キャメロット攻略作戦

 アイルランドに加えて、イングランド中南部を奪還した事で、幻想竜域キングアーサーの拠点である『キャメロット』の攻略が可能になりました。
 断片の王たるアーサー王の居城である、キャメロットの城は、侵入する方法が不明だったのですが、『マンクニウム』に近い防衛システムである事が判明しました。
 キャメロットの都市を護る『城壁』に、マンクニウムの『砦』に相当する、迷宮が用意されており、この迷宮を全て制圧しない限り、キャメロットの城に侵入する事が出来ないようです。
 キャメロット城壁迷宮に挑み、断片の王の元に向かう道を切り開きましょう。

●期限延長

 攻略旅団の提案により、攻略期限が1ヶ月間延長されました。
 10/22以降に公開されるこの事件のシナリオは、難易度が上昇します。

君は世界の王である(作者 離岸
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#幻想竜域キングアーサー  #キャメロット攻略作戦  #キャメロット 


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 かつり、かつり。靴音を響かせながら、冷気を纏った男……アヴァタール、『氷王・グレイシア』は自身が担当する迷宮を奥へ奥へと進んでいく。
 この迷宮において彼の響かせる靴音は日常の一つなのだろう。足音を聞きつけてグレイシアの元へ歩いてきたトループス『聖ティラミサ騎士団』の表情に、侵入者へ向ける剣呑な色は存在しない。
「やあ、お疲れ様」
 グレイシアに投げかけられた穏やかな声に、桃の鱗を持つ雌竜は恭しく頭を一つ下げて。
「はっ、グレイシア様。今の所こちらの迷宮に異常はありません」
「だろうね。いつも通りの静けさだ」
 キャメロットを護る城壁たるこの迷宮。その存在を知るものがそもそも少ないという所はあるが、挑む者の心と知力を試す仕掛け、そしてトループス級とはいえ歴戦の戦士と言って差支えの無いティラミサ騎士団が控えるこの場所が突破されたことなど、過去に一度も存在しなかった。
(「そして、これからもだ」)
 アーサー王がいる限り、このキャメロットを打ち崩せるものなど存在するはずがない。
 グレイシアはそう確信する。その姿を見たことこそない物の、それでもそう思ってしまう程の威光をアーサー王という存在から感じ取らずにはいられないのだ。
「ところで、最後の部屋の問いなのですが……」
 不意に隣の雌竜から向けられた言葉に、グレイシアは視線をそちらへ。
「ああ、中々よくできているでしょ?」
「……恥ずかしながら、私では解が分からず」
「君は数多のトループスの一人でしかない。王は凡百の気持ちを解さぬかもしれないけれど、君もまた王の孤独は分からない、そんなところだろうね。
 とはいえ極論、答えが分からなくてもしらみつぶしに部屋の中を探していれば突破できちゃったりもするから、謎としては失格だったりするんだけれどね。別解もきっとたくさんあるだろうし」
 それは流石にマズいんじゃないか。
 雌竜がそんなことを言いたげな視線を向けるに構わず、グレイシアは彼女に背を向け、迷宮の奥へとまた歩を進めていく。
「そのしらみつぶしの間を与えぬために君たち警備がいるんだ。この迷宮のことを、頼んだよ」


「まずは、《七曜の戦》、お疲れさまでした。皆さんの活躍で、最終人類史に多くの大地を奪還することに成功しました。ここに出向いていただいておいてなんですが、骨休めも忘れないでくださいね」
 結果で言えば大勝と言って差支えがなかったこともあるのだろう。新宿島グランドターミナルに集まったディアボロスを前に語る綾小路・桜(人間の妖精騎士・g03314)の声は、心なしか弾んでいるように見えた。
 とはいえ、これで何もかもが終わった訳ではない。
 当然の話を喋りながら思い出したのか、桜は一度視線を脇へ逃がして何度か咳払い。
「……失礼しました。けれど、まだ私たちの戦いは終わってはいません。《七曜の戦》を経たことでディヴィジョンの状況は各々大きく変化を強いられているでしょう。
 今後はその変わっていった状況に合わせた作戦が展開されていくことになるかと思います。引き続き、皆さんの力を貸してくださいね」

 さて。
 もう一度咳払いを挟んだのち、桜は目の前のパラドクストレインの行き先が幻想竜域キングアーサーであることをまず告げた。
「ドラゴンという強大な戦力を抱えるディヴィジョンではありますが、その分私たちのマークも厳しかった。そういうことでしょう。
 キングアーサーというディヴィジョンは《七曜の戦》を経た今、当初の支配領域を大きく失っています」
 アイルランド、マンチェスター以南、そしてかつて侵略していた妖精郷。ディアボロスに土地を奪い返されただけではなく、外へ向けた侵略の手……すなわち、巨獣大陸ゴンドワナも結果として彼らは手にすることはできなかった。
 この勢力を大きく減じたドラゴン勢力との決戦は、おそらく近い。
 このパラドクストレインが向かう先でディアボロスが打つ一手は、その決戦へ向けた更なる一手となることは間違いない。
「目的地は断片の王アーサー王の居城たるキャメロット、今回はその城壁に控える迷宮の攻略をお願いします」


 『マンクニウム』という単語を覚えているディアボロスも多いだろう。かつてマンチェスターを支配していたアグラヴェイン卿の居城を護っていたクロノ・オブジェクトだ。
 キャメロット城もまた、あの面倒なマンクニウムと同等のシステムが張り巡らされた城壁迷宮で周囲を固められている。
 すなわち、キャメロットへ挑む前にまず、この城壁迷宮の制圧が必要となってくるのだ。
「迷宮の存在を勘づかせないため、という所もあり、迷宮外部に警備の姿はありません。場所さえ分かってしまえば侵入そのものはさほど難しいものではありません。
 とはいえ、『迷宮』と銘打たれている以上侵入者を阻むための仕掛けはあるようですし、迷宮内部には警備のためのトループスも控えているようです。侵入してからが勝負となるでしょうね」
 今回制圧を狙う迷宮は、屋内にもかかわらず周囲に常に霧が満ちた空間のようだ。
 それだけならばさほど問題にはならないが、迷宮の入り口には『この先決して振り返るべからず』と刻まれた立て看板があるらしい。
 それが何を意味するか。新宿島からの予知と推論ではまだはっきりとわからないが……現地では振り返るな、と注意されていることを念頭に進むしかないだろう。
「迷宮の出口付近はトループスによる警備も厳重でしょう。おそらくこのあたりで一度敵との交戦に入ると思われます。相手はトループスといえど、キャメロットという断片の王のお膝元を護る存在です。決して油断しないようにお願いしますね」
 そして最後に。ここが重要だ、と言わんばかりに桜は指をピンと立てて。
「迷宮の最奥部には迷宮の根幹をなす最後の扉があるようです。こちらは何かしらの謎が用意されていて、それを解くことによって開くことが出来るようですね。開いた先にはアヴァタール級も控えているようですし、中々忙しい所ではあるでしょうが、何としてもこの迷宮の制圧をお願いします」


「たしかに、ドラゴン勢力はクロノヴェーダの中でも頭一つ抜けた強さを誇っていました。ですが、繰り返しとなりますが今の彼らに私たちが活動を始めたころの勢いは最早ありません」
 それは、これまでのディアボロスの活躍によるところが大きい。
 彼らを大きく追い込んでいるのは間違いない事実だ。とはいえ、ドラゴンたちがゴンドワナの巨獣を傘下に加えようとしている動きもキャッチしている。彼らを放置し巻き返しが成ってしまう可能性だって、決してゼロではない。
 理想を言えば、ドラゴンたちの戦力再建が成立するよりも早くキャメロットを攻略し、キングアーサーというディヴィジョンへ決戦を挑みたいところである。
「改めて、今回の作戦はドラゴン勢力へ決戦を挑むための第一歩です。城壁迷宮の謎は一筋縄ではいかないものも多いようですが、頑張ってきてください」
 今回も、よろしくお願いします。
 そう言葉を〆て、桜はディアボロスたちへ向けて深々と頭を下げた。


