洛陽の主はアタシ、渭陽君董白ちゃん！（嘘）（作者 秋津透）

6

リプレイ

「これがかつての洛陽の都…董卓の支配下でも地獄のような有様だったと聞くけど、これは桁が違うね」
　死都と化した洛陽に踏み込んだ袁・雀蜂（ホーネットガール・g01434）が唸り、孫・リア（勇武と炎を胸に秘めて・g03550）が息を呑んで呻く。
「うわぁ……ホントに洛陽が死人の都になってる……元の栄華を極めた都は話に聞いた事しかないし見たことないけど、こんな悲惨な事になってるなんて……」
「洛陽が思ってたのと全然ちがくて悲しいけど、呂布みたいなやつがうじゃうじゃになる前に見つけられて、ほんとに良かったよねえ」
　時先案内人からもらった饅頭をもぐもぐ食べながら、杏・紅花（金蚕蠱・g00365）は比較的気楽な口調で告げる。瀬島・大輝（怒りし地獄の閻魔・g06270）も、眉は寄せたものの、それ以上感情を動かされた様子を見せずに呟く。
「ちっ…辿り着いた洛陽に人間は居なかったか。蟲どもにとって人類は自分達のようだが、つまり遠慮はいらねェって事だな？」
「まあ、ここでなら、どれだけ派手に暴れても、巻き添えになる人はいないわね」
　結島・蘭杏那（剣の舞姫・g01039）が、生者皆無の悲惨な光景にはあまり感じるところはない様子で、愛する妹特製、幸運の虫さんクッキーをバリボリ齧りながら呟く。ちなみにこのクッキーは、虫の形をしているが虫そのものが入っているわけではない、たぶん。
　そして、時先案内人が告げた通り、「渭陽君居館」と大書された額を麗々しく掲げた小山のような「蟲将の巣」に向かうと、周囲にトループス級蟲将『強欲の文官』が構築した堅陣が見えてくる。
「……あの強欲の文官が真面目に働いているとは…人間だろうとクロノヴェーダだろうと、適切な動機を持たせたり働く環境を整えてやれば、誰でもきちんと仕事をするようになるものなんだな…」
　嵐柴・暁翔（ニュートラルヒーロー・g00931）が感に堪えたような口調で呟くと、蘭杏那が対照的に醒めた口調で応じる。
「あら、強欲と勤勉はとても両立しやすいわよ。怠惰なのは、むしろ無欲な連中ね。まあ、勤勉な馬鹿ほどたちの悪いものはないっていう見解もあるらしいけど」
「何故かしらね…他人にブヒブヒ従う豚を見るとこの上なく屈服させたくなっちゃうの…。あんな醜い取り巻き、わたくしは願い下げだけど…わたくしに屈服させて蜘蛛娘に格の違いってのを教えてあげるのも一興かしら？」
　工藤・花梨（天使のデーモンイーター・g07195）が無邪気な表情と口調で、なかなかえげつないことを言うが、その言葉には蘭杏那も暁翔も、特に反応はしなかった。
　そして、堅陣が近くなってきたところで、雀蜂がパラドクス「舞花棍槍術（ブカコン・ソウジュツ）」を発動。【怪力無双】を発生させ「流星錘」を飛ばし、堅陣を形成する甲殻に引っ掛けて引き寄せる。
「クロノヴェーダが作った堅陣ったって、クロノ・オブジェクトじゃないもんね。力任せにぶっ壊せば、それまでよ」
「ぬわーっ！　それはないでおじゃる！」
　慌てて飛び出してくる『強欲の文官』を、雀蜂は待ってましたとばかりにパラドクスで叩きのめす。潰されたトループス級は、反撃のパラドクス「蓄陣構築」を発動するが、新たに陣を築けるわけもなく、手にした巨大昆虫製武器を投げつけるにとどまり、雀蜂にはあっさりと躱される。
