リプレイ
シル・ウィンディア
愛称かぁ。たしかに、一気に距離が近づく感じがするもんね
ん-、この子達に似合う呼び名、かぁ…
到着したら、まずは挨拶からだね
こんにちわっ!
ねね、少しおしゃべりしていってもいい?
テーブルの席に着く前に、ちゃんと聞いてからだね
許可がでたら、席についてと…
ふと、おしゃべりしようとしても…
ねね、あなた達のこと、何て呼べばいいの?
と、話を振ってみよう
呼び方を聞かれたら…
ん-、色とりどり、とっても綺麗だよね~
そんなあなた達に似合う呼び名かぁ…
なやんでなやんで…
うん、これで行こう
ねね、『虹の乙女』ってどうかな?
色とりどりなあなた達のお花や葉っぱからとってみたんだけど…
気に行ってくれたらいいんだけど…
ソレイユ・クラーヴィア
言葉を交わすだけで争いを回避できるなら、それ以上の戦果はありません
以前に別所で出会った植物達も優しく賢明でしたので
一度落ち着いて話をしてみたいと思っていました
良ければ私にも花蜜ソーダを頂けますか?
と、頭上の花を仰いで声をかけます
甘く弾ける清涼な心地が喉を滑り降りたなら
笑顔で美味しい、と感謝を述べます
甘やかに涼やかに
正に木漏れ日と森を駆ける風の様です
飲み物を頂いたお礼に、私からも贈り物をさせてください
姫君達には名前が無いのですか
では、と視線を巡らせた先に垂れる純白の花穂へ
「初雪の君・ネージュ」の名を贈りましょう
天空より枝垂れる花は、この地で初めて見た雪の様に思えたから
気に入って貰えたなら光栄です
四葩・ショウ
こんにちは、可憐な貴方たち
とってもすてきな場所だね
え、
ごちそうになってもいいの?
何か、手伝うことはあるかな
わたしはショウ
貴方たちのことは、なんて呼んだらいいかな?
そうなんだ、それなら……
ねえ、『ファルファッラのレディ』って呼んでもいい?
しゃらしゃらりと風に踊ってうたうような
可憐な貴方にぴったりの響きだと思うんだ
……どう、かな?
気に入ってもらえたのなら
触れても、いやじゃない?って断ってから
その可憐な一房へと
恭しくキスを落とすようにやさしく
夢のようなすてきなひとときを有難う――ファルファッラのレディ
……なーんて、囁いて
アイン・トロイメライ
同行:リヴィアさん
後の世界樹踏破のため選択パラドクスで下準備(【エアライド】の発動)
あら、ジュースと席がセットされてるわ!
あなた(花木)達が用意してくれたの?
お茶会はとっても大好きだから大喜びだわ
リヴィアさんも席に座っても一緒に飲みましょう、ってお誘いをかけるわ
緊張していたら声掛けしてリラックスしてもらいましょう
…そう、あなた達も素敵な呼ばれ方が欲しいのね
じゃあ美味しいジュースを出してくれたお礼に考えてあげる
そうね…甘い花の香りと綺麗な囁き声に因んで『香しき甘鈴揺らす君』…なんていかがかしら?
リヴィア・メルビル
アインさん(g00491)と
名前が欲しいって。気持ちはわかる。
それって大事なものだから。一括りにされるのって。なんだか違うし。
ちゃんと考えて。つけてあげたい。
…でも。その前に。
世界樹踏破のために。【アイスクラフト】を。
足場くらいには。なると思うし。
…氷の花を咲かせてみたいけれど。
あれは奪う力だから。使いどころは。考えなきゃ。
それから。アインさんと一緒に。お茶会を。
素敵な場所だし。貴方たちが。悪い人だなんて。そうは思えない。
ジュースもとっても美味しいし。本当は、優しい人たち?
それなら、友達。
友達なら、素敵な名前を。
名前は…そう、「薄明の君」とか。どう?
花びらの色からとってみたけれど。似合うかな。
銭丸・架冩刻
とても綺麗なところだね
大きな建物が並ぶ地も面白くはあるけれど、やはり自然が美しい地の方が落ち着くね
やぁ、お花さん達。
ふんわり咲き誇る姿がなんとも綺麗だね。とろろちゃん(ミニドラゴン)もそう思わないかい?
おっと、勝手に足を踏み入れてろくに名乗りもしないで失礼をしたね。
私は銭丸という者です、それからこちらは私の連れのとろろ。どうか仲良くして頂けると幸いだ。
レディ達(…で良いのかな?)は、とても素敵な香りだね。それにふわりと咲く姿が羽の様で可憐だ。
甘い香りの羽姫さん達、貴女達の事を親愛を込めて「フラフィ(Fluffy)」とお呼びしても良いかい?
…なんて、じじいに言われても困っちゃうかなぁ
●花迷宮の蝶花達
極上の夢にも似た、麗しい世界に囚われる。
時空を超えたパラドクストレインを降り立った時には天高く聳える巨大な世界樹の偉容とともに確かな青空を仰いだのに、迷宮の森へ足を踏み入れた途端、世界は麗しい初夏の宵を迎えたかのよう。
美しい花木達、知恵ある植物達。
明るい緑の羽根めいて風に踊る葉の間から、小さな蝶を思わす花が数多咲く花穂を覗かせる、知恵ある花木達。
新宿島ではニセアカシアの名で呼ばれるだろう花木が豊かに茂らす枝葉で天を覆えば、森を抱くのは夜闇を透きとおらせた羽衣を思わす薄闇で、柔らかな風が流れるたびに銭丸・架冩刻(jäätelö・g00133)は極上の薄絹で肌を撫でられる心地。
優しくも艶めかしい風は、陶然となるように甘い花の香を孕み、
「――おっと。いけないね、初夏の宵の逍遥を心ゆくまで堪能したい気分になってしまいそうだ」
「ええ。力尽くで行く手を阻む迷宮ではなく、侵入者を魅了して森の深みへ誘い込む迷宮なのでしょうね」
竜人の翁が緩くかぶりを振ればソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)は青と金の双眸を細めて、森の花々を仰ぎ見た。豊かな緑の合間から光を咲き零れさせるのは、純白の光の蝶を思わす小花が数多咲く花房。それは白藤めいて、淡桃の花々が咲き初めるものは紅藤めいて、薄紫に咲き匂うものは青藤めいて、
自らほんのり輝いて、迷宮の森に夢幻のあかりを燈しだす。
魅了の魔法が働いているわけではない。森の息吹に潤された風の心地好さも、妖精郷という土地柄ゆえに少々不思議な花の美しさも甘い香りも、この森の在るがままの魅力。
高層建築が立ち並ぶ街も面白いけれど、やはり美しい自然の中にいる方が落ち着くね――透きとおる竜翼を快さげに震わせ呟く架冩刻に、きゅるる、と喉を鳴らして彼のミニドラゴンが同意する。その微笑ましい光景に眦を緩め、ソレイユは辺りへも眼差しをめぐらせながら森を歩む。
魅了の魔法はなくとも、知恵ある花木達は時にひそりと枝葉を編んで道を隠したりもするのだろうか。どうやっても迷宮を抜けられぬとなれば森を斬り開くような強硬手段に出るしかなかったのだろうが、言葉を交わすだけで荒事を避けられるならそれに越したことはない。
「以前に出逢った知恵ある植物達が優しく賢明でしたので、一度落ち着いて話をしてみたいと思っていたのですよね」
「成程なぁ。齢は食っちゃいるが私はこれが覚醒後の初仕事でね、良ければそのときの話を聴かせてもらえるかい?」
竜人の絵描きが興味深げに訊いたなら、勿論です、と演奏家の少年は微笑み返す。
迷宮の森に夢幻のあかりを燈す花々は、柔らかな風が吹くたびにしゃらりしゃらりと揺れるけれど――、
今はまだ、ディアボロス達に語りかけてはこない。
大切に懐に秘めたままの青き音楽プレーヤーを意識すれば、胸の奥に遠い日の姉の声が甦る。
優しく手を引いてくれる姉が名を呼んでくれるたびに、リヴィア・メルビル(虚の大鯨・g00639)の胸には光みたいな歓びに満ちた。今は光を奪われ空虚な闇があるばかりでも、あの歓びは覚えている。この花木達が名を欲しがるのも理解できる。
――それって。大事なものだから。
ちゃんと考えて贈ってあげたい、と振り仰いだのは豊かな緑と美しい花で初夏の宵を織り成す迷宮の森の知恵ある花木達。涼やかで嫋やかな風に揺れ、夢のような光を踊らす花穂が不意にしゃあらりと揺れた。優しく花を撫でた風にとけたのは、
柔らかな光に心まで蕩けていきそうな、甘い花の香り。
花の香りにアイン・トロイメライ(子どもの夢でさようなら・g00491)は薔薇と柘榴を思わせる双眸を細めて、己が力で軽やかに操作した気流が世界に燈した、空中跳躍を可能にする力に満足気な頷きひとつ。
「これで【エアライド】はばっちりね! リヴィアさんのほうはどう?」
「うん。私も今のうちに。【アイスクラフト】の。力を」
明るく弾むアインの声音に小さな笑みで応え、リヴィアは蒼氷めいた魔力の翼をほんのりと輝かせる。相手の命も温もりも奪って咲き誇る氷の花を咲かせることなく――氷の立方体を組み合わせた壁の創造を可能にする力を世界に燈した。
迷宮の森を抜けた先に待つ、世界樹迷宮の第一層。今はまだ見ぬそこでこれらの力を役立てるために。
まずは、極上の夢にも似た麗しい花迷宮の、更なる奥へ。
妖精達を招く術で、十二のレイピアを招く術で。
其々に空中跳躍を可能にする力を世界に燈したなら、知恵ある花木達の迷宮の森、麗しい初夏の宵を思わせる花迷宮を思い思いに歩んでいたシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)と四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)、淡青の花を咲き零れさせる樹と薄紫の花を咲き零れさせる樹の木陰を通り抜けた二人の行く手が重なった。
「ね、そろそろ辿りつけそうかな?」
「うん、もうすぐじゃないかな。そんな気がする」
蒼穹の瞳を輝かせるシルの様子に花の色の双眸を細めてショウは、夢のような花々のあかりに導かれる心地で先を見遣る。目指すは迷宮の森の中心部にあるという空間。
柔らかな光の蝶が数多咲き零れるような花穂、光だけでなく甘い香りをも降らせる花々を見上げ、彼女達に似合う呼び名にシルは思いめぐらせて、
「愛称かぁ。たしかに、一気に距離が近づく感じがするもんね」
「特別な呼び名ってそうだよね。わかるよ、すごく」
何気なく呟けば、ショウから柔い微笑が返った。
刻逆にそれまでの日々を奪われてからは本名にささやかな変化を加えた名で生きるショウ。今の己にとっては本名こそが、大切な家族と友達だけが識る特別な呼び名だ。懐かしい日々を胸に燈しながら森をゆく。
限りなく優しい薄絹のように二人を撫でてゆく風が、夜闇を透きとおらせた羽衣みたいな薄闇で森を抱く樹々の梢の、緑の羽根めく葉をさざめかせたなら、柔らかにしゃらりと揺れる花穂からはほんのり光る白い蝶の群れが羽ばたくかに思えて。
蕩けるように甘い花の香りに知らず眦を緩めつつ歩めば不意に視界が開け、森の中の秘密の花園めいた空間に辿りつく。
緑の羽根めいた葉がふうわり重なる天蓋は外よりも低めで、甘やかな香りと光をほんわり燈す花々も近い。周りを見遣れば瞳の高さに、肩の高さに花穂を咲かせる花木達もあり、空間の中央には美しい木目を見せる木材で創られ、艶やかに磨き上げられたテーブルセットが据えられていた。
今まで言葉を語ることのなかった知恵ある花木達。だが、ここでなら自分達と言葉を交わしてくれるはずだ。
辿りつけたなら、まずは挨拶を――それは二人ともが胸に抱いていたことだったから、
「こんにちは、可憐な貴方たち。とってもすてきな場所だね」
「だよね! こんにちはっ! ねね、少しおしゃべりしていってもいい?」
『こんにちは。可憐だなんて嬉しいわ、麗しいあなた!』
『こんにちは、おしゃべり大歓迎! 私達は皆、お話しするの大好きだからね』
親しみやすさに爽やかさを重ねた笑みでショウが、溌剌と咲く明るい笑みでシルが、知恵ある花木達に語りかければ、花々が柔くしゃらりしゃらりと揺れて、歓迎の言の葉が聴こえてきた。花蜜ソーダはいかがかしら、と訊かれ、
「ごちそうになってもいいの? 何か、手伝うことはあるかな」
『ふふ。それじゃお願いしてもいい? 私達の梢よりあなたの手のほうが器用だと思うから』
瞬きひとつしてショウが訊き返せば、するり伸べられた枝が差し出したのは硝子のデキャンタを思わす品。中でしゅわりと気泡を唄わせているのが花蜜ソーダだろう。いつのまにかテーブルに並べられていたグラスにそれをどうぞというわけだ。
わたしはショウ、と名乗る仲間にシルも倣って、二人は互いの意を察して言を継ぐ。
貴方たちの、あなた達のこと、
――なんて呼んだらいい?
