戦闘訓練in新宿島！（作者 天野ハザマ）

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リプレイ

●最初のプログラム「水中移動訓練」に向けて
　大分人が集まってきた湾岸地区のお台場海浜公園水上バスのりば付近では、観衆がカメラの調子を確かめている。
　今回のプログラムの最初でもあり、観客に公開されるのがこの水中移動訓練ということもあるからだろう。
　推しのアイドルを応援するかのような熱気を見せ始めている。
　とはいえ、水中移動訓練が始まるまではもう少しある。
　さあ、彼等を楽しませる為にも……この最初に行われる水中移動訓練、頑張らなければいけないだろう……！


























●水中移動訓練
　集まった参加者たちを前に観客たちの大きな歓声が響き渡る。
「寒い中ありがたいことだ。風邪ひかないようにね」
　自分ではなく若い子たちを見に来たのだろう……と、そんなことを考えながらも逆叉・オルカ（オルキヌスの語り部・g00294）を振るが、「オルカ―！」という黄色い歓声が聞こえてくれば「まさか」と思いつつも声援に応えるしかない。
「水の中……ね、思い出すのは千葉側の守護者かな。今は水中適応があるが…それで満足しては伸びるものも止まる。出来る限りの限界に挑戦してみよう。体力切れや低体温症には十分注意しなければだが……」
　言いながらオルカは海水に触れる。思ったよりは水温は低くない。
「よし、行くか」
　自分と戦うつもりで最速を目指そう、と決めるオルカだったが、今回の意図を考えれば泳ぎながら学ぶべきことは多くある。
　普段ならパラドクスのこともあり水中は得意分野だが……寒い中をどう泳ぐか、改めて意識する。
（深く潜って……シャチやイルカの泳ぎはもちろんだが……他の動物の動きも真似てみよう。ペンギンとかもいいな。より早く泳ぐには……こう、かな？）
　シャチやイルカ、そしてペンギンの動きも真似ながらオルカは泳いでいく。
　そしてレイア・パーガトリー（毒棘の竜騎士・g01200）やブロス・ブラッドハート（いっしょのじかん・g03342）は偶然にもこの人ごみの中で出会えていた。
「ブロスも特訓するのね？」
「お、レイアも出るんだな！」
「にしし、おれの速さについてこられるかな〜♪
「私も負けないわよっ」
　そんな挨拶を交わすと、レイアは水着コンテストでも使った衣装をブロスへと見せつける。
「ひらひらして可愛いでしょう？」
「うんっ、すっげー似合ってる！　でもレイアは水着じゃなくても可愛いーぜ？？」
　そんなブロスの天然な発言はともかく……そんな２人も早速海の中へと入っていく。
　レイアがイメージするのは、人魚。ドラゴニアンの尻尾を魚のしなやかな下半身に見立てて左右に揺らして推進力を稼ごうというのだ。
　経路中のカーブや直線に合わせて、持続力やトップスピードのどちらを重視するかでコイの優雅な遊泳からマグロの神速までいろんな魚の再現を試みていく。
　竜の翼は大きな胸ヒレ代わりにしてブレーキ、方向転換に使い手足は腹ヒレ代わりにして浮き沈みの制御をしたり……身体の全てを魚を想定してレイアは泳ぐ。
「慣れてきたら足は尻尾に添えるぐらいで、魚になったつもりでゴールを目指すわよ！」
　そしてブロスは……こちらはイッカクをイメージしているようだ。
「おれは海のユニコーンって呼ばれるイッカクを真似してみるぜ！」
　腕と翼を胸ビレ、尻尾を尾ビレみたいに使ってぐいぐい加速しようとするその泳法は、レイアのそれとも共通点がある。
（イッカクはすっごく長く潜水してられるみたいだから、おれもおもいっきり息を吸ってぇ……がんばるっ）
　息継ぎの時はざっばーん！　と大きな音をたて、水中から豪快に角を突き出して湾岸のみんなにアピールするのもブロスのサービスの１つだ。
