宿縁を断ち切る戦い

 クロノス級クロノヴェーダは「自分の存在を保ったまま、その時代に転移してくる」事もありますが、「その時代の生物や概念などに寄生して転生する」事もあるようです。
 後者の場合、一定期間、転生した生物として成長し、充分に成長した所で覚醒する事で、対象の能力などを奪い、より強い力を得られるようです。

 この事件では、上記の方法でクロノス級に覚醒したクロノス級クロノヴェーダと戦い、決着をつける事になります。
 そのため、宿敵であるクロノス級クロノヴェーダは、自分、或いは、自分に意志を託してくれた過去の時代のディアボロスの血縁者や恋人など、親しい相手の姿をしています。

 クロノス級クロノヴェーダは、覚醒時に『悲劇的な事件を引き起こす』事で、より強い力を得られるため、様々な悲劇を引き起こします。
 ですが、覚醒する前の人格に訴えかける事で、行動を制限したり、クロノヴェーダ撃破後に寄生された対象を救出したりできるかもしれません。

小夜鳴鳥(作者 犬塚ひなこ
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#宿縁邂逅  #宿縁を断ち切る戦い 


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●祈りの聲
 西暦201X年、TOKYOエゼキエル戦争。
 過去のこの時代にも、クロノヴェーダと戦うディアボロスが存在していた。
 しかし、彼や彼女達は既に敗北している。大天使の侵攻によって追い詰められた者達は最後まで戦い抜こうとしたが、全てが命を引き換えにしても大切なものを守りきれず、その生の終わりを迎えた。
 これは、一度は終わってしまった『彼女』の歴史の一幕。

 その侵攻は圧倒的なものだった。
 大天使とアークデーモンの襲来に備えて人々が寄り添い、助け合って暮らしていた集会所。多くの復讐者が集うことで築いていた防衛戦は一瞬で崩された。その理由は突如として暗闇が辺りを覆い、奇妙な幻に多くの者が惑わされたからだ。
「何、これ……?」
「どうして身体が動かないんだ。やめろ、やめてくれ!」
「嘘よ、わたし……どうして彫像になっちゃってるの!?」
 闇に呑まれ、或いは幻想に囚われた人々の精神は、いつの間にか奇妙な天使の彫像に変えられていた。
 喰われたといってもいい状況の中、彼らは手足もまともに動かせない彫像の中で嘆き苦しんでいる。辛うじて言葉を発することができる者がいることで、辺りは阿鼻叫喚の地獄のようになっていた。
「そんな……こんなことって――」
 その様子を見つめ、思わず後退ったのは黒髪の少女。
 防衛に出ていた仲間が瞬く間に天使の彫像に取り込まれていったことで、少女は困惑していた。
 彼女の名は小夜。
 黒髪を靡かせた少女は物静かで大人しい雰囲気だが、この地区のリーダーのような役割を担っていた。以前に白百合の大天使を喰らって力にしたことで復讐者となったからだ。
 これまでも多くの大天使と戦ってきた小夜だったが、この状況は受け入れ難かった。
 仲間が像に囚われている以上、力で叩き壊すことも得策とはいえない。どうすればいいのかと戸惑っていると、辺りの闇が急に蠢きはじめた。小夜が暗い世界を見渡すと、その景色は突然に平穏な学園の風景へと変わっていく。
「これは幻……?」
『――小夜。此方にいらっしゃい、さよ』
「御姉さま?」
 幻想になど負けないと意気込んだ小夜だったが、聞き覚えのある声に目を見開いた。
 自分の名を『さよ』という呼び方で紡ぐのは彼女しかいない。このような戦いの日々にあっても、小夜の胸の奥にはいつも、御姉さまと呼んでいた人の存在があった。
 あの方とまた、昼休みの学園の中庭で楽しくお喋りをしたい。
 夕暮れの帰り道を一緒に歩きたい。ささやかだからこそ、幸せだった時間を取り戻したい。
 思いを強く持ち、祈り続けていた小夜はこれまで必死に戦い続けていた。
 それなのに、目の前には求めてやまない景色が広がっている。さよ、と自分を呼ぶ彼女が差し伸べてくれている手を取って、懐かしい学園の景色の中へ飛び込んでいきたかった。
「……けれど、駄目」
 小夜は知っている。この幻想に負ければ皆のように彫像に取り込まれてしまうのだ、と。
 共に戦う他の復讐者や、力を持たない人々だって取り返したい日常があるはず。すべてを守りたいと願った小夜は白百合の力を巡らせ続け、彫像の大天使へと対抗していく。
 大好きな御姉さまの幻想を振り払った小夜は祈りと共に白百合の花を咲かせ、大天使へと解き放った。
 しかし、次の瞬間。
「――お前こそ、わたくしの器に相応しい」
「……あ、」
 不意に誰かの声が響いたかと思った刹那、小夜の身体が闇夜の棘に貫かれた。戦う力を奪われた小夜がちいさな声を落としたときにはもう、声の主である大天使は彼女の身体に憑依していた。
 依代と化した蕾の少女は白夜に染まる。
 あどけなさを残していた容姿は大人のそれへと変わり、黒く艶やかな髪は白い花の如く――開花した。
「これが新たなわたくしの身体……。実に馴染みます」
 それこそが、此処に儀式大天使・ライラが降臨した証となった。
 意識と身体を乗っ取られた小夜は、まるで自分ががらんどうになっていくような感覚を抱いていた。自分では声も出せず、動けない状態であるというのに、ライラとしての身は意思とは関係なく動いている。
 この身体と力を使って、愚かな人々を大天使へと昇華させるか。或いは死という慈悲を与えるか。
 そのように考えている儀式大天使・ライラとしての意識は強く、小夜の感情や思いを掻き消しはじめた。
 誰にも聞こえぬ声で、誰にも届かぬはずの思いを小夜は叫ぶ。

 あぁ……誰か、誰か。
 御願いです、どうかわたしを――――!

●白百合の願い
 叫びが聞こえた。
 それは内に眠る、過去からの呼び声。遠く、それでいて途轍もなく強い祈りのようなもの。
「確かに聞いたんだ。『誰か、どうかわたしを』と――」
 胸に掌をそっと当て、四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は不思議な感覚について皆に語った。
 その話を頷いて聞いていた七篠・蝶々子(スノウメイジ・g07447)は、成程、と答える。そして、その声の主はショウに力を託した過去のディアボロスに間違いないと話した。
「ショウさんが受けた過去からの意志と影響が、運命を強く揺るがしたのでしょう。歴史の狭間に沈んだ時間軸、嘗ての時代のディアボロスが敗北した過去へ続くパラドクストレインが現れています」
 行き先は『儀式大天使・ライラ』というクロノス級大天使が顕現したばかりの時代。
 通常ならばクロノス級クロノヴェーダは自分の存在を保ったまま、その時代に転移してくる。しかし時折、『その時代の生物や概念などに寄生して転生する』ことがあるという。
 今回の敵は後者のようだ。一定期間、天使型の彫像として存在して信仰を集めた後、襲った者の能力と身体を奪い、より強い力を得たのが儀式大天使・ライラだと推測されている。

 新宿駅グランドターミナルに停車している特別な時空移動列車は一度きりしか運行しない。しかし、このパラドクストレインを利用すればライラと決着をつけられる。
 クロノス級を倒せば新たなアヴァタール級の出現を抑えられるだけでなく、敵ディヴィジョンを弱体化させることも期待できる。また、それだけではなく――。
「大天使を撃破すれば、ショウさんと復讐者の力と縁で繋がっている小夜さんや、彫像の姿に変えられてしまった方々も助けられるかもれません!」
「つまり、過去を変えられるということ?」
「はい、全部がうまくいけば……! けれども絶対に成功するとは言い切れません」
 ショウがそっと問いかけると、蝶々子は複雑な表情を浮かべた。
 小夜は既にクロノス級に存在を奪われている状態だ。
 クロノヴェーダに覚醒してしまっている過去は変えられず、必ず敵対することになるので救出は困難を極める。
 されど魂が完全に消えてはいない状態であるゆえに、心に響く言葉で呼びかけることや、ライラが巡らせている闇や幻想を払うことで可能性を見出せるだろう。

「闇と幻想を越えながら、彼女に届く言葉を届ける、か」
「……はい。ライラの力を打ち破るには武力だけではなく、精神の力も大事なのです。それもひとりのディアボロスだけの力では足りないくらいのたくさんの意志と力が必要でしょう」
 ショウは暫し考え込み、蝶々子も唇を噛み締めた。
 現在、ショウの中に宿る小夜の記憶と時先案内人が得た情報を鑑みるに、現場には恐ろしい力が巡っている。
 先ずは闇の領域。
 前後左右すらわからなくなるほどの特殊な空間では、己の心の闇や過去の暗い記憶、思い出したくない過去など、精神的な痛みを伴うものが否応なしに見せられる。その闇から救い出すように大天使の白い手が伸びてくるらしいが、その手を取ってしまえば逆に闇に囚われてしまうという。
「誰の助けも借りることなく、自分で闇を克服する必要があるんだね」
「そうです。完全否定しても良いですし、己を認めるという手もあります。それでも、抗うのはきっと苦しいです……」
 ショウと蝶々子は視線を交わした。
 その闇を何人かが越えられた場合、暗黒の領域は閉じていく。
 だが、次は電脳レイヤーで改竄された幻想の世界が待ち受けている。領域に入った者には幻影の光景が見せられ、それを受け入れてしまうと彫像に変えられてしまう。
「その力はアヴァタール級のライラと戦った際に見せられたよ。あのときは、奪われたわたし達の家が――」
 ショウは以前の戦いを思い返し、言葉を止めた。
 大丈夫ですよ、と蝶々子が止めたので詳しくは語られなかったが、幻影はその人にとって『幸せで、このままずっと此処に居たい』と感じられる世界として投影されるようだ。
 しかし、それはあくまで幻。強い心で以て相対し、幻想を打ち破ればライラの力の根源を削り取ることができる。

「幻想を払えば余波が広がって彫像になった人々も救えますし、闇を打ち砕いていれば大天使の力が弱まります。それから、ライラを倒すまでに小夜さんの心に響く言葉を届けられれば、彼女を元の姿に戻すことだって夢じゃありません!」
「つまりはすべてに成功しないといけないんだね。わかったよ」
 蝶々子の説明を聞いたショウは頷いた。
 そして、彼女はディアボロスの仲間達へと向き直り、静かに一礼する。
「力を貸して欲しい。わたしだけでは最良の結果を導くことは、きっと難しいから。それに――」
 ショウは再び胸に手を当てた。
 過去の世界から叫び続けている彼女、小夜はショウだけを呼んだのではない。今も胸の奥から響いている意思はすべてに、未来を担うディアボロスすべてに向けられているように感じる。
 あの声は救いを求めているだけではないとショウは語った。罪なき人々を苦しめる大天使になってしまうのならば、その前に自分を滅して欲しいという意思も混ざっているのではないか、と。
「御願いだ、どうか彼女を……」
 ショウは静かに瞳を伏せ、敢えてそれ以上は語らぬまま皆に協力を願った。

●夜を謳うもの
 小夜とライラは喩えるならばまるで、小夜啼鳥のよう。
 夜鳴鶯として美しく囀る未来を導くか、それとも死を呼ぶ墓場鳥として屠るべきか。
 即ち、助けるか、葬るか。此度の戦いがどのような運命と結末を迎えるかは、赴いた者の意思と行動次第だ。
 そうして、パラドクストレインが発車する。
 理不尽に齎された終わりを覆すため、宿縁を断ち切る戦いの場へと――。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【傀儡】
1
周囲に、ディアボロスのみが操作できる傀儡の糸を出現させる。この糸を操作する事で「効果LV×1体」の通常の生物の体を操ることが出来る。
【飛翔】
8
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【一刀両断】
2
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【神速反応】
3
周囲が、ディアボロスの反応速度が上昇する世界に変わる。他の行動を行わず集中している間、反応に必要な時間が「効果LVごとに半減」する。
【罪縛りの鎖】
2
周囲に生き物のように動く「鎖つきの枷」が多数出現する。枷はディアボロスが命じれば指定した通常の生物を捕らえ、「効果LV×2時間」の間、移動と行動を封じる。
【託されし願い】
2
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【勝利の凱歌】
2
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【熱波の支配者】
2
ディアボロスが熱波を自在に操る世界になり、「効果LV×1.4km半径内」の気温を、「効果LV×14度」まで上昇可能になる。解除すると気温は元に戻る。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【完全視界】
1
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【活性治癒】
3
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【液体錬成】
1
周囲の通常の液体が、ディアボロスが望めば、8時間冷暗所で安置すると「効果LV×10倍」の量に増殖するようになる。
【使い魔使役】
1
周囲が、ディアボロスが「効果LV×1体」の通常の動物を使い魔にして操れる世界に変わる。使い魔が見聞きした内容を知り、指示を出す事もできる。
【口福の伝道者】
3
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【クリーニング】
3
周囲が清潔を望む世界となり、ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建造物や物品が、自動的に洗浄殺菌され、清潔な状態になる。
【建物復元】
1
周囲が破壊を拒む世界となり、ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の建造物が破壊されにくくなり、「効果LV日」以内に破壊された建物は家財なども含め破壊される前の状態に戻る。

効果2

【能力値アップ】LV3 / 【命中アップ】LV3 / 【ダメージアップ】LV6 / 【ガードアップ】LV3 / 【凌駕率アップ】LV2 / 【反撃アップ】LV5(最大) / 【先行率アップ】LV1 / 【ドレイン】LV5(最大) / 【アヴォイド】LV1 / 【ロストエナジー】LV3 / 【グロリアス】LV5(最大)

●マスターより

犬塚ひなこ
 こちらは四葩・ショウさんからリクエスト頂いた宿縁邂逅シナリオです。
 宿敵主のショウさんのご意向により『どなたでも自由にご参加可能』となっています。

 宿縁邂逅というシナリオの性質上、決着は宿敵主さんがメインになる予定ではございますが、他の参加者の方も過去の掘り下げや、失っていた記憶を取り戻すきっかけを得る、取り戻すべき幸せを再認識する、その他の心情等をめいっぱいに描写できる構成になっています。
 興味がある方は気兼ねや遠慮なくご参加ください。

●重要人物
 小夜(こよる)
 過去の時代に戦っていたディアボロスのひとり。
 黒髪の少女でしたが、今は大天使ライラに乗っ取られているので白き姿に開花しています。
 小夜についてわかっているのは、白百合の大天使を喰らったデーモンイーターであること。物静かで大人しいが芯が強い女生徒だったこと。『さよ』という愛称で呼んでくれる憧れの御姉さまがいたことです。

●選択肢
 基本的に①→③→④の流れを想定しています。
 ②に関してはどのタイミングで呼びかけるかは決まっていないので、いつでもご自由にどうぞ。

⏩①クロノス級が起こす事件を解決する
 場所は暗黒に包まれた領域。自分の心の闇と戦う選択肢です。
 ここではライラの『断罪処刑』のような力が常時発動しています。闇以外に何もない空間で心が侵されていく感覚が広がり、自分が嫌だと思っていることが周囲に見えたり、トラウマなどが近くに揺らぎはじめます。
 己の闇に自ら抗うか、もしくは敢えて受け入れるなどで闇を抜けましょう。
 多くの方が闇を払うことでライラの弱体化が狙えます。

⏩②覚醒前の人格に呼びかける
 宿敵主さん専用の選択肢となっています。
 呼びかけのタイミングはいつでも大丈夫なのでお好きなときにご参加ください。完結までにご参加がなかった場合や、万が一に判定が失敗した場合は小夜の救出は難しくなります。

⏩③👾覚醒直後のトループス級『ピグマリオン・プッティ』
 この戦場には彫像が点在していますが、中に罪なき人々の精神が囚われています。
 ここではライラの『祈りの庭』が常時発動しており、電脳レイヤーで改竄された幻影で皆様が望む理想の世界や幸せな情景が作り出されています。戦う理由や魂を蝕む幻影の中、楽園のかたちをした地獄を打ち破ってください。

 どのような幻影が見えるのか、プレイングでご指定をお願いします。
 詳しく書かれていない場合はこちらでアドリブの情景や台詞を加えますが、イメージと相違が起こる場合もございますので、拘りがある方はしっかり書いて頂けると幸いです。

 皆様が幻影を破ると周囲にも影響が広がり、戦闘なしで彫像に囚われた人々を解放することができます。
 彫像を攻撃して倒すと中の人の精神も壊してしまうためご注意ください。

⏩④👿クロノス級決戦『儀式大天使・ライラ』
 夜と受胎の天使を冠し、大天使への覚醒儀式を司る者。
 天使らしい容姿と声で人間を虜にするが ドレスの中身はがらんどうで、つめたい本性と闇夜を隠しています。大天使へいたることは救済だと微笑み、異端者には死の慈悲を与える大天使。

 ①と③の結果によってライラの強さや状況が変化します。
 敵は皆様が使用しているパラドクスと同じ能力のパラドクスで反撃するので、場合によっては闇や幻想が再び襲いかかってきます。完全にライラを倒さなければ救出も叶わないので全力で戦ってください。

●その他
 小夜の救出の有無にかかわらず、ショウさんのディアボロスの力がなくなることはありません。
 また、救出後に小夜や助けた人々がどうなるかは皆様次第です。
(ディアボロスとして最終人類史に来るかどうかは、実際にPC登録されるまで不明です。システム上、こちらで彼女達がどうなったかは描写できかねますので、どうかご了承ください)
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


四葩・ショウ
……なにも、見えない

出会い助けたひと達が
ママとあの子(妹)がゆらめきわたしを呼ぶ
救けをもとめる声が響きわたる

駆け寄ろうとして
突き刺され進めない足
踠くほど闇夜の棘に貫かれ

ママ、───"すてら"……っ!
なにも出来ない
目の前で、

………ああ……!
こんな、こんなのって

こころが、魂そのものが
粉々にくだかれるみたいだ
つめたくて、さむくて、動けない
大切なひとにこの腕は───とどかない?

こんなの、やだよ
もういやだ……


……はは、
きついな、これ……

白い手には縋らない
この苦しみも痛みもわたしから生まれたのなら
罅割れたこころも懐いて
ぜんぶ連れていく

無意識に聖歌を口遊んで、眦を拭う
確かにきこえたんだ、だから
立ち止まれない


●断罪と救済
 ――誰か助けて。
 ――痛い、苦しい。
 ――どうして、こんなことに。

 声が聞こえている。
 なにも見えない。この場所がどこなのかも分からなくなりそうな闇の最中。
「……みんな」
 四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は声の主を探るように闇の中に呼びかけた。されど、返ってきたのは先程と同じ助けを求める声ばかり。
(「この声はママ、と……それから――」)
 あの子の、妹の声がする。
 それだけではなく、これまでに助けてきた人々の声まで混じっている。ありがとう、助かったよ、と伝えてくれたはずの彼、或いは彼女達が苦しみもがいている声だけが木霊していた。
 また脅威が訪れたのだと判断したショウは、無意識に声の元へ駆け寄ろうとする。
 しかし、足に激痛が走った。踏み出そうとした足が暗い地面に縫い留められたような痛みに対し、ショウは声すらあげられない。闇夜の棘に突き刺されて進めない足がどうやっても動かなかった。
 思わず踠くほどの痛みが駆け巡っていく中、ショウは必死に腕を伸ばす。その先に声の主がいるはずだというのに何も掴めないが、ショウには諦められない理由がある。
「ママ、すてら……っ!」
 せめてこの声だけでも届けたいと願い、ショウは心からの言の葉を響かせた。
 悲痛な呼びかけに対しても返答はない。苦しむ声だけが聞こえてくるだけであり、ショウは無力感に襲われた。
 視界に何も映っていなくとも、声はすぐ近くにある。
 それだというのに、なにも出来ない。目の前で、すぐ傍で、大切な人が――。
 ショウの胸裏には絶望めいた思いが広がっていった。周囲の闇に心が侵され、自分までもが助けを求める側に回ってしまいそうなほどの感覚が足先から伝わってくる。
「………ああ……!」
 ショウの口から零れ落ちたのは落胆にも似た声だ。
 聞こえてくる声、痛む足、心に響く苦しみ。すべてが自分を自分でなくしていく。
「こんな、こんなのって」
 まるでこころが、魂そのものが、粉々にくだかれているみたいだ。
 つめたくて、さむくて、動けない。
 それでもショウは手を伸ばし続けた。僅かでも触れられれば何かが変わると信じて。けれど、と胸中で呟いたショウは絶望の闇が心を覆い尽くすような感覚をおぼえた。
(「どうやっても……大切なひとに、この腕は――とどかない?」)
 その瞬間、ショウの中に嘗ての復讐者の思いが重なった。
 きっと大天使に敗北する寸前の彼女も同じことを感じたのだろう。その結果が儀式大天使となって世界を侵略していき、改竄していく未来なのだとしたら。
「こんなの、やだよ。もういやだ……」
 気付けば零れ落ちていた言の葉は、彼女が敗れる直前にも思ったことなのだろう。
 力なく顔を上げたショウの視線の先からは白い手が伸ばされていた。助けて差し上げます、とでも語るような大天使の手は奇妙なくらいに魅力的だ。人を助ける側に回るのではなく、助けられる側になれる。
 ただ待っているだけで救いが与えられる。
 そのように感じてしまったショウは強く目を瞑り、ゆっくりと頭を振った。
「……はは、きついな、これ……」
 本音を言えば辛くて苦しい。
 すぐにでも解放されたいと思うほどの苦しみが巡り続けていた。だが、そうだとしても――白い手には縋らない。
 縫い留められていた足を無理矢理に動かしたショウは真っ直ぐに立ち上がった。
「この苦しみも痛みもわたしから生まれたのなら、」
 それこそが自分自身だと認めたい。
 罅割れたこころも懐いて、ぜんぶ連れていくために此処に来たのだから。
 そのとき、闇の先に一筋の光が射したように思えた。それはたった一瞬のことで、本当に光があったのかも定かではないものだったが、ショウは確かな希望を抱く。
 歩き出した彼女は無意識に聖歌を口遊んでいた。そして、眦を拭ったショウはあの声を思い返す。

 誰か、誰か。
 御願いです、どうかわたしを――――!

