リプレイ
歌川・ヤエコ
おとめげー?のことはよく分かんないけど楽勝楽勝!
あーしに任せておきんしゃい!
よーし!てなワケであーしの話を聞きんしゃい乙女共!
おとめげーも就活も分かんないしカレピもいねーが!
そんなあーしでも現実が大事だってのは分かる!
それを今から教えちゃるから覚悟しろい!
電脳に突発の出会いあんのか!
電脳じゃ予定調和の出会いばっかりじゃない?
ゲームなら何度も何度もやったら展開似通るじゃろがい!
ところがどっこい現実じゃなにが起こるかわからん!
それがイヤなとこでもあるけどハピる可能性もある!
ところであーしおとめげーにも興味あるんだけど!
おねーさんたちオススメ教えてよー!
あーしの話だけじゃなくそっちの話も聞きたいな!
シルヴァーナ・ガラッシア
【士気高揚】で推し活です!
同担拒否が居ても大丈夫なように、探り探り箱推ししていきます!
引き籠るなんて…もったいないです!
推しに直接応援が届きません!
ここに…ある乙女ゲーのライブの…通路目前の連席チケットがあります!
客席降りで目の前を通る可能性100%…いえ、マジ1000%です!
同行者が都合悪くなってしまったのでお譲り先を探しています!
ライブグッズの物販列並びは私も全力で協力します!
ランダムアイテムの推し目的交換もしませんか!?
当日ファンレターやプレゼントの受付もありますよ!
一緒にペンライト振ってうちわでメッセージ作って応援しましょう!
終わったら打ち上げにコラボカフェ行きましょう!
秋津島・光希
※連携、アドリブOK
電脳世界に侵入しての作戦
ハッカー的に燃えるシチュなのに
状況聴く限り、ツッコミどころしかねえような…
ま、秋葉原は個人的にも取り戻してえ場所だし
何だってやってやるよ
で、信者は…今は乙女ゲー漬けか
中学ん時の同級生の女子が
推しについて語ってたりしたな、懐かしー
説教しても互いにいい気分はしねーし
まず肯定から入るか
なー、お姉さん達
アンタらの推しの話、聴かせてくれねえ?
すっげえ楽しそうだから気になってさ
へー、色んなタイプがいるんだな
グッズとかあんの?
ゲームの舞台は?聖地巡礼とかしねーの?
二次創作から栄養摂ったりは?
…ま、外に出ねえと厳しいか
楽しそうなのに、供給源が限られちまうのは残念だな
電脳秋葉原・壁外。
「ここが電脳世界……なのか」
イメージ通りと言うべきか、なんと言うべきか――黒い空間に蛍光色のグリッドが延々と敷かれた世界を見渡して、秋津島・光希(Dragonfly・g01409)は言った。
「しかし、本当になんとかなるのかこれ?」
電脳世界に侵入しての破壊工作。ワールドハッカーとしてはこれ以上ないほどに燃えるシチュエーションなのに、よもや相手が乙女ゲー漬けの大天使信者とは。休み時間のたび推しについてまくし立てていた中学時代の同級生女子を思い出すな――などと遠い目をしていると、隣で底抜けに明るい声がする。
「だーいじょうぶ! こーいうことなら、あーしに任せておきんしゃい!」
自信満々に腕を組み、歌川・ヤエコ(極彩色の青春を・g01595)が言った。浅黒い肌に派手目のネイル、チェック模様の短めプリーツにキラキラ輝くアクセサリー、おまけにキュートなフェイスペイント――どこから見ても非の打ちどころのないギャルの姿に、光希は小首を傾げる。
「聞いていいかどうか分かんねえけど」
「何を?」
「アンタ、乙女ゲーとか詳しいのか?」
「全然?」
即答オブザイヤーである。何言ってんの? くらいの軽い笑顔でけろりと返し、ヤエコは続けた。
「おとめげーのことはよく分かんないけど、女同士っしょ? だったら楽勝楽勝! それ突撃ー!」
「つまり、意気軒高に全力の推し活ですね! 同担拒否が居ても大丈夫なように、探り探り箱推ししていきましょう! いざ!!」
心なしか早口にまくし立てて、シルヴァーナ・ガラッシア(スイーツハンター・g02348)も続く。だいぶ噛み合っていない気がするが、大丈夫か――走り出したら振り返る気配もない少女二人をじとりと見つめて、光希はもう一度深々と溜息をついた。
「ま、秋葉原は個人的にも取り戻してえ場所だしな……」
そのためなら、多少変な仕事もやむを得まい。なんだってやってやるよと諦めの境地で呟いて、少年もまた後を追った。どこに、どこまで続いているのか分からない電子の海をしばし駆けてゆくと、やがて前方に四人の女性達が机を囲んでいる光景が浮かび上がる。それをターゲットと見て足を止め、ヤエコは大きく息を吸い込んだ。
「いよーし! てなワケで、早速あーしの話を聞きんしゃい乙女ども!」
その声は、遮るもののない電脳空間に高々と響き渡った。するとガタガタと席を立ち、机を囲んだ女性達は怯えたような声を上げた。
「え?」
「は?」
「え、何? なんでギャルがいるの? こわい……」
「こら! ギャルをユーレイみたいに言うんじゃない! 今から現実の大事さをじっくりたっぷり教えちゃるから覚悟しろい!」
『おとめげー』も『シューカツ』も分からないし、ついでに言えば彼氏もいないヤエコだが――ところで、こんなことまで暴露する必要はあるのだろうか?――それでも、現実が大事だということくらいは分かる。びしぃ、とネイルの煌めく指先を突きつけると、女達は何故だかやたらと眩しそうに仰け反り、そして一様に訝るような眼差しを少女へと向けた。
「うおっギャル眩しっ」
「な、なんであなたにそんなこと教えられなきゃならないのよ!?」
「うっさい! 電脳に突発の出会いあんのか!」
「ウッ(グサッ)」
あっ刺さった。
「ゲームだって、何度も何度もやったら展開似通るじゃろがい! ところがどっこい現実じゃなにが起こるかわからん!
それがイヤなとこでもあるけど、思ったよかハピる可能性もある!」
「ぐっ、ギャルのくせになんて正論を……!」
なお、ギャルが正論を言ってはいけないという法はない。今にもニフ●ムされそうな女達に、今度はシルヴァーナが歩み寄る。
「私は皆さんの気持ちも分かりますよ。でも、それでもやっぱり、引き籠るなんてもったいないです! なぜなら――」
「え、なにこれ妖精さんカッワ」
「なぜなら?」
息をするように素直な感想を零す女子達を前にこほんと小さく咳払いをして、シルヴァーナは満を持して言った。
「なぜなら――推しに直接応援が届かないからです!」
「ぐあああ!!」
そんな本当のことをと頭を抱えながら、女達は悶え狂う。数枚の紙きれを右手に掲げて、シルヴァーナは追い打ちを掛けるように続けた。
「ここに、ある乙女ゲーのライブの――通路目前の連席チケットがあります! 客席降りで目の前を通る可能性100%……」
「そっ、それは、あの伝説の乙女ゲー……ソングの王子様の!」
「そうです! マジライブ1000%です!」
「なあ、大丈夫かこれ?」
俺はいったい何を見せられてるんだろうと思いながら、光希はジト目で突っ込んだ。しかしシルヴァーナはしれっと『大丈夫ですよ』と返す。
「マジもライブも1000%も一般名詞(?)ですから」
「まあ、そうなんだろうが……いや、繰り返すな危ないから」
大丈夫。アウフアウフ。このリプレイに登場する固有名詞は実在の人物・団体・作品とは関係ございません。
「同行者が都合悪くなってしまったのでお譲り先を探しています! ライブグッズの物販列並びは私も全力で協力しますよ! ランダムアイテムの推し目的交換もしませんか!?」
妖精郷のお姫様みたいな顔してどこでそんなオタク知識仕入れてきたんだこのフェアリーナイト。思わず天の声が唸ってしまうほど精密に、シルヴァーナはオタク心を射抜いていく。
「当日ファンレターやプレゼントの受付もありますよ! 一緒にペンライト振ってうちわでメッセージ作って応援しましょう! 終わったら打ち上げにコラボカフェです!」
ほらね、現実でしかできないでしょう――?
