リプレイ
鳩目・サンダー
蹂躙戦記イスカンダルもやっつけたし、いい加減日本列島の土地も取り戻したいもんだ。
天魔武者を追い出したとはいえディアボロスは統治者って訳でも顔が利くわけでも無し、旅人を装って現地入りしようか。
で、
「自分は旅の者だが、化け物が出るという話を耳にはさんでおり先に進むのを躊躇している、ついては化け物を避けて進むためにいつ頃どんな奴が出るのか知りたがっている」と言う設定で行こう。
・化け物が出るという話をちらと聞いて、気にしている
・こういうのは山賊の気配だったりすることもあるので、流れ者であるあたしとしては聞き流して進むのは怖く、詳しい話を知りたい
・取り越し苦労ならそれはそれでいいんだ
てな具合か。
可能であれば現地の通貨をある程度準備はしときたいかな。
不可能なら……絵でも描くかあ。和紙と筆と墨と硯は持って行っておこう。
夏の最中だ、飲み物持って行こうっと。竹筒なんか使うと風流でいいかもね。
【友達催眠】はまあ、最終手段。思惑が外れていきなり疑いを持たれたら使う。
アドリブ、連携歓迎です。
●怪異の居場所、指し示す絵図
夕焼けがだんだんと夜闇に侵食されつつある黄昏時。
お喋りなどという不名誉ながら適切な渾名を持つ八兵衛は、誰からも話を聞いてもらえなくて気落ちしていた。
「腐っちまうなァ、ったくよお。あいつの目にゃ嘘はなかった。ありゃあ本当にバケモンが……」
「その話、ちょっと聞かせてもらえねえか」
独り言を呟いていた八兵衛は、声に一瞬、ハッとした。
顔を上げてみれば、そこには旅人らしき見慣れぬ者の姿があったのだ。
「あたしは旅の者だが、化け物が出るという話を耳に挟んでな。先に進むのを躊躇してる」
それは旅人に扮した、鳩目・サンダー(R-18フルカラーリアライザ・g05441)だった。
「そう、そうなんでさァ! ではあの森を? それゃ止したほうがいい」
「避けて進みたいところなんだがな。いや本当は山賊だったのが、伝わっていく内に化け物になっちまうなんてことはよくある。流れ者のあたしとしては、賊だとしても出遭いたくはねぇが」
「それが賊じゃねえみたいなんで。髑髏、そう、骸骨のナリした化け物ってやつでさ!」
ようやく話を聞いてくれる人が現れたので、八兵衛はその渾名の通りに話し始めようとしたが、
「げほっ、ああ喉がいがらっぽくていけねえ」
「水ならあるぜ」
サンダーはそこで携えていた竹筒を手渡した。水筒ではなく、この時代に適したものであるあたり、よく考えられている。
「あ、ありがてえ!」
八兵衛は、旅人であるというサンダーの言を疑いもしていない。
竹筒から新鮮な水を喉に流し込むと、人心地ついた八兵衛は、サンダーを家に案内した。
土間を抜けるとすぐ板の間という、よくある間取りだ。
「あっしが聞いたのは、狩りに出た奴からなんですがね。いや何処の村の奴かなんて聞かなかったんですが、二人組で東の森に獲物を取りに行ったらしいんでさ。で歩いてるうちに、そいつ暑気あたりしちまって。森の中の『静ヶ池』ってところでもう一人を待ってたらしく」
「池? あー、絵に描いたほうがよさそうだ」
そう言うと、サンダーは和紙やら筆やらを取り出した。旅人らしく、矢立のような筆記具一式である。このあたりの用意にも抜かりはない。
「この村から東に、だったな? で森に入って歩いて行くと静ヶ池と」
八兵衛の言う通りに描いていく。山裾の森は広く、確かにこれは、この男に話を聞かなければ場所の特定は難しかったに違いない。
「いやぁ上手いもんだ! ひょっとすると流れの絵描きかなにかですかい!?」
さらさらと和紙に地図を描いていくサンダー。その筆運びに、八兵衛は感心しながら、尚も続ける。
「で、池の畔で水飲んで待ってた奴が、仲間の悲鳴を聞いたらしいんでさ。目を凝らしてみると……森の奥、木々の合間に髑髏の化け物と、そいつに突き殺された仲間の死体が確かに見えたってんです。それで取る物も取り敢えず」
