リプレイ
菅原・小梅
◆行動
ふむ、歌会ならば文章生を目指す貴族の少年として潜り込みましょう
香を焚き込めた水干装束に身を包めばそれらしいでしょう
義父様が見ていたならば私に苦笑いされたでしょうが
魑魅魍魎な貴族達に侮られぬ様に【歴史知識】【伝承知識】を総動員し
周りを【観察】しながらも立ち居振る舞いには気を付けます
そして、お困りの民部の少輔に助け舟としての歌をそっと
「袖濡れて 錦もみじに 染まりとて 澄む民心 惑わざりけり」
彼のお方ならば此の歌の意味を即座に理解されるでしょうし
周囲の方や蟹坊主への意趣返しとしても十分です
頃合いを見て菅原ゆかりのものとしてご挨拶をし
心惑わせることについても相談に乗れる旨をそっと言伝しますよ
●潜入
蟹坊主が主催する歌会の邸。
「もし義父様がご覧あそばしたならば、今の私の姿に苦笑いされたでしょうが……」
菅原・小梅(紅姫・g00596)は、香を焚きしめた水干を着ている己が男装を顧みて、ふっと自嘲めいた笑みを洩らす。
歌会に違和感なく潜り込むため、文章生を目指す貴族の少年を装っているのだ。
「ようやく暑さも和らいで、秋の夜長が過ごしやすくなって参りましたな」
そうして念を入れたおかげか、小梅は怪しまれることなく歌会に参加して、早速他の貴族から長ったらしい挨拶の洗礼を受けていた。
「左様でございますね。寝ていても魂がふらふらとあくがれでるような、夜型にはまことありがたい季節にございます」
魑魅魍魎な貴族たちに侮られまいと、小梅は歴史知識や伝承知識も総動員。
具に周りを観察しつつ、立ち居振る舞いには重々気を遣って、貴族たちの社交辞令をやり過ごしている。
その一方で。
「袖濡れて 錦もみじに 染まりとて 澄む民心 惑わざりけり」
民部の少輔へそっと近づき、助け舟の意味をこめて歌を詠みかけるのも忘れなかった。
袖を涙で濡らして、服が紅葉のごとく色鮮やかに染まっても、人は、あなたの心は惑うことはないでしょう……という意味らしい。
民部の少輔は生気の失せた顔で小梅を見やったが、
「敷き妙の 波に浮かびし 枕とて うき身を夢に 運びだにせじ」
先に歌を詠んでくれたおかげで、呪いの返歌に関係なく小梅の歌へ返歌ができると安心したのか、一句詠んで返した。
呪いの歌で神経をすり減らして悩んでいるのがよくわかる歌だが、本意は想像に任せる。
その後、小梅は頃合いを見計らって、自らの正体を明かして民部の少輔へ挨拶した。
「お心を惑わせることについても、ご相談に乗れるかと存じまして」
そう優しく語りかければ、幾分警戒を解いたらしい民部の少輔も、ここでなく自邸で話したいと小梅を牛車に誘ってくれた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
鹿乃音・伊月
歌会ね……武芸者の身にゃとんと縁のない催しや。
しゃあない、装束の一つは用意してこか。どこぞの商人の娘を名乗りゃ大丈夫やろ。
情報集める時は言葉遣いも気ぃつけてと。
「民部の少輔様いいはる方にお兄がお世話になったそうで……一言お礼を、と思うたんどすえ」
まぁ嘘やけど!京言葉はやっぱ疲れるで……場所を聞いて上手く接触出来たら話進めよか。
「あんさんが少輔様どすかぁ……返歌についてお悩みで?」
……大丈夫、うちはあんさんの味方や。証明は体を張ってやるわ……遠慮は要らへん、うちに歌をよこしてええ。連歌の呪いはうちらで終わらせたるでな。
その代わり、歌に込もった意味を教えてや。何せ、そっちには縁がなかったもんでな!
文月・雪人
呪われた連歌とは
また厄介な事件が起きたものだね
蔓のおもとなら何と返すだろう
…まあ、才は無くとも何とかなるさ
狩衣姿で【プラチナチケット】使用
仲間と連携フォローし合う
蟹坊主に気付かれないタイミングで少輔様と接触
歌会時は下級貴族を装うけど
実は呪いの連歌を秘密裏に調査中の陰陽師だと名乗り
安心して返歌を送って欲しいと申し出る
さてさて問題は歌だよね
少輔様のお知恵も拝借したい所
呪いの歌を素直に読めば
心焦がす恋をするも年甲斐もないとやけ酒を呷る様子が浮かぶけど
意味が一つとは限らないのもまた歌の奥深さの一つ
恋と鯉、酒と鮭も掛けているのなら
食べたくても老いた身には胸やけがするとも読めて…
少輔様はどう思われますか?