「確かにきこえたんだ、だから」
 胸の裡に響いた、過去からの呼び声。
 立ち止まれないと強く感じたショウは先へと進んでいく。一歩を踏み出すごとに闇が薄まり、聞こえていた声も消えていった。それと同時にショウは心強さを感じる。
 少しずつ闇が晴れているのは、此処に頼もしい仲間が集ってくれているからだ。
 闇に心を閉ざされると知っていても尚、過去を救いたいと願って時空移動列車に乗ってくれた仲間達。
 皆の意志が光を導く様を感じ取りながらショウは前を見つめた。
 その先で囀る、未来を望む聲に辿り着く為に。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!

御須統・昴
アドリブ、絡みどうぞお好きに

……闇に心が侵される。
思い起こすのはあの日の出来事。新宿に来る直前のあの日の出来事。
脳裏に浮かぶは郷が火に包まれる。多数の人々の怨嗟の声。
逃げる事しか出来なかった自分。託された星の武器。
狙われ、逃げて、気がつけば新宿にいた。
……自分だけ生きてずるいとでもいう目で睨んできますね……
そんなの巡り合わせなんですよ。たまたまそれが自分だっただけなんだ。
敵は取りますよ。その内そっちに送ってあげますから。そうしたら、貪ればいいでしょう。
それまでは闇の底で。影の中で眠ってなさい。
そうして闇を払いのけて抗いましょうか。


●巡り合わせの運命
 降り立った場所は闇に包まれていた。
 何処までも続いているような奇妙な空間は、此度の敵が作り出している特殊な空間だ。
(「これは……」)
 まるで闇に心が侵されているようだ。
 御須統・昴(十星連・陸昴『六連星の守り人』・g06997)はそのように感じながら、闇の中に踏み出した。
 すると、心の奥からある情景が浮かんできた。昴は思わず立ち止まり、無意識に身構える。
 思い起こされたのは、あの日の出来事。
 それは新宿に来る直前。
 まるで目の前で起こっているかのように、脳裏に浮かぶのは――郷が火に包まれる様子。
 燃え盛る炎は容赦なく、建物や人々に襲いかかっている。多数の人々の助けを求める声や、怨嗟の叫びが周囲に木霊しはじめていた。その様子を昴はただじっと見つめることしか出来ない。
 あの日、あの時。あまり思い出したくはない凄惨な出来事だが、忘れてはいけない光景でもある。
 昴は自分が逃げることしか出来なかったことに心を痛めていた。今はこうして立ち止まるだけに留まっているが、それはこの光景が変えられない過去であると認識しているからだ。
 そして、託された星の武器を思う。
 敵に狙われ、炎や怨嗟から逃げて――それから、気がつけば昴は新宿にいた。
 それから此処まで復讐者として生きていたのだが、目の前の光景は自分の後悔を映しているようにも思える。
「……自分だけ生きてずるいとでもいう目で睨んできますね……」
 人々の視線が自分に向けられているようだと察し、昴は首を横に振った。言い訳でも、言い逃れをする気でもないが、昴はそっと口をひらく。
「そんなの巡り合わせなんですよ」
 たまたまそれが自分だっただけなのだと語り、昴は星の武器を見下ろした。
 これが此処にあるということが、戦う理由と証になっている。昴は目の前の光景から目を逸らさぬように努め、自分なりの思いを言葉にしていく。
「仇は取りますよ。その内そっちに送ってあげますから。そうしたら、貪ればいいでしょう」
 それまでは闇の底で。
 過ぎ去りしの影の中で眠っていなさい。
 昴は自分の闇でもある過去を見つめ、得物を振るった。そのまま闇を払いのけた彼は敵の術に抗い、前に進む。
 この先で待つ運命がどれほど過酷だとしても。
 誓いにも似た思いを抱きながら、昴は闇の先を目指していった。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!

白水・蛍
アドリブ歓迎

……心の闇、ですか……
目の前に【私の影】が現れて私を責めたてる。
『なぜおまえだけ生きている』のだと。

……ええ、そうです。私は。私は。
【何故一人。何故、私一人生き残ってしまったのか――!】
だから、これまで常に強敵の戦場へ向かって行く。
【そうすれば強い敵に会える。きっと、負ける可能性も高いだろう。そうすれば皆の元へいけるから】と。

……時間をおいて、私の影に告げましょう。
【今の私はもう死にたいと思わない。行き急ごうと思わない。】
脳裏に思い浮かぶのは【大事な相棒の姿。大事な仲間の姿。】

私は高らかに宣言し、私の影を祓いましょう。
【私は今の仲間と共に生きていく。】のだと!


●未来への宣言
「……心の闇、ですか……」
 これがそうなのかと感じた白水・蛍(鼓舞する詩歌・g01398)は周囲を見渡す。
 此処は大天使が作り上げた奇妙な空間であり、何処までも果てない闇が続いているように思える場所だ。蛍が辺りを見渡すと、急に前方の闇が怪しく揺らいだ。
「あなたは――いえ、私……?」
 其処に現れたのは蛍の影。自分自身が目の前にいると察した蛍は闇が見せる幻想だと判断した。
 影は鋭い視線を此方に向けており、蛍を責めたてはじめた。
『なぜおまえだけ生きている』
 どうして。
 おまえだけが死ななかったことは罪だ。
 まるでそう語るような自分自身の眼差しは強く、心の奥が抉られるような感覚が広がっている。これはただの幻であり、自分の心の闇が作り出しているものだと頭の中では分かっていた。
 しかし、それでも心が反応してしまう。
「……ええ、そうです。私は。私は」

 たったひとり。
 何故、私ひとりが生き残ってしまったのか――!

 こうして独りで世界に放り出され、こうやって生きているのかという疑問はいつも抱いていた。そんな思いがあるからこそ、この力を得たからこそ。だから、これまで常に強敵の戦場へ向かってきた。
 そうすれば強い敵に会える。
 きっと、負ける可能性も高いだろう。そして――。
「そうすれば皆の元へいけるから」
 気付けば蛍は己の強さであり、弱さでもある部分を言葉にしていた。
 それから暫し、闇が蠢く中で蛍は無言を貫いていた。対する影もまた何も語らず、鋭い視線で蛍を見つめている。されど蛍はその闇に呑まれるようなことはなかった。
 たっぷりと時間をおいて、蛍は自分の影へと告げてゆく。
「今の私はもう死にたいと思わない。生き急ごうとは思わない。これが答えです」
 脳裏に思い浮かぶのは大事な相棒の姿。
 それから、これまで共に戦ってきた大事な仲間の姿。復讐者になってからの出来事や戦いを思い返すと、以前のままの自分ではなくなっていることがよく分かった。
 蛍は高らかに宣言する。己の影を祓い、進むべき先を目指すために。
「――私は今の仲間と共に生きていく!」
 その言葉が闇に響き渡った直後、蛍は不思議な空間から解放されていた。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!

ノスリ・アスターゼイン
踏み込んだ途端の、闇
腹の底に空いた何処までも深い虚
虚に凝る濃密な夜


踏み込む以前から
ずっと身の裡に巣食っている闇だ

嘗ての記憶も何もかもを糧とする悪魔を喰らった
その代償に
腹の満ちない
心が満ちない
飢餓感がある

いっそこの闇ごと喰って空腹を忘れてしまえたら
楽になるのかなぁ

なんて
誰にともない呟きは
白い手に遮られて
片眉を上げ下げ

闇に染まらぬ其れは
却って異質で禍々しい
救いを感じたりはしない
空腹を忘れることは
『いきもの』で無くなることと等しい

――「楽になる」の方向性が違うんだよネ

いのちを捨てたいのではない
楽を感じるには生きて居なければならない
だから

――お前は要らないよ

軽い口調ながらも
拒絶は確かに
浸かる闇を祓う


●生き抜く為の意志
 踏み込んだ途端の、闇。
 ノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は腹の底に空いた何処までも深い虚を実感した。
 虚に凝る濃密な夜は色濃く、苦しみを連れてくる。
 ――否。
 此れは違う。此処に踏み込む以前から、ずっと身の裡に巣食っている闇だ。ノスリは頭を振り、周囲に広がる闇と自分の裡に宿る闇の違いを確かめた。されど今、それは裡から外に這い出るように滲んできている。
 嘗ての記憶も、何もかもを糧とする悪魔を喰らった過去。
 その代償として今のノスリが在る。
 腹の満ちない、心が満ちない、物理的にも精神的にも響く飢餓感が常にあるのが現状だ。
 いっそ、この闇ごと喰って空腹を忘れてしまえたら。
「楽になるのかなぁ」
 ノスリは誰ともなく呟き、なんて、と付け加えようとした。しかし、その声は闇から伸びてきた白い手に遮られる。
 その闇と飢餓から救ってあげる、とでも語っているような手はノスリを手招く。片眉を上げ下げしたノスリは一歩、後ろに退いた。闇の中に浮かぶ手は慈悲を示しているが逆に怪しくも思える。
 この場で唯一、闇に染まらぬ其れは却って異質で禍々しい。
 それゆえにノスリは白き大天使の手に救いを感じたりなどはしなかった。それに加えて元より、この空腹が他者の手でどうにかなるものだとは思っていない。
 何故なら――。
「空腹を忘れることは『いきもの』で無くなることと等しい」
 はっきりと言葉にしたノスリの声は真剣そのものだ。
 しかし、軽く瞼を閉じた彼はすぐに表情を変え、普段のような口調でもう一度口をひらいた。
「――『楽になる』の方向性が違うんだよネ」
 きっと大天使の誘いの方に向かえば真の意味で楽になれる。自分というものを捨て去って、苦痛を感じなくなるという点ではそうなのだろう。だが、ノスリはいのちを捨てたいのではない。
 喜怒哀楽。その中の楽を感じるには、自分のままで生きていなければならない。
 だから、と言葉を紡いだノスリは白い手に背を向けた。
「――お前は要らないよ」
 先程から続く軽い口調ながらも、彼が示した拒絶は強いものだった。
 確かに今、自分の中には生き抜く意志が存在している。侵食してくる闇を祓うべく、ノスリは心を強く持った。
 やがて、暗黒の世界は少しずつ晴れていく。
 戦うべきものが待ち受ける本当の世界へと歩むため、ノスリは一歩を踏み出した。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV3になった!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!

永辿・ヤコウ
届いた声の切実さを胸裏に抱き
そっと瞳を伏せて
再び開いた先も深い闇の中

瞬けど
目を凝らせど
周囲へぐるりと視界を巡らせれど
何も見えては来ないから
壁は無いか
扉は無いか
出口を探るように暗闇に手を伸ばす

ふと
指先がぶつかった手触りは木製の扉
把手を掴み
開放した景色は――

やはり何もない
ただの闇

懐かしい光景も見えず
愛しい現在にも還れず
帰り道が見つからなくて
胸が苦しい
息苦しい
纏わりつく暗澹に濡れそぼった迷子の気分で立ち止まる

けれど
そっと伸び来る慰めるかの白い手に
縋ることは決してない

だって
僕が欲しいのも大切なのも
愛しい人の手だけだから

残念ながら”手違い”ですね
惑いようがありません

真白な腕じゃないんですと
笑んで首を振る


●褐色の君を
 少女に届いた声の切実さ。
 助けて欲しいという願いだけではなく、自分を討って欲しいと覚悟が宿った声でもあったらしい。
 永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)はその意志を慮り、届いた声への思いを胸裏に抱く。そっと瞳を伏せたヤコウは、大天使が巡らせた闇に向き合う。
 目を閉じたことで闇を感じたが、再び瞼を開いた先にも深い闇が広がっていた。
 幾度か瞬けど、目を凝らせども光は見えない。
 ヤコウは周囲を確かめるため、ぐるりと視界を巡らせてみたが、やはり何も見えてはこない。
 壁は無いのか、何処かに扉があったりはしないか。ヤコウは出口を探るように暗闇に手を伸ばし、歩いてみた。だが、暫しはただ暗闇を彷徨い歩くのみ。
 しかし、不意にヤコウは指先に何かが触れたように感じた。
 幻であるのだろうと分かったが、それは木製の扉であるように思えた。闇の中で見せられるまま把手を掴む仕草をしたヤコウは、その向こうを確かめるために扉を開放した。
 其処にあった景色は――やはり、何もない。
 ただ今までと同じ闇が広がっているだけであり、絶望めいた思いが裡に浮かんだ。
 もしかすれば、と考えてしまった。
 扉の向こうにあるのは懐かしい光景か、或いは愛しい現在であると無意識に期待してしまっていたのだろう。何処にも還れずに帰り道が見つからないという現状に恐怖のような感情が浮かぶ。
 胸が苦しい、息すらも上手く出来ない。
 纏わりつく暗澹に濡れそぼった迷子の気分になり、ヤコウは立ち止まる。
 不安ばかりが募る中、優しい雰囲気をまとった手が自分の方に伸びてきた。それに触れれば救済を与えられるかもしれないと感じてしまう。
 けれども違う。伸びて来る白い手から与えられるのは慰めでも救いでもない。
 直感的にそう感じたヤコウがその手に縋ることは決して無いだろう。何故ならば――。
「僕が欲しいのも大切なのも、愛しい人の手だけだから」
 それは求めるものではない。
 己の抱く感情をしかと確かめたヤコウは、白い手から距離を取った。
「残念ながら手違いですね。惑いようがありません」
 真白な腕じゃないんです、と付け加えたヤコウは敢えて笑んで見せてから首を振る。そうすると白い手は何処かへ消え去り、闇が徐々に白み始めた。
 この先に進むべき道があるとして、尾を揺らしたヤコウは真っ直ぐに歩き出した。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV4になった!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!

ソレイユ・クラーヴィア
アドリブ歓迎

闇、か…
この暗闇は、見覚えがあります
故郷であの者に致命の一撃を受けた時
ディヴィジョンの壁を砕いた時
心の臓を冷たい手が触れるかのような、死の恐怖

私は、死が怖い
けれど
死して死なぬ躰である己自身も同様に恐ろしく
たまに夢想してしまう事があります
死へと誘う手を、掴んでしまえば楽になるのだろうか
そうすれば、家族と同じ場所へたどり着けるのだろうか、と

でも、目の前に差し出された白い腕は、きっと違う
私はまだ、行けるところまで行ってない
ここは、死ぬべきところではない
それだけは、心の中で常に響く旋律が間違いないと告げている

だから、瞼を開いて
周りを見て
進むべき方向を見定めれば、再び歩み始めようか


●進み続ける道
「闇、か……」
 パラドクストレインを降りた後、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)を始めとしたディアボロスは闇の中に閉じ込められていた。辺りは何も見えず、自分が立っている場所すら曖昧だ。
「この暗闇は、見覚えがあります」
 ソレイユは感じたままの言葉を紡ぎ、あることを思い返す。
 あれは今も覚えている一瞬のこと。
 故郷で、月影のオーギュストに致命の一撃を受けたとき――そう、或る意味でディヴィジョンの壁を砕いたときだ。
 心の臓に冷たい手が触れているかのような、死の恐怖。
 あの瞬間に感じた闇と同じ気配が此処に広がっている気がした。つまりはそういうことなのだと納得したソレイユは己の中に浮かんだ思いを確かめていく。
(「私は――死が怖い」)
 生きる者は死への恐怖を抱いている。満足した死を迎えられるものなど、世界に一握りもいるかどうかだ。ソレイユもまた、生者として正しい感覚を持っていた。
 けれど、と小さく言葉にしたソレイユは自分の現状を思う。
 一度は死して尚、死なぬ躰である己自身も同様に恐ろしい存在だと感じていた。
「たまに夢想してしまう事があります」
 死へと誘う手を、掴んでしまえば楽になるのだろうか。
 そうすれば、家族と同じ場所へたどり着けるのだろうか――と。
 独り言ちたソレイユは自分の考えを深く反芻した。そのように考えることも或る意味では間違いではないのだろう。どんな経緯や理由があれど、死はいつか訪れる。それが早まるか、長引くかの違いだ。
 そんなソレイユの前に白い手が伸びてきた。
 救済を与えると約束するような雰囲気が感じられ、ソレイユは暫しその手を見つめる。あの手を取れば、楽になれるのだと感じてしまう。少しだけ手を伸ばし返せば現状から解放されるのかもしれない。
(「――でも、」)
 目の前に差し出された白い腕は、きっと違う。
 それだけは確信が持てるとしてソレイユは一歩だけ後ろに下がった。そして、彼は宣言していく。
「私はまだ、行けるところまで行ってない」
 即ち、ここは死ぬべきところではない。
 心の中で常に響く旋律が間違いないと告げているのならば、あの手は拒絶すべきものだ。閉じかけていた瞼を開いたソレイユはもう一度、しかと周りを見る。
 進むべき方向は感覚的に見定めることが出来た。
 それならば――後はあの手に背を向けて、再び歩み始めるのみ。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV5になった!
効果2【グロリアス】がLV2になった!

アンゼリカ・レンブラント
新宿島に現れた日
記憶が混濁していた私が
問われて答えた名こそが「アンゼリカ」

己を幼き日憧れた英雄と錯覚し
違和感はあってもそう振る舞ってもきたんだ

また開けた視界に現れるは、大切な人の骸
「メッキが剝がれたな、陽菜」
闇剣を手にそう呼んできたのは、大切な人の義理の兄の少年

私じゃなければ。あの日あの子を守れたのかな
私が本当のヒーローなら
本当のアンゼリカなら!
私を斬ろうとする少年から逃げられず―

否!
惑うものか。私の大切なひとは。確かに友の助けを得て救い出せた

それにね
なりたいと思っていた姿じゃなくても、私もまた英雄だって
四葩・ショウは確かに言ってくれたんだよ!