「逃げてきたってわけか」
もう少し仲間思いだったら殺されていただろうから、その狩人も幸運というかなんというか。敵はやはり烏合の衆らしい。
「もう二度とあの森には近づかねえって言って、何処かへ行っちまいやした。まあその前から俺は狩人やらがいなくなったって話はちらほら聞いてたんですがね。あいつら知らなかったみたいで」
「話、聞かせてくれてありがとうよ」
「いやこっちも誰かに話したくてこう、うずうずしてたんでさ。美味い水の礼が出来たなら、なによりってやつで」
家を辞去して歩き出したサンダーの背中に、八兵衛はぶんぶんと手を振った。
「旅の方、どうかお気をつけてェ!」
🎖️🎖️🎖️🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
ディアボロスの聞き込みが優れていたため、敵の居所を探しまわる必要はなくなった。
墨で描かれた地図を辿って山林を進み、静ヶ池という名の池に辿り着けば、敵の潜伏地点はもう間近だ。
――カチャリカチャリカチャリカチャリ。
――カタカタカタカタカタカタ。
骨の鳴る音が聞こえる。
夜になると、怪異は活発に動き出すらしい。
と言っても、その役目は哨戒や敵の迎撃くらいなもの。命ぜられていないことはやらないが、命ぜられれば自らの体など惜しみはしない――それが丑三つ刻の怪異・『白骨夜行』の在り方らしい。
だからこそ、仕留められたはずの狩人を見逃し、ディアボロスたちに居場所を知られてしまうこととなったのだが。
敵は居場所を掴まれていることに、まだ気付いていない。
もとより烏合の衆。敵は夜闇の中だが、壊滅させるなら、今だ。
鳩目・サンダー
八兵衛さんにはいい事を聞かせて貰った、有難い。
しかし……犠牲者が既に出ていたのも確定しちまったな。
一般人相手に逃げ隠れするなんてクロノヴェーダの頭にないだろうことは想像がつくが、潜伏者としては落第だ。
やらかしたことのケジメを付けてもらおうかな。
森に入って進んで静ヶ池、そこから見える更に森の奥に姿が見える、だったか。
描いた地図と突き合わせて居場所の当たりを付け、音を立てないよう気を付けながら骨の音を探り出す。
仲間と場所を確認の上、逃げ道を塞ぐように展開したい。
あとはせーので一斉に襲撃をかける。
使うパラドクスはエコーチェンバー。
3体同時に巻き込んでできるだけ効率的にダメージを与えていく。
逃げるような奴らでは無いだろうが、折角の不意打ちなんだ。手早く片付けちまおう。あとにアヴァタール級が控えてるんだ。
アドリブ、連携歓迎です。
伊藤・真九郎
巧みな聞き込み、見事でござった。
ここからは人手が必要であろう。助太刀仕る。
敵の潜伏地へと向かおう。
灯りの類いは用いず、【完全視界】で暗闇を見通し紛れる。
物音を立てず、気配を殺して近寄り、奇襲を図る。
妖怪変化の類いならば、蒸暑い夏の夜の一興と気晴らす事も出来ようが、得体の知れた天魔武者共の眷従ではそうもいかん。一掃してくれよう。
発見したら、物陰に隠れ隙を伺う。
仲間と合わせ攻撃を仕掛けよう。
遮蔽の陰から天魔単筒を構え、闇を見通し狙い定める。
【一射絶命】のパラドクスの威を込めた魔力弾を続けざまに放ち、片端から撃ち抜いてやろう。
反撃は呪いの槍か。魑魅魍魎何するものぞ。武者鎧の小札に仕込んだ護身符にて展開する防御障壁で軽減し耐え抜こう。
●闇に蠢くもの
真っ暗闇だ。
月明かりも、枝葉の天蓋に遮られて充分には届かない。
だが、その程度のことでディアボロスが困じる筈があろうか。
妖怪の居所を隠す闇の紗幕は、颯爽と森に降り立った若武者の手で、在って無きが如きものとなった。
「巧みな聞き込み、見事でござった」