 迷宮を満たす白い霧を抜けた先、迷宮の最奥部。そこには綾小路桜の語った『最後の扉』へと続くのだろう、小さな扉が一つ存在している。
 扉を開いて入った先は、起きて半畳……ではないが、とにかく狭い部屋だった。
 下手をすれば半畳もないような狭い部屋だというのに、その中に詰め込まれた物がまたとんでもない量なのだからたまったものではない。雑多に溢れる物の山が部屋に入る者から足の踏み場というものを物理的に奪っているような有様だ。
 こんな状況では、この部屋の中を捜索できるのは一人が限度であろう。
 さて、その部屋――もはや物置と呼んでもいいのかもしれない――の中。藁だの木片だの麦の穂先だの、ジャンルを問わず目に入ったものを端から詰め込んだと言っても過言ではない瓦礫の山をひっくり返しながら、先へと進む手掛かりを探す。
 何種類かの人形が収められた袋、ボロ布を被せた姿見、いくつかの錆ついた槍の穂先……そんな、ガラクタにしか見えない物品をかき分けながら部屋の中を探すことしばし、ふと足元に視線を落とすと、何か文字が床に刻まれているのが目に入った。


 この部屋の中は君だけの世界であり、君は世界の王である。
 ある日、王たる君は『彼』と出会うことを欲してしまった。
 君の部下たる騎士であれば何人かの『彼』と出会うことが出来るだろう。畑を耕す農夫であれば、もっとたくさんの『彼』と出会うことが出来るだろう。
 けれど君だけは。唯一この世界で君だけは、『彼』と出会うことは不可能だ。
 『彼』を求めよ、世界の王よ。『彼』の姿を覗き込んだ時、道は開かれるだろう。


 子供の落書きのようなへたくそな文字。けれど、こんな思わせぶりな文言をいたずらで済ませることが出来るほどこの部屋には情報というものが足りていない。
 『彼』とやらがこの場を切り開く文字通りの鍵となりそうではあるが。さて。

 この世界の中で出会うことのできない彼とは、どこにいるのだろうか。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【傀儡】
1
周囲に、ディアボロスのみが操作できる傀儡の糸を出現させる。この糸を操作する事で「効果LV×1体」の通常の生物の体を操ることが出来る。
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
1
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果は特記なき限り併用できない)。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【セルフクラフト】
1
周囲が、ディアボロスが、一辺が1mの「コンクリートの立方体」を最大「効果LV×1個」まで組み合わせた壁を出現させられる世界に変わる。
【エアライド】
2
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【建造物分解】
1
周囲の建造物が、ディアボロスが望めば1分間に「効果LV×1トン」まで分解され、利用可能な資源に変化するようになる。同意しない人間がいる建造物は分解されない。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【命中アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV2 / 【反撃アップ】LV2 / 【ラストリベンジ】LV1

●マスターより

離岸
 離岸です。
 あちこちで動きが見えますが、一つ一つしっかりクリアしていきましょう。
 ということでまずは幻想竜域キングアーサーからお送りいたします。

 以下、補足です。
 シナリオ選択肢は①→③→②→④を想定しています。
 迷宮を探索し、その道中で遭遇するトループスを撃破。しかる後に迷宮最奥の謎解きをするとその奥でアヴァタールが待っています。
 このアヴァタールを撃破すれば、この迷宮は制圧したことになります。

 ①について:
 侵入した城壁迷宮を進んでいく選択肢です。入口には『この先決して振り返るべからず』という看板があります。
 迷宮内部は白い霧で包まれている空間となるようですが、特に残留効果等使用せずとも問題ない程度の濃さでしかありません。フレーバーだと思ってください。
 (PL情報)
 迷宮を進んでいくと、後ろから呼びかける声が聞こえてきます。
 助けを求める誰かの声、近しい隣人の呼び声、今はもういない大切な人からの声……自分にとって思わず振り返らずにはいられない声が響いてきます。どんな声が聞こえてくるかはプレイング内でご指定ください。
 うっかりそれに釣られて振り返ってしまうと入り口に戻されてしまうので、心を強く持ち進んでいく必要があるでしょう。
 また、この迷宮内ではパラドクス・残留効果の使用が制限されます。うっかり使えば振り返った時同様に入り口に戻されてしまうのでご注意ください。(※プレイング内で使用を宣言するとNG、の意です)

 ③について:
 ①の迷宮の出口辺りで遭遇するトループスの群れです。この選択肢では①での「パラドクスは使用できない」は適用されないのでご安心ください。普通の戦闘選択肢です。

 ②について:
 迷宮最奥部にて謎に挑む選択肢です。
 舞台となるのは猫の額のような狭い面積+色んなもので埋め尽くされた結果、子供でも捜索できるのは一人が限度であろう、というくらいに足の踏み場もない部屋です。
 OP中文言内の『彼』を見つけることが出来れば先へ進む道が開かれるようです。
 答えが分からない場合も都度ヒントをお出ししますので、お気軽にご参加ください。実は極論部屋をしらみつぶしに探すとクリア出来たりもしますが、頑張って解いてみましょう。
 なお、部屋の中に詰め込まれている物品に今後の展開につながる重要な物は一切存在しないのでご注意ください。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
29

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


天夜・理星
ほーう。
七曜の戦でキングアーサーはかなり不安定か。迷宮見つけたらもうキャメロットのとこ? やっば。
じゃあ着実に突破していかなきゃじゃん。

さて、第一歩として迷宮を見つけて進んでいくよ。
なになに…『この先決して振り返るべからず』?
態々そう書くってことは、そうさせたいだけの何かがあるってことだね。…名前なんてったっけ、『マンクニウム』、それに似たようなやつなのかな。
霧の方も特に視界を著しく妨げるだとかそういうのは無さそうだから、一歩一歩進んでいくよ。
…だが、声が聴こえたなら、その理由に気付くだろうさ。

声の主が、分からないんだ。
刻逆に巻き込まれる前の家族、昔の友達。その全員の顔と名前を思い出せない。
だからこそ、振り返らず進んでいけるんだ。酷ではあるけれど、それほどに、取り戻さなきゃって想いが湧いてくるんだ。
何処だ〜迷宮の謎がある地点は…? アタシたちディアボロスが、見つけてやるぜ〜……♪

……つっら。
いい加減、思い出してもいいのにさ。

パラドクスは、使ったらやばそうだな。
だから今は使わないでおくよ。



「なになに……『この先決して振り返るべからず』?」
 潜入した迷宮の入り口に立てられた看板をしげしげと眺めながら、天夜・理星(復讐の王・g02264)はあごの辺りに手をやって「ほーう」、そんな風に呟いた。
 わざわざそんなことを書いて知らせるということは、そうさせたいだけの何かが進む先に待っているということに他ならない。時先案内人の説明でも出てきた単語であるマンクニウムとやらにもそんな仕掛けがあったりしたのだろうか。
 周囲を包む白い闇を理星は一度ぐるりと見渡した。確かに霧によって視界が悪くなっている状況とはいえ、足元を見失う程の濃さではない。一般人であったとしても、例えば登山を嗜む人間であれば一度くらいは経験したことのあるだろう、その程度のものだ。
 とはいえ、この霧自体に大きな意味はないのかもしれないが、七曜の戦を経てキングアーサーというディヴィジョンの情勢は間違いなく不安定になっている。
 パラドクストレインが導くこの先を突破すれば、そこはもうキャメロットである、という事実は間違いなくその証左だ。
「やっば」
 若者の感覚として、そう評さずにはいられない。
 であれば、なおさら着実にこの迷宮を突破する必要がある。
 その一歩として、まずはこの霧の中の迷宮を進んでいかねばならないだろうと。そう判断を下した理星は、霧の向こうへの警戒を怠ることのないままに、白が濃くなっていく方向へ向けてまずは一歩を踏み出した。

