嵐の報復（作者 凪未宇）🎨挿絵2枚

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リプレイ

●炎の翼
　過去へと導くパラドクストレインが、ある決着を付けるべく走っていく。
　向かう先は、2011年東京都杉並区。
　中央線が横断する荻窪駅へとトレインは到着し、彼女達は降り立った。
　降りた瞬間、感じたのは街の異様な緊迫感。
　杉並公会堂を取り囲むのは、刃を翼とするおびただしい数のソードエンジェル。
　その物々しい事態に、住人達は息を潜めるように建物の中に隠れていた。
「さて、ずいぶんとまぁ愉快じゃない展開になっているじゃないか」
　どこか芝居がかった口調で、オスカー・メギドューク（“槍牙卿”・g07329）が、一族に代々伝わる〈メギドュークの槍〉を携え、目を細めた。
　良く晴れ渡った、その青い空には、四枚翼の大天使『ガルガリン』が横切っていく姿が見える。
「はぁん？　オラジエールの奴、どうやってクロノス級になったのかと思っていたけれど……こういうことだったの」
　リーシャ・アデル（絆紡ぎし焔の翼・g00625）は、黄金色の髪をかきあげ、西の方にある公会堂へと視線を向けた。
　直接、公会堂が見えるわけではないが、そこに『オラジエール』が居ることは既に聞いている。そして、きっと彼女もリーシャ達の侵入を察していることだろう。
　彼女の中には、とあるアークデーモンとの遭遇時に、かつて存在していた大天使ラピュセールが在る。
　憑依合体し戦うしかなかったその結果、オラジエールが妹の様に愛し大切にしていた大天使ラピュセールは消滅し、リーシャはオラジエールにとって仇となったのである。
　だから、これはどちらにとっても因縁の清算となる。
「ふむ……クロノス級も、色んなことを考えていたのですね」
　こういうこともやはり起きていたのですねと、クルミ・スターズ（虹の彼方に消えた骸星・g02923）は話を聞き、あるかもしれないと思ったが仲間の因縁の相手が起こしていたとなると、また印象も変わる。
「では、大天使達の勢いを少しでも削ぐ為にも、力を貸しましょう」
　しかも籠城しているこの時代のディアボロスを呼び出すために、一般人を襲わせるとなれば見過ごすことは出来ない。
　建物の中に逃げ遅れた男性を狙い、ガルガリンが急降下する。
　その間に飛び込んだヴィオナ・リーゼヴェルト（赤い『縁』に誘われて・g06956）が、シスター服を翻し、小さく胸の前で祈り拳を繰り出した。
　『破軍衝』の一撃は、強烈な衝撃波を放ち、ガルガリンを墜落させる。
「まさか、シスターの僕が大天使と戦うだなんてね……大丈夫かな、僕が抑えているうちに建物の中に逃げてね」
　そう男性に告げ、再びガルガリンへと向き直る。
「でも、人々を傷つけるのならば、たとえ神の教えに逆らうことになったとしても！　許す訳にはいかない！」
「兎にも角にも、まずは住民を襲ってる奴から蹴散らさないとねっ！！」
　ヴィオナが墜落させたガルガリン目指し、エアライドで最短ルートを駆けて近付いたリーシャは『虚心・幻創：ラピュセール（ホロウ・アニマイズ・ラピュセール）』を発動する。
「『描雅・顕現（エディット・アヴァタール）』――限定召喚（ヴィジョン・サモン）！！　とっておきよっ！！」
　呼び声に応え〈【騎士団の遺産】：HOLLOW-HEART〉による魔術で、銀色の軽装鎧に炎のような六翼を広げるラピュセールの再現体が召喚される。
「注目を集めるには、持って来いでしょ？　さぁ、かかってきなさい大天使共っ！！」
　その騒ぎと炎の翼に、公会堂を囲んでいたオラジエールの眉がピクリと持ちあがる。
「侵入者、炎の翼……まさか」
　彼女の方からやって来たのかと、疑念を抱きつつも、放っておくことは出来ない。
　オラジエールはガルガリンに侵入者を襲撃するよう命じ向かわせる。
