リプレイ
平良・明
でかいにゃんこさんです
丁寧によしよしして差し上げましょう
それにしても理性を押しつけられるというのも難儀な事です
ですが少し話が通じるというのはちょっとだけありがたい事ともとれます
何を欲しがっているのか聞くことができますからね
最初は落ち着いて話しかけて、欲しがっているものを尋ねてみます
にゃんこさんが欲しかったのは石のスフィンクスではなく中に積まれていたお肉だったのです
本当はあげたくない私のおやつなのですが、新宿島から持ち込んだ新鮮なお肉をあげましょう
なに、ツノがかゆい
なら【怪力無双】を使って、にゃんこさんが倒した木を担いで身体によじ登り
もふもふ……ではなくがーりがりと掻かせていただきます
6つ?もツノがあるから大変です
毛づくろい、ナイスコミュニケーション
あまりの気持ちよさに眠くなって
言葉を失い野生を取り戻すとよいです
本来どのような暮らしをしているのでしょう
寝る場所は?食べ物は?
そもそもこれでもクロノヴェーダというのも不思議です
ゴンドワナ、とても興味深くてたまりません
捌碁・秋果
※連携アドリブ歓迎
もふもふ巨獸チャンのお手入れをしてあげたいです!
触らせてもらうためにご機嫌とりです。お腹が空いているようなので新宿島から持ってきた肉をプレゼント。
ふふっ、新宿島のお肉屋さんから譲っていただいた豚さんの吊るし肉です。…冷蔵庫にあったからまだちょっと冷たいかな?
うーん、効くかわからないけど【おいしくなあれ】で味を良くしてみよう。料理じゃないけど食べ物ではあるよね…?
モノは試しです。お肉のランクが上がったりするかも?
おいしくなあれで、めしあがれ!
お肉を食べて巨獣チャンの気が緩んだら、お待ちかねのブラッシングタイム!
馬用のブラシを準備してきましたが、これで鬣を梳くのは難しそうです。毛が長い、というか深い…!
お腹の毛ならなんとかなりそう。根気よく梳かしていきますよ!
巨獣チャン、お手入れしやすいように横になれます? ごろんです、ごろーん!
ブラッシングをしたら、毛玉が! 抜け毛による毛玉がたくさん!
せっかくなので集めて、こんなにきれいになりましたよって最後に見せてあげよっと
月下部・小雪
むむむっ、とても大きなライオンさん、ですね。
でも、すごくイライラしてるのが伝わって、きます。
しょ、正面から戦ったらとても大変そう、です。
イライラを解消したら戦わないでも大丈夫みたいなので、きょ、巨大にゃんこトリミング作戦、発動です!
ごはんを上げて落ち着かせてくれる人がいるみたいなので、ボ、ボクたちは気持ちよくさせる側に回りましょう!
ま、間違ってコダマが食べられちゃったら大変、ですからね。
なるべく大きな千歯扱を用意して、櫛の代わりにしましょう。
お、おとなしくなっているところにコダマと協力して鬣やお腹なんかを梳いていきますね。
ブラッシングはコダマで慣れています!この調子で気持ちよくなって、もらいましょう!
ふぅ、襲い掛かってこなければおおきなにゃんこさんなんですけどね。
巨獣がおとなしくなったら、猫さんのお船に戻ってからコダマもブラッシング、してあげますね。
※アドリブ連携大歓迎
杏・紅花
おっきなおっきなどーぶつさん♪
征服とか蹂躙とか考えずに自由気ままにのんびり生活してるとこ、見てみたいなあ
んふ。やっぱり美味しいものが目の前に現れたら、食べざるを得ないよね!
ゴンドワナに普通の獣はいるのかなあ
新鮮なお肉がいちばん嬉しいだろうし、ワイヤーソーで罠をしかけつつ、鉤爪で周辺を狩に行ってみよ
一応、予備としてナマの鶏肉も用意しておく
足りるかな?仲間のと合わせたら結構な量になるかな
巨獣が通ると予想されるサフィーナ・ミウへの道すがらに食べ物を設置したら、近辺の木の上で待機
【光学迷彩】で姿は隠しておこう
ごはん食べてくれたら、木から降りて背後から忍び寄り、あとは思いっきりモフモフ…もとい、ネコ科がつい喉を鳴らしてしまう、舌の届きにくい耳の付け根やアゴのあたりを思いっきりわしわししてみよっ!
本能のままに生きてるほうが、すき
でもこの世界にも断片の王がいるなら、本能で従ってしまうほど大きくて強ぉいやつなのかなあ
断片の王は、マボロシの巨獣って呼ばれそうなくらい大っきいのかもなあ…!
夢が広がるう〜
グレン・ゲンジ
んんー…巨獣のストレス解消ねえ…って言われてもアイツら人語なんかわかるわけねえし、破壊とかサフィーナ・ミウとか言ってるのもオウム返しだよなあ…
でも無理に戦うのもな…アイツらやっぱデカすぎるぜ。
…腹減ったとか言ったな?じゃあ、そうするか…
だが巨獣が青汁やコーヒーで喜ぶとは思えねえ(うめえのになあ、青汁)。じゃ、肉だ。
じゃあひとっ走りして、現地の獣でも狩るか!適当に探して…突撃!【スケイルメイル】で念動力の鱗を生み出して飛ばす!普通の動物ならひとたまりもあるめえ。
…なんとか狩ったはいいが、巨獣の食事としては不十分か。なら【口福の伝道者】で増やす…ああっ!生肉は食えねえよ!
…いや、食える…か?これを食い物と見なして自ら食えば、増やせるか?
よ、よし!いただきます!ディアボロスは腹を下さないと信じて…!