その彼女の力になる
心の勇気を光剣に変え、闇を払うよ


●少女の名
 深くて暗い闇の中。
 アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が思い返したのは自分が新宿島に現れた日のこと。
 あの日、少女は記憶が混濁していた。
 あなたの名前は、と問われて答えた名こそが『アンゼリカ』だった。
 少女は己のことを、幼き日に憧れた英雄と錯覚した。不確かな記憶の中でも、強く焼き付いていた名前を言葉にした彼女に罪はない。多少の違和感はあったが、元の記憶が曖昧な少女は在るべき英雄として振る舞ってきた。
(「そっか、私は……」)
 暗闇の中で少女はアンゼリカとしての自分を思い起こす。
 すると、次は別の光景が巡っていった。
 其処に現れたのは大切な人の骸。横たわっている人影を前にした少女の近くには、闇の剣を持った少年がいる。
「メッキが剥がれたな、陽菜」
 刃を手にした少年は少女の名を声にした。彼は大切な人の義理の兄だと思い出した。
 自分は英雄ではない。
 大切な人を護りきることだって出来なかった。心の中に浮かんでいくのは絶望のような感情だ。
(「私が、私じゃなければ」)
 あの日、あの子を守れたのかな。
 あんなことにはならなかったのかもしれない。
(「私が本当のヒーローなら、」)
 本物のアンゼリカなら。
 ぐるぐると巡る思考は止まってくれない。陽菜という少女は自分を否定して、憧れの存在になることでしか心を保てなかった。もしその支えがなくなってしまったとしたら、闇に飲まれてしまうのだろう。
 自分を斬ろうとする少年。まるで試すような赤い瞳の眼差しから逃げられず、少女は後退ろうとした。
 だが、そのとき。
 ――否!
 救いを差し出すように伸びてきた白い手を見た瞬間、少女は目を見開いた。
「惑うものか。私の大切なひとは。確かに友の助けを得て救い出せた」
 その瞳には英雄としての意志がある。
 たとえ最初は偽物だったとしても、これまで実際に戦ってきたのは自分自身だ。それに――。
「なりたいと思っていた姿じゃなくても、私もまた英雄だって!」
 彼女は確かに言ってくれたから。
 その彼女の力になるべきときが、今だ。アンゼリカは勇気を奮い立たせ、自分を認めた。
 陽菜とアンゼリカ。
 自分はどちらでもあり、何にだってなれる。
 少女は心の勇気を光剣に変え、大きく地を蹴る。そして――払われた闇が一気に晴れていった。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!

咲樂・祇伐


暗闇の中で蹲る
暗いのは苦手
花冷えのように侵食する闇に食べられてしまいそうになるから

あの時もそう
真っ暗で冷たくて

ただ大好きなお兄ちゃんに
大好きだって
伝えたかった
いつも遊んでくれてありがとうって
ただそれだけだったの!
殺すつもりなんてなかったの

何時だって浮かぶのは、血の海に倒れる
兄の姿
温かい血の、生きていた証が
冷たくなって
零れ落ちていく、感覚

お兄ちゃんっ

許して貰えない
きっと怒ってる

お兄ちゃんがいなくなった傷口を
お兄様で塞いで
しらんぷりして笑ってる

これが私の罪で罰で
愛ならば
私は倖せになってはいけない
闇から出てきてはいけないと受け止める

なのに光が…恋しくて
あなたの名をよび、手を伸ばす
私だけの、罪の光に


咲樂・神樂


暗闇とは
恐ろしいものではなかった
目覚めれば新たな私の刹那の生が幕開き
闇に染まる頃に散る
その繰り返し

いのちを鎖に
刻を編み
つなげ、つなげ

其れが今は
恐ろしい

目覚めた私は
本当に今迄と同じ『私』なのか
『私』が消えて✤✤✤が、

愛しい番にやっと出会え
隣で笑い触れていられる
この日常を喪うのがこんなにも恐ろしい

私は君に初めて戀をしたあの時の私のまま
この想いを私以外の誰にも渡さずに
ずっと傍で生きたい

滑稽なことに
これは恐怖だ

だが怯んだり退いたりしたら負けだ
私が負けるわけが無い
窕の刃で闇を裂き
光を咲かせる
私は私の手で掴み取る
希む明日をだ
愛しい君の元へ帰る

大丈夫、祇伐
どんな闇の底へだって迎えに行くって約束しただろう?


●罪過
 深淵の闇の最中、思わず蹲る。
 何処を見ても闇しか見えず、咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)は恐怖に囚われていた。
「い、嫌……」
 暗闇は苦手だ。何故なら、花冷えのように侵食する闇に食べられてしまいそうになるから。
 思えば、あのときもそうだった。
 真っ暗で冷たくて、何にも縋れない寂しさと息苦しさがある。
 ただ、大好きなお兄ちゃんに伝えたかった。
 大好き。
 そう言葉にして、いつも遊んでくれてありがとう、とたくさんの感謝を贈りたかっただけ。
「……ただ、それだけ。それだけだったの!」
 祇伐は言い訳を紡ぐように声を荒らげる。そして、其処に続く言葉が闇の中に響いた。

 ――殺すつもりなんてなかったの。

 封じていたはずの記憶の壁は、日々を重ねるごとに剥がれ落ちていった。
 何時だって浮かぶのは、血の海に倒れる兄の姿。
 温かい血は生きていた証。しかし、手を伸ばした祇伐の指先に触れたのは冷たくなった液体。滴る血が零れ落ちていくのは、彼が死を迎えてしまった感覚に繋がる。
「お兄ちゃんっ」
 その光景が今、まさに此処にあるのだと錯覚した祇伐は叫ぶ。すると兄の亡骸や血溜まりは消え、真っ暗な闇の光景が戻ってきた。すぐにそれが過去のものだと気付いたが、祇伐の中の恐怖と後悔は消えなかった。
 許して貰えない。
 きっと怒っている。
 だからこうして、兄は姿を現したのかもしれない。祇伐は俯き、これまでのことを懐う。
「私、ああ……私は……」
 自分は『お兄ちゃん』がいなくなった傷口を『お兄様』で塞いでしまった。今まで、大切なことをしらんぷりして笑って生きてきてしまった。
 これが己の罪であり、罰で――愛ならば。
「私は倖せになってはいけない」
 闇から出てきてはいけない、と呟いた祇伐は今の己を妙に冷静に受け止めていた。
 このまま闇に飲まれてしまえばいいのだと考えたとき、祇伐の前に白い手が現れる。大天使の導きに従えって己を失ってしまえば罪滅ぼしになるだろうか、とも考えた。だが、祇伐はその手を取らない。
 幸せになってはいけないというのに、光が恋しい。
「――祇伐」
 そのときに聞こえた声は彼のもので、祇伐はその名を呼び返す。
 迦楼羅。
 手を伸ばす先には罪の証でもある彼の影が見えた。それは祇伐だけの罪の光であり――。

●ただ愛しきは
 己にとって、暗闇とは恐ろしいものではなかった。
 目覚めれば新たなる刹那の生が幕開き、闇に染まる頃に散る。その繰り返しが当然だったからだ。
 ――いのちを鎖に、刻を編み、つなげ、つなげ。
 咲樂・神樂(離一匁・g03059)は嘗てを思い返し、何も見えない闇の先を見つめていた。当たり前のことだったというのに、其れが今は恐ろしいことに変わっている。
 目覚めた私は、本当に今迄と同じ『私』なのか。
「……『私』が消えて✤✤✤が、」
 途切れ途切れになってしまう思考を繋ぎ合わせながら、神樂は闇の中に立ち尽くす。
 やっと、今になって愛しい番に出逢えたというのに。
 隣で笑い触れていられる幸いを見つけ、続く日々を実感できている。この日常を喪うのがこんなにも恐ろしいなんて、嘗ては考えたこともなかった。この闇が今の気持ちと心情を深く鑑みさせているのだろうか。
「私は……」
 神樂として生きる自分の心の中から滲み出す気持ちがある。彼はそっと胸に手を当て、思いを巡らせた。
 君に初めて戀をした、あの時の私のままで。
 この想いを私以外の誰にも渡さずに、ずっと傍で生きたい。
 ただそれだけ。
 されど、何よりも実現が難しいことのようにも思えた。正しきことは歪み、本当のことは隠されてきた。それが今の自分と彼女の壁に成り得るものかもしれない。普段ならば考えないことが、この闇の中では増幅されていく。
 滑稽なことに、これは恐怖だ。
 そのように実感した彼は頭を振った。だが、此処で怯んだり退いたりしたら負けに違いない。
「私が負けるわけが無い」
 静かな言葉を落とした彼は、窕の刃で闇を裂く。
 光を咲かせていくのは彼女のため。きっと今、愛しいあの子は闇の中で罪に押し潰されそうになっているだろう。己の手で掴み取ると決めた彼は、凛とした言葉を紡いだ。
「希む明日を。愛しい君の元へ帰る為に」
 そして、彼はその名を呼ぶ。
「――祇伐」
 そうすれば深い闇の向こうから彼女の声がした。迦楼羅、と呼んでくれる声が何よりも愛おしい。
 もう一度、その名を紡ごうと決めた彼は手を伸ばした。
「大丈夫、祇伐」
 触れる手と手。それは闇に惑わせるための腕ではなく、互いを想いあう二人のものだ。
「どんな闇の底へだって迎えに行くって約束しただろう?」
 その罪ごと抱きしめたい。君の裡にその罪過があるからこそ、今の自分が存在できているのだから。
 彼は少女を優しく抱き、自分達が抱く罪の光の方へと歩き出した。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【クリーニング】LV1が発生!
【神速反応】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!

ツキシロ・フェルドスパー
色々歓迎

暗闇の中で思い起こされるのはあの雨の日だ。
たまたま東京に遊びに来ていたあの日。
何も知らない自分の命を一瞬で奪ったあの日だ。
あの日を思い起こして。
自分は「死んでいる」のだと「死んだのに生きている」のだと。
……あの言葉がかからない。自分を生かしたあの声が。
このまま死ぬのだとこのまま死んだのだと錯覚する程、捕らわれて。

少しして、遠くに炎が見える。その炎はこの身を焦がす炎。
「キミ」がこの向こうにいる。
「誰か」が背を押す。
その炎を手放したくないから。この炎は譲れない。
――会いに行くから、待っとってな!
焦がれる炎に身を焦がし。
ありがとう。共犯者たる君よ。
――許しておくれ。

刃に炎を写し闇を切り裂く。


●前に進む理由
 誰もいない、何もない。
 其処にはただ一面に闇だけが広がっている。時空移動列車から降り立ち、大天使の力で作り出された空間に導かれたツキシロ・フェルドスパー(非日常に迷い込んだ漂流者・g04892)は、奇妙な感覚を抱いていた。
 暗闇の中で思い起こされるのは――あの雨の日のこと。
 たまたま、本当に偶然に東京に遊びに来ていた日のことは忘れもしない。
 あのときにあの場所にいなければ。東京に遊びに行く計画を立てなければ運命は明確に変わっていただろう。
(「あの頃はまだ何も知らなくて……」)
 そして、あの日のツキシロは命を一瞬で奪われた。どのようなことしたとしても、抗いようのない出来事だった。因縁でもあり、運命でもあった日のことを深く考えてしまうのはこの暗闇のせいなのだろう。
 自分は死んでいる。
 けれども死んだのに生きている、という矛盾をツキシロは今も抱えていた。
(「……あの言葉がかからない。自分を生かしたあの声が」)
 このまま死ぬのだと、このまま死んだのだと――錯覚するほどに彼は捕らわれてしまっている。
 惑わされるような感覚が目眩を引き起こした。このままこの空間にいれば心まで囚われてしまうかもしれない。絶望や後悔が綯い交ぜになっているように思えるのも、闇の仕業だ。
 そのとき、ツキシロは前方に何かを見つけた。
 遠くに揺らいでいるのは不思議な炎だ。それはこの身を焦がす炎だと分かった。
 確かに、『キミ』がこの向こうにいる。
 不意にそう感じたとき、『誰か』が背を押した気がした。その炎を手放したくない。
 それゆえに、この炎は譲れない。
 ――会いに行くから、待っとってな!
 思いと言葉を紡いだツキシロは焦がれる炎に身を焦がし、闇を振り払う決意を抱く。
 横合いから出てきた惑いの白い手など取らず、自分だけの道を歩いて行くことを決めていた。あの手を取っても何にもならないことをツキシロは知っている。
「ありがとう。共犯者たる君よ」
 ――許しておくれ。
 ツキシロはそう告げると、闇の向こう側を目指して駆け出した。
 刃に炎を写し、闇を切り裂く。そうすれば自分がいるべき場所へと帰れると信じて、ツキシロは前を見据えた。
 そして、闇は次第に晴れていく。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!

シル・ウィンディア
闇を、幻想を払う、か…。

見える光景は、炎に包まれた村。
一人の竜麟兵騎士が、村の人を惨殺していく、そんな光景。
両親は、わたしを逃がそうとして、立ち向かっていってくれた

やめてっ!
叫んでも届かない声…。
目の前で崩れ落ちる両親

もし、あの時にわたしに力があれば
みんなを助けることができた?

…きっと力があったとしても
あの時のわたしは立ち向かえなかった。

いま、ここにいることができるのは、新宿島に来たから
沢山の人達と出会って、力じゃない、心の強さを得たから。
弱いわたしだったから、強くなれたんだ

それにね…
見せられたトラウマの光景は過去に向かうトレインで振り払ったから

だから、今のわたしが闇に囚われることはないよ。


●強さを得た経緯
「闇を、幻想を払う、か……」
 不可思議で奇妙な闇の空間は深い沈黙に包まれていた。
 シル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)は、この場所が齎す感覚をそっと確かめていく。
 心を闇で閉ざし、救いを示す手を差し伸べる。そうして人の心を掌握する大天使は、既にひとりの少女に憑依しているという。下手をすれば助けに訪れた自分達も囚われてしまいそうな闇だ。
 シルは一歩を踏み出す。
 すると目の前に炎に包まれた村の景色が現れた。
 一人の竜麟兵騎士が武器を構え、村の人を惨殺していく――過去の光景がシルの脳裏に蘇っていく。
「あ……」
 シルは思わず声を紡いでしまう。もう終わったことだと頭では分かっているが、反応せずにはいられなかった。
 あのとき、両親はシルを逃がすために騎士に立ち向かっていった。
「やめてっ!」
 叫んでも声は届かない。手を伸ばしても触れられない。
 目の前で崩れ落ちる両親の無念の表情がはっきりと見えた。それは抗いがたい絶望を引き寄せてくるものだ。
「もし、あの時のわたしに力があれば――みんなを助けることができた?」
 シルの口から疑問が零れ落ちた。
 そんな想像をしても過去を変えられるわけではないと知っている。それでも、このような記憶を再び思い起こしてしまう。その理由が闇のせいだとしても考えは止まらない。
 だが、シルは俯いているわけではなかった。
「ううん……きっと力があったとしても、あの時のわたしは立ち向かえなかった」
 シルは頭を振り、過去への後悔を振り払う。
 いま此処で闇に挑むことができるのは、あの経験を経て新宿島に来たから。
 たくさんの人達と出会って、多くの戦いを乗り越えて、力だけではない心の強さを得たからに違いない。
「弱いわたしだったから、強くなれたんだ。それにね……」
 闇の奥から伸びてきた白い手を見据え、シルは強い思いを抱く。
 見せられたトラウマの光景は過去に向かうトレインで振り払ったから、もう大丈夫。知らない誰かの救いなど必要ないとして、シルは闇の先へと強く宣言する。
「だから、今のわたしが闇に囚われることはないよ」
 双眸を細めたシルは誘う手に背を向け、暗闇を振り払っていった。
 そして――闇は次第に白み始める。それはまるで夜から朝に変わるような、夜明けを思わせる光景だった。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV6になった!
効果2【グロリアス】がLV3になった!

標葉・萱
ふと息吐いて目を瞑る
深い夜よりなお昏い闇のうちは
或いは夜毎の慣れた夢のようで
緩慢な仕草で押し開く
ほら、と細く吐く

目蓋が二度と開かぬただ白いきみのかんばせも
握りしめても失われていくばかりの白い手指も
黒くなっていく僕だけの指輪も

繰り返し繰り返し見る夢と同じ
指先までも一緒に冷えて
僕もともに朽ちるまで、と

この光景が癒えるなら
或いは風化し褪せるなら
ずっと血を流したままで、なんて
――熾烈な願いさえもう冷めました
お生憎様でしたと笑み刷ける程には

私が取る手は、一つだけ
まだ呼びに来ないきみだけの
けれど、だからこそ、
まだ、どうかと呼べる声があるのなら
叶えたくなる、ものでしょう


●鈍色に染まる
 此処は儀式大天使と呼ばれる存在が支配する領域。
 ひとたび闇に呑まれれば、心は絶望に染まっていくばかり。抗えないものは救いを求め、伸びてくる白い手を取ってしまう。されどそうなれば終わりが訪れるだけ。救済など永遠に与えられない。
 闇は深く、静寂だけが辺りを支配していた。
 標葉・萱(儘言・g01730)はふと息を吐き、闇の中で目を瞑ってみる。
 深い夜よりなお昏い闇のうちは妙な感覚が巡る場所だ。それでいて、夜毎の慣れた夢のようでもある。
 萱は緩慢な仕草で押し開き、ほら、と細く吐く。
 目蓋が二度と開かぬ、ただ白いきみのかんばせも、握りしめても失われていくばかりの白い手指も――。それから、黒くなっていく己だけの指輪も。
 すべてが同じ。繰り返し、繰り返し見る夢と同様のものだと感じられた。
 まるで指先までも一緒に冷えて、自分もともに朽ちるまで、と語られているかのようだ。
 闇は萱の心をじわりと溶かして深い絶望に誘おうとするのだろう。しかし、萱自身は未だ揺らいでいない。今しがた確かめたことは常の延長線のようなもの。
 もしも、この光景が癒えるなら。或いは風化し褪せるならば。
「ずっと血を流したままで、なんて」
 不意に呟いた萱はゆっくりと頭を振り、何も見えない闇の奥に双眸を向けた。
 其処に続けたのは誰にともなく語る言の葉。
「――熾烈な願いさえもう冷めました」
 お生憎様でした、と笑みを刷ける程には落ち着いている。萱は目の前に現れた白い手を見据え、冷ややかにも感じられる眼差しを向けた。その口許は笑みを形作ったままだが、大天使の誘いになど決して乗らないと示す意志が見える。
「私が取る手は、一つだけ」
 まだ呼びに来ないきみだけを。
 けれど、だからこそ。萱は遠き情景を見つめるかの如く、いつかの過去、或いは未来を懐う。
「まだ、どうかと呼べる声があるのなら」
 萱は誰もいない空間を見渡しながら、自分が進むべき方向を見定めた。
「叶えたくなる、ものでしょう」
 ぽつりと小さく落とした言の葉が誰かの耳に届くことはない。しかし、それでも自分だけは己の思いを聴いているのだとして、萱は進んでいく。
 その先にはきっと、叶えるべき未来が待っているのだと考え乍ら――。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【建物復元】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!

捌碁・秋果
私に見えたのは公園
刻逆の影響で記憶も好きなものも忘れた私が虚に過ごした場所

あの頃は世界の色が褪せていた
無気力で、公園のハトを数えるだけの日々
カラスにも襲われるし良いことなかった

新宿島の皆は一生懸命で、それに勝手に焦燥感を持ってた
自分はやる気もない、なにもないって
…苦しかったな

でも『美術館の半券』が私を変えてくれた
自分の手掛かりの為に半券の企画展を調べると絵について思い出した
他の展覧会のことも少しずつ
日毎に絵や美術館が好きになって調べるのが楽しくなった
気がついたら世界の彩度が上がっていた

他のことは思い出せないけど、もうどうでもいい
好きなものへの情熱、陶酔
それがあれば闇だって払える!


●世界は色彩に満ちている
 幻想を齎す闇。
 その中で捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)の前に見えたのは、或る公園だった。
 其処は秋果にとっての思い出の場所――と称するには複雑な場所でもあった。刻逆の影響によって、秋果は記憶を失っている。元いた場所はおろか、好きなものすらも忘れた秋果が虚に過ごしたのがこの公園だ。
「ここは……」
 秋果は思わず其方へと踏み出し、辺りを見渡す。
 思えばあの頃は世界の色が褪せていた。何をするにも気力がなく、日々を呆然と過ごしていただけだ。
 その頃はそれが当たり前で、無気力に公園のハトを数えるだけのことが日常だった。
「カラスにも襲われるし、良いことなかったな」
 不意に公園の樹々の上から視線を感じた。あのカラスだと察した秋果は無意識に後退る。こんな生活を傍から見れば、惨めでつまらないものだったのかもしれない。
 それに、あの頃の秋果は焦燥感に苛まれていた。
 大変なことがあっても尚、新宿島の皆は一生懸命に生き抜こうとしているように見えていた。その姿を見ていることしかできない自分に焦りを感じていたのだ。
 自分にはやる気もない。なにも持っていないから、なにかを成すこともできない。
「……苦しかったな」
 言い知れぬ不安が秋果を襲い、嫌だ、という気持ちが大きくなっていく。
 しかし、秋果はふと思い出した。
 嘗ての自分を変えたのは、あの『美術館の半券』だということを。生きる意味も思い出せずにいた秋果は、自分の手掛かりの為に半券の企画展を調べることにした。そうすると、或る絵について思い出した。
「そうだ、忘れちゃいけない……!」
 他の展覧会のこと、絵が自分にとってどんな存在だったのか。日毎に絵や美術館が好きになり、調べていくことが楽しくなっていった。気が付けば色褪せた景色は見えなくなり、世界の彩度が上がっていた。
 きっと、これからも色彩豊かになっていく。
 いわば今の秋果は世界の色を見つけるための旅の途中だ。救いを齎すように伸びてくる白い手よりも、色鮮やかな景色へ向かって歩いていきたい。
「他のことは思い出せないけど……もう、どうでもいい」
 確かに胸裏に宿っているのは、好きなものへの情熱、陶酔。そして、憧れ。
 それがあれば、きっと。否、絶対に。
「闇だって払える!」
 瞳に光を宿した秋果は白い手に背を向け、意思を強く持った。駆け出した先に求める色彩が待っていると信じた秋果は、真っ直ぐに前へと向かっていく。
 やがて闇は次第に晴れていき、大天使が作り出した暗黒領域は崩れ去った。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【罪縛りの鎖】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!

