キャメロット城攻城戦～蒼炎の戦士達（作者 木乃）

3

リプレイ

●壁は高く、厚く
　城外の状況を知らない蒼炎のジャッカーの大群は、ドラゴン用の通路で混乱したままだった。
　指揮官が敗北するなど有り得ない――その先入観が警戒心を緩めてしまったのか、ディアボロス達に気配を悟られることとなる。

　アイザック・グレイ（竜狩り・g01717）は、ジャッカー達の姿を認めるや、口角を吊り上げた。
「見つけたぞ、ドラゴン共……混乱する余裕があるとは、危機管理が甘いようだな！？」
　竜狩りの大鉈を抜き、先陣を切ってアイザックが躍り出る。
　《竜眼穿ち》で深々と刃を食いこませ、
「この通路を制圧できなかったとしても、敵戦力を削減する必要がある。ここで燃やし尽くす」
　炎を纏ったダスク・ノーライズ（サイボーグの破軍拳士・g03370）が畳みかけた。
　体内から放出する火炎が《メタリックプロミネンス》となり、火の海を作り出す。
　燃え盛る焔越しにジャッカーを睨みつけ、2体のドラゴンが高熱に包まれていく。
「メリーちゃん、下がっていてください。手紙が燃えてしまいますから」
　ヴィハニール・アリャン（綴り手・g03389）の警告に「めぇ！」とメーラーデーモンのメリーちゃんは応じ、《復讐の刃》がヴィハニールの手に得物を具現化する。
　万年筆じみたタクティカルペン――高硬度のペン型護身具――を指の股で挟み、ヴィハニールは投げナイフのように鋭く放つ。
　頑丈な突起部分が肉体に突き刺さり、トゲのように鱗から軸が露出していた。

「ディアボロスが突破してきたというのか！？」
「キャメロット城に侵入してくるとは、袋のネズミがどちらか教えてやる！」
　奇襲に動揺し、ジャッカー達は後手後手になるが、“ディアボロスの攻勢作戦”だと気付くや、一斉に反撃を繰り出し始めた。
　ダスクへ炎の弾を射出し、ヴィハニールには長い尾による薙ぎ払いを。
　吐き出した炎が刃へ変ずると、アイザックめがけて射出されていく。
「袋のネズミ？　いいや、違うね」
　大鉈で炎刃の勢いを減衰させながら、アイザックは皮肉っぽく笑みを浮かべた。
　弱ったジャッカーに狙いを定め、アイザックが跳躍し、
「――俺達がここまで入りこめたのは、お前らの上司がとっくに潰れているからだ！！」
　これぞ伝家の宝刀――突き上げるような、鋭い一閃がジャッカーの喉元を捉える。
　文字通り、そのまま息の根を止めていき、ダスクとヴィハニールは、ジャッカー達の損耗率を引き上げていく。
「数が多いだけはある。骨が折れるな……！」
「ですがこの機を逃せば、キャメロットはいっそう堅牢な護りとなるでしょう……状況を打破しませんと」

　ドラゴン用の通路には不意を突かれ、痛手を負っていたジャッカーが倒れ伏していき、残る者が激しい抵抗をみせた。
　妖精郷より戻ってからこっち、アーサー王を護ることが御役目となったドラゴンにとって……ここでヘマな仕事をする訳にはいかない！
「通してなるものか……ここは王の居城、キャメロット城！　幻想竜域キングアーサーにおいて最も崇高にして、神聖な場である！」
　石造りの壁によって熱気が立ちこめていた。
　それは、この戦場の熾烈さを表しているようでもある。




●光陰、矢の如し
　消耗が激しくなってきた蒼炎のジャッカー達に、安藤・優（名も無き誰かの代表者・g00472）、ナイン・スカーレット（ねこの隣人・g07595）が全力攻勢をかけていく。
　むせ返るような熱気によって、呼吸器官まで焼かれているような錯覚を覚えた。

　優が【ガードアップ】の恩恵を強化し、ディアボロス達の肉体はさらに堅固なものと成っていく。
（「軍隊なら“待機せよ”とは言うけど、“敵と戦うな”なんて指示は出さないよね。数が多い分、守りも固められてる」）
「目移りしてちゃ危ないよ？　ほら、こんな風にね！」
　《灯火よ、希望を輝らせ》――オラトリオのアウロラが朽ちた剣を握るや、目にも留まらぬ速さで光の斬撃が繰り出された。
　すでに負傷したジャッカーが多かったこともあり、運良く1体を仕留める。
　だが、残りのドラゴンが反撃の炎刃を吐きだし、それを優が鉄塊剣で衝撃を食い止めた。
　高熱の余波で火傷を負わされていくが、まだ足を止めるほどではない。　
「ドラゴンの総本山とあって、相手も士気が高いねっ」
（「ここは出し惜しみせず、仕留めていくのが安定……退路を塞がれる危険性も取り除かないと」）
　ナインが神弓ヴィジャヤの弦を引くや、神々に祝福された矢が顕れる。
「この幻想に眠るは神々の祝福、つがえた矢に祝福と力を与え賜え――神々の力を知るがいい！」
　《幻解・神ノ矢》が放物線を描き、軌跡を描きながら、弱ったジャッカーの頭部に突き刺さった。
「ぁ、が……――」
　今際の際に炎弾を放ってナインに熱傷を負わせると、浮遊していたジャッカーは音を立て、床に崩れ落ちる。
「なんとしても王の居城を守らねば！」
「これ以上、罷り通らせる訳には……ここで果てる定めなら、せめて道連れに！」
　仲間の屍が増えていた。新たな傷から血が流れて落ちていく。
　だが、ジャッカー達は抵抗し続け、返り討ちにしようと意地を見せんとする。

　数の優位性を失い始めたことで、防衛部隊は劣勢であることは明らか。
「狙いを、定めて――ここだね！」
　創造神に祝福された矢が吸い込まれるように、ジャッカーの喉元を貫通する。
　落下したジャッカーを踏み台に、優は一気に距離を詰め、
「君達の敗因は“優秀な指揮官がいなくなった”こと――運が悪かったね！」
　残るドラゴン達を極光の斬撃が襲い、衰弱していたジャッカー達もついに絶命し、通路に横たわった。
　火熱によって乾いた血の海がそこかしこに広がり、激しい戦いの痕跡がまざまざと残っている。
「この部隊も壊滅、だね。1体も残らず倒せた」
「向かった先でなにが起きるか解らないからねー、退却ルートは確保してなんぼだよね」
　敵の懐に入りこんだとあって、ナインは警戒態勢を解かず、周囲に敵がいないか耳をそばだてる。
　城内に突入したディアボロスが多いこともあり、微かな戦闘音が通路の先から反響してくる。

　――いよいよ“総力戦”の様相を呈してきた。
　このまま順調に事を運べば、奪還戦も現実味を帯びてくる。
　断片の王・アーサー王と謁見する日は近い――。

最終結果:成功
完成日	2023年11月02日