二人が自然な流れで話を振れば、花々の柔らかな光がきらきらと踊った。
知恵ある花木達は数多咲き零れる花穂をしゃらしゃらしゃらりと飛びきり嬉しげに揺らして、こう答えた。
――あなた達に、私達の呼び名を……愛称をつけてもらっても、いいかしら?
●花迷宮の花蜜杯
花の蜜を採集した蜜蜂が作りだすのが蜂蜜だ。
ゆえに――蜜蜂が介在する前の花蜜は、新宿でも味わえるアカシアの蜂蜜とはまた異なるもの。そして妖精郷という世界に芽吹いて育まれた花木であるためか、その花蜜のソーダは透きとおりながらほんのりと光を孕む。
知恵ある花木達が屈託なく歓迎してくれたのは、まずは邪悪かどうか確かめてから、というのもあるだろうが、それよりも何よりも、二人が挨拶で訪問者としての礼儀を示したからこそだろう。
「んー。あなた達の花、色とりどりでとっても綺麗だよね~。そんなあなた達に似合う呼び名かぁ……」
「花蜜ソーダをいただきながらゆっくり考える……なんてのはどうかな? はい、どうぞ」
早速悩めるシルに涼やかに気泡が唄うグラスを勧めて、ショウは自身の杯にも花蜜ソーダを踊らせる。杯もデキャンタも、硝子ではなく水晶のごとく硬質化した樹脂から作られたものと聴けば、それ越しに見る花蜜ソーダもいっそう幻想的。
花冠と林檎発泡水のひととき、先日のそれをソレイユが思い起こしたのは、この空間に辿りついた時のこと。花々を仰ぎ、良ければ私にも花蜜ソーダをいただけますか、と言いかけて、
「やぁ、お花さん達。勝手に森へ入り込んですまないね。私は銭丸という者です、それからこちらは私の連れのとろろ」
『きゅるる、きゅる』
「失礼、私はソレイユと申します。私達も御一緒させていただいてよろしいでしょうか?」
流石は年の功、架冩刻が小竜とともに知恵ある花木達へそつなく挨拶する様に、少年も襟を正す思いで彼に倣った。
『御丁寧にありがとう! 勝手に花を摘んだり枝を折ったりするような輩でなければ歓迎よ!』
『まだまだ席はありますもの、不思議な瞳のあなたもどうぞ花蜜ソーダを召し上がってらして』
花々に迎え入れてもらえたなら、仲良くして頂けると幸いだ、と朗らかに笑みつつ架冩刻は思案ひとつ。
――世界樹迷宮に入れたなら、とろろちゃんは召喚解除でお留守番してもらったほうがいいかな。
敢えて飛翔する作戦で挑むのでなければ小竜にも翼を使わせるわけにはいかないし、小竜は空中跳躍も使えない。抱っこやおんぶで行けそうな気もするが、身軽な状態で挑むのが最善のはずだ。
硝子でも水晶でもないグラスに、透きとおる煌きが躍る。
淡い光を抱いて躍った花蜜ソーダから昇るのは軽やかに弾けた気泡の唄と甘い花の香り。思わず深呼吸して甘い香りを胸に満たせば、唇に寄せた杯を傾けて。
冷たい滴を躍らせる。
初夏の木洩れ日、木洩れ日をきらきら踊らせ翔ける風、森の深みに抱かれた水の清らかさ。それらが爽やかな気泡の刺激と甘い花の香り、そして蜂蜜よりももっと透きとおる花蜜の甘さとともにソレイユの口中に踊り、喉を滑り落ちていく心地。
「美味しいですね……! 甘やかに涼やかに、まさに木漏れ日と森を翔ける風のようです」
『そうそう、私達の森の幸せ全部つめあわせ!』
『歓んでいただけて嬉しいわ、私達の自慢の花蜜ソーダですもの』
想像以上の美味を心からの笑みでソレイユが称賛すれば、知恵ある花木達もひときわ嬉しげにしゃらしゃらしゃらりと花を揺らす。その様子に釣られてシルもショウも、架冩刻と小竜もグラスを口に運べば、花蜜の美味にたちまち輝く皆の瞳。
ああ、やはり、と吐息の笑みでソレイユが言を継ぐ。
思い起こすのは炎のベディヴィア卿の配下に焼かれた森で出逢ったスノードロップ達。自分達を助けるために危険を冒して駆け戻ってきたエルフの姉妹を叱り、そして姉妹とともに炎から逃れようとした花々。
「以前炎に包まれた森で出逢った知恵ある植物達もそうでしたが、あなた方も心優しい方々なのですね」
『その話知ってる! スロードロップとエルフ達を助けてくれてありがとう!』
彼の言の葉に知恵ある花木が、きらきら、きらきらと花穂の光を煌かせて応えたそのとき、花木達と仲間達が語らう声音を辿ってきたアインが輝くような笑みを咲かせた。
薔薇と柘榴を思わす瞳に映ったのは、美しい花木で編まれた鳥籠のような空間でテーブルを囲み、硝子とも水晶とも見える杯に煌く花蜜ソーダを楽しむ仲間達の姿。まるで絵本の世界のお茶会みたいと思えばお茶会を愛する少女の心は弾み、
「とっても楽しそうなお茶会ね、私達も一緒にいいかしら?」
『ええどうぞ、御二人ともこちらの席へ!』
屈託ない笑顔で願えば、花穂と梢でしゃらりと示した花木が招いたのは、勿論アインと、その傍らのリヴィア。
先程から聴こえていた花木と仲間達の会話。
そして、今自分達を迎えてくれる知恵ある花木達の様子に、
――貴方たちが。悪い人だなんて。そうは思えない。
胸に抱いていたその言葉を口にしなくて本当によかった、とリヴィアは小さく息をついた。それは己が先程までこの花木を悪い人だと思っていたと言うようなもの。
妖精郷を勢力圏とするフローラリアがクロノヴェーダであるのは間違いない。
だが、新宿島のターミナルで閲覧できる歴史書にも記されているとおり、妖精郷に暮らすエルフや人間達はフローラリアを『妖精郷の守り手』と認識している。知恵ある植物達も同じだろう。知恵ある植物達も、ある意味、妖精郷の民なのだから。
妖精郷とは異なる時空から訪れて、世界樹を攻略しようとする存在。それを迷わせ、第一層へ通すなというフローラリアの言葉を、この知恵ある花木達は妖精郷を護るために必要な、正しいことだと受けとめたはずだ。
自分達の生きる世界を護るために、邪悪な侵入者を足止めする――それが悪意ある行動だと、誰が言えるだろうか。
それに、知恵ある花木達は『ディアボロスは邪悪じゃないかも』と思ってくれた。
そして、邪悪じゃないなら迷わせる必要もないと思ってくれている。
――ここに来る前に。相手が悪い人かもって。思ってしまっていたのは……私のほう?
思わず足がとまる。けれど不意に立ち竦んでしまった友に気づいて、
「リヴィアさん? 緊張しちゃったのかしら、大丈夫よ。花木さん達も歓迎してくれてるから!」
「うん、うん。大丈夫。優しい人たちだって。ちゃんと分かるもの」
ほらここに、と明るい笑みと声音でアインが椅子を引いて招いてくれたから、小さく微笑み返してリヴィアも席について、仲間達とともにテーブルを囲んだ。硝子のようで水晶のようで、それでいてどちらよりも軽い不思議なグラス。淡い光を孕む花蜜ソーダが繊細に煌く気泡とともに杯に躍れば二人はその美しさに息を呑み、
冷たくて軽やかで、甘やかで爽やかな花の滴を喉に滑らせて――。
「……美味しい!」
「うん。とっても、美味しい」
深山の湧き水みたいに冷たくて、気泡の刺激は軽やかで爽やかで、花の香りは甘く蕩けるように後を引くのに、蜜の甘さは透きとおるよう。それでいて陶然たる幸福感で二人を満たしてくれる。空虚な暗闇に光が射した心地でリヴィアの眦が緩む。口許が綻ぶ。瞳に映る花々は黎明の空の涯に柔らかに輝く光のようで、宵に染まりゆく空に甘く燈る彩のようで、
「友達に。なってくれる? 新しい友達に、素敵な名前をあげたい。から……そう、『薄明の君』とか。どう?」
『わあ、ロマンティック! ありがとう、青い光の翼のあなた!』
花の色から連想した名を口にすれば、花々がしゃらしゃらと揺れて歓びを示す。きらきら零れる光も声音も嬉しげで、この花蜜ソーダの御礼にわたしからも名前を贈らせて欲しいわ、と楽しげに狐耳を弾ませ、アインも知恵ある花木に語りかけた。
「そうね――あなた達の甘い花の香りと綺麗な声にちなんで、『香しき甘鈴揺らす君』……なんていかがかしら?」
『まあ! 花や蜜を褒めてもらったことはいっぱいあるけど、声を褒めてもらったのは初めてよ!!』
花穂がしゃらしゃらしゃらりと揺れ、歓びを燈した花木の声音が少女のようにはしゃいで弾む。歓んでもらえて良かったと笑み返したアインの狐耳が誇らしげにぴんと立てば、鈴とは言い得て妙だねぇと架冩刻が口許を綻ばせた。
花々をしゃらしゃら揺らして響かせる声音も鈴のようで、
真白き小さな蝶の群れとも思える純白の花々も、見ようによってはスズランの花が花房になって咲き零れているかのよう。
梢に茂る葉は緑の羽根めいて、数多咲き零れる小花はふわり翅を踊らせる蝶のようで。甘い香りの羽姫さん達、と知恵ある花木達に呼びかけた架冩刻が、
「親愛を込めて、貴女達を『フラフィ』とお呼びしても良いかい? ……なんて、じじいに言われても困っちゃうかなぁ」
Fluffy――ふんわり愛らしいその響きを意識しながら愛称を贈り、照れまじりに付け加えれば、
『あらあら、じじいだなんて』
『貴方はまだまだお若いでしょう、銭丸さん? 愛らしい呼び名をありがとう、何度でも呼んでくださいな』
彼女達はしゃらしゃらしゃらりと笑み零し、軽やかで何処か楽しげな、それでいて世辞にも聴こえぬ言の葉を返す。
何せ相手は知恵ある花木。美しい花を咲かせる『樹』だ。
喜寿を越えた架冩刻より長い時を生きてきた者とているのだろう。こりゃあ一本取られたかな、と彼が呵々と笑ったなら、軽快なそのやりとりに目許を和ませていたソレイユも、私からも花蜜ソーダの御礼に、と眼差しを純白の花々にめぐらせて、
「姫君達に、『初雪の君・ネージュ』の名を贈らせてください」
Neige――柔らかで優しい響きを慈しむような声音で贈り物たる名を唇に乗せた。
迷宮の森へ入った時に仰ぎ見た花々、淡く光ながら真白く咲き零れる花々が、この地で初めて見た雪のようだったから。
『綺麗な名前ね、優しい名前ね、とっても素敵……!』
夢見るような声音で応えた花木の花穂がしゃらしゃらりと揺れれば、白き小花から零れる光が雪花の煌きにも見えてきて、自ずとショウの眦も緩んだ。けれど花の色の眼差しは零れる光でなく、しゃらりしゃらりと風に踊るような花々にとまる。
柔らかに咲き零れるのは、小さな蝶を思わす花々。
「ねぇ。わたしからは、『ファルファッラのレディ』って呼ばせてもらっても、いい?」
Farfalla――可憐で華やかなその響きを自身も歌うような声音で紡ぎ、風に踊ってうたうような、可憐な貴方にぴったりの響きだと思うんだ、と続けたなら、しゃらり揺れた花穂が贈られた名を口遊み、
『ファルファッラ……! 呼んでもらうのは勿論、自分で声にするのも軽やかに心が躍るような響きね……!』
歓びを溢れさせるようにしゃらしゃらしゃらり、と花々と光を揺らす。淡桃色の可憐な花々を咲かせる彼女に、触れても、いやじゃない? と確かめて。
姫君の手を取るよう、大切に花々の一房を掬い、
「夢のようなすてきなひとときを有難う――ファルファッラのレディ」
恭しく口づけるように囁けば、
『わぁ……! ショウってば、物語の騎士様か王子様みたい