駆けつけた伊藤・真九郎(剣客・g08505)により、完全視界の効果がもたらされたのだ。真九郎は、村人への聞き込みを最良の形で成功させた鳩目・サンダー(R-18フルカラーリアライザ・g05441)に労いの言葉をかけ、共に暗夜の森を行く。敢えて明かりを用いないという真九郎の配慮も、このような場合、実に適切だ。
「ここからは人手が必要であろう。助太刀仕る」
「一人じゃ流石に厳しいと思ってたところだ。感謝するぜ」
視界が確保されたため、地図を辿って目的地に向かうことも、より容易くなった。サンダーが絵師としての力量を発揮して描いた地図は、誰が見ても分かりやすいものだ。
「それにしても、八兵衛さんにはいい事を聞かせて貰った。有難い」
地図に時折目を落とし、サンダーは真九郎とともに慎重に進んでいく。森の中にすだくのは虫の音。動物のたてる物音も聞こえるものの、まだ怪しい気配は感ぜられない。
僅かな異状も逃さないようにと二人は気を張りつつ、時折、小声で言葉を交わしていた。
「妖怪変化の類いならば、蒸暑い夏の夜の一興と気晴らす事も出来ようが」
怪談や肝試しは、夏の暑さをしのぐ人間の知恵とも言えよう。
けれど、
「得体の知れた天魔武者共の眷従ではそうもいかん」
妖怪や幽霊などは人々を恐れさせるモノの定番だが、それらがなぜ怖いのかと言えば、得体が知れず、また容易に打ち払えなかったりするからだ。
「倒せる相手なら別に怖くもねえからな」
「まさしく」
「しかし……犠牲者が既に出ていたのも確定しちまったとはね」
「是非なきこと。然れどもこれ以上犠牲を出さぬようには出来る」
「そうだよな……」
八兵衛の話によれば、猟師の一人が、敵の凶刃にかかって敢えなき末路を遂げたとのこと。犠牲を出す前に何とか出来ればとも思ったが、それはサンダーの責任ではない。
けれど真九郎としても理解できることではあった。
犠牲など、ないに越したことはないのだ。
「多分このあたりのはずだ。池がある」
「なるほど此処が件の……」
「静ヶ池とか言うみたいだぜ」
やがて二人は、森の中にある池に辿り着いた。
時季によっては、蛍でも眺められたかも知れない。
地図と八兵衛から聞いた情報とを照らし合わせれば、ここが静ヶ池と見て間違いないだろう。
猟師が妖怪を見た方角も、サンダーは概ね見当をつけていた。
「いつ姿見せてもおかしくねえ。慎重に行こう」
息を潜め、足音を忍ばせて更に進めば――果たして、サンダーと真九郎の耳に、骨を鳴らす微かな音が届いた。
不用心なことだ。
(「一般人相手に逃げ隠れするなんてクロノヴェーダの頭にないだろうことは想像がつくが、潜伏者としては落第だ」)
木の陰からサンダーはキッと闇の奥を睨んだ。
その黒瞳には確かに怪異の姿が捉えられている。
カタカタカタカタカタカタカタカタ。
「此方に気付いているようには思えぬ。今が攻め時」
共に隠れて、鋭く敵集団を見据える真九郎。
サンダーに目配せすると、彼は足を忍ばせ、歩みだした。挟撃しようというのだ。
闇の中、妖怪――丑三つ刻の怪異・『白骨夜行』の群れは寄り集まり、そうかと思えば辺りを徘徊し、余り意味のある動きを取っているようにも見えない。
カチャリカチャリカチャリカチャリカチャリカチャリ。
――油断大敵だ。
サンダーが心の内で呟いた。
骨が擦れ合う奇怪な物音を立てている時点で、まさに潜伏者としては失格だろう。サンダーは闇に浮かび上がるような不気味な髑髏の妖怪どもに狙いを定めると、発見されるより先にパラドクスを発動させた。
――やらかしたことのケジメを付けてもらうぜ。
白骨夜行の群れは、自らに起こった異状に気づく前に、不可思議な空間へと囚われることとなった。エコーチェンバー。電磁波、音波、果ては敵の攻撃まで反射増幅するというパラドクスは、複数の妖怪を巻き込む。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。