どーだー、かっこいーだろ！
　時々クジラみたいにくるんって水面で回ったり尻尾でばしゃーんって水しぶきをあげたり……スピードよりも観客アピールに力を入れる姿は、相応の声援が上がっていた。
「力強く神秘的な泳ぎでいくぜ！」
　そんなブロスの狙いは、まさに「当たって」いるだろう。
「寒っ！　いくらドラゴニアンボディが頑丈とはいえ堪えるわ……」
　薬袋・透（無彩の魔女の系譜・g02087）もそんなことを言いながらも、泳ぎには本気だ。
　アシカの泳ぎ方を参考に、自慢の大きな翼で水をかいて推進力を得つつ、まっすぐに伸ばして揃えた脚と尾で舵をとる泳法。
（普段は翼を折り畳んで抵抗を減らして水を蹴って進む、今回と真逆のやり方だからちょっと新鮮だわ）
　しかし、これはこれで泳げている。
「泳ぎは結構得意だけど、そこで満足してたら進化はないもの。それに、今すっごく泳ぐの楽しい気分だし……『飽き』が来る前にもっと頑張らないとね！」
　シル・ウィンディア（虹霓の砂時計を携えし精霊術師・g01415）もまた、泳ぎ方に力を入れた１人だ。
「泳ぎ、泳ぎ、かぁ……ん－、スピードは、速い人はいくらでもいるから、動物になり切って……イメージ、イメージ……
んと、この動物ならいけるかな？」
　シルが選んだ「模倣する動物」はイルカだ。
　ヒレの動きをまねて、ドルフィンキックで水中をどんどん泳いでいく。
（ちょうど、水着もマーメイドモチーフだし、似合うかな？）
　呼吸するときは、水面を跳ね上がるように水中から一気に上昇。
　跳ね跳んでダイナミックに動いていくその姿に、いつかどこかで見たイルカを思い出した観客も多いだろう。
　その後は、またもぐってドルフィンキックで泳いでいく。
「ふふ、本当にイルカになったみたいな気持ちなの。空もいいけど、水中も気持ちいいね」
　……ちなみにだが、チームで参加している面々もいる。
【ヴィラスイム】の登録名で参加した風花・波那（夢詠の花果・g00593）、宮生・寧琥（チェネレントラ・g02105）、白尾・真狐（まったり狐娘・g05562）だ。
「やる気満々。燃えてきたわ！」
　空色のセパレート水着に身を包み、仁王立ちする波那に黒色に白のラインの競泳水着でドヤっと登場する真狐。
　そんな２人に挟まれた寧琥もやる気では負けていない。
「おぉ〜、波那ちゃんも真狐さんもやる気まんまん〜っ。ねーこもがんばっちゃうケドぉ」
　観客アピールも充分に終われば、いよいよスタートだ。
「私は速そうなイルカ模倣で行く！」
　波那はパレオを巻き、両足首にはリボンを縛りイルカの尾を表現していた。
「泳ぎ辛そうだけど追い込むことこそが特訓よ！　形大事！」
「ふーん、残留効果なしで泳いで訓練……面白いこと考えるね。波那ちゃんはイルカなのねー。だったら僕はペンギンにしよー♪」
　真狐も、自分が模する動物を決めたようだ。
「ペンギンって泳ぐ速さはとっても早いからねー、そして何よりかわいい！　かわいくて速いとなればさいきょーよ！」
　言いながら、「どう泳ぐか」も決めていく。
「ただ、模倣して泳ぐといっても……そうだねぇ。ペンギンが早いのは体の周りに空気の膜があるって聞いたことあるからなんかこう、飛び込みの時の空気を利用する感じでふわーって泳いでみようかなー」
　まさに本気……だが。
「ね、ねーこは修行やんわりがイイ〜……っ。でもでも、新しい力ゲトるために、がんばるしぃ。泳ぎそんな得意じゃないから、2人よりものろのろ〜って、でも（ねーこ比）めっちゃ速くおよぐ！！」
　寧琥もそんな２人にあてられて、やる気になったようだ。
「み。イルカにペンギン。どっちもめっちゃイイ〜！　ならばねーこはカワウソだぁっ！　ほふふ、動物園で動画に撮ってきたねーこは、最早カワネーコと言っても過言では……ないっ！」