無事に肉が増えたら巨獣に惜しげもなくプレゼント。痒いところをかいてあげるぜ。ここか?ここがええんか?わー、でっかいモフモフ、かわいいなあ〜。
籠室・楓
まるで猫みたいですね、あの巨獣
正面切って戦いたくはないので、ドラゴン化の解除を頑張りましょう
まずは新宿島から持ち込んだ肉で巨獣のご機嫌を取ります
と思ったのですが、もしかして全然足りない?
あっという間に全部食べられてしまいました
…待ってください、暴れないで、まだ肉はありますから
動物の友で近くの恐竜達をおびき寄せ、仕留めます(ごめんなさいね)
さすがに恐竜丸ごと1匹分の肉があれば十分でしょう
そういえば、この巨獣は電撃を使えるんですよね
巨獣の食性はよく分かりませんが、狩猟時に電気で焼けた肉を食べる可能性もあるのでは
というわけで、生肉だけでなく調理した肉も提供してみましょう
巨獣のお昼寝スペース確保も兼ねて、周辺の木々を伐採・燃料にして豪快に焼きます
恐竜の焼肉なんて、人類史上誰も食べたことがないはず
どんな味がするのでしょう、私も少し食べてみたい
もし口福の伝道者を使用可能なら、味見のついでに肉を増やしていきます
沢山食べさせて満腹になってもらい、そのまま大人しく眠ってくれると助かるのですが
●一
猫は可愛い。これは世界の真理である。
東から太陽が昇るのと同じくらいに、不動にして絶対の真理である。
猫だけではない。ライオン、トラ、チーターに豹……猫科の猛獣たちが可愛いのもまた真理と言って良い。
ならば、猫科そっくりの巨獣はどうだろう?
身長20メートル、眩い電撃を放ち、その咆哮は雷鳴の如く。ドラゴン化で人語を解し、なんと空まで飛んでみせる。
そんな緑雷獅子サンダーライオは、果たして可愛くないのだろうか?
答えは否だ。
断じて可愛いに決まっているのだ。
歴史も時間軸も関係ない絶対にして不変の真理を、これより6人の復讐者たちは知ることになる――!!
●二
大きな塊の豚肉に、生の鶏肉が丸ごと、更には枕のように巨大なブロック肉が数個。
復讐者たちが新宿島から運んで来た肉の山は、運搬用の大型台車に乗ってゴンドワナの密林に運び込まれた。
「ふむ。なかなか大量の肉が揃いましたね」
巨大砂上船『サフィーナ・ミウ』の停泊地点に程近い場所、復讐者たちが設けた準備用スペースへ、平良・明(嶺渡・g03461)は怪力無双で台車をガラガラと運んでいく。そこに載っている肉の量たるや、復讐者6人では半月かかっても食べきれぬであろう程だ。
相手が巨獣では足りない恐れもあるが、不足分は他の仲間が現地調達に向かっている故、問題は無い。捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)はサンダーライオとの邂逅を待ち侘びながら、てきぱきと支度を進めていった。
「ふふっ、お腹が空いている巨獣チャンには、お肉のプレゼントに限りますね!」
触らせてもらう為のご機嫌とり――そう称して彼女が用意したのは、新宿島の肉屋から譲ってもらった豚の吊るし肉。
肉食の獣にとって、これほど素敵なご馳走もそうあるまい。残留効果の隠し味もバッチリで、後は結果を待つのみだ。
「もふもふ巨獣チャン、早くお手入れをしてあげたいですね……あっ、お帰りなさい皆さん!」
「ただいまだぜ! 狩りの成果、バッチリだぜ!」
そこへ戻って来たのは、グレン・ゲンジ(赤竜鬼グレン・g01052)ら狩猟チームの面々だった。
足りない肉を補うために現地調達を行った彼らの成果は、小鹿サイズの恐竜が6匹。新宿島から運んで来た肉も合わせれば上々と言えるであろう。獲物の下処理を手早く済ませ、籠室・楓(人間のレジスタンス諜報員・g02213)は仲間たちとともに粛々と作業を進めていった。
それから程なくして、恐竜たちは残らず綺麗な肉となって復讐者の前へ並べられた。
「準備は出来ましたね。あとは仕掛けるだけです」
「こうして見ると、なかなか美味そうだな……やっぱサンダーライオも毎日たらふく食ってるんだろうな」
「んふ。やっぱり美味しいお肉が目の前に現れたら、食べざるを得ないよね!」
切り分けた肉の中から適当な物を見繕いながら、杏・紅花(金蚕蠱・g00365)が頷いた。
重点的に選ぶのは肉質が良く、かつ食べ応えがありそうな部位だ。腹を空かせたサンダーライオも、新鮮な肉の方がきっと嬉しいだろう。ご機嫌の巨獣が肉を食べる様子を想像し、紅花は期待に目を細める。
「おっきなおっきなどーぶつさん♪ 征服とか蹂躙とか考えずに自由気ままにのんびり生活してるとこ、見てみたいな♪」
そうして紅花が支度を完了する一方、楓は恐竜肉の切れ端を焚火で炙り始める。
未知の肉を味見したいという好奇心と、焼いた肉を口福の伝道者で増やせないかという挑戦心。二つの心に背を押されて、こんがり焼き上がった肉の味は、果たして――。
「成程、悪くない味ですね……脂身の無い、淡白寄りの味でしょうか」
塩かタレで味を加えれば現代人の好みにも合うかも――食味の評価は、ざっと言えばそんなところだ。
口福の伝道者はといえば、残念ながら発生しなかった。味見レベルの量では『食事』の条件を満たさないのだろう。狩ってきた肉を、皆で丸ごと完食するくらいなら結果は違ったかもと思いつつ、楓は気を取り直して支度を整え始めた。
程なくして全員の支度が終わると、目標ルートに肉の設置を終えた紅花が、光学迷彩で樹上に身を隠す。
続けて楓らも光学迷彩を発動し、木陰や茂みに身を潜めた。
いっぽう明とグレン、そして秋果はサンダーライオの気を引くため、あえて姿はそのままだ。
「さて。そろそろですか」
全員が配置に着いたのを確かめて呟く明。果たして其れから程なく、密林が俄かに騒がしくなった。
何者かを恐れるように、翼竜の群れが一斉に空へと逃げていく。次いで林の奥から響いて来たのは、木々がバキバキとへし折れる音。そして雷鳴のごとき咆哮だ。
「ふむ。どうやら来ましたね」
明の視線が、仲間のそれとともに、音の方角へ向けられる。
果たしてそこに現れたのは全身から怒りの緑雷を放ち、密林を突き進むモフモフなサンダーライオの姿であった!
