リプレイ
ノスリ・アスターゼイン
クレメンティアと過ごしたいな
ふたり合わせて一対になる角を
頭に片方ずつ
揃いで如何
もし
演出や準備に手伝いが必要なひとが居れば
積極的に担うね
雷は神にも鬼にもなるんだよ
なんて
南瓜行列時の衣で太鼓をどどん
飛翔で立ち塞がるよう舞い降りたり
くるり旋回してみせたり
Reshepで招く風
嵐の前触れの如く豆ひよこをころころ転がして
俄かの雷雲は極々局地的にぴっかりごろり
逃げても追い掛けるよ
でも絶対に園児達や梅の樹に当てることなく
転がった豆ひよこを抱き上げるまで待ってあげたり
恐さで立ち竦んでしまった子が居れば
雷雨で追いやりつつ
屋根のある四阿や先生のところまで密かに導いてあげたりも
気になる女の子(憧れの先生かも!)を背に守る少年の
震える足も
涙目で睨みつけて来る勝気な瞳も
頼もしいばかりで
頬が緩みかけてしまうけれど
その強さ、気に入った!
お前の名は何と言う?
さぁ
俺から逃げ切れるかな
快活かつ威厳の乗る声で朗と告げると共に
駆け出す切欠を敢えて与えようか
未来へ向けて走れ少年!
健気で真っ直ぐで純粋で眩い
子供達の姿に元気を貰うよう
永辿・ヤコウ
クレメンティアさんや皆さんと
パラドクス通信で連携を取って
盛り上げられたら嬉しいな
園児たちに怪我が無いよう見守りつつも
がっつりばっちり鬼になりきってみせますとも
白い着物の幽鬼
でもはっきりと姿は現さず
木の陰から木の陰へ浮遊でふわふわ移ろって見せる、
飛翔を用いて空から氷の花弁を降らせる、
ヤビの尾で足元を擽る、
逃げたつもりが同じ場所に戻る迷宮めく氷檻の中へ招待、
など
(物理的にも)少しひんやりとする幻想で
驚かしましょう
パラドクスは決してぶつけることなく
細心の注意で用いますが
氷雪が砕ける際にきらきら煌く冷気くらいなら
演出のひとつになるでしょうか
ぴゃーっと逃げ惑う豆ひよこさん達も
豆ひよこさんを守る使命感で追い掛ける園児たちも
大変に愛らしいものだから
口許を覆い隠す袖の下では
つい笑みが咲き綻ぶ
転んでしまった子が居たなら
そっと尻尾を出して掴まらせてあげて
立ち上がるよう促すけれど
――何て美味しそう
ひよこごと食べてしまおうか
着物の袖をずらして
ちらりと見せるのは
紅を引いた口唇に光る妖しき牙
(吸血鬼風の小道具です)
アンゼリカ・レンブラント
※鬼側。みんなと合わせて盛り上げられたら嬉しいよ!
小さい頃節分の鬼って本当に怖かった
そして怖い後のほっとした時の気持ちって本当に忘れがたい
よーしめいっぱい鬼になるぞー!
それなりに背は伸びてきたし、青鬼の仮面をかぶって
ごつい衣装を着こめば貫禄出せるかな!
怖がらせ方としては、【光学迷彩】を駆使して潜伏
枝垂れ梅の枝の裡から突如現れて幼子を
とびきりびっくりさせるね
ぐへへへわるいこは食べちゃうぞー!
怪我させたりしないのは勿論やりすぎないを意識
泣いちゃったら離れて
先生や、豆をまく側の仲間に抱きしめて
もらうよう促したりしよう
楽しいイベントの前の「タメ」として
あちこちにいって怖がらせるよ
がおががお~~!
さぁ我こそは無敵の鬼だぞぉ!
豆なんて持ってないだろ~、暴れまくっちゃうぞ!
えっ、持ってるの!?
(さぁ存分にぶつけてこいっ!)
鬼を追い払うための豆まきが始まったら大仰に苦しんで退散するね
ぐわー!まさか豆を持っていたなんて~!
よい子と豆には叶わん……退散、退散!
(さぁ、着替えたら恵方巻も存分に味わっちゃお!)
シャルロット・アミ
いっぱい驚かせちゃえばいいのよね
よーし、頑張るわ
モラさんも頑張りましょうね「もきゅっ」
クレメンティアさんや皆さまを見かけたらお願いをするわ
モラさんに鬼風メイクを施してもらえないかしら
私はお借りしたこのお面と、梅柄の着物で
さあ、行くわよ、モラさん!「もっきゅー!」
【パラドクス通信】で連絡を取り合い
バランスよく驚かせましょうね
【飛翔】を使ってひらり、伝説の鬼女のように舞うわ
子供たちがこちらを見たところで
「もきゅー!」(モラさん怖い笑み)
おどろおどろしい曲をバイオリンで奏でれば
浮かび上がるのはドラゴン
ばっさばっさと羽をはためかせて怖さを強調させましょう
さらに【傀儡】をつかって逃げようとする豆ひよこさんの
足?を止めるわ
きっと豆ひよこさんたちを守るために
子供たちは頑張ってくれるはず、可愛い…!
程々のところで豆ひよこさんを離して
子供たちが逃げ出したところで【迷宮化】
迷子は鬼よりもきっと怖いはず
そうして最後に「食べちゃうぞー」(「もきゅー!」)
…怖がってくれるかしら?
アドリブ、連携歓迎です
ユーフェミア・フロンティア
節分は去年のことを思い出しちゃうね。
あの時とはまた違う形でできたらいいな。
赤鬼の面をかぶって、トラ柄の服に着替えますね。
いや、さすがに露出の高いものは…。
さて、どう脅かしましょうか?
上背があるわけではないので、見た目の迫力はそこまでないですし…。
それなら、こういうのはどうでしょうか。
モブオーラと平穏結界で園児たちや先生たちの中に紛れ込みますよ。
そして、頃合いを見て残留効果を解除。
いきなり自分たちの中から鬼が出てきたらびっくりしちゃいますよね。
ほら、悪い子はいないかな?
悪い子は、おいしいお料理にしちゃって食べちゃいますよっ!
そういって、おもちゃの包丁をもってゆっくり歩いていきます。
園児たちを追いかけつつ、豆ひよこさんのほうにも向かっていきます。
動物の友で、脅かすけどごめんね?といいつつ、歩いていきますよ。
悪い子は、ここにもいるかー。たべちゃうぞー。
ここでぴよぴよ言われたら…
可愛すぎてどうしましょう。でも、心を鬼にして…。
魅せるように、神火斬妖剣(見せるだけ)を使いますね。
燃やしちゃうよっ。
四葩・ショウ
ゆらり、影の中から現わしたすがたは
目元を覆う、角まで硝子の青い鬼面
わるいわるい青夜叉、ってとこかな
やぁ、楽しそうなこと……してるね
笑ってみせるのは低い演技の作り声
【影忍び】で潜んでた子の影から出た先
幼稚園の先生を、つかまえた
手品みたいに【アイテムポケット】から取り出す暗幕で包みこむよに、
ぱくり
食べてしまったみたいに、みえる?
鬼の仮面をつけて貰えたら、ほら――先生もおれの仲間になった
仲間の動きにタイミングを合わせつつ
とぷりと溢れさせるパラドクスの闇はだれにも触れないよう、
代わりに【冷気の支配者】のひやりと凍てつく冷気で子供達を抱き竦めて
そう、キミは
大好きなあの子とケンカしちゃった?
キミは、家族のお菓子をこっそりたべちゃったんだ
しってるよ、おそろしい鬼だもの
鬼の鋭い(つけ)牙覗かせた笑顔で
おれはね、だいすきだよ
――キミ達みたいなわるい子
とっーても
美味しいんだ
囁いて、がばり
青の振袖と金の帯ごと
子供達へ覆いかぶさるようにして
逃げられるなら追いかけ、攫ってしまおう
にがさないよ
みーんなたべて、あげる
シル・ウィンディア
うーん、人を脅かすのはあまり得意じゃないけど…。でも、やるからには全力でっ!そして、目いっぱい楽しんでいくよっ!!
鬼のメイクってどうするんだろうか…。
おしえて、クレメンティアさーんっ!
メイク経験が少ないから、みんなを頼っちゃおうっ!
服は、赤の着物にストールを羽織って羽衣風に。
つけ角で鬼っぽくするよ。
にこにこ笑顔を浮かべつつ、園児たちへ向かっていくよ。
ね、悪い子はいないかな?
みんなよい子かな?
ご飯を残したり、先生たちを困らせたりしてないかな_
そういうことをしていると、わたしが…。
目いっぱいお仕置きしちゃうからね_
食べられるより怖いこと、教えてあげるよ…。
すこし黒い笑みを浮かべつつ、こそっと高速詠唱。
建物復元があるとはいえ、さすがに建物に撃つわけにはいかないから…。
地上から上空に向けて、十芒星精霊収束砲を撃つよ!もちろん全力魔法つきっ!!
撃った後、にっこり微笑んで
ね、悪いことしたら、お仕置きであれを撃っちゃうよっ♪
そういって、ニッコリ笑顔で歩いていくよ
…怖がってくれたらいいけど
カルメン・リコリスラディアタ
アドリブOK
老若男女問わず呼称:(名前)ちゃん
女児向けアニメに出てきそうな和ゴスな鬼の女幹部っぽい衣装
俺達が鬼役となって子供達怖がらせるのか?
身も心も鬼となり、頑張ってめちゃ驚かせて怖がらせまくるにゃー!
メイク?俺も手伝うぜ♪
『血吸川の大神』で超強面な使い魔オオカワウソ(鬼の角を模した装飾品付き)を召喚!
まずは【アイテムポケット】から取り出した
苺ジャム入りの大きいたい焼きを荒々しくガツガツと食べさせて園児達を怖がらせ
次は山盛りのヒヨコ型の饅頭(苺ジャム入り)を貪らせ豆ヒヨコをビビらせる!
悪い子はあんな風に俺達に食べられちゃうぜ?
あーはっはっは♪おめーら、楽しい鬼ごっこの始まりだぜ!
逃げないと…あんたらも豆ヒヨコも俺と手下の鬼(口元は血のような苺ジャムまみれの使い魔オオカワウソ)に食べられちゃうぞ!
勿論、園児達と豆ヒヨコ達が怪我とかしないよう見守り細心の注意を払うぜ
俺も【影忍び】で園児の影から出て驚かせちゃお
豆まきされたら使い魔オオカワウソ共々
驚き苦しむ演技して園児達を称賛しながら退散だ!
●梅の花手折りかざして遊べども
――梅の花手折りかざして遊べども、
――飽き足らぬ日は今日にしありけり。
訳:梅の花を手折って頭に翳し、どれだけ遊んでも遊び足りない日というのは今日のこと!
遥かいにしえにそう詠まれて今も万葉集にのこるこの和歌のように、たとえどれだけ怖がろうとも最後には子供達みんなが『まだまだ足りない、もっと楽しみたかった!』と笑ってくれればいい。
ちっちゃな頃、節分の鬼って本当に怖かったな。
けれど怖い鬼を豆まきで追い払って皆で歓び合った、安堵の気持ちの晴れやかさは本当に忘れがたいから。
夏陽めいて輝く髪と瞳、新宿島に流れ着く前まで青い瞳と外見は西洋人ながら陸堂・陽菜として東京都北区に生まれ育ったアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が、幼い頃味わった怖さのあとの晴れやかさを園児達へも贈るべく、
「よーし、めいっぱい怖い鬼になるぞー!!」
梅の花ならぬ鬼の角を頭に翳さんと気合満点で青鬼の面を装着した、そのとき!!
涯まで澄みきった青空と、遥かいにしえより古都を彩る伽藍を背に春告げの花を咲かす梅の苑、百花のさきがけたる梅花も子供達がはしゃぐ声も豆ひよこさん達がぴよぴよ鳴き交わす声も咲き溢れる梅の苑が、俄かに夜の帳に呑み込まれた。
ほんのり冷たく甘い梅花の香りを含む早春の風も夜の闇のなかではひときわひんやり感じられ、ぞくり背筋を震わせて、
「え? あれ?」
「なんで夜になっちゃったん……?」
『ぴ、ぴよ……』
『ぴよぴよ、ぴよ……!』
唐突に訪れた闇夜の裡で園児達が不安げに言い交せば、最終人類史のハイレベル【動物の友】による知能の高まりで空前の演技派揃いとなった豆ひよこさん達がぷるぷる身を震わせ、いかにも心細そうな鳴き声で子供達の不安を煽る……!!
途端、秘めやかに、然れど確り通る声音で、
――ね、今年はここに、
――飛びきり恐ろしい鬼達がやってきちゃうから。
なんて言葉が響き渡るとともに、闇夜に鬼火めいた青き焔がぽう、ぽうと燈れば園児達は「ひゃっ!?」と後ずさり、
闇夜も青き焔もパラドクスで織り上げたクレメンティア・オランジュリー(オランジェット・g03616)が闇の裡からふわり青き焔に照らし出され、秋に纏った竜田姫の衣装に重ねて頭からかぶっていた淡青の被衣をそっとずらして見せれば、彼女の右のこめかみの上から金の三日月を描くのは、
「わあああ! 角や! 鬼の角ー!!」
「うわああ! 鬼が来た! 鬼が出たー!!」
『ぴよ!!』
『ぴよぴよ、ぴよ!!』
そう、節分の日にやってくる鬼の証!!
妖しき鬼火めいた青き焔、鬼となった竜田姫が操るそれらが迫りくる様に園児達は蒼褪め豆ひよこさん達は震えあがるが、いざ焔が幼いいのち達を呑み込まんとした瞬間、天を割るかのごとくどどんと派手に鳴り響いたのは雷太鼓。途端に降り注ぐ稲妻が何時の間にか闇夜に煌いていた【アイスクラフト】の大きな氷塊を一撃で打ち砕けば途端に闇夜も鬼火も消え去って、
澄みきった青空を振り仰いだ子供達の瞳に映ったのは、神々しい黄金の輝きを纏った壮麗な男神の姿。
華やかな黄金の輝きは【強運の加護】によるものなれど、子供達には神の奇跡とも見えたろう。颯爽たる【飛翔】で天から舞い降りるは雷鼓を連れたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)、秋には雷神として京の都で喝采を浴び、この節分に奈良の都へと降り立った男神は何故か片腕を掲げ白き袖で自身の顔と頭を隠していたが、
「雷神様や!!」
「わあ! 神様雷神様、怖い鬼をやっつけて!!」
たちまち子供達は歓声をあげ、雷神様の鬼退治を期待して瞳を輝かせた。だがしかし、
「そう、確かに俺は雷神だとも」
「ふふ、雷神様『だった』のですけれども、ね?」
顔も頭も袖で隠したまま応える雷神に悪戯っぽく笑んだ鬼の竜田姫が寄り添って、彼の肩をするりと撫でたなら、
「あははぁ、確かにね。知っているかい? ――雷は神にも鬼にもなるってこと」
ゆうるり下ろされた白き袖の奥から現れたのは、蜜色の眼差しを不敵に煌かせた凄艶な笑みと、
雷神のはずのノスリの左こめかみの上から金の三日月を描く、傍らの竜田姫と対成す鬼の角!!
「うわああん! 雷神様やと思ったら鬼やったー!」
「ふえええん! 雷神様が鬼になってもうたー!!」
『ぴよ……!!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
「あっは! こうして鬼となったからには、存分に嵐の力を揮わせてもらおうか!」
希望の光が見えたと思った次の瞬間に再び絶望に直面してしまった園児達、その悲鳴と豆ひよこさん達の鳴き声が梅の苑へ響き渡れば、愉しげに笑みを深めたノスリが大きく袖を翻すとともに突如嵐の前触れめいた風が吹き渡り、
『ぴ! ぴよ……っ!!』
『ぴよ! ぴ~よ~!!』
「ああっ! 豆ひよこさんが飛ばされちゃう!!」
「今助けるからな豆ひよこさん! 一緒に逃げるんや!!」
演技派な豆ひよこさん達がぷるぷる懸命に踏ん張りつつも思いっきり風に吹き飛ばされたふりでころころころり!
子供達が慌てて豆ひよこさん達を抱き上げたなら背後ではごろごろぴかり、雷の鬼神と化したノスリが招来した驟雨を齎す雨雲が黄金の雷光を孕んで雷鳴の唸りをあげて、
「さあて、何処まで逃げられるかな?」
「う、うわあああん!!」
『ぴよー!! ぴよぴよ、ぴよー!!』
雷光で蜜色の瞳をいっそう強く煌かせた鬼神ノスリの言葉で弾かれたかのごとく、子供達が一斉に駆け出した!!
愛らしい桃色の一重を咲かせる梅花はその名も雛曇(ひなぐもり)、自分達が豆ひよこさんを抱き上げるまで鬼神ノスリが待っていてくれたとは露ほども気づかず、雛曇の梢の合間を悠々と旋回しつつ雷雲とともに追ってくる雷の鬼神から園児達はわあわあきゃあきゃあ悲鳴を上げつつ必死で逃げる。無論Reshep(レシェフ)の雷撃は梅の木にもちいさないのち達へも絶対当てないし、鬼の竜田姫が展開した最終人類史のハイレベル【活性治癒】があれば、誰かが転んで治るのに数日かかるような怪我をしてしまっても物の数分で綺麗に完治まちがいなし!!
