメオンの周囲を舞いながら、千々に細かく引き裂かれ、紙吹雪のようにシメオンの周囲を取り巻いた。
「えっ?」
 一緒にパラドクストレインを降りたイロハがページの勢いに押され、思わず声をあげる。
 まさか、一歩パラドクストレインの外に出た瞬間に、これほど劇的な事が発生するとは思わなかったのだ。
 これには、既に、パラドクストレインから降りていたディアボロスも、まだ車両に残っているディアボロスも同じように、呆気にとられる。
 やがて、シメオンの周囲を舞っていた紙吹雪は、幾何学的に変化していき、いつしか、人間の顔を持つ異形の姿を映し出していた。

 何人かのディアボロスが、その異形に攻撃を仕掛けようとするが、それが実体を持たない幻に過ぎない事を察して、臨戦態勢のまま、周囲を伺う。
 その緊迫した状況で、シメオンが口を開いた。

「ディアボロス諸君、今は何時で、ここは何処かね?
 いや、答えなくても構わない。
 ……なるほど、いまは『刻逆現象の収束目前』で、ここは『刻逆領域辺縁部』か……。
 つまり、我が期待していた可能性の中でも、限りなく良い状況という事であるな」

 シメオンは、そう言うと、ゆっくりと国際宇宙ステーションを歩き、ディアボロスに向き直る。

「まずは、祝福を告げさせてもらおう、ディアボロス諸君。
 我に可能だった助力は、『ヴェーダ・クロニクル』によるごく僅かな情報支援のみだった。
 今、この瞬間の成果は、間違いなく諸君の力によるものだ。
 残念ながら、その間の記憶は曖昧だが、敢えて、断言させてもらう。
 諸君……最終人類史のディアボロスは、素晴らしい存在であると」

 そして、何かの表彰式であるかのように、ディアボロスに賛辞を送ってみせた。

「爺さん、お前は……」
「なるほど、これも可能性の一つとしては予測していましたが……」
「シメオン翁、自分をしっかり持って!」
 玄才が、燐寧が、イロハが、シメオンに声を掛ける。
 だがシメオンは、彼らを無視し、話を続けていく。

「絶滅人類史のディアボロスが用いた『刻逆』は、非常に危うい術式だった。
 あの術式では、『永遠存在(イデアロゴス)』に進化できない、非常に特殊化された『なり損ない』が、ディアボロスに代わって出現してしまう事が予測されたのだ。
 そして、我々ですら、一度発動してしまえば外部からの介入は極めて困難と予測された。
 故に、我は己の命を捨て、この『刻逆』の儀式の中に入りこむことを決断した。
 全ては、この星のディアボロスの未来の為に……。
 そうそう、自己紹介を改めてしておくべきであろうな」

 シメオンは、そう言って、ディアボロスに丁寧に一礼をして見せる。
 動作としては充分に礼節に適っているものだが、そこにどのような気持ちが宿っているのか、ディアボロス達には判断がつかなかった。

「我が名は『抱神者』シメオン・グランツ。
 かつて絶滅人類史のディアボロスに呼ばれた名は、『クロニクル・イデアロゴス』。
 2000年程前の歴史にて神を抱いた者の名をいただき、『永遠存在(イデアロゴス)』から、最終人類史のディアボロスに自己を改竄した者だ」

 このシメオンの言葉に反応するように、玄才が苦痛に耐えるような表情で殴りかかろうとする。
 だが、それは、他のディアボロスによって抑えられた。
 まだ、手を出すべきではないという事なのだろう。

「警戒する必要はない、玄才。まず第一に、我は諸君と敵対する意志は一切ない。
 そして、我は数発で新宿島送りになるぞ」
「……何?」
「自らの歴史を改竄し、一人のディアボロスとなった今、我は『イデアロゴス』の力を失っている。
 今の力は、諸君の知る『シメオン・グランツ』のそれと変わらないのだ。
 ここにいる諸君ならば、一対一でも100戦して100勝できるだろう。
 それに、情報を引き出す前に倒しても仕方があるまい」

(「イデアロゴスは自らの歴史を改竄できる。
  ならば、『刻逆』に入り込めるように自らを弱体化することさえできる……?」)
(「排斥力により失われていた『記憶』は、今、宇宙に来たことで取り戻したのか……」)
 現状のシメオンに起きている現象を、ディアボロス達はそう理解する。
 だが、それでも分からない疑問をイロハが口にする。

「何故、シメオン翁を……?」
「『刻逆』への介入に際し、我が奪える存在は限られていた。
 そのうちの一人で、最も我に適合したのが『抱神者シメオン』だった。
 故に、我はその名を奪い、『刻逆において最も有力なディアボロスの元』に漂着するように願った。
 そして『ヴェーダ・クロニクル』と共に、最終人類史へと漂着したのだ」

 非常に遠回りな行動に、困惑するディアボロス達。
 シメオンは、彼らにその理由を続けて説明する。

「最終人類史のディアボロスは素晴らしい可能性を秘めている。
 諸君が勝利せねば、『イデアロゴス』は、新たな同胞を迎える可能性を失ってしまうだろう。
 だからこそ、我は、『イデアロゴス』としての権能を失ってでも、諸君らディアボロスの為に、『刻逆』を引き起こした儀式に介入したのだ。
 我という『一体のイデアロゴス』は失われる。
 だが、その助力が、諸君ら最終人類史のディアボロスの多くが『イデアロゴス』となる可能性を僅かでも上げるならば、先に『イデアロゴス』に至った者として、それを選ぶべきであった。
 故に、我はそれを選んだ。
『一粒の麦地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、もし死なば多くの実を結ぶべし……』という事だ」

 シメオンと、その背後に浮かぶ異形の幻は、ディアボロスに対して友好的な姿勢で手を差し伸べてくる。
 そこには、絶滅人類史のディアボロスが語っていたように、圧倒的な『善意』が宿っていた。
 かつて『クロニクル・イデアロゴス』であったもの、『抱神者』シメオン・グランツ。
 彼を前に、ディアボロス達が取る行動は……。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【宇宙適応】LV3が発生!
効果2【フィニッシュ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV2が発生!

ルチルーク・フレンツェン
(怒りで強く握っている拳を隠しながら)
なってしまったなら仕方ないですね
一般人を蔑ろにする存在でも利用できる内に利用させて頂きます

イデアロゴスとしての知識と記憶はあるのなら
イデアロゴス以外の存在で未解明の謎について、
シメオン氏目線の見解を聞かせて下さい

①最終人類史の謎
・攻略旅団のとても支持された提案がディアボロスだけでなく一般人にも良い影響を及ぼしうる能力
・奪還戦の時にディヴィジョンと融合して残留効果を最大にし宙に浮く新宿島

この二つはまだ解明されていないはずです
他のイデアロゴスが介入している結果なのか、シメオン氏でも推測できない力でしょうか?

②今のアルタン・ウルクのイレギュラー性
・チンギス・ハーンさえ望んでいない今のアルタン・ウルクになってしまった経緯
・今のアルタン・ウルクがイレギュラー扱いされる理由

コーサノストラは最初からイデアロゴスに降伏予定で、
最終人類史も小さくてもイデアロゴスの介入があった
なら今のアルタン・ウルクもイデアロゴスと何か関係があると思うのですが、どうでしょうか?


ソレイユ・クラーヴィア
シメオンとは創世記に記された人物の名でしたね
神の声を聞く者であると同時に罪とも称される
イデアロゴスが存在を奪うに、これ以上の適材は居ないという事ですか…
皮肉ですね

貴方に聞きたい事があります

何故、イデアロゴスは仲間を欲しているのですか?


ディアボロスの力は復讐に強く紐づいています
ディアボロスからイデアロゴスに至るのであれば、当然イデアロゴスも復讐の感情を持っていると考えるのが妥当でしょう
イデアロゴスが復讐したい存在がある、故に仲間の覚醒を願っている
と考えれば、その手段の是非はさておき、話としては理解できます


イデアロゴスの改竄能力は、謂わば全能の神にも等しい力
その領域にまで達することができるのだとすれば、もう個ではなくシステムに近い
感情など持ってはいけない、最も縁遠い存在に感じるのですが

僅かな縁を辿って広大な星の海を渡り、辺境の小惑星でディアボロスの覚醒を促す程に仲間を渇望する泥臭い感情の根源を知りたいです

ただ感情の儘に改竄を自在に操るだけの存在であれば、それはもう厄災以外の何者でも無いですね


文月・雪人
シメオンはイデアロゴスであったと、その事実に関しては驚きはしないよ。
寧ろ納得だし、重要なのはこの機会が得られたという事。
聞きたい事は本当に沢山あるからね。

これは人類とイデアロゴスとの遭遇の、再挑戦(リベンジ)とも言えるのかな。
価値観が違うのはきっとお互い様だ。
より良い未来を求めるならば、先ずはお互いを知る事が重要だと思う。
彼がシメオンになった結果として、俺達人類の事を学んでくれたのだとしたら、
彼という存在の意味は大きなものとなるだろう。

一先ず、事実関係を確認したい。
2027年、絶滅人類史にはディアボロスが存在していた。
つまりこの前段階として、イデアロゴスによる歴史改竄が行われていた事になる。
そして絶滅人類史に集った彼らは、人類絶滅を防ぐべくイデアロゴスの力を模して刻逆を行った。
そう考えていいのだろうか?