『天夜さん』
『理星!』
 霧の中を進むこと数分。自身の耳朶を打つ背後からの呼び声が次第に大きくなっていくにつれて、理星は入り口の看板の意味を察する。
 おそらくは迷宮を進む者にとって近しい存在の声を投げさせることで、振り返りたい気持ちを誘発させる迷宮の仕掛け。
 わざわざ振り返るなと入り口で警告しているのはこれが理由だろう。その誘惑に駆られて振り返った結果何が起こるのか……それは分からない。
 同時に、理星には聴こえてくる声たちが誰のものなのか、それも分からないでいる。
 耳に響く声の正体は、おそらく脳の奥底でわずかに舞い上がった滓を拾い上げて再生される家族やかつての友達……そういった存在の物なのだろう。
 刻逆に巻き込まれる前には確かに存在していたはずの大切な人たち。今振り返れば彼らの姿を見られるのかもしれない。そう思う気持ちは確かに彼女の中に存在する。
「何処だ~迷宮の謎がある地点は……? アタシたちディアボロスが、見つけてやるぜ~……♪」
 けれど。いや、だからこそ。彼女は声の響く背後を振り返ることはしない。人によっては薄情とも断じてしまうかもしれない態度はしかし、『取り戻さなければ』という想いが根底にあるからこそ。
 どこか軽い調子で独り言ちながら、復讐の王たる彼女は一歩、また一歩と迷宮の中を進んでいく。

『ねー、理星ってば!』
『聞いてって』
(「……つっら」)
 こうもダイレクトにヒントを与えてくれるのならば、いい加減何かしらを思い出してもいいものなのに。
 好奇心や郷愁をくすぐるように尚も囁き続ける声たちをいくら浴びても、自身の脳ミソは過去の何かと記憶を結び付けて浮かび上がらせてはくれないらしい。
 その事実は、取り戻すという想いはあれど理星の気持ちを暗くさせる。
 前へ、前へと足を進めながら、彼女は誰にも聞こえぬように小さくため息を漏らした。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【建造物分解】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!

ブロス・ブラッドハート
前は信仰の力で隠れてたのを見つけ出してから入ってったんだっけかな
今はこーして最初っから丸見えで
ドラゴンへの信仰ってのもかなり無くなってきたしょーこなのかな?
信仰を奪われた、なんて人がいないといいなぁ

それにしても前のマンクニウムとは違って、ちょっとダンジョンみてーなとこだな
なんかモヤモヤしてるし……

聞こえてくるのは懐かしい声、でもなにか思い出せなくてもどかしい
振り返るべからず
ちょっと怖いのもあって無視して歩いてくけど
あっ、て気づいて足がとまる
これは家族の声だ、たぶん
わかっても振り返れない
会いたい気持ちより後ろめたさが大きくて
だっておれは忘れてた
2年間の新宿島での生活で、大事なものも友達とか家族みたいな人も増えて
時々しか頭をよぎらなかった人達、たぶんとしか判別しようのない人達
もしかして今じゃもう、敵と味方に言い訳するための、戦う理由でしかないんじゃ?
思うほど振り払いたくて逃げるように足を動かす

はぁ、はぁ…なんかすげー疲れたぁ〜
これなら何も考えずに剣を振えるほうが楽だったかも
アドリブ・連携歓迎


(「前のマンクニウムとは違って、ちょっとダンジョンみてーなとこだな」)
 先行して迷宮内を進む理星に少し遅れて霧の中を進んでいくブロス・ブラッドハート(深紅の稲妻・g03342)は、周囲を満たす白を前に、そんな感想をまずは抱いた。
 かつてのマンクニウムはその存在を暴く所から始めたものであったが、キャメロットの城壁迷宮にはその必要は無いようだ。無論、時先案内人のガイドがなければ存在に気づくことが難しかったのは確かであろうが、それでもこうやって内部へ侵入するための前提条件が存在しないことをどう評価すべきか。
 入ろうと思えばディアボロスが容易に侵入できる今の状況の是非は知ったことで無いが、仮にマンクニウム同様の手法で入口を覆い隠されていたのであれば、相応にドラゴンへの信仰というものが無くなってきている証であろう。
(「……信仰を奪われた、なんて人がいないといいなぁ」)
 霧の中、ブロスは口元だけをわずかに動かし独り言ちる。
 キングアーサーというディヴィジョンとて、現状を良しとはしていないはずだ。何かしらの巻き返しを企んでいるだろう。
 そしてクロノヴェーダのその施策に巻き込まれるのは、いつだって力なき一般人だ。
 誰かが何かしらの理不尽にさらされていなければいいと思う。少年のまっすぐな思いがこの場に存在しない誰かを案じた次の瞬間、不意に彼の背後から、何者かの呼び声が投げかけられた。

『ブロス』
「……」
 ブロスはその声に、当初無視を決め込んだ。
 後ろからの声に何か懐かしい気配を感じるのは確かだ。けれどその懐かしさの正体がどうにも思い出せない。
 振り返るべからず。
 そう警告していた入り口の看板を思い返す。わざわざそう告げていた看板の存在と後ろからの声の懐かしさに思い至れぬもどかしさが、ブロスにはなんだか恐ろしいものに思えてしまって。
 振り返ることのないまま、少しだけ霧の中を進む足を速める。
 後ろからの声は付かず離れずの距離を保ちながらずっと少年の背中を叩き続ける。
 不気味で、けれど不思議と振り払えない声を背負いながら霧の中を歩き続けていたブロスであったが、不意に、「あっ」、呟きが生んだ気付きに思わず足を止めてしまう。

 ――これは家族の声だ、たぶん。

 そう気づいた瞬間、後ろからの声に明確な色彩が生まれた。
 新宿島に存在しない、かつてディアボロスであった前に確かに存在した大切な人たちの声。
 多くのディアボロスたちが奪還を誓う対象。かつての日常を彩る存在。そんな人々の声。
 けれど、それを認識した上で……否、そう認識してしまったが故に、ブロスは振り返ることが出来ない。
(「だって、おれは忘れてた」)
 新宿島に漂着して二年。そこでの濃密な生活の中で、大事なものも、友達も、家族みたいな人たちも増えていった。
 反面、かつての日々はもう随分と遠い場所に置いてきてしまったような気がしてならないのだ。
 今だってそうだ。後ろから聞こえる声は『たぶん』家族のものだ。そうは思う。けれど、『たぶん』でしかない。
 案外、その程度の濃度にしか記憶に存在しない彼らは、今ではもう敵と味方へ自身を示すための――言い訳のための、戦う理由でしかないのではないだろうか?

 そう思い至ってしまった瞬間、最早振り返ることは不可能だった。
 無意識の内に、ブロスの足の進みが早まっていく。
(「これなら、何も考えずに剣を振るえる方が楽だった」)
 抱いたのは悔恨か、あるいは後ろめたさの類か。
 普段浮かべる快活な表情とはかけ離れた、どこか引き攣った顔のまま、少年の歩みはやがて走りへと変わっていって。
『ブロス……』
 背後からの声は、その背中を無遠慮なくらいに追いかけ続けた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!

