絶滅人類史のディアボロスとの接触

 攻略旅団の提案に従い、船で南極に向かい『絶滅人類史のディアボロス』との接触を試みます。
 南半球は、完全にディアボロスの勢力圏であり、空想科学コーサノストラのUFOもカナダの基地で多くを破壊している為、他勢力の攻撃の危険性は高くはないでしょう。
 絶滅人類史のディアボロスは『排斥力』を受けずに知識を保っているようですが、《戴冠の戦》開戦直後の遭遇から、『排斥力』の影響により、その知識を他者に伝える事には制限が掛かっているようです。
 場合によっては『排斥力により消滅させられる』事もあるようなので、接触後の会話等では、注意が必要かもしれません。

この声が届くまで(作者 秋月きり
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#最終人類史(新宿島)  #絶滅人類史のディアボロスとの接触  #南極  #絶滅人類史 


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 南極、絶滅人類史の領域内に作られた建屋の一室に、彼らは集まっていた。
 全員が全員、宇宙服を纏う彼らこそ、絶滅人類史のディアボロスである。
 ある種の緊迫感を漂わせる会合の中、まずは、と声が上がる。
 それは、最終人類史のディアボロスに『観測者』と名乗った者の声であった。
「最終人類史のディアボロスが南極に向かっているようだね」
 その言葉に、絶滅人類史のディアボロスの反応は様々だった。期待の声を上げる者、溜め息を吐く者、そして表情こそヘルメット越しに読み取れないものの、渋面を作り唸る者、などなど。
「『刻逆』から最終人類史時間で、もうすぐ5年。長かった。……いや、短かったのか?」
 だが、もはや傍観者の立場のみに留まる事は出来ない。
 それは彼らの誰もが認識していた。
「さて、我々も腹をくくらなければならないだろう。《戴冠の戦》に勝利するのは、クロノヴェーダか、或いは最終人類史のディアボロスか……」
 もはや、クロノヴェーダが支配する改竄世界史も、残すところ後3つ。何れも《戴冠の戦》の勝者と成り得る強さの改竄世界史だが、しかし、今現在、一番勢いのある場所と言えば、その3つではなく――。
 仲間の言葉を遮るように、年配男性の声が響いた。
「それを決めるためにも、最終人類史のディアボロスの話を聞かねばならぬだろう。もし、彼らが強き者であれば……我らが全てを賭して、援助する意味がある……」
「期待し過ぎは禁物ですよ」
 独白じみたそれに頭を振る者もいた。
「彼ら最終人類史のディアボロスが、奴らの送り込んだ因子である可能性も0ではないのですから」
「…………」
 喜悦、不安、猜疑、そして……嘱望。
 ここ、絶滅人類史にもまた、様々な思惑が生まれ、交錯しているのだった。

 最終人類史新宿島新宿駅ターミナル。
 時先案内人マリー・アントワネット(人間のサウンドソルジャー・g09894)は、集まった復讐者の顔を見渡し、些か緊張した面持ちで言葉を口にした。
「遂に、南極へ行くことになりましたわ」
 攻略旅団から、南極にいるという『絶滅人類史のディアボロス』と接触する、との提案が挙がったのだ。
「『絶滅人類史のディアボロス』は、ほぼ確実に断層碑文の送り主であり、皆様――妾達ディアボロスの助けとなってきたのは確かですわ」
 とは言え、これまで積極的な接触を行ってきていないし、『刻逆』を実行した張本人――いわば、最終人類史の復讐者全ての宿敵である存在、との可能性も高い。
 これまでの関わりを思うに敵対する存在ではない……とは思うが、しかし、味方とも断言出来ないのも事実だ。
 そんな彼らと邂逅し、言葉を交わすことで、この世界が巻き込まれている状況の真相を、今度こそきちんと知れるかもしれない。
「加えて、現時点では情報が少な過ぎる、という事も否めませんわ」
 此度の接触に対する予知は、ほぼ出来ていないのだ。時先案内人として申し訳ない限りと、マリーは表情を曇らせ、嘆息した。
 しかし、と彼女は断ずる。その青い瞳には何処までも強い信頼感が浮かんでいた。
「そのため、適宜、現地判断に頼る必要がありますが……。ええ、それでも、皆様ならば、きっと上手く対応してくださると信じていますわ」
 彼女の浮かべた微笑に応えるべく、復讐者達は強く頷くのであった。

 その南極までの道筋だが、此度はパラドクストレインではないとマリーは言った。
「攻略旅団からは船で南極に向かう事を提案されていますの」
 南極に近いオーストラリアには、様々なタイプの船が集まっている。その中から必要な船を選んで、南極に向かって欲しいと彼女は言う。
「用意出来るのは船のみにあらず、ですわ」
 一般人の人員や特別な機材なども、復讐者達の要請があれば用意出来るという。
 そこは絶滅人類史とどの様な接触を図るかも踏まえ、色々考えて欲しい、とのことであった。
「南極の海域に着いたら、呼び掛けを行ってくださいまし」
 この期に及んで絶滅人類史のディアボロスが接触を拒むとは考え辛い。また、相手は最終人類史側の動きを確認出来る筈なので、南極側でも呼び掛けに応じる筈だが――。
「場合によっては、海に潜ったり、穴を掘ったりといった行動も必要になるやもしれませんわ」
 なにせ、絶滅人類史がどの様な改竄世界史と化しているかは判らないのだ。
 様々な可能性を拭い去れないのも事実と言えば事実。
「上手く接触が行えましたら……その後は、現地の判断で会話を行ってくださいませ」
 求める情報を手に入れて欲しい。
 それが時先案内人としてのマリーの願いであった。

「此度の邂逅が、絶滅人類史のディアボロスと最終人類史のディアボロスの違い、また、『ディアボロスとはなんなのか?』などといった疑問を解く鍵となれば良いのですが」
 復讐者達の疑問はそれだけに留まらない筈だ。
 ディアボロスの力の根源に関わっていると思われるネメシスとは何か? クロノヴェーダとは? 断片の王とは? 等、知りたいことは沢山あるだろう。
「ですが、絶滅人類史のディアボロスも、これまでの断片の王同様に、排斥力の影響を受けている可能性は否めません。その点は注意が必要です」
 斯くして、時先案内人は言葉を締め括る。
「皆様の御武運をお祈りしていますわ」
 それは、彼らの背を、彼らの全てを見届けるという強い意志の下、紡がれていた。


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 『絶滅人類史』のディアボロスとの会話が継続できない状況になった場合は、南極から撤退する事になります。
 この選択肢のリプレイが撤退する状況になった場合のみ執筆されるので、プレイングを行う必要ありません。


特殊ルール 【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、安全に撤退でき、シナリオは成功で完結する(作戦目的は一部未達成となる)。
👑2

●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【勝利の凱歌】
2
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【動物の友】
1
周囲の通常の動物がディアボロスになつき、意志の疎通が可能になる。効果LVが高い程、知能が高まり、友好的になる。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【熱波の支配者】
1
ディアボロスが熱波を自在に操る世界になり、「効果LV×1.4km半径内」の気温を、「効果LV×14度」まで上昇可能になる。解除すると気温は元に戻る。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【完全視界】
1
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【影忍び】
1
周囲が、ディアボロスが「自身が視認している、3m以内にいる一般人1人」の足元の影に変身できる世界に変わる。変身中は対象とした一般人の足元を離れられず、この効果の解除を除く自発的な行動は行えない。最大「効果LV✕10分」で解除。
【宇宙適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が宇宙空間の物理的・環境的制約や肉体的・精神的負荷を受けず、地球の重力下と同様に活動を行える世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【命中アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV1 / 【ガードアップ】LV1 / 【反撃アップ】LV2 / 【アクティベイト】LV1 / 【先行率アップ】LV1 / 【ロストエナジー】LV1 / 【グロリアス】LV2

●マスターより

秋月きり
 お世話になります。秋月きりです。此度、南極――絶滅人類史のディアボロスとの邂逅のシナリオを担当させて頂く事になりました。
 絶滅人類史に何が待っているか。皆様は何を知ることが出来るのか。
 それを書かせていただければ、と思います。

 以下、補足です。
 ご確認下さい。

●選択肢について
 基本的には上限以上の採用は無い物とお考え下さい。
①南極遠征計画の立案
②『絶滅人類史』のディアボロスへの呼び掛け
③『絶滅人類史』のディアボロスとの会話
④南極からの撤退

~注釈~
①について
 南極へ向かう方法を立案する選択肢です。南極に至るまで、危険はほぼありませんので、色々と試してみて下さい(工夫次第で色々と出来ると思います)。
③について
 一人一問を繰り返す方式を予定しています(つまり、前回の会話リプレイを踏まえて、続きの質問を出来る……と言った形式を想定しております)。

●その他
・「ここまで来ましたら、悔いの無い邂逅、会話をして頂ければと思いますわ。案外、準備段階から始まっている可能性もありますので、そこから頑張ってくださいませ」
・「絶滅人類史のディアボロスの中でも、皆様に対する想いは様々ですの。観測者――見守るだけの存在と名乗った人物のように皆様を助けたいと思う者もいれば、慎重派もいますわ。会話はそれを踏まえた方が宜しいかと思います」
・「妾は、皆様にディアボロスとしての覚悟を見せて頂き、共に歩む道を選びましたの。ですから――」
 以上、時先案内人の助言です。お役に立てれば幸いです。
・絶滅人類史の状況について、真壁真人MSの『《戴冠の戦》強行偵察作戦~南極大陸の邂逅』は大いに参考になると思います。ご確認頂ければ幸いです。

 それでは、皆様の熱く力強いプレイングをお待ちしております。
 宜しくお願いします。
108

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


ラウム・マルファス
『観測者』は無事なんだネ
良かっタ

もう一度会うためにも、準備をして南極に向かおウ
真の敵由来の力について聞きたいナァ

ボクとしては、彼らは敵じゃないと思っているから、友好的な準備をするヨ

絶滅人類史もディヴィジョン化しているなら、入るのは円卓の座を使う必要があるかもしれないから持って行くヨ
使い方が不明な場合は、アーサー王伝説の研究者にも聞いてみよウ
謂れから使い方がわかるといいナ

説明用の資料として、戦いの記録や歴史書の抜粋を準備するヨ
不利になるような復讐心が弱まっている件とかは、アピールはしないケド無理に隠したりもしないヨ

船は少し大きめのクルーズ船
ホントに協力できるなら、新宿島に来てもらう可能性もあるからネ
武装はしないヨ、友好的に行きたいし、多分無意味だろウ

食料を持って、防寒具を着て、南極へ行こウ
一般人は同行させないヨ
知られちゃ困ることも話すだろうしネ

最終人類史のうちは寒冷適応も使えるから、辛くなったらつかうけどネ
場所は、観測者と会った地点を目指したいけど、無理そうなら到達不能極を目指そウ


一里塚・燐寧
刻逆の元凶から今更期待されるって、何とも言えない気分だねぇ
「全員ブッ殺してやれたらいいのに」って想いがよぎっちゃうのは、あたしが根っからの復讐者だからかなぁ

……勿論、話さなきゃいけないってことは判ってる
ほんとにブッ殺すべき奴が何かを知るためにもねぇ

絶滅人類史のディヴィジョン領域がどういう環境か判らないから、安全のために一般人は連れていきたくないねぇ
そして船自体も、想定と違う異質な環境でも耐え得るものがいいと思う
そこで、今はどこでも使ってないヤ・ウマト式クロノ・オブジェクト艦『あらかわ』『えどがわ』のいずれかに乗るとかはどうかなぁ?
これなら復讐者だけで操船可能なのは証明済みだしねぇ

もし空気が存在しないような環境でも耐えられるよう【宇宙適応】を用意
船内の備品も急に浮き上がったりしないように厳重に固定しよう

交渉材料には、リグ・ヴェーダ奪還戦時点での人類応援度:『95%』の根拠になる資料を持ち込みたいよぉ
あたし達が、刻逆を使ってまで護りたかった地球の人間から支持されてると、はっきり示すためにねぇ


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
長かったのだろうな、短くもあった
絶滅人類史のディアボロス⋯⋯そう聞くと親近感さえ湧くのは何故だろう
ずっと、知りたい事があった
今、手が届くだろうか

