パリのゾルダート秘密工場

 ミュラ元帥の軍勢を叩いた上で、パリに向かったディアボロス達が目にしたのは、大きく姿を変えたパリの市街でした。
 現在のパリ市街は、機械化ドイツ帝国の技術でクロノ・オブジェクト化された『エトワール凱旋門』を中心に、急速に機械化ドイツ帝国の技術による要塞化工事が進められています。
 更に、パリ市内に建設されたゾルダート秘密工場では、パリ市民を誘拐してサイボーグ化手術を施しているようです。
 この工場では、脳まで機械化する事で、手っ取り早くトループス級のゾルダートを量産して戦力化をしようとしています。
 まずは、この、秘密工場を支配するクロノヴェーダを撃破し、囚われた人々を救出。
 パリ市民のゾルダート化を阻止し、パリ攻略の足掛かりを作りましょう。

鋼鉄の哀歌(作者 水綺蒼猫
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●囚われ人たち
 しんと静まり返った暗闇の中で、少女の声が微かに洩れる。
 切なくも美しい旋律。
 少女はそっと、覚えたばかりのフランス民謡を口ずさんでいた。
「ああ……」
 嘆息にも似た呟き。
「いったい、なんでこんなことになっちまったのかねぇ」
 少女の傍らに座り込んだ中年女性が、堪らず娘の肩を抱きすくめる。
 縋りつくように女性の服を握り締めて眠る小さな男の子も、彼女の子供の一人なのだろうか。
 彼らは、薄暗い牢獄に閉じ込められた囚人……否、何の罪もない囚われ人であった。
 朝がくれば、鋼鉄の手足を軋ませた不気味な牢番が、鍵の束をジャラジャラさせながらやってくる。
 その背後には、薄汚れた白衣を着た禿頭の老人の姿。
 老人は通路の左右に並んだ牢屋をひとつずつ値踏みするように見回し、ぐへへっと下卑た笑いを浮かべて。
「さてさて、今日は誰がワシを存分に楽しませてくれるのかのぅ?」
「こ、この子たちだけはどうか、どうか勘弁してやって下さいまし……!」
 こんなにも幼い子供が、いったい何の役に立つというのだろう。
 頼むから見逃してくれ、目こぼしをしてやってくれと、牢の中の女たちは我が子を抱えて狂ったように泣き叫ぶ。
 男も女も、老婆も幼子も。
 誰もがみな知っていた。
 白衣の老科学者──機械化ドイツ帝国一般研究員であった男の目に留まり、牢から出された者は、二度とここには戻って来ないことを。
 この牢獄のもっと奥の奥、誰も知らない閉ざされた扉の向こうで、彼らは機械の身体に改造されてしまうのだ。
「フン、誰が見逃すものか。そこの折れそうに細っこい脚の娘や、死にかけの老いぼれ婆さんだってな。このワシの手に掛かれば、あっちゅう間に無敵の機械兵になれるんじゃ。時代遅れの無知で愚鈍なパリ市民どもが、最下級とはいえゾルダートになれることを光栄に思うがいい。ぐへっ、ぐへへへへ」
 まずはおまえからだと、屈強そうな若者が牢番の手で引きずり出される。
「次は……うむ、そこのむっちりとした肌艶のいい坊やにしとこうかの。へへっ、こりゃまた改造のし甲斐がありそうじゃ」
 今日もまた憐れな市民が一人、いや三人四人と悪夢の手術室へ連行されてゆく。
 肉体のみならず、脳までをも機械化された者は、永遠に家族の元には戻って来ない……来られない。

●無慈悲な計画
「みんな、集まってくれてありがとう」
 新宿駅のプラットホームに現れたディアボロスたちを、時先案内人のリュシル・ポワリエ(人間のリアライズペインター・g03179)が出迎える。
「1803年のパリが今、大変なことになってるのはみんなも知ってるよね?」
 機械化ドイツ帝国より持ち込んだ技術の粋を集め、クロノ・オブジェクト化された『エトワール凱旋門』
 ジェネラル級自動人形『不滅のネイ』指揮の下、凱旋門を中心とした都市の要塞化工事が急ピッチで進められている。
「さすがに最初はみんな驚いたようだけど、いろいろ便利なことも多いしね。現地では、機械化も案外悪くないかもって思う人が増えてきてるみたい」
 その一方で、急激な環境の変化についていけずにいる昔気質な市民も少なくない。
 最近なぜかそんな者たちばかりが立て続けに誘拐され、失踪する事件が頻発しているのだとリュシルは続けた。
「中には一家全員、お年寄りや小さな子供まで行方不明になってるおうちもあるって噂だよ」
 彼らは誰に攫われ、どこに行ってしまったのだろう。
 調査の結果、リュシルが得た情報には、なんともおぞましい事実が含まれていた。
「街のならず者、反社会的勢力の構成員……とでもいうのかな。とにかく出自も経歴も分からないうさん臭い人間がクロノヴェーダに雇われて、手段を選ばない強引なやり方でみんなを誘拐しているそうなの」
 そうして拉致された者は、街のどこかにある秘密工場に集められ、監禁されている。
 そこにはいくつもの牢屋とその奥に隠された小部屋があり、連日怪しげな手術が執り行われているのだという。
「怪しげな手術……?」
 ディアボロスの一人が返した問いに、リュシルは小さく一度頷いて。
「攫ってきた人をね、改造するための手術だよ。身体の大部分をサイボーグ化するだけじゃなく、脳にメスを入れて人格まで変えてしまう……」
 改造手術を受けた者はトループス級のゾルダートとなり、クロノヴェーダの命令に従う忠実な兵士となって大陸軍の戦力に加えられる。
 そうなってしまうと、きっともう元には戻れない。
 哀しい運命を背負わされた、不幸な人間をこれ以上増やさないためにも──。
「ね、お願い。どうか、みんなの力で助けてあげて……!」
 必死に祈るように、時先案内人は強く訴えかけた。

 牢獄の囚われ人を救出するには、まず彼らのいる秘密工場の場所を突き止める必要がある。
 それにはディアボロスの誰かが囮になり、ターゲットである機械化を拒む人たちの代わりに拉致されてはどうかとリュシルは提案した。
「機械化反対の人と一緒に行動したり、わざと目立つようにその人たちの意見に賛成したりするとか、方法はいろいろあるんじゃないかな」
 囮のディアボロスと連携して施設の場所を特定した後は、捕らえられている人々の脱出の準備を整えつつ、施設の長であるアヴァタール級クロノヴェーダ『血薔薇の執行人形』の撃破に向かう展開になるものと思われる。
 施設内にはこの工場で生産された下級のゾルダートが複数存在し、牢の見張りや巡回を行っているので、その対処も忘れてはならない。
「……あ、いっけない」
 さらに大切な情報があるのだと、慌てて手元の資料を開くリュシル。
「えぇーっと、あ、そう……厄介なことにね、『血薔薇の執行人形』を倒すと、自動的に秘密工場の建物も爆破される仕組みになってるんだって」
 爆発の被害を最小限に食い止めるには囚われ人たちを事前に避難させる、もしくは彼らが自力で脱出できるように手筈を整えておくといいだろう。
 いずれにせよ、ボスを撃破してから施設の爆破まではまったく時間がないに等しい。
 とにかく先手必勝、迅速な行動が不可欠だ。

 かつての機械化ドイツ帝国がそうであったように、ネイを中心とするクロノヴェーダはパリを機械に支配された都市に造り変えようとしている。
 なんとしてもそれを阻止し、美しいパリの街、そして真の平和と幸福を取り戻すためにも。
「こうして、ひとつずつ確実に事件を解決していくのが大事だと思うから」
 がんばってきてねと仲間たちを激励したリュシルは、時空の彼方へと駆け出したパラドクストレインをいつまでもずっと見送り続けた。

