【断頭革命グランダルメ奪還戦】南山不落(作者 弓月可染)
#断頭革命グランダルメ
#【断頭革命グランダルメ奪還戦】大元帥の鉄壁要塞
#断頭革命グランダルメ奪還戦
#⑨ニコラ・ジャン・スールト
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●南山不落
チューリッヒ湖北端、ドイツとの国境近くに築かれし、難攻不落の大要塞。
かつてはヴィルヘルム2世麾下のゾルダートに睨み、今ではベルンの東を護るクロノ・オブジェクト――その名もチューリッヒ城塞を統べるのは、猟騎兵と並んで大陸軍の精華と称された擲弾兵の将であった。
――スイス全土にて、ディアボロスの攻撃の兆しあり。
手元に届けられた情報を検め、城将ニコラ・ジャン・スールトはしばし沈黙する。
彼女は決して怯懦な性質ではない。『敵前でのみ品位がある人物』と皮肉交じりに称された同名の人物と同じく、彼女もまた優れた軍人である。
故に、次の独白を聞くまでに多少の時間を要したのは、正しく敵戦力を評価したうえで、乾坤一擲の局面にあることを彼女が理解している証左であった。
「威力偵察だろうが……その程度で、このチューリッヒ城塞が揺るぐ事はなかろうよ」
その上で、大元帥スールトは告げる。敵軍がこの城を抜くことは能わず、と。
ここで初めて、彼女は僅かに笑みを浮かべた。絶対の自信。これまで交戦の機会を得られていなかった彼女の軍と、堅牢たる大要塞と、そしてそれらを従えし、大陸軍屈指の将。
この三つがこの地に在ることが、既にして奴らの失策なのだから。
「後悔するが良い、ディアボロス」
――決戦前に、この城を落とさなかったことを。
●時先案内人
「ベルンの街をクロノ・オブジェクト化し、巨大な疑似ディヴィジョンを出現させる。それが、人形皇帝ナポレオンの打った窮余の策でした」
ラトクシア・ミレーシオ(そらいろのうた・g03178)が告げるのは、激変を重ねる『断頭革命グランダルメ』の情勢だ。
ナポレオンの狙い通り、北アフリカに疑似ディヴィジョン『永劫戦線フランスリブレ』の成立を許せば、オベリスクを新造し、かつての淫魔のようにクロノヴェーダを自由に召喚する事が可能になるという。
「幸いなことに、攻略師団の作戦が功を奏し、私たちはラ・ショー=ド・フォンを攻略することが出来ました。召喚を防ぎ、一気にベルンへと迫っていたのです」
だが、ベルン速攻は成らなかった。ナポレオンが、『蹂躙戦記イスカンダル』への領土割譲という切り札を使い、グランダルメの豊富な人口を餌にその軍勢を奪還戦に招き入れたからだ。
「東方で押されているイスカンダルの亜人にとって、蹂躙の機会は魅力的なものでした。加えて、復讐の念に駆られた火刑戦旗ラ・ピュセルのキマイラウィッチが、スペイン方面から侵攻を始めています」
故に。
ラトクシアは続ける。敵は、三つのディヴィジョン――そして二人の断片の王だと。
「確かに私たちはナポレオンを追い詰め、イスカンダルを押し返しています。けれど、ここでナポレオンを取り逃せば、新たなクロノヴェーダの軍勢を率いて、再び立ち上がってくるでしょう」
そして、イスカンダルにフランスの蹂躙を許せば、亜人の軍勢も強化されてしまう。キマイラウィッチも含めた強大な三者にどう対峙するかが問われているのだ。
それでも。
よろしくお願いします、と一礼してディアボロスを送り出すラトクシアは、欠片も彼らの勝利を疑ってはいなかった。
リプレイ
ルーシド・アスィーム
アドリブ、連携歓迎
堅牢を誇り、精強を誇るか
なれどそれは守備が万全と思うが故の驕り
針の穴から崩れる恐ろしさ、ご覧に入れましょう
地形を観察、死角からの「不意打ち」を試みましょう
相手が炎を纏うならば上回る焔で焼き尽くすのみ
紡ぐは「黄昏のアトゥム」、斜陽司る神炎はあらゆる地に降り注ぐ業火
故郷とは特別なもの
そのひとの始まり。礎。願い。祈り。あらゆるものを抱く場所
それを踏みにじる事は決して許されない
故にこそ立ち上る焔に助奏を
より大いなる星にて、忌まわしき宿星に終止符を打ちます
そして我が魔術は迎撃だけに留まらぬ
残留する炎は陣形を組む者達の、命を、駆ける脚を焼き潰す
