リプレイ
ニコル・リヴィエール
トラウマ
大事な主人であるお嬢様と人込みではぐれてしまったこと
顔の見えないお嬢様に「自分がいないのになぜまだ生きているの?」と責められる
そう、私が手を離さなければお嬢様をはぐれることはなかった
お嬢様を護るよう言いつけられておきながら旦那様の命も果たせないままおめおめと生きながらえている
いっそ死んだほうがと思ったときにお嬢様から賜った青薔薇を思い出して気持ちを取り戻します
いえ、お嬢様はそんなことおっしゃらない
お嬢様は私のようなものにすらこうやって薔薇を与えてくださった
これはただの私の後悔。お嬢様なら私が生きていることを喜び、今でも待っていてくださるはずです
だから、幻は消え去るのです!
アドリブ歓迎
霧が周囲を囲っている。ベルサイユ宮殿のその庭園の中で、ニコル・リヴィエール(リヴィエール家のメイド・g00574)は足を止めていた。
「なぜ?」
問い掛ける声はニコルのものではなかった。いや、問い掛ける声音ですらなかった。糾弾するような色を孕んで、霧が一人を象っていく。
「なぜ、生きているの?」
お嬢様、とニコルは吐息だけで呟いた。顔は、その表情は霧のノイズに覆われて伺えない。それでも耳に聞こえて脳髄を揺るがすような声。この音と色合いをした響きを、忘れることは無い。何を措いても第一にと仕えてきたその人を、忘れるはずがない。
「わたしがいない場所で、わたしがいない中で、わたしの手を離して置いて行った先で、なぜ、まだ生きているの?」
「アレクシアお嬢様……」
嘘偽りなど欠片も入り込む余地のない言葉に、ただ幻影が示す姿のその名を口走るしかなかった。
あの日。あの時に、私が手を離さなければ。旦那様から賜った使命を、自身の命に代えても護らなければならないこの人を、人混みに呑まれて手放してしまいさえしなければ。たった一人で新宿島に漂着したその時からずっとその身を案じていたなど言い訳にもならない、護れなかった事実がこうして目の前にあるのだから。
「なぜ、まだ生きているの」
そう、なぜ、未だにのうのうと生を晒しているのだろう。共に在ることもできず、代わることもできず、使命を果たすこともできないままおめおめと生き永らえている。同じ言葉が繰り返されるたびに、耳の奥で血流の落ちて引いていくざあざあという雑音が大きくなっていく。頭が不穏に軽くなって重心が揺れ、足元が形を失ったかのように全てが揺れ動いている。あの後には、あの手の感触が掌から消え去って、振り返っても人混みの中に埋もれて消えてしまったあの光彩の人が、言うのなら。
「なぜ、生きているの」
思わず握り締めた空の掌——だが何も無いはずのそこに握り締めた感触があって、いつの間にか落ちていた視線がふと吸い寄せられるようにそこへ向かう。霧にけぶって、青。青薔薇の一輪。
「……いいえ、お嬢様はそんなことはおっしゃらない」
——あなたの瞳の色そっくりね。そう言って微笑んだお嬢様に、この一輪を賜った。
「お嬢様は私のようなものにすら薔薇を与えてくださった」
霧の中に青が浮かぶ。ひらりひらりと舞うのは青薔薇の花弁。霧が姿を変えたものでは無い。ニコルという復讐者が手に入れた、取り戻すための力の発露。
「これはただの私の後悔。お嬢様なら私が生きていることを喜び、今でも待っていてくださるはずです」
顔を上げる。霧の中の幻影に向かってはっきりと言葉を作って言い切る。霧のノイズが隠した顔が乱したように激しく揺れて幻影が実体を得る。引き摺り出された瞬間に質量の分だけ霧がざあざあと音を立てて流れていく。それに抗うように、ニコルは真っ直ぐに『トラウマ』を見据えた。
「だから、幻は消え去るのです!」
青い花弁が舞い上がる。霧そのものすら吹き払わんかの勢いで嵐が吹き荒れる。パラドクスに対抗する力を持たないトラウマだったものは抵抗する間も無く刃となった花弁に刻まれ、吹き散らされて消えていく。
後に残るのは、変わらず濃い霧だけだった。
成功🔵🔵🔴
効果1【植物活性】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
火撫・穂垂
忌避するもの……。
ボクが忌み嫌うもの……?
だとすれば、答えは一つだけ。
火。
ただ喰らい、呑み込み、焼き尽くすだけの暴火。
大いなるが故に、誰にも御せぬ、あらゆるものを灰塵に帰すもの。
それに比べたら、ボクらなんてちっぽけな薪に過ぎない。
みんな焼き尽くされて、灰になった。刻逆という、大火の前に。
だけど……灰の中に燻る残り火は、簡単には消えやしない。
何度だって、ボクらはまたきっと火を熾す。
照らしあい、温めあうために。
進むべき道を進むために。
……飲まれ、消えゆく火に、薪を投じるために。
忌避するもの。己が忌み嫌うもの。そう聞いた火撫・穂垂(奉火・g00006)の脳裏には、ただ一つの光景が浮かんでいた。
そして庭園へと足を踏み入れれば、脳裏の光景はたちまち目の前に、周囲に広がり、まるで本当にそこに在るかのように肌に熱すら感じさせる。——火、だ。
「ボクが忌み嫌うもの。だとすれば、答えは一つだけ。……確かに、この火だけ」
火を信奉する一族であって、最も忌避するもの。ただの火ではない。霧の視界であったはずの庭園は今や全てが火に呑まれ炎に巻かれている。ただ喰らい、ただ飲み込み、ただ焼き尽くすだけの暴火。多いなるが故に、誰にも御せぬ、あらゆるものを灰塵に帰すもの。
「みんな焼き尽くされて、灰になった」
刻逆という火だった。ちっぽけな薪に過ぎない里の人々は大火に呑まれ、等しく灰と変わって降り積もった。
「だけど……灰の中に燻る残り火は、簡単には消えやしない」
目の前に広がる炎の光景。音を立てて霧の空気を舞い上げて、水蒸気すら漂わせ、熱気を更に吹き上げて。そして『薪』たる穂垂をも呑まんとじわりじわりと手を伸ばす。緑を残した足元に、少しずつ迫ってくる。
だがそれらを前にしても、穂垂の表情に変化はなかった。揺れない瞳に籠められたのは、この火が現れると理解していたがための覚悟であるのか、それとも握った身の丈もある大鎌に籠められたものへの信であったのか。
「何度だって、ボクらはまたきっと火を熾す。照らしあい、温めあうために」
