リプレイ
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エルサレムには、亜人が『試練』を行う鬪技場が幾つかある。
今回、復讐者が向かう円形鬪技場もその内の一つなのだが、街の至る処にギリシャ神話をモチーフにした像があるように、この闘技場にも同様のものが、外縁を囲むように幾つかの「神像」が竝べられている。
鬪技場の入口付近へ近付けば、警備に當たるゴブリンの戦車部隊に見つかり、交戰する事になるだろう。
裏側に位置する今、街の掃除に從事しているウェアキャットに見つからなければ、亜人らに通報される事なく神像を觀察できるかもしれない。
今回の最大の目的は「試練の阻止」にて、調査を行わずとも構わないが――。
巨大な鬪技場を見上げた復讐者達は、扨て如何するかと、凛然たる顏を見合わせるのだった。
ヴィオレット・ノール
ウェアキャットに見つかると厄介だが、かと言って有用な残留効果も持ってない……。
警備が詰める入り口を避けるのは当然として、他に酒場の調査でも使った変装をしておこうか。
外套を被り、ついでだ酒も持っておこう。
酔っ払いの亜人に絡みたがるウェアキャットもそういないはずだ。
あとはそもそも遭遇しないように【強運の加護】に祈るとしよう。
さて、神像を調べると言ったが何をどうしたものかな。
どの神が祀られているか、なにか共通点がないものか見てみたい気もする。
やたら戦神に偏ってるとか、そういうのないかな?
それと……クロノ・オブジェクトという話だけど、本当に亜人が作ったものなのかな。
勇者とやらの関連がないかも気になる。
目下、円形鬪技場で『試練』が始まったか、鏘々戟々の渦巻く亂戰の響きが聽こえる――。
入口の周辺は、上位階級に進化を遂げた亜人を出すまで嚴重に警備されるだろうと、戰車部隊が居るであろう方向に雪嶺の鼻梁を結んだヴィオレット・ノール(北の菫・g09347)は、警戒するほど目深にフードを被る。
長躯をすっぽりと外套に包んだ彼は、踵を返すやフラフラと入口とは逆の方向へ、酒瓶を手に酔っ払いの眞似をしながら、鬪技場の外縁に置かれた神像を調べに掛った。
(「ウェアキャットに見つかると厄介だけど、酔っ払いの亜人に絡みたがるウェアキャットもそう居ない筈」)
厄介事に巻き込まれぬよう運にも頼みつつ、覺束無い足取りで神像を見て回る。傍から見れば泥酔者の漫歩きだ。
扨て、どの神が祀られているかと、フードの陰から菫色の麗瞳を巡らせた彼は、己が如何にして「神」を判斷しているかに気附いた。
(「……ああ、そうか」)
この神はギリシャ神話の誰某であるとか、戰神であるとか。
眼前の像を見分けるには、モチーフに表現される神話や姿を「知識」として知っていなければならない。
これらの像を見る亜人らに、ギリシャの神々の姿影や物語を知る者が居るだろうか? 亜人よりも人間に近しい姿をした神を信仰する事があろうかと疑問を抱いた彼は、或る推察に至る。
「……クロノ・オブジェクトという話だけど、本当に亜人が作ったものなのかな」
慥か亜人は「こんな像を作るなら、己の像を作れ」と蹴っていた。亜人が作るなら、亜人めいた像にならないだろうか。
では「亜人が作ったものでない」とするなら、一体「誰」が作ったというのだろう。或いは「作られたものであるか」から疑った方が良いだろうか。
(「勇者とやらの関連がないかも気になるけれど……」)
既出情報と結びつけるべきか、新たな「誰」かを探るべきか。
フードに隱れる麗瞳は煌々と、靜かに、密かに、鋭さを増していた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
エイレーネ・エピケフィシア
神々の王ゼウス様に誓って、必ずこの地の冒涜者どもを滅ぼします
そのために、御身を調べ回る不敬をお許しください……神々よ
現地人と同じような服で、神像を掃除する召使いのウェアキャットを装います
【プラチナチケット】で説得力を補強
同族の目はごまかせそうですが、亜人には復讐者と気づかれてしまうでしょう
隠密を心がけ時間をかけすぎず調査を進めます
まずは全体像の把握
神官としての経験を活かして、神々の顔ぶれや像の配置に意味がないか見ます
その後、調べる姿が大通りや闘技場から目立ちづらい像を個別に確認
・細部に違和感がないか
・魔術やパラドクスのような力を感じられるか
・闘技場に力を送るような気配がないか
を重点的に探ります
鬪技場の周辺にある神々の像は、足蹴にされて橫倒しになったものの他に、唾や痰がつけられたものや、小便を掛けられたものもある。酔っ払いの仕業だろうが、手で觸れる事は躊躇われるし、中には見るだけで心を痛める者も居るだろう。
而して神官の心境は如何ばかりであったか。
「……神々の王ゼウス樣に誓って、必ずこの地の冒瀆者どもを滅ぼします。その爲に、御身を調べ回る不敬をお許し下さい」
神々よ――と小さく言ちた後は、默々と掃除に取り掛かる。
街の景色に馴染むよう、ウェアキャットの清掃員に扮したエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は、同族がそうしているのと同じく亜人の目に留まらぬよう注意しつつ、隱密に神像を調べ始めた。
(「……神々の顏ぶれは分かります。其々の像にモチーフが表現されていますから」)
アテーナーを奉じる都市国家に生まれた彼女は、神官としてギリシャ神話に精通している。
この像は慥かにギリシャの神々を映しているが、果して亜人が神話を忠実に落とし込んで作ったろうかと訝しんだ彼女は、目立ち難い位置から神像に近附き、より細かな部分を見ようとした瞬間、何がしかの「力」に觸れたような気がした。
「この力……亜人のものとは違うような……」
己が神官だからか、或いは復讐者だからか、この像からは亜人から感じる力とは「別の力」を感じる。
神像がクロノ・オブジェクトなら、何らかの役割を持っているように思われるが、では何故亜人は無視するでなく、亂暴に扱っているのか――琥珀色の玉瞳は烱々と、より深まる謎に迫らんと耀きを増していく。
この時、ふと思い出したのは、出発前の会話。
(「鬪技場に力を送るような……アヴァタール級への進化を促進している何かとは、まさか……」)
神像を淸める手が僅かに震える。
胸を過る違和感を謎を解く鍵としたエイレーネは、手早く淸掃を終えるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!
●
復讐者が鬪技場の裏手で神像を調査する傍ら、表の入口付近を警備するゴブリン戰車部隊は、走り回っていた。
『走れッ、走れェ!! 車輪は常に回しておくものだァーッ!!』
『ハァッ……ハァッ……だる……めんどくさ……』
『文句を云うなァーッ!!』
樽を積んだ戰車の上で激励叱咤する指揮官と、思い切り顏を顰めながら車を押す部下が三体。其を一組として複数騎。
鬪技場で『試練』が始まってからというもの、警備隊の全騎がずっと戰車を走らせているようだが、これが彼等の警備方法だとは指揮官の口から聽けよう。
『この戰車は走り出す時が一番遅い! 敵を見つけてから動くのでは間に合わんのだァーッ!!』
『だ、だからって』
『そして貴樣らは走ってないとダラける! 不審者に目を巡らせるより、轢き殺した方が早いのだァーッ!!』
『くっ……やっぱ指揮官は頭が良いぜ!!』
この戰車の長所は、体力自慢のゴブリンをエンジンにした超スピード。
進路は全て、彼等よりちょっとだけ賢い指揮官任せで、直線か弓形に突進する。――直角? 無理だ。
こんな戰車が猛然と行き交う鬪技場の入口付近に近附こうという者は居まいが、万一にもそんな狂人が現れようものなら、警備部隊は“奧の手”を――山ほど積載した樽爆彈を投げ込んでBOM!! 不審者を爆殺する事だって出來る。
『指揮官のワシが居る限り、車同士がぶつかる事はない!! だから全力で走れェーッ!!』
『うおおおぉぉををを雄雄雄雄!!』
轟然と駆け走る戰車を抜けて鬪技場へ向かう事は不可能。
交戰するしか手はないと烱眼を結び合った復讐者らは、戰車を攻略するに策戰を練り始めるのだった。
一角・實生
以前奪還地域で車を運転する必要があったんだけど
その時見た教習本の車の造りとは随分違うなあ
――うん、でも車は車
仲間と連携して戦闘するよ
グラナトゥムで牽制を込めた銃撃を行いながら
戦場を広く観察していこう
狙いは未だ活きのいい暴走戦車
翼を中途半端に広げ、激しい戦闘に飛ぶに飛べないような状況に見せかけるよ
闘技場の壁際など、囲まれる位置へじりじり動き誘導しよう
俺へと速度を上げた戦車に対しパラドクスを発動
戦車と指揮官を貫通撃で攻撃する
魔改造車両で公道を走るのは良くないよ
エアライドで回避可能な方向へ跳躍
残った戦車同士、或いは仲間が攻撃し動けなくなった戦車に激突させよう
爆発もするかな
……公道でいいんだっけ、ここ
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
神像は、ギリシャの方から運ばれて来たのだろうか
試練は儀式のようだ
進化した亜人に蹂躙などさせない。ここで止める
地形の利用し、物影から偵察、観察しつつ
可能なら味方とタイミング合わせ不意打ちを
戦車は急に止まれなさそう
車輪の進路を予測し対応
【トラップ生成】で落とし穴を作り、車輪の片側を落とし転覆させ味方の攻撃に繋げ
戦車の進路、車輪より上の高さに、トラップのワイヤーにパラドクスの糸を紛れ込ませて張り、そこへ突っ込ませる
指揮官から崩すのが速いか
仲間と狙いを揃えて着実に数を減らそう
反撃には魔力障壁を展開し防御し
直角の動きでフェイントかけ避ける
機をみて壁に向かわせ、戦車同士の進路を交錯させよう
ゼキ・レヴニ
あれじゃ警備ってより暴走だなァ
あんだけ全速力で走ってりゃ音も埃もすげえ筈
風下の方向、闘技場の壁側から土埃に紛れて接近
戦車が此方を向いていない瞬間狙い
『躯』を槍に変じて不意打ち*を
壁際に陣取って突進を誘い
肉体改造*で跳躍力を高め
ギリのタイミングでジャンプ*から【壁歩き】で壁上に避けるぜ
戦車を壁に激突させる事が叶えば
壁を蹴り指揮官を上から槍で襲いつつ、戦車に飛び乗るかね
戦車上では
樽を蹴落とし他の戦車にぶつけたり
槍を棒術の様に使って指揮官を強打*
おっとォ!樽ついでに煙草も落としちまった
火種にならねえといいが
気を引いて操作を邪魔し、戦車から叩き落としてやる
ほれ、よそ見してると他の車にぶつかるぜ
*=技能
クーガ・ゾハル
ぶつからないのは、ふつうにすごい
チョーゼツギコーってやつか
……ほかで役にやったほうが、いいんじゃないか
よし、じゃあ、きまりだ
めちゃくちゃにしてやろう
【腐食】を少しずつ
車輪、おしてる棒のツナギ目
命令してるやつの乗ってる足もと、片方
いちばんはやくなる時
たくさんの車が近づいてる時をねらって、ぶちかましてやろう
タマツキジコにゴチューイ、だ
そうだ
あいつら、腹へってそうだし、引っかかるかも
<罠使い>で
地面とおなじ色のデカめの石と
おまけのバナナ(中身あり&なし)をしかけながら
こわれた車、へと飛びのって【風葬】おみまいしてやるぞ
タジュージコ、タハツ中だ
トーギ場は、あっちだから
これは、じょうがいらんとう、だな
ラヴィデ・ローズ
あれに乗ったら酔う自信あるや…
うわ来た来た、やだなぁ暑苦しくって!
手押しってことは踏ん張る足場が大事かな?
物は試しと『レゼル』にてパラドクス
【泥濘の地】で少しでも勢いを削げたら
足りない頭に疑問符を浮かべてる間に、攻撃/反撃に繋げ活かす
効果的な残留効果は拝借して賢く勝ちたいね
見た感じ細かい運転は苦手そうだ
連続する火柱にて進路の択を減らし、仲間の仕掛けへ追い立てるもありか
知らなかったのかい? ディアボロスの戦いを
反撃側時には泥濘の他
『Sweetie』の結界(術)を緩衝に咲かせる間に、転がり退く意識でいよう
大地をグツグツに溶かそうね
試練に至りも出来なかったキミたちへ
ここが、せめてものリング<地獄>だ
凍雲・雪那
んむ。
走り続けられると、勢い乗って、止めるの困難。
亜人、脳味噌まで筋肉の、馬鹿ばかりと思ってたけど。
少なくとも、戦闘の面では、頭が回るみたい。
ただまあ、速いには速いなりの、弱点もある。
例えば、そう。
――車は、急には止まれない、とか。
パラドクス、起動。零下の風よ、地を蝕め。
氷で地面と壁面を凍り付かせ、コースを作る。
同時に煩い指揮官の口を凍らせて塞ぎ、戦車が状況を把握できなくして。
あとは、そうだね。
せっかくだし、自滅してもらうのが、一番効率的かな。
戦車と戦車、正面衝突するように、氷の道を調整。
ん。じゃあ、後は好きなだけ、疾走すると良い。
死出の旅は、盛大にね。
ごーとぅー、へーる。
クロエ・アルニティコス
原始的ですね。
新宿島でいうところの「戦車」を見た後だと猶更にそう思います。
とはいえ速度と質量はそれだけでも脅威。
まずは止めるところから始めましょう。
こちらに猛進するゴブリン戦車に対し【トラップ生成】を使用。
踏むと絡み付き、動きを止める植物を生やします。
車輪を狙って強制的に停止させることができれば一番楽ですが、戦車を押すゴブリンへと絡みつかせ、押せなくさせるだけでも十分です。
動きを乱したら【オルトロス・クロッカス】を使用。
オルトロスにまずは戦車上の指揮官から狙い食らいつかせ、次に戦車を押すゴブリンも食らわせます。
お前たちの神への無礼、何度殺しても余りあります。
一匹たりとも逃がしません。
呉守・晶
これが警備ってアホか?