●忍び寄る影
 パリ市内のとある公園。
 散策に訪れた老夫婦が、しばしひと休みとばかりに仲良くベンチに腰を下ろしている。
「おやまぁ、あれはなんですか? お爺さん」
 植え込みの向こうで動く見慣れない物体を見つけて、老婦人が指をさす。
「ああ、あれはな、地面に落ちたゴミを自動的に拾って回る機械だそうじゃよ、婆さん」
「あらあら、それはよいことだけど、近頃は雑貨屋の店員も街路樹を剪定する職人もみんな機械になってしまって、味気ないったらありゃしない」
 世間では、便利だ手軽だと持て囃されてはいるけれど。
 まるでパリがパリではなくなっていくようだと、老婦人は不服げに口を尖らせた。
「本当になぁ。ほれ、あそこの角のパン屋。生地を捏ねる作業から焼き上げまで全部機械任せになった途端、すっかり味に面白味がなくなってしまった。たまに焦げたり、形が不揃いだったりするのもひとつの『味』だというのに、実に嘆かわしいことじゃ」
 杖に顎を乗せた老紳士も、やれやれと首を振る。
「おやまぁ、おまえさんがたもそうなのかい?」
 老夫婦の会話に足を止め、声をかけてきたのは馴染みの老大工。
「機械化ってぇのも善し悪しでね。おいらたち大工なんぞ、すっかり仕事を取られておまんまの食い上げさね」
 そればかりか跡継ぎの息子までもが、機械化のせいで職を失ってしまったらしい。
「あーあー、やだやだ」
 耳の遠い年寄り独特の大声で互いに文句を言い合っていると、それを聞きつけた者がまた一人──。
「おい、そこのジイさんよぉ」
 どこからともなく現れたごろつき風の男が、へらへらと笑いながら近づいてくる。
「あんたら、ちょいといけねぇなぁ」
 老夫婦の背後から聞こえた別の声に振り向けは、そこにも陰気で胡散臭げな男がもう一人。
「おめぇらみたいな頭のかてぇのがいるから、パリはいつまで経っても古臭い街のまんまちっとも発展しねぇんだよ」
 前方の男はそう言うなり、乱暴に老大工の胸倉に掴みかかった。
「なっ、何を……」
「手荒なことはやめとけ。『材料』は丁重に扱えってのが、上からのお達しだ」
 もう一人の男は怯える老夫婦の両腕に縄をかけ、手慣れた調子で近くに停めた荷馬車の幌の下に押し込んでゆく。
「残念だったな。素直に機械化の恩恵を受け入れてさえいりゃ、こんなことにはならなかったんだがな」
 恨むなら、その固い石頭を恨むがいい。
 口を封じられ、声すら出せない老人たちに向けて男はニヤリと笑いかけた。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【未来予測】
1
周囲が、ディアボロスが通常の視界に加えて「効果LV×1秒」先までの未来を同時に見ることのできる世界に変わる。
【一刀両断】
1
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【腐食】
1
周囲が腐食の霧に包まれる。霧はディアボロスが指定した「効果LV×10kg」の物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)だけを急激に腐食させていく。
【避難勧告】
1
周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める。効果LVが高い程、避難が素早く完了する。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【光学迷彩】
1
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【壁歩き】
1
周囲が、ディアボロスが平らな壁や天井を地上と変わらない速度で歩行できる世界に変わる。手をつないだ「効果LV×1人」までの対象にも効果を及ぼせる。
【平穏結界】
3
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【完全視界】
1
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【活性治癒】
1
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。

効果2

【命中アップ】LV2 / 【ダメージアップ】LV5 / 【ガードアップ】LV5 / 【先行率アップ】LV2 / 【ドレイン】LV1 / 【ダブル】LV1

●マスターより

水綺蒼猫
 こんにちは。水綺蒼猫です。

 急速に機械化の進むパリの街。
 それを受け入れられないでいる人々を誘拐し、ゾルダート兵に改造するという恐ろしい事件が発生しました。
 これ以上被害が大きくならないよう、ディアボロスのみなさんの力を貸していただけるようお願いします。

 今回のシナリオは、②→①と③→④の順で進む予定です。
 ①と③は同時進行ですが、リプレイの執筆は①が先になりそうです。

 ②の囮役はその役割上、少な目の採用となるかもしれません。
 囮となる方は誘拐犯の目に止まりやすくなるよう、いろいろ考えて工夫してみて下さい。

 囚われ人の救出は、秘密工場の中と外で連携することも可能です。
 時間軸的に救出とボス撃破はほぼ同時に行われるため、救出がボスの撃破より遅くなってしまうと、彼らは退避することが出来なくなってしまいます。ご注意下さい。

 それでは。
 みなさまのご参加をお待ちしております。
37

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


イリヤ・レダ
機械化、ね… それ自体はダメなことじゃない
けれど、同意を得ない改造や洗脳は以ての外だよね 叩き潰そう
不遇な境地にいる「持たざるモノ」を的にかけるやり方も気に入らない

オレはスラム育ちだしレジスタンス諜報員としての経験もある
まずは機械化に反抗的な言動をしている人をそれとなく観察して、彼らにそっと混じるようにして批判的な言動をしよう 最初から一人だけで目立つのは難しいしね

ちょっと小生意気な感じがいいかな ただ、連行される一般人は少ない方がいいから少し悪目立ちしつつ、他の人は逃がせるなら逃がしたいな

現場であるパリは薄着で街中を歩くって感じでもないだろうから、翼はコートで頭上の輪は帽子で隠せたらいいな


テクトラム・ギベリオ
機械によって得られる恩恵もあるだろうが人は人、道具は道具。
人々が食い物にされるなど言語道断、誘拐に改造手術など以ての外だ。
早々に秘密工場とやらの場所を突き止めなければ。

外見の偽造は必要なさそうだが、念の為パリの街に馴染む服装に着替えよう。
機械によって職を失った市民に扮し、機械化を拒むデモ隊に混じって声かけをする。

「市民よ目を覚ませ。機械は私たちから仕事を奪い個性を奪う。
これは自由ではなく支配だ。
自由で豊かなパリを取り戻そう。機械化に反対。」

怪しい人影を発見したら、休憩のフリをしてデモ隊から距離を置く。
目立たない路地か、人目の無い場所でしばし待機して誘拐犯をおびき出そう。

アドリブ連携歓迎


大和・恭弥
現代に生きてる身として、機械を全否定してるわけじゃない。
だがそれと人の命を冒涜することは全く別だ。
ここの残酷さはとめてみせる―。

【光学迷彩】を使って移動し、
街の者に紛してさり気なく一般人の会話に混ざろう。 
母さんも機械のせいで職を失った。母一人子一人、俺が日雇いでやっとの生活だ。人間を潰していくつもりだよ。などと愚痴を演技し
老人たちのそばにいて機を伺う

誘拐犯が近づいてきたら、さりげなく老夫婦と他の間に結界を展開しておき、殺気と誘惑で気を引いてるうちにふたりを逃がそう
時間稼ぎに真っ向から機械化反対への意見を誘拐犯に話し煽る

藍雪の呪詛はしまったままで、わざと無抵抗で(必要なら少し抵抗)囮になろう


明日河・理
アドリブ歓迎

……何でもかんでも機械化すればいいってモンじゃないよな
口を封じられた爺さんたちに近づきつつ
わざと大きな声で口にする
「確かに便利だけどさ、バランスって必要じゃねえ?」
というか、と目深に被ったフードの奥、鼻で笑い
「…バカの一つ覚えみたいな行為だな」
生意気に挑発する

誰かを危険な目に合わせるくらいなら喜んで囮になる
人体改造するなら、素体"は頑丈な方が良いだろう
爺さんの胸倉掴む男の腕を力づくで取っ払って、足を掛けて転ばせ
同時に幌馬車へ乗り込み"襲撃"する
老夫婦の縄を千切り、は、と笑って
「新しい考えも勿論大事だ。だが同じようにセンパイ方を大切に出来ないのなら、発展なんぞ永遠に出来ねえだろうよ」