……!!』
『ほんとに! いいなぁ、いいなぁ
……!!』
歓声を咲かせた花木がひときわ嬉しげに花々をしゃらしゃらしゃらり、心なしか花の淡桃色もいっそう甘く色づくようで、知恵ある花木達がきゃあきゃあとはしゃぐ様は少女達のようで、思わずシルも釣られるように笑みを零す。
「ふふ、皆の贈った名前もショウさんの王子様っぷりも、ほんとに素敵だね! いっぱい悩んだけど、わたしからは――」
晴れやかな笑顔で見渡すのは少女めいた愛らしさも覗かせる花木達。
楽しげに嬉しげに風に踊ってしゃらしゃら揺れて、自らほんのり光る、色とりどりの花々達。
「ねね、『虹の乙女』ってどうかな?」
『虹!? わぁ、そう言ってもらえるのも嬉しい!』
『嬉しいわね! そう言えば、私達の森の先では綺麗な虹が見られるって話よね!』
最後にシルから贈られた呼び名にも彼女達は花穂と声音を嬉しげに踊らせて、誰かがふとこう呟いた。
――ディアボロスって、邪悪じゃないんだ。
麗しい初夏の宵を思わす迷宮の森、そこを流れる風が知恵ある花木達の梢と葉を柔くさざめかせる。しゃらりしゃらり、と秘めやかに彼女達が囁き合ったのも僅かな間だけのこと。
此方へ秘密を明かしてくれるような声音が、ふわり、しゃらり、と咲いた。
『私達、フローラリアに命じられているの』
『邪悪な侵入者を迷わせてちょうだい。絶対に通しちゃダメよ。って』
『けれど、素敵な愛称を贈ってくれたあなた達ディアボロスは、邪悪じゃないってわかったから』
――あなた達が望むのなら、
――さあどうぞ、迷宮の森の先へお通りくださいな!!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【エアライド】LV3が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【アイスクラフト】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV3が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
●合言葉の大冒険
極上の夢にも似た、麗しい世界から解き放たれた。
明るい緑の羽根めいて風に踊る葉の間から、小さな蝶を思わせる花が数多咲く花穂を覗かせる、知恵ある花木達。彼女達が織り成す美しい初夏の宵のごとき迷宮の森を抜けたなら、
一気に開けた視界は、明るい光に満ちていた。
光が踊る、水が踊る、花が踊る。
明るいターコイズブルーに透きとおって煌く湖が彼方まで広がって、眩くも優しい光を湛えた遥か高みからは光がそのまま流れ落ちるような細い水流が幾筋も降りそそぐ。それらの煌きが重なるから、湖面から弾ける水飛沫が幾重にも虹を描くから、湖の彼方は見通せないけれど――。
純白の、淡桃の、薄紫の、色とりどりの小さな蝶めいた花々が風に舞って水や光と遊ぶのは、きっと湖の先に花々が咲いているからだ。
光が遊ぶ、水が遊ぶ。花が遊ぶ、虹が遊ぶ。
明るく透きとおるターコイズブルーの湖面に飛び石のように煌きを覗かせるのは、宝石めいた硬質で美しい樹脂の塊。樹脂ゆえに水に浮かぶそれれらは少々不安定だけど、ディアボロス達の身体能力なら軽やかに跳び渡っていくのもお手の物。
万一水に落ちたってそれも水遊びみたいなもの、勿論はなから泳いで湖の彼方を目指したって構わない。
湖を越えた先に聳え立つのは、迷宮の森の知恵ある花木より遥かに大きなニセアカシアの樹々が織り上げる断崖。
ここにも宝石めいた樹脂が幾つも顔を覗かせているから、普通にクライミングに挑むこともできるというけれど、
――個人的には【エアライド】を活かして
――空中ジャンプを織り交ぜつつ昇っていくのが楽しいと思いますっ!!
ディアボロス達の脳裏に甦るのは時先案内人のそんな声。
宝石めいた樹脂から跳んで空中や風に跳ねて、時には華麗にトラップを躱したり真っ二つにしたり粉砕したりしながら、何処までも高く、高く、遥かな高みへ。
さあ、花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界へ解き放たれるような冒険に出立しようか。
知恵ある花木達は素敵な愛称を贈ってくれた者達だけでなく『ディアボロスはみんな邪悪じゃない』と思ってくれたから、後発のパラドクストレインで駆けつける者達もすぐに合流できる。合言葉は唯ひとつ。
――『飛翔ダメ! 絶対
!!』!!
咲樂・祇伐
🌸樂祇
虹が空が花が、湖が
美しい光景に声も忘れ見入ってしまう
お兄様、すごいわ!
世界はこんなにも美しいのですね
機嫌よく尾を揺らして
満開の笑みを向ければ─お兄様?どうかしたの?
あら…
私も幸せです
お兄様
湖面のきらきらは樹脂のうえを…
エアライドはあまり得意では無いので緊張します
お、お兄様っ
後に続き不慣れなジャンプ
鈍臭い自分が嫌になり─……きゃ!
気がつけば腕の中
見上げる顔も、声も優しくて
甘えたい気持ちと
少しだけ切ない気持ち
…お兄様…私は泳げません
兄の背に身を寄せて
懸命なあなたをみる
本当は泳げる
泳げないのはお兄様の方なのに、あなたは
泡沫のような違和感を知らぬ振りするよう眼を閉じる
だって世界は
こんなに美しい
咲樂・神樂
⚰️樂祇
見て!祇伐!
楽園のように美しい場所よ
湖面がきらきら輝いて、あなたの好きな花々が咲き誇る
あえかな光が祇伐の花水晶に反射しより美しく感じる
息を飲むほど
ううん
幸せだって思っただけ
今、あなたの隣にいられて
このきらきらしたのは渡れるよう
エアライド、一緒にしてみましょ
崖も登るんだから練習よ
あたしが先に行くからついておいで
ゆっくり、リズム良く渡っていこう
ほら、上手──っ、祇伐!
バランスを崩した祇伐に手を伸ばし引き寄せるも──ばしゃん、水の中
ううっ、大丈夫?!祇伐!
びしょ濡れね、なんて笑い合う
でも心地いいわ
……向こう側まで、泳いでいっちゃおうか?
え?!
泳げなかったっけ…
いいわ、あたしが背負って泳ぐわ!
シル・ウィンディア
虹の乙女…。気にいってくれてよかったー♪
さぁさぁ、それじゃ…。次も張り切っていきましょうっ!!
うわぁ、すごくきれい…。
ダンジョンっていうのが無ければ、ここでピクニックとかいいんだろうなぁ…。
エアライドの効果で最短ルートを導き出してから
ダッシュで駆け回って風景を楽しみながら
ジャンプして、さらにエアライドの効果で多段ジャンプッ!
跳ねるように、舞うようにっ!
綺麗な景色も満喫しつつ、ぴょんぴょん飛び跳ねるよ!!
槍や落下物は剣を抜いて両断っ!
エアライド中だから両手使えるしね
落ちそうになったら、蔦をつかませてもらって何とか踏ん張るよ
ごめんね、ちょっとあなたの場所を借りるね
お礼を言ってどんどん突き進むよっ♪
アンゼリカ・レンブラント
後発で参戦
『虹の乙女』に『初雪の君』それからそれから!
とっても素敵な名前を持った
知恵ある花木達のところを通過して
お約束はしっかりと守って、
【エアライド】で最適な経路を跳ぶよ
空中ジャンプ堪能だーっ!
宝石めいた樹脂の世界を軽やかな体で
跳ねていくのは、それだけで楽しいっ
壁から突び出す疑似槍トラップを華麗に回避したら、
落ちてくる岩的トラップを拳で粉砕っ!
軽やかに跳ねて向かうけど、
時には鍛えた格闘術を見せて罠を打ち砕いていこう!
遥か、遥か高くへ身を跳ねさせていくよ
共に攻略している仲間を見つけたら、
協力して、もしくはちょっと競争して
楽しく飛び上がっていこう
力を温存して
むしろ英気を養って区画ボスのところへ!
アイン・トロイメライ
同行:リヴィアさん
話に聞いた通りの断崖絶壁ね
これをクライミングで登り切るというのも骨が折れそうだし、ご忠告通り【エアライド】を利用して一気に距離を稼いでしまいましょう
【アイスクラフト】で作った氷の足場を織り込んでいざという時の足場や休憩場所にするわ
それでも落ちそうならガントレットをアンカー代わりに
あまりお上品じゃないけれど
罠は『青龍水計』で迎撃
水を差した責任を取る覚悟はいい?
(ジャンプで登りながら)これ結構楽しいわね!
スカートで運動してることも忘れてしまいそう
リヴィアさんはどう?と、声を掛けて
大人しそうな印象の人だから苦手意識持ってないといいのだけど
…そう!楽しそうならよかったわ
リヴィア・メルビル
アインさんと。
薄明の君にお礼を言ったら。
上へ上へ。目指していく。
飛べないのは仕方ないけれど。跳んでいくのも。結構楽しい。
【エアライド】で跳ぶけれど。これって。
最適経路も見つけられるから。けっこう便利。
それでも跳べない時は。【アイスクラフト】で足場を作って。跳躍してく。
罠で落とされそうになったら。ビットの出番。
私と違って浮いてるし。足場になると思う。
飛翔じゃなくて浮遊だから。撃ち落されないはず。
…普段は大人しいかもしれないけれど。
そこまで苦手じゃ。ない。
何にも囚われずに身体を動かすのって。悪いことじゃないし。
それに。いつもと違う感覚で。楽しいの方が強い。
……このまま一気に。行っちゃおう。
ソレイユ・クラーヴィア
【賽】シャムスと
連携・アドリブ歓迎
花迷宮も美しい場所でしたが、虹の湖も素晴らしい
跳ねる水飛沫に、反射する光
一秒として同じ姿を留めぬ世界は、それ故に目を離すことができなくなる
ゆっくりと景色を眺めている事ができないのが、とても残念
せめて己も遊び跳ねる水滴にでもなったつもりで駆け抜けるとしましょう
エアライドを使用して樹脂の上を跳ねていきます
ワルツを刻むように、つま先に力を込めてテンポよく
躓いてリズムを乱さない様に、着地地点はよく見極めて
迫るトラップも三段ジャンプで避けていきましょう
諜報員らしいシャムスの鮮やかなエアライドにも惜しみない賞賛を
美しい水の表情を五感で楽しみながら進んでいきます
シャムス・ライラ
【賽】ソレイユと一緒に
仲間と情報共有、連携
交渉は上手くいったようだな
ソレイユと合流し湖を渡る
職業柄身軽な方だとは思うが、さて
ジャンプとエアライドを織り交ぜ
軽く樹脂を蹴って飛び離れる
随分と美しい場所だ
これで迷宮の中とは
何かの内部と言うよりは
ここ自体が小さな世界、と言うべきかな
立ち止まっている場合ではないが
湖の中って、魚いるのか?
楽しそうに跳ねるソレイユに微笑み
まるで踊っているようだと
断崖は
引き続きエアライドとジャンプで最適ルートを選びつつ登攀
落ちそうな時はお互いに助け合いつつ
未来予測も駆使して障害物等を防御、回避する
棘はナイフでいなし
ジャンプで豆の莢を蹴り避けてさらに上へ
アドリブ等歓迎
四葩・ショウ
有難う、いってくるね!
……きれい
ぜんぶ自然で出来てるんだ……
まるで
不思議な世界に迷いこんだみたい
あ、虹がかかってる
上からみたら、どうみえるのかな?
