リプレイ
逢海・凪都
(トレインチケット)
甘やかな香りが漂う商店街の、喫茶店の前。
「占い?」
浮遊しているスフィンクスの鼻に指を近づけながら逢海・凪都(黒焔・g03331)が小首を傾げると、スフィンクスの主・なの唄は「はいっ」と声を弾ませた。
「バレンタイン限定なので、恋愛や出会いについての占いに限られてしまうんですけど……」
いかがですか? と問われた凪都の大きな耳がピンと立った。
恋愛ごとはちょっと難しいけど、出会いなら占ってもらいたいことが思いつく。
「ん、いいよ」
と答えて、案内された喫茶店内は昔ながらの雰囲気で、ホットチョコレートとチョコレートスイーツの甘い香りが、凪都とクダギツネの鼻腔をくすぐる。
店の奥に目をやると、真っ黒な薄布を何重にも重ねたパーテーションで隠された席があることに気がついた。
あの奥かな? と進み行って、パーテーションの向こうをそっと覗けば。黒い衣装に身を包み、黒いヴェールを被った大柄な男が、テーブルに敷かれたベルベットのクロスの上でカードをシャッフルしていたが。ふと顔を上げて凪都と目を合わせた。
「ハッピーバレンタイン。どうぞお掛けください」
占い師の男は長椅子から腰を少し浮かせると手で椅子を指し示したので、凪都も小さく会釈したのち、椅子に腰を下ろす。
すると、凪都の前に差し出されたのは、甘い香りを漂わせるホットチョコレート。どうやらこれはウェルカムドリンクのようだ。
カップを手に取って口をつけると、口の中に広がるのはミルクチョコレートの甘さ。ふとテーブルサイドのワゴンに目を向ければ、和菓子から洋菓子までそろったチョコレートスイーツに、思わず赤い瞳をキラキラと輝かせる。
「お帰りの際に、チョコレートのお菓子のお持ち帰りができますので、雅樂さんの分もお土産にどうぞ」
占い師はそう告げると、シャッフルしていたカードをひとまとめにし、アイスブルーの瞳で凪都を見て、問いかける。
「何を占いましょうか?」
ここに腰を下ろしたからには、占いを――助言や転ばぬ先の杖を望んでいる。
凪都も、少なからずその一人。
「俺は、……猫さんとの出会いを占って欲しいかなって」
「猫さんと、ですか?」
意外な言葉だったのか。占い師が尋ね返すが、凪都は「うん」とかすかに口の端をあげる。
「道端で会う野良猫さんとか、行ったことのない猫カフェにいる猫さんとか。あ、あと、かわいい猫さんグッズとも出会いたいな」
ここでは『恋愛や出会い』を占える。なら、大好きな『猫』との出会い運を尋ねてみたいと思ったのだ。
「ふふ、かしこまりました」
穏やかに微笑んだ占い師は、凪都の斜め前にカードを置くと扇状に広げた。
「こちらから一枚お選びください」
促されて選んだカードを裏返すと、右手に剣、左手に天秤を持っている人物が描かれたカード。イラストは凪都の方を向いている。
「こちらは『JUSTICE』。『正義』の正位置です。出会い運は概ね良好です。気難しい子ともじっくり向き合って打ち解け合うことができるでしょう。ただ、猫の性格と言いますか、気質によっては、早く打ち解けようとアクションを起こしますと逃げられてしまうと感じもありますので、お相手のペースに合わせることが大事かな、と思います。出会いとしまして、人懐っこいオスというよりは『これぞ猫!』っていう感じのツンなメス猫とのご縁がありそうです」
なお、ラッキーキャットはメス猫の代表格の『三毛猫』だという。
「確かに、警戒心強い子はすぐ逃げちゃうからね。じっくり行こうと思うよ」
ありがとう。と占い師に礼を告げた凪都がお土産に選んだのは、猫の顔の形を模ったチョコレートケーキふたつ。
もちろん、ひとつは雅樂の分。
自分の分のチョコレートケーキにそわそわする雅樂をそっと撫でた凪都は、席を立つとケーキボックスを手にパーテーションの外へ。
「三毛猫さん探しながら帰ろうか。ね、ラク」
帰り道に楽しみができた凪都の足元は、心なしか軽くなっていた。
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【傀儡】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