「さぁ、ショータイムといきましょう？」
　白鳥と黒鳥の意匠が彫られている二丁拳銃〈魔導双銃「白鳥と黒鳥(オデット・アンド・オディール)」〉を携え、『魅惑の舞踏（チャーム・ダンス）』で舞いの如き動きで駆け巡り銃撃を撃ち込んでいく。
「あぁ、大天使達の好きにさせるのも癪だからね、邪魔をさせてもらうとしよう」
　颯爽と道を切り開くように、メギドュークの槍をドリル状に回転させ、オスカーは『槍牙旋撃（ヴラシシェーニ・クルィーク）』を穿つ。
「廻って穿て、我が牙よ！」
　そうして開かれた道を、一気にディアボロス達は突き進む。
「まだ未熟な僕だけど、これはただの攻撃じゃない。勝利の為に積み重ねる、一撃だ！！」
　ヴィオナが倒したガルガリンの屍を超え、公会堂とそれを取り囲むソードエンジェルの様子が見え。そして、大群を率いるオラジエールが振り返った。
「ちょうどいいわね。あいつにとっては最初で最後、アタシにとっては因縁の精算といこうじゃない」
　リーシャはガルガリンを蹴散らし、オラジエールの目の前へと飛び出す。
　彼女の傍らに再現されていたラピュセールの姿が、オラジエールの瞳に怒りを灯し、消えていった。
　ここで、因縁に決着を。両者は静かに睨み合うのであった――。


●嵐の天使
　杉並公会堂をソードエンジェルに包囲させていたオラジエールは、今にも嵐を手繰り雷撃を放ってきそうな眼差しであった。
「さぁて、来てあげたわよオラジエール……ラピュセールを消滅させた、『仇』がね？」
　挑発的に、敢えて自分に注意を集めるようにリーシャ・アデル（絆紡ぎし焔の翼・g00625）は、彼女自身の焔の翼を広げた。
（「もっとも、アークデーモンと戦って瀕死になったラピュセールが、力を取り戻す為にアタシと憑依合体しようとしたら、アタシの方が打ち克ったってだけの話なんだけどね……」）
　だがそんな事は、オラジエールには関係ない。
　彼女にとっては、大事に可愛がっていた妹のような存在を奪われた事実が変わるわけではないのだから。
「今すぐ貴様を殺し、ラピュセールを蘇らせて見せる」
「もうラピュセールは戻らないのよ」
「煩い、黙りなさい。弱ったラピュセールを騙し、取り込んだ人間風情の言い訳など聞く必要はない！」
　まだ、そんな事いっているのかと溜息が零れる。
「クロノス級になった後、アタシを追いかけ回してきた、この時間より未来の「アンタ」は聞く耳持たなかったから……」
　アンタもそうなんでしょうけどと、付け足してリーシャは向き直る。
「だから、「はいそうですか｣って殺されるつもりもないのよ。ラピュセールは、アタシに負けた」
「……煩い」
「負けたことを認めて、アタシの力になることを選んだ『敗者』よ」
「黙れっ！」
　激昂したオラジエールの声に、呼応するかのように嵐が雷鳴を落とす。
「だからきっちり、ここで決着をつけるわ。そんな彼女の『敗者』としての誇りを守る為にもね！！」
　燃え盛る焔の翼は、かつていた大天使の姿を思わせるように大きく美しく広げられるのであった。




●剣の舞い
「「さて」」
　彼女達は声を揃えた。
　公会堂を囲うソードメイデンの気をひくように、クルミ・スターズ（虹の彼方に消えた骸星・g02923）は、自分をハッキングし『欺き鳴らす復讐劇（チート・コード・ヴェンデッタ）』で情報を書き換えていく。
「お話も済んだようですし大天使狩りを続けるとしましょうか」
「元より穏便に終わるとも思っていなかったが、どの道奴らを退けねばならないからね」
　オスカー・メギドューク（“槍牙卿”・g07329）の一族に代々伝わるという〈メギドュークの槍〉を手に、その秘められし力を解放する。
　槍先を包むように蒼いオーラが、巨大な刃を形成し牙の様に鋭さを増した。
　そして書き換え終わったクルミの背には巨大かつ禍々しいデーモンの翼が広がる。
「今宵の舞台は、我らディアボロスが主役成り！！！　さぁ、復讐劇の幕が開く！！！」
