リプレイ
ア・ンデレ
「アンデレちゃんの、かてとなれ!」
アンデレちゃんは、シュゴォシュゴォと鳴くアルタン・ウルクに対抗するように、「うおおおおお!」と咆哮する。
泥濘の地を使って足止めし、星喰らいでアルタン・ウルクを一体ずつ、喰らっていくよ。
万が一飛んで逃げたら、飛翔で追いかけて、喰らう。絶対に逃がさない。
触手もぐもぐ。目玉もぐもぐ。角もぐもぐ。全部もぐもぐ。
「まっず。」
アルタン・ウルクを喰らうことにより得た力で、他のアルタン・ウルクを喰らいにいく。
アンデレちゃんの力はどんどん高まっていき、喰らう速度も上がる。
どんなにまずくても、人に止められても、喰らうのをやめない。
喰らっていいのは、喰らわれる覚悟があるやつだけだ。
エルティ・アーシュ
どの土地もそうだけど…元々ここは綱月ちゃんや誰かみんなの故郷、なんだよね
取り戻した土地、これからもちゃんと守っていかないとね
【未来予測】でアルタン・ウルクの動きを読みながら戦うよ
死角や進行横方向など、なるべく見えにくい場所から不意打ち
歌声の攻撃、アルタン・ウルクに届けるよ
攻撃後は薙ぎ払いや一撃離脱でできるだけ受けるダメージも抑えていこう
相手は強いと聞いてるから、残留効果や技能は最大限活用
回避や全体の動きを見るのに【エアライド】とかが使えたら心強いね
仲間とは声をかけあって追撃や支援に連携していくよ
アウリーネも傍にいて、敵の動きとか弱っている敵とか、何か気づいた事とかがあったら教えてね
アドリブ歓迎
●
そこに蠢き横たわっていたのは、視界を埋め尽くすほどの、黒。
爛々と輝く赤の眼が、それが辛うじて生命を持つ存在であることへの理解を及ばせる。
だとしても、だ。
(「どの土地もそうだけど……元々ここは綱月ちゃんや誰かみんなの故郷、なんだよね」)
エルティ・アーシュ(受け継ぐ小竜・g01898)は思い出す。震える声と琥珀の指先。
戦いが起こる度、何処かで誰かが同じ思いをしている。ならば、ひとつだって取り溢しは出来ない。無論、この戦場だって。
敵は異質にして、余りに強大。それを解っていても、誰かが立ち向かうしかないのだ。ならば、自分も。
「取り戻した土地、これからもちゃんと守っていかないとね」
行こう、とひとつ。
傍らに添う、青花の天使に声をかけた――それと、同時。
「うおおおおおお!!」
咆哮、ひとつ。
地の底から響くような、アルタン・ウルクの唸り声に対抗するかのように。
刹那、飛び出していく。驚きに見開いたエルティの瞳の中、ア・ンデレ(すごいぞアンデレちゃん・g01601)が映る。
「アンデレちゃんの、かてとなれ!」
負けじと、食らいつく。
足元に広がる泥濘の地。動きを止めてなお、悍しく黒光りするその触手の中へ、飛び込んでいく。
ぶちぶちと、引き千切られる音。それは一体のアルタン・ウルクの身体から発せられた。アンデレが、食らっているのだ。文字通りに、アルタン・ウルクを。
「まっず」
どうにも口には合わなかった。
だが、吐き捨てながらも吐き出さず。ばかりか、触手も。目玉も。角も。全部、全部。
もぐもぐ、もぐもぐ。その一体を胃の腑に収めるまで、アンデレは止まらない。
ばかりか、次の獲物を探して、その瞳はぎらり、ぎょろりと光り、一帯を睨めつける。
「す、すごい……っとと、ぼくも頑張らなきゃ!」
異形すら食らう味方という光景に、呆気に取られていたエルティだが。はたと我に返り、戦いへと意識を戻して。
アンデレは無謀とも言えるほどの苛烈さで、積極的に敵群へと飛び込んでいる。ならば、それを援護して動くのだ。アンデレに継戦の意思がある限り、常に危険に曝され続けることに変わりはないのだから。