　そして花梨がパラドクス「イマジナリキャノン」を発動。砲兵隊の幻影を召喚し、雀蜂が甲殻を剥がした箇所を狙って堅陣に砲撃を撃ち込む。同時に、自分の取り巻きの幻影を召喚して突入させようと狙ったが、このパラドクスにはそういう效果はないので、クロノヴェーダを騙すことはできなかった。
　とはいえ、花梨の砲撃を受けて『強欲の文官』たちは見事に吹っ飛ぶ。反撃のパラドクス「蓄陣構築」を発動するが、陣の組み直しはままならず、投げた武器も花梨には当たらない。
「ぬおーっ！　やっぱりでぃあぼろすは強いでおじゃる！　圧倒的に不利でおじゃる！」
　今更のように悲鳴をあげる『強欲の文官』に、傍らの同僚が妙に冷静に告げる。
「当たり前でおじゃる。温侯殿を倒した奴らに、我らが太刀打ちできるわけがないでおじゃる」
「それがわかっていて、何で無駄な抵抗するの？　仕える人のため？」
　ひょいと陣に入ってきた紅花が、それはいいこと…なのかなあ、と首を傾げ、パラドクス「爪牙の響（シィアン）」を発動させる。　
「まあ邪魔すんなら切るだけだけどねっ！」
「ぎょえー！」
　紅花の振るう鉤爪でばっさり切り裂かれた『強欲の文官』が、反撃のパラドクス「偽装退却」…なのかどうか、とにかく反射的に逃げそうになって踏みとどまり、倒れながら懸命に武器を振るう。
「逃げちゃダメでおじゃる、逃げちゃダメでおじゃる、董白様に栄光あれ…」
「うん、一生懸命なのは認めるけど、それだけで勝てるほど世の中甘くないよ」
　相手が振るう武器を素早く躱しながら、ちょっと気の毒そうに紅花が呟く。
　そして紅花に続いて、大輝、リア、蘭杏那、暁翔が次々に敵陣へと乗り込む。
「見た目にそぐわねェ覚悟で立っているのが分かる。やるじゃねェの……俺もマジだ」
　呟きながら、大輝がパラドクス「焔魔の焼爪（エンマノショウソウ）」を発動させる。
「立ち塞がってもいいぜ？　焼き斬れちまうけどよ…！」
「し、死は覚悟の前でおじゃる。死んでもここは通さないでおじゃる」
　声を震わせながらも『強欲の文官』が応じ、大輝はうなずいて炎の爪で相手を引き裂く。
「董白様ラーブ！　我らが愛らしき渭陽君閣下に栄光あれ！」
　引き裂かれながら絶叫した『強欲の文官』は、大輝に手にした武器を投げつける。至近距離なので躱せなかったのか、それとも敢えて躱さなかったのか、大輝は肩口を浅く裂かれて呟く。
「蟲にしとくにゃ惜しい覚悟だが…さて、当の本命は忠誠を捧げられるほどのモノなのかね？」
　一方、リアはパラドクス「乱舞（ホノオガハジケルムソウランブ）」を発動。複数の『強欲の文官』を容赦なく薙ぎ払う。
「忠義溢れて指揮が上がるのは良い事だけど私達が斬っちゃうわ！　行くわよ！　これが私の勇武の炎！」
「ぎょえー！」
　主に忠誠で天晴な敵を叩きのめすのは慣れたわ、と、内心呟きながら、リアは炎を纏って偃月刀と槍を縦横無尽に振るう。斬り飛ばされ焼かれた『強欲の文官』は、手にした武器を投げつけるが、リアは舞うように躱し、あるいは弾き、ダメージを受けない。
　そして、どうやら覚悟の決まっていた者から先に討たれたらしく、浮足立って逃げ腰になる残りの『強欲の文官』の前に、蘭杏那が軽快に走り込む。
「逃げない『強欲の文官』は訓練された『強欲の文官』！　逃げる『強欲の文官』はただの文官！　さあ、あんたたちはどっち？」
　どっちにしても斬っちゃうけどね、と、蘭杏那は返事を待たずにパラドクス「無刃の舞（ブレードワークス）」を発動させる。
「来い、刃よ！　そして、舞乱れ切り刻め！！」
「ぎょえー！」
