食在漢水(作者 土師三良
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#大戦乱群蟲三国志  #樊城の戦い:蜀  #蜀 

●大戦乱群蟲三国志にて
 荊州の一角。長江の最大の支流である漢江(漢水)に面した小さな村から幾筋もの煙が立ちのぼっていた。
 昼餉の煙が見られる時間帯ではあるが、それらはもっと物騒な煙だ。
 家々が焼かれたのである。
 蜀の人狩り部隊によって。
「命だけは! どうか命だけはお助けをーっ! お願いします! お願いしますぅーっ!」
 少しばかり間の抜けた顔をした中年の男が必死に命乞いをしていた。
 村の門の前。その男だけでなく、すべての村人たちが集められている。
「うるさいのう」
 蔑みの視線を男に突き刺したのは人狩り部隊の指揮者。妖艶な空気を漂わせた女の蟲将だ。
「なにか勘違いしておるようじゃな。ワシがここに来たのは貴様たちを殺すためではなく、栄達の道を与えるためじゃぞ」
「栄達?」
「そうじゃ。喜べ、猿ども。こんなクソ田舎でクソ魚を穫って暮らすクソ同然な生活は今日で終わり。これからは栄光ある蜀軍のクソ兵士として生きるのじゃ。嬉しかろう?」
「……いや、兵になっても頭から『クソ』は取れないの?」
 と、小声で呟いた後、男は追従の笑いを浮かべて(かなり引き攣った笑顔だったが)女に言った。
「はい、とても嬉しいです。感謝の言葉もございません。しかし、その、なんというか……働き手を兵に取られてしまうと、村に残される者の生活がですねぇ、色々と大変になっちゃったりなんかして……」
「心配無用じゃ。『残される者』などおらぬ。全員を徴兵するからのう」
「ぜ、全員!?」
「うむ。クソ女もクソ子供もつれていく。とはいえ、さすがに足腰が立たぬほどのクソ老いぼれや泣き喚くことしかできぬクソ赤子はいらぬのう。おい――」
 慌てふためく男を無視して、蟲将の女は部下たちに命じた。
「――兵として使えぬクソどもを始末せい」

●新宿駅グランドターミナルにて
「このパラドクストレインの行き先は『大戦乱群蟲三国志』だ」
 パラドクストレインの車内に足を踏み入れたディアボロスたちにそう告げたのはインクセティアの精悍な青年。
 時先案内人の李・令震である。
「大戦乱群蟲三国志の現在年は西暦219年。荊州を巡って魏、呉、蜀の三国ともにきな臭い動きを見せており、戦乱間近といった情勢だ。新宿島に流れ着いた時から過去の歴史をざっと学んだが……いや、俺にとっては未来の歴史か。まあ、それはともかく、荊州を守っていた関羽はこの翌年に呉の名将・呂蒙に倒されたそうだな」
 当然のことながら、かのディヴィジョンの関羽(を名乗る蟲将)は歴史を忠実になぞるつもりはないらしい。来たるべき決戦に備えて兵力を増大すべく、荊州のあちこちで民衆狩りをおこなっているという。
「予知によると、関羽の命を受けた『貂蝉』というアヴァタール級の蟲将が漢水に面した小さな村を焼き払い、村人のほぼ全員を強引に徴兵する。『全員』ではなくて『ほぼ全員』なのは、兵士として戦えない者――赤ん坊だの老人だの病人だのはその場で殺してしまうらだ」
 声だけを聞いて判断するならば、令震は冷静に語っているように思えるだろう。
 だが、彼の瞳からは激しい感情が見て取れる。
 パラドクスの原動力とでも呼ぶべき感情。
 怒りだ。
「その予知が現実のものとなることを防ぐため、貂蝉を倒してくれ」
 同じ感情を抱く者たちに令震は願いを託した。

「ところで――」
 令震の表情が少しばかり緩んだ。
「――英気を養うこともまた戦士の務めだ。新宿島ではそういうのを『ばっかんすー』と言うんだっけか?」
 おそらく、『ヴァカンス』の間違いだろう。
「幸いなことに貂蝉率いる人狩り部隊が村を襲うのは、パラドクストレインが現地に到着してから半日ほど後だ。その間に村で飯でも食うといい。田畑が荒らされているので穀物や野菜は不足しているが、川の幸には恵まれている。俺も人間だった頃にあの界隈で魚料理を食ったことがあるが、どれも美味かった……うん、べらぼうに美味かった」
 クロノス級に敗れた末に現代に流れ着いたディアボロスからすれば、過去を思い出すのは辛くて悲しいことだろう。それでも表情が緩むのは、一時的に悲しさを忘れてしまうほどに料理が美味かったということか。
「もっとも、俺は美味くない料理というのにお目にかかったことがないがな。ただ一度も」
 いや、料理のレベルが高いのではなく、令震の舌のレベルが著しく低いということらしい。

「まあ、とにかく……美味いものをたらふく食って、ばっかんすーを炎上するがいい」
 おそらく、『エンジョイ』の間違いだろう。
『間違っている上にちょっと死語だし……』とディアボロスがツッコミを入れず間もあらばこそ、令震は力強い声で宣言した。
「では、行くぞ!」
 パラドクストレインが走り始めた。

●大戦乱群蟲三国志にて
「まぁーた大きな戦が起こりそうだな。ホント、勘弁してくれってんだよ」
 村で唯一の食堂の前に縁台を並べながら、少しばかり間の抜けた顔を更に間の抜けたものにして、中年の男が溜息をついた。
「最近は旅人も寄りつかないし……いや、だけど、今日はなんか予感がするな」
 食堂の店主であるその男――冠文は間の抜けた顔を上げ、村の門がある方向を見やった。
「見慣れぬお客さんが来てくれるっていう予感が……」
 その予感は当たっていた。
 今まさに『見慣れぬお客さん』たちが村に向かっているのだ。
 破滅をもらたす蟲将の部隊。
 そして、それを倒さんとするディアボロスたち。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【傀儡】
2
周囲に、ディアボロスのみが操作できる傀儡の糸を出現させる。この糸を操作する事で「効果LV×1体」の通常の生物の体を操ることが出来る。
【飛翔】
4
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
3
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果とは併用できない)。
【腐食】
2
周囲が腐食の霧に包まれる。霧はディアボロスが指定した「効果LV×10kg」の物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)だけを急激に腐食させていく。
【勝利の凱歌】
2
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【プラチナチケット】
2
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【冷気の支配者】
1
ディアボロスが冷気を自在に操る世界になり、「効果LV×1km半径内」の気温を、最大で「効果LV×10度」低下可能になる(解除すると気温は元に戻る)。ディアボロスが望む場合、クロノヴェーダ種族「アルタン・ウルク」の移動速度を「効果LV×10%」低下させると共に、「アルタン・ウルク」以外の生物に気温の低下による影響を及ぼさない。
【壁歩き】
1
周囲が、ディアボロスが平らな壁や天井を地上と変わらない速度で歩行できる世界に変わる。手をつないだ「効果LV×1人」までの対象にも効果を及ぼせる。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【スーパーGPS】
1
周囲のディアボロスが見るあらゆる「地図」に、現在位置を表示する機能が追加される。効果LVが高ければ高い程、より詳細な位置を特定できる。
【完全視界】
1
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【活性治癒】
3
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【土壌改良】
4
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の地面を、植物が育ちやすい土壌に変える。この変化はディアボロスが去った後も継続する。
【使い魔使役】
1
周囲が、ディアボロスが「効果LV×1体」の通常の動物を使い魔にして操れる世界に変わる。使い魔が見聞きした内容を知り、指示を出す事もできる。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。
【口福の伝道者】
3
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【おいしくなあれ】
1
周囲の食べ物の味が向上する。栄養などはそのまま。効果LVが高いほど美味しくなる。
【ハウスキーパー】
2
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。
【アイテムポケット】
2
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV5 / 【命中アップ】LV2 / 【ダメージアップ】LV9 / 【ガードアップ】LV7 / 【反撃アップ】LV3 / 【リザレクション】LV1 / 【先行率アップ】LV2 / 【ドレイン】LV3 / 【アヴォイド】LV2 / 【ロストエナジー】LV5

●マスターより

土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。よろしくお願いします。

●このシナリオの目的
 とある村で民衆狩りをおこなおうとしているアヴァタール級クロノヴェータ『貂蝉』を撃破してください。また、戦闘の前に村で素朴ながらも美味しい料理を食べることもできます。

●選択肢「現地料理を堪能しよう」について
 村で唯一の食堂で料理を食べることができます。腕に自信のあるかたは自分で料理をつくる側になって他のディアボロスや村人に振る舞うこともできます。
 蟲将たちの襲撃のことを村人たちに伝えて避難を促す必要はありません。敵が村に侵入する前に撃退する(というか、撃退しなくてはいけない)ので。
 料理に関しては時代や地理や季節などついて深く考えず、雰囲気重視でいきましょう。あと、代金とかもスルーで。
 以下は食堂にあるメニューの例。

 花鱗虎:『足なし虎』と渾名される白身魚の揚げ物。

 翻江蛤:ハマグリに似てなくもない二枚貝のスープ。具は少な目だが、味は濃厚。

 暗地忽律:ウナギの白焼き。塩や魚醤でどうぞ。タレをかけたいかたは自作してください。

 菜園神:鹿の燻製肉の野草巻き。

 甘和尚:蜂蜜をかけた小さな団子。材料不足なので、数人分しかありません。

 懸命三郎:どぶろく。アルコール度数は低めですが、未成年ディアボロスは飲んじゃダメ。

●ボス敵について
 アヴァタール級の蟲将の『貂蝉』。他の貂蝉よりも口がクソ悪い模様。
 オリジナルのクロノス級・貂蝉について問いただしたとしても無駄です。なんにも答えたりしないので。

●NPCについて
 念のために言っておきますが、李・令震(インセクティアの破軍拳士・g03313)は本編には登場しません。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
85

このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


袁・雀蜂
※アドリブ歓迎

・行動
腹ごしらえをして英気を養う。
蟲人特有の燃費の悪さを補うため、食べれる品を全部頼んで片っ端から平らげる。好物の甘和尚(ハチミツ団子)は食べた後で【口福の伝道者】で増やして全員分とお替り分を確保する

・セリフ
腹が減っては何とやらってね!
此処はいいところだね、旅人に売るほど食料に食糧に余裕があるのは
この辺りの土地が豊かな証拠だよ。
食べ物が無いのは何より辛いからね……。(もぐもぐと団子食べつつ)


コロン・ルヴィン
※アドリブ&他の方との連携歓迎

これから待ち受けている事を考えるといろんな意味でドキドキが止まらないわ。
自分がやるべき事は忘れずに、ね。

せっかくだし一番美味しいものをたくさん食べて落ち着こう。
スズはどれがいい?
美味しい匂いの正体は何かな。
花鱗虎?揚げ物なのは分かるけど初めて聞く名前ね。
いただきまーす。うんうん、美味しいわ!
お酒は今後のことを考えてちょっとだけ…
こんな美味しいものをステキな人達が一生懸命に作っているんだもの。
絶対にこの平和は奪わせないは。
お礼にこっそり土壌改良でより美味しいものがより育つ様に田畑を改善できる余裕があればしてあげたい。
ステキな人達が健康に怪我なく生き続けられる様にね。


ノナメ・クロス
ご一緒OK

ご飯食べていいの?
この時代のご飯、どんな感じなんだろう
美味しいお花もあるのかな。…あんまりないか、お野菜が少ないって言ってたし
…ん、ひもじい…?私、おじいちゃんじゃないよ

メニューの漢字、読めない…けど、どれを選んでも美味しいはず
読み方教えてもらいながら、色々お願いしてみる
んー、いろんな所から、良い匂いがするね。何のお魚かな…?

(表情変わらず。目だけが輝き)
わぁ、焼いたお魚、とっても美味しい
食べ比べしたら、どれも美味しくて、何だか得した気分
このスープも、体が温まって癖になる味。お気に入りかも

こんな美味し……素敵な場所が、襲われちゃうなんて。絶対に止めなきゃ
終わったら、またご飯に来るね


月見山・伊吹
【月日夫妻】
※連携、アドリブ歓迎だよ

食堂ーご飯ご飯!中華メシー!
えー材料が少ないなら私がなんとかするよ!

持ってきた野菜や穀物や果物の種を【植物活性】【土壌改良】を使い一瞬で他の復讐者や村人達がたらふく食べられるぐらいの量を収穫出来るくらいに成長させるね。
このくらいあれば何か作れるかな?

花鱗虎も刀削麺も菜園神も甘和尚も美味しいなぁ!
【口福の伝道者】も使うね。

どれも美味しかったよ!
私は料理が趣味だけど何か料理教えてほしいな。
甘和尚が凄く美味しかったからね!
月餅とか愛玉とか杏仁豆腐などの甘い物の作り方も知ってるかな?


月見里・千隼
【月日夫妻】
※連携、アドリブ歓迎


伊吹と共に【土壌改良】【植物活性】で手持ちの野菜と穀物と果物の種を急成長させて収穫する。

食堂では【口福の伝道者】を使いレバニラと棒棒鶏と少しの果物を食べる。

余った野菜と穀物と果物を食料貯蔵庫に運び【植物活性】と【土壌改良】で農業の手伝いをして
終えた後に元々の視力の良さを活かして臨戦態勢で村の入り口でクロノヴェーダがいつ来ても戦えるように見張りをする


●序幕
 レールが敷かれていない河原に、JR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
 異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「わん!」
 車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、砲を背負った黒毛の柴犬――パンツァーハウンドのスズがそのうちの一つから飛び降りた。
「これから待ち受けている事を考えると……いろんな意味でドキドキが止まらないわ」
 衣装を黒で統一した小柄なサイボーグの女が降りてきた。
 スズの主人のコロン・ルヴィン(砂風鈴・g04379)である。
「ウチも同じような心持ちかなー。コロンちゃんの言う『ドキドキ』ってのに食欲が含まれてるならね」
 続いて降車したのはインセクティアの少女。黄色と黒の縞模様の衣装とインセクティアの種族特徴のせいで蜂のような印象を受けるが、名前にも『蜂』の字が含まれている。
 袁・雀蜂(ホーネットガール・g01434)だ。
「ごっはん、ごっはん! 中華メシー!」
「……」
 対照的なテンションの夫婦が別の扉から現れた。子供のようにはしゃいでるデーモンの妻、月見山・伊吹(小春日和・g04125)。ウェスタン風の衣装に身を包んだ寡黙な夫、月見里・千隼(清風明月・g03438)。伊吹の肩にはスフィンクスのシフォンがとまり、千隼の斜め後方には無双馬のチャンディラムが控えている。
「こんな時代のご飯、どんな感じなんだろう?」
 そう呟いたのは、月見里夫妻の後から降りてきた青い髪の少女。
 伊吹と同じくデーモンのノナメ・クロス(星の子・g00031)だ。
「美味しいお花はあるのかな? ……って、ないか。お野菜が少ないって言ってたし」
 ノナメは、ぼんやりとした目を地面に向けた。
 雑草の中に花がぽつぽつと咲いている。
 どの花も美しかったが、美味しそうには見えなかった。

●月見山・伊吹(小春日和・g04125)
『一許亭』という看板がかけられたその食堂はとても小さかった。掘っ建て小屋に毛が生えたような店だよ。
 しかも、屋内は厨房で占めらているらしく、客は外の縁台に座って飲み食いしなくちゃいけない。まあ、想像力を働かせれば、お洒落なテラス席にいるような気分が味わえないこともない……かねえ?
「いやー、村の外からの団体さんは実に久しぶりだったりなんかして!」
 ちょいと間の抜けた顔立ちのオジさんがエラく張り切ってる。
「腕に縒りをかけて作るから、じゃんじゃん注文してちょうだいなー!」
 冠文と名乗った(誰も名前なんか訊いてないんだけどね)このオジさんこそ、一許亭の総支配人にして料理人にして給仕にしてその他諸々らしい。完全なるワンマン経営。
「んー?」
 ノナメさんが首を傾げ、小さく唸ってる。視線の先にあるのは、掘っ建て小屋の外壁に貼られたメニュー表。
「メニューの漢字、読めない……」
「いやいやいやいや」
 このディヴィジョンの出身者であろう雀蜂さんがかぶりを振った。
「たとえ漢字が読めたとしても、どんな料理なのかは判らないと思うよ。聞いたこともない名前ばっかりだし」
「全部、俺が命名したんだ。かっこいい名前だろ?」
 冠文さんがドヤ顔を決めた。
 雀蜂さんはなにも答えなかったけど、口元に浮かんでいる苦笑がすべてを物語っているような気がする。
「メニュー表には載ってないが、韮菜炒牛肝と棒棒鶏をくれ」
 チャンディラムを繋ぎ終えた千隼が私の隣に座り、冠文さんに注文した。ぶっきらぼうな物言いだけど、機嫌が悪いわけでも礼儀を知らないわけでもないよ。基本的にこういう話し方しかできない人なんだよねえ。
「食材がなければ、別の料理でいいがな」
「食材はあるよ。ただ、肉系の貯えはそんなに多くないから、韮菜炒牛肝も棒棒鶏も三人前が限度だね」
 だいじょーぶ、だいじょーぶ。たとえ一人前しか用意できなかったとしても、最低でも百人前は確保できるよ。
 食いしん坊な誰か、もしくは親切な誰か、もしくは食いしん坊で親切な誰かが『口福の伝道者』を使ってくれるだろうからね。

●月見里・千隼(清風明月・g03438)
 実を言うと、俺と千隼も食材を提供するつもりだった。パラドクス効果の植物活性と土壌改良を利用して野菜や果物の種を急成長させるという手段で。
 植物活性を使えば、成長速度は通常の二十倍……なんだが、よく考えたら、種から育てるにはそれでも遅すぎた。一時間ねばったとしても成長の度合いは一日分にも満たない。
 しかし、俺たちが植えた種は無駄にはならないだろう。いつの日か芽吹き、成長して、人々の糧となるはずだ。そして、それらが収穫された後も、土壌改良された田畑が新たな糧をもたらしてくれる……そう信じたい。
「なーに難しい顔して考え込んでの。ほらほら、いい感じの香りがしてきたよ」
 伊吹が俺の脇腹を肘で軽くつつき、にっこりと笑った。デーモンと化した今でも、彼女の笑顔は人間だった頃と変わらない。俺を何度も救ってくれた笑顔。俺が守り続けねばならない笑顔。
「にゃー!」
 伊吹の膝の上で丸まっていたシフォンが体を起こし、鳴き声をあげた。厨房小屋から漂ってきた芳香を文字通り嗅ぎつけたらしい。
「わん!」
 コロンの足下にいるスズも口吻を突き上げて鼻をひくつかせている。
 店先の木に繋がれたチャンディラムも芳香を感じ取っているようだ。フレーメン反応めいた表情を見せているからな。
 もちろん、そわそわしているのはサーヴァントだけじゃない。
「んー……いい匂いがするね」
 ノナメさんが目を閉じてスズと同じように鼻をひくつかせている。期待に満ちた言葉に反して、顔は無表情。
 だが、再び目を開けた時、印象が変わった。あいかわらず無表情だが、瞳だけはキラキラと輝いている。
「この美味しそうな匂いの正体はなにかな?」
 優れた嗅覚で以て芳香を堪能しているスズにコロンさんが微笑みかけると――
「もちろん、俺の料理だったりなんかして!」
 ――冠文さんが厨房小屋から出てきた。料理が載った皿を手にして。