●護るべき者のために
 19世紀初頭のパリの街を、イリヤ・レダ(緋瞳の飛刀使い・g02308)は一人歩く。
「ん……」
 大通りに出たところで行き合ったのは、馬車から自動車への過渡期と思しきデザインの乗用車。
 セーヌに架かる橋には工事用の重機が持ち込まれ、耳障りな爆音を響かせている。
 通りに面した商店を覗けば、当然のように本来この時代にはあるはずのない機械が並んで見えた。
 そのどれもが、イリヤが想像していたパリの景色とはまるでかけ離れたものであった。
「機械化、ね……」
 別に、それ自体は悪いことだとは思わない。
 パリ市民の多くが考えているように、機械化が進めば確かに生活は楽になるだろう。
 街が便利になって発展していくことに、喜びを感じる人だっているに違いない。
 だが、度を超した機械化は一方で誰かを苦しめ、不幸にする。
 そんな者たちの叫びは届けられるどころか、無残にも踏みにじられようとしている──よりによって、最低最悪な方法で。
「同意を得ない改造や洗脳は、以ての外だよね」
 それに、不遇な境地にいる『持たざるモノ』を的にかけるようなやり方も気に入らない。
「……叩き潰そう」
 そう心を決めて帽子を被り直す。
 念のため、背中の翼は厚手のコートで隠して。
 周囲から聞こえる人々の声に、イリヤは注意深く耳を傾けた。

「ごらんよ、あの自動車とかいう馬車のお化けみたいなの」
「なんだか危なっかしいねぇ」
 道端の屋台で焼き栗や果物を売る女たちが、眉を顰めて囁き合う。
「あんなのに轢かれちゃたまんないよ。それにほら、聞いたかい? 道向こうにある宿屋のおばさん、雇い主が店ん中全部機械化しちまったせいでクビにされちまったそうじゃないか」
 まったく血も涙もない話だねぇとぼやいた女の前に、長い影が差す。
 ギクリと首を竦めて見上げると、そこには精悍な体つきの青年が立っていた。
「あらやだ、いらっしゃい」
「兄さん、いい男だね。栗は好きかい? お安くしとくよ」
 客と見るや、ぐいぐい営業トークで攻めてくる女たちに、さすがのテクトラム・ギベリオ(砂漠の少数民族・g01318)もたじろいでしまう。
「あ、いや、私は……」
 客ではないと断ってから、テクトラムは続けた。
「先ほどの話、出来ればもっと聞かせてもらえないだろうか」
「え……」
 テクトラムの思わぬ申し出に、今度は女たちが尻込む番だ。
「心配無用。何を隠そう、私もこの街の機械化を快く思っていない者の一人だ。機械に職を奪われ、ご覧の通り、今じゃ文無し宿無しのその日暮らしさ」
 貧しい市民に身をやつしたテクトラムの衣服は、埃で薄汚れている。
「機械によって得られる恩恵もあるだろうが、人は人、道具は道具。人々が食い物にされるなど、言語道断!」
 血気盛んな青年を装い、声を張り上げたテクトラムを女たちは慌てて押しとどめる。
「そういうのはよそでやっとくれ」
「そうだよ、あたしたちまで巻き込まれるのはごめんだよ」
「あ、おい……」
 バタバタと店じまいを始めた女たちを引き留めようとする素振りとは裏腹に、冷静に辺りを窺うテクトラム。
 反対派を拉致する誘拐犯……クロノヴェーダに雇われた反社会的勢力の構成員とやらは、まだ現れないようだ。
「機械は私たちから仕事を奪い、個性を奪う。これは、自由ではなく支配だ。自由で豊かなパリを取り戻そう! 機械化反対!!」
 女たちが逃げ出す時間を稼ぐべく騒いでいると、遠くから様子を探っていたイリヤも加勢して。
「オレもね、機械化ってヤツにはいい加減うんざりしてたんですよ。街は煩くなるし、見栄えだってよくない。それに……」
 背後から、複数の足音とただならぬ気配が近づいてくるのを感じる。
 テクトラムと目配せしたイリヤは、敵を引きつけるべく、近くの路地に向かって駆け出した。

 公園を散歩する老夫婦。
 夫である老紳士の提案でベンチに腰掛け、他愛のないお喋りに花を咲かせる。
 話題がパリの機械化に移ると、そこへ近所の老大工も加わった。
「機械化ってぇのも善し悪しでね。おいらたち大工なんぞ、すっかり仕事を取られておまんまの食い上げさね」
 世間では、便利だ手軽だと持て囃されてはいるけれど。
 このままではパリがパリでなくなってしまう。
 そう嘆息した後で、老婦人は隣のベンチでしょんぼりと背中を丸めた少年に気がついた。
「あなた、どうかなさったの?」
「平日の真っ昼間、いい若いもんがこんなところでブラブラしておるのはあまり感心せんな」
 咎めるような老紳士の言葉に、少年──大和・恭弥(追憶のカースブレイド・g04509)はますます項垂れて。
「……俺の母さんも、機械のせいで職を失ったんだ」
 力なく呟いた声に深い悲しみと絶望を滲ませる。
「今じゃ母一人子一人、俺が日雇いで稼いだ金でなんとか凌いでる有り様で」
「それはまたお気の毒に……」
 老婦人の目が潤んでいる。
 恭弥の話は、すべて彼が考えた創作にすぎない。
 だがその演技は真に迫っていて、老人たちを信じ込ませるには十分だった。
「あいつら……機械化を進めるヤツらは、俺たち人間を潰していくつもりだよ」
 どうにも我慢ならないと、恭弥が拳を握り締めたそのとき。
「おい、そこの兄ちゃんよぉ」
 ごろつき風の赤毛の男がへらへらと近づいてくる。
「あんたらいけねぇなぁ」
 さらに別の方向からは、陰気な黒髪の男の姿が。
「おめぇらみたいなのがいるから、パリはいつまで経っても発展しねぇんだよ」
 赤毛の男はそう言うなり、恭弥に掴みかかった。
「おっと……」
 すんでのところで躱しつつ、敵の意識をこちらに集中させる。
 その間に老人たちには逃げてもらいたいところだが、なかなか恭弥の真意は伝わらない。
 不毛な鬼ごっこを続けているうちに、とうとう老大工が黒髪の男に捕まってしまった。
「素直に機械化の恩恵を受け入れてさえいりゃ、こんなことにはならなかったんだがな」
 手際よく老大工の腕を縛り、口を封じる。
 怯えて立ち竦む老夫婦も縛り上げるため、一瞬黒髪の男の注意が逸れたのを恭弥は見逃さなかった。
「やぁっ!」
 赤毛の男に不意打ちを食らわせ、その相棒の前に躍り出る。
 そうこうしている間に、もう一人──。
 音もなく老大工の背後に忍び寄った明日河・理(月影・g06522)が、素早く戒めを解く。
「爺さんの意見には俺も賛成だ。何でもかんでも機械化すればいいってモンじゃないよな」
 理はわざと大声で、老大工を安心させるように軽口を叩いてみせた。
「機械化って確かに便利だけどさ、バランスも必要じゃねえ? というか……」
 目深に被ったフードの下、鼻先でくすりと嗤う。
「そういうのがバカのひとつ覚えっていうんだよな」
「なっ……」
 挑発を真に受けてカッと血を上らせた赤毛の男が、理に殴りかかってくる。
「せっかくだし、俺のスペック試してみる?」
 どうせなら『素体』は頑丈で足も速い方が良いだろう。
 だったら捕まえてみやがれとばかりに、敵を翻弄する。
 喉元を掴もうと伸ばしてきた腕を振り払い、足を掛けて転ばせるのだってお手のもの。
 理と赤毛の男、その身体能力の差は歴然であった。
「さて、と……」
 黒髪の男と対峙する恭弥が、気配を察して理の方を見る。
 辺りに老人の姿はない。
 恭弥と理が誘拐犯たちと対峙している間に、どうやら無事逃げおおせてくれたようだ。
「……ま、こんなところかな」
 隙のない構えを解き、恭弥は両手を挙げた。
「いてて……って、ああ、あんたたちに最後にひとつ言っとくわ」
 理も呆気なく捕まると、ぶん殴られた頭を撫でながら悪戯っぽく片目を閉じて。
「新しい考えも勿論大事だ。だが同じようにセンパイ方を大切に出来ないのなら、発展なんぞ永遠に出来ねえだろうよ」

 こうして無事(?)、誘拐犯の手に落ちた理と恭弥。
 ひと気のない路地に敵をおびき寄せたテクトラムとイリヤも、今頃は秘密工場へと向かう荷馬車の中に押し込まれているはずだ。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【書物解読】LV1が発生!
【避難勧告】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!