　悲鳴を上げた『強欲の文官』たちは反射的に逃げかかったようだが、意外にも踏みとどまって、結果的に蘭杏那が召喚した刃に斬り刻まれて、反撃もできないまま倒れる。
「逃げちゃダメでおじゃる、逃げちゃダメでおじゃる、董白様に栄光あれ…」
「ふーん、ホントに逃げないんだ。まあ、逃げなくてもダメだけどね」
　ちょっと感心したような口調で、蘭杏那は呟き、最愛の妹特製クッキーを齧る。
　そして、最後の最後、陣の最奥というか「蟲将の巣」の入口の前でぶるぶる震えている『強欲の文官』たちの前に、パラドクス「贋作者（フェイカー）」で作成した短機関銃H&K MP5を構えた暁翔が歩み寄る。
「何か言い残すことはあるか？」
　訊ねる暁翔に、『強欲の文官』たちは声を揃えて叫ぶ。
「董白様ラーブ！　我らが愛らしき渭陽君閣下に栄光あれ！」
「ああ、そう言うだろうと思った」
　軽くうなずいて、暁翔は短機関銃を乱射する。倒れた『強欲の文官』たちは、反撃のパラドクス「衛兵召集」を発動。銭を撒いて怨霊の衛兵を召喚するが、予期していた暁翔は【飛翔】で素早く退避し、攻撃目標を見失った怨霊はすぐに消えてなくなる。
「……悲しいかな人間もクロノヴェーダもやる気だけじゃどうしようもない場合もあるんだよ…」
　空中で呟き、暁翔は肩をすくめた。
　
　












「よし、なんとか印を、探せば良いんだな！　まかせろ！　みんなが見張りを、倒してくれた今なら、アタシはフルスロットルで、ダッシュできる！」
　死都洛陽。「渭陽君居館」と書かれた額を掲げた「蟲将の巣」の周囲で、トループス級蟲将の堅陣を破って全滅させたディアボロスたちの前に、追いついてきたフロッシュ・ギルアダー（ソニック・ホリック・g00750）が現れ、自信満々の口調で言い放つ。
「ハンミョウのスピードは、伊達じゃない。あたかも、複数人で探しているかの如く、残像ができるほどの速さで、探し回るじゃん！　【神速反応】と【エアライド】を活用して、パラドクスで障害物を壊しつつ、できるだけスピードを落とさずに、目標物を見逃さないよう、早業で捜索し続けるじゃん！　そしてアタシは、嵐属性１本だけとはいえ、これでも風使いだ！　風の流れを読み取って、おおざっぱにでも、構造を把握をしておこーか！」
「ストップ。一点致命的なミスがある。そして一点、無駄になる行動がある」
　面白くもなさそうな口調で嵐柴・暁翔（ニュートラルヒーロー・g00931）が指摘し、瀬島・大輝（怒りし地獄の閻魔・g06270）が噛みつきそうな勢いで続ける。
「パラドクスで障害物を壊すだとぉ？　この、どアホウ！　巣を壊したら出てくるっつったろォがっ！　んでもって、高速で探すのはいいが、静かにやれんのか、てめェ！　めちゃくちゃ音立てて探し回ったら、たちまちバレちまうぞ！」
「え、え、え、ええと…」
　目を白黒させるフロッシュに、暁翔が告げる。
「まあ、ある程度音を出すのは大丈夫だろう。何しろ、巣の主が喧しくはしゃぎまわる声が、ここまで聞こえてくるほどだ。向こうがどんな聴覚してるか知らんが、ちょっとやそっと程度の音なら聞こえないとは思う……が、パラドクスはダメだ。絶対使うな。感知される恐れが高いし、巣全体が崩れる恐れもある」
　そう言って、暁翔は顔を顰めて言葉を継ぐ。
「あと、巣の中に風の流れはないぞ。クロノヴェーダは呼吸不要だし、生きてる人間もいない。……たぶん中には、外から想像もつかないくらい、酷い臭いが籠もってるはずだ。息が詰まらないように気をつけたほうがいい」
「うげ……」