万全の安全体制を確立しつつの怖い怖い鬼のターン、然れど園児達を絶叫させたそれはまだ始まったばかりだ。
『それじゃ、ここらでバトンタッチといこうか』
『ええ! 次鋒はお任せあれ!!』
鬼神ノスリが首輪の飾りめいて顕現していた【パラドクス通信】の通信機に呼びかけたなら、天空高くで張り切って応えたシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)は可憐な顔立ちを覆い隠す鬼女の面をぽふり。あでやかな梅花の打掛を翻し、
「さあ、行くわよ、モラさん!」
『もっきゅー!』
夏の肝試しの時よりも迫力倍増、鬼の角をアンテナにかぶせ赤と黒の隈取で厳めしく彩った顔の口許から凶暴な牙を覗かすモーラット・コミュとともに天空から舞い降りるのは、雛曇の花々咲く樹下を駆け抜けてきた園児達の真正面!!
桜のように淡い薄紅の八重を咲かせる梅花、楊貴妃の樹々の合間に【飛翔】でふわりと舞ったシャルロットは楊貴妃と同じ薄紅に艶やかな濃紅の梅花を咲き誇らせる打掛をひらり風に踊らせて、
「我こそは伝説の鬼女紅葉ならぬ、鬼女紅梅よ。まあ! 美味しそうな子供と豆ひよこさんがいっぱいね……!!」
『もきゅもきゅう……!!』
「うわああああん!」
「今度は違う鬼が出たー!!」
軽やかに子供達の眼の前に降り立てば鬼女の面で鬼モーラットと並んで幼子達の顔を間近で覗き込み、嬉しげな声ひとつ。
驚きのあまり尻もちついた園児達はすぐさま立ち上がって逃げ出そうとしたけれど、仲間達とバランスよく脅かさなきゃと思ったからとっておきの召喚パラドクスの出番はまたあとで! それならここはこれよね、と鬼女シャルロットが秘めやかに風に舞わせたのは【傀儡】の糸で、
「ふふ、だめよ。豆ひよこさん達はもう逃げられないんだから」
『もっきゅもきゅ~!!』
悪戯っぽい笑みを含んだシャルロットの声音に肝試しで会得した地の底から響くような声音で鬼モーラットが続けば、
『ぴ、ぴよ!!』
『ぴよっ!? ぴよぴよ、ぴよー!!??』
傀儡の糸に操られた豆ひよこさん達が園児達の手や肩からぴよぴよ飛び出して、戸惑いいっぱいの鳴き声(演技)で助けを求求めつつぴよぴよ舞う。ほわほわおひさま色のちっちゃな翼をぱたぱた、愛らしいオレンジ色のあんよはてちてちステップ踏んで、こちらも愛らしいオレンジ色のくちばしでぴよぴよ鳴きつつくるり揃ってターンを決める豆ひよこさん達は!!
物凄く可愛かった。
とてもとても可愛かったが、鬼女シャルロットに無理矢理操られていることは子供達の目にも明らかで……!!
『ぴよー!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
「ああっ! 豆ひよこさんが!!」
「だめー! 豆ひよこさんに悪さしちゃだめー!!」
黒くつぶらな瞳を潤ませ必死に助けを呼ぶ豆ひよこさん、ほわほわの雛っこ達を悪しき鬼女の術から奪い返さんと幾つもの幼い手が伸ばされた、そのとき!! 闇色に艶めく黒革の編み上げロングブーツが、ざんっと大地を鳴らした。
「悪さしちゃだめ!? あーはっはっは♪ さあ悪さするのは俺達かな? おめーらかな?」
闇色に艶めく黒革の編み上げロングブーツ、そこからゆっくり視線を上げていった園児達の瞳に映ったのは、黒地に鮮血を思わす真っ赤な彼岸花を咲き誇らす振袖を黒フリルたっぷりの豪奢なフィッシュテールドレス風にアレンジし、派手な黄金の鬼の角で決めたカルメン・リコリスラディアタ(彼岸花の女・g08648)の姿!!
女の子向けアニメの敵幹部のごとき貫禄を纏って子供達を見下ろした鬼女カルメンがぱちりと指を鳴らせば、
「悪い子はこうなっちゃうぜ! さあ来い俺の手下の鬼、血吸川の大神(ブラッディ・ギガントオッター)!!」
『みぎゃあああ~!!』
途端に現れ出づるは主の意のまま獰猛に咆哮してみせた巨大にして獰猛な顔つきのオオカワウソ(鬼の角装着済み)!!
すかさずカルメンが【アイテムポケット】から取り出した生魚(リアルな形状に焼き上げられリアルに着色されたおっきな鯛焼き)を放り投げたなら、後ろ足で仁王立ちした鬼オオカワウソは前足で掴んだ生魚(鯛焼き)をガツガツむしゃあ!!
生々しい血肉(苺ジャム)が飛び散る様に子供達が顔面蒼白になり、
「うわ、うわあああん!!」
「あたし達も食べられちゃうん……!?」
絶望の悲鳴が湧きあがれば続けてカルメンが放り投げたのは、おひさま色のカステラそぼろを纏わせほわっほわに仕上げた豆ひよこさん饅頭山盛りの籠!! 片腕でがしっと籠をキャッチした鬼オオカワウソは勿論もう片手で豆ひよこさん饅頭達を無慈悲に掴み獲って容赦なくガツガツむしゃあ!!
犠牲になった豆ひよこさん達の羽毛(カステラそぼろ)と生々しい血肉(苺ジャム)が飛び散る様に、
『ぴ……ぴよ!!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
空前の演技派揃いな豆ひよこさん達が世界の終わりだと言いたげな鳴き声を悲痛に響き渡らせ、更には自身の背後で濃桃の大輪を咲かせる梅花の名が大盃であることを知ってか知らずか、鬼女カルメンがおもむろに酒盃を呷れば盃からとろり溢れた鮮血(ラズベリージュース)が彼女の紅唇を濡らして、白い顎から喉へと真っ赤な跡を残して伝っていく……!!
「「…………!!」」
『『ぴよ……!!』』
園児達も豆ひよこさん達も震えあがって竦みあがったが、
「あーはっはっは♪ おめーら、楽しい鬼ごっこはまだまだここからだぜ!!」
「ええ、思いきり鬼ごっこを楽しませてもらっちゃうわ!」
『みきゅっ、みぎゃああああ~!!』
『もきゅ! もっきゅもきゅー!!』
鮮血(ラズベリージュース)を飲み干した鬼女カルメンが豪快に笑って、楽しげに声を弾ませた鬼女シャルロットがひそり傀儡の糸から豆ひよこさん達を解放しつつ言葉で煽り、生々しい血肉(苺ジャム)で口許を真っ赤に染めた鬼オオカワウソが巨大なあぎとから牙を剥き、華麗なるゲーミングカラーにきらきら煌く金棒(ショコラの瞳のガジェッティア作)を思いきり鬼モーラットが振り回して見せれば、
「うわああああん! みんな逃げろ、逃げるんやー!!」
『ぴよ! ぴよぴよ、ぴよー!!』
何とか勇気を振り絞った園児達が素早く豆ひよこさん達を抱き上げて逃げ出した!!
迷子になるともっと怖いかしらと一瞬思ったものの、洞窟や家屋に砦などの内部を迷宮と成す【迷宮化】も屋外では効果を発揮しない。だが迷宮で怖がらせるというプランは叶わずとも鬼女シャルロットは慌てず騒がず、鬼女の面の裡に仕込まれた通信機で【パラドクス通信】を。そう、子供達を怖がらせる鬼はまだまだいるのだから!!
『そろそろ其方の前を通ると思うわ、アンゼリカさん!!』
『了解! 私も思いっきり子供達を怖がらせていくよ!!』
『あははぁ、丁度合わせられそうだから、良ければ演出手伝うよ』
『うん! 頼らせてもらうね、ノスリ!!』
青鬼の面の裡に仕込んだ通信機でアンゼリカが二人に応えれば、了解、と笑んだ鬼神ノスリが天空から雷撃一閃!
梅の苑を駆けていく子供達の遥か前方に据えられていた大きな氷塊を打ち砕いたなら、爆ぜた雷光と氷片が周囲の梅花をも金色に輝かせた。純白に陽光をとかしたような色合いの一重を咲かせる梅花はその名も金獅子、前方の雷撃と周囲の金獅子の花々が一斉に輝く様に園児達が思わず足をとめたなら、
滝のごとく咲き溢れる白梅を金獅子の花々と同じく金色に輝かせた白滝枝垂、
園児達のすぐ傍らで豊かに枝垂れる八重の白梅の花々の裡から、
「ぐへへへ! 待っていたぞ子供達!!」
「わあああああ!?」
『ぴよー!?』
最終人類史のハイレベル【光学迷彩】で誰にも気づかれずに潜んでいたアンゼリカが不意打ちで飛び出した!!
昨年の節分では肩パッド入りの青鬼コスプレセットでゴツい鬼になったアンゼリカが今年着込んでみたのは厳めしい甲冑。来年も節分のイベントがあるのなら『ごつい衣装』という曖昧なものでなく、具体的なイメージを考えたほうがいいのかな、バルーン入りでムキムキになれる鬼コスプレセットとか。なんて思い馳せつつ青き強面の鬼武者と化したアンゼリカは、
「ぐへへへ! わるいこがいるなら骨までバリバリ食べちゃうぞー!!」
「ぴぎゃあああ!!??」
『ぴよぴよ、ぴよー!!??』
生々しい血肉(トマトソース)に塗れた巨大な金棒(型に焼き上げられた黒パン)(後で美味しくいただきます!)を、
大きく振りかぶって! 打ち下ろす!!
勿論子供達と豆ひよこさん達が逃げ出す余裕を持たせて揮ったのだけれども、もったいぶったその挙動は子供達には巨大な金棒がそれだけ重く強力なものだと思えただろう。園児達の正義の豆まきで鬼が盛大にやられてあげるターンはまだまだ先、今は鬼達が子供達を怖がらせるターンまっただなかだから、
「わあああん! ボクわるいこちゃうもんー!!」
『ぴよっ! ぴよぴよー!!』
「ぐへへへ! 逃げるってことは、本当はわるいこなんだろう? 待て待てー! 頭からバリバリ食べちゃうぞー!!」
子供達が逃げ出す隙を作ってやった鬼武者アンゼリカは金棒を見せつけるよう振りかざし、甲冑をわざとがっしゃがっしゃ鳴らしつつ、追いつきそうで追いつかない速度で園児達を追い立てててく。純白に陽光をとかしたような色合いの白梅の苑が薄紅の彩を燈し始めれば、鬼武者アンゼリカは巨大な金棒と甲冑が重くて身軽な園児達に追いつけなくなった、なんて風情を装いつつ【パラドクス通信】で仲間へと呼びかけて、
『さあ次はヤコウ達の出番だよっ!!』
『ええ、僕もヤビも何時でもいけます。お願いしますね、クレメンティアさん』
『勿論ですともー! どうぞどうぞ、お任せあれ!!』
雪白の八重の芯からほんのり薄紅の灯籠を燈すがごとき梅花、雪灯籠の合間で、
白装束の袖の裡に秘めた通信機で言葉を交わせば、永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は傍らで黒毛八尾ぱったぱたで気合を示す相棒ことクダギツネを微笑みとともに撫で、馥郁たる梅花の香気に満ちた苑から【飛翔】で天空へ舞い上がった。
振り返れば鬼武者アンゼリカの姿が消えている様に安堵した子供達が足をとめ、やったあ逃げ切ったー! と歓声と笑声を咲かせて皆でハイタッチを交わす光景は天空から見下ろしていても微笑ましく、眦を緩めながらもヤコウがまだ鬼のターンは終わりませんよとばかりに白き袖を一振りすれば、凛と冷たくきらめく氷の花弁がはらりはらりと空から舞い降りる。
然れどパラドクスで創り出した氷雪の薔薇の花片は幼子達には大きな雪とも見え、
「あれ?」
「雪降ってきたんかな?」
流石にそれだけでは園児達を怖がらせるには足りない。必要なのは驚かせるのではなく怖がらせること。
白の着物で幽鬼を装い、白梅の木陰から木陰へ【浮遊】でふわりふわり移ろいつつ驚かせるつもりでもあったけれど、
はっきり『鬼の仕業』だと認識して貰わなければ地獄変チャージの効率が落ちてしまう可能性がある。何せ相手は幼稚園や保育園に通う幼子達、わかりやすさが肝心というわけですね、と得心すればヤコウは『幻想を操って驚かせつつもはっきりと姿は現さない』というプランを即時変更。
淡桃の一重を咲き零れさせる柳川枝垂の裡に最終人類史のハイレベル【光学迷彩】で潜むクレメンティアがそのまま辺りへ闇夜を織り上げたなら、鬼武者アンゼリカを振り切ってはしゃいでいた子供達が再び真昼の世界を呑んだ夜の帳に息を呑み、闇の裡を音もなく疾駆した黒毛八尾のクダギツネの尻尾にふわりするりと足元を擽られ、ひゃっと身を竦ませた、そのとき。
闇夜にぽう、ぽう、と鬼火めいて燈る青き焔に妖しく照り映える白き着物をゆうらり踊らせ、
「鬼から逃げ切った……なんて思ったら、大間違いですよ」
袖で口許を覆ってなお妖艶に鬼火を映した青紫の眼差しを笑ませ、闇夜の空より幽鬼ヤコウが舞い降りる――!
亡霊とほぼ同義の幽鬼のままでは子供達に理解してもらえないかも、と急ぎ鬼の角も頭に飾っておいたのが奏功し、
「わあああ!!」
「また鬼が出たー!!」
『ぴ、ぴよ!』
『ぴよ! ぴよぴよ!!』
園児達と演技派な豆ひよこさん達が再び悲鳴をあげて逃げ出そうすれば白き袖の裡で笑み深め、
「ほうら、捕まえて差し上げる」
闇夜に水流を躍らせれば凍てる飛沫から氷雪の薔薇を舞わせ、たちまち園児達を氷雪の薔薇が織り成す檻へ閉じ込めた。
「もうそこからは出られませんよ。そこは何処へ逃げようとも同じ場所へ戻ってくる、鬼の迷宮なのですから――」
「ええっ!?」
「うわああん! 出して! 出してよう!!」
『ぴよぴよ!!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
実際のところこの氷雪の薔薇で織り上げられた檻は迷宮ではないし、洞窟や家屋に砦などの内部を迷宮と成す【迷宮化】もパラドクスによる生成物はその効果の対象にならないのだが、無垢で素直でいたいけな園児達はすっかり幽鬼ヤコウの言葉を信じきって思いっきり涙目涙声!! 必死に子供達を助けようとする豆ひよこさん達が更に危機感を煽る!!
勿論薔薇の荊棘がちいさないのち達に触れるより速く、鬼の竜田姫が織り上げた闇夜と鬼火が消えると同時に幽鬼ヤコウが氷雪の薔薇を光に崩れるよう散らしてやったなら、
「あっ! 出られた!!」
「今や、逃げるで豆ひよこさん!!」
『ぴよぴよ!』
『ぴよっ! ぴーよー!!』
闇夜が明けた途端に澄みきった青空から射した陽光にきらきら散る微細な氷の花片が煌くなかで園児達が輝く笑み咲かせ、ぴよぴよ跳ねて歓びを表す豆ひよこさん達を連れて一目散に逃げ出していく。然れども子供達と豆ひよこさん達の愛らしさに白き袖の裡でふくふくと笑む幽鬼ヤコウに見送られ、園児達が八重の白梅のもとで皆や先生と合流した、そのとき。
虎の尾という名を冠された白梅のもとで、
数多の園児達や先生達の中に突如、黄と黒が鮮やかな虎柄の衣を纏った赤鬼が現れた!!
「きゃああぁぁあ!!??」
「ぎゃああぁぁあ!!??」
『ぴよー!!??』
『ぴよぴよ、ぴよー!!??』
お友達もいっぱい、先生達も一緒だからきっと安心、なんて油断していた園児達のまっただなかに突如その姿を現したのはひっそり皆に紛れるべく纏っていた【モブオーラ】をいきなり解除したユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)!
「ふふ、悪い子を探しに来ましたよ。みんなの中に悪い子はいないかな?」
なお【平穏結界】も活かしたかったがこちらは不発。というより結界の外から内部の異常を気づかれにくくするこの効果、結界の内部にいる相手にはまったく意味がないのである。ユーフェミアが園児達のなかに紛れようとするならば当然園児達も『結界内』に含まれるのだ。が、最終人類史のハイレベル【モブオーラ】がちゃんと仕事したので問題なし!!
