鬼謀を求めて(作者 黒塚婁)
#蹂躙戦記イスカンダル
#アンティオキア市街突入戦
#アンティオキア
#セレウコス領
#勝利王セレウコス
⊕
●既に道はなく
アンティオキア王宮――アンティオキア中央に聳える、一際堅牢で立派な、支配者が座主に相応しき、そこで。
勝利王セレコウスは芳しくない状況に、厳しい表情を浮かべて呟く。
「ここに至って、ダレイオスやアンティゴノスからの援軍どころか、連絡さえ届かないとはどういう事か」
七曜の戦い以降、失われた連絡――機能不全、戦後の混乱……いずれ疑っても、納得が行かぬが、連絡が途絶えた、ということだけは確かな情報だ。
「ダレイオスやアンティゴノスがディアボロスに滅ぼされたとは思えぬが……」
瞑目し、案じる――危惧の中には、油断ならぬディアドコイの顔もちらつく。
敢えて、援軍を渋っているのか、と。
「まさか、この機会に、この勝利王セレウコスをディアボロスに殺させて漁夫の利を得ようとでも言うのか」
無い、とは言えぬ。
しかし、今必要なことは……セレコウスは静かに目を開くと、心を決める。
配下を呼び、指示を出す。
「――とにかく、精鋭を王宮に集めさせろ。暴れるしか能の無い奴は、市街地の防衛を行わせて少しでも時間を稼がせておけ」
籠城すると勝利王は宣言し、亜人どもにくれぐれ言い聞かせる。
(「王宮に精鋭を集めておけば、1年だろうと2年だろうと籠城できる――いざとなれば、精鋭部隊を敵にぶつけて突破口を開き、アンティオキアからの離脱も……」)
果たしてそれは亜人側の勝利を疑わぬ策であることを――あるいは成し遂げられるだけの自負するがゆえの判断であったか……。
●市街突入
「いよいよ、アンティオキアに突入できるぜ!」
アレス・ストラトス(ウェアキャットのファランクスランサー・g08926)は開口一番、そう告げる。
アンティオキアは、史実のセレウコス朝シリアの首都。
それゆえの堅牢さを誇る街だが、包囲戦によって防衛ラインが弱体化した結果、市街地まで突入可能となった。
さて、ディアボロス達の作戦によって、アンティオキアは孤立無援と化している。
その状況下、勝利王セレウコスは市街地を捨て――市街地の中央に存在する、精鋭を堅牢な王宮に集め籠城している。
つまり、今市街地にいるのは、多数のウェアキャットと、知性が低い、或いは暴力的過ぎて防衛戦に向かぬ亜人らだ。
「亜人は、こっちを見りゃ、攻撃を仕掛けてくるはずだ……ああ、返り討ちだな!」
アレスはにかっと笑う。
好戦的な亜人らを排除しきれば、市街地を制圧できる――そうすれば残りは王宮。
勝利王セレウコスと、精鋭部隊に決戦を挑めるということだ。
さて、と切り替え、アレスは作戦について語り始める。
「アンティオキア突入の段取りは……まずは市街地を囲む城壁を乗り越え、城壁を護る防衛ラインのトループス級をぶち破る必要があるぜ」
城壁の高さは二十メートルほど。ディアボロスの身体能力ならば、乗り越えるのは難しく無い。
――なお、飛翔は攻撃の的になるので推奨できない。
覚悟の上で、仲間が壁を登る時間を稼ぐとかの作戦を否定はしないが、そこまでの犠牲を払う場所ではない。
「ま、壁歩きやエアライドでひょいひょいとやるのが良さそうだ……特にパラドクスに頼らなくても、普通によじ登れるぜ」
無事防衛ラインを突破し、市街地に入れば、今度は暴力的なアヴァタール級が襲いかかってくるだろう。
「奴らの周りに、子飼いの配下とかもいるだろうが、自分の欲望に忠実で指揮をとれるような亜人じゃねえからな。ただの取り巻きみたいなもんだ。纏めて蹴散らしてやってくれ」
なお、街に残ってるウェアキャットは、放っておいても逃げる。
街のことは彼らの方が詳しいので、避難誘導を行う必要はない――しかし、アンティオキアから逃げ出したウェアキャットたちが、避難先で亜人に情報を伝える可能性は高い。
ここで、流言飛語による情報戦を仕掛けておくのも良いだろう。
「情報の重要さは、重々知ってるみたいだしな」
尻尾をゆらゆらと、愉快そうにアレスは言う。
史実の勝利王セレウコスは、広大なセレウコス朝シリアを領有した大王の後継者の一人。
それを騙る者だ……蹂躙戦記イスカンダルにおいても、五指に入る有力なジェネラル級であるのは間違いない。
「ここでセレウコスを打ち破れれば、ディヴィジョンの戦力にも大きく響くんじゃねえかな……まあ、そんなやつが年単位の籠城が出来るとみてる以上、正面突破は結構キツそうではあるんだが」
此所まで来たら、やるしかねぇよな、とアレスは笑う。
「で、そこで流言飛語だ。巧くやれば、いずれセレウコスに隙を作れるかも知れないってわけだ」
その結果は未来でわかる。
籠城を選んだ勝利王と、包囲するディアボロス――その雌雄を決するときに……。
「オレはあんたらの勝利を信じてるけどな! それじゃ、任せたぜ!」
朗らかにそう告げて、彼は説明を終えた。
●とある酒場にて