この大鎌は祭具。火撫の術師は魂を種火に、血肉を薪に燃える命の火を以てこの刃を鍛えた。常に共に在るように。常に意に添えるように。彼らの灰の中に燻る残り火は、今ここにも宿って、共に在る。
だから祭祀たる穂垂は、その鎌を暴火へと構えて据えて、こう呟くのだ。
「力、借りるね」
火撫の火が舞い上がる。霧の庭園に広がった大火の景色が収斂していく。立ち向かう心を明らかに示した復讐者の前に、幻影の炎が実体として現れる。それは火が火を喰い合いながらぼうと浮かんで熱を凝らせる火球に似ていた。
「何度だって、進むべき道を進むために」
大鎌が火撫の炎を纏う。袈裟に振り落とされた刃の軌跡に二種の火が擦れ合って、やがて火球がほどけて霧に巻かれて消えていく。
「……飲まれ、消えゆく火に、薪を投じるために」
霧の庭園に一歩踏み出す。一歩が始まれば、後に続く足音は淀みなく付き従った。
成功🔵🔵🔴
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
平良・明
名前の重みに立ち向かいましょう
よく怒られたものです
子どもの頃、恐怖の対象でしかなかった、私と同じ名を持つ人
明さん、ですよね、随分と若い、頭の良すぎる人です
深呼吸
子どもは滔々と理路整然に𠮟りつけられても理解できないんですよ
頭がいい割にはそこらへんのネジが吹っ飛んでいる父親
去年、十数年ぶりに会いましたが、随分しなびていたものです
離れて生きてきたのに好物や根本的な思想、果てには寝相まで似ていたことには驚きました
かつて世界を旅したあの人と、私は同じ道を辿ろうとしていたのです
微笑みながら、この登山靴をくれたのも明さんでしたね
小型拳銃に愛を込めて
左様なら、この名は私が継いでいきます。
この復讐者は名を『明』とする。平良・明(巡礼・g03461)として今は在り、そう名乗っている。
その名が持つ重さがそうだろうと、ただ一言『立ち向かう』を携えて、彼は霧の庭園に足を運んだ。足元を固めるのは登山靴。握ったのは小型拳銃。
ああよく怒られたものだと、霧の中に浮かんで像を結んだその人に足を止める。男性、記憶の中にある姿。恐怖の対象でしかなかった、同じ名を持つ人。
「明さん、ですよね、随分と若い、頭の良すぎる……」
霧の中で庭園の石畳に立つその人から、音が真っ直ぐに投げ掛けられる。それまでが記憶にある通りの響きと圧を備えていて、思わずに奥歯を噛み締めた。幼い時分にはよく怒られたものだと、あの頃に比べて随分と高くなったはずの自分の目線なのに、仰ぎ見てこの人の眼を恐る恐ると窺うような感覚を全身に覚えていた。重い。
この場所へと赴いたことで足を着ける地面と時代が変わった、それ以外には何も変わっていないはずだ。霧を吸った衣服が多少重くなっているかもしれない、たったそれだけの変化なのに、登山靴の両足が石畳に縫い付けられたように、少しずつ沈み込んでいくような錯覚すらある。錯覚だとわかっているのに、目の前で今でこそ判る言葉を音として放つその人の姿はただの幻影であるとはっきりと理解しているのに、記憶から這い上がる威圧と恐怖は記憶から現実へと這い出てその重さ形の何もかもを少しも違えてはいなかった。
ゆっくりと、呼吸する。深く、息を吸い込み、吐き出して、やはりこの人は頭の良すぎる人なのだと、吸い込んだ霧の空気を言葉に変えていく。今こうして相対したからこそ、浮かんだ思い。
「子どもは滔々と、理路整然に叱りつけられても理解できないんですよ」
いや、ただの抗議か、それにも満たない文句だったかもしれない。この父は、声を荒げて怒号することも、拳を振り上げて力で以てということも、果たして記憶にあったかどうか。明の中に記憶された『明』という人は、常に言葉を並べ、言葉で圧倒してと、いつもそうしていたように思う。頭の良い人だった、ただ子供に合わせるとかそういったところの具合というか、ネジが吹っ飛んでるんですよね、この父親。そう胸中に独言る。
そして憶えているものは、ただ恐怖の姿だけではない。
「去年、十数年ぶりでしたか、お会いしましたね」
随分と久々に顔を合わせたあの人は、記憶にあるよりも随分としなびていたものだ。十数年、顔を合わせずに生きて来た。だというのに、親子は似るというものなのか。好物も、思想の根も。果てには寝相まで似ていると知って驚いた。驚いただけではなかったかもしれないなと自然と浮いた小さい笑みのまま、手に握った小型拳銃を持ち上げる。
「私は同じ道を辿ろうとしていた」
拳銃に弾を込める。赤い花弁の咲き開いたグリップは手に馴染む。
「かつて世界を旅したあなたと、同じ道です」
片足を半歩引く。この両足の登山靴を、微笑みながらくれたあの人へ。霧が生み、形を曝したあの人の記憶へと銃口を向ける。込められたのは鉛の弾丸それだけではない。父子、同じものを幾つも、あるいは幾つかばかりを携え合って、揺れ動き残るはたったひとつきり。どうすべきか、それは心が識っていた。
——小型拳銃に愛を込めて。
「左様なら、この名は私が継いでいきます」
成功🔵🔵🔴
効果1【腐食】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
時白・雫
新宿島に集う以前の忘却された記憶の奥深く。朧気で靄のかかった過去の光景。
翼の生えた青年が少女の事を守ろうとして傷付き倒れる。
目の前には異形のアークデーモン 少女は足を怪我して動けない。そして青年はまた立ち上がり……。
このままだと名前も顔も思い出せない君をまた失う
だから僕も動かなきゃいけない。どれほど足が痛くても 敵に立ち向かう事が怖くても
魔晶剣を杖に起き上がる
多分この時の僕は持っていなかった力
デーモンイーターの力で肉体を変異させ攻撃を受け止める
たとえ過去の幻影でも今度は僕が君を守る番だ
変異を進め肉体から翼と剣を
反撃を開始しよう
霧の中に浮かんだものは、記憶を失った少女にとってはその全てが目新しいもののように思えていたのに、気付いた時には痛覚が脚の負傷を懸命に訴える鋭い痛みと、目の前には傷付きながらも立ち続ける翼ある青年の背があった。
向こうに見えるのはアークデーモンだ。異形の脅威。ふたつを追い詰めて立ち塞がるようにそびえるそれは、ただしく異形だった。本能から激しく沸き立つ恐怖の根源だった。地面に崩れ落ちるようにして座り込んだ少女——時白・雫(天使の涙・g04480)には、異形にとっては児戯のようなひと撫でにすら抵抗の術がない。そうして負傷し動けなくなった少女のことを守り庇って立つのは翼を持つ青年の身一つだった。