赤鬼の面をかぶり、ハイレベル【モブオーラ】を解除すれば当然誰もの目を惹く鮮やかな虎柄のミニ丈フレアワンピースで装った鬼っ娘ユーフェミアは、虎縞レッグカバーに黒革ショートブーツで決めた足元でゆるりと一歩踏み出して、
「悪い子や悪い豆ひよこさんがいたら……おいしいお料理にしちゃって食べちゃいますよ?」
神焔の包丁(をモデルにした玩具)をべったり彩る生々しい血肉(柘榴のピュレ)を、
赤鬼の面の口許からちろり覗かせた紅き舌で、ぺろりと舐めてみせる……!!
「うわあああん!」
「いやああああ! 鬼さんこっち来ないでええ!!」
『ぴよっ! ぴよぴよ!!』
『ぴよぴよ! ぴーよー!!』
華奢で小柄な身としては見た目の迫力に欠けるのは承知の上、それならと思いっきり皆を吃驚させてからゆうるりじわじわ追い詰めていく緩急で迫力を醸し出す鬼っ娘ユーフェミア。園児達ばかりでなく演技派な豆ひよこさん達もぷるぷるかぶりを振って怯える可愛らしさには思わず和みそうにもなるけれど、今は身も心も鬼にして、
「さあさあ、悪い子は片っ端からお料理しちゃうぞー!!」
ゆうるりじわじわ追い詰める緩やかさから更にもう一転しての急!!
唐突に爆ぜるような声音とともに思いきり包丁を振り上げれば園児達も豆ひよこさん達も堪らず駆け出したけれど、彼らの眼前に今度は赤地に白梅が咲く振袖と春めく桜色のストールをふうわり翻した少女が青空から舞い降りた。
天女の羽衣めかして桜色を踊らせて、梅の苑へ降り立ったのはシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)。
然れど彼女も勿論鬼のひとりであるから、ゆうるり子供達を振り返ってみせれば青い髪の合間から覗くのは金色の鬼の角、元より白い肌をいっそう真白な白塗りにして、鮮やかな赤と黒で力強く目許を彩る化粧で眦をつりあげて、鮮血の彩に染めた紅唇から牙を覗かせるその様相は、言うなれば美少女般若!!
美少女般若ゆえに明るいにこにこ笑顔でも迫力ばっちり、
「ね、悪い子はいないかな? みんな良い子かな? 大丈夫、悪い子がいてもわたしは食べたりしないからっ♪」
「う、うわあああんっ!!」
「ほんまに? ほんまに食べへん?」
『ぴよ……?』
『ぴよ、ぴよ……?』
怯えつつも恐る恐る訊いてくる子供や豆ひよこさん達に、本当だよ、と更に含みを持たせた美少女般若シルは笑みを深めて見せて、ごはんを残したり、先生達を困らせたりしてないかなー? と訊ねてみるたび笑顔の圧を強めていく。合間に辺りへちらり視線を奔らせれば耳飾りめいた【パラドクス通信】の通信機から『シル様、あちらに!』と届く声、
ふふっ、と妖しげな笑みを子供達に零して見せれば一瞬の吐息で高速詠唱を織り上げて、
――そんな悪い子がいれば、
――食べられるよりもっと怖い目に遭わせちゃうよ?
「わたしがこんな風に、めいっぱいお仕置きしちゃうから!!」
眼前に花開かせた精霊魔法陣が相対するのは誰ひとり梅の木ひとつ傷つける心配のない好い感じに開けたところにひっそり顕現していた【アイスクラフト】の大きな氷塊! 世界を彩る六属性の力を魔法陣の中心で激突させれば生じるのは強大なる消滅エネルギー、即座に純粋な魔力へと変じたそれに陽と月と星の魔法陣が重ねられて威力を増幅して、更には時の魔法陣が絶大な輝きを収束させて、
迸らせるのは眩い虹色に輝く、十芒星精霊収束砲(ペルフェクト・エレメンタル・ブラスト)!!
凄まじい虹色の光の奔流、美少女般若シルの『お仕置き』が大きな氷塊を粉砕して霧散させたなら、
「「……!! う、うわああああんっ!!」」
『『……!! ぴ、ぴよぴよぴよーっ!!』』
過激すぎる『お仕置き』が自分に向けられることを想像してしまったらしい園児達が泣き喚き、演技派な豆ひよこさん達も身も世もない風情で鳴き叫ぶ。涙に濡れた瞳で助けを求め辺りを見回した子供達の視界に映ったのは、いつでも自分達の味方になってくれる優しい先生の姿!!
「せんせえ! ナナせんせえっ!!」
「たすけて! ナナせんせえっ!!」
可愛い園児達に頼られたナナせんせえは駆け寄ってくる子供達を勿論両腕ひろげて迎えようとしたけれども、彼女の背後で八重の白梅、残雪の花片ひとひらが舞った、そのとき。
園児達の影のひとつと見えていた【影忍び】が解除され、大地から新たなる鬼がゆらりと姿を現した!!
「え? ええっ!? きゃあああっ!!??」
「うわああああ!!」
「ぴぎゃあああ!!」
驚愕の声をあげたナナせんせえと園児達の間に立ちはだかるように現れたのは、凛然と煌く硝子が目許を覆って、そのまま鋭い鬼の角をも成す青硝子の面で装った四葩・ショウ(After the Rain・g00878)。薄浅葱から青に染まる振袖と紫陽花咲く金の帯は短丈の外套のごとくショウを彩り、足元に艶めくぽっくりが元よりすらりとした長身を更に高く見せて、
「やぁ、楽しそうなこと……してるね」
歌唱と演技に長けた花唇が低く艶やかな作り声を紡ぎ出せば、宛らその佇まいは青夜叉の貴公子といったところ。
「それじゃあ『おれ』も一緒に、楽しませてもらおうかな」
青き硝子の面が目許を覆っていてもその中性的な美貌は誰の目にも明らかで、形のよい花唇がひやりと笑みを描けば途端に展開された【冷気の支配者】が齎す冷たさが皆を音もなく抱きすくめる。何時の間にかショウがその掌に顕現させていたのは禁断の果実たる無花果、ぱくりと割れて紅き断面を覗かす果実から溢れ出すのは、生まれながらの罪、原罪たる冷たき闇。
勿論パラドクス攻撃たるその闇を誰にも触れさせはしないけれど、
懐の【アイテムポケット】からするり溢れさせた暗幕をばさりと翻せば子供達には冷たき闇が広がったように見えたろう。大きく咲き広がる暗幕がナナせんせえをすっぽり覆えば、青夜叉ショウの闇に先生が食べられてしまったように見えたろう。秘めやかな囁きに頷いた彼女が暗幕の裡に仕込んでいた鬼の面を着けてくれたなら、
大仰な所作でばさりと暗幕を取り払い、
「ああ、なんて楽しいんだ。ほら――先生もおれの仲間になった」
「「ナナせんせえ……っ!!」」
鬼となった先生の姿を園児達の面前で明らかに!!
「うわああん! ナナせんせえ!!」
「ナナせんせえが鬼になってもうたー!!」
『ぴよー!!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
嗚呼、なんてこと!!
まさか幼稚園の先生が鬼に変えられてしまうなんて……!!
『ね、ショウ様ショウ様! 私達も配下にしてくださいな!!』
真白ふわふわストールを彩る飾りのひとつめく【パラドクス通信】の通信機からそんな声が聴こえてくれば、いいですね、それ、と青夜叉ショウは小声で応え、園児達に向けては低く艶めく作り声をなめらかに響き渡らせる。
「実はね、キミ達がさっき出逢った雷神様も竜田姫も……みんな、みぃんな、おれが鬼にしちゃったんだ」
「「………っ!!」」
『『ぴ、ぴよぴよ、ぴよ……っ!!』』
神々すらも鬼へ変えてしまう青夜叉、恐るべき力を持つ鬼の貴公子が爆誕した――!!
●春のうちの楽しき終へは梅の花
――春のうちの楽しき終へは梅の花、
――手折り招きつつ遊ぶにあるべし。
訳:春の楽しみのうちで最も楽しいのは、梅の花を手折って咲かせて楽しく遊ぶこと!
遥かいにしえにそう詠まれて今も万葉集にのこるこの和歌のように、梅花を手折りはせずとも園児達の心を折りはせずとも思いきり怖がってもらって、そのあと飛びっきりの、満開の笑顔が咲けば、怖い鬼達もすべて楽しい想い出に変わるはず。
形勢逆転のカタルシスは何時だって誰もの心を飛びきり高揚させる快感だから、
「楽しい豆まきになるように、前フリの『タメ』で思いきり怖がらせなきゃね! あっ、ミアの虎柄ワンピ姿可愛いっ!!」
「頑張ってめいっぱい脅かそうね! アンゼリカの甲冑姿も貫禄たっぷりでかっこいいよ!!」
怖い怖い鬼になるための準備も飛びきり念入りに!!
昨年とは異なる互いの装いに恋人達は笑みを咲かせ合って、私は今年も『ぐへへへ!』って怖がらせるんだ~と巨大な金棒(トマトソースつき黒パン)を振り回してみせるアンゼリカに、私は去年と違う感じでいってみるねと応えるユーフェミアの手には生々しい血肉(柘榴のピュレ)べったりな包丁(玩具)がぎらり。
其々のもう片手に青鬼と赤鬼の面がある様を見れば二人は今年もお面なんだねと頷いて、
「わたしは……と、鬼のメイクってどうすればいいんだろ? 教えてクレメンティアさーんっ!!」
赤地に白梅咲く振袖をばっちり着付けてもらったシルが頼るのは年上の乙女達。
「シル様のためなら腕まくりしますともー! でもシル様、フィオナ様にはばっちりメイクしてあげてらしたのに?」
「だって花嫁さんのメイクと鬼のメイクは全然ちがうんだもんっ!!」
「あはは、それはそうだよね。よかったらわたしの予備の付け牙もどうかな? 勿論新品だから」
「ショウさんとお揃いの牙っ! 使う使う、使わせてもらいますっ♪」
結婚式を挙げる花冠のフィオナのためにメイクを猛勉強したシルも自分自身のメイクはまだまだ経験が浅く、ましてや鬼のそれとなればまるで未知の世界。下地で整えたシルの肌に舞台用の真白なファンデーションを塗るクレメンティアが粉白粉も重ね、子供達もはっと驚く様な白塗りを作り上げていく様に微笑みつつ、既に硝子の面で青夜叉となっていたショウが牙を勧めれば、美少女般若(まだ未完成)は二つ返事で声を弾ませて。
「ねえクレメンティアさん、シルさんが終わったらモラさんにも鬼風メイクをお願いできるかしら?」
「もちろん合点承知ですともー! ね、モラさん様、金棒もお持ちになるかしら!?」
『きゅもっ!!』
艶やかな漆黒の髪が映える紅梅の打掛で装うシャルロットは鬼女の面をかぶるつもりだけれども、生身で勝負する気満々なモーラットが気合いっぱいでもきゅもきゅ弾む様を見ればカルメンにも楽しげな笑みが咲く。
「なになに? シルちゃんとモラさんの鬼メイク? それなら俺も手伝うぜ♪」
「ふふ、カルメンさんならインパクトのあるメイクもお手の物よね!」
「わわ、カルメンさんも協力してくれるならとっても頼もしいのっ♪」
今日は身も心も鬼となるため鬼の幹部っぽく和ゴスで決めたカルメンだが、普段の彼女が好むのはパンクでロックな装い。日頃から彼女を識るシャルロットとシルに満開の笑みが花開けば、程なく誕生したのは夏の肝試しの折より迫力倍増の隈取に彩られた鬼モーラットと、雪のごとき白塗りに鮮やかな赤のアイシャドウで大きく目許を彩り、黒のアイラインで眦を大胆な三日月につりあげて、鮮血の彩に艶めく紅唇から牙を覗かせる美少女般若シル!!
節分イベント開始前から和気藹々、そんな飛びきり念入りな準備を経て解き放たれた鬼達のターンはまだまだ終わらず、
園児達を更なる恐怖のどんぞこへ叩き落していく!!
――折角みんなに協力してもらって鬼になったんだもん、
――全力で子供達を怖がらせて! めいっぱい楽しんでいくよっ!!
誰かを脅かすなんてあまり得意じゃないけれど、と思ったりもしたものの、考えてみればクロノヴェーダならしょっちゅう脅かしたり戦慄させたりしてる!! と閃いた美少女般若シルの笑顔はますます迫力を増して。
「ふふっ。このままだと先生達もみんな鬼になっちゃうかもね?」
「そんなのやだあ! ふええええん!!」
『ぴよぴよ、ぴよぴよぴよー!!』
美少女般若がにっこり笑顔でゆっくり歩み寄るたび園児達と豆ひよこさん達はぷるぷる震えて後ずさり、悪い子はそろそろ覚悟するといいよ、と笑んだシルが再び一瞬の高速詠唱で今度は天をめがけた精霊魔法陣を咲き誇らせたなら、
「さあ、鬼に食べられちゃうのと、こうやってお仕置きされちゃうの、どっちがいいかなっ!?」
「「ぴぎゃああああ!!」」
『『ぴよぴよ! ぴ~よ~!!』』
迫力満点、威力絶大の全力魔法で解き放たれた凄絶な虹色の光の奔流が青空めがけて撃ち放たれて、
余波だけでも大地を震撼させる砲撃、余波だけでも世界すべてを虹色に染めそうな凄まじい輝きに尻もちをつく園児達!!
命ばかりはお許しを~!! と懇願するように大地にひれ伏す演技派な豆ひよこさん達!!
然れどもそこへ、機を図ったようにごろごろぴかり。
遠雷が響きその閃光が視界の端に映れば子供達も豆ひよこさん達もぴゃっと跳ね起きて、
「そうやって逃げずにいるなら、鬼の口より虹色の光より先に、嵐が呑み込んでしまうよ」
光も影も耀く魄翼を羽ばたかせて降臨した鬼神ノスリが艶めく笑みでそう告げたなら、再び招来された風が大地にひれ伏す豆ひよこさん達をころころころりと軽快に転がした。
『ぴよよっ!?』
『ぴよ! ぴ~よ~!!』
「ああっ! また豆ひよこさんが飛ばされちゃう!!」
「うわあああん! みんなみんな、逃げるんやー!!」
園児達が皆しっかり豆ひよこさん達を抱き上げたと見れば三度梅の苑を呑み込んだ夜の帳、闇夜に吹く風はひときわ不穏な気配を帯びて、遠雷を孕む雨雲は驟雨を降らせつつ子供達へ迫り、鬼火めいた青き焔も夜の闇に躍る。わあわあきゃあきゃあぴよぴよと響き渡る悲鳴に潜めるように鬼達も言の葉交わし、
「ね、鬼神様ノスリさま、そのうち私に風使いの手ほどきしてくださいな!」
「あははぁ、風のパラドクスでも編み出したくなった?」
鬼の竜田姫が操る鬼火は子供達を追うと見せかけながらも闇夜を照らすあかりとなって、彼女のおねだりに愉しげな笑みで応えた雷の鬼神にして風塵魔術師は嵐の前触れめいた風と驟雨に雷鳴で追いつつ園児達と豆ひよこさん達をさりげなく四阿へと誘導。ちいさないのち達が屋根のもとへ跳び込んだなら、
「なんてすばしっこい子供達と豆ひよこ達だ、この俺が見失ってしまうとは……!」
此方も演技と歌唱に長けた声音でそんな台詞を朗と響き渡らせ、闇夜が明けると同時に二人して【飛翔】で空へと去って。
然れど四阿のベンチにへたりこんだ園児達が、よかった~!! と歓び合ったのもひとときのこと。子供達の気力と体力が回復した頃合いを見計らって、
「ぐへへへ! 見つけたぞぉ~、子供達!!」
「うわああん! 鬼武者に見つかったー!!」
『ぴよ! ぴよぴよ、ぴよー!!』
園児達が背を向けていた方角から今度は鬼武者アンゼリカが四阿を強襲!!
生々しい血肉(トマトソース)まみれの巨大な金棒(型の黒パン)は鬼武者アンゼリカが甲冑に慣れてきたこともあって、その重さとゴツさをいっそう増したかのような迫力で大きく振り上げられ! 打ち下ろされる!!
勿論これも子供達と豆ひよこさん達が間一髪で逃げ出せる絶妙なタイミング、がおがおがお~!! と鬼武者アンゼリカが吼えつつ追ってくるのを今回も手加減されているとは気づかぬままに渾身の猛ダッシュで振り切ったなら、
「わあっ!?」
『ぴよっ!?』
女の子がひとり、小石に躓いてすってんころり。ついでに豆ひよこさんもぽってんころり。
眼の前でふぁっさあと大きくて黒い何かが揺れれば女の子は思わずそれに掴まったけれど、
「ひとりで立てますか?」
「うん、ありが、と……っ!!??」
物柔らかな声音に反射的に応えて立ち上がった女の子の瞳に映ったのは、白装束に映える大きな黒狐の尻尾をふわり揺らす幽鬼ヤコウの姿! ふっさふさの狐尻尾を掴んだ小さな手にあった擦り傷が瞬く間に消える様に【活性治癒】のありがたさを実感しつつ、至近距離での鬼との遭遇に硬直してしまった女の子に口許を袖で隠したままヤコウは微笑みかけ、
己の背後で明るい紅色の一重を咲かせる梅花、紅千鳥の花片ひとひらが風に舞った刹那。
「――何て美味しそう。ひよこごと食べてしまおうか」
妖狐の幽鬼が白き袖をそっとずらして見せれば、紅梅より鮮やかな紅を引いた口唇からは妖しく光る牙が覗いて、
吸血鬼の仮装用に誂えられたそれからは、甘美に香る鮮血(濃縮ダマスクローズシロップ)が滴り落ちる――!!