あぁアホというか、ただのバカの集まりだったな
というか、これが戦車かよ。まぁこの時代でバトルタンクはあり得ないのは分かるが、これはチャリオットですらないだろ?
これを戦車と言い張るバカ共に、SF的な戦車を見せてやるよ!
いや、戦車のつもりで制作はしてないが多脚戦車と言い張れなくもないからな
異空間から軽自動車サイズの【ランチャーボムスパイダー】を召喚して、ランチャーから自走式球体爆弾のスフィアボムを撃ちまくるぞ!
馬鹿正直に正面からぶつかる気はないぜ、機械蜘蛛だからそっちと違って真横に動けるんだよ
突撃を横に動いて避けたら、後ろからスフィアボム発射して隙だけの連中を吹き飛ばしてやる!
エイレーネ・エピケフィシア
さて。これだけ調査できれば、もはや隠れ潜む必要はありませんね
亜人どもと戦う時です。神々への冒涜と、人々の蹂躙……許しがたい行いの報いを受けさせましょう
猛進するゴブリンの戦車が相手です
まずは動きを止めることを最優先としましょう
『悪鬼制する戒めの鎖』を発動し、敵戦車の車輪の隙間に地面から召喚した鎖を絡めます
これで車両を捕縛して動きを止めると共に、乗り手に6mまで伸ばした『神護の長槍』での突きを浴びせます
あなた達はタルタロス[奈落]に落ちて、燃え盛る車輪でも回していなさい!
反撃の突撃は直撃を免れるよう横方向にダッシュした上で
車体から突き出た槍を≪神護の輝盾≫の曲面で受け流し、負傷を最小限に抑えます
ヴィオレット・ノール
うん、考えたいことは色々とあるけれど……それは後回しだ。
試練による強化直後で混乱しているだろう今が叩く好機。
そのためにも、まずはこの防衛戦力を須らく殺し尽くさなければ。
亜人はこの世界の異物。必ず排除しなければ。
直進と弓形の移動のみ……なるほど。
ならば直角移動しないと轢き潰せない位置に入るように心掛けようか。
そうするとこちらの攻撃をどう当てるかという話にもなるけれど。
『吶喊する火種』であれば攻撃は自ら向かっていく。
狙うのは……そうだな。まずは車輪。
足廻り、あるいはその周囲の地面を破壊できたら戦車の動きも鈍らせられる筈。
戦車が破壊困難なものだとしても、地面はパラドクスの余波には耐えられないだろう?
ディアナ・レーヴェ
流石に、その…脳筋すぎない?
(生まれてこの方、この台詞を言う側に回ったの初めてかもしれない――)
ともあれ!
指揮官の指示がないと進路が崩れるのね?
隠れて侵入するとか無理だしどうせ闘技場、
まず積載した樽爆彈や砂っぽい地面に派手に砲撃して目眩ましして、音声や身振りの指示を通りにくくするわ!
皆の視界は【完全視界】で凌いでね
あと私は指揮官の口の動き見ては、嫌がらせの【大声】で台詞被せる
「遅いわ生温いわーーっ!!」「次右ぃーーー!!!(嘘」「ぶっちゃけ可哀想ーーー!!(本音」
技は【Rat】――位置関係は冷静に観察しつつ、来た車はぐっと引き付け、【トラップ作成】で引っ掛けてから横手に跳んで攻撃。横転狙いよ!
ハーリス・アルアビド
兵士としての能力が低い者の欠点を把握し如何に用いるかを考えられる点ではあの指揮官は悪くない…かもしれません。
主が巧みに操る戦車とは比べ物にならぬとしても、油断できる相手ではないのです。
味方の作戦を潰す事がないよう状況を観察しながら戦いましょう。
砂漠の神にして嵐の神セトよ、お力添えを。砂嵐で視界を、音で声での伝達を阻害します。
砂嵐の中で起こる衝撃と砂礫で戦車も敵も傷つくでしょう。その上で閃光によって引き裂きます。
傷つき注意力が削がれた状態では味方の罠を避ける事は難しいはず。罠にかかった所を狙い強襲します。
残像を残して反撃の空振りを誘い、再度のパラドクスで蹂躙します。
イル・シルディン
*アドリブ・連携は歓迎
馬鹿げてはいるけれど、理には適っているわ
正面からぶつかる選択肢を消してしまえるのは有利だもの
あとは、それ以外の手段に対処する頭があるのかどうかかしら
真っ直ぐに轢き潰してくれそうな方向に陣取っておくわ
不意打ちを狙う人が多いのだったら、解りやすい的は良い囮になるのではないかしら
でも、囮をする為だけに危険を犯しているのではないわ
速度を上げてくれる程、急回頭はし難くなるのだから
目いっぱい全速を出して貰って、目前で【エアライド】
真上に飛び上がって反転
すり抜けていく指令役の頭を矢で撃ち抜いてあげるわ
あ…そう、いい感じに罠の仕掛けと連動できるのだったら
利用させて貰うのもありね
●
神像を調べ終えた者達が向かうは、鬪技場近辺の建物。その片隅。
物陰で警備部隊を偵察する仲間と合流し、調査結果を報告した。
「――成程。とすれば、神像はギリシャ方面から運ばれたものか……試練は儀式のように見えるし、気になる事が沢山ある」
潜伏調査を勞うと同時、その内容に興味を示すエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)。
知る程に謎が深まるとは、実際に調査したヴィオレット・ノール(北の菫・g09347)も同意を示そう。自ずと言が継がれる処、然し思案を巡らせ意見を交すには邪魔があると、喧擾の方向を瞥る。
「うん、考えたい事は色々とあるけれど……今は後回しだ」
兩人が視線を揃える先には、轟々と呻る車輪と、其が大地を踏み拉く振動。
ゴブリン達が押す巨大な戰車が、猛然たる勢いで動き回っていた。
「流石に、その……腦筋すぎない?」
この戰車を表現するに、ディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)の言が最も端的。
豈夫[まさか]この台詞を言う側に回るなんてと、蘇芳を彩る瞳をぱちぱち瞬く彼女だが、斯く囀った櫻脣も生まれてこの方初めてかもしれぬと、ぽっかり空いた儘、閉じるのを忘れている。
彼女の呆然には、同じく軍兵の経験を持つゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)が共感を寄せよう。
「――ハ。あれじゃ警備ってより暴走だなァ」
吃々と哂って茶化してはいるものの、陰翳から注ぐ双眸は怜悧に犀利に、朦々と捲き上がる土埃の流れに風向きを見出し、この轟音を止める攻め口を探している。
而して呉守・晶(TSデーモン・g04119)は齒に衣着せず、何とも直截。
「これが警備ってアホか? アホか、バカか……若しかボケてんのか?」
真赭の麗瞳に映すは、ゴブリン達が手で押す大八車めいたモノ。
連中がツッコミを待っているように見えるのは、晶が戰車の何たるかを識るからに他ない。
「この時代でバトルタンクはあり得ないのは分かるが、これはチャリオットですらないだろ?」
「慥かに。新宿島で言う処の『戰車』を見た後だと、猶更にそう思います」
較べて良いかと遠慮すら抱くは、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)。
蓋し普く兵器に攻略法があるように、原始的で野性味溢れるこの戰車にも弱点はあると、佳瞳は玻璃の如く澄んで烱々と、かの猛進を映している。
「車輪があるし、一應は……――うん、車は車だ」
高みより偵察する一角・實生(深い潭・g00995)は随分と譲歩しよう。やさしいか。
彼は以前、奪還地域で車を運転する必要に迫られた事があったが、教習本で見た其とはかなり造形が違うなぁと思いつつ、連中を自由にさせている入口附近の広さを目測していく。
一同が樣々な角度から洞察する中、戰車の機動性や戰術性を見る者も居る。
ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)もその一人。
「オレ、あれに乗ったら酔う自信あるや……」
積載した樽の山に立ち、かの猛然を制禦するとは中々だと、白銀の麗瞳は昏がりに光を潜めつつ、鋭く觀察している。
「うん。ぶつからないのは、ふつうにすごい」
これぞチョーゼツギコーってやつだと納得を得るは、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)。飴色を搖らす隻眼は煌々と、だんじりに乗る大工方を見る少年のよう。
蓋し認めるばかりでないとは、ぽつりと添えられる科白で明白。
「……ほかで役にたったほうが、いいと思うけど」
「、言えてる」
無垢ゆえに的を得るクーガには、ラヴィデがくすりと竊笑を零す。
二人の對面、ハーリス・アルアビド(褪せる事を知らない愛・g04026)の読みも冱えていよう、
「兵士として能力が低い者の欠点を把握し、如何に用いるかを考えられる点では、その采配も悪くない……かもしれません」
亜人が警備兵としての素質に乏しい事は、これまで幾つか前例がある。短所をカバーしたなら優秀な部類だ。
主が巧みに操る戰車とは比較にならぬとしても、油斷出來る相手では無いと佳脣を引き結んだ彼は、扨て、如何に攻めようかと眼眦に烱瞳を遣った。
この時、流眄を受け取った凍雲・雪那(報仇雪恨の■■姫・g07783)は「んむ。」と小さく頷くと、ギリギリ擦れ違っては驀進する戰車に繊指を結び、連携をしている訳では無いにしろ、其々の技術が互いを活かし合っていると指摘する。
「亜人、腦味噌まで筋肉の、馬鹿ばかりと思ってたけど。――少なくとも、戰鬪の面では、頭が回るみたい」
要は鋏と同じく“使いよう”。
ゴブリンまるごと動力にする荒業は突き抜けているが、その實、正面からぶつかる選択肢を潰した有利は大きく、「理には適っている」と首肯を添えたイル・シルディン(気ままに我がまま・g05926)は、黝色の瞳を黑々と輝かせて云った。
「――そうね。あとは“それ以外の手段に対應する頭があるのか”どうかかしら」
臨機応變に動くのは難しいものだと、棒切れを手に地面に略図を描く佳人の隣、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は、次々と置かれる人数分の石を見つつ、最後に己の石を置く。
「もはや隱れ潜む必要はありません」
神像の調査は終えた。
警備の樣子も偵察した。
策戰を擦り合わせ、配置も決めた。
「さぁ、亜人どもと戰う時です。神々への冒瀆と、人々の蹂躙……許し難い行いの報いを受けさせましょう」
凛と花顏を持ち上げた佳人は、朦々と蹴立つ砂埃を見据える仲間達と視線を揃えると、息を合わせて爪先を彈いた。
†
『ハァッ……ハァッ……かったるいわー』
『ツベコベ言わんと走れェーッ!! 敵はいつ來るか分からんぞォーッ!!』
指揮官の叱咤を浴びて走る部下は、ゴロゴロと大きな音を立てて回る車輪の“異變”にいつ気附いたろう。
『上官、なんか固いというか、重いンすけど』
『疲れか!? 屈強なゴブリン部隊が疲れたと言うのかァーッ!!』
『いや疲れたとかじゃ……』
そう煽られれば連中は悒々[くさくさ]と走り続けるが、矢張り、重いものは重い。
どうも可怪しいと押し手が互いを見合った、その時――其々の脚に植物が絡んでいるのが見えた。
『? なにこれ』
否、脚だけでは無い。
見れば車輪の輻や輪縁、轂や箍にも植物が絡まっており、轢いてもニョキニョキと生え出でて回転を邪魔している。
『上官!! なんかヘンな事になってんスけど!!』
『コラ、脇見禁止ィ!! グラグラしておるぞォーッ!!』
指揮官の位置からは、車輪や押し手の脚に迫る植物は見えまいが、妙に搖れ出したとは感じよう。
頻繁な往來で踏み固められた地面が、まるで泥濘を走るようにグラつき始めたのは、押し手の呼吸が亂れたからだと怒った指揮官は、刹那、側面から押し込まれる衝撃に身を浮かした。
『な、ンだとォーッ!?』
「――よう。警備は順調かい」
戰車が片輪を泳がせた瞬間、宙に跳ね上げられた指揮官が見たのは、土埃から影を現したゼキ。
鬪技場を壁伝いに風下から潜入した彼は、戰車の側面が見えた隙を強襲――! 槍と變じた『躯』で輻を衝き破壞すると、猛スピードで疾走していた巨塊をフラフラと片輪蛇行させた。
『なん!? ……ぬっをっ!!』
必死に把手を摑んで顛倒を拒む押し手は、然し手足に絡んだ植物に引っ張られるばかり。
「会敵・即・轢殺は適わなかったようですね」
かの厄介を植え育てたのは、クロエ――土埃に紛れて種を撒いていた魔女は、戰車が其を踏んだ瞬間から急速に生育させ、車輪や押し手に絡ませる事で、槍が輻を衝ける速度まで勢いを殺したのである。
而して初撃の奇襲を援けたのは、もう一人。
「やっぱり。踏ん張る足場が無くなると、一気に勢いが削がれるみたいだ」
蘭麝と馨れるバリトン、聲の主はラヴィデ。
軋々と轟く車輪の音に『レゼル』を潜らせた彼は、紫黑の呪炎を砂地に這わせて泥濘に、連中が足りない頭に疑問符を浮かべる間に足元を搖るがしたのだ。
『くっお……ぉぉおお!!』
敵はいつ來るか分からないのでは無い。既に仕掛けていたのだ。
ぐうらと傾いたまま走る戰車に腹這いに縋みついた指揮官は、今こそ大きく『敵襲ゥーッ!!』と喚呼した。
『敵襲!? 侵入者は何處だッ!!』
『見つけ次第、轢き殺せェーッ!!』
報を受けた指揮官達が、朦々と蹴立つ砂埃に目を凝らす。
間もなくその内の一体が、入口の眞向かいから響く異音に眦を裂いた。
『!! アレかァーッ!!』
靉靆たる噴煙[けむり]の向こうに覗く影ふたつ。
携行用重キャノンに砲音を哮るディアナと、リカーブ連弩を連射するイル――正面突破を図る芙蓉二花が捉えられる。
『脚力いっぱい右旋回ィーッ!!』
『えぇと、右は』
『たわけ!! もどかしい背中の痒みを探す時の手だろうがァーッ!!』
『あぁこっち』
餘り御悧巧でない者にも理解るよう指示しつつ、戰車の進路を侵入者に結ぶ。
而して一気に驀進した巨塊は、然し、轢けば他愛なく散ってしまいそうな二輪の花を捉えた矢先、地面から朦々と噴出する砂埃に視界を遮られた。
「火砲は標的を撃つだけじゃないわよ!」
砂地めがけて派手に砲撃し、兩者の間に砂煙の柱を突き立てるはディアナ。
隱れて侵入する性分で無し、存分に鬪ってやろうと挑戰的な咲みを浮べた美人軍師は、己は瞭然な視界を保ちつつ【Rat】――限りなく凝縮された時の中で冷靜に戰況を読み、次瞬、敵が弱点を晒すであろう時間を仲間に託した。
「上をお願い!」
「了解。任せて」
短く言を置いたのも一瞬、タンッと踵を蹴るや輕やかに上空へ駆け上がるイル。
空中をジグザグと跳びつつ、高みから戰車を俯瞰した彼女は、そのまま一直線に地面を走り抜ける巨塊を背襲――! hunting hawkが射掛ける鋭鏃をドスドスと指令役の背に突き刺したッ!