併せて集中攻撃を喰らわない様に【飛翔】で低空飛行しつつ「一撃離脱」し、動き回って捕捉され辛くなるよう動きます
尚攻撃が届くようなら、小盾でいなし「氷雪使い」「結界術」で築いた氷壁を囮にして立ち回ります
仲間達と連携を取り、効率的な殲滅が叶うようにも意識します
必要であれば肩を支えます
抱えているものの分だけ、人は強くなれる
それを今こそ証明しましょう
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
そうは言っても落ちぬ要塞はない
動じたほうが隙を見せるのみだ
今は綻びを穿ち、広げる礎と成そう
哨戒中の部隊を発見できるよう努めよう
迷彩コートを羽織り、周囲の自然や地形に紛れつつ、双眼鏡で偵察
上空を飛行している可能性も見て、可能なら手分けして警戒
部隊を発見したら、なるべく分断しやすい位置や数の敵群を見定めて
PD通信で味方と連携を取り、タイミング合わせて攻撃を
煙幕弾を炸裂させ、敵の視野を撹乱しつつ両手の銃でPD攻撃
味方との攻防の隙を看破し射貫く
仲間と狙いを合わせ
一撃で倒せる敵>消耗した敵を目安に、確実に数を減らす
包囲されぬよう仲間の死角を補い立ち回り
集中攻撃される味方のないように援護
敵の攻撃には、魔力障壁で全身を包むように護り
腕のタワーシールドを構え、炎熱の嵐を凌いで耐える
隙あらば反撃を
戦況を常に観察し把握
戦果十分か、味方が深手を負う前に撤退判断し、PD通信し全員で撤退
稀でも警戒は怠らず、敵将の出現時は攻撃を防ぎつつ、挨拶したら速やかに撤退だ
奪還の為、どんな脅威も打ち破ってみせる
クリアルト・ハイランド
・戦闘前
統率のとれた軍隊に絶対の自信…
手ごわい事には間違いはないようだね。
だからこそ放ってはおけないし、打ち破らないといけないかな。
狙うのは少数の部隊だね。哨戒中の所を仕掛けるよ。
タイミングは仲間と合わせてだね。
・戦闘
ブレイブスマイトで1体1体確実に撃破していくよ。
複数体を同時に相手にしないよう立ち回りには注意するよ。
仲間と連携して各個撃破の流れを作りたいかな。
相手の急降下突撃の一撃に合わせてカウンターを狙うか
武器と鎧で防ぐなどして離脱される前に
大ダメージを与えてそのまま撃破を狙うね。
統率の取れた相手だし深追いはせずに
慎重に攻めていくよ。
・戦闘後
ある程度損害を与えた所で速やかに引き上げだね。
全員が無事帰還できることを優先して行動するよ。
・台詞イメージ
「どんな相手だろうと全力の一撃を叩き込むのみだね!」
「離脱はさせないよ。そこが最大の隙だからね!」
●
峻険な地形の狭間に点在する、森林と僅かな平地。
いまやクロノ・オブジェクトと成り果てたチューリッヒの街は、平時でさえ容易には抜けぬ不落の大城塞と化していた。
ましてや、ディアボロスの襲撃を予期して哨戒の網を張り巡らせているというならば、無闇に攻撃をかけたところで袋叩きにあうのがオチだろう。
「堅牢を誇り、精強を誇る――ですか」
紅い瞳で空を見やるルーシド・アスィーム(轍つ祈星・g01854)が、何かを抑えたように呟いた。
その視線の先には、上空を駆ける敵の一隊。
城の硬さだけではなく、兵の練度もまた尋常ではなかった。正史では、アンドレ・マッセナ元帥の下で若き日のニコラ・ジャン・スールトが率いたスイス方面軍は、丁度このチューリッヒの地でロシア・オーストリア同盟軍を散々に撃ち破ったというが――。
「そうは言っても、落ちぬ要塞はない」
内に秘めたものはあるだろう。なれど、彼に応えるエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)もまた、普段の穏やかな声を崩さない。
動じたほうが隙を見せるのみだ、と。
チューリッヒ近郊の森に身を潜め、エトヴァたちは機を窺っていた。敵軍に打撃を与え、決戦の状況を有利に運ぶ。それが彼らのミッションであるが、こうも密度が高いと攻めあぐねもしよう。
劣勢と見れば逃げ、応援を呼ばれる。確実に打撃を与えるためには、敵を自らの懐に呼び込んで、一気に叩く必要があった。時間と空間が交錯する逆説連鎖戦と言えど、その難しさに変わりはない。