マティアス・シュトローマー
丁寧に看板に書いてくれてる訳だし、用心に越した事はないね。振り返らなければ大丈夫……
霧の中、思わず足を止めてしまったのは――もう会いたくても会えないはずの人達の声が聞こえてきたから

「今年も家には帰ってこないのか?」
「意地を張るのもその辺にしておけよ、マッツ」
「マティアスの好きなケーキを焼いてあげるから、帰ってきて」
これは兄達と姉
「父さんも待っているわ」
母さんの声も聞こえる

「次の授業はサボろうぜ」
「なあ、マティアスも来るよな?」
……親友達の声も
「俺達を置いていくのか?」

心配してくれた家族、一緒に悪ふざけをしてくれた寄宿学校の親友達の声が

けれど、この目で皇帝が倒れるのを見たし、奪還戦も戦った。機械化ドイツ帝国は正しい歴史の奪還と共に消えたんだ
――だから、俺が今すべき事は
自分と同じ思いをする人をこれ以上増やさない為、大切な人達の故郷を取り戻す為に前に進む事
振り返らずに、ごめんとありがとうを告げて歩みを進めよう
確かにあった思い出も、この胸の痛みも忘れないように


 隣を駆け抜けていくブロスの小さな影に、マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)はぶるりと身体を一つ震わせて自身を正気に戻した。
 気づかぬ間に霧の中で足を止めていた。場合によっては致命的な隙ともなろうその状況。とはいえ、そうなってしまった理由など、橙髪の少年には考えるべくもない。
『今年も家には帰ってこないのか?』
『意地を張るのもその辺にしておけよ、マッツ』
『マティアスの好きなケーキを焼いてあげるから、帰ってきて』
 背後から囁きかける、懐かしき兄達と姉の声。それがマティアスの足をその場に縫い付ける第一の理由だ。
 そういう仕掛けだ、とは。入口の丁寧すぎる看板の内容を合わせれば察することはできる。けれど、もう会いたくても会えないはずの人たちの声を背にして、それを無視できるほどマティアスという人間の精神は摩耗しきってはいない。
「父さんも待っているわ」
(「……母さん」)
 郷愁の象徴と言って差支えの無い、母親の声。
 一歩間違えれば弾かれるように振り返ってしまいそうな数多の声の誘惑に耐え、そして幻聴に抗い霧の中を走り抜けていったブロスの後姿の影を思い出し、もう一度前へ進む。
 マティアスのその意思を反映したのか、彼の家族の声は一度失せて。

『次の授業はサボろうぜ』
『なあ、マティアスも来るよな?』
 しばしの空間に満ちる無言の後、次いで聞こえてきたのは寄宿学校時代の親友たちの声だった。
 攻め方を変えてきたか。響いてくる声は、おそらくは侵入者の記憶に応じた声を引き出すものだ。
 すでに迷宮の中を進んでいる理星やブロスと比べ、マティアスはかつての記憶をより明確に保有している者である。
 すなわち、攻め口もまた多彩になってくるということだ。親・家族・親友……侵入者を振り返らせるため、迷宮の仕掛けは悪趣味なくらいにマティアスへ声を投げかけ続ける。

『俺達を置いていくのか?』
 刺すような声に、更にマティアスの足が止まった。
 数秒の間。けれど、彼の歩みはそのまま何もなかったように前へと進んでいく。
 心配してくれた家族の声。一緒に悪ふざけをしてくれた親友たちの声。それらに惹かれる後ろ髪が無いとは言わない。
 けれど、マティアスが観測し続けたディアボロスとしての日々は常に未来へ進んでいく物だ。
 ヴィルヘルム2世は倒れ、それを起点に発生した奪還戦もマティアスは戦い抜いた。
 結果、機械化ドイツ帝国という、在り得ないイレギュラーのもとに生まれた世界は正しい歴史を取り戻す過程の中で消え失せた。
(「――だから、俺が今すべき事は」)
 郷愁と、懐かしい声と。そして振り返れば懐かしき人々の顔を見ることが出来るかもしれないという誘惑を振り切って。彼は更に、更に足を前へ進める。
 全ては、自分と同じ思いをする人をこれ以上増やさない為、そして大切な人達の故郷を取り戻す為に。
 その一念で振り返りはしないと改めて決意を固めたマティアスの歩みへ向けて、それでもしばし後ろからの声は続いていたが……
『しょうがねえなあ』
 呆れたような、けれど何か用事があるのだろうと分かっているような、気が置けない友人だからこそ発せられた、笑みを食んだ言葉。
『また今度な』
 繰り返そう。この声は、きっと侵入者の記憶に応じた声を引き出したものでしかない。
 けれど、記憶が引き出した見送りの言葉を背に、マティアスは振り返らないまま、かつてのようにひらりと手を一つ振った。

 確かにあった思い出も、この胸の痛みも忘れないように。
 振り返らずに、ごめんとありがとうを告げて歩みを進めよう。

 マティアスがその決意を抱たと同時に、背後からの声は次第に薄れていって――……
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!


「お見事、と申しておきましょう。よくぞ迷宮を抜けてきた物です」
 いくつもの囁き声を振り切ってディアボロスが迷宮を抜けた先。薄れてきた霧の先にディアボロスの視界が捉えたのは、トループス『聖ティラミサ騎士団』の姿であった。
「心弱きものであればそもそも我らと相対することも叶いますまい。あなた方がここに立っている、その事実が我らに油断を許さぬ理由に他なりませぬ。
 さあ、命が惜しくなければ参られい! 我ら聖ティラミサ騎士団、あなた方に立ちふさがる壁となりましょう!」

 先頭に立つ雌竜の宣誓に呼応するように、彼女の背後に控える同種族も一斉に武器を構え、ディアボロスへ紛れもない排除の意図を見せる。
 迷宮と称された領域を抜けた今、霧は最早薄い。ディアボロスであれば視界に困ることはあるまい。また、トループスたちが控えるエリアは高さも面積も相応にあるスペースだ。真正面からの戦いを挑むうえで、狭さを感じることはないだろう。
 故に、この場で起こり得るのは正面衝突に他ならない。それに応じるようにディアボロスたちもまた臨戦態勢を見せた瞬間、トループスたちは一斉に地面を蹴った――……!!
天夜・理星
お見事? すげえ。
これは突破して当然の代物だ。あなたたちもアタシたちディアボロスをご存知で油断もしていないならばよく分かるはずだ…
あなたたち自身が元々は存在すら許されない簒奪者だとな…!

さあどう暴れまわってみようか。
紅の聖剣を解放し、怪力無双とダメージアップで暴れ回る算段はとうに整っているんだけど……
お、暴れ回ってる味方さんがいるな。
じゃあ素直に続きますか。

聖剣解放。激情は此より炎となれ。
ガードアップの力を借りて味方と一緒に戦う。
支えるように援護しながら、王の風格で以って静かに立ち回る。
歴史を奪う侵略者を罰するように。
一つ一つ国を作り替えていくように。
火球型のブレスの中も、悠々と行こうか。

あなたたちの敷いたトラップは正直最悪だ。
まだ取り戻せていないものに、心の内の弱いところに縋らせて、脚を止めさせる…
そして何度も見かけるんだ、あのタイプは。だからあっという間乗り越えられる。
全てに置いてロクな設計じゃない。

どんな不安を持ち出してこようが、もうアタシたちはあなたの思い通りには動かない。


ブロス・ブラッドハート
敵を見つけてほっとするってのも変だけど
今は聞こえなくなった声と目の前の威圧感が、頭に浮かぶ余計なことを打ち払ってくれる
相手がこっちのことを気遣ってくれるわきゃねーしな…集中しろよ、おれ!

『キュープラム・ディアス』の冷たい感触で心を落ち着かせたら、広い通路とスペースを使いながら敵に接近してくぜ
チビを活かして左右や前後にフェイントをかけながらダッシュダーッシュ!しょーめんしょーとつで攻撃を仕掛ける…と見せかけて、エアレイドで空を蹴って死角から変則軌道で襲い掛かるぜ
盾を持つ方の腕を掴まえたら思いっきり敵の方向にぶん投げる!
足並み乱したら仲間が続いてくれんだろっ

へへ、買いかぶってくれんのは悪い気しねーけどさ
強いか弱いかで言ったらおれはまだまだ弱いし
しょーじき、お前らの罠に向き合うのも難しかったしな…!
だからこそ、ここでも逃げちまったら昔の仲間も今の仲間にも顔が立たねーんでさ
踏ん張らせてもらうぜ!