「……殺気立ってますにゃぁ」
「すっかり敵に包囲されて、戦場になるとかならないとか……」
亜人達に食事を出す酒場――実際は、奉仕のような形なのでそう呼んでいいのかわからないが――で働くウェアキャットたちは、街の様子を窺いながら、憂鬱な溜息を吐く。
その背後に、大きな影が落ち。
「おやおや、何処へ行こうというのです?」
冷酷な声に身を竦めたウェアキャットは、次の瞬間、壁のシミに変わる。
危機を察して俊敏に奥へと逃げた仲間達は、その横暴に震え上がる。日常茶飯事の出来事であっても、怖いものは怖いのだ……。
「何をしているのです。さっさと食事の用意をなさい。戦のために必要です」
他の怯えるウェアキャットらへ、生と死を司る者キュベレイは淡淡と告げる。
キュベレイの背後でニヤつくオークファランクス兵らも、気に入らないことがあれば、ウェアキャットを嬲って憂さ晴らしをしようと考えているに違いない。
「はい只今!」
ウェアキャットらは迅速に厨房へ、とって返し……大忙しで酒や肴を用意する。
街はすっかり粗暴な亜人ばかりが大きい顔で闊歩している。
――以前だって、理不尽な目にあわなかったわけではないが。
今のアンティオキア市街はウェアキャットにとって物騒でしかない。
厨房の影――食べ物をせっせと取り出しながら、こそこそと話し込む。
「こうなったら、王宮に逃げ込むか、アンティオキアから脱出するしかないのかもしれないですにゃ」
「何にせよ、戦闘になればチャンスですにゃ。死なないように、キリキリ働くにゃ」
その中の一人が、悄気たように耳を垂らして呟く。
「でも、逃げても受け入れて貰えますかにゃあ」
「敵の情報を持ち込めば、王宮の人達は喜んでくれるかも!」
ウェアキャットたちは名案だと尻尾をぴんと立てる。
「おい、まだかァ!」
オークの胴間声に、しおしおと尾を再び垂らしながら……好機を逃さぬよう、気合いを籠めて配膳を始めるのだった。
リプレイ
ラヴィデ・ローズ
高い壁ほど乗り越えたくなっちゃうよねぇ
さぁて、見たい景色を見にいこう
パラドクスは『レゼル』『Sweetie』にて
【フライトドローン】もといガーディアンローズ群を壁に沿わせ
足場に蹴り、跳び、軽やかに越えよう
【先行率アップ】で
アッと構える間も与えず、一発入れられたりするかな?
敵の姿を捉えれば、初手は長弓形態の矢雨で制圧射撃
仲間と雪崩れ込む機をつくり
次手は壁下へ跳ぶ勢いを乗せ、長剣形態で斬り込むよ
やあ、来たよ
今日も元気に間抜け面だね
オレの技は複数対象
削りと引っ掻き回すことを意識し立ち回ろう
反撃側時にも足を止めずにいたいね
身を躱す際は横移動を主に
薔薇の盾兼足場が壊される間に戦車へも跳び移って、と
一気に突撃してくるのは構わないけども
交通事故にはご注意を?
ついでに仲間の射線に誘き出してやろう
何か物足りないと思ったら
そうそう、イマドキの戦車には爆発が付き物らしいよ
斬撃/射撃の痕に炎が躍る
火種はキミたちってことで
ぱん、と
派手に散らしてあげようか
名残りの煙は叛逆の狼煙
逃げられるとは思わないことだ
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
アンティオキアの包囲が奏功したのは何より
攻めきって、セレウコスと亜人どもの支配を終わらせよう
城壁の移動は【壁歩き】を使って登りつつ
装備のハーケン銃を壁に撃ち、ロープをつかんで落下防止や跳んで移動や危険回避を
戦場を偵察、観察
基本は突破を狙い、十分相手取れるなら数なら殲滅を
まずは壁に駆け上がり
城壁の上から、地上からの攻撃も警戒しつつ、戦車が城壁を走り回る可能性も警戒を
戦闘時は味方と狙いを合わせ突破
壁歩きで敵の出方を観察しつつ素早く登り
味方の死角を守るように
攻撃があれば垂直方向への横歩き、斜め歩きも交えよう
味方とタイミングと狙いあわせ城壁の向こうへ仕掛け
敵をPDの魔影分身術で倒していこう
分身と挟撃するように、分身は戦車の進路へ、俺は側方・後方から戦車の押し手を銃で撃ち制御を失わせよう
地形の利用し、遮蔽物や傾斜のある場所で、攻撃を受け流し回避
前に寄った戦車の重心を利用し
突撃を観察し、直線的な軌道や方向転換の手間取りを見切り、フェイントかけ回避
行き過ぎた所を、側面や後方から狙い撃つ
●開戦を告げるは
「アンティオキアの包囲が奏功したのは何より――攻めきって、セレウコスと亜人どもの支配を終わらせよう」
言って――エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)はアンティオキアの城壁を見つめる。巨大な都市を守る城塞は、今や亜人らを閉じこめる檻のようなもの。
それを、ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は晴れやかな表情で仰ぎ、
「高い壁ほど乗り越えたくなっちゃうよねぇ」