嵐柴・暁翔
……要するに本当に効果がある不幸の手紙みたいなもんか…
少輔が善人なのかは置いておくとして、どうしても無関係の他人を殺すのが嫌なら二人以上の知り合いに頼んで最後には自分に戻るように返歌を送りあって貰うか、どこぞの犯罪者か嫌いな相手か、それこそ妖怪にでも送ればいいだろうに…
という訳で少輔に接触
返歌は俺宛てにどうぞ、だな
まあいざとなれば誰かを経由してそちらさんに呪いの歌を戻すから気にするな
少輔が本当に根が善良で誰かに歌を送る事そのものを躊躇うか後で悩みそうなら何か適当な報酬を要求
最悪でも数日は稼げるんだし悪い話でもないだろう
それより歌のコツを教えてくれ
……例えば呪いの歌を最初に送った方への返し方とか
●呪いの返歌
続いて。
「歌会ね……武芸者の身にゃとんと縁のない催しや」
鹿乃音・伊月(狐の怪・g00168)は、初めて参加する会合にどうしたものかと困惑していたが、
「まぁ、しゃあないな。どこぞの商人の娘を名乗りゃ大丈夫やろ」
すぐに腹を括って五つ衣を調達、裕福な大店の娘らしく装った。
「呪われた連歌とは、また厄介な事件が起きたものだね……蔓のおもとなら何と返すだろう」
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)も、わざと身なりをやつしたような狩衣を身に纏い、下級貴族を演じて歌会へ挑む。
「……まあ、才は無くとも何とかなるさ」
幸いプラチナチケットの効果もあって、全く怪しまれることなく歌会へ出席できた伊月と雪人。
「民部の少輔様いわはる方にお兄がお世話になったそうで……一言お礼を、と思うたんどすわ」
まずは伊月が、品よく控えめな風情で他の貴族へ話を振れば、
「ああ。少輔さんなら、あそこにいやはりますえ。昨日からなんや元気無さそうやったけど、こんな可愛らしいおなごはんが声かけてくれはるなら、安心やなぁ」
と愛想よく教えてくれた。
(「まぁ嘘やけど! 京言葉はやっぱ疲れるで……」)
伊月は慣れない言葉遣いに冷や汗をかきつつも礼を言って、いよいよ少輔へ近づいていく。
「あんさんが少輔様どっしゃろか? 返歌についてお悩みで?」
「……えっ、さっきの少年も、あなたも、どうしてそれを……」
既に離れたところで平然と講義を聞いている小梅と伊月を見比べて、驚く少輔。
「実は、私は呪いの連歌を秘密裏に調査中の陰陽師なのです」
雪人も丁寧な物言いで、正直に身分を明かした。
「……大丈夫、うちらはあんさんの味方や。証明なら体を張ってやるつもりやし」
「証明……ですか」
「せやさかい、遠慮は要らへん、うちに歌をよこしてええ。連歌の呪いはうちらで終わらせたるでな」
と、伊月は自信満々に胸を張る。
「ええ。ですから安心して返歌を送っていただきたいのです」
雪人も力強く頷いてみせた。
そんな2人を頼もしく感じたのか、少輔も意を決したように頷いて、
「わかりました。あなたがたもどうぞ私の邸へおいでください。ここでは誰に聞こえるか……あれを誰が送ってきたのかわかりませんので、万一、例の詠み人に聞かれたらと思うと」
声を殺しつつも自邸へ招いてくれた。
「うんうん、おおきにな。その代わり、歌にこめられた意味を教えてや。何せ、そっちには縁がなかったもんでな!」
屈託のない笑顔を見せる伊月だ。
そして、民部の少輔の邸では、
「……要するに、本当に効果がある不幸の手紙みたいなもんか……」
嵐柴・暁翔(ニュートラルヒーロー・g00931)が、門の前で家主のの帰りを待っていた。
(「少輔が善人なのかは置いておくとして……どうしても無関係の他人を殺すのが嫌なら、二人以上の知り合いに頼んで最後は自分へ戻るように返歌を送りあって貰うか、どこぞの犯罪者か嫌いな相手か、それこそ妖怪にでも送ればいいだろうに……」)
元々思索が好きな暁翔らしく、今も何か穏便な解決方法はないかと考えていたが、残念ながら、息をする如く短歌を求められるこの時代において、特定の他人にだけ返歌をリレーするという作戦は非現実的であろう。
ともあれ、奥の間に通された4人。
「さてさて問題は歌だよね……できれば少輔様のお知恵も拝借したい所だけど」
雪人が例の呪いの歌を見せてもらって、真剣に首を捻る。
「呪いの歌を素直に読めば……心焦がす恋をするも年甲斐もないとやけ酒を呷る様子が浮かぶけど」
「へー、そういう意味の歌なんやな」
横で聞いていた伊月が、素直に感心した。
「ただ、意味が一つとは限らないのもまた歌の奥深さの一つ。もしも、恋と鯉、酒と鮭も掛けているのなら、食べたくても老いた身には胸やけがするとも読めて……」
つらつらと澱みなく語る雪人に、相対していた少輔の表情が幾分明るくなる。
「少輔様はどう思われますか?」
「ああ、良かった。気の動転していた私の読み違えかと不安でしたが、あなたにもそう読めるのですね」
少輔曰く呪いの歌の意味は、
「群肝の 心焦がすも 年古りて 恋より酒に 胸ぞ爛れる……かつては恋に胸を焦がすほど若かったのに、年をとった今は恋よりも酒で胃の腑を焼く毎日だ……みたいな意味かと思われます」
さらには、
「あなたの仰る通り、年をとって老いた今となっては、脂の乗った鯉どころか鮭ですら胸焼けしてしまう……という意味もあるのでしょう」
「なるほどなぁ、ほんまに教えてくれておおきになぁ」
伊月が腑に落ちた様子で笑う。
「ついでに歌のコツを教えてくれ……例えば呪いの歌を最初に送った方への返し方とか」
暁翔の言に、雪人もぽんと手を叩いて、
「そうだった。呪いの返歌も受け取らないとね。少輔様、返歌は既にお考えですか?」
「ああ。返歌は俺たち宛てにどうぞ、だな」
暁翔も請け負うが、やはり少輔は浮かぬ表情だ。
「……本当に、呪いを移して大丈夫なんでしょうか」
「まあ、いざとなれば誰かを経由してそちらさんに呪いの歌を戻すから、気にするな。最悪でも数日は稼げるんだし、悪い話でもないだろう……なんてな」
「さすがにそれは……」
「だったら、何か報酬を考えてくれれば良い。呪いを解いたら必ずや取りに伺おう」
少輔は暁翔の説得を受けてしばらく考え込んでいたが、ついに。
「春すぎて 枕を濡らす 潮も引き 砂に干された 海松布かなしき」
搾り出すような声で、一首詠み上げた。
(「恋焦がれて枕を涙で濡らすような青春時代はとうに過ぎて、今や相手の良し悪しを見る目も衰えるぐらい老いてしまった……そんな意味かな?」)
雪人はそう返歌の意味を詠み解いて、
「少輔様、ありがとうございました。必ず呪いを解いて参りますので、心安らかにお待ちください」
と頭を下げた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【書物解読】LV1が発生!
