リプレイ

●対価は情報でも
　ラウム・マルファス（研究者にして発明家・g00862）は開けた場所で、新宿島から持ち込んだ保存食や医薬品を広げた。
「マルファス薬品店だヨ。お代はお金じゃなくて情報でもいいヨ」
　価格は安めに設定しているが、払えない場合は情報でもいいと告げる。
　そんなことを言う胡散臭い人物に、皆警戒していたが薬が欲しいのは事実。徐々に人が集まって来ていた。
　保存食を売り、症状を聞きつつ適切な薬を渡す。
　怪我が酷い者が居たら、その場で簡単な手当てを施した。
「そーそー、最近人攫いが出るんだっテ？　怖いよネ」
　手当をしながら何気なく話を進める。
「ああ。よく女性や子供が居なくなるんだ」
　それに男は、手当てを受けながら最近の出来事を話す。
「美人サンが狙われるノ？　じゃあボクは大丈夫カナ？　この辺で狙われそうな人、いル？」
「あんた、この辺じゃ見ない顔だが、あんたがその人攫いじゃないよな……？」
　狙われそうな人物を尋ねれば、当然疑いの目を向けられる。
　獲物を探しているように見えたのだろう。人攫いと勘違いされたラウムは男に笑顔で話しかける。
「えーボクは人攫いじゃないヨ、ほら売り物に美人サンなんてないデショ、アハ」
「……疑ってすまない」
「いいヨ。いいヨ」
　冗談めかして言うラウムに男は勘違いのようだと謝罪した。
「あぁそうだ、発煙筒あげル。人攫い見かけたらこの紐引っ張っテ。その後適当に置いて逃げて良いカラ。知り合いにも配ってあげテ」
「わかった」
　手当の終わった男に発煙筒を手渡す。使い方を教え、これがあれば助かる可能性があると告げた。
　これで、何か起きればすぐに駆けつけることが出来るだろう。
　その後もラウムは販売を続けた。


●炊き出しと手伝い
　薬品の販売や手当をラウムに任せ、夏候・錬晏（隻腕武人・g05657）は炊き出しをすることにした。
　横長の大きな机に、新宿島から持ち込んだ鶏粥や肉饅頭を、食事した物を増やせる【口福の伝道者】を使い増やし、並べていく。
　食べ物の匂いに釣られ徐々に人が集まってくる。
　少しでも安心して貰えるように、今回の錬晏の格好はマントを羽織り行商人を装ったものだ。
　更に警戒されない様に得物である黒龍偃月刀は炊き出し用の長机の下に隠しておく。
「何か困りごとはないだろうか？」
「そうだな……」
　炊き出しの食事を配りながら錬晏は一人一人に状況を尋ねる。
　困りごとで多かったのは瓦礫の撤去や建物の修繕といった力仕事だった。
　錬晏は手伝いを申し出ると、各場所を回り力仕事をこなしていった。
　その際、大きな建物を見つけ話し合いの末、そこを一時的な診療所にする事に決まった。
　これからは配給と診療の列を分けることが出来るだろう。
　こうして力仕事を終え、小腹を空かせた錬晏は食べ物を口に運び【口福の伝道者】で増やす。
　炊き出しで食事を配る他、少しでも今後の備えになる様に、乾燥果実や干し肉、干し芋を増やし一緒に配ったのだった。




