リプレイ

　神宮通近辺は平素より人出が多い場所だけれど、今日は思い思いに仮装したディアボロスたちの姿を見れるとあって、道の両側はいつも以上に見物客で溢れていた。
　その熱気は、円山公園で準備を始めたディアボロスたちにも伝わっている。

「アタシたちへの期待を、めちゃくちゃ感じるっす。これはもう、ばちぼこアゲアゲにしなきゃダメっしょ☆」
　実家から近いという京都でのパレードに、ただでさえ思い入れがある鳴海・蒼葉（💖爆殺天使💖・g09783）も、ますます気合が入るというものだ。
「ばえっばえなDJブースを用意してくれてあざまるっす。寅吉パイセンとみんな、今日はシクヨロっす！」
　寅吉をはじめとした準備スタッフとハイタッチを交わしながら、蒼葉は用意された可動式ステージに向かう。
「楽しい配信、期待してるよー！」
「おー☆」
「クェェ」
　すれ違いざまにかけられた応援の言葉にはダンジョンペンギンの軍曹と共にハイタッチで応じ、たどり着いたステージに片手をついて身軽に飛び乗った。
　まずは据え付けられた機材から指先を向けて、ひとつひとつ確認。
「……と、カメラよし、衣装よし、メイクよし、笑顔――よし☆」
　蒼葉の今日の衣装は百目の仮装……ということになっている。リボンについた目玉がアクセントな衣装に身を包み、周囲をぐるっと見渡して、蒼葉は笑顔を振りまいた。
　さあ、これから会場のテンションをアゲにアゲて、その様子を生配信するのだ。届け、世界へ！
「Hello、世界！　アタシの声が聞こえるかな？　……OK？　HAPPY HALLOWEEeeeeeN☆　ウェ～イ♪」
　蒼葉は最初からテンションマックスで、カメラに向かって第一声を上げた。
「ほら、軍曹もウェ～イ♪」
「グェ……グ、グェ……」
　お揃いの可愛らしい衣装を着た軍曹も抱え上げ、半ば無理やりに羽根を振らせる。軍曹はどことなく嫌そうな素振りだが、蒼葉はまったく気にしていない。
「今日はリクエストも募集してるよ！　ココまでよろしく！」
　指先で示す胸元には何もないが、きっと生配信ではいい具合にリンクが表示されているはずだ。

　蒼葉が始めた生配信と同じころに円山公園を出発したハロウィンパレード一行は、右手に知恩院の三門を見ながら神宮通を下り始めた。
「ふんふんふん。百鬼夜行とは、日本のあやかしがパレードするようなものなのですか。しかし今のボクは、ただのメイド服姿……」
　そのパレードの列の中にあって、レイ・シャルダン（SKYRAIDER・g00999）は周囲の人々が身に纏う仮装から、百鬼夜行というテーマを理解した。
　その理解に照らせば、自分が纏う仮装には些か化生としての成分が足りない――。
　少しの間首をひねって考えたレイは、どこからともなく取り出した狐耳をホワイトプリムの後ろに装着した。おまけに揺らめく光源を載せたドローンを周囲に舞わせれば。
「――メイド服サイバー妖狐の爆誕です。さぁ、百鬼夜行の始まりですよっ」
　そこには時代の先端を行くあやかしが生まれていた。

　ハロウィンパレードの先頭では、三色旗を高々と掲げたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ（韜晦のヘレーティカ・g05705）が威風堂々と行進をしている。
　玩具の兵隊のようにも見えるクラシカルな軍装をきっちりと決めて、キビキビと歩く姿は颯爽としたものだ。
　蒼葉がリクエストを受けつつ選曲した楽曲の軽快なリズムに合わせて、掲げたフラッグをクルクルと回しては、要所要所で踵を鳴らして静止して、微動だにせずフラッグを掲げる。その静と動のメリハリが効いた動きに、沿道の人々の視線が吸い込まれていた。

「百鬼夜行なんて聞いたら、出ないわけにはいかないな」
　そう意気込んで臨んだ一角・實生（深い潭・g00995）だが、今年の彼の衣装は幽霊船の海賊船長。
（「ぎりぎりいけるか、な？」）
　少々心配なところもあったのだが、集まった人々の仮装姿は多種多様であり、パレードを彩る個性的な仮装の一人として、しっかりと溶け込んでいた。
　實生は沿道の観客から向けられた視線に応じ軽くポーズを決めて、ワルそうに口の端を吊り上げてニヤリと歯を見せて笑った。
（「ランタン持ってもらって悪いね。あとでおやつを沢山あげるからな」）
　肩に乗せたお供のオウムは、小声でささやいた實生にチラッと目を向けただけで、ランタンを咥えたままの澄まし顔。その姿もまた絵になっている。
「蒼葉さんの生配信も楽しそうだね」
　スマートフォンの画面の向こうでは、蒼葉がリクエストされた曲を上手に繋ぎながら、リズムに合わせて身体を揺らしている。
　ただ、蒼葉の背景に映る群衆に混じって、妙に頻繁にレイが見切れているのが気になった。ササっと移動して枠内に入り込んでは、レンズに一瞬だけ視線を向けて去っていく。どうも意図的にやっているようだ――。