黄昏に似た琥珀色の瞳をキラリと光らせて、シルヴァーナはちょっとだけワルい笑みを浮かべた。これはえげつない。これは折れるしかない。ここに引きこもっている限り、彼女達は現地には行かれないのだから。
くっと喉を鳴らして女達がその場に膝をつくと、ヤエコはすかさずその肩を抱き込んだ。
「ところであーしおとめげーにも興味あるんだけど! おねーさんたちオススメ教えてよー!」
「ちょっ、ま……オタクに優しいギャル実在した……?」
グッと心臓を押さえて、女の一人がたたらを踏んだ。どんだけ優しくされ慣れてないんだと思いつつ、光希はとどめとばかり畳みかける。
「俺も聴きてえな、アンタらの推しの話。すっげえ楽しそうだから気になってさ」
「お兄さんも乙女ゲーやったりするんですか?」
「やりはしないけど名前は知ってるってくらいかな。へー、色んなタイプのキャラがいるんだな……」
「はひ、むり、ナマモノの男子は刺激が強い!」
グッズも聖地巡礼も、薄くて高い本の即売会も。ネット空間だけでは得られない栄養が、現実世界には沢山ある。ここまで押し気味だったから、最後はちょっと引いて――でも、と少しだけ残念そうに、光希は言った。
「外も結構楽しそうなのに、ずっとここにいるだけってのは残念だな」
「…………」
しばしの沈黙の後、シュンッという音とともに、電脳世界の境界はいとも呆気なく開いた。……実にちょろい、なんて、言ってはいけない。
この先に続くのは、千変万化の電脳秋葉原。そこでどんな『ゲーム』と出会うのかは、復讐者達自身に委ねられている。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【隔離眼】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
歌川・ヤエコ
おねーさんたち帰っちゃったから結局おとめげーについてよくわからんや~~~~ん!!!!
まいっか!雰囲気でなんとかなるなる!
とりまイケメンを口説くんだな!まかせとけい!
相手は誰でもいいんだけどなぁ
う~ん、ツンツンしてる系男子にしてみよっか
でもって第一声はコレ!
「ヘイボーイ!あーしとトゥギャザーしようZE!」
おっけおっけ掴みはばっちしだな
まずは何でもいいから顔を覚えてもらわないとね
でもってその後は好き好きアピールをこれでもかってくらいする!
からんでからんでからみまくればあーしの勝ち!
あーしは細けーことよく分かんないし、感情はストレートにぶつけないと伝わんないだろうし!
しらんけど
!!!!!!!!!!!
「……はっ」
振り返った世界は、黒洞洞とした闇に包まれていた。のーんと両手で頭を抱えて、歌川・ヤエコ(極彩色の青春を・g01595)はそのままブリッジでもしそうな勢いで天を仰ぐ。
「いや、おねーさんたち帰っちゃったら結局おとめげーについてよくわからんや~ん!!」
歌川ヤエコ、十八歳。オシャレに、空t……もといギャル神拳に、幼き日々より邁進すること十余年。別に偏見もなければ嫌いなわけでもないのだが、いわゆるオタク文化とは縁のない生活を送って来た。だから突然ゲーム機のコントローラーを放って寄越されたって、どのボタンを押せばいいのかも分からない――のだが。
「まいっか!」
この間、わずか0.5秒。あっさり直立姿勢に戻って、ヤエコは言った。説明書など読まなくても、大体のことは雰囲気と勢いでなんとかなるものだ。要は習うより慣れろ、である。
「とりまイケメンを口説くんだな! そーゆーことなら、まかせとけーい!」
意気揚々と両手を突き上げた瞬間、揺らぎ続ける電脳空間にさっと銀色の波が立ち、光の粒子が一つの風景を描き出す。学校の屋上だろうか? 澄み渡る青空の下には、制服姿の真面目そうな少年が一人、フェンスを背に本を広げていた。しかし視線がぶつかったその瞬間、彼は露骨に舌を鳴らす。
「なんだよ……ここなら誰も来ないと思ったのn」
「ヘイボーイ! あーしとトゥギャザーしようZE!」
「!?」
さしずめ『教室の喧騒から逃れて本を読みたかった文学少年(図書室へ行け)』といったところだろうか。ならばそれなりの接し方があるものだが、そんな乙女ゲームのセオリーがヤエコに通じるはずもない。掟破りの一声に思わず後ずさる少年の肩を両手で掴み、やり遂げた風にヤエコは言った。
「おっけおっけ、掴みはばっちしだな!」
それ、多分物理的な掴み。何がと喚く相手に真正面から向き合って、少女はにひっと口角を上げた。
惚れた腫れたの駆け引きなんて、正直よくは分からない。ただ、経験上一つ言えるのは、好きも嫌いも口に出してぶつけなければ伝わらないということだ。だから、ここで言うべきことはただ一つ。
「突然だけどあーし、あんたのこと好きなんだわ!」
ある。ここから始まるラブコメ絶対ある。
だから顔だけでも覚えてね、と、片目を瞑った笑顔はチート級――人懐っこく素直な好意を向けられたら、どんな相手だってときめかずにはいられないだろう。
大成功🔵🔵🔵
効果1【悲劇感知】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
秋津島・光希
何でもやるとは言ったものの
イケメンを?口説くの?俺が?
いや、やるけど…はぁ(クソデカ溜息)
ま、パラメータ上げや友好度の調整が不要なだけ楽か
問題は攻略対象だが
身近な人物に近い相手のがやり易いか
例えば、幼馴染のアイツ
長身眼鏡男子
無表情クール系に見えて実は天然
弟妹が多いから家庭的で家事全般得意
俺もよく弁当作って貰って…って
特徴だけ羅列すると属性多いな
本物のゲームキャラみてーだ
シチュは夕暮れの帰り道
他愛ない会話の延長で
「俺ら、ガキの頃からずっと一緒だな」
「進路決めたか?俺はまだだけどさ。高校出ても、お前とは…」
「一生、お前の作るメシが食いてえな」
…ん?日常会話になってる気が
ちゃんと口説けてんのかこれ?
「なんでもやるとは言ったものの――イケメンを? 口説くの? 俺が?」
考えれば考えるほど宇宙猫顔になって、秋津島・光希(Dragonfly・g01409)は、聞こえよがしな溜息をついた。気にするな光希。Don't think, FEELだ光希。だいたい乙女ゲー攻略だって言ってるのにここに来た五人のうち四人は若く健康な男子達なのである。
夕暮れの赤らんだ陽射しが差すどこかの学校の門の前。黒々とした鉄柵が茜を帯びる物語の一場面に、少年はいた。辺りを見渡して大体の状況を理解すれば、半開きの唇からは自然と大きな溜息(二回目)が洩れる。
(「で――問題は攻略対象だが」)
勉強コマンドでパラメータを上げたり、人間関係の爆弾を処理したりする必要がないのは楽だが、すべて口先の勝負だというのもそれはそれで気が重い。どうしたものかと考えていると、背後で誰かが立ち止まる気配がした。
「今、帰りか」
声を掛けてきたのは、眼鏡を掛けた長身の男子生徒だった。怜悧な印象が一見すると近寄りがたい雰囲気だが、気を許した相手に対しては存外気さく――大体そんなところだろうか。しかしその姿はどこか、記憶の中にある本物の知り合いにも似ているような気がして、光希は小さく首を捻る。
(「なんか、あいつに似てんな?」)
無表情でクールに見えて、実は天然な幼馴染。弟妹が多いためかやけに家庭的で、光希自身もよく弁当を作ってもらったりしたものだ。今にして思えばゲームキャラみたいな奴だなあ、などとしみじみ振り返りながら、おう、と手短に少年は応じる。そして肩を並べて歩き出す傍ら、ぽつりと言った。
「なあ――お前、もう進路決めたか?」
「いいや。そっちはどうなんだ」
「いや、俺もまだだけどさ」
革靴の爪先で、小石がこつんと小さな音を立てた。夕日にほのかな熱を持ったアスファルトの道には、二人分の影が長く尾を引いている。
「まだだけど――高校出ても、お前とは……」
何しろほんの小さな子どもの頃から一緒だったのだ。今更、違う道を歩いていく未来が想像できない。だから、と先を続けようとしてはたと言葉を切り、光希は空を仰いだ。
「なあ、これジャンル変わってねえ?」
変わってる気がしますねありがとうございます!!
どうかしたのかと尋ねる眼鏡のイケメンの隣で、空を睨んだ少年の顔は渋柿よりも渋かった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!
ジョン・エルバ
【Wertlos】
男は別に…あぁ分かったよ…
折角のゲームだ!楽しく行こうぜエルマー、口説き勝負だ!
