【大戦乱群蟲三国志奪還戦】白き血戦と思惑(作者 秋月諒)
#大戦乱群蟲三国志
#【大戦乱群蟲三国志奪還戦】白軍司令コルチャーク
#大戦乱群蟲三国志奪還戦
#コルチャーク
#吸血ロマノフ王朝
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●まやかしの戦争
塹壕の向こうで、怒号が上がっていた。悲鳴など無く——ただ駆ける足音に、剣戟。切り落とされて飛んだのは腕か、足か。弧を描く血など、駆ける者達にとっては関係の無いことなのだろう。
この地を守り抜き、この血で戦い抜き——勝利する。何度目かの火花と、踏み込む将の声を遠く聞きながら、血影殲兵は銃を肩に乗せた。
「——それで? 私達はここでお綺麗に座って待ってろって?」
「そういうことだ」
「私達はディヴィジョンを越えて戦争に来たんだろう? それが、特等席で眺めるのが仕事だってか? 目の前にいるのは敵だろう?」
「——だが、狩りの相手ではない」
血影殲兵のひとりが静かに告げた。
「我々が何であるのか、忘れた訳ではないだろう? 上の命令だ。首輪つきの我々は命令を遂行し——狩りを行う」
「にらみ合うだけが命令だってか?」
血影殲兵の言葉に、先の血影殲兵が静かに笑った。
「あぁ、偵察だ。待てくらいできるだろう?」
何時、狩りの時間になっても良いように。
「牙を磨いておけ。無駄に我々を減らして帰ることがないようにな」
塹壕の中、血影殲兵のひとりが告げる。大層なことだな、とまたひとつ飛んだ血を眺めながら塹壕にため息が落ちた。
●白き血戦と思惑
「お集まり頂き、感謝します。大戦乱群蟲三国志について、既に話は耳に届いている頃かと」
そうディアボロス達に告げたのは、セド・ファジュル(人間の風塵魔術師・g03577)であった。
「『呉王・孫権』『魏王・曹操』の撃破にディアボロスが成功したことにより、消去法的に三英傑のひとり『蜀王・劉備』が断片の王として覚醒しました」
だが、その権力基盤は弱いものだった。
「その結果、排斥力の低下により、『蜀王・劉備』は周辺ディヴィジョンからの侵略を許してしまったのです」
この状況を打開するために蜀王・劉備も手を打った。それが、『魏への北伐』と『呉への東征』であったのだ。
「史上最大規模の大戦乱を起こす為。そこに生まれる殺戮と血と嘆き——その屍さえ利用することによって、かの王は勝利する気なのでしょう」
隣接ディビジョンからの侵略者もディアボロスも滅ぼして——そして勝利を宣言するのだろう。
「これを許す訳にはいきません。その策、掴めた以上、防がせて頂こうかと。
皆様には、劉備が、大戦乱を引き起こす前に『大戦乱群蟲三国志奪還戦』を仕掛けて頂きます」
そして、大戦乱から人々を救いつつ、中国大陸の最終人類史への奪還を目指すのだ。
「まずは前哨戦といきましょう。蟲将の軍勢と周辺ディヴィジョンからの侵略者の軍勢に対して、戦争直前に仕掛けます」
戦力を削ることができれば、戦争の機先を制する事ができるだろう。
「皆様に向かって頂きたいのは此処、吸血ロマノフ王朝から偵察に出てきた『白軍司令コルチャーク』の軍勢です」
彼らは塹壕の中で、戦場を偵察している。
「白軍司令コルチャークの軍勢派遣の裏にいるのは、ラスプーチンでしょう。彼らは、排斥力の低下が『ディアボロスの侵略』であると想定し、偵察に来たようです」
今回は領土を増やす気は無く、戦力を温存しながら残党のクロノヴェーダを連れ帰る事を目的としているようだ。
「故に、彼らは積極的に攻め込むこはせずにこの戦争を見ているのです」
その情報を持ち帰り、連れ帰り吸血ロマノフ王朝の力とするために。
「皆様には、彼らに対して仕掛けていただきたく。あちらは塹壕を作り偵察しやすい状態を作っておりますが——奇襲を行えば、場を崩せましょう」
軍勢に打撃を与え、その戦力を減らした上で——深追いすることなく、引くのだ。
「引き際を間違えること無く撤退してください。相手は大戦力です。偵察中とはいえ、火をつければ焼きつくされるのはこちらかと」
ならば、状況を上手く使い立ちまわるのだ。
「少々、驚かせるとしましょう。彼らがその状況になれきってしまう前に、必ず撤退を。貴方方がその場で倒れてしまっては意味が無い」
セドはそう言って、ディアボロス達を見た。
「吸血ロマノフ王朝は本気で戦いに介入するつもりはないようです。彼らに目的を果たさせぬように、仕掛けましょう」
そして、無事の帰還を。
そう告げてセドはディアボロス達を見た。
「それでは参りましょうか。貴殿らの道行きに風の導きがあるよう」
リプレイ
シル・ウィンディア
偵察部隊は出来れば潰したいけど、現実的でないのなら…。
ま、削るだけ削りましょうかっ!