機械的な反応を見せて反撃する白骨夜行だが、その奇怪な音は、それを放った骸骨自身をビリビリと震わせていた。
パラドクスの発動により何処からともなく這い出した骸骨が宙に浮かび上がるも、それらはあろうことかエコーチェンバーの中で弾丸のように跳ね狂い始める。不気味な槍は骨の手に掴まれたまま、やがて虚しく地に落ちた。
「猟師を突き殺したってのはその槍だな」
白骨夜行は表情もなく悲鳴もなく、飛び交う自身や仲間の骨に砕かれていく。闇の中で、妖怪どもは瞬く間に動かぬ白骨と化した。
「見事。それがしは寄り集まった者どもを狙うとしよう」
真九郎はその時、複数の敵に狙いを定めて天魔短筒を構えていた。
一射絶命――闇を見透してよく狙い、パラドクスの力を込めて撃ち放てば、木々を縫った魔力の砲弾が白骨夜行の群れに直撃する。
瞬く間にバラバラになる白骨の怪異ども。
カチャリカチャリカチャリカチャリカチャリカチャリカチャリ。
原型を止めぬほどに砕かれた骨はそれでも不気味に蠢き、地に落ちていた数本の槍がひとりでに持ち上がる。かと思うと、槍はまるで呪物ででもあるかのように真九郎に放たれた。
「魑魅魍魎何するものぞ」
言いざま真九郎の纏う武者鎧――その小札の裏に記された霊験あらたかな経文は、瞬く間にその法力を発揮して一種の障壁と化した。禍々しい槍は逸れ、鎧には傷一つ付きはしない。
バラバラになった骨は力を失い、それきりぴくりとも動かなくなった。
「このまま一掃してくれよう」
「ああ、手早く片付けちまおう。……あとにアヴァタール級が控えてるんだ」
不意打ちは完全に成功したと言っていい。
サンダーがエコーチェンバーで敵を封殺し、真九郎が天魔短筒で残る白骨夜行を討ち果たせば、やがて烏合の妖怪どもは潰えた。
その全てが五体を砕かれ、無害なモノとして散らばったのである。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【ハウスキーパー】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!
【フィニッシュ】LV1が発生!
「嗚呼、我が手勢が蹂躙されようとは。なんと無慈悲な」
声は森の更に奥から聞こえてきた。闇の中に浮かび上がるのは、不気味な髑髏の面。配下の妖怪を蹂躙された首魁が、その大型な体をぬっと現したのだ。小西行長、自らを慈悲深きものと称する天魔武者である。
「わざわざ殺されに来ましたか。踏み入ってこなければ苦しまずに済んだものを」
身勝手な理屈を口にする天魔武者は、森であるというのに巨大な武具を備えていた。と言ってまさかその扱いに支障が出るということはあるまい。
「慈悲です、我が前に膝をつき降伏なさい。さすれば余計な苦痛なくその命を刈り取りましょう」
闇に満たされた森に、小西行長の不気味な声が響き渡った。
鳩目・サンダー
アドリブ、連携歓迎です。
無慈悲ね。それならあんたは手下が殺した骸に慈悲深く祈りでも捧げてくれたのかよ。手厚く弔ったって言うんなら多少は見直してやらんでもないが、だったらそもそも殺すなって話だ。
あんたもあたしもお互い、慈悲をかけるだけの価値はねえよ。さっさとやろう。
リアライズペイント。折角のキリシタンに髑髏顔なんだ、ヴァニタスな写実的油絵風で描いてみようか。
自慢の鎧と背から生える半透明の武装は本物よりもピカピカに、それと対照的に生身(?)の部分はよりくすんで腐って、死の虚しさを強調するように。
不定形の下半身は……どうせだ、本物よりずっと地面に広く大きく沼のように広げてグロテスクさを出して見よう。
さあ、裁罪の打ち合いだ。
そら、もっと綺麗に輝いてみろよ。こっちもそれを真似てやる。
ああ、まったく、Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.
