どこよりも幸せに近い悪夢の中で(作者 三ノ木咲紀
3


#宿縁邂逅  #死の歴史を覆せ 

● 幸せな悪夢
 妖精郷の町外れに佇んだアネモネは、新しく加わった石碑に刻まれた銘に触れた。指先に感じる凹凸が、大切な人の名前の形になっていた。ドラゴンの襲撃から町を守るために出撃した戦士たちは、全員は帰ってこない。それだけが事実で。
 見開いた目から大粒の涙が溢れていることに、アネモネは気付かない。どれくらいそこでじっとしていたのかも、よく覚えていない。そのことをようやく自覚したアネモネは、掛けられる声に振り返った。
「アネモネ……」
「アドニス……」
 視線の先にいるのは、双子の弟のアドニス。心配そうに眉を寄せたアドニスの泣きそうな顔に、アネモネは目尻に残った涙を拭いた。
 そうだ。アネモネにはまだ双子の弟がいる。泣いてばかりはいられない。目元をこすったアネモネは、気丈に頬を笑みの形にすると立ち上がった。
「ごめんね。もう大丈夫……」
「もう戦いは嫌だ。平和に暮らしたい」
「アドニス……?」
「アネモネにはいつだって笑っていてほしいんだ。でも、現実はいつだってアネモネを傷つける。なら、皆も争う必要のない花や樹になればいい」
 アドニスの体に、触手のように蔓が巻き付く。足元から伸びた蔓は抱きしめるように頬に伸び、耳の中にも届いていた。フローラリアに寄生されている。そう確信したアネモネは、アドニスに向けて叫んだ。
「ダメよアドニス! 戻ってきて!」
「来てよアネモネ。 一緒に行こう」
 手を差し伸べるアドニスに導かれるように、森がざわめいた。木立の間から現れた枯れ枝のように細い腕の少女たちが、アネモネにじゃれるように駆け寄ってくる。応戦しようとしたアネモネは、次の瞬間現れた懐かしい人達の姿に目を見開いた。
 ドラゴンとの戦いで命を落とした大切な人たちがそこにいた。会いたかった人たちの姿に、多幸感が心に溢れてくる。どれほど会いたかっただろう。駆け寄りたいが、本能がひどく警鐘を鳴らした。
 そんなはずはない。危険だ。そうは思っても、鼻孔をくすぐる甘い香りに抗えず、立ちすくむことしかできない。
『会いたかったわアネモネ』
『これからはずっと一緒だ』
「……」
 懐かしい人達に抱き締められながらも涙を流したアネモネは、アドニスからーー否、ダチュラから伸びた蔓に包まれる。アネモネを抱き締めたアドニスは、優しい声で囁いた。
「アネモネ。これからはずっと幸せに……」
「お願い、ダチュラを止めて……アドニスを助けて」
「……!」
 辛うじて紡いだアネモネの言葉に、ダチュラはパラドクスを強める。
 幸せな悪夢に包まれたアネモネは、脳裏に瞬く光に手を伸ばすと意識を失った。

● 新宿駅グランドターミナルにて
「特別なパラドクストレインが現れたよ!」
 真剣な顔でディアボロス達を見渡した御厨・つかさ(美味しいごはんは世界を救う・g03486)は、メニュー表に映し出された映像を覗き込んだ。
 場所は幻想竜域キングアーサーのフローラリアにあるエルフの森。ドラゴンとの戦いのことに触れていることから、この時代はもう歴史の改竄が進んでいる頃だろう。
 ドラゴンとの戦いに疲れたアドニスは、クロノヴェーダに取り込まれた。幸せな夢の檻に囚われたアネモネは、遠からず衰弱して死ぬ。そうすれば、アドニスの意識は完全にダチュラに呑まれてしまうだろう。
「でも! 希望は捨てちゃ駄目だよ! アネモネさんが囚われてすぐくらいのタイミングにパラドクストレインが到着するから、行って助けてあげて!」
 この機会に『虚妄の楽園』ダチュラと決着をつけることができれば、新しいアヴァタール級の出現を押さえて敵ディヴィジョンを弱体化させることもできるだろう。

 パラドクストレインは、二人から少し離れた場所に到着する。村の墓地までは一本道だが、ダチュラの魔力で作られたトループス級『泣き虫イタズラっ子・バンシープーカ』が侵入者を幸せな夢に誘おうと誘ってくる。バンシープーカはディアボロス達に「幸せな幻影」を見せてくるが、気を強く持てば打ち払うことができる。
 バンシープーカを排除した先に、ダチュラに憑依されたアドニスとダチュラの苗床にされて気を失っているアネモネがいる。戦いの前に話をすることができるが、ダチュラはディヴィジョンに関する情報を持っていない。会話からクロノヴェーダに関する情報を得ることはできないだろう。

「幸せな過去に縋りたい気持ち、よく分かるよ。でも、そこに囚われていたら駄目だよね。どうか、みんなで助けてあげて」
 つかさの願いに頷いたディアボロス達を乗せたパラドクストレインは、静かにフローラリアへと向かっていった。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【一刀両断】
2
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【浮遊】
1
周囲が、ディアボロスが浮遊できる世界に変わる。浮遊中は手を繋いだ「効果LV×3体」までの一般人を連れ、空中を歩く程度の速度で移動できる。
【エイティーン】
1
周囲が、ディアボロスが18歳から「効果LV×6+18」歳までの、任意の年齢の姿に変身出来る世界に変わる。
【活性治癒】
2
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【建造物分解】
1
周囲の建造物が、ディアボロスが望めば1分間に「効果LV×1トン」まで分解され、利用可能な資源に変化するようになる。同意しない人間がいる建造物は分解されない。
【通信障害】
1
ディアボロスから「効果LV×1,800m半径内」が、ディアボロスの望まない通信(送受信)及びアルタン・ウルク個体間の遠距離情報伝達が不可能な世界に変わる。