火球は捕縛した盾をつかって防いだり
エアレイドで直撃を避けられるように動いてみるな
アドリブ・連携歓迎だー



 良かった。敵だ。
 剣を構えるティラミサ騎士団の面々を前に、ブロス・ブラッドハート(深紅の稲妻・g03342)は内心でわずかに安堵を漏らした。
 先程まで背中を叩き続けていた懐かしくも恐ろしい声はもう聴こえない。おそらくは今であれば背後を振り返ったとて何も起きはしないだろう。代わりに突きつけられた分かりやすいくらいの敵意はいっそありがたい。
 向けられる怜悧な害意が鋭ければ鋭いほど、頭の中に浮かぶ余計なことを打ち払ってくれるからだ。
(「相手がこっちのことを気遣ってくれるわきゃねーしな……集中しろよ、おれ!」)
 反面、ティラミサ騎士団の面々とてメンタルケアの一環で突き放したような感情を向けているわけではない。ここは戦場。敵が向けた切っ先を前に安堵していればたちまちの内に己の首が飛ぶであろうことは、戦士たるブロスにはとうに理解できている。
 故に小竜の少年は懐からナックルダスターを取り出しおもむろに右頬に押し付ける。頬に押し付けた金属の先端が持つ痛みと冷たさで道中の残滓を振り払い、意識を完全に戦闘へと切り替える。
 覚悟は決まったか、とティラミサ騎士団は表情をさらに鋭くさせた。
 宣言の通り、トループスの身たる彼女たちに油断や慢心はない。一団を先行するように戦場を駆ける三体のトループスたちはブロスが拳を頬から離した瞬間、翼をはためかせて散開。左右と正面、三方向からブロスへ攻撃を仕掛けることを選んだ。
 対するブロス。上等だ、と言わんばかりに三方向へ鋭くステップ、向かう三体を一度に迎撃するような気配を見せたが。
(「いや、」)
 違う、と正面から攻め入る雌竜は判断。それを警告として声に出すよりも早く、赤き稲妻が如き踏み込みが真正面から飛来する方が早い。左右への動きはフェイント、本命は早期に正面衝突を選ぶことで負担を強引に一方向へ絞り込むことだったか。
 左右の動きに振られ、散開した味方が攻撃タイミングを崩された今、騎士団の誇る連携から放たれる三方向からの同時攻撃は成立しないが、何、構わない。
「私があなたを斬って捨てればそれで済む話です……!」
 真正面からの吶喊へそう宣し、雌竜は突き進む赤い影を両断すべく剣を振り上げ、
「へへ、買いかぶってくれんのは悪い気しねーけどさ」
 けれどブロスはそこでもう一度、敵の意図を外すように動いた。剣が振り下ろされるよりも一瞬早く、少年はその軌跡をわずかにずらすよう跳躍。
 ティラミサ騎士団の想定していた動きにそれはない。振り上げられた剣の切っ先を補正できぬ雌竜を嘲笑うかのように宙をもう一度蹴り……取った、背面。
「強いか弱いかで言ったらおれはまだまだ弱いし、しょーじき、お前らの罠に向き合うのも難しかったしな……!」
「く……!?」
 背を取られた無様に表情を歪め、雌竜は振り返りざまに剣を横薙ぎ一閃の意図。振り返る勢いのままブロスを上下に両断せんと剣を振るおうとするが、それよりも早く幼い手が桃の鱗を覆う白い籠手に絡む方が早かった。
 直後。ぐりん、と雌竜の視界が回転する。見た目に似合わぬ膂力か、あるいは相応の技術か。真偽の判別はできないが、深紅の角を持つ小竜に投げられたのだとは分かった。そして、その先に左右に散開していた味方、その片割れがいることも。
 一瞬の攻防へ介入する暇を失ったとて、ティラミサ騎士団が棒立ちで攻防を眺めているなどありえない。
 正面の個体が敵と打ち合い動きを止めた瞬間、左右からの火球で味方もろとも敵を屠る……左右に散った二体はそんな算段を立てていたのだが、ブロスが投げ飛ばした雌竜が火球の射線を塞いだことで右手側の一体の攻撃はタイミングを外された。

 では左側はどうか。
 その問いへ、聖剣を冠する剣を携えた天夜・理星(復讐の王・g02264)が失敗を突き付けた。
 ブロスへ向けた火球の射線へ割り込んできた理星に左側の雌竜は一瞬驚きの表情を浮かべたが、ままよと言わんばかりにそのまま火球を乱発。
 迂闊に回避を選べばたちまち逃げ場を失う火球の雨に、けれど復讐の王は怯えも迷いもない。
 刻まれた残留効果を縁に自身の防御力を高め、直撃する軌道を飛ぶ火球のみを悠々と切って捨てる。
「あなたたちの敷いたトラップは正直最悪だ」
 直撃には至らない、左右へまき散らされた火球の熱に炙られながら、理星は霧の中の声を思い出す。
 まだ取り戻せてもいないものに、心の内の弱い部分をくすぐって足を止めさせる、趣味の悪い仕掛け。
「何度も見かけるんだ、あのタイプは。だからあっという間に乗り越えられる。全てにおいてロクな設計じゃない」
「何度も見かけるということは相応に効果があるということでしょうよ、ディアボロス。何度踏み抜こうと、都度復帰に心力を費やす程度には効くでしょう?」
「違いないね」
 ハ、と。そこで理星は声に出して嘲りを表現した。
 あたかもそれは罪人を罰する王が、咎人の今際を一蹴するように。
 その声に応じるように理星の聖剣に灯った焔は、敵を圧倒する劫火を抱く赤炎。
「でも、どんな不安を持ち出してこようが、もうアタシたちはあなたの思い通りには動かない」
 自身の放った火球以上の熱を持つ赤炎に、一瞬気圧されたか。円弧を描くように己の周囲を旋回し始めた理星へ、雌竜の対応が遅れた。
 機先を制することが出来ない雌竜はせめて敵の攻撃の瞬間は見逃すまいと武器を構えたまま小柄な女の動きを体ごと追いかける。
「そも。あなたたちもアタシたちディアボロスをご存知で油断もしていないならばよく分かるはずだ……あなたたち自身が元々は存在すら許されない簒奪者だとな……!」
 次の動きがあったのは、理星が半円を描いた瞬間。彼我の当初の立ち位置が完全に反転した瞬間だ。
 攻め入る、その一念を宣誓するように彼女の手に納まる聖剣が纏う焔が一際強く輝くと同時、激情の焔を宿す女が地を蹴った。

 そして、同時に。
「ここでも逃げちまったら昔の仲間も今の仲間にも顔が立たねーんでさ。踏ん張らせてもらうぜ!」
 理星が攻め入る意図を見せたことに、雌竜が退き距離を取ろうとした瞬間、残ったティラミサ騎士団が理星を邪魔しないよう牽制に回っていたブロスもまた、彼女の動きに呼応し地を蹴っていた。
 理星が攻勢に出ると決断したタイミングは睨み合っていた己と雌竜、そしてブロスを直線で結ぶことのできる立ち位置を確立できた瞬間。
 すなわち、この瞬間。トループスはディアボロス二人から挟撃を受ける状況が出来上がってしまっているということで。
「ッ、しま――!」
 言葉を吐き出しきるよりも、他のトループスが援護に入るよりも、まずはブロスの小柄な肉体が雌竜の懐へ潜り込む方が早かった。
 様々なインプットを基に構築された変幻自在の動きが、雌竜が何か反応を許すよりも早くその桃色の身体を宙に蹴り上げたかと思えば――
「聖剣解放。激情は此より炎となれ」
 次いで、退かれた分の距離を詰め切った理星が詰みを告げる。
 穏やかな、あるいは飄々とした態度に似合わず猛狂う炎に逆らわず、彼女はそのまま無造作に手の内の聖剣を振るった。

 轟、と炎が閃く音がした。

 振るわれた熱の軌跡がティラミサ騎士団の身体を一瞬で幾重にも駆け抜けていき……散華。
 激情の焔に焼かれた雌竜は受け身もとれぬままその場へ倒れ伏し、もう一度起き上がることは、最早できなかった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!