伊藤・真九郎
武士ともあろう者が、刃交わさぬ勝利を乞い願われるとはな。よもや臆された訳でもあるまいに。
あやかしの群れとは言え、我等は其処許が部下共の仇ぞ。将ならば、言葉ではなく太刀と槍とで語られよ。
大小二振りの太刀を引き抜き構える。
仲間と目配せし、連携して斬り込もう。
突入しつつ刃同士を擦り合わせ、生じた火花を刀身に纏わせ炎の刃と為す。【緋翼二連崩し】の奥義にて参る。
暗闇に慣れた目を火炎でくらましながら間合いを詰め、二刀による連撃にて斬りかかる。
交差する斬撃と共に火炎を叩き込み、内側から焼き払ってくれよう。
切り抜いた後も残心は怠らぬ。足元の地面に炎の太刀を打ち込み、地より狙う触手を受け払う。
零識・舞織
アドリブ・連携歓迎です。
敵大将の討伐に私も協力させてもらいます。
むざむざ降伏して命を失うことを慈悲と取るならそのような慈悲は不用です。
言葉を弄すよりそのご立派な武器でもって語りかけてはいかがかな?
【完全視界】のおかげで森の中でもはっきり敵を目視できるので人妖筆を手に取り後方から妖怪画を書き上げそれを次々に敵へ放ちます。
悪を挫く光に悪たる妖怪では相性が最悪でしょうがそれに負ける事なく挫ける事なく相手が倒れるまで手を止めず描き続けます。
これ以上その名を穢させることはさせません。
ここで貴方を終わらせるのがその名の人物にとっての慈悲となるのですからその名前、歴史に返していただきます。
●偽りの慈しみ
「無慈悲ね。それならあんたは手下が殺した骸に、慈悲深く祈りでも捧げてくれたのかよ」
天魔武者の虚ろな眼窩を睨む鳩目・サンダー(R-18フルカラーリアライザ・g05441)の声音は、ふつふつと煮えたぎるような胸の内を表しているかのようだった。
白骨夜行に惨殺された猟師は、今も森の中で無念の屍を晒したまま。
だというのに、慈悲を語る眼前の機械生命体は、奪った命を何とも思ってはいない。
「手厚く弔ったって言うんなら多少は見直してやらんでもないが、だったらそもそも殺すなって話だ」
暗闇に佇む髑髏面の天魔武者は、ロザリオを胸に抱いていた。
偶像を思わせるその姿は、人の心を惑わす邪神像に見えなくもない。
「苦しみは一瞬のこと。死こそが安息にして唯一無二の救済」
「……ハッ」
何をかいわんやだ。虚しさが湧き上がるのを感じながら、サンダーはスタイラスペンを指が白くなるほど握りしめた。
この天魔武者は、やはり武将の名を騙る紛い物でしかない。
見せかけの慈悲は、元となった将の在り方を象ったもののようだが、それも掻い撫での――表面的なものに過ぎないのだ。
「降れ、と申したな。武士ともあろう者が、刃交わさぬ勝利を乞い願われるとは。よもや臆された訳でもあるまいに」
挑発を交えた言葉とともに伊藤・真九郎(剣客・g08505)は大小を抜いた。馬手には業物、弓手には大脇差。双方ともに無名なれど、今まで数多の敵を屠ってきた刀である。
真九郎が構えた時、その背後から、地を踏み締める音が微かに響いた。
天魔武者は、気配の揺らぎを鋭敏に感じ取り、木々の合間から姿を現したディアボロスにその虚ろな眼窩を向ける。
そこに立っていたのは、風来坊の着るような服を纏った飄然たる青年――即ち零識・舞織(放浪旅人・g06465)だ。
「むざむざ降伏して命を失うことを慈悲と呼ぶなら、そのような慈悲は不用です」
口の端に僅かな笑みを表し、不気味な敵に気圧されることなく舞織は言った。
「言葉を弄すよりそのご立派な武器でもって語りかけてはいかがかな?」
「私の在り方を愚弄するというのですか」
天魔武者の詰問に舞織は応えず、ただ微かな笑みを浮かべるのみ。