「真狐ちゃんペンギンで行くのね！　ねーこちゃんはカワウソ！？　どっちも実は速いの……？　……くっ、二人に可愛さで負けた気がする」
　そんなライバル心を波那が燃やしつつも、３人の仲の良さは変わらない。
「イルカの波那！　行ってきまーす！」
「くねくね泳ぎに、すもぐりっ」
「ふふー、キュートな僕に見惚れちゃってもいいのよー？」
　そうして飛び込んだ３人が、しっかりとタイミングを合わせていたのは……まさに、その証明だろう。
　チーム参加がいれば、勿論ソロ参加もいる。
　イシュア・アルミゴス（守護星蟲・g00954）も、その１人だ。
「くーーーッ、超冷える。えーっと速い水中の生き物……検索検索っと……カジキマグロシャチ……なるほどなるほどなるほど」
　イシュアはどんな生物を参考にするか悩んでいたようだが……意外にも早くその結論は出たようだった。
「古今東西!　だいたいの男は!　カッコいい生き物に憧れる!　荒々しく!猛々しく!　クールなフォルムに迫るデンジャー!　見せて魅せるよシャーーーク!　泳法!」
　観客アピールもバッチリに、イシュアは海に飛び込んでいく。
　加速のままに障害物の手前でジャンプし無理やり方向転換。
　最初は静かに適度に息継ぎを繰り返し、先頭集団と離れすぎずペースを保って追跡していく。
（終盤に獲物を追いかけるように獰猛に荒々しく泳いで魅せるよ。コースの破壊と選手の妨害はしない紳士なシャークだからね）
「爽快に気持ちよく!　さいっこうにたのしむよ!」
　そしてエトヴァ・ヒンメルグリッツァ（韜晦のヘレーティカ・g05705）も、同じくソロ参加だ。
　模した動物は……イルカだ。
　黒のレギンス有の細身の三点ラッシュガードで参加しているその姿が、もうイルカっぽいと言えないこともない。
「前の水中戦訓練を思い出すな。泳ぐのも海も好きだし、楽しみだ」
　ストレッチしてスタート地点へ向かうエトヴァだが……「冬の海？ 寒さには慣れてくるだろう」と何とも力強いことを言っていた。
　まあ事実、海はそんなに冷たくない。無理は禁物だが慣れることは可能だろう。
　呼吸法で限界近くまで息継ぎを抑えドルフィンキックをしつつ潜水時間を伸ばし、速度を上げていく。
　潮の流れや波も感じ、まさにイルカになりきる気持ちでエトヴァは泳いでいく。
　ちなみにイルカを選んだ理由は「哺乳類だし、復讐者にも馴染みがあるかも」といったような感じらしい。
　呼吸はバタフライで水上へ大きく跳ねてみたり、イルカの優雅さをのせて長身で水を蹴りポーズは腕を脚側へもってくるのが近いかもしれないからと試してみたり、大分余裕がある。
（遊び心も大事だ。夢中になって跳んで、潜って、泳ごう）
　そして、メルキディア・セデクリエル（閃機術士のエンジェリアン・g03132）もまた他の参加者とは少しばかり違う視点で参加していた。
「新しい水中移動の訓練……研究の一環として頑張らないとね」
　研究。そういった視点もまたアリだろう。
「カタラクト・ストリームに付随している【水中適応】はもちろん封印。技の術式に入っている魚座の天使バキエルからシンプルに魚……背中の翼を考慮してトビウオ＋人魚をイメージして泳いでみましょうか」
　背中の空いているタイプの競泳用水着を着ていざダイブすれば、思ったよりはずっと水温の高い海水がメルキディアを迎える。
　推進する際には翼と足をうまく使って水をかき、進む間は翼を伸ばしてたたみ抵抗を少なくしつつ泳いでいく。
（う～ん……羽毛付きの翼じゃ流石に抵抗が激しすぎるかな？）
　幸いにも、参考にするべき生き物はたくさんいる。
　他にもシャチやペンギンなどの動きを取り入れて試行錯誤しつつメルキディアは泳いでいく。
　他の面々には若干遅れ気味だが、そんなことは気にするべきことでもない。