大和・恭弥
仲間とは密な連携を

なんとか、潜入は出来たようだな。
それにしても、パリでもあいつらは残虐の限りを尽くすのか。

市民がいる牢の場所までは無抵抗で静かにする。
途中経路の様子を情報収集しながら、塩など目印になりやすいものを見つからないよう落して仲間に知らせる。脱出時にも役立てよう。

警邏がいなくなった隙を見て市民に声掛けを
俺達は君たちをここから逃がすためにあえて捕らえられたんだ。
追っ手は俺達が対処する。仲間に従って、速やかな脱出に協力してくれ。

高齢の方や女性、子どもは優先的に。
作戦、目印を伝え、先導できそうなら脱出門まで行こう。
邪魔をするものがいれば剣気の糸で捕縛、一般人なら無力化する。


テクトラム・ギベリオ
まったく、あんな狭い場所へ雑に押し込まなくても良いものを…まだ荷馬車に揺られている気分だ。
だが基地へ侵入することはできた。
ここからは構成員のごろつき共を相手にするのとは訳が違う。気を抜かずに行こう。

仲間と連携する為に【パラドクス通信】を使用する。
それぞれ配置についている仲間と連絡をとり、人質を救出するタイミングを見計らう。

牢屋はいくつもあると聞いた。どのくらい人が囚われているか分からんが、あまり時間もかけられないだろう。
【平穏結界】を使用して少しでも気付かれにくい状況を作る。
基本的には仲間と人質と共に隠密行動で出口を目指す。
これで上手く行けば良いが…。【避難勧告】は状況をみて使用する。


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
民間人の安全第一で行動

……どこまでも、禍を広げさせてなるものか
帝国の不始末を片付ける
不滅のネイも厄介な事をしてくれたな……

先の潜入者からの情報も得て
敵の目の届かない脱出経路を確認しつつ、潜入

【パラドクス通信】を借り、手分けして牢を解放
牢の鍵を高周波ブレードか武装で破壊
【活性治癒】を発動し
怯える子がいればフランス民謡を口ずさもう

助けに来た。落ち着いて聞いてほしい
怪我人や体力のない者には、余力のある者が手を貸してやってくれ
安全な脱出経路を教える。そこから全員で逃げろ
暗ければ、持参のランプを先導の者に渡す

素早く自力脱出が叶うならば任せ
歩けない者がいれば俺が背負い、護衛しつつ先導しよう


●脱出への道
「まったく、あんな狭い場所へ雑に押し込まなくても良いものを……」
 今もまだ馬車に揺られているようだと、テクトラム・ギベリオ(砂漠の少数民族・g01318)は指先で額を押さえる。
 囮となって人さらいのならず者を路地に誘導した後、あっさり敵の手に落ちたテクトラム。
 両腕を縛られ、幌馬車の荷台に乗せられて辿り着いた先は、大きな倉庫のような建物だった。
「ぼやぼやするな、とっとと歩け」
 背後から、監視役の怒声がする。
(「機械の手足を持つ男……ゾルダートか?」)
 男の姿にちらりと目をやりつつ、追い立てられるまま建物内を進んで行くと、その先にいくつもの牢屋が見えてきた。
「あれが、囚われ人たちのいる……」
「ほら、早く入れ」
 鉄格子の扉が開き、無抵抗のテクトラムもそこで囚われの身となった。
「やれやれ……」
 縄で擦れた手首をさすり、周りを確かめる。
 牢の中にはテクトラムと同じ年頃の男や老人、年端のゆかぬ子供までもが収監されていた。
 誰もが疲れたように座り込み、暗い顔で口を閉ざしている。
(「彼らの体調や精神状態も気になるところだが……」)
 ともあれ、敵のアジトに潜入することは出来た。
 他に囮になった者、パリ市内のどこかで待機しているはずの仲間も、そろそろ動き出している頃だろう。

 後ろ手に縛られた大和・恭弥(追憶のカースブレイド・g04509)の指先から、はらはらと白い粉がこぼれ落ちる。
 明かり取りの窓すらない、薄暗い通路。
 秘密工場とはよく言ったもので、外からはもちろん、中から外の様子を窺い知ることも出来そうにない。
 この建物にも、機械化ドイツ帝国の技術が使われていたりするのだろうか。
「パリでもあいつらは残虐の限りを尽くすのか……」
 ふと考えて、暗澹たる気持ちになる。
 一緒に連行されてきた者たちの最後尾を歩く恭弥は、先導するゾルダートに気づかれぬよう、隠し持っていた塩で床に目印を残し続けた。
(「入り口から角を2つ、ここまでの歩数は……」)
 途中、自分が通った道筋を何度も確認しては反芻する。
 やがて牢獄のあるエリアまで来ると、恭弥もまた鉄格子の向こうへ押し込められた。
「くっ……」
 乱暴に背中を小突かれ、冷たい床に倒れ込む。
 堪らずしかめた顔を上げると、褐色の肌の青年と目が合った。
 青年──テクトラムも、すぐに気づいて頷く。
「みんな……」
 監視役のゾルダートが遠ざかったのを見計らい、恭弥は立ち上がる。
 と同時に、テクトラムは『平穏結界』を用いて辺りに外部から把握されにくい空間をつくり出した。
「俺達は、君らを助けに来た」
 そのため、こうしてわざと捕らえられたのだと説明する。
「追っ手は、俺達が対処する。俺や仲間に従って、速やかな脱出に協力して欲しい」
「介助が必要な者には、私も手を貸そう」
 だから安心してくれていいと、テクトラムも穏やかにそう告げた。
「だ、だが……」
 突然の申し出に、囚われ人たちがざわめく。
「牢の鍵はどうするつもりだ?」
「それに、他の牢に入れられた者たちにはどうやって知らせれば……」
 囚われ人は、口々に不安を露わにした。
「心配には及ばない」
 鉄格子の向こうから聞こえた声に、誰もがみなハッとして身構える。
「失礼、驚かせてしまったようなら申し訳ない」
 バサリと、鳥の翼に似た羽音がして。
 薄闇の中から現れたのは、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)であった。
 エトヴァは囮となった恭弥たちの位置情報を辿り、ここまで密かに後を追ってきたのだ。
「俺も、そこにいる彼らのお仲間でね」
 言うが早いか、黒い刀身に仄青い光を帯びた剣を一閃する。
 エトヴァが手にした高周波ブレード『X-Machina』は刃を震わせ、呆気なく牢の錠前を断ち切った。
「おおっ!」
 囚われ人たちからどよめきが起こる。
 そうしている間にもエトヴァやテクトラムはパラドクス通信で他の仲間とも連絡を取り合い、次々と牢の鍵を破壊していった。
「落ち着いて話を聞いてもらいたいところだが、詳しい説明は後だ。とにかく皆、外へ」
 事情が呑み込めずに戸惑う囚われ人に、エトヴァも牢からの脱出を促す。
「怪我人や体力のない者は、余力のある者が助けてやってくれ。安全な脱出経路は……」
「それなら、俺が落としてきた塩を目印にするといい」
 そうすれば迷わず外に出られるだろうと、恭弥は助言した。
「慌てず騒がず、まずは高齢の方や女性、子供を優先的にな」
 恭弥のアドバイスに男たちは頷き、エトヴァが持参したランプを女たちに渡す。
 よちよち歩きの幼児を片手で抱き上げたテクトラムは、空いている方の手でその子の兄の手を引いた。
「急ごう」
 最後に足腰の弱った老人を背負い、牢の中を見回したところでエトヴァははたと気づく。
 床に座り込んだ少女が一人、いつまでも頑なに動こうとしないことを。
「どうかした? 怪我でもして動けないのか」
 エトヴァの問いに、少女は怯えたように首を振る。
「わたし、こわい……」
 長い牢暮らしの間に父をなくし、少女はすっかり臆病になってしまっていた。
「なら……」
 歌でも歌おうと、手を差しのべる。
「……歌?」
 エトヴァが口ずさんだのは、少女もよく知っているフランスの民謡であった。
「一緒に歌えば、怖くないだろう?」
「……う、うん」
 はにかんだように少女が薄く笑むのを見て、エトヴァも自然と笑顔になっていた。

