リプレイ

●機械の心
　時先案内人の情報から復讐者たちは水路の外を警備する少数部隊を攻める事にした。
　情報通りの手薄な警備を目の当たりにしてシューニャ・シフル（廃棄個体 No00・g07807）は思わず苦笑する。
「策考えるのはいいけどよ、溺れちゃ意味ねぇだろ。まあ、その思い込みは精々利用させてもらうぜ」
「ええ。いざという時に逃げるために水路ではない陸地からこっそり近づくのがいいでしょうね」
　テネブレーヌ・ラディーリス（夜を駈ける変身ヒロイン・g01274）もシューニャにうなずく。
　二人は今回の討伐対象であるトループス級自動人形『量産型ベートーベン』の部隊にこっそりと近づいて行く。
　彼女たちがすぐに攻撃を仕掛けられる位置に移動したのを確認して吉音・宮美（限界ギリギリ狐娘・g06261）は蝶の模様が入った異色の瞳『胡蝶の魔眼』で敵を見据えパラドクスを発動した。魔術的な力を発揮する事ができる『魔楽器』を超巨大な複合魔楽器に変えて演奏するのはベートーベンの【ピアノソナタ第八番ハ短調】だ。
（「機械の演奏に心は宿らない、とは決めつけません今はまだ。それを決めるのは互いの演奏を聴いた後」）
「さあセッションの時間です！」
「っ！？　この曲は私の曲……！」
　サウンドソルジャーである宮美の演奏は達人の腕前で言語や思想、生まれの違いなど関係なく聞く者に感動を与える。
　それを聞いた三体のベートーベンは心に直接響く美しい音色に戦意を失い浄化されていった。
「何という素晴らしい演奏……！」
「ああ、有難う……！」
　仲間が戦闘不能になるのを見てようやく自動人形たちも復讐者の存在に気が付いた。
「私の曲だ、私の方が素晴らしい演奏ができるに決まっている！」
　三体のベートーベンが宮美にピアノソナタを聞かせようとした時には二人も行動を開始していた。
「量産型って何よ量産型って。かのサリエリが育てた生徒の一人を一山いくらで取り扱ってんじゃないわよ！」
　グランダルメ出身のテネブレーヌは故郷の偉人を模したクロノヴェーダへの怒りをパラドクスに変える。紫の瞳で敵をにらむと失われた歴史から流れ着いた品々を組み合わせて自作した『ガジェットウェポン』から炎を放つ。それは三体の内の二体を炎の空間で覆い焼き尽くす。
「決戦前なんだから気ぃ抜いてるやつはいねぇだろ。楽しませてもらうぜ」
　シューニャは赤茶の髪をなびかせ敵に肉薄。残りの一体と増援を呼ぼうとした一体の自動人形へ素手にパラドクスを宿らせた拳を見舞い粉砕した。
「私の音楽で己の滅びの運命を知るがいい！」
　自動人形もただでやられる訳にはいかない。【交響曲第五番ハ短調】を辺りに響かせるとそれに合わせて氷の刃や業火が二体のベートーベンからシューニャへと放たれる。
「音楽？　興味ねぇよ」
　言いながら彼女は左の黄金のサイボーグアームに装備した肉体を補強するための頑丈な『追加装甲』で攻撃を完全に受け止める。おかげでダメージを防ぐ事ができた。
「そんな事より、てめぇらおかしな攻撃手段持ってんだな。音でどうこうしてくるやつはいたけど、それともまた別だな」
　戦闘狂であるシューニャは興味深げに琥珀の瞳を輝かせる。その目はもっと戦いたいと雄弁に語っていた。
「シューニャさん、深追いは危険よ」
　テネブレーヌがガジェットから炎を吐き出し敵を燃やしながら念のために忠告した。
「おっと、そうだな。本番はこれからなんだ、増援が来る前に一度撤退するか」
　シューニャはすぐに我に返ると手近な敵を拳で黙らせる事でクールダウンする。
　すると戦場にモーツァルトの【レクイエムニ短調K626】が流れ始めた。宮美の巨大な複合魔楽器からだ。あらかじめ決めておいた撤退の合図だった。そのレクイエムは正史のベートーベンの葬儀で流れた曲だという。
「ああ……美しい……」
　最後の量産型ベートーベンが倒れたのを確認して彼女たちは撤退していく。
（「彼らにも、次は心を持った演奏ができますように……」）
　自動人形の心に想いを馳せながら宮美も湖を後にした。
　こうして復讐者たちはジェネラル級自動人形『ジャン・アンドシュ・ジュノー』の部隊の一つであるトループス級自動人形『量産型ベートーベン』を討伐できた。これで数日後に始まる『断頭革命グランダルメ奪還戦』で有利に戦う事ができるだろう。幸いこちらはほとんどダメージを受けなかった。体力回復だけに専念できると考えながら彼女たちは新宿島へと一時帰還したのだった。

最終結果:成功
完成日	2024年04月18日