『ボルルルル……サフィーナ・ミウ、破壊スル!!』
地響きを立てながら巨大砂上船めざして進む、怒りの緑雷獅子。その全身から放たれる雷鳴たるや凄まじく、目を閉じても瞼の上から稲光が網膜を焼くかのようだ。月下部・小雪(おどおどサマナーところころコダマ・g00930)は、ぶるぶる震えるモーラット・コミュのコダマを抱き締めて、木陰の隙間からサンダーライオの様子を伺い見る。
(「むむむっ、とても大きなライオンさん、ですね。すごくイライラしてるのが伝わって、きます」)
小雪は仲間たちと視線を送り合い、小さく頷きを交わす。
彼女ら復讐者側も、並のアヴァタール級なら余裕で勝利出来る戦力を揃えているが、それでも正面から戦えば相応の被害が出るであろうことは分かる。故に、ここで選ぶべきは戦闘に非ず。あのモフモフ巨獣のストレスを取り除いて、ドラゴン化を解除するのだ!
(「何というか……本当に猫みたいですね。ですがそれなら攻略の術はあります、確実に力を除きましょう」)
(「そうしましょう。ス、ストレスの源、取り除いちゃいましょう!」)
小声で告げる楓に、小雪が頷きで返す。
確かに敵の見た目は恐ろしい。だが6人の復讐者たちは、サンダーライオ攻略の術をすでに揃えているのだ。
腹回りの乱れたモフモフの毛を見て、復讐者たちは思う。あれを毛繕い出来ない苛立ちは如何ほどだろうと。
立派な角を大木へしきりに擦りつけるのは、あの辺りが痒くて堪らないからに違いない。そのストレスを思い、復讐者の心には使命感がメラメラと燃え上がる。
これは是が非でも痒い所を掻いてやらねば。一緒に腹回りの毛並みも整えて、あわよくばモフモフも堪能して、ドラゴンの力から解放してやらねばならないと!
「でかいにゃんこさんですね。丁寧によしよしして差し上げましょう」
いまだ触れられぬ毛並みを愛でるように、明は両手をわしわしと動かした。
巨獣のコリコリとモフモフを堪能し、ドラゴン化を解除するため。そして、サフィーナ・ミウを守るため。
復讐者総出の大作戦が、今ここに始まる――!
●三
『ボルルルル……サフィーナ・ミウ破壊……ボルルルル……道端ニ肉……肉?』
サフィーナ・ミウへと続く道のど真ん中。そこに置かれた新鮮な肉に、サンダーライオは目を丸くした。
ちょうど小腹が空いてきたところへ、待っていたかのように肉があるのだ。無論、それが紅花の設置した物であることを、サンダーライオは知る由もない。
(「よしっ。かかりました!」)
だが秋果は、この時点で成功を確信していた。
判断の根拠は、サンダーライオの表情。猫がチューブ状のネコ用おやつを目の前にした『あの顔』とそっくりの表情をしていたからだ。とはいえドラゴン化の力はいまだ解除されていない。ドラゴンの声と巨獣の本能、その二つがサンダーライオの中で葛藤を始める。
――まずはサフィーナ・ミウを破壊せねばならない。恐らくは、少し先の巨大な丸っこいあれがそうだろう。
――目の前にあるなら、急いで壊す必要はない。今の自分に敵う敵などいる筈がない。
――破壊が先だ。
――いや、肉だ。
――まずは破壊を……
――肉! 肉といったら肉!! 肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉!!!!
