【蹂躙戦記イスカンダル奪還戦】再蹂躙を断て（作者 志羽）

7

リプレイ

　いよいよ始まる蹂躙戦記イスカンダル奪還戦――シル・ウィンディア（虹を翔ける精霊術師・g01415）は現状を確認するように言葉落とす。
「ゼウスの雷かぁ。とんでもない威力だし、撃たせちゃダメなものだから、出来る限りのことはしないとね」
　今できること。それは敵の戦力を減らすことだ。
「だから、無理しないように、でも、全力全開で叩かせてもらうよっ！」
　フードつきのマントを羽織り出来る限り隠密に行動するシル。拠点の付近までたどり着き、そして敵の姿を見つけたなら――その唇は動く。
「四界を統べる精霊達よ、宇宙に集いし天体の守護者達よ、過去と未来を繋ぐ時よ、集いて力となりすべてを撃ち抜きし虹の光となれっ！」
　高速詠唱と共に姿を現しすぐさま放たれるは八芒星精霊収束砲。
　その高出力砲撃魔法は広範囲型に特化し、複数対象へと滅びを与える一矢。シルの背中に一対の大型の光の翼が現れて、その反動を抑えるべく羽ばたく。
　その砲撃に姿を消したゴブリンファランクス兵は何体だろうか。手近な敵を巻き込むようにシルは攻撃をかけていく。
　散開していたかと思えば、包囲するように動くゴブリンファランクス兵。思うままに向ける槍先がシルへと次々と向けられる。
　でもその動きはみて、わかっていたから――シルは左手にある創世の光剣で向けられた切っ先を防いだ。
（「このまま包囲されるとちょっと大変そう」）
　ちらりと視界の端にみえた穴に向かって身を翻し、敵の中を突破し距離をとれば振り向きざまに、もう一撃。
　八芒星精霊収束砲がふたたび、敵を焼き尽くすかのように走り抜ける。
「うん、このまま距離とって仕掛けていこっ！」
　何かあればすぐ離脱できるように注意しながら動くシル。敵を程よく削れば――頃合いだろうかといつでも引けるように身を翻す。
　陣の一番奥にいるであろうロームルスへと、シルは視線向ける。その姿は見えなくても、いることはわかっているから。
「本番まで待っていてね。しっかりと相手してあげる」
　奪還戦で、終わりにしようと紡いで。




「ゼウスの雷も厄介だけれども、ファロスの光を待つ、起源王ロームルス達もなんとかしておきたいよね」
　イツカ・ユメ（いつかかなうゆめ・g02834）は敵陣を見つめる。
「……女の子として、女性を利用した亜人の繁殖なんて許せないもの」
　胸の内にある憤り。イツカにとってこの蹂躙戦記イスカンダルの在り方は、受け入れられるものではなかった。
「ここは新宿島から見て反対側、敵側からすれば最前線からは遠い位置だが……なるほど、警備は厳重だな」
　敵陣を見詰め、九重・古安（巻き戻り路逸れる針・g02347）は現状を分析していた。
（「だがイオニア諸島海軍基地がジェネラル級を欠いている今、ここから攻め上がればオリンポス山……さらにはイスカンダルの背後を狙えるのも事実」）
　ならばやることは一つと古安はその手に得物を握りこんだ。
「たとえ警戒が厳しくとも押し切らせてもらおう！」
　そう声に出しつつも動きは見つからないように慎重に。このあたりにいる敵はゴブリンファランクス兵。
　雑兵とはいえ、集団戦と防衛戦重視かと古安は見つめる。
　イツカも共に、物陰に隠れて目立たないように。そしてタイミングを合わせて――仕掛ける。
「さぁ、キット！　おもいっきりキラキラさせちゃって！」
　ぱっと姿現したら楽しげな声で高らかに。
「今からここは、わたしの……わたし達のステージだよ！」
　モーラット・コミュ『キット』もぱっと飛び出してペンライトふりふり。ご機嫌な音と共に周囲を照らし、敵の姿を浮かび上がらせれば。
「あなた達が蹂躙して、奪ってきたものを、わたし達が全部取り戻しちゃうんだからね♪」
　その攻撃に合わせて、古安は敵の守りごと、上から叩き潰すように攻撃を。
「ほんの一時なのが残念だが……まぁいい、最盛期の再現と行こうか！」
　生命力を活性化させる力を纏ったなら、古安にとっての最盛期の姿、その力が満ちる。
　鋭い刃を持っていたなら綺麗に両断していただろう。けれどそうではないから叩き潰すような一撃が振り下ろされゴブリンファランクス兵はぺしゃりと潰れるように倒れた。
　確実に。しかし一か所に留まらず古安は得物を振るう。
　古安はイツカの先を駆け、その道を拓く様に。包囲させないための先陣は俺が引き受けると一瞥を。その視線に瞬きひとつで答えて、イツカも駆ける。
「うん！　行こう！」
　歌って、踊って、甘く誘って――近づいてきた相手に攻撃かけて、包囲される前に離脱の繰り返し。
「わたしが超可愛いから、お触りしたい気持ちは判るのだけれども……もう予約済みだから、ごめんね」
　イツカの歌に誘われるようにやってくるゴブリンファランクス兵。けれど、彼女まで手は届かない。その前に古安がいるのだから。
　敵へ攻撃かけるその姿にイツカは微笑んでその歌声は一層よく響く。
　その歌を耳にしつつ、敵を倒し包囲に穴を開けて突き進みつつ古安は周囲にも気を配る。
（「ジェネラル級が出てくるようなら即時撤退……ここで焦らずとも決着の時は遠くない」）
　ここで時間を稼いだところで敵側に有利になる事はないのだからと古安は思う。
　そして敵も倒し、そろそろ頃合い――全くのハッタリというわけではないが、敵の戦意を削ぐために。
「残念だがトロイアホースの増援は来ない。既に別動隊が攻略済みだ」
　古安はそう言い放って身を翻す。ここでの戦いはもう終わりというように。