堅物ほど簡単ってな、ツンデレ一匹狼ってやつにするか
難しい顔をして座ってる横に遠慮なく座るぜ!
「いつもここで変な顔してるよな、どうしたんだ?」
挑発気味に話しかけ、怒って席を立ちそうになったら手を掴んで引き留める
「待てよ、もっと話がしたいんだ。本当はずっとお前のことを見てた、悩みがあるなら教えてくれ」
[不意打ち]で顔を至近距離まで詰め、驚いたら警戒心を解く最大の笑顔で反撃だ!
「そっちのが可愛いぜ!」
(チラリと友人を見つつ)意外とやるじゃねえか…
でもオレはロックスターだ、どんな奴だって口説いてみせるぜ…
エルマー・クライネルト
【Wertlos】
男を口説く…これ我々がやる必要あるのかね?
まぁ出来るだけやってみよう
ジョンは流石に手慣れている感じがするな
勝負を受けた訳ではないが負けてられん
真面目そうな少年に声をかけよう
オラトリオを彼に突撃させて話をする切欠を作る
君、娘が申し訳ないね
お詫びをしたいのでそこの喫茶店で少し話さないか?
おい「主人公そっちかよ」みたいな顔するんじゃない
生徒会?に所属しているのか
周囲が優秀すぎて自分に自信が持てないと…他人事と思えんな
他人が如何であれ君は君だ、比べる必要など無い
少なくとも今私に話をしてくれる君は、私にとって唯一の存在だ
だからそう自分を卑下しないで欲しいな
そう言って微笑を浮かべ[誘惑]
「……これ、我々がやる必要あるのかね?」
「いやあ……男は別になあ……」
舞台設定はさながら都心の休日、昼下がりの公園といったところだろうか。カフェや噴水が目を引く園内には、多くの人々が行き交っている。
エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)とジョン・エルバ(ロックスター・g03373)は半ば呆然とその光景を見つめていた。パラドクストレインは色々あったのに、なぜよりによってこの仕事を選んでしまったのかと若干後悔しなくもないが、来てしまったからにはやるしかない。
眉をひそめつつ咳払いをして、エルマーは言った。
「まぁ、できるだけやってみよう」
「あぁ、分かったよ……せっかくのゲームだしな! 楽しく行こうぜ!」
口説き勝負だとサングラスを押し上げて、ジョンが応じる。足取りも軽く歩き出すその背中は妙に手慣れているような印象もあり、エルマーは気持ち表情を険しくした。
(「勝負を受けたわけではないが、負けてられん」)
肝心なのは攻略対象の選定だ。キャラクターによっては攻略にシビアな条件が設けられていて、いくら仲良くなったとしてもその条件をクリアしない限りエンディングは迎えられないなどというケースもある。できるだけ話のしやすそうな相手をと行き交う人々に目を配ってみると、人混みの中に一人、明らかにモブっぽくないキラキラした感じの少年がいることに気づいた。
(「フルーフ」)
こそりと耳打ちすると、傍らの天使はこくりと頷いて、前を行く少年を追いかけ――そして、さりげない風を装い接触した。『どんっ』というだけのテキストが表示された瞬間である。
「ああ、君――娘が申しわけないね」
何事かと足を止めた少年の背に立って、エルマーは言った。この場合、普通はぶつかった女の子が主人公なのだろうが、まあ、細かいことを気にしてはいけない。全然細かくない、とも言ってはいけない。
「お詫びをしたいのでそこの喫茶店で少し話さないか?」
(「おお……意外とやるじゃねえか……」)
極めてスムーズに(?)攻略対象を捕まえたライバルを横目に見やり、ジョンは唇を噛んだ。
(「でもオレはロックスターだ。どんな奴だって口説いてみせるぜ
……!」)
明らかに趣旨が変わっているにもかかわらず、何事にも全力投球なその姿勢やよし。こちらも早く攻略対象を探さなければと辺りを見回すと、遊歩道に面したベンチにいかにも『インテリ眼鏡担当です』みたいな顔をした美青年が座っているのが見えた。その瞬間、ジョンの中で何かがコレだと訴える。
(「こういうのは堅物ほど簡単、ってな」)
まあ、確かにツンデレは正解の選択肢が分かりやすい。難しい顔でこれまた難しそうな本を開いている青年の隣へ無遠慮に腰掛けて、ジョンはあくまで普段通りの調子で言った。
「なあ、いつもここで変な顔してるよな。どうしたんだ?」
「は?」
突然、馴れ馴れしく話しかけてきた男に訝るような眼差しを向けて――まあ、初回のイベントとしては当然ながら――青年は席を立とうとする。しかしすかさずその手を捕まえて、待てよと吐き出すようにジョンは言った。
「お前ともっと話がしたいんだ。……本当はずっと前から、お前のことを見てた」
展開がジェットコースターである。というかもう完全にジャンル変わってるな!? しかしそこはそれ、不可抗力ということでいただきます!
「悩みがあるなら教えてくれ。……お前は、笑ってた方が可愛いぜ!」
ベーコンがレタスするゲームだとしたら百点満点の台詞で、ジョンは満面の笑顔を浮かべる。その潔さ、恐るべし――遠目にその様子を伺いながら、エルマーはカフェのテーブルで先程ナンパした(ナンパ言うな)少年の話に耳を傾けていた。
「なるほど。生徒会……? というものに所属しているのか。周囲が優秀すぎて自分に自信が持てないと……ふむ」
優等生らしい少年の悩みを聞きながら、エルマーはふと、思案するように深緑の瞳を細めた。目の前の彼は所詮はデータ、作り物だ――とはいえその心境には、他人事とは思えない部分もある。飲みかけのティーカップを育ちの良さそうな所作でテーブルに戻し、エルマーは言った。
「他人が如何であれ君は君だ、比べる必要などない。少なくとも――今、私に話をしてくれる君は、私にとって唯一の存在だ」
だからそう自分を卑下するものではないよと、続ける声がいつになく柔らかな響きを帯びたのは、彼の境遇に自身を重ねたからか。……なんてちょっと綺麗にまとめようとしてみたけれども、本当にジャンルが変わってしまって戸惑いを隠せない天の声である。いや大丈夫(?)、乙女ゲームのキャラクターが蓋を開けたら二次創作であんなことやこんなことになることは別に珍しくもないからね!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【建造物分解】LV1が発生!
【士気高揚】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】LV2が発生!
大崎・朔太郎
ボス的に有利かと思ったら乙女ゲームですか…。
頑張ってみますか、おじさんでもアイドルなら老若男女問わず笑顔にしないと。
この手のゲームは昔何回かやった事ありますが、こういうのは口説くというか特殊なイベントをこなすと攻略できるキャラって居ますよね。例えば他のキャラの好感度を教えてくれる家族や親友とか。今回の場合は弟かな?
何度も好感度やデートスポットを聞く中で、どんどん色んな話をしたりして仲良くなって隣で居るのが当たり前にさせて、「好きな人とか居ないのか?」と聞かれたら頭を撫でて「君と一緒が楽しいから、今は焦らなくていいかな」と微笑んでわしゃわしゃともう一度頭を撫でますかね。これが何とかなるといいな。
「ボス的に有利かなあと思って来てみたら……乙女ゲームですか……」
どうしたものだろうと細い顎の先に手を添えて、大崎・朔太郎(若返りサキュバスアイドル・g04652)は首を捻った。その手のゲームは全くやったことがないというわけでもないのだが、バーチャルとはいえ面と向かって誰かを口説き落とすというのは少々難易度が高い気がする。
(「まあ――でも、とりあえず頑張ってみますか」)
これでも一応、アイドル事務所に所属する身だ。アイドルたる者、老若男女すべての人を笑顔にすることができなければ、アイドルを名乗ることはできない。……できないのか? 凄いなアイドル。険しいなアイドル。
(「こういうのは口説くというか……特殊なイベントをこなすと攻略できるキャラって居ますよね。他のキャラの好感度を教えてくれる家族とか、親友とか……」)
うん、思ったより詳しい。すると不確かに揺らいでいた電脳空間はたちまち形を変えて、よくある民家の玄関口を象った。そろそろと一歩踏み出し扉を開いてみると、お帰りと朗らかな声がする。見れば玄関のすぐ脇からつながる階段の上に、一人の少年が顔を覗かせていた。
「お帰り姉ちゃ――兄ちゃん?」
「あ、そこはお気になさらず」
スッと片手を上げて制すると、何を察したのか察さなかったのか少年は何事もなかったかのようにトコトコと階段を降りてくる。どうやら今回の隠しルートは、弟君ルートらしい――どうでもいいが、赤の他人の連絡先や好みをきっちり把握していてそれを誰かに横流しするというのは、倫理的にどうなんだろうかと常々思う。
「今日も早かったなー。友達と遊びいかないの?」
寂しい高校生活だなあと、多分にあどけなく『弟』は笑う。そして冗談めかしてこう言った。
「好きな人とかいないのか?」
このぐらいの年頃の弟というのは、姉(兄?)に対して実際こういうことを訊いてくるのだろうかどうなのだろうか。そんなことを考えながら、朔太郎は視線を泳がせる。そして少しだけ――敢えて焦らした後、頭ひとつ分小さなところにある弟の髪をわしゃりと掻いた。
「君と一緒が楽しいから、今は焦らなくていいかな」
「…………」
なんだよそれ、と、はにかむように少年は笑った。それは攻略対象の誰ともくっつかなかった隠しルートのエンディング――スチル絵なしのラストだけれど、結果は上々ではないだろうか?