青年は傷だらけだった。またもう一度、鉤爪に引っ掛けられるようにして浮いた体が地面に倒れ込む。少女は自身の傷を抑え痛みに身を竦ませながらその様子を凝視するしか術がない。ただ視線だけを向ける少女の目の前で、また傷の増えた体を起こして青年が立ち上がり異形の前に立ち塞がる。
名前も知らない青年だ。記憶を持たない少女の中に、彼についての知識などひとつたりとも持ち合わせることはない。常に少女に背を向け、身を挺して守り続けて異形を見上げる彼の容貌すら、雫には分からない。思い出せない。
庭園の霧はただ、弄ぶように蹂躙する敵と、動けないひとりを守り続ける青年を形作っていた。雫が押さえた脚には実際に傷など浮かんではいなかったし、痛みも実際に感じていたかはわからない。だが感じていたのは明らかに命の危険に対する恐怖であり、異形のアークデーモンに対する恐怖であり、与えられた傷が脳へと叩きつける痛みという名の警鐘だった。いくら逃げろと理性が叫んでも、体は少しも動いてくれなどしないのに。
それでも再び青年が倒れ、立ち上がるその姿を視界に収めて見詰めていた雫には、痛みとは違う強い衝撃が生まれていた。その中でも不意に一際強く胸を打ったのは鼓動だった。
また失うのか、鼓動と共にそう脳裏に浮かんだ。『また』失うのか、と。今はもうその背と翼しか知らない青年を、再び失う様をただ拱手傍観するだけなのかと、鼓動に揺り動かされた心に復讐者がそう問いかけている。いいや、と少女は歯を食いしばった。
「動かなきゃ」
立ち上がる。握った手には硬い感触。魔晶剣の柄。
顔を上げる。青年の翼、背。その向こうに異形のもの。振り上げられた鉤爪。地面を、蹴った。
「たとえ、ただ霧から生まれた幻影だとしても!」
立ち上がった復讐者の肉体が変異する。雫の背に広がった翼が霧の大気を強く叩く。庭園に鳴り響いた金属同士の衝突音は、硬い鉤爪と剣の出会って噛み合う音だった。克己の心に、ただの幻影が実体を得た証左の響きだった。雫は恐怖に震える少女ではなく、デーモンイーターとして目覚めた一人のディアボロスとして、傷だらけの青年を背に異形を見据える。
「もう二度と、奪わせはしない! 今度は僕が君を守る番だ!!」
成功🔵🔵🔴
効果1【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
ヴェンヴ・ヴリュイヤール
「お尋ね致します! マリー・アントワネット王妃、フランス王の子を産んだテレジア公の愛娘を殺し何が救われますか?」
少し間を起き、民衆の反論や叫びにかぶせる様に声を上げる。
「民に母を殺された王の子は何を想いますか? 怨嗟の芽たる子も殺しますか? 娘を殺されて怒る国も殺しますか? 王妃にも父母がおり、王妃もまた一人の母であらせられます。一人の母を殺して、何を救いますか?」
「怒るなとは申しません。しかし、王も民に育てられる存在。血の縁に情も抱けなければ、民に情を掛ける訳もなし。血も通わぬ人の型に国を託すよりは母から子へ情けと望みを繋ぐべきではありませんか?」
と母視点での【不意打ち】演説で【魅了】する
広場を囲い多い尽くさんばかりの人の波。あるいは人の海。人々の群れ。その中に唐突にひとつ、唱和と喝采の間隙に割って響いた声があった。
「お尋ね致します! テレジア公の娘を殺すことで、一体何が救われますか?」
黒に統一された佇まいは、民衆の群れの中にあれば浮いているとも言えるだろうか。喝采する群衆の中でも一つの群れが何かと振り向き、怪訝そうな表情に、あるいは邪魔をするなと言わんばかりの憤激を見せながら目を向けた先。そこに凜然と立ち声を上げたのは女性、復讐者たるヴェンヴ・ヴリュイヤール(天使の■を喰らった聖石灰の天使(デーモンイーター)・g01397)だった。
「フランス王の子を生んだ、テレジア公の愛娘、マリー・アントワネット王妃を、こうして多くの人々の前に引き出し罵声を浴びせて処刑することで、誰が、何が救われるのでしょうか!」
振り返った群衆が、目を向けてそれを耳にした人々が、今度は広場に中心に向けてではなく、処刑に対しての疑問をはっきりと言葉に変えて投げかけたヴェンヴに対して、一斉に口を開いた。
「黙れ、マリー・アントワネットは処刑されるんだ!!」
「王妃は殺せ!!」
「王妃を殺せ!!」
男女も、若い声も老いた声も誰も彼もが一様にそう吠えた。あまりに多勢の声に、だがヴェンヴが怯むことはない。僅か反応を伺うように言葉の間を作っていた彼女は、しかし群衆の続く声には唱和を呑むようにして通る声で次の句を放った。
「王妃を処刑した後には何があるかと、考えたことはありませんか」
それは乱雑に張り上げられた言葉ではない。だからか、正面からの喧嘩腰を作っていた民衆はその様子にわずかにためらうような気配を見せた。復讐者には、人々が成した群れの一郭がざわりと、僅かに不安定な揺れを見せたようにも見えた。
「民に母を殺された王の子は何を想いますか?」
その揺れに中に、さらに一石が投じられる。母を殺されたならばと想像しただろう民衆のうちの誰かが狼狽えたのが垣間見えた。
「怨嗟の芽たる子も殺しますか? 娘を殺されて怒る国も殺しますか? 王妃にも父母がおり、王妃もまた一人の母であらせられます。一人の母を殺して、何を救いますか?」
どこまで続くのか。どこまで続ける気なのか。子から母を奪うのか、親から子を奪うのか、それをどこまで繰り返すのかととヴェンヴが問えば、返される怒声の勢いにも群衆の揺れが伝播したようだった。そして黒一色を纏う復讐者のすぐ傍に、もう一人が現れる。
成功🔵🔵🔴
効果1【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
獅子城・羽鳥
革命家の格好と拡声器
友達催眠と《演技・情熱》使用
《臨機応変》にハープの《演奏》で気を引く
王妃の贅沢だけでは国庫は傾かない
数世代前からの戦争のツケが溜まっていた
感情と正義は別物だ
どんなに悪く見えても罪を問うなら公平な裁判をやるべきだ
必要な期間や弁護人はきちんと確保したのか?