 
●天使の彫像
 闇の空間は復讐者達の意志によって砕かれ、消え去った。
 視界が明るくなった先。進むべき方向に見えはじめたのは数々の天使の彫像が並ぶ光景だ。話によれば、この彫像は覚醒したてのトループス級クロノヴェーダのようだ。
 だが、彫像はまだ動けるまでに至っていない。その理由は、罪なき一般人や過去のディアボロスの精神が封じ込められているからだ。このまま天使の彫像を打ち砕くと内部の精神や魂ごと破壊されてしまうために手は出せない。
 されど放っておけば彼らは完全なるクロノヴェーダと化してしまう。

 彫像の近くに寄ると、電脳レイヤーで改竄された幻影が復讐者達を包み込みはじめた。
 復讐者の望みを模倣するその力は戦う理由や魂を蝕む。楽園のかたちをした地獄が形成されていき、抗えなければ自分達も彫像へと変えられてしまうものだ。
 しかし、この幻影こそが全てを救うための鍵になる。
 視える幻影を受け入れずに、しっかりと現実を思い出せばレイヤーは破られる。そして、その影響と余波によって周囲の彫像に囚われた魂を一緒に解放できる。
 即ち、此処ですべきことはひとつ。覆い塗りこめる白夜、救済と称されし力を打ち破ること。
 それぞれに違う幻影が魅せられ、抗いがたい幸福や、ずっと此処に居たいと感じさせられる。苦しい闇を乗り越えた後に望む幸せな幻想を見せられるという流れで心を囚われ、彫像にされた者も多かったはずだ。
 それでも、復讐者は乗り越えなければならない。
 彫像の奥に佇む儀式大天使に憑依された少女――小夜の願いを聞き届けるためにも。
 偽物の幸福の前で、立ち止まってなどいられない。
 
四葩・ショウ
桜が降りしきる河川敷の通学路
四人で、三人で、二人で
いつだって家族であるいてきた
懐かしさで胸が満ちて、息をするのさえ忘れそうだ

「どうしたの?ショウちゃん」
硝子のレイピアを握ってた筈の手が
ちいさな妹の手を繋いでいる

ううん、なんでもないって
いつもなら貴女の手を強く握り返せたのに

「ねぇ、かえろうよぉ
すてらね、今日はハンバーグがいい!」
そうせがむあの子に
しょうがないなって微笑めなくて

友達も、仲間も、誰もかもが
憂うことなく笑い合う
それはなんて、甘やかで幸福な―――

ごめんね、わたし
まだ帰れない

きこえるんだ
囀るような祈りの聲が
奪われて、ひき裂かれて、戦っているのに
わたしだけしあわせになんて、さ

―――なれないよ


●囀りを導きに
 眩い光が辺りを包み込む。
 まるで世界そのものが改竄されていくような、不思議な感覚が巡っていった。
 思わず目を閉じた四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)が次に瞼をひらいたとき、其処に見えたのは元いた場所とは似ても似つかぬ場所だった。
 それは、桜が降りしきる河川敷の通学路。
 見覚えのある景色を前にしたショウは、懐かしさとは別に息が詰まる思いを抱いた。この場所は思い入れがある。ありすぎる、と語っても過言ではないところだ。
 四人で、三人で、二人で。
 いつだって家族であるいてきた、大切な思い出がたくさんある道。
 胸に言葉にできないほどの思いが満ちていて、暫し息をすることさえ忘れていた。こんなものは幻だと、ありえないものだと振り払ってしまいたい。はっとしたショウは後ろに下がった。
「どうしたの? ショウちゃん」
 そのとき、聞き慣れた声と共にショウの手を握るぬくもりを感じた。
 硝子のレイピアを握っていたはずの手を取っていたのは幼い少女――妹である、すてらの掌だ。桜の通学路で、自分達が手を繋いでいるのだと気付いたショウは言葉に詰まった。
 ――ううん、なんでもない。
 あの日々の中にいる自分ならば、いつもなら彼女の手を強く握り返せたのに、今はできない。
 妹はショウを見上げ、あの日のままの笑顔で話しかけてくる。
「ねぇ、かえろうよぉ」
「……帰る、か」
 無邪気に笑いかけてくる妹を見つめ、ショウは表情を曇らせた。帰りたくても帰れないというのに、すてらはこの先に家があるかのように、当たり前の如く手を引いてくる。
「すてらね、今日はハンバーグがいい!」
「…………」
 せがむ少女に対して、本当は「しょうがないな」と微笑めたはずだ。それが日常だった。すてらもそう言ってもらえるのだと信じていたらしく、無言のままのショウに向けて首を傾げる。
「ショウちゃん、おなかいたいの? それとも頭いたい? いたいのとんでけーってしてあげようか!」
 姉の具合が悪いのだと思ったらしく、すてらは手を伸ばしてきた。
 そうじゃない、とだけ返したショウの瞳が揺れる。もしも、このまま家に帰れたらどれだけ幸せだろう。
 この手を握り返して、大丈夫だよと笑い返して、あの日常に戻れたら。
 友達も、仲間も、家族だって。
 誰もかもが憂うことなく笑い合う。それはどれほど甘やかで幸福な――嘘の現実だろうか。
 俯いたショウは押し寄せてくる感情を抑えた。改竄されたこの場所は、本当の世界に戻ることがこんなにも残酷で苦しいことだと教えてくる。しかし、偽りの世界を取ることはできない。
「ショウちゃん?」
「ごめんね、わたし。……まだ帰れない」
 妹の手を離したショウは桜の河川敷から目を背けた。春風に乗って散る花はまるで涙のようだ。
 何故なら、今もきこえているから。
 囀るような祈りの聲が、奪われて、ひき裂かれて、戦っているというのに。
「わたしだけしあわせになんて、さ」
 ――なれないよ。
 ショウは光とは逆の方向に進んでいく。ショウちゃん、と呼ぶ声は消えていた。
 けれども今はそれでいい。たとえ歩んでいく先に闇が広がっているのだとしても、これがショウの選択だ。
 そして、ショウは往くべき先へ腕を伸ばす。白羽根の百合を咲かせた彼女の手には硝子のレイピアが握られていた。

 小さな夜を謳うひとが、死を導く墓場鳥となるのか。
 それとも、優しい夜と未来を歌うための希望の鳥となるのか。
 その命運と魂の行方は、この手に懸かっている。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV7になった!
効果2【グロリアス】がLV4になった!

白水・蛍
アドリブその他お任せ

……あの日、父と母は行かなかった。
共に今後の話をしていた。
……護衛の彼もいた。父と母の昔からの護衛の彼。
サングラスをかけ何時までも片言で話す男性。
気の良い兄の様な。そんな人だった。

「……どうしたの?」なんて父母が言う。
「ドウシタ?」と彼も言う。

「なんでもないです」と首を横に振る私。

……このぬるま湯にいつまでも浸かっていたい。いたかった。
決まった路線を歩くこのままでいたかった。

……でも。ごめんなさいね。
それ以外の道を知ってしまった。
自分で選び取る道があるのだと知ってしまったの。
自分でその道を。「選ばされる」道を歩く意味を知ったの。

……もう、この夢はいらないの。
ごめんなさいね。


●選び取れる未来
 現実が改竄され、目の前には過去の光景が浮かび上がる。
 白水・蛍(鼓舞する詩歌・g01398)が見せられているのは両親達がいる光景だった。
(「……あの日」)
 父と母は行かなかった。共に今後の話をしていたことを覚えている。
 あの日の記憶通り、護衛の彼も一緒にいた。彼は父と母に昔から付いている男だ。普段からサングラスをかけており、何時までも片言で話す彼。
 蛍にとっては気の良い兄のような、それでいて放っておけない。そんな人だった。
 皆が居るこの光景は今の蛍にとっては異質なものでしかない。しかし、懐かしいあのときが戻ってきているようで、暫く何も言えないままだった。
「……どうしたの?」
 父と母が問いかけてくる。そこで彼も蛍の様子に気がついたのか、声を掛けてきた。
「ドウシタ?」
「なんでもないです」
 護衛の彼も蛍を見つめているようだ。何かを言いたかったが、蛍は首を横に振った。
 ただ、此処に居られることが懐かしかった。それ以外には何もいらないと思うほどに、過去の景色はいとおしい。それはもう何処にもないものだと蛍自身が知っているからだろう。
 このぬるま湯にいつまでも浸かっていたい。いたかった。決まった路線を歩くだけでも、このままでいたかった。
「……でも」
 今の蛍にはあの頃とは違う思いがある。何故なら、それ以外の道を見てしまったからだ。
 決められたレール以外の道を、自分で選び取ることができるのだと知った。自分でその道を、『選ばされる』道を歩く意味を理解した。だからこそ、これは過ぎてしまった夢。
 過去の自分と現在の自分の違いと歩む先を確かめるための、幸福な嘘の光景でしかない。
「……もう、この夢はいらないの」
 ごめんなさいね。
 そういって、眩い光から離れた蛍は目を閉じた。次の瞬間にはもう、あの光景は何処にもなかった。
 両親も彼も、自分の記憶の中だけのものだ。
 視線を巡らせた蛍は自分が元の場所に戻っていることに気付いた。周囲にあった天使の彫像はクロノヴェーダとして動くことはなくなっている。
 跳ね除けた力によって魂が解放されたのだと感じ、蛍は先へと歩き出した。
 待ち受ける歴史侵略者との戦いで、己の力を揮うするために――。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!

御須統・昴
アドリブお任せ

目の前にはあの日常がある。
隠れ里で平々凡々と代々受け継いできた武術を引き継ぐだけの日常。
……それでもよかったんです。
父もそのまた父もそうやって生きてきたはずだから。

このままいたい。と、思った時。星が光る。星の武器が光る。
――忘れるな。お前の現実は此処にはない。
そう言ってるかのようで。

……ええ、そうです。分かっています。と一つため息を吐く。
此処に「今」の自分がいる場所はないんです。
あそこはまやかし。ただのぬるま湯。
自分はあそこを取り戻す。その為に戦うんです。戦ってるんです。

夢は覚めるもの。……目覚めの時ですよ。


●星は輝き、道は続く
 彼の日々の日常。
 それは復讐者として覚醒した者の多くが取り返すことを望み、そのために戦うものだ。
 御須統・昴(十星連・陸昴『六連星の守り人』・g06997)は大天使の力が巡る領域へと足を踏み入れ、彫像の中に閉じ込められてしまった者を思う。
 きっと、彼らにも取り返したいものがあったのだろう。早く解放しなくては、と思ったとき。
「この景色は……」
 いつしか、昴の目の前にはあの日常が現れていた。
 それは懐かしくも感じる隠れ里の光景だ。あの頃の日常は平々凡々としたものだ。代々、脈々と受け継がれてきた武術を引き継いでいくだけの日々だと語っても過言ではない。
 しかし、昴にとっては大切な里だった。
「……それでもよかったんです」
 気付けば昴は無意識の呟きを声として落としていた。
 自分の父も、そのまた父、即ち祖父も。その父、と連綿と続いてきた武術だ。誰もがそうやって生きてきたはずであり、昴自身もその血の流れに身を委ねることが出来た。
 このままいたい。
 武術の腕を磨き、父のようになり、自分もまたいずれ父となって子に伝えていく。
 そのような未来が己にはあったはずだ。そして今、この光景の中でならば叶えられる。甘い夢の中では願えば何だってできそうだ。昴がそう思ったとき。
「……?」
 星が光った。
 それは夜の狭間で輝く星ではなく、武器から発せられる光だ。

 ――忘れるな。お前の現実は此処にはない。

 まるでそのように言われているかのように、昴の中に不思議な感覚が巡った。はたとした昴は先程までの、ここに居たいという思いを振り払う。
「……ええ、そうです。分かっています」
 溜息をひとつ、静かに吐いた昴は自分を見失わされかけていたのだと気付いた。
 未だ目の前に隠れ里の光景が見えているが、傍には星の光がある。此処に『今』の自分がいる場所はない。はっきりと自覚した昴は里の景色を見つめるのを止めた。
「あそこはまやかし。ただのぬるま湯でしかありません」
 されど自分はこの場所を取り戻すと決めている。その為に生きており、これからも戦い続ける。
 そして、夢は覚めるものだ。
「……目覚めの時ですよ」
 昴は目を閉じ、暫くしてから瞼を開いた。
 その瞳には次に戦うべき場所が映り込んでおり、前を見据えた昴は然と歩き出した。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!

咲樂・祇伐
🌸樂祇


あわいの穹
朱塗りの鳥居が聳える社に桜が舞う

幻だと直感でわかる
この景色はどこにも無いもの

恋しくなるの

「祇伐ちゃん、おやつの時間よ
お姉ちゃんも待ってるよ。わたしといこう」
手を差し伸べてくれるお兄ちゃん

先にはお父様達もいる
私のだいすきな家族が
お兄ちゃんの手を握り
それから『彼』も招くの
私のだいすきなお父様達にも『彼』を受け入れて貰えたら
一緒にいられたら

家族と彼
両方を選び皆一緒
幸せに過ごす世界の優しさ

なんて

都合のいい事だけ切り貼りした私の夢物語
幸福だから心が軋む
痛みで現にかえる

あなたの言葉が眩しくて
過去を糧にできたら
私も望む未来を成せるのかな

取り戻したい
このままがいい
相反する
本当にままならない


咲樂・神樂
⚰️樂祇


望みを投影した空間
心に沈めた慾(望)に囚う箱庭
手に入らないこそ狂おしく
心を裂く刃になる
過去は諸刃の剣だね

桜の屋敷での日常
朝日が登れば私のままに目覚め
朝餉や祇伐のお弁当の準備をし
寝坊助の祇伐を起こして支度を手伝う
学校へ送った後
屋敷の掃除に洗濯にと勤しみ
黄昏時に迎えに行き
夕餉の準備の後に団欒を囲む
夜には星見の露天で身を清めて眠り
朝にはまた、私のまま目覚め
君に逢う

そんな

夢に見るまでもない
果てしない夢
『私達』が掴んだ今

希みをしるのは悪いことじゃない
過去を懐うのも
君の希む世界には私がいる
それでいい

帰ろう祇伐
君の希む世界は私達で成すもの
過去の夢幻は今を生きる君の糧にしてこそ
報われるというものだよ


●蠱惑
 視えたのは、あわいの穹。
 朱塗りの鳥居が聳える社に桜が舞い、自分を誘っているように思える。
 しかし、咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)はすぐに其れが幻だと分かった。偽物としての証拠があったわけではなく直感であったが、この思いは間違いではない。
 何故なら、目の前の景色はもう何処にも無いものだから。
「でも、恋しいな……」
 祇伐はそっと呟き、目の前の光景を見ないように俯く。すると祇伐の前に影がさした。
 誰かの影だと気付いた祇伐は顔を上げる。
「祇伐ちゃん」
「お兄、ちゃん……」
 視線の先にはあの日のままの兄がいた。お兄様と呼ぶ彼ではなく、本当のお兄ちゃんが、其処に。
 彼は優しく笑み、祇伐に手を差し伸べる。
「おやつの時間よ。お姉ちゃんも待ってるよ。わたしといこう」
 その先には父もいた。
 おいで、と誘う声は優しい。此処が祇伐のいる場所なのだと語るように父達も笑いかけてくれていた。
「お父様……」
 私の、だいすきな家族。
 大切で、大事で、何よりも守るべきだったひと達。
「うん、お兄ちゃん」
 祇伐は伸ばされた手に自分の掌を重ね、そっと握った。それから祇伐は振り向いた。後ろに広がっている光の中には『彼』がいる。彼も一緒に招いて、だいすきなお父様達に紹介したい。そして、『彼』を受け入れて貰えたら――。
 ずっと一緒に、皆でいられたら。
 家族と彼。
 両方を選んでいいという、幸せに過ごす世界の優しさを祇伐は求めている。
「ふふ、これからはずーっと一緒にいられるね。お父様、お姉様、お兄ちゃん――迦楼羅!」
 祇伐はありのままの自分でいられる光景を幸福に思った。
 けれども。
「――なんて、ね」
 祇伐は知っている。これは都合のいい事だけを切り貼りした、自分だけの夢物語に過ぎない。
 何処までも幸福しかない。それだからこそ心が軋んで仕方がない。胸の痛みで現にかえった祇伐は、自分から出た言葉を思い返す。社の景色は未だ消えていないが、いつしか兄や父の姿はなくなっていた。
 その代わりに、色褪せた鳥居の向こう側には――彼がいた。

 同じ頃、咲樂・神樂(離一匁・g03059)も望みを投影した空間に入っていた。
 これはきっと、心に沈めた慾や望みに人々を囚える箱庭だ。神樂はこの領域をそのように感じ取っており、ゆるりと周囲を見渡してみる。おそらく多くの者が此処で過去を見せられているのだろう。
「手に入らないこそ狂おしく、心を裂く刃になる。諸刃の剣だね」
 そして、神樂の周囲でも景色が改竄されていく。
 次に視えたのは桜の屋敷での日常風景だった。其処にいる神樂は明るく笑っている。
 朝日が昇れば、自分は自分のままに目覚める。
 まずは朝餉を用意して、祇伐が学校に持っていく弁当を準備する。
 寝坊助の祇伐を起こして支度を手伝って、寝惚けた可愛らしい顔を見るのは神樂の特権だ。
 学校へ送った後は屋敷の掃除に洗濯、細々とした家事をこなしていく。ときには買い物に出掛け、黄昏時になれば祇伐を迎えに行ってやる。
 腕によりをかけた夕餉の準備の後は、団欒のひととき。
 夜には星見の露天で身を清め、明日も良き日であるように眠る。時折、祇伐が怖い夢を見たと言って布団に潜り込んでくることもあった。
「朝にはまた、私のまま目覚めて君に逢う。噫、幸せだよ」
 神樂にとっては夢に見るまでもない、されど果てしなき夢のかたちだった。
 そう、それは――『私達』が掴んだ今。それゆえにただ帰れば良いだけのこと。他でもない、本当の君のもとへ。

「祇伐、おいで」
 幻が薄れた先から視線を感じた彼は、その名前を呼ぶ。
 幻を乗り越えてきたであろう祇伐を抱き寄せた彼は、その耳許で優しく囁いていった。
「希みをしるのは悪いことじゃない。過去を懐うのも、ね」
「そうでしょうか……」
「君の希む世界には私がいる。それでいいじゃないか」
 祇伐からすれば彼の言葉の方が眩しいものだった。彼は薄く笑み、大丈夫だよ、とまじないを掛けるように語る。
 過去の夢幻は今を生きる君の糧にしてこそ、報われるというものだ。
 彼がそう告げたことで祇伐は思考を深める。もしも過去を糧にできたなら、自分も望む未来を成せるのだろうか。祇伐は彼の胸に頬を預けながら、今も答えが出ない考えを巡らせていった。
 取り戻したい。取り戻せない。
 このままがいい。このままでは駄目。
 相反する思いは本当にままならず、祇伐は瞼を閉じる。
「帰ろう、祇伐」
 ――君の希む世界は、私達で成すものだから。
「……はい」
 彼は祇伐の手を引き、まぼろしの世界から歩んでいく。
 過去よりも今を。彼らよりも自分だけを。祇伐自身に、望む未来を選び取って貰うために。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【能力値アップ】LV1が発生!