苦悩すること約2秒、果たして勝ったのは本能であった。
紅花が設置した肉に誘われて、サンダーライオはサフィーナ・ミウへのコースを少しずつ逸れていく。そうして歩いた先に待っていたのは、明とグレンと秋果が積み上げた肉の山。その隣には、楓が事前に切り開いておいた昼寝用のスペースだ。ご丁寧にも、丸まって寝るのにちょうど良い穴まで作ってある。
『肉……肉! ボルルルル!!』
肉の山に鼻先を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐこと暫し。
サンダーライオはおもむろに肉へ齧りつくと、ものも言わずにむちゃむちゃと音を立てて食べ始めた。
苛立ちの鎮まりを示すように、全身を覆っていた雷がふっと消える。紅花はすかさず背後から忍び寄ると、一思いに背中へ飛びついた。
(「わ~……モフモフ……すっごいモフモフするよ! ほらほら明サン、皆も! 早く早く!!」)
あまりの心地よさに一瞬我を忘れつつ、紅花は小声で仲間たちを手招きした。それを合図に、道具を持った復讐者が次々にサンダーライオのモフモフめがけてダイブする。一番乗りで飛び込んだのはグレンだ。そこへ続いて小雪が、明が、我先にと飛び込んでいった。
「肉はぜ~んぶプレゼントするぜ! たらふく食ってくれよな、サンダーライオ!」
「こ、コダマ、はぐれないで下さい……!」
「多少とはいえ話が通じるのは有難いですね。失礼しますよ、っと」
そこへ続いて飛び込む、楓と秋果。
「この毛並み、実に素晴らしいですね。柔らかい布団に包まっているようです」
(「お肉、気に入ってくれたみたいで良かった。おいしくなあれの隠し味、効いてくれたかな」)
そうして秋果らを迎え入れたのは、温かくてフワフワの毛並み。肩や腰まで埋まるほどの毛をかき分けて、6人は角の方へ向かっていく。サンダーライオも復讐者の存在には気づいている筈だが、振り払う素振りは全く見せない。『良きに計らえ』ということだろう。
「先程から頻りにツノを擦りつけていましたね。ひょっとして痒いのですか?」
『角……痒イ……トテモ痒イ』
腹が満ちて機嫌が良いのか、サンダーライオは明の問いに素直な返事を寄越した。
今ならば、多少の粗相は大目に見てくれそうだ――そんな手応えに、明は得たりと頷いて、
「成程、ツノの辺りが痒いと。では、掻いて差し上げましょう」
大きな木の棒を掲げてみせた。巨獣の痒い場所を掻くために用意した、専用の掻き棒――楓がスペースを切り開く際、伐採した木を利用したものである。
明と揃ってグレンも同じものを掲げてみせると、巨獣の頭頂部から左右へ分かれ、角の生え際へと向かっていく。
「ここか? ここがええんか? わー、でっかいモフモフ、かわいいなあ~!」
「ふむ。この辺りでしょうか?」
棒の戦端を角の生え際に添わせ、がりがりと掻き始めるグレンと明。
多少力を込めた方が気持ち良いだろうと、ぐっと体重をかけて行う。まずはまっすぐ、次は先端で叩くように。
がりがり、とんとん、がりがり、とんとん。心地よいリズムを響かせて、明とグレンのマッサージが始まった。
「ふむ? 反応がありませんね――」
「いや待て。何か音がする!」
果たしてグレンの言った通り、ふいにサンダーライオの身体から奇妙な音が聞こえ始めた。
巨大な石が坂道を転がるような、ゴロゴロという重い音。それが喉を鳴らす音であることに紅花はすぐに気付く。先程まで苛立ちを露わにしていたサンダーライオの両目は、気づけば快感で糸のように細く閉じていた。
「あ~、すっごいいい感じ! このままどんどん行っちゃお!」
紅花が最初に向かった先はサンダーライオの耳だった。
猫科の動物は身体の構造上、舌が届きにくい場所が幾つかある。その一つが耳――正確には、その付け根だ。
「えーい♪ わしわし、わしわし♪」
木を削りだして作った爪で、紅花が鬣に隠れた耳の付け根を掻く。
鬣より短い柔毛の流れに沿って、荒く梳いてやるように。そうして耳の外にそっと手を添えると、湯たんぽのような温かさが毛の下から伝わって来た。マッサージの効果は抜群で、血行が良くなったのだろう。
巨獣が鳴らす喉の音はいよいよ大きい。本能を取り戻しつつあるその姿に、紅花は思わず頬を緩ませた。
「よーし、次はアゴのあたりを思いっきり行ってみよっ!」
『頼ム……良イ……頼ム……』
ぺろりと肉を平らげて、サンダーライオはご機嫌で喉を鳴らす。
それと同時、大きな身体を包む不自然な威圧感がじわりと薄れ始めるのを、復讐者たちは確かに感じ取るのだった。
●四
楓が設けた昼寝スペースで、サンダーライオは身じろぎせずに復讐者たちのもてなしを受け続けていた。
紅花が顎の周辺を掻いてやるたび、大きな口の隙間から快感の呻きがぐるぐると漏れる。明とグレンが角の際を掻くのに合わせ、大きな尻尾をブンブン振っているのは上機嫌の証であろう。
もはや巨獣の頭からサフィーナ・ミウ破壊のことなど消えていることをその場の全員が確信しつつ、マッサージ――もといドラゴン化解除の戦いはさらに続く。
「あまりの気持ちよさに眠くなって、言葉を失い野生を取り戻すとよいです」
「あー、可愛いなー可愛いなー。何か、こっちの語彙まで無くなっちまうぜ」
「ここからはお待ちかねのブラッシングタイムですね。もっと上機嫌になって貰いましょう!」
「い、いきましょうコダマ! きょ、巨大にゃんこトリミング作戦、発動です!」
明とグレンが角を担当する傍らで、秋果は全身の毛を梳いてやることにした。そこへ小雪とコダマも加わって、猫(小雪をはじめ、殆どの復讐者の中では既にそうなっていた)のトリミングを開始する。
「ボ、ボクたちは気持ちよくさせる側に回りましょう! ま、間違ってコダマが食べられちゃったら大変、ですから!」
小雪が用意したのは大きな千歯扱。主に稲を脱穀するための道具であるが、それを巨獣専用の櫛に見立てたのだ。歯の部分に竹を用いたのは、鉄の質感や冷たさでサンダーライオをびっくりさせない為の心遣いある。
まずは長く硬い鬣を中心に毛を梳いていく。
小雪の肩まで浸かるような毛並みを懸命にかき分けつつ、絡まった所は丁寧に解し、頭骨から背骨に添うように鬣のラインをぞりぞりと整えていく。梳いては戻し、梳いては戻し――鬣に突き刺す竹の歯が奥の皮膚を軽く叩くたび、心地よい刺激に巨獣の巨体がふるりと震えた。
サンダーライオは抗議の声など上げる筈も無く、欠伸をしながら前脚をペロペロと舐めている。最高の気分らしい。
「ブラッシングはコダマで慣れています! この調子で気持ちよくなって、もらいましょう!」
確かな手応えに小雪は発奮して、サンダーライオのトリミングを更に進めて行った。