花峯・真帆
(トレインチケット)
商店街の一角に見知った姿を見つけた花峯・真帆(Starry Bouquet・g03187)は、その人に声をかけて花のような笑顔を向ける。
「なの唄ちゃん、お疲れさま」
「もきゅきゅっ」
伴っているモーラット・コミュの『すずらん』も小さな手を上げてあいさつをすれば、
「真帆さんっ。すずらんちゃんもお疲れさまですっ」
声をかけられて、なの唄もぱっと明るい笑顔で彼女を迎えた。
そしてその勢いのまま、
「占いに興味ありますか?」
と、真帆に尋ねたのだ。
綺麗なものや可愛いものが好きな真帆は、占いにも興味があると思って声をかけてくれたのだろう。
「占いかぁ。面白そうだね」
そう微笑みつつも、引っかかることもあって。
それは、喫茶店の看板に書かれた『恋愛のことを占います』の文言だ。
今は恋愛ごとを占ってもらう気分ではないし、出会い運を占ってもらうのもハードルが高い。
だけどこうして、この喫茶店に辿り着いたのも何かの縁なのだろう。
真帆は少し考えていたが、何か閃いたようにはっと顔を上げた。
「……恋愛とは違うんだけど、愛情って意味でなら、占って欲しいことがあるな」
そう告げた真帆が誘われたのは、昔ながらの喫茶店の一番奥の席。黒いオーガンジーを何重にも重ねたパーテーションで区切られた、占い専用のスペースだ。
桃色の髪を揺らしてパーテーションを覗き込んだ真帆を迎えたのは、黒い衣装に黒いベールを被った大柄の男性。
彼は真帆を見るなり、
「いらっしゃいませ、どうぞお掛けください」
と、手で椅子を指し示した。
礼を告げながら真帆が椅子に腰を下ろすと、差し出されたのはカップに入ったホットチョコレート。
それに口を付け、口の中に広がる甘やかな味を楽しんでいると、占い師はお土産のチョコレートスイーツのことを説明した後。
「さて、何を占いましょうか?」
と、真帆に尋ねた。
真帆はカップを机上にそっと置いて、
「……こういうことが占えるか、わからないんですけど」
と前置きして続ける。
「私、ぬいぐるみが好きなんです。それで、これから出会う愛しい子のひとりがどんな子なのかを知りたいなって」
告げて思うのは、自室にいる可愛い子たちのことだ。
お迎えした子は皆、愛しい子。
お店でその存在に気がついて、見つめあって抱き上げて。撫でながら毛並みの手触りを味わいつも、台紙に目を落として値段も少しは気にするけど。
それでも、運命を感じた子にはそばにいてほしい。
嬉しいことがあった日は共に喜び、悲しいことがあった日も胸に抱けば『一人じゃないよ』って慰められる。
これも一つの愛の形だと思う。
だから次に出会う運命の子が、どんな子なのか気になったのだ。
「かしこまりました」
占い師はそう告げると、先ほどまで使っていたカードデッキを一旦しまう。そして新たなカードデッキを真帆の前でシャッフルしながら続ける。
「真帆様の問いかけにはルノルマンカードを用いらせていただきます。このカードは、御伽噺をもとに作られたと言われておりますので、真帆様の問いかけにも応じてくれるかと」
そう解説したのち、まとめたカードを扇状に広げた。
「この中から一枚、お好きなカードをお選びください」
告げられて、一枚手繰り寄せる。
そしてそっと裏返せば、さまざまな花が咲き誇る美しい庭園が現れた。
「真帆様が選ばれましたカードは、『THE GERDEN』――『庭園』です。この『庭園』は『妖精の庭園』というお話をもとに生み出されたカードと言われております。この庭園には『命の草』という薬草があって、良い妖精によって導かれた心優しき少年が病弱な母親のためにその草を取りに行く……というお話が元となっております。このカードを選ばれた真帆様を待っておられる愛し子は、人の形をした子でも動物を模した子でも『妖精の翅を持った心優しき子』であると予想されます。その子は真帆様を癒してくれることでしょう」
「妖精さん……」