　――二度と、二度と許さない。
　エトヴァ・ヒンメルグリッツァ（韜晦のヘレーティカ・g05705）の視線は敵陣を鋭くとらえていた。
（「南イタリアの地を亜人達に奪われた日を、俺は忘れない」）
　エトヴァの内に根付く焔が燃え上がる。今こそと、巡って来た機会を決して逃がすなと。
「今が奪還の時だ」
　グランダルメで見たローマの景色。
　そして、最終人類史のローマとも似ない今――向かう敵は、七曜の戦を経て生まれた、ロームルス。
　再び蹂躙しようとしているのを見過ごすことは決してできない。
「二度と、かの地の蹂躙は許さない！」
　仲間たちの攻撃。それに合わせてエトヴァもまた仕掛けて、敵の中を乱していく。
　現れたディアボロスたちへの対応が遅れるゴブリンファランクス兵たち。
「ここで散れ」
　南イタリアの簒奪者を、討ち果たすため――エトヴァが古色艶めくヴァイオリンで奏でる音が響く。
　それは情熱の旋律。踊る様に刻み込まれる魂の律動。激しいリズムを刻み奏でる舞曲が煌めく炎を生み躍らせる。
　情熱のまま奏でられる旋律で嵐の如く猛る火焔がゴブリンファランクス兵たちを相手に舞い踊る。
「業火よ――踏み躙られ、書き換えられたグランダルメの民の苦悩を悼め」
　それは内に秘めた情熱と感情の発露。
　炎の輝きで、仲間を守りながら、そして同時に狙って確実に敵を削ぎ落していく。
　そしてそれに合わせるようにフィロメナ・ラウレアノ（ヴァルプルギスの夜・g00015）も攻撃を仕掛けていた。
（「また新宿島に危険が迫っているけど、私たちがやるべきことは変わらないよね」）
　幸いなことに港湾拠点は簡易的なもの。それにこの戦力を削っておくことは後々の助けになる。
　新宿島が破壊される前にイスカンダル・ゼウスを倒す、そのための足掛かりにもこの場所はなるのだ。
「連携なら私たちだって負けないんだから」
　エトヴァの巡らせる炎を上手く隠れ蓑にするようにフィロメナも動く。
　数が多く陣形を組んでいる相手。さすがに正面から正攻法で攻めるのは厳しそうだ。
　けれど密集している――その分、機敏に動き回るのは難しそうだし攻撃のチャンスはきっとあるはず。
　そうフィロメナは考えて、その機を掴むために動いており、エトヴァの炎がそれを導いたのを見逃さない。
　そちらに気を取られている間に、別の方向から仕掛けるフィロメナ。
　念には念をいれて、ゴブリンファランクス兵たちの動きを攪乱させるように目くらましの光を連続で。
　その槍先の狙いが鈍る様に、思う様に戦わせないように――それで準備万端。
　今こそとフィロメナは自分の持つ魔法の力を解放する。
　魔力の弾丸は敵を追いかけるもの。それをいくつも放ち確実に数を減らしていく。
　炎と、そして魔力の弾丸。それからどうにか逃れて、エトヴァを包囲し連続攻撃を仕掛けようとするゴブリンファランクス兵たちの姿があった。
　けれどそれが来るのがわかっているのだから、エトヴァは魔力障壁で身を守りつつ、一時演奏の手を止めて銀色のタワーシールドを持って防ぎきる。
　エトヴァに注意が向いているなら、それこそフィロメナの狙い時。魔法の弾丸がゴブリンファランクス兵たちを貫いて追い詰めれば仕上げとばかりにエトヴァの炎が舞い踊った。
「大分削れたかな？」
　周囲の敵の数が減ってフィロメナはそろそろと零し撤退の素振を見せる。
　敵を削りつつ、けれど包囲される前に離れるべき。
　決戦の日はもうすぐ――それが、来るべき戦いであり、ここで怪我を負ったり、なんてことがあってはいけない。
　まだ戦いはあるのだから深入りはせず。エトヴァは、今はこれで十分だと戦場を離れた。

最終結果:成功
完成日	2024年08月12日