●袁・雀蜂(ホーネットガール・g01434)
 コロンちゃんが注文したのは花鱗虎という料理。素揚げした白身魚に唐辛子等の香辛料をたっぷりとかけた代物。
「お味はどう?」
「うん! 美味しい!」
 ウチが問いかけると、コロンちゃんは幸せそうに笑った。ウチの倍くらいの年齢(三十前後?)らしいけど、その笑顔はとても幼くて可愛く見える。
「ピリ辛だけど、甘党の私でもすいすい食べられる。身は柔らかくて、ちょっと張りがあって……独特の食感が堪らない」
 コロンちゃんの感想はお世辞ではなさそう。あの冠文さんという料理人、外見や言動はちょっとアレだけども、腕は確かみたいだね。
「スズはどれが気に入った?」
 コロンちゃんが目をやった先では、スズが皿に顔を突っ込んでいた。皿の中身は皆から分けてもらった料理。シフォンもお相伴にあずかってる。
 どうやら、二匹とも暗地忽律という焼き魚の料理がお気に召したようだね。スズは尻尾をぴこぴこと振りながら(コロンちゃんへの返事を兼ねてるみたい)、シフォンは『あむあむあむぅ』と唸りながら、夢中で貪ってるよ。
 それにノナメちゃんも暗地忽律に舌鼓を打ってる。素のまんまで食べてるスズやシフォンと違い、魚油をたっぷり塗りつけて。
「これ、とっても美味しい……なんのお魚かな?」
「ウナギだよ」
 と、伊吹ちゃんがノナメちゃんに教えてあげた。
「このディヴィジョンにいる間によぉーく味わっといたほうがいい。新宿島では天然もののウナギはレアなんてレベルじゃないからね」
「うん」
 スズたちに勝るとも劣らない勢いでノナメちゃんは暗地忽律をたいらげた。
 次に食べ始めたのは翻江蛤という名のスープ。
「これも美味しい。体が温まって、癖になる味。お気に入りかも……」
「それはなにより」
 と、答えたのは冠文さん。
 新たに運んできた料理を縁台に置くと、彼は感慨深げにノナメちゃんとコロンちゃんを眺めた。
「二人とも凄い食いっぷりだな。やっぱ、ずっとひもじい思いをしてたのか? 可哀想に……」
「ん?」
 コロンちゃんが顔を上げ、首をかしげて冠文さんを見つめ返した。
「……ヒモジイ? 私、おじいちゃんじゃないよ」
 はい、ウナギだけじゃなくてノナメちゃんも天然だったというオチでしたー。

●ノナメ・クロス(星の子・g00031)
「魚料理だけじゃなくて、刀削麺も美味いなぁ! それにこの菜園神ってのも!」
「そうだな……」
 伊吹はもりもり食べてるけれど、旦那さんである千隼のほうはテンションが低め。表情を変えずに(私もヒトのことは言えないけどね)静かに箸を動かしてる。
 それでいて、仲間にはしっかりと心配りをしているんだよね。パラドクス効果で増えた料理を私たちに分けてくれてるし。
 ちなみにその効果を発動させたのは千隼ではなくて――
「腹が減ってはなんとやらってね!」
 ――伊吹以上のペースで食べてる雀蜂だよ(伊吹は『もりもり』だけど、雀蜂は『もりもりもりもりもり』くらいかな?)。メニューを片っ端からたいらげて、今は蜂蜜がけのお団子を食べてる。
「うーん! やっぱり、この甘和尚がいちばん美味しいなー!」
「おうおう。甘和尚は大好評みたいだね。つくった甲斐があるってもんだ」
 小屋の中で別の料理をつくっていた冠文が窓から顔を覗かせた。雀蜂の感動の声が聞こえたんだろうね。
「でもね、お嬢さん。残念ながら、甘和尚はちょっとしかないんだ。米不足だし、最近は蜂蜜もほとんど手に入ら……って、えー!? なんか、いっぱいあるぅーっ!?」
 目を真ん丸にする冠文。今頃になって気付いたみたい。パラドクス効果でお団子(だけじゃなくて、他の料理も)が増えてることに。
「俺、こんなに作ったっけ? 無意識のうちに作っちゃったりなんかしたのかな?」
「そんなことより――」
 と、伊吹が冠文に話しかけた。
「――私に料理を教えてくれない?」
「料理を?」
「うん。どれも美味しかったから、教わっておきたいんだよ。とくに美味しかったのはこの甘和尚かな。ねえ、月餅とか愛玉子とか杏仁豆腐とか、他の甘い物の作りかたも知ってるの?」
「も、も、もちろん、知ってるさ。知らないわけないだろ」
 ……ん? 冠文の反応がビミョーな感じがするのは気のせい?
「ゲッペーでもオーギョーチでもアンニンドーフでもなんでも来いだったりなんかしちゃったりなんかしてー」
 どうやら、どの料理も知らないっぽい。
 私もよく知らないけどね。

●コロン・ルヴィン(砂風鈴・g04379)
 冠文さんのことを腕利きの料理人だと思ってたんだけれど、スイーツのレパートリーは甘和尚だけだったみたいね。まあ、誰にでも不得手な分野はあるものよ。
 私は食事を終え、懸命三郎という濁り酒をちびちびと飲んだ。『ぐびぐび』じゃなくて『ちびちび』なのは、この後に荒事が控えているから。
「ここはいいところだねえ」
 突然、雀蜂さんがしみじみと述懐した。毛繕いする猫を思わせる所作で蜂蜜まみれの指を舐めながら。
「さっき、冠文さんが米だの蜂蜜だのが足りないって言ってたでしょ。でもさ、ウチらみたいな流れ者を相手に商える程度には余裕があるんだよ。それはこの辺りの土地が他よりも豊かだっていう証拠じゃない?」
「そだね」
 と、ノナメさんが頷いた。
「こんな素敵な場所が蟲将たちに襲われるなんて……絶対に止めなきゃ」
「そだね」
 と、今度は雀蜂が頷いた。
「豊かな土地が荒らされるってことは、飢える人が増えるってこと。それを見過ごすわけにはいかない。食べ物がないのはなによりも辛いからね……」
 雀蜂さんは指を舐め終えると、新たな甘和尚を手に取り――
「なによりも辛いからね」
 ――同じ言葉を繰り返した後、口に放り込んだ。
 もちろん、私も二人と同じ気持ち。
 こんなに美味しいものを作ってくれるステキな人たちがいる村。
 その平和は絶対に奪わせない。
 絶対に。
「さてと……食べた後の腹ごなしと荒事の前の準備運動を兼ねて、一仕事してこようかな」
 私は『ちびちび』ペースで飲んでいた濁り酒を一気に飲み干し、縁台から立ち上がった。
 リラックスしていたスズも四本足で起立。
「その『一仕事』ってのはなんだ?」
 千隼さんが訊いてきた。
「千隼さんと伊吹さんがやってたのと同じようなことよ。村の田畑に行って、土壌改良のパラドクスを仕込んでくる。より美味しい作物が育つようにね」

 もし、この村にまた来る機会があれば、今日の料理よりもっと美味しいものが食べられるかも。
 あと、冠文さんのスイーツのレパートリーが増えてると嬉しいんだけど……そっちは期待薄かなぁ?
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
【土壌改良】LV2が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV2が発生!
【ロストエナジー】LV2が発生!
【ドレイン】LV1が発生!

伏魔塚・羽犬
ほほう、この時代の中華ですか、良いですね~実に興味が湧いてきます・・・涎と共に。
(食堂のメニュー制覇中)



ゲェップ。・・・おっと失礼しました。
いやはや、中々に美味しかったですね。
ご馳走様でした。
・・・さてと、美味しい料理を堪能させていただきましたし、
今度は此方が腕を振るわせていただきますよ。
調味料は此方で用意しますが主な材料は先ほど頂いた料理にも使われてる現地のモノを利用させていただきましょうかね?
白身魚の煮付、二枚貝のすまし汁、ウナギの蒲焼き、
鹿肉の生姜焼き、蜂蜜みたらし団子・・・等々。
ふむ、こんなところでしょうかね?
さぁさ皆々様、どうぞ召し上がれ!!


三苫・麻緒
【ミント】
本当にクソなのはどっちなんだか
それはそうと、おいしいものはお腹いっぱい食べたい!
英気を養うことは大事だからね!食べたいだけとかじゃないんだからねっ!

私、料理の腕に関してはフッツーなんだよね
というわけで、作るのは本職に任せていただきます!(きりっ)
甘いものも気になるけれど、川の幸に恵まれているというのならそっちも気になっちゃう
だから花鱗虎とかお魚系を頼んじゃおうっと

そういえば川魚は臭みが気になるって話を聞くよね
もしその辺の工夫とかあれば少し話を聞いてみたいな


枸橘・蕙
【ミント】
ばっかんす、ばっかんすーばっかんすえんじょう!
うまいものたくさん食うと元気でるよな、わかるぜ
はいきゅーじゃないご飯って、いつぶりになるんだろーな
今日ものこさず食べるぞー!

■ごはん
お魚がおいしいってきいたし、それ食べてーなー
できたら骨とらなくて、がじがじやれるのがいい!
揚げ物とか、魚のお団子汁とかそういうの!

出てきたら、ちゃんと手をあわせて『いただきます』!
李が「べらぼうにうまかった」ってずっと言ってたから、すげー楽しみ!
普通の料理でもこういうご飯ひさしぶりだし、何でも美味しくたべるぜ

おっちゃん、おっちゃん、これおれんちでも作れる?
すっげーうまかったから、うちでも似たやつ食べたいんだ!


エリル・ウィスタリア
【ミント】
絡み・アドリブokよ。

美味しいご飯楽しみ
見た事ないお料理一杯。とっても美味しそう。
ね、ね、食べてもいい?良いわよね?
メニューから気になるのを注文。
皆で分けて食べましょう。お魚美味しい。蒸かしてるのかしら?
ふかふかしてとっても美味しい。これ好きかも。
これ、どうやって調理しているのかしら?
覚えられるか分からないけど、ちょっと覚えたいなって。
ね、ね、教えて?お願い!私に「お前に料理出来るのか」って言った知り合いをぎゃふんと言わせたいの!
メモを構えて話を聞く構えよ。調理のコツとか、魚の捌き方とか、しっかりお勉強してお料理覚えて帰るんだから。
そしたら、皆にも振る舞ってみたいなって……思ったの。


尹・麗孝
へぇ、これは興味深い
思わず口元が緩んでしまう

早速気になった「翻江蛤」と「菜園神」を注文してみるとするか

ん!これは美味しいな!
店主に習う事は可能だろうか?
もちろん習うなら食事を完食してからだが
思わずソワソワしてしまう

「店主、この料理上手いな。良かったら私にも作り方を教えてもらえないだろうか?」
「あと、可能なら少し材料を貸して貰えないだろうか?」

白身魚と少しの米、調味料を貸して貰えるなら
白身魚の粥を作りたいと思う
村人や一緒に来た方たちにも振る舞えたらと思うのだが…
粥ならば、穀物不足も少しは補えると思う

※アドリブと他の方との絡み大歓迎です


●幕間
 露天食堂『一許亭』にはディアボロスたちが続々と集まっていた。
「ばっかんす、ばっかんすー! ばっかんす、えんじょう!」
「いえ、炎上じゃなくて、エンジョイだから」
 ヒマワリ柄の羽織を腰に巻いた男児が浮かれ騒ぎ、等身大の人形を伴ったロリータドレス姿の少女が苦笑している。
 男児は妖狐の枸橘・蕙(そらを描く・g02980)。
 少女は人形遣いのエリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)。
 エリルは蕙のように大声で騒いでこそいないが、瞳を歓喜に輝かせているという点は同じだった。
 その瞳が見つめているのは、縁台に並べられた様々な料理だ。エリルにとっては未知の料理ばかりだったが、そんなことは食欲の妨げにはならなかった。
「ね、ね、食べてもいい? いいわよね?」
「いいに決まってるじゃない」
 身を乗り出すようにして問いかけたエリルに答えたのは、チョコ色の髪とミント色の翼を有したデーモンの少女。
 三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)である。
「てゆーか、食べていいんじゃなくて、食べなきゃいけないんだよ。令震さんが言ってたように、英気を養うことはとっても大事なんだからね」
 もっともらしく宣う麻緒であったが、美味そうな料理を前にして表情は弛みっぱなしだった。令震がなにも言わなかったとしても、意気込んで『英気を養うこと』に努めていただろう。
 別の縁台では、顔に傷のある若い男が料理を眺めていた。
 特級厨師の伏魔塚・羽犬(人間の特級厨師・g04372)。『若い』と言っても、麻緒たちよりは遙かに大人なので、落ち着いたものである。
「ほほう。これらがこの時代の中華料理ですか。いいですねぇ。興味が湧いてきます。涎とともに……」
 ……いや、落ち着いていないようだ。口元を手の甲で拭っているが、それはただのジェスチャーではなく、本当に涎が垂れているのかもしれない。
「うん。確かに興味深い」
 と、長髪の男が羽犬の言葉に頷いた。
 彼の名は尹・麗孝(浮き草・g01943)。サキュバスではあるが、このディヴィジョンの出身者。そして、羽犬と同様に特級厨師である。
「さて、いただくとするか」
 サキュバスの特級厨師は形のいい唇を悦びに綻ばせた。
 さすがに涎は垂らさなかったが。

●伏魔塚・羽犬(人間の特級厨師・g04372)
「ん! これは美味しいな!」
 麗孝さんが絶賛しているのは、鹿の薫製肉で野草を巻いたもの。店主の冠文さんが『菜園神』と名付けた料理です(ネーミングセンスについてはとやかく言いますまい)。
 では、自分も菜園神をいただきまーす……うん! 麗孝さんの言葉に偽りなし! とても美味しいです! 薫製肉のほのかな辛みと野草の苦みとの見事な調和! いやー、このままでも充分に美味しいですが、チーズや黒胡椒があれば、世界観が更に広がるかもしれませんね。
「この味、好きかも……蒸かしてるのかしら?」
「こっちの揚げたやつもいけるよ。ほらほら、食べてみ」
 向かいの縁台ではエリルさんと麻緒さんが仲良く(時には互いに『あーん』して与え合いながら)料理を食べてます。二人の間に置かれているのは蒸した魚と素揚げした魚。どちらも白身魚で、後者は唐辛子等で赤く彩られています。店主の冠文さんが付けた名は『花鱗虎』なのだとか(ネーミングセンスについてはとやかく言いますまい)。
 では、自分も花鱗虎をいただきまーす……うん! 麻緒さんの言葉にも偽りなし! とても美味しいです! やもすれば淡泊な印象を受けそうな白身魚を力いっぱい引き立てる唐辛子! いやー、このままでも充分に美味しいですが、甘酢あんかけにしたら、新たな世界への扉が開けるかもしれませんね。
「おれもお魚が食べてーなー。『べらぼーにうまい』って聞いたし」
 縁台に腰かけて足をぶらぶらさせながら、蕙くんが言いました。
「でも、骨とったりすのはめんどうだから、がじがじやれるのがいい! あげ物とか、お魚のお団子汁とか、そういうの!」
「よし来た!」
 蕙くんの注文を受けて、ユーモラスな顔立ちをした御仁が自分の胸をドンと叩きました。
 彼こそが冠文さんです。
「足なし虎のつみれ汁を作ってやるよ。その名も『出洞丸』だ」
 ネーミングセンスについてはとやかく(略)。

●尹・麗孝(浮き草・g01943)
「くどいようだけど、英気を養うことはなによりも大事なのよ」
 インセクティアもかくやという大食い振りを披露しつつ、麻緒さんが仲間たちに念を押している。
「だから、私も英気を養うために食べてるの。そりゃあ、確かに『お腹いっぱい食べたーい』とは思っているけれど、決して食い意地だけに突き動かされてるわけじゃ……」
「うんうん。わかる。わかるぜー」
 麻緒さんがすべてを言い終わらぬうちに蕙さんが何度も首肯した。
「うまいものをたくさん食うと、元気でるよな。エーキをやしなうって、そういうことだろ?」
 そして、『エーキをやしなう』べく、料理に手を……伸ばすかと思いきや、まずは体の前で両手を合わせた。幼い(十歳にもなっていないだろう)ながらも最低限の礼というものは心得ている模様。
「いただきます!」
 白身魚のつみれが入ったスープをかき込むように食べ始める蕙さん。
 そのスープは出洞丸という珍妙な名前らしいが、味のほうは――
「おいしぃーっ!」
 ――とのこと。
 私が食べている翻江蛤もとても美味しいスープだ。具材の貝はちょっと得体が知れないが。
 羽犬さんも翻江蛤を気に入ったらしい。瞬く間にたいらげ、『いやー、このままでも充分に美味しいですが、タマネギとニンニクを加えれば云々』と感想を述べている。
「ふぅ……」
 エリルさんが満腹の溜息を漏らした。
「本当に美味しかった」
「いやいや、それほどでもなかったりなんかして。はっはっはっはっはっ!」
 店主は笑顔で謙遜している。後ろに倒れんばかりに胸を張っているので、謙遜になってないが。
 とはいえ、彼が高い技量を有していることは間違いない。可能ならば、教えを乞いたいところだが……それは翻江蛤を完食してからだな。
 料理を早く教えてもらいたい。
 料理をじっくり味わいたい。
 相反する二つの思いに従いつつも抗いながら(どちらの思いに従い、どちらの思いに抗っているのか、自分でも判らない)私は匙を口に運び続けた。

●枸橘・蕙(そらを描く・g02980)
 はいきゅーじゃないご飯って、いつぶりになるんだろーな? てゆーか、普通の食事でもこういうご飯はひさしぶりだっけ? おいしくて、たのしくて、うれしいな。
 あ? 麗孝の腰の竹筒からクダギツネがしゅるしゅるっと出てきた。目をほそめて、とがった鼻をぴくぴく。うまそうな匂いをかいでいる。
 でも、匂いだけではまんぞくできなかったみたいだ。みんなのまわりをうろつきまわって、食べ歩きをはじめた。あっちで焼き魚をかじり、こっちでスープをなめて、今度はそっちで……。
 麗孝のほうは貝のスープを食べつづけてるんだけど、なんだかソワソワしているように見えるのは気のせいかな? 時々、この食堂のおっちゃん(カナブンみたいな名前だったっけ?)のほうをチラ見してる。おっちゃんに話したいことがあるのかも。
「美味しい!」
「美味しいですね!」
 麻緒と羽犬がハモッてるし……体格はぜんぜん違うのに、食べる量とスピードはほぼ同じだ。
「それにしても――」
 麻緒は食べるのをちょっと休んで、揚げたお魚の切り身をくんくんとかいた。
「――川魚は臭みが気になるって話をよく聞くけど、ここの料理はどれもそんなに臭くないよね」
「そういえば、そうだな」
 おれもお魚のお団子を鼻に近づけて、くんくんしてみた。うん。おいしそうな匂いしかしない。
「やっぱ、臭みを抜く工夫とかあるわけ?」
「まあね」
 麻緒がたずねると、おっちゃんはまたエラそうにふんぞり返った。
「魚だけじゃなくて、翻江蛤に使ってる貝もドブ臭くて食えたもんじゃないんだ。しかーし、親父の代から連綿と受け継がれてきた秘伝の調理法を用いれば、臭みがきれいさっぱり抜けて、いい出汁が取れちゃったりなんかしちゃったりするのよ」
「連綿と受け継がれてきたって……二代だけじゃない」
 エリルがあきれて笑ってる。
 でも、おっちゃんのほうは笑ってない。ふんぞり返ってたくせに今はしょぼーんとしてる。
「実を言うと、このまま二代で終わっちゃう可能性が高いんだよなー。誰か嫁さんを世話してくれない? 三代目以降に繋げるためにさ」
 うーん。およめさんをしょうかいするのはおれたちには無理っぽい。
 でも、この村をクロノヴェータから救うことならできるぜ。

●エリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)
「げぇっぷ!」
 羽犬が盛大におくびを漏らした。マナーもなにもあったもんじゃないわね。
「おっと、失礼しました」
 私が睨みつけると、羽犬は神妙に頭を下げた。
 そして、すぐに上げ、満面の笑みを見せた。
「いやー、それにしても美味しかったですね」
「うん」
 そのことに関しては同意せざるを得ない。本当に美味しかった。弟に食べさせてあげられないのが残念……あ? 念のために言っておくと、弟っていうのは私が連れてる人形のことだからね。
 周囲をうろちょろしていた(でも、弟だけには近付こうとしなかった。お利口さんだこと)クダギツネもお腹がくちくなったらしく、麗孝さんのところに戻った。
 その麗孝さんも食事を終えたみたい。懐紙で口を拭ってる。
「店主……」
 懐紙を口から離して、麗孝さんは冠文さんに声をかけた。
「この料理、美味いな。よかったら、作り方を教えてもらえないだろうか?」
「はいはーい! 私にも教えて!」
 と、便乗したのは他ならぬ私。
 更に蕙くんも乗っかってきた。
「これって、おれんちでも作れる? だったら、おれにも教えてほしー!」
「やれやれ。これだから、素人は困るんだよ」
 冠文さんは芝居がかった調子で肩をすくめた。本人はカッコつけたつもりなのかもしれないけれど、見てるほうはちょっとイラっとするわね。あと、私と蕙くんはともかく、麗孝さんは素人じゃないと思う。
「我が一族に連綿と受け継がれてきた秘伝の調理法を他人様に教えるわけないだろう」
「連綿といっても、二代だけよね?」
 私は指摘した。さっきも同じようなことを言ったような気がするけど。
「しかも、三代目のあてはないんでしょ」
 と、麻緒が容赦なく追撃した。
 その言葉はけっこう効いたらしく、冠文さんは肩をすくめたポーズのまま硬直して、泣きそうな顔になってる。なんだか可哀相だし、ヘソを曲げられても困るので、二代とか三代とかの件にツッコむのはもうやめたほうがいいわね。ここは下手に出て、ひたすら懇願しよう。
「ね、ね、教えて? お願い! 『おまえに料理できるのか』ってからかってた知り合いをぎゃふんと言わせたいの!」
「おれにも教えてほしー!」
 蕙くんも食い下がった。
「すっげーおいしかったから、うちでも同じやつ食べたいんだ!」
「はっはっはっ。そうか、そうか。おいしかったかー」
 半泣き状態から一転、ニコニコと笑い出す冠文さん。チョロいなあ……いえ、頑是なき八歳児に『すっげーおいしかった』なんて褒められたら、チョロくなくてもコロッと参っちゃうか。
「そこまで言われちゃあ、しょうがない。連綿と受け継がれてきた秘伝の調理法を特別に教えてしんぜよー!」
『連綿』推しはもういいってば。

●三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)
 と、いうわけで!
 露天食堂が青空料理教室に様変わりしたのだけれど――
「ほら、包丁を使う時は反対の手を猫の手にしないと!」
「……猫の手? それって、特殊な食材かなにか?」
「おれ、猫は食べたくないなー」
 ――エリルさんと蕙くんという浮き世離れした生徒を相手に冠文さんは悪戦苦闘してる。
 麗孝さんも生徒だったけど、二人と違って基礎ができてるから(てゆーか、特級厨師だしね)もう卒業済み。貝のスープとかのレシピをしっかり覚えたみたい。
 ちなみに私は生徒じゃないよ。教えを必要としているほど酷い腕前じゃないから。かといって、自信をもって人様に御馳走できるほどの腕前でもないけどね。そう、フッツーなの、フッツー。
 なので、食べることに専念させていただきます!
「さぁさ、皆々様! どうぞ召し上がれ!」
 羽犬さんが縁台に皿を並べていく。料理教室の先生役で手一杯の冠文さんに代わって、彼が皆のために料理を作ってくれたんだよ。
「白身魚の煮付け、二枚貝のすまし汁、ウナギの蒲焼き、鹿肉の生姜焼き、などなど……先程いただいた料理の材料を利用させてもらいました。調味料は自分で用意しましたけどね」
 どの料理も美味しそう!
「よかったら、私の料理も食べてくれ」
 麗孝さんも来たー!
「白身魚の粥だ。粥ならば、穀物不足も少しは補えると思ってな」
 こっちも美味しそう!
 さっすが、フッツーならざる特級厨師。しかも、質だけじゃなくて量も凄いんだよね。二人とも『口福の伝道者』を使ってるから(あと、インセクティアの雀蜂さんも使ってくれてる)。
「いっただっきまーす!」
 うん! 第一印象の通り、どの料理も美味しい! 大きな声では言えないけれど、冠文さんの料理よりも美味しいかも。
 その冠文さんに色々と教えてもらってるエリルさんのほうを私は見た。おっかなびっくりといった手つきで魚を捌いてる。人形を操るための鋼糸でスパスパッと切り刻んだほうが速いような気がしないでもない。
「どう? どこかの誰かさんをギャフンと言わせることができそう?」
 私が尋ねると、エリルさんの包丁を動かす手を止めずに答えた。
「さあ、まだなんとも……だけど、私が料理のお勉強している目的は他にもあるから」
「どんな目的よ?」
「決まってるでしょ」
 エリルさんはこっちを見て、微笑んでみせた。
「皆に手料理を振る舞ってみたいからよ」
 そうなんだー。
 楽しみにしとこうっと。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】がLV3になった!
【飛翔】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
【壁歩き】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV2が発生!

一ノ瀬・綾音
ほー。ここが噂の食堂!
綾音ちゃん普段はおにぎり2つくらいしか食べないけど、たまにはこういう場所でガッツリ外食もいいかもねー。
じゃあ、綾音ちゃん菜園神と暗地忽律を1つずつ!

おー、これが現地グルメ……!
いただきまーす!
んー、美味しいー。これもう少し焼いたらどうなるんだろう?出力をほどほどにして……えいっ。(【炎魔法】を出力控えめで発動))
いい感じにさらに焼き色濃くなったんじゃない?これで食べてみよう!どんな味するかなー。

……ん?気のせいか、他の料理もいつもよりおいしくなってるような?(【おいしくなあれ】の効果発動)

あ、他の方と食事できるならぜひしたいな。
綾音ちゃん複数人で食事するのも大好きだしね!


緋塚・ヤスオ
「それじゃま戦いの前の景気づけでもしますか」

適当に席について菜園神と懸命三郎を注文
あと肉系の料理があれば適当に
時間潰し程度に酒と肴を腹にいれる
お酒全般と酒に合う食べ物大好き

持ち帰れそうな食材や日持ちしそうな料理があれば交渉して譲ってもらう
「同じ家に住んでる奴らに食わせてやろうかと思ってな」
アイテムポケットに収納して持ち帰り

*他の方との絡みは相手方も同様なら歓迎
相手が食べてる物が美味そうなら同じものを注文
新宿島での生活とかこの依頼への思い的なものを話す


紀・雪名
美味しいものも食べれると聞いて、いえ…村を守りながら羽虫の様な者を倒すんだったかな?魚料理とはまた通な。どれぐらい迄なら良いだろうか?

敵が来るまで、食事でもしてそのお礼に撃退する。
ひょろ長な見た目から予想もつかない量を堪能しよう。
それは停止をかけられるまで手に、口にできる料理はどれも美味しそうに食べ尽くし遠慮もないのできっと仲間に止められるまでは堪能できるだろう。

そして食べた分、会話した時間の分だけ後に力を持ってして村を守ろうと「甘和尚」と「懸命三郎」を手に、村の出入り口侵入経路に【結界術】で目星をつけておこう。

「嗚呼、久しぶりににごり酒をいただいた。この味この旨み…おかわりはまだあるかい?」


十六夜・ブルーノ
不味い料理を食べたことがないとは幸せなことだ
確かに腹が減ってはなんとやら、というものね
お言葉に甘えて料理をいただくとしよう
村人たちとの交流も楽しみだね、ドゥー

花鱗虎に暗地忽律
両方いただくよ
どちらも塩がいいかな
翻江蛤のスープも美味しいね
デザート代わりに甘和尚も
素朴な甘さが嬉しい
どれもドゥーとわけっこして食べるよ

ご主人は中々の料理人だね
感動したよ

冠文くんや他の村人から
この地域の歌を教えてもらって
一緒に謳おう
ブズーキの伴奏付だ
酔ってないけど陽気にいこう

ささやかな宴
笑いと笑顔と楽し気な喧噪
うんこれを守るのが俺達復讐者だ
村人皆の心に希望が満ちますように
それはきっと未来へ進む何よりの力だ


●幕間
 いつの間か、露天食堂『一許亭』の店先には人だかりができていた。
 久しぶりに旅人が来た(しかも、団体で)と知って、何十人もの村人たちが集まってきたのだ。
 彼らや彼女らの興味を惹いたのは団体の旅人だけではない。旅人たちの不可思議な力によって三百人前にまで増加した料理もまた吸引力となっていた。戦乱の煽りを受けた他の村々よりも恵まれているとはいえ、この村の食糧事情も平時のそれより著しく悪化しているから……という理由もあるが、平時だったとしても集まってきただろう。『一許亭』のメニューにない料理(麗孝と羽犬が作った料理だ)が味わえるとなれば。
「村をあげての大宴会……といった様相を呈しているね」
 飲み食いしている村人たちを見回して、白髪の青年が呟いた。
 鬼人の紀・雪名(鬼をも狩り尽くす鬼・g04376)だ。
「にぎやかでいいじゃないか」
 アイリッシュブズーキ型の魔楽器を携えた少年が笑った。サウンドソルジャーの十六夜・ブルーノ(人間のサウンドソルジャー・g03956)。傍らには黒いメーラーデーモンのドゥーが立ち、雪名と同じように周囲を見回している。
「うんうん。にぎやかなほうがいいよねー」
 緑の髪を左右で束ねた少女――一ノ瀬・綾音(綺羅星の如く・g00868)が村人たちの間をかき分けるようにして進み、縁台の一つに腰を下ろした。
「綾音ちゃん、一人で食べるよりも皆で食べるほうが大好きだし!」
「これだけ大盛況なら、店主もウハウハだろうな。羨ましい限り……」
 別の縁台に座ったのは、灰色の髪の中年の男。
 緋塚・ヤスオ(探偵という名のなんでも屋・g01581)だ。両眉の外端が下がって八の字になっているが、この状況に困惑しているわけでも悲観しているわけでもない。これが謂わばデフォルトの表情なのである。
 厨房小屋の壁に張られたメニュー表にヤスオは目を向けた。
「それじゃあまあ、戦いの前の景気づけといきますか」
「腹が減っては……ってヤツだね」
 ブルーノも縁台に座り、その膝にドゥーが乗った。
「でも――」
 雪名が再び視線を巡らせた。村人たちを見るためではない。彼らや彼女らが食している料理を見たのだ。
「――これだけの量でお腹が満たせるかな?」
 三百人前でもまだ足りないらしい。

●緋塚・ヤスオ(探偵という名のなんでも屋・g01581)
「綾音ちゃん、普段はおにぎり二つくらいしか食べないけど、たまにはこういう場所でガッツリ外食するのもいいかもねー」
 綾音さんは『ガッツリ』と食べる気満々の模様。
 そんな彼女のことを雪名くんが見つめてる。なぜか唖然とした顔で。
「……お、おにぎり二つ?」
 そんなに驚くことかい?
「その程度では間食にもならないよ。小食にもほどがある」
 ああ、そう来たか。枯れ木のようにひょろ長い体つきをした雪名くんではあるけども、実は『ガッツリ』いける大食い系のようで……。
「花鱗虎と暗地忽律をもらおうかな」
「めぇー」
 店主の冠文さんにブルーノくんが注文を告げた。その後に鳴いたのはメーラーデーモンのドゥーくん。『草はないの?』とでも訊いたのかね。
 ヤギ用の草があるかどうかは知らないが、野草を使った料理はあるようだ。それを頼もうかな。ついでに酒も。
「菜園神と懸命三郎を頼む」
「綾音ちゃんも菜園神! あと、暗地忽律もね!」
 私に続いて、綾音さんが注文した。
 そして、雪名くんも注文。
「あるだけ持ってきて」
 やっぱり、大食い系でしたー。
「『腹が減っては云々』とは言ったけどさ。お腹の中に詰め込みすぎると、本番の時に動けなくなっちゃうかもしれないよ」
「大丈夫だよ。詰め込んだ先から消化していくから」
 ブルーノくんが苦笑混じりにたしなめたけども、雪名くんはけろりとしてる。
「食べ物を消化する勢いで蟲将どもも倒してほしいところだな」
 私がニヤリと笑いかけると、雪名くんは澄まし顔のままで頷いた。
「任せてよ。この食事はお礼の先払いだと思ってるから。そう、羽虫のような連中を倒したことのお礼……」
 そんなやりとりとしていると――
「はい! お待ち!」
 ――冠文さんが料理を運んできた。最初に注文したブルーノくんや私を差し置いて、綾音さんの前に。
 レディーファーストってことですかねえ?

●十六夜・ブルーノ(人間のサウンドソルジャー・g03956)
 俺のところにも料理が運ばれてきた。
 素揚げした白身魚を唐辛子とかで味付けした花鱗虎。
 ウナギを捌いて焼いた暗地忽律。
 名前は物々しいけれど(こういうネーミングセンスのことを新宿島では『中二病』と呼ぶんだってさ)、見た目は美味しそうだ。
 さて、実際の味のほうはどうかな。塩をぱらぱらと振りかけて、と……うん! 美味しい!
「うん! 美味しいー!」
 綾音が喜びの叫びを響かせた。俺の心の声にシンクロしたわけじゃなくて、自分が食べてる料理の感想だよ。
「これがご当地グルメってやつなんだね」
「ああ。新鮮なシーフードならぬリバーフード……今の新宿島ではなかなか味わう機会のない料理だわな」
 しみじみと語るヤスオさん。野草を巻いた薫製肉を肴にして、どぶろくを飲んでる。
「この村に来たばかりのあんたらにとっちゃあ、珍しい料理だろうけど――」
 ヤスオさんが手にしている杯が空っぽにならないうちに太ったおじさん(村人の一人だ)が横からどぶろくを注ぎ足した。
「――俺たちは食い飽きちまったよ。こっちのほうが美味いわー」
『こっちのほう』というのは、麗孝と羽犬が作った料理のこと。このおじさんだけじゃなくて、他の村人たちにも大好評。
「こんなに美味しい料理を食べ飽きるとは贅沢な話だね」
 雪名が言った。本気とも冗談ともつかない口振りだけど、食事を堪能していることは間違いない。ものすごいペースで次から次へと食べてるから。あの細い体のどこにあんなに沢山の料理が入るのやら……実は『詰め込んだ先から消化していく』っていうのは大袈裟な表現じゃなかったのかも?
「ねえねえ」
 綾音が俺に話しかけ、暗地忽律の皿を箸で指し示した。
「これって、もう少し焼いたら、もっと美味しくなるんじゃないかな」
「冠文さんに二度焼きでも頼む?」
「ううん。自分でやるからいい」
「自分で?」
 と、聞き返す俺を無視して、綾音は箸を動かし――
「出力を控えめにして……えい!」
 ――宙に魔法陣を描いた。

●一ノ瀬・綾音(綺羅星の如く・g00868)
 魔法陣の中から飛び出してきたのはドラゴン型のちっちゃな炎。
 それはウナギの切り身を軽く炙り、焼き色をいい感じに濃くしてくれた後、空気に溶けるように消え去った。
 さあ、追い焼きの成果を舌で確かめようかな。一口、ぱくっと……うわっ!? びっくりするほどに美味しくなってる!
「すごい! すごいよ! これ、めっちゃくっちゃ美味しい!」
 興奮を抑えきれず、私は皆に報告した。
「まさか、炙るだけでここまで美味しくなるとは! 炎ってのは万能なんだね!」
「いやいやいやいや」
 ブルーノが苦笑いして、かぶりを振った。膝の上のドゥーくんも真似して、首をぷるぷるさせてる。ぷるぷるー。
「美味しくなったのはパラドクスの影響だろ」
 あー、そういえば、私が使ったパラドクス『嫉妬なる炎(ドラグフレア・エンヴィー)』には『おいしくなあれ』の効果もあったっけ。
「まあ、パラドクス効果だろうがなんだろうが、構いやしねえよ。美味い食い物が更に美味しくなっても困ることはないわな」
 そう言いながら、ヤスオが私のお皿をちらりと見た。
 そして、店主の冠文に追加注文。
「おーい。この暗地忽律ってのをこっちにもくれ」
「はいよ!」
 冠文の返事を聞くと、ヤスオは私に笑顔を見せた。
「綾音さんが美味そうに食べてるのを見てたら、私も食べたくなってきたんだ」
「うんうん。判る」
 と、雪名が頷いた。
「人が食べてる料理って、殊更に美味しそうに思えるよね」
 確かにそうだね。雪名の凄まじい食べっぷりを見てたら、綾音ちゃんももっといっぱい食べたくなってきたし。
 でも、食べたい気持ちがあるとはいえ、胃袋のほうがそろそろキャパオーバー。ここはスイーツで妥協しておこうかな。甘いものは別腹だしー。
 というわけで、名前からして甘そうなのを追加注文。
「おじさーん、綾音ちゃんに甘和尚ってのをちょうだい」
「俺にも頼むよ」
 ブルーノがそう言うと、ドゥーくんが鳴いた。
「めぇー!」
 私の脳内では『やったー!』という歓声にアフレコされたけどね。

●紀・雪名(鬼をも狩り尽くす鬼・g04376)
「あー、美味しかった」
 蜂蜜がけの団子――甘和尚なる菓子を食べ終えて、ブルーノが満足げに笑った。ちなみにドゥーも同じものを味わっているのだけれど、まだ食べ終えてはいない。団子にかぶりつくことよりも蜂蜜を舐めることに夢中になっているため、時間がかかっているようだ。
「ここのご主人はなかなかの料理人だね。感動したよ」
「はっはっはっはっはっ! 今日はやたらと褒められちゃったりなんかして!」
 ブルーノの賛辞を聞くと、店主の冠文は風を受けた帆のように胸を張った。なんとも単純なヒトだ。美味しさが上昇しているのは綾音のパラドクス効果のおかげなんだけど……まあ、黙っておいたほうがよさそうだね。
 わいわいとはしゃぐ村人たちを眺めつつ、僕は杯をぐいと呷り、懸命三郎という名の濁り酒を飲み干した。
「嗚呼、久しぶりに濁り酒をいただいた。この味、この旨み……おかわりはまだあるかい?」
「あるともよ!」
 村人の一人が僕の杯に酒を注ごうとしたけれど――
「ストップ、ストォーップ!」
 ――綾音が止めた。
「いくらなんでも飲み過ぎ&食べ過ぎだよ、雪名。お仕事が控えてるんだから、このへんでやめときなさいって」
「うーん。そんなに飲んだり食べたりしったっけ?」
 どうも、自分では加減がよく判らない。お腹いっぱいにはなってないし、酔っぱらってもいないような気がするんだけどなあ。まあ、ここは忠告に従っておこう。
 僕と違って、村人たちの大半は酔っぱらっているらしく、何人かが陽気な声で歌い始めた。

「山向こうの都に住んでる奴ら

 みんな揃ってお大尽

 絹の衣に紫檀の柱

 三度の飯は山海の珍味

 西子より別嬪の女房とよろしくやって

 昭君より色っぽい妾のうちに通ってる」

 歌っているのが『何人か』だったのは最初のうちだけ。一人増え、二人増え、十人を超えて、ついにはここにいるすべての村人たちが歌い出した。

「漢水のほとりで生きる俺たち

 一人残らず貧乏人

 服も襤褸なら、小屋も襤褸

 日に二度食うのはドブくさい雑魚

 熊よりおっかない嬶にケツを蹴られて

 猿よりやかましい餓鬼の頭を叩いてる」

 お世辞に上品とは言えない歌だし、村人たちの歌い方もひどいもんだ。
 でも、不思議と耳障りじゃない。

「だけど、俺たちのほうが果報者

 お大尽どもも本当は羨ましがってる

 俺たちと人生をとっかえられるなら

 奴らは銀十万だって積むだろうが

 どっこい、それでも安すぎる

 金百万を持ってこい」

 もはや、それは歌声じゃなかった。喚き声とも笑い声ともつかない騒音だ。
 でも、やっぱり、耳障りじゃない。それどころか、先程よりも耳に心地よく聞こえる。
 なぜなら、ブルーノが伴奏を始めたから。
 愛用の弦楽器を使って。
「金百万を持ってこい~♪」
 弦楽器の美しい調べに合わせて口ずさみながら、ヤスオが次々と料理を手に取っては懐に納めていく。物理的にありえない光景だけども、これもパラドクス効果。アイテムポケットを使っているんだ。
「それって、おみやげ?」
「ああ。同じ家に住んでる奴らに食わせてやろうかと思ってな」
 綾音とヤスオがやりとりをしている横で僕は杯に濁り酒を注いだ。やっぱり、あと一杯くらいならいいよね。
 杯を手にしたまま腰を上げ、歌い続けている村人たちに会釈しつつ、店先から離れる。
 向かうは村の外。
 やることは一つ。
 金百万に値するものを守ること。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【おいしくなあれ】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【リザレクション】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV5になった!