隕石落下は何故必要だった?
刻逆は非常に危うい術式だったと言ったけど、何が問題だったのだろう。
永遠存在への進化には何が必要なのか。
そして貴方の言う『なり損ない』は、人に戻る事は出来ないのか。


●ディアボロスの問い
「落ち着いたようだな。我々が今ここで戦う理由は無い、その通りだ」
『抱神者』シメオン・グランツに殴り掛からんとしていた玄才も、ようやく落ち着いたようだった。
 彼を抑えていた文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は、シメオンの前に歩み出る。

「シメオン、俺は、あなたがイデアロゴスであった……という事には、それほど驚いていないんだ。可能性としては、充分にあり得る事だったからね」
 雪人はそう言うと、戦闘の意志が無い事を示すように、両の腕を広げて見せた。

「さぁ、話をしようじゃないか『抱神者』シメオン。
 これは、人類とイデアロゴスとの初遭遇の、再演と言えるだろう。
 俺達は、絶滅人類史のディアボロスでは無く、君も、イデアロゴスの力を失っているが……、話し合う事に支障は無い。
 別の種族であるのだから、価値観が違うのは当然で、お互い様。
 だからこそ、君がシメオンとなり、俺達人類の事を学習してくれた事に意味があるだろう」

 雪人の言葉に、シメオンは賛同するように大きく頷きを見せた。
「その通りである。文月・雪人。
 我は、イデアロゴスとしての能力は失ったが、シメオンとしての数年の経験により、そこの八面体のイデアロゴス時代よりも、『インターフェイス』の能力は格段に上昇していると自負しているのだ。
 さぁ、会話を楽しもうではないか」

 そして、多くのディアボロスが見守る中、雪人とシメオンの対話が始まった。

「まず、確認事項だね。2027年、絶滅人類史にはディアボロスが存在していた。つまりこの前段階として、イデアロゴスによる歴史改竄が行われたという認識で間違いないかな?」
 雪人の問いに、シメオンは少しだけ考えて否定の言葉を口に出した。

「言葉の定義に齟齬がある故、確とは言えぬ。
 イデアロゴスの視点で言えば、正しくは無い。
 絶滅人類史のディアボロスから見たならば、そう見えた可能性も否定はせぬが……」
 シメオンは、少しだけ言葉を選びながら、会話を続けた。

「ふむ『ゆく川の流れは絶えずして』という言葉もあるので、『時の流れ』を『川』として考えるのが良いだろうか。
 絶滅人類史のディアボロスとイデアロゴスが遭遇したのが『川の中流』としよう。
 絶滅人類史のディアボロスが『刻逆の術式を行った』のが『川の下流』だ。
 この場合、イデアロゴスが行った事は『川の上流に仕掛けを作り、川の中流に集まるディアボロスの数を増やした』といえるだろう。
 川の流れの中に居る者から見れば、川の上流への仕掛けは『前段階』に見えたかもしれぬが、イデアロゴスから見れば、川の上流も中流も下流も、移動できる場所の一つでしかなく、『前段階』という定義には当てはまらないだろう」

 シメオンの説明は、時間を思いのままにできる者ゆえの判りにくさがあった。
 イデアロゴス的には、同時に行われたことになるのだろう。
 だが、ディアボロスとイデアロゴスの価値観や認識の違いの大本に『時間に関する捉え方の違い』がある事を、雪人も、話を聞いていた多くのディアボロスも、確認できたようだ。

「なる程、時間の流れを川に例えれば、確かにそうなるのだろう。俺達は、上流を過去、中流を現在、下流を未来と認識するが、イデアロゴスにとっては、上流も中流も下流も『移動可能な場所』として認識するわけだ」
 雪人は、そう頷くと共に、本題の質問を投げかける。

「絶滅人類史に集ったディアボロスは、川の下流において、人類絶滅を防ぐべく、イデアロゴスの力を模して『刻逆』の儀式を行った。そう考えていいのだろうか?」
「否だ。むしろ、絶滅人類史の人類を確定させたのは『刻逆』にほかならない」
 この問いには、シメオンは迷うことなく『否』を唱えた。

「……すまない、詳しく説明してもらっていいだろうか?」
「『刻逆の術式』は、イデアロゴスによる改竄を拒み、我らと出会わない歴史で自分達が改竄を行うものであった。
 つまり、絶滅人類史における人類の絶滅を確定させたのは『刻逆』なのだ。
 無論、絶滅人類史のディアボロスの意図には、我から見ても不明な部分が多い。彼らが、絶滅を阻止する意図があった可能性は否定しない。
 だが、結果として『刻逆の儀式』によって、絶滅人類史は僅かなディアボロスを除き全てが死に絶えた状態で確定し、もはやイデアロゴスですら改竄できない状態となった。
 つまり、先ほどの雪人の問いに対する回答としては『否』で間違いないのだ」

 シメオンはさらに、別の観点からも雪人の問いを否定する。
「もうひとつ、『刻逆』が『イデアロゴスの力』というのも間違いだ。
『刻逆』が模倣した、『刻逆現象』は、『イデアロゴスの力』では無い。
『イデアロゴスの力でも介入できない特殊な現象』なのだ。
 我を除くイデアロゴスが、排斥力によって、この場に干渉する事も出来ていない。
 それ自体が、我の発言を証明していると言えるだろう」

 このシメオンの言に、雪人は「なるほど、ならば…?」と、その意味を深く斟酌し始める。

 雪人が長考に入ったのを見やり、ルチルーク・フレンツェン(均衡を破りし逆襲機械・g02461)が、シメオンに言葉をかける。
 ルチルークの拳は、手のひらに爪が食い込むほどに強く握られ、イデアロゴスという存在への怒りを押し殺している事が、近くにいたディアボロスからは見て取れ、心配そうに見やる。
(「大丈夫です。当機は冷静です」)
 ルチルークはそう心中で呟くと、シメオンの前に立った。

「シメオン様に、イデアロゴスとしての知識と記憶があるのなら、この謎について見解を聞かせて貰って良いでしょうか?」
 ルチルークは、一つ目の謎として、最終人類史について問いかける。
「最終人類史では、攻略旅団の提案により、様々な良い効果が発生しています。それは、ディアボロスだけでなく、一般人にも恩恵があるのですが、これはどんな理屈なのでしょう?」
 ルチルークの疑問に、シメオンは、『今の我には、イデアロゴスとしての力が無い故、推量とならざるを得ないが』と前置きした上で、

「まず、最終人類史の人々の感情も何らかのエネルギーを生じさせているという前提で考えて欲しい。
 人の思いはエネルギーであるのだから、その願いを束ねて方向性を与える事が出来れば、超常的な事象を起こす事は不思議では無いだろう。
 集めたエネルギーを使用して超常の事象を起こす事は、多くのクロノヴェーダも行っているな。
 しかし、思いを汎用的なエネルギーに変化させる場合、多くのロスが発生する。特定の感情しか利用できない『地獄変』などに貯蔵する場合も同様だ」
 前置きをそう述べ、シメオンは自身の考えを続ける。

「最終人類史では、生じた感情を見える形でエネルギーとして蓄積する手段は『円卓の間』などに限られている。
 だが実際には、攻略旅団の提案によって、最終人類史の人々の感情から生じたエネルギー……特にクロノヴェーダへの復讐心やそれと強く結びつく大地の奪還への願望から生じるものを、一気に利用しているのだ。
 思いのエネルギーの方向性を決めて即時使用する形式となっているため、消費されるエネルギーに対し、瞬間的に発生する効果は非常に大きくなる。
 その意味で、『攻略旅団の提案』は、エネルギーの利用方法として非常に優秀な形式であることは間違いないだろう」
 との見解を示してみせた。
 この説明に、ルチルークも「そう考えれば説明はつけられそうですが……」と、半信半疑で納得しつつ、最終人類史に関する問いを続けていく。

「であれば、新宿島とは何なのでしょうか? 奪還戦の時にディヴィジョンと融合して残留効果を最大にし宙に浮く新宿島は、先ほどの理屈では説明できない筈です」
 ルチルークの、この疑問に対しても、シメオンは、推量でしかないがと前置きして、推論を述べていく。

「『新宿島』は、『刻逆の儀式』の直後に、『最終人類史のディアボロス』に託された『思いのエネルギー』によるものだと考えられる。
『パラドクストレイン』もそうだが、『侵略者から大地と歴史を奪還して欲しいという願いが形を得た物』と考えれば理屈が合うだろう。
 勿論、『刻逆』当初の最終人類史に残された一般人の思いだけでは、このような事は不可能だ。
 このエネルギーは、ディヴィジョンに分割されて『存在していないことにされて消失』した、新宿区を除く、地球全土の人類全ての生命と思いのエネルギーが、残された大地に集中したとすれば、辻褄が合うのではないだろうか」

 このシメオンの説明に、ルチルークは、今度は心からの賛同を覚えていた。
 計算がどのように合うのかは判らないが、新宿島に残された30万余を除く79億数千万の人々が、最終人類史のディアボロスに、最後の願いを託したのならば、それは、なんと光栄な事だろうか……。

 その余韻を感じながらもルチルークは、
「断片の王、チンギス・ハーンさえ望んでいない、今のアルタン・ウルクが発生した経緯について、何か判る事はあるでしょうか?」
 と、アルタン・ウルクについて問いを重ねた。

「複数の『クロノヴェーダ』の力を、一つの体に無理矢理収めようとすれば、その力の制御が出来なくなるのは当然の事だ。
 絶滅人類史のディアボロス……いや、既にそこから断片の王に変じていたのだったか……ともかく、チンギス・ハーンにはその知識が無かった故に試そうとしたのだろう。
 先に相談して貰えさえすれば、警告する事も出来ただろうが。
 ……もっとも、忠告したとしても、絶滅人類史のディアボロスならば信じなかっただろう。
 それどころか、イデアロゴスが『やるべきではない』と忠告した事で『イデアロゴスが恐れている事象』だと誤解して実行した可能性すらある。
 あのような、イデアロゴスには絶対に至ることのできないアルタン・ウルクの発生は、おそらく、避けられなかったのだろうな」