呟くと真帆は占いの内容を受け止めて頷いた。そして椅子から立ち上がると、手にしていたバッグからすずらんを模したホワイトチョコレートとお花のクッキーを取り出すと、そっと占い師に差し出した。
「これ、占ってくれたお礼だよ。ありがとう」
占い師は真帆からの贈り物を受け取ると、
「こちらこそ、占わせていただきありがとうございました」
と、お土産のチョコレートスイーツが入ったケーキボックスをお返しに差し出す。
どういたしまして。と微笑んで、ケーキボックスを受け取った真帆は、パーテーションの外にでるなり、すずらんと顔を見合わせて微笑みあった。
「すずらん、寄り道して帰ろうか」
「もきゅっ」
もちろん行き先は、運命の子が待っているかもしれない雑貨屋さんだ。
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【植物活性】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
ラトリア・ブルーアローゾ
アドリブ・絡みOK
日本のバレンタインはお祭り騒ぎと聞いていたが本当にお祭り騒ぎだな。
しかも女性から男性にチョコを渡すのか。
ま、最近漂着して知り合いなんて居ない俺には関係ないか。
(常在戦場の心意気で新宿島をうろつくパワードスーツ)
おやあそこにいるのは機動部隊襲撃作戦を案内してくれた女の子(なの唄)だな。
……なるほど。他のディヴィジョンの排斥力への対抗力が上がって戦略的にも意味があるイベントというわけか。
これはいっちょ俺も楽しまないといけないな!
というわけでここで誘われたのも何かの縁だ、俺となの唄ちゃんの相性を占い師に占ってもらわないか!
流れるようにナンパ。
振られたら「相性最高だと思ったんだけどなー」と残念がりながら
OKされたらメットの奥で驚愕しつつ「それじゃあリズクーコがエスコートするぜ」と張り切って占い屋へ。
占い師と言えば肌も露な美女と思っていたらまさかの大男。
なんだこの絵面……。
ペアならなの唄ちゃんとの相性、ソロなら俺に惚れてる美女の居場所。
動じない男に色々勘違い。
この男、デキる……!
「日本のバレンタインはお祭り騒ぎと聞いていたが、本当にお祭り騒ぎだな……」
最終人類史・東京のとある駅前商店街をパワードスーツでうろついているのは、ラトリア・ブルーアローゾ(餅が好きすぎて上官にコールサインを『餅』にされた男・g10730)。
彼の目に飛び込んでくるのは、可愛らしく彩られたバレンタインコーナーや装飾、そして可愛らしいチョコレートスイーツ。
「……しかも女性から男性にチョコを渡すのか……」
最近は史実の諸外国のように男性から女性に贈るパターンや、自分へのご褒美としてチョコレートを買う人もいるという。
「……ま、最近漂着して知り合いなんて居ない俺には関係ないか……」
常在戦場の心意気だしな。と、半ば他人事のように呟いたラトリアだったが、何かを見つけてふと足を止めた。
「おや? あそこにいるのは……」
再び歩を進めて、その人が自分を捕捉して「あっ」と声を上げると同時に片手を上げた。
「ラトリアさん、こんにちはっ。今日もかっこいいパワードスーツですねっ」
声を跳ね上げたのは、先日参加した依頼の時先案内人である、天竜・なの唄だ。
「今日はこのカフェの一角で、バレンタイン限定の占いをしているんですよっ」
曰く、バレンタインなどのお最終人類史のイベントごとを、多くのディアボロスや住民達が楽しむ事で、世界の力が高まり他のディヴィジョンの排斥力を弱められる。
説明をふむふむと聞いていたラトリアは、顎の手を当てた。
「……なるほど。他のディヴィジョンの排斥力への対抗力が上がって戦略的にも意味があるイベントというわけか。……これはいっちょ俺も楽しまないといけないな!」
と声を弾ませて続けた。
「ここで誘われたのも何かの縁だ、俺となの唄ちゃんの相性を占い師に占ってもらわないか!」
流れるようにナンパしたはいいものの、目の前の少女はまん丸な目をキュルンと見開いて自分を見ている。
これは断られるか?