被告の待遇は?
市民諸君は王妃を贅沢だの外国人との理由で憎んでるが
本当に処刑に値するかはきちんと公平に確かめねばならない
このまま感情に任せて処刑すれば歯止めが効かなくなる
その先は王侯貴族に限らず多くの人間が処刑されるだろうな
取り返しがつかなくなる前に落ち着いて考え直そう
血と処刑と戦争欲に取り憑かれた真の敵は誰なのか
よく考えてくれ
黒衣の女性に並び立つ、それは革命家の姿だった。広く声の届くようにと用意された拡声機を手に、彼は息を吸い込んだ。
「彼女の言う通りだ。市民諸君は王妃を贅沢者だ、外国人だとの理由で憎んでいるのだろう。だが本当に処刑に値するのか、それは公平に確かめねばならない」
処刑を止めようとする声が二つに増えたことで、黒衣への反論の勢いも微かに陰りを見せていた群衆に静かにざわめきが現れ始める。それは黒衣と革命家の男性、獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)へと向ける疑わしいものを見るような目だけではなく、まるで思いつきもしなかった言葉を投げかけられてはそれに向ける言葉も思いつかず、市民同士眼を見交わして何かの同意を得ようという動きだった。
復讐者の言葉は届いている、この場での納得を得ることは至難でも、この処刑に対する疑問を少しでも引き出すことは出来る。そう確信した羽鳥はさらに声を連ねた。
「感情と正義は別物だ、たとえ王妃がどんな悪人に見えたとしても、罪を問うならまずは公平な裁判を行うべきだ。罪を問うのに必要な機関や弁護人はきちんと確保したのか? 被告の待遇は? このまま感情に任せて王妃を処刑すれば歯止めが効かなくなる、王妃の次は誰だ? 王侯貴族か? その先はどうだ? 処刑台に登るのはきっと王妃やお偉いだけでは済まなくなる、市民諸君でさえ首の保証はされない事態にも発展するだろうな」
今はこうして処刑を見ものとして押しかけるだけの群衆だ、そこには歴然としてクロノヴェーダたちの支配がある。だが処刑に対する熱狂が、罪人とされた人物に対する手放しで無責任な狂乱が、自分の身に降り掛かったならばという思考の芽生えだけであっても、すでにあった揺れをさらに大きく波立たせるには十分に過ぎた。
「王妃は民の苦難を無視して浪費に溺れた贅沢者だと人は言う、だが王妃の贅沢だけで国庫が傾くものか。本当に王妃だけが悪人なのか? このまま熱に浮かせて王妃を処刑して、ギロチンの暴走に任せるのがこの国の人々の本当の望みなのか?」
語る、語りかける、その言葉に淀みは無い。群衆の中には尚も「王妃は処刑されねばならない」と叫び、「王妃を殺せ」と広場へ向けられる喝采に合わせて喉を張る姿も見られる。だがその中には確かに、疑念を浮かばせ、逡巡を明らかにした目で復讐者の様子を伺う姿もあった。
「取り返しがつかなくなる前に、一度でいい、熱から離れて落ち着いて考え直そう。血と処刑と戦争の欲に取り憑かれた真の敵は誰なのかを」
不意に、羽鳥の視線がついと群衆を撫でて別の一点へと向けられる。据えられた先、群衆の向こう側。まだ距離のある場所に、明らかに人間ではない気配。姿は貴婦人の形に整えていても、眼を見開いて黒衣と革命服を凝視する形相には想定外と敵意と殺意がありありと見て取れた。
「よく、考えてくれ」
大成功🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
平良・明
なかなか疲れますが、一服の缶コーヒーはまだ先です
新たな時代の地に足つけて、行きましょう
演説が成されれば、そこが渦中になるはずです
まずは敵の攻撃が始まる前に、動きます
群衆の中に紛れ込み、征服人形達の近くに回り込み
外縁の最前線に陣取りよく観察して敵より一手
あるいは数手早く攻撃を開始しましょう
初心に帰り、始まりのインスタントトーチカです
ディガーパックと小型拳銃を併用して
作り出した防衛拠点を軸に立ち回りながら
撃ち壊し、殴り壊し、踏み込みすぎないよう
基本的には、仲間が合流できるまでの時間稼ぎです
あの人のように一人で何でもこなせる訳じゃありませんからね
……うーん、乗り越えてはいますが苦手なものは苦手です。
群衆の中に、一人、作業着が紛れていた。缶コーヒーの休憩やら一息やらはまだ先と、登山靴で広場に集結する人々の隙間に入り込む。位置は外縁の最前線。群衆の唱和と喝采による熱狂を微動だにせず監視するクロノヴェーダ——征服人形の十分に近くまで身を進ませてから、平良・明(巡礼・g03461)は足を止めた。
敵に察知されずにいられるのは光学迷彩の効果と、加えて、明と同様にこの広場に辿り着き声を上げた復讐者の存在が図らずも注目を集めているからだろう。見渡せば征服人形の半数ほどは黒衣と革命服に銃口を据えている。人形を統率する存在もまた群衆の勢いに僅かに陰りが現れたとなれば演説の渦中に目を意識を取られているようだった。まるで人間の女性のような姿形をしたアヴァタール級、鉄爪貴婦人は、未だ袖や裾の中にその凶器を隠し通しながらも鋭い瞳を群衆の中、その先の黒衣と革命服に向けている。
だが仲間がこの時代の地に生きる人々に向ける言葉にも限りがあり、終わりがある。であればと喝采に紛れ熱狂に没したまま、クロノヴェーダの中でもまずはと視線を向けた先、征服人形の銃口と指先に注視する。
一郭から上がる唱和の勢いが落ちる。混じり合っていた声音の中に突出するような誰かの声が際立つようになり、溶け合っていた口々が解けるようにばらばらとテンポを失う。その終結に、貴婦人の姿を真似たそれが動き出そうとする、その手前に、両手を持ち上げた。
「さあ、初手は初心に帰りましょう」
銃声が群衆の中から響く。野次馬に集まったのかあるいは集められたのか、群衆が至近で鳴り響いた命に危機をもたらす音色に悲鳴にも満たない声を上げて滴を落としたように身を引いて退き、残された空間に立っていたのは簡易防御拠点と、人形の頭部を正確に打ち抜き砕いた復讐者が一人。急所を撃ち抜く弾丸を送り出した銃口が一つ、握る手が二つ揃い、何の変哲もない作業着姿。
「……乗り越えた、とはいえ、苦手なものは苦手です。この場はこちらにて、失礼」
こちら、そう言いつつ銃口をひらりと持ち上げ、二度、構えて据える。がしゃんと徹頭徹尾に整った音を立てて征服人形たちが銃口を向けるのにも、帽子の下の表情は平静のままに一切の揺るぎなく。
向けられる無数の銃口に動じもしないその様子の理由は、立て続けに降り注いだ炎によって明かされた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【セルフクラフト】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!