効果2

【命中アップ】LV3 / 【ガードアップ】LV1 / 【反撃アップ】LV1 / 【リザレクション】LV1 / 【ドレイン】LV2 / 【グロリアス】LV1

●マスターより

三ノ木咲紀
 オープニングを読んで下さいまして、ありがとうございます。
 このシナリオは宿縁邂逅です。
 心情メインでしっとりとした雰囲気を想定しています。

 流れは②→①→③を想定しています。
 バンシープーカはそれほど強くありませんが、ダチュラの影響を受けたからか「幸せな幻影」を見せて足止めしてから攻撃してきます。気を強く持てば無効化できますが、見るであろう過去の出来事などの幻影がありましたらプレイングまでお願いします。
 プレイングはすぐの受付です。

 それでは、よろしくお願いします。
24

このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


陳・桂菓
幸せな記憶の幻影か。
まあ、復讐者になる以前、三国志の世界にて生活していた時分のものだろうな。山岳にある小村。たまに野盗の類が発生するが、おおむね平穏な暮らしだった。
だが、浸って溺れる気にはなれんさ。復讐者になった今となってはな。

使用武器は苗刀『飛竜』
ビーム攻撃の間合いとなると、まずは近寄って斬るより【疾風斬天翔】の闘気の刃で撃ち合いで対応。
後の展開は、結界の強さがどの程度かによる。刃が通るならそれでよし、防がれるようなら間合いを詰めて直接刀で斬りつけて破る。
手数も威力も要る、しかも飛んでくるビームも避けて防いで……忙しない戦いだが、私も速さには少々自信がある。何とかしてみせようさ。


●過ぎし日の掛かり稽古
 鬱蒼と茂る森には、霧が立ち込めていた。
 細い道を森の奥へと歩いていった陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、ふいに頭を横に反らせた。一瞬前まで頭があった場所を、木刀が通過する。下方からの攻撃を回避した桂菓は、突き出された木刀を掴むと無造作に持ち上げた。
「わわっ!」
 攻撃を仕掛けた子供らしい人影を地面に放り投げてやれば、子供用の木刀が桂菓の手に残された。
 桂菓を包囲した道着姿の子供たちが、それぞれ木刀を手に間合いを測る。じりじりと攻撃の機会を伺う姿には覚えがあった。
(「これは、|故郷《くに》の掛かり稽古か」)
 師匠相手に弟子が全員で斬りかかっていき、師匠から一本取るまでやめることが許されない稽古だ。師匠に木刀を向けていた桂菓も、今は師匠の立場か。楽しそうに目を細めた桂菓は、子供たちに偽装したバンシープーカに奪った木刀を構えた。
「面倒だ。まとめて来い!」
「師匠、お覚悟!」
 叫んだ子どもたちが、一斉に斬りかかってくる。鋭い打ち込みを木刀で受け止めた桂菓は、次々斬りかかってくる子どもたちの攻撃を的確に受け止めては弾き返した。子供らしい真っ直ぐな攻撃に晒された桂菓は、楽しそうに笑みを浮かべながら攻撃をいなし、打ち払い、叩き込む。桂菓の打撃を受け止めた子供が、全員地に伏せるまでさしたる時間は掛からなかった。
「もう終わりか?」
「う、うわぁぁぁん!」
「痛いよぉ!」
 青あざを作った子供達が、一斉に泣き出す。突然号泣したバンシープーカは、赤い目からビームを放った。
 四方から同時に放たれる泪赤光線が、桂菓に向けて放たれる。パラドクスを乗せた攻撃に、桂菓は身を翻した。ビームを避けて防いで反撃して。忙しない戦いだが、桂菓も速度には自信があった。一通り攻撃を凌いだ桂菓は、苗刀『飛竜』の柄を握った。
「それで終いか。ならばこちらから行くぞ!」
 ドラゴンの翼の骨を鍛えて作られた太刀が、鞘の中で鳴動する。パラドクスを込めた桂菓は、抜刀と同時に闘気の刃を繰り出した。
「放つ!」
 裂帛の気合と共に、疾風斬天翔の闘気の刃が放たれる。涙の結界を切り裂いた闘気の刃は、バンシープーカ達を真っ二つに切り裂いていった。
「生憎、楽しい思い出に浸って溺れる気にはなれなくてね。復讐者になった今となっては尚更な」
 苗刀『飛竜』を鞘に収めた桂菓は、消えていくバンシープーカ達の姿に一礼すると森の奥へと歩いていった。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【一刀両断】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!

ミシェル・ロメ
※アドリブ歓迎

目の前に広がる懐かしい光景
神父様と、僕同様に救われた孤児たち
テーブルにはお菓子とお茶
皆幸せそうに微笑んで僕に誘いかける
ささやかだけど幸福で、平和な日常……

違う、これは夢まぼろし
神父様は断頭台に消え、他の仲間とも離れ離れになって
心に負った傷痕、凄惨な記憶は決して消えはしない
僕の背中の天使の翼が疼く
恐れるな、立ち向かえ
理不尽に奪われた尊厳をその手で取り戻せ、と