 シメオンの言葉には、残念そうな響きがある。
 実際、現在のアルタン・ウルクが、多くのディヴィジョンを滅ぼしてしまった事は、イデアロゴスにとっても不本意な事なのかもしれない。

「当然の事で、避けられなかったというのならば、何故、アルタン・ウルクは『イレギュラー』と呼ばれているのですか?
 想定されていたのならば『イレギュラー』では無い筈でしょう?」
 ルチルークがそう問うと、シメオンは、髭を一撫でして、単純な事実を口にした。

「『イレギュラー』という呼び名は、我らイデアロゴスが定めた訳では無い。
『イレギュラー』を判定していたのは絶滅人類史のディアボロスなのだから、絶滅人類史のディアボロスの認識においての『イレギュラー』と考えるのが妥当だろう。
 おおかた、絶滅人類史のディアボロスが想定できなかったか、或いは『刻逆』が想定する勝者となりえない、或いは想定はしていても制御不可能な存在を、そう呼んでいたのでは無いだろうか」
 シメオンの説明に矛盾は無く、理屈に合っていたため、ルチルークも納得した様子であった。

 ルチルークに続くように会話を続けたのは、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)だ。
「『抱神者』シメオンは『ルカによる福音書』に記された聖人の名でしたね。
 『救い主を見るまでは死なない』と神から告げられ、幼子イエス・キリストを抱き上げた……。
 イデアロゴスが存在を奪うのに、これ以上の適材は居ないという事ですか……皮肉ですね」
 ソレイユは、そう前置きすると、
「貴方に聞きたい事があります。
 何故、イデアロゴスは仲間を欲しているのですか?」
 と、シメオンにイデアロゴスという存在について問いかけた。
 このソレイユの問いに、シメオンは、曖昧に首を横に振って否定を示す。

「仲間が増えるのは、悦ばしい事だ。それは否定しない。
 だが、仲間を欲している……というのは少し語弊があるだろう。
 我らは、偶然、何者かに観察される気配を感じて周囲を探った結果、仲間になる可能性のある存在を発見したので、育てようとした……と言えば良いのか。
 諸君らも、荒野に寄る辺なき赤ん坊が捨てられ、今にもその生命の火が消えようとしているのを見つけたならば、すぐに抱き上げ救い出し、育てようとは思うのではないか?
 特に子供が欲しいと思っていなかったとしてもだ」
「あなた方から見て、地球のディアボロスがそうであったと……?」

 このシメオンの言葉が真実か否かを、今のソレイユには判断できない。
 現時点では、『シメオンがそう説明した』という事実のみを確認するに止めるべきだろうと考えると、更に問いを重ねていった。

「ディアボロスの力は復讐に強く紐づいています。
 ディアボロスからイデアロゴスに至るのであれば、当然イデアロゴスも復讐の感情を持っていると考えるのが妥当でしょう。
 イデアロゴスが復讐したい存在がある、故に仲間の覚醒を願っていると考えれば、その手段の是非はさておき、話としては理解できるのですが……」
「その考えは『復讐』の強さを知っていれば自然なものだろう。
 しかし、我らはその段階を既に通過しているのだ」
 ソレイユの言葉に、今度は、シメオンは明確に否定を示して見せた。

「ディアボロスの力は『復讐』によって覚醒し、得られるものである。確かに、ソレイユの言う通りだ。
 その復讐の力を『理性』によって完全に制御する事でこそ、イデアロゴスとなる事が出来る。
 つまり、イデアロゴスにもはや『復讐』という感情は存在せず、復讐対象も存在しないのだ」

 そう強く断言した後、シメオンは少しだけ表情を緩め、追加で説明を加えた。

「正直な話、絶滅人類史のディアボロスの事例は、それほど珍しい事では無いのだ。
 現在のイデアロゴスの多くは、『絶滅人類史と同じ方法で滅ぼされた惑星』のディアボロスが、復讐心を制御した後の姿なのだから。
 諸君らが考える『復讐対象』は、強いていえば、仲間であるイデアロゴスとなってしまうだろう。
 故に、イデアロゴスには『復讐対象』は存在しないのだ」

 もし、絶滅人類史のディアボロスがイデアロゴスとなれば、確かに、復讐対象が仲間になる事になる。
 だが、もしそうだとすれば、イデアロゴス達は揃いも揃って、自分達に強烈な復讐心を抱かせた相手と仲間として共に行動しているというのか。
 そのように、復讐心を理性で制御しきる事など、本当にできるのだろうか?
 ソレイユは、その疑問と共に、再びシメオンに問いかける。

「あなた方は、復讐心を理性で完全に制御しているという。
 だが、感情を全て失っている訳では無い。
 それこそ、荒野に捨てられている『赤ん坊』を拾おうとする程度には。
 イデアロゴスの改竄能力は、謂わば全能の神にも等しい力です。
 その領域にまで達することができるのだとすれば、もう個ではなくシステムに近い。
 そんな全能の存在が、感情を保持し続けている理由は何なのでしょうか?」
 と、最後の質問を投げかけた。

「なるほど、諸君らディアボロスからは、イデアロゴスが全知全能にも見えるのだな。
 だが、イデアロゴスは全能の神では無い。
 イデアロゴスの能力が全能の神に見えるのは、ディアボロスがそのステージに立っていないからに過ぎない。
 諸君が無事にイデアロゴスになった暁には、そのような畏れを抱く事は無くなるだろう。
 そうだな、仮に平面である2次元に生命体がいたとしたら、彼らは、諸君達3次元の生命体を『全能の神にも等しい力』を持つと見なすだろう。
 だが、3次元の生命体である諸君達は、決して『全能の神』では無いだろう?
 故に、イデアロゴスも、諸君からどう見えたとしても『全能の神』では無いのだよ」

 シメオンの答えは、やはり、この場で確証を得られる物では無かった。
 だが、イデアロゴスという存在に対する考察に必要な情報であるのは間違いが無さそうだった。

 ソレイユの問い掛けが終わった後、沈思黙考していた雪人が、再度シメオンの前に進み出る。
 彼には、どうしてもシメオンに問わねばならない一つの問いがあった。

「……隕石落下による人類の絶滅は、何故必要だったんだ?」

 絶滅人類史のディアボロスが『刻逆』の儀式を行う事を決めたであろう決定的な出来事。
 もし、イデアロゴスが、必要も無く隕石による人類絶滅を行ったのであれば、それは、決して許される事では無い。
 だが、シメオンは雪人らディアボロスにとって重要な問いに対して、極めて軽く答えを返す。

「手段は隕石でなくても良かった。
 だが、合理的に考えれば、あの段階では、隕石による人類絶滅が、最も良い作戦であったのだ。
 もっとも、絶滅人類史のディアボロスが、これを理由に『刻逆の儀式』を実行してしまうというのであれば、別のアプローチをとるべきだったかもしれないが」
 シメオンの問いに、多くのディアボロスが激昂するが、雪人はそれを制して、シメオンに説明を続けるように促した。
「つまり、やはり隕石に限らずとも、『絶滅』は、ディアボロスがイデアロゴスになるために必要だった……そういうことだね」
「その通りだ。
 イデアロゴスになるのに必要なのは、復讐心を制御することだ。
 その為には、新たな復讐心が生まれる事の無い環境を用意しなければならない。
 しかし我らの経験上、ディアボロスとなった者も、非ディアボロスの親しい一般人が存在し続ければ、常に、新たな復讐心が沸き上がってしまうのだ。
 諸君らも、常々言っている通り、一般人が理不尽に虐げられれば、復讐心を感じてしまうのだから」
 シメオンは、ディアボロス達に理解を促すようにゆっくりと説明する。

「一般人の恋人が事故で死んだ、家族が暴漢に殺された、親が病気で死んだ……。
 そのたびに、僅かなりとも復讐心が芽生え、イデアロゴスへの道が遠ざかってしまう。
 歴史を改竄して事故を無くしても、歴史を改竄して暴漢を殺しても、歴史を改竄して初期段階で治療して病気を無かった事にしても、その心の乱れは決して無くならない。
 であるから、イデアロゴスとなるためには、縁のある一般人を全て消す必要があったという訳だ」
 シメオンは当然の理であるかのようにそう説明する。
 その答えには、冷静な雪人でさえ怒りを抑えるのは難しかったようだ。

「……今まで俺達と一緒にいて、俺達がそれで納得すると思っているのか?」
「ふむ。……なるほど、ディアボロスとしてのシメオンの記憶によれば、そこが一番の認識の違いであるようだな。
 どうしても諸君を怒らせてしまうかもしれないが……一般人の絶滅は、我らにとってやり直しの効くことであって、大した問題では無いのだ。
 一度、我らが地球を滅ぼしたとしても、再度の歴史改竄によって滅びなかった歴史に変えれば良いのだから。諸君も『帰還』によって、クロノヴェーダに消された者達を取り戻しているであろう?」
「それが、同じことだと、言いたいのか?」
「滅ぼされた事実をなかったことにする行為として、我は同じだと認識している」
 何度でも自由に歴史を変えられる者故の認識を、『抱神者』シメオンはそう示す。

「もし、絶滅人類史のディアボロスがイデアロゴスになっていれば、『過去を改竄して地球を元の姿に戻す』事も出来ただろう。
 実際、イデアロゴスになった後、そのように歴史を改竄したイデアロゴスもいないわけではない。
 先ほど言った通り、絶滅人類史のディアボロスは、『刻逆』という愚行によって、絶滅を確定させてしまったが……」
「……!?」
「言いたいことはあるのだろうが、どうやら、我らがどうして隕石を落としたかの疑問は晴れたようだ。
 有意義な問いかけであったな。感謝しよう」

 シメオンは、この話し合いによって大きな成果が出せた事に満足して、雪人に礼を言う。
 その仕草には、罪悪感のようなものはひとかけらも存在していなかった。
 ディアボロス達は、イデアロゴスを理解する事の難しさを改めて認識しつつ、次の言葉を発するべく息を整えるのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【通信障害】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!