火撫・穂垂
彼女の事は、よく知らない。
だから、説得は、任せる。
ボクのやるべきことは、悪意の火を掻き消すこと。
……嵐が来るよ。
猛火。
ボクの内に眠る命の火。
身体能力を上げて、一気に切り込む。
弱点を見破って攻撃してくるなら、時間をかけてはいられない。
そもそも、長い時間は、こっちもつらいからね。
さっさと、首を落とす。
敵陣の中に踏み込めば、誤射の可能性も出てくる。
動きが把握される前なら、同士討ちするか、躊躇うかはわからないけど……どっちにしても、ボクに有利。
真ん中で、暴れさせてもらうよ。
そうやって人形にやらせて、自分の手を汚さないから。
命の火の強さも、怖さも、わからないんだ。
彼女、つまりは王妃マリー・アントワネット。その人のことは良く知るでもない。
であるから人々に声を向ける役割は仲間に任せ、機を窺っていた最中の銃声。折り重なるように群衆の悲鳴未満の声が一過。火撫・穂垂(奉火・g00006)はそれに即座に反応した。
「——嵐が、来るよ」
猛火。火撫の呪術によって燃え盛る火。魂を種火に、血肉を薪に燃え上がる火。刃と共に振り抜いた炎が人形を裂き、燃え上がらせていく。
「ボクのやるべきことは、悪意の火をかき消すこと。ボクの内の、命の火で」
炎を内から灯し纏えば体が軽く、増して全身が動かしやすい。その感覚に浮かされることなく、穂垂は二の炎と共に征服人形が作り上げる敵陣のその只中に飛び込んだ。
征服人形が群れを個として敵に向ける攻撃は、弱点を見抜くという特性から戦闘の中で情報が収集されるにつれて厄介になっていく。故に時間をかけてはいられない。継戦時間が長くなれば自分も、仲間の復讐者たちもつらくなっていく。だからと、穂垂は敵を、眼前の征服人形を炎で降し、周囲からの斉射は身を転じて捻り直撃を避けて体勢を整え直す。短く一息。
いくら統制された人形たちとはいえ、至近で暴れる標的を寸分の狂いもなく斉射し撃ち抜くにはそれに十分な情報か、数打てばのどちらかを達する必要があるだろう。だが人形たちの一群は既に別の復讐者の対応に向けられ、そして自分とその復讐者以外にもまだ、と穂垂は脳裏で素早く判断を下した。
「動きが把握される前なら、ボクに有利。暴れさせてもらうよ」
火を以て。人形へと猛火をもって強撃し——内の灼けつく薪たる血肉の痛みには耐え——応酬。幾つもの傷が肌に走り、対し焼け崩れた人形の残骸が足元に転がるようになった頃に、袖や裾から鉄をちらちらと現し始め、そうしながらも人形たちへありとあらゆる指示を飛ばす女の姿を見つけて、目を細めた。
「そうやって人形にばかりやらせて、自分の手を汚さないから」
届くとも、届けとも思わない言葉だ。だが、魂を、血肉を燃やす火撫の穂垂には、どうしても言葉になって零れ落ちた。
「命の火の強さも、怖さも、わからないんだ」
成功🔵🔵🔴
効果1【水源】LV1が発生!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
獅子城・羽鳥
俺達の言いたかった事はどうやら届いたのか……
次は「真の敵」、いつもの木偶人形掃討と行くぞ
「いつもの」とは言っても1802年とは状況が違うのだし、普段通りに油断せず臨むさ
残留効果フル活用
連携・アドリブ歓迎
自分のパラドクスと敵の攻撃方法の特性を考慮して戦う
可能なら味方を援護
勝利のためある程度のダメージは仕方ないが仲間を不利にする行動はしない
民衆への被害を出さないように動く
基本は《臨機応変・一撃離脱・地形の利用・幸運・制圧射撃・爆破》活用のヒット&アウェイ
状況により光学迷彩+背後からの《忍び足・不意打ち》で《暗殺》
SPD反撃のボムは敵の懐に潜り込んでやり過ごす
ヴェンヴ・ヴリュイヤール
「……人心には期待しておりませんでしたが、親心はまだあった様で何よりですわね」
そう言いながら【腐食】の効果の霧を発生させる。狙うは断頭台とそれが見える様に組まれたであろう木組み。観衆に見える様に作るのならばそれなりの規模で手間もかかっているだろう。それを腐らせる霧の中、本命の自らのパラドクス『全ては霧に溶けて逝く』を発動させる。状況は二転三転、処刑台は腐る、人形達の体も腐りひび割れる。
「ふふ、ああ、またあの愛らしいお人形の生の感情が聞こえるのかしら? ほらほら、きちんと指示を出さないといけませんわ?」
既に親心を諭した貴婦人の姿から歪んだ愛を向ける復讐の女へと姿と変わっていって。
この広場では鳴り響くはずのない銃声が響いた。はずがない、と思ったのは、この場に居る人間の全てが期待する音は刃が滑り降り首の落ちる音だけだったからだ。だから聞こえた人々はこの場では異様に過ぎるその音に耳を取られた。
そしてこの広場では見るわけもないはずの燃え盛る炎に目を取られる。そうして危機を感じた彼らが群れを崩すのは、素早かった。広場を覆って囲む人の群れの輪、その外縁の一郭が悲鳴やどよめきとともに崩れていく。
その寸前に見えていた彼らの表情と、そこに見えた葛藤に似た疑念に、容易く輪を崩していく姿に獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)は一度小さく素早く息をついた。どうやら彼らには、少なからず自分たちの言葉が届いたのだと。
「さて、それなら次は「真の敵」だ。いつもの木偶人形掃討と行くぞ」
「ええ、参りましょう。……人心には期待しておりませんでしたが」
親心はまだ残っていたようで何より。そう嘯くように微笑して、ヴェンヴ・ヴリュイヤール(天使の■を喰らった聖石灰の天使(デーモンイーター)・g01397)は片手を広げた。広げられた五指がふわりと軽く握られて、やおら指先で摘み上げるような動作があれば、その時には榴弾が細い指先に現れていた。
「先ずは、あの無骨な量産型のお人形の相手をして差し上げなくては」