●幕間
 荒れた街道を兵士の一団が行く。
 その大半は四本腕の蟻型の硬殻兵だったが――
「まぁーだ、例のクソ村には着かんのか?」
 ――蝶か蛾を思わせる者が一体だけいた。
 最後尾で輿に揺られ、妖艶な空気を鱗粉のように撒き散らしている女。
 アヴァタール級の蟲将『貂蝉』である。
「クソ日が暮れてしまうではないか。もっとキビキビ歩け、クソ兵士ども」
「申し訳ありません!」
 硬殻兵たちは足を早めようとした……が、逆に立ち止まることになった。
 街道の先にいくつかの人影が現れたからだ。
 名もない雑兵に過ぎぬ硬殻兵たちにも感じ取ることができた。
 それらの人影が発している激情を。
 怒りを。
「どうしたのじゃ?」
「はっ!」
 輿の上から飛んできた苛立たしげな声に対して、硬殻兵の一人が答えた。
「なにやら胡乱な連中が行く手を塞いでおりまして……」
「胡乱な連中ぅ? どこの馬のクソ骨か知らぬが、かたづければ済む話であろうが」
「はっ!」
 慌てて得物を構える甲殻兵たち。人影から感じ取った激情のことを貂蝉に伝えることはできなかった。彼女の反応が恐ろしかったからだ。
「なにをしておる? 貴様らもワシにクソ働きを見せぬか!」
 貂蝉が叱り飛ばしたのは、輿の担ぎ手を務めていた硬殻兵たち。
「はっ!」
 担ぎ手たちは輿を恭しく降ろすと(緊急時でも乱雑に扱うことは許されないのだろう)、他の仲間に倣って武器を構えた。
 視点が下がったことによって、貂蝉に見えるのは硬殻兵たちの背中だけとなった。だからといって、なにかが変わったわけではない、貂蝉は最初から『どこの馬のクソ骨か知らぬ』連中――ディアボロスたちに一瞥もくれていないのだから。
「五分以内に始末せい」
 輿に座ったまま、妖艶なる蟲将は硬殻兵に命じた。
 それが無理難題であることも知らずに。
 
モン・サンシン
うみゃ、今度はカマキリマッチョにムシオババがいるんだって?
(ウッシッシ、からかいがいありそう…)
そんなわけで勇者が来たからには悪い子はいつも通りお尻ぺんぺんっ!

カマキリマッチョさん、その剣10円で売ってたの見たことあるよー!
あと装備とかー。もしかして、クソゲー?
(でたらめなことを言っておちょくりつつ、今回はオバケさん達とパイ投げで攻撃。尻叩きは適当に。オバケさんの色はー、ムシオババに近づけてやろっと。うまくいくかなー…)
あわよくば自分もおばけの被り物かぶって知ってか知らずかカマキリクソマッチョとたまにおちょくってみる。
(ムシオババの色に近い被り物で心理作戦も試してみる)


緋塚・ヤスオ
「腹ごしらえも終わったし、お仕事といきますかね」

村の外で待ち構える
後ろに通さないように、立ちふさがるように動く
蜀軍剣蟻兵の攻撃に対しては、捌きながら近付いての接近戦を。

左手の短剣で相手の体勢を崩し、
右手の篭手に重量を乗せた強打を打ち込んで
1体ずつ確実に倒していくぜ

「5分以内とは…そちらさんは中々に辛い職場のようだ」
時間制限かけられたってことは、最初から全力で向かってくるだろうな
攻撃を誘い、捌き、焦れてきた所を狙い撃つぜ

他のディアボロスと連携が可能ならば援護も行う。
村の中に抜けていかないよう、注意をはらっておく。
異常があれば周囲の味方に声掛けを。


紀・雪名
お腹も腹八分目、いい具合に満たされました。
もとより武装など僕には不要ですので、向かってくる姿が見えれば身軽に敵の前に躍り出ましょうか?仲間もやる気まんまんですので手助けも忘れずに行きましょう。

『”狂気”によって全てを消してしまおうかい?』

・パラドクス【阿修羅不動】発動、形代【土符】により地面へと敵の足を取らせ歩みを制限
・弱った敵から【砂使い】で地面へと飲み込んで捕殺

中には抜け出てくるものもいるでしょうし、気は抜きませんよ。程良く気楽に…敵から岩が降ってくれば構わず【破壊】ぶち壊し、真っ向から向かってきたものにはつかみ合いでも構いませんよ。お酒の余韻もありますし…余興として楽しみましょうか。


袁・雀蜂
※アドリブ歓迎

・行動
まずは敵陣を崩すため、突撃するふりをしながら近付いて
その勢いのまま突撃槍を投擲する。
敵がたじろいだら胸元から暗器を取り出してパラドクスで攻撃
(投げた武器は柄に付いた鋼線で回収)
その後は敵陣の崩れた弱い所や側面、裏側などを狙って
一撃離脱の突撃を繰り返していく

・セリフ
蜀の弱兵など正面から一撃で打ち砕いてくれる!はぁーっ!(突撃のふり)

なんて、ねっ!っと(武器を投げつけ暗器で攻撃)

突撃兵は敵の弱い所を一撃で食い破るのがお仕事、
正面から突っ込んでいくなんてするわけないじゃない
さあ、ここからが本領発揮だ、いっくよーっ!(突撃を繰り返す)


ノナメ・クロス
(美味しかったな。いっぱい食べた分、えい・えい・おー、だ)

あれが悪い奴、だね
5分以内って、言ってた?私知ってるよ。ああいうの、ブラックって言うんだよ
それとも、早くしないと困る事でも、あるのかな?うーん、まいっか

お空を飛びながら、戦うよ
近付かなければ、攻撃も届きにくいはずだもんね
お空から隙を狙って、影絶月蝕刀で背中から斬りかかるよ
攻撃されそうになったら、鞘や天の川でなるべく受け流して、【神蝕呪刃】で反撃するよ
呪詛で鎧や武器が、ボロボロになっちゃうんだから


一ノ瀬・綾音
ごはんおいしかったー♪その恩を返すためにもこの場は死守するよ!
さぁ、ここからは綾音ちゃん達のステージだ!

拠点を築く奴や岩を投げる奴に狙いを定め、羽ペンを構えて『高速詠唱』からの【土魔法】!
どれだけ拠点を築こうと流砂にやられたらおしまいだよ!みんなも早いだろうけど、綾音ちゃんの呪文を描く速度も負けてないっ!一度描きおわりさえすれば、ほら!大地にのまれてさよならだ!

相手の岩投げは【飛翔】で空中アドを取って回避!
ほらほら、綾音ちゃん5分耐えきっちゃうよ?いいのかなー?

しかし君達も苦労してるねー。綾音ちゃん達相手に5分で仕留めろとか……
無理難題は断るのも正しい選択、だったんだよー?


●袁・雀蜂(ホーネットガール・g01434)
「五分以内に始末せい」
 四本腕の兵士たちの後ろから貂蝉の声が聞こえてきた。
『五分以内にできなかったら、おまえたちのほうを始末するからな!』という横暴な圧力が感じられるのは気のせいかなー? ……いや、気のせいじゃさそうだねー。
 だって、兵士たちは明らかに怯えているから。虫の表情なんて読み取れないけど、立ち居振る舞いから怯えが伝わってくるよ。
「うっしっしっしっしっ」
 傲慢な上官からの重圧に潰されそうになってる兵士たちを見ながら、タコさんマークのバッジをつけたちっちゃな女の子――モンちゃんが肩を揺らして笑った。
「カマキリマッチョ軍団とムシオババか。どっちもからかいがいがありそう」
 カマキリじゃなくて蟻だと思うけどね。ま、いっか。
「五分以内とはな……あちらさん、なかなかに辛い職場のようだ」
 そう言って、ヤスオくんも笑った。モンちゃんのそれとは違う笑い方。哀れみが六割に嘲りが四割といった感じかな。
「私、知ってるよ」
 と、わざわざ挙手してから発言したのはノナメちゃん。
「ああいうの、ブラックって言うんだよね」
「そのブラックな労働環境を別の色に塗り替えてあげよっか」
 綾音ちゃんが武器らしき物を取り出した。『らしき』がつくのは、それが武器っぽくない代物――綺麗な羽根ペンだから。
「腹八分目といったところかな……」
 そう呟いて、雪名くんも武器らしき物を取り出した。こちらは『土』の字が記された人型の護符。
「羽虫を相手に運動するにはちょうどいい具合の腹加減だ」
「あんなに食べたのにまだ二分の余裕があるの?」
 目を丸くして雪名くんを見る綾音ちゃん。
 でも、すぐに気を取り直したのか、例の羽根ペンを突き出した。
「さあ! ここからは綾音ちゃんたちのステージだ!」
 ステージか……じゃあ、ウチも思い切り芝居がかった感じでやらせてもらおうかなー。

●一ノ瀬・綾音(綺羅星の如く・g00868)
「ふん! 蜀の弱兵など、正面から一撃で打ち砕いてくれるわ!」
 雀蜂が見得を切るかのようにカッコいいポーズを決めた。その手に構えているのは、黒と黄色の縞模様(鎧とお揃いだね)の大きな槍。
「はぁーっ!」
 気合いの叫びをあげて、雀蜂は兵士たちに突進した。
 と、思いきや――
「なんて、ねっ!」
 ――兵士たちめがけて槍を無造作に投げ、空いた手で胸元から針みたいな武器を何本も取り出し、それらもシュパパっと投げつけた。
 槍は誰にも命中しなかったけど(まあ、最初から命中させるつもりなんてなかったんだろうけど)、針のほうは何人かの兵士たちの顔面に突き刺さった。飛んできた槍のほうに気を取られていたというかビビッてたもんだから、避けることができなかったんだろうね。
「はっはっはっ!」
 高らかに笑いながら、腕を後ろに引く雀蜂。その動きに合わせて槍が跳ね上がり、彼女の手の中に戻った。糸かなにかで引っ張ったのかな?
「突撃兵は敵の弱い所を一撃で食い破るのがお仕事。なんにも考えずに正面から突っ込んでくわけないじゃなーい!」
「……ク、クソッ!」
 針を浴びた兵士の一人が(右の二つの手で針を顔面の抜きつつ)左手に持った剣で斬りかかろうとしたけど、雀蜂は真横に飛ぶようにして回避。
 兵士は彼女を追撃できなかった。
 なぜなら、腹八分目の雪名が突っ込んでいったから。それはとても素速い動きだった。八分どころか四分くらいしか詰まってないんじゃないかと思っちゃうほどに。
「狂気によって、すべてを消してしまおうかい」
 と、雪名はなんだかよく判らないことを言って、護符だかなんだかよく判らないものを投げ、なんだかよく判らない術を発動させた。
 判らないことずくめだけど、その術の作用で兵士たちの動きが鈍った(だけじゃなくて、ダメージも受けた)のは確かだね。

●ノナメ・クロス(星の子・g00031)
「すべてを消す? ダメだよ、雪名。消すのはもっと後にしてー!」
 モンが甲高い声を出した。
 いえ、出したのは声だけじゃない。
 青い布を被ったオバケっぽいものも出した。たぶん、パラドクスを使って。
「だって、遊びは始まったばっかりなんだからね。うっしっしっ!」
 モンはオバケを引き連れて、ブラックなアリさんたちに向かっていった。もちろん、手ぶらじゃないよ。モンもオバケも武器を持ってる。だけど、それを『武器』として認めない人もいるだろうね。
「カ~マカマカマ、カマキリマッチョさ~ん♪」
「カマキリじゃなーい!」
 雀蜂や雪名の攻撃に巻き込まれなかった何匹かのアリさんが怒鳴った。誰もが『武器』として認めるだろう剣をぶんぶん振り回しながら。
「あ? その剣、十円で売ってるのを見たことあるよー!」
 アリさんたちをからかいながら、モンはオバケと一緒に『武器』を……そう、クリームたっぷりって感じの大きなパイを投げつけた。
「ぶべっ!?」
 顔にパイを(文字通りに?)食らって、アリさんたちはのけぞった。
 そこへ雀蜂が二度目の突撃。さっきは真正面からだったけど、今度は真横から。
「さあ、ここからが本領発揮だ! いっくよーっ!」
 グサッ! グサッ! グサッ! ……と、パイのクリームまみれになったアリさんたちの顔に針が突き刺さった。雀蜂が目にも留まらぬ早技で投げたんだよ。
 針を受けたのは三人。そのうちの二人はダウンした。残りの一人はクリームを拭うと同時に針を抜きながら(手がいっぱいあるのは便利だね)、剣を振るおうとしたけれど――
「おっと! あぶねえなぁ、もう」
 ――ヤスオが素速く踏み込んで、それを止めた。
 みんな、すごいねー……と、感心してる場合じゃないか。私もがんばらないと。いっぱい食べた分、えいえいおー、だ。

●モン・サンシン(武器を忘れたドジ勇者・g00376)
 ヤスオはイカついガントレットを両手につけてるんだけど、左右で大きさが違うんだよ。右手につけてるやつのほうがデッカいの。
 で、小さいほうの手に持った櫛みたいなダガーでカマキリマッチョの剣(推定価格:十円)を受け止めて――
「おっと! あぶねえなぁ、もう」
 ――お腹めがけて、大きいほうでパンチ!
 体が吹き飛んでいきそうなほどキョーレツな一撃に見えたけど、なぜかカマキリマッチョは吹き飛ばなかった。まるで、足の甲に釘を刺されて地べたに縫いつけられちゃったみたい。
 だからといって、パンチが効かなかったわけじゃないけどね。吹き飛ぶ代わりにカマキリマッチョはその場で倒れ込んだ。体を『く』の字にまげて、へなへなと。
「ウォーッ!」
 別のカマキリマッチョが雄叫びをあげて、ヤスオに斬りかかった。
 でも――
「ウギャー!?」
 ――雄叫びを悲鳴に変えて、これまた倒れ込んだ。
 空から急降下してきた(言うまでもなく、パラドクスの効果で飛んでたんだよ)ディアボロスに背中をバッサリ切られちゃったから。
 そのディアボロスはノナメ。青い刃の長ぁーい刀を右手に持って、その刀の鞘を左手に持ってる。
「ウォーッ!」
 また別のカマキリマッチョがさっきの奴と同じ雄叫びをあげて(ワンパターンだねー)ノナメにおそいかかった。
 でも、そいつの剣はノナメには届かなかった。
 ヤスオが二人の間に割り込んで、あの櫛ダガーでからめ取っちゃったから。
「ありがと」
「こちらこそ、さっきはありがとさん」
 ノナメとお礼を言い合いながら、ヤスオは櫛ダガーをグイッとひねり、剣をペキッとへし折った。そして、またもやイカつい右手でパンチ! カマキリマッチョはそれを避けられなかった。剣を折られた拍子に体勢が崩れてたからね。
 そうこうしている間に、最初にノナメに斬られたカマキリマッチョがよろよろと立ち上がった。攻撃を受けたのは背中だけのはずなのに、体中がなんかボロボロになってるよ。パラドクスの効果かな?