南極世界会議の終わりに『深層部』と聞いたな
深層部なら、氷底湖や地下空洞が浮かぶ
強行偵察の時のように、呼び寄せてくれるとは限らない。備えよう

・船
実際に南極観測に使われている『砕氷艦』がいい
南半球はもう厳冬に向かう時期
接岸できなければ、始まらないかも

・設備
呼びかけ用の防水の無線通信とスピーカー
水中用ソナー等の地形把握用の機材
レーダー等の観測機器も積み
接触に至れるまで情報を集めよう

物理的に深層部に至るには掘削か潜水か
氷床ボーリング用機材も積んでおきたい

マニュアルや操作会得で、復讐者で動かせるようにする
武装はなし。耐寒の備えも忘れずに

・一般人は同行しない
過酷な道程になる可能性がある
前回を思えば時空の狭間や疑似宇宙めいた場所も否定できない

・航路
ボストーク湖を目指すつもりで、東南極に接岸
南極の中心にも近くなるかな

・他
可能ならエネルギーを貯めた神像の心臓を持参


 2026年5月。オーストラリアはメルボルン。
 その日、メルボルンの港は喧噪に包まれていた。
 当然だろう。
 数多の船籍と共に、数多くの復讐者達が港へ駆け付けているのだ。それに乗じ、種々様々な屋台まで乱立すれば、それは見るからに――。
「いやぁ、これはちょっとした祭りだねぇ」
 盛況だねぇ、と湧き立つ人々に視線を送りながら、一里塚・燐寧(粉骨砕身リビングデッド・g04979)はにんまりと微笑んだ。
「……これから『刻逆』の元凶に会いに行くってのに、何とも言えない気分になるけどぉ」
 正確に言えば、最終人類史のディアボロス達は、『刻逆』の元凶の可能性がある存在ではあるのだが、燐寧にとっては大差ない。全員、ブッ殺してやれたら良いのに、と言う物騒な思いも、未だ健在だ。
「難しい顔をしているネ」
 仲間を気遣ってか、ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)は傍らのエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)に語り掛ける。
 笑顔はいつも通り愛想笑いじみたものだったけれど、そこにある心配の色は本物で、対するエトヴァは「ああ」と苦笑じみた微笑を零した。
「長かったのだろうな、短くもあった」
 禁忌の外法、人類史改竄術式『刻逆』の発動から5年。それは即ち、彼ら、絶滅人類史のディアボロスが最終人類史へと行った最初の接触、『新宿断層碑文』の発見から5年の歳月が経過したことを意味していた。
 その後、『観測者』との接触を経て、今に至るわけだが――。
(「絶滅人類史のディアボロス⋯⋯そう聞くと親近感さえ湧くのは何故だろう」)
 ディアボロスと名乗るからだろうか。
 それとも、絶滅人類史こそ、地球が辿るべき運命だったからだろうか。
 感慨深げにエトヴァは青空に向かって手を伸ばした。
 ずっと知りたいことがあった。無数に知りたいことがあった。
 今、この手は彼らへと届くだろうか――。

 さぁてぇ、と燐寧が二人に振り返り、にふりと笑顔を浮かべた。
「どうやって南極に行こうかねぇ」
 本当に『ブッ殺すべき奴は何か』を知るためにも、それを成就しないといけない。絶滅人類史のディアボロスをブッ殺すのは一先ず棚に上げる。
 そういう思考があったかは兎も角として、彼女は指を立てた。
「絶滅人類史のディヴィジョン領域がどう言う環境か判らないから、安全の為に一般人は連れて行きたくないねぇ」
「そうだな」
「だよネ」
 エトヴァ、ラウム両名も是と頷いた。
「其処に至るまで過酷な道程になる可能性があるしな」
 正史に於ける南極も、おいそれと装備を整えない一般人を連れて行ける場所では無い。まして、それが改竄世界史となっているのならば、燐寧は正しいと、エトヴァは言葉を重ねた。
「前回を思えば、時空の狭間や疑似宇宙めいた場所であっても不思議はないからな」
「……まあ、そうであれば王妃が注釈している気がするけどネ」
 と、ラウムは苦笑する。
「でも、知られちゃ困ることも話すかも、だろうしネ。一緒に連れて行かない方がいいとは思ウ」
 だが、と頭を振った。
「ボクたちだけで知識の偏りがあるのも事実だヨ」
 いざとなったとき、専門家の意見を聞けないのは痛いよネ、との独白に、うむ、とエトヴァは顎に手を当て答えた。
「無線装置を持っていこうと思う」
 呼び掛け用に防水加工が施された無線装置を持っていくつもりだったが、確かに最終人類史と繋げられるように準備する事も可能だ。各種専門家に詰めて貰い、必要な事項は中継する、と言う方法も採れるだろうと彼は自身の案を口にする。
 その他、水中ソナーなどの地形把握用の機材、レーダーなどの観測機材、諸々出来る限りの機材を積み、後で「あれがあれば!」と言う準備不足で後悔する事態だけは避ける、と言う意気込みを見せていた。
「ボクは説明用の資料を用意しようかナ?」
 今までの戦いの記録、そして歴史書。
 絶滅人類史は最終人類史のことを多く知っているだろうが、それでも漏れや抜けがあるかも知れない。抜粋資料を準備するつもりだが、それ相応に大きくなるだろうな、と思ってしまう。
「一応、デジタルでも持ち運ぶけど、アナログでも用意しておこうカ」
「だねぇ」
 ノートパソコンやタブレット端末など、最終人類史から持ち運びも出来るが、これから到達する場所は改竄世界史でもある。
 彼らの服装から推測するに排斥力でデジタル機器が消えることは考え辛いが、しかし、改竄世界史を跨ぐ際、紙媒体が有利なのも事実と言えば事実だ。
「あたしは、みんなの声を届けるつもりだよぅ」
 燐寧の言うみんなの声とは、復讐者のみのそれに限らず、最終人類史の人々の想いそのものだ。
 改竄世界史蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ奪還戦で、人類はほぼ満点の応援を復讐者達に示した。それを彼らに見せれば「『刻逆』を使ってまでも守りたかった人類が、最終人類史の復讐者達を支持している」とハッキリ示せると考えたのだ。
(「もしも、あいつらがそれを是と考えていれば……だけどねぇ」)
 最終人類史と絶滅人類史の違いはあるとは言えども、相手もディアボロスなのだ。その辺りは通じると信じたい。
「それと、エネルギーを溜めた神像の心臓を持ち込むつもりだ」
「そうだね。ボクも円卓の座を用意するつもりだヨ」
 交渉材料に、或いは呼び掛けの際に、或いは――絶滅人類史の中で行動するために。
 備えは多い方が良いと二人は頷き合った。
「さぁて。準備はいいんだけどね。最初の質問に立ち返るよぅ。……どうやって、南極に行こうかねぇ」
「それには考えがあるんだが……こういうのでどうだろう?」
 にぃっと笑う燐寧に、エトヴァは微苦笑で語り、ラウムは何時もの笑顔でうんうんと頷いていた。

 結論だけを言うと、南極には砕氷艦、そして改竄世界史冥海機ヤ・ウマト産のクロノ・オブジェクト艦『あらかわ』『えどがわ』を用いる事となった。
 クロノ・オブジェクト艦であれば復讐者のみで動かせる、と言う燐寧の言葉と、もしかしたら絶滅人類史のディアボロス達を新宿島――最終人類史の出発点となった新宿区のことだ――に招待する必要がある、とのラウムの思いを受け、二隻の準備は必要という結論に至ったのだ。
 その二隻を先導するのがエトヴァ提案の砕氷艦であった。
 南半球はこれから本格的な冬に入っていく。厳寒な地域と化せば氷も張るだろうし、接岸出来なければ意味が無いとの指摘は至極当然であった。
(「それに、『深層部』と聞いたからな」)
 南極世界会議の終わりに聞いた単語を想起する。どの様な場所かは判らないが、強行偵察時のように呼び寄せてくれるとも限らない。其処に至るまで、道を切り拓く可能性があるならば、砕氷艦や氷床ボーリング用機材と言った掘削用の準備も無駄にならない筈だ、と彼は付け加えた。
「それと、一番大事なことだけド」
「まあ、仕方ないよねぇ」
 ラウムの釘を刺す台詞に、燐寧は「仕方ないねぇ」と肩を竦める。
 そう。驚くべきことに彼らは友好を示す手段として、非武装を選択したのだ。今現在、急ピッチであらかわ、えどがわの両艦から武装が外されているのが、その証左であった。
「彼らは敵じゃないと思っているから、友好的な準備をするヨ」
 ラウムの思いを受け止め、実践する形となったのであった。
 もっとも――。
(「パラドクスを封じるとかじゃないし、アタシ達が戦えなくなる訳じゃないんだけどねぇ」)
 燐寧の独白は正鵠を射ていたが、それは絶滅人類史側も同じだ。
 彼らがディアボロスである以上、最終人類史側に害を為そうとすれば、パラドクス、そして逆説連鎖戦と言う手段を用いてくる筈だ。
 その点はお互い様なので勘弁して欲しい、と心の中で言い訳する。
「それでは向かうか。絶滅人類史の南極がどう言う場所か判らん。耐寒装備は忘れずにな」
「最終人類史内だと様々な残留効果を10レベルで使えるので、忘れがちだけどネ」
 因みに、燐寧が【宇宙適応】を持ち込んでいるが、しかし、「宇宙空間の」と制約がある以上、地表の極寒に耐えうる物では無い。
 この辺りは誰かが再度、【寒冷適応】なり【熱波の支配者】なりを持ち込めばよいか、と軽口を叩くエトヴァとラウムであった。
「さあ、じゃあ、行くよぅ」
 斯くして三人を先頭に、各種準備を終えた復讐者達は順に、乗り込んでいく。
 此度の乗り物はパラドクストレインではなく、砕氷艦とクロノ・オブジェクト艦ではあったけれども。
 ともあれ、彼らは絶滅人類史を目指し、南極へと進むのであった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
【宇宙適応】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!

シャルロット・アミ
私は知恵もないし、状況も把握しきれていない
でも、新しくお会いする方々にご挨拶だけはしたい
たったそれだけの我儘よ
お話で解決できるのであれば、それが一番だわ
…少なくとも、初めて会ったあの人は友好的だったし
私はあの人の無事を祈ってる

問題は声を届かせるためにはどうするかよね
無闇矢鱈に叫んで出てきてくださるとは思わない
とは言え戴冠の戦後、ディヴィジョンの境界は消えているはず
大陸上にいらっしゃらないなら下か上か
上はリグ・ヴェーダが行こうとしていたのなら
下に賭けてみましょうか

南極の皆さんはたぶんこの地球の大気から
体を守れる場所にいらっしゃると思うの
そのためのあのお洋服と見ているのだけど、どうかしら

ちょっと乱暴だけれども【熱波の支配者】を使用
氷を溶かして少しだけのぞかせていただけますか?
はい、こんな無茶をするのはイレギュラーです
はじめまして、それともお久しぶりでしょうか

お話したかったんです、教えていただけませんか
あなたたちのことを


ラキア・ムーン
交渉には一応スーツ姿で赴く
その上にコートを羽織り、寒さ対策
ビジネスライク、一定の線引きはあることをアピール

海域に到着したら飛翔し、上空を飛びながら接触を待つ

飛翔を使用する意図は、目立つ点と相手が先手を取れる状況を作る点
そして同時に、何かあればパラドクスや残留効果は躊躇なく使用する意思もある事を言外に示す

敵意は出さないが、媚びるような言葉は選ばない
友好的だからといって、仲良しこよしな訳では無い
つつがなく会話を行う
此方から先制攻撃は行わない、そういう会話の為に入る為の入り口だ

態度を示しながら声をかける
声のテンポはゆっくり一定に
しかし、緊張感は無くさないようメリハリを付ける

絶滅人類史の諸君、そろそろ腹を割って話そうじゃないか
君たちが先に刃を持ち出さない限り、こちらも手を出さない事を誓おう
拒むなら、私を此処で撃墜するといい
そうでないなら、出てきて貰おう
こちらも、プレゼンがてらそちらに我々を選んで貰えるよう話をしたい

と、メガホンで高所から広く聞こえる様に声をかる

憤りも、怒りも今は全て抑えよう


 南極は氷に覆われていた。
 さも当然な光景は、しかし、復讐者達にある疑問を抱かせる。
(「ここは、本当にディヴィジョンなのか……?」)
 クロノ・オブジェクト艦『あらかわ』より空へと飛び上がったラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)は、氷に覆われた海や大地を見ながら、独白した。
 スーツにコート。丁寧さを表に出しつつ、しかし、親しみ易さをかなぐり捨てた服装の彼女は、氷の大地を睥睨する。
 《戴冠の戦》開戦後、世界は決戦時空に統合され、一つになっている。故に、改竄世界史の境界は消失しており、「ここに最終人類史とは異なる改竄世界史が存在する」と言われても、視認の範囲では疑念を抱かざるを得ない。
「まずは、周囲を見回ってみましょう」
 おそらく同じ考えなのだろう。シャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)の言葉に、ラキアはこくりと首肯した。