「ひゃ! ひゃああああっ!!」
『ぴよ! ぴよよよよよっ!!』
衝撃で硬直が解けたらしい女の子と名演技を見せた豆ひよこさんも周囲の子供達も飛びあがるようにして逃げ出すけれど、まだまだ鬼からは逃れられない! 園児達の行く手で禍々しくぎらりと煌くのは、生々しい血肉(柘榴のピュレ)にまみれた神焔の包丁(をモデルにした玩具)!!
赤鬼の面で顔を覆ったままの鬼っ娘ユーフェミアが子供達と豆ひよこさん達の前に立ちふさがり、
「ふふ、悪い子はここですか? そのままでも美味しそうですけど、こんがり焼くのも美味しそうですよね?」
「ひっ……!!」
『ぴよっ……!』
現役アイドルならではの可愛らしい声音と明るい口調で恐ろしい言葉を語ってみつつ、さりげなく【アイテムポケット】に仕舞った包丁の代わりに輝かせるのは神なる焔。なれども今日ばかりは神火も禍々しい地獄の炎めいて鬼っ娘ユーフェミアの手から轟と燃え上がり、灼熱の紅蓮に燃え盛る炎の刀剣を振り翳した赤鬼が、
「さあ、美味しい丸焼きにしちゃいますよっ!!」
「ひゃああああっ!!」
『ぴよぴよぴよー!!』
堂々と宣言して見せれば、震えあがった子供達が駆け出したのは前方の鬼っ娘ユーフェミアからも後方の幽鬼ヤコウからも逃れられる横合いの方向、白梅の樹々の合間。
嗚呼、だけど!!
純白に淡く陽が射すような八重を咲かせる梅花の名は鬼桂花、その先には更に恐ろしい鬼の試練が待っている……!!
逃げ込んだ先の梅の苑は、園児達の悲鳴と絶望の坩堝と化していた。
ナナせんせえばかりか、サクラせんせえやリョウせんせえまで次から次へ鬼と化していく恐怖のどんぞこで必死に逃げ惑う園児達! だが恐怖のどんぞこは奈落の底、園児達も豆ひよこさん達も更なる恐怖に震えあがることとなる!!
気がついたら鬼の貴公子になっていたショウは持ち前の演技力でいかにも初めからそうであったかのように振舞って、
「ふふ、どうやら悪い子がたくさんいるみたいだ。おれはね、みんなの心が読めちゃうから」
凛然と煌く青夜叉の仮面、目許を覆う硝子の仮面の下で花唇を冷ややかに笑ませ、
笑んだ唇に寄せた人差し指で、すいと宙を撫でてみせた。園児達にはあたかも自分が指さされたと見えるように。
皆の耳にも心にも確り届くよう、ゆっくり紡がれる言の葉は、
――そう、キミは、大好きなあの子とケンカしちゃった?
――キミは、家族のお菓子をこっそりたべちゃったんだ。
「しってるよ、おそろしい鬼だもの」
勿論ショウが口にしたのは子供達の大半に当てはまりそうな、ちょっとした『わるいこと』。
だが曖昧な言葉で相手に「これって自分のことだ!」と思わせるバーナム効果は園児達には覿面に効いて、
「わああん! サナちゃんとケンカしちゃってごめんなさいー!!」
『ぴよぴよ!』
「ごめんなさいー! レンくんにキライって言っちゃってごめんなさいー!!」
『ぴよぴよ、ぴよ!』
「うわあああん! ママのケーキのてっぺんの苺たべちゃってごめんなさいー!!」
『ぴっ! ぴよぴよ、ぴよ!!』
「ぴええええん! パパの分のおせんべい何枚もたべちゃってごめんなさいー!!」
『ぴよぴよ! ぴよ、ぴよ……っ!!』
心当たりがありすぎる園児達がたちまち泣き出して阿鼻叫喚! ついでに豆ひよこさん達も次々と罪を告白する!!
あちこちで暴露される可愛らしいケンカの数々、迷宮入りしていた一口チョコ消失事件の真相、ミミズと小松菜をめぐって争う豆ひよこさん達の仁義なき戦い、挙句の果てにはママと共謀してパパの分のプリン半分こしちゃったというとんでもない悪行までもが明らかに……!!
「ああ、なんてわるい子達、なんてわるい豆ひよこ達なんだ……!」
悲しげにかぶりを振ってみせた青夜叉ショウ、然れど次の瞬間には再びその花唇が笑みを描き、
「けれど、おれはね、だいすきだよ。――キミ達みたいなわるい子が」
――なぜなら、キミ達みたいなわるい子達はね、
――とっーても、美味しいんだ。
空恐ろしいくらい優しく語りかけるその口許からは、冷たくきらめく牙が覗く――!!
「「…………!!」」
『『…………!!』』
あまりの恐ろしさに園児達も豆ひよこさん達も凍りついてしまったけれども、青夜叉ショウが青き振袖も金の帯も華やかに躍らせ、ひとりの女の子と一羽の豆ひよこさんを振袖で覆い隠すようにその腕のなかへ攫ったなら、
「にがさないよ。みーんなたべて、あげる」
「きゃああぁぁあ!! わああん許して、もうパパのプリン食べないからー!!」
『ぴよぴよぴよー!! ぴよぴよ、ぴよぴよぴよー!!』
ママと共謀してパパの分のプリン半分こしちゃったという女の子と、仲間が啄んでいたミミズを猛ダッシュで掠め獲ったという豆ひよこさんの絶対絶命の悲鳴が凍りついていた皆を我に返らせる!! だが青夜叉ショウから逃げようにも、
「あーはっはっは♪ こんなに悪い子がいっぱいだとはな! 食べ放題といかせてもらうぜ、おめーら!!」
『みぎゃああああ!!』
「うわあああんっ!!」
『ぴよぴよ、ぴよ!!』
梅の苑の西へ逃げ出さんとした園児達の影から唐突に変じて度肝を抜いた鬼女カルメン、絶妙なタイミングで【影忍び】を解除し、黒地に彼岸花咲く振袖フィッシュテールドレスを翻した彼女が子供達と豆ひよこさん達の前に立ちふさがれば、
再び召喚された巨大鬼オオカワウソが生々しい血肉(苺ジャム)で真っ赤に染まったままのあぎとを開いて、獰猛な咆哮を響かせると同時に後ろ足で立ち上がって物理的な壁となる!!
「ふふ、悪い子いっぱい食べ放題だなんて嬉しいわ。私も私の仲間達も、もうおなかぺこぺこだもの……!」
『もきゅ! もきゅもきゅうううう!!』
梅の苑の東へ逃げ出さんとした園児達の前には梅花の打掛を翻した鬼女シャルロットがふわりと舞い降りて、きらっきらな金棒を振り回す鬼モーラットがおなかの虫の声も表現してみせたなら、この子も『あの子』もおなかいっぱいになるわね、と鬼女の面の裡でくすりと笑んだシャルロットが流れるような所作で構えたのは愛器たるバイオリン。
大地に響くような低音でおどろおどろしい音色を奏でれば、鬼女シャルロットの後背で地を這うように低く広く枝を広げる八重咲きの紅梅、竜が臥したかのごとき樹形からその名も臥竜梅と冠された樹が花々を震わせた、その瞬間。
あたかも大地に臥していた『それ』が宙に舞い上がったかのごとく召喚されたのは巨大なるドラゴン!!
子供達の眼には天を覆うかにも見えるだろう巨大な竜が翼を羽ばたかせる様は、おまえ達が逃げようとしても羽ばたきから生じる風ひとつで押し返すことができるのだと力を誇示しているようで、
「ぴぎゃあああ!!」
「こんなん、こんなん怖すぎるー!!」
『ぴよっ!! ぴーよー!!』
『ぴよー!! ぴよぴよ、ぴよー!!』
泣き喚く園児達が更に続出、迫真の演技で豆ひよこさん達も恐怖を煽り、いっそうの阿鼻叫喚が広がっていくけれど。
巨大オオカワウソや巨大ドラゴンの出現で怪獣大戦争の様相も呈してきた悲鳴と絶望の坩堝のさなかにあってなお、
「ふ、ふえええん! リッカ、おねえちゃんのクッキーたべちゃった……!!」
「大丈夫やリッカちゃん! 俺が、俺が絶対にリッカちゃんを護ったるからな!!」
普段から気になる相手なのだろう女の子を必死で護らんとする男の子を空から見かければ、彼の眼前にひらりと舞い降りた鬼神ノスリは男の子を試すような笑みと言の葉ひとつ。
「――随分と勇ましいじゃないか」
「……!! 俺の後ろから出たらあかんで、リッカちゃん!!」
迷わず女の子を、リッカを背に庇った彼が足を震わせ、涙目になりつつもこちらを睨みつけてくる様子には思わずノスリの頬も緩みかけたけれど、緩みは引き締め鬼神の威厳は保ったまま、まっすぐ鬼神を見上げる瞳の勝気さと頼もしさを称えて、
「その強さ、気に入った! お前の名は何と言う?」
「ア、アラタ!!」
名を訊ねたなら、
明朗快活、然れど厳かな響きの声音でアラタに告げるのは、鬼神の戯れめかしつつ駆け出すきっかけを与える言の葉。
「さぁアラタ、俺から逃げ切れるかな? 真の勇気があるなら、リッカを連れて見事逃げ切って見せるがいい!!」
「絶対捕まらへんからなー! 行くでリッカちゃん!!」
「うん! アラタくんと一緒に行く……!!」
『ぴよぴよ!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
片手にそれぞれの豆ひよこさんを大事に抱いて、もう片手を確りと繋いだアラタとリッカが二人揃って駆け出していく姿は飛びきり健気でまっすぐで純粋で眩くて、みるみる遠ざかっていく背中は二人が光り輝く未来へ飛び込んでいくかのようで、傍らに舞い降りてきた鬼の竜田姫と笑み交わす。
見て、と彼女が示す先に咲く梅花は、純白と見紛うほど淡い淡い桃色の一重を咲かせる、塒出の鷹(とやでのたか)。
換羽を経た鷹の羽毛のごとく柔らかな花弁を咲かせる梅花の梢越しに子供達を見れば、
真新しい羽根で羽ばたいていく姿を見る想いがして、こちらまで元気をもらえた心地。
無論、何処までも駆けて逃げ切れるわけではないけれど、
「あーはっはっは♪ どうやらおめーら、豆がなければ手も足も出ねーみたいだな!!」
「さぁ我らこそは無敵の鬼だぞぉ! 豆なんて持ってないだろ~、まだまだ暴れまくっちゃうぞ!!」
豪快な鬼の幹部ぶりを見せつける鬼女カルメンと豪胆な鬼の猛者ぶりを見せつける鬼武者アンゼリカが園児達に立ち塞がりながらも綺麗にフラグを立てる。今にも子供達に喰らいつかんとする巨大鬼オオカワウソがみぎゃああと威嚇して、
――それとも、そろそろ。
――子供達も豆ひよこさん達も、美味しくいただくとしようかな。
鬼武者アンゼリカもそんな台詞を口にしつつ子供達へとにじり寄った、そのとき。
「皆さん、もう大丈夫ですよ! 豆まきの豆が到着しましたからね!!」
「「園長せんせえ……っ!!」」
包容力に満ちた豊麗な女性の声音が梅の苑へ響き渡ったなら、悲鳴と絶望の坩堝、奈落の底へ、突如射し込めた明るい光を見るかのごとき笑顔が園児達へ一斉に咲き溢れた。節分の鬼が豆に弱いだなんて、子供達も勿論みんな識っている。
「な、なんだってー!!??」
「豆が到着した、だと……!!??」
鬼女カルメンと鬼武者アンゼリカが思いっきり狼狽し、怯んだように後ずさって見せたなら、
今こそ最終人類史ならではのハイレベルで解放される【士気高揚】!!
絶対無敵の秘密兵器こと豆の到着と【士気高揚】で勇気凛々となった園児達の豆まきのターンが、今、始まる――!!
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【迷宮化】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【避難勧告】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
【寒冷適応】LV1が発生!
【断末魔動画】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
ダルクエス・ネクスト
【彼岸花】
・呼称
妻のカルメン:カルメン
他は老若男女問わず:(名前)
服装:灰ストライプジャケット+白長袖+黒レザーパンツ+スリムな黒革靴
カルメン含め、園児達を怖がらせたりひとつになって追い払ったりする様子を眺めて和み、行事終わりに園児達に向けて
よく頑張ったね、そんな君達にご褒美があるよ♪
…と言いつつ湯沸かしをして色々前準備。
ご褒美の恵方巻きロールの準備に取り掛かる…ひと工夫加えるつもり。
カルメンの隣で出来上がった恵方巻きロールに粉砂糖を淡い雪のように振りかけてあげる。
おや、園児達だけでなく、先生達にも紅茶や珈琲を淹れてあげようかな?
カワウソと戯れる人々を眺めながら、また和んでみたり。
四阿でカルメンが呼んでいることに気付いて、そこで2人ゆっくり寄り添い過ごすことに。
恵方巻きロールを食べさせ合いっこしながら梅見だ。
…今年も行ってみるか、雪山紅梅デート。
と言葉にしてカワウソを撫でるように優しく髪を撫でて微笑み合う。
カルメン・リコリスラディアタ
【彼岸花】
・呼称
旦那のダルクエス:ダルク
他は老若男女問わず:(名前)ちゃん
服装:黒コート+長袖黒ニットワンピ+黒タイツ+黒スニーカー
あははっやられたぜー鬼退治お疲れ様♪
鬼達も手下も豆撒きでやっつけて豆ヒヨコを護った
侍のように勇敢で優しい皆には俺達夫婦からのご褒美♪
恵方巻ロールケーキだぜ!
お部屋借りて、ダルクと協力して予め用意した赤い苺味の生地に白い生クリームと小さく切った林檎などの果物を巻き巻きして仕上げして…出来た!
『獺祭雷舞劇団』で召喚した使い魔コツメカワウソの演奏をBGMにして場を和ませて
アプリで今年の恵方の方角を確認してから皆で頂きます♪
俺の作戦とは言え、カワウソ=怖いって思われたままは嫌だし
使い魔コツメカワウソとの触れ合いタイムも作っちゃう
カワウソは可愛い生き物です!
ひと段落したら四阿でダルクと寄り添い
のんびり梅の苑を眺めながら恵方ロールケーキ食べよう
はい、あーんしながらも
去年のデートで雪山の紅梅眺めたなとか今年も見に行きたいぜと言って思いを馳せ
髪を撫でられ笑顔になっちゃう
シル・ウィンディア
さぁ、鬼さんこちらっ!ということで、豆まきのターンがやってまいりましたっ!!
…角と牙を外し忘れた。
つまり、これは…?
にゃーっ!!豆、いたいからーーっ!!
きゃきゃー言いながら園児たちが追いつける感じのスピードで逃げます。
おぼえてろーっていいながら、飛翔で飛んで離脱っ!
青のワンピースに着替えて
モブオーラの効果を使ってちゃっかり恵方巻ロールの場に登場!
みんな、かっこよかったよっ!っていって園児と豆ひよこさんに伝えるよ。
せっかくだし恵方巻ロールを園児たちと一緒に作るよ。
みんなの好きな果物教えて?
聞きながら作るけど欲張りすぎたかな?
結構いびつな形に…。
あ、クレメンティアさん
手作り恵方巻ロールはいかがかな?
オレンジと生クリーム、そしてグレープフルーツにちょっとチョコをトッピング。
少し大人っぽい感じでクレメンティアさんを意識して作りましたっ♪
今回はわたしが餌付け…。
…多分、反撃の餌付けされそう
いいもん、おいしくて甘いものは正義!
あと、スマホさんで写真をパシャリ。
あとでフォトフレームに飾るの。
アンゼリカ・レンブラント
豆まきも終わりだね
パーカーとデニムのズボンに着替えて
梅を見ながらの恵方巻パーティに参加しようっ
みんなの仮装も脅かしっぷりも本当にすごかったね
私は青鬼武者に扮してみたけど
来年はもう少し凝ってみたいね!マッチョ方面!
怖い鬼になってねぐへへ……あっと、
変な口癖がついたら彼女になってくれたあの子に嫌われるかな
なんてね!
豆をまかれて逃げ出す時もみんな鬼っぽかったよ!
もう少し悪あがきしたほうよかったかな?
恵方巻ロールケーキって本当によくできているね
東北東やや東が向くべき方角だったかな
こちらの方角の地もたくさん奪還するよって思いながら食べるよ
仲間との歓談も素敵だけど
幼稚園でのイベントの主役はやっぱり子ども達かな
よく勇気を出して鬼に立ち向かったねって
笑顔を向けて話していくねっ
ねぇ、豆を手に鬼に向かった時、どんな気持ちだった?