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
●次回予告
「あ、ああ~まずいまずい! まずいよぉ! このままじゃ、アタシの秋葉原がめちゃくちゃになっちゃう!」
手にしたスマホの画面越しに電脳秋葉原内の様子を伺いながら、電脳大天使カシエルは俄かに焦り始めていた。『ゲーム』を突破したディアボロス達を放っておけば、彼らは遠からず配下のアヴァタール級の元へ辿り着くだろう。彼女を崇めている限りアヴァタール級達は無敵だが、万一、その信仰を揺るがすような事態が起きれば鉄壁の加護も効果はなくなる。
こうしちゃいられないと立ち上がって、少女の姿をした天使は言った。
「こうなったら、全力で応援しちゃうよ!」
二次元イケメン至上主義のアヴァタール級・デュナミス(眼鏡ならなおよし)。
それを強力にサポートする、男装の美少年大天使・カシエル(ホログラム出演)。立ち向かう復讐者達は、果たして二人の連携を崩すことができるのか!? 次回、『薔薇とヲトメとオーバル眼鏡』、刮目して観よ!
秋津島・光希
【暁光】
テメェらがカシエルにデュナミスか…ん?
うわ、さっきのゲームキャラ!?違ったわ
アキ、ナイスタイミング!
今、お前が必要なんだ!
…言葉足らずだった
妙な意味じゃねえよ!?
ともかくだ
アキと肩並べてデュナミスを壁際に追い詰める
カシエルとの間に割り込む形だ
(ナマモノ長身男子二名、蜻蛉と悪魔の羽を添えて)
俺達みたいな男は嫌いか?
ああ、少し『観察』すりゃわかる
アキばっか見てんじゃねえか!
察するに眼鏡フェチだな?
アキ、予備の眼鏡貸してくれ
スクエア?いいよ、眼鏡に貴賤はねーだろ
借りた眼鏡掛け
視線逸らし&チラ見で仕切り直し
(度入りだと直視がつらい)
俺のことも見てくれるか?
いや、アキ
お前がときめいてどうすんだよ
鉄・暁斗
【暁光】
基本無表情
ああ、見つけた
コウ、無事?怪我はない?
戦いに出向いたって聞いて…俺の想像してた戦闘とはちょっと違うようだけど
うん、君が必要としてくれるなら傍にいるよ
妙な意味は良く分からないけど、やる事は何となく分かった
コウと一緒にデュナミスを壁まで追い詰めよう
漫画や、母さんと万年ラブラブな父さんを参考に振舞ってみよう
壁ドンからの顔を覗き込んで微笑み
初めまして、幻想的で綺麗なお嬢さん
突然で驚かせてしまったかな?
ごめんね。カシエルよりも俺を見て欲しくて、つい
うん?どうしたのコウ
予備の眼鏡か、いいよ
俺の眼鏡、スクエア型しかないけどいい?
コウの眼鏡姿は新鮮だな
あ、今の視線格好いいね
俺でもときめくかも
大崎・朔太郎
ここからが本番ですね。
ちゃんと【眼鏡】を掛けて、ホログラムでは体験できない湿度を見せていきますかっと。
「やっと会えたね、僕のお姫様」と飛翔を使って上から舞い降りる。笑顔で側に降りると強引という感じも無く、自然に寄り添うと「いきなり沢山の人達に声を掛けられて驚いちゃったよね。怖かったよね」と肩に触れる。
「でもね、君も悪いんだよ。沢山の人に目移りしちゃって…」肩に触れた手をゆっくり顎に持って行く。「僕の物になってくれないんだから…」お互いのレンズ越しに目を合わせ、にっこりと。「もう僕だけの君になってくれるよね?」と表情を変えずに【誘惑】。
【恋人演技】の流れで内心冷や汗物でめっちゃ頑張ってみました。
エルマー・クライネルト
【Wertlos】
君にも辛いことあるんだな…
私達は本当に何をやっているんだ?いや、まだ正気になるな
ここまで来たら最後までやるぞ、男を口説けて天使が口説けない訳ないだろう(?)
先手は任せジョンとカシエルのイケメン力?を観察
合図を見てデュナミスの腕を引き強引に此方へ向かせる
散々甘い言葉を囁かれて満足か尻軽女?
教えてやる、お前に相応しい男はこの私だ
お前は黙って私だけを見ていればいい
それとも二度と他の者を見ないようにその眼を奪ってやろうか?
(デュナミスのオーバル眼鏡を奪って自分にかける)(度が合わないのですぐ返す)
こんなもので私の評価を上下されるなど御免被る、もっと等身大の私を見ろ
すまんもう限界が近い
歌川・ヤエコ
デュナミス…いや呼びづらいわ、デュナっち!
そもイケメンとはなんだね?
イケてる面を略した言葉ではないかね?
そう!つまり!
イケイケな面ならばおなごでもよかろうなのだ〜!
ということであーしを見てごらんなさい!
じっくり見て、見つめ合って、目は逸らさないで
あーしの面はイケてないかね?
あーしの笑顔はステキと思わんかね!
あーしはデュナっちの面ステキと思う!
その瞳にトゥギャザーしたいと思う!
あーしを好きになろうデュナっち!
性別なんて関係ない!あーしという存在を好きになろう!
そんじょそこらの男子よりも幸せにしちゃる!
あんたとあーしで毎日がオールウェイズで記念日でハピネスだ!
勢いでなんとかなれ
!!!!!!!!!!
ジョン・エルバ
【Wertlos】
中々辛い戦いだったなエルマー…
女とはいえ忌々しい天使にいい顔しねえといけねえのがムカつくが仕方ねえ、オレだってやってやるさ
遠慮なんかしないぜ。デュナミスの眼前に堂々と立って至近距離で笑顔を向ける……つい力が入って悪い顔になるな
よぉ綺麗な天使のデュナミスちゃん!随分とカシエルと眼鏡がお好きなようで
しかしこんなホログラムのなよっちい男装したヤツが好きなのかい?
本物のイケメンってやつ知りたいだろ
そのまま手で壁を一部[破壊]して壁ドン
つけている香水が香るくらい迫って[誘惑]
オレみたいなセクシーで、強くて悪いイケメンじゃあダメか?