本物の神父様ならきっと、僕を安寧の檻に閉じ込めるようなことはしない
祈りを捧げ浄化の光を解き放ち、誘う幻を打ち払う

この先ではきっと、孤独な魂が泣いている
行かなくちゃ
これ以上過ちを繰り返させぬために
この手で絶望の淵から救い出すために



 森の小径を歩いていたミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)は、突然現れたテーブルに唇を噛んだ。古びたテーブルに、精一杯のお菓子達。この光景には覚えがあった。
 ミシェルがいた孤児院で、定期的に開かれたお茶会だ。苦しいこともあったけれど、皆でお茶とお菓子を囲めばそれだけで幸せだった。
 同じ境遇のきょうだい達がテーブルを囲んでいる。その奥に、懐かしい顔があった。
「久しぶりだね」
「神父様……」
 優しく微笑んでいるのは、懐かしい神父。その姿に、喉の奥までこみ上げる感情を飲み下した。
 ささやかだけど幸福で、平和な日常。失ってどれだけ焦がれただろう。立ち止まったミシェルに、神父はゆっくり歩み寄った。
「お茶会の時間だよ」
「……」
 頷きかけたミシェルは、ふいに疼いた背中の羽に顔を上げた。目の前に蘇る、凄惨な光景。断頭台に消えた神父。離れ離れになった仲間たち。あの時の絶望はミシェルの心に刻みつけられて、今も疼いて血を流している。

『恐れるな、立ち向かえ』
『理不尽に奪われた尊厳をその手で取り戻せ』

 今まで救ってきた沢山の人達が、ミシェルに訴える。復讐者となった証である白い羽に乗せた祈りは、無限の翼(エールズ・アンフィニ)となりミシェルに、神父にきょうだい達に届いた。
「どうしたんだい?」
「……違う。これは夢まぼろし。神父様は断頭台に消えたんだ!」
「ミシェル!」
 叫んだミシェルは、安寧を求める感情をかき消すように頭を振った。ここでお茶会を楽しみたかったけれど、それはできない。してはいけない。なぜなら。
「本物の神父様ならきっと、僕を安寧の檻に閉じ込めるようなことはしない」
「……」
「ごめんなさい、神父様。僕は行くよ」
「どうして?」
「この先ではきっと、孤独な魂が泣いている。助けに行ってあげたいんだ」
「何故?」
「これ以上過ちを繰り返させないために。……この手で絶望の淵から救い出すために」
「そうか」
 ミシェルの決意に頷いた神父は、優しい微笑みを浮かべると大きな手でミシェルの頭を撫でた。良い行いをした時に、いつもこうして褒めてくれた。懐かしい手の重みに、涙が溢れそうになる。
「大きくなったな、ミシェル」
「神父様……」
「行きなさい」
「ありがとう。……たとえ幻でも、会えて嬉しかった」
 神父の後ろに並んだ子供たちも、笑顔で手を振ってくれている。大きくお辞儀をしたミシェルは、振り返らずに駆け出した。 
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!

ロート・レッター
(アドリブ歓迎)

俺の幸せか…新宿島に流れ着く前の事だろうな
期待の戦力だって改造受けて、命令通り敵を叩き潰せばみんな喜んだ…俺に期待を…まだ、してた…そんな施設での日々
期待に応える事…それが俺の幸せで、その為に俺は、上位互換のアイツより優秀で有能で役に立つ奴じゃないといけないんだ

だってのに、何なんだよ…さっきから見えるのは新宿島に流れ着いてからの事ばっかりじゃねぇか
所長に拾われて、日常生活だ何だとかうるさく言われて、クソ忙しい癖して祝い事なんてもんの為に時間を割きやがる…へへっ、バッカみてぇ
わざわざ見せられるまでもねぇんだよ…生きてりゃこれからも見れる

だからさぁ…変に汚さないでくれる?


● サプライズパーティ
 霧深い森の道を歩いていたロート・レッター(ちょーつよい男(自称)・g01665)は、白い視界の先に目を眇めた。この森に出るバンシープーカは、過去の幸せな幻影を見せてくるという。
(「俺の幸せか……。新宿島に流れ着く前の事だろうな」)
 新宿島に辿り着く前、ロートはとある施設にいた。
 その施設のロートは望まれた存在だった。期待の戦力だと言われ、改造手術を受けた。強化された肉体で、命令通り名前も知らない素性も分からない敵を叩き潰してきた。そうすればみんな喜んでくれた。褒めてくれた称えてくれた撫でてくれた。期待を、してくれた。
 波のように寄せられる期待に応えるために戦い、勝てばもっと期待してくれて。そんな施設での日々は幸せだった。
(「期待に応える事。……それが俺の幸せで、その為に俺は、上位互換のアイツより優秀で有能で役に立つ奴じゃないといけないんだ」)
 考え事をしていたロートは、突然響く破裂音に剣の柄に手を掛けた。
 直後に聞こえた仲間たちの声。クラッカーから飛び出るチープな紙吹雪を浴びたロートは、所長に促されるままテーブルの前に立った。
 好物が並んだテーブルに、「おたんじょうびおめでとうロート」のチョコプレートが乗った大きなホールケーキ。
 サプライズ成功! と喜んでいるのは、新宿島で出会った仲間たち。現れたのが施設の仲間の期待ではないことに、ロートは驚いた。
(「所長に拾われて、日常生活だ何だとかうるさく言われて、クソ忙しい癖して祝い事なんてもんの為に時間を割きやがる」)
 施設にいた頃のロートなら、耐え難い苦痛に感じていただろう時間。だが思い返せば、施設で誕生日会を開いてくれたことがあっただろうか? 自嘲の笑みを浮かべたロートは、笑顔で投げつけられるプレゼントにアンファングセイバーを抜いた。
「……へへっ、バッカみてぇ」
 振り抜きざまに放つ斬撃が、変幻突撃を切り裂く。霧になり消えるプレゼントに、仲間たちが……否、バンシープーカ達が抗議の声を上げた。
「わざわざ見せられるまでもねぇんだよ……生きてりゃこれからも見れる」
 続けざま、仲間たちの姿をしたバンシープーカ達に赤の一撃『緋』を放った。冷徹な声と共に放たれる一撃に、仲間達が黒い霧となり消える。その姿を昏い目で見送ったロートは、低い声で凄んだ。
「だからさぁ……変に汚さないでくれる?」
 幸せな幻影を断ち切ったロートは、晴れゆく霧に目を細めた。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【エイティーン】LV1が発生!
効果2【リザレクション】LV1が発生!