同時に黒衣を中心に広がったのは無生物を直ちに朽ち腐らせる腐食の霧。広場を臨む群衆の中には足元を支える木組みの足場まで用意していた者もあり、それら木組みの足場が瞬く間に腐れて崩れていけば逃げ損ね距離を取り損ねていた群衆の残りも何かを喚きながらか叫びながらか駆け逃げていく。周囲の一般人の気配は総じて距離を取っていて、これならば戦闘に巻き込むことも無いと羽鳥も一瞥に判断し、そして機械腕を握り締めた。征服人形たちは銃と炎に気を取られている。こちらはただ声を上げただけと見られていたのか、無防備に背を向けて。
ならば。
「やり易いな」
硬い地面を踏み締める。敵の注意がこちらに向かない間に光学迷彩の効果を引き出し空気と景色に紛れる。肉薄して眼前に据え置いた征服人形を四体、サイボーグの機械の四肢より、斉射。機械たちが弾けるように吹き飛んでいく。
「まあ、『いつもの』とはいえここは時代も違うのであれば状況も違う。油断せずに、普段通りに、だな」
「お見事ですわ。わたくしめも続きませんとね」
復讐者のただ一過。他方に気を取られていた征服人形の一団が、崩れた四体が盛大に音を立てて地面に散らばるのに少し遅れて振り返る。銃口が革命服へと向け据えられる。黒衣の淑女は、一転、表情を打ち消し目を細めて榴弾を込めた機構をそれに向けた。
「投射角度演算終了。——全ては霧の中に」
榴弾、ガジェッティアが独自に生成した化学合成物が籠められた弾が征服人形の眼前に迫り炸裂する。化合物が高温高湿の霧を発生させる。生身であったのであれば皮膚も内臓も無事では済まないそれは、機械には急激な錆を促し、活動停止という名の破壊へと誘うもの。
返す反撃の一斉射にヴェンヴは身を翻し直撃を避け、次の標的へと向かった羽鳥もまた人形たちから放たれるボムの軌道をぶらし揺れさせるためにも深追いは避け崩れ落ちた木片も盾として利用し負傷を避けながらも的確に人形と銃口の数を減らしていく。
「ああ、もうこの役立たずども! どこの何ともしれない輩になにを手間取っているの!!」
人形の瓦礫が地面の彩りとなっていく中で、不意に女の声がそう喚き立てる音が聞こえた。羽鳥とヴェンヴが目を向けた先、貴婦人の姿に似せていたはずの『敵』は、もはやその刃の全てを苛立ったように空気に晒して振り回しながら人形たちを叱咤している。
はあ、と、息を漏らしたのは、ヴェンヴだった。
「ふふ、ああ、またあの愛らしいお人形の生の感情が聞こえるのかしら? ほらほら、きちんと指示を出さないといけませんわ?」
黒衣の両の瞳に熱が灯る。人々に親心を諭して目覚めさせた淑女の顔など既にそこには無く。革命服もまた、袖の土埃を払い、目を遣る。
「数ばかりで無能な部下というのも面倒だろう。減らしてやったから、さあ、次だ」
銃に炎、火器の四肢に霧。大量の物言わぬ人形たちが地面に転がり斑模様を作り終えるまで、そう時間はかからない。
残されたのは口と意志を持つ人形、アヴァタールのランクを持つたった一体の人形だけだ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【完全視界】LV1が発生!
【冷気の支配者】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
火撫・穂垂
ヒトにも見えるし、モノにも見える。
そう言うヒトは、周りにもいるけど……キミは、ずいぶんとモノに近いみたい。
だからかな。ヒトを狩るのに、そんなに平気でいられるのは。
踊るような、見た目だけは綺麗な動き。
だけど、その分わかりやすい。
歌も踊りも、拍(リズム)がある。実際には踊りじゃなくても、そう見えるってことは、動きの癖がそういう形で出てる、ってこと。
それさえわかって、ついていけば。
いくら速くても、その『先』を予想することは出来る。
あとは、そこに鎌を振ればいい。
突き立ててやる。
感情が間違いを犯すことは多いよ。
だけど、間違いを『選ばされること』は、間違いを犯すこととは違う。
征服人形たちが一掃された。大量の銃口を捌いて断ち斬り焼いた大鎌を一度軽く振るって、火撫・穂垂(奉火・g00006)は視線を上げて『それ』を見た。視線を据えて、観る。
「ヒトにも見えるし、モノにも見える」
そうして、ぽつりと呟いた。群衆と、従えていたトループス級たちを見晴らすためだろう、高台に立ったまま人形たちの全滅を見届けるまで動かなかったドレス姿のそれが、高台からその身を放る。
「そういうヒトは、ボクの周りにもいるけど……キミは、ずいぶんと『モノ』に近いみたい」
落下の最中には鉄の機械腕を高台の側面に、最後には地面に突き立てることで衝撃を和らげながら、がしゃん、と、盛大な鉄の音を立ててクロノヴェーダが地面に降り立つ。ドレス姿の本体だけがゆっくりと地面に靴先を着ける。
その全身から刃の機械腕を広げたと見えた刹那に、重苦しい鉄の音と刃の爪に似つかわしくなく、ひらりと優雅にドレスの裾が舞った。
穂垂は、大鎌を握り、身構える。見る。観る。その動きの一つとして見落とすことのないように。
「だからかな。ヒトを狩るのに、そんなに平気でいられるのは」
ドレスを纏った人形が、踊るとは比較にならないほどの速さで迫る。翻る袖と裾、布の動きに目を取られていたのならきっと容易に串刺しにもなっていただろう空気を斬る音に、穂垂は大鎌を振るって身を翻した。鉄爪を大釜の刃が受け止め流して逸らし、振るった腕と地面を蹴った脚に幾つかの裂傷。だが。
「見えた、ここに……」
避け、踏み締めた地面の感触にすぐさま腰を落とし重心を傾ける。今、ここで必要となるのは、この血肉を以て盛る火ではなく。
「突き立てる……!」
跳躍、宙に大鎌を振り抜く。籠めた力が速度と重量を得て獲物を捕らえ損ねた人形の鉄爪の二つを砕き折りドレスに覆われた機械の肩に突き立てられた。
絶叫。人形がまるで激痛に泣き叫ぶ人のように、だがそれよりもはっきりとした憤怒と殺意をもって激昂する。ただ振り払うために振るわれた機械腕にはそれを足場に跳び、地面に軽い音を立てて両足で降り立った復讐者が小さく、は、と息をついた。
「殺す!! 王妃の処刑を阻もうとする輩は、誰であろうが何であろうが殺す!!」