願わくば、この至福の時間がほんの少しだけ長く続いて欲しい――そんなことを願いながら。
「わわ、毛が長い、というか深い……!」
そうして鬣のトリミングが始まって程なく、秋果は短い毛の集まる腹の方へと向かうことにした。
用意したのは馬用のブラシだったが、鬣にはまるで歯が立たなかった為だ。立たれたままでは少々やり辛いので、秋果は意を決してサンダーライオに呼びかける。
「巨獣チャン、お手入れしやすいように横になれます? ごろんです、ごろーん!」
『ゴロン……? ゴロン……ボルルル……』
するとサンダーライオは、楓が設けた昼寝スペースに身を横たえ、うつらうつらと船をこぎ始めた。
堂々と晒されたモフモフの腹。そこへ秋果はゆっくりとダイブする。柔らかい毛を通して上下する大きな腹は、狂暴な巨獣とは思えぬほどに温かく柔らかい。柔毛の海に顔を埋めたくなる衝動を堪えつつ、手にしたブラシで丹念に丹念に、腹回りを撫でつけていく。液体のように蕩けたサンダーライオは、もはや秋果に為されるがままであった。
「いやー凄いですね。毛玉が! 抜け毛で毛玉がたくさん!」
秋果は休むことなくブラシを動かしながら、サンダーライオの身体の造りに軽い驚きを感じていた。
腹回りを梳いて取れた産毛が作業の邪魔にならないよう、スイカほどの大きさの毛玉にして纏めているのだ。
おかしいのはその数で、開始から十数分で十個を優に超えていた。サイズ比率的には換毛期の猫と比べても決して多くない量だったが、何しろ相手は20メートルという巨体である。秋果はブラッシングの手をいったん止めて、大量の毛玉を一つに纏めていった。
(「ふふふ。終わったら、まとめて巨獣チャンに見せてあげましょう!」)
そんなこんなで、作業はいよいよ終盤にさしかかろうとしていた。
「た、鬣の方は終わりました。ボクも手伝います!」
「人手が必要のようですね。私も手を貸しましょう」
小雪と楓が作業に加わったことで、腹回りのブラッシングは順調に進んでいった。
馬用のブラシで、千歯扱で、即席で拵えた木製の大型櫛で、乱れてしまったモフモフの毛並みが完璧に整えられていく。
秋果の作った大きな毛玉を玩具に一層ご機嫌のサンダーライオ。程なくして、明とグレンもまた角の生え際すべてを存分に掻き終えてやった。かくして巨獣を苛むストレスの源は、復讐者たちによって綺麗に取り除かれたのである。
「毛づくろい、ナイスコミュニケーションですね」
「あ、なんか前脚ニギニギし始めたぞ」
「わ~、すっごいリラックスしてる♪ 巨獣ちゃん、塩梅はどう?」
『ボルルルルルル……ボルルルル……zzz……』
紅花の問いかけにサンダーライオは言葉をもって語らず、喉を鳴らして応じると、ご機嫌で寝息を立て始める。
そこに、ドラゴン化の力で歪められた気配は最早ない。いま復讐者の前には、繕われた毛並みで大地に身を横たえて、本能のまま惰眠を貪る1体の巨獣がいるのみだった。
●五
『zzz……zzzzz……』
「熟睡だな、こりゃ。当分起きそうにねえぞ」
仲間と共に全ての作業を終えると、グレンはサンダーライオの寝顔を見上げながら言う。
ドラゴン化の解除によって、サフィーナ・ミウは一切ダメージを負うことなく守られた。大成功を超える超成功の達成感を胸に、復讐者たちはグッと拳を握る。
「襲い掛かってこなければ、おおきなにゃんこさんなんですけどね……コダマも、お疲れさまです!」
小雪は額に浮かんだ汗を拭って、ふぅと安堵の吐息を漏らした。
船に戻ったら、コダマにはお疲れさまのブラッシングをしてあげよう。これから始まる探索の為にも、休息は十分に取っておきたいから。
一方、明と紅花は、サンダーライオの頬を別れの挨拶にそっと撫で、未だ見ぬゴンドワナの広大な大地に目を向ける。
「巨獣たちは本来どのような暮らしをしているのでしょうね。ゴンドワナ、興味深くてたまりません」
「うんうん。本当に謎だらけのディヴィジョンだよね」
未知を探索する好奇心に目を輝かせながら、紅花は熟睡するサンダーライオを振り返った。
モフモフの腹を晒してまどろむ姿は、捕食者に狙われる動物には決して取り得ない寝相だ。それはそのまま巨獣が持つ余裕の表れであるのだろう。
本能のままに生きる姿に好もしさを覚えつつも、紅花は同時に考えてしまう。もし、この世界に断片の王がいるとしたら、そんな巨獣さえも本能で従ってしまう程の存在なのだろうか、と。
(「やっぱり、マボロシの巨獣って呼ばれそうなくらい大っきいのかもなあ……!」)
その大きさは、強さは、どれ程なのだろう。
この先で自分たちを待つのは、どんな世界なのだろう。
一度巡り始めれば、紅花の興味はもう止まることを知らなかった。
(「ふふっ。夢が広がるう~♪」)
未踏の大地、未知なる脅威。
そこに待つであろう、大いなる謎。
尽きることのない興味と憧れに背中を押され、紅花は仲間と共にサフィーナ・ミウへと乗り込んだ。
かくして、危機を回避したサフィーナ・ミウは発進していく。
復讐者たちと、彼らの想いを乗せて、未だ見ぬ脅威が待ち受ける大地へと。
出発地点、ケニア北端から南へ300kmの密林。これより巨大砂上船が向かう先は、果たして――。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【動物の友】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
危機を脱したサフィーナ・ミウは、ゆっくりと密林を出発していった。
これより向かう先は、復讐者たちの一存で決められることだろう。
21世紀地球のケニアには、自然のランドマークが幾つかある。
代表的なものを挙げるなら、ひとつはヴィクトリア湖、もうひとつはキリマンジャロ山。
そしてサフィーナ・ミウの現在地は、ちょうどその二つの行先の分岐点付近にあった。
『ヴィクトリア湖なら南西へ』、『キリマンジャロ山なら南東へ』。
ゴンドワナの地形が21世紀地球の同じである保証は無いが、大まかに言えばそうなるだろう。
無論、それ以外の場所を探す選択も、復讐者たちは選ぶことが出来る。
ただし周囲は巨獣が跋扈する危険地帯。飛翔で地形を確認することは不可能だ。加えて、他のチームも並行しながら探索を行っている為、望んだ場所に必ずしも辿り着けるとは限らない点も留意が必要となる。
特定の場所を目指して進むか、方角を先に決めて進むか。
すべては復讐者たちの選択に委ねられている――。
杏・紅花
おっきくてもにゃんこはにゃんこだなあ〜っ
たくさんお肉を食べる姿、ごろんと気持ちよさそうな姿、とっても自然でかわいかった!!