実に軽やかに言う――。
そして、彼が片手を城壁へと差し出したかと思うと、フライトドローン……ガーディアンローズ群を壁に並べる。詳細な配置を行うなら、ひとつずつ順番に動かすしかないが、足場にして登るなら、ざっくりと出現させた儘でも問題あるまい。
「さぁて、見たい景色を見にいこう」
ラヴィデは笑って、軽い一歩を踏み出す――同時、エトヴァも不敵な微笑を湛え、壁に脚をつけた。
そのまま、垂直に歩き出す。登山用のロープ付ハーケンを撃ち込み、ロープを掴むのは予期せぬ出来事に備えた慎重さゆえだが、エトヴァの歩行を遮るような問題は起こらなかった――。
壁を歩くエトヴァより、少しだけ早く頂点へと到達できるラヴィデは、そのやや手前で足を止めると、壁の向こうを覗き見る。
防衛ラインを築くゴブリン戦車らは、何処か取り留めのない、そぞろな様子で配置についていた――というより、以前はもっとびっしりと亜人が配備されていたであろう空間を、少し心許ない数で守っているという様子。
それでも城壁の上から堂々姿を現せば、良い的にされるであろう。
(「けど、ねぇ?」)
ちらりと、丁寧に城壁を登るエトヴァを見る――これくらいの敵の数ならば、引っかき回して混乱させた方が、彼が仕掛けやすいのではないか。
ガーディアンローズの蔦の上、機を窺い登り切ったエトヴァと目配せし――ラヴィデは屈んだまま長弓を引くと、高く跳躍した。
ラヴィデが鏃を解き放てば。
刹那、ゴブリンらの元に次々と火花が爆ぜる。呪いの花が次々に咲き乱れ、戦車を盾にする亜人達が数メートル後退した。
「やあ、来たよ。今日も元気に間抜け面だね」
着地したラヴィデが、緩く双眸細め、朗らかに告げると。
「敵襲! 敵襲!」
「ディアボロスがキタぞ!」
ゴブリンどもが騒ぎ出す。
「騒がしいな……」
その背後で、嘆息ともつかぬ囁きが聞こえるや、ゴブリンの頭を、漆黒の分身体と左右からエトヴァの銃が吹き飛ばす。
ガラガラと激しく地面を揺らす振動が伝わり、彼は顔を上げる。
「侵入者をブッとばせ!」
魔改造した戦車が、車輪を弾ませ迫ってくる――突き出された槍を、エトヴァは転がるように躱す。
低い姿勢の儘、通り過ぎていった戦車の押し手を狙い、装飾銃を掲げて、撃つ。彼の影から立ち上がった漆黒の分身体は立った姿勢から、高低差のある連射に、ゴブリンらは為す術も無く穿たれ倒れる。
制御を失ったまま暫く真っ直ぐ進む戦車を足場に、ラヴィデが更に前へと距離を詰めるべく、跳ぶ。
――それと、先程ラヴィデが操車を斬った戦車同士がぶつかり、城壁から落ちていく。
それを尻目に、次の戦車の上へと着地した彼は、しれっと言う。
「交通事故にはご注意を?」
「テメェ、降りやがれ!」
同じく戦車の上で指揮をとっているゴブリンが叫ぶ。
「うーん……ああ、そうか」
ラヴィデは腕を払って刀身の血を飛ばしつつ、不意に呟く。
「何か物足りないと思ったら……そうそう、イマドキの戦車には爆発が付き物らしいよ」
――火種はキミたちってことで。
不敵な笑みを口元に、やわらかく踏み込み、袈裟懸けに剣を振るう。
その一閃は、先程の雨矢と同じく。
呪いの花を咲かせるように激しい爆破を伴う、燃え盛る呪詛の刃だ。
「くそ、落とせェ!」
広範囲に広がる爆発に応じるは、複数の戦車の突進だ。
宙に浮かぶガーディアンローズへと逃れたラヴィデを追うのは、発射された槍。
剣で合わせて撃ち落としながら、その狙いが己に集中することによって、素早く駆け込んだエトヴァが敵の背後を突きやすくなる。
狙い通り、彼の銃が見事にゴブリンを射貫き、次々と戦車がぶつかり合う。
雄叫びを上げながら、力任せに突進してくる戦車へ、ラヴィデが警句を発すると、エトヴァは冷静にそれを見つめ、軽く跳躍した。
加速のついた戦車は、止まらぬ――だが、その穂先が捕らえたのは、外套の裾まで。
その背後から、剣を振りあげたラヴィデが降ってくる。
唐竹に割られながら、ぼうっと燃え上がり、身もよだつ悲鳴を上げた亜人。ぎっと歯を食いしばり、戦車を回転させたゴブリンは……エトヴァと分身体の四つの銃口がこちらを向いている、と見た刹那。それは次々に火を噴く。
蜂の巣に穿たれ、城壁から落下していく亜人の姿を見やり、彼らは一休み、小さく息を吐く。
「やっと片付いたな」
「これで市街に迎えるねぇ」
言って、ラヴィデが燻る戦車を振り返る。名残りの煙は叛逆の狼煙……前髪を風に踊らせ、彼は微笑んだ。
「――逃げられるとは思わないことだ」
王宮に向けて、呟き。
ディアボロス達はアンティオキア内部へと進む――。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
●アンティオキア市街
「さあ、行きますよ。見つけ次第、叩き潰します」
敵襲だという叫びに応じ、生と死を司る者キュベレイが立ち上がる。
「この辺りは大通り、正面を行けばぶつかるでしょう。通路に逃れても袋小路。王宮が狙いならば入っても意味がありませんし……逃げも隠れも出来ませんからね」
