リプレイ
リュカ・テネブラルム
おやおや…女性に手を挙げるなど私の主義に反することではございますが…
かの怪僧の手駒として、そうでなくとも民間人に手を挙げるとあらば武人としてまこと唾棄すべきこと
僭越ながら文民代表として抗議いたします
文民ゆえに戦いは不得手ではございますものの
村人に被害のある前に愛馬に騎乗して敵陣に飛び込みましょう
何より彼女たちがこれ以上その手を汚さぬように
蹂躙なさい、ビーマイナー
その刃は甘んじてお受けいたします
嗚呼、愛馬への攻撃は身を挺してでも防ぎとうございますが
勝負いたしましょう、マドモアゼル
私の刃と貴女の刃、どちらが鋭いか
―その御首、両断して御覧に入れましょう
ミリアム・ヴォルナー
至る所で、無益に血を流そうとするか
連中は相変わらずだな
血に飢えた野獣と変わらん
まずは、一般人や仲間が範囲に居ないことを確認したうえで、広場や道に密集している敵群を狙い、アナイアレイションで砲撃
一気に打撃を与えるとともに、こちらに敵の注意を向けよう
その後は、建物や障害物を盾にしたり、屋根に積もる雪を蹴り落とし敵の目を誤魔化したりしつつ、敵の攻撃を振り切り、隙をみて忍び足を活かし、建物等の物陰に隠れる
敵を撒いたら、密集している敵を狙い、再度アナイアレイションを敵陣に叩き込もう
敵に見つかれば姿を眩まし、敵が見失えば砲撃を繰り返し……敵群を散々振り回してやろうか
ほら、私はここだ……今度は、うまく狙えよ
奉利・聖
…一丁前にこちらの手札を測りに来たか
どんな企みだろうと、乗らないわけにもいかない
二段構えの作戦も真正面から制圧するのみ
それではまずは……第一陣を消し去ってやらないといけませんね
高いスピード、三次元機動──であれば狙うは後の先
幾ら早かろうが懐に潜り込んだ瞬間、こちらのレンジに来ざるを得ない
───『鉄禍ノ乱』
つまりはカウンター 接近の瞬間を気の網で探知
首根っこを掴んで叩きつけ、そのまま手折る
反撃に対しては強化された防御力に加え、気の膜である<結界術>も使いつつ軽減しながら、前へ前へと前進していきましょう
端的に言えば……ゴリ押して殺す、そういうことです
結局最後にはこういう暴力が一番効率が良い
黄下・泉
アドリブ・連携歓迎
ったく、底意地の悪いことを考えるもんだな。
謀略の玩具にされる一般人もだけど、全滅前提で送り込まれる骸兵も、なあ。
空中ジャンプは確かに鬱陶しいな……っても、こっちも自己強化は得意分野。
翻弄とは言うけど、やることが分かってるなら少しは対処しやすい。
少しの傷は厭わずにカウンター狙いでいくぞ。
ま、ミリアムの砲撃とかで浮足立ってたら思い切り突っ込んで、跳び回る前に叩きのめすけど。
……寒さ対策の残留効果用意できなかったから、きっちり防寒対策していかないとなー……
肉を斬らせて首をへし折る、なんてのは狙い過ぎだろうけど、寒さのせいで肉を斬らせて皮を断つ結果になったら台無しもいいとこだし。
神那岐・修
外道の輩へ業を振るうに否があろうはずもなし
残らず砕く
特に潜みはせず正面から
此方を向かせ後顧の憂いをなくす
数は多かろうが構わぬ
己の五体は万物を掴む
手で足で背で、地を空を捉えるなら、世の全てが踏みしめる大地と変わらぬ
天地全て利した疾駆で狙いを外し、一足の間に踏み入ったら“瞬”にて侵略
幻陽にて撃つ
近接すれば狙いを外すは困難
だが“幻”の動きは魂まで刻み込んだもの
己の経験と肌に触れる戦の気配とに意識を介さず拳が撃ち停滞は生じぬ
如何な剣閃とて尽く、敵兵諸共に砕いてくれる
以後近接状態を維持
己は離れれば無能故
敵兵自体を適度に遮蔽としつつ各個撃破
※アドリブ・連携歓迎
伊藤・真九郎
我等が有利たる予知の権能を裏かいてくるとは、ラスプーチンとやら侮れぬ智将よ。
なれど未だ我等に優位有り。その策、押し返してくれようぞ。
目的が我等との交戦ならば、堂々と姿を現すが村を守るに繋がろう。敵陣と村の間に立ちはだかり、真正面から撃退致す。
大小二振りの太刀を抜き放ち、【二天一流】の技にて仕る。
仲間と連携し敵陣に切り込み、二刀振るって片端から撫で切って参る。
反撃の空間跳躍の技、忍びの使う猿飛の術理と見た。ならば戦国での交戦経験による【戦闘知識】【記憶術】にて【看破】試みる。
攻防一体の二刀流の技にて死角よりの斬撃を受け払う。
撃退後は勝鬨を上げ、油断と見せかけよう。
●白き地獄に、悪魔が来たれり
広がる雪原の白色の中、骸兵たちは『進軍』していた。
目標、『ヴァンコ村』、その住民たち。火器は用いない。手にしたナイフで充分。
いや、むしろナイフだから『良い』。人を殺す時には、手ごたえが必要。ナイフはその手ごたえを、最もダイレクトに伝える武器。
『…………?』
そんな事を考えつつ、ヴァンコ村の手前に辿り着いた彼女たちは、
「……あいや、しばらく!」
武装した武将が、その場に立ちはだかっているのを見た。
『……何者だ、名乗れ。我らに殺される前にな』
骸兵たちの先頭に居た、墓場を連想させる彼女は……、
ナイフを抜き、刃を向けた。
ナイフと言えども、それは日本刀で言う脇差ほどの長さ。短剣よりもショートソードと呼ぶにふさわしい。
そんな彼女に、
「それがし、伊藤・真九郎(人間の戦国武将・g08505)と申す者! いざ、尋常に勝負!」
『……愚かな、たった一人で我らに立ち向かうとはな』
骸兵は、ナイフを構えた。見た目は可憐とも言える乙女、或いは少女。しかし……漂わせる殺気は、猛獣のそれ。情け容赦のない残酷さが、そこにはあった。
彼女の後ろに控える骸兵たちも……同じく殺気とともに、ナイフを手に取る。
だが、
「一人? あなたたちの眼は節穴ですか?」
「……外道の輩どもへ、業を振るうに否があろうはずもなし……正面から、全力で挑ませてもらう」
真九郎に続き、街道の両脇、その木の影から二人が姿を現した。
街道右側から出てきたのは、
「僕は、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)。よろしくお願いします」
顔の半面に彫られた派手目の刺青と、口元に開けたピアスが特徴的な少年。
そして、街道左側からは、
「……神那岐・修(紫天修羅・g08671)。勝負だ」
求道者そのものといった、落ち着いた雰囲気の武道家の少年。
二人が、真九郎に並ぶ。
彼らに対し、
『……婦人血死隊所属・骸兵。「チェーレブ(骸骨)」隊。突撃隊長「クラードビッシェ(墓場)」。見知りおけ』
骸兵も律儀に名乗ると、一礼した。
『相手をしてやろう。正々堂々と、な』
「かたじけない」
真九郎、聖、修は、一礼を返し、身構えた。が、
「……真九郎くん、修くん……」
「うむ……!」
「ああ、気付いている」
三人は、気付いていた。
彼女が、意地の悪い笑みを浮かべているのを。
そして、その『意地の悪い笑み』の意味は、すぐに理解した。
クラードビッシェの後方の、他の骸兵たちが左右に別れ、三人のディアボロスたちを回避しつつ……ヴァンコ村へと向かっていったのだ。
『お前達、正々堂々と勝負してやろう。私と、私の直属兵たちでな。ああ、主力部隊はそのまま進軍する。ここで待たせる必要もなかろうよ』
嘲るように、クラードビッシェが言い放った。その後ろには、十数名の骸兵たちが。
全員美少女だが……クラードビッシェ同様に、歪んだ笑みを浮かべ、その美貌を台無しにしている。特に目立つのが、二人。まるで双子のように、対照的な姿だった。
『紹介しよう。突撃副官「ベース(悪霊)」、同じく「ウブイーリ(吸血鬼)」』
ベースはやや細身で右利き、ウブイーリはがっしりした体格で左利き。
『では、始めるとしようか……マヌケどもっ!』
そしていきなり、クラードビッシェは高速で踏み込み、
真九郎に切り付けた。
ヴァンコ村入り口。そこを臨む場所に辿り着いた骸兵部隊の隊長は……、
『あの英雄気取りの莫迦どもは、クラードビッシェたちに任せておけ。我々は予定通り、虐殺を開始する!』
その可憐なる顔に、クラードビッシュ以上の歪んだ笑みを浮かべていた。
『骸兵部隊隊長・「チョールト(悪魔)」の名において、全員攻撃開始!』
チョールトは、そのまま疾走した。それに続き、後ろの骸兵たちも駆ける。
だが、その時。
『!?』
騎馬に跨った、漆黒の髪と瞳を持つ、黒ずくめの男が、チョールトの前に突進してきた。
その手には、身の丈を超える死神の大鎌。冷徹な刃であると同時に……どこか、慈悲と博愛を連想させる、美しき意匠が施されていた。
馬もまた……尾花栗毛の、立派なそれ。その姿は、死神を背に乗せた美しき悪夢(ナイトメア)であると同時に、月下の夜闇を踏破する、麗しき夜の馬(ナイトメア)のよう。
見事な馬と、美しくも可憐なるその白肌の男に、骸兵たちは……彼女たちは、『見とれた』。
『……何者だ!』
チョールトが、ナイフを手に問いただす。
「……これはこれは、失礼。女性に手を挙げるなど、私の主義に反することではございますが……」
大鎌と、馬とを器用に操り、チョールトの目前で男は、馬を立ち止まらせ、
「……かの怪僧の手駒として、そうでなくとも民間人に手を挙げるとあらば、武人としてまこと唾棄すべきこと。故に……僭越ながら、文民代表として抗議いたします」
馬上から、丁寧な口調で述べた。
『名を名乗れ。我が名はチョールト! チェーレブ隊・隊長!』
「失礼、自己紹介が遅れました。私の名は、リュカ・テネブラルム(彼岸へと愛をこめて・g05363)。そして、我が愛馬『ビーマイナー』。お見知りおきを」
リュカと名乗った男は、あくまでも、静かで、穏やかで、その仕草すらも美しかった。
『ふん……気取りおって。だが、その気障な態度もすぐに終わりにしてやる。部隊の半数は、副隊長の指示に従い、このままヴァンコ村を襲撃せよ! 半数は……私とともに、この愚か者を殺せ!』
チョールトの命令を聞き、ナイフを手にした骸兵たちが、
リュカへと襲い掛かった。
チョールトの命令を受け、チェーレブ隊・副隊長の骸兵『ヂェーモン(鬼)』は、
『皆殺しだ! 女子供や老人といえど、容赦なく殺せ!』
まるでごちそうを前にした、飢えた野獣のような、歪んだ笑顔で叫んだ。
が、ヴァンコ村に入り込んだ一隊に、
いきなり、何者かからの砲撃が襲い掛かった。
『!?』
立ち止まったヂェーモンが。その何者かへと目を凝らす。
『誰だ! 出てこい!』
しかし、砲撃した者の姿はない。加えて……ヴァンコ村の、村人たちの姿も無い。
『おのれ、どこのどいつか知らぬが……小癪な真似を! おい、進め! この程度の砲撃で狼狽えるな!』
ヂェーモンが発破をかけるが、
「……はーっ!」
いきなり建物の陰から飛び込んできた、『彼女』の蹴りが、一人の骸兵に直撃し、吹き飛ばした。
『彼女』……黄下・泉(リターナーの符術士・g08097)は、防寒具に身を包んだ、女子高校生。
身構えた彼女は、
「いくよ! あたしが相手だ!」
雄々しく、言い放った。
続き、近くの廃墟の陰からは、
「……こちらに注意を向けられたようだな。さて……」
ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)が、隠れつつ、骸兵たちの迎撃に当たっていた。
「血に飢えた、野獣と変わらん者達……君たち自身の血をもって、その飢えを満たすがいい」
ここに、骸兵部隊『チェーレブ』と、ディアボロスたちは、激突した。
戦いの熱気に当てられたかのように、白き霧が周囲に立ち込め始めていた。
●悪魔の前に、戦士が立つ
真九郎は、腰に下げた大小二振りの太刀を抜き……両手に構えた。
ナイフで切りかかる骸兵たち。その敏捷な動きは、まるで忍者のよう。片端から切り込み、切り捨てるも、数が多く、単騎での突破は困難。
副官のベースには、聖も苦戦していた。他の骸兵よりも敏捷なのか、ナイフの突きが普通より素早い。
同じく副官のウブイーリに、修は手こずっている。彼女はナイフを用いるが、それに伴い蹴りを、拳を振るい、格闘技に近い戦い方をしていたのだ。東洋の拳法で言うところの「鉄山靠」のように、背中からの打撃技も放つ。
それを受けて、なんとか地面を転がり立ち上がる修。おそらく一対一の、サシの戦いならば回避し反撃も出来たろう。が、今回は相手が多すぎ、なおかつ……なじみのない構えの格闘術に近接戦闘術。三人とも、対処するので精一杯だった。
不意に、クラードビッシェが、
『……「イェーズカ」』
「!」
血のオーラを足場に急接近し、そのまま……、
真九郎の死角、真後ろに回り込み、斬り込んだ。
「はっ!」
修が防御しなければ、背中に一撃を受けていたに違いない。
『……ふん、やりおるな』
「……アンタもな」
「かたじけない、修殿!」
背中合わせに立つ、真九郎に修。そして、聖。
「……思ったより、素早いですね」
骸兵を観察しつつ、聖は呟いた。
スピードだけではなく、三次元機動……上下の空間も用い、複雑な動きで翻弄してくる。
簡単に、対処は出来ないだろう。
「……けれど、簡単な事などこの世には無く……簡単ではなくとも、対処ができないわけじゃあないです」
ベース、ウブイーリ、そしてクラードビッシェ。
三人に対し、その手に握るデッキブラシを構える聖。
真九郎と修も、それぞれが、
「うむ、聖殿。それがしにも見えてきた、彼奴等の用いる、術の理を!」
両手の『剣』と、
「俺もだ。万物を掴む、己の五体にて……勝機をも掴んでみせる!」
両腕の『拳』とを、構えた。
ガッ、ガッと、刃が弾ける音が響く。
跳躍し、空中から襲い掛かる骸兵たちを、リュカは迎え撃っていた。手の大鎌『Pieta』の柄と刃とで、骸兵たちのナイフの刃を受け止め、それを弾き飛ばすリュカ。
「文官ゆえ、戦いは不得手ではございますが………」
涼しい顔で、リュカはそう述べる。それを聞き、チョールトは歯噛みした。
(『……戦いは不得手? 何をほざくか! 文官どころか、百戦錬磨のコサック兵以上だ!』)
実際、こちらからリュカへの攻撃は何一つ当たっていない。切りかかった骸兵は、全てあの大鎌に防がれ、切り払われ、
騎馬『ビーマイナー』が駆け、その蹄に蹴散らされていった。
馬そのものに斬り込んだ骸兵たちは、前足の蹴りと、後ろ脚の蹴り上げで、顎や額を砕かれ、胸部に打撃を受け、文字通り蹴り飛ばされる。彼の馬は、華麗で美しいだけでなく……力強く、逞しくもある。まるで虎や熊すらも倒せる戦馬。
それだけでなく、馬に対しての攻撃はリュカ自身が受け止めてもいた。まるで『愛馬への攻撃は、全て防ぎとうございます』とでも言いたげに。
『……待て! 下がれ、お前たち』
チョールトが、部下たちへと命じる。が、既に半数以上が倒れていた。
『やってくれたな、リュカとやら。だが……チェーレブ隊を代表し、謝罪する。貴様ほどの戦士の力量を見誤っていたのは、こちらの落ち度だ。獲物として十分、私自身が仕留めてやる』
「ご丁寧に、ありがとうございます。できれば貴女、そして彼女たちも、これ以上その手を汚さぬように致したく思います」
『あいにくだが、それは出来ぬな。血の汚れは、我らを飾る化粧にして、我が快楽。止めたくば、その力を以て止めるがいい』
言い放ち、チョールトはナイフを構える。
『いくぞ! 「ディマンタシュ」!』
言うが早いが、血のオーラを爆発させ、
「……?! 早い……!」
チョールトは、リュカの懐に接近し、その刃を、
彼の白肌へと滑らせ、切り裂いた。
周囲から切りかかる、骸兵たちのナイフの刃。
その無数の白刃を、泉は受け止め、弾き、
「はっ! やあっ!」
カウンターで、拳や蹴りを食らわせる。
『なにをやっている! 相手は一人! 一斉に攻撃しろ!』
と、集団でヴァンコ村を縦列するほどの数が、泉に迫ったが、