ヴィクトリア湖を目指してみよう〜
水は低きに流れるかな、土地の高低差もよく見ながら向かいたいところ
恐竜の時代とはいえ、小さい生物はなにもいないのかなあ
【光学迷彩】で目立たないようにして、生き物の気配をよーく探すぞお
歴史の改竄が目的なら、そもそもニンゲンが誕生するのを生態系として防ぐため、とか?
恐竜がいる土地だけど、イキモノって水が絶対必要だと思うから、ニンゲンとかイキモノの生態系をぶっ壊したかったら、水無くしちゃうのが手っ取り早そう
でも巨獣ちゃんたちにもごはんが必要みたいだし、水は無くせないだろうから〜…
巨獣ちゃんたちに知性を持たせて、巨獣ちゃんが世界に蔓延って、ニンゲンが発生する前に支配できる文明を持たせたい!ってのが狙いなのかなあ
ヴィクトリア湖は、イキモノをたくさん育ててくれそうだし
でっかい水棲巨獣がいて、イキモノ喰らい尽くしてたりして〜
月下部・小雪
ふぅ、とってもおおきなにゃんこさん、でしたね。
みんなで行先を相談しながら、約束通りコダマのことをブラッシング、してあげます。
さっきのにゃんこに負けないくらい、コダマをもふもふにしてあげます!
と、とりあえず、前のチームが向かっていたヴィクトリア湖に向かいましょう!しょしかんてつ、です!
行先が決まったら、もふもふになったコダマをサフィーナ・ミウの船長席に乗せちゃいます。
今日はコダマがサフィーナ・ミウの1日船長さん、です!
コダマのもきゅーっという掛け声を合図にして、ヴィクトリア湖に向けて出発進行、です!
現代でヴィクトリア湖のある南西方向に猫さんのお船、サフィーナ・ミウがどんどん進んでいきます。
ヴィクトリア湖はとっても大きな湖らしい、です。琵琶湖より大きかったり、するのでしょうか?
琵琶湖くらいに大きかったら、巨獣たちがお腹いっぱいお水を飲んでもなくなったりしない、でしょうね♪
※アドリブ連携大歓迎
捌碁・秋果
※連携アドリブ歓迎
巨獣チャンと戦わずに済んだことが嬉しい
クロノヴェーダと我々は相容れないと言われているけど、新しい可能性を提示されたようで…
…戦いも犠牲もなくこの大地を奪還する。都合のいい話ですが、お互いに痛みもなくそれが達成できたらって思うんです
さあ!南西のヴィクトリア湖を目指してヨーソロー!
最終人類史のヴィクトリア湖を調べたら面積6万8千平方キロの湖とありました、見当がつかない大きさ
これだけ大きかったらネス湖のネッシーみたいな首長竜がいるかもしれない。ヴィクトリア湖だからヴィッシー?
見たらこの目に焼き付けてソフトパステルで描き残します
ヴィクトリア湖は大きな水場。水を求めていろんな生き物が集まるはず。
録画撮影状態の携帯端末をドローンに括りつけて飛ばして水辺を撮影します。水を飲みに来た生き物が撮れたらラッキー。
あとは…人間以外の知的生命体がいる痕跡、たとえば足跡や車輪の痕なんて撮れないかな?この時代にそんな生命体がいたらロマンがあるよね!