楽しみですね、と微笑みを絶やさず告げた彼女に従い、腕が鳴るぜとオークファランクス兵が猛々しく笑いながら出て行く。
武器を振り回しながら店を去った亜人らを見送って、ウェアキャットたちは今か今かと逃げ出す機会を窺っていた――。
荒田・誠司
アドリブなど歓迎
【心情】
さて、アンティオキアに入るとしようか
ついでにあちこちで情報を流すとしよう
信じるも信じないも相手次第だが、こういう場合は不安を煽るか
【行動】
城壁を登る前に肉体改造でウェアキャットの耳のような突起を付けフードを被り変装する
そのまま壁歩きの効果を使い城壁を登り侵入
ミラージュコートの機能を使用して亜人から身を隠しながらウェアキャットがたくさんいる場所を探す
そこを見つけたら友達催眠を使いつつ演技で怯えたような声を出して噂を流す
流すのは“アンティオキアの周囲を守っていた防衛部隊の一部が守りに徹する策に不満を持ちディアボロスを手引きし、反旗を翻した”って話だ
先の戦いで守りに徹する策に対して不満に思っていた奴らはいるし、打って出たんだからセレウコスの命令違反もしている
全てが嘘ってわけじゃない
「ここまで早くに敵が来るなんてありえない。誰かが手引きしたんじゃないか?」って感じでな
うまく乗ってくれれば尾鰭と背鰭もくっついてくるだろう
●反旗を翻す者
「さて……」
無事アンティオキア市街に潜入した荒田・誠司(雑草・g00115)は、周囲の様子を窺う。フードを被った姿で、物陰に身を潜める。
ウェアキャットが沢山居るところは……と目指して進んでいるが、亜人をやり過ごせば、此所其処でウェアキャットたちがこそこそと動き始めるのが見える。
情報を流すなら、お誂え向きの状況だ――誠司は、ひとつ頷き、ひっそりと歩き出す。
ウェアキャットらも、亜人に見つからぬようコソコソとしているので、この方が違和感が出ないだろう。
「信じるも信じないも相手次第だが、こういう場合は不安を煽るか――」
フードを深く被し直し、右へ行こうか左へ行こうか迷っているようなウェアキャットたちに、そっと話しかける。
「なあ、聴いたか……?」
「にゃ! にゃんですか!?」
突然話しかけられたウェアキャットは尻尾を逆立て、振り返った。
「この戦のことだ。アンティオキアの周囲を守っていた防衛部隊が、敵を手引きしたらしい……」
友達催眠によって、友好的な気分になったウェアキャットたちは、見知らぬ者――といって、アンティオキア中の同胞の顔をしるはずもない――の言葉でも、仲間の情報のように受け止める。
「にゃんですと!」
「セレウコス様が防衛に徹するって決めたことに不満をもった奴らがいたらしいんだ」
怯えたふうに、ぶるぶると、誠司は身を震わせてみる。
「実際、命令違反で外に出て戦った亜人を、俺は見たんだ」
――嘘はいってない。
彼は挑発に乗って城壁の外に出てきた亜人を倒した方だが……。
「でもでも、わざわざ敵を引き入れますかにゃあ?」
ウェアキャットが首を傾げる。だが、即座に隣り合うウェアキャットが疑問を打ち消すように首を振る。
「亜人さまは、みーんな血に飢えてますにゃ」
それでいい、誠司は内心思いながら、首肯することで相槌とする。
「そう、ここまで早くに敵が来るなんてありえない……誰かが手引きしたんじゃないか、てな?」
「皆さんに伝えないとですにゃ!」
誠司の話を聞いたウェアキャットは、一度ぶるっと身震いする。
謀反の恐れあり――それはとても重要な情報ではないかと、コソコソと勝手に喋りだした彼らを見つめ、そっと誠司はその場を離れる。
後は勝手に、噂として広がっていくだろう。
もっとも誠司は時間の許す限り、このネタを様々な場所にばら撒くつもりで、引き続き作戦を進めるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
ウェアキャット達も哀れであるな……
防衛線に向かぬ亜人を選り分けて放つとは、セレウコスは戦略面でも強敵に違いなかろう
では、ならず者の狩りといこう
流言の仲間が動きやすいよう
亜人を引き付け、ウェアキャットが逃げ出す隙を作ろう
大通りを駆けつつ、敵の姿を見たら、人気のない袋小路へ駆け込み
追いつかれるまでの間、【壁歩き】で建物の上方へ歩いて潜み
袋小路にPDの糸を張り巡らせ、やってきた兵たちが、標的の不在に虚を突かれた隙に斬糸結界を発動、攻撃を浴びせよう
連携時は狙いを合わせ倒す
多数のフライトドローンを上空の目隠しにし、遮蔽物として姿を隠しつつ足場にして移動
壁歩きも駆使し袋小路の地形を利用し、立体的に立ち回り
ドローンの隙間から下方を観察、糸を放ち滅しよう
虎ばさみや光と音を放つ爆竹などをトラップ生成で足元に仕掛け注意を散らしつつ、上から隙を突いていく
ドローンと壁を足場に踊ろう
さあ、遊んでもらおうか