サンダーは、達観したような冷たい視線を敵に送った。
「あんたもあたしもお互い、慈悲をかけるだけの価値はねえよ。さっさとやろう」
「あやかしの群れとは言え、我等は其処許が部下共の仇ぞ。将ならば、言葉ではなく太刀と槍とで語られよ」
両の刀を擦り合わせた真九郎は、生じた火花を刀身に纏わせた。赫灼たる焔が、ぬばたまの闇を照らす。パラドクスの解放と共に放たれる真九郎の言葉は、侍らしく烈しいものだ。
彼がもたらした完全視界の効果は、此処でも遺憾なくその効力を発揮していた。
真九郎はサンダーと舞織に目配せすると、地を蹴り、大柄な天魔武者へと斬り込んでいく。
「憐れな。この私に歯向かい、敢えて苦痛を受けようというのですか。ならば仕方がありません。その罪を裁いてのち、再び降るか否かを問いましょう」
「くどい!」
断じた真九郎の踏み込みは、まさに烈火の如し。
対して天魔武者の背から伸びる、サソリの化け物を思わせる腕(かいな)は、その関節の可動域を活かした変幻自在の斬撃を繰り出す。
大きさで言ってもその刀槍は、常識的な大太刀や大槍を遥かに超えている。真九郎は天魔武者が振るう巨大な武器を二刀で逸らし、夜の森に、目に焼き付くかのような焔の軌跡を描き出す。
――押し負ければ命取りとなろう。
天魔武者の怪力、そして攻撃速度は到底侮れるものではない。単騎での力押しとなれば、彼の培ってきた力量を以てしても有利とは言いきれぬ。だからこそ真九郎は味方の動きにも注意を払い、立ち回っていた。
「潜伏するに至った経緯は知りませんが。闇に潜むなどと考えていたとすれば、それは私達を侮りすぎというものです」
まさにその時、完全視界の恩恵を受けながら、舞織がリアライズペインターの力を発揮しようとしていた。妖怪博士でもある彼が特殊な人妖筆を手に描き出すのは、まさしく妖怪画である。
彼の持つ妖怪伝承書にも、その名は記されているだろう。
宙に描かれ、形を取って浮かび上がったのは、松明丸だった。深山幽谷に現れるという炎纏いし妖鳥が飛び、小西行長に襲いかかる。
「かようなもので私を止めようというのですか」
天魔武者が憐憫を籠めて言えば、後光が輝き、松明丸だけでなく舞織にも暴力的な光明を降り注がせる。
「悪を挫く光に悪たる妖怪。となれば、相性は最悪でしょうが」
笠を目深に被り、その攻撃範囲から出来る限りに逃れつつ、舞織は自らの描いた妖怪が塵のように消えていくのを見た。
――まずは傷を与えただけでも良しとしましょう。それに隙を生じさせることはできたはず。
森を疾駆しながら、舞織は敵と打ち合う真九郎と、スタイラスペンを動かすサンダーを見やった。
そう、絵を具現化するリアライズペインターは、舞織一人だけではない――。
「折角のキリシタンに髑髏顔なんだ、ヴァニタスな写実的油絵風で描いてやる」
舞織と真九郎が攻撃を仕掛けている間に、サンダーはスタイラスペン型ペイントツールを駆使して、パラドクスの力を帯びた絵を描出していた
小西行長といえば、キリシタン大名として有名だ。今その名を称する者が髑髏の面を晒しているとなれば、サンダーが思い浮かべるアイデアは一つ。
Vanitas――それはヨーロッパで発祥した静物画だ。
サンダーの手で、見る間に小西行長を名乗る天魔武者そのものの絵姿が描き出される。いや、それはただの模写ではない。
「もっと禍々しくしてやる」
サンダーは即興で天魔武者の姿に更なるアレンジを加えていった。
鎧と背から生える半透明の武装は本物より輝かせ、髑髏の顔面は対象的にくすんだ腐食を以て表現し――死の虚しさを強調する。
(「不定形の下半身は……どうせだ。本物よりずっと大きく沼のように地面に広げて、グロテスクさを出して見よう」)