高すぎてみえないかもしれないけど、でも
楽しみだな
はずむ、はずむ
子供の頃のちいさな冒険みたいだ
わくわくする好奇心を胸に
【エアライド】の最適経路が導くまま
湖上は樹脂の飛び石を渡ろう
続く樹脂のきらきらの足場を跳び移って
棘のトラップは【エアライド】の空中ジャンプで避けて
足場がないなら【アイスクラフト】で作る
落下する実にはレイピアの一振を
斬る時は下にいる仲間に声をかけて
落ちそうな仲間がいれば、手をのばすよ
たどり着いた場所は
振り返った軌跡は
どんな景色なんだろう?
――ありがとう、いってくるね!
――いってらっしゃい! いつかまた、遊びにきてね!
美しい花木達、知恵ある植物達。
明るい緑の羽根めいて風に踊る葉の間から、小さな蝶を思わす花が数多咲く花穂を覗かせる、知恵ある花木達。
彼女達といつかまた、再会を叶えて歓び合える日が来るのかは判らないけれど――。
●世界樹の宝石湖
光が踊る、水が踊る、花が踊る。
美しい初夏の宵のごとき迷宮の森を抜ければ途端に眼の前に開けたのは明るい光と煌く水に満ちた広大な世界。透きとおる湖は明るいターコイズブルーを何処までも澄み渡らせ、青空の代わりに眩くも優しい光が広がる遥か高みからは光そのものを注ぐような細い水流が幾筋も流れ落ちて、
透明な水の煌きを湖の彼方まで織り成し、湖面から弾ける水飛沫が幾重にも虹を描き出す。
「……きれい……。ぜんぶ自然で出来てるんだ……」
「ほんと、すごくきれいだよねっ! 湖にも虹の煌きが振りまかれてるみたい……!」
思わず瞠った花の色の双眸に四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)が映したのは、空間を彩る虹ばかりではなく、澄み渡る湖面を彩る数多の宝石めいた樹脂の煌き。驚くほど彩り豊かなその煌きにシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)も青空の瞳を輝かす。
樹脂の宝石といえば琥珀、琥珀といえば蜂蜜色めいた金色や褐色がかった色合いをまず連想するけれど、世界には鮮やかな赤琥珀や青琥珀に緑琥珀が存在するように、この湖に浮かぶ樹脂の塊達も華やかに煌く結晶と呼びたい色とりどりの美しさ。勿論、琥珀ほど永い時を経たものではないだろうけど、
「それでも、とびっきり綺麗なことには変わりないよねっ!!」
透明に煌きながら降る水流の合間を抜けて、明るい青に透きとおった湖面に波を描いて、湖の彼方から花々を舞わせる風が流れくる。花風に乗る心地で軽やかに跳んで――シルは花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界へ解き放たれた。
光が遊ぶ、水が遊ぶ、虹が遊ぶ。
明るい光と涼やかな水の香りに満ちた世界は様々な彩りの煌きにも満ちていて、
「ほんと、びっくりするくらい綺麗よね! いきましょリヴィアさん、この湖を越えて、遥か高みをめざすために!」
「……ん。行こう。アインさん。この湖を越えて。上へ、上へ」
この湖の彼方に聳えるという断崖こそが本番と意気込むアイン・トロイメライ(子どもの夢でさようなら・g00491)が華やぐ笑顔と声音で促せば、知恵ある花木――薄明の君という呼び名を贈った友との名残を惜しむように迷宮の森を振り返っていたリヴィア・メルビル(虚の大鯨・g00639)も改めて、花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界を瞳に映す。
遥か高みから幾筋も降りそそぐ水流が、遠く彼方から渡りくる風が湖面を柔らかに波打たせ細波を生み、美しく煌く樹脂の宝石達を湖面に遊ばせて、湖畔に寄せる波さえ細やかな虹色を躍らせる。振り仰いだ天は眩くも優しい光に満ちてその高みの涯を覗かせず、見霽かす湖も幾重もの虹と水流の煌きでその彼方の涯を覗かせない。
「これが世界樹迷宮か……。何かの内部と言うよりは、ここ自体がひとつの世界――と言うべきかな」
「ええ。これで世界樹の第一層、その幾つもの区画のひとつにすぎないという話ですから……本当に驚くばかりです」
彼方からの風とともに舞い込んで来た純白の花をシャムス・ライラ(極夜・g04075)で指先で捕まえて、そっと放せば白花はふわり羽ばたく蝶のごとく再び風に乗る。ひととき鼻先を擽った甘い花の香りに眦を緩めて、ソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)は青と金の眼差しを虹の咲く世界へ向けた。
空中に、湖面に、幾重もの煌きの彩が遊ぶ。
明るい光と澄んだ水の煌きに彩られ、風さえも光り輝きながら世界に踊る。
湖を渡り来る風からの贈り物は数多の花々、純白の、淡桃の、薄紫の、色とりどりの小さな蝶めいた花々と甘いその香りに一瞬抱きすくめられ、花の紗が開けてみれば咲樂・神樂(離一匁・g03059)の視界に広がったのは、宝石もかくやの樹脂の煌きを水面に遊ばせる湖の世界。
「見て! 祇伐! 楽園のように美しい場所よ!」
「ええお兄様、すごいわ! 世界はこんなにも美しいのですね……!」
天から幾筋も降りそそぐ水流の煌き、彼方まで幾重にもかかる虹、咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)が桜の彩きらめく尾を御機嫌に揺らし、満開に咲かせた笑みを兄へ向ければ、
「――お兄様? どうかしたの?」
「ううん。幸せだって思っただけ」
光と水と虹の煌きが妹の水晶の竜角に遊ぶ美しさに息を呑んでいた神樂が、ほどけるように笑み返す。桜花に彩られた妹の花水晶、そこへ蝶のようにとまった薄紫の花を指先で水晶を撫ぜるよう摘まみ、
――今、あなたの隣にいられて。
吐息で紡いで、蝶の花を光る風に羽ばたかせた。
さあいくわよと軽やかな笑顔で誘うのは、光と水と宝石の煌きに遊ぶ湖の旅。
「湖を越えたら空中ジャンプしながら崖登りなんだから、祇伐も練習しなきゃ。あたしが先に行くからついておいで!」
「確かに私は【エアライド】があまり得意ではないですけれど……あっ! お、お兄様っ!!」
ふわり身を翻して湖のほとりから跳んだ神樂は光と風に跳ね、青い水面に浮かぶ赤い煌きをぽふんと蹴って。軽やかな兄の姿に意を決して祇伐も湖上に跳んで、光のきざはしを昇るように空中ジャンプ!
光に掬われ風に掬われ、飛翔ではなく跳躍で舞いあがる空中から見下ろす青き湖。蜂蜜色の煌きに降り立てば樹脂の宝石はちゃぷりと揺れて、ひっくり返ってしまう前に慌ててまた跳んで、青から風に、緑から光にと跳び渡る兄を追いかけて、
「ほら、上手──っ、祇伐!!」
「あっ、きゃあっ!?」
笑顔で振り返る神樂が健気に頑張る妹を招いたそのとき、祇伐の爪先が触れた水晶のごとき樹脂がくるんと湖面にひっくり返った。咄嗟に伸ばした兄の手が妹を引き寄せるけれど、湖面に大きな水飛沫の花が咲き誇る。気づけば二人揃って水の中。
水中の世界さえも美しかった。
明るく透きとおるターコイズブルーの水中世界には湖面から射す光が踊り、数多きらめく気泡を追いかけてめざす水面には宝石の彩を透かした光の波紋が揺れて。大切に祇伐を抱いた神樂は妹とともに水面から顔を出し、瞳を見交わして笑い合う。
湖水は心地好い冷たさで、揺れる水面に肌を撫でられるのも楽しくて、
「……向こう側まで、泳いでいっちゃおうか?」
間近で楽しげに瞳を煌かせる神樂の言葉に、祇伐は仄かな切なさで胸を詰まらせた。向けられる優しい笑顔と声音、それに甘えたい気持ちで泡沫めいた何かを包み込み、
「……お兄様……私は泳げません」
「え!? 泳げなかったっけ……? いいわ、あたしが背負って泳いであげる!」
柔く笑み返せば大きく瞬いた『兄』がすぐに晴れやかに笑って、祇伐を背におぶってくれる。躊躇わずに泳ぎだす。
ほんとうは、
泳げるのは私のほうで、泳げないのはお兄様のほう。
なのに、あなたは――。
泡沫のごとき違和感をそっと水底に沈めるよう眼を閉じて、祇伐は懸命に泳いでくれる神樂の背に身を寄せた。
あまりにも美しい世界で、彼に紡いだ言の葉は。
――私も幸せです。
――今、お兄様の傍にいられて。
光が招く、水が招く、虹が招く。
迷宮の森を抜ければ途端に解き放たれたのは明るい光に満ちた、花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界。
――虹の乙女に初雪の君、
――それからそれから……!!
先行した仲間達が迷宮の森で贈った幾つもの素敵な呼び名達、知恵ある花木達が嬉しげに教えてくれたそれらも飛びっきりアンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)の胸を弾ませたけれど、眼前に開けた光と水と虹の世界にはどうしようもなく心が躍る、心が跳ねる、心が翔けだしていく。
「私も出発進行っ! 空中ジャンプ堪能だーっ!!」
翔ける心のまま跳び出すのは明るいターコイズブルーに透きとおる澄んだ湖、光る風に跳ねて大きく跳んで、湖面に黄金の影を映しながら花々を舞わせる風を突き抜けて、光と虹が遊ぶ湖の先へ、先へ!
迷宮の森で燈された【エアライド】は更に積み上げられ、アンゼリカの力も合わせて今や六連続の空中跳躍が可能。
湖面を泳いで渡る神樂やその背の祇伐と手を振り合って、思いきり駆けあがった空中からアンゼリカが一気に降下する先は明るいターコイズブルーに透きとおった湖、青き水面に浮かぶ黄金の宝石を軽やかに蹴りつけ、煌く水飛沫を連れて再び光る風に駆けあがり、虹をも跳び越えたい気持ちで大きく跳んだなら――その先にシャムスとソレイユの姿が見えてきた。
天から幾筋もそそがれる光のごとき水流、湖面で翠玉めいて煌く樹脂の宝石から跳んだシャムスが風を駆けあがり、水流を回り込むと同時、天から落ちるそれを足掛かりに更なる跳躍を見せる。弾ける水飛沫、新たにかかる虹の煌き。
「流石の身軽さですね……!」
「どちらかと言えば、身の軽さよりも地形を利用する技が活きている気がするな。そちらも随分と楽しそうだ」
彼の降り立った先で真紅に煌く宝石の煌きが湖面に跳ねて、光と風に遊ぶ水滴になった心地でソレイユも、ええ、と笑って湖面を彩る青玉から黄玉へと樹脂の煌きを跳び渡る。流れ落ちる水流の音色、湖面に跳ねて踊る水飛沫の音色。
光が唄う、水が唄う、虹が唄う。
円舞曲の三拍子を刻むように光と風と宝石めいた煌きに跳ね、天から降る水流の合間を駆けぬけて、水飛沫が弾けるたびに新たに織り上げられる虹へと手を伸べる。まるで踊っているようだ、と彼の姿に双眸を細めたなら、ふと湖中で何かが揺れた気がして、シャムスは水面の下へ眼差しを向けた。
「……? 魚でもいるのか?」
「水草、でしょうか?」
明るく透きとおるターコイズブルー、何処までも透きとおる湖水の奥で揺らめくのは緑色。友につられてソレイユも覗けば緑の蔓が大きく絡まりあうそれは、水中に揺れているというよりも動いているようで――、
「あの緑、ヴァインビーストだよ!」
空中から降り立ったアンゼリカ、嘗てフローラリアの防衛要塞で戦った緑の獣の名を口にした少女が紅水晶めいた樹脂から跳ねれば、光風を蹴って更に跳んだその姿に湖中の獣が首をめぐらせる。水の中を駆け始める。
「成程、水中から此方の様子を窺っているわけか」
「今のところ、襲ってくる気配はなさそうですね」
興味深げに呟いたシャムスが軽く口の端を擡げて跳躍すれば、ソレイユも微笑して風に乗った。飛翔しなければ問題ない。
「飛翔するかどうか確かめてるのかな? ついてくるなら……よーし、競争だ!!」
光を風を虹を、思いのままに駆けて跳ねるアンゼリカの姿がたちまち水飛沫と幾重もの虹の彼方に消えていく。天から降り落ちる水流は湖面に弾ける水飛沫で虹を描いて、湖面に波を生んでは樹脂の宝石の煌きを躍らせて、妙なる光と彩の協奏曲に誘われる心地でソレイユも、光から風へ、虹へと跳んだ。
一瞬たりとも同じ姿を留めぬ、それゆえに目を離せない――美しき世界。
天から幾筋もの水流が降り注ぐ光景は、まるで光と水の列柱が創りだす湖の神殿を見るかのよう。
花舞う風に乗って遊んで、時には突き抜けて、【エアライド】で見出せる経路を辿りながらもシルはたっぷり絶景も楽しむために駆け回る。青き宝石から跳ねて涼やかな水飛沫のシャワーと幾つもの小さな虹の合間を跳んで、流れる風を足掛かりにひときわ大きく跳躍したなら、見上げるほどの虹に出逢って、
「そうだ、こんなのいいかもっ!」
ふと思いついたまま光使いの技で虹から七色の煌きを連れて、虹の軌跡を描いて湖へ舞い降りる。まるでプリズムになった気分で水晶めいた樹脂に跳ねれば、
「あっ! シルが楽しそうなことしてるっ!」
「来たね、アンゼリカさん!」
追いついてきたのは頼もしき黄金の友、オレンジの宝石に跳ねた彼女と共に光と水と風の煌きを駆けあがり、今度は二人で二条の虹を連れて空中から湖面へと。
明るいターコイズブルーの湖面に煌く薄紫から淡青の宝石を跳び渡れば、ショウの手首にはよく似た彩の絹糸の花が躍る。色とりどりの煌きを連れて光を踊らす湖面、そこに数多の水飛沫と気泡の煌きを弾ませる天からの水流を見上げれば、大きな大きな虹がかかっていて、
――この虹、上からみたら、どうみえるのかな?