「……一斉攻撃? そんなことはさせない」
建物の屋根に上ったミリアムからの、『アナイアレイション』が、密集している骸兵たちへと再び放たれた。
街道の道路表面が吹き飛び、それとともに骸兵たちも、十数名が再び一挙に吹っ飛ばされた。
だが、
『……なるほど、先刻からどうも怪しいと思ったら、サポートする仲間がいたか』
副隊長のヂェーモンは、アナイアレイションで吹き飛んだ部下たちを見て、そこからミリアムの存在に気付いていた。
「……見つかったか」
「って、見つかっちゃった? もう少し時間がかかると思ってたけど」
『侮ってもらっては困るな。……ならば、全力で行かせてもらおう!』
ミリアムに、骸兵の部下たちが大勢で、
そして泉に、ヂェーモンが数人の部下を伴い、突撃した。
「ほら、私はここだ……今度は、うまく狙えよ」
13式駆逐狙撃銃で狙い撃ちしつつ、木々の間をすり抜け、村から離そうと試みるミリアム。しかし、
『狙う? いいや、狙わない』
『単騎に対しては、数の暴力でねじ伏せる!』
骸兵たちが、一斉に……『放った』。
「! これはっ!?」
森林の一角にある、大きな木。距離を取ったミリアムは、それに登り、そこで銃の狙いを付けたが、
『「ツピェーザザ」! 猟犬ども! 敵に食らいつき、切り裂け!』
骸兵は、血のオーラから猟犬を放ち、それとともに突撃したのだ。
すぐさま、狙撃銃で端から撃ち抜くミリアムだったが……、
「……後ろに、骸兵たちが回り込んだ
……!?」
ミリアムは知った。自分が登っている木の前後を、骸兵と猟犬とで挟み撃ちにされた事を。まだ距離はあるが、じきに木に迫られ、上って来られるだろう。
『前からの猟犬どもを撃てば、後ろの我らが迫り切る!』
『後ろの我らを撃てば、前の猟犬どもが迫り噛む!』
『お前の負けだ! 覚悟しろ!』
両側から迫られるミリアムを見て、思わず、
「ミリアム!」
叫んでしまった泉。が、
『よそ見とは余裕だな、小娘!』
泉はその隙を突かれ、二匹の猟犬とともに、ヂェーモンが同時攻撃を放ってきたのを知った。
「……しまった!」
『私と二匹の猟犬! この連続攻撃、かわせるか!』
二匹の猟犬の牙が同時に迫る。それを、泉は悟った。
●悪魔の騎士たち、雑兵を蹴散らす
『サムライ! お前から先に殺す!』
ベースのナイフは、確実に……真九郎を捕えていた。
が、その骸兵は。他の二人を軽視していた。
「……『鉄禍ノ乱』」
真九郎へ接近した瞬間に、ベースは聖の間合いに入っていた。気の網で探知し、そのタイミングとともに聖は、相手の首根っこを掴む。
『!? なんだと!』
そのまま、ベースを地面へ叩きつけ、
『がっ……はあっ!』
首を捻り、手折った。
「『錬結気功「鉄禍ノ乱(テッカノラン)」』。攻撃は既に、見えておりました。故に……多数でも対処できます!」
ベースは、聞いていなかった。そのまま呻くと……事切れていた。
『おのれ! よくも副官を!』
『てめえの首も折ってやる!』
多数のナイフが、周囲から襲い掛かるが、
「言ったはずですよ、攻撃は見えていますと!」
長柄のデッキブラシが、彼女らのナイフを受け、薙ぎ払い、
「……はっ!」
スクレーパー……汚れをこそぎ落とす道具を、刃物のように切り付ける。
『ふん、ベースのマヌケが。あたしは違う! お前を奴のように殺してやろう!』
ウブイーリが、修へと駆け出した。
「『ディマンタシュ』!」
一気に上昇した、パワーとスピードの斬撃の連弾が、修に放たれる。勝ったとばかりに、笑みを浮かべるウブイーリだったが、
「……!」
修もまた、疾駆した。ディマンタシュの攻撃をかわし、踏み込み、
「……『幻陽(ゲンヨウ)』」
迫る骸兵・ウブイーリの脅威を、修は拳と足さばきのみでそれをかわし、打ち払い、
それと同時に、白打にて。修はウブイーリを撃つ。
『!』
ウブイーリの身体が、くの字に吹き飛んだ。攻撃したと思ったら、既に攻撃が放たれ、強烈な打撃が、彼女を打ち据え終えていた。
『……な、なんだっ……何が……おこっ……た……』
「果て無き修練にて身に付けた、戦いの技だ。……墜ちな」
ウブイーリは聞いていなかった。そのまま崩れ落ち、自身がマヌケ扱いしたベースと同じ場所へと、引導を渡されていた。
『…………貴様ら……』
クラードビッシェは、ここに至り、ようやく……己の立場を理解した。
真九郎は、
「修殿、聖殿。周囲の骸兵たちの始末を御頼み申す。それがしは……クラードビッシェを」
二刀を構えた。それを見て、クラードビッシェもナイフを手にして構え、
『始末? ほざくな! お前だけでも片付けてやる!』
突進した。
真九郎も駆けだしたが、
『ばかめ! 死角から切り裂いてくれる!』
クラードビッシェは『イェーズカ』で、血のオーラの足場を用いて、真九郎の目前で跳躍。
真九郎を動揺させ、幻惑するように周囲を飛び回った。
『もらった! 死ねええッ!』
飛び回り、真九郎の真後ろへと回りこんだクラードビッシェは、
背中を向けた彼に、ナイフで切りかかった。しかし、
「その技、忍びの使う猿飛の術理と見抜いている! そして……それがしには既に凡策!」
そんな攻撃など看破したとばかりに、クラードビッシェのナイフの一撃を二刀の片方で受け止め、弾き、
『! ぎゃああああっ!』
もう片方の刀で、切り捨てた。
「『二天一流』。切り捨て、御免」
袈裟懸けに斬られたクラードビッシェは、そのまま地面に転がり、動けない。
『……ば、莫迦め。これからが、本当の……地獄……だ……』
そのまま、息を引き取る骸兵を、
真九郎は、奇妙な思いとともに、見つめるのだった。
チョールトのナイフは、
ほんの僅か、リュカの頬に一筋の傷を付けていた。
「……やりますね、マドモアゼル」
『……そちらもな。こっちがもっと踏み込んでいたら、首が飛んでいた』
チョールトは、自身の首筋に傷を負わされていた。
「……そろそろ、雌雄を決したいと存じます。勝負いたしましょう、マドモアゼル」
と、リュカは大鎌を構えた。
「私の刃と、貴女の刃、どちらが鋭いか……」
『いいだろう。決着を付けてやる』
リュカに対し、正面から、チョールトはナイフを構え、立った。
「……チョールト様、その御首……両断して御覧に入れましょう」
『リュカと言ったな? その言葉、そっくり返そう。いざ、尋常に……勝負!』
両者は駆け出した。チョールトは『イェーズカ』であちこちに跳躍し、リュカを混乱させようとする。
『……ああ、一つ言い忘れていた』
「?」
『……全員かかれ! 全方位からの同時攻撃で、この気障野郎とその馬の命を刈り取ってやれ!』
チョールトの命令で、全員がイェーズカで動きつつ、リュカを囲った。
『逃げ道は無い! この数をどうやって倒す! 私の勝ちだ!』
哄笑とともに、チョールトは他の骸兵とともに、刃で襲いかかった。
「……残念、ですね」
そんな彼女らに、リュカは、
「……すでに貴女は……いえ、貴女たちは、負けておりましたのに」
言いつつ……優雅に、馬の手綱を操った。
「『我が愛しきロ短調(テンペストーソ・ビーマイナー)』。参りましょう、そして……蹂躙なさい、ビーマイナー」
手綱の導きの儘に、しなやかに、軽やかに、そして……美しく、
リュカは尾花栗毛を、愛馬を操り、戦場を駆けた。
鉄蹄は、無数の骸兵たちの攻撃を歯牙にもかけず、疾風怒濤に踏みつけ、踏み込み、踏み砕く。
そして馬上の美丈夫は、手にした大鎌を振るい、骸兵たちの命を刈り取っていく。
『なっ? なんだとぉっ!』
リュカには、そしてビーマイナーには、傷ひとつ与えられない。
『ええい、いちかばちか!』
チョールトが、渾身の一撃を切り付けんと、超高速で踏み込んだが、
『え?』
違和感に気付いた。既に……自身の首は、両断されていたのだ。いつその刃が放たれ、いつ切り付けられ、いつ首を刎ねられたのか。まったく感知できなかったのだ。
そして、長くも短い一瞬の間に、
その場に居た骸兵たちは、全員が例外なく、鎌の刃から死を与えられていた。
「……マドモアゼルの皆様」
リュカは、静かになったその場にて、ビーマイナーの背中の上で、
「……ご機嫌よう」
うやうやしく、一礼した。
●雑兵装う、勇者の勝利
「……狙う、そして……」
一瞬、ミリアムは躊躇した。自分の前後のどれを狙えばいいか迷ったが、
「……撃つ!」
打つべき相手を決め、狙い、三発の弾丸を放った。
『ぐはあっ!』
「ミリアム!? ありがとう!」
狙撃されたのは、泉に迫っていた骸兵の副隊長・ヂェーモンのこめかみ。そして、泉に迫っていた猟犬二匹。
狙い撃ちされて、その勢いで地面を転がる。猟犬も、そして、
『副隊長?』
『なんだと、副隊長が?!』
ミリアムに迫っていた骸兵たちも、一瞬気を取られた。猟犬たちも、浮足立つ。
「……隙あり!」
そこへ、泉が接近する。
「……戦場では、一瞬の隙が死を招く。初歩の初歩です」
ミリアムも、再び己の火器を解放する。
「……――解き、崩す」
泉は、『符』によって調律した術式を、己の四肢へと宿した。それを以て、残りの骸兵たちへと躍り出て、彼女らに拳を叩きこむ。
『させるか! ……え?』
泉の四肢が、拳や蹴りが、衝撃とともに骸兵を分解していく。
「再編術式『〈有為転変〉(ウイテンペン)』。悪鬼外道を、叩いて砕く!」
泉が骸兵の最後の一群を倒すとともに、ミリアムも、
「これで……終わりだ!」
再三放った『アナイアレイション』で、猟犬たちの群れを一掃した。
『……こんな、馬鹿な……』
その様子を見つつ、ヂェーモンは、
悔し気に呻き、事切れた。
「大勝利!」
雄々しく、勝鬨の声を上げる真九郎。
集まったディアボロスたちも、同じく勝利した事を互いに述べていた。
「……これで、終わったな」と、修。
「……うん、そうだね。終わった終った。あー、寒い寒い」泉は、寒そうに手をこすり合わせる。
「……やれやれ、それじゃあ帰ってお掃除の続きでも」聖もまた、気が抜けた様子でそんな事を口にする。
「周囲をざっと見まわったが、敵はもういない。殲滅したと見ていいだろう」ミリアムは逆に、緊張が取り切れていない様子。
「それは何よりです。では……撤収しましょうか」リュカは自然な口調で、相槌を打つ。
(「さて、ここからが本当の勝負、といったところでしょうね」)
相槌を打ちつつ、恐らく遠くから自分たちを見ているだろう、ラスプーチンの手下たち……今回の事態の、黒幕たる存在たちの事を、リュカは考えた。
ここで自分たちが、戦いを終えて撤収したと『思わせる』。それが重要。
(「どんな企みだろうと、乗らないわけにもいかない」)聖と、
(「ったく、底意地の悪い事を考えるもんだな」)泉も、警戒を怠っていなかった。
(「なれど、未だ我等に優位有り。その策、押し返してくれようぞ」)
真九郎もまた、ミリアム同様に周囲を見た。敵の姿はない。
だが、どこかに潜んでいるはず。必ず討ち取ってみせよう。真九郎はそう誓うと、偽りの撤収準備を、皆とともに始めるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【スーパーGPS】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【照明】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
マリアベル・フィレンツァ
「我は幸福と快楽をもたらすモノである」
このキャラは、「我は幸福と快楽をもたらすモノである」というセリフを繰り返し発言して、味方には怪訝がられ、時には分かってもらう。
敵からはイラつかれ、時には会話が成立しているように見えるおかしみを狙ったキャラです。
溢れ出すサキュバスの妖気。
「寒さ避けである。男女ともに肌を寄せ合い、焚火に温もりを求めるがよい」
一般人を装って村に入る。
ただ瞳に狂なるを宿し、人々にレンガ造りの家の中で裸になって互いの生きる熱をむさぼれという。
人心のタガを外し、敵を誘い待つ。
「我は幸福と快楽をもたらすモノである」
産めよ殖やせよ。死ぬより多くの生命を宿せば人類は滅びぬ
下弦・魔尋
助けたところを後で襲撃で無駄にしようとか悪どい事考えるよねー
ふふん、でも予知されたからにはそうはいかない訳だね
忍者としてはこういう潜入任務はお手の物だよ♪
まずはロシアっぽい扮装をしてと
監視はされてるだろうけど迎撃してるディアボロスとは別人だから気付かれにくいよね
念の為【モブオーラ】で注目されにくくはしておくね
街に入ったら襲われた集落からなんとか逃げてきたって事で
不安な少年って体で住居を提供して貰う
生活に必要って事で件の雑貨屋さんに多く顔を出して
住民の情報や街の地形や立地について聞いたり
日常についても色々聞いておこう
後の襲撃に備えて建物の配置や攻め込まれそうな場所とかも調査しておくよん♪
黄下・泉
アドリブ・連携歓迎
ここの環境なら比較的紛れやすそうだな。行商人にでも扮するか。遠回りして街道へ。
新宿島で調べておいて、現地風の服やこの時代でも大丈夫な品用意しておこう。
手芸品とかちょっとした薬に嗜好品……確かもうチョコレートも有るよな?
全体的にちょっと高級っぽく見えるけど庶民で手が届く感じのにする。
途中、無理して進んだから、いい加減体を休めたくてさ。天候読み違えて危うく凍死するトコだった……
宿とか逗留させてくれる家に心当たりない?とかお店の人に聞いてみよう。
食い扶持は何とかするし、紹介のお礼にもっと先で卸すつもりだった品も出すよー、と。
後は村に馴染めるように色々お手伝いしつつ噂を拾おう。
藤原・東子
【ハウスキーパー】にて過ごしやすい環境を確保
外部に気づかれない残留効果であれば、との意図でござりまするが
拙ければやめておきまする
少しでも緊張が和らぎ、再度の襲撃にも落ち着いて対処できるのであれば幸甚にござりまする
敵の監視に悟られぬよう、雪中迷彩で白雪に紛れ村へと潜入
訪問後は一般人を装い……
家事や看病などをお手伝い致しまする
必要であれば閨も共に――
監視する者共から余所者と気取られぬためであれば、何でもこなしてみせましょう
そして、あえてクロノヴェーダには無意味で子供騙しに過ぎない程度の
動物や侵入者を知らせる鐘や笛を各戸に配布
本来なら役に立たないものですが――潜伏している我等の出陣には役立つでしょう
伊藤・真九郎
一旦撤収したふりをし、身を隠し衣装を変える。
武具や鎧具足は大きな頭陀袋にしまい、この世界の一般的な旅装束に着換える。
旅商人に扮して集落を訪れよう。
【プラチナチケット】を使い、村の関係者と認識させる。
「旦那、久しぶりだな。変わりはなかったかい?」等と、友人と語らう時の様な気さくな口調と態度で声をかける。
以前何度か訪れた隊商の一員を演じよう。居たか居なかったかあやふやな程度の関係者がプラチナチケットも効きやすかろう。
単独で村々を回り、売れそうな商材や仕入れられる産物の情報を集めている。暫く滞在させて貰うので良しなに頼む。
その様な名目で、商店や農家や酒場を巡り、旧知として親交を深め溶け込んでいこう。
リュカ・テネブラルム
撤収して見せたからには戦は忘れてしっかりと休養いたしましょう
村の中を軽く見て回って村人に声などかけてみましょうか
もし、お困りごと等ございましたら、何かお力になれればと
無事の戦勝で気分が宜しゅうございますので、と、寛いだ雰囲気を演じることも忘れずに
敵を欺くにはまず味方から
とは言え、何をお手伝い出来ますことやら…あぁ、怪力無双の残留効果をお借りすれば、まぁ多少は…?
することが無ければバイオリンでも弾いて皆様を楽しませましょうか
いえいえ、お礼等結構でございます
ですが、いえ、もし宜しければ私の愛馬に与える飼葉を少々分けて頂きましても?