『ぬぁ!! 背中がァーッ!!』
『かゆい?』
『攻撃を!! 受けとるんじゃい!!』
朦々と砂埃が舞う中、状況を把握する餘裕は無い。
この時、イルに上空からの急襲を任せたディアナは側面へ、轉がりざま筒先を車輪に結んで砲撃を加えた!
「橫転狙いよ!」
『のわっ……搖れるゥーッ!!』
轂を撃たれた車輪は外れ、こちらも片輪で蛇行した後は何處に向かおう。
制禦を失った戰車が障害物でしか無いとは、次の瞬間、具象となって示された。
「――Glacial Zero. 零下の風よ、地を蝕め」
ギャギャギャッと悲鳴を叫ぶ車輪の響動を擦り抜け、冱ゆるソプラノが祕呪を唱える。
紡がれる超常は【氷食輪廻】(グラシアル・ゼロ)――纎麗の躯より極低温の冷気を迸った雪那は、地面を一気に冷却させると、グラつきながら疾る戰車を氷の轍に嵌めた。
「片輪同士。自滅して貰うのが、一番効率的かな」
『!! この儘じゃ衝突する……ッ、おもォォかァじッ!!』
「ん。煩い」
『ッ、ッッ~~ッ!!』
ついでに指揮官の口も凍らせて塞いで仕舞う。然れば押し手は前進するだけだ。
制禦を失った戰車二機は、氷の軌条[レール]に導かれる樣に進路を結んで正面衝突! 前面に構えた槍で互いを突き合い、その身を派手に破散させた。
斯くして戰車が壞れれば、指揮官も押し手も實に無力。
連中は一転して轢殺される側となる爲、逸早く戰場を離脱したい処、その脚と目は轟々と吹き荒れる砂嵐に阻まれた。
「砂漠の神にして嵐の神セトよ、お力添えを」
『えっあっ、何も見えない……!!』
猛威を齎したのは、ハーリスが捧げたる【セトへの嘆願】。
払暁を浴びたように黄金色に輝く砂を一帯に躍らせた彼は、自身も麗顏を靑銅色[ブロンズ]に輝かせながら玉臂を一揮り、敵の視界を阻害すると同時、味方を覆い隱して轢殺の的となるのを禦ぐ。
「嵐神の瞋りで音と聲は塞がれ、叩き附ける砂礫が肉体と挙動を削いでいく。つまり――」
『……っっ、あぁぁああ嗚呼っ!!』
今度はゴブリンと戰車の正面衝突!
侵入者を轢き殺す処か、壞れた戰車ごと仲間を轢いた戰車は、斷末魔を耳に掠めてまた迷走していくのだった。
蓋し復讐者は、戰車がゴブリンを轢くまで待つ事も無い。
ゼキらが風下の有利を使ったなら、今度は風上に立った晶が異空間より輕自動車サイズの【ランチャーボムスパイダー】を召喚し、砂塵を彷徨う者達に球体爆彈を撃ち込んでいく。
「お前達が戰車と言い張った代物は壞れてあのザマだ。そんじゃ俺の戰車を見せてやるよ!」
『!? なんか脚に張り付い……ぁあがァァアーッ!!』
四本の機械脚で自走した爆彈は、獲物の脚を摑んで大爆発!
標的と座標を同じくした瞬間に焦熱と灼光を解き放ち、ピンポイントで爆殺した。
「戰車を潰せば丸腰だ」
『ッアーッ!!』
「勿論、容赦しないぜ」
『んばーっ!!』
實は戰車のつもりで制作した訳では無いが、蜘蛛型多脚戰車と言えばヨシ。カッコイイ。
晶は赫々と閃く爆轟を以て、戰車を改竄した者達を罰していくのだった。
「将を射んと欲すれば馬を――と言いますが、攻略の鑰はやはり戰車。先ずは動きを止める事を最優先としましょう」
「噫、あのスピードは諸刃の劍……急には止まれない。車輪の進路を予測すれば、充分に対應出來る」
奇襲は上々、事前に相談した通りだとはエイレーネとエトヴァの言。
この混亂に畳み掛けようと瞥見を結んだ二人は、猶も走り回る戰車の数メートル先、数秒先の“未來”に仕掛ける。
(「指揮官を崩せば、押し手は直進するしかない――」)
先に動いたのはエトヴァ。
魔力を漲らせた纎指を嫋やかに躍らせた麗人は、【斬糸結界】――幽かにも綺羅と煌く絲を編むと、戰車の進路、車輪より上の高さに蜘蛛の巢の如く張り巡らせ、間もなく突進する戰車の指揮官を迎えた。
『っ、むを――ッ!!』
「狙いを揃えて、着実に数を減らしていこう」
獲物を捕えた絲は纎細ながら斬味は鋭く、かの鷲鼻をハムのように刻んで血汐を噴かせる。
鎧が無ければミンチになっていた肉は忽ち躯を掬われ、押し手が目に追う間もなく戰車から振り落とされた。
『あっ上官が』
『いなくね?』
ならば如何したら良いだろうと、判斷する時の猶予は無い。思案したかも分らない。
舵を失った戰車が予測通り直進すれば、地面より伸び出た黄金の煌き――【悪鬼制する戒めの鎖】(デズマ・カタストリス)が車輪の隙間へ、鏗々と音を立てながら絡まり、鈞ッと張り詰めた瞬間に回転を止めた。
「暴虐の徒、悪戯に転輪する者よ。タルタロス[奈落]に落ちて、燃え盛る車輪でも回していなさい!」
『タルタル? タルたろう? ――ぁぁああ唖唖ッ!?』
死に行く先を知らぬ愚者は、逝けば宜しい。
鎖に縛された戰車を猶も押さんとしたゴブリンは、次の瞬間、最大限まで伸ばした長槍の穂先に頭部を貫かれ、今際の絶叫も赫く染めて斃れる。
神速の槍撃が続いて二体、三体と首を突く中、轉げ落ちた指揮官を始末したエトヴァが佳聲を投げて、
「戰車が外側を走るようになってきた」
「ええ、速度を上げて對抗し始めたみたいです」
間もなく反撃が來る――と砂塵を挟んで烱瞳を結ぶ。
二人の表情に動搖が無いのは、勿論、その用意もしてあるからに他なかった。
†
『奇襲は仕方無い!! これより全身全霊全速全進ッ!! 全力ケイデンスだァーッ!!』
『それって、まだ走る……ってコト!? っぅぁぁああ唖唖!!』
奇妙奇天烈な戰車は、これより無理を押し通し、常軌を逸した速域に突入する。
然れば自ずと弧は大きく外側を走るようになるのだが、猛然と立ち昇る土埃の中、櫻脣に微咲を湛える者があった。
「――直角移動しないと轢き潰せない地点から、此方の攻撃を命中れば良い訳だ」
敵の機動は直進と弓形のみ。速度を上げれば更に絞られる。
競い合う性分でも無いと、交睫して隔絶を置いたヴィオレットは、再び睫を持ち上げれば菫色の瞳を冱々と、我が身に漲る魔力を無詠唱で練り上げた。
「僕の代わりに追って貰おう。そうれ」
刹那、術者の白皙を強く白ませたのは【吶喊する火種】(アタックボマー)。
目標をより精確に、軋々と叫ぶ車輪めがけて飛び込んだ赫耀は、着彈と同時に閃熱と衝撃を爆ぜさせ、ゴブリンを仕留めるより迅く戰車の統禦を鹵掠[うば]う――!