「では、もうひと暴れするとしようか！！」
　オスカーは、真っ直ぐ突撃するように目的としたソードメイデンまでの最短距離をエアライドで導き出し、急降下してくる敵に投網のようにトラップ生成した捕縛用ネットを投げ刃に絡めると、『槍牙蒼撃（ブラウブルート・クルィーク）』を放った。
「この牙は、少々荒々しいぞ？」
　ネットで動きが一瞬止まったところに刺突の蒼い刃が振るわれ、ソードメイデンの振るった光放つ一刀を宙を蹴り躱すも、戻ってきた一太刀と、ネットを切り裂き逃れた敵の『クロススラッシュ』を受けた。
　咄嗟にメギドュークの槍で受けたものの、衝撃が腕を痺れさせる。
　その間に、飛翔したクルミを追うソードメイデンが光放つ二刀を掲げ狙う。
「彼らを倒さなければ、被害に遭う人達が居る。そんな人達を守る為に、『怒り』を胸に戦う……」
　上昇したところから一気に急降下しながら強化させた〈舞踊姫の黒き靴(プリマ・パドヴーレ)〉で、ソードメイデンを蹴り落とし、乱れた髪を整える。
「それが、私の思う『ディアボロス』なのですから」
　墜落していったソードメイデンには、もうクルミの声は届かなかっただろうが、次の相手が彼女の周囲を取り囲むのであった。




●
　戦闘が不得意とはいえ、人手が必要となれば話は別だ。
　他の仲間達が動き出したのを確認し、サティニフィア・ネイバーライト（スゴ腕情報屋・g00008）は気配を消すように、物陰から戦況を確認する。
「面倒なことになってんな。こいつらからは、情報は持ち帰れねぇんだよな」
　スゴ腕情報屋サッちゃんにとって、戦場でも的確に情報を得るイロハは心得ている。そして何より情報屋は、必ず生きて持ち帰ってこそ活用されるということも。
「まぁ、ディヴィジョンを弱体化させれるっていうんなら、少しでも役立たねぇとな。やれることを全力でやるだけさ！」
　敵の動きを見極め、情報を精査し、ここだというタイミングでビルの上にスタンバイした星宮・結城（魔弓の語り部・g01816）に合図を送る。
　小さなナイフに光を反射させ、敵に見つからないように。
「人は守る、外道は殺す！　魔弓召喚！」
　結城は右手の腕輪より〈魔弓召喚・エンチャントバリスタ〉を、左の腕輪から〈魔矢召喚・レインメイカー〉を生み出した。
　その矢には、鳳が描かれているアクアマリンオーブ〈魔弓氷珠・ブートアップフリージングシール〉が輝いている。
　この大天使ではないが、彼らは先程まで一般人を追いまわし狙おうとしていた。
　今は公会堂の中に籠城している者達を脅かしているだけだが、この周囲には多くの人の営みがある。
「放っておけるわけないよな。思い描くは光輝の鳳！　鋼の光で貫滅させろ！」
　つがえた矢は冷たい報復の意志を輝かせ、放たれた『魔弓召喚・超越一煌・貫光鳳翼（スペシャルチューンスペリオルペネトレイト）』は、蒼く光鳳の幻影を羽広げソードメイデンに向かっていく。
　一体を射貫くころには、次の矢を。
「どうか、この光が一人が嫌いな君の孤独を貫くように」
　放たれた矢の軌道に気付き、ソードメイデンがそちらを見上げるが、その胸にずぶりと深く背後から黒漆蝋色塗大小拵の打ち刀〈山羊千代拵「八法師/鬼吉丸」〉が突き立てられる。
　何者だと振り返れば、そこには三度笠を身に付けたメーラーデーモン『ゴートリッパー』の姿が。
　驚きを浮かべた所を、すかさず脇差で斬り上げ、ゴートリッパーはソードメイデンを足場に物陰へと飛び込む。
　ソードメイデンは、『アサシネイトキリング』で息絶え、その騒ぎの隙にサティニフィアと結城は移動し、再び密かに敵を狙うのであった。




●
　かなり数は減っただろうか。
　包囲するソードメイデンを撃破すれば、少なくとも公会堂に籠城している者達は解放されるだろう。
「オラジエールと決着をつける前に、邪魔な奴らを倒すとしましょうかっ！！」