● 幸せな夢の中で
 霧の道を抜けた復讐者達は、見える景色に立ち止まった。静かな墓地だったはずの広場には、巨大なダチュラの花が鳥籠のように蔦を根を伸ばしていた。
 ダチュラの蔦でできた鳥籠の真ん中には、白い大きな丸テーブルがある。円卓を囲むように配された椅子に、2つの人影があった。
 ダチュラに囚われたアネモネは、青白い顔色をしていた。体中に蔓延るダチュラの触手から生命力を奪われてなお、幸せそうに微笑んでいる。椅子の上で眠るアネモネの頬に、ダチュラはそっと触れた。
「見てよ、アネモネは今幸せだよ。僕には分かる。夢の中でアネモネは、楽園にいる。飢えも、渇きも、怒りも悲しみも憎しみもない、本当に幸せな楽園に」
 体温を感じさせないアネモネの額に、一滴の涙が落ちる。水滴を無造作に拭ったダチュラは、嬉しそうに笑った。
「嬉しいなぁ。もうすぐだよアネモネ。きみはじきに、本当に楽園の住人になる。アドニスもすぐに行くから、待っていて」
 言葉を切ったダチュラは、復讐者達を振り返ると手を伸ばした。
「僕はいずれ世界中の人達を、この楽園に導くんだ。それが、戦いに傷ついた人達を救う唯一の手段。だから君たちも特別に招待してあげるよ。僕の、僕たちの終わらない楽園に」
 鳥籠の中の楽園に、風が吹き抜ける。ダチュラの誘いに、復讐者達は一歩前に踏み出した。
ミシェル・ロメ
あの眠っている少女がアネモネ……
僕に助けを求めてきた『過去のディアボロス』
そして隣にいるダチュラ……否、『彼』は

ダチュラの支配下にある『アドニス』の心に呼びかける
この声が彼に届くことを祈って

悲しみの無い平和な世界で幸せに暮らしたいと願う心
僕も同じだ
さっき見た幻影のように

でも、それじゃ駄目なんだ
夢の中に逃げたって、花や樹のように生きたって
理不尽な暴力に蹂躙される『現実』は変えられない
抗うことを諦めるのは、夢の奴隷になるのと同じこと

僕たちはドラゴンの支配からの解放を目指して戦っている
フローラリアの力に頼らなくても
人類やエルフの同胞を犠牲にしなくても
僕たちは手を取りあえる
アドニス、僕を信じて……!



 緑の揺りかごで眠る少女は、幸せそうに微笑んでいた。
 優しい夢の中で死に向かう少女の姿に、ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)は手を握った。彼女はアネモネ。ミシェルに助けを求めてきた『過去のディアボロス』。
 脳裏に見えた強い光の中で、アネモネが求めていたのは自分自身の救済でも、世界の救済でもない。
 彼女が求めたのは、アドニスの救済。その想いを受け取ったミシェルは、生命の輝き(リュミエール・デ・ラ・ヴィ)を言霊に乗せた。
「あの眠っている少女がアネモネ……」
 ミシェルの声に気付いたダチュラが、優しくアネモネの頬を撫でると安心したように微笑んた。
「見て。アネモネは今、幸せなんだ」
「そんなこと……」
 言いかけたミシェルは、唇を噛むと俯いた。脳裏に蘇るのは、お茶会の風景。幸せな教会の中に、神父様達がいた。あの手を取りたい。取り戻したい。そう心から望んだことも事実で。
「……分かるよ。悲しみの無い平和な世界で、幸せに暮らしたいと願う心は僕も同じだ」
「じゃあ……」
「でも、それじゃ駄目なんだ」
 差し伸べられた手を、ミシェルは毅然と跳ね除けた。目の前にいるのは『虚妄の楽園』ダチュラ。人を永遠の楽園に誘うフローラリア。
「夢の中に逃げたって、花や樹のように生きたって、理不尽な暴力に蹂躙される『現実』は変えられない。抗うことを諦めるのは、夢の奴隷になるのと同じこと」
「分かった風なことを!」
 叫んだダチュラは……否、ダチュラの中のアドニスは、半狂乱に叫んだ。
「ドラゴンの侵攻にどれだけ抗っても、一発のブレスで全て焼き払われてしまう。アネモネはその度に泣いて、傷ついて、心が死んでいく。嘆きの中で滅ぶくらいなら、幸せな夢の中で滅ぶ方がいい」
「滅ぼさせたりしない!」
 叫んだミシェルは、耳を塞ぎ目を閉じるアドニスの姿に手を差し伸べた。
「僕たちはドラゴンの支配からの解放を目指して戦っている。フローラリアの力に頼らなくても、人類やエルフの同胞を犠牲にしなくても、僕たちは手を取りあえる。アドニス、僕を信じて……!」
「嫌だ!」
 差し伸べられた手を、アドニスは払う。アネモネとの間に立ちふさがったアドニスは、ミシェルを睨みつけた。
「例えドラゴンの支配がなくなっても、世界から争いはなくならない。アネモネが泣いてる世界に何の意味もないんだ……!」
 叫んだアドニスは、体に這わせた蔦をミシェルに向けて放った。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!