月下部・小雪
む、むむむ、イデアロゴスもアル・カポネと同じようなことを言って、ます。
人類が全滅しても、過去を書き換えてなかったことにすればいい。
今のボクがあるのは過去があるからです。そ、そんなに簡単に書き換えていいものではありません。

けど、それでも確認しておかなきゃいけないことは、あります。

コーサノストラのアル・カポネ達は復讐を捨ててイデアロゴスに降ろうとしてます。
か、彼らクロノヴェーダもイデアロゴスになれるのでしょうか。
もしイデアロゴスの力を使ってなれるなら、天魔武者や他のクロノヴェーダもいつかはイデアロゴスに至れるのですか?
イデアロゴスでも書き換えれない『刻逆』の結果なら難しそうですが……

つ、次です。
『刻逆』が終わってしまったら、ボク達の仲間の、お茶をこぼしたり、大事な本を枕にしちゃうようなお茶目なシメオンおじいちゃんは消えてしまうの、ですか。
な、なんとか元のおじいちゃんに戻ることは、できませんか?

※アドリブ連携大歓迎


クローディア・ベネット
耳寄りな話を聞かせてくれたね、爺さん
はっきり言って私は地球に未練ってやつがないんだ
復讐の相手だったアビスローバーは滅ぼしてやったが、今の世の中じゃ海賊に戻る訳にもいかなくてな
宇宙で気ままに暴れられる可能性がある、イデアロゴスって選択肢には魅力を感じるよ

で、真剣に検討するために一つ聞かせてほしいんだが……
イデアロゴスには全体の親玉とか、個人の活動を管理する組織やら法律やらは存在するのかい?
勿論、あんた達に断片の王がいないのは知ってるんだがね
集団には普通リーダーがいて、構成員が絶対に守らなきゃいけない掟があるもんだろ
海賊船ですらそうだったんだからな

何のルールもなくて、イデアロゴスに変わった後は好き勝手してもいいか……
もしくは、あんた達の親玉の思想や集団の決まり事に納得できたら、私は仲間入りを考えてもいい
こちとら元よりアウトローでね
地球って港に死ぬまで留まる理由も、人殺しを絶対に拒否する倫理も皆無なのさ
これからの時代は宇宙海賊と洒落込もうじゃないか!はっはっは!

(あんた達の世界が自由なら、な)


八栄・薙鳥
一般人を絶滅させることもなんら厭わないという姿勢に憤懣はあれど、彼等視点では改変が効く範囲でのことだったという点を考慮し、ひとまず感情を飲み込みます

クロニクル殿、貴方方にとって地球人類をイデアロゴスに育て上げることは、偶然見つけた未熟な存在への善意であり、切実な理由や強い目的意識があってのものではないと
ならば、仮にわたくし達がイデアロゴスに至ることを拒んだならば、無理強いをすることなく去っていただけるのでしょうか、さて?

わたくしに取って開拓・進歩とは人生を捧げるに値する目標、それ故、イデアロゴスへの進化に魅惑を感じるのは正直なところ
しかし、そのために人々を犠牲にすることをわたくしはわたくしに許すつもりはありません、ええ
それは復活を口約束できたとしてもで
わたくしは自分達の価値観を抱え、自分達の速度で進歩していきたいのです、はい

(平和的に退去していただけるのならそれが最良)
(しかし、刻逆という明確な拒絶を受けてなおイデアロゴス化を押し進める彼等が大人しく引いてくれるかは怪しいところですね)


●イデアロゴスの和解の可能性
 ここまでのディアボロスとシメオン翁の会話を黙って聞いていた、八栄・薙鳥(世界拡張どこまでも・g09872)が、眼鏡のフレームをくぃっとあげると、手を挙げて発言の許可を求める。

「ステージの違う存在同士であるのですから、認識の齟齬がある事は致し方ないのでしょう。
 互いの行動が善意によるものであっても、認識の齟齬からすれ違いが発生するというのは、同じ地球の人類であってもある事ですから」
 薙鳥は、イデアロゴスが一般人を絶滅させるに躊躇が無いという認識への憤怒は否定できないが、それもまた、認識の違いとして理解する、研究者としての冷静な思考を優先させ、確認すべき点を明確にして口に出した。

「クロニクル殿、貴方方にとって地球人類をイデアロゴスに育て上げることは、偶然見つけた未熟な存在への善意であり、切実な理由や強い目的意識があってのものではないと、おっしゃいました。
 では、仮にわたくし達がイデアロゴスに至ることを拒んだならば、無理強いをすることなく去っていただけるのでしょうか?」

 絶滅人類史のディアボロスは、人類を絶滅させられたという『強烈な復讐心』により、イデアロゴスを絶対に許す事が出来ず、イデアロゴスと戦う為に『刻逆』の儀式を行った。
《戴冠の戦》を制し、『刻逆』の勝者となるのが、クロノヴェーダであったならば、アルカポネのような例外を除けば、イデアロゴスとの戦いは避けられなかっただろう。
 翻って、最終人類史のディアボロスはどうだろうか?
 最終人類史の大地を奪い歴史を奪ったのは、クロノヴェーダ、つまり、絶滅人類史のディアボロスであり、イデアロゴスでは無い。
 絶滅人類史のディアボロスの行動の理由が、イデアロゴスである事は否定しないが、直接最終人類史を滅ぼした訳では無いのだから、絶対に滅ぼさなければならないという『強烈な復讐心』までは持ってはいないのだ。
 つまり、最終人類史のディアボロスにとっては、イデアロゴスは必ずしも戦わなければならない敵では無い。
 薙鳥は、イデアロゴスが平和的に退去してくれるという最良の展開を希求しつつ、シメオンの答えを待つ。

 シメオンは、目を瞑り幾つかの計算を巡らせた後、薙鳥の質問に応えた。
「その問いに対する答えは『否』となる」
 と。
 何故? と再度問おうとする薙鳥を、シメオンは目で制すると、自ら説明を始める。

「我は、先ほど、地球のディアボロスを『荒野に捨てられた赤ん坊』に例えた。
 これはつまり、我らが手を貸さねば、地球のディアボロスが悲惨な末路を辿るという事に他ならない」
「……なんですって?」
 薙鳥を含む多くのディアボロスにとって、それは予想外の言葉だった。
 残留効果をはじめ、超人的な能力の数々を持つディアボロスが、どのようにして滅ぶというのか。
 シメオンはゆっくりと説明を始めた。

「ディアボロスは『復讐心』を力の源としている。
 力の源ゆえ、復讐対象を滅ぼすなどすれば、復讐心は一時的に弱まるが、無くなる事は無い。
 そして、その心に『復讐心』が芽生えれば、すぐに『復讐心』が大きく育ち、争いを選んでしまう。
 最終人類史の史実を紐解けば理解できるかもしれぬが、共通の敵である『クロノヴェーダ』が滅び、そして我ら『イデアロゴス』が去れば、次に起こるのは、人間同士の争いとなるのだ。
 この人間同士の戦いで親しい者が犠牲になった時に、諸君らディアボロスは耐えられるだろうか。
『復讐心』を滾らせ、復讐を果たそうとするのではないか。
 だが、その取り除く原因もまた、異なるディアボロスにとって『守るべき一般人』なのだ。

 ディアボロスが『復讐心』を捨てない限り、この復讐の連鎖が止まる事は無い。
 ……ディアボロスが『復讐心』を捨てる為には、新たな復讐心が喚起されない、穏やかで長い時間を必要とするのだ」
「だから、一般人の絶滅が必要だと……?」
 薙鳥の確認に、シメオンはゆっくりと頷いた。
「仮に薙鳥が求めたように、イデアロゴスが、既に発生した諸君らディアボロスを放置したとしよう。
 その場合、数百年以内に、復讐の連鎖によって地球人類は滅び、その『復讐』のためにディアボロスの多くもまた、互いに殺し合って死に絶えるだろう。
 そして、生き残ったディアボロスも、長い年月の間に複雑に積み重なった『復讐心』を捨て去る事は出来ず、もはやイデアロゴスにもなれない災厄となる。
 そうなれば、我らイデアロゴスは、そのディアボロスを処断せざるを得ない」

 薙鳥は、そのシメオンの説明する未来を否定する事は出来なかった。
 確かに、人類の歴史は争いの歴史である。
 第二次世界大戦後世界は平和になり戦争は根絶された……などという世迷言を言うつもりも無い。

「ですが、それは未来の可能性に過ぎません。わたくしは、未来がより良いものになる可能性を信じたいのです」
 薙鳥の真摯な言葉に、シメオンは、だが、感銘を受けた様子も無く説明を続ける。

「我らイデアロゴスにとって、過去・現在・未来といった区分に意味は無い。
 イデアロゴスは、イデアロゴスが介入しなかった場合の『絶滅人類史のディアボロスの行く末を確認』してから、介入を行っているのだよ。
 そして、ディアボロス同士が憎しみあい、殺し合い、復讐の連鎖が始まる前に手を打つ。そのために、最善の判断として、介入を行ったのだ。
 この介入が、『刻逆現象』を引き起こす事は予測できなかったのだがな」

 このシメオンの説明を聞き、薙鳥は、自分達ディアボロスの活動との共通点を見出してしまった。
 イデアロゴスは、絶滅人類史のディアボロスの存在を認識すると共に、彼らが未来において、互いに憎しみ合い殺し合い滅びる事を確認して、それを阻止する為に介入を行った。
 絶滅人類史への介入は、未確定の未来を恐れたのでは無く、『確実に起こる悲劇を阻止する』事を目的とした介入であったのだ。
 そして、その目的は『多くのディアボロスを助ける』為。