●一
巨獣の襲撃を退け、密林を出発した復讐者たち。
未踏の世界をサフィーナ・ミウで進んでいく3人の会話は、とある共通の話題で持ちきりであった。
他でもない、ドラゴン化を解除したモフモフな緑雷獅子サンダーライオのことだ。
「おっきくてもにゃんこはにゃんこだなあ~っ。たくさんお肉を食べる姿、ごろんと気持ちよさそうな姿……とっても自然でかわいかった!!」
サフィーナ・ミウの操舵室。そこで幸せの余韻に浸るように杏・紅花(金蚕蠱・g00365)が頬を綻ばせる。
紅花だけではない。捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)と月下部・小雪(おどおどサマナーところころコダマ・g00930)もまた微笑みを浮かべ、しみじみと頷きを返した。
「巨獣チャン、本当にモフモフで……戦わずに済んで良かった……」
「はい……とってもおおきなにゃんこさん、でしたね……可愛かった、です……」
小雪はモーラット・コミュのコダマを膝に乗せて、もふもふの毛を梳いてやっている最中だ。ドラゴン化を解除するときに交わした念願が叶ってか、毛が梳られる度にコダマの口から幸せそうな声が洩れる。
程なくしてブラッシングが終わると、復讐者たちは次なる行先へ舵を切った。目的地は、全員の中で既に決まっている。
「皆さん、ヴィクトリア湖に向かいましょう! 前のチームが向かっていたようですし、しょしかんてつ、です!」
「ヴィクトリア湖だね。どんな生き物がいるか、気になるなあ~」
「異議なし。道中の操縦は交代しながら進もうか。最初の操縦は誰にする?」
ひとつの異論も出ることなく、行先は全員一致でヴィクトリア湖に決まった。続いて操船担当を決める段になって、小雪が恐る恐る手を挙げる。
「あ! ボ、ボクやりたいです……いいですか? あと、もし良ければ、コダマに1日船長さんを……」
「もちろん! 宜しくね♪」
「じゃ、頼んだよ。さあ、ヴィクトリア湖を目指してヨーソローだ!」
快く首肯を返す紅花と秋果。かくして小雪は操舵席で舵を握ると、進路を見遣った。
船長席に座るのはブラッシングで心機一転、もふもふになったコダマである。
「ふふっ。出発進行ですね、コダマ船長!」
もきゅう! というコダマの声を合図に、巨大砂上船はヴィクトリア湖目指して発進していった。
密林を出発したサフィーナ・ミウが、南西の方角へゆっくりと進んでいく。
船内で周囲の警戒を担当するのは紅花と秋果だ。幸いなことに巨獣の襲撃に遭遇することもなく、今のところ道程に危険はない。次第に小さな湖などの水場が増え始めた周辺の景色を見回しながら、秋果はふと憂いの溜息を吐いた。
(「ゴンドワナの巨獣か……私たちの戦う敵が、あの巨獣チャンのような相手だけだったら良いのにな……」)
もちろん、それが淡い幻想にすぎないであろうことは秋果も知っている。
自分たちは復讐者であり、巨獣たちはクロノヴェーダだ。そして両者は、本質的な部分で相容れることは無い。他の復讐者たちにとってもそれは同じで、いつか大地を奪還するという決意は常に不動だった。
(「けれど、もし……戦いも犠牲もなくこの大地を奪還できたら……」)
都合のいい話であると分かっていても、秋果は思う。
滅ぼす以外の選択肢で、お互いに痛みもなく自らの望みを果たせたら、どれほど良いかと。
(「……どんな結果で終わるにせよ、後悔だけはしたくない。その為にも、今は出来ることをやらないとね」)
そうして、胸を満たしそうになる感傷を振り切ると、秋果は再び意識を警戒に切り替えた。
いっぽう紅花はというと、先程から好奇心に目を輝かせ、水場の生物たちを観察するのに忙しい。
「ヴィクトリア湖、たのしみだなあ~っ! でっかい水棲巨獣がいて、イキモノ喰らい尽くしてたりして~」
大型の虫や小型の恐竜には時折遭遇するが、巨獣はいまだに姿を見せない。それが一層心を焦らすのか、視線は右に左にと何とも忙しかった。本来の歴史通りなら紀元前1億年には存在する筈の無いヴィクトリア湖だが、次第に増えていく水場は、この先にある大きな『何か』を予感させるのには十分だ。
「ふふっ。目的地に着いたら、いっぱい調査するぞお~!」
そうしてサフィーナ・ミウを進ませること暫し。
前進と迂回の繰り返しで漸進していた一行だったが、やがて周囲の眺めに大きな変化が見えた。
ひときわ巨大な湖が、道の先に見えたのである。視界の果て、視界一杯に広がるのはどこまでも続く水平線。今まで迂回してきた水場とは規模の桁が明らかに違う、壮大の一言に尽きる巨大湖だった。
本来の紀元前1億年には存在しない筈の場所。
最終人類史においてアフリカ大陸でもっとも大きく、世界で3番目に大きな湖。
その地の名前を、復讐者たちは知っている。
「つ、着きました。ヴィクトリア湖、です!」
感動で微かに震える小雪の声が、目的地への到着を告げた。
つい返事をすることさえ忘れて、秋果と紅花も眼前の景色をただただ圧倒された表情で眺めている。視界の端から端まで、水平線のどこにも対岸が見えない。それは湖と言うより、もはや海とでも言うべき景観だった。
「凄い……凄い……!」
気づけばソフトパステルで風景を描き始めていた秋果に、小雪が相槌を打つ。
「ヴィクトリア湖はとっても大きな湖らしい、ですね。琵琶湖より大きかったり、するのでしょうか?」
「最終人類史のヴィクトリア湖を調べたら、面積は約6万8千平方キロだって。琵琶湖に換算すると100個分くらいかな」
話す間も手を動かしながら、秋果は湖の情報を2人に伝えていく。
最終人類史のヴィクトリア湖のサイズは南北337km、東西250km。もしもゴンドワナのそれが同じなら、サフィーナ・ミウで一周するのに300kmの探索を4回ほど行う必要がある。それを聞いて、紅花と小雪は驚嘆の吐息を洩らした。