良かったですね、ビーマイナー
…痛い!噛まないでくださいませ…
神那岐・修
戦まで潜む段か
力仕事でもするとしよう
適当な防寒具を着込み、頭も隠して現地人に扮装
訳あって旅の途中に通りかかった若者、位を装い暫しの逗留を願う
襲われる集落も他にあろうし、語らずとも何となく「察して」くれるかもしれん
了解を得られれば滞在中は除雪や薪割りなど集落全体で必要そうなことを率先して実行
ついでに監視の目があるかそれとなく確認
あるなら方角に大まかな目星をつける
気配を感じるられるほど近いなら方角も
特に夜陰に紛れて近づく動きがあるなら夜襲の可能性も高くなるだろう
働く時はあくまで一般人の範疇で力持ち、程度に止め不審がられないように
※アドリブ・連携歓迎
ミリアム・ヴォルナー
一度、退いたように見せるか
ならば、行商人の一団や旅人に見せかけるのがいいか
とりあえず、村から一度離れ、改めて街道等から村に入ろう
私は村を襲われ、命からがら逃げてきた避難民という感じで、この時代の普段着っぽい格好に防寒着、外套で顔を隠し、村に入り込む
村に入ったら、商隊等に扮した仲間を手伝い、ボロが出ないように
村に来た理由を聞かれたら、
「村を襲われ、亭主と子どもが殺されて……命からがら逃げ延び、商隊に助けられた」
とでも言っておこう
実際、戦い始めた理由だったからな
世間話程度は対応し、聞き役に徹する
スパイやクロノヴェーダに目をつけられた仲間には、【光学迷彩】を施し、廃屋や水車小屋等に身を隠して貰おう
奉利・聖
それでは、次の敵襲が来るまでは大人しくしておくとしましょう
身体はある程度休めますが、精神的には常に気を張っておかないと
何が起きるかは分からないですからね
ローブを着て、素性を隠してみましょうか
申し訳ございません…顔に醜い傷が付いているのです
顔を晒すことはできませんが、どうかご滞在を許して頂ければ
代わりと言っては何ですが、私は放浪の身
各地で伝え聞いた面白い話をさせてもらいましょう
実際、色々なディヴィジョンで経験したことがありますし
それを少し、ロマノフ風に脚色してみれば違和感もないでしょう
どうぞ茶のお供にでもしてくだされば
…傷なんて無いですけど、一応タトゥーがありますのでね
それっぽい理由でしょう
●再び、村に
「……というわけで、道中、無理して進んだからさ。いい加減体を休めたくてね」
「……旅の方、ですか?」
「うん。黄下・泉(リターナーの符術士・g08097)っていいます。ええと、あなたたちは……」
彼女は今、村の入り口付近で出会った、夫婦らしき二人に挨拶し、言葉をかけていた。妻の方は身重らしく、お腹が大きくなっている。
「僕は、ボリス・ゴルベフ。こっちは妻のルシア。ヴァンコ村にようこそ」
「大変でしたね、行商人さんですか?」
ルシアに言われ、泉は頷く。
「天候読み間違えて、危うく凍死するところだったよ 宿とか、逗留させてくれる家に心当たりない?」
「ああ、それなら……」
「この先に、『アントンとイヴァンの店』という雑貨屋があります。その隣が、私たちの経営する宿屋『メドヴェージェフ亭』です。もしよかったら……」
「じゃあ、お邪魔させてくださいね。もちろん払うものは払いますよ……後ろの皆さんも、良いかな?」
よし、村への潜入はできそうだと、泉は心の中で呟いた。
そして、旅人を装った三人へ顔を向けると。互いに頷き合った。
「じゃあ、イズミさん。案内しますね。……後ろの方々は、お連れさんですか?」
ボリスに問いかけられ、
「ええ。私は、ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)と言います」
行商人のような姿をした女性と、
「……僕は、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)です」
ローブを着込み、フードを被った男が挨拶。そして、
「……神那岐・修(紫天修羅・g08671)と申します」
言葉少なに、頭を下げた。
「あら、今日はお客がいっぱいね。さあ、ウチの宿屋にいらっしゃい」
ルシアが、歓迎の意を示すかのように、微笑んだ。
次の日。
「ん? 誰だ?」
ワヌーシカ・ベズーホフ。亡き父、アントン・ペトロヴィッチの友人にして、ユーリの今の父親のような存在の老人。
彼と一緒に、ユーリが『アントンとイヴァンの店』の店頭の掃除をしていた時、ワヌーシカが『彼』を見つけた。
「ワヌーシカ、お客さんでしょ。ええと……」
「やあ、久しぶりだな……それがし……じゃなくって、俺だよ。変わりなかったかい?」
そう言って、彼……伊藤・真九郎(人間の戦国武将・g08505)は挨拶を。
「……ああ、あんたか。ええと、ずっと前に何度か、ヴァンコ村に来た隊商の……」
「そういえば……父さんも会ってたような」
二人は、親し気な表情を向けてきた。それを見て、真九郎は逆に、若干の『罪悪感』を覚えていた。
(「……騙すようで申し訳ない。だが……これも皆を守るため。どうか……許されよ」)
プラチナチケットの効果は、通常通りに発揮できている。それを用い、真九郎も親し気な表情を浮かべ、
二人へと近づいていった。
「やれやれ、働かざるもの食うべからずとは言うが……創作の時間が取れないのが厄介だなあ」
若き作家、そして元貴族のデミトリ・バカーリンは、『メドヴェージェフ亭』の裏、馬小屋の掃除をしていた。作家では食えないため、こうやっていろいろ働いて日銭を稼いでいる、との事。
「にしても、助かりましたよ。ええと……」
「……リュカ、リュカ・テネブラルム(彼岸へと愛をこめて・g05363)と申します。そして……こちらはビーマイナー」
サウンドソルジャーの、黒髪の美青年。彼はデミトリの作業……壊れた馬小屋の修理を手伝い、それが終わったところだった。
「ああ、リュカさんでしたね。失礼しました。さ、ビーマイナー。たんとお食べ、飼い葉だよ」
と、デミトリは飼い葉の入った大きな木桶を、ビーマイナーの前に置いた。
「それにしても、ビーマイナー。実にいい馬だ」
「……ありがとうございます、そう言っていただけると、私も嬉しいです」
愛馬の賛辞、それも心からの賛辞を聞き、リュカも嬉しさを感じていた。目前の青年は、やや抜けたところはあるが……少なくとも誠実さはあるようだと、リュカは感じ取っていた。
「……均整がとれた体つきに、しなやかな四肢。それでいて、逞しさも有した体中の筋肉……ああ、僕の中の創作意欲が、刺激されますよ」
デミトリは、芝居がかったポーズを取ると、詩を朗読し始めた。
「……馬よ、馬。汝の名、ビーマイナー。轟々と、無限の夢に疾走す。
いかなる神々の手または眼が、美しきその身体を造り得たか。
いかなる奈落の底、また天空の園にて、そなたの心の蔵が打ち始めたか。
いかなる女神がその鬣を整え、いかなる金床がその蹄を鍛えたか……」
などと、どこかで聞いたような即興詩が、馬小屋に響く。
そこへ、
「おいデミトリ! サボってないで働け! すまんな、お客人。ちょいといいかな?」
行商人のゲンナジー・ガヴリーロフがやってきた。
「私ですか? はい、なんでしょう」
「あんた、楽器が弾けるそうだな。すまんが、宿屋で何か一曲、頼まれてくれんか?」
「バイオリンで良ければ、構いませんが……すみませんビーマイナー、ちょっと離れる事になります……痛い! 噛まないでくださいませ」
嫉妬するかのように、愛馬から噛みつかれたリュカは、
ゲンナジーに連れられ、宿屋の方へと向かっていくのだった。
そして、また次の日。
「……」
若干、傷んだ服を着た少年が、ヴァンコ村へと入り込む。
彼は遠くから、『視線』を感じていた。そちらの方へ、さりげなく顔を向け、自分への視線の元をちらりと見る。
(「……やっぱり、見張ってるね。でも……」)
そちらの思惑どおりには、行かせないよ♪ それに、前の戦いには参加してないからね、ボクは!
下弦・魔尋(淫魔導機忍・g08461)は、そのまま、
静かに、村へと入っていった。
そして、雪中迷彩を用い、雪に紛れて入り込む者が、もう一人。
「……潜入に、成功したでございます。では、次に……」
藤原・東子(水鏡に語られし・g08398)は、村の中、広場へと向かった。
広場には、既に一人、入り込んでいる者が。
「我は幸福と快楽をもたらすモノである!」
マリアベル・フィレンツァ(慈愛深きサキュバスの女王種・g09069)が、広場にてそんな事を口走っていた。
「かかる寒さを避けるため、いかなる行動をすべきか。男女の肌のぬくもり、そして焚火が、もたらされるべき幸福と快楽には必要である!」
彼女の台詞を聞き、
「……あの美女、何言ってるんだ?」
「さあ。行商人のお仲間らしいけど?」
「旅芸人か道化かな? まさか、夜伽の?」
「でも、中々美人さんだべなあ」
「金髪、きれいだ。ウチもああなって旦那に見られてぇなあ」
なぜかやんやと、ウケているマリアベルを見て、東子は、
「……さて、備えましょう」
他の村人たちの集まる場所へ向かい、紛れ込むのだった。
その日は、救護院の戸を叩き、そこに泊めてもらった東子だった。
後に、マリアベルも泊まり。
「寒さ避けである。男女ともに肌を寄せ合い、焚火に温もりを求めるがよい」
と、裸で男女抱き合えと勧めた事を知るのは、後になってからであった。
●そして、馴染み
さらに、次の日。
リュカは、今日もバイオリンを披露していた。ここにいる間、いつしか『暖炉前で、皆にバイオリンを聞かせる』ことが、日課になりつつあったのだ。
演奏を終え、
「……ご静聴、ありがとうございました」
リュカは、一礼した。
宿の中、客たちがくつろげる大きな居間。
そこには、大きな暖炉があり、火が入れられていた。燃え盛る暖炉からの熱は、客たち、そして従業員たちを、安堵させる。
「美しい調べでした。見事です」
「ああ。昔に首都で聞いたコンサートのようだった」
ユーリとワヌーシカが、賛辞を贈る。
宿屋『メドヴェージェフ亭』は、今日もユーリとワヌーシカが出向き、手伝っていた。
「ありがとう、ユーリ。助かるわ」
「ワヌーシカも、ありがとうございます」
「いいってことよ、ルシア。元気な赤ちゃん、産んでもらわないとね」
「遠慮はいらんぞ、ボリス。わしはお前の名付け親だからな。親が息子とその嫁を手伝って、おかしい事など無かろう?」
「そうよ、遠慮しないで。……ねえ、ミリアムさん。あなたもああいうコンサート、聞いたことあるかしら?」
ユーリが、ミリアムに声をかけた。
「ええ、あります。数えるほどしか行った事はないですが」
「どちらの街で? そういえば……行商人との事だけど、どちらからいらしたの?」
「いえ、その……」
「? どうかしました?」
「……村を襲われ、亭主と子どもが殺されて……命からがら逃げ延び、商隊に助けられました」
「あっ……ごめんなさい。失礼な事、聞いてしまったわね」
「いや、気にしないでほしい。それより、何か手伝えることはないですか?」
「え? でも、お客様なのに……」
「身重の女性がいるなら、手伝わせてほしい。手は多い方が良いでしょう?」
「……それじゃあ、こちらの鍋一杯のジャガイモの皮を剥いてくれるかしら……」
と、彼女たちは台所へ。
「あ、あたしも手伝います」
泉も、それについていく。
「はっはっは。女性同士、中が良くてなによりだわい。……おや?」
ワヌーシカは、ローブを着たままの聖へと声をかけた。
「そちらの若いの、さっきは雪かきを手伝ってくれて助かったよ。ローブが濡れて寒いだろう? 脱いで、こちらにかけておくがいい。スグに乾くぞ。遠慮はいらん、ほら……」
善意で言ってくれている、それが感じられ、聖は少し罪悪感を覚えた。
「申し訳ございません……顔に、醜い傷が付いているので」
そう言って断るが、
「ああ、そうだったな。なら……代わりにこっちのフード付きのコートを貸そう。乾かしている間にこれを着て、傷を隠すといい。濡れたローブを着たままだと、身体に悪いし、傷にもよくないだろう?」
ワヌーシカは、たっぷりしたコートを差し出してくれた。洗濯され、綺麗に畳まれている。
「いえ、僕は……」
「それと、傷に良く聞く薬草もある。火傷か? 切り傷か擦り傷かな? わしは昔、医者をしててな。もしよかったら、傷の具合を診させてはもらえないか? ああ、隣の部屋で診るから、他の者には見られないぞ」
(「ま、参りました……」)
若干おせっかいだが、その言動には裏は無く、心底心配そうに気遣ってくれている。その事を、聖は感じ取った。
(「この様子なら……『実は顔のタトゥーを隠すため』と正直に言っても、受け入れてくれるかもしれませんね」)。
しかしローブを脱いでしまっては……奴らがいきなり襲ってきた時に、対処できなくなるかもしれない。身体を休めても、精神は常に鋭敏に、気を張っておかねばならない。
結局、「このローブは、亡き家族や友人の遺品」「脱ぐのは人の眼が無いところでと、生前約束していた」と言い訳し、なんとか納得してもらった。
「……お気持ちだけ、受け取らせていただきます。代わりと言ってはなんですが……」
と、暖炉の前の椅子に座った聖は、
「……私は放浪の身。各地で伝え聞いた、面白い話をさせてもらいましょう」
彼の申し出に、ユーリとルシアは、
「わ、それは楽しみ!」
「どんなお話が聴けるのかしら。冒険? 恋愛? 怪談かしら?」
と、食い付いてきた。
「ははは……おや、暖炉の薪が少なくなって来たな。取ってこよう」
と、ボリスは外へと出ていった。
「やあ、ボリス。彼を見てくれ。すばらしいよ!」
薪置き場では、デミトリとともに、修が薪割りをしていた。
「いや……逗留を許してくれた礼だ。これくらいの事はしないとな」
と、ボリスとデミトリから、顔をそむける修。
「でも、君が来てくれて大助かりだよ。そういえば昨日も、ユーリの店で大きな荷物を運んだり、荷下ろしや棚卸もしてくれていたよね?」
ボリスからの言葉にも、
「……困っているようだったからな」
それだけ言って、木を台の上に置き、斧を振りかぶると、
振り下ろし、刃を打ち込んだ。
「旅の途中で、このヴァンコ村に来たみたいだけど、どこから来たんだい? 家族や友人たちはいるのかな? 仕事は何を……」
デミトリが色々と聞いてくる。それにややうんざりしかけた修だが、
「おい、デミトリ! ……それ以上は、ぶしつけだよ。襲われた集落の事……聞いたことがあるだろう?」
ボリスが、止めてくれた。彼のその言葉に、
「え? あ……そうか……無礼だった。ちょっと僕は、好奇心が強すぎるみたいで、いつもこうなんだ。謝罪するよ。悪かった」
引き下がるデミトリ。
(「……察して、くれたか」)
修は心の中で安堵しつつ、再び斧を振り下ろす。確かに彼は、デミトリは、ぶしつけでお調子者だが……決して悪い奴ではない。作家志望と言っていたから、好奇心が強すぎるのだろう。
それより……本来の任務も進めないと。薪割りしつつ、周囲に、村の外側に目を向ける。
ちょうどここは、ヴァンコ村の南側に建っており、村の外側も見通せる。
それとなく、そちらに目をやるが。
(「……監視……しているな」)
僅かで一瞬だが、日光の反射光が……村の外、遠く離れた常緑樹の森林付近に見えたのだ。
(「方角は……南東から南南東。距離はかなりあるが……」)
気配は、流石に遠すぎて感じられない。夜に紛れての接近も可能だろう。夜襲も気を付けなければならない。が……かなり遠い。もしも連中があの森林に潜み、夜襲を仕掛けるとしたら。今から進軍しなければならないだろう。
ふと、ボリスが、
「オサム、もういいよ。君も休むといい。薪を運ぶのを手伝ってくれないか? ……ああ、デミトリ。あのヒジリという彼が、面白い話をしてくれるそうだよ。作家志望者なら、興味あるだろう?」
「本当かい? こうしちゃいられないな!」
と、薪を手に宿の中に駆け込むデミトリ。
「まったく……悪かったね、騒がしくて」
「いや、ボリス。賑やかなのは嫌いではない」
言いつつ、修は。
薪の束を抱え、宿の中へと向かいながら、発見していた。
自分が、「楽しい」と思っている事に。
●ここに、集い
最初にディアボロスの泉が来て、四日目。真九郎が来てからは、三日目。
真九郎は、『メドヴェージェフ亭』に付いた日から、
「知り合いに挨拶してくる」と、商店街へと赴いていた。
今日もまた、単独で村の内部を回り、知り合いを装っては話しかける。
「やあ、あんたは! ……ええと、久しぶりだな!」
「ああ、こちらこそ。景気はどうだい?」
「そうさな……っと、今日の仕事は終わりだ。酒場で一杯おごらせてくれ」
と、その商人は真九郎を酒場に連れ込み、色々と駄弁る。
(「なるほど、ヴァンコ村には襲撃者は来ていないが……離れた村では、襲撃された、か」)
「おい、誰と飲んでる……お前は……」
「なんだ、お前かよ。久しいな」
と、農家や酒場の親父などとも、旧知として親交を深めていく真九郎。
「ああ……売れそうな『商材』や、仕入れられる『産物』。それにそういったものの『情報』を集めている」
「そうか。しばらく居られるんだろう?」
「ゆっくりしていけ。酒はあるぞ!」
彼らの歓迎の笑顔。それを騙す事になるが……これも任務のため。
「……暫く滞在させて貰う。なので……良しなに頼む」
と、そこに。
同じく村に紛れ込んでいた東子が、小さな『鐘』や、『笛』を配っているのを見た。
「我は、幸福と快楽をもたらすモノである」
「ええと、ユーリお姉さん、いる?」
その頃、マリアベルと魔尋は、
ゲンナジー・ガヴリーロフに連れられ、『アントンとイヴァンの店』……の隣の、『メドヴェージェフ亭』にやって来た。
「あら、ゲンナジーさん。またお客?」
ユーリが出迎える。
「ああ。商店街で見かけたんだが、その子供……襲われた集落から、逃げて来たらしい。教会で泊めてもらい、宿泊費代わりに働いておった。なのでこっちの宿に来いと誘ったんだ」
それだけ聞いて、ユーリは察したような表情を浮かべると、
「そう……わかったわ、今日からはこの宿屋に泊まって。宿代の事は気にしなくていいわ、私が代わりに払うからね」
そう言って、招き入れてくれた。
「それで、その後ろの方は?」
「ああユーリ。その少年と一緒に居たんだが、妙な事を口走っててな。だが、彼女も襲撃に巻き込まれた者らしい」
「うむ、我は幸福と快楽をもたらすモノである!」
などとやってると、ルシアがそこに。
「……ふふっ、変な人。けど面白い人ね。もしあなたも泊まる場所がないなら、今日はうちに泊まりませんか?」
と、彼女もマリアベルを招いた。
「ルシア、またお客かい? さ、暖炉に当たって」
「今日は賑やかになりそうだわい。ゲンナジー、お前もボルシチ食っていけ」
ボリスとワヌーシカも、新たな客を歓迎してくれた。
そして、真九郎もまた、戻って来た。東子を連れて。
「……そして、その勇敢なコサック兵は、魔界の門から現れた侵略軍と竜を討伐。民衆はもちろん、司令官もそれを讃え、将軍の地位を与えると申し出ました。ですが彼は、『自分は一人の兵士に過ぎません』と、それを断り……今も魔界の門の前に立って、魔物が来ないように見張り続けている……との事です」
その日もまた、聖の語りは。
ユーリを始めとして、ボリスとルシア、ワヌーシカにゲンナジー、デミトリ。彼らを夢中にさせていた。
その脇で、
「初めまして……」
と、初体面を装いつつ、ディアボロスたちは、
バレぬようにと部屋の隅で話し合っていた。
●そして、誓い
「……ここ2~3日の間だけど。外に行って、主婦の人達に噂を聞いたら………南東の方の森に、何かが潜んでるっぽいって聞いたよ」
実際に見に行って、確かめたわけじゃあないけどね。……と、泉。
「かなりの距離があるから、猟師や薬草採りもほとんど行った事はないらしい。行っても、獲物も居なければ、薬草も、食用の草も見つかった試しがないと。しかし……」
真九郎は語った。ここ数日の間、遠目にではあるが、ヴァンコ村の住民たちは、森に『何か』を見たと。
「あ、ボクもそれは聞いたよ。それに……この村の形状や、建物の配置も調べてみたよん♪」
魔尋の言うには、このヴァンコ村は大まかに『Y字型』をしているという。
『Y』の字の形に、街道が南と北西と北東へ分かれており、その別れ道の二股部に広場と教会の聖堂。そこを中心に、レンガと木材の家が建てられているとの事。
村の周囲には、レンガ造りの壁が立てられ、外部からの襲撃者を防いでいる。が、『Y』の下線部。この宿屋がある周辺の壁は、一部が崩れていた。
「……だから、攻め込んでくるとしたら、南からだろうね」
「南の森以外は、北側や東西に隠れる場所は無いのでしょうか?」リュカが質問するが、
「ううん。北には山脈が見えるけど、そっちもかなり遠いし、東西はずーっと平原ばかりだし。何かが近づいてくると、必ず見つかるっぽいんだよねー……」
魔尋の言葉に、修も頷く。
「俺も、外で周囲を見たが、魔尋の言う通りだった。それに、森の方に何かが光るのを見た。遠目で、じっくり見る暇は無かったが……確かにあそこには、何かがいる」
「……だが、修君。森に連中が潜んでいたとしても、南側から攻め込むだろうか? 戦略や戦術としては、あまりにも予想されやす過ぎるようにも思えるが……」
ミリアムの疑念に、魔尋は、
「そうでもないよ。普通なら、ボクらディアボロスが潜んでいる事を踏まえて、あいつらも用心して作戦立てるだろうけど……今回はあいつら、ボクらが帰ったと思い込んでるんだから……」
「なるほど、反撃されても無意味。故に……というわけか」
ミリアムは頷き、皆も納得したように頷いた。
「でも、村の中にスパイや協力者は……」
再び顔をひそめるも、
「それは、多分ないと思う。この数日の間、この村に入って来た人間は、あたしたちだけで……出ていく人間は居なかったし……」
泉の言う通り、北東と北西の出入口からは、誰も出て行っていない。南側も同様。つまりは、スパイはいないか、居たとしてもディアボロスたちの事は気付いていない。そう考えるのが妥当だろう。
「……あの、それと」
東子が、付け加えるように言う。
「あえて、クロノヴェーダには無意味で子供騙しに過ぎない程度のものでございますが……動物や、侵入者を知らせる、『鐘』および『笛』を、各戸に配布しておきました。本来なら役に立たないものです。ですが……潜伏している我等が出陣する時には役立つでしょう」
そこまで言った時、
ワヌーシカが、キッチンから声をかけてきた。
ワヌーシカが、レードル(おたま、柄杓)で鍋をかき回すと、ボルシチの香りが皆の鼻に届き、食欲をそそった。
「さ、お客人たち。村一番のボルシチを食べたくはないか? 牛肉にビーツ(赤カブ)、ジャガイモにニンジン、タマネギがたっぷりの、本物のボルシチだ!」
皿へ注がれ、テーブルに着いた皆に給仕され、パンも置かれる。
「さ、皆さん召し上がって。ワヌーシカのボルシチは、美味しいんですよ」
かくして、皆で食事を。ボルシチは暖かく、素朴な味わいで、美味だった。
「……ああ、暖かい……」泉に、
「そうだね。ボク、この味付けは結構好きかも」魔尋が、舌鼓を打つ。
「良いですね。ビーツの味わいが何とも言えません」リュカと、
「この野菜、先刻に私が皮を剥いたものか」ミリアムも、じっくりと味わう。
「……素朴であるが、飽きない味だ」真九郎に、
「同感だな。味噌汁のように、毎日口にしたい味だ」修もまた、堪能している。
「……生まれてくる赤ちゃん、幸せですね。こんなおいしいスープを、毎日食べられるんですから」聖に、
「我は幸福と快楽をもたらすモノである。然れども、今は幸『腹』と、口中に快楽を、もたらされたのである」
マリアベルも、賞賛を。
「……この味、掛け替えのないものでございますね」
そう、この村を守らねばならない理由、また一つできましたと、東子は口に出さず感じ取り、誓った。
「皆さん、気に入ってくれたようで何よりです」
「たくさん作ったから、おかわりしてくれ」
ユーリとワヌーシカが微笑み、
「こんなに賑やかで楽しい時間は、久しぶりです」
ルシアと、
「そうだね。こんな時間が、もっと続けばいいのに」
ボリスも笑いあった。
「ああ、暖かい暖炉、美味しい食事、そして愛する友人たち。他に何を望もうか……」
デミトリがまた気取って即興詩を朗読し始めるが、
「やめんか、食う時くらいは静かにせい」
ゲンナジーに止められ、笑いの輪が広がる。
その様子を見て、ディアボロスたちは改めて誓った。
……クロノヴェーダを必ず倒し、この村を、必ず救ってみせる、守り抜いてみせる、と。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【現の夢】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV2が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV2が発生!