「破壞困難な代物なら、地面を削って動きを鈍らせようと思ったけど……うん、上手くいった」
畢竟、諸有る場面を想定した戰術は強い。
己の脚力には自信があろうが、戰車の足廻りを攻められた部隊は、足なき巨塊を押す拷問を受けるのみとなった。
『おっっっも……っ!!』
ゴブリン達が車輪の取れた何かを押す中、複数の戰車が更なる外周を疾走していく。
超速の域に達した戰車が同一軌道上に集まれば、愈々脅威は増すが、連中が「いちばん速くなる時」「たくさん近づく時」こそ狙い目と、クーガもこの軌道上で仕掛けた。
「むこうがむちゃくちゃするなら、きまりだ。おれもめちゃくちゃにしてやる」
風が劍呑を帯びるほど超感覺を研ぎ澄した彼は、出会い頭、己に迫る一騎を橫ッ跳びに避けざま、【風葬】(ラ・ナ)――右の眼窩に祕す黑々しき光芒を解き放つ。
擦れ違った瞬間に車輪や把手を腐食した後は、続くもう一騎、火球の如く走る巨塊に己を轢かせる代わり、頃良く減速した前方の戰車を衝かせて自滅させた。
「タマツキジコにゴチューイ、だ」
『ッ、のわーッ!!』
而して後続も避けられまい。
次々と衝突する戰車を跳び渡ったクーガは、瞳に湛えた光を帯と引きながら、その足跡に朽ちた戰車を並べていく。
「タジュージコ、タハツ中だ」
この戰域が危険であると、親切ながら冷酷な警告が、ゴブリン達の背筋を貫いて走った。
『いかん、こうなったら奧の手を使う!! ワシに任せろォーッ!!』
沈默した戰車の上で地団太を踏んだ指揮官が、荷紐を切ったのはこの時。
轢殺が無理なら爆殺だと樽を投げた邪は、然し、イイ感じに轉がる筈の樽がその場に留まる奇妙に首を傾げた。
『……なんで樽動かんの?』
「それはキミたちをやっつける爲のモノだからだよ」
ヒラリ翻した手を地面に向けて答えるはラヴィデ。
会敵劈頭より【灰塵の海】(グリ)を齎していた彼は、投げ込まれた樽を泥濘に抱くと同時、グツグツに溶かした大地から突き上がる火柱――暴竜の如く猛る灼熱に樽を嚙み砕かせる。
「試練に至りも出來なかったキミ達へ捧げるよ」
『ァツ、熱ッ、ァァアーッ!!』
「此處が、せめてものリング[地獄]だ」
武器を使うなら、敵に使われるリスクも考えるべきだろう。
賢者は斯くして勝つものと、人竜は塊麗の微笑をひとつ。復讐者ならではの戰い方を教えるのだった。
『んぅぅううっ!! 負けん……負けんぞォーッ!!』
火柱に喰らわれる同胞を橫目に見つつ、猶も驀進する戰車隊が狙い定めたのは、壁際に位置する復讐者。
一人は内側へ退避するタイミングを失い、もう一人は背の翼が猛風に取られて飛ぶに飛べぬか、とまれ、このまま駆ければ擦り潰せると舵を切った指揮官は、戰車の前面に備えた槍の鋩を彼等に向けた。
『そぉれ、串刺しじゃーッ!!』
『じゃぁぁああ!!』
後は槍に貫かれるか、巨塊に押し潰されるかの二択。
如何樣にも死ねと鋭眼をカッ開いた指揮官は、然し、兩者が垂直方向に移動した瞬間に色を失った。
「眺めが良さそうだ。どれ、俺も乗せて貰おうか」
『ふ、な――!!』
彼等が敢えて壁際に陣取っていたのだと気附くも遅い。
壁を蹴った勢いで宙空で方向転換したゼキは、戰車に乗りざま喫驚に強張る指揮官を一突き! 槍で串刺しにする筈だった彼奴に逆に槍を喰らわせ、相手が盾を構えるより迅く脇腹を叩いて振り落とす。
「代われってこった」
『んお雄雄ォッ!!』
光彈く刃筋は一直線、一気に邪を刺し貫く【疾風の槍】(ヴィントシュトース)は次いで押し手のゴブリン達へ、高所から颯を連れて赫々と血汐を躍らせた。
「誇れる程の代物なのは理解るけど。魔改造車輛で公道を走るのは良くないよ」
而してもう一人、戰車の突進から遁れた實生は、砂埃の晴れた上空で羽搏きをひとつ。
大きな翼が風に取られて窮していたとは“うそっこ”で、好餌を演じて戰車を誘導した實生は、眼下に敷いたゴブリン達にグラナトゥムの照準を結んで【ノクテムヴィアム】ッ! 上からの攻撃に頓と弱い彼等の腦天に、次々と銃彈を沈めていく。
品佳い鼻梁に硝煙を掠めた實生は、不圖、自問をぽつり、
「……公道でいいんだっけ、ここ」
無論、公の道に違いなかろう。
お天道樣の下にあるものは~すべて皆のもの~♪ と、歌ウマのエジプト人が歌っていたから大丈夫だ。
斯くして地面を水平方向に、限定的な機動でしか進めぬ戰車隊に對し、復讐者は角度や高さを變えて攻撃し、また幾つもの罠を仕掛けて大いに翻弄したろう。
『っ、んばァー!!』
『ナンデ!? いきなり攻撃ナンデッ!?』
文字通り足を掬われた警備部隊は、広々とした鬪技場門前に多くの残骸を散らかし、また壁に戰車を突き立てるなどして、すっかり数を半減させていた。
†
「臨機応變に対処する頭は無かったようね」
當初の懸念は一應の結論を得たと、エルフの狩人イルは靭やかに舞って獲物を攻め立てる。そして畳み掛ける。
既に雜具[ガラクタ]と化した戰車を足場に、己へと進路を結ぶ巨塊の上を輕やかに飛び渡った彼女は、烱々と研ぎ澄まされる殺氣を夜帷の瞳に隱して【Bullet Rain】! 見事、指揮官の眼球を射抜いて血飛沫を躍らせた。
「解り易い標的を狙うのは危ないわよ。狩人と獲物の関係は實に脆く、立場は容易に入れ變わる」
『ゼ、ァ……ッ!!』
「然う、こんな風にね」
蓋し折角の忠告も聽けまい。
ズル……と躯を傾けた指揮官は戰車から零れ落ちると、速度はその儘、急回頭も出來ず連撃を浴びるだけの巨塊を、後続の復讐者に差し出すばかりだった。
――時に。
指揮官が居なくなったなら、代わりに指示を出して遣れば良いと、機転(嫌がらせ)を利かせたディアナが聲を張る。
劍聲銃砲を幾度と潜った大音量は、此度も凛と澄み渡り、
「遅いわ生温いわーーっ!!」
『やば、上官めちゃ怒ってるやんけ』
普段よりずっと可愛らしい音色だが、劣勢に焦るゴブリン達は怒気の方が気になるよう。
否定する指揮官も無く速度を上げた連中は、続く指示も聽いて進路を地獄へ、復讐者が用意する更なる罠に導かれる。
「次右ぃー!!」
『しゃーす!!』
「全力で直進ー!!」
『ハァ……ハァ……しゃす!!』
イルより獲物を預ったディアナは、次いで連なる鎖を知っている。其を思うと少し不憫になる。
「ぶっちゃけ可哀想ーーー!!」
大聲を哮った佳脣は最後に嘘でなく本音を告げ、戰車を送り出すのだった。
「ん。じゃあ、後は好きなだけ、疾走すると良い」
既にコースは出來上がっていると、雪那が招き入れるは極寒地獄。パラドクスで生成した車幅ピッタリの氷の道だ。
『なンか寒くね? ……いやサブッ!! さっむ!!』
對向から別の戰車を疾らせて衝突させる事も出來る鬼畜のコースは、此度は戰場の中央に穹窿形に橋を架け、兩サイドから復讐者の攻撃を浴びたい放題の新しい鬼畜を齎す。
「死出の旅は、盛大にね」
『っぁぁああ唖唖ーッ!!』
脇道も無ければ引き返す事もかなわぬ凍結路には、兩脇から復讐者達が猛撃を叩き込み、戰車がゴールに辿り着く前に黄泉へと送り出そう。
「ごーとぅー、へーる」
花脣は淡々と佳聲を零すと、靜かに親指を下へ向けるのだった。
「――最早、自由に駆けられる庭では無くなったという事です」
而して晒される戰車の側面を、風刃と砂礫で脅かすはハーリス。
戰鬪も終盤、損耗は大きく注意力も削がれれば、数々の罠を遁れる事は難しかろうと敵の劣勢を読んだ麗人は、兩の獸爪を舞うように閃かせると、その爪先が描いた通りの光条を疾らせた。
「セトよ、今こそ御身の力を。生命のアンクと支配のウアスを光に紡ぎ給え」
『くッ、ぬぅおををーッ!!』
窮した指揮官がハーリスめがけて樽を投げつけるが、搔き亂したのは彼の“影”。
間もなく爆ぜる衝撃を残像に代わらせた彼は、故郷の神に捧げた祈りを燦爛たる閃光に變えて放射し、指揮官が更なる樽を抱え上げた瞬間を切り裂いた!
『あぁ嗚呼ァーッ!!』
訣別は佳脣に祕して。
翠緑の瞳は唯だ靜かに、戰車上で炸裂した爆炎を映すのだった。
ハーリスが指揮官を炎上させる中、逆側に位置する晶が連鎖・連動して動く。
この謎物体を戰車と言い張る連中を始末するに、蜘蛛型多脚戰車を並走させた晶は、スフィアボムを連続放射! 凄まじい突進力と殺傷力を持つ正面は避け、守りの薄い側面へ爆撃を重ねた。
「オレは馬鹿正直に正面からぶつかる気はないぜ。そういうのは器用な仲間がやってくれてる」
『ッぐぁあ嗚呼――ッ!!』
閃々と爆ぜる灼熱に麗顏が照る中、荷紐の解かれた戰車から次々と樽が零れるが、蜘蛛は足も取られまい。
「こちとら機械蜘蛛だから、そっちと違って眞橫に動けるんだよ!」
晶の戰車は走行性も機動性も抜群。
畢竟、性能に優れた兵器が勝つと彩瞳に光を湛えた晶は、差を突き付けるようにもう一発! 今度は樽を積んだ荷台の中に飛び込ませ、大爆発を誘引させるのだった。
『ぁぁああ嗚呼ァァ唖唖唖唖ッ!!』
『所々で戰車が炎上しておるッ!! 左に避けろォーッ!!』
今や鬪技場の門前は大混亂。警備部隊は嘗てない恐慌に陥っている。
不斷に繋がれるパラドクスが齎した視界不良と地面の起伏は、戰車の強味を悉く潰して残骸と化し、愈々部隊を敗北へ――時を一気に加速させた。
『無理矢理にでも左ィーッ!!』
「うわ來た來た、やだなぁ暑苦しくって!」
択ぶ進路を減らした戰車が、左へ急回頭した矢先に出遭ったのはラヴィデ。
指揮官の血走った目とバッチリ視線が合った彼は、思わず悸乎[ぎょっ]と飄然を崩すが、其も一瞬の事。麗人は纎指に取り出した『Sweetie』の花馨を広げるや結界で緩衝させ、かの猛然がダマスク・モダンを散らす間に転がり退く。
ふう、と零れる吐息も優艶に、彼がギリギリまで引き附けたのは理由があろう。
今の一瞬で減速した戰車は、終焉を嚮導[みちび]く魔女に預けられた。
「――オレは生憎の砂かぶりだけど。君には良い位置なんじゃないかな」
「はい。お招き戴いたからには必ず仕留めます」
美しくも凄まじく殺氣を帯びたソプラノを囁くはクロエ。
芳しき花のおもてに祕めた凶暴を種に籠めた佳人は、【オルトロス・クロッカス】――ギリシャ神話に記される双頭の魔犬『オルトロス』を芽吹かせると、轟然と接近する戰車に猛々しく向かわせた。
「我が焦燥を宿せる黯獸よ。急く儘に引き裂き、嚙み砕け」
『でかッ……ッどわぁあッ!!』
躁急な四ツ脚に恐怖は無し、猛然と迫る槍の密集を駆け上がったオルトロスは、先ずは指揮官へ飛び掛かり、強靭なる顎に鎧ごと腕を引き千切った後は、戰車を押すゴブリン達に喰らい掛かる。
「お前たちの神への無礼、何度殺しても餘りあります」
穢らしく殺めても、惨たらしく殺めても。燃え盛る瞋恚は竟ぞ収まるまい。
双頭の魔犬が血斑を躍らせながら骨肉を屠る音を聽いた魔女は、冷月の如き瞳を煌々、
「一匹たりとも逃がしません」
眼路に広がる凄惨の景を、聢と視るのだった。
「――そうだ。あいつら腹へってそうだし、引っかかるかもしれない」
連中が戰鬪前から随分と疾らされている事に着目したクーガが用意したのは、バナナ。バナナだ。
そのうち数本は、偵察時に希望者と食べて皮だけにしていたものもあるが、これをデカめの石に隱れながら地面に仕掛けていた彼は、遂に、通常の六倍も滑り易くなるという皮の怖ろしさを披露した。
『あっ今なんか踏んだァァアアーッ!?』
『ハァ!? 何言ってんぶるぁあ嗚呼!!』
車輪が踏めば戰車はズルリと橫滑りに、またゴブリンが踏めばスッテン轉んで置き去りに。
ツルンツルン滑って蛇行する王道のリアクションは、まるで喜劇王だ。
『かっ壁伝いに走って持ち直させる……ッ!!』
慌てた指揮官が壁面に向かわんと指示を出すが、この時、待っていたバスが來たみたいな気輕さでゼキが戰車に飛び乗り、足元の樽を蹴り落として後続を脅かした。
「おっとォ! 樽と一緒に煙草も落としちまった」
『!! いかん、引火したら――』
「ほれ、よそ見してると他の車にぶつかるぜ」
『ッ、ッッ!!』
激しく振動する戰車の上でも槍捌きは巧みに、持ち手を中心に旋回させた柄を叩き附け、指示の発出を妨害する。
その大立ち回りには、クーガが擦れ違い樣に言を置いて、
「トーギ場は、あっちだから、これは“じょうがいらんとう”だな」
「そりゃ上手いこと言ったもんだ」
其を一瞬で拾ったゼキが翩翻[ヒラリ]と軍服を翻して着地する。
他の車にぶつかるとは只の注意で無し、目下、烱瞳を結び合う二人の背で事実と結ばれた。
「……気附けば立派なコースが組み上がっている」
車輪を嵌める窪あらば、車輪を跳ね上げる隆起もある。
氷の道に、バナナも備えられた今、これを攻略するのは亜人でなくとも難しかろうと言外に含んだ實生は、然し折角できたコースだもの、未だ活きのいい暴走戰車を嚮導くように銃爪を引いた。
「この先、直進するといいよ」
地獄のナビゲーターは射撃の腕も悪魔的に、大聲で「左」を叫ぶ指揮官の舌を一発で撃ち抜く。
鐵鉛がそのまま咽喉を貫通し、一瞬で事切れた上官を乗せて疾走した戰車は、吸い込まれる樣にバナナ地獄へ――直線軌道から一転して車体をグルグル、零れ落した樽を自ら轢いて炎上した。
『上官、なんか燃えてんスけどっ!!』
『つか舵も利かねェんスけどっっ!!』
而して敵すら御せぬ火だるま戰車を預るはエイレーネ。
「……タルタロスに堕ちるより迅く火焔車を押すとは……流石に速すぎます」
速度違反もここまで來たかと、眼路いっぱいに迫る焔の巨塊を見据えた彼女は、烈々と搖らめく炎の中から突き出た槍を、構え持つ『神護の輝盾』の曲面で受け流すと同時、月白の髪を躍らせながら橫面へステップする。
直撃すれば赫々と花葩を散らしてしまいそうな纎躯は、然し嫋々と飜る聖衣に火粉だけを連れて片側の車輪へ回り込むと、手弱女とは思えぬ膂力で長槍を一突き! 戰車を刺し抜いて兩の車輪を絡げ取り、見事、その回転を止めた。
『ふぅー、止まったぁ……』
『これマジで動かない方がいいわ……』
漸との安堵を得たゴブリン達は、もう走りたくないという思いだが、其の願いは復讐者が叶えてくれよう。
戰車が止まった時こそ敗北であり終焉であると、連中の座標を交点としてヴィオレットが右翼から、また左翼から飛燕の如く翔けたエトヴァが、パラドクスを以て告げ知らせる。
「間もなく鬪技場で『試練』が終わる。アヴァタール級に進化した直後、混亂しているだろう今が叩く好機だ」
「これ以上、蹂躙はさせない。強化された亜人が鬪技場を出る前に――此處で止める」
亜人支配を成立させている「蹂躙」と「儀式」。
その根底を覆す事は今は出來ないとしても、其を防衛する戰力から切り崩していこうと、兩者の決意は固い。
「亜人はこの世界の異物だ。悉く殺し尽して排除しなければ」
常はゆるゆると柔和に咲むヴィオレットは、ここにハッキリと殺意を示すと、颯と駆けざま灼熱の火種を一点に放ち続け、激痛に歪む顏貌も絶叫も押し潰しさんばかり爆撃する。
而してエトヴァは、ゴブリン達が爆撃を漏れなく受け取るよう絲の結界に囲い込みつつ、かの轟然が水を打った樣に靜まるまで魔力を迸り、皆々を守護する。
彼が羽搏きを置いた後には、鋭く斬り刻まれた骨肉と瓦礫――ゴブリン戰車隊の最期が狭霧となって消えていこう。
あれほど騷々しかった鬪技場の入口附近には、軈て靑く冱えたテノール・バリトンが沁み渡り、
「さぁ、行こうか」
――と。
かの戰車に代わり、復讐者が進み出るのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【エアライド】LV2が発生!