見晴らしがいいから、固定砲台にはなれないか…。
それならっ!
塹壕を視界に入れつつ、少し回り込むようにしては知っていくよ
走りつつ、高速詠唱を行いつつ、世界樹の翼をtype.Bにしてから、誘導弾を塹壕に向って撃っていくよ。
でも、本命はこっちだからっ!
誘導弾の着弾の瞬間に、鏡乱舞電磁精霊砲を撃つよっ!
反射するスフィアに向って撃って、反射した砲撃をプレゼントっ!
しばらく撃ったら、そのまま撤退開始っ!
追ってくるなら、時々パラドクスで攻撃を仕掛けていくね
…焦らなくても、またすぐ会えるからね。
それまでおさらばーっ♪
呉守・晶
吸血ロマノフ王朝の奴らも来たか
まぁディヴィジョンで分断されてるが本来は陸続きだしな
だが、ドイツの時と違って大地を取りに来ないか……
消極的で楽でいいと言うべきか、それとも堅実で厄介と称するべきか
なんにせよ、今はやるべきことをやるだけか
つまり、奇襲で一撃加えて数を削って引き上げるんだよ!
シースバスターライフルにエネルギーを充填してぶっ放すぞ!
向こうが魔弾ならこっちは砲撃だ
塹壕を作ってる最中なら、塹壕がクロノ・オブジェクトってことはねぇよな
可能ならその場の敵を倒したら塹壕を【建造物分解】で分解して出た資源も壊して埋めちまいたいが
それが出来るかは分の悪い賭けか、まぁ少しでも無理だと思ったら素直に引くぜ
ラヴィデ・ローズ
仲間とは別方向から、あわせて一気に攻撃
パラドクスは『レゼル(長弓)』にて
曲射でも射かけられるから
塹壕に隠れた敵を追い立てることも出来るかな
そうして混乱を誘い、反撃に身を出した敵を更に集中攻撃……
と、此方のペースに持ち込みたい
蝕む炎の呪毒を込め
薔薇咲く木に変えていく
退屈そうだったからさ
光合成でもしてたらどうだい? キミたち、顔色悪いし
防御面
『Sweetie』の結界(術)を緩衝に咲かす間に
致命打狙いは武器や腕で庇い、逸らせれば
痛みは集中の糧
呪詛勝負、射撃勝負
先に息の根を止めた方が勝ち、ってことでね
ひととおり荒らせば
態勢を整えられる前に撤収
また会おうじゃないか
しかるべき戦場で
※アドリブ、連携歓迎
如月・友仁
あはは、随分とシャイなんだね
……なら、一人一人根気強く遊んであげるのがよさそうかな
味方の奇襲とタイミングを合わせて、同時に攻撃を仕掛けるよ
統制の取れた動きには慣れていそうな相手だ
体制を立て直す前に一気に攻勢をかけたいな
充分に接近したところでパラドクス発動
相手の身体や銃火器から熱を奪い取って
炎の刃で斬りかかって攻撃を
【アイスクラフト】で作った壁を遮蔽物にして
反撃の銃弾を防ぎ、威力を和らげる
それでも、全てを防ぐのは難しいだろう
滲み出た血の熱も炎の刃に変えて
限界まで再度攻撃を続けるよ
可能な限りの戦果を得られたら撤退を
次会った時は……本気の君たちと遊べるかな
遊びたいなら、僕はいつでも歓迎するからね
朔・彗藍
【星明】
殺戮と、血で、得る力…
そんな穢れた非道は、見過ごせません
――そう、でしたね
今でも憶えてます、貴女と預けた背、合わせた呼吸を
名を呼ばれたなら、重なる視線と頷いて
ゆきましょう、共に
復讐者と絶え間なく攻撃を繋げるように
先ずは不意打ち
杖で唱える、高速詠唱を
絵を描くように振り薄紅の花弁を舞い上げ
千景の夜明と重ね覆う
貴女の暁の切先が届いたならきっと新たに赫の花が散る
朧の花弁は確かな刃へ、蝙蝠の弾丸を切り裂いて