　頑張ってゴールを目指そうと、メルキディアは色々な泳法を試していく。
「ううう！　さささむい！　残留効果に慣れちゃってたけどこんなに寒いなんて！　でもこれも人類のため、未来のため、がんばろう俺……！」
「日々闘技場で戦闘訓練を行ってはいますけど、パラドクスを使わずに鍛錬するとなると趣が大分異なりそうですね」
　戌泣・カルカ（雨喪晴天・g08655）とマルケト・キサウェ（docta ignorantia・g03412）はそう言い合うと、思わず顔を見合わせる。
　ラッシュガードに着替えたカルカと競泳水着のマルケトは互いになんとなく頷くと、一緒に準備体操を始めていく。
「……観客がいるのちょっと恥ずかしいな」
　カルカはそんなことを思うが、マルケトは気にしていないようだった。
「（刻遡前の記憶が無い身というのもあって）わたくしは日常生活でも割と気軽に残留効果を使うタイプなので……便利な効果をうっかり使わないよう、十分気をつけないと」
「そういう意味では本当に訓練だよな」
　そんなことを言いあうと、マルケトとカルカも海へ潜っていく。
「動物の動きを模倣する……イルカとかが良さそうですかね？　瞬間的な泳速ならもっと速い動物も沢山居ますけど、個人的には魚類より哺乳類の方がイメージし易そうなので。ドルフィンキックという泳法もありますし」
　マルケトが選んだのはイルカ。その泳ぎ方も、中々堂に入っている。
　一方のカルカは、ちょっと珍しいものを選んでいた。
「水泳なんていつぶりだろ。真似してみる動物は鮭にしてみようかな？　変身するとしたら小回りが効いて使い勝手が良さそうだしね」
　鮭は、ああ見えて中々根性のある魚だ。真似するには確かに面白いだろう。
　カルカは着水したら両足をくっつけて膝から爪先へ流れるように横に往復して、泳いでいく。
（動画で勉強したけど難しい……こうなれば俺の尻尾を魚の尻尾に見立てて、なるべくゆっくりでも正確に泳ごう）
　そうして水中訓練の参加者たちがそれぞれの泳法を披露する中で、カルカも自分なりのやり方で泳いでいく。
「自分は今鮭なんだ！　狐じゃない、鮭だ！」
　なんでも思い込みは重要というが、今のカルカもまたそうだろう。
　一番最初に戻ってきたのはオルカではあったが……参加者たちの見せた素晴らしい泳ぎの前では、順位など然程重要ではないというかのように、観客から惜しみない拍手が送られていた。










●地対空戦闘訓練（地上側）
　水中訓練も終わり、いよいよ戦闘訓練だ。
　事前の情報通り、地上側は戦術的に有利だが……それは油断していいという話ではない。
　命はかかっていないが、互いに真剣にやってこそ得られるものもある。
「この戦術に新しい発展出来るかな？」
　月城・木綿紀（月城家三女の【裁縫】の魔術師・g00281）もそんなことを言うが……この訓練で得られるものも多くあるだろう。
　何より飛翔チームもやる気満々だ。地上側とて有利だからと気を抜いてはいられない。
　木綿紀は飛翔する相手群に対しトラップ生成でワイヤー陣ととりもち弾を飛ばす砲台を展開、前者で群を個々に分断して空路に制限をかけ後者で撃ち落とそうと準備していた。
　とりもち弾を避ける人がいるなら、触れたモノを弾く板を生成、足場兼とりもち弾を防ぐ盾にしてワイヤー陣の中を動き回りながら板によって縦横無尽に飛んでいくとりもち弾を使って追い詰めるべく準備していたが……どの程度通じるかは、やってみなければ分からない。
　何しろ飛翔側は簡単に逃げる事が出来てしまうのだ、敵を逃がさずに撃破しようとする場合は、こちらも【飛翔】する必要が出てくるだろう。
　戦闘は地上側が有利になるので、敵が逃げずに戦うという場合は、空を飛ぶ敵も地上に降りてきての地上戦を行う可能性も高そうだ。
　だからこそ影守・玲奈（Mechatromagus・g03719）も、今回を良い機会と考えていた。