(「ああ、でも」)
すぐさま未来予測を――咄嗟にそう考えたエルティだが、アルタン・ウルクの動きを見て頭を振った。
その動きは何処までも本能的で反射的。ただ突進し、敵あれば排除する。それだけだ。見ても見なくても変わりない。
何よりこれは何処まで行っても逆説連鎖戦。であれば、書き変わり続ける未来は一定ではない。そこで見えたものを過信するのは危険だと、ディアボロスとしての本能が告げた。
(「なら、確実に死角や横合いを狙っていくんだ。アンデレちゃんに気を取られている相手を狙って……!」)
歌い上げる声は、震えることなく堂々と、朗々と。
風精舞い踊るが如く、歌声は風に乗り、虚空を裂いて、アルタン・ウルクへと辿り着いた。その身体に纏う触手が、ぶつりと切れた。
だが直後、エルティの周囲を取り囲む牙の群れ。
「う……っ」
残留効果の恩恵を最大限に受けてなお、その一撃は強烈だ。
蔦纏う剣を薙ぐようにしてその柄、竪琴の腕木部分を翳して受けてもなお、重い。確実に堅固になっている筈の腕すら容易く痺れた。
虚空を蹴って、距離を取る。その時、エルティははっとした。傍らの天使、アウリーネが指した方向を咄嗟に見遣って。
(「あ――」)
アンデレが。
「喰らっていいのは、喰らわれる覚悟があるやつだけだ!」
叫ぶ。
その叫びごと、黒の中へと呑まれていく。
不退転の覚悟と共に。最後まで撤退の意思を見せずに。
今も彼女は食らい続けているのだろうか。
それすら、窺い知れず。
「アウリーネ、」
救出を。
その言葉は、出てこなかった。それを察してか、アウリーネも首を振る。
これ以上は、アンデレも、エルティ自身も、もう。
(「……ごめんね」)
駆け出す。
背後を、アウリーネに護られながら。
(「……アンデレちゃん、綱月ちゃん、ごめんね……!」)
奴らの牙が、触腕が、眼の光が、届かないところまで。
あの、万里の長城の向こうへ。
『ア・ンデレ(すごいぞアンデレちゃん・g01601)は重傷を負った』
成功🔵🔵🔵🔵🔴🔴
効果1【断末魔動画】LV1が発生!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV2が発生!
イツカ・ユメ
※連携、アドリブ歓迎
うぅ、おどろおどろしい見た目で怖いけど……ここから先には絶対行かせないよ!
大声で自分の心と周囲の人達を鼓舞して【防衛ライン】を展開するね。
歌って踊って、希望と笑顔を振り撒いて。
相手の注意を惹きつけて、皆が戦い易い所へ誘き出すね。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ?
隙をついて巨大な眼球を攻撃したら、光線が撃てなくなったりしないかな?
【神速反応】や【未来予測】を活用して、少しでも相手の動きを先読みして素早く対応できるようにするね。
そう言えばクロノヴェーダは、人の感情から力を得るらしいけれど……あなたは何がお好みなのかな?
喜怒哀楽等の色々な感情を込めた歌や曲を奏でて、反応を探ってみるよ。
袁・雀蜂
※アドリブ歓迎、共闘希望
・作戦
高まった残留効果2で攻撃力と継戦能力がアップしているので
味方と連携して戦線を後ろに下げながら敵の最前列へダメージを与え続けて
遅滞戦術で敵戦力を削り切ります
・戦闘
【エアライド】により低空を跳ねて移動し、敵の触手や光線を避けつつ
こちらは【袁公黄金閃】で遠距離から閃光による攻撃を仕掛けます
・心情
強行偵察のときにも思ったが、こいつらだけは
他のクロノヴェーダと比べても異質にすぎる……
この無尽蔵の攻勢は何のエネルギーによって支えられているんだ?