自然と咲き綻ぶ笑みのままそう思った、瞬間。
天から降り注ぐ水流、その向こう側から光と風に跳ねて駆けあがっていたらしいシルとアンゼリカが虹の煌きを連れて舞い降りてきた。花の色の双眸を瞠って破顔して、
「わ、すてき……! わたしも混ぜてもらっていいかな?」
「「勿論っ!!」」
訊けば青と金の宝石に跳ねた仲間達が声を揃えて応えてくれたから、すらりと抜いた硝子のレイピアをタクトよろしく風に踊らせて、光使いの技で七色の煌きを招きながら、ショウも湖面から風へ、光へと駆けていく。
明るい光と水と彩の煌きに満ちた夢のようで、けれど確かに存在する世界。
――まるで、じゃなくて、ほんとうに……不思議な世界を冒険しているんだ、わたし達。
●断崖上の虹景色
天から降り落ちる幾筋もの水流の煌き、彼方まで幾重にもかかる虹。
湖に浮かぶ樹脂の宝石達を、湖上に遊ぶ風を、軽やかに跳ねて跳び渡っていけば、やがて水流の煌きと虹の七色の先に湖の涯が見えてきた。宝石ばかりでなく数多の花々が湖面に揺れる。樹脂の煌きがふと途切れ、湖の岸辺まで浮かぶのは蝶に似た花々ばかり、となれば、
「ここで。ちょっと使ってみたい。かも」
空中跳躍の六連続でも問題なく渡りきれるけれど、青い樹脂の宝石の上でリヴィアが呼び覚ましたのは、迷宮の森で燈した【アイスクラフト】の力。
現れた大きな氷の立方体が冷たい煌きを踊らせながら湖面に落ちる。盛大に水飛沫を弾ませる。湖に浮かんだ氷へ跳んで、軽やかに跳ねて、降り立ったのは――湖の対岸、遥か高みまで聳える断崖へと至る地だ。
振り仰げば何処までも高く高く聳え立つ断崖、それは岩壁ではなく、
「知恵ある花木達よりも遥かに大きな樹々が織り上げる断崖……聴いたとおりね、凄い高さ
……!!」
数多の樹々が遥か高みまで聳える絶景。薔薇と柘榴めくアインの双眸に映る数多の煌きは、断崖を成す樹々から染みだした樹脂が硬化したものだろう。あれを手掛かり足掛かりにクライミングに挑むより、【エアライド】に活かすのがきっといい。
湖でリヴィアが試したけれど、空中ジャンプしながら【アイスクラフト】の力を揮うことはできず、湖面の樹脂に足をとめ己の頭上ほどの高さの空中に氷の立方体を出現させることはできても、空中に浮かべたままにすることは叶わなかった。
出現させた後の氷は術者の意志で操れるものではなく、空中に創りだせばそのまま落下する。
断崖に固定することも叶わないだろうから、
「氷を休憩場所に使うのも無理でしょうけど……座れるくらい大きな樹脂もあるみたいね! 一休みくらいはできそう!」
「うん。それに。樹脂から跳ぶ直前に。斜め上あたりに氷を創って、落下する瞬間に足場にって。考えたけれど」
空中ジャンプしながら氷を出現させることはできないが、それなら更に跳躍の高さを稼げるだろう。だが一辺三メートルの氷の立方体の重量は推して知るべし。それが高所から落下すれば、断崖の麓、樹々の根元に甚大な被害を齎すはずだ。
世界樹はフローラリア達の拠点、すなわち敵地であるけれど、
「だからって、むやみに破壊したくはないよね。どうしてもって時以外は氷を使わないほうがいい、かな?」
樹々の断崖はところどころに緑の羽根めく葉を茂らせた枝を伸ばし、美しい花々を滴らせるように咲かせている。その様を仰ぎ見たショウの言葉に、リヴィアとアインも迷わず頷いた。
空中跳躍の六連続が叶う今なら、余程のことがない限りは大丈夫!
振り仰ぐ断崖の高みは満ちる光に呑まれて見通せない。遥か高みで敵が待つのがどんなところかは判らないけれど、
「さぁさぁ、それじゃ……ここも張り切っていきますか!」
強気な笑みを咲かせたシルが迷わず駆けて跳ぶ。巨岩めいた樹々の根元に跳ねて、駆けあがったのは木洩れ日きらめく風、樹皮の断崖できらりと光を弾いた陽色の宝石を蹴って、更なる高みへと!
誰もが空中跳躍を織り交ぜながら高みをめざす。
舞い降る花々の香りに心を和ませながら光を風を駆けあがり、桜色に薔薇色にと断崖で煌く樹脂の宝石を足掛かりにしては思いきりそこから跳躍して、何処までも上へ、上へ。花と緑と樹の香を孕む風を突き抜けた瞬間、
「――来るか!!」
樹々の断崖から鋭く繰り出される槍のごとき棘、一秒先の未来を視たシャムスが即座に月の爪たる刃を抜き放ち、短刀では往なせぬ長大な棘を斬り払った。
時空の理を超える者同士が激突する逆説連鎖戦、その戦いの最中では有効な局面は殆ど無いけれど、
「ここでならいい感じに役に立つな、【未来予測】の力」
「いいですね、私も真似させていただきます……!」
夕陽色の宝石から跳んだソレイユの眼差しが捉えた未来は遥か高みから勢いよく落下してくる幾つもの巨大な豆の莢、だが彼はふわりひらりと風を跳び渡って回避して、時間差で落ちて来たものは、
「斬るね、下のひと達は気をつけて……!」
光る風を駆けあがるショウが硝子のレイピアを一閃。凛冽な煌きが閃いた瞬間に、真っ二つに断ち割られた巨大な豆の莢は中の種子を零しながら遥か下方へと落ちていく。
光が躍る、風が躍る、罠が躍る。
甘やかに香る花々が舞うのを追い越して落下してくる大きな種子、風に跳ねて躱して種子を足掛かりに跳躍し、光を駆けて断崖に深い青の煌きを覗かせる宝石めざして跳べば、リヴィアの眼前に不意に繰り出される鋭い棘の槍。
「……!!」
紙一重で躱しはしたけれど足場を失った爪先が宙に躍る。己の氷の剣や氷の盾は自身の意のままに動くビットだけれども、空中で足場にできるほど便利に使えるものではない。落下の浮遊感を鳩尾に覚えかけるが、
「こっちのほうが確実よ、リヴィアさん!!」
「……あり、がと。アインさん」
咄嗟に肥大化させたガントレット型ガジェット、銀に煌くそれを樹々の断崖に突き立てたアインが、もう片手で年上の友の手を確りと掴みとった。ほっと息をついて笑み交わし、振り子みたいに二人で揺れて、反動をつけて大きく跳んだ先は、一緒に並んで腰を下ろせる薔薇色の宝石の上。
何もかも思い通りになるわけじゃないけれど、
だからこそ冒険らしくて胸が弾む。心が躍る。
大丈夫だった? と上方から届くのは気遣ってくれるショウの声、大丈夫と二人で応えて一息ついたなら、再び光る風に、花の風に跳ね、上へ上へと駆けあがっていく。光や風に、空中に跳ねるたびに心は浮き立って、スカートの裾がふわりふわり花咲くのも気づかぬままにアインは笑みも咲かせ、
「これ結構楽しいわね! リヴィアさんはどう?」
「普段は確かに。こういうのは柄じゃない。かも。だけど。今は、いつもと違う感覚で。楽しいの方が強い」
訊いてみれば、花舞う風から跳んだリヴィアが小さく笑み返した。何物にも囚われずに身体を動かすことは彼女にとっても心地好い。たとえ心が、空虚な暗闇であっても。
このまま一気に。行っちゃおう。
いつになく積極的にそう続ける友に、ええ勿論、と応えたアインが更なる高みへ跳んだなら、不意に頭上から落下してくる巨大な豆の莢、
「お上品な歓迎はできないけれど、水を差した責任を取る覚悟はいいかしら!?」
挑むように笑んで迎え撃つ術は青龍水計、楽しいひとときを邪魔してくれたお返しとばかりに噴きあがった膨大な流水が、巨大な豆の莢を呑みこんでいく。
だが、忘れてはならない。
自分達はただ世界樹を踏破しに来たのではなく、世界樹を『攻略』しに来たのだということを。
「世界樹がフローラリアの断片の王の居城なら、当然奴らの最重要拠点だろう。妨害はあって然るべきじゃないか?」
「だよねっ! けれどそれでも私達は、世界樹を攻略していかなきゃならないんだっ!!」
数々の罠が此方を阻まんとするのは当然のこと、そう笑って水煌き躍る空中に跳んだシャムスが続け様に落ちてきた巨大な豆の莢を蹴りつけ跳躍を重ねたなら、不意に飛び出してきた槍状の棘を跳び越しながら足場にして風に駆けたアンゼリカが、思うさま引いた拳を一瞬で繰り出して。
猛然と落下してきた巨大な豆の莢を中の種子もろともに粉砕した。
世界樹攻略を重点目標に――と攻略旅団で提案したのが誰であろうアンゼリカだ。だからこそ彼女は世界樹攻略の重要性を誰よりも良く理解している。だからこそ光を風を、樹脂の煌きを駆けて跳ねて、遥かな高みを迷わず目指す。
わたし達は立ち止まってはいられないもんね、と青空の瞳を煌かせ、シルも光る風に跳ねて花の風に舞って、淡い碧に煌く剣を閃かせれば頭上に降り落ちて来た巨大な豆の莢を一気に両断!