●緋塚・ヤスオ(探偵という名のなんでも屋・g01581)
「私が使ったパラドクスは神触呪刃」
 満身創痍の兵士を見据えて、ノナメさんはわりかしポピュラーな(?)パラドクスの名前を口にした。
「この影絶月蝕刀の呪いを解放して斬ったから――」
 右手に持ってる青い太刀の名前も口にした。こっちはポピュラーじゃない。間違いなくオンリーワンの逸品だろうねえ。
「――あなた、呪詛に浸食されて、ボロボロになってるよ」
「それがどうした!? どんなに傷つこうとも我らは退かん! 退くわけにはいかんのだ!」
 健気なこってすな。社畜ならぬ軍畜ってやつだ。
「五分以内に始末するように厳命されたのだからな!」
 叫びながら、アリは再びノナメさんに斬りかかった。
 だが、ノナメさんは左手の鞘(太刀が長いから、鞘もまた長いんだ)で剣を受け流し、右手の太刀を一閃。哀れな軍畜アリを斬り伏せた。
「うーん? 五分以内に終わらせないと困ることでもあるのかな?」
 ノナメさんが不思議そうに呟くと、アリたちが次々と反論した。
「いや、貂蝉様の『五分以内』という命令には深い意味はなにもないぞ」
「単にせっかちであらせられるだけだ」
「それでも五分ならマシなほうだよな」
「うん。機嫌の悪い時は『きっちり一分』とか無茶振りするし……」
 いや、反論したのは最初の一人だけで、あとはただの愚痴だな(後ろに控えてる貂蝉に聞こえないように小声になってるし)。なんか本気で同情してしまいそうだ。
 口ばかりでなく、手も動かしていた。パラドクスで岩石をどこからともなく出現させて、高速再生された映像を思わせるハイスピードな動きで防壁を築いているんだ。
 ついでにその岩石をこっちに投げつけたりもしてきたが――
「はいっと!」
 ――雪名くんが重い拳の一撃を軽い調子で繰り出した。
 盛大に砕ける岩石。破片が周辺に撒き散らされ、バラバラと雨垂れみたいな音を立てた。
 その音に混じって聞こえてきたのは綾音さんの楽しそうな声。
「いやー、立派な拠点だねー。とっても頑丈そう」
 手の中で羽根ペンをくるくると回しながら、綾音さんはアリたちが築いた防壁に向かっていく。
 スキップするような足取りで。

●紀・雪名(鬼をも狩り尽くす鬼・g04376)
「だけど、どんなに頑丈だろうと――」
 綾音がペンの回転を止めた。
「――流砂にやられたら、おしまいだよ!」
 ペンの先端にインクの類はついてない。
 だけど、光が灯っている。
 魔力が生み出したであろう光。
「バカかよ! こんな固い足場で流砂が起きるわけないだろうが!」
 防壁の向こうから兵士の一人が上半身を覗かせた。大きな岩石を掲げてる。
 でも、その岩石が手から離れる前に綾音が呪文を唱えた。
「――」
 高速詠唱だから、まともに聞き取ることはできなかったけどね。
 速いのは詠唱だけじゃない。風を切る音を立ててペンを操り、あっという間になにかを宙に描いた。
 すると――
「なんじゃ、こりゃーっ!?」
 ――素っ頓狂な声をあげて、兵士は地面に沈んでいった。掲げていた岩石ごと。それに防壁の一部も。まさに蟻地獄だね。
 沈んでいく(というか、吸い込まれているようにも見える)その兵士の後ろで別の兵士たちが岩石を投げようとした。
 それを察したのか、綾音はパラドックスの効果で飛翔。
「任せるね」
「任された」
 地上に残った僕は『土』の字が記された形代を手にして、『阿修羅不動』を発動させた。そう、さっきも使ったパラドクスだ。
 たちまちのうちに土へと飲み込まれていく兵士たち。
 その範囲の外にいる兵士たちは――
「悪い子はお尻ぺんぺん! ……と、いきたいところだけど、今回は顔面べったんべったん!」
 ――モンとオバケにパイをぶつけられ、顔面がクリームまみれになっている。パイなんかでダメージを与えることができるのもパラドクスなればこそ。
「ちょっと、モンちゃん! そのパイ、少しは残しておいてよね!」
 甘いものに目がなさそうな雀蜂が兵士たちに何度めかの突撃。槍についてる部品の中からおなじみの針を取り出して投擲した。
「ウチも食べてみたいからー!」
 その攻撃を受けて顔を針山のようにされた兵士は四人。そのうちの三人は倒れ伏したものの、最後の一人はなんとか持ち堪えた。
 もっとも、すぐに消えてしまったけどね。
「ほーらほら。綾音ちゃんたち、五分耐えきっちゃうよ? いいのかなー?」
 飛行中の綾音がペンを操り、流砂をまた生み出したから。

●幕間
「しっかし、君たちも苦労してるねー。綾音ちゃんたちを五分で仕留めろとか……無理難題もいいところ」
 綾音の声の調子が挑発から同情へと変わった。
「そういうのを断るのも正しい選択だと思うよー?」
「いやいや。それこそ、無理難題じゃないかな」
 と、雪名がやんわりと意を唱えた。
「うんうんうんうん」
 お化けとともにパイを投げ続けながら、モンが雪名の言葉に何度も頷いた。
「断ったりしたら、あの怖ぁーいムシオババに怒られちゃうもんね」
「貂蝉様を『ムシオババ』などと呼ぶな!」
 兵士の一人が吠えた。貂蝉への厚き忠誠心が込められた怒声。
「後で俺たちが八つ当たりされちゃうだろうがぁ!」
 いや、忠誠心ではなく、恐怖心だったらしい。
「なぁーに言ってんだか」
 ヤスオが右手のガントレットをその兵士に叩き込んだ。今までと同様、兵士は吹き飛ばなかった。ヤスオのパラドクスは『トドメの拳』。名前が示す通り、標的をその場に留める技なのだ。
「おまえさんたちに『後』なんてあるわけないだろう。今日、ここで――」
「――ブラックにこきつかわれた生涯は終わるんだから」
 ノナメが後を引き取り、大太刀を振るった。
 その青い刀身が描いた弧線の内側を鈍色の直線がくぐり抜ける。
 雀蜂の投げた針型の暗器だ。
 大太刀で両断され、あるいは針を突き立てられ、また何人かの兵士が倒れた。
「来世ではホワイトな白蟻さんになれるといいねー」
 新たな針を胸元から取り出しながら、雀蜂が笑った。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【プラチナチケット】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【使い魔使役】LV1が発生!
【アイテムポケット】がLV2になった!
【腐食】LV1が発生!
【土壌改良】がLV3になった!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
【能力値アップ】がLV2になった!
【先行率アップ】がLV2になった!
【ロストエナジー】がLV3になった!

尹・麗孝
さて、楽しい時間と美味しい料理を堪能させて貰ったのだから
この村の笑顔を護らねばな…
村には入らせはしない
それに、厨房に害蟲は厳禁だ!


正直戦う事には慣れてはいないので、仲間の支援を積極的にさせて貰おうと思う

【管狐影縛法】を使い【不意打ち】で敵の体の自由を奪い、仲間が攻撃しやすいように連携する
可能なら攻撃をする

村に行かないよう敵を誘惑しつつ、連携して一体一体確実に仕留めよう
攻撃を受けそうになったら【傀儡】で近くの敵を操り代わりに相手をして貰おうか
仲間の動きを邪魔しないよう注意を払いながら動く


※アドリブ、連携歓迎


十六夜・ブルーノ
村人たちへ軽く声をかけて外へ
ちょっと出て来るけど
まだ食べ物も沢山あるし楽しんでて

行くよ、ドゥー
料理と幸せな時間のお礼をしなきゃ

兵隊蟻くんか
宮仕えは辛そうだけど手加減はなしだ

先程、村人たちが歌っていた歌を歌い
ブズーキを奏でる

出現する岩もなんのその
音の反射で何処に隠れているか丸わかりだし(俺は耳がいいんだ
岩塊の投げつけだって
落ち着いて注意していれば
演奏しながらでも躱すのは難しくない

演奏と共に具現化する村人や嬶や子供たちが
蟻くんたちをぼこぼこにする
例えば酔拳とかで

一人ひとりが国を支える礎であり
命が継がれるからこそ歴史が紡がれていく
彼らは「英雄」だ

事後もそのまま演奏を続けて
死出の旅路への餞とする


エリル・ウィスタリア
沢山食べてお腹もいっぱい。気力もばっちり。覚えた料理を披露するためにもちゃんとお仕事はしていくんだから。

さてさて、綺麗な首領が前に来てくれれば話は早かったのだけど、やっぱり手下からよね。
分かってる。
だから、5分で片付けましょう?
あちらもそれをご所望のようですもの。

地形を利用して良い感じの場所に誘導しつつ戦うわ。
そうね、出来るだけ数を集めてまとめるの。
皆が戦いやすいように。
相手の攻撃は【飛翔】を利用して上に逃げる。
弟人形に抱きかかえて貰えば避けやすいかしら?。最悪庇って貰うわ。
そして上空からバレットレイン。刀から氷の弾丸を出して一斉射撃よ。

あら、とっくに5分経っちゃったんじゃないかしら。ねえ?


三苫・麻緒
美味しかったし、あのおじさんもなかなか面白かったなぁ
また食べたくなっちゃった
…よし、二度目のご飯の機会を邪魔しそうな虫には食べ物の恨みを前払いでぶつけておこうっと

【飛翔】しておいて、得意な≪空中戦≫で仕掛けるよ
掻き乱す動きは十分そうだし、素直にざくざくと串刺しにしちゃおっか
変に抜け出すやつがいても困るし、集団から離れそうな個体は優先的に狙い撃つね
重力の加速も乗った氷柱の一撃、しっかり味わっていってよね!

≪高速詠唱≫≪連続魔法≫で冷却魔法だけ広域展開
虫の得物か腕の関節部分を氷漬けにしたいね
刃物がただのなまくらになって威力が落ちても良し
自由に振り抜けない状態にできれば回避もしやすくなるはず


月見山・伊吹
【月日夫妻】
※アドリブ、連携歓迎だよ

お腹いっぱい食べて元気いっぱい!
ご飯美味しかったしその恩返しはちゃんとしなきゃだね!
さてと、村を守る為に害虫駆除するよ!
豊かな畑にも厨房にも害虫はいてはいけないからね!
それよりも…5分以内に始末しろとかブラック過ぎないかい?
どう見ても無理ゲーでしょ?

味方と連携しながらも【粉砕】【破壊】パラドクスの『烈日』を使い
多機能シャベルで敵を粉砕するように一体一体確実に潰すように害虫駆除していくね。

おやおや、5分以内に片付けるって言ってたのに
5分どころが思いっきり時間オーバーしてるよ?
私らを舐めちゃ駄目さ。まだまだ耐久は出来るよ。
あんたらはどこまで耐えられるんだい?


月見里・千隼
【月日夫妻】
※連携、アドリブ歓迎


妻の伊吹を笑顔にした美味しい料理のお礼としてこの村を、
そこに住む人々を害虫達から守るぞ。

味方と連携し後援に立ち回り【早業】【連射】【制圧射撃】
【貫通撃】で援護射撃しつつも、
チャンディラムに【騎乗】し
攻撃を回避しながらも敵を一箇所にまとめるように誘い込みし
集まったところでパラドクス『乱月弾』で敵を纏めて仕留めてく。

何気に挑発するかのように
時間をきっちり数えてて5分経過の合図をする。

どうした、害虫ども。
相当な大口叩いて5分以内に倒すと言ってたが…俺達はまだ誰も倒されてないぞ。
それよりも…そこの蛾か羽虫か分からん女はクソ連呼で罵倒の語彙がクソ少ないな。


●月見里・千隼(清風明月・g03438)
 鼻息を荒くしているチャンディラムの背に俺は飛び乗った。
 馬上は視点が高い。乱戦が繰り広げられている様を一望……とまではいかないが、かなりの範囲を見渡せる。
 とはいえ、この視点の高さも麻緒さんのそれに比べれば、文字通り足下にも及ばない。
「料理は美味しかったし、あのおじさんもなかなか面白かったなぁ」
 楽しい一時を思い出しているであろう彼女の述懐は頭上から聞こえてくる。パラドクスの効果で飛んでいるんだ。
「また食べたくなっちゃったけど……二度目のご飯を楽しむためには、この虫たちをやっつけないといけないんだよね」
「ああ」
 と、地上で頷いたのは麗孝さんだ。
「こいつらを村に入らせはしない」
「そうね」
 エリルさんも頷き、鍵盤を叩くような仕草をした。両手の五指から煌めきが走り、ほんの一瞬だけ、銀色の破線が空間に浮かび上がった。目に見えないほど細い糸――人形を操るための鋼糸が光を反射したんだろう。
 そして、彼女の傍らに立つ等身大の人形が身構えた。人形らしからぬスムーズな動き。いや、スムーズすぎる故に人間らしくないとも言えるか?
「手っ取り早くかたづけましょう。あちらもそれをご所望のようですもの」
「ああ、ご所望だとも!」
 エリルの挑発に乗って、アリの兵士がこちらに向かってきた。凄い剣幕だ。激情がオーラとなって、体を覆っている……ように見えたが、そのオーラの正体はロストエナジーの瘴気だった。パラドクスの残留効果の産物。村の食糧事情を改善するために用いたパラドクスがこんな形で役立つとはな。
「五分以内とかなんとか時間制限をつけられてるようだけど……それって、いくらなんでもブラック過ぎないかい?」
 剣を振り下ろさんとする兵士の前に伊吹が立ちはだかった。
 デーモンらしからぬ武器(だが、彼女にはピッタリの武器)である多機能シャベルを手にして。
「どう考えたって、無理ゲーでしょ!」
 剣を躱しながら、腰を大きく捻り、多機能シャベルをスイング。
 固い土を掘るために鍛えられた幅広の刃が敵の側頭部に叩き込こまれた。

●エリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)
 伊吹さんの一撃は豪快かつ痛快だった。
 瘴気で蝕まれた体がそれに耐えられるはずもない。蟻型兵士の頭は粉微塵になって吹き飛んだ。
「宮仕えは辛そうだけど――」
 頭を失って崩折れる『宮仕え』の蟻を哀れみの目で見やり、ブルーノくんがリュートみたいな楽器を軽く鳴らした。演奏前のチューニングってところかしら。
「――手加減はなしだ」
 そして、本格的な演奏が始まった。歌唱付きでね。冠文の店で村人たちががなり散らしてた(とても『歌ってた』とは言えない)あの歌よ。

「山向こうの都に住んでる奴ら

 みんな揃ってお大尽

 絹の衣に紫檀の柱

 三度の飯は山海の珍味

 西子より別嬪の女房とよろしくやって

 昭君より色っぽい妾のうちに通ってる」

 下世話な歌詞(どうでもいいけど、西子だの昭君だのというのは何者なの?)が綺麗な歌声で紡がれてゆく中、ミントカラーの翼を展開して滞空していた麻緒が小さな魔法陣をいくつも宙に描いた。
「はい、対地戦の始まり始まりぃー」
 魔法陣が周りの空間ごと白く発光して……いえ、凍りついて? まあ、とにかく、何本もの氷柱が出現した。氷柱といっても、寒い日に軒先から垂れ下がってるような可愛いやつじゃなくて、氷製の破城槌だかミサイルだかって代物よ。
「二度目のご飯の機会を邪魔しそうな虫には――」
 麻緒が腕を振り下ろした。
「――食べ物の恨みを前払いでぶつけてやるんだから!」
 氷柱群が急降下し、三体のアリを串刺しにした。うち一体は即死したらしく、ピクリとも動かない。他の二体はかろうじて生きているようだけども、氷柱が刺さった箇所の周りに白い霜が生じて、全身に広がっている。ただ刺し貫くだけでは終わらないとは、なかなかに凶悪なパラドクスね。
「恨みの前払いって……さすがに酷くない?」
「なに言ってんの、エリル。ちっとも酷くないよ。敵は歴史を改竄しちゃうような奴らなんだから、恨む出来事が起きる前に恨みをぶつけても問題なし!」
 きっぱりと断言する麻緒。いろんな意味で強いわね。
「うーむ」
 と、麗孝さんが眉根を寄せて首をかしげた。
「前払いというよりも押し売りのような気がしないでもないが……」
 彼が腰に下げてる竹筒からクダギツネの小黒くんが顔を出し、主人を真似るように首をかしげた。

●月見山・伊吹(小春日和・g04125)
「じゃあ、私も押し売りさせてもらおうかしら。この子と一緒にね」
 エリルさんがパラドクス効果で空に舞い上がった。『この子』であろう等身大の人形にお姫様抱っこされてね。もちろん、人形が自発的にお姫様抱っこしたわけじゃなくて、エリルさんがそういう風に操ったんだろうけど。
「私は押し売りの経験なんてないので――」
 麗孝さんが腰に手をやり、竹筒から顔だけ出してる小黒くんをちょんちょんとつついた。
「――小黒にやってもらおうか」
「こーん!」
『合点承知!』とばかりに飛び出す小黒くん。跳ねるように地を駆け、ちっちゃな牙を剥き、一体のアリモドキに襲いかかった。でも、アリモドキ本体を攻撃したわけじゃないよ。地面に映る影のほうに噛みついたんだ。
「うぎっ!?」
 アリモドキが呻いた。影の受けたダメージが伝わったみたい。
「『綺麗な花には棘がある』なんて言葉があるらしいけど――」
 お姫様抱っこ状態で飛んでるエリルさんがパラドクスを発動。銃弾の雨を降らして、影に噛みつかれたアリモドキにとどめを刺し、そいつの近くにいた別のアリモドキたちも穴だらけにした。
「――可愛い狐には牙があるのね」
「にゃー!」
 と、私の頭上を舞っていたシフォンが鳴いた。エリルさんの言葉を聞いて、自分にも牙があるってことを主張したくなったのかも。
「めぇー!」
 と、演奏&歌唱中のブルーノさんの足下にいたドゥーくんも鳴いた。牙はなくても角があるってことを主張したくなったのかも。
「ひひーん!」
 と、チャンディラムも嘶いたけど、それは自己主張(『牙はなくとも、蹄があるぜ』とか?)するためじゃない。その背に跨がる愛しくも頼もしい千隼がアリモドキどもに向かって突撃したからだよ。
「……邪魔だ、害虫ども」
 千隼は馬上で静かに呟いた。そう、とても静かに。
 でも、静かなのは当人だけ。その手に握られた魔法拳銃『朧月夜』は狂った野獣みたいに吠えまくり、次から次へと弾丸を吐き出した。

●三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)
「漢水のほとりで生きる俺たち

 一人残らず貧乏人

 服も襤褸なら、小屋も襤褸

 日に二度食うのはドブくさい雑魚

 熊よりおっかない嬶にケツを蹴られて

 猿よりやかましい餓鬼の頭を叩いてる」

 ブルーノくんの歌がなにやら勇ましい感じになった。
 それは銃声の伴奏がついたから。バンバンバーン! ……ってね。
 演奏者は、ガンマンっぽいスタイルで決めた千隼さん。チャンディラムに跨がって、拳銃とも光線銃ともつかない奇妙な銃を乱射中。
 乱射といっても、やたらめったら銃弾をばら撒いてるわけじゃないよ。撃ってる間もチャンディラムを走らせて敵を追い込み、一箇所に集めてる。
 で、集まった連中めがけて――
「氷柱の一撃、しっかり味わっていってよね!」
 ――私が氷柱をじゃんじゃか撃ち込んでるの。
 それにエリル(人形の『弟』さんに抱っこされて飛行中)も銃弾の雨を降らせてる。
 地上からは千隼さんの銃撃、空中からはエリルの銃弾プラス私の氷柱。激しい包囲攻撃でしょ? まあ、三人で全部はカバーできないから、無傷で突破するアリもいたけれど、問題なーし。
 なぜなら――
「そっちに行ったぞ、伊吹」
「はいよ!」
 ――千隼さんに答えて、伊吹さんがアリの行く手を塞いだからね。
「どけ、女!」
 大声で叫び、二本の剣を振り下ろすアリ。
「どくわけないでしょうが!」
 もっと大きな声で叫び、シャベルを横薙ぎに払う伊吹さん。
「村には絶対に入れないよ! 畑にも厨房にも――」
 伊吹さんの声に『パキンパキーン!』と『グシャ!』という音が重なった。二本の剣がシャベルに叩き折られた音、そして、アリの頭がシャベルで粉砕された音。
「――あんたらみたいな害虫はいてはいけないんだ!」
 いやー、すごい迫力だねー。村の人たちの歌に出てくる『熊よりおっかない嬶』を彷彿とさせる。
「ねえねえ」
 と、私は眼下の千隼さんに声をかけた。
「やっぱ、夫婦喧嘩の時とかは伊吹さんにお尻を蹴っとばされちゃったりしてるの? あの歌みたいに?」
「そもそも喧嘩などしない」
 はいはい。ごちそーさま。