故に。
「今は綻びを穿ち、広げる礎と成そう」
「万全の守りと思うが故の、驕りがあるでしょうから」
迷彩のコートで蒼い翼を隠す僚友に頷き返し、ルーシドはまた森の外へと視線を投げる。そこには、森から敢えて姿を現してみせる『少女』の姿があった。
――まるで、油断をした斥候兵のように。
(「手強いことには間違いがないようだね。流石の警戒だ」)
幾許かの緊張をはらみながら、クリアルト・ハイランド(人間の妖精騎士・g01311)はゆっくりと茂みの中を進む。『彼』の役割ははっきりと囮であったから、そのぎこちなさも無理はない。
「……けれど、こう見えてもれっきとした騎士だからね」
だが、クリアルトは強がってみせる。見栄を張ってみせる。誰に? 自分にだ。哨戒中の部隊を罠にかけると決めた、自分自身の覚悟に恥じないように。
果たして。
「来るっ!」
彼を一息に仕留めるべく、上空から急降下してくるクロノヴェーダたち。ジャンダルム・スパッドールと名付けられたその自動人形が間抜けな得物を嬲り殺すのは、もう間もなくのことだった。
そのはずだった。
「それが驕りだというのですよ」
舌なめずりせんばかりのトループス級たちが、突然右側を白く染めた熱量に呑み込まれた。油断を見せたクロノヴェーダたちへの、痛烈なる奇襲。
その奇蹟を齎したルーシドは集中を緩めることなく、詠唱を続けていく。
「原初の水より生まれし偉大なる者――」
いつでもその位置を変えられるよう備えつつも、聖杖を掲げ、彼は聖句を紡いでいく。いざや出でませい神炎よ。太陽神の加護たる焔よ。
「――命灼き尽くす斜陽よ」
故郷。
それはとくべつなもの。礎であり、願いであり、祈りであり、はじまりの場所。
それを踏み荒らすというならば。
「大いなる星にて、忌まわしき宿星に終止符を打ちましょう」
胸中を灼く怒りのままに、杖を大きく振り下ろす。それは、彼の弓が擦る弦の音色より激しく。うねり波打った大炎が、更なる劫火を生み出さんと空間を呑み込んで爆ぜた。
その中に独り立つ甲冑の騎士。戦場の有様を一手で変えてみせた神罰に驚きを隠せなかったのも一瞬、クリアルトはまた戦士としての己を取り戻す。
そして、今まさに周囲を嘗め尽くさんとする焔は、自分への強力な援護だと気付くのだ。狩人のつもりで近寄ってきたちっぼけな炎熱の翼は、神の火によって地上へと叩き落されている。
そう、彼の穂先が穿つ、その射程の内に。
「……うん、ボクはいつだって、全力の一撃を叩き込むのみ、だよね」
ぐ、と柄を握る掌に力を込めた。手に重みを伝えるのは、使い慣れた馬上槍。華奢な身体に似合わぬ重槍は、けれどいつだってクリアルトと共に在り、共に戦場を駆けた。
その重さが教えてくれる。畏れるな、と。
統率の取れた軍隊。大空を制した精鋭。それが何だというのだ。どんな相手だろうと、何時も全力で、遮二無二ぶつかってきたのだから。
得物を構えた。視線の先、クロノヴェーダの肩と胸に配されたプロペラが回転をはじめ、その速度を上げていく。その意図は明らかだった。
――逃がさない。
あるいは単に距離を取りたかったのかもしれない。少なからず負傷した状態で、白兵戦を受けて立つ気などさらさらないのだろう。
だが。だが、退こうとしたことに変わりはないのだ。
「離脱はさせないよ――そこが最大の隙だからね!」
身体ごとぶつかるように突き入れる。迎え撃つのもまた鋼鉄の槍。激突。鉄と鉄とが互いを喰らい合う音。そして、騎士の穂先、クリアルトの渾身の一撃がクロノヴェーダの胸を穿つ。
そして、彼は思い知る。軍隊の統制、その恐ろしさを。
倒れた仲間を囮に、自分を取り囲んで銃口を向ける兵士達を。
「……はは、でも、役目は果たしたかな」
「然り。貴方は十分に役目を果たした」
覚悟を決めた独り言。けれど、彼の耳朶をエトヴァの声が打つ。遅れて、周囲を埋める灰色の霧――いや、これは煙幕だ。
生成りの布を張ったキャンバスのように、不自然なほどべたりと視界が塗り潰されていく。その中でちらりと見えた、森林迷彩のコート。どうやら煙幕の中ではかえって目立つらしい、とクリアルトは小さく笑った。