キリを見てエルマーに視線を寄越し、追い打ちをかけてもらう
「ふう……中々に辛い戦いだったなエルマー……」
「君にも辛いことあるんだな」
「え? 酷くねえ?」
さらりと返す友人の言葉は、共感しているように聴こえて辛辣だった。真顔のジョン・エルバ(ロックスター・g03373)には一瞥もくれずに、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)は胡乱な表情で眉をひそめる。
「私達は本当に何をやっているんだ?」
台東区奪還に向けた足掛かりを得るべく、電子の世界に潜り込んだ復讐者達。そこで繰り広げられるのは、サイバーなエフェクトが飛び交うスタイリッシュなハッキング合戦――ではなく、高確率で男が男を口説いている乙女ゲーム
(???)なのだから概ね同感であるが、正気に返るのはまだ早い。現実を見つめ直すのは目の前の大天使をどうにかしてからだ。
長いため息と共に色々な感情に一旦蓋をして、ジョンは眼鏡の大天使を見やった。
「女とはいえ忌々しい天使にいい顔しねえといけねえのがムカつくが仕方ねえ。やってやるさ」
「ああ、ここまで来たからには最後までやるぞ。男を口説けて天使が口説けないわけがない」
もうやぶれかぶれである。それでもちゃんと仕事に向き合う辺り、二人とも根が真面目なのかもしれない。苦笑しつつもスッと眼鏡を取り出して、大崎・朔太郎(若返りサキュバスアイドル・g04652)が言った。
「ともあれ、ここからが本番ですね……ホログラムでは体験できない湿度を見せていきましょう」
温度じゃなくて湿度というあたりが、艶めかしいというか生々しいというか。よし、と意気込んで切込隊長を買って出たのは、ジョンであった。
「よぉ、お綺麗な天使のデュナミスちゃん! 随分とカシエルの男装と眼鏡がお好きらしいが、こんなホログラムのなよっちいヤツが好きなのかい?」
「え?」
ずいっと距離を詰めてやると、見目だけなら美しい天使の頬は微かな朱を帯びた。二次元のイケメンはそう、ちょっと不躾なくらいが丁度いいのだ――こんなことしたら普通は通報されるだろ、ということを平然とやってのけても許されるどころか祀られる、そういう存在なのだ。遠慮は無用ともう一歩踏み込んで、ジョンはワルい男の笑みを浮かべた。
「本物のイケメンって奴を知りたくはないか? ……知りたいだろ」
硬質な煌めきを放つ赤鬼の手を壁にドンッとめり込ませ、ジョンは鼻先の触れそうな距離でデュナミスに迫る――あれ、そんなところに壁あったっけ? というか、めり込ませるのはやり過ぎです! 少女漫画超えて少年漫画です!
しかしそんなことは些細な問題なのか、大天使は頬を掠めた袖口のセクシーなコロンの香りにいっそう顔を赤くする。
「強くて悪いイケメンもいいもんだろ? ……俺みたいにさ」
この天使、思ったよりちょろいかもしれない。そんなことを考えながら、ジョンは茫然としているデュナミスに気取られないよう、一瞬視線を斜め後ろに向け、『今だ』と促す。するとそこはさすがの阿吽の呼吸で、エルマーが割り入った。
「散々甘い言葉を囁かれて満足か? 尻軽女」
ドSキャラキタコレ。
ドキッ……という書き文字が浮かんで消える電脳空間で、オーロラを織ったような天使の袖をぐいと掴み、青年はあくまでも冷徹な表情を作って言った。
「教えてやる、お前に相応しい男はこの私だ。……お前は黙って私だけを見ていればいい」
「え……でも……」
「それとも二度と他の者を見られないように、その眼を奪ってやろうか?」
「あっ!」
手袋の長い指が、天使の顔から眼鏡を奪った。それをそのまま自身の鼻梁にかけて、エルマーはフッと優美極まりない笑みを浮かべ――そして、両手で丁重に返却した。
「……え? あの……今のもう一度やってもらっても?」
「断る。こんなもので私の評価を上げ下げされるなど御免だからな。もっと等身大の私を見ろ」
いや、キャラで誤魔化そうとしてるけど、やってみたら度が合わなかっただけだよね! 堪えていた色々が噴き出して、エルマーはクッと破れんばかりに唇を噛んだ。
「すまん、もう限界が近い」
「まだだ! もうちょっと頑張れ!」
こんなことで何を必死に励まし合っているのだろうと思うと空しくなるが、とにもかくにもデュナミスの注意をカシエルに戻させてはいけない。全神経をすり減らしてキャラを保っていると、不意に、頭上から朔太郎の声がした。
「やっと会えたね、僕のお姫様」
電脳空間の高みからそれこそ天使のようにふわりと舞い下りて、童顔の男は優美な笑みを浮かべた。そしてだいぶ限界に来ている二人と大天使の間にごく自然に割って入ると、デュナミスの手をそっと取り上げる。
「いきなり沢山の人達に声を掛けられて驚いちゃったよね。怖かったよね」
優しく肩に触れる手は、ジョンやエルマーのそれとは対照的だ。なるほど180度違うキャラで揺さぶりを掛けるとは、実にデキる。触れた手でゆっくりと細い肩を撫で、頸筋をなぞり、そのままクイとおとがいを摘まんで、朔太郎は言った。
「でもね、君も悪いんだよ。沢山の人に目移りしちゃって――僕の物になってくれないんだから」
お互いのレンズ越しに目を合わせれば、にっこりと微笑むエメラルドの瞳が吸い込まれるほどに美しい。さすがアイドル、視線の使い方を心得ている――と思いきや、内心はこれでいいのか合っているのか冷や汗ものらしいのだが、アイドルは決してファンに舞台裏を見せないものだ。
「もう、僕だけの君になってくれるよね?」
なんとしても、演じ切ってみせる――プロ根性をよすがにして、朔太郎はどうにか表情を保ち続ける。なんだこの、(こっち側の精神が)じわじわ削られていくだけの泥仕合。
そこへ少し遅れて、秋津島・光希(Dragonfly・g01409)もやって来た。
「おお、やってんな……アレがカシエルにデュナミスか……」
正直もう、関わり合いになりたくない気持ちの方が強いのだけれども、あれがクロノヴェーダでこちらがディアボロスである以上はそういうわけにもいかない。さりとて目の前で繰り広げられる小芝居とそれによって寧ろ味方がダメージを受けている状況が地獄絵図過ぎて、さてどうしたものかと少年は顔を引き攣らせる。そこに、背後から声が掛かった。
「コウ、無事? 怪我はない?」
「ああ、なんとか無事――ってうわ、さっきのゲームキャラ!? いや違うわ!」
あまりによく似ていたものだから、ゲームが続いているのかと思った。と、言われても何のことやら、鉄・暁斗(鉄家長男・g07367)は感情の薄い表情で首を傾げた。
「戦いに出たって聞いて、追い掛けてきたんだけど……想像してた戦闘とはちょっと違うみたいだね?」
「アキ、ナイスタイミング! 今、お前が必要なんだ!」
「え、うん……? うん、君が必要としてくれるなら傍にいるよ」
「妙な意味じゃねえよ!?」
なんかジャンル変わったまま戻ってない気配がするぞ(風評被害)。言葉足らずだった、と慌てて否定して、光希は(後姿が若干苦しそうな)イケメンに囲まれている大天使を指で差す。
「ともかく、かくかくしかじかでアレをなんとかしないとなんだ」
「なるほど。妙な意味は良く分からないけど、やることはなんとなく分かった」
「いや、妙な意味のことは忘れろ」
俺達もいくぞと覚悟を決めて、光希と暁斗はイケメン達の輪に加わる。心なしかソフトな壁ドンで女の姿をした天使の顔を覗き込み、眼鏡のイケメン(暁斗)は微笑った。……ところで本当にこの壁、どこの何の壁なんだろう。
「初めまして、幻想的で綺麗なお嬢さん。突然で驚かせてしまったかな……」
なお本人曰く、この演技はいつまで経っても妻とラブラブな自身の父を参考にした、とのことである。そんな良物件実在するのか。
「でも、ごめんね――カシエルよりも俺達を見て欲しくて、つい」
「なあアンタ、俺達みたいな男は嫌いか?」
鋭い眼差しの中に微かな純情を織り込んで、光希が問う。するとデュナミスはすっと目を逸らして、素直になれないヒロインのテンプレのような台詞を吐いた。
「べ、べつに……嫌いだなんて言ってないじゃない……」
――いや、これ目を逸らしたんじゃないね。光希じゃなくて暁斗(の眼鏡)を見てるだけだね。
大天使に好かれたいなんて本気で思っているわけではないから全然構わないのだが、全然構わないのだが(大事なことなので二回言いました)妙にムッとして、光希は眉をすごい形にした。
「アキばっか見てんじゃねーか! おいアキ、予備の眼鏡貸してくれ」
「スクエア型しかないけどいい?」
「どうでもいい!」
眼鏡フェチ相手に眼鏡がないのは分が悪い。半ば奪い取るように暁斗の眼鏡を装着して、合わない度に一瞬くらりとしながらもどうにか踏みとどまると、光希は少し低い声を作って言った。
「眼鏡に貴賤はねーだろ」
名言風に凄いこと言ってる。一瞬視線を外して片目を瞑り、少年はちらりと天使を見た。や、これは演出じゃなく単に度入り眼鏡が辛いだけなんだけど。
「これなら俺のことも見てくれるか?」
「あ、うーん、なんちゃって眼鏡は個人的には趣味じゃないのよn」
「ゼータク言うな!! つか、いきなりの真顔やめろ!」
なんちゃって眼鏡で何悪い――思わず借り物の眼鏡を叩き割りたい衝動に駆られるのを良心で堪えつつ、光希はいきり立つ。その隣で、暁斗は意外そうに瞳を円くした。健康優良児の見本のような幼馴染の眼鏡姿は、なんだか新鮮だ。
「あ、でも今の視線かっこよかったね。俺でもときめくかも」
「お前をときめかせるためにやってるんじゃねえんだよ!」
女一人(クロノヴェーダだけど)を五人のイケメンディアボロスが取り巻くさまは、なんというかリアル乙女ゲームのような感じがしないでもない。さしずめタイトルはナマモノ男子~蜻蛉と悪魔とアイドルと人形使いとロックスター~……いや長いな。その前にリアル乙女ゲームってなんだ?
