リプレイ

●姫を護るものを強襲せよ
「……なるほど。確かに『孫尚香』は、『孫権』の妹に相応しい性格みたいですね」
　パラドクストレインを降り、音羽・華楠（赫雷の荼枳尼天女・g02883）は、時先案内人が感知した限りの『弓腰姫・孫尚香』の様子から、彼女をそう評する。
「ある意味、『劉備』とはお似合いかもしれませんね」
『大戦乱群蟲三国志』の『断片の王』となった『昭烈帝・劉備』は、大戦乱を経て『断片の王』と至った訳ではない。
　劉備と同じく、断片の王の候補であった『呉王・孫権』と『魏王・曹操』がディアボロス達に撃破された為、候補の中で残った者として、断片の王に選ばれたに過ぎない。
　劉備もこの大戦乱の中で幾つもの作戦を計画していたし、蜀軍最強と謳われた『関羽』も戦場に送り出していた。
　だが、三王の中で突出して有利な状況に居た訳でもない。
　今、劉備が『断片の王』として『大戦乱群蟲三国志』を統べているのは、ディアボロスが大戦乱に介入した為と言えるだろう。
「漁夫の理を得て『断片の王』ですか──今世ではもう会えないでしょうけど」
『弓腰姫・孫尚香』は滅亡した『呉』の戦域を広める為に動き、『昭烈帝・劉備』は自身の力が確固たるものになるまでは『成都』から動かないだろう。
『大戦乱群蟲三国志奪還戦』の結果次第だが、『劉備』を倒すことが目的の奪還戦だ。
　劉備は必ず撃破しなければならない……華楠の言う通り、離れた場所でこのディヴィジョンの王と王妃は撃破される筈だ。
「夫に倣うのは、武家の女としての嗜みだけど、亡くなった身内を悪しざまに罵るのはどうなんだろうね？」
　そう口にするのは、袁・雀蜂（ホーネットガール・g01434）だ。
　孫尚香は兄である、孫権は劉備に降るべきだったと零していた……雀蜂は、そのことに嫌悪を覚えてしまう。
（「ウチだって当主様が色々やらかしたけど、殊更にそれを喧伝しようとは思わない……やはり、南方の田舎者はお里が知れるというものだね！」）
　自身の過去を思い出し、皇妃となろうと『孫・尚香』の本質は変わらないということだろうかと、雀蜂は思う。
「それにしても、孫尚香が現れる可能性あり、か」
　自身にそして仲間達に問う様に、ミレイ・ドリムータ（新宿島で暮らすもの・g01550）が呟く。
「だったら、引き際だけはミスらないようにしないとね」
　時先案内人は、孫尚香が戦場に現れる可能性を示唆した上で、撤退のタイミングを見誤らないようにと念を押していた。
（「性格は孫権の妹って感じだけど、ジェネラル級だものね、油断は出来ないね」）
「何にせよ、今は尚香の配下を削る時です！」
　ミレイが思考していた時、華楠の声が響いた。
　前方に、『弓腰姫・孫尚香』の豪奢な輿を護りながら進軍する、『東呉郡主侍女隊』の姿が見えたのだ。
「王となった夫と手を携え、その覇業の一助となる。憧れた姿のはずなのに、不思議とその憧れは感じませんわね」
　袁・景理（四世三公の令嬢・g07661）はそう口にしながら、前へと出る。
『大戦乱群蟲三国志』と言う巨大なディヴィジョンの王と王妃となった劉備と孫尚香……だが、その王夫妻に、景理は羨望も抱かねば、傾倒も出来ない……むしろ、何時崩れるとも知れない砂の上の王城に居る不安定な者としか認識できない。
「ですが、侍女達の忠義の心には……敬意を払いますわ。全力でお相手させていただきます」
（「侍女達は弓が得手な様子……ならば」）
「先手必勝！　参りますっ！　翠風一陣！」
　自身の誇りを胸に、覚悟と決意をパラドクスとし、緑の風を身に纏い、景理は侍女隊へと勢いよく突貫する。