【プラチナチケット】がLV2になった!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV3になった!
陳・桂菓
「ふむ。一つ、からかってやるか」
どこかで蟹を調達しておいしく頂く。その際、できる限り綺麗に殻が残るよう留意。
次いで短冊に一首を記し、その短冊を蟹の殻に入れつつ組み立て直す。そっくり元の形になって、中身もちゃんとあるかのごとく。
歌会に参加したら、蟹坊主に手土産と称して空蟹を渡す。
『獲ろうにも 味噌も身もなし 痩せ蟹よ 波間に入りし 唐織りの損』
表意。獲ろうと思った蟹は食べるところのない痩せ蟹だった。張り切って海に飛び込んで、唐織りの衣をダメにしたのに。
裏意。貴様のお粗末な頭で考えた企みなど、実を結ぶことなく徒労に終わる。骨折り損ならぬ殻折り損、ぶちのめして海に叩き込んでくれる!
渡したら即脱兎。
●短歌で啖呵
さて、伊月たちと民部の少輔が席を外した後も、歌会は続いていた。
「ふむ。一つ、からかってやるか」
陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、何やら悪戯を思いついたらしく、さらさらと短冊に一首認めていた。
次いで包みから取り出したるは、脚も鋏も揃った茹で蟹。
実はこの蟹、中は既に桂菓が脚先まで見事に食べ尽くしていて空っぽ。
だが、胴体を嵌めた時いかにも身が詰まって見えるよう、わざわざ脚や鋏を残したまま慎重に身をほじくり返したのだ。
そんな蟹の殻へ桂菓は短冊を入れて、甲羅で元通り蓋をする。
「では、歌を詠めた人から、順に発表してください」
そして、蟹坊主が貴族たちへ短歌の朗詠を命じたタイミングで、
「できました」
桂菓は蟹を捧げ持ち、蟹坊主へ差し出してみせた。
「これは、面白い趣向ですね」
蟹を見ても特に顔色を変えず、甲羅の蓋を恭しく開ける蟹坊主。
「獲ろうにも 味噌も身もなし 痩せ蟹よ 波間に入りし 唐織りの損」
短冊を読み上げる声も高らかで、それを聞いた貴族たちが笑いを噛み殺した。
何故なら、
『獲ろうと思った蟹は、味噌どころか食べられる身も殆どない痩せ蟹だった。気張って海へ飛び込んで、唐織りの衣をダメにしたのに』
という詠み手の悔しい気持ちを詠んだものだからだ。
もっとも、桂菓が真に意図するところは、
(「貴様のお粗末な頭で考えた企みなど、実を結ぶことなく徒労に終わる。骨折り損ならぬ殻折り損、ぶちのめして海に叩き込んでくれる!」)
まさに蟹坊主へ向けた宣戦布告なのだが。
「なるほど、初めて枕を交わした相手への失望を詠んだものでしょうか。痩せ蟹というのが、また明け透けでよろしい。男は夜も力強くなくてはならぬと思い知らされます」
だが敵もさるもの。蟹坊主はあくまでも歌の師匠の顔を崩さず、桂菓の歌を添削。
「ですが、いささか優雅さが足りませんねぇ。嫌いな人に送るつもりだとしても、短歌は優雅でなければいけません。婉曲な表現の中に、ピリリと効いた悪意を隠しておけたなら、もっと素晴らしい歌になりますよ」
果たして、蟹坊主は自分への宣戦布告と気づいているのかいないのか、平然と言い連ねた。
「ああでも、唐衣ではなく敢えて唐織りとしたのは巧いです。唐織りと蟹の殻折りをかけていますね。語彙は充分おありですから、後は婉曲さですね」
もしかしたら、平静を装って評価する裏で、茹で蟹のように顔を真っ赤にして怒りたい可能性も、無いわけではない。
大成功🔵🔵🔵
効果1【避難勧告】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
文月・雪人
無事に歌を受け取って
後は返せばいいのだけれど
可能ならその前に
蟹坊主の様子を見てみたい
【プラチナチケット】使用して【演技】
狩衣姿で下級貴族を装い再び歌会に参加して
(或は別に屋敷へ窺って)
青い顔で
急ぎ歌をご教授頂きたいと蟹坊主へ申し出る
呪いの歌を受け取った事は
言わずとも主催たる蟹坊主には分かるのだろうか
その辺も一応【情報収集】
ある人物に歌を詠もうと決めたのですが
元より私には歌の才がなく
また恐ろしさに筆も震えるばかり
悪戯に時だけが過ぎてゆき
どうすれば歌うべき言葉が浮かぶのか
一向に分かりません
歌は添えずに
極上品の海松布を献上
頼れるのは歌仙たる師の他に在らず
どうか私をお助け下さい