 可能な限り【飛翔】で空を駆け巡ったが、しかし、二人の目に映る光景は二人のよく知る南極そのものだった。
「まあ、目に見える範囲で変な建物があれば、既に発見出来ていますよね」
 そうであれば、呼び掛けすら不要だろうとシャルロットは微苦笑する。
 ならば、進むしかないのだ。
 無闇矢鱈に叫んでも、出てくるはずもない。おそらく南極の中心――少なくとも大陸部にまで近付かなくてはこの声も届かないだろう。そう判断し、砕氷艦の進路を其方に向ける。
 ――それが起きたのは、その瞬間だった。
「え? 霧?」
 氷を破砕した刹那、霧が発生したのだ。
 《戴冠の戦》を通り越し、かの《七曜の戦》を、否、それ以前より数多くの戦いを経た二人にとって、その霧は即座に看過出来るものであった。
 即ち――。
「「ディヴィジョン境界の霧?!」」
 どうやら、氷を溶かし進める都度、霧は濃く広くなっていくようだ。
「成る程。この先に絶滅人類史のディアボロスの拠点があると言うわけだな」
 確証を得たラキアの言葉に、シャルロットは「ええ」と強く頷いた。
 そして、と彼女は砕氷艦の甲板で声を上げる。
「少し、速度を上げましょう」
 氷を破砕することが絶滅人類史に辿り着く方法ならば、一計があると彼女は微笑。ラキアが疑問符を浮かべる中、彼女は一つの【残留効果】を行使した。
 即ち、【熱波の支配者】であった。
「140度とは言いませんが、融解する程度には、ですね」
 未だ最終人類史の中の為、強行は出来そうだが、ともあれ、砕氷よりも速いとの言葉に、ラキアも「ああ」と確かな言葉を返した。
 そして――。
「聞こえるか? 絶滅人類史のディアボロスよ。私達、最終人類史のディアボロスが来たぞ!」
 ラキアは声を上げ、周囲を見渡した。
 シャルロットの【残留効果】によって氷は融解、それに比例して霧は濃くなっているとは言え、未だ、ここは南極の端。声が届くか――と僅かに片眉を動かしたその瞬間であった。
「――?!」
 その瞬間、船が動き出した。
 誰かが操縦を始めたと思いきや、誰も手を下していない。まるで導かれるように船が動き出したのだ。
 周囲、四方八方に飛んだ復讐者達も、慌てて船へと帰還し、その後に備え始めている。甲板で警戒する者、船内に戻り、状態を確認する者、今後に備え、準備を進める者など多数居る中、ラキアとシャルロットは甲板で再度の声を上げた。
「はじめまして、それともお久しぶりでしょうか? 『観測者』さん。この声が届いているなら、返事を頂けると嬉しいです!」
「今一度言うぞ、絶滅人類史のディアボロス。声が聞こえるなら、返事をして欲しい!」
 二人の呼び掛けが南極の空に木霊し、そして。
「――ッ」
 声が響いた。
 否、それは声では無かった。
 声とは、即ち空気の振動である。二人に届いた声にはそれが無かった。喜びと安堵に満ちたその声は、二人の心へと届くものであった。
(「いいえ、違うようね」)
 見渡せば、周囲の復讐者達も虚空を見上げ、周囲を見渡している。おそらくこの声は、南極に到達した復讐者全員に聞こえているのだろう。
(「テレパシーの声? いや、今は声とも思えんが……?」)
 少なくとも、意味を成す言葉ではないと、ラキアは頭を振った。
 もう少し近付かなくては、交信どころか意味のある文言を拾うことも出来ない。そう判断した彼女は、砕氷艦の手すりに掴まり、視線を船の針路へと向けた。
 同様に、シャルロットもまた、ラキアの傍らで小首を傾げている。彼女もラキア同様、テレパシーを拾おうと必死になっていることは理解出来た。
(「先程の安堵の感情だけではありませんね。これは……達成感とか使命感とか覚悟とか……? そう言う感情を抱きます」)
(「猜疑心が晴れているような印象も受けるな。信用されていると思っていいのか?」)
 それに導かれるように船は進む。
 霧が少しずつ晴れていくのは、改竄世界史を超えた証左なのだろうか。
 再度呼び掛けようとした二人の目の前で、それは起きた。
「「――?!」」
 もう何があっても驚かない。
 そう思っていた二人だが、しかし、砕氷艦が、そしてクロノ・オブジェクト艦が海に飲まれる光景を目の当たりにすれば、焦りもする。しかも、それは自身等の乗る船なのだ。まさかの誘導に、刹那、二人は身構える。
 だが、それは杞憂であった。
 船はシャボン玉のような――空気の層に包まれ、恙無く海中を進行していたのだ。
「【水中呼吸】は使っていませんよね?」
「ディヴィジョンの霧が晴れた以上、ここは最終人類史ではないだろうしな」
 当然の様に呼吸も出来れば、機器類に浸水跡も見られない。むしろ、二人を含め、水に濡れた形跡は何処にも無かった。
 そして、船は海底からの光に誘導されるように、そのまま進んでいく。
 だが、二人の視線が向けられたのは、そこでは無かった。
「ラキアさん、見て下さい!」
 シャルロットが口を押さえ、それを指差す。
 二人の周囲には南極の海中、そして海底が映っていた――その筈だった。
 だが、そこに在ったのは、そんな空虚な光景ではなかった。
「……何の映像だ?」
 直感的に映像と悟った二人は、海に映し出されたそれを凝視する。
 そこにあったのは青い星だった。地球――そう悟った瞬間、それは起きた。
 巨大な隕石が飛来したのだ。
 二人が声を上げる間もなく、それはユーラシア大陸に直撃。そこにあったであろう都市を破壊し、多数の死傷者を生んでいく。
 そして、その災害はそれで終わりでは無かった。
 再度飛来した隕石は、次に大西洋へと落下。周囲の海を巻き上げ、巨大な波を生み出し、海面を――即ち、欧州や米国と言った大陸の沿岸部を洗いざらいに流していく。
 二人は、否、その映像を見た復讐者達はぽつりと呟いた。これは攻撃だ、と。
「宇宙から攻撃を受けている?」
「もしかして、これが、絶滅人類史……なのでしょうか?」
「この攻撃で人類は絶滅したと言うことか?!」
 映像は、そこで途切れ、そして、再度の声が聞こえた。
 
「君達の訪れを待っていたよ、最終人類史のディアボロス」
 それは、先の曖昧なそれとは違い、ハッキリとした言葉のテレパシーであった。
「『刻逆』の儀式は、最終段階に入ろうとしている」
 聞こえる声は一つでは無かった。
 おそらく三つ。それは時先案内人の予知の通りだと、二人は感じた。
「だが、時間は無い。敵の妨害により、星辰の動きが早まっているのだから……」
「『勇者アーサー』を討った君達が、おそらく我らに残された唯一の希望だ」
 先の感情――喜び、安堵、消え行く猜疑心、達成感、使命感、覚悟。それらが入り交じった声は、二人の中に響き、そして消えていく。
「船は、海の底の底、我らが疑似ディヴィジョン『南極』に向かっている」
「君達に会えるのは、もうすぐだ……」
 その声に向かい、シャルロットは声を張り上げた。
「ええ。ええ! お話したかったんです! 教えていただけませんか! あなたたちのことをッ!!」
 答えは無かった。
 だが、船の速度が緩やかになり、まるで復讐者達を迎え入れるように海底に聳える建物が門戸を開く。
 それこそが答えだと、シャルロットは感じていた。
「……成る程。多少は理解したぞ」
 その建物を見遣り、ラキアは呟いた。
「絶滅人類史のディアボロスの拠点が海底なのは、あの外宇宙からの攻撃に耐える為だったのだろうな」
 果たしてその推測が合っているのか判らなかったけれども。
 それらを含め、答えは直ぐ傍にある。
 確かな実感を覚え、彼女はふぅっと吐息を零した。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!

 海を抜けた先。そこにあったのは科学と魔術が融合したような建物――施設であった。
 船から下りた復讐者達は、導かれるままに施設の中へと歩いて行く。
 そして――彼らは邂逅したのだった。
 3人の宇宙服じみた装備を纏った人間――絶滅人類史のディアボロスと。
「良く来てくれた、最終人類史のディアボロスの皆さん」
 最初に声を掛けて来たのは、些か、年配の声をしたディアボロスであった。
「本当は『南極』に招き入れて、歓待したいところですが、あなた達を招くだけで『排斥力』が発生してしまいますので、ディヴィジョン境界である、この地でお話しする事をお許しください」
「また、本来であればこの防護服を脱いで挨拶をしたい所なのですが、もはや、我らは、防護服が無ければ、存在を維持し続ける事も難しいのです」
 その声は、痩身のディアボロスから。静かに声を発した彼、或いは彼女は申し訳ないと、頭を下げる。
「私達は、皆さんの為に出来る事を全てするつもりで、ここに来ました」
 それは、先程の呼び掛けに応じたが故の言葉だったか。
 次に声を上げたのは、見慣れた宇宙服のディアボロスであった。
 『観測者』或いは『見守るだけの存在』と自虐的に自身を揶揄した存在は、それでもと声を上げる。
 そこに、絶滅人類史のディアボロスとしての覚悟を垣間見た気がした。
「もし、それで、この世界から排斥されたとしても……です」
 そして、三人は強く頷く。
 胸襟を開く。文字通りの行動は出来ていないが、それでもその意志を三者は復讐者達へと向けていた。
「まずは、皆さんの疑問に可能な限り答える事で、誠意を示させてください」
クィト・メリトモナカアイス
んむ、ありがとー。
本来ならもうちょっと前置きとかをしたいのだけど。
きっと時間は限られている。早速本題に入らせて欲しい。

まず。
我らが今回ここに来た理由は「最終人類史のディアボロス」である、我ら自身について知るため。
我らがこのまま戦い続ければ「真の敵」に勝てるならそれでいい。
けれども。我らは敵のことどころか我らのことも知らぬ。
我らは我らを知らぬので、このままで勝てるのか、勝てないならばどう対策をすればいいのかが分からない。だから教えて欲しい。ディアボロスとその力について。
まずは最終的に何を聞きたいか?をはっきりさせよう。そうすればあちらの回答もきっとすむーず。

んむー、まずは。
最終人類史で生まれ覚醒したディアボロス。ディヴィジョンで生まれ、クロノヴェーダに敗北して最終人類史に流れ着いたディヴィジョンのディアボロス。これら2つをまとめて「最終人類史のディアボロス」と呼び、そして汝ら「絶滅人類史のディアボロス」。
ディアボロスとはそもそも何で、我らと汝ら、持つ力にどういう違いがあるのだろうか。


「んむ、ありがとー」
 礼には礼を。誠意には誠意を。
 クィト・メリトモナカアイス(モナカアイスに愛されし守護者・g00885)はぺこりと頭を下げると、早速本題に入った。
「前置きは……無くてよいかな?」
 きっと時間は限られていると急くクィトに、『観測者』――そう名乗った絶滅人類史のディアボロスは首肯した。
「ええ。最終人類史のディアボロス。我らにとって時間という概念に意味は無いが、『機会』が限られているのは確かだからね」
 そして、クィトは本題を切り出した。
「我らが今回ここに来た理由は『最終人類史のディアボロス』である、我ら自身について知るため。――我は、最終人類史のディアボロスとは何か、を問いたい」
 それは攻略旅団の提案だった。他に知りたいことは多々ある。だが、ここに至ったのは攻略旅団の存在があってのこと。ならば、何はともあれ、これを問うべきと、彼女は判断したのだ。
「ディアボロスとは何か、は今更、説明する必要はないよね?」
 と観測者は問う。
 それは世界を揺るがす超常能力「パラドクス」を操り、時空を超えて歴史侵略者達と戦う者達の総称だ。地球や歴史、大切な者を奪った歴史侵略者に対する怒りを抱き、戦う者達を指す言葉であり、その存在が最終人類史に限らないことを、クィトは知っている。
 だから、と観測者も言葉を続けた。
「『最終人類史のディアボロス』を語るなら、『最終人類史』とは何か、から始めないとかな。……それは最終人類史の住人である君達にとっては、当然の疑問だと思う」
 言葉を句切り、僅かに観測者が頭を振った。
 どうやら、排斥力が情報伝達を阻害していないか、確認しているようだった。
 残り二人が頷くのを見定め、観測者は言葉を続けた。
「だが、それは言葉の通りだと思ってくれれば良い。人類発祥の瞬間から、過去から未来へ滔滔と流れて来た、不可逆の刻の流れの中で紡がれてきた『本来の人類史』の最後の欠片」
 観測者はそれを決定的な言葉で断言した。
「それが、最終人類史だよ」
 もっとも、と観測者は言葉を口にした。顔が見えていれば微苦笑している。そんな気がした。
「とはいえ、君達の活躍によって、既に欠片とはいえない程に回復しているけれどね」

「んむー」
 最終人類史が本来の人類史に連なるモノ。その言葉を受け取ったクィトはふむ、と唸る。
 そんな彼女の言葉をどう受け止めたのか。観測者は更に言葉を重ねた。
「僕達は、『本来の人類史』は人類史改竄術式『刻逆』により、完全に失われると予測していた。その予測を覆す形で残った、最後の欠片……2021年の東京都新宿区、あるいは新宿島。僕達はその、『失われた本来の人類の歴史』の最後の欠片を『最終人類史』と名付け、幾つかの助けも送った。……それは、キミ達の知るとおりだね」
 その証左か。観測者は自身の周囲に見覚えのあるプレート状の何かを出現させた。
(「碑文――」)
 新宿島の断層に発見された『新宿断層碑文』。それはクィト達復讐者がよく知るものだ。
 それを観測者達が知っているということは、やはり、絶滅人類史のディアボロス達がその送り主であると言う証拠のようだ。
(「……予想を覆す形、か。うむ。我はそれを知っている」)
 新宿島で何が起きたか。それを既にクィトは、否、復讐者達は全て理解している。
 それはTOKYOエゼキエル戦争の断片の王『大天使ヘルヴィム』による失敗のことだ。あれが無ければ、新宿島は生まれず、ここまでの経緯も紡がれなかった。復讐者達の理解は、図らずとも、観測者達によって肯定された形となった。
「だから僕達は、君たち『最終人類史のディアボロス』が、最終人類史の未来……僕達にすら未知の可能性を切り開いてくれた事を、深く感謝している。たとえ、それが『刻逆』の計画を大きく狂わせるものであったとしてもね」
 僅かに沈黙したクィトに向けられた観測者は言葉は、何処か優しく感じた。