　侍女達の剣や矢がその身を掠めても、景理が怯むことも勢いを殺すことも無い。
　敵兵として、全てを撃破するのみだ。
「アタシもいくよ！」
　金色の髪を靡かせながら、ミレイが疾風のように戦場を駆ける。
　近づくミレイに侍女隊は背の羽で強烈な風を呼び起こし、ミレイの動きを封じようとするが、ミレイは侍女体が弓引く前に彼女達の動きを読んでいたように、風の中を舞うように近付くと侍女達の死角から、意表を突く攻撃を連続で打ち出す。
「飛び頃の風、ありがとね！」
　例え自信を阻む強風だろうと、自身の閃きでその風をも利用して、ミレイは侍女達を撃破していく。
「私も行きますよ。激しい大いなる怒りの姿をされる不動明王よ。迷いを打ち砕き給え、障りを除き給え、所願を成就せしめ給え……！　急急如律令!!」
　自身の陰陽の力を組み合わせ、強大なマイクロ波とした華楠は、灼熱をもって侍女達の数を減らす。
「風で動きを封じられようと、関係ありません。焼き尽くさせてもらいます！」
　言う華楠も、攻撃しただけの反撃の矢をその身に受けるが、退かず木行と火行を組み合わせることに集中する。
（「……尚香は、性格上……配下を使い潰すことはあっても、配下の危機を助けに来ることは無い筈。戦場に現れるとすれば、配下の不甲斐無さに逆上してといった感じでしょうか……。注意だけはしておかないとですね」）
　孫尚香の性質を華楠と同じように考えたのは、孫・リア（勇武と炎を胸に秘めて・g03550）だ。
（「『あの孫尚香』は、部下が倒れようが、気にはしないと思うけど……自身を慕うお付きの侍女達ならもしかしたらがあるのかしらね……まぁもし彼女が現れたら即撤退！　此処では相手に出来ないからね！」）
「弓腰姫、お抱えの侍女達なら手練のはず……油断しないで行くわよ！」
　オーラを収束し、狐の尾としたリアが、侍女隊に再度強く言う。
「見惚れちゃう？　けど、それが命取りよ！」
　朱色の槍と紫色の偃月刀を両の手に構え、侍女達の放つ鱗粉を吹き晴らすように侍女の羽を裂き、侍女達を刺し貫き、リアは戦場を戦い踊る。
「みんな、動きを止めないでね。戦場では、足を止めずに動き続けたものが生き残る……ってね！」
　夥しい矢の雨を自慢のスピードで躱しながら、闘気を込めた手刀で侍女を殺め、蟲人の脚で大地を踏みつけ、雀蜂が声を上げる。
「ええ、足を止めるのは悪手ですわね。ですけれど……」
　雀蜂の声に応えながら、景理は複数の次女を吹き飛ばす。
「攻めるも退くも、躊躇わず突貫が、基本かしら！」
　少女ディアボロス達の猛攻は止まらない。

●撤退の時……決着は奪還戦で
　ディアボロス達と『東呉郡主侍女隊』が交戦開始してから、どの程度の時間が経っただろう。
　目に見えて、侍女達の数は少なくなり始めている。
　だが、未だ、『弓腰姫・孫尚香』が戦場に現れる様子も無い。
「これ以上の深追いは、しない方が良いわね。撤退するわよー！」
　敵に大きな打撃を与え、孫尚香が現れていない今が、撤退のタイミングだとリアが仲間達に言えば、景理も同意の意を示す。
「そうですわね。『生兵法は怪我の元』ですわよね」
「退路は確保してるよ。離脱して、新宿島に戻ろう！」
　既にミレイが戦場からの脱出口を開いていた。
　雀蜂と華楠が、追い縋る侍女達へとパラドクスを繰り出し、侍女達を食い止め──戦場からの脱出を成功させる。
　前哨戦の成果としては十分だろう。
『弓腰姫・孫尚香』と決着を付けるべき時は、『大戦乱群蟲三国志奪還戦』なのだから……。

最終結果:成功
完成日	2023年04月12日