「ああ、もう――やめてよ! 私のために喧嘩するのはやめて! 争うだけ無駄よ、私の心は常にカシエル様の元にあるんだから!」
いや、好きで争ってねえんだよ――と、恐らくその瞬間全員の心の声が一致しただろうことに疑いの余地はない。ヒロインよろしく胸の前で拳を握る大天使の姿に男性陣のイライラメーターが振り切れそうになる中、よく通る少女の声が電脳空間を貫いた。声即ち、歌川・ヤエコ(極彩色の青春を・g01595)のそれである。
「デュナミス……いや呼びづらいわ、デュナっち! 話がある!!」
男子でもなければ眼鏡でもないヤエコだが、大事なのは真実ではなく勢いだ。ちょっとくらい不利な現場だって、彼女はいつだって勢いで乗り越えて来た。だからこの場も、押し切って見せる――まあ聞きなさいよとネイルの輝く人差指をちっちと振って、ヤエコは言った。
「そも、イケメンとはなんだね?」
「えっ?」
極めて根元的なことを問われ、天使は思わず硬直する。つかみはオッケーと口角を上げて、少女は続けた。
「イケてる面を略した言葉ではないかね?」
「えっ、えっ? メンズじゃなくて?」
天の声も調べてみたんですが、男性単数を指すならばmenではなくmanだから「面」の字を当てるのが正しいのではないかという説があるそうです。これマメね。
「そう! つまり! イケイケな面ならばおなごでもよかろうなのだ?!」
何がどうつまりなのか! いやイケメン女子という言葉も当たり前のように聞くようになって久しいけれども!
微妙に無理があると思ったのか語尾を少し上げつつも、ここで弱気になってはいけない。こういう時に重要なのは、自分が自分を信じることなのだ。毅然と電脳空間を踏み締めて、ヤエコはバシッと胸を叩いた。
「ということであーしを見てごらんなさい! あーしの面はイケてないかね? あーしの笑顔はステキと思わんかね!」
「えっ? いや、可愛いとは思うけど……」
女性キャラが嫌いなわけじゃないし、親友ルートも網羅する派だし。ごにょごにょ言っているデュナミスにさらにずかずかと詰め寄って、ヤエコはその眼鏡の奥の瞳を覗き込んだ。
「あーしはデュナっちの面ステキと思う! その瞳にトゥギャザーしたいと思う!」
「トゥンク」
おい今あの天使、口でトゥンクって言ったぞ。というか、冷静に考えると何を言っているのか分からない口説き文句だが本当にいいのか? まあでも仕方ない、オタクは男女問わずオタクに優しいギャルには弱いものだからね!
ここは攻め時と心得て、ヤエコは天使の肩をガッと掴んだ。
「性別なんて関係ない! あーしを好きになろうデュナっち! あーしという存在を好きになろう! そんじょそこらの男子よりも幸せにしちゃる!」
「わ、私、百合は守備範囲外で、それは……でも……ちょっと待って……」
ごそごそとどこからともなく取り出したのは、彼女自身が掛けているのと同じ眼鏡フレーム。それをソッ……とヤエコの顔に掛け、しばし見つめてデュナミスは言った。
「…………悪くない」
「オイコラなんちゃって眼鏡は趣味じゃないって言ってたやつどこ行った!?」
「女の子キャラは別腹なの! 評価基準が違うの! 分かるでしょ!?」
あまりにも理不尽な言い草に光希は肩を怒らせる。それをどうどうと宥めて、暁斗は言った。
「まあまあ。俺はコウの眼鏡かっこいいと思うよ」
「だからお前にかっこいい言わせるためにつけたんじゃ(以下略)」
「あっはっはっは、あんたとあーしで毎日がオールウェイズで記念日でハピネスだ――!」
テンションに任せて笑うヤエコにバンバン背中を叩かれて、デュナミスはハッと我に返り、背後を振り返った。
「! 申しわけありませんカシエル様、私としたことがカシエル様一筋のはずが、このような……カシエル様?」
ホログラム映像のカシエルは、いつの間にかその姿を消していた。そう――五人のイケメンに次々目移りし、ギャルの眼鏡って可愛いかも、とか思っている間に、カシエルの加護はさっぱり消えてなくなってしまったのである。
「そんな……カシエル様っ!?」
どうかご加護をと悲痛な声を上げ、大天使は膝からその場に崩れ落ちる。その背中になんだかなあと生温い視線を送って、朔太郎がぼそりと言った。
「眼鏡男子より眼鏡女子ですか……」
仕方ない、イケメン五人が甲乙つけがたかったから仕方ない。疲弊しきった顔で大天使を見て、エルマーとジョンも脱力した。
「しかし、これでようやくまともに話ができそうだな……」
「ああ、……本当にやっとだ」
カシエルの加護が失われた今、復讐の刃を阻むものはどこにもない。復讐者達よ、ここまで実によく耐え、よく付き合った――今こそ言いたいことを言って、この不毛な戦いに決着をつけるのだ!
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【建造物分解】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV4になった!
【反撃アップ】がLV2になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
秋津島・光希
【暁光】
サンキュ、アキ。助かったわ
眼鏡に罪はねえ、眼鏡に罪はねえ…
(内心キレそうになりながら、アキに予備眼鏡返しつつ)
さーて、好き放題言ってくれたじゃねえか。大天使さんよ?
まあ、俺も鬼じゃねえからな。せめてもの情けだ
…眼鏡はやめて、ボディにキツいの入れてやらぁ!
技能[一撃離脱、戦闘知識、空中戦、看破]
戦闘中は『アキをディフェンスする』
大好物の眼鏡男子を傷付ける度胸がヤツにあるかは知らねえが
警戒するに越したことはねえからな
おい、アキ。マジでジャンル変わったままになるからやめろ
元々は…言いづれーな、帰ってから説明するわ
【飛翔】で機動力を上げて
タイミングを計って一気に距離を詰め
パラドクスを叩き込むぞ
鉄・暁斗
【暁光】
基本無表情
コウ、眼鏡を引き取るよ
そのままだと戦い辛いでしょ
さて、大事な幼馴染を「なんちゃって眼鏡」呼ばわりした罪は割と重いよ、俺的に
俺はコウほど優しくないからね
氷結輪で眼鏡を重点的に狙うよ
ファッション眼鏡もアリだと思うんだよね
視力だけでなくお洒落もサポートできる存在、それが眼鏡
眼鏡に貴賤はない、つくづくいい言葉だと思う
…眼鏡語りに集中しすぎたか
コウに庇われて我に返る
頼もしい幼馴染の背中にときめきそうだね
「トゥンク」(無表情&棒読み)
ジャンル?うん、気を付ける
…そういえば元々は何ジャンルだったの?
【氷像乱舞】はコウの動きに合わせて発動
敵の動きを氷像で留め、彼が確実に攻撃できるようにするよ
大崎・朔太郎
真面目にやった結果、中々に複雑な気持ちですが…まあ頑張りましょう。
飛翔には飛翔、残留効果で合わせてある程度相手の攻撃を軽減したりカウンター出来るように駆け抜け、断罪しそうになったら直前で【3種の伊達眼鏡セット】を目の前に投げて一瞬でも怯ませますか。ありがとう、誕生日プレゼント。
今度はこちらが接近しての【恋人演技】、
「ごめんね、君の大事な物を奪っちゃったみたいで。でも君も悪いんだよ…僕の愛を分かってくれなかったから…」とヤンデレルートっぽい対応。
「だから、僕の腕の中に居ようね、曇った眼鏡も…君の心もキレイに拭いてあげるから、ずっと…」片手で抱きしめながら手持ちの拭く布で眼鏡を拭こうとしますかね。
ジョン・エルバ
【Wertlos】
このオレがまさか女の子に一本取られちまうとは。ナイスな口説きだったな!