【トラップ生成】LV2が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【寒冷適応】LV1が発生!
【避難勧告】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【現の夢】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV3が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV2が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
●
度重なる戰車の衝突で、鬪技場の門扉は歪に拉げ、閂はこじ開けられた。
その隙間から場内に侵入した復讐者は、丁度『儀式』を突破した亜人が、新しい力を得て變容していく樣を見たろう。
『これまでとは較べモノにならないパワーで滿たされていく……そんな俺は、いや我が名はブケファァァラスッ!!』
三体のゴブリンが押す戰車を遙かに凌駕する強靭な脚力!
拳を握り込めるだけで凄まじい力を漲らせる剛腕!
一たび嘶けば、万の戰士の鼓膜を突き破る大音量の美ボイス!
そして、大好物の人肉を易々と屠る顎と抜群の齒並び!
『前人格がまだ燻ってはいるが、こんな素晴らしい姿に進化したのだから文句はあるまい』
『いや、めっちゃ……』
『馬の耳だから聞かぬ』
二つの人格が拮抗している事は、ケンタウロス型亜人『ブケファラス』にとって然程問題では無い。本人にとっては。
脚力では己の前を走る者など居まいし、拳と拳で鬪うにしても剛力があるし、“同等の勝負を持ち掛けられた”なら、己が負ける事は絶対に無いと胸を張った有角馬顏の亜人は、間もなく侵入者の影を捉えよう。
『……試練を妨害しに來たのなら、もう遅い! ここにある死骸と同じく、コロッコロに転がして遣るわー!』
円形鬪技場中に雄々しい嘶きが響き渡り、その聲量に頭まで割れそうになる。
復讐者は顳顬に手を遣りつつ、この悍馬をどうにか禦さんと行動に出るのだった。
ゼキ・レヴニ
…いや煩えしキャラ濃!
あんな人格に乗っ取られるとは災難だねえ
まァ今からもっと悲惨な目に遭わせんだけど
【泥濘の地】【トラップ生成】で
敵が突進するルート上に泥地と落とし穴を仕掛けておく
誇れる部族も名前も忘れちまった気分はどうだい、なんて気を引いて誘い
敵が一瞬でも足を取られたなら大盾に変じた『躯』を構え突撃*
敵側面から盾の重量を載せた体当たりをぶちかまし
横倒しに出来たら上々
そのまま泥に押し付けて味方の追撃に繋げるぜ
此方に突撃が来たら【エアライド】も駆使し回避
避け切れなきゃ盾を地面に突き立て忍耐力*で耐える
ようチャンプ、勝者は奢っちゃいけねえぜ
おれみたいな敗残兵はいつでもトロフィーを狙ってんだ
*=技能
円形鬪技場に響動[どよめ]く大音量に肌膚を搏たせたゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)は、露骨に柳眉を顰めた。
試練に打ち克った者だけが纏える強者のオーラにか――否、“キャラの濃さ”にだ。
「……あんな人格に乗っ取られるとは災難だねえ」
望んだ進化ではあるまいと、鳶色の烱瞳を眇めて馬頭の巨邪を見たゼキは、同情は寄せつつ、喫した巻莨の煙を挟みながら彼奴の運命を嘲った。
「これが勝者のご褒美なら皮肉が利いてる」
『いや“俺でなくなる”のが褒美であって堪……無論、これ程の名誉を與った我はブケファァァラスッ!!』
「誇れる部族も名前も忘れちまった気分はどうだい」
『くっ、俺が一番ショックを受けている事を……然う、新しき名を得た我はブケファァァラスッ!!』
彼の言に鬣を逆立てた巨邪が、新旧の人格を交ぜながら馬蹄を響かせる。
諸処に積み上がる亜人の屍山を高々と跳んで突撃したブケファラスは、戰槌の如き前脚でゼキを踏み拉かんとするが、彼は大盾に變じた『躯』を構えるなり兩脚を踏み込め、撞ッッと突き上がる衝撃ごと蹄撃を受け止めた。
「ッ、ッ……云うだけはある……!」
『馬鹿なッ!! 美味しいミンチにならんだとぅ!!』
「後ろが大事でね」
注意を引く事で背後を、復讐者を庇ったのは【鋼の要塞】(ツィタデレ)。
嘗て自らの命を擲って仲間を守った戰士の記憶は、分厚い鋼の壁となって馬蹄を彈くと同時、突撃を免れた復讐者の反撃を機を作り、悍馬を独壇場から引き摺り落とさんと動き出す。
地面を放射状に疾った衝撃が、泥濘となって波紋を広げたのはこの時だ。
「災難続きで悪いが、今からもっと悲惨な目に遭って貰うぜ」
『――ッ!!』
ゼキの背後から橫方向に、或いは縦方向に跳んで攻撃を連鎖させる復讐者たち。
而してゼキ自身も機敏に、身ごと大盾を滑らせて馬の側面に回り込むと、重量を叩き付けるように体當たり! 躯の転換や後退が難しい馬の腹へ“要塞”を押し込んだ!
『ぐォ、ッ!! 元の躰なら退けられたものを……!!』
「――ようチャンプ、勝者は奢っちゃいけねえぜ。おれみたいな敗残兵は、いつでもトロフィーを狙ってんだ」
勝ち取った者は、その瞬間から狙われる者になる、と。
目下、正に鹵掠[うば]わんとする者の聲が、鋼の壁越しにヒヤリと迫った。
大成功🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】がLV3になった!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!
呉守・晶
これは酷い……
人格ごちゃごちゃだな。つーか、喧しいわ!?
で、ブケファラスって史実のアレキサンダー大王、つまり断片の王イスカンダルの愛馬の名前だろ?
アヴァタール級とはいえ、その名を冠する存在になればそりゃ乗っ取られるわなぁ
そもそも、トループス級がアヴァタール級に敵うわけないしな
魔晶剣アークイーターの封印を一部解除して巨大な牙と口のような異形の大剣に変異させて、突撃してくる敵を迎え撃つぞ!
人喰いが好きなんだろ?なら、俺の肉を喰わせてやるよ
ただし、こいつでお前が喰われなかったならな!
喰い千切れ、アークイーター!
あぁそうだ、ちなみに言うが、この国、この時代に「馬の耳に念仏」も「馬耳東風」もまだないぞ?
「……これは酷い」
試練直後、人格の混濁が窺える巨邪と相見えた呉守・晶(TSデーモン・g04119)は、文字通り頭を抱えた。
無論、トループス級がアヴァタール級に敵う訳は無し、上位階級がより強く浸蝕するのは當然と云えば當然だが、元人格の「おもってたんとちがう」感が第三者にも伝わるとは不憫が過ぎよう。
呆れたように憐れむように頭を振る晶には、彼奴こそ何か言いたげにブルルッと嘶いた。
『畜生、オンナにも目を背けられるなんて……はは、我が威容がそれほど眩しいと』
「喧しいわ!?」
上脣を剥いて嗤う馬面に對し、ピシャリと返す晶。
溜息を挟んで柳腰に手を宛てた佳人は、逆の手をヒラリと游がせながら言った。
「――で、ブケファラスって史実で言えばアレキサンダー大王の愛馬の名前だろ?」
『そうなん? そうとも實に素晴らしい名だ』
「アヴァタール級とはいえ、それだけの名を冠する存在なら、そりゃ乗っ取られるわなぁ」
『そう言われると良かったのか、良かったに決まっている至高の名馬ブケファァァラスッ!!』
「喧しいんだわ!」
テンポよく佳聲を投げ返す晶と己の相性は宜しいと、ブケファラスは思ったろうか。
是非に喰らいたいと突進した駻馬は、白磁と透き通る首筋めがけて齒を剥くが、これを“要塞”に遮られた正にその瞬間、鋼の壁の背後より躍動する晶の「鋭牙」を視た。
「人喰いが好きなんだろ? なら、俺の肉を喰わせてやる。――但し、こいつでお前が喰われなかったならな!」
『ッ、何と巨きな……口と牙ッッ!!』
「喰い千切れ、アークイーター!」
纎手に握れる魔晶剣が、主命に從って封印の一部を解く。
硬質な刀身が忽ち生物的な異形の大劍に變異する、其こそ【貪リ喰ラウモノ】――突撃する駻馬の眉間に迫った捕食劍が、咄嗟に避けんとする邪の白輝の一角を捉えるなり、呀ッと嚙み砕いたッ!!
「断言してやるぜ。断片の王イスカンダルの愛馬が、此處に居て良い訳が無い」
『くっぉ嗚嗚ッ!! だが判らぬぞ、名馬は悉く悍馬より生ずる!!』
須臾に迫る剛拳を、花葩の飜る如く躱した晶は、後尻へ着地するなり佳聲を添える。
「その言葉も然うだが、この國、この時代に『馬の耳に念仏』も『馬耳東風』もまだないぞ?」
お前達が好き勝手に改竄などしなければ、と――。
肩越しに射られる緋瞳の烱々たるや、同じく赫々と燃え上がる邪瞳と結び合うなり火花を散らした。
大成功🔵🔵🔵
効果1【断末魔動画】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
ハーリス・アルアビド
本人の思うような変化ではないようですが、別の存在に乗っ取られるような状態なのでしょうか?エルサレムの調査をより詳しく進めたいですが、その前にこの戦いを制しましょう。
破壊の神セクメトよ、お力添えを。太陽の如き灼熱の炎をお貸しください。
あの形状からすると機動力が高そうです。【泥濘の地】で足を捉え突撃の勢いを削ぎましょう。
こちらは味方と連携しながら敵を包囲し、足を狙って連撃を加えます。
泥濘を突破する頃には全速力で走ることは難しくなっているでしょう。いかに威圧しようとも、セクメト神に授かった火炎と殺気を乱す事などできません。【セクメトの嘆願】で焼き切ります。
「試練は必ずしも勝者が望んだ通りにはならないと。そう云う事でしょうか」
餘りの惨状を前に、やや遠慮がちに告げたのはハーリス・アルアビド(褪せる事を知らない愛・g04026)。
今の駻馬を見るに、元人格の思った變化では無かった事が窺えるが、別の存在に乗っ取られるのか、後に融和を果たすのか――とまれ、今はエルサレムの調査をより詳しく進めたい処。
「……その前には、この鬪いを制する必要がありますね」
少々ややこしい事になっているが、この者が骸を積み上げたのは事実。
勝者として強靭な脚力を得た駻馬と對峙した麗人は、不圖[ふと]、黑橡に艶めく長い睫を空へと結ぶと、蒼き天蓋の眞上に据わる太陽に手を翳した。
「破壞の神セクメトよ、お力添えを。太陽の如き灼熱の炎をお貸しください」
凪の如く靜かなテノール・バリトンが捧ぐは、【セクメトへの嘆願】。
真昼の太陽を戴く獅子頭の女神は、己と同じ復讐者に炎を操る権能を授ける。
而して兩の掌手に白熱の炎を抱いたハーリスは、間もなく突撃する巨邪に烱瞳を絞った。
『せくめと? 如何な神を頼ろうと、我が強脚の前に敵は無し!!』
(「――來る」)
『神をも蹂躙する軍馬、我の名はブケファァァラスッ!!』
大地を搖する喊聲に肌膚が叩かれるのを感じつつ、心靜かに炎を溢れさす。
巨邪が突撃槍の如く迫るに合わせ、兩手の獸爪を赫灼と輝かせた彼は、角度を違えて同時に一閃! 炎々と燃え上がる六の熱条を脚部へ疾らせたッ!