「ふーむ。汝等が最終人類史のことをどう認識しているかは理解したぞ」
 そもそも、とクィトはことばを発した。
「我が知りたいのは、このまま戦い続ければ『真の敵』に勝てるか、ということだ」
 真の敵に勝てるならそれでいい。
 だが、悲しいかな、今の復讐者達は真の敵のことを知らない。そして、彼を知り己を知れば百戦殆からずの故事ではないが、その敵のことどころか、自身達復讐者のことも覚束なかった。
「我らは我らを知らぬので、このままで勝てるのか、勝てないならばどう対策をすればいいのかが分からない」
 だから、知りたかったのだ、と問う。
「……君達が『真の敵』に勝てるか勝てないか、それは僕達には判断がつかない」
 そう有って欲しいと望むけれどね、との言葉は何処か弱々しく響いた。
「何故だ?」
「僕らは勝てない存在だから、だ」
 つまり、絶滅人類史のディアボロス基準で見れば、『真の敵』とはどうやっても勝てない存在ということなのだろうか。
 クィトの疑問に、観測者は首を振った。
「違うかな。僕らが君たちと比べて……いや、既に滅んだ何れのディヴィジョンのクロノヴェーダ達と比べてすら力を持たない、弱小の存在だから、だよ」
 歴史侵略者と復讐者。
 単純に、本当に単純に、単体のみの戦力を比較すれば、歴史侵略者と復讐者は比べるまでもない。復讐者達は、下手をすれば、歴史侵略者の最弱存在の、そのトループス級であっても、策無く正面から衝突すれば、敗北する可能性を否めないのだ。
 そんな彼らよりも弱いと自称することに、クィトは目を見張る。
 だが、その疑問は刹那に氷解した。
「絶滅人類史は、滅びを刻まれた敗者なんだ。今の絶滅人類史は『刻逆』の儀式が終わるまでの間のみ存在する、幻のようなものに過ぎない」
「『刻逆』の儀式が終わるまで、か」
 言外に、それを行ったのが絶滅人類史のディアボロス達であることを仄めかす発言だった。
 覚悟していたことの為、やはり、との思いが強かったが、クィトは言葉を呑み込む。
「……そうだね。『刻逆』の儀式が終わるまで、だ」
 クィトに伝わった事を確信したのか。観測者が言葉を続けた。
「聞いて良いか? そもそも、『刻逆』の儀式って、何だ?」
 それは確信とも言うべき問いかけだった。
「――『真の敵』を倒す手段だよ」
 観測者は言う。
 『刻逆』の儀式とは、人類史全てを犠牲にしてでも、どうにか『真の敵』を倒そうとする策に――苦肉の策に賭けた儀式だと。そして、その儀式を用いて、彼らは生み出したのだ。
 クロノヴェーダを。
「クロノヴェーダが『真の敵』に勝てる保証は何処にもなかった。でも、勝てる見込みのある存在だった。だからこそ……既に滅びが決まっているのならば、何だってする。その可能性を生み出す方法こそが」
「……人類史そのものを改竄する禁忌の外法、人類史改竄術式『刻逆』か」
 言葉を引き継ぎ、そしてクィトは嘆息した。
「そして、『刻逆』の儀式の果てに、君たち最終人類史が生まれた。……これはさっきも言った通り、これは『刻逆』の儀式の賜物じゃなく、完全なイレギュラーだったけどね」
 だから、もう、復讐者達が真の敵に勝てるかは、完全に未知の領域。自分達の予想を遙かに上回る事態なのだと、そう告げる言葉であった。
「……そうだな」
 新宿島が、最終人類史が、ヘルヴィムの失敗によって生まれ、絶滅人類史のディアボロス達のサポートによって今に連なっているのは理解したが、それにしても、『ディアボロスとは何か』の疑問が晴れたわけではない。たとえば――。
「そうすると、最終人類史で生まれ覚醒したディアボロス。ディヴィジョンで生まれ、クロノヴェーダに敗北して最終人類史に流れ着いたディヴィジョンのディアボロス。それらに違いはあるのか?」
 新宿島の復讐者は大別して二つになる。
 純粋に最終人類史を出自とする復讐者と、他の改竄世界史から流れ着いた復讐者だ。
 よもや、全てが終わって後者が消え行く、と言う事は無いのか。
 ならば、自身も……との不安があったかどうかは判らないが、しかし、彼女の言葉は、観測者によって否定された。
 曰く。
「『最終人類史』は、先程言ったように『過去を改竄されていない』歴史だと捉えて欲しい」
 だから。
「滅びたディヴィジョンから漂着していようと、最終人類史の過去の歴史を改竄しておらず、最終人類史のディアボロスと共に歩んでいるのならば、『最終人類史のディアボロス』で間違いないだろう」
「それは些か、ホッとしたぞ」
 心からの安堵を浮かべ、クィトはふむ、と頷いた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【影忍び】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!

八栄・玄才
己を知り敵を知れば百戦危うからず──、んーじゃあ次に真の敵について教えてくれよ

ここに来る途中に見せてもらった映像、あの巨大隕石の地球衝突は真の敵の攻撃ってことでイイんだよな?
アレには流石にオレも怯懦の感情を覚えちまったよ

けどまあ、流石に惑星級の一撃は初めてでも、人が受けられる上限をゆうに超えた一発を持ってる敵なら今までも何人かいた
アーサー王のエクスカリバーに、イスカンダルのゼウスの雷……
今回だってソイツらとやった時ときっと同じだ
「万全な状態で撃たれる前にブッ倒す」──そのためにも、オレ達はどうやって連中を殴りに行けばイイか教えてくれよ

……あともう一つ、真の敵については気になってることがある
連中、影も形も見せないくせに、聞いた情報からの印象だと、人類への殲滅意識が妙に高く感じるんだよな
なんか縁もゆかりも無い通りすがりの宇宙人って感じがしねぇ
もしかして、連中は人類の中から生まれた敵勢なんじゃないか?
例えばそう……、『異なる時間軸の人類』とかな
結局、真の敵ってーのは何者なんだよ?


音羽・華楠
機会は限られる……確かにそうですね。
なら、これは絶対に訊くべきでしょう――

『真の敵』とはそもそも何者なのか?

……排斥力が強く働きそうですが、ご無理なく、可能な範囲で教えて頂きたく。


ただ……先程のクィトさんとの会話を聞いてて、気になったことがあります。

――ディアボロスとはクロノヴェーダと戦う者。

……ですが、私の認識では、クロノヴェーダは刻逆によって発生した存在のはずです。
そして、絶滅人類史のディアボロスの皆さんは、刻逆発動後はどのクロノヴェーダとも戦ってないはずですよね?

なのに、何故『ディアボロス』と名乗ってるのか?

……もしかして、真の敵も分類上は『クロノヴェーダ』に含まれるんですか?
だから、皆さんもディアボロス……?
……私たちのような強力なディアボロスは本来想定外。
本当なら、クロノヴェーダに対抗出来るのは同じクロノヴェーダのみ。
真の敵もクロノヴェーダなら、刻逆を使うしかなかったというのも理解出来ますが……。


そして、何故真の敵の力……ネメシス形態を私たちが使えるのか?
見解をお訊きしたく。


「己を知り敵を知れば百戦危うからず、か」
 クィトの言葉を引き継ぎ、八栄・玄才(実戦拳術最前線・g00563)は絶滅人類史のディアボロス達に語り掛けた。
「んー。じゃあ、次に真の敵について教えてくれよ」
 己――ディアボロスという存在を理解した。ならば、次は敵を知る番だ。彼の言葉に、絶滅人類史のディアボロスの一人――『観測者』は鷹揚に頷いた。
「ここに来る途中に見せてもらった映像、あの巨大隕石の地球衝突は真の敵の攻撃ってことでイイんだよな?」
 アレには流石にオレも怯懦の感情を覚えてしまったよ、と玄才は語る。その口調は何処か気軽だったため、冗談めかしている様に聞こえた。
 だが、次の瞬間、彼の表情は凍り付くことになる。
 絶滅人類史のディアボロス達は顔を見合わせると――正確に言うと、バイザー越しの視線を巡らせた後、こう言ったのだ。
「そうか。あれはキミ達の目にも攻撃に見えたか」
「? どういうことだ?」
 巨大隕石を地球に衝突させ文明圏を破壊する。その行為を攻撃以外の何と言うのか。
「残念ながら、あれは、攻撃ではない」
 断じたのは年配の声の主であった。
 続けて、女性の声が――残されたもう一人のディアボロスの声が、その語句を紡いでいた。
「あれは、『絶滅人類史のディアボロス』が、彼らに敗北した後、必要な作業として行われていた……もの、ですよ」
「隕石の襲来が攻撃ではなく、必要な作業、だと?」
 玄才の困惑を拭うように、観測者が声を上げた。
「そう。彼らにとって、あの行為は『僕たちの為』の『善意』によるもの……だそうだ」
 絞り出す様な声でそれを述べた後、観測者は頭を振った。
「――影も形も見せない連中が、『善意』で『絶滅人類史の為』に隕石を降らせた、と言うのか?」
 それは、まるで……。
 玄才の困惑を読み取ったように、観測者が頷く。
「そうだね。つまり……全てを綺麗に洗い流すことが僕たちの為になると、彼らは本気で考えた結果での行動、という訳だよ」
 それはまるで、子どもが散らかした玩具を片付けるように。
 或いはデータが溢れてしまったハードディスクを初期化するように。
 彼ら――真の敵はそれを行ったと、観測者達は言った。それも、彼らなりの善意だったのだと、言ったのだ。
「……人類への殲滅意識が高過ぎないか?」
 そして玄才は、自身の呟きに語句を重ねる。それは、自身の言葉を補完するようでもあった。
「なんか縁もゆかりも無い通りすがりの宇宙人って感じがしねぇ」
 ああ、そうだ。通りすがりの宇宙人が隕石を落としていった。荒唐無稽なSF三文小説でも無い限り、そんな事象は起こり得ないだろう。
 だから、と彼は理由を探す。何故、真の敵は地球人類を一掃しようとしたのか。それが善意か悪意かは判らずとも、それを為す存在がいるとするならば――。
「連中は、人類の中から生まれた存在で、……たとえば、『異なる時間軸の人類』とかじゃないのか?」
 それが、玄才の導き出した答えだった。
 それならば、人類全てに怨みを持つ異世界の人類が、己達の相似とも言うべき地球を――絶滅人類史を滅ぼした結果が今だ。その説明なら納得出来た。先の言葉通り、荒唐無稽でこじつけのような話だが、それでも、と彼は口にした。
 そんな玄才に、『観測者』は深く頷き、感嘆を零した。
「たった、あれだけの情報から、そこまで推測できるとは。さすがは『最終人類史のディアボロス』だね」
 その言葉を引き継いだのは静かな女性の声をしたディアボロスだった。
「そうですね。もしも彼らが『異なる時間軸の人類』であれば、もう少し話が通じたのかもしれません。――ですが、違います。貴方の言葉を借りるならば、彼らは『縁もゆかりも無い、異星から来た知的生命体』だったのです」
 より正確に言えば、異星から来た侵略者ですね、と彼女は言葉を締める。
 そして――。
「『クロノヴェーダ』という概念は、もともとは、彼らの為に造られたものだったのだ」
 年配男性のディアボロスの声は震えていた。
 その声のまま、彼は言葉を続けた。
「だが、彼らの本質は……」
 刹那の沈黙。
 それは、彼が次の言葉を紡ぐことを畏れている証左であった。
 僅かな嘆息の後、彼は言った。
「誤解を恐れずに言うのであれば、彼らは『凄まじい変質を遂げた、外宇宙のディアボロス』と呼ぶべき存在なのだろう、な」
 ――外宇宙のディアボロスと、はっきり言い切ったのだった。
「……ディアボロス……だと?」
 何を以てその語句を口にしたのか。
 玄才の困惑を余所に、言葉を続けたのは観測者であった。
「彼らは地球の文明と言語を理解した上で、『永遠存在(イデアロゴス)』、と名乗った」
「イデア、ロゴス……」
 鸚鵡返しの言葉を紡ぐしか無かった。『永遠存在(イデアロゴス)』。ああ、つまり、その名を持つ彼奴らこそが――。
「そう。それこそが、僕達の、そして君達の『真の敵』なんだ」