　もう一息とリーシャ・アデル（絆紡ぎし焔の翼・g00625）は、仲間に声を駆けながらオラジエールを見下ろした。
　怒りで周囲に稲妻が弾けているのが見える。
「変な横槍を入れられたくないものねっ！！　倒していくわよっ！！」
「これを悲劇と言うのならば、クロノヴェーダによる侵略がなければ、そもそも起きなかったことだ」
　睨みつけるように顔を上げたヴィオナ・リーゼヴェルト（赤い『縁』に誘われて・g06956）の十指には赤い糸が繋がれている。
　その先でカタリと音をたて起き上がったのは骸骨のような姿をした操り人形〈【騎士団の遺産】RED-RELATION〉。
「ディアボロスにも今被害にあっている人々にも、そんな大切な存在が居る。いや、それを理解してくれとは言わないよ……」
　頷くようにRED-RELATIONが、カタカタと応じる。
「僕らの『怒り』は、もう止まらないのだから。君達だって、同じだろう？」
　ソードメイデンとしては命じられているだけかもしれない、だがオラジエールは違う。
　答えの代わりの様に、雷が近くに落ちた。
　どちらの舞が上回るか。剣の翼を広げ、その全ての剣を分離させ『ブレイドブラスト』を放ってくる。
　次々と飛び交う剣の中を、ヴィオナはRED-RELATIONを踊るように繰り『ダンスマカブル』を披露する。
　一つ、二つと剣を受け躱し。RED-RELATIONは、ソードメイデンに辿り着き攻撃を。
　そして上空へと飛翔したリーシャは、光の二刀を携え斬り刻むよう剣舞を舞うソードメイデンの連撃から逃れると緋の翼を羽ばたかせ、自分の周囲に無数の炎のような光の輪を出現させる。
「舞え、炎の輪よっ！」
　飛び交う『翠焔・創像：フレアスラッシャー（ブレイズ・リアライズ・フレアスラッシャー）』は、ソードメイデンの正面に回り込みながら火の粉を散らし斬り裂いた。
　他の場所でも決着が着いたか、辺りにソードメイデンの姿はもうない。
「残るは、 アンタだけよ｡オラジエール！」
　リーシャの啖呵に、一際大きな雷が落ちるのであった。








●終わりの始まり
　オラジエールにとって、ラピュセールは大切な存在であった。
　翠色の焔を操る妹のような存在には、冷酷なオラジエールを表情を綻ばせ心を開いていた。
　だからこそ、彼女を消滅させた存在を許せない。
　ましてや、その力を行使する者など。
　六枚の炎の翼が広がる。ボディラインが強調されたスーツに、翠緑の焔の光が灯りリーシャ・アデル（絆紡ぎし焔の翼・g00625）の頭上に天使の輪が輝く。
　ネメシス形態となったその姿は、大天使ラピュセールの姿そのもの。
「……さぁ、いよいよ決着の時よ、オラジエール。ここで何もかもを終わらせるっ！！」
　手元で燃え上がった翠の焔が、剣を形作った。
「生きてこの場から去るのは、アタシ達ディアボロスよっ！！」
　叫ぶと同時に斬りこんだリーシャの一撃を、オラジエールはその掌に圧縮した嵐と雷の珠で受け止めた。
「他人の力を奪って何を言うのです。終わるのは貴様だ」
　どちらも譲らない力は膨れ上がり炎と雷が弾け、両者は大きく後方へと吹っ飛ばされた。
　そのままオラジエールは羽ばたき衝撃を抑えると、上空へと舞い上がっていく。
　上昇していくオラジエールの姿を見上げながら、クルミ・スターズ（虹の彼方に消えた骸星・g02923）は、〈【騎士団の遺産】：無位：ANCIENT-TRIGGER〉の力を解放し段々とネメシス形態へ。
「さて、いよいよ終幕の時です」
　彼女の身体は段々と成長し、服が窮屈そうに零れそうな胸や彼女の肉体を辛うじて包む。
「とはいえ、ここは主役へ道を譲り、前座を務めましょう。この物語に、よい終焉をお願いしますよ？」
　吹っ飛んできたリーシャを大人な姿となったクルミが受け止め妖艶さ漂わす笑みを浮かべた。
「後は、君を倒せばここでの戦いは終わる」
　ヴィオナ・リーゼヴェルト（赤い『縁』に誘われて・g06956）は、キュッと唇を結んだ。