シル・ウィンディア
平穏な、ほんとに平穏なもの
お父さんとお母さんと一緒にいる当たり前の日常。
おはようの挨拶をして、みんなでご飯を食べて
お友達と遊んで、おやすみをの挨拶をする。
幸せに、いつまでもずっと続いていくそんな日々。

ずっとこのまま使っていられたら、どんなに幸せなんだろう。
でも、知っている。わかってるんだ。

これは夢。
幸せでとっても甘い夢

でも…
両親とは、過去でお別れをしたから。
「またね」って言ってもらったから。

わたしは、その「またね」をかなえるために、この夢にとどまることはできないよ。

だから、甘い夢はここまで。
わたしは、現実に戻るよ
…この幸せな夢を、現実にする想いを抱いてね。

変だね、涙が止まらないなんて


●いつか、また
 それは在り来たりな日常。
 そう呼ぶに相応しい光景がシル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)の前に広がっている。
 平凡、平穏、平静。波乱万丈な嵐のような出来事は何もなく、本当に平和そのもの。ややもすれば退屈だと感じてしまうほどの当たり前が其処にあった。
 だが――今のシルにとっては、手の届かない場所でもある。
「お父さん、お母さん……」
 シルは見つめる先にいる二人を呼ぶ。そうすれば柔らかな笑みと共に、おいで、と呼び返す声が聞こえた。
 両親と一緒にいる日常はあたたかくて優しい。
 朝起きれば当たり前のように「おはよう」と挨拶を交わして、用意されている朝ごはんをみんなで食べる。
 昼間は友達と待ち合わせをしてたくさん遊んで、家に帰ってくれば晩ごはん。寝る前にはおやすみの挨拶をして、明日はどんな日になるのか思いを馳せて瞼を閉じる。
 眩しい朝陽を感じて、また同じように次の日を過ごす。
 楽しく幸せに、いつまでも、変わらずにずっと続いていく――そんな日々。
 シルは自分があの日々に戻っている感覚を抱きながら、思いを巡らせる。
(「ずっとこのまま、この世界に浸っていられたら、どんなに幸せなんだろう」)
 ここにいたい。
 許されるなら、ずっと。
 甘い夢に囚われたような気分だったが、シルは知っている。
「でも、わかってるんだ」
 この光景を受け入れたとしても同じ日々が繰り返されるだけ。悲しみは何もないが、進むことは出来ない。
 これはただの夢。幸せなだけの、とっても優しい夢。
「それに……」
 シルは顔を上げ、幻想の光景をそっと見つめた。
 両親とは過去でお別れをしたから。
 あの日に「またね」、と確かに言ってもらったから。幻ではなくて、現実を信じる方が希望に近付けるはず。
「わたしは、その「またね」をかなえるために、この夢にとどまることはできないよ」
 だから、甘い夢はここまで。
 シルは踵を返し、家から出た。まるで普段通りに外へと踏み出すように、シルは駆け出す。
「わたしは、現実に戻るよ」
 この幸せな夢を、現実にする想いを抱いて。
 自分が選んだ道の果てには希望があるはずだ。そのとき、シルの頬に雫が伝っていった。
「変だね、涙が止まらないなんて」
 溢れる涙は拭わず、シルはただひたすらに進む。
 きっと――この感情もまた、自分の在り方を示すものなのだろう。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【神速反応】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV2になった!

ソレイユ・クラーヴィア
私の穏やかな時間は、常に音楽が共にあった
音楽家の父を始め、家族は皆音楽と親しく
時間のある時、家族で過ごす特別な時間は
いつも自然と演奏会が始まっていた

クラブサンを弾く父の隣でヴァイオリンを母が奏でている
兄もヴァイオリンケースから愛用の一挺を取り出して
私を呼んでいる
もし嫁いだ姉が居れば、優しいエール(アリア)を歌い始めただろう
代わりに、幼い妹が愛らしい声で音程を追う

私の目の前にはピアノが一台
家族と共に追憶のカノンを弾けば良い
決して追いつけぬ旋律を追い続けるのは、私にはお似合いだ

指が鍵盤に触れる
しかし、音は出ない
硝子の壁の向こうで楽しげに流れる旋律を、ただ眺め

そうか
まだ、そちらには行けないのですね…


●音と奏でる日々
 大切でかけがえのない日々。
 ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の穏やかな時間は、常に音楽が共にあった。
 懐かしき景色が広がる幻の空間にて、ソレイユは過去を視ている。
 音楽家の父を始めとして、家族はみんな音楽に親しみを抱いていた。歌に楽器、楽譜。それはソレイユが生まれたときから当たり前のように傍にあった。
 家族で過ごす特別なひとときにはいつも、自然と演奏会が始まっていた。
 クラブサンを弾く父。
 その隣ではヴァイオリンを母が奏でている。美しく、ときには力強い旋律を聴いた家族には笑顔があふれていた。
 ソレイユの兄もヴァイオリンケースから愛用の一挺を取り出し、両親の演奏に入ろうとしている。
「――ソレイユ」
 兄が自分を呼んでいる。その声はとても懐かしく、今のソレイユには感慨深いものだ。
 ふと気付けば、嫁いだはずの姉が家族団欒の部屋にあらわれていた。優しいエール――アリアを歌い始めた彼女の姿が見えたのはたった一瞬のこと。これは幻の中の幻だと気付いたソレイユだったが、其処へ新たな声が響いた。
 幼い妹が愛らしい声で音程を追う様が、姉の姿を思い起こさせていたのだろう。
「皆……」
 ソレイユはゆっくりと前に踏み出した。
 そうすれば、自分の目の前に一台のピアノがあらわれる。気が付いたときにはソレイユは鍵盤に指先を添えていた。
 そうして、家族と共に追憶のカノンを弾く。郷愁の思いに囚われながらも、ソレイユは或ることを思っていた。

 ――決して追いつけぬ旋律を追い続けるのは、私にはお似合いだ。

 鍵盤に触れ、確かに弾いているはずの音は出ていない。
 硝子の壁の向こうで楽しげに流れる旋律を、ただ眺めているだけなのは、或る意味で自身がそう望んでしまっているからなのだろう。ソレイユは俯き、家族の景色から目をそらす。
「そうか」
 呟かれた言葉は誰にも届くことなく、静かな音として零れ落ちるのみ。
「まだ、そちらには行けないのですね……」
 それならば自分は未だ歩まねばならないと感じた。今のソレイユには過去を取り戻すための決意がある。
 幻想を再び見ることはなく、ソレイユは進み始めた。
 同時に改竄された景色が消え去る。天使の彫像にされていた者達の魂も解放され、次なる戦いへの幕が上がった。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV8になった!
効果2【グロリアス】がLV5(最大)になった!

ウルリク・ノルドクヴィスト
記憶が欠けても
忠誠は覚えている

望郷の念も消えないからこそ
嘗て仕えた国がこうして視えるのだろう
王の、国の為に戦地を駆ける日と
勝利を捧げること
此の身に誉を得ることも
満ち足りたものに相違なかった

王の眼下に跪き
剣を肩に置かれ、
――だが其れは
戻っては来ないものだと思い出す
記憶の断片が
主の断末魔の声を繰り返している

此れが今は亡き国の景色なら
何故失われたか
幸福より真実を知らなければならないから
此の幸せは、俺には要らない

…例え幻だとしても
幸福を求めることが罪だとは
とても言えないな

だから
無垢な人々を誑かして
そうして贄にするのは
許せない

が、…握り込んだ槍は揮わない
此の場で願うのは
勝利ではなく
此方なりの、救済だけだ


●進むべき路
 記憶が欠けても、忠誠は覚えている。
 己の身に刻まれているものを思い、ウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)は胸に手を当てた。
 それゆえに望郷の念も消えていない。
 嘗て仕えた国がこうして視える理由を考えながら、ウルリクは双眸を鋭く細めた。
 王の為、そして――国の為に戦地を駆ける日々。
 勝利を捧げることこそが己の役目。揺らがぬ忠誠で以て、生涯を捧げることが務め。それによって此の身に誉を得ることも、満ち足りたものに相違なかった。
 あの栄光を抱き、国のために生き続けられたならば、どれほど良かったか。
 過去のものへと改竄された眼前の光景は懐かしきものだ。気が付けばウルリクの目の前には王がいた。
 自然に身体が動く。
 王の眼下に跪き、剣を肩に置かれる。これも欠けた記憶の中から呼び起こされた光景なのだろう。
 ――だが、其れは戻っては来ないもの。
 栄光は遠く、過去は蘇らない。そのことを思い出すと同時に、記憶の断片がウルリクの裡に浮かび上がった。
 此処に居続けたいと思える光景とは別に、主の断末魔の声が胸裏で繰り返されている。
「…………」
 ウルリクは顔を上げ、幻影である王の顔を見上げた。
 天上から射し込む光のせいで、王の表情はうかがえない。そして、此れが今は亡き国の景色なら――。
 何故に失われたのか。
 どうして自分の記憶は穴だらけなのか。
 この場所に在る偽りの幸福よりも、現実に繋がる真実を知らなければならない。
「此の幸せは、俺には要らない」
 それが不幸を知るみちゆきになるとしても、ウルリクの心は決まっていた。
 されど、たとえ幻だとしても幸福を求めることが罪だとはとても言えない。だからこそ無垢な人々を誑かして贄にするような行いを許してはおけない。
 幻が広がる前に見えていた、天使の彫像を思い返したウルリクは槍を握る。
 だが、其の刃は揮わない。此の場で願うのは勝利ではなく――此方なりの、救済だけなのだから。
 この景色を望んでいないと示したとき、ウルリクは幻から抜け出していた。改竄幻想に打ち勝った余波が広がり、彫像に囚われていた魂が元の場所へと戻る気配がする。
 そして、其処には――次に力を振るうべき戦場が広がっていた。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【使い魔使役】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!

ノスリ・アスターゼイン
砂の国で
宮殿で
蒼穹を見上げている

切り窓の向こうに
果てしなく続く空がある

熱い陽射しに反し
部屋の隅の影は涼やか
立ち働く人々の声は遠く
何処か深閑としている

まるで時が止まったかのように穏やかなひととき
役目に追われることもなく
戦に赴くことも無い
こんな時間がずっと続けば良いと願ってしまうような

そっと目を塞ぐ小さな手
「―――、」
指をほどきながら悪戯っこの名を呼ぶ己は
笑みを浮かべて、

あぁ、

柔い指の隙間から見たのは
青い青い空を飛翔する鳥の姿
窓枠の世界をいとも容易く横切り
視界から羽搏き消えた鳥

『私』の――俺の居場所は、此処ではない

振り返った先に、あの子は居ない
懐かしい夢の終わりには
前を向いて
空へ踏み出すだけで良い


●きみの掌
 砂塵が舞い、乾いた空が広がる砂の国。
 其の最中にある宮殿でノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)は蒼穹を見上げていた。
 切り窓の向こう側には果てしなく続く空がある。其処から照りつける熱い陽射しに反して、ノスリがいる部屋の隅の影には涼やかな空気が満ちていた。
 立ち働く人々の声は遠く、何処か深閑としているようだ。
「此処は……」
 まるで時が止まったかのように穏やかなひとときだ。そのように感じたノスリは小さく呟いた。
 嘗ての記憶とは少しばかり違い、役目に追われることもなく、戦に赴くこともない。忙しなく働いていたときとは全く違う景色と時間が広がっているだけだ。戦乱の匂いも、争い事が起こる気配もない。
 この場所に住む皆が平穏と幸福を謳歌できる。
 こんな時間がずっと続けば。
 そうであったならば、と願ってしまうようなものがノスリの目の前にある。
 暫しノスリが其処で緩やかな時間を過ごしていると、不意に違和を覚えた。正体はそっとノスリの目を塞いでいる、小さな手。そのぬくもりを直に感じたからだ。
「―――、」
 手を添えて、指をほどきながら悪戯っこの名を呼ぶノスリは、自然に笑みを浮かべていた。
 そして、先程まで感じていたものよりも、より強い郷愁の念に駆られる。
「あぁ、」
 零れ落ちる声には喜びと同時に、憂いも混じっていた。
 柔い指の隙間から見たのは、果てしなく青い空を飛翔する鳥の姿だった。窓枠の世界をいとも容易く横切っていく影は優雅に、疾く飛んでいった。羽搏きの音を残して視界の外へ消えた鳥から何かを伝えられた気がする。
 ノスリは空に目を奪われながら、浮かんだ思いを確かめた。

 違う。『私』の――俺の居場所は、此処ではない。

 そうして、振り返った先にはもうあの子は居なかった。
 己の意志で幻想を振り払うことができたのだと気付いたノスリはゆっくりと立ち上がる。
 此処は懐かしき過去を映しただけの世界。この場所に居ることこそが不自然極まりないのだと知ったノスリは、改竄世界を打ち破った。此処からすべきことは解っている。ノスリは一度だけ瞼を閉じ、すぐにひらいた。
 懐かしい夢の終わりには、前を向いて――。
 ただ、空へ踏み出すだけで良い。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【強運の加護】LV1が発生!

永辿・ヤコウ
名を呼ぶ声がする
駆け寄る僕の足取りは軽い

麗らかな陽光の下
大切な人の隣に並ぶ
満開の桜を共に寝転んで眺めた春
ひらり舞う花弁を掴めたなら
願いが叶うというおまじないに託すのは

どんな祈りだったろう

悪戯な花嵐が答えを攫う
爽風に思わず目を閉じ
そっと開いた先の景色に咲くのは
満開の花火

菊に柳
手持ち花火も愛らしい

傍らのひとの頬にも
飴細工の金魚にも

色とりどりの光が躍って
まるで水の中を揺蕩う如く

ゆったりした時間

花火の眩さに目が眩めば秋薔薇の、
吹雪を抜けた先には揺らぐオーロラの、

廻る四季は美しく優しく
夢みたいに愛しい日々で

でもね
夢では無いんです

共に過ごした日々の准えは
僕の胸に確かにある記憶
大切な人が居る現こそが
僕の幸せ


●巡る四季彩
 己の名を呼ぶ声が聞こえた。
 振り返り、声の主を確かめれば無意識に足が動く。其方へ駆け寄っていく足取りは軽い。
 永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)は改竄された幻想世界に囚われており、麗らかな陽光の下にいた。
 そして、ヤコウは自分を呼んだ大切な人の隣に並ぶ。呼ばれた理由は満開の桜を一緒に眺めたいというもの。ヤコウは何も疑問に思うことなく、共に樹の下に寝転んだ。
 春風を受けて、揺れる枝。暫し春の様相を眺めたヤコウ達は頭上に手を伸ばす。
 ひらりと舞う花弁を上手く掌で掴めたならば、願いが叶う。
 何処かで聞いたおまじないに託すのは――。

 どんな祈りだったろう。

 幸せな光景の中、ヤコウの裡にはふとした疑問が浮かんでいた。
 悪戯な花嵐が吹き抜けたことでその答えが攫われる。爽風に思わず目を閉じてしまったヤコウは違和感を覚えた。
 それから、そっと開いた瞼の先の景色。
 先程までの光景とは打って変わって、其処に咲くのは満開の花火。
「……!」
 菊に柳、手持ち花火も愛らしく映り、ヤコウの中には穏やかな思いが咲いていく。いつしか花火に目を奪われたヤコウは、ずっと此処に居たいという思いを抱き始めた。
 傍らのひとの頬にも、飴細工の金魚にも、色とりどりの光が躍っている。
 まるで水の中を揺蕩う如く、平穏でゆったりした時間が流れていった。不思議なことは未だ終わらず、季節が瞬く間に移り変わっていく。
 花火の眩さに目が眩めば、次は秋薔薇が咲き乱れる景色が広がった。
 美しき花の庭園を大切な人と共に抜けていけば、次に見えたのは冬らしい景色。吹雪を抜けた先には揺らぐオーロラが見え、ヤコウは目を細めた。
 廻る四季は美しくて、とても優しい色彩に満ちていた。
 夢みたいに愛しい日々。
「でもね、夢では無いんです」
 間違いない、これは現実だったものだ。はっきりと思い出したヤコウは幻想の世界を強く認識する。
 ヤコウは冬の先へと歩いていく。
 予想通りならば、この向こうには新たな春がある。即ち、今という現実の景色が広がっているはずだ。
 共に過ごした日々の准えは、己の胸に確かにある記憶。だからこそ、その続きが紡がれる世界に戻るために戦う。
「大切な人が居る現こそが――」
 僕の幸せ。
 強く抱いた思いを胸に、ヤコウは進むべき先を見据えた。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【完全視界】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV2になった!

捌碁・秋果
薔薇の咲く中庭の先に美術館がある。
案内のポスターを駆け寄って確かめる。
やっぱり…この『美術館の半券』の企画展!

考えながら、自分の感性に向き合いながら鑑賞する歓びを教えてくれた、あの絵。
クラシックな内装と調和した美しい展示空間。
入り口を行けば、またあの鑑賞体験が出来る?
企画展は期間限定のきらめき。コンセプトも展示物も全て同じことなんて二度とない。
それをもう一度…?

入りたい。
でもダメ、幻影だと知っているから。助けたい人達もいる。
…いっそなにも知らなければ入ってしまえたのに!
復讐者としての責任感で幻影に背くけど、悔しくて仕方がない。

大天使。私にこの企画展以外を選ばせたこと、絶対に許さないから…!


●特別で唯一の景色
 美しく可憐な薔薇が咲き誇る、中庭の先。
 其処には美術館があり、捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)は思わず息を呑んだ。
「あれって……!」
 此処が改竄された幻想の場所だと分かっているが、秋果は足を止められなかった。案内ポスターの前まで一気に駆け寄って秋果は、しっかりと内容を確かめる。
「やっぱり……この『美術館の半券』の企画展!」
 記憶の中で今も鮮やかに彩られているものが、目の前にあることが幸福に思えた。
 考えながら、自分の感性に向き合いながら、鑑賞する歓びを教えてくれた――忘れもしない、あの絵。
 クラシックな内装と調和した美しい展示空間が絵を引き立ててくれていたこともよく覚えている。叶うならばもう一度、否、何度だって見に行きたいと思えるほどのものだった。
 そんな企画展が今、秋果の目の前にある。
 あの日のように入口の奥へ進めば、またあの鑑賞体験が出来るのだろうか。
 通常であれば、企画展は期間限定である。だからこそ印象的であり、唯一のきらめきを感じられる。たとえあの絵が何処かに再び展示されたとしても、コンセプトも展示物も全て同じなんてことは二度とない。
「それをもう一度……?」
 秋果にとって、この誘惑は何にも勝るものだ。
 入りたい。
 できるならば、終わらない時間の中であの絵を眺めていたい。
 戦うこともなく、誰にも邪魔されることなく、ずっと――。
 此処に居たいという気持ちが秋果の中に生まれているが、同時に入ってはいけないという思いも強くなっている。
「でも、ダメ」
 秋果はこれを幻影だと知っていた。この景色がなくなってしまった現実の中には、助けたい人達もいる。
「……いっそなにも知らなければ入ってしまえたのに!」
 憤りが混じった声をあげた秋果はポスターと入口に背を向けた。今だってものすごくこの中に入っていきたい。一目だけでも記憶のままの絵と空間を瞳に映したかった。
 復讐者としての責任感で幻影に背くのが正しい選択だ。けれども悔しくて、悔しくて仕方がない。
 それゆえに秋果は叫ぶ。
「大天使、見てるんでしょ? 私にこの企画展以外を選ばせたこと、絶対に許さないから……!」
 そして、秋果は庭の外へと駆け出す。
 過去の幻想よりも、今見つめるべき現実の世界を選び取るために。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【液体錬成】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV3になった!

アンゼリカ・レンブラント
小学校ではたくさん競争して
いつしか認め合った元悪ガキの彼が

私と同じ彼女に恋していると知ったのは
いつだったか

あの頃、色々なことが変わったね
不公平な神様が、私だけに異能の力を授けて
その上で、私は彼女を守れなかった



幼き日の彼が見えて
「2人であの子を守ろう」と白い歯を見せたなら
刻逆なんて知らなかった頃
想いなんて意識しなくてもよかった頃の
ただ雛のままで良かったあの頃のままでいたい

そう、思うけれど
伸びた彼の手は取れない

消えない後悔も背負った英雄の名も
識った想いも、紡いだ絆も
今の私を作る偽れないものだから
あの頃には戻れない

戻るのは私じゃなくて君の方だ
彼女の心を射止めるのは
君がいて、堂々競った上でないとさ!