「今後の戦いに生かせる貴重なデータが取れそうだね。一枚噛ませてもらおうかな」
　戦場は倉庫街ということもあって玲奈は黒白灰色を基調とした都市迷彩パターンの服装で臨んでいたが……飛翔側には空戦慣れしている者が多いとも考えていた。
（遮蔽物に身を隠すにしろ、発見されにくくする工夫を施して損はないからね）
　一発でまとめてやられないよう味方とは分散し、ある程度の間隔を開けて行動することも忘れはしない。
　飛翔側の動きを観察し情報収集……相手の狙いを予測し、狙うは不意打ちだ。
『不意打ち』の機を待つよ
（攻勢に出るのは飛翔側が低空に来るタイミングだ。携帯式地対空ミサイル……の代わりに【ワイファイスパーク】でね）
　そうして放ったワイファイスパークに、対地射撃をしていた飛翔側の相手が反応する。
　そう、それは逆説連鎖戦の成立による物理法則を無視した反撃だ。
　完全に隠れていても、反撃はされるので意味は無い。
　逆説連鎖戦の反撃は、物理法則を無視して来るので、完全に体を隠して僅かな隙間から攻撃したとしても、反撃は受けるからだ。
　ただ、攻撃を受けにくいような工夫をすれば、有利に戦う事が出来そうだ……と玲奈は感じていた。
　そして逆に飛鳥・遊里（リサイクラー・g00512）は目立つところに陣取っていた。
「さて……せっかくの大規模訓練だ、色々試してみるのがいいだろうな。というわけで、早速俺は、一番見晴らしのよさそうな建物の屋上に陣取ったわけだが。このナリで高所に居ればさぞかし目立つだろう」
　機動防盾を構えて、超硬度チェーンソーを抜刀、攻撃態勢を取った遊里は、まさしく目立ちまくりである。
　そして殺戮の見えざる刃によってチェーンソーをぶん回してソニックブームを発生させ、空中に放ちまくる。
（仮に避けられても問題はない。ソニックブームの余波で気流が乱れれば、それで飛行にも影響が出るはずだ）
　遊里の今回の試みは、【あえて目立つことで、見えない攻撃を悟られないようにする】だ。
「空中だと360度全方位警戒しなきゃならんからな。さあ、どう対応するかな？」
「こう対処するのよ！」
　と、そこに死角を突いた飛翔側の最大戦速からの一撃離脱攻撃がやってくる。
「そんなんじゃ私を落とせないわよ！　さあ、もう一度！」
　なるほど、此方が有利とはいえ一筋縄ではいかない。遊里は学ぶことは多そうだ、と笑って。
「拳士にとっちゃあ手の届かない高空の相手は鬼門だからな。イイ対策法を身に付けたいところだ」
　八栄・玄才（井の中の雷魔・g00563）は言いながら、上空でキラキラ光る飛翔側の眼鏡を視認する。
　障害物を遮蔽にしつつ、防ぎ切れない攻撃は殴り払って粉砕していくが……。
「矢でも鉄砲でも、ミサイルだろうがビームだろうが殴り破壊するのがオレの拳と雷の籠手、ワード・ブレイカーだ！」
　相手が空中を高速で移動しながら攻撃してくるなら、どこかでターンするタイミングがあるハズ、と玄才は考えていた。
　その機を【戦闘知識】で読み、【呼吸法】を用いて僅かな時間で極限の集中……そして、飛翔の軌道を見切り短刀・鳴牙を鋭く、速く、正確に投擲すれば充分に当てられる。
「そこからパラドクス発動だ。落ちるんじゃなくて、昇る雷を食らえ！」
　やはり地上から【飛翔する敵】を攻撃するのは、かなり有利なのは間違いなさそうだ、と玄才は思う。
　ただ、飛翔側は簡単に逃げる事が出来てしまうので、敵を逃がさずに撃破しようとする場合は、こちらも【飛翔】する必要が出てくるだろう。
　戦闘は地上側が有利になるので、敵が逃げずに戦うという場合は、空を飛ぶ敵も地上に降りてきての地上戦を行う可能性も高そうだ。
　そして……エルマー・クライネルト（価値の残滓・g00074）もまた、訓練に没頭していた。