来年はもっともっと怖い鬼さんが来るかもだけど
みんななら平気だね
子ども達の笑顔は本当にひとびとの笑顔のさきがけだね
どうかこの笑顔が、世界中に溢れますように
奪還の志、また大きくなったよ!
ユーフェミア・フロンティア
豆まきのターンになったら、ブラウスとスカートに着替えて
モブオーラでまたこっそりと園児と先生と豆ひよこさん達に紛れますね。
そして、渡された豆をもって、さりげなく鬼の皆さんに向って投げます。
ええ、全力で投げます。
投擲がなくても連射は出来るから投げます。
あれ?アンゼリカ?まだ鬼の癖が…?それじゃ、投げちゃおうかなっ♪
そう言って、豆を見せてみますね。
豆まきが終わったら恵方巻ロールの時間ですね。
私は恵方巻ロールを作っていきますね。
ええと、園児たちには小さめのものをっと…。
のどを詰まらせたらダメですしね。
フルーツをバランス良く配置して作りますよ。
あらら、結構大きなものもあるけど、大丈夫でしょうか…。あんなに大きくて。
作った後は方角に向いてぱくりと恵方巻ロールを食べますね。
甘いものはやっぱり幸せになりますよね。
ほんとおいしいっ!
園児たちには
みんな、鬼さんにも負けないくらいの強さだったよ。
将来有望だね。
豆ひよこさんにもお礼を。
演技、すごかったよ。ほんとに主演賞を上げたいくらいですからっ!
四葩・ショウ
『どこまでも清らかなる一撃(豆)が
鬼の貴公子が操った先生や神々
鬼のただしき心をとりもどし
みごと鬼達を打ち倒したのでした』
なーんて、ね
最後の一撃ではらりと落ちた
鬼の面だけ纏わずに
ねぇ
ごめんなさいって改心した『わたし』も
輪のなかへいれてくれる?
これは……切ったらだめ?
はむってするのが、礼儀?
なんて子供達にきいてスタンダードを
クレメンティアさんのオススメ
わたしにもください
どのシーンが印象的でしたか?
『くっ……仕方ない
かくなる上はいのちと引き換えに
ダークネス豆ぴよ鬼の召喚を……!』
ってアドリブで振る舞った時のさ
豆ひよこちゃん達の迫真の演技、すごかったね
ね、半分こしようと声をかけた子は
『寂しかったんだ
わたしだって皆と遊びたかったのに!』
さみしんぼの鬼が
悪事を告白するフィナーレの演技に
優しい貴方がいち早く
わたしにこえをかけてくれて、有難う
口回りの生クリームを拭いてあげようとしたり
格好よく鬼を退治した話に耳をかたむけ
あの時すっごく恐がらせちゃった豆ひよこちゃんにも
おわびに豆を……はい、あーん
おいしい?
永辿・ヤコウ
手製の抹茶ケーキ生地で
黄な粉クリームと黒蜜と黒豆を巻いて
ミルクと共にヤビへ恭しく献上
クレメンティアさん達も如何ですか、と
差し出す手の甲に小さな噛み痕
思い出すのは豆まきの一幕
僕もヤビのプリンを食べてしまいました
悪いことして
ごめんなさい~
と豆をぶつけられ
尻尾を巻いて退散
プリンは抗いがたい誘惑ですものね、と
木陰で相棒へ笑い掛けたところで
待ってヤビ
嚙みつかないで
冗談ですよ
そんな
逃走後の舞台裏も含めて
楽しい鬼退治
小道具類はアイテムポケットに仕舞い
しれっと爽やかに子供達の輪に馴染んだ後は
恵方巻ロールを配布する手伝いをしつつ
彼らから語られる鬼の恐ろしさに
めでたしめでたしで閉じられる顛末に
演技派豆ひよこさん達の身振り手(羽)振りに
驚いたり震えたり拍手したり
一緒にハラハラドキドキの冒険譚を振り返る
格好良いですね
とても頼もしいです
沢山褒めて
勇気を誇らしく感じて貰えたら良いなと思います
撫でてと頭を差し出してくる様子や
得意気に胸を張る様子は
みんなみんな愛らしい
足許に群がる豆ひよこさん達も、いいこいいこ、なでなで
ノスリ・アスターゼイン
クレメンティアと過ごしたい
アラタ、リッカ、俺の中から悪い鬼を追い出してくれ――
苦しむ素振りで豆をぶつけて貰い
ぽきっと角を折って退治された小芝居は
少年達の勇気を一層輝かせたろうか
塩珈琲を淹れつつ
豆まきの思い出語り
アレンジ用に持参したのは
チョコフレークとカスタード
ティアのも美味そう!
ぴよっと口を開けて餌付け待機
ちゃっかり膝を特等席にする子には擽りの刑
翼に触れようと忍び寄る子にも擽りの刑
敢えて擽られに来る子にも大盤振る舞いこちょこちょ
かと思えば
豆ひよこが旋毛を突ついて擽って来たり
楽しいばかりの戯れ
笑い声が絶えないね
おやつの後には
肩車や浮遊で高所の枝に触らせてあげたりも
めいっぱい遊んだら
独占させてとティアを連れ出し
賑わいから離れて観梅
明星も塒出の鷹も
改めてゆっくり眺めたいな
風使いの手解きに
花弁をくるくるひらひら
掌の上で咲かせる小さな竜巻
梅花の精の春告げの舞い、なんて
茶目っ気に笑ってくれると良いな
子供達の、
俺の一番身近な花たる君の、
弾む笑い声が
心に喜びの種を蒔くよ
百花のさきがけに
満開の春を待ち望む
シャルロット・アミ
アドリブ、連携歓迎
豆を握った子供たちに
たじろぐ演技はモラさんと練習済み
ごめんなさいって…
ちょ、豆、痛い!かなり痛い!
これは本気で逃げ出さざるを得ないわ
最後に練習してきた声色で
豆ひよこさんを救った勇気を褒めようって
頑張っていた子の傍で笑ってあげて
そっと【モブオーラ】で消えましょう
隅の方でモラさんのメイクを拭いてあげて
(「もきゅー」自慢げモラさん)
かっこよかったわよ、モラさん(「もきゅっ」)
私も着替えて、モラさんにりんごのベレー帽でおめかしを
恵方ロール!
私、食べたことがないの!
子供たちと一緒にミルクココアでいただくわ
皆様のも美味しそう
一口いただいてもいいかしら
子供たちに
頑張ったね、豆ひよこさんたち守ったんだね
お姉さん怖くってずっと隠れてたよ、なんて話しかけて
ちょっと自慢げな子供たちの顔が眩しい
(モラさんも何故か自慢げ)
こんな子たちを守るために頑張らなくちゃね
来る春に勇気をもらったかのよう
頑張らなくちゃね、モラさん(「もきゅー!」)
梅の香りを吸い込んで
子供たちの勇気に感謝を
●梅の花折りてかざせる諸人は
――梅の花折りてかざせる諸人は、
――今日の間は楽しくあるべし。
訳:梅の花を折り翳して遊ぶひと達はみんな、今日一日を楽しくすごせること間違いなし!
遥かいにしえにそう詠まれて今も万葉集にのこるこの和歌のように、梅の花ならぬ鬼の角を頭に翳したディアボロス達も、豆まきで鬼を退治しその角を折る子供達も、最後には『今日はとっても楽しい一日だった』と笑い合えればいい。
涯まで澄みきった青空と、遥かいにしえより古都を彩る伽藍を背に春告げの花を咲かす梅の苑。百花のさきがけたる梅花は勿論、子供達の笑顔も咲き溢れるべき梅苑を幼子達の悲鳴と絶望の坩堝と成し、彼らを恐怖のどんぞこへ叩き落した恐るべき鬼達だったが、悪しき鬼達へ遂に正義の鉄槌が下されるときが来た。
誰もの心を飛びきり高揚させる形勢逆転のカタルシス! 鬼達の暴虐を打ち砕く絶大なカタルシスを招くのは――!!
「さぁ鬼は外、福は内っ! ということで、豆まきのターンがやってまいりましたっ!!」
「もう大丈夫ですよ、皆さん! 思いっきり豆をまいて鬼を退治しちゃいましょうね!!」
そう、節分の鬼を駆逐する絶対無敵の秘密兵器による物量作戦での反撃無双、子供達の豆まきのターンである!!
絶対無敵の秘密兵器の到着と今こそ最終人類史ならではのハイレベルで解放された【士気高揚】で幼い園児達は勇気凛々、空前の演技派揃いな豆ひよこさん達も(豆は投げられないけど)気合一杯!!
百花のさきがけ咲き溢れる梅の苑に、花吹雪ならぬ豆吹雪が吹き荒ぶ――!!
悲鳴と絶望の坩堝にして奈落の底、
鬼達が園児達を叩き落とした恐怖のどんぞこが深かった分、物量作戦での豆まき反撃無双は凄まじいことになった。
高らかに豆まきのターン開始を宣言しつつ!
それでいて鬼の扮装を解くのをすっかり忘れていたシル・ウィンディア(虹を翔ける精霊術師・g01415)は赤鬼の面を外し虎柄ワンピースから真白なブラウスと紅梅色のフレアスカートにばっちりお着替え済みなユーフェミア・フロンティア(光彩聖姫・g09068)ににっこり笑いかけられて、
「私、投擲はそれほど得意じゃありませんけど、連射にはちょっと自信があるんです」
「にゃーっ!! 豆痛い、豆いたいからーーっ!!」
さあ今です、と周りの園児達に呼びかけたユーフェミアから全力豆連射の洗礼を浴びた。
最初は【モブオーラ】で園児達に紛れるつもりだったユーフェミアだったが、自ら派手な行動を取ればこの効果を相殺することになるし、今の姿ならあの生々しい血肉(柘榴のピュレ)べったりな包丁(玩具)と紅蓮に燃え上がる焔の剣で園児達を怖がらせた赤鬼と自分が同一人物だとは誰も思わない。ならば今のユーフェミアは、
園児達の援軍に駆けつけた、正義のディアボロス!!
急遽拵えたこの設定は園児達を更に勇気づけたらしく、
「もう怖くなんかないもんー!!」
「おにはそと! ふくはうち!!」
『ぴよぴよ!』
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
勇気凛々で豆を投げまくる園児達! 気合一杯で園児達を応援する豆ひよこさん達!!
勿論ディアボロスは『一般法則破壊』すなわち『パラドクスではない攻撃を自動的に無効化する』能力を持つが、園児達の豆まきを無効にするわけにはいかない! ゆえにわざと当たってあげなければならない! 凄まじい豆弾幕に!!
「にゃー! これじゃあ『お仕置き』なんて無理っ! お、おぼえてろー!!」
きゃあきゃあにゃーにゃー悲鳴を上げつつ、逃げ切れそうで逃げ切れない絶妙な匙加減で逃げ回っていたシルが完璧な捨て台詞を残して【飛翔】で逃げ去ったのを皮切りに、恐ろしい鬼達が次々と退治されていく――!!
誰もの心を飛びきり高揚させる形勢逆転、鬼達の暴虐を打ち砕く絶大なこのカタルシスがもしも映像化されていたら、
『どこまでも清らかなる一撃(豆)が、鬼の貴公子が操った先生や神々、
鬼のただしき心をとりもどして、みごと鬼達を打ち倒したのでした――』
四葩・ショウ(After the Rain・g00878)の麗しき王子様声でそんなナレーションが入っていたことだろう。
清らかなる一撃(が沢山あつまった弾幕)の洗礼を浴びて、
「ああ、そうです! 僕は、あのとき僕は、本当は――……!!」
永く胸に秘めていた罪を遂に告白した幽鬼こと永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は浄化されて(【飛翔】で)昇天し、
邪気を払う豆によって己が裡で鬼神と雷神の性(さが)が鬩ぎ合う苦悶(演技)を堪え、
「アラタ、リッカ、俺の中から悪い鬼を追い出してくれ――……!!」
必死に絞り出す声音で子供達に訴えたノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)も二人の子供達が力を合わせた豆まきで遂には鬼の証たる角をぽっきり折られて、先生や神々までも鬼へと変える技よりも更に恐ろしい、封印されし奥義をとうとう解き放った鬼の貴公子・青夜叉ショウさえも、最後には園児達の豆によって正しき心を取り戻す――……!!
純白に淡く陽が射すような八重を咲かせる梅花、鬼桂花がはらりと大輪を散らした、そのとき。
凛と煌く青い硝子の面、青夜叉ショウの正しき心を封じていたそれが大地へからりと落ちて、低く艶めく声音で『おれ』と自分を称していたいた鬼の貴公子の悪しき心は消え、代わって園児達の眼前に現れたのは、優しく澄んだ声音で『わたし』と称する正しき心を持つ乙女。
斯くて鬼達の暴虐を打ち砕く絶大なカタルシスは大団円を導いて――、
「ねぇ、ごめんなさいって改心した『わたし』も、みんなの輪のなかへいれてくれる?」
花の色の眼差しも花唇も柔らかに笑ませて、春のひかりを思わす声音でショウが願えば、園児達も先生達も笑顔と歓声で、豆ひよこさん達も嬉しげな鳴き声で、正しき心を持つ乙女を諸手を上げて迎え入れた。
豆まきで悪しき鬼達を退治できたなら、恵方巻ロールでのお祝いパーティーのはじまりはじまり!
「あーはっはっは♪ 凄かったな皆の豆弾幕! 悪い鬼はやられたぜ、俺の正しき心も取り戻してくれてありがとな!」
「君達のおかげで俺も悪しき鬼の心に乗っ取られていた妻を取り戻せたよ、ありがとう」
鬼達は本物の悪しき鬼で、自分達が頑張って鬼達の正しき心を取り戻したと信じている園児達!
それなら豆まきの後もちゃんとその設定を護らなきゃなと勇んだカルメン・リコリスラディアタ(彼岸花の女・g08648)は明るく磊落に笑って子供達の猛反撃を大絶賛。黒地に鮮血めいた彩の彼岸花咲き誇る振袖ドレス姿の鬼女は消えて、梅の苑で園児達を思いっきり撫でてやるのは美しい曲線を描く肢体を黒ニットワンピで包み、艶やかでスタイリッシュな黒のコートを纏った豪快ながらも無邪気な女性。
愛妻の御機嫌な様子に紅の双眸を細めつつ、ダルクエス・ネクスト(蒐集家・g07049)も即座に把握した設定に則りながら笑顔で子供達への感謝を口にした。俺達からも君達へ恵方巻ロールを贈らせてくれ、と続ければ、たちまち輝く幼い笑顔。
最初こそ豆まきの様子を眺めて和むつもりであったダルクエスだが、クリスマスやバレンタインがイベントを楽しむ任務であるのに対して、節分は鬼となって園児達を怖がらせ、豆まきで勇気を与えるのが任務である。任務に全く貢献することなく恵方巻ロールパーティーだけ満喫するのは流石に厚かましいかと気づけばその刹那、濃灰地にストライプが奔るジャケットを颯爽と脱ぎ去ったダルクエスは白長袖を腕まくり。
物量作戦で鬼達を制圧せんとする園児達に絶えず豆を補給する後方支援で任務に貢献し、
晴れやかな心地でいざ、恵方巻ロールでの祝勝を!!
古都の梅の苑に馴染む茅葺き屋根の四阿に設えられたテーブルでバスケットを開けば、次々現れるのは梅花が早春を告げる梅の苑に更なる春爛漫が咲くような優しい桜色に染まった恵方巻ロール。苺パウダーを使った春色の生地は雪のような純白の生クリームと艶やかな赤林檎のダイスカットをくるりと抱いて、
「さあダルク、仕上げを頼むぜ♪」
「ああ、美しく仕上げてみせるとも。皆、見ててごらん。ほら、雪が降るよ――」
甘く艶めくカルメンのハスキーボイスで呼びかけられれば、ひときわ柔らかに笑んだダルクエスが苺の春色にふわりさらり降らせていくのは淡雪めいたパウダーシュガー。テーブルに齧りつくよう覗き込んでいた子供達がいっそう瞳を輝かせ、
「わあ、わあ……!」
「すごーい! きれーい!!」
「まあ……! 御二人の恵方巻ロール、とっても春らしくて素敵ね! 美味しそう……!!」
幼い歓声に誘われて四阿を覗いたシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)の花のかんばせにも満開の笑みが咲いた。
「夫婦共同の自信作だぜ♪ シャルロットちゃんもモラちゃんもお疲れ様!」
「悪しき心を祓われた鬼女が天女のように昇天していく姿、とても絵になっていたよ」
「御二人もお疲れ様! 本当はすうっと消えたかったけど無理そうだったから、シルさんの退場を参考にさせてもらったの」
『もっきゅもきゅ~!!』
得意満面で胸張るカルメンの傍らではカセットコンロで湯気をしゅんしゅんと唄わせたコーヒーケトルを取るダルクエスが先生達に振舞うための紅茶や珈琲を淹れ始めていて。その手際の良さにも感心しつつシャルロットが子供達には内緒の小声でそう応えれば、夏の肝試しと同じく通常のクレンジングで落ちる鬼メイクと綺麗にさよならしてきたモーラット・コミュが、大好きな林檎の気配にもきゅもきゅ弾む。
伝説の鬼女紅葉ならぬ鬼女紅梅だったシャルロットも鬼女の面を外し、紅梅の打掛が艶やかな和装からふわり花咲くお気に入りのワンピースへ装いを改めれば、園児達の瞳に映るのは漆黒の髪に鬼の角でなく夢魔の角を戴く可憐なサキュバスだ。
――子供達を怖がらせるモラさんも、豆まきでやられちゃうモラさんも、とってもかっこよかったわよ。
――もきゅっ!!