エルフリーデ・ツファール
アドリブ&連携歓迎
魔法の触媒の為に常にタバコを吸っている
効果2全使用

おっと、妙なとこに来ちまったかい。
だが私が何者だとか気にする必要はねェよ。
通りすがりのお前さんの敵さ!

【火炎使い】の本領発揮だ。【高速詠唱】で瞬時に全身から炎を吹き上がらせ甘い芳香を焼き尽くして近づいていく。
【オーラ操作】の要領で炎の尾を捻り上げた【貫通撃】でダメージを与えていくぞ。

「なに、お前さんにとどめを刺すにゃあもっと相応しい奴がいるんだろ? 私は前座に徹するさ」


陳・桂菓
理解できんでもない。
理想郷のあり方を大真面目に追求したとき、結論の一つとして挙げられるものではある。全てを眠らせ、完璧にデザインされた幻の世界で暮らさせるというのは。
だが、幻は幻。現実をないがしろにして幻に逃げたところで、衰退に抗うことさえできずに下らん滅亡を迎えるだけだ。

使用武器は双短戟『騰蛟昇竜』
蔦に絡み付かれるより先に斬り払い、猛毒の棘に触れないように蔦の切れ端も弾き飛ばす。忙しないが、双短戟の手数ならば何とかなろう。
そうやって肉迫し、最終的には蔦の隙間を縫うように戟の一撃を見舞う。
敵の近接戦の腕や硬さどの程度かわからんが、見た雰囲気からして私では歯が立たんというほどではなかろう。



「散らさないで。踏み躙らないで。僕の愛した花を。夢見たこの楽園を」
 悲痛な叫びと同時に、無数の蔦が放たれた。一斉にミシェルに向かう蔦の前に立ちはだかった陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、双短戟『騰蛟昇竜』を構えた。相手を拘束し、自由を奪う毒を持った蔦は狙いを桂菓に変えてうねりながら迫る。左半身を引いて迎え撃った桂菓は、右手に持った青龍戟で大きく切り払った。
「破!」
 気合と共に右手の青龍戟で蔦を切り払い、同時に踏み込み毒を含んだ先端を左手の龍戟で叩き切る。二振りで一組の月牙を持った方天画戟を自在に繰り出した桂菓は、繰り出される攻撃を凌ぎ続ける。真剣な目で双戟を繰り出す桂菓は、響く声に振り返った。 
「炎よ!」
 高速詠唱と同時に炎を放ったエルフリーデ・ツファール(紫煙の魔術師・g00713)は、死角から繰り出された蔦を焼き払うと次々に火球を放った。くゆらせた煙草の紫煙がなびくたび、大小無数の火球が蔦を焼き切っていく。
 放たれた蔦を焼き尽くしたエルフリーデは、桂菓の隣に立つと煙草をつまみ煙を吐いた。煙草を咥え直すエルフリーデの姿に、ダチュラは眉を顰めた。
「誰?」
「おっと、妙なとこに来ちまったかい。だが私が何者だとか気にする必要はねェよ。通りすがりのお前さんの敵さ!」
 紫煙をくゆらせながら相対したエルフリーデの姿に、ダチュラは人好きのする笑みを浮かべ手を差し出した。
「例え今は敵同士でも、楽園に来れば皆等しく仲間だよ。争いのない、平和な世界。満ち足りた真の幸福を、きみにも見せてあげる」
 優しく微笑んだダチュラは、全身から甘い芳香を漂わせると復讐者達に向けて放った。甘く煙る芳香は戦場を包み込み、咄嗟に口と鼻を押さえても侵入する花の香りは意識を甘い幻影へと誘っていく。
「おいで。争いや悲しみに満ちた現世など捨てて、永遠の楽園に」
 咄嗟に口と鼻を押さえたエルフリーデは、吸い込んだ芳香と共に蘇る記憶に眉を顰めた。エルフリーデが愛用する、受け継がれた魔女帽子。今よりも新しいそれを被った人影が、エルフリーデの前に立って……。
 目の前に広がる光景に、エルフリーデは煙草のフィルターを噛み潰すと火炎を放った。
「眩く輝く朝焼けのように――黄金色に染め上げろ!」
 詠唱と同時に、師の姿が炎の奥へと消える。辺り一帯に立ち込めた甘い芳香を朝焼けの黄金で焼き尽くしたエルフリーデは、ひしゃげた煙草を吐き出し踏み潰すと新しい煙草に火をつける。新しい煙草の香りに心を落ち着かせたエルフリーデは、幻影を見ていたらしい桂菓を振り返った。
「大丈夫か?」
「……無論だ」
 言葉少なく答えた桂菓は、改めて騰蛟昇竜を構えるとダチュラの前に立った。さっきまで見せられていた幻影の残り香が、脳裏にこびりつく。大きく息を吐き出して思考を切り替えた桂菓は、双戟を構えるとダチュラに語りかけた。
「ダチュラ。お前の考えは、理解できんでもない」
 言った瞬間、再び蘇る記憶をねじ伏せ真正面に相対する。それでも桂菓は戦うのだ。復讐者として。
「理想郷のあり方を大真面目に追求したとき、結論の一つとして挙げられるものではある。全てを眠らせ、完璧にデザインされた幻の世界で暮らさせるというのは」
「分かってくれて嬉しいよ。もう一度……」
「だが、幻は幻。現実をないがしろにして幻に逃げたところで、衰退に抗うことさえできずに下らん滅亡を迎えるだけだ」
「滅びが嫌なのは、辛い目に遭うからだよ」
 眉を顰めたダチュラは、口を逆三日月型に歪ませた。
「例え世界が滅んだって、自分や家族が別の世界で幸せになれれば幸せなはずさ。逆に世界が滅びなくても、死にたいくらい心が壊れるくらい辛い目に遭うなら、幸せな夢の中にいた方がいいに決まってるよ」
「話が通じないな!」
 吐き捨てた桂菓は、騰蛟昇竜を握るとダチュラに向けて駆け出した。行く手を阻むように放たれた蔦が、今度こそは桂菓を捕らえるべく四方から迫る。斬り払おうと構えを崩しかけた桂菓の前に、炎が舞った。
「露払いは任せな!」
 次々に放つ炎の弾が、蔦を焼き払っていく。炎に紛れた桂菓は、ダチュラの懐に潜り込むと迅雷縫雲閃(ジンライホウウンセン)を放った。
「斬る!」
 裂帛の気合と同時に放った斬撃が、ダチュラを捉える。全神経を研ぎ澄ませた一撃を肩から袈裟懸けに受けたダチュラは、よろりとよろめくと唇を噛んだ。
「この楽園は、幸せの夢は、僕が守ってみせる……!」
 深手を負ったダチュラは、アネモネが眠る揺りかごの側まで後退する。深追いはせず距離を取った桂菓は、使い込まれた樫の杖で肩を叩くエルフリーデに笑みを浮かべた。
「……さっきは助かった」
「なに、ダチュラにとどめを刺すにゃあもっと相応しい奴がいるんだろ? 私は前座に徹するさ」
 ニマリと笑うエルフリーデに笑みを返した桂菓は、騰蛟昇竜を油断なく構えた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【建造物分解】LV1が発生!
【一刀両断】がLV2になった!
効果2【命中アップ】がLV3になった!