●成長した君と
 目の前に現れたのは懐かしい景色。
 アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)は自分の視線の先にある小学校を見つめている。
 学校の行事で、また休み時間、授業に帰り道。たくさん競争をしあったことでいつしか認め合った元悪ガキの彼。
 彼が自分と同じ、彼女に恋をしていると知ったのはいつだったか。
「あの頃、色々なことが変わったね」
 過去を懐かしみ、慈しむようにアンゼリカは歩みを進めた。小学校の校舎はとても感慨深く感じられ、あの頃の思い出が蘇ってくる。
「不公平な神様が、私だけに異能の力を授けて……その上で、」
 アンゼリカは押し黙った。
 誰かを守ることができる力を得たというのに、この手で救える命があると分かっていたというのに。
「私は、彼女を守れなかった」
 口を衝いて出たのは、ごめんね、ごめんなさい、という謝罪の言の葉。謝っているだけでは過去を変えられないことなどわかっている。紡いだ言葉の数で許しを得られるとも思っていない。
 そうしていると、目の前に幼き日の彼が現れた。彼は何も知らぬ無垢な瞳を向け、白い歯を見せて笑いかける。
「二人であの子を守ろう」
 それは刻逆など知らなかった頃の純粋な頃の話。
 想いのことなど意識しなくてもよかった。みんなで一緒に居られればよかった。ただ雛のままで良かった、あの頃のままでいたい。叶うならばずっと、幼いままで。
 だからこそ、此処に居たい。
 少年は手を伸ばし、アンゼリカを優しい世界へ誘っている。
 このまま一緒に行ければどれだけいいだろう。そう、思うけれど。今の少女が彼の手を取ることはない。
「やっぱり、ごめんね」
 アンゼリカとしても、陽菜としても、諦めという名の道には進めない。
 消えない後悔も、背負った英雄の名も。
 これまでに識った想いも、紡いだ絆も、全部。
「今の私を作る偽れないものだから、あの頃には戻れない」
 少年は驚いた顔をする。それも自分の望む幻想かもしれないが、アンゼリカ――陽菜は怯みなどしなかった。
 そして、ひとつだけ宣言できることを思い出す。
「戻るのは私じゃなくて君の方だ」
 陽菜は大好きな人や、懐かしい過去を大切な思い出だと思っていた。それならば此処で停滞するよりも、一歩でも前に進んで行った方がいい。それに、彼女の心を射止めるのは――。
「君がいて、堂々競った上でないとさ!」
 明るく笑った少女は過去を胸に抱き、明るい光の方に進んでゆく。
 この先に待つ未来で、いつか望みを掴み取るために。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【託されし願い】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!

●少女の命運
 電脳レイヤーで改竄された幻影が消えていく。
 打ち破られた幻想の余波を受けた天使の彫像が崩れ落ちていた。それらはクロノヴェーダとしての力を失っており、内部に閉じ込められていた人々の意志や魂は元の身体に戻っていったようだ。
 彼らは気を失っているが、時間が経てば意識を取り戻すだろう。
 解けるように散った光の先には、真白き影が浮かんでいた。
 それはこの領域を支配する力を得たクロノス級クロノヴェーダ、『儀式大天使・ライラ』だ。
 静かな眼差しを復讐者に向けた大天使。その身体は小夜のものであるが、既に殆どがライラのものになっているようだ。白き衣の内側はがらんどうであり、その内部には小夜の心が封じ込められている。
 まだ完全には消え去っていないからか、復讐者には彼女の声がかすかに聞こえていた。
「おろかな土塊のお前達へ、憐れみを そそぎましょう」
(「――あぁ……誰か、誰か」)
 ライラが語る言の葉の裏に、弱々しくも芯の強さが感じられる声が混じっている。
「よろこびなさい。お前達は えらばれました」
(「――御願いです、どうかわたしを」)
 ライラは淡々と語っているが、小夜の声には悲痛さと真剣さが宿っていた。白い手を伸ばしてきたライラにもその声が聞こえているだろうが、彼女は復讐者を誘うような眼差しを向けてくるのみ。
「お前達ののぞみは なんですか。お前達のすくいは なんですか」

 ――此処で終わらせて……!!

 まるで己の願いを告げるかのように、小夜の声が復讐者の心に響いた。
 それは自分もろともライラを打ち倒して欲しいと願っているような言葉だった。おそらく小夜は自分が消えかかっていると察しているのだろう。
 大天使が自分の身体を使ってこのようなことを行うならば、滅ぼしてほしい、ということだ。
 すると、大天使ライラが小夜に意識を向けた。
「消えるのはお前だけ。最期にしあわせな夢を視ながら 消えなさい」
(「――…………!」)
 裡なる少女へと祈りの庭の力を発動させたらしい。
 大天使ライラの周囲に眩い光が満ちたかと思うと、小夜の声がまったく聞こえなくなった。

 そのとき、ショウにも改竄された電脳レイヤーの中身が見えた。
 其処には小夜がかつて通っていたであろう学校の風景がある。ライラが語ったように、小夜には幸せだった学園生活の幻が見せられているのだろう。
 この偽りの幸福を小夜が受け入れてしまえば意識は消え去り、大天使は完全に覚醒する。
 幻影の入口は今にも閉じようとしている。おそらく其処に干渉できるのは小夜と縁が繋がっているショウだけ。
 つまり、ショウはこの幻影に飛び込むか否を迫られていた。
 もし向かうとすれば、学園の風景の中で小夜と『御姉さま』が仲睦まじく過ごす幻想の中に降り立つことになる。
 大天使に見せられている幸せを壊すことになりかねないが、ショウが強く思いを呼びかけていけば、小夜もいずれ偽りの幻想に気付くはずだ。
 無論、失敗する可能性もあるが――最終的に小夜がショウの手を取れば、救いへの道が繋がる。
 ショウと小夜の心が現実に帰って来られるよう、他の仲間達がライラへ攻撃を仕掛けていく必要もあるだろう。攻撃が激しければ激しいほど、ライラが巡らせる幻影も弱まる。
 それに加えて多くの復讐者が闇を払ったことにより、強大な力の一端が削られているようだ。
 また、小夜が望んだ通りに大天使ごと彼女の命を終わらせる選択もある。
 どうあっても大天使を討ち倒すことに変わりはなく、幻影や闇が巡る激しい戦いを強いられる。されど、復讐者達にはこれまで苦難や幻を乗り越えてきた心の強さがある。
 結末の行方を担うのは、此処に集う者達。
 宿縁を断ち切る戦いは今、此処から――終わりに向かっていく。
 
四葩・ショウ
迷わずに駆けて、とびこんで
きっと振り向かなくたって、いい

……わたしはショウ
小夜さん
やっと、みつけた

きこえたんだ、貴女の叫びが
わたしだけじゃない
皆にも 届いて、響いて
ほら、きこえる?

終わらせるなんてだめだ
こんなにも会いたいひとを、守りたいひとを
ねぇ、置いていくの?

だいじょうぶ
わたしが───わたし達が
そんなこと、させない

甘美なこの微睡みから
奪われ欠落した現実へ連れ戻したいなんて
これは紛れもなくわたしの、エゴだ
ごめんね……それでも

貴女があきらめても
わたしはあきらめない

貴女はここにいる
がらんどうなんかじゃ、ない
だってまだ
こんなにも胸に響いてる

いっしょにとり戻そう
希みを、かけがえのないものを―――すべて


●小夜鳴鳥は希う
 迷いなどひとかけらもなかった。
 地を蹴り、駆けて、飛び込む。
 そうすることが当たり前であるように、四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は電脳レイヤーに潜った。
 ――きっと振り向かなくたって、いい。
 もしかすれば二度と戻れなくなる道行だが心配はなかった。何故なら、自分が駆けたと同時に大天使へと立ち向かっていく仲間の姿が見えたから。
 ショウは進む光の先に腕を伸ばす。
 其処に広がっていたのは、穏やかな学園の景色だ。
 鉄筋コンクリート製の校舎は三階建て。窓の向こうには何人もの生徒の影が見えており、傍を吹き抜けた風に乗って桜の花弁が舞っていた。おそらく校門の方に桜の樹があるのだろう。
 今は昼休み中なのか、渡り廊下や校舎の中からは楽しげな声が響いている。
 自分が中庭の片隅に立っているのだと気付いたショウは辺りを見渡す。通り過ぎていく人影の顔は影になっており、誰が誰であるかの認識はできない。しかし中庭のベンチに座る二人だけは、はっきりと顔が確認できた。
 片方は小夜。
 もう片方はどうやら、小夜に御姉さまと呼ばれている生徒のようだ。
 小夜は彼女の手を強く握っており、泣いているかのような震えた声を紡いでいた。
「御姉さま……やっと、逢えましたね」
 小夜にとって彼女は何より求めていた人なのだろう。ディアボロスとして戦っていた記憶があるならば、此処に平和な学園生活があるのはおかしいことなのだが――幻に囚われている今の小夜には正常な判断ができないようだ。
「どうしたの、いつも此処で会っているじゃない?」
「そう……そうでした、ね」
 彼女が可笑しそうに微笑むと、小夜は『昨日まで学校に通っていた』という幻想に包まれた。
 それでも未だ小夜が不安気な顔をしていたので、彼女はそっと両腕を伸ばす。
「きっと怖い夢でも見たのね」
「……夢」
「心配しないで。ただの夢なら忘れてしまえばいいもの。こっちが本当の世界だから、大丈夫よ」
 彼女は小夜を抱き締め、背を撫でた。
 そのぬくもりを感じたらしい小夜は瞼を閉じ、はい、と頷く。その顔には安堵が巡っていた。
 あの戦いの日々は夢だったに違いない。
 本当のわたしはただの学生で、平穏な毎日を過ごしていた。
 家族がいて、先生がいて、クラスメイトがいて――それから、御姉さまがいる。
 何も心配はない。もう、大丈夫。
 ふたりの姿を見つめていたショウは、小夜の思考が自分に流れ込んできているのだと感じた。
 今の小夜は惑わされていることにすら気付けていない。これまで大天使の支配や闇に抵抗してきた緊張の糸が切れてしまっているようだ。このままではいずれ小夜の魂は大天使に飲み込まれる。
 いけない、と強く感じたショウはふたりに歩み寄った。
「御姉さま、何方かいらっしゃったようです」
「誰?」
 気配に気付いた小夜は彼女から身体を離し、ショウの方に振り向く。御姉さまと呼ばれた彼女も不思議そうにショウに問いかけてきた。その眼差しは柔らかなものにも思えたが、何処か空っぽなようにも感じられる。
「……わたしはショウ」
 静かに名乗りながら、ショウはふたりが座るベンチの前に立った。
「小夜さん。やっと、みつけた」
「知っている子?」
「いいえ、この学園の子ではないようですし……知らな――知って、いるような……」
 ショウが小夜の名を呼んだことで彼女が首を傾げる。
 小夜は頭を振ったが、思い出せそうで思い出せない何かを感じていたようだ。ショウは一歩、静かに踏み出す。警戒するような視線が向けられたがショウは引き下がらなかった。
「きこえたんだ、貴女の叫びが」
「わたしの……?」
 小夜はきょとんとした表情をしており、何も解っていない様子。
 対するショウは真っ直ぐな視線を向け続け、小夜だけを見つめた。
「わたしだけじゃない。皆にも」
 ――届いて、響いて。
 ショウは両手を広げ、外の世界に耳を澄ませて欲しいと願う。
「ほら、きこえる? 終わらせるなんてだめだ」
「……何のことですか?」
 小夜は怯えた様子で御姉さまに身を寄せた。今の小夜の精神はディアボロスになる前の、ただの少女だったときのものに戻っている。日常や青春を謳歌することが当たり前で、大好きな人の傍に居たかっただけの普通の女の子だ。
 しかし、それは大天使の惑いに依るもの。
 本当の小夜は強く気高い精神を持っているはず。ショウはそのことを伝えるべく、偽りの世界を示す。
「こんなにも会いたいひとを、守りたいひとを――ねぇ、置いていくの?」
「あなた、何を言っているの?」
「御姉さま……」
 すると彼女が小夜の身を庇うように片手を伸ばし、ショウに強い言葉を向けてきた。その仕草や言葉はきっと、小夜が誰かに悪いことを言われた時に庇ってくれたときの彼女の姿なのだろう。
 ショウは唇を噛み締め、この平穏を受け入れたいと願った小夜の心を想う。
 されど、此処に居ることを認めさせたとしても、待っているのはがらんどうの未来だけ。
「だいじょうぶ。わたしが――わたし達が、そんなこと、させない」
 強い思いを声として紡ぎ、ショウは宣言する。
 甘美なこの微睡みは心地良すぎるほどのものだろう。大切な日々を奪われ、大事な人を喪い、欠落した現実は非情だ。
 そんな場所へ連れ戻したいなんて、この行いは紛れもなく――。
(「わたしの、エゴだ。ごめんね……それでも、」)
 もしも、貴女があきらめても。
 わたしはあきらめない。
 揺るがぬ思いを持ち続けることが真の救いに繋がると信じて、ショウは手を伸ばした。
 しかし、御姉さまと呼ばれている彼女が立ち塞がる。
「やめて! この子を此処から連れて行かないで。私と小夜はずっと一緒に過ごすんだから!」
「あ――」
 その瞬間、小夜がはっとした。
 彼女は『さよ』ではなく『こよる』と呼んだ。本当の御姉さまであるならば、この子や小夜といった呼び方はしないはずだった。何故なら、それこそがふたりの大切な絆の証だったからだ。
「……そうでした。御姉さまは……楽しかった日々は、もう何処にも――」
 それまで普通の少女にしか見えなかった小夜の表情が、復讐者としての顔になる。
 御姉さまが失言をしたのは大天使ライラの意思が其処に介入したからだろう。小夜がこの空間に居続ければ、いずれライラは完全なるものになる。それゆえに御姉さまを装って小夜を引き留めようとしたのだ。
 立ち上がった小夜はショウを見つめ返す。
 ショウから受けた言葉を思い返した小夜は幻を拒絶したらしく、周囲にあった学園の景色や、隣にいた御姉さまの姿も次第に薄れていった。
 きっと、幸福な場所を否定することは辛かっただろう。されど、ショウにもその気持ちと辛さがわかる。
 小夜もショウが闇と光を乗り越えてきたことを感じ取ったらしい。
「やっとわかりました。貴女はわたしの呼び声に応えてくれたひと。ショウさん、というのですね」
 ありがとう、と告げた小夜は手を伸ばし返した。
 ショウはその手が自分の掌を握ってくれることを信じ、心からの言葉を語っていった。
「貴女はここにいる。がらんどうなんかじゃ、ない」
 だって、まだ――。
 こんなにも胸に響いているから。
 もう片手を静かに胸元に添えたショウは、もう一度だけ自分達に思いを伝えて欲しいと小夜に願った。
 その意志を受けた小夜は頷き、花唇をひらく。

「御願いです、どうかわたしを……いえ、わたしたちの未来を――救って」

 終わらせて欲しいと願った、あの哀しげな声ではない。
 ショウを。未来のディアボロスを信じる思いが籠もった、確かな願いが小夜の口から紡がれた。
 そして、小夜はショウの手を握る。
 その掌から伝わってきたのは信頼と縁の力。精神体であった小夜の意識がショウの裡へと流れ込んできた。その姿は消えてしまったが、彼女の魂が自分の中に宿ったのだと知ったショウは静かに笑む。
 この魂と共にライラを倒せば、あの身体は小夜そのものに戻る。確信を抱いたショウは硝子の剣を握りしめる。
 あとは大天使を討つべく集った仲間達が待つ場所へ向かうだけ。
「いっしょにとり戻そう。希みを、かけがえのないものを――すべて」
 ショウが紡ぎ上げた言の葉と共に、純白の奇蹟が白薔薇のかたちに光り、花の軌跡となる。
 同時に白百合の花が咲き乱れ、閉じた世界がひらかれた。
 斬り裂いた先に繋がるのは現実の世界。即ち、ショウ達が力を揮うべき戦場だ。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】がLV2になった!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!

ウルリク・ノルドクヴィスト
ライラへと攻撃
小夜に干渉する幻影の力を弱められるよう
真白き影を此の槍で追う

敵から此方への攻撃は
出来る限り威力の増強を掻き消し
なるべくは避け、流し、を試みる
同時に戦う同志がいれば
自分に可能なディフェンスは怠り無く

天使が生み出す
幸せを薙ぎ払うように
其の手には乗らない、
俺が君の祈りを受け取ることは無い
望郷よりも君を見据える闘志の方が
此の身には、満ち足りているように感じられる

戦う理由を失くすことは、俺にとっては
楽園の虚像すら成り立たぬ地獄で
暮れぬ陽も沈まぬ月も無いように
ただ都合が良いだけの天国も在るべきではないんだ

救済が存在し得るなら
俺は天使ではなく彼女を肯う
その声が、少女へ届くことを願って


●其は光
 大天使が巡らせた祈りの庭へ、少女が自ら飛び込んでいく。
 迷いなく駆けたショウに続くかたちで、ウルリク・ノルドクヴィスト(永訣・g00605)が地を蹴った。
 彼が進むのは少女が向かう先とは違う。儀式大天使・ライラの元だ。
「お前達ののぞみは みせてもらいました。すくいを みせてあげましょう」
 感情の感じられない声を紡いだライラに対し、ウルリクは槍を向けた。小夜に干渉する幻影の力を弱められるように。そう願うウルリクは、真白き影の言葉になど惑わされない。
 悪しき光には、此の光で。
 ウルリクが力を巡らせれば、敵へと迫る刃に鈍い灯光が宿された。
 されどライラの力も解き放たれてゆく。戦う理由を。そして、魂を蝕む楽園のかたちをした地獄がウルリクに齎されていった。大天使が生み出していく幸せを薙ぎ払うようにウルリクは刃の一閃を紡ぎ出す。
「其の手には乗らない」
「幾度でも 何度だって 溺れてよいのですよ」
「俺が君の祈りを受け取ることは無い」
 大天使からの呼びかけに対し、ウルリクは強く答えた。
 望郷よりも、今は――。
「君を見据える闘志の方が此の身には、満ち足りているように感じられる」
「そうですか」
 ウルリクが戦う理由をしかと見据えているのだと知り、ライラは淡々とした言葉を返した。次の瞬間、それすら奪い去ってやろうと語るような幸福な光景がウルリクの前に現れる。
 忠誠の果てに得られた栄光。
 滅びず、永遠に続く王国。
 そういったものが幻影として改竄されていった。だが、一度は退けた偽りだ。ウルリクは幸せな光景に背を向け続け、大天使から意識を逸らさなかった。
「戦う理由を失くすことは、俺にとっては……」
 楽園の虚像すら成り立たぬ地獄。
 暮れぬ陽も、沈まぬ月も無いように。ただ都合が良いだけの天国も在るべきではない。
 ウルリクは宣言と共に灯光を巡らせた。
 本当の意味での救済が存在し得るならば、天使ではなく彼女を肯う。
 その声が、少女へ届くことを願って。
 ウルリクは自分の力が少女の魂や、立ち向かう彼女の助けになることを信じていた。直接的な声は聞こえずとも、ショウは少女の心を現実に引き戻すために全力を賭しているはずだ。彼女達が此処に戻ってくるまで、唯只管に戦うのみ。
 そして――今一度、ウルリクは心の裡に確かめる。

 慄くな、恐れるな。
 我が栄光は此の涯にあるのだから。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】がLV2になった!
効果2【ドレイン】がLV3になった!

ノスリ・アスターゼイン
どんなに切実でも叶えたくないなぁ
だって
本当に望むべきことは
『小夜ごと終わらせること』じゃあないデショ?