落としきれない攻撃は身を削っても
それでも、千景の方へは行かせません
膝はつかない、だって支えてくれる手があるから
咲かせましょう、色褪せない彩の花を
……はい、引き際は心得てます
撤退しましょう
紫空・千景
【星明】
血で染め、赫を散らして勝ち取る戦場か
あんたと確かな縁を繋いだのも最初は戦場だったな?
…私も鮮明に覚えてるよ
彗、と名を呼び視線を合わせて
之こう、共に
復讐者の攻撃を繋ぐ形で奇襲を
四季の剣技、春
祝・桜暁
刀身を夜明けの花びらに変え
彗の薄紅と合わせて私達の姿を花隠し
咲いて裂き続ける花に紛れ
花びらに薙ぐは暁の刃
終を齎す一閃
相手の魔弾に魔法障壁『阻』を用い斬撃でいなそうとも
己は赫に染まるだろう
だがどんな痛みにも耐え抜く
支える手が有るから
だから彗への攻撃も私が斬り伏せよう
血濡れようと
何度でも
薄紅と黎明を合わせ咲かす
褪せぬ私達の彩繋
斃れなければ私達の勝ちだ
引き際もそろそろだろう
…戻ろう、彗
速やかに撤退を
●白き血戦
「統制の取れた動きには慣れていそうな相手だ。体制を立て直す前に一気に攻勢をかけたいな」
コルチャークの軍勢らしいところかな、と如月・友仁(ユアフレンド・g05963)は小さく息を落とす。
「そうだね。偵察部隊は出来れば潰したいけど、現実的でないのなら……」
シル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)は顔を上げる。
「ま、削るだけ削りましょうかっ!」
「そうだな!」
力強く、呉守・晶(TSデーモン・g04119)が頷く。
(「吸血ロマノフ王朝の奴らも来たか。まぁディヴィジョンで分断されてるが本来は陸続きだしな。だが、ドイツの時と違って大地を取りに来ないか……」)
遠く剣戟の音が聞こえるだけで、近くに音が無いのは血影殲兵が偵察に徹しているからだろう。戦場を——その巡りを彼らは読んでいる。この地で行われようとしている殺戮を眺める形で。
「殺戮と、血で、得る力……。そんな穢れた非道は、見過ごせません」
「あんたと確かな縁を繋いだのも最初は戦場だったな?」
朔・彗藍(ベガ・g00192)の言葉に、紫空・千景(夜明の導べ・g01765)は顔を上げる。ひゅう、と吹いた風が、結い上げた髪を揺らした。僅かに瞳にかかった紫鴉の向こう、瞬きさえなく、真っ直ぐな薄紫華の瞳に出会う。
「――そう、でしたね。今でも憶えてます、貴女と預けた背、合わせた呼吸を」
「……私も鮮明に覚えてるよ」
言の葉は囁くように紡ぐ。戦場に似合いの音で、互いの影を踏むようにして剣士は一等星の魔女に告げた。
「彗」
重なる視線に頷きが返る。
「之こう、共に」
「ゆきましょう、共に」
踏み込む足音は二つ重なり——たん、と地を蹴る音を足す。
「それじゃぁ……行こうか」
ゆるり、と友仁が笑う。「じゃぁ」と軽やかに男はひとつ告げた。
「オレは向こうから回るよ」
ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は、ふ、と口の端を上げた。
「隠れてるみたいだからね、追い立てることも出来るかな」
●殺戮を断つ
「消極的で楽でいいと言うべきか、それとも堅実で厄介と称するべきか。なんにせよ、今はやるべきことをやるだけか」
は、と息を一つ落とす。手にした剣を——鞘に収めたまま、晶は顔を上げた。