『ン熱うゥゥゥッ!!』
「泥濘に取られた足を狙い、勢いを削ぎます」
翼なき駻馬は地を駆けねば獲物を狩れまいが、その地は四本の脚に執拗に絡まる。
車輪も蹄も泥濘に機動力を削がれるのだと、先の戰いを學びとして連鎖させたハーリスは、擦れ違った瞬間に躯を反転して獸爪一揮! 今度は関節部に熱く迸る斬撃波を押し込み、ブケファラスを前踣りに顛倒させた!
『んンンォォオオッ!!』
「慥かに其の雄叫は、万軍を蹴散らしたかもしれません。然し、セクメト神を亂すなど不可能」
我が爪撃を默らせるなら、炎の力を授けた神を威圧せねばなるまい。
其は天に戴く太陽を從える樣なものと首を振った獸爪の戰士は、ごうろり轉がったブケファラスが起き上がるまでの間に、仲間と包囲網を完成させる。
「――扨て、突破できるか如何か」
無論、させよう筈も無く。
鴇色の脣を掠める佳聲が、ヒヤリと悍馬に迫った。
大成功🔵🔵🔵
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV3になった!
ディアナ・レーヴェ
流石に、その…テンション高すぎない?
(首を傾げて緩く苦笑。何というか――この台詞を言う側に回ったのも初めてかもしれない。私も元気は取り柄だけど、こういう方向性ではない…!)
ともあれ!
敵の得意な戦い方にわざわざ合わせる理由もないわね
なら、使うのは【Zählen bis drei】――仲間たちの激しい戦いを隠れ蓑に、老兵達の死骸の隙間にコロっと紛れさせて貰う。
注視すれば簡単にバレる嘘だけど、数秒誤魔化して、その自慢の脚に砲弾叩き込む隙を作る位はできるでしょう?
肉を喰いに来るって言うなら、
一噛みされると思った瞬間に「こっちから引き千切る」位の勢いで思い切り突き飛ばして退がる。
二噛み以上はあげないわ!
復讐者は的を散すと同時に包囲網を完成させたが、ブケファラスは餘裕の表情。
寧ろ強者たる己に相應しい状況と、上脣を剥いて哮った。
『やっべェ囲まれた……いや荒馬が檻で圍えよう筈が無い我はブケファァァラスッ!!』
大音量が鬪技場に反響し、亂れ交う残響がディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)の鼓膜を打つ。
先の戰車戰で小気味佳い“音撃”を弄した佳人は、初めて自分が言う側に回る奇縁を嚙み締めながら言った。
「流石に、その……テンション高すぎない?」
何というか――アクが強いし圧が凄い。
緩く首を傾げて苦笑したディアナは、とまれ、続々と攻撃を連鎖させる仲間達を隱れ蓑に、身を低くコッソリ動き出すと、彼奴が積み上げた屍の隙間へコロッと一回轉、素早く影を滑らせた。
(「私も元気は取り柄だけど、こういう方向性では無いんだから……!」)
激戰の最中にもしゃべくる悍馬に隔絶を置きつつ、方角と距離を測る。
狙うは彼奴が己を獲物と見定め、火砲と射線を結び合うまでの幾数秒――【Zählen bis drei】(ツェーレン・ビス・ドライ)は、その数秒を掠め盗る輕妙な虚実だ。
「敵の得意に合わせる理由もないわ」
徒競走も拳鬪もお斷りだと(ギリ)携行式重キャノンを構える可憐を、350℃の広視野が捉えたのは間もなく。
ディアナを見るや凶眼をカッ開いた荒馬は、擂鉢状の傾斜を駆けざま一氣に驀進した。
『ちょうどハラへってるし……お肉大好き我が名はブケファァァラスッ!!』
「私を食べようって言うなら歓迎するわよ!」
實に美味そうだと飛び掛かった巨邪は、大地を離れた瞬間の脚を砲撃され、「階段を降り切ったと思ったらまだあった」時みたいにガッックリと膝を折り、飜筋斗打って倒れる。
『ぐッ、おおッッ!! だが絶対に喰らう――ッ!!』
泥濘に塗れた躯を起き上がらせるは執念。
蹌踉めきながら迫る見事な齒並びに火砲を嚙ませたディアナは、鐵筒ごと纎指が喰まれる激痛に柳眉を顰めつつ後退ッ! 此方から引き千切る勢いで馬面を蹴飛ばした!
「ッッ、二噛み以上はあげないわ!」
『くっっ……極上の肉が……遠ざかる!!』
赫々と熾ゆる邪眼が物狂おしげに、白銀の艶髪を躍らせて離れる佳人を睨める。
がっつり食欲に絆された巨邪は、Eins, zwei, drei――優に戰局が變わる三秒ほど、無防備な橫腹を晒す事となった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
ヴィオレット・ノール
……なんだこの馬、ふざけているのか?
いや、意識や自我の混濁があるのか。
これほど顕著に奇天烈なものは初めて遭遇したけれど。
まあ、良い。どうでもね。どのみち殺す以外の選択肢はないのだから。
ふむ。流石に馬型の亜人だけあって機動力が高いね。
先程の戦車とは比較にもならない、か。
【泥濘の地】があるなら活用させて貰うとしよう。
こちらは【飛翔】で空中から攻めるのが妥当なところかな。
ノールに騎乗する手もあるが、今の僕では脚負けしてしまいそうだからね。
多少の余波は耐えて、『追尾する魔弾』で攻撃するよ。
脚を狙えたら一番良いけれど……この素早さと馬脚の太さでは的として心許ない、かな。
当たるならどこでも良しとしようか。
「命中[あた]るなら何處でも良し。橫腹なんてどうかな」
丁度晒された側面へ、繊麗の躯を滑り込ませるヴィオレット・ノール(北の菫・g09347)。
彼奴のアキレス腱たる脚を仕留めれば早かろうが、あれ程の俊敏と馬脚の太さでは的として心許ないと櫻脣を結んだ彼は、颯然の風に躍る艶髪の奧で烱瞳を眇めた。
「ケンタウロス型なら脇腹が二つあるしね」
纎指が差し示す方向へ、白光の尾を引いて疾るは【追尾する魔弾】(ホーミングバレット)!
前方向に猛烈な力を発揮する巨邪ブケファラスは、橫方向から飛び込む無数の魔彈に不意打ちを喰らうと、撞ッッと上脣を引ン剥いて倒れた。
『ぐおッ、見えていたのに避けられんとは……俊足が仇となったか、名馬ブケファァァラスッ!!』
「……なんだこの馬」
『地面がドロドロでマジ勘弁……然し敢然と起き上がる我は名はブケファァァラスッ!!』
「……巫戯化ているのか?」
自ら奮起して立ち上がる荒馬の氣魄に、思わず蛾眉を顰めるヴィオレット。
進化直後は意識や自我の混濁があるのか、これほど顕著なものは初めて遭遇したと奇天烈な珍獸を見た麗人は、溜息ひとつ挟んで殺氣を迸ると、己めがけて吶喊するじゃじゃ馬に掌指を結んだ。
「まあ、良い。どうでもね。――だって、どのみち殺す以外の選択肢が無い」
行き着く先は決まっていると、撃ち出す魔彈を正面へ、こちらも二つある胸部に沈める。
着彈の瞬間、僅かにも軌道をずらして上腕を掠めさせる悍馬を見た彼は、擦れ違いざま嚙み附きにかかる馬頭を飄と躱し、厚みのある風が吹き抜けるのを肩越しに瞥た。
「ふむ。流石に馬型の亜人だけあって機動力が高いね。先程の戰車とは比較にもならない、か」
先刻の感覺は未だ躯に残っている。
速度こそ桁違いなものの、泥濘に弱いのは車輪も蹄も同じだと、先の戰鬪からヒントを得たヴィオレットは、爪先を蹴るや高みから魔彈を撃ち放った。
「空中から攻めるのが妥當なところかな」
『ッッ――!!』
「泥濘に速力と跳力が削がれる所へ、上から仕掛ける」
腦裏ではノールに騎乗する事も考えたが、今の己では脚負けする可能性もある。
文字通り「人馬一体」の相手に騎馬戰を挑むよりはと、飛燕の如く空中を躍った麗人は、中々見られぬ馬の背に次々と魔彈を浴びせ、珍奇な獸邪に絶叫を叫ばせた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
凍雲・雪那
……思うに。
トループスのままでは、いずれ贄となり。
アヴァタールになれば、自我を奪われる。
亜人、ボクが知る中で、最も哀れなクロノヴェーダ、なのかもね。
……まあ、だから何だって話だけど。
敵は敵だ。そこに何かが挟まる、余地はない。
敵は――死ね。
馬の頭部、当然視野も広い。
下手な策は、寧ろ付け入る隙になる。
だったらやる事は、シンプルがいい。
泥濘の地を展開。少しでも機動力を削ぐ。
こちらはエアライドで泥を超え接敵。
アイスクラフトの氷を破砕し、大剣に再構築。
肉を噛み千切られようと、怯まず一撃を叩き込む。
試練。
コイツを倒せば、無意味に出来ると、思ってたけど。
もしかして、試練が完遂される。
それ自体に、意味が……?
『ぐおォッ痛ぇ……いや我が力はそんなモノでは無かろう、名馬ブケファァァラスッ!!』
自ら上位階級である事を誇示して激痛に耐えるブケファラス。
この奇妙な人格の混在を、雪華の虹彩に映した凍雲・雪那(報仇雪恨の皓巫姫・g07783)は冷やかに告げた。
「……思うに。トループスのままでは、いずれ贄となり。アヴァタールになれば、自我を奪われる」
元々の短命に『試練』を重ねる亜人らの、命の消耗は餘りに烈しい。
それ故の多産は果して強者と言えようか――自然の理を識る雪那は小さく首を振ろう。
「亜人、ボクが知る中で、最も哀れなクロノヴェーダ、なのかもね」
玉瞳に色を搖らすは憐憫か、否。
哀れな種族と知った処で、我が心の凛冽が溶ける筈も無いと、泥濘を蹴るなりジグザグと空へ駆け上がった一輪の雪花は、【氷装顕現】(クリスタライズ)――大氣を凝結させて造り出した氷塊を粉砕するや、氷晶の大劍に再構築して握った。
「敵は敵だ。そこに何かが挟まる、餘地はない」
『ぬなっ!? 上かッッ!!』
「敵は――死ね」
視野の広い馬を御すに、下策を弄せば寧ろ附け入られる。
ならばシンプルにいこうと、淡雪の如く儚い花車を躍らせた雪那は、損耗を覺悟で悍馬の頭上から接敵した。
「先ずは一撃、叩き込む」
『ハハァ、人間の女!! 口を開ければ舌を濡らす雨の如くである!!』
「ボクは怯まない」
重力を乗算して墜下する雪那を、齒を剥いて迎えるブケファラス。
大劍ごと屠らんと蹄を蹴った巨邪は、然し泥濘に足を取られて跳力を落としたか。僅かにタイミングがズレた隙に大劍の鋩を額に受けると、その瞬間に砕かれる無数の氷片に血斑を疾らせた――!
『ぬぁぁああ嗚呼ッッ!!』
大劍ごと喰んでも、刀身を砕いて呑んだとしても、辿るは全て同じ末路[みち]。
顏面を血塗れにして叫ぶ悍馬と擦れ違いに着地した雪那は、己と共に煌々と振り落ちた氷片ひとつ握ると、今度は汗血馬の如き肌膚を刺突し、疾ッと噴く返り血を浴びながら囁いた。
「試練。コイツを倒せば、無意味に出來ると、思ってたけど」
『んギャァァ嗚呼ッ!! 汗でなく眞に血を流す我はブケファァァラスッ!!』
「煩い。もしかして、試練が完遂される。それ自体に、意味が……?」
纎手を眞赫に染め、血に滑る氷片を強く握り込め、思案を深めるよう刃を沈める。
その餘りの激痛に、荒馬はブンブンと馬面を振って叫ぶばかりであった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【アイスクラフト】LV1が発生!