●尹・麗孝(浮き草・g01943)
「あの夫婦、ホントに仲良いよねー。かなり強い絆で結ばれていると見た」
「そうね。でも、私たちの絆の強さには敵わないと思う」
「その『私たち』っていうのは私とエリルのこと?」
「ううん。私と弟のこと」
「さいですかー」
 言葉だけを聞いてると、麻緒さんとエリルさんのやりとりは少女らしいほのぼのとしたものに思える。
 だが、二人が繰り広げている光景は『ほのぼの』には程遠い。他愛のない会話をしながらも、攻撃の手を休めてはいないのだから。
 エリルさんは人形に抱かれて空を舞い、千隼さんと同じように剣蟻兵どもを一箇所に誘導しては弾雨を浴びせている。麻緒さんも空を舞いつつ、誘導から漏れ出た剣蟻兵どもを氷柱で刺し貫いている。
 運良く麻緒さんの追撃から逃れた剣蟻兵もいたが、すぐに行く手を阻まれた。
 この私によって。
「伊吹さんも言っていたように、おまえたちのような害虫を厨房に入れるわけにはいかないんだ」
 私が顎をしゃくってみせると、小黒が剣蟻兵の影に飛びつき、首のあたりに牙を突き立てた。
 次の瞬間、剣蟻兵の本体の首から血が噴き出した。
「どんなに料理が美味い店だろうと、厨房に害虫が巣くってしまっては台無しだからな」
「……」
 声も出さすに崩折れる剣蟻兵。
 また敵が一人減った。
 同時に味方が増えた。
 ブルーノさんの歌声に導かれるようにして、幻影たちが出現したのだ。

「だけど、俺たちのほうが果報者

 お大尽どもも本当は羨ましがってる

 俺たちと人生をとっかえられるなら

 奴らは銀十万だって積むだろうが

 どっこい、それでも安すぎる

 金百万を持ってこい」

 その幻影たちは皆、粗末な身なりをしていた。酒焼けをした顔の男、見るからに肝が据わっていそうな女、鼻水を垂らした子供……あの店で騒いでいた村人たちや歌の中の『熊よりおっかない嬶』や『猿よりやかましい餓鬼』を連想せずにはいられない面々だ。
 彼らや彼女らを見下ろしながら、エリルさんが麻緒さんに尋ねた。
「これって、英雄の幻影を召喚するパラドクスだっけ? ヒロイックシンフォニーとかいう……」
「たぶんね。でも、あんまし英雄っぽく見えないよねー」
『あんまし』どころではないと思う。
「いや、間違いなく英雄だよ」
 と、ブルーノさんが歌を中断して(演奏は続けている)、麻緒さんたちに断言した。あるいは剣蟻兵に向けた言葉なのかもしれない。
「市井に生きる人たち一人一人が国を支える礎であり、その命が連綿と継承されていくからこそ、歴史が紡がれていくんだからな」

●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
「めぇー!」
 ドゥーの激励めいた鳴き声に応じて、みずぼらしくも貴い英雄たちが一斉に走り出した。
 アリの兵士たちに向かって。
「金百万の人生を送っている果報者の力を見せてやれ!」
 俺はアイッリュブズーキの『ブリギット』をより激しく奏でた。
 一方、敵はパラドクスを発動。一抱えもある大きな岩をいくつも出現させ、瞬く間に防壁を築くというパラドクスだ。更に防壁の向こう側から岩を投げつけてきた。
 だけど、その程度のことで怯む英雄たちじゃない。岩を躱して防壁を打ち砕き、あるいは乗り越え、アリたちを叩きのめしていく。
「ほほう。即席の石塀なんかよりも根の張った『礎』のほうが強いみたいだねー」
『礎』たる英雄を空から眺めながら、麻緒が氷柱を降らした。
 その攻撃をなんとか免れたアリの一体が空を見上げて剣を振るった(地対空であろうと空対地であろうと、目視できないほど離れていない限り、パラドクスは標的に届くんだ。なぜだか判らないけど)。
 標的となったのは、麻緒の横を飛んでいたエリル。だけど、彼女を抱いていた人形がくるりと反転し、自分の背中で斬撃を受けた。
「よくもこの子を傷つけたわね……」
 背筋が凍りつくようなおどろおどろしい声が落ちてきた。
 それがエリルの呟きだと気付いた時には、件のアリはもう死んでいた。エリルの放った何十発(ひょっとしたら、何百発?)もの銃弾を食らって。
「あら?」
 いきなり、エリルは首をかしげた。アリの死体など一瞥もせず、なにごともなかったかのように。
「ところで、もう五分経っちゃったんじゃないかしら? ねえ?」
「さあ? どうだろう?」
 小黒を使ってアリを翻弄しながら、麗孝さんも首をかしげた。
「今、ちょうど五分経過したところだ」
 翻弄されていたアリにとどめの銃弾を撃ち込んで、千隼さんが皆に告げた。適当なことを言ったわけじゃなくて、本当にきっちりと時間を計ってたみたい。
「え? 五分!?」
 と、大袈裟に驚いてみせたのは伊吹さんだ。
「つまり、制限時間をオーバーしちゃったってこと? おーやおや。どうすんのよ、あんたら?」
 その問い(という態の挑発)に対して、アリたちはなにも答えなかった。答えられるわけないよね。
「五分くらいじゃあ、私らは息切れもしないよ。まぁーだまだ戦える。でも、あんたらは――」
 伊吹さんのシャベルが唸りをあげ、また一人、アリが倒れた。
「――もうヘバりそうだね」

●幕間
 数分後。
「さよなら、働き蟻さん」
 エリルの弾雨によって、最後の剣蟻兵が息絶えた。
 それを見届けると、ブルーノは演奏している楽曲を変えた。『果報者』たちの歌から、物悲しい曲へと。
 剣蟻兵への鎮魂曲だ。
「フン!」
 輿に座ったまま、貂蝉が鼻を鳴らした。配下を一人残らず殺されたにもかかわらず、傲慢な態度は変わらない。ディアボロスたちのことなど恐れてもいないし、配下たちのことを悲しんでもいないのだろう。
「クソ耳障りなクソ曲じゃのう」
「クソを連呼してばかり……罵倒の語彙がクソ少ないようだな」
 千隼が侮蔑の眼差しとともに挑発の言葉を投げると、貂蝉はそれを冷笑で受け止めた。
「クソ無礼な奴じゃ。しかし、許してやろう。ワシのことを『ムシオババ』呼ばわりしたそこのクソガキも許してやろう。クソ猿どもがキイキイ喚いているだけだと思えば、腹も立たぬわ」
「キイキイ!」
 と、伊吹がからかってみせたが、貂蝉は冷笑を浮かべたままだった。だからといって、度量が広いというわけではないだろう。ディアボロスを見下し、余裕に浸っているだけだ。
「とはいえ、許すのはクソ暴言の罪だけじゃぞ。ワシの行く手を阻んだ罪は万死を超えて億死に値する。しかし、それにしても……」
 貂蝉は足をゆっくりと組みかえ、顎に指をあてて首をかしげてみせた。仕草のすべてがあざとく、わざとらしい。
「解せぬのう。ワシが赴こうとしているクソ村には戦略的価値などないはず。何故にそんな村を守ろうとするのじゃ?」
「戦略的じゃない価値があるからよ」
 麻緒が答えた。当然のことであるかのように。
「蟲将には理解できない類の価値だがな」
 麗孝が言葉を付け足した。
 そして、ブルーノが演奏を終え――
「そう、キミには理解できないよ。たぶん、永遠に……」
 ――倒すべき者を憐憫の目でじっと見つめた。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【傀儡】LV1が発生!
【プラチナチケット】がLV2になった!
【完全視界】LV1が発生!
【冷気の支配者】LV1が発生!
【怪力無双】がLV2になった!
【スーパーGPS】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV6になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
【ロストエナジー】がLV4になった!

モン・サンシン
あ、ムシオババだー。(クソガキと言われたことはスルー)
ふむふむ…その服千円で見たような…。
何かコーディネートが手軽に出来るんだって?
化粧も数百円?

ウッシッシ、さっきと同じようにパイ投げしてやろっと。
(なんかリクエストあったみたいだし仲間が食べる分もストックしなきゃ。勝利祝い分?)
あ、そーだ。緑色のカマキリマッチョさんなんだけどムシオババさんのことすっごい愚痴言ってたよ。
ディアボロスに集中してて大丈夫なのー?(しれっと精神攻撃狙い)
なんなら録音しといたの聴いてみる?
(もっとも戦闘さえ終われば無用の長物となるが)
そんなこんなでムシオババをおちょくるような戦い方で攻めていくよー。


紀・雪名
さてさて、羽虫の駆除もできたことですので虫おば…いえ、蛾でいいでしょう。
釣られてしまいましたが、見た目だけで年齢ははわかりませんし油断なく行かないとですね。

・あまり近寄りたくないので、【結界術】で仲間の援護をしながら形代【水・土】で砂や水を浴びせ足止め
・パラドクス【攻性式神結界】で敵の接近を制限した後、結界内で蹂躙

何やら不穏な動きをしていますので、先ほどの葉虫より厄介です。
嗚呼、あまり近寄らないでください…仲間にもそれとなく危険な時には注意を促しましょう。

それにしてもパイの匂いが充満してお腹が切ないです。後で頂けないでしょうか…


ケンゴ・アサナカ
えっと、仲間から妖怪ムシオババがいるって聞いて退治にきたよ。
え、違うの?じゃあ…クソオババ?

(結局きりがないので戦闘開始)

ディアボロスとして記憶が戻ってからは初なんだけどクロノヴェーダってこんな愉快なんだったっけ?
あ、そうそう。なんか逃げていた緑の昆虫が愚痴っていた上に悪口言ってたけど君のことであってる?
(いちかばちかデラダメなことを言ってみる)
なーんて、隙ありっ!スラッシュ!ドミネーション!

催眠なんてまっぴらごめんだし思いつく限り、もしくは聞いた限りある緑色の昆虫さんが言ってたことチクってみるか。


ノナメ・クロス
そんなチョウチョの姿をしてたって、その喋り方は…お年寄りだよ
どうして見た目は綺麗なのに、おばあちゃんの喋り方するの?勿体ないよ
んー、でも悪い人だし…直されても、やっつけなきゃだけどね
だって、村を襲おうとしてるし、ブラックだもの

毒を撒かれるなんてやだよ。パイがダメになっちゃう
【冷気の支配者】で、相手の周囲だけ冷え冷えにしたら、寒くなって踊りにくくなるんじゃないかな
そしたら、このおっきな剣(サザンクロス)で、羽を両断、解体しちゃうね
おっきな剣の刃をもっと大きくして、【魔骸連刃】で斬っちゃうの

そういえば、何分って決めてるの?この戦い
5分、じゃないのかな…人の時間は決めて、自分は決めないの、ズルだよ


尹・麗孝
※アドリブ・連携歓迎

ふむ、名前はムシオババと言ったか?と、すっとぼけながら挑発
クソなどとは…なんと下品な…
全く美しくない


毒鱗粉や催眠が厄介な事だな
可能な限り距離を取り【不意打ち】を狙う
技を出される前に、クダギツネの小黒と連携し【 管狐影縛法】で動きを止めた隙に【捕縛】を狙う
皆が攻撃しやすいように隙を作れるように動きつつ、足を引っ張らないよう連携しながら攻撃する

仲間が毒鱗粉や催眠などにかかってしまったら【浄化】と【活性治癒】で治癒をする


それは、パイというのか…
匂いに興味をそそられてしまうな
私も後で少し頂けたら嬉しい


●紀・雪名(鬼をも狩り尽くす鬼・g04376)
「はて?」
 麗孝が貂蝉を真似るように指をあてて首をかしげてみせた。貂蝉の仕種は妙にわざとらしかったけど、麗孝のそれは自然に見えるね。
「この毒々しい蟲将の名はなんといったかな? パラドクストレインで令震さんから聞いたはずだが、思い出せない。えーっと……」
「ムシオババだよ!」
 と、大きな声で教えてあげたのがモンであることは言うまもでないよね。
「ふむ。ムシオババか……」
 麗孝は小さく頷いた。
「ふむ。妖怪ムシオババか!」
『妖怪』という言葉を付け足して、魔創機士の少年――ケンゴが大きく頷いた。
「程度の低いクソ煽りじゃのう。そんなものはワシには通じぬぞ」
 貂蝉は組んでいた足を解いた。脚線美を見せつけるかのようにゆっくりと。
 そして、輿から立ち上がった。これまた、ゆっくりと。
「とはいえ、こんなクソ辺鄙なところに住むクソ無知なクソ田舎者となれば、『傾国の美姫』や『西施の再来』と謳われたワシのことを本当に知らぬという可能性もなきにしもあらず。特別に教えてやるかのう。ワシの名は貂せ……」
「え? クソオババだって?」
 貂蝉が名乗りを終える前にケンゴが耳の後ろに手をあてて聞き返した。
「やめい! クソ煽りは通じぬと言ったであろうが」
 いや、そこそこ通じてるよね? 声はちょっと苛立ちを含んでるし、口許(虫っぽい顔だけど、口や顎は人間と同じなんだ)も不機嫌な感じに歪んでるよ。
「ねえねえ」
 と、ノナメが貂蝉に声をかけた。モンのように元気いっぱいでもなければ、貂蝉のように不機嫌でもない。あいかわらずの無表情。
「どうして、見た目は綺麗なのに、そんな喋り方するの? もったいないよ」
 他のディアボロスたちが『オババ』呼ばわりする中、ただ一人、相手の美しさを認めてあげるとは……素直というか、なんというか。
 でも、貂蝉はノナメの素直さに感じ入る様子も見せず、憎たらしい冷笑を浮かべた。
「フン! 言動は容姿の後についてくるもの。ワシのように見目麗しき者が口にすれば、どんなにクソ汚い罵詈雑言も流麗なる楽の調べと化すのじゃ」
 いや、化してないよ。『クソ汚い罵詈雑言』にしか聞こえないね。

●尹・麗孝(浮き草・g01943)
「態度や言葉遣いを改めるつもりはないみたいだね」
 ノナメさんが言った。その声には抑揚がなく、目つきもぼんやりとしている。しかし、『傾国の美姫』だのなんだのと謳われたという(どこの誰が謳ったのやら)不遜極まりない蟲将に対して、なにも感じていないわけではないだろう。
「まあ、たとえ改めたとしても、やっつけなきゃいけないんだけどね。村を襲おうとしている悪い人だし。おまけにブラック上司だし……」
「服はホワイトなのにねー。うっしっしっ」
 モンさんが笑った。彼女が言うとおり、蟲将の衣装は白い。身に着けている当人はさておき、蝶の紋様が刺繍されたその衣装の美しさは認めてもいいだろう。
「そういえば、それと同じ服を『サンソン・カラスコ』の新宿東南口店でも見たような気がする。コーディネートが手軽にできるとかいう売り文句で、値段は千円くらいだったかなー?」
 モンさんはまだ蟲将をからかい続けているが……『さんそんからすこ』とはなんだろう?
 ノナメさんも同じ疑問を抱いたらしく、問いかけるようにその言葉を言葉を唱えた。
「さんそんからすこ?」
「ディスカウントショップだよ」
 と、教えてくれたのはケンゴさん。『でぃすかうんとしょっぷ』なる物のこともよく判らなかったが、そのことについて尋ねるよりも早く、彼はモンさんのからかい攻撃に加わった。
「あっちで倒れてる手下たちも言ってたぞ。『うちの女ボスはエラそうに振る舞ってるくせにやっすい服ばっかり着てるから、部下として恥ずかしい』ってね」
「うんうん。カマキリマッチョさんたち、他にもいろいろとグチってたよねー」
「クソオババってば、手下たちから嫌われてたんだな」
「嫌われてたんだねー。うっしっしっ」
「たばかるな。あのクソ兵士どもがワシを嫌っていたとしても、そのことを口にするクソ度胸などあるはずが……」
 と、蟲将がむきになって反論している途中で――
「隙あり!」
 ――ケンゴさんは行動を起こした。

●ノナメ・クロス(星の子・g00031)
 ケンゴの手に槍が出現した。たぶん、『復讐の刃』とかいうパラドクス。
 チョウセンはそれに気付いたらしく、素早く動こうとしたけれど――
「ドミネーション!」
 ――その前にケンゴが槍を投げつけた。
 なにを『ドミネーション』するのかよく判らないけど……まあ、とにかく、槍は命中。チョウセンの左肩に深々と突き刺さった。
「こ、このクソ猿がぁ!」
 チョウセンは槍を引き抜こうとしたもんだから、顔の前に右腕を掲げるような姿勢になった。
 その右腕にまたもや武器が命中。槍じゃなくて、パイだけどね。もちろん、投げたのはモンだよ。
「ねえ、ムシオババ。その化粧は数百円くらい? 服も化粧もリーズナブルでいいねー」
「やかましい!」
 矢継ぎ早(この場合は『パイ矢継ぎ早』かな?)にパイを投げ続けるモンと、前後左右に飛び跳ねて躱し続けるチョウセン。アリさんたちと戦った時と違ってパラドクスを使って投げてるわけじゃないから、命中してもダメージを受けるわけじゃないんだけど、挑発と牽制にはなってるみたい。
「あのパイとかいう菓子……興味をそそられるな。実にいい香りだ」
 漂ってくるパイの香りを麗孝がくんくんとかいでいる(その足下では、小黒が鼻先を突き上げて同じようにくんくんしてる)。特級厨師だけあって、こういう時でも料理のことが気になってしょうがないんだろうね。
「こんなに美味しそうな香りをかぐと、お腹が切なくなってくるね」
 雪名がお腹をさすってる。本当に切なそうな声。
「後で僕も食べさせてもらえる?」
「私にも少し分けていただけると嬉しいのだが……」
「いいよー。勝利のお祝いに食べる分をストックしてあるからね」
 雪名と麗孝のお願いに気前のいい返事をしながら、モンはパイを投げてないほうの手の指をパチンと鳴らした。
「さあ! 行こうぜ、相棒!」
 すると、モンの前に『相棒』とやらが出現した。さっきはシーツを被ったオバケだったけど、今度のそれは犬みたいな機械。それとも、機械化された犬?
 モンは片方の手に残っていたパイを投げつけると――
「スーパージャンプ! アーンド! アターック!」
 ――機械犬の背中に飛び乗り、チョウセンめがけて突進した。