 ディアボロスたちの指示に従い、一斉に牢獄から逃げ出す人々。
 彼らはみな手を取り合い、互いに助け合いながらひたすら外を目指した。
「あと少しだ、頑張れ」
 恭弥の記憶が確かなら、ひとつ角を曲がったその先に出口が見えてくるはずであった。
 ……が、しかし。
「しまった、気づかれたか」
 脱出に少々手間取ったのがよくなかったらしい。
 通路の途中で立ち止まったテクトラムが、こちらに駆け寄って来ようとする巡回中のゾルダート兵から子供たちを庇う。
「出口はこっちだ、急げ!」
 人々を先導して全力で駆けるエトヴァ。
 決して誰一人欠けることのないよう、エトヴァも恭弥もテクトラムも。
 ただただ必死に、囚われ人であった者たちを守り続けた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【未来予測】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【ドレイン】LV1が発生!

明日河・理
アドリブ歓迎

_

仲間が囚われた人々を避難させてくれている間
俺は陽動を務め、敵の注意を惹きつけておこうか
然し独りよがりには決してならず
仲間たちとの連携を密に、市民の安全を最優先に

気配を消し、素早く懐へ潜り込み
同時に一閃

緊急事態を示すアラートでも鳴り響いてくれれば上々
避難する人々とは反対方向で迎え撃つ
増援が来る前に光学迷彩を借用して物陰に息を潜め
一瞬の好機も逃さず、撃ち込まれる砲撃を掻い潜り
爆煙に紛れ瞬間移動の如き速さで斬り込み、撹乱

……彼らは、捕らわれて改造されてしまった人々なのだろうか
真偽は判らない
けれどどうか痛みなく眠れるように
断つのはクロノヴェーダたる縁のみ
「──おやすみ」


●兵士は影を踏み進む
 仲間と連携し、脱獄に成功した明日河・理(月影・g06522)。
 囚われ人の避難誘導は仲間たちに任せ、自らは囮となるべく牢の近くに残る。
 周りに人の気配がなくなったところで騒ぎを起こし、敵の注意を惹きつけるつもりであった。
「……ん?」
 仲間からの通信が入る。
「分かった、すぐにそっちに向かう」
 眉根を寄せた理の顔が、険しい表情へと変わる。
 どうやら工場の入り口に向かっていた一団が、巡回中のゾルダートに見つかってしまったらしい。
「くそっ、目論見が外れたか」
 後悔しても仕方ない。
 とにかく一刻も早く加勢しなくてはと、理は足を急がせた。
 暗い廊下をひたすら走る。
 もちろん、周囲への警戒も怠らない。
「まさか、ここで敵さんと出くわすなんてこと……」
 あってたまるかと、呟いたその刹那──。
「……チッ」
 耳障りなキャタピラの音に気づいて舌打ちする。
 十字に交差する通路の向こうから、人間戦車型トループス級ゾルダート、シュプールフート・クリーガーが姿を現したのだ。
 騒ぎの起こった現場に駆けつける途中なのか、幸いにもまだこちらには気づいていない。
 しかも相手が単独とくれば、好都合。
「どうせ、そのつもりだったんだからな」
 ここで片付けてしまおうと、理は得物を構えた。
 足音を潜め、気配を消す。
 先手必勝──素早く敵の懐へ。
「うぐっ……」
 闇色を纏った刃が一閃したのと同時に、無限軌道が停止する。
 突然斬りつけられ、シュプールフート・クリーガーは苦しげに呻いた。
「……おっと」
 敵が機械の腕を伸ばして掴みかかるより早く、得物を握り直す。
 そこで一瞬、ゾルダートと目が合った。
 昏い穴倉にも似た、虚ろに理の姿を映す機械の瞳。
 彼、もしくは彼女もまた、捕らわれて改造された憐れな囚われ人の一員だったのだろうか。
 ふと、そんな考えが頭をもたげる。
 今の理に、真偽を確かめるすべはない。
 ならば、せめて痛みなく眠れるようにと剣を振り下ろす。
「──おやすみ」
 断つのは、クロノヴェーダたる縁のみ。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【平穏結界】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!

マティアス・シュトローマー
よし、侵入成功!
この工場に先行した仲間がいるはずなんだけど
まずは巡回している警備を何とかしないといけないみたいだね

【光学迷彩】で身を隠しながら工場内を進む。警備を発見次第、仲間と連携して奇襲を仕掛けよう

そうそう、そのまま動かないで——
【エアライド】で宙を蹴り、敵の死角から衝撃波を伴う一撃をお見舞いするよ
狙いは頭部か背中の砲。こちらが体勢を立て直し、反撃に備えるだけの時間を稼げたら

反撃は【エアライド】を織り交ぜたアクロバットな動きで躱すか、キャタピラを狙った銃撃で敵の進路を妨害して避ける
自国の悪き技術に苦しんでいる人達が未だにいるなんてね
君達に恨みがある訳じゃないけど、そこを通してもらえるかな?


 時間は少し遡る。

「よし、侵入成功!」
 秘密工場の入り口を通過したマティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)が、小さくガッツポーズする。
 その姿は壁や床に溶け込み、敵に気づかれる心配はない。
「この工場に先行した仲間がいるはずなんだけど……」
 彼らの位置情報を辿り、合流を目指す。
 だが、その前にやらなくてはならないことがあった。
「まずは、巡回している警備を何とかしないとね」
 合流前に少しでも敵を減らしておけば、囚われ人の救出も楽になる。
 マティアスはそう考え、建物のどこかにいるであろうゾルダート兵の姿を求めた。
「……」
 かすかに聞こえるキャタピラの音。
「早速のご登場かな」
 敵の方から来てくれるとは、好都合。
 いっちょ暴れてやりますかと、腕まくりする。
 1、2、3……。
 通路の真ん中に立ち、間合いを計る。
 通常の巡回ルートなのだろうか。
 ゆっくりと近づいてくるシュプールフート・クリーガーは、マティアスの気配にすらまったく気づいていない様子で前に進む。
 途中、キャタピラが床の窪みにひっかかって止まったのをマティアスは見逃さなかった。
「そうそう、そのまま動かないでー」
 音もなく宙を蹴り、敵の死角となる位置へ。
 パラドクスで具現化させた鋼鉄の籠手を纏い、衝撃波を伴う一撃をお見舞いする。
「ぐはっ……」
 何の前触れもなく頭部に衝撃を受けた上体が、ぐわんと揺らぐ。
「!?」
 光学迷彩を解いて現れたマティアスとの遭遇に、さらなる動揺が走った。
「お、おのれ……」
 シュプールフート・クリーガーは怒りを露わにし、鋭い爪のついたキャタピラでミンチにしてやると息巻き、突進してきた。
「……おっと」
 敵の動きなら完全に見切っている。
 ひらりと身をかわし、キャタピラに銃弾を撃ち込んで。
 敵の意識がそちらに向いたところで、もう一度。
「自国の悪しき技術に、苦しんでいる人達が未だにいるなんてね」
 君達に恨みがある訳じゃないけれど。
 さすがに見過ごしてはおけないと、渾身の衝撃波を放つ。
 頭を砕かれたシュプールフート・クリーガーは、ギギギ……と不気味なノイズ音だけ残して動きを止めた。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!