「さて、彼の言った通りだ。この地を奪還するため、君たちを逃がすわけにはいかない」
そして、そのつもりもない、と。
不敵に言い放ったエトヴァの手には、クラシカルな二丁の銃。両の手に宿る神罰が咆哮する度に、煙幕の画布に極彩色が散った。
「――絢爛と、咲き誇れ」
華。
あらゆる色を湛えた光の華。
右手のマスケットから放たれた閃光が、煙幕で塗り潰された空間を鮮やかに染め上げる。それを引き裂くように疾る左手のマズルフラッシュ。巧妙に視界を眩ます光の円舞の中、復讐の炎は怨敵へと牙を突き立てる。
「もう一度言おう。逃がしはしない」
もはやコートを脱ぎ捨て、蒼い翼を拡げて彼は告げる。常と変わらず、落ち着いた、冷静な声色で。
「今こそ我らが悲願――グランダルメ奪還の刻なのだから」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
ソレイユ・クラーヴィア
連携アドリブ歓迎
故郷であるグランダルメ奪還は、私の悲願
大切な思い出の地です
勝利の為にどんな手でも使うのは優れた指揮官の証左とはいえ
それを簡単に切り売りするなど、絶対に看過できません
統率の取れた大群相手ですから、少人数の部隊を狙い遊撃を仕掛けます
森等の視界の利きづらい地形に潜み
一撃入れて少し森の奥へ引き、此方へ誘います
宙に展開した鍵盤で「熱浄」を演奏
天より墜つる焔星を喚び、撃ち落として差し上げましょう
貴方の嵐と私の星、どちらが熱く世界を焦がすのか試してみますか?
可能なら仲間と連係し、攻撃対象を揃え
体力の低い者から各個撃破
囲まれぬように、常に動き回り
増援を呼ぼうとする者がいれば、声を掛け合い優先して撃破
噂に違わぬ堅牢な要塞のようですね
ならば此方も堅実に攻め
いずれ穿ち砕く為の一矢に努めましょう
反撃には魔力障壁を展開して凌ぎます
多少の負傷は計算の内と割り切り、演奏に集中します
貴方の願いは叶いません
私は誰かの願いを踏み越えてでも、自分の希いを掴むのだと決めたから
戦況を見つつ撤退を
決戦で会いましょう
クーガ・ゾハル
*連携アドリブ歓迎
新宿島にきて、しらないセカイのいろんなやつと出会った
そんないいやつのコキョウも
それから、とりもどしたはずの、おれたちのコキョウまでもピンチだ
……どっちも、ぜったい、いやだ
どうしてだろう
昔よりずっと、よくばりになってしまった
でもこれが、あいつらをたおす武器になるのなら
高い空を、はやくとぶトリを
けものが狩るなら、どうするだろう
体勢低く、ねらわれる箇所をしぼって待ち構え
攻撃のため急降下してきたところを
敵の角度により<臨機応変>微調整
ギリギリで致命傷だけを避けられればいい
すれちがいざまに<貫通撃>めいっぱいのせた【散葬】で切りさく
どんなにかたい城でも、とりででも
やがては砂と風に、いつだってこわされるんだ
カベをけずるみたいに、でもカクジツに
軍隊だって、ばらばらの鉄クズにしてやる
撤退は、仲間をささえて
……ささえられて、かも
あれ、そういえば
あれも、これも、わたさない
フシギだな
もしかしてあの『王』も、こんな気持ちなんだろうか
●
クリアルトを軸に成立した、戦場全体を巻き込むカウンター・アタック。奇襲が起こり得ない状況での奇襲は、部隊単位の局面ではあるが、ディアボロスたちに圧倒的な優勢を与えていた。
だが。
「……噂に違わぬ堅牢な要塞のようですね」
周囲に展開する幻影の鍵盤を従えし奏者――ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の警戒が解かれることはない。
見上げれば敵の新手。ハードウェアとしての城だけでなく、周辺に張り巡らされた警戒網と即応可能な練度の高い敵軍が、このチューリッヒを不落たらしめていた。もっとも、少々派手でも全力で奇襲すると決めた以上、早期に異変を察知されるのは織り込み済みではあるのだが。
「いずれ、穿ち砕くための一矢ですから」
「空をはやくとぶトリを、けものが狩ったなら。きっと、トリのなかまも驚く」