(「つまり、奇襲で一撃加えて数を削って引き上げるんだよ!」)
言の葉は、今は心の中で高らかに響かせて、鞘に収めたアークイーターに触れる。カチリ、と響いた音は鞘に収まった始まりの音か。
「シースバスターライフルとアークイーターのバイパス接続。エネルギー充填120%」
相手が魔弾を以て銃撃をしてくるのであれば、こちらには砲撃がある。例え塹壕があろうと、戦場に——射程内に入れば、撃てる。
「……これでどうだぁ!」
「——! 敵襲!」
は、と顔を上げた敵が、待ち望んだ戦いに口の端を上げるより早く晶は告げた。
「ぶっ放す!」
撃鉄を引く。キィイイン、と甲高い音と共に晶の赤い瞳が標的を捉え、光が戦場を駆けた。フルチャージされた砲撃は大地を焼く。一瞬、舞い上がった砂の向こう、塹壕の中、砲撃に飲まれた4体の血影殲兵がこちらを向く。持ち上げた銃口は、だが一体は構えきれずに崩れおちた。残る3体は敵襲を高らかに告げながら、晶へと撃鉄を引いた。
「狩りに飢えていたのさ!」
「撃ち抜け血影魔弾」
「——!」
呪われた黒き血の魔弾が弧を描くようにして晶へと来る。ガウン、と一撃、変化する弾道はそれそのものが生きているかのように晶の肩口を貫き、続く一撃が腕を射貫く。
「これで膝をつきな?」
「倒れるわけない、だろ!」
2発、見たのだ。3発目は躱せる。地を蹴って、転がるようにして晶は魔弾を躱す。
「ッハ、さすがはディアボロスか。それとも」
「褒められんのは悪くないけどな」
着地の足を起点に、シースバスターライフルを構え直す。
(「分の悪い賭けよりはこっちだな」)
状況を見定め、晶は次の一撃にアークイーターのエネルギーを回す。キィイン、と甲高く響くチャージの音は、同じく砲撃を狙うシルの耳にも届いていた。
「——光が、走ってる」
晶の再びの砲撃が一角を貫く。躱すように塹壕から飛び出た血影殲兵が光に飲み込まれて消える。
(「見晴らしがいいから、固定砲台にはなれないか……。それならっ!」)
たん、と最後の段差を飛び越える。は、と落ちたのはシルの声か、或いは襲撃者の姿を捉えた血影殲兵の者か。
「ハッ、来たぜ。襲撃だ。ポイント3」
「ここってそんな名前なの?」
笑い告げ、シルは唇に詠唱を乗せる。手の中、とん、と落とした世界樹の翼が銃へと姿を変える。零れた光と共に少女は着地より先に弾丸を放つ。
「いくよ!」
銃弾に血影殲兵が口の端を上げる。パラドクスでは無い攻撃は、血影殲兵には届かない。分かっているからこそ——引き金を、引いたのだ。
「でも、本命はこっちだからっ!」
あの銃弾。岩を飛び越え、上から向けた銃口からの一撃は誘導弾だ。着弾の瞬間、シルは魔方陣を展開する。
「遊里さん」
展開された力の向こう、召喚された幻影の遊里が頷くようにして銃を構えた。
「収束率120%……。リフレクタースフィア展開……」
銃身の先へと展開された魔方陣を合図とするように、リフレクタースフィアが敵陣に展開する。煌めきは一瞬、後は——魔力を一気に注ぎ込み、放つ。
「出力全開、いっけーーーっ!!」
強化された魔力砲が空を駆ける。展開したリフレクタースフィアにぶつかり、反射するようにして精霊砲は降り注ぐ。
「マジか」
呟くように落とされた言葉と共に、血影殲兵達を砲撃が襲った。衝撃に、ぐらり、と血影殲兵が身を揺らす。
「行け、血影銃魔!」
告げる言葉と共に血影殲兵達が流した血が、無数の蝙蝠へと姿を変えた。一斉に飛び立った蝙蝠の頭には銃がついている。ならば来る攻撃は——射撃だ。