 ティラミサ騎士団を弱卒と評することはできないが、それでもやはりトループス故の地力の差というものは存在する。
 それを見せつけるような連撃により瞬く間に一体が撃破されると、生まれた影響は場の流れをディアボロスの側へ強く傾けた。
 心力で気圧されたトループスたちは最早、怒涛の勢いで攻め入るディアボロスを抑えることをできないまま一体、また一体と撃破されていき、やがて場に立っているものはディアボロスの側に属す者たちだけとなった。

 他に伏兵がいないことを確かめ、一同は更に迷宮を奥へと進む。
 その先。迷宮を満たす白い霧を抜けた先、迷宮の最奥部。そこには綾小路桜の語った『最後の扉』へと続くのだろう、小さな扉が一つ存在している。
 一人のディアボロスが慎重に扉をくぐり、部屋の中の様子を探り味方と部屋の中の内容を共有する。
 他に人が入れる余地がないような狭い部屋、雑多に詰め込まれた様々なガラクタ、床に刻まれた落書きのような問い。

 それを踏まえて、考える。
 王たる存在が欲してしまった『彼』とは、果たしていかなる存在なのか。
マティアス・シュトローマー
ここが迷宮の最奥部かー
扉の先は――っわ、ただの物置部屋……!?
……なんて、そんな訳無いよな
とにかく手掛かりを探そう

床に書いてある文字は
「『彼』の姿を覗き込んだ時、道は開かれるだろう」

じゃあ俺はこれを
ボロ布をさっと取り払い、姿見を覗き込む
映っているのはこの部屋の、この世界の王たる自分の姿

俺が会いたかった『彼』は自分と同じ立場、役職の存在
つまりは、たった一人しかいない王なんじゃないかな
騎士であれば何人か
農夫であればさらにたくさんの『彼』に出会えるはずだろうしね

……と推理してみたけど
正解だったら姿見に向かってピースサインでもしてみようっと



「っわ、ただの物置部屋……!?」
 小さな扉を開いた瞬間、雑多なガラクタが雪崩を起こしてマティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)の足元を埋めた。
 足元に転がるそれらを一瞥し、思わず物置という単語を想起してしまったが、そんな訳はない、と思い返す。
 侵入者を惑わす迷宮を超え、敵を排するために置かれていたトループスたちを撃退し、そうしてここまでたどり着いたのだ。
 その先にあった部屋がただの物置であるはずがない。
 とにかく手掛かりを探そう。
 マティアスはそう考えると、足の踏み場もないような狭い部屋の中を慎重に調べ始めた。


「ふむ」
 猫の額と評して構わない程度の面積の部屋ではあったが、なにぶん詰め込まれた物の量が多い。
 部屋にどんなものがあるか把握するには結構な時間を費やしてしまったが、その甲斐あってヒントとなるものは見つかった。
「『彼』の姿を覗き込んだ時、道は開かれるだろう」
 その一つ、床に刻まれた落書きのような文字をなぞるようにマティアスは呟きをこぼす。
 この文字に意味があるのならば、まず『彼』とやらの存在を探り当てるのが話の第一段階となるだろう。
 もう一度狭い部屋の中を見渡す。
 何種類かの人形が収められた袋、ボロ布を被せた姿見、いくつかの錆ついた槍の穂先。
 周囲に散乱するガラクタのいくつかをしばらく眺め、やがてマティアスはその内の一つへと歩み寄った。
「じゃあ俺はこれを」
 姿見を覆うボロ布を取り払い、鏡面を覗き込む。
 鏡に映し出された鮮やかなタンジェリンの髪と輝くグレーの瞳。狭い狭い世界の王たる少年の姿が、鏡を介することで世界に二つ現れる。
「俺が会いたかった『彼』は自分と同じ立場、役職の存在……つまりは、たった一人しかいない王なんじゃないかな」
 『彼』の正体。それは、たった一人しかいない王……すなわち、己と対等の存在である。マティアスが下した答えは、それだ。
 答えを確かめるように、鏡に映る自分に語り掛ける。
 己と対等の存在。あるいはそれは友と呼べるものかもしれないし、はたまた戦友やライバルなんて言葉と置き換えることもできるだろう。
 そういった存在は絶対数が少ない騎士でも何人かはいるだろう。頭数の多い農夫であれば、もっと沢山の『彼』らがいる筈だ。
 けれど、王だけは。
 世界における唯一の存在だけは、自分と対等の存在を持つことができない。それがこの謎が謳う問いかけのバックボーンだ。

「……と推理してみたけど。合ってるかい?」
 鏡に映る己……この世界に現れたもう一人の王へ向けて、マティアスはピースサインを向けた。
 その動きに応じて鏡の中のマティアスもピースサインを作り……そして、現実のマティアスに反して、悪戯小僧特有の快活な笑みを浮かべた。
 授業をサボって遊びに出ていた時、食堂で馬鹿話を繰り広げていた時、そして新宿島での日々の中で。自分と共に歩んできた人々は己のこんな顔を見ていたのかもしれない。
 そんなことをマティアスが思った時だ。不意に鏡に映る己の姿がかき消えた……否、縁にはめ込まれていた鏡が消失した。
 消失した鏡の向こうを覗き込む。消失した鏡面は別の空間への入り口となっているようで、ここから更に先へ進めるようだ。

 つまり、これが『最後の扉』とやらだろう。
 そして、この扉をくぐり進んだ先に待っているアヴァタールを倒せば、この迷宮は制圧したことになるはずだ。
 すなわち、この迷宮攻略はもう終わりも近い。
 この場での最後の戦いが近いことを予感しながら、マティアスは鏡の奥へ続いていく道を進んでいった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!


「やあ、早かったね。もう少し悩んでくれるかと思っていたが……まあこうあっさり解かれるのも、謎を考える醍醐味って所かな?」
 最後の扉を抜けて進んだ先、だだっ広い部屋に入った瞬間、周囲の気温が急速に落ち込んでいくのを感じた。
 その感覚と同時に飛んできた声の方へ視線を向ける。
 そこにいたのは、氷で形成された煌びやかな玉座に腰を下ろした、一人の男だった。
 『氷王・グレイシア』。周囲に冷気を纏うそのアヴァタールはディアボロスが己の姿を視認したことを認めてゆっくりと立ち上がる。
「ここまで来れたということはもう分っているのだろうけれど。ここが君たちの探す迷宮の最奥だ。
 ここを制すれば、この迷宮は君たちの手に落ちる……だが、迷宮の奥にはその主が潜んでいると相場は決まっているものさ、そうだろう?」
 そこでグレイシアは戦意を一気に漲らせた。
 それに応じて周囲に満ちる冷気は更に鋭さを増していき、グレイシアの立っている床面を起点に周囲が徐々に凍り付いていく。
 攻性色に満ちる冷気を前に、けれどディアボロスにひるんだ様子はない。
 それを認め、グレイシアはその怜悧な顔立ちに似合わぬ愉快そうな笑い声を響かせた。
「ははは、ここまで辿り着いただけある。さあ、氷王がお相手しよう」
 その声が、決戦の合図だった。
 挑戦者を待ち受けるように、氷王は静かにディアボロスたちを見据えている。
マティアス・シュトローマー
そうそう。この迷宮の孤独な王様に早く会いたくて、つい――
粗相が無いといいんだけど