あらゆるものを無差別に捕食する行為に秘密があるのだろうか、
この機会に少しでも観察してデータを集めておかねば
(技能「偵察、情報収集」)
●
未だ大地を埋め尽くす黒を前にして。
ディアボロス達が程度の差はあれ共通して抱いた印象は兎に角『未知』『異質』――そういった、理解の範疇を超えたものだった。
「うぅ、おどろおどろしい見た目で怖いけど……ここから先には絶対行かせないよ!」
正直なところ、未だ疑問は尽きない。
だが、イツカ・ユメ(いつかかなうゆめ・g02834)にとって、その事実が戦意を砕く筈もなく。
成すべきことを。即ち、この地を護るために、戦うのみだ。
(「強行偵察のときにも思ったが、こいつらだけは他のクロノヴェーダと比べても異質にすぎる……」)
そんな中、本格的な交戦を前に、奴らの姿を目の当たりにした袁・雀蜂(ホーネットレディ・g01434)はそれでも、己の体験として『理解出来ない』ことを理解していた。
だが、理解することを諦めたわけでは決してない。今は無理でも、その糸口を掴めれば。
「この無尽蔵の攻勢は何のエネルギーによって支えられているんだ? あらゆるものを無差別に捕食する行為に秘密があるのだろうか……」
差し当たっての疑問はそこだ。この戦いから得られるものがあればと、雀蜂はその眦を決した。
その間にも敵は、黄金の名を冠する黒き波は、押し寄せる。
「さあ歌おう、一緒に踊ろう♪ いつか叶う、夢はきっと叶う――鬼さんこちら、手の鳴る方へ?」
ぱんぱんと手を叩き、戦場にイツカの歌が響く。
踊って誘い出し、その音で、ステップで敵の注意を引く狙いだ。
絶望的な状況に、笑顔と希望を振り撒こう。いつか花開かせるために。
「あなたは何がお好みなのかな? 喜怒哀楽、他にも色々……望む通りに歌ってあげるよ♪」
アルタン・ウルクの一体が、ぎょろりとその赤い眼を明確にイツカに向けた、ように見えた。
「易々と、やらせはしない!」
飛び込む。
黄金の蜂が、翔ぶが如く虚空を蹴って。
光の槍にも似て、雀蜂は敵群を穿き貫き刺す。
「御覧じろ、我が袁家の威光――!」
そして放たれる黄金の閃光もまた、鋭く敵群へと降り注ぐのだ。
だが、敵も然る者。その猛攻に臆することなく雀蜂へとその触手を幾重にも差し向ける。
雀蜂は咄嗟に飛び退いた。ツキが来ているとでも言うのだろうか、己の身に運気が漲っている感覚を覚えていた。
(「アヴォイドが極限まで働いてる……今なら!」)
この逆説連鎖戦の最中においても、パラドクスによる攻撃ですらも、回避することが出来る筈だ!
ひとつ。ひらり躱した。躱し切れずに己を狙い続ける分は武器での受け流しを試みる。
「このまま最前列を攻め立て、遅滞戦術で敵戦力を削り切る……!」
アヴォイドだけではない。全ての残留効果の恩恵が、ディアボロスに味方している。
使えるものは全て使う。そうして初めて互角に渡り合える相手だ。出し惜しみはしない!
「キット!」
「もきゅっ」
その間、イツカはモーラットのキットを呼び、己を映した眼球へと不意打ちを。
だが、直後お返しと言わんばかりに無情にも放たれる赤熱の光。
「……っ!」
ほぼ反射のように行われる反撃には、反応も追いつかず。ならばせめてと竪琴剣にて光線ごと受け止め裂く――が、それでも余りに、重い!