「『永遠存在(イデアロゴス)』……ですか?」
 困惑が抑えきれないのか。音羽・華楠(赫雷の荼枳尼天女・g02883)は、瞬きをしながら絶滅人類史のディアボロス達に問うた。
「……何者か、と伺っても良いでしょうか?」
 排斥力が何処まで絶滅人類史のディアボロス達を蝕むか判らない。だが、可能な限りは聞きたい。そんな相反する思いを抱えつつ、華楠は彼らへ言葉を向ける。
「『永遠存在(イデアロゴス)』について、私達が知っていることは少ない」
 年配男性のディアボロスは華楠の言葉にこう答えた。
「判っている事は『時を改竄する侵略者である』という事と、『我々には理解できない、目的がある』という事だ」
 そう、我々は『永遠存在(イデアロゴス)』をついぞ、理解する事が出来なかった、と彼は自嘲気味に言った。それほど、異質な存在だったのだ、と言葉を続ける。
「そして、彼らは『時を改竄する事に躊躇』が無かった。それを行うのが当たり前とでも言うかのように。……たとえば、彼らは『我々と接触』する為に、自分自身の過去を改竄して『我々と会話する為の器官』のある体に姿を変えていたのだ」
 つまり、彼が発声器官を持たない場合、己の過去を改竄し、喉や口を持つ生命体に身体を変えた、と言うことだろうか。
 ならば、と華楠の脳裏に無数の触手の歴史侵略者――アルタン・ウルクの容姿が蘇った。
 もしも、『永遠存在(イデアロゴス)』がアルタン・ウルクとの会話が必要となった場合、彼らはあの赫眼や黒い触手を持つのが当然と過去を改竄し、シュゴォォォの声と共に意思疎通を図れる、ということなのだろうか。
 いや、それよりももっと大切なことがあった。
 絶滅人類史のディアボロスは、『永遠存在(イデアロゴス)』に対し、何と言った? 『クロノヴェーダ』という概念は、もともとは、彼らの為に造られたもの。彼らを、『永遠存在(イデアロゴス)』を、絶滅人類史のディアボロス達は『クロノヴェーダ』と言い、その一方で『外宇宙のディアボロス』と言ったのだ。
「私の認識では、クロノヴェーダは『刻逆』によって発生した存在のはず……です」
 だが、『永遠存在(イデアロゴス)』こそが、クロノヴェーダと言うならば。
「貴方たちが『永遠存在(イデアロゴス)』をクロノヴェーダと呼び、そしてディアボロスとも呼ぶならば……私達の知る『真の敵』は、クロノヴェーダにして、ディアボロス……なのですか?」
 胸の内の何かが叫ぶ。その二つは、同時に存在しない。存在してはいけない。二律背反。矛盾。そのように、交わるべき言葉ではない。その筈だった。
 華楠の問いに、女性ディアボロスが是と頷いた。
「まず、『クロノヴェーダ』についてですが、その名は『歴史を改竄する侵略者』という意味があります」
 そのため、絶滅人類史のディアボロスにとって『永遠存在(イデアロゴス)』は、その歴史を改竄して侵略した『クロノヴェーダ』でもあるのです、と彼女は言う。
「『クロノヴェーダ』が過去の歴史を改竄すると、世界の抵抗力が発生する」
 年配男性の声は、全てを語る覚悟に満ちていた。
「この抵抗力は『パラドクス』となり、歴史を、世界を奪われた怒りと復讐心を持つ人間に宿る。――それが、『ディアボロス』だ」
「だから、『クロノヴェーダ』である『永遠存在(イデアロゴス)』の歴史改竄によって生まれた存在の僕らは、『ディアボロス』となるわけだ」
 そして、と観測者は頭を振った。
「『クロノヴェーダ』は『歴史を改竄する侵略者』を指す言葉なので、極端な話、君達『ディアボロス』がパラドクスを使い『過去の歴史を改竄』しようとした場合、君達が、その歴史の住人から見た『クロノヴェーダ』となる場合がある、ということだ」
 それが、先の華楠の問いに対する答えだった。
 絶滅人類史のディアボロス達は断言したのだ。ディアボロスでありクロノヴェーダである存在はありうる、と。
「……たとえば」
 華楠は目を見開き、喉を動かす。唾を飲み込みたかった。だが、乾ききった口内に、潤いは一切無く、嚥下の動きが白い喉を震わせるのみだった。
「たとえば、その歴史の住人の命を全て捧げて、何かを為そうとした……とか、ですか?」
 歴史にもしもは無い。だが、とも思う。もしもあの時、別の決断が生じていたら。
 蛇亀宇宙リグ・ヴェーダの最期。あの時、断片の王シヴァの願いを聞き届け、生贄砲を放っていたならば。――蛇亀宇宙リグ・ヴェーダの住人から見れば、最終人類史のディアボロスもまた、世界を侵す存在となっていたのか。
 脳裏に声が響く。ある歴史侵略者の滅びと共に終焉を迎えた世界があった。その世界の住人は、確かに自動人形や淫魔達を侵略者と見なしていたが、滅びの引き鉄を引いたモノをクロノヴェーダと呼ぶのならば、それはまさしく――。
 それ以上はダメだ。
 嘔吐こうとする喉を無理矢理押さえ込み、華楠は言葉を紡いだ。
 まだ聞くべきことがある。その一念のみで自身を立ち直らせた彼女は、乾いた声で問うた。
「教えてください。私達はネメシス形態という力を使えます。それは、その真の敵由来の力と聞きます。そんな力を……何故、私たちが使えるのですか?」
 華楠の言葉に、年配のディアボロスは静かに言った。
「ネメシス形態とは、『自分自身の過去を改竄』して、より強力な力を持つ存在に変化させることだ」
 彼の言葉に、華楠はあっと呟いた。
 それは先に、彼が口にした内容そのままであった。必要に応じて躊躇いも無く過去を改竄し、必要な物を生み出す。或いは存在させる。その力は――。
「そう。ネメシス形態は、『永遠存在(イデアロゴス)』と同じ力なのだ」
「君達が戦ってきた『クロノヴェーダ』が、元の人間から大きく変化していたのも、根幹は同じだ。クロノヴェーダの断片の王や、一部のジェネラル級達もまた、僕たちの仲間が『擬似的なネメシス形態』により、不可逆的な変化を遂げた姿だ」
 観測者の言葉は、翼の王の姿や、聖剣を携えた竜の勇者、狐耳の統率者、機械と融合したサイボーグ、はたまた化け物そのものとしか比喩出来ない彼らの容姿が、その賜物であることを示していた。
 つまるところ、ネメシス形態と呼ばれる『永遠存在(イデアロゴス)』由来の力を使用出来るのはディアボロスだけでは無かった。擬似的とはいえ、クロノヴェーダ達もまた、ネメシス形態の力を用いていた。それが真相だった。
 それよりも更に聞き捨てならない言葉を聞いた。聞いてしまった。華楠は焦燥のまま声を絞り出した。
「じゃ、じゃあ、私達の戦ってきた『クロノヴェーダ』は……」
 『永遠存在(イデアロゴス)』の歴史改竄によって生まれ出でた絶滅人類史のディアボロス達は、彼奴らへの対抗手段として人類史改竄術式『刻逆』を用いた。そして生まれ出でたクロノヴェーダ達が、――その首魁たる断片の王たちが、絶滅人類史のディアボロスの仲間達が変化した姿と言うのならば。
「君の推測通りだ。彼らは、ネメシス化した絶滅人類史のディアボロスだよ。もっとも、皆、排斥力によって殆ど忘れていただろうけどね」
 それこそが、最終人類史のディアボロス達が戦ってきた敵の正体であった。
成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​
効果1【勝利の凱歌】がLV2になった!
【平穏結界】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV2が発生!

ソレイユ・クラーヴィア
イデアロゴス、まるで自分達が宇宙の中心、真理であるかのような言い草ですね
事実だとしても、一方的な思想で蹂躙される未来は受け入れられません

イデアロゴスを倒す、その方策を考えたいです

イデアロゴスは過去を改竄する必要のある事態に直面しクロノヴェーダ化したと仮定して
彼らが襲撃したのは未来の地球だという点が気になります
文明を破壊する必要があるなら、いつの時代でも構わなかった筈なのに、何故未来なのか
もしかして、彼らが改竄できる過去の範囲には限りがあるのではないでしょうか

彼らが本当に改竄したい過去に触れられないが故に、強力なディアボロスとなる可能性のある外宇宙の知的生命体を徹底的に攻撃し地球のディアボロスを強引に誕生させた、とか

新宿島には人々の意志から生まれた時空を超える列車「パラドクストレイン」があります
もし仮にパラドクストレインでイデアロゴスがクロノヴェーダに為った原因のポイントへ乗り込むことができるなら、イデアロゴスの撃破や、事態解決の糸口になるのではないかと思うのですが可能だと思いますか?


「『永遠存在(イデアロゴス)』……」
 ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の呟きは静かな、しかし、確かな怒りを湛えるものであった。
「まるで自分達が宇宙の中心、真理であるかのような言い草ですね」
 プラトン哲学に於ける真の姿の意、イデア。
 古代ギリシャ、或いはキリスト教に於ける言葉の意、ロゴス。
 その二つを組み合わせた言葉を自称するならば、確かに彼奴らは己が存在を真理と定義しているかも知れない。
 ――そんな神気取りに虫唾が走る。ソレイユは彼奴らの存在そのものを唾棄した。
「もし、彼らの言葉が事実だとしても、一方的な思想で蹂躙される未来は受け入れられません」
「その通りだ」
 絶滅人類史のディアボロスは、深く首肯した。
「たとえ、彼らが正しい事を言っていたとしても、僕達は『復讐心』を捨てる理由にはならないんだ」
 その為に、僕達は『刻逆』を行った。震える観測者の言葉に、ソレイユは違和感を覚えた。
 だが、今はその言及の時では無い。彼は、その違和感を呑み込み、観測者へと言葉を発した。
「イデアロゴスを倒す、その方策を考えたいです」
「そうですね。貴方達最終人類史のディアボロスが、それを成す可能性が最も高い存在でしょう」
 期待に満ちた女性の声は、しかし、と年配男性の言葉によって打ち払われる。
「イデアロゴスと戦う為には、彼らと同じ土俵に立たなければならない。――逆説連鎖戦はその最初の一歩となる」
 だけど、と観測者が言葉を引き継ぐ。
「だけど、僕達の逆説連鎖戦は、まだまだ未熟だ。僕達が1つの未来を改竄している間に、イデアロゴスが2つの未来を改竄するのならば、勝負にもならないのだから」
 ……成る程、と思った。
 逆説連鎖戦とは、ディアボロスとクロノヴェーダによる時間、空間、世界法則を書き換えながら行う、曰く「常軌を逸した戦い」のことだ。それは即ち、歴史そのものの改竄を行いながらの戦いだったのだろう。
 ソレイユ達が経験してきた戦いですら、まだ入門。
 それを凌駕する戦いを行わなければ、相手にすらならないと言う。それがイデアロゴスと直接対峙した彼らの実感なのだろう。
「イデアロゴスを倒すには、地球が持つ、あらゆる可能性の全てを集約する必要があるだろう。その力を得る者こそが、《戴冠の戦》の勝者なのだ」
 絶滅人類史のディアボロス達が言うものこそが、勝者の得る何か――勝者に与えられる力なのだろうか。
「ところで、気になることがあるのですが、伺っても宜しいでしょうか?」
 イデアロゴスに勝利するための切欠は、もしかしたら些末な疑問を晴らすことで得られるかも知れない。
 ふと浮かび上がった疑問をソレイユは口にした。
「イデアロゴスは過去を改竄する必要のある事態に直面し、クロノヴェーダ化したと仮定した場合、彼らが襲撃したのは未来の地球だという点が気になります」
 文明を破壊する必要があるなら、何時の時代でも構わなかったはずだ。
 何故未来なのか。
「もしかして、彼らが改竄出来る過去の範囲には限りが有るのでは無いでしょうか? そして、新宿島には『パラドクストレイン』があります! 仮にパラドクストレインでイデアロゴス達がクロノヴェーダになった原因のポイントに乗り込めるならば、イデアロゴスの撃破や事件解決の糸口になるのではないかと思うのですが――」
 仮説ではあったが、それを打破する力が自分達にはある。時先案内人の予知、そしてパラドクストレイン。その二つはイデアロゴスとの戦いに役立つ筈だ。
 ソレイユの主張に、観測者は僅かに首を傾げ、そして言った。
 その言葉には、何処か苦笑じみた響きがあった。
「未来、か。僕たちから見れば『現在』だけど、そうだね。確かに君達から見れば『未来』だね」
 観測者の言い回しに、ソレイユはあっと声を上げてしまう。
 そうだ。ここへはパラドクストレインに乗ってきたわけでは無かったので認識が薄かった。
 この絶滅人類史もまた疑似とは言え改竄世界史なのだ。最終人類史と異なる年代である可能性もあると、今、彼は思い至ったのだった。
 つまり――。
「『刻逆』の儀式が行われたのは『2027年8月』で、確かにこれは君達から見て、未来の時間になる。この日付は、刻逆の儀式を行った日付で、イデアロゴスによって、ディアボロス以外の地球人類が滅ぼされた日付だよ」
 未来世界――。
 改竄世界史暗黒世界蝦夷共和国と同じく、絶滅人類史は、最終人類史から見れば未来なのだ。
「待って下さい!」
 ソレイユは声を上げた。
 確かにその兆候はあったし、あの映像を見せられた。そして何より彼らがそう名乗った。だからこそ、心の何処かで理解していた。それでも尚、その決定的な単語を認識したソレイユは声を上げてしまう。
「……ディアボロス以外の地球人類が滅ぼされた?」
 あの翼の王は言った。
「ところで『絶滅人類史』と名乗ったのですか? 自虐的ですね。いえ、自覚的でしょうか……」
 と。
 つまり、そう言うことなのだ。
 絶滅人類史に一般人はいない。全て滅ぼされてしまった。
 だからこそ――逆説的に、だからこそ、彼らは世界を塗り替える――一般人を犠牲にする『刻逆』の使用を躊躇わなかった。躊躇うべき相手が存在していなかったからだ。
 それが先程の違和感の正体だった。
 自分達の思想の押しつけは『刻逆』も同じだろうと感じた。歴史侵略者に侵略される世界を生み出す事は、苦しむ人々を生み出す行為でもあった。
 だが、それでも、人々は生きている。生きて未来を織りなせる。
 如何なる形であっても、生存し、そして、いずれかの改竄世界史が勝利すれば、犠牲は無かったことになる。――是非は兎も角、復讐者達もそれを知り、奪還した大地に人の帰還を行っている。イデアロゴスの襲撃さえ退けられれば、絶滅と言う未来は避けられる。
 だから、彼らは刻逆を用いた――否、刻逆に縋ったのだ。
 それしか、地球人類を滅びから救う方法が無かったから。
 たとえ、過去に多大な影響を及ぼしても。
 そこに僅かな可能性しか残されていなかったとしても。
 それだけが、未来を救う唯一の方法だったのだから。