敵の攻撃は魔力障壁を張り、槍を警戒、観察し
直線的な延長上の軌道を避けるように動き回り深手を回避
●袋小路の罠
市街には人の気配は疎らであった――ウェアキャットらは息を殺し、或いは逃げ出しているのだから、そうだろう。
(「ウェアキャット達も哀れだな……噂の流布のためにも、巧く逃げて欲しいところだが――」)
大通りを堂々と駆けながら、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、そっと息を吐く。
「お、見つけたぞ! 獲物だ!」
下卑た声が聞こえる。
重みのある足取りで正面からやってきたオークファランクス兵らが、エトヴァを認めるや、鼻息荒く、駆けだした。
アヴァタール級は、微笑んだまま、駆けだした取り巻きを見送っている。
(「まったく……亜人らしい」)
内心、苦笑を零し、エトヴァは冷静に敵との残り距離を数えながら、交戦に応じるような雰囲気で、低く構える。
しかし、適材適所、とはよくいったものだ――追い詰められた、苦渋の決断であろうとも。
(「防衛線に向かぬ亜人を選り分けて放つとは、セレウコスは戦略面でも強敵に違いなかろう」)
「――では、ならず者の狩りといこう」
口元にうっすらと不敵な笑みを湛えたエトヴァは――反転、横道へと駆けだした。
「あ、逃げやがった!」
「追い込め、どうせ道は途切れてんだ!」
オークどもが後ろで喚いている。全速力で駆け出したエトヴァを追って、向こうもスピードをあげる――建物と建物を壁にした小道をぐねぐねと適当に曲がった果て、突き当たりの壁面を、エトヴァはそのまま歩いて登る。城壁と比べれば大したことのない壁ではあるが。
「あァ? ドコ行きやがった!」
追いかけてきたオークファランクス兵は、一瞬、彼の行方を見失う……刹那、虚空にビィィン、と微かな振動が起こった。
「さあ、遊んでもらおうか」
エトヴァが、ひそり囁く声が、耳に届いたかはわからぬ。
「っ!」
突如、全身が切り刻まれ、出血したことに、オークどもは驚き、足を止めた。
単細胞な亜人は、エトヴァが仕掛けた極細の糸罠に、まんまと引っかかったのだ――しかし、それは何処に逃れようとも、エトヴァの所在を報せる一撃となる。
「野郎!」
死ね、というシンプルな一声と共に、オークらは伸びるサリッサをぐんと突き出す。
それは何処までも伸縮する魔法の槍――頭上、フライトドローンで身を隠したエトヴァへと正確に伸びる。
素早くドローンを飛び移って、彼は躱す。軽く脚や翼を掠めていく鋒に怯む事無く、エトヴァは次の仕掛けを発動させる。
パァン、バン、オークどもの足元で爆竹が続けて乾いた音を立てる。
「はン、なんだこんなもん」
なんともねぇ、と亜人らはそれを一笑する。
悠々と踏み潰す――エトヴァとて、それが敵の脅威になるなどと考えておらぬ。
しかし、彼は口元に涼しげな笑みを湛えて、告げる――。
「俺から目を逸らしたな」
次の瞬間、再びパラドクスによる糸の陣が、オークらを苛む。
血の雨がぱっと散り――濁った悲鳴が続く。
「クソッタレ!」
「聴くに堪えない罵声だな」
全身に夥しく流れる血を飛び散らせながら、オークが腕を振るえば、鋭い槍撃がドローンを貫いてくる。
エトヴァは脚を止めず、次々にドローンを飛び移りながら、槍衾のような怒濤の反撃を潜り抜ける。
次はピカッと閃光弾が爆ぜたが……今度は、オークどもも上を睨んだままだ――が、素早く駆け巡るエトヴァを仰いだまま、無防備に脚を踏み出した途端、再度、オークらを括り上げる斬糸が、八つ裂きとばかり、バラバラに刻んだ。
「何処までも猪突猛進だったな……」
エトヴァは溜息交じりに呟く。敵を必要以上に嘲るつもりはないが――あまりにも容易く仕留められた事実に、肩を竦めるのであった。
成功🔵🔵🔵🔴
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
クロエ・アルニティコス
……行きましたか。
この後に挟撃するのにも都合が良さそうですね。
とはいえ、今はこちらのことですが。
フードを被ってこそこそとするウェアキャットの真似事で亜人をやり過ごし、風説流布に移ります。
目的はセレウコスに籠城を選ばせないこと……都合よく誠司の流した情報もあります。それを補強しつつ、目的を達しましょうか。
逃げ遅れたウェアキャットに対し、【友達催眠】を使用し素知らぬ顔で話かけます。
大変なことになりましたね。このアンティオキアが攻め込まれるなんて……
あの噂、聞きましたか?亜人の中に裏切り者がいて、敵を引き込んだという……
にわかには信じられないことですが、実は亜人と侵入者が話しているのを聞いてしまったんです。
その亜人は「ダレイオス様の命令」で引き入れたと……そう言っていました。
ダレイオス様というのは亜人の名前でしょうか?
もしかしたら亜人同士の勢力争いが起きているのかもしれません。
セレウコス様に伝えた方がいいでしょうか……?