生きたいと願って欲しいね
そっちを叶える方が断然好みなんだ

ショウと小夜を現に還せるようライラを挫く
餌食を切り裂くのは猛禽の爪

さぁ
甘い夢を見せている余裕は無いんじゃない
闇夜に伸びる白い手にも何度だって告げてやるさ
お前は要らないよ、とね

いいや
腹が減って仕方が無いんだ
だから今度は
お前の全てを喰らい尽くすよ

声を掛け合い
間断なく攻撃を叩き込む
ディフェンスも積極的に行い
反撃の、攻撃の手数を増やそう

土塊に触れれば
お綺麗な手も泥汚れって訳
伽藍洞よりずっと『生きている』味があって良い

ショウ
小夜
帰る場所は、此処だよ


永辿・ヤコウ
僕が『声』に呼ばれた意味は
大天使ごと小夜さんの命を終わらせることではない

僕は信じています
ショウさんが必ず小夜さんの心を連れて
戻って来てくださる、と

その為に成すべきことを
全力でこなすだけ

だから
ぴたりと向けた針先は
一切ぶれない、揺るがない

護りの壁が塞がろうと
立ち向かうのは僕独りでは無いから
駆ける足を止めることも無い

――ヤビ

相棒の名を呼ぶ声は
きっと
ライラが信者を呼ぶよりずっと
信と絆に満ちている

ヤビが影に牙を立てた捕縛の
僅かな隙をも逃さず針で穿つ
一斉に咲き誇る薔薇は
その白い身によく映えることでしょう

皆と声を掛け合い連携
ディフェンスで援護
攻撃の連鎖を繋いでいこう

信じています
お帰りなさい、と告げられること


●闇も光も斬り裂いて
 小夜を救うため、虚構の世界へ少女が飛び込んだ直後。
 その場に残った復讐者に向け、大天使ライラが闇の力を巡らせた。
「おろかな土塊のお前達へ、憐れみをそそぎましょう」
 少女達は自分の世界の中でどうにかできると思っているのか、ライラはノスリ・アスターゼイン(共喰い・g01118)や永辿・ヤコウ(繕い屋・g04118)達を排除することに力を注いだ。
 慈悲という名の闇夜の棘が戦場に奔る中、ノスリは首を横に振ってみせる。
「どんなに切実でも叶えたくないなぁ」
 その思いはライラに向けられたものではなく、小夜が抱いた返答だ。
 猛禽の如き魄翼をひろげたノスリは、先程まで魅せられてきた情景や光景を思い返した。同時に陽と月の影で眩ませ、刃を振り下ろしたノスリは言葉の続きを紡ぐ。
「だって、本当に望むべきことは『小夜ごと終わらせること』じゃあないデショ?」
 未だショウが小夜の手を取って来られるかは解っていない時点。これからどうなっていくかは未知数だったが、ノスリは己の思いを声にした。
「生きたいと願って欲しいね。そっちを叶える方が断然好みなんだ」
「僕が『声』に呼ばれた意味は、大天使ごと小夜さんの命を終わらせることではないはずです」
 其処に続き、ヤコウも考えを言葉にする。
 その傍にはクダギツネがしかと控えており、ライラの姿を強く見据えていた。頼もしさを抱いたヤコウは改竄レイヤーに隠された幻想の先を見つめる。此方からは何も見えないが、其処では今もショウが偽りと闘っているはずだ。
「僕は信じています」
 ショウが必ず、小夜の心を連れて戻って来てくれることを。
 今のヤコウがすべきは、その為に成すべきことを全力でこなすだけ。ヤコウとノスリが目指すのは、ショウと小夜を現に還せるようライラを挫くこと。
 餌食を切り裂くのは猛禽の爪。鋭い衝撃を敵に浴びせかけながら、ノスリは仲間に視線を向けた。
 頷いたヤコウがぴたりと向けた針先は一切ぶれず、この先も揺るがない。たとえ護りの壁が塞がろうとも、ヤコウは決して止まらないだろう。何故なら、立ち向かうのは自分独りではないから。
 駆ける足を止めることも、膝をつくことだってない。
「――ヤビ」
 相棒の名を呼ぶヤコウの声は、ライラが信者を呼ぶ声よりもずっと信頼と絆に満ちていた。
 刹那、ヤビが影に牙を立てた。捕縛の僅かな隙をも逃さず、ヤコウは針で以て標的を穿つ。一斉に咲き誇る薔薇はその白い身によく映えることだろう。
 予想通り、と声にしたヤコウは更なる一撃を与えに掛かる。
 表紅裏紫。獣牙で穿ち、針で縫い留めれば、蔓棘の糸が鎖す身に薔薇が繚乱と咲いてゆく。その流れに続き、ノスリが攻撃を仕掛けにかかった。
「さぁ、甘い夢を見せている余裕は無いんじゃない」
 僅かではあるが、自分達の攻撃が見えない幻想の向こうに届いているような、手応えが感じられる。それならば、闇夜に伸びる白い手にも何度だって告げてやる。
 ――お前は要らないよ、と。
 そして、ノスリはゆっくりと首を振った。
「いいや、腹が減って仕方が無いんだ。だから今度はお前の全てを喰らい尽くすよ」
 ノスリは共に戦う仲間と声を掛け合う。間断なく攻撃を叩き込むことを念頭に置き、ときには仲間を庇いに走った。
 反撃と攻撃。どちらも手数を増やしていけば、ライラの力を削るに至る。
 ヤコウとヤビも視線を交わしあい、仲間との連携を心掛けた。援護からの攻撃の連鎖を繋いでいくことで、すべてを救うための道が繋がっていくはずだ。
「土塊に触れれば、お綺麗な手も泥汚れって訳」
 けれども、その方が伽藍洞よりずっと『生きている』味があって良いのだと語り、ノスリは次なる攻勢に入った。
 その際、ノスリ達は不思議な勝機を感じる。呼びかけるならば今だとして、彼は声を紡いだ。
「――ショウ、小夜。帰る場所は、此処だよ」
「信じています。お帰りなさい、と告げられること」
 ヤコウもヤビと共に戦いながら、己が信じる未来を思い描いた。
 そして、一瞬後。
 淡い光と闇が混じり合う光景が目の前に広がったかと思うと人影が現れた。それが小夜の魂の欠片を宿したショウであると気付いたディアボロス達は、先程の勝機が確実なものになったことを確かめる。
 後は小夜の身体を奪ったライラを滅ぼすだけ。
 此処から巡る戦いは――ひとつの未来を救い、繋げるためのものになってゆく。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】がLV3になった!
【傀儡】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV4になった!
【反撃アップ】がLV4になった!

シル・ウィンディア
よかった、無事に行けたんだね。
それならあとは…
天使様、わたし達とお付き合いしてもらうよ?

わたしの救いはね…
家族と再会して、そして、幸せに過ごすことだよ。
でも…
それは、今じゃないっ!
全てを終わらせてからだから!!
大切な人を、家族に改めて紹介をして、そこから幸せになるんだっ!
そして、大切な人と新しい家族を作り上げるのっ!
だから、そんなまやかしの幸せになんて落ちたりはしないよ。

わたしの全力の想いで天使様の誘惑を断ち切るよ
…幸せな夢をありがとう
でもね、現実はもっと幸せだからっ!
全力魔法で限界突破した六芒星精霊収束砲!

…これで歪な幸せを生み出すものを撃ち抜かせてもらうよ
さぁ、わたしの全力もってけーっ!


ツキシロ・フェルドスパー
アドリブ連携その他諸々歓迎!

よかった。いけたんやね。
そしたら、後は付き合ってもらう。

あの人は許してくれたから。
――あの子は許してくれたから。

だから自分は先に進む。
――私はその背中を押す。

この炎を宿す人と共に生きる
――その炎を宿す人と生かす事を決めた。

自分の言葉に、女性の言葉が重なって聞こえる。

お前の導きなんていらない。お前の福音なんていらない。
自分はこの炎と共に生きる!この炎を宿す人と生きていくんや!

飛翔とエアライドで敵の上へ飛んで、降りてパラドクス発動!
「赤い」炎の一撃を!
獄……炎……斬……っ!!


白水・蛍
アドリブ連携その他諸々歓迎

……夢から戻ってきましたね。
ええ。あれは夢。
これからも夢現。
さて、貴女からの夢も願いもいりません。
私は自分の手でこの夢を戦い抜く事に決めましたから。
パラドクス発動。
――我が音にて応えて来たれ。全てを穿つ魔力の砲撃!

……良き夢は見させていただきました。
でも。今の現はもっとよいもの。
嘗ての私になかった物がいっぱいあります。
それは貴女では与えられないものです。

……お礼に。全力の魔力の砲撃を持っていきなさい!


●目指す未来へ
「よかった、無事に行けたんだね」
「ほんまによかった。いけたんやね」
 周囲に巡る不思議な雰囲気と、光と闇。
 それらを確かめたシル・ウィンディア(虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415)とツキシロ・フェルドスパー(非日常に迷い込んだ漂流者・g04892)は安堵を抱いた。
 過去と現在、遥かな時空を超えて呼びあった魂は救いに繋がる道に進みはじめている。
「それならあとは……天使様、わたし達とお付き合いしてもらうよ?」
「そしたら、後は付き合ってもらう」
 大天使ライラを見つめたシルとツキシロは強く身構えた。それと同時に白水・蛍(鼓舞する詩歌・g01398)も現状を把握し、後は遠慮も容赦もなく戦えばいいのだと理解する。
「……夢から戻ってきましたね」
 その際に蛍が思い返したのは、自分が見せられていた光景のこと。
 思うことは色々とあるが、今は目の前の事件を解決することが復讐者としてやるべきことだ。
「ええ。あれは夢。これからも夢現。さて、貴女からの夢も願いもいりません」
 蛍は決意を込め、ライラに語っていく。
「私は自分の手でこの夢を戦い抜く事に決めましたから」
 ライラはじっと此方を見ているのみ。だが、蛍は怯むことなくパラドクスを解き放っていった。
 ――発動、デビリッシュチェイサー。
 その力は悪魔の描かれた弾丸を具現化させ、放っていくものだ。撃ち出された弾丸は敵を追尾していき、命中と同時に爆発する。蛍に合わせてシルも攻勢に入りはじめた。
「わたしの救いはね……家族と再会して、そして、幸せに過ごすことだよ」
 それは何よりも望むことだ。
 でも、と首を横に振ったシルは大天使が齎す偽りの幸福について思う。
「それは、今じゃないっ! わたしが本当の幸せを掴むのは、全てを終わらせてからだから!!」
 大切な人を、大事に思うことを。
 本物の家族に改めて紹介をして、そこから幸せになるのがシルにとっての真の夢。
 大天使は尚もシルに救済の幻影を見せてきているが、もはや乗り越えたものだ。
「そして、大切な人と新しい家族を作り上げるのっ! だから、そんなまやかしの幸せになんて落ちたりはしないよ」
 シルは六芒星精霊収束砲を一気に解き放った。
 火に水、風と土、そして光と闇。六つの属性エネルギーを一点に収束させることで、シルは大天使を穿とうと狙う。
 更にツキシロも攻撃を開始した。葬るべき悪への殺意を巡らせてゆくツキシロにもまた、或る思いがある。
「あの人は許してくれたから」
 ――あの子は許してくれたから。
「だから自分は先に進む」
 ――私はその背中を押す。
「この炎を宿す人と共に生きる」
 ――その炎を宿す人と、生かす事を決めた。
 ツキシロが言葉を紡ぐと、心の裡から女性の言葉が重なって聞こえてきた。きっとそれは自分にだけ聞こえているものなのだろうが、今のツキシロにとっては大切なことだ。
 いま、此処で成すことは大天使を討ち倒すこと。復讐者として、触れる者を焼き尽くす灼熱の炎として武器に宿らせ、敵を焼き切っていくのみ。シルも好機を見逃さず、次々と攻撃を仕掛けていた。
 すると大天使ライラが口をひらく。
「よろこびなさい。お前達はえらばれました」
 微笑むライラは聖なるはばたきを見せ、福音という名の攻撃を行ってきた。大天使の偽身が召喚されてゆく中、ツキシロはそれらを穿ち続ける。
「お前の導きなんていらない。お前の福音なんていらない」
 決意を込めた言葉が戦場に響いた。
 大天使を護る偽身が蹴散らされていき、ツキシロは凛とした声で宣言する。
「自分はこの炎と共に生きる! この炎を宿す人と生きていくんや!」
 そして、飛翔とエアライドの力を発動させたツキシロは、一気に敵の上へと飛んだ。降下する勢いに乗せてパラドクスの力を紡いだツキシロは全力を込めていく。
「赤い炎の一撃を!」
「――我が音にて応えて来たれ。全てを穿つ魔力の砲撃!」
 其処へ蛍の追撃が重なった。
 大天使を貫く焔の一閃と、悪魔の弾丸が大きな衝撃を巡らせる。蛍はライラを強く見据え、今の自分の裡に浮かんでいる思いを言葉へと変えていった。
「……良き夢は見させていただきました。でも。今の現はもっとよいもの。嘗ての私になかった物がいっぱいあります」
 戻りたいと思わなかった、といえば嘘になってしまう。
 あの虚構の中には懐かしきものがたくさんあった。それでも、言葉にしたことも嘘ではない。
「それは貴女では与えられないものです」
 蛍は更に攻撃を重ねるツキシロに続き、新たな弾丸を紡ぎ出した。少女の身体を乗っ取った大天使を許しておけるはずがない。それに今、彼の少女の魂は生を見つめているはずだ。
「……お礼に。全力の魔力の砲撃を持っていきなさい!」
「獄……炎……斬……っ!!」
 蛍とツキシロは仲間達との連携を意識しながら、一気に攻撃に入る。
 同じくしてシルも全力の想いを込め、大天使からの誘惑を完全に断ち切っていた。
「……幸せな夢をありがとう」
 一瞬であっても幸福を感じられたことは確かだ。
 シルはライラが巡らせた幻影について敢えて礼を告げた後、強く言い切った。
「でもね、現実はもっと幸せだからっ! これで歪な幸せを生み出すものを撃ち抜かせてもらうよ」
 全力かつ限界を突破した六芒星の力を巡らせ、シルはひといきに超高出力砲撃を放ってゆく。
「さぁ、わたしの全力もってけーっ!」
「――」
 刹那、激しい衝撃がライラを襲う。
 相手がよろめいた様子を見据えた復讐者達は頷きを交わし、最後まで戦い抜くことを心に決めた。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【クリーニング】がLV2になった!
【熱波の支配者】がLV2になった!
【神速反応】がLV3になった!
効果2【ドレイン】がLV5(最大)になった!
【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【先行率アップ】LV1が発生!

咲樂・祇伐
🌸樂祇


夢から覚めればそこは変わらずの現
…甘いだけの夢よりも
痛くて苦くて幸せなあなたのいる
今が好き
あなたと共に歩んだ軌跡が

お兄様
小夜さんを救いましょう
大天使ごと眠らせるなんて出来ない
彼女を救う事が叶うなら…
揺るがぬ希望がみえる気がするの
…いつか、

幻影を弱めるべくライラへ攻撃を
紡ぐ全力魔法に乗せて放つ光蜜ノ愛浄
闇に咲かせる満開の光
倖の悪夢を振り祓い
天使の白い手ではなく彼の手をとる
私の救済は、迦楼羅だもの
吹き飛ばすように光蜜で灼いてしまおう
これ以上…愛しさに焚かれないように

そうね
終わらせましょう
悪夢は終わり
在るべき場所へ帰れるように
求るひとの手を握れるように
隣で笑っていられるようにと祈りを込めて


咲樂・神樂
⚰️樂祇


希みを識ることは悪くない
そうありたいと願う幻影も
心を映す儚く甘い慾の徴のようなもの
迷い抗い苦しんで痛み悼み甘い幸福を振り除けて
それでも辛い現を選ぶなら
路はきっとその時に拓ける

祇伐
君が望むなら
…飲み込まれ継承それかけてなお、救われるなら
其れは…違う事ない希望になるのだろうね
…いつか、

果敢な心を信じてみよう
ひとの抗う心を信じよう
終焉にははやい

闇も斬り裂くが如く、薙ぎ払うは朱華・妖華爛漫
その福音はもう飽きた
私の福音は祇伐だ
斬撃に重ねる結界でいなして、返しの刃で穿ち斬る
連鎖を繋ぎ庇い守り
幻影を断ち切るよう刀を振るい断つ

誰も小夜の終わりは望んでいない
帰り道は此処にある
…私が言うのは変だろうか?


●倖いは遥かに
 夢から覚めれば、其処には変わらずの現があった。
 咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)は隣に立つ咲樂・神樂(離一匁・g03059)の姿を確かめ、そっと顔をあげる。
「……甘いだけの夢よりも、」
 ――痛くて苦くて幸せなあなたのいる、今が好き。
 あなたと共に歩んだ軌跡が本当の自分。それ以外は逃避か、優しい偽りでしかないのだと知った祇伐は掌を握り締める。その様子を見ていた神樂は静かに微笑んだ。
「希みを識ることは悪くないよ、祇伐」
 そうありたいと願う幻影も、心を映す儚く甘い慾の徴のようなもの。
 迷い、抗い、苦しんで。痛み、悼み、甘い幸福を振り除けて。それでも、辛い現を選ぶなら――。
「路はきっとその時に拓ける」
「……はい、お兄様」
 彼の言葉を受け止めた祇伐は大天使の方に眼差しを向け、確かな思いを抱く。
 一歩、強く前に踏み出した祇伐は今の望みを彼に告げた。
「小夜さんを救いましょう」
「祇伐、君が望むなら」
 神樂は頷き、大天使ライラへと強い視線を向ける。
 これまで必死に抗ってきたであろう彼女を、大天使ごと眠らせることなど出来るはずがなかった。小夜も生きたいという願いを捨てたわけではないはずだ。
「飲み込まれ継承されかけてなお、救われるなら。其れは……違う事ない希望になるのだろうね」
「彼女を救う事が叶うなら……揺るがぬ希望がみえる気がするの」
 ――いつか。
 祇伐の思いをしかと聞き届けた彼は、果敢な心を信じてみようと決めた。
 ひとの抗う心の強さ。未来を、大切なひとを想う力。それらを思えば、過ぎ去っていった不幸として見逃すわけにもいかないだろう。神樂はライラへと斬り込むべく、強く地を蹴った。
「未だ終焉にははやい」
「その通りです!」
 祇伐は再びライラから幻影が齎されるだろうと察し、その力を弱めるべく動く。紡ぐ魔法に乗せて放つのは光蜜ノ愛浄。
 闇に咲かせる満開の光は強く、倖を魅せる悪夢を振り祓う。
 神樂も闇も斬り裂くが如く刃を振るった。薙ぎ払う一閃は朱華・妖華爛漫。
「その福音はもう飽きた。私の福音は祇伐だ」
「……ええ」
 彼の言葉は揺るぎなく、信じるべきものだと祇伐は感じた。
 それゆえに次に取るのは天使の白い手ではなく、彼の手だけ。今も目の前に投影されている色彩に満ちた鳥居の向こうは、往くべき場所ではない。
「私の救済は、迦楼羅だもの」
 光蜜で灼いてしまおうと決めた祇伐は更なる攻勢に入った。
 ライラは最初と変わらぬ笑みを向けてきているが、其処に真の慈悲は感じられない。がらんどうの大天使に少女の身体を乗っ取らせたりしない。
 そして、これ以上――愛しさに焚かれないように。
 ゆらり、ゆらり。揺蕩う陽炎。
 ひたり、ひたり、手招く黄昏。
 祇伐が廻らせるうたは花一匁。灼ける焔翼の幻より放たれる浄の光。光灯して魂解いて、光の華花弁を咲かせていく。之は、清浄の果ての滅び。
 神樂も斬撃に結界を重ね、敵の攻撃をいなしていく。
 悪しき巡りを齎すものを穿ち、斬ると心に決めた彼は果敢に立ち回った。連鎖を繋ぎ、庇い守り、幻影を断ち切る。刀を振るう彼の横顔は凛々しい。その姿を誰よりも近い場所で見られるのは、祇伐にとってかけがえのないこと。
「そうね、終わらせましょう」
 祇伐は静かに語る。されど、それは小夜の命の終わりのことではない。
 悪夢は終わり、在るべき場所へ帰れるように。
 求むるひとの手を握れるように、隣で笑っていられるように――と、祈りを込めて。
 神樂も繋げるものと終わらせることの違いを認識しており、大天使ライラへの斬撃を繰り出してゆく。
「誰も小夜の終わりは望んでいない」
 帰り道は此処にある。そのことを示すが如く、彼は刃を振り上げた。
(「こんなことを……私が言うのは変だろうか?」)
 ふとした思いが過ったが、すぐ傍には祇伐がいてくれる。彼女の望みと己の思いを重ねることが今の正解であるはず。
 そして、二人は約倖と厄災を重ねていった。
 本当に望む、未来の為に。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【クリーニング】がLV3になった!
【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV3になった!