断られたら断られたで仕方ないけどな。
そう心の中で自問すること、0.5秒ほど。
「いいですよーっ」
と満面の笑みで即答されてしまったものだから、思わず「えぇ!?」と声が上がってしまった。
純情そうだし初そうだったから、恥ずかしがりながらお断りの一言を食らうと思っていたのに、即答ときたもんだ。
「ほ、本当にいいのか……?」
「はいっ、全然大丈夫ですよっ」
是の答えをもらえて、ラトリアは動揺し思考を巡らせた。
この子、警戒心迷子?
いや、もしかしたら、深く考えていないだけかもしれない。
が、それはそれで逆に心配になる。
この子、チョコレートくれるよって言う不審者についていきそう。
そんな一抹の不安が過るが、
「それじゃ、リズクーコがエスコートするぜ!」
と、トンと胸をついた。
店内は、昔ながらの佇まい。
その一角に真っ黒な薄布を何重にも重ねたようなパーテーションが組まれた席があった。
中から声も聞こえる。誰かを占っているのだろうか? だけど、声の主の性別まではわからない。
そのうちパーテーションから一般人と思わしき女性客が出てきたので、ラトリアはなの唄と共に座席を覗き込んでみた。
チョコレートの甘い香りの向こう。長椅子に腰を下ろしていた人物がふと自分たちを見据える。
「ハッピーバレンタイン……っ?」
ヴェールの奥のアイスグリーンの瞳が意外な組み合わせを捉え、眉間に僅かだが皺がよる。だが、すぐに平常心を取り戻したようで、ラトリアとなの唄に椅子にかけるように促した。
一方、メットの奥のラトリアの眉間には、グッと深い皺が刻まれる。
彼の中で占い師と言えば、肌も露な美女。
ベリーダンサーのような衣装を纏い、装飾もシャランラと鳴らす妖艶なナイスバディと相場が決まっていた。
なのに、まさかの大男。
俺が思ってたんと違う……。
「ささ、座ってしまいましょうっ」
と、さっさと椅子に腰を下ろすなの唄の隣に座ったラトリア。
対する占い師は、ラトリアとなの唄にホットチョコレートを進めた上で、サイドテーブルに並んだチョコレートスイーツの持ち帰りも促して。
「では、どのような事柄を占いましょう」
と、ラトリアを伺った。
大男の占い師。占いのカードデッキ。チョコレート。
なんだこの絵面……。と呆けていたラトリア。
占い師の問いかけへの答えは、ナンパする時から考えていた。
「俺と、なの唄ちゃんとの相性を占ってくれ」
「畏まりました」
そう返して占い師がシャッフルしたのは、タロットの大アルカナよりも数が多く、フルデッキよりも少ないカードの束。
ルノルマンカードと言うデッキらしい。
占い師はそのカードをシャッフルすると一つにまとめ、扇形に広げるとラトリアに一枚選ぶように促した。
「一枚選べばいいんだな。よし」
と意気込んで、ラトリアが選び取ったカードを裏返せば、現れたのは大地にどっしりと根を張り、大空へと葉を茂らせる木が描かれたカード。
占い師はカードをまとめるなり手元に収めて言葉を紡ぐ。
「こちらは『THE TREE』――『樹』のカードのとなります。お二人の相性は概ね良好です。今は友人という関係でも、すくすく伸びゆく樹のように発展していくでしょう」
「お!」
いい結界に声を上げたラトリアだったが、占い師が手元で切っていたカードの束から一枚、カードが表返しで飛び出してきた。
そのカードは、可愛らしい狐が描かれている。
「補足カードとして『THE FOX』――『狐』のカードが出ております。なの唄様は成人男性の誘いにホイホイ乗らぬよう、またラトリア様におかれましても、隣に座っているのは少女の姿をした『狐』かもしれないということを念頭においてくださいませ」
「はーっ? なのは狐じゃないですよっ」
ぷっくりと頬を膨らませるなの唄の隣で、ラトリアは目から鱗が落ちたような顔で占い師を見つめていた。
自分となの唄が揃って相性占いをするというある意味異常事態にも動じずに、淡々と占いをやり切った上に、助言も的確すぎて。
「この男、デキる……!」
思わず上げてしまったこの大声にさえも大男は動じることなく。
「恐れ入ります」
と、わずかに頭を下げた。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