　一気に意欲減退した表情になって、フロッシュが呻く。そこへ袁・雀蜂（ホーネットガール・g01434）が、あらためて一同を元気づけるように告げる。
「こういうのは斥候の得意とするところ、ウチにお任せだよ！　みんなも調べた個所を教えてね、此処にまとめて描いていくから」
　そう言って雀蜂は白地図をひらひらさせたが、はっと気づいた表情になって訊ねる。
「…あ、【パラドクス通信】あったっけ？」
「ええ、こんなこともあろうかと用意してきたわ」
　結島・蘭杏那（剣の舞姫・g01039）が冷静な口調で応じ、パラドクス「紫電の舞（スパークライトニング）」を発動させて【パラドクス通信】の効果を発生させる。
「巣の中で発動させるわけにはいかないから、ここで使っとくわ。これで用意はいいかしら？」
「ああ、僕も【強運の加護】発生させとくね」
　フロッシュとほぼ同時に追いついてきたが、今までぽわんと黙っていた安藤・優（名も無き誰かの代表者・g00472）が、パラドクス「ストリートストライク」を発動させ、ひょいひょいとそこらの瓦礫を適当に投げる。そうか、その必要があったか、と、暁翔が呟き、同じように瓦礫を投げる。
「これで皆に強運Lv2が付く。敵さんは脳天気に大騒ぎしてるわけだし、よっぽど酷いドジを踏まない限り、遭遇する前にお目当てのブツを見つけられるだろう」
　しかし、大抵の方は大事なもの程手近な目に付く所へ置いておきたくなると思うけど、クロノヴェーダの感覚は違うのかね、と、暁翔は言葉には出さずに呟く。
　すると大輝が、顔を顰めて告げる。
「突入前に、ちょいと確認しておきたい。どうも、あの額が気になる」
　告げて大輝は【飛翔】し、「渭陽君居館」と書かれた額を調べる。
「なるほどね。「渭陽君印綬」を「渭陽君居館」の額に隠してあるかもしれないんだね。木の葉を隠すなら森の中、みたいなもんかな？」
「…それは違うと思うぞ」
　感心した口調で告げる優に、暁翔は少々憮然として応じる。
（「確かにシャレとしてはありうるが、『董白』がそんな捻ったシャレを好むとは思えない…ていうか、何で『董白』は「渭陽君印綬」を身に着けずに、他の場所に置いてるんだ？」）
　なんかこう、釈然としないんだよな、と暁翔が唸る間に、大輝は額を調べ、顰め面のまま戻ってきて告げた。
「それらしいもんはなかった。手間取らせてすまねェ」
「大丈夫、今は一刻を争う状況じゃないものね。気になるところは、きちんと確かめながら行こう！」
　雀蜂が応じ、一同は「蟲将の巣」に侵入。手分けして探索を始める。
　そして間もなく【パラドクス通信】から、フロッシュの困惑しきった声が流れ出る。
「うえー、こっちの穴の底、腐った死体が積み重なってやがるー。臭いとか気持ち悪いとかは仕方ねーけど、この下に探しものがあったらどーしよーもねー。でも、焼いたりしちゃダメなんだよな？」
「そういう時は【隔離眼】を使うんだ。手伝いに行くから待ってろ」
　大輝の苦々しげな声が応じ、暁翔は再び何か釈然としないものを感じる。
（「巣を壊すと、『董白』は「渭陽君印綬」を身に着けて飛び出してくる。つまり、なぜ今身に着けてないのかはともかく、すぐ取れる場所に置いてあるってことじゃないか？　死体の山の下とか額の裏とかじゃなく……」）
　そこまで考えた時、のんびりとした優の声が【パラドクス通信】から流れ出た。
「見つけたよ。『董白』が騒いでる部屋の、すぐ隣だよ。魔法陣みたいなものの真ん中に、紐のついた四角いハンコが置いてある。これを確保すればいいんだよね？」