【能力値アップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV4になった!
【アクティベイト】LV1が発生!
【ドレイン】がLV2になった!
アドル・ユグドラシア
※アドリブ、連携ok
時間差で敵が襲撃すると聞いていたが、丁度その第二陣に当たったようだな。
此方もそのまま行かせる訳にいかんのでな、ここで消えて貰おう。
ひとまずは村外の敵から排除する。中の連中は先に来ている仲間に任せるつもりだが、外の掃除が終わったら援護に向かう。
ああ、其方が応援を呼ぶつもりなら通信妨害させて貰うぞ。隊長に気付かれたくないのでな。
戦闘前に飛翔し、移動時に雪に足を取られないよう注意。
戦闘ではサンダースパイクを発動し、雷を纏いながら敵集団に突撃。
その勢いのまま、周囲に放電しながら両手に持った剣で目の前の敵を断ち切ろう。
敵の攻撃に対しては、両手の剣で弾きながら反撃の雷を見舞ってやろう。
藤原・東子
村にすでに入り込んでいる者もいるのであれば
東子はそちらに対応致しまする
滞在中に潜伏場所に目星がついたのであればそこを
特になければ人のいるところで待ち伏せを致しましょう
もしかすると、お渡しした鐘や笛の音を頼りに探すこともできまする
バットストームで赤い靴の乙女を攻撃し
敢えて敵の仲間を呼び寄せさせ、わたくしへ引き付けまする
締め付けられようとも、これは本来村の人間を襲うはずの茨
であれば、耐え抜いていれば、いずれ復讐者の仲間が雪の降りしきるなかの真紅を見つけて下さりまする
わたくしは…それまで耐えるぐらい、造作もございませぬ
人間を襲うために拘束を解くのであれば、精一杯食らいつきまする
レイラ・イグラーナ
それでは連携が重要になりそうですね。
通信の準備をしておきましょう。
【パラドクス通信】で村の内部の敵を排除する藤原様、外部の敵を排除するアドル様と連絡を取り合い、私は遊撃として手の足りない方へ回ります。
もし村内での戦闘になり、人民の皆様へ攻撃が及びそうならばディフェンス、代わりに赤い茨をこの身に受けます。
この身が人民の皆様の代わりになるならば、いくらでも血を流しましょう。踊りを続ける赤い靴の乙女たちに対して魔術針を投擲。【既製奉仕・雷】で感電死させます。
人民の血を踏みにじる踊り子など、革命により血の赤に沈むのが似合いです。
ミリアム・ヴォルナー
【悲劇感知】を行使し、悲劇の歌が聞こえてきたら、敵襲に備え村の外に向かおう
村の外に向かう際は、村人やスパイにバレないように、忍び足を活かし【光学迷彩】を使い、村の外に農具小屋等あれば隠れて敵襲に備えよう
敵が現れたら、敵の先頭の連中を狙い、フェイタルストライクで狙い撃つ
こうすれば、倒れた敵に驚いた敵が立ち止まり、後ろの敵は進行しようとし混乱するかもな
敵の進行が鈍った隙を逃さず、他の仲間と一気に仕掛け、村に被害を出さないように……村の外で敵本隊を食い止めたい
敵の反撃に対しては、攻撃してきた足を捨て身の一撃、グラップルを活かし掴んで、雪の中に引き倒してやろう
その隙を逃さず、仲間に仕留めて貰うと助かる
黄下・泉
アドリブ、連携歓迎
【悲劇感知】持ち込んでくれる人がいるならありがたい。
なるべく頻繁に村の中を巡って、潜入してる敵が起こす悲劇が無いか注意する。
多少戦場へ着くのが遅れても仕方ない、村の安全が第一だ。
もし村の中で戦闘になったら周りには聖堂とかの安全そうなところに逃げさせつつ、万一の際にはディフェンスも。
戦闘後には状況次第で【現の夢】や【活性治癒】でフォローもしよう。
符で自己強化して分解の術式を四肢に宿す。
今日の相手は蹴りが得意なんだって?奇遇だな、あたしもなんだ。
思いっきり派手にやり合おうじゃないか。
存分に蹴り合えそうな敵なのでちょっと(多少の傷は気にならないくらい)テンション上がってる。
伊藤・真九郎
南から来ると思われる襲撃者の警戒、迎撃に移る。
【モブオーラ】【光学迷彩】で潜伏。気取られぬ様に。
先発に勝る本隊。二刀では足りぬか。ならば十八刀流にて仕る。
【一騎当千陣】で分身。九ッ身にて展開し侵攻を食い止める。【防衛ライン】使用。過去は捏造なれど、共に過ごした現在に偽り無し。輩たる村人達には一指たりとも触れさせん。
後の世に壬生狼とやらが昇華したと聞く集団剣術、その源流は戦国の合戦術に有り。意識を同一とする分け身同士の包囲同時攻撃にて屠ってゆく。
分身で庇い合い、反撃の連打を複数の太刀で受け払う。
分身が倒されればダメージは己に帰るが、魂(HP)果てぬ限り何度でも影武者は生じる。ここは決して通さぬ。
奉利・聖
さて…それでは、再び暴力の時間ですね
浅知恵ご苦労 どんな企みをしようと構わない 全て上から叩きつぶすだけだ
捨て石にして情報を得ようというのなら、悉くを破壊して全てを剥がすまで
強烈な踏み込みで、脚部装甲『死蔵』に衝撃をチャージ
再度踏み込んで──衝撃を開放 一気に距離を詰めましょう
そうして一体に蹴りを浴びせて……反動を利用して【飛翔】
蹴りを浴びせて得た衝撃を開放して、急降下蹴りをねじ込んでもう一体潰す!!
舞台の上で踊りたいのなら、付き合いましょう
蹴りに対してはこちらも蹴りで。<結界術>纏わせて撃ち込んで軽減、衝撃をチャージして利用させてもらいましょう
これは後で存分に使えますからね…
神那岐・修
では戦だ
確認次第正面から
己の五体は万物を掴む
手で足で背で、地を空を捉えるなら、世の全てが踏みしめる大地と変わらぬ
天地全て利した疾駆で狙いを外し、一足の間に踏み入ったら“瞬”にて侵略
飛び込み雷轟にて撃つ
極力攻撃は拳足が打ち払うに任せ最速で近接
魂まで染み付いた動きゆえ停滞はない
致命または足を止められそうなら回避
近接後は離れず戦闘
己は離れれば無能と自覚がある
動ける程度に己を書き換えつつ正面より肉薄し砕く
魂の奥底まで刻み込んだ武は己が意志の外で応える
幻影が万物を撃つが如く。故に“幻”
如何な斬撃とて“圓”の動きにて流すは容易
“真”の眼で捉え“瞬”で追い詰める
※アドリブ・連携歓迎
●未来の希望と、凶兆
それは、突然だった。
「?!……!」
藤原・東子(水鏡に語られし・g08398)は、響いた『音』に気付き、顔を上げた。
「? これは?」
『メドヴェージェフ亭』にも、それは聞こえてきた。
まず聞こえてきたのは『轟音』。
続き、何度も響くのは。東子自身が配った、あの『笛』や『鐘』の音色。
その音からして、かなり切羽詰まっている様子。
すぐに東子は、ベッドから飛び起き、
「……聞こえましたで、ございますか?」
「ええ、東子。私にも聞こえた!」
ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)もまた、飛び起きた。
時間は早朝。夜明けが近く、外を見るとうっすらと日が差し始めている。
「……あの、皆さん」
既に起きていたユーリが、話しかける。
他のディアボロスたちも、起きてきた。ワヌーシカは、暖炉に火をともし、薪を投げ込みつつ……、
「村の中心部で、何かあったらしいが……こちらも大変なことになった」と、そんな事を言ってきた。
「……何か、あったのですか?」
奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)が、問いかける。
「実はな……ついさっきボリスから起こされたんだ。『ルシアが破水した』と。まだ予定日より早いが……産気づいてしまったらしい。今ルシアには、ボリスが付いているが……」
ワヌーシカに続き、ゲンナジーが、
「だがな、この元ヤブ医者のワヌーシカが言うには……どうも様子がおかしいとの事だ」
「おかしい? ルシアさんと赤ちゃんに、何かあったんですか?」
心配そうに、黄下・泉(リターナーの符術士・g08097)が訊ねる。
「難産になりそうなんだ。ルシアは身体が弱く……母体に負担をかけすぎると、心臓が止まってしまうかもしれない」と、ワヌーシカ。
「だが、すぐにでも子供を取り上げないと、母子ともに死亡……という、最悪の状況にもなり得る。動かす事もあの様子では無理だ。……お客人たち、そういうわけだから、今日は何ももてなせない。わかってくれるな?」
湯を用意しつつ、ゲンナジーはそう言った。
「それは構わぬ。むしろそれがしたちにも、協力させてほしい。何か、できる事は?」
伊藤・真九郎(人間の戦国武将・g08505)の言葉は、みんなの……ここにいるディアボロスたち全員の言葉。新たに生まれる命を守れずして、クロノヴェーダと戦う復讐者などと名乗れない。
「お気持ちだけ頂きます。今、デミトリさんが村の中心部の、教会の救護院に、お医者様と看護師さんを呼びに行ってますが……」
「その最中に、この『音』が響いた、というわけか」
神那岐・修(紫天修羅・g08671)に、ユーリは頷いた。
「はい。ですが、そろそろ戻ってきても良い頃なんですが」
「ああ。まったくあのヘボ作家、何を道草食ってるんだ」
しかし、ゲンナジーがそう言ったすぐ後で、
「み……みんな! 大変……だ……!」
デミトリが、外から戻って来た。
彼は流血していた。何者かに、大きく背中を切りつけられていたのだ。
「……出てきて、大丈夫だったでしょうか。東子としては……ルシア様やユーリ様たちに付いていた方が良かったかも……」
「いいえ、私たちは、すべき事、そして……できる事をまずは行うべき。そうだろう?」
東子に、ミリアムは言い放つ。
戻って来たデミトリからもたらされたのは、『悪いニュース』二つ。
よくある『良いニュースと悪いニュース。どちらから聞く』というシチュ。今回デミトリは、二つのニュースを携え戻って来たが、そのどちらも悪かったのだ。最悪と言って良いほどに。
ミリアムは、応急手当てしたデミトリからの言葉を、改めて思い出す。
・・・・・・・・
「……僕は村の中心の広場に行って、教会の神父様とシスターを叩き起こしたんだ。ルシアとボリス、『二人の子供のお産を手伝って』とお願いしてね。そして、教会の中にある救護院の医者と、看護師さんのシスターに来てもらおうとしたんだけど……」
「そこで、轟音が響いた。まるで戦争が始まったかのような音だった。神父様に『何があったかわからん。砲弾だったら危ないから、少し待て』って、外に出るのを止められた。で、東子嬢が配ってた鐘や笛の音が響き始めて……続けて、けが人が運ばれてきたんだ」
「聞くところによると、北東と北西の街道の出口……そこが砲撃されたらしく、爆破され、門ごと崩されてしまったとの事。それだけじゃなく……恐ろしい少女たちが、東西側から壁を越え、村の中に入り込んできたんだ。僕は彼女らが、好き放題に暴れまわる様子を見た」
「教会と救護院は、けが人の治療に忙しくなり、僕はユーリやワヌーシカさん達が心配で、この事を知らせに戻ったんだけど……」
・・・・・・・・
「……その帰り道に、襲われた……のでございますね」
東子の言葉に、ミリアムは歯噛みする。デミトリは傷が深く、失血もしており、語り終えると気を失ってしまった。
「……私たちは、敵が南側『だけ』から来るものと思ってしまっていた。だが……」
「どうやら、デミトリ様の言葉から察するに……『北側の街道をふさいだ後、東西の外壁を越えて侵入。内部に混乱を起こしている』という状況でございますね」
「ああ。おそらく今は、追い込むためにあえて殺さずに済ませているのだろう。そして、恐怖に混乱した村人たちを村の南側へと追い込んだ後……」
本隊が、南側から入り込み、本格的に蹂躙する。そういう腹積もりなのだろう。
「……見通しが甘かった。しかし……今必要なのは、過ちを悔いるよりも、状況に『対処』する事!」
「その『対処』の方法は? どうすればよいでございましょう?」
「侵入してきた敵トループスの、『各個撃破』! 村の中心部には、泉君たちが向かってくれている。私たちは……南側に向かうぞ!」
「はい、わたくしも、迎え撃ちまする!」
今南側の街道出入口は、門の修理中で完全には閉まらない状況。襲撃には絶好の状況。そして、もしも自分の予想が正しければ……、
『集まりつつある』に違いない。
と、南側へと向かったミリアムと東子は……、
「……どうやら、今度は間違えなかったようだな」
『発見』した。村の南側に集結している、『彼女たち』の姿を。
『あらあら、これはこれは』
『ふふふ……』
『くすくす……』
『はぁ~、かわいい娘たちねぇ………』
南の、ヴァンコ村出入口に集結していた、数人のトループス級。
彼女たちの外観は、可憐な美少女。育ちの良いどこかの貴族か、或いは富裕層の令嬢かと思うほどの、整った顔立ちをしていた。
実際、骸兵たちよりも女子らしい外観だった。が……、
すぐにその印象は覆された。漂って来る『殺気』『邪気』『怖気』が、尋常ではないほどに強かったのだ。
あどけない顔に、赤いドレスにスカート。足首に履いている靴は、舞踏会向けの赤いそれ。
しかし……その靴には、ソリのような大きい『刃』が付いていた。スケートのような靴だが、その刃は大きく、鋭く……不気味に光っている。
『……ねーえ、あなたたち。この「ヴァンコ村」の住民でしょぉ? 私たちはぁ、あなた達を……殺しに来たの!』
彼女たちの一人が、スケートよろしく地面を滑り、ミリアムと東子、二人へと接近し、
蹴りとともに切り付けた。
「!」
「!!」
かろうじて、その斬撃をかわす二人。
だが、彼女たちは二人の周囲を、滑るようにして囲っていた。
「……君たちは、何者だ?」
ミリアムの問いかけに、彼女たちは答えた。
『人呼んで、「赤い靴の乙女」』
『ええ、貴女たちを、辛くも下らない人生から解放し、幸せにしてあげるために来たの』
『こんな辺境の村で、一生過ごすなんて。ああ、なんて不幸な人生』
『だからわたくしたちが……貴女たちを、天国に送って差し上げますわぁっ!』
リーダーらしき、最初に切り込んできた『乙女』が、跳躍し、
『「凍れる森のジゼル」!喰らってくたばりあそばせ!ぎゃはは!』
空中から、連続蹴りを放った。刃の連斬が、容赦なく二人へと降り注いだ。
●現れた凶悪と、それに立ち向かう意志
『乙女』たちは、ヴァンコ村の南側に集結し、待機していた。
その数、数十体。
現在ヴァンコ村は、北側に単騎で回り込み接近した『彼女』により、北東・北西の街道への道は潰されている。
そして、十数名の自分たちの仲間が、東西の壁を飛び越え、内部に入り込んでいる。
『逃げ道をふさぎ、こちらへ向かって来る獲物たち。さあ、早く来て……。ああ、どんなふうに残酷に殺してやろうかしら。アンタは子供と老人、どちらから殺すべきと思う?』
『そおねえ、やっぱり……』
隣の仲間に、問いかけた『乙女』は、
『え?』
その仲間が、いきなりの落雷を受け、爆ぜたのを知った。
彼女だけではない。十数名が『落雷』……否、『雷撃』を受けて吹き飛び、引導を渡されていた。
雷撃をかろうじてかわした『乙女』は、雪上を滑り、身構える。
『……何者だ!』
「ああ、これは失礼。俺はお空の上の、雷様の親友でね、殺す殺さないと不穏な会話が聞こえたもんだから、雷とともにお空から参上したってわけさ」
小洒落たスーツに身を包んだ、整った顔の青年が……落雷の跡地に立っていた。
その髪形はオールバックで決めており、その手に携えるは、赤い刀身のバスタードソード。
『あら、結構いい男。名前は?』
「アドル。名乗らせてもらおう、アドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)。よろしくな、マドモアゼルたち」
『ええ、宜しく。……そして、速攻でごきげんよう! 死ね!』
そのままその『乙女』は、多数の『乙女』たちとともに、
雪上を滑り、襲い掛かった。
(「この数の差にはかなうまい! 殺すには惜しいハンサムだが、地獄に行け!」)
『乙女』たちは、村人たちの前にまず殺そうと、アドルに接近する。
だが、彼……アドルは、
一瞬のうちに目を閉じ、精神を集中し、研ぎ澄ますと。
「……はーっ!」
鬨の声とともに、突撃した。それはまるで、風を纏い、地上を『飛んでいる』かのよう。
そのまま彼は。雪上でも構わず直進し、携えた剣で切りかかった。赤い刀身に纏わせているのは、紫電の煌めき。
「……雷鳴の剣よ、迸れ! 『サンダースパイク・ブレード』ォォォッ!」
『!!』
それはまるで、天空の神々からの、断罪の一撃。荒れ狂う雷撃が、切り付けてきたアドルの剣から放たれ、
容赦なく、『乙女』たちを打ち据えた。
続き、向かって来る邪悪の赤色を、アドルは次々に打ち倒し、切り捨てていく。反撃する『乙女』も少なくは無かったが……その全てが剣に受け止められ、切り伏せられていた。
『な、なんだこいつは!』
まずい。こんな奴が、こんなスサまじい奴が『敵』にいるなら、こっちが全滅しかねない!