（「ふふふ、完璧なトリックでしたね」）
　巻き戻した配信で、しっかりと自分の顔が見切れていることを確認して、レイはにんまりと笑った。これで目的のひとつ、トリックは果たした。あとはトリートをきっちりと決めたいところだ。
　レイは蒼葉の可動式ステージ周辺から、パレードの先頭のあたりに移動した。エトヴァが掲げた三色旗がいい具合に目印になっている。
　小さく手を振るエトヴァににっこりと笑い返して、レイも行進の列に加わった。
　エトヴァは實生とアイコンタクトを交わして、さらに一歩前に出る。
「さあ、Trick or Treat！　見に来てくれた皆に、お菓子の雨を降らせよう！」
　そして、高らかに叫んで、袋のように閉じられた旗を空高くに投げ上げた。ゆったりと回りながら上空に飛んでいった旗は、頂点付近で広がって、旗の中に包み込まれていた虹色の小さなお菓子が、雨のようにこぼれ落ちていく。
「わぁ～！」
　虹色の包装の中身は小さなマシュマロだ。散らばったマシュマロが、歓声を上げる観客たちの手に収まっていく。
「俺からは飴玉をくれてやろう」
　實生が左手に嵌まったガトリング砲を突き出せば、回転する砲身から次から次へと山なりの軌道で飴玉が撃ち出されていく。實生は、ポンポン、ポンポンと飴玉が飛び出す砲口の先を上下左右にと振って、まんべんなく周囲に飴玉をばら撒いていった。
　人の手に拾われず地面に落ちそうになったマシュマロや飴玉は、箒をラクロスのスティックのように操るレイによって、つつがなく回収されている。
「ふふふ♪　華麗にお掃除……なのです」
　レイは顔の傍で手を丸めて、コンコンと可愛らしく狐の鳴き真似をして見せるのだった。

　お菓子を配り終えて、続けざまに新たなパフォーマンスに移行する。
「よし、お前も行っておいで。迷子にならないようにな。お前とお揃いの海賊帽の羽根飾りを目印にして返ってくるんだぜ」
　實生が天へ伸ばした手から、艶やかな色のオウムが飛び立っていった。
　羽を伸ばしてゆったりと旋回するオウムの後を追い、エトヴァも宙を飛び跳ねて空へ。投げ上げたフラッグをキャッチして、周囲を飛ぶオウムとたわむれた。
　地上からの応援に手を振って応えながら、エトヴァがゆったりと地上に降りてくる。
　そこに歩み寄ったレイが、自撮りモードのカメラで仲間たちと一緒にパシャリ。實生も今日ばかりは満面の笑顔だったし、ステージ上にいた蒼葉も目ざとく指ハートと目線をレイのカメラに向けていた。

　こうして楽しく騒ぎながら、ハロウィンパレード一行は神宮通を下っていく。道の先には、真っ赤な大鳥居が見えていた。
　終点では屋台や、魅せ技コンテストの舞台が用意されているという。
（「大根役者が表彰されるんだったら、入賞の自信があるんだけど……。残念だけど、今回は観客側だな」）
　實生は終点の屋台に何があるかも気になったが、百鬼夜行の楽しい大騒ぎに、すぐに意識を引き戻される。
　広い道に差し掛かったパレードは、いっそう賑わいを見せていた。




「ハロウィンを楽しんだだけ防衛が強化される……最高じゃん！」
　姿は捩じれた山羊の角を生やした悪魔だが、服装はロックな魔法使い。それがジョン・エルバ（ロックスター・g03373）の今日の仮装だ。
「たしかに楽しみを力に変える方法を見つけた者は偉大だな。良いことしかない」
　対して、エルマー・クライネルト（価値の残滓・g00074）は重々しいゴシック調の墓守姿。ただ、墓守本人もゾンビだ。
　２人は連れだって、今日のハロウィンパーティーを盛り上げに来たのである。
「京都ならではという屋台も気になるが……、腹を空かせるためにも一仕事だ」
「ああ、食べんのは後！　コンテストに出て、身体を動かしてからだな！」
　２人は良い匂いを漂わせる屋台たちに後ろ髪をひかれつつも、パーティーのメインイベントである魅せ技コンテスト会場に向かった。