●悪党ども、そこまでだ
　建物の上。
　獅子堂・崇（破界拳・g06749）は人攫いの現場を探す為、周囲を観察していた。
「借金が返せないなら、娘は貰っていくぜ！」
　怒号が響く。
　声のする方へ視線を向ければ、そこには借金のかたに娘を連れて行こうとする、ならず者たちが居た。
「演技は苦手なんだが、やるしかないか」
　今回は派手に事件を解決させなければならない。
　その為の大立ち回りを思い浮かべつつ頭を掻くと、意を決して飛び降りた。
　颯爽と地面に降り立つ崇。
　そして、周りに聞こえるような声で叫んだ。
「そこまでだ、悪党共！　この許昌で好き勝手が出来ると思うな！」
「何者だ！」
「お前達悪党に名乗る名前はない！　とりあえず正義の味方とでも言っておこうか」
「はっ笑わせるな。おい、こんな奴無視してさっさと行くぞ」
　自称正義の味方の登場を鼻で笑うと、ならず者たちは娘を担いで崇の横を通り過ぎようとする。
　勿論そのまま通すわけはない。
　崇は横に動き行く手を遮った。
「守った人達をこんなやり方で苦しめようとするとはな。許せんな。止めさせてもらうぞ」
　崇の行動にならず者たちは舌打ちすると、踵を返し反対方向に進もうとする。
「暴力による理不尽な搾取や略奪……俺の最も嫌う行いだよ。被害者が増える前に何とかしないとね」
　しかし反対方向は既に穂村・夏輝（天使喰らいの復讐者・g02109）が塞いでいた。
　逃げ道をなくしたならず者はあろうことか、担いだ娘の首元に刃物を突き付けたのだった。
「近付くな！　この娘がどうなってもいいのか？」
「そんな悪事が罷り通ると思っているのかい？　解放すれば、痛い目に遭わずに済むよ」
　近隣の人々が固唾を呑む中、夏輝はじりじりと距離を詰めていく。
　包囲網が徐々に狭まる。
　二人のプレッシャーに耐えられなくなったならず者は、ついに刃物を前に向け無造作に振るい始めた。
「アンジェ！」
　その瞬間、夏輝が声をあげる。
　夏輝の言葉に応え、オラトリオ『アンジェローザ』が茨を伸ばし、一瞬にしてならず者は捕縛された。
　その隙に合わせ、崇が残りのならず者を衝撃波で吹き飛ばした。
　そして、ぐるぐる巻きにされ道の真ん中に座らせられるならず者。
「罪には相応の報いが必要だよね？　耳？　それとも鼻を削がれたい？　それとも命で償う？」
　顔を寄せ凄む夏輝にならず者が怯える。
「く、くそっ！　これじゃあ褒章を貰えねぇ……」
「お前達は蟲将に騙されているぞ。曹操は許昌には戻らない」
「それじゃあ、褒章は？」
「そんなものあるわけないよね」
「そんな……」
　崇と夏輝の言葉にならず者たちはガックリと項垂れる。
「こんなことしてても無駄だ。それにここの平和は俺達が守っていく。だから教えてくれ。お前達を騙した相手はどこにいる？」
　崇が問いかければ、ならず者は諦めたように、その居場所を話し始めた。
「あとは、キミに償いの機会を与えるためにも少し協力して欲しいんだ」
「わ、わかった。何でもする……」
　ならず者に案内と協力を取り付けると、早速黒幕の潜伏先へと向かうのだった。




●軍事施設。資料を探して
　復興支援をある程度済ませ、ラウム・マルファス（研究者にして発明家・g00862）は次の行動に移る。
「町の方はとりあえず大丈夫そうだし、ボクは調査に行ってみよウ」
　用心の為、ラウムは迷彩化ドローンで姿を隠しつつ軍関係の施設へ向かった。
「食料の動きから人の移動を想定するのが良いのカナ」
　調べる物を考えながら歩くラウム。
　辿り着いた軍事施設の前に人影が見えた。
　ラウムは警戒しながら近づいていく。
「ここが復興支援の最中に聞いた、蟲将らが使っていた施設」
　人影の正体は夏候・錬晏（隻腕武人・g05657）だった。
　錬晏は軍事施設を見上げながら言葉を漏らしていた。
　見知った顔に警戒を解いたラウムが話しかける。
「あれ？　錬晏も調査カナ？」
「ん？　ああラウム殿。復興支援中にここに施設があると聞いたのでな」
「そうなんダ。それじゃ一緒に調べようカ？」
「そうしよう。手分けして調べた方が早いだろうしな」
　二人は施設の中へと足を踏み入れた。
　施設の中は物が散乱していて、しんと静まり返っていた。
　既にもぬけの殻で、軍事施設としての役割を果たしていない。侵入した身としては好都合だ。
　早速資料室らしき部屋に入ると、二人は別れて資料を探し始めた。