クロノヴェーダが吠える。そこには先に取り繕っていたような貴婦人の様相は欠片も残っていない。部下を奪われたという悲哀も微塵も感じられい。ただその言葉通りだった。
「……感情が間違いを犯すことは、多いよ」
それを穂垂は否定しない。怒りも、殺意もあって自然なものだ、けれど。
「だけど、間違いを『選ばされること』は、間違いを犯すこととは違う」
故に穂垂は大鎌を振るう。これ以上、人々の心が、感情が、何かの思惑によって歪められ、選ばされることがないように。
大成功🔵🔵🔵
効果1【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
ヴェンヴ・ヴリュイヤール
「さて、残るはお人形ちゃん一体ですが」
想いを馳せるはアントワネット王妃。後に残るは敵の首魁だけ。ただ、折角の王妃の御前であらせられる。ならば、圧勝の安堵を捧げたい。
「わたくしも強欲になったものだわ。ほら、お人形ちゃん? 来なさい」
そう言って相手の前に特に避ける事も身構える事もなく【怨讐と慈愛の翼】が鋭さを増した後、くいっと人差し指を相手に向けて自分へ数度と折り曲げる。
「どちらが淑女として上か、比べましょう? その腕で抱くもよし、爪で削ぐもよし、口吻でも? ああ、まさか慄いてなんていませんわね?」
言葉巧みに【誘惑】し、自らの接吻の【不意打ち】で終わらせようと
「最期まで愛してあげますわ」
獅子城・羽鳥
いつも鉄爪貴婦人と対峙して思うんだが
よくその衣装で王妃や貴族の贅沢を非難出来たもんだ
救出の本戦が始まったようだな
あのデカブツに吸収されないよう
念入りに木っ端微塵にしてやるから感謝しろよ
残留効果活用
連携・アドリブ歓迎
自分のパラドクスと敵の攻撃方法の特性を考慮して戦う
可能なら味方を援護
勝利のためある程度のダメージは仕方ないが仲間を不利にする行動はしない
常に《臨機応変・地形の利用・幸運》活用
飛翔と《一撃離脱》でヒット&アウェイがメイン
上空から内蔵火器で《制圧射撃・爆破》
状況により近接武器で《フェイント》をかけたり光学迷彩と《忍び足》からの《不意打ち》で《暗殺》を狙う
ダメージは《忍耐力・情熱》で耐える
アストリッド・ヴァルトシュタイン
課された任務を果たす。
その一点で我々は似たもの同士でしょう。
ですが貴女は殺す事。
自分は殺させない事が任務なのですから、やはり相容れないものです。
怒る事は出来るのに、悲しむ事ができない貴女に我々は止められません。
この胸にあるのは怒りと悲しみ。それを繰り返させないという思い。
貴女はわたしが通り過ぎた場所に居る。
無数の腕の動きを【観察】しながら全力で駆ける。
数多の可能性の中、沢山の私が引き千切られて死んでいく筈だ。
それでもパラドクスで最善を引き当てた私は懐に飛び込み、その胸にありったけの【破壊】力を込めたナイフを突き立てる。
心の痛みは分からないかも知れないけれど。
この痛みなら、貴女にもわかりますか?
平良・明
初めて断頭台を見てからずっとこれを言っていますが
大事な事ですから、今回も繰り返します
断頭台が瞬きをして涙を流すことないよう、やすらかな明日を願います
繰り返すのがトラウマなら、それに対して繰り返すのが祈りとも言えます
鉄爪貴婦人、以前も断頭台の前で見た顔ですが、新鮮に撃ち滅ぼしていきましょう
それにしてもあの服装は
心は清いとでも言いたいのでしょうか
どうみても虚ろでからっぽですが
トーチカで地形を変えながらの戦いになりますが
味方の有利につながるような行動を心がけましょう
敵の攻撃に対しては丁寧に鉛弾をお返しします
※連携、アドリブ歓迎
さて、と誰が最初ともなく声が落ちた。それに応えるように、四対の視線が一点に集約される。大鎌が深く一撃を与え、その衝撃に叫声を迸らせる、機械腕に鉄の爪持つそれへと。
「残るはあのお人形ちゃん一体ですが。王妃陛下の御前ともあらば、圧勝の安堵をこそ捧げたいもの」
ヴェンヴ・ヴリュイヤール(天使の■を喰らった聖石灰の天使(デーモンイーター)・g01397)が片手、左の指を閃かせる。つい、と紅差し指で己の唇をなぞれば、そこに霧の姿がわずかに揺らめいて踊る。人形の殺意に返すように。——王妃の処刑が行われる広場、そしてそれを囲うように出来上がった群衆。そうと見えていた景色が、にわかに、そして確実に音を増し、気配を増して、状況は刻一刻と変化している。他にもこの時代へと渡ってきた復讐者たちがいるのだと明確な感覚を得て、獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)は機械腕を軽く押さえて身構えた。
「どうやら終局も近いようだからな」
瞬間、羽鳥の背に飛行ユニットが展開される。踵のブースターが推力を吹き出すと同時、翼型をしたユニットが羽撃き機械の体躯が中へと躍り出た。
「感謝しろよ、」
言い放った視線の先では、貴婦人の姿だけは保つクロノヴェーダが鉄爪を躍らせんと機械腕を広げている。推進力をそのまま突撃する速度へと換えた羽鳥が片腕、硬く握り締めた機械仕掛けの拳を振り上げて鉄爪の中へと飛び込んだ。
「念入りに木っ端微塵にしてやるからな」
轟音。刹那衝撃波が放射に吹き荒れ重い砂塵が突風と共に舞い上がる。鉄爪のいくつかが接続を失って宙に舞うと同時に上空へと離脱し引き裂く爪から素早く逃れる。革命服が切り裂かれて散るのを追おうとした貴婦人には即座に弾丸が襲いかかった。
「断頭台を見るのは初めてではありませんが」
戦場に『R.I.P.』と刻まれたトーチカが忽然と姿を表していた。瞬く間もなくそれを構築した平良・明(巡礼・g03461)の銃口は、射線を保ちひたりと敵へ据えられたまま。
「何度でも繰り返す祈りです。断頭台が瞬きをして涙を流すことないよう、やすらかな明日を願います、と」