(「残留効果を極限にまで引き出してこの威力……っ!」)
ああ、やはり。
本来、下手に手を出すべき相手ではないのだ。それを、本能が叫んでいる。
それでも、譲れない戦いだった。だからこそイツカは踏み留まった。
だが。
「うあ、っ……!」
「!?」
短い悲鳴が、イツカの耳を刺す。
多勢を相手に、一気呵成に攻め続けた雀蜂。しかし、限界が来てしまった。
完全回避が可能となる確率は、極限まで高められたアヴォイドの幸運を以てしても高くはない。加えて手数を増やしたことで敵の反撃を受ける回数も増え――蓄積されたダメージで、遂に身体の方が悲鳴を上げたのだ。
だが、それでも。
「……これしき、っ……!」
その身体を締め上げ引き千切らんと迫った触手を、武器で叩き落とす。だが、その衝撃にすら身体が軋む。
これ以上、継戦させるべきではない。イツカはそう判断すると、反動で地に転がった雀蜂へと肩を貸す。
「……退こう。防衛ラインの向こうへ……万里の長城まで!」
雀蜂は頭を振った。……振ろうと、した。
体温に触れた身体から、意志に反して力が抜けた。そのまま、意識が闇に堕ちていく。
「今はここまで……でもいつか、きっと」
この借りは、必ず返す。
それでも今は、いつかの未来を守るため――イツカは踵を返して、駆け出した。
苦戦🔵🔵🔴🔴🔴🔴
夏候・錬晏
※連携アドリブ歓迎
得体の知れない『アルタン・ウルク』
奪還戦で我らが中華の地を飲み込んでいく様を見た
「――…忘れもしない」
これ以上は進ませない。偃月刀を強く握りしめる
仲間が【防衛ライン】を敷くなら
アルタンがそこに集中するように【セルフクラフト】や【アイスクラフト】で誘導して
迎撃しやすいように誘い込む
【エアライド】と<地形の利用>で包囲されないように立ち回りつつ
上段から自身の重量も乗せて偃月刀を地に叩きつけ
強烈な<衝撃波>を伴った咆哮で攻撃
反撃には【未来予測】で触手に捕まらないように<薙ぎ払い>でいなし軽減
本当に、どこからこの力を得ているというのか
大地に人がいないというなら……まさか中、なんてな
安藤・優
※アドリブ連携歓迎
アイツらまたこの辺食べに来たのか…
とにかく大地を無駄に奪われないように、しっかり仲間と連携して行こう
防衛ラインが展開されているならそこへの到達までの時間稼ぎもまた大切かな、手前に泥濘の地を展開してアルタンの機動力を奪う、飛べる奴が居るかは分からないけど、もし飛ぶならパラドクスで迎撃するしかないか…防空体制も発動しておき警戒は怠らないように
絶空剣を投擲して爆炎と雷光でアルタン・ウルクの群れを薙ぎ払う
反撃の触手には未来予測で捕まらないよう距離を取りつつ神速反応も合わせて活用し素早く薙ぎ払い防御。
包囲される前に撤退も考える必要があるけれど…それでも可能な限り仕留めていこう。
テクトラム・ギベリオ
アルタン・ウルク。大地を埋め尽くす謎多き敵
有効打が一切分からんが、黙って蹂躙されるのを待つ我々でもない
【防衛ライン】を引く。これは足止めであり我々の盾だ
最高レベルでもこいつらに使うにはラインの距離が短いので、仲間の効果と合わせて使おう
赫眼と触手で見たことのない生き物だが…脚を攻めるのが鉄則だろう
【旋戒流刃】で曲刀を投げ飛ばし攻撃。一方向からではなく、円形にくり抜くように斬り刻む
エネルギー源…感情、行為…
こいつらの行為は走って喰らっているようにしか見えん。狂奔とでも言うか
そも、こんな姿で現れて人々に抱かせる感情はなんだ
私がただの人なら、感情を抱く前に生を諦める。ならば命を落とした者への哀悼か…?
アヴィシア・ローゼンハイム
アドリブ、連携OKよ
あれが、アルタン・ウルク?
初めて見たけれど……なんて大きさなの
あんな者が、歩くだけでも被害は甚大になるわ
此処で食い止めましょう、絶対に
あの大きさですもの、接近して攻撃は不利かしら
ある程度の遠方からパラドクスで攻撃してみましょう
さあ、花開きなさい、蒼氷の薔薇よ
あまりにも大きいからすぐには飲み込みきれないだろうけど、攻撃を重ねれば……!