「——っと」
一帯を薙ぎ払うように銃魔の銃弾が叩き込まれた。一撃、二撃。腰を撃ち抜き、肩口を掠り——そのまま首を狙ってきた銃弾に、シルは身を横に飛ばす。
(「動いてきた相手は3体。でも、1人動きが鈍い……」)
先の精霊砲が深手になったのだろう。銃魔の動きも鈍い。
「それ、なら……もう一回!」
いくよ、と両の手を前に出す。展開された光が魔方陣を描く。展開は血影殲兵達が次の銃魔を呼ぶより——早い。何より、そうして派手に動いて見せたのは「見えて」いたからだ。
「出力全開!」
足音を消すように前に行く友仁の姿が。
「……」
光が、一瞬空を焼いた。血影殲兵達が砲撃に崩れおちる中、友仁は荒れた地面を蹴った。
「こっちも来たぜ! ディアボロス!」
血影殲兵が銃口を友仁に向けた。その指がトリガーにかかったのも気にせずに、友仁は踏み込む。血影殲兵を踏むように——されど、足音さえその闇の中に潜め、手を——伸ばす。
「あはは、随分とシャイなんだね」
「お前銃を
……!?」
向けられた銃口を左手で掴む。一撃はただ地面を射貫いた。ガウン、と音だけが響く中、血影殲兵が舌を打つ。
「全員展開しろ!」
「……なら」
告げる言葉と共に血影殲兵の銃を握った左手が変じていく。その指先で触れた場所から、一時的に温度というものを奪う。振り払うようにして一歩距離を敵を視界に友仁は微笑んだ。
「一人一人根気強く遊んであげるのがよさそうかな」
その手に落ちたのは炎の刃。銃から奪いとった熱から刃を生成したのだ。殲兵が銃を構え直すそれより早く、友仁は前に出た。一歩、大きく入れると同時に腰を落とす。下段から一気に斬り上げるように炎の刃を振るった。
「——な」
ひゅ、と息を飲んだ血影殲兵が崩れおちる。一体、倒れた先、すぐに刃を引き抜いたのは踏み込む音が耳に届いたからだ。
「ッハハ! 楽しめそうだな! 血影銃魔!」
銃弾の代わりに血影殲兵の血が宙を舞った。鮮血は無数の蝙蝠へと変じる。頭に生えた銃が、一瞬にしてこちらを向いた。
「そうだね」
たん、と友仁はアイスクラフトで壁を作り出す。蝙蝠達が放つ銃弾が食い込んだ。ガウン、と重い音が続けざまに響き氷が軋む。砕くように一撃、届いた銃弾が友仁の頬に傷を作る。
——全てを、防ぐのは難しいことは分かっている。威力を和らげる為に用意したものだ。塹壕という空間で作り出した壁は、射線を防ぐのにも、相手の視線を遮ぐ。
「凍えそうな指先ひとつ、」
だからこそこの機に、零れ落ちた己の血に触れる。今も降り注ぐ銃弾が射貫く足に、肩から指先に伝わり落ちた血に触れ——頬の赤を拭う。その熱を奪うように。
「——もう少し」
血の熱を刃に変えて、友仁は踏み込んだ。銃魔達の意識がこちらを向く。だが構わずに友仁は血影殲兵へと踏み込んだ。
——ガウン、と重く鈍い音が響く。銃魔、と敵の上げる声は塹壕の端にまで届いていた。
「……」
そう『聞いて』いる者がいたのだ。吐く息さえ殺し敵との距離を詰めていく。そこに、ラヴィデ以外の姿は無い。
(「レゼルなら曲射でも射かけられるから、敵を追い立てることも出来るかな」)
敵の意識は砲撃を使う晶とシル、踏み込んだ友仁と彼が作った氷の壁に向いている。
(「——なら、今だ」)
キリリ、とラヴィデは弓を引く。番えた矢に、ぽう、と灯るように蠢くように蝕む炎の呪縛が込められる。
「いくよ」