「今までの戦いで空を飛ぶ敵と戦う機会も多くあった故、対空戦の手数が増えるのは願ってもないことだ。ディアボロスの可能性を広げるよう訓練に努めるとしよう……とはいえ相手側に私を一点狙いしてきそうな奴が居るがどう動くかね」
　そんなことを言っていたエルマーだが、その推測は当たっていた。
「エルマー！　楽しくて有意義で最高にロックな模擬訓練を始めようぜェ！」
「遮蔽物ごと破壊するか……用意されたものとはいえ容赦が無いな飛んで火に入るロックスターがよ、その勝負受けてたつ」
　飛行する敵の最も脅威となるのは機動力と考える、ならばその機動力を削ぐよう立ち回るべし、と。
　そんな思惑をぶち壊すように暴れ回る相手とやり合いながら戦場を見て、エルマーは思う。
（こちらが一方的に攻撃できるという事は、誰を攻撃するかの主導権は地上側にある、ということだな）
　敵を集中攻撃して撃破できれば、反撃でダメージは受けるが、敵の数を減らせるので以降有利になるだろう。
　地上側の戦力が充分に多ければ、【飛翔】してくる敵など、ただのカモにしかならない。
（逆に言えば、敵の地上戦力が多数いる場所に【飛翔】で近づくのは自殺行為という事だ）
　今回は互いの数が同等であるためそれほどのものは感じてはいないが、この戦いにはそうした学びも生まれた。
　この訓練で、更に飛翔というものに関して理解できたような……そんな感じが、したのだ。










●地対空戦闘訓練（飛翔側）
　時間は多少戻って。飛翔側のチームもやる気は満々だった。
「教導役はエゼキエルで年少の復讐者相手にしてた時以来。大天使相手に対空戦は慣れたもの……ふふ『撃ち落とそうなど無意味』だと教えてあげようか」
　百鬼・運命（人間のカースブレイド・g03078）はそう言いながら飛翔するが……見えてきたのは地上側のチームの仕掛けた罠に、堂々と建物の上に陣取る者の姿。なるほど、まさに想定通りにはいかない。
　しかしそれでこそだ、と運命は思う。
　空戦軌道をエリザベータ・シゲトヴァール（聖イシュトヴァンの剣・g00490）に任せ、此方は地上班の攻撃をタイミングをずらして躱そうとする。パラドクス相手でなければ、それもまた充分に可能だ。「対空戦闘が三次元ではなく四次元戦闘であることを示そう。ＶＴ信管が対空戦に革新をもたらしたように
偏差射撃の達人がエースになるように対空戦闘は時間軸が重要視される」
　それを理解すればこういう結論に至るだろう、と運命はひとりごちる。
「撃ち落とすなら【未来予測】で事足りる。この訓練で『撃ち落とそうなど無意味』じゃないか？　ってね。さてそうなると撃ち落とす以外の対空戦闘が必要となってくるわけ、だけど！」
　とはいえ、パラドクスによる逆説連鎖戦の反撃は、物理法則を無視して来る。
　加えて空を飛ぶ事で、目標地点まで高速で近づく事が出来るが……パラドクスの攻撃は『視認』する必要があるので、地上で隠れている敵を見つけるのは難しい。
　敵からの攻撃を受ければ反撃できるが集中攻撃されると、撃破されてしまうのは避けられない。
　反撃は可能だが、【飛翔】中は、戦闘の工夫の余地が少ないので、【飛翔】したままの戦闘は、どうしても不利になってしまう。
　とはいえ運命がやっているようなことや『乱数回避』などの回避行動は、一定の効果はあるようだ。
　反撃は可能だが、敵が隠れながら攻撃してくる場合は、視認できずに、こちらからの攻撃は難しくなる。
　実際に戦闘が始まった場合は、地上に降りて戦う方が効率が良いのもまた確かだろう。
「だとしても、簡単に落とされはしないけどね！」
　そんな中、エリザベータもやる気はたっぷりだ。
「対空戦闘訓練のアグレッサー？　私にお誂え向きの役目じゃない。ふふっ。ビシバシ鍛えてあげるから覚悟しなさいよ」
　エリザベータが狙うのは見晴らしのよさそうな建物の屋上に陣取った相手だ。