アンナ・ローザ(ヴェンデッタの糸・g03283)とモーラットコミュの『マリア』もまた、なの唄の誘いを受けて喫茶店の中へ入った一人。
「こんにちは。今、大丈夫かしら?」
と、オーガンジーを何重にもかさねたパーテーションを覗けば、机上に敷いたクロスの上でカードをシャッフルしていた占い師の男が手で椅子を指し示した。
「大丈夫ですよ。どうぞお掛けください」
そう促されて、アンナは椅子の横に愛用のカバンをそっと下ろす。そして自身も椅子に腰かけると差し出されたのは、ホットチョコレートが入ったマグカップ。
アンナは礼を言いながらカップを受け取って両手で包み込んでみると、柔らかな湯気に乗って甘い香りが鼻腔をくすぐる。そして数回息を吹きかけて一口含んでみると、甘く優しい風味が口いっぱいに広がった。
外が少し寒かったから、温かい飲み物は体も心も癒してくれる。
「美味しいわ」
息をついてカップを机上におろすアンナの隣。
何かを発見したマリアが「もきゅっ」と声を跳ね上げると、ふわりサイドテーブルへと一直線。
そこには、和菓子から洋菓子までチョコレート位を使ったスイーツが並んでいた。
「わぁ、チョコレートのお菓子、すごくたくさんあるわね」
アンナも声を上げると、占い師が教えてくれる。
このスイーツはこの商店街の人々から、ディアボロスへのバレンタインプレゼントだと。
「こちら、お土産にお選びいただけますので、お帰りの際にお持ち帰りください」
そう続けた占い師に、ピンク色の瞳を細めて礼を告げたアンナだったが――。
「もきゅー……」
お菓子たちを見つめて、鳴き声と共にきゅるるるーと鳴るのはマリアのお腹だ。
「なぁにマリア、もう食べたいの?」
呆れ顔で尋ねると、マリアはうんうん頷いて「もきゅっ、もきゅっ」と嬉しそう。
すると、占い師はポケットから懐紙を取り出し、マリアの前にそっと敷いた。そして小さなトングでチョコレートクッキーとチョコチップクッキーを数枚取り分ける。
「今、食べていただいても大丈夫ですよ」
どうぞ。と、促せば、
「もきゅきゅー」
声を弾ませながら、小さな手でクッキーを持って食べ始めるマリア。
「もう、食いしん坊なんだから。あんまり食べすぎてはだめよ?」
幸せそうにクッキーを頬張るマリアにそう忠告した後、占い師の気遣いに礼を告げたマリアに、占い師も軽く反応して、こう告げる。
「では、アンナ様。何を占いましょう?」
占い師の問いに、手を顎に添えたアンナ。
「……恋とか愛とかとに関係あるのかは、よくわからないけど……」
呟いてチラと伺うのは、一枚目のクッキーを美味しそうに食べているマリアの幸せそうな笑顔。
「この子ね、すぐ私のカバンに拾ってきたものを詰め込むから、本当に困ってるのよ。だからってわけではないけど、これからマリアが私のカバンに詰め込むもののひとつを知りたいわね」
と、肩をすくめて笑うアンナの表情がとても柔らかくて。
「わかりました」
占い師も穏やかに微笑むと、扇状にカードを展開する。そして、アンナに一枚引くように促した。
「……こういうのは直感が大事よね」
呟きながらアンナは、一枚手繰り寄せてそっと裏返す。描かれていたのは、平置きに積み重ねられたたくさんの本。
「『THE BOOK』……」
そう呟いた占い師は、アンナにもう一枚選ぶように促す。
これだけじゃ判断がつかなかったのかしら? そう思いながら今一度カードを選んで裏返すと、そこには蜜蝋で封がされた手紙と鳩のイラストが描かれている。
占い師は二つのカードを並べながら、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「本……と、『THE LETTER』――手紙。……この二枚から、マリア様がアンナ様に伝えたいことを代弁してくれるような『本』というイメージが浮かびました」
「……伝えたいこと? 何かしら……?」
占い師の見立てに小首を傾げるアンナだったが。
ふわりと浮遊し始めたマリアに目を移せば、小さな両手で持っている市松模様のクッキーを差し出され、少し驚いてしまう。
「……このクッキー、私に?」
尋ねるとうんうん頷くマリア。
「もきゅーっ」