左の瞳に琥珀の輝き。今はそれを炎の橙で明るく塗り直し、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)はいらえを返した。無論、それは受け取り方次第の話で、自分たちが目立つことで他の部隊への圧力を引き付けることができた、とも言えるのだ。
ともあれ、敵の援軍も二度目。そろそろ潮時だ、と二人は目配せを交わす。
「……しかし、勝利のためにはどんな手でも使うのが優れた指揮官とはいえ――」
領土を簡単に切り売りするなど、と。郷愁を押しこめるようにソレイユが口にしたのは、領土割譲を選んだナポレオンへの怒りだ。それがこの状況下では優れた策であると、理性の部分は認めていて、なお。
「新宿島にきて、しらないセカイのいろんなやつと出会った」
そして、その怒りを受け止めるクーガ。そんないいやつのコキョウも、とりもどしたおれたちのコキョウまでもピンチだ――と続けた彼は、右の眼を未だ隠したまま。
「どっちも、ぜったい、いやだ」
そうして、ふと我に返ったように告げるのだ。おれは、昔よりずっと、よくばりになってしまった、と。
その呟きに、意を得たりとソレイユは頷いた。このスイスの地もまた誰かの故郷。そして山脈の先には、未だ奪われたままのフランスの大地。全てを取り戻したいのは同じだから。
故に。
「私は決めたのです。自分の希いを掴むと」
その声には熱量を。その指先には激情を。ソレイユの周囲に展開するキーボードが淡く輝き、担い手を今か今かと待っている。
見上げた彼の視界には、故郷の空を我が物顔で飛び回るクロノヴェーダたち。
「焔の狂宴を、ここに」
紡がれるのは奏鳴曲の序章。戦場には似合わない柔らかな音色が、つい、と流れて。
燃え上がる。
序奏を抜けた先、音よ踊れと疾走する第一楽章。いくつもの鍵盤を指抜きグローブの指が撫で、あるいは叩いていく。
それは夢幻の旋律。それは熱情の律動。音色はいつしか魔力を帯び、虚空に炎の軌跡を生み出し、そして。
「天より墜つる焔星を喚び、撃ち落として差し上げましょう」
炎の舞踏は星を喚ぶ。ひとつ、ふたつ、みっつ。遥か天空より来る大火が、空を灼き大気を焦がしてクロノヴェーダたちへと降り注いだ。
反撃とばかりに自動人形の重火器が咆哮し、炎の嵐を巻き起こす。未曽有の危機の中でなお部隊の統制を崩さない様子は、流石は精鋭と讃えられて然るべきだろう。
しかし。
「貴方がたの嵐と私の星、どちらが熱く世界を焦がすか――試してみますか?」
燃え盛る空を前にして、その抵抗はあまりにも貧弱に過ぎた。ソレイユの演奏に導かれし奔流が、渦巻く炎もろともに人形たちを呑み込んで。
「――引き裂け」
辛うじて逃れた機体を、大きく跳んだ黒い影が襲う。いつしか外れていた眼帯。CODE――模倣、獣化。クーガの脳裏に響く、もはや聞き慣れた電子音。
「どんなにかたい城でも、やがては砂と風に、いつだってこわされるんだ」
異形。精悍なる褐色の肌を覆う、くすんだ結晶。クラウディ・クオーツにも似たそれが、びっしりと彼の腕を覆っていた。
右眼を覆う前髪の向こう、LEDじみた輝きが見え隠れする。その手に握られているはずの吠え猛る刃は、今はどこかに置き去られていた。代わりに振るわれる凶器こそ、彼の掌を覆う獣の鉤爪。
「カベをけずるみたいにカクジツに、軍隊だって、ばらばらの鉄クズにしてやる」
交差は一瞬。大きく振り下ろす。衝撃。ぐ、と力を込める。
引き裂く感触。悲鳴のような金属音。
直地した彼の背後で、紙のように装甲を裂かれ内部を剥き出しにした人形が地面に叩きつけられ、動かなくなっていた。
やがて、殿の役目を果たし、彼らは撤退する。僚友の戦果を追って走りながら、クーガは独りごちるのだ。
(「――もしかしてあの『王』も、こんな気持ちなんだろうか」)
よくばりになった自分と同じように、と。
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効果1【パラドクス通信】がLV2になった!
【託されし願い】がLV2になった!
効果2【先行率アップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV2になった!