それじゃ、いこうか
仲間とタイミングを合わせて攻撃開始。強行突撃するブロス、続く理星を援護するよう具現化した大鴉を放ち、グレイシアを追尾爆撃する
狙うのはご自慢の翼。敵の機動力を一時的にでも低下させ、破壊できずとも、仲間の攻撃がクリティカルに刺さるよう立ち回りたい
ウインクにはサムズアップを返し、語り掛ける我らが王様(理星)の言葉を遮ろうとする攻撃は爆撃か銃の弾丸で打ち払う

氷王様から直々に花をいただけるなんて光栄だなー
反撃への対策として、周囲を完全に包囲されないよう【フライトドローン】を盾のように展開。氷がこちらに向かってくる瞬間に【飛翔/エアライド】を織り交ぜたアクロバットな動きで回避を試みる
……なんて。これでも立場は弁えてるつもりだから遠慮しておくよ
それにまだまだ仲間とここに立っていたいしね
理星とブロスに向かう攻撃は出来る限りディフェンス

あの謎解き、結構楽しかったんだ
もし次があれば今とは違った形で会えたらいいな


ブロス・ブラッドハート
冷たくて重い空気
迷宮の奥には主が潜んでる
強えとこまでお約束だよな
だからこそ戦い甲斐もあるってもんだけどよ!

仲間と連携重視
おれは前に出て注意を惹きつけたり、直接刃を交えてく!
上空を飛ぶ大鴉にウインクで感謝したら爆撃に合わせて突っ込んでくぜ
相棒を盾みたいに構えて竜の闘気を体に纏い氷霧を押し退けてく
爆煙がありゃ入って目くらまし。冷気が強くなってきたり、氷王の姿が見えたら跳躍して体ごと体当たりだっ

氷王ってわりにはじょーぜつなんだな
ま、あんな仕掛けとか謎解きとか用意してんだからとーぜんか
おれもそっちのがいいや。戦うやつのこと、少しでも知っておきてえ
その方がお前のことも憶えてられるからさ…!

へへ、剣はおれもよく使ってんだ
そっちのディフェンスは任せてとけ!

反撃の氷霧は相棒で薙ぎ払ったり、エアレイドで距離をとってみるぜ
精神に干渉か…もうその手は喰わねえよ!!
もう一撃のチャンスがあれば相棒を一閃、小さくても手傷を与えて注意をひくぜ

じゃぁな人恋しい王様
そっちでは、もう一人じゃないといいな
アドリブ・連携歓迎


天夜・理星
いやあアタシは悩んだな。ただ友達がこういうのすごく得意でさ。
中々主の敷く謎としては強敵だった…ね。

……冷たいな。
あんまりに孤独で、赦せなくて、

寄り添いたくなる。

隊れーつ。
前衛にアタシとブロスさん、
後衛にマティアスさんを置き、
味方と一緒に連携することを重視して戦うんだが。

あなたマジで寂しそう。
氷のように冷たいくせに、すごく喋るし。

もしかして、本当は孤独がお好きでない?

2人が護り暴れてくれている中、こっちも王らしく歩を進めながら演説といこうか。
攻撃が漏れて飛んでくるようなら武器を使わずに反撃アップとガードアップを駆使、防ぎいなしていく。

これさえ届けばいいんだ。
ダメージアップと友達催眠を載せた渾身のパラドクスをブロスさんとマティアスさんの作ってくれた隙に届かせられたら。

あっさり解かれたってさ。
対等な立場の存在が欲しいなら素直にそう言えばいいんだよ!
王にだって結べる絆があるんだ、アタシがそうであるように!
ラスボスっぽく振る舞うのもいいが、せめて、

友達がいた方が、ちょっとは心雪解けして逝けるだろ?