……亜人を様付けなんて、吐き気がしますね。
●糸引くものの名は
はてさて、市街に潜むクロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は。
勇んで敵を探しに向かうオークどもを、その視界に入らぬよう壁際によってやりすごす。
フードを被ってしまえば、狐耳もウェアキャットとそう変わらぬ。
「……行きましたか――この後に挟撃するのにも都合が良さそうですね」
今はこちらのこと、だ。
じっと周囲を一瞥したクロエの瞳は、逃げ遅れたウェアキャットを探す。
(「目的はセレウコスに籠城を選ばせないこと……都合よく誠司の流した情報もあります。それを補強しつつ、目的を達しましょうか」)
クロエは、こっそり逃げるならば、この道だろうという通りを見出し、進む。
程なくして、自分と同じようにフードを目深に被ったウェアキャット達の後ろ姿を認める。二人連れだが、おどおどと周囲を探って、裏口から飛び出してきたものの、何処へ――外か、王宮か、どちらに逃げるか、判断が付かぬ様子であった。
「どっちが安全ですかにゃあ」
「攻め込んできた人達に掴まったら、殺されちゃいますかにゃ?」
不安そうな会話を聞きつけ、クロエは、驚かさないように静かに近づく。
「ああ、よかった……」
「にゃ! ひとりで無事抜け出せたのですかにゃ」
同胞を見かけて心から安堵した……という体で話かけると、友達催眠の力もあろうが、ウェアキャットはクロエを親身に受け入れてくれた。
「大変なことになりましたね。このアンティオキアが攻め込まれるなんて……」
弱り切ったという表情を作り、目をやや伏せて、クロエは二人を上目遣いに窺う。
「あの噂、聞きましたか? 亜人の中に裏切り者がいて、敵を引き込んだという……」
「にゃあ、そんな話も聞いたにゃ」
「ビックリですにゃ。でも、本当かにゃあ?」
半信半疑なのも仕方ない。だが、二人の気持ちとしては、より確かな情報を仕入れて、避難先に持ち込みたいという思いもあるはずだ。
クロエは、そこに種をまく。
「……にわかには信じられないことですが、実は亜人と侵入者が話しているのを聞いてしまったんです――その亜人は『ダレイオス様の命令』で引き入れたと……そう言っていました」
クロエは実に恐ろしそうに眉を曇らせて言い……同時に、はてな、と首を傾ぐ。
「ダレイオス様というのは亜人の名前でしょうか?」
「うちらも、しらないにゃ……でも、様ってことはえらい人にゃ?」
「セレウコス様のことは、どんなランボーモノでも、様づけしてるにゃ!」
うんうん、とウェアキャット達は頷き合う。
勝手に色々と想像を強めてくれる彼らに、手応えを感じつつ、クロエは憂いて見せる
「もしかしたら亜人同士の勢力争いが起きているのかもしれません。セレウコス様に伝えた方がいいでしょうか……?」
「絶対そうにゃ!」
「伝えたほうがいいにゃ!」
ウェアキャット達は義憤に……でもなく、この情報をもっていけば、王宮に入れて貰えそうだという現金な発想から、尻尾をぴんと立てて意気込む。
ダレイオス、ダレイオス、と名前を確り覚えようとしている二人へ、クロエは微笑みかける。
「ああ、よかった――いえ、私は安心したのか、脚が震えてしまって……少し休んでから避難しますので、お構いなく」
二人に情報を託す、と言外に匂わせれば、「悪いにゃあ」と彼らは耳を悄気つつ、王宮方面へと歩き出した。
その背を見送りながら、はあ、と深く長い溜息を零し……クロエは低く、吐き捨てた。
「……亜人を様付けなんて、吐き気がしますね」
あとは、これらの噂がきちんと本丸に届いてくれることを祈るばかりだ。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
クロエ・アルニティコス
次のためにやれることはやりました。
後は今この場にいる亜人どもを殺して終わりにしましょう。
先ほどすれ違った亜人の方へ向かいます。
取り巻きは……もう片付いた後ですが、仕事が早いですね。
それでは、後はお前だけです。
他の復讐者がいれば挟撃するように戦闘、味方が作った攻撃の隙を活かし、また味方が攻撃する隙を作るように連携して攻撃を行います。
【ラードーン・ローザ】の種を足元に撒き、ラードーンを象った怪物を作り出します。
100の首を模した荊で脚に絡みつき、鎧の上から棘で突き刺し、露出している頭部はもちろん全身を縛り上げ、締め殺させましょう。
黄金の林檎の番人、抜けるものなら抜いてみることですね。
敵に接近され、踊るような動きでの反撃は守護の赤薔薇の棘の防壁で軽減を。
セレウコスの主力はこんなところには居ません。
長く続いているアンティオキア攻めですが、まだここからが本番。
ですが、種は撒いておきました。後は上手く芽吹くことを祈りましょう。
ラヴィデ・ローズ
最後の晩餐もまだのところ悪いねぇ
時間稼ぎにもならなかったおたくの手下でも恨んでくれ
パラドクスは『レゼル』にて
飛刃群は『ドラゴンオーラ』由来
ご立派な装備だこと。使い手はさて、どうかな?