そのまま跳べば豊かな緑の葉を茂らせる枝が広がっていたから、梢を掴んで一息ついたなら、
『ぎゃう?』
「ひゃあっ!?」
緑の合間から顔を覗かせ、小首を傾げるヴァインビーストと眼が合った。けれど、
「ええと、ええと……こんにちはっ! ちょっとこの枝を借りるね?」
『ぎゃうぎゃう、ぎゃう♪』
笑顔で溌剌と挨拶してみれば、通じたのか通じていないのか、楽しげに返る獣の声。
「やはり飛翔さえしなければ、このまま見送ってくれるみたいですね」
「うんっ! 襲ってこないならこっちもスルーだよねっ!」
緑豊かな枝から滴るように咲き溢れる花々、甘やかなその花の香を辿るように遡るように風を駆けあがってきたソレイユが笑みを綻ばせれば、シルもいっそう楽しげに笑って跳んで、橄欖石みたいな黄緑に煌く断崖の宝石に弾んで、上へ、上へ。
光が弾む、風が弾む、胸が弾む。
不思議な湖を越え、不思議な断崖の高みをめざすほどに好奇心は募っていくばかり。こんなに胸がわくわくするのは子供の時以来かも、と笑みを零してショウは木洩れ日に跳ね、樹々の断崖の途中で緑の羽根めく葉と甘やかに香る花穂を差しかける枝を越え、光る風に駆けて、辿りついたのは。
大きな大きな、仲間達みんなで腰を下ろせそうな、菫色の宝石の上。
振り返って見霽かせば、己が今いるところのあまりの高さに息を呑む。畏怖とも高揚ともつかぬ何かが足元から昇る。
遥かなる空の高み、雲の上にまで至ったのかと思えた。
雲とも思えたのは柔らかな白に揺蕩う水煙、眩くも優しい光に満ちた天から湖へと降りそそぐ水流の飛沫は、この高さでは雲のようにけぶり、その遥か下方に明るいターコイズブルーに煌く湖を覗かせる。
湖面に煌く宝石はきらきら瞬く星々のようで、幾重にもかかる虹はあの湖面から見上げた時には半円を描いていたけれど、
「ここからみれば、こんなふうにみえるんだ……」
遥か高みから見下ろす虹は、何物にも遮られることのない――美しい環を描きだしていた。
優しい白にけぶる水煙、柔らかな白の紗が青き湖を透かす絶景に幾つもの、幾つものまぁるい虹の円環が咲く。
夢のようで夢じゃない、今己が見ているのが間違いなく現実なのだと想えば、ショウの胸が、魂が震えた。
皆もおいでよと呼びかける。招かれた誰もが息を呑む。やがて零れるのは、深い、深い感嘆で。
「こんな光景が見られるなんて……思ってなかったですよね、お兄様」
「ええ! あなたと一緒にここに来られて、本当によかった
……!!」
感動に声を震わせる祇伐の肩をそっと抱いた神樂も、胸を詰まらせそうになりつつ溢れる幸福を紡ぐ。
湖にかかる虹を上から見てみたい、とショウが思わなければ、実際にこの高みから見霽かすことがなければ、きっと誰もがこの光景に気づかぬままに戦いの場へ、ミストルトゥ・ウィッチのもとへ至っていただろう。ほんとに絶景だと声を弾ませ、
「ありがとう、ショウ! これもう力を温存どころか英気フルチャージって感じだよ!!」
「うん。わたしもそんな感じがする。――いこうか、この上に」
飛びきり晴れやかな笑みをアンゼリカが咲かせれば、微笑み返したショウが再び断崖の上へ眼差しを向ける。麓からは光に呑まれて見通せなかった遥かな高みも、ここからなら見通せる。豊かな緑と花々を溢れさせる樹々の樹冠の奥に、宝石めいた樹脂で創り上げられたというミストルトゥ・ウィッチの玉座の間があるのだろう。
そう。あくまで『ミストルトゥ・ウィッチの』玉座の間だ。
世界樹の頂にまで至れるのはきっとまだまだ先のこと、けれどその道を拓くため、今為すべきは第一層の攻略だから。
「天辺まで競争だー! 今度は皆でっ!!」
「望むところっ! 負けないからね、アンゼリカさんっ!!」
真っ先にアンゼリカが光と風に跳ねれば即座にシルも跳んで、皆で遥か、遥かな高みへと。
眩くも優しい光に満ちた遥かな天の涯、樹々の断崖の頂、樹冠の奥へ跳び込めば、辿りついたところは――。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【クリーニング】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【エアライド】がLV6になった!
【水源】LV2が発生!
【エイティーン】LV1が発生!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【能力値アップ】LV2が発生!
【命中アップ】がLV5(最大)になった!
【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
●第一層の守護者
夜の虹を閉じ込めた宝石――その中の世界へ跳び込んだかと思える空間だった。
硬質に艶めく夜闇の裡で、虹色の煌きが星々のように、極光のように躍る、遊ぶ、翻る。極上のブラックオパールを思わす宝石めいた樹脂で創り上げられた広大な玉座の間、夜の美しさを満たしたかのごときその空間に、彼女はいた。
世界樹迷宮の第一層。その一角たる、花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界の守護者。
夜の森から生まれ落ちたような神秘を纏う魔女、アヴァタール級フローラリア『ミストルトゥ・ウィッチ』が、槍のごとく変じたヤドリギで宝石めいた樹脂の床をこつりと鳴らせば、硬質な夜闇のごとき玉座の間にひときわ華やかな虹色の煌きが、さあっと広がり躍る、遊ぶ、翻る。広大な空間に月光めいた光が満ちる。
唯それだけで、彼女の膨大な魔力が感じられた。
唯それだけで、彼女の苛烈な気迫が感じられた。
然れど、
『来たのね、侵入者ども。それがドラゴンであろうと、あんた達ディアボロスであろうと、絶対に許しはしないわ』
重要拠点の一角を預かる精鋭たる矜持を露わにした彼女は。
『あたしの可愛いヴァインビースト達を殲滅したからといって、ここまで突破できるとは思わないことね!!』
――このミストルトゥ・ウィッチは、とっても思い込みが強いタイプだった。
全くの無傷で玉座の間に到達したディアボロス達、その様子を一目で見てとったミストルトゥ・ウィッチは、己の配下たる緑の獣、ヴァインビースト達すべてがディアボロス達に斃されたものと思い込んだらしい。
湖や断崖の攻略中に見かけた獣達はごく一部にすぎず、恐らくは大群と呼べる数の獣が潜んでいたのだろう。ここで『実は彼らとは戦っていない』と知られようものなら、すぐさまミストルトゥ・ウィッチは獣達を呼び寄せるに違いない。
一瞬でディアボロス達は目配せを交わし合った。
このミストルトゥ・ウィッチはジェネラル級フローラリア『薔薇の戦士スカアハ』から薫陶を受けた強敵というが、いかに戦うべきかは既に時先案内人の口から語られている。
無策で戦えば苦戦する可能性が高い相手だ。
出来る限り有利な状況で戦うためにも、
――『ヴァインビースト達をスルーしてきたことは言っちゃダメ! 絶対
!!』!!
シル・ウィンディア
武術?え、魔法ダメ?魔砲もダメ??
わたしの得意なもの、全部だめってそんなのありなのーっ!?
……ど、どう戦えと?
世界樹の翼type.Cからの誘導弾を連射して、敵の動きに制限をかけるように撃っていくよ。
撃ちつつ、みんなの攻撃や動きを確認。
何か、手を考えないと…
非力なわたしが、肉弾戦で動ける手段…
…強化魔法ならいけるかっ!
高速詠唱で隙を減らし、左手に創世の光剣を抜いて持って…
ダッシュで接近しつつ、六芒星精霊増幅剣を発動させるよっ!
エアライドの最大多段ジャンプで高さを取ってから…
一気に落ちつつ、敵に対して一刀両断を仕掛けるよ!
さぁ、これでどうだっ!
戦闘終了後はへたり込むかな
は、反動きつくて体が痛いの…
ソレイユ・クラーヴィア
【賽】でシャムスと共闘
連携アドリブ歓迎
W技は受けられるならディフェンス
宝石のように美しい森と湖の守護者は
一体どんな玉座に居るのかと思ってみたら
ここはまるで宇宙の様だ
暗夜の女王へ心して
いざ、参ります
シャムスと仕掛けるタイミングを合わせ
宙に展開した鍵盤で凱歌を演奏
呼び出すは馬上槍を構えた騎士
槍には槍を
多少の作法は違えど
正面から脇を駆け抜ける様に一撃を入れます
反撃には元より武芸には不慣れな身
下手な防具で動きを鈍らせるより
拳を固め防御の姿勢から、衝撃と同時に後方へ飛んで多少の緩和を狙います
守護者を失った森や湖は今後どうなるのか、少し気になります
今まで通り美しく保たれるのであれば良いのですが
シャムス・ライラ
【賽】で共闘
仲間と情報共有、連携
…この気配は侮れぬ
武に長けた夜の女王よ
御手合わせ願おう
ソレイユの苦手能力はディフェンス
地形の利用、情報収集で戦闘に有利な位置取り
ジャンプ、エアライドで迅速に接敵
ソレイユと息を合わせ
罪縛りの鎖で相手の茨を絡め、可能なら壁の形成を阻害
隙間や低い場所があれば
アイスクラフトの壁を発射台がわりに蹴って
そこから敵懐に飛び込み
鞭の曲線的な動きで相手を攪乱しつつ
「スコルピオンスティング」で毒を纏った捨て身の一撃を
可能なら捕縛し味方の攻撃に繋げ
不可能ならばアイスクラフトを盾に
一撃離脱で飛び離れ
エアライドで動き回りながら攻撃の機会を伺い
可能なら再攻撃
アドリブ等歓迎
アイン・トロイメライ
同行:リヴィアさん
(おっと…?これはまさか全部スルーされてここまで来たことに気づいてないのかしら?…そうみたいね)(視線でやり取り)
可哀想に見えて来たけど都合がいいし利用させてもらいましょう
「ええ…あなたの手下は厄介だったわ。でもすぐにあなたも同じ所に送ってあげる」
と、挑発してあげれば早々演技と気づかないでしょう
その分反撃が怖いけれど感情的になるよう仕向け技量の精彩を欠かす一種の【計略】ね
前はリヴィアさんが受け持ち
わたしは後ろでガジェットを(補助機構頼りの)【武器改造】からの『最終楽章』装填
「リヴィアさん!そこ抑えてて…一発でかいのぶちかますわよ!」
見えないけど物理的な音の攻撃…どうかしら?
リヴィア・メルビル
アインさん(g00491)と
(なんと言うか。ちょろそう。)
…貴女がここの主
たしかにあれを。率いるだけある
でも。貴女「も」ここで果てるの
それは。覆させない
まずはソードビットで。包囲させて攻撃
氷雪使いの力で吹雪も呼び起せば
どこから攻撃が来るか分からないし
意識を逸らすくらいは。できるはず
相手の雹の雨はシールドビットで防いで
お返しに。こっちの突撃
高速詠唱で紡いだ氷の剣に、ありったけの殺気を乗せて
一刀のもとに、断ち切る
槍はリーチが長いぶん。懐に潜られると弱いの
ここまで準備ができたなら
次は、アインさんの番
とっておきの一撃。入れてあげて
…貴女がどれだけ強くても。それは個であればこそ
私達には。仲間がいる
アンゼリカ・レンブラント
目には目を、武術には武術を
私の得意分野で戦うね
積極的に前に出るよ!
剣を振るい相手の槍術・棒術に打ち合いつつ隙を窺い
仲間の攻撃に合わせさらに距離を詰めるっ
組みついて体勢を崩してからのパラドクスでの
打撃でダメージを与えるよ
相手からの反撃は籠手受けで凌ぐ
凌ぎきれなくても、獅子状のオーラを帯びた鍛えた体で
致命打を避けるように受け、すかさずまた間合いを詰め攻撃!
再度相手の隙を作りだし体力を削っていくね
自身の消耗が大きすぎるなら一度間合いを離し攪乱に努め
逆に仲間に敵の注意が向くようなら、急所に拳をねじり込む
全力の《光獅子闘拳》で、勝利をもぎ取るよっ!
勝ったら私もへとへと
でも笑顔でへたり込む友を助け起こすよ
四葩・ショウ
こんにちは
麗しき夜の虹の女王さま
跪くかわりに
すらり、硝子のレイピアを手に
【Hydrangea】で攻め込んで
ヤドリギの攻撃は
ブレイド(剣身)で受けたり
細剣での払いで凌ぐ
【エアライド】で
宝石めいた樹脂へ跳び翻弄し
邪魔ないばらの壁を乗りこえて
そうだね
わたしたちは、一人じゃない
仲間の動きをよく"観察"する
チャンスを掴んで、繋いで、託せるように
とり戻す為の戦いなのは
間違いないけれど
……きっとそれだけじゃ、ない
『ファルファッラのレディ』たち
あまい花蜜ソーダ
美しい虹の円環
はじめて触れて、知ったものばかりだ
ねぇ
この先には、一体何が待ってるんだろう?