最初の『乙女』は、なんとか後方に下がり、雷の直撃は避けられた。が、片方の靴の刃が砕け、攻撃力が半減していた。
『し、知らせないと……』
通信機を取り出し、村内部の味方に、或いは北側の『彼女』に、連絡を試みるが、
『……通じない?』
「ええ。通じるわけがないのです」
と、『乙女』の後ろに、いつしか銀髪の女性が近づいていた。着ているのは、胸元が大きく開いたメイド服。服が包むその両胸も豊かで、まるでその大きさを見せつけているかのよう。
「ユグドラシア様のこのパラドクスは、雷撃を放つ強力な攻撃。そして、この雷撃には、『敵の動きを撹乱』し、『敵の通信の阻害』という副次的効果も有しているとの事です」
『……てめえ、あいつの仲間か!?』
「はい。レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)と申します。お見知りおきを」
『だったら、死ねえっ!』
『乙女』は、残った片足の刃で、切りつけようとしたが、
「いいえ、そうなるのはそちらです」
赤い瞳で、レイラは相手を見つめ……静かに言い放った。
「……レイラさん、大丈夫か?」
数刻後、『乙女』たちを全滅させたアドルが近づいてきた。
「はい、ユグドラシア様。この彼女が、恐らくこの集団の最後と思われます」
レイラの目前には、『乙女』が倒れ、息絶えていた。
その身体には、一本の『針』が刺さっていた。小さな針が。
「……よし、村の中の皆を助けに行くとしよう」
「了解しました」
『赤い靴の乙女』たちを、全員倒した二人は、
彼女らの痕跡を一瞥した後、ヴァンコ村へと向かうのだった。
(「……『最優先事項』、それは何か」)
(「……『確認』、しないと!」)
修と泉は今、村の中心部、広場へと向かっていた。
まだ夜明け前ゆえか、そしてあの轟音に警戒しているためか、ほとんどの村民が外に出ていない。
周囲を警戒しつつ、修と泉は、自分たちが優先すべき事を、頭の中で確認する。
(「連中の本隊が攻め込むのは、『南側』から」)
(「けど、そこに向かうのが、多少遅れても仕方ない……。第一にすべき事は、村の『安全』と、その確保!」)
やがて、村中央部の広場に到着。修と泉はそこで、けが人が教会内部へ運ばれている様子を目にした。
教会に迎え入れているのは、神父と、シスターたち。即席作りらしい担架に乗せられ、運ばれてきた村人を、招き入れている。
そこへ、
「あれは、家族か?」
二人の少女たちが、息せき切って駆けつけるのを、修は見た。
「神父様!シスター!待ってください!」
「大丈夫ですか? その人は、私たちの大切な家族……」
けが人の家族か知り合いだろうか? 泉がそう思った矢先……、
『……なんかじゃあないわ』
『止め差して殺すから、そのまま動かさないで!』
スケートのように滑りつつ、その二人の少女は、空中に躍り出た。
そして少女たちは、靴の刃を。蹴りとともにけが人、神父、シスターへと叩き込んだ……。
●悪意と邪悪と、それらを消し去る勇気と力
ヴァンコ村・南側。
東子は、『赤い靴の乙女』のその攻撃に対し、慌ててしまい……正気に戻るのに時間をかけてしまった。3秒もかかったのだ。
2秒で落ち着き、1秒を用い、
『解き放った』。
刃が届く直前、
「……『バットストーム』」
『え? ぎゃああああああっ!』
東子は、解き放った『それら』を……オーラで構成された『無数の吸血蝙蝠』を、直撃させた。
襲撃した『乙女』は、それをもろに食らい、コウモリの群れに包み込まれ……、
生命力を奪われ、そのまま地面に転がった。
『な、なにこいつ!』『吸血鬼?まさか!』『ヴァンコ村には、もうあのくそ能力者どもはいないはず!』『骸兵のバカども!なにやってたんだ!』
『乙女』たちは、見るからに青ざめ、狼狽え始めた。
『この野郎! くたばりやがれ!』
別の『乙女』が、空中から迫ってくるが、
「……遅い!」
ミリアムは84式38口径拳銃を抜き、弾丸を放った。額に穴が開き、さらに二人が地面に転がる。
『……てめえら、帰ってなかったんだな』
『無力な、一般人だと思ったのに』
『なぜかは知らないけど、骸兵を倒して帰らなかったとはね……』
彼女たち、『乙女』たちの態度が変わった。明らかに……『用心』したそれに変化していた。
村中央部、広場。教会前。
『……止めを差して殺すから、そのまま動かさないで!』
その言葉とともに、『乙女』が放った刃と蹴りは、
『!?』
「……間一髪!」「間に合った……!」
神父たちに叩きこまれる前に、修と、泉自身の蹴りにより、阻まれていた。
『赤い靴の乙女』の片方に、修は飛び蹴りを食らわせ、地面へと転がしていた。
もう一人の方は、泉が自身の蹴りとカチ合わせ、弾き飛ばしていた。今の泉の手足は、『符』を用い強化。そして宿すは、『分解の術式』。
「中に入り、外に出るな! 後は我々に任せよ!」
修が叫ぶ。教会の扉が閉まるのを確認し、周囲を観察した後、
修は、泉とともにファイティングポーズを取る。
『赤い靴の乙女』は、明らかに不満げな顔をしつつ、
『……誰、アンタたち』
慇懃に問いかけた。
「……通りすがりの者だ」
修は、静かに身構え、最速で……瞬間的に、『乙女』の片方へと踏み込んだ。
『!』
そのまま、重たい拳を放ち、下段、中段と蹴りを放つ。その確かな一撃は、『乙女』に確実なダメージを、その身体に刻み付けていた。
「同じく、通りすがりの者さ。『蹴り』が得意みたいだけど、あたしもなんだ。だから……思いっきり、派手にやり合おうじゃあないか!」
踏み込み、片方の『乙女』へと、泉は足刀を叩きこむ。続き、鞭がごとく足をしならせ、『乙女』へとヒットするも、防御され、ダメージは無し。
だが、勢いで押し、後退はさせられた。そのまま『乙女』は、地面を転がる。
しかし、転がりながら、再び立ち上がと、スケーターのように地面を優雅に滑り始めた。
「なんだ?」
「仕掛けて、くる?」
修と泉は、背中合わせになり身構えるが、
『そこの空手家! 一対一で正々堂々と勝負しようじゃあないか。アタシからの挑戦、受けるよなあ?』
『乙女』の片方が、あからさまな挑発をしてきた。
「何のつもりだ?」
『ああ、アタシが怖いんなら、教会ん中入って罪のない一般人を殺してやるわね。ぎゃはは!』
「……仕方ない。泉、後は頼む」
逃げる『乙女』の片方を追う修。
「あたしは大丈夫! 行って!」
彼を見送った泉は、改めて構え、そして……、
『喰らいな! はーっ!』
空中に跳躍した『赤い靴の乙女』が、急降下とともに蹴り連打『凍れる森のジゼル』を放った。
が、
「! いいや、そっちが喰らいな! 『再編術式〈有為転変〉(ウイテンペン)』!」
泉はその攻撃を見切ると、半身を回転させつつ……強烈な回し蹴りを放った。
その攻撃は、
『がはあっ!』
カウンターで『乙女』の腹に食い込み、貫き、
……彼女を解体し、符に創り変え、引導を渡していた。
「……ふっ」
息を整えつつ、泉は、
「さて……まだいるんでしょ? とっとと出てきて……戦おうじゃないか」
新たに構えつつ、広場全体へと声をかける。
それに引き寄せられたかのように、あちこちの建物の陰から。
『乙女』たちが、出てきた。
村の端、壊れた屋敷にて。
「……もらった」
『ひっ!』
修は、『乙女』をそこに追い詰めていた。そのまま接近し、
刃を手刀で叩き折り、拳で打ち砕き、
懐へと入って、『乙女』のみぞおちに、強烈な拳の一撃を沈めた。
『乙女』は後方へと吹き飛び、屋敷の壁に叩きつけられ、
倒れ、動かない。
「…………おかしい」
この『乙女』。勝負を挑んだにしては、あまりにも実力不足。弱すぎる。
この程度で、正々堂々と勝負? 他に目的が……?
「! まさか!」
気が付いたが、遅かった。
屋敷の廃墟から、踊りながら現れた、数人の『乙女』たち。
それを認識した修は、自分がいつの間にか、『拘束された』事に気付いた。
それとともに、彼は『茨』が蠢いているのを見た。それは徐々に、きつく巻きつき、締めつつあった。
●流れる悪意の血潮と、流す命の血潮
再び、村の南側。
ミリアムと東子の前に、『乙女』たちは、
距離を取りつつ、周囲を囲う様に……ぐるぐると回り始めた。
「!? これは……?」
「……なにやら、仕掛けてくるようでございますね。用心を!」
背中合わせになり、身構えるミリアムに東子。
『乙女』たちは、まるで表情のアイススケーターのように、刃付きのスケート靴で地面を、雪原を……二人の周りを囲いつつ、軽やかに滑るのみ。
囲いつつ、『踊り始めた』。何か、仕掛けてくる。だが、何を?