大和・恭弥
あと一歩のところで気づかれたか。
あとの脱出は仲間に任せ、ゾルダート兵に向き直って迎撃体制を整える

先行して仲間が来てくれていたみたいだ、助かった。避難完了の確認がとれるまで絶対に通しはしない。

瞬時に藍雪花染を抜刀し、呪詛を解放する。自分の背面に一時的結界を敷き、敵の呼吸を見切りながら攻撃は躱していこう。
もしも危害が及びそうであれば、あえて攻撃を受けることも厭わない。

こちらの攻撃は瞬時に間合いに入り、
剣技・天神ノ瞋怒雨「雷神」で的確に斬り上げる。
余裕があれば、排水パイプなどを【一刀両断】し、
避難の邪魔をしないよう止めを与えよう。

お前達もこの工場の犠牲者だろう。
これ以上苦しむことはないんだ。


ラズロル・ロンド
アドリブ連携歓迎

みんな、上手くやってくれそうだし…
ここはちゃちゃっと巡回を片付けたい所かな

救援機動力でエトヴァ達の居る牢屋までのルートの敵を倒していき
逃げ道の確保を優先
後は…騒ぎを聞きつけて向かって来る敵をルートから外れた場所に誘き寄せ
そちらでじっくり倒そう
オブシディアンを地面に叩き付け音で誘き寄せるのも良いかも
敵にはパラドクスの砂蝙蝠を放ち
砂煙で視界を遮っておく
敵がどこにいるか解らないよう駆け回り翻弄しながら
着実にぶっ壊していこう
反撃の突進はヒラリと上に飛び躱すか
フライトドローンを足場に空中に一時退避
轢かれてたまるかー

味方が行動しやすいように
人々が逃げやすいように僕は行動していこう


「みんな上手くやってくれそうだし……ここは、ちゃちゃっと巡回を片付けたいところかな」
 自らの役目を味方の安全と退路の確保と決め、ラズロル・ロンド(デザートフォックス・g01587)はひたすら敵のゾルダート兵を殲滅してゆく。
 仲間のいる牢獄へと続く道。
 それだけは、何がなんでも守らなくては──。
 そのためには、敵を離れた場所におびき寄せるのがいいかもしれない。
「何かあいつらの注意を引くもの……あっ」
 魔力補給用に持ち歩いているオブシディアン。
 力いっぱい床に叩きつけると、甲高い音をたてて砕け散った。
 音は、思わぬ大きさで辺りに響き渡る。
 巡回中のゾルダートを呼び寄せるには十分だった。
「おい、さっきのはなんだ!?」
「こっちだ、急げ!」
 騒ぎを聞きつけて集まってきたシュプールフート・クリーガーと対峙する。
「彼方まで追尾し四散せよ砂の子等 煙り隠せその目を奪え……」
 ラズロルの周囲に現れたコウモリ型の砂の塊が、一斉に敵の群れに襲いかかる。
 主の命令に忠実な砂のコウモリは、機動力に劣るシュプールフート・クリーガーを捉え、取り囲んだ。
「な、なんだこいつら……」
 四方を塞がれてうろたえる。
 苛立つゾルダートが砲撃で威嚇し、蹴散らそうとしたそのとき。
「ぐわっ!!」
 いきなり目の前の砂の塊がはぜ、他の塊も次々と誘爆し始めた。
 無数の礫が、クラスター弾となって頑丈な装甲をも突き破る。
 立ち上がった砂煙は視界を奪い、敵の判断を鈍らせた。
「おい、くそっ、このっ……」
「ま、待て、撃つなっ! わ、わわわ……」
 混乱したシュプールフート・クリーガーはでたらめに攻撃を繰り返し、ついには同士討ちする者まで現れる始末だ。
「……無様だね」
「そこかっ!?」
 声を探り当てて突進してくる人間戦車を躱し、フライトドローンを呼び寄せて宙に逃れる。
 そこへまた砂のコウモリを放ち、ラズロルは敵を翻弄し続けた。

 最終的には敵に気づかれたものの、囚われ人の逃亡が比較的スムーズに行われたのには、こうした背景があった。
 直接救出に向かった者たちとは別に、ラズロルら別動隊の活躍があったことも忘れてはならない。

「あと一歩のところで気づかれたか……」
 せっかく、ここ──秘密工場の出口付近まで逃げ果せたというのに。
 大和・恭弥(追憶のカースブレイド・g04509)は逃げ惑う人々から離れ、迫りくるゾルダート兵、シュプールフート・クリーガーの方に向き直った。
「ひとまずここは俺に任せて、みんなを頼む」
 仲間のディアボロスにそう言い置いて、素早く愛刀を鞘走らせる。
 刀の名は、『藍雪花染』。
 碧の気を放ち、使い手の悲哀を喰い心身を糧として呪詛の力を発揮させる、呪われし剣。
「この世を歪ませるものに、慈雨は必要ない――雷撃の如く心根を斬るのみ」
 哀しみ、絶望、後悔……。
 刀身に宿した、無念千万の呪詛を解放する。
「避難完了の確認がとれるまでは、何人たりとも通しはしない」
 強い覚悟とともに、恭弥は敵の懐に飛び込んだ。
 鋼鉄板に覆われた腹を蹴り上げ、大きくのけぞらせる。
「うわっ! なっ、何をする……」
 鉄の腕も砲身も天を向き、恭弥を捕らえることは出来ない。
「お前達も、この工場の犠牲者だろう?」
 ならば、その身の呪縛を解き放て。
 もうこれ以上、苦しむことのないように──。
 恭弥が藍雪花染を振り上げたのと同時に、シュプールフート・クリーガーはエンジンを吹かして回転数を最大限まで上げる。
「呪縛だ? 犠牲者だ? く、くそっ……オマエみたいな訳の分からんことを言うヤツは、キライだ。轢き殺してやる!!」
 脳まで改造されたゾルダートには、恭弥の想いも言葉も何ひとつ伝わらないというのか。
「させるかっ……」
 闇に閃く刃が、鋼の身体を一刀両断に斬り伏せる。
「キラ……イ……ダ……ギギ、ギ……」
「憐れなものだな」
 エンジン音が途絶える。
 それきり動かなくなった敵を見下ろし、恭弥は低く呟いた。
 この者の魂はどこへ戻っていくのだろう。
 だが、今はそんなことを考えている暇はなかった。
「……来たか」
 新たなキャラピラの音が近づいてくる。
「何人たりとも……」
 決して通しはしないと、恭弥はふたたび誓いの言葉を口にした。

 ディアボロスの活躍により、工場内を巡回するシュプールフート・クリーガーは駆逐された。
 牢獄の囚われ人であった人々も、すべて工場の外へ逃げ切ることが出来たようだ。
 今頃はそれぞれの自宅に帰り着いて家族との再会を喜び、安堵の息を吐いている頃だろう。

「……そう、分かったわ」
 空っぽになった牢獄の前で部下からの報告に耳を傾ける、アヴァタール級クロノヴェーダ『血薔薇の執行人形』。
 トループス級全滅の報せにも、血色の薔薇を纏った自動人形が眉ひとつ動かすことはない。
「ちょこまかと動き回るドブネズミたち……」
 あなたの赤が見たいの
 さぁ咲かせて、綺麗な華を──。
「華は散るところも美しい……ね、そうでしょう?」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【一刀両断】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
【先行率アップ】LV1が発生!