言の葉ひとつ、唇に乗せてラヴィデは矢を放った。ひゅん、と弧を描いて飛んだ一矢が、血影殲兵の背を射貫く。ッチ、と舌打ちひとつ、振り返った敵が銃口をラヴィデに向けた。
「後方だ! 追い込みの狩りで狩られるのは……」
狩られるのは、どうであったのか。
背にささった矢を引き抜こうとした血影殲兵の手が宙で止まる。迎撃に出るはずであった体は、甘い芳香に包まれるように薔薇の咲く木に変わっていく。
「な……ッ」
一体、薔薇の木に変わり倒れた血影殲兵を警戒するように、残る殲兵達が地を蹴る。間合を取り直そうとする彼らを視界に、ラヴィデは微笑んで告げた。
「退屈そうだったからさ。光合成でもしてたらどうだい? キミたち、顔色悪いし」
「お前等を狩り尽くした後にでもするさ! 血影殲弾」
次の瞬間、銃口がラヴィデを捉えていた。ガウン、と放たれた高速の魔弾が迷い無く来る。身を逸らして避けるには場が悪い。何より、銃弾の方が早い。それなら——致命傷を、避ける。
「Sweetie」
甘く香る薔薇が、結界を紡ぐ。薔薇の守りを緩衝に、首を狙ってきた銃弾を弓で庇う。ガウン、と一撃、腕を掠っていった銃弾がラヴィデの中で炸裂する。
「うん」
血が指先まで赤く染める。痛みは熱に似ていた。だが、痛みを感じるだけだ。動けない訳では無く、ダメージもあるが致命傷では無い。
「ったく。落ちないとはな、ディアボロス。
「痛みは集中の糧だよ」
悠然と血影殲兵に告げてラヴィデは次の矢を構える。仲間達が仕掛けた前と、ラヴィデの動いた後ろ。二箇所からの攻撃で血影殲兵達は分断されている。今は完全にこちらのペースだ。なら、その時間を存分に使う。
「先に息の根を止めた方が勝ち、ってことでね」
弓を引き、迷い無くラヴィデは一撃を放つ。一撃、払うように銃を構えた血影殲兵は——だが腕に掠った事実には気が付いている。
「は、面白い勝負だな」
笑うように告げた血影殲兵も魔弾を放つ。呪詛勝負、射撃勝負。ラヴィデも負けるつもりは——無い。
「……」
後方、矢を射る音が千景と彗藍の元にも届いていた。逆方向から仕掛けたラヴィデの存在に、血影殲兵達も気が付いたのだろう。塹壕の奥を気にするような動きに、千景は機を見る。視線を合わせるだけで迷い無く2人は地を蹴った。塹壕の壁を蹴り、瓦礫を越える。着地の空に於いて、星を知る魔女は紡ぐ。
「華の夢を、無窮へ描いて」
唇に乗せた高速の詠唱。歌うように、囁くように現世を灯す彷徨の杖を掲げて彗藍は紡ぎ——綴る。白や黒の世界に咲かせる薄紅の花を、満開に。
「来たぞ、上……ッな、これ、は」
警戒を告げ、持ち上げられた血影殲兵の銃は行き先を見失う。絵を描くように振るわれた杖と共に舞い上がった薄紅の花弁。その色彩と共に、戦場を照らしたのは夜明けの刃。
「四季の剣技、春」
祝・桜暁。
告げるその言葉は解放であり招きであった。暁の刃が転じ夜明けの桜の花びらが咲く。舞い踊る花びらは2人の訪れを隠す。トン、と響く足音はふたつ重ねて、咲いては割き続ける花に紛れるまま——間合深くへと千景は行く。
「——ッ」
ひゅ、と血影殲兵が息を飲むが、遅い。花びらに薙ぐは暁の刃。終を齎す一閃。刃は深く血影殲兵の体に沈み、蹈鞴を踏んだ殲兵の銃は——だが引き金を、引くことは無い。
「お前、達は……ッ」
血影殲兵の胸に割いたのは赫の花。千景の夜明と重ね覆い、舞い上がった花弁は刃と成った。殲兵の銃が、地に落ちる。
「抑え込め! ったくこっちもだ!」
「仕留めろ!」