ミシェル・ロメ
引き続き「アドニス」と対話

そうだね、君の言う通りこの地で沢山の人が死んだ
戦っても戦わなくても人は死ぬ
もしかしたら「一切の不幸の無い楽園」なんて夢物語かもしれない

それでも僕は抗うよ
大好きな人たちの笑顔のために

生前の神父様の教えを僕が受け継いだように
誰かの未来を守ることが出来たなら
たとえ力尽きたとて僕は後悔しない
この墓標に眠る人々の想いも、きっと

アネモネは言ったんだ
「アドニスを助けて」って
自分の命以上に、夢に逃げて絶望の呪縛に怯え続ける君を心配していたんだ

アネモネを解放して
ちゃんと彼女と向き合って話をして
君がアネモネの笑顔を守りたかったように
何よりも君の幸せを願っていた彼女の想いを受け止めてあげて



 よろめくダチュラに歩み寄ったミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)は、ダチュラの中にいるアドニスに語りかけた。
「『例えドラゴンの支配がなくなっても、世界から争いはなくならない』か。……そうだね、君の言う通りこの地で沢山の人が死んだ。戦っても戦わなくても人は死ぬ。もしかしたら「一切の不幸の無い楽園」なんて夢物語かもしれない」
「夢物語なんかじゃない!」
 アネモネを守るように一歩前に出たアドニスは、大きく首を横に振るとミシェルに向けて叫んだ。
「現実なんて全て夢で飲み込めば、その境目はなくなるんだ!」
 泣きそうな顔で訴えるアドニスに、ミシェルは静かに首を横に振った。
「確かに、そうかも知れない。それでも僕は抗うよ」
「どうして?」
「大好きな人たちの笑顔のために」
「そんな風に言ってた皆は死んだよ。辛い現実に殺されるくらいなら、幸せな夢の中で生きていて欲しいんだ」
 俯くアドニスの肩を、ミシェルはそっと叩いた。アドニスに巻き付いた蔦が抵抗するようにうねるが、構わず言葉を掛け続ける。
「生前の神父様の教えを僕が受け継いだように、誰かの未来を守ることが出来たなら。たとえ力尽きたとて僕は後悔しない。この墓標に眠る人々の想いも、きっと同じだよ」
「そんなこと、分からないじゃないか!」
「分かるよ!」
 顔を上げたアドニスと視線を合わせる。希望と絶望の間で揺れ動く目をまっすぐ見つめたミシェルは、アドニスの魂へ届くように言った。
「アネモネは言ったんだ。「アドニスを助けて」って。自分の命以上に、夢に逃げて絶望の呪縛に怯え続ける君を心配していたんだ」
「アネモネが……?」
 ミシェルの真摯な言葉に嘘がないことを感じ取ったアドニスの声が震える。心を取り戻しつつあるアドニスに、ミシェルは訴えかけた。
「アネモネを解放して」
「……」
「ちゃんと彼女と向き合って話をして」
「……」
「君がアネモネの笑顔を守りたかったように、何よりも君の幸せを願っていた彼女の想いを受け止めてあげて」
「……うん」
 小さく頷いたアドニスは、ふいに眉を顰めるとミシェルを突き飛ばした。頭を抱え苦しむアドニスの腕から、蔦がアネモネの心臓に向けて真っ直ぐ放たれた。目を見開いたアドニスが必死に抵抗するが、伸びる蔦を止めることができない。
「やめて! お願い、止めて! アネモネを助けて!」
 ダチュラに必死に抵抗するアドニスに、ミシェルは駆け出した。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【浮遊】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!