秘めやかに囁けば更に嬉しげに弾むふわもこの相棒。
豆を手にした子供達にたじろぐ演技の練習はばっちりしてきたが、園児達の豆まきはユーフェミアの鼓舞と全力連射により予想以上の大迫力! わざと当たってあげなければならない身としては当然演技も迫真、最後には天空から最初に舞い降りた桜のように淡い薄紅の八重を咲かせる梅花、楊貴妃の樹々の合間へ追い詰められたシャルロットは、
『私達鬼の恐ろしさにも負けず、豆ひよこさん達を護ったあなた達の勇気を称えましょう』
歌唱に長けた声音で作りだした伝説の鬼女らしい厳かな響きでそう告げて、鬼モーラットとともに【飛翔】で天へ昇って、荘厳なる伽藍の屋根の陰に隠れることで消えたように見せかけ、見事に鬼の役をまっとう。
そっと【モブオーラ】で消えられるかしら、とも思ったけれど、この効果は注目されたり話しかけられる確率をLVごとに半減するもので、確率は決してゼロにはならないのよね――と思い直した。存在感を薄くはしても消えるわけではない。まず己が目立たぬ工夫や振舞いを心掛け、それを補助するものとして考えるべき効果だ。
更に言うならそもそも確率の上限が100%ではなかったりする。というか上限がない。
極端な話、自ら積極的に相手の気を惹きつけ、注目される確率100000%とか100000000%にしてしまっては最終人類史のハイレベル【モブオーラ】とてディアボロスをモブにはしきれないのだ……!!
然れど終わり良ければ全て良し、
「ひゃあああ! 林檎ベレー帽かぶってらっしゃるモラさん様にやっと直接お逢いできた……!!」
「あははぁ、ばっちり着こなし? かぶりごなし度? も上がってるじゃないの。今日も似合うね、モラさん」
『きゅもっ!!』
「ふふ、もうすっかりお気に入りなのよね!」
悪しき心の象徴たる鬼の角も折れ女神に戻った竜田姫ことクレメンティア・オランジュリー(オランジェット・g03616)が林檎ベレー帽でおめかししたモーラットの姿に飛びきり嬉しげな歓声を上げたなら、二人の園児達、アラタとリッカの活躍で鬼神から雷神に戻ったノスリが楽しげに綻ぶ笑みでおめかしモーラットをぽふぽふ撫でて。ますます上機嫌でくるっと回って見せるふわもふ林檎な相棒の姿に、シャルロットも雷神と竜田姫と一緒に弾けるような笑声を咲かせた。
恵方とは陰陽道でその年の福徳を司る歳徳神が御座するとされる方角のこと。
歳徳神が御座する方角を向いて行動すれば何事も吉と言われ、節分の日に恵方を向いて食べる巻き寿司が恵方巻なのだが、今回振舞われるのは恵方巻をイメージして作ったロールケーキ、即ち恵方巻ロールだ。濃厚なショコラ色のココアスポンジを海苔に見立て、純白の生クリームを酢飯に、色鮮やかなフルーツを巻き寿司の具材に見立てて巻いた恵方巻ロールは、
「わわ、本当に巻き寿司っぽい! 本当によくできているね、恵方巻ロールって!!」
「小さめなところも可愛いよね。――ね、これは……切ったらだめ? はむってするのが、礼儀?」
「切ったらめー、なの! そのままはむってして、食べ終わるまでしゃべってもめー! なのー!」
『ぴよぴよ、ぴよ!』
鬼武者として暴れ回ったがゆえにすっかり腹ぺこなアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)の瞳を輝かせた。
見た目も楽しく可愛く、事前情報どおり子供達でも頬張りやすいプチサイズなそれは何本でも食べられそうでアンゼリカをわくわくさせ、溌剌と弾んだ友の声に笑みを零したショウが幼い女の子に屈んで目線を合わせつつ訊いてみれば、手渡された恵方巻ロールをはむっと頬張る身振りを見せつつ教えてくれた彼女の肩で豆ひよこさんもぴよぴよお返事。
微笑ましい光景にいっそう笑み咲かせ、いざ恵方巻ロールを手に恵方を向いてとアンゼリカが振り返ったなら、
「さて、今年の恵方はどの方角かな……っと♪」
「あ! 来る前に調べてきたよっ! 今年の恵方は『東北東やや東』なんだって!!」
「東北東やや東――ふふ、素敵ですね。とても古都らしい眺めですよ」
天の光映す瞳が捉えたのは、片手に春色ロール、片手にスマホで恵方を検索しているらしいカルメンの姿。
光彩誓騎が溌剌たる声音も咲かせれば、次から次へと伸ばされる園児達の手に恵方巻ロールを持たせてやっていたヤコウも宵紫の眼差しをめぐらせ、梅の苑へ柔らかに満ちるひかりで春菫の彩を燈した瞳を和ませる。
優しいひかりを湛えた純白の縁にほんのり淡紅を残す八重の白梅、
花盛りの大輪に数多の枝を彩られた大和牡丹の梢越しに望むのは、涯まで澄みきった青空を背に聳える五重塔。
「ほんとだ! 飛びきりの絶景だねっ!!」
恵方を彩る梅花と伽藍の絶佳にアンゼリカの笑みも満開になったら、その口で――甘い福をまるかじり!!
遥かいにしえからの古都、この奈良の都から東北東やや東は大雑把に言えば既に天正大戦国から奪還済みの伊賀だろうか。
――けれど伊賀国のその先に広がる大地も、
――この国も海も超えた先に広がる大地も、これからもっといっぱい奪還していくよ!!
願いごとをしながら頭からまるかじりするのが恵方巻、勿論それに見立てた恵方巻ロールも同じように食べるもの。改めて胸に燈す願いを誓いへ昇華しつつ頬張る甘い福は濃厚なココア風味のスポンジケーキの裡から新鮮なミルクの風味たっぷりで軽やかな生クリームを溢れさせ、瑞々しい苺の甘酸っぱさと柔らかな干柿の濃厚な甘味を弾ませて、
皆の心までも飛びきり弾ませてくれる。
美味しいね、と三人揃って笑みを咲かせたのは勿論言葉を発することなく恵方巻ロールを食べ終えた直後のこと。お友達に呼ばれた女の子が、また遊んでね、おねえちゃん達、と笑って駆け出していく様を見送ったなら、
「よーし、次は皆みたいにもっとすごい鬼になっちゃうぞー!」
「うん。来年もあるといいよね、節分」
早くも意気込むアンゼリカに春風めいた笑みで応えるショウ。昨年の節分も今年の節分も攻略旅団の提案により発動された地獄変チャージ作戦であるから、来年の節分がどうなるかは今この場の誰にもわからない未来のお楽しみ。
「あるなら来年はもう少し凝ってみたいな、マッチョ方面で! 一段と怖い鬼になってぐへへ……っと」
先程までの鬼武者気分で思わずぐへへと笑みを零してしまったけれど、青鬼の面と甲冑姿の厳めしい鬼武者は、
『ぐわー! まさかこんなに凄まじい豆弾幕を喰らうとは~!!』
綺麗に立てたフラグのとおり園児達(withユーフェミア)からの猛反撃を浴びてこんな感じで成敗され、今のアンゼリカは明るく春めくライラックピンクのパーカーと軽快なデニムパンツにばっちりお着替え完了なスポーティー系美少女だ。
「変な口癖がついたら彼女になってくれたあの子に嫌われるかな、なんてね!」
「ふふ、嫌われたりはしないと思うけど……叱られたりとかはするんじゃないかな?」
「もう、アンゼリカったら! アイドルがそんな笑い方しちゃダメなんだからね!!」
「ほら、こんな感じで――って、あ。ミアさんに聴かれちゃったね」
「わあー! ごめんなさいミア!!」
不意に聴こえてきた声音に花の色の双眸を瞬かせたショウの言葉に振り返ってみれば、豆を手にしたユーフェミアが『まだ鬼のままならもっと豆投げちゃおうかなっ♪』と言いたげなにっこり笑顔!!
青鬼の面を被っている間ならまだしも、美少女アイドルが素顔で『ぐへへ』は危険! イメージダウンになっちゃう的な意味で!! と一瞬で悟れば冷や汗かきつつアンゼリカは謝ったけれど、
「わあ! おねえちゃん達アイドルなん!?」
「歌って歌ってー!!」
『ぴよぴよ、ぴよ!!』
『ぴよよ……!』
幸いなことに園児達に聴こえたのは『アイドル』という単語だけだったらしい。そう、園児達には。
――最後の豆ひよこ、今『ぐへへ……!』って真似したよね!!??
――ほら! 子供(ひよこ)はすぐ真似しちゃうんだからね、アンゼリカ!!
思わず顔を見交わし瞳と瞳で通じ合えば、途端に園児達からわあっと歓声が上がったのは、
「やっちゃおうよ、即席ライブ! ねえみんな、実はね、お姉ちゃんもアイドルなんだよっ!!」
「歌手ならここにもいるぜ♪ しかも可愛い音楽隊の生演奏つきだ!!」
咲き溢れる梅花の間に突如スポットライトが当たったかの如く現れたシル(あえて使っていた【モブオーラ】を解除!)が先程までの美少女般若の角や牙やメイクと綺麗にさよならした青空色のワンピース姿で飛びきり明るい笑顔と声音を咲かせ、曼殊沙華の彩の瞳を煌かせたカルメンがスマホもといスマホ型機械式召喚器へ一瞬で魔力を奔らせて、
――賑やか愉快なヴィードラ達よ、ショータイムだッ!!
獺祭雷舞劇団(ヴィードラプラーズドニクライブショー)こと使い魔コツメカワウソ達の音楽隊を召喚して見せたから!
先程の巨大な鬼オオカワウソとは打って変わった愛らしいコツメカワウソ達、彼らが後ろ足でていっと立ち上がって一斉に楽器を構える様に園児達と豆ひよこさん達はわあわあきゃあきゃあぴよぴよ大はしゃぎ、
「かっ、かわいい……っ!!」
「きゃー! カルメンさんのカワウソさん達ってば今日も可愛いっ! 私もバイオリンで共演させてもらっていいかしら!」
あまりの愛らしさにショウもハートを撃ち抜かれ、翠玉の瞳を輝かせたシャルロットが流れるように愛器を構えて。
「あっは、皆さすが!! これってもしかして、とんでもなく贅沢な即席ライブなんじゃない?」
「ひゃあああ! とっても! そんな気が! します!!」
「俺がカルメンと結婚して一年になるけれど、即席でこれほどの豪華な顔触れってのは確かになかなか見ないね」
「御夫君のお墨付きとなればますます期待が募るところですね。これは見逃すわけにはいきません……!」
仲間達のノリの良さにノスリが弾けるように笑って、期待いっぱいにクレメンティアの笑みも弾み、楽しげに紅眼を細めたダルクエスも顔を綻ばせれば、狐耳をぴんと立てたヤコウの黒銀の毛並み豊かな尻尾もそわそわぱたり。
「ここまで来たら乗らなきゃね、いこうミアっ!」
「うん! 折角だもん、思いっきり歌ってこようね、アンゼリカ!!」
纏うのは普段着でも溌剌と輝く笑顔こそがアイドルのステージ衣装、可憐な薄桃色の大輪を八重に咲かせる梅花、その名も乙女の袖という春告げの花々のもとへ手に手を取って躍り出たなら、可愛らしいコツメカワウソ達の音楽隊とシャルロットが華やかに花開かせる楽の音とともにアイドルユニット『Promiss』が歌い出すのは約束の比翼(ヤクソクノヒヨク)!
絶望を振り切って希望の未来へ羽ばたく歌はまさしく鬼が齎した絶望を跳ねのけた子供達へ贈るのにぴったりな歌、
「鬼から豆ひよこを護って鬼達もその手下も豆まきでやっつけた、侍みたいに優しく勇敢な皆に歌のプレゼントだ!!」
「だよねっ! 子供達も豆ひよこさん達も、みんなみんな、とってもかっこよかったよ!!」
吸血ロマノフ王朝に生まれ育ったカルメンの瞳には古都の子供達の勇ましさは正に極東のサムライと映ったから、紅蜘蛛の銘を冠する仕込み杖をマイク型拡声器へ変形させれば甘く低く艶めきながらも力強い歌声で子供達の勇気を称える歌を一気に即興で織り上げて、白銀の長杖をマイク代わりに手にしたシルが杖を彩る藍鉱石の蕾を一気に花開かせ、
――ふわふわ風船、さらなる高みまで舞い上がれっ♪
――地球を見下ろすほどの高さまでっ♪
皆の心を天高くへ連れていくようなSKY HIGHER!(スカイハイヤー)を歌い上げれば、
楽しさ弾けるようにカラフルな数多の風船が、梅の苑から青空へ花々も皆の歓声も連れていくかのように解き放たれた。
●梅の花今盛りなり百鳥の
――梅の花今盛りなり百鳥の、
――声の恋しき春来たるらし。
訳:梅の花は今が盛りだよ、数多の鳥達の声も恋しい春がもうすぐ来るね!
遥かいにしえにそう詠まれて今も万葉集にのこるこの和歌のように、梅の苑を彩る花も香りも今が盛り、明るく澄んだ鳥の囀りが梅の苑にいっそうの賑わいを添えるのはもう少し先だろうけれど、今この梅の苑には百花のさきがけの春告げを思わす子供達の楽しげな笑声や豆ひよこさん達の愛らしい鳴き声に満ちている。
『さっきの巨大な鬼オオカワウソはわざと恐ろしく振舞っていただけ、カワウソは可愛い生き物です……!!』
叶うなら全身全霊の全力でそう力説したいカルメンだったが、先程園児達を大喜びさせた即席ライブの成果もあって、拳を握って熱弁を揮うまでもなく音楽隊のコツメカワウソ達はその愛らしさと愛嬌で子供達に大人気!!