「……ただ囲って、踊る事で幻惑するつもりか? なら、狙い撃つ!」
「わたくしも、もう一度『バットストーム』を……」
しかし、次の瞬間。
『……「赤い靴のマズルカ」』
「「!」」
ミリアムと東子は、既に攻撃が放たれ、それを食らってしまった事を感じ取っていた。
どこからか生じた『真っ赤な茨の蔦』が、自分たちに巻きつき、締め付け始めたのだ。
「がはっ! く、苦しい……」
「な……いつの間に……! これは、なんでございますか!?」
『ふふっ、綺麗なバラにはトゲだけでなく、こういうのもあるのよ』
『あなたたちの意識を奪い、血も奪ってあげる』
『それを引きちぎるのは、簡単では無くてよ? さあ、どうする?』
優位に立ったのか、余裕を取り戻した『乙女』たちの嘲りが耳に届く。踊るたびに『茨』の数が増え、締め付けも強く、きつくなっていく。
そして当然、連中は近づいてこない。反撃も、防御も出来ない。ミリアムは銃を向けたが、それすらも茨は包み込んでしまった。
首を茨の蔦が締め付け始め、次第に意識が……混濁していくのをミリアムは知った。
再び、村中心部、広場。
新たに出てきたその『乙女』たちは、泉に近づいてこない。距離を取りつつ、
『……この阿呆が……』
『……不細工ね……』
『……ちんちくりんのブス……』
『……ゴミにも劣る、ゲロ女……』
滑りながら、彼女たちは『罵倒』してくる。レベルの低い悪口だが、妙に心を削られるような、心を折ってくるような、精神に対する攻撃を受けている気がする。
「……な、なんだ? これは……いったい……」
いや、大したことが無いと思っていたが、大したこと『ある』。なぜか、どんどん精神に食い込んでくるような、心を汚染されるような気持になってくる。
「! 痛っ!」
と、動きが鈍ったところに、すれ違いざまに切り込む『乙女』。
(「かわせなかった? これは、何なの
……!?」)
傷は浅く、大したダメージではない。だが、生じた疑問と痛みは、泉を更に鈍らせていた。それとともに、二度、三度と、切りつけられる。
『くくく……「紅き夜会の囀り」』
『我々の罵倒、効いてるみたいねえ!』
『乙女』たちは、いたぶるように……否、泉をいたぶっていた。軽く、浅く、何度も何度も、死角から高速で接近し、切り付ける事を繰り返していたのだ。まるでいじめっ子たちが、集団で一人を囲み、大けがしない程度にその一人を傷つけ、苦しむ様子を楽しむかのように。
(「くっ! こ、この程度の攻撃なんかに……っ!」)
だが、軽い傷も、数が増せば大ダメージになる。いや、急所に受ければ軽い傷でも即死する。
そして今、彼女はそれを受けつつあった。まずい。すごく、まずい。
『とどめ!』
そして、『乙女』たちが、前後左右、そして上方から、同時攻撃を仕掛けてきた。
(「! だめだ、かわしきれない!」)
五つの方向から、刃が容赦なく、逃げ道を失った泉へと迫って来た。
「……くっ、不覚……!」
修は、『乙女』たちが放った茨……『赤い靴のマズルカ』に締め上げられつつ、相手の狡猾さ、コス狡さを実感していた。
勝負を挑むと言ってきたのは、自分を泉から引き離すため。一人にさせて、その後にそれぞれ攻撃を放ち、確実に仕留めるつもりだったに違いない。
そしてそれに、自分はまんまと引っかかってしまった。
踊るごとに、締め付けはきつくなる。そして動きを封じられたところに、『乙女』が足の刃で切り付ける。
なんとかかわすが、かわし切れない。嬲り殺しするつもりなのか、傷は浅い。しかし……このままでは殺される事は確実。
『ふふっ、馬鹿な殿方が、苦しげな顔してるのを見るのって……』
『すごく、いい気分よねえ。くやしい? ざぁこ、ざぁこ♪ きゃははは!』
武道家ゆえ、戦いに負け、死ぬ覚悟はできている。だが……戦うすべを封じられ、遊び半分に殺されるなど、まさに恥辱の極み。
だが、その恥辱を晒し、奴らを悦ばせるつもりもない。
歯を食いしばる修の目前に……刃が迫ってきた。
●『戦士』たちの、戦いの結果
ミリアムと東子は、いきなり締め付けが『無くなった』事に気付いた。
頭の中のアドレナリンが、そういう錯覚を起こさせたのか……一瞬そう思ってしまったが、
「すまない、遅くなった!」
錯覚ではなかった。その場に駆け付けたアドルの剣が、茨を切断していたのだった。
「……感謝する!」
「わたくしも、です!」
『なっ……!』
予想外の味方に、ミリアムと東子は喜び、そして『乙女』たちは焦りを。
『なんだ、お前! ……ぎゃああっ!』
「颯爽と登場した、正義の味方ってとこだ!」
アドルの剣が、『乙女』を斬り捨てた。
『こっ、この野郎!』
『よくも仲間を!』
「……何が、『よくも』だ」
激昂した『乙女』たちに、ミリアムは接近する。
「……お前達のような悪鬼外道に、慈悲は……不要!」
『ほざけ!』
『乙女』たちの蹴りがミリアムを襲う。彼女はそれらを掴み、
近くの雪へと、引き倒した。
『え?』
そのまま立ち上がることなく、そいつらは、
「……そのまま、地獄にお戻りくださいまし」
東子の『バットストーム』の直撃を食らい、断末魔の悲鳴を上げ、果てた。
「さて、お転婆お嬢さんたちを、一人残らず躾けようじゃあないか」
「ああ、私も参加させてもらおう」
「わたくしも、です」
形勢逆転。アドルとともに、ミリアムと東子は、
『乙女』たちの残りを、掃討し始めた。
「……えっ?」
泉は、自分に刃が届かず、
そして、自分に切りかかっていた『乙女』たち全員が、同時に切り捨てられていた事を知った。
「すまない、村の中に潜んでいたこやつらを相手にしていて、遅くなった!」
そこに居たのは、甲冑に身を包んだ真九郎。しかし、九人にその数が増えていた。全員が二刀流で、両手に刀を。
そして、その五人は、泉に切りかかった『乙女』たちを斬り捨てていた。
残る四人は、他の『乙女』たちへと斬りかかり、戦っている。
『て、てめえら!』
『何モンだ! どこから来たのよ!』
「……何モン? 言うなれば……あんたらに引導を渡す、正義のサムライ軍団ってとこだな!」
『乙女』たちへ、今度は逆に言葉を叩きつける泉。
「泉殿、後は任されよ。いざ、参る! 影武者、顕る可し!」
『一騎当千陣(イッキトウセンノジン)』。自身の八体の分身、無貌の武者を召喚するパラドクス。
自身も含めた九体の武者は。『乙女』たちを介錯し、地獄へと送り届けていた。
ふと、茨が切断されたのを、聖は感じ取った。
「大丈夫ですか!?」
「……聖、か?」
修は解放された。が、周囲の『乙女』たちは、嘲りつつ再び踊り出す。
『あらぁ、またまたザコくん登場?』
『いいわ、何度でもざぁこ扱いしてあげる!……え?』
聖に素早く踏み込まれ、『乙女』の一人は、強烈な蹴りとともに、地面に叩きつけられた。
『なんだっ!? え?……消えた?』
「ここです」
聖は、空中に飛翔していた。蹴りの反動で『飛翔』していたのだ。
「……先刻、真九郎さんとあなた達の仲間と戦った時。『死蔵』に衝撃をチャージ済みでしてね……!」
そのまま急降下し、飛び蹴りを。
『乙女』の一体に、またも引導が渡された。
「……やるな、聖!」
修は感心し、そして……再び自分の四肢に、力がみなぎるのを感じていた。
そのまま、
『畜生! ……え?』
「戦いの最中に、気を散らすな。でなければ……負ける」
『ぎゃあああっ!』
呆然としている『乙女』たちに襲いかかった修は、数人を血祭りにあげる。
聖もまた、更に数人の『乙女』を倒した後、
「……舞台の上で踊りたいのなら、お付き合いしましょう」
構えつつ、言い放った。
『……ほざきやがって、クソどもが! てめえらぶち殺す!』
残る『乙女』は二人、うち一人が喚き散らす。
『てめえは、ブチ殺した後にその刺青の皮剥いでやる!』
もう一人も、同じく喚いた。
『おう! そのまま壁に飾ってやるぞ! ぎゃはは……え?』
「無駄口が多いですよ。それに……そこ、間合いです」
超高速で、聖は。
その二体のうち、一体へと接近し、飛び蹴りを放っていた。そしてまたも、反動で空中に跳躍。
回転し、二発目の蹴りが止めを。
「……これぞ、『死蔵重撃『双牙』(デッドストックインパクトツイン)』。お粗末様でした」
『てめえっ! ……え?』
「先刻はよくも、ザコ扱いしてくれたな。お返しだ、砕けろ」
二人目には、修が。
重ねた瞬間の加速からの、見えざる打撃、認知できぬ攻撃が、『乙女』を容赦なく遅い、
その命を、殴り飛ばし、砕いて叩いた。
「……助かった、恩に着る」
「いえ。こちらこそ、遅くなりすみませんでした。ですが、村の中に潜んでいた彼女たちは、全て倒しました」
修を支えつつ、聖は説明する。
「……とりあえず、少し休んでください。息を整えたら、ルシアさんの様子を見に戻りましょう」
『メドヴェージェフ亭』前。
その前に、レイラは立ちはだかっていた。
(「……藤原様から、『パラドクス通信』で伺いました。この宿屋には、妊婦がいらっしゃると
……!」)
だが、彼女は数名の『乙女』に囲まれ、『赤い靴のマズルカ』……恐ろしき茨に巻きつかれていた。
『へっ、ばーか。あの女の代わりに攻撃受けるとはな。あんたはマゾかよ』
『ま、いいけど。ほらほら、もっと苦しみな!』
「……あっ、くうっ……!」
『乙女』が踊り、そしてレイラは更に締め上げられる。
「やめて! あなたたち、どうしてこんな、酷い事を……」
『うるせえ。黙って見てろ……おやおや~? 苦しそうねえ。まったく、莫迦なやつもいたもんだわ』
「……」
レイラは、黙して語らず。
そして『乙女』の一人は、ユーリを人質にしていた。
薪を取りに、外に出たユーリだったが、『乙女』の一人が襲撃してきたのだ。
東子から、パラドクス通信でこのメドヴェージェフ亭の事を知り、先行したレイラは彼女を護った。が、
その際に、『赤い靴のマズルカ』を受けてしまい、そしてユーリを人質に取られてしまった。
「……この身が人民の皆様の代わりになるならば、いくらでも血を流しましょう。ですが……」
と、苦痛にあえぎつつ、
「……お願いが、あります」
縛られたまま、レイラは懇願した。
『あ? お願いだぁ?』
「……このまま、踊るのを辞めて、撤退して下さい」
『はっ! そんなお願い、聞くわけねーだろ! ばーか!』
「……だめですか?」
『ああ、だめだね』
「これほど、頼んでもですか?」
『しつけーぞ! このくそメイド!』
「……では、あなたがたの負けですね」
『え?』
「瞬く乾坤、刻む遼遠。閃く轍が晴天を打つ……『既製奉仕・雷(レディメイドサービス・グラザー)』」
縛られたままで、レイラは小さな『何か』を、踊っている『乙女』たちに投擲した。
『『『『ぎゃあああああっ
!』』』』
そのまま、踊っていた『乙女』たちは全員が、雷に打たれ……感電し、
その命を、終えていた。
「な、何が……」
ユーリは混乱し、
『てめえっ! ……ぎゃああっ!』
最後の『乙女』もまた、駆けつけたアドルのタックルを受ける。
「ユーリさんだね、俺たちは味方だ!」
アドルは、ユーリを抱えて助け出し、
そして最後の『乙女』もまた。
『ひっ! ぎゃああああああああっ!』
レイラの針を受け、仲間の後を追っていた。
「……あ、あなた達は……ミリアムさんや、東子さんたちの……お友達、でしょうか?」
ようやくユーリは、我に返り、そして……、
「そうだ! み、皆さんは!? あの、私……」
「大丈夫です。皆さん……無事ですよ」
「ああ。俺たちは、君らを助けに来たのさ!」
ユーリを元気づけるように、レイラとアドルは請け合った。
●守るべき、新たなる命
数刻後。
「……良い、宿屋ですね」
「ああ。ボルシチがうまいんなら……後で食べたいところだ」
レイラとアドルは、軽口を叩いて、重苦しい空気を払拭せんと試みたが……それは失敗した。
『乙女』たちをヴァンコ村から掃討し終え、ディアボロスたちはメドヴェージェフ亭に再び集まっていた。
教会の方には、『乙女』たちにより負傷させられた村人たちが収容されていたが、奇跡的に死者はいなかった。
だが……お産がうまくいったとは聞いていない。ワヌーシカたちが必死で取り組んでいたが、まだ時間がかかっている。
「…………」
無敵の戦闘能力も、最強のパラドクスも、こればかりは通用しない。
祈るしかできない。真九郎や聖、修や泉、ミリアムに東子は……ひたすら祈った。
そして、
「「「!!!」」」
新たな命が誕生した、その証の泣き声が聞こえてきた。
「……母子ともに、無事だ。無理はできないがな」
奥の寝室にて。ワヌーシカは皆を招き、
ルシアと、彼女が産んだ赤ちゃん「たち」の様子を見せていた。難産だったのも道理で、生まれてきたのは男女の双子だったのだ。
「ああ、ルシカ。よく頑張ってくれた……皆さんのおかげで、僕は父親になれました、ありがとう、ありがとう!」
ボリスが、ルシアの夫が、ディアボロスたちの手を握り、礼を述べる。
「皆さん、どうか……娘と、息子を、抱いてあげて下さい……」
疲れ切ったが、満足げな顔のルシアが、ディアボロスたちに微笑む。
おっかなびっくり、ディアボロスたちは、かわるがわる小さな命を、その手に優しく手にする。
「……わ、かわいいっ」
「可愛いでございますね……こんなに小さいのに、元気で……」
「ええ。とっても……」
泉、東子、ミリアムは、
どこかに、安堵を覚えていた。『無事に生まれてよかった』と、それしか感想が出てこない。
「少し疲れましたが……報われた気分です」
「ああ。……疲れはしたが、この子達を見れば、その価値はあったと思える」
「同感だ。それに……この子達と、その親を護れたことは、それがしたちの誇り也」
聖、修、真九郎もまた、二人の赤ちゃんを見て、安堵の溜息を。
「……皆さん、本当に……ありがとうございました」
「よくわからんが、あんたらが外の、攻めてきた何かから守ってくれたんだろう? 感謝の言葉しかないよ」
ユーリとゲンナジーもまた、礼を述べる。
「ねえ、これですべて解決したようだし、改めてお祝いの宴会を……」
目覚めたデミトリが、そう言うが、
「……いや、まだ終わりじゃない」
ミリアムは顔をこわばらせ、彼の言葉を止めた。
そう。最後の敵が控えている。『乙女』たちが全滅した今、そいつは間違いなく攻め込んでくる。
新たな命の生誕を祝うのは、その後。
ディアボロスたちは……、守るべき双子、そしてその両親と、その友人たちを見て、気を引き締めるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【通信障害】LV1が発生!
【コウモリ変身】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【悲劇感知】LV1が発生!
【活性治癒】がLV2になった!
【防衛ライン】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
【怪力無双】がLV2になった!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!
【ドレイン】がLV5(最大)になった!
【命中アップ】LV3が発生!
【能力値アップ】がLV3になった!
クィト・メリトモナカアイス
さむい!!! 我には耐えられぬ。
【寒冷適応】を使って行動。
排斥力が高まりきる前にアヴァタール級を強襲。
んむ、後は汝だけ。
民の暮らしを脅かす者。
汝の名は語られず、刻まれず。
ただこの砂……じゃない、雪の下に沈むべし。
モナカ射撃型を呼び出して「シルバーバレット」。
きゅうけつきにはこれが効くとか……そうでもない? そっかー。
でも心臓とか頭に撃ち込めば効くのではなかろうか。我はかしこい。
攻撃はモナカ射撃型に任せて、我は周辺の従属を黄金猫拳打棒でガード。可能限りダメージを抑えていく。
この寒い地で。
それでも力強く生きる人たちは存在している。
その命を奪うこと許さぬ。
レイラ・イグラーナ
それでは連携が重要になりそうですね。
通信の準備をしておきましょう。
【パラドクス通信】で村の内部の敵を排除する藤原様、外部の敵を排除するアドル様と連絡を取り合い、私は遊撃として手の足りない方へ回ります。
もし村内での戦闘になり、人民の皆様へ攻撃が及びそうならばディフェンス、代わりに赤い茨をこの身に受けます。
この身が人民の皆様の代わりになるならば、いくらでも血を流しましょう。踊りを続ける赤い靴の乙女たちに対して魔術針を投擲。【既製奉仕・雷】で感電死させます。
人民の血を踏みにじる踊り子など、革命により血の赤に沈むのが似合いです。
藤原・東子
稲妻来れ――、金物で出来た得物ごと雷撃をお見舞い致しまする
【強運の加護】を仲間へ齎し、偶然に左右される機運も高める支援を行いまする
意図しない跳弾ぐらいは、恐らく外れるのではないかと
反撃の回転鋸には、木立の生える場所や積雪による凹凸のある地形のほうへ【飛翔】にて逃げ込み
村から遠ざかるように仕向けまする
刺突による直撃を避け、血液を奪われるのを最小限に留めたく存じ上げまする
また、村から離れることで配下との連携を断ち、各個撃破に向けての好機を繋ぎまする
持久戦とならぬよう、離れ過ぎず戦場を維持いたしましょう
眉立・人鳥
アドリブ絡み歓迎
事情は聞いた、助太刀させて貰うとするぜ
クィトちゃんの強襲に相乗りだ
ロマノフのクロノヴェーダはこんなんばっかなのか?
趣味悪ぃな、悪魔といい勝負出来んじゃねえか
俺は飛翔で上から行くか、意識を散らせば有効打も増やせるだろ
吸血鬼とはいえお目々は前にしかついてねえしな
常に連動して動き、警戒を強いていければって所だな
モナカの射撃と同時にパラドクス発動、バイビークを構え
超低空飛行で炎を纏い突っ込むぞッ!
反応してくるようならチェーンソーをいなし
相手の懐へ飛び込み、獄鳥の嘴を叩き込む
日の光なんざ生温い、地獄の炎で消し炭にしてやんぜ
どうしたよ、笑う気分じゃなくなってきたか?
ロザーリヤ・ユスポヴァ
作戦の刻限が迫っている。多少の無理は押し通さねばならん
奴らの隊長を今すぐ仕留めるぞ
例え取り巻きの掃除が間に合わないとしても、だ
一気呵成に攻撃を叩き込むために、ぼくは敵を攪乱する役目を引き受ける
≪魔性契約『夜の来訪者』≫を発動し、周囲を暗闇で包み込もう
【完全視界】で仲間の円滑な行動は確保しつつ
取り巻きが生き残っていた場合に、視界不良で容易に横槍を入れられぬようにするぞ
闇の中で愛剣『死せざる■■■■■■』を抜き
殺気を抑え、足音を殺し、敵に奇襲の斬撃を仕掛ける
この一撃を布石として、仲間たちの攻撃に繋げていこう
反撃の弾は剣での切り払いを狙い
対処しきれない時は体内に食い込んだ弾を吸血し、体力回復に努める
エイレーネ・エピケフィシア
うっ……吸血ロマノフ王朝の寒さは骨身にこたえますね
ですが人々が味わっている苦しみと比べれば、肌を刺す酷寒の痛みなど些細なものです
速やかに悪鬼を討つべく、わたしも加勢いたします!
≪神護の長槍≫と≪神護の輝盾≫を手に、敵の前に立ちふさがります
同時に【防衛ライン】を展開、村人を襲えないよう道を封鎖しましょう
これで雑兵が残ったまま戦うことになっても、ある程度は安心できるかと
攻撃時は槍を6mまで伸長し、『スピアウォール』の槍衾を召喚
長大な槍の穂先を並べて敵を寄せ付けずに攻め立てましょう
反撃の刃は盾で受け止め、ダメージを軽減すると共に
盾と刃がぶつかり合っている間に仲間が攻撃できるよう、時間稼ぎしますね
エレオノーラ・アーベントロート
この国の武装には見えませんわね。
ドイツ機械化帝国より流れ着いたゾルダートでして?
まぁどちらでも構いませんわ。
どこの生まれだろうと犬は犬ですし、飼い主が変わったところで犬は犬。
わたくし、主人に尻尾を振るだけしか能のない犬の生まれに興味はありませんの。
あら、撃ち合いをして頂けると思ったのですけれど。
うぅん……まぁ、そちらでも構いませんわ。
ちょっとだけ暴力的ですけれど――握り潰してさしあげますわ。
「鬼神変」で鬼人の腕を異形巨大化。
多少切り裂かれることなんて気に留めず、巨大な剣ごとティルピッツの体を握りしめ、握り潰しますわ。
あの腐れ僧侶の悔しがる顔を見るためなら、どうということはありませんわ。
ミリアム・ヴォルナー
トループスどもを片付けたら、アヴァタールの襲来に備え【光学迷彩】、【完全視界】を使用すると共に、【寒冷適応】を使い、低温下でも仲間が活動しやすいよう手配する
敵が現れたら、光学迷彩で雪に紛れ、雪中戦を活かし応戦
フリージングバレットで敵を狙い、自身の攻撃が当たらなくても、その牽制で仲間の攻撃が当たればいい
敵の反撃は、手下を使って攻撃してくるようだ
だが……既に手下連中はよく眠ってるようだぞ?
号令しても、誰も動かないなら……中間管理職の悲哀だな
お前も、手下のあとを追うがいい
手下が動けるようなら、いい手下を持ったものだ
多少の傷は、【活性治癒】で凌ぎ、敵が接近戦を挑むなら、拳銃を使いフリージングバレットだ
奉利・聖
そして最後にお前を仕留める…ここまでは予定通りだ
ラスプーチンに報告する機会は訪れない ここで消え去るからだ
我らは復讐者 侵略者の暴挙を破壊し、全てを取り戻す
これもまた、その為の足掛かりだ
地を脚で<強打>する二連震脚で、脚部装甲『死蔵』にチャージ
再び踏み込んで衝撃解放、<ダッシュ>で距離を詰める
更にもう一回踏み込んで、極限のブースト!!