「あ、ありがとう」
クッキーを受け取って、人齧り。
すると、ほろっと溶けていくサクサクの生地は、ほのかな甘み。
「マリア様は、アンナ様のことが大好きでいらっしゃるんですね」
占い師の言葉に、アンナはしみじみと頷いた。
マリアは、食いしん坊で天真爛漫。
可愛いものと美味しいものに目がなくて、ちょっと困ったところもあるけれど、こうしていつも『好き』を伝えてくれる。
「……いつも一緒にいてくれて、あなたにも感謝してるわ」
アンナはマリアの柔らかな体毛にそっと手を伸ばして、優しく撫で始める。するとマリアも、嬉しそうにアンナの手にまんまるの体を擦り寄せてくる。
そんな姿も仕草も、笑顔も。全て愛らしい。
アンナはふふと微笑んでマリアを撫でていたけれど、ちょっとだけ苦言も呈させてもらおう。
「感謝してるけど、本を入れるのだとしたらなるべく小さくて軽い本にして欲しいわね」
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【罪縛りの鎖】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
金森・椿
アドリブ・連携OK
せっかくなので喫茶店にお邪魔して商店街の皆様に感謝しつつコーヒーとショコラムースケーキを頂きながら読書に勤しむと致しましょう。
彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず危うしです。私としたことが不用心でした。
帯に「初心者でも簡単!」「すぐできるタロット占い!」などなどの言葉が並ぶタロット占いの入門書を開いて【書物解読】Lv10で精読しています。
配膳のお手伝いをしているなの唄さんを見かけたらご挨拶を。
タロット占いとはどんなものなのかちょっと興味がわきまして。
ただ座学だけですとよくわからないですね。
……そうだ、なの唄さん、本職のいる場所で大変恐縮ではございますがタロットのワンオラクルで私に占われてはいただけないでしょうか。
お題とそれにまつわるお話を伺いまして。
1枚お引きください。
入門書と残留効果での周辺知識をもとに結果を解説してみます。
これで合ってそうでしょうかね。
なの唄さんが本職を呼びそうになったらお忙しいところをお邪魔するのは申し訳ないですと辞退。
タロット、結構面白いですね。
まさか、占いが行われているであろうあの席を隠すパーテーションが見える席に案内されてしまうなんて。
ホットコーヒーとショコラムースを運んで切れくれた店主に軽く微笑んで礼を告げた金森・椿(薬売り・g02220)は、小さく息をついたのちにコーヒーカップに口をつけた。
口に含んだコーヒーはほろ苦く、この商店街のパティシエさんが作ってくれたチョコラムースの甘さと食感が、コーヒーよりも少し苦い気持ちを溶かしてくれる。
「……彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず危うしです。……私としたことが不用心でした……」
誰にも聞かれないほどの小さな小さな声でつぶやいて、鞄から取り出したのは、一冊の本。
表紙には『初めてのタロット占い』と印刷されており、タロットの中でも一番良いとされている『THE WORLD』のイラストがあしらわれている。そのうえ帯には『初心者でも簡単』、『すぐできるタロット占い!』等の文言が並んでいた。
平安の人間である椿にとって、アルファベットで書かれたカードの名前とその意味づけの紐付けは困難なこと。
だけど、ここは最終人類史。【書物解読】のおかげで、この本を訳した翻訳家の意図よりさらに深く、この本を書き上げた外国人専門家の意識やタロットの知識まで流れ込んでくる。
クリスマスイブに返り討ちにあった苦い思いは、椿を知識の海へと誘っていたのだ。
「椿さんっ。コーヒーのおかわりはいかがですか?」
聞き慣れた声にはっと椿が顔を上げると、目の前にいたのはこの喫茶店で給仕の手伝いをしているなの唄。ふとカップに目を落とすと、いつの間にかカップの中は空になっていた。
そんなに集中していたのか。と、自分でも驚きながら、
「ありがとうございます。お願いしますね」