攻撃パラドクス兼いつでもライブ開催を可能にする召喚魔法、獺祭雷舞劇団(ヴィードラプラーズドニクライブショー)。
最初は召喚した音楽隊にBGMを奏でてもらったり子供達と遊んでもらったりする程度の気持ちでいたけれど、期せずしていつでもどこでも生演奏つきライブを叶える効果も全開で活かせたとなればカルメンの胸には達成感が満ち充ちて、
「あ~、滅茶苦茶楽しかった♪ 偶にはいいよな、こういう任務も! ……っと」
「園児達にも先生達にも歓んでもらえたしな――と。何かあったか、カルメン?」
満面の笑みで大きく伸びをした愛妻がふと動きをとめたのに気づいたダルクエスが訊いてみたなら、
なぁダルク、あっちにいってみないか? と彼女が指し示したのは少し離れたところに佇むこぢんまりとした四阿で。
誰もいない四阿に設えられた長椅子に夫婦並んで腰かければ、二人の眼の前には輝くような純白に彩られた世界に鮮やかな紅梅が数多咲き誇る光景が広がった。梅花の香りはひんやり涼やかに感じられるものも多いためか、梅の苑を彩る純白を一瞬雪とも見紛うけれど、
「いや、雪じゃなくてこれも梅の花か……! 雪山で観た紅梅を思い出すね」
「な? この四阿からならこんな光景が観られると思ってさ♪」
純白の花弁をたっぷりとした八重に咲かせ、牡丹雪とも見紛う花を見せる残雪という白梅が四阿から観る光景を彩るなかにはっとするほど鮮やかな濃紅の梅花が数多あでやかに妍を競う。一重寒紅に八重寒紅、紅千鳥に蘇芳梅、勿論、二人が昨冬に天正大戦国の紀伊山地で観た紅梅はこれら園芸種と同じものではないだろうけど、先の冬のしあわせな想い出を胸に甦らせ、此の冬のしあわせな想い出も胸に燈してくれる光景であるのは間違いなくて。
結婚してまだ一年、甘さを分かちあうよう寄り添い合って、甘い福を分かち合うべく手に取るのは、
先程園児達や先生達の笑顔もいっぱい咲かせた夫婦共同の自信作、苺ロールに赤林檎入りの春色咲く恵方巻ロール。
――はい、
――あーん。
何方からともなく自然にそう声にしたなら、互いの口許へと甘い福を運び、優しい苺の甘酸っぱさを孕むスポンジケーキの裡から溢れる純白の生クリームの濃厚なまろやかさにさくさくした食感の赤林檎から弾ける果汁の爽やかさが融け合っていく様をたっぷり堪能して微笑み合う。こてり、と肩に頭をもたせてかけてきた愛妻が、
「去年と同じところは無理でも、今年も見に行きたいぜ。雪山の紅梅」
「今年も行ってみるか、雪山紅梅デート」
幸せそうに紡ぐ言葉に眦緩め、あの山で初めて出逢った本物のカワウソにそうするようにダルクエスが髪を撫でてやれば、その心地好さと幸福感にカルメンの笑みがいっそう柔らかに花開いた。二人して思い起こしたのは、
BlackBoreas(ブラックボレアース)の軌跡に生まれた雪飛沫の冷たさ。
如何に雪深い山であろうと、彼が黒きスノーモービルを召喚すればたちまち爽快なデートコースに変わる。
遠目に仲睦まじい夫婦の姿を見れば自然と笑みが綻んだ。
当然ながら夫婦水入らずのひとときを邪魔するつもりはないから、笑みに緩んだ表情をきりりと引き締めたヤコウは改めて手元へ宵紫の眼差しを落として、丁寧に巻き上げた恵方巻ロールを捧げ持てば怒れる小さき神へと恭しく献上する。雅やかな鶸萌黄に色づくスポンジケーキは抹茶風味、裡に覗く艶消しの黄金色はきなこクリームで、深い夜闇の色に艶めくのは黒蜜と黒豆、雪のごとく真白なミルクも合わせて捧げれば、
三度目の献上でようやく黒毛八尾のクダギツネがぱたりと尾を揺らしてくれた。
「ヤビもやっと機嫌を直してくれたみたいです……! クレメンティアさんも皆さんも僕の恵方巻ロールはいかがですか?」
「ひゃあああ! 食べます食べます、いただきますともー!!」
「あっあっ、わたしも欲しい! ってかヤコウさん、ヤビさんと何かあったの?」
迷わず声音を弾ませた竜田姫と一緒に手をあげつつシルがこてりと小首を傾げたのは、先程の豆まきで美少女般若は最初に退散したがゆえ。美少女般若シルが豆弾幕が荒ぶ戦場(豆まき)から離脱した後、幽鬼ヤコウは永く胸に秘めていた罪、
『本当は僕もヤビのプリンを食べてしまったんです! 悪いことしてごめんなさい~!!』
内緒でプリンを独り占めしたという罪を告白、更なる清らかなる一撃(が沢山あつまった弾幕)で浄化され(【飛翔】で)昇天したのちに、プリンは抗いがたい誘惑ですものね、と笑いかけたところで小さな相棒の機嫌が急転直下したのだとか。
待ってヤビ嚙みつかないで、と訴えても冗談ですと言い募っても仔狐は容赦なく牙を剥いた。無論ディアボロスは一般法則破壊で以下略なのだけどそれでも甘んじてがぶがぶされたというのに、御機嫌は相変わらず斜めのまま。それが三度目の甘い福の献上でようやく上向きになってくれたというわけだ。
なお当初は尻尾を巻いて退散するつもりだった幽鬼ヤコウが何故昇天に変更したのかと言えば、唇の紅以外ほぼ素顔だった彼も『悪しき鬼の心を祓われ、正しき心を取り戻した』というショウの設定に乗って浄化されなければ園児達と仲良く祝勝が難しかったから。ゆえにこうして今、ほっと胸を撫でおろしつつ笑顔で恵方巻ロールを配ることが叶っているのだけれど、
「でもヤコウさん、それってさ……」
「ね、罪を贖っても、ヤビ様ずっと忘れずにいらっしゃるんじゃないかしら……?」
「それじゃあもしかして、ヤコウさんもヤビさんにぷいぷいされちゃったり、とか……?」
「…………!!!!」
馥郁と抹茶が香る逸品を受けとりつつもシルが気づかわしげに彼を見上げれば、神妙な顔つきでクレメンティアも頷いて、私もひとついただいていいかしら、と輪に加わってすぐに事態を把握したシャルロットも遠慮がちにそう口にすれば、途端に黒銀の妖狐が硬直した。
何故ならヤコウ自身が一昨年のクリスマスに大切なひとから告白された『キミの分まで限定スイーツたべちゃった』という罪を今もばっちり覚えているからである。いやでも僕のは冗談であって本当に罪を犯したわけでは、と焦るけれども、
『もきゅ~?』
『きゅーん!』
『ぴよぴよ!』
林檎ベレー帽のモーラットと黒毛八尾のクダギツネに豆ひよこさん達が何やら深刻な様子で鳴き交わし、
揃ってちらりとヤコウに眼を向ける……!!
幸いにも雅やかな恵方巻ロールを山積みにした四度目の献上で綺麗さっぱり水に流してもらえたらしい黒銀の妖狐の様子にシャルロットも安堵の笑み咲かせ、林檎ベレー帽をきゅっと被り直した相棒と一緒に彼の恵方巻ロールを頬張ってみたなら、
馥郁たる香りと雅なほろ苦さを咲かせる抹茶風味のスポンジケーキに香ばしくもまろやかなきなこクリームが絡み、濃厚な黒蜜の風味と上品に焚きあげられた黒豆の控えめな甘味が、断頭革命グランダルメに生まれ育ったシャルロットにさえ何故か不思議と懐かしさを感じさせる余韻を引いて、
「とっても美味しいわね、モラさん!!」
『もっきゅもきゅー!』
あたたかなミルクココアで一息つけば、傍らのふわもこな相棒と美味しい余韻に飛びきりの笑みを弾ませ合った。
嗚呼、仲良きことは美しき哉……!!
其々の主従の様子に星斑の猛禽がひっそり肩を揺らしたのはここだけの秘密の話。
深煎り珈琲の味わいを劇的に変化させる魔法のきらめきを確りと傍らに用意して、
熱い湯気を昇らせるコーヒーケトルを手にしたノスリがゆうるり時計回りでドリッパーへ湯をそそげば豊かな香りとともに珈琲粉の泡がふっくらと盛り上がり、手許を覗き込んでいたクレメンティアと美味しい仕上がりの予感に笑み交わす。笑顔で語らうのは先程の豆まきの思い出話。
『アラタ、リッカ、俺の中から悪い鬼を追い出してくれ――……!!』
『わかった! 今助けたるからな雷神様! 俺達で悪い鬼を追い出すんや、リッカちゃん!!』
『うん、リッカも一緒に豆まき頑張るんよ、アラタくん……!!』
――どうぞどうぞ、御二人の豆で彼を善き雷神に戻してあげてくださいな!!
心ならずも鬼神に変えられた雷神様が自分に助けを求めてきたのは、彼がさっき自分の勇気を認めてくれたからこそ。そう気づいたアラタの瞳へと燈った強い輝きは本当にまっすぐで、一足早く悪しき鬼の心を祓われていた竜田姫にも悲痛な声音で懇願され、リッカと二人で決意とともに拳に握りしめた豆を懸命にぶつけてきた姿を思い起こすたび、手許の珈琲粉のようにあたたかな気持ちがふっくら膨らんでいく心地。
鬼神と雷神の性(さが)の鬩ぎ合いに苦悶するノスリさまが艶っぽくてどきどきした、なんて秘密を彼女が明かすから、
「ティアのほうこそ――って返したいのに、ティアが苦悶してたの見えなかったんだケド」
「ひゃあああ! だってだって豆ひよ雪崩に呑まれたとき、今がチャンス!! って思ったんだもの……!!」
戯言めかして抗議すればいつもどおりに跳ねる声、鬼神と女神の性(さが)の鬩ぎ合いに苦悶していた竜田姫の姿は数多の豆ひよこさんに埋もれてまったく見えず、しかも苦悶というかぴよぴよに埋もれて歓喜していたような気さえする。狡い。
『ぴよぴよ!』
『ぴよ!』
「ぴよ!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
先程の豆まきでまかれた豆を啄むばかりでなく、恵方巻ロールのおこぼれやフルーツの切れ端を狙う豆ひよこさん達、その声音に紛れて星斑の猛禽もぴよっと餌鳴きしてみたなら、光に融けるよう笑んだクレメンティアが柑橘香る甘い福をいそいそ口許まで運んでくれるから。餌付けされるままに笑み返して彼女のお手製を頬張れば、
濃厚ココア風味のケーキ生地の裡から溢れるのは純白の生クリームとそれに金色のマーブルを描いていたオレンジカード、卵とバターと砂糖、それにオレンジ果汁で作られたフルーツカスタードめくそれは擦り下ろされたオレンジの果皮もたっぷり抱いて飛びきり爽やかに香り、まろやかな甘酸っぱさのなかでピンクグレープフルーツが弾ける様も楽しくて。
「あははぁ、ココアスポンジで巻いてるからこれもある意味オランジェットだ」
「ね、そういうこと!」
蜜色の瞳をひときわ和ませ笑みを深めればクレメンティアの笑みもひときわ弾み、私にもくださいなとぴよっとねだるその口許へ運んでやるのはノスリ自身がアレンジして巻いた甘い福。濃厚なココアスポンジが抱く純白の生クリームには柔らかな陽色のカスタードでマーブルを描いて愛おしい風味を添え、その裡でココアスポンジよりも濃いチョコレート風味でざくざく軽快に香ばしく弾けるのは、
「ひゃあああ! チョコフレーク入れる発想はなかった……!!」
「楽しいデショ。食感が面白いもの合わせるのっていいよね」
彼女の瞳が嬉しげに輝く様に星斑の猛禽は更に上機嫌、硝子のサーバーから白磁のカップに珈琲をそそげば一緒にひとくち味わって、悪戯な眼差し交わしてカップに躍らせる魔法のきらめきは、極々少量の、塩。
ひとつまみにも満たないほんの僅かな煌きが、珈琲の苦味も酸味も劇的なまろやかさに変化させる。
「どう? ミアも塩珈琲試してみない?」
「塩ですかっ!? 飲んでみます、塩珈琲……!!」
珈琲たっぷりな硝子のサーバーを掲げてみせるノスリに弾む声音でそう応え、
「みんな、恵方巻ロールもっと食べるかなー?」
「たべたいー!!」
「巻いて巻いて、アイドルのおねえちゃん!!」
飛びきり明るい笑みを咲かせたユーフェミアが呼びかけてみれば、怖い鬼達にめいっぱい追い回され、豆で形勢逆転すれば今度は自分達で鬼達を追い回して、と梅の苑を思いっきり駆け回った子供達はまだまだいっぱい食べたいと大歓声。出発前に聴いていたとおり幼稚園側で用意されていた恵方巻ロールは子供達でも頬張りやすいプチサイズで、
もうちょっと小振りにすると食べられる数も増えてみんな歓ぶかな、と。
思案しながらもユーフェミアは濃厚なショコラ色にココアスポンジに重ねた純白の生クリームに苺と干し柿をバランスよく鏤めて、プチプチサイズの恵方巻ロールを手際よく幾つもくるくるくるり。ひときわ愛らしい小さな小さな恵方巻ロール達がたちまちテーブルの右側で量産されていくけれど、テーブルの左側では、
「ね、みんなの好きな果物教えて?」
「いちごー!!」
「キウイー!!」
「みかんー!!」
「うさぎりんご!!」
「うんうん、みんなの好きな果物いれてくからね……って、うさぎりんご!!??」
色とりどりのフルーツを持ち込み子供達のリクエストを聴きつつ純白の生クリームに彩りたっぷりフルーツを重ねたシルが、恵方巻ロールのなかに入れる角切り林檎とは別に紅い果皮の耳がぴょこりと跳ねるうさぎりんごを作って、これは別にして飾ろう、と頷いたけれど、それでも。
子供達が次から次へ口にする好きな果物たっぷり乗せて巻いた恵方巻ロールは、あちこちもこもこ膨らむ特大サイズ!!
「シル様シル様、大丈夫です! ここに腹ぺこの猛禽さんが!!」
「特大サイズもどんと来い、全部ぺろっといけちゃうからどんどん作成ドウゾ!」
「流石に頼もしいっ! それじゃあこの欲張り特大サイズはノスリさんに進呈して、みんなの分は新しく作るねー!!」
これどうしようと思い悩んだのも一瞬で解決したなら、幾つものうさぎりんごで囲んだり飾ったりした特大恵方巻ロールを確りスマホの画面に収めてパシャリ。特大サイズをノスリへ、そして子供達にはひとまずうさぎりんごを進呈して、
「クレメンティアさんにはこれをっ! 少し大人っぽい感じでクレメンティアさんを意識して作りましたっ♪」
「ひゃあああ!? うれしいうれしい、シル様の特別をひとりじめ!!」
純白の生クリームに瑞々しいオレンジを覗かせて、淡い金にきらめくグレープフルーツには軽やかにショコラを纏わせた、特別仕立ての恵方巻ロールをクレメンティアに進呈すれば、飛びきり嬉しげな歓声を咲かせた彼女が私のもどうぞと予想通り反撃の餌付けをしてくるけれど、今回は恵方巻ロールの餌付けばかりでなく。
「ね、シル様、これもどうかしら!?」
「……!! いりますいります!! この写真も飾りたいー!!」
彼女が自身のスマホで見せてくれた贈り物は、先程の即席ライブで撮ったシルの晴れ姿。
自作の恵方巻ロールもクレメンティアの恵方巻ロールも、テーブルの中央をずらりと彩った仲間達の恵方巻ロールも、皆や子供達の笑顔も豆ひよこさん達もめいっぱい撮らせてもらったのは、クリスマスに出逢った深青のフォトフレームを幾つもの想い出で彩るため。今も懐に秘めた美しいマーブル紙製の大切なそれを、
心に明るい光を燈してくれる想い出達で、日替わりで彩っていけるように。
特別仕立てなシルの恵方巻ロールからもクレメンティアの恵方巻ロールからも柑橘が香る様に柔らかな笑みを零して、
「柑橘まつり、ですね。クレメンティアさんのお手製、わたしにもください」
「ひゃあああ! 勿論歓んで! どうぞどうぞ、召し上がれ!!」
「それじゃショウさん、一緒に食べよっ! おいしくて甘いものは正義! だから幾つ食べてもいいもんねっ!!」
柑橘香る甘い福をひとつ望めば迷わぬ笑顔でショウへと差し出される恵方巻ロール、色々ばっちりと撮り終えたシルも同じ福を手にして笑みを向けてくれるから、それじゃあ、せーので、と一緒に頬張れば、濃厚なココアの風味も豊かなスポンジの裡から咲くのは純白の生クリームを彩る柑橘の歓び。擦り下ろした果皮がカスタードめくクリームを飛びきり爽やかに香らすオレンジも果汁弾けるピンクグレープフルーツも春にかけてが旬なんだっけ、と思い出せば、
これも春告げなのかな、と花の色の瞳にひときわ柔らかな光を燈し、ショコラの瞳を見つめて訊いてみた。
「豆まき、すっごく、すごかったけど、楽しかったですね。どのシーンが印象的でしたか?」
園児達の猛反撃がすごいことになったのは【士気高揚】のみならずユーフェミアの功績も大きいが、豆と勇気を手に握って元気いっぱいに梅の苑を駆け回る子供達が瞳も顔も輝かせ、どんどん勢いづいていく様は眩しく頼もしく、一緒にぴよぴよと駆ける豆ひよこさん達は健気で可愛くて。
「色々いっぱい! って言いたいところだけど、ひとつ挙げるなら豆ひよこさん達の豆ひよ雪崩! かしら……!!」
「あははぁ、確かに豆ひよ雪崩はとんでもなくしあわせ、もとい恐ろしい攻撃だったからなぁ」
最終人類史のハイレベル【動物の友】に高められた知能で『子供達を援護しよう!』と思い立ったらしい豆ひよこさん達が子供達の頭から頭へホップステップジャンプ! とばかりに梅花の、しかも雛曇の梢に跳び上がり、頭数を揃えてぴよぴよと雪崩を打って襲いかかってくる様をクレメンティアが語れば、ゆったり頬杖ついたノスリが相槌を打つ。
確かにぴよぴよの雪崩に呑まれるのは幸せそう、と笑みを深めたショウが、わたしは――と語るのは、
配下の鬼達すべてを失い、いよいよ追い詰められた鬼の貴公子、青夜叉ショウが、
『くっ……仕方ない、かくなる上はいのちと引き換えに、ダークネス豆ぴよ鬼の召喚を……!!』
純白に淡く陽が射すような八重の梅花を咲き誇らせる鬼桂花のもと、先生や神々までも鬼へと変える技よりも更に恐ろしい封印されし奥義『ダークネス豆ぴよ鬼召喚』を解き放たんとした、最終決戦のクライマックス!!
打ち合わせなしの完全アドリブ、然れど完璧に青夜叉ショウの意を汲んだ豆ひよこさん達は、
『『ぴよ……! ぴ・よ・ぴ・よ……ぴ~よ~!!!!』』
今から合体しちゃうぜ! 的な勢いで一斉に固まると同時、
闇のオーラを立ち昇らせんばかりの迫力で地の底から響くような重低音の鳴き声をぴったり揃えて響かせて、
「だめー! 豆ひよこさん達まで鬼になっちゃだめー!!」
「豆ひよこさんー! 豆ひよこさんが鬼になってまう前にみんなで青夜叉を倒すんや!!」
迫真の演技で子供達を奮起させた!!