乗ってくれるといいけれど
●閑話休題
一方。
(「無事に歌を受け取って、後は返せばいいのだけれど」)
こっそりと歌会の行われている邸へ舞い戻ってきたのは、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)。
(「可能なら、返歌の前……歌会の最中に蟹坊主の様子を見てみたいんだよね」)
と、プラチナチケットの恩恵と元々の狩衣姿も利用して、下級貴族を装っているのだ。
「不躾を承知で恐れながら申し上げます。急ぎ歌をご教授いただきたいのです」
そう青い顔で蟹坊主へ申し出る様は、流石の演技力だ。
「どうぞ、事情をお話しくだされ」
蟹坊主も雪人を歌会の参加者と信じて疑わず、続きを促した。
「はい。ある人物に歌を詠もうと決めたのですが、元より私には歌の才がなく、また恐ろしさに筆も震えるばかり……」
クロノヴェーダである蟹坊主に歌を教わるなんて珍しい機会を逃すまいと、雪人はいかにも困っているような沈んだ声を出す。
「悪戯に時だけが過ぎてゆき、どうすれば歌うべき言葉が浮かぶのか、一向に分かりません」
そして、おもむろに極上品の海松布を蟹坊主へ向かって献上した。
これもまた、蟹坊主の正体を看破しているという意図だろうか。
「頼れるのは歌仙たる師の他に在らず。どうか私をお助け下さい」
蟹坊主は海松布をすんなり受け取って、
「これは結構な。ありがたく頂戴しましょう……さて。詠むべき歌が浮かばぬとのことですが」
少なくとも表面上は、雪人を心配してか真面目に考えていた。
「歌を詠むのが恐ろしくなる相手ですか……一体どんな高貴なお方のもとへ忍んでいくやら。まあ詮索はしないでおきましょう」
案外、本当に桂菓や雪人の正体へ気づいていないことも充分にあり得る。
「そのような場合、もしも文使いがへまをしてお相手の背の君などに懸想文が見つかれば厄介でしょうな。であるなら、表面上は季節の移ろいや花木に事寄せた無難な歌に見せかけて、その実、お相手にだけわかるような恋情の烈しさを密かに含ませられれば……」
立て板に水のごとくすらすらと御託を並べる蟹坊主。
「元より、歌にはどんなに繕おうとも幾許かの本音が含まれるもの。楽の音と同じです。あまり気負わず、どんな題材でも良いからお相手に囚われずに一首詠んでご覧なさい。さすれば、その歌にも自ずと苦しい物思いが表れましょうぞ」
雪人は蟹坊主の講義を素直に聞いているフリをして、静かに平伏しておいた。
「無理に恋歌を詠もうとしなくてよろしい。今のあなたが詠めば、何でも恋歌になるのですから」
大成功🔵🔵🔵
効果1【プラチナチケット】がLV3になった!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
鹿乃音・伊月
ええ人やったなぁ、少輔はん。呪い引き受ける言うても躊躇しはった。
あぁいう人を助けるんは気分がええ、俄然やる気でできたで。
さて、返歌を考えんといかん訳やが……その前にやるべき事があるな。
蟹坊主の取り巻き、減らしとこか……事が起これば暴れて周りを巻き込まんとも限らへんし、蟹坊主の護衛にもなるしな。
流石に白昼堂々邸内を出歩いてはおらんやろ、物陰にでも潜んどるんちゃう?
【完全視界】で暗がりもよぉ見えるで、例えばそこの隙間とかなぁ。
河童を見つけたら仕掛けるで。五つ衣のままじゃ暴れにくい、『肆ノ章・強視』……心眼や。急所を"看破"して極力一刺しで決める。
……うちは戦の狐なんよ。歌の思案も戦の中で、やな。
●露払い
邸の母屋で歌会が行われている一方、庇の間では。
「さて、返歌を考えんといかんわけやが……その前にやるべき事があるな」
鹿乃音・伊月(狐の怪・g00168)が、努めて気配を殺しつつ、あちこちの格子を覗いて回っていた。
「蟹坊主の取り巻き、減らしとかんとな……事が起これば暴れて周りを巻き込まんとも限らへんし、蟹坊主の護衛にもなるしな」
そんな懸念から、蟹坊主の配下の河童を捜しているのだ。
(「にしても、ええ人やったなぁ、少輔はん。呪い引き受ける言うても躊躇しはった」)
塗籠、放出、あらゆる物陰や隙間も完全視界のおかげで見通せるのは便利だと思いながら、捜索を続ける伊月。
(「あぁいう人を助けるんは気分がええ、俄然やる気でできたで」)
最後は庭へ降りて軒下を覗き込めば——零れそうなぐらい大きな白い目と視線が合った。
ガサガサガサ!