「多分そうだが、手を出したらすぐに『董白』が飛び出してくるぞ。こっちの頭数が揃うまで待て」
　応じると、暁翔は全速力で移動を開始した。












「え？　何これ？　誰か、アタシの館に入ってきてるの？　ちょっと待ってよ！　警備兵は何やってるの？　信じられなーい！」
　隣室で、ひたすらはしゃぎ暴れまくっていたアヴァタール級蟲将『我儘蜘蛛姫・董白』の声が、不意に変わる。ああ、さすがにバレたか、と、安藤・優（名も無き誰かの代表者・g00472）は、目の前にある魔法陣に躊躇なく踏み込み、中央に置いてある、銀色の紐のついた小さな四角い銀の印璽…取っ手には蜘蛛がデザインされている「渭陽君印綬」を掴み取って懐中に入れる。
　そして、その瞬間、『董白』が絶叫した。
「だ、誰か、アタシの宝物取ったーっ！　返せ返せ返せ返せーっ！」
　狂ったように叫びながら『董白』は部屋の壁をぶち破り、優の前に飛び出してくる。まだ、他のディアボロスは誰も到着しておらず、一対一になってしまうが、こうなったらやるしかない。
「死者の魂を弄ぶか…ふーん…よし、手抜き手加減一切無しだ。ぶっ殺す」
　呟いて、優はパラドクス「灼滅せよ、煉獄の刃（ブレイドオブケルベロス）」を発動させる。
「怒り、怨み、憎み、呪え、我が怨讐は焔と成りて、仇なす者を灼滅せん」
「ぎゃあああああああああああ！」
　優は呪いの如き怒りを持って己の内に秘めたる地獄を顕現、その焔を纏う斬撃を受けた『董白』は絶叫するが、さすがに一撃では潰れず、反撃のパラドクス「玩具投擲」を発動させる。
「取り返せ！　アタシの宝物！」
「オオオオオオオオオオオ！」
　絶叫する『董白』の命令に応じ、彼女が玩具にして弄んで殺した人間の怨霊が無数に召喚されて、怨嗟の叫びとともに突撃する。ところが、優の懐中から銀色の光が放たれ、怨霊はことごとく淡雪のように溶けて消滅する。
「…これは？　「渭陽君印綬」の力か？」
　優が呟いた時、その懐中で「渭陽君印綬」がぱきんと音を立てて粉々に砕け、『董白』が絶叫する。
「ひいいいいいい！　アタシの宝物、壊したああああああああああ！」
「お前の攻撃で壊れたんだよ」
　優は冷ややかに応じるが、もちろん狂乱状態の『董白』は聞いちゃいない。そこへ、嵐柴・暁翔（ニュートラルヒーロー・g00931）が走り込んでくる。
「「渭陽君印綬」は？」
「こいつに攻撃されて壊れた。脆いものだね」
　訊ねる暁翔に、優は淡々と応じる。そうか、だから『董白』は、誤って壊してしまうのを恐れて「渭陽君印綬」を身につけてなかったのか、と、暁翔は落胆と安堵と納得が混じったような表情で唸る。
「まあいい。それなら後は、遠慮会釈なく潰すだけだ」
　呟いて、暁翔はパラドクス「贋作者（フェイカー）」で作成した火炎放射器を構え、狂乱する『董白』に炎を浴びせる。
「ぎゃあああああああああああ！」
　絶叫しながらも『董白』は素早く飛び退き、反撃のパラドクス「我儘姫の愛嬌」を発動させる。とはいえ、とても愛嬌振りまいて魅了なんかしてられる精神状態ではないらしく、いきなり鞭を振るって襲いかかってくる。
「死んじゃえ！　死んじゃえ！　死んじゃえ！」
「いててて…」
　鞭を躱しそこね、かつ頭痛を覚え、暁翔は顔を顰める。もともと蜘蛛は苦手で、精神的に堪えるものはあるが、ダメージそのものはたいしたことはない。
（「まあ、これが三倍で来てたらシャレにならなかったな。それに、魅了してこないのも、結果オーライかもしれん」）