大振りの一撃は、もらえば勿論重たいが
恐れず踏み込んでこそ突き崩す糸口がある筈
……掴み取るさ
敵へハンマーへと打ち込む連撃により、僅かずつでも狙いをぶれさせ致命打を逸らせれば
ハンマー振り下ろし直後や瞬間を狙って本命の一発を叩き込んだり
吹き飛ばされたらされたで、宙にいるうちから長弓形態や飛刃での追撃を目論む
凶悪な猛獣相手だからこそ
冷静に次の手を見据え積み重ねる、手数勝負といこう
その間に他の仲間が背面を取れたりするかもだしね
市井が地獄と化した
反吐の出るーー見飽きたような光景も
いつか本来の活気を取り戻した様を重ね見、夢見るから
ちょっとピリッとした程度で、覚められやしない
敵に消耗が見られれば、居合わせた仲間との連撃をより密に
畳み掛けよう
刃に、矢に纏う火勢も増し、塵へ還す一助となれれば
路のシミとしてすら残してやるものか
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
セレウコス打倒のため……この先の作戦へ、うまく橋渡しをする時だな
ああ、こちらは片付いた
手回しに感謝、と仲間へ伝え
袋小路を出るか、戦いやすい場所で仲間と合流
キュベレイがこちらに気づいていなければ
大通り側か小路側、どちらかが不意を打てるように隙を狙おう
仲間とは声かけ、目配せなどし連携
戦況を観察しつつ、敵味方の位置を把握
仲間と挟撃の立ち位置を取り、隙を作りあうように時間差攻撃し
こちらも飛翔を交え、高低差のある変則的な立ち回りや、角度をつけた攻撃でフェイントを交える
パラドクスの銃弾を、敵をかすめるように撃って注意を向けさせつつ、本命は跳弾させ死角から撃ち抜こう
暴力的だな……これでは放逐されるわけだ
無力なウェアキャット達に大きな顔をするのは楽しかったかい?
敵の舞には、魔力障壁を展開しつつ
初期は観察しつつ激しくなれば距離だけを取り動かず、深手を避けるようタワーシールドで身を護る
今は、一手、一手……詰める時
必ずやセレウコスに刃を届かせよう
●狂戦士
(「次のためにやれることはやりました。後は今この場にいる亜人どもを殺して終わりにしましょう」)
フードを払って、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は、大通りの先を見据える。
遠くからでも、大柄で、派手な背中が見えた――。
生と死を司る者キュベレイは、棒立ちだ。
否、油断なく、ディアボロスと対峙していた――飄乎とやってきたラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)はくるりと長剣を回して、笑う。
「最後の晩餐もまだのところ悪いねぇ、時間稼ぎにもならなかったおたくの手下でも恨んでくれ」
「――ふむ、そうですか」
キュベレイは気にした様子も無い。オークらを、そんな程度と見限っていた風でもある。
彼女はハンマーを軽くスイングさせて、変わらぬ微笑で呟く。
「ふふ、死は平等ですからね」
自分も、敵も。そう告げるキュベレイは、達観した穏やかな雰囲気に見えるが、粗暴であるため市街に残されている亜人だ――愉快げに、ラヴィデを見下ろす。
「ご立派な装備だこと。使い手はさて、どうかな?」
言うや、ラヴィデは地を蹴る。
試すような、間合いギリギリの鋭い剣戟に、キュベレイはハンマーを盾にして身を守る。その挙動を確り見定めながら、彼は息の限り、様々な角度から斬りつけた。
その刀身から放たれる呪炎の飛刃が、キュベレイの守りを擦り抜け、黄金の鎧に疵を付けていく。
ほう、と亜人の細められた目が、更に細くなる。
どん、と脚を一歩踏み込むと、無防備を晒しながらキュベレイはハンマーを叩く掲げる。雷光を帯び、輝いたそれは、ラヴィデを逃さぬかのように、凄まじい速度で振り下ろされた。
「……っ、なるほど」
地が揺れる、びりびりと膚を刺す衝撃に、ラヴィデは笑う。
(「しかし、突き崩す糸口がある筈――……掴み取るさ」)
表情では余裕を見せながら、対一でやりあうには分が悪いと確り認識している。
そんな彼へ、キュベレイも、今の一撃にむけ何か感想を口にしようとした、その瞬間。
「種子に宿るは我が抑圧、芽吹け『ラードーン・ローザ』!」
クロエがばら撒いた赤いバラの種子は、彼女の負の感情を吸い上げ育ち、ギリシャ神話の怪物『ラードーン』のごとく、百の頭を持つ竜となる。
それはたちまち、キュベレイに絡みつくと、全身を締め上げながら棘で突き刺す。
「――黄金の林檎の番人、抜けるものなら抜いてみることですね」
冷ややかに告げ……状況を確認するように、軽く左右を一瞥したクロエは、青の双眸を細めた。
「取り巻きは……もう片付いた後ですか、仕事が早いですね」
しゅるりと、植物たちの蔦が擦り合うような音が聞こえる。
キュベレイは巨躯をしなやかに躍動させ、ラードーンの拘束を破りつつ、ハンマーを振るう。
刹那、いくつもの白銀の弾丸が、キュベレイの身体を穿つ。
両手に銃を構えた儘、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、二人に向け微笑を見せる。
「ああ、こちらは片付いた」
彼は「手回しに感謝する」と告げ――すぐに敵へと、睨みをきかせた。
「ほうほう、今のはなかなか面白かったですよ」