 ソレイユの沈黙を、会話への督促と受け止めたのか。絶滅人類史のディアボロス達は言葉を続けた。
「『刻逆』の儀式の大きな目的は、イデアロゴスが地球に縁を繋いでしまう『直前』に介入し、イデアロゴスに改竄されない『歴史』の流れを作る事だった」
「だから、多くの改竄世界史は過去の歴史を始まりとしていました」
 それが刻逆の本意ならば、とソレイユは疑問を浮かべた。
 最終人類史の始まりの年代もまた、理由があったのだろうか?
「何故、君達の最終人類史の始まりが『2021年8月』だったのかは、僕達にも判っていないけれどもね」
 彼の疑問に、観測者は僅かに首を振る。
「僕達の認識では『2021年8月』に、特別な大事件を認識してはいない。だけど、君達最終人類史がそこから始まったとするならば、このタイミングで、イデアロゴスと縁が繋がる『何かしらの出来事』があったのかもしれないね」
 それ以上は彼らの知識には無い。
 排斥力による阻害では無く、事実としての文言に、ソレイユは頷くのみであった。

 僅かな沈黙が支配する。
 それはソレイユの受けた衝撃の大きさを物語っていたが、しかし、沈黙を保っていても仕方ないと、観測者は言葉を続けた。
「あと、イデアロゴスに文明を破壊する意図は無かったと思うよ」
「文明を破壊する意図はなかった、ですか?」
 あの地球人類を滅ぼした隕石の攻撃が――イデアロゴス曰く、『善意』からなるあの行動が文明を破壊する意図が無かったと言うのか?
 震える声のソレイユに対し、他の絶滅人類史のディアボロス達もまた、観測者と同じく肯定の意を示した。
 ――何処か、嘆息じみた動作を感じるのは、彼らもまた、ソレイユと気持ちは同じだからなのだろう。
 それでも事実は事実だと、観測者は告げる。感情で情報を曇らせることは出来ないと、絶滅人類史側もまた必死なのだろう。
「イデアロゴスは僕達ディアボロスが持つ情報は破壊しようとしなかったから。文明を破壊するならば、僕たちを滅ぼさない理由はなかったからね」
「まさか?」
 先にあれは攻撃でなく、イデアロゴスにとって『絶滅人類史のディアボロスのために』必要な作業だった、と彼らは語った。
「つまり、あの隕石は、パラドクスの類いでは無く……」
「ただ、彼らの引き起こした現象だったのだろうね」
 たとえば、ソレイユは秋風の旋律を呼び、相手が老いさらばえ朽ちていく様を幻視させるパラドクスを有している。だが、そのパラドクスを用いなければ、ソレイユが音楽を奏でられないと言うことは一切無い。そして、音と言う空気の振動を増幅し、何かに叩き付ければ、破壊を成す事も出来る。
「あの隕石の……パラドクスに依らない攻撃を以て、イデアロゴスは絶滅人類史の地球人類を滅ぼしたんですね」
 パラドクスに依らない攻撃を行ったのなら、理由は明白だ。
 イデアロゴスは無数の隕石を地球に降り注がせ、ディアボロス以外の地球人類を滅ぼしたのだ。
「何のために?」
「判らない。でも、もしかしたら、彼らなりに意味がある行為だったのかもしれない」
 如何に理由があっても、そんな事は赦せない。それは彼らに更なる覚悟を抱かせるほど、強い怒りだったのだろう。
「ですが、ディアボロスを残し、一般人を滅ぼすことに何の意味があるのでしょうか? ……いえ、もしかして……」)
 刹那、思考が加速する。
 それは、彼にしてみれば突飛な思考だった。だが、彼奴らがクロノヴェーダであるならば……とそれを続けてしまう。
 たとえば改竄世界史。
 クロノヴェーダの侵略に対し、世界に抵抗力が――パラドクスが生まれ、ディアボロスが発生する。だが、その世界が改竄世界史――ディヴィジョンと言う世界に昇格するためには、ある条件が必須だった。
 それは、ディアボロスの存在を消すこと。
 多くの改竄世界史はクロノス級クロノヴェーダを用いて、ディアボロスの存在そのものを排除。それを以て改竄世界史を確立させた。
 クロノヴェーダを全て処刑したと錯覚させ、ディアボロスから復讐心を奪った『火刑戦旗ラ・ピュセル』、そして、幸福によってディアボロスを存在させなかった『暗黒世界蝦夷共和国』と言う例外はあったものの、共通して言える事は、ディアボロスが存在していては、改竄世界史は確立しなかった、と言うことだ。ディアボロスと共存を選んだクロノヴェーダの世界は、改竄世界史として確立出来なかった話もあった。それはこの事象への証左に思えた。
 もしも、同様に。
 何かを成すために一般人を全滅させたならば?
 だが、その思考は即座に途切れてしまう。
 観測者が声を上げたからだ。
「それと……パラドクストレインだったっけ? それは多分『ディヴィジョンの繋がりを辿って移動する権能が、可視化されたもの』だね」
「おそらく」
 ソレイユの知る限り、その権能を前面に押し出した改竄世界史は無かった。一部、持ち合わせているクロノ・オブジェクトはあったし、彼の理解の範囲外には存在しているのかもしれない。ともあれ、パラドクストレインのような頻度で出現、或いは存在していれば、もっと目に付いたはずだ。
「列車か。おそらく、その形を為しているのは、『最初の最終人類史の人々の認識』が影響を与えたのだろうな」
 新宿駅は、世界で最も乗降客数の高い駅である。移動する権能が電車の姿をしていたのも、必然と言えば必然であったか。
「だが、それでも、難しい。いえ、無理でしょうね」
 女性ディアボロスの言葉に観測者も同意見か。こくりと首肯を示した。
「そのパラドクストレインで出来る事は『刻逆で生み出されたディヴィジョンのうち、最終人類史と縁が繋がったディヴィジョンの情報を得たり移動したりする』事ですからね。貴方達と縁の無いイデアロゴスの過去に介入する事は不可能です」
 繋がりを経て、初めてパラドクストレインでその改竄世界史の中へ向かえるようになる。それが復讐者達の攻略指針であり、限界であった。
 その事実を認識すれば、今のパラドクストレインでイデアロゴスの元へは疎か、その過去へ向かうことも出来ない。それもまた事実だ。
「そもそも、イデアロゴスは自分達の過去を改竄しているのだから、歴史を改竄する力でイデアロゴスを上回らない限り、彼らの歴史を改竄することは不可能だろうね」
「……方法はある、とだけ理解します」
 どの様な困難な道だろうと、今まで辿って来て、そして、踏み越えてきた。
 それしか方法が無いのであれば、また突き進むのみ。
 それが、彼の覚悟でもあった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【動物の友】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!

一ノ瀬・綾音
なんとなく眺めていたけど、気になることがある。
さっきから何度も出てきている排斥力についてだ。
そもそも断片の王やクロノヴェーダ達は排斥力を気にしていた。排斥力を意識し、他のディヴィジョンが乱入しないようにとかしてきた。
そして断片の王達は元は君達の仲間だった……なら排斥力とはそもそも何なのかを熟知してるはずだし、排斥力の影響を受けない方法を君達は知っているはずなんだ。
けど、君達は現に排斥力に蝕まれている。それが少し違和感を感じるんだ。
もしかして、排斥力ってのは君達絶滅人類史のみんなが『定めた』ものとかではないってこと?だとしたら……それを定めたのは一体誰?それこそ、イデアロゴスなの?
もしくは君達が定めたのなら、どうしてそれを自ら破ってまで動こうとするの?それも全てをかけた復讐のためなの?

綾音ちゃんは――私は、リグ・ヴェーダのアガスティアちゃんが悟って終ぞ綾音ちゃん達に伝えられなかったことを、彼のためにもちゃんと知りたい。

今一度、私は根本的なところを問いたい。
排斥力って――何なの?


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
ここまで話してくれたあなた方の覚悟を見た
俺達も覚悟を見せる時だ

端的に、『永遠存在』に対抗するために、何ができるのか

俺達に断片の王はいない
だが、最終人類史のディアボロスにしかない特殊性を持っている
それを活かすのが勝利の道ではないかとか考える

『感情エネルギー』について
神像の心臓に蓄積された信仰心のエネルギーや、燐寧さんの応援度の資料も見て頂こう

俺達は人々の応援や奪還への意思で強くなっている
戴冠の戦の後、復讐の対象を歴史侵略者から、永遠存在や滅亡そのものに切替えることはできるかもしれないが⋯⋯

そうじゃなくて
前向きな感情エネルギーで、人々からの協力を得て、ディアボロスを強化することはできないか?

新宿島の過去、あるいは北米のイレギュラーから永遠存在との縁を手繰る事ができるのかもしれない
それでも、敵は強大なのだろう

複数の感情エネルギーを、ディアボロスの強さとすることはできないかな?
絆や希望に手応えはあったけど完全ではなくて
最終人類史の人々、皆で向き合うことはできないかな
これは、地球の未来の問題だから