効果2【ダブル】がLV2になった!
ラヴィデ・ローズ
ここで行われてたのは大声大会か何かだったのかな
ブケファ……くん?
うん
騒がしいが、ご丁寧に突撃タイミングを教えてくれてる訳でもある
土煙が立とうと【完全視界】で見失わぬよう
集中を高く保ち、引き付けた上で
『ドラゴンオーラ』の炎と花弁の残像伴うパラドクス
虚空を踏み抜かせたなら
『レゼル(長剣)』にて貫く
敵の力は侮らず
衝突時も想定し焦らずいたいね
武器と『Sweetie』を緩衝に多少とて痛打を減じ
踏ん張らずあえて吹っ飛ばされ距離を稼ぐ
最中に笑みの一つでも刻み
『レゼル(長弓)』で一矢パラドクスを返せれば、だ
【エアライド】で宙を蹴り軟着地を
やれやれ
力は足し算でも知能は足し算にならなかったんだねぇ
眉唾物の儀式だな
上位階級に進化した身を誇示しながら、上位階級らしからぬ見苦しさで叫ぶ駻馬を、ラヴィデ・ローズ(la-tta-ta・g00694)は巧みに煽ろう。或る意味では馴致していると云える。
「此處で行われてたのは大聲大会か何かだったのかな。えぇと、ブケファ……くん?」
『そう思われても仕方無いというか……憶えて欲しい我が名はブケファァァラスッ!!』
「うん。騷がしい」
大地も波打つ程の大音量に苦笑しつつ、銀の玉瞳を烱々と全集中――視覺と聽覺を研ぎ澄ます。
鼓膜を破らんばかり大聲は、然し己の座標や攻撃タイミングを報せて呉れると微咲[えみ]を湛えたラヴィデは、猛然と突撃する巨大な風の塊を前に、馥郁と馨れる薔薇の花葩を踊らせた。
「火の輪くぐりなんて如何だろう」
『ぁ熱ゥッ!? 踏み拉いたと思ったのは……残像かッ!!』
一足で肉薄した巨蹄が蹴散らしたのは、ふうわり花馨を掠める残像。
マタドール宛らヒラリと躱したラヴィデ本人は、邪を熾々と灼ゆる荊棘の輪に潜らせると、彼奴が焦熱に抱かれる裡に背後から長劍一閃! 『レゼル』より迸る紫黑の呪炎で尻尾を灼いた!
『んおぉぉお雄雄っ!! 尻が焼ける!!』
「眞後ろが死角になると思ってね。見えるかな」
『熱さで分かるわぁああっ!!』
擦れ違ったのは一瞬だが、痛みの程を大聲で教えて呉れるも面白い。否、有難い。
而して瞋りながら擂鉢状の斜面を駆けた荒馬は、再び彼を狙って再吶喊! 尾に火を抱いて飛び込めば、今度は長劍を水平に構えたラヴィデが『Sweetie』を緩衝に、後方に大きく吹ッ飛んだ!
『っし!! 俺がブッ飛ばしてやったぜ……いや爲手はこのブケファァァラスッ!!』
二つの人格が競い合う最中、悍馬はダマスク・モダンを抱く竜人が竊笑したのに気附いたか。
敢えて後退したのだと、纎手に握れる長劍を長弓へと變じた彼は、遠ざかりつつ一射――ッ! 紫黑の火矢をブケファラスの胸部に突き刺すと、今度は前方を焦熱で脅かした。
『んぁぁ熱ぅぅうう!! 前も後も火攻めだッ!!』
炎熱に煽られた悍馬は後肢を軸にぐうるり旋回、ピルーエットを決める。
距離を隔てて其を見たラヴィデは、宙を蹴って難なく着地すると、盛大に溜息ひとつ。
「やれやれ、力は足し算でも知能は足し算にならなかったんだねぇ。亜人の試練なんて眉唾物の儀式だ」
と、猶も燃え上がる炎の色を瞶めるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】がLV2になった!
クーガ・ゾハル
馬の肉って、うまいのかな
…ダジャレじゃないぞ
だいじょうぶだ、ヒトだったやつは、さすがに食べない
たぶん
おまえ、すごくうるさい
でも、おれの剣は、もっとうるさいからな
それに馬のよわいところ、少しなら知ってるぞ
【トラップ生成】つるつるジゴクだ
あちこちに、ヒヅメがすべる液体
おまえの足、ユビもスパイクも、ないだろう
まっすぐ進めなくなったところに<突撃>かける
それでも馬のでかくて強い足は、あぶないから
ギリギリのところで、短い【エアライド】のステップで方向かえて
ひくいシセイから、腹の下にすべりこんでの
<貫通撃>そなえた龍葬
ネンブツは知らないが、ちゃんときいておけ
このギシキは、きっとすごく、よくないやつだ
躯の前後を炎に攻められた駻馬が絶叫する中、聽覺より嗅覺を鋭くした者が居る。
肉の灼ける匂いを掠めたクーガ・ゾハル(墓守・g05079)が、ぽつり、不穩を零した。
「……馬の肉って、うまいのかな」
『うぉい聞えてんぞ!! 人喰い人馬を喰うのか!? 人喰い人馬喰い人と云う事か!?』
駄洒落を云ったつもりは無いが、洒落にならんとは馬肉の聲。
新旧の人格が揃って捲し立てれば、クーガは誤解の無いよう附け足した。
「だいじょうぶだ、ヒトだったやつは、食べない。…………たぶん」
『ほっ。そうだよな……「たぶん」が遅いぞ「たぶん」が!!』
馬肉こそ焦るが、凪のように穩やかな聲色に健啖の色は無し。
クーガは己の代わりに『號』を哮らせると、じゃじゃ馬に相應しい相手だと示すように鋸刃の鋩を結んだ。
「おまえ、すごくうるさい、けど。おれの劍は、もっとうるさいぞ」
『……ゃかまし……っ!! ぅるさ……ぉれのこぇが……!!』
「馬のよわいところも、少しは知ってるしな」
ギャァァアアンッと轟く音に荒馬の嘶きが掻き消される中、眞正面に對峙した兩者が動く。
蹄を蹴るや一気に突進した悍馬は、水平に薙ぎ払われる鋸刃の手前で跳躍! 脚を狙ったクーガの頭上を優に飛び越すが、着地の瞬間、トゥルンッと滑る。
『ァッハッハー!! 脚を狙うのは読んンォォオオ!!』
「はまれ。つるつるジゴクだ」
悍馬を滑らせるは、バナナか――否。油だ。
踏み締める指も、防滑スパイクも無い事に気附いていたクーガは、諸処に罠を仕掛けて泥濘に隱し、最も効果の現れる位置に巨邪を誘い出したのである。
『くっ、っ……踏ん張りが利かん……!!』
馬肉は今やバランスを取るので精一杯。
眞直ぐ進めなくなった今が攻め時と、身を低く駆け出したクーガは、外套を棚引かせつつ地面スレスレを疾って腹の下へ、滑り込みざま【龍葬】(ダ・ハーカ)! 右眼より迸った雷撃を回転刃に纏わせて腹を衝いたッ!
『ずぁァアア嗚呼ッ!! やって……呉れるッ!!』
腹下の攻撃を禦ぐ術は無く、炎と同じく雷撃に勝てる獸は居まい。
疾ッと繁吹く鮮血を浴びたクーガは、片手で亂暴に血を拭いつつ口を開き、
「ネンブツは知らないが、ちゃんときいておけ」
『な、にを……ッ!!』
「このギシキは、きっとすごく、よくないやつだ」
進化を喜んだのは間違いであった、と。
先より不穩な台詞が零れるなり、抉れた腹が肉を落した。
大成功🔵🔵🔵
効果1【避難勧告】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
エイレーネ・エピケフィシア
亜人にもこのおぞましい変化に疑問を抱く余地があるとは……驚きました
とはいえ容赦などしませんよ
精神が混濁している今こそ好機です
人々を脅かす怪物よ──覚悟なさい!
《神護の長槍》と《神護の輝盾》を手に敵と対峙
【トラップ地帯】によりトラバサミや落とし穴を発生させ、敵の動きを牽制した後に
本命の『悪鬼制する戒めの鎖』を発動します!
素早く駆けるための脚に鎖を絡めて捕縛してやりましょう
そして馬体を正面から串刺しにするように、槍での貫通撃を仕掛けます!
アテーナー様! 無辜の人々のため、邪悪を討つ力をお与えください!
敵の大声による威圧には勇気で抗います
突撃は素早く身を躱して直撃を防ぎつつ、盾を構えて威力を削ぎます
『ちょっと違うかなって思ったけど、コイツらが云う通り……儀式の成功を示す我こそブケファァァラスッ!!』
己が望んだ進化では無かったと悔やむ旧人格と、最高の結果を得たと胸を張る新人格。
同じ口で喋るからややこしいが、兩者にある齟齬を見たエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は、芙蓉のかんばせに幾許の喫驚を差した。
「亜人にもこのおぞましい變化に疑問を抱く餘地があるとは……」
『おぞましい』
「とはいえ容赦などしませんよ。精神が混濁している今こそ好機です」
『おぞましいって……いくぞうっ!!』
しょんぼりする旧人格を置き去りに悍馬が疾風を紡ぎ、少女神官が長槍と輝盾を構える。
既に鬪技場は泥濘に、馬脚が弱まるよう罠が仕掛けてあるが、エイレーネは更に擂鉢状の斜面にも虎挟みや穽穴を発生させて動きを牽制すると、軌道が絞られてきた中盤に“本命”を発動させた。
「人々を脅かす怪物よ──覺悟なさい!」
『はは、追いつけぬ者は口が立つ!!』
其が脅しや負け惜しみで無いとは、直ぐに判然ろう。
「直ちに足を止め、頭を垂れなさい。さもなくば――」
『さもなくば如何だと云……っっぉおおをを!?』
丹花の脣が告ぐや、巨馬の脚に絡むは【悪鬼制する戒めの鎖】(デズマ・カタストリス)。神々しく輝く黄金の縛鎖。
泥濘や罠を避けて疾走するブケファラスの進路を見切った佳人は、神速の脚をピンポイントで捕縛すると、彼奴が鎖をグンと引き絞る地点へ回り込み、出会い頭に『神護の長槍』を閃かせた。
「アテーナー樣! 無辜の人々の爲、邪悪を討つ力をお與えください!」
『ぐっぬっ、ぉぉおおお雄雄雄雄ッッ――!!』
負けはせぬ、負けはせぬと。
鬪技場を震わせる雄叫が天を衝いて搖する中、佳人の雪膚にもビリビリと大音量が伝わるが、これを勇気一心で抗う。
目下、高々と振り上がる前脚の踏みつけを『神護の輝盾』で禦いだ彼女は、腕の痺れを押さえつけて槍を一突き!
眼路に暴かれた馬体の正面を下方向から串刺しに――赫々と鮮血を噴かせるや隆々たる筋肉を貫いたッ!
「その後脚に絡み付いた鎖は、脚を斬り落さない限り離れる事はありません」
『ぜぇァァア嗚呼嗚呼ッッ!!』
「悍馬よ、枷して猶も何處へ駆けようと云うのです」
行き着く先は決まっていように、と――。
櫻脣を滑るソプラノは冷やかに儼かに、巨邪に覆らぬ劣勢を突き付けるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【傀儡】がLV2になった!
効果2【反撃アップ】がLV4になった!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
試練の結果、人格が内輪揉めか?
その試練の力がどこから来ているか、知りもせず
神を崇めることもなく……力を得るのだな
消費し、篩にかけ、進化させる
試練など、嫌なシステムだな
敵を観察し戦況を把握
【飛翔】し空中戦
味方と連携し、包囲や挟撃の位置に入り攻撃
泥濘の地を発動、トラップ生成で落とし穴を踏み抜かせたり布を被せて進行を妨害
氷混じりの竜巻を操り、吹き付けて攻撃
多段エアライドも交え
戦場を飛び回ると共に、竜巻を浴びせる
反撃には魔力障壁を展開し防御
馬は草食じゃなかったのか?