　一見、物凄く狙いにくいが……物事には完璧などというものはない。
「対地攻撃の基本は地表や海面スレスレを這う様に飛ぶNOEやシースキミングよ。地形の利用で遮蔽物を使ったり地上側の死角を突いたりしながら最大戦速から一撃離脱……」
　エリザベータであれば空中戦技能を駆使しての回避運動や、眼前でのポップアップから反転･急降下爆撃等、内容が単調にならない様に多彩な攻撃パターンを提供することすら出来る。
　後々デブリーフィングも怠らず、上手くいかない原因は何かしっかり洗い出すことも考えていた。
「そんなんじゃ私を落とせないわよ！　さあ、もう一度！」
　そして秋津島・光希（Dragonfly・g01409）もまた全力であった。
「地球全部取り戻すにはまだまだ遠い。やれること、積み重ねていかねえとな……気張ってくぞ！」
　航空戦向きの能力だからと飛翔側のチームに参加した光希だが、自分なりに出来ることをしっかりとこなすつもりだ。
（やることはガチな戦場と変わらねえ。如何に戦況判断して如何に敵（地上側）に被害与えて如何に味方（飛翔側）の損害を抑えるか、だ。とはいえ、お互い怪我にだけは気を付けねえとな）
「地上側が身を隠すなら何処だ？　今の風向きなら、どう飛べばいい？」
　味方と連携しつつ地上側の思惑を読んで動くが……どうも地上側は分散しているようで、それは実際正しいだろう。
　砲撃をぶちかまして地上側の想定を可能な限り崩して離脱する算段でいたが、効果はどの程度あるものか。
「……さあ、どう対抗してくれる？　飛翔側にも貴重な経験になるんだ、頼むぞ」
　罠も仕掛けてあるし明らかにこちらを誘いつつ全方位に攻撃している者もいるが……どの戦術も有効そうだ。
　そして同じように霧宮・悠希（小さき復讐者・g02383）も対地戦を展開していた。
「クロノヴェーダ相手に立体的な戦闘機動を行って戦ったことも少なくはない。今回の訓練はいろいろと良い経験になるはずだ」
　飛翔し、高度の上限いっぱいを保ったまま模擬戦場に進出した悠希はまずは牽制とばかりに光希と共に高度を保って飛び回りながらの対地射撃を行っていく。
「狩人」の機関砲とミサイルランチャーを織り交ぜて地上側の人達に攻撃を仕掛けているのだ。
　だが、そこに飛んできたのはワイファイスパーク。
　姿勢を反転、急降下。「狩人」での射撃を継続しつつ、サイキックメタルで形成したサブアームに「執行人」を持たせて……地上スレスレを滑空し、すれ違いざまに切り払って離脱する。
（やっぱり相手が【飛翔】してこないのならば、逃げるだけなら難易度は低い。【飛翔】同士のドックファイトは、『敵を逃がさないで決着』をつけようとした場合に発生するのだろう。互いに【飛翔】しているのならば、空中戦の技術で優劣がつくかもしれないな）
　悠希はそんなことを考えながら戦っているジョン・エルバ（ロックスター・g03373）を見る。
「自分が敵になりきって空中から強襲すりゃいいんだろ？　アハ、模擬訓練なんて中々ねえからな〜技能を得るためにも戦闘は多少本気でいかせてもらうぜ！」
　そんなことを言いながら特定の相手を狙って急降下していったジョンだが、実に楽しそうだ。
「相手より上を取れるのは戦闘において有利だとかなんだとか。つまり先手必勝&上空で最強ってことだ！　エルマー！　楽しくて有意義で最高にロックな模擬訓練を始めようぜェ！」
　パラドクス「Make Happy」で障害物をぶち壊しながら戦うジョンは実に楽しそうだ。
　そうして戦闘訓練は続いていくが……飛翔側にとっても、多くの得るものがあった、そんな模擬戦であると。
　誰もが、そう感じていた。
　そしてそれを感じられたのならば、それだけでも今日という日には大きな、とても大きな意味があったのだろう。

最終結果:成功
完成日	2022年12月08日