ミシェル・ロメ
天使の翼で全速力で【飛翔】し、ダチュラの攻撃から身を挺してアネモネを庇う
アドニスはようやく前を向いて、アネモネと共に歩もうとしているんだ
邪魔はさせない
彼の純粋な想いを、歪んだ悲劇で終わらせない

気を失ってるアネモネ、そしてこれまでの戦いで傷つき疲弊したアドニス
「ダチュラ」さえ倒してしまえば【活性治癒】で助かる可能性もある
アドニス本体の急所に当たらないよう注意深く見極めながら
彼を乗っ取っているダチュラ……恐らくは彼に寄生した花を狙って
浄化の光を解き放つ

死ぬな、生きろアドニス!
大切なアネモネを助けるんだろう?
君の人生は君だけのものだ。
たとえそれが茨の道でも、僕は全てを救って見せる!


陳・桂菓
体に種なんぞを植え付けられてはたまらんな。その前に【爆裂闘波】を放って吹き飛ばす。
クロノス級とはいえ、説得を通じて本来の力は発揮しがたい状態だろうし、そう難しいことでもなかろう。
あとは、双短戟『騰蛟昇竜』で葉っぱやら蔦やら花やらを斬っていく。
どうやら、寄生されているエルフの方にはあまり傷を付けてはならんようだ。
とはいえ、完全に無傷でというのは流石に厳しかろうから、少々の怪我は我慢してもらうしかない。加減のあまりこちらがやられては元も子もないからな。

地に咲く花とて、辛苦と無縁ではなかろうよ。
楓葉は霜を経て紅なり。花や葉が美しくあるには、根ざした場所に降りかかる困難を乗り越えねばならんのだから。



 先端が鋭い棘と化した蔦が絡まり合い、アネモネの命を奪わんと突き進む。蔦の槍が放たれた瞬間、ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)は地を蹴った。
「危ない!」
 天使の翼で全力飛翔。間一髪割って入ったミシェルの腕を貫通した槍は勢いを削がれ、切っ先がアネモネの胸元のわずか手前で止まる。なおも押し込んでくる蔦の圧力に眉を顰めた時、残像が迫った。
「させぬよ!」
 声と同時に踏み込んだ陳・桂菓(如蚩尤・g02534)は、両手に持った双短戟『騰蛟昇竜』を翻しながら蔦を斬りつけた。得物を揃えて叩き込み、できた傷に二度、三度と鋭い刃を叩きつける。くるりと舞った桂菓が最後の一撃を叩き込んだ時、ついに蔦は断ち切られ地に落ちた。
 油断なく騰蛟昇竜を構える桂菓は、腕の痛みを堪えるミシェルを庇いながら油断なく距離を取った。
「大丈夫か?」
「大丈夫。ありがとう」
「クロノス級は油断できない相手だ。本体を叩かねば、いずれやられるのはこちらだ」
 桂菓の言わんとしていることを察したミシェルは、黙って唇を噛む。彼女の言う通り、ダチュラを倒さなければ二人を救えない。だが。
「アドニスはようやく前を向いて、アネモネと共に歩もうとしているんだ。ダチュラにこれ以上邪魔はさせない。……彼の純粋な想いを、歪んだ悲劇で終わらせたくないんだ」
「何か考えがあるのだな?」
「これは賭けだけど……」
 ミシェルが伝えた作戦に、桂菓は頷くと改めてダチュラと向き合い双短戟『騰蛟昇竜』を構え直した。
「成程。相分かった。露払いは引き受けよう」
 構える桂菓に、勢いを取り戻した蔦が再び槍となり迫る。蔦を切り払う桂菓の背中に、ミシェルは大きく息を吐くとパラドクスを練り上げた。


 うねるように迫る蔦に飛び込んだ桂菓は、手にした双短戟『騰蛟昇竜』を鋭く振るい次々に切り払った。弧を描き、円となす切っ先は次々に蔦を切り払い、地に落ちたそれを踏みつけながらジリジリと迫る。
 このまま一気に懐に潜り込み、強烈なパラドクスの一撃を放てばダチュラを倒せるだろう。だが策を成功させるには、寄生されているエルフの方にはあまり傷を付けてはならない。とはいえ、完全に無傷でというのは流石に厳しいだろうから、少々の怪我は我慢してもらうしかない。
「加減のあまり、こちらがやられては元も子もないからな!」
 蔦の攻撃を切り裂いた桂菓は、一瞬の隙を突きダチュラの懐に踏み込んだ。二人の視線が交錯したのは一瞬のこと。次の瞬間翻った騰蛟昇竜の切っ先が、アドニスの胸元を切り裂いた。
 アドニスの体を縛っていた蔦が断ち切られ、血のような液体が撒き散らされる。悲鳴をあげるように痙攣するダチュラの花を庇ったアドニスは、後方に大きく退がると膝をついた。
「……こんな思いをするのなら、花や草に生まれたかった!」
「地に咲く花とて、辛苦と無縁ではなかろうよ」
 叫ぶアドニスに、桂菓は淡々と語った。思い出すのは故郷の山の景色。厳しい自然は人間だけでなく、そこに生える草や木にも容赦なく襲いかかり弱い命を奪っていく。だが、だからこそ。
「楓葉は霜を経て紅なり。花や葉が美しくあるには、根ざした場所に降りかかる困難を乗り越えねばならんのだから」
「でも、だからこそ! 君も生まれ変わるんだ。大地に根差す美しい花に!」
 桂菓の言葉を強いて否定するように、アドニスは首を横に振ると無数の種子を放った。小さな種子は弾丸のように桂菓やミシェルへと向かい、苗床にするべく迫る。弾幕のように放たれた種子に、桂菓はその場で闘気を練り上げた。
「吹き飛ばす!」
 轟音と同時に、闘気が爆発を起こす。桂菓を中心に放たれた凄まじい闘気は放射状に広がり、無数の種子を消し飛ばしていく。あと数歩踏み込んで懐に潜り込めばダチュラを倒してしまえる膨大な闘気に煽られたアドニスは、もう既に虫の息だ。
「どうして、否定するの? 楽園まであと少しだったのに……!」
 枯れかけた花を庇いながらよろりと立ち上がったアドニスは、最後の力を振り絞るとパラドクスを放った。