ソレイユ・クラーヴィア
連携アドリブ歓迎

ショウの心が、届いたのですね
小夜も、一緒に…
これで憂いなく、戦えるというもの

宙に展開した鍵盤で「凱歌」を演奏
白馬の騎士を喚び、槍を構えて駆け
ライラへ刺突攻撃を仕掛けます

攻撃は仲間と機を揃え、一気呵成に攻め立てます
W技にはディフェンスに入り、反撃を伺うと共に
仲間のダメージの一点集中を避けます

私の望みは、故郷を奪還すること
それは救済ではなく、復讐
だから、貴方の救済は不要です

その伽藍洞の身体
貴方には、望みも救いも無いのですね…
だから他人にそれを求め、己のものにしようとする
敵とは言え、少し悲しいですね

最後はショウと小夜の手で
そこに込められた想いがきっと
楽園を砕き、未来に繋がると思うから


捌碁・秋果
※連携アドリブ歓迎

四葩ちゃん…!
すごい、あの子も幻影を振りきったんだ。
私も続かないと!

…幻影とはいえ、自分の意思で私は美術館に背を向けた。
私はディアボロスで、そうするべきだと知っていたから。
でも…本当は選びたかった!
どんな状況にあってもあれを優先する私でいたかった!

大天使!
この悔しさと怒りと…、ついでに私の陶酔を知れ!

パラドクス発動。
鑑賞の歓び、好きなものがある幸せ。憧憬と情熱。
葡萄色の毒を槍に纏わせて薙ぎ払う。

これが私を生かす陶酔!
大天使、あなたは何かに心のそこから酔ったことはある?

あなたに見せてもらわなくても、私はあのきらめきに酔い続けてみせる!


アンゼリカ・レンブラント
ショウの想いが届いたんだね
小夜さん、よかった…
あとは大天使ライラを倒すだけ!

仲間と仕掛ける機を合わせ光焔剣で斬りこみ、
そのまま近接戦を挑む
慈悲の闇が反撃として迫るなら、真向から体を纏うオーラで、
心に灯す勇気で凌ぐよ

幼き日を垣間見て
大切な人への想いと、競い合う友の記憶
それらを自覚させてくれたことには礼を言おう
でもお前から受ける慈愛も救いも停滞するだけ
何も要らないよ

私は東京北区で育った陽菜であり
新宿島のアンゼリカ。
過去を胸に抱き、光の未来を望むよ
今日はショウの、小夜さんの未来をさ
二度と惑いはしない!

未来への道を拓け《神焔収束斬》
私の「これまで」の、「これから」の想い
全てを込めて最大まで輝けぇーっ!


標葉・萱
声が、聞こえたからと
手延べる意思の強いこと
夜裂く一縷の光のような

真っ直ぐ駆ける背のために
及ばずながらも手伝いを
四葩さんの路を拓きに
いいえ、歪む世界を許せぬ一人として

真白い夢を、硝子のカードと砕いて
甘やかな声も、柔い掌も、惜しむ熱も
もう、目瞬きほどの視線も奪えない
どうぞ大天使の翼を止めて、穿って
羽搏く幻影がひとつでも多くを逸らすように
照準を定める間もない程に
息つく間もないよに重ね、合わせて、届くまで
彼女が届くまで、幾度でも砕こう

ふたつの願いのゆくさきはきっと
降り立つ地面の先にあるのだと


●楽園よりも現実を
 少女の魂は生きることを望んだ。
 改竄された世界は閉じ、次はこの戦いに挑めば破れば真の意味での救済が叶う。
「ショウの想いが届いたんだね。小夜さん、よかった……」
 あとは大天使ライラを倒すだけ。そう言葉にしたアンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)は笑みを浮かべる。アンゼリカの明るい声に続けて、捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)がショウの名を呼んだ。
「四葩ちゃん……!」
 その声には嬉しさと希望が宿っている。
「すごい、あの子も幻影を振りきったんだ。私も――!」
 続かないと、と意気込んだ秋果は大天使へと向き直った。同じくしてソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)も、安堵と共に強い思いを抱く。
「ショウの心が、届いたのですね。小夜も、一緒に……」
 これで憂いなどなく戦えるというもの。
 此処からは容赦しなくていいと察したソレイユは宙に鍵盤を展開した。演奏するのは未来に向けた凱歌。
 白馬の騎士を喚べば、勇ましい幻影が槍を構えて駆けていく。ソレイユの演奏に合わせる騎士はそのまま、大天使ライラへ刺突攻撃を仕掛けていった。
 勇ましい突撃を瞳に映し、標葉・萱(儘言・g01730)も身構える。
 声が、聞こえたからと、手延べる意思の強いこと。まるでそれは――。
「夜裂く一縷の光のような」
 仲間達の行動や意志の力を感じ取った萱は頷いた。萱にもまた、静かながらも強い思いが生まれている。
 真っ直ぐに駆けていった背のために。
 そして、最後まで未来を諦めない人々のみちゆきを繋げていくためにも。及ばずながらも手伝いを、と言葉にした萱は己の思いを更に声にした。
「四葩さんの路を拓きに。いいえ、歪む世界を許せぬ一人として、此処に」
 ――お控えに。
 ふたつ。月に透く硝子のカードは溶けゆく。搖らぐ銀の檻が融け出し、這い、蔦巻く。
 同様に秋果とアンゼリカも攻勢に入っていった。
 光焔剣で斬り込んでいくアンゼリカは、仕掛けるタイミングを合わせようと秋果や萱に呼びかけた。
「いくよ!」
「……幻影とはいえ、自分の意思で私は美術館に背を向けた。私はディアボロスで、そうするべきだと知っていたから」
 ライラから齎される福音は復讐者との間に壁を作るものだ。
 それでも秋果達は怯まずに攻め込み、己の思いを言葉へと変えていった。
「でも……本当は選びたかった!」
 その声は叫びのように、戦場に響き渡っている。
 それほどに切実で懸命な思いだと告げるが如く、秋果は語っていく。
「どんな状況にあっても、あれを優先する私でいたかった! どんなものより大事だったから! だから……大天使! この悔しさと怒りと……ついでに、私の陶酔を知れ!」
 それは秋果にとっての全力を紡ぐ宣言だ。
 そして、彼女は絵画への陶酔を糧に葡萄色の毒を生成した。
 鑑賞の歓び。好きなものがある幸せ。それから、憧憬と情熱を力として。
 葡萄色の毒を槍に纏わせた秋果は一気に大天使を薙ぎ払いに向かう。アンゼリカもそのまま近接戦を挑んでいた。慈悲の闇が反撃として迫ったが、アンゼリカは真っ向から斬り込み続けた。
「負けないよ! 心に灯す勇気があるから!」
 敵の攻撃を凌ぐアンゼリカには、更なる幻想が与えられている。
 幼き日を垣間見ることで心の裡が乱された気がした。大切な人への想いと、競い合う友の記憶。それらを何度も見せられることで確かな思いを自覚している。
「過去を思わせてくれたことにはお礼を言おう。でもね、お前から受ける慈愛も救いも未来を停滞させるるだけ」
 だから、何も要らない。
 強く言葉にしたアンゼリカは、改めて自分を確かめる。
「私は……東京北区で育った陽菜であり、新宿島のアンゼリカ!」
 過去を胸に抱き、光の未来を望む者。
 今日はショウの――そして、小夜の未来を願う為に此処に居る。もう、二度と惑いはしない。
 アンゼリカは魔力とオーラ操作で構築した光の巨大剣を振るい上げ、光彩聖姫が得意とする神火を巡らせた。その威力は凄まじく、大天使を穿っていく。
 その間、ソレイユと萱も攻撃の機を仲間と揃えていくことを重視していた。それによって、一気呵成に攻め立てられると考えたからだ。ときにはディフェンスに入り、ソレイユは反撃の機会をうかがう。
 既に勝機が見えているとはいえ、誰かひとりにダメージが集中してしまうことは避けたい。
 攻防が続いていく中、ライラは再びソレイユに幻影をみせようとした。
「私の望みは、故郷を奪還すること」
 だが、ソレイユはそれをひといきに振り払う。
 何故なら――。
「それは救済ではなく、復讐。だから、貴方の救済は不要です」
 はっきりと言い切ったソレイユは更に仲間との連携を重ね、クロノヴェーダを倒すための一手を紡いでいった。
 萱も更なる力を巡らせる。
 真白い夢を、硝子のカードと砕いて。甘やかな声も、柔い掌も、惜しむ熱も――もう、目瞬きほどの視線も奪えない。
 どうぞ大天使の翼を止めて、穿って。羽搏く幻影がひとつでも多くを逸らすようにと動く萱。
 萱は相手が此方に照準を定める間も与えぬ程に、息つく間もないように攻撃を重ねる。仲間とタイミングを合わせて、この手が望む先へ届くまで、ずっと。
(「――彼女が届くまで」)
 幾度でも砕くのだと心に決めた萱は、海市の力を迸らせた。
 それは羽撃き、さざめく梏桎となるもの。目瞬けばかたちが変わる幻惑。萱が紡ぐそれはゆっくりと、されど確実に大天使の戦う力を削り取っていた。
 渫う波濤は銀の底。穿く声さえ届かぬのならば――終わりは、近い。
 秋果も其処に続き、毒槍を振るう。
「これが私を生かす陶酔! 大天使、あなたは何かに心のそこから酔ったことはある?」
「…………」
 問いかけた秋果に対し、ライラは何も答えなかった。
 答えられなかったと判断した方が正しいのかもしれない。秋果は構わずに攻撃を続け、ライラの力を着実に削り取っていった。再び幻影が見せられようとも屈する気はない。
「あなたに見せてもらわなくても、私はあのきらめきに酔い続けてみせる!」
 秋果の宣言に合わせ、アンゼリカも光焔の大剣を豪快に振るった。
「未来への道を拓け、神焔収束斬!」
 ――裁きの光と共に輝け、生命の焔よ。
 愛する少女との絆の力を最大限まで紡いだアンゼリカは叫ぶ。
「私の『これまで』の、『これから』の想い。全てを込めて最大まで輝けぇーっ!」
 刹那、大天使の身体が揺らめく。
 音を奏でてゆくソレイユも大天使を見遣り、その中に垣間見えた暗黒を思う。
「その伽藍洞の身体……貴方には、望みも救いも無いのですね……」
 きっと、だからこそ他人にそれを求める。そうして、己のものにしようとするのだろう。
 ソレイユはライラの行動原理や顕現した理由を想像してみた。本当のことはライラ本人にしかわからないのだろうが、ソレイユはそのように受け取った。アンゼリカと秋果も終幕が近いことを察しているようだ。
 そうして、萱もこの先を思いながら言の葉を落とす。
「どうか、」
 萱は信じていた。ふたつの願いのゆくさきはきっと、降り立つ地面の先にあるのだと。ソレイユも頷きを重ね、儀式大天使ライラへの思いを呟いた。
「敵とは言え、少し悲しいですね」
 されど、同情を注ぐ気はない。ソレイユはそっと願う。最後はショウと小夜の手で、と。
 其処に込められた想いが、きっと――偽りの楽園を砕き、未来に繋がるはずだ。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【勝利の凱歌】がLV2になった!
【罪縛りの鎖】がLV2になった!
【一刀両断】がLV2になった!
【平穏結界】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
【ロストエナジー】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV6になった!

四葩・ショウ
だいじょうぶ
彼女も、いっしょだ

彼女は確かに願ったんだ
『わたしたちの未来を救って』と!

この手が届かなくても
いつか心が割れてしまうとしても
わたしは戦い続けることを……えらぶよ
ほんとうの家族を抱きしめたいから
惑う仲間がいないなら
【飛翔】で翔て攻撃を重ねる

白夜が襲い、暴き、喚び醒ます
深く仕舞いこんだ
幼い憧憬、あの日の救済

テノールの旋律が、止む
ずぶぬれで佇むその大人(ひと)は

魂を蝕む安息も
懐かしい聲も夢のよに消え

とびこむのは白く花開く夜のもと
硝子のレイピアを突き立てる
彼女から託されたちからで
わたしの怒りを、希う心を対価に
【儀式大天使・ライラのみを喰らう】

かえして、もらうよ
悪い夢は───もう、終わったんだ


●救済の意味
 名前を呼ぶ声が幾つも、何度も聞こえた。
 ショウ、ショウさん、四葩ちゃん。それらは過去を懐い、未来を願う仲間達の声。
 ――ショウちゃん。
 そして、その中にはあどけなさを残す妹の声も混ざっていたように感じた。過去と現在、記憶と現実の境目が曖昧になっているかのようだが、今の四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)にとっては心強い声のひとつだ。
「だいじょうぶ」
 自分を呼ぶすべての声に応えるが如く、ショウはしっかりと言の葉を紡いだ。
 電脳レイヤーで改竄された幻影から出てきたのはショウひとりだが、その胸の中には小夜の意志と魂がある。
「彼女も、いっしょだ」
 自分の姿を見つめている仲間達に示すように、ショウは掌を胸に当てた。凛と立つショウの目の前には、左右非対称の翼を広げた儀式大天使・ライラが浮かんでいる。
「お前達ののぞみは なんですか」
 ライラは淡々と、まるで感情などないように語りかけてきた。
 がらんどうの大天使からの言葉に対し、ショウは小夜のことを思いながら望みについて声にしていく。
「彼女は確かに願ったんだ」
「なにを」
「――『わたしたちの未来を救って』と!」
 大天使が問いかける声に向け、ショウは受け取った心を示す。
 すると、ライラは何度も人々や復讐者に向けた言葉を繰り返していった。
「お前達のすくいは なんですか」
 まるで、ライラ自身がそれを知るために問いかけているかのようだ。からっぽの大天使が求めているものや真意を推し量ることはできないかもしれないが、ショウは応えたいと感じた。
 救いとは、誰かに与えられるものではない。
 自分だけでは到達できない場所に救いがあるのならば、誰かと手を取り合うことで進めるものだ。小夜の思いを聞き届けた今のショウだからこそ解る。
 たとえこの手が届かなくても、いつか心が割れてしまうとしても。
「わたしは戦い続けることを……えらぶよ」
 偽物でも幻影でもない、ほんとうの家族を抱きしめたいから。
「おろかな娘」
 対するライラはショウの中に小夜の意志を見たらしく、それだけを呟いた。今のライラの身体は小夜のものだ。主導権をライラが握っている以上、この過去世界は存在し続けるだろう。
 ショウは仲間達が果敢に闘っている様を見渡し、掌を強く握る。
 皆それぞれに強い意志や願いを持ち、大天使の惑いを乗り越えているようだ。頼もしき仲間達だと感じたショウはひといきに地を蹴った。此方を見下ろしているライラと目線を合わせるため、ショウは飛翔していく。
 翔けたショウ、迎え撃つライラ。その視線が交錯した。
 刹那、白夜が襲い来る。
 大天使の力が暴き、喚び醒ますのは――深く仕舞いこんでいたこと。
 幼い憧憬であり、あの日の救済だ。

 テノールの旋律が、止む。
 ずぶぬれで佇む大人。
 そのひとは――。

 しかし、同時にショウも硝子の薔薇を咲かせていた。
 術者の声色でうたう、希いの花はライラに浄化の戒めを巡らせ、仲間には幸運をあたえる力となる。其処にはショウの裡に宿っている小夜の思いも重ねられていた。きっと、この力は生涯で一度きりとなるもの。
 そう、これは小夜の――デーモンイーターの異能。
 今だけ、この瞬間ならばショウは大天使を喰らうことすら可能だ。
(「ショウさん……!」)
 そのとき、心の中から優しく支えるような声が紡がれた。小夜の願いが再び自分に届き、響いたのだと気付いたショウは硝子のレイピアを強く握り締めた。
 絶対に、未来を繋げてゆく。
 決意と共に白夜を退けたショウは、目の前の現実を見据えた。
 魂を蝕む安息も、懐かしい聲も夢のように消えていく。母の笑顔、妹の呼び声。小夜の慕うあのひと、小夜自身の夢見た幻想。それから、幼き憧憬の幻。
 すべてが大切なものであることは間違いないが、今この場で掴むものではない。
「――――」
 ショウがとびこむのは白く花開く夜のもと。
 真白き幻想めいた、救済の白夜。その中心に舞う大天使におわりを齎すため、翔けゆくショウは真正面から刃を向けた。仲間達の一閃はショウが進む道を拓くべく収束している。
「かえして、もらうよ」
「お前、達……いいえ、お前は……」
 そして、大天使に硝子のレイピアが突き立てられた。ライラはショウの刃を受け、何かを呟いた。しかし、それ以上は言葉が出てこないようだ。その瞳の奥に一瞬、光が宿ったように見えた。
 託されたちからで。己の怒りを、希う心を対価に。小夜を救うために、ショウは儀式大天使・ライラのみを喰らう。
 ただ斃すのではなく、少女と天使の魂を入れ換えるが如く。
「悪い夢は――もう、終わったんだ」
「ああ、これが……救い……」
 ショウは硝子のレイピアをライラから引き抜きながら、静かに微笑んだ。其処に傷口は刻まれていない。
 その声を聴いた儀式大天使・ライラは瞼を閉じ、戦いは終わりを迎えた。

●雨は未だ止まずとも、物語は続く
 大天使の翼が散った。
 宙に霧散するように羽根が消えていったことで、ライラが乗っ取っていた少女の身体が墜ちてゆく。
 しかし、すぐに両腕を伸ばしたショウが少女――小夜の身体を受け止めた。白磁のようだった肌には熱が宿り、その頬には生気が戻ったように赤みが差しはじめる。
「おかえり、小夜」
 ショウは優しく少女の身を抱き、そっと地上におりていく。
 その際、ショウは自分の中にライラの力が混じっていることを感じていた。それは腕の中の少女、小夜がひとへと完全に戻ったことを示している。
 白かった髪は元の黒髪へと戻っていき、ゆっくりと開かれた瞼の下の瞳にも輝きがあった。
「わたし……戻ってこれたんです、ね……」
「身体はだいじょうぶ?」
「はい、なんとか。助けてくださって、どうもありがとうございました」
 ショウの手を借りて立った小夜は礼儀正しく礼をする。彼女はショウだけではなく、呼び掛けてくれた復讐者や救いへの思いを向けてくれた者達にも静かな微笑みを返した。
 いつしか、天使の彫像から解放された人々がショウや小夜、ディアボロスの周囲に集まってきている。
 ありがとう、助かりました、ぜひお礼をしたいといった感謝の言葉が向けられた。皆、当たり前のことをしただけだと語っていき、和やかな雰囲気が広がっていく。
 しかし、この過去世界における未来――即ち、現代から訪れた者には刻限がある。
 大天使を打ち倒したことで排斥力こそなくなったが、改竄された歴史は正しきものへと戻っていく。そうなる前にパラドクストレインで最終人類史に戻らなければならない。
 小夜は別れの時を感じ取ったのか、ショウの手をそっと握った。
「ショウさん。わたしの声が届いた方が、貴女で本当に良かったです」
「わたしも、此処に来てよかった」
 視線を交わした二人には絆がある。その言葉だけで思いを感じ取ったショウと小夜は固い握手を交わす。
 やがて、パラドクストレインが現代に戻る時間がやってきた。ディアボロス達はこの時代の人々に別れを告げ、時空移動列車に乗り込んでいく。
 車窓の向こう側。手を振る人々の光景が揺らぎはじめた。
 儀式大天使・ライラによって歪められていた過去の世界は改竄から解放され、新たな歴史となっていくのだろう。
 その行方を知るものは未だ誰もいない。それでも、ショウと小夜、ライラとの間に特別な運命と縁が巡ったことだけは揺るぎのない事実だ。
 そして、ショウは時空の狭間で誰かの声を聞いた。それは聞き覚えのある二人の会話のようだ。

 ――御姉さま!
 ――さよ!

 ――やっと……やっと、逢えましたね。

 断片的な、たったそれだけの言葉だった。されどショウにとっては充分だ。
 哀しき運命を復讐者と共に覆した少女。その未来には心の底から望んだ希望と救済が待っていた。小夜達がどのような苦難を乗り越えていったのか。それからどういった道を選んでいくのかは、彼女達だけの物語だ。
「……いつか、また」
 ショウは過去に手を振り、未来を目指す。
 誰もが再び大切な人と巡り逢える日が訪れるように、願いながら――。
 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】がLV3になった!
効果2【凌駕率アップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2023年05月02日
宿敵 『儀式大天使・ライラ』を撃破!