　錬晏は考えを巡らせながら棚を調べていく。
　他での調査で得られた魏軍の動きは大きく２つ。
　許昌での籠城戦と、呉軍殲滅のための大規模遠征だ。
「前者は阻止した。後者は呉軍を私達が先行して叩いているが……どうなるかな」
　現在の状況を口に出して確認する。
「蟲将の動きより、贄のような扱いを受ける一般人の動きを追ったほうが確実だろうか」
　民の犠牲といえば、もうひとつ。洛陽郊外の、森に埋められた者たち。思いついたその辺りの資料もないかついでに調べ始めた。
「ココから出る人と食料の動きは他で調べてたから……何処から人を徴兵してるかと、訓練拠点を探してみよウ」
　ラウムの方は机や床に散らばっている資料を拾っては目を走らせていた。
「連れてくる前に行軍の訓練くらいするかもだし、ついでに食料も持ってこさせるだろうしネ」
　人員の移動、食料の輸送先。これらから訓練拠点のおおよその位置は絞り込めるはず。
　しばらく資料を漁った後、二人は合流した。
「この辺の資料を調べれば訓練拠点の場所も見つけられるカモ。そっちはどうだったカナ」
「目的の物のついでに洛陽郊外についても調べたんだが」
「あれネ。森に埋まってた人は兵じゃなかったハズ」
「それで気になったんだ」
「何か分かったノ？」
「いいや」
　錬晏が首を横に振る。
　探しては見たものの、許昌の者が洛陽に行ったという記録は見つからなかった。
　人員を確保するにも、近場からの方が都合がいい。そう考えれば埋まっていた人々は洛陽周辺の者の可能性が高いだろう。
　ならばここにその資料がないのも頷ける。
　二人は他の蟲将の関係施設も回って資料を集めて回った。
　そして集まった資料を合わせて考えると、やはり魏軍は許昌の籠城戦で勝利した後、呉を滅ぼす為の大規模遠征を行おうとしていたという結論に至る。
　資料が多ければ多いほど、敵の目的が推測から確実な物へと変わっていく。
　二人は手に入れた資料を持ち帰る為、施設を後にした。






●極上の献上品
　ならず者の拘束を解き、蟲将の潜伏先へ案内させる事にした。
　その理由は、ならず者たちが助かりたいが為にその場しのぎで嘘をついていた時、手がかりを失わないようにする為の保険。
　それと、献上品を納めに来たことにして、敵を油断させる為だ。
「作戦には乗ったが、上手く化けたものだな」
　目の前の人物をまじまじと見つめ、獅子堂・崇（破界拳・g06749）は驚いていた。
「些か不本意だけど、俺に出来ることなら何でも……いや、可能な範囲でやるよ」
　その目の前の人物――穂村・夏輝（天使喰らいの復讐者・g02109）が不満顔で呟く。
　長い紫の髪に色白の肌。そこに少しの化粧を施し、この世界に合わせた煌びやかな服を着こめば、女性と間違われる容姿と相まって、とんでもない美人の完成だ。
　ならず者たちもその美しさについつい見惚れていた。
「そんな目で見ないで欲しいな。俺にそっちの趣味はない……」
　自分の男らしくない容姿に悩んでいる夏輝としては、その視線は不快でしかなかった。
「それじゃあ案内して貰おうか……いや、案内して貰えます？」
「あ、ああ……」
　口調で男だとすぐにバレない様に言葉遣いと声音を変え、ならず者に促す。
　頷いたならず者が夏輝に縄を巻くと、目的地に向かって歩き始めた。

　その頃、別の依頼を済ませた夏候・錬晏（隻腕武人・g05657）は、慣れない事をして固まった体を伸ばし呟いた。
「さて、今回探れるところはここまでか」
　そして、本来の作戦へと合流する為、家屋の上を【光学迷彩】を使い姿を隠しつつ、先行している仲間を追ったのだった。