豆ひよこさん達を鬼にさせたりなんかしない、と一致団結した園児達が鬼の貴公子の最終奥義にも怯まず青夜叉ショウへと立ち向かうクライマックスの熱さは後の世まで語り継ぎたいと思うほどのもの。斯くて鬼の貴公子は倒された――のではなくそこからまた更なる展開があったのだけれど、
「みんな頑張ったね、豆ひよこさん達を守ってあげたんだね……!!」
「ええ、皆さん格好良いですね。とても頼もしいです……!!」
「もうもう、めっちゃびびったー!!」
「ほんまびびったー! けど豆ひよこさん達が鬼にならんくてほんまよかったー!!」
『ぴよぴよ!』
『ぴよ! ぴよぴよぴよっ!!』
飛びきり熱いクライマックスの話を聴きつけ集まってきた園児達に心からの笑みを咲かせてシャルロットが語りかけ、皆が瞳を輝かせる様に微笑んだヤコウも素直な賞賛を贈れば、満開に笑みを咲かせた子供達が語り聴かせてくれるのは、元からの仲良しばかりでなく仲の悪かった子供達同士でも力を併せて鬼に立ち向かい、時に助け合い時に連携必殺技を編み出したりと絆を深めて鬼達を退治していく武勇伝、
ちっちゃな手もとい翼をぱたぱた、身振り羽振りしつつ豆ひよこさん達が語るのはドキドキハラハラ波乱万丈の冒険譚で、大地も樹上も駆ける健気で可愛くて強かな豆ひよこさん達もこの節分で一回り成長したような子供達も愛おしむように黒銀の妖狐が撫でてやったなら、子供達も豆ひよこさん達も誇らしげに胸を張る。
恵方巻ロールをまるかじりし終えては口々に自身の武勇伝を語る子供達の姿は眩く微笑ましく、
「俺とリッカちゃんなんか雷神様を助けたもんなー!」
「ねー? アラタくんもリッカもすっごく頑張ったもん!」
「あっは、その節はドウモ! お礼にめいっぱい遊んであげる!!」
頬杖つく腕を潜って雷神ノスリの膝を得意満面で特等席にしたアラタも、興味津々に瞳を輝かせつつ雷神の翼にこっそりと触ろうとしていたリッカも纏めて抱き込みこちょこちょ擽ってやれば、途端にきゃあきゃあわあわあ飛びきり楽しげな歓声も笑声も咲いて、僕も私もと駆け寄ってくる子供達にも弾けるように笑ったノスリは皆をがばっと抱き込んでこちょこちょ大盤振る舞い。なんて幾重にも弾ける笑声のうちでめいっぱい戯れていたら、何者かが雷神の旋毛をつんつん突いて擽って。
頭上に手をやってみれば、いつの間にか頭に登っていた豆ひよこさんが一声鳴いた。
『ぴよよ……!』
やばい。豆ひよこさん達の間で『ぐへへ……!』が流行り始めている……!!
「……ね、ティア。この流行って【動物の友】の効果が消えたら終わると思う?」
「終わる!! んじゃないかしら……??」
深刻な顔つきで額を寄せ合いひそひそ囁き交わせばクレメンティアもちょっぴり不安になったらしいが、
普通のひよこに戻ったら多分きっと流行も自然消滅するだろう。だがすかさずユーフェミアが先手を打つ!!
「正義の豆ひよこさんが鬼の真似しちゃダメ! ですからねっ?」
『ぴ、ぴよ!』
『ぴよぴよ、ぴよ!』
叱られた豆ひよこさん達はぴよっと跳ねて居住まいを正したが、
「でもさっきの鬼を怖がる演技、すごかったよ。ほんとに主演賞を上げたいくらいですからっ!」
『ぴ、ぴよ……!』
『ぴよぴよ、ぴよ……!』
一転して満面笑顔、みんなのアイドルな明るく優しい笑顔を咲かせたユーフェミアにめいっぱい褒められれば、感極まった豆ひよこさん達は大感激して感動にぴよぴよ打ち震えた。
「うう、やっぱりミアが最強……!!」
お姉さん系美少女の魅力を炸裂させる恋人の姿にアンゼリカはますますめろめろ、
「すごいわユーフェミアさん、あの歳でもう飴と鞭を使いこなせるなんて! 豆まきもすごかったし!!」
「ミアさんの芯の強さは覚醒前から折り紙つきでしたしね。今日の豆まきも本当にすごかったですし……!!」
彼女の全力豆連射を浴びたときのことを思い起こしつつ、素直な感嘆の眼差しをシャルロットが年下の少女へと向ければ、仲間相手でも容赦なしだった猛攻にヤコウが深くしみじみと頷いて同意する。
園児達に交じって豆を投げれば自分の豆だけ選別して無効化なんてことは皆しない、という確信のもと全力で鬼の仲間達に豆を連射しまくった策士ユーフェミア十五歳。なんて末恐ろしい現役アイドル……!!
勿論子供達のことも大絶賛で、
「みんなは鬼さんにも負けないくらいの強さだったよ! っていうか勝ったしね! 将来有望だねっ!!」
「わあいアイドルのおねえちゃんに褒められたー!!」
「ねえねえ、私もおねえちゃんみたいになれる? なれる??」
園児達の豆まきに積極的に加勢したのが彼女ひとりだけだったこともあり、ユーフェミアは勝利の女神のごとく大人気!
恋人相手でも容赦なしだった彼女に、流石ミア、と大いに納得したアンゼリカも輝く笑み咲かせ、
「ねぇ、豆を手に鬼に向かった時、どんな気持ちだった?」
「すっごくどきどきした……!!」
「けど、豆を持ったらこわくなくなったー!!」
「あのね、あたしが豆なげたらね、鬼武者が『ぐわー!』って、すごく痛そうにしてたの!!」
「わあ、それはすごいね、強いね! 来年はもっともっと怖い鬼さんが来るかもだけど、みんななら平気だね!!」
打てば響くよう応える子供達の言葉にひとつひとつ頷いて、そういえばこの子真正面から真剣に豆まきしてくれたっけ、と思い起こせば自然とアンゼリカのかんばせには満面の笑みが花開くから、心からの笑顔で子供達を包んであげたくて思いきり眼の前のちいさないのち達を抱きしめた。あったかくてやわらかくて、弾けるような元気いっぱいの、ちいさないのち。
子供達の笑顔はほんとうに、世界中のひとびとの笑顔のさきがけだと実感できたから、
――奪還の志、また大きくなったよ!
――どうかこの笑顔が、世界中に溢れますように!!
微笑ましい光景に笑みを綻ばせば、緩めた花の色の眼差しが視界の片隅に捉えたのは、
恵方巻ロールをもうひとつ食べたいけど、ちゃんとまるかじりで食べきれるかわからない――といった様子の女の子。
「ね、このプチプチサイズの恵方巻ロール、一緒に食べる?」
「わあ……! このちっちゃいのならたべたい、まるかじりするー!!」
前提がまるかじりで食べきることなのだから、きっとはんぶんこは拒まれる。それならとショウが勧めたのはユーフェミア謹製の小さな小さな恵方巻ロール。幼い笑顔がぱあっと輝いて、いっしょならさみしくないね、と小さな手がそうっと振袖の端を掴むから、寂しくないよ、さっきはありがとう、と女の子の前で屈んでショウは、まっすぐ彼女の瞳を見て微笑んだ。
追い詰められ、最終奥義たる『ダークネス豆ぴよ鬼召喚』も破られた鬼の貴公子、青夜叉ショウが、
『寂しかったんだ、わたしだって皆と遊びたかったのに!』
貴公子然とした振舞いの裡から本音をあらわにして、頑是ない子供のような口調で悪事の理由を明かせば、
『あのね、あたしがいっしょに遊んであげる。だから、もうわるいことしちゃ、だめ』
おずおずと、けれど真っ先にショウへ歩み寄り、優しくそう声をかけてくれたのがこの女の子だった。
斯くて青夜叉ショウの魂を悪しき鬼の心で覆っていた青硝子の面は大地に落ちて、迎えたのはめでたしめでたしの大団円。
「わたしにこえをかけてくれて本当にありがとう、優しい貴方」
「あのね、アカリ。あたしは、アカリなの、もう鬼じゃないおねえちゃん」
「――アカリちゃん? わ、ぴったりな名前だね。ありがとう、優しいアカリちゃん」
花の色の双眸をひとつ瞬き、教えてもらった名前に心からの笑みを咲かせ、
ショウも名乗れば一緒に東北東やや東を向いて、せーので頬張るのは小さな小さな恵方巻ロール。
胸にあかりを燈すように幸せな光景を紅樺色の瞳に映せば、
このプチプチサイズを作っておいてよかった、と燈ったあたたかな気持ちのままユーフェミアのかんばせにも笑みが咲く。
聖女の名を授けられし少女も改めて東北東やや東を向けば、瞳に映るのは恵方を彩る梅花と伽藍の絶佳。古都の美しさごと頬張る想いでお手製の恵方巻ロールにぱくりとかぶりつけば、濃厚なココア風味のスポンジケーキの裡から花開くのは新鮮なミルクの風味、軽やかな生クリームは脂肪分ひかえめで瑞々しいくらい豊かなミルクの風味を孕み、苺の甘酸っぱさも干柿の濃厚な甘味も際立たせながら優しいコクで包み込んでいく。
甘いものはやっぱり幸せ、と幸福を噛みしめつつも、プチプチサイズゆえにあっという間に食べきって、
「……ほんとおいしいっ!!」
「ふふ、うん。ほんとにおいしいよね」
「すっごくおいしい! ありがとう、アイドルのおねえちゃん!!」
思わず弾けるような声音を咲かせたなら、ばっちり聴こえたらしいショウとアカリにも楽しげな笑みが花開いた。
あちこちで花開く笑みの花、然れどひときわ賑やかに子供達がはしゃぐ声音弾けるほうを見遣れば先程豆ひよこさんに頭へ登られていたノスリが今度は何人もの子供達によじ登られていて、堪らず彼から弾けたのは飛びきり愉しげな笑み。
「そんなに高いところが好きなら連れてってあげようじゃないの! 皆も手を貸してくれる?」
星斑の猛禽が子供達へ手を伸べ、仲間達の手も借りて幼子達を招待するのは、梅の苑に【浮遊】で遊ぶ空中散歩。
青空にひときわ盛大な子供達の歓声が咲いた。
既知のとおり【浮遊】では【飛翔】のような高度は得られないけれども、それでも園児達にとっては大地から解き放たれて空中に遊ぶ感覚は飛びっきり特別なもの。最終人類史のハイレベルな【浮遊】なら一人のディアボロスで三十人までも連れていけるけれど、それでは小回りが利かないから、皆で手分けして子供達を空中散歩へ連れ出せば、
雛曇に道知辺に紅千鳥、今までは見上げるばかりだった梅花を間近で覗いてその香りを胸いっぱいに吸い込んで、子供達は青空へ手を伸ばすかのような梢に並んで自らもちいさな手を青空へと伸ばす。梅花の花霞を歩めば花の雲にも遊ぶ心地。
豆まきの武勇伝を自慢げに語っていた子供達が更にいきいきと瞳も笑顔も輝かせるのがシャルロットも嬉しくて、
――こんな子達を守るために、私達、これからも頑張らなくちゃね!
――もきゅー!!
翠玉の眼差しで林檎ベレー帽のモーラットにそう伝えれば、ふわもこの相棒は大きく頷くように空中でもきゅもきゅ弾む。
清らな甘さを限りなく透きとおらせたような梅花の香りに抱かれる空中散歩、春告げの香りを胸いっぱい吸い込んだなら、空中散歩へ招くために繋いでいた手を不意にきゅっと握りしめられた。
「ねえおねえちゃん、あとでもういっかい、バイオリンきかせてくれる……?」
「ええ勿論! 何度だって弾いちゃうわ!!」
見上げてくる女の子におねだりされればシャルロットのかんばせには満開の笑みが咲いて、
「それやったら、おうたも!!」
「お歌もききたいー!!」
梅花の花霞に遊ぶ子供達のそんな声があちこちから咲けば、皆で笑みを交わしてふわりと大地へ降り立った。
「そう言われちゃ、応えないわけにはいかないよねっ!」
「うんっ! みんなが望んでくれるなら何度だって歌っちゃうよ!」
今日も高く結い上げた夏陽のごとく輝く髪をアンゼリカが翻したなら、輝く笑顔も相俟って梅の苑に一段と明るい陽射しを招くかのよう。彼女の溌剌さにも子供達が自分達の歌を望んでくれる声にも飛びきり幸せな笑みをユーフェミアは咲かせて、子供達の歓声も咲く様にはシルだって満開の笑みを花開かせずにはいられない。
「アンコール大歓迎っ♪ ね、今度はショウさんも一緒にどうかなっ!?」
今回もマイク代わりに左手に握るのは風翼に彩られた白銀の杖、右手は歌唱に長けた友へと伸べて。
「いいの? それならぜひ一緒に! ――ね、豆ひよこちゃんも一緒にいく?」
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
空中散歩から舞い降りた雛雲の樹の傍、ふと見遣れば木陰からそうっとこちらを覗いていた、先程青夜叉ショウに思いきり脅かされた豆ひよこさんへ柔らかな微笑みとともにショウも手を伸べれば、歓んでぴよっと飛び乗ってくるちいさないのち。後で豆をあげるねと囁けばひときわ嬉しげにぴよぴよ弾む様も可愛らしくて。
改めてのライブ開催の気配に微笑んだならヤコウは柔らかな陽だまりのもとへ腰を下ろし、大きな狐尻尾をぱたり。
「疲れた子には、ふかふか狐尻尾クッションの特等席を進呈しますよ」
「わーい! ふかふかしたいー!!」
『ぴよ! ぴよぴよ!!』
黒銀の毛並み豊かな自慢の狐尻尾をふぁっさり揺らして、ぽふぽふ手を弾ませて見せれば、わあっと歓声をあげた子供達とぴよぴよ鳴いた豆ひよこさん達が跳び込んできて、陽だまりのヤコウはたちまち子供だまり豆ひよこだまり。みんなのように迷わず跳び込めなくて、けれど跳び込んでみたそうに迷っている女の子が先程転んだ子だと気づけば目許を和ませて、
もう鬼はいないから大丈夫ですよ、と安心させるよう穏やかに笑って、そっと手招きしてあげた。
乙女達の歌声は勿論、遥か遠くまもその響きを届けるのだというシャルロットのバイオリンの音色も、この場を離れたって聴こえるだろうから。軽く身を屈めたノスリが秘めやかにクレメンティアの耳許でこう囁けば、
「……ね、ティア。ここから俺に独占させて」
「私にも雷神様の旋毛を触らせてくださるなら、歓んで!!」
――どうぞどうぞ、攫っていってくださいな!!
幸せそうに笑み返した竜田姫は迷わず雷神の手を取って、軽く【浮遊】でふわり浮かべば彼の旋毛に齎すのは花の柔さ。
擽ったい幸福感にひときわ笑み深め、星斑の猛禽がそのまま彼女を攫っていったのは涯まで澄みきった青空に光咲くような数多の梅花を鏤めたかのごとき白梅の苑、優しい八重の白梅を咲かせる明星を振り仰げば、波打つ花弁の裡で華やかに開いた花糸が戴く花粉は数多の星めいて、陽射しを透かす花芯そのものが明星のようにひかる。
星を辿る心地でゆうるり歩めば至るのは、純白と見紛うほど淡い淡い桃色の一重を咲かせる、塒出の鷹のもと。
換羽を経た鷹の羽毛のごとく柔らかな花弁がふわりふわりと舞い降る様を見ればノスリは蜜色の眼差しを和ませて、
一瞬招いた旋風はホルストルネード、刹那で大気に融かしたパラドクスの名残を優しく小さく纏めるのは風の扱いに長けた身ならではの技。求めれば差し出された掌の上、風使いの手ほどきに、と咲かせてやったのは、真新しい羽毛めいた柔らかな梅花の花弁をくるくるひらひら踊らせる小さな竜巻で、
「梅花の精の春告げの舞い、なんて」
「ひゃあああ!? 可愛い! 擽ったい! うれしい……!!」
弾む心から自然に萌した茶目っ気のままにそう口にすればショコラの双眸が大きく瞠られ、飛びきり嬉しげに跳ねた声音に愛しい四つの響きが重ねられた。同じ四つの響きを返せば二人で一緒に笑声を咲かせて、
春告げの花の香をふうわり踊らす風が、仲間達の歌声も音色も、子供達や豆ひよこさん達が楽しげにはしゃぐ声をも届けてくれる。風が届けてくれるちいさないのち達の、己の一番身近な花たる彼女の弾む笑い声が、心に歓びの種を蒔くから。
――百花のさきがけに、
――満開の春を待ち望む。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【寒冷適応】がLV2になった!
【未来予測】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
【おいしくなあれ】がLV2になった!
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