　口には出さなかったが、けっこう余裕で呟き、暁翔は飛び下がる。そこへ、孫・リア（勇武と炎を胸に秘めて・g03550）と結島・蘭杏那（剣の舞姫・g01039）が飛び込んでくる。
「はじめまして董白殿……とか言ってられる状況じゃなさそうね」
　まあ、誰から下賜されたのか知らないけど、君侯が印綬を取られるとか壊されるとかしたら、そりゃあ狂乱もするわよね、と、小さく肩をすくめ、リアはパラドクス「狐舞（マイオドルキツネノマイ）」を発動する。
（「魅了合戦になるかと、ちょっと期待しないでもなかったけど、いろいろと無理っぽいわね」）
　言葉には出さず呟き、リアは槍と偃月刀とオーラの狐尾を駆使して舞うように攻撃する。『董白』は無茶苦茶に鞭を振るって応戦するが、リアの動きについていけず、狐尾で胸部をまともにぶち抜かれる。
「ぎゃあああああああああああ！」
　絶叫する『董白』を、蘭杏那がパラドクス「剣の舞（ソードダンス）」で容赦なく追討ちする。
「技の名前が死遊戯場とかいうから、少しは使うかのと思ったけど、こうも逆上してちゃどうしようもないわね。三倍パワーとかあったら、違ったのかもしれないけど」
　冷静に言い放ち、蘭杏那は手刀の二連撃で『董白』を十文字に斬り裂く。刹那、反射的に躱して身体の両断はまぬがれたものの、蜘蛛脚がばさばさと切断されて落ちる。
「ぎひいいいいいいいいいいっ！」
　苦悶の声とともに『董白』は反撃のパラドクス「死遊戯場」を発動。四方八方に蜘蛛糸を放つが、もはや狙いも不確かで勢いもなく、神速で動く蘭杏那を捕捉するなど、とてもできない。
　そして、速度だけで言えば蘭杏那をも凌ぐフロッシュ・ギルアダー（ソニック・ホリック・g00750）が、勇躍、飛び込んでくる。
「さっき、間違いを正して、支えてもらった恩、ここできっちり返すぜ！　そんなわけで、覚悟しろ大将！　ぶっ飛ばすじゃん！」
　鋭く言い放つと、フロッシュはパラドクス「颱荒斬（タイコウザン）」を発動。暴風に乗り、風の刃と武器の刃を重ね、問答無用の超速で『董白』をぶった斬る。
「ぎゃあああああああああああ！」
　絶叫しながら、『董白』は反撃のパラドクス「玩具投擲」を発動させるが、もはや支配の力が尽きかけているのか、呼び出された怨霊はフロッシュではなく、『董白』自身に体当たりをかまして消える。
　そしてフロッシュの後から、瀬島・大輝（怒りし地獄の閻魔・g06270）が、ずん、と踏み込む。
「さぁ、年貢の納め時だ。覚悟、できてんだろォな？
地獄の閻魔が裁きに来たぜ」
「ひ、ひいいいいいい！」
　パラドクス「宴魔の活裁（エンマノカッサイ）」を発動。更にネメシス形態に変異し、まさに地獄の閻魔か悪鬼総帥か、という凄まじい姿を目にして『董白』が悲鳴をあげる。
「た、た、助けて……アタシ、死にたくない…」
「散々好き勝手しておいて、今更遅ェんだよ、メスガキが！　てめぇは、そうやって命乞いする人を助けてやったことが一度でもあんのか、あぁん？」
　巣に積み上げられた死人の山を見てきたばかりの大輝は、寸毫の容赦もなく、焔鬼のオーラを纏った強烈な一撃を『董白』に叩き込む。
「ぎゃあっ！」
　むろん反撃などできるわけもなく『董白』は完全に砕け散り、破片が炎に巻かれて灰になる。
「この胸糞悪い巣も粉砕、焼却させてもらうぜ。ガキが」
　ぺっと硫黄の臭いのする唾を吐き、大輝は憤懣のおさまらない口調で言い放った。　

最終結果:成功
完成日	2022年04月28日