大和・恭弥
キライ、か……。奥底ではわかっているからこそ、本能が拒絶するんだな。
それほどまでに血も涙もない機械で生かされるだけの骸を増産して、お前はこの工場を美しいと思うのか。美意識を疑うよ。

ドブネズミにも綺麗な華を求めるとは酔狂だ。
欲しければくれてやる――独り善がりな理想だけで俺たちの意志を砕ければ、だけどな。
敵が動き出すと同時にこちらも地を蹴って駆け出し、構えの姿勢で肉薄。
至近距離で【未来予測】により一瞬の呼吸を読み取り、【エアライド】で躱す。
迫る蹴りは藍雪花染で薙ぎ払い、間合いを見切って敵の軸を斬る。

お前を綺麗に散らせたりはしない。
鋼が錆びゆくような苦しみの報いを受けるんだ。

戦闘後は速やかな離脱を


アンネリーゼ・ゾンマーフェルト
パリのゾルダート秘密工場破壊作戦も、いよいよ大詰めね
私は機械化ドイツ帝国の忌まわしい遺産を許さない
だから、開けさせてもらうわ──「不滅」を冠した将の、滅びに至るまでの道をね

救援機動力で戦線に合流し、後方で≪対ゾルダート電磁銃≫を構えるわ
地形の利用──施設内の設備や壁際など、遮蔽物になりうるものに隠れて【光学迷彩】を発動
敵の意識の外に出た上で、【未来予測】で戦いの推移を先読みして備え
仲間の攻撃後の隙をカバーするタイミングで追撃を仕掛けましょう

好機を見計らって放つ『#電磁 #放射 #狙撃姿勢』
敵を電熱の砲撃で焼き焦がした後、反撃が急所に当たらぬよう一撃離脱よ
残念だったわね。今日散る華は一輪だけよ!


エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
完全視界を共有

避難は無事に完了したよ
そっちへ向かうよ、ラズ
今、どの辺りにいる?
ラズ(g01587)や仲間達へ、PD通信で連絡を取り
敵の音や気配を捕捉し合流を急ごう
光学迷彩で牢の方へ戻りつつ、単独交戦を避け
味方が交戦中なら、一刀両断できれば使って迅速合流を

敵の動きを偵察、観察し戦況把握
光学迷彩と忍び足で、戦闘に紛れ
砂の分身達や交戦の隙を突き、死角から銃で撃ち抜き一撃離脱
味方と挟撃し連携

反撃には魔力障壁を展開し防御
常に距離を取りつつ、未来予測し動きにフェイントかけ蹴りを逸らし
エアライドも併用し回避

ドイツ帝国の禍を一掃する
パリを、機械と人形どもの支配から取り戻す……
これが反撃の一手だ


ラズロル・ロンド
仲間と合流出来るかな?
「エトヴァ、そっちはどうだい?」
パラドクス通信で避難状況を確認情報共有
こちらも倒せたと思うけど…ボスが来そうか?
目立ったしこちらに来るかもと警戒しつつ
執行人形を倒しに動こう
接触次第仲間に連絡を

おぅ…切り裂き魔か?
魔障壁で刃を遮りながら
ヌスハブハールでナイフを持った自分を砂で複製し
別方向から攻撃させ意識を分散させる
攻撃も分散してくれるといいな
ほら本命の攻撃はこっちだ

翻弄しつつ着実にダメージを入れるべく
意識が離れた場所からナイフを繰出し即離脱を
反撃の足技は軌道を読み飛び退き躱そう

仲間と合流出来れば助かったと
安堵し連携し畳み掛ける
エトヴァ(g05705)とは息のあった連携を


明日河・理
アドリブ歓迎


捕らわれてた人々は無事に避難できたみたいだな
良かったと安堵の息零し
そして再び毅然と前を向く
全方位に神経を研ぎ澄ます
血薔薇を止める為に
悪夢を終わらせる為に

悪いけど
生憎貴女に贈る赤い花は此処には無い
レディを前に無粋ですまないが

味方との連携を密に
相手に隙を一切与えぬように動く

きっと彼女にだって信じる何かがあって
彼女自身を導く願いがあった
けどそれは俺とは相容れないものだから
今彼女の前に立っている
戦場に立ち相対する度胸を過ぎる、戦の惨さに瞳を昏くさせながら
それでも俺は立ち止まるわけにはいかないから
彼女のダンスのお相手は務めよう
繰り出される刃を此方も刃で弾きながら
断つはその縁

贈るは菫の花、一輪


●血塗れの薔薇
 仲間たちとともに、囚われ人の救出を成功させたエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)。
 休む間もなく次の行動に移ろうとしたところへ、通信が入る。
『あ、エトヴァ?』
「ん……ああ、ラズか」
 発信者は、シュプールフート・クリーガーの討伐に当たった者の一人、ラズロル・ロンド(デザートフォックス・g01587)であった。
『そっちはどうだい?』
「ああ、避難は無事に完了したよ」
『そっか、こっちも全部倒せたとは思うけど……』
 施設の長であるアヴァタール級クロノヴェーダ『血薔薇の執行人形』は、どこにいるのだろう。
 敵の居場所や出方を把握するまでは、決して油断の出来ない状況だ。
「そっちへ向かうよ、ラズ。今、どの辺りにいる?」
『え、あ、えーっと……』
 もうすぐ牢獄のあるエリアに着けそうだと、ラズロル。
『あ、ちょっと待った。牢屋のとこになんかいる……例の人形、ボスだ』
「分かった、すぐに行く」
 ラズロルにそこで待っているよう告げ、エトヴァは周囲の風景に姿を溶け込ませる。
 と同時に、他の仲間たちにも牢獄へ向かう旨の通信を送るのだった。

 ギ、ガガ……ギ、ギギギ……。
 断末魔のような機械音を残し、鋼鉄の人間戦車はすべての機能を停止する。
 最後のシュプールフート・クリーガーを討ち取った明日河・理(月影・g06522)の元へ、エトヴァからの報せが届く。
「捕らわれてた人々は、無事に避難できたみたいだな」
 よかったと安堵の息を吐く理であったが、ここで立ち止まっている暇はない。
 毅然と前を向き、牢獄へと続く道をまっすぐに見据える。
「血薔薇を止める為……」
 悪夢を終わらせるために──。
 全方位に神経を研ぎ澄ませ、理はふたたび足を急がせた。

「キライ、か……」
 交戦中、ゾルダード兵の放った声が大和・恭弥(追憶のカースブレイド・g04509)の耳に蘇る。
 全身を改造され、本来の身体も心もすべて奪われたゾルダート。
 彼には、恭弥のどんな想いも言葉も何ひとつ伝わらなかった。
 だが──。
「いくら否定しても、たとえ記憶まで消されようとも……」
 奥底では分かっているからこそ、本能が拒絶したのだろう。
 血も涙もない、機械で生かされるだけの骸をこれ以上増やしてはならない。
「……了解した」
 通信機の向こうのエトヴァに短く答え、恭弥もまた急ぎ踵を返す。

 ラズロルの待つ牢獄へ。
 合流したディアボロスたちは左右に牢の並んだ通路を挟み、青白い肌の少女と対峙する。
 少女が纏うドレスはくすんだ赤、どす黒い血の色。
 何の感情も宿さない虚ろな玻璃の目を、アヴァタール級クロノヴェーダ『血薔薇の執行人形』はジッとこちらに向けている。
「ねぇ、かわいいドブネズミさん」
 抑揚のない声で、そう呼びかける少女人形。
「私、見たいの。あなたたちが咲かせる赤い華、綺麗な血の薔薇を……」
「綺麗だと?」
 問い返した恭弥の唇に、冷ややかな笑みが浮かぶ。
「ドブネズミに綺麗な華を求めるとは、酔狂な話だな」
 言いながら、恭弥は妖刀『藍雪花染』の柄に手をかけた。
「欲しければくれてやろう」
 すらりと引き抜いた刃が、碧い妖気を纏う。
「……但し、独り善がりな理想だけで俺たちの意志を砕ければ、だけどな」
 執行人形のドレスがちらりと揺れるのに合わせ、跳躍する。
 敵の刃と打ち合っては離れ、繰り出される次の一手を見切ってはひらりと身をひるがえす。
 自在に宙を駆け、人形の後方へ。
「くっ……」
 一瞬恭弥の姿を見失い、虚無を映す双眸がわずかに惑う。
 背後を取られまいと、すぐさま向きを変えた執行人形は、滑るような動きで素早く恭弥に向かってきた。
「……させるか」
 敵の鋭利な足先を避け、薙ぎ払う。
 続けて、一手、二手。
 鋼と鋼がぶつかり、火花が散った。
 恭弥が斬りつけるたび、藍雪花染から放たれた呪詛が徐々に人形の身体を蝕んでゆく。
「さ、さぁ、咲かせて……花、綺麗な花、を……」
 身をよじり、苦しげに蹴り上げた鋼鉄の脚が空を切る。
 そこへ恭弥は、ためらうことなく新たな一撃を浴びせた。
「お前を綺麗に散らせたりはしない。鋼が錆びゆくような、苦しみの報いを受けるんだ」