「ここです」
「ほう。ここが蟲将の潜伏している場所か」
　扉の前で崇が声を漏らす。
　路地裏を縫う様に歩いた先に目的の場所はあった。
「では、手はず通りにお願いしますね。その後は逃げていいので」
「わかった……」
「そんな顔では怪しまれます。普段通りの悪ーい顔をお願いします」
「こうか……？」
　夏輝の指摘に、頑張って普段通りを装うならず者。
「まあ、そんなもんだな。それじゃ作戦通り俺は物陰に隠れて様子を見てるからな」
　ようやくそれっぽさが出たところで、崇は夏輝とならず者を残して姿を隠した。
　扉を開け奥へと進んでいく。
「へへっ、どうも……」
　三体の魏軍硬殻兵の前で、小物っぽく頭を下げるならず者。
　怪訝な面持ちでならず者を見つめるとその中の一体が口を開いた。
「今日は定時連絡の日ではないはずだが？」
「ええ。今回はとんでもない上物を手に入れましてね。これは是非ともすぐに献上しなければと思いまして」
「そいつがそうか？」
「はい」
「俯いていては顔が見えん。おい、女。顔を上げろ」
「……」
　ゆっくりと顔を上げる夏輝。内心男とバレないかひやひやしながら、反応を窺う。
「ほう……これは確かに上物だ。これならあの方も喜ぶだろう」
　蟲将の貢物として合格を貰った事に、夏輝は複雑な思いだった。
「いまだよ、アンジェローザ」
　蟲将の元へ案内しようと魏軍硬殻兵が背を向けた瞬間、縄を引き千切り夏輝が声をあげる。
　刹那、死角に姿を現したオラトリオ『アンジェローザ』の翼から発射された光線が魏軍硬殻兵を焼いた。
「何っ！？　敵か！　お前ら裏切ったな！！」
「ひぃぃ」
　怒った魏軍硬殻兵がならず者に槍を突き出す。
「おっと、やらせない。こんなでも一般人を見殺しには出来ないんでね」
　しかしその槍は、ならず者に届くことなく崇によって受け止められた。
　次の瞬間、そこらじゅうで突如爆竹が破裂し、辺りに破裂音と煙が巻き起こった。
「遅くなった」
「いいや。タイミングばっちりだ。おい、今のうちにさっさと逃げな」
　崇に促され、怯えたならず者たちは、一目散に逃げだして行った。
「ごろつきは……まあ体よく逃げるかな？　これに懲りて、蟲将らにはもう加担しないことを祈ろう」
　奇襲と爆竹により場が混乱する中、錬晏は声をあげ動き出した。
「一人一体。行けるな？　はっ！！」
「勿論。アンジェローザ！」
「お前たちの悪事はここで終わりだ。一撃必殺だ。止められるもんなら止めてみろ！」
　錬晏の黒龍偃月刀の一振りが。夏輝とアンジェローザの連携が。崇の肘打ちが。態勢を立て直す隙も与えず魏軍硬殻兵へと襲い掛かる。
　作戦は上手くいき、魏軍硬殻兵は為す術なく倒れ伏したのだった。
　そして三人は、そのまま黒幕である蟲将の元へと向かった。










●黒幕との決着
　建物内に静寂が訪れる。
　トループス級を倒し、ディアボロス達は一息ついた。
「自分の作戦とはいえ恥ずかしい目に遭った」
　敵地ではあるが、このまま女装したままでいるのは嫌だと、穂村・夏輝（天使喰らいの復讐者・g02109）は手早く化粧を落とし服を着替えた。
　夏輝が着替えを終えた頃、辺りの空気が変わった。
　足音を響かせながら姿を現したのは、今回の事件の黒幕。アヴァタール級『穎才の謀臣・郭嘉』だ。
「騒がしいと思えば、侵入者ですか……」
　ディアボロスに視線を向け、ため息を吐く郭嘉。その顔には心底面倒くさいという表情が浮かんでいる。
「残りは首魁、郭嘉だけか……」
「お前がこの事件の首謀者か。ここで討たせてもらうぞ」
　黒幕の登場に、夏候・錬晏（隻腕武人・g05657）と獅子堂・崇（破界拳・g06749）がすぐさま声の方向へと向き直り、声をあげる。
「そんなこと言わずに、お帰り願えませんかね？　私は今、貴方達と争うつもりはないんですよ」
　郭嘉は笑みを浮かべ手を上げると、戦闘の意思はない事を告げる。
　しかしここで「はいそうですか」と帰るわけにはいかない。
「そちらに無くても、俺達にはあるんだよね。街を悪徳で染め上げようとした報い、ここで受けてもらうよ」
　夏輝は郭嘉の願いを拒否する。その言葉に郭嘉の眉がピクリと動いた。
「今回は誘拐か。相も変わらず三國の連中はインセクティアの評判を下げるような真似しかしませんねぇ。……さっさと潰しましょうか」
　風評被害は迷惑だと黄泉王・唯妃（灰色の織り手・g01618）は怒りを顕わにする。
「構ってる暇などないというのに……帰ってくれないのならば仕方ないですね」
　郭嘉から殺気が放たれる。
　夏輝は身構えると皆に声をかける。
「相手はこちらの看破に優れた相手。看破される隙を与えずに倒すのが理想かな」
「油断ならない相手だネ」
　言葉を返すラウム・マルファス（研究者にして発明家・g00862）。
「こっちの動きを見抜いて仕掛けてくるのなら、それを越える一撃を叩き込むまでだ」
　崇は掌に拳を打ち付け、気合を入れる。
「許昌を返してもらうぞ」
　錬晏は黒龍偃月刀に赤い闘気を纏わせ構えた。
　各々が臨戦態勢に入っていく。
　郭嘉の方も四方八方に糸を伸ばしていた。それを見た唯妃が声を漏らす。
「おや？　糸使い――の類の方ですか貴方？」
「ふふ……ここは私の領域。好き勝手出来るとは思わない事です」
　唯妃の言葉には答えず、郭嘉は不気味な笑みを浮かべた。
　許昌の誘拐事件、最後の戦いが始まった。