パラドクスの力で瞬く間に描き出された天魔武者は、本物と比べてよりいっそう禍々しく、恐ろしいものとなっていた。
「ああ、まったく、Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.」
サンダーの胸の内から出たその言葉は、憂いとも怒りとも失意とも言えそうな云わく名状しがたい色彩で塗り固められていた。
だが嘘、偽り、そして空虚――それを意味するのがVanitasであるというならば。
武将の名を騙り、慈悲深き素振りを見せて虐殺を行う天魔武者の在り方は、まさに偽りの慈しみを表象していると言えよう。
「地に伏しなさい。魂は救済され、その身は土に還るでしょう」
「――!」
巨大な剣を二刀で受け止めた真九郎が、木の幹に背中から叩きつけられた。
天魔武者の眼窩がサンダーの方へと向けられたのは、その時だ。
「なんと……」
小西行長を騙る天魔武者は、自らの似姿に、驚いたように口を開けた。
頭部の後光が機械的に広がり、敵の悪意を挫くべく、強烈な光を放つ。この天魔武者にとっての『悪意』とは、抗う者の意志に他ならない。自らに降らぬ者はすべて悪意抱きし者なのだ。
――酷ぇ話だ。
サンダーは内心ひとりごちる。
何かを崇拝する時に陥りかねない悪しき独善が、天魔武者を突き動かしている。それは、かのキリシタン大名とは似ても似つかぬ在り方だろう。
「これ以上その名を穢させはしません。ここで貴方を終わらせるのが、その名を歴史に刻んだ人物にとっての慈悲となるのですから」
舞織の描いた松明丸は、仏道を妨げる妖怪である。偽りの慈悲を否定するように、描かれた妖鳥は天魔武者を苛んだ。
「なんと冒涜的な」
言いながら後光を光らせて目が眩むような光線を放つ天魔武者。
「お前が言うな、ってやつだ。そら、もっと綺麗に輝いてみろよ。こっちもそれを真似てやる」
膨大な光が森を白く染め上げる。
「さあ、裁罪の打ち合いだ」
「その名前、歴史に返していただきます」
サンダーと舞織の連携攻撃が、天魔武者に無視できぬ損傷を与える。
「ア、アアァァ――赦し難い、その罪深さを思い知らせてくれる!」
最早、小西行長の言葉に先程までの落ち着きはない。
真九郎の足元から、凄まじい勢いで無数の機械触手が飛び出してくる。
大地を割って出現したそれは、怨敵を無惨な屍へと変える崩殱禍――!
「いざ、奥義にて仕る!」
だがここからが真九郎の技の真骨頂であった。
焔の嵐を巻き起こす緋翼二連崩しは、まるで火の鳥が広げる翼の如し。
体を回転させれば二刀は機械触手を斬り、燃やし、
「御首、頂戴いたす!」
「ガッ――!?」
小西行長を名乗る天魔武者の首が、必倒の斬撃で遂に地に落ちた。
着地した真九郎とて完全な無傷ではなかったが、着込んだ武者鎧が良く防いでくれていた。何より舞織とサンダーの連携攻撃が、敵に狙いを定めさせなかったのだ。
首を斬られた天魔武者は、もはや完全にその機能を停止している。
「これで終わりでござるな」
「片付きましたね」
真九郎が刀を納め、舞織がほうと吐息して。
転がる天魔武者の頭部をサンダーは見下ろすと、辺りを見回した。
「……殺された猟師の弔いでもしておくか」
武蔵国の片隅に蠢動していた天魔武者の一党は、かくて討ち果たされた。
人知れず害を取り除き、後顧の憂いを絶ったディアボロスたちは、新たな戦いに身を投じることとなる。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【液体錬成】LV2が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!