「今の僕には楽園を夢見るほかに能がない。でも、楽園を夢見ることはできるんだ。だからおいで。争いや悲しみに満ちた現世など捨てて、永遠の楽園に」
 必死に伸ばした腕から、甘い芳香が広がる。アドニスの花から溢れる芳しい芳香が、立ち上がったミシェルを包み込む。対抗するように浄化の光を纏ったミシェルは、伸ばされた手を掴み引き寄せると、強く抱きしめた。
「死ぬな、生きろアドニス! 大切なアネモネを助けるんだろう?」
 アドニスにの命を繋ぎ止める力を、活性治癒に込める。命を、魂を救う最後の言葉を、ミシェルは叫んだ。
「君の人生は君だけのものだ。だから、君自身の声を聞かせて!」
「……お願い。アネモネを、この世界を助けて!」
「たとえそれが茨の道でも、僕は全てを救って見せる!」
 ミシェルの決意と共に放たれた生命の輝き(リュミエール・デ・ラ・ヴィ)が、世界を包み込む。崩れ落ちたアドニスを受け止めたミシェルは、首筋に触れると安堵の息を吐いた。
「ようやく、通じたんだねアドニス」
「アネモネも無事だ」
 枯れた蔦の揺り籠からアネモネを助けた桂菓の声に、ミシェルは大きく頷く。
 雲が割れ、新しいディアボロス達を祝風するように光が差し込み闇を払っていく。祝福の光を浴びたディアボロス達は、迎えのパラドクストレインへ乗り込み新宿島へと帰還した。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】がLV2になった!
【通信障害】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【反撃アップ】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2023年03月10日
宿敵 『『虚妄の楽園』ダチュラ』を撃破!

死の歴史を覆せ

 宿敵主、あるいは、宿敵主に意志を託してくれた過去の時代のディアボロスが、クロノス級(宿敵)に殺された時に戻り、クロノス級を撃破して死の歴史を覆します。
 なお、クロノス級を倒して死の歴史を覆しても、宿敵主のディアボロスとしての能力に悪影響が出ることはありません。

『襲われる被害者と、宿敵主が同一人物』で、『宿敵主が宿敵との戦闘の現場に現れる』と、襲われている被害者(この時代の宿敵主)が消え、その位置に宿敵主が瞬時に移動してしまいます。
 上記の現象が発生した場合、戦闘終了後に宿敵主がパラドクストレインに乗った時、被害者(この時代の宿敵主)がパラドクストレインの外に出現します。ですので、比較的安全に被害者を救出することが出来ます。
 宿敵主が同一人物では無い場合や、シナリオに参加しなかった(またはプレイングが採用されなかった)場合、この現象は発生しません。

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#宿縁邂逅
🔒
#死の歴史を覆せ


30




選択肢『クロノヴェーダとの対話』のルール

 事件の首魁であるアヴァタール級クロノヴェーダ(👿)と会話を行います(状況によっては、トループス級(👾)との会話も可能です)。
 戦闘を行わず会話に専念する事になりますが、必要な情報が得られるなど、後の行動が有利になる場合があります。
 問答無用で戦闘を行う場合は、この選択肢を無視しても問題ありません。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『👿または👾で出現する敵との会話に専念する。戦闘行動は行わない。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👾護衛するトループス級『泣き虫イタズラっ子・バンシープーカ』のルール

 事件の首魁であるクロノヴェーダ(👿)を護衛するトループス級クロノヴェーダ(👾)と戦闘を行います。
 👾を撃破する前に👿と戦闘を行う場合は、👾が護衛指揮官を支援してくるので、対策を考える必要があるでしょう。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「沢山」出現します(現れる敵の数は、オープニングの情報やリプレイの記述で提示されます)。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『この選択肢の🔵が👑に達すると、この敵集団を倒す。完結までにクリアしていない場合、この敵集団は撤退する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👿クロノス級決戦『『虚妄の楽園』ダチュラ』のルール

 宿縁邂逅を行い、宿敵であるクロノス級クロノヴェーダと決戦を行います。
 クロノス級クロノヴェーダは、自分と等しい能力を持つ『アヴァタールを生産する能力』を持ちますが、戦闘力自体は、アヴァタール級と同程度となっています。

 クロノス級クロノヴェーダを撃破すると、以後、このクロノス級クロノヴェーダが生み出すアヴァタール級が発生しなくなります。
(既にシナリオに登場しているアヴァタール級が消える事はありません)

※注意
 クロノス級クロノヴェーダは、ディヴィジョンの状況を確認する事は出来ない為、既にディヴィジョンが滅んでいたとしても、その事実を知ることは出来ません。
 また、クロノス級クロノヴェーダから、有益な情報を引き出す事は出来ないので情報収集のような行動は行えません。


 記載された敵が「1体」出現します。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【撃破】【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、宿敵を完全に撃破し、シナリオは成功で完結する。ただし、この選択肢の🔴が🔵より先に👑に達すると、シナリオは失敗で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※このボスの宿敵主は「ミシェル・ロメ」です。
※クロノヴェーダには、同じ外見を持つ複数の個体が存在しますが、それぞれ別々のクロノヴェーダで、他の個体の記憶などは持っておらず、個体ごとに性格なども異なっています。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。