どんな世界が、景色がーー
知りたいんだ
だから
すすもう、この先へ
●世界樹の宝石夜
硬質に艶めく夜空、麗しき極光が舞う天空のごとき世界。
艶やかな夜闇の裡で虹色の煌きが星々のように、極光のように躍る、遊ぶ、翻る。極上のブラックオパールを思わす宝石めいた樹脂で創り上げられた広大な玉座の間は夜の美しさを満たしたかのような空間で、
――夜だけでなく、深宇宙で虹色の星雲に抱かれた心地にさえなってしまいそうだ。
荘厳な光景に出逢った時に感じる高揚がソレイユ・クラーヴィア(幻想ピアノ協奏曲第XX番・g06482)の裡を翔け昇る。この玉座の間へ至るまでの世界も宝石のごとき美しさ、成程その頂に相応しいと思えば更に心が躍る。相対する敵は暗夜の女王を思わす魔女、この空間に月光めいて満ちる光を一撫ですれば宙には光の鍵盤が展開されて、
「――いざ、参ります」
壮麗な凱歌の響きで、今回の冒険の最初にして最後の戦いが幕を開けた。
凱歌の旋律に乗って駆けるのはソレイユが招来した馬上槍を携えし幻想の騎士、迎え撃つミストルトゥ・ウィッチの手では槍状のヤドリギが閃き、一瞬の交錯が苛烈な攻防を生む様に四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は花の色の双眸を細め、
「こんにちは、麗しき夜の虹の女王さま」
「武に長けた夜の女王よ、御手合わせ願おう」
夜の虹の女王へと跪く代わりにサリューのごとく礼を執るのは硝子のレイピア。剣身を渡る煌きが天蓋から滴る雫のように落ちたと見えた刹那、一瞬のショウの踏み込みと共に水平に奔った硝子の刺突に合わせ、宝石めいた樹脂の床や壁を蹴って跳び込んだシャムス・ライラ(極夜・g04075)が鞭を躍らせる。
『返り討ちにしてやるわ! 覚悟はいいでしょうね、侵入者ども!!』
四葩の花々を、蠍めく毒を纏った刺突や鞭撃を浴びつつも大きく跳躍した魔女が上方から叩き込む反撃は派手ながらも鋭い回し打ち、槍状のヤドリギが棒術めいて空間を裂けば途端に鋭利な緑が溢れ、瞬時に織り成された茨の壁が襲い来る。攻勢に転じては瞬発的に繰り出す数多の槍の刺突で横殴りの雹の雨を迸らせ、時にはその刺突が必中の矢の代わりに急所を狙って。
美しかった。
この空間ばかりでなく、彼我の攻防が――夜の森から生まれ落ちたような神秘を纏う魔女、ミストルトゥ・ウィッチが揮う槍術や棒術めいた技が。アンゼリカ・レンブラント(黄金誓姫・g02672)がそう感じたのも魂の芯から高揚が湧き上がったのも彼女自身が格闘や剣技などの武術を得手とするがゆえ、
「武術で負けるわけにはいかないからね! 全力で挑ませてもらうよ!!」
『ええ、あれだけの数のヴァインビーストを殲滅した者どもなら、相手にとって不足はないわ!!』
強気な笑みを咲かせて積極的に打って出るその手には光の剣でなく黄金に彩られた大剣、鍛え上げた膂力も活かした強打で魔女の棒術と激しく打ち合い、大剣を握る手でなくその腕で組み技を仕掛けたなら、もう片手の拳で力強く打ち込む技は――光獅子闘拳(ライジングレオ)!!
接近戦で激突し合って時に間合いを取りながらも敵味方ともに攻め手を緩めることはない。だが夜の虹と極光が躍るが如き空間を流星雨さながらに翔ける誘導弾の連射がミストルトゥ・ウィッチを牽制する。
時空を超える列車に乗り込む前に聴いてはいたけれど、
「武術? 魔法ダメ? 魔砲もダメ?? わたしの得意なもの殆ど全滅ってそんなのありなのーっ!?」
魔女でありながら武術に長け、それによって並のアヴァタール級を凌駕する力を揮う強敵を前に、半ば絶望的になりつつもシル・ウィンディア(虹色の精霊術士・g01415)は仲間を援護しながら皆の動きや状況を見極めんとする。
魔法が全く効かないわけではないだろうが、苦戦する可能性が高いと言われたならやっぱり躊躇してしまうところ。白銀の魔力銃から連射する誘導弾、パラドクスならぬそれが敵に痛手を与えることはなくとも、仲間のための牽制なら叶うから、
――今のうちに、何か手を考えないと……!!
夜闇が虹と極光を抱く宝石めいた樹脂の床に壁に天蓋に、夢幻のごとき七色の遊色が躍るのは魔女の魔力に呼応してか。
武術を修めた身体で猛然と戦場に舞うミストルトゥ・ウィッチ自身の動きや勢いが更に魔力を高めているのだろう。対策を持たずに挑んでいれば、あるいは緑の獣達が主のため駆けつけたなら相当な苦戦を強いられていた相手であるのは確かで、
――武術的に強化されている。というのは。伊達じゃないみたい。でも、性格的には。ちょろそう。
――ヴァインビースト達は全部スルーしてきたことに気づかれてないのは、わたし達の大きなアドバンテージよね。
リヴィア・メルビル(虚の大鯨・g00639)とアイン・トロイメライ(子どもの夢でさようなら・g00491)は眼差しで密やかに意を交わして、
「流石は。この地の守護者。たしかにあれを。率いるだけある。でも。貴女『も』ここで果てるの。それは。覆させない」
「ええ……あなたの手下は厄介だったわ。でもすぐにあなたも同じ所に送ってあげる」
『大口叩いてくれるじゃない! あたしの可愛いヴァインビースト達を殲滅した罪、その命で贖ってもらうわよ!!』
彼女の思い込みを利用しながらの挑発で煽れば、ミストルトゥ・ウィッチの顔がいっそう怒気に染まった。攻勢は激化するだろうが相手が感情的になればなるほどその技は精彩を欠くはず――というのが弱冠十二歳ながら計略に長けたアインの策、果たして爆ぜるような槍撃とともに烈しい雹の雨が広範囲へ叩きつけられたが、氷の盾で難なくその威を半減したリヴィアが即座に掌中へ結晶させた氷花剣とともに彼我の距離を殺す。
一瞬で跳び込む魔女の懐、
「槍はリーチが長いぶん。懐に潜られると弱いの」
『あたしが未熟者かつ只の槍使いだったらそうかもしれないわね、だけど――!!』
然れどこの魔女が揮うのは槍術と棒術、瞬時に手を滑らせ持ち替えた彼女は下方から鮮烈に跳ね上げる払い技でリヴィアの反撃を弾かんとするが、魔女の殺気を凌駕する少女の剣閃がミストルトゥ・ウィッチの肢体に鮮血の軌跡を描きだす。刹那、全身を雹に穿たれた痛みを堪えて不敵な笑みを咲かせたアインが、反撃ならぬ攻勢に出た。
華奢な腕で銀に艶めくガジェットが突如幾つもの砲塔を展開したかと思えば、斉射されたのは不可視の砲撃。なれど、
「これは魔法じゃないわ、物理的な衝撃を齎す音響攻撃よ!!」
『……っ!!』
高度な指向性を備えた凄まじい音響が魔女のみに爆ぜて、その鼓膜や内耳ばかりでなく全身に痛手を与える。機を逃さずに獲物へ迫るのはシャムス、だが即応した魔女の打ち込みが反撃の茨を織り成す様に、【罪縛りの鎖】で茨を捕えてその形成を阻めれば、【アイスクラフト】の氷を足場や盾にできれば、と脳裏をよぎる策はあるけれど、
獅子の群れすら容易く捕える【罪縛りの鎖】、この効果は一般人の軍勢が戦う戦場へ介入する際などには遺憾なくその威を発揮するが、眼前の茨には意味を成さない。これは『通常の生物』でなく召喚存在の如きものであり、そして、行動の主体は茨でなく、茨の壁を形成するミストルトゥ・ウィッチであるからだ。
糅てて加えて、事前に【アイスクラフト】で氷を創り出しておいた地に敵を誘い込んで戦うならまだしも、戦闘中に咄嗟にその力を揮って氷を出現させることも不可能だと本能的に理解できたから、
「平時で活きる残留効果を戦闘で活かせるのは、相当に限られた種類の効果か状況のみ――と考えるべきか」
現状で活かせぬ策は即座に切り捨てた。
そもそも、防御に意識を割くなら己が活かさんとする捨て身の一撃の技能の特質を殺すことになる。矛盾する戦術は互いの利点を相殺するだけだと瞬時に思い至ればシャムスは迷わず反撃の茨を突き抜け、己が血の滴を躍らせながらも縦横無尽に舞う鞭で猛毒の一撃を打ち込めば、
「暗夜の女王よ、多少の作法の違いはどうぞお許しを」
澱みない連携で機を掴んだソレイユの指が光の鍵盤に躍る。溢るる音色が高らかに凱歌を奏でれば、夜の虹と極光の世界に顕現して馳せるは馬上槍を携えし騎士、真っ向から馬で突撃する騎士は魔女の脇を駆け抜けるよう一撃を見舞わんとするが、
『残念ね。幻想ではない彼と手合わせしてみたかったわ』
「!! ああ、確かに、騎士が私の幻想であるなら――」
この魔女にとっては多少なりとも魔法的な性質を備えた攻撃であるのだろう。馬上槍が肩を掠めるのにも構わず笑む魔女の長大なヤドリギが騎士を貫き、激烈な痛みを幻想の主たるソレイユの胸へ響かせる。けれど、
「それでも、こんなふうに戦況をより有利にしてくれる一手になる。わたしたちは、一人じゃないから」
幻想の騎士が消えた刹那。騎士の後方から跳んでいたショウが、完全にミストルトゥ・ウィッチの虚を衝いた一閃で彼女の胸を貫いた。一瞬にして劇的な貫通撃を見せた硝子のレイピアは魔女の反撃と次撃の機を散らして、
紅き血潮の代わりに、青と紫の四葩の花を踊らせる。
●宝石夜の茨魔女
深く澄んだ夜闇に虹と極光を閉じ込めたような宝石。
極上のブラックオパールを思わす樹脂で創られた壁も天蓋も足掛かりにして、存分に【エアライド】も活かしながら自在に空間を駆ければショウも、極光の天空や星雲の深宇宙を渡る心地。軽やかで自由な軌道の跳躍に翻弄されつつも魔女が彼女を狙わんとするが、途端に数多の光が玉座の間を翔けめぐった。
「そうそうあなたの好きにはさせないからねっ! ミストルトゥ・ウィッチ!!」
「わ、ほんとに流星雨みたい……!」
相手がヤドリギの回し打ちを反射的に払いへ変えて叩き落とすのは、牽制狙いでシルが連射する誘導弾。無数に翔けるその煌きに軽く双眸を瞠って笑み咲かせ、光の軌跡を足場にショウは更なる高みへ跳ぶ。
魔女が棒術めく技で現出させる茨はパラドクス攻撃であるがゆえに如何な高みへ跳んでも完全に躱すことは叶わないが――牽制で形成が粗くなった茨の壁を細剣で払い棘の鋭さを削ぎながら突き抜け、急降下の勢いも乗せて繰り出すのは、無垢なる硝子の鋭い一閃。
戦況はディアボロス側が優勢なれど未だ確実とは言えず、激しい攻防で彼我ともにかなりの血を流しているが、玉座の間を構成する宝石めいた樹脂は血に濡れても不思議とその夜闇と虹の彩を透かし、美しい煌きを覗かせていた。
煌きの戦場に猛然と舞うミストルトゥ・ウィッチの動きは今もって消耗を窺わせず、
「一瞬でも捕縛できればと思ったが、強敵かつ技能だけ見ても格上の相手に挑むのは無謀だな」
「同じ技能を持つなら練度の勝負になりますからね。ですが、捕縛せずともあなたの鞭なら十分攪乱できると思いますよ」
諜報員たる男が事前に示された敵データを脳裏によぎらせ眉を寄せれば、その耳に届いたのは挑むよう微笑するソレイユの声音。そうかと笑み返したシャムスが一瞬で跳び込んだのは勿論魔女のもと、飛蛇のごとくしなやかで強靭な鞭が変幻自在に光も闇も裂く曲線的な動きには然しものミストルトゥ・ウィッチも応じきれず、