冷ややかに告げつつ
長躯の直進方向やジャンプの間合いを観察し、急転換やフェイントかけ回避
……傷が癒えるならより大きく穿つまで
後脚に黄金の鎖を引き摺って窮地を脱したブケファラスは、異口同音ならぬ同口異音で今の焦燥を言い合う。
『畜生、上位階級に進化したのに……正に名馬に相應しき鬪爭!! そんな我が名はブケファァァラスッ!!』
『勝者が罰ゲームみたいになって……素晴らしき變化を得た我こそブケファァァラスッ!!』
まるで冷靜と情熱の交錯を見るようだと一瞥を呉れたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)は、美し白皙に皮肉な艶笑[えみ]を浮べた。
「試練の結果、人格が内輪揉めか?」
兩人格が合一すれば、眞の脅威となろうものを。
擂鉢状に傾いた斜面の上を飛翔しながら洞察した麗人は、兩人格の愚かしさに小さく溜息した。
「その試練の力がどこから來ているか、知りもせず、また神を崇めることもなく……力を得るのだな」
畢竟、亜人が蹂躙しているのは人間だけでは無い。
短命の種族が強者になる爲に、歪な構造を成り立たせたのだと、澎湃と湧く瞋りを魔力に漲らせた彼は、空色の翼を力強く羽搏かせると、冷氣を集めて結晶した。
「消費し、篩にかけ、進化させる。――試練など、嫌なシステムだな」
纎細にして壮麗な翼が捲き起こすは、【Eiskristall turbulenzen】――氷晶の亂気流。
次々と攻撃を繋げる仲間の時の鎖を継ぐように、瀲灔と輝けるダイヤモンドダストの竜巻を起こした彼は、擂鉢型をした鬪技場の形状を活かして威力を増し、悍馬の進路を狭めて内側へ――泥濘の地へ向かわせた。
『くっ、この身は橫風に弱いが……体力を削られても人肉を喰えばヨシ!!』
「おや、馬は草食じゃなかったのか?」
『馬の耳は都合の悪い事は聞かんのぁァァ嗚呼ッ!!』
悍馬が翼を毟らんと手を伸ばした矢先、エトヴァは輕やかに空を蹴って遁れ、翼なき獸は泥濘に縫い留められて穽穴へ――グキッと踵を逆方向に曲げる。
『ぬっあっ、畜生ッ!! こんな処に穴があるなんて聞いてなかったぞ!!』
「……都合の良い耳だ」
怒罵絶叫に冷やかな星眸[まなざし]を結びつつ、敵意を引くよう飛翔した麗人は、悍馬の猛牙が迫った刹那、双翼を翻して急転換! 強靭な顎に虚空を喰わせると同時、噛み終えた瞬間の荒馬を仲間に差し出した。
「畳み掛けよう。傷が癒えるなら、より大きく穿つまでだ」
隙を晒した巨邪を眼下に組み敷き、怜悧に言つ。
而して次の瞬間、またも時の鎖は繋がれた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV2になった!
効果2【グロリアス】がLV2になった!
クロエ・アルニティコス
どうせお前たちは全員死ぬんですからそういう意味では結果は変わりません。
ですが、そうですね。他の人は知りませんが、私は試練の妨害ができるのであればするつもりでしたね。
私はお前たちに死んで欲しいのではなく、この手で殺したいんですよ。
【ヒュドラ・アマランサス】を使用。ヒュドラを象った怪物を作り出し、噛み付きで攻撃を行います。
怪物には怪物。似合いですよ。
ヒュドラを齧られても再生するかもしれませんが、ヒュドラも齧られたところから再生が可能。耐久力の勝負になれば、ヒュドラの毒が回るぶんこちらが有利です。
ヒュドラの毒で動きが弱ったところを多頭で噛り付き、食いちぎります。
蒼穹色の翼を追ったブケファラスが、羽音ひとつを合図に目の前の景色を變える。
刹那、赫き邪眼の眼路いっぱいに迫ったのは九頭大蛇[ヒュドラ]――今も蓬々と生え繁る蔦が幾つもの首を伸ばし、人喰い人馬を喰らわんと大口を開けて迎えた。
『なんっじゃこりゃ……!! 我に匹敵する魁偉が居るなどッ!!』
「怪物と組み合うなら怪物が相應しいかと。似合いですよ」
良い絵だと冷やかな星眸[まなざし]を注ぐは、術者たるクロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)。
仲間が攻撃を連鎖させる間に魔術の触媒となる種を植えた凄艶は、憎悪を糧に繁茂する蔦に輪郭を與えると、【ヒュドラ・アマランサス】――ギリシャ神話に描かれる不死身の多頭蛇として襲い掛からせた。
「齧り、嚙みつき、食い千切り……如何樣にも屠りなさい」
「シャァァアアッッ!!」
ヒュドラの力の根源は、術者クロエの憎悪。
彼女の殺意が翳る事も無ければ、触媒にしたアマランサス(ἀμαράντινος)は文字通り「萎れることが無い」。
そんな不滅の憎悪に象られる怪物の首は、一つ、また一つと生えるなり、其々に牙を立てて馬肉を喰らい出した。
『多ッ!! 首が多すぎる……だが此方も喰らい返す!!』
「どうぞ。ヒュドラは再生する上、毒がありますから」
『まっっっず!! 嚙めば分かる、直ぐに舌が痺れて駄目なヤツだっ!!』
怪物同士、喰い合うなら耐久力のあるヒュドラが有利。
馬肉を差し出して死ぬか、毒が回って死ぬか、悍馬には英雄ヘラクレスより選択肢がある訳だが、行き着く先が同じだとは冷嚴と囁くソプラノが告げよう。
「どうせお前達は全員死ぬんですから、そういう意味では結果は何一つ變わりません」
試練の勝者も敗者も、全て死ぬ。鬪技場からは何も生まれぬ。
他の復讐者は知らぬが、己は試練の妨害が「出來る」のであれば「した」だろうと三相の杖を悍馬に向けた妖花の魔女は、ヒュドラの牙が急所の頸に集まるよう鋩に示して云った。
「私はお前達に死んで欲しいのではなく、この手で殺したいんですよ」
『くッ……ぬッ、おぉををッ……!!』
「私の手で恐怖と苦痛を絞り出し、死に突き堕としたいんです」
蹂躙せねば生きられぬ己達を「支配者」と改竄した亜人――連中を許せよう筈もないと、更なる憎悪を膨らませた魔女は、猶も大きくなるヒュドラに悍馬の片眼を喰らわせるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【浮遊】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
一角・實生
ひとつの身体にふたつの人格
なあ、同時に喋ることはできるのかい
純粋な興味が湧くよ
とはいえ、ここに斃れるモノ達の頂点に立ったのが目の前の奴であるのは事実
常に情報を収集しながら仲間を巻き込まない――背後や死角を取れる位置へ動くよ
エアライドと飛翔を組み合わせ敵の機動力に対処していこう
正々堂々と“同等の勝負”なんてする訳がない
俺、そもそも試練に参加してお前みたいになりたくないし
加えて俺達は複数、その広い視界を最大活用しないと危ないよ
パラドクスを発動し攻撃しよう
雄叫びの挙動に合わせグラナトゥムで敵の喉を狙った連続する銃撃を行う
己に言い聞かせるよ
怯む位なら狙え、喉を潰すんだ
最期はどちらなのだろう
気になるなあ
『ンがァァ嗚呼!! これが勝者に用意されたモノだと言うのかっ……更なる試練を受ける我はブケファァァラスッ!!』
片眼を喰われて顏面を赫々と染めた駻馬が、一際の大音量を叫ぶ。
其が喊聲でなく絶叫だとは、一角・實生(深い潭・g00995)が聡く耳を澄まそう。
「……ひとつの身体にふたつの人格……なあ、同時に喋ることは出來るのかい」
純粋に興味が湧くと、薄く開いた佳脣を擦り抜ける冱えたテノール。
上書きされるのか、或いは融和するのか――これまでの台詞や挙動を具に觀察していた彼は、試練が如何な未來を用意していたとして、彼奴が此処に斃れるモノ達の頂点に立ったのは事実だと烱瞳を絞る。
(「――噫、これ程の強者を前に正々堂々と“同等の勝負”なんてする訳が無い」)
実力を認めるからこそ、背襲や奇襲を狙う。
片眼を喪失って視野を狭めた巨邪に對し、宙を蹴って高みに躍り出た實生が颯爽と白翼を駆る。動く先は、共鬪する仲間を巻き込まず、確実に敵を狙撃できる左眼の死角だ。
「お前と違って、俺達には複数の“目”がある。皆で広げた視界を最大限に活用しよう」
常に場所を變えて立ち回る仲間と瞥見を結びつつ、最短かつ最速の移動で駻馬の進路へ回り込む。
彼奴の進行方向に對して斜めから仕掛けんと双翼を翻した實生は、【プロヴェルファブラ】――鬪技場に溶け込ませていた凶悪な呪力を束ねると、鈎状の巨爪に模って放ッた!
「鷹も鷲も然うだ。猛禽は高高度の広視野から、獲物の隙を捕える」
『ッアー!! 狡猾いぞ、競爭や力較べでは負けはせんのに……降りて來いっ!!』
「遠慮しておくよ。俺、抑も試練に參加してお前みたいになりたくないし」
『こらっ、美ボイス美脚の我に何と言う暴言ンァァ唖唖ッ!!』
目を潰された左方向から怪馬の背を鷲摑みに、上半身を強く強く抑え込む。
ブケファラスはこれを振り解かんと急加速! 鋭く雄叫を上げて前進を試みるが、撃手は極限まで集中して聽覺を殺すと、全き無音の世界で銃爪を彈いた。
(「怯む位なら狙え。喉を潰すんだ」)
『ッ、ッッ――!!』
雄叫がヒュッと虚空を掠めたのは、須臾、連続した銃撃が喉笛に沈んだから。
次いで噴水の如く鮮血を迸った悍馬は、悲鳴を叫ぶ事も適わずブルッ……と震える。
「最期は何方だろう。気になるなあ」
緑翠の瞳が煌々と冱えて反應を視るが、聲を奪われた邪から「答え」は返らなかった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【悲劇感知】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV4になった!
イル・シルディン
*アドリブ・連携歓迎
些かしまらない様子だけれど
試練とやらに挑んだ中で、最も優秀であったことは確かなのよね
それは認めてあげねばならないわ
恐ろしい物と認識しておく方が油断を産まないわ
実際、あの蹄に蹂躙されれば無事で済むとも思えない
回り込むように駆け目標選定に一動作を強いることで
不意の攻撃をいなしやすくしておくわ
人数差も大いに利用させて貰うわね
自身へ向いていない瞬間を狙い【エアライド】
一足目で宙を蹴り距離を一気に詰め
反応を予測して二足目で急停止
互いの得物が届かぬ筈の間合いからBeast Clawでその首を【一刀両断】
武や勇を競い合う、勝負なら分が悪いけれど
私達は、はなから貴方達を狩りにきているのよ
『……ヒュ、ッ……ヒュウゥ……!!』
怪馬ブケファラスは、片角を折られ、片眼を潰され、喉笛[ふえ]も切られた。
自慢の脚は鎖を引き摺って血塗れに、躯には馬肉を食まれた痕跡もあるが、手負いの獸ほど油斷してはならぬと、狩人たるイル・シルディン(気ままに我がまま・g05926)が誰より警戒を示そう。
「精神が混濁しているから締まらなかったけれど、試練とやらに挑んだ中で、最も優秀であったことは確かなのよね」
眼前の駻馬が強者であり勝者である事は疑い無い。
攻撃を連鎖させる事で追い込んだ相手だが、その名に相應しい怪物である認識は變わりなく、実際、未だ健在な三本の脚と蹄は、一たび振り上がれば無事では済まされぬと花脣を引き結んだ佳人は、踵を彈くや輕妙なステップで進路を迷わせた。
「個体としては力差があるけど、私達は手数で勝る。人数差を大いに利用させて貰うわね」
『……ッヒュウ……ッッ!!』
視覺を喪失した左側へ回り込み、目標の選定に一動作を強いる。而して時を得る。
窮鼠にありがちな不意討ちを往なそうと、仲間達と代わる代わる位置を替えたイルは、赫眼が他所へ逸れた瞬間に踏鳴して宙を駆けると、一足の裡に肉薄した。
「咽喉は潰れたけれど、聽覺は生きているわね。耳が動いてる」
『――!!』
「予測済みよ」
馬は視えぬ方向から届く音を酷く嫌う。故に鋭く反撃する。
これまでの戰鬪で觀察した事だと、咄嗟の反應を見切った凄艶は、二足目で急停止ッ! 品佳い鼻梁を掠める風――猛然と蹴り上がった前脚の蹄撃をギリギリで躱すと、宙空で狩獵槍『predator spear』を振り被った。
「連撃を浴びた今なら、その首を斬り落とせそうね」
瞬刻に閃くは【Beast claw】――斷頭刃の如く墜下する穂先と、其の軌跡が生み出す鎌鼬。
不可視の刃が幾重にも頸部へ沈めば、雄々しき黑鬣は赫々と染まって逆立ち、重力に逆らって噴き上がる鮮血がイルの花顏を染め上げる――!
『ッッ……ッ、ッ……!!』
あれだけ哮った荒馬も、今際は靜かに首を躍らせよう。
斬り放された首と胴体が、時を違えて泥濘に沈むのを見たイルは、着地しざま嘆聲を置く。
「武や勇を競い合う勝負なら分が悪いけれど、私達は端から貴方達を“狩り”に來ているのよ」
此れがその結果だと。
血煙に滿つ鬪技場は、その靉靆に最後まで立つ者を「まことの頂点」と認めるのだった――。
大成功🔵🔵🔵
効果1【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV5(最大)になった!