 この行動は、『一般人を助ける』為に戦っている、ディアボロスと違いは無いのかもしれない。
 最大の認識の違いは『一般人の扱い』だが。
 イデアロゴスの認識では『一般人』扱いとなるのはディアボロスであり、一般人は『動物』扱いとなる。
 ディアボロスも『一般人』を救出するために、『動物の命を奪う』作戦を実行する事はあるのだから、理屈としては理解できなくもない。

 だが、感情が追いつく事は無い。
 理屈は正しかったとしても、認められない……認めてはいけない事があるのだから。

 そこで、はたと、薙鳥が思いついて言葉を発した。

「いや、待って下さい。そもそも、貴方方イデアロゴスの歴史改竄がなければ、絶滅人類史にもディアボロスは発生しなかったのではないのですか?」
「……なるほど、絶滅人類史のディアボロス達は、そう考えたようだな。
 だが、『否』だ。絶滅人類史の地球には、既に『復讐心』からディアボロスに覚醒した者達が存在した。絶滅人類史の地球人類は、既にディアボロスに覚醒しうる生命体となっていたのだ。
 ディアボロスの存在がなければ、我らは地球人類に介入しようとしたりはしない」
「な……」
 薙鳥は絶句する。シメオンの主張が事実ならば、イデアロゴスの介入があろうとなかろうと、絶滅人類史の地球人類は数百年以内に滅びていたということではないか。
 しかも『刻逆』によって絶滅を確定させたのは、他ならぬ絶滅人類史のディアボロスだという。
 だが、薙鳥は今の会話に、一つの救いをも見出していた。
「……クロニクル殿、重ね重ね済みませんが、もう一つ確認させてください。イデアロゴスが確認したのは、絶滅人類史のディアボロスが自滅する未来という事ですね。ならば、最終人類史のディアボロスの未来を、あなた達は知らない……そう言う事でしょうか?」

 薙鳥のその問いに、シメオンは頷いた。

「その通りだ。『刻逆現象』の内部は、イデアロゴスであっても外部からは観察できない。
 勿論、ディアボロスと同程度の力しか無い現在の我にも、そのような事は不可能だ。
 故に、最終人類史のディアボロスが自滅するか否か、それは現時点で確定してはいない。
 だが、これは、地球に限らず、他の知的生命体がいる惑星でも発生しえた事象だとは言っておこう。
 イデアロゴスの介入により、起きなかった事象ではあるがね」

 薙鳥は、その答えに満足するように、質問を終えた。
 最終人類史のディアボロスが、自滅する事の無い未来への道筋を創る事。
 それこそが、全ての希望になるのかもしれない……。

●『刻逆現象』と『刻逆』の儀式
 薙鳥がシメオンの会話を終えても、集まっていたディアボロス達は、すぐに動き出す事は無かった。
 重要と思われる情報が多く、そして、考えるべきことも多かったのだ。
 そんな中、月下部・小雪(おどおどサマナーところころコダマ・g00930)が、おずおずとシメオンに声をかけた。

「む、むむむ。むずかしい話は良くわからないです。アル・カポネさんも似たような事は言ってたですけど……。
 でも、未来を確認して過去を改竄するというのは、ちょっと判らないのです。
 今のボクがあるのは過去があるからです。
 そ、そんなに簡単に書き換えていいものでは無いと思うんです。
 そもそも、イデアロゴスさんが、生まれたばかりの過去のボクを殺してしまったら、ボクっていなくなっちゃうんですか?」
 小雪の歴史改竄に関するプリミティブな疑問に、シメオンは(可能な範囲で)優しい表情を作って、答えを返した。

「小雪の問いは、本質を突いた良い質問だ。
 イデアロゴスが、生まれた直後の小雪、或いは、小雪の先祖を殺した場合だな。
 その場合も『ディアボロスである小雪』が消滅する事は無い。
 何故ならば、ディアボロスとなった時点で、時間の流れの外の存在となっているからだ。
『刻逆現象』については、軽く説明したと思うが、一般人がディアボロスになるというのは、最小規模の【刻逆現象】である事が解釈されている。
 つまり『一般人がディアボロスになる』という事に対して、イデアロゴスも介入する事は出来ず、そして、過去をどのように改竄したとしても『小雪がディアボロスになったという事実』は必ず発生する。
 1億年前の過去を改竄して地球を消滅させていたとしても、小雪は、小雪がディアボロスになったタイミングで、消滅された地球の座標に現れるという事だ」
 理解できたかなと聞いてくるシメオンに、小雪は曖昧に頷いて見せる。

「『刻逆現象』は、絶滅人類史のディアボロスが『刻逆』の儀式の元になった現象ですよね。つまり、絶滅人類史のディアボロスは、自分がディアボロスになった時の現象を、大規模にして再現したって事なのですか?」
 この確認に対して、シメオンは優しげな頷きで肯定した。

「ディアボロス自身が、その内部に『刻逆現象』を孕んでいるが故に、莫大なエネルギーと意志の力が重なれば、人為的に『刻逆現象』を引き起こす事は可能ではある。
 全く、愚かな事ではあるが……な。
『刻逆現象』の内部では、過去を改竄してより良い未来を造る事は不可能となり、『刻逆現象』が収束した後も、『刻逆現象』によって確定してしまった現象を過去にさかのぼって改竄する事は不可能となるのだ。
 なんと非合理で非論理的で不条理な事だろう。小雪もそう思わないかね?」

「えっと、その場合……。むむむ?
 そうだ、別の話になるけど、クロノヴェーダの扱いについて質問があります。
 コーサノストラのアル・カポネ達は復讐を捨ててイデアロゴスに降ろうとしてます。
 彼らは、イデアロゴスになれるのですか?
 もし、なれるなら、天魔武者や他のクロノヴェーダもいつかはイデアロゴスに至れるのですか?」
 ややこしい『刻逆現象』のことを後回しにして小雪が質問したのは、アル・カポネや他のクロノヴェーダがイデアロゴスになれるのかという疑問であった。
 これに対して、シメオンは明確な答えを返す。

「断片の王『アル・カポネ』、そして『アイザック・アシモフ』はイデアロゴスになる事は可能だ。
 彼らは元来、『絶滅人類史のディアボロス』であるからな。
 だが、ディヴィジョン成立後にクロノヴェーダとして誕生した、あるいは人間や異種族からクロノヴェーダになった個体は、イデアロゴスにはなれない。
 クロノヴェーダは、ディアボロスのような力を疑似的に与えられただけの、別の存在だからだ。
 これは、我が、『刻逆』の儀式に介入した理由の一つでもある。
 もし、最終人類史以外のディヴィジョンが《戴冠の戦》の勝利者となった場合、クロノヴェーダの総数がどれほど多かったとしても、イデアロゴスに至る事が出来るのは、元が絶滅人類史のディアボロスであった、たった数人のみとなってしまうのだからな」

 そのシメオンの説明を聞いた小雪は、更に浮かんだ疑問を口に出す。

「えっと、イデアロゴスに成れるのはディアボロスだけで、アル・カポネは元がディアボロスだからOKだけど、普通のクロノヴェーダは、元がディアボロスでは無いのでイデアロゴスになれない……ということですか。なら、明智さん達天魔武者の中に、イデアロゴスになれる人はいないのですか?」
「いないぞ。明智勢力に、絶滅人類史のディアボロスはいない。故に、イデアロゴスになれるものはいない」

 小雪はそう断言したシメオンの言葉に、少しだけショックを受けるが、最後に、最も気になった疑問をシメオンにぶつけてみせた。
「『刻逆』が終わってしまったら、ボク達の仲間の、お茶をこぼしたり、大事な本を枕にしちゃうようなお茶目なシメオンおじいちゃんは消えてしまうの、ですか。
 な、なんとか元のおじいちゃんに戻ることは、できませんか?」
 と。

「ふむ。このシメオンの体を案じてくれている事に感謝を示そう。
 だが、心配は要らない。我が現れているのは、今この時だけだ。
 我は、このシメオンの名を奪いディアボロスとしたが、ディアボロスのシメオンと、こうして語っている我は別の意識体だ。
 唯のディアボロスに、イデアロゴスの知識は過ぎた物。
 無理に全てを入れようとすれば、脳髄は爆発し、漂着することも叶わぬだろう。
 故に、イデアロゴスの意識である我は、『ヴェーダ・クロニクル』側に入っている。
『ヴェーダ・クロニクル』は、『刻逆現象』が終息した時点で存在を維持できず、自壊する予定だった。
 その後のシメオンは、記憶喪失で漂着した……諸君の知るシメオン・グランツとなるだろう。
 あるいは今すぐに地球に戻るなり、『ヴェーダ・クロニクル』を破壊するなりしても、もはや我の意識は現れることはできない」
『ヴェーダ・クロニクル』とシメオン・グランツの関係を、クロニクル・イデアロゴスはそう説明する。

「もしワイルド・カードでの提案がなければ、こうして会話する機会も得られなかっただろう。
 こうして諸君と会話の機会を持てたのは、非常に大きな幸運……いや諸君の優れた洞察力の賜物というべきだな。
 我は、この介入のためイデアロゴスとしての生命を捨てた。
 我との会話が、諸君が正しき選択をする助けとなるならば、それで本望だ」

 その答えを聞いた小雪は、本来のシメオンが戻ってくるという安堵と共に、こうして会話しているイデアロゴスの意識が死を迎えることを知り、少しだけ悲しい気分を覚えた。

●イデアロゴスという存在について
 小雪とシメオンとの会話が終わる。
 場が、少ししんみりとした所で、敢えて空気を読まずに、クローディア・ベネット(黒き旗に矜持を掲げて・g10852)が声を挙げた。