　互いの攻撃が飛び交う。
　唯妃は建物の柱に身を隠す。その直後、柱に矢が次々と突き刺さる。
　錬晏が黒龍偃月刀を振るうが、そのタイミングは予測されていた。斬撃は郭嘉に届かず、目の前の糸の束によって止められてしまった。
　咄嗟に距離を取るため後退する錬晏。
「一筋縄ではいかない相手だな。さて、どうするか……そんな思考も読まれている気がするが、何もしないよりはましだ」
　錬晏は短く息を吐き気合を入れ直す。
　そして煙幕を張った。
　そこに同じ考えだったラウムが同じく煙を出した。
　偶然タイミングが重なって、大量の煙が建物内に充満していく。
「あらら、煙多すぎたネ」
「流石に何も見えないな」
　煙が濃すぎて視界は真っ白だった。
「見えないのは敵も同じだよネ。その間に色々準備しちゃウ。煙はすぐ晴れるだろうしネ」
「それもそうか。なら私もこの隙に動くとしよう」
　視界が悪い中ディアボロス達は動き出す。
「換装完了。さァ、行っておいデ」
　ラウムはカラス型ドローンに爆薬を搭載して壁の方へ放つ。更に続けて白猫型のドローンを出し、取り付けた爆薬の爆発の勢いで加速させ郭嘉に突っ込ませた。
　煙に紛れ白猫型ドローンが郭嘉に襲い掛かる。それを援護するように【フライトドローン】に乗ったラウムがイバラの冠を投げる。
　攻撃に即座に対応する郭嘉。しかしその全てが囮だった。ラウムが笑みを浮かべる。
　次の瞬間、壁伝いに迂回していたカラス型ドローンが郭嘉の背中に突撃。爆発した。
「ぐ、あ……流石にこの数の差はきついですね」
　郭嘉は踵を返し煙に紛れ裏口へと走り出す。
　しかしその行動は、糸に絡めとられ失敗に終わった。
「私でさえ、神速などとは言えない程度の手さばきでしかありませんが。それでも貴方よりは十分に速いんですよ。さぁ、貴方の生命も運命も絡めとってあげましょう」
　煙が徐々に晴れる。糸の先には郭嘉を睨みつけて立つ唯妃の姿があった。
　郭嘉が糸から抜け出そうと藻掻くが、粘性を持つ糸はその度に体へと巻き付いて離れない。
「アンジェ、咲かせるんだ。雪中にも咲く花々を！」
　夏輝がオラトリオ『アンジェローザ』に向かって叫ぶ。
　アンジェローザが夏輝の声に応え力を開放。
　空中、床、そして郭嘉の体。至る所に氷の花が咲いていく。
「肢の一本でも両断してやる」
　そこへ飛び掛かる錬晏。駆け抜ける様にして黒龍偃月刀を振り抜く。
　片肢が切断されバランスを崩した郭嘉は、糸に絡まれ受け身も取れずに床へと転がった。
「計画は始まったばかりだというのに……」
「これ以上許昌を混乱させる真似は許さない。これで終わりだ。蹴り貫く！」
　高く跳び上がっていた崇が叫ぶ。
　片足を前に突き出し急降下。足に円錐状に赤い光が集まり推進力となって加速を始めた。
　倒れている郭嘉に向かって崇の跳び蹴りが炸裂。
「曹操様……申し訳、ありません……」
　郭嘉は最後の言葉を残し、そのまま動かなくなった。

最終結果:成功
完成日	2022年08月25日