「さあ、次なる参加者は――コンビでの登場だ！」
　司会のアナウンスが響き渡るのと同時に、エルマーはステージに上った。衣装と揃いのデザインの棺とランタンを携えて、ひとりステージの中央へ、ゆっくりと歩み寄る。シーツを被ってオバケに扮したオラトリオのフルーフも、エルマーの横でふわふわと浮かんでいた。
　エルマーの移動に合わせて、さらに一匹のコウモリが何処からともなく全速力でステージへと飛び込んできた。エルマーの周囲をくるっと一回りして、吊られたランタンの下にぶら下がる。
　だがステージ上のディアボロスは未だエルマーただ一人。司会はコンビでの登場と言っていたが、もう一人はどこだろう。棺の中からでも出てくるのだろうか。
　そんな観客たちの予想を裏切り、エルマーが高々と掲げたランタンが煙に包まれて、ぶら下がっていたコウモリが人の姿へと変じた。コウモリはジョンが変身していたもので、悪魔の仮装姿に戻ったジョンは宙で一回転、タンッ、と気持ちよく響いた音とともにステージ上に降り立った。
　そして一礼してから、蹄を模したブーツでタンタン、タタンと軽快にリズムを刻み、タップダンスを踊りだす。握った三叉槍をステッキ代わりに使った躍動的な身振りは、見る者たちを魅了した。
（「相棒のギターが無くたって、良い音楽は奏でられるのさ」）
　踊りだしたジョンに視線が集まっている間に、ステージの袖からゾンビに扮したやられ役の役者たちが登場し、エルマーとジョンを遠巻きに囲った。そのタイミングで、ジョンと入れ替わったエルマーがステージの手前に出た。
　エルマーは大仰な身振りで、重々しく手を振った。その手の先から伸びた【罪縛りの鎖】が、周囲のゾンビたちに殺到して絡みついていく。
　ステージ奥に１度引っ込んだジョンは、幾重もの残像に分たれて、ステージ全体に広がった。残像ひとりひとりが三叉槍を振るい、ゾンビたちとチャンバラを演じ――、タイミングを合わせて一斉に放たれた突きで、ゾンビたちが派手に吹き飛ぶ。
　そして最後に、オラトリオのフルーフが広げた両手から光が溢れて、倒れ伏したゾンビたちの上にクロユリが咲き誇った。
「――死せるものよ、安らかに眠れ」
　エルマーは吊るしたランタンをシャランと揺らし、とっておきの決め台詞をすまし顔で放って締める。
　複数の残像に分かれていたジョンも、悪魔らしくニタリとした笑みと共に三叉槍を引っ込めて、踵を強く鳴らした。
「ゾンビも踊っちまうくらい愉快なショータイムは楽しめたかい？　一夜限りの秘密だぜ！」
　甲高く響いた音と共に、ジョンは一人に戻って、再び観客に一礼。
　エルマーと共に、観客席から鳴り響く拍手を背にして、ステージを後にしたのだった。

　ステージでの熱演で小腹が空いた２人は、さっそく屋台を巡る。
　エルマーは気になっていた、三角形の和菓子、生八つ橋を買い求めていた。
「ジョン、こいつを食べてみろ」
「何だその三角！　良い匂いすんな、１個くれ！」
「これが餡子で、こっちが抹茶……。このチョコミントとかどうだ」
「和菓子でチョコミントだと！？　……意外と美味え」
　気になった屋台を覗いては、買い求めた菓子をシェアして楽しむ。
「あとは酒……いつもならビールで乾杯するところだが、今日ばかりは吟醸酒の気分だ」
「そうするか。……じゃあ、コンテストの成功と新宿島の未来に」
「最高の夜と明日に」
「「乾杯！」」
　２人は開けたカップ酒を軽く持ち上げてから、一口含んで喉を潤した。京都の地酒であるらしいその酒は、フルーティな味がした。
「――甘味と酒が合うのは、どの国も共通だな」
　エルマーが漏らした感想に、ジョンが頷く。

　舞台のほうからは、まだ歓声が響いている。今日のお祭り騒ぎは、もう少し続くらしい。
　ディアボロスたちが明日からの日々を戦い抜くためにも、このひと時を大事にしたい。それは誰もが抱く思いだろう。

最終結果:成功
完成日	2023年11月18日