「耳寄りな話を聞かせてくれたね、爺さん。
 裏切者でイデアロゴスに降伏しようとしているアル・カポネもイデアロゴスになれるんだね。
 なら、私が、イデアロゴスに成りたいと言えば、受け入れてくれるって事だ。
 はっきり言って私は地球に未練ってやつがないんだ。
 復讐の相手だったアビスローバーは滅ぼしてやったが、今の世の中じゃ海賊に戻る訳にもいかなくてな。
 宇宙で気ままに暴れられる可能性がある、イデアロゴスって選択肢には魅力を感じるよ」

 クローディアのその言葉に、周囲のディアボロスの一部が殺気立つ。
 最終人類史を裏切るというのか? と思ったのだろう。
 だが、クローディアを知っているディアボロスが彼女を制し、そのまま会話を続けさせる。
 クローディアの怖いもの知らずな振る舞いが、彼女なりの情報収集の手段だと、黄金海賊船エルドラードと戦ったディアボロスの多くが知っていた。

「うむ、可能だぞ、クローディア・ベネット。
 復讐心が鎮まっているのならば、イデアロゴスになるまでの時間は短くなるだろう。
 だが、ディアボロス時代の復讐心の強さは、イデアロゴスとなった後の能力に影響する。
 クローディアがより強いイデアロゴスを目指すのならば、より強い復讐心を得た方が良いだろう。
 どちらを優先するかは、クローディアが決める事であるが」

 クローディアは、このシメオンの答えに対して、質問を重ねる。

「イデアロゴスにも強い個体、弱い個体というものがあるわけだね。
 なら、イデアロゴスにも親玉ってのが居るのかい?
 個々のイデアロゴスの活動を管理する組織は? 或いは、規則や法の存在は?
 勿論、あんた達に断片の王がいないのは知ってるんだがね。
 集団には普通リーダーがいて、構成員が絶対に守らなきゃいけない掟があるもんだろ。
 海賊船ですらそうだったんだからな」

 クローディアの問いは、人間の視点では、至極もっともなものと言えただろう。
 だが、シメオンの答えは異なっていた。

「『全て否』、存在しない、というのが答えとなるな」
「そいつは、ちょっと、想像できないな。なら、イデアロゴスはどうやって統制を取っているっていうんだい?」
 そのクローディアの問いに、シメオンは、これも『認識の違いだ』と前置きして、答えを返した。

「ならば、クローディア。物事を解決する為の最善の手順とは何であろうか?
 我らは、全ての事柄について、全員が納得するまで話し合いを行なう事だと認識している。
 全員が納得するまで話し合うのであれば、リーダーも、組織も、規則も、法も必要などないのだよ。
 リーダー、組織、規則、法が必要となるのは『合理的な考えが出来ない者を従わせる為』か『決定までの時間を減らす為だ』だ。
 そして、イデアロゴスは『全員が合理的な考えが可能で、そして、話し合いに使える無限の時間』を得ることができるのだ。
『全てが否』である事、納得できただろうか」

「……なるほど、それは良い社会システムかもな。
 理性的な話し合いで全てが収まるならば、一つの理想ではある」
 クローディアは、外面上、納得した表情を作ったが、内心では、イデアロゴスの内情に悍ましささえ感じていた。
(「全てのイデアロゴスは、合理的で理性的であるから、話し合えば、どんなに時間をかけようとも、全員が納得できる解決策を導く事が出来る……?
 胸糞悪い。
 なら、イデアロゴスになるって事は、この私が『クローディア』である意味も無いって事なのか。
 全員で納得するまで話し合いをし全員の意志を統一する事が出来る『クローディア・イデアロゴス』は、何者にも縛られないアウトローの『クローディア・ベネット』じゃないだろ。
 それは『クローディア・ベネット』の皮を被った別の何かだ!」)

 先ほど、薙鳥に対し、シメオンは言っていた。
 イデアロゴスになるには、『新たな復讐心が喚起されない、穏やかで長い時間を必要とする』と。
 その時間の経過は、人格的な変化も伴うものであるのだろう。
 あるいは、その期間でイデアロゴスになれなかった者は処断されるのか。

 内心で毒づきつつも、クローディアは感心したような風を装い、シメオンに頷いて見せる。
 このくらいの腹芸は、不条理が罷り通る『海賊の黄金時代』に生を受け、女海賊として生きて来たクローディアにとっては、どうという事は無かった。

 シメオンは、クローディアの内心を知ってか知らずか、満足そうに頷いてみせる。
 だが、その瞬間、シメオンは急に咳き込むと、口から血を吐き出した。
 慌てて駆け寄ろうとするディアボロス達。
 だが、シメオンは、袖で血を拭いつつ、心配せずとも好いと、ディアボロス達に話しかけた。

「心配する必要はない。このシメオンの肉体の耐久力が尽きつつあるというだけだ。
 ディアボロスの肉体にイデアロゴスの知性を宿すのは、負担のかかる事ゆえな。
 我が引っ込んだ後は、この体には暫し休養をさせてやってくれ、3日も休めば元に戻るだろう。
 さて、どうやら、我が諸君らディアボロスと会話できるのは、あと少しの間しかないようだ。
 であるのならば、我は、諸君らに、こう請願しよう。

『諸君が《戴冠の戦》に勝利する為に必要な情報を、我から聞き出して欲しい』。

 そもそも、我の存在理由は、諸君らディアボロスを《戴冠の戦》の勝者とする事。
 諸君らならば、我の援けなど無くても、《戴冠の戦》に打ち勝つ事も出来るかもしれない。
 だが、諸君らの勝利は、この我の命を賭した使命でもあるのだ。
 できうるならば、その一助となる事を許して貰えないだろうか?

 勿論、諸君が別の事を話したいというのであれば、それに従うが、可能ならば……な」

 シメオンはそう言うと、集まっていたディアボロスに対して、少しお茶目に礼をしてみせたのだった。
 その様子は、イデアロゴスの対人間用『インターフェイス』として、非常に高い完成度であったと言わざるを得ないものだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【託されし願い】LV1が発生!
【通信障害】がLV2になった!
【飛翔】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
【反撃アップ】がLV3になった!
【先行率アップ】LV1が発生!

リューロボロス・リンドラゴ
ふん。貴様といい絶滅人類史共といい、つくづく勝手よな。
好き放題して勝手に満足して死んでいく。我らが手を下すまでもなく死んでいく。
成程、復讐者からすればこれ以上なく憎らしい相手だよ。

《戴冠の戦》に勝利する為に必要な情報、の……。
かつて我らはラブクラフト相手に絆の力で勝利したが。
あれも貴様の推理した攻略旅団の提案効果と似たようなものだったのかの?
或いは他の理屈か。
絆パワーに理屈をつけるなぞ無粋も甚だしいが。
アシモフらも同様にイデアロゴスの力を引き出してくる可能性もある。
奴らいわく、私達にはイデアロゴスがついている。
戴冠勝者パワーを得る前の我らがより多くの絆パワーでぶち抜けるかは知っておくべきであろう。

最後に。
なあ、イデアロゴスよ。
復讐を理性で制御し、ヒトの命を何度もやり直しのきく特別でないものとし、全員の意思を統一させる者達よ。
ぬしらは、誰かを特別とし、互いに自分でない他人を求め合うことはあるのか?
復讐の、憎しみの、対にして根源にもなる感情は残っておるのか?
ぬしらに……愛はあるのか?


シエルシーシャ・クリスタ
どうにも、ね。
高い理性で克服したというより、理性で抑えられる所まで摩滅させたって印象が拭えない。
本当に克服できたの?諦めではなく?と。
まあ、言っても何も変わらないだろうけど。

……聞きたいことが幾つか。答えられるのだけ答えて。

一つ。ヴェーダ・クロニクルの機能から考えて、力は無くても隔絶した知覚能力は有ると思って問うんだけど。
敵が時間稼ぎとかに使うだろう空想科学と、その正規手段以外での突破方法を知りたい。

二つ。奪還戦時に有力敵が強化されて、配下が無限増殖する現象。
あれを無効化……は無理でも弱体化はできないかな。

三つ。かつてアシモフを遠目に見た仲間が、それだけで異様な変調を感じてた。
あれの正体と対処法を知りたい。それともあれも狂気?

最後に。これは奪還戦と関係ないけど。
一般人がディアボロスになるのが最小規模の【刻逆現象】なら、【刻逆】をもっと制御できれば意図的に一般人をディアボロスに出来ないかな。
その糸口とか、ない?
(……それに【刻逆】が改竄を妨げるなら、対イデアロゴスの手段にもなるだろうしね)


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
貴重な話には感謝するよ
シメオン氏の肉体に負荷をかけているようですまないが

《戴冠の戦》に勝利する為に……
アルタン・ウルクの王には勝利した
残るコーサノストラについて

キングアーサー奪還戦で出会った北米のイレギュラー、あるいはお客様
アイザック・アシモフは他のクロノヴェーダとは違う所があるのでは?
彼らの姿は、絶滅人類史のディアボロスが排斥力でどうこうしたと言うには
随分と人間離れしていたようだが、あれはどう思う?
攻撃ではなく、ただそこに在るだけで、周囲に影響を与え、変質させるもの……
まるでイデアロゴスのようだとも
侵略者とも人間ともかけ離れたその本質はなんだろう?