言葉に、羽鳥を応用に機械の爪を伸ばしていた貴婦人の双眸がぐるりと回り声の根元へと視線を巡らせるのが見えた。見えたと見た時には、ナイフを手にした少女がその視線の上へと躍り出ていた。駆けると共に目を凝らし続けたその視界の中から、アストリッド・ヴァルトシュタイン(Löwenzahn・g04015)が『可能性』へとその身を躍らせる。握り締めた切っ先が最善の結果へと導かれるまま、深く、強く、突き立てる。
硬い音を鳴り響かせながら、機械の軋む音が大きく響いた。同時に二度目の叫声、鉄爪貴婦人がさながら獣のように、受けた衝撃を怒りへと換えて、怒りを殺戮のための衝動へと換えて咆哮する。その音と鉄爪の奔流からからがら抜け出し、アストリッドは顔を上げ宣告した。
「っ、怒る事は出来るのに、悲しむ事ができない貴女に我々は止められません。貴女はわたしが通り過ぎた場所に居る——!」
「お黙り、薄汚い鼠ども!! 殺す、切り裂いて引き裂いて微塵に切り刻んで殺して、」
「あらあら、そう激してばかりで宜しいの?」
既にがなり立てるように張られた怒声に覆い被さるようにもう一つ、女の声が落ちる。激声に対照的に落ち着いた声音のように聴こえるのにその内に震えるような熱を孕んだ音を落として黒衣が手を伸ばす。捉えたクロノヴェーダを自身へと引き寄せて、寄せた唇からふ、と霧の吐息が吹き込まれる。唇が生む濃い霧が貴婦人を覆う、その途端に鉄の刃が軋み、白くつるりとしてまるで陶器のようだと見えていた肌に赤茶の錆がじわりと浮かぶ。
滑らかな駆動音も鋭い刃の音も雑音に曇らせながら、ドレスを乱して声を荒げてクロノヴェーダが鉄を振るう。黒衣に切り裂かれた痕を残しながらも、ヴェンヴは「あは」と声を溢れさせて嫣と笑った。
「どちらが淑女として上か、比べましょう? その腕で抱くもよし、爪で削ぐもよし、ええ口吻でも? ああ、まさか慄いてなんていませんわね? ほら、お人形ちゃん?」
嘯く黒衣の翼が揺らめく。誘いかけるように指先で手招くヴェンヴにクロノヴェーダが標的を移したと見れば次には羽鳥が空中から降下してドレス姿の横合いから強撃を叩き込む。爪の刃に捕らえられる前に多少の負傷と引き換えに追撃を振り切り戦場に立つ壁の陰に滑り込み、其処に、人影。
「おっと。すまない、少し寄らせてもらうぞ」
「ええ勿論、どうぞご随意に」
戦場に点々と立ち並ぶ壁、トーチカはこの戦場とそれ以外の空間を分断しながら、同時に復讐者たちの身を守る盾ともなっている。その一つの陰で石の壁に軽く背を預けて機械の四肢の具合を整えがちりと音を立てる羽鳥に、それにしても、と銃を手にする明が声を向けた。
「あの服装は、以前にも断頭台の前に立つ姿を目にしたものですが。心は清いとでも言いたいのでしょうか」
「俺もあのアヴァタール級と対峙する度に不思議に思うよ、よくあの衣装で王妃や貴族の贅沢を非難できたもんだ」
「どう見ても虚ろでからっぽで」
「まったくだな。その分、打てば良く響きそうだ」
「なるほど、人形ですね」
途端、二人が背にしたトーチカの壁にまるで批難するかのような強い衝撃が叩きつけられる。明は一つ苦笑を落として戦場の方へと顔を向け直し、羽鳥も背の翼型の飛行ユニットを再度展開した。
「どうにも熱烈です、丁寧にお返ししていきましょう」
「ああ」
陰から身体を踊らせた明が銃撃と共に仲間の利をトーチカの形で確保に向かう。敵へと手招き誘い掛けるヴェンヴが一旦退けばそこにアストリッドがナイフを振るい、羽鳥の一撃離脱に明の銃撃が追撃する。それに鉄の爪を振るい復讐者を裂き氷の吐息で返すクロノヴェーダは、だが復讐者たちのパラドクスを受けるたびに刃を備えた機械腕をひとつふたつと失い、陶器の肌には錆の痣すら浮かばせながら軋む鉄の音を立てている。
「……相容れないものです」
それでも舞い続ける鉄爪の軌跡をつぶさに目に焼き付け、観察を続けながらアストリッドが不意に零した。
「課された任務を果たす、その一点で我々は似たもの同士です。ですが殺すこと、殺さないことがそれぞれの任であって」
そこで一度言葉を切る。自身を落ち着かせるように呼吸をして、強くナイフを握る。アストリッドが胸中に深く抱えるものは、その痛みは、きっとあのクロノヴェーダには感じることのできないものだ。傷に怒りを示しても、命を奪うことには何も覚えず、計画を阻害されたと知れば即座に殺意で以て相対する、そんな人形の心には。
「けれど、この痛みがわからないとしても……」
地面を蹴る。繰り返させてはならないという強い想いと共に、可能性の中から『クリティカル』をたぐって引き摺り出す。まだ機械腕に繋がっていた刃の軌跡を掻い潜り、掠めながら肉薄し、振り上げる、一刀。
「この痛みなら、貴女にもわかりますか」
度重なる衝撃で瞬く間に摩耗し破れてぼろぼろに崩れたドレスの胸元に、ナイフが突き立てられる。
「あ、ァ……」
呻いたのは『人形』だった。軋む音を立てて鉄の爪の残りをかき集めてアストリッドを捕らえて引き裂くために力を込める。少女の腕に赤い線が浮き上がる、だがそこまでだった。
銃弾が人形の上体を打ち抜いていった。人形の重心が崩れて傾いていくその背後から宙を低く駆けた機械の拳が強く背を穿つ。最後に手を伸ばした黒衣が、いまだに陶器の滑らかさを残す人形の肌に軽く唇で触れて、微笑んだ。
「もうおねむかしら、お人形ちゃん?」
鉄の音を立てて地面に鋭い爪が立つ。たったそれだけの軽い衝撃をきっかけに、軋んでひしゃげて崩れ落ち、硬い地面にぶつかって砕けていく。そうして小さくなだらかな山が作り上げられたその上に、くたびれて擦り切れて土に汚れたドレスの袖か裾かが、ひらりと静かに降り立った。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【光学迷彩】がLV2になった!
【飛翔】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【セルフクラフト】がLV2になった!
効果2【アヴォイド】がLV2になった!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV3になった!
【ガードアップ】がLV3になった!