……すげえ疲れてんじゃん。もう後は倒すだけだからがんばろうぜ〜エルマー!
レンズがでっけえな…頭上のサングラスを着用して眩まないようにする
さっきの乙女ゲーの中で覚えたゲームの曲を[歌唱][演奏]で弾き、デュナミスの注意を逸らしエルマーの攻撃に繋げ、相手の攻撃には後ろに下がって避けてそのまま空中へ【飛翔】
オレは天使が大っ嫌いなんだ。敵と味方の区別もつかねえような寝ぼけたヤツには壁破壊なんて済まさねえ程の目が覚める一発をくれてやるぜ!
合図を受け取りパラドクス【R.I.P】でレンズごと打ち砕く!
エルマー・クライネルト
【Wertlos】
武器を振るってすらいないのにこの疲労感、おかしいとは思わないかね
……慣れない言葉を吐きすぎて舌が回らないだけだ
とにかくこれで最後だ、早々に終わらせよう
攻撃にまでレンズを使用してくるとは眼鏡に対して徹底していると言うか何というか。
光に目が眩まないよう【完全視界】で視界を確保
鋼糸を操りレンズを[両断]して破壊
派手に立ち回って目立つことで意識を此方へ向けさせ、パラドクスを発動し死角から人形をけしかける
人形の機械腕で拘束し身動きを封じたところでジョンに合図を送り[連撃]を行う
先程の壁破壊は見事だったぞジョン。今度は本体へ、派手なのを食らわせてやるといい
歌川・ヤエコ
デュナっち、本当にやり合うってのかよ
あーしらあんなにらぶりーだったじゃねーか
春には桜の下でお団子食べて
夏には海で焼きそば食べて
秋には紅葉の下で焼きイモ食べて
冬には雪にシロップかけてカキ氷食べて
そういう設定にさっきしただろ!!
知らんのか!あーしもテキトー言ってる!ノリと勢いと愛だよ!なにいってんだ!
なんかこーゆー悲劇的な別れ好きだろデュナっち!そんな感じした!
とりまバトるか!
あーしとデュナっちの間に最早言葉は不要!
拳で語り合おーぜ!
うおりゃー!ギャル神拳じゃーい!
全部終わったら夕日の河原でふたりして鼻血でも垂らしながら笑おうぜ
へへ、実はあーしさ、おとめげーとかより少年マンガとかのが好きなんだ…
「このオレがまさか女の子に一本取られちまうとは……だけど、ナイスな口説きだったぜ、嬢ちゃん!」
「あざ――す!! まー褒めてもなんも出んけどね!」
ジョン・エルバ(ロックスター・g03373)のストレートな賛辞を受けて、歌川・ヤエコ(極彩色の青春を・g01595)はえっへんと胸を張った。サイバー空間に巣食う大天使の一派を討伐するべく、電脳秋葉原に踏み込んだディアボロス達――血で血を洗う(?)乙女ゲー(?)勝負と口プロレスの末に大天使デュナミスの信仰を揺るがすことに成功した彼らは、今まさに、無敵の加護を喪った天使を追い詰めんとしている。激闘を称え合う戦友同士――というとそんなやりとりも随分高尚に聞こえるけれども、この戦いに限ってはどうなのだろうか。
大崎・朔太郎(若返りサキュバスアイドル・g04652)はげんなりと肩を落とし、誰にともなく呟いた。
「大真面目にやった結果、中々に複雑な気持ちですね……」
「ああ……武器を振るってすらいないのにこの疲労感、おかしいとは思わないかね」
だらりと下げた腕を持ち上げる気力もなく、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)は恨みごとを吐く。なんだか顔の影が一段と濃い二人にしかし、ジョンはきょとんとして猫のような瞳を瞬かせた。
「すげえ疲れてんじゃん……もう後は倒すだけだからがんばろうぜ? なあエルマー!」
「君は元気過ぎる」
間を置かない返しの切れ味が凄い。どんな状況にでも瞬時に融け込める友人の適応力の高さは見習うべきかもしれないが、こればかりは性格もあるのだろう。地の底から響くような溜息をついて、エルマーはぐしゃりと髪を掻いた。
「まあ……慣れない言葉を吐きすぎて舌が回らないだけだ。とにかく、早々に終わらせよう」
経過はともあれ、ここまで来て後は任せるというのは信条に反する。どう転んでもこれが最後なら、付き合おうではないか――伸べた掌にエルマーが呪いの人形を吸い寄せると、大天使デュナミスは怒りに肩を震わせ、復讐者達を睨みつけた。
「よくも――よくもカシエル様と私の愛を引き裂いてくれたわね!」
二対の翼に付随する巨大な四枚のレンズが、カッ、と眩い光を放った。いや、なんならそっちが勝手に自滅しただけじゃん……と言いたいのをぐっと飲み込んで、ジョンは角の上に引っ掛けたサングラスを掛け直す。
「あのレンズでっけえな」
「まったく、攻撃にまでレンズを使用してくるとは眼鏡に対して徹底していると言うかなんというか」
呆れたように目を細め、エルマーが重ねる。残留効果もあって戦うのに支障はないが、それにしたって眩しいものは眩しいのだ。翳した腕で無意識に目を庇いながら、ヤエコはラメ入りのティントを乗せた唇で言った。
「デュナっち……本当にやり合うってのかよ……あーしらあんなにらぶりーだったじゃねーか!」
「う、うるさいわね! あれは一時の……」
「気の迷いなんて言わせねーぞ! 春には桜の下でお団子食べて! 夏には海で焼きそば食べて! 秋には紅葉の下で焼きイモ食べて、冬には雪にシロップかけてカキ氷食べてってそういう設定にさっきしただろ!!」
「してない!! っていうか食べてばっかりだし!?」
食べてばっかりだし、季節を重ねるごとに甘酸っぱい青春の思い出からやってみた系動画配信者みたいになってるけどそれでいいのか。
しらん! と天を仰いで、ヤエコは堂々と言い切った。
「あーしもテキトー言ってる! こーゆーのはノリと勢いと愛だよ! なにいってんだ
!!!!」
そのスタンス、もはや潔しというより他にない――けど天の声、その言葉すごくマホ●ンタしたい! それに、とキリッとした表情を作って少女は続けた。
「だいたい、なんかこーゆー悲劇的な別れ好きだろデュナっち! そんな感じした!」
「今の設定のどこに悲劇要素が!?」
一連のやりとりに、『大天使の言葉に同意する日が来るとはなあ……』と、恐らくは経験する必要のなかった感慨を覚えながら、一同は心の中で頷いた。しかし、物言いたげな仲間達の視線をいちいち気にするヤエコではない。おし、と拳を打ち合わせれば、小気味の良い音が電脳空間に鳴り渡った。
「とりまバトるか! あーしとデュナっちの間に最早言葉は不要だもんね!」
後は拳で語り合うのみ。ここに至るまで随分と長い道のりだったが、こう見えてここに集ったのは誰もが歴戦のディアボロスだ――こちらの土俵に持ち込んでしまえば、負ける気はしない。
コウ、と幼馴染の名を呼んで、鉄・暁斗(鉄家長男・g07367)が言った。
「眼鏡、引き取るよ。そのままだと戦い辛いでしょ」
しかし、視線の先の少年――秋津島・光希(Dragonfly・g01409)は度の合わない眼鏡を掛けたまま、心なしか虚ろな瞳で何やらブツブツ言っていた。
「眼鏡に罪はねえ、眼鏡に罪はねえ……(サンキュ、アキ。助かったわ)」
「うん……多分だけど、発言と心の声が逆だね?」
ブチギレ一歩手前の精神をどうにか宥めすかしている様子に気の毒そうな眼差しを向けて、暁斗は言った。まあ、無理もない。これは仕方ない。ハッと弾かれたように我に返って、光希は額に青筋を立てた。
「好き放題言ってくれたじゃねえか、大天使さんよ……」
何も好きこのんでこんな真似をしたわけではないというのに、なんちゃって眼鏡とはなんたる言われよう。人が殺せそうな視線で天使を睨み据え、少年は爆撃槌を一振り手に構えた。
「まあ、俺も鬼じゃねえからな! せめてもの情けに眼鏡はやめて、ボディにキツいの入れてやらぁ!」
だいぶ理不尽な目に遭っているのに、根がいい子なんだよなあこの子。クイッとよくある仕種で眼鏡のブリッジを押し上げて、暁斗はぼそりと言った。
「俺はコウほど優しくないからね。眼鏡を重点的に狙っていくよ」
大事な幼馴染をなんちゃって眼鏡呼ばわりした罪は重い――スリムな眼鏡のレンズを白く反射させるその姿は、眼鏡の話をしているのでなければとても決まっているのだが。
そんなわけで――どんなわけで?――復讐者vs眼鏡大天使デュナミスの決戦の火蓋は切って落とされたのである。レディーファイッ!