（「初めてネメシスモードを使うから、僕自身どうなるかわからないけれど……」）
　力を得るかわりに、その身は淫魔に似た姿に。それは、シスターである彼女としては、不安も戸惑いも大きい。
「僕は弱いんだ、少しでも勝利へ近づく為に……どんな力だろうと、使って見せるっ！！」
　露わになった足はガータベルトで吊った網タイツに包まれ。バレエ人形のような黒と赤を基調としたスカートが広がり、大きく胸元から開いたオフショルダードレス。
　その背にフワリと二つに結った長い銀髪が緩やかにおりて、瞳は真紅に。頭の上にちょこんと王冠がのっかり。
　ハートの飾りがついた禍々しい杖を手にすれば、禍々しいオーラが漂い。
「さて、後はお前だけだ、大天使オラジエール」
　槍から剣へと持ち替え、ネメシス形態となったオスカー・メギドューク（“槍牙卿”・g07329）が、上着を脱ぎ捨てると同時に青いオーラ状のコウモリの翼が広がる。
　早着替えの如く普段の装いからガラリと印象は変わり、銀のビキニアーマー姿に、〈魔剣「ヴァルヌートゥンク」〉を携える。
「私が言うことは特にないが……あえて言うならば、私達の「未来」を斬り開く為、全力を尽くそうかっ！！」
　舞い上がったオラジエールを追うように、オスカーは垂直に飛翔上昇し『槍牙姫怨（クリムトルーネ・クルィーク）』を。
「魔剣よ、その怒りを示せ」
　秘められた力を解放し、斬りつける。
　杖でその刃を受けながら、オラジエールは翼をはばたかせ嵐を呼び起こし『光輪嵐舞』を放ち、光輪を複雑に飛ばし斬り裂こうとする。
　だがその頃には既にクルミも空へ、嵐の中にトラップ生成で作り出した細かいワイヤーネットを張るが、たちまちオラジエールの力で斬り刻まれてしまう。
　罠としてはれるものは一般人には効果はあるが、ディアボロスやクロノヴェーダの力の前には無力だ。
　だが動きを止めることは出来なくても、意識を向けることは出来る。
　その刹那、ヴィオナは祈りを捧げた。
「――光、あれ」
　彼女の背後に十字架状の後光が出現し『祈りの聖十字（セイクリッドクロス）』が輝く。
　大天使とはいえ、悪しき存在を抹消する裁きの光が、オラジエールを包み目を眩ませる。
「くっ、小賢しい手を……」
　周囲にオラジエールは、己の持つ槍と同じものを無数に召喚していく。
　そして振り下ろす手の動きに合わせ、一斉に豪雨の弾幕を張るかのように『雷鳴槍雨』をディアボロス達に降り注がせる。
　露出した肌を傷つける槍に怯むことなく、クルミは星を刻んだ魔方陣を展開し。
「届け、あの果てに輝く一番星(プリマ)まで！」
　唱えると同時に向かってくる槍を撃ち落とすように、星の如き輝きの波動をオラジエールに放ち翼を一枚断った。
　空中でバランスを失いながらもオラジエールの瞳は、リーシャを捉え『嵐珠崩雷』を放った。
　翠色の焔が形作った剣を掲げ、リーシャは真っ直ぐ飛翔し『翠焔・創像：ラピュセール・ヴレイブ（ブレイズ・リアライズ・ラピュセール・ヴレイブ）』で突撃する。
　これで終わらせる。
「翠焔・創像・顕現（ブレイズ・リアライズ・オーヴァーライト）！！！」
　炎の翼は熱く赤く燃え上がり、驚愕したオラジエールの瞳が最後に映していたのは果たしてリーシャだったのか。それとも……。
　深くその胸に突き刺さった炎は消え、オラジエールの身体は力を失い落ちていく。
「これで、終わったのね」
　長かった因縁に決着をつけ、地上へと戻ったリーシャは炎の翼を閉じた。
　オラジエールを失い、ゆっくりと歴史が崩れていく。
　後は、この地で救った者達が新しく人々を導いてくれる事だろう。
　滑り込むように到着したパラドクストレインが、新たな結末を迎えたリーシャを出迎え、彼女は次の始まりへの一歩を踏み出すのであった――。

最終結果:成功
完成日	2023年03月06日
宿敵	『オラジエール』を撃破！