●ケンゴ・アサナカ(復活の復讐者・g05015)
 クソオババは肩から槍を引き抜き、僕らにまた悪態をぶつけた。
 もっとも、その悪態は――
「『勝利のお祝い』がどうこうとほざいてい……ぐあっ!?」
 ――途中で切れちゃったけどね。
 メカメカしい犬の背中に乗っていたモンさんがジャンプからの体当たりをぶちかましたからだよ。更に犬のほうも頭突きで追撃。
 そして、一人と一匹は反撃を受ける前に飛び退った。
「ぐぬぬぬ……」
 漫画の悪役めいた唸り声を発しながら、クソオババは体勢を直して、ぎろりと僕たちを睨みつけてきた。複眼で『ぎろり』という印象を与えることができるとは器用だねえ。
「『勝利のお祝い』がどうこうとほざいていたが、このワシを相手にクソ勝利を収められると思うておるのか? おめでたいクソ猿よのう!」
 先程の悪態を改めて口にするクソオババ。
 それを聞いて、麗孝さんが眉をひそめた。
「『クソ』を付けずに喋ることができないのか? 下品極まりないな……まったく、美しくない」
「美しくないどころか、『醜い』と言い切っていいんじゃないかな」
 と、雪名さんも厳しい意見を述べた。美形のお二人が言うと、説得力があるね。
「フン! 審美眼のないクソ猿どもめ。しかし、この舞いを見れば、ワシの美しさを認めるざるを得まい!」
 クソオババの青い翅から鱗粉が舞った。踊り始めたんだ。敏捷とも緩慢ともつかない動きでステップを踏み、体を蛇のようにくねらせながら。気持ち悪い踊りだけど、なぜか見入ってしまう。パラドクスの効果かな?
 でも、その効果が完全に発動する前に――
「……っ!?」
 ――クソオババの口から呻きが洩れて、動きが止まった。
 見ると、彼女の足下から伸びる影に小黒が噛みついている。管狐影縛法とかいうパラドクスだっけ?
「鱗粉とかを撒き散らさないでよ」
 と、動きを止めた(というか、止められた)クソオババにノナメさんが言った。
「パイがダメになっちゃうから」
 モンちゃんのパイ、大人気だなあ。

●モン・サンシン(武器を忘れたドジ勇者・g00376)
「私が『美しくない』と評し、雪名さんが『醜い』と断じたのは、おまえの容貌のことではない……などと言っても理解できないだろうな。理解できないからこそ、おまえは醜いのだ」
「抜かせ、クソ猿!」
 麗孝のつめたーい視線に怯むことなく、クソオババはまたダンスっぽい動きを始めた。どうやら、さっきとは違う種類のダンスみたいだけど……うーん? よく判らない。なんか全身がぼやけた感じになって、動きを目で追うのが難しいから。
「おっと! あまり近寄らないでくれる?」
 雪名が手を前に突き出した。その言葉を聞いて初めて判ったんだけど、クソオババはダンスをしながら、こっちにずんずん迫ってたみたい。いつの間にか、私たちとの距離がかなり縮んでる。
「まあ、『近寄らないで』と頼んだところで――」
 雪名の硬質化した手が袖に引っ込み、すぐにまた出てきた。人型の護符のオマケを付けて。
「――止まってくれるわけないよね」
 指に挟まれた護符が燃え上がり、灰も残さずに消えちゃった。
 そして、ぼんやりして見え難かったクソオババの姿がはっきりと見えるようになった。もうダンスはしてないし、こっちに近付いてもいない。なにかヘンなものに攻撃されて、それどころじゃないから。
「あれはなんだい?」
「僕が召喚した式神だよ」
 と、ケンゴと雪名が『ヘンなもの』についてやりとりしている間にノナメが動いた。剣を構えて、クソオババに向かっていく。ちなみに言っておくと、その剣はカマキリマッチョたちを斬っていた時の太刀じゃなくて、柄の両側におっきな刃がついた魔晶剣だよ。
「冷え冷えになったら、もっと踊りにくくなるかな?」
 ノナメの呟きが聞こえてきた。
 その途端、周囲が肌寒くなった。季節が秋から冬にチェンジ! いったい、どういうこと? ……と、戸惑っていると、麗孝が教えてくれた。
「『冷気の支配者』だ」
 ああ、はいはい。麻緒が使ったパラドクスの残留効果だね。

●幕間
 ノナメは貂蝉の周囲の温度だけを下げるつもりでいたのだが、『冷気の支配者』はピンポイントで温度を変化させることなどできない。範囲内全体に影響を及ぼすのだ。
 とはいえ、貂蝉を動揺させることはできた。
 その動揺によって生じた隙を見逃すことなく――
「そういえば、この戦いは何分以内って決めてるの?」
 ――問いかけながら、ノナメは魔晶剣を振り下ろした。貂蝉に突進している間にその剣の刃は禍々しい形状に変化している。パラドクス『魔骸連刃』によって。
「ぐぎゃあっ!?」
 斬撃を浴び、叫びをあげる貂蝉。無惨に斬り裂かれたのは片方の翅だ。
 ノナメの問いに答える余裕のない彼女に代わって、雪名が言った。
「時間なんか定めてないと思うよ」
「うん」
 と、ケンゴが同意した。
「自分に厳しいタイプには見えないし」
「なんにせよ、五分以内というのは無理だな」
 冷ややかな声で麗孝が断言した。
 そんな男性陣のやりとなりなど聞こえないような顔をして――
「ねえ、何分以内なの?」
 ――ノナメが貂蝉に再び問いかけた。無表情を維持したまま。煽っているようにも見えるが、本人に挑発の意図はない。
「もしかして決めてないの? 人の時間は勝手に決めておきながら、自分は決めないなんて、ズルだよ」
「そーだ、そーだ。ズルいぞー」
 モンが野次を飛ばした。こちらは挑発の意図しかない。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV2になった!
【ハウスキーパー】がLV2になった!
【操作会得】LV1が発生!
【活性治癒】がLV2になった!
【傀儡】がLV2になった!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV5になった!
【ドレイン】がLV2になった!
【反撃アップ】がLV3になった!

緋塚・ヤスオ
「親玉はムシオババ…なるほど大きい蛾か…」
と聞こえるように挑発的な言動を。攻撃が自分の方に向くようになれば御の字

■攻撃に対して
「うぉっ!やっぱり蛾じゃねぇか!」
自信は遠距離の攻撃が得意ではないので被弾、ダメージ覚悟で近づいて接近戦を。
左手に持っている特製のダガーで相手の服等をひっかけて動きを崩す
攻撃命中時に上手く動きを止められたなら他の方に声掛けして連携攻撃のチャンスを

周囲のディアボロスと連携が可能であれば連携。

■ディフェンス
同タイミングで仕掛けた味方をディフェンスする
特に敵方のSPD攻撃にて味方が味方を攻撃する場面があれば積極的にディフェンスを。


十六夜・ブルーノ
歴史改竄者に命の重みは判らない
だから俺達復讐者がいる
行くよ、ドゥー

言葉遣いには教養が滲むっていうし
美しさの要件と思うけど

舞に合わせるようにブズーキを奏でる
いい気になるかも
でもこれで舞の拍子を捉えたから
間合いを外すのは難しくない

更に【完全視界】で鱗粉の一つ一つが見えている
旋律と共に炸裂する光で
燃やしたり吹き飛ばして防御

そのまま曲はクライマックスへ
膨れ上がる輝きに蝶くんを飲み込み
光へと還していく

事後には兵隊蟻くんと蝶くんらの
死出の旅路の安らかを願い曲を奏でよう
安らかに

帰還前に例の歌を歌う
これは【勝利の凱歌】だ
村の皆に届くといいな
戦乱の世は続くけれど
これからも勇気と希望を持ち続けて
歴史を紡いで欲しい


月見里・千隼
【月日夫妻】
※連携、アドリブ歓迎


蟻どもは倒した…後はムシオババ…いやクソオババだけだな。
クソ連呼とは下劣な言葉遣いだ。
貴様の何もかもが教養も品格も無く、ただ醜い。
伊吹の方が何億倍も内外共々美しい(←かなり真剣且つしれっと言う)

毒鱗粉や催眠がかなり厄介だな。
敵が自分や他の復讐者に近付けないように後援に立ち回り、援護射撃をして【完全視界】【精神集中】【早業】【制圧射撃】【連射】で舞や接近の妨害をする。
毒鱗粉やフェロモンをパラドクス『花鳥風月』で伊吹の魔力が込められた弾丸で刃のようなパラドクスの風魔法を発動して吹き飛ばしながら敵を切り刻む。

その忌々しい羽を二度と舞い飛べぬようにもぎ取ってやる。


月見山・伊吹
【月日夫妻】
※連携、アドリブ歓迎だよ!


害虫駆除はだいぶ出来た。次はあんただけだよ。

溶解する毒鱗粉も催眠もめっちゃ厄介過ぎない?!

他の復讐者達と連携しながらも
パラドクス『陽射の魔弾』を発動して手を銃の形にして指先に太陽光の魔力を込めて銃撃のように魔力の弾丸を沢山発射!!

どんなに避けたって無駄さ。魔力の弾丸は執拗にあんた…ええとムシオババだっけ…うーんクソオババでいいや!
クソオババに見事命中するまで追い回すからね。
何度も何度も何度も命中させるよ。
みっともない舞で醜態を晒しながら私の弾丸から逃げ続ける覚悟はあるかい?

【飛翔】して飛び回りながらもパラドクス『陽射の魔弾』を使い
千隼と共に援護射撃をする。


●月見山・伊吹(小春日和・g04125)
「これほどの屈辱を受けたのはヘソの尾切って初めてだ……許さん……絶対に許さんぞぉ……楽に死ねると思うなよ、クソ猿ども!」
 ノナメさんやモンちゃんにコケにされて(いや、モンちゃんはともかく、ノナメさんに悪意はないと思うけど)、ムシオババは怒り心頭って感じ。複眼じゃなかったら、目が血走ってるかも。
 でも、ここにいるディアボロスは皆、敵の怒りに気圧されて自重しちゃうほどヤワじゃないんだよね。
「いやいや、その言い回しはどうなの? 卵から生まれた蛾なんぞにヘソがあるわけないだろ」
 ほら、ヤスオさんもニヤニヤ笑っている。八の字を描いてる困り眉毛のせいで柔和な表情に見えるんだけど、それが逆に効果的。イキってる虫ケラを嘲りつつも哀れんでるような印象を受けるね。
「誰が蛾だ!? このクソ猿が!」
 ムシオババがまた怒鳴った。蛾として扱われるのは我慢ならないみたい。蝶と蛾に明確な違いはないらしいけど、絶対に譲れないこだわりみたいなものがあるのかしらん?
「さっきも言ったが、おまえは――」
 と、私の千隼がクソオババに声をかけた。
「――語彙がクソ少なすぎるぞ」
「やたらと『クソ』に固執するあたり、蛾よりも蠅っぽいよな」
 ヤスオさんが容赦なく畳みかけた。
 それに対して、ムシオババは……いえ、ケンゴさんに倣って、クソオババでいこうか。クソオババはなにか言い返そうとしたようだけれど、その前にブルーノさんが口を開いた。
「キミは自分の美しさを誇ってばかりいるけれど、その汚い言葉遣いのせいで台無しになってるよ。言葉遣いも美しさの要件だってことを知るべきだね」
 うん。もっともな意見だね。私も気をつけようっと。でも、『クソオババ』と呼ぶのはやめない。
 で、そのクオババはと言いますと、ブルーノさんのお説教に胸を打たれて態度を――
「ワシの言葉遣いがクソ気に入らぬか? ならば、貴様たちのクソ耳を切り落としてから殺してやるわ!」
 ――改めたりするわけないんだよね。
 やっぱ、『クオオババ』と呼ぶに相応しい敵だわー。

●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
「こっちの耳が切り落とされる前にそっちの舌を引っこ抜いてやるよ!」
「にゃーん!」
 伊吹さんとシフォンが勇ましい声をあげた。いや、シフォンのほうは勇ましいというよりも可愛い感じの鳴き声だけれど。
「それとも、口を縫い閉じてやろうか!」
 シフォンに足りない勇ましさを補うようにヤスオさんが叫び、蝶くんに向かって走り出した。
「フン! 笑わせるな!」
 と、蝶くんもまた叫んだ。
「どうやって縫い閉じてるというのだ! そのクソ不格好な手では針も糸も扱えぬだろうが!」
 確かに今のヤスオさんは針を上手く扱えないだろうね。鎧を兼ねた武器を……そう、アリの兵士たちとの戦いでも使っていたガントレットをまだ装着しているから。
「おいおい。気取った表現を字義通りに受け取るのは野暮ってもんだぞ……なんて、『ヘソの緒云々』にツッコミを入れてた俺が言えた義理じゃないか」
 自嘲の言葉を漏らしつつ、ヤスオさんは右肘を引いた。必殺のパンチを繰り出す構え。
 だけど、蝶くんがパラドクスを繰り出すほうが早かった。いや、『踊り出す』と言うべきかな? それは舞いのようなパラドクスだったから。
 硬質化した黒い手足がしなやかに動き、背中に広がる青い翅(片方はノナメに斬られてるけど)から同じく青い鱗粉が散ってゆく。火の粉を散らして揺らめく青白い炎を思わせる舞い。とても魅惑的……だけど、不気味でもある。
 ヤスオさんも不気味な印象を抱いたらしく――
「うへえ!? なんだよ、その鱗粉! やっぱ、蛾じゃねえか!」
 ――情けない声を出した。
 だけど、情けないのは声だけ。次の瞬間には右の拳を叩きつけていた。蝶くんの顔面に。
「……ぷげっ!?」
 蝶くんの首が真横にねじ曲がり(アリを殴った時と同様、体全体が吹き飛ばされたりはしなかった)、血と呻き声が口から吐き出された。
 ヤスオさんのほうも無傷じゃない。体のそこかしこが焼け爛れているし、ガントレットや衣服の一部が溶けて煙を噴いている。例の青い鱗粉を浴びたからだ。
 でも、蝶くんのように血や呻き声を吐いたりしなかった。
 それどころか、余裕ある台詞を口にしてみせた。
「縫い閉じるより、こうやって拳で塞ぐほうが性に合ってるわ」

●月見里・千隼(清風明月・g03438)
 ヤスオさんの一撃を受けて首がねじまがったムシオババの姿は無様だったが、賛辞を送る者もいた。
「兵隊蟻くんたちよりも打たれ強いようだね。さすがはアヴァタール級だ」
 ブルーノさんだ。
 その賛辞を音楽でも表現するため……というわけでもないだろうが、彼はリュートのような弦楽器を爪弾き始めた。聴いているだけで心が温かくなるような楽曲。ムシオババはノナメさんに『流麗なる楽の調べ』云々と抜かしていたが……このような音楽こそ、『流麗なる楽の調べ』なんじゃないか?
 もっとも、ムシオババには……いや、クソを連呼するクソオババには、演奏に耳を傾ける余裕などないだろう。その顔に人間のような目鼻はないが、憤怒の表情を浮かべていることは察しがつく。眉毛を有しているなら、急角度に吊り上がり、ヤスオさんのそれを上下反転した形になっているに違いない。
「クソ猿ごときがワシの顔に……ワシの顔にぃ!」
 クソオババは首をまた正面に向けて、ヤスオさんを睨みつけた。
「顔だけで済むと思ってる?」
 相手の怒りを薄笑いで受け流し、ヤスオさんは左腕を動かした。さっきのように殴りつけたわけじゃない。櫛状のナイフを素早く取り出し、クソオババに突き出したんだ。
 クソオババは咄嗟に身を捻り、それを躱した……が、櫛の歯(この場合は『櫛の刃』か?)が衣服に引っかかり、体勢が崩れた。
「今だ!」
「はいよ!」
 ヤスオの叫びに答えたのは伊吹。
 いつのまにか、彼女はデーモンの翼を展開して、クソオババの頭上に陣取っていた。『いつの間にか』といっても、俺はその動きをちゃんと把握していたし(愛する妻から目を離したりするものか)、他のディアボロスたちもそうだろう。気付かなかったのはクソオババだけ。
 おそらく、それこそがヤスオさんの狙いだったのだと思う。『蛾』呼ばわりして挑発したのも、大袈裟に情けない声を出したのも、傷を負うことを承知の上で接近戦を挑んだのも、敵の注意を自分一人に向けさせるため。
「さあ、みっともない舞いで醜態を晒しながら――」
 伊吹は手を銃の形にして、眼下のクソオババに向けた。
「――私の弾丸から逃げ続ける覚悟はあるかい?」
 人差し指の先端から銃弾が撃ち出された。魔力で構成された光の弾丸だ。

●緋塚・ヤスオ(探偵という名のなんでも屋・g01581)
「このワシがクソ醜態など晒すものか!」
 ムシオババは私を突き飛ばし、その勢いでナイフを服から引き剥がして、残像を置き土産にして跳ね退いた。
 次の瞬間、直下していた光の弾丸が残像をすり抜けて地面にめり込んだ……ってな展開をムシオババは思い描いていたんだろうなあ。
 ところが、光の弾丸は軌道を直線から曲線に変えて――
「ぐわっ!?」
 ――クソオババに追いつき、そして、追い越した。
 腹部を撃ち抜く形で。
「おまえごときに伊吹の誘導弾が避けられるわけないだろう」
 チャンディラムを駆る千隼さんがクソオババの側面に回り込み、拳銃を発砲。それは伊吹さんが使ったような誘導弾じゃなかったが、普通の銃弾でもなかった。相手に命中する前に炸裂して、烈風を巻き起こしたんだ。
「伊吹の風の魔力を込めた弾丸だ。たんと味わうがいい」
 烈風は実体なき刃になって、クソオババの体中を斬り裂いた。カマイタチってやつかな。
 間髪容れず、伊吹さんが追撃。例の誘導弾を指鉄砲から再び撃ち出した。
「風だけじゃなくて、光の魔力もあるよ。ほーら、ずきゅんばきゅん!」
「クソ! クソ! クソォーッ!」
 切り刻まれ、撃ち抜かれていくクソオババ。痛みと怒りに悶絶して『クソ』を連発している様はかなり見苦しい。しかも、今までのような接頭語の『クソ』じゃなくて、ただの『クソ』だ。
「また、クソの連呼か……」
 千隼さんが顔をしかめた。
「貴様は教養も品格もなく、ただただ醜い。伊吹のほうが何億倍も内外とに美しいぞ」
「いや、ここで惚気る必要ある?」
 と、私は思わずツッコミを入れちゃったけど、千隼さんは無表情でノーリアクション。
「あはははー」
 照れ笑いする伊吹さん。
「確かに教養はなさそうだね。言葉遣いには教養が滲むっていうし……」
 しみじみと同意するブルーノくん。
「黙れ! クソ猿がぁーっ!」
 吠え猛るムシオババ。『クソ』が接頭語に戻ったねえ。
 その咆哮に怯むことなく、ブルーノくんが曲のテンポを上げた。
 そして、歌声を加えた。
「冬から春へ♪ さあ、世界に再び温かさと光を取り戻そう♪」
「そんなクソ歌を聴かせるな!」
 パラドクスであろう歌声に対抗するかのようにムシオババは踊り始めた。
 ブルーノくんの傍にいたドゥーくんも負けじと踊り出した。ちょこちょことステップを踏む姿のなんとか可愛いことか。
 ムシオババのほうの踊りはちっとも可愛くないが、なにやら幻惑的だ。これもパラドクスなんだろう。手足をくねらせながら、ブルーノくんとの距離を徐々に詰めて……あれ? 距離が詰まりそうで詰まらないぞ。

●幕間
 貂蝉のパラドクスが不発に終わったのは、ブルーノが演奏に合わせて舞いのテンポを捉え、巧みに間合いを外したからだった。
「めぇー!」
 ドゥー(まだ踊り続けていた)が高らかに鳴くと、ブルーノは演奏に更に熱を込めた。
 すると、物理的な意味でも熱が上昇した。歌唱と演奏によるパラドクスによって、閃光が炸裂したのだ。
「……っ!?」
 熱い光に灼かれて、貂蝉はよろめいた。その拍子に足が冷たくて固いものに触れた。
 剣蟻兵の死体だ。
「えーい! 役に立たぬクソ兵士め! くたばった後もワシの足を引っ張るか!」
 物言わぬ剣蟻兵を踏みつける貂蝉。ブルーノの攻撃を受けてよろめいたのではなく、死体に蹴躓いた……という態を装っているのだろう。
 彼女が死体を足蹴にするのはこれが初めてではない。ディアボロスたちを攻撃する時、あるいはディアボロスたちの攻撃を避ける時、何度も蹴り飛ばし、踏みつけた。唾を吐きかけたこともある。
「ちょっと扱いが酷くない? いや、全滅させた私たちが言うのもナンだけどさ」
「そのアリたちは皆、あんたの命令に従って死んだんだ。最低限の敬意は払うべきじゃないかい?」
 伊吹とヤスオが貂蝉を非難した。千隼は無言だが、ある意味では二人よりも饒舌だった。貂蝉へと向けられた眼差しは百万言に値する。
「はぁ? なにを抜かしておるのじゃ」
 貂蝉が久々に冷笑した。
「クソザコどもを悼む必要などあるまいが。生きている時ですら、無価値も同然だったのじゃからなぁ」
「無価値か……」
 あちらこちらに転がっている死体をブルーノが見回した。哀しげな目で。
「クロノヴェーダには命の重みなんて判らないんだろうな。まあ、だからこそ――」
 ゆっくりと貂蝉へと向き直る。
 その目はもう哀しげではなかった。
「――俺達たちディアボロスがいるんだけど」
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【怪力無双】がLV3になった!
【勝利の凱歌】がLV2になった!
【土壌改良】がLV4になった!
【飛翔】がLV3になった!
効果2【ダメージアップ】がLV8になった!
【ガードアップ】がLV6になった!
【ロストエナジー】がLV5になった!