早く、と告げる声と共に血影殲兵達が崩れおちた一体を跳び越えるようにして来た。瞬間、千景の目に映ったのは呪われた黒き血。その黒を以て生成された銃弾が込められた瞬間だった。
「穿て、血影魔弾」
その銃弾に、千景は刀身に指先を滑らせる。瞬間、零れ落ちた夜明けの色彩が結界を描く。守りを刀に一撃を——いなす。
「——来る」
ひゅん、と届く音に、その速度に千景は体を合わせる。放つ、一撃。薙ぎ払うように今度こそ銃弾を断てば、真横から次の一撃が来た。
「——」
肩口に、足に痛みが走る。貫通した銃弾に肩から腕までが赤く染まる。——だが、ここで膝を折る気など無かった。
「千景」
とん、と背中が触れる。踏み込む殲兵を前に、背中合わせに戦い、踊らせていた花びらが2人の背で出会う。
「——あぁ」
返る声が、ゆっくりと彗藍の身に落ちる。その身も、腕も赤く染まっていた。
『仕留めろ、血影銃魔』
召喚された無数の蝙蝠は銃を持つ。降り注ぐ弾丸も、朧の花弁で切り裂こうとも全ては落としきれはしなかった。その時に、受けた傷が指先まで赤く染めていた。
『それでも、千景の方へは行かせません』
銃声の中、敵には確かに告げた言葉。身を削っても止めたのは千景の方には行かせない為。例え、この身が傷つき、その痛みに焼かれようとも膝をつく気はなかった。
(「だって支えてくれる手があるから」)
手を繋ぐ。向き合うように、支えるようにして前を見る。互いに向き合っていた相手を変えるように、2人、戦場を同じにするように。
「血濡れようと、何度でも薄紅と黎明を合わせ咲かす」
褪せぬ私達の彩繋。
「魅せよう、春の宴を」
千景の刃が再び花びらに転じる。その色彩を、振るう彼女の姿を思いながら彗藍は頷いた。
「咲かせましょう、色褪せない彩の花を」
花が、舞う。舞い上がる。薄紅と黎明を合わせて咲き誇る。その彩りに、宴に血影殲兵が飲み込まれていく。
「斃れなければ私達の勝ちだ」
晴れやかに千景が告げる。
「——ッぁ」
「ディア、ボロス……!」
蝙蝠は消え失せ、殲兵の銃弾は空を切る。塹壕の中、一瞬、訪れた静寂が慌ただしい声にかき消される。血影殲兵も動き出したか。
「引き際もそろそろだろう」
血影殲兵達は十分減らした。軍勢に大きなダメージを与える事が出来ただろう。
「……戻ろう、彗」
「……はい、引き際は心得てます。撤退しましょう」
千景の言葉に、彗藍が頷く。た、と地を蹴った2人の視界に、撤退する仲間達の姿が映る。
「また会おうじゃないか。しかるべき戦場で」
ラヴィデが告げる。弓を手にしたまま、塹壕の外に出れば、待て、と血影殲兵達の声が響く。
「……焦らなくても、またすぐ会えるからね。それまでおさらばーっ♪」
軽やかにシルが告げ、じゃぁな、と晶が告げる。
「次会った時は……本気の君たちと遊べるかな。遊びたいなら、僕はいつでも歓迎するからね」
笑うように告げた友仁が塹壕を越える。その撤退を、血影殲兵達は追うこともできぬまま。ディアボロス達は、白軍司令コルチャークの軍勢への奇襲を成功させたのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【ハウスキーパー】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
【アイスクラフト】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!