すかさず【トラップ生成】で拘束罠を配置、退路を塞ぎにかかる
この跳び蹴りは矢の如く
<貫通撃>による<破壊>で、醜いお前をぶち抜いてやる
反撃には<結界術>を纏って、『死蔵』で受ける
衝撃をチャージして再利用さえすれば、またいつでもお前を殺すことができるぞ
神那岐・修
頭は貴様か
では討つ
正面より駆け、一足の間に踏み入ったら“瞬”にて侵略
嵐砕にて砕く
魂にまで染み付いた武は己が意思の外ですら応える
刃が如何に速く鋭くとも“真”にて捉え“圓”、“幻”にて捌く
何となれば側面より“纏”の手刀で貫き縫い止めてしまえば良い
何がどうあろうと撃ち続け滅する
距離は取らせぬ
地も空も余さず捉え疾駆し常に近接を強いる
己は離れてどうこうする術を持たぬ
手傷も自傷も動きが澱まぬ程度まで己を書き換え修復し戦闘続行
騙したつもりの驕りが敗着だ
黄泉にて悔やめ
※アドリブ・連携歓迎
黄下・泉
連携、アドリブ歓迎
まずはルシア達や怪我人のいる建物をハウスキーパーと活性治癒の影響下に。
これで少しは安心だ、気合百倍!
勿論戦闘が終わったら住民のケアに回る。
部下が全滅した後も相当時間をくれたじゃないか。
随分余裕だね。……ま、状況分かってなかっただけのお間抜け司令官なのかもしれないけど、そこを突っ込むのは野暮かな?
それにしてもおっかない武器だな。マトモに食らうのは勘弁。
袖にバールのようなものでも仕込んで盾代わりにするか?
他にも雪に氷柱、戦いで壊れた建材や敷石。ストリートストライクで使えるモノは沢山ある。
落雪とか利用して奇襲するなり異物を噛ませて駆動し辛くするなり出来れば少しは戦いやすくなるか?
伊藤・真九郎
アドリブ、連携歓迎。
【パラドクス通信】で仲間と連絡を取り合い索敵。
【悲劇感知】使用。村人が襲われるならばそれを事前に察知し敵の出現を探る。
【飛翔】にて迅速に移動。
敵は剛剣と狙撃による遠近自在。間合いを制するのは至難か。
仔細無し。鞘に納めた愛刀を居合に構え対峙。
【天龍抜刀術】にてつかまつる。抜刀と納刀を同時に行うが如き神速の居合。刀届かぬ間合いの外から、「切断した」という結果のみを世に現す抜刀術の極技也。遮蔽や防御にも構わず、只々ひたすらに斬り果たすのみ。
仲間と連携し敵を包囲、村への被害を抑えつつ制圧する。
伏兵を警戒。悲劇感知や完全視界等の効果も使い見逃さず殲滅致す。
●降臨する悪鬼
『メドヴェージェフ亭』。
ルシアは、新たに双子の母となった彼女は、朦朧としていた。
夫のボリスは、心配そうに妻に寄り添っており、友人のワヌーシカとゲンナジーもまた、ルシアを見守っている。
デミトリも、落ち着きなくルシアと、双子の赤ん坊、そして外へと視線をせわしなく動かしていた。
「……つまり、あなたたちの話を信じるとしたら……いや、信じるしかないですが……その、さっきの悪者たちのリーダーが控えてて、それが攻め込んでくると、そういう事ですね?」
ユーリが、ディアボロスたちに確認する。
「……その通りだ、ユーリさん。なのでできれば、ルシアさんたちと一緒に、ヴァンコ村の中央部に、教会に避難してほしいのだが……」
ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)は、その頼みが『無理』である事は承知していた。
ルシアは今、眠っていた。だがそれだけでなく、心臓の鼓動が徐々に弱まっていたのだ。
担架を用いて運ぼうかとも考えたが、
「……今は動かせない。少なくとも、ルシアの意識が戻るまでは、このまま寝かせておかないと。最悪……運んでいる途中で心臓が止まる事もある」
ワヌーシカも、悔し気にそう呟く。
「……ぼ、僕が負傷してなければ……」デミトリも悔しげだが、
「やめんかヘボ作家。お前でなくボリスが外に出たとしても、負傷しただろうし……仮にお前が無傷だとしても、この状況は変わらなかったろうよ」と、ゲンナジー。
「……皆さん、無茶を承知でお願いします。妻を、僕達の子供たちを、助けて下さい……」
ボリスが懇願した。それに対し、
「もちろんで、ございます。どうか……この家に入って、一歩も外に出ないで下さいまし」
藤原・東子(水鏡に語られし・g08398)が請け合った。
「さっきみたいに、薪を取りに外に出るのもダメ。今のうちに、この部屋に運び込んでおいた方が良いかもね。まあ、少々きつくはあるけど……それがどうしたって話よ」
黄下・泉(リターナーの符術士・g08097)と、
「その通り。多少の無理を通す事は、今までも行ってきた。今度もそうするのみ」
神那岐・修(紫天修羅・g08671)が、己へと誓う様につぶやく。
「それがしの剣が、皆と、この宿屋と、何よりもこの稚児たちを護る。どうか……安心めされよ」
伊藤・真九郎(人間の戦国武将・g08505)と、
「ええ、ボリスさん。それに、僕にとっても……この敵を倒す事は重要ですから……」
奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)が、それに続いた。
「……この戦いが終わり、ルシア様が元気になりましたら……キルトを贈らせて下さい」
落ち着くためにと、宿屋のシーツや布製品などのほころびを繕っていたレイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)が、申し出た。
護るべき者の為に立ち上がる。そのために全力を以て、死力を尽くし戦う。ディアボロスなら、当然のこと。
必ず、勝ってみせる。その誓いとともに、皆は立ち上がった。
「……これでよしっと」
泉は、『メドヴェージェフ亭』に、『ハウスキーパー』と『活性治癒』とをかけておいた。
「これで、少しは安心だ。『少し』であって、ゼロより多少マシな程度だけど……」
後で、ケアに回るからね。そう言うと、
「レイラ君、村の内部は頼むよ」
「はい、黄下様。こちらが済み次第、すぐに合流いたします」
レイラにもそう言って、泉は仲間たちの元へ向かっていった。
ヴァンコ村・南側街道出口。
村外。
仲間と合流した泉は、広がる雪原と村の周辺を見回す。
おそらくは敵……というか、そのボスは。まだ村には侵入しておらず、周辺のどこかに控えているはず。
ここは、前に骸兵、および『赤い靴の乙女』たちと一戦交え、倒した場所。街道の脇には、屋根や壁が崩れ、原形をとどめていない小屋がいくつか、並んでいた。それらの廃墟の中に混じり、骸兵や乙女たちの死体が、あちこちに転がっていた。その数が妙に多い気がするが……気のせいだろうか?
「……『敵』は、この南側から入ってくるのか? いや……」
ミリアムが周囲を見回すが、すぐに自らそれを否定した。
『敵』は、最初に北側二つの街道出入口を潰したのだ。おそらくは火器、もしくはそれに類する破壊兵器を持っている。ならば、ヴァンコ村の外壁そのものを崩して『どこからでも』入り込める。
「…………」
ミリアムは、空が曇っているのを見た。寒風が吹きすさぶが、とりあえず自分含め皆に『寒冷適応』を用いているため、寒さは邪魔にはならない。
「……村の外周を、このまま壁沿いに回ってみる?」
泉が提案してみたが、
「……いや、その必要は無さそうです……何かが、近くに居ます!」
聖の声に、全員が身構え……感じ取った。
『居る』。確かに、何者かが近くに潜んでいる。なんとなく近くに居るのはわかるが、あくまでも『なんとなく』であり、正確にどこかまではわからない。
『赤い靴の乙女』たちのように、どこか……強い殺気と害意、それを発している存在が潜んでいるのはわかるのに……そいつの位置を把握できない。
その時、
『……ねえ、訊ねたいんだけど……「命」って、大切よね?』
不意にそんな問いかけが、皆へと聞こえてきた。
その口調は、ごく普通に語り掛けて来るそれ。戦場であり、命のやりとりをする状況の今には、まったくそぐわない。
『……「命」。それは非常に尊く、大切で、価値のある重要なもの。そして、戦争や戦場ってのは、その価値ある「命」が失われてしまう、実に嘆かわしい状況だと思うのよね』
まるで、どこかのカフェでお茶をしている若い女性のよう。
と、一陣の風が吹き、
どこに隠れていたのか。声の主らしき女性が、皆の前にその姿を現した。
赤いドレスの上に、ロングコートを羽織った、豊かな体つきの女性。長い髪と、整った美貌を持つが、同時に……力強さをも漂わせていた。自信あふれた表情を、ディアボロスたちへと向けている。
例えるなら、『女海賊の船長』のよう。
『おっと、初めまして。「ズィーベンリッター・ティルピッツ」と申します。ドイツ生まれのサイボーグ、お見知りおきを。……そうそう、先刻から命の価値云々って言ってたのは……』
言いつつ、片手に握った『それ』を見せつけた。
『あ……う……』
『生き残った、この部下を以て説明したくてね。あなた達でしょう? この『婦人血死隊・骸兵』を一掃したのは』
「!」
「……こいつは……!」
「……この殺気……凄味……ただ者ではない……!」
聖、修、真九郎は、すぐに身構えたが……動けなかった。
下手に踏み込んだら、返り討ちに合う。その事が理解できたのだ。
『……戦って死んでしまった部下たちは、とても気の毒に思うわ。けど……』
『ぎゃあっ!』
銃声が聞こえた。
『……私の部下なら、戦って死んでもらわないとね。戦いで生き残るようじゃ、私の部下としては役不足よ』
そのままティルピッツは、たった今、自分で銃殺した部下の身体を脇へと捨てる。片方の腕には、銃口から煙が漂うライフルが。
「あんた、よくも……!」
泉は踏み込んで、攻撃しようとしたが、
『……貴方達も、命を大事に。価値あるその命は……これから『私に殺されるため』にあるのだからね』
再び銃声が響き、立ち止まった。
ティルピッツが、携えていたライフルを撃ったのだ。
『では、みなさん。……私に殺されて、その命の価値を証明して下さいなっ!』
壊れた人形を捨てるように、無価値なものを放り出すかのように。骸兵の部下を脇に投げ捨てたティルピッツは、
手にライフルと巨大な剣とを携え、突進した。
●猛攻する魔人
レイラは今、ヴァンコ村の中心部、中央広場付近を回っていた。
「私は念のため、村内をまず調べてきたいと思います。『骸兵』も『乙女』も、多数で攻め込んできたゆえ、1~2体程度の生き残りが潜んでいるかもしれません」
仲間たちへは、最初にそう伝えてある。彼女は現在、ヴァンコ村内部を動いていた。
そして、やはり。
『があああっ!』
小屋に入り込もうとしていた、『骸兵』と『乙女』を一人ずつ発見し、
「……閃く轍が晴天を打つ」
『既製奉仕・雷(レディメイドサービス・グラザー)』を放ち、そいつらを雷の魔術で倒していた。
やはり、全滅はしていなかった? にしては……どこか動きが鈍い気がしましたが。
『赤い靴の乙女』は、スケーターのように素早く滑り攻撃してきたのに、今倒した個体は、動きが硬いように思えた。
いうなれば、魂をどこかに置き忘れたかのよう。
「!? こちらに、向かって来る……?」
新たに現れた『骸兵』が、レイラに向かい近づいてくる。
倒さんとするが、その後ろからは『乙女』が。それも十数体が。
「……おかしいです。皆様、骸兵たちも、『赤い靴の乙女』たちも、全て倒したはず!」
とくに『骸兵』の方は、村の内部に入り込む以前に、全滅させていたはず。新手だとしても、それならば『乙女』たちが倒された時になぜ攻め込んでこなかったのか?
疑問が生じるが、今は逃げて体勢を立て直さないと……、
「……しまった!」
村の中央広場に出た彼女は、
自分が囲まれた事を知った。
教会の扉にも、何人かの『骸兵』と『乙女』とが遅い、破っていた。
「やめなさい! 襲うなら私を……」
その言葉を聞き届けたとばかりに、二手に別れ、教会と、レイラとに、
『骸兵』と『乙女』は、同時に襲い掛かった……。
ヴァンコ村・南側街道出口。外側。
ディアボロスたちは、ティルピッツと切り合っていた。
「……!」
ティルピッツが用いているのは、『ズィーベン・バイルシュナイデン』。
まるで中世の剣士や騎士、重戦士が使っていたような大剣で、刃部分は振動し、チェーンソーの刃同様に回転していた。
「速い! くっ!」
「……っ!」
懐に入り込み、拳の連打を放つ修だが、それらはすべて受け流される。
更に、
『遅いわよ、坊や!』
人の背丈ほどあるバイルシュナイデンを地面に突き刺し、ティルピッツは宙に舞い、
修の背中に降り立ち蹴り飛ばし、勢いとともに廃墟の、大き目の壁に彼を叩きつけた。その勢いは止まらず、叩きつけた壁は崩れ落ち……大量の瓦礫が、レンガや石が、彼を埋めてしまった。
「おのれ、怪物め!」
すかさず、『天狼抜刀術』を放たんとする真九郎だが、
『だから、遅い!』
既に、ライフル、『ズィーベン・ブルートクーゲル』の弾丸が放たれていた。弾丸が剣を二振りとも弾き飛ばし、甲冑の隙間に弾丸が命中し、激痛が彼を襲った。
「! ……不覚!」
動きを止めず、聖と泉に切りかかるティルピッツだが、二人とも後方や横方向に動き、かろうじてかわす。
「……! ……!」
聖は脚部走行『死蔵』を装着した足を振るい、足技でティルピッツを攻撃。しかし彼女はそれらを面倒そうにかわし、巨大な刃の一撃をカウンターで返す。
「! かはっ……!」
『ほらほら、もっとちゃんと攻め込みなさいな。でないと……』
すぐに殺しちゃって、面白くもなんともないわ。と、泉の攻撃も受け、弾き、
「ま、まだだ……!」
立ち上がり、向かって来る修に、逆に懐に入り……地面へ叩きつけた。ティルピッツはそのまま、嘲るように言い放つ。
『はぁ、この程度とはねえ。偉大なるラスプーチン様は、なぜこのような弱いザコたちを気にかけるのか……っ!?』
途端に、どこからか放たれた弾丸が、ティルピッツの頬を掠め……『凍傷』を負わせた。
(「……そのザコに、掠ったとはいえ……当てられたぞ?」)
放ったのは、ミリアムの拳銃からの『フリージングバレット』。直撃はせずとも、ティルピッツは、自分が狙われているという事を感じ取った様子。
『なっ! ど、どこから?』
続けて何発も放ち、その場に釘づけるミリアム。
(「奴が現れて、すぐに光学迷彩で雪に紛れたのが幸いした!」)
『く、くそっ! ひっ!』
そして、
「……勝機! 天より落つるはめぐみの光……『稲妻来れ』」
『なっ!?』
東子が祈り、その祈りが呼び寄せた雷雲が、既にティルピッツの頭上に出現。
そして雷雲から、強烈な落雷が放たれ……、
ティルピッツへと落ちた。爆裂がそいつを包み、吹き飛んだ雪と爆発の煙とが、視界をふさぐ。
「やった! ざまーみろ!」
泉が思わず、快哉を口にした。
ヴァンコ村・中央広場。
全方位から囲まれていたレイラは、
「……え?」
いきなり、周囲が暗黒に包まれたのを知った。だが、暗くなっても……自分の視界は確保されている。
「……『魔性契約「夜の来訪者」(デモニックパクト・デッドリーヴィジット)』。すまない、遅くなった」
「ううっ、この寒さは骨身にこたえますね。ですが……人々が味わっている苦しみと比べれば、酷寒の痛みなど些細なものです!」
そして、新たな者達の声が聞こえてきた。
「あ、あなたたちは……!」
「ぼくは、ロザーリヤ・ユスポヴァ(“蒐集卿”・g07355)。味方だよ」
金髪で白い肌の、少年のような口調の少女と、
「同じく、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)! 村人たちを守るのは、まかせといて!」
長い銀髪と琥珀色の瞳を持つ、槍と盾で武装したウェアキャットの少女が、レイラを護るかのように立ちはだかった。
「どいたどいたどいた! 速やかに悪鬼を討つべく、わたしも加勢いたします!」
ウェアキャットの証たる猫耳が、エイレーネの頭から出ているのをレイラは見た。
教会前の『骸兵』と『乙女』たちは、エイレーネへとまず襲いかかる。が、その攻撃を『神護の輝盾』で受け止め、防いだエイレーネは、
「……はーっ!」
『神護の長槍』で突き、薙ぎ払い、叩き伏せ蹴散らした。
「『防衛ライン』展開! そして、伸びろ、槍!」
続き、槍を長く伸ばすと……、
「槍衾を召喚!『スピアウォール』!」
6mは伸びた長大な槍の穂先を、自分を内側に入れ、教会の周囲に並べた。
「ぼくも、行くよ」
愛剣『死せざる■■■■■■』、宝玉が埋め込まれた剣の鞘を払ったロザーリヤは、そのまま……敵の群れへと切り込み、切り捨てていく。
教会に襲い掛かる『骸兵』と『乙女』も、槍衾の前に倒されるのみ。
ロザーリヤの剣の斬撃と、エイレーネの槍の槍衾。それらは容赦なく、かつてのトループス級を屠っていく。
数刻もかからず、殲滅は完了。
闇が晴れ、再び骸となった『骸兵』と『乙女』たちは、広場に転がっていた。
「ユスポヴァ様、エピケフィシア様、ありがとうございました。あとは、南側の皆さまと合流を……」
そう言いつつ、レイラは骸兵と乙女を調べ……、
「これは!」
驚愕の声を上げた。
「……どうした?」
「何か見付けたの?」
「発見、しました。すぐにでも知らせねば!」
二人への返答もそこそこに、彼女はパラドクス通信を試みた……。
●哄笑する悪魔
南側。
ティルピッツに落雷を浴びせたディアボロスたちだが、
(「……ダメージは与えただろう。だが……」)
聖はまだ、安心できなかった。
(「……まだ、油断は出来ぬ! 直撃したが……」)