まるで蜘蛛のように床を這って、慌ててこちらへ向かってくる河童だが、
「悪いが、全部見えとるで」
当然ながら、伊月が妖力と心眼を解放する方が早かった。
五つ衣のままでは暴れにくいからと、目を瞑って河童の急所を看破する伊月。
「グギャァァァ!?」
戦記槍「騙綴」を構えた突進による鋭いひと刺しで、早々と勝負を決めた。
河童も細い手足で伊月を投げ飛ばそうと組みつくが、腹を貫く槍のせいもあってか上手くいかない。
「……うちは戦の狐なんよ。歌の思案も戦の中で、やな」
ニヤリと笑った伊月が再び目を開ければ、槍の穂先に集められた呪いが炸裂。
既に体力の残っていない河童を瘴気がますます攻め苛んで、それがトドメとなった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【完全視界】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
陳・桂菓
「なるほど、蟹の本丸を攻める前に外堀は埋め尽くすわけだな」
残留効果【プラチナチケット】で屋敷に入り、河童探し。
河童といえば水場。庭に池とかあったら、その中に潜んでいたりしたいだろうか。
見つけたら即座に攻撃。双短戟を振り回して【戦覇横掃】。馬鹿正直に相撲に付き合う義理はなし、組み付かれる前に斬り捨てる。
例え数任せに押し包まれようと、【薙ぎ払い】の【連撃】でつけいる隙を与えまい。思い切りと勢いで、攻勢を維持することを重視。
このまま首尾良く河童を全滅させられたとしたら、蟹坊主が「出合え出合え!」とかやっても誰も出てこないみたいな現象が起きるのだろうか、と想像。
「だとしたら、少々哀れだな」
苦笑。
●それもまた理想
続いて。
「なるほど、蟹の本丸を攻める前に外堀は埋め尽くすわけだな」
陳・桂菓(如蚩尤・g02534)も、伊月たちの行動に合わせて、河童殲滅へのやる気充分。
変わらずプラチナチケットの恩恵を利用し、誰に怪しまれることなく邸の廊下——縁側を進んでいく。
(「河童といえば水場。庭に池とかあったら、その中に潜んでいたりしないだろうか」)
そんな桂菓の予感は的中、河童たちは水中でも窒息しないのを良いことに、まるで温泉に浸かるような気楽さで池の中に沈んでいた。
何せ、屋内ですら常に膝行(いざ)って立ち歩きすらしない平安貴族である。
貴族にとって庭へ設えた池はあくまでも景色を楽しむための物であり、誰も中など検めないので、隠れ潜むには最適なのだ。
……勿論、窒息しない妖怪などに限るが。
ざばぁっ!!
桂菓の視線に気づくや、水面から飛び出して襲いかかってきた河童たち。
「馬鹿正直に相撲に付き合う義理はなし、組みつかれる前に斬り捨てる!」
早速桂菓も双短戟を振り回して、これに応戦。
「ギャァァッ!!?」
奴らにつけ入る隙を与えまいと、戦場の覇者が如き勢いで、河童2体を勢いよく薙ぎ払い、再び池に沈めた。
(「このまま首尾良く河童を全滅させられたとしたら……」)
苦しそうにもがきながら最期の力で反撃してくる河童を軽くあしらい、桂菓はふと想像する。
(「蟹坊主が『出合え出合え!』とかやっても誰も出てこない、みたいな現象が起きるのだろうか……」)
時代劇の悪役を思い浮かべて、なるほど現実は先に手下を殲滅させるような展開も起こり得るのだと納得した。
「だとしたら、少々哀れだな」
ディアボロスに地道な努力家が多いばかりに、着実に退路を塞がれた状態で撃破されるのだろう……と、思わず苦笑する桂菓だった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【士気高揚】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
文月・雪人
蟹坊主の歌指南、いやはや中々面白かった
お陰様で返歌の準備は何とかなりそうだ
しかし折角歌を送るなら
護衛の邪魔が入るのは無粋というもの、かな?(冗談めかして笑いつつ
逃がすと後が厄介だしね
取り巻きを先に減らそうという仲間の意見に同意だよ
河童なら蟹坊主ほど人への擬態は上手く無さそうだ
人の多く訪れる屋敷の中でも人気のない所
床下なんて怪しいよね
屋敷に忍んで床下を捜索【完全視界】は有難い
敵配置を確認しつつ少数を【不意打ち】
騒ぎが広がっても厄介だしね
『攻性式神結界』に閉じ込め仲間を呼びには行かせない
内部の音も漏れぬよう【衝撃波】で相殺し
【ダメージアップ】で短期戦
確実に数を減らしていこう
クダ吉、影猫、宜しくだよ
●準備完了
他方。
(「蟹坊主の歌指南、いやはやなかなか面白かった……お陰様で返歌の準備は何とかなりそうだ」)
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は、満足そうな面持ちで邸の母屋から廂の間へと移動してきた。
「しかし折角歌を送るなら、護衛の邪魔が入るのは無粋というもの、かな?」
にゃふふ、と雪人が冗談めかして笑うのには理由がある。
この平安のご時世、貴族の男が女の許へ通うには、女の家の女房をまず籠絡しなければならなかった。
女房とて我が主には身分が高く将来性のある男と縁づいてほしいと願っている。主の家の繁栄が自分の生活に直結するからだ。
それ故、もしもそのお眼鏡に適わなかった場合、あるいは男の口舌や鼻薬が足りなかった場合などは、本当なら夜這いにおいて一番の味方足りえるはずの女房が、邪魔者になってしまうのだ。
「逃がすと後が厄介だしね。取り巻きを先に減らそうという仲間の意見に同意だよ」
歌会の場として人の出入りの多い邸の中において、殊更ひと気のない所は床下だろうと当たりをつけた雪人。
こそこそと廊下や庭先を這い回り、暗がりや多少の埃なら見通せる完全視界に頼って、床下を捜索する。
さすれば、やはり床下の冷えた場所に奴らはいた。
黄色く濁った瞳をぎょろつかせて、突然の闖入者に驚きを隠せない河童が3体。
(「騒ぎが広がっても厄介だしね。確実に数を減らしていこう」)
雪人はすかさず複数の呪符を手早く放って、結界を張り巡らせた。
「クダ吉、影猫、宜しくだよ」
そして思わぬ不意打ちを受けて身動きの取れない河童たちへの攻撃を、頼れる相棒と式神の影でできた黒猫たちにお願いする。
歌会に潜入した仲間とともに雪人自身もコツコツと残留効果を積み重ねていただけあって、クダ吉たちの攻撃の威力は相当なもので。
「ギェェェェェ……」
3体の河童は、再び結界の外へ出ることなく、クダ吉と式神による猛攻を食らって息絶えるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【ハウスキーパー】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!