棒術の受けも払いも擦り抜けた猛毒の一閃が彼女の肌も肉も裂いた刹那、凱歌の旋律とともに駆け抜けたソレイユの騎士が女王の骨までも砕く痛撃を見舞う。
『やってくれるじゃないの!』
連続で反撃の機を殺された魔女は間合いを取らんと跳び退った次の瞬間に床を蹴り、
「此方に来るぞ、雹の雨だ!」
「だね、これ本当キツいけど」
「助かります、シャムス!!」
咄嗟にシャムスが声を張るのと同時、幾重もの苛烈な槍撃に重ねた雹の雨を叩き込んで来た。横殴りの雨は凄まじい威力を孕む氷の弾幕、怯むことなくソレイユの盾となった彼の傍らを駆け抜け、キツいけど負けるもんか、と寧ろ楽しげに笑むのは全てではなくとも雹の雨を手甲で受けつつ魔女へ吶喊するアンゼリカ。
肉体のみならずグラップルの技をも鍛え上げた黄金誓姫、その組み技には武術を修めた魔女も体勢を崩され――。
接近戦を挑み続ける勇ましい友の姿にシルは、非力な己でも確と戦力になれる手立てを模索し続ける。
武術において物を言うのは力ばかりではない。
魔法のみならずスピードを活かした戦術も得意とする彼女なら、素早く接敵し淡碧の小剣で直接ブレイブスマイトの一撃を叩き込む戦い方でも眼前の敵と巧く渡り合えただろう。然れど今このとき、虹色の精霊術士が選び取った戦法は、
「そうだ、これならいけるかも! わたし自身の身体能力を増幅させる強化魔法――!!」
六芒星を描く精霊の力で瞬間的かつ爆発的に己の身体能力を強化し、その全力で斬撃を叩き込むもの。凄まじい力の反動を顕すようシルの背に二対の光の翼が咲いたのと、体勢を崩した魔女へ輝ける黄金の獅子の光を纏ったアンゼリカが痛烈な回し蹴りを喰らわせたのがほぼ同時。
自陣最高火力を誇る光獅子闘拳(ライジングレオ)、その強撃で相手の身体が宙に浮いた刹那、
「今だシル! 思いっきり!!」
「うん! 行くよ、全力全開っ!!」
夜空へ駆けあがる心地で空中跳躍を重ねたシルが一気に降り落ちながら揮うは淡碧の小剣に絶大な力を乗せた斬撃。深々と体躯を斬り裂かれたミストルトゥ・ウィッチは激しい衝撃とともに樹脂の床へ叩きつけられたが、
『……っ!! 認める。強いわ、あんた達。けれどそれでも、あたしは引き下がらない――!!』
深手を負ってなお彼女には瞬時に跳ね起きて跳び退る力がある。間合いを取った魔女が槍撃と雹の雨を揮うより速く攻勢を掛けたのは三つの氷の煌きを奔らすリヴィア、その意のままに動くビットたる氷の剣が三方から敵を包囲すれば、
――ここで。氷雪使いの技で。吹雪を。
瞬時にそう思うが技能では無から有を生みだすことは叶わない。己の装備品、即ちクロノ・オブジェクトたる氷の剣や盾を破砕する手間を掛けていられるはずもなく、自身が己を中心に吹き荒ぶ吹雪と認識しているBW-シュネーシュトゥルムもその本質は電脳ゴーグルだ。然れど、
「顕現せよ虚飾の剣、その魂食らいて果てよ!」
高速詠唱で氷花剣を結晶させるパラドクス、それこそが氷花剣に纏わせるダイヤモンドダストを一気に吹雪かせる。此方の攻撃を見失わせるほどのものにはならねども、相手に刹那の隙が生じるだけでも十分すぎるほど。
高速詠唱、氷雪使い、殺気。
魔女が雹の雨に活かすそれらの技能すべてで圧倒的にリヴィアが勝るから。
凛冽な斬撃で雹の反撃ごと斬り伏せたなら、間髪を容れずアインが銀色のガジェットを翻す。瞬時に展開される砲塔へと装填されるのは壮絶な音響の砲弾、『最終楽章』アイネ・クライネ・ナハトムジーク(アナタニオクルサイゴノウタ)。
「ありったけをぶちかますわよ! ってぇーーい!!」
壮絶にして壮麗な音響が魔女を蹂躙したなら、その余韻の中にリヴィアの声が通る。
「……貴女がどれだけ強くても。それは個であればこそ。私達には。仲間がいる」
『あたしだって! あたしの可愛いヴァインビースト達がやられてさえいなければ
……!!』
迸る魔女の叫びに皆が改めて目配せを交わし合った。
――あなたの可愛いヴァインビースト達はみんな健在だなんて、気づかれちゃダメ! 絶対!!
●世界樹の冒険譚
夜闇と虹の宝石、あるいは極光の天空、あるいは星雲の深宇宙。
麗しき玉座の間に己の鮮血を振り撒きながらも、満身創痍のミストルトゥ・ウィッチは決して諦めることなく抗い続ける。絶対に第一層を越えさせはしないという苛烈な意志に彼女の守護者としての矜持を見た気がして、己も改めて戦意を研ぎ澄ませたソレイユは、
必中の槍撃がシャムスめがけて奔った瞬間、己が身を盾とすべく跳び込んだ。互いの不得手を補いながら戦い抜く。
武芸に慣れぬ身なれば下手な防具で動きを鈍らせるよりも、攻撃が届く瞬間に後方へ跳ぶことでその威を軽減できれば、と思っていたけれど。
「この背に友を護っている以上、退がるわけにはいきませんね……!」
「頼もしいことだ。勿論、此方が盾となる時も同じだが」
心臓への直撃を反撃強化の加護で逸らされた槍撃に腹部を穿たれるが、微笑を崩さず指先を鈍らすこともなくソレイユは、高められた反撃の勢いのままに奏でる凱歌で幻想の騎士を疾駆させる。魔女が後方へ跳んだ瞬間シャムスも横合いに跳び、樹脂の壁を強く蹴りつけ弾丸のごとき勢いを得たなら、
敵へまっすぐ駆けた騎士の一撃に重ね、光も闇も裂く猛毒の鞭で鮮烈に魔女を打ち据えた。
最早ディアボロス側の優勢は決定的、なれど効果的な防御手段を持たぬ面々の消耗は護りの加護があってもなお激しくて、
「このまま長引かせるのは危険すぎるわよね……!」
「うん。ここは一気に。畳みかけてしまいたい。ところ」
覆らぬ優勢を得てもなお気を緩めずアインが斉射する音響攻撃は皆で盛大なフィナーレを迎えるための最終楽章、迷いなく氷花剣を結晶させたリヴィアが続け様に魔女を急襲すれば、吹雪かせたダイヤモンドダストのきらめきが消えるよりも速く、硝子の一閃が奔る。
微細な氷晶が、夜闇に虹や極光を閉じ込めた宝石のごとき樹脂の煌きを映して舞う。その美しさも心に魂に確と映しとり、ショウは冴ゆる硝子のレイピアで、ミストルトゥ・ウィッチの喉元を貫いた。
歴史侵略者との戦いはいつだって、いずれ全てを取り戻すためのもの。
――だけど今この地での戦いは……きっとそれだけじゃ、ない。
「貴女が織り成す茨の壁をも乗り越えて、わたし達はこの先へすすませてもらう」
『させ、ない……行かせないわ!、ディアボロスども!!』
「ううん、行ってみせる! あなたが守護者でも、わたし達を止めさせやしないんだからっ!!」
自ら硝子のレイピアを引き抜く勢いで後方へ跳んだ魔女がヤドリギを構えるが、そのときにはもう既にシルが彼女の真上を獲っていた。夜空へ駆けあがるがごとき空中跳躍、思う様それを重ねたシルの直下に六属性の精霊の力が魔法陣を咲かせて。
輝くそれを突き抜けたなら爆発的に増幅される身体能力、全身が軋むのを一瞬だけ忘れて降り落ちる。左手で淡碧の小剣を閃かせ、渾身の斬撃を揮えば魔女の右腕が鮮やかに断ち落とされた。
然れどもミストルトゥ・ウィッチは左手のみで揺るぎなく槍状のヤドリギを握る。僅かにたたらを踏みかけるも宝石めいた樹脂の床を確りと踏みしめて。だが、極めて僅かなその隙を掴み獲り、アンゼリカが一瞬の迷いもなく床を蹴っていた。
ごめんねなんて言わない。絶対に。
だって互いに譲れないものがある。
「行かせてもらうよ、ミストルトゥ・ウィッチ。だけど、君のこと、絶対に忘れないから!!」
『――!!』
眼差しが重なったその瞬間、戦姫の闘拳たる手甲から溢るる黄金の輝きが光の獅子を織り成し、アンゼリカへと重なって。全身全霊を乗せた黄金誓姫の正拳突きが魔女の身体の真芯を捉えて打ち抜いた。その命の、すべてをも。
息を呑み、己に終焉を齎した拳を見下ろしていた魔女が、やがて玉座の間の天蓋を、あるいは世界樹の上層を仰ぎ見る。
『あ、あ……我が師、薔薇の戦士スカアハ様……!! どうか、どうか、あたしを、この不肖の弟子を――』
お許しください、と続いた言葉を最期に、ミストルトゥ・ウィッチの全てが消え果てた。
断ち落とされた腕も、槍状に変じていた、ヤドリギさえも。
「お、終わったあぁぁ~……」
「お疲れ様だね! っと!?」
一瞬だけ忘れた全身の軋みが重い波のごとく寄せ来たものだから、増幅の反動のきつさに思わずシルはへたり込み、笑顔で友を助け起こさんとしたアンゼリカは、ぱたんと床に仰向けになった彼女がほんにゃりと笑顔になる様に首を傾げつつ、隣で真似っこしてみた。だって初めから終わりまで激しい接近戦を挑み続けたアンゼリカも疲労困憊、へとへとなのだ。
――夜闇と虹の宝石めく空間で仰向けになったなら、極光の天空、あるいは星雲の深宇宙にふうわり浮かびあがる心地。
彼女達の様子に、そして、改めて見渡したこの空間の美しさにソレイユは青と金の眼差しを緩めるけれど、不意に、
「……守護者を失った森や湖は、今後どうなるのでしょうか。今までどおり美しく在れれば良いのですが……」
「あの魔女なしでは荒廃する、なんてことはなさそうだが。守護者とは、この地を外敵から護る者という意味だろうしな」
瞳に憂いをよぎらせた友を安心させるよう、シャムスは己が見聞きしたすべてから導き出した推論を語った。
彼女の存在自体が、この地を――花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界を瑞々しく生かしているという意味ではあるまい。この地の美しさは世界樹そのものが創りだしたものだと考えていいだろう。
然れど、
「ドラゴン達が来たら……どうなるか判らないよね」
「うん。相手は炎のベディヴィア卿だもんね」
身体は仰向けのままアンゼリカとシルは顔を見合わせて、ドラゴン達の好きにさせるつもりはないけれど、と互いの意志を確かめ合うように頷き合う。
予測されているとおり炎のベディヴィア卿が全軍を率いて襲来すれば、この地はそのままでいられるだろうか。
そして、ユーカリレンズの存在と攻略旅団による植生調査の結果が示唆するように、妖精郷がオーストラリアであることが間違いないのなら、妖精郷の最終人類史への奪還が果たされた時に、世界樹は――。
「ああ、ほんとうに……奇跡的なタイミングだったんだ」
眩しげに、愛おしげに花の色の双眸を細めて、透きとおるようにショウが笑んだ。
妖精郷の状勢が今の展開を迎えなければ、今このときでなければきっと、この地の花と緑と水と、宝石めいた樹脂の世界を冒険する機会はなかっただろう。
光の蝶のように咲く『ファルファッラのレディ』たち。
甘い花蜜ソーダに、美しい虹の円環に――。
胸に花開くのは、この地で初めて触れて、知ったものばかり。
この先には何が待っているんだろう。どんな世界が、どんな景色が、と思えば真白な花のごとき夢が咲く。
知りたい、と、夢見るように想うから。
仲間達へ微笑みかけた。世界樹攻略が次の段階を迎えたら、
――すすもう、この先へ。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV4になった!
【ダブル】がLV2になった!