「気になる事があるんだ」
 そんな声を上げたのは、一ノ瀬・綾音(色彩に溢れし少女・g00868)であった。
 何かな? と応じる絶滅人類史のディアボロス達に、彼女は問うた。
「さっきから何度も出てきている排斥力について、聞かせて貰って良いかな? ――結局のところ、排斥力って何なの?」
「ふむ」
 数々の断片の王、そして歴史侵略者達。それらが何度も口にした単語。それが排斥力だ。同じような台詞は目の前の絶滅人類史のディアボロス達も述べていた。
 故に――綾音は尋ねた。排斥力とは何か、と。
「もしも、排斥力が『刻逆』の副産物だとすれば、貴方たちが蝕まれているのは変だ。逆に何らかの作用――イデアロゴス達が生み出したり定めたりした力なら――それを正しく知ることは、綾音ちゃん達には必要なことだと思う」
 蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ奪還戦。綾音と対峙した聖仙アガスティアは何かを悟り、そして苦しんでいた。ディアボロス達に何かを伝えようとし、それを阻んだ力こそ排斥力であるならば、彼女の疑問は一点に集中する。
 そう。彼女達は理解している。全てを告げることで、絶滅人類史のディアボロス達は消される可能性がある。それを為すものが排斥力ならば、そこまでの力を持つ排斥力とは一体何なのか。
「排斥力は、『歴史を改竄しようとする者を排除して、元の歴史に復元しようとする』力だよ」
「――所謂歴史の修正力、と言う奴か」
 観測者の言葉に納得の語句を零したのは、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)であった。
 つまりそれは、と彼は言う。
「パラドクスがクロノヴェーダに対して生まれた抵抗力なら、歴史改竄そのものに対する抵抗力や修正力が排斥力、と言う事か」
「ああ。だから勿論、我らが定めた物でも無い。無論、イデアロゴスのそれでもないのだ」
 クロノヴェーダの歴史改竄に対し、怒りを覚えた者がディアボロスとして覚醒するように。
 排斥力もまた、歴史改竄に伴う現象、世界の摂理の一つということなのだろう。
「ただ、『元の歴史』は『最終人類史』だけではない、と言うところが利点であり、厄介かもしれないね」
 つまり、『改竄が完了した歴史』も含まれるようだ。成る程。改竄が完了してしまえば、確かにその世界こそが『元の歴史』だ。
「だから、ディヴィジョンの防衛に使えた訳か……。断片の王達は、排斥力を熟知し、それを活用して……いや、んんん?」
 考え込む綾音に、観測者は僅かに身動ぎする。どうやら、微笑したようだ。
「そうだね。断片の王達が排斥力に関して、完全に熟知していたかと言えば、それは違うと言わざるを得ない。確かに『排斥力の仕組みを予め知っている』ことは、『歴史を改竄しようとする者にとっては大きな武器』となるだろう。だが、大きな武器を持てば、それだけ『排斥力が強く』働く。そして、『排斥力』が強くなり過ぎれば、歴史への介入そのものが出来なくなる」
「……つまり?」
「断片の王が『排斥力の仕組みを完全に熟知』していたならば、排斥力の影響を強く受け、歴史に介入出来ず、ディヴィジョンを成立させることも不可能となっていただろうね」
 観測者の言葉に、綾音とエトヴァは「あ」と同時に声を上げた。
 その瞬間、二人が想起したのは、翼の王――偶発的に多くの記憶を取り戻してしまった改竄世界史TOKYOエゼキエル戦争の断片の王、ヘルヴィムの姿だった。
 排斥力と思わしき槍に貫かれた彼は、ついぞ、ディヴィジョン成立後の断片の王に至れなかった。記憶の復活により排斥され、滅び掛けた為に。
「……成る程」
 成る程ね。成る程な。二人の呟きに、観測者は首を縦に動かした。
「勿論、『刻逆』そのものも排斥力との戦いでもあった。各々の断片の王達は排斥力を突破出来る程度に、『残す知識を制限する』必要があった」
「だから、『排斥力のせいで』忘れてしまうわけか」
 歴史を改竄する――即ち、歴史そのものに介入するには当然ながら、歴史の知識が多ければ多いほど良いし、そもそも改竄のルールを熟知していた方が良い。だが、それが過ぎれば排斥力によって、参加権そのものを失うのは、何処か皮肉めいてるな、とエトヴァは微苦笑した。
「たとえば、人類史を罪悪感なく改善する為には、自分が人間であった記憶は捨てるべきだとか、或いは、最終的にクロノヴェーダ同士で戦う使命や、《七曜の戦》の発生時期などは記憶しておく必要がある、だとか、ですね。『刻逆』決行前、検証に検証を重ねた結果、目的を達成し、勝利を目指す為のギリギリ持ち込めるベストな知識の組み合わせは考えられていました」
「多くの断片の王は、その基本的な組み合わせをベースに、いくつかの『知識』を持ち込んでいる。持ち込む知識に自分なりのカスタマイズを行っている者もいたようだけど、それは自分の作る予定のディヴィジョンの、戦略に基づくものだね」
「我々には、『どの種族が、どの様な戦略をとれば最強に至れるか』の予測は不可能であった。だから、制限下で可能な範囲で、どの様な知識を残すかの最終決定は本人任せとなったのだ」
「……同じ断片の王なのに、知識に偏りがあったのは、そのせいなんだね」
 全てを知っていたと思わしき平安鬼妖地獄変の断片の王『安倍晴明』の様な者もいれば、全く《七曜の戦》の知識の無かった妖精郷のクロノヴェーダ、フローラリアの王ダーナもいた。そして、巨獣の王キングゴンドワナに至っては知識が、否、知能があったかすら不明だった。
 ともあれ、おそらくあれらも、各々の戦略に基づいた取捨選択の結果だったのだろう。
「……確かに、知識のあった安倍晴明は個として弱く、逆にキングゴンドワナは強かったか」
 エトヴァの言葉に、綾音もこくりと頷いた。
 キングゴンドワナ程でもないにせよ、知識の薄かったダーナは、生贄砲というとんでもないクロノ・オブジェクトを早々に準備出来ていた。それらはきっと、排斥力に対する姿勢の違いによって齎された賜物だったのだろう。
「排斥力を弱める試みは為したし、方法はあった」
 一つはこの南極地点だと、観測者は言った。
「この場所は、排斥力の影響が少ないように調整している」
「完全に無い、と言うわけじゃ無いんだね」
 綾音の微苦笑に、観測者は頭を振る。
「残念ながら、それはキミ達の知る限りだよ」
 身体を砕きながら、復讐者達へ言葉を伝えた観測者の姿は、未だ、記憶に新しい。
「そして次に、この『防護服』です」
 と、女性の声が追随した。
 宇宙服を想起させる防護服そのものも、排斥力の影響を受けにくくする効果がある、とのことだ。
「だが、当然ながら、これらの知識もまた、排斥力の影響を大きく受ける。故に、断片の王になる者に、防護服を着せる等の処置を行う事は適切では無かった」
 そもそも、歴史改竄にさえ成功してしまえば、改竄後の歴史こそが『元の歴史』になる。排斥力を弱める意味合いは薄かったとも言えよう。
「じゃ、じゃあ……」
 綾音の疑問に、観測者は是と頷いた。
「イデアロゴスも当然、排斥力の影響を受けるだろうし、受けているはずだ」
 もっとも、との呟きには何処か、嘆息の色が混じっていた。
「もっとも、彼らは歴史を改竄する力が余りにも強いから、僕たちほど影響は受けないだろうね」
 自身の手足を動かすように歴史を改竄するのがイデアロゴスと言う存在ならば、自分達の歴史を元の歴史と改竄するのは容易い、と言う訳だろうか。
 狡いなぁ、と綾音は唸る。だからこその真の敵なのだ、と言われれば、それはそうだなぁ、と言う諦観の溜め息が零れてしまう。
 彼女に共感したのか、観測者からも同じような吐息の声が零れた。
「……大丈夫なのか?」
「イデアロゴス相手に排斥力が使えるか、って言う点ではYESだし、それが大地を揺らすような大軍の前に蟻が立つような物かと言われれば、それもYESなんだよね」
 エトヴァの問いに返る答えは微苦笑混じりに。
 観測者の言葉に、エトヴァはそうじゃない、と首を振った。
「排斥力の影響は貴方たちを蝕んでいる筈だ。ここまで語る負担も、並大抵の物じゃないだろう?」
「…………」
 観測者は、否、絶滅人類史のディアボロス達は彼の言葉に押し黙る。
 だが、と、彼らは一様に首を振った。
「それが我々の役割だ」
 一点の曇りもない言葉だった。覚悟の決まった声だった。
 だからこそ、エトヴァは静かに語り掛けた。
「端的に聞こう。イデアロゴスに対抗する為に、何が出来るのかを。――俺達は、最終人類史のディアボロス達は何をすればいい?」
「ストレートな物言いは好ましいよ」
 彼の決意を受け止めた観測者は、両手を広げて声にした。
「確実に行うべきは《戴冠の戦》に勝利し、全てのディヴィジョンを統合することだ」
「俺達に断片の王がいなくとも、か?」
 最終人類史に断片の王はいない。それは断片の王を中心として成り立つ他の改竄世界史にはない特異の状況で、そして、それこそが最終人類史の特殊性だと、エトヴァは語る。
 観測者は是と頷いた。
「イデアロゴスと戦うのに、断片の王は必須ではないよ。実際、僕たち絶滅人類史のディアボロスにも、断片の王はいなかった」
 断片の王が――クロノヴェーダの首魁が『刻逆』の儀式で生まれた存在であるのならば、確かに絶滅人類史に断片の王がいないのは、頷ける内容だった。
 そもそも、と年配男性が言葉を引き継いだ。
「断片の王とは、『改竄世界史――ディヴィジョンを成立させる為の核』として、『刻逆』の為に、ディアボロスが変化したもの」
「よって、イデアロゴスにも、断片の王はいないと思われますよ」
 刻逆によって生まれた存在ならば、それは正しいのだろう。
 ならば、と綾音が尋ねた。
「……つまり、もしも最終人類史がディヴィジョン落ちしたら、断片の王が生まれるってこと?」
 彼女の言葉にああ、とエトヴァは呟いた。
 ディアボロスもクロノヴェーダと成り得る。それは先程、観測者達の語った通りだ。
 卵が先か、鶏が先か。それは判らないが、改竄世界史落ちした最終人類史には、断片の王が生まれてしまうのだろう。
 即ち、断片の王が存在していない今は、改竄世界史落ちしていない何よりの証拠でもあるのだ。
 そうだね、と言葉にした後、観測者は二人に向き直る。
「僕達がイデアロゴスに勝利出来なかった理由は『時間への干渉力』、つまり、パラドクス能力の差だよ。断片の王の有無じゃない」
 観測者の声は自虐的な響きを帯びていた。
「『時間への干渉力』を持つものから見れば、時間に干渉出来ないものは赤子にも等しい。そこに生まれる戦力差は圧倒的なものだ。逆説連鎖戦を使えない存在が、君達の相手にならない。そう言う事だよ」
 一般人はどうやってもクロノヴェーダやディアボロスに勝てない。
 それは歴史を書き換える逆説連鎖戦あってのことだ。
「僕達もディアボロスだから、逆説連鎖戦で戦う事が出来る。一般人がどんな兵器を使ってこようが、負けることはありえない。……だけれど」
 だが、イデアロゴスにとっては、絶滅人類史のディアボロスなど、絶滅人類史のディアボロスから見た一般人程度に過ぎなかったんだ、と観測者は続けた。
「僕達が逆説連鎖戦で紡いだ一つ一つの行動に対して、更なる逆説連鎖戦を仕掛けて無効化して来るような状態だ。それほどの差があったといえば、判るだろうか?」
「判りづらいが、まあ、理解した」
 たとえば反撃にすら反撃を重ねてきたり、攻撃回数そのものを増やしたりと言ったところだろうか。或いは――パラドクスにすら、一般法則破壊が成立するのかもしれない。
 確かにそれでは戦いにすらならない。
「そうか。つまり、『刻逆』の儀式の目的は……」
「そうだよ。『刻逆』の儀式は、他の全てのディヴィジョンを統合した《戴冠の戦》の勝者が、イデアロゴスに対応しうる『時間への干渉力』を得る為の儀式だったんだ。勿論、キミ達『最終人類史のディアボロス』であっても、《戴冠の戦》に勝利すれば、その力を得られる筈だよ」
「そうか。だから勝者を生み出す儀式、か」
 まるで世界を壷にした蠱毒だな、と思った。
 それを経て尚、ようやく、イデアロゴスと対抗出来るのか、と嘆息すら零れてしまう。
「『時間の干渉力』を手に入れることは理解した。だけど……おそらくそれは、それを以てしてようやく、イデアロゴスと渡り合える、といった物なのだろう?」
「……そうだね」
 ようやく対等、否、同じ土俵に立てると言っただけだ。その事を絶滅人類史のディアボロス達も認識しているのだろう。エトヴァの言葉にこくりと頷く。
「だから、もう少し足掻きたい。せめて推論上で五分五分くらいにならないと戦えないだろうからな。だから、俺達は最終人類史にしかない特殊性を生かしたいと思う。それが、勝利に繋がる道ではないかと思うんだ」
 そして、彼は問うた。
「感情エネルギーとか、かな」
 言葉を句切り、エトヴァは持参した資料を提示する。神像の心臓に蓄積された信仰のエネルギーもその1つで、仲間からも円卓や人類応援度の資料を借り受け、絶滅人類史のディアボロス達へと提示した。
「『感情エネルギー』か。言い得て妙だな」
 それら全てを見聞したディアボロスは、ふむ、と頷いた。
「『感情エネルギー』とは、言い換えれば『歴史を進めるエネルギー』に他ならない。信仰、畏怖、恐怖。歴史を進めるエネルギーとは、常に人の感情なんだ。この『歴史を進めるエネルギー』を力とすることが出来るのも、時間を操る存在の証とも言えるだろう」
「……だから、クロノヴェーダは感情エネルギーを糧にする存在となったのか?」
 信仰や畏怖、恐怖と言った原始的な感情は元より、たとえば人は己が忌み嫌う物を消そうと科学を発展させてきた。最終人類史の夜は光に溢れ、病の大半を治癒する医療技術がある。戦いも科学の発展を促し、歴史を進めてきた証左だろう。戦乱、戦争、海戦、そして国や自身、誰かを守ろうとする守護の想いもまた、そうであった。
「感情エネルギーを強化する術があれば聞きたい。俺達は人々の応援や奪還の意思で強くなっている。《戴冠の戦》の後、復讐の対象をクロノヴェーダから、イデアロゴスや滅びの未来そのものに切り替えることは出来るかもしれないが」
 彼は、自身の真意を述べた。
「復讐では戦えないと思っている。前向きな感情エネルギーで、人々からの協力を得て、ディアボロスを強化することは出来ないか?」
 《戴冠の戦》が終わり、全てのクロノヴェーダに勝利した暁には、復讐の感情が消え失せるのではないか。
 そう心配する仲間がいたのも事実だ。
 エトヴァの言葉に、観測者は否、と断じた。
「ディアボロスが力を得る感情は『復讐』だけだよ」
 断定口調に、些か戸惑いを覚える。
「そうなの、か?」
 だが、考えてみれば、最終人類史のディアボロス達が持つ他の感情エネルギーも、地獄変や円卓、神像の神像と言った他の改竄世界史由来のクロノ・オブジェクトで、最終人類史の彼らが生み出した物では無い。それらを用いて他の感情エネルギーを得ることは可能だ。だが、それは置き換えに成功したとは言い難い。
「最終人類史の人々は奪還戦という『復讐』の代行を応援することで君達の不死性を強め、また彼らの『帰還』によって『復讐』の感情の総量が増えれば、当然ながら君達の力の上限は増す。そう言う仕組みだ」
 押し黙ったエトヴァに、観測者は更に語り掛けた。
「そもそも『復讐』こそが最も強く、ディアボロスが覚醒する理由にもなる『特別な感情』なんだ」
 思いだして欲しい、と観測者は想起を促す。
「唯一『復讐』のエネルギーを得る事が出来たジャンヌ・ダルクさんは、相性の差を覆せず敗北する事になったけれど、彼女達キマイラウィッチは、同時期に君達が戦った他のクロノヴェーダ種族よりも強かったよね?」
「……それは、確かに」
 自身もまた、幾度と無くキマイラウイッチと渡り合った。故に、彼は観測者の言葉に頷くしかなかった。
「多くのクロノヴェーダ種族が、『復讐』の力をエネルギーとしなかったのは、『刻逆』と相性が悪かったからに過ぎない。歴史を改竄するクロノヴェーダは、必然的にその『復讐』に現れるディアボロスと相対する側になる。それは、現れ出でる新たなディアボロスの強化にしかならないからな」
 全てがディアボロスと言う出自に関わらず、ジャンヌ・ダルク以外の断片の王が感情エネルギーに『復讐』を選ばなかったのは、戦略的な意味があったのだ、と年配ディアボロスは断ずる。
 それはそれで、とても理解出来た物であったが。
「勿論、人間の感情が『100%復讐で染まる』などという事はありません」
 別の絶滅人類史のディアボロスの言葉は、エトヴァの思いを補足する物であった。
「ですから、どんな『感情』であろうとも、その感情の『復讐』部分を力とする事は可能です。とは言え、喜びや楽しさといった、復讐から遠い感情では、引き出せる力は、かなり少なくなってしまうでしょうね」
 そもそもディアボロスの成り立ちが歴史侵略への対抗措置、即ち『復讐』だ。それは根幹の物なのだろう。
 代用した場合、ディアボロスの弱体化は否めない。純粋な『復讐心』の方が、より強い力を発揮出来る、と言うことなのだろう。
「確かに、どのような感情エネルギーでも、それを力にする事は不可能では無い」
 復讐を手放し、他の感情エネルギーをエネルギーとする道だって存在する。だが、それは存在すると言うだけだ。
「感情の量が同じであるのならば、ディアボロスは『復讐心』に近い感情であればある程、より強いエネルギーを得る事が出来る。残る時間を考えれば、イデアロゴスとの戦いには『復讐心』をより利用した方がよいだろうな」
 もしもイデアロゴスの存在がなければ、その道もあるかもしれない。年配ディアボロスの言葉は優しくも、しかし、その道を否定する文言でもあった。
「でも」
 エトヴァの感情を慮ってか。それとも別の理由か。観測者は静かに首を振った。
「無理に復讐心を掻き立てようとする必要はないかも知れない」
 感情エネルギーを高める方法は、何も搾取だけではない、と観測者は言う。
「それが一番手っ取り早い方法だからクロノヴェーダ達は実践したけど、君達はそれに流される必要はないよ」
 たとえば信仰。獣神王朝エジプトは、死者蘇生の奇跡や数多のクロノ・オブジェクトを以て、信仰と言う感情エネルギーを、信仰への質そのものを高めた。確かに人々は信仰を強要されていたが、それは量の問題だ。それは他の改竄世界史にはない特異性でもあった。
「だから、前向きな感情と言うならば……」
 復讐心を高める方法はある、と観測者は断じた。エトヴァが望む前向きな感情としてそれはあると、力強く言った。
「最終人類史の人々を愛し、大切に思って欲しい」
 それが復讐心を最も燃え上がらせ、イデアロゴスを滅ぼす力となる筈だから、と。
 真顔で――バイザー越しで見えないが、エトヴァと綾音はそう感じた――言い切ったのだ。『愛せよ』と。
 臆面も無く言い切った言葉に、是と頷く声が重なった。
 綾音だった。
「成る程ね。復讐にも色々な形があるもんね」
 害する事だけが復讐の行き着く先ではないことを、綾音は知っている。
 復讐対象より幸せになることもまた復讐であるならば、周囲を愛することは正にそうだな、とも思ってしまう。それは同時に『復讐心』を燃やし、満たす行為だ。
「イデアロゴスと戦う事になれば、君達も、最終人類史の人々も、すぐに『復讐心』で心を満たされる事になるだろうけどね。僕達と同じようにね」
「でも、そこに愛があれば、違うって言いたいわけだ」
 揶揄するわけでも嘲る訳でも無く、純粋に紡いだ綾音の台詞に、刹那、観測者は言葉を詰まらせた。
 それで気付いた。
 観測者達の言葉に込められた意図を理解し、エトヴァは微苦笑を浮かべた。
「俺達は『絶滅』の道を辿らない。貴方たちがその道を示してくれたからだ。貴方たちの『イデアロゴスに復讐したい』との思いも全て呑み込んで、俺達は未来に行くよ」
 結局のところ、絶滅人類史の目的はイデアロゴスの排除だ。それは理解する、との言葉であった。
「あ、そっかそっか。……観測者ちゃん。貴方、実は偽悪者だね」
 綾音はにかりと笑い、指を突き付けた。
「復讐心が薄れそうになったら『刻逆を使った悪役がここに居るから、それを思い出して』みたいな文言は受け付けないよ? 綾音ちゃん達はそう言うの、よく判るからね」
 確かに最終人類史の面々から見れば、絶滅人類史のディアボロス達は『刻逆を使用した』敵に違いない。だが、それをどう思うかは個人の自由だ。綾音の中にも怒りはある。だが同時に――押しつけられる怒りなんて、持ち合わせるつもりはない。それは希望に程遠い感情だ。
「……最後に聞いておきたい。イデアロゴスを倒せば、俺達に『復讐』する相手はいなくなる。そうなれば、どうなると思う?」
 復讐を使い、イデアロゴスを倒すところまでは良い。
 だが、その後、行き場を失った『復讐』はどうなるのか。最終人類史の人々を愛し続ければ、復讐を保ったままいられるのか。
 永遠に復讐を望む存在は、真っ当では無い。
 だからこそ、彼は違う感情を探したいと思った。その事実は揺るがない。
「判らない」
 観測者の言葉はにべも無かった。
「『永遠存在(イデアロゴス)』への復讐が達成されれば、ディアボロスの力は必要なくなるだろう。そうなった時に、どのように力を扱うかは君達の自由だ」
 力を失うわけではないと観測者は言外に言う。
 だが、絶滅人類史のディアボロスとしても、イデアロゴスを倒した先に到達したことは無い。本当に何が起きるかは分かり得ないだろう。
「僕たちはもはや守れぬものとして、人類史を捨てた者達だ。君達に何かを頼む権利など、持ち合わせていない」
 ただ、と観測者は言葉を続けた。
「『永遠存在(イデアロゴス)』以上の力を得たディアボロスが、力を保ち続けたならば、それは新たな『永遠存在(イデアロゴス)』へ至る道なのかもしれない」
 イデアロゴスは悪意無く、ただ理解不能な『善意』で絶滅人類史の人類を絶滅に追いやった。
「……望めるならば、僕は、君達に、そんな存在になって欲しくないな」
 それが観測者の抱く唯一の望みだった。