「ひぇ~……凄すぎて言葉も出ないなあ~……」
「凄いですね、コダマ船長! ヴィクトリア湖、本当にありましたね……!」
現代地球においてさえ規格外の大きさを誇る湖が、圧倒的な偉容をもって復讐者の前に広がっている。
その事実に3人はしばし言葉を忘れ、この眺めを独占する贅沢な時間に暫しの間浸るのであった。
●二
ヴィクトリア湖へと到達し、当初の目的をひとまず果たすと、復讐者たちは周辺の探索を行うことにした。
操船は秋果が交代し、サフィーナ・ミウが水辺に添って進んでいく。周囲に広がる景色、そこで生活する生物、その全てが3人の目を虜にした。
「わ~、凄い! 巨獣がいっぱい水浴びしてるよ!」
遠くの水場を眺め、紅花が目を輝かせる。
彼女の言葉通り、湖のあちこちでは群れを作って過ごす巨獣たちの姿が見えた。
力強い獣たちが大自然を闊歩する光景。それはまるで映画のワンシーンのような美しくも雄大な眺めであった。
「わ~、わ~~♪ すっごい!」
「これだけ広い湖なら、巨獣たちがお腹いっぱいお水を飲んでも大丈夫、でしょうね♪」
紅花と小雪の歓声に微笑を浮かべ、秋果もまた操舵席の窓から湖の水辺を眺める。
ネス湖のネッシーみたいな首長竜がいるかもしれない――そんな期待を込めながら見遣る先には、群れを成して暮らす巨獣たちがあちこちに見える。特に目を引いたのは、どの群れも争うこと無く平和に過ごしているということだ。いや、それだけではない。秋果らのサフィーナ・ミウを襲う気配さえ、巨獣たちは全く見せないのである。
(「多少の距離はあっても、巨獣たちがこの船に気づいていない筈はない。なのに、一体なぜ……?」)
目の前の光景にそんな疑問を抱いたのは、どうやら彼女だけではなかったらしい。
周囲の生物を観察していた紅花が、ふと期待に満ちた眼で秋果を振り返り、提案を告げて来た。
「ねえ、この辺りでちょっとだけ調査しよ~よ! 船の近くからは離れないから、ね?」
「お、面白そうです。ボクも調べてみたい、です!」
話を聞いた小雪も、すっかり調べる気になっている。
秋果は暫し思考した後、万一の襲撃にも対応出来そうな停泊場所を見繕って、頷きを送った。
現代地球において、ヴィクトリア湖は『ダーウィンの箱庭』と呼ばれるほどの多様な生態系を誇った場所だった。であればゴンドワナのそれも、調査すれば新しい情報が何か手に入るかも知れない。
「分かった、行ってみよう。でも、危なくなったらすぐ戻ろうね」
「りょうか~い! 生き物の気配、よーく探すぞお♪」
それから程なくしてサフィーナ・ミウを停泊させると、3人はヴィクトリア湖畔の調査へと向かって行った。
光学迷彩で身を隠した復讐者たちが、湖の周囲をゆっくり進んでいく。
そこで彼女たちが見たのは、窓から遠目に見たのと同じ光景――争うこと無く平和に暮らす巨獣たちの姿であった。
水辺で喉を潤す、岩山のように大きな巨獣がいる。互いに向き合ってマッスルポーズを取り合う、筋骨隆々のコアラめいた巨獣がいる。群れを成して水辺を渡る、牛のような巨獣たちがいる。
復讐者たちが今までに幾度か戦って来た、既知の種族の巨獣たち。だが、そうした巨獣たちと目の前の彼らには、決定的な相違点がひとつあった。
「巨獣たちが、攻撃してこない……?」
「そ、そうですね。……どういうことでしょう?」
驚きに息を呑む秋果に、コダマを抱きかかえた小雪が頷きを返す。
復讐者たちが目の当たりにした相違点。それは湖の巨獣たちが、復讐者を見ても全く襲って来ないということだった。
紅花は好奇心に飛び跳ねたくなる衝動を堪えながら、手当たり次第に巨獣を観察し始める。
「え~! なにこれ、すごい! どうしてえ~!?」
こっそり光学迷彩を解いてみても、刺激しなければ巨獣は怒る気配ひとつ見せない。時折、水辺から顔を出した巨獣が珍しそうにサフィーナ・ミウを眺めてくるが、砂上船が巨獣でないと知れば踵を返して元居た場所へ戻っていく。
秋果は目にした景色をひとつも見逃さぬとばかり、持てる道具を総動員して絵と映像を集めていた。巨獣を刺激しないようドローンは封印しての行動だ。首長竜や知的生命体の痕跡こそ見つからなかったが、今の興奮はそれに勝るとも劣らない。
『ブルルル……』
「いろいろな種類の巨獣がいるなあ~。探索を続ければ新種にも会えるかも!」
遠くから視線を送る牛型巨獣へ手を振ると、紅花が目を輝かせて振り返る。そんな彼女に、秋果と小雪も頷きを返した。
復讐者を見ても襲撃してこない巨獣たち――この事実ひとつとっても、明らかに此処は普通ではない。ヴィクトリア湖には何らかの秘密が眠っていることを、すでに全員が確信していた。
「巨大湖の謎か……これは詳しく調べる価値があるかも知れない」
「ほ、本格的な調査には、特別なパラドクストレインが必要になるでしょうね。この土地の謎、気になりますね!」
「探索も一区切りついたし、今回はこの辺で一旦戻ろうか! ん~、ますます夢が広がるう~♪」
新たに生じた謎と、湧き上がる好奇心に胸を弾ませながら、復讐者たちは帰還していく。
探索によって発見されたヴィクトリア湖。そこで平和な暮らしを営む巨獣たち。
いまだ明かされぬ秘密を覆い隠すように、夕陽を浴びた湖の水辺はゆっくりと夕闇に染まり始めていた。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【光学迷彩】がLV2になった!
【活性治癒】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】がLV2になった!
【命中アップ】がLV3になった!