相手の攻撃、生身で受けたら危険ね
せめて武器で防御していきたいところだわ
綱月も言っていたけれど、この地はある人達にとっては故郷の地なの
故郷を蹂躙されるなんて許せない、守りたい
その願いを叶えるためにも、絶対にとめて見せましょう
●
「……あれが、アルタン・ウルク?」
現物を前にして思わず、と言った風情で零れたアヴィシア・ローゼンハイム(Blue・Roses・g09882)の声。
それほどまでに、未だアルタン・ウルクは夥しく大地に犇めいている。
加えて、その一体ずつが。
「初めて見たけれど……なんて大きさなの」
余りにも、圧倒的な存在感を以て、中国陝西省を食らい尽くすのだと、押し寄せて来ていた。
真っ当に相手をすべき相手ではない。残留効果が最大まで高まっているこの状態ですら、漸く互角なのだから。それを、嫌でも肌で感じ取る――そんな相手だ。
「アイツらまたこの辺食べに来たのか……」
安藤・優(名も無き誰かの代表者・g00472)も思わず、眉を顰める。
相も変わらず嫌悪感を催す群体だが、そうも言っていられないのは過去にもこうして大地を食らわんと進軍してきたその事実を体験しているからである。
「とにかく大地を無駄に奪われないように、しっかり仲間と連携して行こう」
「その通りだ。有効打が一切分からんが、黙って蹂躙されるのを待つ我々でもない」
頷くテクトラム・ギベリオ(砂漠の少数民族・g01318)も、その金の瞳を鋭く光らせ、溢れんばかりの敵の姿を真っ直ぐ捉えて。
(「アルタン・ウルク。大地を埋め尽くす謎多き敵……」)
人は未知を恐れると言う。
だが、恐れをなして逃げ帰るのがディアボロスではない。侵略者へと復讐の炎を燃やして立ち向かうために、彼らは今、ここにいるのだ。
それに――ちらと、テクトラムはほんの一瞬、視線を己の真横に向けた。
「――……忘れもしない」
ぽつり、大地へと低く落ちて沈む声。
今、踏みしめるこの場所は、間違いなく彼が生きた大陸だった。
(「得体の知れない『アルタン・ウルク』。先の奪還戦で、我らが中華の地を飲み込んでいく様を見た」)
故郷の地。
その危機を憂い、静かに怒りを燃やすのは、この男。
夏候・錬晏(隻腕武人・g05657)も同じこと。
「これ以上は進ませない」
偃月刀を握る手に、強く力が込められる。
二度と、奴らにこの地を奪わせてなるものか!
●
敷かれた防衛ラインは強固。
背後にそびえ立つ万里の長城も、敵へと立ちはだかるように、その威容を示している。
「でも、そこへの到達までの時間稼ぎもまた大切かな」
「ああ、頼む」
テクトラムが頷くと同時、優が展開した泥濘の地が、押し寄せる波を凪がせ、地から響く音を沈黙させる。
だが、逆説連鎖戦においての攻防に、距離は何ら影響を及ぼさない。それを敵味方共に、よく理解していた。
故に、優は『時間稼ぎ』と言った。敵が防衛ラインへと至るまでを遅らせ、長く継戦することによって少しでも多く、今や荒れ狂う泰山と化したアルタン・ウルクを削るため!
「あんな者が、歩くだけでも被害は甚大になるわ。此処で食い止めましょう、絶対に」
覚悟を決めたアヴィシアが、氷壁の裏へと滑り込む。防衛の補強にと錬晏が敷いたものだった。
敵はその一個体ですら余りに強大。そう判断したアヴィシアは、遠方から戦況を窺いつつ攻撃すべしと己に課す。
「さあ、花開きなさい、蒼氷の薔薇よ」
氷が、茨纏う蔓と化して敵へと伸びる。
黒く蠢く悍しいその身体に、奇跡の色をした薔薇が花開く。
それでも一条の赫い光線が、お返しとばかりにアヴィシアへと向かうけれど。
砕ける氷塊が、勢いを殺してくれた。それを夜色の大鎌で受ければ受ける衝撃は軽微で済む。
無論、その間にも他のディアボロスが黙ってそれを見ていただけの筈もなく。
「赫眼と触手で見たことのない生き物だが……脚を攻めるのが鉄則だろう」
「幸い進軍速度はガタ落ちしてるしね、完全には止められなくても狙いを定めるには十分だ」
テクトラムの曲刀は抜き放たれて刻まれた呪詛を露わにし、優は虚空に幾重にも光を秘めた剣を創り出す。
最前列のアルタン・ウルクが、ぬかるみを抜けて再び一歩を踏み出す。その瞬間を狙って。
「廻れ、その脚を全て撫で斬る」
「絶空剣もサービスだ。さあ、怒りの赴くままに、吼えろ!!」
投げ放たれた曲刀はその軌道で満月を描き、テクトラムの宣言通りにアルタン・ウルクの四肢を裂いた。
そこへ殺到した剣の群れは、周囲の別個体をも巻き込んで、耳を劈くほどの轟音を伴い爆炎と雷光を上げた。
戦闘集団に大打撃を与えたに違いない、連続攻撃。しかしそれでもアルタン・ウルクはその歩みを止めず。
山は、緩やかにでも確かに動いている。
「部位狙いで進軍速度を落とすことは出来ない、か」
「でも、手応えはあるよ。攻撃は効いてるんだ、絶対に」
集中攻撃を受けた個体が崩れ落ちた。それすら踏み越え、山が動く。
そして反撃の一手は打たれる。確かな攻撃を受けたと、認められたが故に。
悍しく蠢き黒光りする触腕が、テクトラムと優に殺到する。腕を、脚を捥がんと絡みつく。ぐいと強い力で引かれるそれを、本格的に千切れる前に斬って捨てた。
そして顔を上げたテクトラムは、見た。そして、声を張った。
「錬晏!」
「!」
氷壁を形成していたその背にも、触手が迫っている!