「華は散るところも美しいの……」
 かすれた声で呟く執行人形の足下に、はらはらと落ちる花びら。
 人形は傷ついた身を震わせ、膝をつき、それでもまた立ち上がる。
 薔薇を飾ったドレスのスカート部分から鋭い刃先がいくつも飛び出し、低く唸りながら回転を始めた。
 刃の動きに合わせて彼女も舞う。
 軽やかに艶やかに。
 その姿は、さしずめ闇に咲く紅薔薇のよう。
(「彼女にも信じる何かがあって、彼女自身を導く願いがあるのだろう」)
 けれど、それは恐らく理とはまったく相容れない、決して許すことの出来ないものだ。
「そう考えて、俺はここにいる……」
 戦場に身を置くたび、思い出す惨たらしい戦の光景に今もなお瞳を昏くさせながら。
 それでも、足を止める訳にはいかない──。
「ダンスのお相手は、俺が務めよう」
 襲いくる刃に怯むことなく、理は立ち向かう。
「くっ! はっ!」
 自らの剣で相手の刃を弾き、後ずさってはまた斬撃を繰り返す。
 対する少女人形は華を揺らし、長い髪を躍らせて。
 そうしていると、二人は本当に剣舞でも舞っているようだと見る者を錯覚させた。
「うっ……」
 それは、ほんの一瞬の出来事だった。
 理の息がわずかに乱れ、しまったと思う間もなく左腕が切り裂かれる。
「くそっ……」
 幸いにも傷は浅い。
 戦闘時特有のアドレナリンのせいか、痛みも感じなかった。
 少しも慌てることなく体勢を整え直したところへ、思わぬ援軍が現れる。
「待たせたわね」
 凛とした少女の声。
 近くの壁を利用して身を隠し、さらに『光学迷彩』で自らの気配までもを敵の意識外に置く。
 敵の一歩先を読み取る姿なきスナイパーが放つ電磁波は、回転する敵の刃を砕き、鋼片を飛び散らせた。
「私は……」
 カモフラージュの迷彩を解いたアンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)は、油断なく銃口を突き付ける。
「あなたたち機械化ドイツ帝国の忌まわしい遺産を絶対に許さない」
 だから開けさせてもらうと、引き金に指を掛けた。
「『不滅』を冠した、将の滅びに至るまでの道を……ね?」
 電磁銃、出力安定。照準よし──。
「……狙い撃つわ」
 電熱の砲撃。
 狙撃銃型の電磁銃から放たれた強烈な電磁パルスと高出力マイクロ波が、敵を内側から激しく焼き尽くす。
「残念だったわね。今日散る華は、一輪だけよ!」
「いやぁぁぁぁぁぁー!!」
 堪らず悲鳴を上げた人形の身体に稲妻が走り、美しいドレスやボンネットを無残に焦がした。
「さ、さぁ……」
 黒い煙をくすぶらせ、紅薔薇の下に隠した機械の身体を露わにしながらも、血薔薇の執行人形はギリギリのところで持ちこたえている。
「咲かせて、綺麗な華を……!」
「……させないよ」
 一撃離脱でアンネリーゼが逃れた反撃の蹴りを、代わりに理が受け止める。
「悪いけど……」
 貴方に贈る赤い花は、此処には無い。
 代わりに贈るは、紫の華。
 夜を往く貴方の傍に夜……菫の花、一輪──。

「私の華、は、な……あかい、はな……きれ、い……?」
 一閃した理の剣の前で、血薔薇の執行人形はぼんやりと立ち尽くす。
 うわごとを繰り返しながら、突然狂ったように両手の刃を振り回し始めた。
「おぅ……切り裂き魔か?」
 女──いや、壊れた人形は怖いねぇとラズロルが首を竦める。
「どうやら、完全に『壊れて』しまったようだ」
 冷静に敵の動きを観察、分析していたエトヴァも、憐れなものだと吐き捨てて。
「行こう、ラズ」
「うん」
 互いに目配せし合い、戦場を駆ける。
「砂塵象れ、我が複製……乱せ、隠せ、共に戦え」
 でたらめに斬りつけてくる刃をかわしたラズロルの呼びかけに応え、現れたのは、ラズロルとまったく同じ姿かたちをした分身たち。
 彼らは命じられるまま四方に散り、次々とナイフで攻撃を仕掛けた。
「いやぁっ!」
 相手が一人なのか複数なのか、誰が誰なのかも分からない。
 闇雲に振り回した執行人形の刃が分身の一人に触れると、たちまちそれは砂となって崩れ落ちる。
 零れた砂は辺りに舞い散り、敵の視界を奪った。
「な、に……? 見えない、みえないわ……!」
「ほら、本命はこっちだ」
 ラズロルの声を追って、執行人形はのろのろとそちらに顔を向ける。
 そこへ、死角に潜んでいたエトヴァが銃撃を加え、血薔薇を撃ち抜いた。
「……散る華も美しいと言ったのは、誰だったかな?」
 無残に花びらが散る様を、侮蔑の表情で眺めるエトヴァ。
 反撃を待つ間もなく後方に逃れ、敵との距離を取る。
 襲い来る蹴撃をフェイントで退け、逸らし、床を蹴って宙へ──。
 その隙にラズロルも人形の背後を取って、ナイフで斬りつけては即、離脱を繰り返した。
 当然、他のディアボロスも攻撃の手を緩めることはない。
「みんな、後ろは安心して私に任せて!」
 中でもアンネリーゼの電磁銃から発せられる援護射撃は、仲間たちにとって大いに心強い助けとなった。
 一撃加えるごとに血薔薇がひとつ、またひとつ……散っては落ちて、踏みにじられる。
 それはまるで、すくい上げた砂粒が手のひらから零れてゆくよう。
「そろそろだね、エトヴァ」
「ああ」
 もはや、血薔薇の執行人形にこれ以上の戦う余力は残されていない。
 ならば──。
「ドイツ帝国の禍を一掃する。パリを、機械と人形どもの支配から取り戻す……」
 辺りの薄闇が濃さを増す。
 誓いを込めてエトヴァが放つのは、暗夜の一撃。
 闇の中から音もなく忍び寄り、敵を狙い撃つ。
「しっかりとその身で味わうがいい。これが俺の……俺たちの反撃の一手だ」

 血の薔薇が無残に砕け散る。
 すると突然、どこからともなく不穏な地響きと爆発音がして、建物全体が大きく揺れ始めた。
 あらかじめ工場内に仕掛けられていた爆弾が作動し、爆発を起こしたようだ。
 建物のどこかにいるはずの機械化ドイツ帝国一般研究員たちの姿は、見当たらない。
 爆発に巻き込まれたか、それともアヴァタール級の敗北を見越して先に逃げ出してしまったのか。
「確かめている暇はなさそうだ」
「ええ、急ぎましょう」
 恭弥の声に、アンネリーゼも頷いて。
 ディアボロスたちは牢獄を後に、出口に向かって駆け出した。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【腐食】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
【平穏結界】がLV3になった!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
【先行率アップ】がLV2になった!
【ガードアップ】がLV5になった!

最終結果:成功

完成日2022年11月20日