「うおりゃー! ギャル神拳じゃーい!」
先陣を切ったのはヤエコであった。膝上20センチのスカートで踵落としなんて、そんなドキドキ――と思った? 残念! こちら鉄壁のスカートでお送りしております!
滝を落ちる流水の如き一撃は、しかし天使の羽根を数枚散らして電脳空間を叩き割る。辛くも直撃を交わしたデュナミスはすかさず上方へ翔け上がって体勢を立て直すと、復讐者達に向かって急降下を開始した。その正に着地点で待ち構えるのは、朔太郎だ。
(「さあ、来るなら来い
……!」)
臆すことなく天使の翼を見据えて、青年は懐から取り出したナイフ――じゃないこれ眼鏡だ。三種類の眼鏡を素早く投げつけた。迫り来るその輪郭を瞬時に捉えて、デュナミスは驚愕に目を瞠る。
「!? 眼鏡!?」
(「よし、怯んだ――ありがとう、誕生日プレゼント!」)
誕生日プレゼントの扱いがそんなにぞんざいで大丈夫なのか、天の声ちょっと心配。
しかし何はともあれ、ここまでは狙い通りだ。動揺を見せた天使の元へ今度は自ら飛び込んで、朔太郎はその細腰を掻き抱いた。
「ごめんね、君の大事な物を奪っちゃったみたいで。でも君も悪いんだよ? ……僕の愛を分かってくれなかったから」
ヤンデレルート入りました! もう頑張って合わせる必要もないのに、なんて生真面目な。性懲りもなく頬を染めた天使の輪郭をなぞって、青年は恋人らしい演技を続けた。
「だから、僕の腕の中に居ようね。曇った眼鏡も……君の心もキレイに拭いてあげるから、ずっと……」
いい声でいいこと言ってる風でいて、よく考えるとなかなか聞かない口説き文句である。それはサキュバスならではの魔技――片腕でしっかりと抱き締めながら手持ちのハンカチで眼鏡を拭いてやると、見る間にそこから精気が吸い上げられていく。……どうやら眼鏡もちゃんと身体の一部らしい。
「はっ!」
しかし、そこは敵もさるもの。一瞬うっとりと身を委ねかけて正気に返り、デュナミスは力任せに青年の腕を振りほどいた。そして肩で息を切りながら、ふ、と口角を上げてみせる。
「なかなかやるわね、あなた達……ここまで追い詰められるなんて思ってもみなかったわ」
まあ、言うてほとんど勝手に追い詰められただけなんですけどね。虚勢を張る天使に侮蔑にも似た視線を送って、暁斗は指先に氷環を輝かせる。
「ファッション眼鏡もアリだと思うんだよね。視力だけでなくお洒落もサポートできる存在――それが眼鏡」
眼鏡に貴賤はない、とは、幼馴染の言葉ながらつくづく素晴しい。などと考えていると。
「!」
四枚の巨大なレンズが光を集め、天使の両手に火が灯った。二対の翼で宙を裂くその拳は、真っ直ぐに暁斗へと肉薄する。眼鏡語りに集中し過ぎた、と、自覚した時には既に遅く――しかし直撃を覚悟したその刹那、二人の間に光希が割って入る。
「……眼鏡男子は大好物なんじゃねえのかよ」
大した度胸だと、吐き捨てるように光希は言った。頼もしいその背中に琥珀の瞳を揺らして、暁斗は『トゥンク』と言った。……言った? 今また口に出して言った?
「トゥンク(無表情&棒読み)」
あ、もう一回言った。
「おい、アキ。マジでジャンル変わったままになるからやめろ」
「ジャンル? ……うん、気を付ける」
小首を傾げる暁斗は、『うん』と言ってはいるが多分なんのことかよく分かっていない。で、と案の定曇りのない眼で、彼は問うた。
「元々はなんのジャンルだったの?」
「元々は……いや言いづれーな、帰ってから説明するわ」
その判断は極めて正しい。蜻蛉の翅を羽ばたかせて槌を握り締め、光希は言った。
「一発叩き込んで、さっさと帰るぞ」
「オーケー」
任せてと応じて、暁斗は指先にまとわせた冷気から氷の彫像を創り出す。碧く輝く像が大天使に躍り掛かるのを眼下に確かめて、光希は爆撃槌を振り被り、上空より一閃、渾身の力で叩きつけた。
「ああっ! わ、私のレンズが……!」
パン、と儚い音と共に一枚のレンズが砕け散り、電子の海へと消えていく。畳みかけるなら今しかない――星を飾った特注のギターをじゃらんと大きく掻き鳴らして、聞けとばかりにジョンは言った。
「オレは、天使が大っ嫌いなんだ」
美しく、そして忌々しい純白の翼。海の青と空の蒼を融かした双眸に、一瞬、微かな苦渋が滲む。色々と真面目な因縁がありそうなのに、こんなことに付き合わせて大変申し訳ない気持ちである。
いいってことよと誰にともなく手を振って、一転、不敵な笑みで青年は続けた。
「とにかく、敵と味方の区別もつかねえような寝ぼけたヤツには、目が覚めるような一発をくれてやるぜ!」
先程プレイした――あれをプレイしたと書き表していいのかどうかは定かでないが――ゲームの中で覚えた楽曲を歌い上げながら、ジョンは友人に目を配る。電脳空間のサイケデリックな色彩を照り返す鋼糸をその身にまとわせて、エルマーは応じた。
「派手なのを食らわせてやるといい。……今度は本体にな」
次は壁を砕く程度では済まさない。鋼の糸がしゅるりと唸り、腕を広げた異形の人形が天使の身体に組み付いた。お気に入りの楽曲に気を取られていた天使は一転、呪詛の沁み込んだ絡繰の腕にぎしぎしと締め上げられて苦悶の呻きを洩らす。そして軽快な曲が鳴りやんだと思うと、その足下がにわかに翳った。
「R.I.P、デュナミス――これで終わりだ!」
振り仰げば黒いギターをバットのように構えたジョンの姿が、見開かれた瞳の中で段々大きくなる。そして脳を揺るがすような衝撃とゴンッという痛そうな音と共に、天使の視界は真っ白に弾けた。
傾いだ身体が、やけにゆっくりと倒れていく。電脳空間の黒い空は並べたドミノを倒すようにさらさらと色を変え、気づけば辺りには夕映えの河原が広がっていた。……え? なんで?
仰向けに倒れ込んだ天使の隣に自らもどさりと身を投げ出して、ヤエコは額に滲んだ汗を拭った。
「へへ――デュナっち、聞こえてる? あーしさ、実は……」
そっと重ねた手の中で、天使は形を失っていく。どこか気恥ずかしそうに、ためらうように言葉を切って、そして――少女は言った。
「――おとめげーとかより、少年マンガとかのが好きなんだ……」
…………そっかあ。
シュンッ、と軽やかな音と共に、デュナミスの身体がログアウト(?)した。ん? と瞳を瞬かせて、ヤエコはむくりと上体を起こす。
「? あーしなんか変なこと言った?」
いえ全然。友情・努力・勝利っていいよね!
別にいいんじゃねえかと半目で応じ、光希はどかりと草叢に座りこんだ。
「……でもなんか、すげー疲れたな……」
そこはどこまでも現実じみた、仮想空間の底の底。やがて弾き出されるその時まで、復讐者達は押し寄せる疲労感の中、帰巣するカラスが往く夕焼け空を仰いでいたのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV3になった!
【アイスクラフト】LV1が発生!
【傀儡】がLV2になった!
【悲劇感知】がLV2になった!
【隔離眼】がLV2になった!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV4になった!
【ロストエナジー】がLV2になった!
【命中アップ】がLV2になった!