文月・雪人
愈々舞台も整って
師への返歌、心して挑まないとだね
返歌に添えるは蟹鳥染色の揉み紙
口端に浮かべるは
嘘とも本気とも取れぬ妖艶な笑み
『寄る波に 揉まるればこそ 甘やかに 身を裂くこいを 君は知らねど』
■表
寄る年波に揉まれたからこそ
甘く身を裂く恋もあるのですよ
あなたはまだ知らないけれど
■裏
波に揉まれて育てばこそ蟹の身は甘くなる
その身を故意に裂こうとしている事を
お前はまだ知らないけれど
もし和歌と認めて貰えるならば
教えを請うた相手が良かったのでしょうと笑む
まあ今回は
花木に事寄せた恋歌でなく
恋歌に事寄せた果たし状なのだけれども
奇怪問答には逆に縁由の言霊と演技で翻弄
蟹身を裂く
でも歌人としての敬意は本当
ご指南感謝
●連鎖の解呪
歌会を終えた母屋にて、蟹坊主は早くも明日の分の準備に勤しんでいた。
(「愈々(いよいよ)舞台も整って、師への返歌、心して挑まないとだね」)
そこへ、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)が、優雅に簾を押し上げて現れた。
「賜ったご指南のおかげで返歌ができましたので、矢も盾もたまらず罷り出ました」
嘘とも本気ともつかぬ妖艶な笑みを浮かべて、淡く爽やかな水色の結び文を蟹坊主へ差し出す雪人。
「ははあ、いかさま。あなたも私が妖怪だとわかっておいでか」
蟹坊主は文を受け取るなり、中を開く前に呟いていた。
何故なら、歌の書かれた揉み紙の色は、名を『蟹鳥染色』と言ったから。
貴人の産衣に使う色だが、この場合明らかに『蟹を討ち取る』という挑発に他ならない。
そして、文の内容——見事な水茎で書き散らされた呪いの返歌は、
『寄る波に 揉まるればこそ 甘やかに 身を裂くこいを 君は知らねど』
寄る年波に揉まれたからこそ、甘く身を裂く恋もあるのですよ。あなたはまだ知らないけれど——蟹坊主と少輔の歌に共通した老いの嘆きへ対する、実に巧みな返答だ。
前半のまさに波のような音のうねりと、後半の緩急を含みつつもさらっと流れる響きの対比が素晴らしい。
(「まあ今回は、花木に事寄せた恋歌でなく、恋歌に事寄せた果たし状なのだけれども」)
そして雪人曰くの果たし状としての意味——歌会での桂菓の悪戯の影響なのか、これにも裏があった。
(「波に揉まれて育てばこそ蟹の身は甘くなる。その身を故意に裂こうとしている事をお前はまだ知らないけれど」)
果たして表と裏、どちらの意図も読み取ったものか、蟹坊主の目が初めて険しさを増す。
この歌が、自分のもとへ巡り戻ってきた呪いの返歌だと察したのだろう。
だが、すぐに常の表情を取り繕い、
「ふむ、掛詞が大変効果的に使われていますね。言葉の選び方も良く、素晴らしいお手筋です。私もまだまだ学ぶべきことが多いと痛感させられます」
と絶賛した。
「恐れ入ります。教えを請うた相手が良かったのでしょう」
雪人も調子を合わせて微笑む。
「歌も巧ければお口も巧うおすな……ひとつ、問答といきましょか」
蟹坊主は鷹揚にのたまって、未だ臨戦態勢を見せず提案した。
「かなぐりすつ、を男文字に直すとしたら、何でしょう?」
雪人が問題に気を取られて考えている隙に、自慢の鋏で斬りかかろうという魂胆なのだ。
「引っ掻くように表着を剥ぐから掻殴り捨つなのか、全てを捨てて逃げ出す様から資金繰りを表す金繰り捨つなのか」
しかし、雪人は雪人で蟹坊主の奇怪問答を利用し、その回答に宿した言霊で奴の判断力を鈍らせる。
「腕……」
「なっ……?」
「もっと単純に考えて、腕(かいな)を回して……繰って衣を脱ぐから腕繰り捨つ……ってどうでしょう?」
新しい発想に虚を突かれた蟹坊主が、思わず鋏を振り下ろすのを忘れた一瞬の隙を狙って、白銀の刀——雪月花を閃かせる雪人。
文字通り、坊主の袈裟も蟹の殻も貫いて蟹の身を斬り裂いた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【プラチナチケット】がLV4になった!
効果2【ダメージアップ】がLV6になった!