「まあ、先のことは判らないけどね」
 ぽつりと言葉にしたのは綾音だった。
「綾音ちゃん達は頑張るよ。だって、最終人類史のみんなを愛し、大切にすれば『復讐心』は強くなるし、クロノヴェーダの様に歴史侵略に結びつかない。イデアロゴスと同じ存在になっても、クロノヴェーダにならなければ、それは貴方たちの知るイデアロゴスじゃないんでしょ?」
 クロノヴェーダとは元々、イデアロゴスを指す言葉だと観測者達は言った。
 ならば、答えは簡単だ。イデアロゴスに至らない為には、クロノヴェーダに――侵略者にならなければいい。
「……そうだね。突き詰めて言えば、クロノヴェーダは人類に愛を持てなくなった存在だ。ただのリソース、資源としか思えなくなった存在だ。だったら、君達が心に愛を抱き続ければ、きっと」
「クロノヴェーダにはならない、か」
「どうだろうね」
 答えは分からない、と観測者は首を振った。
「俺達は、ディアボロスとして覚醒しない筈の人間がディアボロスに覚醒した例を知っている」
 自分達を送り出してくれた時先案内人を思い出し、エトヴァはぽつりと言った。
 もしかしたら、彼女に纏わる奇怪な縁はこの時の為に紡がれていたのかもしれない。そんな風にすら思えてくる。
「……ああ。彼女もまた、君達が『愛情を持って接した』末の結果かも知れないね」
 それが無ければ、彼女は疑似改竄世界史の崩壊で、命を失っていたはずだから。擬似改竄世界史に存在した数多の存在と共に終焉を享受していたはずだから。
 そして出自だけ言えば。
 彼女はクロノヴェーダとして、ディアボロスの前に立ち塞がっていても不思議はない存在だった。
 だが、実際はそうとならなかった。ディアボロス達の導きによって、彼女もまた最終人類史のディアボロスとして覚醒したのだ。
 今にしてみれば、それは、一つの結果だったように思える。
「俺は……いや、俺達は、俺達ディアボロスの、……いや、それも違うな。そうだな。俺達は、俺達人類の可能性に賭けるよ」
 それが、ディアボロスの辿ってきた道で、これからも辿る道ならば。
 『永遠存在(イデアロゴス)』に至る道など存在しない筈だ、と彼は断じた。

 世界が揺れる。
 それは、この会談の終焉を意味していた。
「……そろそろ、時間のようだね」
 観測者の言葉を、絶滅人類史のディアボロス達は首肯した。
 ふぅと息を吐いた観測者は、ヘルメット越しの視線をディアボロス達に向けると、力強く言った。
「君達は、僕たちの希望に間違いない。アーサー王が望んだ、彼を越える可能性であるのだからね」
 そして、その瞬間だった。
 エトヴァと綾音は目を見開いた。
 宇宙服のヘルメット越しの、その先のバイザーが開き、彼らが顔を開示したのだ。
「ちょっと?!」
「大丈夫なのか?!」
 大丈夫な筈がない。
 それらが絶滅人類史のディアボロス達の存在を保つ方法だと、先程彼らが述べた筈ではないか。
「と、とにかく、バイザーを下げようよ?!」
 瞬間、消滅するなんて嫌だよ、綾音が嘆願のように言うが、しかし、絶滅人類史のディアボロス達は首を振った。
 対し、大丈夫だよ、と観測者は微笑む。半透明な顔に刻まれた気丈そうな少女の笑みは、柔らかく、全てを果たしたという達成感に満ちていた。
 そう。バイサーの奥の顔は、誰もが半透明であった。あるいは……顔だけではなく全身まで及んでいるのだろうか。
 推測しか出来なかったけれど、それが観測者達……彼女達を蝕む排斥力だと理解出来た。理解してしまった。
「大丈夫、僕達は、もともと、刻逆の儀式の終了と共に消滅する幻のような存在なのだから」
 鋭い視線の年配男性の言葉が、観測者に続いた。
「この防護服が無ければ、排斥力に抵抗する事が出来ず、君達の質問に答える事は出来なかった」
「ですが、話を終えた以上、これから先、排斥力に反する会話を行う事はありません」
 真摯な目を向ける金髪女性の言葉に、エトヴァは刹那の疑問を浮かべる。
 それはこれ以上の会話が存在しないという意図なのか。それとも……絶滅人類史のディアボロス達が齎した知識が、最終人類史に組み込まれたから、なのか。
「そして、正当な理由が無いのならば、こんなバイザー越しで会うのは、マナー違反だろう?」
 思いの外長い前髪を揺らし、観測者は、笑う。
 無邪気にも思えるそれは、年相応の少女の様にも思えた。
「君達は君達の出来ることで最善を尽くしてくれ」
 年配男性のディアボロスはそう言って、最終人類史のディアボロス達を海へと送り出す。
「私達もまた、私達に出来ることを、これまで通りにしていくつもりです」
 女性のディアボロスの微笑は、決意と共に形成されて。
「そして、僕達が消えた後、僕達の希望である君達が、未来を造ってくれる事を祈っている……」
 それが、全てだと。
 観測者は手を合わせ、静かに言葉を紡ぐのだった。

 斯くして、ディアボロス達は南極の海へと――彼らの世界の海へと戻る。
 祈りは何処まで届くのか。彼らはそれを以て、帰路に就くのであった。最終人類史への帰路へと。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2026年06月05日