 迷宮の奥に佇む主。彼がもたらす冷たく重い空気。その空気は周囲の床や壁面すらも侵食し、氷の中に閉ざしていく。
(「そんでもって、強えとこまでお約束だよな」)
 そう思い至った瞬間、ブロス・ブラッドハート(深紅の稲妻・g03342)は相棒たる紅角刀の柄に手をかけ、強く強く地を蹴った。
 『氷王・グレイシア』は突撃してくるブロスへ視線を向けて、次いで先行するブロスを追うように歩を進める天夜・理星(復讐の王・g02264)、そしてその場から動かぬままのマティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)の姿を順に捉えた。
「謎解きは楽しんで貰えたかな?」
「いやあアタシは悩んだな。ただ友達がこういうのすごく得意でさ。中々主の敷く謎としては強敵だった……ね」
「そうそう。この迷宮の孤独な王様に早く会いたくて、つい――ね」
「そういって貰えれば、考えたやつ冥利に尽きるよ」
 笑うグレイシアの姿を前に、マティアスは大鴉の姿をしたパラドクスの塊を形成し、手の甲に乗せた。
「それじゃ、いこうか。氷王様を相手に粗相がないと良いんだけれど」
「安心すると良い。迷宮攻めを図った君たちだ、今更粗相も何もあったものではない」
 違いない。マティアスは喉の奥でク、と小さく笑うように声を漏らし、鴉へ突撃を命じた。
 ぐん、とパラドクスの塊が強く翼をはためかせ一気に加速。
 空を切るような速度で理星とブロスを追い抜いた鴉が飛んでくるよりも早く、氷王は術の根元を断たんと静かに力を練り上げる。
「君もカラスに変えられたらいいのにね?」
 その言葉と共に、マティアスの周囲の足元から無数の氷が生えた。生まれたいくつもの氷は氷王の敵意に共鳴するように自身の持つマイナスの熱を加速的に増加させていき、悪戯小僧を閉じ込める檻を作り上げんと彼が立っていた空間を瞬く間に氷で埋めていく。
「氷王様から直々に花をいただけるなんて光栄だなー」
 他方、悪戯小僧。周辺の冷気が己の足元を撫でたと感じるよりも早く周囲にフライトドローンを展開、そして跳躍。
 追跡するように育ち続ける氷柱に閉じ込められるよりも早く、ドローンを足場に空中でもう一度跳躍、氷柱の攻撃範囲内から飛び出すように脱出。
 けれどその最中、かすめるように爪先を覆った冷気が、容赦なく自身の身を凍てつかせていくのが分かる。
 冷たさが瞬く間に激痛に転じていく中、それでもマティアスは常の通りの笑みを崩さなかった。
「……なんて。これでも立場は弁えてるつもりだから遠慮しておくよ」
「こんなのをけしかけておいてかい?」
 攻撃が飛来するよりも早くマティアスを黙らせれば攻撃も消失すると踏んでいたグレイシアであるが、それが叶わなかった以上、飛来する攻撃への対応はどうしても遅れてしまう。
 グレイシアの呆れたような言葉の直後、轟音がした。
 二頭の大鴉はグレイシアが何か防御の姿勢を見せるよりも早くその懐へ潜り込み、パラドクスの塊としての攻性を開放。機動力の要とマティアスが睨むグレイシアの両翼に大穴を開けるほどの威力を見せつける。
「成程、大した威力だね」
「だろ? だからこそ戦い甲斐もあるって思わねえか?」
 周囲に満ちる爆煙の中から響く声に、息つく暇も与えてくれないとグレイシアは内心で嘆息。
 煙を割って飛び込んできたのは、最初にこちらへ足を踏み出したブロスだった。
 マティアスとの攻防の中でも他の敵への注意を切らしたつもりはなかったが、いつの間にか大鴉の生んだ爆煙の中に紛れ込まれていたようだ。
 今からでは突っ込んでくるブロスを打ち払う余裕はない。さりとて回避を取るにも穴の開いた翼では避けきることはできないだろう。
 ならば、と。全身に力を込めて防御の姿勢を見せるグレイシアに構わず、竜の闘気を身にまとったブロスは氷に包まれた床面を強く踏み抜いた。
 小柄な体躯故の軽さを速度と武器の重量で補ったブロスの弾丸のようなぶちかましが腹部に突き刺さり、グレイシアの肺から空気が逃げていく音。
「……中々、元気な子だ!」
 一歩、二歩とたたらを踏むように氷王の身体が後ずさり、三歩目で踏みとどまった。
 右手に携えた氷の剣を振り払うように横薙ぎ一閃、けれどそれが小竜を捉えるより早く紅の刀身が斬撃を受け止めて。振るわれた一撃の勢いを盗むようにしてブロスは一度距離を取る。
 逃がすまいとグレイシアは左掌をブロスへ。その挙動に伴い生まれた氷の霧が自身を包み込むよりも早く、ブロスは相棒たる大剣をぶん、と強く振るった。
「その手はもう喰らわねえよ!!」
「んー、同じような手を仕掛けに使っちゃったのは失敗だったかな」
 言われてみれば確かに、迷宮内部の仕掛けも似たような効果を持ったものであった。
 子供の細腕からは想像できない膂力が生んだ強風に霧が散っていくのを見て、グレイシアは思わず独り言ちる。
 本来であれば、魔力で作られた氷霧を媒介に敵の内面を読み取り、感情や精神へ干渉する魔術だが、その霧が払われてはそもそも干渉の切っ掛けを得られない。
 あるいは少年の内面を暴くまで霧をけしかけ続けるのも手であるかもしれないが……
「へっへーん! まだ終わらないぜ!」
 目の前の相手が悠長にそれを許してくれる訳でもない。
 再度霧が展開されるよりも早く突撃してきたブロスが振るう大剣を、グレイシアは今度こそしっかと受け止めて。
「大した腕前だ。末恐ろしい子だね」
「へへ。剣はおれもよく使ってんだ。に、しても……氷王ってわりにはじょーぜつなんだな」
「そうだね。あなたマジで寂しそう。氷のように冷たいくせに、すごく喋るし」
 横合いからの声に、視線はブロスから外さぬまま、意識だけを声の方へ。
 ゆっくりとした速度で歩いていたはずの理星が、グレイシアの体感では随分と近い所まで距離を詰めてきていた。
「ねえ。もしかして、本当は孤独がお好きでない?」
「……何を言うかと思えば。アヴァタールの身とはいえクロノヴェーダだ、孤独を気にするような作りはしていないよ」
 言っている意味が分からない、とグレイシアは軽い言葉で否定を返したが、何故かそのやり取りで、今目の前で切り結んでいるブロスよりも理星をまずのターゲットと定めた。
 それに気づいたブロスがこちらに注目を向けようと振るった剣閃を受け流し、霧を生むそぶりを見せる。
 ブロスが警戒と防御のために身構えた一瞬を使い、グレイシアは左手を理星の足元へ。その動きに呼応して氷が彼女の足元を凍らせる。振り払うのは一瞬あれば足りるだろうが、その一瞬があれば目の前の女を切って捨てるには十分だ。
 氷の剣に魔力を込め、無造作に振るう。光が円弧を描くような軌跡を描いたかと思えば、剣に込められた魔力によってそれは世界に顕現。
 破壊を込めた斬撃として光が理星へと飛来し、光の魔力は、動けないままでいる理星を確かに貫いた。
「……冷たいな」
 けれど、己を王と定義する女は、平然としていた。
 無傷ではない。袈裟に刻まれた斬撃によって床へ流れ落ちる多量の血を見ればそれは分かる。
 だが、ディアボロスが世界に刻んだ残留効果の一端が、理星に言葉を繰るだけの余地を作り上げてくれている。
 一方で、グレイシアに残留効果という概念への知識はない。
 故に自身の一撃を受けて尚、高らかと語り続ける女の存在がどうしても理解できなくて。
「あんまりに孤独で、赦せなくて、寄り添いたくなる」
 そう告げる女を前に、思わず足が一歩、後ろへ逃げていた。
「……何を言いたいかよく分からないけれど、少し黙っていた方がいい」
 無意識の内に身体が退いていたことに気付いたためだろうか。グレイシアの声には誰にもわかる明確な苛立ちの色があった。
 射出した魔力で倒しきれなかったのならば、刃で直接とどめを刺せばいい。そんな意図と共に氷王は地を蹴って一瞬で理星との距離をゼロまで詰める。
「っとと、我らが王様の言葉を遮ろうとするのはいただけないね」
 今度こそ女を切って捨てる。その思いに意識を支配されていたグレイシアの耳に叩きつけられたその声に、攻性色に満ちていた意識がハッと覚醒した。
 次いで視界に入ってきた見覚えのある大鴉。懐に潜り込まれるよりも早く横一文字に閃いた氷剣の切っ先で爆発が生じる最中、その奥に立っているマティアスと視線が交わる。
「あの謎解き、結構楽しかったんだ。もし次があれば今とは違った形で会えたらいいな」
「あっさり解かれたってさ。まるで自分しか分からない悩みみたいに言わないでよ。対等な立場の存在が欲しいなら、素直にそう言えばいいんだよ!」
 視線が、眼前の少女へ戻る。至近距離でがっちりと絡まった視線の中、少女の黒い瞳は逃げることを赦さないばかりに、氷王の心までも射竦めた。
「王にだって結べる絆があるんだ、アタシがそうであるように!」
 気圧されている。
 事ここにきて、グレイシアははっきりとそう自覚した。
 孤独であるとか、謎かけのつもりで用意した諸々が自身を映していたとか。考えたこともない体を装って押し込めていた内面を次々に暴き立てる無遠慮が今この瞬間は恐ろしくてたまらない。
 あるいはもう一度剣を振るえば、今度こそ彼女を黙らせることができるだろうか。
 手に握った暴力に縋るようにグレイシアはそんなことを考えたが、それが動きとして世界に反映されるよりも早く、もう一つの影が迫っていた。
「おれはさ。お前がじょーぜつであったほうがいいや。戦うやつのこと、少しでも知っておきてえ。その方がお前のことも憶えてられるからさ……!」
 ブロスだ。
 割り込むように振るわれた横薙ぎの一閃を受け止めるべくグレイシアは氷剣を合わせたが、反射的に動いたためだろうか。ブロスの一撃を受けきれることができず、衝撃で緩んだ手から氷剣が零れ落ちる。
「じゃぁな人恋しい王様。そっちでは、もう一人じゃないといいな」
 ブロスのその挨拶が、この場の決着を告げていた。
 告げられた言葉にグレイシアが何か反応を返すよりも早く、詰まり切った距離の中で理星が静かに拳を固めて。
「ラスボスっぽく振る舞うのもいいが、せめて、」

 ――友達がいた方が、ちょっとは心雪解けして逝けるだろ?

 心臓に突き込まれた渾身の拳を介して、感情の波が『氷王・グレイシア』の中へと雪崩れ込んでいく。
 悪意を溶かし善意を注ぎ込む感情の波の中で彼が何を思ったのか。それは定かではないけれど、それでも彼は最後に穏やかな笑みを見せた。
「……いやぁ、参った。これは、認めるしか、ないね」
 ずるり、グレイシアの足元が揺らぐ。崩れるように両膝を地面に落とした彼はそのまま立ち上がることができないまま迷宮の床へと倒れ込んで。
「一回しか言わないよ……君たちと遊べたのは……嬉しかった、よ」
 この場にいる三人に聞こえるくらいの囁き声で、そう呟いて。そのまま彼は静かに目を閉じた。


 友に別れを告げる季節は、春と相場が決まっている。
 氷王がいなくなったことで徐々に解けていく周囲の気温が、そんなことを告げているような気がした。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
【セルフクラフト】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2023年09月09日