陳・桂菓
「呼んでも河童どもは来んぞ。歌会の前にことごとく討ったはずだからな」
言ってやったとして、慌てるやら怒るやらするのかは知らないが。
何にせよ苗刀『飛竜』を抜刀し、
「坊主、袈裟、着る……さてはて、せっかく指南してもらっておいて何だが、やはり私に優雅の何のは無理らしい。何せ当方、暴虎馮河も辞さぬ武骨者ゆえな!」
怒鳴り、袈裟斬りに斬りかかる。
ぼやきを聞いていれば軌道を読んでガードしてくるかもしれないが、構わずもろとも【両断】するつもりで。
蟹鋏砲は……根性で回避するしかないか。
多少なり傷を負わせたところで、
「坊主毛がなし(怪我なし)とはいかなかったようだな。まあ、生臭ではな」
意地の悪い台詞を吐いて煽る。
●生臭坊主(甲殻類)
続いて。
陳・桂菓(如蚩尤・g02534)が、池の中の河童たちをやっつけたその足で廊から廂、母屋へと真っ直ぐ踏み込んできた。
すると、それを見た蟹坊主が、
「これ、お出合いくだされ。お出合いくだされ」
と緩慢な所作で手を叩くものだから、思わずぷっと噴き出す桂菓。
「呼んでも河童どもは来んぞ。歌会の最中にことごとく討ったはずだからな」
これがせっかちな江戸っ子とのんびりした平安貴族の差かと感心しつつ、はっきりと言ってやった。
「なんと。よろず、面倒なことよ……」
蟹坊主は、どうやら河童たちを手駒としか見ていないらしく、特に怒るでもなくただただ自分で応戦せねばならぬ事態を億劫がっている。
「坊主、袈裟、着る……さてはて、せっかく指南してもらっておいて何だが、やはり私に優雅の何のは無理らしい」
ともあれ、桂菓は苗刀『飛竜』を抜き払って、袈裟斬りに斬りかかる。
「何せ当方、暴虎馮河も辞さぬ武骨者ゆえな!」
威勢よく怒鳴ると同時に、蟹坊主が反撃に突き出した鋏もろとも両断するつもりで、神速の斬撃をお見舞いした。
「ぐっ……私の鋏が……これでは水茎が持てぬ……」
そもそもかように太く長い蟹鋏で、どうやって細い筆を持っていたのか。
この場にいたディアボロス全員が、きっと内心ツッコんだに違いない。
痛がる蟹坊主を見やった桂菓が、衝撃波など効いていないかのような涼しい顔で意地の悪いセリフを吐く。
「坊主毛がなしとはいかなかったようだな。まあ、生臭ではな」
言うまでもなく、毛がなしと怪我なしをかけた洒落だろう。
生臭も魚肉などを指すだけに、蟹坊主の素行の悪さだけでなく当人が蟹の妖怪そのものなことを皮肉った、高度な煽り文句である。
大成功🔵🔵🔵
効果1【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
鹿乃音・伊月
さて、判者の蟹坊主サマ……そろそろ歌会はお開きやで。五つ衣はポイや、やっぱいつものが一番動けるなぁ。
そういや、部下とちぃとばかし遊ばせて貰ったで?お陰様で考え纏まったわぁ。
……ほな。貴方に送る返し歌、僭越ながら詠ませて頂きます。
『秋の夜の 夢も枕も なかりせば 遥けき君へ 思ひ遣りける』
「秋の夜に夢も見れず枕もなく眠れないならば、遠く離れてしまったあの人を遥かに思うしかない」
良し悪しを見る目も衰えるくらいに老いても、眠れない夜位はかつての恋を思ってもええやろ?
ま、うちがあんたに叩きつけるんは「重い槍」の一撃や。拙い歌やが受け取ってぇな、蟹公!
行くで、『壱ノ章・剛壊』!その殻、"破壊"したるわ!
●おもいやり
一方。
「さて、判者の蟹坊主サマ……そろそろ歌会はお開きやで」
鹿乃音・伊月(狐の怪・g00168)も、格子を開けて母屋へ入ってきた。
(「うちも五つ衣はポイや、やっぱいつものが一番動けるなぁ」)
戦いに備えて動きやすい『狐の御着物』に着替えたおかげか、河童からの連戦にもかかわらずやる気満々の伊月。
「そういや、部下とちぃとばかし遊ばせて貰ったで? お陰様で考え纏まったわぁ」
と笑顔で言うのへ、鋏ごと身体を斬られて苛立った蟹坊主はますます憎らしげに歯噛みする。
「邸に放っていた河童を屠ったと仰せか……あな忌々しや」
「……ほな。貴方に送る返し歌、僭越ながら詠ませて頂きます」
伊月はそんな怨嗟の声にも臆せず、堂々と呪いの返歌を叩きつけた。
「秋の夜の 夢も枕も なかりせば 遥けき君へ 思ひ遣りける」
秋の夜に夢も見れず枕もなく眠れないならば、遠く離れてしまったあの人を遥かに思うしかない——先の2人の歌を受けてなお、恋を諦めきれない切なさが伝わってくる。
「良し悪しを見る目も衰えるくらいに老いても、眠れない夜くらいはかつての恋を思ってもええやろ?」
遥けき……遠く離れたというのが果たして物理的な距離なのか、あるいは会えなかった時間の長さを指しているのか、はたまた——いわゆる此岸と彼岸ほどに遠ざかってしまったのか。
それもまた、先の歌にあった老いの嘆きへかけているのだろう。含みを持たせた歌である。
「ま、うちがあんたに叩きつけるんは『重い槍』の一撃や。拙い歌やが受け取ってぇな、蟹公!」
にぃっと笑って、戦記槍「騙綴」を構える伊月。
「行くで、『壱ノ章・剛壊』! その殻、破壊したるわ!」
ありったけの呪詛を纏わせて槍の穂先を力任せに振り下ろし、短歌同様蟹坊主へ叩きつける、名の響き通り豪快な技だ。
「……ふむ、恋に前向きな、気持ちを励まされるような明るく良い歌ですね。それでいて、もしやすると遥けき君とは亡き人を偲んでいるのやもしれぬという陰影も射し添った、深みのある歌に仕上がっています……うぐぐぐ」
蟹坊主は槍にかち割られた甲羅をやはりひしゃげた鋏で抑えつつも、歌を読み解いて褒めそやすのは忘れなかった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【建造物分解】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV7になった!