とカップを差し出すと、ガラスポットに入ったホットコーヒーがカップの中へと注がれる。
そんな拍子に、本の中が見えたのだろう。
「タロットの本ですか?」
なの唄が尋ねた。
「はい。タロット占いとはどんなものなのかちょっと興味がわきまして。ただ座学だけですとよくわからないですね」
占術は知識だけでは理解が深まらない。実践を重ねることが理解への第一歩でもある。
ならば。
椿は鞄から敷物とカードデッキを入れた巾着を取り出すと、
「なの唄さん、本職のいる場所で大変恐縮ではございますが、タロットのワンオラクルで私に占われてはいただけないでしょうか」
と、願い出たのだった。
机上に敷物を敷き巾着からカードデッキを取り出した椿は、片手で開いた指南書を確認しながら、向かいの席に腰を下ろしたなの唄に向かい合うと、こほんと咳払い。
「では、何を占いましょうか?」
尋ねるとなの唄は立てた人差し指を口元に当て。
「そうですね……」
と、小首を傾げたのち。
「じゃぁ、バレンタインですので、わたしに素敵な人ができるのかみてくださいっ」
「出会いの可能性ということですね。わかりました」
そう言って椿は、敷物の上で裏返しにした大アルカナ22枚のカードデッキをしっかり混ぜていく。
これで、正逆ちゃんと混ざっただろうか。
混ぜる手を止めてカードをひとまとめにし、三つの山に分けて、また一つに戻していく。
『敵』はここで、机上のクロスの上でカードを扇状に広げていたが、椿は自分の手元でカードを扇状に広げた。
「では、今一度たづねたいことを思い浮かべて、1枚お引きください」
するとなの唄は、なんの迷いもなくド真ん中からカードを一枚、そっと引き抜いた。そして敷物の上で裏返すと、描かれていたのは星が輝く空の下で水辺と土に清らかな水を注ぐ人物が描かれている。
これは、確か『星』のカードだ。
椿は指南書の『星』のページを開き、書物から得られる関連知識を自分の中で組み立てながら、言葉を紡ぎ出した。
「17番は『星』のカードです。このカードは、ときめきや希望、きらめきなどの意味があります。出会いという意味ですと運気はとてもいい状態ですので、素敵な人候補が現れる予感もあります」
「ほんとですかっ」
解説を聞いたなの唄が嬉しそうに声を上げる。
しかし、椿の頭の中に流れ込んでくる知識は、まだ彼女に伝えることがあるようで。
「ですが、その素敵な人に見合う女性になろうと背伸びをしてしまうと、なの唄さんの良さが消えてしまうかもしれません。なので、自然体で過ごされるのがいいとカードは告げていますよ。……これで合ってそうでしょうかね」
リーディングを終えて椿は、本を閉じると息をつく。
「椿さん、ありがとうございましたっ。素敵な人が現れるといいですっ」
そう笑うこの少女、しばらくは恋人を作らなさそうだなぁ。などと微笑みながらも、気になるのは、あのパーテーションの向こう。
今回の椿のリーディングは、本の知識や翻訳家、作家の意図まで潜り込んで読むことができたから行えたようなもの。
『敵』はこれを残留効果を使わず読んでいるだとしたら、どれほど勉強したのだろう。
ディヴィジョンにいる時から嗜んでいたのだろうか。
などと考えていると、なの唄から思いもよらない……いや、いつかは訊かれるだろうなぁという言葉が飛び出してくる。
「椿さんは、あの占い師さんに占ってもらわないのですかっ?」
小首を傾げて尋ねられ、椿は視線を宙に泳がせた。
「あー、……お忙しいところをお邪魔するのは申し訳ないので、今回は……」
と、苦笑いで辞退。
まだ、返り討ちの傷が癒えていない。
その上あの『敵』は絶対に言うだろう。
――金森様、お相手との進展はいかがですか? って。
気を取り直して椿はカードを纏め、巾着にしまおうとしたが。
「……タロット、結構面白いですね」
カードを撫でながら、思う。
行商道具や忍者道具と共に、いい相棒になってくれそうです。と。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【書物解読】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!