真九郎もまた、警戒をとけない。
(「……普通の奴なら、これが止めになったろう。しかし……」)
修も、確信が持てなかった。これで止めを差せたとは、思えない。
(「既に手下連中はよく眠ってるようだし、号令しても、誰も動かない。なら……」)
ミリアムは、勝利を確信『したかった』。が、本能的にそれはためらわれる。
(「死体を確認し、手下の後を追ったと確信した後で、中間管理職の悲哀を嘆いてやる」)
視界が晴れるのを待ち、ゆっくりと近づいたその時、
「「「「!」」」」
そこから、多数の『銃声』が、ティルピッツのライフル、ズィーベン・ブルートクーゲルからのそれが響き、
弾丸が、全方位へと発射された。
「ちっ! やはりな!」
「やはり、普通ではなかったか!」
聖と修は、後方に転がりそれを回避。
「って、なんでだよ!」
「未だ健在か! ならば戦うのみ!」
泉と、弾丸を鎧で弾いた真九郎も、同じく応戦の構えを。
だが、
「きゃあっ!……くっ!」
東子が、何発か喰らってしまった様子。
「東子! ……大丈夫か?!」
光学迷彩のまま、駆け寄るミリアム。
「大丈夫で……ございます……くっ!」
手足に弾丸が当たっているようだった。貫通したらしく……出血が認められる。
『活性治癒』で応急処置を施さんとするも……血がなかなか止まらない。
『……ああ、いいわ。実にいい。あなた達、死ぬべき相手に尊敬と礼儀を表するわ……』
そして、ティルピッツがブルートクーゲルを片手に、笑顔で現れた。落雷は確かに、彼女に痛手を負わせているようだったが……それでもなお、『余裕』なのが不気味だった。
『……でも、そろそろ時間が押してるから、一人ずつ殺していくわね。その順番と殺し方は、ランダムで決めてあげる。楽しみでしょ? 私も、楽しみ。うふふ』
その笑顔は、正直……普通だった。だからこそ余計に、狂気と凶気が強く漂い、にじみ出て、より恐ろしかった。
「一人ずつ? はっ、随分余裕だね」
泉が、身構えつつも挑発の言葉をかける。こいつには、まだ『何か』ある。
『余裕? いいえ、これからあなた達を皆殺した後に、ラスプーチン様の命令通り……村人たちを惨殺処刑しなきゃあならないからねえ。その報告もしなきゃだし、大変よぉ』
「……ラスプーチンに報告? その機会は……訪れない。ここで消え去るからだ」
聖が、低い声で言い放つ。先刻の衝撃も、弾丸の狙撃も、全て『死蔵』で受け、チャージは十分。何度でも殺してやる。
「……左様、我らを舐めない事だ」
「……ああ。次の攻撃で仕留める」
真九郎と修も、ボロボロの状態で……立ち上がった。
だが、立つのがやっとで、戦うどころか、歩く事すらできていない。
泉が、少しでも時間を稼ごうと、会えて嘲る口調で言い放つ。
「とは言ってもさ、部下が全滅した後も相当時間をくれたじゃないか。……ま、状況分かってなかっただけのお間抜け司令官なのかもしれないけど、そこを突っ込むのは野暮かな?」
しかし、彼女の言葉に、ティルピッツは、
『いえいえ、骸兵に「仕込んで」おいたからね、乙女たちと同様に……。周り、見るといい』
嘲笑しつつ、促した。
「周り? ……え?」
泉とともに、
「な、なんだ、これは!」
「面妖な……!」
修と真九郎もまた、おぞましいものを見たかのように呻いた。
骸兵と乙女、彼女らの死体が、起き上がっていたのだ。
「……「ズィーベン・ブルートヒンリヒトゥング」。命令! 全員起動!」
ティルピッツは、つけているインカムを通じ、命令を下す。
『……もしもし、こちらレイラ。どなたか応答、よろしいでしょうか?』
そこへ、レイラからのパラドクス通信による連絡が。
「こちら聖! どうしました?」
『村内部に、倒したはずの『骸兵』と『乙女』が多数出現し、これを倒しました! 死体を調べると……何やら機械装置が装着されており、それが動かしているようです!』
『いかにも! 時間をくれてやったんじゃあなく、時間がかかっても大して変わんないのよ。ああ、『乙女』には最初から半数近くに付けてたんだけど、多くが壊れちゃってね。けど……お前らを多数でナブり殺すには、充分だわ』
(「そういう、事だったのね……」)
光学迷彩で、東子とともに隠れているミリアムは、状況を理解した。単騎でも強いティルピッツに、このような手勢が加わったら……。
(「こうなったら、隠れたまま狙撃を!」)
雪の中に隠れつつ、ミリアムはライフルで狙撃を。しかし、
『おっと……そこか』
一体の『乙女』を盾にされて、『フリージングバレット』をかわされた。
氷になり砕けた『乙女』の影から、今度はティルピッツからのライフルの狙撃を受け、
「うわああっ!」
『光学迷彩で隠れてても、何度も撃たれたらどこに居るかくらい見当つくわ。ばーか』
何発か撃ち抜かれ、その姿を露わにされてしまった。
「さて、そこのお嬢さん」
と、今度は泉に向いたティルピッツは、
「誰がお間抜けだって? この数の差、状況分かってる? 悔しい? 悔しいよねぇ~♪ どんな気分? ねえ今、どんな気分?」
心底嬉しそうに、スキップまでしはじめた。
「……くっ!」
泉は、歯ぎしりするしかできなかった。この状況……自分たちが負ける、あるいは落命する。その結果しか、見えてこなかった。
『ん~、みんないいわあ。その悔し気な顔! 勝ったと思ってたら不様に負ける事が決定したゆえの絶望は、スカッと爽やか! じゃ、すぐ殺してあげる……全機、攻撃開始!』
『乙女』『骸兵』、そして『ティルピッツ』。
それらの攻撃が、ディアボロスたちへ襲い掛かった……。
●招来する戦士
聖は、覚悟を決めていた。
おそらく、修も、真九郎も、泉もそうだろう。戦士ならば、いつどこで死んでもいい覚悟はある。ミリアムに東子、他のディアボロスたちもおそらくはそうだ。
毎回戦うにしても、毎回勝利するわけではない。時には敗北する事もある。そして今回、自分たちは敗北した。苦々しいが、受け入れるしかない。
そう考えた、次の瞬間。
「……んむ、後は汝だけ」
いきなり空中から現れた『彼女』が、
「……モナカ射撃型、『シルバーバレット』」
浮遊する機械らしきものを呼び出し、発砲。『骸兵』と『乙女』たちを掃射した。
「民の暮らしを脅かす者。汝の名は語られず、刻まれず。ただこの砂……じゃない、雪の下に、沈むべし」
『!? 何者だ!』
「死すべき者よ、聞け。我が名はクィト・メリトモナカアイス(モナカアイスに愛されし守護者・g00885)!」
茶色の肌を持つ、銀髪と緑の瞳の美少女が、戦場に降り立った。
『ふん、新手か。やれっ!』
『乙女』たちがティルピッツの命令に従い、クィトに襲い掛かるも、
「……おおっと、そう簡単にはいかないにゃ」
取り出した黄金猫拳打棒を用い、防御する。
「おらおらぁっ! マジに趣味悪ぃな! 悪魔といい勝負できんじゃねえか!」
さらに空中からは、眉立・人鳥(鳥好き兄ちゃん・g02854)が飛翔し襲い掛かる。
「バイビーク、展開! 最初からクライマックス&最強必殺奥義だ! 今こそ俺自身が鳥と化すッ!魔凰……滅ッ翔ォォ炎ッ!!」
黒き業火が、鳳凰の姿を模し、それを彼……人鳥がまとう。
『魔凰滅翔炎(マオウメッショウエン)』、この瞬間。地上のこの場所に、地獄が生じ、地獄の猛火が、飛来した。
強烈な火炎が、雪原の雪をも溶かしつつ……『乙女』と『骸兵』たちを地獄に送り返していた。
『なっ……なんだとおっ!』
いきなり現れた、ディアボロス側の新手。ティルピッツはいきなり絶望に叩き落とされ、
聖から、
「助かりました、恩に着ます!」
人鳥はそう言われ、地面に降り立った。
「なーに! いいって事よ!」
降り立ちつつ、バイビーク……携えた銃槍バスターライフルを構える。
まだ生き残りの『骸兵』『乙女』らが、数で押さんと迫り来るが、
「まだ足りねえか? なら、地獄の炎で消し炭にしてやんぜ!」
人鳥の放った炎の前に、炎上し果てていく。
「……にしても、本当に……この国の武装には見えませんわね」
更に、別方向から。
赤い瞳の女性が、突撃していた。白い肌と長い銀髪が美しい彼女……エレオノーラ・アーベントロート(Straßen Fräulein・g05259)は、
「……『鬼神変』。ティルピッツの前に、この雑兵たちと血で汚れた小娘どもを、握りつぶして差し上げますわ」
その両腕を、異形の形に巨大化。
襲って来る『骸兵』と『乙女』を、端から無造作につかみ、握り、潰し、握っては潰していく。
「改めて見ても、この国の武装や技術には見えませんわね。やはり……ドイツ機械化帝国より流れ着いた、ゾルダートでして?」
その返答が聞こえる前に、数体の『乙女』が跳躍し襲い掛かった。が、それらも全て、エレオノーラの腕の前には無力。弾かれ、殴られ、手に握られ、そのまま潰される。
「ナイス、人鳥、エレオノーラ。……汝たちも大丈夫?」
人鳥とエレオノーラに頷いたクィトは、泉たちに顔を向ける。
「大丈夫です、助かりました」
泉が礼を言い、
「かたじけない」
「助太刀、感謝する!」
真九郎と修も、礼を述べる。
しかし、
「良いって事よ! ……って、親玉野郎、逃げやがった!」
「あら……、撃ち合いして頂けると思ったのですけど」
人鳥とエレオノーラの言う通り、ティルピッツは、逃走を図っていた。
「卑怯な……」
「ま、待て……痛っ!」
東子とミリアムが追おうとするも、負傷の痛みそれを邪魔する。が、
「東子、ミリアム!」
泉が駆けつけていた。
「大丈夫、あいつは……聖さんたちがやっつけるよ!」
●崩落する邪悪
ティルピッツは、
「クィトさん、人鳥さん、エレオノーラさん。彼女への止めは、僕らに任せてもらえませんか?」
聖と真九郎、修に、三方向から囲まれて、その足を止めていた。
「……おう。やっちまえ! 周囲の雑魚どもは、俺たちが片付けといてやる!」
人鳥は、親指を立てて激励。
「どうぞ。仮に逃げられても、わたくしが彼女を握りつぶして差し上げますわ」
エレオノーラが微笑み。
「ん、了解。後は任せた」
クィトも頷いた。
「かたじけない」
「恩に着る」
真九郎と修もまた、礼を述べ……、
かくして、三人は、
ティルピッツと相対していた。
『……へっ、ばーか。全員でかかれば、私を倒せたかもしれないだろうに……』
言いつつ、ティルピッツは、
油断を見せず、ズィーベン・バイルシュナイデンを、大剣を構え……、
『まずは……てめーからだ!』
と、聖に切りかかる……、
『と見せかけ、最初に殺すのはお前だ、サムライ!』
と、真九郎にズィーベン・ブルートクーゲル、ライフルを向けた。
『銃は剣より、そして拳より強し! 接近戦莫迦のてめーらは、剣も拳も届かない距離から殺してやる、死ね!』
ライフルの引き金が引かれ、弾丸が放たれる。が、
「……因と果の理以て、此の世の全てを斬る!」
真九郎は、抜刀し、同時に納刀した。
「……『天龍抜刀術』。神速の居合、顕現するは『切断した』という結果のみ。切り捨て、御免」
『……え?』
ティルピッツは、気付いた。
既に、自分の左腕が、ライフルを構えていた自分の片腕が、肩口から切断された事を。
『ひっ! ……』
もはや、何かを言う余裕も無いのか。ズィーベン・バイルシュナイデンを片腕で、右手のみで握り、今度は修に、真九郎から離れている彼へと切り付ける。
「……沈め」
だが、既に彼は己のパラドクスを発動。肉体の限界を無理やり開け放ち、人間の限界を超えた動きで、ティルピッツへと攻撃していた。
バイルシュナイデンが振り下ろされても、それを軽くステップを踏んで修はかわした。続けて、高速で蹴りを放ち、重たい拳を放つ。それらはまるで、岩をも砕かんとする、吹き荒れる嵐のよう。
一撃必殺の攻撃連打。これぞ、『嵐砕(ランサイ)』。
後方によろけたティルピッツは、
「……私の脚に付けている、この脚部装甲『死蔵』は、衝撃をチャージする機能を持つ」
聖と相対した。
「……このまま、貴様を多人数で殺すのは、後味が良くない。息を整えて、三つ数えろ。数え終わったら、こちらから次の攻撃を放ち……お前を倒す」
『……コケに、しやがって……いいだろう。3……2……1……』
ゼロ、という前に、
ティルピッツは、バイルシュナイデンで、地面を抉り、
『バーカ! 素直に数えるかよ! 死ね!』
そのまま突撃し、攻撃せんとして……、
『え?』
自分がいつの間にか、拘束罠に引っかかり、その場に拘束されていた事に気付いた。
「……そこは、先刻に私が、最初に攻撃を仕掛けた場所。既に……『トラップ生成』を仕掛けておいた!」
『……ひっ!』
言うが早いが、一瞬で接近した聖は、
片脚を踏み込み、衝撃を解放。軽気候とともに超加速し跳躍し、
「……突き抜ける! 『死蔵閃撃「月矢」(デッドストックインパクトアロー)』!」
空中からの、必殺キックを放った。
『!』
断末魔の悲鳴。それすらも許さず、
蹴りが決まると同時に、『死蔵』の蓄積した衝撃を解放。ティルピッツの身体に、その全てを叩きこみ、
爆散させた。
「……言ったはずだ、ラスプーチンに報告する機会は、訪れない、とな」
破壊された大剣が地面に転がり、聖の声が戦場に響く。
そこへ、
「……皆様、村の中の『骸兵』及び、『赤い靴の乙女』たちは、殲滅いたしました」
ロザーリヤとエイレーネを伴ったレイラが、その場にやってきた。
彼女のその言葉を聞き、皆は……実感した。
アヴァタール級との決戦が終わり、クロノヴェーダとの戦いの幕が下りたという事を。
「……皆さん、一体……?」
ルシアが目を覚ますと、メドヴェージェフ亭の内部に……多くの客がいる事を知った。
「……もう、大丈夫だ」
「ええ。わたくしたちと仲間たち、それに……新たな仲間たちにより、問題は解決してございます」
ミリアムと東子が請け合う。ミリアムは自身の『活性治癒』と、泉のそれが効いているようでなによりだと、言葉に出さず思っていた。
「ルシアさん、目を覚ましたの?」
「元気になられたようで、なによりです。今……縫っていますからね」
部屋の端には、泉と、キルトを縫っているレイラが。
「皆さんは……ミリアムさんや泉さんたちの、お友達ですか?」
ボリスが訊ね、
「お前さんたちが、彼らの友人なら、わしらにとっても友人だ。どうか、もてなさせてもらいたい」
ワヌーシカは、そう申し出た。
「まあ、そんなとこだ。赤ん坊が生まれたんだって? 俺からも『おめでとう』と言わせてくれ」
人鳥が、ルシアの隣のゆりかごを覗き込む。二人はすやすやと眠っていた。
「あら、かわいいっ」
「ん……良かった」
エイレーネとクィトもまた、人鳥とともに双子の顔を見る。
「……この地で。寒くとも、それでも力強く生きる人たちは存在している。そして、新たなる命の誕生も……その命を奪うことは、許されぬこと」
クィトはしみじみと呟き、双子を見て微笑んだ。
「にしても、麗しき女性たちが僕らの恩人とは。お礼に即興詩の朗読を……『ああ、魔のように心奪われ、地獄のように心熱くなり、天使のような純粋さに触れ、恋の甘さをここに知る』……」
「やめんか。お前さんのへたくそな詩を朗読されるくらいなら、また奴らに攻め込まれる方がましってもんだ……。だが、皆さんへの感謝はわしも同じ。心より、お礼を申し上げる」
デミトリとゲンナジーのやりとりに、
「ふふっ、詩のことはともかく、皆さん無事で何よりでした」
エレオノーラは、思わず微笑んだ。
「まあ、無事に済んでよかった。ああ、ぼくたちへの感謝なら、気持ちだけいただく。あまり……ゆっくりもしてられないので」
と、ロザーリヤ。
「いかにも。それがしたちは……あと少しで、ここから去らねばならぬゆえ」
「ああ。だが……みんなを護れて、本当に良かった」
真九郎と修、そして、
「どうか皆さん。お体に気を付けて……」
聖の言葉に、
「ありがとう。皆さんがどこのどなたかは聞きませんが……皆さんも……お体に気を付けて……」
どうか、お元気で。
ユーリの礼。それは、何よりの報酬だと、皆は感じていた。
罪無き者を救い、礼を言われた。それで十分、ディアボロスであっても、それに満足を覚える程度の贅沢は許されるだろう。
新たな戦いが、また別の時代、別の場所で起こるだろう。それはディアボロスを疲弊させ、時に挫けさせるかもしれない。
しかし……今日のこの日のような、罪無き人々を護れたことは、ディアボロスたちの心の糧となり、クロノヴェーダを倒す新たな力となるだろう。
絶望を打ち砕き、希望を護ったディアボロスたちは、
しばし、あたたかな時間を過ごすのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【寒冷適応】LV2が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【強運の加護】LV2が発生!
【飛翔】がLV2になった!
【完全視界】がLV2になった!
【防衛ライン】がLV2になった!
【怪力無双】がLV3になった!
【光学迷彩】がLV2になった!
【隔離眼】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV5(最大)になった!
【グロリアス】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!
【能力値アップ】がLV4になった!
【アクティベイト】がLV2になった!
【アヴォイド】がLV2になった!
【ラストリベンジ】LV1が発生!