陳・桂菓
さて敵は坊主らしく奇怪な問答を仕掛けてくるらしいが。
まずは何を言われようが馬耳東風、聞き流す。
それでも思考が揺らいだふりをして、動きを止める。その虚を突いたつもりで鋏を振るって来るだろうが、虚に誘われた敵に痛撃を還してやるのが【虚誘還殺】の肝要。
「浅学非才の身なれば、聞いてもわからん問いにぶち当たった程度でいちいち焦っていられんよ」
居合抜きめいた後の先の一閃で胴を斬り裂く。
多少鋏を回避し損ねてダメージを負おうが、敵に致命傷を与えることを最優先。死ななきゃ安い、【忍耐力】で耐え抜く。
「禅問答風に言うなら、我が手の剣は殺活自在の宝剣というやつ。だがまあ、貴様にくれてやるのは殺の一択よ!」
●力技
戦いは続く。
(「さすがは坊主と言うべきか。奇怪な問答を仕掛けてきたもんだが」)
陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、蟹坊主の奇怪問答を目の当たりにして、密かに対策を思い巡らせていた。
(「まずは何を言われようが馬耳東風、聞き流す!」)
まさかの根性論である。
「ぐぐ……そこなご上臈にも訊きましょう。活計(たつき)とは何故たつきと言うようになったかご存じか」
とはいえ、話を聞いていないことがバレないように、一旦は思考が揺らいだふりをして動きを止める桂菓。
……自分で動きを止めたら、それは結局術中に嵌ったのと変わりない気もするが、ツッコんではいけない。
「たつきとは本来『手付き』……」
当然、蟹坊主は一瞬静止した桂菓の隙を突いたつもりで鋏を振るって来たが、
(「虚に誘われた敵へ痛撃を還してやるのが虚誘還殺の肝要よ」)
そこまで含めて、桂菓の作戦だったのだ。
「手に職を付けることから来たのでは、と私なぞは思いまするが……なっ!」
明らかな隙を見せるところから既に攻撃は始まっていたのである——なればこそ、蟹坊主は蟹坊主で奇怪問答を反撃とばかりに仕掛けたわけだが。
実のところ、蟹鋏を完全には避け損ねて多少の傷は負っていた桂菓だが、
「はっ、死ななきゃ安い安い」
と持ち前の忍耐力で耐え抜くあたり、彼女らしい戦法と言えよう。
「浅学非才の身なれば、聞いてもわからん問いにぶち当たった程度で、いちいち焦っていられんよ」
答えを出して割り切れるような問いばかりではない——人生の真理を語りつつ、居合抜きから返す刀の一閃で、蟹坊主の胴を斬り裂いた桂菓。
「禅問答風に言うなら、我が手の剣は殺活自在の宝剣というやつ。だがまあ、貴様にくれてやるのは殺の一択よ!」
歌会の時からずっと目論んでいた蟹の身の一刀両断を成し遂げて、自信満々に言い放った。
大成功🔵🔵🔵
効果1【悲劇感知】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV2になった!
文月・雪人
戦いの最中にも歌の講評を忘れないとは
敵ながら天晴というべきか
師の事はやっぱり嫌いになれないや(苦笑
だからこそ全力で
【観察・情報収集】で攻撃を【看破】
蟹鋏砲を【衝撃波】で相殺し
驚く隙を突きカウンター
【ダメージアップ】の『斬妖閃』で【両断】する
思い返せば
初めて時を遡りこの地で戦った敵も蟹坊主だった
奴はアヴァタール級
失われた歴史の何処かにクロノス級の本体が居るのだろう
『滝登る 鯉の旅路は 遥かにて 君忘れども いつか見えん』
滝登る鯉が龍となるのはまだ遥か先の事
貴方は忘れてしまうのだろうけど…
師という個体は倒しても
お互い時の流れを遡ってまで
願い諦めず戦う者なれば
またいつか会いましょう
貴方ではない貴方と
●決着
「戦いの最中にも歌の講評を忘れないとは、敵ながら天晴というべきか……」
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は、そんな蟹坊主の一貫した姿勢に、ある種の尊敬の念を抱いていた。
「師の事はやっぱり嫌いになれないや」
と思わず苦笑するほどに。
(「思い返せば、初めて時を遡りこの地で戦った敵も蟹坊主だった……」)
だからこそ全力で立ち向かおうと、奴の蟹鋏砲のタイミングを見極めるべくじっくり観察する雪人。
(「その時倒したのも目の前の師もどちらもアヴァタール級……失われた歴史の何処かにクロノス級の本体が居るのだろう」)
そして衝撃波には衝撃波で相殺できないかと、発射に合わせて雪月花を閃かせ、剣風を起こした。
「ほう……?」
自分の衝撃波の勢いを削がれたことへ目を見張る蟹坊主。
その僅かな隙を突いて、雪人は仲間のおかげもあり殊更に威力の増した斬妖閃を、蟹坊主の円い胴体へお見舞いした。
「滝登る 鯉の旅路は 遥かにて 君忘れども いつか見えん」
巨大蟹の甲羅をいわば横薙ぎに両断、深く深く斬り裂いて、雪人は思う。
(「滝登る鯉が龍となるまで遥かな時を要するように、本体と相見える日はまだまだ遥か先の事。当然貴方は忘れてしまうのだろうけど……」)
師という個体は倒しても、お互い時の流れを遡ってまで願い諦めず戦う者なれば、またいつか会いましょう。貴方ではない貴方と。
蟹坊主への手向けの歌は、そんな意味であるらしい。
「滝登る……こい……なるほど、唐土(もろこし)の故事を引いてくる傍ら、私の呪いの歌の鯉を使ったわけで……見事な技巧……」
それが、蟹坊主の最期の言葉だった。
呪いの歌で人間を腐らせ、その異様な成り行きによって人々の恐怖を煽るのが、クロノヴェーダの目的だろうことは察せられる。
だが、呪いの歌を広める手段だったはずの歌会でもしかするとこの蟹坊主は、貴族たちに歌を教える役割そのものへも愉しみを見出していたのかもしれない。
大成功🔵🔵🔵
効果1【一刀両断】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV3になった!