己の生きた三国の地を食ったそれが今、己をも食らわんと。
「――させるものか」
その一心で、地を蹴った。虚空を蹴った。
追いついてくる槍にも似た触手群を、龍宿す黒刃で切り落とし。
その勢いのまま、叩きつける!
「黒龍、咆えろ!!」
咆哮が山を裂いていく。
泰山の一角に亀裂を生む。
「綱月も言っていたけれど、」
背後から、声が聞こえた。
はっとして、振り返れば錬晏の目には凛と立つアヴィシアが映る。
「この地はある人達にとっては故郷の地なの」
故郷を蹂躙されるなんて許せない、守りたい。
切なる願いは、この地に生きた誰もが思うこと。
そして、全ての大地で誰かがそう思っている。願っている。それを、アヴィシアは知っている。
「その願いを叶えるためにも、絶対に――」
ここは通さない。
●
「とは言え、そろそろ潮時かなあ……」
自らも戦いながら、戦況を見ていた優が零す。
味方も奮戦しているが、流石に消耗が激しい。
それでも何とか、ある程度の数を減らすことが出来た筈だ。同じ隊の仲間達も撤退している。
後は、別の隊を相手取る味方に任せよう。彼らを信じ、四人もまた万里の長城まで下がる。
追撃はなかった。城内へと全員で駆け込んで束の間、一息を吐く。
「しかし……」
最初に言葉を発したのは、テクトラムだった。
「そも、こんな姿で現れて人々に抱かせる感情はなんだ」
彼の抱いた疑問は、恐らく多くのディアボロス達も同じように頭を悩ませていること。
アルタン・ウルクが人々から得ている感情。謂わば奴らのエネルギー源だ。
「本当に、どこからこの力を得ているというのか」
溜息混じりに零した錬晏も、故郷の地を狙う討つべき相手として、その情報は少しでも求めるところ。
「こいつらの行為は走って喰らっているようにしか見えん。狂奔とでも言うか」
「そうね。探りを入れていた味方もいたようだけれど、読み取れそうなことはなかったし」
続くアヴィシアの言葉に、皆も頷く。
戦闘中だから余裕がなかった、で済ませるには、奴らは余りに読めなさすぎる。
「私がただの人なら、感情を抱く前に生を諦める。ならば命を落とした者への哀悼か……?」
テクトラムはそう推測するが、やはり確証はない。
「それに、彼の大地の人間がどうなったのかも判明していない。……まさか中、なんてな」
「うわ、だとしたら気分のいいものじゃないね……」
錬晏の考察には、優がその表情を引き攣らせた。それが真であった場合のことを想像してしまったか。
だが、いずれにせよ己の考えが正しいのか、そうではないのか……正解を知る術は、今はまだない。
「……やはり、その答えを知るには探索を行うしかないのかも知れんな」
テクトラムの視線が動く。三人も、それに倣う。
探索。何処を――そんなことは、決まり切っている。
アルタン・ウルクの犇めく、奴らのディヴィジョンだ。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【泥濘の地】LV2が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
【アイスクラフト】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!