キュベレイはそう言って、ハンマーを肩に乗せる。しかし、もう奇襲は無理ですね、とさらりと言ってのける。
嫌悪を隠さず、何の問題もありませんと吐き捨て、クロエは告げる。
「――それでは、後はお前だけです」
キュベレイはただ、ハンマーを掲げて応じた。
獅子の亜人は、軽やかに舞って、巨大なハンマーを振り回す。
それを、エトヴァは銀色のタワーシールドで凌ぐ――骨まで、ぐんと響く衝撃が、キュベレイの実力を示している。
なれど、彼はその苦痛を一切表情に出さず、敵を静かな眼差しで射貫く。
「暴力的だな……これでは放逐されるわけだ。無力なウェアキャット達に大きな顔をするのは楽しかったかい?」
「地を這う虫など見えない、違いますか?」
本音と挑発を前に、キュベレイは減らず口を叩き、クロエが嫌悪感に眉を顰めた。
「この世界を蝕む虫はお前達でしょう」
冷ややかな声音とともに、棘蔦で出来た百の首をもつ竜が、キュベレイを締め上げる。
鎧を貫通する棘の痛みを、亜人はものともせず、身体を大きく使って振りほどくと、高々と跳躍しながら、ハンマーを振り下ろして来た。
ととんと跳ねるようにクロエは距離を取る。彼女のガーディアンローズが花弁を散らしながら、ハンマーを受け止める。
圧力に吹き飛ばされるのを、そのまま受け入れ、クロエは大きくキュベレイから離れた……その間を埋めるように、ラヴィデが矢を射る。
剣と同じく、素早い連射によって送り出された矢は、呪炎を纏い、亜人を貫く。
矢の勢いはそのまま衝撃波を生じ、斬り裂く力も加え相手を揺さぶる。
「ふ、距離で武器を変える立ち回りですか。面白いですね」
果たして三人がかりで追い込みながら、牙を見せてキュベレイは笑う。
頑丈で凶悪、か。
ラヴィデは変わらぬ余裕をあえて装う。
「凶悪な猛獣相手だからこそ――、手数勝負といこう」
次の瞬間に、キュベレイが己の眼前まで詰めてきていた。驚きはない、逆説連鎖戦というのはそういうものだと理解している。
身体をうんと捻って振り上げられた、雷を纏ったハンマー。
それを冷静に見つめ、血路を見出すまで。
(「市井が地獄と化した……反吐の出る――見飽きたような光景も……いつか本来の活気を取り戻した様を重ね見、夢見るから」)
「ちょっとピリッとした程度で、覚められやしない」
ってね、と長弓でハンマーを受け止めて、横へと跳び退く。受け止めると決めたのは、単純な理由だ――キュベレイ越し、真っ正面に、二挺拳銃を構えた青い姿を見たから。
「――踊れ、導け、祈りの下に」
エトヴァの描いた軌道の通り、発射された白銀の銃弾は、すべてキュベレイの背に叩き込まれる。
「っ、」
絶えず動いていたキュベレイの身体が、止まった。
幾重にも重ね、傷つけられた鎧と、肉体――キュベレイがディアボロスと戦った軌跡は、彼女自身の血潮で彩られていた。それほどの負傷を重ねて尚、彼女の殺意は変わらぬが。
「口ほどにもありませんね」
冷淡な声音で、クロエが最後の種をまく。一瞬にして育った怪物が、獅子の亜人を搦め捕る。生身を締め上げ、疵口を貫き、更なる苦痛を。
だというのに、キュベレイの笑顔は変わらない。
「死は、ウェアキャットにも、オークらにも、お前達にも――そして、私にも訪れるもの」
全身の力を奮わせて、キュベレイは藻掻いた。夥しい血が、ラードーンの隙間から零れていく。
ハンマーに引き千切られた竜越しに、クロエを狙うハンマーが唸る。触れただけで、骨が砕けそうな重さを、それは持っているとわかる。
「手負いの獣は厄介だね」
何処かのんびりと、ラヴィデは言い……しかし、その喉元へと奔る剣閃は苛烈であった。
「路のシミとしてすら残してやるものか」
存在そのもの消し飛ばす――そんな熱を籠めた呪炎の飛刃で、激しく負傷している頭部や、腕、腹を狙って斬り込む。
刃が、その屈強な肉体に、ずぶりと埋まる。それを振りほどかず、内側を呪炎に焼かれた儘、キュベレイは高くハンマーを掲げていた。
雷が頭上で、白く爆ぜた。
「無駄だ、あんたは既に終わっているよ」
ラヴィデの通告通り――額を、白銀の銃弾に貫かれ、キュベレイは息絶えた。
真っ赤に染まった獅子の表情は、笑顔の儘……しかし、握りしめたハンマーが音を立てて地面に落ちたことで、エトヴァは小さく嘆息し、銃を下ろしたのだった。
――後に残るは、寂れた大通り。人気はなく、物資もなく、戦場となったことで荒れた街並み。
「これで路地ひとつ分、掃除完了って感じかな」
そんな周囲をゆっくりと一瞥したラヴィデが、ふうと緩く息を吐く。
乾いた風に銀髪を遊ばせたまま、クロエはぽつりと呟く。
「そして、セレウコスの主力は、こんなものではないと……」
クロエにとって、如何なる亜人とて、許せざる存在。その力量を素直に認める気にはならぬが、脅威は脅威と受け止めながら――殲滅する、と誓っている。
「長く続いているアンティオキア攻めですが、まだここからが本番……ですが、種は撒いておきました。後は上手く芽吹くことを祈りましょう」
ああ、エトヴァは首肯すると。
「今は、一手、一手……詰める時――必ずやセレウコスに刃を届かせよう」
市街中枢に聳える王宮へ、鋭い視線を投げたのだった――。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【託されし願い】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV3になった!