袁・雀蜂
※アドリブ歓迎

・行動
【飛翔】で上空に位置取り、鱗粉の範囲から遠ざかる。
更に遠目に相手を確認して間近に見ないようにして
催眠の影響をなるべく避け、隙を伺って一気に急降下攻撃を仕掛ける。
攻撃後はまた上昇し、再度突撃の準備に入る。

・セリフ
本当にクソなのはお前の方だってーの、
これ以上の被害を出さないようにウチ達が止めないと。
こうして一つ一つ事件を潰していけば、
排斥力だかいうのが溜まってこいつらも好き勝手出来なくなるらしいから
みんなで頑張って行こう!


三苫・麻緒
クソなんて連呼しちゃって…
そういうのはお里が知れるからやめた方がいいよ?
ムシオババにはわからないか、オババだから

ミント色の翼を見せつけるように一度広げから突き刺しに行こうかな
ひとまずは足と翅を動かす部分狙い
仲間の様子を見つつ、他の場所がよさげならそっちに狙いを変えるよ
しっかり突き刺して痺れさせてあげる
エネルギーはばっちり補給してあるもんね!

舞いながら近づいてくるならそこまで動きは速くないはず
≪誘導弾≫を撃ち続けて飛んでいく方向にいるって感じで把握したいなぁ
最悪刺されることだけは覚悟しておくよ
かわりに自分の身体のまわりに≪爆破≫魔法を張って、異変を感じた瞬間に自爆して巻き込んじゃうんだから…!


エリル・ウィスタリア
あとはあなただけ。ええとムシオババさん、だっけ。
良く吠える蛾はただ煩いだけなのよ。

催眠攻撃厄介ね。鱗粉とか弟に代わりに受けて貰う事も出来ないじゃない。
そうね【活性治癒】が発動してるし連環美女計が来る前に自分の足でも刺しておこうかしら。痛みで頑張って正気を保ちましょう。
極力弟の後ろに隠れてやり過ごすつもりではあるけれど無理そうならさくっと。

攻撃は神蝕呪刃で。
極力ずっと張り付いて殴り続けるわ。
全部受け止めるのも危険だけれど、前に出るのなら攻撃を食らうくらいは覚悟していきましょう。催眠攻撃だけは弟の後ろにそっと隠れるね。

クソなんて連呼してて下品すぎるのよ。
それに弟を殴って傷つけた。許さない。潰す。


一ノ瀬・綾音
君は何もわかっていない。
戦略的価値とか、そういう合理的な感情だけで物事は決めるべきじゃない。
そこには人がいるし、文化もある。合理では図れない価値がある。

それすらもわかんない君は……億死を超えて、兆死に値する。

【腐食】の霧を出して相手の認識も曖昧にさせつつ、【完全視界】でこちらは視界のデバフを無効、さらに【飛翔】で飛んで相手の飛行可能アドを潰す。
なるべく舞を直視はせず、近接は防ぎ、ミッドレンジ~ロングレンジを維持。相手の隙を狙って【星光】を放つ!
君に足りないものが何かわかんないまま、消えてもらおうか!
綾音ちゃんは君とは友達になれそうにない!ここで、消えてもらうよ!


●袁・雀蜂(ホーネットガール・g01434)
「ディアボロスだかなんだか知らんが……貴様らがただのクソ猿ではなく、クソ手練れであることは間違いないようだな」
 渋々と(本当に渋々と)貂蝉はウチらの力を認めた。そりゃあ、認めざるを得ないよねー。何度も攻撃を食らったせいでボロボロの状態になってるんだから。『ただのクソ猿』にここまで追い込まれたとあっちゃあ、蟲将の沽券に関わるってもんでしょ。
「手練れだと認めてくれたのなら、『クソ』は外してくれない?」
 無駄だと判っていたけれど、ウチは貂蝉にお願いしてみた。
 実際、無駄だった。貂蝉は『フン!』と鼻を鳴らしただけ。
「今更だけどさー、『クソ』を連呼するのはやめたほうがいいよ。お里が知れるからね」
 と、麻緒ちゃんもお説教したけれど、『フン!』のリアクションが返ってくるより先に肩をすくめてみせた。
「……とか言っても、判らないかー。所詮はムシオババだもんね」
「『ムシオババ』なんて言い方もお里が知れるんじゃない?」
 エリルちゃんがもっともな指摘をした。
 でも、麻緒ちゃんは動じない。
「『オババ』は美化語だよ。だって、頭に『お』がついてるじゃない」
「なるほど」
 いや、納得しちゃダメでしょ、エリルちゃん……。
 そんな二人のやりとりを無視して、ムシオババこと貂蝉は自分に言い聞かせるような調子で述懐した。
「例のクソ村についての考えも改める必要がありそうじゃな。戦略的価値などないと思っていたが、クソ手練れが動員されているからには重要な拠点なのだろう。たとえば、魏か呉のクソ間者のたちの中継所とか……」
「いや、君はなーんにもわかっていない!」
 と、おバカ(ウチも美化語を使ってみました)な推察をぴしゃりと否定したのは綾音ちゃん。
「戦略的価値とか、そういう合理的な感情だけで物事は決めるべきじゃないでしょ! どこの村にだって人がいるし、文化もある! 合理では計れない価値っていうものがあるのよ!」
「ほほう」
 貂蝉はニンマリと笑った。
「むきになってるところを見ると、図星だったようじゃのう」
 いや、図星どころか、何万里も離れてるし。

●三苫・麻緒(ミント☆ソウル・g01206)
「関羽様の領内に間者の中継所を密かに築いていたとは……クソ魏の仕業かクソ呉の仕業か知らんが、なかなかやりよるわ。しかし、そのクソ中継所を見つけ出したとなれば、ワシの名声は今以上に上がり、美勇兼備の将として讃えられるであろうなあ。くっくっくっ」
 ムシオババは見当違いの未来予想図を頭の中に描いてるみたい。ある意味、幸せ者だよね。
「はぁー」
 と、綾音さんが絶望的な顔をして溜息をついた。
「これだけ言っても、まだ理解できないなんてね……君みたいな人は億死を超えて、兆死に値するよ」
「ほざけ! 垓死に値するクソ猿どもが!」
 なんで『京』を飛ばすの? ――と、ツッコむ暇もあらばこそ、ムシオババは奇妙な動きを始めた。麗孝さんたちにも使ってみせたクネクネ踊り。
「パラドクスね……」
 エリルさんが身を身を縮こめるようにして、操り人形の『弟』くんの背に隠れた。その格好が防御として効果的かどうはさておき、姉弟が仲良く戯れているみたいに見えて、ちょっと微笑ましいかも。
 もっとも、ムシオババは微笑むどころか、大声で笑い飛ばしてきたけどね。
「ふはははははは! そんなクソ人形でワシのパラドクスを防げるわけなかろうが!」
 あちゃー。よりにもよって、エリルさんの『弟』くんに『クソ』をつけちゃうとはねぇ。それって、頭から灯油を浴びて体にダイナマイトを巻きつけて火の海にダイブするかのような所業だよ。
「……」
 エリルさんは無言。でも、絶対に怒ってる。これはヤバいタイプの沈黙。
「本当にクソなのはおまえのほうだってーの」
 エリルさんに代わって、雀蜂さんが言い返した。
 けれど、ムシオババは相手にせず――
「そうれ! ワシのクソ傀儡と化して、他のクソ猿どもを斬り捨てい!」
 ――エリルさんをびしりと指さした。クネクネ踊りで彼女を洗脳したつもりでいるんだろうね。
「……」
 無言のまま、エリルさんはゆっくりと太刀を抜いた。鞘から現れた刀身は氷のように透き通っている。
 そして、眉一つ動かさずに殺意と憎悪を剥き出しにするという器用な真似をしながら、その太刀で斬りつけた。
 私たちじゃなくて、ムシオババのほうをね。

●一ノ瀬・綾音(綺羅星の如く・g00868)
 エリルは透明の刀を斜めに振り上げた。
 もっとも、透明だったのは貂蝉の右の腰を切りつける直前まで。左の肩から抜けた時には、貂蝉の血の色――青に染まっていた。
「……ぐあっ!?」
 体をのけぞらせる貂蝉。
 エリルは踏み込んで距離を詰め、また斬りつけた(たぶん、パラドクスの神蝕呪刃を使ってる)。さっきの攻撃を逆向きになぞるように相手の左の肩から右の腰へ。すっごく痛そう。いえ、斬られた貂蝉が痛い思いをしているのは当然なんだけど、エリルのほうも痛そうなの。左の靴の甲のところに長い針が突き立てられて、血がどくどく流れてるんだから。
「あの針はなんなの?」
 私が疑問を口にすると、雀蜂が答えてくれた。
「ウチが貸してあげた暗器だよ。あれを突き刺した痛みでもって、催眠のパラドクスに対抗したんだろうね」
 なるほど……と、感心している間にもエリルは三回、四回と斬りつけたけど、五回目は躱されちゃった。
「クソ猿がぁーっ!」
 貂蝉は後ろにジャンプして、さっきとは違う調子で体をくねらせた。たぶん、雪名やブルーノを相手にした時にも使ったパラドクス。
「透明になったわけでもないのに姿がなんだか見え難くなったね。距離感もよく判らなくいし。困ったなぁ」
 と、上のほうから声が聞こえてきた。『困ったなぁ』と言いつつ、ぜっんぜん困ってるようには思えない声。
 見上げると、そこには麻緒がいた。知らないうちにまた翼を展開して飛んでいたんだね。
「しょうがない。誘導弾に――」
 麻緒が腕を振ると、涼しげなミントグリーン(翼と同じ色だね)の光が撃ち出された。
「――ナビゲートしてもらおっかな」
 魔力で構成されているであろうその光は貂蝉(がいると思われる場所)へと向かっていった。たぶん、人間の五感とは違うなにかで標的を捉えているから、パラドクスで惑わされたりしないんだろうね。
「はい、ロックオーン!」
 麻緒は光を追って急降下。体当たりするかのような勢いで貂蝉へと突っ込んだ。
 そして、翼の一部を鎖のように変形させて――
「ちくっとする程度じゃ済まないからね! お覚悟ー!」
 ――貂蝉の太股を刺し貫いた。確かに『ちくっとする』ようなレベルじゃない。『ぐさっ!!』って感じ。
「ウチの一刺しも『ちくっ』じゃ済まないよー。それに――」
 槍を構えて、雀蜂が舞い上がった。
「――たった一刺しで終わらせるつもりもないからね!」

●エリル・ウィスタリア(雪を待つ花・g00912)
「しぃーっかり痺れさせてあげる! エネルギーはばっちり補給してあるから!」
 麻緒は翼の一部をただ突き刺しただけじゃなくて、それを伝って魔力かなにかを流し込んでいるみたい。自分が提供した『エネルギー』がこういう形で活用されていると知れば、冠文さんも大満足でしょうね。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
 流し込まれている魔力には電流のような性質でもあるのか、ムシオババは体を痙攣させて奇声を発してる。実に無様だわ。でも、私の気は晴れない。晴れるわけがない。たとえ百万の肉片になるまで斬り刻んだとしても晴れないでしょうね。こいつは弟を侮辱したんだから。
 まあ、実際に百万もの肉片にするのは無理だろうけど、三百くらいならいけるかもしれない。青く染まった太刀『風華』を構え直して、私はムシオババに迫った。
 でも、ムシオババは麻緒を何度も殴りつけて強引に鎖状の翼を足から引き抜き、よろけつつも後退して間合いを広げた。
 そして、また踊り出そうとしたようだけれど――
「それ!」
 ――綾音さんが煙幕を張って、視界を塞いだ。
「なんの真似じゃ、クソ猿? パラドクスの産物でない煙幕なんて痛くも痒くもないぞ」
 煙幕の向こうでムシオババがなにかほざいている。愚かなのはどちらかしらね。『視界を塞いだ』とは言ったけれど、塞がれたのはムシオババの視界だけ。私たちには彼女の様子が丸見え。パラドクスの残留効果のおかげでね。
「綾音ちゃんは君とは――」
 綾音さんが飛翔し、煙幕(私たちからすれば、半透明のガス)に包まれたムシオババの真上に陣取った。
「――友達になれそうにない!」
 八つの魔法陣が空中に現れ、綾音さんの前面に集まって一つになり、そこから魔力が迸った。
「君に足りないものがなにか判んないまま、消えてもらおうか!」
「……っ!?」
 脳天から魔力を奔流を浴びて、クソオババは悲鳴を前のめりに倒れ伏した。踏み潰された蛙のような姿。
 それでもなんとか立ち上がったけど――
「おとなしく寝ときなさいって!」
 ――雀蜂さんが急降下して、槍で抉り抜いた。

●終幕
 雀蜂は槍を引き抜いて上昇した。
 だが、貂蝉が猛攻から解放されたわけではない。
 間髪容れずに麻緒が突進し、鎖状の翼をまた突き刺したのだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「よく吠える蛾だこと。煩くてかなわないわ……」
 悶絶する貂蝉の側面にエリルが回り込み、愛刀『風華』を相手の右の脇腹に突き入れ、左の脇腹まで貫通させた。
 そして、すぐに飛び退った。麻緒も同時に退避。頭上から落ちてきた魔力の奔流――綾音の二度目の攻撃に巻き込まれないようにするためだ。
「ぐあっ!?」
 魔力の直撃を受け、貂蝉は再び倒れ伏した。
 今度はもう立ち上がらなかった。いや、立ち上がれなかった。
「ク、クソ猿どもぉ……このワシに向かって……自分に足りないものが判ってないとかなんとか……抜かしおったが……」
 傾国の美姫と謳われた蟲将は体を反転させて仰向けになり、複眼を空へと向けた。
「しかし、ワシは判っておる! ワシに足りないのは運だけじゃ! そう、貴様らのようなクソ猿と出会ってしまうという不運さえなければ! なければぁーっ!」
「やっぱり、なーんにも判ってない」
 やれやれとばかりにかぶりを振る綾音。
「うん。判ってないね」
 雀蜂が頷いた。
 そして、運に恵まれなかったという不幸な美姫めがけて急降下。
 予告通り、一刺しでは終わらなかった。

「こうやって、一つ一つ事件を潰していけば――」
 襤褸切れのような有様の貂蝉の死骸を見下ろして、雀蜂が仲間たちに言った。
「――排斥力だかなんだかいうのが逆に排斥されちゃって、こいつらも好き勝手できなくなるらしいから、これからも皆で頑張っていこう!」
「うん」
 麻緒がにっこり笑い、視線を動かした。
 金百万の価値――クロノヴェーダには絶対に理解できないであろう価値を有する貧しくも豊かな村の方角へと。
「頑張るためにももう一回エネルギーを補充していこうか!」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】がLV4になった!
【平穏結界】LV1が発生!
【腐食】がLV2になった!
【活性治癒】がLV3になった!
効果2【アヴォイド】がLV2になった!
【ガードアップ】がLV7になった!
【ダメージアップ】がLV9になった!
【ドレイン】がLV3になった!

最終結果:成功

完成日2021年10月11日

樊城の戦い:蜀

 『蜀』のジェネラル級クロノヴェーダ・関羽の命令により、荊州の民衆狩りが行われています。
 この民衆狩りは、来るべき『魏』との決戦である『樊城の戦い』の為の雑兵を集める事が目的です。
 蜀軍は、収穫間近な畑を焼き払ったり、村を焼くなどして、人々を難民化させる事で雑兵を増やし、樊城の戦いを大戦乱にしようとしているのです。
 民衆狩りのクロノヴェーダを撃破し、村人たちが兵士となって殺し合いをしなくて済むように助けてあげてください。

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#大戦乱群蟲三国志
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#樊城の戦い:蜀
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#蜀


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選択肢『現地料理を堪能しよう』のルール

 パラドクストレインで現地に向かった後、事件が発生するまでの間、現地の食事を楽しみます。
 ただ食べるだけでなく、料理の作り方を教えて貰ったり、食材を融通してもらう事ができれば、新宿区の人々の食生活が充実するかもしれません。
 詳細は、オープニングの情報を確認してください。

 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【🔑】他の選択肢のリプレイが一度でも執筆されると、マスターはこの選択肢のリプレイを執筆できなくなる。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👾護衛するトループス級『蜀軍剣蟻兵』のルール

 事件の首魁であるクロノヴェーダ(👿)を護衛するトループス級クロノヴェーダ(👾)と戦闘を行います。
 👾を撃破する前に👿と戦闘を行う場合は、👾が護衛指揮官を支援してくるので、対策を考える必要があるでしょう。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「沢山」出現します(現れる敵の数は、オープニングの情報やリプレイの記述で提示されます)。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『この選択肢の🔵が👑に達すると、この敵集団を倒す。完結までにクリアしていない場合、この敵集団は撤退する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👿アヴァタール級との決戦『傾国の美姫『貂蝉』』のルール

 事件の首魁である、アヴァタール級クロノヴェーダ(👿)と戦います。
 👿を撃破する事で、この事件を成功で完結させ、クロノヴェーダの作戦を阻止する事が可能です。
 敵指揮官を撃破した時点で、撃破していないクロノヴェーダは撤退してしまいます。
 また、救出対象などが設定されている場合も、シナリオ成功時までに救出している必要があるので、注意が必要です。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「1体」出現します。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、敵を倒し、シナリオは成功で完結する。ただし、この選択肢の🔴が🔵より先に👑に達すると、シナリオは失敗で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※このボスの宿敵主は「袁・雀蜂」です。
※クロノヴェーダには、同じ外見を持つ複数の個体が存在しますが、それぞれ別々のクロノヴェーダで、他の個体の記憶などは持っておらず、個体ごとに性格なども異なっています。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。