もう一点は、可能なら答えてほしい
コーサノストラとの奪還戦に、今から備えたい
新宿島の人達が宇宙へ転移できるならば……彼らに、直ちに備えをしてもらえるようにと、
明智勢力に、戴冠の戦や永遠存在と戦う意味を、伝える事はできないか
今暫くの時間を使い、それを可能にしたい

シメオン氏が限界なら、宇宙適応を発動しながら、トレインで帰還
守るべき星を目に焼き付けて


●イデアロゴスと【刻逆】への疑問
 シメオンが、ディアボロスに対して、《戴冠の戦》に勝利する為の情報を聴くようにと望みを述べる。
 だが、シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)が、「それは、少し待ってくれないか?」と、イデアロゴスに関する会話を少しだけ続けたいと提案する。
 シメオンは、
「勿論だとも、我は、諸君の意志を尊重するだけだ」
 と、それを受け入れた。

「イデアロゴスは、高い理性でもって『復讐心』を制御していると説明されたのだけれど、感情を磨滅させる事を理性と言っているだけ……という印象がぬぐえないんだよね。
 イデアロゴスは、『復讐心』以外の感情は残ってるの?」
 シエルシーシャの問いに、シメオンは、少しだけ歯切れの悪い様子で『感情が全て失われている訳では無い』と応えを返した。

「我らも全知全能ではない。残念ながら、地球人類の、そしてディアボロスの感情というものを完全には理解できていない故、認識の齟齬が無い事を確認する事ができていない。
 しかし、理性で制御できる範囲において、感情というものが存在している事に疑問の余地は無い。
 全く感情が無いのであれば、我らは、この地にやって来る事は無かっただろう」
 シメオンの言葉に、シエルシーシャは、小さく溜息をつく。
 シメオンの言葉は、『イデアロゴスの感情が磨滅している』という彼女の印象が正しい事を示していた。

(「イデアロゴスは、進化と言っているけれど、それが真実とは限らない……。
 理性と感情の、どちらか一方が優れているという事は無いのだから。
 感情は、力を持つ。理性で押しとどめる事が不可能な、強い感情を持つ者だけが、見る事が出来ない景色だって存在する筈だ。
 理性で制御できない感情を全て切り捨ててしまうのは、とても、歪で不自然だ」)
 シエルシーシャは、イデアロゴスの精神の在り方は歪であり、決して、最良の進化の形では無いと確信していた。だが、あえてそれをシメオンに言う必要もない。
 いくら会話を重ねても、平行線になるのだろうと理解したが故に、それ以上問いを重ねる事無く、話題を変える。

「それじゃ本題に入るね。
 アル・カポネ達は、おそらく、空想科学の力で『刻逆現象』が収束するまで、時間を稼ごうとすると思うんだ。
 それが、どのようなものか、そして、その突破方法を教えてくれないかな?」
 シエルシーシャの問いに、シメオンは、残念ながらと首を横に振った。

「現時点で、相手の作戦内容を完全に予測する事は不可能だ。
 アル・カポネ達が何を優先し、どのような対策を考えるかは、諸君らディアボロスが、どのような作戦を取るかで変化する。
 諸君が作戦を一つに定め、作戦の実行を決定したならば、アル・カポネの対策を知る事もできるだろうが、現時点では、諸君ら次第で未来は変化するとしか答えられない。
 だが、ディアボロスが作戦を定めたならば、それを実現する為の策を、諸君らは必ず導き出すだろう」

(「確かに、ディアボロスが実行する作戦によって、アル・カポネ側の戦術が変化するのであれば、現時点では予測は不可能……なのかな?
 逆に言えば、ディアボロスが絶対破れない、必勝の策を相手は持っていないという事。
 それが聴けただけでも充分だよね」)
 シエルシーシャは、シメオンの答えに頷きつつ、更に質問を続ける。

「アイザック・アシモフを見た仲間が、異様な変調を感じた事があるのだけど、アレは何だったのかな?
あと、奪還戦時に有力敵が強化されて、配下が無限増殖する現象、あれを無効化や弱体化させる方法とか無いのかな?」
 これらの問いについては、シメオンも明確な答えを持っていなかったようだ。

「アイザック・アシモフは、諸君らと相いれない絶滅人類史のディアボロスである故、何かを感じる者はいるだろう。感受性の問題であるとは思うのだが、我にはその感情を認識するのが難しく、済まないが、答える事が出来ない。

 奪還戦時に敵側が受ける効果を、無効化する事は不可能では無い。
 が、その場合、ディアボロス側の効果も全て打ち消されるだろう。
 新宿島を決戦の場に移動させる力や、連続して敵陣にパラドクストレインを出現させる力、敵勢力圏で、ディアボロスの残留効果を最大限に引き出す力などだ。
 奪還戦時の特殊な状況は、諸君らディアボロス側がより有利を得ていると計算できる故、無効化や弱体化を行うべきでは無いだろう」

 確かに、奪還戦時の強化は、ディアボロスにもある。
 そして、その強化の度合いがディアボロスに有利であるというのならば、この対策は行うべきではないのかもしれない。
 シエルシーシャは、そう計算を行った後、最後の質問をシメオンに投げかけた。

「一般人がディアボロスになるのが最小規模の【刻逆現象】なら、『刻逆』をもっと制御できれば意図的に一般人をディアボロスに出来ないかな。その糸口とか、ない?」
 と。
 この問いについて、シメオンは明確な答えを返してくれた。

「我らは、絶滅人類史において、可能な限り多くの一般人をディアボロスにし、救済する為に活動した。
 その際の情報からして、現在の最終人類史のディアボロスの総数は、現在の地球という惑星で算出しうる、最大限のディアボロス数にほぼ等しい。
 もとより、全ての一般人がディアボロスになれる訳では無い。
 ディアボロスになる程の、強い復讐心を持つ事ができる者は限られているのだ。
 諸君らも、守るべき一般人達に対して『復讐心』を持つ事を強制し、戦いの場に狩りだそうとは思わないだろう。
 そう言う事だ」

 シエルシーシャは、シメオンの答えに納得せざるを得なかった。
 絶滅人類史でイデアロゴスの活動が確認されたのが2021年。それから『刻逆』が使われた2027年までの期間が強さの割に不自然に長いと言われていたが、そうした活動も行っていたようだ。

 どんな理不尽な状況であっても『復讐心』に心を染める事無く、日々の少しの幸せを大事にする……。
 その心は、否定すべき事では決してない。
 そういった人に、復讐心を持つように強要するのでは、イデアロゴスやクロノヴェーダが行っている事と違いは無いのかもしれない。

●《戴冠の戦》に勝利する為に
 シエルシーシャとシメオンとの会話を横で聞きながら、リューロボロス・リンドラゴ(ただ一匹の竜・g00654)は、「ふん」と鼻を鳴らす。
 身勝手な善意で絶滅人類史を滅ぼしたイデアロゴスも、イデアロゴスへの復讐の為に人類史を改竄した絶滅人類史のディアボロスも、身勝手な事この上ない。
 最終人類史のディアボロスからすれば、どちらも許されざる悪といって間違いないだろう。

 だが、そう考える事と、実利を投げ捨てる事は別だ。
 そう考えて、リューロボロスは、シメオンに相対して問いを発した。

「イデアロゴスは、復讐者からすればこれ以上なく憎らしい相手だな。
 だが、《戴冠の戦》に勝利する為に必要な情報とやらには興味がある。
 かつて我らはラヴクラフト相手に絆の力で勝利したが。
 あれも貴様の推理した攻略旅団の提案効果と似たようなものだったのかの?
 或いは他の理屈なのか?」
 と。
 シメオンは、リューロボロスの問いに暫く情報を検証して口を開いた。

「ふむ、実際に相対していない為、情報は足りず、断言はできない。
 だが、ラヴクラフトは『特定の条件下で、イデアロゴスに近い力を発揮できていた』と思われるため、その前提を崩す方法の一つが、絆の力であったのでは無いだろうか。
 もっとも可能性が高い推測としては、『認識力が不完全であった』可能性がある。
 ラヴクラフトが、『絆の力が一定以上である2つの個体』を『1つの個体と誤認識』を起こした事で、充分な対応を取る事が出来なかった可能性だな。
 他にも可能性があるが、『絆の力』が、『イデアロゴスの力』に必ずしも有効だとは思わぬほうが良いだろう」
 シメオンの答えに、「まぁ、そうだろうな」と感じつつも、リューロボロスは更に確認する。

「絆パワーに理屈をつけて、便利に使おうというのは、確かにおかしなことであろう。
 だが、アシモフらもラヴクラフトと同様に、イデアロゴスに近い力を武器にする可能性は否定できぬ。
 奴らは、自分達にはイデアロゴスがついていると言っていた。
 奴らを倒さなければ、《戴冠の戦》の勝者と成れぬ以上、対策は不可欠だ。
 奴らの力をぶち抜くには、どうすればいい?」

 シメオンは、リューロボロスのこの問いに対して、心配する程の事は無いと答えた。

「ラヴクラフトは、かなり特殊な例だな。
 アイザック・アシモフにせよ、アル・カポネにせよ、ラヴクラフトと同質の力は引き出せない筈だ。
 空想科学のクロノ・オブジェクトを駆使して、現象を再現したならば、そのクロノ・オブジェクトを破壊すれば、阻止は容易いはずだ。
 さらに言えば、所詮は紛い物の力ゆえ、小細工できない程の膨大なエネルギーでごり押しすれば、正面から叩き潰す事も容易であろう。
 絶滅人類史のディアボロスは、膨大なエネルギーを上乗せする事で、イデアロゴスに対して限定的ながらも抵抗して見せている。
 絶滅人類史のディアボロスに出来た事が、最終人類史のディアボロスに出来ない筈は無い。
 アル・カポネが巨大UFOアルカトラズと共に宇宙に持ち出したエネルギーは決して多くない。
 コーサノストラから宇宙に向かう増援を阻止すれば、奴らに出来るのは、イデアロゴスの元に逃げ込むだけだ」

「例えば、『地獄変エネルギー』などを使えば、正面からぶち抜けるという事か?」
 リューロボロスの確認に、シメオンが頷く。

 正面から殴れると知り、リューロボロスは宇宙の何処かにいるアルカトラズに向けて、「ならば、目にもの見せてやろう」と、獰猛な笑みを浮かべて見せた。

 聞きたい事を聞けたリューロボロスは、最後の問いをシメオンに投げかけた。

「これが我の最後の問いだ。
 なあ、イデアロゴスよ。復讐を理性で制御し、ヒトの命を何度もやり直しのきく特別でないものとし、全員の意思を統一させる者達よ。
 ぬしらは、誰かを特別とし、互いに自分でない他人を求め合うことはあるのか?
 復讐の、憎しみの、対にして根源にもなる感情は残っておるのか?
 ぬしらに……愛はあるのか?」
 と。

「ふむ。諸君らディアボロスにとって、それはとても重要な事柄のようだな。
 その問いについての答えは、『存在するが、諸君らの認識と齟齬がある可能性は否定しない』となる。
 例えば、我らが地球のディアボロスを救済しようと考えたことは、地球のキリスト教文化圏でいうところの、『隣人愛』の一つの形と言っても良いだろう。

 だが、理性で制御できない感情は、他の感情に容易に変化するものだ。
 理性で制御できない『愛や友情』は、それが裏切られた時、理性で制御できない『復讐心』に姿を変える事があるだろう。
 つまり、『復讐心』を完全に制御する為には、『愛』も含めた、全ての感情を理性で制御する事が必要となるのだ。

 もっとも、それは、諸君らも認識している事では無いだろうか。
 制御できない感情をそのまま行動に移す事は、地球人類の多くの文化圏で、良い事とはされていない。
 そして、感情を理性で制御し、正しい選択を行う事が、文明人として正しい姿だともされている。

 仮に、イデアロゴス程の力を持つ存在が感情を制御できず、思うままに力を振るったならば、それは宇宙規模の災厄となるだろう。
 感情の制御は『力を持つ者の義務』なのだ」

(「それは理性の面では正しいかもしれぬ。
 だが、完全に制御された愛の感情は、我には愛とは呼べぬぞ、イデアロゴス……」)

 リューロボロスは、その言葉を口に出す事無く、会話を終えるのだった。

●空想科学コーサノストラ奪還戦への道
 シエルシーシャとリューロボロスとの会話を終えた、シメオンが息を整えた所で、その場に集まったディアボロス達を代表して、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が、言葉を発した。

「シメオン氏の体力も限界に近いようだ。会話は、これで終わりとさせてもらう。
 肉体に負荷をかけているようですまないが、最後に、俺の話を聞いてもらえないだろうか」
 エトヴァの言葉に、シメオンは当然聞かせて貰うと、頷きを返した。

「アルタン・ウルクの断片の王との戦いは、俺達の勝利に終わるだろう。
 であれば、俺達、最終人類史のディアボロスが《戴冠の戦》に勝利する障害は、コーサノストラのみとなるだろう。
 まずは、コーサノストラについて情報を整理したい。
 キングアーサー奪還戦で出会った『北米のイレギュラー』、あれは、絶滅人類史のディアボロスである『アイザック・アシモフ』を指していると考えて間違いないのだろう。
 だが、『アイザック・アシモフ』と、俺達が南極大陸で出会った『絶滅人類史のディアボロス』は、姿も能力も行動も大きく違った。
 この違いは、果たして何から来ているのだろうか?
 アイザック・アシモフの姿は、絶滅人類史のディアボロスが排斥力でどうこうしたと言うには随分と人間離れしているように見えるのだが」
「そうだな。一部は推測になってしまうが……」
 エトヴァの問い掛けに、シメオンは、その言葉の意図を読み取りつつ、ゆっくりと口を開いた。

「まず、高い能力については、『アイザック・アシモフ』が元・断片の王、あるいはそれに近い量のエネルギーを持っていたと考えることができる」
「……空想科学コーサノストラに、アイザックが科学者や作家タイプのジェネラル級を合流させたという情報は、そういうことか!」
 つまり、予め自分のディヴィジョンで創ったジェネラル級を全員連れて合流したのであろう。
「断片の王2人が共謀して合流すれば、単純計算で2倍の力を持った状態で開戦できる。
 ヨーロッパの分断ぶりに対し、近現代において重大極まりない北米大陸に1ディヴィジョンしかないというのは、何かあるのではないか。
《七曜の戦》で、無抵抗にキングアーサーのドラゴンを受け入れた巨獣大陸も……まあ、それは今は良いだろう」

 最終的にアル・カポネとアイザック・アシモフが、絶滅人類史と他全てのディヴィジョンを裏切ることも視野に入れていたのであれば、こうした有利の確保は必須であったのかもしれない。

「次に、姿についてだが……。
 それはむしろ『南極で出会った絶滅人類史のディアボロス』が特別だったと考えるのが良いだろう。
 イデアロゴスと戦う為に、絶滅人類史のディアボロスは『ネメシスの力』を大きく引き出していた。
 あの戦いの末期、人間の姿を保っているディアボロスなど、数える程であったぞ。
 南極にいた絶滅人類史のディアボロスは、大した力を持たなかったが故に、残された非戦闘要員だったと考えれば大きな間違いは無いだろう。

 クロノヴェーダの多くが、人間に近い外見を保っていた理由も、同じだな。
 断片の王となった『絶滅人類史のディアボロス』の姿は、クロノヴェーダの姿よりも、更に異形であり、イデアロゴスに近かった。
『刻逆』でクロノヴェーダとなり、侵略した歴史の偉人などの名を奪う事で、より人間に近い姿を取る事になったといった所か。
 その時代の一般人に理解できない姿形を取って、感情エネルギーを集めるのに支障が出るのを嫌ったという可能性もあるだろう」

 エトヴァは、そのシメオンの返答を聞いたうえで、自分の理解と認識が正しいかどうかを確認する為に、話をまとめる。

「つまり、『アイザック・アシモフ』の異形の姿は、戦いの末期における、絶滅人類史のディアボロスの標準的な姿だったということだな。
 クロノヴェーダの姿は、歴史を奪った偉人の影響により、ディアボロスであった頃よりも人間に近いものになる。
 そして、南極にいた者達は、ネメシス形態になれなかった、非戦闘要員であると……。
 確かに、そう考えれば辻褄は合うだろう。
 排斥力の影響を考えれば、強力なネメシス形態を持つ絶滅人類史のディアボロスが、南極勢力に加わっていないのは妥当性がある。
『アイザック・アシモフ』が、絶滅人類史でイデアロゴスと戦い続けた古強者であると言うのならば、俺達が、その姿を見てイデアロゴスに近い印象を得たとしても不思議では無いのだろう」
 エトヴァがまとめた情報について、シメオンは、それで齟齬は無いと保証したのだった。

 イデアロゴスに対抗するために、ネメシスの力を最大限に引き出そうとすればするほど、その姿はイデアロゴスに近づいていく。
 イデアロゴスが、ディアボロスの成れの果てであるというのであれば、確かに筋が通っている。
 だが……。

(「イデアロゴスに復讐する為だとして、あれほどに異質な存在になり果ててしまえば、それは『人間』と言えるのだろうか?
 そもそも、復讐の為だからと言って、最終人類史の歴史を改竄して、なんの罪もない一般人を苦しめる事など、許される事なのだろうか?
 いや、決して許されるはずがない。
 俺達は、復讐心……ネメシスの力に、溺れてはならないのだ。
 もし、復讐の力に流され、『復讐を果たす為に、多くの一般人を犠牲にする』事を認めてしまえば……俺は、それを『ディアボロス』であると認める事は出来ないだろう」)

 エトヴァは、そう決意を新たにする。
 絶滅人類史のディアボロスの復讐心を否定する事は無い。
 だが、彼らの選択を認める事は無い。
 自分達は、最終人類史のディアボロスは、彼らとは違う戦いをしなければならないのだから。
 そして、その方法として、シメオンに力を貸してほしいと願いを述べる。

「もう一点は、可能なら手助けして欲しい事がある。
 俺達は、攻略旅団の提案の力で、この国際宇宙ステーションまで来る事が出来た。
 だが、コーサノストラの断片の王『アル・カポネ』がいる、巨大UFO『アルカトラズ』には届いていない。
 コーサノストラに奪還戦を仕掛ける為に、巨大UFO『アルカトラズ』への道を切り開きたいのだ」

 そのエトヴァの願いに、シメオンは、ヴェーダ・クロニクルの『アイザック・アシモフ』が描かれたページ、そして新たに生じた頁を破り取ると、それをエトヴァの手に握らせた。

「このページは、ヴェーダ・クロニクルが知りえる『アイザック・アシモフ』と『アル・カポネ』に関する情報の全てだ。
 地上に帰還した後、このページを核として、地獄変のエネルギーを注ぎ込むと良い。
 ディアボロスが、コーサノストラの決戦を強く望みつつ、『ヴェーダ・クロニクルが知りえる全ての情報』に『地獄変のエネルギー』を注ぎ込む事で、巨大UFO『アルカトラズ』に到達するパラドクストレインを出現させる事が出来るだろう。
 時間は限られているが、諸君ならば、《戴冠の戦》の勝者として、イデアロゴスと相対する事も可能なはずだ。
 諸君ら、最終人類史のディアボロスが、イデアロゴスの善き友、善き仲間となる事を願っている」

 そう言い終えた時、クロニクル・イデアロゴスのヴィジョンがかき消えた。
 力を使い果たしたかのように国際宇宙ステーションの床に崩れ落ちたシメオンの全身から、耐えかねたように鮮血が溢れ出す。
 体から離れた血液は【宇宙適応】の影響を受けず、無重力の空間に小さな塊となって舞う。
 エトヴァ達は、意識を失ったシメオンを支えつつ、地上に戻るパラドクストレインへと歩を進めたのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【命中アップ】がLV2になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2026年08月10日